文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第3回)

  • 日時:平成29年7月28日 (金)
  • 14:30~17:00
  • 場所:文部科学省旧庁舎6階 第2講堂

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)拡大集中許諾制度に関する調査研究報告について
    2. (2)リーチサイト等への対応について
    3. (3)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
拡大集中許諾制度の検討について(446KB)
資料2
コンテンツ海外流通促進機構提出資料(224KB)
資料3
木下氏提出資料(186KB)
資料4
リーチサイトへの対応に関する主な論点と進め方(案)(165KB)
資料5-1
「対応すべき悪質な行為の範囲」の検討(案)(127KB)
資料5-2
リンク情報の状態(51KB)
参考資料1
法制・基本問題小委員会(第2回)におけるヒアリング結果の概要(リーチサイト等への対応について)(510KB)
参考資料2
ヒアリング出席者一覧(23.6KB)
参考資料3
リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型(372KB)
参考資料4
法制・基本問題小委員会(第2回)意見概要(今期の法制・基本問題小委員会における審議事項について)(96.8KB)
机上配布
拡大集中許諾制度に関する調査研究報告書(1.1MB)
出席者名簿(48.9KB)

議事内容

【土肥主査】それでは,定刻でございますので,もうお一方ぐらいまだ委員がお集まりでないんですけれども,これから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第3回を開催いたします。

本日は,お忙しい中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

最初に,これまで御欠席でございましたけれども,今回,窪田委員に御出席いただいておりますので,御紹介させていただきます。窪田充見委員でございます。よろしくお願いいたします。

【窪田委員】神戸大学の窪田でございます。今まで欠席が続いておりまして,申し訳ございませんでした。どうぞよろしくお願いいたします。

【土肥主査】よろしくお願いします。

それから,前回の開催以降,事務局において人事異動があったようでございますので,この点御報告を,御紹介をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御報告申し上げます。今月20日付で文化庁長官官房著作権課著作物流通推進室長としまして白鳥綱重が着任しております。

【白鳥著作物流通推進室長】白鳥でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございます。

では,事務局から最初に配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第を御用意ください。資料1としまして,拡大集中許諾制度の検討に関する資料,資料2及び3につきましては,リーチサイトの検討に関わるヒアリング資料でございます。また,資料4から5-2までは,論点整理等でございます。それから,参考資料4点,それぞれ議事次第記載のものを御用意しておりますので,不備等ございましたら,お近くの事務局員までお伝えください。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)拡大集中許諾制度に関する調査研究報告について,(2)リーチサイト等への対応について,(3)その他となっております。

早速でございますが,議事に入ります。まず,拡大集中許諾制度に関する調査研究報告についてでございます。拡大集中許諾制度は,平成26年度の本小委においてアーカイブ化の促進について検討を行った際,諸外国において導入されている制度として紹介されまして,平成27年度には文化庁委託事業により諸外国の基礎調査が行われております。今回は,それらを踏まえて平成28年度にも調査研究が実施されておりますので,これを中心に事務局より報告を頂きたいと存じます。

では,事務局から説明をお願いいたします。

【白鳥著作物流通推進室長】資料1に基づきまして御説明申し上げます。

1ページ目にございます平成26年度のこちらの小委員会でまず取り上げられました。この拡大集中許諾,いわゆるECLと言っておりますけれども,こちらについての定義は3ページにございます。集中管理団体の構成員ではない著作権者の著作物について,相当数の著作権者を代表する集中管理団体と著作物の利用者との間で締結された著作物の利用許諾契約と同じ利用条件で利用することを認める制度という定義の下でこの議論は進められております。昨年度のこの小委員会にも御報告させていただいております平成27年度の外国基礎調査につきまして,資料を付けておりますので,概略のみですが,御説明します。

5ページを御覧いただきますと,既にこの制度を導入している国と,導入を検討している国ということで記しております。導入している国としては,北欧諸国,それからイギリスとなっております。イギリスについては,法律上,制度化はされておりますが,運用はまだだと聞いております。

その次の6ページを御覧いただきます。対象となる利用行為ということにつきまして,特にECLについては,対象となる利用行為について個別に指定するいわゆる個別ECLというものを北欧諸国では多く共通して採用しておりまして,具体的な例としては,そちらに書いてあります放送における利用,図書館・美術館における複製等々がその対象となっております。このほか,利用行為を特定しない一般ECLというものについても,最近増えてきているということで,逆にイギリスにおきましては,そうした一般ECLというものを最初から導入しているという状況になっております。

その次の7ページを御覧いただきますと,集中管理団体の適格性ということで,具体的な適格性についての要件の設定がございまして,1,2とございますとおり,特に権利者の相当数を代表する団体であるということ,そして政府等の認可を得るということが,適格性の要件ということで整理されているところでございます。

続きまして8ページを御覧いただきます。このECLにつきましては,特にECLの契約から離脱するためのオプトアウトの仕組みが設けられているということが共通した状況になっております。ただし,北欧諸国におきましては,対象となる利用行為によって,オプトアウトが法律上明確に規定されているものと,そうでないものとがあるという状況でございます。オプトアウトが規定されていない利用行為としては,教育目的,放送番組の再放送等があるという状況になっております。

以上申し上げたことの概略が14ページに全体を記した表になっておりますので,また後ほど御覧いただければと思いますけれども,今申し上げた部分についての各国における導入状況について整理しております。

本日は,特に昨年度におきまして,有識者の先生方に,特にこの拡大集中許諾というものの制度について意義や課題を整理していただきますとともに,それを仮に導入した場合に,問題となり得る具体的な制度内容,またメリット,デメリットなどについて整理していただきました。そちらが27ページ以降でございます。

28ページに,具体的にこの調査研究に携わっていただきました先生方のお名前も記させていただいております。この小委員会からは,上野先生を座長として御参画いただき,また今村先生,奥邨先生,森田先生に御参加いただいて,整理していただいたものであります。

以下,29ページ以降が,その整理していただいた内容についての御紹介でございます。まず29ページを御覧いただきます。制度を導入する場合の法的正当性ということで,特に日本で正当化をし得るとした場合に,可能性があり得るものが三つ整理されております。一つ目が黙示の許諾ということで,29ページにございます。一部の権利者の意思をもって,当該分野の権利者の全体の合理的な意思であると事実上推定するということでありますが,ただ,留意点といたしまして,特にもともと著作権につきまして,許諾権があり,その制限により対価請求を認めるという形になれば,このような理屈も成り立ちやすいけれども,もともと許諾権を制限しないという形のものであれば,著作権者等の合理的意思に合致すると解することは困難かもしれないといった整理をしていただいております。

二つ目の項目といいますか,正当化根拠として書いてあるのが30ページになりまして,労働協約に関わるものでございます。労働協約については,日本でも拡張適用を認めているところでございますけれども,こちらについて既存の判例の状況をこちらの方に記載させていただいております。この拡張適用に関わりましては,この部分は労働者に特有の環境と事情に関わるもので,この理屈を著作物の利用許諾といった観点で直ちに適用できるのかどうかというところは課題はあるだろうが,拡大集中許諾制度の制度設計次第,特に個別ECLにつきましては,許諾条件の統一性や公正妥当な許諾条件の実現といった労働協約制度の趣旨が妥当する場面があるかもしれないということで整理していただいております。

三つ目が事務管理。我が国の民法でいいますと697条に規定されているものでありますけれども,こちらにつきましては,もともと考え方として,この事務管理には,代理権は認められていない。もともと法律上の義務がない状況の中でこの法的関係の整理がされているというのがこの事務管理でありますけれども,代理権は認められていないというものであることから,今回のECLということに関わりまして,集中管理団体が本人のために利用者と許諾契約をした場合に,その効果が権利者に帰属するという形での説明が難しいということであります。ただし,フランス民法における考え方なども踏まえれば,一定の厳格な要件の下で,事務管理に代理効果を例外的に生じさせるのと同等の制度を設けることを正当化することは必ずしも不可能なことではないように思われるといった整理をしていただいております。

いずれにしても,この三つ,法的正当性として整理し得る考え方がある一方で,それらについては,それぞれについて留意点もあるとの整理をしていただいております。

続きまして,32ページでは,権利制限等との関係ということで,このECL以外の部分も含めまして,例えば補償金請求権の個別処理あるいは集中処理又は裁定制度,こうしたものに関わりまして,それぞれの特徴について整理していただいております。

それから,33ページ以降は,権利制限等との関係ということでございまして,特にECLについて導入効果が高いと考えられる場合ということで整理していただいております。33ページにつきましては,ここに記載がありますとおり,一つとして,取引費用が高くなる場合ということでございます。特に,集中管理が十分に発達しておらず非構成員の割合が高い分野,あるいは権利者不明著作物の割合が高い分野などが,そうしたことを背景としながら取引費用が高くなる場面ということの典型例として記されております。ただし,この取引費用の削減ということがある種課題になるわけですけれども,その部分は補償金請求権等の集中処理でも達成できるということでの整理もしていただいております。

もう一つ,この導入効果が高いと考えられる場合の二つ目が34ページにあります。こちらが,著作物等の利用形式が非定型的である場合ということでございまして,特にECLと既存の補償金請求権等の集中処理の間で,どちらがふさわしいかということで考える上では,こちらの非定型的であるという方がより大きな決め手となるのではないかということで,この報告書では整理していただいております。

それから,権利制限等との関係ということで,次の35ページになります。特定の利用行為につきまして,補償金請求権を伴う権利制限の類型を採用しつつ,補償金額を利用条件に応じて特定の集中管理団体と利用者の交渉に基づき決定するということで,権利者にはオプトアウトを認めるといったことです。要は,既存のスキームを活用することの中で,この拡大集中許諾制度そのもの自体を導入せずとも実現し得ることも考え得るのではないか。様々な利用の実態等も踏まえながら,様々なバリエーションがあるのではないかということで整理していただいております。

それから,36ページ,こちらが集中管理団体の在り方ということでございます。集中管理団体として指定されるための適格性を担保するための要件の一つとして代表性の要件があるということを御紹介しておりますけれども,この代表性の要件の判断につきましての記述でございます。この場合は,権利者の相当数を代表しているかどうかということが重要になってまいりますけれども,その際,その判断におきましては,対象となる権利者のトータルの概数を把握した上で,その全体の数の把握方法が適切かどうか,そして集中管理に参加している権利者の数について着目するということ,そしてまたオプトアウトの機会が十分に保障されているかといった観点が判断要素として大変重要になり,その際には個別具体的な判断が必要だということであります。

そのほか,37ページにつきましては,分野に複数の団体が存在する場合の扱いとメリット,デメリットについても整理していただいております。

続きまして,重要な要素であるとされているオプトアウトにつきまして,38ページになります。38ページには,権利者によるオプトアウトの要否ということについて整理しております。このオプトアウトについては,ECL,拡大集中許諾制度を導入する上で重要な要素と考えられていることが多いということ,他方で,オプトアウト権については,これを行使しない限り,ある種,自分が権利を持っている作品が第三者に利用されるという形になるので,実質的には権利者にとって許諾権が報酬請求権に切り下げられたり,権利制限の対象になると解釈され得るということも整理されておりまして,このオプトアウトの要否につきましては,利用行為の公益性の観点などを考慮して決めることになるということであります。ただ,このオプトアウトを認めないECLが必要な場面については,逆に既存の権利制限,そしてまた新たな個別権利制限規定の立法によって対応すればよくて,オプトアウト権が制約されるタイプのECLをあえて認めていく必要は低いということも整理していただいております。

続いて39ページです。これは,未分配の使用料の取扱いということでございまして,具体的な取扱いについての状況をこちらで整理させていただいております。

以上を踏まえつつ,まとめとして,40ページ以降になります。まとめの一つ目の○ですけれども,拡大集中許諾制度は,先ほど申し上げたところも含めて,様々なバリエーションがあるということでございます。

二つ目の○のところにございますとおり,法的正当性については,三つあり,黙示の許諾,労働協約,民法上の事務管理等ということが考えられるけれども,それぞれに課題が残ると考えられ,具体的な制度内容に応じてさらなる検討が必要だということでございます。

次の41ページに移ります。まとめの続きでございます。このECLについて,導入する場合の具体的課題につきましては,適格性なども含め,団体の在り方,そして使用料の徴収・分配,非構成員との関係,オプトアウトの具体的仕組みなど,多様な課題が明らかになったということです。

併せまして,その次のパラグラフですけれども,拡大集中許諾以外にも,補償金請求権を伴う権利制限,報酬請求権,裁定制度,そしてライセンス優先型権利制限といった様々な手法も見られるという状況の中で,どのような場合にこの拡大集中許諾制度の導入が適当なのかといったことは,今後も検討を要するという整理をしていただいております。

以上のことが昨年度の調査研究の結果でございまして,以上を踏まえまして,今後この件についてどのように進めていくべきかについての案をお示ししたのが,42ページ以降になります。具体的には43ページ,44ページにその内容を記しております。

今後の検討の進め方といたしまして,先ほど出ておりましたとおり,様々なバリエーションがあり得るという状況の中で,特に現段階におきましては,具体的な制度設計を離れて,一般に抽象化して,この拡大集中許諾が直ちに正当かどうかというところを断じることは難しいのではないかということでございました。

そのような観点から,この制度の導入を検討するに当たりましては,具体的な制度内容の検討を併せて行いながら,この法的正当化の可否について検討を進めることが必要であるということが一つ目です。その検討に当たりましては,必要性,制度設計,そして政策効果などを明らかにするために,権利者不明著作物を含む集中管理のされていない著作物の利用に関するニーズをまず把握した上で,これを踏まえた検討を行うことが適当であろうということです。それから,先ほど申し上げましたとおり,ECL以外にも様々な手法があり得るという状況の中で,あるいはこれらの制度を組み合わせるといったことも含めて,このニーズの内容や特徴に応じた適切な政策手段を選択する必要があるということであります。

最後の44ページになります。この拡大集中許諾制度につきましては,特に導入効果が高い分野としては,特に取引費用が高い,コストが高いという分野,そしてまた特に非定型的である分野というところで整理されております。他方で,この適格性に関わりまして,代表性ということも大きな要素となってまいりまして,こうした観点にも留意しながら検討を進めていく,あるいは政策手段の選択を考えていく必要があるということでございます。

以上を踏まえまして,今後,この問題につきましては,事務局におきまして,まず文化庁に寄せられているニーズや関係者へのヒアリングなどを踏まえ,著作物等の流通推進のために必要な制度改正を検討する利用行為の洗い出しをまず行い,その上で拡大集中許諾制度の導入へのニーズの有無,そしてその導入により期待される効果,それから諸外国における導入状況なども参考にしながら,利用行為の特徴に応じて,拡大集中許諾制度あるいはそれに類似する制度の導入が望ましいのかどうかといったことについて,法制・基本問題小委員会等において議論を行い,具体的な制度設計,そしてその法的正当化の可否について検討を進めることとしてはどうかと考えております。

以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。

今の御報告なんですけれども,御紹介にありましたように,この平成28年度の調査研究におきましては本小委の委員でもある上野委員が座長を務めておいででございますので,上野委員から何か補足等がございましたらお願いいたします。

【上野委員】ありがとうございます。私は司会役をしただけでございまして,報告書の執筆についても私自身は最後の1ページぐらいしか書いていないのですけれども,少しだけコメント申し上げます。

ECLにつきましては,昨今大変注目されており,導入に前向きな声も小さくないように思うわけですけれども,この調査研究は飽くまで,何か具体的な方向を示すというわけではなく,今後検討を行う際の資料,あるいはその検討の視角を提供しようとするものであります。

また,ECLは飽くまで手段でありますので,抽象的にECLを導入すべきかどうかといった議論を行うというよりも,今後,具体的なニーズに対応する際の一つの手段の選択肢として,ECLというのがそのメニューに含まれてくる,というふうに考えるのが妥当ではないかと認識しております。

さらに,ECLの具体的な内容につきましては,先ほど御紹介がありましたように,諸外国の状況を見ましても実に様々なバリエーションがありますので,そうした多様な可能性を含めた上で,今後それぞれのニーズに合わせて具体的な内容が個別的に検討されることになるものと承知しております。

私からは以上です。ありがとうございました。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,ただいまの事務局からの御報告,それから上野委員からの補足の御説明,こういったことを含めて,御質問,御意見がございましたらお願いいたします。松田委員。

【松田委員】質問させていただきます。私がこの根拠となるべき法律制度をどこによらしめるかという点を考えますと,三つあるうち,事務管理的な考え方が一番なじむのではないかなと考えております。事務管理において日本の民法制度で代理が生じない法制になっているというのは,そのとおりだろうと思いますが,果たして拡大集中許諾制度において事務管理的な制度として導入したときに,対外的なといいますか,被許諾者に対する関係で代理行為による法律行為の有効性を担保することの法制を取ること,あるいは,管理する当該団体が代理の方式以外の方法で契約を結ぶことがでるのではないかと考えております。極端なことを言いますと,他人のものだってライセンス契約を結ぶことはできるわけで,契約としては有効に成立して,あとは担保責任の問題として解決するという方法もあるように思います。そういう制度のままで拡大集中許諾制度を維持するということはできないのか,ないしは著作権法の制度として事務管理的な拡大集中許諾制度を作ったときに,著作権契約上は代理制度をここに法定することができるのか,この点の議論はどのように議論されたのでしょうか。もし上野先生にお答え願えればと思います。

【土肥主査】それでは,上野先生,お願いします。

【上野委員】御指摘の点に関しましては,報告書の方でも,8ページ目に「事務管理に代理権は含まれるのか」という項目で記述があるほか,また29ページのところにも事務管理構成による正当化に関する一定の記述があると承知しております。その上で,具体的な点につきましては,私よりも森田先生に一言いただければと存じますが,いかがでしょうか。

【森田委員】ただいまの御質問ですが,拡大集中許諾の場合のライセンス契約というのは,集中管理団体が利用者との間で締結するけれども,それは他人の著作権について代理権なく契約を締結するだけであって,権利者との間では有効な利用許諾がなされていないということだとしますと,利用者が行った著作権の利用行為は,権利者との間では著作権の侵害行為をしているということになってしまいますので,そうだとしますと,ビジネスを円滑に行うという観点からは,このスキームを使うメリットはないのではないかと考えられます。委員会の場でもそのような前提で検討がなされていたのではないかと思います。

事務管理との関係でECLを考えるときには,日本の判例によれば,事務管理からその効果として直接代理権は生じないということになっていますので,これを前提に考えますと,権利者と集中管理団体との対内的な関係はともかくとして,利用者との対外的な関係で,事務管理の考え方によって,集中管理団体が権利者に代わって利用許諾を行い,その効果が権利者に帰属するということを正当化するのは難しいということが言えます。ただ,報告書に書きましたように,そこではフランス法を例として挙げていますけれども,諸外国では事務管理の効果として本人のための代理権が生ずるという場合があり得るところですので,我が国でも立法論として考える場合には,一定の要件を絞って代理権を発生させるということを規定した上でこのスキームにのせることは考えられるところであり,その方が,ビジネスの観点から見ると,有効な拡大集中許諾制度になるのではないかと考えた次第であります。

その場合に,事務管理による代理権発生の要件をどのように考えるかが問題となりますが,フランス法では,それは本人にとって有益な行為であると評価できるような行為であることがその要件となっております。このような考え方によると,例えば,著作権に権利制限がなされていて,補償金請求権しか行使できないという場合には,権利者は結局補償金を受け取るかどうかという選択肢しかないわけでありますので,そのような場合には,集中管理団体が権利者に代わって契約を締結するということは,本人にとって有益な行為であるとみることができるわけです。これに対し,著作権に権利制限がなされてはいなくて,権利者は本来その権利を利用させるかどうかについて完全な許諾権を持っている場合には,集中管理団体が本人に代わって利用許諾してしまうことが本人にとって常に有益な行為と言えるかというと,それは難しいのではないかと考えられます。したがって,一般的に代理権を発生させるような形で事務管理を認めるというのは問題であるとしますと,権利制限に伴って補償金請求権などが発生するような場合に限って,代理権を伴う事務管理の考え方に基づいて,オプトアウトなしのECLを制度化することはあり得るけれども,それ以外の場合には,事務管理とは異なる考え方を前提とした,これとは違うタイプのECLで対応することになるのではないか。そうしますと,この事務管理の考え方がECL制度に妥当するかどうかということは,どういうタイプのECLを想定するかによっても変わってくるので,一般的なECL制度というよりは,こういう目的のためにECLを利用するという具体的な局面を特定した上で,その制度内容を詰めていくということが適切ではないかというふうに,この報告書では考えていると思います。

【土肥主査】ありがとうございました。松田委員,よろしゅうございますか。

ほか。では,大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】大変詳細に調査していただきまして,ありがとうございます。

これはいつも申し上げていることなのですが,権利制限の一般規定の際にも,先に方法論ありき,一般規定ありきでなくて,結局100余の生のニーズを集めてみて,それを実現するためにはどのような方法論がよいかということを考えたのであります。つまり,目的の方が先にあって,それから方法論を導くべきであって,そのような観点からしますと,先ほどの民法の点だけでなく,労働協約の点等についても,正当化根拠にはかなりまだ遠いと感じられます。恐らく代表度が高くなればなるほど,ある程度説明がしやすくなり,大半は認められるということであれば,あとはオプトアウトぐらいはできるのでしょうが,代表度が余り高くない実態の下では,代表度が高くない団体による行為でそれ以外の大多数の者を縛るというのは,大変に想像以上に法的ハードルが高いと思います。私としては本来的には集中管理を個別に積み上げていくという努力が必要であって,それで集中度が自然に高まっていけば,かなり問題は解決していくかと思うのですが,その点を含めて,先ほど申し上げたようにいろいろなニーズを洗い出してみて,その中でどのような方法論かは解の一つの候補になるだけであって,最初に方法論ありきという形で進めていくのは危険ではないかと感じました。これは,そのような趣旨ではなくて,飽くまでたくさんの中のオプションの一つに加えるべしということだと思うのですが,ただ,かなり法的ハードルは高い範疇のものではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございます。恐らくニーズの確認等々,これからも本年度の調査研究も恐らく継続して行われるだろうと思いますので,そのあたりを含めて検討が進められていくのではないかなと想像しております。

ほかに御質問は。前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】2点御質問させていただければと思います。

まず,法的正当性について三つの根拠が考えられるということが挙げられていまして,その中で黙示の許諾が挙げられているのですけれども,黙示の許諾という考え方は,ECL機関に対して黙示の管理委託があったという議論なのか,それともアウトサイダーから利用者に対して黙示の許諾があったと見る余地があるのではないかという議論なのか,そのどちらかがよく分からなかったので,教えていただければと思います。

もう1点なのですが,拡大集中処理は,利用形式が非定型的である場合に導入効果が高いという御報告を頂いておりますが,ぱっと考えますと,ECLは,むしろ利用形式が定型的である場合の方がその導入のハードルが低いようにも思うのですが,利用形式が非定型的である場合に導入効果が高いと考えられるとされておられるのは,利用形式が定型的な場合は,権利制限プラス補償金などで対応が可能であってそれで対応すればよく,ECLが本当に必要なのは非定型的な利用形式についてだからと,そういう御趣旨なのかどうかを教えていただければと思います。

【土肥主査】今の御質問も,専ら上野委員を御覧になってお尋ねになっておりましたので,上野委員から。

【上野委員】本報告書に尽力されてきた俵元室長がちょうど人事異動になってしまいましたので,ふつつかながら私からお答えさせていただきます。

まず,1点目の黙示の許諾というのは何について許諾していると理解されているのかという点に関しましては,報告書の5ページ目を御覧いただきますと,「ECL規定により第三者に利用許諾することに黙示の合意が存在すること」とありますので,これによれば,――もちろんECLの正当化に関する一つの考えとしてではありますが――ECL規定によってECL機関が利用許諾することについての黙示の合意,という記述になっているかと存じます。

2点目の非定型的な利用についてECLが有効であるとされている点につきましては,確かに,一般ECLよりも個別ECLの方が正当性を得やすいということと同じように,個別的・固定的な著作物利用の方が権利の制約を正当化しやすい側面はあるのかと思います。ただ,ECLというのは,具体的な利用条件を事前に法律に書くのではなく,当事者の協議によって個別的に設定されるという特徴があることからいたしますと,対象となる著作物利用が定型的な場面では,法律で権利制限規定を設けることも可能であるのに対して,著作物利用が非定型的で技術環境の変化も大きいような場面では,あらかじめ法律でその個別的な条件を詳細に定めることが妥当でないとも考えられ,そのような場合には,ECLの方が権利制限規定を設けるよりも望ましいという考えがあるところでありまして,そのことが報告書に述べられているものと理解しております。

以上です。

【土肥主査】よろしゅうございますか。

ほかに御質問,御意見がございましたらお願いいたします。特にはございませんか。よろしいですか。よろしゅうございますか。

44ページあたりに今後の検討の進め方も出てきておりますので,今後の検討の進め方については,一応事務局から示されておりますので,何かその辺を含めて御希望等がありましたらお出しいただいても構いませんが,もしなければ,次の課題というか,次の検討課題に入りたいと思いますけれども,よろしゅうございますか。井上委員,どうぞ。

【井上委員】大変すばらしい報告書で,これからしっかり読ませていただきたいと思います。今後の進め方として,ニーズの洗い出しから始めると伺いました。ニーズの洗い出しは重要ですが,非定型的な利用や,量的には多いといえないニーズにも配慮することが求められます。ロングテール的なニーズも意識して,ニーズの洗い出しをしていただきたいと思いました。

【土肥主査】事務局にお伺いしてよろしいですか。

ほかに御希望その他ございましたら,お願いします。

【大渕主査代理】先ほどから気になっているのは,小さいことかとも思うのですが,権利制限などとは別に,本当に黙示の許諾があれば,明示の許諾を与えるときと同じなのですが,そのような話なのでしょうか,それとも大体のところをおおむね納得しているのでしょうか。普通は,本当に黙示の許諾ならば,それ単発で法的正当化根拠になるのですが,これを見ているとそのようなものでもなさそうです。労働協約や,先ほどの民法とかというのは単発で正当化根拠になるような話なのでしょうが,黙示の許諾は,先ほどあったような定型的な処理がなされるようなものであれば,定型的に処理がなされるからということで,黙示の許諾になりやすいのですが,一々交渉しなければいけないようなものに一々その情報が本人に行っているわけでもないので,黙示の許諾というと,見れば見るほど今のはかなり難しいところがあるなと感じております。それも踏まえた上で,結局余り決め手になるような法定根拠もないので,三つを合わせたような感じでもあるようです。ただ,そのような法的ハードルが高いようなものも,それをやるべきニーズが極めて高くあるのなら,また別なのかもしれませんが,さほどニーズがあるわけでもないのに,法的に詰めるのは非常に大変な作業になってしまいます。真のニーズがあるところが出発点になろうかと思いますので,先ほどの声なきニーズも含めて,方法論から入るよりはそちらから入るべきだと思います。

【土肥主査】今の御発言に関連してですね。では,今村委員,お願いします。

【今村委員】私もこの調査研究に携わって参りましたが,イギリスは2014年に制度的にECLを導入しまして,その際には,最近ですと,インターネットとかデジタル化,ネットワーク化で様々な零細な利用も増えているものですから,そうした利用のニーズに対応するようなライセンススキームとしてこのECLが使えるのではないかという観点が主であったようです。しかし,いろいろ検討していく過程で,新たなライセンススキームを生み出すというよりも,どちらかというと既存の集中管理で行われている包括ライセンスなどが作品の漏れなくできるようにという形で,既にある集中ライセンスのスキームを充実させるという趣旨が強調されてきたようでございます。

また,イギリスではまだ運用がないということでしたが,制度としては,いつでも申請は受け付けている状況ですが,まだ申請がないという段階です。ただ,集中管理団体は,例えばCLAといった団体は,申請の準備をしているという状況でございます。日本でも大きな集中管理団体は幾つかあるかと思いますけれども,集中管理団体のニーズというものが最終的にはすごく大事になってくると思われます。通常のライセンスで対応できるようなものに関して,イギリスでは,著作権ハブというか,そういうライセンスの市場というものを補完する様々な別の枠組みを用意してきたということもあります。ECLを導入するというだけでなく,様々な制度や仕組みを組み合わせて対応してきたという経緯がありまして,ECLがあれば全て細々としたライセンスのニーズがクリアできる,あるいは非定型的な分野のライセンスのニーズがクリアできるというものではないということかと思います。

【土肥主査】上野委員,お願いします。

【上野委員】先ほど御指摘がありました黙示の許諾に基づく正当化根拠につきましては,報告書の中でも述べられておりますように,多くの権利者が代表している団体が一定の条件でライセンスをしているのであれば,アウトサイダーの権利者も同じ条件でライセンスするということが合理的意思にかなうだろうという考えがその背景にあると考えられるわけですが,しかしながら,先ほど森田先生からもお話がございましたように,排他権というのは,そもそもライセンスをするかどうかを自由に決定できるはずの権利ですので,そのような排他権についても,そうした黙示の許諾による正当化が可能かどうかは,確かに検討の余地があるところかと思います。その点については,報告書5ページにおきましても「困難かもしれない」という表現が書かれております。なお,私がこの報告書でわずかに書いたまとめ部分におきましても,ECLの正当化根拠については,黙示の許諾についても,労働協約についても,また事務管理につきましても,「それぞれ課題が残ると考えられ,具体的な制度内容に応じてさらなる検討が必要」と述べている次第でございます。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。

それでは,今後の検討を継続していただいて,本日この小委の中で出てきたような御希望とか,そういったことをすくい上げて,ニーズ等の調査についても適切に対応していただければと思います。ありがとうございました。

それでは,次の議事の(2)リーチサイト等への対応に入りたいと存じます。本課題につきましては,前回,プラットフォーマーなどの関係者からヒアリングを行いまして,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為に対する取組の現状とか,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為についての法制面での対応を強化することの是非,こういったことなどについてお話を頂戴したわけでございます。本日は,加えてコンテンツ海外流通促進機構から事実関係について補足説明を頂くとともに,表現の自由との関係から,憲法の研究者の方にお話を伺いたいと思っております。その後は,意見交換といいますか,検討を進めていきたいと思っております。

早速でございますけれども,御発表願いたいと思うんですが,最初にコンテンツ海外流通促進機構の後藤様,墳﨑様,よろしくお願いいたします。きょうはどうもありがとうございました。

【後藤氏】それでは,資料2を御参照いただきたいと存じます。

本日は貴重なお時間を頂きまして,ありがとうございます。

さて,CODAでございますけれども,昨年8月に本小委員会におきまして,悪質なリーチサイトにつきましては,刑事手続で権利行使ができるよう,著作権法を改正していただきたいという要望を行ったところでございます。本日は,その後の状況等について簡単に御説明をさせていただければと存じます。

【墳﨑氏】それでは,お手元の資料2の2ページ目を御覧いただければと思います。「リーチサイトの運営者等について」と題しております。運営者をどのように捉えるかという部分もありますけれども,現在CODAで確認しているリーチサイトは56です。それしかないという趣旨ではなく,CODAが注視しているものが56あります。リーチサイトの件を最初にCODAが申し上げた昨年には60あったのですけれども,4サイトほどが閉鎖されていて,今はなくなっております。その中で,ここに円グラフがありますが,20サイトについては,A社のサイトで開設されているブログを利用して作られているところになります。同じように,B社の運営ブログで5サイト。その他については,レンタルサーバーを借りて自分でサイトを立ち上げているというものになっており,そのサーバーの所在地が日本のもの26サイトで,海外のものは5サイトといった内訳になっております。

前回,テレコムサービス様の方からお話があったということですけれども,この円グラフ上のA社はテレコムサービス協会の会員社ではなく,またその他に含まれるサイトの日本のレンタルサーバーの会社ですけれども,その26社のうちの19については,テレコムサービス協会会員でない会社のサービスを利用して立ち上げられております。

続きまして,次のページですが,「検査結果表示抑止の効果」と書いてあります。CODAでは,検索エンジンの会社様の御協力も頂いて,侵害サイトについて検索エンジンの検索結果に出さないでくれという要請をしております。これについては,この議論が始まった当初から変遷がありまして,当初,平成28年の前半においては,検索エンジンの運営会社の方から,リーチサイトというものに関しては,法的に不明確な部分があるので,申請されても対応できませんということを明確に回答されておりました。しかし,その後,平成29年,今年の1月,2月になって,対応されるようになってきたという話が出てきましたので,CODAの方でも実際にリーチサイトについて申請してみたところ,66件のリーチサイトについて申請したところ,54件については拒否されました。

この際に拒否されたものと,申請が承諾されて認められたものの違いについては,我々はこの検索エンジンの会社様のアルゴリズムとか判断基準とかを知っているわけではないので,推測が入りますけれども,いわゆるエンベットと言われるもの,資料に画面のコピーを載せていますけれども,単にテキストのハイパーリンクを張るだけではなくて,そのサイト上でもその動画自体を見られてしまうものについては認めてくれるという状況ではありましたが,単にいわゆるURLが張ってあるだけのものについては,同様に拒否されていたという状況でした。

また,飽くまでもこれを認めてくれているのは,各作品の個別ページです。要は,リーチサイトはいろいろな作品のものについてリンクを張られていて,作品ごとにすごく整理されて記載されているのですけれども,飽くまでもURLの検索抑止ができるのは,各個別の作品,遷移した先のページです。トップページではなく,遷移先のページの抑止ができているという状況で,トップページは全く応じてもらえない状況でした。

さらに,今回ここでちょっと現在の状況をということでしたので,今年の7月にCODAの方で,先ほど言ったエンベットではないもの,通常のURLだけ張ってある作品の個別ページについて,平成29年2月の段階では拒否されていましたけれども,これについて再度7月に複数件の申請を行ったところ,おおむねこれについては確かに検索結果の表示を抑止してくれるという状況になっております。

【後藤氏】それでは,私から4ページ目,広告出稿の停止について御案内したいと思います。

侵害サイトに対する広告問題というのは,今世界的な課題の一つであります。我が国におきましても,当機構の会員社が係り日本の警察が検挙した事件ですけれども,個人でしたけれども,侵害サイトで月200万円の暴利を得ているという実態がございました。そのため,この広告の収入源を断つということが最も効果的であると言われております。しかし,我が国の場合,ここに「ただし」と書いておりますけれども,著作権の侵害サイトに対する広告出稿は違法ではないということ,それと,この図にもありますように,オンライン広告の配信システムは多層化しており,非常に複雑であります。広告主からすれば,低額でより多く掲載したい,一方,サイトからすれば,高額でより多く掲載したいという原理原則に基づいて,高度かつ複雑な自動マッチングシステムが使用されております。したがいまして,広告主には侵害サイトに広告を出稿したくないという意思があっても,なかなかこれができないという現状にございます。

とはいえ,CODAといたしましては,現在,侵害サイトのブラックリストを作りまして,広告主の団体,広告配信事業者の団体の皆さんと話合いを持ちまして,この環境改善に向けて話し合い,お願いを始めたばかりでございます。

なお,これが非常に進んでおりますのはイギリスでございます。イギリスは,英国警察知的財産権犯罪ユニットということで,いわゆる警察ですが,このPIPCUが主体となってこの広告問題を取り扱います。

最後に,恐縮ですけれども,是非とも文化庁さんや関係省庁の皆さんの御支援を頂きまして,この広告問題というのをもう一歩進めさせていただければということでございます。

以上,簡単でございますが,CODAの説明とさせていただきます。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいまの後藤様,墳﨑様の御説明につきまして,御質問等ございましたら。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】ありがとうございました。2点質問させていただきます。

まず,2ページ目の資料のところで,先ほど多分少し注釈をされたと思うんですけれども,念のために,確認なんですけれども,このタイトルは「運営者」となっているのですけれども,この下を見ますと,少なくともA社・B社自身がリーチサイトを運営しているということではなくて,A社・B社のシステムを使って,20人いるのか,1人が20個やっているのか分かりませんけれども,誰か第三者であるA社のブログのユーザーがリーチサイトを運営している。B社についても同じことである。その他については,これはそこは混然一体となっているかもしれない。そういうことなのかなと思ったんですが,まずそれでよいのかどうかというのが1点でございます。

それからもう1点は,最後の4ページのところなんですけれども,私もこの広告出稿の停止というのは非常に重要な部分だと思っております。基本的には兵糧攻めにするというのが一番重要だろうと思っているんです。そこで,例えばこれは,実際にこういうことはほとんどないと思いますが,仮に一部上場企業とか,日本の上場企業とかの広告がこういうところに出ているということをCODAさんの方で見付けられたら,広告というのはどこのものかというのは分かるわけですから,それでないと広告になりませんから,その広告主御本人に「こういうのが出ているんですが」と要請されても,それは何ともできないんだ,どうしようもないんだということになるのか,その辺がちょっとよく分からない。途中の広告の配信業者に頼みにいっても多分そうだと思うんですけれども,もともとのところに頼んで,「こんなところに出ているんですが,それは御社として御理解の上なのでしょうか」となって,「いや,対応できません」というお話になっているのか,いやという話なのか,その辺の実態をもう少し教えていただければと思いました。

すみません。ありがとうございます。

【墳﨑氏】ありがとうございます。1点目の御質問は,御理解のとおりでして,飽くまでもこれは,A社がサービスとして提供しているブログサービスを利用しているという趣旨で,リーチサイトを作っている人は別にいます。なので,御理解のとおりです。

広告に関して言いますと,広告の多層化が進んでいるという部分において,結局は広告主がどういうサービスを使っているかにちょっとよってしまっていて,要はここまで多層化されていないものも当然サービスとしてはあって,それであれば簡単に止められます。他方で,この多層化しているものに関して言うと,広告主さんがそこで広告はやめてくださいと言ったときに,どこまで止められるかというと,少なくとも我々が聞いているところでは,絶対に止められるとは言えないとは言われております。ある程度出にくいようにはできるとは言われていますけれども,要はこの図はすごく簡略化されている図なので,アドエクスチェンジという,先ほど後藤の方が説明した正にマッチングシステムというものですけれども,これが何個も積み重なっていたりすると,ここのアドエクスチェンジにおいては止めるというシステムがある,要はこのサイトにはもう出さないでくださいというシステムがあるけれども,他のアドエクスチェンジの方ではなかったりするんです。それがまた迂回して出てしまったりするというのもあるようなので,そういった意味で広告主さんが絶対に止めたいのであれば,こういうシステムをそもそも使わないという選択肢をとらざるを得ないのかもしれません。

【土肥主査】奥邨委員,よろしゅうございますか。

【奥邨委員】はい。

【土肥主査】松田委員,お願いします。

【松田委員】4ページの図の中で,広告会社という表示があります。これはインターネット広告ですから,日本で言えば,博報堂系のインターネット広告会社と電通系の広告会社,これは共に大手ですよね。あとはうんと小さい会社がたくさんあるんだろうとは思います。この二つの会社もこういう広告会社の中に入って,交渉ができないということなんでしょうか。ないしは,この広告会社ですら,実は広告の技術上はなかなか実態がつかめないと,こういうところがあるんでしょうか。

【土肥主査】お願いします。済みません,この図もせっかく出していただいているので,図の説明も加えながら,在庫,広告という黒い線と,黄色というんですかね,そういう線をせっかく出していただいておりますので,その辺も含めて,私に分かるように,一つよろしくお願いします。

【墳﨑氏】広告会社の方でも把握できていない部分はあると認識しております。実際,広告を出したりしても,どこに出ているかというレポートの中にunknownというのが出てきたりするので,レポートの中にも,どこに出ているのか,何割かは分からないと出てきたりするぐらいですので,恐らく把握できていないのかと認識はしております。ただ,内部にいるわけではないので,それが本当かどうかというのは分からないですし,少なくとも我々がそのように止められないかという話をしたときには,それは「絶対のお約束はできない」ということは言われているところではあります。

この図に関して言うと,広告主が,広告代理店等の広告会社に,「こういう広告を出したい」ということで,DSPというのは,最も自分たちの条件に合った広告枠を探してくれるというところになりまして,逆の媒体社というのはサイト側ですけれども,サイト側がSSPというサービス会社に,こういう枠があって,こういう金額で出せるところを探してくださいといって,それでDSPとSSPの方で,アドエクスチェンジシステムの方でマッチングをやるといった流れになっているわけです。もちろん,アドエクスチェンジシステムを必ず使うというわけではないので,そうではない部分もあり,これは一例ではありますけれども,これが広告を効率よく回すという意味でよく使われているシステムということになっております。

【土肥主査】松田委員,よろしいですか。どうぞ。

【松田委員】しっかりした知識ではありませんが,ここでいう広告会社がネット上の広告の枠を,新聞の広告枠のように契約を取ってくる。ところが,そこに載せる広告は,A社の広告なのか,B社の広告なのか,C社の広告なのかと特定できるのではなくて,最も効率のいい,そのWebの情報内容や時間帯や,需要者の属性その他の情報等を計算して,その枠に最適の広告をはめ込む。これをITが自動的にやる。こういうことが行われているようであります。そうすると,そういうものを全部フォローしていくと,果たしてリーチサイトに当たるものについての広告が,どういう会社が広告を載せたかというのは後でデータを分析すれば分かるかもしれませんが,なかなか追及することが難しい。こういう実態があるように思います。こういう理解でよろしいでしょうか。

【墳﨑氏】はい,正に御理解のとおりでして,枠自体を買ってきて,そのままやるというやり方というよりは,例えばですけれども,皆さんも御経験があると思いますけれども,サイトを見るたびに広告が変わります。サイトを見た瞬間に,この人がサイトに行ったという情報が出て,誰が広告を出しますかということでマッチングが行われるんです。だから,その都度マッチングがやられているという状況なので,例えば今私が見ているサイトで,侵害サイトに広告があるから,この広告を止めてくださいと言っても,次からは出なくなるというだけの話なんです。その広告自体は次に出たときにそもそも出るのかというのが違っているわけで,見るたびに広告というのは変わるというのが現状なんです。

【土肥主査】では,最初に上野委員で,次に奥邨委員ということで。

【上野委員】スライドの3枚目について簡単に二つ確認をさせていただきたいと思います。

一つ目は,私も委員をしておりました知的財産戦略本部の次世代知財システム検討委員会で,去年の2月8日に後藤さんに参考人としておいでいただいたときは,グーグルさんはリーチサイトの削除をしてくれないとおっしゃっていましたが,先月行われた本小委員会の前回会合でグーグルの方にお伺いしたところ,リーチサイトと侵害サイトを分けていないというお答えがありました。それが「サイト」なのか「コンテンツ」なのかという点は依然としてはっきりしないところがあるように私は思うのですけれども,いずれにいたしましても,CODAさんの御認識としては,この間にグーグルの運用が変わったということでしょうか。これが1点目です。

2点目は,トップページについては,今も削除がなされていないというお考えでしょうか。

以上です。

【土肥主査】奥邨委員,質問を一緒に。いいですか。

【奥邨委員】違うのを。

【土肥主査】三つ目,四つ目の質問をしていただいてもいいと思います。

【奥邨委員】いいですか。

【土肥主査】はい。

【奥邨委員】先ほどの松田委員の御質問のところに関係しますし,逆に言うと,CODAさんは御存じなければそれで構わないんですけれども,同じように対応できないのかというのは,わいせつなページであるとか,それから薬物のページ等々,これはもっと企業にとっては大問題だと思うんですけれども,それについても,一旦出した以上はどこに出るか分からないんですということでみんな対応が済んでいるのかどうかです。むしろ,それについてはかなりブロックが効いているのではないかなと個人的には思っているんですが,やはり著作権についてはかなり甘く対応されているということなのか,それとも技術的にできないというのは,やっていないのか,本当にできないのか。ちょっとわいせつや薬物とで状況が違うのかなと個人的に思ったものですから,御存じないかもしれませんので,それであればそれで結構ですけれども,ちょっと確認までです。

【土肥主査】それでは,併せて一つ説明いただければと思います。

【墳﨑氏】はい。まず検索エンジンの方ですけれども,御理解のとおり,対応が変わったと認識しております。ここにも書かせていただいていますとおり,明らかに変わったと思っておりますし,事実,変わっています。

あと,トップページに関しては,済みません,対応されていないという認識ですけれども,ここ1か月やっているということではないので,そういう意味では現状はどうなっているかは,申し訳ありませんが,分からないと申し上げます。

【後藤氏】それでは広告の件ですけれども,先ほどイギリスのPIPCUが進んでいるというお話をしましたが,イギリスの場合は,いわゆる大手の広告主,大企業の皆さんに協力を仰いで,侵害サイトに載せないという方法をとっていまして,それが幸いに成功していると。侵害サイトに載る広告は,脆弱な企業とか,言葉は悪いですけれども,大きい金額が侵害者に渡らないということで成功しているという評価をしています。

ではそれは何をやっているかということですけれども,イギリスの場合は,今,墳﨑も言いましたように,非常に複雑なこの広告のシステム,これを監視するためのソフトをお作りになって,それで探索をされている。それで企業さんに対してレポートを渡す。「大企業であるあなたの広告がここに出ているのですよ。それでお金がこれだけ流れているのですよ」という提示をするということでございます。更にその次の段階として,「こういうことがもう一回あると,いわゆる侵害者に利益供与しているということでマネロンに当たるということで,これは下手をしたら警察沙汰になりますよ」ということで,「こういうことはやめてください。したがって,侵害サイトに対して,広告を載せる,出稿するということは今後慎んでください」という協力を仰いで,イギリスの大企業の皆さんはほとんど協力をしているという状況だそうでございます。

【土肥主査】ありがとうございました。よろしゅうございますか。

ほかにございますか。井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】4ページ目のところですけれども,媒体社というところはサイトと考えていいんですよね。そうしますと,このサイト自身はIPアドレスで特定されると思いますので,IPアドレスを否定してしまえば,一応前の段階でブロックしてしまうことは可能なのではないかと思うのですけれども,それについては技術的には難しいのでしょうか。

【墳﨑氏】済みません,明確に技術的に可能か不可能かと言われると,ちょっと分からないんですが,それはどこまでコストを掛けてできるのかという話もあると思うので,少なくとも何層かに渡る段階で,要はそういうのを止めないというアドエクスチェンジを経由してしまうと,通ってしまうとは聞いております。要は,著作権侵害だからやめてくださいという,こういうのは止められますというシステムだけではないので,正直,そのように事前に止められるシステムを設けているアドエクスチェンジと,そうでないものがあると認識しているので,サービスとしてそもそもそんなことはやっていないというものを利用していると,結局出てしまうというところなので,それはどこまでその広告会社がそのルートを全部把握しているかというところにつながってくるのかなと思っています。

【土肥主査】井奈波委員,重ねて御質問はありますか。なかなか難しそうだなというのは伺っていて思ったんですけれども。

【井奈波委員】技術的には可能なのではないかなと個人的には思いますので,その点,更に御調査いただければありがたいと思います。

【墳﨑氏】はい。私もそれは同意見ですが……。

【土肥主査】金と時間が掛かる。

【墳﨑氏】はい。できるのではないかなというのは,正に委員の先生方も思っているとは思っていて,CODAとしてもそれは思っているところではあるのですけれども,ただ,少なくとも現状においてはそのような説明を受けているという部分と,あと,確かに実際に広告とかをやっている調査の中でも,完全に止めるのは難しそうだなというのは実際としてはあります。完全に追う,完全にどこに出ているかを追っていくというのがかなり難しいというのが,調査の結果としては出ております。

【後藤氏】ただ,イギリスの例がございますので,広告主の団体,それと広告配信事業者の団体の皆さんとお話合いを始めたばかりでございますので,今後その辺も深掘りして,お金は掛かりますので,その辺を追及していく,精査していくということが肝要だと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。いろいろお尋ねしたいことも多々あるのかなと思いますが,時間の関係もございますので,CODA様の御発表についての御質問といいますか,お尋ねはこれぐらいにしたいと思います。ありがとうございました。

それでは,表現の自由との関係でございますけれども,前回のヒアリングにおいて,この表現の自由との関係を十分配慮する必要があるといった御意見が多々ございました。そこで,具体的な検討に入ります前に,憲法の研究者の立場からこの点についてのお話を伺うことができればと思っております。本日は,神戸大学から木下先生にお越しいただいております。そういうことで,どうもありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。

【木下氏】御紹介いただきました木下と申します。本日は,リーチサイト規制と表現の自由の問題について,簡単に御報告をさせていただきたいと存じます。

皆様も御存じのように,インターネットに違法にアップされた著作物のURLの提供行為やリーチサイトの運営行為というのは,著作権侵害を誘発,助長させているものということで,その必要性が指摘されております。他方で,URLの提供行為やリーチサイトの運営というのは表現行為としての側面があり,その規制は憲法上疑義を生じさせるのではないかという意見がございます。そこで,本日は,それらURLの提供行為やリーチサイトの運営を規制するに当たって,憲法的観点から考慮すべき事項あるいはその限界について,既存の判例法理及びそれを解説した調査官解説等の記述を参考に,差し当たり一般的見地から現段階の報告者の考え方を紹介させていただきたいと思います。

まず,URL提供行為,一般にはリンクの貼付けと呼ばれる行為というのは,そもそも憲法21条1項によって表現の自由として保護される表現行為に該当するのかどうかという問題があります。この点について,我が国の学説は現在のところ十分な蓄積があるとは言えませんけれども,一つの大きな手掛かりとなるのが,平成29年1月31日に出されたグーグルが提供する検索結果の削除の可否について判断した最高裁決定です。

この最高裁決定は,URLの提供を含む「検索結果の提供は」,「検索事業者自身による表現行為という側面を有する」との認識を示した上で,「特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約である」ということを述べております。

この説示においては,URLの提供行為が表現行為となり,さらに,それを違法として削除を求めるということが表現行為の制約になるという考え方が示されたものと考えることができるかと思います。もちろん,これは検索結果を通じたURLの提供ということですので,射程を狭めるということもあり得るとは思います。ただ,私としては,基本的にはURL提供行為が表現行為となり得るということを示した説示であると捉えることができるかと思います。

また,理論的にも,無数のウェブサイトに情報が散乱していますインターネットにおいては,情報の場所を示すURLの提供はインターネット上での意見交換や情報摂取の過程において不可欠な役割を担うものであって,その重要性に鑑みれば,それを表現行為として捉え,憲法21条1項における表現の自由として保護されるものであると捉えることについては,基本的には異論はないのではないかと思います。

もっとも,当然ながら,表現の自由として保護されるからといって,それは絶対無制約なものではなくて,公共の福祉による制限の下にあるということは我が国の最高裁判例の一貫した考え方であって,必要かつ合理的な制約である限り,表現の自由に対する制約も可能であるということが考えられます。

もっとも,その必要かつ合理的な制約とは何なのかということが最大の問題となるわけですが,現在,それについての最高裁の基本的な考え方というのは,利益衡量によってそれを判断するというものです。特によど号新聞記事抹消事件判決以来,「自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは,右の目的のために制限が必要とされる程度と,制限される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべき」というのが基本的な考え方です。

ただ,その利益衡量を枠付けるものとして,いわゆる「厳格な基準」というのが用いられることになります。表現の自由のように優越的地位を占める人権の制約に対しては,単純な利益衡量ではなく,「厳格な基準」ないし「厳格な基準を意識・配慮した基準」を併用する必要があるというのが今日の判例の立場であると言えます。もとより,それは芦部憲法をはじめとした憲法の通説でもあります。

「厳格な基準」とは何なのかということについては様々な考え方がありますけれども,「明白かつ現在の危険の基準」,規制の対象・程度が必要最小限度であることを要求する「必要最小限度の基準」,規制の対象・程度がより制限的でない他の選び得る手段であるかどうかを審査する「LRAの基準」等が,最高裁が現に採用している厳格な基準として調査官解説ではよく挙げられております。

この点,URL提供行為というのは,違法動画のURL提供行為やそれを掲載するサイトを規制するということは,「表現そのもの」を対象に,「表現そのもの」の抑止を狙いとしてなされるものであって,それだけを取り出せば,「厳格な基準」に基づき判断されるべき典型的な規制であるということが言えます。

もっとも,同じく「表現そのもの」に対する規制の典型として知られるわいせつ規制においては,今日,判例は,先ほど述べましたような利益衡量論に基づく憲法判断をするというよりも,むしろあらかじめ合憲となるものとして絞り込まれた特定の範疇に当該表現行為が含まれるかどうかを検討することで当該規制の合憲性を判断する手法,ここでは以下「カテゴリカル・アプローチ」と呼ばせていただきますけれども,そのような枠組みを採用していると考えられます。これは,著作権法における新たな法制について考えるに当たっても参考になるものと考えられます。

刑法175条1項は,わいせつな文書等を頒布し,又は公然と陳列する行為を処罰しています。これが合憲であることは,チャタレー判決や悪徳の栄え判決などの一連の大法廷判決によって確立されたものとなっていますけれども,最高裁は,これらの判決以後,改めて利益衡量に基づき,先ほどの「厳格な基準」に基づき判断するという手法を必ずしもとっているわけではなくて,むしろ,何が,このような「わいせつ」あるいは「頒布」,「公然陳列」に該当するがということを判断することによって,表現の自由との調整を図るということを行っています。すなわち,「わいせつ」等の概念を絞り込んだ上で,その概念に問題となった表現行為が該当するかどうかの検討を通じて,表現の自由と公共の福祉との間の調整をするということです。

例えば,平成24年7月9日の最高裁判決があります。これは,児童ポルノを掲載した他人のウェブサイトのURLをウエブ上で提供する行為は,児童ポルノ処罰法7条4項がいうところの公然陳列に該当し,処罰の対象となるとした高裁判決の上告を棄却しています。これも上記のようなカテゴリカル・アプローチの典型であると考えられます。当該判決は,事例判断的側面の強い判決であって,最高裁は憲法判断を明示的には示していませんけれども,わいせつや児童ポルノについては,公然陳列行為が合憲的に処罰対象になるということを前提として,URLの提供行為もその公然陳列に該当するから,その行為を処罰することも合憲であるという暗黙の判断がなされたものと考えられます。

ただ,重要な点は,最高裁はその全てにおいてこのカテゴリカル・アプローチで判断しているわけでも必ずしもないということです。その典型であるのが,札幌税関検査事件の最高裁大法廷判決です。これは,わいせつ表現物の輸入規制が問題となった事件ですけれども,最高裁は,その輸入規制について,チャタレー判決や悪徳の栄え判決に照らし,必ずしも直ちに合憲という判断をしていません。すなわち,わいせつ規制が既に合憲であるから,輸入規制も合憲であるといった簡単な説示を持っているわけではなくて,更にもう一度,そもそも輸入規制ということが合憲であるのかどうなのかということについて,「厳格な基準」を併用しながら行ったといえます。

これを整理するならば,カテゴリカルにわいせつ表現物の「頒布」あるいは「公然陳列」に該当すると言える場合であるならば,それは合憲的に規制できるということになりますけれども,わいせつ物の「頒布」や「公然陳列」というもの自体には該当しなくて,むしろ,それを予防的に防ぐための措置である場合には,改めてバランシング・アプローチを,「厳格な基準」を用いて行うという2段階の方法をとっていると思われます。

著作権保護を目的とした憲法判断の方法について,現在のところ,著作権に関する憲法判例というのは全くなく,確立した判例,学説は存在しないと言っていいかと思います。ただ,基本的には,同じく「表現そのもの」に対する規制であるわいせつ規制に見られるように,カテゴリカル・アプローチとバランシング・アプローチの両方の観点から考えることが適切であろうと考えます。

まず,これはもう言うまでもないことだと思いますけれども,著作権法制には,表現の自由との緊張関係を調整するための内在的調整原理として,表現/アイデア二分論といった,そもそも規制の対象となる著作物の利用に対する厳格な限定や引用法理などの権利制限規定が存在しています。そのことから,基本的には「厳格な基準」を併用する利益衡量をあえて持ち出すまでもなく,既存の著作権法の解釈が最高法規である憲法を踏まえつつ行われる限り,既存の著作権法と表現の自由の間に憲法上の問題は生じないものと考えられ,また実際に判例実務もそのように運用されてきたと考えます。

加えて,新たな著作権侵害に対処するための新たな法制度を設定する場合においても,伝統的な著作権法の枠組みの範囲内での規制と実質的に同視できる場合や既存の調整原理に基づき適切に調整がなされると解し得る限りは,法令の具体的な解釈の問題はともかくとして,法令それ自体の憲法上の問題は発生しないと言えるのではないかと考えます。また,著作権侵害行為に対する予防的措置についても,例えば伝統的に言われている「幇助」や「教唆」といった伝統的な拡張法理のカテゴリーに収まる限りは,同じく憲法上の問題は生じないと考えられます。

このようなカテゴリカル・アプローチが妥当する領域においては,著作権法それ自体の合憲性は,伝統的な意味あるいは核心的な意味での著作権侵害とは何か,「翻案」,「引用」,「幇助」,「教唆」とは何かといういわば法解釈論に実質的には還元されると言っていいのではないかと思います。

実際,ちょっと先ほどのわいせつの話に戻りますと,今,例えば「わいせつ」が合憲的に処罰対象になるということは確実に判例になっているわけなんですけれども,そこで今様々な訴訟で争われているのは,そもそも「わいせつ」とは何かという議論なわけです。それと同じような形で,伝統的な著作権法制の合憲性においては,このような伝統的な概念,「翻案」とか「引用」とか「幇助」とか「教唆」とか,そういったものが一体何に当たるのかということを検討することによって憲法判断が置き換えられ得ると考えられます。

ただ,予防的な措置については,「幇助」や「教唆」のカテゴリーを超えて,更にそれを広がった規制をするという場合には,原則的には「厳格な基準」を併用した利益衡量論に基づく必要があると考えられます。また,そのような予防的措置を必要とする立法事実の裏付けも必要になろうと考えられます。このように考えることが,わいせつ規制についての合憲性の枠組みとも合致する上,伝統的に実現されてきた著作権と表現の自由との間のバランスを適切に保つことにも資すると考えられます。

そこで,具体的にURL提供行為等に対する規制について見ていきますと,著作権侵害を誘発するURL提供行為というのは様々なものが考えられると思いますけれども,違法にアップロードされた動画等それ自体のURLを提供する行為は,現行の法解釈はともかく社会的実態としては,伝統的な著作権侵害である著作物を複製し頒布する行為とほぼ同一視できるものであって,その行為を新たに規制の対象とすることについては,「厳格な基準」に基づく利益衡量を持ち出すまでもなく,直ちにそれが憲法上の問題を生じさせるとの評価に値するものではないと考えられます。また,伝統的な著作権侵害行為の範疇から外れる余地があるものとして,「厳格な基準」を併用するバランシング・アプローチに基づく判断をしたとしても,それを規制する必要性を裏付ける立法事実というのは先ほどお話がありましたようにあると考えられますし,また,多くのストレージサイトが海外に存在する上で違法動画の拡散を防止するためには,他に有効な手段も余り考えられないと評価できます。

もっとも,一般に著作権侵害があるかどうかというのは,一般人にとってはなかなか判断が難しい場合もありますので,単純に著作権侵害がある動画あるいは著作権侵害があるサイトのURLの提供を違法とすることは,有用なURLの提供行為について広く萎縮効果を与えてしまう可能性があります。そのため,規制対象となるURLについては海賊版等に限定する方がより憲法的要請にかなうものと言えましょう。

また,違法にアップロードされたものについては,その文脈にかかわらず,あらゆるURLの提供行為を禁止することができるかということについても慎重に考える必要があろうかと思います。特に,引用として当該動画のURLを提供する行為もあり得,それを禁止することは引用として著作物の利用を認めてきた伝統的な著作権法の調整原理に抵触する可能性があることについては,慎重に考えていく必要があるかと思います。その意味で,違法にアップロードされた動画のURL提供行為については規制の対象になり得るとしても,表現の自由との調整という観点から引用に関する適切な免責を設ける必要性については立法に当たって検討を要することかと思われます。

その次に,単にURL提供行為だけでなく,リーチサイトそれ自体,ウェブサイトの運営それ自体を違法とし,その全体を差し止めることができるかという問題がまたあろうかと思います。

リーチサイトの運営者に対し,URLの削除の義務を課すことは,URLを放置することが実質的にURLの提供と同視できるものであると考えられますので,URLの提供行為それ自体に対する規制と同様に憲法上の問題は生じないと考えられます。

ただ,リーチサイトにおいては,違法動画のサイトのURL以外にも,当該動画の内容や感想,評価等,それ自体は著作権侵害に該当しない適法な表現行為も含まれている場合があるかと思います。著作権侵害に該当しない表現行為も含めサイト全体の差止めを求めることについては,違法動画のURL提供行為に対する規制以上に慎重になる必要があると考えます。特に,同じサイトにおいて著作権侵害がある場合であっても,著作権侵害とは無関係な部分も含むサイト全体に規制を及ぼし得るとすることは,伝統的な著作権法の枠組みを超えて新たな規制を表現の自由に課すものと評価することができます。すなわち,著作権侵害をするという著作権侵害表現だけではなくて,著作権侵害表現とは異なる別の表現に対して規制を加えるものということになりますので,これは御議論の余地があるかと思いますけれども,私としては,既存の著作権法の伝統的な枠組みを超えるのではないかと思います。そのため,URL提供行為に対する規制とは異なり,リーチサイト全体に対する差止めの憲法適合性というのは,「厳格な基準」に基づく利益衡量に従って審査されるべき対象になるものと考えます。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいまの木下先生の御説明につきまして,何か御質問がございましたら。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】どうもありがとうございました。2点お教えいただきたいんですが,両方とも7ページになりますけれども,まず一つ目は,上から二つ目ぐらいのパラグラフのところで,「一般的に著作権侵害があるのかどうかは」ということで先生が既にお書きのところに関してなんですけれども,例が出ておりますけれども,わいせつとか名誉毀損の判断というのは,最終的には法的判断であるとはしましても,その基礎というのは基本的には社会通念に照らしてとか,一般読者の普通の注意と読み方に基づくといったことになっていますので,一般人も大体アウトかセーフかというのはある程度評価ができる。ところが,著作権侵害というのは,これは純粋に法的な評価をしなければならないわけですので,その結果,わいせつの場合と著作権の場合を比べると,著作権の場合の方が,一般人はもしかしたらアウトかもしれないなと思って,表現行為をやめてしまうという萎縮効果は高いのではないかなと私は思うんですが,そこは先生はどうお考えになるのかが1点でございます。

それからもう1点は,その下のところで,リーチサイト全体に対する問題とした場合に,侵害でない表現があった場合に対する差止めになってしまうのではないかという御指摘があったのですが,ちょっとこれは私はちゃんと勉強していないのであれなんですが,例えばわいせつ書籍の輸入なども,全ページ,最初から最後まで全てわいせつ,全部アウトということではなくて,特定のこのページとこのページとこのページが駄目で,そうではなくて,例えば問題がないページもある。普通に,特にわいせつとまでは言えないような写真のページもあるということで,そういうのがセットになっていると思うんです。ですから,その場合も,一旦は本全体の輸入が止まるといったことになることと余り変わらないのかなと思うんですけれども,その辺はいかがなのかなというところの2点をちょっとお伺いできればと思いました。

【木下氏】御質問,ありがとうございます。まず,最後の御質問からお答えさせていただきますけれども,「わいせつ」については,ある書籍の一部に「わいせつ」な部分が含まれる場合,そもそもそれが「わいせつ」に該当するのかというのは,いわゆるメイプルソープ事件で激しく争われた点で,「わいせつ」な部分が書籍の一部だけの場合はそもそも「わいせつ」に当たらない場合があるという最高裁の判断があるということはちょっと前提とさせていただきます。

その上で,書籍の場合には御指摘のように書籍全体が輸入規制の対象になっているわけですが,それは,基本的には,書籍というのは物理的に分解しない限り切り離せないという実際上の事情に基づくものであるといえます。

他方で,ウェブサイトの場合は,URLだけを削除するということは,実際上も可能だと思われるわけです。私の認識では,例えば名誉毀損とかプライバシー侵害に基づくウェブサイトの記事の削除請求の多くが係属しているが東京地裁の民事保全部では,私の知る限り,これまでサイト全体を差し止めるということはなされたことがないと認識しております。基本的に,差止めが認められるのは,飽くまでもプライバシー侵害や名誉毀損に該当する部分のみであるというわけです。その運用を前提といたしますと,著作権侵害についても,基本的には,違法な部分だけが削除の対象になり得ると考えます。もちろん,名誉毀損毀損とかプライバシー侵害というのは,法律がないわけですから,法制度を導入すればどうなるのかということは議論になる余地はありますけれども,私の知る限りでは,表現の自由の観点を踏まえて,サイト全体ではなくて,サイトの一部だけを差し止めるという運用がなされていると理解しておりますので,それとパラレルに考えた結果,著作権侵害についても,実効性の観点から,サイトの一部の削除を請求するだけではどうにも対処できないといった立法事実があるとするならば,許容される余地はあるかと思いますけれども,それは著作権侵害と関連するからというだけで合憲性を基礎付けることができるものではなくて,飽くまで「厳格な基準」に基づく審査を経る必要のあるものであろうと考えます。

あともう一つ,最初の御質問なんですけれども,一般人の判断が難しいということは,正に私もそのとおりだと考えておりまして,正直,著作権法は,建前としては一般人には分かるという建前で捉えているのかと思いますけれども,実際上は,著作権侵害に該当するかということについては,専門家の間でも意見が分かれるほど,かなり複雑なものでして,およそ一般人にとっては,何が著作権侵害か分からないということになってしまって,単純に著作権侵害のサイトのURLを張り付けることが違法だということにしてしまいますと,もうURLを張り付けること自体が怖くなってしまって,萎縮してしまうのではないかと思われます。そのため,特に著作権侵害であることが明白な場合,先ほど議論がありましたように,動画がそのままアップされているとか,そのようなものに限って規制するというのが萎縮効果を防ぐという観点から重要なのではないかと考えられます。

【土肥主査】ありがとうございました。奥邨委員,よろしいですか。

【奥邨委員】はい。ありがとうございます。

【土肥主査】では,前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】詳細な御報告,ありがとうございました。今御説明いただいた中で,合憲性判断の基準として,バランシング・アプローチかカテゴリカル・アプローチかを分ける重要な指標として,伝統的に合憲的に規制の対象になるカテゴリーに属するかどうかというところを示していただいたと思います。ということになりますと,著作権法の場合は,従来,公衆送信権というのがあって,それは規制の対象になっており,更に公衆送信権侵害に対する幇助行為というものも,刑事罰の対象あるいは損害賠償請求の対象として規制の対象になってきたと思います。そうだとすると,公衆送信権侵害と実質的に同視できる行為について規制を及ぼす場合には,それはカテゴリカル・アプローチでいいということになると思います。さらに,それに対する幇助行為というものに対してもカテゴリカル・アプローチでいいということになるのかなと思いました。

その上で御質問なのですが,先ほど来,サイト運営全体に対してどういう規制行為を及ぼすことができるかというところが議論になっております。サイト運営行為のうち,少なくとも一定の悪質なものについては,従来の著作権法の解釈でも,公衆送信の幇助になる可能性があるということは指摘されてきたと思います。従来の解釈においても幇助となるようなものと同視できるようなものに対して規制を及ぼすということであれば,カテゴリカル・アプローチでいいということになるのではないかと思ったのですが,そのような理解はいかがでしょうか。

【木下氏】ありがとうございます。ちょっと確認ですけれども,サイト運営行為といった場合のサイト運営行為というのはいかなる行為なんでしょうか。

【前田(健)委員】特に限定して考えておりませんでしたけれども,違法なリンクが多数張られた状態のサイトをそのまま存在させ続けるということではないかと思います。

【木下氏】それは多分,実行行為の概念とか,そういうものに関わってくると思いますけれども,私の理解では,例えばその場合,実行行為になるのは,違法なURLの提供を放置しているという不作為の行為であって,違法なURLの提供行為とは異なる部分も含むサイト全体を提供する行為について,それも含めて犯罪行為あるいは著作権侵害行為と考えるということではないような気もするのですけれども,その点についてはいかがですか。

【前田(健)委員】済みません,ちょっと補足させていただきますけれども,単に放置するということだけではなく,違法なリンク先があるURLを張らせる場所を用意するということもあると思います。それも含めてということではいかがでしょうか。

【木下氏】それについては,その判例の射程ということについては争いがあるかと思いますけれども,例えば出会い系サイトの規制法というものについての判例があります。出会い系サイト規制については,理論的には,サイトそれ自体を,例えば児童売春等の場所になり得るものを運営しているという観点から,規制の対象とするという立法もありえます。ただ,現行法はそのような仕組みにはなっておりません。最高裁も,正に,出会い系サイトにおいても児童売春等に関係ない部分についてまで規制が及んでいないことを現行法の合憲性を基礎づける理由として挙げているわけです。仮に表現が分離できるような場合であれば,その全体を違法とするということはやはり一つ踏み越えていると考えます。違法な表現部分と違法でない表現部分というものを分離できる場合には,それを全体として制限するということについては,それぞれ別枠で審査基準というのを考えなければいけないのではないかと考える次第です。

【前田(健)委員】全体を規制することに対して弊害が大きいということは十分理解しているつもりなのですが,カテゴリカル・アプローチかバランシング・アプローチかという点で言えば,従来の著作権法の解釈においても対象とし得る行為であったのだとすれば,カテゴリカル・アプローチの方になるのではないかという趣旨の質問でした。もちろん,カテゴリカル・アプローチにいったとしても,全体を規制するということの弊害について考慮しなくていいということではないとは思いますが,それは著作権法の解釈の中で考慮すればいいという問題になると思ったのですが。

【木下氏】そうですね。済みません。大分のみ込めてきたのですけれども,仮にといいますか,伝統的な著作権法としては,著作権侵害の幇助に当たるようなサイト全体についても規制の対象になるんだといった伝統的な裏付けとか解釈論的な裏付け,単に立法化されているというだけではなくて,より核心的な部分だということの論証ができるのであれば,私のいうカテゴリカル・アプローチの範疇に入るものと思われます。ただ,一方で,先ほど申しましたように,名誉毀損とかプライバシーとか,そういった諸権利においては必ずしもそのような運用がなされておりません。そこまでの権利性はもたないと考えられてきたかと思います。あるいは名誉毀損とかプライバシーとか,少なくとも,名誉毀損やプライバシーにおける運用との整合性については説明する必要があるのではないかと思います。なぜプライバシーとか名誉権には認められてこなかった権利というものが著作権には認められているのかということが論証の課題になってくるのだと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。その点なんですけれども,また大学に行かれて,一つ,この後恐らく相当まだ問題があるので,これについてはちょっと手短にお願いできますか。

【大渕主査代理】今の点は,全体か部分かというのはもうおおむね分かりましたので,確認に近いのですが,伝統的な云々というのはtraditionalcontoursから来ているかと思うのですが,ほぼ同一視というのが,上に挙げておられる正犯と幇助,教唆あたりならば,普通の刑法でも,それで済むので,余りややこしい話をしなくてもよいのではないかと思います。誰が見ても刑法の教唆や幇助なら伝統的だし,それが著作権でも,そういうものなら同一視できますが,先ほどのような,それを超えてほかのものまでやるのは,要するに通常言われているようなもの以上の規制を掛けると問題になるけれども,そうではなくて,伝統的な教唆,幇助等なら問題ないという,それに尽きるのならば,余り時間は掛けなくてもよいように思われます。我々には有益な示唆だったと思いますので。

【木下氏】そうですね。

【土肥主査】ちょっと待ってくださいね。小島委員からちょっと1点,質問か何か分かりませんけれども,発言いただいた上で,お二人の御発言を受けていただければと思います。

【小島委員】ありがとうございます。済みません,手短にします。

要するに,伝統的処罰対象か,そうでない予防的措置かということとの関係で,この委員会でもそうですけれども,リーチサイトについては間接侵害的なものも踏まえて議論するべきであるということだったと理解していまして,後ろの方で木下先生が書かれている,これは6ページの1のところですね,違法にアップロードされた動画等の場合には,この複製,頒布等と同一視できるということで,要するに平たい言い方をすると,明々白々にこれは著作権侵害サイトですよねということが分かるようなものについては,伝統的な処罰対象というか,予防的云々ということではなくて,そういう審査の判断で臨むと,こういう御理解なのかなと思いながら聞いていたのですが,その理屈で間違っていないかという確認をさせていただきたいと思いました。

【木下氏】先ほどの小島先生のお話だと,明らかに違法な動画を張り付けることに私の議論は限られるのかということでしょうか。ちょっとその辺は難しいところなんですけれども,差し当たり,明確に違法動画というものに対して張り付けるという行為はそうなんだろうと思います。ではほかにどうなのかということなんですけれども,それも論理的に言えば,伝統的な意味での著作権侵害行為の頒布と同一視し得るような気もするのですけれども,他方で,それもちょっとカテゴリカル・アプローチをとりつつも,難しいのかなと思うのが,やはりURLの特殊性というものがあって,みんな自由に張って,それが表現空間を築いているところがあるので,動画以外のものというか,違法性が明らかなものではないもののURLを張り付けるという行為までも,その規制が果たしてカテゴリカルに合憲だと言えるのかということについては,ちょっとまだ勉強させていただきたいと思いますし,また皆さんに御議論していただきたいところではあります。

【土肥主査】その点は,恐らくこの後また出てくると思いますので,その場面で,もし何か御発言があれば,していただければと思います。

また,前田委員におかれましては,いろいろこの後の話がもしあれば,後の委員会で紹介していただければありがたいと思います。

時間が今4時15分ぐらいで押してきておりまして,まだ二つあるものですから,よろしいですか,次に行っても。いいですか。

【松田委員】進行についての意見。憲法問題は非常に重要で,それを乗り越えるべきだと思っています。木下先生にお伺いする質問がいっぱいあるようですから,質問を事務局にメールで出して,私も出したいのです。木下先生にそれに答えていただけるのであれば,まとめて出すというのは駄目でしょうか。メールで整理してもらうということです。

【土肥主査】それは事務局にですよね。

【松田委員】事務局でやってもらわなければいけませんが。

【小林著作権調査官】木下先生に了解いただけるのであれば。

【木下氏】松田先生のおっしゃるとおりです。

【土肥主査】済みません,誠に……。はい,どうぞ。

【深町委員】刑法の立場から1点補足しなければならないと思いますので補足いたします。木下先生の御発表のカテゴリカル・アプローチという点ですが,実は刑法におきまして,教唆はともかくも,幇助という概念は極めて広範な概念です。最高裁の昭和24年の判例(最判昭和24・10・1刑集3巻10号1629頁)以降,幇助というのは,要するに有形・無形の方法で他人の犯罪を容易にするといった,はっきり言うと,非常に外延の広い概念として理解されておりまして,むしろ刑法の議論では,幇助というと,伝統的に非常に広過ぎて,なかなか限定しにくいものであり,それゆえいろいろなところで限定のアプローチが必要だと理解されていたところでございます。

この点が特に表れたのがWinnyをめぐる最高裁の判例(最決平成23・12・19刑集65巻9号1380頁)でございまして,Winnyの最高裁決定は,高裁判決が極めて限定的な幇助の理解を示したところ,それをひっくり返す形で,ただし,従来の昭和24年判決のような幇助の一般論よりはやや限定した形の幇助の理解をとり,被告人の故意を否定したことで無罪にしたというものです。要するに,カテゴリカル・アプローチをとるというときに一番の重要な点は,伝統的な処罰範囲がどのような範囲のものであったのかということであり,必ずしも刑法研究者の間でも理解が共有されているとは限りません。この点について何か御示唆があれば,時間の関係もありますので,この点も含めてちょっとまた議論の課題にできればと思っております。

【土肥主査】では,一言。

【木下氏】深町先生に重要な御指摘を頂き,ありがとうございます。私の理解では,先ほど正にWinnyで議論になったように,正にWinnyがそうであったように,「幇助」という概念をどう考えるかということが一番重要でして,「幇助」は憲法的観点から,伝統的にカテゴリカル・アプローチで限定すべきであるといった一つの例だったのですけれども,それは「幇助」概念を刑法学者と著作権法学者の議論あるいはそういうWinny事件のような判例等の蓄積により絞り込んでいくということが重要なのだろうと思います。

ただ,その場合,重要なのが,例えばWinnyの場合に「幇助」に当たらないとして無罪になったわけですけれども,そこで伝統的な「幇助」を越えて予防的措置を拡大した場合,例えばWinnyの提供を処罰対象とするように新たな立法をするというような場合には,憲法の原則的な厳格な基準に基づいてその合憲性が判断されるべきであろう。そういう趣旨ではございます。

【土肥主査】まだまだいろいろあるのだろうと思いますけれども,事務局の方で一つ取りまとめていただいて,また次回にでも紹介いただければと思います。

済みません,誠に不手際でございまして,今現在15分ですので,余り時間は残っていないものですから,次の,検討に当たっての主な論点と進め方について,事務局におかれまして案を作成していただいておりますので,こちらについて皆さんに確認だけしていただければと。お願いします。

【小林著作権調査官】お手元に資料4「リーチサイトへの対応に関する主な論点と進め方(案)」を御用意ください。こちらは,今後議論いただきます主な論点と進め方の案を示したものでございます。

まず一つ目の論点としまして,1.対応すべき悪質な行為の範囲としております。(1)と(2)に民事と刑事を分けておりますように,まずは民事,次に刑事の順で検討いただくことを想定しております。

(1)民事ですが,小委員会では,損害賠償に関しましては,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為のうち一定の悪質な行為については,現行法上も損害賠償の対象になり得るとの意見が多く出され,他方,差止め請求に関しましては,現行の解釈としても困難であるという意見が出され,また間接侵害一般に係る議論につきましては,将来の課題として引き続き解釈に委ねるといった方向でおおむね意見の一致が見られたところです。このような経緯を踏まえまして,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為のうち,差止め請求の対象として特に対応する必要が高い行為類型はどの範囲かについて議論を行う,としております。

次に(2)刑事ですが,こちらにつきましては,現行法で幇助として刑事罰の対象になり得るとの意見が多く出された一方で,どういった行為について処罰を下すべきであるのかは明確にした方がよいのではないかとの意見などが示されているところでございます。このような経過を踏まえまして,刑事罰の対象として特に対応する必要が高い行為類型はどの範囲かについて議論を行う,としております。

次の論点,2.現行法における対応の可能性ですが,こちらは,1.で対応すべきとされた悪質な行為について,現行制度における対応の可能性について検討を行う,としております。

次に,三つ目の論点,3.具体的な対応策についてですが,こちらは2.の議論を踏まえ,新たに法制度を設ける必要があると言えるか,仮に必要であるとされた場合にはどのようなものにすべきか,としております。

最後に,4.留意点としまして,検討に当たっては,表現の自由へ十分に配慮するものとする,としております。

説明は以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。

ただいま御説明がございましたように,今後の進め方,論点といったものを案として考えているのですけれども,おおむねこういう形で進めさせていただいてよろしゅうございますか。よろしゅうございますか。

御承認いただいたということで,「(案)」とありますけれども,「(案)」を取っていただいて,こういう形で進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

それでは,具体的な議論に入りたいと思います。資料5-1でございますが,「対応すべき悪質な行為の範囲」に関する検討について,事務局にて論点を整理いただいておりますので,この説明から,まずお願いいたします。

【小林著作権調査官】ただいま御承認いただいた資料4の1.(1)に該当する部分について御議論を頂くために,資料5-1を用意しております。御議論を頂く内容は,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為のうち,差止め請求の対象として特に対応する必要が高い悪質な行為類型はどの範囲か,でございます。本日はこちらを検討いただくために,五つの論点を御用意しております。

まず,論点1ですが,こちらは差止め請求の対象として特に対応する必要が高い悪質な行為類型は,誰のどの行為と考えられるか,です。こちらは,昨年度の整理に沿って,サイト型とアプリ型に分けて選択肢を用意しております。

まず,サイト型ですが,昨年度の整理によりますと,リーチサイトによる侵害コンテンツへの誘導行為につきましては,サイトを運営する行為とリンク情報を掲載する行為が含まれており,これら両方の行為を同じ人がする場合と,それぞれの行為を異なる人が行う場合があるということが分かっております。下の図は,二つの場合を模式的に示したものです。ケースIは,リンク情報の掲載と運営を甲が1人で行う場合,ケースIIは,リンク情報の掲載を乙,サイトの運営を丙といった別々の人が行う場合を示しております。

次のページをめくっていただきまして,この二つのケースを踏まえますと,差止め請求の対象として例えばaからeの行為が考えられますが,これらのうちどの行為が差止め請求の対象として特に対応する必要が高い悪質な行為類型と考えられるか,について意見を頂戴したいと考えております。

aは,ケースIにおいて甲がリンク情報を掲載する又は削除しない行為,bは,ケースIにおいて甲がサイトを運営するという行為,cは,ケースIIにおいて乙がリンク情報を掲載する,又は削除しないという行為,dは,ケースIIにおいてサイト運営者である丙がリンク情報を削除しないという行為,eは,同じくケースIIにおいて丙がサイトを運営する行為としております。

さらにfという選択肢を用意してございます。こちらは,ケースIの甲とケースIIの丙がサイトの運営を行うに当たって,ブログサービスや掲示板サービスといった第三者が提供するウェブアプリケーションを利用している場合があることから,そのような場合において,甲や丙にウェブアプリケーションを提供する第三者がリンク情報を削除しないという行為についてどのように考えるかについて意見を頂きたいという趣旨で載せております。

次に,アプリ型ですが,昨年度の整理によりますと,リーチアプリによる侵害コンテンツの誘導行為は,アプリ提供者がユーザーへアプリを提供し,アプリを介してリンク情報を提供する行為と整理しております。また,ユーザーへアプリを提供する場合には,マーケットプレイスを介して行われることが一般的であるということを踏まえまして,三つの選択肢を差止め請求権の対象行為として示しております。

gは,アプリ提供者がアプリ機能全体のうちリンク情報を取得させる機能を提供する,又は削除しないという行為,hは,アプリ提供者がアプリを提供する,又は削除しないという行為,iは,マーケットプレイスの運営者がアプリを削除しない行為でございます。

論点2にまいります。こちらはサイトに掲載されているリンク情報の数や侵害コンテンツへのリンク情報である割合といった情報の状態により区別すべきか,また,仮に区別すると考える場合には,どの状態を対象とすべきか,としております。

資料5-2の図をお手元に御用意ください。資料5-2では,上にサイト型,下にアプリ型のリンク情報の状態を模式的に示しております。上と下で趣旨に変わりはございませんので,上のみ説明いたしますと,一番左のaは,リンク情報が1個という一番少ない場合を示しています。bとcは,多数の場合を表しております。aとbの間にはグラデーションがあると思います。次に,bとcの違いとしましては,掲載されているリンク情報のうち侵害コンテンツへのリンクである割合の違いでございます。bは,5割程度を示していますけれども,より低い割合も考えられると思います。cは,一番極端な例として100%としております。このような数や割合といった状態で区別するのか,区別する場合にはどこで区別するのかについて議論いただきたいと思います。

論点2は,論点1と合わせた方が御意見をしやすいかと思いますので,合わせて御意見を頂ければと考えております。

次に,資料5-1の4ページ目にまいりまして,論点3ですが,リンク先の侵害コンテンツがどのようなものである場合に,対象と考えるかということでございます。選択肢としてaからcの三つを御用意しております。

aは,著作権者等が有償で提供している著作物等がそのままコピーされたもの(デッドコピー)としております。こちらは商品単位のデッドコピーをイメージしておりまして,例えば2時間ものの映画が2時間丸々機械的にコピーされているような場合の状況を想定しております。bは,著作権者等が有償で提供している著作物等が複製されたものとしております。こちらはaよりも広い概念で,例えば2時間ものの映画が10分間複製されている場合も該当することになります。cは,著作権者等が有償で提供している著作物等ですが,複製のみならず,翻案された場合を含むという選択肢でございます。

論点4は,どのようなリンク情報が提供される場合に,対象として考えられるかというものです。選択肢として,a,ネットワーク回線を介してハイパーテキストにより提供されるリンク情報,それからb,ネットワーク回線を介して提供されるリンク情報としております。aの場合は,クリッカブルにリンクがつながっている場合を想定していただければいいのですが,bは,例えばURLの文字列が提供されているとか,URLを画像化して提供している場合も考えられます。

論点5は,どのような主観を有する場合に対象として考えられるかというものでございます。選択肢として,まずa,侵害コンテンツへのリンク情報であることを知っている場合,b,侵害コンテンツの拡散を助長する目的を有する場合,c,営利目的を有する場合,d,著作権者等の利益を害する目的を有する場合としております。

以上,五つの論点となりますが,各論点で挙げております選択肢は例示であり,ほかの選択肢を除外する趣旨ではありませんので,これに縛られずに御意見を頂戴できればと思います。

御説明は以上でございます。

【土肥主査】説明をありがとうございました。

ただいま説明と御要望もありまして,論点1から論点5までございます。これはきょうやりたいと思っておりますので,一つ御協力をよろしくお願いいたします。それで,論点1と論点2は,ただいまございましたように関連性があるということで,併せて御意見を頂ければと思います。どうぞ,論点1,論点2について御意見を頂ければと。前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】それでは,論点1についてコメントしたいと思います。いろいろな行為類型を挙げていただいて,的確に整理していただいたと思います。まず,行為類型として一つ挙げられているのが,リンク情報を積極的に掲載する行為についてだと思います。2ページで言えば,aとcとあると思います。リンク情報を積極的に掲載する行為というのは,私の個人的な見解では,従来,著作権侵害とされてきた送信可能化行為と実質的にはほぼ同視できるものだと思います。だから,少なくとも著作権侵害あるいは著作権者の損害につながるという意味では,規制の対象とすべき正当化根拠はあるのではないかと思います。ただ,一方で,通常の送信可能化と違うと思うのは,既にネット上に公開されているものに対してする行為であること,さらに自分で対象となるものを積極的に用意するわけではなく,気軽に行われる可能性もあるという行為であるということで,何らの主観的要件を要さずに規制の対象とすると,萎縮効果が働く場合があるのではないかと思います。ですので,その点に適切に配慮しながら,規制の対象とすることはあり得るのかなと思っております。

次に,例えばこの分類で言うと,dやfのようなリンク情報を放置する行為です。これも,積極的にリンクを掲載するという行為に比べれば,送信可能化行為と同視できる程度というのは弱いのだろうとは思いますけれども,ある種の見方においては同視できる面もあると思います。ですので,規制の対象とするということはあり得るのだろうと思います。ただ,一方で,全てにおいて規制の対象とすると,特にサイト運営者がこの義務を負うと考えた場合に,監視コストというものが非常に高くなるのではないかと思います。そのようなコストを全てのサイト運営者に対して負わせるべきと考えるのはなかなか難しいのだろうと思っております。ですので,サイト自体の悪質性が特に高い場合とか,あるいはプロバイダ責任制限法のような,余りサイト運営者にコストが掛かり過ぎない仕組みとともにやるのであれば,可能性としてはあるのだろうと思います。

そして,最後にサイト運営行為自体を差止めの対象とすべきかという点についてもコメントしたいと思います。先ほどもちょっとお話が出ておりましたけれども,サイトによっては適法なコンテンツが提供されている場合もあり,必ずしも侵害コンテンツの提供ということだけに向けられたわけではないサイトもあるわけでございます。そういったものを規制の対象とするということはなかなか難しい面があるのだろうと思います。

一方で,例えば著作権者に対する損害が大きく,かつ専ら著作権侵害に向けられて運営されているサイトについては,そのような問題は少ないのだろうと思います。ですので,そういう違法な目的を専ら持つようなサイトについては,対象にしてもいいのではないかと私は思います。

その際には,どうそれを判定するかということですが,それは論点2などでお示しいただいたように,リンク情報の数とか割合に着目するということになるのだと思います。少なくとも,やはり適法な目的があるものについて規制の対象とするということは難しいかと思いますので,侵害コンテンツの割合が高いということは求められてしかるべきだろうと思います。さらに,絶対的な数そのものも問題にされるべきだろうと思いまして,侵害コンテンツを提供するリンク情報の数が少ないのであれば,相対的には著作権者に対して与える損害というのも大きくないということだろうと思いますので,慎重に規制をするという立場からは,絶対的な量というものも問題にするべきなのだろうと思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに御意見は。どうぞ。

【大渕主査代理】少しヒアリングのときから出ていたかと思いますが,リンク一本一本を基準に考えるのか,それともまとめサイトのように集合的に捉えるのかというところで問題は大きく変わってきます。そのような観点からいうと,まずベーシックなところでは,基本は個々のリンクに着目して,かつ,先ほど懸念があると言われたのは,恐らく蔵置サイトのときにもそのような議論だったと思いますが,ノーティス・アンド・テイクダウンを活用して,特定性のあるノーティスを出したら,それに対して,リンク情報の提供者もサイトの運営者の方も対応するという形で絞りを掛けて一本一本に絞れば,乙も丙もという形になるので,論点2が余り関係なくなってきます。一本一本ではなく,まとめて集合的に考えると数とか割合というものが出てくるのですが,最初から個別で考えると,割とすっきりするし,先ほどのように過剰規制の問題もないしということで,一本一本の対応にするのがよいと思われます。リンク情報の提供者も,同一人の場合にはましてやそうですけれども,サイトの運営者の方も蔵置サイトでも同じような対応を採れば済みますので,リンクサイトの運営者も,特定性のあるノーティスが来たら,そこだけ合理的な期間内に処理するという縛りを掛けさえすれば,さほどの問題もなく,かつ権利の実効性の観点からも,リンク情報の掲載とサイトの運営の両方カバーできるし,論点2はむしろ考える必要がなくなる。それ以上やるとすれば,また次の段階の議論となってくるということではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございます。

前田委員の場合には,送信可能化行為と同視できるということですよね。今の大渕委員の場合には,ノーティス・アンド・テイクダウンだから,行為としては削除に注目されているのかなと思ったのですが,前田委員は掲載の方……。

【前田(健)委員】掲載の方です。

【土肥主査】掲載の方ですよね。いろいろな御意見を頂戴したいと思いますので,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】前田委員の御意見の関係で一つ申し上げますと,結果において送信可能化と似ているということについては,そういう評価もあり得るとは思うのですが,ただ,行為として考えれば,送信可能化の場合は,現在,日本で定義されている形であれば,何らかの形で著作物をどうこうするという具体的な行為を伴うわけですけれども,リンクの場合はそれはなくて,既に公開されている著作物に対して誘導するということだけであるかと思います。多分,大渕委員の御論文にあったかと思うんですけれども,基本的には,リンクの行為というのは間接なり幇助と見て,さらにそうすると少しややこしいのが,この下の方の人の行為です。サイトを運営している行為というのは,結局,幇助の幇助になってくるということです。さらに,このfに挙げられているような行為は,幇助の幇助の幇助みたいな形になってくる。もちろん,それをどう捉えるかということはありますが,損害賠償は横におきまして,いわゆる間接侵害論の中では,間接の間接,再間接,再々間接というのはどうだろうといった議論もあることとの関係もあって,少し気になるところで,全く同じかなと。

名誉毀損について,ちょっと幾つか判決を調べてみたら,30ぐらい見てみたのですが,データベースでひっかかるのは全部で100余りがひっかかるのですけれども,ざっくり見てみると,基本的には全部,言葉は悪いのですが,直接侵害行為的に捉えているのです。すなわち組み込んでいると。リンクをすることによって,リンク先が名誉毀損のサイトで,それに対してリンクをしていると,リンク先をリンク元が取り込んでいるので,それは名誉毀損であるという評価ですから,基本的には,幇助しているとかアクセスを容易にしているという評価をしている判決というのは一つか二つぐらいしかなくて,残り30ぐらいは基本的に自分でやっているという評価になっている。とすると,著作権の場合,ではこういう行為をどう評価して,それとの関係でどこまでを評価するのかということが一つあると思います。

それから,二つ目です。これは今,論点1と2との関係でということなんですが,実際はリンク情報を掲載するということに関しては,3との関係を考えないとかなり難しいところがあって,正直ベースでいうと,例えばこういう踊ってみた動画があるよと言って,もう中高生などはたくさんどんどんリンクをしているわけです。面白い,踊ってみた動画があるとして,では私が,その踊ってみた動画をリンクできるかというと,もう早速迷うわけです。まずYouTubeさんだったら,JASRACから許可があるだろうとは思う。ところが,ではレコードについては,実演家の方なりレコード制作者の方なりの権利の許諾がとれているか,さらに振り付け師の許可は大丈夫かと,ここまで考えないと,踊ってみた動画をリンクしていいかどうか,著作権侵害でないかという評価は難しいといったことがあります。そうすると,リンクそのものをアウトにするということだとしても,より対象を絞り込むということが前提になければ,極端に言えば,中高生を全部著作権侵害者としてしまうということになりかねないという心配を持つわけです。

それから,3点目です。あとは,先ほど木下先生のお話にありましたように,引用のような形になるものです。これは,どんな形のリンクであっても許されるべきでないかなと思います。したがって,この順番でいくと,取りあえずリンクは問題だということからスタートするのですけれども,その先も見ながらでないと,ちょっと判断がつかないところがあるかなと思っている次第です。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

ほかにございませんか。

【大渕主査代理】今の引用の点は,前回どなたか言われたかと思うのですが,私も引用には当たるけれども,違法なサイトの引用が正当かなど,個別の判断になってくるかと思いますので,そのあたりは救うべきものは救われるという,現行法の解釈問題になってくるかと思います。

【土肥主査】前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】奥邨委員に御指摘いただいたことを踏まえて,若干,2点ほど補足したいと思います。

まず1点目ですが,先ほど,著作権者に与える損害という観点から見れば,リンク行為と現状の送信可能化行為は同視できるというお話をいたしました。しかし,リンク行為という行為が,今の表現活動の中において,単純なアップロードとは異なる意味を持っており,気軽に行われる性質を持っていて,表現行為としては違う意味を持っているという側面は,全く否定するつもりはありません。したがって,それに応じた配慮をして,違法にする範囲というのを送信可能化より狭くするということは,それは当然あり得るのだろうと思います。

それから2点目ですけれども,引用について言及がありました。現状でも,送信可能化,アップロードした場合でも,引用の権利制限規定というのは適用があるわけです。もしリンクを張るという行為を違法にすることの正当化根拠が送信可能化と同視できるということであれば,当然,送信可能化について適用される権利制限規定に相当するものは全て適用されないとおかしいということになると思います。それは議論の前提になると理解しております。

以上です。

【土肥主査】恐らくここについては,前回のヒアリングの関係からですと,御発言があるのかなと思うんですが,よろしいですか。ほかに。小島委員,どうぞ。

【小島委員】先ほど大渕先生がおっしゃった話なんですけれども,一本一本特定するということなのですが,それも,ある種パッケージ的にたくさん違法リンクがあるというときに,権利者側がその一本一本について特定して請求を立ててくる必要があるということなのかなとちょっと思いながら考えていまして,もしパッケージだとしますと,その手間というのが結構にならないかなと。取りあえずはパッケージの部分について削除命令が出て,もし被告側というか,利用者側が何か主張することがあるのであればというのがあるのかなというのが,まず1点目。

もう一つ。狭めないとまずいだろうというお話がずっといろいろな先生方から出ていると思いますけれども,例えば現在の113条のみなし侵害の書き方ですと,コンテクストに当たる部分というのは,請求原因事実として,これは権利者側が主張するということになっているかと思うんです。通常の著作権侵害ですと,このコンテクストというのは,基本的には抗弁の側として,利用者側に証明責任を負わせるということにしているかと思いますので,このあたりの論点5の部分にも関わるかと思いますが,その範囲を狭めていくときに,誰に何を言わせるのかということについてもちゃんと考えていく必要があるかなと思いながら聞いておりました。済みません。

【土肥主査】ありがとうございます。今の質問に関して。

【大渕主査代理】今の御質問に関して,一本一本というのは,パッケージ的であれば,同じことを100回繰り返すことになります。申し上げたかったのは,先ほどあったように,基本は論点2に入るかというところになるのですが,要するに発想としては,まとまっていても,手間の点は別にすると,実際上違法なところを外せば運営できなくなりますので,それを超えて適法なものまで最初からまとめてやるよりは,こちらの方が謙抑的でよかろうという話であります。

それから先ほどコンテクストと言われたのは意味がよく分からなかったのですが,引用は先ほどどなたかが言われたとおりで,普通は著作権法の場合には支分権と権利制限で両方を考えてやるけれども,113条は擬制侵害で最初から両方まとめてやっているので,恐らく今言っている話は,113条でやるとまた話が変わってくるかと思います。私はどちらかというと普通の方で考えていたので,113条とは別の話だと思います。

【小島委員】要するに,何度も出てきたかと思いますけれども,間接侵害であるとか,あるいは予備的であるとかという話があったことからしますと,やはり通常の著作権侵害行為とは少し距離があるかなと私が思うところがありまして,そうだとしますと,どのような立法形式でいくのかということも考えた方がいいのかなとちょっと個人的には思いましたので,そのような発言をさせていただいた次第です。

【大渕主査代理】御趣旨は分かりました。恐らく今の方は,予防的なもので考えているのか。私が理解しているのは,刑罰や差止めも,刑罰や損害賠償なら現行でできているわけなので,それと同じ内容が差止めになっているだけで,予防的でも何でもない,ごく普通の本体だという発想であります。

それから先ほど奥邨先生が言われたことが重要だと思います。これは,幇助は幇助で,幇助の結果が正犯と価値的に同視し得るから差止めの対象になるということはそうなのですが,本人が行っているのか,幇助的にやっているのかというのは重要な違いなので,それに応じた,まさしくその違いに応じた対応というのがよいのであって,予防的というよりは,ごく普通のことにとどめておいた方が,かえって議論が混乱しないと思っています。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】すみません,一言だけ。先ほどは申し訳ありませんでした。リンク情報を掲載する。この分析でいくと,どこにも出てこなくなるので,忘れないようにということで一言申し上げますが,検索エンジンが形の上ではこれにひっかかってしまうということをいかに対処するかということは考えないといけないということになると思います。リンク情報を掲載する,しかもそれが誘導するということにおいては,検索エンジンとリーチサイトとは,どうやってられるかとか,意図が違うとか,そういうことは別としても,形としては一緒と。それに対してどう対処するか,どう絞り込むかということは考えないといけないと思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに。前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】先ほど,113条で侵害とみなしてしまった場合には,そこでもう侵害であることは確定してしまうという御趣旨のお話があったようにも思いましたが,もしその問題があるのであれば,一定の要件を満たした場合にはリンクを張る行為を送信可能化とみなすということにすれば,それに対して32条の引用が抗弁として働き,また,例えば学校教育目的であれば35条が抗弁として働くようにすることが可能になるのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。そのアイデアというのは非常に参考になると思うのですけれども,この論点1,論点2をまだ本当はやりたいんですけれども,これは若干延びてもよろしいんですかね。済みません。ちょっと延ばさせていただくことになろうかと思いますので。

【小林著作権調査官】事務局としては大丈夫ですが。

【土肥主査】余り延ばさないようにはしますけれども,一つよろしく御協力を……。何か。

【小林著作権調査官】時間が押しておりますので,全て御検討いただくということは難しいと思っております。論点1,2の意見がなくなるまで議論いただいて,その次の論点は,時間の範囲でいけるところまでいっていただければと思います。

【土肥主査】そうなんですか。そういうことでございますならば,じっくりやらせていただいてもいいんですけれども,要するにここの問題は大事ですよね。論点1,論点2について,ここはしっかりやっていきたいなと思いますので,では御意見を頂けますか。

奥邨委員の場合だと,1ページの丙というサイトの運営の場合については,消極的なお考えと承知しておりますけれども,乙の問題として,どの行為かというと,削除の行為を捉えるということになるのでしょうか。もし悪質な行為ということでまいりますと。

それから,資料5-2で言うと,大渕委員は一つ一つというお考えだし,前田委員はどちらかというとbとcの間のどこかで考えられるのだろうと思うんですけれども,奥邨委員としてはどうなりましょうか。

【奥邨委員】そこのところは,ちょっと先ほど申し上げたように,どういうものへのリンクがアウトになるのかということによっても影響を受けるところはあるんですけれども,ただ,そこのところの絞り込みが弱ければ弱いほど,どちらかと言えば,先ほどの例で言えばcの方に寄っていって,侵害のものがたくさん集まっているというのでなければ,先ほども言ったように,ごく簡単に,日々,先ほど前田委員からもお話がありましたように,若者たちの間で日常的な会話と同じように行われている行為を私たちは著作権侵害だ,とこれからはしてしまうということです。これは,今まではリンクは著作権侵害にはならないということが広く理解されていた。それが正しかったかどうかは別ですが,その中で私たちはそういう形に振っていくということをここで決断していくということになりますから,そうであれば,かなり慎重にすべきだろうと。したがって,対象物が広ければ広いほど,一人がちょっとしたことでリンクしただけでは侵害にならないということで,相関関係でなければならない。一方で,よほど悪質なものだけがリンク先として問題なのだということであれば,数が少なくても,侵害になっても構わないのかもしれない。そういうスライディングスケールで考えるべきかなと今の時点では思っています。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに,この点。道垣内委員,お願いします。

【道垣内委員】全てがドメスティックに行われている場合でさえ難しいのに,国際的な話をするのもちょっと気が引けますけれども,この侵害コンテンツというのは,日本から見える限り,日本法に照らして侵害であれば侵害であり,それにリーチサイトがリーチしている場合に,日本から見る限り,それが違法であればリーチサイトも違法とするということでしょうか。サイトの運営者の国では別に法律上問題なくても,日本からアクセスできる限りは,日本法上,刑法上も民法上も違法だということで割り切ればいいということでしょうか。オーバーキルになるわけですが,それでも構わないということでしょうか。それが強制できるかどうかというのは次の問題ですが,考え方としては,そう考えるということですね。

【土肥主査】もちろん,私もそのように考えておりますけれども,全員について,またどうなのかというのは,それぞれ機会を得て伺わせていただきたいと思います。

上野委員,どうぞ。

【上野委員】今,道垣内先生が御指摘になった点に直接関係するかどうか分かりませんけれども,著作権法30条1項3号の規定は,「著作権を侵害する自動公衆送信」について,その事実を知りながらダウンロードすることが同項柱書の適用を受けず,複製権侵害になり得ることを定めている,いわゆるダウンロード違法化に関する規定ですけれども,この規定には括弧書きがありまして,「(国外で行われる自動公衆送信であつて,国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)」と定められています。したがって,リーチサイトに関しても同様の立法を行うことはあり得るように思われます。

ついでに,前田健先生から出された御意見についても,少しコメントをさせていただきたいと思います。

先ほどのお話では,侵害サイトにリンクを張るというのは,権利者に与える不利益からすれば,無断アップロードと同視できるのではないかという観点から,侵害サイトにリンクを張ること自体が規制の対象になってしかるべきではないかという御意見だったかと思います。もちろん,たとえ侵害サイトにリンクを張ること自体に著作権が及ぶとしても,引用など,一定の要件を満たせば権利制限規定の適用を受けるということはあるかと思いますけれども,侵害サイトにリンクを張ることと自らアップロードをすることを同視できるというお考えがその前提になっているのかと思います。

ただ,奥邨先生も御指摘になりましたけれども,リンクといいましても,エンベッドのような形で埋め込むものもあれば,ただのシンプルなリンクもありますところ,従来の裁判例においては,このいずれも著作権侵害にはならないと理解されておりました。確かに,学説では,エンベッドによる場合であって,外観上あたかも自ら送信しているように見せているものについては,自ら送信しているのと同視できるという観点から,それ自体が公衆送信行為に当たると評価するという解釈もあるわけでございますけれども,今問題になっているリンク集というのは,エンベッドでないようなリンクによる場合も多く含むものでございます。そうだとすると,仮に侵害サイトへのリンクを張ること自体を規制の対象にするといたしましても,どういう態様のものであれば自ら送信することと同視できるのか,という点はやはりもう少し議論を要するように思われます。

いずれにいたしましても,今我々が議論することになっておりますのは,資料5-1にもありますように「差止め請求の対象として特に対応する必要性が高い悪質な」ものということでございます。したがいまして,可能であれば規制の対象になった方がよいと思われる範囲については様々な御意見があるかと思うのですけれども,この場では,飽くまで「特に対応する必要性が高い悪質な」ものに限るということによって,何らかのコンセンサスが得られるのではないかと感じた次第です。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

ほかにございますか。木下先生が先ほど質疑をいろいろしていただいておりましたけれども,これまでのこの論点1,論点2をお聞きになって,先ほどのお話の続きとして,あるいは感想として,何かありましたらお伺いできますか。

【深町委員】済みません,その間に。

【土肥主査】はい,どうぞ。

【深町委員】先ほどから出ている差止めの話と刑法との関係で申し上げますと,刑法では,前回もこの場でお話ししました児童ポルノサイトに関する判例(最決平成24・7・9判時2166号140頁)で,児童ポルノ画像に対するリンクそれ自体ではなく,改変したURLを示す行為ですら,幇助ではなくて児童ポルノ公然陳列罪の正犯として認めた高裁判決がそのまま最高裁でも維持されたということからしますと,少なくとも刑法の立場からすれば,理論的にはリンクを張る行為は正犯にもなり得ると解されているのだと私は受け止めています。もちろん,これも,児童ポルノは法益侵害性が高いから著作権侵害とは違うのだというロジックはあり得るかと思いますが,リンクについては,そもそも間接侵害どころか,刑法的にいうと正犯になり得るということも,最高裁レベルで認められているとまでは断言できないものの,少なくとも理論的な可能性だけで言えば否定できないとすると,リンクについては相当広く認められてしまう可能性があるということをまず前提にした上で,しかし,その中で悪質性の高いというものに絞っていくという,先ほど上野先生がおっしゃったような視点が正に私も妥当なのではないかと思っているところです。一般論として言えば,既に判例においては,リンクについてはかなり広汎に捕捉され得る状況であって,直接リンクとか,埋め込み型どころか,改変されたURLの掲示であっても正犯とするのが我が国の判例であるということは前提にした上で,本当に著作権侵害に関してもそのような広汎な規制が妥当なのかという形で議論していった方がよろしいのではないかと考えております。

【土肥主査】ありがとうございます。

森田委員,どうぞ。

【森田委員】今,論点1の議論で求められている結論といいますか,論点1では何を目指して議論しているのかがよく分からなくなったのですが,ここで「特に対応する必要が高い悪質な行為類型は,誰のどの行為と考えられるか」というのは,ここで「悪質な行為類型」に当たらないとされたものは,今後の議論の対象から除くということであって,論点1の「行為類型」に当たるとされた場合でも,それがどういう要件のもとで違法となるかということについては,論点2以降の問題であるという整理になっているのでしょうか。今までに出された意見の中でも,どういう行為が違法となるのかという要件設定について様々な意見が出されていたように思いますが,そういう要件設定の問題を除いて,とにかく検討の対象となる行為の範囲ないし外枠を画するという前提で,どの範囲の行為類型を検討の対象とするかということを論点1では議論しているのかどうか,ということがよく分からなくなりましたので,議論の前提を確認する必要があるのではないかと思います。

そのような観点からしますと,このaからeまで並んでいるのも,例えばbで「サイトを運営する」というのと,eの「サイトを運営する」というのは,同じ「サイトを運営する」という言葉を使っていますけれども,全然意味合いが違う行為ではないかと思います。したがって,論点1でまずは「行為類型」を特定するといっても,それぞれの行為についての法的な評価,つまり,これは法的にはどのようなことを行っていると評価できるのかということを述べた上で,これが対象になるとか,対象にならないというふうに議論をせざるをえないとしますと,これは論点2以降の中身に入っていくことになると思います。そうしますと,そのあたりの議論の仕方の整理をしないと,このまま幾ら続けても,論点1について意見は集約しえないのではないかという危惧を持った次第であります。

それから,いまの点とも関係しますが,先ほどプロバイダ責任制限法に関連する意見がありましたが,この論点1に列挙されている行為類型の中には,プロバイダ責任制限法でいうホスティング・サービスに当たるものが含まれているように思います。そうしますと,プロバイダ責任制限法上,責任を負う場合の要件というのはそちらで定まっていると思いますが,それを実質的にオーバーライドするような立法を著作権法で行うということを考えておられるのか。それとも,それはプロバイダ責任制限法の要件に従って削除しない場合には違法と評価されて責任を負うだけのことであって,こちらで重ねて問題にすることではないのか。その辺りについても,このaからeの中にはそもそもプロバイダ責任制限法上の問題というのが一部含まれていることから生ずる問題であると思いますが,そこの区別というのは,事務局のペーパーにおいてどういう区別になっているのかについても,この論点ペーパーの表現だけからは何とも理解できないところがありますので,論点1を検討するに当たっては,その辺りの整理を今日していただくのか,あるいは今日は残り時間が余りないので,次回までに事務局において行っていただくのか,いずれでも結構でありますが,その辺りの整理を行う必要があるのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。少し整理するということはもちろんさせていただきますけれども,その辺については……。

【大渕主査代理】今プロ責法に言及されたのですが,ここでは差止めを専ら議論しているのですが,プロ責法が差止めまで規定しているという御趣旨なのでしょうか。

【森田委員】そういうことではないのですが。

【土肥主査】森田委員,よろしいですか。

【森田委員】プロバイダ責任制限法は,直接にはプロバイダが損害賠償責任を負う場合の要件を定めていて,プロバイダに対する差止め請求権,プロバイダの側からみれば削除義務を定めているわけではありませんが,プロバイダ責任制限法の定める要件のもとで通知がなされれば迅速に削除がなされることを前提とした法律であるとみることができますし,法制度上もそのような位置付けがなされていると思います。例えばケースIIの場合では,乙が,丙が運営しているサイトにリンク情報を掲載するというときに,仮に乙の行為が著作権侵害の違法な行為だということが客観的に明らかになったか,あるいはそれが違法な行為であることを容易に確認できる事実を運営者に対して通知すれば,その時点で削除しなければ,運営者は損害賠償責任を負うということになりますので,実際上は,差止め請求権があるかないかにかかわらず,削除に応ずるという扱いがなされているのと思います。しかし,仮に通知をしてもプロバイダが削除に応じなかった場合を想定して,明文の規定をもって差止め請求権を付与する必要が更にあるかないかという議論はありうるところですが,これは,リーチサイトだけでなく,それ以外の全ての著作権侵害について共通に妥当する問題ですので,リーチサイトの場合に限ってそのような明文規定を設けることは他とのアンバランスを生じることになると思いますし,それが実際にここで特に問題になっているわけではないとしますと,プロバイダに対する差止め請求権の付与の要否については,差し当たり議論の対象外としてもよいのではないかという気がします。それも行為類型として対象とするかどうかという議論がこの論点1の整理の中には含まれているということなのでしょうか。

【土肥主査】はい。ありがとうございます。とにかく,ここで御意見として頂戴したいところは,我々が今後検討を進めていくべきその行為はどういうものかというところを絞り込んでいきたいなということでございます。つまり,いろいろなケースがあろうかと思いますけれども,ケース1のように,甲がサイトの運営とリンク情報を掲載しているようなケースの場合もございましょうし,そこが分かれているという場合もありましょうし,多々,更にその中のどの行為をと考えていく必要があるのだろうと思っております。この資料5-2というところからすると,やはり萎縮効果というものは考える必要があるということからすれば,これは,提供コンテンツであるようなものについてはやはり慎重にならざるを得ないのだろうと思いますし,このところについてはまた次回以降詰めていきたいと思いますが,ほかにまだ御発言いただいていない方で何かこの御意見があるのか……。では,木下先生,一つよろしくお願いします。

【木下氏】先ほど深町先生のお話からちょっと示唆を受けまして,深町先生が御指摘されたように,判例では,URLを張り付けるという行為は,確かにわいせつのところではもう公然陳列と同じだという前提に立った判例は既にあるかと思います。ただ,これも深町先生がおっしゃったように,これは飽くまでも児童ポルノという悪質性の高いものでして,しかもわいせつについては,判例は,基本的には芸術とか文化とか,そういったものとは比較衡量しないという,まずそもそも前提があります。ですので,私も本日の報告では,基本的にその判例を踏まえて述べさせていただいたのですけれども,ただ,一方で,著作権法というのは伝統的に文化などというものと調整してきたというところが,正にカテゴリカルの中で,著作権の枠内の中でそういった伝統があろうかと思われます。ですので,先生方のお話をお伺いしていると,必ずしも必然的に児童ポルノの判決の射程が及ぶとも言い切れないのではないかという側面もありまして,そこは,現状の中でURLの提供が持つ意味というか,社会的な意味,憲法上の意味と著作権の保護というものを考量して,著作権法あるいは文化にとって何が適切なのかということを御判断いただければと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。その点は今後重々承知しながら検討を進めていきたいとは考えておりますし,そのことをみんな,本委員会の委員では共有はされているのだろうとは思っております。

今,5時5分とあそこでは出ているのですけれども,この後御予定のある方もおいでになりましょうし,当然,最後までいけないということは明らかでございますので,本委員会はこれぐらいにしたいと思います。事務局は,もうちょっと先までの検討を予定されていたと思ったのですけれども,先ほど助け船を出していただきましたのでやむを得ないものと考えているところでございます。

それで,お約束の時間も超えているところでございますので,本日の委員会はこのぐらいにしたいと思いますけれども,事務局から何か御連絡事項というのがありましたら,お願いいたします。

【小林著作権調査官】先ほどの松田委員からの御提案につきましては,木下先生から承諾いただけたようですので,御質問がございましたら事務局にメールをいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】次回小委員会につきましては,日程を改めて調整しまして,追って御連絡したいと思います。ありがとうございました。

【土肥主査】本日は,御意見を頂戴するために,CODA様,木下先生,おいでいただいてありがとうございました。

リーチサイト等への対応につきましては,本日頂いた御意見といったものを踏まえて,適切に今後検討を進めていきたいと思っております。

本日頂いた意見を基に,再度この次回以降の検討のところをまとめていただいて,資料としていただければと思います。

それでは,以上をもちまして,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第3回を終了したいと思います。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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