日時:平成27年11月4日(水)
9:30~14:30
場所:文部科学省東館 3階講堂
議事次第
- 1 開会
- 2 議事
- (1)環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への対応について
- (2)その他
- 3 閉会
配布資料一覧
- 資料1
- TPP協定知的財産章・著作権関係の合意事項概要(112KB)
- 資料2
- TPP協定に定められている著作権法整備に関わる事項の概要について(118KB)
- 資料3
- TPP協定への対応に関して御議論いただきたい点(35.9KB)
- 資料4
- 日本音楽著作権協会提出資料(132KB)
- 資料5
- 日本書籍出版協会提出資料(114KB)
- 資料6
- コンピュータソフトウェア著作権協会提出資料(115KB)
- 資料7
- 日本映画製作者連盟提出資料(903KB)
- 資料8
- 日本芸能実演家団体協議会提出資料(84.3KB)
- 資料9
- 日本レコード協会提出資料(76.5KB)
- 資料10
- 日本経済団体連合会提出資料(165KB)
- 資料11
- 日本知的財産協会提出資料(355KB)
- 資料12
- コミックマーケット準備会提出資料(455KB)
- 資料13
- thinkTPPIP提出資料(204KB)
- 資料14
- インターネットユーザー協会提出資料(1.8MB)
- 資料15
- 日本文藝家協会提出資料(52.1KB)
- 資料16
- 学術著作権協会提出資料(82KB)
- 資料17
- 日本写真著作権協会提出資料(93.8KB)
- 資料18
- 日本放送協会提出資料(79.4KB)
- 資料19
- 日本ケーブルテレビ連盟提出資料(91.9KB)
- 資料20
- 日本民間放送連盟提出資料(89.4KB)
- 資料21
- 主婦連合会提出資料(73.3KB)
- 資料22
- 電子情報技術産業協会提出資料(110KB)
- 資料23
- 日本図書館協会提出資料(83.1KB)
- 資料24
- 青空文庫提出資料(166KB)
- 参考資料1
- 法制・基本問題小委員会(第6回)タイムスケジュール(28.6KB)
- 参考資料2
- ヒアリング出席者一覧(57.2KB)
- 参考資料3
- 環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)関係部分抜粋(53KB)
- 参考資料4
- 環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要
(平成27年10月5日内閣官房TPP対策本部)関係部分抜粋(64.2KB) - 参考資料5
- TPP(環太平洋パートナーシップ)総合対策本部の設置について(平成27年10月9日閣議決定)(107KB)
- 参考資料6
- 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉の大筋合意を踏まえた総合的な政策対応に関する基本方針
(平成27年10月9日TPP総合対策本部決定)(273KB) - 参考資料7
- 第15期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(64.3KB)
- 出席者名簿(45.7KB)
議事内容
【土肥主査】おはようございます。それでは,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第6回を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
なお,本日のカメラ撮りにつきましては冒頭5分程度とさせていただきますので,御了承いただければと思います。
まず,このたび著作権分科会の小委員会への委員の分属の変更がございましたので,御紹介をいたします。
文化審議会専門委員,東京地方裁判所判事の長谷川浩二委員は,これまで著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会に御出席いただいておったところでございますけれども,今後は法制・基本問題小委員会に御出席いただくこととなりました。
長谷川委員,よろしくお願いいたします。
【長谷川委員】長谷川です。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】次に,事務局に人事異動がございましたので,報告させていただきます。
事務局からお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】御報告申し上げます。
本年8月17日付で,国際課専門官に大塚千尋が着任しております。
【大塚国際課専門官】大塚です。よろしくお願いします。
【秋山著作権課長補佐】それから,11月1日付で,著作権課専門官に大野雅史が着任してございます。
【大野著作権課専門官】大野でございます。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】では,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第の真ん中から下半分を御覧ください。資料1,2としましてTPP協定に関する事項。資料3としまして,TPP協定への対応に関して御議論をお願いしたい点について。資料4から24としまして,関係団体の提出資料でございます。個別には裏面に記載がございますので,後ほど御参照ください。それから,参考資料1から7としまして,それぞれ記載の資料を御用意しております。大部になりますけれども,足りないものなどございましたら事務局にまでお知らせください。
【土肥主査】ありがとうございました。
本日は,大変長時間にわたる会議となりますけれども,よろしくお願いいたします。
それでは,初めに,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への対応について,(2)その他となっております。
早速,(1)の議事に入りたいと存じます。10月5日にTPP協定の大筋合意がなされましたけれども,その中では著作権分野についても言及がございまして,協定を締結するために幾つか著作権制度の整備が定められている事項がございます。まずは,その点について事務局から説明をお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】それでは,お手元の資料1と資料2を御覧いただきたいと思います。
まず,資料1から御紹介いたします。資料1では,TPP協定のうち知的財産章,とりわけ著作権関係の合意事項について抜粋して御用意しております。この章の位置付けとしましては,TPP協定の条文自体,まだ公表されておりませんが,大筋合意ということで,事柄としては基本的には合意されたということでございますので,その事柄を抽出したものを整理させていただいております。
まず,1.知的財産章の概要ですけれども,この知的財産章におきましては,商標,地理的表示,特許,意匠,著作権などに関して定めがございます。
2.主要論点では,まず定義として,知的財産の定義としては知的所有権の貿易関連の側面に課する協定,いわゆるTRIPS協定の第2部第1節から第7節までの規定の対象となる全ての種類の知的財産をいうこととされてございます。ここに,著作権及び著作権に関連する定義も記載されているところでございます。
目的・原則等は省略させていただきまして,2ページをお願いいたします。
まず,一般規定でございます。ここでは,締約国はTPP協定の協定により要求される知的財産権の保護・行使よりも広範なものを国内法令において規定することができ,また国内の法制・法律上の慣行の範囲内でTPP協定の規定を実施するための適当な方法を決定することができることとされております。
また,以下の三つの協定の批准が求められております。ベルヌ条約,著作権に関する世界知的所有権機関条約,そして実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約でございます。
内国民待遇に関する原則は,ここに定められております。
次に,協定発効前の行為についての協定の適用という定めがございまして,ここでは,協定の効力発生の日において保護されていないものは保護対象ではない,ということが明確になってございます。
(2)著作権及び関連する権利では,保護すべき権利の概要が記されてございます。まず,著作権及び関連する権利としまして,著作者,実演家及びレコード製作者に著作物の複製権,公衆への伝達に関する権利,譲渡権,放送権,録音・録画権等の権利を与えるとされております。
また,著作権及び関連する権利の保護期間に関する定めがございます。
3ページをお願いします。このほかに,事項としましては著作権の制限に関する事項,それから技術的手段に関する事項,権利管理情報に関する事項が定められております。
さらに,権利行使に関する事項としまして,4ページでございますけれども,民事関連に関することについて,るる定めがございまして,ここで後ほど御紹介する法定の損害賠償などに関することも定めがございます。
また,刑事関連の権利行使の部分におきましては,非親告罪とするべき範囲についても言及がございます。
そのほか,国境措置関連に関することや,衛星・ケーブル放送信号に関すること,そして次のページですけれども,インターネット・サービス・プロバイダに関する規定もございます。
協定の概略は以上でございます。
次に,著作権に関する部分を詳しく御紹介したいと思います。資料2をお願いいたします。
こちらは,先ほどの協定における著作権関係事項のうち,著作権法の改正の必要性を検討すべき事項として考えられるものを5項目挙げさせていただいております。しかし,この項目の改正が本当に必要なのかどうかということや,ほかに改正すべき事項はないのかということについては,引き続き政府部内でも精査をしておるところでございます。
5点のうち,1点目として保護期間の延長がございます。TPP協定の定めを基に考えますと,以下のようになると考えております。著作物と実演・レコードの保護期間につきましては,原則50年となっているところを70年に延長することが求められると考えております。そして,米印のところですけれども,保護期間が延長される際に,改正法が施行した時点で既に保護期間が満了しているものについては,遡及して保護期間が復活することにはならないということでございます。
次に,著作権侵害罪の一部非親告罪化でございます。協定におきましては,著作権,実演家の権利又はレコードに関する権利を侵害する複製に係る罪のうち,故意により商業的規模で行われるものについて非親告罪とすることとされてございます。
商業的規模には,以下の2点の行為を含むとされております。第一に,商業上の利益又は金銭上の利得のために行われる行為,第二に,上記に該当しない重大な行為であって,市場との関連において当該著作権者等の利益に実質的かつ有害な影響を及ぼすものとされております。
ただし,このうち非親告罪とすべき範囲については,市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与えるものに限定することができるとされてございます。
このように非親告罪とすべき範囲がただし書以下で限定を付された経緯としましては,我が国における二次創作文化への影響などについて,社会的に大きな懸念が寄せられたことも踏まえまして,協定交渉の中で我が国からの求めにより,このような内容を記した脚注が入ることになったところでございます。
このほか,映画館における上映中の映画の著作物に関する権利侵害についても,非親告罪とすることが定められております。
2ページをお願いいたします。3.著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段,いわゆるアクセスコントロールに関する制度整備についてでございます。協定上は,まず第一に,著作者,実演家・レコード製作者が権利の行使に関連して用い,並びにその著作物等について許諾されていない行為を抑制する効果的な技術的手段の回避に対し,以下の措置を講ずるとされてございます。措置の内容としては,第一に,著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段を権限なく回避する行為,第二に,効果的な技術的手段を回避する装置等の製造,頒布等に関する行為でございます。こうした行為に関する民事上の救済措置等及び刑事罰に関しては,知的財産権を侵害しない使用を可能とするために,例外及び制限を定めることができるとされております。
なお,ここに言う効果的な技術的手段の定義でありますけれども,米印にあるとおりでございます。つまり,効果的な技術,装置又は構成品であって,その通常の機能において,保護の対象となる著作物,実演若しくはレコードの利用を管理するもの,又は著作物,実演家の権利若しくはレコード製作者の権利を保護するものとされております。つまり,前半部分の利用を管理するものと,後半の部分の権利を保護するものの,両方の保護が求められているということでございます。
続きまして,4.配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与でございます。協定におきましては,実演及びレコードに関する世界知的所有権条約,いわゆるWPPT第15条(1)及び(4)の規定するところによりまして,実演家及びレコード製作者に権利を付与することが求められております。具体的には,実演家及びレコード製作者に対し,商業上の目的のために発行されたレコードの放送,有料放送について報酬請求権等を付与することとされております。
この点について,現行の著作権法第95条などにおいて商業用レコードを放送,有料放送する際,二次使用料請求権が実演家及びレコード製作者に付与されているわけでありますけれども,この商業用レコードの範囲は現在,CDなどの有体物を介したもののみが対象になっている一方,協定では有体物を介さずにインターネット等から直接配信される音源が新たに対象とならなければならないという規定であると理解しております。
次に,5.法定の損害賠償又は追加的な損害賠償に係る制度整備でございます。協定におきましては,著作権,実演家の権利又はレコード製作者の権利の侵害に関し,以下のいずれか又は双方の損害賠償について定める制度を整備するとされております。一つ目の選択肢としましては,権利者の選択に基づいて受けることができる法定の損害賠償,第2の選択肢としましては,追加的な損害賠償のいずれか又は双方を定めるということになっております。
これらの定義というのは詳細にないわけでありますけれども,法定の損害賠償については米印1で若干の補足がございます。ここでは,侵害によって引き起こされた損害について,権利者を補償するために十分な額に定め,及び将来の損害を抑止することを目的として定めるとされております。米印2におきましては,追加的な損害賠償には懲罰的損害賠償を含めることができるといったことが記載されております。
この法定の損害賠償と追加的な損害賠償に関しては,これ以上の定義はございませんので,あとは各国における国内法整備において検討が必要になろうかと理解しております。
説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】ありがとうございました。
ただいま事務局から説明のあったとおり,著作権分野について制度整備の検討をすべき事項も踏まえ,TPPへの対応について関係団体から御意見をお伺いしたいと思っております。多くの団体に御意見をお聞きすることになりますので,前半と後半に分けさせていただくということでございます。
まず,前半で,日本音楽著作権協会,日本書籍出版協会,コンピュータソフトウェア著作権協会,日本映画製作者連盟,日本芸能実演家団体協議会,日本レコード協会の六つ団体から御意見を伺います。休憩を挟みまして,後半で,日本経済団体連合会,日本知的財産協会,コミックマーケット準備会,ThinkTPPIP,インターネットユーザー協会の五つの団体から御意見を伺います。
限られた時間で,多くの団体にヒアリングをお願いいたしますので,各団体におかれましては,恐縮でございますけれども,10分をめどでの御発表に御協力を賜れればと思っております。
それでは,前半の御発表をお願いしたいと思います。六つの団体の御発表が終わった後に質疑応答を行いたいと思います。
最初に,日本音楽著作権協会の浅石様,池田様,よろしくお願いいたします。
【日本音楽著作権協会(浅石)】御紹介いただきましたJASRACの浅石でございます。本日は発言の機会を頂き,ありがとうございます。 お手元の資料4に基づきまして,意見を述べさせていただきます。
冒頭に,TPPの大筋合意,特に知的財産権における意義につきまして,共通した認識に立つ必要があるのではないかということを述べさせていただきたいと思います。資料4のはじめにを御覧ください。
御案内のとおり,本年10月5日に内閣官房TPP対策本部から公表された概要によりますと,第18章,知的財産につきまして「もって,知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっている」と記載されております。すなわち,著作権につきましては,本日配布資料の記載のとおり,70年の保護期間,非親告罪化,法定損害賠償又は追加的損害賠償制度などを設けることにより,12か国の知的財産権の保護と利用の推進が図られることとなっている,繰り返しますが「なっている」ということでございます。この基本理念を共通認識とされて,関係する法整備をお願いいたします。
中には,この理念を読み飛ばして,今回のTPPは知財の強化であり,バランスを取るためには,新たに何らかの権利制限規定を設けるべき等との意見があるように聞こえております。しかし,繰り返しにはなりますが,著作権につきましては合意事項を法制化することで保護と利用の推進を図る内容となっているのでございまして,TPPを理由として合意事項にない事柄の法制化を望むことはかえってバランスを欠くことになるので,厳に慎むべきであると存じます。
以上の観点から,当協会は,TPPの大筋合意に基づく著作権に関する事項につきまして,その意義からおおむね賛成であることを,冒頭,表明させていただきます。
その中で,JASRACは,当協会に直接関係いたします70年の保護期間,非親告罪化,そして法定損害賠償又は追加的損害賠償制度に絞りまして意見を申し述べます。
ページをめくっていただきまして,1,著作権等の保護期間でございます。御検討に当たり,本件は,TPP協定が21世紀型の新たなルールの構築であるという意義を前提として御検討いただく必要があると存じます。そのため,我が国における過去に行われた様々な議論の内容にとらわれることなく,多国間における自由な物,サービスの移動,共通市場の構築というTPP本来の目的に沿うものでなければならないと存じます。
さて,70年の保護期間に反対される方々は,TPPが多国間における自由貿易交渉であることを全く理解せず,必ずと言っていいほどアメリカからその説明を始め,アメリカによるルールのごり押し等と発言される方がおられますが,考慮すべき先例としてはEUの統合であると考えております。御案内のとおり,ECの時代には保護期間の調和ということは考えられておりませんでしたが,1989年のいわゆるパトリシア事件の判決により,保護期間の調和の要請が求められ,1993年のEC保護期間指令に結実していったことは,平成20年2月の文化庁の報告書「著作物等の保護と利用円滑化方策に関する調査研究『諸外国の著作物等の保護期間について』」にも記載されております。
すなわち,保護期間の相違は,自由な商品の移動とサービスの提供を妨げ,共通市場の競争をゆがめられる傾向があるとして,EU域内が著作権の保護期間を70年で調和することとなったわけでございます。1998年にはアメリカが70年としたわけですが,その主な理由はEUとのハーモナイゼーションでございました。今回のTPPによる合意につきましては,まさに多国間における共通市場を目指すということにおいては,EC,あるいはアメリカのEUとのハーモナイゼーションと変わりなく,保護期間の調和は必然と言っても過言ではございません。
何度も申し上げますが,保護期間を70年とすることが保護と利用の推進を図る内容となっているのでございます。このことから,著作権の保護期間を70年とすることに賛成をいたします。と申しますか,TPPはパッケージでございますので,単体を取り出して賛成だ,反対だと申し上げる性質ではないということは重々承知しております。しかし,長年にわたるJASRACの懸案事項でもございますので,あえて賛成と申し上げます。
なお,我々権利者は,この問題でよく取り上げられますオーファンワークスへの対応につきまして既にポータルサイトを立ち上げておりますが,本件に関わる検討会を既に開始いたしておりまして,9月3日には本件に関する記者会見もしております。このように,利用の円滑化に取り組んでおりますということを一言申し添えさせていただきます。
次に,2,一部非親告罪化でございます。合意内容には,商業的規模や,ただし書には,市場における著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合にはこの限りではないという部分がございますが,法制化に当たりましては,例えばどこまでの規模になったら非親告罪になるのかが明確になりますように,御配慮いただきますようお願いいたします。
また,複製を対象としておりますが,12か国の交渉の中でなぜ複製のみを対象にしたのかが,現在,明らかになっておりません。例えばですが,公衆送信という概念は我が国にしかなく,他の11か国は演奏権と複製権の複合した権利としてネットを捉えているので,複製権のみを対象としたとしても,パッケージだけではなくネットにも対応できるとしているのか,又は,TPP対象国の多くがまずは違法なパッケージを撲滅したいと考えているのか等々,なぜ複製のみとしたのかが開示されておりません。
そういう前提での意見でございますが,資料記載のとおり,我が国の現状を見ますとインターネット上の違法コンテンツが蔓延しております。つきましては,ファイル共有ソフトのようなネット上の海賊版の頒布などにも権利行使ができる制度とするよう,お願いいたします。
さらに,非親告罪の国であるアメリカ大使館レファレンス資料室の米国司法制度の概説によりますと,権利者が訴追を求めない場合は法律を執行しないとの説明がございます。一方,相手方が反社会的勢力である場合には,社会正義の現実という意味においては必要な制度であると考えます。
これらのことから,非親告罪化に当たりまして,公訴の提起の判断の際には被害者が処罰を望んでいるか否かを十分に斟酌するなど,適切に制度が運用されることを望みます。
最後の3,法定損害賠償又は追加的損害賠償制度でございます。著作権侵害行為というものは,密室性が高く,個々に見れば比較的小規模な侵害が多発するという点で,一般の侵害以上に損害額の立証が困難でございます。このことが司法救済の実効性を損ねる一因となっております。また,仮に立証できたとしても,弁護士費用や裁判費用のほかに,訴訟には相当の時間と労力が必要です。費用倒れに終わるということもございます。そのために,特に個人の場合には訴訟提起を断念することも少なくないものと存じます。これらのことから,司法救済の実効性の確保,著作権侵害のやり得の排除,そして侵害の抑止の観点から,法定損害賠償又は追加的損害賠償制度の導入は有効であろうと考えております。
以上,簡単ではございますが,TPPの大筋合意のうち,著作権に関する三つの事項につきまして意見を表明させていただきました。
御清聴ありがとうございました。
【土肥主査】どうもありがとうございました。
続きまして,日本書籍出版協会の村瀬様,平井様,よろしくお願いいたします。
【日本書籍出版協会(村瀬)】日本書籍出版協会から意見を述べさせていただきます。本日,意見発表を担当します村瀬です。よろしくお願いいたします。
まず,書協,日本書籍出版協会,今回,当初の6団体,いずれも権利者側という認識で捉えられているような流れかと思いますが,出版社は御存じのように法律上当然の権利者ではなく,むしろ最大の利用者というような立場も持っていると考えております。ですので,こちら側からの意見というのは,いわゆる単純に著作権者側の意見というわけではなく,それを利用する側の意見でもあるということを踏まえて,捉えていただければ有り難いと思います。
それでは,資料5を御覧ください。
まず,著作物等の保護期間の延長について。保護期間の延長そのものについて,当協会としては特段の意見はありません。先ほど申し上げたとおり,権利者側であると同時に最大の利用者としての立場もあるわけなので,多分,個別に見れば損得というものは生じるだろうと思いますが,これについての意見はないということでございます。
ただ,保護期間が延長される場合には,当然,ほかの各団体も指摘されていると思いますが,いわゆる孤児著作物の問題というのがより大きくクローズアップされてくることと思います。これについても,最初に出版物として世に送り出される著作物の所在,著作権の所在について,やはり一時的に情報を把握しているのは出版社という立場でございますので,当協会としては,この問題についてより積極的に対応していこうということで協会内の意思を統一しているところでございます。
それから,保護期間の延長については,これは日本にとって延長ということになるわけですが,この協定自体は,先ほどJASRACさんもおっしゃったとおり,ルールの共通化,共通市場の創出という観点からのものだと把握しております。そうした場合,我が国は現在,サンフランシスコ平和条約の締結国に対して10年以上,国によって微妙に日にちが違いますけれども,戦時加算の義務を負っております。そのことにより,保護期間が70年に延長されると,今回のTPP加盟の幾つかの国に対しては実質80年以上の保護期間が生じます。これは,まさにルールの共通化ということに反する,今も反しているわけですけれども,反する効果というものが生じております。これ自体,TPPそのものと関係がないということは十分承知をしておりますが,これを機会に,是非ともその趣旨に添って,この戦時加算の制度について,対応する各国間での協議を日本政府には積極的に進めていただきたいと考えております。
続けて,一部非親告罪化について意見を述べさせていただきます。著作権に対する侵害罪の一部について非親告罪化とすること自体は,悪質な海賊版行為等,社会秩序を乱す行為に関しては有効なものであると考えております。しかしながら,実際に侵害されているか否か,それがどの程度重要な影響を著作権者に対して及ぼしているのかということは,やはり最終的にはその著作権者自身が判断すべき,本来はそういったものであろうと考えております。
また,新たな著作物が生まれる際には,長い歴史の中に存在してきた様々な無数の著作物,それは権利が生きているものもあれば,もう保護期間を経過しているものもありますが,そういったものを倣い,場合によっては模倣し,参考にしながらいろいろなものを作っていく。そういった行為の中で様々な新しい著作物が作られていくということは,日々,著作物が新たに作られていく現場に立ち会っている出版社として,共通して持っている認識でございますが,そういった状況自体,法的に見ればグレーな状況というものがあることは否めない。ところが,現状ではそこのところは,いわば権利者側と実際に利用されている側との間の,ある意味あうんの呼吸がうまく機能することによって,そういった土壌がある一定程度担保されているように感じるところです。
こういったところで非親告罪化,すなわち権利者が告訴をしなくても刑事司法手続が進行するという制度は,そういったことを生み出す土壌に対して何らかの影響を及ぼすおそれは非常に大きいと考えますので,非親告罪化の対象となる範囲というものは,冒頭申し上げたとおり,社会秩序に重大な影響を及ぼすものに限定する,明確かつ創作行為を萎縮することのない制度となるよう,十分な配慮をお願いしたいというのが当協会としての意見でございます。
なお,非親告罪化がなされた場合,出版・表現行為に関して,行政機関ないしは捜査機関による捜査等について,著作権侵害の非親告罪であるということを何らかの契機として,過剰な捜査等が行われるのではないかというような危惧が実際には広がっております。制度として客観的に考えれば,関係がない,ないしは非常に関係が薄いということは重々承知しつつも,やはり現場として危惧感を持っているということも念頭に置いていただいて,繰り返しになりますが,明確な運用を心掛けていただきたいところでございます。
三つ目に,損害賠償制度の見直しについて意見を述べさせていただきます。出版に関しての権利侵害が生じたと想定した場合,現状の新刊書籍1点当たりの発行部数というのは,ごく一部のベストセラーを除けば,多くても数千部,専門書で1,000部程度という規模であります。現状,言われております利用料相当額であるとか,相当額というような損害賠償金のレベルでは,出版社は法人であったとしても1点1点の規模というのは極めて小さい。そうすると,実際には,そのようなことに対して司法を利用した民事救済の道は,事実上,選択肢として選択が厳しいような状況が生じていると認識をしております。
そのような事態を勘案した場合,やはり相当な賠償を受けられる適切な法定の損害賠償制度というものについては,基本的には歓迎する立場に立ちたいと思います。また,こういった損害賠償請求をする際に最大の障害になるのは,多くの場合,損害額の証明でございますが,証明の軽減ということについても御留意を頂ければと考えております。
4.その他ですけれども,今回,文化審議会の守備範囲の外であるということは重々承知をしつつ,今回,配布されました資料1の5ページの所に記載されているとおり,オンラインの著作権侵害の防止として,我が国と同様のプロバイダ責任制限法と同様の制度導入が各国に対して求められているというような記述がございます。実際,日本にはプロバイダ責任制限法がございますので,その意味で新たな法制度,法整備という話にはならないのかもしれませんが,出版社として権利侵害に対してプロバイダと交渉する際,現状,日本のプロバイダ責任制限法によって,ガイドラインによって求められる権利行使要件というものは,例えば英国のDMCAルールよりも高いというのが侵害対策担当者の共通の認識であると,協会の方には声が上がっております。同法が文部科学省の所管ではないことは承知しておりますが,一部非親告罪化や法定賠償制度と同様に,これらは著作権侵害,特に海賊版行為への対応として実務上重要な問題だと考えられるため,あえて言及させていただきました。
【日本書籍出版協会(平井)】若干,補足させていただきます。
戦時加算に関してですけれども,今回のTPP非参加国においても戦時加算は当然ながら存在しておりますので,是非とも関係省庁とプロジェクトチームを組むなりして,具体的なロードマップに基づいて,一刻も早い解消をお願いしたいところでございます。
それから,一部非親告罪化についてですが,我々出版社はこれまで表立ってコミックマーケットについてコメントしてまいりませんでした。しかしながら,コミックマーケット,コミケというのは,我が国が世界に誇るコンテンツのゆりかごの役割を果たしていると認識しております。是非ともこうした文化を守り育てる方向での制度改正をお願いしたいと思います。
最後に,プロバイダ責任制限法についてですけれども,これを行使するのは出版社にとって非常にハードルが高いです。現状,ノーティス・アンド・テイクダウンに関して言うと,海外のプロバイダの方がより迅速に削除してくれているという転倒した状況があることを御理解いただければと思います。
以上です。どうもありがとうございました。
【土肥主査】ありがとうございました。
続きまして,コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田様,中川様,よろしくお願いいたします。
【コンピュータソフトウェア著作権協会(久保田)】コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田でございます。TPP協定に定められている著作権法整備に関する意見を一言述べたいと思います。非常に短い期間の中で,会員会社等にもいろいろとリサーチをしたんですけれども,細かいことは置きまして,基本的なお話をさせていただきたいと思います。
まず,TPP協定の締結に必要な著作権の整備につきましては,おおむね歓迎しているということでございます。今回,この発表におきましては,個別的な事項のうち,弊協会業務と関連が深いものについて三つほど意見を述べさせていただきます。
まず,一つ目ですけれども,著作権等侵害罪の一部非親告罪化についてでございます。著作権等侵害罪の一部非親告罪化につきましては,悪質な海賊版に対する権利行使が円滑に進む可能性があります。加えて,当該侵害に対する告訴期間がなくなること,及び告訴状作成等コストが低減されるという効果も見込まれることから,基本的には歓迎であるということです。制度設計に当たっては,協定の内容を精査しまして,先の趣旨・目的を踏まえた範囲を限定することで,利用者の懸念に配慮することが望ましいと考えております。
なお,現実には,著作権侵害であることの判定におきましては,捜査段階から著作権者が関与せざるを得ないと想定されますし,著作権者の負担軽減は限定的であろうと思います。また,権利者の意識が全く働かないところで刑事手続が進められるなど,利用者に過度な影響が及ぶものではないと考えております。
続きまして,アクセスコントロールの回避等に関する制度整備についてでございます。ネットワーク・クラウド環境下で著作物を取り扱うことが一般的になっております現在,著作権者は支分権該当行為(特に複製行為)ではなく,著作物へのアクセスを管理することが主流になっております。その方法としまして,装置,認証技術を含むプログラム等,様々なものが実装されており,著作権者の利益を適切に保護するためには,これらの技術的手段を回避する装置,プログラム等の排除は急務でございます。効果的な技術的手段の保護に関する制度の設計に当たっては,最近の技術動向も踏まえた適切な範囲とすることが求められております。
また,これらの技術的手段の回避行為に関しまして,既に蔓延している回避装置,プログラム等の利用を制限することができることから,その制度整備は望ましいと思いますが,権利者の利益を不当に害さないものについては,適切な例外規定を定める必要があるものとも考えております。
最後になりますが,損害賠償制度の見直しについてです。公衆送信権侵害の事案の場合,ダウンロード等の具体的な侵害事実を特定しづらいため,損害賠償請求訴訟の提起がちゅうちょされているという実情に鑑みまして,侵害者の侵害し得をなくすため,著作権者の立証責任が軽減されるような制度整備を求めております。
簡単でございますが,以上でございます。
【土肥主査】ありがとうございました。
続きまして,日本映画製作者連盟の華頂様,よろしくお願いいたします。
【日本映画製作者連盟(華頂)】映連の華頂でございます。本日は,このように意見を申し上げる機会を頂きまして,誠にありがとうございます。
資料7でございますけれども,下の段,2ページを御覧ください。最初に,TPP協定の締結に必要な著作権制度上の措置について,総論として申し上げたいと思います。
大きく五つの項目がある中で,映画製作者から見た全体的な印象としては,当然,なすべきことがなされるという意味においては歓迎するものでございます。一方で,著作権の強化にほかならない,これらの措置の実行に対しては柔軟な権利制限規定等の導入などでバランスを取る必要があるというような意見も仄聞するところでございます。
映画製作者の意見としては,まずもって申し上げておきたいのは,歓迎はするものの,権利が特別に強化されるとも思えないというところが本当のところでございます。柔軟な権利制限規定につきましては,ここ数年来,様々な場で議論されている内容を鑑みれば,急転直下,大筋合意となったTPP協定の著作権分野5項目とひも付けて論じること自体が,議論の本来趣旨を逸脱するのではないかと危惧しております。
ページをおめくりいただきまして,5項目についての意見を申し上げたいと思います。
まず,1.著作物等の保護期間の延長についてでございますが,現行50年から70年に延長することについては賛成をいたします。なお,協定上の検討事項に映画は入っていないわけですが,今般の延長措置に付随しての要望がございますので,これは最後に申し上げたいと思います。
続きまして,2.著作権侵害の一部非親告罪化でございます。これにつきましては故意により商業規模で行われるものと限定されておりますけれども,映画製作者としては,まさに全てを対象とする必要性はないものと考えております。例えば,映画作品をそのままデッドコピーするような極めて悪質な行為,これを対象としていただければ十分であると考えております。
下の段に移りまして,4ページでございます。3.アクセスコントロールの回避等に関する制度整備,それから4.配信音源の二次利用に関する報酬請求権の付与,これにつきましては,特段意見はございません。
続きまして,5.損害賠償制度の見直しについてでございますが,検討事項として権利者の選択に基づいて受けることができる法定の損害賠償と,追加的な損害賠償のいずれか又は双方とされておりますけれども,映画製作者としては,是非,将来の損害に対して抑止効果が生じるような適切な制度整備をお願いしたいと思っております。
ページをまた移りまして,最後でございます。冒頭で申し上げました著作権保護期間の延長に付随する要望を申し上げたいと思います。
御存じのように,映画の著作物につきましては,平成15年の法改正によりまして保護期間を延長する措置が既に取られております。これは,映画の著作権保護期間が公表後起算とされているため,著作者の死後起算となるほかの著作物と比較すると,著作者の生存期間の分だけ実質的に短いという状況でありまして,この不均衡を是正するための措置でございました。
更にページをめくっていただきますと,本日,参考資料として映画化された原作,それと当該映画の保護期間の対比表を添付しております。かなりの数の例を挙げていますけれども,例えば冒頭,1を見ていただきますと川端康成先生の名作「伊豆の踊り子」,これは1954年に松竹が野村芳太郎監督により映画化して公表しております。映画の保護期間は現行70年で,それでいきますと2024年までの保護期間です。これに対しまして,原作の方は1926年に公表されたものの,川端先生が1972年に亡くなられておりますので,今般の延長により死後起算が70年となりますと2042年までとなりまして,公表後起算に置き換えると何と116年もの保護期間となります。その下,同じく「山の音」は93年でございます。
以下,原作を映画化した著名な作品を対比しておりますので,後ほどお目通しいただきたいのですが,映画の公表後70年の保護期間に対しまして,原作の死後起算の平均,資料に記載してございますように99.8年になります。この状況は平成15年当時と何ら変わっていないどころか,御案内のとおり日本人の平均寿命,年々延びているという現実もございます。今般のTPP協定に基づきまして,著作物の保護期間が著作者の死後70年を経過するまでとされた場合には,平成15年の法改正に至ったと同様の理由をもってして,映画の著作物の著作権はその著作物の公表後95年とすることを強く要望いたします。
95年と申し上げましたのは,参考資料でお示しいたしましたように,死後起算の保護期間平均が99.8年と算出されたことに基づいております。ちなみに,現在,TPP協定に参加している米国の映画の著作権保護期間はくしくも95年でございます。何とぞよろしくお願い申し上げます。
以上でございます。
【土肥主査】ありがとうございました。
続きまして,日本芸能実演家団体協議会の椎名様,よろしくお願いいたします。
【日本芸能実演家団体協議会(椎名)】芸団協の椎名でございます。本日は,資料8を使いまして,TPP協定に定められている著作権法整備に関する意見を申し上げたいと思います。
まず1番,環太平洋パートナーシップ協定における知的財産分野の意義ということでありますが,そもそもTPP協定においては,概要という形で10月5日に発表されましたものの中で言及されておりますとおり,TPP協定は物の関税のみならず,サービス,投資の自由化,さらには知的財産,電子商取引,環境など,幅広い分野で21世紀型の共通ルールを構築して,参加国間の互換性を担保するためのものであると理解しております。この互換性の担保という観点は,知的財産分野においても非常に重要な位置を占めておりまして,これが完結することによって,実演を含むコンテンツのグローバルな更なる流通等が期待されると思います。
この知的財産分野においては,「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定を上回る水準の保護と,知的財産権の行使について規定し,もって,知的財産権の保護と利用の促進を図る」ものとされております。このことは,先ほど来,何人かの方が言及されておりますが,知的所有権の保護ということだけでもなくて,利用についても考慮した,バランスの取れた互換性のある国際標準を策定しようとするものでありまして,まさに21世紀型のルールということで評価ができるのではないかと思います。
著作権に関する諸事項として挙げられているものについてでございますが,1.で申し上げました考え方に基づきまして,現在,公表されている保護期間の延長や配信音源の二次使用に関する権利付与等,5項目につきましては,参加国において適切な保護と利用のバランスを図る上で,いずれも重要かつ必須なものでありまして,我々芸団協としても歓迎いたしておるところでございます。申し上げておりますとおり,TPP協定において求められる互換性のある国際標準に合致するように,著作権法の整備等を進めていただきたいと思います。
最後に,TPP協定外の著作権法整備に関する事項ということで,これも既に何人かの方が言及されておるところでございますが,著作権法の課題というのは,TPP協定で言及されたもの以外に,例えばクリエーターの対価還元,孤児著作物の取扱い,あるいは集中管理の推進による権利処分の円滑化など,TPP協定において定めのない事項であるものの,著作権法整備に関する未解決の問題というのは山積していると理解しています。
しかし,これらTPP協定外の様々な課題に関する議論と,TPP協定に定められている著作権保護整備に関する議論は明確に区別をすべきであって,これらを混同するとTPP協定の機動的な対応が著しく困難になることは明白であろうかと思います。TPP協定外の事項につきましては,TPP協定に定められている著作権法整備に関する議論とは区別した上で,更に議論を継続していくことが必要であろうかと思います。私どもとしましては,特に集中管理の推進による権利処理の円滑化ということ,これはTPP協定によるコンテンツのグローバルな流通の推進ということが見込まれます中で,一層その重要性が増してくるのではないかと思っております。
以上でございます。
【土肥主査】ありがとうございました。
引き続きまして,日本レコード協会の高杉様,楠本様,それから苅部様,よろしくお願いいたします。
【日本レコード協会(高杉)】日本レコード協会の高杉と申します。本日は,意見表明の機会を頂きまして,ありがとうございました。
私どもの意見につきましては,資料9で配布をさせていただいております。
TPP協定において締約国の義務として定められている著作権法関係の制度整備でございますけれども,私どもとしては早期の実現を求めたいと考えております。レコード製作者の立場から,今回,4点,意見を述べさせていただきます。
1番は,レコード保護期間の延長でございます。現行のレコード保護期間は,発行後50年,最初の音固定後50年以内に発行されない場合には最初の音固定後50年ということになっておりますけれども,これを発行後70年に変更していただきたいと考えております。こちらに書いておりますとおり,音楽におきましても音楽配信等が伸長してきておりますけれども,デジタル化やリマスタリング等の費用負担がレコード製作者にとっては避けられないわけでございますが,保護期間の延長によりまして,その費用負担をして過去のレコードを商品化することへのインセンティブが働き,結果としてレコードを通じた音楽文化の継承,発展に寄与することができるものと考えております。
また,日本においてはまだパッケージが主流ではございますけれども,今,音楽配信,今年は特にサブスクリプションサービス元年等と言われておりますけれども,音楽配信の普及によりまして,レコード製作者が,過去のレコードを含めまして,従前より多様な品ぞろえを提供することが可能となっております。ユーザーの利便性の高いこのようなサービスをやっていくに当たりましても,レコード製作者としては多くの過去の音源をデジタル化することが必要でございますので,そういう意味ではレコードの経済的価値が高まっているものと考えております。世界的に見ますと,63か国が70年以上の保護を行っているという現状がございますので,日本におきましても同様の措置を講じていただきたいと思っております。
2点目でございますけれども,配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与でございます。冒頭御説明ございましたとおり,現在,放送及び有料放送における商業用レコードの使用について,実演家,そしてレコード製作者に二次使用料請求権が付与されておるわけでございますけれども,対象が商業用レコード,有体物に限定されております。こちらに書いておりますとおり,2014年の世界の音楽市場におきましては,既に有料の音楽配信の売上げがパッケージの売上げとほぼ同等の規模になってまいっております。私どもとしては,放送においてこういう配信音源が使用されやすい環境を作るとともに,使われた場合には有体物の商業用レコードと同様に,実演家,レコード製作者に報酬請求権が付与されるべきものと考えております。
裏面,3番目でございます。損害賠償に係る制度の整備ということでございます。特に,インターネットを悪用した著作権等侵害行為におきましては,送信が自動的に行われるため,侵害者自身も送信回数等を把握していないことも多く,損害額の立証が困難な場合が少なくありません。また,訴訟を提起しても,小規模な侵害事件ではコスト倒れになるということで,侵害のし得の状況が現実的に生じているものと私どもは認識しております。
そういう意味で,権利の実効性を確保するため,また,我が国における塡補賠償原則に則した適切な形で,損害が十分に補償されるような制度が構築できれば非常に望ましいと考えております。例えばということでございますけれども,侵害の事実を立証した場合,一定の合理的な額や基準に基づいて損害額を推定する規定を設けていただく。ただし,反証を許すことによって,バランスの取れた制度を構築することができるのではないかと考えております。
最後,非親告罪化について意見を申し上げます。私どもとしては,商品として提供されているものと実質的に同一のものを無許諾で複製,公衆送信等をする侵害行為を非親告罪化の対象とすべきと考えております。しかし,この一部非親告罪化がされる場合であっても,我が国における起訴便宜主義と相まって,実務上は権利者の意思確認が行われた上で,実際,起訴等が行われるという運用は変わらないものと考えておりますので,それが引き続き維持されることを期待しているものでございます。
以上でございます。
【土肥主査】ありがとうございました。
御発表いただいた関係6団体の御協力もあって,時間的には十分余裕がございますので,この六つの団体に対しまして御質問がございましたら是非お願いをいたします。どうぞ。
【大渕主査代理】貴重な御意見を伺わせていただきまして,どうもありがとうございました。
たくさんの論点がありますが,お聞きしたいことを2点に絞りたいと思います。一つは,今,まさしく言われた損害賠償の関係です。「侵害し得」を許さないような実効的な賠償額を認定してほしいという一般論は分かりますが,現行法でも第114条の1項,2項,3項の,例えば3項なども,相当な額を適切に定めれば高い額を導き得る余地はあるのではないかと思います。また,最後に言われた方と関係しそうなものとしては,第114条の5というのがあって,損害の発生が認定できれば裁量的に裁判所が認定できるということで,この辺りも適切に活用すれば,証拠が乏しくても適切な損害額を認定することは十分可能かと思います。しかし,このような現行法の道具立てだけでは足りなくて,何か新しいものが欲しいという御主張だったと思うので,現行法ではどの程度できないのかにつき,お聞かせいただければと存じます。
それからもう1点。最後に言われた,損害の事実を立証した場合には一定の合理的な額や基準に基づいた損害額を推定し,反証を許すというのは,第114条の5について,今は漠然と相当な額としているのを,もう少し証明責任的に工夫するという御趣旨のようにも見えますので,少しその辺りもお聞きできればと思います。
もう一つ重要な点として,非親告罪化のための線引きとしてデッドコピーというものが出ていましたが,ほかにも何か,細かい話は別として,線引きの基本線のようなものについて具体的な案を出していただければと思います。
以上です。
【土肥主査】それでは,日本レコード協会と,それからデッドコピーということもございましたので,日本映画製作者連盟の華頂さんのお話ではないかと私は思ったんですけれども,つまり映画の著作物に関してはその程度のところでいいというお話があったかと思いますので,その2団体にお願いいたします。
【日本レコード協会(高杉)】ただ今の御質問につきまして,直接的な御回答ができるかどうか分かりませんが,私どもとしては,かねてより法定の損害賠償制度というのは要望しておりまして,もう10年ぐらい前からだと思うのですが,私どもが平成20年9月に司法救済ワーキングチームに出した内容は,損害額の最低額を法定してほしいということで出させていただきました。
その趣旨としては,権利者の損害額の推定ではありますけれども,侵害回数が不明で本来の損害額が分からないため,少なくとも権利行使のために最低限必要な費用,これは調査の費用,あるいは弁護士費用を指しておりますけれども,これが補塡される額であるということ。それから,当時,調べましたところ,過去の判例における損害賠償認容額の下限値が10万円ということで,具体的には一件当たり10万円を損害賠償として推定してほしいということを要望した経緯がございます。しかしながら,相手方より損害が10万円に満たないとする主張がある場合については,その分を控除するというような内容で要望させていただいたものでございます。
以上,よろしいですか。
【土肥主査】ありがとうございます。
それでは,日本映画製作者連盟,お願いします。特に,映画館の撮影の特別法がありますよね。あのことについては全然言及されませんでしたけれども……。
【日本映画製作者連盟(華頂)】映画の撮影……。
【土肥主査】劇場映画の。
【日本映画製作者連盟(華頂)】これは,頂いた資料2の非親告罪化の最後のポツにもありますけれども,製品をそのままコピーされるようなものについて,先ほど申し上げましたように,繰り返しになりますけれども,悪質なものをこのような措置で取り締まっていただければ,それでいいのではないかと我々は考えております。
【土肥主査】ありがとうございます。
ほかに御質問等ございますか。
【大渕主査代理】映画は別として,映画以外の一般の場合に非親告罪化で線引きをするわけですが,デッドコピーというのは悪質だからということで,それは一つのアイデアだと思いますが,ほかにも,皆様からいろいろ知恵を出していただければと思います。いろいろ悩んで最後は引き難い線を引くことになるかと思いますが,そのために何か有益なアイデアがありましたら,お出しいただければと思います。
【土肥主査】その点については,頒布をおっしゃっていましたよね。では,JASRACの方からでも,併せてお願いします。
【日本音楽著作権協会(浅石)】JASRACは,非親告罪であろうが,親告罪であろうが,違法な利用に対してはしっかり法的措置を取りますということで,そこはどちらであろうと全く構わないというところはございます。
問題は,今回,頒布の関係で申し上げたのは,やはりインターネット上に違法な著作物が多量に流れているという状況の中で,録音に限定した場合,複製といいますか,複製に限定した場合,インターネットが対象になるのかどうかというところを注視しております。申し上げましたとおり,なぜ複製のみとしたのかというところが分かりませんので,例えば日本だけが公衆送信で,他がアメリカのように演奏と録音のハイブリッドといいますか,複合で捉えている国であれば,片一方を押さえてしまえば,それはもう大丈夫でしょうとなっているのかどうかというところが分かりませんので,頒布についてはそういった部分でございます。
実際に非親告罪になるかどうかについては,冒頭申し上げたように,商業的規模だとか,収益に大きな影響を与えない場合は云々という,そこの線引き,実際に非親告罪になったとしても,要するにここから先は非親告罪ですよ,ここまでは親告罪ですよというところが,一般の我々が法律を読んだときに,制度上の運用がここでされているんだというところを是非分かるような形で法文化させていただきたいというお願いでございます。
【土肥主査】よく分かりました。ありがとうございます。
ほかにございますか。上野委員,どうぞ。
【上野委員】本日はいろいろな御意見をお聞かせいただきまして,ありがとうございました。
御意見の中には,戦時加算に関する問題提起が少なからずあったかと思います。私の知る限り,JASRACさんも,かねてから戦時加算の解消を求めて様々な活動を展開してこられたと承知しております。ただ,きょうのJASRACさんからの御報告の中には,特に戦時加算についてのコメントがございませんでしたので,もしこの点に関して何かお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。
以上です。
【土肥主査】戦時加算については,書協の方でおっしゃっていたわけですが,今,JASRACとして御質問なので,それではJASRACの方でお願いいたします。
【日本音楽著作権協会(浅石)】はい,お答え申し上げます。
基本的には,TPPとは異なる,あるいは全てが対象国ではありませんので何も申し上げませんでした。それと,先月20日のTPPの説明会の中で,たしか渋谷審議官があえて戦時加算について,TPPとは実際には異なるけれどもということで,アメリカ,カナダ,ニュージーランド,オーストラリアとの間では,民間のCISAC決議という2007年の決議を何らかの形で政府が担保するようなものを国家間で取り交わすようにしていると。それを受けて,日豪の資料では,サンフランシスコ平和条約という文言があり,戦時加算について二国間で話し合うということが公表されております。具体的にどういう内容になるのかがわからないので,具体的な発言は差し控えたということと,ある意味,現実には対象国との間でそういう話合いがされているという,政府からの公表された意見やペーパーが存在するようですので,そこを今,見守っているということです。多分,今ですか,EUとのEPA交渉が行われていると思いますので,その中でも当然ながら,70年となったとしても戦時加算はイギリスやフランスは該当国でございますので,是非そこは同等の,仮にサンフランシスコ条約の該当項目を消すことができなくても,実質的に戦時加算がなくなる方向で是非動いていただきたいと思っています。何となくそういう方向に見えるお話のペーパーが出ておりますので,今,注視をしたいということで,あえて申し上げなかった次第でございます。
【土肥主査】この点は,事務局から一言お話しいただいた方がいいのかと思いますので,お願いします。
【匂坂国際課長】国際課でございます。
戦時加算についてでございますが,今,JASRACさんからお話がありましたことと大分重なる点があるんですけれども,今回のTPPにおきましては,アメリカ,カナダ,オーストラリア,ニュージーランド,4か国が関係しておりまして,その4か国との間でTPP交渉に併せて戦時加算の中身についても交渉してきたところでございます。その結果,実質的な戦時加算の解消に向けた合意ができたと思っております。
具体的な中身といたしましては,日本が著作権保護期間を70年に延長するということに伴いまして,各国の著作権団体が戦時加算分について日本の著作権団体に要求することを控えるという1点。さらに,必要に応じて政府間で協議をすると,そういうことを政府間で文書で交換するということに合意しております。ただし,先ほどもお話がありましたけれども,サンフランシスコ講和条約における権利義務を法的に解消するということ自体は,戦後の枠組みに大きく影響することでございますので,そこは避けるということで今まで合意を得ているところでございます。
【土肥主査】実質的にはということですね。
大渕主査代理,どうぞ。
【大渕主査代理】先ほど損害賠償について具体的にお答えいただきまして,大変よく分かりました。少しだけ確認ですが,全体的にお聞きしていると,要するに「侵害し得」を許さないような実効的な損害賠償額の算定,認定が重要だということで,ここは今後,極めて法制上の困難性に関わってきますけれども,飽くまで,いわゆる塡補賠償の範囲内で,形式的なものではなく実質的な塡補賠償を実現しようというのか,もうそれを飛び越えてしまって懲罰賠償等に入るかで,議論の困難性ないしフィージビリティーが大きく違ってくるかと思います。今までお聞きした範囲では,飽くまで塡補賠償の範囲内で着実に積み上げていって,実効性のあるものに持っていきたいという趣旨で理解してよろしいのでしょうか。
もう一つ,これは重要な点かと思うのですが,先ほど10万円の根拠として,弁護士費用や調査費用ということで,これも実損の範囲内で,どこまで相当因果関係の範囲内と思うかは別として,要するにそのような趣旨ですかという確認が1点です。
さらに,もう一つ,全く違いますけれども,先ほど非親告罪化の中でも出ていましたが,やはり最後は権利者本人の意思というのは重要だと,そこを尊重するようにすべしと,それは全く仰せのとおりだと思いますが,そこはどういう形で,実現していくのでしょうか。親告罪であれば本人が申告しなければ訴追が進まないわけですから,それは100%カバーできるわけですが,非親告罪になっても著作者,著作権者の意思をというのは,例えば事実上,訴追裁量の際には重視するということがあれば,もう少し深く入り込むものもあるので,少しその辺,尊重すべしということの具体化について何かお考えがありましたら,今後の検討の参考になるかと思います。
相互に余り関係ない2点ですけれども,よろしくお願いいたします。
【土肥主査】最初の話ですよね。それでは,法定損害賠償制度について,これは書協とレコード協会さん辺りから御意見を頂きましょうか。
【日本書籍出版協会(村瀬)】最初の法定賠償に関して,懲罰的な部分も含めてというところですが,当協会内の議論の中では懲罰的なところまで踏み込んでは考えておりません。
【日本レコード協会(高杉)】よろしいですか。
【土肥主査】どうぞ。
【日本レコード協会(高杉)】私どもも同様に,現行の塡補賠償の範囲内ということで考えております。懲罰的なものまでは想定をしておらないということです。
【土肥主査】1点幾らというのは,かつて10万円とおっしゃいましたけれども,そういう御要望はないということですか。そうですか。
あと,非親告罪の話についてはどの団体に。
【大渕主査代理】先ほどどなたか,書協さんなどが言われたかと思うので。尊重すべきということで,どうなのかと。
【土肥主査】結構そういうお話は出ていたと思いますが。それでは,お願いします。
【日本書籍出版協会(村瀬)】現実には,刑事司法の手続,捜査段階からずっとトレースすると,それが著作権侵害になっているかどうかという鑑定の段階で権利者は通常関与をしているので,権利者が全くあずかり知らぬところでいろいろな手続は動かないということは,多分,実態上はそうだろうという認識を前提として,それでもなお,やはり運用の部分で何らかの明示的なプロセスというか,告訴は要らないけれども,何らかの処罰意思の確認というものに関して,それを遵守していただくような制度的な担保,言い方としてはなかなか難しいですけれども,そういったものを特に捜査機関,司法機関に求めたいと考えております。
【土肥主査】書協さんとしては二次創作についても言及をされたわけですけれども,今の非親告罪との関係で何かイメージをお持ちであれば,お聞かせいただければと思います。
【日本書籍出版協会(村瀬)】こちらの意見書の中にも書かせていただきましたし,ほかからも出ていると思いますけれども,やはりこういった問題に関しては,実際に二次創作的な,二次創作に限らず創作分野での最大の問題では萎縮効果です。これを自分たちがやることに関して何らかの法に触れる,その法に触れるということが,例えば刑事手続につながり得るというようなところは,やはりかなり萎縮効果が働く領域だと考えておりますので,そういった懸念がなるべく,可能な限り不必要な懸念を持たずに済むような明確な線引き,ないしはそれに関しての説明,ないしは広報,いろいろな局面あると思いますけれども,なるべく明確なラインというものが,実際に創作に携わる人が全て理解できるような方法で広まるということが求められているのではないかと考えております。
【土肥主査】ありがとうございます。
ほかに御質問。龍村委員,どうぞ。
【龍村委員】1点目は非親告罪化の点ですけれども,先ほど何点か御指摘があり,デッドコピー,あるいは実質的に同一という御指摘でしたが,例えばボリューム,量ですね。量的な観点から御覧になったときに,例えば何件ぐらいデッドコピーされたら非親告罪に値するか,そこら辺のボリューム感などでお考え等はございましょうか。
【土肥主査】どちらに。
【龍村委員】JASRACさん,日本映画製作者連盟さんです。
【土肥主査】では,JASRACと日本映画製作者連盟から,今の量的な,ボリュームの話をひとつお聞かせください。
【日本音楽著作権協会(浅石)】ボリュームにつきましては,例えば音楽と文芸とはかなりの違いがあると思いますので,その辺は種目というか,分野によっていろいろ御検討していただければと思いますが,この問題は,やはり冒頭申し上げたように,反社会的勢力に対して,例えば個人の方が言えるかどうかという,そこのところをどう読み込んでいただくか。JASRACの歴史は,そことの,訴訟の歴史でもありますし,実際に私も小説に書かれたようなところに関わってきた部分もございます。ただ,それは組織があるからできるのであって,ボリューム云々よりも,相手がそういう勢力のときにどういうようにするのかという観点をお考えいただきたい。極端な話を申し上げますと,暴走族が泣きついてきて,反社会的勢力に海賊版を売らされて困るので,訴訟してくれないかというようなものまでJASRACに持ち込まれるという実例もございます。ですから,JASRACとしてはボリューム以上に,相手方が何なのかということを書き込んでいただくというか,そういう人たちへの対応をどういうようにするのかというところを御検討いただければと思っております。
【龍村委員】TPP協定上は,商業的規模で行われるものというくだりが出てくるわけですけれども,その関係では余りそういう観点はないと。
【日本音楽著作権協会(浅石)】私どもとしては,どこが区分けなのかが分かるようにしていただければというところで,一つの割り切りかとも思います。ただ,そこで割り切ってしまった後に,これは親告罪なのだから,相手方が反社会的勢力であっても,あなた,やりなさいよというような形になったときに,実効性といいますか,訴訟を起こせない人たちが多いのではないかという懸念がありますので,そこを御配慮していただければと思っております。
【龍村委員】映画などはいかがでしょうか。
【日本映画製作者連盟(華頂)】私は,立場上,商業用映画についてお話をしているんですけれども,この資料にもございますように,商業的規模で行われるものと書いてございます。映画は,やはり莫大な投下資本を投入して製作しますので,それがデッドコピーをされること自体,非常に深刻な状況なんですけれども,今や,そのデッドコピーがインターネットを通じたりして広く拡散されてしまうというのはもう常ですから,量的なことというのは,どれぐらいと具体的に言われるとなかなか難しいんですけれども,デッドコピーされたものが拡散されるという想定の下に申し上げています。
【龍村委員】10本以上とか,100本以上とか,そういうイメージは余りないのでしょうか。
【日本映画製作者連盟(華頂)】それは余りないです。
【龍村委員】書籍協会さんは,何かそこら辺の感覚はおありですか。
【日本書籍出版協会(平井)】出版物というのは,100万部を超えるベストセラーから,1,000部に満たないような小さなマーケットのものまで様々ですので,具体的な数による線引きというのは非常に難しいかなとは思います。
【龍村委員】もう1点ですけれども,これは皆様に共通ですけれども,法定損害賠償に関連しますが,例えば違法な侵害を受けた場合に,法人,団体として,もちろん実費,調査費用,弁護士費用も掛かるわけでしょうけれども,そのあたりも包摂して,一種,企業イメージのダウンということも含めて,慰謝料的なものを過去にお考えになったことはございませんでしょうか。
【土肥主査】全部の団体に。では,すみません,順にお願いします。
【日本音楽著作権協会(浅石)】JASRACはありません。
【日本書籍出版協会(村瀬)】書協においても,慰謝料ということで議論されたことはないと思います。
【コンピュータソフトウェア著作権協会(久保田)】ソフトウェアの方も,慰謝料というものはないです。
【日本映画製作者連盟(華頂)】同じくございません。
【日本芸能実演家団体協議会(椎名)】過去の経緯ということであると,ないと承知しています。
【日本レコード協会(高杉)】レコードの場合も特にございません。
【土肥主査】どうぞ。
【日本音楽著作権協会(浅石)】JASRACは著作権しか預かってございません。ですから,人格権が発生したときには,当然そういったことは問題になるのかなとは思っておりますが,JASRACが預かっている分野から,そういった考え方がないということを補足させていただければと思います。
【龍村委員】もう1点よろしいですか。JASRACの使用料規定など拝見していますと,例えば事前に演奏権など包括的な申請があった場合の使用料率と,それがなかった場合の使用料率というものが区別されていて,そこにかなり大きな差を設けておられているようにお見受けしますが,言ってみれば違法使用者に対しては高額の使用料が掛かるというような使用料率と理解できるわけですが,この二重の使用料率を設けておられる。このように,事前のライセンス申請があった場合の対応と,事後,発見された場合との対応で,使用料率に差を付けるという発想ですね。このことと法定損害賠償の在り方との関係について,何かお考えがあれば,お伺いしたいと思います。
【日本音楽著作権協会(浅石)】現時点で,その差がかなり縮まっております。事前申請の場合は,利用者の方がどちらを取るかを選んでいただく。JASRAC側からこちらですよとか,こちらにしてくださいというような形を取らない,利用者の方がどちらを選ぶのか。損害という形になりますと,やはり基本的には曲別で損害賠償を求めることとなります。
ただ,御承知のように,JASRACは届出料率を上回って損害を請求することはできないので,実際に実態調査等を行った上で損害額を裁判所に提出しますと,基本的には得べかりし利益,でも,それが100%取れたことというのは,相手方が出廷しなかったことを除いてほとんどないわけでございます。そういう面では,実際の裁判によっては,得べかりし利益も少し除かれて判決が下りるというような部分がほとんどでございます。
そうなると,私どもは組織として,極端な話ですけれど,お金を取るためだけにやっているわけではございません。これは仮に赤字になってもやるべきだという判断もしながらやっておりますけれども,やはり決められた範囲で損害額を出したとしても,実際にはそれを下回る額で判決が下りているというのが現実なので,そこは考えるところではあります。
【龍村委員】ほかに,同様の二重の使用料率を持たれている団体の方はおられますか。
(なし)
【土肥主査】よろしいですか。
それでは,道垣内委員,どうぞ。
【道垣内委員】非親告罪化の件ですが,資料2,日本政府の要求で入れられたというただし書について言及がございましたけれども,ちょっとこの文章が分かりにくいので伺います。これを交渉された段階で国内法措置についての何らかのイメージがあったと思うのですけれども,それを伺いたいと思います。刑罰に関わることですから,「影響を与える」といった曖昧な条文は書けないと思われますので,日本法として明確に例外としてくくり出すところについてのイメージがもしあれば,そこをもう少し具体的に教えていただきたいと思います。その上で,そのように除外することについて各団体の方々はどういうようにお考えなのかを伺いたいと思います。
まずは,事務局,御説明いただけますでしょうか。
【大塚国際課専門官】失礼いたします。脚注の経緯ですけれども,我が国の場合,二次創作,コミックマーケットのような文化がありますので,日本の提案に基づいて非親告罪の範囲が余り広がらないようにということで,関係国と調整の上,このような脚注に落ち着いたということになってございます。
【道垣内委員】それだと,この文章通りの御説明です。それではよく分からないので,市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与えるかどうかというのは具体的に何を指しているのかを伺いたいと存じます。それを条文に落とすときのイメージが何らかあってこういうような提案をされたのではないかと思うので,その点を御説明いただけないでしょうか。これだと,ちょっと議論がしにくい。そもそも,この通りの文章の条文なのでしょうか。
【大塚国際課専門官】条文に入っております。
【道垣内委員】条文自体が公表されていないので,非常に分かりにくいわけですけれども,ほぼこのとおり書かれているということですね。
【大塚国際課専門官】はい,ほぼこのとおりに入ってございます。
【道垣内委員】このただし書きの背景にある日本政府のお考え,つまり,何を具体的に除いて,どういうように条文に書こうと思われて,この提案をされたのかが見えないものですから,教えていただければと思います。
【大塚国際課専門官】文言については,関係国の中での解釈をある程度許すために曖昧な書きぶりになっておりますが,想定されているのは,市場において権利者が作品を販売する際に,その能力に影響を与える場合に限って非親告罪という対応を取るということで,その趣旨で12か国の間で合意をされたということでございます。
【土肥主査】よろしいですか。恐らく龍村委員が言われた市場のスケールとか,規模とか,そういうことにもつながるんだろうと思うんですけれども,その点についてここで御紹介いただくようなことがございましたら,また次の機会によろしくお願いします。分かったら,よろしくお願いいたします。
では,大渕主査代理。
【大渕主査代理】先ほど出ていたところで重要な塡補賠償の範囲で,先ほど龍村委員が言われた慰謝料というのはそれに近いのかもしれませんが,要するに侵害という,あってはならないことが起きたら,弁護士だけで訴訟できるわけではなくて,原告会社の方としてはいろいろ資料作成等で,本来であれば販売等にまわるマンパワーを相当投入したりして,相当な機会費用というか,それは単なる慰謝料ではなくて,金銭的な損害も生じているので,そのようなものを考えれば,例えば訴訟を起こして差止めしか認められないとか,差止めプラス少額の損害賠償しか認められないとしても,相当因果関係として,侵害なかりせばそのような無用な費用は掛からなかったといえる。例えば,社員の半分ぐらい投入して,2週間ぐらいで資料作成させたというようなことを考えると,実は類型的に,塡補賠償の範囲としても,勝訴した場合だったらかなりのものが,今でも本当は相当因果関係の範囲で取れるといえますが,それをやりやすくするために規定を置くというのは,先ほどのケースはそのように考えると非常にバリッドな話ではないか。一定額を推定して下回るのだったら下げればよいというような形など,これは要するに工夫の仕方の問題ではないかと思いました。
【土肥主査】ありがとうございます。
ほかに御質問。森田委員,どうぞ。
【森田委員】非親告罪化に関して,その萎縮効果を考慮すると明確な基準が必要であるという点については,ほぼここにおられる方全員の共通の了解だろうと思いますけれども,問題は,それをどういう形で限定するかということで,ここで出ている意見としては,一つはいわゆる侵害行為の態様それ自体に着目するもので,先ほどからデッドコピーに限定するという意見が出されておりましたけれども,レコード協会さんの「商品として提供されているものと実質的に同一のもの」というのはこのような方向の考え方であると思います。もう一つは,当該侵害行為が持っている市場に対する影響に着目するもので,その量的な規模であるとか,あるいは反社会勢力についてはその質的な影響を考慮するという方向ですが,先ほどからお伺いしていますと,後者の,侵害行為がどういう影響を持つ行為なのかということに着目して限定するのが,ここでの一部非親告罪化の趣旨にかなうのではないかという意見が多かったように思います。その観点からしますと,レコード協会さんは,実質的に同一のものということで,市場に対する影響については余り言及されていいないのですが,その点については考慮しなくてよいということなのか,それとも,そういうことも当然考慮してということなのか,その辺りについてお考えを聞かせていただければと思います。
【土肥主査】では,日本レコード協会,お願いします。
【日本レコード協会(高杉)】あえて私ども触れておりませんけれども,いわゆる商業的な規模についても当然,考慮すべき問題と考えております。私どもが申し上げたかったのは,いずれにしましても権利者としては,親告罪でも非親告罪でも取扱いを変えるつもりはございませんし,今までも刑事告訴をするものについては相当の悪質性といいますか,判断をした上でやっておりますので,その運用に変更はないということを申し上げたいと思います。
【土肥主査】ありがとうございます。
ほかにございますか。大体,時間的な予定というのか,私が事前に想定した時間もそろそろ来るんですけれども,もしおいでになれば,最後,お一方,いかがでしょうか。よろしいですか。
それでは,どうもありがとうございました。長時間にわたって,6団体から御意見と御発表を頂戴いたしました。ありがとうございました。
それでは,ここで一旦休憩させていただきます。再開は,時計がないんですけれども,今,11時7分と承知しておりますので,切りのいいところで20分ということでよろしゅうございますか。では,11時20分まで休憩とさせていただきます。20分から再開ということにいたします。どうもありがとうございました。
(休憩)
【土肥主査】皆様,お戻りになりましたでしょうか。大体時間が来ておりますので,それでは,後半の御発表をお願いしたいと思います。今度は五つの団体においでいただいておりまして,この五つの団体の御発表が終わった後に,また質疑応答の時間を設けたいと存じます。
先ほどもお願いしたわけでございますけれども,限られた時間で多くの団体に御意見をお聞きするということになりますので,各団体の方におかれましては,およそ10分をめどに御発表に御協力をお願いできればと存じます。
最初に,日本経済団体連合会の吉村様,それから牧村様,どうぞよろしくお願いいたします。
【日本経済団体連合会(吉村)】経団連の吉村でございます。お招きいただきましてありがとうございます。
簡単な資料をお手元に配らせていただいておりますので,基本的にはそれを基に簡単にお話しさせていただきたいと思います。
経団連としましては,TPPが大筋合意に至ったということについて非常に歓迎しているというのが基本的なスタンスでありまして,文化庁さんをはじめとして,政府の皆様の御努力に心から敬意を表したいと思っているところでございます。
経済のグローバル化が進展する中で,各国の制度調和は強く求められるところであります。特に著作権に関しましては,日本のコンテンツは高く評価されておりますので,先進国のみならず新興国においても適切な制度整備と運用がなされることが極めて重要だと理解をしております。今後,ジャパンブランド,日本のコンテンツ等々の国際展開を後押しするためにも,必要な制度改正の準備を速やかに行っていただきたいと思っております。
それで,知的財産の分野については,TPP参加国の中でも意見の対立が特に激しかった分野のひとつだと理解をしております。基本的な構図としては,知的財産の保護を求める先進国と,むしろ知財の権利を弱くしたいという新興国の間での対立ということが基本的な構図だと思います。報道ベース等々を見ても,そういった中で難しい交渉が続いてきたと理解しております。
そういう中で,著作権に関しては,途中でいろんな断片的に情報が漏れたということもあって,一部のユーザーさん,事業者さんにとって,これまで行っていたようなサービスあるいは活動が,今後の展開に支障を来すようなことになるのではないかというような懸念,あるいは混乱が起こったと理解しています。
今般の大筋合意を受けて,文化庁さんがこのような形で速やかに説明の機会,あるいは関係者へのヒアリングの機会を設けられたということは非常に貴重なことだと思っております。影響を受けるサービスや,防止しようとする行為の射程を,こういった機会に明らかにしていただいて,関係者への周知徹底といったものを丁寧に行っていただき,不要な不安の払拭に努めていただければと思っております。
少しだけ各論の話をさせていただきたいと思います。2ページ目でございますけれども,最初の著作物等の保護期間の延長ということに関しましては,既に保護期間が満了している著作物について,遡及して保護期間が延長されることはないと理解していますが,一部,まだちょっと根強い誤解のようなものがある気がしておりますので,この辺は十分な周知徹底をしていただく必要があると思っております。
あわせて,権利者不明著作物の利用の円滑化,あるいはライセンシング体制の構築,こういったものが今後の課題としてあると考えておりますので,その辺の検討も今後深めていく必要があると思っております。
二つ目,著作権侵害罪の一部非親告罪化というところですが,我が国のアニメやゲーム,漫画,そういったコンテンツが海外でも高い人気を誇っていることは非常に喜ばしいと思いますが,他国におかれても,当然こういったソフトパワーの強化が図られており,競争は激化しているという状況だと思います。
そうした中で,クリエーターの方々に今後も良質なコンテンツを作り続けていただくためにも,しかるべき支援を行うとともに,海賊版などの悪質な著作権侵害の対策強化が求められると理解しております。
ただ,海賊版対策,あるいは原著作物の収益性に大きな影響を与えない場合は対象外といったような条約の趣旨に照らせば,ユーザーやクリエーターの方々に何か萎縮効果が出ることを避ける配慮を心掛けた上で,必要かつ最適な範囲に限定した制度設計がなされるべきだと思っております。
あわせて,影響を受ける活動と影響を受けない活動について,具体例を交えて分かりやすい説明を今後ともしていただく必要があると思っています。
それから三つ目,効果的な技術的手段に関する制度整備ということで,アクセスコントロールについては,正当なコンテンツビジネスを保護する上で一つの重要なツールとなっています。そうしたビジネスを保護するために必要かつ適切な範囲で著作権法上の保護を付与するということは有益だと理解しています。
ただし,その範囲を設定するに当たっては,公正なアクセスコントロールの回避を伴う産業を妨げることがないような適切な範囲にしてもらいたいと思っております。
それから四つ目,法定の損害賠償又は追加的損害賠償に係る制度整備ということでございますけれども,著作権の侵害がインターネットなどを通じて容易かつ大規模に行うことができるようになっている昨今において,適切な損害賠償制度の構築といったものは必要だと思います。ただし,TPPの話を受けた形でどのような見直しを行うべきかどうかということについては,要否を含めて検討する必要があると思います。つまり,既に我が国の著作権法に基づいて損害賠償を行うことは可能です。仮に何か見直しを行うとしても,追加的・懲罰的な損害賠償制度については,我が国の不法行為体系になじまないと思っておりますので,我が国の現状の法体系との齟齬は避けてもらいたいと思っております。
あと,紙に書いていないのですが,追加的に申し上げることがあるとすれば,総論でも申し上げたとおり,TPP協定の批准に向けては速やかな対応が必要です。一方,例の「柔軟な規定」の話を含め,現在,文化審において複数の小委員会などが設置されて進められている議論はいずれもとても重要だと思っております。それぞれ,昨年来の検討の蓄積を生かして,非常に有益な議論をされておられると理解しておりますので,そういった議論を尊重していただければと思っています。
我が国のコンテンツビジネスの発展に向けては,権利者,事業者,利用者の三者にとって最適な制度設計の構築を実現することを期待しておりますということを申し上げて,私からのお話とさせていただきたいと思います。
以上でございます。
【土肥主査】ありがとうございました。
それでは続きまして,日本知的財産協会の藤野様と今子様,よろしくお願いいたします。
【日本知的財産協会(藤野)】日本知的財産協会著作権委員会の藤野でございます。本日はこのような機会を設けていただきありがとうございます。
当協会は,正会員,賛助会員を合わせて1,200以上の企業,団体で構成されておりまして,会員企業の立場も様々ですので,短期間での意見集約等が難しい面もございますが,本日は,現時点で会員企業から強い懸念が示されている点を中心に意見を申し上げたいと思います。
まず,1の著作物の保護期間の延長について意見を申し上げます。
著作権の保護期間の延長については,我が国の優れた著作物がより長期間の保護を享受できるようになるというメリットがある一方で,現在の権利者が不明である著作物を利用することが困難な期間がより長期化するというデメリットも指摘されているところです。
域内の制度調和という観点から,統一的な著作物の保護期間を定めることについては必ずしも反対するものではございませんが,過去の著作物に基づく新たな創作や利用が文化の発展に資するという側面もありますので,保護期間の延長によって上記のようなデメリットがもたらされる可能性も考慮した上で,権利者不明著作物の利用の妨げにならないような裁定制度の見直しや,その他合理的な方策を併せて検討すべきだと考えます。
次に,2の著作権侵害罪の一部非親告罪化について意見を申し上げます。
海賊版製造などの組織的な犯罪行為を効果的に取り締まるという観点からは,著作権侵害罪の一部を非親告罪化することについても合理性はあると考えております。
一方で,非親告罪化が著作物の利用者に対して過剰な萎縮効果を与える可能性があることについてもかねてから指摘されていることであり,一部非親告罪化を行うのであれば,二次創作活動などへの影響も考慮して,適用される行為などの範囲について慎重な検討を行う必要があります。
このような観点からすれば,協定において,対象を市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与えるものに限定するセーフガードが盛り込まれたということは,二次創作活動等への萎縮効果を回避する上で極めて重要なことだと考えておりますので,法改正に際しても,この条件を適切に要件化し,条文に反映していただくようお願いしたいと思います。
続いて,3点目の著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段について意見を申し上げます。
著作物の違法な利用を抑制するために講じられる一定の技術的手段を保護する必要性があることは理解いたしますが,目的にかかわらず一律に技術的手段の回避行為そのものを刑事罰も含む規制の対象とした場合には,例えば,より効果的に著作権を保護する技術的手段を開発する機会すら失われる可能性があり,社会にとっての弊害が大きいと考えております。
ここで若干,意見書に補足いたしますと,この点については,過去の法制・基本問題小委員会におきましても,技術的手段の機能に着目した議論が行われ,コピーコントロール機能を有するものだけを回避規制の対象とするという整理がなされておりますし,回避規制の在り方についても整理がなされていると理解しております。
当時の整理は,権利者,利用者の双方にとってバランスのよいものだと理解しておりますので,私どもとしては,今回の協定の内容もその枠内で理解すべきであり,法改正は必要ないのではないかというふうに考えておりますが,仮にこの協定上の義務を履行するために現行法を改正するということになったとしても,技術開発目的であったり,あるいは著作物の表現を享受しない利用の目的といったような著作権の違法利用以外の目的で回避行為をする場合については,民事,刑事両面で規制の対象から外れることが明確になるよう,例外又は制限規定を整備すべきであると考えます。
また,技術的手段を回避する装置等の製造などの規制に際しても,前記のような目的で行われる回避行為が実質的に規制されることにならないように,適切な例外又は制限規定が整備されるべきだと考えております。
なお,本日配布していただいた資料2の中には挙げられていないのですが,同じく本日の参考資料4を拝見いたしますと,二つ目の丸の知的財産権保護の権利行使という項目の中に,衛星放送やケーブルテレビの視聴を制限している暗号を不正に外す機器の製造・販売等への刑事罰及び民事上の救済措置を導入という記載がありますので,私どもの意見書におきましても,一つ飛んだ5,その他という項目でその旨若干補足して述べております。
この項目と,今意見を申し上げた技術的手段に関する制度整備との関係というのがいま一つよく分からないところはあるのですが,仮にこの項目が衛星放送やケーブルテレビの視聴という点に関して,例外や制限のない回避行為規制の導入を別途目指すものだとすれば,私どもの意見書に書かせていただいたような問題が生じると考えておりますので,こちらについても併せて御検討をお願いしたいと思います。
続いて,4の法定の損害賠償又は追加的損害賠償に係る制度整備について意見を申し上げます。
違法な権利侵害を受けた権利者に対して,十分な額の賠償を行うべきという考え方は支持されるべきものだと考えていますが,我が国においては,填補賠償の原則が長年にわたって定着しておりますので,仮にこの協定上の義務を履行するために現行法を改正することになったとしても,損害の多寡にかかわらず,一律に高額な賠償額を法定賠償額として定めることや,懲罰的損害賠償の制度を創設することは妥当ではないと考えております。
また,現在の著作権法114条各項の規定は,権利者が自らに現実に生じている損害額を立証しなくても,一定の擬制の下で十分な額の賠償を受けられるようにしたものですので,既に今回の協定での合意内容を満たしていると考えることもできるのではないかと思います。
したがいまして,そもそも今回の協定に対応した改正が必要かどうかという点も含めて検討をお願いできれば幸いでございます。
以上,改正検討事項に対する現時点での私どもの意見はここまで申し上げてきたとおりでございますが,既に公表されている協定の仮訳,本日も参考資料3で配布していただいておりますが,こちらを拝見いたしますと,今回の協定においても,正当な目的による例外及び制限を通して,締約国が著作権制度における均衡を継続して達成するよう努める義務があるという旨がうたわれているところでございます。今後の法改正に際しても,著作権保護の強化と並行して,柔軟な権利制限規定の導入を進めるなど,全体としてバランスの取れた著作権制度の構築を目指していただきたいということも最後に申し上げておきたいと思います。
以上,御清聴いただきましてありがとうございました。
【土肥主査】ありがとうございました。
それでは次に,コミックマーケット準備会の安田様,里見様,よろしくお願いいたします。
【コミックマーケット準備会(安田)】本日はこのような機会にお呼びいただいてありがとうございます。コミックマーケット準備会共同代表の安田かほると申します。
私どもは,今年で40周年を迎えるコミックマーケットという自費出版の同人誌の展示即売会を開催しております。詳細はこの後,里見からお話しさせていただきますが,二次創作を行っている描き手たちに作品の場を提供している者として,現状の説明と二次創作という文化が生んだ日本独自の生態系とも言えるべきものを,これまでどおりに維持させていただくということの重要性や,国内法整備に向けてのこちらからの希望を述べさせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
【コミックマーケット準備会(里見)】コミックマーケットで広報を担当しております里見直紀と申します。よろしくお願いいたします。
お手元の資料でございますけれども,法制・基本問題小委員会の諸先生方におかれましては,既に同人誌ですとかコミックマーケットについてはいろんな機会で既に御存じかと思いますので,前半のスライドは簡単に見ていただくとして,5枚目のスライドからお話しさせていただきたいと存じます。
今般のTPPの大筋合意におきまして,政府から発表された資料には,非親告罪化の対象を「商業的規模の侵害」,あるいは「原作等の市場での収益性に大きな影響を与えない場合は除外」という言葉がございます。
我々コミックマーケット準備会が出展しているサークルの皆さんに採ったアンケートを集計しますと,同人誌制作サークルの約7割は赤字,2割弱がとんとんという状況でございます。ファンの活動,あるいは草の根の市民として同人誌を作っているサークルさんが大半でございまして,多くの二次創作のサークルというのはお金もうけのために本を作っているのではありません。これはデッドコピーの海賊版販売とは大きく異なると思っております。
続いて,市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えているのかということでございますけれども,二次創作が盛んになるということで,原作と一緒に盛り上がれるという状況がございます。わざわざ二次創作のものを描く,読むに至るということは,それだけその原作に対する熱心なファンでありますし,二次創作の描き手,読み手というのは原作に対するコアなファンということも言えると思っております。
そして,この二次創作がファン同士のコミュニケーションのベースとなって,作品の楽しみ方をお互い共有していくことによって,原作のファンの拡大にも貢献すると考えております。
場合によっては,二次創作の同人誌から火が付いて,原作が大ヒットになったりするということもあったりしますし,人気のある同人誌サークルさんが二次創作を行うことで原作の人気が高まるなどということもあったりいたします。
一例を申し上げますと,大ヒットした『マリア様がみてる』というライトノベルがございますが,このブームの一番初めのきっかけは,ある人気の同人誌サークルがこの作品の二次創作の同人誌を作って,この作品は面白いんだということを猛烈にプッシュしたことから始まります。この世界では,こういうことを布教活動などとも言ったりしますが,それが他のサークルや同人誌ファンの共感・同意を引き起こして,更に多くの方々を巻き込んで原作も大ヒット,テレビアニメも4期にわたって放映されるようなことも起こったりしております。
また,この後ちょっと御説明しますが,コミックマーケットには様々なコンテンツホルダの方々が企業参加されておられます。これはコンテンツホルダの皆さんに二次創作の同人誌の読み手,描き手が一緒に作品を盛り上げてくれるファンであり,原作にもお金を払ってくれているファンであるということを理解されていることにほかならないと思っております。また,マーケティングの場としてコミケの場を活用されているとも理解しております。
先日もTPPの説明会において,渋谷審議官様がドラえもんのパロディを例に挙げて,同人誌を売ったり買ったりしても,本家のドラえもんの売上げに何の影響も与えないとおっしゃっておりましたけれども,二次創作は総体としてプラスの意味で,原著作物の収益性に影響を与えてすらいるのではないかとも考えております。
次のスライドですが,先ほど申し上げたコミケの企業ブースの主な出展企業さんの一覧でございます。そうそうたるコンテンツホルダさんに御参加いただいているわけでございます。
中に,日本国際映画著作権協会さんというのがございまして,こちらは皆様がよく映画の上映前にごらんになる「映画泥棒」のプロモーションをやられているところです。つまりは,海賊版追放のプロモーションを二次創作のあるコミックマーケットで行っているということでございまして,海賊版と二次創作は違うということを十分に御認識された上での活動をされているというふうに理解しております。
先ほど午前に,書協の平井様からも温かいお言葉を頂きましたけれども,このようにコンテンツホルダの皆様には,我々二次創作に関わる場を提供している者,二次創作をやっている者は温かく見守っていただいていると思っております。
とはいえ,大半のコンテンツホルダさんは,何か問題があったときに権利者として対応できるようにということで,今まで述べてきたようなことをベースに,個別のパロディ同人誌に対しては許諾ではなく黙認という形で権利者としての権利を担保されているというふうに理解しております。
また,実際に審査,許諾ということを個別に行うというのは現実的でないという問題もあったりいたします。例えばコミケ1回で,二次創作同人誌は6万点ほど新刊が出ることになりますので,これにコンテンツホルダさんが御対応いただくというのは現実的になかなか難しいのではないかと考えております。
基本的には,ファンのやっていることには目くじらを立てずに,ファンの自主的なコミュニティの盛り上がりに任せてあえて触れない,その方が,ブームが盛り上がって原作にもよいフィードバックがあるとお考えになっているというふうに理解しております。
次のスライドは飛ばせていただきまして,二次創作の発展がもたらした日本独自の生態系があるのではないかと我々は考えております。二次創作ですと,キャラクター設定や物語の説明が不要でございますし,同じ作品を媒介とした共通言語・共通世界におけるコミュニケーションのツールとして描くことへのハードルを下げていると。これで自分の一番描きたいことを描くことが容易になるというのが非常に大きな特徴だと考えております。そして,このファンが自分の好きな作品を自分なりに解釈して,自分で描いて,実際に自分で本を作って,同人誌の即売会などのマーケットでそれを頒布して対価を得るという形で読者に評価してもらうという形をアマチュアのうちから経験していく。こういうのは日本独自のシステムだと我々は考えております。
そして,作品の受け手が送り手に容易に変わり得る,それが入れ替わり続けることで多様性と創作の再生産を可能にしているということが言えると思います。
こうした二次創作同人誌の創作への入りやすさが日本のクリエーターの裾野を広げており,二次創作文化が生んだ日本独自のエコシステムは,コンテンツホルダの皆さんにも有益になると考えております。
そこで,今回の一部非親告罪化,あるいは法定賠償金の影響と懸念でございますけれども,こうしたものは,ファンとコンテンツホルダの皆さんの間にある黙認の文脈をエコシステム外部から乱して,日本の漫画・アニメ・ゲーム文化に多大な影響を与える可能性が高いと言わざるを得ないと思っております。
したがいまして,今後の国内法整備におかれましては,非親告罪の本来の目的である海賊版対策等,必要最小限に絞った形での法整備を行っていただくことを強くお願いする次第でございます。
また,現時点でTPPの状況は非常に不確定な要素が多分に残っていると思っておりますので,国内法整備におかれましては,拙速ではなくじっくりと慎重に行っていただきたいというのをお願いする次第でございます。そして,将来の名作・クリエーターを生む可能性の芽を摘むことがないように,伸び伸び自由な創作活動ができる現状の環境維持をお願いいたします。
もう少し具体的に申し上げますと,過去,二次創作に関連して発生したトラブルというのは非常にレアケースでございます。著作権者から申出があれば,ほとんど素直にそれに従って作品を取り下げるというのが大半でございます。海賊版のように,著作権者の申出を無視して無法を働いているわけではないということになります。つまり,非親告罪化あるいは法定賠償金でなければ解決不能なトラブルが二次創作にはそもそも存在しないと考えております。
また,先ほど来から萎縮効果というお話がございますけれども,我々も同様にそれを懸念します。特に我々が御参加いただいているサークルさんは,ファンとして学業あるいは生業を持っている人たちが大半でございまして,リスクがあれば当然避けて通ってしまいます。不安があるだけでも過度あるいは不要な自粛をもたらすということが言えると思いますので,このようなファンに不安を与えないような形で国内法整備につなげていただかないと,自粛は容易に起こり得ると考えております。
また,差し出がましいことかもしれませんけれども,非親告罪化は著作権者の皆様にも萎縮効果,自粛効果があるのではないかというのを懸念しておりますので,そちらについても御配慮いただけたらと考えております。
改めて申し上げますけれども,送り手のファン,受け手のファン,コンテンツホルダ全てのステークホルダーにとっておおむね問題がない,あるいはメリットがあるという形で現在のエコシステムが成立していると考えております。そして,このエコシステムは日本にだけ今あるものでございまして,日本の漫画・アニメ・ゲームにおいて,クリエーターが多様で豊かな作品を生み出す源の一つでもあると我々は考えております。重ねてのお願いになりますけれども,非親告罪化の国内法整備については,日本のクリエーターがこれまで積み上げてきた流れを否定して,世界的に競争力を持つようなすばらしいクリエーター,作品の魅力を減ずることのないよう,十分な御配慮をお願いする次第でございます。
最後に,我々は今,海外と連携をしておりますという御紹介でございます。今,国際オタクイベント協会という形で,世界中の日本の漫画・アニメ・ゲームを扱うイベントと協力関係を持って友好組織をちょうど立ち上げたばかりでございます。特にアジア圏ではコミケを模して同人誌を作り,即売会を開くという形の西洋型のコンベンションとはちょっと違う形の文化も盛り上がっております。こういうものを広げていけたらと思っております。そのためには,今の日本のやり方をうまく世界に広められたらと思っておりますので,その点でも今回の件は非常に憂慮しておりますので,よろしくお願いいたします。
簡単ではございますが,以上で終わりにさせていただきます。ありがとうございました。
【土肥主査】ありがとうございました。
それでは続きまして,thinkTPPIPの福井様,赤松様,渡辺様,よろしくお願いいたします。
【thinkTPPIP(福井)】それではまず,福井の方から概要の陳述をさせていただきます。まずは本日お招きいただきまして誠にありがとうございます。
保護期間の延長でございますが,死後70年ほかへの延長については,年8,000億円を超える,あるいは対米の小説や音楽・映画などの分野だけでも年1,000億円に及ぶ著作権使用料の巨額の対外赤字を固定し,拡大させる可能性が高いものです。その支払の負担は民間事業者に帰せられます。また,こうした保護期間の延長は大多数の遺族の収入増加にもつながらない旨,既に実証研究の結果が出ております。さらに,過去の作品の権利処理を困難とし,また,権利者不明の孤児著作物を増大させ,作品死蔵のリスクを高めることは既に各団体御指摘のとおりです。こうしたことから,保護期間延長はメリットがなく,一般世論での批判は大変強いものです。
また,当の米国でもマリア・パランテ著作権局長が,未登録作品を死後50年などに期間短縮することを一昨年,議会で提案するなど,無用な長期化への批判が高まる国際情勢があり,これに一見して反しております。さらに,国際的に期間を統一するという論は,当の米国が御存じのとおり,古い作品は発行時起算を貫いているなど,全く異なる法制度を維持している点で説得力がなく,更に戦時加算の解消を理由に挙げる論もあるようですが,これは上記のデメリットに比して,ごくわずかなメリットでしかない上,各国からその確約などもとられていない状況です。
以上から,万一,保護期間を延長するのであるならば,死後50年ないし公表後50年の経過以前に著作権登録がなされることを条件に作品を延長保護する制度を提案いたします。これは著作権登録制度の改正を伴います。こうすることで,上記の米国など,現在の国際的な議論の動向にも沿います。また,作品が市場で活用されているなどの理由で長期の保護を求める権利者には十分な保護を与えつつ,相続人などが権利存続に関心がない大多数の作品については孤児著作物化を防ぎ,死蔵や散逸のリスクを減少させることができると考えます。
次いで,非親告罪化について申し上げます。
政府の努力による幾つかのセーフガード文言の挿入を評価いたします。ただし,そもそも権利者が告訴不要と判断しているものを国が起訴処罰する必要性,正当性に疑問を感じます。また,既に各団体から意見表明があるとおり,コミケ同人誌に代表されるような二次創作,あるいはゲーム実況動画,「歌ってみた,踊ってみた」,コスプレなどに代表されるような,まさに今花開いている各種のユーザー発信文化,さらにはビジネス・研究・福祉分野での軽微な利用など,これまでは権利者も問題視せず,グレー領域的に行えてきた多くの利用,これを萎縮させるおそれは大きいものがあります。それは我が国の文化や経済の活力を奪いかねないとして国民からの批判は極めて強く,権利者団体からもほとんど積極的な要望は見られない状況です。そのことから,導入の必要性自体が疑問と言えます。
以上から,次のことを提案いたします。1番として,条約の文言が,現在伝えられているところによればpiracyが刑事罰の対象であることに鑑み,この文言に忠実に,目的を海賊的利用対策に絞るべく,非親告罪化の対象を複製権侵害に限定する。2番として,単に「複製」と書くだけであれば二次創作的行為も一部対象とされるおそれがあるため,出版権の条項などと同様に,原作のまま複製する行為のみに対象を限定する。かつ,3番として,現在のTPP条文案として伝えられるものと同様の定義による――これは既にお手元に配布があります――商業的規模の侵害であって,原著作物の市場での収益性に重大な影響がある場合のみに対象を限定する,以上を提案します。これにより,当局はそのエネルギーを悪質な海賊版ビジネスやこれに準ずるものの摘発に集中させることができます。他方で,社会の各種活動の萎縮は防止でき,もって我が国の文化,経済の強みを維持できることが期待されます。
次いで,いわゆる法定損害賠償,追加的損害賠償についてです。
この制度は,権利者による泣き寝入りを減少させ,悪質な侵害の予防を期待できるメリットがあります。他方で,既に指摘もあるとおり,米国型の訴訟システムの急速な導入は,賠償金の高額化と濫訴を招き,個人や企業活動の過度の自粛から,文化や経済面での強みを減殺しかねないおそれがあります。
この点,当の米国では,原則として侵害前に登録された作品のみが法定賠償金,あるいは弁護士費用の請求対象となっています。また韓国は,米韓FTAを締結した時点でTPPと同様のpre-established damagesの導入を約束しておりますが,現実の国内立法においては,侵害行為前に登録された作品のみを法定損害賠償の対象としています。
上記を踏まえて,以下を提案させていただきます。
1番,TPPの要求はpre-established damagesであり,これはstatutory damagesよりは広く解釈することが可能と思います。そこで,日本の現行法114条の1項ないし3項はこれに当たり,現行法改正は不要という政府判断は十分可能と考えます。特に現在,実態との乖離が指摘される弁護士費用の賠償の対象を,差止め訴訟も含めた上,かつ合理的な実際の弁護士費用額に近付けるよう運用を改善するならば,悪質な侵害抑止という条約の要請にもかない,上記の説得力は高まるだろうと考えます。
次いで,飽くまで法定損害賠償などの制度を導入する場合,米国や韓国法などに倣い,現在の実名登録や創作年月日登録制度を改正して,全ての作品を登録対象とした上,登録後に侵害を行った場合だけを対象とすべきと考えます。その際には,侵害抑止に必要な程度の上限額を定め,特に1作品当たりだけでなく,幾つかの国の法制に見られるように,総額の上限も定めるとともに,行為の悪質性や警告後の侵害継続などの考慮要素を明記して賠償金の適用対象を明確化することを求めます。
最後に,立法時期・その他の国内立法措置について意見を申し上げます。
以上のほか,TPP知財条項には,我が国の情報政策・文化経済に将来にわたって影響を与える条項が少なからず含まれており,早期の全面情報開示とオープンな議論に基づく慎重な国内法対応が望まれます。他団体も述べるとおり,前のめりな国内法先行などは論外であり,飽くまでTPP発効以後に最新の国際情勢を踏まえた柔軟な立法が必要と考えます。また,その際にはフェアユース規定を導入し,あるいは前述した作品登録制を含む権利情報の集約と公開,孤児著作物利用制度のさらなる改善など,作品の流通と活用を促進しつつ,正当な利益を創作者に還元できる著作権の日本モデルの導入を積極的に図るように要望いたします。
次いで,赤松から補足を申し上げます。
【thinkTPPIP(赤松)】thinkTPPIPと書いてありますけれども,私は日本漫画家協会の理事でもありまして,現役で『週刊少年マガジン』に連載している漫画家であります。
それで,一つだけ補足させていただきたいんですけれども,非親告罪化については,先ほどから意見がかなり一本化されていまして,検察官が我々クリエーターに無断で独自に起訴できるというような,そういうことは誰も望んでいないと。それで,権利者が処罰を望んでいるかがどうかを酌量していただいて,つまり,クリエーター本人に聞いてほしいと。これを法文で実現する方向に行っていただければ,非常に現場としては満足であります。
以上です。
【thinkTPPIP(渡辺)】渡辺でございます。私どもの主な意見は福井の方からお伝えいたしましたので,個人的に補足したい点を二つだけ申し上げます。
一つは,実際にデータを分析するような実証経済学の研究の中には,違法な,あるいは無許可のアップロードであるとかファイル交換が作品の売上げにどういう影響を与えるかということを研究したものがございますが,おおむね影響はないか,若干ポジティブに働くと,つまり,著作者の利益にもなるということがデータの分析から,日本語でも英語圏でも出ていますが,おおむねそういうふうに結果が出ております。この点はこういった政策を導入する上では非常に重要かと思います。
それからもう一つ,先ほどから既に出ているように,インターネットの上で,あるいはデジタル経済を支える形で活動している人たちの中には,コンテンツを作り,アップロードするような人もいますし,それから私が最近関わっている中では,オープンデータを活用する方もいますが,そういった方の中には,ボランティアであるとかアマチュアの方というのは非常に多くいらっしゃいます。そうすると,単に先ほど申し上げたように,事業者の損得を考えるだけでもこういった政策はまずいのではないかというところがあることに加えて,実は事業者としては活動していない者にとっての損得を考えると,ますます萎縮効果というものは重く考えなければならないのではないかということを私としては考えております。
ありがとうございます。
【土肥主査】ありがとうございました。
それでは最後になりますけれども,インターネットユーザー協会の香月様,よろしくお願いします。
【インターネットユーザー協会(香月)】インターネットユーザー協会事務局長の香月でございます。今回のTPP批准に係る著作権法改正につきまして,意見を述べさせていただきます。
まず,TPP全体につきまして,大筋合意が公表されて間もなく1か月たちますけれども,現状では条文が公開されていない状況でして,政府あるいは文化庁の方から出ている概要に基づいて,今このような議論をしているというような状況です。
ただ,このような情報が乏しい状況で議論を進めるということは,なかなか合理的な議論ができないのではないかと思っております。つきましては,TPPの条文,そしてその付随文書をいち早く全部公開するということをまずは求めたいと思います。TPPはパッケージであるという説明ですから,そうであるならば,知的財産権の条項だけでなく,その全てをまずは速やかに公開するべきだと思います。
では,実際,知的財産条項の内容についてなんですけれども,これまで政府あるいは文化庁さんから頂いている情報,それからウィキリークスから出ているリーク文書から得られた情報を鑑みる中では,TPP批准に関する著作権法の改正について,インターネットユーザー協会は反対いたします。これは,著作者の強化のみが図られており,ユーザーの創作や言論を萎縮させており,正当な理由を害する条項が入っているからです。
ただ,TPPの批准が避けられないということであれば,保護期間の延長,非親告罪化,それから法定賠償制度の導入につきましては,先ほど説明がありましたthinkTPPIPが提出した意見に同意いたします。
加えて,MIAUからは,この資料にあります下記2点を主張いたします。
一つ目が,立法時期・施行時期などについてです。
一部のメディアによりますと,次の国会でTPP批准にわたる国内法の改正を行うということですが,海外の報道を見る限りでは,まだTPPがそもそも発効するかどうかということすら分からないという状況になっています。
この中でTPPというものを考える上で,TPPの批准の前に著作権法を変えてしまうということは,ある種外交カードを失うことにもなりますので,これは極めて不利な選択だと思っています。なので,あくまでもTPPに関する著作権法改正を行うのであれば,これはTPPの発効と同時にやるべきです。どうしても前倒しの導入をせざるを得ないという場合につきましては,発効時期をTPP発効の翌年というふうに定めるべきであろうと思います。こうしないと,いわゆる戦時加算についての海外コンテンツを自ら延命させるのみとなるので,これは必ず必要だと思います。そしてまた,遡及効が起きないということについても,これは当然だと思います。
また,戦時加算の解消につきまして,先ほどから議論がありますけれども,政府が公開しておりますTPP交渉参加国との交換文書一覧というのがありまして,下の注に書いておりますけれども,この中を見る限りでは,日本とオーストラリアの間で著作権保護期間についてのサンフランシスコ平和条約上の日本の義務に関する二国間の書簡を交わしたというふうに書いてありまして,現在,公式に戦時加算の解消について交渉しているだろうと思われるのは,オーストラリアのみであります。ほかの国とも戦時加算の解消に向けて努力をすべきであって,保護期間延長の導入は,その4か国との戦時加算の解消が確約された後にすべきだと思います。
続いて,ページをめくっていただきまして,2点目です。活動の自粛を防ぎ,流通促進を図るセーフガードの導入をというところです。
保護期間延長,非親告罪化,法定賠償金の導入,それからアクセスコントロール回避規制の強化などが今回のTPPの知財条項に含まれているわけですけれども,それについては,登録作品のみを限定するなどにして,十分なセーフガードを組むべきだと思います。
それに加えまして,具体的に下記の4点を主張いたします。
まず一つは,フェアユース規定の本格導入をというところで,これはこの意見発表の中でも何度か語られておりますけれども,韓国も米韓FTAで米国の著作権要求を受け入れる際にフェアユース規定を導入しておりますし,また先日,米国ではコピーコントロールやアクセスコントロール回避規制に関する新たな例外ルールを成立させています。
フェアユース規定は,特に最近は単なる産業振興策のように語られることが多いですけれども,言論の自由を担保し,教育やエンターテインメント,ユーザーによる技術検証や改善に資するものであるべきです。これはまだ政府や文化庁から示されていないTPPの条文の中にも示されているということで,注釈の4番を見ていただきたいんですけれども,これはあくまでもリーク条文ですが,その中には,批評や論評,ニュース報道,教育,学問,研究やそれらに類するものを制限してはならないということが入っております。これは正式に条文が出てこないと分からないというところですけれども,このような条文についても国内法でしっかり手当てをされるべきです。
それにつきまして,2番目です。拡大集中管理や制限規定化をはじめとする著作物の利用制度をというところで,著作物の問題というのは先ほどから何度も語られておりますけれども,かなり大きな問題になっておりますので,その中で保護期間の延長,非親告罪化,法定賠償制度の導入に伴う自粛の広がりというものによって,これ以上そういうものが増えてはいけないというところで,長官裁定の制度の存在意義は認めつつも,更に充実した著作物の利用制度を導入すべきです。
そして,それに加えて,権利情報のデータベースを大幅に拡充すべきだと思います。権利許諾を得やすくする制度構築が望まれると思います。その中で,既存のJASRACさんが持っているような権利データなどをいろいろ合わせまして,それをネットワーク化するなどして,どこに著作権があるのかというところをしっかり分かるような形にして,権利許諾を安くする施策というものを更に進展させるべきだろうと思います。
そして最後です。ページめくっていただきまして3ページ目です。クリエイティブ・コモンズなどのパブリックライセンスを政府で本格導入し,また本格普及を図っていただきたいということです。
2012年に文化庁はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの普及を図るという旨,表明しておりますけれども,それだけではなくて,様々なパブリックライセンス制度がありますが,そういうものの日本における普及状況というのはかなり低い状況にありますが,しかし,ウィキペディアであったりYouTube,Flickrなどの米国のプラットフォームが採用していたり,欧州のユーロピアーナに大きく水をあけられている状況で,このようなプラットフォームは,オープンライセンス,パブリックライセンスの導入によってかなり拡大を続けてきているというところになります。
また,これは権利者自身が自分の著作物にどのように使ってほしいかという選択肢をあらかじめ示すことにもなりますし,この作品からも守ります。そういう中で,特に省庁が刊行する定期刊行物とかこの審議会の資料とか,そういう公共性の高い著作物全てにクリエイティブ・コモンズなどのパブリックライセンスを導入し,それについてはロードマップや数値目標など,具体的な普及の取組を示すべきだろうと思います。
政府が本格導入をすることによって,民間でもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどのパブリックライセンスの普及というのが進むのではないかと考えております。
以上になります。ありがとうございました。
【土肥主査】どうもありがとうございました。
ただいま5団体,その前は6団体でしたけれども,11の団体から御意見を頂戴したんですが,ほかに日本文藝家協会,学術著作権協会,日本写真著作権協会,日本放送協会,日本ケーブルテレビ連盟,日本民間放送連盟,主婦連合会,電子情報技術産業協会,日本図書館協会,そして青空文庫から書面にて意見を頂戴しておりますので,これらの御意見について,事務局から御紹介をお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】それでは御紹介いたします。資料15から24に基づきまして,それぞれ時間の制約もございますので,ポイントのみ紹介させていただくことにしたいと思います。
まず資料15,日本文藝家協会様の御意見です。
1点目,著作権保護期間延長につきましては,延長に伴いまして,著作権者不明の作品の増加が予想されるとされまして,その利用円滑化のために従来の裁定制度に代わる新たなシステムが必要とされております。
しかし,権利制限の拡大やフェアユースのような,権利者不明の作品であるか否かにかかわらず著作者の権利を制限するような形ではなく,権利者の権利を守りながら,より簡便な利用者の立場を考慮したシステムでなければならないとされておられます。
次に2点目,非親告罪化についてでございます。
芸術は,すべからく模倣から始まるということでありまして,パロディに対してはある程度寛容な態度で臨み,原著作者の経済的損失が明確な場合にのみ摘発するといった条件付けが必要とされております。
続きまして,資料16をお願いいたします。学術著作権協会様の御意見であります。
1点目,保護期間の延長についてですが,延長が協会に利益をもたらすとされておりまして,また,海外RROとの協定,契約の進展等をもたらすとされております。
2点目,一部非親告罪化についてであります。
学術著作物に関しては,複製使用料が極めて安価であるということで,現状では権利者自らが差し止め,損害賠償請求をすることは事実上困難とされておりまして,悪質な海賊版対策等,著作物に対する権利の適切な保護の面から,より効果的であろうとされておられます。
3番目,さらなる利用円滑化のための取組については,TPP協定に関連した法整備については,適切な制度設計を図ることを通じて,権利の適切な保護と公正な利用のバランスを確保することができるとされております。
必要な検討を進めた上で,迅速な条約の締結ということを期待したいとされておられますが,さらに,著作物のさらなる利用円滑化のために,当協会として積極的に対応したいとして,例えば新たな時代のニーズに対応したライセンシング体制の整備について積極的に進めたいとされています。
資料17をお願いいたします。日本写真著作権協会様の御意見でございます。
まず冒頭で,基本的には各条項の法制化に賛成との断りがされた上で,個別の点について御意見が出されています。
第一に,著作物等の保護期間の延長については,歓迎するとのことでございますが,2点御意見が述べられています。1点目は,著作者不明著作物に対する権利処理制度の必要性であり,裁定制度とは基本的な考え方を変えた処理の方法も検討されるべきだとして,それについては著作者も取り組む用意があるとされています。
2点目,戦時加算の問題についてですが,これも二国間協議などの現実的な手段を講じてこの問題を解決することを希望されるということでございます。
丸2,一部非親告罪化についてですけれども,この問題は,写真分野における実質的な訴訟手順において大きな影響はないということですが,二次創作等への影響に鑑みて何らかの対応が適当とされております。
例えば,商業的に大きな損害,著作者への大きな不利益を来す場合を除いて,累犯の場合においてのみ非親告罪化を適用する,又は複製権の侵害においてのみ非親告罪化を適用するなどの措置をお願いしたいということでございます。
丸3,法定の損害賠償等についてでございます。これについては,実損を補う賠償制度と矛盾する可能性があるとされておられまして,2パラ目ですけれども,この点については法で定めるということが眼目であるということで,米国型の懲罰的な損害賠償制度の導入ではなく,実損を法で定めて立証責任を免除するなどの措置によって,現行制度との矛盾を生じないようにしてほしいということです。また,追加的損害賠償についても同様ということでございます。また,導入の範囲は,現時点においては最小であるべきとされております。
その他の御意見としまして,今回の小委員会での検討は,飽くまで喫緊な条約対応についてのまとめと関連する施策についての方向性を示すものであるとされておりまして,これに関連する施策については迅速かつ適切な時間を掛けて,また必要に応じた場において議論をするべきであること,それから,次の文ですけれども,幅広い観点からの議論と大きな制度改革が必要という御意見でございます。
続きまして,資料18をお願いいたします。日本放送協会様からの御意見でございます。
まず,法改正を含めた制度整備に当たっては,保護と利用のバランスに留意して対応されたいとされております。
各論としまして,1番,保護期間の延長については,延長によって権利処理経費が増加するということが言われております。保護と利用のバランスのためにも,引き続き円滑な利用と流通が行われるように対策が必要とされております。さらに,孤児著作物増加が予測されるということで,集中管理の促進や拡大集中許諾制度の導入などが必要とされておられます。
2点目,一部非親告罪化につきましては,表現の自由の侵害といった懸念があるということでございまして,対象を海賊行為のための複製に限る,そして商業的規模で行われるものについても,商業上の多大な利益のために行われるといった限定は必要ではないかという御意見でございます。
それから,配信音源の二次使用に関する報酬請求権の付与に関しましては,これまで使用実績はないということで,今のところ影響はないとされております。
続きまして,資料19をお願いいたします。日本ケーブルテレビ連盟様からは,アクセスコントロールに関する制度整備についての御意見が寄せられています。
1パラ目の後半の方にあるように,有料番組のスクランブルを解除する機器による有料放送のただ見について問題が述べられてございます。大分飛ばしまして,下から二つ目のパラグラフですけれども,いわゆるブラックCASカードなどによる無料試聴といった行為について,民事上の救済措置及び刑事罰の導入が基本合意されたということは非常に意義があるとされております。
続きまして,資料20をお願いいたします。日本民間放送連盟様からの御意見でございます。
まず,総論としまして,国内法を改正する際には,著作隣接権者である実演家,レコード製作者と放送事業者とが平衡した取扱いとなるということが要望されております。
各論としまして,保護期間延長につきましては,権利者不明著作物の増大が予想されるということで,これに対するしかるべき方策を講じることを要望されております。
次に,一部非親告罪化については,二次創作など表現活動が萎縮しないよう,非親告罪の対象は複製権に限定した上で,デッドコピーなど客観的な基準によって定められる侵害行為かつ商業的な規模の侵害行為に限定することを要望するとされております。
また,実際の運用に当たっては,捜査当局が権利者の意思や侵害事実を事前に確認するなど,権利者と捜査当局との当該侵害に関する認識が異なることのないよう配慮すべきとされておられます。
次のページをお願いします。配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与に関しては,これを保護の対象となるレコード及び適用の対象となる放送サービスの範囲は,各国との間で現在の取扱いは維持されるということを要望されておられます。
5番,法定の損害賠償等について,対象を海賊行為などのうち悪質な場合を対象とするなど,これまでの著作物等の利用状況に著しい影響が及ばない制度設計を要望されておられます。
続きまして,資料21をお願いいたします。主婦連合会様からの御意見です。
まず,総論としては,これまでTPPへの参加を一貫して反対しているということが断られております。
具体的な御意見としては,1番,まず,協定の詳細な内容の公表を経て批准,発効の見通しが立って初めて法改正・施行という手順を踏むべきだという御意見。
2番,現在伝えられている内容に沿った著作権強化の法改正がなされる場合は,保護強化が行き過ぎとならないための実効性あるセーフガードの導入を求めるという御意見。
それから3番としまして,同様な著作権強化の法改正がなされる場合,ユーザー,消費者の公正な利用が制限されないことを担保するため,権利制限の一般規定を導入することを強く求めるという御意見が述べられております。
続きまして,資料22をお願いいたします。一般社団法人電子情報技術産業協会の著作権専門委員会様からです。
まず,総論としましては,TPP協定の締結に賛成の立場とされておられます。
各論としまして,まず,保護期間延長に関しては,利用許諾が今以上に困難となるということで懸念が表明されております。
また,孤児著作物の問題を含めて,著作物等の利用流通を阻害しないための方策を並行して実施することが必要ではないかと。例としては,保護期間の延長の利益を得るために登録を要するものとし,それにより権利の所在を明確化するということが提案されております。
2番,一部非親告罪化につきましてですが,被害者が被害回復を求める意思がない場合でも,当局が職権で刑事手続を開始できることになるということで,創作・表現行為の萎縮効果が生ずるということに対する懸念が述べられております。そこで,デッドコピーなどに限定すること等が求められておるところでございます。
3番,いわゆるアクセスコントロール等に関する制度整備につきましては,下の方ですけれども,排他権とはされていない著作物の試聴や使用行為に対して大きな影響を及ぼすことを懸念するとされておりまして,著作権保護に名をかりたプラットフォーム保護という弊害が生じるということが懸念されておられまして,そうした弊害が生じないようにしてほしいという御要望でございます。
また,正当な機器,部品,チップ等の製造・販売,サービス提供へのサイドエフェクトが生じないように,適切な除外規定を整備されるよう要望されておられます。
それから,5番,法定の損害賠償等については,現行の著作権法において十分な抑止効果が得られていることから,法改正は不要と考えるとされております。
最後6番,その他でございますけれども,この上記5項目はいずれも著作権等の保護の強化に関するものであって,比較的幅広く強化するものだということであります。したがって,JEITA様としては,権利者に損害を与えるような利用対応でないにもかかわらず,該当する権利制限規定が存在しないか,存在しても不十分な内容であるために,本来,適法とされるべき利用が違法と位置付けられてしまっている場合が存在すると考えておられまして,そのような状況下で保護強化を行えば,保護と利用のバランスを著しく失うとされております。このため,著作物等の種類や利用態様をあらかじめ限定せずに,利用行為の適法性を柔軟に判断する柔軟性のある規定を導入することが不可欠とされております。
次に,資料23をお願いいたします。日本図書館協会様からの御意見です。
3パラ目の保護期間につきましては,著作権者が不明な著作物が増えるということが予測されるとされておりまして,権利制限や保護期間の例外などの検討をお願いしたいとされております。
また,非親告罪化については,国民の知る自由を保障するという図書館の役割を踏まえて,適用範囲についての検討をお願いしたい,また,法定賠償等についても,図書館活動が萎縮することのないような制度設計をというふうに述べられております。
最後,資料24をお願いいたします。青空文庫様からの御意見でございます。
まず,1ページの1ポツの最後の文ですけれども,著作権の保護期間が満了するまで経済的価値を持つ作品はごく少数であると。そういった少数の作品の利益を守るために,そのほかの作品が社会で再発見され,再び人々に共有されることを妨げるというのは,公正な利用の側面から問題があるといったことが述べられております。
こうしたことや,青空文庫の意義等が述べられた上で,2ポツでは,保護期間の延長について御意見が述べられています。3ページ目でございます。
2パラ目,「そのため」以降ですけれども,著作権保護期間延長を受け入れる場合でも,過去の著作物については最大限柔軟な利用を許すような法的枠組みが必要とされております。幾つか御提案がありまして,第一に,保護期間の延長をこれから創作される著作物に,あるいは現在存命の著作者に限るということ,それから丸2としまして,著作者の不明な孤児著作物については,戦前,戦中に亡くなったとおぼしきものについては,パブリック・ドメインの確証が高くとも,市民,企業などはパブリック・デジタル・アーカイブのために利用しづらいとされておられまして,アメリカの例を参考にして,特定の年以前の著作物に関しては,一律パブリック・ドメインとする措置を御提案されておられます。また,その際,そのパラグラフの中頃ですけれども,登録の申出がなければパブリック・ドメインとするといった解決策の御提案もございます。
少し飛ばしまして,3番,非親告罪化・法定賠償制度についてでございます。
2パラ目の下のところですけれども,単純な非親告罪及び法定賠償制度が導入されれば,デジタルアーカイブが多額な賠償金を支払うことになるということ,それからプロジェクトの継続が不可能であるとされております。また,過失による損害を恐れる余り,アーカイブ活動が萎縮するとされておられます。
また,非親告罪化については,アーカイブが大規模なものであることや原典のまま複製する場合があることから,この規程により除外されないのではないかということを懸念されておられまして,その点からも,公益性を持つ活動やアーカイブは別とする除外規定を盛り込むことが必要ではないかとされておられます。
書面提出による意見に関しては,以上でございます。
【土肥主査】どうもありがとうございました。
それでは,御発表いただきました五つの団体に対して御質問ございましたら,お願いいたします。
松田委員,どうぞ。
【松田委員】ありがとうございました。コミックマーケット準備会の資料を御質問させていただきたいと思います。
コミケの活動全般が,個人のというか作家さんの黙認の上に成り立っていて,実は許諾ではなくて,これだけ大きな作品が生まれ,活動が生まれているんだと,こういう御趣旨だったと思います。この黙認というのがどういうことかというと,権利者が黙っていて,それを放任しているという状態ですから,一種の一定の事実が重なると,許諾にもなるのかなと思わないではないんですが,逆に,私の作品はそういう点では許諾しないから,コミケに使わないでくださいねというふうにクレームが付くことというのはないんでしょうか。
【コミックマーケット準備会(里見)】過去,お一人の漫画家さんだけ,パロディ同人誌を作らないでくださいということを御自分のホームページで御主張されている方を見掛けた記憶がございますけれども,その方だけだと思います。
【松田委員】資料の13ページですけれども,ほとんどの場合は許諾なく別作品に入れ込むことは珍しいことではなく,その後,それが問題になったことはほとんどないと書いてあります。ほとんどないということは,実際上は問題としてあったのではないかというふうに思うのだけど,この点はいかがですか。具体的な問題が起こった場面。
【コミックマーケット準備会(里見)】幾つか具体的な問題があったのは事実でございます。でも,それは,例えばドラえもんの最終回の漫画を御自分で発表された方とかが問題になったことがかつてあったりしますけれども,特に同人誌即売会というよりは,割と大きなところで目立ってしまった,ネットとかで話題になってしまったので,権利者さん側が,ちょっとここまでやると行き過ぎなのではないかみたいなことでやられたんじゃないかと理解しております。実際,すぐにお話があった段階で話がついて,訴訟にもなっておりませんし,また,通常の利用料ぐらいなお金のお支払で済んだと伝え聞いております。
その際,権利者さんの側からも,ファンのやることに目くじらを立てる気はないんだけど,ちょっとやり過ぎみたいなお話も頂いておりましたので,そこら辺は権利者さんの御判断がやっぱりあるのかなとは思っております。そんな形で何件かはありますが,訴訟に至るというのは,ゼロではないですけれども,皆無に近いと聞いております。
【松田委員】全体としては,先ほどの言う黙認の状態でうまくいっているんだということのようなんですけれども,TPPも,多分この審議会でも,新しい文化を創るようなものを抑えて非親告罪化しようなんていう意見はまずはないんです。私は理解しています。ですから,要望のところは,かなりのところ,私は同じようなことになるんだろうと思うのですが,ただ,立法技術としては難しいということは承知しております。そのようなことで考えておりますので,そこでとりあえず終わっておいて,次に同じような意見を持っているthinkTPPIPの福井さんの方に質問を移してよろしいでしょうか。
【土肥主査】どうぞ。
【松田委員】意見の中核は,登録制度というものを中心に置いて,それで権利を強化するものとそうでないものとを分けて,なおかつ,それに親告罪化,70年保護期間の長期化ということを関連付けて立法したらどうかという意見のようにお聞きしました。
そこで一つ,2ページの2段落目なんですけれども,ここで提言なさっているところですが,複製というのでは駄目で,原作のままという複製,こういうものを対象にして限定したらどうかという意見があるわけです。これはまず,創作性のないものを除くというか,現行法上の複製概念では駄目だというのは,何か加わったら侵害の対象にしないというような方向に考えなきゃいけないと,こういうことになるように思うのですけれども,この原作というのはどういう範囲のことを言うのでしょうか。
というのは,例えばコミケの問題で考えるとすれば,最初に漫画があって,その原作もあり,原作も何種類かある,ないしはその原作が,自ら作者の方ではいろんなバージョンに使われたり,原作自体も変わっていくじゃないですか。それを当初の原作のままという意味ではないんでしょうね。その点はどうなんでしょうか。
【thinkTPPIP(福井)】オリジナルの著作物が何バージョンかある場合に,その第1バージョンのみを複製する行為だけに非親告罪化の対象を絞れという意見かというお尋ねでしょうか。
【松田委員】そういうことです。
【thinkTPPIP(福井)】であるならば,いわゆるオリジナル作品が何バージョンかある,例えば映画で言えば正編があり,続編があり,続々編があるというときには,当然全て原作というふうに著作権法上も原著作物というふうに考え得るでしょうから,それら全て海賊版的に流通させる行為は非親告罪化の対象としてよいという意見であります。よって,お答えはイエスということになります。
【松田委員】結局は,デッドコピーと翻案との間のどこかに線を引かなきゃならないんですよね。
【thinkTPPIP(福井)】はい。
【松田委員】この立法技術もかなり難しいなと思っております。一応参考までに。
それから,登録制度とリンクして法定損害賠償の制度を導入する場合は,これを利用したらどうかということですが,特許や商標などの登録と違いまして,著作物って日々生まれているじゃないですか。それは小説家の先生が毎日小説を書いているっていうわけじゃないけれども,テレビ局なんか見ていると,毎日新しいコンテンツを作っているわけです。それが映画であるか映像の著作物であるかは別論としても,それは常時あるわけです。
それから,企業の中でも著作物は常時生まれているわけです。そうなると,その中に特に強化したいものだけを登録しなさいよと,こういうふうにした場合でも,膨大な数の登録が生まれやしないだろうかというふうに思うのです。特許であれば,30万件とか40万件ですけれども,著作権だと何百万件じゃなくて何千万件になる可能性があるんじゃないでしょうか。そういうときに,日本の登録制度って成り立つだろうかということになる。そうなると,登録制度を変えなきゃならないじゃないですか。登録制度を変えるとなると,何らかの形でシステム的に一定の特定をしたものをアップロードして登録が済んだという形にしなきゃならなくなっちゃいますよね。そういう点をお考えなのかどうかという点が1点です。どうでしょうか。
【thinkTPPIP(福井)】非常に重要な御指摘でありまして,まさにおっしゃるところが問題だと思うんです。御存じのとおり,現在,権利処理のコストというものを社会的にいかに低下させていくかということが大きな課題となっています。デジタル化の中で様々な制度疲労を起こしている著作権法においては,これこそが改善策,解決策であり,また,孤児著作物問題に対しても,いかに権利情報を集約していくかということが大きな解決策である。とするならば,それにある種の法的インセンティブを与えなければ,なかなか権利情報というのは集約されてくるものではない。よって,米国法もそのように著作権登録には幾つもの法的インセンティブを与えることで,現に非常に高い,本当の意味で保護を求めている,経済的保護を求めている作品の非常に高い登録率を達成しているというふうに理解しています。
よって,今回のことを,いわば日本の著作権法を更に進化させるための一つのきっかけにするならば,TPPで米国法の一部を取り入れるならば,それとひもづいているこの登録制度の活用というものも同時に取り入れるのが,やはり方向性だと思うのです。実現するには,当初においてはやはりマンパワーの問題など,著作権課では御苦労があると思います。また,全ての作品は登録し切れないという問題もあると思う。しかし,それをいうならば,現時点において,日本に法定損害賠償制度というものはないのであって,法定損害賠償制度をすぐ是非入れましょうという声が強く巻き起こっている状況ではないですよね。であるならば,あえて著作権登録をした作品が法定賠償の対象であるとしても,最初は登録数が必ずしもロケット的に伸びなくたって構わないのじゃないか。そして,その登録の率を高めていくのは,まさに先生がおっしゃったとおり,既存の様々な流通制度,あるいは様々な権利情報データベースとの連携ということがポイントになってくると思います。例えば国会図書館への納本制度に関連して,何らかの法的な登録制度を納本の際の書誌情報データベースと連携させるということは,既に過去何度も提案があるところであり,そういったような意味で,御指摘は全くもっともだと思います。
【松田委員】ありがとうございます。とりあえずは,登録件数はそんなにたくさん上がらなくても,とりあえずそういう保護的な枠組みを作って,登録をしたものについての一定の権利強化をしていこうということは可能ではないかという御意見ですね。それでなおかつ発展していけば,結局その登録という制度は今の登録制度とは違って,ナショナルアーカイブが登録に代わるような状態になるのではないかという御意見かなと思いました。
実はそういうことは審議会でも議論をしていて,特に国立国会図書館のアーカイブ化なんていうのは,そういうことに発展する可能性すら持っているだろうと私は思っているわけです。
さあ,そうしたときに,次に質問なんですが,これ,TPPで今,制度を考えているわけだけれども,国際的な合意の中でそれを作ろうとしたときに,果たしてそれが,日本だけはそういうものにしていこうということになったらば,やっぱり国際合意としては成り立たなくなるわけで,いってみますと,ナショナルアーカイブとか登録だとか権利の強化の要件というものを国際的に作っていかなきゃならなくなるじゃないですか。その点の御意見はいかがでしょうか。
【thinkTPPIP(福井)】まず,成り立たないかといえば,当の米国が登録を法定損害賠償の前提にしており,この制度を変える気は恐らくアメリカにはないでしょうから,これはTPPの協定上は成り立つと思うのです。ナショナル・デジタル・アーカイブ作りに関しては,国際的な連携はもちろん図るべきであって,そのようなことは国際的に動きとして今後起こってくるであろうし,現に起こっていると思います。しかし,全く軌を一にして行わなければいけないというものではなくて,各国がむしろそういうデジタルアーカイブ構築でしのぎを削っている,また同時に,制度間競争も行っている状況だと思いますので,これは可能ではないかなと,こんなふうに考えているところです。
【土肥主査】ちょっと待ってください。順番でまいります。大渕委員,その次に山本委員ということにします。
どうぞ。
【大渕主査代理】手短に2点だけ。まず1点目は,まさしく福井弁護士のこの件なのですが,1ページにある点についてです。いろいろほかにもあるので,少し絞りたいと思います。登録を条件として期間を延長するという御提案ですが,我々の議論もさることながら,今日せっかく関係者の方々に来ていただいているので,朝の方も含めて,これについて賛成か反対かにつきお聞きできれば非常に参考になるのではないかというのが1点です。2点目はごく簡単で,これもthinkTPPIPの方がおっしゃっていた,非親告罪化するのはいいが,必ず著者の意見を聞くようにするというのはあり得るかなと。非親告罪にするが,意見を聞けばいいだけであれば,さほど難しくないかもしれないので,これはそのような御趣旨なのでしょうかというという点です。これはイエスかノーかだけなので。
では,そちら,イエスで分かりましたから,皆さんに先ほどの御意見を。
【土肥主査】1点目が聞きたいんですよね。
【大渕主査代理】そうです。
【土肥主査】1点目なんですけれども,様々な仕組みの中に登録制度というのが入ったとして,延長の問題として登録制度を入れることに賛成という団体は手を挙げていただくだけで結構ですので。時間の関係もちょっとあって,すいませんが。反対の団体,おいでになりますか。分からないっていうことですか。その期間の延長に関して,登録制度を加えて,登録されたものだけ延長するということについて,賛成だという団体の方。――前の方は,しかし,thinkTPPIPは賛成ということですよね。ちょっと手を挙げていただけますか。2団体ぐらいですか。反対というところは。――なし。まだ分からないということですか。分かりましたというか,それじゃ,時間の関係もありますので,山本委員から井上委員に回します。
【山本委員】私の方からは,thinkTPPIPさんの方にお聞きしたいと思います。
この資料13を拝見すると,我々がここで開示を受けたTPPの内容以上の詳しい情報をお持ちのようなので,それを前提にされた議論が,この資料13に入っていると思います。その点について少し確認させていただきたいと思います。
2点あります。1点目は,2ページの2段目のところです。非親告罪化の対象を複製権侵害に限定するということが書かれています。翻案行為をした場合には,日本では複製権の侵害ではなく,翻案権の侵害になりますが,実はこの条文,私は,アメリカ法の概念で作られているのではないかとの疑問を持っています。アメリカ法の概念だと,翻案行為をした場合には複製権の侵害と二次的著作物作成権の侵害の二つになる。つまり,複製権の概念は,日本でいう翻案権の行為まで含んだ広い概念です。ですから,ここの条文として,もし複製権侵害と書かれていた場合には,日本的な意味なのか,アメリカ的な意味なのか,どちらでも読めるように思います。ほかの条文のとの関連で,ここは日本的な意味での複製権の概念だということが読めるのか,その点についてお聞きしたいのが1点。
もう1点は,3ページ目です。丸2のところで,法定損害賠償制度を導入する場合には,著作権登録をして,登録後に侵害を行った場合だけを対象にすると。これはアメリカと合わせるためということですが,現行法を前提にすれば,それはよく分かります。しかし,このTPPでは,何らかの留保条項がなければ,アメリカも著作権登録をせずに法定損害賠償をこのTPP加盟国に与えないといけないという仕組みになるのではないかと読めるのです。そうではないと読めるような留保条項というのがこのTPPの条文の中に入っているということなのでしょうか。その2点確認させてください。
【土肥主査】どうぞ,お願いします。
【thinkTPPIP(福井)】非常に内容の濃い議論をさせていただいて,きょう本当にお招きいただいてよかったなと,こういうふうに思うところですけれども,御指摘いずれも大変ごもっともであります。元のTPPの条文ですけれども,我々が信じるところによるならば,条約上の言葉はpiracyであります。そして,このpiracyという言葉は,刑事罰の文脈で4回使われているのみです。ほかの箇所では,TPPは厳密にinfringementという言葉を使っていて,これを区別いたしております。ということは,単なる侵害と,どうやらpiracy行為は違うらしい。それは刑事罰においてひもづけられているらしいというのが一つ根拠になります。では,そこには何か特別な意味があるはずだ。
このpiracyですけれども,TRIPSにも言葉としては出ていたかと思い,日本での公式訳は複製だったはずです。つまり,日本法においては,これは複製と解釈すべきであるというふうに日本政府は過去判断してきたことになるだろう。であるならば,TPPというものの解釈を余り厳密にやるべきではないということは,既に複数の方々が各所で指摘されていることからしても,このような解釈運用,日本文化を守るためには十分いけるんじゃないか,これが根拠ということになります。もちろん,まだまだ中途の議論でありますので,今後,皆様からのインプット,御指摘が大いに重要になってくるんじゃないかなというふうに議論に期待申し上げるところです。
もう1点,登録したものだけが法定損害賠償の対象になるかどうかです。これについて,米国は自国の制度を変える気はないんじゃないかなというのは,実をいえば一般的傾向としてそうなので,そう申し上げたのみです。よって,ひょっとしたら,米国は登録をしなくても法定損害賠償を請求することができるという,彼らからすれば大改正を今後行う覚悟かもしれません。それを見極めるためにも,TPPの批准,そして発効を待ってから国内法の議論はすべきです。現状において,米国内でどんな議論が行われ,どういう解釈がとられるか,それとの見合いで日本も国内法を決めるべきときに,前倒しで国内法を定めるのは下の下策だというふうに考えています。この点で是非,山本先生にも今後御意見をお伺いできればと思うのは,いずれTPPの条文というのは公表されてきますけれども,私が簡単に見た限りでは,フォーマリティーに関する条文はありません。よって,無方式主義をTPP上は要求していない可能性があります。
以上となります。
【土肥主査】それでは,井上委員,お願いします。
【井上委員】thinkTPPIP様から具体的な御提案を頂きましたので,私も福井先生に1点お伺いしたいと思います。
非親告罪に関連して,出版権と同様に「原作のまま」という限定を付すというのが提案でした。先ほどの松田委員の御質問とも関係しますが,その場合,「原作」とは何かということが問題になりそうです。出版権ですと,「出版権の目的である著作物」が対象になり,それについて「原作のまま」という要件がかかってくるという構造になっています。実際には,出版というと普通は市販される一つの単位のようなものが想定されていて,それについて「原作のまま」ということがもともとは想定されていたと思うのですが,福井先生のお考えの中で,「原作」の単位をどういうふうに考えられているのか伺いたいと思います。
個人的には,例えば「商業用レコード」のように,市販される単位を前提において,それを「原作のまま」複製したものに対してのみ非親告罪化するということにすれば,適切な縛りが掛けられるのかなという気がするのですが,どういうお考えかお聞かせいただければと思います。
【thinkTPPIP(福井)】御指摘,大変ありがとうございます。まず,念のため申し上げておくと,これは私の意見ではなくて,thinkTPPIPのメンバーはかなり多いものですから,この短期間といえども内部議論は経た上でお出ししております。その意味で,個人だったらもうちょっと踏み込むんだけどなみたいなところをあえて曖昧にしているところもありますので,御了解いただければと思います。
しかし,御指摘の課題は全くもっともでありまして,おっしゃるような方向性はあり得ると思います。一つには,我が政府の努力によって,市場における原著作物の収益性に大きな影響,あるいは影響を与える場合に対象を限定できるというならば,市場における収益性の期待できる作品が対象ということになりそうです。むしろ市販,あるいは市販が十分可能な作品単位に対象を限定してしまうことですら,恐らく余り大きな国内からの違和感というのは表明されないのではないかなという気がするところであります。
【井上委員】ありがとうございます。
【土肥主査】龍村委員,どうぞ。
【龍村委員】今のthinkTPPIPさんに御質問でございます。
レジュメの2ページ目のところに,TPPの原文が分かりませんけれども,ウィキリークスのリーク条文によると,原文は,pre-established damagesであり,statutory damagesではないということのようです。もしこれが,statutory damagesだとした場合,現行法114条1項ないし3項はこれに当たらないというお考えですか。また,その理由は何でしょうか。それとも,仮にそのような条文上の表現に違いがあったとしても,なお法定損害賠償に当たるという解釈の余地はございませんでしょうか。その辺の御意見を頂きたいと思います。
【thinkTPPIP(福井)】これも鋭い御指摘で。その解釈の余地はあると思います。ただ,pre-establishedであるので,より,そうであろうという趣旨で書いたものになります。
【土肥主査】ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。それでは,5団体の方々,どうもありがとうございました。特にthinkTPPIPにおかれましては,たくさん御回答いただきましてありがとうございます。
それでは,ここで昼食のための休憩とさせていただきます。再開は13時30分ということにさせていただきます。よろしくお願いいたします。13時30分までには席にお戻りください。
(休憩)
【土肥主査】それでは,そろそろ午後の部を開始したいと思いますけれども,皆様お戻りでございましょうか。
本日,委員の先生方には,今後,政府においてTPPの著作権分野の対応を進めるに当たって,基本的な考え方についてこれから意見を伺いたいと思っております。午前中の関係11団体の御意見,あるいはペーパーで出していただいた御意見を踏まえて,これから意見交換を行っていきたいと思います。
TPP協定に直接記載があって対応が必要となると思われる事項,事柄や,これに関連して対応することが望ましい事柄など,いろいろ課題はあるんだろうと思います。その課題についてですけれども,どのようなスケジュール感で取り組んでいくことが必要なのか,短期的に取り組むべき問題はどれか,あるいは中長期的に状況を踏まえて取り組んでいくべきものはどれなのか,そのあたりについて,本日のところは皆様の御意見,あるいは御指摘を頂ければと思っております。
最初に,この点について事務局から説明があるようですので,お願いします。
【秋山著作権課長補佐】それではまず,周辺状況につきまして御紹介したく思いますので,参考資料の6をお願いいたします。
参考資料の6は,政府のTPP総合対策本部が先月設置されまして,そこで今後のTPP協定の総合的な政策対応に関する基本方針が9日にまとめられたところでございまして,この資料はそのペーパーでございます。
ここでは詳細は省略いたしますけれども,1ページ目にある(1)TPPの活用促進による新たな市場開拓等,そして,2ページ目にありますように,(2)TPPを契機としたイノベーションの促進・産業活性化,(3)TPPの影響に関する国民の不安の払拭,という大きな柱立てを前提といたしまして,2ページ目の下の方にあるように,総合的なTPP関連政策大綱を策定することとされてございます。まだ確定的なスケジュールは示されておりませんけれども,早ければこの11月中ということも予定されているということでございますので,文化庁の著作権に関する議論に関しても,こうしたスケジュールにも間に合う形で議論を進めていく必要があろうかと思っております。
このTPP政策大綱に何を記載すべきかというのは特に決まっているわけではありませんけれども,次のページの「記」と書いたところには,知的財産分野に係る対応としましては,知的財産戦略本部において,関係省庁による所要の制度改正その他必要な措置について,知的財産の保護と利用のバランスに留意しつつ,調整・検討を進めるとなっておるところでございます。
こういった動きもあることを一応念頭に置いていただきまして,本日,御議論を頂きたいことを事務局として整理させていただいたものが資料3でございます。
主査からもございましたように,本日御議論いただきたい点としましては,TPP協定締結に当たって必要な課題,あるいはそれに関連して出てきそうな課題について,基本的な考え方を御議論いただくことを考えてございます。また,本日午前中にもあったように,条文の具体の制度設計の細部につきましては,また別途,専門的な御議論を頂く場を設けさせていただきたいと思っておりますけれども,まずは大きな考え方について御議論を頂くことをお願いしたいと考えております。そのための参考の論点としまして,この資料3を御用意させていただいたということでございます。
御議論を頂きたい点としましては,第一に,TPP協定の締結のために必要な法整備において講じるべき措置,あるいは留意すべき事項といったことがあるのかないのか,あるいはどういうことを留意すべきかということでございます。
また,その他の措置としまして,二つに整理して御議論いただければと存じます。第一に,TPP協定締結に関連して今後検討すべき措置ということでございます。この1,2というのは境界が必ずしも明確ではないかもしれませんけれども,どちらかといいますと,1においては,このTPP協定において求められる制度改正に伴って生じ得る様々な影響ということが考えられるわけでして,そうした影響の有無や内容を踏まえまして,今後,検討すべき措置としてどのようなものがあるのかということについて御整理いただきたいと存じます。
それから,2,その他TPP協定締結を契機として検討すべき措置としております。これは1のようにTPP協定上求められる事柄とは必ずしも直結しないことであっても,この協定の趣旨等を踏まえて,この際,契機として検討すべき措置があるかどうかということについて御議論いただきたく存じます。
以上です。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】ありがとうございました。
それでは,今後,政府においてTPPの著作権分野の対応を進めるに当たって,どのような基本的な考え方に立って進めていくべきなのかということについて,御意見を伺いたいと存じます。
山本委員,どうぞ。
【山本委員】まず,これは事務局にお願いしたいと思うこととして,この議論の対象になるTPPの中身は何なのかということは資料2にまとめられていますが,これをきちんと理解するためには,関連するところだけでも結構ですので,元の条文を出していただけないものかなと思います。といいますのは,先ほどの議論もありましたように,非親告罪化のところで,ここでは複製に係る罪などというふうになっています。それは先ほどの御紹介からいうとパイラシーの訳だということですが,パイラシーとインフリンジメントを使い分けて,パイラシーは複製であるという理解が前提になっているようですけれども,私はそこにはかなり疑問を持っております。侵害の中でも故意による侵害をパイラシーというとか,あるいは商業的な侵害をパイラシーというのはあるとは思いますが,複製に限った意味としてのパイラシーというのは少し違うのではないのかなと思います。そこまで含めてそのように読むのが正しいのかどうかも,原文に当たりながらきちんと議論させていただきたいなと思います。ほかの点もそういう問題があるかも分かりませんし,出発点がずれていたりすると,正しい議論ができないのではないのかなと思います。その点,できればお願いしたいと思います。まずそこから。
失礼しました。
【土肥主査】という御要望が出ているわけですけれども,この点,事務局におかれまして,いかがでしょうか。
【秋山著作権課長補佐】先生の御指摘,本当にごもっともだと存じます。私どもも,情報が不十分な中でこういう御審議を頂かざるを得ないことを非常に申し訳なく思います。この条文ベースで公表できるかどうかといったことに関しては,締約国全体の中でのルールがあるわけでございまして,そういう全体の方針の中で出せる情報を極力お出しするという考えの下で,今のところは取り組ませていただいておるということでございます。そういう意味では,英文のところまで細部にわたってお出しできていないんですけれども,資料2の整理の作成の考え方としましては,大きなフレームワークは余すところなく書き記すという視点で準備はさせていただきましたが,恐らく不十分なところはあるんだと思います。そのあたりについては,政府全体の方針にのっとって,開示できる段階が来ましたら,またお示しするとともに,それに対する御意見も頂けるような機会を設けられればと考えております。
【土肥主査】よろしいですか。ほかに。
ここでは,先ほど申し上げましたように,今後進めていく上での報告案に関しての大まかな考え方を頂戴した上で,もう既に我々のところにメールが来ていますけれども,来週水曜日,またあるわけですよね。ですから,そこでまた議論をする前提として,TPP協定に関連する対応すべき事項についての整理の仕方を教えていただければ,御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
前田委員,どうぞ。
【前田(哲)委員】整理の仕方に該当するかどうかはちょっと心もとないのですが,保護期間の延長に関して,先ほどのヒアリングでも議論になっておりました戦時加算の問題をどうするかということを明確にしていかなければならないのではないかと思います。先ほど文化庁からは,TPPに参加している米国,カナダ,オーストラリア,ニュージーランドとの間では交渉が開始されていて,権利行使を事実上控えるということを政府間で協議をしているというお話を頂きましたけれども,2国の政府間の話合いによって,その国民の私人の権利行使を制約できるのかどうかというのは非常に疑問だと思いますし,また,連合国の中にはTPPには関係していないイギリス,フランス,そのほかの国があり,それらの国の国民の著作物に関しても今回,保護期間が延長されるのでしょうから,その意味でも戦時加算の問題を先決問題として解決する必要があるのではないかと思います。
この点については上野委員が御論文を書かれておられまして,上野委員からも御発言があるのではないかと思うんですけれども,私は平和条約の条文を虚心坦懐に読めば,戦時期間中にまだ保護期間のカウントダウンが始まっていなかった著作物,すなわち著作者が平和条約発効後に亡くなった著作物についてまで戦時加算をしなければいけない義務が条約からストレートに出てくるのかということについて,個人的には疑問を感じておりまして,平和条約により我が国は戦時期間を権利の通常の期間からexcludeする義務を負っておりますが,戦時期間を加算する義務を負っているのではありません。そして,戦時期間がexcludeされることによって保護期間の延長が生じるのは,既に終期の起算が始まっていて,算定される期間から戦時期間が除外される,すなわち戦時期間中はカウントダウンの時計の針が止められるからであり,終期の起算が始まってもいないのに戦時期間が除外されても保護期間が延長されることはないように思います。この条約解釈からすると,平和条約発効から既に50年以上が経過しており,戦時期間に終期の起算が始まっていた著作物の保護期間は既に満了している現時点では,平和条約を修正,変更するまでもなく,連合国特例法を廃止するということも可能なのではないかと。この戦時加算の問題をクリアにするためには,そういうことも併せ検討する必要があるのではないかと思います。
【土肥主査】その部御指摘を頂戴しておきます。ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。戦時加算問題以外にも,ヒアリングの中では,オーファンといいますか,孤児著作物の問題とか拡大集中管理制度の問題とか出ておりました。
前田委員,どうぞ。
【前田(健)委員】TPP協定に関連して必要な法制度整備ということで,法定の損害賠償の導入の必要性が指摘されていたと思います。一方で,ヒアリングの中でも,法定の損害賠償とは何を指すのかという議論があり,現行の114条等でも法定の損害賠償に当たるのではないかというような見解もあったように理解しております。この点をまず明確にしておくことが今後の議論の上で必要ではないかと思ったのですが,いかがでしょうか。
【土肥主査】御趣旨はよく分かりました。検討項目が四つ,五つありますので,順番に行きましょうか。まず,存続期間の問題,次の非親告罪化そして法定損害賠償制度というふうに。上野委員,この進め方について何かありますか。今,手を挙げられたと思いますが。
【上野委員】存続期間の関係で,よろしければ。
【土肥主査】だから,存続期間をやって,非親告罪化をやって,法定損害賠償というふうに,テーマを少しブロックにまとめてやっていった方がいいのかなと思って。
【上野委員】そのような進め方で結構かと思います。その上で,存続期間について,コメントさせていただければ。
【土肥主査】ええ。
【上野委員】先ほど,戦時加算に関しまして,前田先生から御発言がありましたので,私からも意見を申し上げたいと思います。なお,資料3では,この場で議論すべきこととして,「TPP協定の締結のために必要な法整備において講じるべき措置」と書かれていますので,これはTPP協定締結に必要な法整備と併せて講じるべき措置になり得るものとして申し上げるものです。
本日のヒアリングにおきましても多数の御意見がありましたように,戦時加算に関しましては,これを解消することが望ましいと私も思っております。
戦時加算の一体何が問題かと申しますと,保護期間が10年ちょっと延びること自体が問題だという考えもありましょうが,そのことよりも,ある著作権について,戦時加算を行う必要があるかどうか,そして,戦時加算を行う場合,その加算期間の長さを確定することが極めて困難な場合が少なからずありまして,そのために,日本では保護期間の算定が非常に困難なものになってしまっている点にあると私は思っております。
すなわち,現行の連合国特例法によりますと,これに基づく戦時加算の適用を受けるのは,戦時期間中に日本法上の著作権が連合国又は連合国民に帰属し,かつ,条約発効日に連合国又は連合国民に帰属していた場合です。
本来であれば,保護期間というのは,死亡時起算主義の場合,同じ著作者の著作物であれば,その全ての著作物について保護期間が同時に満了します。また,暦年主義により毎年1年の終わりに著作権が消滅しますので,著作者の死亡年さえ分かれば,保護期間は容易に計算できるはずです。
しかしながら,戦時加算があるために,同じ著作者の著作物でも,保護期間は著作物ごとに計算しなければならないのです。つまり,同じ著作者の著作物であっても,著作物ごとに,それがいつ作成されたか,著作権が誰に帰属していたのか,ということを確定しなければ,戦時加算の要否も,加算期間の長さも,確定できません。
そもそも連合国特例法による戦時加算というのは,著作者ではなく,飽くまで著作権者を基準にしています。したがって,同法に基づく戦時加算というのは,連合国民の著作物だけが対象になるというものではありません。戦時期間中に連合国又は連合国民が著作権を有していた期間があるもの全てが,戦時加算の対象になり得ることになります。
この点,従来の議論におきましては,連合国特例法に基づく戦時加算というのは,一定の連合国――「対象国」15か国とも言われますが――だけがその対象になるのだ,という説明がよく見られますけれども,このような説明には問題があると言わなければなりません。先ほども申しましたように,連合国特例法に基づく戦時加算が,著作者ではなく,飽くまで著作権者を問題にしている以上,例えば,ドイツ人の著作物であれ,日本人の著作物であれ,戦時期間中に日本の著作権が連合国民に帰属すれば,同法に基づく戦時加算の対象になり得るのです。
もちろん,先ほどもお話がありましたように,戦時加算に関しましてはTPP交渉国との間で2国間協議による調整が進められているとも聞いておりますので,その御努力と
成果には期待したいと思います。
ただ,先ほども御指摘がありましたように,今回,保護期間を延長するということになりますと,TPP加盟国の著作物のみを対象とするというものではなく,ヨーロッパを含む全ての国の著作物の保護期間を一律に延長することになります。まして,――先ほどは,戦時加算を行った権利の不行使について政府が何らかの形で担保する可能性もあるというようなお話がありましたけれども――,単にCISAC決議のように,相手国が国内の一定の権利者に権利を行使しないことを要請することを約束する,という程度ですと,全ての国の全ての分野の著作物について戦時加算を算定せずに利用できるとは限らないわけでありますので,利用者にとって安心できる状態にはならないように思います。
そのように考えますと,もし2国間協議をするのであれば,今回我が国が保護期間を20年延長することを踏まえて,将来的に我が国が国内法である連合国特例法を大幅に見直すことについてあらかじめ理解を得ておくような交渉をしていただくのが望ましいのではないかと思います。
もちろん,平和条約との関係は問題となり得るところでありまして,平和条約に反する法改正を行うことは当然できません。ただ,日本が平和条約上負っている義務の内容がどのようなものなのかという点は,慎重に見極める必要があると思います。
この点,従来の議論におきましては,平和条約上の戦時加算義務というのは,我が国が戦時期間中に連合国及び連合国民の著作物を保護していなかったことを理由に,敗戦国が負うペナルティとして,連合国及び連合国民の著作物についてのみ我が国が戦時加算を行うものであって,連合国民の著作物と日本の著作物の間に保護期間の差を付ける義務を負っているという理解が散見されたように思います。
しかしながら,本日ここで詳しく述べることはできませんが,平和条約上の戦時加算義務というのは,我が国が連合国及び連合国民の著作物について戦時加算義務を負っており,連合国側がそのような義務を負っていないという意味で片面的であるのは確かなのですけれども,我が国が連合国民以外の著作物について戦時加算してはいけないということまで義務づけられているわけではありません。
実際のところ,戦時加算というのは敗戦国のみが行うものではありませんで,第二次世界大戦に関しては,フランスやベルギーのような戦勝国・連合国でも戦時加算が行われておりました。ヨーロッパでは,1993年の欧州保護期間指令によって保護期間を著作者の死後70年に統一したのですが,その理由の一つが,まさに各加盟国に様々な戦時加算が存在したという点にあったのです。そして,ヨーロッパでも,そのような保護期間の統一を通じて,各国内法に存在した戦時加算も解消されたわけです。
これと同様に考えれば,我が国も平和条約上の義務を害することなく戦時加算を解消できる余地は十分にあるのではないかと思っております。
実際のところ,50年近く前の話ですけれども,現行法への全面改正の際,保護期間を30年から50年に延長するに当たって,この文化審議会著作権分科会の前身である著作権制度審議会は1966年,戦時加算について「今回保護期間が大巾に延長されることを考慮し,この機会にその解消をはかることが適当である」という答申を行っております。ところが,現行著作権法の起草者の逐条解説によりますと,その後,「外務省等との協議の結果」,平和条約上問題がないかどうか「自信がない」という理由で,戦時加算の解消が見送られ,この問題は先送りにされたわけです。
ただ,そうした判断の前提になっていたと思われる平和条約上の戦時加算の趣旨に関する理解,すなわち「平和条約……では,太平洋戦争期間中に日本は連合国の著作物を実際に保護していなかったという前提のもとに,保護期間に戦争期間を加算する義務,いわゆる戦時加算義務が我が国に課せられて」いる,という起草者の理解や説明は,平和条約15条c項ii号が,同項i号とは別に定められていることからいたしますと,率直に申し上げて,誤解に基づくものではないかと思っております。
今回,TPPに関連して再びこの点が問題になっているわけですけれども,50年前の時ほど議論されているようには思えません。もし,この点について,単に先例に従うだけで,十分な検討をせず,またもや戦時加算問題を先延ばしするということになりますと,将来にわたって禍根を残すことになってしまうように思います。
なお,戦後70年たって,戦時加算は既に過去のものになっていると思う方もいらっしゃるかもしれないのですけれども,戦時加算というのは,著作者の死後50年とか,70年とか経過してから初めて問題になるものでありますので,戦時加算の影響が実際に生じてくるのはむしろこれからなのです。もし,我々の世代でこの問題を解決できないということになりますと,20年後とか,50年後とか,その頃になって戦時加算の問題が具体的に表面化して,保護期間の算定に大きな困難をもたらすことになるだろう,と私は思います。
以上です。
【土肥主査】ありがとうございました。
大渕委員は戦時加算問題ですか。別の問題?
【大渕主査代理】同じ。
【土肥主査】同じ問題?
【大渕主査代理】はい。もう細かい話はここでいたすつもりはないのですけれども,TPPで非常に包括的にやるのですが,その際には,関連する論点はきちんと詰めておくというのは大前提であって,戦時加算というのは,それ自体としてもいろいろ政治的にも機微な点がありますので,もうこれは避けて通れない。検討をした上で問題解決できるのかできないのかは別として,これは必ず併せて考慮せざるを得ない。考慮した結果,何かしら先送りにするなど,いろいろあり得るのかもしれませんけれども,先ほど前田哲男委員が言われたとおり,私人間の私権,Privatrechtの問題なので,外交的に政府間の話合いだけで終わるものでもなく,最後は裁判という話になってきますから,法律の根本のところに踏み込まざるを得ない。余り大げさな話にしない方がいいとはいえ,ある程度はきちんと検討はした上で進めないと,どうにもならない問題ではないかと思っております。
【土肥主査】お三方から戦時加算問題については御意見を頂戴して,この機に対応するのが望ましいという御意見だろうと拝聴いたしました。
これを文化庁ができるのかというと,これはまた別の話じゃないかなとも思いますけれども,対応が必要な事項という方向性というんですか,そういう整理は一つあるんだろうと私も思います。
それから,存続期間の問題を整理したいと思うんですけれども,例えばペーパーにはあったんですが,民間放送連盟の方からは放送事業者についてもというふうなことがございましたけれども,この点について何か御意見を頂けますか。TPPに直接記載があって対応が必要なものということになると,これは外れるということになるんだろうと思いますけれども,この点については何か。
では,ほかの問題でもいいんですけれども。道垣内委員,お願いします。
【道垣内委員】今,先生が言いかけられた孤児著作物でございますが,幾つかの団体からお話がありましたように,裁定制度を見直すということは,TPPには多分書いていないことだと思いますので,2の事項なんだろうと思いますが,でも,タイミングは,「今後」とか「契機として」ではなく,できたら同時にが望ましいと思います。それが可能かどうかは問題ですが,できるだけ早い段階で措置すべきだと思います。私は使用料部会に関係しているものですから,現行制度の問題点を痛感しています。使用料部会に出てくる数が世の中で孤児著作物が使われているものの何%なのか分かりません。だんだん増えてきてはおりますけれども,極めて少ないんじゃないかと思われまして,それは決していいことではないので,もっと使いやすい制度を作るべきだと思います。そして,供託という形で国の一般会計に入るのは悪いことではないかもしれませんが,もう少し著作権界といいますか,著作者全体の利益に資するような使い方ができるようなことをお考えになるといいんじゃないかと思います。
【土肥主査】はい,この点ですね。
【大渕主査代理】この点です。私も今の御意見と全く同意見であって,これはタイミングの問題があって,TPPと同時にできるのかは別として,単純な計算で死後50年が死後70年になれば,オーファンワークスが増えることは間違いなくて,それについては利用が妨げられるのではないかということで懸念の声も強いので,そこのところは恐らく運用改善はほぼできている,それはどんどん進めていただくことにして,もっと法制的な問題も並行して進めていますが,成果物が同時にできるかどうかは,TPPは急がなければいけないので微妙ですが,きちんと並行して,オーファンワークス関係は,いろいろ集中管理等,それ自体としては大きな問題もありますので,マンパワーの問題が大変だなと思いますが,そのようなものもしっかり進めつつということで,トータルとしてのバランスを図っていくことが重要だと思っております。
【土肥主査】法制小委でこれ入りましたけれども,やっていますよね。
【大渕主査代理】ええ,それもやっています。
【土肥主査】ですから,スピード感を上げてやる必要があるという御意見だと思います。
ほかに。今村委員,どうぞ。
【今村委員】先ほどの放送事業者の権利に関してなのですが,TPPで求められているものの中に放送事業者の権利が入っていないので,基本的に最小限ということであれば入れないということが望ましいような気もします。ですが,先ほど日本レコード協会様の方からも,過去のレコードを費用負担して商品化してレコード文化の継承,発展を促すときにメンテナンスのインセンティブになるというような議論があって,過去の放送番組を活用していくというときに,そのリソースを一番持っているのが放送事業者だとすれば,そういうものにそういう意味でのインセンティブを与えるということも考えられるのかなと思いました。
それが1点です。あとは保護期間に関係しまして,今年中に保護期間を延長する改正法が施行されることはあり得ないと思うんですけれども,そうなってくると,今年,保護期間が切れてしまうもの,来年,保護期間が切れてしまうもの,非常に不公平感が生じる可能性が出てくると思うんですね。そのための暫定的な保護期間を延ばすような措置を取るべきかどうかということも,ちょっと考える必要があるのではないかなと思っております。これはもちろん,現在,保護期間があるものについても保護期間を延長するということが議論の前提となると思います。あとは,施行日をいつにするかということは,過去の例に鑑みても慎重に考えた方がいいかなと思っております。
以上です。
【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。
まだ幾つか検討すべき課題もございますので,次の非親告罪に入ります。非親告罪について御意見を頂けますか。その次に法定損害賠償制度に入りたいと思いますが,非親告罪について,龍村委員,どうぞ。
【龍村委員】少し戻りますが。
【土肥主査】分かりました。どうぞ。
【龍村委員】放送事業者の取扱いについてですが,協定の締結国の中で放送事業者の扱いがどうなっているのか,これだけが落とされている実質的な理由があると思うので,そのあたり,御確認いただければと思います。あえて落としているのだろうと思いますけれども。
【土肥主査】もし今,これについてお持ちのものが何かありましたら,お出しいただけますか。
【大塚国際課専門官】参加12か国の中の放送事業者の扱いですけれども,まだ我々の方でも網羅的に分析できていないところです。申し訳ございません。
【土肥主査】今村委員の先ほどの御意見では,検討すべき問題ではないかという趣旨であったかなと思うんですけれども,では,どういうふうに具体的にというところまでは本日は必要ないんですけれども,我々の委員の意見を受けていただいて,次回,今問題になっているようなことを調べていただいたところで入れていただいても構いませんし,それで大丈夫なんですが。
【大塚国際課専門官】はい。
【土肥主査】それでお願いします。
ほかにございますか。
非親告罪は,11団体ほとんど出たような感がありますので,是非,非親告罪の問題についてのどういう議論をするかということで,上野委員,お願いします。
【上野委員】非親告罪化につきましては,我が国における二次創作への萎縮効果を考慮して,その範囲を限定すべきだという御意見が多かったかと思います。
その方法なのですけれども,まだ公開されていませんが,TPP協定の文言によりますと,非親告罪化の対象は四つの点から限定されていますので,国内法化に当たりましては,非親告罪化の対象を,piracyに限定する,市場において著作物等を利用する権利者の能力にimpactがある場合に限定する,wilfulの場合に限定する,そして,commercial scaleの場合に限定する,という全てを総動員するのがよいのではないかと思います。
特に,piracyという文言につきましては,既にTRIPSやACTAにおいて「複製」と訳されておりますが,これを著作権法上の「複製」と同じ意味に理解してしまいますと,公衆への譲渡行為が含まれないことになる一方で,例えば,音楽をBGMとして映画に用いるというような行為が含まれることになります。このように,piracyというものを著作権法上の「複製」と同じ意味に理解してしまいますと,ある場面では狭すぎ,別の場面では広すぎるということになるように思います。もし,piracyというものが海賊行為であって,パッケージ商品をデッドコピーして製造販売するような行為を意味するのだとすれば,国内法化に当たっても,これをうまく表現できるような文言を用いるべきであるように思います。
もっとも,実際に条文にするのは簡単ではないことと存じますし,政府部内では既にそうした文言の点も御検討中のことと思いますけれども,非親告罪化を懸念する声が大きいようですので,先ほどの四つの限定というのをできるだけ生かして,非親告罪化の対象をできるだけ限定的なものにするのが望ましいように思います。
以上です。
【土肥主査】ありがとうございました。
二次創作に関しても,何かこれとの関係で御意見を頂けますか。よろしいですか。
【大渕主査代理】要するに,先ほどもお聞きしていても,細かい技術論は条文にするには非常に大変だと思うのですが,基本線については,ほとんど異論もなく,一部のものについては非親告罪化していいが,今言われたコミケのような二次創作的なものまでそうするのは行き過ぎだという,そのあたりはおおむねコンセンサスはあるように見受けられます。
あと,もう一つ私が気になったのは,先ほどどなたか言われたように,親告罪だったら本人が告訴しない限り刑事手続は始まらないわけですが,非親告罪化ならば,本人の意見を聞くようにしてほしいという点であります。著作者の意思を無視する形で進まないように,本人の意見を反映するような形でうまく入れ込んでいけば,余り問題とはならないのではないか。そうはいっても,条文で明確な線を引くのは非常に大変だと思いますが,パイラシーは押さえたいがコミケは押さえたくないという点での,サブスタンスのエッセンスの部分では皆様にかなりコンセンサスがある。最終成果物は条文なので,そこのところではいろいろと工夫をしていく必要はあるが,基本線のところはおおむねコンセンサスがあるものと理解しております。
【土肥主査】大渕委員に代わって言っていただきましたけれども,非親告罪化に関しては,おおよそ皆さんの御了解というか,認識の共有はあるのではないかと思います。
末吉委員,どうぞ。
【末吉委員】私も同感であります。今お示しいただいている資料2のペーパーでいきますと,商業的規模の概念がローマ数字のiとiiで限定されているところ,権利者の意向を聞いてくださいという趣旨を入れるとすると,iiの方は,恐らく権利者に,どれだけの影響があるかという点を確認するという実務になると思うんですが,iの方ですと,必ずしもその点が明確でないと私は思います。今後の立法化へ向けての検討課題だと思いますけれども,そこに道垣内先生からはちょっと分かりづらいと言われているところですが,さらに,ただし書の「権利者の能力に与えるものに限定」を上手に活用して,iの方でも権利者の意向を確認できる構成要件に持っていくことも考えられるのではないでしょうか。
以上です。
【土肥主査】ありがとうございました。井上委員,どうぞ。
【井上委員】今のところの確認なんですけれども,小さいローマ数字の2と,ただし書の関係が,一見したところでは分かりづらいので教えていただければと思います。
【土肥主査】ここでまとめていただいているものの元との関係で,どのぐらい今御発言いただけるのか分かりませんけれども,今の話,事務局で何かありますか。重なっていても除くことができる,限定できるということなので……。
秋山さん,お願いします。
【秋山著作権課長補佐】私どもとして,条約の解釈については,明確にはお答えしづらいところがあるんですが,ここに書かれていることから推察できることとしましては,ローマ数字の小さな2に関しては,1との比較においては,商業上の利益や金銭上の利得のために行われる行為以外の行為についても,定義上は商業的規模で行われる行為に入り得るんだということが明確になっているものでございます。一方,ただし書のところは,市場における著作物等の利用のために権利者の能力に影響を与えるものに限定するとされておるところでございますので,ただし書により2に入るような商業上の又は金銭上の利得のために行われる行為以外のものについても,より限定的に捉えることが許容されているのではないかと理解しております。
【土肥主査】いずれにしましても,今直ちに条文化といいますか,そういうところではないものですから,非親告罪化の取りまとめにおいては,先ほどから出ておりますように,複製に限るのかどうか。複製それ自体,非常に問題があるところでありますけれども,複製という支分権該当行為に限るのかどうか。あるいは,いわゆるパイラシーというんですか,カウンターフィッティングな,そういう物に限定していく。それから,二次創作,そういった部分については影響が及ばないように,萎縮が生じないように,そういう方向性でやっていただければと思います。
それで,三つ目の問題なんですけれども,法定損害賠償の問題に入りたいと思うんですが,これはかなりいろいろ御意見があるようでございますので,是非お願いいたします。
【松田委員】文化庁が整理してくれた文面をそのまま読みますと,1か2のどちらか,追加的損害賠償か法定賠償,どちらか入れればいいかのように書かれていて,法定賠償を入れればいいなということになる可能性がある。法定賠償というのは一体,TPPの議論の中ではどういう概念で言っていたかというのがまだ分からない。日本法上は一応法定賠償というものは,損害の立証がつかない場合とか,不実施権利者については認められているわけでありますから,それを法定賠償と言い切れるかどうかということを,早く情報が欲しいなと思っているわけです。市場における逸失利益がある場合であっても法定賠償規定を置かなきゃいけないんだというふうにTPPでは議論されていたとするならば,かなり日本法上は大変だなと思います。
特に,法定賠償は幾らでもいいわけじゃなくて,将来の損害を抑止することを目的とするものでなきゃいけないわけで,これは本来,日本の損害賠償制度にはないんだろうと思っています。金額を多くして将来の賠償を抑止する機能というのはないのだろうと思うわけです。そうすると,日本法上は709条の損害賠償なんだろうかという問題も含めて議論しなければならなくなるんだろうと思っています。
そういう点もありますので,作ってくださった資料の中で,どういうところまで議論しなければならないかというものを早く情報として出していただかないと,この問題はこれ以上,進まないんじゃないかと思います。場合分けして議論することはできますが,最後の場合,不法行為によらない何らかの制度を作らなければならないということになった場合につきましては,これはもう著作権法だけの問題ではなくなってしまいます。そうすると,法律的な議論を超えて,多国間の協定の中で制度として作らなければならなかったというのが制度目的になって,そしてある意味では緻密な議論をしましても,それから判例の分析をしましても,他の法律との整合性を担保しましても,すっ飛んでしまうことになりかねないわけです。議論はもちろんできると思いますけれども,是非,早くこの点のTPPの法定賠償に関する拘束の範囲といいますか,合意の内容を明らかにしてもらえないかと思う次第です。
【土肥主査】ありがとうございました。
【森田委員】法定損害賠償について議論するときに,法定損害賠償とは何かということで,一つは条約の解釈の問題になると思いますから,それについての正確な情報が必要だというのはおっしゃるとおりですけれども,他方で条約の文言についても解釈の余地が残りますので,それを解釈するときにはそもそも法定損害賠償をどのように理解すべきかが問題となります。この点について,アメリカ法で法定損害賠償と言われる場合には,actual damagesに対置される概念,つまり事実として立証できる損害に代えて,損害の立証が難しいときに法的な操作を経て導き出される損害が法定損害賠償であるとしますと,現在の日本の民法学の水準でいきますと,いわゆる事実的な損害に対して規範的損害という概念がありますが,法定損害賠償とはこれに対応するものであると捉えることができます。この規範的損害というのは,法益侵害によって被った不利益を一定の実体法的なルールによって算定するということであって,必ずしも事実としての損害額の立証を要しないものです。その典型例は,例えば年少者が死亡した場合の逸失利益の算定というのは,仮にこの人が生きていたとすれば,将来何歳まで生きて,具体的にどのような職業に就いて,幾ら稼ぐかということを事実として立証することはほぼ不可能に近いので,それに代わる合理的な算定ルールというのが判例によって形成されております。これによると,例えば小学6年生の女子が死亡した場合であれば,誰が死亡しても大体同じような損害額の算定になるというわけでありまして,これは生命という法益侵害について規範的な操作によって損害額を創り出すという意味で,規範的損害というふうに呼ばれております。
事実的損害に対して規範的損害に相当するものを法定損害賠償と呼ぶとすれば,著作権法についていえば,114条の1項及び3項というのは――2項を含めるかどうかはそれをどのように捉えるかによりますが――,法定損害賠償を定めたものであると捉えることができます。114条については「損害の額の推定等」という見出しが付されておりますが,114条1項は,条文の文言上は「著作権者等が受けた損害の額とすることができる」と規定されておりまして,これは別に事実のレベルでの損害額の推定とその反証というような問題ではありません。侵害行為がなければ著作権者がどれだけの数量を販売できてそこからどれだけの利益を得ることができたのかという逸失利益というのは,マーケットにおいて生じた損害でありますが,マーケットのメカニズムを自然科学的な事実として立証することはかなり難しいので,それに作用する様々な要因の法的評価によって損害額を算定するという実体法的なルールを規定したものであります。114条1項の元となったのは特許法102条1項ですが,その立案に私は関与しましたけれども,そのときには規範的な損害の考え方によってこれを説明しておりました。
また,114条3項についても同様でありまして,これも規範的損害の考え方によって正当化できるものです。それから,114条の5は民訴法248の特則を定めたものですが,これについても二通りの証明の仕方があって,その性質上,損害額の立証が困難である場合に,その証明度の軽減を定めたものという理解と,相当な損害額を認定する裁判官の裁量評価の権限を定めた実体法的な規定であるという理解がありますけれども,証明度を軽減してもなお損害額の立証が困難であるような場合には,規範的な損害として相当額の損害を認定する裁判官の権限を認めた一般的な根拠規定と読むことができます。
したがって,法定損害賠償というのは規範的損害の意味である,すなわち,法益侵害によって被った不利益について実体法的な評価によって導き出されるものであって,必ずしも事実としての損害額の立証を直接には要しないものだとしますと,そういうものは,現行法上,既に存在しているという理解は,十分理論的な根拠があるのだと思います。
ただ,条約上の要請として,それだけでは足りなくて,上限とか下限といった数値が入らなくてはいけないということになってきますと,現行規定では十分に対応していないということになりますけれども,その種の数値を設ける場合には,何を基準とした数値なのか。侵害著作物なのか,被侵害著作物ないし侵害行為の個数によるのか。また,それによってはじき出される損害額が現実の損害と乖離している場合には,結局,実質的には懲罰的な損害賠償という性格を帯びてきますので,そういうものは我が国の法体系上は認められないということになりますと,上限や下限を定めるだけではいろいろな問題が生じますので,これを回避できるような作り込みが必要になります。アメリカ法上においても,実損と合理的な関連を欠くような法定損害賠償というのは,デュープロセスの観点から裁判上も問題になるようでありますので,幾つかの作り込みをしないといけないのですが,上限や下限を定めることはそのような問題を抱え込むことになるので日本法上は余り適当でないとすれば,現行法の中でも十分合理的な対応ができているという説明は可能ではないかと思います。
それから,追加的な損害賠償については,もしそのような考え方を導入するとすれば,行為者の主観的な態様,つまり,先ほど一部非親告罪化のところで商業的規模の侵害というのがありましたが,違法な事業活動によって不当な利得を得ることを目的としたような態様による侵害の場合には,損害賠償の範囲をより広く認めるという考え方は,これは一つあり得る選択肢であろうと思います。
伝統的には,我が国の判例は相当因果関係という概念をとっていて,これは行為者の主観的態様に関わりなく,侵害行為との因果関係という客観的な基準によって賠償範囲が定まるという考え方を採っておりましたので,その考え方を貫きますと,主観的な要素によって賠償範囲が変わってくるという帰結を導くことはできないことになりますが,実際の裁判例においては,そのような要素を考慮して損害額を算定することは行われておりますし,理論的に見ても,一定の故意による違法行為の場合には賠償範囲が広くなるという考え方は十分根拠がありますので,例えば,114条の5に追加して,裁判所はそうした侵害行為者の主観的な態様を考慮して相当な損害額を認定することができるというルールを定めることは可能であって,ある種の追加的な損害賠償のルールとして我が国の法体系の中に入ったとしても,それほど理論的な不整合は来さないのではないかと思います。
いずれにしても,法定損害賠償とは何かという点についての基本的な理解をはっきりさせた上で,現行法でどこが足りないのかという点を明確にすることが必要ではないかと思います。以上です。
【土肥主査】ありがとうございました。いずれにしても,ここは「又は」で,法定の損害賠償又は追加的な損害賠償ということになっておりますので,一方が既にあればいいということですよね。だから,両方入れる必要はないということだと思いますので,そういう選択肢もあるのではないかという御意見でございます。
道垣内委員,どうぞ。
【道垣内委員】ローマ数字1の方といいますか,法定損害賠償であれば現行法で十分だという議論は非常に魅力的なんですけれども,ローマ数字1のところには,「権利者の選択に基づいて」という文言が入っていて,これが条文に入っているとすれば,114条の3項はいいんですけれども,114条の5だと,これは裁判所がやることですので,当事者がこうしてくれと言えない点で対応していないと思います。ですので,114条の3項だけで十分だということが言えればいけそうですが,もしかすると,もう少し当事者主義といいますか,当事者が選べるものを用意しなきゃいけないのかもしれないと思います。
【土肥主査】ありがとうございました。じゃ,大渕委員。
【大渕主査代理】重複を省いて申し上げますと,まず「or」で,恐らくローマ数字2の方は難しいので,ローマ数字1の,これ,法定賠償というものについて,statutory damagesというのも多義的だし,pre-established damagesというのも多義的ですが,恐らく先ほどの選べるかどうかは別にすると,スタチュートで定めたということも間違いないし,リアルなダメージ,損害の発生,証拠を出せなくても認められるという意味ではpre-establishedとも言えるし,現行法の114条の3項は十分に,私はこれは,法律によって初めて認められた擬制ではなくて,法律による当然の理の宣明だと思っておりますが,それは別として,114条3項プラス114条の5で,これも証拠を出さなくても裁判所はある種,裁量で認められるということがあるので,ぎりぎり,これだけでも,もう少し何かした方がいいのかどうかは別として,先ほどもどなたかも言われたとおり,条約上の義務として最低限要求されている,ローマ数字1の方だったら,解釈によっては,十分満たしているという余地もあり得るのではないかというのが1点です。
それからもう1点は,直前に「抑止」という言葉が※1で入っているのですが,この抑止も強い意味では懲罰賠償のようなものでしょうが,先ほどから出ているような「やり得」にならない,「やり得」になるのは抑止どころか助長しているので,そういう意味では抑止という意味をさほど強く取らずに,助長させないようにするという意味では,現行法でも十分,損害賠償を払わされるということは抑止にならないはずもないので,それも実効的な額であれば,刑罰に代替するような強い意味のものではないにせよ,この抑止という言葉も満たされるのではないか。
それともう1点は,私は昔,外交交渉の最前線でさんざん苦労させられた身からすると,普通は各国とも国内法を大幅に改めなければならないような場合には,必ず条約の文言の改定を要求して,最後はぎりぎりどうにか,全くいじらないか,多少のところで済むというところしかのんでいないのが普通かと思われますが,今回のが例外とも思えないので,懲罰賠償を入れなければのめないようなものだったら,日本政府がこれをのんでいるはずもないので,その意味ではさほどドラスティックなことは言っていなくて,要するに主要国全部がのめるようなものしか最終的に合意が成立しているはずもないと思われるのであります。したがって,さほどそこは心配しなくてもよく,今のことの精神が酌み取れて,要するに実効性のあるような損害賠償額がしっかり実現されることこそがポイントだと思います。「やり得」にならないという意味からいうと,先ほどのものでも十分であって,ただ,もう少し明確化等で何かするかどうかという程度の問題にすぎないという気がいたします。
【松田委員】ちょっと一言。いいですか。
【土肥主査】どうぞ。
【松田委員】今の御意見にもし沿うとすれば,幸いにして,法定損害は「通常」という言葉を取りましたから。「通常」という言葉を取ったということは,普通のライセンスではなくて,違反者との特別なライセンス料を課してもいいということになるわけで,そうすると,それは抑止的効果あるでしょうと言い切れるかどうかということになりますね。そうすると,何も改正しないでいいということになる可能性がある。
【土肥主査】ここは新聞の見出しなんか見ておりますと,商標の方もあるようでございますので,仮にの話にありますけれども,商標の方は何か法定損害賠償制度のような,下限を定めるようなものを仮に入れたときに著作権は何もしないという,たしか私の理解では,その前にカウンターフィッティングの方はトレードマークにしか掛かっていなかったような気がするんですけれども,だから今おっしゃったような対応の仕方はできるんだろうと。いや,可能性としてですけれどもね。
いずれにしても,今おっしゃっていただいたような御意見,それからその中にも,例えば下限を含めてとか,あるいは何を基準にするのか。例えば裁定を受けないで侵害したんだから1万3,000円払えとか,いろんな考え方が多分あるんだろうと思いますので,そのあたりを踏まえて,ひとつ何かお考えいただくといいのかなと思います。
本当は時間がないんですけれども,あと2点お尋ねしたいんですが,アクセスコントロール,この点について御意見いただけますか。著作物等の利用を管理する効果的な技術手段,アクセスコントロール等に関する制度整備というふうに出ております。この3ポツのことについて。午前中のヒアリング,御意見では,これは既に対応しているのではないかという御意見もございましたし。ただ,著作権の権利の行使に関してというところでこういうものを入れてくる場合に,不正競争防止法と違うのは機器の製造のところなんですね。あそこは違うので,あれだけなんですが,アクセスコントロールとしても対応しなければならんとなると,やらないといけないということになるんだろうと思いますが,この点,何か御意見を頂けますか。つまり不正競争防止法と著作権法の刑事罰の規定のところは,あるいは規制のところは若干違うんですね。不競法の方は機器の製造は入っていない。著作権の方は入っていますけれどもコピーコントロールだけにとどまっています。
【大渕主査代理】別に,これは結論としてはさほど異論もないのですが,たしか少し前にやった改正のときには,もともと著作権なのだからコピーコントロールはいいがアクセスコントロールはいかんという意見も強かったので,あれを振り返ると,今回こんなに簡単に入るのだったらあのときは何だったのだろうかと,少しそのような気持ちがしただけであります。そこは理念の問題で,コピーライトはコピーライトの保護を十全なものとするためには,一定の範囲のアクセスコントロールも入る必要があるということになるだけなのかもしれません。そのほかに,不競法とは恐らく保護法益が違っており,事業者の利益と権利者(著作権者)の利益と違いますが,ただ,そこはユーザーの方々が皆それで満足しておられるのだったら,もともとコピーライトなのだけどアクセスも一部コントロールしないと,コピーライトの保護を十全たらしめることができないということかもしれないので,研究者としては興味が湧くのですが,それは要するにどちらに持っていった方が権利者,利用者,あるいは事業者にとってプラスかという,そこが一番中心になってくるので,先ほどお聞きすると余り異論はなかったかなという気はいたしますが。
【土肥主査】いずれにしても,コピーコントロールに関して,アクセスコントロールに関しては不正競争防止法でやっているわけですけれども,残っているところがあるんですね。
じゃ,お願いします。
【山本委員】まず,ヒアリングの中でもう既に今の法律で十分だ,既に議論されている,というお話がありましたが,今回のTPPでは,明確に,日本を狙ってこの議論をされたのではないかと思うぐらい,日本の対応していないところを要求してきているように思います。
つまり,著作権等の権利の行使に関しての技術的手段だけしか今まで議論しておりませんでしたが,今回要求してきているのは,並びに著作物の利用に関してという,つまり権利があるかないかに関わらず,著作物の利用に関する技術的手段を保護しないといけないのだということです。従前の議論は,支分権に関わるのかどうかというところでしたが,それより明らかに広げて,アクセスコントロールの保護を求めてきているということですので,新たにこれは議論しないといけない話だと思います。
これは不正競争防止法で保護されているからいいのかというと,それはいろいろな意味で間違っています。不正競争防止法は別に著作者を保護するものではありませんし,著作物を保護するものでもありません。ですから,権利者は違います。それから,保護されている技術に関しては,著作権法も不正競争防止法も一緒ですが,特定信号と暗号化という技術だけです。しかし,「効果的な技術的手段」とわざわざ言って,改めて要求してきているというのは,アメリカやEUのように,効果的な技術的手段であれば,技術の手段を特定せずに保護しろというレベルを要求してきているのではないのかと私には見えます。したがって,これはもう少し十分議論する必要があるところではないかと思います。
【土肥主査】仮にそういうことであるとした場合に,その際に考えておくべきことはないのかどうか。つまり,それに対する制限の問題とか,そういうことについて何か御意見はありますか。
【山本委員】今申し上げました点のほかに,ここに整理されている範囲内のことであれば,回避する装置やプログラムの販売等だけではなく,回避する行為自体も禁止の対象にしないといけないということになっております。そうすると,特にここの回避行為自体の禁止ということになると,どの範囲で例外規定を設けるのかというのは,ゼロから議論しないといけない,かなり難しい議論をしなければいけないのではないかと思います。アメリカでもかなりいろいろな種類の例外規定を入れておりますが,さらに,アクセスコントロールの回避行為自体については,アメリカの著作権局に例外を定める権限を授権してまで例外規定を慎重に定めております。ですから,そこのところは難しいです。
それともう1点は,例外規定に関しては,権利制限規定との関係です。著作権の行使が及ばないところ,権利制限が及んで,著作権が及ばないところについてもアクセスコントロールの回避を禁止するのかどうか。権利制限規定との関係というのもかなり慎重に議論しないといけない問題かと思います。
【土肥主査】特に,回避行為そのものについての刑事罰というのは,本当に慎重な議論が要るんだろうと思います。
予定されている時間からすると,実は最後のところに入らないといけないんですけれども,いわゆる配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与の問題なんですが,これについてはいかがですか。これはWCTとかWPPTですか,WPPTとの関係でいうと,我が国が留保しているだけの話で,特に。例えば,NHKさんのペーパーによると,実務的には影響がないというふうに書いておいでになりましたけれども,これはこのままでよろしいですか。はい,では二次使用に対する請求権の付与に関しては,この方向性で結構ではないかと思います。
最後,全体を通して何か御意見があれば,この際お出しいただければと思います。時間的には今34分ということになっておりますので,10分ぐらい延びておりますが,最後にいかがでしょうか。よろしいですか。
ありがとうございました。それでは,きょう,おうちにお帰りになった後,あれを言っておけばよかったということがもし仮にあった場合は,今週中であれば金曜日ぐらいまでに事務局に連絡をお願いいたします。それを踏まえて,次回,来週水曜日ですか,TPPに対応して制度整備を行う際の基本的な考え方について,事務局におかれましては整理をしていただいて,それに基づいて本小委でまた議論を行いたいと思っております。
最後に,事務局から何か連絡がありましたらお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】次回の小委員会につきましては,来週11日水曜日,午前10時から,ここ,文部科学省東館講堂にて開催したいと思います。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】それでは,これで法制・基本問題小委員会の第6回を終わらせていただきます。きょうは11団体の皆さん,どうもありがとうございました。
―― 了 ――

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