(平成21年第1回)議事録

1 日時

平成21年5月12日(火)10:00~12:00

2 場所

虎ノ門パストラルホテル 新館5階 「ミモザ」

3 出席者

(委員)
青山,上野,大渕,小泉,清水,末吉,筒井,道垣内,土肥,中山,前田,松田,村上,森田,森本,山本の各委員
(文化庁)
関文化庁長官官房審議官,山下著作権課長,ほか関係者

4 議事次第

  • 1 開会
  • 2 委員及び文化庁出席者紹介
  • 3 議事
    • (1)法制問題小委員会主査の選任等について
    • (2)法制問題小委員会審議予定について
    • (3)権利制限の一般規定について
    • (4)その他
  • 4 閉会

5 配布資料一覧

資料 1
資料 2
資料 3
資料 4
資料 5
資料 6 (平成21年3月 著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会,三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
※誤植が発見されたため,会議後に修正し,修正後のものを掲載しています。
資料 7
参考資料 1
参考資料 2
参考資料 3
参考資料 4
参考資料 5 (平成20年11月27日 知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会)
参考資料 6

6 議事内容

(1)法制問題小委員会主査の選任等について

本小委員会の主査の選任が行われ,土肥委員が主査に決定した。
主査代理について,土肥主査より大渕委員が主査代理に指名された。
以上については,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(平成十八年三月一日文化審議会著作権分科会決定)1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。
【土肥主査】
  次に,議事内容に入っていきます前に,配布資料の確認と本小委員会の議事の公開の取り扱いにつきまして,事務局から説明をお願いいたします。
【黒沼著作権課課長補佐】
 では,お手元の議事次第の下半分に配布資料一覧を記載してございます。本日資料7点と参考資料6点をお配りしてございます。1枚ものの薄い資料がたくさんございまして,資料1と資料2,資料4,資料5,資料7,参考資料2と参考資料6は1枚物ですので発見しづらいかと思いますが。参考資料の3は資料番号がついているものとついていないものとセットになってございます。過不足等ございましたら事務局までお申しつけくださればと思います。
 よろしいようでしたら,このまま参考資料の1で,会議の公開についてご説明させていただきます。
 参考資料の7ページからが著作権分科会の運営規則になってございますけれども,そちらの第4条,8ページをごらんいただければと思います。分科会の議事は公開して行うとなっておりまして,その他会議の公開に関して必要な事項は分科会長が分科会に諮って定めるとなっております。それで9ページ以降の会議の公開についてというものが決定をされてございます。こちらは,分科会の議事についての公開でございますが,一番上の2行に書いてございますように,小委員会の議事を含んで決定をされているものでございます。
 ご説明をいたしますと,1.で会議の公開について定められてございます。会議は公開とするとされておりまして,一部について非公開とすることができる場合が掲げられております。非公開とできる場合は,(1)の人事にかかわる案件,それから(2)は分科会にしか関係ない事項でございますが,(3)として,そのほか公開することにより公正,中立な審議に支障を及ぼす案件その他正当な理由があると認める案件,これについては非公開とできることになっております。
 それから,3.は会議の傍聴関係の規則がいろいろ並んでございますが,次のページにいっていただきまして,4.でございます。会議の撮影,録画,録音については主査の許可が必要ということになっております。本日も数社から希望が来ておるところでございます。
 それから,6.議事録でございますが,こちらは発言者名を付して公開ということで定められてございます。ただし,正当な理由があると認めるときについては一部を非公開とすることができるとなっておりまして,その場合には7.で議事要旨を作成して公開するとなってございます。
 それから,8.でございますけれども,会議資料も原則として公開ということになってございます。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】
  ただいま説明がございましたように,議事の公開につきましては原則として一般に公開した形で開催するということで,分科会において決定されておりますので,よろしくご承知おきください。
 本日の議事につきましても公開で行いたい,こう思いますけれども,いかがでございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】
  それでは,そのようにさせていただきます。
 これ以後は本日の議事を公開といたします。事務局の方は傍聴者の入場の誘導をお願いいたします。
 それでは,第1回法制問題小委員会の開催に当たりまして,関官房審議官からごあいさつをちょうだいしたいと存じます。
【関文化庁長官官房審議官】
  第9期の文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の開催に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げさせていただきます。
 まず,皆様方におかれましては,ご多用の中この小委員会の委員をお引き受けいただきまして,まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。
 前期の法制問題小委員会におきましては,一昨年からの検討課題を含めまして非常に数多くの重要な課題についてご議論をいただき,その結果を今年の1月の著作権分科会で報告書としてお取りまとめをいただいたところでございます。
 私ども文化庁といたしましては,その報告書を踏まえまして,本日お配りしております参考資料の3でございますけれども,著作権法の一部改正法案を今年の3月に国会に提出をしたところでございます。現時点での状況を一言ご報告申し上げれば,先週の(金),8日でございますけれども,衆議院の文部科学委員会で全会一致で可決されたという段階でございます。私どもといたしましては,引き続きその成立に向けて努力をしてまいりたいと考えておるところでございますけれども,この場をかりまして皆様方に多大なるご尽力を賜りましたことを改めて御礼申し上げさせていただきたいと思っております。
 今期につきましては,前期からの継続の課題に加えまして,新たな課題といたしまして知的財産戦略本部における議論を踏まえ,権利制限の一般規定,いわゆる日本版フェアユースについてご検討をお願いしたいと考えております。この課題につきましては,我が国の著作権制度のあり方にかかわる非常に大きな課題であろうと考えておりますので,ぜひ十分ご議論を賜りますようにお願いをしたいと考えております。
 委員の皆様方にはお忙しい中大変恐縮でございますけれども,一層のご協力をお願い申し上げまして,簡単でございますが私のごあいさつとさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

(2)法制問題小委員会審議予定について

【土肥主査】
 それでは,次に本小委員会の今期の検討課題を確認しておきたいと存じます。小委員会の設置の趣旨や,これまでの審議の進捗状況,今期の検討課題,ワーキングチームの設置につきまして,事務局から説明をお願いいたします。先ほど若干言及がございましたけれども,今国会に提出されている著作権法の改正案についてもあわせて説明を願えればと存じます。
【黒沼著作権課課長補佐】
  それでは,資料2から資料の5まで,それから参考資料の3を使いましてご説明をさせていただきます。
 まず,資料の2でございますけれども,この小委員会の所掌事務でございます。3月の著作権分科会で決定をされたものでございまして,今期の分科会では3つの小委員会が設置されておりますが,法制問題小委員会につきましては,中ほどの(2)というところで著作権法制度の在り方に関することという所掌事務になっておりまして,これは昨年と変更ございません。
 小委員会の議事につきまして,一番下の4で定められているところがございまして,審議の結果は分科会の議を経て公表するとされてございます。そのほか運営に関して必要な事項は小委員会で決定できるということでございます。
 引き続きまして,今期の審議事項などに関連しまして,資料の3と資料の4でご説明をさせていただきたいと思います。
 資料の3はこれまでの著作権分科会の検討課題として何が設定されてきたのかということと,それの対応状況をまとめたものでございます。対応が積み残しになっているところを中心に御覧いただければと思いますが,1ページ目でございますと,こちらは基本的に平成17年の著作権分科会でご決定いただいた著作権法に関する今後の検討課題というものに掲げられた事項ごとにまとめてございます。1つ目は,私的録音録画補償金の見直しということですけれども,こちらについてはご案内のように平成17年以降議論しておりますけれども,引き続きの検討課題となっているところでございます。
 それから,権利制限の見直しのところでございますけれども,最初の2つ,特許審査,薬事審査,それから医療機関に対する情報提供のための文献複製でございますが,上の1つについては平成18年に法改正をしましたけれども,医療機関に対する情報提供につきましては引き続きの検討課題となっております。
 それから,図書館関係,こちらについては一部再生手段の入手困難な場合の複製につきましては現行法でも対応できるところがあるということで解釈の明確化がされているところがございますけれども,まだその他の課題は残っているというような状況でございます。
 それから,学校教育関係,こちらは同一構内の無線LANの取り扱いにつきまして,平成18年に改正がなされておりますが,そのほかeラーニングなどの取り扱いについて引き続きの検討課題となってございます。
 それから,福祉関係でございますが,こちらは平成18年の改正,平成20年の議員立法,それから今回提出している改正法案,後ほど中身をご説明いたしますけれども,こちらで多くの部分が対応されております。
 それから,3.の私的使用目的の複製の範囲の見直しでございますけれども,こちらも後ほどご説明しますけれども,今回一部について改正法案を提出しております。ただし,今回の改正案が対応しているのは違法な自動公衆送信からの録音録画でございますが,そのほかプログラムの取り扱い,適法配信からの録音,録画の取扱いについて引き続き積み残しの課題になってございます。共有著作権の関係,独占的な利用許諾などのことにつきましては,平成18年度,19年度以降検討が行われておりますけれども,当面の法整備を求めるという結論には至ってございません。それから,保護期間の見直しについては,他の小委員会でございますけれども,検討中の課題となってございます。
 それから,デジタル対応という部分につきましては,キャッシング等通信過程の効率化などなど,一時的蓄積の課題につきましては現在改正法案を提出中でございます。また,機器の保守・修理の課題については平成18年に法改正が済んでございます。技術的保護手段の規定の見直しにつきましては,技術の進展に応じて必要に応じて検討ということになってございます。それから,放送新条約への対応につきましては,条約の方の進展が見られないということで,その状況に応じて今後適宜検討ということでございます。
 契約・利用の関係でございますけれども,ライセンシーの保護につきましては,一定の結論めいたものには至ってはございますけれども,まださらなる措置を求める声も多いということで,引き続きの動向を見守るというような状況になってございます。契約規定全般の見直しにつきましては,当面の法整備を求めるという結論には至ってございません。登録制度の見直しでございますが,こちらについては登録原簿の電子化につきまして今回法改正案を提出しているところでございます。
 司法救済関係は,間接侵害それから損害賠償関係もございますけれども,これも引き続きの検討課題となっております。
 次のページにいっていただきまして,こちらは平成17年の今後の検討課題以外に知的財産推進計画で掲げられた事項のうち法制度関係のものを並べたものでございます。一番上は情報解析でございますけれども,こちらについては今回改正法案を提出してございます。その次の海賊版対策などにつきましては,罰則の上限を10年とすること,それから著作権侵害物品の輸出・通過の取締り,これにつきましては平成18年に改正済みでございます。その次のネットワークオークションの出品などへの対応につきましては,今回改正案を提出中でございます。映画の劇場内での無断撮影につきましては,平成19年の議員立法で対応がされてございます。非親告罪の範囲の見直しにつきましては,慎重な検討が必要ということで結論をいただいてございます。
その次のコンテンツビジネスの拡大のところですけれども,IPマルチキャスト放送の取扱い,あるいはそのほかの通信放送の法体系の見直しの状況にあわせた見直しでございますけれども,同時再送信につきましては平成18年の改正が行われておりますが,その他の事項につきましては,総務省における検討状況に応じて適宜検討ということになってございます。
 その次のページでございますが,デジタルコンテンツを流通促進する法制度の整備でございますけれども,こちらは昨年の分科会におきましてそれぞれ中身を分解してご議論いただきまして,それぞれの項目にばらしておりますので,それぞれの項目において対応がされているという状況でございます。その次の権利者と連絡がとれない場合の利用の円滑化ですけれども,こちらは現在改正案を提出中でございます。それから,その次のネットワーク検索サービスについても同様でございます。
 コンピューター・ソフトウェアのリバース・エンジニアリングでございますが,こちらは昨年法改正すべしということで,この小委員会でも方向づけをいただいたんですけれども,事務局での立案作業が,法案の提出期限,これは3月上旬が政府の法案提出期限になるんですけれども,そこまでに作業が間に合わなかったということもございまして,政府内の議論の結果今回の法改正案には盛り込まれてございません。引き続きの作業を続けている最中でございます。
 その次の包括的な権利制限規定の導入も含めた検討ということについては,昨年12月に一度知的財産戦略本部の検討状況と報告書をこの小委員会でもご紹介いただきまして,その後基礎的な資料を事務局において調査をするということにしておりましたので,委託調査を実施してきたところでございます。後ほどご紹介があるかと思います。
 その次の公共的なデジタルアーカイブそれから国会図書館のデジタル化につきましては,国立国会図書館の電子化の部分につきましては現在法改正案を提出しているというところでございます。
 以上につきまして,幾つか積み残しの課題がございましたけれども,それを整理して項目だけ抜き出したのが資料4でございます。先ほどの残りの状況を踏まえまして,当面の検討課題として何を取り扱っていくべきかということですが,前期の報告書までの検討状況を踏まえればこのように整理されるのではないかということで列挙してございます。権利制限規定の見直しにつきましては,一般規定の課題が一つございます。それから,薬事,図書館,学校教育,私的使用目的の複製の見直しがございますが,括弧書きがついているものにつきましては,検討に当たっての前提条件といいますか,そういったものが前期の報告書までで提言をされているものでございます。薬事関係につきましては文献提供の実態の精査をしていく。図書館関係,学校教育関係につきましては,関係者からの具体の提案あるいは関係者間協議の状況を踏まえる。それから私的使用目的の複製につきましては,正規ビジネスの影響の程度などについてなお検討ということにされてございます。権利制限の一般規定の部分につきましては,まだということでございますけれども,その他につきましてはこういう前提条件があるということでございます。
 その次の通信・放送の在り方の変化への対応でございますが,こちらは総務省の議論の状況に留意しながらということでございます。総務省に伺ったところ,まだそれほど著作権関係でストレートにこれを検討すべきというような状況まで至ってはいないということだそうでございます。その次はネット上の複数者による創作の課題,それから間接侵害の課題ということでございます。
 引き続きまして,このような課題を踏まえまして資料5でございますが,毎年この小委員会ワーキングチームを幾つか設置してご議論をいただいている課題がございます。それにつきまして今年度もワーキングチームの設置をいただいてはどうかと思っております。1つは契約・利用ワーキングチーム,課題はネット上の複数者による創作に係る課題,司法救済につきましては間接侵害でございます。いずれも昨年からの引き続きの検討課題でございます。
 ワーキングチームの構成につきましては,2のところでございますけれども,座長を置き,法制問題小委員会の委員のうちから主査が指名するということにしてはどうか。そして,各座長がワーキングチーム員としてメンバーを指名する。それから,検討方法としては,ワーキングチームは小委員会での議論の前段階,議論の整理ということでございまして,作業の比重が少なくないということもございまして,適宜メーリングリストの活用など,そういった機動的な検討も視野に置いてということでございますけれども,会議の開催という検討方法に限定せずに検討を行うということでございまして,それに伴いまして原則として会議は非公開とする,一方で議事要旨を作成して公開する,このようなことで運営をしてはどうかと思ってございます。後ほどご議論いただければと思っております。
 長くなりますが,引き続きまして,先ほど主査からご指示ございましたように,今国会に提出しております著作権法の一部改正案につきまして,概要だけご説明をさせていただければと思います。参考資料の3でございます。横長の色刷りの資料がございますが,こちらで若干ご説明をさせていただきたいと思います。
 先ほど検討課題の状況の中でも幾つか,これは改正案を提出中ということでご説明しましたが,参考資料3の1枚目が改正案の全体像でございます。4つの柱,大きくは3つですけれども,分けて整理をしてございます。今回の改正法案はデジタルコンテンツ流通促進のための法制度の整備という,骨太方針2007が一番大きなきっかけとなっているわけでございまして,そのデジタルコンテンツ流通促進法制につきましては,こちらの分科会では3つの柱に分けて整理をすべきということでいただいておりました。1つはコンテンツの二次利用に関する課題,それから2つ目が権利制限の見直し,3つ目は違法な著作物の流通抑止ということでございまして,この3つの柱を概要でいう1.と2.のところで整理をしてございます。
 1.のインターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置ということですが,こちらに権利制限の見直しとコンテンツの二次利用のための措置を盛り込んでおりまして,権利制限としましては,インターネットで情報検索サービスを実施するための複製,それから一つ飛ばしまして,国会図書館における所蔵資料の電子化,それからインターネット販売等のための美術品等の画像掲載,情報解析のための複製,送信効率化のための複製,電子機器利用時に必要な複製,それぞれを盛り込んでございます。それから,1つ飛ばしました2番目ですけれども,過去の放送番組等をインターネットで二次利用する際に権利者が所在不明である場合の利用についても盛り込んでございます。上の3つについては,後ほどもう少し細かくご説明をしたいと思います。
 それから,2.が違法な著作物の流通抑止ということでございますが,こちらもご報告いただいた2点を盛り込んでございます。1点目は,インターネット販売等で海賊版と承知の上で行う販売の申し出,この申し出自体を権利侵害とみなすという措置でございます。それから,2点目は違法なインターネット配信による音楽,映像を違法と知りながら複製することを私的使用目的でも権利侵害とするということでございまして,こちらはほかの小委員会からの提言が中心になってございますけれども,その提言を踏まえまして罰則をかけないということと,違法と知りながらという要件で措置を盛り込んでございます。
 それから,3つ目の柱でございますけれども,こちらは障害者の情報利用の機会の確保ということで,権利制限の範囲を拡大をしてございます。これも後ほどさらに詳しくご説明いたします。
 それから,4.その他となってございますが,こちらは昨年の報告書ではございませんけれども,平成16年の著作権分科会の報告書に基づきまして,登録原簿の電子化の措置を,ようやくめどがついてきたということもございまして今回の法改正に盛り込んでございます。4.の登録原簿の電子化以外は来年1月1日の施行で改正案をつくってございます。
 若干時間が長くなってございますが,2ページ目以降で簡単に要件の幾つかをご説明をさせていただきたいと思います。
 1つ目は情報検索サービスでございますけれども,趣旨の部分はご案内のことかと思いますので,法改正の内容という,中ほど以下の部分だけご説明させていただきます。基本的に情報検索サービスに必要な行為については許諾を得なくても可能とするということで,検索サービスについてはウェブサイトのクローリングに伴う複製,それからその後の結果表示のための公衆送信などがあるわけですけれども,こちらについて許諾なくできるということを規定に盛り込んでございます。一方で,条件を幾つかつけておりまして,[1] ネット上で情報収集を拒否するなどの意思表示を行っている場合は収集しないということ。それから,[2] 違法に送信可能化されているものであるということを知った場合には,その表示を行わないという条件を課してございます。後で条文をご覧いただくと[1] は法律上の要件としては出ていないわけですけれども,政令で一定の基準を定めるということにされておりまして,その中でこの[1] のようなものを定める予定でございます。
 それから,3ページでございますけれども,権利者不明の場合の利用の円滑化でございます。こちらにつきましては,報告書の中では裁定制度の手続の明確化なども含めて必要なところから措置をするとされていたわけですけれども,今回大きく2点を盛り込んでございます。1点目は実演家の所在不明の場合にも裁定制度の利用ができるということで,著作隣接権についても裁定制度の対象にするように規定をつくってございます。
 それから,2点目は,現行裁定制度が手続に時間がかかるというご指摘をいただいておりましたので,裁定申請の際に担保金というものを供託すれば,裁定の結果が出る前でも暫定的に利用が開始できるというような制度を盛り込んでおります。詳しくは後ほど条文をごらんいただければと思っております。
 4ページは国立国会図書館の所蔵資料の電子化でございます。こちらはほかの小委員会が中心になってご議論いただいたものでございますけれども,国立国会図書館においては所蔵資料を,今まで保存のための複製はできるということではございましたが,そういった現に損傷劣化した資料だけではなくて,納本後直ちにも電子化できるように措置をしてございます。ただし,その後の閲覧,電子化した資料の使用,利用などなどにつきましては,関係者間で協議を行うということで報告書をいただいておりましたので,そこについては法改正に盛り込んでおりませんで,引き続き関係者間で協議が進められている状況でございます。
 その次のページでございますけれども,5ページは違法な著作物の流通抑止ということでございますが,こちらは1枚目で説明したところと余り変わりございませんので,その次のページにいっていただきまして,障害者の情報利用の機会の確保というところでございます。こちらは関係規定を抜本的に拡大をしてございます。まず現行制度は複製主体,これが点字図書館など一定の福祉を目的とする施設ということに限定されておりましたが,これを拡大しまして,ここには余りはっきり書いてないのですが,公共図書館なども政令で規定できるように「福祉に関する事業」ということで規定を改めておりまして,範囲の拡大を図っております。
 それから,その次は現行規定では録音図書の作成あるいは放送番組のリアルタイムでの字幕作成・送信といったことで限定的に行為を規定していたわけでございますけれども,これを条文上は障害者のために「必要な方式」による複製などができるということにしまして,方式を限定しないという規定にしてございます。その結果として,さまざまなニーズがございますデイジー図書あるいは映画放送番組への字幕使用の付与など,幅広い行為が可能になろうということになっております。
 それから,障害の種類でございますけれども,視覚障害,聴覚障害,このような限定をせず,視覚あるいは聴覚によって「著作物の認識が困難である者」というふうに,ここも種類を特定しないように範囲を拡大してございます。そういった形で,報告書に基づきまして一定の内容を盛り込んでいるところでございます。
 長くなりましたが,以上でございます。
 今期の審議事項などにつきまして,ご議論いただければ幸いでございます。
【土肥主査】
  ただいま事務局から説明のございました資料,それから今期の審議の進め方,ワーキングチームの設置,構成などについてご質問等,あるいはご意見がございましたら,お出しをいただければと存じます。
 ワーキングチームの設置については,これは本小委員会で決めなければなりませんので,これでよろしいかどうか,ご意見をいただければと,そういうふうに思いますが,これはよろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】
   ワーキングチームの設置については,資料5の案にございますように,契約・利用,それから司法救済,この2つについてワーキングチーム,これを設置するということをお決めいただいたものとさせていただきます。
 この点については従来から,事務局から説明がございましたように本小委員会の委員の中からワーキングチームの座長を指名するということになっております。これは資料の2にあるとおりでございますけれども,契約・利用ワーキングチームについては末吉委員にお願いしたいと存じますし,それから司法救済ワーキングチームについては前期から引き続いて大渕委員に座長をお願いしたいと存じます。どうぞよろしくお願いをいたします。各座長におかれましてはワーキングチーム員の構成を固めていただきたいと存じます。固まりましたらこの小委員会で名簿を配布したいと考えております。
 今期の審議の進め方等々について,ご意見,ご質問等いただければと存じます。
 資料4にございます当面の検討課題の案,これは順番等は書いていないわけですけれども,1月の分科会報告書で決まっておりますところを継続して進めていくということになりましょうか。当面この順番でいきますと,権利制限の一般規定から始めていくということになるんだろうと思いますけれども,よろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】
   それでは,そのような形で進めていきたいと考えます。
 せっかくの機会でございますから,何かほかにご意見等ございましたらお出しいただければと思いますが。

(3)権利制限の一般規定について

【土肥主査】
   それでは,早速ですけれども,今期の検討課題である権利制限の一般規定の議論に移りたいと存じます。この件につきましては昨年12月の本小委員会の際に知的財産戦略推進事務局から,デジタル・ネット時代における知財制度の在り方についての報告書をご説明いただきまして,それを受けて事務局において基礎的な資料を調査・整理されていたところでございます。昨年から時間もたっておりますので,最初に事務局からこれまでの経緯を含めて簡単に説明をいただいて,その後に調査の結果を報告していただきたいと存じます。昨年文化庁で行われました委託調査では本委員会の上野委員がその研究会の座長を務めておられたということでございますので,上野委員からもあわせてご報告を賜ればと思います。
【池村著作権調査官】
   それでは,参考資料5として,ただいま主査からご説明がございました昨年11月27日に知的財産戦略本部のデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会が取りまとめた報告書であります「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」を配布させていただいておりますので,まずはそちらをご覧いただければと思います。
 この報告書におきましては,[1] コンテンツの流通促進方策,[2] 権利制限の一般規定,いわゆる日本版フェアユース規定の導入,そして[3] ネット上に流通する違法コンテンツへの対策強化という3つの課題に関する検討の結果がまとめられており,このうち権利制限の一般規定につきましては報告書の8ページから12ページにかけて記載されているところでありますので,そちらをご覧いただければと思います。
 そして,10ページの「5.」以降におきまして,検討結果として,近年の技術革新のスピードや変化の早い社会状況を考えれば,個別の限定列挙方式の権利制限規定では適切に実態を反映することは難しく,著作権法が定める枠組みが社会の著作物の利用実態やニーズと離れたものとなってしまうという懸念,具体的には,新規分野への技術開発や事業活動に対する萎縮効果を生じさせているといった問題や,形式的には違法となるが,権利者の利益を実質的に害しておらず,社会通念上も違法とすべきとは考えられないものがあるといった問題があることから,個別の限定列挙方式による権利制限規定に加え,権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定を導入することが適当であるとの結論がまとめられており,さらに権利者から,一般規定の導入によって違法な利用行為が蔓延するのではないか,司法の判断によって解決できないことがある結果,権利者にさらなる負担を強いられることになるのではないかといった意見があったことを踏まえ,実際の規定ぶりにつきましては,[1] 日本人の法意識等に照らし,リスクを内包した制度は余り活用されないのではないか,[2] さまざまな要素により社会全体のシステムが構成されており,経済的効果について過大な期待をかけるべきではないのではないか,[3] 一般規定の導入により,これまで裁判例によって違法であるとされていた行為が当然にすべて適法になるとの誤解等に基づいて違法行為が増加することが懸念され,訴訟コストの増加も含め,権利者の負担が増加するのではないか,[4] 法体系全体との関係や諸外国の法制との間でバランスを欠くことはないかという4つの点を踏まえつつ検討する必要があるとされているところでございます。
 また,「(2)個別規定と一般規定の関係」として,権利制限の一般規定が定められた後も引き続き必要に応じて個別規定を追加していくことが必要である旨,「(3)一般規定の規定ぶり」として,実際の規定振りについては予見可能性を一定程度担保するためにも広範な権利制限を認めるような規定ではなく,ベルヌ条約等のスリー・ステップ・テストも踏まえ,著作物の性質,利用の目的及び態様など,具体的な考慮要素を掲げるべきであること,これまでの裁判例を分析し,学説等も十分考慮することが必要である旨がそれぞれ記載されているところであります。
 続いて,参考資料6,1枚物でございますが,こちらをご覧ください。こちらにつきましては,本年4月6日に知的財産戦略本部が発表しております,「第3期知的財産戦略の基本方針」の抜粋でございまして,この基本方針におきましても,「著作権法における権利者の利益を不当に害しない一定の範囲内で公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入に向け規定振り等について検討を行い,必要な措置を講ずる。」と記載されているところでございます。
 これらを踏まえまして,今期の分科会,法制問題小委員会におきましては,権利制限の一般規定について,今後具体的な検討をしていくことになるわけでありまして,本日机上資料とさせていただいております本年1月の分科会報告書の119ページにも,「その他の課題」としてこの旨の記載がございます。私ども文化庁といたしましては,この問題は著作権法の体系に深く関連する非常に重要な問題,課題である,このように認識しているところでありまして,審議ができるだけ円滑に効率よく進むよう基礎的な資料をあらかじめ整備する必要があるだろうと考えまして,昨年12月に調査研究機関に権利制限の一般規定に関する基礎的な研究を委託しておりまして,本日配布資料の6として配布させていただきました冊子がその報告書ということになります。
 この調査研究の目的につきましては,配布資料6の1ページに記載されておりますので,そちらをご覧ください。先ほど申しましたとおり,あくまでこの調査研究は分科会,法制問題小委員会における審議を円滑に進めるための基礎的な資料の一つという位置づけでありまして,権利制限の一般規定の導入につき一定の方向性を示したり,あるいは特定の結論を制限するといった性質のものではなく,我が国現行法の解釈論や裁判例の分析,諸外国の権利制限に関する実態や判例,学説の動向等に関して詳しい調査を行うというものでございます。本日配布できておりませんが,これに加えて,配布資料6の目次を見ていただきたいのですけれども,この報告書では英米法及び大陸法における権利制限規定等ということで,米国,英国,カナダ,オーストラリア,そして大陸法について触れてあるところでありますが,これ以外にも韓国や台湾,イスラエル等といった諸外国の権利制限規定の一般規定についての動向についても調査を委託しておりまして,その結果についてもでき上がり次第,本委員会において配布させていただきたい,このように考えております。
 なお,研究会のメンバー構成,検討スケジュール,そして各委員のご執筆担当部分等につきましては報告書の2ページ以降に記載がございますので,それぞれ該当部分をご参照いただければと思います。
 5ページ以降にあります報告書の具体的な内容につきましては,この研究会の座長を務められました上野委員より直接ご説明いただくことといたしまして,事務局からの説明は以上でございます。
 それでは,上野先生,どうぞよろしくお願いいたします。
【上野委員】
   上野でございます。本日は大変僣越ながらお時間を頂戴いたします。
 わたくしは一昨年の秋に,たまたま「日本版フェアユースの可能性」という講演を行いまして,その後,昨年5月の著作権法学会シンポジウム,そして知的財産戦略本部などにおきまして,この問題にかかわってまいりました関係上,このたび形ばかり座長を拝命した次第であります。そして,先ほどご紹介がありました4名の先生を委員といたしまして,昨年12月24日から今年の3月30日までの合計5回の会合を経て検討を進めさせていただきました。つきましては,以下この報告書につきまして概略をご説明させていただきたいと存じます。
 さて,この研究会ですけれども,先ほどもご説明がございましたように,これは著作権分科会における審議を円滑に進めるために基礎的な資料を整備するという趣旨で設置されたわけでございます。したがいまして,本研究会及び本報告書はあくまでも著作権分科会における審議のための基礎的な資料の整備を目的として行われたものでありまして,各委員は可能な限り客観的な視点からこれに取り組んだものと認識しております。
 もっとも,報告書のそれぞれの章は各委員の責任において分担執筆されたものであり,いわば論文集としての性格を有するところもございます。そしてまた,およそ人間が執筆する以上,少なくともまとめ方や受けとめ方等の点におきまして,執筆者がその主観的要素から完全に自由であることは,概念上そもそも不可能というべきかもしれません。その点を留保しつつも,本研究会及び本報告書は,我が国が将来的に権利制限規定の一般条項を設けるか否かについて,何らかの方向性を示唆するものではないということだけは尊重されていたものと認識しております。
 全体構成ですけれども,第Ⅰ章から第Ⅲ章までの構成となってございます。第Ⅰ章は現行法の状況と解決可能性ということでございます。第Ⅱ章が比較法でございまして,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツを中心に外国法の検討を行っております。第Ⅲ章は,一般規定の意義及び課題ということでありまして,仮に一般条項を設けるとした場合の課題等について検討しております。
 それでは,各章につきましてもう少しずつ敷衍させていただきたいと存じます。
 まず第Ⅰ章では,現行著作権法上の権利制限規定にどのような問題点があるか。あるとして,そのような問題点は現状のままで解決できないのかどうかについて検討を行っております。
 なお,この第Ⅰ章と第Ⅲ章は,私が執筆者ということになっておりますけれども,いくつか「本研究会における議論」として枠で囲っている部分がございます。これは,事務局に作成していただきました議事録をもとに,研究会当日に行われました議論の模様をそのまま収録したものでございます。ただ,限られた時間でありましたので,実際には議論できなかった論点も含まれますし,またここに示されたような意見が研究会あるいはその構成員の見解に合致するとは必ずしも限らないということはご留意いただきたいと存じます。
 さて,現行法上の権利制限規定にどのような問題点があるかという点に関しましては,論者によって理解が同じではないと思われますし,それによって一般条項を設けることに対する期待の内容といったものも変わってくるように私には思われますけれども,そのことはまた後ほど少し触れるといたしまして,第Ⅰ章で書いておりますのは比較的広く共有されていると思われる問題点でございます。
 すなわち我が国著作権法30条以下における権利制限規定というのは多数の個別規定が限定列挙されたものでありまして,しかも,起草者や従来の伝統的通説にしたがうならば,この権利制限規定はあくまで著作者の権利保護という原則に対する例外規定なのだという考え方に基づき厳格に解釈されてきたということでございます。しかし,厳格解釈を貫きますと,少なくとも形式的には多くの行為が権利侵害となってしまって,場合によっては現実的に見て不都合と考えられる余地のあるケースを少なからずもたらしているのではないかと思われます。
 例えば,よく指摘される例ですけれども,テレビ番組を家庭内で大量に録画してビデオライブラリーを作成することは私的使用目的であっても複製権侵害になってしまうとか,また,いわゆる「写り込み」と呼ばれるような,写真撮影やテレビ放送において他人の著作物が背景に写り込んだ場合,形式的には著作権侵害となりかねないとか,具体的なケースは枚挙にいとまがございません。
 もちろん,このようなケースがあり,それが結論として権利侵害になってしまうことが不都合であるとしても,だからと言って直ちに権利制限の一般条項が必要となるわけではありません。すなわち,結論として不都合なケースがあるといたしましても,例えば既存の権利制限規定の拡大的な適用や,あるいは黙示的許諾論,あるいは権利濫用などといった解釈論を駆使することによりまして,権利侵害を否定することができるものと考えられます。実際のところ,既に幾つかの裁判例におきましては解釈論によって権利侵害を否定したものが見受けられるところでございます。また,従来の議論における厳格解釈を見直して,既存の権利制限規定を類推適用することを認めるという方法も考えられるところでございます。このような意味におきましては,現状においても,実際に訴訟になれば何らかの解釈論で権利侵害が否定されるから,結論として権利侵害になってしまうことはない,そのようにいえる場合も少なくないのかもしれません。
 さらに立法論といたしましては,これまでも個別規定の整備ということが不断の努力をもって続けられてきているわけでございますので,今後も個別規定の整備によってこの問題に対処するという方法ももちろんございます。
 ただ,こうした解釈論及び立法論は限界があるのではないかというような見解もありますので,この点をどのように考えるかが問題になろうかと思います。すなわち,社会の変化や多様性といったものに適切に対応するためには,個別規定の整備だけでなく,これに加えて権利制限規定の一般規定を設ける必要があるのか,これが大きな論点になるわけでございます。
 以上が第Ⅰ章でございます。
 続きまして,第Ⅱ章は比較法でございます。まず,アメリカ合衆国におきましては,よく知られておりますように,著作権法107条に権利制限の一般規定としてのフェアユースが置かれております。そこでは考慮すべき要素の具体例として4点,すなわち,使用の目的及び性質,著作物の性質,使用された部分の量及び実質性,そして潜在的市場に対する影響が掲げられております。もっともアメリカのフェアユースをどのようなものととらえるのか,また実態としてどのような判断がなされているのかといったことをめぐりましては,アメリカにおいても学説上さまざまな分析や議論があるようです。そこで,本報告書では,筑波大学の村井麻衣子先生を中心にそうした点をめぐる近時の議論をご紹介いただいております。
 また,アメリカのフェアユースに関しましては,その規定もさることながら,実際にどのようなケースでこれが適用されるのかということが非常に重要となります。そこで,本報告書では,神奈川大学の奥邨弘司先生に最近のフェアユース関連の裁判例から特に34件について,参考資料にございますように大変詳細に紹介・分析していただいております。その上で,アメリカのフェアユースの実態ですとか,あるいはそこにおける,いわゆるトランスフォーマティブ――この報告書では「変容力」というふうに訳させていただいておりますけれども――その位置づけ等についてもコメントをいただいております。
 なお,アメリカのフェアユースを我が国でも導入すべきだという主張は以前からございましたけれども,他方では法体系や訴訟制度,あるいは法文化の違いなどから,その導入に消極的な見解も見られたところでございます。
 この点につきましては,当初予定したような検討はできなかったわけでありますが,本報告書におきましても,日米における訴訟制度や法文化の違いにつきまして,弁護士の山本隆司先生を中心に検討いただき,「若干のコメント」という形で,例えば裁判所の法創造機能や訴訟コスト等をめぐる日米の違いに関して幾つかのご指摘をいただいております。
 続きまして,イギリスでございますけれども,イギリスにおきましては,1988年の著作権法にフェアディーリングと呼ばれる権利制限規定がございます。もっともこれはアメリカのフェアユースのような単一の一般的・包括的な権利制限規定ではなく,研究や私的学習,あるいは批評・論評,さらには時事報道といった,一定の目的のために設けられた幾つかの個別規定において,それが公正な利用であれば許されるという形で規定がされているものでございます。いわば一般条項の性質を有する個別規定とでもいえようかと思われます。こうしたイギリス法に関しまして,本報告書では弁護士の山本隆司先生におまとめいただいております。その他,山本先生にはカナダ及びオーストラリアにおけるフェアディーリング規定についてもご紹介をいただいております。
 そして,大陸法といたしまして,フランス及びドイツのご紹介をしております。これらの国におきましては,英米法におけるような権利制限の一般条項は設けられておらず,また,個別の権利制限規定が厳格に解釈されてきたというあたり,我が国と共通する側面が大きいわけでありますけれども,そうした状況で,フランス及びドイツにおける近時の議論がどうなっているのかということにつきまして,本報告書では上智大学の駒田泰土先生にご紹介いただいております。そこでは,――これは私もよく「ドイツ版フェアユースの可能性」などと呼んでおりますけれども――大陸法諸国においても権利制限の一般条項を設けるという立法論が一応の検討対象となっており,それがとりわけEC指令の観点から許されるのかといったことが議論されているようでございます。
 以上が第Ⅱ章であります。
 最後に,第Ⅲ章では,仮に権利制限の一般規定を設けるとした場合を想定いたしまして,そこで生じると考えられる意義と課題についてごく簡単に検討しております。
 なお,この第Ⅲ章および第Ⅰ章は,今後のさまざまな議論を少しでも活性化させるために,あり得べき論点をできるだけ広く抽出するという目的で作成したものとなっております。したがいまして,個別の論点について,この研究会で深く検討するということは必ずしもできておりませんし,また時間も限られておりました関係上,すべてのあり得る論点が網羅されているとも限りません。あるいは,必ずしも問題の所在が十分明らかになっていない論点もあろうかと思いますが,このことにつきましてはあらかじめおわびを申し上げます。
 さて,本章ではまず権利制限の一般規定を設けた場合に生じると期待され得る意義を書いてございます。例えば,従来のように権利制限規定を厳格解釈してしまうと形式的には侵害となってしまうケースに関して,従来は過剰に萎縮効果が働くおそれがあったとしますと,これに対して権利制限の一般規定を設ければ,そうした過剰な萎縮効果の軽減にある程度つながるのではないかといったような点を指摘しております。また,権利制限の一般条項を設けると判断が不明確になってしまうと指摘されることがよくあるわけでございますけれども,一般条項といいましても,多少なりとも具体的な考慮要素を明示した規定を設けることによりまして,裁判官による判断をいわば緩やかにコントロールできるのではないかという点,さらにはそうした一般条項を設けると,裁判官はそこに掲げられた考慮要素に照らしつつ判決を下すことを強いられますので,これにより判決の正当化根拠をより可視化することができるという効果があるのではないか,といったことが触れられております。
 他方,権利制限の一般規定を設けた際に生じ得る課題についてもさまざまに挙げております。もっとも,それは具体的にどのような規定をつくるかということに大きく依存していると思われますので,ここでは規定のタイプということでごく大雑把に分類させていただいております。ただ,これは必ずしもきれいな分類でないと私も思うわけでありますけれども,本報告書ではわかりやすさの観点から,米国型,英国型,スリー・ステップ型,受け皿規定型というような分類を示させていただいております。
 また,一般条項を設けるとした場合の具体的な文言につきましても,どのような考慮要素を掲げるのかとか,あるいはそもそも「公正」という文言でいいのか,それとも「正当」にするのか,さらには「やむを得ない」という文言を用いるかとか,そういった文言の問題が問題になり,非常にさまざまな選択肢があると思われます。
 また,権利制限の一般規定をつくるといたしましても,そこに但書きをつけて,「権利者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない」といった規定ぶりにする選択肢もありますし,さらには,既存の制限規定の中にもありますけれども,補償金請求権をあわせて規定するという可能性もなくはないと思われます。このように,具体的にどのような規定にするかということが課題になろうかと存じます。
 また,権利制限の一般規定を設けるといたしましても,どのような適用範囲を想定するか,これも大きな問題になろうかと思われます。「日本版フェアユース」という言葉は,「日本版バイドール」や「日本版LLP」にならって,私が一昨年使ったわけですけれども,これがいまや当初の私のイメージを超えて広く使われるようになっておりまして,私自身驚いたり,時には戸惑ったりもしているところでございます。いずれにしても,論者によって想定している内容に大きな開きがあると感ずることが少なくありません。すなわち,たとえ現行法のままでも訴訟になれば何らかの解釈論によって権利侵害が否定されるとしても,現状では形式的な根拠規定がないために生じかねない過剰な萎縮効果をできるだけ軽減するために権利制限の一般条項を設けるべきであるという,いわば消極的・防御的な規定を想定している見解がある一方で,現行法上は明確に違法になってしまう行為かもしれないけれども,社会的に見れば許されるべきと考えられる行為を一般的に適法化するために権利制限の一般条項を設けるべきであるという,いわば積極的・攻撃的な規定を想定している見解もあるように思われます。
 ほかにも日本人の国民性や,あるいは企業のコンプライアンスといった観点からすれば,たとえ権利制限の一般規定を設けても,期待されているようなメリットは実際に生じないのではないかといった指摘もあり,この点も検討の余地がございます。
 逆に,たとえ何らかのメリットがあるとしても,権利制限の一般規定を設けることによってデメリットが生じるのではないかといったこともさまざまに指摘されているようでございます。これをどのように考えるかも課題になるところでございます。
 以上,大変駆け足ではございましたが,本報告書の概要についてご報告申し上げました。私の個人的な能力不足のために何かと不十分な部分も多かろうとは存じますけれども,3カ月という非常に短い期間でありながら,委員の先生方及び事務局のご努力によって充実した報告書に仕上がったのではないかと考えております。個別の論点につきまして,私自身がどれほどお答えできるかどうかわかりませんけれども,委員の先生方にお読みいただきまして,ご意見等ちょうだいできましたら大変幸いに存じます。
 以上です。
【土肥主査】
 それでは,ただいまのご報告へのご質問も含めまして,本日は第1回目でございますので自由にご議論いただければと存じます。ご意見,ご質問等ございましたら,どうぞご遠慮なくお出しください。
【松田委員】
  せっかくですので,質問させていただきたいと思います。
 この意見の中で,大きくとらえますと,2つの範疇のものがあると説明されておりました。厳格に解して形式的に違法になってしまうけれども,社会通念上違法とすべきでない範疇のものがある。もう一つは,ビジネスモデル構築の萎縮効果を軽減するためにフェアユースを導入すべきという範疇です。実質的には違法でないものと,萎縮効果を排除するものと,簡単に言うことができないでしょう。上野先生の今のご指摘の中で,実質的違法でないものとしては,例えば写り込みとか家庭内のライブリーというご指摘がありました。萎縮効果を排除するもととして,どのような具体的な例が検討されたでしょうか。

【上野委員】
  ご質問の趣旨を理解できているかどうかわかりませんけれども,例えば,写り込みのような場合は,形式的には違法になってしまうのですけれども,起草者はどういうわけか結論として権利侵害に当たらないと述べていますので,それならば権利制限の一般条項を設けたほうが,そういうケースについて権利侵害を否定する形式的な根拠を与えるものになるのではないか,というのが前者だろうと思います。
 他方,後者につきましては,形式的には違法になってしまうけれども,それを何らかの理由で積極的に適法化しようというものとして整理しております。その典型例は,目下,法改正により個別規定が設けられようとしている検索エンジンではないかと思います。
 もっとも,これは私が知的財産戦略本部などに出席させていただいて得た感想でありますけれども,一番極にあると申しましょうか,さらに強い見解もありまして,例えば従来の裁判例において,カラオケ法理が広く適用され過ぎているために新しいビジネスの発展が阻害されているという観点から,そういったビジネスについても適法化するような規定として日本版フェアユース規定を想定するという見解もあるようであります。
 また,萎縮効果があるというのは他にもいろいろな例があると思われます。例えば,企業内複製も,確かに複写権センター等によって権利処理されている部分もかなりあろうと思いますけれども,では,社内のすべての複製行為が本当に契約によってカバーされているかというと,必ずしもそうとは言えないのではないかと思います。そのような場合,まじめに考えれば考えるほど萎縮効果が働いてしまうのではないかといったようなことを指摘できるように思われます。
 こうしたことはむしろ弁護士の先生方のほうがお詳しいのではないかと思いますけれども,そのように形式的にみれば権利侵害に当たってしまう行為について,これは違法なのでしょうかとクライアントから聞かれた場合,どの条文で適法だとなかなか言えないようなことがよくあるのではないかと思います。
【土肥主査】
  ほかにございますか。
【村上委員】
  進行について意見を申し上げたいのですが,その前に一つ質問させてください。これは非常に大きな問題になると思いますので,これはいつごろまでに結論を出すというか,時間的な余裕がどの程度あって,どのぐらい回数をかけて議論できるテーマになりますかというのが,まず単純な質問です。
【土肥主査】
  これは事務局からお願いできますか。
【関文化庁長官官房審議官】
  私ども事務局としては,ごあいさつあるいは説明の中で申し上げましたように,これは著作権法,著作権制度にとって非常に大きな問題であろうと考えておるところでございます。したがいまして,十分に論点を尽くしてご議論いただきたいと思っているところでございます。
【村上委員】
  ということを前提にして申し上げます。私はこの資料をさっと目を通しましたけれども,非常に有意義で,興味深い内容になっています。特に比較法の部分というのは大事なテーマになると思います。といいますのは,多分このフェアユースの問題について,日本独自の考慮要因というのはほぼないのだろうと思います。先進国全体で共通の問題であり,共通のさまざまな要因が議論されているのだと思います。それで,今日お話を伺ってもさっとした説明になると思うので,ぜひ比較法的な分析は十分にやってもらいたい。比較法といっても日本にとって参考になる国というのは限られているので,アメリカ,イギリスそれから大陸法系のフランス,ドイツ,その4カ国で基本的に構わないと思います。これは別に著作権法だけではなくて,今,経済法制で日本が参考にできる国というので議論する場合には比較法は必ずその4カ国を取り上げて,そこの制度を十分に分析するというのが行われていることであるので,その方法でやるべきだと思います。
 それで,むしろ今度は座長へのお願いになるのですが,そういう意味で,この報告の内容について,例えば米国,英国と,それからフランス,ドイツとか,そういうふうに分けて,現状がどうなっていて,どういう議論がされているかというのを十分に説明していただいて,それで質問があれば質問させていただいて,そこのところだけは十分に時間をとってもらえれば,その後非常に参考になる議論ができるのかなという気がいたします。
【土肥主査】
  今のご意見,ご要望ですけれども,米国,英国の現状を今上野委員がご報告あった以上に細かくということですか。事務局とも相談して,機会を得てやりたいと思います。
【村上委員】
  著作権が専門の先生方にとってはごく当たり前の話だという感じかもわかりませんが,必ずしも著作権を専門に研究している者でない者にとってはその辺の基本的な知識なり現状というのはできる限り知って,それから議論するのが一番いいと思います。そういう意味で先進国におけるあり方とか,現状の理解なり,現実にどういうふうになっているかというのは一番これから先も参考になる論点かと思っています。
【土肥主査】
  ほかにございますか。
【大渕委員】
   まず,今,村上委員が言われた比較法的検討という点は非常に重要な点だと思います。先ほどもありましたとおり,フェアユースというか,この一般条項の問題というのは我が国著作権法にとって非常に重要なテーマで,権利制限だけでなくて,著作権法全体に大きな影響を与えるような極めて重要なテーマであります。少し本題から離れますけれども,特許法は現行法制定から50年経過したということで現在特許制度研究会という研究会を開いたりして,根本的な見直しの検討をやったりしております。特許法の見直しが50年に一回ぐらいの話だとすれば,多分このフェアユースという問題は50年か100年に一回遍ぐらいの更に極めて重要なテーマだと思います。十分に議論を尽くすことこそ本小委員会の使命だと思っております。その前提として,先ほど村上委員が言われたように比較法的な資料をもとにした検討が不可欠であって,今回もごく限られた時間の中で上野委員を初め皆さん非常に努力されてここまで資料をまとめられましたけれども,これはまだかなり一般的なところにとどまっているところがあります。まさしく本小委員会で検討しようとしているフェアユースの基礎資料としては,出発点的なものにとどまっていると思いますので,さらに深めて十分に検討していく必要があるのではないかと思っております。
 それは一般論といたしまして,せっかくの機会ですので上野委員にお聞きできればと思いますが,細かい話は別としまして,用いる人によっていろいろな意味で用いられるため,このフェアユースという言葉自体がいろいろとミスリーディングな点があるのですが,ここで検討された国の中では,いわゆるアメリカ型のフェアユース規定というのは,要するに今のところアメリカしか採用していないということでいいのでしょうか,つまり,大陸法のフランスやドイツというのはもともと法体系的に遠いので導入にはハードルが高いのでしょうけれども,同じ英米法系のイギリスその他のコモンロー諸国であっても必ずしも,近々にフェアユースを導入しましょうということではないという認識でいいのかという点をまずお聞きしたいと思います。
 それから,何ゆえ英米法体系の諸国でもフェアユースが導入されていないのかたとえば,比較的導入のハードルの低そうな英米法系の諸国でもフェアユースの導入に踏み切れないところがあるのかというあたりの事情について,大雑把なところでも結構ですので,いろいろ検討されたところを出していただくと参考になるかと思います。これは理論だけの問題ではなくて,各国の法体系とか法文化とかかわっているところなので,著作権法にとどまらず,トータルな形で,もっと判例法か制定法かというようなところも踏まえて総合的に考慮していく必要があろうかと思いますが,何ゆえ英米法系の諸国でも導入に踏み切れないところがあるのかというあたりを,お聞きできればと思います。
 それから3点目として,フェアユースという言葉の意味についてですが,お聞きしていると何か一般条項的なものも入れるべきであるという話でもありますが,むしろフェアユースというと,普通連想するのはアメリカの著作権法107条のようなものを連想するわけですが,それと一般条項的なものとをイコールとして使っておられるのか,それとも別の意味で用いられているのか,いろいろ拝見していると,むしろいわゆるフェアユースとは違ったようなものを目指しておられるような感じでもありますので,その辺もお伺いできればと思います。
 それから,最後に,先ほどカラオケ法理云々ということを言われたのですが,あれは私はむしろ間接侵害の問題だろうと思っていたのですが,それを間接侵害でなく,フェアユースの問題として扱うべきであるというご趣旨かどうかという点もあわせてお伺いできればと思います。
【上野委員】
  大渕先生から4点ご質問をいただきました。
 まず1点目は,アメリカ以外にアメリカのフェアユース規定のようなものを持っている国がないのかというご質問だと思いますけれども,私の知る限り,イスラエルと台湾には同様の規定があると承知しております。
 それから,2点目は,ではなぜ他の英米法諸国で同じような規定がないのかというご質問だろうと思いますけれども,これは推測の域を出ませんが,やはりこれはアメリカにおいてはかねてから多数の裁判例の蓄積があってこそ現在のアメリカ著作権法107条があるのだろうと思いますから,そうした経験を共有していないことに由来するのかもしれません。
 3点目は,「日本版フェアユース」という言葉に関するご指摘かと存じます。この報告書におきましては「日本版フェアユース」という言葉はほぼ使っていないのでありますけれども,最近の議論では,審議会等におきましても,アメリカ法におけるフェアユースに限らず,権利制限の一般条項ないし一般規定というものを広く包摂する概念として「日本版フェアユース」という言葉が使われていると思います。そして「日本版フェアユース」として検討されているものの中には,ともするとイギリス著作権法におけるフェアディーリングのような規定もその視野に入れられているものと思います。他方で,――私はもともと「日本版フェアユース」という言葉をアメリカのフェアユースとは異なる小さなものというイメージで使いはじめたわけですけれども――アメリカのフェアユース以上に広範なものを想定して「日本版フェアユース」という言葉を使っている方もおられるようです。
 ですので,非常に多義的で,あいまいな概念ではありますけれども,こうした議論を総称するものとして「日本版フェアユース」という言葉が使われているのではないかと思われます。わたし自身は,こうしたキャッチフレーズ的な言葉が議論を活性化する効果があるとも考えておりますけれども,こういった言葉がミスリーディングであるということであれば今後気をつけたいというふうに考えております。
 4点目に,今回想定している「日本版フェアユース」は,カラオケ法理のような間接侵害の責任をも否定するようなものなのかどうかというご質問かと思われます。これはまさに一つの論点でありまして,見解の分かれるところかと思われます。ただ,なぜ日本でフェアユースが必要なのかということが議論されるときに,日本では最近カラオケ法理が少し拡大し過ぎているのではないかという問題意識が示されることがあったように思いましたので,見解の一つとして,カラオケ法理に基づく責任をも否定するようなものとして日本版フェアユースというものを考えている方もおられるようですというふうに申し上げた次第です。ただ,もちろん他方では,そのような考え方は問題ではないか,いくら日本版フェアユース規定をつくったところで,カラオケ法理あるいはその他の間接侵害に基づく責任をも否定するような規定にはならないのではないかというご意見も十分あるところでございます。
 ご指摘ありがとうございました。
【土肥主査】
  ほかにございますか。
【道垣内委員】
   非常に勉強になる報告書をおまとめいただきありがとうございました。
 日本法は相当あいまいな法概念で使ってきており,民法でも相当因果関係という一般条項を使って議論しています。また,現在法制審議会で審議中の国際裁判管轄のルール化の作業に関係しているのですが,日本で裁判できるかどうかという非常に重大な問題について,管轄原因を幾つか規定した上で,しかしそれだけでは予想できない状況もあるので,特段の事情という判例で使われてきた調整のルールを条文化する方向にあります。すなわち,当事者間の公平,裁判の適正・迅速という非常にあいまいな条項とするか,あるいは違う表現にするかはまだ決まっていませんけれども,そういう一般条項を置こうという方向にあります。日本法の母法がドイツだとは思えないほどの議論がされています。したがって,フェア・ユースの条文化も不可能ではないは思います。
 しかし,どのように規定するかは難しい問題です。ベルヌ条約のスリー・ステップを定めた条文は国内法の立法の仕方を定めているようですし,あるいは紹介されておりますEUのディレクティブも,国内法化をする場合にはスリー・ステップ・テストによるという規定のようです。そのような中で,ちょっと説明がわからないところがあるんですが,85ページのフランスについての最後のセンテンスです。85ページの真ん中あたりです。それによれば,フランス法もスリー・ステップ・テストを規定しているというのですが,しかし,特別の場合という要件を除いたツー・ステップになっているとされています。これはどのような趣旨なのか不明なのですが,それを見て思いますにスリー・ステップ・テストの他の2つの要件,すなわち,正当な利益を侵害しないことと,通常の使用を妨げないということ,それらは一般条項化しやすいように思われるのですが,特別の場合という要件が国内法で書き切れるのでしょうか。この要件は,国内法として個別条文に書くからこそ特別の場合になるのであって,一般条項に特別の場合と書くことはできないように思われます。それにもかかわらず,フランス法はスリー・ステップ・テストをそのまま規定している法制のタイプの一つと紹介されているので,その詳細をお教えいただければ幸いです。
【上野委員】
  ご指摘ありがとうございました。
 国内法に権利制限の一般条項を設けるという際には,ベルヌ条約等におけるスリー・ステップ・テストを満たす必要が一応あるということは,よく指摘されているところでございます。その中でも,特に今道垣内先生がご指摘になられましたように,「特別の場合」というステップをクリアすることができるかということが最大の問題になるところであります。確かに「特別の場合」でなければならないという以上,個別規定を設けることによってこそ権利制限の内容が特定されることになるわけですから,一般条項という方法ではスリー・ステップ・テストを満たすことができないのではないかという考えもあり得るところかと思われます。
 しかし,これは私も十分勉強できているわけではございませんけれども,WIPOが出しているベルヌ条約等の解説書によりますと,この「特別の場合」という要件は,適用範囲が狭いということ,それから権利制限を基礎づける正当性があること,という2点を意味するものと解されているようであります。実際のところ,アメリカのフェアユース規定がすでに条約違反なのかどうかということとも関連するかと思われますけれども,こうした条約の解釈によりましては,権利制限の一般条項を設けることもできるということになるではないかと思われます。
 なお,最近ミュンヘンのマックスプランク研究所のウェブサイトに,「スリー・ステップ・テストに関する宣言」という有志による文書が掲載されましたけれども,そこにおきましては,スリー・ステップ・テストがあるからといって権利制限を厳格に解釈すべきではないとか,立法論として権利制限の「open ended」な一般条項を設けることも一定の場合には許されるというようなことが主張されておりまして,これも参考になろうかと思います。いずれにしても,この点は今後も検討すべき課題であると考えております。
 なお,フランス法におきましては,122―5条2項に「特別の場合」を除いたツー・ステップ・テストが明文化されているところではございますが,詳細につきましてはまた駒田先生にもお話を伺ってみたいと思います。
【土肥主査】
  また機会を得てその点については委員の皆様にはご紹介したいと思いますが。ほかに。
【清水委員】
  一般論としてとても貴重な報告書だということは各委員がおっしゃられたとおりで同じなのですが,細かいところをご質問させていただきたいと思います。上野先生がご指摘になられている102ページのところで,下のほうに裁判官への緩やかなコントロールというところが書かれていまして,そこのところを拝見しますと,あらかじめ考慮要素を明示しておけば裁判官が柔軟な判断ができるし,法的安定性と具体的妥当性を兼備したことになるだろうとおっしゃられています。俎上に上げられる身としましては,まさにおっしゃられるとおりだと考えております。その場合に,あらかじめ考慮要素を明示しておけばという点なのですが,どういう形のものがいいのではないかということ,どのような考慮要素というのが大事だということが,ご議論があったとすれば教えていただきたいと思います。
【上野委員】
   権利制限の一般条項を設けるとした場合,具体的にどのような考慮要素を掲げるかということにつきましては,非常にさまざまな選択肢があろうと思います。余りにも具体的な要素を掲げますと,明確にはなりますがそれだけ硬直的・形式的になってしまいますし,逆に,抽象的な要素を掲げると,自由度は高まりますがそれだけアドホックになりかねませんので,そのあたりのバランスが重要であろうかと思います。
 具体的な考慮要素につきましては,もちろんアメリカのフェアユース規定におけるような4つのファクターもさしあたり参考になろうかとは思います。ただ,そこで挙げられている要素のうち,例えば「潜在的市場に対する影響」といった要素を我が国の侵害判断においても考慮すべきかどうかということは問題になりそうです。これはそもそも日本版フェアユース規定というものをどのような趣旨で設けるのかということに深く関係しているのではないかと思われます。
 また,条約上のスリー・ステップ・テストに掲げられているような,著作物の通常の利用を妨げるかといった点ですとか,著作者の正当な利益を不当に害しないかといった点も参考になりましょう。
 ただ,日本法の立法論という観点から,既に現行法にみられるもっとも違和感のない考慮要素といたしましては,「著作物の性質並びにその利用の目的及び対応に照らし……」というものが,例えば同一性保持権に関する現行法20条2項4号に掲げられております。このような要素は当然考慮されるものを掲げているだけかもしれませんけれども,このような考慮要素が掲げられてるだけでも,裁判官は,問題になっている著作物がどのような「性質」かを考慮しなければなりませんし,また利用の「目的」やその「態様」を考慮しなければならないということになりますので,せめてこういった考慮要素を掲げるだけでも,判決の明確性には資するのではないかと考えております。もっとも,具体的な規定ぶりにつきましては,本研究会で詳しく検討できておらず,今後の課題になっております。
【大渕委員】
  先ほど少し質問が長くなるので後回しにしてしまいましたけれども,何を主に念頭に置いておられるかというのが若干わかりにくいところがあるように思います。6ページ以下の現実面を見ますと,先ほどのビデオライブラリーとか,非常に細かいものも含めて書いておられますけれども,主にはこういう点に重点が置かれているのか,それとも今後何が起きるか予想できないような新たな技術の発展に対応できるような,いわば個別の権利制限規定を設けることではカヴァーしきれないようなところに対処することにむしろ重点があるのか,このどちらをメインに考えておられるのかということが若干わかりにくいと思います。といいますのは,この点が次の質問にも関連するところなのですが,権利制限の個別規定を全廃して一般条項だけにするというのは余り現実的でないので,仮に権利制限に関する一般条項を導入することになるとすれば,多分,個別規定は残しつつ一般条項も加えるという方向で考えておられるのではないかと思うのですけれども,そういう観点からすると,6ページ以下で挙げておれられるのは,典型的には43条自体をどうするかも含めて,個別規定の見直しとあわせてトータルで考えていかないといけない,一般条項だけ視野に置くのではなくて,両方トータルとしてどういうふうに権利制限規定を組んでいくかという,トータルな法的枠組みとして考えなければいけないように思うのですが,この報告書としては,個別規定との関係のほうには余り焦点が当たっていないように見受けられますが,その辺どういう考えでこれを全体的に構成されておられるか,お伺いできればと思います。
【上野委員】
   確かに第Ⅰ章のところではかなり細かい事例を多数挙げておりますので,今回の「日本版フェアユース」はもっぱらこういうケースを救済することを想定しているようにみえるかも知れません。
 ただ,権利制限の一般条項をどのような目的で設けるのかという点は,論者によってとらえ方がかなり違うのではないかと思われます。
 一般的にいえば,一般条項というものは「多様性」に対応することができるとか,あるいは「変化」に対応することができる,という二面性があると思うのですけれども,どちらかといえば前者にしたがって,先ほどのように細かい事案に対応するために一般条項を設けるべきだという考え方もあれば,後者にしたがって,将来何があるかわからないから,そのような将来の変化に対応するため,事後的な個別規定の整備よりも,事前に一般条項を持っておくべきだという考え方もあるのではないかと思います。この両者は必ずしもはっきり分けられないかもしれませんけれども,いずれにしましてもさまざまな見解がありますので,本報告書ではそうした議論があるという問題提起にとどめております。
 その上で,さらにご指摘いただきましたのは,一般条項を設けるとしても個別規定を全廃するというわけではないのだろうから,今後も個別規定の整備というのは重要なのではないかというようなご指摘だろうと思いますけれども,それはまさにおっしゃるとおりでありまして,その点が報告書ではっきり出ていなかったとすれば私の責任でありますけれども,個別規定を今後も整備し続けていくということは,仮に一般条項を設けるとしましても,なお大変重要なことだと考えております。
【土肥主査】
  ほかにございますか。
 一つよろしいですか。結局重要な話としては,瑣末な著作物の利用の問題と新しいビジネスモデルへの萎縮効果,このところが非常に重要になるのだろうと思うのですけれども,例えばアメリカのフェアユース規定があることによって,例えばロー・アンド・エコノミストあたりの分析では,米国107条がどういう役割を果たしてきたのかということについて,先ほどの上野先生の研究会でも議論が出たのかなというふうに思うのですけれども,その点はどうなのでしょうか。そういう分析あるいはそういう議論の一端等はあったのでしょうか。
【上野委員】
  研究会の回数も限られておりまして,毎回お互いの原稿を持ち合ってどういう構成や内容にしようかといった調整に時間をとられておりましたので,正直申しまして余り中身については議論できていないのですけれども,ただいまご指摘がありましたように,特にアメリカのフェアユースに関する議論の中では,そこに法と経済学的な視点をどれくらい採用するかということをめぐっていろいろと議論があるようであります。この点に関しましては報告書では村井先生が最近の議論についてご紹介いただいておりますので,その限りでは議論をいたしましたけれども,我が国が一般条項を設けるとした場合に,そうしたアメリカの議論からどのような示唆を得られるかということにつきましては,必ずしも十分な検討ができておりません。
【土肥主査】
  よろしゅうございますか。
【村上委員】
  今日は割といろいろなことに触れてもいいということを前提にして話させてもらいます。私の専門にしている競争法の世界とも関係があります。ご承知のとおり,特許権の行使については欧米では強制実施許諾命令が出る事件ということは多数あります。懲罰的に無償で強制実施許諾を命じる事例でもありますし,それから有償でというのは,合理的かつ非差別的なロイヤリティ料率で強制実施許諾を命じるという,そういう事件というのは欧米では山ほど独禁法違反,競争法違反事件ではあるわけです。ところが,著作権に関する強制実施許諾に関する競争法違反というのは,これだけきつくやっているアメリカ反トラスト法についても,アメリカではほとんど出ていません。かなりのところはこの著作権法上のフェアユースが,公益確保なり公共政策の観点からの手当てになっているのではないかと考えています。というのは,ヨーロッパを見ると,EUの競争法は結構積極的にやっていまして,1990年以来各加盟国の著作権の強制利用許諾を命じた事例というのは数件出てきています。その辺がそれぞれの国の法制と絡みになっているなという気はいたします。ただ,競争法違反で,市場における競争制限効果の問題になる事件というのは非常に限られた事件なので,この議論にダイレクトにどうこうするというほどの話ではないかと思いますが,その辺のぐらいの関連はあるのかなという気がいたしております。
【土肥主査】
  大変たくさんご意見をお出しいただきまして,活発な意見の交換ができたと思います。よろしければ意見交換はこれぐらいにいたしまして,権利制限の一般規定に関する今後の審議の進め方につきまして,事務局から説明をいただければと思います。
【池村著作権調査官】
   権利制限の一般規定に関する今後の進め方ですけれども,事務局といたしましては,本件重要な検討課題であり,先ほど来委員の皆様より慎重な検討という意見も頂戴しておりますことから,まずは次回以降何回かに分けまして幅広くさまざまな角度から関係者よりヒアリングを実施してはどうか,このように考えております。そして,そこであらわれた問題点や課題などを,先ほど上野委員からご説明いただいた研究会のご報告内容等も踏まえまして,委員の皆様で幅広く意見交換をしていただき,それをもとに事務局で論点整理をさせていただく,このような進め方を当面考えております。個別具体的なヒアリングの対象先につきましては現在検討中でありまして,今後主査とも相談の上決定したいと考えておりますが,一案としまして,本日配布資料7に現時点での事務局素案,たたき台を簡単にまとめてございますので,こちらをご覧いただければと思います。配布資料7に記載しましたとおり,現段階におきましては,関係権利者団体として著作権・著作権隣接権関係団体,利用者関係団体として教育関係団体,図書館関係団体,障害者福祉関係団体,産業関係団体,消費者団体等,なおこのうちの産業関係団体につきまして,例えばインターネット関連事業者といった関連事業者の団体を考えております。また,3番の有識者につきましては,既に一般規定について具体的な提言を発表されている有識者のフォーラムや研究会が幾つかあるようですので,そういったフォーラム等からのヒアリングや,法曹関係団体として,例えば日弁連からのヒアリング,そしてその他有識者として,例えば法社会学や,先ほど村上委員よりご提案ありましたような比較法の観点,あるいは経済学といった,関連すると思われる学問分野における有識者のヒアリングが考えられるのではないかと考えております。
 最後に,4のその他ですけれども,現時点で事務局として特に具体的な対象分野を想定しているものでは必ずしもありませんけれども,この1から3に限定することなく,できるだけ幅広い角度から多面的なヒアリングを実施してはどうかと考えているものであります。
 事務局からは以上でございます。
【土肥主査】
  ただいまの事務局の説明につきまして,ご意見がございましたらお出しいただければと存じます。事務局の提案では,慎重に各関係者,関係団体広く意見を聴取したい,そういう進め方を提案しているわけですけれども,いかがでございましょうか。
【森田委員】
  ヒアリングという場合に,何をヒアリングするかということが問題となると思います。つまり,従来ですと,具体的な問題があって,この特定の問題についてどうするかということになるのですけれども,先ほどから出ていますように,日本版フェアユース規定とはどういうものかということについてはイメージがさまざまあって,それが不明確なまま――それについて確定的な意見をお持ちの方にこういうのがよいのではないかというご提案をいただくのはあり得るかと思いますけれども――,フェアユース規定を導入したらこれについてどう思うかといったときに,どういうものができるかというイメージが漠としたまま意見聴取をしても話がすれ違う可能性があると思います。したがって,何かヒアリングをするにしても,もう少しその前提,今日のご報告の中にも仮に入れるとしたらこういうタイプのものが考えられるとか,いくつかの考慮要素が上がっておりますので,そのあたりをある程度整理してから進まないと,漠然とヒアリングをしても,話がかみ合わないままぐるぐる回ってしまって,それが終わったところで,方向性が見えてこないということもありえます。そのあたりのヒアリングと,それから議論の整理というのをどういう組み合わせで進めていくかについても,あわせてご検討いただければというふうに希望いたします。
【川瀬著作物流通推進室長】
  審議のとりまとめに当たっては,一般に中間まとめというものを必ず審議会でつくりますので,中間まとめを踏まえた上で意見募集をする。場合によってはそれに対してヒアリングをするというのが従来から審議会の報告書の過程で行われていると思います。当然その措置は私どもも想定しておりますから,そのときにはある程度具体的に焦点が絞られた課題に対してご意見を伺うということになろうかと思います。私どもが提案しておりますのは,まず,最初の段階で,先ほど池村から説明がありましたように,この問題につきましては,昨年11月の知財本部の提言,それから関係の有識者の団体やフォーラムというようなところから日本版フェアユースについての考えというようなものがさまざま出ておりますので,ある程度論点が整理されたと考えておりますが,とりあえず現在提言されているような,そういった内容を踏まえた上でご意見をお聞きして,ある程度この委員会で焦点を絞った形にした上での改めてのヒアリングは別途考えていきたい。そういうような段取りといいますか,そういう考え方で提案をしているということでございます。
【土肥主査】
  そのような形でご異論がなければ進めたいと思いますけれども,よろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

 
  それでは,ヒアリングにつきましては,当面はある程度この問題について意見の絞り込みを行っている,そういう団体について意見を伺っていく,そういうことにしたいと存じます。具体の団体については,先ほど事務局からもございましたけれども,事務局と私で考えさせていただきたいと思いますので,どうかご一任をいただければと思います。よろしくお願いいたします。
 本日は第1回目でございますけれども,何か特にご意見はございますか。特にはございませんか。
 特段ございませんようでしたら,本日はこのぐらいにしたいと存じますが,事務局から事務連絡がございましたら,お願いいたします。

(4)その他

【黒沼著作権課長補佐】
   次回の日程でございますけれども,委員の皆様方には一度5月下旬でご案内をさせていただいたのですけれども,定足数との関係で日程が確定しておりませんので,また調整してご連絡をさせていただきたいと思います。
【土肥主査】
   それでは,本日はこれで第1回法制問題小委員会を終わらせていただきます。熱心なご審議ありがとうございました。
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