文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第7回)

日時:平成27年11月11日(水)
11:00~12:30
場所:文部科学省東館 3階講堂

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への対応について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
TPP協定(著作権関係)への対応に関する基本的な考え方(案)(91.3KB)
資料2
法制・基本問題小委員会(第6回)における主な意見の概要(268KB)
参考資料1
環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要(日本政府作成)
(平成27年11月5日 内閣官房TPP政府対策本部)関連部分抜粋
(115KB)
参考資料2
TPP協定暫定案文(英文テキスト)(平成27年11月5日公表)関連部分抜粋(268KB)
参考資料3
TPP交渉参加国との交換文書(英文)
(平成27年11月5日 内閣官房TPP政府対策本部)関連部分抜粋
(173KB)
参考資料4
TPP交渉参加国との交換文書概要
(平成27年11月5日 内閣官房TPP政府対策本部)関連部分抜粋
(75.3KB)
参考資料5
TPP協定に定められている著作権法整備に関わる事項の概要について
(平成27年11月4日法制・基本問題小委員会(第6回)配布資料2)
(121KB)
参考資料6
第15期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(64.4KB)
 
出席者名簿(48.3KB)

議事内容

【土肥主査】それでは,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第7回を開催いたします。本日は,お忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)


【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方には,そのまま傍聴いただくことといたします。
 では,初めに,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第をお願いしたいと思います。本日は,配布資料としまして,まず資料1としまして,「TPP協定への対応に関する基本的な考え方(案)」と題する資料,資料2としまして,前回の会議の主な意見の概要を用意いたしております。それから,参考資料1から5としまして,TPP関係の文書,そして,委員名簿になってございます。足りないもの等ございましたら,お近くの事務局員までお知らせください。

【土肥主査】それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への対応について」,(2)「その他」,このようになっております。早速,第一の議事から入りたいと思います。
 まず,今回のTPP協定の条約,交換文書を資料として配布をしていただいております。これらにつきまして事務局から説明をお願いいたします。

【大塚国際課専門官】失礼いたします。それでは,参考資料1から4について御紹介をさせていただきます。
 参考資料1といたしまして,先週,11月5日に,TPP政府対策本部より公表しております日本政府作成のTPP協定の全章概要のうち,著作権関係部分の抜粋をお配りしております。
 参考資料2といたしまして,参加の12か国で確認作業を行いまして,同じく11月5日に,寄託国であるニュージーランドより公表が行われました英文のTPP協定暫定案文のうち,こちらも著作権関係部分の抜粋をお配りしております。
 参考資料3といたしまして,TPP交渉参加国との交換文書の関係部分。こちらは,英文になります。
 それから,参考資料4といたしまして,TPP交渉参加国との交換文書概要の関連部分の抜粋。
 さらに,委員の皆様方には,机上配布資料といたしまして,文化庁による協定案文の和訳をお配りしてございます。
 協定案文の正式な和訳につきましては,ほかの国際条約の文言との整合性や,TPP協定の各条文の趣旨などを精査しつつ,現在,政府部内で目下,作成,確認の作業中という状況でございまして,現時点において協定案文全体の正式な和訳の公表はいまだなされていない状況でございます。しかし,著作権法については特に重要な法改正事項が多く,先日の本委員会におきましても,法改正の検討に当たって協定本文の開示が必要であるとの御意見を多く頂きましたので,それを踏まえまして,政府対策本部とも相談をいたしまして,本日は協定案文の文化庁による仮訳をお配りしてございます。
 協定案文の文化庁仮訳につきましては,英語の方の協定案文が最新の法的・技術的修正作業の結果を反映したものになっているのに対しまして,その前の段階の協定文を基に作成しているところ,最新の英語案文を十分反映できていない箇所もあり,このように内容としても不十分な面がある上,日本政府の正式な和訳文書ではないことを踏まえまして,大変申し訳ございませんが,当該資料につきましては,本日の審議の御参考用の資料として,机上配布,本委員会限りの扱いとさせていただければと思います。御理解のほど,よろしくお願い申し上げます。事前に御検討いただくためのお時間が十分に確保できないまま大部の資料をお配りする形となりまして大変恐縮ではございますけれども,御検討,御審議に生かしていただければと思います。
 続きまして,協定案文そのものにつきましては,量も多いですので,恐縮ながら説明を割愛させていただきますけれども,交換文書について簡単に御紹介をさせていただければと思います。
 まず1点目につきましては,前回の委員会でも多くの御意見,御指摘を頂きました戦時加算に関する交換文書についてでございます。参考資料4の交換文書日本語概要をごらんいただければと思います。参考資料4の戦時加算関係につきましては,日本と4か国,それぞれとの交換文書の概要となりますけれども,文面はいずれも同じものです。当該文書につきましては,両国政府は日本国が延長する著作権等の保護期間が1951年9月8日に署名されたサンフランシスコ平和条約第15条(c)に基づく戦時加算を含めた現行の保護期間を超える事実を認め,注意を喚起すること。両国政府は,戦時加算問題への対処のため,個別の著作権を集中管理する団体と影響を受ける権利者との間の産業界主導の対話を奨励し,歓迎すること。両国政府は,必要に応じて,本書簡が対象とする問題に関し,上記の対話の状況を見直し,及び適切な措置を検討するため政府間で会合すること。本書簡は,サンフランシスコ平和条約第15条(c)に基づく両国政府の権利及び義務に影響を及ぼすものではないことを確認することという内容について,日本政府と各国政府の間で確認するものとなってございます。
 平和条約の第15条(c)につきましては,開戦時から平和条約発効時までの期間を通常の期間に加算して保護することが義務付けられているところでございますけれども,この点,日本政府としましては,平和条約批准時の著作権法で規定する保護期間ではなく,著作物の保護が要求される,その時々の国内法の定める保護期間であるという解釈に立ってまいったところでございます。
 今般,TPP交渉の過程で,保護期間及び戦時加算について議論するに当たりまして,平和条約に係る従来の政府解釈に変更を加えることは困難であるという判断に至りまして,このような2国間での文書の交換という形になったところでございます。今後,TPP参加国以外の対象国に対しましても,様々な交渉機会を活用しまして,関係省庁の連携の下,今後更に働き掛けを行ってまいりたいと考えております。
 続きまして,著作権関連の交換文書の2点目でございますけれども,保険等の非関税措置に関する日米並行交渉に係る書簡でございます。知的財産権を含む非関税措置に関しまして,日米両国間でTPP交渉と並行して交渉を行っておりまして,今回,その2国間交渉を踏まえた日米両政府の認識について記す文書という形で当該書簡が取りまとめられたところです。
 この概要といたしましては,両国政府は,TPP協定の関連規定の円滑かつ効果的な実施のために必要な措置を取ること,日本政府が著作権の私的使用のための複製の例外の適用範囲について文化審議会著作権分科会に再び諮ること,及び両国政府が著作権等の知的財産権の保護の強化に向け取組の継続の重要性を認めることとなってございます。
 主な内容といたしましては,両国政府はTPP協定中の関連規定の円滑かつ効果的な実施のために必要な措置を取ること,あらゆる違法なソースからのダウンロードに私的使用の例外が適用されないようにすべきかどうかについて,日本政府は文化審議会著作権分科会に再び諮ること,両国政府はアジア太平洋地域における著作権等の知的財産権の保護の強化に向け取組の継続の重要性を認めることについて合意がなされているところでございます。
 我が国におきましては,平成21年の著作権法の改正におきまして,私的使用のための複製であっても,違法に公衆送信されているものと知りながら録音・録画することについて著作権侵害であるとされまして,また,その後の平成24年の著作権法改正によりまして,このような行為について刑事罰化されているところでございます。
 他方,現行の著作権法において,録音・録画以外の分野,すなわちソフトウエアですとか電子書籍についての違法なソースからのダウンロード行為につきましては,私的使用目的であれば著作権侵害とされていないところでありまして,録音・録画以外の分野の違法なソースからの私的ダウンロード行為の扱いについては,過去に文化審議会著作権分科会で検討が行われたものの,複製の実態や利用者への影響等を考慮しつつ,引き続き検討することが適当であるとされたところでございます。
 今般の日米並行交渉での合意を踏まえまして,今後,文化審議会著作権分科会において,録音・録画以外の分野についての違法なソースからの私的なダウンロード行為を著作権侵害とすべきかどうかについて,今後,再び御審議いただくこととなります。
 長くなりましたが,参考資料1から4の御説明は以上でございます。

【土肥主査】どうもありがとうございました。それでは,ただいま御説明いただいた資料につきまして,御質問ございましたら,お願いをいたします。

【大渕主査代理】資料をお送りいただいたのが昨日夜余りに遅かったため,ほとんど目を通す時間がなかったので,1点だけお聞きできればと思います。参考資料5に出てくる2.の一部非親告罪化のところで,前から多くの皆様が原語を知りたいと言われていた部分であります。2.のマル1の「TPP協定における関連事項」の一つ目のポツの,パラグラフが変わって,「ただし」のところにある,「非親告罪とする範囲については,市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与えるものに限定することができる」ということですが,前々から「能力」というのはどういう意味かなと思っていたところ,本日の机上資料の21ページには原文では「interest」である「利益」という言葉は出てきますが,「能力」に当たるものがどこに書かれているのか,すぐには見つけ出しにくいので,教えていただければと思います。

【大塚国際課専門官】ちょっと分かりにくい書き方になっているんですが,机上資料の方ですと23ページになります。上の(g)のところの注釈でございますけれども,「締約国は,1に規定する著作権又は関連する権利を侵害する複製について,この(g)の規定の適用を市場における著作物の利用のための権利者の能力に影響を与える場合に限定することができる」となっておりまして,英文テキストの参考資料2ですと,P18-54の注釈の134です。18.77条の(g)の注釈,134でございますけれども,「With regard to copyright and related rights piracy provided for under paragraph 1,a Party may limit application of this paragraph to the cases in which there is an impact on the right holder's ability to exploit the work, performance or phonogram in the market」というのが該当する脚注でございます。

【大渕主査代理】要するに,英文で言うと,フットノートの134の「ability」のことですか。

【大塚国際課専門官】「ability」です。

【大渕主査代理】分かりました。少し離れていたものですから。ありがとうございました。

【土肥主査】ほかにございますか。よろしいですか。よろしいですね。いずれにしても,本日頂いたものでございますから,また今後,何かありましたら,その段階でまたお尋ねできればと思っております。どうもありがとうございました。
 それでは,次に,TPP協定への著作権分野の対応に関する議論に移りたいと思います。先週,11月4日に本小委員会の第6回を開催いたしまして,TPP協定への対応につきまして,関係団体,11の関係団体からヒアリングを頂いたわけでございますし,それから,意見書を含めますと24の団体から頂戴いたしました。これらのヒアリング,意見書を受けまして皆様に御議論を頂きましたので,本日は前回の議論を踏まえて,二つの事項につきまして議論をしていただきたい,このように思っております。
 すなわち,まず,今後,政府においてTPPの著作権分野の対応を進めるに当たりまして,その基本的な考え方について議論したいと思います。この基本的な考え方につきましては,近々,TPPへの政府全体としての基本的対応方針について定めるTPP関連政策大綱の策定が予定されているようでございますから,これを視野に入れて,著作権分野における対応の基本的な方向性,つまり大枠に当たる事柄についての御意見を頂きたいと思います。その後で,各改正事項における制度設計の具体的内容など各論につきまして,更に御議論いただいて検討を深めたいと,このように思っております。
 それでは,まず,最初の方ですね。TPP協定への対応に関する基本的な考え方の案を事務局において整理していただきましたので,まずは,これについて事務局から説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御説明申し上げます。資料1をごらんください。資料1では,「TPP協定(著作権関係)への対応に関する基本的な考え方(案)」と題した資料を御用意いたしました。
 まず,冒頭のところで,「TPP協定の締結に当たっては,我が国の文化や社会経済の発展に資する観点から,著作物等の保護と利用のバランスに留意して対応することが重要である。協定締結に必要な制度改正事項の内容及び影響に照らし,以下のとおり課題及び講じるべき措置についての基本的な考え方を整理する」ということとさせていただきました。
 この資料の整理の考え方としましては,ここに記したとおりでございます。TPP協定の締結に当たっては,実施法の中において講じるべき事項や,それに関連して講じるべき事項,あるいは,その他の事項と,様々な御意見なり御要望があるわけでございます。こうした様々な事項を整理するということでございまして,観点としましては,TPP協定が求める法改正事項の内容や,これに伴って生じる影響とはどのようなものかということを踏まえまして,それぞれに的確に対応した措置を講じる観点から,この1ポツ,2ポツ,3ポツの三つの分類に整理をしたものでございます。
 第一に,1ポツ,「TPP協定の締結のために必要な法整備において講じるべき措置」であります。まず,TPP協定の締結のために必要な法制度の検討に当たっては,以下の五つの事項について,法改正の要否や在り方を検討することとしてございます。この5点については前回もお示ししたとおりでございます。
 次に,マル2,「著作権等侵害罪の一部非親告罪化については,TPP協定において非親告罪化が義務付けられている範囲及びその趣旨を踏まえつつ,我が国の二次創作文化への影響に十分配慮し,適切に非親告罪の範囲を定めること」としております。
 次に,マル3「著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備については,研究開発など一定の公正な目的で行われる,権利者に不当な不利益を及ぼさないものが制度の対象外となるよう,適切な例外規定を定めること」としております。
 次に,マル5「法定の損害賠償又は追加的な損害賠償の制度整備については,協定で求められる内容と現行法との関係を整理した上で,改正の必要性やその内容を検討すること。検討にあたっては,填補賠償原則など我が国の法体系に即したものとなるよう留意すること」としてございます。
 次に,2.「TPP協定締結に関連して検討すべき措置」というカテゴリーであります。こちらは,TPP協定において直接義務として法制度の整備等が求められる事項ではございませんが,TPP協定の改正事項との関連がある,あるいは,そういった協定締結に伴って生じ得る影響との関係で検討すべき措置というものでございます。
 第1に,上記1.マル1の「保護期間の延長にあたっては,戦時加算の問題について,関係する国際協定,国内法及び政府間交渉の状況を踏まえて適切な措置を講じること」としております。
 次に,「保護期間の延長に伴い,権利者不明の著作物等の増加が予想されるため,その利用円滑化策を講じることが求められる。文化審議会著作権分科会での審議を踏まえ,著作権者不明等の場合の裁定制度の改善,権利情報の集約等を通じたライセンシングの環境整備等の方策を検討し,順次措置を講じること」としております。
 最後に,次のページですけれども,3.「TPP協定締結を契機として検討すべき措置」というカテゴリーであります。これは,1ポツ,2ポツの分類には属さなかったものでありますが,TPP協定の理念を踏まえれば,こういうことも契機として検討すべきではないかと考えられる措置でございます。読み上げます。「TPP協定の理念を踏まえれば,我が国において質の高いコンテンツが継続的に生み出され,国内外に積極的に展開されるよう,コンテンツの創造・流通・利用のサイクルを適切に確保していく必要がある。このため,協定締結を一つの契機として,我が国の著作権に関する制度の見直しを一層加速していくことが適当である。具体的には,デジタル化・ネットワーク化の進展など新たな社会のニーズに的確に対応して,新産業創出環境の形成,アーカイブの促進,教育の情報化への対応,障害者の情報アクセス確保も含め,権利制限規定やライセンシング体制などの制度整備の在り方について引き続き検討を行い,結論の得られたものから順次所要の措置を講じること」としてございます。
 説明は以上でございます。御審議のほど,よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは,まず,ただいま説明いただきました基本的な考え方(案)につきまして,御意見があれば,お願いいたします。いかがでございましょうか。基本的な考え方については,こういうことでよろしゅうございますか。
 前田委員。

【前田(健)委員】私は,基本的な考え方としては,ここでお示しいただいたことでよろしいと思っております。若干だけコメントさせていただくと,3番目のところで,「TPP協定締結を契機として検討すべき措置」ということで,例えば,権利制限規定やライセンス体制などの整備といったことが挙げられていたと思います。こういったことは,TPP締結に伴って,著作物の保護期間が延長されたりであるとか,そういった著作権法制の変化も十分加味しつつ今後の検討を行うという理解でいるのですが,その点だけコメントさせていただきます。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。よろしゅうございますか。
 それでは,基本的な考え方でございますけれども,こういうことで本小委員会としては了承したいと考えます。先ほど前田委員からございましたように,TPP協定との関係で,我が国の著作権に関する諸制度の見直しを一層加速していくと書いていただいておりますので,これを更に現実のものにしていければと,このように思います。
 それで,本小委員会では,この「案」というものを取るということでTPPの著作権分野の対応を進めていきたいと思いますけれども,よろしゅうございますか。どうぞ。

【道垣内委員】2の最初のところの戦時加算のところで,「適切な措置を講じること」という表現になっているわけですが,この表現ぶりは,措置を講じることができない場合には講じないということも含まれている表現でしょうか。「適切な措置を検討する」とか,あるいは「この点に留意する」とか,別の表現ぶりもあり得ると思います。ちょっと積極的過ぎるかなと思うので,そのあたりのことを伺いたいと思います。

【大塚国際課専門官】現時点で適切な措置とは何かというのをお示しできる段階ではないんですけれども,前回の委員会で様々な御意見を頂きましたので,外務省にもその旨申し伝えまして,どのような対応ができるかについて検討してまいりたいと考え,このような表現になっております。

【道垣内委員】適切な措置の内容が分からないのは当然だと思いますが,「講じること」という書き方がちょっと積極的すぎるのではないかという意見です。この問題はそれぞれの国の国民の権利に係ることで,政府がいいと言っても,各国の国内法上,条約で認められた権利をそう簡単には変えられないと思います。しかも,4か国の政府から温かい理解が得られたというだけで,ほかにも当事国はあるわけですから戦時加算に手を付けることについては,私は相当疑問だと思っています。少し書き過ぎかなと思いますので,もう少し緩やかな表現があればと思った次第です。

【大塚国際課専門官】ありがとうございます。検討させていただきます。

【大渕主査代理】このあたりは,言葉としては短いのですが,恐らく道垣内先生が読まれている「適切な措置を講ずる」というのはちょうどよいバランスではないかと思います。現在も講じ始めているところもあるので,そのあたりは,そのような芽が出ているのを踏まえて,要するに,適切な措置というのは,大前提としては,今後,きちんと基礎研究から積み重ねるという姿勢が示されているように思われます。ですから,道垣内先生が御心配されているような内容ではないと思います。相手国のことも考えずに,やみくもにやるというのではなく,私が善解しますに,そのようなことも踏まえた上で,我が国にとって,ないし,我が国の国民にとって何がベストであるのかを考えて,その方向に持っていくということであって,ごり押しにするなどという趣旨ではないと思っています。ベストのところに持っていくという言葉が出ているので,先ほどのような理解の上で,このままの方がよろしいのではないかと考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 井上委員,どうぞ。

【井上委員】今の点,2.では「検討すべき措置」と書いてあって,1.では「講じるべき措置」と書いてあるので,今の戦時加算の問題は,措置について「検討」するということで少しニュアンスを緩めてあるので問題ないように思います。

【土肥主査】ありがとうございます。これ,現実に「適切な措置を講じる」という主語がどこになるのかというところがあるんだろうと思いますけれども,しかし,文化庁においてこういう表現を取っていただいたということは,それなりの覚悟を持って,こういう表現をしていただいたんだと思いますので,本小委としては,これをもって歓迎したいというふうに了解したいと思いますけれども,いかがでございましょうか。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】別のところで,1.の上から三つ目,言葉の確認だけなんですけれども,2行目のところで,「公正な目的で行われる,権利者に不当な不利益を及ぼさない」という趣旨のところは,権利を侵害しないというようなことが含意されている,含まれているということでいいんでしょうか。協定の条文なんかを見ていると,少し書きぶりがあれなんですけど,趣旨としては入っているのかなと思いながら見ていたんですが,そういう趣旨ですかねということの確認です。

【土肥主査】確認ということなんですけれども,どちらでしていただきますか,今の確認。じゃあ,秋山さん,お願いします。

【秋山著作権課長補佐】お答え申し上げます。ここでは,「権利の侵害」という表現ではなくて,「不当な不利益を」と書いておる趣旨ですけれども,制度設計に関しては今後の御議論になるかと思っており,効果的な技術的手段に関する制度に関して新たな権利を創設するということになるのか,そうではないのかということも,そこはオープンであろうと考えております。しかし少なくともこの制度は,著作権法に基づいて著作権者に正当な利益を確保するという法の目的に沿って整備されることになるであろうという理解の下で,「不利益」という表現をしたところでございます。

【奥邨委員】分かりました。

【土肥主査】よろしゅうございますね。ほかにございますか。
 井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】1番目の1.の2番目の丸のところなんですけれども,「我が国の二次創作文化への影響」という文言があるんですけれども,前回から「二次創作」という言葉は非常によく使われているところなんですが,一つ間違えば翻案権侵害に関わるところで,この二次創作と翻案権侵害との区別がいま一つはっきりしないなと前回から考えていたんですけれども,そういったところ,どうやって区別するのかという発想,これはあるんでしょうか。

【土肥主査】それはこれからということになるんだろうと思うんですけれども,基本的な考え方として,二次創作というものについて十分配慮した上で,この非親告罪化を検討するといいますか,制度としてこれから詰めていくということでございまして,そのとき,具体的にどういう形を採用すべきかというのは,この後の議論もございますし,また,今後の小委の中で出てくる場合もあろうかと思いますけれども。よろしいですか。よろしゅうございますか。
 再度確認させていただきますけれども,「案」を取らせていただいて,本小委における基本的な考え方として取りまとめたい,このように思いますが,よろしゅうございますか。それでは,御異議はございませんでしたので,このようにさせていただきます。
 それじゃあ,早速,次の各論の方に入りたいと思いますけれども,前回の小委員会において関係団体や委員の皆様に頂いた御意見というものが多数ございますけれども,これを事務局において整理をしていただいております。この整理につきまして説明をお願いしたいと存じます。

【秋山著作権課長補佐】資料2をお願いいたします。意見の概要としまして,1番から7番までグループに分けまして整理をしております。
 まず,保護期間の延長につきまして,関係団体からの御意見を紹介いたします。まず,総論や延長の対象となる範囲についての御意見としまして,一つ目の丸では,権利者団体を中心に,国際的な制度調和の観点から歓迎するという御意見がございました。
 それから,次の三つの丸に関して,映画の保護期間の延長の御要望,レコードに関する御要望,放送事業者に関しても平衡した扱いとなるようという御要望がございました。
 また,最後の丸,知的財産協会様の方から,保護期間延長にはメリットもデメリットもあるということでありまして,デメリットも考慮して合理的な方策を併せて検討すべきであるという御意見でございました。
 次に,延長する際の制度設計に関する御意見が幾つかございました。一つ目の丸では,延長の条件としまして,著作権登録をすることを求めるべきではないかというような御意見でございました。それから,次の丸ですけれども,マル1,マル2,マル3に書いてあるような幾つかの条件を付けることが考えられるのではないかという御意見でございました。
 次に,戦時加算につきましてですけれども,権利者団体,幾つかの団体からは,各国間での協議を政府が積極的に進めて,実質的な解消を図ることが求められたところでございます。一方,インターネットユーザー協会様からは,保護期間延長は戦時加算解消の確約の後にすべきだという御意見でございました。
 次に,権利者不明著作物等の利用円滑化策についてでございます。多くの団体からは,保護期間延長に伴って孤児著作物が増加するということが予想される旨の意見表明がございまして,これに対応して,権利者不明裁定制度の見直しやライセンシング体制の構築など,利用円滑化策の検討を深めていくべきであるという御意見がございました。
 次の丸,電子情報技術産業協会様などにおいては,権利者不明著作物のみならず,作品の利用許諾が困難になるという少し広い問題意識をお持ちのようでございます。
 そのほか,一つ飛ばしまして,四つ目の丸,権利者団体を中心としまして,孤児著作物対策に関して,団体としても積極的に対応していく所存であるという意見表明があったところでございます。
 さらに,次の丸ですけれども,日本文藝家協会様は,孤児著作物対策に関する裁定制度の検討が必要であるとした上で,孤児著作物対策との関係では,権利制限の拡大やフェアユースのような,権利者不明作品であるか否かに関わらず権利を制限するという形ではなく,別のシステムであるべきだという御意見でございました。
 それから,一つ飛ばしまして,この保護期間延長に関する委員の皆様からの御意見を紹介いたします。まず,延長する際の制度設計の関係で,登録を条件とするかどうかですけれども,著作物は特許や商標とは異なって,日々,膨大な著作物が創作されているということで,登録数も数千件といったオーダーになるんじゃないかということで,フィージビリティーについての疑問が示されました。
 次に,戦時加算についてですけれども,こちらも,全体として解消していくべきだ,明確にしていくべきだという御意見が多うございました。特に,一つ目の丸でございます。二国間の協議によって私人である国民の権利行使を制約できるものなのか疑問であるということで,最後の文,連合国特例法の廃止なども検討すべきではないかという御意見もあったところでございます。
 少し飛ばしまして,権利者不明著作物の利用円滑化策のところでございます。二つ目の丸のところで,TPPと同時にできるかは別としても,裁定制度の運用改善や,並行して法制的な問題の検討も進めて,バランスを図っていくことは必要であるという御意見でございました。
 それから,保護期間延長,放送事業者についてどうするかにつきましてですけれども,委員の方の御意見としましては,延長しないという方法も取り得るし,するというやり方もあるのではないかという御意見でございました。
 次のページをお願いいたします。2番,「著作権侵害罪の一部非親告罪化」についてでございます。まず,関係団体からの御意見を紹介します。「総論・意義」としまして,多くの権利者団体からは,悪質な海賊行為など,社会・経済秩序を乱す行為に対して有効であるという御意見がございました。
 少し飛ばしまして,四つ目の丸,thinkTPPIP様などからは,まず,そもそも正当性に疑問があると。二次創作行為などの各種ユーザー発信文化,さらに,ビジネス,研究,福祉分野などでの軽微な利用など,権利者が問題視せずに行ってきた利用を萎縮させるおそれが大きいといった問題意識も提示されております。
 飛ばしまして,非親告罪とする範囲についてでございます。まず,コミックマーケット準備会様から,二次創作というのはクリエーターの裾野を広げ,コンテンツホルダーにも有益であるという御説明がございまして,非親告罪化の範囲については,本来の制度の目的である海賊版対策など必要最小限に限るべきだという御意見でございました。こうした発想に関しては,権利者,利用者の様々な団体の皆様からはおおむね近い御意見が寄せられたと承知しております。
 少し飛ばせていただきまして,5ページをお願いいたします。5ページの二つ目の丸からは,少し具体の制度設計に関する御意見があったところでございます。二つ目の丸,thinkTPPIP様からは,この対象を海賊版対策に限るということで,原作のまま複製すること,そして,TPP協定の定義するところによる商業的規模のものであって,原著作物の市場での収益性に重大な影響がある場合のみに対象を限定するべきだという御意見でございました。
 さらに,「原作」の考え方としては,既に市販している作品などを対象にする,限定にすることも可能ではないかという御意見もあったところでございます。
 一つ飛ばしまして,電子情報技術産業協会様からは,デッドコピーやそれに準じたものに限定すべきではないかという御意見もございました。
 また,少し飛ばします。次は「対象とする支分権侵害の範囲について」でございますけれども,JASRAC様,日本レコード協会様からは,インターネット上の違法コンテンツの蔓延といったことを理由としまして,複製権だけじゃなくて,譲渡や頒布,公衆送信も対応できるようにしてほしいという御意見でございました。
 一方で,thinkTPPIP様などからは,これは複製に限定すべきではないかという御意見が寄せられたところでございます。なお,「複製に限定すべき」という御趣旨が,翻案ではなくて複製という趣旨なのか,譲渡,公衆送信は含めずに複製のみという趣旨なのかは必ずしも明らかになっていないと承知しております。
 次に,「運用上の配慮等について」でございます。まず,日本書籍出版協会様などからは,表現行為に対して,行政機関や捜査機関による捜査等が容易に行われるという懸念があるため,運用に当たっては,権利者の意思等を確認するなどの配慮がなされるべきであるという御意見がございました。
 次のページをお願いいたします。少し飛ばしまして,委員の先生方からの御意見を紹介します。非親告罪とする範囲について,まず一つ目の丸,海賊版などの一部のものは非親告罪としてよいが,コミケなど二次創作まで入れるのは行き過ぎだというエッセンスについてはおおむねコンセンサスがあったのではないかという御意見がございました。そして,この範囲として,商業用レコードのように市販される単位で海賊版を作成するということについてのみ非親告罪とすれば,より限定を掛けられるのではないかという御意見がございました。
 次の丸でございます。この対象範囲は「piracy」「willful」「commercial scale」,ただし書の四つの限定をうまく活用するべきであると。また,複製のみとすると譲渡が入らないというところが問題であることですとか,音楽を映画にBGMとして利用することまでこれに入ってしまうと問題であるというような御意見でございました。あとは,複製に限定するのかどうかということについても検討すべきだという御意見もございました。
 次に,運用上の配慮等についてでございます。ここでは,刑事手続を進めるに当たって,著作者の意見を聞くなど,本人の意思を反映するような仕組みを入れればいいのではないかという御意見がございました。
 次に,3番,アクセスコントロールに関する制度整備でございます。まず,関係団体からの御意見を御紹介いたします。コンピュータソフトウェア著作権協会様からは,著作権者の利益を適切に保護するために,アクセスコントロールに関する制度整備が急務であるというような御意見でございました。
 この後,ちょっとまとめますが,7ページの上半分の幾つかの御意見に関しては,おおむね必要性や意義は認めつつ,一方で,適切な例外規定を定めることを求める御意見が多くございました。
 次に,委員の先生方からの御意見です。まず,総論として,結論としては異論がない。著作権は,もともとコピーライトを保護するものではあるが,アクセスも一部管理しないと著作権者の保護は十全なものとならないということであれば,あとは関係者の利益調整をどうするかが問題になるのではないかという御意見でございました。
 それから,少し飛ばしまして,最後の丸,どの範囲で例外規定を設けるということは慎重に考える必要があるという御意見でございました。
 次のページをお願いいたします。4.「配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与」でございます。こちら,当事者であるレコード協会様と放送事業者様から御意見を頂いたところでございますが,レコード協会様からは歓迎するという声,放送事業者様からは,若干ニュアンスは違いますが,反対する意見ではなかったということは言えるかと思います。
 5ポツ,法定の損害賠償又は追加的な損害賠償に係る制度整備に関してでございます。まず,関係団体からの御意見ということで,まずは,一定の制度整備を求めるという御意見がございました。その趣旨としましては,侵害のやり得の排除などが挙げられております。損害額の立証が著作権の侵害では困難であることですとか,立証できたとしても,弁護士費用やその他調査費用などが掛かって費用倒れに終わるということが言われております。この後,幾つかは類似の御意見がございました。
 9ページをお願いいたします。一方で,経済団体等からは,現行法との関係をよく整理すべきではないかということですとか,填補賠償原則との整合性などについて慎重に検討すべきであるというような趣旨の御意見が出されております。ここも詳細は説明を省略いたします。
 次に,10ページをお願いいたします。委員の先生方からの御意見でございますけれども,まず,法定賠償と現行法との関係についてですけれども,二つ目の丸では,現行の114条1項や3項,114条の5は法定損害賠償に当たるのではないかという御意見がございました。また,条約上の「抑止」との関係では,114条3項,114条の5といったものは,実効的な額の損害賠償を払わされるということで,そういうことであれば抑止に当たるのではないかという御意見でございました。
 11ページの「制度整備の意義・内容等」は,別途,制度を整備するとした場合の御意見について整理しております。一つ目の丸では,侵害が起きたときの弁護士費用や資料作成等の機会費用,金銭的な損害が生じるということで,そうした費用は現在の填補賠償の原則に基づいても,相当因果関係の範囲で取れることにはなっていますが,それをより取りやすくするところに意味があるのではないかという御趣旨の御意見がございました。
 そして,次の丸ですけれども,填補賠償の範囲でやるのか懲罰賠償等の領域に入るのかで随分フィージビリティーが変わってくるのではないかという御意見。
 関連して次の丸ですけれども,上限,下限といった数値が現実の損害と乖離している場合は,懲罰的な損害賠償という性格を帯びてくるということで,我が国の法体系上,認められないという御意見でございます。この点は,アメリカ法でも,裁判上のデュープロセスの観点から問題となっているという報告もございました。
 少し飛ばしまして,6.「立法時期・施行時期等について」でございます。次のページをお願いしたいと思います。TPPの及ぼす影響に鑑みまして,thinkTPPIP様からは,TPP発効以降にこの立法が必要なのではないかという御意見でございました。また,インターネットユーザー協会様も同様の御意見があったことに加えまして,仮に前倒しで導入するとしても,附則で国内法の発効時期をTPP発効の翌年と定めることが求められております。
 最後に,「その他(協定締結を契機とした)著作物等の利用円滑化策について」であります。ここでは,TPP協定に際して様々な利用円滑化策を取るべきでないかという御意見と,それに対する御意見がございました。権利者団体の御意見としては,まずJASRAC様として,TPPは権利強化であって,バランスを取るために権利制限が必要という御意見があるが,TPP自体が権利の保護と利用の推進を図ることになっているのでバランスは取れているのではないかという御意見でした。また,日本芸能実演家団体協議会様からは,TPP協定への機動的な対応という観点からは,議論は区別した上で行うべきでないかという御意見もございました。
 少し飛ばしまして,次のページをお願いいたします。thinkTPPIP様からは,TPPの立法の際に,フェアユース規定の導入,作品登録制を含む権利情報の集約と公開,孤児著作物利用制度の改善などの制度の導入を積極的に図るよう要望されております。
 また,インターネットユーザー協会様も類似の御意見がございまして,その中には,ECL(拡大集中管理)の導入といったことも求められております。主婦連合会様も,権利制限の一般規定の導入に関する御意見などがございました。知的財産協会様からは,その理由付けとして,TPPにおいて,正当な目的による例外及び制限の導入の努力義務があるということを理由として,こういった柔軟な権利制限規定の導入などの制度構築を要望されておられます。また,電子情報技術産業協会様は,TPPの著作権関係5項目が権利保護強化であるということで,柔軟性のある規定を導入することが不可欠であるという御意見でございます。また,日本経済団体連合会様としては,まず,TPP協定の批准に向けて必要な制度改正を速やかに行ってほしいとされています。柔軟な権利制限規定の議論については,文化審議会での議論は有益な議論がされていると評価されており,これはこれとして,これまでの議論を尊重して進めていただきたいということでございました。
 説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいま説明いただきました前回のそれぞれの意見,要望,そういった事項について,これから項目ごとに検討を進めていきたいといいますか,御意見を伺いたいと思っております。先ほど,基本的な考え方を御了解いただきましたので,基本的な考え方の方向性というものについては,本小委において意見を共有できたんだろうと思います。実際にこれを具体的に進めていくときに,どういうことに留意していくべき必要があるのかということを,更に御意見を頂戴したいと思います。
 前回の小委において後半の方で御意見を頂戴したわけですけれども,配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与の問題とか,こういうことについては余り,この方向性でいいのではないかという,そういう反応でございました。御意見でございましたし,アクセスコントロールの問題についても,やむを得ないのではないかというようなことではなかったかと思います。1と2と3,ここについては非常に大きな,いろんな御意見を頂いたわけでありますので,この1,2,3を中心に……,ごめんなさい,1,2,5ですね。3と4については後半で扱えればと思います。
 最初に,保護期間の延長問題について御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。保護期間の延長に関しましては,それに関連する制度整備の必要性,孤児著作物の問題についての対応の問題とかライセンシング体制の一層の充実,裁定制度についての見直しとか,いろいろございましたし,かつ,施行日,これとの関係でも国益を損なわないような,そういうことを十分考慮するようにということがあったかと思います。いかがでございましょう。
 じゃあ,順番を変えまして,保護期間の延長の問題ではなくて,二つ目の一部,非親告罪化の方に入りますか,最初に。この点について,いかがでございましょうか。先ほど,井奈波委員からも少し出たと思いますけれども,二次創作等々との関係。
 上野委員,お願いします。

【上野委員】非親告罪化の国内法化に当たりましては,先ほどから御指摘がありますように,脚注134に基づく限定が重要になるかと思いますけれども,piracyという文言との関係で,どのような行為を対象にするかという点も重要のように思います。
 piracyというのは,TRIPSとかACTAで「複製」という訳を当てておりますので,それを前提にするといたしますと,TPP協定上の義務は,著作権法上の複製行為,すなわち有形的再製行為のみに限られ,しかもpiracyの意味からしますと,パッケージ商品のような有体物を頒布目的で複製する行為に限られることになるのではないかと思います。
 もっとも,この機会に,条約上の義務を超えて,複製だけではなく,公衆への譲渡ですとか,公衆送信も,非親告罪化の対象に含めるべきだという考え方もあるかと思います。実際のところ,先ほども御紹介がありましたように,レコード協会やJASRACからは,そのような御要望が出ているところであります。
 確かに,複製行為だけを対象にしても余り意味がありませんので,公衆への譲渡を含めるのは妥当かと思いますが,更に公衆送信も含めるということになりますと,やや気になるところであります。
 もちろん,たとえ条約上の義務を超えるといたしましても,公衆送信が頒布目的の複製や公衆譲渡と同視できるのであれば,非親告罪化についても同様の取扱いとする考えはあり得ようかと思います。
 ただ,パッケージ商品の製造販売というのは,なかなか通常の一般人にはできないことですので,重大悪質な著作権侵害だといえようかと思うのですが,ネットで公衆送信するというのは誰でも簡単にできてしまうものでありますので,重大悪質と言い難い場合も少なくないように思われます。したがいまして,公衆譲渡と公衆送信の二つは,直ちに同視できるようなものではないように思います。
 もちろん,非親告罪化を行う際には,デッドコピーであるとか,いろいろな限定を加えることになりましょうから,たとえ公衆送信を含めても問題ないというお考えもあるかもしれません。ただ,例えば,市販CDに収録された音源ファイルですとか,曲単位でダウンロード販売されている音源ファイルを,広告付きの動画投稿サイトにおいて,風景写真やCDのジャケット画像を表示しながらアップロードするということは非常によく行われています。非親告罪化の対象に公衆送信を含めますと,こうした行為も非親告罪化されることになろうかと思います。
 もちろん,そうしたカジュアルな行為についても非親告罪化すべきだという考えもあるかとは思いますが,公衆送信が含まれるかどうかは,一般人にとって非常に影響の大きいものであります。一旦保護を強化するような法改正いたしますと,これを元に戻すというのは非常に難しいと思いますし,条約上の義務を超える部分につきましては,今回,急いでやらなければならないというものではないように思います。ですので,そうした点については,改正後の状況を見てから判断するというのでも決して遅くないのではないかと私は考えます。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。
 じゃあ,順番で,山本委員,松田委員,前田委員と御意見,頂戴します。

【山本委員】非親告罪化については,恐らく私は,皆さんと考え方が大分違うのかなと思いますので,初めの方に意見を言わせていただきたいと思います。私は,親告罪にする意味が実はよく分かりません。といいますのは,実際に我々が,著作権侵害に遭って警察に届けても,まず,警察は動いてくれません。よっぽど大きな金額になるものであれば動いてくれるかもしれませんが,自分の方から積極的に告訴・告発もないのに警察が動くというようなことは,私は経験したことはありません。ましてや,権利者が起訴することについて反対している,あるいは同意してくれていないという場合に事件として対応するかというと,それは現実問題としてはないと思います。また,刑事訴訟法の手続の中でも起訴便宜主義というのはありますが,その中でも,被害者の同意を取ってあることは大原則になっていますので,その運用から言っても,権利者の処罰意思がないのに起訴するというようなことは考えられない状況であります。かえって私が心配するのは,親告罪の場合には,事件と犯人を知ってから6か月以内に告訴しないと起訴できなくなってしまいます。こちらの方が,私は弁護士としてやっている分には憂慮しております。
 というのは,弁護士の立場で,侵害者の側がどういうことを考えるかなということを懸念して,リスクを考えながら行動している立場から見ますと,侵害があり,損害賠償を要求したり和解交渉をしたりしているときに,ぐずぐず,ぐずぐず交渉をして,半年たってしまうと告訴できなくなってしまうわけです。それを狙って,実際に侵害者の側で対応することも考えられますし,割と6か月は実務的には短いものだと思います。そういう意味で,私は,告訴権が必要だということをおっしゃっている方は,自分の意思に反して起訴されたり,処罰されたりというようなことについて懸念されていると思いますが,今申し上げましたように実務的にはそういうことはありませんし,かえって権利者の保護に薄くなると,実務的な感覚からは思います。そうしますと,申し訳ないのですが,権利者の方が親告罪を何としてでも確保したいというようなお気持ちというのは,私には感傷としか思えません。
 では,今申し上げましたように,警察は原則,積極的に動かないのに,わざわざ捜査当局の側が非親告罪にしたいのか,その実益があるのかというと,それも余りないのではないかなとは思いますので,余り反対する気もありません。理屈から言うと,余り非親告罪化に対して懸念を持たれるようなポイントというのはそもそもないのではないかというのを,まず大前提で申し上げさせていただきます。
 次に,piracyを複製権で考えることは,私は違うのではないのかなと思います。例えば,漫画本を外国語に翻訳して外国で頒布した場合に,これは日本法的に言うと,漫画の中の短いせりふを,上手に文意を酌み取って,短い言葉に,ローカライズするということに対しては,恐らく創作性があるのだろうなと思います。そうすると,創作的な表現を付け加えたということで,これは,翻案行為になり,複製権を越えてしまうのではないかなと思います。それは,今回の非親告罪化の今の議論の対象外になるというのはおかしいのではないか,やはりそれもpiracyであるだろうなと思います。というような点から,私も積極的に反対する理由はありませんが,余り非親告罪化を限定しようとする必要はないように思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 松田委員,どうぞ。

【松田委員】上野委員にお聞きしたい。先ほどの話ですと,複製に限定する意見のように思いました。コンテンツとしてはデッドで複製されていて,それが公衆送信のためのサーバーにアップされ,サーバーに複製ということはどのようにお考えなんでしょうか。

【上野委員】サーバーにアップするという行為も複製には当たりますけれども,piracyという文言が意味している複製というのは,有体物の頒布目的の複製のみを指すと理解できるのではないかと思っているわけであります。

【松田委員】その御意見の背景には,ネット上の送信であれば,捜査機関がどこにどういう犯罪があるかなということをクローリングして探し出すというような捜査方法が手法としてあり得るからということも配慮にはありますか。

【上野委員】私の考えによりますと,そもそも公衆送信という行為は,パッケージの製造販売よりもカジュアルに行えることでありますので,TPP協定上の義務を超えてまで,直ちに非親告罪化する必要はないのではないかという意見でありまして,御指摘のようなクローリングが現実に可能かどうかということは特に考えておりません。

【土肥主査】それじゃ,前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】資料2でおまとめいただいた意見の4ページにある,非親告罪とする範囲についての問題と,それから,5ページにあります,対象とする支分権侵害の範囲とは,一応分けて考えるべきではないかなと思います。先ほど,上野委員から御指摘の点,あるいは二次創作文化への悪影響を排除するというような観点については,非親告罪とする範囲を適切に定めることで対処が可能なのではないかと思います。
 支分権侵害の範囲について考えますと,有体物による海賊版の譲渡と同じことがネット上のダウンロード販売等によっても可能であって,それらは経済的・社会的には同じような実質を持つものだと思いますので,ネット社会の現在においては,有体物の海賊版だけに限定することは適切ではないと思います。そういう意味で,送信可能化を含む公衆送信を含めた方がいいのではないかと思います。
 それから,有体物につきましては,まず複製については,先ほど上野委員から御指摘がありましたように,複製全般ではなくて,公衆送信又は公衆譲渡を目的とした複製に限定すべきであって,それ以外の複製権侵害を非親告罪の対象にする必要はないと思いますし,そのように複製を限定したとしても,条約上,問題になることはないと思います。
 次に,有体物の公衆譲渡をどうするかということなんですけれども,海賊版業者が経済的利得を得るのは,複製そのものによってではなくて,複製した上,それを公衆に譲渡することによって経済的利得を得るという現象が生じることを考えますと,公衆譲渡についても非親告罪の対象にすべきではないかと思います。
 そうしますと,非親告罪の対象となるべき行為を支分権で整理いたしますと,公衆送信又は公衆譲渡を目的とした複製と,公衆送信と公衆譲渡,公衆譲渡は譲渡権と頒布権のうちの公衆に対する譲渡になろうかと思いますが,それらの行為について非親告罪の対象にするのが適切ではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,大渕委員。

【大渕主査代理】幾つかあるのですけれども,まず,山本委員が言われた点は,程度は別として,一定の真理を含んでいると思います。大きいファクターは前回出ていたかと思いますが,権利者の意思の確認を行うことにより,本人の意思に反して捜査が進められるということに対するネガティブな反応を防ぐことができる。つまり,非親告罪にしても,そのような担保を入れることによって,かなり柔軟に対応できるということです。それが今回の議論の方向性と合致しているのではないかということですが,先ほどあったように,刑事訴訟法上告訴期間は6か月ということが理由で,実務的にはいろいろな圧力が掛けられるために告訴しない,あるいは,同業者なのでしにくいなどという状況になるなどという点もあります。その結果,巨悪を眠らせたりすると,著作権の大規模な侵害がなされるなど,大変なことになってきますので,そのあたりは余り形式的ではなく,実質としてやるということになります。そのように考えますと,今回の方向性というのは実は,条約上であるということもありますが,我々が本当はもっと早く着手するべきだったことを,今ようやく気付かせてくれたという面もあります。要するに,前回申し上げたとおり,一定範囲のものは非親告罪にしなければならないが,二次創作に関しては余計なものまでは対象にしないという,きれいな線引きをすればいいだけであるというのが1点。
 2点目ですが,先ほどの細かい点につきましては,前田委員が言われたのに近いのですが,形式的に公衆送信を外すのではなく,実質的に限定するということが重要だと思います。これも,元が「piracy」なので,「複製」の訳がよいか自体に,やや疑問があるところです。恐らく広過ぎて狭過ぎる。要するに,海賊版的な行為であれば,本当にわずかであれ創作性が含まれているものでも入るかもしれないし,複製の中でも入らないかもしれないので,そこは実質的に考えていく必要があると思います。この条約が抑えようとしているものと,我々が先ほどの観点から抑えようとしているものは基本的に同様と思われます。そこで実質的に考えていくと,形式的ではなく,公衆送信について,二次創作などに悪影響を与えないように,ほかの部分できちんと,大規模性などで制限をかければいいのであって,支分権のところでカテゴリカルに切ってしまうのは必ずしも適当ではない。公衆送信の部分が気になるのであれば,要するに,きちんと歯止めが掛かるようにしかるべき制限を掛ければよいのであって,カテゴリカルに公衆送信をばっさりと落とすのは必ずしも適当ではないと考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】非親告罪化については,一部,悪質性の高い行為に関して,というようなことも権利者の方からあったわけですし,さらに,二次創作への配慮ということも,これも先ほどの基本方針にも入ったわけです。その二次創作に配慮するということの心は,やはり創作行為であるとか表現行為というものを萎縮させない,それに配慮するということがあって,それの一つの結実した分かりやすい形として二次創作ということが言われていると思うわけです。
 そう考えますと,上野委員がおっしゃったように,インターネットというのは,広い意味で,いろんな形で,カジュアルな形も含め,たくさんの表現,創作行為が行われるわけなので,そこへの影響はやはりかなり大きいんだろうと思うんですね,萎縮効果というのは。おっしゃるように,被害があることは事実だろうと思いますけれども,ただ,別段,非親告罪にしなくても,先ほどから山本委員がおっしゃったように,ほとんど変わらないんだということであれば,実際の被害は全然普通に救済されるわけです。別段非侵害になるわけではないわけでありますから。ですから,重要なのは,むしろ萎縮効果をいかに取り除くかということを,私たちは条約の中で許される範囲で考えるべきではないかなと思います。理論的な整合性とかきれいさというようなことよりも,やはり一般の方々が創作する,表現することへの萎縮をまず取り払うべきだと。もちろん将来になって,非親告罪にしても,今,山本委員から御指摘もあったような意味で,いやいやそれほどたいしたことはないんだということが広く一般の皆さんに理解されていったら,より正確な形で入れていくことがあってもいいかもしれません。けれども,今現状は,一般ユーザーの方が,萎縮効果を考えて非親告罪化を非常に心配されているわけですから,それはやはり配慮すべきではないでしょうか。それが先ほど基本方針にも入ったんではないかなと思います。piracyについて,条約上,どう解釈するか。逆に,いわゆるカジュアルな行為は,いかに大丈夫かということを,私たちが宣言してあげるかということが求められているのではないかなと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 松田委員,どうぞ。

【松田委員】二次創作の萎縮について,それは配慮しなきゃいけないのは私も同意見ですが,公衆送信と複製を分ける必要はなくて,それを分けるのであれば,デッドであるのか,ないしは「原作のまま」という言葉で示される行為の視点で分けるべきであって,送られるもの,売られるものが全くデッドであった場合には頒布のための複製も公衆送信のための複製も同じ扱いにすべきだろうと考えます。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございますか。この点は……。
 龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】一般論として,非親告罪化で構わないというような方向については,今回の基本的な考え方とはやや異質なものになるのだろうと思いますし,やはり親告罪であるということは極めて重みがあることだと思います。刑事法制上,親告罪のものには様々なものがあると思いますが,国税の犯則事件とか,外国の国旗損壊とか,あるいは議院証言法違反とか,それなりの立法趣旨があって親告罪にされているということで,やはり被害者の意思に反して国家権力が入るべきかどうかというのは,かなり重要なポイントで,非親告罪化するというのは大きな判断になるのだろうと思います。その意味で,条約上の範囲内で対応すれば足りることではないかと思います。
 それから,確かに告訴期間は,刑事訴訟法上6か月ということで一律に決まっているところでこれを個別化することはバラバラにすることでかえって混乱するというような難儀な点があるのではないかと思います。性犯罪とか強姦罪について告訴期間自体が廃止されましたが,そういうように,告訴期間自体をいじるのも一つの可能性としてはあるのかもしれませんが,ただ,一般的には6か月というのは捜査が宙に浮いてしまう期間としては,むしろ結構長い,短い期間ではない,と言われているようです。実際的には,被害者としては,確かに6か月は,あっという間に過ぎてしまって困るということはあるのかもしれませんが。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 河村委員,どうぞ。

【河村委員】先日,欠席いたしましたし,ここで利用者,消費者側は私だけですので,改めてここのインターネットユーザー協会さんの意見とかに賛成であるという意味で申し上げますけれども,細かいたてつけはともかくとして,やはりTPPの定義の中にある商業的規模の侵害であって,原著作物の市場での収益性に重大な影響がある場合のみに限定するということに,とにかくそこを間違えないようにしなければ,今,世界的,日本もそうですけれども,ネットとか技術を駆使していろいろ行われている,重大な影響がないような表現行為とか創作行為に萎縮が起こらないように。それはもう日本の文化という面から見ても大切なことだと思いますので,少なくとも求められている以上のことを進んでやるということには反対です。

【土肥主査】前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】まず,非親告罪化の客観的範囲についてですが,これは権利者に対する重大な利益の侵害があるような場合に限るという方向で基本的には考えるべきではないかと思っております。そういう意味では,現に権利者が市場で売っているもののデッドコピー,若しくはそれに準ずるものに限定するという方向で考えるのがよろしいのではないかと思っております。
 それに関連してですが,行為として公衆送信を含めるかどうかという議論があったと思いますが,先ほど奥邨委員から,萎縮効果について配慮すべきだという指摘がありました。確かに,松田委員がおっしゃいましたように,本当にデッドコピーの公衆送信であるということであれば,非親告罪化しても実質的には問題ないのかもしれません。ただ,何がデッドコピーかというのは,どんなに明確に規定を作っても区別することは困難ですし,一方で,公衆送信行為のうちのかなりの部分に,実質的には非親告罪化の対象にするべきとは言い難いけれども,デッドコピーとの区別が難しいものが含まれているかもしれません。そうだとすると,公衆送信が対象に含まれるということにすると,何がデッドコピーに当たるか利用者が判断できないことによって,公衆送信だと駄目なので,非親告罪化の対象か分からないけれどもとにかくやめようということになってしまいます。これがまさに萎縮効果でございますので,そういうことも配慮しながら,公衆送信を含める必要性があるのかどうかというのは慎重に検討するべきではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。大体,この問題,御意見,ほとんど頂戴したんではないかと思いますけれども,いずれにしましても,海賊版対策であるということ,それから,二次創作には影響を与えない,萎縮効果は発生させないようにするという二つは是非とも確保していただきたいと思います。海賊版というのは,いずれにしても著作権等侵害行為でありますから行為は必要なわけでありますけれども,行為のほかに,いわゆる組織的な行為であるとか,営利目的であるとか,あるいは集中豪雨的な侵害行為であるとか,要するに,いわゆる海賊版行為であるという,そういう行為に限定をすると。それと同時に,二次創作行為には一切影響がないようにする。例えば,賭博罪における一時の娯楽に供するようなものについてはこの限りではないとか明確に除いてもらうとか,そういう配慮した上で,いわゆる非親告罪化についての具体的な方向性というものを詰めていただければと思います。
 あと,時間的にそんなに残っておりませんけれども,法定損害賠償制度についての御意見を頂きたいと思います。いかがでございましょうか。前回の議論では,114条の1項,3項とか114条の5等の規定により,既に我が国においては,こういう法定損害賠償制度に相当するものがあるんではないかという御意見も相当ございました。いやいやという御意見も当然あろうかと思いますけれども,上野委員,お願いします。

【上野委員】法定損害賠償請求制度について,前回の議論では出ていなかった点で,私が気になっておりますのは,これを我が国に導入した場合の外国判決の承認執行問題です。これは,かなり以前の審議会でも指摘されたことがあります。
 と申しますのも,萬世工業事件に関する最高裁判決(最判平成9年7月11日)は,カリフォルニア州法に基づく懲罰賠償を命じた部分が我が国の公序に反するとして無効と判示したわけですけれども,その際の理由として,「我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は……加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない」と判示しています。
 TPP協定によりますと,法定損害賠償制度が,単に将来の侵害行為の抑止効果を持つということではなくて,将来の侵害行為を抑止する「view」(目的)を有するものと規定されています。
 したがいまして,我々がこの問題にどう対処しようと,TPP協定発効後は,侵害の抑止を目的とした損害賠償制度を日本は持っている,ということになるのかもしれませんが,もし今回の国内法化によりまして,一般予防を目的とした法定損害賠償制度が我が国の著作権法と商標法に導入されるといたしますと,最高裁が述べておりましたように,「制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは……我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれない」とは言えなくなり,外国において一般予防を目的とした高額な法定損害賠償請求を認容した判決があった場合に,それを日本で承認執行することを,公序を理由に拒むことができなくなることになりはしないか危惧されるところであります。したがいまして,この点も念頭に置くべきではないかと思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】この法定賠償の将来の侵害の抑止という点ですが,必ずしも懲罰的損害賠償のような,処罰を目的にしたという意味に解釈する必要はないのではないのかなと思います。といいますのは,現実の問題として,通常の填補賠償としての損害賠償も,侵害に対しては抑止効果があります。それをすると損害賠償を求められるよというと,やめようと思うのが現実の社会で,そういう意味での抑止効果を目的に言っているのだと解釈すれば,ここで言っている法定賠償,pre-established damagesというのは,別に懲罰的損害賠償に該当するという解釈にはならないように思います。
 つまり,その意味での,通常の填補賠償でも十分な,十分なというのは,現実の損害を十分に填補するものであれば,やり得を排除できるという効果があるわけですから,そういう意味で,将来の侵害を抑止する効果は填補賠償でもあると,その意味だと理解して,このpre-established damagesを入れるのは可能ではないかと私は思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

【大渕主査代理】私としても,今,山本委員が言われたのに近い考えを持っております。テキストが,今手元にありませんが,以前のこの議題では,法定賠償なのか懲罰賠償なのか,どちらかを選ぶということで,orで結ばれているということは,前者の方は懲罰賠償ではないということが前提になっていました。それは目的というよりは,with a viewとかその程度だったように記憶していますが,そこは別として,本当に両者が一緒であれば,一緒に書いてあるはずなのに,むしろorで結ばれている。アメリカは後者を選ぶのでしょうが,前者は後者とは違うことを前提にorになっているので,抑止というのは前から出ているように,「やり得」にならないような実効性のある,きちんとした意味での実損ということかもしれません。しかし,そのような意味であれば,十分にこれは目的としているので,先ほど上野委員が言われたような,将来の執行判決のときにも,日本の制度は前者の方なのであるからということであれば問題ないので,余りほかのことと交ぜない方がよいのではないかと思われます。抑止というのは,やはり懲罰賠償的な意味でのものとは違うということです。ですから,よく見ると,かなり書き分けてあって,deterrentぐらいの言葉になっていますし,本当に一般予防的に刑罰のように抑えるようなものと一緒ではないと思います。抑止というのは,いろいろなレベルがありますので,先ほど出ていたような実効性のある損害賠償で図れる抑止のレベルで,十分ここの部分は満たしているのではないかと思います。

【土肥主査】松田委員,どうぞ。

【松田委員】机上の訳文と参考資料5の2ページのところに※が二つありまして,※1の法定損害のところにつきましては,「将来の損害を抑止することを目的」と書いてあり,追加的ないしは懲罰的賠償のところでは,※2のところでは,「同様の侵害の抑止」と書いてあります。これは,机上の資料も同じように訳されております。ところが,英文を見てみると,両方ともinfringementsです。どうしてこれをあえて使い分けているのでしょうか。何か抑止の点で,損害と侵害と違うことがあるのかという点が1点です。それを答えていただいたら,次にもう一つ意見があります。

【土肥主査】すみません,今の,事務局で分かりませんか。松田委員の御質問,お願いしたいんですけど。

【大塚国際課専門官】御質問の御趣旨は,損害と侵害を書き分けている理由ということでしょうか。

【松田委員】すみません,聞こえない。じゃあ,もう一度質問を。参考資料5の2ページ目の下のところです。アスタリスクの1と2のところの書き分け方。英文ではinfringementsだと思います。それを「損害」と「侵害」と書き分けている。二つの資料がそうなっています。じゃあ,この資料の検討は後にしてもらって……。

【土肥主査】じゃあ,また宿題ということで,お願いします。じゃあ,松田委員,もう一つの方の質問をお願いします。

【松田委員】委員の方々から,抑止というのをそれほど厳しく見なくてもよくて,言ってみれば,1倍賠償だって抑止効果はあると言う意見のように思われます。確かにそのとおりです。ところが,114条3項の「通常の」という言葉を外すときに議論したのは,確かに次のとおりだったと思います。「通常の」と言うことによって,まさにフェアな取引におけるロイヤリティーベースを悪質な侵害者に対しても当てはめることになると,侵害し得であって,発見されたら1倍を払えばいいじゃないかということになって抑止的効果がないから,それと分けて適用ができるように「通常」を外しましょうという議論をしたわけです。ということは,1倍賠償を抑止ができないと一方で審議会では言っておいて,今度のこの問題では抑止については1倍でもできるというのは,何か乗り越える議論をしておかなければならないと思います。

【土肥主査】その点ですね。

【大渕主査代理】今の点ですが,あえて数式で言えば,これ,1がいいのかどうかは別として,元は誠実にライセンスした人が1のときに,1のままだったら「やり得」であろうということだったので,現行法の上でも,恐らく今の数字をあえて使えば1.2なのか1.5か知りませんけれども,幅がある中で,元の文言のままでもいけたと思うのですが,「通常」を外すことによって,更に今の誠実なライセンシーと同額ではないものが,場合によっては,料率が幾つとなっても,誠実なライセンシーなのだから割引しているなど,いろいろな場合があるかと思います。現行法もこのような前提で考えると,3倍賠償ではなく,少し表現はよくないかもしれないのですが,1.5倍のようなものといえるかもしれません。誠実なものよりは高いという意味では,それを前提として114条の3項はできていると思いますので,少なくとも改正後は,この抑止効果が出るようなものが前提になっているのではないかと思われます。

【土肥主査】そうですね。昔は,「通常の」という規定があったときに,文言があったときには,ライセンス料率に準じて決める傾向があったと承知をしておりますけれども,それを除くことによって,例えば10%とか,そういうかなり高い実施料率というものを裁判所において認めておいでになるんではないかと思いますし,この点,もし一言あれば,何か参考になるかと思うんですけど,長谷川委員,いかがでしょうか。

【長谷川委員】裁判所の立場からするとですけれども,基本的に,裁判は当事者の主張,立証に基づいてやりますので,実際請求される場合は,通常のといいますか,「実施料率」の本に書いてある,そのままの率で請求されたりすると,裁判所としてはその範囲で認めるしかないんですけれども,ある程度高めに請求してくれれば,いろんな諸般の事情を総合して高めに認めることもあるのかなと。やっぱり事案ごとですけれども,そういう感じなのかなと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。
 森田委員,どうぞ。

【森田委員】著作権法114条3項は,もともと特許法の改正のときに同旨の規定が置かれて,それが著作権法にも入ったわけですけれども,特許法102条3項の改正で「通常」の文言を削除したときにその理由をどのように説明していたのかですが,ライセンスというのは,これから事業活動を行うことを前提に,事前にライセンス契約を締結する場合には,事業活動を推進することに伴う様々なリスクがあり得るわけですから,そのような将来のリスクを織り込んだ上でライセンス料を定めることになるのに対して,権利侵害を理由とする損害賠償として権利者が受けるべき金銭の相当額を算定する場合には,既に事業活動を行って一定の利益が上がったという過去の事実に基づいて,いわば,それを事後的に権利者に適切に配分するという観点から定めるものであり,そのさいには将来のリスクを考慮に入れる必要はないわけです。したがって,事前に契約を締結する場合のライセンス料と事後的に損害賠償額を算定する場合とでは,権利者が受けるべき対価が同じにならなければならないと考えること自体が理論的に見るとおかしいといえます。そうしますと,ライセンスの料率を定めている場合には,損害賠償としてもそれ以上の額を請求できないと考えている方がおられるとすれば,そのような考え方は,むしろ法改正によって否定されたものであります。事前のライセンスの料率が1である場合には,実損も1であって,それを超えるような賠償を認めることは,実損を超える損害を恣意的に作り出すということではなく,事前か事後かによって権利者が受けるべき相当額を算定する際の考慮要因が違うということであって,その意味では別に実損を超える懲罰的な損害賠償を認めるものではなくて,そういう形で相当額を算定すれば,事前に定めるライセンス料率よりも当然に高額になるはずですから,結果として抑止効果も得られることになるだろうと,理論的にはそのような説明をして改正をしたつもりであります。

【土肥主査】ありがとうございました。時間の関係もありますので,この法定損害賠償制度については上野委員で最後にしたいと思います。

【上野委員】ちょっと誤解があったようですので補足いたしますが,まず懲罰と抑止というのは別のものであります。懲罰は過去指向的であるのに対して,抑止は将来指向的なものです。そして,TPP協定では,抑止を目的とする法定損害賠償か,懲罰賠償を含めた「追加的な損害賠償」の少なくともいずれかを設けるものとされております。我が国としましては,さすがに懲罰賠償制度を導入するということにはならず,法定損害賠償制度の導入が問題になります。したがいまして,仮に我が国が,法定損害賠償制度を導入したといたしましても,外国の懲罰賠償判決を日本で承認執行しなければならなくなるわけではもちろんありません。
 私の指摘は,TPP協定によるならば,法定損害賠償制度は将来の侵害行為を抑止する「view」を有するものと定義しておりますので,この言葉を本日の資料における訳語のように「目的」と理解して,我が国が,将来の侵害行為の抑止を目的とした法定損害賠償制度を導入するということになりますと,最高裁は,一般予防を目的とする損害賠償制度は日本に存在しないものだと言っておりますので――このこと自体,学説上の批判があることは承知しておりますけれども――,もしそれを前提にするのであれば,外国の法定損害賠償判決を我が国で公序に反することを理由に無効にすることが今後できないことになりはしないか,という点にあります。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。あと,本当はアクセスコントロールの問題,それから,配信音源の二次使用の問題も御意見としては伺う必要があったかと思っております。しかし,基本的な方向性を拝見すると,アクセスコントロールの問題については,今後,権利制限規定等において十分検討を進めるという,そういうことのようでございますので,また,そこの中で意見を頂ければと思います。
 時間的に,既に予定されている時間を過ぎておりますので,誠に申し訳ないんですけれども,きょうはこのぐらいにさせていただきたいと思います。
 それで,事務局から連絡事項がありましたら,お願いしたいと思うんですが。

【秋山著作権課長補佐】次回,小委員会につきましては,改めて日程調整をした上で,追って御連絡したいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,本日はこれで法制基本問題小委員会の第7回を終わらせていただきます。本日はまことにありがとうございました。

―― 了 ――

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