文化審議会著作権分科会(第45回)(第16期第2回)

日時:平成29年3月13日(月)
13:30~15:30

場所:東海大学校友会館望星の間

議事

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)平成28年度使用教科書等掲載補償金について
    2. (2)平成28年度使用教科用拡大図書複製補償金について
    3. (3)法制・基本問題小委員会の審議の経過等について
    4. (4)著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について
    5. (5)国際小委員会の審議の経過等について
    6. (6)その他
  3. 3閉会

配布資料

資料1
「平成28年度使用教科書等掲載補償金について」関係資料(2.1MB)
資料2
「平成28年度使用教科用拡大図書複製補償金について」関係資料(1.5MB)
資料3-1
平成28年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(656KB)
資料3-2
文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ(1.9MB)
資料4
平成28年度著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について(640KB)
資料5
平成28年度国際小委員会の審議の経過等について(218KB)
資料6
著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化に向けた実証事業について(231KB)
参考資料1
文化審議会著作権分科会委員名簿(78.8KB)
参考資料2
文化審議会関係法令等(131KB)
出席者名簿(54.5KB)

議事内容

  • ○平成28年度使用教科書等掲載補償金について使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。
  • ○平成28年度使用教科用拡大図書複製補償金について使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。
  • 以上の議事については,文化審議会著作権分科会の議事の公開について(平成22年2月15日文化審議会著作権分科会分科会決定)1(2)に基づいて非公開とし,同決定の6及び7に基づき議事要旨を作成し,公開することとする。

【土肥分科会長】それでは,よろしゅうございますか。次の議題(3)の法制・基本問題小委員会の審議の経過等について,この議題に入りたいと思います。この法制・基本問題小委員会の審議の経過等については,私から報告させていただきます。

なお,撮影を御希望の方は,資料3の説明までとさせていただきますので,御了承をお願いいたします。

それでは早速,私から法制・基本問題小委の審議経過について御報告をいたします。資料は3-1と3-2,これに基づいて報告いたしますので,御用意いただければと思います。

法制・基本問題小委員会では,著作権法制度の在り方及び著作権関連施策に係る基本問題に関する様々な問題・課題について,知的財産推進計画等に示された検討課題を踏まえつつ検討を進めてきたところでございます。

今期は,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定等の在り方,教育の情報化の推進,障害者の情報アクセス機会の向上,著作物等のアーカイブ化の促進について検討を行いまして,これらの事項については中間的な取りまとめを行ったところでございます。また,権利者不明著作物等の利用の円滑化,リーチサイトへの対応の問題,こうしたことへも検討を行ってまいりました。これらの課題の中間のまとめの内容と検討状況につきまして,簡単に報告させていただきます。

資料3-2の3ページをごらんください。まず,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等について,御説明申し上げます。今般,デジタル・ネットワークの発達に伴い,著作物等を利用したサービスに係るニーズが新たに生じている状況を踏まえ,これらの課題を集中的に検討する場として,法制・基本問題小委員会では,新たな時代に的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム,これを設置し,権利制限規定の見直しについて検討を行ってまいりました。

ワーキングチームでは,広く国民が有する現在又は将来の著作物利用ニーズを把握し,制度が実際に社会に及ぼし得る効果・影響等について多面的な検討を行った上で,多様な選択肢の中から我が国において最も望ましいと考えられる,柔軟性のある権利制限規定の在り方について精力的に検討を行い,今期に報告書を取りまとめることができました。

ワーキングチームの報告書を基に本小委員会においても検討を行った結果,本課題については,明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによる多層的な対応を行うことが適当であり,具体的には,権利者に及び得る不利益の度合い等に応じて分類した三つの層について,それぞれ適切な柔軟性を確保した規定を整備することが適当であるとの結論に至ったわけでございます。

この点,詳細を事務局から補足説明としてお願いしたいと存じます。よろしくお願いします。

【秋山著作権課長補佐】御説明申し上げます。引き続き,資料3-2に沿って御紹介したいと思います。まず資料5ページのところには,柔軟な規定に関する検討に当たっての基本的な考え方がまとめられております。1枚おめくりいただきまして,6ページでございます。ここでは,今年度平成28年度の著作権分科会第1回におきまして委員の皆様方から頂いた御意見などを紹介しております。具体的には,本問題の検討に当たって,漠然とした議論でなく,課題が何であるのか具体的に明らかにして検討するべきだという御意見,ニーズ,立法事実を明らかにするべきだという御意見,それから,下から二つ目のポツにありますように,我が国に及ぶ実際の効果と影響を吟味するべきだという御意見などございました。また少し細かい各論になりますが,検索エンジンと著作権との関係について事実関係の検証をするべきといった御指摘もあったところでございます。

こうした御意見を踏まえまして,今回,先ほど土肥分科会長から御紹介がございましたように,三つのステップを踏むということになったわけでございます。第1にはニーズの把握,第2に効果と影響の分析,そして,第3に具体的な制度設計の検討という順序でございます。

ニーズの把握の結果につきましては,17ページにポイントが載せられています。17ページの1パラ目のみ御紹介しますが,今回文化庁が行ったニーズ募集の結果,112件のニーズが寄せられまして,そのニーズについて優先的検討課題の選別を行いました。その結果,1パラ目にありますように,所在検索サービス,情報分析サービス,システムのバックエンドにおける複製,翻訳サービス,リバース・エンジニアリング,そして,その他CPSサービスについて優先的に検討を行うこととされたところでございます。詳細は割愛させていただきます。

28ページをお願いいたします。次に第2ステップとしまして,著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等について検討が行われました。まず29ページにございますように,権利制限規定の柔軟性を高めることによって公正な利用がどの程度促進されるのかということに関する分析がこのページ以降記されております。この検討におきましては,企業等に対するアンケート調査やヒアリング調査が行われまして,結論としては30ページの1パラ目にございますように,権利制限の柔軟性を高めることによって,割合は小さいものの,訴訟リスクを取ることに積極的な企業等については柔軟性のある権利制限規定を導入することについて「公正な利用」の促進効果は一定程度期待できるとされております一方で,大半の企業や団体については,高い法令遵守意識や訴訟を回避する姿勢から,柔軟性の同意が非常に高いものに対してはそれほど大きな効果が認められていないという評価となっております。

それから,先ほど少し御紹介しました検索エンジンの事例に関しても,その検証がされております。結論的には,一般に言われているような御指摘に関しましては,事実認識の誤認があることなどが指摘されておりまして,米国産の検索エンジンが我が国において大きなシェアを占めた要因を権利制限規定の未整備に帰する合理性を見いだすことはできなかったとされております。

次に31ページでございます。権利制限規定の柔軟性を高めることによる「不公正な利用」の助長という効果があるかどうかということにつきましては,32ページにございますようにアンケート調査やヒアリング調査などの結果を踏まえますと,柔軟性のある権利制限規定を整備することにより,少なくとも著作権法に対する理解が十分でない者や適法性が不明な利用に対して積極的な者における過失等による権利侵害を助長する可能性が相当程度あるとされております。そして,その場合,一番下のパラグラフにありますように,権利行使コストが増加し,社会的費用が増加することとなるとされております。

それから,33ページ以降は,権利制限規定の柔軟性を高めることによりまして,立法から司法府に法規範定立の役割が移行するということに伴う効果影響分析がされております。結論部分は34ページでございます。この観点につきましては,3パラ目でございますけれども,公益に関わる事項や政治的対立のある事項についての基本的な政策決定は,民主的正当性を有する立法府において行われることが適当であるとされております。他方で,基本的人権の制約に関わる事項など一定のものにつきましては,立法府における事前の多数決原理における法規範の定立がなじみにくい場合もあるとされております。

こうした分析を経まして,結論部分としましては38ページでございます。こちら,先ほど土肥主査から御紹介があったとおりでございますけれども,少し前提の記述を御紹介しますと,38ページの1パラ目でございます。「3.の検討を踏まえると」としまして,一般的・包括的な権利制限規定の創設による「公正な利用」の促進効果はそれほど期待できない一方で,「不公正な利用」を助長するという可能性ということとか,それから,立法府と司法府の役割分担との関係でも望ましいとは言い難いというような整理がなされておりまして,結論的には,先ほど御説明がありましたように,「多層的」な対応を行うことが適当であるとされております。

その内容のイメージが40ページにあるとおりでございまして,その中身を少し補足したいと思います。41ページをお願いいたします。まず「多層的」な対応の第1層につきましては,著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為の類型でございます。こちらのより具体的な内容としましては,一番下のパラグラフに少し補足的な説明がございます。この層に関連するものとしまして,マル1,著作物の表現の知覚を伴わない利用行為や,マル2,著作物の表現の知覚を伴うが,利用目的・態様に照らして当該著作物の表現の享受に向けられたものと評価できない行為,更にマル3,著作物の知覚を伴うが,情報処理や情報通信の円滑化・効率化等のために行われる利用行為といったものが言及されております。これらのものにつきましては,権利者の対価回収機会を損なうものではないといったことから,第1層に該当するとされております。

こうした第1層に該当する行為につきましては,43ページの一番下のパラグラフでございます。これは可能な限り幅広く権利制限の対象となるよう,抽象的に類型化を行った上で,柔軟性の高い権利制限規定を整備することが適当であるとされております。

次に,45ページをお願いいたします。次に第2層でございますが,著作物の本来的利用には該当せず,権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型とされております。この類型に該当する今回の検討対象となったニーズでございますが,46ページにありますように,所在検索サービスや情報分析サービスがこれに該当するとされております。これらのサービスにつきましては,1パラ目にありますように,社会に新たな知見や情報をもたらし,付加価値を創出するものであるという点で社会的意義が認められるとされております。

また,その結果提供の際に,サムネイルやスニペットなどの態様で著作物の部分を表示等することはサービスの目的達成のために必要であるということ,更に少し下の方,次のパラグラフの最後の文ですけれども,著作物の利用が非本来的市場に係るものであり,著作物の提供の程度が軽微なものにとどまるのであれば,権利者に及び得る不利益を小さなものにとどめることができるということから,こうしたものにつきましては第2層に該当するものとしまして,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ,著作物の利用目的によってある程度大くくりに範囲を確定した上で,それらについて権利者の正当な利益への適切な配慮を行った上で,相当程度柔軟性のある規定を整備することが適当であるとされております。

ここに言う権利者の正当な利益への適切な配慮の内容につきましては,47ページ以降にございます。詳しくは御紹介を省略いたしますが,本来的市場への影響が及ばないようにするということとか,権利者に及び得る不利益を軽微なものにするといったことが求められておるところでございます。

少し飛びまして,第3層,53ページでございます。第3層は,公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待されるという類型でございます。これは著作物の本来的利用を伴う場合を含む行為類型でありまして,そのために権利者の利益にある種優先あるいは対抗する公益性等が求められるというわけでございまして,そのためには政治的判断を要するということから,一義的には立法府で検討するということになっております。

今回のニーズとの関係では,54ページ以降にありますように翻訳サービスが挙げられております。翻訳サービスのうち,観光立国,高度外国人材の受入れなどの推進の観点から,我が国の言語の理解が困難な者に対して翻訳サービスを提供することには社会的意義ないし公益性が認められるとされております。55ページ目の2パラ目にありますように,対象著作物を無償のものに少なくとも限定することを前提として,更に権利者の利益を不当に害さないような範囲で制度を整備するべきであるというふうに御提言いただいております。

駆け足になりましたが,御説明は以上でございます。

【土肥分科会長】それでは続いて,教育の情報化の推進等について御説明申し上げます。これは資料3-2の69ページ以下でございます。近年,情報通信技術を活用した教育の意義が注目され,活動の広がりが見られるようになってきておりますけれども,これを推進していく上で,著作権制度やライセンス環境等に関する課題が指摘されておるところでございます。本小委員会では,平成26年度に我が国のICT活用教育に係る著作物等の利用実態や諸外国の状況を把握した上で,昨年度来,教育関係者及び権利者団体の意見の聴取も行いつつ,その推進に向けた著作物の利用円滑化方策について検討を行ってまいりました。

第1に,授業の過程における著作物等の異時の公衆送信を,35条において新たに権利制限規定の対象とするとともに,団体によって一元的に行使される補償金請求権の対象とすることを提言しております。これに併せて,権利者団体に対し,補償金の徴収分配を担う団体の組成に向けた取組を要請しておるところでもございます。また,法制度の整備に併せて取り組むべき法の運用面の課題と致しまして,教育機関における著作権法に関する研修・普及啓発,法解釈に関するガイドラインの整備,さらには,ライセンシング環境の整備・充実を挙げております。これらにつきましては,関係者を中心として取組を進めていくべき旨を提言いたしております。

第2に,教員・教育機関間での教材等の共有についてでございます。これについては,権利制限による対応を行うことに肯定的な意見もあった一方で,権利者への影響に配慮する観点から消極的な意見もあったところでございます。このため,今後,教育現場のより詳細なニーズを把握し,引き続き検討を行うことといたしております。

第3に,デジタル教科書への対応についてでございます。デジタル教科書に係る学校教育制度の見直しの方針を踏まえ,デジタル教科書についても,第33条の権利制限の対象とすることを提言いたしております。

次に,障害者の情報アクセス機会の充実に係る課題についての審議の状況を御説明申し上げます。これは106ページ以降でございます。本課題につきましては,37条第3項における受益者の範囲について,上肢の欠損等身体障害等により,本を読む,書籍を持つ,こういったことに支障がある者を加えることや,同項により認められる著作物の利用行為にメール送信等を含めること,さらには,ボランティアグループ等が同項に基づき複製等の作業を行ってことができる主体となり得ることとするよう,法令改正を是とする提言を行っております。

一方,放送番組に手話等を付して公衆送信できるようにすることにつきましては,障害者団体と権利者団体との間において十分な認識の共有及び意見の集約がなされるには至っていないことが確認されておるところでございます。本小委員会と致しましては,障害者の情報アクセス機会を保障していくという観点から,引き続き議論の進捗について注視しつつ,今後適切な時期に改めてこの要望についての検討を行うことといたしております。

次に,119ページ以降でございますけれども,著作物等のアーカイブ化の促進について,御説明を申し上げます。この課題につきましては,平成26年度に課題に対する対応の方針がまとめられておりまして,これまで文化庁において順次,必要な措置が講じられておるところでございます。今回の中間まとめでは,制度改正が必要となる措置についても具体的な方向性が示されております。

まず一つ,国立国会図書館による絶版等資料の送信サービスについてでございます。送信先の施設に外国の図書館等を追加するための制度改正を行うことが必要であるとまとめられております。続いて,二つ目でございますけれども,美術の著作物又は写真の著作物を原作品により展示する者が,電子機器を用いて観覧者にこれら著作物の解説あるいは紹介を行うことや,サムネイル画像を用いて展示作品に係る情報を一般公衆に提供することを権利制限規定の対象とすることが望ましいとしております。

さらに,第3ですけれども,著作権者不明等の場合の裁定制度につきまして,権利者が現れた段階で補償金の支払を確実に行うことができる公的機関等について,事前の供託ではなく,権利者が現れた場合の支払を認める制度を導入することが相当であるとされております。

このほか,文化庁では,権利処理の円滑化のために,権利情報の集約化のための事業を平成29年度の予算に計上しておりまして,現在国会において審議がされておるようでございます。また,著作物等の流通促進のため,拡大集中許諾制度に係る調査研究も実施されております。

今度は,審議経過報告,資料3-1をごらんいただきたいと思います。1枚めくっていただいて,第1章,リーチサイトへの対応について御説明申し上げます。本課題につきましては,関係団体へのヒアリングを通して,リーチサイト等による侵害コンテンツの誘導行為には,権利者の利益を不当に害する悪質なものが含まれているとの現状が確認されております。本課題は,法制面での対応を含め具体的な検討を進めることとして政府の知財推進計画においても掲げられているところから,表現の自由への過度な萎縮効果を生じさせないよう配慮しながら,早期の対応の実現に向けて,引き続き本小委員会において議論を進めてまいろうと,このようにまとめております。

以上6点,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定,それから,教育の情報化,障害者の情報アクセス機会の充実,権利者不明著作物の利用の円滑化,著作物のアーカイブ化の利活用の促進,リーチサイトへの対応,こういう六つの問題につきまして,簡単ではございましたけれども,報告とさせていただきたいと思います。中間まとめでは,国民からの意見募集を経て,今後,小委員会において速やかに,今度は報告書として取りまとめを行うことを予定しております。まとまりましたら,著作権分科会に報告させていただくことになろうかと存じます。

法制・基本問題小委員会における審議経過報告につきましては,以上でございます。御質問,御意見がございましたら,お願いいたします。

それでは,井村委員,どうぞ。

【井村委員】日本書籍出版協会の井村です。ヒアリング等を通しまして,私ども出版界は,柔軟な規定に関しても,それから,教育の情報化につきましても,基本的には反対だという意見を申し上げてまいりました。それは現状において,著作権法というものが,教育者を含めた一般の方々にきちんと理解されていないと。我々権利者―出版権を持っています権利者という意味ですが―から見ましても,かなり柔軟な利用がなされているという状況において,更なる権利制限がなされれば,本当に更なる拡大解釈を生むだけだということで反対をしてまいってきたわけですが,本日配布されています中間まとめを見ましても,基本的には一定の権利制限はなされるべきだというような方向性で議論がなされていますし,最終的に法改正がなされれば,我々出版界としても,改正された著作権法がきちんと運用されるように,利用者の方々と正しく議論をしていきたいなと考えています。

ただ,先ほどもちょっと申し上げましたように,今回のこの法改正がなされると,我々出版界にとって本当に小さくない影響が出る可能性があると。更なる拡大解釈みたいなものがなされれば,私どものような特に教育現場に向けて著作物を出している専門書出版社にとっては本当に死活問題となりかねないということで,何点か委員の方々,それから,文化庁の方々にお願いがあります。

この中間まとめの中で,枕言葉のように,権利者の利益を不当に害してはならないというふうに出てきます。ただ,一,二行で権利者の利益は不当に害してならないと言った後に,何十ページにもわたっていろいろな利用の仕方が述べられる。これ,読んでいきますと,我々権利者から見ますと,明らかに不当に害しているじゃないかというような部分も出てきてしまいます。そういう意味では,これから利用者の方々と我々いろいろ話合いを進める中で,本当に権利者の利益を不当に害してはならない,それが今回の法改正の大前提にあるんだということを強く主張していっていただければと思っております。

それと,この中にも出てきます教育者と,一般の方々もそうですけれども,著作権法の教育,啓蒙ということです。これはある程度教育者の方々からも,そういうことが必要だということで,今後やるということで今回の法改正に向かっているというふうに理解しておりますけれども,我々から見ますと本当にちゃんとしたプログラムが出てくるのかなと。法改正はなされてしまうと,広く北から南までこれに沿った利用がなされるわけで,そうなってくると,きちんとどこどこの教育機関ではこういうプログラムをいつからやるんだということを把握できない限り,なかなか私どもは安心して進めていけないなという部分がありますので,この辺は文化庁の皆様,それから,委員の先生方,これからどういうプログラムがいつからどういうふうに行われていくか,これを正しくきちんと見守っていただきたいなというふうに考えております。

それと,最後,もう1点。今回,現行の35条に関しましては,そこまで手を付けてしまうと,教育の中でなかなか混乱を招くということで先送りになったというふうに理解しておりますけれども,やはり無償で複製ができる部分があるというのはそろそろ見直してもいいんじゃないのかなと思っております。そういう意味では,戦後70年以上たってこれだけ教育が広く行き渡っている状況の中で,まだ無償で複製ができる部分を残すということはあってはならないのではないのかなという気がしますし,今後また,この先々になりますけれども,再度議論していっていただきたいなと考えております。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

それでは続いて,久保田委員,お願いします。

【久保田委員】3点ございます。1点目が,今も出ました,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定とライセンシング体制の在り方についてなんですけれども,いわゆる柔軟性のある権利制限規定の議論は,具体的なニーズの収集から始まり,要望されている柔軟性のある権利制限規定が我が国の法制度や法運用実態等と照らしなじむものであるかどうかというような非常に細かい点まで検討されて,ようやく一定の方向性を導き出してきたわけです。また,法制・基本問題小委員会,そして,その傘下のワーキングチームにおきまして,それぞれの委員の皆さんの御尽力の賜物であるということについて,非常に敬意を表したいと思います。

いわゆる第1層に当たる権利制限規定に関しては,権利者らの不利益は小さいものなのでやむを得ないものだとは考えますけれども,少なくとも公共性や相当性,ほかに代替手段がないといった要件が具備されるということを希望しております。また,今回の方向性をもって,知的財産推進計画に記載された権利制限規定に柔軟性を持たせるという目的はもう達成されたのではないかと考えます。そこで,是非今後,いわゆるこのフェアユース類似の議論はならないようにお願いをしたいと存じます。

また,先ほども出ましたけれども,教育の情報化につきましては,当協会はじめ,関連団体等,学校現場におきまして著作権の正しい知識の普及ということで積極的に活動を行っているところでもあります。一方,数年前の「だめだめ教育」のために教育現場が非常に萎縮したという側面も感じております。先生方が著作権を正しく理解していないために,先ほど出た35条等も,本来先生方が教育の底上げをするために公益性の見地から著作物が使える場合であっても,萎縮してしまって,これは許諾を取らなければ授業に使えないんだというような,反作用も出てきたところでございます。

こういう観点から,今回の教育機関における権利制限規定の整備につきましては,正しい著作権の普及啓発が最も重要だと考えております。この中で今回の中間まとめの中を読みますと,また更に教育用の教材のコンテンツの作成をしていくというようなことが書かれているわけなんですけれども,実はCRICをはじめ関連著作権団体がたくさんの著作権に対する教材等を作っております。

このことにつきましては,学校における著作権教育のアンケート調査,これはCRIC等が調査をしているんですけれども,昨年の6月に出されたレポートによりましても,実はこんなにたくさんの教育コンテンツや教材が作られ,学校に配布されているということを学校の先生や教育委員会,機関が知らないというレポートが出ています。これは非常に残念なことでありまして,ここにつきましては,各団体やCRIC等がそういったコンテンツを送り付けても「積ん読」になっているとか,先生自身はそのことの存在すら知らないと。

これにつきましては,新しい教育教材を作るというよりは,まず今,関連団体等が作った教材がどんなものがあるのか,またどういうふうに活用するのかということをきちんと教育現場に伝える活動をしてほしい。更に教材をたくさん作っていくというような発想は是非改めていただきたいと考えております。また,アーカイブの利活用の促進という課題が文化庁の方からも出ておりますが,まずは著作権啓発教材等のアーカイブを利活用に使っていただきたいと思います。

最後,三つ目,リーチサイトについてです。これはもう当協会は何度も繰り返し言っているのですが,まずリーチサイトとは,リーチサイト自身には侵害コンテンツはアップロードされておらず,別のサイトなどに違法アップロードされた侵害コンテンツのリンクを集めて掲載しているものを指します。多数のリンクではなく,侵害コンテンツへのリンクが少数であったとしても,侵害コンテンツが拡散する,被害が拡大するという問題は全く同じなわけです。

そこで,侵害コンテンツへ拡散するためのリンクを張るという行為に着目し,検討する必要があると考えております。要するに,侵害コンテンツがたくさんあるとかないとかではなくて,一つであっても,そこからインターネットの機能として,侵害コンテンツが拡散してしまうと。そういうことにリンクを張るという行為がどういう行為なのかということをしっかり検討する必要があるだろうと考えます。

そういう意味では,結論めいたことになりますが,リンクの対象が侵害コンテンツであることを知りながら,それを拡散する目的でリンクを張る行為について著作権侵害とし,当該リンクに対して権利者が法的対策を適切に行うことが可能となるような法改正を要望いたします。よろしくお願いします。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかに。大寺委員。

【大寺委員】民放連の大寺です。私どもは柔軟な権利制限については慎重な対応をし,そして,いろいろ検討してきました。そうした中で,ただ,人工知能とか,IoTとか,あるいは5Gとか,そうした技術革新が現在どんどん進んでおりますし,さらに,バーチャルリアリティーとか,あるいはSNSといったものを使ったコンテンツの創作あるいはその配信が進んでいます。そうした中で,クリエーターが意欲を持って新しい創作物あるいは表現をされるということがきちんと守られ,さらに,今申しました技術革新がきちんと私どもの今後の著作権関連の活動に機能していくということから見ますと,今回の柔軟な権利制限規定の導入については一定の評価ができるのではないかなと思っています。

ただ,2点申し上げたいことがございます。一つは,先ほど久保田委員がおっしゃったこととも関係しますけれども,アメリカ型のいわゆる包括的な権利制限規定の導入については,やはりアメリカのような判例主義,コモンローの司法制度と日本の司法制度は異なります。今後そうしたいわゆるフェアユースの導入ということの議論を重ねていくということは,議論に議論を重ねるというだけで生産的なものではないのではないかなと思っております。

それから,2点目なんですけれども,こうした環境変化の中で,著作物を創作し,あるいは利活用するということを進めていくためには,私どもはまだ見せていただいておりませんけれども,著作権法の改正条文だけでは不十分であろうと思っております。何らかの運用指針,ガイドラインのようなものが必要なのではないかなと思っております。そうした中で,そういう指針の策定の過程におきまして,例えばクリエーターの創作・表現活動をきちんと尊重するとか,あるいは基本的人権とかプライバシーへの配慮と,そういうものを十分留意してやってほしいと,そういうような内容も盛り込んでいただければなと思っています。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかに。瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】二つあります。一つは,やはり皆様も一番御注目の柔軟な規定でございます。柔軟な規定が,単純にアメリカ型だから悪いとか,包括型だから悪いとかということではなくて,今回きちんと基本から,なぜ日本でアメリカ型が行われたらよくないのか,そして,日本の企業が望んでいるのは何かということを検証して,しかも同時に柔軟性を残して今回の第3層構造ができたということに対して,私は大変すばらしいものだと思います。これで両方のバランスが取れると思います。要するに,フェアユースだめと言う人もいれば,いいと言う人がいる。単に主張するだけだと,お互い平行線ですよね。それがきちんと事実と現実に基づいて日本でこれがいいという結論が出されたので,私は文化庁さんの案と説明を聞いて,これはこれで進めましょうとに強く肯定をいたしました。

ただ,できるだけまた訳の分からない議論が繰り返されることは,正直,審議会の時間の無駄でもありますし,それは何としてでも避けるべきことだし,もっと前向きな議論をしていくべきだと思います。ですので,私は今回の結論が出たことによって,これで次へ進めるのかなという期待も併せて持っています。

もう一つ,教育の補償金の件,教育のICT対応の件ですけれども,先ほど井村委員が正にいろいろ代弁してくださいました。出版と権利者は,きょう永江さんもいらっしゃいますけれども,常に一緒に進んでいかなければならないと思います。ただ,1点御訂正いただきたいのは,直接の権利者として出版社さんが御主張なさるのはいかがなものかと思います。それは我々がきちんと申し上げるべきことであって,出版社さんが権利者としてという御主張をなさるのは,審議会の場ですので,これはちょっと私はいかがなものかと思いました。ただ,お心持ちと方向性は全く同意いたします。

出版さんの立場と権利者の立場から考えると,必要なことは,権利者と出版社がちゃんと契約をすることです。これがなかなかできていない。例えば複製権センターなどで契約をどれだけ出版社さんときちんとしているかということについていうと,やはりかなりまだまだのところがあるのではないかなと思っています。ですから,契約によってしっかり権利者と出版社さんが手をつないでいくべきだと思っています。ただ,これは非常に形式的な話かもしれませんが,私も写真著作権協会として出ている以上,出版社さんが「権利者として」とおっしゃると,それはそのとおりだというふうにここで肯定してしまうわけにはいかないので,あえて言わせていただきました。

教育の権利制限規定の内容自体については,日本で四十数年間,権利者に対して補償金が支払われないで,世界でもまれに見る状態できました。これは例えば年間で数十億としても四十何年間累計すれば何百億です。著作者はそれだけ,はっきり言ってしまうともらい損ねている。ただ,それはいいでしょう。著作者が納得して,権利者が納得していたんだから。しかし,権利者に補償金という対価を還元しないできた結果が,今,いろいろな意味で流通を阻害する要因として埋め込まれている可能性があります。それは無償だからいいのではなくて,無償ゆえのマイナスを今解決するべき時期に来ているということです。権利者エゴでお金が欲しいだけではありません。でも組織化された権利者がいることによって流通は非常に促進される,この現実を今回是非皆さんに御理解いただきたい。

今,異時送信の部分について補償金が検討されておりますけれども,これを権利制限全体に,というとやはりいきなりの実施では非常に混乱を来すのは私も理解できます。しかし今後何でも,教育だから,公益だから無償という考え方では逆にマイナスが生じることもあるんだということをこの問題を機に是非お考えいただきたいと思います。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかに御意見ございますか。木田委員,どうぞ。

【木田委員】NHKの木田です。先ほど民放連の大寺さんからありましたように,実際の運用に当たっては,恐らくいろいろなガイドラインが,検索サービスのところを少し触れられていましたけれども,これから出てくるんだろうと思います。そういったものを基にして円滑な利用が確立されていくといいかなと思っております。

二つだけ意見を言わせていただきます。著作物等の流通促進のための円滑化について,拡大集中許諾制度について言及がありましたが,文化庁さんの方でも研究あるいは検討が進んでいるようですけれども,日々過去の番組の権利所有に本当に手を焼いている現場と致しましては,是非ともこの制度をいろいろ検討していただいて早期の実現を図っていただくと,国民にとってもいろいろアーカイブ資産の恩恵を受けやすくなるのではないかと思っております。それが一つです。

もう一つは,これは放送業界特有のことかもしれませんが,これだけインターネットによる情報の氾濫とでもいいますか,いろいろな情報が飛び交う中で,やはり正しい情報あるいは信頼される情報を責任のあるところがちゃんと出していくということも非常に求められているところでありますので,放送コンテンツのネット等における配信等についての権利所有のやり方,現在は放送は放送,通信は通信という形になっておりますけれども,これもどこかで合理的かつ効率的な方法が早く検討されることをお願いしたいと思います。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかにございますか。はい,どうぞ,井上委員。

【井上委員】井上でございます。私,文化庁さんと経済産業省さん主導で,業界団体を連動してやっておりますMAGPという,漫画,アニメ,ゲームへの著作権侵害対策委員会というプロジェクトにも出席させていただいております。そちらの方で,学校現場で,やはり先ほどから出ております著作権の啓蒙の教育,こちらをもっと進めるべきだという声が前回から挙がっております。教材なのかパンフレットなのかそういう形で,特に漫画やそういうキャラクターを生かした,各社のキャラクターなどを使って,そういう教材を作っていこうというような動きがあると前回のプロジェクト会議,委員会で報告がございまして,是非今後そういうところとも連動して,教育現場における著作権教育の意識を高めるところを協働で,省庁の縦割りにならないような形で連動してやっていただければと希望するところでございます。

あともう一つは,先ほどから出ておりますリーチサイト。これは非常に大きな問題ですので,徹底的に対策を講じていただければと思います。ありがとうございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかにございますか。吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】ありがとうございます。柔軟な規定について,一言申し上げさせていただきます。著作権制度見直しに当たっては,技術革新が最近特に激しいことを踏まえながら,権利者と事業者の双方のビジネスチャンスを拡大させるとともに,当事者の予見可能性を担保するという,そういう考え方に立って考えることが重要だと思っています。

今回御紹介があった報告書につきましては,措置が必要とされている類型を3層に分類して対応を検討し,権利者と事業者の双方に最大限配慮しながら,いたずらに実務に混乱を来すことがなく,技術の進歩にも対応するものになっていると思っています。ここまで非常に丁寧な議論がなされてきたと理解しておりまして,関わってきた皆様に,敬意を表させていただきたいと思っています。

細部についてはガイドライン等というお話も出ていましたし,まだいろいろ詰めるべき論点は残っているのではないかと思いますが,全体としてはこの方向でよいのではないか,これが現在の状況を踏まえた措置として最善な策ではないかと思っております。従いまして,私としてはこの政府案に基づいた対応を支持させていただきます。

ついては,早期の法制化をすべきと思います。きょうお配りいただいたものの68ページの「おわりに」の三つ目のパラグラフに「今後」というところがございます。これは個人的にも本当にそのとおりだなと強く思います。「文化審議会著作権分科会において本問題に関する結論が得られた後に重要となるのは,提言が適切に実行されることである。文化庁においては,提言の趣旨及び内容を十分にくみ取った上で法制化がなされるよう,関係者との調整を含め格別な努力が払われることを期待したい」と書かれております。この思いは私自身も非常に共有するところでございます。

率直に申し上げれば,文部科学省さんにおかれては昨今,いろいろと国民の信頼を揺るがすような事案も抱えておられて,なかなか新しい法案を提出するといった,表立った積極的な行動自体をためらう雰囲気があるようにも拝察するわけですけれども,その問題とこの問題は別であると思っております。そういう問題があるからこそ,必要な法改正はしっかりと進めるといった姿勢をとっていただくことが非常に大事だと思いますし,我々もそうした姿勢をとっていただくことを強く期待させていただきたいと思っております。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。各委員の御意見伺っておりまして,いわゆるフェアユースというような考え方は,私は少なくともこの報告では完全に否定されているというふうに了解をしております。つまり,我が国におけるデジタル・ネットワーク社会における現状におけるベストモードとして,権利者,利用者,一般ユーザーの利益を最もうまく調整しているのがこの考え方でありまして,しかも先ほども評価もございましたが,法実証的に影響効果というものを分析していって一定の結論に到達する手法をとったのは恐らく初めてなんじゃないかと思っております。

従いまして,この3層にわたる考え方,従来のC類型,あるいは著作権,著作物の本来的な市場に影響を与えない,軽微なというところを十分御理解いただいて,この権利制限規定の制度が適切に運用されるように期待しておるわけであります。その際,利用者の方々の著作権に対する理解あるいは権利制限規定に対する理解が適切に行われるように,啓蒙啓発活動は更に重要になってくる。おっしゃるとおりだろうと思います。それは本分科会とは別の場面において,本分科会からも要望は出せるかと思いますけれども,別の場面において適切に進めていただきたいなと思っておるところでございます。

それから,ガイドラインの問題。柔軟な権利制限規定の場合は原則として事前にというよりも事後的な調整になりますので,基本的にはガイドラインというものに余りなじまない,事後の司法的な判断がメーンになろうかと思いますけれども,第3層のいわゆる35条関係等につきましては,これはガイドラインの重要性というのはこの中間まとめでも91ページに明確に書かせていただいております。しかも,このガイドラインの形成につきましては,文化庁等においても,オブザーバーではありますけれども,きちんとそういうガイドラインの構築に当たって,適切な助言等があるのではないか,あることを私どもは期待をしておるところでございます。

拡大集中許諾制度とか,あるいはリーチサイトの問題,これはこれからの問題でございまして,特にリーチサイトについては,次の期の法制・基本問題小委における重要な検討課題になっていくんだろうと思います。個人的に申し上げますと,拡大集中許諾制度等の必要性というのは,恐らくは関係の委員間においてこの制度の重要性もあり十分理解されているものと私も信じております。

それから,権利者,利用者だけではなくて,一般ユーザーとの関係がありまして,この3者の利益の的確な理解,更にそれに基づく調整的な権利制限規定の構築が非常に重要になっております。ここは,いつも申し上げているんですけれども,3者がそれぞれ地位が固定していますので,なかなか相手方の利益,立場や問題状況をもう一つなかなか御了解いただけないところが率直に言ってございます。これがこの著作権法における重要な,あるいは難しい問題ではないかと思っております。

ともあれ,しかし,今回,先ほど申し上げた六つの課題についてこういう形で中間まとめをまとめさせていただきましたし,これを割合短い時間の中でまとめることができましたのは,正に法制・基本問題小委の委員の方々,あるいはワーキングチームにおけるチーム員の方々,更に作業部会における御協力いただいた関係者のサポート等,そういうたくさんの方々の御支援に基づいて出来上がったものでございます。その辺りを十分理解をしていただいて,こうしたものが適切に,あとは文化庁の責任の下になりますけれども,文化庁の方で適切に法案化に向けて努力いただければと思っております。

これは,先ほど申しましたように,この後パブコメに掛かりますので,御了解いただくというようなことではないんですけれども,よろしければ,次の課題に入りたいと思いますが,よろしゅうございますか。

それでは次に,著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過につきまして,報告をさせていただきます。これも私の方から報告をさせていただきます。資料は4でございます。

今期の保護・利用・流通小委員会では,急速なデジタル・ネットワーク社会の発達に対応した法制度等の基盤整備のため,知的財産推進計画2015等に示された検討課題を踏まえつつ,昨期に引き続き,クリエーターへの適切な対価還元に係る課題について検討を行ってまいりました。

今年度は,昨年度に整理をした三つの論点のうち,対価還元の現状と補償すべき範囲についての議論を行っております。これらの検討状況につきまして,簡単に御報告を申し上げます。

1ページをごらんください。今期の前半にはまず,昨期の議論に継続いたしまして,私的録音録画に係るクリエーターへの対価還元の現状につき整理をいたしました。私的録音については,パッケージ販売,ダウンロード型音楽配信,ストリーミング型音楽配信及びパッケージレンタルの四つの流通形態に分類し,そのうち,ストリーミング型音楽配信以外の流通形態につきましては,DRM技術が掛かっていないために私的複製が生じているという整理をしております。私的録画につきましては,パッケージ販売,無料放送,有料放送,動画配信及びパッケージレンタルの五つの流通形態に分類され,そのうち,無料放送と有料放送については,DRM技術の範囲内で私的複製が生じていると整理されております。この点については,資料4の1ページから9ページまでにまとめております。

続いて,10ページ以降で,二つ目の論点である補償すべき範囲について,基本的な考え方をまとめるとともに,主な論点を整理しております。補償についての基本的な考え方については様々な御意見がありましたけれども,補償が必要となるのは,権利制限規定によって権利者に不利益が生じている場合であるということで整理をいたしております。不利益の有無については,権利制限による法的な不利益が生じているとともに,権利制限の下で社会的に大量の複製が生じていることから,補償が必要な程度の不利益が権利者に生じているという立場と,私的複製による経済的な不利益が具体的に発生しているとは考えられないという立場からの意見が示されました。

委員会では,私的録音録画補償金制度が導入された際に,社会全体としては大量の録画物・録音物が作成・保存されており,経済的補償の必要があると整理された点を踏まえて見ますと,現時点でもそれは変わらず,社会的に大量の私的複製が行われている状況があると。こういうことを踏まえ,なお,補償が必要な程度の不利益が権利者に生じており,権利者への補償が必要であると考えられると,このようにまとめております。

なお,委員会においては,権利者への補償が必要であると結論付けるのではなく,両論併記にとどめるべきであるとの意見も示されておりますので,その旨を11ページの脚注7に記述しておるところでございます。先ほど補償すべき範囲ということについて言及いたしましたけれども,全ての私的複製について補償が必要であると直ちに即断することはできないというふうにも考えております。私的複製の趣旨や性質を考慮しながら,どのような私的複製について補償の必要があるのか,こういうことを今後検討することが重要であるとしております。

今後は,私的録音については,パッケージ販売,ダウンロード型音楽配信及びパッケージレンタルの三つの流通形態を対象に,私的複製の趣旨や性質を考慮しながら,どういった私的録音を対象としてどのように補償を行っていくべきであるかという,制度設計というんですかね,そういう点を議論していく必要があろうかと思っております。以上が資料の11ページから14ページの前半にまとめられております。

また,私的録画につきましても,今後は有料放送及び無料放送の二つの流通形態を対象に,補償が必要な範囲について議論を深めていくことが求められております。これまでの意見は,資料14ページから16ページにまとめました。

最後に,これらの検討に当たっては,様々な立場からの意見があることを踏まえ,多様な複製に係る対価還元の手段についての検討を行い,社会的な理解が得られる補償制度の構築に努める必要があるとまとめております。

以上,簡単でございますけれども,私からの報告とさせていただきます。保護・利用・流通小委の委員の皆様方には,今期非常に難しい議論でございましたけれども,精力的に御議論いただきました。そして,審議経過報告という形でまとめさせていただきましたこと,このような御協力に対し,この場をおかりしてお礼を申し上げたいと存じます。

保護・利用・流通小委の審議経過については以上でございます。御質問,御意見がございましたら,お願いをいたします。河村委員。

【河村委員】御説明ありがとうございました。私はこの小委に参加していた委員として一言述べさせていただきます。

11ページのところ,脚注の方に両論併記にとどめるべきであるという意見も示されたとありますように,本文ではなく脚注の方に入ってしまったわけですけれども,小委員会の今期の最後では,5名ほどの委員から,本文の中で補償が必要であると考えられると書かれていることに対する反論が出ていたかと思いますので,やはり本来は本文の方で両論併記にしていただきたかったなというのが消費者団体としての意見でございます。

それから,15ページの録画のところ。録画のところは余り深い議論のには入っていないわけなんですけれども,委員会の中で私繰り返し意見を言っているのですが,どうも文化庁のスコープではないということで意見から外されてしまうんです。放送の中でも,特に地上波の無料放送,公共的な放送と言われている,民放といっても公共的な放送ということで免許が与えられているわけですけれども,それに関してDRMが施されていても補償金が必要だというような意見に対して,放送に掛かっているDRMというのは,それにいろいろな仕組み,機械的な仕組みが関わっているわけでして,そのコストを消費者は支払っているわけです。DRMという権利者の権利を守る仕組みに対して消費者はコストを支払っている。スクランブル放送を掛けるとか,それを解除するとか,録画をしない人も含めてテレビの仕組みの中にそのコストが入っているわけです。

そういう意味からいうと,ここに消費者団体として座っていていつも思うんですが,著作権という権利の一方に,消費者の権利とか利用者の権利とかいうものが確実にあるはずなので,特にこのような公共性のあるコンテンツについての補償金のようなものを議論するときに,権利者の不利益ということだけではなくて,きちんと消費者がどういう不利益を被っているのか,消費者の権利とはどういうところにあるのか,特に放送などでいえば知る権利などとの関係もあると思いますので,そういう視点を大事にしていただけたらなと思っております。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかにございますか。椎名委員。

【椎名委員】先ほども主査もおっしゃっていましたけれども,立場によって異なる意見というのはなかなか調整し難い部分があるわけで,この補償金制度を巡る議論に関してもそういうことであったのかなというふうに思います。振り返ってみますと,現行の私的録音録画補償金制度の機能不全について認識されたのは,少なくとも平成15年ですかね。最初に見直しの検討というような会議が組織されて,2000年を過ぎる辺りから,消費者の行う私的録音録画の実態と制度の間に乖離があるということで議論され始めた。少なくとも文化庁におけるその議論の最初が平成15年だったと思うんですが,今もうほんとに十数年越しの議論をしてきてようやくここにたどり着いたのかなというふうな気がしております。

さっき瀬尾委員もおっしゃっていましたけれども,やはりこういった法律に関することに関しては,ファクトの積み重ねということが非常に重要になってくるのではないかと思います。かつて法的に措置された私的複製に関する自由に関しても,これは30条1項ということになりますが,そこを廃止するという選択肢があるんだろうかと。あるいは,廃止しないで,補償金制度を廃止するという選択肢があるのだろうか。こういった経緯について,この審議経過報告においては,対価の還元の現状とか,それから,補償すべき範囲についてというのも,事実関係に照らして,ファクトを積み重ねた上で結論を導いていると思います。もちろん権利者の不利益は存在しないんだという議論もあったわけでございますが,そのことを証明するエビデンスはついに会議に提供されることなく現在に至っているということから考えまして,この結論は非常に妥当な方向性なんではないかと思います。もう十数年も費やしているということから考えましても,この問題は一刻も早く次のフェーズに進んでいただくことが重要ではないかと,そういうふうに思っております。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかにこの点について,御質問,御意見。松田委員,お願いします。

【松田委員】私もこの委員会に参加させていただいて,意見を述べさせてもらった1人であります。これは10年越しというより,平成4年改正後から,形を変え,委員会の名前が変わってずっと議論してきて,やっとここまで来たというのが実情です。この時代の流れの中で果たして,平成3年に報告が出て,平成4年に法律が改正されて制度ができたときの状況と現況の変化を明確に主張しておくべきだろうと思っています。当然委員会でもそれは主張いたしました。

第10小委員会というのは昭和62年にできておりまして,そこから議論がなされて,平成3年に報告書がまとまりました。平成3年の報告書ができる前の状況というのは,既にレコードに変わるメディアとしてCDが販売されて,市場がどんどん形成されていったわけです。しかし,私的録音の状況におきましては,平成2年6月にデジタルオーディオテープ(DAT)という,テープの状態のデジタルデータを複製できるメディアとそのレコーダーが販売されたのであります。これが平成3年の報告書の背中を押したことは間違いございません。しかしながら,このDATは,市場それ自体はそれほど大きく形成されず,その後正にCDで複製ができるという状況になって,それが大きく私的録音録画に利用されたということは間違いないのだろうと思っております。

この状況から考えて,今はどうでありましょうか。今はマルチユースができる技術や社会状況が生まれています。全く異なる私的複製の状況が存在します。事実として私的録音録画がなくなった,縮小している,これからも縮小するということは,これは事実としてあり得ないことです。

といいますのは,平成3年ころのCDとDATとの状況から,今の状況は,正にスマホ,それから,自動車におけるオーディオ機器における複製,それから,インターネットである領域のサーバーに私的な録音録画が可能になる状況,こういうことを考えますと,もうとてつもなく大きな分母として私的録音録画の状況が生まれてしまっている。これをいささかでも減少しているとか,考察の必要もないというようなのは,これは詭弁ではないかと思います。あえて詭弁と言わせていただきます。というのは,小委員会における現在の私的複製の状況が詭弁だと言われたからであります。あえて言い返しておきたいと思っております。

CDとDATの状況と,今のインターネット,クラウドの状況を比較して,そして,録音・録画が極めて小さくなっているから制度が不要だというような議論は,私は無理だろうと思っております。もちろんそういう社会状況の中で,マルチユースが促進されるべきだということは私も思います。そして,マルチユースとして提供されるような取引条件において利用されるようなことを促進すべきだろうと思っております。しかし,そういう利用方法が明確に契約上も認められるものについては,これは私的録音録画は要りません。マルチユースが保証された取引条件の下で行われているのは,これは言ってみれば,私的録音録画補償金外の適正な複製が行われている,という状況です。それをマルチユースが必要だから,私的録音録画が少なくなっているとか,補償の必要がない社会状況であるという議論はできないというふうに思います。

そういう前提の下で私は今度の小委員会の経過報告については大きく支持をしたいわけであります。その中で,先ほどの意見で,3名のほどの人たちが反対をしたと私は記憶しております。5名という意見が今ありましたけれども,正確に反対意見を出したのは3名だけだったと思います。その3名以外の委員は,報告書に賛成をしていました。利用者団体と権利者団体の意見が分かれるというのは,それぞれの立場があるからやむを得ないと思うのでありますが,そのほかに研究者を含めて中立の委員の方々がいらっしゃるわけです。その中立の委員は,1人たりとも今回の審議の経過について反対意見を述べた者はなかったのです。これも重要なことだろうと思います。これをベースにして,次の審議においては,更に同じような委員会が形成されると思いますけれども,具体的な制度の設計に,ないしは制度の修正部分がどこであるべきかということに具体的に進めていくべきだろうと思っています。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

じゃ,瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】この件については余りメーンな当事者じゃないので,今まで発言を控えてきたんですけれども,全体的なことについて一言だけ言わせてください。お金を払うと損をしてしまう,払っているのはデメリットであるというだけで,出す出さないでいわゆる利益を考えるのをやめたらいかがでしょうか。つまり,権利者が今,例えば写真でもそうですけれども,権利制限を比較的肯定するお話をしました。これ,権利制限の点で見たらすごくマイナスです。でも,流通が促進されたりとか,回り回ってきっとこれは作る側にとってもプラスになる施策があるから,だから,一見マイナスに見えてもそれを肯定するということがあります。

つまり,その不利,例えば利用者,それから,消費者の皆さん,それから,権利者,みんなお金を出す出さないの1点だけじゃなくて,例えば少しでも使用料を,補償金を払えば,コンテンツが豊富化するし,より豊かな提供方法ができるかもしれません。そしたら,トータルで見たら,消費者もプラスになるかもしれない。権利者だって,権利制限を受けて,何かすごくマイナスでやられちゃったな,気分が悪いとかという話をよく聞くんですけれども,でも,トータルにしたら,流通が盛んになって,より楽しんでもらえて,最終的にはプラスになるかもしれない。

そういうトータルな利益を考えて議論をしないと,今後の複雑な問題は,単純な議論で払う,払わないとか,権利制限する,しないとかでは,きっと利益と不利益を考えられない時代にもう既になって久しいと思います。ですので,余り単純な一元論だけで全てをやっていくと,いつまでたっても無限に話が決まらないので,私はトータルな利益,不利益をそれぞれが勘案して話すべきではないかなと思いました。以上です。

【土肥分科会長】大寺委員,どうぞ。

【大寺委員】私,民放連を代表いたしまして,著作権権利センター,CRICの理事をやっております。このCRICでは,著作権教育の普及啓蒙とか,諸外国の著作権制度の実態調査とか,そういうことをやっております。その財源は,この私的録音録画の補償金のマックス20%のお金がここに投じられてやってきておりました。ただ,残念ながら,現在,録音の方も録画の方も補償金がほとんどゼロに近いぐらいになっていまして,CRICの活動そのものもほぼ停止状態になっています。

先ほどから青少年や一般国民に対する普及啓蒙活動が非常に重要である,教育が重要だということでおっしゃいますけれども,残念ながら文化庁にはそのための予算がほとんどないのではないかなと思っています。これまでは補償金のお金を充当して,私からいうと細々とですけれども,この活動をやってきたんですが,今はほとんどそうした活動が停滞しているという状況です。

やはり皆さん,権利者も事業者もお互いに権利を主張し合うだけじゃなくて,現在,将来の著作権に対して,それを守っていくという,そういう活動へお金を拠出していくという部分もこの補償金にはあるんだということを理解していただければなと思います。これは補償金の制度そのものの是非とは違うんですが,一般的な今までの効果という意味で御紹介させていただきました。以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかにございますか。よろしいですか。

私の言いたいことは大体おっしゃっていただいたので私からはもう申しませんけれども,今の30条は,世界的に見てもかなり広い範囲で私的複製が認められていますし,これはこれでいいんだろうと。つまり,これを前提に著作権者の持っておる複製権が実効的な形になるように,そういう中で,先ほど来からある,権利者,利用者,一般ユーザー,この3者にとって有利な,三方一両損ではなくて,三方一両得になるようなそういう制度構築を,なかなか難しいのかもしれませんけれども,そういうことに向かってこの保護・利用・流通小委の来期,是非審議を進めていくということを私からお願いするというのもおかしいんですけれども,お願いしておきたいと思っております。

これも審議経過報告でございますので,御了解いただくような問題ではないということでございますから,このぐらいにしたいと思います。

次に,国際小委員会の審議経過等についての課題でございます。これについては,道垣内主査より御報告をお願いいたします。

【道垣内委員】資料5に基づきまして,報告いたします。今期の国際小委員会では,「はじめに」のところにありますように,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方,それから,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方について,検討を行いました。

まず第1点,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方についてでございます。この点につきましては,主に4点について報告を受け,検討を行いました。それはこの資料の1ページから4ページにかけて書かれております。

第1点は,我が国のコンテンツの外国における侵害実態の調査についてでございます。中国,タイ,インドネシアにおける調査に引き続き,今期の国際小委員会では,ベトナムにおける著作権侵害実態調査の結果の報告が行われました。1ページ目の終わりに記載されておりますように,この報告では,ベトナムはユーザーの著作権認知度は高いものの,実際に著作権保護の行動にはつながっていないという実態があり,著作権教育や著作権意識を具体的な行動に結び付ける方策の検討や実施が必要であるとの報告でございました。

第2点,政府レベルでの取組についてでございます。2ページのところでございますが,今期の国際小委員会におきましては,昨年度に引き続きまして,文化庁において行われております日韓,日中をはじめとする政府間協議,それから,ASEAN諸国等を対象としたトレーニングセミナー,集中管理団体育成支援事業,普及啓発事業等について報告を受けました。これらの報告に基づきまして,本小委員会では今後の対策等について意見交換が行われました。幾つかの意見がございまして,一つとしては,アジア以外の地域への対象の拡大を検討すべきであるという意見がございました。2番目には,コンテンツの流通に関わる方々に対する啓発等も有益ではないかとの御意見もございました。更に3番目,民間レベルで行われている,様々な取組が行われているようでございますけれども,そういった取組との連携をより一層促進すべきであるとの意見がございました。

第3点,これは3ページでありますけれども,インターネット上の著作権侵害の現状と諸外国における対応についてでございます。今期の国際小委員会では,関連団体の方からインターネット上の著作権侵害の実態についてのヒアリングを行うとともに,その対応策に対する諸外国の状況についての調査が行われ,その報告を受けました。関連団体からのヒアリングでは,マッチング回避やキーワード検索回避など違法アップロードの巧妙化が進んでおり,違法コンテンツの発見が困難となっている点や,複数の国にまたがって侵害行為が行われている場合に対応が難しい点,そういう実態が生じているという報告がありました。それで,国際的な協力体制の構築が必要であるとの要望が出されております。

第4点でございます。これは3ページの,これらを踏まえた今後の取組についてでございます。引き続き,侵害行為に対する適切な対応できる環境整備を進めていく必要があるということ,それから,4ページになりますが,デジタル化・ネットワーク化の著しい発展により,インターネットを介した著作権侵害はより多様・複雑・見えづらい構造,そういうことになってきているため,これらに効果的に対応する方策が必要であるということをここに書いております。

大きな2番目でございます。著作権保護に向けた国際的な対応の在り方であります。この点,4ページから7ページにかけて,WIPOの中のSCCR,著作権等常設委員会でございますが,そこにおける議論について報告を受け,検討を行いました。

一つ目は,放送機関の保護であります。これはもう随分長い間,条約作成に向けた活動が続いているところでございます。WIPOではデジタル化・ネットワーク化に対応した国際的な保護を放送機関に与えるため放送条約の議論をしてきたわけでありますけれども,ここ数年再びその議論も活性化し,我が国も積極的にこれに参加しているところでございます。

今期の委員会では,放送のインターネット同時配信,サイマルキャスティングと言っておりますけれども,その保護の在り方等についての議論がございました。意見も様々ございましたけれども,6ページに書いておりますように,今後の対応については,先進国,途上国双方とも議論に前向きであることから,我が国としても条約内容を考慮しつつ,早期の成立を目指し,引き続き積極的に対応していくべきであるということをここに記しております。

WIPOの関係での2番目,権利制限と例外であります。WIPOでは,図書館・アーカイブ,それから,教育・研究機関等のための権利制限についてもずっと取り上げてきておりますけれども,なかなか先進国と途上国の間の意見の一致が見られておりません。7ページにありますように,今後の対応についてでございますけれども,我が国としては,スリーステップテストを基礎として,各国がそれぞれの国内事情を踏まえて柔軟な対応が可能となるような方向で適切に議論を進めていくべきであるというのが委員会の意見でございます。

以上,簡単でございますけれども,国際小委員会の報告とさせていただきます。なお,国際小委員会の委員の方々,それから,意見を述べていただいた方々,更に外国の調査等に携わられた方々,その他多くの方々の御協力を得ましてこの審議が進められたことにつきまして,この場をおかりしてお礼を申し上げたいと思います。以上でございます。

【土肥分科会長】どうもありがとうございました。

それでは,ただいまの道垣内主査からの御報告につきまして,御質問,御意見があれば,お願いいたします。

いかがでしょうか。特に御質問,御意見,よろしゅうございますか。よろしいですか。

特に御質問,御意見がないようでございますので,それでは,続きまして,最後の議事としてのその他の中で,使用料部会から著作権者不明等の場合の裁定制度について,道垣内部会長から報告があるということでございますので,部会長,御報告をお願いいたします。

【道垣内委員】これは報告と申しますか,御紹介と申しますか,そのようなことでございます。権利者不明の著作物の利用につきましては,著作権法67条による裁定制度がございまして,文化庁長官の裁定を受けて補償金を供託することにより,適法に著作物を利用することができております。

使用料部会の仕事は,先ほどの教科書等のこと以外はこれが主なタスクでございまして,毎年文化庁長官が定める補償金の額について,文化庁長官からの諮問を受けて審議をしております。今年度は82件,著作物の数でいいますと4万7,699点の審査を行いました。昨年度は48件でございまして,これがそれまでの最大の数だったのですが,それが今年度大幅に申請数が増えております。この理由は,文化庁からの啓発の活動とともに,各企業がコンプライアンス等の観点からきちんと対応しようという姿勢が表れた結果ではないかと,これは私の個人的な感想ですが,思っております。

だんだん増えてきますと,この裁定制度の利用,もっと利用しやすくした方がいいのではないかということが考えられるわけでございます。先ほど中間まとめの中でも記載が実はあるのですが,文化庁では,そういう利用ニーズの高まりを踏まえまして,裁定制度の改善に向けた取組が順次行われてきているところでございます。

その取組の一環として,昨年10月から文化庁の委託により,権利者団体が利用者のために権利者の捜索や文化庁への裁定申請を行う実証事業が開始されております。その実証事業として使用料部会において審査を行ったものは14件,著作物の数は439点があります。この実証事業は,利用者の負担を軽減するために効果的な取組として考えられたものでございます。資料6にありますように,今回の実証事業では,利用者の代わりに権利者団体から更に作られた一つの実行委員会が,権利者の捜索,文化庁への裁定申請,補償金の供託所への支払を行うということでございます。

調査自体は権利者団体にお願いしているケースもあるようでございますけれども,そういう実行委員会が,一つのところが行うことによって,利用者にとっては,補償金の支払についての面倒さと,本当に不明かどうかを調べるのは相当大変な作業になりますので,そういう作業を自分でしなくてもよいということになります。ある面非常に便利な制度でございまして,実際,周知期間が非常に短かったにもかかわらず,予想を超える申請があり,聞くところによりますと,1月にはお断りをするというか,事務的に回らないということだと思いますが,サービスを提供できなかったケースもあるやに聞いております。

権利者の捜索や申請書類の作成等,非常に大変な作業があったかと思いますけれども,これまで実は裁定制度で利用したものについて権利者が現れたという例はないようでございまして,そういう中で非常に御苦労をされ,権利者を探していただいているわけです。今の実証実業の中では,実行委員会は手数料を取らずに無料でやってらっしゃるようでありまして,世界的にも珍しいといいますか,恐らく初めてのチャレンジングな試みではないかと思います。

他方,権利者団体の負担が大き過ぎるという意見があったとも伺っております。現在,権利者団体を中心に実証事業の成果を検証し,課題を整理しているところと伺っておりますけれども,このような取組は継続的に行うことでいろいろな問題が見えてくるでしょうし,効率的な著作物の利用ができるようになればと思っております。これも来年度以降も改善点を反映して継続的な取組が行われるよう,私どもとしては期待しているところであります。

以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ただいまの御報告,何か御質問,御意見ございましたら,お願いいたします。

【瀬尾委員】済みません,最初にちょっと補足。

【土肥分科会長】じゃ,瀬尾委員からお願いします。

【瀬尾委員】済みません,質問ではなくて,今,この実行委員会,今日は実際に参加している人間は私しかいないので,補足的にちょっと申し上げます。権利者団体がこういうことをして,ともかく利用促進をして使わせるということも,一見権利者不利益に見えますけれども,権利者の利益になるものであるし,社会的な貢献をすることで権利者は絶対利益を最終的には得られるという思っています。

それで,御注目いただきたいのは,9団体とあります。これは文芸,写真,それから,音楽,漫画,美術,グラフィック,脚本,シナリオ,それから,複製権センターが事務もお手伝いするということとともに,日本行政書士会連合会さん,それから,日本弁護士連合会さん等,皆さん御協力いただいて,みんなで一丸になってやるという試みです。本当に世界で初めてだと思います。

こういうふうな形の解決方法を今後著作権問題に応用して,さっきの主査の三方一両得というふうなスキームが作れていければいいなという思いでやっております。可能であれば来年も継続して,より実務的な形にして定着できるよう考えたいと思います。ちなみに,3月21日に代々木上原のけやきホールでシンポジウムをまとめで行いますという宣伝をさせていただいて締めたいと思います。済みません。

【土肥分科会長】じゃ,次に椎名委員,お願いします。

【椎名委員】私ども芸団協では,音楽事業者協会さんと一緒になりまして,放送番組の権利処理を行うaRmaという団体を作っております。その中で,放送番組に出演された方々のうち所在が不明である方々に関して,利用者さんが裁定申請を行えるようにするために,権利者の捜索という部分を担ってやっております。

今御紹介ありましたとおり,裁定制度を利用したケースで補償金を後から取りに来るということは非常にまれであると,確かにそういった部分があるんですが,一方で権利者の探索ということでいいますと,我々実演家の場合,非常に人数が多い。そこでかなりのコストがかかってくるわけです。ここを利用者の負担とはしないというのはいいんですが,それではこのコストを一体今後どういうふうに考えていくのかというのは非常に重要な論点ではないかと思っています。例えば拡大集中許諾なんていうのものが検討されるときに,そこで権利者団体が負う努力の部分は一体どこで解決されるのかという観点は非常に重要だということを御指摘申し上げたいと思います。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

ほかにございますか。松田委員,どうぞ。

【松田委員】全体のことでよろしいでしょうか。

【土肥分科会長】どうぞ。

【松田委員】最後でございますので。分科会はかつて,日本におけるナショナルアーカイブを構築するために,国立国会図書館に関する権利制限規定を2回改正してきました。私の記憶では,24年と26年だったと思います。これは実質的にはかなりの大きな改正でありまして,国においてナショナルアーカイブを作ることができるようになったのです。

ところが,国立国会図書館の図書館資料を全文検索をして国民がどこにどういう資料があるかの検索の結果それに突き当たるということが,この改正ではまだできておらなかったわけです。ところが,先ほど議論しました中間まとめにおいて,第2層に分類されるところに検索サービスが検討されていて,柔軟な規定の一つとして導入される方向が明確になりました。

これは国立国会図書館の改正ではありませんが,今までの国立国会図書館のアーカイブ化の改正と,今度の検索サービスが許される制限規定が導入されるということになりますと,正に国際的に一番進んだナショナルアーカイブ検索制度ができるのではないかと思っています。もちろんこれはアメリカのグーグルの判決などが影響したものだと思っております。グーグル以上に,公共図書館に送信することまでできるわけですから,若干,グーグル以上に日本の方が利用の促進に前向きに制度ができることになったと思っております。ただし,グーグルにおいては,既に2,000万件以上だったかな,ユーロピアナでは3,000万件ぐらいのデータがアーカイブ化されている。日本は恐らく数百万件ではないかなと思っておりますけれども,そちらの方の予算による構築というのは非常に重要になってくると思います。

このように各国がナショナルアーカイブを作らざるを得ない状況というのは,正に情報共有社会をできるだけ早く,それも文献という知の資源をナショナルアーカイブとして国民に提供することが,競争というよりは必然になっているからだろうと思います。日本は著作権法上,世界で一番進んだ状況にある。更にこの構築を進めていただけるように,文化庁が政府に働き掛けていただきたいと思う次第であります。更にそういうことの議論が審議会で進むようにしていただきたいとも思っております。

【土肥分科会長】ありがとうございました。今のナショナルアーカイブ化ですか,コンテンツの権利情報の集約化,そういうところを目指すために今回正に5100万円付いておりまして,これは流通推進室の方でいろいろ御尽力されたんだろうと思います。こういったものを取っ掛かりにして,松田委員が言われるようなものへ将来的に予算的な手当てを充実しながら,日本版ユーロピアーナ,そういうものが出来上がることを期待しております。

ほかに,その他として,全て,どのようなことでも構いませんけれども,せっかくの機会でございますので,ございましたらお願いいたします。時間は若干過ぎておりますけれども,なかなかこういう機会はないものですから,御発言あれば。

よろしいですか。それでは,時間も来ておりますので,本日の分科会はこのくらいにしたいと思います。

本日は今期最後の著作権分科会ということでございますので,中岡文化庁次長から一言御挨拶を頂戴したいと存じます。よろしくお願いいたします。

【中岡文化庁次長】今期の著作権分科会を終えるに当たりまして,一言御挨拶申し上げます。

今期の著作権分科会におきましては,著作権法制度の在り方及び著作権関連施策に係ります基本的問題,また私的録音録画に関わりますクリエーターへの適切な対価還元,WIPO等における国際的ルール作りへの参画の在り方やインターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関します重要かつ多岐にわたります課題につきまして御審議頂戴いたしました。今後の施策の方向性につきまして御示唆を賜ったということで,委員の皆様方の御尽力に感謝申し上げたいと思います。

今期の法制・基本問題小委員会におきましては,いわゆる柔軟性のある権利制限規定,また教育の情報化の推進等につきましての課題について検討を頂戴いたしました。具体的な制度整備の提言を含みます中間まとめを取りまとめていただくに至りましたが,今後,小委員会における更なる審議を経まして,できるだけ速やかに著作権分科会としての報告書の取りまとめをいただけますよう,私どもとしても最大限努力したいと考えております。

著作権制度は,文化政策のみならず,産業政策,IT政策といった複数の政策領域にまたがります重要な基盤的なものでございます。この上で,近年では,政府の掲げます成長戦略の柱ということで,IoT,人工知能,ビッグデータなどの技術革新における第4次産業革命に対応するための基盤の一つとして著作権制度が挙げられております。産業政策上の重要性もますます強くなっているという状況でございます。

文化庁におきましては,そうした社会の要請に的確かつ迅速に応えていくということが強く期待されるわけでございますけれども,同時に,我が国が掲げます文化芸術立国あるいはクールジャパン戦略の実現に向けまして,文化芸術の創造・流通・活用のサイクルが持続的に発展していきますように,我が国の社会や文化に即しましたバランスの取れた政策の立案を適時に行っていくことが求められてございます。

このため,著作権分科会におきましては,来期も,これまで御審議頂戴しております様々な課題がございますが,更に新たに生じる課題も付加いたしまして,できる限り速やかに改革の方向性を見いだすべく,引き続き精力的に御審議を賜りますようお願いを申し上げるわけでございます。

結びになりますけれども,各委員の皆様におかれましては,大変お忙しい中にもかかわりませず,並々ならぬ御尽力を賜りましたこと改めて感謝を申し上げまして,簡単でございますけれども,私どもの方からの挨拶とさせていただきます。本当にどうもありがとうございました。

【土肥分科会長】ありがとうございました。

それでは,今期最後ということでございますので,私からも一言御挨拶をさせていただければと思います。

今期三つの小委を皆様方に設置していただきまして,お聞きのとおり,三つの小委においては多大な取りまとめ成果を上げることができたのではないかなと思います。私の著作権分科会会長ですか,これには皆様方が御推薦いただいてこの席に座らせていただいておるわけでございますが,これ,結構長くなっております。最初,たしか私の記憶が間違ってなければ,永山審議官が課長のときの話じゃないかなと思いますので,結構長いんですね。それが今日まで及んできておりまして,様々な検討課題について関わることができたということは,私にとりましても非常に刺激的であり,かつ非常に有益でございました。

しかも,その成果がこういう形でまとまったり,あるいは残念ながらまとまったんだけども,他の事情で法律そのものは施行されてなかったり,いろいろな事情があるわけでございますけれども,私としては,その時々において,先ほどから申し上げております権利者,事業者,一般ユーザーの3者のベストモード,利益の調整のベストモードを努めてきたように思います。

ただ,それが最終形であるかというと,先ほどの次長のお話にありましたように,まだまだ先が続いていきますけれども,私としては分科会長としてはきょうで最後ということで,皆様にお別れを申し上げたいということになるわけでございます。長い間皆様のお知恵あるいはお力をおかりすることができて非常にうれしく思いますし,また同時に,こういう成果ができた,達成できたというのは,事務局の大きなサポートが実はあったんですね。ですから,皆様方,事務局,あるいは各委員,ワーキング,作業部会の方々の御支援,御協力に心から感謝申し上げまして,私の最後の御挨拶にさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

過分な拍手を頂いて,どうもありがとうございます。

それでは,以上をもちまして,今期の文化審議会著作権分科会は終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。

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