第7回法制問題小委員会における主な意見

1.リバース・エンジニアリングに係る法的課題

(権利制限の根拠について)

  1. 権利制限の根拠はどのように考えるか。著作物はアイデアを保護しないからということと,それでも必要性があるかの論点とはどのような関係になるのか。仮にアイデア抽出のための複製であっても,権利で保護するというのであれば,著作権法が本来アイデアを保護しないとしていることと抵触するのではないか。
  2. この問題は,競争法的な要素が多分にある。弱小の企業であればそれほど問題にならないが,デファクトスタンダードになってしまったような企業の場合には問題になってくるために,競争法的な観点から権利制限規定が必要だという意見もある。
  3. 著作権法ではアイデアは保護しないという根拠は,抽出したアイディアを利用することは認められるべきということにはつながるが,脆弱性発見目的の場合は,表現そのものを見ることが必要で,アイデアを保護しないという根拠とは異なるのではないか。
  4. 侵害発見のための解析も少し性質が違う。絵なら見れば分かるが,プログラムは見ても分からないからリバース・エンジニアリングが必要なのだという議論。アイデアを保護しないという根拠とは違う。これも認めないという意見はあまりないだろうと思う。
  5. 「障害等の発見,保守」,「セキュリティ対策」,「相互接続性」は,ユーザーの立場としてプログラムを利用する上で必要な行為であって,アイデアの発見目的ではないが,権利制限すべきと考える。「性能,機能調査」の目的はアイデアの発見ではないのだろうか。整理して議論することが必要。

(権利制限を行うべき範囲について)

  1. 「相互接続性」と「互換性」とは異なる概念であり,正確に議論すべき。

  2. 競合品とは互換プログラムより広い概念。ターゲットプログラムAと同じ機能を持っている商品Bで,市場で代替されるもの,つまりBが売れればAが売れなくなるという関係であれば競合品ということ。プログラムAと同じOSで動く競合プログラムBを開発するために,そのOSを解析する場合は権利制限を入れてもいいと思っているが,BSAはこのような場合ライセンスが必要といっている。特にOSとプログラムAの権利者が同じ場合に問題とされやすい。

  3. 相互運用性確保のためのリバース・エンジニアリングは,あるOS上で動くアプリケーションプログラムと同じ機能を持ったプログラムを開発する場合に,そのOSをリバース・エンジニアリングすることは,そのアプリケーションプログラムとOSの権利者とが同じ場合でも,許容されるべき。一方で,そのアプリケーションプログラムをリバース・エンジニアリングして同じプログラムを作るという場合は,認めるべきではない。この境界は難しいが,この原理は明確にした方がいい。

  4. 競合プログラムを作る目的を除くかどうかというのは,情報を得る目的の話をしているのか,得られた情報の使い方の問題も含んでいるのか,混在しているのではないか。

  5. 競合品の開発ということと革新的なプログラムの開発ということとでは,マーケットとの関係ではむしろ革新的なプログラムの方が市場を取ってしまうことになるのではないか。

  6. 著作権の考え方からいうと,革新的なものでなければならないのかという議論も出てくる。

  7. 特許権侵害を調べる目的については,資料に書かれていないが,特許権侵害調査ならダメだが著作権侵害調査ならいいと区別する理由はないだろう。

  8. 「障害等の発見,保守」,「セキュリティ対策」,「相互接続性」は,ユーザーの立場としてプログラムを利用する上で必要な行為であって,アイデアの発見目的ではないが,権利制限すべきと考える。「性能,機能調査」の目的はアイデアの発見ではないのだろうか。整理して議論することが必要。【再掲】

2.研究開発における情報利用の円滑化

(検討の対象を絞るべきかどうか)

  1. この課題は奧の深い話なので,2008年度中に結論を出すのであれば,政策的に必要があった部分に範囲を絞って検討し,他は継続審議とすべき。
  2. タイムテーブルとの関係で,現実的に二段構えにならざるを得ない。
  3. 時間がないと決めつけることもないのではないか。できるだけスピードアップが必要なのは確かだが。
  4. 権利制限の根拠は,産業政策・国家戦略というより,研究の公益性があるということだと考えて,広く研究ということを捉えていくべきではないか。複写権センターの問題や産学連携した場合にはどうなるかなど個別の論点はあると思うが。
  5. 研究全般を対象として考える場合,その根拠を公益性であると考えるとすれば,大学以外にも国の研究機関もある一方で,法科大学院は実務家養成であって研究者ではないという整理もあるし,小学生の夏休みの自由研究も広い意味では公益性があると捉えるべきものとも考えられる。そうすると,研究目的だとして権利制限をするとなれば,具体的なケースごとに判断を要する要件構成にならざるを得ない。 特定分野の研究開発だけを対象とするのであれば,性質の違いがあるなど,異なる要素が入ってこないと,割り切れる要件とならないのではないか。
  6. 産業政策といっても,情報解析に特有のものがあるのか。そうでなければ,別に検討するのはあまり適当なことではない。
  7. 知財推進計画では,科学技術・イノベーションの創出のためとされており,これだと大学等研究機関だけでなく企業における技術開発も認めるべきとの考えに読める。そうだとすると,著作権法に産業政策的な考えが入ってこざるを得ないが,やむを得ないと思っている。
    一方で,文系なども含めて広く純粋に研究目的の権利制限を作るなら,産業政策的なイノベーションのための研究開発,製品開発のための研究は対象から外されることになる可能性がある。このような長期的なものと,緊急に必要なイノベーションのために必要なものの両方について議論が必要である。

(特定分野の研究開発に検討対象を絞る場合の根拠・範囲)

  1. 情報解析のための研究開発に限定する場合,特定分野の研究開発を国が推進するという政策目的であるという説明を権利制限の根拠とするのであれば,範囲が明確になると思うが,アイディアの抽出行為には本来著作権が及ばないはずだという議論だとすると,そこだけが対象となるわけではないだろうと戻ってきてしまう。また,リバース・エンジニアリングは別だという整理もうまくできるか疑問である。
  2. (資料3)3頁(2)一つ目の○の2段落目は,そのとおりだと思うが,それに加えて,知財事務局の議論では,対象をウェブ情報や放送番組を念頭においている。全ての権利者から許諾を得るのは難しいウェブ情報,過去のものが契約で対処できない放送番組,これらを,一般の人が享受するためではなく,分析をして何らかの傾向を導き出すなどの利用であれば,権利制限を認めるという考え方がとれるのではないか。
  3. 知財推進計画では,科学技術・イノベーションの創出のためとされており,これだと大学等研究機関だけでなく企業における技術開発も認めるべきとの考えに読める。そうだとすると,著作権法に産業政策的な考えが入ってこざるを得ないが,やむを得ないと思っている。【再掲】
  4. 権利制限の根拠は,産業政策・国家戦略というより,研究の公益性があるということだと考えて,広く研究ということを捉えていくべきではないか。複写権センターの問題や産学連携した場合にはどうなるかなど個別の論点はあると思うが。【再掲】
  5. 研究全般を対象として考える場合,その根拠を公益性であると考えるとすれば,大学以外にも国の研究機関もある一方で,法科大学院は実務家養成であって研究者ではないという整理もあるし,小学生の夏休みの自由研究も広い意味では公益性があると捉えるべきものとも考えられる。そうすると,研究目的だとして権利制限をするとなれば,具体的なケースごとに判断を要する要件構成にならざるを得ない。特定分野の研究開発だけを対象とするのであれば,性質の違いがあるなど,異なる要素が入ってこないと,割り切れる要件とならないのではないか。【再掲】
  6. 特定分野の研究開発を切り出していくとしても,産業政策とすると大学の研究が拾えなくなってしまうので,それよりは,契約しにくいとか,ネットの特殊性とかを理由としてもいいのではないか。
  7. 「ネット上の著作物を利用して行う研究開発」としてしまうと,範囲が広い。新聞記事を蓄積して利用するようなものは,通常の著作物の利用であって,技術の問題ではない。ウェブ解析の中には社会学的な調査のようなものが含まれているとのことだが,そこを除いてしまえば,一般条項的なものを入れなくとも割り切ることはできるのではないか。
  8. 産業政策といっても,情報解析に特有のものがあるのか。そうでなければ,別に検討するのはあまり適当なことではない。【再掲】
  9. 特定分野の研究開発の場合には企業など営利活動を含める必要があるのだろうから,非営利とすると意味がなくなるが,どこかで縛りをかけないとまずいだろう。ただし,この技術なら許される,社会科学なら許されないというのもいかがなものかと思う。ネット公開されているものなどの情報入手方法で区切るとか,著作物を著作物として取り扱わずに著作権者の利益に影響がない場合なら,技術の分野は限らないなどの方法も考えられるのではないか。
  10. ネットだけに限るのはどうかと思う。新聞を読み込んで言語解析に活用している場合も考えられる。特定分野の研究開発で問題となるのは,研究の結果出てくるものは元の著作物と似ても似つかないものであるから,著作物のマーケットに影響は与えないし,データベースを有償で販売している場合などマーケットとの問題だけである。
  11. 研究全般を対象としてある種の一般条項的な規定を設けた上で,その解釈によって,医学のように特定の研究者を対象とした著作物は権利制限にならないというような幅のある要件を立てるのだとすると,特定の分野の研究開発を対象とした権利制限の方は,あまり幅のある概念はなく,一定の目的であれば権利制限されるという画一的なものになるということか。
    その場合,特定の分野の研究開発であっても,有料で提供されているデータベースの利用などをどうするかという議論があったが,それは情報技術の発展という点が非常に重視されて,産業政策的な目的から権利制限を行うのだから一律に権利制限をかけてしまおうということなのか,それとも,単に研究全般を対象としたものを具体化したようなイメージでいくのか。
  12. 今年度中に結論を出すことについては,特定分野の研究開発に範囲を絞って議論すべきと思うが,ウェブコンテンツなり過去の放送番組を対象としたある種の研究開発に限ってということだったとしても,権利者の利益を害しないという条件は付けるべき。有償で入手可能なものについては,産業政策上必要なら予算措置をすればよいのであって,権利制限の対象外にしてもいいのではないか。そういうものは限られているので個別の契約で十分対応できる。
  13. ただし書で,不当に権利を害しないといった形で済むのではないか。結局は,類型的に権利者に対する影響が小さいものということに行き着くのだと思うが,それだとすればネット限定する必要もなくなるが,いずれにしても,ヒアリングの要望を聞く限り,文科系のものもあり,技術分野で絞るのは難しいのではないか。産業政策という切り口になるのかもしれないが。
  14. 「ネット上の著作物を利用して行う研究開発」との表現が誤解を呼ぶのかもしれない。ネット上の情報を集めて行う研究が多いのかもしれないが,それ以外もある。表現に工夫が必要。
  15. ネットに載せる場合には,大体が見てもらうために載せていると思われるので,ネット上のものについては問題が少ないと思うが,小説のデータベース化なども含まれるとなると,ここで研究開発として許すべき行為と,他の用途でデータベース化する場合と外見上区別しにくい場合が多いのではないか。
  16. ネット上の情報は,自らの意思に基づく場合は説明がつくが,違法にアップされたものをどうするかという問題が出てきるので,一定の研究開発のタイプによって線引きをする方が問題をクリアしやすいのではないか。
  17. 解析のための利用ということであれば,情報はズタズタに分断されて跡形もない形で利用されるのであって,違法にアップされたものを利用するのであっても大きな損害はないのではないか。また,ネットの場合は,検索エンジンなども,そういうものを拾ってしまうことはある程度覚悟しなければならない。
  18. 違法なものの利用は権利制限から除外するということにすると,結局全く使えなくなる。取得した情報を公開する際の問題としては,各論として出てくることかと思うが,研究すること自体の段階では,違法コンテンツかどうかは考えてなくてもいいのではないか。
  19. 使った後の目的外利用については,なんとかしなければならないのは勿論である。

(その他研究全般を対象とする場合の要件)

  1. 学者のコピーについて,日本書籍出版協会も常識的範囲内ならいいのではないかとも言っており,一切認めないという意見はあまりないのではないか。どういう範囲で,どういう要件で,あるいは非営利と言えるか,対価をどうするかということになってくるのではないか。
  2. 大学での論文コピーの問題はどうか。権利制限規定を入れると,複写権センターが使用料を徴収できなくなるといった問題がある。
  3. 書籍出版協会も述べていたが,医学出版は大学の医学部の先生が読むことを主たる目的として出版されているので,これを自由にコピーしていいということにすると,このような出版が成立できなくなることは間違いない。
  4. ウェブ情報,過去の放送番組などは契約では対応できないとして今回提言されたものだと思うがが,同様に,その他の一般の研究目的であっても契約によって利用することが実質的に不可能だということが確認されたものについては,権利制限を議論すればよい。
  5. マーケットがしっかりしていればいいという基準だとすると,学者のコピーについて,現状は複写権センターでは,外国文献まで対応できているのか。(☆内部用契約状況を事務局で整理してほしい。)
  6. ウェブ上の著作物について権利委託というのはありえない,放送番組もできていないので,これらは権利制限してもよいのではないか。他方,契約で対応できるものについて契約をせずに権利制限するのは,先進国の動向とは違うのではないか。
  7. 最初から契約処理でできないものに絞るべきか疑問。各国でも,権利制限を儲けた上で補償金で賄ったりしており,工夫の余地はある。結局は,権利者に与える影響とか,部数とか,そういういろいろな組み合わせで,各論で詰めていけば調整できるのではないか。
  8. アメリカのように研究をフェアユースの一要素とするか,ヨーロッパのように研究目的のための規定を置くのか。フェアユースでやるとすれば,医学書などはフェアユースではないとされる可能性もあるし,フェアユースとの関係をどのように考えるかは難しい問題。
  9. 特定分野の研究開発については要件を限定して,一方で研究全般を考える方は,主体も千差万別なので,フェアユース論を絡ませるか,公正な慣行,公正目的などを入れるか,20条2項4号のように著作物の性質並びにその利用の態様などのバランスで決めるという要件にならざるを得ないだろう。
  10. 範囲を限った場合には,一般的には,訴訟が起こるとは思えない。一方で,全般的な規定を置いた場合には,大学と企業の違いというところで一番訴訟が起きやすいだろう。主体で行くのか,目的で行くのかという規定の仕方が問題となると思う。
  11. ヨーロッパの例では,非営利など,なんらかの制限がかかっている場合が多いだろう。特定分野の研究開発については,要件は別として権利制限をかけてもいい,研究全般についても全てがダメということではない。あとはどういう範囲にするか,どういう要件にするか,ということではないか。
  12. 無限定になるのは避けるべきだが,主体を限定すると不公平になる。限定を外すと企業の研究も対象となってしまうが,そうすると,利益衡量をして最終的に司法判断することができるような規定を入れないといけない。
  13. 非営利に限定すると,企業は営利であってダメと言いやすくなるのではないか。
  14. ヒアリングでも,営利目的の場合は除外すべきという意見は強かった。企業のものは,金を払ってやるとか,フェアユースで拾うとか,いろいろ手段はあると思うが,あまりフェアユースに入れてしまうと使いにくくなるので,はっきりさせる部分ははっきりさせて,それ以外は別途考えていけばいいのではないか。
  15. データベースの提供のような場合は,営利か非営利か分かりやすいが,研究開発自体が営利か非営利かというと,研究開発によって得られた知見を活用することが営利かどうかなのか,それとも他人に有償で提供せずに自分で使えば非営利ということなのか,広く公表すれば非営利ということなのか,うまくイメージができない。
  16. 「非営利」の解釈はいろいろあると思うが,現行法の他の規定中の「非営利」と横並びにはなるだろう。そうすると,企業の研究所は非営利とはならないだろう。例えば,企業なら無償でチャリティーショーを行うような場合もダメだろう。ただし,これもフェアユースに入れれば,営利か非営利かということと他の要素が比較衡量されることになるので,場合によってはセーフとなる形もあるかもしれない。
  17. 以上は,事務局において意見の概要をまとめたものである。なお,専ら質問のための発言部分については記載を省略している。
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