日時:平成27年3月3日(火)
10:00~12:00
場所:文部科学省東館15階 特別会議室
議事次第
- 1 開会
- 2 議事
- (1)著作物等のアーカイブ化の促進について
- (2)平成26年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(案)
- (3)その他
- 3 閉会
配布資料一覧
- 資料1
- 著作物等の保存に関する主な論点(152KB)
- 資料2
- 平成26年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(案)(363KB)
- 参考資料1
- 著作物等のアーカイブ化の促進等に関する主な論点(案)(160KB)
- 参考資料2
- アーカイブに関する著作権法上の主な規定(88KB)
【土肥主査】 それでは,委員全員御出席でございますし,そろそろ定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第5回を開催いたします。本日は,お忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開についてですけれども,予定されておる議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
初めに,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【秋山著作権課課長補佐】 それでは,お手元の議事次第,下半分のところを御覧ください。まず資料としまして,資料1「著作物等の保存に関する主な論点」,資料2,本小委員会の審議の経過等について(案),それから参考資料を二点,議事次第に記載のとおり御用意しております。落丁等ございましたらお近くの事務局員までお知らせください。
【土肥主査】 ありがとうございました。
それでは,議事に入りますけれども,まず議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は(1)著作物等のアーカイブ化の促進について,(2)平成26年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について,(3)その他の以上三点となります。
初めに(1)に関連いたしまして,前回の小委員会において特に御意見の多かった著作物等の保存に関する論点について,事務局より資料の説明を頂きたいと存じます。
【田淵著作物流通推進室長】 それでは,お手元の資料1を御覧ください。著作物等の保存に関する主な論点といたしまして,前回の小委員会において示された意見の概要を示しております。まず,ローマ数字1の著作権法第31条第1項第2号の解釈についてでございます。参考資料2の条文も併せて御参照ください。
論点といたしまして,美術館や博物館等において所蔵される資料のうち,美術の著作物の原本のように代替性のない貴重な資料について,損傷等が始まる前の良好な状態で記録を継承するために当該資料を複製することは,法第31条第1項第2号の適用範囲内であるか否か。また,地方公共図書館等において絶版等の理由により一般に入手することが困難な貴重な図書館資料を損傷等が生じる前に複製することは,同号の適用範囲内であるか否かとしております。
まず,前回,適用範囲外であるという御意見といたしまして,美術の著作物等の原本を,引き続き公衆の利用に供することができる状態にあるにもかかわらず複製することは,第2号の定める場合に該当しないのではないか。それから,法第31条第2項がその適用主体を国立国会図書館に限定していることに鑑みると,同項の規定に代替するような形でこの第2号を広く解することは不自然であり,妥当ではないのではないかという御意見。それから,3つ目の御意見といたしまして,この2号の解釈が不明確であるならば,規定を新設し,要件,効果,主体を明確化する方が良いのではないかとしております。
続きまして,適用範囲内であるという御意見ですけれども,まず一つ目といたしまして,「保存のため必要がある場合」というのは多義的であり,現に損傷している資料の保存のみならず,今後劣化していく貴重な資料を良好な状態で記録し,保存しておく場合も含むものと解すべきであるという御意見がありました。また,2号の立法時に,稀覯(きこう)本のように代替性のない資料の保存のため,損傷を予防するための複製が例示されていたことから,同号は資料が良好な状態で予防的に複製をすることについても許容しているのではないかという御意見がありました。
次のページをおめくりいただきまして,法第31条第2項は,所蔵後直ちに,現に販売されている資料も含めてあらゆる所蔵資料の複製が認められる規定となっており,この点,第2号の適用が認められる資料が絶版等資料である等の限定をかけて解釈するのであれば,二つの規定の適用範囲に差が存在することになり,問題とならないのではないかという御意見がありました。
最後に,本来の趣旨に鑑みれば柔軟に解釈できる余地のある規定を,あえて狭く解釈をして立法措置によらなければ解決できないとすると,様々な問題が立法措置により解決せざるを得ないことになり,時代の動きについていけなくなるのではないかという御意見がありました。
次に,ローマ数字2の保存のための複製が認められる主体についてでございます。論点といたしましては,所蔵資料を保存のため複製することが権利制限により認められるべき主体は,どのような施設が望ましいかとしております。なお,著作権法施行令第1条の3第1項第4号により,独立行政法人国立美術館や県立美術館のように法令の規定によって設置された美術館や博物館は既に「図書館等」に含まれており,著作権法第31条の適用がございます。参考資料2の規定も併せて御参照ください。
この論点に関する御意見といたしましては,まず,著作物の保存と活用とでは認められる著作物の利用行為の範囲はそれぞれ異なるものであり,複製物が必要以上に拡散することがない適切な機関を複製主体として幅広く認めることがアーカイブの趣旨にかなうのではないかというものがございました。また,「図書館等」の範囲を拡充することは,法第31条第1項第2号だけではなく,同項の第1号及び第3号の主体を拡充することでもある点に留意が必要であるとの御意見もございました。さらに,「図書館等」の範囲を拡充することにより,仮に法第31条第1項第1号及び第3号の主体が拡張したとしても,関係者間の協議によって権利者に不利益が及ばない調整が可能ではないかという御意見がありました。
3ページ目の参考ですけれども,こちらは前回,全国美術館会議より,登録博物館,博物館相当施設,博物館類似施設など,幅広い施設が許諾なく複製を行えることが重要との御要望を頂きましたので,この三つの類型の施設の概要を御参考までにお示ししてございます。
登録博物館につきましては,博物館法の位置付けがございます施設でございまして,設置主体が限定されております。また,設置要件も法において定められておりまして,都道府県又は指定都市の教育委員会に登録が必要となっております。博物館相当施設につきましても,博物館法に位置付けのある施設でございます。設置主体に制限はございませんが,設置の要件はございまして,文部科学大臣や都道府県・指定都市の教育委員会が指定する施設となっております。博物館類似施設につきましては,法令上の規定は特にない施設となっております。
以上,簡単ではございますが,資料1の説明とさせていただきます。
【土肥主査】 ありがとうございました。
それでは,ただいま事務局から御説明をいただきました資料を参考にしつつ,著作物等の保存に関する論点,二つあったのだろうと思いますけれども,1ページ,2ページ,この2つの論点について御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。松田委員,どうぞ。
【松田委員】 まず,適用範囲のことでありますが,たしか2号を立法する段階のときに,稀覯(きこう)本のことは議論したと思います。この資料にも書かれています。これを,例えば美術の著作物に置き替えて考えますと,美術の著作物は厳密に言うと時々刻々と経年的な劣化をしているということになるのだろうと思います。この稀覯(きこう)本との関係から言うと,劣化をする著作物の属性から考えますと,美術の著作物についても同列に考えていいのではないかというのが一つの考え方であります。
では,特に美術の著作物について,時々刻々の劣化というのはどういうことかといいますと,文章の場合につきましては,たとえ本がぼろぼろになりまして,辛うじて活字が読める程度でありましても,著作物に変更はないんですね。これは何かというと,読者にとってみますと,それは文章を理解するという点において,活字が多少ぼけましても著作物としては同列になる,変化はないということです。ところが,悟性ではなくて感性に訴えるような著作物,これは恐らくは絵画と音楽の音源などがそうなるのだろうと思います。これが劣化されるということになりますと,感性で感受する著作物につきましては悟性の文章の著作物と違う視点を持っていてもいいのではないかという点が二点目であります。
したがいまして,私は,適用範囲につきましては,現段階の2号適用を美術の著作物には認めていいのではないかという意見を持っております。こう考えましても,主体性につきましては果たしてどこまで拡大したらいいかということはあるのですが,博物館類似施設というものは法的な枠組みがありませんので,これが独り歩きしてしまいますと複製を望む主体が私どもは博物館類似施設ですよというような言い方をされると,どんどん拡大してしまいます。ここに私はやっぱり歯止めが必要なのではないかというふうに思っているところです。
以上です。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに御意見ございますでしょうか。じゃあ,お願いします。
【大渕主査代理】 この件につきましては,前回かなり御意見を申し上げていますので,繰り返しはいたしませんが,若干だけ中心のところをやや別の形でもう一回申し上げますと,31条1項2号というのは図書館資料の保存のため必要がある場合ということで,これは多義的であると言いましたが,文化の法たる著作権法の趣旨目的に立ち返って読むと,保存のために必要というのは,文化の観点からして,日々劣化するものはできるだけ良い状態で後世に残すために保存するための必要性として理解すべきであり,これが,図書館,美術館等の使命にも合致するものと思います。また,31条をみますと,「複製しなければならない」となっているわけではなく,「複製することができる」ということであります。この条文がないと図書館等で経年劣化するものゆえ保存の必要があってもできないことになってしまうので,これは,保存のための権限の枠を与える,ないし,保存できることにするというだけであります。実際にこれを図書館等がやられるかどうかについては,いろいろな関係の方々と意見交換等をした上でその利益にも配慮した上で行うという別の縛りが実際上は掛かります。31条1項2号自体は枠の問題だけなので,これを肯定すれば,全部が全部コピーされるという話ではなく,逆にこれがないとどんなに保存上必要でもできないということとなってしまいます。前回も言いましたが,まずは保存することが重要で,活用はまた別であります。保存と活用は明確に区別した上で,まずは,きちんと保存しなければ何も始まらないということです。
保存するにはどの施設がいいのかという点については,また別の縛りを掛けるなどして,行き過ぎにならないようにするということは別途考える必要があるかと思いますが,それはそれとして,まず一番の出発点のところは,劣化するようなものはできるだけ早い段階できちんと保存することこそが,この2号で言う保存の趣旨に合致するという点は明確にしておく必要がある。その上で,協議をするなどの,種々の工夫があり,それでまかなえますが,まずは枠を与えないと,そもそも保存すること自体ができませんので,その点は十分に押さえておく必要があると思います。
【土肥主査】 主体についてはいいですか。
【大渕主査代理】 主体については,今,申し上げましたとおりで,ややイメージがまだ湧きにくいところがありますが,先ほどの意味の保存の趣旨にふさわしい主体に絞っていくということだと思います。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに御意見ございますでしょうか。山本委員,お願いします。
【山本委員】 前回,この点について発言しませんでしたので,皆さんの御意見と重なってしまうのですが,意見を述べさせていただきたいと思います。
【土肥主査】 もちろんお願いします。
【山本委員】 今,お二方から御意見がありましたとおり,私も全く一緒の考えです。美術資料というのは,特に原稿の著作物とは異なり,劣化するだけでなく,棄損してしまうおそれがあります。それによってどういう著作物が存在したのかということさえが分からなくなってしまいます。それを回避するために保存しておく必要性は非常に高くて,それに適用されるというのは当然の話だと思います。ということで,今のお二方の御意見に賛成です。
また,主体についてですが,例えば,私がちょっと本や資料などを集めて博物館類似施設だと名乗った場合にもその主体となることができるのかと考えると,博物館類似施設というのは際限がなくなると思います。その辺はきちんと管理監督がされるような機関を対象と,主体とすべきだろうと思います。ここで言いますと,登録博物館と博物館相当施設に限られるのではないかと考えます。
前回,私は保存のためにということから言うと主体は全然関係ないと申し上げたのですが,今ここで議論しておりますのは,31条の1項を適用する場合,つまり,2号だけではなく1号,3号も適用あるものとして考えた場合には,その範囲に限定があるべきだと考えます。
以上です。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかにございますか。今村委員,お願いします。
【今村委員】 私もほかの委員の見解とほぼ同じなのでございますけれども,まず,保存のため必要がある場合とは,かなり幅広い内容を持つ文言だと思います。前回の国際小委員会でWIPOにおいてこのアーカイブと図書館に関する権利制限の問題に関する報告書が出ているということで,ざっとではあるのですけれども確認したところ,やはり条約上のスタンダードというものが特にない上で,スリーステップテストというのが一種の限定というか縛りになっているものの,各国の規定はそれぞれ様々で,そこから余り示唆を得ることができなかったのですけれども,いろいろな規定や解釈の余地はあり得るということはいえまして,保存のための必要というようなシンプルな規定の中で運用している国も幾つかありました。幾つか要件を設けた上で厳格と見えるような形で適用している国もあったのですけれども,この規定なのですが,31条1項2号は,また31条1項それぞれ各号もそうなんですけれども,一般的に法律の名宛て人というのは国民ではあると思うのですが,これらの規定を実際に運用するのは現在の条文の下では一応限られた主体がこれを利用できるということになっているわけです。ですので,それが維持される前提であれば,この規定の中の運用で関係者がガイドラインなどを作って,適切な運用をしていくということも可能だと思うんですね。ですから,現在の規定のままで論点1の31条1項2号の解釈で認められる範囲まで広げたとしても,関係者の協議の中でガイドラインなどができて,適切に運用される可能性がある。それとの関係でやはり認められる主体に関してはある程度限定が必要と思います。そういうふうに考えておりますので,主体の点は先生方と同じようにある程度絞りが必要だと考えております。
【土肥主査】 ありがとうございます。
ほかにございませんか。末吉委員,どうぞ。
【末吉委員】 ありがとうございます。
私も結論は同旨なのですが,まず31条1項2号の解釈のところで,「保存のため必要がある場合」というのは,実はそんなに広い解釈ではないように思います。例えば加戸先生の教科書です。ただ,この小委員会で検討している論点は,「代替性のない貴重な資料」と,「絶版等の理由により一般に入手することが困難な貴重な図書館資料」であり,いずれも限定が付されているので,加戸先生の教科書に従っても,対象著作物については代替性がないのでこの2号を適用できると思います。つまり,本件論点につきましては稀覯(きこう)本の保存に準じて代替性がないと言えるので,2号の適用が許されると考えます。
それから,主体については,先生方の御議論のとおりでありまして,具体的には施行令の改正の中で利害関係者の調整の上,どこかに限定があった方がいいと思いますが,この場で議論するというよりも,施行令の改正のときに十分勘案しながら主体を限定しつつ広げていただきたいというふうに思います。
以上です。
【土肥主査】 ありがとうございます。
ほかにございますか。龍村委員,どうぞ。
【龍村委員】 皆様の御意見に賛成です。規定ぶり等から見ても,法令の一般的な解釈,例えば拡大解釈,類推解釈,そういった法解釈の基本的な手法からしましても,多分,31条1項2号は保存のためという程度の極めて抽象的,規範的な,いわば開かれた構成要件とでもいいましょうか,そういうような規定で,法律の趣旨に即してこれを拡大解釈するに適している,あるいはその余地がある条文の規定ぶりだと思いますが,主体については,むしろリジッドに規定され,施行令により絞り込んで具体的に規定されております。また,権利制限規定の限定的解釈という姿勢からしましても,この主体面については安易な類推解釈はなじまないというように考えられますので,同意見でございます。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかにございますか。大体,今まで頂戴した委員の御意見は同じ内容になっております。2号の解釈についてもほぼ同じ内容の解釈,御意見を頂戴しておりますし,それから,主体についても登録施設,それから相当施設についての御理解は得られたように思いますが,類似施設に関しては十分慎重にという御意見かと拝聴いたしました。よろしいですかね,この点は。
それでは,この点については経過報告の中で,本日の意見を織り込んでまとめていただければと思います。
それでは,次の点に行きたいと思いますが,次は議事(2)でございます。今申し上げました,平成26年度法制・基本問題小委員会の審議経過等についてなのですけれども,これについての御意見を併せて頂ければと思っております。本日は今期最後の法制・基本問題小委員会でございますので,著作権分科会においてこの審議の状況についての報告が必要になってくるわけでございますが,その審議経過報告をまず事務局において説明をお願いしたいと存じます。
【田淵著作物流通推進室長】 それでは,お手元の資料2を御参照ください。この小委員会では,「知的財産推進計画2014」等に示された検討課題を踏まえつつ,以下の3つの課題について検討を行ってまいりました。1つ目が盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(仮称)への対応等,二つ目が,著作物等のアーカイブ化の促進,三つ目が,教育の情報化の推進等でございます。各課題の審議の進捗状況についてでございますが,まず一つ目,マラケシュ条約への対応等につきまして,検討の経緯といたしましては,まず平成25年6月にこの条約が採択されたことを受けて,本条約の締結に向けて障害者団体及び権利者団体から意見を聴取し,制度整備の在り方について所要の検討を行いました。
検討の状況といたしましては,障害者団体からは,マラケシュ条約の締結に必要な手当のほか,視覚障害,聴覚障害等に係る多岐にわたる要望が寄せられた一方,権利者団体からは,マラケシュ条約の締結に必要な手当については前向きな反応があったものの,その他の要望事項については反対若しくは慎重な立場が示され,両者の意見にかなりの隔たりがあることが明らかとなりました。
障害者団体からは,マラケシュ条約の締結のために必要な最低限度の法改正だけを先行するのではなく,障害者の情報アクセスの充実の観点から,その他の要望事項についても併せて所要の措置を講じてほしいとの意向が示されたことから,主査より,まずは両者の意見集約に向けた取組を行った上で,改めて小委員会で検討を行うよう提案がなされました。
次に,著作物等のアーカイブ化の促進についてでございます。検討の経緯でございますが,第186回通常国会における著作権法上の一部を改正する法律案に対する参議院文教科学委員会による附帯決議には,ナショナルアーカイブが,図書をはじめとする我が国の貴重な文化関係資料を次世代に継承し,その活用を図る上で重要な役割を果たすものであることに鑑み,著作権制度上の課題等について取組を推進することと記載されております。
また,「知的財産計画2014」におきまして,孤児著作物を含む過去の膨大なコンテンツ資産の権利処理の円滑化等によりアーカイブの利活用を促進するため,諸外国の取組・動向等も参考としつつ,アーカイブ化の促進に向けて新たな制度の導入を含めて検討を行い,必要な措置を講じることとされております。
第2節の著作物等のアーカイブ化の取組状況についてでございますが,こちらには関係施設からのヒアリング内容をまとめております。3ページ目の上から2段落目以降でございますが,まず著作物等の保存に係る課題としましては,国立国会図書館から,国立国会図書館以外の図書館等において,国立国会図書館が所蔵していない資料のデジタル化を進めることが課題であるとの意見が示されました。国立美術館からは,所蔵資料の保存等のために写真撮影等により複製することについて許諾を個別に得ることは現実的ではないとの意見が示されました。
また,全国美術館会議より,博物館法に規定する登録博物館等をはじめとする幅広い美術館や博物館が,所蔵作品や資料の保存に当たり,著作権者の許諾を得ずとも複製が行えることが重要であるとの要望がございました。
東京国立近代美術館フィルムセンターからは,映画フィルムのように記録媒体や再生機器が技術の進展とともに変わっていくものについて,フォーマット変換を前提とする著作物の権利処理が課題であるとの御意見がありました。
次に,活用に係る課題でございますが,国立国会図書館より,裁定制度を用いてデジタル化した資料の二次利用を促進するため,裁定結果の第三者による活用を可能とすることが挙げられました。
また,国立国会図書館以外の図書館等がデジタル化した絶版等資料を国立国会図書館の実施している絶版等資料の図書館送信サービスにおいて他の図書館等に送信すること,また,このサービスの対象を海外の図書館等に広げること等も課題として挙げられました。
全国美術館会議からは,美術館がウエブサイト等において,所蔵作品情報の一部としてサムネイル画像を使用することについても権利制限の対象とすること,及び展示作品の解説・紹介を目的とした制作物をデジタル媒体においても掲載できるようにすることが要望されました。
第3節におきましては,諸外国における制度の状況についてまとめております。1,EU孤児著作物指令につきましては,主な特徴を3ページから4ページにかけて七つ挙げております。一つ目が孤児著作物の利用主体と目的が限定されていること,二つ目が客体となる孤児著作物の範囲が限定されていること,三つ目が利用前の「入念な調査」の要件が設けられていること,四つ目が加盟国間における権利者不明状態の相互承認を要求していること,五つ目が適法に利用できる行為態様を限定し,それを権利の制限又は例外として位置付けていること,六つ目が権利者不明状態を脱した場合に公正な補償金の支払を要求していること,七つ目が見直し条項を設けていることでございます。
次に,英国の状況でございますが,孤児著作物ライセンス・スキームにつきまして,2014年10月29日より新たな規則が施行されており,知的財産庁長官が孤児著作物等の利用についてライセンスを付与する制度が始まっております。
また,(2)ですが,EU孤児著作物指令の国内実施といたしまして,同じく2014年10月29日より,この指令をそのとおり実施するための規則が施行されております。孤児著作物ライセンス・スキームとの比較では,本規則は利用主体,利用態様,目的,対象となる著作物の範囲等が狭く,一方で,EU全域での利用を許容している点においては広いものと考えられているとしております。
また,三つ目といたしまして,拡大集中許諾スキームにつきましても2014年10月1日より規則が施行されております。
次,6ページをおめくりいただきまして,(4)アーカイブに関する著作権の例外規定につきましても,保存又は交換を目的とした著作物の代替複製物の作成について,主体については従来,図書館又はアーカイブの司書,又は記録保管人とされていましたが,これに博物館とその学芸員が加わりました。また,対象となる著作物については,美術の著作物やレコード,映画が含まれることとなりました。
次にフランスにおける状況でございますが,フランスにおきましても同じくEU孤児著作物指令の国内実施のための法律が成立しており,この指令をおおむねそのまま国内法化する内容となっております。
また,著作権の例外といたしましても,(2)でございますが,公共図書館,博物館,公文書館による保存目的での著作物の複製及び現場での著作物の閲覧目的での複製について,著作権の例外が定められております。
3の書籍電子利用法でございますが,これは著作権保護期間が満了していない書籍のうち,商業的に利用されておらず,図書館以外において公衆がアクセスすることが難しい状態となっているものの電子化と配信を促進するために制定されました。フランス国立図書館が入手不可能な20世紀の書籍のデータベースを整備し,このデータベースに登録された書籍については,認可された集中管理団体が利用者に対し,複製と配信に関する利用許諾及び利用料の徴収を行い,著作権者や出版者に分配する制度となっております。
7ページの2段落目でございますが,集中管理団体は,データベースに登録された書籍について,その印刷形式による複製権を有する出版者に対してまず利用許諾を提案し,出版者がそれを承諾すれば10年間の独占的利用許諾を与えることができる。出版者が提案を拒否した場合には,第三者に対する5年間の非独占的許諾が可能となり,徴収された利用料は出版者と著作者に分配されるという仕組みになっております。また,最初の利用許諾から10年の間に印刷形式における複製権を有する者が見つからない書籍については,その書籍を所蔵する図書館に対してデジタル形式で複製し,その登録者に頒布を行うことを無償で許諾することとされております。
次に,ドイツにおける状況でございますが,ドイツにおきましても同じくEU孤児著作物指令の国内実施のための著作権法改正が行われております。(2)の絶版著作物の利用についてでございますが,絶版の著作物について一定の要件を満たす場合に,著作権管理団体に入っていない著作者の著作物についても,著作権管理団体が第三者に複製と送信可能化を許諾する権限を有すると推定する制度が導入されました。要件につきましては7ページ目から8ページ目にかけてのマル1からマル5に挙げております。
北欧諸国につきまして,北欧諸国におきましてもEU孤児著作物指令の国内実施のための法改正が既にデンマーク,スウェーデン,フィンランドで終えられていることが確認できております。また,拡大集中許諾制度ですけれども,著作権法の規定に基づき,著作物の利用者又は利用者団体と相当数の著作権者を代表する集中管理団体との間で自主的に行われた交渉を通じて締結された著作物利用許諾契約の効果を,当該集中管理団体の構成員ではない著作権者にまで拡張して及ぼすことを認める制度でございますけれども,こちらはデンマーク,フィンランド,ノルウェー,スウェーデンにおいて採用されております。
次に9ページに入りまして,著作権制度上の課題に係る検討の状況でございます。著作物等の保存と活用という二つの観点に分けて検討を行いました。まず,保存に関する論点でございます。(1)のアーカイブ機関において所蔵資料を保存のため複製することについて,第31条第1項第2号は,例えば所蔵する貴重な稀覯(きこう)本を保存のため複製する場合についても適用されると解されており,美術の著作物の原本のような代替性のない貴重な図書館資料や絶版等の理由により一般に入手することが困難な貴重な図書館資料については,損傷等が始まる前の良好な状態で複製することも,同号の保存のため必要がある場合に該当すると解されるのではないかとの論点が示されたとしております。
以下,前回出た御意見等掲げておりますけれども,網かけ部分の「第5回小委員会の議論を踏まえて追記予定」という部分に,本日の御議論も踏まえて改めて記述いたしたいと思います。
その他ですけれども,小委員会では,記録技術,媒体の旧式化により事実上,閲覧が不可能となる場合,新しい媒体への移替えのために複製を行うことが同号の規定により認められるかどうかという論点が示されましたが,このような複製が同号により許容されることについては異論は見られなかったとしております。
次に,保存のための複製が認められる主体の範囲についてでございます。10ページの前半部分に記載しておりますが,こちらにつきましても本日の議論も踏まえて追記をいたしたいと思います。
次に,2の活用に関する著作権法上の論点でございます。(1)のマル1が国立国会図書館による送信サービスの拡充についてでございます。アーカイブのために保存した著作物等の活用に当たっては,国立国会図書館にアーカイブの機能を集中させ,国立国会図書館が中心となってその活用を積極的に行えるような制度が望ましいという制度が示されました。国立国会図書館からの要望のうち,国立国会図書館以外の図書館等がデジタル化した絶版等資料,国立国会図書館の行う図書館送信サービスにより他の図書館等に送信することについては,現行法上可能であると考えられるとしております。すなわち,絶版等資料については法第31条第1項第3号により,公共図書館等が国立国会図書館の求めに応じ,図書館資料の複製物を提供することが可能であります。また,国立国会図書館は同条第2項の規定により提供された複製物を同条第3項に規定される図書館送信サービスのために専用サーバーに複製することが可能であり,その後,同項の規定により他の図書館等に自動公衆送信を行うことができると考えられるとしております。
また,外国の図書館等を送信先に含めることにつきましても,国立国会図書館の役割や業務の位置付け等を踏まえ,検討を行うことが適当としております。その際,関係者の意見を十分に聴取し,利害調整がなされるべきであるとの意見が示されたということも記載しております。
次にマル2の美術の著作物等の解説,紹介のための利用についてでございますが,全国美術館会議からの要望といたしまして,まず,美術の著作物又は写真の著作物を所蔵する施設が,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介を目的として小冊子に掲載することを認めている法第47条の規定の適用を,小冊子のみならず館内の電子端末にも拡大することについては賛成する意見が多数示されました。一方で,オーディオガイドのように有償サービスにおいて当該複製物を利用する場合には,営利目的で行われることから,法第38条第1項が非営利かつ無料の場合にのみ適用されることとの対比で,そのようなサービスを権利制限の対象とすることについての疑問が呈されたとしております。他方,法第47条の規定の適用対象を小冊子から電子端末に拡大することにとどまる限りは著作権者の利益が害される可能性は低いのではないかと見解が示されたということも記載しております。
第二に,アーカイブのために保存されている美術の著作物等の紹介等を目的として当該著作物のサムネイルをインターネット上で公衆に提供することについては,サムネイルは著作物の表現を享受するためのものではなく,当該著作物に誘導するためのいわば道しるべとなるものであり,著作権者の利益を害するものではなく,むしろ文化の発展に資するものであるとして賛成意見が示されました。
以上を踏まえると,美術の著作物,又は写真の著作物を所蔵する施設が観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介を目的としてデジタルデータを館内の端末を用いて観覧者の閲覧に供すること及び,アーカイブ機関において美術の著作物等の紹介を目的として当該著作物のサムネイルをインターネット送信することについては,権利者の利益に留意しつつ,これらの行為が可能となるよう,所要の措置を講ずることについて検討することが適当としております。
次に,(2)の権利者不明著作物等の活用についてでございます。EUにおいて導入されている孤児著作物指令を参考としつつ,我が国の文化庁長官による裁定制度をどのように見直すかという観点から検討が行われました。裁定制度とEU孤児著作物を比較した表が12ページから13ページにかけて掲載されております。この二つの制度を比較した場合,利用主体,目的,対象著作物,利用方法については,裁定制度の方がより適用範囲の広い制度となっております。マル1の権利者捜索の内容についてでございますが,これにつきましては,両者を比較すると大きな差は見られないと考えられるとしております。マル2の権利者不明著作物等を利用した場合における権利者への補償金の支払時期でございますが,裁定制度は事前に補償金を供託することを求めていますが,EU指令においては加盟国に裁量があり,権利者が現れた場合に補償金を支払うことが可能となっております。我が国においても権利者が現れたときに補償金の支払を確実に行うことができる公的機関については事前の供託ではなく,権利者が現れた場合の支払を認める制度を検討することが適当であるとしております。
次に,14ページをおめくりいただきましてマル3の第三者による権利者不明著作物等の利用についてでございますが,裁定制度におきましては,一度裁定を受けた著作物であっても裁定を受けた利用方法以外の方法で別途利用する場合には,改めて権利者捜索を行った上で裁定を受ける必要がありますが,EU指令ではOHIMのデータベースを検索して,利用する著作物等が孤児著作物として登録されていれば利用が可能となっております。我が国についても,一度,権利者不明著作物等として裁定を受けた著作物で,権利者不明状態が継続しているものについては,過去の調査結果の援用,あるいは調査要件の緩和を認めることが適当であるとしております。また,その際,これまで裁定を受けた著作物の情報を検索可能な形でインターネット上に公開することが望ましい等の指摘があったとしております。
マル4の裁定手続と登録手続の違いでございますが,両者を比較したところ,裁定手続であることによる実質的な負担に大きな差はないと考えられるとしております。
(3)に移りまして,著作物等の流通推進のための権利処理の円滑化についてでございますが,アーカイブ化の促進や,権利者不明著作物に限定しない,著作物等の利用におけるより大きな論点として,著作物等の流通を推進するためにどのような権利処理の円滑化の処置を講ずることが必要であるかについて議論されました。この点につきましては,著作物等の権利情報の集約化が重要であるとの指摘がなされました。今後,著作物等の利用の円滑化を図る上で,著作物等について権利処理を行う場合の前提として必要となる権利情報を集約したデータベースや権利処理のプラットフォームとなるポータルサイト等の構築を検討することが求められるとしております。
また,拡大集中許諾制度につきましては,権利者不明著作物も含め,大量の著作物等の権利処理を行う上で,利用者にとって窓口の一元化や権利者捜索費用,取引費用の低減といった観点から利便性の高い制度となり得るものであるが,権利の集中管理の進展状況を踏まえつつ検討することが必要であるとの意見があったとしております。一方で,本制度を導入することにより集中管理が進展するのではないかとの意見もあったところであり,我が国における実現可能性について,中長期的な視点から検討を進めることが適当であるとしております。
第3章,教育の情報化の推進等につきましてですが,検討の経緯といたしましては,情報通信技術を活用した様々な教育活動が行われるようになってきており,著作権制度上の課題についても整理・検討を行うことが求められております。この小委員会においては,教育現場における具体的なニーズを把握した上で検討すべきとの意見が示されたことを受けまして,現在,文化庁の委託調査研究において調査が行われているところでございます。
最後の「おわりに」でございますが,今期の小委員会の検討課題である三つの課題について,それぞれまとめております。まず一つ目のマラケシュ条約への対応等については,小委員会において示された要望事項について障害者団体及び権利者団体の意見を踏まえ,引き続き検討することが必要であるとしております。
次に,二つ目の著作物等のアーカイブ化の促進については,小委員会において示された各課題のうち制度的な解決の方向性が示されたものについて,今後,関係団体等の意見も踏まえつつ,具体的措置の在り方について検討を行い,可能なものから順次必要な措置を講ずることが適当であるとしております。
三つ目の教育の情報化の推進等に係る課題については,今後,文化庁で行っております調査研究等を踏まえ,検討を行うことが求められているところであるとしております。
最後に,このため,本報告は最終的な報告書とせず,審議経過報告として審議の進捗状況等について整理したものであると締めくくっております。
以上,長くなりましたが,私からの説明とさせていただきます。
【土肥主査】 どうもありがとうございました。
お聞きのように,前回から一月の間にこのように丁寧にまとめていただきました。審議経過報告,大変だったと思いますけれども,御苦労さまでございました。
皆さん,今,御覧になって,あるいはお聞きになったところで何かこの審議経過報告に関して御意見ございますでしょうか。どうぞ,道垣内委員。
【道垣内委員】 内容についてではないのですけれども,アーカイブ化に関する諸外国の施策の部分において,一番分かりやすいのはドイツの書き方だと思います。これらの国は全てEU指令を実施しているわけですね。ドイツについては,そのことをちゃんと書いた上で,それとは違う点は何かということをちゃんと書いています。他方,一番分かりにくいのはイギリスで,年代もばらばらですし,EU指令の話は2番目に出てきます。ほかの国は全部最初にEU指令の話が出てきますから,ちょっと形式を整えていただくとより読みやすいんじゃないかなと思います。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに御意見ございますでしょうか。山本委員,どうぞ。
【山本委員】 14ページの一番下から2行目のところ,拡大集中許諾制度のところの議論ですが,権利の集中管理の進展状況を踏まえつつ検討することが必要であるとの意見があったと書いてあります。一方で本制度を導入することにより集中管理が進展するのではないかとの意見もあったところと書いてあります。ここの後段の方は私の意見です。前段は事務局が準備された書面の中に,拡大集中許諾制度を導入するだけの進展状況には至っていませんという御意見が書かれていたように思います。しかし,これ,事務局の準備された書類には書いてあったのですが,委員からの御意見ではなかったのではないかなと思います。もし委員の中にそういう御意見の方がいらっしゃるのであれば,これで結構なのかもしれませんが,私の記憶では事務局の御意見だけで,このようにまとめるのは少し違うのではないかなと思います。
【土肥主査】 事務局から今の点について。意見があったんじゃないかということなのですけれども,確かにこの点はいろいろなところで意見を頂いておりますので,法制小委であったかどうか分かりますか。
【田淵著作物流通推進室長】 議事録によりますと,末吉先生から,事務局ペーパーを踏まえて,拡大集中許諾制度については権利の集中管理の進展がセットとなるので,これは推移を見ながらということになるのではないかという御発言は頂いております。
【土肥主査】 山本委員,今,お聞きのとおりなんですけれども,この書きぶりでよろしいですか。
【山本委員】 はい,結構です。
【土肥主査】 ありがとうございます。
ほかに御意見ございますか。じゃあ上野委員,お願いします。
【上野委員】 今期この小委は,保護利用小委に比べますと開催回数もかなり少なく,議論の時間も短かったように思いますが,にもかかわらず,それを豊かにして,うまくこの文書を作りあげてくださったのではないかと思っております。
内容については特に異存ございませんけれども,記述につきまして若干気になる箇所があるとすれば,11ページ目の②です。ここでは二つの行為,すなわち,47条における「小冊子」を電子端末に拡大する行為と,美術の著作物等のサムネイルをインターネットに掲載する行為について,これらが可能となるような措置を検討するのが適当だとされているわけですけれども,もしこれを47条の改正ないしその延長で考えるとしますと,この47条というのは,主体に関して言うと,先ほど31条で問題になったような図書館等でなくてもよく,また博物館でなくてもよいわけなのですけれども,その代わり,「原作品」により展示する者と規定されております。したがいまして,もし現状の47条の改正やその延長で考えるとすれば,飽くまで「原作品」を展示する者にしか適用されないことになる可能性が高いのではないかと思います。
しかしながら,11ページにおいては,その冒頭で,「法第47条の規定」が「美術の著作物又は写真の著作物を所蔵する施設が,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介を目的として小冊子に掲載することを認めている」とか,今後対応を検討する主体についても「美術の著作物又は写真の著作物を所蔵する施設」と書かれており,そこではいずれも「原作品」という点に言及がありませんので,このままの記述でいいのか気にならなくもありません。
ただ,特に二点目のサムネイルをインターネットに掲載する行為に関して,今後,法改正を検討する際には,何らかのアーカイブが「原作品」を展示するという場合だけにあらかじめ限定して検討するのではなく,「複製物」を展示するというような場合,例えば,古い漫画を多数所蔵しているアーカイブが,その所蔵作品の紹介のために,当該漫画の表紙画像をサムネイルでインターネットに掲載する場合ですとか,そういった行為も可能となるような措置が検討されていいのではないかと思います。
そういう意味では,ここでの記述が「原作品」に限定していないのは,むしろその方がよいのかもしれませんけれども,現状の47条は飽くまで「原作品」に限定された規定ですので,その点について誤解を招くことがないようにした方がいいのかなと感じた次第です。
以上です。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに御意見ございますか。末吉委員。
【末吉委員】 先ほどの14ページの点ですが,私は,そんなことを発言したかもしれませんけれども,山本先生の御指摘もなかなか鋭いと思っていますので,決して集中管理の進展を目指すために本制度を導入するということに反対する趣旨ではございません。その点が1つと,この報告書の問題ではないのですが,14ページの(3)のところですが,結局,著作物等の流通推進につながっていかないと,この小委員会の目的でもあるコンテンツ等の流通推進につながっていかない。だから,アーカイブを目指すということは,実はそこが最終目標なのではなくて,アーカイブ等を通じて権利情報のデータベース等を整備し,結局,最終目標としては著作物等の許諾のシステムが整備されて,流通が促進していく,こういうところが見通せるということが,一番,この小委員会の目標なのではないかというふうに思っております。これは意見でございます。
以上でございます。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに。じゃあ順番に,前田委員から,次に茶園委員というふうにさせてください。
【前田(哲)委員】 14ページの拡大集中許諾のところですが,私自身としては,これは直ちに導入することは難しく,ここに書いていただいているように,中長期的な視点からの検討が必要であると思います。拡大集中許諾制度について思う疑問点としては,そもそも権利者から委託を受けていない管理事業者が,なぜ許諾を出すことができるのかという根本的な疑問があって,不在者財産管理人みたいな立場で許諾をするのか,あるいはその他のいかなる根拠に基づいて許諾をすることが可能になるのかという疑問がございますので,この制度の導入については,ここに書いていただいているように中長期的な視点からの検討が必要であると思います。
【土肥主査】 ありがとうございました。
じゃあ,続けてお願いします。
【茶園委員】 14ページのことではないのですが,よろしいですか。
【土肥主査】 いいです。はい。
【茶園委員】 11ページの,先ほど上野先生がおっしゃった点の次のところについてなのですけれども,その前に,上野委員がおっしゃったように,11ページのマル2のところの1段目のところは,ここでの議論はアーカイブという観点から議論がされていますが,むしろ展示をする者が47条で小冊子に掲載することができるのを,更に電子端末での上映に拡大することができるかということで,展示をする者という観点からの議論であり,アーカイブという観点からの議論とは少々ずれているように思います。
私が申し上げたい,その次の美術の著作物等の紹介等を目的としてというところも,実は同様と思いますが,その点はともかく,この箇所に記載されている賛成意見の趣旨がやや不分明であると思います。この段落をざっと読むと,単にサムネイルは著作物の表現を享受するためのものではなく,著作権法上問題がないという意見であるとの読み方ができるように思います。この賛成意見を述べられた方がそのような意見を持っておられるのかもしれませんが,そうだとすると,例えば47条の2との関係も考慮する必要が生じるように思います。私は,サムネイルをインターネット上で公衆に提供することは認めるべきだと思いますけれども,その理由は,サムネイルであるということだけでは足りず,アーカイブを行っている美術館等がまさにアーカイブ機能を発揮するために自らが所蔵しているものを世の中に知らせるものであるという点に求められると考えています。私自身はそういう意見を持っているのですが,ここの文章がサムネイルそのものに何ら問題がないという読み方がされる可能性であり,このままでよいのかについて御確認いただきたいと思います。
以上です。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに御意見。お願いします,龍村委員。
【龍村委員】 14ページの先ほどの拡大集中許諾制度の点ですが,私も拡大集中許諾制度の導入というのはそう簡単なものではないということだと思います。それと,そもそも,拡大集中許諾制度それ自体が現行の裁定制度そのものを切り崩すような関係にあるといいましょうか,食い合いになるような関係にもなる。すなわち,裁定制度の見直しを通らずして,拡大集中許諾制度に踏み込むことはできないのではないかと思います。いわば文化庁長官から権限委譲を受けるという立場で強制許諾をするということなのか,その理論的根拠を含めて,制度設計はかなり検討を要する大きな問題だろうと思います。
したがって,厳密に言えば,集中管理の進捗状況を踏まえつつ検討する,に加えて,裁定制度の見直しの観点も視野に入れながらとか,それとの関係性に言及することも必要なのではないかという印象を受けました。
【土肥主査】 ありがとうございました。
ほかに。山本委員,どうぞ。
【山本委員】 重ねて申し訳ありません。14ページのところの拡大集中許諾制度なのですが,これは前田委員,あるいは龍村委員の方から御指摘があったように,中長期的な問題であるというのは確かだと思いますし,私もそう思います。かつ,私はこれをやっていいのかなとかなり疑問も持っております。ですので,かなり時間を掛けて議論しないといけない。単純に賛成して,乗っていい問題だとは決して思っていません。しかし,問題は,中長期的な課題を今から議論するのか,あるいは集中管理の状況が進展してから中長期的な課題を検討するのかであると思っています。進展してから中長期的な問題を検討するのではなく,今から中長期的な問題として議論した方がよろしいのではないですかということを前回のときに申し上げました。
そういう意味で,今から検討するのか検討しないのかという点に関わる問題ですので,進展してから検討した方がいいというふうに皆さんお考えなのか,そうではないのか,その辺を御議論いただく,あるいは御意見を頂ければと思います。
【土肥主査】 確かにその点は,どっちが先かっていう話でもあるわけで,両論,この小委の中においても御意見があるのだろうと思います。それを,確かに山本委員,継続的に議論してほしいということなのだろうと思いますけれども,最後の法制小委でそういう重要な話を直ちに展開することが適当なのかどうかと私は思っているんですね。現在の書きぶりについては,これは両方取れるわけですよね。山本委員がおっしゃるように,本制度,つまり拡大集中許諾制度というものの議論を始めておいて,そして実態として権利の集中管理団体が追い掛けてくるということもありましょうし,そういう方法論も当然,この中にあろうと思いますけれども,逆に,やはりまず拡大集中許諾制度の前に集中管理団体の充実というものがある程度進展してこないと,余り実のある議論はできないんじゃないかという立場もあるのだろうと思います。ですから,ここは両方書かれているいい文章ではないかと私は思うんですけれども。
【山本委員】 両方あるんでしょうか,本当に。前田委員も龍村委員もその点についてはおっしゃらなかったように思いますので,その前提をお聞きしたいと思います。
【土肥主査】 恐らく私は両方あるのだろうと承知しておりますけれども,いかがでしょうか。前田委員,どうぞ。
【前田(哲)委員】 私は,拡大集中許諾制度は非常に難しくて,もしこれを導入するとすればクリアしなければいけない問題がいろいろあるのだと思いますが,山本委員の御発言をお聞きして,この検討自体を先延ばしする必要はなく,引き続き検討の対象にしていいのではないかと思います。
【土肥主査】 今,前田委員の御意見を頂戴しましたけれども,ほかにございますか。この点。
【龍村委員】 私が受ける印象としましては,集中管理制度自体がもっと成熟しないと,その基盤ができないといいましょうか,そちらの方ではないかという印象を受けております。現状,なお集中管理団体制度に関する規律が未成熟であり,コレクティング・ソサイエティー・ローの分野の法制度を今後もっと詰めていかないとならない,ある程度その辺の見極めが付いたときにようやく俎上(そじょう)に上がってくる。そんな感じで進展していくことなのかなというふうな印象を受けます。
【土肥主査】 ありがとうございました。
じゃあ,道垣内委員,お願いします。
【道垣内委員】 現行の裁定制度が非常にうまく動いているのであれば,それでもいいのですけれども,私はもう制度的には限界じゃないかと思いますので,早急な議論が必要だと思います。
【土肥主査】 早急な議論をしないとは言っていないんですけれども。
松田委員,どうぞ,お願いします。
【松田委員】 拡大集中許諾制度は,確かに現行の裁定制度との関係があります。それから,集中管理との関係が生じることも間違いありませんし,集中管理が高度化していけば,この拡大集中許諾制度の需要はもっと声が大きくなるかもしれませんし,現行裁定制度では追い付かないということになるかもしれません。そういう意味で,集中管理制度との関係はあります。ありますが,少なくとも北欧における拡大集中許諾制度は,集中管理との関係で必ずしも同列に論じるものじゃなくて,単発的な個別的な利用についても機関が許諾ができるというところにありまして,そういう点では裁定制度にかなり近いところの代替性を持った制度だというふうに考えます。したがいまして,集中管理が高度化していく前からでも議論はするべきだろうというふうには思っております。
【土肥主査】 ありがとうございました。
先のEU指令に基づいて,フランス,ドイツ,イギリス等々やっておりますけれども,拡大集中許諾制度での対象になる著作物は,年度を限ったり,あるいは絶版著作物に限ったり,工夫してやっていますよね。つまり,必ずしも同心円で重なっているわけではないと思いますので,もちろん検討をすぐすべきであるかどうかという,その1点なんですけれども,この小委の中ですぐにやるというふうに言い切れるかどうかというのは,この審議経過報告の中の教育情報化の推進等の問題なんかも次に待っていることがはっきりしているわけです。ですから,どのタイミングでやることになるかは,継続的にという御意見があることも踏まえながら,今のような御要望を文章の中ににじませていければと思っております。その辺り,どういうふうにまとめるかについてはお任せいただくしかないんじゃないかと思いますが,いかがですか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】 じゃあ,そのように進めさせていただきますけれども,ほかにいかがでしょうか。
今の14ページから15ページにかけての部分については,本日の委員の御意見を踏まえながら少し考えさせていただきたいと思います。取扱いについては恐縮ですけれども委員長に御一任いただければと思います。
それから,道垣内委員に頂戴したEU指令との関係について分かりやすく書くということについては,これもちょっと勉強させてください。
それから,47条の問題について御意見を頂戴したわけですけれども,11ページですが,確かにこの文章,「アーカイブのために保存されている」というのが結構定型的に使われていて,リフレインされているところがありますので,そういうところも含めて少し考えてみたいとは思いますけれども,どのようにまとめて親委員会,分科会に報告するかにつきましては,基本的に本小委の中で頂いた御意見をできるだけ正確に捉えて,そういう形でこの審議経過報告に反映できればと思っておりますので,本日の御意見,上野委員,茶園委員の御意見は,これもまとめについては委員長に御一任いただければと思います。よろしいですか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】 ほかにございますか。
なければ,本日のこの(2)の審議の経過等についての報告案については以上とさせていただきたいと思います。
先ほど少し申し上げましたけれども,近々,著作権分科会が開催される予定のように伺っております。この中で,この小委の審議経過報告という形での報告が必要になってまいりますので,本日頂いた意見も踏まえた上で,この審議経過報告案に反映させていただいて,恐縮ですが私から分科会においては報告させていただきたいと思いますが,いかがですか。よろしいですか,それで。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】 それでは,そのようにさせていただきたいと存じます。
その他,御質問等,特段ございませんでしょうか。本日は最後になりますので,何かありましたら是非お願いいたします。
よろしゅうございますか。
それでは,今期最後の小委員会ということでございますので,有松文化庁次長もおいでいただいておりますので一言御挨拶いただければと存じます。よろしくお願いいたします。
【有松文化庁次長】 それでは,今期の法制・基本問題小委員会を終えるに当たりまして一言御礼(おんれい)を申し上げたいと存じます。
遅れて参りまして,最後だけ挨拶することになり大変申し訳ございません。今期のこの小委員会におきましては,マラケシュ条約への対応ですとか,著作物等のアーカイブ化の促進に係る課題といったような,著作権制度における重要な課題について御審議をいただきました。マラケシュ条約への対応に係る課題につきましては,障害者団体,権利者団体からの御意見を踏まえまして御議論いただきましたけれども,この課題につきましては,まずは両者の意見の集約に向けた取組を行った上で,改めて小委員会で検討を行うという御提案を頂きましたので,文化庁といたしましても,意見の集約に向けて引き続き必要な支援を行ってまいりたいと思っております。
また,アーカイブ化の促進に係る課題につきましても,関係機関からの御意見を踏まえて御議論をいただきました。皆様方の御議論を踏まえまして,今後,関係団体等の御意見も伺い,文化庁において具体的な措置を検討させていただき,可能なものから順次取り組んでまいりたいと思っております。
最後にまた改めまして,委員の皆様方におかれましてはお忙しい中,御出席を賜りまして,御協力いただきましたこと,ありがとうございます。
どうもありがとうございました。
【土肥主査】 ありがとうございます。
その他,事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。
【秋山著作権課課長補佐】 本小委員会は今期で最後ですので,次回会議の御連絡はございませんが,先ほど,主査から言及がございましたように,本小委員会の審議経過を3月12日の著作権分科会において御報告いただきたいと思っております。
1年間,審議に御協力いただきましてありがとうございました。
【土肥主査】 ありがとうございました。
それでは,以上をもちまして,今期の法制・基本問題小委員会を終わらせていただきます。短い期間に集中的な審議,議論に御協力いただきまして,委員の皆様,及び事務局に感謝申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
―― 了 ――

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