(平成22年第8回)議事録

1.日時

平成22年8月5日(木) 14:00~16:00

2.場所

三田共用会議所 1階 講堂

3 出席者

(委員)
大渕,小泉,清水,末吉,多賀谷,茶園,道垣内,土肥,中村,中山,前田,松田,森田の各委員 
(文化庁)
芝田長官官房審議官,永山著作権課長,ほか関係者
(ヒアリング出席者)
  1. 1.社団法人日本経済団体連合会
    和田 洋一(社団法人日本経済団体連合会 知的財産委員会著作権部 会長,株式会社スクウェア・エニックス代表取締役社長)
  2. 2.社団法人日本新聞協会
    村岡 繁(社団法人日本新聞協会 新聞著作権小委員会 委員長,産経新聞東京本社・知的財産管理センター本部本部長兼法務室次長)
    上野 純子(社団法人日本新聞協会 新聞著作権小委員会 副委員長,朝日新聞社・知的財産管理チーム渉外専任部長)
    山浦 延夫(社団法人日本新聞協会 新聞著作権小委員会 幹事,日本経済新聞社・法務室総務兼知的財産権管理センター長)
  3. 3.出版関連団体
    金原 優(社団法人日本書籍出版協会 副理事長,株式会社医学書院 代表取締役社長)
    平井 彰司(社団法人日本書籍出版協会 知的財産権委員会副委員長,株式会社筑摩書房 編集局編集情報室部長)
    五木田 直樹(社団法人日本雑誌協会 著作権委員会副委員長,株式会社講談社編集総務局次長)
  4. 4.音楽関連団体
    北田 暢也(一般社団法人日本音楽著作権協会 総務本部副本部長)
    椎名 和夫(社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター 運営委員)
    高杉 健二(一般社団法人日本レコード協会 理事・事務局長)
  5. 5.映像関連団体
    華頂 尚隆(一般社団法人日本映画製作者連盟 事務局長)
    酒井 信義(社団法人日本映像ソフト協会 管理部 部長代理兼管理課長)
    宮下 令文(一般社団法人日本動画協会 著作権委員長,株式会社小学館集英社プロダクション 執行役員)
  6. 6.ソフトウェア関連団体
    久保田 裕(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 専務理事・事務局長)
    水越 尚子(ビジネスソフトウェアアライアンス 日本担当コンサルタント,弁護士)

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)権利制限の一般規定について(関係団体よりヒアリング)
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1
資料2
資料3
資料4
資料5
資料6
資料7-1
資料7-2
参考資料1
参考資料2

6 議事内容

【土肥主査】
それでは,定刻でございますので,ただ今から文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第8回を開催いたします。
本日は,お忙しい中ご出席賜りまして,誠にありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいているところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
なお,本日は岡山委員がご欠席ですけれども,岡山委員のお申出によりまして,法務省民事局付石渡圭氏に代理としてお座りいただいておりますので,ご了承いただければと存じます。
それでは,議事に入りますけれども,初めに本日の議事の段取りについて確認をしておきたいと存じます。本日の議事は,前回に引き続きまして,(1)権利制限の一般規定について,(2)その他となっております。前回に引き続きまして,関係の団体から中間まとめに関するヒアリングを実施いたします。前回と同様に,中間まとめに対するご意見,特にA~Cの類型に関するご意見を中心にご発表を行っていただきまして,その後に質疑応答,自由討議というものを行いたいと思っております。
まず,事務局から配布資料の確認と出席者のご紹介をお願いいたします。
【池村著作権調査官】
それでは,配布資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第の下半分,配布資料一覧をご覧ください。
本日は,資料1から資料7-2,そして参考資料1と2をご用意しております。まず資料1でございますが,日本経済団体連合会提出資料でございます。「権利制限の一般規定中間まとめへの意見」と題する本日付の資料でございまして,片面印刷6ページまでのものです。続いて資料2は,日本新聞協会提出資料でございます。「「権利制限の一般規定」に関する意見」と題する本日付の資料,片面3ページの資料に合計4種類の添付資料がついておりまして,ページ番号は通しで11ページまでとなっております。続いて資料3でございますが,出版関連団体提出資料でございます。「「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」についての意見概要」と題する日本書籍出版協会,日本雑誌協会連名の本日付のパワーポイントの資料,スライド番号6までのものに,参考資料[1]として,両面印刷6ページまでの日本書籍出版協会作成に係る意見書,参考資料[2]として,同じく両面印刷3ページまでの日本雑誌協会作成に係る意見書がそれぞれ添付されております。続いて資料4でございますが,音楽関連団体提出資料です。こちらは2種類の資料で構成されておりまして,一つは「「権利制限の一般規定」に対する意見」と題する本日付のJASRAC作成のパワーポイントの片面印刷2枚ものの資料,そして続けて日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター,日本レコード協会,日本音楽事業者協会連名の本日付の意見書,片面印刷2枚ものの資料をとじております。続きまして資料5は,映像関連団体提出資料でありまして,日本映画製作者連盟,日本映像ソフト協会,日本動画協会の3者連名の片面印刷1枚ものの資料であります。資料6は,ソフトウェア関連団体提出資料です。コンピュータソフトウェア著作権協会作成に係る本日付の意見書,片面印刷4ページのものに,ビジネスソフトウェアアライアンス作成に係る同じく本日付の意見書,別紙と合わせて片面印刷12ページまでのものをセットでとじております。資料7-1と資料7-2は,意見募集の結果概要及び結果でありまして,前回,前々回も配布させていただいているものです。
次に参考資料でございますが,参考資料1が本日の出席者一覧,参考資料2が中間まとめの本体部分となっております。
配布資料につきましては以上でございます。不足や落丁等,不都合がございましたら,お近くの事務局までご一報ください。よろしいでしょうか。
それでは引き続きまして,本日のヒアリングにご出席いただく方々をご紹介申し上げます。参考資料1をご覧ください。
まず,日本経済団体連合会から,同会知的財産委員会著作権部会長で株式会社スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一様です。
【和田氏】
和田と申します。
【池村著作権調査官】
続きまして,日本新聞協会より,同会新聞著作権小委員会委員長で産経新聞東京本社知的財産管理センター本部本部長兼法務室次長の村岡繁様です。
【村岡氏】
村岡です。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
同じく同委員会副委員長で朝日新聞社知的財産管理チーム渉外専任部長の上野純子様です。
【上野氏】
よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
同じく同委員会幹事で日本経済新聞社法務室総務兼知的財産権管理センター長の山浦延夫様です。
【山浦氏】
よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
続きまして,出版関連団体より,日本書籍出版協会副理事長で株式会社医学書院代表取締役社長の金原優様です。
【金原氏】
金原でございます。
【池村著作権調査官】
同じく日本書籍出版協会知的財産権委員会副委員長で株式会社筑摩書房編集局編集情報室部長の平井彰司様です。
【平井氏】
平井でございます。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
同じく日本雑誌協会の著作権委員会副委員長で株式会社講談社編集総務局次長の五木田直樹様です。
【五木田氏】
よろしくお願いします。
【池村著作権調査官】
続きまして,音楽関連団体より,日本音楽著作権協会総務本部副本部長の北田暢也様です。
【北田氏】
北田です。よろしくお願いします。
【池村著作権調査官】
同じく音楽関連団体より,日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫様,そして日本レコード協会理事事務局長の高杉健二様がそれぞれご出席の予定ですが,30分ほど遅れましてのご到着と伺っております。
続きまして,映像関連団体より,ご到着が遅れているようでございますが,日本映画製作者連盟事務局長の華頂尚隆様がご出席の予定です。
同じく日本映像ソフト協会管理部部長代理兼管理課長の酒井信義様です。
【酒井氏】
酒井でございます。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
同じく日本動画協会著作権委員長で株式会社小学館集英社プロダクション執行役員の宮下令文様です。
【宮下氏】
宮下です。よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
最後に,ソフトウェア関連団体より,コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長の久保田裕様です。
【久保田氏】
よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
同じくビジネスソフトウェアアライアンス日本担当コンサルタントで弁護士の水越尚子様です。
出席者のご紹介は以上となります。

(1)権利制限の一般規定について

【土肥主査】
それでは,議題に入りたいと存じます。
議事の進め方につきましては,ただ今ご紹介がございましたけれども,本日出席いただいている関係団体,1,社団法人日本経済団体連合会,2,社団法人日本新聞協会,3,出版関連団体,4,音楽関連団体,5,映像関連団体,6,ソフトウェア関連団体の順に,権利制限の一般規定の中間まとめに対するご意見をそれぞれ10分程度でご発表いただきまして,そのご発表の後に質疑応答の時間を5分程度とりたいと思います。また,全てのご発表の後に改めて 全体の質疑応答と意見交換を行っていきたいと思います。
それでは,早速でございますが,社団法人日本経済団体連合会,和田様,よろしくお願いいたします。
【和田氏】
ご紹介にあずかりました日本経団連知的財産委員会著作権部会長を務めております和田でございます。本日はお招きいただきまして,誠にありがとうございます。
私自身,昨年8月にも本小委員会でお話をさせていただく機会をちょうだいいたしまして,そのときにも申し上げましたので,ちょっと繰り返しになりますけれども,経団連では,知的財産委員会の下に著作権部会という部会を設けまして,私どものようなゲームソフトメーカーのほか,テレビ局,映画会社,通信会社,ISP,ハード機器メーカー,出版社,金融機関等,幅広い業種の人に入っていただきまして,中長期的な視点から,我が国に必要な著作権法制のあり方ということにつきまして議論しております。
これまでの経緯をざっと申し上げます。権利制限の一般規定につきましては,昨年1月に私どもから提言いたしました「デジタル化・ネットワーク化時代に対応する複線型著作権法制のあり方」におきまして言及しておりますとおり,具体的には,デジタル化・ネットワーク化の進展に伴う新たな技術やビジネスモデルの創出に対応するため,何らかの法的措置が必要との見解を示した上で,個別規定か,一般規定か,いずれをとるべきかは,あくまでも権利者と利用者双方の視点から,バランスのとれた議論が必要であるというのがこの時点での結論であったことを紹介いたしました。
その後,昨年6月の著作権法の一部改正,また知的財産推進計画2009の公表,本小委員会での検討など,著作権を取り巻く状況に変化がございましたので,昨年8月の段階では,経団連の著作権部会としての公式見解ではないものの,私の個人的な考えといたしまして,一般規定として想定した権利制限の具体的なニーズは,6月の改正で概ねカバーされたのではなかろうかということも併せて申し上げておりました。ただし,これはあくまでも本委員会での個人的な発言でございますので,さらにその後本小委員会におきまして一般規定に関する議論が深まってきましたことを受けまして,著作権部会において改めて議論を行う機会を設けました。その結果を取りまとめましたものが「権利制限の一般規定中間まとめへの意見」と題したお手元の資料1でございます。
なお,今回の議論におきましては,A・B・C類型の内容に関する検討はほとんど行っておりませんので,最初にお断り申し上げておきます。
議論の結果ですが,端的に申し上げますと,資料の中の1にございますとおり,権利制限の一般規定導入の必要性の有無について,部会の意見が分かれたということでございます。
主な導入賛成意見といたしましては,研究開発,技術の検証,特許庁申請の拒絶理由に対する引用文献の利用などで実務上支障が生じている事情が解消できるといったもの,あるいは一般規定導入がビジネス展開上の萎縮効果を軽減し,健全な著作物利用を促すのではなかろうかといったものがございました。
一方,導入反対論ですけれども,昨年6月の著作権法改正によりまして,検索エンジンの問題など,当面の多くの課題への手当てがされたために,さらに改正が必要であるのであれば,その立法事実の存在やニーズを明らかにすべきとの慎重論,あるいは導入した場合の弊害,例えばあるコンテンツプロバイダーでは,違法アップロードコンテンツに関しまして,米国人によるフェアユースの主張が,例えばYouTube一つだけをとりましても1カ月当たり百数十件もあるといった実務的な弊害の指摘もございました。
次いで,2にありますとおり,立法的解決の可能性としてどのような規定を置くことが想定し得るかといった点につきまして議論いたしました。この際には,導入賛成の立場からも,重要なのは,ビジネス展開の予見性確保の観点から,米国同様のフェアユースを導入すべきという意見は支持がございませんで,権利制限の対象となる利用行為を従来の規定に比べてやや広く定義する,範囲の広い個別規定を追求する方法,あるいはまた一般規定を導入するものの,米国ほど広範囲なものは認めない範囲の狭い一般的制限規定とする方法のどちらかの方法論もとり得るといった話に収れんしてまいりました。いずれの場合におきましても,最終的には,仮に規定するのであれば,規定自体の書きぶりが非常に重要だということで意見の一致を見たところでございます。
こうした議論を踏まえまして,総括が3になっております。著作権部会といたしましては,今後も個別規定を追求すべきか,一般規定を導入すべきかについて見解が分かれるものの,適切な権利保護と著作物の利活用の促進,この双方のバランスよい展開を図るといった観点からは,現行の規制によって満たされないビジネス上のニーズを見きわめた上で,個別規定を追加するのか,あるいは一般規定を導入するのか,考える必要があるということで一致しております。
権利者と利用者の双方が権利侵害ではないという共通認識がある行為について,法的担保を与えることには意義があるものの,最終的には新たな権利制限規定の構成をどのように記述するかという立法技術の問題であり,どのような書きぶりの規定が望ましいかは,想定されるニーズにより判断される必要があるというのが結論でございます。
以上,申し上げてまいりましたとおり,経団連の著作権部会といたしましては,一般規定導入というそのものの論点につきましては,意見の一致が見られておりません。むしろ,私ども産業界といたしましては,一方では文化発展を図るという方向と,他方ではコンテンツ産業の振興を図るという方向,これらを両立させる議論が必要と考えておりまして,そのためには,原則論にはなるものの,様々な理念に対応した著作権制度の複線化が必要であるというのが,もともと著作権部会の提案の内容でございましたので,またここに議論の過程で返ってきたといった次第でございます。今後もこのようなヒアリングの場を通しまして,権利者と利用者双方からの多くの意見を聴取いたしまして,バランスのとれた検討を行っていただければと思います。
資料につきましてはお手元にご用意しておりますので,概略説明ということで,以上でございます。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただ今の和田様のご発表につきまして,何かご質問がございましたらお願いいたします。
中村委員。
【中村委員】
資料1の2ページの一番上の「・」のところの2行目から4行目なんですが,「研究開発」以降,「につき支障が生じている事例がある」というご指摘をいただいておりまして,特にお伺いしたいのが,今回提示されているA・B・Cというものを設けることによってこういう実務上の支障が解消されるのだといったものが,こういう具体例があると,A・B・Cが設けられればこういう実務上の支障が解消されるというものについてもしお心当たりがあれば,ぜひご紹介していただければと思います。
【和田氏】
ただ今ご報告いたしましたのは,実務上は,非常に予見可能性が高い状態で制度が運用されることなので,実務家レベルでいきますと,広い個別規定なのか,狭い一般規定なのか,双方の解決があり得るだろうというところが見解でございます。一般規定としてのA・B・Cということになりますと,一般規定かどうかということが争点になりますので,したがいまして,冒頭申し上げましたが,A・B・Cおのおのについての議論ということは,今回私の立場からは申し上げにくいというのが実態でございます。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。
ほかにございますか。特によろしいですか。
それでは,和田様,どうもありがとうございました。
それでは続きまして,社団法人日本新聞協会,村岡様,上野様,山浦様,よろしくお願いいたします。
【村岡氏】
新聞協会の村岡です。本日はこのような機会を与えていただき,ありがとうございました。まず御礼を申し上げます。
お手元の資料2を基に,新聞協会の見解を述べていきたいと思います。
まず,権利制限の一般規定導入の要否ですけれども,日本新聞協会としては,権利制限の一般規定導入に改めて反対を申し上げます。
中間まとめに対するパブリックコメントを読みますと,一般規定を導入する立法事実の有無に関する論議が足りないとの指摘が複数寄せられています。先ほど述べられた経団連でも,必要性の有無について,依然分かれているということでした。パブリックコメントを見ても,権利者と利用者の意見は依然大きな隔たりがございます。このような状況下で,導入ありきの論議を進めることは拙速であると言えます。一般規定は今後もあくまで導入の要否を含めて議論されるべきと考えます。
次に,一般規定導入の効果・影響についてです。一般規定が導入されることにより新規ビジネスへの挑戦に対する萎縮効果が解消されるという意見がございます。しかし,日本国内ではコンプライアンス意識が高い企業ほど抑制的に行動すると思われ,一般規定導入が萎縮効果解消につながるかどうかには,疑問があります。あいまいな権利制限規定を導入すると,萎縮効果は解消されず,逆に,不正な利用侵害行為に対する抑制効果が減殺されるという皮肉な結果をもたらしかねません。萎縮効果を減らすためならば,個別規定導入のスピードアップを図ることにより明確性を確保した方が,権利者・利用者双方にとって有益であると考えます。
権利侵害の際にフェアユースを意識的に主張する居直り侵害者の蔓延のおそれがしばしば指摘されていますが,新たに思い込み侵害者の問題も提起したいと思います。これは,理解不足や誤解によって,フェアユースだから問題がないと思い込む侵害者のことです。一般規定導入により,権利侵害は一段と深刻になるおそれがあります。
また,法定損害や懲罰的賠償などの法制度が整備されていないのに一般規定を拙速に導入すれば,侵害行為がさらに拡大,蔓延する事態が憂慮されます。
次に,中間まとめで示された権利制限の対象について述べたいと思います。まずA・B・C類型全体についてですが,A・B・C類型それぞれの定義が,法制問題小委員会が昨年夏のヒアリングで収集した100以上の具体的検討課題のどれを適法とするためなのか,ほとんど示されておりません。A・B・C類型いずれも適用範囲や判断基準があいまいで,予見可能性,法的安定性が乏しいとの印象を受けます。7月22日の法制問題小委員会でも,A・C類型の適用範囲に関して,委員の間で見解にいまだ隔たりがあり,類型的にまとまってはいないのではないかという意見も出ていました。このような状況下で一般規定が導入されても,権利者・利用者の双方に混乱が生じることは必至であると考えます。
A類型の適用範囲については,7月22日の法制問題小委員会でも,写り込みだけなのか,形式的侵害一般を指すのか,委員の間で意見が分かれていました。写り込みだけを想定するならば,個別規定を設けることで十分と言えます。
我々新聞協会で一番問題視しているのはC類型なのですが,まず「知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用」という定義は不明確で,どのような利用形態がこれに当たるのか,判然としません。具体例も乏しく,グーグルブックサーチの事例まで該当するとの指摘があるほど,極めて広範な適用が可能なように読めます。
C類型については特に,規定ぶりや解釈によって規定の射程が著しく変動するおそれがあります。ほかの種類の著作物とは大きく異なる性質があるプログラムの著作物の扱いを含め,さらなる慎重な議論,検討が必要であると考えます。
参考までに,欧州を中心とした新聞業界の国際的な動きをご紹介したいと思います。世界新聞協会と欧州発行社協議会2団体が共同で,2005年にACAPという技術的仕様への取組みを開始しました。これは,新聞社などのウェブサイト運営者が検索ロボットによる自動収集の対象ページを指定し,インデックス化してよいかどうかなども詳細に指示できる仕組みで,検索ロボットによる記事コンテンツの無断使用に歯止めをかけるねらいがあります。また,昨年6月には,世界新聞協会,出版社などが同様の趣旨で,ネット上の知的財産権の保護を求める,「知的財産権に関するハンブルグ宣言」に署名し,欧州委員会に対して働きかけています。欧州を中心に,現行の検索ロボットによる自動情報収集に歯止めをかける動きになっているのに対して,我が国では,検索エンジンに続くコンピュータ技術にまでフリーハンドを与えようとしているように思えます。
次に,A・B・C以外の問題についてですが,パブリックコメントに企業内の出版物複製などを一般規定の対象とすべきであるとの意見が出されています。これについては,現状の理解が十分でないと言わざるを得ません。お手元の資料をご覧になってください。新聞社・出版社など1,400団体と1万2,000人を超える著作者から,著作物の複製利用に関わる権利の管理を受託している日本複写権センター,学術著作権協会,出版者著作権管理機構の主要3団体だけでも,企業内での著作物の複製利用許諾の年間使用料収入は2008年度で10億円を超えております。これとは別に,全国の新聞各社でも個別に使用料を伴う記事の利用許諾を行っており,全国紙5紙だけでも年間許諾件数は1万5,000件を超えるものと推定されます。企業内での著作物の複製配布が一般規定の対象になれば,権利者の損失ははかり知れない規模に膨らむおそれがあります。権利処理の実務が既に確立されている領域において一般規定を導入し,その実務の変更を強いることには,合理性がないと考えます。
その他の検討課題についてです。関連条約との整合性で,著作権法上の規定を検討する場合,規定のタイプにかかわらず,ベルヌ条約等の国際条約に定められたスリー・ステップ・テストの「特別な場合」「著作物の通常の利用を妨げない」「著作者の正当な利益を不当に害しない」という3つの判断基準を厳格に適用することをお願いします。
また,著作者人格権の問題もあります。中間まとめには,「著作財産権の制限と著作者人格権の制限との関係に係る現行著作権法の考え方に十分留意しながら,慎重に検討する必要があると考えられる」と記されています。この問題をどのように解決するのか。経済的な権利である著作権と人格的な権利である著作者人格権とは,大きく性格を異にするものであるので,「著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない」旨の著作権法第50条の適用を前提とすべきと考えます。
7月22日の法制問題小委員会で,一部の委員から,「条文的なものは出せないか」といった指摘・質問がございました。事務局は条文案を示すのは難しいとの見解でしたが,日弁連からも意見が寄せられているように,本件は規定ぶりが非常に重要であります。先月の法制問題小委員会でも指摘されたように,類型的にもまとまっていないものをそのまま条文化した場合,どのような規定になるか予測不能です。適用範囲の明確化のためには,法制問題小委員会で具体的な条文案の議論をした上で,これを公表してから,意見募集,さらにヒアリング等を行い,広く国民の意見を聞くべきと考えます。
最後に改めて申し上げます。権利制限の一般規定は本当に必要なのか,導入の要否に立ち戻り,十分な議論をお願いしたいと思います。
以上です。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただ今の村岡様のご発表につきまして,ご質問がございましたらお願いします。
中山委員。
【中山委員】
新聞協会は,この問題に限らず,過去いろいろな声明を出しておられまして,著作権法を非常に厳格に適用すべきであるという態度で一貫しておられまして,今度もその延長線だろうという気がするわけです。確かに,でき上がってしまった新聞の紙面を厳格にしてほしいというのは,権利者としては考えられるところですけれども,逆に新聞社は紙面を作っている立場でもあるわけです。そうすると,現場の記者が果たして,フェアユース的な規定がなくて,例外規定を厳格に適用して,本当に記事が書けるのかという問題があるわけです。例えば,つい最近,朝日新聞社から出ました「ジャーナリズム」という雑誌に,これは著作権全体ではなくて,写真の映像著作権について書いているわけですけれども,そんなことをされたのではもう記事は書けないといった現場の声を載せているわけです。個人的にいろいろな記者と話をしましても,確かに現場の記者としては,著作権を厳格に適用されたのでは記事は書けないという声もよく聞くわけです。
例えば,時事の報道についての権利制限規定がありまして,その限りでは他人の著作物の利用はできるのですけれども,例えば加戸さんの本などを見ると,それはその日のニュースに限るなどということが書いてあります。判例はもっと広く解釈したものもありますけれども,一般的には厳格に解釈されています。例えば5年前の事件を検証するなどというときには,適用されないわけです。全てにつき権利処理をすればいいのですけれども,権利者が分からない,あるいはコストが余りにもかかり過ぎる,あるいは時間的に間に合わないという場合がたくさんあるはずです。先ほどの複写権センターに加入しているところならまだいいのですけれども,事件の写真などというのは素人が撮るものも結構あるわけです。そういう場合,果たして本当にフェアユースがなくて記事が書けるのかという,これが第1の質問であります。
2番目は,法的安定性を非常に重視している,極度に重視しているわけですけれども,なぜ著作権法だけそんなに重視するのか。一般規定は,ほかの法律を見れば幾らでもあるわけです。権利濫用だとか,信義誠実などというのは,それだけでは一体何だかちっとも分からないわけです。民法709条の不法行為だって,けしからんことをやったら損害賠償を取られますよということしか分からない。その内容は分からないわけです。ほかの法律には幾らでもこんなものはあるのだけれども,何で著作権法だけこういうことを疑問にするのか。その2点についてお伺いします。
【山浦氏】
お答えいたします。まず,取材現場等で著作権法の厳格な遵守というのが取材及び編集に影響を与えていないかといったお話だったかと思いますけれども,この辺,もちろん許諾を得るというのは手間も時間もかかります。しかし,我々は自分たちの新聞の権利というものを主張すると同時に,ほかの方々の著作物の著作権というものも尊重しているつもりであります。ですから,取材中,締め切り時間が迫っている中で,ぎりぎりのタイミングで許諾を得て,紙面化するといったことも,日常的に行っております。自分たちが権利を主張するというのはもちろんですけれども,他人の方の権利というのも尊重するというのは,当然必要だと考えております。
それから,他社が朝刊でスクープを抜いたといった場合でも,はたから見ていると,A社の朝刊に載った記事と,B社の夕刊に載った記事と,内容はほぼ同じではないかといったことを思われるかもしれませんけれども,取材先に一つひとつ裏をとって記事を書くといった作業を行っております。この辺も,他社の新聞を勝手に流用しているとか,そういうことではございませんので,その辺はぜひご認識いただきたいと考えております。
それから2点目として,法的安定性の問題です。この辺をなぜそこまで重視するのかということでありますけれども,法的安定性が必要だという認識は,著作権法の性格にあるかと思います。皆さんご存じのように,小さな子どもが描いた絵から立派な著作物ということになりますので,国民一人ひとりが著作権法というものに関わってくるわけです。言ってみれば道路交通法などと似ていると思います。道交法で,「適当な速度で走りなさい」といった記述はなく,「最高速度は何キロ」ときちんと決まっています。それも法的安定性を確保するためのことだと思っております。著作権法もそれに類似したような法的安定性が確保されてこそ,権利者・利用者双方のメリットにつながると考えております。
以上です。
【土肥主査】
お願いします。
【中山委員】
文章は,裏をとって自分で文章を書けば,著作権法上は全然問題ないのですけれども,先ほど言いました写真などは,権利処理されていないものは,時事の報道は別として,利用しないということを各新聞社に徹底して,それを守らせるといったお覚悟があるのかどうか。現状だと,かなりあやふやな点があると思うのですけれども,どうなんでしょうか。
【山浦氏】
具体例でどういった実例を指しておられるのかというのが分かりませんと,なかなかお答えに窮するんですが,基本的には写真を撮った人の許諾を得るといった手続を踏んでおります。
【中山委員】
もちろん権利処理ができればそれが一番いいのですけれども,処理できない場合も多々あるはずですし,先ほど言ったトランザクションコストの問題もあって,現にとっていないものがある。これをご覧になりましたか,朝日新聞社の「ジャーナリズム」。これにいろいろおもしろいことが書いてありますので,ぜひこれを読んでいただきたいと思います。
【上野氏】
すみません。「ジャーナリズム」に関連していいますと,津山が書いていることについては,個別規定の解釈の中でできる部分もあるのではないかと思っておりまして,一般規定で解決するのがいいのか,個別規定で解決するのがいいのか,ということもあるのではないかと思っております。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。
では,多賀谷委員,どうぞ。
【多賀谷委員】
今,法的安定性で道交法の例を挙げられましたけれども,確かに道交法の場合は,速度制限とか,機械的に量的に決まっていますけれども,現実にはその適用の運用については,警察がかなり,例えば反則金とか,いろいろな実際上の運用の中で秩序を守っているので,その話と著作権の場合とはちょっと違うと思います。要するに,著作権の場合には,そういう警察に代わるようなことを文化庁がやるわけではありませんので,話が違うと思います。
【土肥主査】
どうぞ,中村委員。
【中村委員】
ご提出いただいた資料のうち,別紙の1をちょっと見ながらお尋ねしたいんですけれども,著作物の複製利用許諾ということで,いろいろな団体で使用料収入幾らという表がついたものでございますが,今回提示しておりますA・B・Cというものを設けることによって,こういう許諾契約の実務なり実情なりに何か重大な影響がありそうだとか,深刻な影響がありそうだというご懸念をもし今でも感じておられるということであれば,ご紹介いただければと思います。
それから,関連して2点目として,この使用料を取るというのが,恐らく何か単位があって決まっているのではないかと思われまして,軽微なもの,一定量以下のものは取っていないというのであれば,それもちょっと今のAやBで軽微があることの参考になるのか,ならないのか分からないんですが,例えば使用料を取るときに,どの程度のものから取っているのかというのがもしお分かりになるようであればお教えいただきたい。
3点目が,本文の2ページに戻るんですが,2ページの「・」の2つ目にA類型の話があって,3つ目以下にC類型の話があるんですけれども,せっかくの機会ですので,ちょっとここで抜けていると思われるB類型について,どのように評価しておられるのか,ご意見をお聞かせいただければと思います。
それから,すみません,多くて恐縮なんですが,A類型のところ,2ページの「・」の2つ目で,「「写り込み」だけを想定するならば,個別規定を設けることで十分である」という記載がありますが,そうすると,Aを写り込みと考えた場合は,Aを設けても問題ないというご意見だと聞いていいのか。また,ここに書いてあるのは,写し込みは駄目だという意味で書いておられるのか。ちょっとその点も補足して伺えればと思います。
【上野氏】
最初の方のご質問で,例えば複写権センターに関しては,「出版物の小部分,少部数(20 部以下)」の複製というものをカバーしております。少部数ですので,1部も一応コピーの許諾の範囲に入っていると認識しております。
【村岡氏】
最初のご質問に対してですけれども,A・B・Cということではなく,これは,ここで述べさせてもらったのは,著作権の収入の件に関しては,A・B・C類型には該当しないと私どもは考えております。ヒアリングとかパブリックコメント等の意見で,これを一般規定に含めたらどうかという意見がございましたので,A・B・C類型とは別の話として,ここで述べさせていただきました。 
【山浦氏】
B類型についてですが,そもそもA類型でよく引き合いに出されます「雪月花事件」等のような判例で,B類型に該当すると思われるものは存じ上げません。権利処理をめぐる紛争になる可能性があるかどうかといったところも,非常に疑問があります。それから,昨年のヒアリングで出された100の具体的な検討課題のどれを適法とするという定義なのかは示されておりませんし,ほかの団体がB類型の例として意見を述べたものについても,ほとんど「黙示の許諾」などで解決できると考えております。また,先ほど村岡から申し上げましたとおり,A類型・C類型と同様に,適用範囲,判断基準といったものがあいまいで,やはり予見可能性,法的安定性が乏しいという印象を受けております。必要ならば,個別規定の創設,改正で対応した方が明確であると考えております。
最後の質問はA類型についてだったかと思いますけれども,写り込みなどについて,どうしても権利制限が必要であるという社会的なコンセンサスができた場合には,これは個別規定を新設すればよいということでありまして,そのために一般規定を設けて,判例を積み重ねるといった必要性はないと考えております。法制小委でも議論されましたとおり,権利制限の範囲に関しまして,写り込みは含めるべきだが,写し込みはどこまで含めるかなど,皆様の意見が出ていたかと思います。より突っ込んだ議論をしていただいて,必要ならば個別規定で対応していただくというのが筋だと思います。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。続けてどうぞ。
【中村委員】
一つだけ。ちょっと実務が分かっていないのでご教示いただきたいんですけれども,先ほどの著作物の複製利用許諾で,例えば,1ページにも満たないようなものを複製したいんですけれどもという場合でも,使用料の対象になっているんでしょうか。
【村岡氏】
複写権センターに加入されている方は当然支払われていると思いますが,新聞各社が方に相談を受けた場合は,実際にどのような使用をするかによって,料金を取らない場合もありますが,ちょうだいすることもあります。それはケース・バイ・ケースで考えております。
【中村委員】
ありがとうございます。
【土肥主査】
ほかにいかがですか。中山委員。
【中山委員】
先ほどの話だと,権利処理をちゃんとやっているという話ですけれども,例えば重大犯罪が起きて,その人が高校時代に書いた作文などを載せるときには,巣鴨の拘置所まで行ってわざわざ許諾を得ているのかどうか。あるいは,高校時代の写真などというのがよく新聞に出ますけれども,その人が写っているということは他の人が撮ったわけで,他の人が著作権者なのですけれども,それを探してちゃんと権利処理をしているのか。時事の報道に関する条文に該当すればいいんですけれども,それ以外はちゃんとやっているんですかということを再度お聞きしたいんですが。
【土肥主査】
お願いします。
【山浦氏】
基本的には現場できちんと処理はしていると考えております。顔写真については,いろいろ議論が分かれるところかと思いますけれども,著作権が及ぶかどうか,著作物性があるかどうかというところも,疑問があるかと思います。
【土肥主査】
今おっしゃった,著作物性が成立しないというのは,どれをおっしゃっておられましたか。今おっしゃったのは,何をもっておっしゃったんでしょうか。
【山浦氏】
著作権法の「思想」及び「感情」といった要素が入るかどうか。自動撮影でも撮れるような真正面の写真などは,そういった要素から考えて,疑問があるかと思います。
【土肥主査】
ということでよろしゅうございますか。
【中山委員】
写真については歴史的な経緯もあるし,各国によっても法制は異なり,日本でもそういう見解もあるかもしれませんけれども,わが国の判例や学説によれば,大体権利があるとされています。屋外に置いてある自動式の防犯カメラ等は別として,普通の個人が撮った写真には著作権があるということはほぼ判例で確立していると思います。つまり,自分たちが使うときには著作物を狭く解釈し,人に使わせるときには著作物広く解釈する,ご見解を聞いていると,どうもそんな感じがしてならなりません。
【土肥主査】
中山委員が冒頭お尋ねになったところなんですけれども,現場の記者の方々も,今,新聞協会の村岡さんがおっしゃったような内容で,皆,こういう権利制限の一般制限がなくても,個別的な権利制限の厳格な規定の適用のもとで十分取材活動はできるという認識でおられるのかどうか,そこを1点確認させていただけますか。
【村岡氏】
私どもは,今回のヒアリングに対して新聞協会の著作権小委員会では,あくまで権利者側の立場ということで話し合ってきました。利用者側という視点では,実はその辺はまだ詳しくというか,議論しておりません。その辺の見解は,現場の記者と新聞の著作権の問題はまた別に切り離して,今後話し合っていかなければいけないと思います。記者は取材することが基本でございます。著作権を守るというのは当然,記者としても考えているとは思うんですが,あくまで今回の意見は権利者の立場ということでご理解いただきたいと思います。
【土肥主査】
では,一応時間の関係もございますので,また全体を伺った上でということにさせていただければと思います。どうもありがとうございました。
それでは次に,社団法人日本書籍出版協会の金原様,平井様,社団法人日本雑誌協会の五木田様,よろしくお願いいたします。
【金原氏】
日本書籍出版協会の金原と申します。まず,こういう機会をお与えいただきまして,本当にありがとうございます。感謝申し上げます。
総論から申し上げますと,私ども出版の立場とすると,今回の著作権法における一般規定というものを制定するということについては,一般規定として制定する必要はないのではないかということであります。
個別の背景につきましては書籍協会の平井と雑誌協会の五木田から説明いたしますが,一般規定という作り方で作ることに我々は疑問があるということでありまして,個々の内容につきましては,その背景を全く否定しているものということではありません。その辺は前提としてお聞きいただきたいと思います。
それからもう1点,ちょっと補足させていただきたいんですが,先ほどの新聞協会の資料の中の4ページに出版者著作権管理機構の複写使用料収入は1億8,000万円ということになっておりますが,これは2008年度の数字でありまして,2009年度,つまり今年の3月期では約7億5,000万円という数字になっております。したがいまして,現在の使用料収入というのは3団体で約15億円になっております。そこを若干補足させていただきたいと思います。
それでは,お手元にお配りしております資料に基づいて,平井の方から説明を申し上げます。
【平井氏】
平井でございます。それでは,資料3をご覧ください。
ただ今私どもの金原副理事長が申し上げましたように,出版界としては,一般規定の導入は,特に必要性は認められないのではないかと判断いたしております。パブリックコメントで詳しく書いておりますので,この辺は概要の説明にとどめさせていただきますけれども,まだ現在のところでは,一般規定がないということによって利用がちゅうちょされているという事例が実際にどの程度あるのかというのが全く見えていないということです。そのような気がするという程度の議論しかなされていないのではないでしょうか。仮に具体的にそういった例があったとして,ちゅうちょすることがあったからといって,萎縮効果がどれぐらい,またそれが直接働くことになるのかという検証も必要であろうかと思います。我々としては,個別規定を超えて一般規定の導入が必要である理由,それから一般規定を導入することによって皆さんが懸念されている萎縮効果が回避されるという根拠をまず示す,そういったケーススタディーを積み重ねてみるということをやった上で,その必要性を判断すべきであると考えております。
一方,我々が一般規定を導入した場合の弊害と考えているところを権利者の立場から申し上げさせていただきますと,様々な利用について,これは一般規定に基づくものだと宣言されてしまうと,我々権利者は裁判によって対応するしかないわけです。今日は我々はどちらかというと企業の立場の権利者が集まっておりまして,個人の立場の権利者の方々はおられませんけれども,個人の著作者の方々がそういった様々な侵害行為に対して裁判を起こすということは,個人にとっては大変大きなことです。それだけの労力をなかなか割けないというのが実情だと思います。さらに,我が国には懲罰的な賠償制度あるいは集団訴訟的な制度が存在しないものですから,すぐに係争関係になるということはなかなか難しいですし,そういうことであると,侵害者は,なかなか裁判になどは訴えられないだろうとたかをくくって行ったり,あるいはそういった居直り侵害が蔓延してしまうということで,このことは著作権制度全体に対する不信感を招いてしまうのではないか,そういう結果をもたらしてしまうのではないかという危惧を持っております。
こういった議論の背景・前提となったネット社会というところは,確かに今までの現行著作権法が想定し得なかった段階に既に我々がほうり込まれているということだと思うんですけれども,それだけに,一度侵害されてしまったら,取り返しがつかない,回復不能なものになってしまうということで,慎重に対応していく必要がかえって増しているのではないかという印象を我々は持っているんですけれども,ここで1億総クリエーターだから,かえって使いやすくしろというのは,ちょっと本末転倒ではないかなという気もいたしております。
このA・B・C類型が挙げられておりますが,これらは基本的に,個別規定による対応をまず検討すべきではないか。それがふさわしいのではないか。少なくともそれが可能な例示が挙げられているのではないかと感じております。
特にA類型に関しては,類例としては写り込みしか挙げられていないわけですが,この写り込みに関しては,現行の条文の解釈によって対応可能な部分もあるでしょうし,どうしてもこれを法的に保障するためということであれば,これはまさに個別規定を新設するということで解消されるのではないかと考えております。
付随的な利用と,一昨日のヒアリングでもいろいろ話題になっていたと伺っておりますが,法律の中にはこういった表現はたくさんあるということなんですけれども,例えば著作権法31条1号の図書館における複製で「一部分」という表現が,1冊の半分以下だったらいいのだといった解釈で実際に運用されているわけです。1冊の半分であれば「一部分」というのは,我々権利者としては到底受け入れがたいのですが,実際にそれでまかり通ってしまっているということもありますので,こういった表現に関しても慎重を期すべきであると思います。
B型利用類型に関しては,これは許諾ベースで実際に行えるものではないかと考えております。音楽に関しては,我が国で最も広範な利用許諾システムがございますので,そこに申請していただければよろしいということだと思います。我々出版界としても,先ほどご紹介がありましたように,複写に関しては,非常にリーズナブルで年間契約していただければいいというぐらいの制度を作っておりますので,そういった対応をしていただければと思います。
B型利用類型は幾つか類例がありますが,そもそも一般規定になると,全国民を対象としたことになりますので,利用者とのガイドラインづくりというのは,相手方が特定できないので,事実上不可能ではないかという気もしております。相手側が特定された場合でも,利害が反する両者によるガイドラインづくりというのは,大変な労力を要しますし,大変な時間もかかります。相手方が分かって利用法の対応が分かってもその状態ですから,それがなかなかはっきりしないところになると,なかなか難しいことであろうと,我々の経験から申し上げさせていただきます。
C型利用類型に関しても,これもそもそもここまで実際の利用シーンというのが挙げられているわけです。利用者の方々も,こういったことができない,こういったことができないときちんと説明されていらっしゃるわけですから,それこそ個別規定で対応すればいいのではないかと考えております。
補足をお願いします。
【五木田氏】
特にB類型についてご説明しますと,出版者は,特に漫画のキャラクターのライセンス業務を日常的に行っております。これは,知財立国を目指す日本の,クールジャパンと呼ばれるようなアニメの原作になったり,大変世界的にも評価の高い財産でございます。これらのライセンス業務で,映像化であるとか,商品化であるとか,あるいはゲーム化,アニメ化,それら全部,出版者が権利者から委託を受けて日常業務としてライセンスを行っております。その際に企画書等で複製される,これは当たり前のことでありまして,その話が調わなかったからといって,それが問題になるようなことは決してございません。殊さらそのことを取り上げて個別規定で対応する必要すらない,黙示的許諾という議論もありますけれども,それすらない類型に属するのではないかと思います。
以上です。
【金原氏】
すみません。ちょっと,あと1分ください。
以上ですが,先ほど触れましたように,複写というのはどうしても,我々の目に見えないところ,それぞれ企業内あるいは組織内とかというところで行われるわけで,この規定ぶりにもよると思うんですが,一般規定ということになりますと,条文の拡大解釈,あるいは新聞協会の資料にもありましたけれども,居直りあるいは思い込み,そういうことによってかなりの部分,進行してから我々が目にするということになるのではないか。そうすると,どうしても法的な手段に訴えるということにならざるを得なくなる。そうなりますと,権利者,著作者・出版者としては,それなりの費用を見込まなければいけない。それに対応していかなければいけない。もちろん企業努力でそういうコストは抑えるということになるでしょうけれども,それは最終的には出版物の価格にはね返るということも否定できないといった状況にもなるかもしれない。それでまだ出版物が発行され続ければいいですけれども,拡大解釈,居直りあるいは思い込みで特に専門情報のようなものが複写・複製されていくと,そういう出版物自体が消滅してしまうという危険性もあり得るのではないかなと思っております。したがって,規定ぶり,条文がどのようになるかということは大きな問題ではありますが,その作り方によって,つまり一般規定といった作り方でありますと,かなり問題が将来残るのではないかなと思っております。
以上です。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただ今の金原様,平井様,五木田様,お三方のご発表について,何かご意見,ご質問がございましたらお願いいたします。
では,中山委員,どうぞ。
【中山委員】
今,出版者が大打撃を受けて出版物が消滅するという話を伺いましたけれども,そういう権利者に重大な損害を与えるようなものは,いかなるフェアユースの条文をつくるにせよ,フェアユースにならない典型例ではないかと思います。ですから,恐らく出版物そのものは,私はフェアユースが入ったからといって問題はないのではないかと思っています。出版ではなく,むしろネット社会でどうなのかというのが今後一番問題になると思います。訴訟は,確かに会社にとっても,あるいは個人にとっても,起こすというのは大変なことなのはよく分かるのですけれども,現在でも,ネットの社会では著作権違反がはんらんしていまして,口の悪い人は著作権特区だとか著作権フリーだとかと言っているくらい,違法が蔓延している。それがフェアユースを入れたらそれほど増えるかというと,私にはそうにも思えない。というのは,アメリカの例を見ていましても,フェアユースの規定があるからといって出版者がつぶれるという例はまずないと思うんです。そういう例は,先ほど言いましたように,もしあるとすれば,フェアユースにならない典型例ではないかと思います。そんなに不安なのでしょうか。
【土肥主査】
では,金原さん,どうぞ。
【金原氏】
中山先生がおっしゃるとおりかもしれないんですが,まさにこの規定ぶりがどうなるのかということが我々には見えていませんので,条文としては一般的な規定になるのであろうと。つまり,一般規定の範囲内で,著作物全体を複製する,あるいは複写するということになりますと,当然出版物も含まれる,紙媒体のものも含まれますし,ネットで流通しているものも含まれるということですから,利用者からすると,それはネットのものがほとんどで,90%はそうかもしれませんけれども,著作物,紙媒体のものについても当然それを適用して利用していくということになる。そこの心配です。
【土肥主査】
ほかにございますか。では,どうぞ。
【中村委員】
今日配布されている参考資料2の19ページをご覧いただきたいんですが,そこに[2]でBということで四角で囲っておりまして,その下の「例えば」で(a)でございます。先ほど「漫画のキャラクターの商品化を企画し」云々で「企画書等における当該漫画の複製」についてご意見をいただいたんですが,ついでに(b)の「教科書への掲載に関し,初稿原稿等その他教科書作成過程での複製」についても,何か実務上問題が生じているのか,それともそうではないのかについて,先ほどのようなご意見をいただければと思います。
【平井氏】
これは恐らく検定教科書のことであろうと思いますが,別段,今まで問題が生じたという例はないと思います。そもそもこういったことを複写権センターと契約していれば,企業内での複写は要するに契約によってなされるという結果となりますから,ここで何か違法な複製が行われたということにはならないと考えます。
【土肥主査】
どうぞ。
【中村委員】 
それから,今日ご提出いただいた資料に戻りまして,5ページの「B利用類型は基本的には許諾ベース」と大きい字で書いていただいている,それの3つ目の「・」で,「問題になるのは典型例ではない境界線上のもの。限界事例では」云々とありまして,このBについて,もしこの境界線上の事案とか,限界事例で今イメージできているものとか,あるいは現実に問題となっているものがありましたらご紹介いただきたいのが一つと,次の6ページでございますが,C利用類型についてなんですが,一つ目の「・」で,「C利用類型」云々と来て,その3行目に「許諾処理が不可能なものについて」とあるんですけれども,このCとしてイメージされているものの中で,特に許諾処理が不可能なものというもので,何かこういう事案があるんだとか,そういうのをご紹介いただけますでしょうか。
【平井氏】
私どもは,一般規定は不必要と書いておりまして,その必要性が感じられていないわけです。ところが,こういうことが必要であるとおっしゃっている方々の話では,例えば境界線上の例に挙げられないようなものが問題になってくると思われるので,一般規定が欲しいと,あるいはこの例示に限ったものではなくて,もうちょっと広範なものが欲しいとおっしゃっていることに対して,このように表現させていただいているわけです。私どもはそういうことはないとむしろ考えているとお考えください。これは,続く質問に関しても同様のお答えとさせていただきます。
【土肥主査】
Cの方もですか。先ほどの質問では「不可能なもの」ということ,それも一緒ですか。
【平井氏】
これは,許諾処理が不可能というのが,私どもの出版物に関しては基本的にはないと考えているんです。許諾がとれないものというのは当然あると思います。一昨日のヒアリングを聞いていても,許諾がとなかったということを理由にする方々がいらっしゃいましたが,これは当然許諾権ですから,許諾がとれない場合というのはあると思います。しかしながら,許諾処理が不可能だということは,出版物に関しては,出版者に問い合わせればいいことですから,それはないのではないかと考えますが。
【金原氏】
この件ですが,AにしてもBにしてもCにしても,複写権センターなり,あるいはJCOPYなり,管理団体は幾つかあるわけですが,そこと包括契約を結んでいれば全て解決できる問題。その許諾の範囲内に含まれるわけですから,私は個別規定の制定すら必要ないのではないかと思います。ただし,では日本じゅうの著作物を全て管理団体が管理しているのかというと,そういう状態ではない。それはおっしゃるとおりでありまして,そういうものを使うという状況が発生しているということは理解しております。もしそういうものがあるのであるならば,そういうものについて,ここにも書いてありますけれども,個別の権利制限というのは,もしかしたらそういう著作物については必要なのかもしれない。しかし,現在管理されているものについては,大なり小なり,それぞれ皆さんコピー利用というのはされるでしょうから,包括契約さえ結んでおけば全部解決してしまうということですから,そういうものについては必要ないであろうと考えております。
【平井氏】
補足させていただきます。
出版物の複写を超えて,許諾先が分からないというものも,先ごろ改正された裁定制度を活用していただければ,申請すれば暫定的にはもうできるということになっておりますので,それを活用すればいいだけの話であって,ここに新たな規定が必要であるとはなかなか考えられないと思われます。
【土肥主査】
よろしいですか。
ほかに。清水委員,どうぞ。
【清水委員】
4ページのところでお書きになっているAの利用類型の「「写り込み」を許諾不要とする法改正が必要なのであれば,個別規定で対応すれば十分」というのは,どういう個別規定を考えておられるのでしょうか。
【金原氏】
現実問題としてこういうことは起きるであろうと思いますし,また管理団体としても,このような状況が起きた場合,例えば,ちょっとずれた答えになるかもしれませんけれども,現在の31条で,図書館でコピーをとるのは一部分しかとれないわけですが,例えば1ページ未満の著作物が掲載された出版物のコピーをとる場合に,1ページの中にある著作物の一部分のみをコピーするということは非現実的であろう。したがって,1ページ未満の著作物について,1ページ丸々コピーをとって,結果としてその著作物が一部分ではなくて全部とれてしまうということについても,我々は権利侵害だという主張をしませんということを言っているわけです。同じようなことはここにもあるわけでありまして,そのようなことがあるならば,写り込みについて個別規定というもの,あるいはそれ以前の問題として,これについて我々権利者は権利侵害だということを言いませんというところが何らかの形で担保されれば,それで十分なのではないかなと思います。そういうことを申し上げているわけです。
【清水委員】
すみません,ちょっとよく分からないんですが,個別規定で対応するということですが,今のA類型は写り込みを意識しているのではないかとはっきりおっしゃっているわけですね。これを超えてもっと個別的な規定というのはちょっと私は想定できなかったので,どんなものなのかなと思いまして。お考えになっているとすればですが。
【金原氏】
個別規定で十分対応できるということを言っているにすぎません。
【清水委員】
どういう形の個別規定を考えておられるんですか。A類型そのものが一般的制限でも非常にターゲットを絞った形になっているのは,「・」の第1のところでおっしゃっているわけですね。それをさらに個別規定で対応すれば十分というのは,例えば,写真の分野に限定して,写真のときに写っても構わないとか,そういう規定でいきなさいということをおっしゃっているんですか。
【金原氏】
条文の作り方,規定ぶりについてはちょっと我々は分かりませんが,このA分類の中で考えられている,たまたま写真を撮ろうとしたら写ってしまったというものについては,これに限定した個別規定というものは考えられるのではないか。つまり,一般規定の中に含めることもなく,個別規定は十分作り得るのではないかなということです。一般規定として,全体を網羅するようなものにまで広げてこれをカバーしようということは,する必要がないのではないかということを申し上げております。
【土肥主査】
本当はもう少しお尋ねしたいところもあるんですけれども,時間がございますので,もし最後に残っておりましたら,また続きをお願いしたいと存じます。どうもありがとうございました。
それでは続きまして,一般社団法人日本音楽著作権協会の北田様,社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センターの椎名様,それから一般社団法人日本レコード協会の高杉様,どうぞよろしくお願いいたします。
【北田氏】
日本音楽著作権協会JASRACの北田でございます。本日は貴重な機会をいただきまして,ありがとうございました。資料に従ってご説明させていただきます。
初めに,制度導入に対する意見ということでございますけれども,この間行われました意見募集に対しても多くの意見が出されておりますとおり,中間まとめで権利制限の一般規定の導入の前提となると言われているような社会的な混乱が生じている等の立法事実が示されているとは思えません。権利制限の一般規定の導入が必要であるとは考えておりません。A・B・Cの3つの類型の中で幾つか事例が示されているようでございますけれども,これは後ほど申し上げますとおり,いずれも社会的な混乱が生じるといった事例とは到底言えないと思っております。
それからもう一つは,権利制限の一般規定というのは,著作権法に全く新しい考え方を導入する改正だと思われます。今回改めてヒアリングを行う必要があるということからもお分かりのとおり,権利者の意見と,制度の導入を求めております一部の利用者の意見とは大きく隔たっております。今のような状況のままで著作権法の根幹に関わるような改正を強行するというのは,適当でないと考えております。
それから,A・B・C3つの類型が示されておりますけれども,これらの3つの類型がどのように条文になるのかということ,これが一くくりの条文になるのか,3つそれぞれが条項になるのか,条文のイメージがよく分かりません。このままでは権利制限の範囲が明確でないという状況ですので,どのような条文になるのかというイメージがつかめなくて,権利者として,立法化された段階で予想以上に制限の範囲が拡大されていたといったことになるのではないかということも懸念しております。
続きまして,具体的な類型に対する意見を述べさせていただきます。まずA類型についてでございます。事例として写り込みというのが示されております。確かに,写り込みという問題はもしかしたらあるのかもしれません。ただ,それが現実に社会的な混乱が生じているといった大きな問題とは考えておりません。もし何らかの対応をとるとしても,それは個別権利制限規定で十分対応できるのではないかと思います。ただし,写し込みということになると,これは話が別だと思います。スタジオの中で撮影する背景に予め絵や写真を意図的に配して利用するといった場合についてまで権利制限の対象とするといったことは,到底容認できるものではありません。
次にB類型についてでございますけれども,CDを製作する際のマスターテープの事例というものが記載されております。ご承知のように,JASRACではCDの複製というのは当然毎日のように許諾しているわけですけれども,CDの複製を許諾するということは,当然マスターテープを作って,そこから複製していくというのは当たり前の話ですので,その際にマスターテープの作成を認めないということはありませんし,利用者からもそのような疑問というのも聞いたことがありません。仮に疑問や不安というのがあるのであれば,当事者同士が契約の条項にその旨を加えておけば済む問題だということで,なぜここで権利制限の対象として取り上げられているか,非常に理解に苦しむところでございます。
次に,38条1項に基づく非営利無料の演奏のための複数のCDから演奏順に編集して1枚のCDに複製するといった事例が取り上げられております。このような利用につきまして,JASRACでは,これは当然権利が及ぶものと考えておりまして,管理も行っております。使用料の額などについても,非営利団体あるいは教育機関,個人が行うといった場合については,金額を50%相当に減額するといった措置,運用基準なども設けて,利用の実態に配慮した取り扱いを行っているところでございます。このように日常的に利用許諾を行っている利用が権利制限の対象になるかのような例示をするというのは極めて問題ではないかと思っております。これはJASRACの日常の業務にも影響を与えるようなことではないかと思っております。
次にC類型でございますけれども,中間まとめで記載されています判断基準というのは非常にあいまいで,拡大解釈されるということを危惧しております。技術開発あるいは技術の検証のための必要な限度でということでございますけれども,このような行為というのは,通常企業の内部で行われるということですので,権利者が外からうかがい知るということがなかなかできません。権利制限の対象に当たるという一方的な判断で侵害されてしまっても,権利者としてはほとんど知るすべがありませんし,仮に侵害の事実が分かったとしても,それを裁判で立証するというのは非常に困難なのではないかと思います。
さらに,著作物を享受することが目的ではないといったことなのであれば,保護期間が経過した著作物を利用していただければ,それで目的を達せられるのではないかとも考えられます。権利者団体としては,実験研究等について利用したいといった申出もよくございます。その場合には柔軟な対応をして取り扱っておりますし,要請があったものについては無償の許諾をするといった事例も多くございます。
次に,制度が導入された場合でございますけれども,前回のヒアリングで居直り侵害者について申し上げましたけれども,このことに関して,中間まとめでは,著作権侵害訴訟においては,著作物性や類似性,依拠性等が争点となる事案が相当程度を占めるということが記載されています。しかし,これはこちらが申し上げたことと実態を全く見誤ったものではないかと思います。JASRACでは,違法使用に対して再三の説得にもかかわらず契約に応じないという利用者に対しては,年間1,700件程度の仮処分申請とか民事調停あるいは本案訴訟を行っています。
それから,インターネット上の侵害に対しても,サービスプロバイダーに対して削除要請した違法音楽ファイルというのがこれまでに42万ファイルほどございます。これらの侵害行為というのはいずれも著作物性とか類似性,依拠性などが争点になっているというものではございません。著作権保護に対する認識というのがまだまだ不十分な状況の中で,フェアユースといった言葉がひとり歩きすれば,誤解による侵害を助長するということを懸念して申し上げたということでございます。特にインターネット上の違法サイトというのは,警察の協力によって摘発すると,実は未成年の犯行だったというものが数多くあります。著作権に対する知識とか判断力が乏しい青少年が,フェアユースといった言葉を誤解して,取り返しのつかない罪を犯してしまうということにもなりかねません。
それから,勝手な判断とか思い込みで侵害が行われるといったことが頻発しますと,これをそのまま放置しておきますと,結局既成事実の積み重ねで,結果的に権利の範囲が縮小されてしまうということも考えられます。そのようなことを考えると,権利者としては,民事・刑事両面で法的措置を強化していくということを考えざるを得ないと考えております。このようなことになれば,権利者にとっては非常に大きな負担になりますし,利用者にとっても不幸な結果ということになり,それこそ社会的な混乱ということにもなりかねないと思います。
以上のとおり,JASRACといたしましては,権利制限の一般規定は必要ないと考えております。以上でございます。
【高杉氏】
引き続きまして,日本レコード協会の高杉でございます。私の方から,資料4の次の資料でございますけれども,芸団協実演家著作隣接権センター,レコード協会及び音事協3団体の意見を申し上げたいと思います。JASRACさんと重なる部分がかなりございますので,一部はしょってご説明いたします。
まず,中間まとめに示された権利制限の一般規定導入の必要性につきましては,その論拠が必ずしも十分とは思われず,改めて検証が必要であると考えております。
次に,示された3類型について意見を申し上げます。A類型につきましては,JASRACさんと大分重なっておりますけれども,定義にあります「その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できる」とは,何を基準に軽微というのかを明確にすべきではないかと考えております。個々の利用行為を見ると権利者への影響が軽微と判断されるとしても,そのような利用行為が累積することによって社会全体から見て軽微と言えない場合もあり得るものと考えております。この点はB類型も同じでございます。
次にB類型でございますけれども,そもそも「権利者に特段の不利益を及ぼしていない利用」であるということのみでは,権利制限を正当化する理由とはなり得ないと考えております。この点はC類型も同じでございます。著作物等の利用は権利者からの許諾を得て利用することが原則でありますから,不利益を及ぼすかどうかは第一義的には権利者が判断できるようにすべきであります。
具体的な例として挙げられております38条1項に基づく非営利無償の音楽演奏のための複製の事例につきましては,現実的に今レコード会社でも許諾の実例がございます。通常の手続や費用によって権利者の許諾が得られているケースについて,権利制限の対象とすべきではないと考えております。また,この事例におきまして複製権を新たに権利制限の対象とすることは,30条の私的複製の範囲を現在より拡大することになると考えますけれども,私的録音録画補償金制度も形骸化している現状にかんがみますと,権利者に対価の還元がなされていない私的複製の範囲をこれ以上拡大することについては,反対であります。
なお,このような事例について権利制限の対象とされる場合には,少なくとも「当該複製物の目的外使用の禁止」とともに「使用後の当該複製物の廃棄」を義務づける必要があると考えております。
それから,C類型でございますけれども,非常に定義が抽象的であって,適用範囲や判断基準が不明確で,拡大解釈のおそれがあると考えております。例えば,「音質の検証」の名目での公衆に対するCDの演奏及びそのための複製のようなケースについては,権利者の許諾をとって行うべきものと考えております。
最後に,現状は,インターネット上に適法コンテンツを上回る大量の違法コンテンツがあふれている状況でございます。このような状況の中で,権利制限の一般規定を導入した場合に,それを拡大解釈して侵害ではないと主張するいわゆる居直り侵害者が多数あらわれる可能性が非常に高い。この場合,権利者側にそれに対処するための時間・労力・コストが一方的に増大することを非常に懸念しております。権利制限の一般規定の導入が,コンテンツの違法流通を一層拡大させて,正規コンテンツの適正な流通を阻害することがあってはならないと私は考えております。
以上の認識のもと2点申しますけれども,仮に何らかの一般規定を導入する場合には,第1として,権利制限を行う場合における国際条約上のルールであるスリー・ステップ・テストの要件そのものを条文に盛り込んでいただきたいということでございます。それから2点目として,少なくとも法定損害賠償制度など,権利者の権利行使の負担を軽減する制度の導入を併せて検討いただきたいと考えております。私の方は以上でございます。
【椎名氏】
隣接権センターCPRAの椎名でございます。補足としてちょっとしゃべらせていただきます。
この中間まとめの「はじめに」というところにも触れられておりますけれども,著作権法が現状に合わなくなってきているという認識については権利者も全く変わらないわけでありますけれども,この一般規定の導入の議論に関しましてもそうなんですが,利用の円滑化という方向にばかり改善の話が集中して,同じ著作権法が時代に合わなくなってきているという理由で権利者が対価を得る機会を失っている点については,一向に改善の話が進んでいないというのが現状だと思います。そういう意味で,Aにしろ,Bにしろ,Cにしろ,影響は軽微ではないかと言われても,なかなかこの一般規定の導入には賛成する気になれないというのが正直なところでありまして,ぜひ保護と利用のバランスという観点に立ち戻って今後著作権行政を進めていただけますように,事務局にもこの際お願いをしておきたいと思います。
以上です。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは,ただ今の北田様,高杉様,椎名様のお三方の意見について,ご質問がございましたらお願いいたします。
中村委員。
【中村委員】
意見書の2ページ目の(3)のC類型のところに,例えばとして,「音質の検証」の名目での公衆に対するCD演奏や複製を挙げていただいているのですが,これは,Cというものを設けると,こういう「音質の検証」の名目で公衆に対するCD演奏や複製が行われるということが,相当,業界としてといいますか,深刻に懸念されると理解していいんでしょうか。ここに挙げられた理由といいますか,実情をちょっと教えていただきたいのが一つ目でございます。
もう一つが,1ページ目の(1)のA類型のところで,(1)の末尾になお書きとして,「著作物の意図的な利用である「写しこみ」を権利制限の対象とすることは適当でない」と,ここでまたあえて写し込みは不適当と非常に強く書いておられるんですけれども,その理由についても併せてお聞かせいただけますでしょうか。
【高杉氏】
まず1点目,C類型で出した例でございますけれども,ここで私どもの方で挙げた例というものは,今このC類型で考えられているものに含まれるおそれがあるのではないかと考えています。例えば,大型の電器店等の場所を借りて,「音質の検証」を名目として一般の人を入れた形の,いわゆる機械の検証目的でのCDの再生あるいはそのための複製が行われるといったケースがあるとすれば,それは許諾をとって利用するべき例ではないかと考えております。
それから,写し込みのところにつきましては,あえてというほどの意味はございませんけれども,著作物の意図的な利用であるものをなぜ権利制限の対象にするのかということで違和感を持っているという趣旨で書かせていただいたものでございます。
【土肥主査】
どうぞ。
【中村委員】
すみません,もう一言だけ。写し込みのところで,意図的な利用であっても,例えばAにしろ,Bにしろ,「その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」というのをつけておりまして,著作物の意図的な利用なのだけれども,社会通念上軽微だから,まあいいではないですかというふうにはなかなか理解していただけないということなんでしょうか。
【高杉氏】
私どもとしては,軽微であるから権利制限をしてもいいという考えは持っておりません。そもそも,スリー・ステップ・テストでは,特別な利用であって,著作物の通常の利用を妨げず,その後に権利者の利益を不当に害しないという要件が来ると思いますけれども,軽微だからといって権利制限をしていいという考えは全く持っておりません。軽微であるものも,通常に許諾手続をとれるものは,許諾をとって使っていただくのが原則ではないでしょうかということを申し上げております。
【土肥主査】
ほかにございますか。よろしゅうございますか。小泉委員,どうぞ。
【小泉委員】
38条の関連で,複製の許諾を出している例があるというお話がございましたけれども,もう少し具体的にお伺いしたいんですけれども,もし把握しておいででしたら,どのぐらいの件数そういうケースがあるのか,あるいはどういう利用主体の方が許諾を求めてこられたのかというのをお聞かせいただきたいんですけれども。 
【高杉氏】
幾つかの私どもの会員会社からヒアリングしてまいりましたけれども,今一番多いのは,バトントワリング大会等でのCDの複製でございます。これが,ちょっと社によって違いますけれども,2社聞いただけで年間400件ぐらい申請が来ているということと,あとは,NHKさんが主催しているんですけれども,高校生とか中学生の校内放送のコンテストがございます。これが年1回,かなり長い間やっておりますけれども,これにつきましてのCDの複製の許諾がございます。なお,許諾例があるというのは,全部お金を取っているという意味ではなくて,特にNHKさんのコンテストにつきましては,無償で許諾しているケースが多うございますけれども,一応申請書を出していただいて,その上で無償許諾をしているということでございます。
【小泉委員】
ありがとうございます。
【土肥主査】
よろしいですか。
【北田氏】
JASRACの方でも,いらっしゃるけれども,使用料規定に基づいて有償で許諾しております。録音の許諾をする際に,その利用目的が非営利の演奏なのかどうかということを確認して許諾するわけではないんですけれども,その中でCDの目的から見てほぼ非営利だろうなと思われるものでも,よさこい祭りのイベントとか,それから文化祭の演劇,ダンスの公演使用,それからアマチュア合唱団用,それから警察のイベント,変わったところでは政治団体の宣伝カー,これは平たく言うと街宣車用などですけれども,それからカラオケ大会の応募用のテープ,こういったものに対して年間で数百件の許諾を行っているということでございます。
【小泉委員】
ありがとうございます。よく分かりました。
【椎名氏】
すみません。先ほどの社会通念上軽微というお話に関して,ここに書かれている書かれ方は,利用が質的・量的に社会通念上軽微であると書かれているんですが,先ほどレコード協会の高杉さんからの話にもありましたとおり,その利用が軽微であっても権利者への影響が軽微でないものとか,個々の権利者に対する影響が軽微であっても全体では軽微でないという様々なケースがありますので,このように利用が軽微であるといった書き方だと,その影響がどのようになるのかが分かってこないと思うんです。だから,そこがすごく問題だと思っています。
【土肥主査】
ありがとうございました。
それでは時間の関係がございますので,北田様,椎名様,高杉様,どうもありがとうございました。
続きまして,一般社団法人日本映画製作者連盟の華頂様,それから社団法人日本映像ソフト協会の酒井様,一般社団法人日本動画協会の宮下様,よろしくお願いいたします。
【華頂氏】
日本映画製作者連盟,通称映連の華頂でございます。本日は,権利制限の一般規定に関する中間まとめに対するパブリックコメントの補足として,このように意見を申し上げる時間をいただきまして,ありがとうございます。
それでは,お手元の資料に沿って,映連,日本映像ソフト協会,日本動画協会の映像製作者3団体の見解を手短にご説明させていただきます。
なお,最初に私の方から申し上げますこの意見につきましては,資料の上段にもございますように,映連,それから日本映像ソフト協会,日本動画協会の映像3団体の総意であります。ただ,私が説明を申し上げた後に,ソフト協会,それから動画協会の方からそれぞれ補足がある場合には,類型ごとに補足のコメントを述べさせていただきます。
まず,上段の表紙にも書かせていただきましたけれども,映画製作に関係する権利者は,権利制限の一般規定導入に対しては一貫して反対していることを改めましてご理解いただきたいと存じます。
それでは,資料の下段ですけれども,類型ごとに1行ずつ,非常に簡単にコメントを記載してございますので,少し補足を加えながら説明させていただきます。
最初にA類型でございますけれども,ここに書いてありますように,映画製作に際しては,主にその映画の製作担当,それから助監督が事前に周到な準備を行います。例えば,画面上に著作物が入らないように準備段階で排除するといったこととか,どうしても入り込んでしまうというアングルの場合には予め許諾を得ておくといった措置をとります。このように準備を行った上でカメラを回しますので,基本的に写り込みは発生いたしません。ましてや,写し込みという概念自体が映画の撮影にはないということです。ただ,そうはいっても人間が行うことなので,見落としてしまうことも当然起こり得るということです。しかし,中間まとめの中にもありますように,このようなうっかりミスが仮に起こったとしても,映画撮影には長い歴史がありますけれども,特段問題が生じた事例はないと認識しております。
以上のことから,A類型を適法とするための著作権制限規定をあえて設ける必要はないと思いますし,仮に権利制限するとしても,英国の著作権法31条を参照するなどして,美術の著作物,録音物,映画,放送または有線放送への利用に限定した個別規定にすることも,一つの考え方ではないかなと思います。
A類型については,私の方からは以上なんですが,何かございましたら。
【酒井氏】
日本映像ソフト協会の酒井と申します。ちょっと私の方から一言申し上げさせていただきたいと思います。
A類型と言われているいわゆる写し込みというものの中には,裁判例なども見ましても,そもそも複製に当たらないといった判断がなされているものもあろかと思います。そうしますと,そういったそもそも利用行為がないものについては,権利制限の問題ではないのだろうと認識しております。
また,雪月花事件やはたらく自動車事件などの判例等によりましても,著作権侵害が否定されたような裁判例もございますし,また学説上も,必ずしも全ての写り込みを違法だとしない学説もあろうかと存じております。そういったところから見ますと,あえて権利制限規定を設けなくても,現行法のもとでの判例の蓄積によって,妥当な結論,法理論が形成されていくのではないかと思っているところでございます。
また,A~C類型の全てそうなんですが,スリー・ステップ・テストを具体化する要件が余り規定されていないということがございます。そうしますと,本来利用者側の利益と権利者側の利益の両者を利益考量して妥当な結論を導くという考え方に立つ必要があろうかと思うんですが,権利制限を働く方向にのみ権利制限が拡張していくといった懸念を持っているところでございます。したがいまして,A類型につきまして権利規定制限を設ける必要はないと考えているところでございます。
以上です。
【華頂氏】
続きましてB類型でございますけれども,例示の中でも38条1項に基づく非営利無料の音楽演奏に言及されているわけですけれども,そもそも映画については,このコメントにも書かせていただきましたけれども,著作権法38条1項の非営利無料の上映をすることが適切なのかという疑義があります。この38条が制定された昭和45年当時は,映画を視聴するための記録媒体はフイルムだけでした。ですから,何らかの事情で映画関係者の以外の第三者が非営利無料上映を企図したとしても,上映するには当該映画の著作権者に連絡してフイルムを借りるしか手だてがなかったわけです。ところが,科学技術の急激な進歩とともに新たな記録媒体としてDVDとかブルーレイが開発されまして,それを再生する機器も非常に高性能になって,映画館並みのクオリティーで映画をどこでも手軽に上映できるようになってしまったということでございます。映画のパッケージソフトは基本的に劇場公開の半年後に発売されるわけでございますけれども,例えば映画館の近隣のホールでパッケージソフトの発売後に恒常的に非営利無料上映会を行うようなことが起これば,そのうち誰も映画館に行かなくなってしまうおそれがあるわけです。半年待てば無料で鑑賞できるわけですから。
今お話ししたこの例示は,実際に中国地方のある都市で起こった事実でございます。行政が市民サービスの一環として行ってまいりましたが,新聞報道でも非常に問題になって,中止に至ったという経緯があります。このように,映画にとっては今や38条1項は適切とは解せない権利制限でございます。このB型類型がそういう意味でこのまま採択されれば,テレビ放送から,あるいはレンタルビデオ店から借りたパッケージソフトから非営利無料上映で公衆に提示すことを目的としてコピーすることを許容してしまうことにもつながるということです。このような複製についても権利制限してしまうことは行き過ぎではないかなと考えます。映画製作者や映画館のビジネスを脅かす38条1項に基づく非営利無料の上映をさらに助長する恐ろしい結果になるものと考えています。B型類型に今言ったような複製が含まれるのであれば,B型類型の権利制限に賛成することはできません。また,この議論と並行して著作権法38条1項を見直していただきたいということもお願いしたいと思います。
【酒井氏】
それでは,日本映像ソフト協会の酒井の方から一言発言させていただきたいと思います。
平成15年1月の文化審議会著作権分科会審議経過報告では,本小委員会の審議の経過に関する記述の中で,38条1項については,ベルヌ条約上の義務との関係から問題があると内外の関係者から指摘されている旨の記述がございまして,それに続けて,「その対象となる行為の範囲を見直すことが必要であると思われる」と記載されてございます。このように,38条1項については,見直しが答申された経過がございますが,今日までいまだに法改正は実現されていないという状況でございます。そうした状況の中で,権利制限の一般規定を設けることによって38条1項の権利制限をさらに拡張するということは,甚だ納得のいかないことであるということでございます。また,38条1項そのものは,スリー・ステップ・テストの基準から見ても,それから米国のフェアユースの考え方からしても,権利制限の範囲としては文面上明らかに広いと思いますので,米国のフェアユースの基準よりさらに広い権利制限をさらに拡張するということになりかねないと感じているところでございます。
また,30条1項各号の行為は全て適法行為の過程における行為ということになりかねません。そうしますと,技術的保護手段を回避したり,あるいはダビング機のようなものを使ってコピーして上映するといったことまで許容されることになりかねないのではないかと危惧しているところでございます。
以上です。
【華頂氏】
それでは最後にC類型でございますけれども,技術開発,検証の過程での複製となっておりますけれども,例えば,これは想定なんですが,新しいP2Pソフトを開発した者が,動作の検証と称して,開発したソフトを使用して映画のファイルをインターネット上にばらまくという行為,それからもう一つ例示を挙げれば,映画の再生ソフトを開発した者が,検証用の映画ファイルを予め準備して,不特定多数のユーザーにその開発したソフトをばらまくといった行為も適法になってしまうのではないかなというおそれがございます。ですから,このまま賛成するというわけにはいかないわけでございます。
C類型については,いかがでしょうか。
【酒井氏】
それでは,一例,C類型について私どもが危惧している問題を申し上げたいと思います。よくDVDのリッピングを行うツールの記事等が雑誌等や出版物の中に掲載されることがございます。その記述などの中で,実際にリッピングソフトを使ってリッピングをしているスクリーンショットなどが記載されることがございます。そのスクリーンショットがあるということは,出版者の中で現実にリッピング行為を行っているということだろうと思われるわけです。このようなリッピング行為というのは現行法上適法な行為ではないと思いますけれども,仮にC類型が出てくるとすれば,その記事を書くためのリッピング行為というのは,知覚を目的とした行為ではございませんので,適法ということになってしまうのかなと危惧しているところでございます。
以上です。
【華頂氏】
今A・B・Cについて例示も含めてご説明しましたが,AとBは,実際の経験則からちょっとした具体例を挙げさせてもらいました。Cについては,想定で申し上げました。結論を申しますと,A類型・B類型・C類型の権利制限が必要だとしても,一般規定としてではなく,もう少し狭めた形で個別制限規定としたらいかがかなということが私たちの意見です。
それともう一つ,補足させていただきます。写し込みと写り込みですか,この2つが今ずっと話題になっていますけれども,私たち映像製作者,今日は放送事業者さんはおりませんけれども,私たちの概念を具体的に申し上げますと,写り込みというのは,先ほども申し上げましたとおり,準備をしたんだけれども,うっかり見落として写り込んでしまった,これが写り込みだと思うんです。写し込みというのは,映画ではそういう概念がないので,放送事業者さんに聞きましたら,写し込みは,放送番組の場合は可能性としてはある。それはどういうことかいいますと,例えば俳優さんの楽屋に何の準備もなく,インタビューの約束だけしておいて,カメラマンとディレクターとADがカメラと照明を持っていきました。アングルを決めて,さあインタビューを撮影するぞというときに,カメラマンが「その白い壁,ちょっと寂しいな。そこの絵を持ってこいよ」と言って,別のところにあった絵をADが持ってくるわけです。「それでいい」と言って撮影するのが写し込みです。だけれども,その著作物を撮ろうとしているわけではないんです。ただ寂しいから持ってきたと。こっちの方は,準備不足のためにやらざるを得なかったということです。具体的に言いますと,そのようなことではないかと思います。
以上です。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の華頂様,酒井様のご意見について,何かご質問等ございましたらお願いします。
中山委員,どうぞ。
【中山委員】
映画は,特に劇場用映画については,先ほど華頂さんがおっしゃったように,余り問題はないだろうと思います。特にスタジオでやる場合は大道具・小道具を持ち込むわけですから,そんなに問題はないだろうと思うのですけれども,ドキュメンタリー映画などもあるわけですし,あるいはテレビになると,先ほどおっしゃったように,写り込まれてしまうものは幾らでもある。もっと問題なのは,最近は,例えば自分の小さい子供がかわいいから,よちよち歩きの子をビデオに撮って自分のホームページにアップする。そこには他人の絵も入っているという場合も少なくない。特に今の最後のように個人がアップしたような場合,これは一々権利処理などということは考えられないというか,事実上難しいわけです。そういう影像について全部考えた上でのこの意見なのか,あるいは映画についての意見なのか,そこのところをお伺いしたいと思います。
【華頂氏】
ただ今申し上げましたのは,映画についての意見でございます。映画については,このような一般規定,ここまでは必要ないのではないかなという意見でございます。
【土肥主査】
ほかにいかがでございましょうか。よろしゅうございますか。もう1点。はい,どうぞ。
【中山委員】
38条1項は随分けしからんということを伺って,そういう面もあると思うのですけれども,それでは先ほどちょっとおっしゃったように,38条1項を廃止してアメリカのフェアユースのような規定にした方がむしろ権利者に有利ではないかという気もするんですけれども,先ほどアメリカのフェアユースの方がむしろきついとおっしゃっていましたので,その点はどうでしょうか。
【酒井氏】
それより,38条1項から「上映」の2文字を削っていただくのがありがたいと思っております。フェアユースの規定ですと,それは確かにその方が上映権に関しては権利制限の範囲が狭くなるという状況にあろうかと思います。ただ,フェアユースの場合ですと,上映権だけの権利制限ではなくなりますので,その辺を勘案いたしますと,38条1項それ自体を改正するのが一番妥当な解決ではないかと考えております。
【土肥主査】
ほかにいかがでございますか。よろしゅうございますか。
それでは,社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田様,ビジネスソフトウェアアライアンスの水越様,お待たせいたしました。よろしくお願いいたします。
【久保田氏】
権利制限の一般規定に関する中間まとめへの意見ということで,ソフトウェア著作権協会の事務局長の久保田から報告させていただきます。
まず総論としまして,当協会は一貫して権利制限の一般規定の導入については反対だということが前提です。
その前提に立った上で,今回の意見表明におきまして,事務局からの強い要請もありまして,この中間まとめに記載されたA~C類型に関する意見を説明したいと思います。
まずA類型につきましてですけれども,今までさんざん議論されてきたように,写り込みと写し込みという観点から考えましても,ほかの団体さんがおっしゃったとおりだと当協会は考えております。しかしながら,要件の中で,偶発的なものであるといったことにつきましては,そういう要件を加えることによってA類型として認める場合もあるのではないかと考えております。個人的には,一厘事件のように可罰的な違法性という意味では,意図的に写し込みをしたような場合であっても,本当に中山先生がおっしゃるような軽微な場合には,これは法的な問題にならないと,違法行為ではないと言ってもいいかもしれません。こういう問題が残されている点でありまして,基本的にはA類型についてはそのような考えでございます。
続きましてB類型なんですけれども,これはなかなか抽象的な類型なので,議論の余地があるんですけれども,まず本類型で想定されている事例に関しましては,著作権者の許諾に基づく利用という場合と,個別権利制限規定に基づく利用に分けて検討する必要があると思います。まず,著作権者の許諾に基づく場合の利用形態に関しましては,黙示的許諾の法理または個別制限規定の解釈によって解決を図ることが十分に考えられると思います。この案件の中身につきましては,他団体さんがおっしゃっているとおりですので,一つ一つ取り上げることはいたしません。また,仮にそのような懸念の中で権利の行使があったとしても,これは権利の濫用の法理として退けられるような可能性が高いと考えております。
また,もう一つの利用形態なんですけれども,全ての個別制限規定に基づく利用を一律に論ずるべきではないと考えます。個別制限規定にはそれぞれ特定の著作物の性質に応じた制限規定が設けられておりますから,それらから考え得る準備行為であって,その範囲に入ってくるものであれば,その解釈の中で行われればよいと考えておりますので,それを全部まとめて対応していくというのは危険かなと考えます。文章にしますと,「当該著作物の利使用のための準備行為であって,複製が目的ではない」ということで,全てが複製が目的ではないということです。
また,33条1項や38条1項に基づく利用の準備段階としての複製行為は,一般規定として論じられる行為ではなく,あくまでも当該個別制限規定の中で,その準備段階である複製行為までも適法とすべきかどうかを具体的に想定している,そういう観点を論点として考えることによって対応していく,議論していくべきだと考えます。
最後にC類型なんですけれども,これはもともと我々プログラムの団体としては,そもそもこういった知覚を通じて享受するための利用というものとは縁がないんですけれども,当協会は,ご存じのように,出版者の方も,それからキャラクターを扱っている方も,たくさんのデジタルコンテンツを扱っている皆さんが参加されている団体ですので,それにつきましては今まで発表されたとおりだと考えております。そして,映像関係の皆さんが言われたように,一番我々が心配しているのは,このファイル共有ソフト等の機能がまさにここで言うところの「知覚することを通じてこれを享受するための利用」に当たらない場合が出てくるのではないかということです。これにつきましては本当に頭の痛い問題でありまして,実際に訴訟の中でも,実験だったとか,研究だったといったことが被告人の側から言われているわけでありまして,このことについては十分に検討する必要があろうかと思います。
もっと技術的なことを言いますと,中山先生もネットワークについてはどうかということなんですが,まさに技術がブラックボックス化される中で,その機能について,なかなか分かりづらい環境が出てくる。そういったことについて,技術の認識または技術の評価について,いろいろな評価ができ得るような環境になったときに,まさにそれは知覚とは関係がない世界で行われていることなのだという中で,結局は権利者の利益が侵害されるような行為というのは多々起こってくるだろうということを我々は経験的に知っているわけであります。そういう意味では,この利用行為を認めることによって,何度も言われているような言い逃れや居直り,そして間違った認識の下において手前勝手な解釈のために違法行為が起こってくるということは,十分にあり得ると考えております。
最後に,権利制限の対象となる著作物の種類についてということでお話をしたいと思います。本中間まとめにおける各類型においてプログラムの著作物が利用される場面は想定できないことから,対象とならないことを明示していただくように希望しております。
プログラムや技術的な思想という意味での表現につきましては,47条の3によってリプレース等のことが可能になるような制限規定も持っておりますし,このような対応をしていけば十分だと考えております。特にリバースエンジニアリングにつきましては,いろいろとここまで十数年検討されておりますけれども,まさにそのとおりに個別制限規定を創設することが結論づけられているわけでありますが,その中できちんと対応すればいいと我々は考えております。
以上,簡単ですが,私の報告とさせていただきます。
【水越氏】
では,重複することもございますので,ポイントを絞って申し上げたいと思います。
結論としましては,今,久保田さんよりコメントがありましたように,プログラムについてはAからC類型の対象に含まれないとしていただきたいと考えております。
まず中間まとめの16ページで,表現よりも機能が重視されているプログラムの著作物については後に検討を行うということがございましたので,現在の例えばA類型やB類型では余りプログラムということは念頭に置いて議論されていないかと思いましたが,念のためその類型についても検討してみたところ,A類型で,例えば現在議論されておりますコンピュータプログラムに限って言えば,写り込みということもございませんので,プログラムについては対象に含まれないということが適切ではないかと考えているところです。
B類型についても同様に検討してみましたが,ソフトウェアの世界では,使用許諾契約というものが非常に浸透しておりまして,個別に,技術的な機能を享受するためにはどういう契約を結んでどういう対価を払うかということを行っておりますし,例えばパッケージのプロダクトなのか,それとも複数の利用を許諾するのか,またその場合どのような複製方法を許諾するのかということを事細かに契約しておりますので,例えば,過渡的であるとかといったB類型のくくりにプログラムが含まれるとすれば,非常に誤解を与えることになるのではないかと思っていますので,プログラムを含めないということで明確化を望んでいるところです。
C類型について,この委員会でも議論があったところかと思いますけれども,基本的に議論があった点はリバースエンジニアリングとの関係ということかと理解しております。添付させていただきました意見につきましては,平成20年のヒアリングでビジネスソフトウェアアライアンスがここでも発表させていただいた意見になります。下線を引いてある部分が要点で,仮に権利制限規定を設ける場合であっても,欧州の制定法とか米国裁判所の判例でも十分に,なぜそういう規定が必要か,また利用と保護のバランスをとるためにはどのような規定がいいのかということを考えて,例えば相互運用性を達成するという唯一の目的のために認められていることや,条件を付加していることについて,十分に考慮していただきたいということを述べております。このような条件を課す必要性につきましては,既に平成20年のこの委員会の中間まとめにも記されているところでありまして,そこから2年たった時点で,その範囲を超えてソフトウェアについて何かC類型ということで権利制限を課す必要というのは殊さら起こっていないと理解しているところです。したがいまして,今までのリバースエンジニアリングに関する議論というものを踏まえた結論を導いていただく,最終報告書に向けて,そのような明確化をしていただきたいと考えております。
以上です。
【土肥主査】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の久保田様,水越様のご意見について,何かご質問等ございましたらお願いいたします。中村委員。
【中村委員】
意見書の2ページの真ん中の辺りに「(b)の利用形態に関しては」とありまして,そこから少し下で,「「適法な著作物の利用」を前提とすることは,著作権対象行為でない著作物の視聴等行為のための複製の全てを適法としてしまう余地があり」とご主張いただいているのですが,これはどのような具体例をイメージされてこのように記載されているのでしょうか。
【久保田氏】
何回かご説明されているとおり,複製の許諾をする前の視聴とか,例えば我々の業界でいうと,ゲームソフトを開発する上で,アニメのキャラクターを使ってそういう企画案を作るときに,そこに他人の著作物が入ってくるとか,そのような意味です。ですから,一般的な意味です。
【土肥主査】
よろしいですか。
ほかに。中山委員,どうぞ。
【中山委員】
久保田さんがおっしゃるとおり,現状においては,プログラムではそれほどフェアユースに関係するものは多くないだろうと私も思っているのですけれども,目前というか,もうそうなりつつあるクラウドコンピューティングの時代,つまり情報は自分のところに持たずに,どこかに預けておいて,必要なときには持ってくるという時代,これは別にプログラムに限らず,音楽も全部そうなんですけれども,そういう時代が目前なんですけれども,その点では,プログラムについて何か問題はないでしょうか。
【久保田氏】
逆に言うと,我々はいつもプログラムプラスデジタルデータで,当協会が保護している著作物というのは,もう全ての,ここに今までいらっしゃった権利者の団体さんのものをインクルードしておりますので,先生がおっしゃるとおりであります。ただし,プログラムというものが核になって,各データをいろいろな形で利用させてもらいながら,インタクラティブな著作物そのものですから,そういう意味では今日皆さんが言われたことについては全く我々はそれを前提として考えざるを得ない。もう1点,我々はユーザーという立場がありますので,このユーザーの立場として今回のフェアユースの議論を考えたときに,それほどゲーム業界やそのほかインタクラティブな著作物を作っている業界から,一つ一つのコンテンツをお持ちのJASRACさんやレコード協会さん,ここは許諾を前提にしてビジネスが成り立ってきているんです。それともう1点,中山先生のご指摘のように,まさにクラウド時代は,全てサーバーの中からいろいろなコンテンツが複雑な形でユーザーに提供されてくる。これも,このフェアユースとの関係で,これは私の個人的な意見として言わせていただければ,n対nの契約を成立させるのはシステムなんです。そういう中で多分包括的な契約もしくは個別的な契約が瞬時に成立して,これは独禁法にひっかからない範囲でですけれども,ダウンロードされたり,ストリーミング配信されてくる。そういう前提になったときに,基本は契約なんです。もちろんこの契約はフェアな契約という意味の契約ですが,そういった中で権利処理がされていくということがこのデジタル時代の形だと私は思っていますので,逆にフェアユースのように抽象的な規範のようなものがあって,なかなか契約関係に入ってこないということになると,逆にコンテンツの流通を妨げてしまうのではないかと私は考えております。
【土肥主査】
よろしゅうございますか。
ほかにいかがでございましょうか。よろしゅうございますか。
それでは,本日,せっかくこうして関係6団体の方がお集まりいただいたわけでございますので,よい機会でございますから,全体を通じてご質問がありましたらお出しいただければと存じます。どうぞ,和田様。
【和田氏】
先ほどはできるだけ手短にということで,本当に手短にやりましたので,一部補足させていただきます。
立法事実について慎重な議論が必要であるという非常にまどろっこしい言い方をしていますけれども,要するに,制度がニュートラルということはあり得ないので,どういうビジョン,どういう日本を想定してこの提案がなされているのか,それから果たしてコンセンサスになっているのかとか,そこが知りたいという話です。企業は,私どもを含めて常時誰かが何か言います。ただ,それは常時起こる話ですから,そこを調整するということではなくて,どうせどうやっても生きていかなければいけないから生きていくわけです。我々も,ゲーム業界で2年も3年もかけて何十億もかけて何十ギガのデータをDVDに焼き込んで売っている商売なんですけれども,海賊版が厳然として存在します。海賊版に対しては当然戦うんですけれども,これだけだと食っていけません。だから,もうずっと経営方針として言っているのは,データを売るのではなくて,価値の源泉が経験価値になるようにどうやって仕事をシフトしていくかということで,もうしょうがないことはどうせやるわけです。
一方で,制度というのは企業にとってゲームのルールですから,制度によりまして企業の行動原理が変わります。例えば,先ほど利活用のところに光が当たり過ぎているのではなかろうか,権利保持者のところよりも偏りを感じるというお話がございました。そういう制度設計はあり得ると思うんですけれども,そういう制度設計をすると何が起こるかというと,私どものようなコンテンツメーカーを例にとれば,もう二択で,コンテンツメーカーである立場を捨ててアグリゲーターになるか,それともコンテンツメーカーとして国外に脱出するかになるわけです。どちらもいいとか悪いとかという話ではなくて,企業の行動原理が変わるということです。
もう一つ,極端な例でいきますと,例えば小学校の教材として使う場合は,ゲームのコンテンツが全てフェアユースとみなされると,仮にそうなるとすると,私は何をやるかというと,資金回収できませんから,子供向きのゲームは一切作りません。ところが,教材で使ってもらうために,キャラクターはどんどん出します。どんどん出しておいて,言ってみれば,お客さんに慣れていただいて,ぴったり13歳以上をターゲットにしたゲームを開発するわけです。非常に極端な例ですけれども,要するに制度がニュートラルということはないので,何らかのビジョンに基づいておっしゃっていることだと思いますから,それが聞きたいんです。そこについての議論がしたいということです。現状,目の前にある何かをどうするかということよりも,そこの議論がしたいということです。
経団連の著作権部会の議論というのは,そんなこんなを踏まえて,何かに偏るのはまずかろうということで,いかにバランスを確保するかという議論に特化しています。例えば「文化立国」というときに,文化庁さんが「文化芸術立国」と言って,経産省さんが「文化産業立国」と言う。これは別にいいと思うんです。だけれども,双方どうバランスよくいくかということを考えるか,ないしは考えないかということは一つの判断です。経団連の著作権部会においては,バランスを考えようということで,複線化とせざるを得ないなと。異なった理念が一つの制度に乗っている以上,異なっているということをまず腹に落とすしかないと。ところが,複線化といったときに,その判断を誰かに委ねるのではなくて,著作権者に判断させようということ,それから,どういう判断をしたかということが第三者に分かるようにしようということ,これを制度としてどう今から具体的にしていくかということを議論なさってはどうでしょうかという提言をしました。そういう意味では,経団連著作権部会においては,様々な立場の方々に集まっていただきました。結果,何かに収れんするということができないんです。それが正しいとも思いませんでした。したがって,今の提言に落ちついたということです。
ということでいきますと,この日本版フェアユースを導入するということ自体,導入したから困りませんよね,ではなくて,導入するというのがどういう問題意識に基づいてされているかというのが伺いたかったというのを事務局に書いていただきますと,「立法事実について慎重な議論が必要である」という文章になるんですけれども,要するに産業界としてはそういうことが伺いたかったということでございます。
【土肥主査】
ありがとうございました。
ほかにございますか。今日おいでいただいた団体の方でももちろん結構でございますけれども,この際,いい機会でございますから,何かありましたらどうぞお出しください。よろしゅうございますか。
では,中村委員。
【中村委員】
すみません,ちょっと時間が過ぎているので恐縮なんですが,せっかくの機会ですので,AとBについて,「質的又は量的に社会通念上軽微」というのを入れている関係で,先ほど4番の方からは伺ったので,それ以外の2番,3番,5番,6番の方だけでも結構なんですけれども,当該業界等の中で,こういうものであれば「社会通念上軽微」というものに当てはまってもしょうがないかなというものが,こういうものはありそうだということをご教示いただけるものかどうか,今後の検討の参考になるので,もし伺えればと思うんですが。お立場上なかなか難しいかもしれないんですけれども,例えばなんですけれども,面積が小さいとか,音が短いとか,あるいは時間が短いとか,何らかのことで,そういったものなら,扱っておられる業界のコンテンツにおいては「軽微」ということで仕方がないかなというのがあるのか。あるいは,先ほど4番の方がおっしゃったように,そんなのは全然駄目だというのか。もし2番,3番,5番,6番の方に簡潔にでも伺えると大変助かります。
【土肥主査】
いかがでしょうか。「軽微」について,例えば新聞の記事でも結構ですし,音楽でも結構ですし,映像でも結構ですし,何か量的な判断なのか,あるいはさらに質的な判断も加えるか,あるいは全体の中の問題,いろいろな総合的な要素があろうかと思いますけれども,何かお教えいただけることがあれば,この場でご紹介いただければと思いますが。
【金原氏】
ここで言われるところの「軽微」というのは,量的な問題と我々は考えてこなかったんですが,形態として軽微であると。つまり中間的な複製が起きるようなことについては,その量の問題ではなくて,形の上で,それが中間的に起きるものであるから,権利侵害が軽微あるいはないのだろうと理解しているんですが,そういうことではないんでしょうか。
【土肥主査】
今のはいかがですか。
【中村委員】
そのようにもしお考えいただいて,そうなると質的に「軽微」というのは例えばこんなものと言っていただけると参考になります。一応AやBの中では「質的又は量的に軽微」という形でパブコメ等でご紹介しているところではありますが,せっかくの機会ですので,「質的に軽微」といったら,こんなものだったらいいんじゃないか,「量的に軽微」だったらこんなものなら当たるのではないかといった観点でご教示いただけるとありがたいんですが,そんなのは全く駄目だということがあるのかもしれません。
【土肥主査】
どうぞ。
【金原氏】
このA・B・Cの分類自体は権利者側である我々が考えたことではありませんので,一体ここで何が意図されているのだろうかというのは,むしろこちらからお聞きしたい内容なんです。例えば,Bの分類で言えば,コピー機の中で一回複製が起きているわけです。それを紙に焼き付けているわけですけれども,こんなものは誰も今まで問題にしてこなかったし,これからも恐らくほうっておいても誰も問題にしないだろうと思うんですが,そのようなことが電子の時代においてはたくさんあるが,紙の媒体の場合は余りないのかもしれないんですけれども,そのようなものについて本当にこのようなことを考える必要があるのだろうかという疑問が一番最初に我々の中でありました。今でもあります。その延長線上に一体どういうものがあるのであろうかというのは,この法制問題小委員会の中でお考えになったことを実は我々はよく分からないんです。むしろ,その辺をもう少しお聞きしたいなと,逆に我々から質問させていただきたい。それはもしかするとこの条文が一体どういうものになるのかということとの関連もあるだろうと思うんですが,そこがよく見えないので,むしろ逆の質問として,一体どの辺までのことをお考えなのだろうかというのは,我々としてお聞きしたいところなんです。
【土肥主査】
どうぞ。
【華頂氏】
映画製作者は,多額の資金を投入して映画という製品を作っています。ですから,その製品の一部あるいは全部が第三者に使用されるときには,必ず対価をいただかないと,ビジネスが成立しないわけです。ですから,映画の利用に関しては,軽微な利用というのはございません。
【土肥主査】
どうぞ。
【酒井氏】
日本映像ソフト協会の酒井と申します。
私どもが提出させていただきました意見の中で,ただ軽微だということだけで権利制限が正当化されるとはちょっと考えにくいと申し述べさせていただきました。個別の権利制限規定を見ても,権利制限をするには,権利制限をするだけの,それが正当だとされるような何らかの理由が必要なのではないか。例えば,報道目的の権利制限ということであれば,報道という表現の自由といいますか,そのような価値があり,それと比較して著作物権利者の利益と利益考量した上で,これは権利制限をしてもいいのではないか,そういう判断が出てくるんだろうと思うんです。ただ,利用の仕方が軽微だとか,そういう量的な問題だけで権利制限が正当化されるというのは,私どもとしてはちょっと考えにくいと思っているところです。
【土肥主査】
では,北田さん,どうぞ。
【北田氏】
今,軽微かどうかということで,量とか時間とか,そういうお話でしたけれども,よくある誤解で,音楽の場合には,2小節までだったら使っていいんですとか,そういうことを言われたり,問い合わせをされたりということが多いんです。それに対しては,これはそうではなくて,これは長い短いではなくて,これは著作物として認識できるかどうか,感得できるかどうか,そこの判断なんですよというご説明をさせていただいております。ですので,長いか短いか,そのことによって量がどうかということで軽微であるとかということは,一切考えておりません。
【土肥主査】
ありがとうございました。
どうぞ,椎名さん。
【椎名氏】
先ほど申し上げたのは,どのような場合が軽微に当たるか,どのような場合が当たらないかということを申し上げたのではなくて,このような書き方だと,権利者に与える影響について特定できるものではないので,このような書き方では困りますという意味で申し上げたので,そこは誤解のないようにお願いします。
【土肥主査】
ありがとうございました。本日おいでいただいた……。
【華頂氏】
すみません。最後に逆質問させていただけますか,一つだけ。よろしいですか。
【土肥主査】
はい,どうぞ。
【華頂氏】
このA類型・B類型・C類型を仮に一般規定としてもしも導入するとなると,A類型・B類型・C類型を包含した形の条文になるのでしょうか。それとも一つ一つをセパレートして条文にするのでしょうか。もしもA・B・Cを包含した形で一つの条文にするのであれば,何かさらにすき間ができて,もっともっと拡大解釈されるというおそれがあると思うんですけれども,その辺はどのようにお考えなんでしょうか。
【土肥主査】
これは現時点で事務局でお答えいただくのか,あるいは本日各団体のご意見を承った後,私どもではこの中間まとめについてどういう形にするかという話になっていくのだろうと思いますので,その中でどの程度,先ほどのご質問を含めて反映できるかということかと思うんですが,いかがですか。
【川瀬著作物流通推進室長】
主査ご指摘のとおりでございまして,まさしく今その在り方についてどうするかということをご議論していただいているところです。その検討結果を踏まえて,その方向性を一番きちんと具体化できるような条文の構造の在り方を私どもで考えていきたいと思っておりますので,今の時点でこのような構造になるというのはなかなか答えにくいということをご了解いただきたいと思います。
【土肥主査】
本日は本当に長い時間ありがとうございました。様々なご意見をちょうだいしたものを私どもとしては受けとめさせていただきたいと思っております。
それでは,本日はこのくらいにしたいと思いますけれども,次回以降の予定等について事務局から連絡事項等がございましたら,お願いいたします。
【池村著作権調査官】
本日は長時間にわたりありがとうございました。
次回の小委員会でございますが,まだ未定でございますので,決まり次第ご連絡させていただきます。
以上です。
【土肥主査】
それでは,改めまして各団体の皆様には厚くお礼を申し上げます。
本日はこれで本小委員会を終わらせていただきます。ありがとうございました。
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