「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会 中間整理(案)」

(第6回(平成20年9月18日)配布資料)(抜粋)

第2章 過去の著作物等の利用の円滑化方策について

第1節 検討の経緯等

1 検討の経緯

本小委員会では,第1章で述べたように,平成17年の分科会の検討課題に基づき,著作権等の保護期間の在り方を検討課題としているが,一方で,文化価値の共有・普及や次代の文化創造にもつながる貴重なコンテンツを円滑に流通させ,死蔵による社会の損失を防止するとの観点から,関係団体からの要請により,保護期間の延長をした場合の文化的経済的影響,及びデータベースの整備や実効性のある裁定制度その他,保護期間の延長をした場合に利用が困難にならないようにするための利用円滑化方策について,併せて検討課題としている。

昨年10月の検討状況の整理においては,その時点での論点の整理を行っているが,その中では,利用の円滑化のための課題や要望として,

  • 権利情報のデータベース(所在,生没年,戦時加算対象物,管理事業者の管理著作物の範囲)の構築など権利情報の管理の仕組みを整えることや,権利の集中管理を一層促進すること,
  • 特別な場合にしか使用されていない裁定制度を(著作隣接権の場合も含め)より簡易に使えるようにすることや,アメリカやイギリスの検討例を参考に需要に見合ったコストで著作物が利用できる方策を整えること,
  • 複数の権利者のうち一部の反対のみで全体が利用できなくなるような事態を避けること,
  • 過去の文化遺産を土台とした二次的創作や文化の継承のためのアーカイブ活動の制約にならないようにするための措置が必要

などの指摘がなされた。

これらの点に加えて,著作権分科会法制問題小委員会では,「知的財産推進計画2007」(平成19年5月31日知的財産戦略本部決定)や「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)において2年以内に整備することが求められている「デジタルコンテンツ流通促進法制」の検討に際して,この提言の問題意識・背景を,「過去にインターネット以外の流通媒体での利用を想定して製作されたコンテンツをインターネットで二次利用するに当たっての著作権法上の課題」であると分析・整理しており,この二次利用の円滑化の観点からも,過去の著作物等の利用の円滑化のための方策が求められている。

なお,法制問題小委員会でも整理されているように1,コンテンツの二次利用に当たって著作権等が課題になる場合とは,既に製作されたコンテンツを別の用途で,又はコンテンツ製作者とは別の者が用いることについて,著作権者等から改めて利用許諾を得なければならず,かつ,それが困難なときであるが,実際には,著作権等管理団体に権利を委託している者,権利者団体と利用者団体との協定が適用されている者については,所定の規程や協定のルールに従って,一定の使用料を支払うことにより,ほぼ自動的に利用許諾が得られる仕組みとなっており,二次利用について許諾が得られない場合とは,実のところ,

  • 多くは,これらの団体に権利を委託していない者,ルールが適用されていない者や,所在不明の権利者の場合であり,
  • その他には,実演家のイメージ戦略,経済的価値の維持のために許諾をしない場合や,権利者の思想信条(例えば,論説やインタビュー等について制作時と考え方が変わっている)に関係する場合

にほぼ限られている。

1法制問題小委員会(平成19年6月7日・第7期第4回)配付資料「過去の放送番組等の二次利用に関する論点整理」参照(https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07061121/002.htm

このような観点からは,本小委員会で要望,指摘された前述の検討課題と,法制問題小委員会から検討を求められている過去のコンテンツの二次利用に当たっての課題とは,大きな部分において共通の課題である。本小委員会では,このような双方の問題意識を踏まえつつ,指摘された課題や要望について,

  • 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化,
  • 権利者不明の場合の利用の円滑化,
  • 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化,
  • その他の課題

に分けて,それぞれ議論を行うとともに,特に実務の実態について精査が必要となった「多数権利者が関係する場合の実演の利用の円滑化」,「図書館等におけるアーカイブ活動の円滑化」については,本小委員会の下にワーキングチームを設置して,関係者も交えて実務の実態を踏まえつつ,検討を行った。

また,本年5月の中間総括においては,これらの検討の結果を中間的に取りまとめた上で法制問題小委員会にも報告し,共通理解を図るなど,制度設計等について必要な検討を行ったところである。

2 諸外国における保護期間延長の際の利用円滑化方策

著作権の保護期間を既に著作者の死後70年に延長している国においては,中には,保護期間の延長の是非やその弊害に対する対策等について活発に論じられているものもある。主な国では,過去の保護期間延長の際に,次のような代替措置の例が見受けられる2。(参照条文p.7)

諸外国の中で最初(1965年)に70年に延長したドイツでは,延長の代替としての利用円滑化方策の議論は特に見あたらないが,次いで延長したフランスでは,

  • まず1985年に音楽の著作物について70年に延長した際に,著作者の相続人による利用許諾権の濫用,権利者の不明,又は相続権主張者の不存在,若しくは相続人の不存在の場合において,著作物を利用しようとする者が大審裁判所に申立てを行い,あらゆる適切な措置を命ずる判決を得ることができるとする措置を導入している。
  • また,1997年にEU指令を受け,全ての著作物について70年に延長した際には,共同著作物として,共同著作者中の最後の生存者の死後から保護期間を計算していた映画の著作物について,起算の基となる者を限定(脚本の著作者,台詞の著作者,音楽著作物の著作者,監督)する措置を講じている。

2過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成20年3月14日・第8期第1回)配付資料「諸外国の保護期間延長の際の議論」より(https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/024/08031816/005.htm

イギリスでは,1995年にEU指令を受け70年に延長したが,その際には,特に延長の代替としての利用円滑化方策の議論は見あたらないものの,その後,2005年12月にアンドリュー・ガワーズ氏(Financial Timesの元編集長)に対し,イギリスの知的財産の枠組みについての報告書の提出を依頼し,2006年12月にガワーズ・レビュー最終答申が公表されている。その中では,権利者不明著作物の対策の必要性が述べられ,利用者が合理的な調査を行うことを条件とする権利制限規定や,権利者情報を任意に登録するシステムの整備などを提案している。

アメリカでは,1998年に70年に延長した際に,図書館や文書資料館において,保護期間の最後の20年間は,通常の商業的利用の対象でなく合理的価格で入手できない公表著作物については文書の保存を目的とした複製・頒布等を許容する規定が追加されている。
また,その後においても,「孤児著作物」と呼ばれる権利者不明の場合の対応策について議論等3が活発に行われており,2006年に著作権局が「孤児著作物に関する報告書(Report on Orphan Works)」をまとめている。その後2度にわたり,利用者が,真摯な調査を行ったが著作権者の所在を特定できない場合で,かつ,可能な限り適切な著作者・著作権者の表示を行ったことを利用者が証明した場合,著作権者が後に出現して著作権侵害の請求を行ったとしても,救済手段(金銭的救済等)を制限することを内容とする法案が提出されたが,いずれも廃案となっている。また,現在,新たな法案が議会提出されている4

オーストラリアでは,2005年に70年に延長した後,2006年に公益目的(図書館,教育機関,障害者福祉)の非営利利用,パロディ・風刺目的の公正な利用についての権利制限を含む,創作活動の促進を目的とした著作権法改正が行われている5

3なお,保護期間延長の代替措置そのものについての議論ではないが,保護期間を延長した1998年改正法が,言論・出版の自由を定めた憲法に違反するのではないかと争われた訴訟(Eldred v. Ashcroft, 534U.S.1160(2002))において,これを合憲とした法定意見の中では,公正利用の場合には著作権の効力が及ばない(フェアユース理論)等の著作権の内在的な調整原理の存在が,憲法違反ではないことの理由として挙げられている。

4Orphan Works Act of 2006 H.R.5439,109th Cong. ; Copyright Modernization Act of 2006 H.R.6052. 109th Cong. ;
現在提出中のものは,Orphan Works Act of 2008, H.R.5889, 及びShawn Bentley Orphan Works Act of 2008, S.2913, 110th Cong.

5過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年9月3日・第7期第7回)配付資料「諸外国における保護期間に関する議論の動向」より
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07091009/003.htm

また,韓国では,2007年の米韓FTAの締結を受け,現在,著作権の保護期間を70年に延長することを内容に含む法案が提出されている最中であるが,その法案の中には,フェアユース(公正利用)の規定や一時的蓄積についての権利制限などの措置が,併せて盛り込まれている6

このように,既に保護期間の延長を行った又は決定した国においても,権利者不明の場合の対策,図書館等の非商業的な利用や,日常的で小規模な利用の円滑化が,中心的な対策となっていることが見て取れる。

62007年12月26日「著作権法一部改正法律案」(韓国文化観光庁HPより)。ただし,同HPによれば,公正利用の規定については,技術の発展に応じた著作権保護強化との関連で設けられた旨が記載されており,特に保護期間延長に伴う措置であるとは説明されていない。

【参照条文】

(1)フランス著作権法7

L122-9条
L121-2条に定める死亡著作者の代理人による利用権の行使または不行使において濫用が生じた場合,大審裁判所はあらゆる適切な措置を命ずることができる。複数の代理人間で対立がある場合,権利者不在の場合,または相続権主張者の不存在もしくは相続人の不存在の場合も同様とする。
大審裁判所は,特に文化担当大臣によって提訴されることができる。
L123-2条2項
視聴覚著作物については,〔保護期間の計算の〕基準となる年は,以下の共同著作者のうち最後の生存者の死亡した年とする。 脚本の著作者,台詞の著作者,視聴覚著作物のために特別に作曲された歌詞付きまたは歌詞なしの音楽著作物の著作者,主たる監督
旧L123-3条2項
仮名著作物,匿名著作物または集合著作物が段階的に公表される場合,保護期間はそれぞれの要素の公表の翌年の1月1日から起算する。ただし,公表が最初の要素の公表から起算して20年内に終了した場合は,著作物全体についての排他権は最後の要素の公表の年に続く50年の満了時にはじめて消滅する。

7株式会社 三菱UFJコンサルティング&リサーチ編「著作物等の保護と利用円滑化方策に関する調査研究『諸外国の著作物等の保護期間について』報告書」(平成20年2月)のうち大橋麻也氏・執筆部分より。

(2)アメリカ著作権法8

第108条(h) 図書館・文書資料館による利用

(1)

本条において発行著作物に対する著作権の保護期間の最後の20年間に,図書館または文書料館(図書館または文書資料館として機能する非営利的教育機関を含む)は,合理的な調査に基づいて第(2)項(A),(B)および(C)に定める条件に該当しないと判断した場合には,保存,学問又は研究のために,かかる著作物又はその一部のコピーまたはレコードをファクシミリ又はデジタル形式にて複製,頒布,展示又は実演することができる。

(2)

以下のいずれかの場合,複製,頒布,展示または実演は本条において認められない。

  1. (A)著作物が通常の商業的利用の対象である場合。
  2. (B)著作物のコピー又はレコードが合理的価格で入手できる場合。
  3. (C)著作権者又はその代理人が,著作権局長が定める規則に従って,第(A)号または第(B)号に定める条件が適用される旨の通知を行う場合。

(3)

本節に定める免除は図書館又は文書資料館以外の使用者による以後の使用には適用されない。

第504条 侵害に対する救済:損害賠償及び利益

(c) 法定損害賠償―

(2)

侵害が故意に行われたものであることにつき,著作権者が立証責任を果たしかつ裁判所がこれを認定した場合,裁判所は,その裁量により法定損害賠償の額を,150,000ドルを限度として増額することができる。侵害者の行為が著作権の侵害にあたることを侵害者が知らずかつかく信じる理由がなかったことにつき,侵害者が立証責任を果たしかつ裁判所がこれを認定した場合,裁判所は,その裁量により法定損害賠償の額200ドルを下限として,減額することができる。著作権のある著作物の利用が第107条に定めるフェアユースであると侵害者が信じかつかく信じるにつき合理的な根拠があった場合,侵害者が

  1. (i)非営利的教育機関,図書館もしくは文書資料館の被用者もしくは代理人としてその雇用の範囲内で行動している者,または非営利的教育機関,図書館もしくは文書資料館であって,著作物をコピーまたはレコードに複製することにより著作権を侵害したとき,または
  2. (ii)公共放送事業者または個人であって,公共放送事業者の非営利的活動の通常の一部(第118条(g)に規定する)として,既発行の非演劇的音楽著作物を実演しまたはかかる著作物の実演を収録した送信番組を複製することによって著作権を侵害したときには,
    裁判所は,法定損害賠償額の支払を減免しなければならない。

8株式会社 三菱UFJコンサルティング&リサーチ編「コンテンツの円滑な利用の促進に係る著作権制度に関する調査研究報告書」(平成19年3月)のうち山本隆司氏・執筆部分より。

(3)オーストラリア著作権法9

第41A条 パロディまたは風刺のための公正利用

言語,演劇,音楽もしくは美術著作物または言語,演劇もしくは音楽著作物の翻案物の公正利用は,パロディまたは風刺のために行われている場合には,当該著作物に対する著作権の侵害にあたらない。

(4)韓国著作権法(改正案)10

第35条の2(著作物利用過程の一時的複製)

コンピュータ等を通して,正当に著作物を利用する技術的過程の一部として複製物が作られることが必須に要請される場合にはこれを一時的に複製することができる。
ただし,不法複製物から一時的複製が起きる場合にはそうでない。

第35条の3(著作物の公正利用)

  1. (1)第23条から第35条の2までに規定された場合のほか,著作物の通常の利用方法と衝突せず,著作者の合法的な利益を不合理に害しない特定の場合には著作物を利用することができる。
  2. (2)著作物利用行為が第1項の公正利用に該当するのか可否を判断するに当たっては次の各号の事項を考慮しなければならない。
  1. 営利非営利など利用の目的および性格
  2. 著作物の種類および用途
  3. 利用された部分が著作物全体で占める分量および比重
  4. 利用が著作物の現在または将来の市場や価値に及ぼす影響

92007年7月 FTA交渉における日本政府からの質問に対する豪州政府の回答より。

102007年12月26日「著作権法一部改正法律案」(韓国文化観光庁HP)より。
事務局仮訳(原文はhttp://www.mcst.go.kr/web/dataCourt/ordinance/legislation/legislationView.jsp)。

第2節 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について

1 課題の整理

昨年10月の検討状況の整理では,複数の権利者のうち一部の反対のみで全体が利用できなくなるような事態を避けるべきことが課題・要望として指摘されているが,この指摘の背景は,大きく2つの流れに分けられると考えられる。
一つは,保護期間の延長した場合に生じてくる問題としての指摘であり,すなわち,現在の死後50年までの保護期間は,概ね著作者の孫の代までの保護であるが,これを死後70年まで延長した場合には,ひ孫の代になり,遺族の数が増えるために許諾手続が煩雑になるとの指摘である。
もう一つは,保護期間の延長と関係なく,現行規定の下においても存在する問題としての指摘であり,すなわち,「デジタルコンテンツ流通促進法制」として特に求められている放送番組等の二次利用の円滑化に関連して,出演者等の権利処理の過程で一部の者から許諾が得られないことにより,コンテンツ全体の二次利用が妨げられる状況があるのではないか,との問題提起である。

前者の指摘(保護期間延長の関連)については,近年は出生率が低い数字で推移しており11,これを前提にする限りは,孫世代からひ孫世代に移ることによって遺族が増加する程度は,実際には膨大なものではないことが見て取れる12。一方で,現行規定の状況下であっても,既に放送番組等の二次利用の場面において問題が生じているのではないかとの指摘は現実に寄せられていることから,本小委員会では,特に多数の権利者が関係している映像コンテンツ(特に放送番組)を念頭に置き,その中でも特に多くの者が関わる「実演」を中心に据えて,課題の整理を行った。

11平成17年合計特殊出生率:1.26,平成18年:1.32(人口動態統計より)。その他,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年9月3日・第7期第7回)配付資料「平均寿命及び平均出産年齢の変遷」を参照。
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07091009/004.htm

12ただし,国外の著作物を利用する場合には,先進国のように出生率が下がっている国ばかりではないとの指摘や,子がいない場合には,親や兄弟姉妹に相続されて権利承継者がより複雑になる場合もあり,出生率が下がっていることで,必ずしも,多数権利者の問題が喫緊の課題でなくなるわけではなく,引き続き検討が必要であるとの指摘もあった。

2 多数権利者が関わる実演の利用円滑化について(共有ワーキングチーム報告)

(1) 問題の所在

DVD化,インターネットを活用した配信等により,放送番組を二次利用する場合,当該放送番組に係る著作権者(モダンオーサー及びクラシカルオーサー13)の複製権等及び実演家の録音権・録画権等が働く14。 このことについては,本小委員会で行った関係者からのヒアリングにおいても,

  • 多数権利者のうち一部の許諾が得られない場合については,一定条件のもとに利用が可能となる仕組みについて検討が必要,
  • 放送番組については,多数の権利者が関係するため,一部の許諾が得られない場合については,共有著作権と同様に正当な理由がない限り同意を拒否できないようにすべきではないか,
  • 複数の権利者がひとつの財に対して権利を有している場合,アンチ・コモンズの悲劇として市場での解決は困難なことが立証されている。より簡便な裁定制度や同意の推定規定をおくべき

等といった意見が述べられている。

また,映画の著作物のうち,実演家から録音・録画の許諾を得たものと,実演家から放送の許諾を得て放送のために録音・録画したものとでは,それらの二次利用に関する実演家との許諾契約の要否が全く異なる。このため,放送の許諾しか得ていない放送番組の二次利用について,その円滑化を求める声が特に強い15

13映像コンテンツに関しては,一般に,一つの映像コンテンツに関係する多様な権利者のうち,映画に使用された小説,脚本などの原著作物の著作者,音楽,美術セットなど映画の著作物に複製されている著作物の著作者を「クラシカルオーサー」,それらを利用しつつ映像制作に関わる映画監督等の著作者を「モダンオーサー」と呼んでいる。

14ただし,実演家の録音権・録画権については実演家の録音・録画の許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演については,これを録音物以外に録音する場合には権利が働かない(第91条第2項)。

15社団法人 日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会「映像コンテンツ大国の実現に向けて」(2008年2月25日)においても,「放送番組には多くの権利者が関わっているが,一部の人の反対があるとコンテンツの流通は難しい」,「著作権法上,共有著作権については正当な理由がない限り反対できないといった規定があるが,放送番組に適用できないか」といった指摘がある。

放送番組の二次利用に関しては,平成16年6月,文化庁の検討会により「過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書」がまとめられ,その中で放送番組の二次利用が進まない背景が分析されている。これによれば,二次利用が促進されない理由として,二次利用可能な番組が保存されていない,ビジネス上の判断によって番組提供者が供給しない等,著作権契約以外の事由によって供給されない場合がほとんどであり,著作権契約の問題が占める割合はそれほど多くないと指摘されている。
さらに,今後制作される番組についての利用円滑化を図る観点から,関係者により「放送番組における出演契約ガイドライン」が作成され16,コンテンツのマルチユースを念頭に置いた書面による契約を結ぶような環境づくりも進められている。

一方,今回の検討においては,このような経緯を踏まえるとともに,前述の文化庁検討会の報告書の時点ではインターネット配信事業等がまだ萌芽的事業であったもののその後の技術革新も進展していること,著作権や著作隣接権が私権である以上,様々な理由から許諾を得られず放送番組の二次利用ができないという場合も皆無ではないと考えられること等を考慮し,多数権利者が関わる実演の利用円滑化方策について,その可能性を検討することとした。

(2) 「共同実演」について

「共同著作物」については,その著作権の共有者全員の合意によらなければ著作権を行使することができず(第65条第2項),その場合,各共有者は,正当な理由がない限り,合意の成立を妨げることができない(同条第3項)。またこのことは共同著作物でない著作物について権利を共有している場合も同様である。
これに対し,著作隣接権についても権利が共有される場合はあるため,共有著作権の行使に関する規定(第65条)が著作隣接権の行使に準用されている(第103条)。ただし,共同著作物に係る著作者人格権の行使に関する規定(第64条)は準用されておらず,「共同実演」というものが著作権法上認められているかどうかは明らかでない17
そこで,これを明確化することにより,放送番組に録音・録画されている実演の中に共同実演と言い得るものがあるのであれば,複数の実演家が関わる場合であっても許諾手続きが効率化する(正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない)のではないかという考え方がある。

16平成19年2月,社団法人 日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会に設置された「放送番組における映像実演の検討ワーキング・グループ」による。

17もっとも,「共同実演」に関しては,「一個の実演と概念されるためのメルクマールは,共同著作物に関する第2条第1項第12号の定義の考え方に準じて,各実演家の寄与を分離して個別的に利用することができないかどうかということになります」との見解がある(加戸守行著「著作権法逐条講義五訂新版」社団法人 著作権情報センター発行,597頁)。また,平成13年12月の文化審議会著作権分科会「審議経過の概要」では,「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」締結に伴う著作権法改正を検討した際,音の実演に係る実演家の人格権に関連し,「2人以上の者が共同して行い,又は指揮・演出した実演であって,その各人の寄与を分離して利用することができないものを「共同実演」とし,実演家の人格権の行使について,共同著作物の著作者人格権の行使に関する規定と同様の規定を設ける」ことを提案している。

「共同著作物」に準じて「共同実演」を定義するとすれば,その要件は(1)実演であること,(2)二人以上の者が共同して行うこと,(3)各実演家の寄与を分離して個別的に利用することができないことであると考えられる。
このうち(2)については,基本的には複数の実演家の間で共同して実演を行う意思を持ち,相互に影響を及ぼしあって実演が行われている場合に,その実演に共同性があると考えられる。このため,放送番組の場合,最終的に完成する番組はひとつであっても,その要素である実演が別々に行われているのであればこれに該当せず,実演の共同性が認められるものは少ない18と思われる。また,(3)については,複数の実演家により行われた実演のうちある実演家の実演のみを取り出すことができ,かつ,その取り出した部分だけでも利用できるものは「共同実演」から除かれることになると考えられるが,今日の番組制作技術によれば,映像や音声の部分的な取り出しが可能な場合が多く,分離利用可能性がないものは自ずと限られてくる。したがって,実演のうち(2)の要件を満たすものがあるとしても,(3)の要件まで満たすものは少なく,「共同実演」といいうるのは,例えば,少数のマイクで集音している合唱,オーケストラ,バンド演奏等に限られるものと考えられる。

また,「共同実演」に該当する場合には「共有者全員の合意がなければ権利を行使できない」ことになるが,もし放送番組全体が「共同実演」であり,ひとつの実演ととらえるとすれば,そのような放送番組の一部を部分使用しようとする場合には,当該部分に録音・録画されていない他の実演家の許諾をも得なければならないという問題も生じる可能性がある。

したがって,「共同実演」の定義を明確化することに意義がないわけではないが,それを定義することによって第103条で準用する第65条第3項の規定(「共有に係る著作隣接権の行使について,正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない」)の適用範囲を明確にしても,直ちに実演の利用の円滑化を促進することに資するとは必ずしもいえないと考えられる。

18共同性が認められるものとしては,同じ時間,同じ空間を共有している場合であって,音楽番組の場合,生で行われるある一曲の伴奏と歌唱,ドラマの場合,同じシーンでの演技の掛け合いなどが考えられるが,完成した番組を見ただけでは分からないものもあり得る。

(3) 多数権利者が関わる実演の利用を円滑にするための方策

実演に多数の権利者が関わる場合としては,共同実演によって権利が共有される場合だけでなく,例えば,ある実演に係る著作隣接権が相続や譲渡によって複数の者に承継された場合,複数の実演が一体となって利用される場合(実演と著作物とが同時に利用される場合もある),それらが複合した場合等が考えられる。これらのように多数の権利者が関係する場合に,一部の権利者から許諾が得られなければそのコンテンツを利用することができず,流通が阻害されるという意見がある。

[1] 許諾が得られないことについての正当な理由

放送番組の二次利用について,許諾が得られないことは少ないが,その態様によっては,権利者の許諾が得られなかった実例もあるようである。実演家の著作隣接権が共有に係る場合には,正当な理由がない限り,共有者全員の合意の成立を妨げることはできないが,権利が共有されていない場合には,理由の如何に関わらず利用を拒否することも許されることになる。しかし,場合によっては,権利の濫用に当るか否かという問題が生じることも考えられなくはなく,正当な理由のない利用の拒否が現実的な問題となっているのであれば,何らかの方策を検討する必要がある。

放送番組の二次利用の許諾が得られなかった理由の実例として,検討過程においては,

  • デジタルコンテンツの特質に基づく目的外への流出が不安だから
  • 相手方事業者の実情がよく分からないから。
  • イメージ戦略等の観点からプロダクションの計画に沿った露出をしたいから
  • 実演のできが悪いから。
  • 許諾に伴う対価に満足できないから。
  • 引退した実演家が,過去の番組の二次利用により話題となることを嫌い,平穏な生活を希望しているから。

等が挙げられた。これらについては権利の濫用に当るような理由ではないが,一般的な拒否の理由としても必ずしも不当な理由とは言い切れない。

もっとも,例えば「実演のできが悪かったから」という理由であっても,その実演家の位置づけによっては必ずしも正当な理由とはいえない可能性もある。すなわち著名な実演家,あるいは主演・助演級の実演家の実演である場合には,このような理由により許諾をしないことは容認されてもよいと考えられるが,一方,そのような俳優がすべて許諾しているにもかかわらず,まだ知名度も低く端役で出演しているにすぎない俳優が同じ理由で許諾をしないような場合であれば,「実演のできが悪かったから」だけでは正当な理由とは認められないとの考え方もあり得る19。ただし,実務の現場では,そのような理由による拒否によって問題となったケースはほとんど聞かれないとのことである。なお,かつて端役で出演していた実演家がその後に著名になった場合で,端役当時の実演の二次利用を拒むということも考えられるが,それぞれの事案ごとに事情が異なり,理由の正当性を一律に判断することは難しい。
また,「許諾の対価に満足できない」という理由も考えられるが,それは法外な額を請求しているのか,あるいはその程度の額であれば過去の実演を二次利用するのではなく実演家にあらためて出演の機会を与えてほしいと思えるような額しか提示されないのか等,事情が様々であり,この場合も理由の正当性を一律に判断することは難しい。特にインターネットを活用した番組の配信については,関係者の中には現時点においてもビジネスにならないとの意見もまだ存在するので,実演家に対する対価の額が妥当かどうかという問題以前に,関係者全員の利益を実現できるビジネスモデルとして必ずしも成熟していないことの方が問題であるとの見方もある。

19このことについては,社団法人 日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会「映像コンテンツ大国の実現に向けて」(2008年2月25日)においても,関係者の合意事項として「実演家について,主役級や準主役級の出演者は別として,それ以外の出演者がネット提供に反対した場合には,可能な限り権利者団体等が説得に当ることとする。」とされている。

実務の現場では,実演の二次利用が拒否されるというより,引退等の理由により連絡先が不明となり,許諾を求めることができないという事例の方が多いようであり,むしろ不明者の方が問題となっているようである。

[1] その他,実演を円滑に利用できるようにする方策があるか

許諾が得られないことに関し,理由の正当性の有無を基準として何らかの利用円滑化方策を講じる必要性については,上記のとおり,正当な理由がないと考えられるケースは少ない,またはその判断が難しいのが現状である。そこで,正当な理由があるかどうかは別にして,一定の条件の下で実演を円滑に利用できるような仕組みができないかについて検討した。

まず立法論としていくつかの方策を検討したところ,それぞれ次のような課題が明らかになった。

  1. ⅰ)「実演の利用に関する協議不調の場合の裁定制度を創設する」

    「実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約)」では強制許諾が認められる場合は限られている20ため,裁定制度の内容によっては同条約に抵触するおそれがある。なぜ実演についてのみこのような制度を設ける必要があるのか,その理由も明らかでない。

  2. ⅱ)「共有の権利の行使について民法第252条の規定を適用し持分の価格に従い過半数で決する旨の規定を設ける」

    権利が共有されている場合にしか適用されず,放送番組等における実演の利用は,実演が多数存在するという問題であるので,その問題解決のための実効性に乏しい。

  3. ⅲ)「二次利用を拒む実演家がごく一部であった場合に,一定要件の下で,実演の二次利用に同意したものと推定したり,実演の二次利用に反対することができないとしたりするような規定を設ける」

    二次利用への同意を推定する規定については,少なくともすべての番組が当然に二次利用されるような実態にならない限り,そのような推定は困難ではないか。ただし,推定に限らず,多数の実演家が二次利用を許諾する一方でごく一部の実演家の許諾が得られない状況において,相当額の報酬が支払われること,実演家の名誉・声望を害する実演の利用が行われないこと,一定の場合にはワンチャンスで録音権・録画権が行使できなくなることのないようにすることなどの条件の組み合わせによって,実演の二次利用に反対することができないこととするような何らかの方策を検討することの意義は否定できない。

  4. ⅳ)「アメリカの裁判例21を参考として,ひとつの放送番組に複数の実演が利用されている場合,一部の権利者から許諾を得た者は他の権利者から明示的な拒否がなければ,その許諾の範囲で当該放送番組を利用することができ,許諾した実演家が対価を受けた場合には他の実演家も相当額の報酬を請求できる旨の規定を創設する」

    著作権の制限を超える広範な権利の例外となると考えられ,利用を認めようとする内容によっては実演家等保護条約に抵触するおそれ22があり,また,これらの裁判例は共同著作物で権利が共有されているものが前提とされているものであるため,さらに検討が必要である。

  5. ⅴ)「権利が共有されていない場合,ドイツ著作権法における結合著作物に係る取り扱い23を参考として,共同の利用のために相互に結合した実演の各実演家は,他の実演家に対して,その結合された実演の利用に関する同意を,その同意が信義誠実に照らして他の実演家に期待できるときは求めることができる旨の規定を創設する」

    ドイツにおいても結合著作物に係る規定であり実演には準用されておらず,さらなる検討が必要である。

20実演家等保護条約第15条では,強制許諾は同条約と抵触しない場合においてのみ認められるとの条件が設けられている。(p. 26-28において詳述。参照条文p.35参照)

21Thomson v. Larson, 147 F.3d 195, 199 (2nd Cir. 1998),Davis v. Blige, 505 F.3d 90, 100 (2nd Cir. 2007),Meredith v. Smith, 145 F.2d 620, 621 (9th Cir. 1944)などにおいて,共同著作物で複数の者が著作権を共有している場合,一方の権利者からライセンスを受けていれば,他の権利者からのライセンスがないまま著作物を利用しても権利侵害とならないとされている。

22実演家等保護条約第15条では,実演家等の保護の例外は,著作物の保護について定められた制限と同一種類の制限であること等の条件が設けられている。(p. 26-28において詳述。参照条文p.35参照)

23本山雅弘訳「外国著作権法令集(37)-ドイツ編-」(平成19年3月,社団法人 著作権情報センター)

【参考:ドイツ著作権法】

第9条結合された著作物の著作者

二以上の著作者が,それらの著作物を,共同の利用のために相互に結合した場合には,各著作者は,他の著作者に対して,その結合された著作物の公表,利用及び変更に関する同意を,その同意が信義誠実に照らして他の著作者に期待し得るときは,求めることができる。

また,実務上の解決策としては,著作権等管理事業者への権利管理委託を促すことは,過去の実演の二次利用の円滑化のためにも地道ではあるが重要であり,権利者に対して権利委託を強制することはできないものの,関係者による環境整備が期待される。

さらに,前述のとおり実際には,正当な理由なく二次利用が拒否されるというよりも,引退する等して連絡が取れず許諾を求めることができないという事例の方が問題であるとすれば,後で(第2章第3節 権利者不明の場合の利用の円滑化方策について)検討されるように,イギリスやアメリカで検討中の新たな制度24や権利者不明の場合の裁定制度等により実演を利用できるような方策を検討することが重要であると考えられる。

24p.6及びp.24において詳述。

(4) その他

コンテンツ上の実演を利用することについて(特に部分使用をする場合),どの範囲の実演家の許諾を得る必要があるのか明らかであることが望ましい。このことは,前述の利用円滑化方策のいずれかを仮に実現することができた場合でも同様である。

「共同実演」の場合の一個の実演は,各実演家の寄与を分離して個別的に利用することができないかどうかによって判断せざるを得ないが,前述のとおりそもそも該当するケースは少ないと考えられ,オーケストラや合唱であれば通常は楽曲単位と考えてよいと思われる。
他方,「共同実演」でない実演については,一つひとつの実演について許諾を得ることになるが,現在の実務では,放送番組等のコンテンツを二次利用する際,あるドラマにa,b,cの俳優(aが主役)が出演しており,そのうちシーン1にはabc,シーン2にはbc,シーン3にはacがそれぞれ登場している場合,ドラマ全体を二次利用するときにはabc,シーン2のみ部分使用するときにはbcにそれぞれ許諾を求めている(主役が登場しない部分であれば,主役の許諾までは求めていない。)。そして,このような実務上の処理に対して問題となったことはないようである。

実演を区分する方法については,例えば,「コンテンツ上で視覚又は聴覚によって連続的に認識できる最も小さい範囲」とか,「撮影や制作等の工程あるいは公開する際の節目等による単位」等のような区分を定めることも考えられるが,演出効果や番組制作の事情との関係から,実演の利用方法も多様であるという状況もあり,一律の基準を当てはめることは困難であり,それぞれの実演の実態に応じて判断することが適当であると考えられる。

(5) まとめ

今回,放送番組の二次利用に係る実演家の権利を円滑に処理できるようにする方策について検討を行ったが,利用の阻害要因について,ワーキングチームにおいて調べた限りでは,利用の許諾が得られないことは少なく,その態様によって許諾が得られなかった場合でも,その理由については必ずしも不当な理由といえるものではないという状況であった。そして,利用を阻害しているのは,むしろ,ビジネスモデルの問題や権利者不明の問題であるということであった。
これを踏まえて,共有状態にある実演や多数権利者が関わる実演の利用円滑化のための具体的な方策についても,さまざまな角度から検討を行った。もっとも,実演の利用形態は非常に多様であるため,明確に効果があると考えられる対応策を直ちに見出すことは困難であった。
しかしながら,コンテンツ流通の新たなメディアに対する期待が低いわけではなく,権利者においては権利の集中管理の促進,流通事業者においては関係者に適正な利益の再配分ができるビジネスモデルの構築など,それぞれの立場におけるコンテンツ流通の活性化のための取組によって,一定の効果が期待できる方策が生まれる可能性はあると思われる。また,インターネットを活用した番組配信は現時点においてはビジネスにならないとの意見もあるが,他方で音楽配信ビジネスの成功例もあるので,不正な流通を防止する仕組みづくりとともに開放的な市場でのコンテンツ取引の展開等にも関係者が積極的に取り組むことが望ましいと考えられる。
そのため,これらの取組やその他の状況の変化を踏まえ,必要に応じて実演の利用円滑化方策に関して検討を行っていくべきと思われる。

第3節 権利者不明の場合の利用の円滑化について

1 課題の整理

前述にように,昨年10月の検討状況の整理では,

  • 権利情報のデータベース(所在,生没年,戦時加算対象物,管理事業者の管理著作物の範囲)の構築など権利情報の管理の仕組みを整えることや,権利の集中管理を一層促進すること,
  • 特別な場合にしか使用されていない裁定制度を(著作隣接権の場合も含め)より簡易に使えるようにすることや,アメリカやイギリスで検討されている制度の例を参考に需要に見合ったコストで著作物が利用できる方策を整えること

が,課題・要望として指摘されているが,この指摘の背景は,先の場合(第2章第2節 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について)と同様に,保護期間延長に関する問題とそれ以外の問題とが存在している。
権利者不明の場合には,多数の権利者が関わる中で利用許諾のための権利関係の調査,契約作業等のための費用が過大となりかねないこと自体は,特に保護期間延長に関するものではなく常に存在しうる問題であるが,加えて,保護期間を延長した場合に生じてくる問題として,死後70年まで保護期間が延長された場合には,転居等によって権利者情報が管理しきれなくなる割合が自然と増加するのではないか,さらに,代々相続が行われるうちに,権利を管理する自覚のない遺族が増えるのではないか,との問題意識が指摘された。なお,諸外国においても,保護期間延長後の利用円滑化の課題として,権利者不明の場合の利用円滑化が中心的な問題の一つとなっていることは前述(第2章第1節 検討の経緯等)のとおりである。

さらに,前述(第2章第2節 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について)のように,放送番組等の二次利用のような多数権利者が関わる場合においても,実務上は,許諾が拒否されるというより連絡先の不明により許諾を求めることができない事例の方が多く,権利者不明の場合の方が問題となっていることが明らかになったほか,後に(第2章第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について)触れるように,アーカイブの構築の際にも,コンテンツ事業者自らが行うアーカイブにおいては,結局はアーカイブの構築も,自らが既に製作したコンテンツの二次利用に過ぎないため,必要な対応策は,コンテンツの二次利用についての問題と同じことであることが分かる。
また,一部の権利者不明の場合に結果としてコンテンツが利用できない状態となっていることは,コンテンツの享受により恩恵を受ける側だけでなく,収益の機会を逸することや,二次利用が困難になることを避ける観点から,あらかじめ不利な条件で権利の買取りなどの条件を提示される背景となってしまうなど,権利者にとっても,問題であるとの指摘もなされている。

このことから,権利者不明の場合の著作物等の利用の円滑化は,単にこの問題自身にとどまらず,より広く,多数権利者が関わる場合の利用の円滑化やアーカイブ構築の円滑化にもつながるものであり,一部の所在不明の権利者のために,文化価値の共有・普及や次代の文化創造にもつながる貴重なコンテンツが死蔵され,社会にとっての損失となるとの事態を防ぐためのボトルネックとして,大きな意義・役割を有するものと考えられる。

2 現状と基本的な対応方策

(1) 前提

そもそもの前提として,権利者不明が問題になる場面とは,著作権者等から利用許諾を得ようとする際に,権利者の所在情報が十分でないこと(またそもそも誰が著作者・著作権者なのか分からないこともある)により,利用許諾自体が困難になる場面であるが,そもそも,著作権者等から改めて利用許諾が必要となる場合とは,二次利用,すなわち既に製作されたコンテンツを別の用途で用いる場合,又はコンテンツ製作者とは別の者が用いる場合である。
ただし,同じ利用許諾のための交渉が必要となる場合の中でも,利用許諾交渉が必要となる対象の者が,利用しようとするコンテンツの制作に関わっていた者(制作関係者,原著作者や出演者等)である場合と,いわゆる「写り込み」25の関係者である場合とで,その課題が大きく異なってくるほか,対象物についても,著作権・著作隣接権である場合と,肖像や思想・信条,名誉等の人格的利益である場合とがあるため,権利者不明の問題について一律に捉えるのではなく,これらを分けて認識しておくことが重要である。

25街頭で映像の収録作業を行った場合に,一般人の肖像,看板やポスター等の美術の著作物,街頭で流れている音楽等が記録されてしまうなど,コンテンツの制作過程において,意図せずに収録されてしまうものを,一般に「写り込み」と呼んでいる。

(2) 二次利用の円滑化のための基本的な対応策とその限界

コンテンツの二次利用を円滑化するための基本的な方策としては,現在,次のような方策が取り組まれている。

  1. ⅰ)「当初のコンテンツ製作時にあらかじめ,二次利用を前提とした契約を締結する」

    この場合,あらかじめ二次利用の許諾を得ているため,二次利用を行う時点で再度の交渉が必要なく,権利者不明により許諾が得られないとの問題が生じない。
    実際,今後制作される放送番組についての利用円滑化を図る観点から,関係者により「放送番組における出演契約ガイドライン」が作成され26,コンテンツのマルチユースを念頭に置いた書面による契約を結ぶような環境づくりも進められている。

  2. ⅱ)「コンテンツ製作者が責任を持って権利者の所在情報等を管理する」

    当初のコンテンツ制作の際に関わっている者については,その時点で所在不明であることがあり得ないため,その制作の時点で関係者の所在情報を管理しておくことが,後々の二次利用の際の交渉の際に,権利者不明の問題が生じることを未然に防ぐ有効な方策となる。実際,アメリカでは映画に関して,団体協約によりコンテンツホルダーと権利者団体とで権利者データを共同管理する取組が行われているとの指摘があった。また,我が国においても,現在このような取組が進められつつある。

  3. ⅲ)「権利の集中管理体制の充実・強化により,集中管理団体が権利者の所在情報等を管理する」

    上記ⅱ)と考え方は類似であるが,コンテンツごとではなく,音楽,脚本,レコード,実演等の各分野で行われている権利の集中管理の取組をより一層進め,集中管理団体に所属していない者を減らしていくことにより,権利者不明の問題が生じることを防ごうとするものである。また,集中管理団体が,二次利用についていわゆる「一任型」の権利管理を行っている場合には,そのまま集中管理団体が二次利用の許諾を与えることができるため,権利者不明の問題が生じない。
    実際,著作権に関して,音楽,原作,脚本の分野において著作権等管理事業法に基づく「一任型」の集中管理が行われているほか,著作隣接権に関しても,実演や放送番組で用いられたレコードのインターネット送信での二次利用について,著作権等管理事業法に基づく「一任型」による集中管理が開始されている27

  4. ⅳ)「権利者の所在情報等についてのデータベースを整備する」

    上記ⅱ),ⅲ)の取組をさらに統合し,データベース化することにより,一括してこれらの権利者情報を取得することができるようにするとの考え方であり,現在,コンテンツ情報を紹介することを目的として,(社)日本経済団体連合会(以下,「日本経団連」という。)により企画されたコンテンツ・ポータルサイトが運営されている28ほか,各権利者団体の権利者情報データベースを連携させた創作者団体ポータルサイトの開発が進められており29,双方のデータベースの連携も視野に入れて取組が進められている。

26前掲注17参照。

27これらのインターネット送信についての権利管理を行っている主な著作権等管理事業者としては,音楽については社団法人 日本音楽著作権協会,原作については社団法人 日本文藝家協会,脚本については協同組合 日本脚本家連盟,協同組合 日本シナリオ作家協会,実演については社団法人 日本芸能実演家団体協議会,レコードについては社団法人 日本レコード協会がある。

28過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年7月9日・第7期第5回)配付資料「コンテンツ・ポータルサイトの概要について」参照。
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07071007/001.pdf

29過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年9月3日・第7期第7回)配付資料「ポータルサイト構想について」参照。
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07091009/006.pdf

一方で,これらの取組それぞれには限界もある。例えば,「写り込み」の場合には,コンテンツ製作者が情報を管理しようにもそもそもの情報を有していない場合があるほか,肖像等の人格的利益が問題となる場合には,個々人の認識に負う部分が大きいため,いわゆる「一任型」の集中管理が性質的になじまないなど,各種の取組を組み合わせて対応していくことが必要となる。

しかしながら,これらの対応方策を今後充実させていくことで相当の部分について対応ができるようになるとしても,あらかじめの二次利用を前提とした契約による対応方策や,コンテンツ製作者による権利者情報の管理による対応方策については,既に過去に製作されてしまっているコンテンツでは,必ずしもそのような方策がとられているわけではないため,過去のコンテンツに対する効果は限定的であるとの指摘もある。
また,今後製作されるコンテンツについても,例えば,実演家の引退等により,どうしても所在情報等の管理が難しくなる場合があるとの指摘があった30

(3) 権利者不明の場合の民間の対応策とその限界

このように,一定の対策にもかかわらず既に製作されたコンテンツの二次利用に当たって権利者不明の事態が生じてしまった場合について,現在,関係団体間において,一定の能力・実績を有する団体が権利者捜索を請け負い,その団体が利用の事後に権利者との調整を行うこと,また,権利者が判明した場合に備えて,使用料を事前に預託しておく第三者機関を設け,その第三者機関において精算を行うとの取組が検討されている31
このような取組は,コンテンツの円滑な流通を進めるとの社会的な要請がある中で,大多数の権利者の許諾が得られつつも,一部の権利者不明の者がいるために利用が妨げられることのないようにする観点から,その一部の不明権利者の捜索を,その者と関係の深い一定の団体に委ね,事後に訴えられるリスクを負いつつも利用を行い,権利者が判明した場合には,その団体を通じて事後的に調整を行うものと考えられる。

しかしながら,このような取組には法的な裏付けがあるわけではなく,事後的に差止請求を受けるリスクや,刑事罰の適用関係など,最終的な法的リスクがなくなるわけではない点には特に留意が必要である。例えば,利用に先立って比較的大きな投資が必要となるような利用形態にあっては,多少でもリスクが残ることによって利用がためらわれる場合もあると考えられる。

30小委員会の議論の中では,放送番組に関して,10年以上前のドラマ番組について,1割程度の出演者が所在不明になっており,所属事務所や権利者団体でも把握できない場合があるとの実態の紹介もなされている。

31「映像コンテンツ大国の実現に向けて」(2008年2月25日,社団法人 日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会)

(4) 権利者不明の場合に対応するための現行制度とその問題点

このような権利者不明の場合に,著作物を利用するための制度としては,現行著作権法において,次のような制度が設けられている。
まず,私的使用目的や各種の公益目的での利用など,権利制限規定の対象となる場合には,二次利用に当たって利用許諾を得る必要がないため,権利者不明かどうかにかかわらず,利用が妨げられることはない。
それに加えて,文化庁長官による裁定制度が設けられている。裁定制度とは,著作権者が不明の場合,相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないときは,文化庁長官の裁定を受け文化庁長官が定める額の補償金を供託することにより,著作物を利用することができる制度である(著作権法第67条)。この場合は,著作権者の許諾を得たことと同様の効果を生じるため,民間における権利者不明の場合への対応策と比べて,事後の訴訟リスクは存在しない。

しかし,各種の権利制限規定について,別途,法制問題小委員会において見直しの検討が進められてはいるものの,本小委員会で行った関係者からのヒアリングでは,例えば,障害者関係団体や図書館関係者等から,現行の権利制限規定では不十分な範囲があると指摘されたほか,非営利や日常的で小規模な利用についての権利制限規定を設ける要望などがなされた。
さらに,裁定制度については,次のような問題点が指摘されている。

  • 著作権使用料の多少にかかわらず,手数料等が高く,手続に時間がかかる。
  • 著作者調査の「相当な努力」に多大な費用と時間がかかり,無償での利用を予定しているなど,経済的価値と裁定に要する費用とが見合わない場合には,手続をどれだけ改善したとしても利用に限界がある。
  • 新聞,雑誌のように1点に出版物に多くの著作物が含まれている場合には,調査が特に困難であり,事実上,裁定制度の利用が困難である。
  • 制度が設けられているのは,著作物の利用の場合だけであり,著作隣接権に関して同様の制度がない。

この中には,権利者不明の裁定制度そのものの問題点というよりは,二次利用に際しての許諾手続の一般的な円滑化方策によって解決すべきものも含まれているが,このように,現行の文化庁長官による裁定制度は,各種の権利制限規定に該当しない利用を行おうとする場合には,権利者不明の場合に事後のリスクなく利用を行うための唯一の手段である一方で,事実上,その利用が困難となっている実態が指摘されている。

参考:諸外国における権利者不明の場合への対応例

諸外国でも,前述(第2章第1節 検討の経緯等)のように,アメリカ,イギリスを中心に,権利者不明の場合の対応策は大きな関心を持たれる傾向にある。現在,主な国において導入あるいは検討されている措置は,次のとおりである32。(参照条文p.32)

32過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成20年3月14日・第8期第1回)配付資料「裁定制度以外の対応策として出された提案について」より
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/024/08031816/006.htm

(1)アメリカ
  • 図書館・文書資料館において,著作権保護の最後の20年間は,合理的な調査に基づいて一定の条件に該当しないと判断した場合には,保存,学問又は研究のために,著作物又はその一部のコピー・レコードを,ファクシミリ又はデジタル形式で,複製,頒布,実演又は演奏することができる。(第108条(h))
  • また,利用者が,真摯な調査を行ったが著作権者の所在を特定できない場合で,かつ,可能な限り適切な著作者・著作権者の表示を行ったことを利用者が証明した場合,著作権者が後に出現して著作権侵害の請求を行ったとしても,救済手段(金銭的救済等)を制限することを内容とする法案が企画された。【再掲】
(2)イギリス
  • 合理的な調査により著作者の身元を確認することができないときには,文芸,演劇,音楽,美術の著作権について,侵害とならないこととしている。(第57条。映画についても,第66条のAで同様の規定がある。)
  • 実演の録音録画物については,著作権審判所による強制許諾制度が設けられている。(第190条)
  • また,ある者が合理的な調査によって著作者の身元が確認できないときは,著作者が知られていないものとして扱われ,著作権の保護期間がそれに基づいて算定されるとの規定もある。(第9条(5),第12条,第13条のB)
  • このほか,利用者が合理的な調査を行うことを条件とする権利制限規定や,権利者情報を登録するシステムの整備などが提案されている。【再掲】
(3)カナダ
  • 日本と同様,利用者が相当の努力を払っても著作権保有者の所在が確認できない場合について,著作権委員会による裁定制度が設けられている。(第77条)
(4)その他
  • 権利者不明の場合のために設けられた制度ではないが,一般の権利制限規定も,権利者不明の場合の著作物の活用に有効な役割を果たすとされている。中でも,北欧諸国においては,「拡張された集中許諾スキーム」(Extended collective licensing scheme)により,代表的な集中管理団体から許諾を得ることによって,当該団体が代理権を有しない権利者についてもその合意が法的拘束力を有する等の仕組みを有しており,それが,権利者不明の場合の著作物の利用策となっているとされている。

3 今後の対応方策

(1) 基本的な考え方

権利者不明の場合の対応策については,現在,前述のように民間において各種の取組が進められている途上の状況にある。これらの取組は,著作物等の二次利用全般の許諾手続の円滑化にも資する方策も含まれており,権利者情報の把握について,コンテンツ製作者と集中管理団体の双方において体制整備の努力を続けるなど,今後とも中核的な対応策として,引き続き,強化,充実されるべきものと考えられる。
一方で,権利者不明の場合の裁定制度などの制度的な対応については,訴訟リスク等の面で民間の取組を補完しうる唯一のセーフティネットとしての意義を有するものであるため,この制度の機能不全によって,文化価値の共有・普及や次代の文化創造にもつながる貴重なコンテンツが一部の所在不明者のために死蔵され,社会にとって大きな損失となることがないよう,より利用しやすい制度とすることが必要と考えられる。

なお,本小委員会の検討の中では,民間の取組が進められている中,まずはその努力を重視すべきであり,より利用しやすい制度が設けられることにより,民間の努力に対する意欲を削ぎかねないとの懸念も寄せられたが,本小委員会としては,権利者捜索のための努力や権利者情報の把握のための民間の取組が引き続き行われるべきことを前提としつつ,その取組を補完し,最終手段たるセーフティネットとしての制度的措置を用意するとの基本的な考え方に立ちつつ,制度を整備すべきものと考える。

なお,権利者不明の場合として対応が求められる事項のうち,単なる「写り込み」の場合については,問題の本来的な性格が異なるほか,前述のように民間において取ることが可能な対応方策も限られるなど,同列に論じるべきものではないと考えられる。このような「写り込み」については,セーフティネットとしての制度的措置として対応するのではなく,権利制限の見直しなど別途の措置として対応を考えていくべきものである33。(参照条文p.31)

(2) 制度的な対応において取りうる方向性について

[1] 現行裁定制度の手続についての運用改善の可能性

現行の裁定制度については,知的財産推進計画2004等において手続の見直しについて指摘を受け,既に平成17年度に手続の簡素化を行っているが,手続に要する期間や手数料について,なお改善の要望がある34。また,本小委員会の検討においては,現在開発中の権利者情報に関するデータベースを活用し,データベースに登録されていない者については,より簡易な手続で裁定が受けられるような方策が提案された。

33例えば,「主要な被写体の背景に何か絵らしき物が写っているという程度のものは,著作物の実質的利用というには足りず,著作権がそもそも働かないジャンルのもの」(加戸守行著「著作権法逐条講義五訂新版」社団法人 著作権情報センター発行,288頁)とする見解がある。

34特に指摘があったのは,(1)期間の面(権利者を捜索する「相当な努力」として,一般又は関係者への協力要請が必要とされており,インターネットのホームページにより調査をする場合には,通常2ヶ月以上の期間が必要とされる(文化庁HP「裁定申請の手引き」より。標準処理期間は3ヶ月)点)と,(2)費用の面(手数料は13,000円であるが,社団法人 著作権情報センターの権利者捜索のための窓口ページを利用する場合には,さらに基本料金21,000円と加算料金が必要となるなどの点)である。

しかしながら,このような指摘に対しては,非営利無料などの小規模な利用については,どのように手続,費用を改善したとしても裁定制度を利用することにどうしても限界があるとの意見や,写真など一人の著作者で膨大な数の著作物を創作する可能性のある分野では,作品をデータベース上で完全に把握できるようにすることは困難との懸念が示された。
また,権利者情報のデータベース上の登録の有無については,権利者捜索の相当な努力の内容として加味することは当然にあり得ることと思われるが,加味できる程度は,権利者情報データベースがどの程度の情報を集積しているかの実態にもよってくると考えられ,登録の有無自体を直接的に法的効果に結びつけることは,困難が多いと思われる。

[2] 著作隣接権の裁定制度の創設の可能性

また,著作隣接権について,現行裁定制度と同様の制度が設けられていない点については,この制度が,民間の様々な努力を補完し,最終手段たるセーフティネットとしての役割を果たすとの基本的な考え方に立てば,何らかの対応が必要であると考えられる。

しかしながら,現行裁定制度と同様の形態で,著作隣接権についての裁定制度を設けることについては,著作隣接権関係の国際条約に抵触しないかどうか,留意が必要である。(参照条文p.35)
具体的には,「実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約)」第15条では,保護の例外として認められる範囲について,著作権の保護の制限と同一の種類の制限を設けることができるとしているが,強制許諾については,実演家等保護条約に抵触しない範囲に限定される旨を定めている。

※ 「強制許諾」とは,排他的権利の例外・制限35のうち,「特定の条件の下に,多くの場合は権限のある機関により又は著作者団体を通じて強制的に与えられる特別の形式の許可」を指すと一般に理解されており36,文化庁長官による裁定制度は,手続の外形上からは,この類型に当たる可能性がある37
なお,現行の権利者不明の場合の裁定制度(著作権法第67条)は,そもそも協議のしようがない場合の規定であり,かつ,著作者が利用を廃絶しようとしていることが明らかな場合には裁定してはならないとされている(同法第70条)ように,裁定制度の中でも,利用について協議が成立しない場合の裁定制度(同法第68条,第69条)とは性格が異なるとも考えられる。実際,著作権に関する国際約束との関係では,著作権法第67条の裁定制度は,一般の権利制限の基準である「スリーステップテスト」38の範囲内で設けられていると考えられる一方で,同法第68条及び第69条の場合は,ベルヌ条約上,特に根拠規定が定められており,規定の外形上に差異が見られる39。ただし,はっきりと両者が異なることを根拠づけている資料は,現在のところ見あたらない。

35その他「権利の例外又は制限」には,自由利用,法定許諾,強制的に集中管理に従わせること,が含まれる。

36大山幸房訳「WIPO著作権・隣接権用語辞典」(1980年 WIPO,昭和61年 社団法人 著作権資料協会)

37なお,カナダにおいては,著作権の保有者の所在を確認するために相当な努力を払っておりかつ同保有者の所在が確認できない旨の確信を得た場合に,著作権委員会が権利者に代わって,実演やレコード等の利用について許諾を与えることのできるとの制度が設けられているようである(第77条)。また,イギリスにおいても,権利者の身元又は所在を合理的な調査により確認することができない場合には,著作権審判所が,実演の録音・録画物の複製物を作成することの同意を与えることができるとの制度が設けられているようである(第190条)。いずれの場合も,実演家等保護条約との関係は,現在のところ,明らかとはなっていない。

38文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約・第9条(2)。複製権以外の制限については明文の規定はないが,1967年のストックホルム会合での合意により,「小留保(minor reservation)」として,公の上演・演奏権,朗読権等の「伝達系の権利」について,制限・例外を定めることが認められている。 また,ベルヌ条約以後に締結された,著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)においても,保護の制限・例外については,全面的に「スリーステップテスト」の基準が採用されている(第10条)。

38それぞれベルヌ条約第11条の2(2),第13条(1)

また,その他の関係する国際約束では,保護の制限・例外については,次のような基準が採用されており,これらの規定についても留意が必要である。

  • 「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」は,保護の制限について,著作権の制限と同一の種類の制限であること及び「スリーステップテスト」を基準としている(第16条)。
  • 「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定・附属書一C(TRIPS協定)」は,実演家等保護条約が認める範囲内で,条件,制限,例外及び留保を定めることができるとしている(第14条)。
  • このほか,レコードに関しては「許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)」があり,同条約は,権利の制限を著作権の制限と同一の種類の制限とすることしつつ,強制許諾は一定の条件が満たされない限り認めることができないとしている(第6条)。

なお,視聴覚的実演のインターネット送信については,現在のところ関係の国際約束に基づく義務が課せられておらず40,このような範囲に限って裁定制度を設けることについては,特段の支障はないのではないかとの指摘もあった。

40WPPTは,インターネット送信等に関しては,実演のうちレコードに固定された実演についてのみを規定の対象としており,視聴覚的固定物を用いてインターネット送信等を行うことについての実演家の権利は,WIPOにおいて検討が続けられてきたが,現在のところ,国際約束の締結には至っていない。

[3] 新たな制度による対応の可能性

現行の裁定制度について,単なる手続改善にはとどまらない提案としては,次のような指摘がなされた。

  • 実際には供託金を受け取りに来る権利者が少ない中で,この供託金を単純に国庫に帰属させるのではなく,非営利目的の利用の場合の裁定制度の利用について費用を軽減させるための原資に回すことや,不明権利者を探すための広告料や運営費として用いることを検討すべきではないか。
  • 事前に一律に使用料を支払わせる合理性が果たしてあるのか。著作物等の利用にどの程度のコストをかけることができるのかは,利用態様によって異なるほか,利用態様によって事後に訴えられるリスクも異なる。それを最も適切に判断できるのは利用者自身であり,イギリス,アメリカにおいて検討されている制度のように,自己責任でリスクを判断する可能性を活かせる制度とすべきではないか。
  • 裁定制度の運用主体を見直して,権利者情報を管理し,捜索を行うような機関が,権利者に代わって許諾を与える仕組みを検討してはどうか。このような第三者機関が利用料を預かり,精算等も行うことにより,きちんとしたルールを定め,監視をしつつ,かつ,現行制度よりも柔軟に運営することができるのではないか。

(3) 制度的な対応についての検討

[1] 新たな制度を設ける場合の制度設計のイメージ

以上のように,現行の裁定制度の手続運用改善による対応では,非営利の利用の場合などの手続コストの負担が難しい利用に対応が困難なこと,また,著作隣接権の場合について国際約束との関係が明確ではないこと,また上記(2)(3)のようにより柔軟な制度運用が可能な制度を目指すべきとの指摘もあることを踏まえれば,例えば次のような新たな制度を設けることが考えられる。

<A案>

  • イギリスで検討されている制度を参考としつつ,権利者の捜索について相当の努力を払っても,権利者と連絡することができない場合には,著作物等の利用ができることとする(権利制限。なお,相当な努力を払ったことの立証責任は,利用者側が負う。)。
  • その際に利用者は,権利制限規定によって利用されたものであることを利用の際に明示する。
  • 権利者が判明した場合には,通常の使用料に相当する補償金を支払わなければならないこととする(事前支払いは不要)。
  1. この案を採用する場合には,裁定制度の要件をいたずらに緩和することについては懸念を表明する意見もあり,次のような考慮点も示された。
  1. 例えば,権利者の捜索についての相当な努力について,何らかのガイドラインを設けることはどうか(イギリスのガワーズ・レビューにおいても,ガイドラインを提示する必要が指摘されているほか,アメリカで現在提出されている法案においては,著作権局が「調査のベストプラクティス」の現況について整備し公衆に提供することとされ,それが救済制限を受けるための要件となっている)。
  2. この規定により利用を行ったことについて,一定の機関に申告し,その情報を開示しておくなど,利用記録が残るようにすることはどうか。(アメリカで現在提出されている法案においても,使用通知が救済制限を受ける要件とされており,著作権局がその使用通知を保存することとされている。)
  3. あるいは,既存の裁定制度も残しつつ,新たな制度は,導入が特に求められている映像コンテンツ分野に限って導入するという考え方はどうか。
  4. あるいは,多数権利者のうち大半の権利者の同意が得られている場合に限るなどの,その他の要件を課すなどの考え方はどうか。
  1. この案を採用する場合でも,B案で主眼とするような,事前の支払いを一定の機関にプールしておいて,それを事後の請求に対する精算や様々な費用等に充当するとの提案については,民間の自主的な取り決めにより対応することが可能と考えられる。

<B案>

  • 日本経団連で検討されている第三者機関の取組を参考としつつ,権利者の捜索について相当の努力を払っても,権利者と連絡することができない場合には,第三者機関に使用料相当額を支払ったときは,事後の権利追及に関して免責される一定の効果を与える。(なお,事後の免責に関して,相当な努力を払ったことの立証責任は,利用者側が負う。)。
  • その際に利用者は,免責規定によって利用されたものであることを利用の際に明示する。
  1. この案については,次のような考慮点も示された。
  1. なお,この免責の法的性質をどのように考えるかについては,検討を要する。仮に,権利者による許諾に代わる同等の効果があることとする場合には,実質的には,第三者機関が文化庁長官の裁定と同じ権限を行使することと同じことになる。また,その場合に,第三者機関は要件に適合していることについてチェックすべきなのか等について,どのように考えるか。
  2. 事前の支払いを要件とする場合には,支払いを行う相手方をある程度特定しておくことが,法的な要件として必要となると思われるが,第三者機関を特定する手段として,どのような方法が考えられるか。(例えば,行政機関への登録,認可,指定等)
  3. 事前に支払った使用料の取扱いについて,仮に,その清算(使用料の精算,あるいは損害賠償の免責)を制度的に位置付ける場合には,事後の権利者からの請求が第三者機関になされた場合と利用者本人になされた場合,選択的に請求できることとするかどうか,選択的とする場合には相互の免責,求償(精算)の関係をどうするか,利息の取扱い,時効の取扱い等について,詳細な検討が必要となる可能性がある。

[2] 検討の結果

このような新たな制度の検討については,次のような指摘があった。

  • A案の方がシンプルな制度であるが,事前に支払いの必要がないA案では,利用の把握や事後の料金の回収が困難になりかねない点について,何らかの検討が必要である。
  • 利用者側にとっても,ビジネス上のコストを明確にする観点からは,事前に金銭を支払う仕組みがあった方がよい。
  • 不明権利者の代わりに使用料を預かりつつ,利用者の代わりに不明者を捜索する機関を用意して,受け取りにこない使用料を元手としてその機関を運営するなど,A案とB案の折衷的な形も考えられるのではないか。
  • 実演家等保護条約などの解釈次第によっては,著作隣接権の裁定制度を設けることによって対応するという選択肢も考えておくべきではないか。

そのほか,A案については,各団体間や第三者機関で捜索についての「相当な努力」の基準を考えておくべきか否かについて,また,使用料相当額の補償金の金額の定め方について指摘があったほか,事後的に権利者が現れた場合に無条件で差し止められることとするのでは制度の意味がないため,権利者が現れた後の取扱いについて工夫が必要との指摘がなされた。

権利者不明の場合に著作物等が円滑に利用されるための方策について,何らかの対応が必要であるとの意見に概ね異論はなかったが,上記のような指摘も踏まえ,制度の詳細を検討するに当たっては,著作物等の保護の実効性が失われないように配慮しつつ,必要な制度的な措置が行われることが必要と考えられる。

【参照条文】

○「写り込み」関係

[1] ドイツ著作権法41

第24条 拘束を離れた使用
  1. (1)独立の著作物で,他人の著作物の拘束を離れた使用において作成されているものは,使用された著作物の著作者の同意を得ることなく,公表し,及び利用することができる。
  2. (2)前項の規定は,音楽の著作物の使用で,旋律をその著作物から取り出しかつその旋律を新たな著作物の基礎とすることが明白であるものには,適用しない。
第57条 重要でない付随物
著作物を複製し,頒布し,又は公衆に再生することは,その著作物が,複製,頒布又は公衆への再生の本来の対象と比べて重要でない付随物とみなされ得るときは,許される。

[2] イギリス著作権法42

(著作権資料の付随的挿入)42

第31条
  1. (1)著作物の著作権は,美術の著作物,録音物,映画,放送又は有線番組へのその著作物の付随的挿入により侵害されない。
  2. (2)その作成が第1項に基づいて著作権侵害ではなかったいずれかのものの複製物を公衆に配布し,又はそれを演奏し,上映し,放送し,若しくは有線番組サービスに挿入することにより,著作権は侵害されない。
  3. (3)音楽の著作物,音楽とともに話され,若しくは歌われる歌詞又は音楽の著作物若しくはそのような歌詞を挿入している録音物,放送若しくは有線番組は,それが故意に挿入されるときは,他の著作物に付随的に挿入されたものとはみなされない。

[3] カナダ著作権法43

付随的使用 (Incidental use)

30.7 次に掲げる行為を行うことは,それが付随的にかつ善意で(not deliberately) 行われる場合には,著作権を侵害しない。

  1. (a)著作物その他の目的物を他の著作物その他の目的物に含ましめること
  2. (b)他の著作物その他の目的物に付随的にかつ善意で含ましめられた著作物その他の目的物について何らかの行為を行うこと

[4] オーストラリア著作権法44

第67条 美術著作物の付随的撮影またはテレビ放送
前二条の効力を妨げることなく、美術著作物に対する著作権は、当該著作物を映画フィルムまたはテレビ放送に含めることによっては、当該フィルムまたは放送により表現される主たる主題に付随するにすぎない場合には、侵害されない。

41前掲注24参照。

42大山幸房訳「外国著作権法令集(34)-英国編-」(社団法人 著作権情報センター,平成16年6月)

43駒田泰士・本山雅弘 共訳「外国著作権法令集(26)-カナダ編-」(社団法人 著作権情報センター,平成11年3月)

44岡雅子訳「外国著作権法令集(33)-オーストラリア編-」(社団法人 著作権情報センター,平成15年8月)

○権利者不明関係

[2] アメリカ著作権法45

第108条(h) 図書館・文書資料館による利用

(1)

本条において発行著作物に対する著作権の保護期間の最後の20年間に,図書館または文書料館(図書館または文書資料館として機能する非営利的教育機関を含む)は,合理的な調査に基づいて第(2)項(A),(B)および(C)に定める条件に該当しないと判断した場合には,保存,学問又は研究のために,かかる著作物又はその一部のコピーまたはレコードをファクシミリ又はデジタル形式にて複製,頒布,展示又は実演することができる。

(2)

以下のいずれかの場合,複製,頒布,展示または実演は本条において認められない。

  1. (A)著作物が通常の商業的利用の対象である場合。
  2. (B)著作物のコピー又はレコードが合理的価格で入手できる場合。
  3. (C)著作権者又はその代理人が,著作権局長が定める規則に従って,第(A)号または第(B)号に定める条件が適用される旨の通知を行う場合。

(3)

本節に定める免除は図書館又は文書資料館以外の使用者による以後の使用には適用されない。

[2] イギリス著作権法46

(著作物の著作者)

第9条
  1. (1)この部において,著作物に関して,「著作者」とは,著作物を創作する者をいう。
  2. (2)(略)
  3. (3)(略)
  4. (4)この部の目的上,著作者の身元が知られていないとき,又は共同著作物の場合にはいずれの著作者の身元も知られていないときに,著作物は,「著作者が知られていない」ものである。
  5. (5)この部の目的上,ある者が合理的な調査により著作者の身元を確認することができないときは,著作者の身元は,知られていないとみなされる。ただし,著作者の身元がいったん知られるときは,その後は知られていないとはみなされない。
第条

(文芸,演劇,音楽又は美術の著作物の著作権の存続期間)

第12条

(1)

以下の規定は,文芸,演劇,音楽又は美術の著作物の著作権の存続期間について効力を有する。

(2)

著作権は,以下の規定に従うことを条件として,著作者が死亡する暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。

(3)

著作者が知られていない著作物の場合には,著作権は,以下の規定に従うことを条件として,

  1. (a)著作物が作成された暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
  2. (b)その期間中に著作物が公衆に提供されるときは,著作物が最初にそのように提供される暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。

(4)

第3項(a)号又は(b)号に明示される期間の終了前に著作者の身元が知られることとなるときは,第2項の規定が適用される。

(5)~(9) (略)

(映画の著作権の存続期間)

第13条のB

(1)

以下の規定は,映画の著作権の存続期間について効力を有する。

(2)

著作権は,以下の規定に従うことを条件として,次の者のうち最後に死亡する者が死亡する暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。

  1. (a)主たる監督
  2. (b)映画台本の著作者
  3. (c)対話の著作者
  4. (d)映画のために特別に創作され,かつ,映画において使用される音楽の作曲者

(3)

第2項(a)号から(b)号までにおいて言及されている1人又は2人以上の者の身元が知られており,かつ,1人又は2人以上の他の者の身元が知られていない場合には,同項におけるそれらの者のうち最後に死亡する者の死亡への言及は,身元が知られている最後に死亡する者への言及として解釈される。

(4)

第2項(a)号から(b)号までにおいて言及されている者の身元が知られていない場合には,著作権は,

  1. (a)映画が作成された暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
  2. (b)その期間中に映画が公衆に提供されるときは,それが最初にそのように提供される暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
(5)~(8) (略)

(9)

いずれの場合にも,第2項(a)号から(d)号までに該当する者が存在しないときは,前記の規定は適用されず,著作権は,映画が作成された暦年の終わりから50年の期間の終わりに消滅する。

(ある種の場合に実演家のために同意を与える審判所の権限)

第190条

(1)

著作権審判所は,実演の録音・録画物の複製物を作成することを希望する者の申請を受けて,複製権について資格を有する者の身元又は所在を合理的な調査により確認することができない場合には,同意を与えることができる。47

(2)

審判所が与える同意は,次の規定の目的上,複製権について資格を有する者の同意としての効力を有し,また,審判所の命令に明示されるいずれの条件にも従うことを条件として,与えることができる。

  1. (a)実演家の権利に関するこの部の規定
  2. (b)第198条第3項(a)号(刑事上の責任――資格ある実演に関する十分な同意)の規定

(3)

審判所は,第150条(一般的手続規則)に基づいて定められる規則が要求することができる通知又は審判所がいずれかの特定の場合に指示することができる通知の送達又は公表の後を除き,第1項(a)号に基づく同意を与えない。

(4)

削除

(5)

いずれの場合にも,審判所は,次の要因を考慮する。

  1. (a)原録音・録画物が実演家の同意を得て作成され,かつ,以後の録音・録画物を作成することを提案する者がそれを適法に所有し,又は管理しているかどうか。
  2. (b)以後の録音・録画物の作成が,原録音・録画物がそれに基づいて作成された協定の両当事者の義務と一致しており,又はその他原録音・録画物が作成された目的と一致しているかどうか。

(6)

この条に基づく同意を与える場合には,審判所は,申請者と複製権について資格を有する者との間に合意がないときは,与えられる同意を考慮してその者に対して行われる支払いについて適当と認める命令を定める。

45株式会社 三菱UFJコンサルティング&リサーチ編「コンテンツの円滑な利用の促進に係る著作権制度に関する調査研究報告書」(平成19年3月)のうち山本隆司氏・執筆部分より

46前掲注43参照。

47(3)の中に,「第1項(a)号」との記述があるが,原文も同様であり,1988年法の第190条(1)は,以下のような条文であったため,その当時の条項引用を指しているものと思われる。

  1. (1)The Copyright Tribunal may, on the application of a person wishing to make a recording from a previous recording of a performance, give consent in a case where-

    (a) the identity or whereabouts of a performer cannot be ascertained by reasonable inquiry, or

    (b) a performer unreasonably withholds his consent.

[3] カナダ著作権法48

所在不明の権利保有者

委員会によって許諾証が発行されうる事情

77.

(1)

著作権が存続する次の目的物について,その利用に係る許諾証の取得を希望する者の申請があったとき,委員会が,その申請者が著作権の保有者の所在を確認するために相当な努力を払っておりかつ同保有者の所在が確認できない旨の確信を得た場合には,委員会は,第3条,第15条,第18条又は第21条のいずれかに掲げる行為を行う許諾証を,その申請者に発行することができる。49

  1. (a)発行された著作物
  2. (b)実演家の実演の固定物
  3. (c)発行されたレコード
  4. (d)伝達信号の固定物
許諾の条件

(2)

(1)の規定に基づき発行される許諾証は,排他的でなくかつ委員会が定める期間及び条件に従う。

権利保有者への支払い

(3)

著作権の保有者は,当該著作権に関して(1)の規定に従い発行される許諾証の期間満了後5年以内に,当該許諾証に裁定される使用料を徴収し,又は,その支払いに不履行が生じた場合には,裁判管轄権を有する裁判所において,その回収の訴訟を開始することができる。

規則

(4)

著作権委員会は,(1)の規定に基づく許諾証の発行に関する規則を制定することができる。

48前掲注44参照。

49第3条は著作権,第15条は実演家の権利,第18条はレコード製作者の権利,第21条は放送事業者の権利の内容を,それぞれ列挙している規定である。

○国際約束関係

[1] 実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約)

第15条(保護の例外)

1

締約国は,国内法令により,次の行為については,この条約が保障する保護の例外を定めることができる。

  1. (a)私的使用
  2. (b)時事の事件の報道に伴う部分使用
  3. (c)放送機関が自己の手段により自己の放送のために行う一時的固定
  4. (d)教育目的又は学術研究目的のためのみの使用

2

1の規定にかかわらず,締約国は,国内法令により,実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関しては,文学的及び美術的著作物の著作権の保護に関して国内法令に定める制限と同一の種類の制限を定めることができる。ただし,強制許諾は,この条約に抵触しない限りにおいてのみ定めることができる。

[2] 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)

第16条 制限及び例外
  1. (1)締約国は,実演家及びレコード製作者の保護に関して,文学的及び美術的著作物の著作権の保護について国内法令に定めるものと同一の種類の制限又は例外を国内法令において定めることができる。
  2. (2)締約国は,この条約に定める権利の制限又は例外を,実演又はレコードの通常の利用を妨げず,かつ,実演家又はレコード製作者の正当な利益を不当に害しない特別の場合に限定する。
第1条 他の条約との関係
  1. (1)この条約のいかなる規定も,1961年10月26日にローマで作成された実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下,「ローマ条約」という。)に基づく既存の義務であって締約国が負うものを免れさせるものではない。

[3] 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定・附属書一C(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)(TRIPS協定)

第14条 実演家,レコード(録音物)製作者及び放送機関の保護

6

1から3までの規定に基づいて与えられる権利に関し,加盟国は,ローマ条約が認める範囲内で,条件,制限,例外及び留保を定めることができる。(以下略)

[4] 許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)

第6条(保護の制限,強制許諾)

著作権その他特定の権利による保護又は刑罰による保護を与える締約国は,レコード製作者の保護に関し,文学的及び美術的著作物の著作者の保護に関して認められる制限と同一の種類の制限を国内法令により定めることができる。もつとも,強制許諾は,次のすべての条件が満たされない限り,認めることができない。

  1. (a)複製が,教育又は学術的研究のための使用のみを目的として行われること。
  2. (b)強制許諾に係る許可が,その許可を与えた権限のある機関が属する締約国の領域内で行われる当該複製についてのみ有効であり,かつ,当該複製物の輸出については適用されないこと。
  3. (c)強制許諾に係る許可に基づいて行われる複製について,作成される当該複製物の数を特に考慮して(b)の権限ある機関が定める公正な補償金が支払われること。

[5] 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約

第9条(複製権)
  1. (2)特別な場合について(1)の著作物の複製を認める権能は,同盟国の立法に留保される。ただし,そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず,かつ,その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。
第11条の2(放送権等)
  1. (2)(1)に定める権利を行使する条件は,同盟国の法令の定めるところによる。ただし,その条件は,これを定めた国においてのみ効力を有する。その条件は,著作者の人格権を害するものであつてはならず,また,協議が成立しないときに権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであってはならない。
第13条(録音権に関する留保等)
  1. (1)各同盟国は,自国に関する限り,音楽の著作物の著作者又は音楽の著作物とともにその歌詞を録音することを既に許諾している歌詞の著作者が,その音楽の著作物を録音すること又はその歌詞を当該音楽の著作物とともに録音することを許諾する排他的権利に関し,留保及び条件を定めることができる。ただし,その留保及び条件は,これを定めた国においてのみ効力を有する。その留保及び条件は,協議が成立しないときに権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであつてはならない。

[6] 著作権関する世界知的所有権機関条約(WCT)

第10条 制限及び例外
  1. (1)締約国は,著作物の通常の利用を妨げず,かつ,著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合には,この条約に基づいて文学的及び美術的著作物の著作者に与えられる権利の制限又は例外を国内法令において定めることができる。
  2. (2)ベルヌ条約を適用するに当たり,締約国は,同条約に定める権利の制限又は例外を,著作物の通常の利用を妨げず,かつ,著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。

第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について

1 課題の整理

アーカイブ事業の意義について,昨年10月の検討状況の整理では,文化の健全な発展には,文化的所産としての著作物等を幅広く収集・保存しておくことは重要であること,国民ができるだけ幅広く著作物等へのアクセスができるような環境整備が必要である点について指摘がなされている。しかしながら,その一方で,昨年10月の検討状況の整理では,同時に,具体的に望まれるアーカイブ像について見解が統一されていない点についても指摘をしている。

アーカイブの円滑化に関する指摘についても,多数権利者が関わる場合の利用の円滑化や,権利者不明の場合の利用の円滑化についての指摘と同様に,その背景は,大きく2つの流れに分けられると考えられる。
一つは,保護期間の延長した場合に生じてくる問題としての指摘であり,すなわち,コンテンツのアーカイブを構築するためには,著作物等の複製等が必要となるため,保護期間を死後70年まで延長した場合には,古いコンテンツのアーカイブについて,権利処理が必要となるコンテンツが増え,アーカイブ活動に現在以上に負担がかかる(特に,保護期間が切れたもののみをアーカイブの対象とするような活動の場合には,活動そのものに支障を来す)との指摘である。
もう一つは,保護期間の延長と関係なく,

  • デジタル技術の進展で,データ容量や処理速度,送信速度が向上し,コストも安くなったことで,従来大規模施設でしか行えなかったアーカイブが小規模な図書館,機関等でも可能になってきた状況や,
  • 政府の知的財産戦略本部が指摘するように,インターネットを活用して情報を共有する習慣が広まってきている中で,オープン・イノベーションを支える基盤として,政策上の観点からインターネット等を通じて図書館等の蔵書・資料に国民が容易にアクセスできる環境を整備することが重要であるとの認識50

によって,次代の文化の土台となる文化的所産を保存するという観点よりは,むしろ,インターネット等を通じて多くの者が情報を共有できるようにしようとの意図に基づいてなされた指摘であると思われる。

502008年3月4日「オープン・イノベーションに対応した知財戦略の在り方について」(知的財産戦略本部知的財産による競争力強化専門調査会) 2.(2).ア.(ア)(1)図書館に存在する学術情報等へのアクセスの改善 など

望まれるアーカイブ像について見解が統一されてこなかった一因としては,このような背景となる問題意識の違いがあるとも考えられ,目指すべきアーカイブ像として,権利者情報のメタデータのデータベース化について議論すべきという見解と,コンテンツの自由な視聴,利用を促進する環境を整備する観点から議論すべきであり,著作者の情報だけではなく,中身に関する情報も付ける方向で検討すべきとの見解に分かれていた。

このため,本小委員会では,まずは,関係者からアーカイブ活動についての取組の現状等を聴取し,それぞれの取組がアーカイブとしてどのような方向を目指しているのか,また,そのアーカイブ活動を実際に行う上での著作権法上の課題を抽出することを試みた。
その結果,まずは,方向性よりも取組主体の如何によって,大きく著作権法上の課題が異なるのではないかということ,具体的には,コンテンツ提供者が自らのコンテンツを保存しつつ,その提供を行う場合と,市場に置かれたコンテンツを他者が収集・保存等する場合とでは,解決すべき課題の性質が大きく異なるのではないかとの点が指摘できる。一方で,インターネット等を通じて各種のコンテンツに国民が容易にアクセスできる環境を整備することが重要との問題意識に照らした場合には,コンテンツ提供者が自ら構築するアーカイブであっても,図書館等のコンテンツ提供者以外の主体が行うアーカイブであっても,国民が容易にアクセスできるようになるとの面で同様の効果があり,我が国の社会全体の在り方の観点から,公共的な立場で行うべきことと民間に任せる部分とを明確にした上で,課題を検討すべきとの指摘もあった。

このため,本小委員会では,アーカイブ事業の円滑化方策を検討するに当たっては,これら双方の取組を尊重し,それぞれの役割分担,相互の補完や協調の中で,全体としてアーカイブに望まれる効果が実現されるべきとの基本的な考え方に立ちつつ,コンテンツ提供者自らが行うアーカイブ活動,その他の者が行うアーカイブ活動と,それぞれに分けて著作権法上の課題の検討を行った。

2 コンテンツ提供者が自ら行うアーカイブ活動に関する課題

現在,コンテンツ提供者が,自らアーカイブを構築する取組が進められており,例えば,放送番組の分野についてはNHKアーカイブス,ソフトウェアの分野においてゲームアーカイブス等,音楽の分野ではレコードについて歴史的音盤のアーカイブ事業,書籍の分野でのオンデマンド復刻出版などの取組が進められている。
また,文化的所産を保存する目的としてのアーカイブそのものとは異なる場合もあるが,インターネット等を通じた情報アクセスを可能としているという意味ではデジタルアーカイブと同様の効果を有するものとして,音楽,映像コンテンツ,書籍や漫画のネットワーク配信などの取組も普及,定着してきている。

関係者からのヒアリングによれば,これらの取組を実施するに当たっては,著作権等の権利処理が大きな障害となっているとの実態は,特に指摘されなかった。この原因は,おそらく,これらの取組がコンテンツ提供者が自ら製作したコンテンツを二次利用しているに過ぎないことや,ビジネスの一環として行われている側面もあることから,権利者情報の把握や,権利者との再度の利用許諾の交渉等の面で要する手間やコストについて問題視されることが比較的少ないことによるものと考えられる。
このような観点からすると,コンテンツ提供者が自ら行う取組に関する課題は,コンテンツの二次利用に関する問題と同じであると捉えられ,その場合には,多数権利者が関わる場合の利用の円滑化や,権利者不明の場合の利用の円滑化の場合と同様の視点で,円滑化方策を考えることができると思われる。

なお,上記(1 課題の整理)との繰り返しになるが,別途の課題としては,ヒアリングの中で,コンテンツ提供者が行う取組は,コンテンツ流通ビジネスの一環として行われる側面もあり,利用者のコスト負担等によって支えられなければ情報生成のサイクルの維持が困難となることや,図書館等の公共主体が行うアーカイブ活動でも重複してコンテンツ提供が行われ得ること,このために,相互の役割分担,利害調整,あるいは提携協調について検討が必要になることについて指摘がなされている。

3 コンテンツ提供者以外が行うアーカイブ活動の円滑化(アーカイブワーキングチーム報告)

コンテンツ提供者とは異なる立場で行うアーカイブ活動については,アーカイブ事業の円滑化方策を議論する足がかりとして,ひとまず,創作者や提供者とは異なる立場で著作物等の収集・保存を行う施設として代表的な存在である図書館等51に焦点を当て,具体の制度について検討した。
検討に当っては,図書館等が,貴重な資料の体系的な保存,あるいは国民の情報アクセスの保障等の公益的な観点から行うアーカイブ事業について,円滑に進めることができるようにすることは重要であるとの認識の下,一方で,権利者保護の観点と民間のコンテンツ流通ビジネスへの影響への配慮は必要であるため,両者のバランスをとることに配意した。

(1) 国会図書館における所蔵資料のデジタル化について

国立国会図書館(以下,「国会図書館」という。)では国立国会図書館法により納本制度が設けられており,日本の官庁出版物,民間出版物を網羅的に収集しているが,これらの収集資料は,国会議員のための立法補佐業務の基盤となると同時に,蓄積保存され,現在及び将来の国民の利用に供される52ことをその役割としており,資料自体の保存が大きな目的となっている。
国会図書館の資料の保存状態については,「国立国会図書館所蔵和図書(1950~1999年刊)の劣化に関する調査研究(平成17・18年度調査研究)」(平成20年3月)によれば,本文紙が酸性紙で紙の物理的強度が低下している資料については,大量脱酸性化処理には不向きであり,マイクロ化等の媒体変換が必要となるが,その割合は,10年ごとに各400点(計200点)のサンプル調査で,50年代5割,60年代2割,70年代0.5割であり,印刷物資料の劣化が激しい状態にある。そのため,これまでも保存のためにマイクロフィルムやマイクロフィッシュに複製を行ってきているが,これらのマイクロ資料についても長期保存により傷がつく場合がある他,マイクロフィルム自体の保管スペースも拡張していかなければならない状況である。

51ここでいう「図書館等」とは,著作権法第31条で規定する「図書,記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの」とする。
なお,コンテンツ提供者とは異なる立場でアーカイブ活動を行っているものとしては,その他に,放送法の規定に基づき放送番組を収集する(財)放送番組センター・放送ライブラリーや,貴重な資料としての映画フィルムを収集する独立行政法人国立美術館・東京国立近代美術館・フィルムセンターがあるが,これらは,放送事業者や映画製作会社から任意にコンテンツの提供を受けて実施しており,コンテンツ提供者が自ら行うアーカイブ活動に比較的近い形での活動と捉え得る面もあると思われる。

52「国立国会図書館の役割について」平成18年2月10日記者発表資料
http://www.ndl.go.jp/jp/press060210.pdf#search='国会図書館の役割'

現行法では,国会図書館を含む図書館等が行う複製に関して,著作権法第31条第2号で,「保存のため必要がある場合」であれば,権利者の許諾なく行うことが認められている。保存のための複製については,かつては,

「貸出し,閲覧等の業務を行うためには,資料の適切な保存が図られる必要があり,そのため,既に所蔵している資料についての複製が認められるものであって,例えば,欠損・汚損部分の補完,損傷しやすい古書・稀覯本の保存などの必要がある場合に複製を行うことができるものとしているものである。従って,例えば図書を一冊購入して,貸出し,閲覧又は他の図書館等への提供を目的として,その図書の多数の複製物を作成することが許容されるものでないことはいうまでもない。なお,所蔵資料のマイクロ化についても,このような意義を有する場合に限り認められるものと解すべきであり,すべてのマイクロ化が本号にいう保存のための複製に該当することとなるものではない。」

と厳格に解していた53。この点について,技術の発達等の社会の変化に応じ,許容される範囲が拡大していると考えられるのか,検討を行った。

まず,図書館資料をデジタル方式により複製すること(以下,「デジタル化」という。)は,現に資料の傷みが激しく保存のために必要があれば,第31条第2号によって認められる。同様の理由でマイクロ化したものを,さらに媒体変換してデジタル化することについても,基本的には現行法の趣旨を逸脱するものではないと考えられる。
次に,国会図書館に納本された書籍等を将来にわたる保存のためにデジタル化することについては,第31条第2号の解釈で可能な部分もあると考えられるが,納本後直ちにデジタル化することが認められるか必ずしも明らかではない。
この点,将来の国民の利用に供するために資料を保存するという,国会図書館の役割を考えれば,資料の傷みが激しくなる前に良好な状態でデジタル化され,保存されることが当然,期待される。今日においては,デジタル化することが,原資料自体を文化財として保存すること,また資料に掲載された情報を保存することのいずれの面から見ても有用であると考えられるのであり,著作権法上も国会図書館が,納本された資料について直ちにデジタル方式により複製できることを明確にすることが適当である54

53昭和51年9月「著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書」(第2章 著作権に関する諸問題―2 図書館等における複写複製)

54デジタル化の方式について,例えば,テキストの方式であれば,文献を本文中にある語句で検索することも可能になり,資料検索に有効ではないかとの意見がある一方,電子出版の元となるデータを作成することに相当することとなるため,権利者や民間の流通ビジネスへの影響があるのではないかとの指摘があった。そこで,まずは国会図書館において,既に著作権が消滅した資料を用いて,検索可能なデータベースを作成し,その効果や影響を検証しながら,関係者間で協議を進めることが適当である。

(2) 国会図書館でデジタル化された資料の利用について

国会図書館でデジタル化された資料の利用については,書籍等の原資料であれば行うことができる利用については,デジタル化された資料についても同程度の利用が可能となるような制度が望ましい。ただし,デジタル技術の発達によって,あらゆる者が著作物等の複製や加工等を行うことが可能となっており,国会図書館でデジタル化された資料の利用の在り方次第では,著作権者等の利益が脅かされる可能性があることは否定できない55。そこで,国会図書館でデジタル化された資料の利用については,著作権者等の利益が損なわれないようにする仕組みを様々な局面に応じて取り入れることが必要である。
また,現状のコンテンツビジネス(例えば,書籍・雑誌媒体の出版や,ネットワークを利用した出版が特に関係が深い)を阻害することがないよう配慮が必要である。特に今後は,省資源の観点から印刷物に代わって電子媒体(パッケージ又はネットワーク配信)による出版が増加することも予想されるとの指摘56や,ネットワークを通じたコンテンツの提供により在庫コストが軽減される結果,書籍の絶版という概念がなくなる可能性があるとの指摘もあるため,デジタル化された資料の利用については,十分な検討が必要である。

55他方,技術の発達は著作物等の利用方法をきめ細かくコントロールすることも可能ではあるともいえる(例えば技術的保護手段や,利用者・利用期間・利用方法等の限定等)。

56平成10年5月に総務省により公表された「情報通信による地球環境保全のための政策提言(答申)」によれば,CO2排出削減効果を有する情報通信システムとして,電子出版や電子新聞が紙使用(製造・流通)の削減,紙廃棄物の削減の効果があるものとして例示されている(第3章 地球温暖化問題に対する情報通信の活用―2 情報通信システムのCO2排出削減効果)。

[1] 国会図書館内の利用について

a 閲覧
現行法では,図書館資料の原資料を閲覧させることについては,そもそも権利が及ばず,CDやDVDを館内視聴させることについては,非営利・無料の演奏,上映等として権利が制限されている(第38条第1項)。書籍等をデジタル化したものを端末機器の画面に映して閲覧させる場合も上映と同様に考えられ,権利者の許諾なく行うことができる。
また,国会図書館の東京本館,関西館,国際子ども図書館の間でデータを送信し,受信館において来館者に端末機器で視聴させるとすれば,それは公衆に対して直接受信させることを目的としたものではないと考えられるため公衆送信には当らず,(その過程に複製が介在しない,いわゆるストリーミング形式のようなものであれば)上記の上映と同様である。
なお,デジタル化された資料は,技術的には館内の複数の端末機器を用いて同時に複数の図書館利用者に対して閲覧させることもできる。そこで,デジタル化された資料は,原資料の代替物であると考えて,同時に同一のデジタル化された資料にアクセスができる人数は,国会図書館が所蔵する原資料の部数に限定する等の措置が考えられる。
b コピーサービス
現行法では,デジタル化された資料からのコピーサービスについても,原資料と同様に,図書館利用者の求めに応じ,その調査研究の用に供するために,公表された著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する場合には,権利者の許諾なく行うことができる。
なお,複製の方式については,実務上,書籍等の場合,紙への印刷によっているが,この点について規定上何らの限定もしておらず57,デジタル化された資料からデジタル方式で複製物を作成して提供することについては,たとえ一部分であっても多様な目的での利用も可能になるという懸念が著作権者や出版者から示されている。このことについては,当面,関係者により具体的な解決策を協議することが適当である。

57図書館資料として録音物が所蔵されている場合,著作物の一部分をテープに複製して提供することはあり得る。

[2] 国会図書館以外での利用について

a 他の図書館等において閲覧できるようにすること
国会図書館以外の図書館等で,国会図書館においてデジタル化を行った資料を閲覧するためには,(1)DVD等にデータを入れ,郵送等で他の図書館に送る,(2)メール等を使ってデータを送信する,(3)インターネットを活用してアクセスに応じてデータを送信する,のいずれかによることが考えられる。これらについては,(1)の場合には複製権が,(2)(3)の場合は複製権及び公衆送信権が働くこととなり,現行法上は,権利者の許諾なく行うことはできない。
一方,図書館間では相互貸借(国立国会図書館法第21条,図書館法第3条第4号)により,ある図書館において所蔵していない資料については,国会図書館や近隣の図書館から一時的に借り受けて利用者の要望に応えている58。国会図書館でデジタル化した資料については,他の図書館で利用できなくするとすれば,法令で努力義務が課されている相互貸借を行うことができなくなることになる。
そもそも原資料が傷むことを防ぐためにデジタル化を行い,デジタル化された資料によって閲覧やコピーサービスを行うことを目的としているのであれば,他の図書館に貸し出す場合も,デジタル化された資料を利用することも考えられてよい。
ただし,デジタル化された資料であるために,その利用方法が無限に広がる可能性があり,提供するためのシステムや借り入れる側の管理体制を整える必要がある(例えば,(1)の場合であればDVD等に技術的保護手段を講じることや,(2)や(3)の場合であれば閲覧させる端末機器に複製物が残らないようなシステムを整備すること等が考えられる)。また,権利制限の下で利用を図るのであれば,ベルヌ条約や著作権に関する世界知的所有権機関条約との関係から,通常の利用を妨げず,かつ,著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合でなければならないので,市場に流通し,一般に入手可能なものを館外に提供したり提示したりすることはできないと考えるべきである。
以上のような点を踏まえ,国会図書館でデジタル化された資料を他の図書館等で閲覧する具体的な方法について,引き続き関係者間で協議を行うこととする。
b 他の図書館等の利用者に対するコピーサービス
現行法では,図書館利用者に対するコピーサービスについては,当該図書館の図書館資料を用いて行うこととされているため,国会図書館から他の図書館等が借り受けた資料について図書館利用者がコピーサービスを希望する場合については,当該図書館利用者が国会図書館に別途申し込むこととなっている。
今後,国会図書館でデジタル化された資料について,他の図書館等を通じてコピーサービスの希望がある場合,効果的な提供手段としてどのようなものが考えられるか,関係者間で協議を行うことが適当である。

58国立国会図書館が貸し出した資料は借り受けた図書館の館内でしか閲覧できないこととされているが,いわゆる公共図書館間では,借り受けた資料を図書館利用者に貸し出すことも認めている。

(3) 国会図書館以外の図書館等での所蔵資料のデジタル化について

国会図書館以外の図書館等であっても,現行法上認められている「保存のため必要な場合」(第31条第2号)に該当するのであれば,その所蔵する資料を複製することができる。例えば,損傷,紛失の防止等のためにマイクロ化をしたのであれば,同様の目的の範囲でそれをデジタル化することも不可能でないと考えられる。
また,例えば,記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により,SPレコード,5インチフロッピーディスク,ベータビデオのように,媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となり,事実上閲覧が不可能となってしまう事態が生じていることから,新しいメディアに媒体を移し替えて保存する必要があるが,そのためにデジタル化をすることについて,第31条第2号の規定の解釈として不可能ではないと考えられる59
このように,国会図書館以外の図書館等においても,蔵書をデジタル化する場面は考えられるが,デジタル化された資料を館外に提供したり提示したりすることについては,国会図書館でデジタル化された資料と同様に,関係者間の協議によって議論を続けることが必要である。

59その場合,「当該著作物について新形式の複製物が存在する場合は除くべきではないか」との指摘もあるが,1個の図書館資料から1個の複製物を作成する(利用可能なものをさらに増製しない)のであれば経済的な利益を害することにはならないと考えてよいと思われ,また,「入手の困難性に関して判断基準を明確にする必要があるのではないか」との指摘に対しては,再生機器等が完全になくならないまでも,今後の生産中止が決まっている等,将来において現在の再生手段が使えなくなることが客観的に分かればよいと考えてよいと思われる。また,その際,元の資料(原資料)については,破棄することが必要であるとする考え方もあるが,それは,痛んだ資料の保存のためという目的であれば複数の複製物を同時に利用者に提供することは想定されていないからということであって,元の資料と増製された資料が同様に図書館利用者の利用に供されることがないのであれば,破棄を必須とする必要はないと考えられる。

(4) おわりに

図書館等におけるアーカイブ事業の円滑化方策としては,ひとまず国会図書館において納本された後にデジタル化できるよう,法的な措置を講じることが必要である。
一方,デジタル化された資料の利用方法や,国会図書館以外での図書館でのデジタル化については,デジタル技術は多様な可能性をもっている反面,著作権者の利益を損なうおそれがあるため,民間のコンテンツビジネスの展開にも留意するとともに今後の図書館の在り方も視野に入れながら,例えば技術的保護手段やDRMの活用,簡便な契約方式の開発,補償措置を考慮した権利制限の導入,出版ビジネスと競合しない仕組みを取り入れることにより,図書館資料が適切かつ円滑に利用できるよう,引き続き関係者の間で様々な方策を検討することが必要である。
その際,図書館利用者へのサービスを現状より低下させないよう,図書館関係者が中心となって計画を立て,関係者間での協議を進めることが必要である。そして,関係者の間での検討の結果,法的な措置が必要であれば,可能な部分から立法等の措置を講じていくことが適当である。

参考:諸外国の図書館に関する著作権法の規定例

[1] ドイツ60

第52b条 公共の図書館,博物館及び記録保存所の閲覧用電子端末における著作物の再生
公表された著作物で,直接的であるか間接的であるかを問わず経済的又は営利の目的を追求せず公衆に利用可能な図書館,博物館又は記録保存所において所蔵されるものは,契約の定めに反しない限り,専ら各々の施設の構内において,調査及び私的研究を目的として独自に設置された閲覧用電子端末において,当該目的のために提供することが許される。一の著作物について,その設置された閲覧用電子端末で同時に提供される部数は,原則として,その施設における所蔵数を超えてはならない。その提供行為に対しては,相当なる報酬が支払われるものとする。この請求権は,集中管理団体によってのみ行使することができる。
第53a条 注文に基づくコピー送付
  1. (1)郵便又はファックス送付の方法により,公共図書館が,新聞及び雑誌において発行されている編集構成物の少量並びに発行された著作物の小部分を,個別の注文に基づき複製しかつ送達することは,その注文者による使用が第53条に基づき許されるものと認められるときは,許される。その他の電子的形態による複製と送達は,それが非商業的な目的を追求することのために正当とされる限り,専ら文字記号のファイルとして,かつ,授業の解説のため又は学術的研究の目的のために,許される。その他の電子的形態による複製と送達は,更に,公衆の構成員が自らの選択に係る場所と時間において,その編集構成物又は著作物の小部分へアクセスすることが,契約の合意による相当な条件の下で可能でないことが自明な場合に限り,許される。
  2. (2)この複製と送達に関しては,著作者に対して,相当なる補償金が支払われるものとする。この請求権は,集中管理団体によってのみ行使することができる。

60「情報社会における著作権の規整に関する第二の法律」(2007年10月31日)による改正後のドイツ著作権法(本山雅弘著「ドイツ著作権法改正(第二バスケット)〔前編〕〔後編〕」(『コピライト』2008年2月,4月 社団法人 著作権情報センター)より)

[2] アメリカ61

第108条 排他的権利の制限:図書館および文書資料館による複製

(c)

本条に基づく複製権は,コピーまたはレコードが損傷を受け,変質し,紛失し,または盗難にあい,または現在著作物が収録されている形式が古くなり,かつ,以下の条件をみたす場合には,かかるコピーまたはレコードと交換することのみを目的として増製した発行著作物のコピーまたはレコード3部に適用される。

  1. (1)図書館または文書資料館が,相当な努力の後,公正な価格で未使用の代替物で入手できないと判断し,かつ,
  2. (2)デジタル形式で複製されたコピーまたはレコードが,合法的にかかるコピーを占有する図書館または文書資料館の施設外で,デジタル形式にて公に利用可能になっていない場合。

本節において,形式が古くなったときとは,当該形式で保存された著作物を覚知するに必要な機械または装置がもはや製造されずまたは商業的市場において合理的に入手可能でなくなった場合をいう。

61駒田泰士・本山雅弘共訳「外国著作権法令集(29)-アメリカ編-」(平成12 年7月,社団法人 著作権情報センター)

[3] カナダ62

図書館,資料館及び博物館

所蔵物,資料館及び保全

第30.1条 図書館,文書保管所,美術館

(1)

図書館,文書保管所,若しくは美術館,又は図書館,文書保管所,若しくは美術館の権限の下で行う者が,その永久収集物又は他の図書館,文書保管所若しくは美術館の永久収集物の維持又は管理のために,その永久収集物のうちの著作物又はその他の素材を,公表されているか否かに関わらず複製することは,以下の場合には著作権侵害にはならない。

  1. (a)原作品が稀少若しくは未発行であり,かつ,
  2. (b)原作品の状態若しくは原作品を維持するための大気条件のために,原作品を見たり,触れたり,聴いたりすることができない場合に,敷地内で利用する目的のとき
    1. (i) 劣化,損傷,若しくは紛失し,又は
    2. (ii) 劣化,損傷,若しくは紛失のおそれがある場合
  3. (c)原作品が現在では時代遅れとなった方式であり,又は原作品を利用するのに必要な技術が利用できない場合,代替的な方式によるとき
  4. (d)内部で記録維持及び目録を作成する目的のとき
  5. (e)保険の目的又は警察の捜査の場合,又は
  6. (f)修復のために必要な場合

(3)

第1項に基づき複製物を作成するために中間複製物を作成しなければならない場合,その複製物を作成した者は,必要がなくなり次第,中間複製物を破棄しなければならない。

62事務局仮訳(原文は http://laws.justice.gc.ca/en/c-42/text.html

(4)韓国63

第28条 図書館等における複製等

(1)

図書館及び読書振興法による図書館及び図書,文書,記録その他の資料(以下「図書等」という。)を公衆の利用に供する施設のうち,大統領令の定める施設(当該施設の長を含み,以下「図書館等」とする。)は,次の各号のいずれかに該当する場合は,その図書館等に保管された図書等(第1号の場合は,第3項の規定により当該図書館等が複製し,又は伝送を受けた図書等を含む。)を使用して著作物を複製することができる。但し,第1号及び第3号の場合には,デジタル形態で複製することができない。

  1. 調査,研究を目的とする利用者の要求に応じて公表された図書等の一部の複製物を1人1部に限り提供する場合
  2. 図書等のそれ自体の保存のために必要な場合
  3. 他の図書館等の要求に応じて絶版その他これに準ずる事由により入手が困難な図書等の複製物を保存用として提供する場合

(2)

図書館等は,コンピュータ等情報処理能力を備えた装置(以下「コンピュータ等」という。)を利用して,利用者がその図書館等のなかで閲覧することができるように保管された図書等を複製し,又は伝送することができる。この場合において,同時に閲覧することのできる利用者の数は,その図書館等が保管する図書等の部数又は著作権その他この法律により保護される権利を有する者から利用許諾を受けた図書等の部数を超えることができない。

(3)

図書館等は,コンピュータ等を利用して,利用者が他の図書館等のなかで閲覧することができるように保管されている図書等を複製し,又は伝送することができる。但し,その全部又は一部が販売用として発行された図書等は,その発行日から5年を経過していない場合は,この限りでない。

(4)

図書館等は,第1項第2号の規定による図書等の複製及び第2項及び第3項の規定による図書等の複製をするに際し,その図書等がデジタル形態で販売されている場合には,その図書等をデジタル形態で複製することができない。

(5)

図書館等は,第1項第1号の規定によりデジタル形態の図書等を複製する場合,及び第3項の規定により図書等を他の図書館等のなかで閲覧することができるように複製し,若しくは伝送する場合は,文化観光部長官が定めて告示した基準による補償金を著作財産権者に支給し,又は供託しなければならない。但し,国,地方自治団体又は高等教育法第2条の規定による学校を著作財産権者とする図書等(その全部又は一部が販売用として発行された図書等を除く。)の場合は,この限りでない。補償金の支給の方法,手続等に関して必要な事項については,大統領令で定める。

(6)

第1項ないし第3項の規定により図書等をデジタル形態で複製し,又は伝送する場合において,図書館等は,著作権その他この法律により保護される権利の侵害を防止するために複製防止装置等大統領令の定める必要な措置を講じなければならない。

63金亮完訳「外国著作権法令集(35)-韓国編-」(平成18年4月 ,社団法人 著作権情報センター)

(5)中国64

第7条
図書館,文書館,記念館,博物館,美術館等は,著作権者の許可なく,デジタルサービスを通じて館内利用者に,館内で保持する合法に出版されデジタル化された作品や陳列・保存が必要でデジタル化された作品を提供できる。但し,デジタル化に報酬を伴わず,利用者から直接的にも間接的にも金銭を受け取らない場合かつ当事者間で別の約定がない場合でなければならない。
前段で規定された陳列・保存のためにデジタル化することができる作品とは,破損もしくは破損寸前のもの,入手できないもしくは入手することが困難なもの又は(プレミアがついて)市場においては購入することができないものもしくは高価すぎて購入することが困難なものとする。

64情報ネットワーク送信権保護条例(http://www.gov.cn/zwgk/2006-05/29/content_294000.htm,2006年,事務局仮訳)

第5節 その他の課題

1 意思表示システムの在り方について

本小委員会では,著作物等の利用を円滑に行うための方策の一つとして,例えば,「クリエイティブコモンズ」や「自由利用マーク」等,あらかじめ著作権者等の利用許諾に関する意思を表示しておく仕組みについても検討課題として取り上げた。
これらの意思表示システムについては,専門的な法知識がなくとも利用が可能であり,利用者・権利者双方の時間や労力の節約にもなることから著作物の利用円滑化を図るシステムとして期待がかけられている。また,権利者情報データベース等とこれらの意思表示システムによる利用許諾条件の組み合わせることなど,より幅広い活用方法も模索されている。

この点に関しては,昨年10月の検討状況の整理において,意思表示システムの利用促進のための方策や,付されたマークの保護方策等についての指摘がなされているほか,意思表示システムに関する課題について法的に解決すべきか,それとも民間の取組に任せるべきかについても慎重に検討すべきである旨の指摘がなされた。実際,デジタル化,ネットワーク化の下での著作物等の流通を促進させるための各種の民間の取組の中でも,意思表示システムを活用したような仕組みが提唱されることも見られる状況となっており,引き続き,これらの動きを注視しつつ,必要が生じてくる場合には法的な課題を検討していくべきと考える65

65民間のいわゆる「登録制」によるコンテンツ流通促進策の提案について,これが権利者の意思表示や当事者の合意に基づく仕組みとしての側面を有することについて,「デジタルコンテンツ流通促進に関する諸提案に関する論点整理」(平成19年10月12日法制問題小委員会・平成19年度中間まとめ・参考資料1,82頁)において整理されている。また,既存の意思表示に関する取組については,三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成19年度・著作物等のネットワーク流通を推進するための意思表示システムの構築に関する調査研究会報告書」(平成20年3月)において,比較整理が行われている。

2 保護期間の在り方に関連して指摘されたその他の利用円滑化方策

本小委員会では,前述の「第2章第2節 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について」から「第2章第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について」までで指摘された課題のほか,保護期間の在り方に関連して指摘されたものとして,次のような問題提起がなされた。

  • 保護期間について欧米諸国並みにするということであれば,権利制限規定についても欧米諸国並みに整備すべき。
  • 延長がなされれば円滑な利用が害されるとの意見はあるが,現行の死後50年であっても既に生じている問題も多く含まれており,これを機に,公正な利用の確保のための規定を整備すべき(延長問題とセットにすれば,これらの規定を整備する絶好の機会となるのではないか)。
  • 保護期間延長の懸念として提起された問題点だけ一つ一つ対応していけばいいという問題ではなく,インターネット社会,デジタル社会の中で著作権がどうあるべきかという観点から最適な著作権制度を考えるべき。

これらに関する必要な対応策としては,具体的には,二次創作やパロディ,非営利無償のアーカイブや,障害者福祉目的の権利制限,いわゆるフェアユース規定のような一般条項などについて言及がなされた。
一方で,このような問題提起に関しては,権利制限となると,保護期間の在り方に関係する問題だけではなく,全ての著作物利用に関わる問題であり,別途,法制問題小委員会における権利制限の見直しの中で検討すべきとの意見も出された。

実際,これらの指摘のうち障害者福祉目的の権利制限については,既に法制問題小委員会で検討されている課題であるほか,デジタルコンテンツの流通促進の検討の中で,デジタル化,ネットワーク化の下での著作物等の利用形態,創作形態の変化に対応した著作権制度の在り方についても検討が進められている66
このため,その他の権利制限による利用円滑化方策については,法制問題小委員会に対して問題提起を行うとともに,逆に,法制問題小委員会で検討されている権利制限の見直しの結果も含めて,利用円滑化方策としての評価や検討を行うべきものと考えられる。

66法制問題小委員会(第8期第2回・平成20年4月24日)

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