文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第5回)

日時:平成27年9月30日(水)
10:00~12:00
場所:文部科学省東館 3F1特別会議室

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)教育の情報化の推進について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
第5回法制・基本問題小委員会における教育の情報化の推進に関する論点(案)(200KB)
資料2
教育の情報化の推進に関する論点と前回の議論について(350KB)
参考資料1
教育の情報化の推進に関するこれまでの議論等について
(平成27年度法制・基本問題小委員会(第4回)配布資料2)
(387KB)
参考資料2
第15期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(61.9KB)
 
出席者名簿(45.7KB)

議事内容

【土肥主査】おはようございます。それでは,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第5回を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席を賜りまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますが,特にこの点,御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 最初に,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】それでは,お手元の議事次第,下半分のところを御覧ください。資料1としまして,教育情報化の推進に関する論点の案,資料2としまして,各論点に関するこれまでの議論について,参考資料1として,前回の配布資料である議論の整理について,参考資料2として,委員名簿を御用意しております。足りないもの等がございましたら,お近くの事務局員までお伝えください。

【土肥主査】それでは初めに,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,1教育の情報化の推進について,2その他,2点でございます。早速議事に入るわけでございますけれども,本日は,前回の本小委員会で示されました教育の情報化の推進に関する主な御意見と,既に議論を頂いておる論点について,事務局からまとめて御説明を賜りまして,意見交換を行いたいと思っております。
 最初に事務局から,これまでの状況なり,主な御意見,そういったものを御説明いただければと存じます。

【秋山著作権課長補佐】それでは御説明申し上げます。本日,資料1,2は各論点のみを抽出したものを御用意しておりますけれども,資料2は,その各論点に対して,前回委員の先生方から頂きました御意見を整理したものを御用意いたしました。したがって,資料2に基づきまして御説明したいと思います。なお,それまでのヒアリング等で出た御意見については参考資料1にまとめておりますので,これはまた別途の参考ということで御覧ください。
 それでは資料2をお願いいたします。
 まず,ICT活用教育を推進することの意義につきまして,前回,参考資料1の方で,メリット,重要性,教育政策上の位置付けなどを御紹介したわけでございますけれども,これに関しては,先生方からは,デジタルの優位性を評価するという御意見があり,そのためにもデジタルもシームレスにするべきといった形で,前向きな御意見があったところでございます。
 次に,2番,教育関係者から要望のあった各事項についてでございます。(1)は,いわゆる異時送信と言われるものであります。
 そのうちの(ア)は,著作物の利用実態と課題についてです。これに関しては,おおむね教育機関で行われている著作物利用の中には,32条の適用範囲を超えるものがあるのではないかという御意見が幾つかあったと承知しております。
 一つ目のマルでは,対象となる著作物ではなく,その著作物の中で取り扱っている事柄を論評するという形で,説明の材料として使用するという例が挙げられておりましたし,また,二つ目のマルでは,理系や医系分野の図表や写真,工学系のコンピューター・プログラムといったようなことも,引用で処理できないのではないかという御意見もございました。
 また,引用自体は一般条項的になっており,利用できる範囲は相当広いという御意見がありましたが,一方,教育関係者としては,実際は適用範囲がクリアにならないと使いにくいということもあったという御指摘もございました。
 次のページをお願いいたします。
 次に,今回,前回の御意見に基づき,ICT活用教育の推進に向けた著作物利用円滑化方策の検討の視点についてという論点を新たに立てております。
 ここでは,まず一つ目のマルでございますけれども,この議論がICT活用教育の推進を目的とするならば,権利制限規定は改正されたが,それ以外の部分の利用ができないために実態は変わっていないということだと意味がないのではないかということで,権利制限以外の部分についても枠組みを用意するといったことを議論するべきでないかという御指摘がございました。
 また,二つ目のマル,三つ目のマルに関しては,包括的ライセンスと権利制限規定の組合せなど取引費用の低減を考えていくということでございました。
 また,四つ目のマルでは,集中管理をしっかり広げていくということをやった上で,権利制限の在り方も,これに絡めて考えていくべきではないかという御意見でございました。
 次に,ローマ数字2番,権利制限による対応の必要性・正当性,あるいは許容性といったところでございます。
 これに関しましては,まず一つ目のマルですけれども,紙とデジタルをシームレスで利用できるようにすべきだという御意見でございました。
 次のページをお願いいたします。
 また,権利制限の導入に前向きな御意見として,高等教育機関における単位の取得に係る学校教育制度の要請といったことを踏まえて対応すべきではないかという趣旨の御意見。
 それから,教育の公益性に関する言及や,豊かな教育を受けられるようにという,教育の質の向上に関する御意見が,二つ目,三つ目のマルであったかと思います。
 また,四つ目のマルでは,手続上の負担軽減という視点が重要ではないかというような御意見でありまして,紙とデジタルで権利者の利益を不当に害しない範囲は違ってしかるべきではあるけれども,カテゴリカルに異時送信が35条の対象外となることは避けた方がいいのではないかという御意見がございました。
 また,五つ目のマルは,利用すべき著作物の価値とトランザクションコストの差が,教育においては大きいのではないかという御指摘。
 また,六つ目のマルでは,権利制限規定の正当化根拠としまして,許諾を得ることは不可能又は困難という市場失敗の問題と,利用行為の社会的意義という外部効果の両方が挙げられるのではないかという御意見。さらに,最後の文章ですけれども,教育という場面では,許諾を得られた著作物のみ利用するという性質にはなじまず,網羅的な著作物の利用が必要だという御意見でありました。
 それから,これに対しまして,35条の権利制限規定の趣旨というのは,契約による対応可能性,困難性であるという御意見,市場の失敗を背景としたものだという御意見でありまして,現在はそういう困難性が低下しているんじゃないかという御指摘でございました。これに対しては,しかし,まだ簡単に権利処理できないものもあるのではないかという御意見もあったところでございます。
 そして下から二つ目のマルですけれども,権利制限自体に賛成であるが,実際教育機関において守られるのか不安,デジタルだと紙のようにコピーの時間や紙代などの費用がかからないため,法の許容する範囲以上に利用されることにならないか,デジタルの特殊性に鑑みて,法律で明確に制限をかける方がよいのではないかという御意見でございました。
 以上が法制的な観点の御意見だったかと思いますけれども,これに加えて,法の運用体制に関する御意見もございました。最後のマルのところでございます。制度論の検討と同時に,運用面の検討も必要であると。それは規定の円滑な解釈や運用を促進するためのガイドラインの策定や,著作権保護意識に関する指摘に関わることなどについて,教育機関と権利者の間で話合いをすべきではないかと。そうした議論と審議会による制度の議論と,両輪で進めるべきでないかという御意見でございました。
 次のページをお願いいたします。
 そのほか,運用上の課題として述べられたことに関して,教育機関の運用体制上懸念があって権利侵害がなされる可能性が増すといって権利制限が認められないというのはおかしいのではないかという御意見もございました。
 このほか,ライセンス体制の議論ということも必要じゃないかというのが,この後の二つのマルのところでございます。
 こういった御議論を踏まえまして,今回更に御議論いただきたい点として,点線囲みにしております。ここでは,仮に権利制限の対象とする場合に,その範囲をどのように考えるのかというふうに論点設定をさせていただきました。具体的には,紙と同様の範囲,紙というか,複製ということでございますけれども,とするのか,若しくは,紙でできる範囲とは別とするのかということであります。
 視点としましては,今の35条の要件として,主体,目的,利用行為,そしてただし書と,四つの要素があるわけですけれども,それぞれの要素で別段の手当てが必要かどうかというようなことを議論いただければと存じます。
 続きまして,ローマ数字3に入ります。aですけれども,市場が形成されている分野の影響についての御意見をまとめさせていただいております。
 まず総論に関する意見としましては,一つ目のマルにおいては,財産権に関わる議論であるため,既にビジネスを行っている方に対する配慮が必要ではないかとの御意見。
 それから,スリーステップテストの関係で,これも市場が形成されているものへの慎重な対応を求めるという御意見が,二つと三つ目のマルの御意見において述べられています。
 それから,そういった御意見を具体化する内容としましては,この下の部分でございますけれども,まず一つ目が,既に市場が形成されている分野に加えて,今後市場が形成されていく分野に対しても配慮が必要ということで,集中管理体制が完成するまでの過渡的な制度であるべきではないかという御意見でありました。
 また,市場が形成されており,合理的な手続や対価によって許諾を出す仕組みが形成されているものに関しては,ただし書で権利制限から除外されると考えてはどうかという御意見がございました。
 次のページをお願いいたします。
 それから,ライセンスに関することですけれども,取引費用の観点から,包括的なライセンスを構築するインセンティブを与えるような法制度が重要ではないかという御意見がございました。
 それから,ライセンススキームを優先させるという考え方に関して,これに対しては,権利者側が使用料を自由に設定でき,そして事実上オプトアウトに近いことができるようになるのではないかということや,また,利用者が高額な使用料を支払うということに対しての消極的な見解が示されました。
 こうしたことを踏まえまして,今回更に御議論いただきたい点としては,以下のとおりでございます。すなわち,権利制限の対象範囲とライセンスビジネスの関係をどう捉えるべきか。具体的には,教育機関が利用可能な形で用意されているライセンススキームについて,権利制限の対象外となるべきものがあるのかどうかということと,その範囲について御議論いただきたいと思います。
 続きまして,論点b,補償金請求権付与の要否でございます。
 これに関しては,まず一つ目のマルですけれども,既にビジネスを行っている方に対する配慮というのが必要ではないかという御意見の中で,補償金請求権についても言及がございました。
 また,同様に,スリーステップテストの関係で,その必要性を肯定する御意見などもございました。
 それから,四つ目のマルの二つ目の文ですけれども,仮に補償金制度が付いたという場合は,その分だけ利益が還元されるのであるから,権利制限の範囲は広くてもよいのではないかという御意見がございました。
 さらに,補償金請求権の運用に関する指摘ということでは,その次のマルですけれども,孤児著作物については,徴収や分配の実務上の問題が残るのではないかという御意見。
 それから,こういう補償金請求権のような仕組みの導入は,運用面にかかっているという御意見でございました。
 こうした御意見を踏まえまして,更に御議論いただきたい点としては,2点挙げてございます。
 まず一つ目,仮に公衆送信に関する権利制限を創設し,それに併せて補償金請求権を付与するとした場合には,現行法35条1項との差異も含めて,その理由をどのように説明するのかということについて御議論いただきたいと思います。
 また,それに加えまして,補償金制度運用上の課題についての指摘について,どのように考えるかということについても御議論をお願いしたいと思います。
 続きまして,論点c,制度の円滑・的確な運用を促進するための取組についてでございます。この点は,先ほども御紹介したように,ガイドラインの策定や著作権の啓発に関するような取組に関して御指摘がございました。ここは詳細の説明は割愛させていただきます。
 次に,論点d,権利制限規定の対象外となる著作物の契約による利用円滑化方策でございます。これも先ほど御紹介した御意見が幾つかございまして,若干飛ばせていただきまして,7ページをお願いしたいと思います。
 一つ目のマルのところでは,まず本来的な在り方として,集中管理を進めるべきだという御意見でありまして,その中で,孤児著作物の拡大集中処理も含めて広げていくということが必要ではないかという御意見でございました。
 次の論点としましては,関係者間で議論されるべき内容ということを掲げさせていただきました。こちらは前回の御議論を踏まえて新たに立てさせていただきましたが,これは確認のために整理させていただいたものでございますので,こちらも省略させていただきます。
 次のページをお願いいたします。
 次は,教育機関からの要望事項の二つ目であるところの,いわゆる教材等の共有に関する議論でございます。これに関しても異時送信と同じく,まず(ア)の方で,著作物の利用実態と課題,それから(イ)の方で,権利制限規定の必要性・正当性といったことについて御議論いただきたいと思っております。
 これまでの御議論としては,まず教材を同じ学内ないし他の学校で利用できなければ,ICT活用教育の効率的な利用ができないということがございました。その際,権利制限だけではなくて,恐らくライセンスということではないかと思いますが,他の方法と組み合わせて検討するべきであるという御意見でございました。
 次の御意見としましては,教材の共有ということであれば,ライセンスを取る時間的余裕も出るので,授業のための利用とは同じに扱えないのではないかという御意見がございました。
 次に,学校内での共有はいいが,教育機関を超えた共有は同じに扱えないのではないか。権利者に与える影響や権利制限の必要性には差がある,という御意見でございました。
 また,最終的には一定の範囲で権利制限を行ってもよいが,まずは異時送信の部分からやってはどうかという御意見がございました。
 この共有の問題に関しては,更に御議論いただきたい点として,2点掲げさせていただいております。
 1点目は,確認的な部分もございますけれども,教育政策上の意義や契約による対応可能性も踏まえて,また,教員本人による授業過程での利用の場合との差異も含めて,権利制限規定の正当化根拠の有無や理論構成について,更に御議論を頂きたいと存じます。
 また,二つ目の点としまして,教育機関内における共有に限定すべきか,教育機関を超えた共有を認めるべきかということについても御議論いただきたく思いますし,更に市場が形成されている分野への影響や補償金の要否についても議論をお願いしたいと思います。
 9ページをお願いいたします。
 三つ目の,MOOCのような一般人向け公開講座に関する議論でございます。こちらも(ア)と(イ)として,同様の論点を設定させていただいております。前回の御意見としましては,主に4点ございました。
 1点目は,MOOCを権利制限の対象とするのは難しいのではないかという御意見でありまして,これは,教育機関が行う情報提供であれば全て教育となってしまって,全て権利制限の対象とするというのは包括的になり過ぎるということで,授業における制限が無意味化するのではないかという御意見でございました。
 また,二つ目のマルですけれども,MOOCについては,35条の正当化根拠である公益性が薄まっていくのではないかという御意見。
 そして三つ目ですけれども,MOOCは進めていくべきであるけれども,ライセンスによるべきではないかという御意見。
 そして四つ目です。こちらは,対面の一般人向けの公開講座とMOOCでは,受講者の数が増えるということ以外は違いはないのではないかという御意見であったかと思います。すなわち,一般人向けの講座とは何なのかということを法的な意味で定義をした上で,この制度について議論をしていくべきではないかという御意見であったかと存じます。
 これらを踏まえまして,MOOCに関して更に御議論いただきたい点としましては,こうした権利制限の対象とすべきではないということに関する,どのような理由付けをするのかということでございます。
 最後に,またこれも一つ新しい柱を立てさせていただきましたが,(4)として,著作権以外の課題についてということを記載させていただいております。こちらは,前回の議論の中で,著作権以外の肖像権やパブリシティー権の問題もあるのではないかと。著作権の手当てだけ考えるということでは,結局教育機関が困ることになるのではないかということで,この文化審議会の審議事項ではないわけですけれども,こうした点にも意識が必要だという御意見がございました。
 御紹介は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは本日は,ただいま説明を頂きました資料の2ですね,これに沿いまして,前回の議論の概要を確認しつつ,事務局でただいま整理していただいた更に議論を深めるべき点を中心に御議論いただければと,そのように思います。
 まず1ページですけれども,1ポツの,一番上にあるICT活用教育を推進することの意義につきましては,3点ほど御紹介あるわけでございますけれども,特段異論はなかったものと。その意義については,大いにこの委員会においても御承認いただけたと存じます。
 それから,真ん中辺りにある2の(1)ですね。(ア)でございますけれども,ここは異時送信に関するところでございますが,これに関わる著作物の利用の実態と課題につきましては,現行の権利制限規定,具体的には32条で認められる引用の範囲を超える部分,こういった部分があると,このように御指摘されておられますし,また,そういう意見があったわけでございまして,一定の課題があると考えられておるものと思っております。35条がICT時代に対応すべき事項ということについては,これは存在するということでの本委員会での意見かと承知しております。
 それから,めくっていただいて次のページ,2ページでございますけれども,(イ)のローマ数字の1というんですか,(1)でございますけれども,これにつきましては,検討の視点として,本政策課題解決のためには,権利制限規定の在り方のみならず,ライセンスによる利用の促進方策も,これと組み合わせた,いわゆるベストミックスの対応ですね,こういったものについての議論が必要であるということだと承知をしております。
 もちろんこの点は,具体の制度設計は別にして,総論としては,この点については異論はなく,問題はこの先の,どういう形が最も好ましいベストミックスな形かということについては,この後,議論をしていきたいと思っております。
 それから,2ページの下の方にある(2)のところでございますけれども,権利制限による対応の必要性等については,一定の範囲で見直すことが適当であるという前向きの意見が大勢であったと承知をしております。一方で,権利者の正当な利益への配慮,あるいはデジタルとしての特性,そういったものを踏まえた具体的な要件の設定の必要性の検討を行うべきであるという,そういう意見もあったわけでございます。いわゆる,ある種,慎重さも必要ではないかと,こういうことでございます。
 それから,更に運用の面の課題について並行して検討する必要があるという議論がございますし,私もそのように思いますし,事務局に対して関係者間での協議の場というものを設けるようお願いしたところでございます。
 つきましては,今回からは,この次以降の論点に書かれておる,法制面に関する具体的な論点についての議論に入りたいと思っております。特に更に御議論いただきたい論点として事務局から提示のあった,仮に権利制限の対象とする場合に,その範囲をどのように書くかということでございまして,この点についての御意見というものを頂戴したいと思っております。
 この資料の2で言いますと,4ページ目のところの話でございます。そこにございますように,仮に権利制限の対象とする場合に,その範囲をどのように考えるかということでございます。紙と同様の範囲を対象とするのか,紙でできる範囲とは別とするのか,ここについての御意見を頂ければと思います。どうぞ御自由に御意見を賜ればと存じます。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】ありがとうございました。私は,前回までいろいろと意見を述べてきましたが,今回の細かい話に入る前に全体像をまとめておいた方が分かりやすいかと思います。先ほどのベストミックスという言葉で紹介していただきましたが,私が今まで感じておりましたことは,断片的に申し上げましたので,以下,わかりやすいように枠組みを整理した上で入っていこうと思います。
 今回やはり大きいのは,非常に関係性がありそうな32条と35条が現行の条文としてあることです。35条に補償金を加えるという立法的変更を加えない限りは,現在は32条も35条も無許諾で使えるし,特段請求権もなく金銭を払わないという,いわばフリーユースというような状態になった条文として二つある。
 私が申し上げた二本立てというのは,そういう意味での権利制限と,もう一つの流れは,まずはライセンスでいくということです。ただ,ライセンスが常にできるわけでもないので,あえてこの言葉を使ってしまいますと,強制ライセンスという意味での補償金の付いた形,これも権利制限ということになるのでしょうが,その二つの流れをきちんと分けて考えると議論が整理しやすいと思います。32条は,これまでも申し上げたもので,具体化のための規定を置くかどうかは別として,基本的には32条という実は少なからず一般条項性の強い条文があるだけです。
 また,大きいものとしていわば日本版フェアディーリングともいうべきものがあります。この言葉は私もまだ公の席では使っていないかもしれませんが,これは非常に一般規定的であるし,かつ,既に現行規定としてあります。以前もたしかアーカイブのときに,現行法の図書館資料の保存のために必要というのが,非常に一般性があって味わいのある規定だということを申し上げましたが,このような点を生かした形で考えていくことが重要だと思います。細かく規定し出すと,また対応するのが難しくなってくるので,32条のような一般規定的ものを残す形でうまく使いつつ,考えていくことがポイントだと思います。35条の方も,これも実は32条と同じような意味で,日本版フェアディーリングというのはやや言い過ぎかもしれませんが,ただし書まで全部含めて考えると,非常に柔軟性のある条文としてあるので,これも生かした形で持っていくというのが重要だと思います。
 それともう1点,35条では前も申し上げましたが,現行は紙について規定があって,これを公衆送信にどうするのかというのは,実は少しドラスティック過ぎるかもしれないので言い控えておりましたが,複製代替型公衆送信という言葉を使おうと思っているところであります。パスワードで完全に管理して,例えば35条ですと,一般的に言われているのは,ゼミの15人ぐらいのところでは,この数がどこまで増えるのかは別として,現行としては紙で配るのであればよかろうと思われます。ただ,現行法としては,公衆送信だと即不可というように条文文言上は読めますが,これに類推適用というものを介在させるかどうかは別として,普通,公衆送信というと無限に広がるようなものですが,パスワード管理をして,当該ゼミに入っている人の15名に限定するという形で縛りをかければ,複製に代替するものとして現行法でも読み得る余地もあるかもしれないと思われます。
 要するに現行法で,今申し上げたのが解釈論として行き過ぎかどうかは別として,32条も35条も,飽くまで広い意味で従たる利用ができるというだけであります。引用の場合には,どうしても付従性というのが問題になってきますが,そのような利用は現行法の方でいけるけれども,今後のICT教育では,従たるものでなく,もっとメインの形で使いたいというニーズには,32条,35条というのは対応できないので,これについては,権利制限ではなく,ライセンスで対応していくという形で,先ほどのようにベストミックスで組み合わせるということを考えていく必要があるのではないかと思っています。
 とりあえず以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。ほかに。
 松田委員,お願いします。

【松田委員】4ページの最初の点線内の論点でございますが,私の意見は,基本的には紙と同様の範囲内において情報をデジタル化して,公衆送信の制限規定を設けていいのではないかと考えております。
 紙と同様の範囲といいますと,授業の過程において提供する著作物がそれに当たって,それを複製するものは教員又は授業を受ける者という限定があります。この辺については,もう少し柔軟にしてもいいのではないかと考えています。
 制限規定で,公衆送信を広げるというのは,現在,紙の文化で著作権法が作られていますけれども,もうそれは間違いなく古い。小学生からタブレットを使って教科書・教材を使おうということになっていますから,それぐらいまで可能にしなければいけない。
 そうすると,授業の過程でプリントを配るのは,35条の範囲内でいいわけでありますけれども,その授業の過程が,次の授業の過程の場合であったとしても,プリントを配っていいわけですから,紙でも予習ができるわけですね。それから,プリントが配られたら,うちに帰ってそのプリントを見ていいわけですから,復習はできるはずですよね。だとしたら,公衆送信もその範囲内でできるようにしたらどうかと思います。
 しかし,この枠組みは,どうしても授業を受ける生徒・学生に限定されるわけであります。教育者間の,ないしは研究者間の利用は,まだこれではできないということになります。IT教育を促進するという役割は果たせていないと私は思います。
 そのところは,次は当該教育を受ける者だけではなく,教室で受ける者だけではなく,ないしは当該教員だけではなくて利用できるところまで考えていかなければならない。これについては,教育という枠の中で考えて制限規定を設けるとしても,補償金制度を導入すべきではないかと思います。
 さらに,もっとそれを研究の目的と,特に高等教育につきましては,教育の目的で使うということになりました場合には,これはライセンス制度において,これを可能にすべきだろうと思います。ただし,このライセンス制度は,ライセンス制度でやってくださいねと言うだけではなくて,教育場面については何らかの受皿を作って,利用形態を申請すれば協議ができるような制度を設けるべきだろうと思っています。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】やや議論が拡散しているように思いますが,今は,主査から御提案のあったこの最初の論点,つまり異時送信について権利制限を行う場合の範囲についてだけコメントさせていただきますと,確かに,紙の場合と送信の場合とでは事情が異なるところもありますから,同一の基準でいいのかという点は問題になろうかと思います。
 ただ,先ほど事務局からも御紹介がありましたように,既に35条には,その1項にも「授業の過程」であるとか,「必要と認められる限度」であるとか,そういった要件が定められていますし,ただし書にも「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない」といったような文言があります。ですので,紙の場合と違って,送信の場合であれば,そこにいう「必要」の範囲が変わってくることが考えられますし,また,ただし書についても,――1項には「複製の部数」という文言になっていますので,もし送信について1項で対応するのであれば,例えば,送信の範囲とか時間の長さを考慮できるような文言に修正する必要はあろうかと思いますけれども――,送信の場合であれば「著作権者の利益を不当に害することとなる」かどうかも変わってくると考えられます。ですので,現状の35条は,紙の場合と送信の場合との違いを考慮できる文言になっているように思います。したがって,私は今のところ,基本的にこの両者で基準を異にする必要はないのではないかと思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】似たようなことになりますが,全部とは言いませんけれども,早晩,紙はICTに置き換わっていくわけでありますから,基本的に紙でできることはICTでもできるべきであって,その上で,紙でできない,ICTでのみできることについては,必要性に応じて権利制限を認めていくべきということだと思います。紙をICTに置き換えるだけだと,あえて議論する意味も,これからの時代に薄くなってきますので,やはり踏み込むところは必要だと思います。
 そして,現状については,紙でできることがICTではできていないという可能性が高い状態です。例えば授業期間中の異時送信を可能にするというのは,これは紙でできることをICTでできるようにするという,まだその次元であって,更にそこから先,どこまでやっていくか。もちろんそこから先は紙と違ってくるわけですから,紙以外の考慮要素,調整要素等々は検討する必要があるだろうと,そういうことかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】私も基本的には,35条を紙に限定せずに送信するという形でもいいと思います。ただ,1点懸念しているところがありまして,その点も考えた上で作らないといけないのではないかなと思っております。
 といいますのは,今の紙の段階だと,授業で使うときに,教師の側の労力の問題もあるので,複製する部分も極めて限られた部分に限ると思います。例えば授業のときに,夏目漱石の「吾輩は猫である」のある部分を読むときには,必要最小限のその部分だけを恐らく配ると思います。しかし,デジタル化してオンラインで見られるという状態にするときには,教師の側の負担も簡単ですから,「吾輩は猫である」,1冊丸々,それを配信,サーバーに載せてしまうということも起こるでしょうし,参考文献として夏目漱石の全集も載せるというようなことも極めて簡単になってしまいます。その辺のところの歯止めをどのようにかけるのかということを,やはり検討しないといけないのかなと思います。

【土肥主査】前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】紙とデジタルの場合で区別をするべきかという話なのですけれども,教育の現場においてこれからは,そういった区別をすることにどれほどの意味があるのかという御意見があったところだと思いますので,シームレスに紙とデジタルと,紙でできたことはデジタルでもできるという環境を実現するべきだというのはそうなんだろうと思います。そういう意味では,35条の適用対象を,紙と同様の範囲において異時送信にも広げるというのは,基本的な方向性として,私は支持されるべきだろうと思っています。
 そして,現状の35条,例えば1項では,授業の過程における使用だとか,必要と認められる限度,それからただし書で,著作権利者の利益を不当に害しないというものが付いておりますし,今,2項では,授業を直接受ける者に対してというのも付いているのもありますが,仮に送信するとしたら,授業を受ける者に対してのみと,そういった現状あるような制限をかけていくことで,不当に権利制限の範囲が広がり過ぎるということも,解釈運用がきちんとなされれば,ないのだろうと思います。
 ただ,一つだけ思いますのが,例えば紙でやる場合には,物理的な制約があるということで,複製の範囲が必要以上に広がり過ぎることがないという,自然の制約がかかっている部分もあると思うのですね。一方で,公衆送信ということになると,そういう自然の制約が,条文には書かれざる制約が,なくなってしまうということはあるのだろうと思います。
 そういう意味では,公衆送信に広げるに際して,そういう自然の制約を代替するような形で特別の制限を課す。例えば授業を受ける者以外の者には送信されないようなパスワード管理をかけるとか,具体的にはそういう例が考えられますが,そういった義務を具体的に課すという形で,権利制限規定に特別のデジタルに対応した制限をかけるというのはあるだろうと思います。
 それ以外の部分については,デジタルの方がより著作権利者の利益を害する度合いが多いとかあるのかもしれませんが,そういうものは,現状あるただし書の解釈においても対応できると思います。現状あるような条文の解釈で対応できる部分もあれば,先ほど述べた意味で特別の規定を作った方がいい部分も,限定的ですがあるかもしれないと私は考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 どうぞ,道垣内委員。

【道垣内委員】私は毎回出席しているわけではなくて,休んだ回もあるものですから理解が十分ではないのですけれども,これまでの紙だけの世界だったときに,もしライセンス料金を支払うとすればどれくらいの金額だったのでしょうか。何桁ぐらいの話をしているのかが,まず分からない。その額がそれほど大きくないとすれば,トランザクションコストがあると思うので,今の規定は合理的なものなのだと思われます。
 ところが,先ほどから話がありますように,デジタルになると膨大な量のコピーその他がされるおそれがあって,音楽の著作権者とか,非常に弱いといいますか,コピーに弱い立場の方々もいらっしゃって,そういう方々のどれぐらいの額がこれで失われるのか,その負担を教育目的だという理由で押し付けてもいい額なのか。新しい技術の場合,どれぐらいのコストで管理できるのか。そういう金額の大きさが全然分からないので,御教示いただければと思います。
 私は基本的には,教育だからといってただで利用することができるというのは,やっぱりおかしいんだろうと思います。他方,いい教育をするためには使う必要があれば思いっきり使った方がいいので,ただし書の解釈を考えながら使うよりは,もっと自由に使わせてあげて,ちゃんとお金が回るようにするのがいいんじゃないかと基本的には思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】先ほど申し上げましたのが総論なので,今の論点に関して私も気持ちを申し上げます。今,道垣内委員が言われたのと全く同じで,教育をやっている人は皆そうだと思いますが,先ほど,32条は別として,35条のイメージとしてあるのが,教科書などを受講生の皆さん個人で買っていただくほか,それ以外にプリントとして配るということは,ぎりぎりのバランスが関係者の間で成立しているのが,この35条だと思います。それは先ほどもあったように,紙というのはコピーするのも大変だし,時間がたつとぼろぼろになってしまう。これはうまくできた紙という物の性質上,それほど複製に伴う不利益が広がらないというものであります。しかし,それをデジタル,つまり複製代替型,あえて言えば,紙代替型の公衆送信はどう捉えるかが問題であります。
 35条は紙を前提にしてできたものなので,それを公衆送信に入れ替えてみると,例えばパスワードの管理ですとか期限を設けるとか,方法はあると思いますが,そのようなレベルを超えて,先ほどいみじくも道垣内委員と山本委員も言われたように,もっと積極的に使いたい,例えば教科書を読んでくるということを前提に,授業では,その同じ内容が動いたり,立体的に使える電子教科書のようなものが黒板に出るようなイメージがあると,恐らくこの35条では対応できない。それならばもうライセンスでどんどんやるか,そこにフィージビリティーがないのであれば,強制ライセンスを利用して,使えるけれども補償金を払うという形になってきます。積極的に使う方は,ライセンスでお金を払うか,強制ライセンスの補償金で処理をし,従前のものは,お金を払わない範囲でも従たるものとしてできるという二本立ての形となると思われます。教育のニーズに応じて,35条のところでは紙を代替するといえる範囲内にとどまるということになりますが,もっと積極的にやる方向は別途積極的に考えていいのではないか。
 そのような意味では,ベストミックスと呼ぶかどうかは別として,やはり払う形と払わない形を二本立てにしてうまく使い分けていくというのが非常に重要な点ではないかと思っております。

【土肥主査】それじゃ,まず井上委員から,次,今村委員,お願いします。

【井上委員】ICT活用教育を推進していくためには,紙の発想でそれに代替するものは認めましたというような消極的な対応ではなく,ICT活用教育にふさわしい積極的な利用を可能にするということが重要だと思います。
 そのように考えた場合に,権利制限規定プラス補償金という枠組みで教員間の共有など様々な形の教育目的の利用形態に対応できるようにしてはどうかと思います。また,異時送信に関しても,補償金制度を入れるということを考えてもいいのではないかと思っています。

【今村委員】先ほど道垣内先生から,仮にライセンスをした場合に幾らぐらいの規模の話なのかというお話がありましたけれども,机上の配布資料の中にありますICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書の,例えばイギリスの例で言いますと,68ページにライセンス料金というものがあり,CLAとERA,これらの団体に関するライセンス料収入のことについて書かれていますが,教育機関からの収入が,日本円に換算して60億円ぐらいのライセンス収入があったということで,人口の規模も違うし,教育機関の規模も違いますから,一概に日本に当てはめてどうだということは言えませんけれども,イギリスではその程度の規模のライセンス収入を教育機関から得ているということでございまして,割と大きな規模なのではないかと思います。
 あと,今,紙同様の範囲と対象とするか,紙でできる範囲と別とするかという議論に関しまして,私も紙でできる範囲でできていることはICT活用でもできるようにするべきだとは思いますが,ただ,これまで権利者団体の方々の意見などを伺いましても,現行の35条の規定が,そういったライセンスをしている団体などにとっては,ライセンススキームを発展させていく上での妨げになってきた,抑制してきたという,そういうこともあるようなので,そういう意味で,ライセンスなどのスキームを発展させていくような仕組みも,あるいは補償金という形でもいいんですけれども,そういう仕組みを設けながらというようなことも考慮するべきなのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。これまで頂いた御意見を伺っておりますと,いわゆるICT教育というものについては積極的に推進すべきであるという,そういう全体的な御意見というものは,当然皆さん御指摘あったわけでありますけれども,同時に,やはり市場に対する影響の問題,あるいはデジタルにすることによって様々に生ずるであろう権利者の利益への影響の問題,ここのところはやはり出てくるわけですね。
 つまり現在のところでは,4ページ目のところで,紙でできることは当然ICTでもできるようになるべきであると,こういうことであるわけでありますけれども,市場に対する影響というものをどう見るのかということについても,ある程度出ておるわけでありますけれども,この点,いかがでございましょうか。市場に対する影響。先ほど英国の例で言うと,60億ぐらいという数字が出たわけでありますけれども,これは例えば一つの例でありますが,ここの部分をどう見るのか。
 井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】異時送信ということで,拡大というか,そういうことも含めますと,常にサーバーにコンテンツが置かれて,そのコンテンツも,かなり大量に保存することができる,それをいつでも取り寄せることができるということになると思うんですけれども,そうしますと,先ほどイギリスの例が挙げられておりましたけれども,そのイギリスの例がどこまで調査されたものか分からないんですけれども,ライセンスすれば得られた利益という直接的な影響だけじゃなくて,例えば百科事典とか学校の参考書ですとか,そういった直接な教科書とかそういったものではなく,その周辺のコンテンツにも影響が及んでしまうのではないかと,その辺の市場にも影響を及ぼすのではないかと,ちょっと懸念しております。
 一方で,35条の網で区別するということになりますと,現場も混乱する可能性,どこまでやっていいのかという混乱の可能性がやはりあって,対して他方で,積極的に使えた方がいいのではないかという要請もありますので,そうであれば,ちゃんとお金を支払って,強制ライセンスなり,そういった対応をすべきではないかと考えております。

【土肥主査】ありがとうございます。35条の問題で,市場に対する影響という問題は当然あるわけでありますけれども,いわゆる同時に,権利制限規定,補償金規定,それからライセンスという,このベストミックスも,当然併せて議論をしないといけないと思っております。そこで市場の影響の部分というのは,こういう3者のベストミックスとの関係ではどうなのかという,そこをお尋ねしたいと思っているんですが。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】まさしくそこのところでありまして,私は35条の先ほどのお話などを非常に意識しております。35条が現在広いのか狭いのかに異論があることを別とすれば,現行法の35条は,紙に関しては,利用の必要性を踏まえた上で,著作権者に対する経済上の不利益が制限的であって問題がない範囲でだけ35条で認めているという理解ですが,そこでは,経済的不利益が必要最小限のところにとどまるというただし書での縛りが大前提となっております。だから当然狭い。その上で,先ほどの議論は,現在できているバランスを公衆送信に移行するだけだから,当然,マーケットに必要以上の影響を与えるようなものは,35条に入らないということとなるのであります。35条以上の積極的な利用をしたい人は,先ほどのベストミックスのうちの,もっと積極的な利用の方のライセンス,あるいは強制ライセンスという,そちらのルートに行ってもらうこととなります。
 ですから,35条を公衆送信に持っていくというのは,当然のことながらかなり厳しく,市場に影響を与えるようなものは,入りません。市場の影響というものをどの程度のものとして理解するかは人によって違うかもしれませんが,権利制限を肯定できるだけの不利益性の小ささというのは当然前提となった上で35条に行きますから,その点はベストミックスのピクチャーの中では問題はないということであります。権利制限を肯定できるだけの不利益性の小ささというものを超えるケースについては,ライセンスないし強制ライセンスの方に行くという理解であります。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】論理的ではなくて,若干感触的な話で申し訳ないんですけれども,市場への影響ということを考える場合に,いわゆるエンターテインメントのコンテンツ,エンターテインメント分野での話と違う,教育分野の特殊性ということで若干申し上げたいなと思うんです。確かに先ほどから御指摘のあるように,ICTの場合,紙で複製するという物理的な制約がなくなることによって,利用頻度が増大するであろう,跳ね上がる可能性もあるだろうという,そういう御指摘があるわけで,確かにそういう面もあるだろうということについては同意をするんですけれども,一方で,これは私だけの感触かもしれないんですけれども,はっきり言って,たくさん渡しても,学生は基本的に読まないと思うんですね。渡せば渡すほど,どちらかといえば読まない。エンターテインメントの分野であれば,たくさんもらえば学生というか,誰でも喜ぶということはあると思うんですけれども,教育分野はそうではなくて,学生はむしろたくさんもらうと困るとか,嫌がるとかいう状態であるわけです。
 教育効果ということを考えると,やはりポイントを絞って渡すということは本来渡す方がやるべきことであって,真面目に教育効果を考えて取り組むと,必要な範囲というのと同じで,学生の学習限度という範囲に本来とどまる,ブレーキがかかるという点もあるのです。市場への影響というところを考えるときも,通常の著作物,エンターテインメントのコンテンツが,例えば権利制限規定が緩やかになることによって,たくさんコピーされる影響がある,歯止めがなく広がる方向だというのとは異なって,内在的に,本来真面目に教育目的に使えば,実質的に歯止めがかかる部分もあるということは,ある程度織り込まないと,市場に影響と区別なく言ってしまうと,教育分野での実際と異なって,非常に窮屈になってしまう可能性もあるかなという点を少し思いましたので,一言申し上げます。

【土肥主査】河村委員,どうぞ。

【河村委員】ちょっと観点が違うかもしれませんけれども,私の中ではつながっているんですけど,先ほどから紙だと歯止めがかかるというようなお話が出てくるんですけれども,紙だ,ICTだということの差なんですけれども,私の見方によれば,紙の方が残るんですね。紙って,別に大事に取っておけば,かなり保存できるものでして,何かICTだと広がるというのは,実感としては非常にこう。
 つまり,よく対価の還元のところで言われるみたいに,何か無制限にコピーが繰り返されて拡散されるとか,それはそうするともちろん侵害になりますし,それはもう別の問題で,メール添付とか,どこかのサーバーに行って1回だけ取り出すことができたデータを,変な話,ノートパソコンでもパソコンでも,数年で買い換えれば,それは全部きれいに置き換えればですよ,その教材で頂いたものを置き換えればですけれども,大概そんなことはしませんし,教材でもらったものを,絶対サーバーのどこかクラウドに取っておいて,もう一生取っておくんだという人も,先ほどの奥邨先生の話じゃないですけど,好きなエンターテインメントの作品ならともかく,それはないと思うんですね。
 そうすると,意外とデータの命って紙よりも短いというのが私の印象でございまして,ハードディスクは,いつか中身が消えるものです。かなり短い命しかないんですね。何か極端な話のようですけれども,クラウドの契約だって,その人がいなくなるか,パスワードを知っているその人がいなくなったら,もうそれは消えていくわけですけれども,紙というのは結構残るんです。きれいにファイルしておけば,父の書棚にあった書籍に限らず,紙は残るので,紙だから抑制がかかって,データだとどうとかというのは,これからの時代に,それをずっと何か法律を考えるときの基本の価値観にするのはどうかなという気がいたします。
 データだから丸ごとの本になるんじゃないかというお話もあるんですが,じゃあ手間をいとわなければ,今,紙で丸ごとコピーしてもいいのかというと,それは多分違うと。本1冊コピーして渡すということは,恐らく常識的に考えて制限に当たらないと思うので,何か簡単にできるということと歯止めがかからないということの話に,少し違和感を抱いております。

【土肥主査】ほかにございますか。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】デジタルの場合には,逆に学生は余り一生懸命,利用しないのではないかという御意見もありましたが,そのとおりだとは思います。ですが,デジタルの場合に,先ほど私が例で申し上げました夏目漱石全集をアップするというようなことが起こった場合に,それは教師の側としては,普通の生徒であれば余り該当部分しか読まないだろうなとは思っていたとしても,子供の可能性を考えて,どこまで研究できるのかというところに期待して,関連資料として全集もアップするということは,文脈上あり得ないわけではありません。
 ということを考えると,例えばそれを一時的に閲覧できるというのであれば,恐らく利用することはまずないでしょうが,それをダウンロードできるということになれば,それは一つの財産になるので,それを一生持っておくということだって起こり得ると思います。今,河村委員のおっしゃった,紙は残るというのは確かですが,先生の側が,1冊丸ごとコピーをするのは可能ですが,そんな手間暇かかることを今現実にしているかといったら,それは余りないのではないかと思います。ですので,1ページ,2ページ,コピーを取ったものが残っていても,特に著作物市場に与える影響はほとんどないと思います。ないと思いますが,その場合と,今申し上げたデジタル化の時代とは,少し違うのではないか。そこの質的な違いは,やはり認めないといけないのではないかと思います。
 もう1点よろしいでしょうか。この学校教育,市場への影響との関係で,今,御指摘がありましたように,集中管理でライセンスが与えられるようにするというのは大事なことだと思いますが,そのときに,35条が対象にしているような学校教育の場と,それ以外の例えば教員間での共有のような場合と,やはりそこには質的な違いがあるのではないかと思います。
 前回,私が指摘しましたように,これはやはり市場の失敗が背景にあるとは思いますが,権利制限が認められている根拠としては35条の教室での利用を想定した場合には,生徒への教育という公益目的があります。したがって,単純に集中管理での任意的なライセンスというよりは,強制許諾の要素も含めた,つまり任意のライセンスが受けられなければ,強制的なライセンスを受けられるというような枠組みのところまで必要なのではないかと思います。それに対して,教員間の利用であったり,それ以上の利用については,任意的な集中管理のシステムに乗せてもよいのではないか。やはりその差というのは両者間であるのではないかなと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。
 じゃあ龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】大体同じ意見ですけれども,やはり紙とデータの違いは極めて大きいと思います。紙の物理的制約というのは,かなり大きな差になっているだろうと思います。
 例えば一例を申しますと,例えば法学教育の場合ですが,早稲田大学を一時お手伝いした時期がありましたけれども,生徒が,法学協会雑誌,法律時報,民商法雑誌はなかったような気はしますが,ジュリストとか,全部見られるわけですね。そのようなことは生徒にとって大変な便益だと思います。このように雑誌のバックナンバーすべてを無制限にダウンロードし放題にするのは,大変なインパクトがあると思います。
 ですので,やはり35条について紙とデジタル情報を全く同一視することは問題で,35条の改正だけで対応できる幅というのは,かなり範囲としては狭いのではないかと思います。あとは基本的にはライセンスの問題であって,ライセンスをいかに円滑化するかが本質問題であって,権利制限の方での対応幅は実は余り広くないのではないかと考えるべきかと思います。現状のバランスをただ移行するだけがせいぜいではないかというような感じを受けます。まさに夏目漱石全集が全部アップされてしまうのと同様に,あらゆる法学雑誌が全部アップされダウンロード可能とする状態を,果たして権利制限で実現していいかというと,恐らくノーということになるのだろうと思います。
 ただ,教育の過程で,非常に便益が高いものについては,いろいろな工夫をかけることでバランスをとる道もあるとは思います。例えばPDFの場合,一定期間でエクスパイアさせるという方法や,あるいはプリントアウトさせないという方法もあるわけですし,そういうものの組合せで,ただし書の中に解消していくということも一方かとは思いますけれども,やはり基本はライセンスを重視すべきかと思います。

【土肥主査】法協の例が出ましたけれども,恐らくあれは。法協の例は,恐らくそういう,要するに市場性が確立している話なんだろうと思うんですよね。

【大渕主査代理】法協が普通にデータベースに……。何のことかと思って。違法アップロードかと心配しました。

【土肥主査】だから恐らく35条のスキームを踏まえて,いろいろな大学で契約をしているんだろうと,ライセンスを受けているんだろうと思いますが。
 前田委員,上野委員。じゃあ最初に上野委員からお願いします。

【上野委員】もう早く次の論点に行かなきゃいけない時間だと思うのですけど,今の点で誤解があってはいけないので申し上げますと,法協(法学協会雑誌)のバックナンバーを全部,教育機関のサーバーに学生向けの参考文献としてアップするというようなことは,当該バックナンバーを全て「授業の過程」で使用するわけではありませんので,そもそも現行法35条1項にある「授業の過程における使用に供することを目的とする」という要件を満たさないものですし,少なくとも,「必要と認められる限度」に当たりませんから,仮に35条の権利制限を公衆送信に拡大したとしても,そのようなことが無許諾で行えることになるわけではありません。したがって,そうした雑誌データベースについては,たとえ35条の改正が行われたとしても,権利制限の対象に含まれませんので,教育機関と権利者が行っている現状のライセンス契約が今後も変わらずに続くことになると思います。
 なお,デジタル送信に関して,もし特有の問題があるのであれば,これに応じて権利制限の範囲に限定を加えるという考えもあり得るところです。ただ,法律の条文内でパスワードの有無や閲覧期間の制限といった具体的基準を定めることは必ずしも適合的でないように思いますので,そうであれば政省令に落としたり,あるいは,こういったことこそ当事者による協議によって自主的なルール作りを検討したりすることが考えられるように思います。

【前田(健)委員】先ほどデジタルだと影響が大きいと私も申し上げましたけれども,その点はそのとおりだとは思うのですが,ただ,それは,デジタルだから市場を大きく害してしまうので権利制限の対象にしない方がいいという,そういう趣旨で申し上げたわけではないのですね。現状ある例えばただし書の解釈とか,若しくは拡散しないための合理的な措置を講じているとか,そういった条件を満たしていれば,逆に市場に影響はそんなにないと言ってもいいと言えると思ったので,そういう限定的な状況が確保さえされていれば権利制限を認めてもいいだろうというつもりで申し上げたものでございます。
 市場が形成されている分野についての影響の点についても,ちょっと申し上げたいと思います。現状,市場が形成されている部分については,これはお金を払って使う体制というのを維持してもいいだろうと。そのような場合は,現場の教員としては,ライセンスがされているわけですから,特に負担を感じずに使える状況というのは確保されていると思います。
 現状,市場が形成されていない分野をどう考えるかだと思うのですけど,これは2通りやり方があって,一つは補償金等を一切設けずに単純に権利制限でやってしまうというものと,もう一つは補償金を設けることによって,権利制限をかけて使えるようにするというパターンです。考えようによっては,市場が形成されていない分野については,権利者に市場を形成させるインセンティブを与えるという意味でも,現状は無償で権利制限をかけて,ただ,ライセンス市場を形成したら金銭を取れるようにするという形で移行するというパターンもあり得るとは思うのですね。そうすると,もちろん権利者に対する経済的な制約が強過ぎるだろうという見解もあるところだと思いますので,それには慎重になる必要はあるだろうと思いますが,選択肢としてはそういうものもあるだろうと思います。

【土肥主査】既存の市場が成立しているものについては現状のままということで,それ以外の部分については,補償金,あるいは35条の裸の権利制限規定が適用されていくんだろうと思うんですけれども,そこで言う補償金なんですが,補償金をかけるとすると,それはどういう領域について,例えば異時送信の部分についてお考えなのか,あるいはそれ以外の領域についてお考えなのか,あるいはもっと別の態様についてお考えなのか,補償金をかけるべき,設けるべき部分,補償金としての権利制限規定を設ける部分はどういう部分なのか。そしてその場合,設けるとすると,それをどういう考え方に基づいて構築すべきなのか。やはり補償金というのは非常に敏感な問題でございますので,その辺りのところの理由付けについて,是非御教示いただければと思うんですけれども,この点,いかがでございますか。
 はい,森田委員,どうぞ。

【森田委員】すみません,今の点ではないのですけれども,今,何の議論をしているかというのがよく分からなくなってきているので確認したいのですが,この資料2の4ページの,更に御議論いただきたい点の議論が続いているという理解なのでしょうか。この囲みの中の問い自体,私自身は,最初からよく分からなかったのですが,紙と同様の範囲を対象とするか,紙でできる範囲とは別とするかという問いは,先ほどの議論からいくと,利用態様に着目して,紙でできていたことと同じことができるようにするのかどうかという議論をしているのか,それとも権利制限に伴う利害調整の枠組みを紙の場合とは変えていく必要があるのかという議論をしているのか,両方があったと思います。しかし,これを全部入れていきますと,要するに全ての論点に関わる議論になってしまうので,ちょっと今は何の議論をしているかの整理をしていただいて,もし既に次の論点に入っているのであれば,そこでまとめて議論した方が生産的ではないかという,議事進行の意見であります。

【土肥主査】紙でできることはデジタルでもできるべきであると。つまりICT教育というのは積極的に進めるべきであるという御意見が,やはりこの委員会では支配的な御意見かなと承知をしております。
 ただ,その場合に,デジタルでやる場合については,やはり影響も大きいと。やはり既に市場が成立している領域もございますし,その市場が存在する部分についてをどうするのか。そして,将来,市場が成立するところも当然出てくるわけでありますので,そういう市場への影響のところはどう考えるべきか。特に市場への影響との関係で補償金という問題は考えられるのではないかということで,今,申し上げたというわけであります。
 井上委員,どうぞ。

【井上委員】4ページに,市場が既に形成されていて,合理的な手続や対価によって許諾を出す仕組みが既に形成されている著作物については除外してもよいという提案が紹介されていますけれども,その「合理的な」という意味合いが,必ずしもはっきりしていないように思います。
 例えばある出版社で,教育目的のICT利用についてライセンスの規定を設けており迅速に許諾を出せるようにしているとしましても,1回の授業で何十個という著作物を利用する場合,各社に連絡をしなければならないとすると,それは「合理的」な仕組みが構築されているとは言い難いと思います。写真に関しては,集中管理の仕組みの整備に努められていますが必ずしも網羅性はないということは関係者の方も認めておられました。教育関係者が負担感なく利用できるよう,取引コストが十分に低減されているとは言い難いと思います。
 したがって,「既に市場が形成されている」か否かを判断するときに,どういう基準を用いるのかを明確化することが必要だと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。
 じゃあ前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】4ページの一番下のマルは,前回,私が申し上げたことを取り上げていただいているのかもしれませんので,申し上げさせていただきますと,「合理的な」というのは,5ページの二つ目のマルで御指摘がありますような,権利者側が事実上オプトアウトに近い,事実上禁止として機能するような使用料設定をする場合もあり得るわけですけれども,その場合は,合理的な対価によって許諾を出す仕組みが形成されているとは言えないという評価をする。
 したがって,そういう事実上禁止という効果が生じるようなライセンススキームがあったとしても,権利制限は権利者の利益を不当に害しているとは言えないと理解できると思います。
 それから,今,御指摘がありました取引コストについても,取引コストがかかり過ぎるがゆえに,利用者側から見て,事実上許諾を得て利用することが非常に困難になっているという場合には,やはり合理的な手続によって許諾を出す仕組みが形成されているとは評価できない。
 その辺りのことも含めて,ただし書の「不当に」という,価値判断の余地を多分に含めることのできる要件がございますので,最終的には,その「不当に」の要件の解釈によって整理をすればよく,できることなら,どういうライセンス体制が構築されていれば権利制限が「不当に」権利者の利益を害する場合に当たるのかということについては,ガイドライン等によって整理をしていただくのがいいのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 じゃあ茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】教育のために著作物が利用されるとしても,当然いろいろなものがあって,例えば授業で必要なものといっても,必要性というのはゼロか1かというものではなくて,強いもの弱いものがあり,先ほど山本委員がおっしゃったように,「吾輩は猫である」を理解するためには夏目漱石の著書全部を読まないといけないとなると,それは全部が必要ということも言えると思います。
 現在,35条が紙を対象として適切に運用されているのであれば,一定の部分については権利制限をかけ,それが無償であるというやり方をとっていることになります。まず,異時公衆送信について,紙と同様の範囲を対象とするかということですが,ICTは紙を置き換えるという側面がありますから,それはよろしいと思いますし,紙について定めている35条は,少なくとも抽象的には適切な権利制限の要件を定めていると思いますので,その要件は基本的に異時公衆送信についても採用することができるのではないかと思います。
 次に,ライセンスとの関係についてですけれども,ライセンスを用いるとすると,その料金を支払わなければならないこととともに,一定の手続が必要となってきて,その負担が問題となると思います。本当に授業で使う,教育に必要な著作物の利用については,そのような負担が全くない,何らの制限なしに自由に利用することができる部分があるべきではないかと思います。その範囲は35条の要件によって適切に設定できるのではないかと思います。その範囲においては,無償で利用することができるとすべきですが,その範囲を超えることをICTでやろうとするならば,補償金とか,あるいはライセンスというのを考えないといけないように思います。
 紙と同様の範囲にするかどうかについて,歯止めがあるかないかという議論がありましたが,デジタルであれば歯止めがなくなるというのは,定められた要件がうまく適用できないというか,その要件が不明確で,利用がどこまでできるかどうかがよく分からないという点が重要ではないかと思います。
 そうだとしますと,35条は適切な要件を定めていると思うのですけれども,その要件が抽象的であるために,このままではきちんと法律を守って利用したいと思う人が守ることが容易ではないという問題があるでしょうから,できれば,守りたい人がここまではできてここまではできないというのが容易に分かるような,今の要件よりももう少し具体性を高めるようなものを考えることが適切ではないかと思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 道垣内委員,どうぞ。

【道垣内委員】今の茶園委員の最後のところは私も大賛成で,分かりやすく,使いたい人は思いっきり使えるようにしたらいいんじゃないかと思います。ただし,コストがかかることは覚悟すべきだと思います。
 その前の前田哲男委員がおっしゃった「不当に」の解釈についてですけれども,合理的な手続,対価の準備があれば,それを使わないのは不当だという御趣旨だったと思いますが,同じ使い方をしていながら,制度がちゃんとしていない人の著作物はただで使えるということになってしまうと,それは市場をゆがめるというか,教育の内容をゆがめるおそれがあるのではないでしょうか。同じコストを払うべきではないかと思います。「不当」というのは,著作権者側に入るべき利益を不当に害していることを指すと私は思うので,前田哲男委員のお話は何かちょっと私の思っていたこととは違います。
 それからちょっと話が元に戻りますけれども,皆さん方は,国語教育の現場を想定して議論されているように思われるのですが,私は,最も危ないのは,音楽とか外国語の教育の場合ではないかと思います。英語教育で映画を使うとか,中学生が大好きな曲を使って古典的な音楽と比較するなんていうときに,丸ごとダウンロードすると思います。せりふや歌詞も文字情報でそこにぱっと出るようにすることもあり得ると思います。例えば英語教育でも,私は実際そういう教育を受けましたけれども,好きな英語の曲をきちんと全部説明していただいて聴くと,非常に学生のためにはいいと思います。教育目的でも丸ごと1曲を複製して使っちゃいけないのではないかなとか思いながら使うのはよくないので,それを学生が望んでいるのであれば,あるいはその教育効果が高いのであれば,ちゃんとお金を払って使えるような仕組みを用意すべきだろうと思います。いちいち先生が大変な思いをしなくてもいいような仕組みであるべきだと思いますので,どこかに料金をデポジットしていけばいいといった仕組みが必要だと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 上野委員,先に。

【上野委員】これまでの議論におきましては,権利者によるライセンススキームが教育機関に利用可能な形で用意されている場合は権利制限の対象から除外すること――いわゆる「ライセンス優先型権利制限」――を行った上で,そうしたライセンススキームがない場合には,権利制限しつつ補償金請求権を付与する法定許諾――ちなみに,これを「強制許諾」と呼ぶのは必ずしも適切でなく,国際的にも「法定許諾」と呼ばれております――とする方向性に支持が多いように思います。
 ただ,この前半部分のライセンス優先型権利制限というのは,確かにイギリス法には見られるのですが,必ずしも一般的な制度ではありませんし,少なくとも日本法に導入するとすれば初めてのことです。もちろん,これは前回の小委でも申しましたが,日本法にも,37条3項ただし書や37条の2柱書ただし書に,権利者が自ら障害者のための著作物提供サービスを行っている場合には権利制限が覆るという規定があり,ライセンス優先型権利制限に似ていると言えなくもないわけですけれども,権利者が正規サービスを提供することと,ライセンススキームを用意することとは難易度が異なりますので,これらの規定をライセンス優先型権利制限と同視するのは妥当でないように思います。また,35条1項ただし書にいう「用途」という文言を手掛かりにして,権利者によるライセンススキームが用意されている場合は「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるから権利制限が覆るというような考えも,ひょっとしたらあるのかもしれませんが,この規定の解釈としては疑問が残ります。
 もし,ライセンス優先型権利制限を行うということになりますと,これも私が前回,懸念として申し上げましたように,権利者の方が――そういうことが実際に起きるかどうかは別にして――特定の著作物について極めて高額のライセンス料を設定したライセンススキームを用意することによって,事実上オプトアウトできてしまうとすれば,それは教育機関における著作物の公正な利用を阻害してしまうように思います。
 もちろん,こうした考えに対しては,前田先生も先ほど御指摘になりましたように,権利制限が覆るのは,ライセンススキームが「合理的な手続や対価」である場合に限定するという考えもありまして,それは確かに一つのアイデアだと思います。もしそうするのであれば,これを実践する一つの方法としては,例えば,ライセンススキームを包括許諾かつ包括徴収にするということが考えられます。つまり,包括許諾かつ包括徴収のライセンススキームを権利者が用意している場合であれば,それは「合理的な手続や対価」に当たるとして,権利制限が覆るということになります。こういうものであれば,確かに実現可能性はあるのかもしれません。
 しかし,そのような「合理的」なライセンススキームに限定するといたしますと,形式的にはライセンス優先型権利制限であっても,権利者はオプトアウトすることができず,単に,相当な金銭を受け取ることしかできない状態になりますので,結果として,事実上,法定許諾――すなわち権利制限プラス補償金請求権――とほぼ変わらないことになります。
 そこに違いがあるとすれば,不払者に対する差止請求ができるかどうかという点です。つまり,ライセンス優先型権利制限にいたしますと,権利者による合理的なライセンススキームが用意されている以上,それだけで権利制限が覆り,排他権があることになりますので,もし利用者が対価を支払わずに著作物を利用していれば,権利者は排他権に基づいて差止請求ができます。これに対して,法定許諾にいたしますと,補償金請求権はあっても排他権はありませんので,たとえ利用者が補償金を支払わずに著作物を利用していても,権利者はこれに対して補償金の支払を求めることしかできず,差止請求はできません。
 確かに,実務においては,この違いは大きく,不払者に対して差止請求できないのはエンフォースメントの点で問題だという声も聞かれます。例えば,仮にカラオケスナックによる著作物利用について権利制限プラス補償金請求権にしてしまうと,全く補償金を支払わないカラオケスナックに対して差止請求できず,現実には金銭の支払を受けることができないままに終わってしまう可能性があり,それは問題だというのは理解できます。
 しかし,今,検討しているのは飽くまで35条ですから,その主体は教育機関であり,しかも非営利の教育機関に限られます。したがって,たとえ法定許諾にしても,補償金の取りっぱぐれがあるとか,夜逃げされるとか,そういった事態は考え難いように思います。だとすると,少なくとも35条については,ライセンス優先型権利制限を採用して,不払者に対する差止請求権を認める必要性は乏しいように思います。
 そういう観点からいたしますと,私はやはり,35条を送信に拡大するのであれば,従来の日本法にないライセンス優先型権利制限を採用するよりも,従来の日本法にも幾つか存在する法定許諾――権利制限プラス補償金請求権――を採用する方がよいのではないかと思います。
 そのようにしても,権利者は補償金請求権を有しますので,これまで権利者がライセンス料として教育機関から収受していた金銭を受ける権利がなくなるわけでは決してありません。また,35条の権利制限を拡大するといっても,教育機関における全ての利用行為が権利制限の対象になるわけではないので,例えば,MOOCについて許諾が必要ということになれば,そこでは従来のライセンススキームが活用されることになります。先ほど,法協のバックナンバーが全部見られる教育機関があるという話がありましたが,たとえ35条の権利制限を拡大しても,雑誌のバックナンバーを全部アップすることまではカバーされませんから,こうした行為も引き続き排他権の対象となり,今後もライセンスの対象になるわけであります。
 そして,このように35条の権利制限を拡大するとともに補償金請求権の対象とするのであれば,送信だけでなく,既に権利制限の対象となっている「複製」についても補償金支払義務を課すべきではないかと私は思います。
 教育機関における著作物の複製について権利制限することは,その社会的意義から正当化されますが,だからといって,教育機関においてどれだけ複製されても権利者に何らの金銭的補償も不要でよいとは言えないように思います。
 実際のところ,この小委の初回に配布された報告書でも紹介されていますように,ドイツ,フランス,オーストラリア,韓国といった国のいずれにおいても,教育機関における利用は権利制限プラス補償金請求権の法定許諾になっています。日本法のように,権利制限するだけで権利者に対して何らの金銭的補償もしない,つまり無許諾無償の完全自由になっているというのは,国際的に見て稀な制度というべきだろうと思います。
 もともと日本の著作権法は,35条に限らず,オール・オア・ナッシングの権利制限規定が多く,権利制限プラス補償金請求権の法定許諾を定めた規定が非常に少ないわけなのですが,法定許諾は,一般論として,社会的意義の実現と権利者への利益分配を両立させるバランスのとれた規定のアイデアとして,今後,日本でも積極的に活用すべきものと考えております。
 もちろん,教育機関における送信と複製が共に補償金請求権の対象になると,両方について教育機関が補償金を支払うことになりますので,支払に伴うコストや手間が問題となり得ます。ただ,公衆送信権者と複製権者は同一の場合が多いと考えられますので,もし教育機関が送信について補償金を支払うことになり,そのための補償金徴収システムも整うのであれば,送信のみならず,複製についても,一括して補償金を支払うことになっても,格別の不都合はないように思います。
 したがいまして,教育機関における著作物利用は,この際,複製及び送信の両方を法定許諾とし,権利制限を行うとともに補償金支払義務を課すべきではないかと思います。そして,現実問題としても,その方が権利者と利用者の御支持を得やすいのではないかという気がしております。
 以上です。

【土肥主査】今の点。

【大渕主査代理】に関係しています。

【土肥主査】今の点でお願いします。

【大渕主査代理】先ほどの私が申し上げた二本立てと,やや両方が混じってきたかなという感じです。35条というのは35条として,大前提としては,これは条文に明文の規定があるわけではないのですが,恐らくこのただし書というのは,著作権者に不当な不利益を与えないということが前提です。その際には,抽象的には常に害があるのかもしれませんけれども,きちんと整っているライセンススキームがあれば,それに対する害というのが非常に大きくなるという意味では,実は現行法もきちんと読めば,そのようなことも全部含まれた上でバランスが考えられております。そこのところもきちんと入れ込んだ形で読めば,自然に今の35条でも,ライセンススキームがきちんと整っている場合であれば,総合考慮になるとはいえ,なかなか権利制限は成り立たないと思います。その上で,今,議論されているような,「合理的な」というのはいろいろな意味で重要だと思います。あっても使いものにならないようなものは実際ワークしていなくて,お金も入ってきませんから,そのようなものは不利益としてさほど重視する必要はないという形で現行法でもうまく入って,ライセンススキームができるようなものは,自然にライセンス,あるいは強制ライセンスという言葉がいいかどうかは別として,補償金付きのそちらの方に行くようになるのではないかと思います。

【土肥主査】じゃあ奥邨委員,お願いします。

【奥邨委員】多分,今,5ページの括弧の中の議論をされているんだと思いますので,そこに引き付けて申し上げますと,ここで教育機関が利用可能な形で用意されているライセンススキームという言葉があるわけですけれども,これについてはいろいろな御意見あるとようですが,私としては,教育機関が利用できればどんなものでもよいということではないんだろうなと思います。
 例えば既に,うちの権利者団体は,こういう営利企業向けのライセンススキームを用意していますと。このライセンススキームは教育機関の利用も排除していませんので,御利用が必要であれば,この営利企業向けのスキームを御利用くださいというのでは,ここで言う教育機関が利用可能な形で用意されているライセンススキームとは言えないと,私は考えるべきだと思います。
 大ざっぱな言い方になって恐縮ですけれども,35条の趣旨を踏まえて,利用料金,利用対象,利用者について,教育機関向けに特に配慮したライセンススキームであるかどうかということが,考慮されるべきではないかと思います。
 例として言えば,費用はやはり教育機関向けに低廉であるべきでしょうし,利用対象もできる限り網羅的であるべきでしょうし,更に利用者も,教育機関の学生・生徒,教職員をほぼ網羅的にカバーするという形で,教育機関向けの配慮が十分になされているということが,ここで言うところの教育機関が利用可能な形で用意されているライセンススキームとして理解すべき点であって,一般的な意味の合理的か合理的でないかよりも,更に教育機関向けの35条の趣旨に合致した配慮がなされているということを盛り込んでいくべきであろうと。それを法律でやるのかガイドラインでやるのかは別としても,そこは考慮されるべきではないかと思っております。

【土肥主査】その点については,権利者と教育関係者間の関係者協議というのも別途並行して行われていくと承知をしておりますので,ライセンススキームとして,おっしゃるような問題についても,それがどういう在り方になるのかというのは注目したいと思います。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】現行法35条ただし書の読み方として,権利者によるライセンススキームが用意されていれば「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たり,権利制限が覆るという解釈は,確かに「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という文言だけに着目すれば,あり得ない話ではないかもしれないのですけれども,35条1項ただし書というのは,飽くまで「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし」て,「著作権者の利益を不当に害する」かどうかを判断する規定であります。
 例えば,小学生向けの漢字ドリルのようなものは,「著作物の種類」や「用途」からして,生徒が全員購入するために作成された教材でありますので,教育機関で生徒全員にコピーしてよいわけではないと解釈されることになります。しかし,そうした漢字ドリルのようなものではない著作物について,権利者によるライセンススキームが用意されているという事情を,「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様」として考慮するのは難しいように思います。
 もし,そのような解釈ができるとすると,既に現行法35条の解釈としても,権利者が教育機関における複製に関して,低額のライセンススキームを用意すれば,ただし書によって権利制限が覆り,たとえ教育機関における必要な複製であっても,許諾を受けなければならず,複製を行うためにライセンス料も支払う必要があるということになりかねません。例えば,授業の過程で使用する目的で新聞記事を複製することについても,新聞社が教育機関向けに低額の包括ライセンススキームを開始すれば,それ以降,教育機関で新聞記事の複製が許されないことになってしまうように思われます。だとしたらそれはおかしいような気がいたします。
 ただ,権利制限規定を設ける際には条約上のスリーステップテストに反しないことが必要となるのは確かです。そのため,権利制限を行うことによって,権利者による「著作物の通常の利用を妨げ」てはならないことになります。しかし,ここにいう「著作物の通常の利用」というのは,例えば,新聞や書籍の発行のように,基本的には著作物の本来市場を意味すると考えられます。もし,権利者が行うライセンスビジネスも「著作物の通常の利用」に当たるといってしまうと,権利者がライセンスビジネスを行っている場合に権利制限を行うことが一般に許されないということになりかねません。
 例えば,権利者が,引用についてライセンススキームを用意したり,点字複製についてライセンススキームを用意したりすれば,それだけで,そのようなライセンスビジネスが「著作物の通常の利用」であり,これを妨げてはならないから権利制限を行うことは許されないなどということになりかねません。このように考えると,権利者によるライセンススキームが用意されている場合に権利制限を行っても,条約上のスリーステップテストとの関係で直ちに問題が生じるわけではないと思います。
 以上です。

【土肥主査】おっしゃるように,新聞なんかは,今,ばらばらなんだろうと思いますけれども,そういうものが一つの単一窓口のようなものもできて,新聞を全部カバーするような,そして教育関係者用のそういうライセンススキームというものが,今後できていくのかどうか。そしてまた,そこでの費用がどうなのか。トランザクションコストがそれによって極めてゼロに近くなるような,そういう仕組みができるかどうかというのは,関係者協議の議論等々,注目したいと思います。
 それで問題は,先ほど上野委員,かなりドラスティックなことをおっしゃっているわけでありまして,35条の全てについて,強制許諾,補償金の対象を付けたそういうものを現実的にかけることができるかどうかという状況があるわけですよね。つまり,今までは自由に対価なくやれていたものが,その全てとなっていくのが可能なのか,あるいは今後,今,議論しているのは異時というところを注目しているわけですけど,異時送信,そういう従来想定しなかった部分について,例えばどうあるべきかという議論をしている文脈の中でそういう話が入ってくるとか,いろいろ制度設計としては考えられていくんだろうと思います。
 仮にですけれども,強制許諾の補償金制度というものを入れるときの理論的な根拠としては,どういうものが考えられるのかについて,教えておいていただければと思います。実は今,11時35分ですけれども,共有のところも少しやりたいと思っておりますので,その点,御協力いただければと思いますが。
 前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】6ページの上の論点に入っているという理解でよろしいでしょうか。

【土肥主査】5ページ?

【前田(哲)委員】6ページの,更に御議論いただきたいという,そこに入っている理解で。

【土肥主査】はい,そういうことですね。要するに5ページのところからずっとつながっているものですから,論点bというのが,6ページの,今おっしゃった3行目ぐらいからあるその部分ですよね。

【前田(哲)委員】きょう,冒頭から議論されておりますように,やはり異時送信に拡大するということになりますと,紙のコピーの場合とは違って,物理的制約がなくなるがゆえにコピーの総量や頻度が増えるという現象が生じると思いますので,異時送信に拡大するという場合には,補償金請求権を付与することが必要になると思います。
 ただ,補償金請求権を付与するきっかけが異時送信に広げることだとしても,補償金制度をせっかく導入するのであれば,従前の紙コピーについても量が多い場合があり得るわけですから,従前の紙コピーを補償金対象にはしないというのは,ちょっと平仄を欠くと思います。補償金制度を導入するのであれば,先ほど上野委員からお話がありましたように,紙も電子も対象にした方がいいのではないかと思います。
 ただ,そうすると,例えば今まで小中学校の1クラスの中で,学校の先生がクラスの人数分だけコピーしていたようなケースまで含めて,全て補償金を支払うことになるのかというと,ちょっとそれは現状を大きく変更し過ぎであるようにも感じます。
 そこで,今,初等中等教育においては,1学級編成は40人と標準とすることに法律上なっておりますので,40人規模の集団を一つの目安としまして,40人規模以下の学級の中で教育を担任する人が複製ないし公衆送信をすることについては,補償金制度の対象になるとしても,事実上補償金がゼロになるという運用が望ましいのではないかと思います。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】私,もともと申し上げましたように,紙でできることはICTでもという原則を申し上げましたけれども,そのことを前提に考えますと,紙をICTに置き換えるという部分については,現状,紙に補償金がないこととパラレルで,ICTでも補償金はないべきであると考えます。したがって異時送信も,紙をICTに置き換えるだけのことですので,補償金は,別段正当化する理由はないだろうと思います。
 現状,紙からICTに変わることで,新たなことは生じないという理解の整理でよいのではないかと思います。むしろそうではなくて,紙ではできないことをICTでもできるようにするんだという部分については,補償金を認めてもよいのではないか。それは差し当たり言えば,ICTでのみ可能なことは,従来の紙の場合,また,紙をICTに置き換えた場合よりも利用者に便益が大きいから,その部分については権利者の負担との間でバランスをとるということで,補償金を入れるということはあってもいいと思うんです。けれども,現状をICTに変えるだけのことで,紙の状況が変わるということではないわけです。紙とICTをシームレスにするという原則から考えた場合は,異時送信も含めて,単なる置き換えということであれば補償金は要らないのではないか。要るのではないかという御意見がいっぱい出ていますので,要らないのではないかという観点からはっきりと申し上げておきたいということでございます。

【土肥主査】井上委員,どうぞ。

【井上委員】異時送信については,現在,権利制限規定がありませんので,ライセンス市場が形成される契機があります。現に,新聞等について,一部市場が形成されつつあるのだろうと思います。必ずしも「合理的」なレベルにまでは達していないかもしれませんが,それなりの市場が形成されているのだろうと思います。
 ただ,既に形成されている市場については影響を与えないよう権利制限対象から除外するという手法は,難しいのではないかという気がいたします。権利制限対象から除外しないけれども,その代わり,補償金を支払うということであれば,権利者側も含めた合意形成がしやすいのではないかなという現実的な考えもあり異時送信について,権利制限プラス補償金というアプローチも考えられると思っています。
 先ほど前田先生から,紙についても,量が多い場合には補償金の対象にしてもいいのではないかという話がありましたけれども,これからの教育の現場というのは,異時送信なしでやるということはないという時代に入ってくると思います。授業中に紙で配布するものはただなのだけれども,異時送信に関しては補償金を払っているという理念的な切り分けが無意味になるような時代が来るのであれば,全体にシンプルな仕組みにして,すべて権利制限プラス補償金という枠組みで対応することも考えてよいのかもしれません。補償金の額に関しては,状況を見ながら,例えば初等中等教育や大学の教育における利用実態を踏まえて,ステークホルダーの間での協議をベースに決めていけばいいように思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは。

【大渕主査代理】これに関しては,いろいろなお考えがあるかと思います。私が考えていますのは,前田委員が先ほど言われたのに近いのかもしれませんが,現行の35条の下で限られた範囲で無償で行われているものを,一気に有償の方に持っていくというのは,教育現場の,あえていわば寺子屋スタイルの小規模の範囲のゼミなどでやるものまで今後強制ライセンス等に持っていくということとなり,現実的とは思えません。飽くまで,そのような小規模なものは残しておいた上で,もっと積極的なものを含めてベストミックスの形にするということであります。この場合,全部を一色にした方がきれいはきれいなのですが,実際問題,今まで無償のところまで一気に有償になると,恐らく我々自身が困ることになり,大混乱してゼミ等がほとんどできなくなってしまいます。ですからそこはやはり現行のままで,紙をパスワード管理で拡大するという話の小規模なものと,先ほどあったようにもっと積極的に使いたいというのは,別に考えた方がいいと思われます。その観点からは,あえて強制ライセンスと言ったのは,本来だったら,そういう小規模な話であっても,契約でやってほしいが,実際問題できない場合には,当事者の合理的な意思を忖度して強制的に契約を成立させるという趣旨であれば,ただで契約するということも考え難いので,むしろそのような意味では,補償金を付けるのは,特に根拠も要らない,契約であれば普通は有償だからということで,さほど難しい話にもならないものと理解しておりました。

【土肥主査】ありがとうございました。
 山本委員,その次,森田委員ということで,お願いします。

【山本委員】現実の問題として,この35条の関係で,なぜ権利制限が加えられているのかというと,やはり学校教育という公共性から来ているのだと思います。であれば,本来であれば,それによって失われる著作権者の利益について,本来は補償金請求権を与えるということはあってもよかったのだとは思います。ですが,使用の態様が零細で,また,補償金制度を立てて取引コストが賄えるのか,などのぎりぎりのところで,結局は補償金制度は入れられなかったというように理解すべきではないかと思います。
 今度,異時送信について補償金請求権を認めたときには,同じ制度の中で紙ベースも対応できるわけですから,そのときに,紙についてだけ補償金制度は適用しないという根拠はなくなってしまうのだと思います。したがって,これは紙ベースであっても,異時送信と同様に,補償金請求権の対象にすべきだと思います。
 ただ,今,申し上げましたように,零細さから言って,金額,これは運用の問題として,かなりゼロに近いような形になっていくのだと思います。しかし,理屈の上では,両方に対して補償金請求権は与えるというのが筋だと思います。

【土肥主査】森田委員,どうぞ。

【森田委員】補償金をなぜ認めるかというのは,金銭的な調整の余地を認めることによって,権利制限の範囲を合理的なものにするということだろうと思います。そうしますと,理論的には,補償金がなくても権利制限を認めてよい範囲,つまり,無償で使ってよいという範囲と,金銭的調整を伴って権利制限が認められる範囲と,それを超えてライセンスを結ばなくてはいけない場合という,三つに分けられるんだと思いますが,ただ,私が分からないのは,先ほどから出ている法定許諾プラス補償金請求権というのとライセンス契約というのは,理論的にはいま申し上げたように別なのでしょうが,実際のスキームとして考えたときには,そこは一緒に考えないと動かないのではないかと思います。
 その点を明確にするためには,補償金請求権と言っているけれども,それは何らかの方法で金銭的調整をするという意味ではコンセンサスがあるとしても,具体的な制度をどう作り込むのか,誰が誰に対してどういう形で請求権が発生するのかとか,実際にそれをどう行使するのかということについては必ずしも明らかではなく,この点を詰めていくと,やはり包括的なライセンスの枠組みを制度として作らないと,うまく機能しないのではないか。法律に補償金請求権があると書いてあるからといって,誰も実際には行使できないのでは困るわけでありますから,そうなっていくと,権利制限の範囲と,それを超えるところも含めた包括的なライセンスの枠組みをどのようにして構築していくことができるのかを検討すべきであって,それが出来上がってしまったときには,どこまでが無償での権利制限の範囲で,どこから金銭的調整を伴う権利制限の範囲なのかどうかということも,観念的な議論をする上ではその区別は必要なのでしょうが,その問題は別のところに解消するのではないかという感じがいたします。
 したがって,補償金請求権を実現する包括的なライセンスの具体的な制度を,どういうものとするのか,例えば請求権者というのは誰とするのか,包括的なライセンス契約の当事者は誰になるのかとか,そちらの中身を詰めていかないと,何かコンセンサスがあるようでいて,ないのではないかと思います。
 前回申し上げたのは,包括的なライセンスの中には,権利制限の対象となっているものと,そうではないものも含まれるような形での包括的なライセンスを作り上げて対応するというのが,諸外国の調査研究によれば,一つの大きなモデルとして示されているのではないか。そういう具体的なスキームを詰めていくと,幾つかの問題が先に解決するのではないかと考えています。

【土肥主査】ありがとうございます。
 じゃあ河村委員,どうぞ。

【河村委員】ありがとうございます。ずっとお話を聞いていたんですけれども,やはり教育機関の方がヒアリングでここに来たときのお話を思い返せば,手間もかからず,安心してお金もかからずに今までできたことが,ICTの世界になってもできるということを用意するということが,私はちょっと大きなことを言えば,権利者さんの損害がどれぐらいかという視点だけではなくて,国家戦略じゃないですけれども,次代を担う子供たちとか若い人たちの教育の話でありますし,そこで使われるのは,先ほど来あるように,全集を全部アップするとかそういうことは,理論的に今できないことはICTになってもできないと考えましたならば,どうあるべきかということを,もう少し国の全体として考えるべきで,子供の貧困というようなことも言われている中で,教育機関で使うために,それらの今使われようとしている著作物って,別に生まれてきたわけではないと思うので,そこでの使われ方にお金が取れないから成り立たないということではないと考えますと,細かく権利者さんの利益というのがどこにあるか,失われるかというよりも,すごく柔軟な考え方で,ぎりぎりとルールを決めずに,紙でできた柔軟さを,ICTの当たり前になっていく世界でも認めていくと。
 紙とは何かということすら,これからどうなるか分からない。紙に書いているようでもICTであるみたいな世界になっていくかもしれませんので,何か突然損害が大きくなるみたいな考え方をとりがちですけれども,ここは教育の話をしているのであれば,国全体としてどうすることが利益であるかという点から,もう少し話が,そこにスポットライトが当たるといいなと思っております。

【土肥主査】ここまでのところのお話,まだまだあると思うんですけれども,井上委員の意見を頂戴して,一応ここで,ここまでのところのまとめというのか,この問題についての最後にしたいと思います。
 どうぞお願いします。

【井上委員】次代を担う人材を養成していくというのが教育の目的ですが,そのための補償金制度としてありうる一つの形は,私的録音録画補償金制度のようなものだろうと思います。例えば学生一人当たり,1年間で一定額を支払う。これは,ライセンスではないものの,イギリス的なアプローチだと思います。このような形で徴収して,サンプル調査を基礎に権利者団体を通じて分配するという仕組みがありうると思います。補償金制度といっても,ほかの委員の方は異なる仕組みを想定されているのかもしれませんが。
 一括して,ある意味税金のように集めて分配する。利用される著作物には孤児著作物も入っていることも考え併せ,例えば,何割かは著作権教育の目的や公益目的で使用するというようなことが考えられるのではないかなと考えています。

【土肥主査】最後のところですよね。最後のところ,つまり補償金というものを誰が負担するのかという問題があって,最後おっしゃった税金的なというのは,言ってみると国が見ると。

【井上委員】そうです,そうです。

【土肥主査】というような,そういう話になっていくのかなと思ったんですけれども,仮に60億という話だったら,それはそれで考えられるんですけれども,恐らくここの部分は相当大きな数字になるんじゃないかなとも思いますので,ここはちょっと宿題といいますか,この次に譲りたいと思うんですけれども,とりあえず補償金という場合,当然スキームの問題が出てくるし,これはきょう,この後,論ずることができるような,そういう問題ではないと思いますから,一応,この話はここまでにさせてください。
 共有の問題について,最後に御意見を頂ければと思うんですけれども,これは何ページですか,2-2というところで,8ページですかね。ここにある話でございます。8ページの下の方にもございますけれども,(ア)のところは,これは前回も議論があったところですけれども,ここで言うところの(イ)のところですね。共有をすることを含めて新たに権利制限規定の対象とするかどうかについて,必要性・正当性をどう考えるかということで問題設定がされております。更に議論いただきたい点というところで,この場合の,共有の場合の権利制限の正当化の根拠や,その理論構成をどう考えるのか。あるいは,権利制限の対象とする場合,共有する範囲についてどう考えるのか。一つの教育機関内における共有に限定するのか,教育機関を超えた共有にするのか,こういった問題についての論点でございます。
 ただ,これも大きな話になりますので,残す時間は,5分ぐらいしかないので,なかなか難しいことなんですが,一応頭出しといいますか,一応議論したということにしたいと思うんですけど,いかがですか,この点について。共有の問題,大事なことだと思うんですが。教育資源の共有化を図るということは,教育の質を高めますし,地理的な違いというものを超えて,良質の教育が可能になろうと思います。
 前田委員,どうぞお願いします。

【前田(哲)委員】35条は,もともと教育を担任する者,あるいは授業を受ける者が複製することができるという規定でございますので,教育機関単位という考え方は,余りなじまないのではないかと思います。教育機関が主体となって複製とか公衆送信をするというのではなく,教育を担任する者の自主的な複製ないし公衆送信であることが必要で,複数の教育を担任する者が自主的に共有する,その限度においては共有が認められるべきではないかなと思います。
 したがって,8ページの更に御議論いただきたい点で書かれているところについて申し上げますと,必ずしも教育機関内の共有に限定すべきという必要はないのではないか。しかし,飽くまで主体は教育を担任する者であって,担任する者が自主的に共有するという限度において共有が認められるべきではないかと思います。
 ただ,共有を認めるということになりますと,それによって複製物の配布を受ける,若しくは公衆送信を受ける人の累計の人数が多くなると思いますので,補償金制度を伴うことが必要になってくるのではないかと思います。

【土肥主査】ほかにございますか。共有の点について。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】この共有の問題は,さっきの教室での現場を想定した場合と少し違い,教育目的に関連するのは確かですが,教員間で共有することによって資源の有効活用ができるなどという,そういった問題のように私には聞こえます。それはそうでしょうけれども,それを言い出すと,ありとあらゆる場面,研究活動のための資源の共有というのも資源の有効活用になるので,果たしてそれ自体は権利制限を正当化するような根拠になるのか。資源の単に有効活用であれば,それは市場の中で解決すべき,つまりライセンスで対応すべき問題のように,私には思えます。つまり,わざわざ権利制限で定めるような公共性や市場の失敗が存在するのかというところは,疑問に思います。

【土肥主査】先ほどちょっと申しましたけれども,ICT活用教育の推進に関する懇談会報告書等々の参考資料1なんかを見ますと,やはり地理的環境に左右されない教育の質の確保ということからすると,佐賀県の方もおっしゃっておられたわけですけれども,非常に研究の場合とそこは違うんだろうなと,私は伺っていて承知をしたわけですけれども,やはりどこにおいても同じ高いレベルの教育を受けることができるという,そういう意味で,教育資源を共有化できれば,それは非常に良いことではないかなと思うんですけれども。
 すみません,今,11時59分だと思うんですけれども,事務局にお願いとしては,まだまだこの問題,ちょっとありますので,次回以降にもつないでいっていただければと思います。私の方の運営がちょっとまずかったものですから,十分議論できませんでした。
 最後に,大渕委員に。

【大渕主査代理】先ほどあったのは重要な点で,仰せのとおり,教育という意味では公益性は非常に高いとは思う反面,やはり35条というのは,教室内での小規模性という大前提の上でバランスが図られているものであります。公益目的という点では同じではありますが,小規模前提のところにつき規模を大きくしてしまうと,バランスが一気に崩れてしまいますので,そこのところはやはりバランスの関係で難しいと思います。
 それから,35条はよくできていて,総合考慮的になっているので,使える市場ができたからといって即35条が成立しないという形にはなっておりません。先ほどのところは,うまくその点も考慮した上で判断される形となっております。先ほどの議論では,市場が成立したら一律に35条が不成立になりそうな議論だったのですが,現行法ではきちんといろいろ考えてあって,そのようにはなっていないと理解しております。

【土肥主査】ちょうど時間になりましたので,まだまだ御意見等々あるんだろうと思いますけれども,きょうのところはこのぐらいにしたいと思います。
 事務局から連絡事項ございましたら,お願いをいたします。

【秋山著作権課長補佐】次回小委員会につきましては,日程調整の上,改めて御連絡したいと思います。ありがとうございました。

【土肥主査】本日は,議事録を御覧いただくと,相当積極的な意見を皆さんに出していただいて,充実した委員会が開催できたように思います。厚くお礼を申し上げます。
 これで法制・基本問題小委員会の第5回を終わらせていただきます。本日は,誠にありがとうございました。

―― 了 ――

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