文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第4回)

日時:平成27年8月31日(月)
10:00~12:00
場所:中央合同庁舎7号館(金融庁) 共用第2特別会議室

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)教育の情報化の推進について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
第4回法制・基本問題小委員会における教育の情報化の推進に関する論点(案)(135KB)
資料2
教育の情報化の推進に関するこれまでの議論等について(384KB)
参考資料1
ICT活用教育における著作物の利用事例(教育関係者提供資料)(105KB)
参考資料2
教育機関において違法に利用されていると考えられる事例(権利者団体提供資料)(89.5KB)
参考資料3
第15期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(62KB)
 
出席者名簿(44.2KB)

議事内容

【土肥主査】会場が変わりまして,まだお見えになっていない委員の方もおいでになるわけでございますけれども,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第4回を開催したいと存じます。本日はお忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されています議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございますが,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 最初に,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】それでは,お手元の議事次第の真ん中あたりを御覧ください。
配布資料としまして,まず資料1として「第4回法制・基本問題小委員会における教育の情報化の推進に関する論点(案)」を御用意しております。また,資料2としまして,「教育の情報化の推進に関するこれらの議論等について」と題する資料。それから,参考資料を3点,それぞれ記載のものを御用意してございます。足りないものなどあるようであれば,事務局までお伝えください。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)教育の情報化の推進について,(2)その他となっております。
 早速議事に入りたいと思いますけれども,教育の情報化の推進につきましては,第2回,第3回の本小委員会において,教育関係者,権利者団体の皆様から御発表いただいたところでございます。本日,教育関係者,権利者団体の皆様から頂きました御意見について,事務局において論点ごとに概要をまとめていただいたということでございます。これらを踏まえて,御議論いただければと思っております。
 それでは,本件に関する論点と,これまでの意見の概要につきまして,事務局から御説明いただければと思っております。

【秋山著作権課長補佐】それでは,御説明いたします。お手元の資料1と2,それから,参考資料1,2,さらに,委員の先生方の机上には,特に資料番号は振っておりませんけれども,机上配布資料として2部御用意しております。事例1と「おくのほそ道」と書いたものと,「事例1:教師がPDFを学生に配布するケース」というものがトップにきておる資料でございます。最後に申し上げた資料の位置付けにつきましては,これは参考資料1と参考資料2をそれぞれ補足するための,イメージを持っていただくための資料でございまして,今回,先生方のみの配布としております。若干,機微な情報も含まれますので,非公開という形で取扱いさせていただくことを御承知おきいただくとともに,この議論においては参考資料1と2を前提に御議論いただければと存じます。よろしくお願いいたします。
 それでは,まず資料1をお願いいたします。資料1は今回の小委員会における教育の情報化の推進に関する論点(案)と題した資料を作成させていただきました。この論点そのものに不足等あれば,また御意見を頂きたいと存じます。事務局としましては,以下のように整理させていただきました。
 まず,第1としまして,「ICT活用教育を推進することの意義について」でございます。この政策課題の政策目的について確認をお願いするものであります。
 それから,2ポツ,「教育関係者から要望のあった各事項について」では,具体的な政策課題の特定や解決策についての御議論をお願いすることとしております。
 (1)としましては,授業の過程における著作物の送信について,であります。その具体的なものとしましては,まず,(ア)としまして,「教育機関における著作物の利用実態と課題について」。(イ)としまして,「著作物利用の円滑化を図るために検討することが考えられる事項」についてでございます。
 この(イ)の具体的な例としましては,3点に分けて整理をいたしました。第1が,権利制限規定による対応の必要性・正当性。第2に,仮に権利制限規定により対応する場合の関係する論点。第3に,その他。これは,契約による利用円滑化という論点を整理させていただきました。
 これに基づきまして,資料2でこれまでの議論等について整理をさせていただきましたので,まず,こちらを御説明したいと思います。
 資料2の第1ページでございます。ICT活用教育を推進することの意義について,論点としては,「その意義や著作物の利用円滑化の必要性について,どう考えるか」と記述させていただいております。これに関して,事務局として事実関係等を整理したものが,最初のまとまりでございます。「教育政策に係る政府計画や報告等において,以下のような趣旨が明記されている」とさせていただいております。
 まず,我が国では,グローバル化や情報化など変化の激しい社会において,新しい価値の創造や他者との協働ができる人材が求められており,主体的・能動的な力の育成が求められていると,教育振興基本計画で述べられておるところでございます。
 また,そのために,ICT活用によって個々の能力や特性に応じた学びを通じた基礎的な知識・技能の確実な修得や,協働学習や課題探求型の学習など,新たな形態の学習の推進が求められると,同計画において述べられているところでございます。
 また,文科省のICT活用に関する懇談会の報告書の中間まとめでは,ICT活用の意義としまして,課題解決に向けた主体的・協働的・探究的な学びの実現。個々の能力,特性に応じた学びの実現,それから,地理的環境に左右されない教育の質の確保が述べられております。
 さらに,教材の共有に関しても言及があるところでございまして,教材の質の向上,量の拡大を効果的に進めるという観点で,この教材の共有の重要性が述べられております。
 さらに,MOOCの戦略的な活用ということで,アクティブラーニングの推進,多様な教育の提供や学習環境の向上に資することが期待されておるということが述べられてございます。
 こうしたICT活用教育の意義につきましては,ヒアリングにおきましても教育関係者からも同趣旨の意見が出されました。また,権利者団体からもICT活用教育の意義や重要性は理解しており,著作物の利用円滑化に協力したいという御意見が出されたところでございます。
 この下に,各小委員会における意見を紹介しておりますけれども,ポイントとしては,文科省からは具体的な効果に関する調査結果の報告がございましたし,教育関係者からは具体的な事例の御説明があったところでございます。個別に読み上げることはせず,省略させていただきます。
 続いて3ページをお願いいたします。次に教育関係者から要望のあった各事項についての政策課題の整理でございます。
 第1に授業の過程における著作物の送信に関するものでございます。
 まず,(ア)としまして,「教育機関における著作物の利用実態と課題」ということで,以下の論点を設定させていただきました。すなわち,授業の過程において教材・参考文献や講義映像等を送信する際に,どのような著作権上の課題が認められるかということであります。この点については,調査研究や教育関係者のヒアリングから,種々の教育機関においてICT活用教育が実施されており,例えば,高等教育機関では相当数の大学において講義映像や講義資料・参考文献等の異時送信が行われていること。その際,第三者の著作物が一定程度利用されていることが報告されております。
 これらの利用について,教育関係者からは,紙の場合であれば法第35条1項で処理できるものであり,かつ引用の要件に当てはまらないと考えられる事例も少なからずあるという報告がなされておるところでございまして,また,そうした著作物の利用に当たっては,著作権者の許諾を得るための手続上の負担などの理由から,教育に支障が生じているという意見があったところでございます。
 この記述に関連いたしまして,前々回の会議でも質疑等で委員の先生からも御質問があったところもございましたので,今回,参考資料1としまして,教育現場における著作物の利用の具体的な事例を御用意いたしました。簡単に御紹介いたします。
 まず,「授業の過程においてインターネット送信する場合の教材の例」でございますけれども,ここでは事例を五つほど御用意しております。
 事例1は,大学の「日本語表現法」の講義の資料において,古文の訳文を掲載したという例で,これはライセンスを受けて掲載したものでございます。
 事例2としまして,「ヨーロッパの文化と歴史」の講義において,講義資料にグリム童話の一部の訳文を掲載した。これも許諾によったものでございます。
 それから,事例3から5は,許諾を得ることを断念したものでございます。事例3は,「人類学から見たモンゴロイド」という資料において,モンゴル人の例として朝青龍の写真を掲載して対面の授業を行っていたのですが,eラーニングにおいては,これは引用に該当しないと判断したために,著作権フリーのモンゴル人の写真に差し替えたというものであります。対面の授業では,朝青龍の写真を掲載することで学生の興味を引こうということでありました。
 事例4は,医学部で解剖の授業をする際に,解剖の際には資料は持ち込まないということでございますので,その予習・復習のために資料を受講者に配布する必要があったということでございます。ただ,その解剖に関する多くの画像・写真は引用に該当しないとの判断の下,必要となる許諾を得ることを断念し,インターネット送信はしなかったということであります。
 事例5は,フロイトの故郷の風景写真を掲載するというものです。
 事例6は,教材の共有目的の利用でありますけれども,ここでは新聞の社説を題材とした演習問題の作成が事例として挙げられてございます。
 それでは,また,資料2にお戻りいただきたいと思います。この3ページの「小委員会における主な意見等」を簡単に御紹介いたします。
 まず,調査研究においては,ICT活用教育に取り組んでいる学部・学科のうち,13%が著作物を利用できなかった経験があり,「手続上の理由から許諾を得るのを断念した」といった回答が多かったということでありました。
 また,調査研究では,東京大学,明治大学,早稲田大学においても,そうした理由から著作物利用を断念したケースが報告されておりましたことに加えて,早稲田大学では,できるだけ第三者の著作物を利用しないという方針を採っているという報告もございましたし,佐賀県教育委員会についても,同様の趣旨から課題が指摘されているということでありました。
 ヒアリングは教育関係者からの御意見について,4ページをお願いいたします。ここでは具体的な事例としまして,出版社によっては,デジタル利用を全て禁止している出版社もあるということで,利用申請を行っても利用を拒絶されるところもあるという御報告。
 出版社を介して個別の著作権者に問合せが必要な場合や,海外の権利者に問合せをする場合に時間がかかるという例があったという御報告もされておりました。
 それから,ライセンシング体制の状況について,参考として整理させていただきました。まず,調査研究においては,権利者側のライセンシング体制は一部の分野においては体制整備が進められているものの,全体として見ればいまだニーズを満たすには十分ではないという報告でございました。
 一方,ヒアリングを行った権利者団体からは,調査研究時点以降,一部取組が進んでいるという御意見もございましたし,今後,適切な運用を図っていくという意向も示されたということでございます。
 次の5ページをお願いいたします。「著作物利用の円滑化を図るために検討することが考えられる事項」としまして,第一に,権利制限規定による対応の必要性・正当性について整理をさせていただいております。
 論点としましては,先ほどの「(ア)で整理した課題を踏まえて,授業の過程において著作物を異時で公衆送信することを新たに権利制限規定の対象とすることについて,(契約による対応可能性も含めて)その必要性や正当性をどう考えるか」とさせていただいております。
 その際,権利者側から教育機関の適切な法の運用体制を懸念する声がございましたが,この点についてどう評価するのかということについても,併せて御議論いただきたいと存じます。
 この点については,まず,教育関係者からは,法第35条の趣旨に照らしてICT活用教育についても権利制限規定の対象としてほしいという御意見が示されたところでございます。
 これに対して,権利者団体からは,権利制限の検討に当たっては,補償金制度の導入や教育機関における著作権制度に関する普及啓発を求める意見など,慎重な立場からの意見表明があったところでございます。
 少し詳しい内容を「小委員における主な意見等」のところから,御紹介いたします。
 まず,教育関係者の御意見としては,教育の目的上,適切な著作物を授業で利用することは必要であり,そのために権利制限規定が必要という趣旨の御意見。
 ICT活用の利用に関しては,通常の教室での授業においてコピーする場合と,伝達方式以外には大差ないため,権利者の経済的利益を不当に害することはないという御意見。
 それから,対面授業とeラーニングでは,学校教育制度上ということだと思いますが,同じ単位の取得を認めているが,著作権法上の法的地位が異なり不適切であるとして,権利制限を求める御意見でございます。
 権利者団体としては,文藝家協会からは,著作権教育の実施や補償金制度の確立が権利制限規定の前提となるという御意見。
 日本写真著作権協会様からは,市場が形成されている分野の保全や補償金制度の導入について求める御意見がございました。
 6ページをお願いいたします。日本書籍出版協会様からも同様に,補償金制度の検討や教育機関における著作権法の趣旨の周知等が求められてございます。
 また,新聞協会様からは,デジタルコンテンツは紙に比べて「拡散」「蓄積」が行われる危険性がはるかに高いということで,著作権侵害がより深刻になることに対する懸念。それから,人権上の配慮に対する懸念や,既存の市場へのダメージについて御指摘がありました。
 それから,学術著作権協会様は,ライセンシングにより対応すべきだという御意見でございました。
 ここで,この教育機関における著作権法の趣旨の周知等に関する課題認識としまして,参考にまとめさせていただいております。これは,前回のヒアリングで権利者団体から述べられたものでございまして,教育機関における著作物の利用状況に関する報告としております。ここでは幾つか例が示されたところでございまして,例えば,前期の15回の講義で使用される教材を全てコピーだけで済ませるケースなどが述べられたところでございます。
 これに関連して,今回の会議で参考資料2において,より具体的な事例の御説明が権利者団体様からなされておりますので,それを御紹介したいと思います。
 参考資料2をお願いします。ここでは事例を四つ御紹介しております。
 まず一つが,教師がPDFを学生に配布するケースでありまして,ツイッターで某私立大学の学生が本1冊分のPDFデータが送られてきたと発言していたことについて出版社から確認したところ,それはその大学の先生から送られてきたということでありました。
 事例2につきましては,某国立大学の生協で製本されたレジュメ集が,受講者に向けて有償販売されており,そこにはある法律系の出版物が1冊丸ごとコピーされてとじ込んであったという事例です。
 事例3は,某国立大学の教員が複数の書籍及び雑誌に掲載された著作物50件ほどを複製し,教材として学生に販売していた事例。
 それから,事例4として,初等中等教育機関でございますけれども,問題集を全ページスキャンして,校内サーバーに保存していたという事例でありました。これでもって各授業で表示して使っていたそうです。
 それでは,また,資料2の7ページをお願いいたします。「仮に権利制限により対応する場合の関係論点」ということで,3点整理いたしました。
 まず,論点の一つ目としまして,「市場が形成されている分野への影響についてどのように考えるか」という点でございます。この点につきましては,権利者団体からは専門書等の教育機関で主として利用されることを想定して公衆に提供されている著作物や,その他,既に教育機関に利用を許諾している著作物など,市場が形成されている分野について対象とすることは反対であるという御意見が示されていたところでございます。具体的な意見については省略させていただきます。
 8ページをお願いいたします。論点のb,二つ目としまして,「権利者への補償金請求権の付与の必要性についてどのように考えるか」ということでございます。
 これについては,権利者団体から,海外の多くの国では権利制限に伴い補償金請求権等が付与されていることを理由としまして,今回の規定の検討に当たっても,併せて導入を求める意見がございました。
 なお,諸外国の事例につきましては,参考のところで御紹介しておりますので,御参考いただければと思います。
 9ページをお願いいたします。三つ目の論点,cとしまして,「規定の円滑な解釈運用を促進するための取組としてどのようなものが考えられるか」ということでございます。
 この点については,調査研究や教育関係者からのヒアリングにおいて,引用や法第35条のただし書の解釈が不明確であるため,円滑な利用を図るためにその明確化が必要であるとの意見が示されたところです。
 これについて,権利者団体からも権利制限規定の解釈を明確にするために教育機関と権利者の間で協議を行い,ガイドラインを作成するといったことについて合意を形成する必要があるのではないかという御意見が示されたところでございます。
 続きまして,10ページをお願いいたします。3その他としまして,ただし書に係るものなど,権利制限の対象外となる著作物利用というのは,ICT活用教育においても考えられるわけでありますけれども,そうした場合に契約による利用の円滑化を図るために方策としてどのようなものが考えられるのかという論点でございます。
 この点,教育関係者からは,簡便に著作物の権利書類にアクセスできる仕組みや教育利用に対応した契約内容等の充実について要望がございました。
 権利者団体からは,より実態に合ったシステムを備えることが重要だという御意見が,これに応じて示されたところでございます。
 次に11ページでございますけれども,(2)「教育目的で教員や養育機関の間で教材等を共有する際の著作物の利用円滑化について」でございます。
 ここでは,論点として大きくは,教育目的で教員や教育機関の間で教材等を共有する際の著作権上の課題と,(1)と同様の論点を挙げさせていただいております。
 これに関しては,高等教育機関,初等中等教育機関において,教員間・教育機関間で教材等を共有している事例が報告されたわけでございます。
 例えば,大学学習資源コンソーシアム,私立大学情報教育協会様の「電子著作物相互利用事業」,大学eラーニング協議会様の大学間連携事業,佐賀県教育委員会において取組があり,これらにおいて著作権処理に関する課題の指摘があったということでございます。
 12ページをお願いいたします。これに関連して「著作物利用の円滑化を図るために検討することが考えられる事項」としまして,(1)と同様に,この点について権利制限規定の対象とすることについての必要性,正当性を挙げさせていただいております。
 これに関して教育関係者からは,教材の共有というのは,教育の質を高める点で法第35条の趣旨にかなうものであって,権利制限規定の対象としてほしいという御要望でございました。
 一方,権利者団体からは,法35条はどの教育現場でも利用できるような汎用的な教材の作成は認めておらず,法の趣旨にかなわないということなどを理由に,公衆送信を権利制限の対象とすべきでないという意見でございました。
 続きまして,14ページをお願いいたします。(3)「MOOCのような一般人向け公開講座における著作物の利用円滑化について」でございます。これにつきましても,先ほどと同じように,著作物の利用実態と課題,それから,利用円滑化のための方策ということで論点を設定しております。
 まず,利用実態と課題につきましては,調査研究において,大学が実践している教育に関する情報の発信,社会貢献等の観点から,既に取組はなされており,今後拡大することが予想されるということでありました。これに関しては,手続上の負担やMOOCのような利用形態に見合う契約が用意されていないということで,著作物の利用ができない実態があるという指摘があったところでございます。
 それから,15ページでございますけれども,「著作物利用の円滑化を図るために検討することが考えられる事項」としての,権利制限規定の必要性や正当性でございます。
 教育関係者からは,この点についてはライセンシング体制やMOOCに対応した契約内容の整備についての御要望があったところでございます。
 一方,権利者団体からもライセンシング体制の整備等による利用円滑化を提案するという声があったところでございます。
 長くなりましたが,論点の整理と議論の状況の整理は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,ただいま事務局に説明いただきました資料1の各論点に沿いまして,ICT活用教育の意義や教育関係者からの要望のあった各事項について,重点的に御議論いただければと思っております。
 なお,授業の過程における教材等の送信につきましては,資料1の2の(1)の(イ)にありますとおり,権利制限により対応する場合の体系論点なども含めて御意見を頂ければと思います。
 まずは,資料1の論点1「ICT活用教育を推進することの意義について」,御議論をいただければと思います。どうぞ御遠慮なくお願いいたします。
 森田委員,いかがですか。

【森田委員】この論点1の総論的な方向そのものについて,正面から反対という意見はないのではないかと思いますけれども,その後の論点との組合せによっては,消極意見も出てくるかと思いますので,むしろこの論点1に時間を割くよりは,その次の論点に時間を回した方が建設的ではないかと思います。

【土肥主査】まさにそのとおりでありますけれども,さりながら,一応検討項目として,私どもが数十年前に小学校に通っておりました頃と全く状況が変わっておりますし,今日ではICT活用教育ということが言われるようでございます。こういう中で皆様方の過去の経験に照らして,こういうものが必要なのだという確認の意味での御意見がいただければ幸いかなと思いますけれども,いかがでございましょうか。
 松田委員,お願いします。

【松田委員】初等中等教育における教科書の利用は,一応判例上,準拠教材の問題として片付いてはいるわけであります。しかしながら,確かに時代は違うわけでございまして,準拠教材の最初の事案は,英語やその他の語学についての読み方を音声で教材にするようなものが多かった。今はもっともっと多様な利用が多分可能なのでありましょう。
 それから,小学生においても,タブレットを持って教科書がその中に入ると同時に,それぞれの生徒のレベルに合った問題などを作り,そしてそれを受信できるという方向になっていることは間違いありません。こういう方向性を促進しなければならないのは間違いないと思います。
 そうすると,新たに準拠教材の問題が起こっているのだなと思います。促進をすると同時に,調整する必要がますます大きくなっていると思っております。

【土肥主査】ありがとうございます。ただいま松田委員に御意見を頂戴いたしましたように,昔見られないような新しい学習形態があるようでございます。協働学習とか課題探求型の学習ということでございますし,ICTを使うことによって地理的な環境に左右されない教育の質の向上もあるようでございます。これは先ほど事務局からの説明にあったとおりでございます。
 茶園委員,お願いいたします。

【茶園委員】ICT活用教育を推進することそれ自体には異論はないのですけれども,教育というものがどこまでの範囲を含むのかがよく分かりません。教育機関において,対面的な授業をする場合は対象である受講生の範囲は明瞭であり,また,通信教育の場合でもそれなりに限定されると思うのですけれども,最後のMOOCの場合は,対象となる範囲は限定されないと思いますし,例えば,生涯教育という言い方をすると,情報提供であれば教育に含まれるということにも成り得ますので,教育ということで全てを一くくりにすることは適当ではないのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。要するに初等教育,中等教育,あるいは我々が現在やっております大学での教育,社会人教育,生涯学習など,そういったことを全部ひっくるめての教育の質の向上ということかなと私は承知しております。
 ただ,その具体的な手立ての中でヒアリングにもありましたけれども,初等教育なり高等教育,あるいは社会人教育,生涯教育,制度の在り方においては,場合によってそのあたりを分けることもあろうかと承知しておりますが,何かこの点についてもよろしゅうございますけれども,御意見がございましたら。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】全体的な問題として申し上げたいのは,先ほどお話があったように,ICTを利用することで新しい,また質の高い教育方法が登場するから,それを促進していくべきという点も当然あると思いますけれども,基本的な問題として,今の小中,高校生も含めてだと思いますが,彼・彼女らは基本的にはデジタルと共に,ICTと共に生まれた世代でありますから,彼・彼女らにとっては紙もデジタルもICTも全くシームレスな状況で行ったり来たりするわけであります。
 したがって,別段ICTを使ったから,特別に新しい教授方法になるとか,新しい教育方法になる,勉強方法になるということではなくて,従来の紙が単にICTに置き換わっただけのことも十分あり得ると思います。それは自然な姿だろうと思います。
 したがって,従来のものが単に置き換わるだけということも含めて,基本的には従来紙でできたことはICTでも,最終的な目標として,シームレスにできるべきというのは原則的な考え方であろうと思います。プラス,新しい活用方法がついてくるのであれば,それを更に促進する形でなければいけないと思います。もちろん,ICT特有の問題があるので,紙の場合にはなかったような手当をすることは個別の対応として十分あり得ると思いますし,今,茶園委員からあったようにも,教育の範囲によって全く同じではなくて,いろいろな差をつけるということはあっていいと思うのですけれども,ただ,紙とICTとの間で特段差がない,地続きにすることは,私は最終的な方向性としてあるべきだろうと思います。

【土肥主査】そのあたりも含めて,今後検討させていただければと思いますけれども,ほかに御意見ございますか。
 岸委員,どうぞ。

【岸委員】先ほどの意見にも若干関係する部分があるのですけれども,このICT活用教育を考える場合に大事なのは,ではICTを活用してどういうやり方の教育を対象にするのだと限定してはいけないということで,つまり,技術はどんどん進歩して,MOOCだって10年前はこれだけ普及するとは誰も思っていなかったわけです。どんどんICTの進歩に伴って教育自体も進化する。それに応じて,小中高どころか,多分,今後は高齢者とかいろいろな教育の範囲にも広がっていくだろうと思いますので,そういう技術を特定するとか,そういうことをしない形で,先ほどの意見にもあったように,紙とこのデジタルをいかにシームレスにするかということが大事なのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。特にこのICT活用教育を推進することの意義について,これまでの御意見は皆積極的な方向性の御意見と承知いたしましたけれども,若干,抑制的と言いますか,そういう御意見がもしございましたら,お願いいたします。
 本小委員会において,この基本的な方向性については,ほぼ異論はなかったものとして次に参りたいと思います。
 次に論点2の(1),授業の過程において教材や講義映像等を送信する際の著作物の利用の円滑化につきまして,御議論いただければと思います。
 まずは,(ア)の授業の過程において教材等を送信する際の著作権法上の課題について,御意見がございましたら,お願いいたします。いかがでございましょうか。
 確かにこれ以降においても,例えば,「異時」とか,35条特有の問題あるいは「授業の過程においては」とか,そういう問題が出てくるわけでございますので,ここで特に絞って著作権上の課題が認められるかということについてお答えにくいのかなと思いますけれども,どうぞ実質的な議論にきょうから入るわけでございますので,遠慮なく。
 上野委員,お願いいたします。

【上野委員】教育に関する著作権問題というのは,35条や33条に関わる問題はもちろんのこと,入試問題集や教科書準拠教材の出版といった「情報化」に特段関係しない問題も含めて,立法的対応を要すると思われるものが少なからずあると思っておりますが,きょうはその中でも特に35条を検討する趣旨だと認識しております。
 そこで,35条を見直す必要性があるかどうかということになるわけですが,これを検討する際には,教育機関において実際に行われる利用行為に関して,35条以外の規定の適用可能性がどこまであるのかが問題になろうかと思います。
 この点につきまして,適法引用に関する32条を適用できる場合が多いのではないかという御意見があろうかと思います。32条をめぐっては激しい議論がありまして,私自身は,かねてから32条を従来の通説よりも柔軟に解釈すべきという考え方を示してきましたところ,最近はそうした裁判例も増えて参りましたが,近時の知財高裁は,32条を更に広く解釈するような判決も出していまして,私自身もそこまでいっていいのかなと躊躇しなくもないような状況にあります。
 そのような中,きょうは事務局の方から幾つか事例を御用意いただきましたので,こうしたものが現行法で32条の引用に当たり得るかということを議論いたしますと,35条の見直しがどれほど必要か見えてくるように思います。
 引用と言いますと,引用の対象となる著作物を論評するというのが典型的ではありますけれども,では,引用の対象となる著作物それ自体を論評するのではない場合,例えば,写真に写っている被写体のみを論評する場合に,いわば説明の材料として当該写真の著作物を使うことが適法引用に当たるかどうかは問題となります。きょう提示された事例でも,モンゴル人の例として朝青龍の写真を掲載するケースが紹介されていましたが,あのような場合,論評の対象は飽くまで朝青龍ないしモンゴル人であって,写真それ自体を対象として,その巧拙等を論評しているというわけではありませんので,そのような場合でも適法引用として32条の適用を受けるのかという問題があります。
 こういったものも適用引用に当たるのだという考えもあるかと思うわけですけれども,ただ,他人の写真の著作物を無断で掲載する場合でも,その被写体を論評していれば32条の適法引用に当たるのだということを,一般論として言ってしまいますと,32条は教育機関における利用だけに適用されるわけではありませんので,教育機関に限らず,様々な場面で,そうした利用の仕方が32条によって許容されることになります。例えば,ブログで9.11のテロについて語るときに,世界貿易センタービルに飛行機が突入する写真をネット上で拾ってきて掲載することも適法引用であり,権利者の許諾を要しないということになるように思います。そうすると,さらに,これは出版にも及ぶことになりますので,例えば,歴史本や旅行記の出版において,歴史上の人物や出来事,あるいは建物や風景について論じたり,説明したりするときに,その対象が写っている写真をどこからか拾ってきて,これを権利者に無断で自由に利用できることになってしまうのではないかと思います。
 それも32条の適法引用として許容されて問題ないのだという考えもあろうかと思いますが,引用というのは,教育機関内であるとか,教育目的であるとか,そういう限定があるわけではありませんので,例えば,我々が本を書くときに,説明の材料としてちょうどよいなと思った写真とか,ネットに落ちているイラストとか,説明図とか,そういったものを書籍に掲載することも適法引用だということになりかねませんので,そこまでいってしまって本当によいのかなという気もしております。
 このように,32条が適用できる場合があるとしても,教育機関における利用であり,しかも教育の目的上必要と認められる限度ということであれば,32条の引用として許容される範囲以上の利用が許容される場合があってもよいのではないかと思います。以上のような観点から,35条の見直しの必要性は,やはりあるのではないかと私は思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】細かい個別の論点は後に出てくるかと思いますが,ここでは,総論的なお話だろうという前提で,前回,前々回と断片的にはいろいろ申し上げましたが,改めてまとめて申し上げたいと思います。これは非常に難しい問題で,先ほどのように教育の範囲もいろいろあるというところです。もちろん,立法論をやっているわけではありますが,全くゼロから議論するのは難しいので,現行法でどうなっているのか,現行法の紙ないし対面授業を踏まえた上で,それがどの程度違うのかというところからスライドしていく方が考えやすいと思います。その観点から考えると,現行の条文としては,これはorということになってくるかと思うのですが,35条1項で拾える範囲が一つありますし,また,前々回から出ている32条でも拾える。どちらかに当たれば現行法でも適法だということになるので,それらを両にらみしつつ,35条は複製だけれども,それが送信の場合にはどうなのかなどという形で考えていくのであります。
 また,引用については,前回か前々回に申し上げたとおり,そもそも,この引用というのを学術的引用と読まなくても,「引いて用いる」と読めば,国語の意味としてももっと広いスコープがあり得るのではないかと思っております。そうなればなるほど,結局は公表されたこと以外は,公正な慣行に合致しているか,あるいは正当な範囲かという,少なからず一般条項的なものでありまして,そのような意味では今後もいろいろ利用範囲は広いのではないかと思います。そして,現行法も現に32条としてはこの条文でまかなっているのであって,これ以上特に細かい条文があるわけでもない。このような,元々,そもそも一定程度一般条項的なものであります。しかるに,今回,それをICTの場面に持ってきて,さほど非常にクリアな規定になるはずもないので,結局は現行法と同じような,これらのようなものの延長戦上で考えていくこととなると思われます。前回も,非常にクリアにならないと使いにくいという話がありましたが,それを余り追求するのは現実的ではなくて,これに,先ほど出ておりましたような35条の関係で補償金を組み合わせるとか,今後考えていく際には,いろいろなものを組み合わせながら,何がベストな解かということを考えていくわけであります。その際には,これも前回申し上げたとおり,立法論と言っても,全てが創設的なものとも限らずに,今までも確認的な立法というのはかなりの程度やってきたと思います。現行法でも本当はできるのだけれども,それでは使いにくいから明確化してほしいということも考える必要がある。とはいえ,結局は場面ごとにかなり変わってくるかと思いますが,今申し上げたようなところを念頭に置いて,議論が宙に浮かないように個別に考えていくことになっていくのではないかと思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございましょうか。35条のみならず,32条との関係もにらみながら検討を詰めていきたいと思います。さらに,ガイドラインの問題も関係者の方からは出ておりましたので,そういうところが受け持つべきと言いますか,そのあたりでも法改正まで至らなくてもできるところはあるのだろうと思います。
 ほかに御意見ございますか。前田委員,ございますか。お願いします。

【前田(健)委員】ICT活用教育の促進というところで,どういった点が課題として指摘されているかというと,手続上の負担が大きいという指摘が教育機関等からなされているところだと思います。
 したがいまして,法改正あるいはガイドライン等,対応方法としてはいろいろあると思いますが,その対応するに当たっては,教育機関等の手続上の負担を軽減できるのかどうかということが,視点として一つ必要になると思うのです。
 今,32条の話がございましたけれども,引用が実はもう少し広く使えるのではないかという話もありました。もしそういうことが本当に可能であれば,そういった点をガイドライン等で明確にすることができれば,ライセンス等を受けなくても教育機関が自動的に使えるようになりますので,そういった意味では手続の負担を軽減することができることになります。
 一方,35条においては,現状,紙の場合は,著作者の利益を不当に害さない形であれば使うことができて,どの範囲であればそれに当たるかというのはいろいろ議論があるとは思いますが,利益を不当に害さない範囲では自由に使えるということで,そういった意味では手続の負担がかからない形で行う余地があるということになります。しかし,ICTの活用といったときに,異時送信の場合は,カテゴリカルに35条の適用対象とはなりません。32条を適用できる部分など現状でも解決できる部分もあることはあるのですが,先ほどシームレスというお話がありましたように,異時送信だからというだけで解決の方法がなくなるのは相当ではないと思います。もちろん,具体的にどこまでが権利者の利益を害さないかということは,紙の場合とICTの場合とで違ってしかるべきだとは思いますが,少なくともカテゴリカルに35条が解決の場とならないということは,なるべく避けた方がいいのではないかと思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいま,前田委員御指摘の手続上の負担の問題ですね。この問題は非常に重要な,本委員会において検討すべき視点であろうと承知をしております。利用すべき著作物の価値とトランザクションコストというものが,教育における著作物の利用においては非常に差が大きいところもございまして,このあたり十分承知をしておきたいと思います。ありがとうございました。
 ほかにございますでしょうか。松田委員。

【松田委員】引用と32条と35条の関係について,もう既に意見が出ています。32条の関係について話しておきたいと思います。私が2回のヒアリングで教育現場の方々にお聞きしたときに,高等教育でありましても,教科書・基本書について,教材に使いたい,できることなら異時,共有,研究にも使いたいという方向性があるように思いました。この高等教育における教材化するときの引用の問題は,教材を新たに作る先生方が頑張っていただけるのであれば,テキスト部分については引用でかなりできるだろうと私は思っています。現行の,と言いますか,判例の趨勢である明瞭区分性や主従性という要件を前提にいたしましても,このテキストの引用はかなりの部分できるだろうと思っています。
 できない部分は何かということになりますと,理系や医系の写真や図表だろうと思います。これは,そもそも現行法上の引用ではできないだろうと思っております。基本書に示されているこの写真や図表等を使用しようとしたときに,これは基本書と新たに作る教材との間の利用の目的が,まさにその図表等を説明することでありますので,なかなか引用にならない。言ってみますと,研究や批評にはならないわけです。これは32条に当たりにくいわけであります。
 それから,全く一つのコンテンツを100%使わなければならないというのがほとんどだろうと思いますので,この点からもなかなか引用とはいかないわけであります。
 もう一つ,高等教育上で問題が起こっていると認識しているのは,工学部におけるコンピュータープログラムのモジュールの教育であります。これはモジュールを提供してこれを解析して教授するわけですけれども,教材を作る先生方がプログラムを書くのではなくて,既に世にあるプログラムを,そしてある程度共通化しているといいますか,モジュール化しているプログラムを提供することになります。この場合に,自ら作っておりませんので,第三者のコンピュータープログラムの著作物をそのまま利用するという教授方法がかなり蔓延しているのだろうと思います。
 しかし,この件については,実際上の紛争の問題は起こっていないのです。潜在的には危険性はあるとしましても,現実の問題は起こっていないだろうと思っています。
 この医系,理系,工学系の著作物については,引用ではなかなか処理できない現実があるということについて,発言をしておきたいと思っております。この部分について,32条を超えた35条の問題があるのではないかと考えているところです。

【土肥主査】ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】先ほど35条と32条という権利制限の話をしたのは,そこに絞りたかったからですが,従来考えられているよりも広いものがある反面,引用としては拾えないが授業で使いたいというものは当然あるわけです。そうなってくると,前回も申し上げましたが,ライセンスと権利制限の組合せが重要になってきます。しかし,手続的負担が重ければ,結局,ライセンスがきちんとワークしなくなってくるので,これは,孤児著作物なども含めて非常に幅広い,手続的な負担をどうするかという大きな問題の一環であると思っています。今回も,先ほどのジークムント・フロイトの写真は誰が撮ったかわからないという話が出ていました。このようなことは教育の現場でも度々起きていて,引用以上に使いたいので,ライセンス処理しなければいけないが,結局権利者が誰かわからないからライセンス処理できないという問題については,ここのフォーラムにとどまらずにもっと大きな広がりがある問題と思います。権利制限でも頑張るし,ライセンスも頑張らなければいけないのだけれども,最終目標は,ICT教育の充実のために,権利者の利益の還元のための補償金などのような多様な組合せを用いながら,権利者と利用者の双方の総合的な利益の調整を実現していくという非常に大きな応用問題についての議論となっていくものと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 窪田委員,お願いいたします。

【窪田委員】今,本来扱っているテーマからも外れるのかもしれませんが,大渕委員からお話があったライセンスにも関連して,少し発言させていただきたいと思います。
 事例が幾つか示されている中で,私が気になっておりましたのが,事例3,モンゴル人の写真の例で,先ほどから何でこれが著作権法の問題として扱われているのだろうという点が気になっておりました。もちろん,著作権法上の問題として写真に関する著作権ということは考えられるのかもしれませんが,恐らくこの具体例に関して言えば,肖像権であるとか,パブリシティであるとか,そうした点が当然問題になるのだろうと思います。気になりましたのは,対面授業であればこうしたものを自由に配布できるのに,公衆送信になるとできないということが適当なのか,どうなのかという問題なのか,伺っていてよくわかりませんでした。少人数のクラスで配布するのであれば,特にそうした問題は出ないとしても,300人,400人の大講義で写真を配布することになれば,当然,肖像権に関する問題も出てくると思います。ましてや一般のモンゴル人ではなくて朝青龍という人を出すことによって学生をひきつけるのだという発想は,パブリシティの発想そのものなのではないかという気もいたします。
 だからといって,私はこの具体例に関する説明にけちをつけようという趣旨ではなくて,ただ,具体例として示されている問題の中に,必ずしも本来の著作権の問題だけではない問題も入っているのではないか。そうした問題に対してはライセンス等,別のアプローチを考えざるを得ないのではないか。そういう意味で大渕委員の御発言に続けて発言させていただきました。そうしたものに正面から取り扱うということではないにしても,それを少し意識した上で考えていかないと,著作権法上の問題が解決した途端,ここで扱われている事例が全て法的に問題ないものとして扱われることになるといった誤解が生じ,少し困るのかなという気がいたしました。

【土肥主査】ありがとうございました。そうしたことも配慮しながら検討を進めていければと思います。
 ほかにございませんでしょうか。具体的な各論に入った御意見等々も既に出てきつつございますので,2ポツの(イ)のi「権利制限規定による対応の必要性・正当性」の部分でございます。この資料1の真ん中あたりにあるこのiの部分についての御意見をいただければと思います。必要だからここで議論しているのではないかと思われるのかもしれませんけれども,特にここでの論点といたしましては,35条の異時で公衆送信することを新たに権利制限規定の対象とすることについての必要性・正当性,先ほどから出ておりますシームレスにも関係するところでございます。この点,何か御意見ございますか。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】今,座長からお話のありました異時送信の問題ということでお話ししたいと思います。一般の方向けに念のために申しますと,公衆送信と言ってしまうと,日本全国中に送ることも含めてみたいな話になってしまいそうですが,そうではなくて,あくまでもここで申し上げるのは,一番小さく挙げると,学校において授業を受けている学生ということで,まず,受講生向けにということで考えたいと思います。それが,著作権法上の概念からいけば,公衆に当たる可能性があってということでの公衆送信だということを念のために申し上げておきます。私としては,権利者の利益とのバランスを考えた手当を一部取るということ自体は否定しませんが,考え方としては,原則として異時送信は認めるべきだろうと思います。なお,異時送信と言っても,より広く考えて学期中というイメージです。例えば,あるAという講義があった。その講義が終了するまでの間,単位をもらえるまでの間,成績が評価されるまでの間は,利用できるという環境を実現すべきだと思います。
 例えば,授業中に先生が有体物としてプリントを配りますという場合は,学生は受け取ったプリントを,授業が続いている間,単位をもらえるまでの間,ずっと使うわけです。
 ところが,これが35条の問題として,対面の授業で配っているときに同時に送信することはできても,そこから先はまかりならんということになると,ネットで送った方については,学生は授業中に私的複製をしてコンピューター上にコピーするとか,プリントアウトした場合は,後で,家で勉強できるけれども,それ以外はできないということになりかねないわけでありまして,余りにバランスが取れていないのではないかなと思うわけであります。
 文部科学省の方もおられますし,大学の先生もいっぱいおられる中で言うのも何ですが,例えば,大学の場合は単位をもらうためには90分の授業だけでは駄目で,自宅学習,自己学習で,実際しているかどうか別としまして,基本的には授業時間の倍の学習をすることをもって単位を認められるということになっているわけであります。そうすると,そういう形で勉強する際に,有体物で配ったのだったら利用できるけれども,ネットで送信した場合はできませんよというのは,バランスを欠くと思いますし,教育効果という点でも異時送信を認める必要性が十分あると思います。
 ただ,ネットで配ることによるプラス・マイナスがありますから,その部分について権利者にいかに手当するかというのは,今までにない新しい部分ということですから,手当をすることがあってもいいと思いますけれども,考え方としては,必要性は十分あるし,そうしないとむしろ教育効果という点でも,単位の考え方にしても,よろしくないのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいま非常に重要な指摘を頂戴いたしましたけれども,1に限らず,授業の過程という部分についての捉え方についてもいただければと思います。大学しか知らないのですけれども,特に最近ではいろいろな大学で,教育の過程の中でいろいろな資料をサーバーに蓄積しておいて学生に対して配布をしたりしておるという実態等もございますので,こういったこともにらみながら,いろいろ御意見を頂戴できればと思います。
 上野委員,最初にどうぞ。

【上野委員】異時送信につきましては,資料1にも権利制限規定を設ける「必要性・正当性」と書かれておりますが,一般論として,権利制限規定を設ける必要があるという意味での「必要性」と,権利制限規定を設けても差し支えないという意味での「許容性」,このような権利制限の正当化根拠については,最近の議論において二つのことが指摘されております。
 一つ目は,ある利用行為をする際に権利者の許諾を得ようとしても得ることができない,あるいは難しいということです。これは市場の失敗と言われることもあります。二つ目が,ある利用行為に社会的意義があるということです。これは外部性と言われることもあります。
 例えば,こういった審議会の場でも,権利者団体などから,ライセンシング体制が整っているので権利制限規定を設ける必要はない,といった議論がなされることがあるのは,一つ目の議論がなされているものと位置づけることができます。
 ただ,この二つの正当化根拠は,両方とも満たさなければ権利制限規定を設けることができないというものではありません。例えば,一つ目の観点からすれば,権利者から許諾を得ることが不可能でないような場合であっても,二つ目の観点から,社会的意義が大きいことを理由に,結論として権利制限規定を設けるという判断もあり得るわけです。実際のところ,既存の権利制限規定にも,例えば,点字複製等に関する37条であるとか,非営利無料の演奏等に関する38条であるとかは,たとえ権利者の許諾を得ることが不可能でなくても権利制限を行っている規定だと言えます。
 その意味では,教育機関における異時送信について,仮に一部の権利者によるライセンシング体制が十分に整っているといたしましても,――そもそも整っていると言えるのかということは前回指摘させていただいたところではありますけれども――,仮に整ったといたしましても,相応の社会的意義が認められるのであれば,権利制限規定を設けることは正当化されることになります。
 前回も申し上げましたが,特に教育機関における著作物利用というものは,権利者から許諾を得られた一部の著作物だけ利用できれば目的を達成できるというものではなく,あらゆる著作物の網羅的な利用が必要となるものです。だからこそ,現行35条もすべての著作物を対象としており,権利者によるオプトアウトも認められていないのです。このように網羅的な著作物の利用が必要となる教育機関における利用につきましては,ライセンシング体制の整備では十分でなく,やはり35条の見直しが必要になるのではないかと思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは次に岸委員,お願いいたします。

【岸委員】先ほどの奥邨委員の話に関連するのですけれども,例えば,うちの大学院が今何をやっているのかと言いますと,全授業をアーカイブ化しているのですね。当然,教材などもそこでアーカイブ化しておりまして,授業をその場でリアルの場で受講できなかった学生はオンラインで補講的に受講できる。でも,気がつくと大学院ができてからの授業は全部蓄積されておりまして,こうなると異時の公衆送信という意味でもすごく範囲が広がってしまっているなと実はつくづく思っていた部分です。
 権利制限規定の対象とする場合についても,先ほど奥邨委員の意見にもあったように,何らかの期間の区切り,制限をつけないと,結局,うちの大学院みたいに全部大学院ができてからのアーカイブ化していますと,無限定になることもあり得ますので,そこのバランスをどう取るかというのは,実はすごく難しいのではないかと,日々授業をやった中で感じていたもので,一言言っておこうと思いました。

【土肥主査】ありがとうございます。そこのところは非常に私どもも懸念すると言いますか,心配しているところでありますけれども,特に権利者の方々からの運用面における御心配が指摘されておるところでございます。この点については,上野委員も御指摘があったところでございますけれども,ほかに。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】今まで申し上げたことと若干重複しますけれども,このローマ数字1ということで少し付け加えておきます。意義ということになると,このICT教育のためには,権利制限がいいのか,先ほどのようなライセンスがいいのかというのは,恐らく現実的には,組合せということになってくるかと思いますけれども,その観点で,先ほどライセンシングに当たっては手続の負担を下げるという話を致しました。これも前回も出ておりましたけれども,これまでは権利制限と言うと,ゼロ,百とは言いつつ,教科書補償金とか,現行法でもいろいろ工夫はなされて,ゼロ,百でなくて中間的な形で,補償金という形がいいのかどうかは別として,権利制限はするけれども一定の利益がクリエイターに還元される工夫は既に現行法でもあるので,このような可能性も考慮に入れる必要があると思います。少し気になりましたのが,前回ないし前々回で,35条の範囲が広いか狭いかという議論が,そのときの文脈としては現行法の35条の範囲は狭いのに幅広く権利制限されて,運用がなされてけしからんという話もありました。あれも理論的に考えてみると,現行の35条は補償金制度がついてない権利制限ですが,これを仮に補償金をつけるとすれば,その分だけ利益が還元されますから範囲は広くていいのかもしれないという,いろいろな組合せが考えられます。一つの難しい問題を解決するための工夫を考えてみるという際には,いろいろな工夫の余地はあるので,結局は,著作権法の目的である権利者の保護と利用者の適正な利用のバランスを図るという点では,いろいろな知恵の出し方というか,組合せがあるのではないか。そうすればするほど,良い教育が実現できるのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございます。今,大渕委員からも御指摘がありましたけれども,権利制限規定でやるのか,ライセンスでやるのか。これは,要するに権利制限規定でやるか,あるいは運用におけるライセンスでやるか,そういう問題なのだろうとも思います。
 この本小委員会における議論としては,我々は制度論を検討することになるわけでありますけれども,制度論の検討と同時に運用面における検討も併せて必要なのだろうと思います。両方が大事なのだろうと思いますので,関係規定が適正に運用される環境なり,体制,そういうものが整っているのかどうなのかということも併せて考えないと,手続上の負担の問題への回答にもなりませんので,我々としては制度論を検討することを継続していきますけれども,併せて別に運用面における現状の精査,あるいは運用面における必要な対応を教育関係者と権利者との間で話し合っていただくことも一つ必要なのだろうと思います。先ほどから出ております32条なり,35条ただし書のああいう規定の円滑な解釈,運用を促進するためのガイドラインの策定に向けては,前提として当事者間における話合いが必要なのだろうと思います。
 さらに,我々にとって耳の痛いところでありますけれども,教育機関側の著作権思想みたいなところも指摘されておるところでございます。確かにFDというのは結構言われるところですけれども,こういったことについて私は大学で教育を受けたことはないものですから,こういう著作権の啓発についても権利者団体はかなり御意見の中で出てきたところでございます。そういうことがございますので,教育関係者,権利者の当事者間で,まずは運用面について話し合っていただければと思います。我々としては引き続き制度論という検討を続けていくという二輪の進め方を今後していければと思いますので,運用面の課題について,当事者間でまず話し合っていただいて,進捗が得られれば本小委において報告を頂くことにしてはどうかと思います。
 事務局におかれましては,いろいろとお忙しいと思いますけれども,この教育関係者,権利者間の話合いの仲介の労を執っていただいて,運用面についての共通の認識なり現状の確認なり,あるべき体制面についてのお話合いをしていただければと思いますけれども,事務局においてはいかがでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】主査の御指摘でございますが,関係の団体の方々にも御相談しまして,できるかぎり努力したいと思います。

【土肥主査】よろしくお願いいたします。
 次に権利制限規定によって仮に対応する場合の論点として,(イ)の2,3,仮に権利制限により対応する場合の関係論点としてa,b,c,それから,その他のdがございます。これらについて御意見をいただければと思いますが,いかがでしょうか。
 前田委員,お願いいたします。

【前田(哲)委員】スリーステップテストとの関係を考えてみますと,権利者の通常の利用を妨げないということが権利制限の要件となりますので,市場が形成されており,合理的な手続負担及び対価によって許諾を得られる仕組みが既に形成されている著作物に関しては,なかなかそれについて権利制限をするというのは難しいのではないかと思います。
 ただ,そういう仕組みがいろいろな著作物についてできているわけではございませんので,ある特定の分野についてそういう市場が形成されていたとしても,他方で,そのような許諾が得られない著作物も多数存在するわけですから,そういう意味では,異時送信についても権利制限規定を設ける必要はあって,ただ,既に市場が形成されている場合に関しては,既にある35条のただし書により,権利制限から除外されると整理をすればいいのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,松田委員,その後,山本委員にお願いします。

【松田委員】異時のところまでの権利制限規定の妥当性,これは複数の委員からもう既に出ているわけですけれども,現行法35条との関係で隔たりがあるところです。異時と共有と共有した後の研究。これをつなぐものは糸で言うならばネットですね。こういうものが更に異時の後にあるわけですけれども,異時だけをもし制限規定で可という規定を作ったらどうなるか想定してみてください。もし制限規定を行えば,当該A教員が教室Aにおいて参加する学生,生徒に対して,異時に著作物を使えるようにネットで送りましょうということが可能になるわけです。そうすると,これは,B教諭は使えないのです。異時だけではB教諭は使えないはずです。もちろん,B教室も使えないわけです。そうすると,A教室の学生,生徒にのみ異時に受信できるようにするにはどうしたらいいかということになりますと,学内のサーバーに入れた当該著作権コンテンツをその生徒,学生のみが受信できるようなシステムにしなければならないわけです。もちろん,このことはできます。学生のコード化などでできないことはありません。
 しかし,この対応を個々の教材に取って,Bには使わせない,Bには研究させない,B教室では使わせないということがあり得るでしょうか。私は実際上あり得ないと思います。むしろ,そこまでいったならば,少なくとも同じ学内ないしは同じ教科書を使うような初等教育においては,使えるという横の共有化が求められると思います。それがなければ,ある意味では意味がないと思っております。35条の範囲内で,確かに異時で授業の前後にコンテンツが見える,著作物が見えるということは,35条の縫い目からいうと,小さな縫い目ですので,縫い合わせられるように思うのですが,実際上,このシステムを作ったら,私はBにも,ないしはほかの学校にも利用させることの拡大がなければ,先ほど言ったICT教育の効率的な利用などはあり得ないと思っております。
 ですから,異時についての制限規定を作るという議論はいいのですが,それを超えて次のところになってしまうのですが,共有化と教員間の研究などについても利用できるかどうかということを考え合わせて,そうなると権利制限規定だけでは私は駄目だと思います。やはり組合せだと思います。それは何かというと,権利者団体と教育機関との話合いでルールを作っていくほかないと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 では,山本委員,お願いします。

【山本委員】基本的に異時送信にも著作権法35条を拡張するというのが現実的だと思っております。ただ,何ゆえ35条の規定ができたのか。今のデジタル化の中で改めて考え直してみますと,恐らく35条というのは個々の授業の中で使われる教材について著作権処理をすることが現実的に不可能だ,つまり,市場の失敗がそこに存在するからだという背景があったからだと思います。
 しかし,それを異時送信まで適用することになると,その前提は崩れます。デジタル化で利用できる状況があるということは,基本的にはデジタル的な権利処理もできるということで,市場の失敗は必ずしも存在しないことになります。
 そのときに,つまり,デジタル送信のライセンスまで与えているような市場がある場合に,それを権利制限で自由に利用できるというのは,本来の35条ができた趣旨,市場の失敗というところに反してしまうと思います。必ずしもデジタル利用されている著作物ではないということを考えますと,35条の権利制限を及ぼしながら,他方で補償金を与えたり,あるいはオプトアウトしたりするような折衷的な対応が必要なのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 では,大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】今までいろいろ出ておりますけれども,私が先ほども申し上げたところでは,これは現行でも解釈論上全くできないのかどうかよくわかりませんが,35条というのは現行では一定の範囲で,ゼミの15人ぐらいとか,いろいろ説があるかと思います。それぐらいの範囲であれば教材を,今までであればコピーで配っているというのは35条でやっているわけです。最近であれば,紙で配ると大変だからパスワードをきちんとかけてどこかに入れてダウンロードさせている。それは厳密に言えば,条文に複製しか入っておりませんので,35条ではアウトになる。
 ただ,ここのところは,複製を完全に代替するような形での公衆送信であって,権利者の利益は害さないという範囲であればいけるという解釈論の余地もあり得るわけですが,恐らく今出ている話ではその程度では満足できずに,もう少しという話になってくるわけです。先ほど申し上げたとおり,最低限は現行法でもできるわけですけれども,良い教育をするためには,先ほどの例で言えば,引用の範囲は多少はみ出ていてもきちんと教えるために使いたいということがあれば,権利制限というよりは,きちんとライセンスを取って使うということになります。この点では,どの範囲にとどめるのかということと連動して,良い教育をするためには引用の範囲を飛び越えてでももっと正面から使いたいという話になってくれば,ライセンスになっていくので,どうしても,この権利制限だけでなくて,権利制限とライセンスという二つを組み合わせながらやっていくしかない。先ほど,確か前田委員が言われたように,そこのところは権利制限というのはライセンスを害さない範囲にとどめるという点での歯止めをかける必要があるということになってきて,かつ,そうなればなるほど,使うことを広げていく際にはライセンスでやればいろいろな形の利益の還元もあるわけです。けれども,実際上,市場の失敗と呼ぶかは別として,そのようなライセンスがなかなかできないからこそ権利制限の方にニーズが出てくるわけです。そうなってくると,これはいろいろな制度の組み方があるかと思います。
 一つ有力なものとしてあるのは,ある程度のお金を払うかわりにきちんと引用を超えて使って良い教育を,ということになると,文科省の方でどう予算をつけるのかという話にもなってきて,いろいろ機微な話になってくるかと思うのですけれども,教育にはお金がかかるのであれば,補償金と呼ぶのか,調整金と呼ぶのかわかりませんが,そのような予算をつけた上での引用等の範囲に限定されずに良い教育をするために積極的に著作物を使っていくということをいろいろ組み合わせて考えていくことが必要なのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。その組合せについては,大渕委員が一貫しておっしゃっておられますし,それから,松田委員もおっしゃっておられるところでございます。
 また,権利制限規定とライセンス以外に補償金請求権のような仕組みも当然あるわけでございますが,これは結局,どういう運用ができるかというところにも係っているわけでございますので,頂いた御意見と運用面における現状環境,あるいは体制,必要な改善すべき問題も踏まえつつ,両にらみで今後検討を進めていければと思っております。
 現在,既に異時の問題のみならず,共有の問題も出てきておりますので,(2)の共有の問題,共有する際にどのような著作権上の課題が認められるかという点についてでも結構ですし,異時の問題でも結構でございますけれども,頂ければと思います。松田委員の御意見だと,両方当然併せて議論する必要があるという御指摘でもございますので,是非御議論いただければと思います。
 河村委員,どうぞ。

【河村委員】すみません,少しタイミングを逸したので,もしかしたら(2)全体,あるいはもっと前の部分にも係ることかもしれません。ICTを活用した教育と,先生方は大学の関係の方が多いので大学の話が多かったですけれども,基本的にこの可能性ということに関して,これから先,すごく広い,今,ここで細かく決められない可能性を秘めていて,特に子供たち,今,子供の貧困などが問題になっています。また僻地にいても,小さな島にいても,いろいろな教育を受けることが技術上可能であるのに,今,できていないことがあるのではないかとか,重い病気で病院に入っている子供たちの教育のこととか,つまり,可能性は幾らでもあり,技術上可能であっても,ルール上,著作権法上できていないとするならば,全て大学教育も含めてですけれども,教育目的,正当な公正な利用であるならば,それをどうしたら可能にできるのか。ICTを使った教育が可能になって,教育を受ける人たちが豊かな教育を受けられて,そういう権利が実現できてということが,どうすれば可能になるのか,ということがまず考えられるべきではないでしょうか。そういうことをすることによって,何か運用上,懸念があるとか,侵害の可能性が増すというようなことについては,それは確かにそうかもしれないです。その侵害の可能性を,侵害のようなことが起きたときどうするかとか,起きないようにとか,そういうことに意識を傾けることは大切だと思うのですが,著作権者への権利侵害が起きる可能性があるという理由で,技術の発達の恩恵を受けて高度で豊かな教育を受けられるべき人たちの側があらかじめ制限を受けるというのはおかしいと思います。まず,どうしたら実現できるのかという観点で議論をしていけたらと思います。それには,教育関係者の方たちの発表にもありましたように,いかに教育目的で公正に利用する方たちが安心して気持ち的にも時間的にも煩わされずにそれが実現できるかということであると考えています。
 先ほどデジタルで使っているのであれば,デジタルの権利処理はできるはずだという御意見もあったのですけれども,私は,それはそうではないと思っております。紙のものをスキャンして使うとか,いろいろなデジタルとして使うものが元々デジタル形態だったとは限らないと思うので,そう簡単に権利処理ができるようになるものではないのではないでしょうか。教育目的であるならば,公正な利用であるならば,いかに新しい技術を使って豊かな教育がより自由にできるかということをまずは実現する方向で求めていきたいと,消費者団体としては意見を上げたいと思います。

【土肥主査】はい。まさに河村委員がおっしゃるように,ICT活用教育をどういうふうにすれば進められるかということで知恵を出していただくということであります。何分,憲法上承認された財産権というものを教育上活用するわけでありますから,そこは両方からきちんと考えていく必要があろうかと思っております。
 岸委員,どうぞ。

【岸委員】最初のお話に戻ってしまうのですが,制度と実務の両方があると考えた場合には,個人的には実務の面もしっかり考える必要があると思っております。補償金請求権という話が当然あるのですけれども,これでどの程度実務面で問題をクリアできるかというと,恐らく写真とか,オーファンワークスに関してはなかなか大変だよなと考えると,本来,集中管理の仕組みをオーファンワークス対象の拡大集中処理も含め,早めにこの実務面をしっかりやって,その集中処理でクリアできない部分をこの補償金でどううまく絡めていくか。それを前提とした制度面で権利制限規定の部分をどう維持していくのか,実務面をしっかり考えていかないと,最初だと制度面がこんがらがってしまう可能性もあると思っていますので,個人的には集中管理をいかにしっかり広げるかが大事ではないかと思っています。

【土肥主査】はい。そういう点を是非関係者における協議の中で問題点を明らかにしていただければと思います。その上でICT活用を前に進めていくことができればと思います。
 茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】授業において異時送信を認めることは,基本的に賛成です。ただ,権利制限を設ける場合に考えなければいけないと思うことがありまして,発言させていただきたいと思います。
 補償金との組合せをするといろいろ変わってくるので,今,権利制限のことだけをお話ししますと,これは理論的というよりも実際上の問題ですが,現在の35条をそのままの形で異時送信の場合に当てはめるとしますと,実際上きちんと守られるのかということについてやや不安を感じます。というのは,現行の35条は,必要と認められる限度とただし書で制限をかけているわけですけれども,必要と認められる限度という要件は,恐らく授業で著作物を利用したいという人はそれが必要と思っているのでしょうから,余り歯止めにならないように思います。
 他方,ただし書については,これは著作権者の利益を不当に害するというもので,大変抽象的です。現在の紙の場合でしたら,実際上,たくさんコピーをするのには時間もかかりますし,紙代という金銭的負担も発生しますから,複製をあまりたくさんしないでおこうと思い,おのずから限定されるようになるでしょう。これに対して,デジタルの場合にはそういうことはなくて,著作権者の利益を不当に害しないという要件を設けても,実際上それできちんと守られないのではないかと思います。そうだとしますと,最初に奥邨委員がおっしゃったように,現在,紙でできることは基本的にはネットでもできるようにすべきであるとは思うのですけれども,デジタルの特殊性を考えて,もう少し明確な制限をかけることができないか,かけた方がよろしいのではないかと思います。そのような明確な制限としてどういうものがあるかは,まだ思い付かないのですけれども。この明確な制限については,教育関係者の方もおっしゃっていましたけれども,どのような利用が許されるのかどうかが現在でも不明確であるということでしたので,法律をきちんと守ろうとする人に対して,ここまでの利用が許されてそれ以上の利用は許されないという境界をきちんとわかってもらうという点でもよろしいのではないかなと思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ガイドラインの問題を含め,あるいは規範意識といったものについての啓発も併せて求められておりますので,そういう点の重要性も我々としては認識しておきたいと思っております。ほかにございますか。
 奥邨委員,どうぞ。その次,上野委員でお願いします。

【奥邨委員】簡単にですけれども,私も冒頭で基本的にシームレスにすべきだと申し上げましたが,今まさに茶園委員のお話があったように,デジタルなりネット特有の部分ということはあって,それが権利者に対してマイナスになる部分がありますので,それについての適切な手当はすべきであろうと思います。その結果において,全くイコールフィッティングにならないことがあり得たとしても,それはやむを得ない部分もあると理解をしております。
 それから,ハイブリッドにするということで,権利制限だけでいくのではなくて,補償金であったり,既に市場が形成されているものについてライセンスを組み合わせたり等々をするということは,特に新しく広げていく部分については十分必要なことでありますし,既得のビジネスを持っておられる方に対する配慮は,財産権上も必要であろうと思います。
 更に三つ目,啓発との関係を一つだけ申し上げておきますと,35条はじめ教育機関向けの制限規定を緩やかにするということは,同時に,学生や生徒たちに対して,これは教育機関の中であるからこそ許されていることであって,あなたが社会に出て,おなじようなことをした途端に著作権侵害になりますよ,と正しく伝える必要があります。例えば,論文を作成するときに,学校の中で授業の過程で利用するために作る,35条で作れるものと,世の中に発表するために,32条で作れるものとは違うのだよ,ということをきちんと教えておかないといけない。そうしないと,よくあるような,論文に,著作権のある資料をパッと,インターネットから,コピーしてきて,それを世に出して大問題になるということになってしまう。そこは実は教育機関としては極めて重要な問題です。35条で教育の一環としてできることと,引用としてできることは違うのだよということが,今まで十分教育機関の中で啓発できてきたかということです。この点,学生に対して教育として,きちっとやらなければいけないことであって,教育機関は権利制限という特別の配慮をもらう以上は責任を持ってやらなければいけないことだということを,考えていかなければいけないと思っております。
 以上です。

【土肥主査】では,上野委員,お願いします。

【上野委員】2点申し上げます。1点目は,先ほどから御議論がある35条の要件ですけれども,今後,その権利制限を拡大するような改正をしても,現状の35条にある「必要と認められる限度において」という要件ですとか,「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない」というただし書がなくなるわけではありませんので,そこでは,利用行為がアナログであるのかデジタルであるのかという点も考慮して判断が行われるはずだ,ということは留意されるべきではないかと思います。
 例えば,きょう事務局からの御報告にもありましたように,本1冊を全部PDFで学生に配布するとか,学生向けに作成された「法律系の出版物」を1冊全部とじ込んで製本したレジュメ集を販売するとか,そういったことは,たとえ「授業の過程」における使用を目的とする場合であっても,そもそも「必要と認められる限度」に当たらないか,あるいは,その出版物が,学生が各自購入する性格のものであればただし書に当たるため,基本的には,既に現行法上も35条の適用を受けないケースだろうと思います。
 ですから,先ほど岸委員から送信の期間の問題について御指摘がありましたが,たとえ35条を異時送信に拡大することになったといたしましても,だからといって,教育機関が著作物をいつまでも学生用サイトに掲載し続けることができるようになるわけではなく,例えば,当該授業から2年以上たった後の送信は「必要と認められる限度」を超える,といった判断がなされることになろうかと思います。
 ただ,「必要と認められる限度」という要件や「利益を不当に害する」というただし書は,どうしても不明確な部分が残りますので,それを一定程度明確にすべきではないかという茶園委員の御意見も理解できるところであります。とはいえ,例えば,異時送信は「○年以内」は可能といったような基準を法令や政令に書くことはなかなか難しいかもしれませんので,そうであれば,こういったことこそ関係当事者による御協議によって一定の目安を何らかの形で定めていただくというのが有用な方法と言えるのではないかと思います。
 2点目は,今後35条を見直す場合,どのような立法的対応をすべきかという点についてです。これについては,まず,きょう挙げられた三つの問題を同じようにとらえることはできそうにありませんので,どの範囲まで権利制限の対象とするかという点が,今後非常に難しい問題になるだろうと思います。ただ,少なくとも,一つ目の異時送信に関する限り,教育の目的上必要な限度で,権利者の許諾を得なくても行えるようにする必要がある一方で,幾ら教育利用といっても,権利者に著作物の無断利用を甘受させる以上は,そうした利用について権利者に一定の利益分配がなされてしかるべきだ,という方向性はコンセンサスが得られるように思います。そして,それは教育機関における著作物利用に関する国際的な状況にも合致するものですし,条約上のスリーステップの観点からも要請されるところかと思います。
 さらに,先ほどからも御指摘がありますように,権利者団体等が既に教育機関に対するライセンスによって収益を得ているビジネスがある場合,法改正によって,そうした収益を得る権限が失われてしまうことには慎重であるべきだろうとも思います。
 そうしますと,これを実現する方法は概ね三つあると思っております。一つ目が,法定許諾,すなわち,権利制限プラス補償金請求権にする方法です。二つ目が,イギリス法に見られるようなライセンス優先型の権利制限規定,すなわち,権利制限する一方で権利者によるライセンススキームが用意されている場合にはこの限りでない,とする方法です。そして,三つ目が,ECL(拡大集中許諾)です。
 先ほどからの議論を伺っておりますと,それらのいずれを念頭において議論されているか必ずしも明確でないところがあるように思いますけれども,もしかすると,二つ目のライセンス優先型権利制限規定に対するシンパシーを示しておられるのかなと感じられる御意見が少なくなかったように思います。
 確かに,ライセンス優先型権利制限規定というのも一つのアイデアであります。といいますのも,ライセンス優先型権利制限規定の場合,権利者団体がライセンススキームを用意している著作物利用については権利制限の対象にならないわけですから,教育機関に対して著作物の送信等について既にライセンススキームが用意されているという場合,権利者は現状の排他権に基づくライセンスを継続できるからであります。
 ただ,ライセンススキームというのは,飽くまで排他権に基づくライセンスですから,使用料の決定も権利者が自由にできますし,特定の著作物利用について使用料を高くすることも基本的に可能だということになります。その結果として,教育機関が支払う額が極めて多額になってしまうことになりかねず,それによって著作物の円滑な利用が妨げられるおそれもあることから,それでよいのかという問題が指摘されています。また,結果として,――そのようなことが実際にあるかどうかはともかくとして――権利者が特定の著作物利用について極めて高額な使用料を設定することも妨げられないことになり,これによって事実上,権利者がオプトアウトできることになりはしないかということが問題になります。したがって,ライセンス優先型権利制限規定についてはいろいろと検討が必要かと思います。
 ただ,これと似たような制度は,日本の著作権法にも全くないわけではありませんで,現行法37条3項ただし書,あるいは,37条の2柱書ただし書というところに,権利者が自ら障害者のための著作物提供サービスを行っている場合には権利制限が覆るという規定があります。これが,ライセンス優先型権利制限規定に近いといえば近いのですけれども,権利者が自ら障害者のための著作物提供サービスを行うということと,ライセンススキームを用意するということは,同じではありませんで,権利者が自ら障害者のための著作物提供サービスを行うことは難しいけれども,単にライセンススキームを用意することは容易と考えられます。したがって,ライセンス優先型権利制限規定というのは,基本的に権利制限が覆りやすいタイプの規定だと理解すべきではないかと思います。それでよいのだという考えもあるかとは思うのですが,この点は検討を要することと思っております。
 いずれにしましても,日本の著作権法は,完全な排他権か,権利制限による無許諾無償の完全自由か,というオール・オア・ナッシングの規定が多すぎるので,今後は「法定許諾」すなわち権利制限プラス補償金請求権という規定を活用すべきだというのが,かねてから私の持論なのですが,本件のような教育機関における著作物利用については,まさに法定許諾という形で対応するのが適切な問題ではないかと考えております。
 現行法においても,参考となる法定許諾の規定がありまして,例えば,36条2項は,予備校が行う模擬試験のように,営利目的で著作物を試験問題として複製等することは,権利者の許諾を得る必要はないけれども,「通常の使用料の額に相当する額の補償金」を支払うものとされており,その額について争いがあれば,最終的には裁判所によって決定されることになっております。
 教育機関における著作物利用につきましても,このように法定許諾にする改正を行うのがよいのではないかと私は考えております。そのように改正しても,現状において,ライセンススキームを用意して著作物の送信等について教育機関から使用料を収受している権利者団体が,――それが「ライセンス」という形ではなくなるとしても――金銭の収受権限を失うわけではありません。そして,その金銭を幾らにするかということについて,関係当事者の協議がなお有効な方法になると考えられるからであります。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。御指摘いただいたところを踏まえて,今後の検討に反映していきたいと存じます。特に共有のところについて御意見はございませんでしょうか。教員間の著作物の共有だけでなくて,教育機関における著作物の共有,例えば,佐賀県が要望されたといいますか,ヒアリングの中で御紹介があったのですけれども,ああいう形ですね。教育機関の中での著作物の共有について,何か御意見がいただければと思います。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】著作物の共有に関しては,35条のたてつけの問題もありますけれども,まず,授業を担当する人なり授業を受ける人ということから出発していくことから考えたときに,同じ授業のために教員同士,学生同士が協力して,例えば,一つの学校の中でということであれば,まだいいのですが,私自身は教育機関を超えた,機関同士の間でということについては,教育期間内と全く同じようには扱えないのではないか,かなり差がついてくるのではないか,と思います。全く認めないかどうかは別として,やはり,少し範囲が広がりますし,そういう形で使う場合は時間的な余裕もあり得ましょうから,先ほどの話ではありませんけれども,ライセンスを取るなりの手当をする余裕は出てくるのではないかと思います。もちろん,連合大学院とか,そういう形で協働してすること自体が一つの教育機関として認められているという例外を除いて,まずは教育機関の中にとじる形と,教育機関を超えてということは,同じ共有の問題であっても,特に権利者に対する,与える影響であるとか,権利制限の必要性の点では差が出てくる。その差をどういう形で調整するかという議論が私は必要ではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】共有の点も,最終的には共有も一定の範囲でした方がいいのでしょうが,前にアーカイブあたりのときにも申し上げましたが,このようなものはスピード感をもって,できるところ,手堅いところ,一番基礎のところから始めていくのが重要だと思います。今,女性の方も言われたとおり,まずは今の35条の延長線上というか,当該授業での今まで紙で配布していたものあたりからしっかり固める。そういうものと,先ほどの最終的な共有というのはかなり距離感もあって,ライセンスのしやすさとか,あるいは補償金の必要性とか,いろいろありますので,最終的には共有も視野に入れつつも,まずベーシックのところをきちんと固めた上で,応用問題のような形で考えていくということになると思います。まずは,できるところからやる。一番必要性の高いところからスピード感をもって固めていくということが重要だと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにこの点についてございますか。
 森田委員,お願いします。

【森田委員】共有ではなくて,先ほどの点に戻ってよろしいでしょうか。

【土肥主査】はい,どうぞ。

【森田委員】全体の問題の立て方にも関係することですが,最初の回は私は欠席しましたが,そこで説明がなされました「ICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書」を拝見いたしますと,諸外国においては,いずれの国でも,法律上の権利制限とライセンスの組合せによって対応が図られていることが示されております。そのような方向性は,この小委員会の場でも度々指摘されているところですが,問題は,権利制限とライセンスをどのように組み合わせるかということだろうと思います。その点を詰めていくことが,いろいろな論点についての検討を進める上で重要だと思いますが,そのライセンスという場合に,諸外国で,法制上の位置づけは異なりますが,共通しているのは,包括的なライセンスという形を採っているということです。例えば,学生一人当たり年間幾らというような形で,包括的なライセンスを結ぶ。そして,そのようなライセンスを結んだときには,一定の条件のもとで著作物が利用できるということであって,著作物を利用するさいに個別のライセンスをその都度取るというのは取引費用が高くなるので,それでよいとしている国はないように思います。
 そして,包括的なライセンスの対象がどういうものになっているかを見ますと,権利制限規定と補償金の支払などを結びつけているドイツやフランスにおいても,権利制限の対象とならないような著作物についても,包括ライセンスの対象には含まれていることが分かります。例えば,教育目的で作成される著作物などについては,権利制限の対象外であるけれども,包括ライセンスの対象には入っているので,そこで定められる一定の要件を満たしていれば,そのライセンスの枠組みの中で自由に使ってよいという組合せになっていると思います。
 このような観点から見ますと,今日の資料1の論点ペーパーは,どちらかというと,権利制限のところで線を引いて,権利制限のときにどう対応するか,権利制限外はどう対応するかという二本立てで扱われており,法制面だけを取り上げますとそのような問題の設定になりがちでありますが,他方で,ライセンスの問題を含めて考えるときには,そこにとどまっていたのでは十分な解決には至らなくて,両者をいわばひっくるめて解決を図るような包括的なライセンスが重要であって,そのようなライセンスを構築するようなインセンティブを当事者に与えるような法制度をどう作るかに問題のポイントがあるように思います。先ほどの主査がなされた整理では,制度面と運用面という分け方をされて,制度面はここで議論をし,運用面は関係当事者の自主的な努力に委ねるということであったわけでありますが,自主的な努力は今でもできるわけですので,それがうまくいっていないということは,自主的な努力に委ねただけでは前に進まないとしますと,そういうものを促進するための法制度としてどういうものを構想し,その中で包括ライセンスと権利制限規定をどのように組み合わせるかというところが,いろいろな問題を解く鍵ではないかと思います。そうしますと,論点の立て方も,縦割りではなくて,もう少しそのあたりの組合せといいますか,連動をどうするかという点に焦点を当てて,諸外国の様々な制度デザインが幾つか示されているわけですけれども,それぞれのメリット,デメリットを検討していくことが今後必要になるのではないかと思います。
 ここでの議論が,権利制限規定がどうあるべきかということが審議の目的だとしますと,35条の対象を広げるというだけで終わってしまいそうですが,ICT教育の推進を目的に加えるとなれば,権利制限規定は改正されたけれども,実態は何も変わっていないということでは余り意味がないことだと思いますので,そのあたり,権利制限の対象外のものも含めて相当な補償金を払えば,一定の要件を満たしていれば自由に使ってよいという形での解決を検討すべきではないかと思います。このような問題は,現在の紙媒体の場合における権利制限においても存在しているものであり,例えば,15人程度のゼミだったらともかく,400人,500人の大教室の授業で資料として配布できるかというと,ただし書との関係でクリアできないというときには,配布しないということで終わるということになりそうですが,一定の要件を満たして包括ライセンスの枠中ではこの範囲だったら配っていいですよと,ただ,そのときには無償ではありませんよという枠組みを併せて用意するかどうかという点が同様に問題となります。このような全体的な検討というものが,促進という観点から重要だと思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。森田委員のおっしゃるところ,重々,私もそう思っているところでありますけれども,私は口下手なもので制度面と運用面について誤解を与えたのであれば,おわびしたいと思います。運用面というのは非常に重要なところであるわけでありまして,それは制度面に係ってくるという認識の下にお願いしたところでございまして,運用面における話合いの中で出てきたところを,この小委が受けとめるという認識でおりましたので,よろしくお願いいたします。
 それから,余りもう時間がなくなってまいりましたので,最後の論点2の(3)でございますけれども,このMOOCのような一般人向けの公開講座における著作物の利用の円滑化につきまして,御議論をいただければと思います。時間の関係もございますので,(ア)の教育機関における著作物の利用の実態と課題としての論点,それから,(イ)の著作物利用の円滑化を図るための検討事項の両方について御意見を頂戴できればと思います。どうぞお願いいたします。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】先ほどの(2)の共有の問題と一緒にお話しさせていただきたいと思うのですが,私が教員なり,この3番のMOOCの社会人だという立場で,どちらにしても仲間内で著作物を,例えば,丸々本を1冊共有できることになるとすると,明らかに著作物についての市場を奪ってしまうことになります。この辺のところはライセンスの対象の問題であると思います。ICT教育を推進するという目的からいうとライセンスの問題だけれども,では,そのライセンスをいかに円滑に取得するようにしていくのかという問題,課題なのだろうと私は理解しております。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。最初の茶園委員のICT教育という場合のスコープですね。このあたりのことを恐らく意識されておったのではないかと思うのですけれども,何かございませんか。MOOCにおけるこういう著作物の利用において。特に御意見ございませんか。

【茶園委員】私はMOOCの場合は,これを著作権制限の対象とすることはなかなか難しいのではないかと思います。教育については,少なくとも今は対面教育が中心であると思います。今後も対面教育が中心であり続けるのかどうかは全くわかりませんが,少なくとも現時点では主たる地位を占めているでしょうし,対面教育の場合は範囲が明確になるということがあります。
 そこで,対面教育については,権利制限とか,あるいはライセンスとの組合せとか,いろいろ考えられるのですが,そのような伝統的な教育を離れたところでは,対象が不明確になってしまうように思います。MOOCが大学の社会貢献活動となることは十分理解できるのですけれども,そういうものも権利制限の対象にすることは難しいと思います。これを権利制限の対象とするならば,先ほど申し上げたような授業における制限が,ほとんど無意味化するのではないでしょうか。何か考えるとすると,先ほど言ったような組合せの中のライセンスの方で対処することがよろしいのではないかと思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 では,大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】これも先ほどから大前提になっていて,35条もその前提になっていますけれども,これを一定の権利制限の対象とすることに余り皆違和感がないのは,初等中等なのか,高等なのかは別として,教育という非常に公益性の高いものが一方にあるから権利制限をしてもさほど正当性のところに余り異論がなかった,正当化根拠に異論がなかったと思われます。他方で,茶園委員も御懸念されているように,そのようなものからだんだん外れれば外れるほど,それが薄まってきてしまいます。私もMOOCもどんどんやっていった方がいいと思いますが,余り混ぜてしまわない方がよいように思われます。初等中等にしろ,高等にしろ,まずそのような一定のイメージがあって広がり過ぎるということも余りない,教育としての一定の共通イメージがあって,35条の土台として権利制限をすることに余り異論がないようなものと,そうでないものを余り混ぜ合わせてしまうと話が混乱してしまうように思われます。まず重要なのは教育の概念です。ここでは,教育というのは狭い意味での伝統的意味での教育と呼べるかもしれませんけれども,MOOCになってくると権利制限というよりはライセンスの方の話の色彩が強くなってくるのかなと思います。そのような意味では,教育と広く言えばいろいろなものが入って国民に対する情報提供が皆教育なのかもしれませんけれども,そういうことよりも伝統的なイメージでの教育というもので一つピン止めというか,きちんとやった上で,それ以外のものを考えるというように,両者をきちんと区別した方が,議論が混乱しないのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。35条そのものが非営利の学校その他の教育機関となっておりますので,どうしても主体は広くならざるを得ないわけでありますけれども,その中においていろいろな教育機関が,初等教育,中等教育,高等教育,あるいは社会人教育,生涯教育,専門学校の教育とか,様々あるわけでありますので,そのあたりを十分意識しながら今後議論を進めていければと思っております。
 MOOCについても基本的な方向性としては進めていくべきであるということでありますけれども,その場合については基本的にはライセンスをまず考えていく必要があるのではないかと思います。特にこの点について御議論ある方はおられますか。
 森田委員,どうぞ。

【森田委員】先ほどの点に関わりますけれども,権利制限をした場合にも補償金の支払と結びつけるということになってくると,ライセンスとの相違は相対的になってきます。また,対象の一般向けというのをどう定義するかについて,例えば,現在でも科目等履修生というのがありますが,一定の登録をして何らかの形で学生の身分を取得するということになれば,MOOCでは学生の数が増えるだけであって,余り違わないように思います。ただ,包括的なライセンスにおいて学生一人当たり幾らという形で補償金の額を定めるときには,それが膨大な額になって実際上は支払えなくて利用できないということはあるとしても,制度そのものがMOOCだから必然的に違ってくることになるかといえば,必ずしもそうとはいえない可能性もあります。したがって,この点は,元々の法制度をどのように組むのかという点を詰めていかないと,こちらの問題についても最終的な答えは出ないと思います。要は,応用問題という面が強いのだと思います。そうしますと,応用問題は時間的な関係で先送りにして,優先度の高いところ検討するということはありえますが,アプリオリにこの問題は権利制限とは関係のないライセンスの問題であると捉えることが適切であるかどうかについては,若干疑問を持っています。

【土肥主査】ライセンスと言いましても,包括的なものも含めて考えておりますので,今後の議論になるわけでありますけれども,こういうMOOCのようなものも視野に入れて議論をしていければと思います。
 大体本日予定されておる時間になりつつありますので,そろそろ次長もお帰りでございますので,締めたいと思いますけれども,最後に何か御意見,これだけはということがもしございましたら。
 龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】先ほどの話に戻りますが,確かに権利制限にふさわしい分野があるということですが,他方,教育マーケットの分野はビジネスとしては非常に大きなものがあると思います。今後いろいろな事業者がこの分野を目指して参入してくる可能性があるのではないか。その中で当初からアプリオリに広い権利制限を掛けてしまうことには,やや躊躇を覚えないでもない感を受けます。
 ことに市場形成分野への影響という話が,先ほどありましたが,既に形成されているものだけではなくて,今後形成されていくと言いましょうか,そういう分野がかなりあるのではないかという感を覚えます。その意味で権利制限とするとしても,それは次第にライセンスに食われていく過渡的なものであって,いずれ集中管理体制,例えば,イギリスで見られるようなCLA,あるいはERAといったものが完成形になるべきであって,権利制限はその間の過渡的な存在なのではないか。飽くまでライセンスが優先なのであって,教育機関内の共有も含めて,全てをカバーできるのが完成形としては優れていると思うわけです。その意味で,権利制限を入れるのであれば,時限立法ということは無理かとは思いますが,いずれそちらに集約,収斂していくのだという流れを作るような仕掛けが何か考えられないかという印象を受けました。

【土肥主査】ありがとうございました。実質的な議論に入りましたのは,事実上,今回が最初でございまして,本日,各委員の御意見を相当たくさん頂きましたけれども,こういったことを踏まえて今後の議論に資していきたいと考えております。時間もきておりますので,きょうの委員会の議論はこのくらいにしたいと思います。
 最後に事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】本日はありがとうございました。次回の小委員会につきましては,改めて日程調整をさせていただきまして,確定次第,御連絡いたします。
 なお,冒頭でも紹介しました机上の配布資料の「事例」と書かれた二つの資料につきましては,机上にまた残していただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

【土肥主査】今,事務局から要望のあった,この事例1の「おくのほそ道」と書いてある資料でございますけれども,よろしくお願いいたします。
 それでは,これで法制・基本問題小委員会の第4回を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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