(平成21年第3回)議事録

1 日時

平成21年7月24日(金)13:00~15:07

2 場所

グランドアーク半蔵門 4階 富士(西)

3 出席者

(委員)
青山,上野,大渕,小泉,末吉,多賀谷,茶園,筒井,道垣内,土肥,中山,前田,松田,森田 の各委員
(文化庁)
合田文化庁次長,戸渡長官官房審議官,永山著作権課長,ほか関係者
(説明者)
  1. 1.日本弁護士連合会
    椙山 敬士(日弁連知的財産センター委員・弁護士)
    龍村全(日弁連知的財産センター委員・弁護士)
  2. 2.財団法人デジタルコンテンツ協会
    大橋 正春(財団法人デジタルコンテンツ協会 コンテンツに係る知財創造サイクルの好循環に資する法的環境整備に関する調査研究委員会 委員長・弁護士)
  3. 3.著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)
    太下 義之(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター主席研究員/センター長)
    福井 健策(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム 世話人・弁護士)
  4. 4.デジタル・コンテンツ利用促進協議会
    岩倉 正和(デジタル・コンテンツ利用促進協議会 事務局長・一橋大学大学院教授・弁護士)
  5. 5.ネットワーク流通と著作権制度協議会
    斉藤 博(ネットワーク流通と著作権制度協議会 会長 新潟大学名誉教授・弁護士)
    早稲田 祐美子(ネットワーク流通と著作権制度協議会・権利制限の一般規定に関する分科会 会長・弁護士)

4 議事次第

  • 1 開会
  • 2 議事
    • (1)権利制限の一般規定について(有識者団体よりヒアリング)
    • (2)国立国会図書館法の一部改正について
    • (3)その他
  • 3 閉会

5 配布資料一覧

資料 1
資料 2
資料 3
資料 4
資料 5
資料 6
参考資料 1
参考資料 2
参考資料 3

6 議事内容

【土肥主査】
定刻でございますので,ただ今から文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第3回を開催いたします。
本日は,ご多忙の中ご出席をいただきまして,誠にありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましてですけれども,予定されておる議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
議事に入ります前に,委員の交代について,事務局から報告をお願いいたします。
また,事務局に人事異動がございましたので,そちらも併せて紹介をお願いしたいと存じます。
【池村著作権調査官】
それでは,まず委員の交代についてご報告申し上げます。
本日はご欠席ですが,本日付で,森本委員に代わりまして,法務省刑事局参事官の中村芳生委員にご就任いただいております。
続きまして,事務局の人事異動についてご紹介いたします。
まず,7月14日付で文化庁次長に着任しております,合田隆史でございます。
【合田文化庁次長】
合田でございます。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
続きまして,同じく7月14日付で,文化庁長官官房審議官に戸渡速志が着任しております。
【戸渡文化庁審議官】
戸渡でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
続きまして,同じく7月14日付で,著作権課長に永山裕二が着任しております。
【永山著作権課長】
永山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
続きまして,7月21日付で,著作権課課長補佐に壹貫田剛史が着任しております。
【壹貫田著作権課課長補佐】
壹貫田でございます。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
最後に,7月1日付で,国際課国際著作権専門官に吉田敦子が着任しております。
【吉田国際著作権専門官】
吉田でございます。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
以上でございます。
【土肥主査】
それでは,議事に入りますけれども,初めに,議事の段取りについて確認をしておきたいと存じます。本日の議事は,(1)権利制限の一般規定,(2)国立国会図書館法の一部改正の2点でございます。
最初の(1)権利制限の一般規定につきましては,既に提言を公表されている有識者の団体の方々から,それぞれ提言内容について説明をいただいて質疑,さらには議論を行いたいと存じます。
それから,(2)の国立国会図書館法の一部改正につきましては,今期の国会で成立したと聞いておりますので,事務局からこの法律の概要について説明をいただきたいと思います。
まず,事務局から,配布資料の確認と出席者の紹介をお願いいたします。
【池村著作権調査官】
お手元の議事次第の下半分,配布資料一覧をご覧ください。
本日の配布資料ですが,資料1から6までと,参考資料として1から3までございます。資料2から資料5までにつきましては,報告書等の本体とそのダイジェスト版のパワーポイント等の2つのセットとなっております。
資料5につきましては,先ほど,団体の概要についての1枚紙を追加しております。資料6につきましては,法律の概要と新旧対照表のセットでございます。
以上,過不足等ありましたら,事務局までご一報ください。よろしいでしょうか。
それでは,参考資料2をご覧ください。
本日のヒアリング出席者についてご紹介させていただきます。
まず,日本弁護士連合会から,知的財産センター委員であります,弁護士の椙山敬士様であります。
同じく弁護士の龍村全様でございます。
続きまして,財団法人デジタルコンテンツ協会から,同協会のコンテンツに係る知財創造サイクルの好循環に資する法的環境整備に関する調査研究委員会委員長であります,弁護士の大橋正春様でございます。
続きまして,著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムから,三菱UFJリサーチ&コンサルティング,芸術・文化政策センター主任研究員・センター長の太下義之様でございます。
続きまして,同フォーラムから弁護士の福井健策様でございます。
続きまして,デジタル・コンテンツ利用促進協議会から,同協会事務局長の弁護士,岩倉正和様でございます。
最後に,ネットワーク流通と著作権制度協議会から,同協議会会長であります,新潟大学名誉教授・弁護士の齊藤博様でございます。
同協会,権利制限の一般規定に関する分科会会長の弁護士,早稲田祐美子様でございます。
以上でございます。

(1)権利制限の一般規定について(有識者団体よりヒアリング)

【土肥主査】
それでは,早速(1)の議題に入りたいと思います。
(1)の議題につきましては,この議事の進め方ですけれども,本日出席いただいております有識者団体から,1.日本弁護士連合会,2.財団法人デジタルコンテンツ協会,3.著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム,4.デジタル・コンテンツ利用促進協議会,そして5.ネットワーク流通と著作権制度協議会の順に,提言内容につきまして,恐縮ですけれどもそれぞれ10分程度で,続けてご説明いただきたいと存じます。その後に,まとめて質疑応答を,そして議論の時間をとりたいと思っております。
このような進め方で進めていきたいと思っておりますので,よろしくお願いをいたします。
それでは,まず日本弁護士連合会の椙山様,龍村様,どうぞよろしくお願いいたします。
1.日本弁護士連合会
【椙山氏】
椙山から,まず説明させていただきます。
日弁連の去年11月18日付で出しました意見書,資料1ですが,これについてご説明いたします。まず,私から簡単に経過をお話しして,その後,龍村弁護士から内容の説明をするという段取りにいたします。
日弁連の中には,知的財産関係につきまして,2つの委員会がありまして,1つは従前からあるもので,知的財産制度委員会というものです。もう1つは知的財産政策推進本部というもので,これは政府の知的財産戦略本部の動きに対応するために日弁連の中に設けられたものであります。現在は,この2つの委員会が合併して,知的財産センターということになっております。
この意見書の当時には,両方の委員会がありました。本件は,まず制度委員会の方で我々2人のほかに,あと2人の弁護士が担当してたたき台を作りました。それから,制度委員会及び推進本部の両方で,二,三回議論をして成案とし,2008年11月13日に執行部であります正副会長会の承認を取り,18日に執行されたと,こういうことになっております。
私は,この制度委員会に出ておりまして,委員は35人ほどおりますが,案件によっては相当に意見が分かれることもあるのですが,本件については割にすんなり通ったという印象であります。
それでは,龍村弁護士から内容のご説明をいたします。
【龍村氏】
お手元の資料1が,2008年11月18日付で日本弁護士連合会から出された意見でございます。意見の趣旨は,著作権を取り巻く環境の激変,著作物の利用の態様の著しい多様化に対応し,迅速かつ適切な法的処理を可能とするため,著作権法第二章第三節第五款「著作権の制限」中に,一般的包括的な権利制限規定を設けるべきであるという内容でございます。
ただ,立法に当たっては,問題となる点が多々あり,これにつきましては十分な検討が必要であるということを前提として,論点出しといいましょうか,幾つかの論点の指摘を取りまとめた内容となっております。
当時の意見の趨勢だったと思いますが,現状の著作権法の中では,著作権の保護と利用についての様々な利益調整を行うための「場」といいましょうか,法文上の条項が少なく,非常に硬直なために,議論の余地が持てないので,より柔軟に「法的議論」を行える手がかりを設けることが必要ではないか,という観点があったのだろうと思います。
意見の理由の骨子等は,資料1のとおり,簡潔な内容ですので,ご覧いただければ,おおよそその全貌はご理解いただけるかと思いますが,かいつまんで申し上げます。
その必要性の点につきましては,第2,意見の理由の1.(2)にありますように,著作権法が置かれている状況が,個別的権利制限規定により利益調整を行うことで事足りた時代と,現在の環境とがかなり異なって来ているということです。当時は,立法形式としてこのような個別的制限規定でさほどの不便はなかったと思われますけれども,デジタル化・ネットワーク化に代表されるような技術の著しい発展など,著作権を取り巻く環境の激変により,立法時,予想されていなかったような事象が次々に発生するという事態を迎えて,個別的権利制限規定のみで適切な処理を行うことは限界に来ているのではなかろうかという点です。
もちろん,個別的制限規定の改正で対応することも可能なわけですけれども,その利害関係調整に非常に時間がかかるという点,あるいは結論が画一的なものとなり柔軟性に欠けることになるのではないかという点,環境の変化の方がさらに動き,個別的制限規定の改正自体がそれに追いつかないことになってしまう,そのような点を指摘しております。趣旨としては,これら個別的制限規定で対応できない部分を,一般条項を通じて,より柔軟な運用を図ることができないであろうかという問題意識です。
同じことになりますけれども,2ページ目の(3)で述べているように,従来型の事前規制型,あるいは事前の利害調整型の個別的制限法制では,現実との乖離が生じてしまい,法制度として機能が十全なものにならないのではないか,というような観点がこの意見の論拠となっております。もちろん,このような一般的権利制限規定の立法については慎重に考えるべきであるとする各方面の意見もありますので,そのような見解につきまして,2ページから3ページに掛けてコメントしております。
4ページ以降に,立法するとした場合,考慮すべき論点の指摘を行っております。
1つは,規定を設ける場合の規定振りとしてどのようなものが適切なのか,受け皿的一般条項にするのかといったような,立法技術の問題があるという点でございます。
2点目に,保護範囲の問題として,ドイツ法の自由利用,相関関係説いう考え方をどのよに考えるのか,という点も論点に挙がっているということでございます。
3点目に,表現の自由との関係の問題,それから,検索手段の提供に代表されるような「社会的有用性」のあるものを,こういった一般条項の中で対応すべきものとして取り入れるべきなのかどうか,という論点を指摘しております。
4点目としては,背景的利用あるいはリバースエンジニアリングなどに代表される,従来より結論的には利用が許されると解されていたようなもの,こういったものについてどういうふうに規律するのかという点です。
5点目といたしましては,ネットワーク等の関係において,アメリカ法のセーフハーバー条項のような規定を,この際考えるべきかどうか。
それから6点目といたしましては,30条の私的利用との関係を指摘しております。この点は30条の規律を従前通り存置すべきとしております。
7点目といたしましては,著作者人格権との関係,特に50条のあり方についても議論をする必要があるのではないか,という点も指摘しております。
最後に,一般的権利制限規定を設けることになった場合,公平上何らかの手当て,例えば一例ですが,補償金などの支払いを裁判所が命ずるというような規定も検討しておくべきである,と指摘しております。
以上で,簡潔ですが,ご報告させていただきました。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,続きまして,財団法人デジタルコンテンツ協会,大橋様よろしくお願いします。
2.財団法人デジタルコンテンツ協会
【大橋氏】
大橋でございます。
デジタルコンテンツ協会及び私どもの委員会につきましては,レジュメがございますので,それをご参照していただきたいと思います。
この委員会では,平成20年度のテーマとして,フェアユース規定を取り上げて調査研究を行い,本年3月,報告書をまとめました。報告書は,資料として既に提出しております。
本日は,その報告書を基本に意見を述べさせていただくわけですが,報告書にも記載してあるとおり,委員会として一定の結論をまとめたものではなく,執筆者が委員会の議論を基に,各自の責任においてまとめたものです。先ほど報告された椙山先生も委員として執筆されていますが,委員の中にも意見の違いがあったということです。
したがって,本日の発表は,委員会としての意見というより,委員会の意見を背景にした私個人の意見として発表させていただくとものとしてご理解いただきたいと思います。
この委員会では既に上野先生を中心とする「著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会」のご報告がされたと思いますが,私どもの問題意識はこれにかなり近いものです。上野先生をはじめ,奥邨先生,駒田先生も私どもの委員会のメンバーですので,共通する部分が多いということも,予め申し上げておきます。
最初に,委員会のほぼ共通の認識となったのは次の点です。著作権法に規定された制限規定に形式的には該当しないが,黙示的あるいは共通の認識として侵害行為に当たらないとされていたものがかなりあったと思います。これについては,従来は誰も問題にしなかったし,今後も直接法律的に問題とするものは少ないかもしれません。しかし,例えばコンプライアンスということが問題になったとき,知財・法規部門に対して,コンプライアンス上どうかとの質問が投げかけられることが考えられます。その場合,何らかの根拠規定がないと,単に問題がないでしょういうことでは,企業,特に大企業の場合には,先に進むことが難しいと思われます。したがって,こうした意味,つまりいろいろな環境の変化に対応して,従来問題とされていなかったものについて根拠規定を与えるという形のものが必要であるという点は,委員会の共通の認識でした。
ただ,これをどういう形で実現するのかという問題は残ります。包括的な規定であることは当然の前提ですが,フェアユース型の規定とするのか,あるいは従来の権利濫用や信義則という規定を何らかの形で拡大するのか,これは立法を考える上での,さらなる検討要素であると思います。
以上は,ある意味の消極的なフェアユース論というようなことになりますが,これだけではなくより積極的な形でフェアユースを認めていこうという議論があると思います。
この点については,私はどちらでもよい,つまりどちらもあり得るだろうという立場ですので,どちらかの立場に立って意見を申し上げるものではないとご理解いただきたいと思います。
しかし,積極的なフェアユースを認めるという立場に立つとすれば,従来の著作権法との関係をどのように考えるのか,著作権法の目的条項等を改正する必要があるのか,他の法律との関係はどうかという点について,理論的な検討が必要ではないかと考えております。
まず第1は,フェアユースはご承知のように,基本的にはアメリカの制度のわけです。著作権に関わる問題は各国に共通なものが多く,アメリカや日本で問題となっているものについては,ほかの国でも問題になっていることが考えられます。その場合,フェアユース規定を持っていない国が,こうした問題をどう解決処理しているのかという点は,もう少し検討が必要ではないかと思います。私どもの委員会でも若干の検討を行いましたし,上野先生の研究会でもその点の調査をされておられますが,やはり短い時間で行ったこともあり,また現地の専門家の意見を直接聞かないと分からないところもあるので,この点はもう少し考える必要があるのかなと思います。
第2は,憲法上果たして問題があるのかないのか,つまり憲法論についても考える必要があるのではないかということです。
著作権は,法律によって創設された権利だから,どう制限してもよいというのも一つの考え方かもしれませんが,いささか乱暴に過ぎるという気がいたします。従来の制限規定は,基本的には何らかの公益性,公共性というもの前提にするか,あるいは著作権者と創作者の表現の自由という,基本的人権間の相互の調整を前提にしていたわけです。フェアユースをより積極的に認める場合に,私的利益のための使用を認めることにならないのかという問題です。憲法上は,例えば公共道路とするために土地を収用することは認めるが,隣地に大規模の私的施設を作るために収用することは私的使用を認められませんが,こうした有体物の規制との関係をどう理解するかということも,少し考える必要があるのではないかということです。
それから,利用者の利益との調整を,著作権法で行おうとした場合に,現在の著作権法の目的と,あるいは著作権法について従来の理解と異なったことをやることになるのかどうかということです。別に異なったことをやっても構わないわけですが,異なることをやるのだとすれば,それに従って,例えば目的条項の変更が必要であれば目的条項を変更するといったような検討が必要にならないのかということです。
例えば,ビジネスモデルの議論は,ビジネス間の問題ですから,不正競争的な要素を含むわけです。アメリカの著作権法はご承知のように,不正競争的な側面を持っているわけです。その意味では,ビジネス間の調整という機能というものが,果たしやすい要素を持っているわけです。日本の著作権法は,従来はそのようには理解されたいなかったわけですが,これをそうした方向に変えていこうとするのかという問題です。もし変えていくとするならば,例えば目的条項について変更が必要になるのかなども,検討する必要があるのではないかと思います。
法理論的な問題としては,アメリカ法のフェアユースは衡平法を前提としているとされていますが,日本には衡平法の伝統はないわけです。それに代わるものとして,フェアユースを根拠づけるものが何かを考える必要があるのではではないかということです。
いずれにしても,別に結論があるわけではありませんので,こうしたことを検討していただきたいとお願いしているようなものです。最後にフェアユースを導入した場合に考えられる具体的な問題を幾つかあげてみたいと思います。
一つは,個別的制限規定との関係をどう位置づけるか,個別的制限規定が条文にあるものについてのフェアユースの適用をどう考えるかということです。特に,現行の制限規定の中には,使用を許す反面として,一定の補償金の支払いを命ずるというものがありますが,これらとフェアユース規定との関係をどう考えるのかということです。
それから,アメリカのフェアユースは補償金の支払いがない,絶対的な利用を前提としておりますが,日本もこの形をとるのか,あるいは,フェアユースを認める場合に,補償金についてもフェアユース規定の中に定めてしまうのかということも,検討課題です。
更に,フェアユース規定の実効性をどう確保するかが,実務的には重要な問題になると思います。判例の集積を待つということもありますが,日本の場合にはこれはなかなか期待できません。そうすると,それに代わるものとして,具体的な指針をどのように提供するかが問題となります。一般に企業はどうしても安全サイドに動くことになりますので,具体的な指針がないと,フェアユースが実際には働かないということになります。フェアユース規定は,抽象的であるから意味があるわけで,それついて具体的なものを要求するのは,矛盾するわけですが,その矛盾をどう解決するかが,実務的には一番の問題だと思います。
以上,先ほども申し上げたように,勝手なことを申し上げているだけで,具体的に何をするという提案はないわけです。専門家を中心とするこの委員会では,こうした点について十分ご検討していただきたいという,お願いという趣旨で発表させていただきました。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,続きまして,著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム,太下様,福井様,どうぞよろしくお願いいたします。
3.著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)
【福井氏】
本日は,お招きいただきましてありがとうございました。
保護期間の延長問題を考えるフォーラムとして,本日は,発起人である太下義之と世話人である福井健策から,求められましたフェアユースについて意見を述べさせていただきます。これは,昨年10月30日に発表しました,保護期間延長問題と創作流通促進に関する共同提言に関するご説明となります。
私どものフォーラムは,ご存じの保護期間の延長問題に関連しまして,2006年11月,各ジャンルの創作者,実演家,そして研究者,それから事業者,法律家などによって結成され,その後,保護期間延長問題を中心に,ネット中継による公開討論を重ねてまいりました。
こうした議論を重ねる中で,単に保護期間延長の是非を論ずるだけではなくて,あるべき創作振興,文化振興の姿について,自分たちの意見を述べるべきではないかという意見が内部で高まりました。そこで,お手元の資料で言いますと3ページ目に当たります,プロジェクトチームというものを立ち上げ,内部の議論をいたしました。その後,フォーラム内部で賛同者を募り,昨年の10月30日に公表いたしましたのが,皆さんにお配りしております,有志81名による共同提言ということになります。
この有志81名の顔ぶれについては,提言書本体の方の4ページ目から6ページ目をご覧いただければと思います。パワポの資料ではなくて,提言書本体の4ページ目から6ページ目です。
さて,提言としてどのようなことを申し上げたかと言えば,まず問題意識です。現在,著作物,作品の無断利用の拡大に対する創作者の危惧は高まっております。他方,権利処理の困難さによる文化活動やビジネスの停滞,こうしたことへの不満も高まっているように思えます。これらの背景には,著作物を適正な手順で利用でき,また利用による利益が正当に創作者側に還元される仕組みが未整備であることが横たわっているのではないか。
このような仕組みがないままに,法律上の著作権のみをこれ以上拡大強化したとしても,それは創作者の活動の支援には十分とはならず,かえって著作物の流通する可能性が狭まることによって,創作者に不利益になる場合もあり得るだろう。
他方で,多様な文化活動やアーカイブ活動,新規のビジネスが妨げられる利用者側のジレンマも根強く,現状は双方にとって不幸な状態ではないか,これを何とか解消できないかということが問題意識です。
こうした問題意識に基づいて,提言としては4点を申し上げました。
第1点は,保護期間についてですが,保護期間は延長すべきではない。著作権や文化法制を通じて,創作者や社会のために真にすべきことは別にあるはずで,これを検討しようと,これが第1の提言でございます。
そして,パワーポイントの資料で言うと,5枚目をおめくりいただければと思いますが,図案にまとめさせていただきました。提言のその2といたしまして,法的に許諾が不要な領域を現実に即してもう少し充実させるべきではないかということから,日本版のフェアユース規定を速やかに導入すべきだと,これを申し上げております。
また,提言のその3といたしまして,これはさらに2つに分かれているのですが,法的な許諾が必要な領域でも作品の利用の促進を図るために,PCSと名づけました,任意登録での作品の非営利の利用促進の仕組みを提案いたしております。これは本日,詳細は省かせていただきます。
また,許諾が取りやすいよう,権利情報をさらに拡充すべきだということで,権利情報データベースの相互接続も提案いたしました。
提言の4本目の柱といたしまして,現在創作や文化振興という点において,著作権がその役割を担うのは必ずしも適当ではないような役割まで,著作権に期待されてはいないか。こういう問題意識から,著作権だけには依存しないような創造の支援策,これの一層の充実を提案いたしております。例えば,アーツ・カウンシルを通じた透明かつ柔軟な創作支援とか,あるいは現在まさに社会的問題になっております,芸術家社会保険制度の公的な拡充,こういったことが提言とされています。
この中の,提言のその2として,日本版フェアユース規定の導入を提案いたしているわけです。その背景と必要性については,このような認識です。
現在の個別制限規定では,必ずしも適法とは読み込めないような,しかしながら権利者への悪影響が少ないと思われるような利用,これが随分あるのではないか,そして,それが必ずしも適法と読み込めないがゆえに,停滞・萎縮してしまっているのではないか。ありていに言えば,今の規定の下で現実に困っている事態があるじゃないかということが,いわば日本版フェアユース規定の必要性でございます。
一例を挙げれば,このようなことが議論の中で出てまいりました。写り込み,つまり,映像・写真作品等に背景的に,あるいは偶然に写り込んでしまった,こうした偶然軽微な利用。
あるいは,福祉など公益目的での利用。これはもちろん個別制限規定の充実によって,随分と対応ができるようになっておりますが,必ずしも全てをカバーできていない。
あるいは,文献や映像保存などの面での各種アーカイブ活動。これが常に人,金と並んで著作権,権利が障害になるということは,アーカイブ関係者,一様に述べていらっしゃることかと思います。現状は,かなり危機的な状況ではないかと思います。
また,権利者への経済的損害の極めてわずかな二次創作。例は挙げればいろいろな議論を招いてしまうとは思いますが,例えば現代美術の中ではコラージュ的に,既存の様々な作品をごく少量,小規模に利用する作品が数多くございます。大規模な回顧展が行われた大竹伸朗氏の作品,あるいは横尾忠則氏の作品にすら,そのようなものは数多く見られます。
あるいは,テクノロジーの進展に伴う新規ビジネス。実害はないはずだけれど,必ずしも適法と読み込めないような事態があるじゃないか。一例を挙げれば,もう検索エンジンだけで十分かと思います。もちろん,今般対応ができたわけでありますが。
これらについて,個別の制限規定の改正という形で対応しようといたしますと,どうしても議論はなかなか煮詰まらず時間がかかる。もちろん必要な論争も数多くあるとは思いますが,現実に遅れてしまうことは事実である。こうしたことから,一般的制限規定である日本版のフェアユース規定を速やかに導入することを提言したわけでございます。
導入の課題と方向性を,併せて幾つか指摘させていただきます。まず,こうしたフェアユースは権利者,利用者の利益のバランスを図るものでなければならない。そこでは,権利者側の正当なビジネスモデルを,問題とされている利用が果たして侵食しているのか,実は補完しているのかというような実証的な検討が必要ではないか。また,既存のビジネスを若干侵食する利用だとしても,それを正当化するだけの社会的要請があるのか。
2番目として,フェアユースでは事前の予測可能性がつかないのではないかという指摘については,これは立法の段階で,例えば権利者への経済的悪影響が少ないことなどの,原則的な判断要素を幾つか示すべきであろう。そうしたことを示しつつ,司法の積極的な判断をより一層促す努力によって,予測可能性を高める努力をしていくことは可能ではないか,と考えています。
3番目,条約との整合性は言うまでもありません。
4番目,人格権との関係については整理が必要です。同一性保持権の在り方については,さらなる検討を要すると思いますし,現行法の下ではやむを得ない改変を認める,第20条2項4号の柔軟解釈が検討対象となろうかと思います。
最後に,私どもの提言では,フェアユースの規定あるいは従来の個別規定によって,公益目的で作品が利用されるような場合に限って,公益目的である以上,受益者は社会全体であるはずですから,その社会的な利益を創作者側に環流するための仕組みを導入することを検討すべきである,こういうことを述べております。これは,フェアユースの規定・導入を図った上で,その後の実情を見ながら環流の仕組みを検討すべきであるという趣旨で申し上げております。
となると,当然財源論ということになってくるわけであり,財政厳しき折ではございますが,こうした議論は文化予算あるいは文化行政の適正サイズの議論と結び付きます。文化予算の一層の拡充が必要ではないか,ということを問題意識として持ってございます。
この文化行政のリソース配分という点について,更に付言をさせていただきますと,テクノロジーやビジネス,社会の変化のスピードは増すことがあっても減速することは当面はないと予想されます。こうした変化に対して,今後も個別の制限規定の改正だけで対応し,しかもはるかにタイムリーに対応しようとするならば,著作権分科会,小委員会,あるいはワーキンググループの作業は一層増大することが考えられます。これは,委員の方々の負担も大変だろうとは思いますけれども,事務局としてこれを支える,文化庁著作権課の事務量が膨大になることが予想されます。それが,現在の人員規模で果たして可能なのか,可能だとして望ましいことなのかということを,最後に問題提起させていただきたいと思います。
いわば,こうした作業は,法律を作るお手伝いであります。その負担が余りに大きければ,行政庁の本来的業務とも言える,法の執行面におけるリソースがその分限定されないでしょうか。例えば,著作権登録や裁定,これらの制度はこれまで行政サービスとして,お世辞にも使いやすかったとは言えないでしょう。現に制度はありながら,ほとんど使われてきませんでした。これは大変残念なことです。
今次改正は行われましたが,十分な人員を割いて,運用面で一層使いやすくしなければ,せっかくの制度が絵にかいたもちになってしまう可能性があります。そのような,著作権を権利者や利用者双方によってより使いやすくするための執行面での作業,これは既に行われているものの,今後さらに充実させるべきと考えています。もちろん,立法作業のための事務局機能も今後も重要な業務には違いありません。しかし,個別制限規定の対応で限界がある部分は,無理をしてこれ以上行政庁の負担が増大しないように,フェアユースによる自己責任,事後の司法的な救済・ルール構築に委ねることも必要なのではないか,このような問題意識を最後に提案させていただきたいと思います。
すみません,1点だけ太下の方から。
【太下氏】
1点だけ補足・追加させていただきます。私どもthinkCからの提案におきます特徴の1つとしまして,先ほど挙げた導入の課題と方向性の5.の部分がございます。日本版フェアユースの導入と併せて,フェアユースや既存の個別規定により,例えば図書館,教育,福祉などの公益目的で自由利用された作品に関しては,権利者に対して一定の公益相当分の還元を行うことも検討すべきではないかと,このように提案している点ではないかと考えております。
具体的には,権利者・著作権者に対する公益相当分の支給につきましては,予め任意で登録された著作物を対象として,サンプリングなど手段により調査される著作物の利用料とか,対応に応じて公的な財源から支給するということを想定しています。これは文化振興の点からも非常に重要なことになるのではないかと考えています。
以上です。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして,デジタル・コンテンツ利用促進協議会,岩倉様,よろしくお願いいたします。
4.デジタル・コンテンツ利用促進協議会
【岩倉氏】
デジタル・コンテンツ利用促進協議会の事務局長を務めております,弁護士の岩倉でございます。本日は,当協議会としての意見を具申する機会を与えていただきましてありがとうございます。
デジタル・コンテンツ利用促進協議会は,昨年の9月に本小委員会の委員でもある中山信弘東京大学名誉教授を会長として,法律家のみならず政界,ビジネス界の有志が集まってできた会でございます。
私どもの基本的な意識につきましては,お配りいただいた資料4の別添資料として,今年の1月に公表いたしました当協議会の会長・副会長試案というものを配っていただいておりますが,そちらに詳しく書いてありますので,後ほどお読みいただければと思います。基本的には,高度に発展したデジタル・ネットワーク化時代に対応したデジタル・コンテンツの利用促進を図っていきたいが,なかなか現実にはそれがうまくいっていないことから,これをどうしたらよいのだろうかという非常に強い問題意識を前提といたしまして,別添資料の3ページに書いてありますが,4つの提言を行っております。
1番目は,デジタル・コンテンツの利用に関する権利の集中化を図るべきではないか。
2番目に,権利情報の明確化が図られていないので,それを図るべきではないか。
3番目に,適正な利用を過重な困難なく行い,原権利者に適正な還元がなされる仕組みを作るべきではないかというところであります。
これらの3つの点につきましては,本日の議題ではないと思いますので省略させていただきますが,もう一つ,当協議会が会長・副会長試案において,フェアユース規定を導入すべきであるという提言を行っておりますので,今日はこの部分にフォーカスしてお話をさせていただきたいと思います。
資料4としてお手元に配布されておりますとおり,今日はフェアユース規定の導入に関しまして,パワーポイントをまとめさせていただきましたので,これに従いましてお話をさせていただきます。
パワーポイントの2ページ以下でございますが,既に先ほど来,各有識者団体の方々から指摘されているところと繰り返しになるところがございますので,その部分は省いていきますけれども,現行法下で個別に規定されている権利制限規定は,伝統的に,権利保護という原則の例外として厳格に解釈すべきという方向で運用されてきたと理解しております。そのため,次のような問題が生じています。
つまり,現行の著作権は,デジタル・ネット時代を前提とした法律ではないものですから,デジタル・コンテンツの特性を活かした行為に対応していないという部分が問題として生じているのです。
また,インターネット等の技術の進歩は世界的に非常に速く,従来想定されていなかったコンテンツの利用形態あるいはビジネスが現に出現しておりまして,今後もそれが出現することが期待されています。しかしながら,現行著作権法においては,個別の権利規定制限に該当しない行為につきましては,たとえ権利者の利益を不当に害しないものであっても,これが全て違法となってしまうことが,問題ではないかという意識であります。
次のページに行っていただきまして,これは釈迦に説法ですが,インターネットは世界に張り巡らされているわけでございまして,物理的にどこでビジネスをしても,あるいはサービスを提供しても世界に発信できるわけでありますから,もしインターネットを利用した新たなビジネスが日本でできないのであれば,海外に行ってビジネスをする,あるいはサービスを提供するということが簡単に行われますし,現実に海外に逃避する傾向が見られます。
また,インターネット・ビジネスというのは,時間との競争であります。先行者利益が非常に大きく,国際的な競争が激しい分野であります。著作権法が足かせになりまして,インターネット・ビジネスが日本で興隆せず,その結果コンテンツが利用流通せず,結果的に権利者にも還元されないという事態をどうするのか。これが非常に大きな問題として現実に存在するのではないかと当協議会は意識しております。
そのため,著作物は利用されなければ利益を生まないという観点に立って,いかに,原著作者,創作者に適正な対価を還元するかを議論すべきではないかというのが,私どもの問題意識であります。
次のページに行っていただきまして,それらの問題の解決として,一つは解釈論によるものがあります。しかしながら,この解釈論による解決という方法には当然ながら限界があります。現行法下における裁判所のいろいろな努力,例えば,有名な雪月花事件や,市バス車体絵画事件等の個別の事件において,裁判所も具体的な妥当性を求めて,解釈論の中で解決を図っております。また,権利濫用の法理や黙示的許諾というような法的構成によって,何らかの妥当性を図ってきたというケースも見られます。しかしながら,これらの裁判所における解釈論による救済というのは,時間もかかりますし,コストも非常に高くなります。結局,解釈論による解決・救済というのは,その意味で大きな限界があると我々は認識しております。
次のページに行っていただきまして,個別立法で解決すればよいではないかという議論もございます。今回,先ほどもご指摘がありましたとおり,検索エンジンに関しまして権利制限規定が導入されたことは,大変に意義のある,非常にすばらしい法改正であったと思います。しかしながら,この点についても,皆様ご案内のとおり,検索エンジンが開発されたのは,1994年頃のことであります。それから15年たって,ようやく我が国では検索エンジンが著作権法の上で初めて適法になったという現実をどう考えるかというのが,私どもの重要な問題意識であります。
デジタル・ネット時代におきましては,スピードというものが非常に重要視されております。1年2年というものは,ネットビジネスにおいては,重要というよりは生死を決する時間だというのは,ビジネス界の常識であります。もちろん,個別立法のメリットとして法的安定性が挙げられます。しかしながら,各裁判所がこれまで個別の事件でいろいろ努力されてきた解釈論による補完というものが,そのケースの妥当な解決という観点では良かったのかもしれませんが,むしろ統一した基準に基づかない解釈論になっているのであれば,かえって予測可能性,法的安定性というものを損なっているのではないかと危惧する向きも多くあるわけであります。
解釈論と個別立法によるこのような解決に限界があることを前提といたしますと,権利制限の一般規定,日本版フェアユースと呼ぶかどうかは別ですが,このようなものを早期に導入し,明文の規定を設けるべきであると当協議会は考えております。この流れは,官から民へ,事前規制から事後規制へという流れにも沿っているものだと当協議会は理解しております。
次のページに行っていただきまして,フェアユース規定を導入するとして,規定の仕方についてどのようにするかという点については,いろいろな考え方があると思います。先ほどからも,色々なお考えがご出席の皆様から指摘されております。現在の個別制限規定を残した上で,最後に受け皿的な日本版フェアユース規定を持ってくるという方法が,穏当なのではないかということも議論されています。しかしながら,ここで考えなければいけませんのは,権利制限規定というのは,従来非常に厳格に解釈されてきたという点であります。これは誰もが否定されないところであると考えられますが,同様の解釈論をこの受け皿的な日本版フェアユース,小さいフェアユースという言い方もありますが,これに適用してしまいますと,結局裁判所によって,今後も厳格な解釈が維持されまして,デジタル・ネット時代に対応できないものになってしまうのではないかということを危惧しております。
もし,著作権法で受け皿的なものしか規定できないというのであれば,デジタル・コンテンツの特性に応じたフェアユース規定を,特別法において独立して設けるということも当然考えるべきではないかと当協議会は考えております。
次のページに行っていただきまして,このようなフェアユースの導入の考え方に関しましては,いろいろな疑問,批判が提起されております。そのいくつかは既に,先ほどもいろいろなお話が議論されておりました。代表的なものとしては,日本人や日本企業は法的リスクをとりたがらない傾向にあるから,フェアユース規定を設けても,結局余り活用されないのではないかというものです。しかしながら,積極的にリスクをとるベンチャー企業,あるいは若い次世代の創作者というものは存在します。もし著作権法が,そのような個人あるいはベンチャーの足かせとなってしまっているのであれば,新しい産業そして文化の発展が阻害される事態ということをなくすことは必要なのではないかと考えます。
また,フェアユース規定の導入によって経済的効果がどれだけ上がるのか疑問である,何ら具体的な検証はなされていないという批判もございます。経済的効果が明らかではないという指摘は,確かにそのとおりです。まだ,日本ではフェアユース規定が導入されていないわけですから,実際にどのような経済効果が上がるかは,神のみぞ知るというほかありません。
ただ,例えば,アメリカにおけるケーススタディ,情報通信産業における著名な国際的非営利団体でありますCCIAによる有名な2007年9月12日ペーパーによれば,米国でフェアユース規定の恩恵を受けた産業の売上高は,2006年度で約4兆5,000億ドル,米国のGDPの約6分の1を占め,2002年度から約31%増加したというデータが報告されております。
このフェアユースの規定によってというのは,ここで言うフェアユース規定だけではなくて,フェアユース的な考え方に基づく著作権・コンテンツの利用を全て含んだもののようですので,これが全てフェアユース規定による効果だと私ども協議会としては言うつもりはございません。しかしながら,少なくとも経済的効果が大きく上がることは誰も否定できないのではないかと当協議会は考えています。
次のページへ行っていただきまして,次に,一般条項を設けることは,我が国のこれまでの法体系においてバランスを欠くのではないか,また,アメリカのような裁判例の積み重ねのない日本では裁判官が判断できないのではないかという疑問が呈されております。しかしながら,日本でも,言うまでもなく一般条項的な規定は存在しております。民法上の権利濫用に関する規定等,いちいち指摘するまでもございません。また,日本の裁判官は,従来から「フェア」,すなわち公平・中立・公正という概念を基に各事件を判断しているわけでございまして,フェアユース規定についても判断は十分に可能であると当協議会は考えております。
また,もう一つの大きな批判として,一般条項の導入により,これまで裁判例によって違法であるとされてきた行為が当然に全て適法になるとの誤解等に基づいて,違法行為が増長されるのではないか,また,訴訟コストが増加するなど権利者の負担が増加するのではないかという疑問が呈されております。もちろん,そういう面が全くないとは断定できず,あるかもしれません。しかしながら,具体例としましては,ソニー・ベータマックス事件では,結果的に権利者が権利侵害だと訴えたにも関わらず,アメリカ連邦最高裁がフェアユースの規定を適用いたしまして,ベータマックスのビジネスを合法としたことによって,権利者が莫大な利益を上げるという結果になったわけであります。それが現在のハリウッドの隆盛を支えているといっても間違いないでしょう。
つまり,先ほども申しましたとおり,「著作物は利用されなければ利益を生まない」という観点に立って,いかに創作者に,原著作権者に利益を適正に還元するかということこそがポイントなのではないかと当協議会は考えております。
次のページ以降は,近時の与党,それから政府,知財本部におけるフェアユース規定の導入に関するこれまでのいろいろなステートメントを集めたものでございます。ここではいちいち読みませんけれども,全てフェアユースの導入を早期に検討して早く解決すべきだと指摘しており,この数年,何回も何回もフェアユース規定の導入が議論されているということです。
そこで,最後に当協議会から一つ申し上げたいのは,あえて乱暴な申し上げ方をしますと,確かにフェアユース規定の導入にデメリットがあるのか,問題があるのかを検討することは,非常に重要でありますし,また,我が国では,問題点を一つ一つ考えて,それに対して十分な手当てができるのかということをとかく慎重に検討するのが,これまでの伝統的な立法政策だと思います。しかしながら,フェアユース規定を導入するかどうかというのを,今さら何故ここまで議論しなければならないのかと言っている人間が,私の知る限りは非常に多くいらっしゃるということを申し上げたいと思います。現段階では,何が正しいかどうかを検討する段階はとっくに過ぎていると思います。この時代において,次の世代,未来を見据えたときに,我が国がどの方向にかじを切っていくのか,それを早く決すべきだと思います。
例えば,新しい技術の発展によって可能になるかもしれないビジネスやサービス,あるいは新しいコンテンツモデルの芽をつぶさないためにはどうすべきなのか。新しいサービス,ビジネスモデル,コンテンツが発案されたら,それが日本でもしフェアユース規定がないからできないのであったならば,アメリカに逃してしまっていいのか。そういうことを考えるべきではないかと思います。
そして,こういう議論というのは,とかく私どもの提言も,経済やビジネス,商業主義,こういうことばかり考えていると批判されますけれども,私どもはそう思っておりません。もちろんビジネス,あるいはサービスというものが興隆することは大事だと思っております。我が国全体の国益にとって,それは非常に重要なことだと思っておりますが,何よりも,次世代の,情熱を持ったコンテンツを作ろうとする著作者になろうとする者たちのインセンティブをどうやって増やすのか,あるいはその芽をつぶさないようにするのか,こういうことを我が国は今考えるべきではないのか,そういう時代になっているのではないかと思います。それが,もしうまくサイクルとして回るのであれば,文化の発展にもつながり,また権利者の実質的な保護にもつながるのではないかというふうに考える次第であります。
早急なフェアユース規定の導入を行うべきだと思います。
以上であります。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,続きまして,ネットワーク流通と著作権制度協議会,齊藤様,早稲田様,よろしくお願いいたします。
5.ネットワーク流通と著作権制度協議会
【齊藤氏】
私どもの協議会では,2つの分科会を設けました。そのうちの1つが,権利制限の一般規定に関する分科会でございます。その分科会長である早稲田弁護士から,ご説明をさせていただきます。
【早稲田氏】 
早稲田でございます。本日は,どうもありがとうございました。
まず,私どもの協議会の背景といいますか,団体の内容を簡単にご説明させていただきますと,本日は後ほどペーパーで配られました,1枚ペーパーに書いておりますけれども,コンテンツ創作者,創作流通利用に関する関係業界による著作権実務担当者,研究者,弁護士等で著作権関連ビジネス,ネットワーク関連ビジネス,または著作権制度に関して研究している個人を会員とする任意団体ということでございます。
昨年の11月に発足いたしまして,今ご説明がございましたように,2つの分科会がございます。1つがコンテンツの流通促進方策に関する分科会,もう1つが本日の権利制限の一般規定に関する分科会でございます。
昨年の12月から5回に分けて分科会を開催いたしまして,検討いたしました結果を,本日のペーパーで提言書として配布させていただいております。簡単に,この提言書の方をご説明申し上げます。パワーポイントの方が簡単にまとめたものでございますので,こちらの方をご覧いただきたいと思いますが。
まず,今,縷々ご説明がありましたように,最近の権利制限の一般規定の導入論というのが,技術の進歩とか新たなビジネスモデルの出現に対し,現在の著作権法,特に個別権利制限規定の厳格解釈が適用されている著作権法であれば,それが制限されていて,柔軟に対応できる法制度が必要であろうという議論が出ております。その議論としまして,権利者の利益を不当に害しない公正な利用であれば,許諾なしに著作物等を利用できるようにすべきであろうという意見でございます。
それでは,権利者の利益を不当に害しないというのが,具体的にどういうものかということについて検討しております。検討の方法といたしましては,一つが権利制限の一般規定の導入の是非について,それから仮に導入するのであれば,どのような視点が必要なのかということについて,を検討いたしました。
それから,今まで縷々ご説明がございましたように,今回の権利制限の一般規定につきましては,これはデジタル・コンテンツ,ネットワーク流通についてのいろいろな要請があったということは理解しておりますけれども,権利制限の一般規定を導入するということは,著作権法全体に多大な影響を及ぼすということであるから,著作権法制度全体の観点から導入の是非,導入単位の検討が必要であろうということです。
それから,やはり産業的経済的面からの議論が非常に強いわけでございますけれども,著作物は文化の発展に寄与するという著作権法の目的,それから著作権法上の表現というのが個人の思想,表現の自由という非常に重要な権利と密接な関係を有しているという,人格権的なものからも,それも検討するべきであるという視点があります。
具体的には,パワーポイントに書いてあるとおりですが,まず権利制限の一般規定につきましては,先ほど来ご説明がありますように,形式的違法該当があると。形式的には著作権法の支分権に該当してしまって,かつ個別権利制限規定に該当しないので,形式的には違法になるというところがあるから,これはやはり現実と法の乖離は非常に問題であるから,これについては解消すべきであろうという議論があることは,私どもの協議会においても十分理解されておりまして,これについては一定の妥当性があるだろうという意見です。
しかしながら,現在の権利制限の一般規定につきましては,どういうものが権利制限の一般規定に該当するかというところは,非常に混乱をしているということで,この形式的違法該当性の解消という目的を超えて,ビジネスの萎縮効果を解消するということ,新たな創造的事業への挑戦を促進するというようなご主張もかなり強く主張されていると,私どもは考えております。
そして,これによれば権利者の権利が不当に狭められるのではないかという,大きな危惧があります。この導入による拡大解釈への危惧というものがあるので,これについては導入の必要性自体についても,導入の目的,適用範囲,適用条件,現在の個別権利制限規定との関係等についても,慎重に検討して対応すべきであろうというような提言です。
それから,権利制限の一般規定導入を入れるということは,事後的に裁判による解決,それから裁判以外の解決もあるのかもしれませんけれども,そちらの方にかじを取るということですが,果たして現在の日本の司法制度,著作権法制度のみならず,民事訴訟制度で,この権利者の権利を適切に保護できるのであろうかという危惧が相当強く聞かれたということをご報告申し上げます。
当然,今までお話がございましたように,裁判による事後的解決というのが,個別権利制限規定を導入するよりも早く解決する場合もあると,そういう可能性もあるということを,私どもも理解しております。しかしながら,裁判の場合には,結論の予見可能性の低下,それから法的安定性に欠けるであろうということは言われております。
それから,やはり手続的担保というところで,裁判が全て個別の権利者と利用者の権利の調整に適するのであろうかというところの疑問が指摘されております。一つにつきましては,裁判の民事訴訟法上の我が国の主張・立証責任というもので,全ての条件といいますか,全てのものが一つの具体的な裁判に出るわけではないのではないかという指摘。それからもう一つは,やはり裁判というのは,個別具体的な事案の公平な解決を図るということでありますので,裁判所はその判断においては,普遍的な基準になるというものを示そうとしておられのは,それは私どもも理解しておりますけれども,やはり個々の具体的な裁判において一般的な基準の形成というのは,二次的な機能に過ぎないのではないかと。だから,これを非常に過大視するというわけにはいかないのではないかということです。
それから,権利者側と利用者側という場合に,権利者が非常に大きな力を持っているというふうに理解されているのかもしれませんけれども,個々の権利者はそれぞれ相当経済的にも小さい場合が多いということでして,裁判を遂行することによる精神的,経済的な負担というのが,これを個々の創作者に負わせるということになりますと,かえって創作活動を低下させるのではないかというような指摘がなされております。
それから,やはりアメリカの権利制限の一般規定,日本版フェアユースという場合に,アメリカのフェアユースを念頭に置いておかれる場合が多いと思いますけれども,アメリカの司法制度と日本の司法制度は,先ほど申し上げましたように大きな違いがあるということで,現在の我が国の裁判による損害賠償額というものの少なさとかそういうことを考えると,果たして事後的に権利者が勝訴した場合であっても,それで事後的に全てリカバリーできるのかという疑問が非常に大きく出ております。
たまたま,この検討しているときに,GoogleBook Searchの例等もございまして,これはもちろん種々いろんな問題点があるというのはよく理解しておりますけれども,例えば米国であればクラスアクション制度とか,懲罰的賠償制度とか,ディスカバリー手続等,非常に大きないろいろな手続があるということ。それから,当然アメリカの場合は,相当訴訟費用に関する金額を,大きな金額を負担してでも訴訟で解決しようというバックグラウンドがあるわけなのですが,果たして我が国の現在の状況がそういう状況であろうかというところから考えて,このまま権利制限の一般規定による裁判による事後的解決を図る制度を導入するということは,やはり権利者側の負担が大き過ぎて,実質的な公平性が担保されないのではないかという指摘でございます。
他方,裁判外での簡易迅速な解決手段というのも検討しましたが,ご存じのように今なかなか裁定制度,仲裁制度等,全てそれほど活用されていないというところで,現在においてはなかなか難しいですけれども,今後もし事後的な解決ということであれば,裁判外での簡易迅速な解決手段の検討も必要であろうという意見でございます。
それから,ちょっと長くなりましたが,規定対応についても検討いたしました。規定対応については,パワーポイントの方を見ていただきたいのですけが,米国型のフェアユース規定によって形式的な違法該当性を解決すべきかどうかという議論がございまして,例えばスリーステップテストにつきましても,現在まだ十分な検討がされていないであろうし,米国のフェアユースではなくて,英国のフェアディーリングのような目的を絞るべきであろうとか,一気に権利制限の一般規定導入ではなくても,形式的違法該当性の解消のためであれば,例えば個別権利制限規定の改正とかということも可能ではないかというような議論がございます。これは,議論があったことを紹介するにとどめさせていただきます。
最後に,個別権利制限規定との関係ですが,当然米国でもフェアユース,107条のほかに,種々相当細かい個別権利制限規定がありますので,我が国でも現行の個別権利制限規定の規定についてはそのまま維持し,さらに条件等がきちんと権利者,利用者の解決がつくということであれば,それは個別権利制限規定をやはり創設していくべきであろうという意見です。
それから,もう一つ疑念が出たのが,現在の個別権利制限規定の解釈が権利制限の一般規定を導入した場合にどのような関係になるのであろうかというところで,やはり現在の個別権利制限規定の解釈,それから立法につきましては,これは従前の経緯,検討がなされているわけですから,これについては権利制限の一般規定を導入した場合にも慎重に改正すべきであろうということです。
最後に,著作者人格権でございますが,これについては当然ながら20条2項4号のやむを得ない改変というような解決の仕方はあると思いますけれども,フェアユースであるからといって,著作者人格権を全て無視するということは,少なくとも我が国の著作権法体系にはそれはなじまないであろうし,権利者としてもそれは反対するということです。
以上でございます。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の説明いただいたところにつきまして,何かご意見,ご質問がございましたならば,どうぞお出しいただければと存じます。
どうぞ。
【中山委員】
最後の早稲田弁護士にお伺いしたいのですけれども,1ページの一番下の3行,このところの意味なんですけれども,産業・経済的側面というのと,文化的側面というのを分けてどうも考えているようなんですけれども,私どものような学者の書くような文章はそれは余り産業的意味ないのは明らかですけれども,現在の著作物の多くはコンテンツと呼ばれおり,映画にしろ音楽にしろ,一大産業になっているわけですね。したがって,私は産業と文化とこういうふうに分けて,どっちの側面がどうだからという議論はそもそも成り立たないんじはないかと思います。文化を発展させることによって産業を発展させる,文化・産業論というのはもうむしろ世界の常識になっているような感じがするわけです。
これはたしか,文化審議会の総会のとき,副大臣でしたか,そうおっしゃいましたし,経産大臣もそういうようにおっしゃっている。文化で産業を興す,こういうことが必要なんじゃないか。そうでなければ,創作者に対する還元する資金が出ないと思うのですね。何でこう文化と産業というものを対立して考えるかというのが分からないというのが1つ。
また,今の文章の後半,この意味がよく分からないのですが,これは,創作者は自分の創作したというそういうものについての憲法上の重要な権利があると,こういう話だと思うんですけれども,アメリカなんかじゃむしろ逆で,それを利用して自分なりのものを創作し,思想を表明しようという人の権利をどうしてくれるんだと,そこの調整はどうするんだと。つまり創作者と利用者との調和が重要になってくると思います。何でここで創作者の方だけが問題になるのか,分からないので,ちょっとこの2点をお伺いしたいと思います。
【土肥主査】
じゃ,お願いいたします。
【早稲田氏】
ご質問ありがとうございました。
まず,前半部分でございますが,これは中山先生のおっしゃるように,文化と産業ということということは私ども理解しておりますが,現在の権利制限の一般規定の導入ということについて,特に創作者の方から考えると,技術の進歩や新たなビジネスモデルというところを,産業的経済的側面の議論が中心で強いのではないかというところでございます。それだけではなくて,やはり著作権というのは文化の発展に寄与して,創作者の創作の権利を守るというところがありますので,それについては当然議論というか検討して入れるべきであろうということです。
後半のご質問についてですが,これも中山先生からご質問があったとおり,利用者が現在ある著作物,表現を利用するということの表現の自由というのは,それは私どもも十分理解しておりますけれども,しかし,やはり創作者の方の自分の表現を自分の同意しないような使い方をしないでほしいという,これは自分の著作物の表現という意味では,非常に重要であると思っておりますし,先ほどちょっとご説明も申し上げたときも,人格的な側面というようなご説明を申し上げましたけれども,それにつきましては,さっき大橋先生でしたか,ご説明がありましたように,財産的な権利であるから,これにつきましては,ある一定の制限の下に全て使えるというような検討視点だけではなくて,表現という個人の根本的な表現の権利というところで,こういう使われ方はしてほしくない,これについては同意したくないという,その権利も十分に考慮すべきであろうという趣旨でございます。
【土肥主査】
どうぞ,お願いいたします。
【齊藤氏】
付け足して申し上げます。
創作者の利益と著作物の利用者等の利益,いわゆる関係者間の利益,これは非常に重要なところでございまして,その間の非常にデリケートなバランスというのを常に保っていかなくてはならないと,これは私どもも考慮しなければいけないと思っております。そして,そこで何よりも関係者間に信頼関係が醸成されているのかどうか,立法をするにしましても,制限規定を作り変えるにしましても,そういう信頼関係があるのかどうか,ここはやはり一回それぞれがおさらいをしてみる必要があると思います。
ただ今話の出ましたように,当面一つの産業を発展させるために,個人の財産権に影響をどう与えるのか。もう少しはっきり申しますと,個人の財産権は保障されています。しかし,それをかなりラジカルに抑えることによって,一つの産業を発展させるのか,国際競争力を維持させるのかというところは非常に根本的な問題で,これもやはり信頼関係の中でそういうことで両者が納得すればよいのかもしれませんが,一方的に権利を制限するということで達成できるものではないと。これは,全体主義の国とか社会主義の国なら別でございますけれども,自由主義経済の下におきましては,やはりそこは慎重に考えなければならないと,このように思うわけであります。
それから,著作物の特性ですが,既に出ましたように,思想または感情の表現物であると。それは使って金を払えばよいではないかという話ではないはずです。
【土肥主査】
ありがとうございます。 それでは,どうぞ。
【松田委員】
デジタル・コンテンツ利用促進協議会の資料について,岩倉さんに質問させていただきたいと思います。
この資料の中で,日本版フェアユース規定の導入(承前)というところで,アメリカの経済効果についての資料を付けていただいております。これを読みますと,米国でフェアユース規定の恩恵を受けた産業の売上高は,2006年度で4兆5,000億ドル,米国のGDPで6分の1というご指摘があるわけです。これはとてつもない金額です。日本円にして450兆円になるのです。アメリカのGDPの6分の1というのはすごい大産業なわけです。
これと同じようにフェアユース規定を導入すると,日本も何億ドルとは言えないでしょうけど,その経済効果が上がって産業が拡大して,日本のGDPの何%ぐらいまで形成されるというふうに考えているのですか。
【岩倉氏】
松田先生のご質問でございますが,先ほどの当協議会の意見の具申のときに申し述べましたとおり,フェアユース規定の導入によって経済的効果がどうなるかというのは分かりません。神のみぞ知るというのが正直なところであります。パワーポイントにおいて引用いたしましたのは,アメリカのCCIAという,これは多分委員の先生方はもう入手されていらっしゃると思いますが,有名なペーパーから引用しただけでございまして,フェアユース規定の導入によって日本に必ずこれと同じような経済的効果が上がるということを,当協議会としては保証もできませんし,必ずそうなるという検証もできません。
ただ,少なくとも経済的効果が本当に上がるのか,疑問じゃないかというご質問がよくありますので,アメリカではこのように言われていると。少なくとも新しいビジネス,サービスが提供されることによって,何らかの経済的効果が上がるということは,間違いないのではないかと思います。ただ,数字でどのぐらいなのかと言われますと,それは正直なところ分かりません。
【松田委員】
フェアユース規定導入によって経済効果が上がるという資料としてCCIAのデータを引いて,日本でもそうなること間違いないという趣旨でありました。引き続き質問をさせていただきます。
【土肥主査】
はい,ではお願いいたします。
【松田委員】
日本で同じような調査がないか検討してみました。著作権情報センターが5年ごとに出している,「著作権白書-著作権産業の側面からみて-」という調査資料があります。5年に1回出るものです。今年の8月に出ます。
そのデータは2007年のものになります。アメリカの2006年度,450兆円と比較して考えてみたのです。今手許にあるのはその5年前のものですから,2002年のものです。そのときの著作権産業の付加価値の国民総生産におけるパーセンテージは2.9%,これは実は大きいのですけれども,岩倉さんが指摘の米国フェアユース規定の効果だけで16.6%なんかには匹敵しません。
2002年の我が国の著作権産業の付加価値額は16兆1,360億円です。今年の新しいデータを調べてみましたら,約20兆円ですから,かなり進展はしておりますけれども,アメリカのフェアユース規定の効果だけで450兆円あるというのに対して,比べるべくもない数字ということになります。
しかし,これは数字,データのとり方の間違いがあると思いました。皆さんもそう思いませんか。アメリカではフェアユース規定の効果だけで450兆円市場が形成されていると岩倉さんの今の説明ではそう示されていて,日本では著作権産業全体で約20兆円であるということです。こんな決定的な違いがあるでしょうか。
日本は著作権産業の付加価値分だけを計算いたしまして,2002年16兆円強。そして今年も8月に出るデータで2007年約20兆円(GDPの3.4%)です。これは信頼できる資料によるものです。
そこで,岩倉さんが所々で引用して説明しているこのCCIAのデータを検討してみましょう。先ほど岩倉さんがいみじくも言われておりましたように,このフェアユースの規定の恩恵というのは,権利制限の一般規定(米国著作権法107条)の恩恵ではないのです。何かと言いますと,事実の利用(102条(a)),アイデアの利用(102条(b)),インターフェースの利用(102条(b)),これは日本の著作権法上保護されないものです。
それから,政府の著作物の利用(105条),批評,解説,教授,研究,調査等(107条),こんなものも日本でも既にほとんど規定があります。リバースエンジニアリング,ブラウザキャッシュ,サーチエンジン(107条),これも日本法はほとんど改正いたしました。タイムシフト(107条),これは日本で言えば30条で解決済みです。図書館等の利用(108条)も日本も同じです。ファーストセールドクトリン(109条)はとうに日本も導入しております。こういう規定を全部合わせて,これが利用されている産業の全産業分を足したらどうなるかというのが,このCCIAの報告書なのです。
例えば,コンピューター周辺機器製造業は216億ドル,テレビ,ラジオが256億ドル,教育サービス業が941億ドル,こういう産業ならまだ許されますが,保険業2,400億ドル,証券・商品契約仲介業1,852億ドル,こういうのも含めているのです。これは何を言っているかというと,データを扱う仕事が全部入れているんです。
【土肥主査】
松田委員,岩倉先生も先ほどこの数字については十分承知していないということをおっしゃっておられましたので,もしよろしければ,その点についてはこれくらいにしていただけますか……
【松田委員】
いや,そうは言っていません。CCIAアメリカの4兆5000億円を示して,「経済効果が上がることを誰も否定できない」と発言しているのです。パワーポイントと同旨です。もう一,二分で終わりますから。
【土肥主査】
そういうところの調査を,別途事務局に若干お願いすることになりますけれども,このデータについて一回確認してもらって,また報告いただくということではいけませんか。
【松田委員】
いけません。このデータの意味を議事録にとってもらえば,調査は不要でもう十分だろうと思っております。つづけます。
450兆円というのは著作権法に関わるというよりは,データ処理に関わる産業の全データ,それからハードウエアも入っています。それらの産業がGDPの16.6%になるのはもっともな話でしょう。このデータをして日本との対比をして,いかにも権利制限の一般的規定を導入すれば,その恩恵を受けて産業は拡大するかのような説明の仕方は,いささか乱暴過ぎるというよりは,明らかにミスリードであると思います。
以上です。議事録にしっかりとっていただきたいと思います。
【土肥主査】
ご発言ありますか。
【岩倉氏】
一言だけ申し上げます。もし私の申し上げ方,あるいはパワーポイントの記載が不適切であった不十分であったということでしたらお詫び申し上げます。
私どもは,決してフェアユースを導入すれば必ずこのような経済的効果が上がると,だから導入すべきだということは全く申し上げておりません。また,先ほども申しましたとおり,ビジネスのためだけにこれを導入すべきだということでもございません。日本の将来,若い人たちがさらにインセンティブを持って新しい情熱を持って,すばらしいコンテンツ,著作物,また新しいモデルを作ろうという方向に日本がかじを切るためには,フェアユースが必要であり,そのときに経済的効果がどのぐらい上がるのかというご質問がよくありますのでアメリカの有名なペーパーでこういうものが出ていますとご説明しただけです。これがあるから導入しましょうということを申し上げているわけでは全くございませんので,説明の仕方が悪かったということでしたらお詫び申し上げます。
以上です。
【土肥主査】
どうもありがとうございます。
岩倉様に,松田委員のお話の中で出てきたところで,1点ご意見を承ればと思いますのは,ソニーのベータマックスがアメリカでああいう形で市場参入をしたと。日本の場合,ソニーは30条があって市場参入をしたという,その関係はどのようにお考えになっておりますでしょうか。つまり,日本の場合,フェアユースはない,30条という個別の権利制限規定があって,それでベータマックスは別に参入コストをかけずに入っているんではないかと思うんですけれども,その点,ご意見をお聞かせください。
【岩倉氏】
ソニー・ベータマックス事件については,もう膨大な資料がございますので,全て網羅できるわけではございませんけれども,当時私が勉強した資料によりますと,日本でも同様に,ハリウッドの権利者たちにより訴訟を起こそうという動きもあったと伺っております。
ただ,日本の場合は,土肥先生ご指摘のとおり著作権法30条があり,アメリカにはそれがないという違いがございました。この点については,アメリカでも,日本のような規定を持つべきだという意見もありますし,いやこのような規定はなくてもいいんだという意見もございます。基本的に,あのときには,ハリウッドの地元で訴訟を起こすのが一番いいだろうということでアメリカで訴訟が起こされたと思いますけれども,日本でも著作権法30条があるからということだけでなくて,著作権の間接侵害,あるいは共同違法行為,あるいは幇助犯という形で訴えられるのではないかという議論がなされていたと私どもは聞いております。
訴訟コスト等の,効率性の観点からアメリカで訴え,結果として連邦最高裁で通りましたけれども,ご案内のとおり5対4というぎりぎりの判決でございますので,いろいろな新しい分野のビジネス,技術の進歩については常にリスク,考え方があるんだと考えております。
【土肥主査】
ありがとうございます。
ほかに,どうぞ。はい,大渕委員。
【大渕委員】
権利制限の一般規定,これを日本版フェアユースと呼んだりもされているようですが,皆さんがそれぞれご提案としてイメージをお持ちかと思うのでお伺いできればと思うのですが,現在では権利制限の対象になっていないけれども,新たに何かしらの形で,フェアユース規定的なものを導入することによって,具体的にどういうものが新たに権利制限の対象になってくるとお考えなのか。先ほど,検索エンジンはもう既に権利制限の対象となっているという話が出ていたんですけれども,そういうものではなく,具体的にどういうものが,フェアユース規定的なものが入ったときに,権利制限がかかって権利侵害にならなくなるのかという,その辺りの具体的イメージがつかまえないと,なかなかこの辺り考えるのは難しいと思います。もちろん,一般論ないし規定ぶりというのも重要ですけれども,具体的にどういうものが入るべきだ,ないしは入ってほしいというような辺りのところを考える必要があるのではないかと思われます。細かい点は別として,大きなところでこういうものを入れるべしという辺りのお考えをお伺いできればと思います。
【土肥主査】
日弁連の方から順にお願いできますか。
【椙山氏】
日弁連の意見だけ言えというふうに言われているんですけれども,少しはみ出るかもしれません。
一つは,幾つか今までの判例に出ているような事例を適切に処理できるのではないかというのが一つ考えられます。雪月花事件の例が挙げられていますが,あれはフェアユースの規定があれば,もう少し無理な解釈しないでも適切な結論を導くことができただろうと思います。
それから,例えばウォールストリートジャーナルの事件というのは,索引を作っていたようなもので,あれもグーグルのようなイメージで言えば,本来許されるべきだった事件ではないかというふうに,(私が担当していて負けたから特にそう思うんですけれども,)勝つべき事件だったのではないかと思います。そういうような意味で,フェアユースがあれば,もっといい理屈づけができたとか,それから逆のといいますか,もっと適切な結論が出たんだろうというのが,従来型の事案でもいっぱいあると思っています。
それから,もう一つ小さいといいますか,今まで形式的には侵害になるかもしれないけれども,見逃されてきたという形態は,それこそ数限りなくあるんだろうと思います。これらはもちろん,コンプライアンスに触れず合法ということにできるだろうと思います。
それから最近,これも指摘されておりますけれども,私どもネットワーク絡みの仕事の関係で,いろんな新しい商売の話が出てきております。それは,単なるベンチャーがやっているだけの話ではなくて,大きな会社もそういうビジネスへの参入として,こういうことはできるかどうかということを,いろいろ聞かれることがあります。その場合に,フェアユースがあれば大丈夫なんだけれどもというようなことが結構あるんですね。そうすると,最終判断は会社に任せてしまううわけですけれども,根性のない会社はそこでやめてしまうというようなことになったり,またむしろ侵害になるのを避けるために無意味な技術的な措置をとったりとか,つまらないことが結構いろいろあります。そういうことを踏まえますと,フェアユースの規定はぜひとも必要ではないかというふうに私は考えております。
【土肥主査】
では,龍村先生,どうぞ。
【龍村氏】
日弁連の龍村でございますが,基本的には,本日は日弁連の意見書の範囲で,お話しするように言われて,申しつかっておりますもので,個別の意見は若干はばかられますが,若干の私見で申し上げます。
先ほど,椙山先生からもお話ございましたけれども,議論の中でよく出てくるのは,非常に軽微な利用であるとか,背景的な利用であるとか,そういうものが形式的には違法になってしまっている。そのようなものを違法の状態から逃すという点,これが一番ベーシックに考えられているものだと思います。
それから,もう一つには表現の自由との関係ということが出てくるかと思われます。憲法上の権利や価値との調整の問題です。重要な表現行為が個別的権利制限規定においてすら制約されるような状況が生じることがあった場合,そのような表現を違法状態から逃すというもの。また,それとの関係では,いわゆるパロディの問題の位置づけ,トランスフォーマティブな表現の問題は,これは非常に難しい問題だと思いますけれども,我が国の法令上どこに位置づけるのかといった場合,一般的権利制限規定にその位置づけどころとしての機能が果たせないか,という観点も検討課題の一つであろうと思います。
その他,公共の利益との調整。特許法において通常実施権の裁定などで利用の余地が認められるような,国民の生命・健康などに関係するなど,特に公共的な必要性が高い場合の利用を,一般的権利制限規定により対応させる余地を設ける必要がないか,という辺りは,比較的,例として挙げられやすいのではないかと思われます。
【土肥主査】
デジタルコンテンツ協会,お願いいたします。
できましたら既にご提言にあったところは承っておりますので,それに追加するようなものとして何かありましたら,順にお願いしたい。
【大橋氏】
私どもは,先ほど申し上げましたように,消極的なフェアユースを中心にして考えておりますが,これについては報告書の2ページから3ページに,具体的なものが幾つか挙げられております。ただし,これについても必ずしもみんなの意見がまとまっているというわけではなくて,例えばパロディについては,認めるべきではないかという考えと認められるという考えがあります。その意味では,消極的な部分といってもなかなか難しいところがあります。
積極的意味でのフェアユースは,ベータマックスでも5対4ですから,ますます意見がまとまらないというところです。例えばロクラクなどについても,フェアユースで認めてほしいという意見もあり,そうでないものもあります。これらの部分は私どもの委員会では意見がまとまらなかったということですので,実例をあげることは控えさせていただきます。
【福井氏】
thinkCです。私どもは,お配りした資料3の後ろから2枚目のところで,実例は挙げさせていただいておりますので,これをご覧いただきますが,少し実際に持ち込まれたこれまでのご相談などからご紹介しておきます。写り込み,偶然軽微な利用ですと,例えば街なかの写真や映像などで,着ているTシャツにミッキーマウスだとか,あるいはハローキティが写っているというようなときに,これはどうすればいいんでしょうかというご相談をいただきます。本当に安全にやろうとすると,ここにモザイクをかけるんですけれども,こんな寂しい作品はないわけです。
あるいは,やはり写真・映像で街角の映画ポスターが映り込んでいるというようなときに,この映画のポスターというのはこれは著作物なんじゃないかという議論になってきて,あれは原作品が恒常設置されているわけではないので,現在の制限規定ですと難しいんじゃないかなんていう議論が出てくることがございます。
福祉についていいますと,弱視者向けの拡大文字による一般図書でございますね,これがまだ対応がされていなくて,問題としてよく聞き及びます。
アーカイブは,もうこれは挙げ始めるときりがございませんので,国立国会図書館での近代デジタルライブラリーで権利処理についてどれだけ苦労されたか。あるいは近いところで言うと,70年代,80年代辺りの舞台映像が8ミリのフィルムなどで大量に残っていて,これが発掘されたことがありますが,もう腐食が現に進んでいるんですね。腐食が進んでいるので,デジタル化だけでも進めたい。つまり,サルベージしたいんですね。そうしないと,もう二度と救うことができない。
これを,ただデジタル化するためだけの規定が,ございません。もうしょうがないから個人でやるということにして,30条で行きなさいなんていう話まで考えましたけれども,まさか嘘をつけということをお勧めすることもできない。日本では,戦前の映画は10%ほどしか現存していないと言われています。数多くの名作,傑作の数々が歴史の闇の中に消えてしまったのです。溝口健二監督の作品ですら一部しか現存していないと言われます。こうした中で,フィルムセンターなど各種アーカイブは苦闘を続けているわけです。これに対する規定はございません。
二次創作について言うと,先ほどパロディもございました。私は,コラージュを挙げましたが,これは広告などのジャンルでも言えることであります。
付言しておきたいのは,これらの相談のうちかなりの割合は,創作者からもたらされたということです。創作者,特に個人あるいは小規模な会社から,こういう作品を作って公表したいんだけれども果たしてできますかと,こういう相談をいただいているんですね。その場合には,確実に著作権は表現規制として存在しています。
創作者はこのように考えるということが,あたかも創作者というのはみんなが同じ意見を持っているかのように,皆が常に同じ利害を抱えていて同じ意見を持っているかのように発言されることがあります。しかし,それは絶対に違います。創作者の利害というのは,一人一人異なるし,意見もまた異なるのです。私どもの提言にも多くの創作者が加わっていますが,このことだけは申し上げておきたいと思います。長くなりました。
【岩倉氏】
デジタル・コンテンツ利用促進協議会の岩倉でございます。発言の順番が最後なものですから,新しいことを付け加えにくいのですが,今先生方がお話しになられた例は,皆まさに当てはまると思います。当協議会が,特に考えておりますのは,アメリカのフェアユースに関する議論においてよく言われている,先ほどもご指摘のありました,「トランスフォーマティブ」の要素,つまり何を付加するかという点が重要であると考えております。現存する文化,あるいは著作物と申し上げてもいいですが,コンテンツに,どういうものを付け加えて新しいものを作っていくか,このような活動を促進させるためにはこのフェアユース規定の導入は必須であろうと思います。
文化というのは模倣の連続であるというのは有名な言葉だと思いますけれども,何を付け加えていくかというときに,今の個別の権利制限規定だけではそれができないのではないか。パロディという話がありましたけれども,それとは別の面で,今若者の間で,もう最新の傾向ではないかもしれませんが,マッシュアップという動きが爆発的に人気が出ました。既存のコンテンツ,映像や音楽に対して,自分のそれなりの工夫を加えていって,できたものを人に見せるという文化です。それがさらに他人につながれていって,新しいコンテンツができていく,新しい文化ができていく。こういうものを許す規定というのが日本の現行著作権法にはないと思います。特にインターネット,デジタル・ネットワークの部分で,これを認めるというのが新しい文化,産業の発展に必要だと思っております。
以上です。
【齊藤氏】
1つだけ申し上げますが,今までお話しのありました,著作物の点景的な利用ですね,これは映画のロケにしましても広告等が入ってしまいます。あるいは,街頭の音楽が入ってしまいます。これについて著作権を侵害するというような主張は,本来はあり得ない話で,街の風景の中に溶け込んでいるわけでございますね。ですから,そういうことを取り上げてフェアユースを導入するというのは,やや大がかりに過ぎると,このように思うわけであります。
ただ,パロディの話が出ましたが,これは単なる権利の制限の話なのかどうかという問題,文化に関わる問題で我が国で果たしてパロディを認めるかどうか,これは大きな問題で別の機会に議論していただきたいと思います。
もう一つ,35条以下にただし書きのついている条文がございますね。それらは,細々と利益調整をしている規定でございますので,個々に置くというよりも,一つのところに一本化しまして,皆様方がおっしゃる受け皿的ということなのかもしれませんが,包括的なものをある程度導入してよいのではないか。これはフェアユースを導入するという意味では全くないのですが,現行の規定の中でも,確かに事象に応じてその都度制限規定を加えていくということはかなり煩雑でございますし,そもそも著作権法を簡素化するとか平易化するということからしますと逆行しています。ですから,ある程度包括的な規定というのは置いておいてもよいのではないかと思います。
これは協議会の範囲からちょっと外れるかもしれませんが,以上です。
【土肥主査】
ありがとうございました。
余り時間も残っていないんですけれども。
【中山委員】
大渕教授の質問というのは,立法的には必ず出てくるし,特に法制局に持っていけば,必ずどういう困ることがあるのですか,という質問が出てきます。確かにフェアユースがなければ,今おっしゃったように困ることいっぱいあるのですけれども,私は一番大事なのは,何が困るか分からない,これからの問題だと思います。
つまりネットビジネス,私は従来学者で大学にいるころよく分からなかったのですけれども,最近いろんなベンチャーの方と話をしてみますと,私のような老人には及びもつかない,もう想像を絶するようなことがたくさんあるのですね。そういうものが日々出てきている。それをどうするかということが最大の問題です。先ほど,岩倉弁護士がおっしゃったように,時間が遅れればアメリカに行ってしまう。アメリカで,もしそれが便利なものなら,日本人は全部アメリカのものを使う。検索エンジンの場合と同じです。日本には何が残るか,何も残らない,空洞化して結局アメリカに全部持っていかれるという。そういうことで,何が起きるか分からないというところが,フェアユースの一番の私は妙味といいますか,ポイントじゃないかと思っております。
【土肥主査】
じゃ……。
【松田委員】
手短に。
【土肥主査】
はい,お願いします。
【松田委員】
何が起こるか分からないことを規定しろというのは大変難しい。幾つかは出してもらいたいと思います。
そこで,こういう質問をしますと,日本では検索エンジンについての産業が,アメリカほどではない。それはどうしてかというと,著作権法の改正が遅れたからだというふうに言う人がいるわけです。15年間改正がなかったというのは,そのとおりでありますけれども,日本ではその産業が著作権侵害が起こるからといって,なかったわけではないのであります。正々堂々とやっていたわけです。学説でもそれは適法だと言い,この審議会でも違法だという人は誰もいなかったわけです。それなのに,アメリカが大きくて日本が小さいというのは,これは著作権法の問題ではないのであります。
ましてや,何が出るか分からないから,予め著作権法を改正して,実質的には著作権権利者や実演家の権利を事実上縮小し,なおかつ訴訟を自ら起こさなきゃならない状況に置くような改正を,分からないことでやれというのは,いささか無理だと私は思っております。分からないことを適法にする条文はどう作るのでしょうか。
【土肥主査】
ありがとうございました。
本日,幾つかの団体からご提言をちょうだいいたしまして,それを……
【大渕委員】
それに関して,質問ができれば。
【土肥主査】
質問ですか。どなたから。
【大渕委員】
岩倉弁護士にお願いできればと思うんですが。
パワーポイントの中で,先ほど出ていた話題にも関係していますが,現実に海外に逃避する傾向があるということで,この海外というのがどこまでを対象にしているのかというところに関わってきますけれども,前回でしたか,ここの場でも検討して意外とフェアユースのような規定を持っている国は多くなくて,アメリカ以外にはイスラエル,台湾,フィリピンぐらいだったと思いますが,英国も持っていないし,ドイツ,フランス等も持っていないということだったと思います。そうすると,これは要するに意味としては,日本から逃避するだけじゃなくて,ドイツ,フランス,イギリスなどからもアメリカに,フェアユース規定のある国に逃避しているというところまで含んだご趣旨として書かれているんでしょうかと。
要するに,フェアユースのない国からフェアユースのある国にどんどん流れていっているという,そこまで含んだ趣旨で書かれておられるかどうかについて確認させていただければと思いますが。
【岩倉氏】
私がここで書きました趣旨は,先ほど福井先生もおっしゃられましたけれども,私の実務経験に基づくものであります。私はアメリカの資格を持っておりますけれども,日本の弁護士でございますので,日本の実務として,日本人あるいは日本の会社さんだけでなく,外国のクライアントを含めて,日本でビジネスをするときに,このようなことが可能かというご質問を必ず受けますが,多くの相談において日本では著作権法上の制約からなかなか難しい,著作権侵害の疑いはどうしても晴れないので,アメリカでおやりなさいということをどうしても言わざるを得ないのです。全てアメリカでやればいいということではないと思いますが,逆にアメリカは,先ほどの私,自分自身の言葉を使えば,こういうことを許容する方向に国をかじを切っているわけでありますから,そういうようなビジネスあるいはビジネスモデル,そういうものを創造させようという土壌があるわけですので,アメリカでやった方がよいというアドバイスになってしまわざるをえないのであって,ドイツあるいは外国でどうかというのは,私自身は実体験としては申し上げられません。しかしながら,規制のないところで自由に伸び伸びとやるというのは,ビジネスにおける萎縮効果を与えないために,当然必要なのではないかというふうに考えた次第であります。このような趣旨でございます。
【土肥主査】
せっかくの機会でありますから,時間の配分を本当は考えたんですけれども,もうそこは余り考えないで,ご質問がある範囲でお願いをしたいと思いますので,どうぞお出しください。
【道垣内委員】
いろいろな政策論,いろいろな考え方があると思うのですけれども,それを制約する枠があるかどうかという点について伺いたいと思います。先ほど憲法の話が出ましたけれども,伺いたいのはスリーステップテストとの関係です。特に「特別の場合」という要件との関係ですけれども,一般的権利制限条項の導入といったかたちで,「一般的」という言葉を使われますと,真正面からぶつかるような印象を受けます。それでも一般的権利制限条項の導入は大丈夫なのでしょうか。
この点に関係して,デジタルコンテンツ協会の,今日いただいている緑色の報告書の73ページですに記述があります。これは69ページから始まっているマックスプランクの知的財産研究所とロンドン大学による提言というか,デクラレーションですが,その73ページの上から6行目ですが,スリーステップテストがあっても立法府が一般的な制限及び例外を導入することはできるという旨の記載があります。ただ,これにはただし書きが付いていまして,そういう制限及び例外の範囲は合理的予測可能なものでなければならないとされています。この本文とただし書きの関係自体が矛盾しているように私は思うんですが,今ご提言の方々の中で,ただし書きなしの本文だけでいいのだということをお考えの方はいらっしゃいますか。それともやはり特定は必要だというふうにお考えなのでしょうか。この資料はデジタルコンテンツ協会の資料ではありますが,椙山先生が監訳されています。その辺についてご意見を伺えればと思います。
【椙山氏】
全く個人的な意見ということですけれども,1つはスリーステップテストというのが,基本的にどれほど要件として意味があるのかというふうに思っています。要件としてとても緩いものではないかと思います。また,「特別な」場合という言葉に,ものすごく強い意味を込めて読んでいますが,あれはツーステップでもいいじゃないかと私は思います。
ただ,法律家の慣習か人間の脳の作用なのかわかりませんけれども,原則と例外という言い方をすると,必ず原則の方が膨らんでいって例外がしぼんでしまうという現象があります。これはかなり恐ろしい力を持っていると私は思っていまして,スリーステップの解釈というのは適当ではないというふうに,基本的に思っています。
それから,デジタルコンテンツ協会の資料を訳しましたけれども,私の立場からすると実はぬるいと思っておりまして,もう少し自由でいいんじゃないかと私自身は思っています。ただ,今までの解釈に比べれば,相当いい線をいっていると思っております。
それから,もう一つだけ加えさせていただきますと,法律で定める要件として緩くすると,裁判などで全て緩くなるというわけではなくて,その中でなるべくパターンごととか類型ごとに国民の共通の意見を形成していく,そういうサブルールみたいなものを形成していくというのは大事だと思っております。法律上は抽象的な要件だけれども,実質的には具体的な事件との中間にあって,もう少し安定した予測可能なルールというのが合議によって形成できるのではないかというふうに考えております。
【土肥主査】
それでは,森田委員,どうぞ。
【森田委員】
今日のヒアリングは,それぞれの団体で既に一定の検討の蓄積があるという団体に対するヒアリングということでしたので,それぞれの団体でお考えの具体的な日本版フェアユース規定というのが一体どういうものなのかということに注目してお聞きしていたのですが,その具体的なイメージがまだ必ずしも十分につかめないところがあるものですから,そういった観点からお伺いしたいと思います。
そこで,それぞれの団体の考え方に沿って,例えば条文の形にまとめるとすると,こういった形のものになりますよというような案が,それぞれの団体でおありなのか。日弁連の椙山さんの書かれたものは,これはちょうど先ほどのデジタルコンテンツ協会の報告書の56ページに出ておりますけれども,例えばこういったようなものをお考えなのでしょうか。日弁連の意見書を拝見しますと,アメリカのフェアユース規定を日本風にアレンジしたような規定を考えておられるのかなという感じもしますし,それから,受け皿的一般条項なのか包括的制限規定なのかについては,これは立法技術上の問題であって,「適正な文言をいかに選択するか」という問題だという認識が示されていますので,それはどちらでもよくて,あとは文言をどうするかという問題に収斂するという認識なのかなという感じを受けておりますけれども,そこからもう少し先に進めて,具体的にそれを条文案のような形にするとどういう案になるのかをお示しいただくことは可能でしょうか。この点は,それぞれの団体で,今日お越しの方の多くはロイヤーでありますし,既に議論の蓄積があるということですので,今日すぐにお示しいただくことは難しいとしても,後日この審議会宛てに,条文案の形でまとめるとしたらこういう案ができますというものをお示しいただくことがもし可能であれば,今後の議論に資するところが大だと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。もっとも,デジタルコンテンツ協会は意見がまとまっていないというお話でしたので,お願いするのは難しいのかもしれませんけれども,その辺りですね。
それから,条文案が出てくればもっとはっきりするのかもしれませんが,具体的にお伺いしたいのは,デジタル・コンテンツ促進協議会の提出資料の中で,日本版フェアユース規定を特別法によって独立して設けるべきだというふうにペーパーにはございまして,また,それは「デジタル・コンテンツの特性に応じた」ということですので,対象はデジタル・コンテンツに限定して,また,日本版フェアユース規定以外の規定も含めたデジタル・コンテンツに関する特別法をお考えなのでしょうか。もっとも,先ほどは,パロディについてのお話もありまして,必ずしもデジタル・コンテンツには限定してはおられないようにも聞こえたので,デジタル・コンテンツ以外の問題についてお話があったこととの関係がよく分からなかったのですが,やはり提言内容としては,デジタル・コンテンツに特化した特別法を提言しておられると理解してよいのかどうかという点について,ちょっと確認的にお伺いしたいと思います。
【土肥主査】
それでは,お願いします。特に最初の方は要請ということですので,今この時期でなくてもいいということになりますか。
【森田委員】
この場で何か,それに対する積極的なお答えをいただければ,次回以降に期待してお待ちしたいと思いますけども。
【土肥主査】
それでは,日弁連からお願いします。
【龍村氏】
日弁連としての具体的な条項案といいますか条項イメージ案を固める作業は,特段予定はしていませんが,個々の委員の中で具体性のある案を検討されている方もおられますので,そういうものをご報告させていただくことは可能でございます。現に,幾つかの勉強会等を通じて,そういうような意見交換がなされているものもございますので,必要であればご提示することも可能かと思います。
ただし,それは日弁連としての案ではなく,個人案ということになります。
【大橋氏】
先ほど申し上げたように,私どもとしては意見がまとまっていないので,委員会として提示することはできません。ただ,報告書の55ページ以下に,委員である椙山委員が起案したものについて,委員会での議論の経過をまとめたものがございますので,これで考え方はご理解いただけるものと思います。
【椙山氏】
そこに私の案が書いてありますけれども,これはやはりアメリカ法に影響され過ぎているかもしれません。私としては誰がやってもこのようななものではないかと思っていたんですけれども,財団法人ソフトウエア情報センターがフェアユースに関する委員会を設けまして,そのときに私だけでなく龍村先生と宮下先生,小倉先生がそれぞれ案を作られました。それは,私自身から見ますと,予想していたよりはるかにバラエティがあっておもしろいと思いますので,報告書ができたらぜひ届けさせていただきたいと思います。
【福井氏】
私どものthinkCでも,お配りした資料の最終ページに載っておりますように,幾つかの判断要素は条文中で明記すべきであろうと,その例として権利者への経済的悪影響が少ないということを挙げたところまでで,共同提言としてはとどまっております。81名個人の共同提言という性格上,これ以上内容を条文として煮詰めるのはちょっと難しいかというふうに思っております。
【岩倉氏】
デジタル・コンテンツ利用促進協議会では,まだ会として具体的な規定ぶりというのは,議論しておりません。ただ,森田先生ご指摘のとおり,具体的な規定がないと,なかなか議論の俎上にも乗りませんし,逆にまたいろいろな問題点,我々もあるいは先生方もまだ気がついていない問題点が分かるかもしれませんので,できるかどうか分かりませんけれども,検討してみたいと思います。
それから,先ほどの森田先生のご質問については,基本的には受け皿的な規定ではなくて,より正面から著作権法においてフェアユースを規定すべきだと私どもは思っておりますけれども,もし著作権法において一般的なフェアユース規定を規定するのは難しいということであるとすれば,一番大事なのはインターネット上のデジタル・コンテンツの利用促進を図ることだと思いますので,特別法において,正面から利用を認めるようなフェアユース規定を導入するべきではないかという,2段階的な提言でございます。
【齊藤氏】
後でまた,早稲田先生からのお話ありますが,先ほど制限をする際の基準について言及なさった中で,経済的影響があるかどうかとおっしゃったんですが,これはせっかく,わざわざ1996年の条約でスリーステップテストを改めて確認して入れたわけでございます。これはかなり抽象化した基準であります。特別な場合はもちろんでありますが,通常の利用を妨げず,権利者の利益を不当に害さないとこういうこと,これをやはりベースにしながら何らかの包括的な規定を作るかどうか,それを併せて入れ込むかどうか,現在の個別的な規定と併用するわけでございますが,隙間を埋める意味で設けるかどうか,これは検討中でありますが,その経過は……ちょっとお願いします。
【早稲田氏】
私どもの提言書で,あと5ページ目の4の規定対応について,パワーポイントだと7番でやはり規定対応についての検討というところで,先ほど簡単に申し上げましたけれども,私どもも規定ぶりが非常に重要だということで相当議論をしたのですが,これについては指摘ということにとどめさせていただきたいと思います。これは,議論がそれぞれの発言をされた方によって違っておりまして,包括的なものではなくて,受け皿的な規定でいいのか,それともそうではなくて,やはり拡大解釈の危惧という点からは,他の方法による解決の検討の必要性があるんではないかというようなもの。
それから,先ほどのスリーステップテストにつきましては,齊藤先生の方でもおっしゃったように,この特別の場合というところの解釈の仕方。それから,先ほども申し上げましたが,英国フェアディーリングのような規定ぶりの方がいいのではないかとか,個別権利制限規定をもう少し柔軟に改正すべきではないかとか,いろんな議論が出まして,これにつきましては,こういう規定ぶりという結論は現在のところはございません。
【土肥主査】
ありがとうございました。
よろしゅうございますか。今の森田委員からのご要請につきまして,またタイミングがございましょうから,そのときにまたありましたら資料をお出しいただければというふうに思います。
ほかに,よろしゅうございますか。それでは,どうぞ。
【中山委員】
ネットワーク流通と著作権制度協議会にお伺いしたいのですけれども,パワーポイントの6ページですけれども,いろいろ訴訟,手続的なことの問題が書いてあります。これは著作権について述べているわけですけれども,考えてみたら日本には,一般条項は幾らでもあります。信義則も権利濫用もそうですし,民法709条も,けしからんことやったらお金を取られますとしか書いてないわけですね。しかも,民法のこのような規定は車なんかない馬車の時代に作った条文なわけです。先ほど松田先生おっしゃいましたけれども,何が起きるか分からないのに条文作ってもらっちゃ困ると言うけれども,一般条項というのは元来そういうものなのですね。この場合,例えば離婚だって婚姻を継続しがたい重大な事由とか書いてあるわけで,一般的な条項はたくさんあるわけですね。それら全部に当てはまるわけですが,著作権法だけ一般条項を置くとこんなことになるというのは,ちょっと私には理解できないんで,そこのところを教えていただければと思います。
【松田委員】
私が答えましょう。
【土肥主査】
じゃ,お願いします。
【松田委員】
今,先生が言われたことについて,私は100%そのとおりだと思います。であるならば,民法上の一般原則,信義則,権利濫用の解釈論でも解決するはずじゃないですか。一般条項に委ねてよいのは法の支配に立ち戻り裁判所に判断をまかせる部分なのです。誰が考えてももっともだ,適法だという部分なのです。今中山先生があげたところもその部分でしょう。この部分の一般規定を導入することについて今日の報告団体はすべて賛成なのです(松田も賛成)。それなのに,岩倉先生,中山先生においてフェアユースが必要だといっているのは,大きなフェアユースが必要だからです。だれが考えても適法だという形式的違法を解消するための信義則的小さなフェアユースが必要なのではなくて,大きなフェアユース,積極的なフェアユース,ビジネスを萎縮させないフェアユースという言葉も出てましたが,実は,これは3つともみんな同じです。このために導入したいというのです。ですから,民法の信義則等の一般条項では解決しえないものを,さらに利用できるようにしようというところに主張の意味があるのじゃないでしょうか。その部分について,新たなビジネスモデルもどうなるか分からない部分を導入しろというのは,いささか無理なのではないでしょうかと,こういうふうに言っているわけであります。

(2)国立国会図書館法の一部改正について

【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,議題の(2)にあります,国立国会図書館法の一部改正につきまして,資料6に基づきまして,その概要について説明をさせていただきます。
この国立国会図書館法の一部を改正する法律につきましては,7月2日に衆議院を可決いたしまして,7月3日参議院を可決し,成立。そして,7月10日に官報で公布をされておるものでございます。
この国立国会図書館法の一部を改正する内容に基づきまして,その附則により著作権法の一部が改正されたという内容のものになっております。
国立国会図書館法の改正の内容ですけれども,今回は様々な形の資料がインターネットによって流通しておるということになっておりますので,従来の納本制度ということのみならず,インターネット上で流通しておる様々な資料についても,国会図書館で収集できるようにしようということで定められているものでございますが,この資料6の1の頭に(1)の1.ということになっております。
そして,その収集する対象となりますのは,国会図書館法の「24条及び24条の2に規定する者が」となっております。これは,資料6の後ろに付けておりますけれども,要は国,地方公共団体,独立行政法人ですとか国立大学法人という,いわゆる公的な機関が自らのホームページなどで公表している資料を対象とし,それらについて国立国会図書館がインターネット上を収集用のプログラムなどで定期的に探して,その資料を国立国会図書館の記録媒体に記録することができるということを,一つは規定をしておるものです。
併せまして,その利用のためには,国,地方公共団体などの機関につきましては,そういった国立国会図書館がその記録の趣旨を収集を行うために必要な手段を講じなければならないという形で,一つの義務づけをしております。
収集用のプログラムを効かないようにする,いわゆるロボットよけというのでしょうか,そういうような措置をしておるような部分においては,それを解除するとかそういうような措置をとるように,ということが,第2項として定められているものです。
そして第3項としましては,こういったインターネットで収集するということが難しいインターネット上で提供されている資料については,国,地方公共団体に対して,その複製物を国会図書館に提供することを求めることができるということになっております。提供の仕方としましては,メールで添付をするとか,あとはCD,DVDなどの媒体に移して国会図書館に送付するということを求めることができるというような,国会図書館法の改正が新たに加わったものでございます。
資料6の2ページ目でございますけれども,それに伴いまして著作権法の一部改正という形で,新たに42条の3という条文を新設する形になりました。いわゆる国会図書館が今回の法改正で行うことができる複製行為につきまして,新たに制限規定として1つの条文を設けるということになっておるものです。
その制限規定の内容としましては,まずは国会図書館が行います,インターネット上で公開されています資料の,国会図書館が持つ記録媒体への記録について,複製権を制限するというものと,もう一つは,国会図書館が国や地方公共団体に複製物の提供を求める際に,国または地方公共団体等が国会図書館に提供するために行う複製について,複製権を制限するという形の内容となっているものでございます。
以上,資料6につきまして説明させていただきました。
【土肥主査】  ありがとうございました。
これも議員立法のようでございますので,著作権法の改正が,こういうふうな形で幾つか近時進んでおりますのは,委員会としても十分認識しておかなければならないことではないかと思います。
それで,この点についてご質問ということがあればなんですけれども,よろしければこの今の内容を承るということに本委員会としてはしたいと存じます。

(3)その他

【土肥主査】
それで,基本的にはこれで本日の委員会は閉じたいと思いますけれども,最後に,契約・利用ワーキングチームと司法救済ワーキングチームのチームメンバーがそれぞれ決まったということのようでございますので,事務局から説明をお願いしたいと存じます。
それから,併せて,次回以降の予定についても,今現在で決まっておることがございましたら,連絡事項を併せてお願いをしたいと思います。
【池村著作権調査官】
お手元に参考資料3として,ワーキングチーム員の名簿をお配りしておりますので,そちらをご覧ください。
各ワーキングチームでは,座長がチーム員を指名することとしておりますが,お手元のような構成で固まっておりますのでご報告いたします。時間の関係もありますので,読み上げは省略させていただきます。
今後の予定ですけれども,次回第4回の小委員会の日程は,8月25日の15:00から17:00,次々回,第5回の日程は,続けての開催となり恐縮でございますが,8月31日の同じく15:00から17:00で,それぞれ調整中でございますので,決まり次第正式なご案内をさせていただきます。
なお,次回と次々回は,権利者,利用者といった利害関係団体を複数お呼びして,前回第2回でご了承いただいたヒアリング事項に基づきまして,ヒアリングを実施することを予定しております。
以上です。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,本日はこれで第3回法制問題小委員会を終わらせていただきます。本日は,熱心なご議論,ご討議ありがとうございました。
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