平成20年9月4日
デジタル対応ワーキングチーム
1 問題の所在
情報処理技術や伝送技術の発達に伴い,社会生活における情報サービス利用の重要性がますます増大している一方,情報の大容量化・ブロードバンド基盤の整備により,ネットワーク上を流通するトラフィックが毎年増加傾向にある。このような問題に対処するためには,より迅速かつ効率的に情報をやりとりするようなシステムを社会全体として構築することが必要であり,ネットワーク伝送過程における頻繁なアクセスによる通信量の増加を防ぐためのキャッシュサーバー等の仕組み等の導入が重要となっている。
また,情報化社会においては,ネットワーク上で流通する情報量は膨大であり,それらが持つ価値も極めて大きい。したがって,このような情報を物理的要因に影響されずに提供可能な状態におくため,ミラーサーバー等を活用した信頼性(常に安定的に機能を果たせること)向上のための措置の重要性も増している。
上記の仕組みや措置において行われる,著作物等の蓄積や,蓄積された著作物等を用いて行う送信(以下「蓄積等」という。)は,著作権法上の権利の対象となる場合も考えられるが,このような通信を巡る蓄積等の行為については,その著作権法上の位置づけがこれまで不明瞭であったことから,このような取組を推進する上での萎縮要因として働いていたとの指摘がなされている1。
平成18年の文化審議会著作権分科会報告書(第1章第3節デジタル対応ワーキングチーム)(以下「18年報告書」という。)においては,機器等を用いて著作物等の視聴等を行う場合に機器内部で技術的に生じる蓄積行為と,情報通信の過程等において送信の円滑化,効率化や信頼性の確保ほか様々な理由のために蓄積装置等を設置して行う蓄積行為を,包括的に「一時的固定」の問題として整理し,権利を及ぼすべきでない範囲の要件が検討された。このため,権利を及ぼすことが適当でないと考えられる行為であっても要件に該当しないものが生じるほか,蓄積に伴う送信行為については検討されていなかった2。
本ワーキングでは,こうした状況を踏まえ,通信を巡る蓄積等の行為について,「一時的固定」という観点ではなく,通信の円滑化,効率性や信頼性等の観点から,著作権法上の権利を及ぼすべきでない範囲3とその具体的対応のあり方について総合的に検討する。
1総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会報告書」(平成19年9月ネットワークの中立性に関する懇談会)において,通信インフラの安定的な運営の観点から著作権を巡る論点についても触れられているところである。
2平成18年報告書では,「例えば,通信の効率性を高めるために行われるミラーサーバーにおける蓄積や,災害時等のサーバーの故障に備えたWebサイトのバックアップサービスなどは「不可避的又は付随的」とは言い難いため,上記の要件から外れてしまうが,通信の効率性や安全性の点から,権利を及ぼすべきではないとする社会的な要請が強いと考えられる。(略)必要な場面を想定し,個別に別途の権利制限規定を設けるなど,必要な措置を追加して検討する必要があると考えられる。」と論じられている。
3ここでは,権利制限,免責規定などの措置を「権利を及ぼさないこととする措置」として総称するものとする。
2 通信を巡る蓄積等の行為に関する検討の視点
(1) 検討対象の範囲
通信を巡る蓄積等の行為に関し検討の対象とすべき範囲は,その目的及び行為態様により分類することができる。
まず,目的に着目した場合,ⅰ)通信の円滑化・効率化を目的とする行為,ⅱ)提供する通信ネットワークの信頼性向上を目的とする行為,及びⅲ)社会的要請の充足その他の目的から行われる行為,に分類することができる。
また,行為態様に着目した場合,ⅰ)通信の過程における行為と,ⅱ)通信の過程における行為ではないが,通信に付帯して行われる行為,に分類することができる。
以上の分類に基づき,具体的な検討対象である行為類型を整理すると以下のようなものが挙げられる。
※ なお,本報告書では,著作物等を最初に送信する者から,当該著作物等を受信して享受する者までの一連の伝送過程を「通信の過程」と捉え,最初の送信者の送信行為自体(蓄積型送信の場合は当該蓄積行為も含む)及び最後の受信者の受信行為自体(当該受信によって蓄積が行われる場合は当該蓄積行為を含む)は含まないものとしている。
ア 通信の円滑化・効率化を目的として,当該通信の過程で行われる行為
- ・ 伝送過程での中継・分岐の際などに生じる瞬間的・過渡的な蓄積(ただし,瞬間的かつ過渡的な蓄積であることから,そもそも複製には当たらないものと整理されると解される。)
- ・ フォワードキャッシュやリバースキャッシュ等のシステム・キャッシングの際の蓄積(送信者と受信者の間での情報送信を可能な限り省略し,処理速度の向上等を図ることを目的として,サーバーの記録媒体になされる蓄積とその際に生じるメモリへの蓄積)
イ 提供する通信ネットワークの信頼性向上を目的として,通信に付帯して行われる行為
- ・ ミラーリングの際の蓄積(アクセスが集中するマスターサーバーの負荷を分散させることを目的として,別のサーバーの記録媒体になされる蓄積とその際に生じるメモリへの蓄積)
- ・ 電気通信設備の損壊や機能障害等が原因で送信者から受信者への著作物等の伝送の完成に支障が生じるおそれがある場合,当該支障を回避して受信者への伝送を完成させる目的のために,通信に供される著作物等を一時的に他の記録媒体に行う蓄積
ウ 社会的要請の充足その他を目的として,通信の過程で行われる行為
- ・ フィルタリングの際の蓄積(有害サイトやウイルスか否かをメモリ内のソフトウェアで判定する等の社会的な要請4に基づき一時的に行われる蓄積)
- 等
4これに関連し,有害サイトについては,携帯電話事業者が18歳未満の携帯電話利用者に対してフィルタリングサービスを提供することを原則義務化する等の内容を有する「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成二十年法律第七十九号)(通称「青少年インターネット利用環境整備法」)」が平成20年6月11日に成立している。ウイルスについても,IT新改革戦略(平成18年1月19日IT戦略本部決定)で「情報セキュリティ機能を活用できるIT製品・サービスの積極的な提供や新たなIT機器に対応するフィルタリングソフトの開発を促進する」とされている。
(2) 検討に当たっての留意事項
これらの通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等の行為に関する法的安定性の確保を検討するに当たっては,通信事業者の立場からは,これらの蓄積等は通信の媒介者としての行為に過ぎないのであるから,例えば,その行為主体を送信者であると解する,又はそのように法定することによる解決策を採るべきとの主張もなされたところである。しかしながら,実際には,著作権法の解釈上,これらの蓄積物の作成主体が原則として送信者であるとは考えにくく,法定という手法も困難であると考えられること,また,仮に法定することができたとしても様々に解釈される可能性もあることなどから,このような方法で安定的に対処することは極めて難しい。
また,権利を及ぼすべきでない範囲を検討するに際しては,通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等にかかわる蓄積装置の設置主体に着目した整理(例えば,電気通信事業法の規定に基づき届出を行った又は登録を受けた電気通信事業者の行う蓄積等については権利が及ばないこととする等)も考えられる。しかしながら,通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等にかかわる蓄積装置の設置主体は,実態としては,通信の秘密の遵守義務が課せられている「電気通信事業者」及び「『届出・登録を要しない電気通信事業』を営む者」のみならず,lanを設置する大学や企業など広範にわたるため,一概に特定することは困難であることから,設置主体の属性に着目して蓄積等の取扱を区別することは慎重に検討することが必要であると思われる。
3 法的評価について
現行の著作権法においては,通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等の行為に関する法的安定性の確保を目的とした特別の規定は存在しないため,その取扱は解釈に委ねられる。したがって,まずは法目的に照らしつつ,現行法下での解釈による対応の可能性を模索し,その適否を検討する必要がある。
(1) 現行法での法的安定性の検証
(1) 契約・権利者の意思の推認等による対応可能性
一般に,権利者の許諾を得て適法にコンテンツを配信するサービスなどの場合,その配信者が,2(1)で掲げた目的のために行う通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等の行為については,そのコンテンツの権利者との事前の契約による対処が可能であると考えられる5。
他方,プロキシサーバー等における受信者側からの求めによるシステム・キャッシング等においては,ネットに接続した世界中のサーバーから受信者が求める著作物等を利用することについて事前に許諾を得ることは困難である。
この点については,例えば,権利者は自らの著作物等をネットワーク上で伝送する場合,その中継過程における蓄積等によって著作物等の円滑な伝送という利益を享受していることを認識しているものとしたうえで,権利者が最初の公衆送信を許諾した場合には,中途過程における蓄積等も,一般に黙示的に許諾されていると推認することができるとの考え方がありえよう。また現実には,公衆への送信が行われる場合は,権利者は最初の送信行為に対して権利行使ができること,仮に最終的な受信後に何らかの支分権が及ぶ行為が行われれば当然その行為に対しても権利行使機会が確保されていることから,通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等において,2(1)で掲げた目的のためだけに一定の条件のもとで適切に行われるものに対して,権利者が販売機会の喪失等の経済的不利益を主張する根拠も乏しいものと思われる。
しかしながら,必ずしも全ての権利者が上記のような事実を認識しているとの保証はないうえ,権利者の許諾を得ず違法に著作物等が送信される場合については,蓄積等について契約や黙示の許諾の推認によって対応することは無理である。また,仮に権利者が権利を行使するとした場合,一般的には著作物等を最初に違法に送信した者が対象になると考えられ,通信の過程で行われる蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等の行為に対してまで権利行使が行われる可能性は小さいであろうが,このようなリスクが全く払拭されるわけでもない。
なお,通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等の行為のように頻度が高く一般的に行われている行為に対して権利者が権利行使することは,社会的妥当性を超えたものであり,権利濫用として許されないとする考え方もありえるが,この法理の適用自体,かかる行為の適法性を予め保証するものではないことから,その法的リスクを完全に払拭するものとはならない。
以上を踏まえれば,通信の過程における蓄積等や通信に付帯して行われる蓄積等の行為について,直ちに問題が生じているとは考えにくいものの,契約や権利者の意思の推認等による対応だけでは,法的安定性が十分に保証されうるとは言い難いと考えられる。
5なお,著作権法第63条5項によって,送信設備を持つコンテンツプロバイダーとコンテンツホルダー(権利者)との間で著作物等の送信にかかる契約がある場合は,たまたまコンテンツプロバイダーが送信にかかる装置,回数について当該契約に違反しても権利侵害を問われることはない。
(2) プロバイダ責任制限法による対応可能性
プロバイダ事業者,サーバー運営者などの電気通信役務提供者の責任を制限する法規として代表的なものに特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)(以下「プロバイダ責任制限法」という。)がある。
プロバイダ責任制限法によって制限される特定電気通信役務提供者の責任は,送信者が他人の権利を侵害する情報を流通させることにより生じる損害についての間接的な不作為責任であると考えられる。
そのため,特定電気通信役務提供者は,例えば当該特定電気通信役務提供者が提供する特定電気通信設備を通じて他の者(プロバイダ責任制限法では「発信者」)によって「特定電気通信による情報の流通」による他人の権利の侵害がなされる(著作権等の侵害を例にあげれば,著作物等が違法に自動公衆送信される)ことにより生じる損害についての間接的な不作為責任は制限されるものの,当該発信者が送信した著作物等を当該特定電気通信役務提供者がミラーリングのために行った蓄積自体が複製にあたる場合などの責任までは免責されていないとの解釈が成り立ち得る。
したがって,本法によって,法的リスクを払拭することはできないと考えられる。
(2) 立法措置による対応可能性
権利を及ぼさないこととする措置については,著作物等の公正な利用を図るという観点から設けられるものであることから,権利者の私権との調和を図りつつ検討することが必要である。
また,ベルヌ条約第9条(2)や,TRIPS協定第13条及び著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)第10条(2)に規定されているスリー・ステップ・テストの要件を満たす必要があることは言うまでもないことから,以下ではこれらの点について吟味する。
(1) 立法措置の必要性があると認められる事実
2(1)における蓄積等の行為のうち,アに掲げた通信の円滑化・効率化を目的とする行為については,通信の質的向上を通じて,高度情報化社会・ネットワーク化社会におけるインフラとしての役割の強化に資するものであり,公益性を有するものであることから,権利を及ぼさないとする必要性が認められよう。
イに掲げた通信ネットワークの信頼性向上を目的とする行為は,著作物等を送信者から受信者に確実に到達させるために行われるものであり,ユーザーの利便性向上のみならず,権利者にとっても著作物等の安心できる流通手段の選択肢を持つことができるという点で有益といえる。加えて,当該行為は,著作物等の提示や提供自体を目的とするものではなく,かつ,当該行為者は,予め違法に流通する著作物等のみを除去して蓄積等を行うことも,現実的ではないことから,権利者から事前に利用許諾を得て対処することは困難であり,権利を及ぼさないとする必要性は認められる。
他方,ウに掲げた社会的要請の充足その他を目的として行われる行為については,通信自体のための行為ではないため,その目的に照らし合わせつつ,権利保護と利用の比較衡量の観点から個別に立法措置の必要性が判断されるべきである。例えば,有害情報のフィルタリングについては,青少年の健全な育成に影響を及ぼすような有害情報から青少年を保護する法的要請がある。また,ウイルスのフィルタリングについては,コンピューターウイルスの無差別な攻撃からネットワークを保護するために有益な方法であることは,社会的なコンセンサスがあると考えられる。そして,いずれについても,著作物等自体を享受することを目的としないものであるから,その目的の範囲内であれば,権利を及ぼさないこととする必要性は認められよう。なお,立法措置を講ずる場合であっても,目的の範囲が曖昧とならないよう,具体的規定に当たっては十分な配慮が必要である。
(2) 立法措置に対する許容性を判断する上での留意点
他方で,これらの蓄積等の行為については,場合によってはそれにより権利者が経済的不利益を被ることも考えうることから,立法措置の検討に当たっては,上述したような必要性に対して十分に応えつつも,その一方で,権利者の私権との調和及び条約規定との整合性の観点から,権利者が被る経済的不利益の態様・程度を考慮することが必要である。具体的には,以下の点に留意する必要がある。
- a まず,前提として,(1)において必要性が認められた目的,及び以下に掲げるような諸条件を満たさない蓄積等の行為は,そもそも権利を及ぼさない対象から外れることは言うまでもないが,加えて,これらの条件を事後的に満たさなくなった場合についても,当然のことながら権利が及ぶものとすべきである。
- b 通信の過程における蓄積等及び通信に付帯する蓄積等の行為は,最初の送信者によって著作物等が違法に公衆送信された場合には,違法な公衆送信を促進し,権利者の利益を不当に害するおそれがある。したがって,その通信の過程において又は通信に付帯して当該著作物等を蓄積等した者が,その事実を「知っていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合」は,当該蓄積等の行為は権利を及ぼさない対象から除外されるべきである。なお,著作物等の違法な流通の事実を「知っていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合」の具体的考え方については,当該蓄積等を行った者に過大な負担を負わせることは現実的ではないことから,プロバイダ責任制限法との整合性を確保する形とすることが妥当であるといえる。
- c 通信に付帯する蓄積等の行為については,外形的には著作物等自体を享受するための複製行為と判別することが困難であり,また,そのような複製行為として機能する可能性は小さくないことから,特に権利者の利益を不当に害することのないよう留意することが不可欠である。したがって,(1)に掲げた目的に合目的的な蓄積等の行為であって,その態様に照らして合理的な範囲内において行うものであること等を要件とし,その要件の解釈については,所与の目的に照らし合わせて厳格になされるべきであるとともに,権利者の利益を不当に害する場合には,権利を及ぼさない対象から除かれるものと整理される。
- d また,P2P(ピア・ツー・ピア)型の通信技術を活用し,利用者が著作物等をアップロードできるファイル交換ソフトにより,違法に著作物が流通している場合においては,権利者が最初のアップロードをした者に対して権利行使をした後であっても,中継過程の蓄積及び公衆送信の態様によっては,著作物の違法な流通を助長し,著作権侵害の著しい拡大を招来する場合がある。このような場合の中継過程における蓄積及び公衆送信については,権利が及ばないとした場合,著作物の通常の利用を妨げ,権利者の正当な利益を不当に害することとなり,スリー・ステップ・テストの要件を満たさないおそれがあることから,権利を及ぼさない対象からは除外されるものと整理される。
なお,P2P型通信を用いた著作物等の送受信については,送信者から送信される著作物等を受信して複製を行う受信者の端末内にて当該受信により自動的に作成された複製物がさらに他者に送信される場合があるが,通信の技術体系から見た場合,当該受信者の端末からの送信行為は,通信ネットワークの負荷分散につながる側面を有するものであり,当該受信者の端末における複製及び送信行為について権利を及ぼさないことが事業者及び利用者の法的安定性につながるとの意見が出された。しかし,このような行為は,著作権法上の観点から整理した場合,著作物等の提供及び享受自体に関わる行為であり,本ワーキングで定義した通信の過程における蓄積等には含まれず,今回の検討対象とはしていない。本件については,通信の技術体系の実態を十分に踏まえつつ,事業者及び利用者の法的安定性確保について課題抽出に向けた取組が求められよう。
(3) 具体的な規定のあり方
具体的な規定のあり方については,上述の(1)及び(2)の論点への対処が可能となるよう検討することが必要である。具体的には,ⅰ)一定の制約要件を設けた上で全ての蓄積等の行為について包括的に権利を及ぼさないこととする方法,ⅱ)通信の過程における蓄積等の行為及び通信に付帯して行われる蓄積等の行為のうち権利を及ぼさない対象を,システム・キャッシングやミラーリング等の機能毎に列挙する方法,ⅲ)ⅰ)及びⅱ)を組み合わせた方法,すなわち,主たる権利を及ぼさない対象を機能毎に列挙した上で,それ以外については一定の制約要件の下で権利を及ぼさないとする方法,その他の方法などが考えられるところであるが,それぞれ以下のような論点が存在することに留意する必要がある。
ⅰ)については,例えば,権利者の正当な利益を不当に害しない場合に限るなどの形で制約を設ける方法が考えられるが,技術進歩に対して柔軟に対応可能である反面,権利が及ばない範囲については司法の判断に委ねられることから,事業者の法的安定性が十分に担保できるような工夫が求められよう。ⅱ)については,列挙した機能については,高い法的安定性が期待できる反面,技術動向への柔軟な対応には課題が残るほか,列挙されない機能については反対解釈のおそれが懸念される。ⅲ)については,ⅰ)及びⅱ)の要素を整合的に構成できるかが論点となろう。
他方,これらの規定のあり方の検討に当たっては,立法技術上の可否についても十分に精査することが必要であり,いずれにせよ,上述の(1)及び(2)の論点を十分に踏まえたものとなるような構成とすることが必要である6。
6なお,立法技術上の制約と事業者の法的安定性の確保の両立を考慮した場合,通信を巡る蓄積等に限定せず,より包括的な権利制限の枠組みでの対応もあるのではないかとの意見もあった。
4 検討結果
以上を踏まえれば,通信の円滑化・効率化等を目的として,通信の過程における蓄積等の行為及び通信に付帯して行われる蓄積等の行為の法的安定性を確保することは重要であり,そのためには,かかる行為に対して権利が及ばないこととする立法措置を講ずることが望ましいといえる。
ただし,立法措置に当たっては,今回の検討対象外の行為類型に対する法制上の現行解釈に影響を及ぼすことのないよう留意することが必要である。また,将来的な技術の発展によって生じうる新たな行為類型については,それらに対して,直ちに権利が及ぶような反対解釈は避けられるべきである。
なお,具体的な立法措置のあり方については,立法技術上の制約を踏まえつつ,また,著作権法制の見直しにかかる動向にも十分留意しつつ,上述3(2)の(1)及び(2)の論点を十分に踏まえたものとすることが必要である。
◆チーム員
座長 |
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大阪大学教授 |
座長代理 |
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弁護士(末吉綜合法律事務所) |
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神奈川大学准教授 | |
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神戸大学教授 | |
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財団法人 ソフトウェア情報センター専務理事 | |
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株式会社 東芝知的財産部デジタル著作権担当部長 | |
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社団法人 コンピュータソフトウェア著作権協会 事業統括部法務担当マネージャー | |
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株式会社 インターネットイニシアティブ取締役副社長 | |
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株式会社 KDDIコア技術統括本部ネットワーク技術本部知的財産室室長 | |
以上9名 |
◆開催状況
第7期 | ||
第9回 | 平成19年12月25日(火) | |
・ | 検討課題の整理 | |
第10回 | 平成20年 1月18日(金) | |
・ | 機器利用時,通信過程における一時固定について | |
第11回 | 平成20年 2月18日(月) | |
・ | 機器利用時における蓄積について | |
第12回 | 平成20年 3月 4日(火) | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について | |
第8期 | ||
第1回 | 平成20年 3月24日(火) | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について | |
第2回 | 平成20年 4月11日(金) | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について | |
第3回 | 平成20年4月25日(金) | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について | |
第4回 | 平成20年 5月15日(木) | |
・ | 機器利用時における蓄積について | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について | |
第5回 | 平成20年 7月18日(金) | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について | |
第6回 | 平成20年 8月20日(水) | |
・ | 通信過程における蓄積等の取扱について |