(平成21年第5回)議事録

1 日時

平成21年8月31日(月)15:00~17:00

2 場所

三田共用会議所 3階 大会議室

3 出席者

(委員)
青山,上野,大渕,小泉,清水,末吉,多賀谷,茶園,筒井,道垣内,土肥,中山,前田,松田,森田,山本の各委員
(文化庁)
戸渡長官官房審議官,永山著作権課長,ほか関係者
(説明者)
  1. 1.映像関連団体
    華頂 尚隆(社団法人日本映画製作者連盟 事務局長)
    檀 綾子(社団法人 日本映像ソフト協会 著作権部会 私的録画補償金委員会 委員長,(株)ソニー・ピクチャーズエンタテインメント,法務部担当シニアカウンセル,弁護士)
    宮下 令文(一般社団法人日本動画協会 著作権委員会副委員長,株式会社小学館集英社プロダクション 総務部部長)
  2. 2.出版関連団体
    井村 寿人(社団法人日本書籍出版協会 常任理事 知的財産権委員会副委員長)
    平井 彰司(社団法人日本書籍出版協会 知的財産権委員会副委員長)
  3. 3.美術関連団体
    瀬尾 太一(有限責任中間法人 日本写真著作権協会 常務理事)
    松本 零士(社団法人 日本漫画家協会)
  4. 4.ソフトウェア関連団体
    久保田 裕(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 専務理事・事務局長
  5. 5.放送関連団体
    石井 亮平(日本放送協会(NHK) ライツ・アーカイブスセンター業務主幹)
    池田 朋之(社団法人日本民間放送連盟 知的所有権対策委員会IPR専門部会 法制部会主査)
    入江 武彦(社団法人日本民間放送連盟 知的所有権対策委員会IPR専門部会 法制部会副主査)
  6. 6.一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム
    山浦 敦(株式会社ヤマハミュージックメディア 取締役)
    長谷川 篤(株式会社第一興商 制作管理部 ライツ推進課 課長)
    岸原 孝昌(一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム 常務理事)
  7. 7.一般社団法人インターネットユーザー協会
    津田 大介(Movements for Internet Active Users (MIAU) 一般社団法人インターネットユーザー協会)

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)権利制限の一般規定について(関係団体よりヒアリング)
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1
資料2
資料3
資料4
資料5
資料6
資料7
参考資料1
参考資料2

6 議事内容

【土肥主査】
定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第5回を開催いたしたいと存じます。
本日はお忙しい中ご出席をいただきまして,まことにありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開につきまして,予定されておる議事内容を参酌いたしますと特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
それでは議事に入りますけれども,初めに,議事の段取りについて確認しておきたいと存じます。
本日の議事も前回に続き,権利制限の一般規定となります。今回は前回に続きまして利害関係団体の方々から,第2回の本小委員会でご了承いただいた利害関係者ヒアリング事項に基づいた意見発表を行っていただき,その後,もし時間が許せば質疑応答,自由討議を行いたいと思います。
まず,事務局から配布資料の確認と,出席者のご紹介をお願いしたいと存じます。
【池村著作権調査官】
それでは,配布資料を説明させていただきます。
お手元の議事次第の下半分,配布資料一覧をごらんください。
本日,資料1から資料7までと参考資料1と2でございます。
資料1でございますが,映像関連団体提出資料ということで,6団体連名のパワーポイントの資料となっております。資料2は出版関連団体提出資料ということで,2団体連名の意見書でございます。資料3は美術関連団体提出資料ということで,4団体連名の意見書と日本漫画家協会の意見書,日本児童出版美術家連盟の意見のセットとなっております。資料4のソフトウェア関連団体提出資料でございますが,ACCSとBSAとコンピューターソフトウェア協会の意見書のセットでございます。資料5の放送関連団体提出資料でございますが,表にNHKの資料,裏面に民放連の資料となってございます。資料6は,一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム提出資料です。資料7は,一般社団法人インターネットユーザー協会の提出資料でございます。
参考資料につきましては,1がヒアリング出席者一覧で,2が利害関係者からのヒアリング事項でございます。
以上,過不足等ございましたら事務局までご一報ください。よろしゅうございますでしょうか。
続きまして,参考資料1をごらんください。
本日のヒアリング出席者一覧となっております。
まず,映像関連団体より,社団法人日本映画製作者連盟事務局長の華頂尚隆様でございます。
続きまして,社団法人日本映像ソフト協会著作権部会私的録画補償金委員会委員長で,株式会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント法務部担当シニアカウンセル弁護士の檀綾子様でございます。
続きまして,一般社団法人日本動画協会著作権委員会副委員長で株式会社小学館集英社プロダクション総務部部長の宮下令文様でございます。
続きまして,出版関連団体より,社団法人日本書籍出版協会常任理事,知的財産権委員会副委員長の井村寿人様でございます。
続きまして,社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会副委員長の平井彰司様でございます。
続きまして,美術関連団体より,有限責任中間法人日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一様でございます。
社団法人漫画家協会より松本零士様と千葉洋嗣様がご出席の予定ですが,おくれているようでございます。
続きまして,ソフトウェア関連団体より,社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長の久保田裕様でございます。
続きまして,放送関連団体より,日本放送協会ライツ・アーカイブフスセンター業務主幹の石井亮平様でございます。
続きまして,社団法人日本民間放送連盟知的所有権対策委員会IPR専門部会法制部会主査の池田朋之様でございます。
同じく法制部会副主査の入江武彦様でございます。
続きまして,一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムより,株式会社ヤマハミュージックメディア取締役の山浦敦様でございます。
株式会社第一興商政策管理部ライツ推進課課長の長谷川篤様でございます。
一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム常務理事の岸原孝昌様でございます。
最後に,一般社団法人インターネットユーザー協会から津田大介様でございます。
【土肥主査】
それでは,議題に入りたいと存じます。
議事の進め方につきましては,本日,出席いただいている関係団体から,[1]映像関連団体,[2]出版関連団体,[3]美術関連団体,[4]ソフトウェア関連団体,[5]放送関連団体,[6]モバイル・コンテンツ・フォーラム,[7]インターネットユーザー協会の順に,権利制限の一般規定の導入に関する意見をそれぞれ10分程度でご発表いただき,それぞれ発表の後に質疑応答の時間を,5分とりたいと思います。
前回よりも1団体多うございますので,そのあたり,よろしくお願いいたしたいと存じます。
それでは,日本映画製作者連盟,華頂様,よろしくお願いいたします。

(1)権利制限の一般規定について(関係団体よりヒアリング)

[1]映像関連団体
【華頂氏】
日本映画製作者連盟,通称「映連」の華頂でございます。
本日は,権利制限の一般規定の導入に関してこのように意見を申し上げる時間をいただきまして,ありがとうございます。
最初に,これから説明いたします意見につきましては,資料の表紙にございますように,映連,それから日本映像ソフト協会,日本動画協会,日本映画製作者協会,全日本テレビ番組製作社連盟,日本国際映画著作権協会の映像製作者グループ6団体の総意であることを申し上げておきます。
それでは,このヒアリングに際しまして事務局からご提示いただきました「利害関係者からのヒアリング事項」の設問に沿って,意見を述べさせていただきます。
まず,資料1の2ページをごらんください。
1.「権利制限の一般規定」導入の是非につきましては,「非」であります。
次に,1.で「非」の場合の2'でございますが,権利制限の一般規定の導入に関する理論は,大きく分けて2通りあると思います。1つは[1]の,ネットビジネスの発展を促進するために幅広い権利制限の一般規定を設けるべきであるという考え方,もう一つは[2]の,補充的な権利制限の一般規定を設けるべきであるという考え方であります。私たちは,両方の考え方に対して懸念を抱いております。
3ページをお開きください。
まず,[1]の提案につきましては,ある特定の産業を促進するために既存の権利者の権利を犠牲にすることを,権利制限の一般規定によって認めるべきではないと考えますので,これにつきましては論外だと私たちは思っています。
次に,[2]の提案についても幾つか懸念がございます。
(1)でございますけれども,ご存じのとおり,映画・映像作品はマルチユースによって投下資本の回収を図ることを企図して製作されております。言い換えれば,映画・映像作品はその権利者の財産であって,それを活用することによってビジネスが成立していると考えています。ですから,権利者の許諾なく映画・映像作品の利用が行われることは,あくまでも限られた例外でなければならないわけであります。
しかるに,権利制限の一般規定は,このような例外を例外ではなくするおそれがあるということが,1番目の懸念でございます。
次に,(2)の懸念でございますが,権利制限の一般規定によってどこまでの利用が許容されることになるのか,具体的な基準が明らかではないということが,私たちの考えている懸念です。
これにつきましては,規定の位置を個別の権利制限規定の後ろにすることであるとか,考慮ファクターを例示することによっても解決できない問題であると思っております。
4ページでございます。
(3)です。
今,申し上げましたように,具体的な基準が明確でないため,各人が各人の判断で勝手な主張をするおそれがあります。このことによって,権利制限の一般規定に便乗した権利侵害行為の多発を招きかねないと懸念しております。ただですら今現在,権利侵害行為は膨大に存在しており,権利者がその対応に日々追われている中で,これ以上権利者の負担が増えていくことは,とても許容できないと考えています。
続きまして(4)ですが,逆説的に言うと,権利制限の一般規定によって何が自由利用になるのか,それが明確になっていれば,権利者としてもそれらがすべてだめだとは言わないはずであります。現状でも,権利者は良識をもって対応しているつもりであります。
問題は,何が自由利用になるのか明確でないことになります。しかし,仮にそれを明確にできるのなら個別の権利制限を設ければよく,結局,権利制限の一般規定を導入する必要はないわけであります。
次に,(5)の懸念です。
侵害行為に対して権利者が司法の判断を求めることは,形式的には可能であると言えますけれども,これから幾つか問題点を申し上げますが,その問題点をかんがみれば権利者に大きな訴訟コストを負わせることになり,不当であると考えます。
まず第1点です。特にネット上では膨大な侵害行為が行われておりまして,それを発見・捕捉するだけでも既に権利者に膨大なコストがかかっているという点。
次に,利用者が「公正な利用である」と主張した場合に,その利用をやめさせるために一々訴訟に持ち込まなければならないとなると,権利者の負担はさらに膨大になっていくということ。
3点目,膨大な侵害行為のすべてを裁判に持ち込むことは,現実には無理なのではないかと考えております。そうなると,結果的には「やり得・やり逃げ」を許容することになってしまうと考えております。
そしてその先,裁判で勝訴しても懲罰的賠償制度がない,法定賠償制度がない,弁護士費用の敗訴者負担制度もない,このような日本における損害賠償制度のもとでは十分な賠償額を得ることもできずに,結果的に権利者に犠牲を強いることになるのではないかという懸念であります。
これが(5)に関するご説明でございます。
次に,(6)です。日本では和解を好む法文化があると認識しています。このような法文化のもとで,本当に判例の積み重ねができるのかという懸念でございます。
日本では,裁判所や企業も含めて和解を好む法文化がありまして,このような法文化の下で判例の積み重ねが本当にできるのか疑問であります。とりわけネット上での利用について,公正な利用であるかどうかを争う裁判は,その一件一件を個別に見るならば,日本ではその多くは訴額が少額な事件になると予測できますので,なおさら判例の積み重ねは難しいのではないかと考えています。
5ページをお願いします。
事務局側の設問の3',現行著作権法の下で生じた具体的な問題の有無でございますけれども,特にございません。
最後に4',特に留意を希望する事項につきましては,ここに記述しているとおりであります。私たちは,現行法の権利制限規定でも幅が広過ぎる部分があると常々考えております。この上に権利制限の一般規定が設けられると,さらに権利者の正当な利益の保護を図れなくなるのではないかと懸念しています。
近時は権利制限の方向の議論がなされることが非常に多いんですけれども,むしろ逆に,現行の権利制限規定のうちスリー・ステップテストに照らして広過ぎる部分を洗い出して,権利制限規定を縮小する方向での検討こそが必要なのではないかと考えております。
資料についての説明はここまでですが,一言だけ追加のコメントを述べさせていただきます。
6団体でこの意見をまとめたのですけれども,映連内部の検討過程におきまして1つ意見がございました。その経緯についてご披露させていただきます。
映連内部の検討過程において「権利制限の一般規定を日本に導入すればいろいろなビジネスが立ち上がる可能性があるが,その際に著作権法第30条の包括的な見直しがセットとなれば,結果として権利者の利益につながることもあるのではないか」という意見がありました。
ただ,そのような考え方に対しては,ビジネスになるならその都度,許諾をすればいいのではないかといった意見が多くありまして,映連といたしましては,権利制限の一般規定の導入については,今,ご説明いたしましたとおり,「非」という立場であることに変わりはありません。映連内部における検討の状況を一言申し上げました。
【土肥主査】
ありがとうございました。
ただいまの華頂様のご説明につきまして,何かご意見,ご質問があれば。
【中山委員】
3ページの[1]ですが,ある特定の産業を促進するために既存の権利者の権利を犠牲にしてもいいのだという見解は,寡聞にして私はいまだかつて聞いたことはないです。
つまり,フェアユースというのは,仮につくるとしても権利者の利益を不当に害さない,もっとはっきり言えば,マーケットが競合するような形では認めない,というものです。これは本家本元のアメリカでそうなっていると思いますが,本家本元のアメリカでも,何か特定の産業を促進するために既存の権利者が犠牲になった例があるのかどうか。
例えば有名なソニー事件でも,あれは結局,映画会社が負けたわけですけれども,あれは映画会社が犠牲になっているわけではなくて,むしろあれで映画会社は大儲けしているということがあるわけですし,どうもこの「既存の権利者の犠牲において」というところが私は理解できないのですが,どうしてこういう発想が出てくるのでしょうか。
【華頂氏】
この権利制限の一般規定ですけれども,私たちは,これを単純に考えますと,無償利用の権利制限ととらえているんです。要するに,先ほども申し上げましたけれども,我々のビジネスに直結して,我々の利益が上がるのであれば,その都度お話し合いで許諾をすればいいだけで,ただ単純に「権利制限の一般規定を導入するんだ」と言われると,イコール無償利用の権利制限を拡大するだけだと我々はとらえますので,それでこういう書き方をさせていただきました。
ネット関連の事業がこのフェアユースによって活発になるとよく聞きますけれども,それによって我々,別に文化とかそういうことではなくて,我々のビジネスがそれに対して,先ほども申し上げたとおり無償利用の権利制限ということで侵されていくのは,ちょっと違うのではないかと考えております。
【中山委員】
これは具体的条文がなければ議論が始まらないのですけれども,先ほど言いましたように,間違いなく利益を害するようなことはフェアユースにならない,あるいはマーケットで競合するようなことはフェアユースにならない,そういう条文になるだろうと思うんですけれども,それでもやはりそういうことが言えるわけですか。
【華頂氏】
それは条文がどのようになるのか見てみないとわかりませんけれども,我々は常に,先ほどから何回も申し上げていますけれども,無償利用の権利制限が拡大されるということであれば,それに対して非常に危険を感じているということですね。
【土肥主査】
他にいかがでございましょうか。よろしゅうございますか。
それでは,ありがとうございました。
続きまして,日本書籍出版協会の井村様,平井様,よろしくお願いいたします。
[2]出版関連団体
【井村氏】
日本書籍出版協会の井村でございます。
本日は申し立てのお時間をちょうだいいたしまして,ありがとうございます。
お手元に資料2ということで,私ども日本書籍出版協会及び日本雑誌協会にて提出させていただきました資料がございますが,本件に関しましては出版界にて慎重に検討を重ねました。著作権の権利制限は,現行の個別規定において十分な措置がなされており,現行の著作権法でさえその解釈が拡大的になされ,広く違法複写等が行われている現状で,さらなる拡大解釈を生む可能性のある一般規定の導入をあえて行うことには反対であるという結論に至っております。
著作物を扱う者として,出版界は現行の著作権法の運用を長年にわたり慎重に,かつ厳格に行ってまいりました。障害者など社会的弱者の方々からの権利制限拡大要求にも真摯に対応してきており,これまでの個別規定による対応で,特段の問題が生じているとは考えておりません。
さらに,著作権で問題が発生する場合,そこには権利者と利用者の間で利害の対立が生じますが,そのような利害の不一致があるからこそ,多少の時間をかけても一つ一つの問題を個別に,慎重に審議する過程が必要であると思います。
予測し得ない事態に迅速に対応するためと言いつつ,両者間での利害の対立の存在を知りながら一方にのみ不利になりかねない一般規定をあらかじめつくることは,さらなる大きな対立を生む可能性を大きく含んでいると考えております。
次に,提出資料の一つ一つに関しまして,書籍協会フェアユース検討ワーキンググループ座長である平井のほうから補足説明をさせていただきたいと思います。
【平井氏】
平井でございます。
時間が限られておりますので,挙げさせていただいた項目すべてに触れることはできませんが,かいつまんで,私どものポイントを中心にご説明させていただきます。
まず,出版社というのは他の隣接権利の方々とは異なって,固有の権利を持っておりませんが,いっぽうで著作物の日本における最大の利用者の1つであるという側面を持っております。したがいまして,私どもは一方的に許諾をいただいて著作物を利用させていただいている,出版という行為に結実させるために著作物を利用させていただいているという立場でございます。
そうしたことを今まで何十年も続けておりまして感じますのは,現行の個別規定が十全に機能しているということです。現在の状況で,ほとんど不自由なく出版活動は行われていると考えています。特に先般の著作権法の改正によりまして,その利用,運用に関してはより柔軟に対応できることとなって,一般規定導入の必要は全く感じておりません。
確かに,パロディによる利用など,表現の自由のために若干まだ制限規定を拡大したほうがいい部分もございますが,これはあくまでも個別規定で対応していくべきであると思います。実際にパロディに関しては,個別規定によって利用が認められている国もございます。何といっても,人様の著作物を利用するわけですから,それを何らかの個別規定によってやるとしても,やはりそれは十分な議論を尽くした上でやるべきであると思います。
また,フェアユースを導入するに当たりまして,マーケットに対する影響がないということの線引きが非常に難しいという側面も感じております。例えば,3ページに幾つか書かせていただいておりますけれども,出版にかかわる侵害行為というのは一つ一つは非常に小さなものなんです。それは,例えば無断複写であったり無断での公衆送信であったりとか,非常に小さなものではありますが,それらの積み重ねが非常に大きなものとなっている。「マーケットに影響を与えない」というのは,その総体として見た場合,実際にどうなのかがなかなかはかりにくい。一つ一つ個別に裁判をしても,規模の小ささ故にそれぞれがフェアユースであって,明白な侵害行為がなされたという判断はされにくいでしょう。こうしたことを勘案すると,このフェアユースによる我々のビジネスに対する影響は,大きなものにならざるを得ないのではないかと危惧しております。
さらに,出版社は今,複写その他の利用に関してさまざま,集中管理機構を立ち上げ,それを整えているところです。そうした努力があるにもかかわらず,なかなか契約していただけないという事情もありますが,こういった利用許諾の道が開かれているわけですから,ぜひともそういうところを利用することから始めていただきたいと考えております。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただいまの井村様,平井様のご説明につきまして,ご意見,ご質問ございましたらお出しいただければと存じます。
【中山委員】
このペーパーの2ページに「不況にあえぐ出版業界は壊滅的な打撃をこうむる」とあります。本当にフェアユースが導入されたら壊滅的打撃をこうむるかどうか,先ほどと同じ質問なのですが,かなり疑わしいのではないかという気はいたします。つまり,壊滅的な打撃を被るようなものこそフェアユースにならないのが通常だろうと思うからです。
もう一つ,一つ一つが非常に個別でお金を取りにくいという場合があります。今の複写権センターが企業からなかなかお金を取りにくい,大学から取りにくいということがあるわけですけれども,これは恐らくフェアユースとは関係ないだろうと思います。
規定ができていないからわかりませんけれども,恐らくトランザクションコストが問題で,そういったきちんとした徴収機構ができれば,これはフェアユースが成立しない方向に働くだろうと思うわけです。したがって,フェアユースがあるかどうかではなくて,そういったちゃんとした機構があって,お金が取れるかどうかが本当は問題で,フェアユースの問題ではないような気がするのですけれども,そこはどうでしょうか。
【平井氏】
まず最初のご質問,壊滅的な打撃ということですが,米国で,フェアユースを名目として大きな図書館の蔵書資料のスキャニングがなされてきました。これこそまさにフェアユースを理由に行われてきたことです。米国では,これは裁判によって何とか和解という形でブレーキをかけることはできましたが,果たして日本においてフェアユースを理由にこのようなことが行われた場合,我々が裁判を提起できたかどうか。恐らく出版社としては訴権を持たないと判断されるでしょうから,なかなか難しいと思います。また,一人一人の著作者が,実際にだれの,どの作品がスキャンされているのかもわからない状態で裁判ができたかどうか,裁判ができたとしても,一人一人は小さな著作者ですから,莫大な費用をかけて訴訟を維持できたかどうかは非常に疑問に思わざるを得ません。そうすると,結果としてそのまま継続されてしまうわけですから,これは恐らくは壊滅的な打撃という結論になったのではないかと危惧しております。
それから,複写管理団体ですが,確かにおっしゃるとおり,まだまだ十全に機能しているとは申せません。しかしながら,出版社としては,幾つかある団体を統合し,効率化し,これからさまざまなキャンペーンを張り,トランザクションコストを下げる方向で皆さんにわかりやすく,簡単な方法で複写利用を提供できるようにと考えております。
それ以外にも,例えば貸与権管理センターをつくり,レンタルビジネスを行われたい方にはすぐに許諾ができる体制も整えられております。フェアユースと直接関係ないように見えますが,もしかすると,その規模の小ささ故にフェアユースを主張する複写というのもこれから出てこないとはかぎらないわけです。フェアユースを理由に複写をするのではなくて,小さなお金でもいいからお支払いくださいというための努力を重ねているところです。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,次に移りたいと思います。
美術関連団体の瀬尾様,松本様,よろしくお願いいたします。
[3]美術関連団体
【瀬尾氏】
今回,このヒアリングに関しましては,視覚芸術ということで括らせていただきまして,写真,美術,グラフィックデザイン,そして漫画家協会さんも一緒に,視覚芸術として全部まとまった形でいろいろヒアリングを行い,今日のコメントをさせていただきたいと思っております。
まず,今回の権利制限の一般規定に関しての意見ということで,知財本部から出ております提案について,それを前提として考えてみました。
まず,後でも申し上げますけれども,我々はほぼ企業ではなく,1人ずつの作者です。個人がみんな自分の手で描き,つくっているような作者たちが集まっている団体が,今回,まとまって申し上げることだということを前提に置いてください。
その中で,まず,その個人の権利が流通,つまりビジネス,つまりだれかの利害,公共ではない理由によって狭められるというのはいかがなものか,こういう手法で流通を実現しても,それが本当にいいことなのかという疑問が,内部的な話の中でまず出てまいりました。つまり「流通すればあなたも儲かるんだからいいだろう」儲けだけのために,個人のアーティストが創作しているのかどうか,そして,多く流通することがすべて善なのかどうか,まずそこの部分に大きな疑問があるということです。
つまり,一つの利潤,「回り回ったらあなたも儲かるんだから」ということでビジネスを楯に権利を制限するということに対して,非常な違和感がありますし,その手法自体に疑問を持っているというところが,まず第1にあります。
また,添付の文書にもございますけれども,人格権との問題。創作者は「売れればいいだろう」ということだけではないという現実を,我々はここで訴えたい。そういうことで,人格権をどうするのか。日本では,やはりアメリカと違って人格権がきちんとしております。我々はそれによって大変心強く制作を行っているのに,そういった問題はこの点に関してはどうなるのか。
そのようなことがまず最初にありましたし,この流通,つまりビジネス,だれかの利益,これが公的なものと考えられるのか,また,そのために個人の権利が制限されることについてはいかがなものか,これに関しては,我々は「否である」と申し上げておきます。先ほどの4団体の共通見解として申し上げております。
もう一つ,ネットビジネスを促進するために個人の権利を一部制限して,どうせそれを使えないんだとしたら,制限しても流通すればいいではないか,そういう議論がございます。しかし,ネットビジネスが成立していないのは著作権の権利処理が問題であるからだとは,我々は思っておりません。つまり,ネット上で著作権者に対する権利処理もしくはサーチコストが嵩むためにネットビジネスができないのではない,と思っております。
ネットビジネスの上では無料を前提としたような文化,そしてみんなで共有する文化という新しい考え方が出て来ておりますので,それとビジネスがまだ親和しにくい状況,その他いろいろな状況があると思います。つまり,ネットビジネスが成立していない要件を著作権に帰すること自体,大きな間違いがあるのではないか。より詳細な検討をしていただいた上で,そういう前提をお考えいただきたいと考えております。
我々にしてみますと,権利制限というのは権利を公的に制限される,要するに,個人の財産をそこで制限されるわけです。だれかの利益のためにそれが制限されるということに関しては,非常に危惧を持つ。さらにそれが,ネットビジネスが成立し得ない,そういったことのためであるとすると,それは本当であるのか非常に考えるところがございます。
また,ここには書いてございませんけれども,そもそも「権利制限の一般規定」と。権利制限は特別な場合であるべきはずです。それが一般規定というのは言葉の上でも大きく矛盾していると思わざるを得ません。権利制限というのは一般化してしまってよろしいのでしょうか。そういうそもそも論も,疑問としてはございます。
ただ,今後,このネット上で生まれる新しいビジネスの中で,新しい手法によるビジネスがもしできた場合,それによって我々創作者が大きくダメージを受ける可能性はあります。ただ,これはあくまで可能性ですので,強く申し上げることはできませんが,今の新しいテクノロジーの中で,すべてを裁判で決していくやり方については,やはり危惧を持っているということが前提になります。
今,訴訟の件が出ました。繰り返し申し上げますが,我々は個人の権利者です。個人の権利者が少額のために裁判を起こすことが,日本ではどれだけ負担になるのか。私の知り合いにもおります。10万円を得るために100万円の訴訟費用をかけて胃に穴を開ける,そういう現状が今,日本にはあるということです。アメリカのように,隣に苦情を言うのに裁判を起こして弁護士を立てる,そういう文化がある国はいいかもしれません。ただ,日本ではそういうことはございません。大概労多くして益少ない。裁判費用も取れないような少額の裁判を大手のちゃんとした法人に対して個人が起こす,こういうことに対しては非常に問題があるし,これは弱者に対してかなりきついものであると思っております。
その裁判制度ですけれども,先ほど申し上げたように少額なんですね。つまり,勝っても実損方式で,懲罰的なものも何もない。どんなに悪いことをしても最終的に,もし悪意を持って,裁判を覚悟して使い倒した場合でも,実損としては払うよりも楽なのかもしれません。そして,権利者は得るものが少ないかもしれません。実際の日本の裁判制度というのは,今,個人にとってそれほど親しみやすい制度ではないということは,申し上げられると思います。
その裁判制度を前提にして判例を蓄積する,しかもアメリカのフェアユースのように,もともとある程度明確なものをまとめて「フェアである」とするのではなく,これから何が出るかわからないものを裁判としてフェアで積み上げる,それを一般規定として積み上げる,これは個人にとっては,まず抗う方法はございません。ほとんどの場合は,賢い人であれば,胃に穴を開けて,お金を注ぎ込んで時間を潰してやるよりは,黙って泣いてしまってというふうになれば,それが蓄積される。そういう個人に対しての不利益に大変危惧を持っています。
そして,その裁判制度の中で,個人というのは裁判を起こすのに大変な労力が要ります。でも,企業はきちんと法務部があり,弁護士さんがいて,業務として行っている。そこで優越的な立場に対しても何ら配慮もなく,創作者に重い負担を強いることに対しては,反対せざるを得ません。
そして,これに対して個人がものをつくっていく,例えば今日いらしていただいた松本零士先生がいらっしゃる,宮崎駿さんがいらっしゃる,個人の皆さんが自分の手で1枚ずつ描いて,つくったものが大きな大きなコンテンツになるんです。その個人の創作を潰す方向にだけはしないでいただきたい。弱い1人が手で描いたときに,それがきちんと報われるような方向をお考えいただきたい。
それが今回の場合,このフェアユースの一般規定はネットビジネスという,ある意味で言えばこれから何が出てくるかわからないような,まだ曖昧模糊としたものに対して,個人に重い負担を強いつつ実現したとしても,私は,健全なネットビジネスが成長するとは考え難い。
以上が今,私が申し上げたいことでございます。「私」というのは,この4団体でございます。
特に,絵を描いたり漫画を描いたり,写真を撮ったりする我々というのは,今までも正直,社会的に強い立場とは言い難い。個人であるがゆえに。今までは孤高を旨として,それを誇りにも思い,ずっと来ました。ただ,今はこういう大きな流れの中で,個人としても声を上げて,個人に対する負担は削る,そういうお願いとそういった声明を出させていただきたいと思って,今日はコメントさせていただいております。
【土肥主査】
松本さんは,よろしいですか。
【松本氏】
私も今,説明していただいたことと同じで,あくまでも我々は個人の創作家でありまして,その個人の負担感及び現在,進行しつつあるネットビジネスあるいはネット配信の様相の激変ですね,これに的確に対応するプロテクターのようなものがきちんと整備されない限り,我々は,いわゆるここに書かれているフェアユースというものには反対せざるを得ない。
それぐらい孤独なものです。特に創作者,漫画家というのは孤独な,個人的な存在でありまして,頼るべきものは何もありません。そういったもので,それにプロテクターをかける方法。
あるいは,猛烈な勢いでネット配信が進行しています。地球上全域にわたって配信される場合があるんです。その場合に,2つ危険があるわけです。1つは,金銭的な配分というのは,もう微々たるもので,いまだに我々はネット上の問題では,本当に何の利益も得ておりません。もう一つは,思想,宗教,信条,民族感情というような問題がネットビジネスの中に,世界じゅうに配信されるという問題の中で生じるために,生命の危険さえ感じる場合があるわけです。そういうことがあるので,そこら辺の概念─概念ではなくて規定というものを,断固として日本の立場で,あるいは個人の創作者を保護するという立場で確立してから協議に,これは地球上全域で一般化した規定をつくらないと,現行の,いわゆるアメリカが言っているフェアユースという,この問題に踏み込むことには非常に危険を感じております。
そういうことで,それらのすべてを守るためにも,現在の段階では反対せざるを得ません。
【土肥主査】
ありがとうございました。
今日は千葉さんはお休みですね。
【瀬尾氏】
申しわけありません,ちょっと所用で。
【土肥主査】
それでは,ただいまの瀬尾様,松本様のご説明,ご意見について,何かご質問等ございましたらお出しいただければと存じます。
個人の権利の制限という面,そういう可能性があることは伺っていてよくわかるんですけれども,個人の創作上,このフェアユースというのがあれば,より創作が進んでいくのではないか,自由度が上がるのではないか,そういうことは私,日常的に,写真の世界でも漫画の世界でもあるのではないかと思うんですけれども,その点はいかがですか。
【瀬尾氏】
今,おっしゃったフェアユースといいますか,一般規定というものによって創作が進む。例えばこれは,先ほどチラッと出ましたけれども,パロディとか,既存の創作物の二次利用とか,そういうことがあるとおっしゃっていますけれども,基本的にそのパロディ自体も,今,日本の中でフェアユースでつくっていくことがよいとは考えておりません。
つまり,一番の創作というのは,確かに前の創作があって,それを土台にして新しい創作ができるという考えはありますけれども,それは受けた感じとかそういうものであって,素材自体をそのまま使ってどんどんつくっていくことが創作の促進になるとは考えていないんですね。それが流通の豊富化でありコンテンツの豊富化であるとは思っていない。それは逆に言うと,創作者は自分のものをいじられることに大変な危機感を持っています。先ほど人格権についても申し上げましたけれども,はっきり言って,いじっていただきたくないという方が非常に多いという現実がございますので,パロディを認める方向というのは,視覚芸術の中ではかなり薄いと申し上げてよろしいかと思います。
【土肥主査】
松本さんも同意見ですか。
【松本氏】
そうです。
【中山委員】
私ばかりすみません。
瀬尾さんに伺いたいのですけれども,確かに個人の権利者が訴訟をするのは負担である,これは私も弁護士をしていますから非常によくわかるんですけれども,これは別にフェアユースとか何とかの話ではなくて,そもそも訴えそのものがそうですね。ですから,あらゆる場合それはそうなっているので,小さな訴えをしようと思ったら負担が多いというのは,別にフェアユースだけの問題ではないという点。
あと,日本の法律にはあちこちに一般規定があります。権利濫用も信義誠実もそうですし,あるいは民法第709条だって一般規定ですね。あるいは著作権法の中にだってたくさん一般規定があります。にもかかわらず,なぜフェアユースだけ訴訟負担とか何とかいう問題が出てくるのか,他の一般規定はどうして問題にしないのか,なぜその廃止運動が起きないのかお伺いしたいのですけれども。
【瀬尾氏】
基本的に,今回,ネットということが出てきております。インターネットというのは,新しいテクノロジーによって劇的に変わってしまうことがございます。例えば今のGoogleだって,あんなこと,できるはずではなかったのができるようになりました。それはやはりOCRの発達とか,ネット上のブロードバンド化とか,いろいろな要因によって初めてできたものです。今後,ネット上では相当大きな変化だって起こり得る状況にあると思っています。つまり,そういう予見のできない,1つの美術ジャンルを失ってしまうぐらいの大きな変動が起き得るということも,実は考えております。
なぜかというと,今,ネット上では,この前のオークションの権利制限とか,いろいろなことがございます。絵を載せるなんて今まで考えられなかった。だけれども,そういったことがどんどん出てきて,しかもネットで複製が可能になる,デジタルの利点をどんどん生かしたようなビジネスができた場合,実は我々個人がもし「あっ」と思っても,止めようがないです。しかも,それが法律の間を抜けてしまっていた場合,止めようがないです。
1つだけ言わせてください。一般社団法人が公益法人改革されたときに,図書館法の中に,私設図書館は一般社団法人が設立できるという規定がございます。これによって個人に近い形で一般社団が図書館をつくり,そこが,例えば過去の著作物について,図書館の権利制限の中でいろいろなものを配布したりすることが現実的に可能になってきて,そういう問題も起こってきているんです。つまり,法を1回抜けてしまったとしたら,デジタルの世界ではもう止めようがないんです。
とすると,熟慮に熟慮を重ねていただかないと,我々としてはそういったものに対抗する術がないだけに,慎重さをお願いする。やってしまって「あ,抜けちゃったね」では済まないというのが我々の一番の気持ちであるということです。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。
それでは,美術関連団体からのご説明を終わりたいと思います。
次に,ソフトウェア関連団体から,久保田様のご説明をいただきたいと存じます。
[4]ソフトウェア関連団体
【久保田氏】
ソフトウェア著作権協会の久保田でございます。
今日は権利制限の一般規定に対するソフトウェア関連権利者の意見ということで,説明させていただきます。
まず初めに,この意見表明に当たりまして,コンピュータソフトウェア関連団体であるビジネスソフトウェアアライアンス,通称BSA,社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)並びに社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)からも意見を聴取しております。
また,別添では,BSA,CSAJの各団体の意見が添付されております。
ソフトウェアというのは,私は生活そのものだと表現しておりますが,エンターテインメント系から,いわゆる機能を実現したビジネスソフトウェアまで,幅広くプログラムの著作物として保護されている,そういうものと理解しております。
また,今回,この意見を聴取するに当たりまして,7月にアンケートをとりました。これにつきましてはフェアにといいますか,メリット,デメリットを含め幅広くこのフェアユースに関する説明をいたしまして,情報を収集いたしました。
まず,この資料につきましては,権利制限の一般規定とはどんなものなのか説明をしまして,議論の進捗ということで,知的財産推進計画2008等から歴史的にどういう経過があったか説明をいたしました。また,検討される具体的な規定の内容ということで,一般的な基準,例えば「公正」とか「正当」とか「やむを得ない」といった用語の問題にも言及しまして,さらに考慮要素としまして,著作物の性質,種類及び用途,そして利用の目的,対応,そして利用される著作物の量という分析等も加えまして,また,アメリカのフェアユースの基準の1つで市場または価値に及ぼす影響,こういうところについて幅広くレポートいたしまして,アンケートを受けております。
また,当協会独自の見解としましては,平成20年10月1日に出ました法制問題小委員会の中間整理に対する意見としまして,権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の検討については,日本の訴訟制度,紛争解決における訴訟の利用状況,個人,企業のコンプライアンス意識の浸透状況等を総合的に勘案して,慎重に検討すべきだという意見を出しております。
また,「デジタルネット時代における知財制度のあり方について(報告案)」に対して,これは平成20年11月17日に提出しておりますが,ここでは「日本版フェアユースの規定ぶりをどのように工夫したとしても,抽象的な文言とならざるを得ず,判例が蓄積されるまでは利用者にとっても訴訟リスクは低減しません」と。つまり,著作物の利用者としては自らの利用行為がフェアユースに該当すると考えても,他方で権利者がフェアユースに該当しないと考えれば,結局は訴訟での解決を図ることにならざるを得なくなる。また,先ほどからも出ていますように,インターネット上などでの著作権侵害行為について,侵害者が「フェアユースに該当する」と安易に主張し,そのことが著作権を尊重する意識の低下を招くおそれも危惧されるところである。さらに,安易なフェアユースの主張に対し権利者が一件一件対抗するとなれば,膨大な数の訴訟に対応せざるを得ず,権利者が正当な権利保護活動を行うのに大きな負担を強いられることになる。そこで,日本版フェアユースの導入については,権利者側の立場にも考慮した慎重な検討が求められる,こういった意見を表明しております。
そして今回,この4団体の意見をまとめたところについて発表させていただきます。
その前提としまして,会員社に対し,また関連の団体につきまして,英国のフェアリーディング,米国のフェアユース規定,またスリー・ステップテストのそれぞれの類型も説明しております。
意見,(1)権利制限の一般規定の導入については,3団体の意見が反対,1団体が留保という結果でした。各団体の意見を勘案し,ソフトウェア関連権利者といたしましては,一般の著作権意識や司法制度の利用状況,導入の必要性及び許容性の両面から,権利制限の一般規定の導入は原則として反対いたします。
理由は,以下となります。
まず,直近の著作権法改正により,新規ビジネスを阻害するとされる問題については個別制限規定による手当てがなされた。現状では,権利制限の一般規定を設けてまで解決すべき問題は存在しないと認識しており,導入の必要性がないということです。
2点目です。将来において発現するかもしれない既存の著作物の価値を利用する形態のビジネスのために,権利者にとって不利益となる法制度を現時点で整備する必要が認められない。
もう一点。権利制限の一般規定の導入は,ビジネスチャンスの拡大というプラスの側面より,権利侵害のグレー領域を拡大するというマイナスの側面のほうが大きいと予測されます。権利者はケースごとに著作権侵害であるかどうかについて司法判断を仰ぐ必要があり,負担増になるなど,リスクしか負わない。
続きまして,これまでなされている権利制限の一般規定の導入に関する議論では,居直り侵害者への対策など,権利者の正当な利益を保護するための制度が十分ではない。
なお,「留保する」とした1団体からも,賛成・反対の意見が分かれたことから留保しているわけではなく,現時点で与えられている情報が抽象的であることから,積極的な意見の取りまとめが得られなかったということが報告されております。
続きまして,権利制限の一般規定が存在しないことによって,他者の著作物を利用する場面においては,例えば著作物の写り込んでいる写真を利用する場合や,会議資料で他者の著作物を複製配布する場合など,形式的に違法とされることが問題になることが想定されますが,権利者という立場において,問題があったとされるケースは存在しておりません。
このような結果から,導入の検討に際し留意していただきたい事項としまして,(1)権利制限の一般規定の導入の問題は,特にモデルとなっている米国と諸外国の基本的な司法制度との違いや司法制度の活用実態,損害賠償制度のあり方や産業政策,文化政策等々,幅広い視野からの慎重な検討が必要です。
このため,権利制限の一般規定の導入の検討に際しまして,導入することを前提として議論を進めるのではなく,導入の是非に立ち返って議論されるべきであり,拙速な結論を出すべきではないと考えております。
これらのことから,本件の検討は法制問題小委員会ではなく,これはいろいろ実務の関係からという意味ですけれども,基本問題小委員会で検討することが適切かつ必要であると考えております。
繰り返しになりますが,議論の際に権利制限の一般規定が濫用されることのないよう,権利者の立場に配慮した慎重な議論を望みます。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただいまの久保田様のご説明につきまして,ご意見,ご質問等ございましたらお出しください。
【中山委員】
何回もすみません。
フェアユースが導入されると膨大な訴訟に対応しなければならないというご意見ですけれども,先ほど,どの団体でしたでしょうか,日本は和解の国だから余り訴訟がなくて,先例ができないのではないかという心配を述べておられまた。果たしてフェアユースができた場合,そんな訴訟が起きるかどうかという点。これは見込みだからわからないのですけれども,本家本元のアメリカを見ても,それほど多くないんですね。ただ,ないかといえば,現在東京地裁で争われている事件もありますし,ないということはないだろうと思うんです。少な目だけれども,そこそこあるのではないかなということで,膨大な訴訟に対応できないということではないような気がするんですけれども,いかがでしょうか。
【久保田氏】
これは取りまとめの段階でそういう言葉を使っておりますが,そこについては,別に異論はないです。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。
それでは,続きまして日本放送協会の石井様と日本民間放送連盟の池田様,入江様,よろしくお願いいたします。
[5]放送関連団体
【石井氏】
石井でございます。よろしくお願いいたします。
民放連とNHKで別々に意見を述べさせていただくことになりますが,これは両者の間で意見が異なっているとか,そういうわけではありませんで,あえて統一をしなかっただけで特に他意はございませんので,まず最初にお断りしておきたいと思います。
そこで,NHKとしての意見でございますけれども,問われているのは,権利制限の一般規定の導入の是非についてでございますけれども,この一般規定の中身自体にいろいろな考え方がある中で,今,この段階で明確に是非をお答えすることは大変難しく思われます。したがって,ここではどのようなことが考えられるかについて,一つの考え方をお示ししたいと思います。
ご案内のとおり,放送事業者というのは,言ってみれば著作物のヘビーユーザーであると同時に,コンテンツの権利者でもあります。2つに分けて考えてまいりますけれども,まず利用者,つまり放送番組制作などの場合でございますけれども,現在,現行の著作権法では,時事の事件の報道のための利用ですとか引用ですとか,幾つかの制限規定が設けられておりまして,これを用いて許諾なく使える場合も少なくありません。時に解釈をめぐって権利者と見解が食い違うこともございますが,現在のところ,裁判で争うには至っておりません。これらは権利制限の一般規定を導入するというよりは,現在の制限規定の解釈や規定の仕方をより合理的なものにしていくことで解決が図られるものではないかと考えております。
その次に,権利者としてでございますけれども,NHKは制作された番組を公益的,その他さまざまな分野で利用を進めております。その際,放送番組を提供するに当たりましては,NHKの政治的公平性が疑われたり,あるいは公序良俗に反するなど反社会的目的で使用されない,それから企業との関係におきますと,NHKがあたかも特定の企業や商品を推薦したり品質保証していると受け取られないように,一定の提供基準を設けております。これは一つの公共放送として大事なところではないかと考えております。
したがって,仮に権利制限の一般規定を導入するとした場合,この提供基準との関係が私どもにとっては問題になってき得ます。すなわち,一般規定が導入されて,例えば営利企業活動のために番組が利用されたとき,NHKの判断で行う二次使用との間にずれが生じて,結果としてNHKの放送番組の制作に影響が出ないか,NHKが特定の企業を宣伝しているのではないかと誤解をされるおそれがないではございません。
もちろん一方で,教育,研究,福祉,医療,環境その他,そういった公益的な目的での利用については,さらに推進したいと考えております。著作権法においても,このような分野において一般規定の導入というのは,検討の余地はあるのではないかというふうにも考えられます。
すなわち,言い換えますと,ここには書いてございませんが,権利者─私どもが自らの責任と判断で行うべきことと,一方で,ある種,公益的な目的のために利用者独自の判断と責任で行われるべきこと,こういうものを分けて,どういうふうに調和をとっていったらいいのか考えてもいいのではないか,そういう意味で,権利制限の一般規定の導入が検討されることもあり得るのではないかと考えております。
権利制限の一般規定をめぐっては,あるいはコンテンツ流通の議論でもそうかもしれませんけれども,どうも日本においては産業政策的な視点からの検討が優先されてきたように感じられますが,むしろ公益的な見地から,必要性の高い分野での検討を進めることも必要ではないかと思われます。
なお,仮に権利制限の一般規定が導入される場合,仮の場合でございますけれども,解決を速やかにするために,ADRですとかガイドラインを協議する場,こういうものも必要ではないかと思われます。
【池田氏】
日本民間放送連盟からも申し上げます。
放送事業者という立場では,民間放送事業者もNHKさんと何ら変わるところはございません。
若干具体的な部分を申し上げさせていただきたいと思います。
放送事業者には,NHKさんもおっしゃったとおり2種類の側面がございます。
まず,利用者としての放送事業者の立場から見た権利制限の一般規定についてでございますが,この権利制限の一般規定の議論のときに必ず出てまいりますのが写り込みでございます。写り込みというものをより理解しやすくするためには,権利制限の一般規定があったほうがいいのではないかと言われますけれども,我々が放送番組を制作する上では,確かに街頭や室内等に展示されている美術や写真の著作物等,これがやむを得ず画面内に写り込んでしまう場合がございます。
このようないわゆる写り込みというものも,形式的には違法と判断される可能性もなくはないとは思いますけれども,実際は,その写り込んでしまった著作物をそのまま利用することが目的ではなく,また,それはある意味,不可避的に記録されてしまったものであります。そして,そのほとんどは,その写り込んでしまったものの著作物性を鑑賞する等,感得することはできない,もちろんそれが目的ではございませんので,それはできない,そういった程度のものであります。したがいまして,これらの写り込みに際しまして,我々放送事業者が実務上,権利者から訴えを起こされたということは,現時点ではございません。
また,放送事業者としましては,通常の放送番組の製作におきまして,引用ですとか時事の事件の報道のための利用等,個別の権利制限規定によって日常的に著作物を利用した番組を製作しております。これら権利制限の規定を利用して我々は放送番組をつくっており,先ほど申しましたように,写り込みにつきましても実務上の紛争等はないという点から見ましても,権利制限の一般規定を導入する,その必要性は余り高くはないのではないかと考えております。
一方,権利者としての放送事業者の立場からでございますが,これにつきましては,これまでも各権利者団体の方それぞれのご意見の中で出てきておりますが,我々も,特に放送の場合は,日本中の視聴者に対して放送を行っております。特に無料広告放送におきましては,その対価を取得することなく各家庭で各視聴者が私的複製を行うことができる,各視聴者の手元に複製物が残るということがございます。
そのように各視聴者の手元にたくさん残ってしまった複製物を利用して,これを各視聴者がフェアユースと称してさまざまな利用を多数行うことが想定されます。しかし,こうした多数の利用の一つ一つについて,これが一体権利制限に該当するか,フェアユースであるかどうか判断していくのは非常に難しゅうございます。ましてやこれを裁判上で争うことは個々の放送事業者の能力を大きく超えるものでありまして,事実上,この一つ一つに対応することは不可能ではないかと思っております。
このように,権利制限の一般規定を拡大解釈して,フェアユースだと称してさまざまに利用されることによって,権利者にとって対応不可能な権利侵害が助長され,権利者の利益が不当に害されることを我々は懸念しております。
例えばネット配信におきましては,動画投稿サイト等に放送番組がアップロードされる。仮にこれがフェアユースだという誤解を招いてしまった場合には,その一つ一つに我々が対応するのは事実上,不可能であります。現実は,一つ一つの侵害物に対して指摘して,落とさせるということをしておりますが,その一つ一つについて,これはフェアユースであるという抗弁がなされた場合には,我々はお手上げになってしまう可能性があります。そうなった結果,我々の正規のビジネスが阻害され,個々の創作者のインセンティブが削がれる結果となることが極めて懸念されるものであります。
以上,日本民間放送連盟としましては,権利制限の一般規定の導入に踏み込む前に,まずは個別規定による対応について,さらに十分な検討を行うべきではないかと考えております。
【土肥主査】
入江様は,よろしいですか。
【入江氏】
はい。
【土肥主査】
それでは,ただいまのご説明につきまして,何かご質問,ご意見ございましたらお出しいただければと思います。
【中山委員】
他にないようですので,私からまた。
アーカイブについては余りお触れにならなかったと思うのですけれども,NHKも民放も同じだと思うんですけれども,放送番組とか,あるいは映画もそうなんですけれども,アーカイブということが非常に重要になってくると思うので,その点について,フェアユースとの関連で何かご意見があればお伺いしたいと思います。
もう一つ,動画投稿サイト,私は,あれはフェアユース規定を導入してもだめなものが圧倒的に多いのではないかと思いますけれども,仮に日本でだめと言っても,仮にアメリカでフェアユースとなれば,日本人は何も日本の動画サイトを使わずに,アメリカに投稿して,日本人はアメリカを楽しむということになって,結局は,ネットの世界では余り意味がないのではないかという気もするんですけれども,その点はいかがでしょうか。
【石井氏】
アーカイブスの問題ですけれども,特にフェアユースがあったらいい……,そうですね,あったら便利だなと思うことはありますけれども,かといって,フェアユースがあれば直ちに何か進むといったことは,なかなか考えにくいかなと考えております。
例えば,アーカイブスをいろいろ活用していくわけですけれども,基本的に,これは今のところ契約で何とか,かなりの部分は,例えばNHKオンデマンドも出ていけるようになっておりますし,今後この方向は続けていきたいと思います。
もう一つは,アーカイブスの活用のときに,やはり著作権だけの問題ではありませんで,例えばドキュメンタリーですと肖像権の問題ですとか,そういうものが入ってきます。そういうものに対して,こちらとしては一つ一つ,これはそういう権利を侵害しないか確認しながら行っているところもございますので,フェアユースで,あるいは権利制限の一般規定で何か直ちに自由にできるということとは,今のところストレートには結びつかないかなと思っております。
【池田氏】
動画投稿サイトにつきまして一番懸念しておりますのは,フェアユースの拡大解釈です。フェアユースであるかどうかが固まる前に,「フェアユースだからこれはいいだろう」ということで,いろいろな人がどんどん上げてしまうことが蔓延してしまうのではないか,それを一番懸念しております。
【中山委員】
アメリカの話は。
【池田氏】
日本でフェアユースであってアメリカでフェアユースでないということが,実際あるんでしょうか。そのような「フェア」の使い方がアメリカと日本で異なるのでしょうか。つまり,アメリカでフェアであればアメリカに持っていけばいいというふうになるということでしょうか。
質問に対する質問で申しわけありません。
【中山委員】
つまり,日本とアメリカと違う,日本ではだめだけれどもアメリカではいいというものがもしあれば,普通の物だったら,それは税関があって阻止できますけれども,ネットの時代だったらアメリカに投稿して一般ユーザーもアメリカにアクセスして,全部アメリカに行ってしまう,結局余り意味がなくなっているのではないか,そういう質問なんですが。
【池田氏】
そうなってしまうと,今,インターネットの場合はネットワークが世界じゅうに広がっておりますので,今,海外でも市場がなくなっております。ですから日本だけの問題ではなく,逆に国際的な問題になってしまうのではないかと思います。
アメリカで「いい」というのが本当にいいのだろうかということになるのではないかと思いますが。
【松田委員】
せっかくテレビ局の方が来ていらっしゃいますので,お聞きします。
権利制限の一般的規定を導入すると,端末機器を海外に置いて,日本からの放送番組を一定業者がそこから送信することによって受信するシステムが適法になる判例が変わるという意見が現にあるのです。それについてテレビ局の方々はどういうご意見を持っていらっしゃいますか。
【石井氏】
実際にそういうケースが起きておりますので,大変答えづらいところなんですけれども,私どもとしては,そういうものはいわゆるフェアユースには当てはまらないのではないか,権利者の権利を不当に侵害する場合に当たるのではないかと考えております。
【道垣内委員】
先ほどの中山委員のご発言との関係で,質問というよりはむしろ中山委員にコメントしたいことなのですけれども,アメリカでアップロードする,あるいはアメリカにサーバがあるからといって,日本からアクセスできる状態にある以上,日本法上,そのことは全く問題にならないかというと,それはまた別の問題だと思います。日本の著作権法の違反になるということもあり得るのではないかと思います。これは国際私法上の問題です。
ですから,アメリカと日本とで制度が違って,しかしネットはつながっているという状態で,みんながアメリカでやってしまえば日本でどういう法改正をしようとも関係ないということはないのではないかということだけコメントさせていただきたいと思います。
【中山委員】
法的にはもちろんそのとおりで,私も弁護士として答えるときには「アメリカで行ってもそれは危ないですよ」とか「危ない可能性がありますよ」と言います。「でも,日本にサーバを置くよりは安全ですよ」という程度のことはいえますね。現実にアメリカにサーバを置いてやった場合などは,果たしてどのくらい訴えられる可能性が高くなるか,日本に置いているより高くなるかという問題で,そういう問題です。
【山本委員】
アメリカのフェアユースが議論の前提になっていますので,一言コメントさせていただきたいんですが,You Tubeで配信されるようなものについて,日本法だったら違法だけれどもアメリカ法だったらフェアユースで適法になるという事態は,余り考えられないと思います。だから,どんな事例なのかを具体的に,こんな事例だったらアメリカ法では適法だけれども日本法だったら違法だとかいう議論をしないと,アメリカのフェアユースがただ広いという前提で議論をするのは,ちょっと危険ではないかという気がします。
もう一点,松田委員からお話がありました,日本での放送を外国で聞くといった行為について,アメリカでもやはり裁判例がありまして,フェアユースが適用になるかならないかという事例で,全米どこにいてもローカル局のラジオ放送を聞けるというサービスを提供している,それに対してフェアユースが成り立つかという裁判例があります。これは違法だとされています。つまり,フェアユースが成り立たない。なぜかというと,個人で地元の放送を受信して,それを自分のところに持ってくるという行為ではなしに,その複製と送信行為をやっているのが間に立っている企業なので,これはフェアユースの問題としては違法だとされています。
ですからその点も,やはりアメリカ法と日本法,具体的な事実関係でかなり問題が似通ってきたりしますので,具体的な事実関係を前提にしないと議論が噛み合わないのかなと思います。
【土肥主査】
ありがとうございました。
この問題は,このくらいでよろしいですかね。
それでは,続きましてモバイル・コンテンツ・フォーラムの山浦様,よろしくお願いいたします。
[6]モバイル・コンテンツ・フォーラム
【山浦氏】
モバイル・コンテンツ・フォーラムの知財・著作権担当理事を務めております山浦と申します。よろしくお願いいたします。
本日は,当モバイル・コンテンツ・フォーラムにこのような意見発表の場をいただき,まことにありがとうございます。
それでは,フェアユース規定の導入に関する意見ということで,中身に入らせていただきます。
資料を1枚めくっていただければと思います。
当モバイル・コンテンツ・フォーラムは,モバイル・コンテンツの関連業界の発展に向けて活動している団体となります。現在,約300ほどの入会企業がございます。今回,この加入企業に向けて,フェアユース規定の導入に関する意見の聞き取り,アンケートを行いました。
フェアユース規定の導入については,ビジネスの促進という観点から期待する声が多い一方で,さまざまな懸念も表明されました。それは,導入の是非ということではなくて,もう少し考えると,どのようにそれを導入していくのかといったところに関するものが非常に多くございました。
したがって,なのですが,ここに書いてありますように,今回は,改正条文案等具体的な判断基準が提示されていないことから,具体的な賛否の検討はできませんでした。意見を集約して「これは是である」「非である」ということを全部まとめることはできませんでした。そのため,今後,検討が必要な事項についてご紹介するにとどめさせていただいて,検討に際しての要望事項ということで説明させていただこうと思います。
もう一枚めくっていただければと思います。
まず,現行著作権法に対する意見でございますが,我が国の著作権法制度において,ビジネスの変化応じて法改正が行われてきております。しかし,毎年のように法改正がなされているとはいえ,昨今のインターネットによるグローバルな視点が必要な上に,急速に成長する当業界の技術革新やビジネスのスピードに対して,法改正が迅速に対応できているわけではないと私たちは感じております。この意味においては,一般規定の導入は非常に有益な検討であると私たちは考えております。
次のページをめくっていただければと思います。
ただし,先ほども申し上げましたとおり,それをどのように導入するかというところについては,私たちには非常に懸念が多くございます。
私たちが考える望ましい姿というのが,この図になっておりますけれども,一方で,現行法の個別制限規定といったところですね,これは使う側からすると,安心して使えるという非常にいいところがございます。明確に著作権の制限がされる形になりますので,これは非常にいいと思います。そんなものですから,個別制限規定を列挙して著作権法の制限を受ける対象を明確にしていくことの有用性が,まず1つ挙げられます。
一方で,フェアユース規定ですけれども,著作物の利用実態に応じて柔軟に対応できるという意味で,非常に有益だと考えております。ただし,例えば現行法の制限規定を削除し,一般規定のみの制度になるだとか,個別制限規定を追加していくというところが遅くなってしまうだとか,そこが十分に行われていかないという話になりますと,これについては非常に問題点が多い。当然のことながら,多種多様な判断が生じてきますので,いろいろな訴訟が乱立するといったことも可能性としては考えられると考えております。
そういうことで,私どもとしまして導入を求める制度については,現行の個別制限規定を著作物の利用実態に合わせて拡充し,著作権が制限される行為を明確にした上で,個別規定に当たらない部分についてはフェアユース規定を導入するという形で進めていっていただきたいと考えております。
1枚めくっていただければと思います。
以降,このアンケートの中で,検討が必要な具体的な例が幾つか出てきております。この内容については詳しくは説明しませんが,タイトルだけ読んでまいります。
コンテンツの制作行程において行う一時的な複製等の行為。それから,先ほどもございましたが,写り込み。その次,社内等の特定領域で情報共有や説明等のために著作物を利用する行為。あるいは企画書や提案書における説明,デモ等に著作物を一時的に利用する行為。次に参ります。商品購入を判断するために利用する書籍の表紙・目次や音楽アルバムアートを利用する,あるいは試聴や立ち読み等の一部を利用する行為。利用端末に合わせてファイル形式やサイズを変更するためにコピーをする行為。さらに参ります。ユビキタス環境とクラウド等の拡大によってネット上の私的な領域を利用する行為。RSSリーダー,ソーシャルブックマーク,ミニブログ等により端末へ複製をする行為。最後に,先ほどもお話が出ておりましたが,パロディ等の特定のルールによる二次著作物として利用する行為。こういったものが,各加入企業のほうから検討が必要な事例として挙げられました。
次のページをめくっていただきたいんですが,今後さらに,このフェアユース規定の導入に当たっての検討で,私たちとしては要望したいことが幾つかございます。
まずは,一番初めにも申し上げましたとおりに,どのような形でこれが導入されていくのかというところについて,私たちは非常に興味を持っております。ですから,具体的な条文案の提示と再意見の募集をしていただければと考えております。
2つ目,フェアユースを導入するとなった場合の話ですけれども,判断基準をなるたけ明確化してほしいと考えております。これについては読んでいきます。
仮に米国著作権法と同様のフェアユース規定を追加されたことを想定しますと,フェアユースの判断,すなわち,同条項が適用される公正な使用の判断基準について明確にしていただきたい。
判断基準が明確でなければ,判断を求めるための訴訟が乱立することが予測され,当業者及び著作権者の両者にとって,無用とも思われる訴訟費用と時間が費やされる可能性があることを危惧いたします。
最後のページになりますが,フェアユース規定の役割ですね。フェアユースでそもそも何を解決するのかというところについて規定していただきたいと考えております。これもすべて読んでまいります。
グローバルな技術革新やインターネットビジネスのスピードへの対応に,フェアユース規定の担うべき役割を明確にしていただきたい。
独禁法や不正競争防止法等のビジネス面での公平・公正を求める法規制,デジタル化に対応した効率的な著作権処理を実現する隣接権も含めた著作権集中管理団体の整備と包括的な許諾システムの構築,また公的な仲裁機関である文化庁の裁定のあり方や裁判外紛争解決(ADR)のあり方等も検討とあわせてフェアユース規定の導入の検討を進めていただきたいと考えております。
多少早足になりましたが,モバイル・コンテンツ・フォーラムからの意見表明とさせていただきます。
ありがとうございました。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
ただいまの山浦様のご説明につきまして,ご質問等ございましたらどうぞお出しください。
【松田委員】
資料の5ページを拝見いたしますと,一般的規定を導入する必要性がある事案として具体的に示された例があります。
これを見ますと,例えば1番目のコンテンツ制作過程における一時的な複製,これは,インターネットコンテンツを作成するためのビジネスモデルに資するような複製のように思われるのですが,しかし,このコンテンツ制作の過程における一時的複製というのは別にアナログの世界でもありましてね,問題集をつくるときに過去の問題,著作物を引用して,そして許諾を取る前に問題集の原稿をつくらなければいけないとか。だから,これは決してインターネットビジネス固有の問題ではないように思うんですね。
それ以外のものを見ていきますと,社内の情報共有のための資料づくりとか,企画書,提案書での一時的な利用とか,これは上野委員が主査で作成した著作権制度における権利制限規定に関する調査研究報告書の中に,社内的に小部数つくる等,社内的複製の一場面として種々挙げられているんです。こういう事情があるだろうと私も思っているのです。
ところで,モバイル・コンテンツ・フォーラムですから,モバイルを使ったビジネスを立ち上げるために,新しいビジネスモデルで,こういう利用ができるのに今は規定がないからできないといったことで悩んだ,ないしは審議をしたような具体的案件はありませんか。こういうどこでも起こるような問題ではなくて,ネットビジネスとかモバイルとか,その事例はないかと私,毎回聞いているんですけれども,ありませんか。
【岸原氏】
今回,ネットビジネスを対象として検討が進んでいることはよく承知しているんですが,全体的に著作権の権利制限規定に関して,これまで曖昧になっていた部分,先ほどの企画書とか制作過程,これは配信とか,あるいは許諾を受けてやる場合においてもまだ曖昧になっていて,どういう状態にあるかという点でははっきりしなければいけない事項だということで,明記しております。
後段に関しては,例えば今,松田先生がおっしゃっている部分,例えばネットに関して何かないかということで書いてありますのは,ユビキタス環境とクラウド等の拡大によるネット上の私的利用に関すること,あとはRSSリーダーとかソーシャルブックマーク,ミニブログといったことで,端末内に著作物と思われるものを一時複製するといったものが個別に出てきております。
これは端末の中で私的に利用するということではなくて,ネットと連携した形で利用が進んでいくというものが,既に,前提になってきております。これまでの環境ですと,自分が持っているパソコンとか携帯電話ということで特定ができたと思うんですが,これはネットワークがブロードバンド化しているということもありますし,サーバが非常に安価になってきているということも出てきているかと思います。そうしますと,そういったところの線引きがなかなか難しくなってきているということに関しては,ネット特有の課題ではないかと思います。
将来のイノベーションの可能性に関しては「次の段階でこんなビジネスモデルが考えられますよ」とここですべて公表するとなりますと,それ自体がビジネスモデルにならないということもありますし,そういった,将来,革新的なイノベーションが起きる可能性をいかに用意していくか。これは利用者利便の拡大からコンテンツの利用拡大につながりひいては権利者と配信事業者双方にメリットを享受することになると考えます。モバイルにおいては,これまで着メロとか着うた,電子書籍などを共同で,ウィン・ウィンのビジネスモデルをつくってきております。今後の拡大のためにいろいろご検討を進めていただきたいということで,検討すべき事例として載せさせていただいております。
【松田委員】
すべての団体の方が今,ビジネスモデルを開示することはできない,そのとおりだと私は思っているんです。だから,将来,何が起こるかわからないことについて「一般的規定を導入することを検討してください」と言われているようなものなんです。
そこで,お聞きしたいんです。過去においてビジネスモデルをつくるに際して萎縮効果があって,一般的規定が存在しないことによって日本で事業化できなかった事案がありますか。過去の問題です。
【岸原氏】
そういった意味で言うと,現在のネットビジネスはほとんど日本からではなくアメリカから起きているという実際の結果でご判断いただければと思います。
【松田委員】
それはアメリカから起こっているだけで,日本に発想がなかったからなのではないですか。
【岸原氏】
それだと,我々日本人がどんなに環境を整備したとしても具体的なモデルを生み出せないということにつながるかと思いますが,そうおっしゃっているんでしょうか。
【松田委員】
どんな法整備をする必要もなく,もっと発想を豊かにして先にビジネスを先行させるということがあったらば,もっと活性化したのではないですかということです。
【岸原氏】
具体的に先行させるといったものに対してですが,事前にきちんと許諾を取ることが前提で,訴訟を行うことを前提にビジネスをやるというのは日本人に馴染まないものがあります。そういった点では,個別規定の範囲では解釈の余地が一切ないという中では,新しい発想に基づいたビジネスを先行させることは難しく,個別規定で判断できない段階で,新たなビジネスをやることはだめだという社内判断をせざるを得ないのが現状でございます。
【土肥主査】
現在,非常にうまく会議が進んでおりまして,最後に津田様のご説明を聞いた後に意見の交換ができるだけの時間があろうと思いますので,よろしければ山浦様のご説明はこれで終わりにさせていただきたいと思います。
それでは,最後にインターネットユーザー協会の津田様,よろしくお願いいたします。
[7]インターネットユーザー協会
【津田氏】
インターネットユーザー協会,津田と申します。
本日はヒアリングの機会を設けていただき,ありがとうございます。
インターネットユーザー協会としては,いわゆるフェアユースと言われている権利制限の一般規定導入については,基本的には賛成いたします。できるだけ迅速に一般的かつ包括的な権利制限規定を設けるべきだと考えております。
なぜそう思うのかというところでの理由をユーザーの立場から申し上げますと,基本的には,やはりインターネットユーザーは,情報環境がここ五年十年で非常に変わって,コンテンツ産業をめぐる環境が変わっている中で,技術の発達によって可能になった多様な作品の流通方法ですとか,また,新しい楽しみ方,iPodみたいなものが非常にわかりやすい例だと思いますが,iPodのような楽しみ方が著作権─もちろん著作権だけではなく,ビジネスルールとか慣習とかいろいろなことがあるんですけれども,でも,そういったものによって必要以上に妨げられているのではないかという不満を,根強く持っています。
非常に端的な例で言うと,法制小委でも私的録音録画小委員会でも話題になりましたが,やはりタイムシフト,プレイスシフトをどこまで認めるかというところで,少なくともユーザーが購入したコンテンツというものを,基本的には個人的に楽しむ目的でしか利用できないような機器とかサービスが権利者から提訴されて,場合によってはサービス停止に追い込まれる事例も後を絶たない。
ここで例示したMYUTA,まねきTV,ロクラク,録画ネットなどいろいろありますが,これもユーザーから見たときには,基本的にはほとんど見え方が変わらないサービスなんですよね。ある種,動画であれば自分の家庭にあるビデオデッキでの録画は認められているものを,さらに自分の家という場所に縛られないで見られるようにするということですし,また,音楽にしてもそのようなサービスで,そのユーザーから見たサービスというものが,今までの判例で言うと,合法で認められているものもあれば違法になってしまうものもあるという意味で,事案ごとに揺れている状況があると思います。
そこから先の話なんですが,やはりこの権利制限の一般規定の議論をずっと拝見していて思うのは,先ほど映像関連団体と美術関連団体からも,「一部の産業,ネットビジネスですとか機器メーカーとか,そういう特定産業を守るために権利者の権利が切り下げられるのはおかしいのではないか」という意見があったんですけれども,私は,それはちょっと違うのではないかと思っています。
前回の委員会で日本ペンクラブから,フェアユースというのは表現の自由という側面があるという話がありましたし,先ほど日本放送協会から,公益的な利用という意味でのフェアユースという観点もあるのではないかという話もありました。やはり特定のネットベンチャーとか機器メーカーのため,流通促進のためのフェアユースではなくて,コンテンツ産業と,あとはそれを享受するユーザーすべてが当事者というのが,この問題の根本にあるんだと思います。そういう意味で,非常に大局的な視点が必要なのかなと私は思っています。
そこから先の話ですが,高度に産業化したコンテンツ業界を産業として下から支えているのは,紛れもなくコンテンツを享受する一般ユーザーですし,もうコンテンツ産業というものが非常に,今,ここに呼ばれていらっしゃる,前回も前々回もほとんどそうですが,いわゆる権利者団体の方というのは本当にもう文化産業になっていて,ある種,産業同士の,産業業界,娯楽を司る文化,産業というので産業間のある種の利害調整みたいなところがあると思うんですが,やはり文化と産業というのは切り離して語ろうとするのではなくて,これはまさに産業,コンテンツビジネスの話が前提にならなければいけないのではないかと私は思います。
もうちょっと総論的な話で言うと,先ほど中山委員から,米国のフェアユースでも,基本的には権利者の利益を不当に害しない利用が基本にあるのではないかという話がありました。その前提で考えていくと,恐らくフェアユース,一般規定が導入されても,ユーザーにとっても,「使ったらコンテンツに対して金を払え」という前提は私は崩れないと思っています。むしろフェアユース,一般規定みたいなものが導入されることによって,これは本当に公正な利用なのか,権利者にとっての利益を不当に害するのか,そういう紛争が起きることによってある程度ガイドラインというか,ここまでやっていいのか,ここまでだったらOKなのかということがわかりやすくなるということは,私は,その線引きができることでユーザーに対して,コンテンツを利用する際の一定のモラルとかガイドラインをもたらす,そういう効果も期待できるのではないかと思います。
例えばテキストですと,今,個別制限で引用は認められていますけれども,引用というのも,現状そのガイドラインがある程度,文字に関してはありますから,それによって「あ,主従の関係がちゃんとしていればいいのか」と。ある程度ルールを満たすことによって物書きとしては適正に引用できるということがあるわけで,フェアユースみたいな環境が整うことによって,そういったガイドラインを作成する空気みたいなものができる,そういう効果が認められるのではないかと思っています。
3番。では,実際に個別具体的なネットユーザーの立場から想定される一般規定の具体例には何があるのかというと,1番は,先ほど言ったタイムシフト,プレイスシフトのサービスだと思います。山本委員から先ほどアメリカの裁判例で,遠隔地にあるものをそのまま受信するだけのサービスの判例ではフェアユースではないという話があったんですけれども,では,例えば自分が所有しているCDを携帯に変換して聞くような,そういうプレイスシフトみたいな,MYUTAのようなサービスであれば,まだフェアユースとして認められる余地もあるかもしれないでしょうし,実際にロクラクとまねきTVと録画ネットで裁判は分かれているような状況がある中で,ここに関してはフェアユースを議論する余地はあるでしょうし,また,ユーザーにとっては見え方が変わらないというところと,そういったサービスがどれだけ権利者の利益を不当に害するのかということも,フェアユースの一般規定が導入されることによって議論が深まるのではないかと思います。
そこから先がどこまでフェアユースになるのかは私もわからないところというか,基本的には,恐らくこういったものをユーザーは公正な利用として望んでいるという例として挙げているものですけれども,例えば,不特定多数への公開を前提としない自分用の録画の代行サービスみたいなものとか,アメリカ等では既にネットビジネスとして存在していますけれども,リッピングなどのデータ形式変換サービス。これは何かというと,例えばCDを3,000枚とか4,000枚とか所有している人が,物理的に枚数が多過ぎるのでデータ形式にして管理したいというときに,自分で1枚1枚変換するのは面倒くさいので業者に頼んでやってもらおうというのが向こうでは成立していまして,これに関して言うと,日本ではライブドアがたしか2005年か何かに,全く同じビジネスモデルで「ライブドアエンコーダー」というサービスを始めようとしたんですけれども,日本レコード協会かJASRACか,音楽関連業界からのクレームによって阻害されたという事例があります。
もう一つはsimplify Mediaという,これはiPhoneのアプリの1つなんですけれども,自分のパソコンに入っているデジタル音楽のライブラリをストリーミングで,iPhoneとか他のパソコンで聞けるようなアプリですね。ストリーミングで聞けるようなこういったアプリもフェアユースの範囲内として認められるべきではないかと思います。
(2)検索エンジン以外のネットサービスというのは,先ほどMCFさんからもありましたけれども,検索エンジンという形では,今回の著作権法改正では認められましたけれども,検索エンジンとは違う,情報を取り込んでサーバに蓄積して表示させる,そういったサービスはまだ検索エンジンにも非常にたくさんありまして,RSSリーダー,ソーシャルブックマークといったものがどれだけ法的な安定性を持つのかが1つポイントだと思います。
また,インターネットアーカイブと言われているアーカイブ,すべてのWebページを保存するようなものが今,アメリカであります。数年前に国立国会図書館も同じようなサービスを始めるという話があったんですけれども,これが思うように進まなかったことも,やはり一般規定が導入されることによって,また議論のきっかけになるのではないかと思います。
あとは,いろいろなポータルサイトとかブログサイトというのは要約のために,ニュースとか日記ですとか,そういったRSSのサマリーみたいなものを適宜表示形式を変更したり,要約みたいなことを行っているので,こういったものもフェアユースが認められることによって,合法になる余地があるのではないかと思います。
あとは,やはり今,インターネットのサービスで主流になりつつあるクラウド的なサービス,ネットワークサーバ上へのデータのバックアップですとか,サービスを介した不特定多数を対象にしないファイル共有サービスですとか,個人向けのストリーミングサービス,バーチャルオフィスみたいな,こういったものを展開するときに,ネットベンチャーで著作権的に大丈夫ですかということを弁護士の方に聞けば,完全に安全だとは言えないような状況はあるので,こういったものに対しても状況を変化させる可能性はあるのかなと思います。
あとは,やはり個人の情報発信のところで,ブログで書籍とかCD,DVDを紹介する際に書影とかジャケットを掲載する,こういったことは出版業界ではもう慣行的に,書影の掲載に関しては無許諾で行われていたりするケースが間々散見されて,慣行としてそういうことが認められている部分があります。そういった,あくまで紹介する目的というところでの書影,ジャケットの掲載というのはフェアユースの範囲に当たってくるのではないかと思います。
あとは,音楽を紹介する目的で30秒の試聴用の音楽ファイルを置く,これがフェアユースに当たるかどうかは私は微妙なところだとも思うんですけれども,ただ,あくまで紹介をする,聞かなければ音楽はわからないという意味での引用の延長という形で,こういったものも考えられるのではないかと思います。
あとは,テレビ番組の批評とか感想のために動画の一場面を静止画にした画像を掲載したり,最近ですとTwitterというサービスがあって,他人の発言を自分の発言としてどんどんコピーするReTweetという機能がある。これは著作権法上,多分,普通にフェアユースとしては認められないようなレベルの転載なんですけれども,ただ,Twitterというのは情報流通のためのインフラとして今,活用されている側面がありまして,例えばイランの政治・政変等を伝えるためにこの機能が活用されているみたいなところがあるので,必ずしも著作権だけではなくて,情報流通のインフラという視点からのフェアユースみたいなものも考えられていいのではないかと思います。
あとは,個人による報道,いわゆる旧来のメディアだけではなくて,個人がネットサービスを通じて報道行為を行うことも増えてきている中で,どこからどこまでが報道になるのか,ならないのかというところもフェアユースというところで多少はカバーできるのではないかという気がします。
まだいろいろあるんですけれども,やはり個別,モバイル・コンテンツ・フォーラムさんの例も非常に多かったんですけれども,私たちも考えていく中で,個別具体的な例というのはこれだけではなくて多分いっぱいあるし,これからもどんどん登場すると思います。もちろん,こういったものに対して個別規定で整備していくことも非常に重要だとは思うんですけれども,これだけどんどん出てきているもの全部に個別規定で対応すべきなのかという議論をするのは,恐らく議論の時間も足りなくて物理的に無理なのではないかと思うので,やはりフェアユースというものをユーザーの権利拡大という視点ではなくて,本当に現在,形式的にグレーになっているものを白に近づける,そういった視点から議論されればと思います。
最後に,権利制限の一般規定を導入する際で言うと,一般規定の導入だけではなくて,新たな技術とかビジネスの発展という観点で言うと,日本放送協会さんが先ほど提案していらしたADRの導入も多分重要でしょうし,また,単なるフェアユースだけではなくてビジネスモデルという話も,やはり不可欠なのではないかと思います。
例えば出版業界で言えば,現在コミックマーケットという大きな存在がありますけれども,あれは多分,フェアユースが導入されても全く認められるものではないと思うんですよね。翻案権とか人格権とか,パロディかどうかも怪しいようなものがたくさんあるわけですけれども,でも,結果的に出版業界はあれを認めていますよね。あそこがある種,新しいクリエーターの発掘現場になっているし,それによって世界観にハマるユーザーを増やして,プロモーションみたいな効果も期待して,結果的に,あそこでの法的トラブルは実際に流通している量から比べると驚くほど少ないわけですよね。そういう意味で,結果的に出版業界はあれを認めて共存共栄しているわけで,そういう意味でビジネスモデルの問題というのも非常に大きい。
やはりフェアユースができることは恐らく限られていると思うので,そういう意味では,これから許諾のプラットホームですとかビジネスのルールの整備が求められるのではないかと思います。
先ほど松田委員から,実際にどれだけ萎縮しているかというお話があったので,ちょっとつけ加えると,私が幾つか聞いている話だと,インターネットの,シリコンバレーとかでやっているような音楽とか動画のサービスを日本の商社が買いつけた事例があるんですね。日本展開権を買いつけた事例があるんですけれども,実際それで日本で始めようとして準備までしたんですけれども,結局のところ,そこの著作権的なコンプライアンスの問題と,あとはコンテンツホルダーとの話し合いがうまくいかなくてスタートできなかった例があるということは報告させていただきます。
長くなってすみません,最後に,私個人の意見にも近いんですけれども,やはりフェアユースが入っても,コンテンツ産業そのものに与える影響というのは,短期的には恐らくそれほど大きくないのではないかという気がします。それであれば今のままでいいのではないかという意見もあるのではないかと思いますが,ただ,ないよりあったほうがましというのが多分,今の著作権とかコンテンツ産業のビジネスにおけるフェアユースをめぐる状況だと思っていまして,権利者の方は必要以上にフェアユースを恐れずに,Googleブックサーチにしてもマジコンとかにしても,フェアユースが入ったらそういったものがすぐ認められるかというと,そんなことはないわけですから,恐れるのではなくて,コンテンツ産業がネット時代に生き残るためにはどういう法整備が必要なのか,そういう視点で建設的な議論をいろいろな場で行っていただければと思います。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
ただいまの津田様の説明につきまして,何かご質問,ご意見ございましたらよろしくお願いします。
あるいはその前のモバイル・コンテンツ・フォーラムとの関係で出していただいても結構ですし,さらに全体からの質問でも構いませんが。
【松田委員】
今の資料の2ページで,非常にわかりやすい例を挙げていただいています。
というのは,3の(1)ですが,タイムシフトで,一般的制限規定に含まれる具体的例として,4つばかり挙げられているんです。
一番上の例は幾つか裁判になっているからわかりやすい。その他は多分,裁判にはなっていなくて,ビジネスの点で検討なさった点と理解してよろしいですよね。
それで,最初のロクラク等。これは裁判になっていますから非常にわかりやすい。この5つの事例は一般的規定を導入すると,多分それは適法になるのではないかという考え方でここに掲載されているのでしょうか。
【津田氏】
適法になるであろうかというのではなくて,ユーザーから見たときに,利用態様から考えたときに,こういったサービスをユーザーが使うことによって権利者の利益を不当に害しているかといえば,害するサービスや機器ではないと思うので,これは適法であるべきと─どうなるのかはともかく,ユーザーのニーズとしての話をしているつもりです。
【松田委員】
一般的規定を導入すると,ユーザーの視点から考えると適法になるだろうというご意見でしょう。
【津田氏】
なってほしいという意見です。
【松田委員】
そうすると,ユーザーの視点から考えますと,この5つ以外の例でも,例えばパソコンを1台ずつ配置するのではなくて,サーバを1台配置しておいて,そこに放送コンテンツを入れて各自の端末に,ユーザーに送るということになると,ユーザーの視点から言うと「何も権利侵害していないじゃないか,損害もないじゃないか」という点は同じですが,ここまではフェアユースで適法にはならないでしょうね。
【津田氏】
あくまでユーザーが主体となってやる,それに対しての手伝い─手伝いというのがどこまでかはあると思いますが,ユーザーを主体とする録画行為,録音行為,もしくは所有するものを,業者がそれをプレイスシフト,タイムシフトに対して便利にする,そのガイドラインというか,そこの議論が必要だと思っておりまして,恐らく松田委員がおっしゃっていたようなところまでは,オンデマンド的にいろいろなサーバのものを見られるというのはフェアユースではないと思います。
【松田委員】
なぜそういう質問をしたかというと,こういう意見を出される方は,別に今の発表だけではなくて,稀にですけれども,あるのです。これは裁判所で適法になったものもあれば,違法になったものもあるケースが一般的規定を導入するとすべて適法になるんだという意見です。これを出すということは,どういうことを意味しているかというと,このフェアユース規定は,今まで裁判所で違法であると判断された事案を適法にするということなのです。これはどういうことかというと,権利制限を明確に広げるということなんです。そういう導入をしてもいいかというフェアユース論があるんだということを私は認識していただきたいのです。
そして,それ以外の,言ってみれば形式的違法をなくすためのフェアユースというのはあります。例えば社内で一部コピーをして会議に使うなどということです。こういう場面の問題と,今,言った事例の問題は全く異質のフェアユース,同じ「一般的制限規定」という言葉ですけれども,実は全く違う2つのことを導入しようということになるわけです。これを棲み分けして考えていただきたいというのが私の考え方であります。
【中山委員】
いえ,私はそうではないのではないかと思っているのです。どちらも,形式的にはいほうではあるが,実質的に見て,権利者の利益を害することがないものをフェアとしよう,と言うだけだと思います。
つまり,今の著作権法の解釈でいくと例外になっていることがセーフである,したがって,その行為がこの例外上の条文に該当するかどうか,つまり,どこでコピーされた,だれがシェアしていたとか,そういう非常に細かい技術的なことが問題になる。しかし,仮にフェアユースを入れた場合には,それによって権利者の実質的な利益が害されないか,「しかし,これは社会に有益な技術である」とか,そういう点,実質論が問題になる。
いずれにしても,両方とも権利者の利益を不当に害していたのではいけない,そこのストッパーはあるというだけのことだろうと思います。あと実質的に判断する部分が増えたということだろうと思います。
【土肥主査】
今日のご説明全体について広く,今のように,そもそもフェアユースというものの射程範囲というところも含めて,ご自由に意見交換ができればと思っておりますので,どうぞ。
【山本委員】
先ほどのタイムシフト,プレイスシフトの問題であるとか写り込みの問題であるとか,何というんですかね,フェアユースというものに対しての期待がちょっと過大ではないかという懸念を抱いております。
当然,権利制限規定が柔軟であって,いろいろな新しい問題に対応できるということはすばらしいのですけれども,他方でグレーゾーンが広がると,権利者に対しても利用者に対しても萎縮効果があるというデメリットがあります。ですから,その点を慎重に見ていかないといけないとは思います。そもそもフェアユースについて余りにも過大な期待を抱いているとすると判断を誤ってしまいますので,あえて言わせていただきたいと思います。
まず第1点,タイムシフト,プレイスシフトなんですが,フェアユースでタイムシフト,プレイスシフトが許されるというのは確かなのですけれども,これは個人がやった場合の話で,例えばソニー・ベータマックス判決の場合も,訴えられたのはソニーという機器メーカーですが,フェアユースが成立するかどうかが争われたのは,あくまでもその利用者の行為です。日本であれば,その利用者の行為は私的複製で,もう第30条で飛んでしまうような問題であります。フェアユースで私的複製が認められる範囲は極めて狭いのですが,タイムシフト,プレイスシフトまで適法化できる,そういう解釈がなされたということです。
今度はその機器のメーカーに対して,適法にするか違法にするかというのは,アメリカの場合には,寄与侵害に当たるかどうかという間接侵害の問題として議論されたわけです。日本のロクラクであるとかMYUTA事件とかいうのも同じように,私的複製の次元での議論ではなしに,間接侵害,つまり,その機器や装置,サービスを提供した人間に違法性があるかどうかという問題です。フェアユース,つまり権利制限の次元の問題で言いますと,日本の私的複製の範囲は極めて広くて,問題は解決されております。ですから,この辺のロクラクとかMYUTAとかいう問題を解決しようと思ったら,フェアユースの規定をいじるとかいう話ではなしに,間接侵害の問題を解決しない限りこれは解決しません。
それから,資料6で検討が必要な具体的な例を挙げていただいていまして,これはおもしろいなと思って拝見させていただきましたが,この中で,フェアユースを導入することによって解決できる問題というのは,恐らく一番最後のパロディ等に利用する行為ぐらいで,それ以外のものは,例えば,一番最初のコンテンツ制作工程において行う一時的な複製等の行為も,根本的には権利者の許諾がないとできない話ですし,写り込みも,その前にも議論が出ましたけれども,これはフェアユースで解決される問題ではなしに,アメリカでもデミニミス法理でもって初めて適法とされるのであって,フェアユース規定で適法化されることはありません。したがって,アメリカのフェアユース規定を入れてきたからといって,写り込みが適法になることはありません。
その後にもいろいろな事例がありますけれども,基本的には権利者の許諾がないと利用できない行為であったり,黙示の許諾で利用できる行為であったりと,日本法でも違法だしアメリカ法でも違法,あるいはアメリカ法でも適法だし日本法でも適法だというような行為がここにずらっと書かれていて,フェアユース規定によって解決できるものは,パロディ以外にはないのではないか。
そうしますと,フェアユース規定を入れるとこういう問題がみんな適法になるんだと考えられている範囲が余りにも広いとなると,権利者の方が懸念されているように,何でもかんでも「これはフェアユースで適法なんだ」と主張されるおそれは現実の問題としてあるのではないかという懸念をちょっと抱きました。感想です。
【土肥主査】
ありがとうございます。
しかし,これは日本版のフェアユースという議論をやっているわけですよね。ですから,アメリカのフェアユースで瑣末性というんですか,デミニミスの法理が適用がないといっても,この場の議論では考えてもいいわけですよね。日本版ということでは。
【山本委員】
同意をなさるなら。
【土肥主査】
後ろの時計では17:00に近くなっておるんですけれども,最後にご意見,いかがでございましょうか。
【松田委員】
アメリカ版のフェアユース以上に日本のフェアユースを権利者の犠牲のもとに,実質的な権利制限をするようなフェアユースを導入するような場面は,私はまずないだろうと思いますが,もしそうであるとすれば,私は反対します。その部分については。実質的な権利制限をフェアユースで行おうということになるからです。反対いたします。
その一つの考え方に,既に判例として適法だ,違法だという判例が出ているものをフェアユースを導入することによって一律に適法化しようということは,これはその種の類のものになると思います。この点に十分に注意して議論すべきだろうと私は考えております。
【土肥主査】
もうお一方ぐらい,いかがですか。
【中山委員】
参考までに。このフェアユースの議論は知的財産戦略本部から下りてきたアジェンダですけれども,知的財産戦略本部でも,アメリカより大きいフェアユース規定の導入はないだろうという点ではコンセンサスができております。
それから,現在の個別規定,これをなくしてフェアユース1本にする,これもないだろう。現在の個別規定は原則として全て残す,あるいは必要があればまた加えるという点については,戦略本部のほうではコンセンサスができています。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
前回に比べると,今回は皆様のご協力をいただいて,意見交換もできたことは非常によかったなと思っております。どうもありがとうございました。
本日はこのくらいにしたいと存じますけれども,次回以降の予定につきまして,事務局から連絡事項がありましたらお願いいたします。
【池村著作権調査官】
次回の小委員会の日程ですが,9月18日の13:00,場所は本日と同じ,三田共用会議所を予定しております。
【土肥主査】
それでは,これで第5回法制問題小委員会を終わらせていただきます。
本日は雨の中,どうもありがとうございました。
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