文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第2回)

日時:平成28年7月4日(月)
11:00~13:00
場所:文部科学省東館 3F1特別会議室

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)教育の情報化の推進について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
教育の情報化の推進に関する検討課題の全体像と進め方について(105KB)
資料2
教育の情報化の推進に関する論点とこれまでの意見<権利者の著作物利用市場への影響への配慮及び補償金請求権の付与について>(218KB)
参考資料1
教育の情報化の推進に関する当事者間協議 参加者名簿(81.1KB)
参考資料2
教育の情報化の推進に関する当事者間協議の進め方等について(95.2KB)
参考資料3
法制・基本問題小委員会(第1回)における意見の概要(教育の情報化の推進関係)(128.3KB)
 
出席者名簿(45KB)
机上配布資料
ICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書(2.1MB)

議事内容

【土肥主査】では,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第2回を開催いたします。
 本日はお忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますけれども,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばない,このように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 まず,前回御欠席でしたけれども,今回,井上委員,河村委員が御出席いただいておりますので,御紹介をさせていただきます。
 井上由里子委員です。

【井上委員】井上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】河村真紀子委員でございます。

【河村委員】主婦連合会の河村です。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】では,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第,真ん中あたりをごらんください。資料1としまして,教育情報化の推進に関する検討課題の全体像に関する資料,資料2としまして,教育情報化に関する論点とこれまでの意見,それから,参考資料3点,それぞれ記載のものを御用意しております。不備等ございましたら,お近くの事務局員までお寄せください。

【土肥主査】では初めに,議事の進め方について確認しておきたいと思います。本日の議事は,(1)教育の情報化の推進について,(2)その他となっております。
 早速,(1)の教育の情報化の推進についての議事に入りたいと思います。
 教育の情報化の推進に関しましては,前回の小委員会において,まず議論の基礎として,現行法35条の趣旨及び異時送信に権利制限を拡大する趣旨について御審議を頂きまして,一定の整理ができたものと承知をしております。また,権利者が教育機関に対し著作物等の配信サービスやライセンススキームを提供している場合の取扱いについて,御議論を頂いたところでございます。
 本日は,引き続きこの点について議論を深めるとともに,さらには,補償金請求権を付与すべきか否かについても議論を頂ければと思っております。
 それに先立って,昨年度最後の小委員会で,教育関係者と権利者団体による当事者間協議が開始された旨の報告を頂いたわけでございますけれども,本日は,その協議の進捗状況について,アドバイザーをされております今村委員より,簡単に御報告を頂きたいと存じます。
 今村委員,よろしくお願いいたします。

【今村委員】よろしくお願いいたします。着座して失礼させていただきます。
 この協議につきましては,先般,この本小委員会の指示によりまして,教育関係者と権利者団体との間の協議の場が設けられまして,本年2月から議論を開始しているところでございます。
 参考資料1をごらんいただきますと,この協議に参加されている方々の参加者名簿がございますけれども,各教育団体及び各権利者団体からお集まりいただきまして,これまでに3回ほど協議を開催してきております。
 この協議会の場で,当面,法改正に向けて検討すべき事項として,第1点として,著作権法の解釈に関するガイドラインの整備,32条や35条の問題が中心になるかと思いますが,また2点目として,教育機関において著作権法の十分な理解の下で法制度が適切に運用されるようにするための方策について検討を行うとともに,3点目として,契約,ライセンスによって著作物を利用する場合に,簡便に利用できるようにする方策を検討課題に掲げて協議を行うこととし,協議を進めてきたところでございます。
 これまでの協議におきましては,特に契約による著作物等の利用円滑化方策,また,教育機関において法が適切に運用されるための方策,これについては審議会の場でも,教育界に対する様々な要望が権利者団体の方からございましたが,これらについて協議を行ってきたところでございます。
 まず,契約による利用円滑化方策についてですけれども,これまで3回の協議を通して,様々な要望が出てまいりました。特に教育機関側から様々な著作物の利用に関するニーズが示されてきたところでありまして,おおむね以下のような要望として示されてきたところでございます。
 6点ほどあるのですが,内容的には,それぞれ重複する部分もあるかと思いますが,1点目としては,集中管理団体等,あるいはエージェント等がある場合など,いろいろあると思うんですけれども,それらにより管理されている著作物の範囲の拡大。言語の著作物などの分野は割と管理が進んでいると思われますが,様々な分野がございますので。また,2点目としましては,申請・相談窓口を一本化するということ。一括して検索できるシステムの整備が望ましいというニーズがございました。3点目としましては,包括許諾,ブランケットライセンスの発展でございます。4点目としては,2点目で述べた一本化とも関係すると思いますけれども,簡便なオンライン上での申請により契約あるいはライセンスの取得ができる等という点でございます。もちろん,既にあるものもあると思うんですけれども。5点目に関しましては,教育目的というものに特化した使用料規程の整備でございます。特に一般と区別した教育機関向けの料金とか,あるいは作品を部分的に利用する場合の対応等を,教育のニーズに応じた,それに特化した使用の仕方,それに対する使用料規程ということがニーズとして出てございます。最後に,6点目になりますが,個社における使用料規程の明示でありまして,既に明示されているものもあるということなのですが,なかなか分かりにくい場合もあるようでございます。
 以上,こういう教育機関側からのニーズに対しまして,権利者側からは様々な,現状こうなっていますとか,そういう事実や御意見の紹介がございました。特に,権利者側からは,教育目的に特化した使用料規程や,あるいは包括許諾のような契約スキームを検討するには,教育機関側の著作物利用のニーズを更に詳細に把握する必要があるという意見がございました。このニーズがよく分からないと,適切な教育機関向けのライセンススキームはなかなか構築し難いということのようでございます。通常マーケットがあると,自然にニーズを発見するとは思うんですけれども,これまでの現状もありましたので,なかなかそのニーズが把握し切れない部分もありますので,この辺のより具体的な情報提供が求められるということのようでございます。そのため,今後,教育機関側からより具体的なニーズを提出した上で,権利者団体において対応の検討がなされることとなるかと思います。
 また,先ほどの2点目で,教育機関において法が適切に運用されるための方策についての協議の部分ですけれども,教育機関における著作権法の適切な運用に向けた普及啓発に関しましては,各教育関係団体において,今後,教育機関で取り組むべき普及啓発の内容・方法について検討がなされているところでありまして,前回の会合ではそのアイデアについて発表がございました。
 大変短い準備期間にもかかわらず,単にアイデアの発表だけではなくて,47都道府県の教育委員会へのアンケートを実施して,どういう現状にあるのか,どういうことをしているのか,実態調査もしていただいたり,かなり熱心に御準備いただいた関係者の方もございます。
 前回は,教育機関側からの現状の普及啓発活動について様々な御報告がございました。これに対して,権利者側の方からのフィードバックもございましたし,更に次回以降,フィードバックについて意見交換することになると思うのですが,更に検討が深められるということになっております。
 今後の進め方につきましては,文化庁より,日本再興戦略2016など政府計画でも急ぎ対応を求められている旨の紹介がございましたので,協議事項に係る検討を精力的に行ってほしいと,そういう要請もあったところでございます。
 私としましても,若輩者ではございますが,法制面での様々な助言等のほか,審議会での議論の状況を当事者間の場で御紹介するなどしてきたところでございます。今後とも,審議会と関係者協議との間での適切な連携を図るように努めまして,審議会での議論の取りまとめに向けて,適切な時期に関係者協議の検討の成果の報告を受けることができますよう,支援をして努力してまいりたいと考えております。
 以上,現状の報告でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。是非この協議の一層のスピードアップと成果をよろしくお願いいたします。
 それでは,本日の議論に移りたいと思います。
 前回の小委員会において,検討課題の全体像を明らかにした方がよい,そういった御提案もございましたので,その点も含めて事務局から説明を頂いた上で,議論に移りたいと思っております。
 では,事務局から,これらの点についての説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】それでは,資料1と2を用いて御説明申し上げます。
 まず,資料1をお願いいたします。こちらは教育の情報化の推進に関する検討課題の全体像について整理したものでございます。政策目的に関する論点,政策課題に関する論点,政策手段の三つに分けて整理をいたしました。オレンジ色の部分は,大まかに申し上げると,検討の熟度と申しますか,検討が進んでいる順に濃くしております。
 政策目的及び政策課題に関しては,それぞれ一定の議論を昨年度,お願いいたしました。それから,政策手段につきましては,まず,権利制限規定の在り方につきましては,文化審議会当小委員会で御議論いただいておるところでございまして,右側でございますけれども,法の適切な運用とライセンス体制等の在り方につきましては,先ほど今村委員からも御案内がございましたとおり,当事者間協議で現在,議論がされているところでございます。これらの検討をまとめまして,本小委員会として,下の点線囲みにありますように,結論,取りまとめをお願いしたいと考えております。
 左側の権利制限規定の在り方の部分でございますけれども,まず,前回の小委員会におきまして,前提となる考え方を整理するという目的から,著作権法35条の趣旨・目的について一定の整理を頂戴いたしました。それから,現在議論を頂いておりますのは異時送信の部分でございまして,右側の教材共有,それからMOOC等一般人向け講座に関しては,これからの議論ということだと存じます。
 異時送信の部分につきましては,昨年度の議論におきまして,まず権利制限による対応の必要性・正当性については議論いただきまして,肯定する御意見が複数示されたわけでございます。また,関係者協議における法の適切な運用の在り方の状況も踏まえて結論を出すべきだということが,小委員会での御議論でございました。
 このほかにも,この下にありますとおり,権利者の著作物利用市場への影響への配慮の在り方,補償金請求権付与の要否,さらに,権利制限の対象とする範囲及び要件の具体的な在り方,例えば授業の過程といった現在の35条に規定されている要件などについてどう考えるかといった論点が,まだ残されているものと理解しております。
 本日は,このうち赤の点線囲みにある著作物利用市場への影響に関する論点と,補償金請求権付与に関する論点を御議論いただきたいと考えております。
 2ページ目をお願いいたします。こちらは,先ほどの点線囲みの本日御議論いただきたい論点の内容を箇条書にしたものでございまして,これが本日の議論のオーバービューということになろうかと存じます。左側が,権利者の著作物利用市場への影響への配慮について,右側が補償金請求権の付与についてでございます。
 ちなみに,左側の権利者の著作物利用市場への影響の配慮についてという論点は,前回までは「市場が形成されている場合への配慮」としておりましたけれども,そもそも配慮の対象となる市場というのが既にあるものであるべきなのかどうかということ自体に議論の余地があるということでございましたので,誤解を避けるためにニュートラルな表現としております。
 左側の論点1でございますけれども,教育機関のニーズを満たす配信サービスやライセンススキームとの関係を論点1としております。それで,仮にこの論点1が肯定される場合におきましては,論点2,論点3と御用意してございまして,論点2としては権利制限の対象外とすべき配信サービス及びライセンススキームの範囲,それから,論点3としまして法制上の措置の在り方でございます。
 右側でございますけど,補償金請求権の付与について検討すべき論点としましては,補償金請求権の付与の是非及びその理由,そして,複製についてはどのように考えるかといった点が論点1でございます。
 論点2では,補償金の制度設計の在り方ということでございまして,金額の水準ですとか,徴収・分配の方法といった点について,御議論を頂きたいと考えております。
 それから,この二つの論点と申しますか,この二つの固まり,カテゴリーに共通する論点としまして,補償金請求権を付与するか否かということが,一定の配信サービスやライセンススキームを権利制限の対象外とするかどうかといった点などについてどのような影響を及ぼすかという点も,併せて御議論を頂く必要があろうかと思います。この共通する論点といいますところは,独立して議論いただくというよりは,それぞれの議論をしていただく中で,適宜参照しながら議論いただくということが適当であろうと思います。
 全体像としては以上でございます。
 次に,資料2をお願いいたします。こちらが,本日御議論いただきたい論点について更に詳細に整理させていただいたものでございます。
 1ページ目は,前回の小委員会において一定の整理を頂いた現行法の解釈でございますので,こちらは御参考までにしておきたいと思います。
 3ページをお願いいたします。まず,権利者の著作物利用市場への影響への配慮についてでございます。こちらの論点も,前回の小委員会でも御紹介いたしたものでございまして,前回,論点2のグループで御紹介しておったものですけれども,番号が一つ繰り上がっておりますので,御注意いただければと思います。
 まず,論点1としまして,教育機関のニーズを満たす配信サービスやライセンススキームとの関係でございます。ここは,枝番というか,小論点としまして,1-1から1-3まで三つの論点を御用意しております。順次,御説明申し上げます。
 まず,1-1としまして,権利者が教育機関に対し著作物の配信サービスやライセンススキームを提供している場合において,当該配信サービス等が授業の過程における著作物の送信に係るニーズに適切に対応できるものである場合には,一定の範囲で権利制限の対象外とし得ることとすべきか。逆に申し上げると,配信サービスやライセンススキームの内容のいかんに関わらず,権利制限の対象外とする余地はないと考えるべきかどうかという論点としてございます。
 また,この点,御議論いただく際には,我が国の著作権法の権利保護の在り方に関する考え方,それから,本権利制限の趣旨に照らしてどのように考えるべきかという観点から,御議論を頂戴したいと存じます。
 この点につきまして,事務局としてたたき台を御用意させていただいております。読み上げさせていただきます。
 授業の過程における著作物の送信について,権利制限を行う趣旨を前記のように整理するならば,教育上必要かつ適切な著作物について,その利用の許諾を拒絶されることや許諾を得るための手続費用が過大である等の事情に妨げられることがなく,著作物を円滑に教育活動における使用に供することができる環境が提供されている場合は,権利を制限せずとも,権利制限の趣旨を達成することが可能である。
 このことを踏まえ,例えば合理的な手続費用を投じれば円滑に許諾が受けられる環境が提供されているなど上記の条件を満たす著作物の配信サービスやライセンススキームについては,権利制限の対象外とし得ることとすることが適当であると考えられる。
 ちなみに,配信サービスを提供している場合とライセンススキームを提供している場合につきまして,それぞれ取扱いを異にすべきかという点も問題となるわけでございまして,論点1-2の中でこちらも議論いただきたいと思ってございます。
 さらに,この論点1のグループでは,そもそもどういう制度設計をすべきかという,ある種,政策判断といいましょうか,立法政策上の価値判断について御議論いただきたいと思っております。なお,具体的にどのような法制上の措置を講ずるのかということにつきましては,論点3において別途御議論いただきたいと思っております。
 また,前回は,新聞の場合には対象外とすべきかどうかといった,著作物の種類に応じた取扱いについても議論があったわけでございますけれども,そちらの論点につきましては,論点2の5の方で,別途御議論いただきたいと思っておりますので,ここでは,配信サービスやライセンスサービスの少なくとも一定の範囲で対象外とし得ることとすべきかどうかという点について,まず入り口の議論をしていただきたいと存じます。
 では,次のページをお願いいたします。この論点1-1に関しましては,既に前回までにも様々な御議論を頂いておるところでございまして,そのうちの相当部分につきましては既に御紹介申し上げましたので,省略したいと思いますけれども,現時点では,一定の範囲で対象外とすべきだという御議論と,そうではなくて,補償金請求権で対応することで十分であるという御意見が双方あったように存じます。
 その理由付けとしましては,4ページの一番上の丸にありますように,肯定的な立場からは,スリーステップテストの関係や,四つ目の丸にありますような,ライセンススキームの発展を促すという目的などから説明がなされている一方で,これに否定的な立場からは,下の固まりの二つ目の丸にありますように,ライセンス優先ということになりますと,権利者が使用料を自由に設定できて,事実上オプトアウトに近いことができるということですとか,スリーステップテストの解釈上,通常の利用とは著作物の本来市場を意味するということで,特段問題は生じないという指摘もございました。これらの観点も踏まえまして,更に御議論いただきたいと存じます。
 次,5ページをお願いいたします。論点1-1を御議論いただく際の,ある種,従たる論点というふうに理解できようかと思います。1-2におきましては,著作権者による教育機関への著作物の提供の形態としまして,3種類考えられるとしております。まず第1としましては,著作権者が自ら教育機関向けに配信サービスを行っている場合,第2としまして,著作権者が第三者にライセンスして,教育機関向けに配信サービスを行っている場合,第3としまして,著作権者が教育機関又は教員にライセンスをして,教育機関等が生徒等に対し配信を行うということを可能とするライセンススキームを提供している場合でございます。これら三つの方法によって結論は異なるべきかという論点でございます。
 この点に関しまして,これまでの議論では,一つ目の丸でございますけれども,権利者が正規サービスを提供するということと,ライセンススキームを用意することは難易度が異なるということから,少なくとも同視するのは妥当ではないという御意見はございました。このほかには,例えば三つ目の丸でございますけれども,包括ライセンススキームといったものは対象として入ってくるのではないかという御意見もございました。
 次に,論点1-3でございます。こちらも論点1-1の御議論を頂く際の,関連する論点と言えようかと思います。1-1,1-2の論点について,現行法第35条による権利制限においてはどのように考えられるか。35条ただし書の解釈の問題としております。
 この点につきまして,本小委員会での御議論では,ライセンススキームのようなものも権利制限の対象外となり得るという御意見がございまして,それが35条ただし書にそういう考えが入っているのだという御意見でございました。
 それから,6ページでございますけれども,これに反対する御意見としましては,ライセンススキームというのは対象外とはなり得ないという御意見でございまして,漢字ドリルのようなものであれば,35条のただし書から権利制限の除外対象になっていくものの,新聞のようなものはそうではないという御意見でございました。
 それから,7ページでございますけれども,こちらは,論点1が肯定される場合という条件付の論点設定でございます。論点2につきましては,権利制限の対象外とすべき配信サービスやライセンススキームがあるとした場合の,そのあるべき範囲についての御議論を頂戴したいと思います。
 まず,2-1でございますけれども,前回の資料でも御用意しましたように,権利制限の対象外とすべき範囲を判断するに当たっての観点としまして,四つが考えられるとしております。一つは手続コスト,二つ目が対価の水準,三つ目が配信サービスやライセンス提供の範囲・内容,四つ目が著作物の制作目的や提供態様としております。これは既に議論の中でお出しいただいているものでございますけれども,これら四つの相互の関係ということにつきましては,これを総合的に考慮して判断すると考えるべきかどうかという点を,念のためここで掲げさせていただきました。
 次は2-2,手続コストでございます。手続コストといいますのは,権利者を捜索するコストと,実際に権利者が見つかった場合に権利処理を行う際のコストというふうに分けて御議論いただきたいと思っておりまして,どのような点を考慮すべきかという論点を掲げさせていただいております。
 事務局の整理案としましては,こちらにありますように,権利制限の趣旨から,各非営利教育機関の教育目的の実現に資するため,教育上必要かつ適切な著作物等を,円滑な教育活動における使用に供するために,どの程度権利者捜索コスト及び権利処理コストが低減されているかという点を考慮すべきと考えられるがどうか,としてございます。
 これまでの小委員会での御意見としましては,何らかの手続コストが低減されていることは必要だという御意見もたくさんございましたし,8ページの方ですけれども,権利者の捜索コストの低減が必要だという御意見としまして,例えば写真といった著作物を対象に管理の網羅性を求めるような御意見,新聞を対象にしても,単一の窓口を作るべきだという御意見などが,これまでお出しいただいております。またそのほかにも,権利処理コストについても合理的な形で低減が図られているべきだという御意見も,複数あったところでございます。
 次に,論点2-3でございます。対価の水準でございます。権利制限の趣旨との関係において,対価の水準は考慮されるべきかどうか,考慮されるべきとする場合に,その理由は何かという論点でございます。この点,考えられる理由付けの選択肢というものを試みに御用意させていただいております。9ページでございます。
 三つ用意しておりまして,まず,aとしまして,教育は著作権法の目的である文化の発展に特に資するものであるということで,こうした法の目的達成という観点から,正当化されるのではないかという案でございます。
 それから,b,非営利教育機関における教育の外部効果というのは,一般的にはまず国民全体に及ぶというものですが,仮にこれが国民全体と比べて著作権者が総体として高い効用を享受するのだと評価できる場合は,そういう効用の代償として,著作権者に一定のより高い負担を求めるということも正当化されるのではないかという案でございます。
 cとしまして,35条は非営利の教育機関における利用を前提としておるということでございまして,利用者の得た利益の適正分配という観点からは,低額な使用料の請求というところまでを認めるのが相当ではないかという案でございます。
 これらの点につきましては,これまでも小委員会では,合理的な対価,費用が低廉といったことが求められるという御意見があったわけでございまして,こうしたことの正当化理由についても御議論を深めていただきたく存じます。
 次に,論点2-4でございます。配信サービスやライセンス提供の範囲・内容でございます。こちら,例えば教育機関において,著作物のある一部分のみを利用したいといったニーズがある場合につきまして,10ページ目でございますけれども,著作物全体を対象としたサービスやライセンススキームしか提供されていないとすると,教育機関が得られる便益に対して費用が過大になり,教育機関は利用を断念する場合が出てくるものと考えられる。したがって,権利制限の趣旨を十分達成するためには,その範囲・内容が教育機関のニーズに適しているかという観点が考慮されるべきではないかと整理させていただいております。
 次,論点2-5でございます。著作物の制作目的や提供態様としまして,制作目的といいますのは,例えば主として教育機関の利用に供するために制作されたかどうか,それから,提供態様というのは,制作時点ではそういうものではなかったとしても,提供の時点で教育機関向けに特に設計された形で提供がされているかどうかといった点であり,こうした制作目的等に応じて結論は異なるべきかという論点でございます。この点について,教育機関における市場が,権利者が通常経済的利益の獲得を期待する市場に該当するか否かという観点が考慮されるべきと考えられるがどうか,としております。
 この論点に関するこれまでの小委員会での御意見としましては,漢字ドリルのようなものは対象外となってもよいが,新聞のようなものは対象外となる必要はないといった御意味もございましたが,一方で,新聞でも,一定のものは対象外とした方がよいという御意見もあったところでございます。
 次,11ページでございます。2-6,配信サービスやライセンススキームの提供時期でございます。仮に権利制限の対象外とすべきものがあるという場合に,その配信サービスやライセンススキームとして認められるものの提供の時期について,改正法施行の時点に着目すべきか,著作物等の利用行為に着目すべきかという点についてです。この点は,権利制限から除外することを認める理由付けとも関連してくるわけでありますので,御議論をお願いしたいと思います。
 この論点につきましても,それぞれの案を支持する御意見がございますが,紹介は割愛させていただきます。
 次は12ページをお願いいたします。論点3は,先ほども御紹介申し上げたとおり,論点1と論点2の立法政策上の判断について御議論いただいた後に,具体的に法制上の措置の在り方についても,別途御議論いただきたいと思っております。この論点についても試みに,理論上こんな選択肢があるのではないかという可能性のみ整理させていただいております。
 aとしまして,仮に現行35条ただし書により一定の配信サービス又はライセンススキームは除外し得ると解しまして,かつ,権利制限の対象外とすべき範囲が同条ただし書から導かれる範囲と同様でよいと考えられる場合でございますけれども,こうした場合は,まずa-1としまして,現行35条ただし書と同様の規定を置き,当該規定の解釈によることとするという案,それから,a-2としまして,権利制限の対象外となる範囲や要件の明確化を計るために,ただし書に加えて何らかの規定を別途設けるという案と,二つが理論上は考えられると思います。
 次にbでございますけれども,権利制限の対象外とすべき範囲が同条ただし書から導かれる範囲と異なる場合につきましては,権利制限の対象外となる範囲や要件を別途規定するということが必要になってくるわけでございます。
 この論点につきましては,二つ御意見が出ておりまして,現行の35条ただし書の解釈によってできるという御意見もございましたし,他方で,解釈によって対応するということでは実際上スキームが機能しないためある程度明確にする方向での御意見もございました。
 最後に,その他としておりまして,今後の検討の進め方に関する事務局からの御提案でございます。論点2,3につきまして,最終的な判断をしていくに当たっては,権利制限の趣旨を踏まえて,非営利教育機関における教育目的を達成するために必要な著作物利用環境とはどのようなものかを把握することが求められると考えておりまして,教育機関における著作物の利用に関するニーズはどのようなものか,それを踏まえて権利者においてどのようなライセンス環境の構築が想定されているのかを明らかにする必要があると考えられる,としてございます。
 そのため,今後,審議会における法制的な観点からの検討と並行して,教育関係者及び権利者団体に,これらの点に関し検討を行うことを求め,その結果を踏まえて,審議会において改めて最終的な考え方の整理を行うとしてはどうかという御提案でございます。
 続きまして,13ページ,補償金請求権付与の是非についてでございます。こちらも,これまでも様々な議論がなされてきたわけでございまして,確認のために再度,論点を整理させていただいております。
 論点1では,異時送信に権利制限規定を設けるとする場合に,補償金請求権を付与すべきかどうか,複製の場合はどのように考えるか,そのような結論を取る理由について御議論いただきたいというものでございます。
 これまでも,補償金請求権は付与すべきでないという御意見や,付与すべきとした上で,公衆送信のみとする御意見,それから,複製,公衆送信両方とする御意見と,様々あったわけでございます。
 理由付けのところを若干御紹介いたしますと,13ページの付与すべきでないという御意見のところでは,紙とデジタルをパラレルに考えれば,現行と同様の範囲では当然無償であるべきだという御意見ですとか,二つ目の丸では,ライセンス優先スキームを導入するということを前提に,ライセンス優先に価するライセンス市場が形成されていないものについては無償で利用を認めることで,ライセンス市場の形成のインセンティブを与えるべきだという御意見もございました。
 それから,補償金請求権を付与すべきとする御意見の理由付けとしましては,二つ目の丸にありますように,海外の法制度や国際条約との整合性に言及されたものもございましたし,14ページの方ですけれども,上から二つ目の丸にありますように,教科書には補償金が掛かっているということとの関係についての言及もございました。
 また,公衆送信については一定の範囲で有償とし,複製は無償とすべきという御意見の中では,ICTに置き換えた部分のみが利用者に便益が大きいということが理由付けとされております。
 それから,公衆送信は全て有償,複製は無償という御意見を支える論拠としましては,公衆送信については,紙と違って物理的制約がなくなるということで,コピーの総量や頻度が増えるという御意見がございました。それから,複製も対象とすると教育現場が混乱するということも,理由として述べられております。
 次に,複製も公衆送信も全て有償とするという御意見の理由付けとしましては,二つ目の丸にありますように,全体としてシンプルな仕組みとするべきでないかという御意見,それから,三つ目の丸,紙のコピーについても量が多い場合というのはあり得るので,紙の場合を対象にしないのは平仄を欠くという御意見,それから,四つ目の丸,これまでの利用というものも,使用の態様が零細であるといった理由から補償金制度が入っていなかったという理解の下で考えると,両方有償にするということが必要ではないかといった御意見がございました。
 次に,論点2でございますけれども,補償金請求権を付与したものとする場合には,ただし書による限定が必要かどうかといったことや,その範囲についてどのように考えるかという論点でございます。
 最後に,16ページでございますけれども,1及び2に共通する論点としまして,補償金請求権を付与するか否かによって,一定のライセンススキーム等について権利制限の対象外とするか否か,その範囲について。これは先ほど御紹介申し上げたとおりでございまして,1や2の議論の過程において,必要に応じて考慮いただければ幸いでございます。
 長くなりましたが,御説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは,ただいま御説明がございました資料2に沿って,この整理された論点を御議論いただければと思います。
 まず,1ページにあります現行法35条の趣旨については,先ほどの説明にもございましたように,本委員会においての議論を通じて,委員の間で異なるところはなかったな,異論はなかったなと承知をしております。したがいまして,本日は,3ページ以降の論点を皆様に御議論いただければと思います。
 最初に,権利者の著作物利用マーケットへの影響への配慮の問題でございます。この論点は,1-1,1-2,1-3とございますけれども,これらに関して御意見がございましたらお願いをいたします。
 道垣内委員。

【道垣内委員】細かい議論に入る前に,ちょっと分からない点があるものですから発言します。まず,35条そのものは特に異論はないところだという御説明でございましたけれども,これというのは,憲法29条2項によって説明できているというのが,共通理解でしょうか。
 憲法29条2項は,「財産権の内容は,公共の福祉に適合するように,法律でこれを定める」と定めています。これに対してもし同条3項の適用対象であるとすると,「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用いることができる」と定めているので,当然に補償が必要だということになります。著作権という権利自体の作り方として,公共の福祉に適合するように権利制限をしているとすれば,補償をするかどうかは法政策的な判断次第でよいことになります。そういうことなので,後の議論がいろいろ分かれてくる出発点を明確にしておく方がよいのではないかと思います。一番違うのは,報酬請求権をそもそも与えなくていいのかという点であり,3項の適用対象であるのであれば当然補償は必要なわけです。著作権法35条は補償をしないことを原則としているわけですが,仮に憲法29条3項の適用があるとしても,トランザクションコストとの関係で補償をすることはほとんど無意味だからだという説明も可能です。もっとも,それは紙の場合ということで,電子になると違ってくるかもしれないので,その点確認してから議論を始めるべきだと思います。
 それから,論点の1-1に関係するのですけれども,著作権法34条によれば,学校向けの番組を作る人たちは使っていいけれども,2項で正当な額の補償をちゃんとしなさいということになっています。また,事前の承諾が必要のようです。これに対して,この1-1の論点の設定の仕方は,権利者自身との直接の関係を前提としているのでしょうか。

【土肥主査】ありがとうございます。今の御質問は事務局への御質問でしょうか。それとも私とか……。

【道垣内委員】皆さんの御理解を教えていただければと存じます。

【土肥主査】皆さんにですか。

【道垣内委員】そこをはっきりさせないと議論しにくいと思っております。

【土肥主査】もともと35条というのは憲法の下に存在し,憲法29条との関係では整理がついたものと一応推定はできるんだろうと思います。現行法の規定が……。

【道垣内委員】憲法29条2項で説明されているということでしょうか。

【土肥主査】2項……。既にその憲法の下に著作権法の35条は存在するわけですよね。

【道垣内委員】いずれにしても根拠条文が必要なので,お聞きしているわけです。

【土肥主査】あともう一つの学校放送の話というのは,そういうことも踏まえて,この異時送信に関する議論をしていただきたいなと思っているところなんですね。つまり,学校放送に関しては,道垣内委員がおっしゃるとおり対価というものが付いているわけでありますので,ここでの議論の中でも,やはりその辺のバランスの関係もございましょうし,そういうことを踏まえて議論していただきたいというのが,そもそもの本委員会の立場と承知しておりますけれども。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】先ほどの憲法との関係についてのお尋ねは,これは恐らく人によって考え方が異なるのではないかと思います。権利者の保護と利用者とのバランスを図る中で,著作者人格権ではなく著作権という財産権について,補償金なしでバランスを図っている35条のようなものもあれば,補償金を付けてバランスを取って権利制限を作り込んでいる場合もあります。要は権利ないし権利制限の作り込み方の問題であり,先ほどあったように,収用の補償なのだから,そこの部分を補償金として考える捉え方の中にも,最終的には補償として後からやるという形もあれば,補償を入れ込んだ形で権利を作り込むという形もあります。理由付けが違うだけで,普通は皆さん,35条が特に違憲だとは思っておられないので,最終的には憲法上は問題ないという理解になっているわけであり,補償金というのは,先ほどのような形で,また見解が分かれてくるところではないかと思います。

【道垣内委員】私の申し上げ方がちょっと不十分だったかもしれませんが,私も35条が憲法違反だと申し上げているわけではありません。憲法との関係での説明の仕方によって後の議論が変わってくるかもしれないので,そこをはっきりさせておかないと,議論が,ただあっちがいい,こっちがいいという話になってしまうのは余り生産的ではなくなるのではないか,はっきりさせた方がいいんじゃないかということを申し上げたつもりです。
 34条については,この条文との関係で異時再送信の問題を論ずる必要があるのではないかということを申し上げた次第です。よろしくお願いします。

【土肥主査】この点,ほかにありますか,御意見等。私,今,大渕委員がおっしゃっていただいたようなお考えで全く問題ないと思っておりますけれども,いかがでございましょうか。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】道垣内先生が今おっしゃった2点目についてはそのとおりだと思うのですけども,私の知る限り事務局の方では既に34条との関係も検討されているかと思います。
 1点目につきましては,そもそも著作者の権利というのが憲法上の権利なのかというところが,日本では十分な議論がないといいましょうか,少なくともコンセンサスがあるわけではないように思います。ドイツなどですと著作者の権利は憲法上の権利だとされていますから,排他権を権利制限するだけで報酬請求権の定められていない規定を違憲とする憲法裁判所の判決が多数ありますが,日本では,そもそも著作者の権利というのが排他権であって,それが制限されて補償金請求権になっていると理解するのか,それとも,最初から報酬請求権として定められていると理解するのかという点についても,十分な議論がないというのが現状ではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。30条以下の権利制限規定の中で,補償金請求権が付いているのは,極論すると33条,33条の2,34条,36条2項と教育目的関係だけなんですね。デジタル録音・録画のところと,それから38条のビデオの教育関係施設の貸し出しのところで出てくるぐらいでありまして,ほかにはない。つまり,逆に言うと,教育目的に関連する権利制限規定は,道垣内委員がおっしゃるところからすると,最も憲法適合的と言うことができるかもしれないなと思っております。
 早速ですけれども,時間がそんなにたくさん与えられているわけではございません。1時までということになっておりますので,早速論点1-1,1-2,1-3,特に1-1という前提的な問題が非常に大事なんだろうと思うんですけれども,ライセンススキームがある場合,一定の範囲で権利制限の対象外とできるか。そのできるかどうかについて,たたき台では,手続費用と円滑な教育活動が可能かどうか,この点が挙げられているわけでありますけれども,御意見いただけませんでしょうか。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】記述の意味だけ確認させていただきたいのですけれども,「配信サービスやライセンススキームについては,権利制限の対象外とし得ることとすることが適当」というふうに書いていらっしゃるところは,配信サービスやライセンススキームが合理的な形で権利者から提供されている場合は権利制限の対象外とすべき,という意味に理解してよろしいでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】そのような意図で書かせていただきました。

【土肥主査】ほかに。配信サービス,あるいはライセンススキームがあれば,全て権利制限の対象から外れるというわけではない。要するに一定の範囲ということになっておりますので,そのとき,一定の範囲をどういうものかということで絞り込んでいく場合には,手続費用,取引費用と,それから円滑な教育活動が可能となっているかどうか,この2点で絞り込めるかどうかというのが,たたき台として出ておるところでございます。いかがでしょうか。
 龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】35条とライセンススキームのすみ分けといいましょうか,そのあたりでお伺いしたいのですが,35条が任意規定なのか強行規定なのか,もう一つはっきりしないところもありますが,一般には任意規定と考えられているのでしょうか。そうした場合には,ライセンススキームが任意規定をオーバーライドするケースと,権利制限の対象外として存在し得るケースとが2種類出てきて,当該問題になったライセンススキームがそのいずれに所属するのかということの見極めが,恐らく争いになるのかなと思うのですが,このあたりをどのように区別するのか。そのあたりが一つ問題にならないかのなと思うのですが,そのあたりは,たたき台上ではどのような認識なのでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】非常に難しい御指摘を頂いて,ちょっとお答えが難しいなと思いました。この権利制限規定の強行規定性ということに関しては,過去の審議会でも御議論を頂いたわけでございますけれども,なかなか各条文について,それが強行規定かどうかというのを判然と整理するのは難しいんじゃないかという御議論であったかと思います。したがって,ちょっと先生の問題意識にお答えできるかは明らかでないですけれども,仮に契約を当事者が積極的に望まない場合であっても,こういう権利制限規定の適用が受けられない範囲というのはあるのかどうかという視点で,まずは御議論いただければと思っております。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】若干……,すみません,今のところですが,少しよく分からなかったんですが。まず,この文脈の中で契約が存在する場合というのは,ライセンスを教育機関が受けるとして,今回,新しく作る――35条の3項になるのかどうか分かりませんけれども――その新しく作る規定の範囲よりも厳しい条件,つまり,規定よりも少ないコピーしかできないということを,契約で受け入れるかどうかという文脈かと思います。
 そうではなしに,一般の人が世の中で手に入れたものを使えるかどうかというのは,契約によるオーバーライドの問題ではなくて,今回ここで議論している,特定のライセンススキームの場合は権利制限規定は適用しませんよという話ではないのかなと思うんですが,そういう問題整理でよろしいですか。ちょっと今,事務局の御回答がどちらだったのかがよく分からなかったんですが。

【秋山著作権課長補佐】もう一度御質問の趣旨を御確認させていただけますでしょうか。申し訳ありません。

【奥邨委員】権利制限規定が契約によってオーバーライドされるかどうかというのは,契約を結ぶ当事者間だけの話ですから,教育機関が何らかの契約を結ぶ際に,今度新しく作る35条3項よりも――3項かどうか分かりませんけど――それよりも,すごく厳しい条件を受けます,35条3項に書いてあるよりも少ないコピーしかできない,そういう条件のライセンス契約を結んだとして,そのライセンスは有効ですか,無効ですかという議論をするのが,オーバーライドの問題だと思うんですね。
 そうじゃなしに,契約も何も結んでいない人が,35条3項に基づいて著作物を使えますか,どうですかというのを検討する際に,一定のライセンススキームがあって,35条3項の適用がないかもしれないというのは,オーバーライドの問題ではないと思うんですが,そこは整理しての議論でしょうか。

【秋山著作権課長補佐】今回は後者の議論をしていただいていると思っております。

【奥邨委員】1点だけ,ついでに申し上げさせていただくと,前者の本当のオーバーライドについても,例えばイギリスは,そういう契約は無効であるというふうに書いてあるわけですね。ライセンススキームがある場合は,一旦は権利制限規定から外しますと書いてありますが,しかし,そのライセンススキームの条件が,権利制限規定で認められている量よりも少ないコピーをさせようと意図するようなものであれば,その部分に限って無効であると書いてありますので,そういう意味においては,その部分は強行規定化されているということだと……。
 私は,今回,後の話になりますけど,一定のライセンススキームがある場合に適用対象から外すとした場合,審議会でも,権利者がおかしな条件を付ければオプトアウトになってしまうんじゃないかとか,という御議論があったことも含めて,強行法規化することがあっても構わないんじゃないかとは思っています。それをちょっと念のために付け加えておきます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにございますか。大渕委員。

【大渕主査代理】35条のただし書であるかどうかは別として,このようなスキームがあるにもかかわらず権利制限をするのであれば,権利者の利益を不当に害することになるという文脈の中で,先ほどの全部が全部当たるわけではないのでしょうけど,合理的なライセンススキーム等を組んでいるにもかかわらず権利制限になると,そちらの方を誰も契約する人がいなくなるわけでしょうから,その分だけは権利制限を否定するということなのか,それとも,もともとの趣旨が,なるべくライセンススキームを促したいということで,このようにした方がいいからということなのかというあたりは,どうなのでしょうか。より望ましい方にいざなうためにこのような要件を課しているのか,それとも,やはり権利者の権利を害してはいけないからということなのか。結論としてこのように持っていくというのは分かるのですが,事務局として基本のところをどうお考えなのかという意図をお聞きできれば,我々が判断する際に考えやすいかと思います。

【土肥主査】発言されます?いやいや……。私はこの問題を理解しているのが,この法制小委の議論の中で,35条問題に関して,既に市場が存在する場合がある,あるいはマーケットが存在して,そこで一定の処理が行われている場合があるんだけれども,この35条の立法論の中で,そういうマーケットの存在というものを考えなくていいのか,あるいは一定程度の配慮をすべきなのではないか。配慮ということになっているんですけれども,つまり,あらゆるライセンススキームがあれば,それはもう優先すると,そういうことではないんだろう。つまり,マーケットにライセンススキームがあっても,それは一定の合理性のあるものでないと,つまり教育目的との関係で合理性のあるものでないと,やはりそれは,この35条の適用から外すことはできないのではないかというふうに,この委員会での議論があると承知をしております。
 例えば,いろいろこの配慮の点については,かなり前田委員も御発言があったと思っておりますので,今の事務局,あるいは委員間のやり取りをお聞きになっておって,この配慮に関して何か御発言ございますか。

【前田(哲)委員】適切な対価や手続において合理的なライセンスがなされている場合には,今の条文でいうと35条のただし書に該当し,そもそも権利制限が行われないということになり,だから,オーバーライドという問題は生じないのではないかと思います。もし,ある著作物についてだけ特別に高い条件でしかライセンスしないということがあった場合には,当該著作物については適切なライセンスが行われていないことになって,権利制限の対象になり得るということになるのではないかと思います。
 したがって,仮に,この先の論点かもしれませんが,補償金制度を付ける場合には,結果としては,多くの著作物が適切な対価で利用できるという結果になる。ただし,そこに至る考え方として,それが許諾によってなのか,補償金ということによってなのかという,その考え方のルートが違うだけで,考え方の整理だけの問題になってくるのかなと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。補償金の問題は,また次の段階の問題としてちょっと置かせていただきたいんですけれども,要は異時送信というこの問題なんですよね。これは35条の現行法の中に規定されていないわけでありますから,この異時送信に特化して,35条の中に入れて考えるべきであるということが,前回の趣旨の理解としてあったと思います。異時送信を入れる際に,既にライセンススキームとか市場が存在する場合もあるんだけれども,そういう場合に35条から除くべきなのか,入れるべきなのか,入れるとすればどういうところで分かれるのかということなんですね。
 それで,前田委員が合理性のあるライセンススキームということをおっしゃったわけでありますけれども,合理性というものを導くとすると,もっと先から出てくるんだろうと思うんですけれども,2-1ですか,そのあたりから出てくるんだろうと思いますけれども,一応ここではどうでしょうか。合理性のあるライセンススキームがある場合については権利制限の対象外とし得るということを仮止めして,次に進むことはできませんか。
 河村委員,どうぞ。

【河村委員】済みません。前回休んでおりますし,ちょっと難しい論点に入っているのかもしれませんが,素直な意見ということで申し上げます。以前,教育関係の方たちのプレゼンしなども聞かせていただき,様々な現状の課題は認識しているつもりです。今の議論をお聞きしていると,何が過大で何が過大でないのかとか,合理的と合理的じゃないものの境とか,円滑と円滑じゃないものの境とかに明確な線が引けるのかがよく分からなくて,結局のところ,日々忙しくたくさんの教育資料を扱っている人が,過大じゃなくて合理的で円滑なサービスがあるのかないのかを一々調べるということ自体が負担になるような気がいたしますので,私としては,この4ページのところにある権利制限の対象外とはせずというところの意見に賛成です。
 以上です。

【土肥主査】河村委員には,事務局から配布資料をお持ちしていますし,議事録も多分お持ちしていると思いますので,我々と同じ了解の段階にあるという前提で話をさせていただいております。ですから,よく分からないと言われるとちょっと困るんですけれども,どなたか御発言……。

【大渕主査代理】今の点は,合理的かどうか分からないかどうかというのは,またここでやるという……。

【河村委員】教えてくださいという意味ではないです。

【大渕主査代理】そういうところが判断になること自体が不安という意味で,後に課題になるという御趣旨だと思いますので,それはまた別途の論点ということでよろしいでしょうか。

【河村委員】済みません。合理的かどうかの判断を教えてくださいという意味ではなく,4ページの下の方の,権利制限の対象外にせずという方がいいのではないかという意見を申し上げたので,教えてくださいと言ったのではありません。

【土肥主査】ほかにございますか。
 井上委員。

【井上委員】先ほど土肥先生からもお話がありましたように,この1-1のたたき台で書かれていることは納得がいくといいますか,皆さんで同じ考えなのかなと思います。教育上必要かつ適切な著作物について,許諾は拒絶される,あるいは手続が過大である等の事情に妨げられることなく,著作物を円滑に教育活動における使用に供することができる環境が提供されていればよい,という総論には賛成です。しかし,ここで書かれている配信サービスやライセンススキームといった場合に,イメージするものが2通りあります。一つは,例えば新聞社ですとか個別の権利者が,それぞれ工夫をしてライセンススキームを組んでいるというような場合と,著作権の管理団体がライセンススキームを組んでいるという場合です。この二つのどちらを念頭に置いて考えるかで随分道筋が変わってくるように思います。ここは,両方の類型を包含する形で書いてあるという理解でよろしいのでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】はい,そういう意図でございます。手続きコストについては先ほど御紹介した論点2-2で別途詳しく御議論いただこうと思っております。

【土肥主査】中村委員,どうぞ。

【中村委員】私もきょうから参加するんですけれども,事務局の論点1にありますような,一定の条件下で権利制限の対象外とするということは,私は適当だと思いますし,異議はないんですけれども,それに対する,先ほど異論も出たということですが,結局それも,4ページの最後のところにあるような,補償金制度との組合せといったことも考え,制度を考えなきゃいけないというのは,かなり,連立方程式を解いていくということになると思いますので,この議論を先に進めていただいて全体を眺めてから,結局またもとに戻って,そのような全体の方向性でいいかどうかというふうにお進めいただければ思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。そのように進めさせていただければと思っております。
 ほかにいかがでしょうか。奥邨委員。

【奥邨委員】私,たたき台のところについては,基本的にはこれでよろしいかと思います。ただちょっと,「このことを踏まえ,例えば」の中身が,「合理的な手続費用を投じれば円滑に許諾が受けられる環境が提供されているなど」となっているんですけど,ここの例えばのことは,これからまさに1-2,1-3,1-4とかで議論をするところなので,ちょっと例示として個別のものを出し過ぎなのではないかなと。まさに主査がおっしゃっている,一定のものについて配慮をするということでいいのであって,後に検討するので,答えは後で埋めるということで,ちょっと今,方向性を限定し過ぎるかなという気はいたしました。それだけです。

【土肥主査】ありがとうございました。今から更に議論していただくところからすると,1-2とか1-3の問題もあるわけですけれども,非常に細かい議論になるんですね。それで,この1-2,1-3,つまり一定の配信サービス,ライセンススキームがあるものを権利制限の対象外に置くとした場合に,どういうものが考えられるのか。つまり,1-2のマル1,マル2,マル3というのが挙げられておりますけれども,こういうケースによって結論は変わるのか,あるいは一定の合理性というところの中で整理されるのか,このあたりの御意見はいかがでしょうか。
 例えば変わるというようなお考えの方がもしおいでになりましたら,特に頂ければと思うんですけれども。
 井上委員,どうぞ。

【井上委員】済みません,変わらないという方向からでもよろしいでしょうか。今のは5ページのマル1,マル2,マル3ということでございますよね。

【土肥主査】ええ,はい。

【井上委員】マル1,マル2,マル3の分類は,著作権者側がどういう形で利用者に著作物を提供するスキームを構築しているかという観点から分けられていますが,先ほど論点の1-1でたたき台でお示しいただいた案では,教育活動の現場で著作物を円滑に使用に供することができるかどうかという点で判断するとなっております。5ページの1-2のマル1からマル3までの場合分けは,利用者サイドから見ますと大きな違いがないように思います。その意味では,違いは出てこないのではないかと思いました。

【土肥主査】ありがとうございます。恐らく事務局も,そのことを尋ねておるんだろうと思います。要するに,どういう形で提供されているかということの中身を問うているわけでありますので,どんな形で提供されるにしても,手続費用が高くなったり,あるいは対価が非常に高額であったりした場合については,当然それが合理的なものというのはなかなか難しいんじゃないかと,そういうふうに認識しておりますけれども,上野委員,どうぞ。

【上野委員】この点に関する私の意見は既に述べているところもありますけれども,たとえ権利者が合理的な条件のライセンススキームの提供を用意しても,それだけで,教育機関が著作物を現実に享受できるようになるとは限りませんので,権利者による著作物の配信サービスが現実に提供されている場合と,単に権利者によるライセンススキームが用意されている場合とでは,やはり異なると考えるべきではないかということは指摘しておきたいと思います。
 それから,もう一つ,ライセンススキームを提供する,あるいはライセンスをするということ自体は,著作物を「利用」しているということには当たらないように思います。今回の資料2の冒頭の記述が,「権利者の著作物利用市場への影響」となっていまして,これは前回,「市場が形成されている分野への影響」となっていたものから変更されたわけですので,この「著作物利用市場」というものは,「著作物の配信・提供サービス」と「ライセンススキームの提供」の両方を含んでいるというのが事務局のお考えではないかと思いますけれども,「著作物の利用」というのは,条約上の「通常の利用」と同様,自ら著作物を利用することを意味するものと解されております。そこでは,権利者が利用行為をして著作物を提供することと,教育機関等による利用を権利者がライセンスすることは区別されています。もちろん,ライセンスというのは著作権の行使ではありますが,ライセンスを「著作物利用」の中に含めるという言葉の使い方には違和感を覚えるところであります。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにいかがでございましょうか。よろしいですか,この点。
 1-3のただし書の解釈上,どのように解することが適当かということなんですけれども,この異時送信に関してはまだ規定はない,35条の中に入っていないわけでありますので,それを入れた場合にどうなるのかと,そういうことでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】さようでございます。それから,仮に異時送信について,今御議論いただいているような立法政策判断を頂く際に,現行法の取扱いとの整合性と申しましょうか,そういう点についても御議論いただきたいという趣旨でございます。

【土肥主査】現行法との整合性とおっしゃるけれども,35条の趣旨に異時送信を盛り込むことが適合的であるという,そもそもそれは了解されているわけですよね。違うんですか。

【秋山著作権課長補佐】済みません,そう理解しておりまして,私の申し上げたかった趣旨は,一定の範囲で配信サービスやライセンススキームを権利制限の対象外とすべきだという御議論を今,一部していただいているわけでございますけれども,そういう考え方は現行35条のただし書の中に読み取れるのかどうかということも含め現行規定との関係について御議論を頂戴しておけば,最後の論点3の,どういう法制上の措置を講ずるかという議論にもつながってくるのだろうと思うわけでございます。

【土肥主査】大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】これがまさしく少し前に申し上げたところで,ライセンススキームなのか配信なのかは別として,手続費用と対価の関係で合理的なものを提供している場合は対象外にするということが,今,主流になってきているかと思います。合理的なものが提供されているにもかかわらず権利制限してしまったら,権利者そのものなのか,権利者と組んで提供している人で間接的なのかは別として,そのような権利者の権利を不当に害するということであれば,事務局が示唆しておられるように,現在の35条ただし書の中に読み取れるだろうと思います。
 これは全ての基本発想で,公益性等のために権利制限しなくてはいけないが,他方で著作者の利益も守らなくてはいけないのだから,多少の制約はいいけど,不当な制約になるものはいかんという,そのようなごく一般的な図式です。条文を更にどうやって明確化するかは別として,今の発想としては,現在まさしく35条はそのようにできているわけです。複製が前提ですが,必要があれば権利制限される,ただし不当に権利を害するものはいけないというごく常識なことが書いてあるので,それを応用して異時送信にも当てはめていくということであって,基本線は余り変わらないのではないかと思っております。異時送信の場合の方が,紙の複製の場合によりも権利者の権利を害する範囲が大きいので,具体的な当てはめ方は検討が必要ですが。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにいかがですか。よろしいですか。

【奥邨委員】すみません。

【土肥主査】森田委員が先に手を挙げていたと……。こっちが先ですか。
 じゃあ,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】最後の法制上のこともあるので,余地として残しておきたいんですが,現行35条のただし書との関係も考えると,なぜ特出しするんだと。仮にライセンススキームは外しますというようなものを作るとするならば,現行35条の中にはそこまでは考えていないという余地もあってもいいのかなという,整理としてはあり得ると思います。それは条文の作り方にもよってくると思うんですけれども,ライセンススキームについて,不当云々もあるんですけれども,一方で,冒頭主査がおっしゃったように,今ビジネスをやっている人を一定程度配慮しなきゃいけないというのは十分要請としてあるわけです。もしこの議論を私たちが20年前にやっていて,そういうビジネスが全くないところでやっているんだったら,あえてこういうライセンススキーム云々という話をしなくて済んだんでしょうけれども,20年間実態は進んでいるのに何もしなかったという中で,じゃあ,今どうするかという議論をしているために,ビジネスについて配慮しなきゃいけないということなわけです。その配慮の仕方というのは,35条ただし書で読めるかもしれませんけれども,読めないかもしれない。
 なぜそれを心配しているかというと,今回の議論が35条の現行のただし書の読み方に影響を与えるということは,私はやめるべきだと思います。それで,現行のもの,紙のものについても何らかの対応をしなきゃいけなくなるんだというような結論を導き出すようなことにはならないようにすべきだ,それだけは申し上げておきたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 森田委員,どうぞ。

【森田委員】今の点にも関わりますが,この資料2の5ページから6ページにかけて示されている議論を見ますと,およそ一般にライセンススキームが提供されている場合には権利制限の対象外とすべきかどうかということに関わるような意見も含まれていますので,今は異時送信についての議論をしているようですけれども,それ以外についても同じような考え方が妥当するかどうかという点について,どういう見通しになっているのでしょうか。ただいまの奥邨委員の御意見は,異時送信に限定してということだと思いますが,ここで示された考え方は,従来のものにも同じように妥当するという可能性があるのではないかと思います。
 私自身は,このような考え方は,従来のものにも及ぶという形で,異時送信も含めて権利制限全体について,今回見直すという方が妥当ではないかと考えています。そのときのライセンススキームのイメージなのですが,権利制限の対象というのと,それから提供されるライセンススキームの対象というのは,必ずしも一致するものでなくて,ライセンススキームの提供を組み込んで権利制限の対象を考える場合には,従来から権利制限の対象になっている範囲を超えて,いろいろな著作物をもっと円滑かつ積極的に利用できるようなライセンススキームが提供されるような制度設計にするという方がより望ましいと思います。
 従来の紙媒体の場合でも,権利制限によって複製ができるといっても,著作権者の利益を不当に害しないという観点からいろんな制約がありますので,例えば,受講者が多数に及ぶ大教室で資料を配布しようとしても,実際上は配布することはできないわけです。また,ライセンススキームが提供されているかというと,これも存在しないわけです。したがって,実際上は小規模な人数の授業でしか資料を複製して配布することはできないということになっているわけですが,それでは授業で必要な資料を配布することもできずに実際に支障が生じているとしますと,そういう場合を含めて,一定人数という条件のもとであれば包括的なライセンスを締結することでもって教育上必要な資料を配布できるようにしましょう,そして,そのような包括的なライセンススキームが提供されている場合であれば,従来の権利制限の対象から外すことにしましょう,ということであるとすれば,ライセンススキームの提供について著作権者にある種のインセンティブを与えることになり,これにより,従来の権利制限とするだけではその対象とはならないようなところまで,著作物の円滑かつ積極的な利用が可能になるのではないかと思います。そのようなライセンススキームが提供されるのであれば,権利制限の対象から外してもよいと思いますが,そうではなくて,ごく限定された範囲内でのライセンススキームが提供されているにすぎず,それが従来の権利制限に代替するものとしてしか考えられないようなものであるとしますと,その場合には,権利制限の対象外とすることのもつ意味合いが違ってくると思います。ここで示されている議論は,異時送信以外についても含まれるような広い射程の議論でありますから,この点は,この後の議論の展開の中でどうなるかということが定まっていくかと思いますけれども,ここでいいですかと問われたときに,私自身としては,異時送信に限ったものとは考えないという選択肢も,残しておいていただければと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。今,森田委員も言われたように,何分ライセンススキームというふうに我々言っているわけですけれども,このライセンススキームは,今現在,当事者間協議で議論もされている対象にもなっているわけであります。異時送信,そして授業の過程においてということになると,例えばセメスターの間は自由に利用できる。窓口の一本化のライセンススキームで,しかも日本古来の大福帳のような仕組みがそういうライセンススキームの中に入るのであれば,学校の単位で,そのセメスターの終わりに全部処理するというような,そういう合理的なライセンススキームが出来上がっていくということも,私はどこかで期待しているんですけど。
 ですから,ライセンススキームなるものが,今現在あるライセンススキームというものから将来的なものまで,かなり発展形が考えられますので,一応ここは,合理性のあるというようなところで仮止めさせていかないと,ずっとここで議論が停滞しますので,誠に申し訳ないんですけれども,先に進ませていただきたいと思います。
 今現在12時25分なんですけれども,1時までという了解をしております。そういたしますと,2-1,論点の2,これは非常に細かいんですけれども,先ほどから出てくる配信サービス,ライセンススキームの内容に関する論点,観点というところで……。今現在7ページですね。7ページの論点2の2-1で,合理性のある配信サービスなりライセンススキームというものはどういうものかという,考慮すべきエレメントとしてマル1,マル2,マル3,マル4というのが挙がっているんですけれども,この点についてどなたか御意見がございましたら,お願いをいたします。
 手続コスト等を無視する合理性は余りないと思うので,手続コスト,それから対価,こういうところは当然入ってくるんじゃないかなと思うんですけれども,いかがでしょうか。
 井上委員。

【井上委員】先ほど,想定されるライセンススキームとして,例えば個別の新聞社のライセンススキームと,集中管理団体のライセンススキームとで違いがあるのではないかという話をしました。2-1で挙げられているマル1からマル4の視点は,それぞれ確かに考慮すべき要素だと思うのですが,例えば,ある新聞社がライセンススキームを組む際,手続コストを下げるような工夫を施したビジネスモデルを採用し,教育目的に配慮した廉価な対価を設定している場合,合理性のあるライセンススキームと評価してよいか。私はそれについては反対です。新聞ばかり取り上げて恐縮なんですけれども,新聞社は1社だけじゃなくて複数あるわけで,教育機関で先生方が複数の新聞社の記事を比較したいと考えれば,あらかじめ複数社から包括ライセンスの許諾を受けておく必要がある,あるいは個別に都度ライセンスを受けなきゃいけないということになってきます。結果として,手続きコストもかさみ,ロイヤリティーがスタッキングしていくというような問題が生ずると思います。
 したがって,手続コストや対価の水準の合理性を考える場合には,制度全体をみて,利用サイドの教育機関で教育活動における円滑な使用という観点から合理的なスキームといえるかどうかを判断する必要があると思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに。今村委員,どうぞ。

【今村委員】このライセンススキーム等の内容につきましては,おおむねここで示されている要素が考慮されるということであれば,合理性の担保という点では必要になるかとは思います。ただ,それとは別に,ライセンススキームを構築する自体の手続というか,利用者と権利者の側が適切に交渉して決められたものなのかどうかという点も,内容の合理性を担保していく上で必要になってくるかと思うんです。
 先ほどイギリスの例を奥邨先生が御紹介されましたけれども,イギリスでは大学などの団体が,権利の集中管理団体と,ライセンススキームを合意して,運用しているわけなのですが,定期的な見直しを何年かに一度することになっております。ライセンススキームや配信サービスに関して契約を結ぶ場合,個別の会社と個別の教育機関が契約すると,やはり交渉の立場というものも違うでしょうから,その内容が何か不合理なものになる可能性も高いと思います。団体交渉とまではいかないまでも,契約上の立場を対等にやるということを前提に合意されたスキームであるというような,そういうスキームを構築する上での手続の合理性というものが内容面にも影響を与えると思います。そういう手続的な要素も考慮の点に入れていく必要があるのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに。奥邨委員。

【奥邨委員】2点あります。まず,1から4に挙がっているマル1,マル4までの項目というのは,基本的には特に異論ありませんが,まず1点目は,マル1の手続コストの中に網羅性ということ……,裏返して読めば,権利者捜索コストが安いとか処理コストが低いということは,網羅性が高いということを裏から言っているんだろうなと思いますけれども,それを確認しておきたいなというのが一つと,もう一つは,マル1からマル4の上のところに書いてある2行のところで,「次のような観点について,権利制限の趣旨を踏まえ権利者の利益を不当に害することとなるか否かに照らして」と書いてあるんですが,その照らすのが,権利者の利益を不当に害するかどうかだけなんだろうかということは,やはり気になります。
 先ほど申し上げたイギリスの例ではありませんけれども,「趣旨を踏まえ」となっていますが,権利制限の趣旨を潜脱しないかどうかということも含まれるべきだと思うのです。権利制限の趣旨を潜脱しないということと権利者の利益を不当に害しないということは,アンドであるということは,この文章で読めるといえば読めるのかもしれませんけれども,私としてはそこは重要なところで,権利制限の趣旨を潜脱するような形でこれらのマル1,マル2,マル3,マル4がなっていれば,権利者の利益を害するかどうかということと別次元で,問題があると判断すべきではないかなと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに。中村委員。

【中村委員】ここに書いてあることには別に異論はないんですけれども,これは制度というよりも,制度を運用する際のメルクマールということではないかと思います。だとすると,今村委員がおっしゃったことがとても大事で,結局,それは誰がジャッジするのかということではないかと。つまりそれは,当事者間で判断すべき問題なのか,何かそこでうまくいかなかったときに,第三者のような者が入った場を作るのかといった,制度論というよりも,政策のメカニズムとして処理すればいいことなのかなと思いました。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。森田委員,どうぞ。

【森田委員】今の点にも関係しますが,この2-1の要件を満たすかどうかというのは,それらを抽象的な基準として法律の条文に規定して,いろいろな要素を考慮することができるという観点から,総合的に考慮して判断がなされる要素として挙げられているものだと思いますが,これを実際に運用する場合に重要になってくるのは,この基準を充たすかどうかという判断をどのような場でだれが行うのか,というところの制度的なスキームをどのように組むのかという点ではないかと思います。抽象的な基準の解釈ということになりますと,その解釈には非常に幅がありうるものですから,先ほど井上委員が言われたような利用者の側から全体をみて円滑な利用が可能であるようなライセンススキームであると評価できるかという観点から読んでいくこともできますけれども,読み方によっては,利用者にとっては非常に使い勝手の悪いライセンススキームであっても権利制限の対象外となるというような解釈がなされる可能性も論理的にはありえます。したがって,先ほどの関係者協議というのは,法改正に向けての検討を行う場として設定されたものだと思いますが,法改正がなされた後にも,恒常的な制度としての関係者協議の場を設定して,この権利制限の対象外となるライセンススキームに当たるかどうかということも含めて,スキームの内容について協議して認定するような仕組みというのを用意しておく必要があるのではないか。実際,個々の利用者が著作物を利用する時点で法律の規定に照らして権利制限の対象外とするようなスキームであるかを判断するということでは,うまくいかないのではないかと思います。そのような制度的な手当てというものを権利制限の前提として想定するかという点についても,今後の議論の中で具体的な制度について御検討いただければと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょう。河村委員,どうぞ。

【河村委員】済みません。こういうところにコストとか対価の水準という言葉が出てくるのは,正直,非常に違和感があります。というのは,コストの決め方とか対価の水準の決め方というなら分かるのですけれども,対価の水準が妥当かどうかを法的なルールで判断することの違和感です。微妙な値上がりのときはどうなのかとか,全体に値上がりしてきたときどうなのかとか。
 どこかがきちんとお墨付きというふうになるのなら分かりやすいのかもしれませんけれども,ルールの立て方としては疑問があります。また,質問なのですが現場でこれは合理的じゃないなと考えたときには,権利制限の対象となると思って使っていいというルールなんでしょうか。

【土肥主査】ありがとうございました。2-1の考慮すべきエレメントも大事なんだけれども,そういうものをしかるべき形でオーソライズするような,そういう仕組みが必要であるというようなことはおっしゃるとおりだろうと思います。
 とにかく,本日予定されておりますのは,もうちょっとまだありますので,どうでしょうか。具体のエレメントとして,まず2-2の手続コストの関係で,何か御意見があれば承りたいと思いますが。

【井奈波委員】この1ないし4のエレメントですけれども,これは,段階的にちょっと違いがあると申しますか,まず,最初に問題になるのが著作物の制作目的とか提供態様ではないかと思います。つまり,「教育目的での利用を念頭においたものか否か」というのは入り口の問題で,当然の前提として議論されている問題なのではないかと思います。
 その次に問題になるのが手続コストという問題で,対価の水準という問題より先に,スキームを考えるに当たって問題にしなければならないのではないかと思います。
 次に,対価の水準が考慮されると思いますが,これは,市場原理の問題で,市場原理に口出すかどうかについては,またその先の問題で,慎重に検討する必要があるのではないかと思います。そういう意味で,スキームの問題を検討するについては,どちらかというと,手続コスト,マル1の問題をここでは重視すべきなのではないかと思います。
 そうすると,一律の判断というのは非常に難しい話になってくるので,先ほど,御意見が出ました制度的な手当ても必要なのではないかという話にもなりますし,この1ないし4を,結局は総合的に考慮せざるを得ないのではないかと思いますが,この中でも重視すべき要素として違いがあるのではないかと思いました。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに,この点,御意見ございませんか。よろしいですか。特にございませんか。
 なければ,2-3の対価の問題について御意見を頂ければと思います。対価の水準が考慮されるべきか。されなくていいという意見があれば,また紛糾すると思うのですけれども。
 はい,前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】私は対価の水準を考慮するべきだと思います。具体的に言えば,営利の場合に比べて言えば,低めの水準であるということが望ましいのかなと思っています。その理由としては,9ページの上のところにa,b,cという理由を挙げておりますけれども,基本的にこういった理由というのは,どれも正当化する理由となり得るのかなと思っております。
 aについて言えば,そもそも著作権法上著作権者に与えられた利益というのは,そのうちの少なくとも一部は,文化の発展ということに資するために創作を奨励するためのものという側面を持ったものだと思います。ですので,別のところで文化の発展のためにその利益を一部制限することが望ましいと言えるのであれば,ある程度制限するということは正当化する余地があるんだろうと思います。
 また,bに関してでも,民間の市場においても,教育目的,教育に関する著作物が廉価に提供されているという実態はあるように私は思っております。市場においてそういうことが現に起こり得るということは,著作権者にとって,教育に対して著作物を廉価に提供するということには合理性があるということですので,著作権者が総体として高い効用を,現に享受しているということだと思います。こういう事情というのは,全部がそうか分かりませんが,一定の場合には,bのような事情があるという場合もあるように思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにございますか。はい,奥邨委員。

【奥邨委員】私は同じことばかり申し上げていますが,1点だけ追加で申し上げると,営利目的よりも低額であるということは当然だとして,さらに,安ければいいというだけではなくて,それが教育機関による利用を委縮させない程度であるという,質的な意味の保障もないといけない。すなわち,金額というのは,やはりかなり重要な要素として,教育機関が使う,使わないを決めるときに影響するということが考えられますので,教育機関が萎縮しないような金額であるということを更に考慮要素として考えるべきであるということは,申し上げたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 井上委員。

【井上委員】今の奥邨先生のお考えと同じことになるかもしれませんが,先ほど来申しておりますように,一つの機関についてかなり安い値段だと判断ができるとしても,それが積み重なると,教育機関では負担できないような額になる可能性もあります。全体をみて判断する必要があると思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 じゃあ,前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】先ほど井奈波委員からも御指摘がありましたけれども,著作物の制作目的や提供態様に照らして,もともと教育目的での利用を主たる市場として作成,提供されているような著作物に関しては,対価の水準をここで考慮するというのはちょっとおかしくて,そういったものに関しては,自由競争の原理にまかせてもいいのではないかなと思います。
 それから,学校現場で,文芸の著作物とか,あるいは新聞記事の一部を利用するというようなケースを想定しますと,この対価の水準は教育目的であることを考慮した金額であるべきだと思うのですけれども,市場で流通している著作物を丸ごと複製するようなケースにおいてまで,対価の水準を教育目的だからといって低くするべきということになるのかというと,それはそうではないような気がいたします。

【土肥主査】道垣内委員,どうぞ。

【道垣内委員】この権利を制限されるのは,外国の権利者も含まれると思われますので,余り国民云々という言い方はしない方がいいかなと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。この点すごく議論があって……。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】先ほど前田委員が言われたところと重なりますけれども,私は,この35条のただし書との関係で,もともと漢字ドリルのように,個別に一人一人購入すべきものは最初から外れるということを大前提にするべきだと考えます。ライセンスをやる場合でも,やはり漢字ドリルなどは論外というか,完全に権利を害することは明らかです。市場ができているものの合理的な額について先ほど前田委員が言われたのは,漢字ドリルに近いような,もう最初から論外で外れるようなものは飽くまで別枠の問題であり,今言っているのは別枠以外の普通の一般の話だということだと理解しております。今まで余りそこのところは,ただし書として考えていなかったけど,最近になって考えなくてはいけなくなってきました。そこを整理しながらいけば,これはもう完全に,漢字ドリルなどではないものの範囲の合理性の話だと思っております。

【土肥主査】そういうことだと私も理解しておりまして,よろしくお願いします。

【前田(哲)委員】全く同意です。

【土肥主査】時間が……。そうですね。
 井上委員,どうぞ。

【井上委員】今の確認ですけれども,そうすると,マル1からマル4と書いてありますが,マル4は抜いた方が分かりやすいのではないでしょうか。7ページの2-1ですけれども,著作物の制作目的や提供態様は,学習ドリルに類するような,コンテンツとして教育目的用に提供されているようなもの,内容面で教育用の工夫がなされているようなものについては,どんなに対価が高くても,それは競争に任せる,という理解に立てば,マル4は抜いてもいいのかなと思います。マル4の位置づけについて確認しておきたいと思います。

【土肥主査】済みません,10分ちょっとなので,先に行かせていただいていいですか。
 2-4ですね。2-4の配信サービスやライセンス提供の範囲や内容について,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
 教育機関側のニーズに照らして,先ほどとちょっとつながるんだろうと思うんですけど,例えば新聞の記事を利用したいと思うんだけれども,朝の朝刊全部の利用許諾をしないと認めないとか,そういうようなことを,例えば新聞協会はお考えではないと思いますけれども,例えばそういうような配信サービスの内容というようなものが仮にあった場合に,そういうものをどう考えるかということでございますが,いかがでしょうか。
 よろしいですか,これは特段,合理性のないという整理になりましょうか。
 森田委員,どうぞ。

【森田委員】このあたりの議論は,実際にはそのように考えるということで問題ないと思いますが,ただ,それは総合的な判断の中の一要素にすぎないものであって,これだけを取り上げて議論すべき問題ではないように思います。例えば,新聞の朝刊の紙面全体についてしか利用許諾しないと言っても,そもそも包括許諾であって対価が非常に廉価に設定されていれば,紙面の一部の利用についてもその中に含めて対応が可能ですから,この記事だけ使いたいというニーズに対応したライセンススキームが提供されていないのではないかというクレームは変だと思います。したがって,それぞれの論点だけ取り出して独立に議論するというよりは,最初の2-1に示された判断要素の各ケースへの当てはめの問題であって,基本は,教育機関の側から見て適切な費用の中で教育上必要な著作物を円滑に利用できるかどうかという点に尽きるのではないかと思います。
 そして,具体的に制度を運用するに当たって,権利者側と教育機関側のそれぞれの代表者が入ったような場において,権利制限の対象外とすべきライセンススキームに具体的に当たるか否かについて判断が示され,利用者に対してどのような範囲で著作物を利用することができるのかというような具体的な基準を示すことができるような制度的なバックアップを設けていただければ,その中でこの点は適切に解決できるのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 2-5なんですけれども,著作物の制作目的や提供態様,こういうことのいかんによって結論が変わるかというのが設問2-5となっておりますが,これについても,もし森田委員を指名すると,先ほどと同じように考えれば良いということになるのかなと思うんですけれども,ほかに何か御意見ございましたら。
 前田委員。

【前田(健)委員】結局,森田委員がおっしゃっていたことと同じかもしれませんが,こういった要素が考慮要素になるというのは,そのとおりだと思うんですね。しかし,例えば漢字ドリルのようなものが,もうカテゴリーからして全て市場に任せてよくて,権利制限の対象となることがあり得ないのかと言われると,そうではないと思うんですね。軽々にそういう判断をしていいのか分かりませんが,漢字ドリル1冊がとても分厚くて,それを全部買うという形でないと使えないけれども,教育機関の実際のニーズでは,数ページごとに使う方が便利だというときに,そういう販売体制のようなものが,若しくはそういうライセンス体制のようなものがない場合には,合理的な形で提供されているとは言えないということも,ありえなくないと思います。だから,そこは総合判断だということだろうと思います。

【土肥主査】多分,大渕先生に言わせると,その場合は別の漢字ドリルを使えということになるのだろうと思います。恐らくマーケットが存在するという以上は,いろんな漢字ドリルが提供されているということなんだろうと思います。
 それで,時間があと7分ぐらいになっておりまして,最後,これ,結構この最後の点は,この小委でも議論が出ていたと記憶しているんですが,配信サービスやライセンススキームの提供時期の関係であります。つまり,後からのものでもいいのかどうかということなんですが,これ,結構……。前田委員,どうですか。それとも上野委員がいいですかね。どなたかこのあたりについて御意見いただければ。

【大渕主査代理】かえってニュートラルな方がいいのかもしれません。権利を害しているかという実質から考えると,立法時には全くなかったが,その後,頑張って作り出してきたものを全部,立法時になかったとしてフィックスしてしまうのもおかしいのではないかと思います。立法時の一定の一般的状況を考慮してこのような立法をしたというものも,類型としてはあろうかと思うのですが,ここで議論しているのはそのような類型という話ではなく,現に権利を害しているからということであって,先ほど総合判断が出ているように,かなり個別性の高いものだと考えられます。
 なお,蛇足として言えば,意外と現行法は一般性が高いなと思います。別のフォーラムで,一般規定という話をしているのですけど,私は32条で同じようなことを言いましたけど,現行の昭和45年法は,よくできていて,数十年たった今でも使えるような一般性のある規定だと感慨を深めつつ,先ほどのような前提で考えると,やはり個別の判断にならざるを得ないように思われます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 あと5分しかないものですから,大体,一応全ての項目について委員の御発言はあったと思いますので,一応整理していただくという段階かなと思います。本来,事務局の本日冒頭の説明では,補償金請求権との関係をどうするのかという御質問もあったわけでありますけれども,これはきょうできません。きょう,この時間の中で審議することはできないように思いますので,次回に回させていただければと思います。
 それで,この審議会において具体にどういう制度にすべきか,この35条を,異時送信に関してですけれども,これをどうするかについては,事務局の冒頭整理いただいた資料にもありましたように,権利制限の趣旨を踏まえ,非営利な教育機関における教育目的を十分達成していただくために必要な著作物の利用環境というものを,どう我々は理解していくのか,把握していくのかということが求められているわけでございます。教育機関における著作物の利用に関するニーズというものがどうなのかということも,もちろん大事なことでございますし,それを踏まえて,権利者においてどのようなライセンス環境を構築していただけるのかということも,必要なところでございます。
 今村委員からの説明にもございましたように,審議会における法制的な観点からの検討に並行し,こうした問題についての教育関係者及び権利者団体との間で検討を行っていただいておるところでございます。この協議の結果については,是非とも涼しくなる頃には,秋ぐらいには出していただくように是非お願いをしたいと思います。その協議結果を踏まえて,本小委において再び最終的な考え方の整理を行いたいと思っております。
 先ほど議論の経過の中で申し上げましたように,窓口の一本化とか,思い切った,いわゆるライセンススキーム,とにかく異時送信でありまして,あるポイントでの利用ではない,ある期間を伴いますので,その間についての合理的なライセンススキームを考えていただく。大福帳方式と言いましたけれども,ああいうものも私は非常にいいんじゃないかなと思っておりますので,ひとつ汗をかいていただいて,なるほどと思うものを,是非関係者協議でお進めいただければと思います。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】今,もう最後の「その他」の「今後の検討の進め方について」というところまで来てしまっているかと思いますので,この点について一言意見を申し上げます。
 私自身は個人的には,ライセンス優先型でなくても権利制限プラス補償金でよいし,むしろライセンス優先型にすると,本日議論になったみたいに,その条件が様々な形で問題になってしまうので,かえって問題なのではないかというふうに考えてはいるのですけれども,今後の議論が,もしライセンス優先型を採用する方向に行くのであれば,実際のところ,権利者団体が具体的にどういうライセンススキームを用意することになるのかということは当然問題になってきますし,また,権利制限を覆すことを正当化するほどの合理的で簡便なスキームというのが提供できるというのであれば,やはりその具体的なイメージが共有された方が,こちらの小委での審議にも資すると思いますので,そのような意味で,現在行われている関係者協議というものは重要になってくるかと思いますし,そこで有意義な議論が行われることを期待していきたいと考えております。
 以上です。

【土肥主査】河村委員,どうぞ。

【河村委員】済みません。きょうの御議論を聞いていて,一言感想を述べさせていただきたいのですけれども,一つの懸念として,教育の現場で安くて使いやすいスキームで,文句を言われない簡単なところから手に入れるということが日本全国で行われるようになると,そういうシステムを提供しているものに利用が集中し,教育の現場で資料となるものが均質化していくのではないかと。そのことを私は懸念として申し上げたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。そういう簡単なところからというようなモラルハザードがないような,そういうきちんとしたライセンススキームというものを期待したいと思っております。
 それで,本日は,時間が来てしまいましたので,このくらいにしたいと思っております。
 事務局の連絡事項がございましたら,お願いをいたします。

【秋山著作権課長補佐】次回の小委員会につきましては,改めて日程の調整をした上で御連絡したいと思います。本日はどうもありがとうございました。

【土肥主査】それでは,本日は,これで第2回の法制・基本問題小委員会を終わらせていただきます。本日は御議論,ありがとうございました。

―― 了 ――

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