(平成21年第4回)議事録

1 日時

平成21年8月25日(火)15:00~17:19

2 場所

旧文部省庁舎 6階 第二講堂

3 出席者

(委員)
青山,上野,大渕,小泉,清水,末吉,多賀谷,茶園,筒井,土肥,中山,松田,森田,山本の各委員
(文化庁)
合田文化庁次長,戸渡長官官房審議官,永山著作権課長,ほか関係者
(説明者)
  1. 1.日本経済団体連合会
    和田 洋一(社団法人日本経済団体連合会 知的財産委員会 著作権部会長 (株)スクウェア・エニックス代表取締役社長)
  2. 2.音楽関連団体
    北田 暢也(社団法人日本音楽著作権協会 総務本部副本部長)
    高杉 健二(社団法人日本レコード協会 理事・事務局長)
    椎名 和夫(社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員)
  3. 3.文芸関連団体
    西岡 琢也(協同組合日本シナリオ作家協会 理事長)
    金 寿美(協同組合日本シナリオ作家協会 事務局長)
    坂上 弘(社団法人日本文藝家協会 理事長)
    桐原 良光(社団法人日本文藝家協会 書記局長)
    伊藤 愛子(社団法人日本文藝家協会 著作権管理部部長)
    山田 健太(社団法人日本ペンクラブ 言論表現委員会委員長)
  4. 4.障害者放送協議会
    井上 芳郎(障害者放送協議会 著作権委員長)
  5. 5.社団法人電子情報技術産業協会
    亀井 正博(社団法人電子情報技術産業協会 著作権専門委員会委員長,富士通株式会社 知的財産権本部本部長代理兼知的財産戦略室長
    榊原 美紀(社団法人電子情報技術産業協会 著作権専門委員会副委員長,パナソニック株式会社 法務本部東京法務室参事)
  6. 6.社団法人日本図書館協会
    森 一郎(社団法人日本図書館協会 著作権委員会委員長)

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)権利制限の一般規定について(関係団体よりヒアリング)
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1
資料2
資料3
資料4
資料5
資料6
参考資料1
参考資料2
参考資料3

6 議事内容

【土肥主査】
ちょうど定刻でございますから,ただ今から文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第4回を開催いたします。
本日は,ご多忙の中ご出席をいただきまして,まことにありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されておる議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
議事に入ります前に,委員の追加がございましたので,事務局より報告をお願いいたします。
【池村著作権調査官】
それでは,委員の追加についてご報告申し上げます。
本日付で弁護士の山本隆司様に小委員会の委員にご就任いただいております。これは,本年9月以降在外研究のため上野委員の本委員会へのご出席が難しくなりますことから,第1回,第2回で配布いたしました報告書を検討,ご執筆いただきました「著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会」の委員であり,また米国著作権法にも精通しておられる山本委員に就任をお願いしたものでございます。
以上でございます。
【土肥主査】
それでは,よろしくお願いいたします。
議事に入りますが,初めに議事の段取りについて確認をしておきたいと存じます。
本日の議事は,前回に引き続き権利制限の一般規定となります。今回は,利害関係団体の方々から第2回の本小委員会で了承いたしました利害関係者ヒアリング事項に基づいた意見発表を行っていただき,その後に質疑応答,自由討議を行いたいと思います。
まず,事務局から配布資料の確認と出席者の紹介をお願いいたします。
【池村著作権調査官】
お手元の議事次第の下半分,配布資料一覧をご覧ください。
本日,配布資料といたしましては,資料1から資料6,そして参考資料1から参考資料3までとなっております。
資料1は,社団法人日本経済団体連合会提出資料,資料2は,音楽関連団体提出資料ということで7団体連名のパワーポイント資料となっております。資料3は,文芸関連団体提出資料ということで,[1]協同組合シナリオ作家協会,[2]社団法人日本文藝家協会,[3]日本ペンクラブ,[4]協同組合日本脚本家連盟,そして[5]社団法人日本推理作家協会の意見書の5点セットとなっております。資料4は,障害者放送協議会の提出資料,資料5は,社団法人電子情報技術産業協会の提出資料,資料6は,社団法人日本図書館協会の提出資料となっております。
参考資料のうち,参考資料3につきましては,第2回の法制問題小委員会でご了承いただいた利害関係者からのヒアリング事項ということになっております。
以上でございます。何か過不足等がございましたら,事務局の方までご一報ください。
よろしいでしょうか。
引き続きまして,参考資料2をご覧ください。
こちらに従いまして,本日のヒアリングの出席者をご紹介させていただきます。
まず,社団法人日本経済団体連合会から,知的財産委員会著作権部会長であります,株式会社スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一様でございます。
続きまして,音楽関連団体より,社団法人日本音楽著作権協会総務本部副本部長の北田暢也様でございます。
続きまして,同じく音楽関連団体より,社団法人日本レコード協会理事・事務局長の高杉健二様でございます。
続きまして,同じく音楽関連団体より,社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫様でございます。
続きまして,文芸関連団体より,協同組合日本シナリオ作家協会理事長の西岡琢也様でございます。
続きまして,同協会事務局長の金寿美様でございます。
続きまして,同じく文芸関連団体より,社団法人日本文藝家協会理事長の坂上弘様でございます。
続きまして,同書記局長の桐原良光様でございます。
続きまして,同著作権管理部部長の伊藤愛子様でございます。
続きまして,同じく文芸関連団体より,社団法人日本ペンクラブ言論表現委員会委員長の山田健太様でございます。
続きまして,障害者放送協議会より著作権委員長の井上芳郎様でございます。
続きまして,社団法人電子情報技術産業協会より著作権専門委員会委員長・富士通株式会社知的財産権本部本部長代理兼知的財産戦略室長の亀井正博様でございます。
続きまして,同協会著作権専門委員会副委員長のパナソニック株式会社法務本部東京法務室参事の榊原美紀様でございます。
最後に,社団法人日本図書館協会より著作権委員会委員長の森一郎様でございます。
以上でございます。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,議題に入りたいと存じます。議事の進め方につきましては,本日出席いただいておる関係団体から今ご紹介ございましたように,[1]日本経済団体連合会,[2]音楽関連団体,[3]文芸関連団体,[4]障害者放送協議会,[5]電子情報技術産業協会,[6]日本図書館協会の順に権利制限の一般規定の導入に関するご意見をそれぞれまことに恐縮ですけれども10分程度で発表いただき,それぞれ発表の後に,質疑応答の時間を5分程度取りたいと思っております。
また,全ての発表の後に,自由討議を行うことといたしたいと思っております。
なお,日本経済団体連合会様は,ご予定の関係で,冒頭の発表と質疑応答の後,退席されることになっております。
それでは,早速ですけれども,日本経済団体連合会の和田様,どうぞよろしくお願いいたします。

(1)権利制限の一般規定について(関係団体よりヒアリング)

[1]日本経済団体連合会
【和田氏】
日本経団連知的財産委員会著作権部会長を務めておりますスクウェア・エニックス・ホールディング社長の和田でございます。本日は,お招きいただきましてまことにありがとうございます。
また,今,いただきましたように進行面でのご配慮をいただきまして感謝しております。ありがとうございました。
日本経団連では,著作権の問題につきまして,知的財産委員会の下に,著作権部会という部会を設けて本件につきまして検討しております。
メンバー企業は,計16社でございまして,私どものようなゲームソフトメーカーのほか,テレビ局,映画会社,ISPを傘下に置く通信会社,ハード機器メーカー,金融機関など,できるだけ幅広い業種の方に参加いただきまして,中長期的な観点からのご議論をいただいておりました。
どうしても著作権という話になりますと,各業界からの利害を代表した発言,それをどう刷り合わせるかということになってしまいがちなので,そうではない議論をするということで,この16社にはお集まりいただきました。
ただ,それぞれの業界に根ざした問題点の洗い出し,経験というのがございませんとなかなか議論の基盤が成立いたしませんので,幅広く募ったという,そんな経緯になっております。
本日のテーマは,権利制限に関する一般的な規定についてでございます。時間も限られておりますので,経団連におきまして提言申し上げた内容自体を詳しくご説明することはこの場ではできませんけれども,ただ権利制限に関する一般的規定についての考え方の土台にも私どもの立場ではなると思っておりますので,若干,触れたいと思っております。
提言自体は,今年1月,「デジタル化・ネットワーク化時代に対応する複線型著作権法制のあり方」というタイトルで著作権法制の枠組みに関する中長期的な視点での提言を発表しております。
これは,デジタル化,ネットワーク化という環境変化に伴って,現行の著作権で実現し得ない理念が何かと,それに対する対応をどうするかという考え方でございます。
著作権自体をどのように考えるか,あまり根っこからやってしまいますとこれは議論として国内で完結する話でもございませんし,あまりにも膨大な話になってしまいまして,結果的に実務的に対応しきれないということから,まずは現行著作権ということを土台といたしまして考えるというのが底流にございました。
ただそうは言いましても,1つの法の中で,考えられている,つまり追加的に乗っかってきた実現すべき理念というところが複数になっておりますので,そこに対してはどうも現法のままでは対応しきれないということで,現行著作権を土台にいたしまして,対応しきれない部分については追加的に対応するような方策を設けるということで2階建て,3階建ての状態で対応できないかというのが経団連での報告書の骨子になっております。
1つは,産業財産型コピーライトと称するようなもの,要するに商売で著作権を使う人たち,ここについてどのように対応するかということです。商売ということになりますと,現著作者が複数のものを1つの著作権として扱わないとなかなか取引の対象にならないですとか,実際に誰が取引の対象者,当事者であるかということがきちんと認知されなければいけないですとか,ある程度,現行著作権に追加的に手当てをしないとやりにくい問題も幾つかあると。ここについての1つの割切りのかたまりというのを考えてみてはどうかというところです。
もう1つは,自由利用型コピーライト,これは主として学習,啓発,その他に利するものということなんでしょうけれども,かなり自由に著作物を使ってよろしいという許諾を一般的に与えるようなものというような手当でございます。
この2つは,明らかに異なった理念を実現しようとしておりますので,現行の著作権の中に入っているものをあえて抽出して上に乗せた状態というところです。
ただ,これらの追加的な手当てにつきましては,これは現行著作権というのをベースにしておりますので,何を選択するかということをこれは権利者の裁量によって選択できるようにしようというところが,先ほどの著作権をベースにしているということと呼応するポイントでございます。
経団連で議論されたこと自体が,具体的にどのような制度にして,どのような運営機関を置くのかということにまでは言及しておりません。あくまでも考え方ということで,乗り越えなければならない壁はいっぱいあるんですけれども,考え方ということで提出させていただいております。
提言は経団連のホームページからダウンロード可能でございますので,ぜひご一読いただければと思っております。
さて,いわゆる日本型フェアユース,一般的権利制限規定につきましては,この複線型著作権制度という私どもが提言した,提言の土台とする著作権制度の根幹を変更してしまう議論であるということから,著作権部会では権利制限規定に関するアンケートを公開しておりませんけれども,実施いたしまして,その在り方につき,討議いたしまして,本年1月の提言に合わせて,権利者と利用者,双方の視点からバランスのとれた議論が行われることが必要であるといった考え方を表明いたしました。
今回,このテーマですので,資料の方の3枚目,別紙の方をご覧いただきたいんですけれども,内容はこんなことになっております。
新たな技術やビジネスモデルが創出されており,現行著作権法の個別権利制限規定だけでは技術発展のスピードやビジネスのニーズに柔軟かつ迅速に対応しきれなくなっている。こうした状況を解決するためには,何らかの法的措置が必要との意見がある。
法的措置としては,[1]権利制限にかかる予見可能性や法的安定性の担保の観点から,現行著作権法が採用している権利制限規定の限定列挙方式を踏襲し,問題が生じている個別具体のケースに対応した権利制限規定を追加していく方式と,[2]客観的に公正と認められるべき利用形態であるにもかかわらず,個別規定に照らし,形式的に違法とされてしまう利用行為に柔軟かつ迅速に対応する観点から,何らかの権利制限の一般規定を追加する方式の2通りが考えられる。
しかし,[1]については,制限規定が置かれるまでに時間がかかり,機動性が低いこと。また,[2]については,"公正"の概念をどのように定義するのかといった問題がある。
今後,現行著作権法が満たすことができないニーズを踏まえた上で,いずれの方式を採用するのか,また採用した方式について,具体的にどのような条文にするのかといった課題について,権利者と利用者双方の視点からバランスのとれた議論が行われる必要がある。
こんなお話をいたしました。
つまり当初から,何らかの権利制限の一般規定導入ありきの検討議論を行のうではなくて,現行の個別的,限定的権利制限規定の維持を視野におきながら,幅広い検討を行うべきであるというような内容でございます。
つまり当時,具体的に想定されるもの,それから具体的ではないんだけれども,方向としてはある程度想定されるもの。それから,想定されないんだけれども,何となくやった方がいいもの。幾つか段階がありますので,あまり軽々に議論するべきではないという話を申し上げておりました。
ただ,私どもの検討は2008年当時の著作権法を前提としておりましたが,その後,今年6月に著作権法一部改正法が成立いたしまして,権利制限に関する一般的規定導入によるメリット,先ほどの文章でもございましたが,想定しておりましたインターネット情報の検索サービス,あるいは電子機器利用時に必要な複製等に関する権利制限につきまして手当がなされました。
ですから,この考え方を出した段階で,一般規定として想定していたものがかなり既に実現したのではないかなというように感じております。
ただ,この意見を出して,今年の6月に改正法が成立してから経団連で議論の場を設けておりませんので,この著作権部会が6月の著作権一部改正を受けて,どういった見解を統一見解として持っているかということではございません。議論の流れからということで補足しているということをご理解いただきたいと思います。
実際には,想定していました今申し上げましたようなところが手当されましたので,権利制限の具体的なニーズというのは概ねカバーされたのではないかというのが個人的には思っております。
と申しますのは,先ほどのアンケートでもかなり具体的ではあるんですけれども,事例として個別特定の限度があるというのはさっきの検索ですとか,ここは非常に気になる方がアンケートでも多かったです。
ただ,将来何が起きるか分からないものに対処するために一般的な権利制限の導入ということについて検討すべきであるとお答えになった会社は,これは内容は非公開でございますけれども1社だけでございました。
したがいまして,経団連としての公式見解ではございませんけれども,当時の議論,それからアンケートを受けて概ねこんな方向ではないかなということで,私の方からお話を差し上げてもさほど齟齬はなかろうかと考えております。
もちろん,今後何らかの具体的必要性が生じる可能性がございますけれども,その場合にはその時点で検討することで十分に応えられるのではないかという考えもございます。
つまりこういった個別具体論ではなく,なお一般規定を導入するということであれば,やはり現行著作権法の根幹をなす権利保護の原則についての考え方についてのかなり大きな修正というように感じております。
権利制限の対価を払っていかなる社会的効用というのを実現していくかということを権利者,利用者双方の視点から慎重に議論すべきだと思います。
想定されるかなり具体的な事例と言いましょうか,事象と言いましょうか,環境と言いましょうか,そういったものをベースに議論すべきではないかというのがこの考え方です。
私ども日本経団連は,総合経済団体でございまして,様々な業種の方々が入って議論いたします。産業界としてのコンセンサスというのを形成するのが趣旨になっております。冒頭申し上げました著作権部会も経済団体,経済主体が実現すべき総体としての社会効用がどうあるべきかということを業界を背負っていながら,あまり業界の事情に拘泥せず議論しようという観点でなされた提案でございます。ぜひ,その辺りおくみおきいただきたいと思っております。
私からの概略説明は以上でございます。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただ今のご説明につきまして何かご意見,ご質問ございましたらお願いをいたします。
小泉委員,どうぞ。
【小泉委員】
資料1の(1)の2つ目の・に,非常に広い業種の方を交えてご検討されたというご紹介がありまして,その中に「ハード機器メーカー」というのが入っております。本日,この後,電子情報技術産業協会様からもお話を伺うことになっているんですけれども,ここでいう「ハード機器メーカー」という中には,JEITA 企業の方々も入っているのかどうかというあたり,お願いします。
【和田氏】
はい,いらっしゃいます。
【小泉委員】
お伺いしました趣旨は,ただ今ご説明ありましたとおり,経団連さん全体としては,どちらかというと,先般の改正によってもう権利制限のニーズはほぼ満たされているのではないというご意見だったということですけれども,後ほど予定されているJEITA様の資料では,むしろ,機器メーカーさんとしては,フェアユースというのが必要だというご意見が述べられていたので,その辺り,どういう関係にあるのかなというのをお伺いしたかった次第です。
【和田氏】
今のポイントにつきましては,経団連でお話をしていますのは,全く一般的,一般的が広すぎてしまうととにかく現行法の根底を考えてしまう話なので,そうではなくてどれだけ具体的な事例があるか。その具体的な事例に基づいて,まず一般的権利制限規定導入ありきではなくて,幅広にしましょうというのが著作権部会としての統一見解ということでございますので,この段階では,個別の議論として想定されたのがまさにさっきの検索その他の話でした。
したがいまして,6月の手当で概ね済んだんではないかというのは,これは私の意見でございます。その後,さらに具体的な事例が出てきたらそれは別途議論すべきだというように考えております。
【土肥主査】
中山委員,どうぞ。
【中山委員】
今回の改正で大体手当されたというお話でございますけれども,前回のこの審議会でもいろいろと問題があるということがたくさん出ましたし,今,小泉委員から話がありましたとおり,JEITAのペーパーにも問題点がいっぱいあります。例えばこのデジタルがこれだけ発展している時代ですから,検索エンジンは確かに処置できました。わけの分からない難しい条文ですけれどもできましたけれども,それではもうすぐ次がブックサーチはどうかとか,次々から新しい問題が出てきていると思いますし,現に出てきていると思うんですけれども,このニーズがないというのはどういう根拠でおっしゃったんでしょうか。
【和田氏】
あるかないかと言うと,存在証明ができた方の勝ちになってしまいますので,なかなか立場が弱いんですが,いずれにしましても経団連の場でも,著作権部会の場でも議論になりましたが,とにかくいろいろあるんだから,まず一般的な制限を導入すべきという議論ではなくて,どこまでをカバーすれば手当できる問題なのかというのをかなり具体的に考えましょうということだったと思います。
したがいまして,未来永劫一切問題が発生しませんという意見ではなく,その都度,どういった問題があり,それの集合としてどれぐらいのカバーを想定してまた手当すればいいかということを個別に議論するのがよろしいのではないかということを申し上げております。
おっしゃるように次々にいろいろ出てまいります。それはもう私どもも含めて商売でございますので,一生懸命考えるわけですが,その考えたところで,ある括りになった段階で対応していくということでございます。そのときの比較でもって考えていくというのが正しいのではないかということで,恐らく2,3歩先ぐらいまでを考えるのではなく,数十メートル先まで見越して一気にとらまえて一般的というのは,禍根を残すのではなかろうかということを申し上げております。
【土肥主査】
松田委員,どうぞ。
【松田委員】
松田です。
6月以降改正が行われて,今のご意見になったというふうに言われまして,個人的意見でも今のご意見だと追加されました。
しかし,一方においては,デジタル・コンテンツの特性に応じたフェアユース規定,一般的規定は特別法をしても,導入すべきであるという意見もあるわけです。
これについては,経団連ないしは委員長の和田さんとしてはどのようにとらえていらっしゃるんでしょうか。
と言いますのは,そのような意見を1月の段階で和田さんが出されているからであります。その関係をご説明願えませんでしょうか。
【和田氏】
1月の私の方からというのは。
【松田委員】
前回のこの委員会で出されました21年1月9日付のデジタル・コンテンツ利用促進協議会会長,副会長試案というところに,スクウェア・エニックスの社長さんの和田さんのお名前がありまして,4名連名のうちの1名です。その文章には,デジタル・コンテンツの特性に応じたフェアユース規定を本試案に基づく特別法において独立して設けるべきであるという意見を出されているんです。
これとの関係では,6月以降,意見が変わったというふうに理解してよろしいでしょうか。
【和田氏】
経団連の著作権部会でお話ししたのは,基本的に現行著作権をベースにして,追加的に対応すべきもので,異なった理念に関しては,2階建てで,産業財産権型,自由利用型というところでやっていきましょうと。
いわゆるフェアユースの議論に関しては,ものすごく一般的な話ではなくて,個別具体的なものが想定されるのであれば,そこについて議論すべきであるというお話を申し上げました。
今の1月という話は,今の話と最後の話の中で,個別具体的に考えられる分野の一つが恐らくデジタル・ネットワークのところであろうとあろう,ということで,先ほどの2歩,3歩なのか,数十メーター先なのかは別として,別の括り方がなし得るのではなかろうかという問題提起す。これも議論を個別具体的に特定した上で議論すべきであるということなんですけれども,そういう意味では,頭の中が分裂しておらず,個別具体的なものについて議論するというときに,経団連での著作権一般についての議論だけとは違う観点のお話が1月で,それはデジタル・ネットワークという分野に限定したときに,固有の問題がそのように特定し得るのかということを議論すればいいのではないかという話です。
そのために,特別法も含めて,かなりそれはもう踏み込んだ話なんですけれども,具体的にどういうものを対象に,何を特別法としてするか。そもそも特別法なるものを制定するのかというのは,その次の話でございまして,いずれにしても問題をいろいろな観点から,対象を個別具体的に特定しながら議論すべきであるという問題意識の一環というふうにご理解いただければ,非常にありがたいのでございますが。
【土肥主査】
はい,ありがとうございます。
別添資料として前回出てきたわけですけれども,恐らくこれはまずは松田委員と(デジタル・コンテンツ利用促進協議会会長としての)中山委員との間でまだまだ議論があるところだと思いますので,本日の和田さんのご説明としてはよろしゅうございますか。
【松田委員】
次に行っていいんじゃないでしょうかと思います。
【土肥主査】
それでは,時間の方もございますので,本日お忙しい中,多数の方においでいただいておりますので,次の音楽著作権協会,日本レコード協会,それから芸団協実演家著作隣接権センター,この3つの団体からご説明をお願いしたいと存じます。
[2]音楽関連団体
【北田氏】
それでは,私,日本音楽著作権協会の北田と申します。
お手元の資料2でございます。表紙の方の音楽関連の7団体の意見を集約いたしましたので,こちらに沿いまして述べさせていただきます。
私ども7団体といたしましては,権利制限の一般規定の導入には反対でございます。
1枚めくっていただきまして,まず具体的な議論の内容以前の問題として,検討の前提に問題があるのではないかと考えております。
権利者の利益を不当に害しているとまでは言えないにもかかわらず,形式的に侵害になってしまうような事例があるということで,権利制限の一般規定を導入すべきという意見がございますけれども,私ども権利者団体といたましては,利用者との関係でそのような利用について,現状何か特段大きな問題が生じているとは感じておりません。
権利者団体としてはそのような利用があれば,利用者から何らかの配慮を求められるということもあまりすけれども,その都度,利用者の方と協議いたしまして,事情によっては,無償許諾ですとか,減額措置,こういったことを講ずるといった形で利用許諾するということによって解決しております。
もちろん,権利制限の規定に該当するかどうかについて権利者,利用者間での意見が分かれるということは当然ございますけれども,そのようなことは現行の著作権法が制定された当時からあった問題でございまして,何か問題が生じればその都度,双方の努力によって調整して解決しておりますし,これからもそのような努力が必要なのではないかと考えております。
特に,デジタルネットワーク技術の進展によりまして,立法当時予想されなかったような問題が生じているので,個別の権利制限規定のみでの対応には限界があるというようなことが言われておりますが,それは正しくはございません。
一方で,著作権法が新規ビジネスの開発に委縮効果を与えているといった意見もございますけれども,これは特にネットワーク上でのコンテンツ流通促進に向けた議論というのが行われる中で,ここ数年にわかに言われてきた問題だと思っております。
それはそれで議論の必要というのがあるのかもしれませんけれども,もともとアナログの時代から存在して,長年権利者と利用者との間で調整してきている問題と最近の技術革新にまつわる問題と全く背景の異なる問題を同列に議論するというのは,違和感を覚えます。
一般の利用者にとって身近な軽微な利用に関する問題と関連づけてビジネス上の利用において,許諾なしで使える例外の範囲を拡大しようというような意図がどうも働いているのではないかと感じざるを得ません。
また,もう1つは,ベルヌ条約のスリーステップテストとの関連というのがこの委員会でも議論されてきているようですけれども依然として明確になっておりませんので,この辺も明確にしていただきたいと思っております。
次に,2ページでございますけれども,反対の理由でございます。
先ほど申し上げましたように,権利者団体といたしましては,権利者の利益を不当を害さないような利用については,利用者との協議で解決しているということでございます。JASRACの事情で恐縮でございますけれども,例えば高齢者の介護施設でのカラオケの使用料などについては利用者の要望を受けて,使用料の免除の措置を講じたりしております。
それから,携帯電話の保守,修理のためのバックアップの複製ですとか,視覚障害者の拡大教科書,こういったものについても著作権法が改正される以前から利用者との協議によりまして,無償許諾というようなこともしております。
このように権利者の利益を不当に害しないと評価できるものについては,当然,利用者等の要望があれば無償許諾,あるいは減額措置という事例はこのほかにも多く存在しております。
利用者との間で,こういう問題が生じた場合に,双方が納得するような結論を導き出すというのが,私ども権利者団体の役割の1つだと考えております。
次に,2番目のビジネス利用に関して,でございますけれども,特にビジネス関係の利用について権利制限の一般規定のような考え方を持ち込むことに関しては,強く反対いたします。
新規ビジネスの開発の障害になっているというような主張がございますけれども,具体的な事例というのはほとんどなく,根拠がないのではないかと思っております。
また,このような規定を導入すれば,本当に新規ビジネスが開発されるのか,そういったことも全く明らかではございません。こういう曖昧な使用によって,個人の財産権を多く損ないかねない規定を置くべきではないと考えております。
これもJASRACの事例でございますけれども,新規ビジネスを開発するというような事業者の方から,著作権処理の問題というのは日々様々な相談や要望が寄せられております。
特に,インターネット関連の分野におきましては,これまで想定していなかったようなビジネスモデルというのが次々とあらわれてきます。
今では当然になっている着メロですとか,インターネットCMですとか,動画投稿サイト,こういったものもいずれも事業の開始の当初は,既存の使用料規定などの枠組みで実現できるものではございませんでした。
これを利用者との協議によって,例えば暫定的な使用料を決めていくというようなことで対応してきました。
それから,事例としては,DVDですとかブルーレイディスクも開発当初においては,複製使用料の減額措置を講じております。
当然のことながら,権利者団体としましては,新規ビジネスの発展というのは権利者にとって利益をもたらすということは承知しており,望ましいことだと考えておりますし,相談を受けた場合には,できる限り,そのビジネスが実現できるような方向で協議に臨んでおります。
利用者からの要望に応えていくということも権利者団体の重要な役割であると感じております。
次でございますけれども,仮に権利制限の一般規定が導入されますと,これが権利者の利益を侵害する事例にまで拡大して解釈されて適用されたり,あるいはこの規定を盾にとって侵害ではないと主張するような居直り侵害者が多数あらわれることが危惧されます。
アメリカでは,フェアユース規定は置いておりますけれども,その一方で,法定損害賠償ですとか,懲罰的損害賠償制度が設けられておりますので,侵害者がむやみにフェアユースを主張しても,否定されれば莫大な損害賠償責任を負わされるということになります。
最近のアメリカの報道ではフェアユースを主張して,違法に音楽をダウンロードさせていた若者が,67万ドルの損害賠償を認容されて,自己破産に追い込まれたという報道もされているようです。
このように司法制度全体の違いを考慮しないで,アメリカの制度の一部だけを導入するというのはバランスを欠くのではないでしょうか。
ご承知のとおりインターネット上では,今も違法利用があふれております。
著作権法に定められた正当な権利を行使するだけでも現実的には簡単なことではございません。
権利者団体が違法サイトを見つけ出して説明して,理解を得て,許諾手続きをとっていただくためだけでも膨大な時間と労力を費やしています。
違法サイトを発見した場合には,サービスプロバイダーにご協力をいただいて,削除してもらうということは可能ですけれども,それはあくまで削除だけであって,侵害者を特定できなければ損害を補てんさせるということもできません。
結局,侵害のし得になるということになります。したがって,いくら削除しても侵害者というのは常に後を絶たないというのが現状でございます。
このような状況の中で,フェアユースというようなことが導入されれば,火に油を注ぐようなことになりかねません。
また,これは違法サイトを追及していきますと,結局本人にたどりついてみると,実はこれが未成年であったというようなことも多くございます。
著作権に対する知識ですとか,判断力に乏しい若者がフェアユースというような耳触りのよい言葉にまどわされると,いわゆる居直り侵害者になってしまうという恐れも十分考えられます。
このような若者が軽い気持ちで行った違法行為が多額の損害賠償ですとか,あるいは場合によっては刑事責任を問われるということにもなりかねないのではないでしょうか。
次に,最後でございますけれども,これまで述べましたように,権利者の利益を不当に害さないけれども,侵害にあたるというような利用につきましては,法改正が必要になるというような特段の問題が生じているとは考えておりません。
新規ビジネスの開発に障害となるような事例が仮にあるといたしましても,その内容に応じて,協議して解決するということは十分に可能であると考えております。
法制問題小委員会におきましては,曖昧な意見に基づいて,立法化を急ぐということではなくて,具体的な事例を示した上で利用許諾や個別制限規定による解決の可能性を十分検討していただきたいと思います。
最後でございますけれども,権利者団体としては,やはり新規ビジネスの発展によって利益をもたらされるというのは望ましいと思いますけれども,創作者が求めているのは必ずしも経済的な利益の還元だけではございません。
産業経済の発展に偏らずに文化の発展の寄与するという著作権法の目的に立ち返って検討を進めていただきたいと思います。
続きまして,レコード協会の方から。
【高杉氏】
日本レコード協会の高杉です。
私の方から,「反対の理由」(5)に関連して一言だけつけ加えさせていただきたいと思います。
日本レコード協会が違法な音楽ファイルのアップロード者に送った警告メール数というのは2004年から既に1200万通を超えております。また,携帯電話向けの掲示板運営者に削除要請した音楽ファイルの数も23万を既に超えているという状況でございます。
このようにインターネット上における違法な音楽ファイルの状況は適法配信を上回る深刻な状況であるということでございます。
これに対して,権利者団体はエンフォースメントだけではなくて,著作権意識の啓発とか広報活動も含めて,多くのコストを費やしてきているということでございます。
また,特に,悪質な侵害者,アップロード者に対しては,損害賠償請求等を行うということを試みておりますけれども,現行のプロバイダ責任制限法の下では,プロバイダから侵害者の住所氏名の開示受けるのに3カ月から6カ月かかっております。その後に,侵害者に対し損害賠償請求等を行いますので,完結するのに1年かかっている状況でございます。
こういう状況の中で,権利制限の一般規定をさらに加えるということになりますと,この規定を根拠として侵害でないと主張する者が多く出てくることが予想され,権利者の負担するコストがさらに増加して,その結果,今まで以上に違法な状態が蔓延するのではないかということを懸念しているということでございます。
私の方からは以上でございます。
【椎名氏】
芸団協CPRAの椎名でございます。
同じく資料の2ページの反対の理由の中の6番で,私的複製との関連からの懸念を指摘させていただいておりますが,実はこういう話がございます。
最近流行っているインターネット上のトゥイッターというものがありまして,その中で話題になっている話なんですが,この8月9日に,夢の島で行われた野外音楽フェスティバルにおいて,イエローマジックオーケストラとかが出演されたわけですけれども,その演奏をICレコーダーで密かに盗み撮りをしようとしていたお客さんがいた。そのお客さんが前にいたので,後ろにいたお客さんがそれを見咎めて注意をしたところ,何を言っているんだと,これはフェアユースなんだから問題ないんだというふうに答えたという話がネットに載っておりました。
もちろんこうした行いというのはフェアユースに類する話などではなくて,私的複製ですらなくて,単なる録音権侵害という違法行為の話に過ぎないわけですけれども,現状において一般規定を導入すれば,このような誤解と言いますか,誤った意識がユーザーにまん延することは火を見るより明らかであろうかと思います。
私的複製をどう扱っていくのかというのは,極めて重要な問題でありまして,私的録音録画に関する補償金制度が設けられた当時に比べれば,私的複製に関する手段や機会がふんだんに提供されるようになっている一方で,そうした私的複製について補償を行う制度の実効性が極めて危うくなっているような状況下にあって,その整備が一向に行われないままに,なぜさらに権利者の不利益を増大させるような一般規定の導入などという制度改正が行われなければならないのかということについては,極めてバランスに欠けた施策であるとしか言いようがないと思います。
よって,一般規定の導入を検討しようとするならば,少なくともまずは私的録音録画に関する制度の見直しについて一定の決着を見た上で行う必要があるというふうに考えております。
以上でございます。
【土肥主査】
北田様,高杉様,椎名様,どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の3方の説明につきまして,何かご意見,ご質問がございましたらどうぞご遠慮なくお出しください。
よろしゅうございますか。
何か3方で,意見を申し述べる際に,少し言っておきたかったというような補足することがございましたら。
【椎名氏】
すでに補足しましたので結構です。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,続きまして,文芸関連団体のご意見を承りたいと存じます。
日本シナリオ作家協会西岡様,金様。日本文藝家協会坂上様,桐原様,伊藤様。日本ペンクラブ山田様,どうぞよろしくお願いいたします。
[3]文芸関連団体
【西岡氏】
協同組合日本シナリオ作家協会の西岡です。
我々は,映画,テレビのドラマの脚本,シナリオを作っております。権利制限の一般規定に反対の立場で少し話します。
よく分からないことが多くて,なぜこういうふうに急いで導入をしようと目論まれているのか。あるいはその導入された後,我々にどういう球が飛んできて,我々がどういうことをしなければならないのか。あるいは訴訟当事者になった場合,一個人として裁判を引き受けなければならないという,いろいろなあまり見たくない未来が幾つも見えてくるんですが,それより前に,規定導入の議論の前に,制作現場の現状を良く認識してはどうかと思います。例えば今,日本映画の現場は荒廃しています。マスコミなどでは日本映画は元気だだとか,興隆しているだとか,ヒット作が多いだとかと報じられています。実際,主にテレビ局が作る映画が大量の宣伝のせいもあって,興業収入50億,100億という映画が年に3本も4本も出ます。しかし,映画人口,年間1億6,000万人,これがまったくこの数年増えてません。横ばいです。映画を見て,また別の映画に行こうというお客だとか,映画の良さに気付いて更にを楽しもうというニーズがない。僕は多分1億6,000万からどんどん毎年,これから映画人口は減っていくのではないかと危機感を強く抱いています。
それでテレビ局のプロデューサーたちは,今,映画館で映画を流して,多額の儲けを出すシステムを見つけ出したわけですが,ブロードバンドでもっと儲かる方法論が見つかれば,そっちに直ぐに移るぞと公然と言ってます。
お金を儲けるなとはもちろん言いませんが,我々はそういうプロデューサーや制作会社の下で,一緒になって映画の創作をしているわけです。権利制限の一般規定の導入などによって,流通のシステムを整えたはいいが,そこで流通するのは非常にできのよくない,あるいは鑑賞にたえない作品ばかりになってしまうのではないか。それは本末転倒ではないのか。ですから我々は,製作現状をまず視野に入れて,流通の枠組みの議論をしていただきたいと考えます。
以上です。
【坂上氏】
日本文藝家協会の坂上です。機会をいただいてありがとうございます。
日本文藝家協会は,この権利制限一般規定導入には反対です。その反対する理由というのは,文藝家は,権利制限の個別規定の拡充に基づいて,当事者間で協議解決すべきという,そういう基本的な1点です。当協会は,文芸著作権者会員2,540余名,それから著作権継承者である準会員が1,250余名,著作権管理委託者としては3,460余名,を擁している団体でございまして,当協会の目的は,文化に寄与して文藝家の職能を擁護するということにあります。協会の目的に沿った事業の根拠は,著作権法にあることは言うまでもありません。
文藝家は,個別の権利制限の下で学術振興や教育促進,それから福祉関係へのお役立ち,そういったそれぞれの分野で利用者側の立場に立って便宜を図って,社会的な責務を果たしてまいりましたし,これからもそうしていく団体でございます。
著作物の利用に当たって支障があれば,その都度,それぞれの関係団体と協議を進めて解決に導いていく。多くの場合はその結果が著作権法の改正にも結びついてきたということでございます。
すなわち協議の慣行と個別の権利制限規定の拡充によって,これまで適切に著作権問題の解決を図ってきたので,この権利制限に一般規定を加える必要性を全く認めないと申し上げます。
実例としましては,提出資料のところに1ページ目の下の方から(1)としては障害者の方のための録音図書ネットワーク配信サービス,これも関係の協会と協定を結ぶことによって十分にお役に立つような形をとってきておりますし,それから(2)は学校における著作物の使用のことに関して,いかに事後報告や補償制度などを取り入れて教育の促進を図っていただくか,そういったことをやってきておりますし,(3)の例は,教材会社がいろいろ仕事をされるときの,問題集作成の仕事の自社サーバーの使い方についてもこれはデポジット制を導入していただいて解決を図ってきています。
それから,企業の中では,研究開発で著作物の中の言語情報,あるいは音声データの解析を行って,新しい研究開発に結び付けたい,またそれらの音声・言語技術についてデモンストレーションをするとか,そういう研究開発活動をやっておられるときに,これは著作者との合意を図っていただいて,調整をとって進めていただけるような形にしています。
以上のように申し上げました例からも,現著作権法の目指す権利制限の検討見直しによって当事者間で諸問題の解決を図ることが大事であって,権利制限の一般規定,いわゆる日本版フェアユースを導入する必要性は全くないと考えております。
次に,直近の問題で,この一般規定導入の弊害を立法化の見地から危惧する世界情勢があることを申し上げておきたいと思います。
米グーグル社を全米作家協会,全米出版社協会が提訴した裁判というのは,今日現在まだ和解が成立したわけではございませんけれども,フェアユース裁判でした。
米グーグル社が2004年にシカゴ大学図書館の蔵書を全てコピーするということを行って,検索可能にしたということから始まった,そういう行為は,フェアユースを主張して,ビジネス・コンテンツを手に入れるためでありました。
原告側は米国における全著作者のためのクラスアクション,そういう形の和解に持ち込んだわけですが,グーグル社の和解金というのは3,450万ドル,うち1,200万ドル,多分その一部分を使ってでしょうけれども,ブック・ライツ・レジスターというのを作りまして,今後の利用の管理とかグーグルの実施を監視するというような機構を作るということを聞いております。裁判の総費用は計り知れないものだと思います。
もし,というのもおかしいんですが,最初から研究教育目的の権利制限を議論して,ブック・ライツ・レジストリーによって無償,有償の判定とか,著作権者不明のいわゆるオーファンブックのタイトルの管理機能を作っておけば,これはベルヌ条約加盟の全世界の国々の合意を得られたことだろうと思います。
ちなみにこのブック・ライツ・レジストリーという機構を作るアイデアは,日本の北川善太郎教授の構想に通じるということをアメリカの作家協会の人たちが説明しておりました。
それから,次に,文藝家というのは,創作物をかけがいのないものといふうに,認識しております。つまり創作という独創的な内的な動機によって作られる場合は,これはコンテンツとしての商業性というのは,最初は別に見えているわけではないんですね。コンテンツクリエイターがいて,コンテンツプロバイダーと言いますか,出版産業などが成り立っている,その世界ですので,しっかりした土台の上に,大きな家ができる,これが産業発展というものだろうと思います。
このコンテンツプロバイダーである出版産業においては,コストとしてコンテンツクリエイター,私ども文藝家に対して発生する著作権というものには出版契約の言葉で言えば,印税とか上演権とか,映画化権とか,あるいは放送権とか,翻訳・翻案権,復刻権,雑誌・新聞掲載権,選集権,公衆送信権,公衆可能化権などがあります。
こういうようなことがいわゆる産業のコストになっているわけですけれども,この上に今日ではネット時代の中で,新しい市場が形成されてネット流通権とか,デジタル複製権とかe-ブック権とかそういうものが出てきています。
これらは非常に大きいんじゃないかというようなことを業界の中で仮に理解し,さらに,とにかくこういうことはスピードが必要だから,コンテンツライセンス業者の方々のために,使いやすくするために,権利制限の一般規定を作ろうというようなことが見受けられるとすれば,これはフェアユースというよりは,むしろフリーユースと取り違えることになる。
文化文明の度合いは,著作権や知的財産権の上に成り立っています。その文化立国,文明立国がフェア・イズ・フリーというような,昔の文明社会に戻ってしまうことになってしまう。これも大変憂慮すべきことではないかと思います。
先ほど申し上げたように,私どもは,現在の法の下での権利制限の拡充という中で社会発展に役立つよう,当事者間が話し合っていくということを強く考えておりますが,それに対して,それでは時間がかかり過ぎるというような意見もあると聞いております。
しかし,本当のコンセンサスの下ででき上がったルールというものは,大変有効な明るいものであるということを申し添えておきたいと思います。
以上です。
【山田氏】
日本ペンクラブは,日本国内で活動するものを中心としました作家,詩人,エッセイスト,評論家,編集者で集まっている団体であります。
お話をいただいてから1カ月余りで,組織としてのきちんとしたヒアリング項目に対する回答を本日お持ちできませんでしたが,ちょうど今文藝家協会の方からも触れられましたグーグルブック検索に関して,まさにちょうど,アメリカ,ニューヨーク連邦地裁に対して異義申立をするということを決めまして,その議論の過程で話をしておりました関係で,言論表現委員会のレベルでありますが,そこでの議論をまとめたものをペーパーにして提出させていただきました。
大きくは2つであります。1つは,2項目目にありますように表現の自由,出版文化の発展という観点からの議論をぜひしていただきたいという点。
それから,もう1つは,著作権者の権利と文化の継承のバランスをどうとるかということについてのいわゆる将来的青写真を示す形をぜひとっていただきたいという点であります。
2つ目の青写真とは何を指すのかということでありますが,この権利制限の一般規定については非常に幅広の議論があろうかと思いますが,とりわけペンとして言いますと,現在の自立した出版流通システムというものがあってこそ豊かな出版文化が継続されるというふうに考えております。
デジタル時代におけるそのような出版流通システムとしてどういうものがあり得るのかということの青写真なしに権利制限規定の議論が進んだことに対する深い危惧というものが現時点であるということであります。
すなわち最初にお話ししましたように,ペンとしましては,現時点においてこの規定が是か非かというはっきりとした意見表明をする段階にはありませんが,この種の議論が先行することに対する危惧感を持っているという懸念をこの場で表明させていただきたいと思います。
以上です。
【伊藤氏】
文藝家協会の伊藤です。先ほどの資料3のところで補足させていただきます。本日,登壇しました3団体以外に日本脚本家連盟及び日本推理作家協会からも意見書の方が出されておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。それでは,ただ今のご説明につきまして,何かご意見ご質問ございましたらお出しください。
中山委員,どうぞ。
【中山委員】
どうも伺っておりますと,産業と文化というのを対峙させて考えておられるように見えます。産業のためになぜ文化が犠牲にならなければいけないかということだと思うのですけれども,私はその発想自体が理解できなくて,産業と文化と分けて考える必要はまずないだろうと思います。それにフェアユースの規定を入れると権利者として大きな損害を受けるというようなイメージを受けましたけれども,まだ条文ができていませんからどういうことか分かりませんけれども,いかなる条文ができようとも,権利者の利益を不当に害するものはフェアユースになるわけがないと思います。
今度のグーグルの検索エンジン,これは新たに立法化されましたけれども,あれなんか見ても分かるとおり,完全にコピーしていますから,著作権法上は黒なのですけれども,しかしやはり黒であっても権利者がどのくらい損害を被っているのか。逆に,グーグル検索の利用が,どれほど公益に利しているのか。その2つのバランスを考えなければいけないと思います。
したがって,先ほど言いましたように,不当に利益を害することはまずないと,そういうことは条約上もできないということを前提に,今度公益の方も議論していただきたいと思います。
それから,もう1点は,確かに権利者団体はいろいろ努力されているということは十分分かっております。いろいろな話し合いでうまくいっているということも分かっております。それは恐らくアメリカだって世界中どこだって,大体のことは話し合いでうまくいっているのだろうと思います。しかし法律というのは,例外的にうまくいかないものをどう扱ったらよいか,ということを考えて立法しなければいけないと思うわけです。
例えば,これはほんの1例なんですけれども,今,東京地裁で裁判になっている例が1件あります。私は素の時間の弁護人ではないのですが,絵の鑑定,この絵は本当であるか偽物であるかという鑑定を東京美術倶楽部というところで行っております。しかし鑑定書だけでは意味がないわけで,違う絵にくっつけられたらおしまいですから,絵を写真に撮って,こうやってくっつけて,これは本物ですという証明書を出しています。
ところがこの絵のコピー(この事件では写真),これは許諾を得てないわけです。したがって,裁判になっています。そういうふうに権利者団体以外で努力しても,しきれない面というのが必ず出てくる。そのような事件の数はそんなに多いわけじゃないんですね。本家本元のアメリカからでもそんなに多くない。大体は,話し合いでうまくいっていると思うのですけれども,うまくいってないものをどうするかということがフェアユースの一番の大きな問題なのではないかと思います。
【土肥主査】
3団体と申しますか,今の日本文藝家協会,それから日本シナリオ作家協会,日本ペンクラブ,3団体の方から今の中山委員のお話についてご意見ございますか。よろしいですか。
ほかの方よろしゅうございますか。
他の委員の方,ご意見ございますか。ご質問。
創作の上で,フェアユースがあればいいというような,表現の自由との関係でフェアユースがあればいいというふうな,創作活動上,そういう認識をお持ちになるということはないんですか。3つの団体の方にお尋ねしますけれども,そういうことはないですか。
【山田氏】
基本的にその件については議論しておりませんけれども,日常的な話の中で言うならば,あるいは一般論で言うならば,創作者は当然使う立場,使われる立場,両方の立場があるわけでして,我々も使う立場として様々な文芸作品,あるいは表現物を利用する,その際には当然ながら許諾をとるという場合が必要なこともあります。ない場合の方が実際多いですけれども,必要なこともあります。
そのときに,もちろん一般規定があると許諾をとる手間が要らなくなる場合もあるかもしれませんから楽があるかもしれませんけれども,しかし,今,日常的な創作活動の中で,それが大きな障害になっている,フェアユース的なものが必要であるという議論はないというのが現状であります。
【土肥主査】
どうぞ。
【中山委員】
普通の文芸作品において利用するということはあまりないし,利用するときには多分フェアユースの規定ができても許諾が必要な場合が圧倒的に多いだろうと思うんですけれども,恐らく一番問題になるとすれば,パロディ,コラージュ,そういう分野だと思うんですけれども,それはいかがでしょうか。
【山田氏】
その点は,細かな法律議論に入っていくと思いますので,この場で議論するのがふさわしいかどうか分かりませんが,非常に特殊な分野の話だろうと思います。その点は,アメリカのフェアユース解釈でも非常に大きな議論になった部分です。
日本においてパロディというものが十分に文化的にも法律的にも成立し得てないという部分があるのかもしれませんし,そこは別途の議論が必要だと思っています。
【土肥主査】
ありがとうございました。
【坂上氏】
パロディとかそういうことをおっしゃっているのであれば,パロディというある意味では創作的な,芸術的な行為というのは大変大事な部分だと思うんですね。
これは一般規定を作って,これもパロディというものの容認範囲を広く決めてしまおうという法律の問題ではなくて,その国々が持っている文化の問題ですから,これこそ今の現行法の中でいろいろケースを検討していただくと,場合によってはそれが裁判になることもあるということで,大変いいことなんじゃないでしょうか。そのパロディに対する議論というのは。一般規定の必要性というものとは全然関係がないことだというふうに思います。
【中山委員】
一般規定がないからそれが事件になっているわけです。事件になって負けているわけですよね。
今,日本では2件程度しかありませんけれども,2件がパロディかどうかとちょっと疑問がありますけれども,少なくとも今の法制でいけば,大体パロディは負ける傾向にあるだろうと思います。
それがいいかどうかという議論はまさにフェアユースの議論だろうと思います。あるいはパロディだけをとれば,パロディだけの立法ということもあり得ると思いますけれども,とにかく現行だとパロディは非常に不利だということは間違いないと思います。
【坂上氏】
法律的に不利だということですか。
【中山委員】
現行法の解釈として。
【坂上氏】
解釈としてですか。しかし,それはパロディそのものが持っている文化の力というものを消すほどのことではなくて,パロディというのは1つの文化的な行為としてたくさん行われていますし,またそれがたまたまた裁判になって,時間をかけて検討するというケースも出ていますけれども,パロディというのは芸術的な発想の1つですから,恐らく法廷で決まったことだけがこの世の中を支配しているという,そういうルールではございません。文化的な分野だということを言っているわけです。
【土肥主査】
おっしゃることはよく分かるんですけれども,ここは法制小委なものですから,どうしても観点が法的なアプローチということで議論を進めておるものでございますので,よろしくお願いいたします。
それでは,時間の関係もございますので,障害者放送協議会の井上様のお話,ご意見を承りたいというふうに思います。よろしくお願いいたします。
[4]障害者放送協議会
【井上氏】
ご紹介いただきました井上です。よろしくお願いします。
資料は,4番になります。
まず最初に,今回の法改正により,障害者などの情報保障が促進されることになり大変感謝しております。特に,この審議会の委員の皆様や文化庁著作権課の皆様には,ご尽力いただいたと思っております。
しかし,前進だとは思うのですけれども,文化庁さんが出されました法律案の概要を読みますと,来年1月1日の法改正により,障害者も健常者と同様に多様な情報へのアクセスが可能と書かれており,確かに法律上はそうなのかもしれませんが,法律の実効性ということだと思いますが,実際に本当にそうなるかどうか。まず第一に法律が変わったとしても実際にアクセス可能な,バリアフリーといってもいいでしょう,そういう著作物がきちんと提供されるのかどうか,はなはだ疑問です。
それから,特に37条及び37の2,はほとんど書き換えということで改正していただきましたが,あくまでも今の著作権法の枠の中ということなので,例えば障害者の範囲は広がったわけですが,「視覚,あるいは聴覚による表現の認識に障害がある者」という言い方になっており,文化庁さんの国会答弁ですと,これは例示というふうにおっしゃっていますけれども,どうしても視覚及び聴覚,やはりそれにひきづられてしまうのではないかなと思っております。
私どもは10年来いろいろ要望してきましたが,積み残しになってしまったという課題も多いのではないかと思っております。
最終的には,著作権法を全部組み直す,という見直しでやっていただくしかないのかなと思っています。例えば基本的に障害などで著作物にアクセスできない人たちに対し,著作権者以外の第三者がなりかわって,「読める」,あるいは「見られる」,「聞ける」,つまり著作物にアクセスできるよう形式を変換すること,複製ということになるのかもしれませんが,そういう行為が著作権侵害には当たらないということを明確にうたっていただければよいと思いますが,すぐにはなかなかそうもいきません。
カッコづきの「日本版フェアユース規定」ですが,これを導入することで,この積み残しとなった課題解決への道が開けるのではないかと思います。そういうことで,導入については是という立場で意見を述べたいと思っています。
たくさん事例はあるのですが,大きく2つほど挙げたいと思います。
1つは,先ほどちょっと申しましたが,やはり現行著作権法の枠の中での改正ということで,どうしても旧来のいわゆる視覚障害,聴覚障害ということにひきずられるということです。実際には著作物へのアクセスが困難な方というのは,非常に多種多様でありまして,それこそ1つ1つ条文を作っていったら,何千条になるか分かりません。ですから限定列挙的にやっていくのでは到底無理だと思います。
資料には,視覚ではちゃんと認識できるのですが,例えば上肢が障害等で不自由で,印刷物をめくって読めないとか,あるいはその他のいろいろな理由で,通常の著作物にアクセスできない方をあげておきました。このような方たちというのは非常に多いわけです。
そういう方たちは,以前私は声なき声ではないかと申し上げたんですが,こういう意見発表の場に実際に出てきて,これは困っているんだ,ということがなかなか言えない方たちではないかと思うのです。
今回の法改正では,このあたりのことが,ちょっと不明瞭でして,私どもは法律の解釈でぜひやっていただきたいなと思っているところです。それから文芸協会さんと日本図書館協会さんとの間の事前一括許諾のガイドラインの中には,こういう方たちもちゃんと目配りしていただいているわけですが,そういう権利者の方たちと逐一ガイドラインを共通に作るというのもなかなか実際的ではないわけです。そういう場合はやはり日本版フェアユース規定を活用して,やれないものかなと思います。
今回の法改正で,いわゆる障害者の特定をどうするのかについては,法文上では特段定めないことになり,実際には情報提供等をする側の判断でやっていくことになりました。
その判断する側の方たちが,法文でしっかりうたわれていないことから,逆に範囲を狭くとりがちである,つまり悪い意味での遵法精神と言いますか,そのような傾向があるようにも聞いております。
とにかく通常の著作物にアクセスできない方については,これは「フェアユース」であるということを明確にしていただければ,さらに円滑に進むと思います。
それからもう1点は,これはつい最近も台風や地震が起きており,大変な被害も起きております。そういう緊急災害時などの情報保障の問題です。
これも前々から申し上げていることですが,全く不十分な状況としか言いようがありません。ここでは,特に聴覚障害の方たちからの,補足の資料もお出しいたしましたが,例えばテレビで,災害の緊急情報が流されます。定時のニュース等では,字幕も入るのですが,手話はなかなか入らないようです。そして定時ニュース以外の臨時なものについては,字幕も手話もほとんど入っていない。これは生命,財産に直結するような極めて重大な問題です。
このような情報保障については現行著作権法,あるいは今度改正される著作権法では大分目配りもいただいてはいるようですが,それにしてもまだまだ制約がいろいろあるようです。
本来は,情報が提供される最初の段階で,全てアクセシブルになっていればいいわけです。これは著作権法の問題ではないわけですが,なかなか実現しない以上,地震や台風というのは,法律改正を待ってくれないわけです。ですから,すぐにでも「フェアユース規定」というのを活用して,取り組めないのかなということです。
仮に,その提供された情報が障害者以外の健常者の方に使われたとしても,これは何か問題があるのかと逆に聞きたいぐらいの気持ちです。
国民の財産,生命がこれで守られるのであれば,権利者の方には申しわけありませんが,形式的には権利侵害かも知れませんが,これは十分公益性があるわけですから,問題ないと思います。
私は,技術面には詳しくはないのですが,最近のインターネット技術を活用すれば,例えばテレビの放送番組の録画映像にコメント,つまり字幕のようなものをつけることができるそうです。私も見たことがありますが,中には明らかに権利侵害と思えるものもあるようです。しかしこういうものをきちんと正しい目的で活用するのであれば,これはまさに「フェアユース」ではないかと思っております。
最後に,もう時間もありませんのでまとめます。障害者の問題というのは,いつも少数者の問題であるととられがちです。日本はもう高齢化社会となっており,私もすぐ高齢者の仲間入りしますが,年をとっていけば皆さん情報が入りにくくなってきます。
例えば,寝たきりになって,本を読みたいと思っても,分厚い本を読むのは大変です。実際にやってみれば,これは大変なことだとすぐ分かります。ましてや病気や障害で体力が落ちている方には酷な話でして,このような方たちに対して,例えばデジタルネットワーク技術を活用すれば解決の道が開けると思います。もちろん,通常,市場に出回っている図書と同じ値段で,そういうデジタルブックなどが普及してくればいいのですが,そうなっていない以上はこれは誰かが著作権者になりかわってデジタル化などしても,それは全く「フェアユース」ではないかと思います。
私自身,将来もし寝たきりになってしまったとき,いちいち人に頼まないと,好きな本も読めないようでは,本当に文化的な国とは言えないのではないかと,思っているわけです。
「フェアユース」という言葉ですが,ユースというのは利用ですので,障害者の場合はユース,つまり利用できる以前の話です。とにかく著作物に自由にアクセスできない方が想像以上に多くいらっしゃり,今後は高齢化などでどんどん増えてくるわけです。このような観点からも,ぜひこの「日本版フェアユース」を活用していくべきだと思っております。
以上でございます。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただ今のご説明につきまして,ご意見につきまして,何かご質問,ご意見ございましたら。
松田委員,どうぞ。
【松田委員】
松田です。 視覚や聴覚以外でアクセスができない例として,1つが上肢不自由のお体の方が,本のページがめくれないという例を出されました。これは著作権法とどう関わるのか私には分からないのでご説明願いたい。著作権法をどう改正しても,ページはめくれないんじゃないでしょうか。
それから,もう1つ,災害時にテレビニュースを字幕や手話で伝達するべきだと,それはそのとおりだと私も思います。しかし,これはニュースを作るテレビ局がそういうことを積極的にやればいいのであって,ちょっと著作権法上の問題で字幕をつけろということは無理のように思いますが。
【土肥主査】
お願いいたします。
【井上氏】
お答えしてよろしいですか。
ページがめくれない方について,外国の著作権法では,いわゆるプリントディスアビリティという概念があるそうです。通常の印刷物にアクセスできない方で,これは実際読めないわけです。ですから,例えば視覚障害者の方のための録音図書を使えば,そういう方も著作物にアクセスできる。そういうお話だと思います。
今回の法改正では,いわゆる「視覚の表現による認識」という言葉が入っていますので,そういう方たちをなかなか定義しづらいということだったと思います。
それから,もう1点のテレビニュースの字幕や手話のことです。
これは聴覚障害者の団体の方が,別添資料でご覧くださいということでつけたものでして,私が直接コメントするのは差し控えますが,要するに最初の段階で,放送事業者の方がきちんと全ての方にアクセシブルなものを出していただければいいわけです。それはおっしゃるとおりで著作権法の問題でも何でもありません。例えば,放送法か何かで義務づければよろしいわけです。
ですが,実際,そうなっていないわけです。放送事業者に対していろいろな目標値がございます。今何%という数字も出ています。しかし最初から除外されているものもあるのです。字幕や手話をつけるには,技術的に困難という理由で除いてあるということです。
それから著作権法上,問題のあるものでも除外があるらしです。ですから,これについては著作権法と絡んできますが,いずれにしても,放送事業者の方が,明日にでも全てやっていただけるのであれば,このような話はしなくて済むわけです。特に,地震などの災害は明日にでも,というか今日にでも起こるわけでありまして,一刻の猶予もないわけです。ですから,著作権法で権利制限していただいて,第三者が許諾なくやることについて,ある程度自由に認めたらよいという話だと思います。
【土肥主査】
それでは,よろしければ次の電子情報技術産業協会の亀井様と榊原様のご意見を承りたいと思います。
それでは,お願いいたします。
[5]社団法人電子情報技術産業協会
【亀井氏】
JEITAから参りました亀井でございます。
本日は,意見陳述の機会をいただきまして,ありがとうございます。
ご用意いただきましたヒアリング事項に沿う形で資料を作成いたしましたので,その資料に従いまして意見を陳述させていただきます。
まず,一般規定導入是非ということでございますが,JEITAといたしましては,導入に賛成いたします。
2番目,具体的にどのようなケースを想定しているかというご質問でございますが,現行法の下で,形式的に著作物の利用行為とされるものであっても,著作物の通常の利用を妨げず,著作権者等の不当に害しないといった行為として,現状で評価され得る行為というものが想定されるだろうということでございます。
そのような行為の中を見ますと,現状の権利制限規定の要件が,解釈上,当たるか当たらないかは非常に微妙である場合であるとか,そもそも権利制限として用意されていない場合,その両方が含まれている。
こういった行為,あとでJEITAの中で出てきた些細なものを含めて例を申し上げますけれども,現状でこの行為を法的にきちんと定義することができるというものについては,これは解釈がより明確化されていくこと,あるいは個別に新たに権利制限規定を起していただくことということを望みますけれども,これらには様々なものがある,非常に多様であるという点,それから,解釈の明確化というのはなかなか進まないこともありますし,権利制限規定の整備に至っては,なかなかその実態に追いついてこないというところがあろうかと思います。
とりわけ今後の技術の進歩,現状の技術がここ10年の間でも非常に大きく進歩してきているわけでございますが,いわゆる著作物の利用環境の急速な変化というものに柔軟に対応できるようにするためには,やはり現状の権利制限規定だけではなくて,その他の利用を認め得る一般規定を置くということがいいのではないかというふうに考えております。
こうした一般規定がありますと,現状で形式的に違法であるという行為についても司法判断にその評価を委ねるということになります。
そういうことだけでも実は事業者の行動を積極的にするという,よい影響があるだろうと考えております。
一般規定で今後仮にできるとしますと何らかの要件がつけられると思いますが,それに照らして,法的に訴訟を受けるかどうかといったリスクを自ら判断して,利用行為を進める。そういう判断ができること自体が我が国において,イノベーションを促進することになって,国際競争力を強化することになろうと思っております。
司法に,こういう法を作っていく機能,あるいは政策的な機能というものを期待するのは困難というご意見もございますけれども,現状では非常に私どもの会員,各社の様子を見ますと,委縮しているということがございますので,多くの場合に事業者が担い手となって得られる技術進歩の利益を国民が享受できるような法環境というものを期待できるのではないかと思います。
一般条項は予測可能性が担保されないということがありまして,いざ一般条項ができて,我々企業の実務家も頭を悩ます部分というのがあるかとは思いますけれども,今後の判例,裁判例が蓄積する,あるいはここにおられるような権利者団体の皆さんとガイドラインを本当に作っていくというようなこともあると思います。そういうことで何らか解決できる部分というものがあるだろうと。
特に,技術革新の早い分野については,個別の事例を持ち出して解決するという,先ほど来,そういう例もあるというお話がございますが,さらなるイノベーションの促進,ユーザー利便というものの向上が期待されると思っております。
もともと通常の利用を妨げる,あるいは正当な著作権者等の利益を不当に害するというような,常識的にと言っておりますけれども,そういう行為について,違法であることを承知の上で行う,確信犯的行為といたしましたけれども,そういった行為とここで議論になります一般規定の有無ということは,直接的には関係ないだろうというふうに思っております。
先ほど,新たにビジネスが本当に生まれるのかという,どなたかからご指摘がございましたが,それは当協会の会員といたしましては,ちょっと忸怩たるものがあるということで,我々自身が本当に新たなビジネスを見出せるかということについて,日夜苦しんでいる部分もあるわけでございまして,この一般規定の創設によって,新規事業の創出というものが促進されるだろうというふうに考えておりますけれども,今後,じゃあどういうものが出るのかというふうに聞かれましても,これはJEITAの中で議論いたしましても,なかなか口が重いというのも事実でございます。
一方で,とりわけJEITAの会員メンバーが著作物の創作環境,あるいは利用環境を提供していく立場であるというところで,事業者の中で行われる様々な行為が一定範囲で許容されるということになっても,イノベーションは促進されていくというふうに考えております。
そういった行為を含めまして,事業者内の行為のうち法的に許容されるのが望ましいというふうに,現状,JEITAの中での議論で出てまいりました例を次に掲げております。
これらはむしろ検討いたしましたメンバーが社内で実務的に直面して,利用するなということを指導した例というふうに考えていただいてもよろしいかと思います。
(1)からありますが,ある程度類型化して並べてみました。
1番目,新たな技術・機器の研究開発・設計・製造・販売・故障原因分析,機器等のライフにわたって技術,機器の評価,検証に用いるために著作物を利用するケースがございます。
[1]から[5]がございますが,個々を詳しくは説明いたしませんけれども,こういった例はここにあるだけではなくて,幾つもあるということでございます。
それから,(2)プログラムにおいて,やはりその研究,あるいは性能の検証,昨今,1社だけのプログラムでシステムが動くということはございませんので,複数社のプログラムを組み合わせてシステムを作るということが多いんですが,障害発生時の原因追究を行う場合には,他社のものも調査しなくてはいけない。そういうこともございます。
そういう過程で起こる複製・翻案というものが第二の例でございます。
これら(1),(2)の例というのは,先のこちらの法制小委でご検討された事項の延長にあるというところかもしれません。積み残された行為というものが含まれているだろうと思います。ただ,そこで,審議会でまとめられました報告の中に,ケースの多様性というものが指摘されていたというふうに考えております。
3番目,自己の著作権・特許権の侵害を発見するために,他人の著作物を分析するということがございます。
これは,ネットからのダウンロード等も含めて,侵害が発見されれば,それを証拠資料として現行規定に基づいて,証拠として使う。そのために複製するということができるかと思いますが,不幸にしてと言いましょうか,幸いにして侵害が発見できなかったという場合には,元のダウンロードは一体何だったのか,そういうことになるのではないかと思います。
4番目,その他として,「現時点で」としましたけれども,JEITAの中で,一般的に通常の利用を妨げずにかつ著作権者等の正当な利益を不当に害しないだろうと,我々自身がそう思う行為であります。
1番目は,外国で書かれた論文を従業員が翻訳物にする。あるいは,インターネットのサイトから参考文献をダウンロードして印刷するような例。特許された技術を研究するために出願書類を複製する。あるいは,企業内で起こる映り込み,偶発的な映り込みというようなものもございます。
あるいは,[5]にありますように,営利目的の研修において,テキストは全て買っているところ,便宜的にプロジェクターで投影するとか,あるいは,分厚いマニュアルをそのまま使うのではなくて,使いやすいように,必要な部分だけを複製してダイジェスト版を作りたい。そういったような要望は企業内の行為として考えられるところでございます。
一般規定として,どのような要件を想定するかということについては,これは保護等のバランスに配慮して,今後議論されるということに期待いたしております。
ただ,一般規定におきまして,適法とする行為を検討されるに当たって,公益目的に限定するというご意見があろうかと思います。
事業者の立場からいたしますと,今挙げたような行為,これを公益とするには無理があろうかと思いますので,公益目的に限定されるということになりますと,結局のところ,これらの行為は一切認められないということになります。
したがいまして,行為の多様性ということにご配慮いただいて,適法とする行為の目的を限定するのではなくて,何らかの判断基準の要素の1つにするとか,そういったご配慮をいただけるとありがたいというふうに考えているところでございます。
3番目,現行の規定が存在しないことによる不都合ということでございますが,現在のところ,協会会員は社内規則におきまして,基本的に著作権侵害行為は明確に禁止されております。
コンプライアンス意識を徹底するのが昨今の企業実務でございますので,形式的に違法であれ,行為は差し控えるというふうに社内を指導しているというのが通例でございます。
その結果,困った例という意味では,新技術の開発が遅延するといった,先ほどのような例で,現に利用ができないから,じゃあどう回避するかということを考える,あるいはあきらめるということが起きているということでございます。
民法の一般則,権利濫用や信義則を持ち出して対抗できるのではないかというご意見があろうかと思います。しかしながら,企業実務の中では委縮効果が現に生じていて,それによって引き起こされるイノベーションの停滞ということが起きている。
検索エンジンなどが今回の法改正で認められたという中で,法改正従前からやっているじゃないかということをおっしゃる向きもありまして,実質に適法と言えるようなビジネスであれば,一般規定がなくてもできるというご意見があるのも承知いたしております。
しかしながら,適法であるという学説が存在するということだけを根拠にして,なかなか違法性,特に訴訟になる可能性も含めて,黒というものについて,踏み出して行為をするというのは企業としては難しいという状況でございます。
4.実際に紛争等の経験ということでございますが,権利行使を受けたという公表できる例はございません。これはJEITAの中で議論いたしましても,過去事例を含めてこういう紛争がありましたと言えることがなかなかないということがございます。
そもそも権利行使を受けて困っているということではございませんで,違法であることを自ら判断し得る行為は行わないというのが真っ当な企業だというのが,会員の中の声でございます。
5番目,これから検討いただくに当たって,留意をお願いしたい点をまとめてございます。
イノベーションを促進する観点ということで,JEITAといたしましては,やはり一定範囲の企業内の利用行為というものを認めていただきたいと考えております。
イノベーション,あるいは利用というものを保護と対立的な概念としてご議論されることがございますけれども,これは先ほど中山先生もご指摘あったかと思いますが,イノベーションであるとか,利用というのは,やはり経済的な面だけではなくて,文化的にも保護に対して,貢献,還元されるんだろうと思います。相互補完の関係にあるということをもちろんご認識いただいていると思いますが,その上で議論をしていただきたいと存じます。
保護という観点から,人格権的な側面への考慮を求めるご意見もあると承知しておりますが,人格権と権利制限規定の関係につきましては,これは一般規定特有の問題ではなくて,権利制限規定全体の問題としてご議論をぜひお願いしたいと考えております。
以上でございます。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の亀井様の説明につきまして,何かご意見,ご質問があれば,松田委員,どうぞ。
【松田委員】
どうもありがとうございました。
今日のご提出のペーパーの1ページ目の一番下の方に,新規事業創出を促進する側面としての一般的規定,これは具体的な例を挙げることは難しいと。どうしてかと言うと企業秘密に問題があるからだと。そのとおりだと,そういう面もあるだろうと私は思います。
それから,3ページに,委縮が生じていることによって,利用を実際に断念した事例があって,これは再企画があるから,ここでは公表できないというふうに言われております。これも恐らく同じ趣旨だろうと思います。
この2つの場面なんですが,JEITAないしは同著作権専門委員会の中でも公表されていなかったんですか。
【亀井氏】
JEITAの中の議論でも公表しにくいという声がございます。基本的には,新しいビジネスにつきましては,お互いに競争関係にある立場ですので,こういうことを計画しているというような話は一切JEITA内では出すことはできません。
【松田委員】
そうだろうと私も思いました。ここで公表することができないんだったら,JEITAの中でも公表できないでしょうね。それは分かります。でも,過去において,一般的規定が存在しないために,委縮をせざるを得なくて,事業化ができなかった。同規定を有する国において事業化ができてしまった。これは大問題だと指摘されているんですよ。
こういう事案は,指摘がありましたか。これは公表されてもいいでしょう。これはJEITAの中で議論がありましたか。
【榊原氏】
具体的には公表はしておりませんが,日本では恐らくできないでしょう。ただ,海外では恐らく訴訟になるかもしれませんが,できますねといった事例があったということはありました。
【松田委員】
ということは,JEITAの中でも委縮が生じて,事業化できなかった事案というのはなかったんでしょう。
【榊原氏】
日本ではございます。
【松田委員】
そうだね。
【榊原氏】
グローバル企業では,日本ではやらないで,どこか特定の国だけでやるというのは,商品をグローバルに共通に作る,国ごとに仕様を変えるというのは非常にコストになりますし,そういう意味で,その点がやっぱりちょっと不都合だなというふうには考えております。
【松田委員】
その事例を示してください。
【榊原氏】
具体的な企画については,日本でまた再企画の可能性がございますので。
【松田委員】
いや,だから,再企画の問題じゃなくてです。私の質問はそうじゃないんです。将来,再企画があるのは,もっともだと言っているんです。
【榊原氏】
はい。
【松田員】
それ以外で,もう一度言いますよ,過去において,一般的規定が不存在のために,委縮せざるを得ず,事業化ができなかった事案。そして,同規定を有する国において事業化ができてしまった事案,こういうのが議論にありましたか。
【榊原氏】
ですから,日本でできず,他の国でできるといことであれば,グローバルにできないので,やらなかったということです。
【松田委員】
だから,その事案を示してください。
【榊原氏】
やらなかったんですが,それは日本でやる可能性がありますので,今後。例えばこの一般条項規定ができればやる可能性がある以上は企業秘密で申し上げられないということで同じでございます。
【松田委員】
そうすると他の国で事業化された事案はないんですね。
【榊原氏】
ございません。
【松田委員】
はい。
【土肥主査】
山本隆司委員どうぞ。
【山本委員】
2ページ目のところの(1)から(4)についてちょっとお聞きしたいと思います。
ここに挙げられている事例の多くは調査・研究の事柄だと思うのですが,この点について著作権法の中で権制限規定がないことによる不都合というのはよく分かるところです。
(4)の[3]は調査研究のお話だと思うのですが,それ以外のところについては,これはかなり評価が分かれるところで,当然に許容されるべきだというような話には,なかなかならない話だろうと。
例えば,[4]の映り込みというのも,これもご提案のスリーステップテスト型の一般規定ではなしに,アメリカでも,映り込みの事例では,適法とするもの,そうじゃないとするもの,かなり条件によって,異なってきますので,一概には判断できない。そういうものはたくさんありますが,それを除きました(1),(2),(3),それと(4)の[3],この辺のところは調査,研究のお話で,この辺については,先ほど申し上げましたようによく理解できるんですが,そうだとすると,例えば,イギリスの場合には,調査・研究についてフェアリーディング規定というような形で,この辺をカバーするような体制ができているんですね。
そうすると,この一般規定というようなベルヌ条約の9条2項タイプであるとか,アメリカの107条タイプではなしに,個別的なフェアリーディング規定みたいなものでも,この問題点として指摘されているところの大半は,解決できると思いますが,そのように理解してよろしいんでしょうか。
【亀井氏】
不勉強で,イギリスのフェアリーディングの規定がどういうものであるかというのは私自身よく分からないところがございますが,その法律の形式,それぞれが個別の権利制限規定で,満足されるということであれば,ここに掲げている例の大半は片付くというのであれば,それはそうだと思います。
ただ,そうでないものというのが,例えば(1)の中でも,調査・研究だけではなくて,例えば販売,あるいはその後の故障原因の分析,調査といえば分析が入るかもしれませんけれども,そういう過程でも利用行為というようなのがある。そういうものを認めるべきか,認めざるべきかというのはJEITAとしては認めていただきたいとは思いますが,これが一般個別規定が仮にできたとしてもそれにかからないとなるならなるで,それはいたしかたない,そういう法環境だというふうに受け止めるしかないんだろうというふうに思います。適法になってほしいとは思いますけれどもね。
【土肥主査】
中山委員。
【中山委員】
JEITAは大企業の集まりだろうと思いますので,JEITAに伺うのが正当化否か,わかりません。
先ほど,フェアユースができたらどういうビジネスができるかよく分からないという話だったのですけれども,これはベンチャー企業ではかいかがでしょうか。ベンチャー企業になってくると,様子が変わると思うのですけれども。もし,何かお分かりになればと思いましてお伺いいたします。
【亀井氏】
弊社の中でコアビジネスでないもの,研究成果は出つつあるんだが,というものをベンチャーに切り出す例というのがございます。
インターネットを使った技術なんかでも,ここにあるような,例えばアメリカではビジネスになるかもしれませんけれども,日本でやると,かなりまずいのではないかというケース,ここまであまり公表したことはないんですが。そういうケースはございます。
ですから,ベンチャー一般のことは分かりませんけれども,恐らく私どもの経験で言いますと,それをやっている研究者は,それは何とかビジネスにしようと思うという,そういう気持ちがアメリカに行くとできるけれども日本ではできないのかという,そういうマインドにならざるを得ない。そう指導せざるを得ないというのは我々からすると,ちょっと何ともやり切れないところがある。ほかのベンチャーがどういうお気持ちかは,すみません,分かりません。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。 大渕委員,お願いします。
【大渕委員】
まず,フェアユース型の一般規定というものを導入することによって,どういうものを具体的に想定して入れるべきだとされるのかというのは前々からお伺いしたかったんですが,このペーパーでは,要するに2ページに挙げておられるあたりということになるわけですが,その(1),(2),(3),(4)というあたりについてみると,どういう技術の進歩があるか分からないから事前に個別の制限規定での書きようがないためにフェアユース型の一般規定が必要だという観点からすると,いずれも比較的昔から議論されてきたものというか,そんなに今見たら驚くようなものではないわけですけれども,いろいろ検討されて出てきた結果がだいたいこのようなところに尽きるということになるわけですか。
先ほど,企業秘密等という話がありましたが,おおまかなところで結構ですので,こういうものから離れて,みんなが見たらかなり驚くようなもので,入れてほしいというものはない,ここに挙がっているようなものに尽きるということなのですか。
【亀井氏】
やはり新たなビジネス,流通モデルを考えて,その前提として一般規定がいるというような考えを持っている者もありますけれども,具体的にそれがこういうものだというのはなかなか,それはご説明できない。ちょっと苦しいというか表現が稚拙なんですけれども,1ページの一番下のパラグラフで2つのことを申し上げております。
前段が新たなビジネスにも寄与する部分があると。一方で,足元で苦しんでいる部分というのもあります。これも企業としては何か救済を欲している。これは個別の規定で救済されるんだと言われれば,それはそれでもいいのかもしれません。
ただ,現状ではこれが解決するまでにどれぐらい時間がかかるか。それから,調査・研究という中でも前回の法制小委の議論の中でも様々なケースがあって,それをまとめられるかというご議論をされていて,そこと非常に重なってくると言いましょうか。
【大渕委員】
もう1点,フェアユース型でなければならないかかどうかという観点からすると,フェアユース型の一般規定が効いてくる状況というのは,日本はあきらめたし,それからイギリスはフェアリーディングしかないからあきらめたし,ドイツ,フランスもフェアユースがないからあきらめたけれどもアメリカではフェアユースで処理できるという状況だと思うのですが,日本とアメリカなど日本と海外で比較してしまうと,文化的な違いなどが大きく出てきてしまうので,法制上の違いというのはクリアに出にくい面があるんですけれども,今言ったような,ドイツでは駄目,フランスでは駄目,イギリスでは駄目だったけど,アメリカだといけるよという状況があるかどうかという観点からの検討が必要になってくるんですが,そういう観点から何か,細かい話は企業秘密等でできないんでしょうけれども,そういう例はあるんでしょうか。
【亀井氏】
申しわけありません。そこまできちんとした議論はしてきておりませんので。もし,そういう例がということであれば,持ち帰って,また機会をいただくことがあればご説明できるかなと思います。
具体的にどうなるか,ちょっと軽々にお約束もできないですが。
【松田委員】
今,大渕先生がご指摘になった2ページのところの各項目でございますが,これは1ページから見ますと事業内の行為のうち法的に許容されるのが望ましい事項だというふうに書かれているわけです。
これは,よく見ますと,上野先生が座長になって取りまとめまた著作権制度における権利制限規定に関する調査研究報告書の6ページにあるところの,企業内複製と重なる部分がかなりあるんです。
これは,決してIT企業とかJEITAの加盟社だけではなくて,一般企業で起こる問題だろうと思っております。その点が1つです。
その中でお聞きしたい。
この中に,研究目的のためのフェアユースを導入したいという意見があり,(2)は特にリバースエンジニアリングについては,フェアユースで解決したいという意見になっています。
しかし,この2つは,昨年来,この審議会で徹底的に議論して,そしてまだ法制化されなかったところです。
言いますと,日本の著作権法の専門家の先生方が集っても,まだどこまでが適法でどこまでが違法かということのすみ分けがなかなか難しい。これをフェアユースですみ分けができるということはないと思うし,フェアユースを導入したら,そういうものを不明確なまま利用されてしまう。このことの危険性というのはお考えになりませんか。
【亀井氏】
JEITAの中で,相互運用性について個別の権利制限を置くべきだということでは一致いたしましたが,そのほかの研究については個別事案に応じて,司法判断にゆだねる方が望ましいというのがJEITAの中の意見でございます。
リバースエンジニアリングは,ここ数年どころか20年以上議論されているかと思いますが,なかなか立法をしていただけないという現状をどうすべきかと思っております。
【松田委員】
ちなみに私は,個別規定で立法しろという意見です。審議会で結論の出ないものをフェアユースで司法判断にゆだねるという意見は危険すぎる。
【亀井氏】
承知しております。
【土肥主査】
末吉委員,どうぞ。
【末吉委員】
末吉でございます。
これは意見というよりお願いでございます。私はずっとこの小委員会の下でデジタルのワーキングをやっておりまして,機器の使用時の問題でありますとか,あるいは検索の問題でありますとか,あるいは情報解析の問題でありますとか,ここまでこの小委員会で随分取り上げて議論してきたところがあるんですけれども,積み残しているところもあるというふうに私は認識しているんですね。
その中で,今日はイノベーションを中心として,おまとめいただいたんですが,特にJEITAの詳しい皆さん方に,そういう積み残している部分からも何か立法上の問題でフェアユースとのつながりという点について,さらにこういう規定があると便利だという趣旨のご意見があれば,あとで補充をいただけたらと思います。その点ちょっと私知りたかったものですから。
以上でございます。
【土肥主査】
今後に補充をいただけたらということなんですけれども。
【亀井氏】
後日ということでございますか。
【末吉委員】
可能であれば。
【亀井氏】
はい。検討させていただきます。
【土肥主査】
最後に。
【中山委員】
問題になっている2ページの例示なのですけれども,見ていますと,一般の電気メーカーを中心とした事柄かなという感じがしまっすが,ネットビジネスについての議論というのはなかったんでしょうか。恐らくそれが一番将来出てきそうな問題じゃないかと思うのですけれども。
【亀井氏】
メンバーの中に,ネットビジネス,ネットに深く関わるビジネスをやっている者もありますので,そこを念頭に置いた議論をその者はされていると思います。一方で,念頭にない者もありますので,こういう形でまとめるということになったわけですが,先ほど弊社の例で申し上げたのはインターネットの例でございます。
【土肥主査】
それでは,森様には長くお待たせをしておりますけれども,少し時間を伸ばさせていただいて,日本図書館協会の森様からご意見を承りたいと存じます。どうぞ,よろしくお願いいたします。
[6]社団法人日本図書館協会
【森氏】
日本図書館協会の森でございます。本日は,このような機会を与えていただきまして感謝申し上げます。
早速ですけれども,お手元の資料に沿った形で,権利制限の一般規定に関する意見を,新たに設置することを支持する立場から申し上げたいと思います。
なお,権利制限の一般規定でございますが,便宜上,フェアユース規定というふうに申し上げることをお許しいただきたいと思います。
まず,1番目としまして,新しい媒体,新しい流通形態への対応への迅速化ということであります。
従来,図書館で利用者に提供する情報の中心は,書籍や雑誌に記録されたものであり,それは今でも変わらないわけですが,書籍・雑誌以外に記録された情報についても収集して利用者に提供してきました。
具体的には,古くはSPやEP・LPといったレコード盤,それから写真や映画を記録した各種フィルム類,それからカセットテープやVHSなどの各種磁気テープなど。これらがCDやDVDの光ディスク中心となり,現在はコンピューターネットワークを通じて配信される方式へと移行しつつあります。
このように,新しい媒体の開発に伴いまして新しい流通形態があらわれますと,どうしても時として法律が想定していない方法での著作物の利用要求が生じてまいります。
このような利用要求に対しまして,現状の個別規定による権利制限で対応しようとしますと,問題の解決までに相当の時間を要しまして,時として著作権法そのものが,著作権法の目的である文化の発展の壁となることがあるかと思います。
これに類することは,平成20年の11月27日付で,知的財産戦略本部のデジタルネット時代における知財制度専門調査会から出されました「デジタルネット時代における知財制度の在り方について」の報告書にも触れられているところであります。
このような観点から,ぜひともフェアユース規定を設けていただきたいと考えているところであります。
次に,2番としまして,ガイドライン制定の場の設置ということであります。
恐らく,フェアユース規定が設けられた場合に,無秩序な著作物の利用が行われるというのが権利者の方々の最大のご懸念ではないかと思います。
仮に,フェアユース規定が設けられたとしましても,無秩序な利用が許されるとはもちろん考えておりません。先ほどの知財戦略本部の報告書にも述べられておりますように,権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で,ということが重要だと考えております。これを担保するために,仮にフェアユース規定が置かれましても,各種ガイドラインを策定する必要があると考えております。
この点,図書館における著作物の利用に関しましては,既に図書館における著作物の利用に関する当事者協議会という協議会が設けられておりまして,この協議会は何度か改編が行われているんですけれども,もとをたどれば平成12年10月に当時の文化庁の著作権審議会,マルチメディア小委員会の下に置かれました図書館等における著作物等の利用に関するワーキンググループが起源であり,既に10年近くにわたって継続的な協議を行っているところであります。
現在の構成は,お手元の資料の欄外にありますように,オブザーバー参加も含めまして,図書館側団体,権利者側団体共に各7機関が参加しております。
この協議会はフェアユース規定が置かれました際のガイドラインを策定する場として有効に機能するものと考えております。
3番目としまして,個別規定の整備ということであります。
フェアユース規定が置かれた場合には,これまで個別規定を基に厳格に解釈すれば違法となるような利用方法が,権利者の利益を不当に害しないと認められる範囲において公正な利用として許容される可能性を有する一方,具体的にどこまでが公正な利用として許容されるのかが明確になるまでに判例の蓄積などを待つ必要があるかと考えております。
その点,個別規定による権利制限は法律が認める著作物の利用方法が比較的明確であります。
このような個別規定の特性はフェアユースが置かれることに対する権利者の方々の最大のご懸念であろう無秩序な利用を抑止するという一面を持つと考えております。
したがいまして,仮にフェアユース規定が置かれたとしましても,引き続き個別規定が整備されるべきと考えております。
なお,2番目のガイドライン策定の場の設置のところで,仮にフェアユース規定が置かれた場合も,権利者の利益を不当に害しないと認められる範囲内でということを担保するために各種のガイドラインを策定する必要があると申しましたが,このような場で策定されましたガイドラインを基に個別規定を整備するという方法を従来の方法に加えていただければ,権利制限の見直しに関して迅速化される部分も出てくるのではないかと期待しているところであります。
最後に,4番目としまして,保護と利用のバランスの再検討ということであります。
恐らく権利者の方々から言わせると,それは違うとおっしゃるかもしれませんけれども,利用者側から見ますと,著作権というのは非常に強力な権利だと考えております。
そして,現状では,個別規定で定められた以外の利用方法に関して,権利者の方が協議に応じてくださらない場合,利用の道が断たれてしまいます。
著作権等管理事業法の第16条においては,著作権等管理事業者は正当な理由がなければ取り扱っている著作物の利用の許諾を拒んではならないと定めておりますけれども,いずれの著作権管理事業者にも委託されてない著作物も存在するというのもまた事実であります。
仮にまた委託されているといたしましても,すぐに連絡がつかない場合もありますし,委託されてない著作物については,著作権者の連絡先を確認するまでに相当な時間を要することは珍しいことではありません。
また,近年ではインターネット上の情報が非常に重要度を増しておりますが,インターネット上の情報などは匿名である上に,連絡先なども明示されてないことも少なくありません。
図書館での著作物の利用においては,実際の著作物の利用者であります図書館利用者との関係から即座に利用の可否が分かる必要がある場面が多いために,必要が生じたときに著作権者との連絡が取れない状況は,場合によっては著作物が利用できないことと同義となります。
何度か申し上げてきたところでありますけれども,フェアユース規定が置かれるとしましても,権利者の利益を不当に害しないということは,非常に重要と考えておりますけれども,著作権というのは非常に強力な権利でありまして,フェアユース規定が置かれることで著作権法の目的の一面である公正な利用と権利の保護とのバランスの調整がされることを期待するところであります。
以上,4点をもって,権利制限の一般規定に関する意見とさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の森様のご意見について,ご質問,あるいはご意見ありましたらお出しください。
小泉委員,お願いします。
【小泉委員】
今日,おいでになられた障害者関係,機器,図書館関係というのは,たまたまかもしれませんけれども,最近の法改正で非常に権利制限が拡充されたところであって,それぞれ-いいことか悪いことか分かりませんが-,ものすごく複雑な難しい規定により,緻密に権利制限というのがすでにでき上がっております。そういう規定の隣に,もし,アメリカのような先例の蓄積のない状況で,一般条項がポンと置かれたとしまして,これが果たして直ちに救済策になるのだろうか。,先ほど閉塞感とおっしゃいましたけれども,これが晴れる,本当にリスクがとれるものなんでしょうか。かえって混乱を招くのではないかという懸念がどうしてもあって,戸惑っているところです。もしお時間があれば何かお一言コメントちょうだいしたいと思います。
【森氏】
そのご懸念は,もっともなことだと思っております。そういうことがありまして,ガイドラインの策定ということが非常に重要と考えております。
【土肥主査】
井上さんもございますか。恐らく小泉委員の質問は重なっていると思いますので。
【井上氏】
フェアユース規定のことですが,確かに米国と日本のいろいろな状況は大変違うわけでして,詳しくは存じ上げていませんが,例えば訴訟,裁判になったときに,いわゆる障害を持っている方たち,例えば寝たきりの方が被告になり,訴訟に耐えられるのかという心配はあります。私が申し上げたいのは,確かに今回の法改正で,大きく前進したと思っていますが,個別限定的なものが残っているということです。
これは現行の著作権法のフレームの中ですので,やむを得ない。そうではなくて,いわゆる「障害等で著作物にアクセスできない方のために,著作権者等になりかわって,アクセスできるようにする行為は著作権の侵害行為にならない」とすれば,私は済む話だと思っているのです。
ちょっと法律に明るくないので,そのようなことでいいのかどうか分かりませんけれども,著作権法の抜本改正というのは正直待っていられません。仮にこの「フェアユース規定」というもので,そういうギャップと言いますか,埋められるのであれば,ぜひ活用していただきたいなと思います。
もちろん,ガイドライン,そういうものは必要だと思っております。
【亀井氏】
今,個別規定ができて,対応していただいているところがあって,そのときに次にできる一般規定と個別規定との関係によって,その位置づけがどういうものかによって混乱するかもしれないし,使えるものができるかもしれないというふうに思っております。
これはご議論をぜひ進めていただいて,規定案を見せていただきたいと思います。
【土肥主査】
関連して,中山委員。
【中山委員】
いや。
【榊原氏】
よろしいですか。
小泉先生のご質問ですけれども,一般条項ができたからといって,個別条項に当たるかどうかがはっきりしない場合に,一般条項があるからといって,何でも事業をやってもいいよというアドバイスというのは,法務部門では恐らくしないだろう。その要件にもよりますけれども,できる可能性があるという場合に,例えばユーザーの利便性だとか社会の貢献度だとか,その会社にとっての事業の重要度,やはり裁判になりますと時間もかかるし,やったはいいが結局だめになって後で事業をやめなければならないというリスクだとか,実際に訴訟の費用だとか,そういうのも考えて,それでもやはり事業をやりましょうということで,それであれば訴訟になってもいいんじゃないかという,そういうステップを踏むと思うんです。
ただ,そういう場合の可能性が今の時点で開かれていないということ自体が委縮につながっていて,結局信義則だとか,実質的に違法性がないという裁判例というのは非常に少ないので,それにかけてやりましょうということにはならず,もうやめてくださいと申し上げて,結局個人のユーザーとしてもできたらいいのにな,という機能なんかも仕様からとってしまったりということになっているので,そういう意味では,作っていただいた方がいいんじゃないかなと思います。
【土肥主査】
中山委員。
【中山委員】
 図書館の業務というのは大きく分けて,アーカイブと利用と2つがあると思うんですけれども,主として,どちらの方に,あるいは両方にフェアユースを期待しているんでしょうか。アーカイブに関しては,国会図書館だけ認められましたけれども,アーカイブの方をとりあえず期待しているのか,それとも利用について何かもっと便宜を図ってほしいという,そういうことをフェアユースに期待しているのでしょうか。
【森氏】
現状,どのような法律の構成になるかちょっと分かりかねる部分がありますので,なんとも申し上げにくいんですけれども。
答えになるかちょっとよく分からないんですが,平成18年1月に図書館界では「図書館間協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」並びに「複製物の写り込みに関するガイドライン」,2つのガイドラインを発表しました。これはもちろん先ほど申し上げました当事者協議会で一応の了承を得た上で発表したものであります。
2つのガイドラインの詳細については,ここではご説明いたしませんけれども,このガイドラインの内容を厳密に今の個別規定にあてはめたときに,実際に白なのか黒なのかと言うと白とは言えないと思います。このようなガイドラインに,フェアユース規定を設けていただくことで法的なお墨付きをいただければ,それは図書館界としてはありがたいことだと考えております。
【土肥主査】
松田委員。
【松田委員】
まさに今のガイドラインの問題,3団体ともガイドラインをいみじくも言われましたので,確かに行政法規の解釈上,官庁が,ガイドラインを出す,公取のガイドラインなんかそうですよね。
これと同じものを文化庁が,ガイドラインとして出していいのでしょうか。
もし,そんなことができるのであれば,抽象的規定を作っておいて,例えば政令で権利制限規定の細則を定めてもいいということになりませんか。私人間の権利の制限は法律で定めなければならないと考えます。
文化庁が利害調整をガイドラインを作って出すということはできないように思います。
具体的な案件ごと,事案ごとを分析してもらって,文化庁がガイドラインを出すということは,文化庁のいささか,私事に関する権利の侵害等が起こる可能性があって,してはいけない分野だろうと指摘をしておきたいと思います。
【土肥主査】
多賀谷委員,お願いします。
【多賀谷委員】
私,公法学の立場で,今の問題にちょっと言っておかなければいけないことだと思うんですが,いろいろな意味でガイドラインという言葉が使われています。
例えば,JEITAさんがおっしゃるのは,権利者団体で定めたガイドラインですけれども,図書館の場合には,先ほどおっしゃったように,図書館の利用者団体と,図書館と利用者との間の協議のガイドライン,両方性格が違います。それから,松田先生が今おっしゃった行政庁が通達訓令的な形で示すもののガイドラインというのは全然性質が違って,その議論を一緒にする必要はないと思います。
民間機関について,行政庁がガイドラインを定めてはいけないというのはそのとおりですけれども,しかし,私の分野から言うと,微妙なところがありまして,例えばある種の場合には,民間機関がガイドラインを定めた場合に,そのガイドラインが妥当なものであるということを行政庁が認定するという仕組みがありますので,その話はもう少しいろいろな形で議論すべきだろうと思います。
【土肥主査】
恐らく中山委員がまとめていただけるだろうと思います。お願いします。
【中山委員】
今,多賀谷委員がおっしゃったとおりで,民間団体での取り決めのガイドラインは全然問題ないというか,法律でどうこうすべき問題ではありません。官庁のガイドラインというのは,これは私は基本的にやるべきではないと思っているんですけれども,現実には,社会からの要求が極めて強く,いっぱいあります。各官庁が出しています。私も何回か関係していましたけれども,大体冒頭にこれは裁判所を拘束するものではありません,と書いてあります。
つまり法的には意味がないのですね。だけれども,それによって,民間の敢行ができるとか,そういうことを期待しているだけであり,仮に文化庁がガイドラインを出したとしても,それは法的な拘束力をもつものではなく,私人の権利を侵害するとかしないとか,そういう議論にはならないと思います。
【土肥主査】
ありがとうございました。
フェアユースというのは,要するに個別的な権利制限規定を官が設けるのではなくて,フェアユースというのは民がどこまで自由か,あるいは権利侵害かということを民で決めていただくということでありますので,決めていく場は必ずその変わってくるということは確かだと思います。
本日,本来であれば17:00までという,その時間があったわけでございますけれども,議論,あるいは意見が白熱いたしまして,まことに申しわけありませんけれども,延長させていただきました。
それで,本日はこのくらいにさせていただきたいと思っております。
次回以降の予定につきまして,事務局から連絡事項等がございましたら,お願いいたします。

(2)その他

【池村著作権調査官】
次回の小委員会の日程でございますが,来週8月31日(月)の15:00から,場所は三田共用会議所を予定しております。次回も今回に引き続きまして,利害関係団体を複数お呼びし,ヒアリングを実施することを予定しております。
また,次々回でございますが,9月18日(金)の13:00,場所は三田共用会議所を予定しております。議題等詳細が決まりましたら,また改めてご案内させていただきます。
以上です。
【土肥主査】
本日は,貴重なご意見を賜りまして,本当にありがとうございました。
各関係団体の方々に厚くお礼を申し上げます。
それでは,本日は,これで第4回法制問題小委員会を終わらせていただきます。
ありがとうございました。
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