文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第5回)

日時:平成29年2月10日(金)
10:00~12:00
場所:東海大学校友会館朝日の間・東海の間・三保の間

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)リーチサイトへの対応について
    2. (2)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料
リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為に関する論点(案)(100KB)
参考資料1
法制・基本問題小委員会(第4回)における意見の概要(リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為について)(94.8KB)
参考資料2
リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型(373KB)
 
出席者名簿(45.8KB)

議事内容

【土肥主査】おはようございます。ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第5回を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。

初めに,本日の議事の進め方について確認をしておきたいと思います。本日の議事は,(1)リーチサイトへの対応について,(2)その他となっております。

議事に入ります前に,本日の会議の公開についてですけれども,この予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方には,そのまま傍聴いただくことといたします。

それから,初めに,前回の開催以降,事務局におきまして人事異動があったようでございますので,この点の御報告をお願いいたします。

【小林著作権調査官】事務局の人事異動を御報告申し上げます。1月13付で文化庁長官官房審議官として永山裕二が着任しております。

【永山長官官房審議官】永山です。どうぞよろしくお願いいたします。

【小林著作権調査官】著作権課長として水田功が着任しております。

【水田著作権課長】水田でございます。よろしくお願いします。

【土肥主査】よろしくお願いいたします。

それでは,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【小林著作権調査官】それでは,配布資料の確認をさせていただきます。議事次第の下半分をごらんください。まず,資料としまして,「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為に関する論点(案)」をお配りしております。また,資料のほかに参考資料1としまして,前回の法制・基本問題小委員会(第4回)における意見の概要,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為についてまとめたものをお配りしております。また,参考資料2としまして,「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型」と題するものをお配りしております。こちらは前回の小委員会で資料としてお配りしたものと同じ内容でございます。適宜,御参考いただければと思います。

配布資料は以上でございます。落丁等ございます場合は,お近くの事務局員までお知らせください。

【土肥主査】ありがとうございました。

では,今回事務局において設定いただいておりますところの資料に基づく論点ですね。この論点に沿いまして議論をしていきたいと,このように思っております。

資料1を拝見いたしますと,論点1,2,3と3点ございます。この順で進みたいと思いますけれども,まず,論点1ですが,これは対応すべき悪質な行為とは何なのか。どのような要素によってこの悪質性を捉えるべきかということでございましょう。

例といたしまして,行為の客観的な要素,それから主観的な要素,そしてリンク先の侵害コンテンツ,客体といいましょうか,そういった視点が挙げられておるところでございますけれども,この例で挙げられておるものに限らず,これらの点について御意見を頂戴したいと思います。まずは対応すべき悪質な行為をどういうファクターで捉えたらよろしいのかという……。すみません。

前回から現行法との関係について,リーチサイトの問題に関しては議論を頂いておるところでございまして,先ほど事務局において,本日の配布資料について説明ございましたけれども,その中において,本日の委員会において検討していただくべき論点というものが整理されておるところでございます。その整理されておる論点を読んでしまったものですから,要するに論点の御紹介をしていただく機会を飛ばしてしまいました。すみません,小林調査官において準備をされておったと思いますけれども,これをまず御紹介いただけますでしょうか。

【小林著作権調査官】ありがとうございます。それでは,論点について御説明させていただきます。お手元に資料,「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為に関する論点(案)」を御用意ください。論点としましては,本日3点を示させていただいております。

まず,論点1といたしまして,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為のうち,対応すべき悪質な行為とは,どのような行為か。どのような要素により悪質性を捉えるべきかについて御議論いただければと思います。この論点は,前回頂いた御意見としまして,悪いものに絞って議論すべきであるといった御趣旨の御意見や,悪質であるものとそうでないものの線引きが必要との御意見などを踏まえまして,まずは今後議論を行うべき悪質な行為とは何かを捉えるというものの趣旨の論点でございます。

囲い枠の下に例といたしまして,前回までに頂いた御意見を踏まえ,(1)から(3)の要素を挙げております。まず,(1)行為の客観的要素として,侵害コンテンツへのリンク情報を,サイトに掲載又はアプリを介して提供する行為と捉える御意見。また,侵害コンテンツへのリンクを多数掲載したサイトを運営する行為と捉える御意見が考えられるところでございます。

また,(2)主観的要素として,情を知って,営利目的,それから違法コンテンツの拡散を助長する目的という要素を入れるという御意見が考えられるところでございます。

それから,(3)リンク先の侵害コンテンツとして,有償著作物等のデッドコピーに限定すべきという御意見が考えられるところでございます。

いずれも例として挙げたものでございますので,(1)から(3)の要素に限らず,広く御意見を頂ければと思います。

次のページに参ります。次に,論点2といたしまして,対応すべき悪質な行為は,現行法との関係において,権利の保護が十分になされているといえるか。仮に,権利の保護が十分になされているといえないと考えられる場合は,どのような対応をすべきかについて御議論いただければと思います。

この論点につきましても,前回頂いた御意見を踏まえて例を示しております。例えば,現行法上,刑事罰との関係では,事実上立証が困難であり,保護が十分になされているとはいえない。現行法上,差止請求は困難であり,保護が十分になされているとはいえないなどの御意見が考えられるところでございます。

次に,論点3に参ります。論点3といたしましては,間接侵害(幇助)一般に係る議論に先行して,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為への対応を検討することについてどのように考えるかについて御議論いただければと思います。

この論点でございますが,囲い枠下の参考として,平成24年度の「「間接侵害」等に係る課題について(検討経過)」の抜粋に記載しておりますとおり,法制問題小委員会の報告書では,リーチサイトを差止請求の対象とすべきかどうかの問題については,「間接侵害に係る議論とも密接に関係することから,当該議論の進捗も踏まえつつ検討することが適当である。」とされておりました。このことから,リーチサイトへの対応について,間接侵害の一般の議論よりも先行して議論することについて御意見を頂きたいという趣旨のものでございます。

論点の説明は以上となります。御議論のほどよろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。今,説明がございましたとおりです。順に検討してまいりたいと思っております。論点1ですけれども,これ,御紹介があったように,対応すべき悪質な行為をどのように捉えるのか,どういう要素をもって切り取るのか,このあたりのところだろうと思います。御紹介ありましたように,例は挙がっておりますけれども,これに限定するものではないということでございますので,広く御意見を頂戴できればと思います。どうぞ。

前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】リーチサイトなど提供する行為がなぜ違法とされなければならないのかというと,そういった行為が侵害コンテンツを公衆送信するという結果に対して,因果的に寄与しているからということだと思うんですね。そうすると,まず,最初に見なければいけないのが,その行為がそういった結果に対して,どれぐらい危険性のある行為なのかということだと思います。そういう違法な結果に対して,少しでも因果性があれば,あるいは少しでも容易にするということに寄与していれば,最終的な結論として違法とする余地があることになります。けれども,違法性の程度というのは段階があるわけなので,それはきちんと評価しなければいけないと思います。

具体的に言えば,例えばリーチサイトの運営行為,若しくはリンク情報を張る行為といったもので,具体的にどれぐらい違法な送信が誘発されることになるのかということ見る必要があります。もしその程度が低い行為であれば違法とするべきではないかもしれないし,高い行為であれば,当然違法とするべきだということになると思います。

さらに,そこで誘発される送信の内容というものも問題になり得ると思います。資料の方に有償著作物等のデッドコピーに限るべきではないかというような意見が掲載されているかと思いますけれども,そういったものであれば著作権者に与える不利益というものは非常に大きいわけですので,抑止する必要性というのは非常に高いと言える一方で,そうでないものに対しては,そこまで抑止する必要性は高くないというふうに言えるのではないかと思います。

もう一つ,危険性の話と対抗してリンクを張る行為,若しくはリーチサイト等を運営する行為の目的というものを見る必要があるのかなと思います。つまり,いわゆるリーチサイトであれば,正当な目的というのはなかなか関連しにくいとは思いますが,物によってはそこに正当な目的が認められるものというのもあって,そういったものが規制の対象にならないように注意する必要があると思います。

具体的に言えば,リンクを提供したりする行為というのは,一般的に言って表現の自由で守られる可能性がある行為が含まれている場合もあると思います。例えば,先日グーグルの検索結果の提供に関する最高裁の決定がございましたけれども,あれは検索結果の提供は情報流通の基盤であって,表現の自由によって保護されるというふうに言っております。そういったものに対する制約がない形で規制をするようにする必要があると思います。

それと関連してですけれども,目的との関係で,実際に科される差止めや刑事罰が不相当なものにならないかというのを注意する必要があると思います。例えばですけれども,侵害コンテンツを提供する行為というのを差し止めたとして,それが仮に正当な目的もある行為だったとして,どういう制約が課されることになるのかと考えてみると,侵害コンテンツではなくて,適法コンテンツのリンクを張ればよかったじゃないかというふうに簡単に言えるようなものであれば,結果として課される制約というのはそんなに多くないということになるのかと思います。

一方で,それがなかなか難しくて,正当な目的もあるというケースだと差止めの対象若しくは刑事罰の対象にしていいかどうかというのは慎重に考える必要があると思います。さらに,刑事罰に関して言えば,先日も前回の委員会でも御指摘があったと思いますけれども,萎縮効果というものを考える必要があるので,そういう意味でも不相当な制約にならないように気を付ける必要があるのだろうというふうに思っております。

以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。非常に網羅的な論点を全て含めて御議論いただきましたけれども,奥邨委員,更にどうぞ。

【奥邨委員】今の前田委員の御発言に関連して,若しくは追加でということでお話ししたいと思いますけれども,今ちょうど1月31日のグーグルの最高裁の事件が出ておりましたけれども,問題となったのは,結局リンク行為そのものなわけです。もちろん検索結果の提供というのは,スニペットもありますけれども,実質的にはリンクであって,リンク先の記事内容も含めての議論だったわけであります。もちろん著作権の事案と全く一緒ではないんですが,しかし,リンクを提供する行為,検索結果として一貫してリンクを提供する行為について,最高裁は,それ自体が表現行為という側面を有する,プラス公衆がインターネット上に情報を発信したり,膨大な情報の中から必要なものを入手したりする現代社会において,インターネット上の情報流通基盤として大きな役割を果たしているというように位置付けているわけです。

この場では,もともとヒアリングの対象として,リーチサイトによって困っている方だけから意見を聞いておりますので,どうしてもリーチサイト,リンク行為自体が問題があるというところからスタートしてしまいますけれども,やはりそうではなくて,飽くまでもニュートラルであるべき,それどころか,極端に言えば,例の最高裁判決で言えば,利益衡量の際に,反対側の個人のプライバシーであるとか,人格権であるとかと,十分対応するものとして考えるべきレベルの重要なものだということを前提にしないといけないわけです。したがって,まず,ここの論点1で言えば,悪質なものに限るというのは,これは大前提であって,その悪質性というのも,今前田委員からあったように極めてレベルの高いものでないと問題があろうと思います。

それとの関係でもう一つ申し上げると,今前田委員からありましたリンクをすることによっても,正当なものと捉えられるものがあるのではないかということなんですが,具体例を1つ言えば,昔々は議論もあったと思うんですが,今はリンク行為自体が著作物の利用行為ではないということなので余り議論されませんけれども,一番最初,世の中にリンクが出てきたときは,あれは引用ではないのかということを議論したことがあったと思うんですね。リンクを利用して,著作権法上の引用ではないけれども,実質的に引用的な行為をしているということはたくさんあるわけです。

例えば,分かりやすい例としまして,インターネットに誰かが,パロディモンタージュ事件のあの雪山の写真のようなものを公開したとします。それについて判決が出て,判決が確定して,それは著作権侵害であると確定したとします。しかし,それでもそのホームページが何らかのかげんでそのまま残ったまま,掲載されたままになっているとします。その場合に,そのパロディモンタージュ写真について,例えば判決を検討するでもいいですし,パロディとしての出来を検討するでもいいですけど,何らかの批評や研究をするブログを立ち上げた人がいる。その人がその写真をそっくりコピーしてきて自分のブログの中に載せたら,それは今の著作権法では引用ということで,批評,研究の対象にしたのであれば,多分許されると思うんですね。ところが,取り込むのではなしに,この問題になっているパロディの写真については,こちらをリンクで飛んで見てくださいと言ってやった瞬間に,もし要件として情を知っていた,だけとしてしまうと,明らかに情を知っているわけですから,このリンクはアウトになりかねないわけです。実質的には引用として機能しているのにです。それどころか,リンクではなくてむしろ取り込みなさいというふうに著作権法が誘導するというのもおかしな話であるわけです。こういった次第ですから,今のは一例ですけれども,慎重に検討しないといけないものがたくさんあるんだろうと思います。

例に挙がっているような,デッドコピーのものへのリンクを多数掲載し,しかも何回も警告があるのに削除しないままに続けるというような場合については,例えば差止めを認める等々の対応はあって構わないと思うんですけれども,その前提となる個々のリンク等々に影響が及ばないように慎重に検討すべきだと思っております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

では,前田哲男委員,お願いします。

【前田(哲)委員】先ほどの前田健委員,あるいは奥邨委員からの御発言の中で,グーグルの事件が挙げられておりましたけれども,グーグルの事件では,もとのリンク先の記事を公表すること自体が違法かどうかということがまず問題になるケースではないかと思います。本件で議論しているのは,リンク先の行為が明らかに違法であるということを大前提として,かつ,情を知ってということを要件として,情を知ってを要件とするかどうか,それも議論の対象かもしれませんけれども,もとの公衆送信が違法であることをまず大前提とし,かつ,情を知ってということも要件とすることを議論しているわけですから,リンク先の記事が,それ自体適法かどうかが議論になるようなケースと,本件で議論しているケースとはもともと違う場面ではないかと思います。

それから,前回も議論がございましたけれども,もともと違法な公衆送信が存在するということを前提といたしますと,リンクを張ることはそれに対する幇助になり得るのであって,現在でも違法であるというものがあると思います。前田健委員の御発言では,今ここで議論するのはリンクやリーチサイトを違法とする範囲はいかんという問題であるという前提があったかと思うんですけれども,違法かどうかということで言えば,既に幇助として違法になるものがあるわけでありますから,ここで議論しているのは,そうではなくて,現行法のもとで幇助として違法なものかもしれないけれども,差止請求ができるかどうかが明確ではないので,差止請求ができる類型をどうするかという問題。あるいは刑事でいうと,主犯者を検挙しなくても,リーチサイトの提供行為自体を犯罪として摘発することができるようにするかどうかということが問題として設定されるべきであって,違法かどうかということについて言うと,情を知ってという要件を満たし,さらに,このペーパーにも書いていただいているように,違法コンテンツの拡散を助長する目的がある場合であれば,既に違法なのではないかと思います。

そして,もともと幇助として違法な範囲と,今回の法改正の議論で対象とすべき範囲は必ずしも一致する必要はないとは思いますし,また立法したからといって,もともと幇助として違法とされる範囲が縮小するというわけでもないと思いますので,今回は,差止請求ができる範囲はどの範囲か,あるいは主犯を検挙しないでもそれ自体犯罪として摘発できるようにすべき範囲はどの範囲かということを議論すればいいのではないかと私は思います。その観点から,私は,主観的要件において,情を知ってということと,違法コンテンツの拡散を助長する目的があることの2つを満たす場合には,差止請求等の対象にしてもいいのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,続けて大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】私も直前に発言された方と基本的には似たような印象を持っております。飽くまで,権利侵害が肯定されて,違法であることが大前提の議論であることは当然なので繰り返しません。このように,まずは,違法の問題ではなく,法的救済ないし法的効果の問題であります。権利侵害の幇助行為についての法的救済ないし法的効果としては,主要なものとしては損害賠償と差止めと刑事罰とあるわけであります。間接侵害で議論されていたのは差止めであって,私は一定の範囲の侵害幇助行為についても差止めの対象となると考えておりますが,これについては異論もあるものと承知しております。他方で,権利侵害の幇助行為について,損害賠償と刑事罰の対象となり得ること自体については,余り異論のないところと思います。Winny最判では故意を否定しただけで,侵害幇助罪の客体の部分は多数意見ですら肯定しているぐらいであります。このように,差止めは別とすれば,かなりの程度は現行の著作権法で賄われているところがあります。それを全く無視してゼロから議論して立法するというのではなく,現行法の基本的枠組みを前提とした上で考えるというところが重要なのであって,そこを落としてしまうと,議論が単なるゼロからの立法論ないし全くの政策論のようになってしまうという点が1点ございます。

その関係で言いますと,先ほどの引用的利用に関しては,リンクでの利用の仕方が引用的利用であれば,32条で適法になる可能性は十分あり得ると思います。

そしてまた,送信可能化の方はそれ自体で行為が済んでおりますので,済んだ行為の幇助というのは考え難いのでありますが,これとは異なり,送信行為についての幇助ということは否定し難いところがあるかと思います。そうすれば,個別の認定は別として,相当因果関係,過失などが肯定されれば,普通に幇助している範囲では損害賠償は一定程度取れるということになってきます。

それと1点だけ気になったのは,擬制侵害というのは魅力的であるのですけど,ある種危険なところがあります。擬制侵害というのは,現行法上,侵害ではないものを,法律の効果として侵害というように法的に擬制して変ずるものであります。すなわち,侵害としては,無を有に変ずるものであります。この点には注意を要します。そして,また,通常の侵害であれば,支分権該当かつ権利制限非該当という支分権と権利制限の組合せで侵害の結果が決せられるので,支分権だけでなく,権利制限の安全弁付きでありますが,擬制侵害では侵害成立の結果の決め打ちとなるので,大いに注意を要します。擬制侵害をゼロから立法するというときには,そこの点は十分に念頭に置く必要があると思います。また,前回申し上げた,侵害行為による作成された物の拡散行為という事後従犯的な話なのか,それとも送信等の幇助なのかという点はきちんと整理する必要があります。その上,また,一部の幇助犯を切り出して独立構成要件化した独立幇助犯も,事後従犯とは違う形で,擬制侵害の一つとなり得ますので,この点も含めて,各概念をきちんと分けて整理しないと議論が大きく混乱してしまうのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。このこの点,さらに,今,様々な御意見を頂戴しておるところでございますけれども,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】私もよく分かっていないんですが,まず,1点申し上げたいのは,今,著作権の議論をしているんですけれども,ほかの名誉毀損であるとか,プライバシーの分野でも全く同じようにリンクだけで差止めが認められるのかどうかということが一つ議論としてあると思うんですね。そちらとのバランスも考えないといけないのではないかなというふうに思います。

私,詳しくは見つけられていないんですが,去年の夏ごろに出た東京高裁のツイッターに関する発信者情報開示の事件では,名誉毀損のコンテンツに対するツイッター上のリンク行為について,東京高裁は,それは少なくとも発信者情報開示との関係で言えば,権利侵害に当たらないと言って発信者情報の開示は認めていないわけです。リンクというのは飽くまでも文字列であって,それ自体によって侵害行為が起こっているわけではないし,誘導していると言っても,リンク先の記事内容とは同視できないんだと言っています。ただ,これは発信者情報開示の条文との絡みもあるので,そっくりそのまま,この場の議論に適用できるのかどうか,ちょっと私はよく分からないんです。ただ,結局リーチサイトというのは個別のリンクの積み重ねの部分もありますので,著作権との関係で個別のリンクをどう評価するのかを考える際に,ほかの分野ではどうなんだろうかということは少し気になるところであります。

それから,もう一点は,これもプロバイダ責任制限法ができるころに議論されていた点だと思うんですが,余り詳しくはないんですが,プロバイダに対して損害賠償請求ができるというのは,削除する,若しくは送信停止する,民事上の義務があるのに,それを不作為でそのまま放置したということによる義務違反に対する損害賠償なんだろうと思うんですね。そのことと,少なくともそこから先一歩進んで差止めができるかということとは,イコールではなくてちょっと間があるという議論が昔あったような気がします。損害賠償すなわち不法行為法上幇助になるから,直ちに差押えになるということではなかったのではなかったかなと思います。したがって,その間に差があるとするならば,今回の差止めの議論するのでも,行為の悪質性等々でプラスアルファの要件を幾つか継ぎ足していくということは重要ではないかなというふうに思う次第であります。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

ほかにございますか。松田委員,お願いします。

【松田委員】悪質性の難しさの第一は,客観的要素をどう捉えるかです。このリーチサイトがリンクないしはアプリのいずれの方法であるにしても,もし100%侵害コンテンツに誘導するというサイトであれば,客観的要素として十分に悪質性はあるのですが,それ以外のものについては,実質的誘導を回避するために適法なコンテンツ誘導を入れるという侵害形態が考えられます。そうすると,この客観的要素は,100%に近ければ近いほど違法性が高いに決まっていますけれども,これを法律的な要件として実質的に誘導するとか,ないしは何%というようになかなか書けないところがあるのではないかというふうに思います。それはもう司法判断に任せるほかはないのだろうと思います。

Winnyの下級審で80%を実質的に違法なツールであるというような判断が出ている。これは立法的に客観的要素割合,パーセンテージで入れることはできないだろうと考えています。

主観的要素で絞り込むのは賛成であります。情を知って,それから営利目的,助長する目的は概要賛成です。営利目的と助長する目的はorでいいのだろうと思います。

リンク先のコンテンツの利用がデッドコピーであることが必要だということが一つ挙げられておりますけれども,これは著作権法概念の複製でいいのではないかと思っています。デッドコピーに限定しますと,これもまた,そのためにこれを回避する方法等を対処されて,実際上,立法化する意味がなくなるというふうに思っているからです。

【土肥主査】ありがとうございました。上野委員,どうぞ。

【上野委員】ありがとうございます。論点1は,「対応すべき悪質な行為とは,どのような行為か」とありますので,結果として違法とされるべき行為というのはどういうものなのかという問題設定になるかと思うのですけれども,様々なリーチサイト等やリンクがある中で,これはさすがに異論なく違法とされるべきだという「黒」の部分を明らかにすることはできると思いますし,また,これぐらいは許されるべきだということに異論のない「白」であるべき部分を明らかにすることもできると思うのですけれども,その中間的なところについては,結論として違法とすべきかどうかという点については,現時点ではなかなか見解が一致しないように思われます。従いまして,どこまでが白で,どこからが黒になるという境界線を明らかにすることは,現時点では難しいのではないかというふうな印象を持っております。この問題はヨーロッパでも大きな議論になっておりますが,結論が出ていない状況であります。

例えば,一般のユーザーが,非営利で,しかし侵害サイトであることを知りながら,そのサイトのリンクをインターネット上でつぶやくということが広く見られます。これについても,一方では,現行法上,そのようなつぶやきは既に幇助罪が成立する行為なのだという考えもあるかもしれません。といいますのも,幇助罪が成立するためには認識・認容が必要になると言いましても,これはかなり緩やかに認められると考えられますし,そして,違法なコンテンツの拡散を助長する目的が必要となると言いましても,これも比較的緩やかに認められてしまうような気もしますので,だといたしますと,いま現実に,一般ユーザーがツイッターでつぶやいている侵害サイトへのリンクが,多くの場合,既に著作権侵害の幇助罪に当たっている状態にあると理解することになってしまいますけれども,本当にそのように考えてよいのか,ということは私自身も気になっているところでありますし,おそらく意見が分かれるところではないかというふうに思います。

とはいえ,この議論はもうかなり長い間やっているにもかかわらず法改正ができておりませんし,かといって現時点で白黒の基準をはっきりさせることは難しい以上,特に真っ黒の部分といいましょうか,ここは違法とすることに異論がないという行為に限って,つまり,単に悪質というのではなく「特に悪質」な行為について,一定の制度的対応を図るものとしつつ,それ以外の部分は引き続き解釈に委ねる,というのも一つのアイデアになるのではないかと思います。もちろん,黒と定めた以外は白だというふうに反対解釈されかねないということが問題になり得るかもしれないのですけれども,現段階で白と黒を明確にすることが難しいようであれば,今回は黒の部分を明確にするにとどめるのが無難かと思いますし,それだけでも,刑事罰や差止請求の観点からすれば,実際的な効果はかなり高いと思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

ほかにございますか。じゃ,先に森田委員から。

【森田委員】今まで出された意見と若干重なりますけれども,一つは,前提についての確認です。この資料の(1)の行為の客観的要素というのは,対象たる行為を違法であると判断するときに,どういう客観的要素で絞りを掛けていくかという観点から示されたものだと思いますが,いままで出された議論の前提は,いずれも対象たる行為それ自体はリンク行為であり,その削除を求めるということであって,リーチサイトそのものの閉鎖というのを対象行為として捉えているわけではないというふうに私は理解しましたが,対象行為というのは何なのかについて,どこかで確認していく必要があると思います。

私自身は,対象となる行為を広げて捉えれば,サイトそのものの閉鎖というのをみなし侵害で認めるという考え方もあり得るかもしれませんが,サイトにはいろいろな適法なものも含まれてくるわけですから,それはハードルがかなり高いと思いますので,対象行為はリンクを通じた誘導行為というところに,差し当たり限定して議論した方が生産的であろうと思います。

次に,民法の一般原則との関係で,およそ幇助行為がどういう場合に違法になるのかを考えるときには,客観的要素と主観的要素の双方で絞りを掛けていくことが必要になると思いますが,ただ,その絞りの掛け方がどういうものかということについては,論者によって意見が異なり得るというのがここでの議論の大前提であろうと思います。

それから,論点3にも関係しますけれども,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為がおよそ違法になるかどうかというのは,間接侵害一般の議論とも関わるところであり,それについては一定の議論の蓄積がありますが,しかし,近い将来,間接侵害について法改正がなされるという見込みは立っておりませんので,そちらの解決をまってから対応するということでは遅過ぎるということもここでの大前提であろうと思います。

そうだとしますと,白か黒かの線引きをするというのは一般法の解釈の問題でありますが,それは将来の課題として位置づけるべきであって,ここで議論すべきは,違法なものとされる中で,なお緊急性が高いといいますか,急いでそれを対象として差止めを認めないと著作権者の利益を害することが著しいといえるような行為類型を明確に取り出して,それだけを対象とするということであって,そのような前提に立ってどのような対象行為を取り出すかというその判断要素を議論していくという方向が生産的ではないかと思います。およそ白か黒かという議論に入りますと,これは間接侵害一般の問題になってしまいますので,その議論をやっていくと際限がないおそれがあります。

そこで,どのような要素によって対象行為を絞り込むかという点ですが,民法の一般法によっても,主観的要素として「情を知って」というだけで違法になるかというと,そういう考え方を示された方は今までおられなかったのではないかと思います。「情を知って」という要件で考えますと,例えば,これは違法サイトであるから利用するなというのも,「情を知って」違法なサイトの情報を提供しているわけですから,これも違法になってしまいますが,それは適切ではないと思います。幇助というのは,違法行為を助長する目的といったような主観的な要素で絞りを掛けないと違法にならないというのが一般法の解釈だろうと思いますので,この資料の(3)の主観的要素の中で,1つ目の「情を知って」というのと,3つ目の「違法コンテンツの拡散を助長する目的」というのは必須の要素であって,更に絞りを掛けるときに「営利目的」というのを考慮するかどうかというあたりが問題となるのではないかと思います。この点については,特に悪質性が高い行為を明確にくくり出すことに関しては,TPP協定への対応において著作権侵害罪の一部非親告罪化との関係で,故意により商業的規模で行われるものに限定するといったような議論をしましたが,ここでもそのような工夫をして一定の違法性の高い範囲を絞り込むという知恵はいろいろ出せるのではないかと思います。

さらに,これまで出ていなかった点ですが,対象行為を絞り込む上で主観的要素が必須だとしますと,その立証が必要になってくるわけですが,実際上,主観的要素を直接に立証することはなかなか難しいところがあります。法律に要件は規定したけれども,その立証が難しくて実際には使いにくいということでは実効性がないわけですから,主観的要素の立証を軽減する工夫をすべきではないかと思っています。この点については,この小委員会の場で以前議論したときにも申し上げたことでありますが,プロセス的な要素を織り込むということが一つの方法ではないかと思います。例えば,権利者が違法サイトだということでサイトの運営者に削除を要請する通告をしたけれども,それでもなかなか削除に応じないといったような一連の行為態様をもって,それは侵害行為を助長する目的があるというふうに評価して差止請求を認めるということが考えられます。この種の発想というのは,プロバイダ責任制限法の場合にもみられる発想であって,先ほど奥邨委員が指摘された差止請求と損害賠償請求との関係でいきますと,客観的には侵害行為であって,差止めの対象であるとしても,プロバイダが違法であることを知らないでいるうちは損害賠償請求ができないので,何らの措置をとらなくても責任を問われないということになりますが,権利者がnoticeをして当該情報が違法であるということを知ると,そこから損害賠償請求の対象になりますので,それによって削除請求に対応しなければならなくなるということであります。このように一定の手続的なプロセスを経ることによって主観的要素の問題を解決するというのは,ほかでもそのモデルがあるところですが,ここでも実際上に問題となるのは,権利者ないし権利者団体,がリーチサイトに対して一定の措置をとった上で,それでもらちが明かない相手に対して実効的な手段を用意してほしいということだとしますと,例えば,その外形から営利目的であると判断されるようなサイトに対して,一定の手順を踏めば,侵害行為を助長する目的があるというふうに推定されるといったように,プロセスとの関係で対象行為を絞り込んでいくことが一つ考えられるのではないかと思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

それじゃ,前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】今の森田委員の話の中で,サイトの運営行為も対象に含めるのかというお話がありましたので,ちょっとそこにまず先にコメントさせていただきます。私はそういったものも今回の規制の対象として,当然検討の対象になっているものと理解しておりました。もちろん,単純にリンクを張る行為とサイトを運営する行為とでは要件が異なるということはあるのかもしれませんけれども,違法性の程度という観点から言えば,侵害行為を助長する程度はサイトの運営の方が高いということもあり得るのかと思いますので,検討の対象にしてもいいのかと思います。

ここで検討していることは何かという話が先ほどありましたけれども,現行法の下,多くのリーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為を,不法行為法上違法にできるということは半ば前提になっているのかなと思います。その上で,差止めや刑事罰の対象をどのように絞っていくべきかというお話をしているものと理解しております。

どこで線を引くのか難しいというお話が先ほど来あって,プロセス的なところでうまく線を引いていくというようなお話も今出たところでございます。差止めと刑事罰があったときに,私は両方同じに考える必要はないのではないのかなと個人的には思っております。例えば,刑事罰については,皆が違法であると異論なく認められるような行為のみについて科すということにしつつ,差止めについては柔軟に,より実効性が高まるよう,ある程度裁判所の判断に委ねていくというようなこともあり得るのではないかと思います。これは現行法の解釈としてできるのかと言われると多分難しいんだと,というか無理なんだと思うんですけれども,立法論の話になってしまうのかもしれませんが,考え方としてはそういうこともあり得るのかなというふうに思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。松田委員,どうぞ。

【松田委員】今,リンクとサイトの対応の違いについて考慮すべきだという意見がお二方から出たわけであります。そこにおけるリンクというのは,ペーパー1で,1ページで示されているリンク情報と,それからアプリによる提供と,この2つを含む意味なんだろうというふうに聞いておりましたが,それでよろしいでしょうか。

それとは別に,全体としてのサイトの運営という概念として出てきております。少なくとも差止めを前提にして,この業態を止めるということをもし法制化するとするならば,サイト運営それ自体について言及する必要はないのではないかと思います。飽くまでもリンク情報の提供とアプリを介した提供,これが差し止められるようにしておけばいいのではないかと思います。

どうしてかといいますと,サイト全体というのは,それ以外の行為もあるかもしれないからであります。そして,サイトを止めなければ,今言ったリンク等についての業務を実質的に止められないというのであれば,それは112条の第2項のその他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができるのですから,このその他の判断を司法判断でしてもらえばいいのでないかというふうに思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに御意見ございますか。長谷川委員,どうぞ。

【長谷川委員】今,司法判断の話が出たので,念のためですけれども,差止めを認めるかどうか自体は政策判断になりますので,それ自体については裁判所として云々言うまではないと思うんですけれども,ただ,権利者側の要請その他について,実際に差止めの必要性があるんだという,そういう立法事実があるのであれば,きちんとした条文化してほしいと。つまり,大渕先生のような御意見もあるんですけれども,そもそも差止めができるかどうかというところが裁判で論点になっちゃうと,そこでまた時間が掛かっちゃうということがあるので,そこはきちんと条文化してほしいなというところです。

それから,じゃあ差止めの対象範囲ですよね。リンクを張ること自体の差止めなのか,それともサイトの運営自体の差止めかというのは,これは一般の書籍でいうと,本1冊のうちのほんの一部分だけに著作権侵害がある場合に,本1冊の出版を差し止められるかという議論と似たようなところはあるかと思うんですが,多分事実上は,今裁判例としてはそういう一部に違法な部分がある場合でも1冊全部の差止めを,事案によってですけれども,認めているという例もあるので,そこも,もし条文に書けるならきちんと書けるにこしたことはないでしょうけれども,そこのところ,裁判の入り口のところで争いにならないように,なるべく要件はきちんと書いていただけたらなというところでございます。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにございますか。井上委員。

【井上委員】今の差止めの対象のところでございますけれども,サイト自体を閉鎖させることは過剰差止めの問題が生じますので,リンク行為を前提に考えるべきだと考えております。

今回のペーパーで行為の客観的な要素の箇所には,侵害コンテンツへのリンクを多数掲載したといった,サイトの中での違法コンテンツの量みたいなものを考慮要素としていますが,この要素は,主観的な要素を判断する際に違法コンテンツの拡散を助長する目的を裏付ける事実のひとつとして考慮をすればいいと考えます。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほぼ御意見を頂戴したいのかなと思いますが,よろしいですか。

【奥邨委員】1点だけ。

【土肥主査】じゃ,お願いします。

【奥邨委員】私,実務的なことよく分からないんですが,現在の状態なんです。先ほどから,リンクを張る行為自体が幇助になるという前提での議論だと思うんですが,だとすれば,リンクを張った人に対する損害賠償請求は実際にはあるのでしょうか。それからまた,例えばリンクが書き込まれている掲示板の運営者とか,リンクを張った人のホームページが存在するサーバーを運営しているプロバイダに対しても,落とさない,送信停止をしないのであれば,損害賠償請求がプロバイダ責任制限法に照らしてもできると思うんですけれども,それは無理なのでしょうか。実際にはやられていないんでしょうか。何か障害あるのでしょうか。

そもそも,現状,損害賠償はどの程度できるのでしょうか。逆に言えば,プロバイダ責任制限法は差止めについては何も言っていませんが,損害賠償請求がなされることについて,できるだけ忌避するためにプロバイダや運営者は自分で自主的に問題サイトや問題情報を落としていくというシステムになっているわけですから,それがどの程度機能しているのかによっても,差止めや刑事罰やという次の厳しい手段に行くかどうかというところは変わってくると思うんです。それが今,何によってうまく機能していないのか。いや,機能はしているんだけど,もっと追加で対応策が欲しいんだという話なのか。ちょっとその辺の事実関係がよく分からなくて,とりあえずリーチサイトで困っていますというだけでは,何が適切なのかというところ,今度こっちの対策のリーチ(reach)ですね。どこまで届くのか,届かせるべきかというところでちょっと迷うなと思うんですが,その辺はどうなんでしょうか。どなたか事務局でも,若しくは実務されている先生でも何か情報があれば教えていただければ助かるなと思う次第であります。

【土肥主査】今,奥邨委員がお尋ねになったところについていかがでしょうか。つまり,幇助について,リンクを張るという行為が幇助であるということが認められるということですけれども,その場合の損害賠償が機能しているのかどうか。この点どなたか詳しい方は。それと同時に,プロバイダについてもお尋ねでしたけれども,まずはリンクを張る行為に関してどなたか。法論理的には,損害賠償請求は当然できるんだろうと思うんですけれども,実際的に機能しているかどうかというところ。松田委員,お願いします。

【松田委員】少なくとも私の経験しているところでは,1コンテンツが著作権に基づいて損害賠償の事例はないというふうに理解しております。なぜないかということですが,現行法上リーチサイトを幇助として,そして損害賠償請求を立てるということは理論的に十分にあり得ることだろうと思います。しかしながら,この場合にはどのコンテンツが幾つ侵害になったかということを立証しなければならないわけです。そして,立証されたとしても,極めて小さな金額になるはずであります。ということは,実質上,この現行法上の損害賠償における幇助による立論は実効性がないということになるからです。

【土肥主査】今,松田委員がお答えいただいたように,だからこそニーズとして関係者団体がこういう幇助に関する損害賠償を超えて差止めなり刑事罰,そういったことをお求めになっているんだろうと,そういうふうに理解しておりましたけれども。

【奥邨委員】それはよく分かるんですが,そうであれば,それを放置しているということであれば,プロバイダに対して損害賠償請求をすれば,プロバイダとしては,それはそのまま放置しておくと損害賠償をしないといけない。つまり,違法な行為をしているということになりますから,プロバイダ責任制限法の仕組みからも,本来はコンプライアンスを考えても,落としていく削除していくという方向になるので,実際問題は,差止めできる仕組みを認めなくても,ある程度は落とす削除するということを,プロバイダレベルではやってくれるんじゃないかなと思うんですが,それはも実際問題としてあるんじゃないでしょうか。そうすると,差止めの必要性というのが,どの程度法律で制度として認めなきゃいけないのかというところがあるような気もするんです。個人の運営者はもちろん難しいと思うんですが,法人のプロバイダであるとか,検索エンジンとかいうちゃんとした会社に対して,「こうなっているので落としてください」と言ったら,「いや,落とせません」という話になるのか,それとも,法律上はそうかもしれないけれども,実質上落とせないんだという話になるのか。ちょっとそこが少し疑問があるんですが,何か私の理解が間違っているのであれば教えていただければと思います。

【土肥主査】森田委員,どうぞ。

【森田委員】今,プロバイダとおっしゃったのは,リーチサイト運営者に対してホスティングサービスを提供しているプロバイダということでしょうか。

【奥邨委員】もありますし,リーチサイトだけ。例えばここに出ている掲示板があって,そこに大量にリンクを載せていくと言えば,掲示板の運営者も,プロバイダ責任制限法上はプロバイダだと思いますけれども,例えばそれをした方が分かりやすいかと思います。

【森田委員】分かりました。問題は,一般法上,リーチサイト等による誘導が幇助行為に当たれば,少なくとも違法であって損害賠償請求はできるということは異論がないとして,それではどのような要件で,どのような場合に幇助になるかというところの評価が現在は難しいという点が問題なのではないかと思います。プロバイダ責任制限法によればプロバイダは当該情報が違法であることを知っているか,知ることができたと認めるに足りる相当の理由があることが要件となりますが,対象行為そのものが違法かどうかということについて明確な判断ができなければ,プロバイダとしては削除するわけにいかないので,仮にプロバイダ責任制限法上の対応を求めるとしても,幇助の中でその行為が違法であるとプロバイダが明確に判断できるような類型をくくり出すということがあって,初めて今のプロバイダ責任制限法にものるのではないかと思います。したがって,幇助そのもの,つまり,本来幇助として違法である行為を超えて,みなし侵害として違法とするという要素も部分的にはあると思いますが,ここでの検討の主たる対象は,一般法上幇助とされる行為の中で,ここで早急に対処すべき行為をどういうふうにくくり出すかであって,そのさいに第三者であるプロバイダが明確に判断できるような形で対象行為をくくり出すいう点が,実効性を確保する上でも重要ではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

大渕委員,この点,お願いします。

【大渕主査代理】現行法でも,個別の判断というのは常に問題になり得るので,全部立法で細かく決め切ることはできないわけですけど,刑法や民法でいうような幇助行為があるのであれば,行為過失があれば損害賠償を取れるという点は,ほぼ異論もないところかと思います。その話をしているのか,差止めの話をしているのか,また刑事罰の話をしているのかが少なからず混乱している感じがあります。その上,前に出たような擬制侵害ということになりますと,また,全然違う話になってきます。今の議論は,違法である,現行法上権利侵害があることを前提として幇助行為を理由に損害賠償が取れるか,差止めができるか,刑事罰が科されるかという法的効果の話なのですが,擬制侵害ということになると,別途の,また新たな独立の構成要件の問題となってきます。そこで,これらの別の点の議論を混ぜないようにする必要があると思います。

それから,もともと日本の知的財産法の場合には,まずは差止めという点が中核であります。ところが,アメリカ法の場合には別で,原則がコモン・ロー上の金銭賠償で,例外的にエクイティ(衡平法)上のインジャンクション(差止め)等となっていますが,これは日本法の基本構造と大きく異なりますので,日本法としては,その考え方に引きずられないように注意する必要があると思います。日本やドイツでは逆であり,まずは差止めが中心であります。損害賠償できるから差止めは要らないのではないかというのはアメリカ法的議論であって,日本法の議論ではありません。

損害賠償と差止めというのは機能が別ですので,損害賠償できれば差止めは要らないというものでは決してありません。差止めには差止めの固有の必要性も要件もありますので,混同しないようにする必要があります。この意味では,権利侵害かどうかというのは大本であるのですが,差止めと損害賠償を混ぜずにきちんと議論した方がよいのではないかと思っております。

それから,もう一点だけ。そもそもここは間接侵害という議論がずっとあって,まさしく幇助者に対する差止めの可否という論点であります。我が国では伝統的に直接侵害者限定ドグマというドグマが強かったので,一律に幇助者に対しては差止めができないという説も強いのですが,私は,そのようなドグマは法的根拠に欠けるものにすぎず,一定範囲では幇助者に対しても差止めができると考えております。ちなみに,ドイツなどでは当然のように幇助に対して差止めができるとされています。ただ,このような一般論とは別に,リーチサイトにできるのかというと必ずしもそうではない。私の論文を読んでいただければお分かりのとおり,日本版寄与侵害というのがそこに当たるのですけど,民法の通説的見解として,一般的に物権的請求権の相手方の議論のところで,自ら妨害行為,侵害行為をしなくても,侵害・妨害の事実を支配内に収めており,これを除去できる立場にある者は物権的請求権の相手方となるとされていますが,この考え方は,物権類似の排他権である著作権についてのここでの問題にも当てはまると考えられます。私は,幇助の中でも垂直型幇助,すなわち,侵害を支配下に収めており,それを除去できる,侵害自体を除去できる者という限りに収めておくのが民法とのバランス上も穏当ではないかと考えています。それからすると,リーチサイト運営者というのは物権的請求権の相手方ではないこととなります。蔵置サイト運営者の方はまさしくそれに当たって,蔵置サイトにあるものを切ってしまえば,侵害自体を止めることができます。しかし,リーチサイトの場合には,他者がやっている侵害行為自体を止めることができなくて,そこに誘導しているだけなので,垂直型ではなくて水平型になってきます。私はこのような水平型の差止めは,現行法では容易ではないので,これを認めるのなら立法論となろうというように申し上げている次第です。幇助一般についての差止めの可否とリンクについての差止めの可否というのは,混同せずにきちんと区別して議論する必要があると思っています。

【土肥主査】末吉委員,どうぞ。

【末吉委員】ありがとうございます。私の理解では,ここまでこの小委員会で議論され,かつ,いろいろ情報を教えていただいた成果によれば,このリーチサイトについてはいろいろな手段を施してはいるけれども,一向に抑止力が働かないと。そこで先生方が御指摘されているとおり,差止請求権と刑事罰についても検討してもらえないかというのが到達点ではなかったかと思います。

それから,資料の1ページ目の論点1のまとめは非常によくできていて,(1)の行為の客観的要素のところの2つ目のポツ,これはサイト運営者を指しているのではないかと理解しています。先ほど御指摘もあったんですが,わざわざリンクを多数掲載したとの限定を付けて,つまり,何らかの限定を付ければ,サイト型のサイト運営者についても行為対象者と捉えることはできないかという問題提起というふうに理解しました。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

更に御意見ございますでしょうか。井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】ちょっと話が戻ってしまうんですが,先ほどの奥邨委員の疑問に対してなんですけれども,実際にプロバイダが対処しないケースというのは結構多いですけれども,プライバシー侵害とか名誉毀損とかの場合もありますが,そういった場合に,実際にやってみますと,削除請求というのはなかなかハードルが高くて,実体法上どのように侵害しているのかというのを一々説明しなければいけないわけです。そうするとリーチサイトの場合,実体法上侵害しているのかどうかということ自体がそもそも明らかではなくて,先ほど森田委員が言われたように,やはりどういう要件で差止めができるのかということをはっきりさせなくてはいけないと思います。実際にリーチサイトについて,プロバイダ責任制限法で認められた例は恐らくないのではないかと思いますし,そういった状況ですと,損害賠償請求される危険があるからといってプロバイダの方が対処していくという可能性はほとんど期待できないのではないかと考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。いずれにしましても,プロバイダに削除請求をするということでプロバイダに違法性の判断を委ねるということでは限界があるということであろうと思います。プロバイダの中にも様々な方々がおいでになるというところから,今回は著作権者の側からリンク行為そのものについて法的な仕組みをと,直接請求できるような仕組みをということなんだろうと思います。リンク行為そのものを対象にするのか,あるいはサイトも含めた形で対象にするのかというところが少し分かれているんですけれども,このペーパーは,タイトルの方はリンク行為そのものかなということなんですが,誘導行為に関する論点ということですので,しかし,内容的にはサイトの運営行為,そういったものも含めてこういう論点を作っていただいておりますので,そのあたりは両方,リンク行為のみならず,そういう多数の違法なコンテンツを掲載したサイトを運営するような行為も含めての議論だし,また,少なくとも関係者のヒアリングではそういうことをお求めになっていたものと理解をしておるところでございます。

従いまして,分けるべきであるというふうな御意見ももちろんあったわけでございますが,ここのところは両方を対象にするということに御異論ございますか。あるいは誘導行為そのものに限って,リンクやアプリの提供行為に限って議論すべきであるのか。

松田委員,お願いします。

【松田委員】私の意見は,先ほど述べたところと同じです。リンクとサイトの運営,なぜサイトの運営にずばっと行かないのかということは,この問題の背景にあるのは,他の言論に対する萎縮が生じないようにするということが,議論のどこかにあるからです。著作権法上の差止めというのは,著作物それ自体が言論である場合が多々あるわけですが,その運営すること自体によって,言論それ自体を流通させるという機能もあることはあるわけです。そうすると,具体的にこのリンクが張られたので侵害に至ったということを示して,次の改正されるであろう効果に結び付けるのはいいとしても,それを,そのリンクがあるから,その運営自体を止めなさいということまで著作権法でしてしまうかということについては,どうしても言論の萎縮が生じるのではないかという危惧があるからです。明確に答えられないのは残念でありますが,私がリンクとサイト運営を分けるところの理由はそこにあります。

【土肥主査】ありがとうございます。立法技術的な問題,それから表現の自由との関係,松田委員の御意見,理解しておるところでございます。また,御意見の中には112条のその他侵害の停止又は予防に必要な措置の中で考えるという,そういう御意見もあったようにも思います。

茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】確認させていただきたいのですが,先ほど土肥先生がおっしゃったことについて,私もそのとおりと理解していたのですが,ただ,この資料のタイトルが「リーチサイト等による」となっていまして,このタイトルからは,対象は違法コンテンツへのリンクが多数張られている場合という印象がします。しかしながら,対象はそのような場合に限られなくて,むしろ問題は個々のリンクそのものであり,個々の違法コンテンツへのリンクであろうと思っていました。ですから,「リーチサイト等による」というのは基本的に余り意味がないものと思っておりました。

そうだとしますと,先ほど井上委員もおっしゃっていたのですが,違法コンテンツへのリンクを多数張られているというのは,主観的要素を判断する事情として取り扱われるのではないかと思っております。ですから,基本的には,議論すべきであるのはリンクそのものの問題であって,サイトの運営というのは従たる論点ではないかと思います。また,その論点を含むかどうか自体も論点になっているのではないかと思っています。私はこのように理解しており,先ほど主査がおっしゃったとおりと思っているのですが,本当にそれでよろしいのでしょうか。タイトルからはちょっとずれたようなことになっているのですけれども,そのような理解で正しいかどうかを確認させていただきたいと思います。

【土肥主査】この点の確認は小林調査官に説明していただいた方がいいかなと思いますので。

【小林著作権調査官】タイトルにつきましては,この問題点の分かりやすさを重視して付けたものであり,運営する行為,リンクを張る行為,どちらにも読めるように書いたのですが,それが伝わってなかった部分は大変恐縮です。

事務局としては,運営する行為とリンクを張る行為のどちらの行為を対象とするのか,若しくは両方の行為を対象にするのかという問題は非常に重要と認識しておりますので,今回,どちらかに決めるというよりは,本日の御意見を踏まえまして,論点を整理させていただきまして,また改めて先生方に議論いただければと思っております。

よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございます。事務局から救いの手が差し伸べられまして,この点は次の議論の対象にさせていただきたいと思いますが,大渕委員,何かこの点。

【大渕主査代理】私は,この「等」というのは,単純に,リーチサイト以外に,リーチアプリも入るということなので,その「等」であろうと思っていました。なお,たしか間接侵害のワーキングチームのときにも,いろいろな方が,単純に個別のリンクではなくて,何か絞るのであれば営利性なり大量性が単なる主観的要件以外に必要ではないかと述べておられたので,単なるリンクではなくて,集めリンクなど,いろいろなものが入っているということで「等」となっているのかもしれませんが,今後,次第に整理されていくのではないかと思っています。

【土肥主査】どうですか。じゃ,奥邨委員からお願いします。

【奥邨委員】先ほど松田委員からありましたように,サイト全体を対象とすることによる表現の自由に対する萎縮も含めた大問題ということについてはよく理解をいたします。ただ一方で,個々のリンクに余りに問題が集中することによって,結果的に一番恐れている個人の発言の自由であるとか,個々の人々に対する,一般の人々に対する萎縮効果というのはものすごく大きいわけです。特に,ここに挙げている,これがいいかどうかは別にして,情を知ってとか,営利目的とか,拡散目的とかいう要件,これカジュアルにも,余り深く考えずにリンクしている人にも,これらが認められてしまうことは十分あると思うんです。かなり厳格に運用されない限り,個人がちょっとした感じで,中学生が,高校生がちょっとリンクしました。そういうものまで抑えることになるのは,今の時点では私は行き過ぎなんだろうと思いますので,個々のリンクを張る行為が問題だとしても,それを単体で捉えるということについては,私はかなり慎重になるべきだと思っています。例えば,これは一つの考えですけれども,多数そういうリンクを掲載するサイトにリンクを掲載する行為に限るという,ちょっとトートロジーですけれども,それぐらいの枠を掛けないといけない。例えばツイッターの中にぽっと載せても,差止めや刑事罰の対象になるんだということになっては,余りに影響が大き過ぎるというふうには思います。これはまだ今後の審議の状況なんですけれども,ちょっとその辺が気になったというところです。

【土肥主査】井上委員,どうぞ。

【井上委員】きょうの委員会で結論を出すわけではなく,今後も審議を継続すると伺い安心いたしました。

論点2で,立法事実が現状ではまだ十分に示されていないという説明がありましたが,奥邨委員からプロ責法では本当に対応できていないのかというお話がございました。プロ責法は,直接的には損害賠償の制限に関する制度であるけれども,実際上,差止めと類似の効果をもたらす仕組みになっており,また,ガイドラインなどを通じて円滑な運用が図られています。プロ責法の運用についても,立法事実の関連でしっかり詰める必要があると思います。

また,先ほどの話で,もともと幇助に当たるものについて少し明確化するのか,それとも,(今のプロ責法の議論も関連してくると思うんですけれども)白のものを黒にするのかというのは,実は非常に重要な論点であり,立法に当たっては,そのどちらに当たるものなのかきちんと議論する必要があろうと思っております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。今,正に井上委員がおっしゃった,論点2についても御発言いただいたんですけれども,論点1と論点2というのはつながっているような,こういう話でございますので,2についても,すなわち対応すべき悪質な行為は,現行法との関係において,権利の保護が十分になされているといえるのかどうか,こういうことですね。既にこの点についての御意見も幾つか出ておりますけれども,この論点2について,更に御発言をまだされていない方についてはお願いできればと思っておりますが,いかがでございましょうか。論点2,1を踏まえて,つなげて御発言いただいても結構でございますけれども,いかがですか。大体既に自分はしゃべったと,意見を述べたということなのかもしれませんけれども。

前田健委員,お願いします。

【前田(健)委員】差止め及び損害賠償請求につき現行法との関係で十分に保護されるのかということについて申し上げたいと思います。まず,差止請求についてですが,既に前回でも出ているとおり,現行法の解釈論としては難しいということだと思います。損害賠償という観点からは幇助行為に当たるということについては異論がないのかもしれませんけれども,幇助が差止めの対象にはならないというのが今の一般的な見解であるとすると,差し止めることはできないと思います。リーチサイトによっては,リーチサイト自体も侵害主体であると言えるケースがないとは言えないとは思いますが,それは例外的なものに限られるのだろうと思います。

刑事罰については,これは著作権侵害罪の幇助となる可能性というのは十分にあるように思います。ただ一方で,前回も御意見があったように思いますけれども,刑事罰につきましては明確性が要求されるかと思いますので,どういった行為を刑事罰の対象とするべきかというのはきっちり議論した上で,立法でこういった行為について処罰を下すべきであるということを明確にした方がよろしいのではないかというふうに思っております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに,この点いかがでしょうか。

前田委員に今御発言いただいたわけでありますけれども,幇助が損害賠償の対象になるということについては,切り出し方というのはいろいろあるんだろうと思うんですけれども,しかし,ここで言われている黒といいますか,核心的な部分について,これが損害賠償の対象になることついて論理的に整理することは,異論はないんだろうと思います。差止請求,あるいは刑事罰,このあたりになってくると,伝統的な理解の仕方でいうと,少なくとも差止請求については認められないのではないかというところかなと思うんですけれども,もちろん,大渕委員の御見解,十分承知をしておりますけれども,一般的にはですね。

従いまして,差止め請求を認めるかどうかということに関しては,少なくとも権利の保護というものが現行法上,十分図られているとは到底言えないんだろうと思います。従いまして,これについてどういう形で法的な手当て,対応をするのかどうか,ここですよね。一つの考え方としては,先ほどから擬制侵害というのが出てきておるわけでありますけれども,考えるとすれば,こういうところの議論を今後していくのかなと思うんですが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

【大渕主査代理】繰り返しになってしまいますけれど,差止めができるというのは幇助についてできるのであって,垂直型限定ですので,蔵置サイトの場合にはこれに当たるということができますが,リーチサイトの場合には単にいざなうだけで差止めによって大本のところを止めることはできません。ドイツのコンメンタールなどを見ると,幇助についても相当因果関係があるものについては差止めが可能というので,そこまで広げれば,それも相当因果関係範囲内になるのかもしれないのですが,私は民法との関連などから垂直型限定が穏当だと思っていますから,これは入らないということになりますので,入らない部分を拾うには何かしらしなければいけないわけであります。ただ,擬制侵害で手当てをするのが本当に良いのかというところは,よく考える必要があると思います。擬制侵害には良い面もありますが,当然それ自体がまた新たな構成要件になって刑事罰にもなり得ますので,よく考えるのが適当だと思います。一般の差止請求権のルールの中に入れた上で,侵害行為の幇助行為については一定範囲で差止めを肯定するというのであれば,大本の侵害の成否のところで引用規定などが含まれた上で決まりますので良いのですが,擬制侵害で侵害の成立につき決め打ちにするとなると,引用の場合には外すなど,全ての点,支分権の面だけでなく権利制限の面も全部入れ込んだ上で規定しなければならないということになったりします。そこのところは,方法論の問題ですが,ほかにも,例えば現行法だと知情頒布は擬制侵害になっているけど,知情送信はなっていないというのがあるのですが,実は知情の送信の幇助なものですから,また更に遠いということもあるので,やるとなるといろいろなところを考えていかなくてはならないと思っております。刑罰も明確化はいいのですけど,本当に新たな構成要件としてしまうのが良いのかという点も含めて,いろいろ考えるべき点は多々あるのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。もちろん,先ほどから大渕委員は妨害者責任とか,物権的請求権に類する考え方,つまり,著作権は物権ではないですけれども,排他性はありますので,そういうところから理論的なところを説明いただいておるところでございます。事務局におかれましては,本日論点2に関しましては,きょう出たところを踏まえて,更に整理していただければと思います。

あと,論点3なんですけれども,これも論点1の中で既に出てきておりまして,このリーチサイトの問題を間接侵害,一般の議論に先行して議論していくということは,今後,問題を残すのではないか。そういう御心配を頂いておるところでございますけれども,これをどう考えるべきかということに関しては,本日の資料では大渕委員がかつておまとめになった間接侵害等に係る課題についてのものと,平成28年5月9日の知財戦略本部のもの,この2つしか挙がっていないので何なんですけれども,このあたりについて御意見ございますでしょうか。

でも,先にこれをやるということについて,実際的な理由,根拠は十分あるわけですし,間接侵害のところでまた影響をもたらすようなことがありますかね。切り出し方の問題はあるんだと思うんですけれども,要件とかですね。そういうところの問題は十分考えられるとは思うんですが,先にコアになる部分について規定をしていくということが将来禍根を残すようなことになるのかどうか。このあたり御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。ここを最初おっしゃったのは,森田委員でしたので,森田委員からお願いします。

【森田委員】先ほど申し上げたとおりですが,間接侵害についての一般論に何らかの制約を課すような形になりますと,ここでのコンセンサスを得るのは難しいので,一般論としてどのような場合に間接侵害に当たるかについては当面は棚上げにして,そちらについては様々な可能性が開かれているという形で議論を進めていくのが適切ではないかと思います。それとの関係で,先ほどから出てくる,みなし侵害ないし擬制侵害についてですが,擬制侵害というのは,本来侵害行為に当たらないものを侵害と擬制するものであるとすると,それでは本来の侵害行為とは何かということを確定しないと,それが擬制侵害かどうかということも厳密には議論できないことになりますが,ただ,議論の整理の過程ではそういう議論をするのはよいと思いますが,仮に最終的な立法技術として,みなし侵害という形をとったとしても,それが本当の侵害行為を拡張する行為なのか,それともその一部又は全部が侵害行為に当たるものを違法であると確認するような行為が含まれているのかということについてははっきりさせない,ニュートラルなものとしてのみなし侵害というものがあり得るかどうかという点について議論が必要だろうと思います。以前に,出版権についての小委員会のときに,その種の議論をしたと思いますが,そのときの事務局のスタンスは,既に著作権侵害に当たる行為を侵害とみなすということは,みなし侵害の性質を大きく変えてしまうものであって,法制上のハードルが高いというものであったと思いますが,そういうスタンスだと,この問題に対しては必ずしもうまく対応できないので,みなし侵害の概念そのものも柔軟化するということが今の議論との関係では必要になってくるかもしれないと思います。みなし侵害以外の方法もありえますから,そこは開かれていると思いますが,そのあたりも今の点に関連して論点になるのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに,この点。上野委員,どうぞ。

【上野委員】論点3につきましては,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為への対応というものが,確かに,いわゆる「間接侵害」に対する差止請求に関する一般的な立法論と関係するというのは,そのとおりかと思います。

ただ,先ほど森田先生からも御指摘がありましたように,差止請求の対象を一般的に立法化するということはなかなか容易でないところがありまして,かつて司法救済ワーキングチームが示した方向性も広く支持を得るまでには至らなかったというところで,少なくとも今後すぐに方向性がまとまることはないかと思います。その反面で,このリーチサイト等に関してはかねて早期の対応が求められておりますし,また,一定の範囲であれば法制度上の対応をすることに大きな異論がないと思われます。その点からしましても,リーチサイト等に関する立法論は早期に進められるべきだと思います。

また,先ほどの差止請求に関する一般的な立法論というのは,たとえ実現したといたしましても,飽くまで民事上の差止請求にすぎません。リーチサイト等に関しては,やはり刑事罰が求められているというところからいたしましても,差止請求に関する一般的な立法論とは別に,リーチサイト等に関する立法論を進める必要性があるように思います。

なお,この論点3の文書中は,「間接侵害(幇助)一般に係る議論に先行して」とありますけれども,必ずしも「先行」する必要まではないのであって,差止請求の一般論に関する議論とは別にリーチサイト等に関する立法論が進められるべきだというふうに私は思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに,この点,御意見ございますでしょうか。

【大渕主査代理】この点は,先ほど申し上げましたとおり,およそ幇助が差止めの対象にならないというのは,私はおかしいと思っておりますけれども,差止めが成立し得る幇助は垂直型限定が穏当ということを前提にすると,リーチサイトはたまたま入らないので,幸か不幸かバッティングしないというところがあります。一般性があって慎重に検討すべきものよりも,タイムリーに対応すべきものを先行させるのはいいのですが,ただ,議論の際には一般法もきちんと念頭に置いた上で,後に禍根を残さないような形にすることが必要だと思います。特定の一部の範囲の議論がなされれば,一般の議論も深まるということもありますので,そのような意味では,緊急の必要性の高いものを先行させること自体はいいのですが,その際には,一般法も見失わずに議論をきちんとしていくべきであると思っております。

【土肥主査】幸い本小委のメンバーはそういう専門的な方々がそろっておいでになりますので,この問題を議論する場合に,大渕委員の言われる一般的な法律,一般法との関係といいますか,間接侵害との関係,そういったものも常に注意しながら議論することができるんだろうと思いますし,そういうことが本小委への要望でもあるということかと思います。その際,差止請求と刑事罰というものについては,前田委員も前からおっしゃっておられるように,必ずしもコインの裏と表というふうに一致するものではないということなんだろうと思いますし,本日本格的に議論がこういう形でできまして,良い議論ができまして,更に次に続けていくことができると思います。

論点1,2,3,大体意見を頂戴いたしましたし,全体を通じて何かございましたら頂きますし,それからその他というのも本来あるわけでありますので,もう2月のこの時期でありますから,先のこともいろいろ御要望があるのかもしれませんので,そのあたりも含めて何かありましたら。松田委員,どうぞ。

【松田委員】これを立法化するに当たって,著作物コンテンツの範囲についてどう考えるかという論点もあるのだろうと思います。現実のリーチサイトによる被害の報告から考えますと,映像と音声についての被害が実質的なのだろうと思います。そこで,30条の1項の3号に違法ダウンロードの刑事罰化もされているわけですけれども,これについての要件は,録音又は録画という範囲内でダウンロードを違法としたわけです。民事的にも刑事的にもそうしたわけです。今回もこの程度の配慮は必要ではないかというふうに思っております。

【土肥主査】非常に重要な御指摘ありがとうございました。そのあたりも今回の意見として次に盛り込んでいきたいと思っております。

ほかにございますか。前田哲男委員,お願いします。

【前田(哲)委員】今の松田委員の御発言に関してですが,実際には漫画,コミックをスキャンして,あるいは雑誌をスキャンしてアップロードしているものに対するリーチサイトが非常に多く見られるところでございますので,録音・録画にしてしまいますと,それらが漏れてしまうという問題が生じると思います。

【土肥主査】ありがとうございます。そういう御指摘,非常に重要なところかと思います。ほかにございますか。全体を通じて,あるいはその他として,よろしいですか。

事務局から何かございますか。時間としては,今大体11時半をちょっと過ぎたぐらいでございまして,本小委員会は12時までを予定しておるんですけれども,何かございましたら御発言いただき,なければ,と思っております。

【小林著作権調査官】御議論いただきまして,ありがとうございました。

連絡事項といたしまして,次回の法制・基本問題小委員会につきましては,改めて日程の調整をさせていただき,確定次第,御連絡いたします。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】次回の小委に関する御紹介まで頂きまして,ありがとうございました。ということは,大体,本日の小委はこれでおしまいということでございます。私の不手際で冒頭御迷惑をお掛けしたりと,いろいろいたしまして,どうもすみませんでした。おわびを申し上げて,本日の小委員会はこれくらいにしたいと思っております。先ほど御紹介ございましたように,次回がいつぐらいになるのか分かりませんけれども,事務局において本日の議論をまとめていただき,整理していただいた上で,日程調整の上,小委が開催されることになろうかと思います。

本日は,これで第5回の法制・基本問題小委員会を終わらせていただきます。どうも本日は御議論ありがとうございました。

―― 了 ――

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