(平成23年第2回)議事録

1.日時

平成23年7月4日(月) 16:00 ~ 18:30

2.場所

東海大学校友会館 阿蘇の間

3 出席者

(委員)
上野,大須賀,大渕,小泉,末吉,茶園,道垣内,土肥,前田,松田,村上,森田,山本(たかし),山本(りゅうじ)の各委員
(文化庁)
吉田文化庁次長,芝田長官官房審議官,永山著作権課長,佐藤国際課長ほか関係者
(ヒアリング出席者)
  1. 一般社団法人日本音楽著作権協会
    北田 暢也(一般社団法人日本音楽著作権協会 常任理事
  2. 社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター
    椎名 和夫(社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター運営委員
  3. 一般社団法人日本写真著作権協会・社団法人日本美術家連盟
    瀬尾 太一(一般社団法人日本写真著作権協会 常務理事,写真家)
    福王寺 一彦(社団法人日本美術家連盟 常任理事,日本画家)
    池谷 慎一郎(社団法人日本美術家連盟 事務局長代理
  4. 一般社団法人電子情報技術産業協会
    榊原 美紀(一般社団法人電子情報技術産業協会 著作権専門委員会委員長,パナソニック株式会社 渉外本部渉外グループ著作権渉外チームリーダー) 
    和田 利昭(一般社団法人電子情報技術産業協会 著作権専門委員会副委員長,株式会社日立製作所 知的財産権本部知財ビジネス法務本部担当部長)
    長谷川 英一(一般社団法人電子情報技術産業協会 常務理事
  5. 社団法人日本経済団体連合会
    広崎 膨太郎(社団法人日本経済団体連合会 知的財産委員会企画部会長,日本電気株式会社 特別顧問
  6. 日本知的財産協会
    上野 剛史(日本知的財産協会 副理事長,日本アイ・ビー・エム株式会社 理事・知的財産部長)
    今子 さゆり(日本知的財産協会 著作権委員会委員長,ヤフー株式会社 法務本部知的財産部マネージャー)
    大野 郁英(日本知的財産協会 著作権委員会委員長代理,凸版印刷株式会社法務本部法務部課長

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)著作権法第30条について(関係団体よりヒアリング)
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1 一般社団法人日本音楽著作権協会提出資料 (148KB)
資料2-1~2-3 社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター提出資料 (2.79MB)
資料3 一般社団法人日本写真著作権協会・社団法人日本美術家連盟提出資料 (304KB)
資料4 一般社団法人電子情報技術産業協会提出資料 (300KB)
資料5 社団法人日本経済団体連合会提出資料 (248KB)
資料6 日本知的財産協会提出資料 (188KB)
参考資料 ヒアリング出席者一覧 (112KB)

6 議事内容

【土肥主査】  定刻でございますから,ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第2回を開催いたします。本日は,お忙しいところ,ご出席いただきましてまことにありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてですけれども,予定されておる議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますが,特にご異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 それでは,議事に入りますけれども,初めに議事の段取りについて確認しておきたいと思います。
 本日の議事は,(1)著作権法第30条について(関係団体よりヒアリング)となっております。それから,2として,その他でございます。
 今回は,先日行われました第1回本小委員会におきまして,委員の方々から著作権法第30条の私的使用目的の複製の権利制限のあり方について,関係団体からヒアリングを行ってほしい旨のご意見をいただきましたことから,本日は,まず関係団体からご発表をいただき,その後にまとめて質疑応答,さらに自由討議を行ってまいりたいと思います。
 まず,事務局から配付資料の確認と本日のヒアリングご出席者の紹介をお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  それでは,配付資料の確認をいたします。
 本日は,資料1から資料6まで,それぞれ議事次第の下半分にございますとおり,資料を配付させていただいております。お手元の資料をご確認いただき,落丁等ございましたらお近くの事務局員までお声かけいただければと思います。
 次に,ヒアリング出席者の皆様方を発表順にご紹介させていただきます。参考資料のほうをごらんいただければと思います。
 まず,一般社団法人日本音楽著作権協会の北田暢也様でございます。

【北田氏】  よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  次に,社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センターの椎名和夫様でございます。

【椎名氏】  椎名でございます。どうぞよろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  次に,一般社団法人日本写真著作権協会の瀬尾太一様でございます。

【瀬尾氏】  瀬尾でございます。よろしくお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  現在,こちらにお越しいただいている途中かと思いますけれども,社団法人日本美術家連盟からは福王寺様と池谷様にお越しいただく予定となってございます。
 次に,一般社団法人電子情報技術産業協会の榊原美紀様でございます。

【榊原氏】  よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  同じく和田利昭様でございます。

【和田氏】  よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  同じく長谷川英一様でございます。

【長谷川氏】  よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  次に,社団法人日本経済団体連合会の広崎膨太郎様でございます。

【広崎氏】  よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  最後に,日本知的財産協会の上野剛史様。

【上野氏】  上野です。よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  同じく今子さゆり様。

【今子氏】  今子でございます。よろしくお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  同じく大野郁英様でございます。

【大野氏】  大野です。よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  ヒアリングでお越しいただいている方々は以上でございますが,最後に,事務局のほうに異動がございましたのでご紹介させていただきます。
 7月1日付で国際著作権専門官に着任いたしました堀洋樹でございます。

【堀国際著作権専門官】  堀と申します。よろしくお願いします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  私からは以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,議題に入りたいと存じます。ご発表に当たりましては,参考資料に記載しておる順にご発表いただきたいと存じます。本日は,全部で2時間半の時間をちょうだいしてございますけれども,質疑応答の時間を確保したいと思いますので,ご発表に当たりましては,できます限り15分の範囲内でご発表いただければと思っております。
 それでは,一般社団法人日本音楽著作権協会,北田様,よろしくお願いいたします。

【北田氏】  日本音楽著作権協会,JASRACの北田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。本日は,貴重な機会を与えていただきましてありがとうございました。お手元の資料1に従いまして,ご報告させていただきたいと思います。
 初めに,私的複製の現状といいますか,音楽の団体でございますので,主に私的録音のほうにかかわる現状と,それから,著作権法30条見直しの検討に向けて留意していただきたい点などについてご報告したいと思っております。
 資料1枚めくっていただきまして,「現状の調査とスリー・ステップ・テストへの適合性の検証の必要性」というふうにしております。
 初めに,こちらにおいでの皆様方,当然と考えられていることだとは思いますけれども,著作権法30条のような権利制限規定というのは,ベルヌ条約などの国際的な基準との整合性,こういったものを図りながら制定されているということは当然の前提だと考えております。
 その上で,少し時代をさかのぼってみますと,録音の部分,私的複製について詳しく検討されたのが,平成3年12月に「著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書」というのがございます。こちらのほうの報告を受けて,現在の私的録音録画補償金制度というのが導入されているわけですけれども,そちらに記載してあることをこちらの上のほうに抜粋させていただいております。
 少し長くなりますけれども,こちらのほう読ませていただきます。
 現行法第30条が私的録音・録画は自由かつ無償であることを規定した背景としては,立法当時において,私的録音・録画は著作物等の利用に関して零細なものであると予想されており,その実態に照らして著作物等の通常の利用を妨げず,かつ,著作者等の利益を不当に害しないものであると考えられたからである。そして,これらの実態を踏まえれば――これはデジタル録音が普及してきているという事態を踏まえると――私的録音・録画は,総体として,その量的な側面からも,質的な側面からも,立法当時予想していたような実態を超えて著作者等の利益を害しているという実態に至っているということができる。さらに今後のデジタル化の進展によっては,著作物等の「通常の利用」にも影響を与えるような状況も予想され得るところである。これらのことを考慮すれば,私的録音・録画について,現行第30条による権利制限の状態を見直し,「著作者等の権利の保護」を図るため,制度的な措置を講ずることが必要となっている,というふうに記載されております。
 こちらにありますように平成3年,1991年の当時で既にデジタル録音の普及によって,総体として著作者の利益を害しているという状態になっているんだと。それが,さらに今後のデジタル化の進展によって,著作物等の通常の利用に影響を与える,そうなるであろうということをここで既に予見して制度を導入しましょうということを言っているわけです。
 このような報告に基づいて,1993年,平成5年に私的録音録画補償金の制度が導入されたわけですけれども,その私的録音補償金の受領額,これは,JASRACの受領額ですが,これが下のほうに赤いグラフで記載しているものでございます。
 こちらのほうは,2001年にJASRACが受領する補償金の額は約11億円,ここがピークでございまして,その後,2010年,これは昨年度ですけれども,9,300万円相当にまで急激に減少しているという状況が現在の状況でございます。
 これが第10小委員会で言われているような通常の利用に影響を与えるというような状況が,ここの私的録音補償金の受領額と同じように,そういう私的複製,私的録音の状況も減っているんだというようなことであれば,これはいたし方ないことだと思います。ところが,それがほんとうにそうなのか,そうでないのか。それについては,現在も私的録音補償金制度は,ご承知のように機能不全というふうにまで言われております。こういう中で,改めて私的複製の実態がスリー・ステップ・テストに適合しているのかどうなのかということを検証してみることが必要なのではないかと考えております。
 1枚めくってください。「CD等の使用料の減少とデジタル複製機器の普及」というふうに題しております。私的録音,私的複製というのは,極めてプライベートな空間で行われるものですから検証するのもなかなか難しいと思いますが,私どものほうで短期間でそろえられる資料をもとにスリー・ステップ・テストへの適合性というのがおおむねどんな感じになっているのかというのを検証してみたのが,こちらのペーパーでございます。
 左側にグラフがございます。左側のグラフで黄色い棒グラフがございますけれども,こちらの黄色い棒グラフは,JASRACの著作物使用料のうちCDなどのいわゆる録音使用料。オーディオディスク,CDですとか,それからカセットテープで音が入っているものが売られたりとか,それからICチップなどのいわゆる録音使用料の徴収額がどのように推移しているのかというのが,1991年ですから,これは,先ほどの第10小委員会で報告があった時点から昨年度までの推移を示したものでございます。
 このグラフ,1997年ぐらいから赤いのが少し上のほうに加わっております。この赤い部分は,1994年から受領を開始しております私的録音補償金の額をその上に重ねたものでございます。
 それから,右側にいきますと青い部分がございます。こちらが音楽配信の使用料ということで,CDにとってかわってダウンロード配信なんか音楽配信が行われておりますけれども,こちらがこの青い部分ということになります。
 皆様方,JASRACの著作物使用料の徴収額というのは――CDの売り上げが相当落ち込んでいることについてはかなり報道されておりますけれども,JASRACの著作物使用料については,ここ3年ほど使用料額は減収を続けているんですが,それでもそれほど大きな減少には至っていないというような印象をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。それというのは,やはりカラオケの使用料の徴収が進捗したりとか,その他のもろもろの努力によって維持しているという状況でございまして,こちらにありますように,いわゆる録音関係の使用料というのは428億円,こちらのほうが1998年の使用料ですけれども,そこをピークにいたしまして,2009年の時点で227億円,2010年で207億円,これは,音楽配信なども含めてですけれども,このように使用料は大きく減少しているというような実態でございます。
 音楽配信がCDの使用料にとってかわって普及しているのではないかというようなご意見もあろうかと思いますけれども,こちらのグラフをごらんいただければおわかりになりますとおり,到底,CDの使用料を補完するようなものにはなっていないというのが現状です。
 その棒グラフのほかに,今度は折れ線グラフで3つほどグラフを示しております。一番上から携帯電話,それからパソコン,それからデジタルオーディオプレーヤー,これらの普及台数ということです。ここの台数をどのように出しているかというのは,右側のほうに示したとおり,JASRACで推計したものですので,あまり正確な数字ではなくて,おおむねこのようなイメージというふうにとらえていただければいいと思うんですが,それほど一般の感覚と異ならないと思います。
 携帯電話,パソコン,デジタルオーディオプレーヤー,これらの商品というのは,現在,私的録音を行うに当たって,いわゆる中心になるような製品だと思います。パソコンですとか携帯電話のすべてが私的録音で使われているということではもちろんありませんし,そういった機能のないものも当然あろうかは思いますけれども,ただ,今現在の私的録音の形態は,これらの製品によって行われているのがかなりの部分を占めるのだと思います。
 これを重ね合わせてみますと,ちょうど製品の普及が増えていくのと反比例して使用料の徴収額が大きく減ってきているというのは,こちらのほうで見てとれると思います。
 その右側に,日本国内の主な出来事というのを記載しております。これは,1991年に私的録音録画補償金制度が導入されて以降の出来事でございますが,1992年にミニディスクが発売され,これが93年に私的録音録画補償金制度が導入されて,補償金の対象になっているということでございます。
 その後,技術的保護手段回避複製違法化などがございましたけれども,同じ年にアメリカでファィル共有ソフトのNapsterが登場しています。
それから,2001年にiPodが発売され,2002年にWinny,これもファィル共有ソフトです。これが普及したことによって,ファイル共有ソフトでの音楽の違法ダウンロードというのが非常に顕在化してきたのが2002年以降ということでございます。
 それから着うた配信が開始,それからAmazonのマーケットプレイスというのが開始されています。これは,中古の取引をインターネット上で行うということで,CDを買ってきて,これをデジタル化してパソコンなどのハードティスクに取り込んで,そのまますぐに売ってしまうというような現象もこのあたりから出てきております。
 それと,2004年に着うたフルの配信が開始されました。携帯電話での音楽配信ということで非常に支持されて,音楽配信が行われたわけですけれども,それと同時に,着メロの時代にはなかった携帯電話での違法ダウンロードというのがここで起きてしまっている,深刻化してきているということでございます。
 それから,2005年にはiTunesMusicStoreがサービスを開始しております。それから,YouTubeもサービス開始。現在,YouTubeからの違法ダウンロードが非常に顕在化しているということはご承知のとおりだと思います。
 それから,2007年,iPhoneが発売されております。現在,iPhoneではありませんけれども,スマートフォンの中には,違法サイトから直ちに音楽がダウンロードできるというようなアプリケーションをダウンロードできる機能を持っているものもかなり普及しております。2010年,違法配信からのダウンロードの違法化が施行されたということです。
 こちらのそれぞれ起きた出来事を左側のグラフと引き合わせてみますと,1999年のNapsterが登場して,それから2001年にiPod,それから2002年にWinnyが登場した。これらの時期と時を同じくしてCD等の使用料も大きく減少を続けているということで,この間に私的録音のもととなるソースが次々とデジタル機器の普及によって非常に多様化して普及している。それから,録音するための機器,携帯電話,パソコン,デジタルオーディオプレーヤーなどが次々に普及しているというのが,1991年以降,日本で起こってきている実情だということでございます。
 1枚めくっていただきまして「著作権法30条の見直しの検討にあたって」ということで,今お示ししましたグラフ等につきましては,短期間で,こちらのほうで集めた資料に基づいてつくっておりますので,それほど精緻なものではございません。
 1番目の「私的複製の実態のスリー・ステップ・テストへの適合性の検証」ということです。私的複製という事柄の性格上,民間の団体ですべてきちっと実態を調査することは非常に難しいと思います。ただ,第10小委員会で当初指摘されたことをきちっと検証していこうということであれば,現状の実態を国のほうで一度きちっと実態を調査する必要があるのではないか。これも継続的に行っていく必要があるのではないかと思っております。それから,その実態調査の結果を踏まえたスリー・ステップ・テストへの適合性の検証というのも必要だと思います。
 次が「私的録音録画補償金制度の見直し」ということで,当初,私的録音録画補償金制度は,先ほどの報告書にありましたとおり,デジタル化の進展を見据えて導入された制度であったはずで,その制度がきちっと機能していて,次々と登場してくる機器が適宜対象機器に指定されているということが適切に行われていれば,今日のような状況には至らなかったんだと思います。
 現在,ある意味ではストップしちゃっているような状況でございますけれども,私的録音,あるいは録画の補償金の対象になっていない機器を早急に対象化して,私的録音録画補償金制度を立て直すということをぜひ緊急的にやっていただきたいと思っております。
 それから,マル2でございますが,これと並行して,やはり私的複製の実態というのが,これまで考えられていたものとは大幅に変わってきているというのは共通した認識だと思いますので,その私的複製の総体,質と量に見合った新たな制度を構築する必要があるのではないかと考えております。
 その上で,制度的な検討に当たって念頭に置いていただきたいということで4点挙げさせていただいております。
 インターネット上の違法なソースからの複製を防止するための対策ということで,補償金制度の実効性を持たせるということと同時に,違法サイトからの複製,違法ダウンロードが非常に深刻でございます。これに対して例えば違法サイトへのアクセス遮断ですとか,いわゆるスリーストライク制度,こういったものの導入も我が国では残念ながら全く検討すらされていない状況でございますので,その是非はともかくとして,少なくとも検討に入っていただきたいと考えます。
 それから,マル2が中古市場,先ほど申し上げたAmazonマーケットプレイス等でございます。これらの書き込みを見ますと,「私はPCで1回ダウンロードしただけなので,とてもきれいな状態だから,ぜひ買ってください」とそんな書き込みもあるような状況ですから,中古品の流通自体が悪いということではございませんが,こういったことも当然,補償金制度が実効的に機能しているという前提で考えるべき事柄だと思います。
 それから,非営利無料の貸与,図書館等でもレンタルされている実態,これらについても念頭に置く必要はあるだろうと思います。
 4番目が30条1項1号制定当時の自動複製機器をはるかに超える複製機能を有した機器,こういったものが一般に大量に販売されている。30条1項1号というのは,ご承知のように公衆の使用に供されるということが目的の自動複製機器が対象になっているわけですが,制定当時,貸しレコード屋さんで借りてきたものを高速ダビング機で簡単に録音してしまうのは,ちょっと幾ら何でもおかしいだろうという前提で制定されたものだと思います。現在,市場に流通している録音機能を持つ機器は,その当時の高速ダビング機器などよりもはるかに高性能な自動録音機器といってもいいような,パソコンに携帯電話をつなげば,そのまま自動的にすべてのものが携帯電話のほうに録音されてしまうとか,あるいはカーナビにCDを入れると,聞いているうちに自動的に録音されてしまうとか,その当時の高速ダビング機をはるかに超える機能を有したものもあるというような,これらも1つには補償金制度がそもそもきちっと機能しているということが前提であるべき製品だと思っております。
 今後の30条の見直しの検討に当たっては,これらのことも十分念頭に置きながら検討いただければと考える次第でございます。
 簡単でございますけれども,当初,30条についての検討ということですので,もう少し長期的,あるいは大所高所に立ったご意見も申し上げたいとは思ったんですが,特に録音に関しましては補償金の問題を抜きにして考えることはできないのではないかということで,このようなご報告をさせていただいた次第でございます。
 私からは以上でございます。ありがとうございました。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センターの椎名様,よろしくお願いいたします。

【椎名氏】  芸団協,CPRAの椎名と申します。本日は,貴重な機会をいただきまして感謝申し上げます。
 30条についてということなんですが,私のほうも私的録音録画補償金制度,とりわけ録音補償金制度に関するお話をしてまいりたいと思います。
 昨今の技術の進歩というのは,我々実演家も含めてコンテンツを生み出していくクリエイター全般に大きな影響を与え続けているわけですが,ユーザーの利便性の向上ということに関して,我々クリエイターがネガティブな考え方を持つ理由はどこにもありませんし,その恩恵を受ける当事者でもあります。しかし,利便性が向上したことによって,クリエイターがコンテンツを創造するサイクルに何らかの影響が生じる場合には,その利便性の向上ということと創造のサイクルの維持という,一見矛盾する2つのテーマの間を調整する機能を社会が持っていてもいいのではないかと考えております。
 そういう前提に立ちまして,それらを調整する機能の象徴的なものとして補償金制度があると考えているんですが,もう何年も前から,その制度が複製の実態から乖離してきちんと機能していないという点について見直しをお願いしているんですが,なかなか解決に至っていないということで,本日は,その関連についてお話をしたいと考えています。
 まず,検討の経緯ということなんですが,もともとは平成16年に,当時,岡本著作権課長のもとで補償金制度見直しの検討というものが2回ほど開かれまして,本格的に補償金制度の見直しの議論が始まったわけでありますけれど,その後の17年1月24日の著作権法に関する今後の検討課題という中で,1枚おめくりいただきますと,そこにございますが,私的録音録画補償金制度の見直しということで,ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定に関して実態を踏まえて検討する。
 2,現在対象となっていない,パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ,データ用CD-R/RW等のいわゆる汎用機器・記録媒体の取り扱いに関して実態を踏まえて検討する。
 3といたしまして,現行の対象機器・記録媒体の政令による個別指定という方式に関して,法技術的観点等から見直しが可能かどうか検討するということで問題提起されまして,それを受けて平成17年になりまして,この法制問題小委員会の場で,いわゆるiPodの取り扱いの是非という形で議論が行われました。
 当時,関係当事者を排して専門的な議論を行うということで,権利者やメーカーさんなどの当事者が参加しない形で議論を行うんだということが実行されまして,このこと自体は著作権分科会としての大きな見識でもあると思うし,今さら異議を申し上げる立場には全くないんですが,実際に行われた議論の中では,当事者として私的録音の権利者がメンバーとして参加していない一方で,一方の当事者であるメーカーのOBの方や,消費者の代表の方々がメンバーとして参加されているという,いささか偏った構成での議論が進むことになったと考えています。
 その結果,その下にありますけど,18年1月に出された著作権分科会報告書においては,このように赤字で書いてありますけれど,補償金制度に関して,「その廃止や骨組みの見直し,更には他の措置の導入も視野に入れ」という話に突然なってしまいます。。実態に合わないから,それらの実態に対象機器を合わせましょうという議論から,いきなり廃止や骨組みの見直しというところに180度転換してしまったわけです。
 それ以降,どのようなことになったかというと,専門家が判断するんだという方針だったのがいきなり変わっちゃいまして,あくまでも利害当事者を集めて議論させるという形に転換いたしまして,平成18年4月に私的録音録画小委員会が設置されまして,以後,平成20年12月に至るまで,都合30回にも上る議論が行われたということでございます。
 その議論の成果として,平成19年10月12日には「文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理」,同じく12月18日には文化庁提案「私的録音録画と補償の必要性に関する考え方の変遷」,翌年20年1月17日には「著作権保護技術と補償金制度について(案)」という形で,文化庁が調整案を出す形になりますが,結局は,土壇場になってメーカーさんがこれを一方的に拒否するということで,30回にも上る議論は,これっぽっちの成果も見出せないままに終わったしまうことになります。
 その後の平成21年1月の文化審議会著作権分科会報告書においては,「18年1月の提言内容は変更する必要はないが」とわざわざ書いてあるんです。それは廃止や骨組みの見直しということなんでしょうか?,しかし一方で,「問題解決のための緊急性はより増していると考えられる。今後は,課題の緊急性にかんがみ,議論を休止するのではなく,新たな枠組みでの検討が適当である」というふうに書いてあるんですが,結局は,関係者合意というところに陥ってしまったわけです。関係者合意でしかこの問題は解決しないという姿勢に凝り固まってしまいまして,以後ずっとそのままに無駄な時間が流れ続けているなというのが実感でございます。
 この「廃止」という言葉が出てきた点について,補償金制度を廃止することが可能であるという理由で,この議論の中でずっと言われてきたことは,おおむね次のページの2つに集約されると考えています。
 まずは著作権保護技術による解決ということで,技術もさまざまに進歩して複製をコントロールできるようになったんだから,もはや補償金制度は不要であるという議論でございます。この点についてほんとうにそうだったかと考えてみますと,音楽CDからの録音では著作権保護技術は全く機能しておりませんし,今もコピーフリーの状態であって,なおかつ音楽配信からも一定の複製を行うことは可能でございます。また,録画においてもダビング10の範囲での録画が可能であることから,制度を廃止することを可能にするような著作権保護技術というのは,今もって存在していないということが言えるんじゃないかと思います。
 また,もし今後,厳格な複製制限が行われた場合には理論的に廃止は可能だと思いますけれど,おそらくそんなことを望んでいるステークホルダーは,メーカーさんも含めて存在していないはずでございます。
 もう一つの議論として,個別の課金による解決というのがありました。しかしながら,それが議論されて6年もたった今になっても,個別の複製を検知して課金を行うシステムなど存在しておりません。さらにネット配信については,配信の対価に私的複製分も含めて課金できるんではないかという議論がありまして,実際に文化庁が示した調整案においては補償の範囲から除外するとされていたわけでありますけれども,専らプラットフォーム側の事情によって形成されているネットにおけるコンテンツの価値相場のもとでは,仮に複製の対価を含めることが可能だとしても,その相場の中でのことにすぎず,さらに値づけの裁量権をプラットフォーム側が握っている形も多いことから,結局はコンテンツの経済価値の相対的下落をさらに加速させる結果を生むだけであって,本質的な解決にはならないと思います。
 つまり,私的録音録画補償金制度の趣旨は,デジタル方式の私的録音録画が権利者に与える不利益を補償することにある以上,デジタル方式による私的録音録画の全盛期とも言える現在,補償金制度を廃止することが可能な解決策は存在していないということになります。
 先ほど来,JASRACさんがおっしゃっていましたように,録音に見られるように私的録音の実態と制度の乖離が常態化している現状はむしろ異常事態でありまして,まずは,この点が可及的速やかに解決されるべきではないかと思います。
 権利者に影響を与えるデジタル方式による複製というのは,既に個別の機器,媒体にとどまらずに,それらが組み合わされたり,あるいはソフトウェア,通信等,その他の手段と複合的に組み合わされたりすることにより広範に行われておりますので,そうした実態を継続的に広く捕捉し得る制度として補償金制度を再構築するべきと考えております。
 そういうお願いを念仏のように繰り返しお願いしてきているわけですが,なかなか進まない著作権法制がどうなっているかということで,次のページを見ていただきたいと思います。
 2003年7月策定の知的財産推進計画以降を見ると,インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図る措置(平成21年改正)や時代の変化に対応した権利制限等(平成18年改正)として,権利制限規定の新設または拡充などをする多数の法改正が行われているわけでございます。
 ここに例示しておりますインターネット販売等での美術品の画像掲載から始まりまして,入力型自動公衆送信による放送の同時再送信に係る実演家及びレコード製作者の送信可能化権の制限など,さらには今後,権利制限の一般規定の法制化予定。知財計画2011には,「我が国におけるコンテンツのクラウド型サービスの環境整備を図るため,法的リスクの解消を含め,著作権制度上の課題について整理し,必要な措置を講じる」という施策も掲げられております。
 別の資料,資料2-3でございますが,知財計画における私的録音録画補償金制度に関する記述の部分を拾ったものがありますけれども,ざっと見ていただければわかりますように,2003年には2004年度以降に法改正すると書かれていたのに始まりまして,2006年には2006年度中に結論を得る。以降,2007年には2007年度中に結論を得ると,毎年,毎年,延ばし延ばしになってきております。
 知的財産推進計画から与えられた権利制限規定などの宿題は着実に実行される一方で,私的録音録画補償金の見直しという宿題は,おろそかにされ続けているんではないかと思います。
 権利制限規定の新設,または拡充などによって著作物の利用の円滑化を図ろうとするばかりではなくて,著作権制度における権利者側の課題は一向に解決されないという,ある種のバランスを欠いた状況が生まれているんではないかと思います。
 一方で,我々権利者も権利者なりに権利の集中管理を進めて窓口一元化,著作権でありますとCDCさんでありますとか,実演家でありますとaRmaでありますとか,そういった流通円滑化への取り組みを応分に負担している中で,いたずらに権利を制限するばかりではなく,権利者の保護・拡充に向けた法制度の整備もそれに均等して実現されていくべきではないかと思っています。
 そういう意味から,少なくとも文化審議会著作権分科会という場所が我が国の文化のグランドデザインを著作権という角度から描く場所なのだとすれば,利害当事者間協議に任せ切りにするというような手法はとるべきではないと思うし,まさに私的録音録画補償金制度の問題がそういった不毛なドグマから一歩も抜け出せないままにいることが残念でなりません。
 今,権利者が置かれている現状ということで,次のページになりますが,平たく言ってみれば,音楽や映像に限らず,コンテンツの提供に係るさまざまなビジネスモデルが違法,適法の別を問わないユーザーによる複製,共有や,さらにそれらを代行するプラットフォームによるサービス等で代替されていく状況がますます既成事実化している。ここについては,もう議論の余地がないと思うんです。そういう中で,著作権制度上の課題の解決に当たっては,利便性の確保のみに偏ることなく,やはり創造のサイクルの維持を絶えず意識する中で,例えば権利者が喪失するものと得るもの,それらと創造のサイクルの維持との関係を絶えず意識する中で,高い視点から議論していただく必要があるのではないかと考えているわけです。
 相変わらず関係者合意を目指すとされているこの問題は,塩漬けになってしまっているんだなという感じを持たざるを得ないわけであります。
 録音補償金制度に関しては,先ほど来申し上げておりますとおり補償金制度が全く機能していない。一方で,権利者の失っているものがかなり大きい。音楽を固定した有体物を頒布するというビジネスモデルがユーザーによる複製,共有などの行為や配信プラットフォームによるさまざまなサービスに代替されようとしているわけです。そのおかげで音楽ソフト産業は,2000年を前後にシュリンクを続けています。そんな状況を少しでも緩和するはずだった補償金も全く同じ時期に,同じカーブを描いて減少し続けてきたという,さっきのグラフもありましたけれど,この10年間ほどで権利者が手にできなかった補償金の意味合いと重みは決して小さなものではないと思います。
 そういう状態が続いた結果,音楽制作に携わっている人間にとって文字どおり冬の時代ということで,これは,アーチストもスタッフもそうですが,たくさんの優秀な才能ある人たちが音楽活動や音楽制作だけで生計が立てられずに職を離れるという現象がますます加速しています。新人を発掘するということはあっても,育成教育という部分にはお金がほとんど回らないようになっています。
 こうした現象について,確かに音楽産業全体で新しいビジネスモデルが切り開けていないからだというふうに一刀両断にしてしまえば,それまでのことなんですが,それで終わってしまっていいんでしょうか。まずは創造のサイクルを維持するという観点から,何より機能しなければならなかったはずの私的録音補償金制度をまずは機能させて,ここで創造のサイクルを根絶やしにしてしまわないようにすることが重要だと思います。
 まずはそれをやった上で,今度は,コンテンツ全体に係る利便性の確保と創造のサイクルの維持という大きなコンフリクトについて,さまざまに登場する類型について,それを個別の議論でいいのか,はたまた包括的な大きなソリューションを導入するのかというようなことも含めて,専門的な視野から時間をかけた議論をする必要があると思いますが,音楽にとっては,もはやそんな悠長なことを言っている時間はないんです。私的録音補償金制度を適正なレベルにまで手直しをして,回復させていただきたいと切に思います。よろしくお願いします。
 最後の付録のページには,先ほども引用しまた平成17年1月24日に出された「著作権法に関する今後の検討課題」の中で,今後は関係当事者の議論に任せるんじゃなくて,文化審議会の専門性と責任において課題の検討を進めていくという考え方が高らかに示されている部分でございます。時間もありませんので読み上げたりはしませんけれど,なかなか示唆に富んでいる部分だと思いますので,後ほどじっくりとご高覧いただければ幸いです。
 またあわせまして,本日,資料としてお持ちしております私どもCPRAで発行しておりますCPRAnewsの最新号に各国の補償金制度に関する最新情報をまとめておりますので,これもあわせてごらんいただければと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして一般社団法人日本写真著作権協会,瀬尾様,社団法人日本美術家連盟,福王寺様,池谷様,よろしくお願いいたします。

【瀬尾氏】  写真著作権協会の瀬尾でございます。きょうは,このような機会をいただきましてありがとうございました。きょうは美術家連盟さん,それから私ども写真著作権協会のいわゆる画像分野のところからいろいろお話をさせていただきたいと思います。
 きょうのお話の中で,法制問題小委員会の皆様にどのようなことがお伝えできるかということで,実際の画像という非常に重たいデータをどうやって家庭内で生成して,どのように編成しているのか。そして,今現在,家庭の中でどういう複製が行われているかということについて,可能かということも含めて,家庭内での複製の実態を,画像を例にとってまずはお話しさせていただき,その後,私どもからこのようなシステムによって全体が再構築されればよろしいんではないかというご提案をさせていただきたいと思います。限られた時間でございますので,わかりにくいところがあるかもしれませんが,その点は平にご容赦いただきたいと思います。
 また,今回,美術,写真ですが,グラフィックデザイン等も含めた画像全般のお話としてご理解いただけばよろしいかと思いますし,僭越ですが,美術さんの分も含めて瀬尾がお話をさせていただきます。
 まず最初に,画像というのは非常にデジタル化が大変な分野でございました。なかなか重たいデータで,それは伝送することも非常に難しい。さらに,写真というのはさらにデータが非常に重くなる傾向がございましたので,それができるようになったというのが1つの大きな流れです。ただ,現在,ほとんど実用的な写真の状態においては,ほぼ99%といってよろしいかと思いますが,デジタルが仕事として整理しております。ことさらフィルムである必要性がある分野というのは非常に限られた分野になってしまっております。
 ただ,依然として,例えば美術家さんの場合なんかはオリジナルが流通するというような業態をとっていることも確かです。つまり,オリジナルそのものが流通する市場と,それからデジタルによる実用化の画像が流通する,この二極化が起きているということが言えると思います。
 このようなことができるようになった背景には機器の進歩がある。これは,皆さんもご理解いただいていると思うんですけれども,具体的に申し上げますと,ちょっとここのところに書いてありますが,メモリ,ハードディスクの価格。実際,私が買った金額を拾い出しただけなので,実売価格で公なあれではないんですけれども,20年前,10年前と比べまして,例えばメモリは17年,18年前,1メガ当たり9,300円程度していたものが,10年前になりますと1メガ78円に落ちます。そして,現在,5.5円にまで1メガ当たりの単価が落ちています。これは,でこぼこある金額の私が買ったものの比較ですのであれなんですが,性能とは違う容量の話ですけれども,これぐらい進歩している。つまり,1,700倍ぐらい,17年前から見ると容量だけでも進歩しております。
 これから考えていただきますと,現在の家庭用機器というのは明らかに20年前のプロ仕様を数倍超えている,もしくは数十倍超えていると言えると思います。それまでは処理能力が相当高かったものじゃなければできなかった20年前のものが,今,5,6万円で売っているものが明らかにできるようになってしまっている。
 そんな中で,では,画像データはどうなんだというと,実はA4を印刷するに当たっての画像データというのは,20年前も現在もほとんど必要とされるデータ量は変わっていません。つまり,20年前にプロが使っていたA4全面の画像というのと同じ質の画像が今でもA4全面の場合に使えるということです。つまり,昔はプロができていたそれが,家庭用の中でも簡単に動くということになっているんです。
 もう一つ,ここで言えることは,単純に機械がよくなっても,実は技術ということがあります。例えば画像をスキャンしたり,それから補整したりするのは非常にテクニックの要ることでした。ところが,機械がそれだけ高性能になっていくと,単純に機械の中で動くソフトも高性能化していく。つまり,自動でほとんどのものが補整されていくような時代になってきているということです。つまり,機器が進歩し,ソフトが進化する。そして,さらにもう一つ言えることは,インターネット上で情報の共有が行われます。これによって困ったときにはネットに聞く,困ったときにはネットで探す。そうすると,その問題解決のイシューが非常に手に入りやすくなってきている。
 そのような状況の中で,一般の方でも大容量の画像を非常に簡便に,しかも日常的に扱うことができるようになってきているんです。これは,画像においてもこういうことでもありますし,当然音楽においてもそうですし,今,出てきています電子書籍と言われることにおいても非常に軽くなってきているということが言えます。
 ですので,昔は家庭の中でというのは,例えば画像であれば,カメラを使って撮るしかなかったんです。しかもフィルムを使って撮る。ライティング1つにしても,複写というのはたやすそうで,なかなかたやすいものではございませんでした。だけど,今は,色のバランスその他を含めて,ほんとうに簡単に複写できてしまいます。
 さらに,スキャナーも昔は何十万円していたものが,同じかそれ以上の性能が1万円,2万円で買える時代になってきている。しかも,テクニックなしにほとんど自動補整でそれが撮れる時代になってきた。つまり,家庭の中というのは,非常に劣った状態のものが少量だけ複製できるという状況では決してない。つまり,家庭の中で昔,プロが大量にやっていたのと同じか,それ以上の状況が簡単に実現できるようになってきているということです。
 我々音楽ではありませんけど,よくなされていることに音楽CDとかDVDを買ったときに中身だけをコピーするんではなくて,ジャケットとか,体裁物をすべてスキャナーにおいて全く同じようにつくる。というかCDの盤面すらもコピーする。そういうソフトもあるわけです。そうすると,全く体裁から中パンフレットから,昔ではプロでも非常に大変だったことが一般家庭の中で非常に容易に行われてしまうぐらい機器の進歩は進んでいるということが言えます。
 写真に関してもそうなんですが,もともとのアナログからもそのように非常に精巧なコピーができるんですが,実はもとがデジタル化してきているということを先ほど申し上げました。つまり,完全コピーというのが非常に容易なんです。これは幾らでも増えます。ですから,最初のアナログをデジタル化することですら機器の進歩で可能になってきているのに,さらに文書から音,画像,すべてがデジタル化がオリジナルになったときには,もう家庭内というのは,ほんとうに大量にかつ精緻な複製ができる状態になってきている。それは,多分,もう実現しているんだと思います。
 このようなことがあって,しかも,先ほど申し上げたようにもとのデータというのは大きさがあまり増えませんから,多分,どんどん容易になっていくと思います。容易かつ精緻になっていく。これは,もとのデータが増えれば,逆に大変になってくるかもしれませんけれども,もとのデータは増えませんので,印刷にしても音源にしてもほとんど同じような状態ですので,今後ますます容易になっていき,精緻になっていくだろうということは申し上げられると思います。
 写真というのは,比較的データが細かいので,ここまでなるかなとはあまり思っておりませんでした。その必要もないのかなと思っていましたが,基本的にはオーバースペック,オーバースペックという機械の方向,スペックが上がったほうが売れるということで,ほんとうにかなり精緻な部分まで上がってきていると思います。
 そのような中で,実際に皆さんが家庭の中での複製を考えられるときに,家庭というのがそのように精緻な複製ができつつ,かつインターネットで公表できるということです。つまり,家庭というのは昔は閉じられていましたけれども,今は家庭が閉じられているのではなくて世界とつながるような,ネットによるデッドエンドではなくなってしまっているということです。そのような危険性もきちんと考えた上で,家庭内というものの私的利用の範囲というものをお考えいただかないと難しいのではないかと思います。
 昔の発表の方法というのは,例えば画家さんでも写真家でも個展を開く,画集をつくる,写真集をつくる。これは,限られた人間にしかできませんでしたけど,今はネットで公表することが非常に容易です。それも完全な公表になりますし,普通の方がすぐに公表することができる。そういう状況も招いているということです。
 このような状況をトータルして考えてみると,私的利用に関してのデジタル化と,それから技術進歩による容易化,それが少量かつ限定的であるという時代が明らかに終わったというのが客観的な事実として言えると思いますので,その中で私的な利用というのはさらに何かというふうにお考えいただければよろしいのかなと考えます。
 このようなことを前提にした上で,では,どのようにしたらよろしいんだろうということを考えます。
 まず最初に申し上げたいのは,私的な利用というのは残されるべきではないのかなと考えています。つまり,1つずつ課金をして,すべてお金を払い,一々許諾を受けるというような形をすべての範囲においてやるというのは,ユーザーにとっても,権利者にとっても,中間の業者にとっても利点はあまりないのではないのかなと考えております。
 ですので,私的な利用という限定された範囲を現に決めた上で,その中である程度使えるという制度はあるべきなのではないかなと考えております。
 ただし,そのような中で,たくさんの矛盾が出てきます。要するに,粗いからいいやとか,そのようなことが言えないとすると,何らかの制度が必要だと。というのは,どういうことかというと,今まで私的録音録画の制度ということはJASRACさんもCPRAさんもおっしゃっていましたけれども,これは,デジタルで精緻かつ大量に複製ができかねないので,補償金が必要であるという理論だったと思います。これが全般にいった場合どうなるのか。これは,1つの試案ではありますけれども,こういう現状をかんがみた場合には,非常に広くて浅い補償金制度のようなもので創作のサイクルを補うのが望ましいのではないかと考えています。
 その広くて浅いということに関しても,ただ機械に全部上乗せすればいいんじゃないかという単純なものではなくて,それだと今までの議論のように,単純にこれはメーカーの負担になっちゃうんじゃないか,コスト増になるんじゃないかという懸念も出るかもしれません。だから,それは,また考えるにしても,ただ,メーカーさんの負担増でもなく,広い範囲において複製機器に対して何らかの補償金制度を設ける。そして,それをきちんと集約するシステムをつくって,今後のデジタル時代に備えるべきではないのかなと考えております。
 これは,写真とか画像もそうですけれども,例えば今度は書籍もあります,音楽もあります。すべてのものに関してデジタルの時代に対応するためには,今までのような細かく,かつ限定的な対応では難しいだろうし,今後の電子書籍が広まったとき,我々画像も非常に大きな影響を受けます。今より以上にコピーができます。スキャナーは,まだそんなに広まっている機器ではありませんけれども,カメラで今撮りますが,カメラが1つの立体スキャナーであるという事実は皆さんもご存じかと思います。つまり,バーコードを撮ったり何なりして,スキャナーと同じように立体を撮れる,そのようなものがカメラとなってきている状況もあります。
 ですので,そのような中で何らかの措置を考えていかないと,ほんとうに電子書籍を含めたすべてのコンテンツがデジタル化してときに創作のサイクルが崩れることを懸念いたします。
 今現在,画像分野というのが私的録音録画の補償に参加しておりませんし,私的領域ということで,いろいろな問題がございますけれども,その私的領域の内容についても,昔のように閉じられた私的領域だけではなくて,インターネットによって常に外と隣り合わせているような私的領域というものについてはご検討いただきたいと思います。
 これは,利用するほうも,どこまでが私的領域かということがはっきりわかってくるような制度でないと,安易に利用者が間違えてしまうような制度だと,やはり混乱を招くんではないかなと考えています。
 簡単ではございますが,画像のデジタル化とそれに対する我々のご提案ということでお話をさせていただきました。私どもからは以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして社団法人電子情報技術産業協会,榊原様,和田様,長谷川様,よろしくお願いいたします。

【長谷川氏】  ありがとうございます。JEITAでございます。本日は,このような機会,特に30条全体のあり方について私どもの意見を述べさせていただきます機会を設けていただきまして,まことにありがとうございます。
 私どもユーザーの方々と権利者の方々の間を技術でつなぐという役割を果たしていると思っておりますので,特に技術の進展に伴う30条の新しいやり方ということについてお話しできることを光栄に思っております。
 時間もございませんので,私どもJEITAの著作権専門員会の榊原委員長から詳細にご説明させていただきます。

【榊原氏】  榊原でございます。お手元の資料の4に沿ってご説明させていただきます。資料4の1ページ目の1のところからスタートさせていただきます。
 まず,30条の使用する者が複製できるという要件に関しましては,書籍,音楽,映像等のコンテンツについて,ユーザー側にはメディア変換に対する強いニーズがございます。しかしながら,30条のもとではみずからコピーすることを要求されておりますので,その利便性を十分に享受できないということに現在なってございます。
 例えばでございますが,ユーザーの方が保有する多数のVHSテープをDVDであるとか,ブルーレイといった別の光ディスクに複製して保存するということも,みずからすべて行う必要が生じますので,事業者等に依頼することができないということになっております。
 これでは技術の発展によって新しいメディアがせっかく出現したにもかかわらず,ユーザーの皆様には古いテープと古いプレーヤーをいつまでも保有することを強いてしまうということも起こり得ます。実際にメーカーの方に対してはユーザーからこのようなニーズの声が届いております。また,メーカーにとりましても,いつまでも古いプレーヤーの部品を保有して保守,修理のサービスを継続するということが大きな負担にもなりかねないという点もございます。
 従いまして,時間や労力をかけられない人やかけたくない人,それから,そもそもみずからできない人といった,そういうユーザーの方々のために事業者に依頼することを認める意義は大きいのではないでしょうか。
 この点は,ユーザーが事業者の支援を受けますと,高速で広範な複製の結果,権利者の方々に経済的な損失が生じるということで,30条が許容した零細な複製にとどまらないんではないかという批判もあり得るかと思います。しかしながら,実態を見ますと,事業者がユーザーの手足になって複製するだけの場合,さっきのメディア変換の例では,メディア変換後には古いテープと古いプレーヤーというのは,おそらくともに処分するために行うと推測されますので,もともとユーザーが保有していたコンテンツのコピーの数と複製の前後では変わらないということで,特段,大量,広範な複製がなされるというような批判は当たらないのではないかと考えます。
 また,複数の携帯端末等でコンテンツを楽しみたいというニーズのためにメディア変換を行う場合には,同一ユーザーが作成するコンテンツのコピーだけを見ますと増加するものの,みずから複製を行う場合と比較していただきますと,やはりコンテンツのコピーの数というのは変わらないのではないかと考えます。
 このような場合には,事業者の助力によって複製を行ったとしましても,作成されたコピーが私的領域内で使用されるという場合に限っては,新たに権利者の方たちに経済的損失を生じる可能性は低いのではないかと考えております。
 したがいまして,事業者の助力を求めることを認めることで,ユーザーの利便性を大きく向上する一方で,権利者の方々にも新たな経済的損失が生じる可能性が低い以上,みずから行うか,依頼された事業者が行うかということによって,適法,違法の区別をする理由はなく,複製を使用する者に限定する合理性はないと考えております。
 他方で,適法に取得したコンテンツをいろいろな端末で使用することを認めることは,ユーザーの利便性を高めることによってコンテツに接触する機会の増大にもつながり,その結果,コンテンツ産業の成長を図ることも可能ではないかと考えております。
 以上より,使用する者が複製することができるという要件を厳密な意味での支配関係がなくとも,実質的にはユーザーの手足として複製していると評価できるような場合や,複製物が実質的には私的領域内での使用のために作成されたと評価できる場合には,ユーザー以外の者が物理的複製行為を行うことや,ユーザーの複製行為に事業者が関与することを認めるべきではないかと考えております。
 次,2番ですけれども,1項1号の自動複製機器に関しましては,附則の5条の2において当分の間は自動複製機器による複製は著作権侵害とならないという規定が置かれておりますが,この経過措置がなくなりますと,現在,コンビニ等で行われているユーザーによるコピーという行為が著作権侵害に該当するであろうと思います。
 文献複写機を除外したもともとの意図といいますのは,集中管理体制が整備されるまでの間の暫定措置であるということでございましたが,現在の社会一般の認識としては,みずから購入した書籍をコンビニ等でコピーするということは,だれも違法な行為をしているというふうには考えていないのではないでしょうか。
 また,この経過措置が導入された59年当時のコンテンツの楽しみ方からすれば,先ほど申し上げた自分の携帯端末等の複数のプレーヤーで楽しむといったメディア変換のニーズはおそらくほとんどなかったと推察されますし,現在では技術環境や利用環境の変化により,クラウド上で行われるデジタルロッカーへの複製といったことも行われています。居宅内で記録機器に保存したコピーが居宅外のクラウド上に保存されるという違いがあるだけで,その実質は同じであり,権利者の方々に新たな経済的損失が生じているとは思えないと考えております。さらに,社会一般としては,こういった行為は適法な行為であると認識されているのではないかと考えております。
 したがいまして,経過措置の削除に加え,この1項1号も削除されてはいかがかと考えております。
 なお,仮にこの同号が削除されますと,ともに119条2項2号も削除されることになると考えますが,ユーザーの行為が違法となるような場合には複製機器の設置者も幇助として違法になるのではないかと理解しております。
 次の3ページに移りまして,1項2号の回避規制に関してでございますが,これにつきましては分科会の報告書で,回避規制の見直しの方向性が既に報告されておりまして,JEITAとしましても,その審議の過程で著作権法に名をかりたプラットフォーム保護になる恐れがあるという意見を申し上げさせていただきました。
 この意見に関しましては,当会以外にも複数の委員の方から同様な指摘がされているものの,現在,その報告書には,「特定の者によるプラットフォームの保護を認めるという観点に立つものではない」という記載はいただいているんですけれども,いまだ互換性を害する懸念というのは払拭されておりません。
 これは,例えの例で言いますと,ネット上で購入したソフトウェアを自分の携帯端末で利用する場面を想定いただくとわかりやすいかと思います。ユーザーがソフトウェアをお金を払って購入し,正当な使用権限を得ているというような場合に,携帯端末メーカーが使用するプラットフォームにアクセス制限がかけられており,そのアクセス制限を回避することが仮に著作権法で禁止された場合,その携帯端末上でプラットフォーム保有者が認めないソフトウェアへのアクセスが許されないということになりますので,ユーザーは,先ほど申し上げた有償で購入したソフトウェアの利用ができないということになるんだろうと思います。
 このような事態は,米国や欧州でも現実の問題として既に指摘されておりますので,単なる懸念ではないだろうと思います。アメリカでは,それに対する対応策としてDMCAに除外規定が設けられたり,ユーザーの回避行為については3年ごとの除外手続によって解決を図っているようでございますので,日本においてもこういう弊害が生じないような立法をお願いしたいと思います。
 さらに,バックアップ等の正当な目的のもとで技術的保護手段の回避の是非についても検討すべきであるという意見がこちらの委員会でも出ていると聞いております。現在,権利者とユーザー側の利益バランスを見ますと,権利者は自由に保護手段を利用できる状況にある一方,ユーザーの方は制限規定によって付与された自由を無制限に失う可能性もあると思います。従いまして,情報享受の自由といったユーザー側の利益の要請から,一定の正当な目的のもとでの回避の是非という観点で検討されるべきではないかと考えております。
 このような配慮は,フランスやEuropean Copyright Codeでもなされているようですし,ブラジルでも類似の改正案があると理解しております。
 4ページに移りまして,1項3号についてでございますが,ダウンロード違法化につきましては,審議の過程で私的領域への介入によって萎縮効果が生じるとか,家庭内の行為について法が規制することはどうなのかといった慎重論もあったことから,それらの意見に配慮して著作権保護意識の喚起や啓発を促進する効果を求めて立法に至った経緯があると理解しております。
 そのような経緯からすれば,意識喚起や啓発の効果を評価し,なおかつ過剰な萎縮効果が立法において生じていないことの検証を行うことがまず必要だろうと思います。また,現行法で2010年に法律が施行されておりますので,その評価についても行うべきですし,現行法を実際に使っていただく必要があるだろうと思います。どの程度活用されたのかという評価・検証がまだ十分に行われていない現時点では,刑罰法規等の規制強化の検討を行うのは時期尚早ではないかと考えております。
 それから,30条の範囲ではございませんが,違法なアップロードにつきましては既に刑事罰が科されておりますので,こちらの厳格な運用がなされるべきではないかと考えます。
 2項につきましては,JEITAに特段立場の変更がないことからURLをここにご紹介させていただきます。
 最後に,内容ではございませんが,審議のプロセスについて,ユーザーの声が十分に反映されるような仕組みをとってはいかがかと考えております。例えば本日のようなヒアリングをいただくであるとか,審議会に権利者団体と均等数のユーザー団体を参加させていただくであるとか,あとは権利者の団体の方からもございましたが,利用環境やニーズについてはアンケートや実態調査ということを実施されて,現時点の利用環境を把握することが非常に重要であろうと考えております。
 最後に,意見をヒアリングするということと,それに加えて,審議で今後そういった意見がどのように考慮されたかの検証や検証結果の公表がなされればよいのではないかと考えます。
 当会の意見は以上です。ご清聴ありがとうございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして社団法人日本経済団体連合会,広崎様,よろしくお願いいたします。

【広崎氏】  経団連の広崎でございます。経団連では知的財産委員会という大きな委員会がございまして,その委員会のもとに私どもの企画部会,著作権部会,あるいは国際標準化戦略部会といった部会がございます。したがいまして,細かい議論につきましては,知的財産委員会の中の著作権部会のほうで検討を進めている状況でございますが,本日は企画部会長である私から,今の日本の喫緊の課題である産業競争力強化という少し包括的な観点から見解を述べさせていただきたい思います。ここにまとめてございます資料は,少しラフスケッチになってございますので,その行間を埋めながら考え方のご説明をさせていただきたいと思います。
 まず,総論でございますが,そもそも私ども産業界としては著作権法を,従来以上に重視してございます。その幾つかの理由がそこに箇条書きになってございますが,まず1点目は,これはもう異論のないところですが,コンテンツ関連のビジネスが我が国にとってますます重要になっているということであります。考えてみますと,工業所有権法が19世紀にできて,それから約100年。その間に工業化社会から脱工業化社会,知識情報社会に今,大きくパラダイムが移ろうとしています。これを支える技術的裏づけが先ほどご説明がございましたようなデジタル化,あるいはネットワーク化があり,依然としてムーアの法則で技術進展が進んでいる情報技術が非常に大きな押し上げ要因になっているわけでございますが,これに伴って無形物,あるいは知識,情報が従来以上に直接経済価値を持つ時代,流通価値を持つ時代になろうとしております。
 したがいまして,私が冒頭お話ししました産業競争力,これから向こう10年の産業競争力を考えようとしたときには,当然,こういった無形物の新たな経済価値をどうやって皆で高めていくかというところに議論を集中させるべきだろうと考えてございます。
 それから,ポツの3点目でございますが,これは,既に権利者サイド,それからメーカーサイドのご意見にもございましたように,技術の進歩の果実を活用するとともに,やはり利用者の利便性の向上を図るべきだろうと。ともすれば,どちらかに偏った議論になりがちなのですが,ここを一歩間違えると国際的に日本が非常に不利になるということが今後予想されます。
 したがって,国際的に不利にならないような新たなバランス,整合性のとれた制度の体系を急いでつくるべきだろうと思います。先ほどのご発表の中で,政府の知的財産推進計画において2005年以来5年以上,私的録音録画補償金制度について「今年中に方向性を出す」という記載が続いているとのご指摘がございましたが,これは大変ゆゆしきことだと思っています。
 そういったことを踏まえた上で,第30条について多少具体的な中身に触れさせていただきたいと思います。個人や家庭における複製,これは流通可能性が低く,量も少なく,質も低いという従来の前提は,これまで種々議論がありましたように,当然,社会構造の変化,あるいは技術の進歩によって変化しており,個人や家庭から直接全世界に,瞬時に,しかも大量に情報発信できる時代に突入しています。そういった時代に何を規制し,どこまでを許容していくかということは,当たり前ですけれども非常に大事な観点であり,私的複製の定義そのものもそうした観点から見直してみる必要があるものと思っております。
 それから,技術の点ですが,コンテンツの保護技術が進展しているので,その技術を利用すればかなりの部分が解決するという議論がある一方で,そういう技術が実際に有効に使われているという事例がまだまだ少ないという対極の議論もあります。このあたりについては,保護技術そのものもさらにこれから進歩していきますし,これを解いていく技術も進歩していく中でどう考えるかということになるわけでございますが,これについては後ほど包括的な考え方を少しまとめさせていただきたいと思っております。
 それから,私的録音録画補償金制度。これは,私も2003年ごろからお役所に駆け込んだり,いろいろなことをしてまいりましたが,ほとんどあの当時と変わらない議論が続いているということに大変ショックを受けています。いろいろなデータをもう少し丁寧に集めて,二極分化した議論ではなく,データに基づいた議論をすべきだろうと思います。皆さんもおっしゃっているのですが,例えば私的録音補償金の収入が減っていて,一方で携帯の端末が増えているというデータのご指摘がございました。これらには,グラフを見ると強い相関関係があるように見えますし,そのような面もあるでしょうが,もう一歩踏み込んだ解析やデータの分析をやっていかなければなりません。データというのは,一歩間違えると恣意的に操作でき,組み合わせることによって,極端に言うとどういう結論でも出せるところがございますので,全体最適のためにも客観的なデータをもっと積み上げる必要があると思います。
 例えば金額面で補償金が減少したというデータは,事実は事実としてあるわけでございます。それに対して例えばクリエイターの数が減っているのか減っていないのか等,さまざまなデータを集めて,何が真実かということをもっと見ていく必要があろうかと思います。
 そういったことを踏まえて,次のページに今後に向けた我々産業界の問題提起をまとめてございます。
 1つは,ポツの2点目に書いてございますが,冒頭申し上げましたように,国全体が衰退することになっては非常にまずいわけです。ご案内のとおり,特に日本は世界から尊敬される国の1つになっていて,今回の震災でも高い倫理観,あるいは伝統ある文化など,いろんなことが世界的には評価されているわけですので,そのような日本がこうした問題で内部で対立して,世界的なオポチュニティをだんだん衰退させてしまうということは,国全体の国益という点で非常にまずいと思っております。ぜひ,なるべく早い段階で新しい法体系を確立し,オポチュニティ拡大を目指していただきたい。
 そのためには,矛盾点を引きずったままではなかなか難しいところがございます。そこで,我々経団連として具体的な提案をさせていただいたのが,ポツの3番目に書いてございますとおり,複線型の著作権法制度という考え方もあって良いのではないかというものです。この提案は,著作権者が制度を自由に選べるというものです。複線型著作権法制の内容については,次のページの参考資料に記しています。私どもはこの考え方を2009年に提案し,現在でもこれをさらにいろいろな法律の専門家と一緒に検討しているところでございますが,具体的には大きく2つの制度を新設してはどうかと提案しております。
 1つ目は,「産業財産権型コピライト制度」,すなわち実際の著作権者と産業財産権を扱うという意味での権利者という2つの権利者を区別した上,産業財産権を扱う権利者が一括して権利の契約なり管理なりをし,産業利用が非常にスムーズに進むようにしていく。これにより,例えば対抗要件も個々の著作権者と複数結ぶ必要がなくなり,産業財産権型の権利者に一元化するといったこともできます。こういう「産業財産権型コピライト制度」というものがあっても良いのではないかと思います。
 もう1つは,フリーソフトの考え方に近いのですが,「自由利用型コピライト制度」。これも今のオープンイノベーションの時代を乗り切るためにはあっても良いと思っております。権利者が自由な利活用を認めた著作物のインターネット上における活用の円滑化を図るということで,最近,ソフトの世界ではクリエイティブコモンズであるとか,そういうフリーソフトの権利関係の新しい工夫というのが世界的にはどんどん行われていて,これによって各国のソフトウェア産業の競争力はどんどん強くなっている。
 日本でも待っていられないというのでクリエイティブコモンズの団体ができて,自主的な決まりを推進しているという状況になっております。今後,先ほどお話のあったクラウドであるとか,さらに新しい時代のセマンティックウェブといいますか,そういうオントロジー,即ち,データの中身そのものの意味や概念をシステム側で理解した上でやりとりするという知的レベルの大変高い情報処理システムが,これもすぐ目前に来ている。こういった時代にこたえるためには,100年前の所有権に基づいた著作権法という古い土俵もこれはこれでしっかり持つとともに,新たにこういう産業財産権型,あるいはフリーソフトに見られるような自由利用型のコピライト制度を導入し,複線化させることによって,冒頭申し上げた矛盾を解決するように動いていただけるとよいのではないかなと思っております。
 申しおくれましたけども,経団連の中にはメーカーさんだけではなく,スクウェア・エニックスさん等のゲームソフトのメーカーさんも多数いらっしゃいます。そういった方々との議論の中で,やはり全体としてはわが国の産業競争力を強化する方向で力を合わせようという議論になっておりますので,ぜひご参考にしていただければと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,最後に日本知的財産協会,上野様,今子様,大野様,よろしくお願いいたします。

【上野氏】  日本知的財産協会,JIPAの副理事長をさせていただいております上野です。JIPAも,メンバーとしては900社を超える正会員を有する知的財産に関する企業の団体として,産業の競争力強化のためにどういったアプローチをとればいいのかということについて,業種横断的な議論を進めてきております。
 著作権に関しましても,今,広崎様からもありましたけども,知識情報社会の進展というようなことから,特許権と並んで著作権が企業戦略上,非常に重要なものになってきています。そういった中で著作権の問題に関しては,きょう一緒に出てもらっております著作権委員会のほうで,やはりさまざまな業種のメンバーが集まって議論して,どういった制度がいいのかというような積極的な議論をしているところで,きょうのテーマであります30条というものも非常に大きな関心を持っておるところです。
 30条自身は,保護と利用のバランスを図る仕組みの基本骨格として,ほんとうに重要な役割をこれまでも果たしてまいりましたし,今後もこの重要性は変わらないのだろうと考えております。それとあわせて知識情報社会,デジタル化技術,そういったものの進展によって見直しの議論等も出てきている。そういったものに関しても議論を進めていく必要性があると考えています。
 そういう基本的な問題意識のもとで,きょうの30条の意見に関しては,先ほど申し上げました著作権委員会の今子委員長から内容についてご紹介させていただきたいと思います。

【今子氏】  今子でございます。本日は,このような意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして,ありがとうございます。
 私的使用のための複製,30条につきましては,基本的に権利者の正当な利益を不当に害しないという範囲で,個人の私的領域の活動の自由を保障するという非常に有用な枠組みであると考えております。家庭内で例えばテレビ番組を録画した後に見るようなタイムシフトとか,プレースシフトとか,そういった私的複製が行われるシーンは非常に多いわけでして,日常生活でコンテンツを楽しむというようなことに30条が非常に寄与しているということができると思います。30条によりまして文化の発展,それから,情報が広く利用されていくということが実現できているといえ,それは法目的にもかなうと考えております。
 したがいまして,30条の基本的な枠組みを維持していくということには大きな意義があると考えております。しかしながら,先ほど皆様からご紹介もございましたように,近年の著しいデジタル化技術の発展により,30条の導入の当時,あるいは20年前,10年前と今では技術環境が全く異なると言っても過言ではないと思います。そういった中,30条がそれにすべてきちんと対応できているのかと言われますと,それはなかなか難しいということも理解しておりまして,やはり権利者の正当な利益が不当に害されたり,あるいは利用者による技術の利便性の享受を法律が妨げるというようなことは避けなければならないと考えております。
 したがいまして,時代に合わせるための見直しの議論を行うことは非常に重要であり,今般,このような機会を設けていただくということは有益であると思っております。
 ただ,30条の基本的な枠組みは守っていきたいということもありますし,拙速な改正を行いますと,それによって得られる影響も非常に大きいので,慎重に議論をしていくべきだと思っております。
 各論について述べます。
 まず,1項柱書きについてです。現行の1項柱書きの使用する者が複製することができるという文言は,通説的には事業者に複製を委託することは許されないというふうに解されております。しかしながら,まず1つにはメディアのライフサイクルの単寿命化が非常に顕著になっています。また,コンテンツを取得して所有している利用者は,そもそもコンテンツを取得したときに,そのメディアでしか使用できないという認識はなく,技術環境が変化した後もそのコンテンツを使いたい,聞きたい,見たいというように考えるのが当然だと思いますので,技術の進展による利便性の享受といった観点からも,そういうことは当然認めていく必要がある。
 一方,30条1項によりまして事業者に複製することはできないということになりますけれども,自分で行うか,事業者が行うかによって法的に取り扱いを異にするのは合理性に欠ける部分もあるかと思います。
 したがいまして,そのような一面的な観察によりまして,メディアシフトを一律に排除するということではなくて,権利者の正当な利益を不当に害するものではなく,かつ実質的な効果として本人が行っている場合と変わらないものかどうかで判断するべきであると考えております。
 続きまして,1項1号,自動複製機器についてです。自動複製機器を用いた複製が正当に取得した自己が所有,管理する著作物を複製するようなものであって,その使用が個人的,または家庭内にとどまるものである場合には,自分が所有する複製機器で複製するのと理論的には変わらないと思いますので,そういった観点から30条1項1号のあり方というのを議論してもよいと考えております。
 なお,附則5条の2について,文書等の著作物の複製に関しては1項1号から当分の間適用除外ということになっておりますが,今,このような状況で単純に5条の2を削除するというような改正につきましては,私的に使用する一般人に著しい不便を生じ,混乱を招くと思いますので,最低限,当面の間現状を維持する必要があると考えております。
 続きまして,1項2号の技術的保護手段の回避による複製についてですけれども,デジタル技術により大量に複製が行われるということと,それにより経済的利益を著しく損なうということを避けなければならないという趣旨から導入されております。ただ,家庭内で個人的に利用者がバックアップの目的で一部だけコピーするというような限定的な範囲の利用もございますので,一律に回避による複製を著作権侵害とするのはどうなのかなと思いまして,そういう方向からも議論してよいと考えております。
 続きまして,1項3号についてです。違法配信からの複製につきましては,改正から今,1年半しか経過していません。違法複製物の流通により被害が生じているという実態は非常に遺憾であり,これからも引き続き対応をとっていかなければならないと考えておりますけれども,まだ導入から時間がたっておりませんので,まずは改正によりどのような効果があったのかというのを十分に検討した上で,1項3号をどうしていくのかというようなことを考えていくべきかと思っております。
 最後に,2項の私的録音録画補償金制度についてです。私的録音録画補償金制度は,いろんな意味でデジタル化時代に適合しているということはなかなか難しい。制度自体に問題があるのではないかと言えると思います。したがいまして,現行制度の廃止も含めた抜本的な制度改正の議論が必要であると考えております。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,残る時間を質疑応答及び自由討議としたいと存じます。出席者,本日,ヒアリングで意見発表においでいただいた方々に対する質問やご意見がございましたら,お願いいたします。どちらが先でしたか。たしか大須賀委員のほうが早かったと思いますので,どうぞ。

【大須賀委員】  大須賀でございます。日本経団連のご説明に対して若干質問がございますので,お伺いさせていただきます。
 先ほど産業財産権型のコピーライト制度というお話がございまして,その中で最後の3ページの1ポツのところ,利用方法,条件等は産業財産権型コンテンツ著作権者の裁量にゆだねられるというご説明が書いてございます。この点をちょっとお伺いしたいと思うんですけれども,本来,産業財産権型のコピーライト制度を創設して産業財産権としての流通を促進するということであれば,当然,その利用方法,条件等は画一的であるほうが望ましいんじゃないかという印象を持つんですが,あえて,ここで利用方法,条件等は裁量にゆだねるというふうにされたご趣旨についてご説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【広崎氏】  現実問題,いろいろ議論してみますと,これは中身によるかとは思います。例えば権利関係が非常に複雑なもの,あるいは不明確なもの,こういったものがあったときに,そういう内容を産業利用しようとしたときに個別の権利調整をするということになると大変な時間,あるいはコストを要してしまうといったようなことが考えられますので,そういったコスト増を避けることも含めまして,実際的には産業財産権型コンテンツ著作権者の裁量にゆだねるということにしたらどうかというご提案でございます。
 もちろん,その前提は,産業財産権型コンテンツ著作権者は,もとのオリジナルの権利者ときちんと合意して契約を結ぶということが前提になってございますので,それを無視してではないということはご理解いただきたいと思います。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。
 では,松田委員,どうぞ。

【松田委員】  松田です。電子情報技術産業協会のペーパーで1ページ目なんですけども,これは,個人が保有しているコンテンツ,著作物を,メディアをかえるときに業者さんがやってもいいような改正をしたほうがいいという趣旨だろうと思います。1のところは。
 その例としてユーザーが保有しているVHSテープをDVD,ブルーレイに複製し直す,この場合,事業者に依頼することができないことが問題である,だから,これはできるようにしたほうがいいという趣旨ですね。この中で例として挙げられているのは個人が持っている運動会等の映像で,その中に他人の著作物がある場合,例えば音楽が入っているような場合のことを言うのでありましょう。こういう場合にも複製できないのはぐあいが悪いということになっています。
 この例に限らず,単純に古いメディアから新しいメディアにかえて,それを事業者に委託する場合も可というふうに提言するのでありますれば,こういう例ではなくて,まさに保有している映画や保有している写真や保有している音楽を業者さんに複製させること,これを適法とすべきだというふうに言わないと整合性がとれないのではないでしょうか。運動会等の映像を複製する例に限定されるという趣旨ではないように思うのですが,いかがでしょうか。

【榊原氏】  榊原でございます。お手元の資料の4に沿ってご説明させていただきます。資料4の1ページ目の1のところからスタートさせていただきます。
 まず,30条の使用する者が複製できるという要件に関しましては,書籍,音楽,映像等のコンテンツについて,ユーザー側にはメディア変換に対する強いニーズがございます。しかしながら,30条のもとではみずからコピーすることを要求されておりますので,その利便性を十分に享受できないということに現在なってございます。
 例えばでございますが,ユーザーの方が保有する多数のVHSテープをDVDであるとか,ブルーレイといった別の光ディスクに複製して保存するということも,みずからすべて行う必要が生じますので,事業者等に依頼することができないということになっております。
 これでは技術の発展によって新しいメディアがせっかく出現したにもかかわらず,ユーザーの皆様には古いテープと古いプレーヤーをいつまでも保有することを強いてしまうということも起こり得ます。実際にメーカーの方に対してはユーザーからこのようなニーズの声が届いております。また,メーカーにとりましても,いつまでも古いプレーヤーの部品を保有して保守,修理のサービスを継続するということが大きな負担にもなりかねないという点もございます。
 従いまして,時間や労力をかけられない人やかけたくない人,それから,そもそもみずからできない人といった,そういうユーザーの方々のために事業者に依頼することを認める意義は大きいのではないでしょうか。
 この点は,ユーザーが事業者の支援を受けますと,高速で広範な複製の結果,権利者の方々に経済的な損失が生じるということで,30条が許容した零細な複製にとどまらないんではないかという批判もあり得るかと思います。しかしながら,実態を見ますと,事業者がユーザーの手足になって複製するだけの場合,さっきのメディア変換の例では,メディア変換後には古いテープと古いプレーヤーというのは,おそらくともに処分するために行うと推測されますので,もともとユーザーが保有していたコンテンツのコピーの数と複製の前後では変わらないということで,特段,大量,広範な複製がなされるというような批判は当たらないのではないかと考えます。
 また,複数の携帯端末等でコンテンツを楽しみたいというニーズのためにメディア変換を行う場合には,同一ユーザーが作成するコンテンツのコピーだけを見ますと増加するものの,みずから複製を行う場合と比較していただきますと,やはりコンテンツのコピーの数というのは変わらないのではないかと考えます。
 このような場合には,事業者の助力によって複製を行ったとしましても,作成されたコピーが私的領域内で使用されるという場合に限っては,新たに権利者の方たちに経済的損失を生じる可能性は低いのではないかと考えております。
 したがいまして,事業者の助力を求めることを認めることで,ユーザーの利便性を大きく向上する一方で,権利者の方々にも新たな経済的損失が生じる可能性が低い以上,みずから行うか,依頼された事業者が行うかということによって,適法,違法の区別をする理由はなく,複製を使用する者に限定する合理性はないと考えております。
 他方で,適法に取得したコンテンツをいろいろな端末で使用することを認めることは,ユーザーの利便性を高めることによってコンテツに接触する機会の増大にもつながり,その結果,コンテンツ産業の成長を図ることも可能ではないかと考えております。
 以上より,使用する者が複製することができるという要件を厳密な意味での支配関係がなくとも,実質的にはユーザーの手足として複製していると評価できるような場合や,複製物が実質的には私的領域内での使用のために作成されたと評価できる場合には,ユーザー以外の者が物理的複製行為を行うことや,ユーザーの複製行為に事業者が関与することを認めるべきではないかと考えております。
 次,2番ですけれども,1項1号の自動複製機器に関しましては,附則の5条の2において当分の間は自動複製機器による複製は著作権侵害とならないという規定が置かれておりますが,この経過措置がなくなりますと,現在,コンビニ等で行われているユーザーによるコピーという行為が著作権侵害に該当するであろうと思います。
 文献複写機を除外したもともとの意図といいますのは,集中管理体制が整備されるまでの間の暫定措置であるということでございましたが,現在の社会一般の認識としては,みずから購入した書籍をコンビニ等でコピーするということは,だれも違法な行為をしているというふうには考えていないのではないでしょうか。
 また,この経過措置が導入された59年当時のコンテンツの楽しみ方からすれば,先ほど申し上げた自分の携帯端末等の複数のプレーヤーで楽しむといったメディア変換のニーズはおそらくほとんどなかったと推察されますし,現在では技術環境や利用環境の変化により,クラウド上で行われるデジタルロッカーへの複製といったことも行われています。居宅内で記録機器に保存したコピーが居宅外のクラウド上に保存されるという違いがあるだけで,その実質は同じであり,権利者の方々に新たな経済的損失が生じているとは思えないと考えております。さらに,社会一般としては,こういった行為は適法な行為であると認識されているのではないかと考えております。
 したがいまして,経過措置の削除に加え,この1項1号も削除されてはいかがかと考えております。
 なお,仮にこの同号が削除されますと,ともに119条2項2号も削除されることになると考えますが,ユーザーの行為が違法となるような場合には複製機器の設置者も幇助として違法になるのではないかと理解しております。
 次の3ページに移りまして,1項2号の回避規制に関してでございますが,これにつきましては分科会の報告書で,回避規制の見直しの方向性が既に報告されておりまして,JEITAとしましても,その審議の過程で著作権法に名をかりたプラットフォーム保護になる恐れがあるという意見を申し上げさせていただきました。
 この意見に関しましては,当会以外にも複数の委員の方から同様な指摘がされているものの,現在,その報告書には,「特定の者によるプラットフォームの保護を認めるという観点に立つものではない」という記載はいただいているんですけれども,いまだ互換性を害する懸念というのは払拭されておりません。
 これは,例えの例で言いますと,ネット上で購入したソフトウェアを自分の携帯端末で利用する場面を想定いただくとわかりやすいかと思います。ユーザーがソフトウェアをお金を払って購入し,正当な使用権限を得ているというような場合に,携帯端末メーカーが使用するプラットフォームにアクセス制限がかけられており,そのアクセス制限を回避することが仮に著作権法で禁止された場合,その携帯端末上でプラットフォーム保有者が認めないソフトウェアへのアクセスが許されないということになりますので,ユーザーは,先ほど申し上げた有償で購入したソフトウェアの利用ができないということになるんだろうと思います。
 このような事態は,米国や欧州でも現実の問題として既に指摘されておりますので,単なる懸念ではないだろうと思います。アメリカでは,それに対する対応策としてDMCAに除外規定が設けられたり,ユーザーの回避行為については3年ごとの除外手続によって解決を図っているようでございますので,日本においてもこういう弊害が生じないような立法をお願いしたいと思います。
 さらに,バックアップ等の正当な目的のもとで技術的保護手段の回避の是非についても検討すべきであるという意見がこちらの委員会でも出ていると聞いております。現在,権利者とユーザー側の利益バランスを見ますと,権利者は自由に保護手段を利用できる状況にある一方,ユーザーの方は制限規定によって付与された自由を無制限に失う可能性もあると思います。従いまして,情報享受の自由といったユーザー側の利益の要請から,一定の正当な目的のもとでの回避の是非という観点で検討されるべきではないかと考えております。
 このような配慮は,フランスやEuropean Copyright Codeでもなされているようですし,ブラジルでも類似の改正案があると理解しております。
 4ページに移りまして,1項3号についてでございますが,ダウンロード違法化につきましては,審議の過程で私的領域への介入によって萎縮効果が生じるとか,家庭内の行為について法が規制することはどうなのかといった慎重論もあったことから,それらの意見に配慮して著作権保護意識の喚起や啓発を促進する効果を求めて立法に至った経緯があると理解しております。
 そのような経緯からすれば,意識喚起や啓発の効果を評価し,なおかつ過剰な萎縮効果が立法において生じていないことの検証を行うことがまず必要だろうと思います。また,現行法で2010年に法律が施行されておりますので,その評価についても行うべきですし,現行法を実際に使っていただく必要があるだろうと思います。どの程度活用されたのかという評価・検証がまだ十分に行われていない現時点では,刑罰法規等の規制強化の検討を行うのは時期尚早ではないかと考えております。
 それから,30条の範囲ではございませんが,違法なアップロードにつきましては既に刑事罰が科されておりますので,こちらの厳格な運用がなされるべきではないかと考えます。
 2項につきましては,JEITAに特段立場の変更がないことからURLをここにご紹介させていただきます。
 最後に,内容ではございませんが,審議のプロセスについて,ユーザーの声が十分に反映されるような仕組みをとってはいかがかと考えております。例えば本日のようなヒアリングをいただくであるとか,審議会に権利者団体と均等数のユーザー団体を参加させていただくであるとか,あとは権利者の団体の方からもございましたが,利用環境やニーズについてはアンケートや実態調査ということを実施されて,現時点の利用環境を把握することが非常に重要であろうと考えております。
 最後に,意見をヒアリングするということと,それに加えて,審議で今後そういった意見がどのように考慮されたかの検証や検証結果の公表がなされればよいのではないかと考えます。
 当会の意見は以上です。ご清聴ありがとうございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして社団法人日本経済団体連合会,広崎様,よろしくお願いいたします。

【広崎氏】  経団連の広崎でございます。経団連では知的財産委員会という大きな委員会がございまして,その委員会のもとに私どもの企画部会,著作権部会,あるいは国際標準化戦略部会といった部会がございます。したがいまして,細かい議論につきましては,知的財産委員会の中の著作権部会のほうで検討を進めている状況でございますが,本日は企画部会長である私から,今の日本の喫緊の課題である産業競争力強化という少し包括的な観点から見解を述べさせていただきたい思います。ここにまとめてございます資料は,少しラフスケッチになってございますので,その行間を埋めながら考え方のご説明をさせていただきたいと思います。
 まず,総論でございますが,そもそも私ども産業界としては著作権法を,従来以上に重視してございます。その幾つかの理由がそこに箇条書きになってございますが,まず1点目は,これはもう異論のないところですが,コンテンツ関連のビジネスが我が国にとってますます重要になっているということであります。考えてみますと,工業所有権法が19世紀にできて,それから約100年。その間に工業化社会から脱工業化社会,知識情報社会に今,大きくパラダイムが移ろうとしています。これを支える技術的裏づけが先ほどご説明がございましたようなデジタル化,あるいはネットワーク化があり,依然としてムーアの法則で技術進展が進んでいる情報技術が非常に大きな押し上げ要因になっているわけでございますが,これに伴って無形物,あるいは知識,情報が従来以上に直接経済価値を持つ時代,流通価値を持つ時代になろうとしております。
 したがいまして,私が冒頭お話ししました産業競争力,これから向こう10年の産業競争力を考えようとしたときには,当然,こういった無形物の新たな経済価値をどうやって皆で高めていくかというところに議論を集中させるべきだろうと考えてございます。
 それから,ポツの3点目でございますが,これは,既に権利者サイド,それからメーカーサイドのご意見にもございましたように,技術の進歩の果実を活用するとともに,やはり利用者の利便性の向上を図るべきだろうと。ともすれば,どちらかに偏った議論になりがちなのですが,ここを一歩間違えると国際的に日本が非常に不利になるということが今後予想されます。
 したがって,国際的に不利にならないような新たなバランス,整合性のとれた制度の体系を急いでつくるべきだろうと思います。先ほどのご発表の中で,政府の知的財産推進計画において2005年以来5年以上,私的録音録画補償金制度について「今年中に方向性を出す」という記載が続いているとのご指摘がございましたが,これは大変ゆゆしきことだと思っています。
 そういったことを踏まえた上で,第30条について多少具体的な中身に触れさせていただきたいと思います。個人や家庭における複製,これは流通可能性が低く,量も少なく,質も低いという従来の前提は,これまで種々議論がありましたように,当然,社会構造の変化,あるいは技術の進歩によって変化しており,個人や家庭から直接全世界に,瞬時に,しかも大量に情報発信できる時代に突入しています。そういった時代に何を規制し,どこまでを許容していくかということは,当たり前ですけれども非常に大事な観点であり,私的複製の定義そのものもそうした観点から見直してみる必要があるものと思っております。
 それから,技術の点ですが,コンテンツの保護技術が進展しているので,その技術を利用すればかなりの部分が解決するという議論がある一方で,そういう技術が実際に有効に使われているという事例がまだまだ少ないという対極の議論もあります。このあたりについては,保護技術そのものもさらにこれから進歩していきますし,これを解いていく技術も進歩していく中でどう考えるかということになるわけでございますが,これについては後ほど包括的な考え方を少しまとめさせていただきたいと思っております。
 それから,私的録音録画補償金制度。これは,私も2003年ごろからお役所に駆け込んだり,いろいろなことをしてまいりましたが,ほとんどあの当時と変わらない議論が続いているということに大変ショックを受けています。いろいろなデータをもう少し丁寧に集めて,二極分化した議論ではなく,データに基づいた議論をすべきだろうと思います。皆さんもおっしゃっているのですが,例えば私的録音補償金の収入が減っていて,一方で携帯の端末が増えているというデータのご指摘がございました。これらには,グラフを見ると強い相関関係があるように見えますし,そのような面もあるでしょうが,もう一歩踏み込んだ解析やデータの分析をやっていかなければなりません。データというのは,一歩間違えると恣意的に操作でき,組み合わせることによって,極端に言うとどういう結論でも出せるところがございますので,全体最適のためにも客観的なデータをもっと積み上げる必要があると思います。
 例えば金額面で補償金が減少したというデータは,事実は事実としてあるわけでございます。それに対して例えばクリエイターの数が減っているのか減っていないのか等,さまざまなデータを集めて,何が真実かということをもっと見ていく必要があろうかと思います。
 そういったことを踏まえて,次のページに今後に向けた我々産業界の問題提起をまとめてございます。
 1つは,ポツの2点目に書いてございますが,冒頭申し上げましたように,国全体が衰退することになっては非常にまずいわけです。ご案内のとおり,特に日本は世界から尊敬される国の1つになっていて,今回の震災でも高い倫理観,あるいは伝統ある文化など,いろんなことが世界的には評価されているわけですので,そのような日本がこうした問題で内部で対立して,世界的なオポチュニティをだんだん衰退させてしまうということは,国全体の国益という点で非常にまずいと思っております。ぜひ,なるべく早い段階で新しい法体系を確立し,オポチュニティ拡大を目指していただきたい。
 そのためには,矛盾点を引きずったままではなかなか難しいところがございます。そこで,我々経団連として具体的な提案をさせていただいたのが,ポツの3番目に書いてございますとおり,複線型の著作権法制度という考え方もあって良いのではないかというものです。この提案は,著作権者が制度を自由に選べるというものです。複線型著作権法制の内容については,次のページの参考資料に記しています。私どもはこの考え方を2009年に提案し,現在でもこれをさらにいろいろな法律の専門家と一緒に検討しているところでございますが,具体的には大きく2つの制度を新設してはどうかと提案しております。
 1つ目は,「産業財産権型コピライト制度」,すなわち実際の著作権者と産業財産権を扱うという意味での権利者という2つの権利者を区別した上,産業財産権を扱う権利者が一括して権利の契約なり管理なりをし,産業利用が非常にスムーズに進むようにしていく。これにより,例えば対抗要件も個々の著作権者と複数結ぶ必要がなくなり,産業財産権型の権利者に一元化するといったこともできます。こういう「産業財産権型コピライト制度」というものがあっても良いのではないかと思います。
 もう1つは,フリーソフトの考え方に近いのですが,「自由利用型コピライト制度」。これも今のオープンイノベーションの時代を乗り切るためにはあっても良いと思っております。権利者が自由な利活用を認めた著作物のインターネット上における活用の円滑化を図るということで,最近,ソフトの世界ではクリエイティブコモンズであるとか,そういうフリーソフトの権利関係の新しい工夫というのが世界的にはどんどん行われていて,これによって各国のソフトウェア産業の競争力はどんどん強くなっている。
 日本でも待っていられないというのでクリエイティブコモンズの団体ができて,自主的な決まりを推進しているという状況になっております。今後,先ほどお話のあったクラウドであるとか,さらに新しい時代のセマンティックウェブといいますか,そういうオントロジー,即ち,データの中身そのものの意味や概念をシステム側で理解した上でやりとりするという知的レベルの大変高い情報処理システムが,これもすぐ目前に来ている。こういった時代にこたえるためには,100年前の所有権に基づいた著作権法という古い土俵もこれはこれでしっかり持つとともに,新たにこういう産業財産権型,あるいはフリーソフトに見られるような自由利用型のコピライト制度を導入し,複線化させることによって,冒頭申し上げた矛盾を解決するように動いていただけるとよいのではないかなと思っております。
 申しおくれましたけども,経団連の中にはメーカーさんだけではなく,スクウェア・エニックスさん等のゲームソフトのメーカーさんも多数いらっしゃいます。そういった方々との議論の中で,やはり全体としてはわが国の産業競争力を強化する方向で力を合わせようという議論になっておりますので,ぜひご参考にしていただければと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,最後に日本知的財産協会,上野様,今子様,大野様,よろしくお願いいたします。

【上野氏】  日本知的財産協会,JIPAの副理事長をさせていただいております上野です。JIPAも,メンバーとしては900社を超える正会員を有する知的財産に関する企業の団体として,産業の競争力強化のためにどういったアプローチをとればいいのかということについて,業種横断的な議論を進めてきております。
 著作権に関しましても,今,広崎様からもありましたけども,知識情報社会の進展というようなことから,特許権と並んで著作権が企業戦略上,非常に重要なものになってきています。そういった中で著作権の問題に関しては,きょう一緒に出てもらっております著作権委員会のほうで,やはりさまざまな業種のメンバーが集まって議論して,どういった制度がいいのかというような積極的な議論をしているところで,きょうのテーマであります30条というものも非常に大きな関心を持っておるところです。
 30条自身は,保護と利用のバランスを図る仕組みの基本骨格として,ほんとうに重要な役割をこれまでも果たしてまいりましたし,今後もこの重要性は変わらないのだろうと考えております。それとあわせて知識情報社会,デジタル化技術,そういったものの進展によって見直しの議論等も出てきている。そういったものに関しても議論を進めていく必要性があると考えています。
 そういう基本的な問題意識のもとで,きょうの30条の意見に関しては,先ほど申し上げました著作権委員会の今子委員長から内容についてご紹介させていただきたいと思います。

【今子氏】  今子でございます。本日は,このような意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして,ありがとうございます。
 私的使用のための複製,30条につきましては,基本的に権利者の正当な利益を不当に害しないという範囲で,個人の私的領域の活動の自由を保障するという非常に有用な枠組みであると考えております。家庭内で例えばテレビ番組を録画した後に見るようなタイムシフトとか,プレースシフトとか,そういった私的複製が行われるシーンは非常に多いわけでして,日常生活でコンテンツを楽しむというようなことに30条が非常に寄与しているということができると思います。30条によりまして文化の発展,それから,情報が広く利用されていくということが実現できているといえ,それは法目的にもかなうと考えております。
 したがいまして,30条の基本的な枠組みを維持していくということには大きな意義があると考えております。しかしながら,先ほど皆様からご紹介もございましたように,近年の著しいデジタル化技術の発展により,30条の導入の当時,あるいは20年前,10年前と今では技術環境が全く異なると言っても過言ではないと思います。そういった中,30条がそれにすべてきちんと対応できているのかと言われますと,それはなかなか難しいということも理解しておりまして,やはり権利者の正当な利益が不当に害されたり,あるいは利用者による技術の利便性の享受を法律が妨げるというようなことは避けなければならないと考えております。
 したがいまして,時代に合わせるための見直しの議論を行うことは非常に重要であり,今般,このような機会を設けていただくということは有益であると思っております。
 ただ,30条の基本的な枠組みは守っていきたいということもありますし,拙速な改正を行いますと,それによって得られる影響も非常に大きいので,慎重に議論をしていくべきだと思っております。
 各論について述べます。
 まず,1項柱書きについてです。現行の1項柱書きの使用する者が複製することができるという文言は,通説的には事業者に複製を委託することは許されないというふうに解されております。しかしながら,まず1つにはメディアのライフサイクルの単寿命化が非常に顕著になっています。また,コンテンツを取得して所有している利用者は,そもそもコンテンツを取得したときに,そのメディアでしか使用できないという認識はなく,技術環境が変化した後もそのコンテンツを使いたい,聞きたい,見たいというように考えるのが当然だと思いますので,技術の進展による利便性の享受といった観点からも,そういうことは当然認めていく必要がある。
 一方,30条1項によりまして事業者に複製することはできないということになりますけれども,自分で行うか,事業者が行うかによって法的に取り扱いを異にするのは合理性に欠ける部分もあるかと思います。
 したがいまして,そのような一面的な観察によりまして,メディアシフトを一律に排除するということではなくて,権利者の正当な利益を不当に害するものではなく,かつ実質的な効果として本人が行っている場合と変わらないものかどうかで判断するべきであると考えております。
 続きまして,1項1号,自動複製機器についてです。自動複製機器を用いた複製が正当に取得した自己が所有,管理する著作物を複製するようなものであって,その使用が個人的,または家庭内にとどまるものである場合には,自分が所有する複製機器で複製するのと理論的には変わらないと思いますので,そういった観点から30条1項1号のあり方というのを議論してもよいと考えております。
 なお,附則5条の2について,文書等の著作物の複製に関しては1項1号から当分の間適用除外ということになっておりますが,今,このような状況で単純に5条の2を削除するというような改正につきましては,私的に使用する一般人に著しい不便を生じ,混乱を招くと思いますので,最低限,当面の間現状を維持する必要があると考えております。
 続きまして,1項2号の技術的保護手段の回避による複製についてですけれども,デジタル技術により大量に複製が行われるということと,それにより経済的利益を著しく損なうということを避けなければならないという趣旨から導入されております。ただ,家庭内で個人的に利用者がバックアップの目的で一部だけコピーするというような限定的な範囲の利用もございますので,一律に回避による複製を著作権侵害とするのはどうなのかなと思いまして,そういう方向からも議論してよいと考えております。
 続きまして,1項3号についてです。違法配信からの複製につきましては,改正から今,1年半しか経過していません。違法複製物の流通により被害が生じているという実態は非常に遺憾であり,これからも引き続き対応をとっていかなければならないと考えておりますけれども,まだ導入から時間がたっておりませんので,まずは改正によりどのような効果があったのかというのを十分に検討した上で,1項3号をどうしていくのかというようなことを考えていくべきかと思っております。
 最後に,2項の私的録音録画補償金制度についてです。私的録音録画補償金制度は,いろんな意味でデジタル化時代に適合しているということはなかなか難しい。制度自体に問題があるのではないかと言えると思います。したがいまして,現行制度の廃止も含めた抜本的な制度改正の議論が必要であると考えております。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,残る時間を質疑応答及び自由討議としたいと存じます。出席者,本日,ヒアリングで意見発表においでいただいた方々に対する質問やご意見がございましたら,お願いいたします。どちらが先でしたか。たしか大須賀委員のほうが早かったと思いますので,どうぞ。

【大須賀委員】  大須賀でございます。日本経団連のご説明に対して若干質問がございますので,お伺いさせていただきます。
 先ほど産業財産権型のコピーライト制度というお話がございまして,その中で最後の3ページの1ポツのところ,利用方法,条件等は産業財産権型コンテンツ著作権者の裁量にゆだねられるというご説明が書いてございます。この点をちょっとお伺いしたいと思うんですけれども,本来,産業財産権型のコピーライト制度を創設して産業財産権としての流通を促進するということであれば,当然,その利用方法,条件等は画一的であるほうが望ましいんじゃないかという印象を持つんですが,あえて,ここで利用方法,条件等は裁量にゆだねるというふうにされたご趣旨についてご説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【広崎氏】  現実問題,いろいろ議論してみますと,これは中身によるかとは思います。例えば権利関係が非常に複雑なもの,あるいは不明確なもの,こういったものがあったときに,そういう内容を産業利用しようとしたときに個別の権利調整をするということになると大変な時間,あるいはコストを要してしまうといったようなことが考えられますので,そういったコスト増を避けることも含めまして,実際的には産業財産権型コンテンツ著作権者の裁量にゆだねるということにしたらどうかというご提案でございます。
 もちろん,その前提は,産業財産権型コンテンツ著作権者は,もとのオリジナルの権利者ときちんと合意して契約を結ぶということが前提になってございますので,それを無視してではないということはご理解いただきたいと思います。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。
 では,松田委員,どうぞ。

【松田委員】  松田です。電子情報技術産業協会のペーパーで1ページ目なんですけども,これは,個人が保有しているコンテンツ,著作物を,メディアをかえるときに業者さんがやってもいいような改正をしたほうがいいという趣旨だろうと思います。1のところは。
 その例としてユーザーが保有しているVHSテープをDVD,ブルーレイに複製し直す,この場合,事業者に依頼することができないことが問題である,だから,これはできるようにしたほうがいいという趣旨ですね。この中で例として挙げられているのは個人が持っている運動会等の映像で,その中に他人の著作物がある場合,例えば音楽が入っているような場合のことを言うのでありましょう。こういう場合にも複製できないのはぐあいが悪いということになっています。
 この例に限らず,単純に古いメディアから新しいメディアにかえて,それを事業者に委託する場合も可というふうに提言するのでありますれば,こういう例ではなくて,まさに保有している映画や保有している写真や保有している音楽を業者さんに複製させること,これを適法とすべきだというふうに言わないと整合性がとれないのではないでしょうか。運動会等の映像を複製する例に限定されるという趣旨ではないように思うのですが,いかがでしょうか。

【榊原氏】  ここでご紹介させていただいています例は,一般の方々の非常にニーズがあって,社会的にも必要性が高いだろうという例でございまして,もちろん他人に配るためにやるということ,例えばこの場合はVHSからDVDであれば1個,ないしは家族の分だったら2個という場合もあるのかもしれませんけど,10個も20個も他人に配るということであれば私的利用の目的とか,私的領域内で使用する目的であるということではないだろうと思いますので,外形的にはわからないじゃないかというご意見もあろうかと思うんですが,どちらか,100,ゼロということではなくて,やはり認めるべき場合と認めるべきではない場合というので,目的規制のような,現在,主体の規制だけでやられているんですけれども,そういう使い方をされたいという方がたくさんいらっしゃるということが一律できないということについてどうなのかという意見でございます。
 ですから,10個,20個というような他人とか友人に配ることについて適法にしてほしいというような意見ではございません。

【松田委員】  私の質問は10個,20個なんて言っていませんので,1個でいいんです。その場合でもメディアをかえるときに事業者に委託することを適法にすべきだというご意見でいいですかということを聞いているんです。

【榊原氏】  はい,そうです。

【土肥主査】  よろしいですか。
 ほかにございますか。茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】  2点あるのですけど,まず1点目は,今のメディア変換のことです。電子情報技術産業協会さん,日本知的財産協会さんが,メディアシフトのことをおっしゃっているのでお聞きしたいのですけども,VHSで撮ったものをDVDに変換するというのは,VHSの技術というのは今なくなりつつあるということなので,わからないではないのですが,現在普及しているメディア間での変換というのも許容すべきというように主張されているのかどうかということが,まず1点目です。この点を電子情報技術産業会さんと,それとメディアシフトについても述べられておられます日本知的財産協会さんに,お聞きしたいと思います。
 2点目が日本音楽著作権協会さんと日本芸能実演家団体協議会さんに対する質問で,特に音楽に関して,録音に関していろいろ問題があるというご指摘だったのですけども,現実に音楽の創造活動に対してどのような影響があるのかということに関してです。音楽の創造活動を支えるための収入が,例えば著作権にかかわるものとは別なところからたくさん得られるということであれば,著作権にかかわる金額が減ったとしても,それは音楽に関する事業が変化しているということで,それに対応してそういうことになっているのであれば特に問題ないということもいえると思います。そこで,そのような音楽の創造活動にかかわるデータを,適当かどうかはわかりませんが,例えばレコードの新曲の数とかのデータがもしございましたら,お教えいただきたいと思います。
 以上です。

【土肥主査】  それでは,最初,メディアシフトのほうからお願いいたします。

【榊原氏】  現在普及しているメディア間についてもかというご質問については,そうです。JEITAの意見書の1ページ目の下から2行目のところに複数の携帯端末間でと書いてございますけれども,例えばユーザーの方はいろんなメーカーの機器を購入されていると思うんですが,ある端末に合ったコンテンツを買ったときに,ほかの端末に移して聴きたいと。例えば携帯端末用に買ったコンテンツを車の中で聴きたいであるとか,家で聴きたいであるとか,そういったときに変換が必要で,なかなか自分でできないとか,やりたくないということについては認めてもよいのではないかという意見でございます。

【今子氏】  日本知的財産協会でございます。現在,存在しているメディア間のメディアシフトを,排除することなく認めていく方向性で検討するべきだとは思いますが,メディアシフトならすべて認めていくべきだというふうに考えているわけではなくて,権利の保護および利用のバランスから,その適正な範囲を検討する必要があるのではないかと思っております。

【土肥主査】  では,もう一つの音楽創造活動についてお願いいたします。

【北田氏】  創造活動への影響ということでございますけれども,基本的に個々の著作者の創造活動にどのように影響するかということを具体的に示すことはできませんが,基本的に著作権制度ということを考えたときに,許諾して,それによって使用料を得ることによって著作者が次の創作に向けたインセンティブを持つという,もともとの考え方からすれば,先ほど来お示ししているデータによって,CDが製作されたことによって得られる著作物使用料が減っていることは明らかなわけですから,そうするとインセンティブというのも当然下がっていくというふうに言っていいんじゃないかと考えています。
 それと他の分野との比較ということでございますけれども,今,手元にデータがあるわけじゃありませんが,ここ10年,15年ぐらいの状況を見ますと,今までオーディオディスク等の録音使用料が,JASRACの著作物使用料の徴収額の内,大きなの範囲を占めていたわけですけれども,現在はその部分が相当縮小していて,カラオケ等の演奏権であったり,あるいは放送からの徴収であったり,そういったものからの徴収の占める割合が増えてきているということで,そっちが増えているんだから,こっちが減ったって結果は同じじゃないかということではなくて,カラオケの使用料とか放送の使用料,それはそれぞれ利用される場面が違うわけですから,私的複製が大量に行われることによってCD等から得られる使用料が少なくなれば,他の分野からの使用料が増えたからといって,そこに影響がないというふうなことは言えないんじゃないかと思います。
 大体,以上のところです。

【土肥主査】  どうぞ,続けてお願いします。

【椎名氏】  先ほど経団連の方からも客観的なデータをきちっと出してはどうかというふうなお話をいただいたんです。確かにそういうものは必要だなとお話を伺って思っていたんですが,僕自身が権利者団体をやっているということではなく,実際に音楽制作の現場に近いところにいる人間の実感としてお話をするとすれば,断片的な話になってしまいますけれど,かつてはアーチストがレコード会社と契約してデビューするまでの間に一定の熟成期間というものがあったんです。アーチストによってコンセプトを煮詰めていったり,あるいは音楽性を煮詰めていったりというようなことがもうほとんどなくなって,すでに商品としてデビューさせられる人と契約して,すぐ出すというようなことで,先ほど育成教育と言いましたけど,方向性みたいなことを吟味してアーチストの音楽性を伸ばしていくというような機能が失われているということがあります。
 そのことは,とりもなおさずレコードレーベルがそういう余裕がなくなっているということなんだと思うんですが,同じくそういうレコードレーベルが個々のアーチストに対してコンサートなどを開くときの援助金を出すというような制度も,この10年でばったりなくなってしまいましたし,それから,レーベルと契約しているアーチストの方々の中でも,ある一定のセールスが期待できない方々はどんどん切り捨てられているというふうな状況もあります。
 また,具体的なデータを持っているわけではありませんが,毎年出される新譜の中で新たに録音した部分,いわゆる新録部分というのは明らかに減っていると思います。そのことに関連して東京都内にありました70ぐらいのレコーディングスタジオが,現在30くらいまで減少しているという状況もあります。同じことで,レコーディングで作業するミキシングエンジニアの方々も廃業されている方々がいて,およそ半分ぐらいになっていると。
 私の知り得る限りの断片的な話ですが,そういった状況が生まれていると思います。

【土肥主査】  ありがとうございます。
 ほかにございますか。では,山本委員。

【山本(た)委員】  私からは,資料3,日本美術家連盟さんと日本写真著作権協会さんから出されている資料の3枚目のところでご提案がありますので,この点についてちょっと伺いたいと思います。
 ここで提案されていることは,複製可能な機器に広く薄い補償金制度を創設するという内容ですけども,これ,2点ちょっと問題があるんじゃないかと思うんでご意見を伺いたいと思います。1点は,実際に複製されたクリエイターの方なんですが,ここで広く集めて,だれの著作物が複製されたか。あらゆる複製可能機器に課金するとすれば,だれのものがどれだけ複製されたかというのは調べるのはなかなか難しい。そうすると,どうやって著作権者に分配することになるのか。どういう工夫があり得るのかというのは思い至りませんので,結局は管理団体の経費に使われるだけになってしまうんじゃないかというような懸念を持ちます。まず第1点は,どのように分配されるのか。まさに使われる著作権者のところに分配金が渡るような形でなければ,創作を促進するという効果がありません。そういうものは単に使用に対しての罰金的な効果しかなくなってしまうように思います。つまり,創作促進効果がないという問題があるんじゃないか。
 2点目は,複製可能機器というと,例えば私の家にはファクシミリ兼プリンター兼コピー機兼スキャナーというのがあります。それに対しても課金されるということになると,別に著作物をコピーするというようなことに使った覚えもないんですが,そういうのに課金されるというのはどうなのかなと。他方で複製機器を使ってかなり大量にコピーされる方もいるだろう。それであるのに同じように課金されるというのは果たして公平なのかなという疑問を持ちます。その辺のところについてどのようにお考えなのか,お願いします。

【土肥主査】  どうぞ。

【瀬尾氏】  まず最初の分配についてなんですけども,個人のもとにお金が現金で入るということはもちろん重要だと思います。ただし,今,個人がきちんと自分の権利を,例えば私的利用とか,社内利用とか,自分のわからないところで使われたりとか,いろんなことがあったときに,それに対抗する手段というのは,実は個人ではほとんど権利主張できない場合というのが大変多い。つまり,仕組みとか団体とか,そのようなものを通じて自分の権利を守っていくというふうなことしかできない場合が大変多いんです。だけども,それ自体は共通目的みたいな形になるんですけど,実際に権利者団体がそういうお金を捻出するのは非常に大変です。
 ですから,このようなことによって団体組織できちんと権利者の権利を守るという部分が非常に重要になってきている。個人にお金を返すのはもちろん必要だと思いますし,それは実態調査に基づく分配になると思います。ただ,これは,補償金制度の基本的な問題として,確実に使った分だけ使ったようにというのはなかなか難しいと思います。でも,それは,個人ではできないような団体組織によって個人の権利者を守るということに使うべきだし,そういうところで資金を捻出しなかったら,いつまでたっても,今度は団体で守らなきゃできないようなことについて個人を守り切れないと考えています。
 ですから,きちんとした組織をつくって,そこの中で透明性を確保することによって,実態調査に基づいて個人に分配する部分と,団体でなければ守れない個人の権利をきちんと守っていくような形で,団体がそれを共通目的化して使うということが私はよろしいんではないかなと,そういう趣旨でこれを書きました。
 つまり,個人にほんとうにお金がいくだけで個人の権利を守る時代ではないということです。集中管理していればいいですけど,個人の集まりで集中管理もできていない分野にとっては,何らかの組織が団体できちんと交渉したり,話したりしなければ個人の権利は守れません。そして,バランスもなかなかとりがたい状態にある。その現実をお考えいただきたい。だから,個人にお金がいかなければ,それはインセンティブにならないというのは違うなと私は考えます。
 2つ目は機器です。確かに機器を使ったときに,こんなにいっぱい複製している人と,全然そんなのに使わない人と同じように課金されるのは非常に不公平感が高い。これは,一般的に考えられると思います。
 でも,複製した分だけ量的にきちんと均等化して課金したり,使わない人にはゼロであったりということが難しいからこその補償金制度であろうと考えます。そのために薄くというふうなことと,広くというようなことで平準化をして,そしてみんなで個人の部分を補償するという考え方に基づくような制度でないと,使った分だけきちんと払って,使った相手に届けるという形の補償金制度ではうまくいかないというのがこの趣旨です。
 ですから,ここで集めたものをだれにいくのか,きちんと使った人にいくのか,使った分だけいくのかという考えではなく,やはり社会として知的複製という制度を支えて,利用者にも利便性を提供し,そして権利者にも使った分をきちんと戻す。そして,これが逆に先ほど申し上げたように機器メーカーの負担にもならないような,どこにも押しつけないような,全員で負担していく制度にするべきじゃないかなというのがこの趣旨です。回答になりますでしょうか。

【山本(た)委員】  わかりました。

【土肥主査】  ほかにございますか。非常によい機会でございますので,どうぞご遠慮なく。
 1つ教えていただきたいなと思っていることがあるんですけれども,30条1項3号の問題を本日いろいろお聞かせいただいたわけですが,ご案内のように衆参両院で30条1項3号ができたときに附帯決議があって,この制度を入れることによっていろんな弊害があるので,そういった弊害がないように十分留意するようにという附帯決議があったかと思います。あるいはライセンスマークでしょうか。本日お尋ねするのが適当なのかどうかわかりませんけれども,ライセンスマークを十分周知していただいて,そういう混乱が起きないようなことを考えていただいただろうと思います。あるいはJEITAのほうからは,たしか萎縮効果があるじゃないかというような指摘がありましたが,30条1項3号が入ったことによって,その萎縮効果がどの程度出たのか。この1年半ぐらいの間に明らかになったことがあるんだろうと思うんですけれども,1つは,附帯決議で懸念されたような事態があったのかどうか。これが1つ。
 それから,ライセンスマークについての周知徹底をどの程度お図りいただいたのか。
 それから,3つ目ですけれども,いわゆる萎縮効果とおっしゃるけれども,そういうものが現実としてJEITAのほうでは把握されておいでになるのかどうか。こういうことを教えていただければと思いますが,いかがでしょうか。JASRACさんのほうでも結構です。

【北田氏】  ライセンスマークということですけれども,JASRACでは,従前から許諾しているサイトに関してはライセンスマークをすべて発行して画面に表示するように,許諾の条件にしております。こういう法律ができましたことによって,改めてそれに関する広報活動などを実施しております。
 それから,JASRACだけではなくて,本日は見えておりませんけれども,レコード協会さんのほうでも広範な周知活動というものをやって,かなりの面で周知が行き届いているのではないかと思います。
 それから,法律が制定されるということで,その前後,正確な数字が出ているわけではないですけれども,違法配信がかなり減ったというようなデータが出ているということも聞いております。

【土肥主査】  ありがとうございます。
 では,萎縮効果のほうでお話しいただけますか。

【長谷川氏】  私どもとして,その効果について検証しているという状況にはございません。したがって,過剰な萎縮効果が生じてないことの検証を行うことが必要であろうと。その段階の私どもの意見でございます。

【土肥主査】  それから,実際に詐欺のようなことが起きたんでしょうか,3号をめぐって懸念されたようなこと。オレオレ詐欺のようなことが問題になるんじゃないかというような話もあったと思いますけれども,あのような実態があったのかどうか。わざわざ国会で,衆議院と参議院,両院でご心配いただいたわけですけれども,本委員会の検討の結果で国会でご心配いただくようなことが実際にあったのであれば,それは十分考えなければなりませんが,そういうことはございましたか。

【壹貫田著作権課課長補佐】  その点につきましては,また次回,先ほどもお話がございましたけれども,レコード協会さんとか関係団体がいらっしゃると思いますので,次回のほうがお話を聞けるんじゃないかと思います。

【土肥主査】  わかりました。いささか早く質問し過ぎたのかもしれませんけれども,いろいろ私どもとしては心配しておりましたので,お尋ねしたということでございます。
 ほかにございますか。どうぞ,山本委員。

【山本(た)委員】  まだ時間もあるようなんで,1つ質問させていただきます。経団連さんの資料5の一番最後,参考のところにありましたコピーライト制度,2つ設けられているうちの前者のほうは,今の著作権制度と多少違いがあるのかもしれませんけど,その延長,どのように改良するのかという問題のように聞こえるんですが,2番目の自由利用型コピーライト制度のほうは,私,よくわからないのは,別に制度をつくらなくてもできる話じゃないのかなと。民法のほうではどうなっているのかちょっとわかりませんが,権利を放棄するというのは不特定人にはできないのかもわかりませんが,つまり,パブリックドメインというのはできないのかもしれませんけど,例えば経団連が主体となって法人格をつくって,要は著作権のごみ箱といってはあれなんですが,そこに譲渡するというような形で放棄してしまうということであれば,民法上何も問題ないと思いますので,それでもって放棄して本人は権利なくしてしまう。それを経団連さんとして団体で公示するというような形で,要は現行制度の中でもこの辺は処理できる話じゃないかと思うんですが,何ゆえ著作権制度をつくらないといけない点があるんでしょうか。

【広崎氏】  細かい事例まで把握していないのですが,おそらく,内部の議論でこの2の特に(2)制度の安定性確保の議論が相当あったのではないかと思います。おっしゃるように,常識的には権利者の方が権利放棄しさえすれば利用者は自由にコンテンツを使えるわけですが,例えばそれである種のビジネスの流れができて,ある経済効果が出てきたところで,権利者側がこれ以上は自由利用を認めたくないといったようなことが生じた場合に,ビジネスとしての安定性が損なわれるといったことは,現実問題で十分あろうと思います。1つ目の産業財産権型コピライト制度においても,やはり産業活用,あるいはビジネスとしての安定性,対抗要件であるとか,このあたりは法的にきちんと整備すべきという議論があるのと同じように,自由利用型コピライト制度の大きな意義は,制度の安定性確保という点にあるのではないかと思っております。

【土肥主査】  よろしいですか。
 ほかにございますか。松田委員,どうぞ。

【松田委員】  私は,委員に1つの問題提起したいんですけど,この30条の問題は,実はいろんなところに波及いたします。問題をどこに絞るかというところも考えいただきたいと思います。といいますのは,近時までデジタルコンテンツ流通促進を導入するかどうかについて非常に大変な議論をしたわけです。そして,報告書にまとめたわけです。30条問題を論じるときに,またそこにいくのかというのを私はできれば避けてもらいたいと思います。30条固有の問題をここで議論すべきではないかなと思っています。それが1つです。
 それから,30条の第3号ですけど,これは2009年改正なんです。2009年改正のものをまた,確かに30条問題ではありますけれども,新たな事象,例えば立法事実等が生じていれば別ですけど,それがないような場合には,とりあえずその議論をしないでいいという前提で,できるだけ30条本文の問題として考えるべきではないか,議論すべきではないかなと思います。繰り返し繰り返しは審議経済に大変マイナスだろうと思います。できれば,そういう整理をしていただきたいと思います。
 そうなりますと,実は先ほど一番先に質問いたしました問題なんですけども,別に個人の写した映像等でなくて,プロがつくった音楽,映像,そういうものを個人が自分のためにメディアをかえてやるのではなくて,それを代替の業者がやるような場合において果たしてどうなのかというのは1つの問題提起だろうと私は思っております。
 ここ10年間,訴訟を見ても,実は30条を介して新しいビジネスモデルとして,そういうことが許されるのではないかといって提起された事案というのは幾つもあります。そして,それについて大体の方向は判例で出ていると思います。それをさらに覆えすために著作権法のパラダイムを転換すべきだというのでしょうか。実はこの点に30条問題があるのではないかなと思っています。30条の議論,できればそういうところに集約していって,ほんとうに新しい産業を興すための30条でどういう問題が起こるのかということを議論すべきではないかなと考えています。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに,ご意見も含めてございませんか。
 本日のヒアリングにおいては,お忙しい中お出でいただいたわけでございますけれども,ご発言をされなかった団体,一緒に共同でご発言いただいたのかもしれませんが,あるいは1つの団体の中でもご発言をいただかなかった出席者の方で何か言い足りなかった部分,言っておきたい部分ありましたら,おっしゃっていただければと思いますけれども,よろしいですか。特にございませんか。
 特にないというのでありましたら,若干時間は残っておりますけれども,本日はこのくらいにしたいと考えております。よろしゅうございますか。どうぞ。

【榊原氏】  榊原でございます。お手元の資料の4に沿ってご説明させていただきます。資料4の1ページ目の1のところからスタートさせていただきます。
 まず,30条の使用する者が複製できるという要件に関しましては,書籍,音楽,映像等のコンテンツについて,ユーザー側にはメディア変換に対する強いニーズがございます。しかしながら,30条のもとではみずからコピーすることを要求されておりますので,その利便性を十分に享受できないということに現在なってございます。
 例えばでございますが,ユーザーの方が保有する多数のVHSテープをDVDであるとか,ブルーレイといった別の光ディスクに複製して保存するということも,みずからすべて行う必要が生じますので,事業者等に依頼することができないということになっております。
 これでは技術の発展によって新しいメディアがせっかく出現したにもかかわらず,ユーザーの皆様には古いテープと古いプレーヤーをいつまでも保有することを強いてしまうということも起こり得ます。実際にメーカーの方に対してはユーザーからこのようなニーズの声が届いております。また,メーカーにとりましても,いつまでも古いプレーヤーの部品を保有して保守,修理のサービスを継続するということが大きな負担にもなりかねないという点もございます。
 従いまして,時間や労力をかけられない人やかけたくない人,それから,そもそもみずからできない人といった,そういうユーザーの方々のために事業者に依頼することを認める意義は大きいのではないでしょうか。
 この点は,ユーザーが事業者の支援を受けますと,高速で広範な複製の結果,権利者の方々に経済的な損失が生じるということで,30条が許容した零細な複製にとどまらないんではないかという批判もあり得るかと思います。しかしながら,実態を見ますと,事業者がユーザーの手足になって複製するだけの場合,さっきのメディア変換の例では,メディア変換後には古いテープと古いプレーヤーというのは,おそらくともに処分するために行うと推測されますので,もともとユーザーが保有していたコンテンツのコピーの数と複製の前後では変わらないということで,特段,大量,広範な複製がなされるというような批判は当たらないのではないかと考えます。
 また,複数の携帯端末等でコンテンツを楽しみたいというニーズのためにメディア変換を行う場合には,同一ユーザーが作成するコンテンツのコピーだけを見ますと増加するものの,みずから複製を行う場合と比較していただきますと,やはりコンテンツのコピーの数というのは変わらないのではないかと考えます。
 このような場合には,事業者の助力によって複製を行ったとしましても,作成されたコピーが私的領域内で使用されるという場合に限っては,新たに権利者の方たちに経済的損失を生じる可能性は低いのではないかと考えております。
 したがいまして,事業者の助力を求めることを認めることで,ユーザーの利便性を大きく向上する一方で,権利者の方々にも新たな経済的損失が生じる可能性が低い以上,みずから行うか,依頼された事業者が行うかということによって,適法,違法の区別をする理由はなく,複製を使用する者に限定する合理性はないと考えております。
 他方で,適法に取得したコンテンツをいろいろな端末で使用することを認めることは,ユーザーの利便性を高めることによってコンテツに接触する機会の増大にもつながり,その結果,コンテンツ産業の成長を図ることも可能ではないかと考えております。
 以上より,使用する者が複製することができるという要件を厳密な意味での支配関係がなくとも,実質的にはユーザーの手足として複製していると評価できるような場合や,複製物が実質的には私的領域内での使用のために作成されたと評価できる場合には,ユーザー以外の者が物理的複製行為を行うことや,ユーザーの複製行為に事業者が関与することを認めるべきではないかと考えております。
 次,2番ですけれども,1項1号の自動複製機器に関しましては,附則の5条の2において当分の間は自動複製機器による複製は著作権侵害とならないという規定が置かれておりますが,この経過措置がなくなりますと,現在,コンビニ等で行われているユーザーによるコピーという行為が著作権侵害に該当するであろうと思います。
 文献複写機を除外したもともとの意図といいますのは,集中管理体制が整備されるまでの間の暫定措置であるということでございましたが,現在の社会一般の認識としては,みずから購入した書籍をコンビニ等でコピーするということは,だれも違法な行為をしているというふうには考えていないのではないでしょうか。
 また,この経過措置が導入された59年当時のコンテンツの楽しみ方からすれば,先ほど申し上げた自分の携帯端末等の複数のプレーヤーで楽しむといったメディア変換のニーズはおそらくほとんどなかったと推察されますし,現在では技術環境や利用環境の変化により,クラウド上で行われるデジタルロッカーへの複製といったことも行われています。居宅内で記録機器に保存したコピーが居宅外のクラウド上に保存されるという違いがあるだけで,その実質は同じであり,権利者の方々に新たな経済的損失が生じているとは思えないと考えております。さらに,社会一般としては,こういった行為は適法な行為であると認識されているのではないかと考えております。
 したがいまして,経過措置の削除に加え,この1項1号も削除されてはいかがかと考えております。
 なお,仮にこの同号が削除されますと,ともに119条2項2号も削除されることになると考えますが,ユーザーの行為が違法となるような場合には複製機器の設置者も幇助として違法になるのではないかと理解しております。
 次の3ページに移りまして,1項2号の回避規制に関してでございますが,これにつきましては分科会の報告書で,回避規制の見直しの方向性が既に報告されておりまして,JEITAとしましても,その審議の過程で著作権法に名をかりたプラットフォーム保護になる恐れがあるという意見を申し上げさせていただきました。
 この意見に関しましては,当会以外にも複数の委員の方から同様な指摘がされているものの,現在,その報告書には,「特定の者によるプラットフォームの保護を認めるという観点に立つものではない」という記載はいただいているんですけれども,いまだ互換性を害する懸念というのは払拭されておりません。
 これは,例えの例で言いますと,ネット上で購入したソフトウェアを自分の携帯端末で利用する場面を想定いただくとわかりやすいかと思います。ユーザーがソフトウェアをお金を払って購入し,正当な使用権限を得ているというような場合に,携帯端末メーカーが使用するプラットフォームにアクセス制限がかけられており,そのアクセス制限を回避することが仮に著作権法で禁止された場合,その携帯端末上でプラットフォーム保有者が認めないソフトウェアへのアクセスが許されないということになりますので,ユーザーは,先ほど申し上げた有償で購入したソフトウェアの利用ができないということになるんだろうと思います。
 このような事態は,米国や欧州でも現実の問題として既に指摘されておりますので,単なる懸念ではないだろうと思います。アメリカでは,それに対する対応策としてDMCAに除外規定が設けられたり,ユーザーの回避行為については3年ごとの除外手続によって解決を図っているようでございますので,日本においてもこういう弊害が生じないような立法をお願いしたいと思います。
 さらに,バックアップ等の正当な目的のもとで技術的保護手段の回避の是非についても検討すべきであるという意見がこちらの委員会でも出ていると聞いております。現在,権利者とユーザー側の利益バランスを見ますと,権利者は自由に保護手段を利用できる状況にある一方,ユーザーの方は制限規定によって付与された自由を無制限に失う可能性もあると思います。従いまして,情報享受の自由といったユーザー側の利益の要請から,一定の正当な目的のもとでの回避の是非という観点で検討されるべきではないかと考えております。
 このような配慮は,フランスやEuropean Copyright Codeでもなされているようですし,ブラジルでも類似の改正案があると理解しております。
 4ページに移りまして,1項3号についてでございますが,ダウンロード違法化につきましては,審議の過程で私的領域への介入によって萎縮効果が生じるとか,家庭内の行為について法が規制することはどうなのかといった慎重論もあったことから,それらの意見に配慮して著作権保護意識の喚起や啓発を促進する効果を求めて立法に至った経緯があると理解しております。
 そのような経緯からすれば,意識喚起や啓発の効果を評価し,なおかつ過剰な萎縮効果が立法において生じていないことの検証を行うことがまず必要だろうと思います。また,現行法で2010年に法律が施行されておりますので,その評価についても行うべきですし,現行法を実際に使っていただく必要があるだろうと思います。どの程度活用されたのかという評価・検証がまだ十分に行われていない現時点では,刑罰法規等の規制強化の検討を行うのは時期尚早ではないかと考えております。
 それから,30条の範囲ではございませんが,違法なアップロードにつきましては既に刑事罰が科されておりますので,こちらの厳格な運用がなされるべきではないかと考えます。
 2項につきましては,JEITAに特段立場の変更がないことからURLをここにご紹介させていただきます。
 最後に,内容ではございませんが,審議のプロセスについて,ユーザーの声が十分に反映されるような仕組みをとってはいかがかと考えております。例えば本日のようなヒアリングをいただくであるとか,審議会に権利者団体と均等数のユーザー団体を参加させていただくであるとか,あとは権利者の団体の方からもございましたが,利用環境やニーズについてはアンケートや実態調査ということを実施されて,現時点の利用環境を把握することが非常に重要であろうと考えております。
 最後に,意見をヒアリングするということと,それに加えて,審議で今後そういった意見がどのように考慮されたかの検証や検証結果の公表がなされればよいのではないかと考えます。
 当会の意見は以上です。ご清聴ありがとうございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして社団法人日本経済団体連合会,広崎様,よろしくお願いいたします。

【広崎氏】  経団連の広崎でございます。経団連では知的財産委員会という大きな委員会がございまして,その委員会のもとに私どもの企画部会,著作権部会,あるいは国際標準化戦略部会といった部会がございます。したがいまして,細かい議論につきましては,知的財産委員会の中の著作権部会のほうで検討を進めている状況でございますが,本日は企画部会長である私から,今の日本の喫緊の課題である産業競争力強化という少し包括的な観点から見解を述べさせていただきたい思います。ここにまとめてございます資料は,少しラフスケッチになってございますので,その行間を埋めながら考え方のご説明をさせていただきたいと思います。
 まず,総論でございますが,そもそも私ども産業界としては著作権法を,従来以上に重視してございます。その幾つかの理由がそこに箇条書きになってございますが,まず1点目は,これはもう異論のないところですが,コンテンツ関連のビジネスが我が国にとってますます重要になっているということであります。考えてみますと,工業所有権法が19世紀にできて,それから約100年。その間に工業化社会から脱工業化社会,知識情報社会に今,大きくパラダイムが移ろうとしています。これを支える技術的裏づけが先ほどご説明がございましたようなデジタル化,あるいはネットワーク化があり,依然としてムーアの法則で技術進展が進んでいる情報技術が非常に大きな押し上げ要因になっているわけでございますが,これに伴って無形物,あるいは知識,情報が従来以上に直接経済価値を持つ時代,流通価値を持つ時代になろうとしております。
 したがいまして,私が冒頭お話ししました産業競争力,これから向こう10年の産業競争力を考えようとしたときには,当然,こういった無形物の新たな経済価値をどうやって皆で高めていくかというところに議論を集中させるべきだろうと考えてございます。
 それから,ポツの3点目でございますが,これは,既に権利者サイド,それからメーカーサイドのご意見にもございましたように,技術の進歩の果実を活用するとともに,やはり利用者の利便性の向上を図るべきだろうと。ともすれば,どちらかに偏った議論になりがちなのですが,ここを一歩間違えると国際的に日本が非常に不利になるということが今後予想されます。
 したがって,国際的に不利にならないような新たなバランス,整合性のとれた制度の体系を急いでつくるべきだろうと思います。先ほどのご発表の中で,政府の知的財産推進計画において2005年以来5年以上,私的録音録画補償金制度について「今年中に方向性を出す」という記載が続いているとのご指摘がございましたが,これは大変ゆゆしきことだと思っています。
 そういったことを踏まえた上で,第30条について多少具体的な中身に触れさせていただきたいと思います。個人や家庭における複製,これは流通可能性が低く,量も少なく,質も低いという従来の前提は,これまで種々議論がありましたように,当然,社会構造の変化,あるいは技術の進歩によって変化しており,個人や家庭から直接全世界に,瞬時に,しかも大量に情報発信できる時代に突入しています。そういった時代に何を規制し,どこまでを許容していくかということは,当たり前ですけれども非常に大事な観点であり,私的複製の定義そのものもそうした観点から見直してみる必要があるものと思っております。
 それから,技術の点ですが,コンテンツの保護技術が進展しているので,その技術を利用すればかなりの部分が解決するという議論がある一方で,そういう技術が実際に有効に使われているという事例がまだまだ少ないという対極の議論もあります。このあたりについては,保護技術そのものもさらにこれから進歩していきますし,これを解いていく技術も進歩していく中でどう考えるかということになるわけでございますが,これについては後ほど包括的な考え方を少しまとめさせていただきたいと思っております。
 それから,私的録音録画補償金制度。これは,私も2003年ごろからお役所に駆け込んだり,いろいろなことをしてまいりましたが,ほとんどあの当時と変わらない議論が続いているということに大変ショックを受けています。いろいろなデータをもう少し丁寧に集めて,二極分化した議論ではなく,データに基づいた議論をすべきだろうと思います。皆さんもおっしゃっているのですが,例えば私的録音補償金の収入が減っていて,一方で携帯の端末が増えているというデータのご指摘がございました。これらには,グラフを見ると強い相関関係があるように見えますし,そのような面もあるでしょうが,もう一歩踏み込んだ解析やデータの分析をやっていかなければなりません。データというのは,一歩間違えると恣意的に操作でき,組み合わせることによって,極端に言うとどういう結論でも出せるところがございますので,全体最適のためにも客観的なデータをもっと積み上げる必要があると思います。
 例えば金額面で補償金が減少したというデータは,事実は事実としてあるわけでございます。それに対して例えばクリエイターの数が減っているのか減っていないのか等,さまざまなデータを集めて,何が真実かということをもっと見ていく必要があろうかと思います。
 そういったことを踏まえて,次のページに今後に向けた我々産業界の問題提起をまとめてございます。
 1つは,ポツの2点目に書いてございますが,冒頭申し上げましたように,国全体が衰退することになっては非常にまずいわけです。ご案内のとおり,特に日本は世界から尊敬される国の1つになっていて,今回の震災でも高い倫理観,あるいは伝統ある文化など,いろんなことが世界的には評価されているわけですので,そのような日本がこうした問題で内部で対立して,世界的なオポチュニティをだんだん衰退させてしまうということは,国全体の国益という点で非常にまずいと思っております。ぜひ,なるべく早い段階で新しい法体系を確立し,オポチュニティ拡大を目指していただきたい。
 そのためには,矛盾点を引きずったままではなかなか難しいところがございます。そこで,我々経団連として具体的な提案をさせていただいたのが,ポツの3番目に書いてございますとおり,複線型の著作権法制度という考え方もあって良いのではないかというものです。この提案は,著作権者が制度を自由に選べるというものです。複線型著作権法制の内容については,次のページの参考資料に記しています。私どもはこの考え方を2009年に提案し,現在でもこれをさらにいろいろな法律の専門家と一緒に検討しているところでございますが,具体的には大きく2つの制度を新設してはどうかと提案しております。
 1つ目は,「産業財産権型コピライト制度」,すなわち実際の著作権者と産業財産権を扱うという意味での権利者という2つの権利者を区別した上,産業財産権を扱う権利者が一括して権利の契約なり管理なりをし,産業利用が非常にスムーズに進むようにしていく。これにより,例えば対抗要件も個々の著作権者と複数結ぶ必要がなくなり,産業財産権型の権利者に一元化するといったこともできます。こういう「産業財産権型コピライト制度」というものがあっても良いのではないかと思います。
 もう1つは,フリーソフトの考え方に近いのですが,「自由利用型コピライト制度」。これも今のオープンイノベーションの時代を乗り切るためにはあっても良いと思っております。権利者が自由な利活用を認めた著作物のインターネット上における活用の円滑化を図るということで,最近,ソフトの世界ではクリエイティブコモンズであるとか,そういうフリーソフトの権利関係の新しい工夫というのが世界的にはどんどん行われていて,これによって各国のソフトウェア産業の競争力はどんどん強くなっている。
 日本でも待っていられないというのでクリエイティブコモンズの団体ができて,自主的な決まりを推進しているという状況になっております。今後,先ほどお話のあったクラウドであるとか,さらに新しい時代のセマンティックウェブといいますか,そういうオントロジー,即ち,データの中身そのものの意味や概念をシステム側で理解した上でやりとりするという知的レベルの大変高い情報処理システムが,これもすぐ目前に来ている。こういった時代にこたえるためには,100年前の所有権に基づいた著作権法という古い土俵もこれはこれでしっかり持つとともに,新たにこういう産業財産権型,あるいはフリーソフトに見られるような自由利用型のコピライト制度を導入し,複線化させることによって,冒頭申し上げた矛盾を解決するように動いていただけるとよいのではないかなと思っております。
 申しおくれましたけども,経団連の中にはメーカーさんだけではなく,スクウェア・エニックスさん等のゲームソフトのメーカーさんも多数いらっしゃいます。そういった方々との議論の中で,やはり全体としてはわが国の産業競争力を強化する方向で力を合わせようという議論になっておりますので,ぜひご参考にしていただければと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,最後に日本知的財産協会,上野様,今子様,大野様,よろしくお願いいたします。

【上野氏】  日本知的財産協会,JIPAの副理事長をさせていただいております上野です。JIPAも,メンバーとしては900社を超える正会員を有する知的財産に関する企業の団体として,産業の競争力強化のためにどういったアプローチをとればいいのかということについて,業種横断的な議論を進めてきております。
 著作権に関しましても,今,広崎様からもありましたけども,知識情報社会の進展というようなことから,特許権と並んで著作権が企業戦略上,非常に重要なものになってきています。そういった中で著作権の問題に関しては,きょう一緒に出てもらっております著作権委員会のほうで,やはりさまざまな業種のメンバーが集まって議論して,どういった制度がいいのかというような積極的な議論をしているところで,きょうのテーマであります30条というものも非常に大きな関心を持っておるところです。
 30条自身は,保護と利用のバランスを図る仕組みの基本骨格として,ほんとうに重要な役割をこれまでも果たしてまいりましたし,今後もこの重要性は変わらないのだろうと考えております。それとあわせて知識情報社会,デジタル化技術,そういったものの進展によって見直しの議論等も出てきている。そういったものに関しても議論を進めていく必要性があると考えています。
 そういう基本的な問題意識のもとで,きょうの30条の意見に関しては,先ほど申し上げました著作権委員会の今子委員長から内容についてご紹介させていただきたいと思います。

【今子氏】  今子でございます。本日は,このような意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして,ありがとうございます。
 私的使用のための複製,30条につきましては,基本的に権利者の正当な利益を不当に害しないという範囲で,個人の私的領域の活動の自由を保障するという非常に有用な枠組みであると考えております。家庭内で例えばテレビ番組を録画した後に見るようなタイムシフトとか,プレースシフトとか,そういった私的複製が行われるシーンは非常に多いわけでして,日常生活でコンテンツを楽しむというようなことに30条が非常に寄与しているということができると思います。30条によりまして文化の発展,それから,情報が広く利用されていくということが実現できているといえ,それは法目的にもかなうと考えております。
 したがいまして,30条の基本的な枠組みを維持していくということには大きな意義があると考えております。しかしながら,先ほど皆様からご紹介もございましたように,近年の著しいデジタル化技術の発展により,30条の導入の当時,あるいは20年前,10年前と今では技術環境が全く異なると言っても過言ではないと思います。そういった中,30条がそれにすべてきちんと対応できているのかと言われますと,それはなかなか難しいということも理解しておりまして,やはり権利者の正当な利益が不当に害されたり,あるいは利用者による技術の利便性の享受を法律が妨げるというようなことは避けなければならないと考えております。
 したがいまして,時代に合わせるための見直しの議論を行うことは非常に重要であり,今般,このような機会を設けていただくということは有益であると思っております。
 ただ,30条の基本的な枠組みは守っていきたいということもありますし,拙速な改正を行いますと,それによって得られる影響も非常に大きいので,慎重に議論をしていくべきだと思っております。
 各論について述べます。
 まず,1項柱書きについてです。現行の1項柱書きの使用する者が複製することができるという文言は,通説的には事業者に複製を委託することは許されないというふうに解されております。しかしながら,まず1つにはメディアのライフサイクルの単寿命化が非常に顕著になっています。また,コンテンツを取得して所有している利用者は,そもそもコンテンツを取得したときに,そのメディアでしか使用できないという認識はなく,技術環境が変化した後もそのコンテンツを使いたい,聞きたい,見たいというように考えるのが当然だと思いますので,技術の進展による利便性の享受といった観点からも,そういうことは当然認めていく必要がある。
 一方,30条1項によりまして事業者に複製することはできないということになりますけれども,自分で行うか,事業者が行うかによって法的に取り扱いを異にするのは合理性に欠ける部分もあるかと思います。
 したがいまして,そのような一面的な観察によりまして,メディアシフトを一律に排除するということではなくて,権利者の正当な利益を不当に害するものではなく,かつ実質的な効果として本人が行っている場合と変わらないものかどうかで判断するべきであると考えております。
 続きまして,1項1号,自動複製機器についてです。自動複製機器を用いた複製が正当に取得した自己が所有,管理する著作物を複製するようなものであって,その使用が個人的,または家庭内にとどまるものである場合には,自分が所有する複製機器で複製するのと理論的には変わらないと思いますので,そういった観点から30条1項1号のあり方というのを議論してもよいと考えております。
 なお,附則5条の2について,文書等の著作物の複製に関しては1項1号から当分の間適用除外ということになっておりますが,今,このような状況で単純に5条の2を削除するというような改正につきましては,私的に使用する一般人に著しい不便を生じ,混乱を招くと思いますので,最低限,当面の間現状を維持する必要があると考えております。
 続きまして,1項2号の技術的保護手段の回避による複製についてですけれども,デジタル技術により大量に複製が行われるということと,それにより経済的利益を著しく損なうということを避けなければならないという趣旨から導入されております。ただ,家庭内で個人的に利用者がバックアップの目的で一部だけコピーするというような限定的な範囲の利用もございますので,一律に回避による複製を著作権侵害とするのはどうなのかなと思いまして,そういう方向からも議論してよいと考えております。
 続きまして,1項3号についてです。違法配信からの複製につきましては,改正から今,1年半しか経過していません。違法複製物の流通により被害が生じているという実態は非常に遺憾であり,これからも引き続き対応をとっていかなければならないと考えておりますけれども,まだ導入から時間がたっておりませんので,まずは改正によりどのような効果があったのかというのを十分に検討した上で,1項3号をどうしていくのかというようなことを考えていくべきかと思っております。
 最後に,2項の私的録音録画補償金制度についてです。私的録音録画補償金制度は,いろんな意味でデジタル化時代に適合しているということはなかなか難しい。制度自体に問題があるのではないかと言えると思います。したがいまして,現行制度の廃止も含めた抜本的な制度改正の議論が必要であると考えております。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,残る時間を質疑応答及び自由討議としたいと存じます。出席者,本日,ヒアリングで意見発表においでいただいた方々に対する質問やご意見がございましたら,お願いいたします。どちらが先でしたか。たしか大須賀委員のほうが早かったと思いますので,どうぞ。

【大須賀委員】  大須賀でございます。日本経団連のご説明に対して若干質問がございますので,お伺いさせていただきます。
 先ほど産業財産権型のコピーライト制度というお話がございまして,その中で最後の3ページの1ポツのところ,利用方法,条件等は産業財産権型コンテンツ著作権者の裁量にゆだねられるというご説明が書いてございます。この点をちょっとお伺いしたいと思うんですけれども,本来,産業財産権型のコピーライト制度を創設して産業財産権としての流通を促進するということであれば,当然,その利用方法,条件等は画一的であるほうが望ましいんじゃないかという印象を持つんですが,あえて,ここで利用方法,条件等は裁量にゆだねるというふうにされたご趣旨についてご説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【広崎氏】  現実問題,いろいろ議論してみますと,これは中身によるかとは思います。例えば権利関係が非常に複雑なもの,あるいは不明確なもの,こういったものがあったときに,そういう内容を産業利用しようとしたときに個別の権利調整をするということになると大変な時間,あるいはコストを要してしまうといったようなことが考えられますので,そういったコスト増を避けることも含めまして,実際的には産業財産権型コンテンツ著作権者の裁量にゆだねるということにしたらどうかというご提案でございます。
 もちろん,その前提は,産業財産権型コンテンツ著作権者は,もとのオリジナルの権利者ときちんと合意して契約を結ぶということが前提になってございますので,それを無視してではないということはご理解いただきたいと思います。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。
 では,松田委員,どうぞ。

【松田委員】  松田です。電子情報技術産業協会のペーパーで1ページ目なんですけども,これは,個人が保有しているコンテンツ,著作物を,メディアをかえるときに業者さんがやってもいいような改正をしたほうがいいという趣旨だろうと思います。1のところは。
 その例としてユーザーが保有しているVHSテープをDVD,ブルーレイに複製し直す,この場合,事業者に依頼することができないことが問題である,だから,これはできるようにしたほうがいいという趣旨ですね。この中で例として挙げられているのは個人が持っている運動会等の映像で,その中に他人の著作物がある場合,例えば音楽が入っているような場合のことを言うのでありましょう。こういう場合にも複製できないのはぐあいが悪いということになっています。
 この例に限らず,単純に古いメディアから新しいメディアにかえて,それを事業者に委託する場合も可というふうに提言するのでありますれば,こういう例ではなくて,まさに保有している映画や保有している写真や保有している音楽を業者さんに複製させること,これを適法とすべきだというふうに言わないと整合性がとれないのではないでしょうか。運動会等の映像を複製する例に限定されるという趣旨ではないように思うのですが,いかがでしょうか。

【榊原氏】  ここでご紹介させていただいています例は,一般の方々の非常にニーズがあって,社会的にも必要性が高いだろうという例でございまして,もちろん他人に配るためにやるということ,例えばこの場合はVHSからDVDであれば1個,ないしは家族の分だったら2個という場合もあるのかもしれませんけど,10個も20個も他人に配るということであれば私的利用の目的とか,私的領域内で使用する目的であるということではないだろうと思いますので,外形的にはわからないじゃないかというご意見もあろうかと思うんですが,どちらか,100,ゼロということではなくて,やはり認めるべき場合と認めるべきではない場合というので,目的規制のような,現在,主体の規制だけでやられているんですけれども,そういう使い方をされたいという方がたくさんいらっしゃるということが一律できないということについてどうなのかという意見でございます。
 ですから,10個,20個というような他人とか友人に配ることについて適法にしてほしいというような意見ではございません。

【松田委員】  私の質問は10個,20個なんて言っていませんので,1個でいいんです。その場合でもメディアをかえるときに事業者に委託することを適法にすべきだというご意見でいいですかということを聞いているんです。

【榊原氏】  はい,そうです。

【土肥主査】  よろしいですか。
 ほかにございますか。茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】  2点あるのですけど,まず1点目は,今のメディア変換のことです。電子情報技術産業協会さん,日本知的財産協会さんが,メディアシフトのことをおっしゃっているのでお聞きしたいのですけども,VHSで撮ったものをDVDに変換するというのは,VHSの技術というのは今なくなりつつあるということなので,わからないではないのですが,現在普及しているメディア間での変換というのも許容すべきというように主張されているのかどうかということが,まず1点目です。この点を電子情報技術産業会さんと,それとメディアシフトについても述べられておられます日本知的財産協会さんに,お聞きしたいと思います。
 2点目が日本音楽著作権協会さんと日本芸能実演家団体協議会さんに対する質問で,特に音楽に関して,録音に関していろいろ問題があるというご指摘だったのですけども,現実に音楽の創造活動に対してどのような影響があるのかということに関してです。音楽の創造活動を支えるための収入が,例えば著作権にかかわるものとは別なところからたくさん得られるということであれば,著作権にかかわる金額が減ったとしても,それは音楽に関する事業が変化しているということで,それに対応してそういうことになっているのであれば特に問題ないということもいえると思います。そこで,そのような音楽の創造活動にかかわるデータを,適当かどうかはわかりませんが,例えばレコードの新曲の数とかのデータがもしございましたら,お教えいただきたいと思います。
 以上です。

【土肥主査】  それでは,最初,メディアシフトのほうからお願いいたします。

【榊原氏】  現在普及しているメディア間についてもかというご質問については,そうです。JEITAの意見書の1ページ目の下から2行目のところに複数の携帯端末間でと書いてございますけれども,例えばユーザーの方はいろんなメーカーの機器を購入されていると思うんですが,ある端末に合ったコンテンツを買ったときに,ほかの端末に移して聴きたいと。例えば携帯端末用に買ったコンテンツを車の中で聴きたいであるとか,家で聴きたいであるとか,そういったときに変換が必要で,なかなか自分でできないとか,やりたくないということについては認めてもよいのではないかという意見でございます。

【今子氏】  日本知的財産協会でございます。現在,存在しているメディア間のメディアシフトを,排除することなく認めていく方向性で検討するべきだとは思いますが,メディアシフトならすべて認めていくべきだというふうに考えているわけではなくて,権利の保護および利用のバランスから,その適正な範囲を検討する必要があるのではないかと思っております。

【土肥主査】  では,もう一つの音楽創造活動についてお願いいたします。

【北田氏】  創造活動への影響ということでございますけれども,基本的に個々の著作者の創造活動にどのように影響するかということを具体的に示すことはできませんが,基本的に著作権制度ということを考えたときに,許諾して,それによって使用料を得ることによって著作者が次の創作に向けたインセンティブを持つという,もともとの考え方からすれば,先ほど来お示ししているデータによって,CDが製作されたことによって得られる著作物使用料が減っていることは明らかなわけですから,そうするとインセンティブというのも当然下がっていくというふうに言っていいんじゃないかと考えています。
 それと他の分野との比較ということでございますけれども,今,手元にデータがあるわけじゃありませんが,ここ10年,15年ぐらいの状況を見ますと,今までオーディオディスク等の録音使用料が,JASRACの著作物使用料の徴収額の内,大きなの範囲を占めていたわけですけれども,現在はその部分が相当縮小していて,カラオケ等の演奏権であったり,あるいは放送からの徴収であったり,そういったものからの徴収の占める割合が増えてきているということで,そっちが増えているんだから,こっちが減ったって結果は同じじゃないかということではなくて,カラオケの使用料とか放送の使用料,それはそれぞれ利用される場面が違うわけですから,私的複製が大量に行われることによってCD等から得られる使用料が少なくなれば,他の分野からの使用料が増えたからといって,そこに影響がないというふうなことは言えないんじゃないかと思います。
 大体,以上のところです。

【土肥主査】  どうぞ,続けてお願いします。

【椎名氏】  先ほど経団連の方からも客観的なデータをきちっと出してはどうかというふうなお話をいただいたんです。確かにそういうものは必要だなとお話を伺って思っていたんですが,僕自身が権利者団体をやっているということではなく,実際に音楽制作の現場に近いところにいる人間の実感としてお話をするとすれば,断片的な話になってしまいますけれど,かつてはアーチストがレコード会社と契約してデビューするまでの間に一定の熟成期間というものがあったんです。アーチストによってコンセプトを煮詰めていったり,あるいは音楽性を煮詰めていったりというようなことがもうほとんどなくなって,すでに商品としてデビューさせられる人と契約して,すぐ出すというようなことで,先ほど育成教育と言いましたけど,方向性みたいなことを吟味してアーチストの音楽性を伸ばしていくというような機能が失われているということがあります。
 そのことは,とりもなおさずレコードレーベルがそういう余裕がなくなっているということなんだと思うんですが,同じくそういうレコードレーベルが個々のアーチストに対してコンサートなどを開くときの援助金を出すというような制度も,この10年でばったりなくなってしまいましたし,それから,レーベルと契約しているアーチストの方々の中でも,ある一定のセールスが期待できない方々はどんどん切り捨てられているというふうな状況もあります。
 また,具体的なデータを持っているわけではありませんが,毎年出される新譜の中で新たに録音した部分,いわゆる新録部分というのは明らかに減っていると思います。そのことに関連して東京都内にありました70ぐらいのレコーディングスタジオが,現在30くらいまで減少しているという状況もあります。同じことで,レコーディングで作業するミキシングエンジニアの方々も廃業されている方々がいて,およそ半分ぐらいになっていると。
 私の知り得る限りの断片的な話ですが,そういった状況が生まれていると思います。

【土肥主査】  ありがとうございます。
 ほかにございますか。では,山本委員。

【山本(た)委員】  私からは,資料3,日本美術家連盟さんと日本写真著作権協会さんから出されている資料の3枚目のところでご提案がありますので,この点についてちょっと伺いたいと思います。
 ここで提案されていることは,複製可能な機器に広く薄い補償金制度を創設するという内容ですけども,これ,2点ちょっと問題があるんじゃないかと思うんでご意見を伺いたいと思います。1点は,実際に複製されたクリエイターの方なんですが,ここで広く集めて,だれの著作物が複製されたか。あらゆる複製可能機器に課金するとすれば,だれのものがどれだけ複製されたかというのは調べるのはなかなか難しい。そうすると,どうやって著作権者に分配することになるのか。どういう工夫があり得るのかというのは思い至りませんので,結局は管理団体の経費に使われるだけになってしまうんじゃないかというような懸念を持ちます。まず第1点は,どのように分配されるのか。まさに使われる著作権者のところに分配金が渡るような形でなければ,創作を促進するという効果がありません。そういうものは単に使用に対しての罰金的な効果しかなくなってしまうように思います。つまり,創作促進効果がないという問題があるんじゃないか。
 2点目は,複製可能機器というと,例えば私の家にはファクシミリ兼プリンター兼コピー機兼スキャナーというのがあります。それに対しても課金されるということになると,別に著作物をコピーするというようなことに使った覚えもないんですが,そういうのに課金されるというのはどうなのかなと。他方で複製機器を使ってかなり大量にコピーされる方もいるだろう。それであるのに同じように課金されるというのは果たして公平なのかなという疑問を持ちます。その辺のところについてどのようにお考えなのか,お願いします。

【土肥主査】  どうぞ。

【瀬尾氏】  まず最初の分配についてなんですけども,個人のもとにお金が現金で入るということはもちろん重要だと思います。ただし,今,個人がきちんと自分の権利を,例えば私的利用とか,社内利用とか,自分のわからないところで使われたりとか,いろんなことがあったときに,それに対抗する手段というのは,実は個人ではほとんど権利主張できない場合というのが大変多い。つまり,仕組みとか団体とか,そのようなものを通じて自分の権利を守っていくというふうなことしかできない場合が大変多いんです。だけども,それ自体は共通目的みたいな形になるんですけど,実際に権利者団体がそういうお金を捻出するのは非常に大変です。
 ですから,このようなことによって団体組織できちんと権利者の権利を守るという部分が非常に重要になってきている。個人にお金を返すのはもちろん必要だと思いますし,それは実態調査に基づく分配になると思います。ただ,これは,補償金制度の基本的な問題として,確実に使った分だけ使ったようにというのはなかなか難しいと思います。でも,それは,個人ではできないような団体組織によって個人の権利者を守るということに使うべきだし,そういうところで資金を捻出しなかったら,いつまでたっても,今度は団体で守らなきゃできないようなことについて個人を守り切れないと考えています。
 ですから,きちんとした組織をつくって,そこの中で透明性を確保することによって,実態調査に基づいて個人に分配する部分と,団体でなければ守れない個人の権利をきちんと守っていくような形で,団体がそれを共通目的化して使うということが私はよろしいんではないかなと,そういう趣旨でこれを書きました。
 つまり,個人にほんとうにお金がいくだけで個人の権利を守る時代ではないということです。集中管理していればいいですけど,個人の集まりで集中管理もできていない分野にとっては,何らかの組織が団体できちんと交渉したり,話したりしなければ個人の権利は守れません。そして,バランスもなかなかとりがたい状態にある。その現実をお考えいただきたい。だから,個人にお金がいかなければ,それはインセンティブにならないというのは違うなと私は考えます。
 2つ目は機器です。確かに機器を使ったときに,こんなにいっぱい複製している人と,全然そんなのに使わない人と同じように課金されるのは非常に不公平感が高い。これは,一般的に考えられると思います。
 でも,複製した分だけ量的にきちんと均等化して課金したり,使わない人にはゼロであったりということが難しいからこその補償金制度であろうと考えます。そのために薄くというふうなことと,広くというようなことで平準化をして,そしてみんなで個人の部分を補償するという考え方に基づくような制度でないと,使った分だけきちんと払って,使った相手に届けるという形の補償金制度ではうまくいかないというのがこの趣旨です。
 ですから,ここで集めたものをだれにいくのか,きちんと使った人にいくのか,使った分だけいくのかという考えではなく,やはり社会として知的複製という制度を支えて,利用者にも利便性を提供し,そして権利者にも使った分をきちんと戻す。そして,これが逆に先ほど申し上げたように機器メーカーの負担にもならないような,どこにも押しつけないような,全員で負担していく制度にするべきじゃないかなというのがこの趣旨です。回答になりますでしょうか。

【山本(た)委員】  わかりました。

【土肥主査】  ほかにございますか。非常によい機会でございますので,どうぞご遠慮なく。
 1つ教えていただきたいなと思っていることがあるんですけれども,30条1項3号の問題を本日いろいろお聞かせいただいたわけですが,ご案内のように衆参両院で30条1項3号ができたときに附帯決議があって,この制度を入れることによっていろんな弊害があるので,そういった弊害がないように十分留意するようにという附帯決議があったかと思います。あるいはライセンスマークでしょうか。本日お尋ねするのが適当なのかどうかわかりませんけれども,ライセンスマークを十分周知していただいて,そういう混乱が起きないようなことを考えていただいただろうと思います。あるいはJEITAのほうからは,たしか萎縮効果があるじゃないかというような指摘がありましたが,30条1項3号が入ったことによって,その萎縮効果がどの程度出たのか。この1年半ぐらいの間に明らかになったことがあるんだろうと思うんですけれども,1つは,附帯決議で懸念されたような事態があったのかどうか。これが1つ。
 それから,ライセンスマークについての周知徹底をどの程度お図りいただいたのか。
 それから,3つ目ですけれども,いわゆる萎縮効果とおっしゃるけれども,そういうものが現実としてJEITAのほうでは把握されておいでになるのかどうか。こういうことを教えていただければと思いますが,いかがでしょうか。JASRACさんのほうでも結構です。

【北田氏】  ライセンスマークということですけれども,JASRACでは,従前から許諾しているサイトに関してはライセンスマークをすべて発行して画面に表示するように,許諾の条件にしております。こういう法律ができましたことによって,改めてそれに関する広報活動などを実施しております。
 それから,JASRACだけではなくて,本日は見えておりませんけれども,レコード協会さんのほうでも広範な周知活動というものをやって,かなりの面で周知が行き届いているのではないかと思います。
 それから,法律が制定されるということで,その前後,正確な数字が出ているわけではないですけれども,違法配信がかなり減ったというようなデータが出ているということも聞いております。

【土肥主査】  ありがとうございます。
 では,萎縮効果のほうでお話しいただけますか。

【長谷川氏】  私どもとして,その効果について検証しているという状況にはございません。したがって,過剰な萎縮効果が生じてないことの検証を行うことが必要であろうと。その段階の私どもの意見でございます。

【土肥主査】  それから,実際に詐欺のようなことが起きたんでしょうか,3号をめぐって懸念されたようなこと。オレオレ詐欺のようなことが問題になるんじゃないかというような話もあったと思いますけれども,あのような実態があったのかどうか。わざわざ国会で,衆議院と参議院,両院でご心配いただいたわけですけれども,本委員会の検討の結果で国会でご心配いただくようなことが実際にあったのであれば,それは十分考えなければなりませんが,そういうことはございましたか。

【壹貫田著作権課課長補佐】  その点につきましては,また次回,先ほどもお話がございましたけれども,レコード協会さんとか関係団体がいらっしゃると思いますので,次回のほうがお話を聞けるんじゃないかと思います。

【土肥主査】  わかりました。いささか早く質問し過ぎたのかもしれませんけれども,いろいろ私どもとしては心配しておりましたので,お尋ねしたということでございます。
 ほかにございますか。どうぞ,山本委員。

【山本(た)委員】  まだ時間もあるようなんで,1つ質問させていただきます。経団連さんの資料5の一番最後,参考のところにありましたコピーライト制度,2つ設けられているうちの前者のほうは,今の著作権制度と多少違いがあるのかもしれませんけど,その延長,どのように改良するのかという問題のように聞こえるんですが,2番目の自由利用型コピーライト制度のほうは,私,よくわからないのは,別に制度をつくらなくてもできる話じゃないのかなと。民法のほうではどうなっているのかちょっとわかりませんが,権利を放棄するというのは不特定人にはできないのかもわかりませんが,つまり,パブリックドメインというのはできないのかもしれませんけど,例えば経団連が主体となって法人格をつくって,要は著作権のごみ箱といってはあれなんですが,そこに譲渡するというような形で放棄してしまうということであれば,民法上何も問題ないと思いますので,それでもって放棄して本人は権利なくしてしまう。それを経団連さんとして団体で公示するというような形で,要は現行制度の中でもこの辺は処理できる話じゃないかと思うんですが,何ゆえ著作権制度をつくらないといけない点があるんでしょうか。

【広崎氏】  細かい事例まで把握していないのですが,おそらく,内部の議論でこの2の特に(2)制度の安定性確保の議論が相当あったのではないかと思います。おっしゃるように,常識的には権利者の方が権利放棄しさえすれば利用者は自由にコンテンツを使えるわけですが,例えばそれである種のビジネスの流れができて,ある経済効果が出てきたところで,権利者側がこれ以上は自由利用を認めたくないといったようなことが生じた場合に,ビジネスとしての安定性が損なわれるといったことは,現実問題で十分あろうと思います。1つ目の産業財産権型コピライト制度においても,やはり産業活用,あるいはビジネスとしての安定性,対抗要件であるとか,このあたりは法的にきちんと整備すべきという議論があるのと同じように,自由利用型コピライト制度の大きな意義は,制度の安定性確保という点にあるのではないかと思っております。

【土肥主査】  よろしいですか。
 ほかにございますか。松田委員,どうぞ。

【松田委員】  私は,委員に1つの問題提起したいんですけど,この30条の問題は,実はいろんなところに波及いたします。問題をどこに絞るかというところも考えいただきたいと思います。といいますのは,近時までデジタルコンテンツ流通促進を導入するかどうかについて非常に大変な議論をしたわけです。そして,報告書にまとめたわけです。30条問題を論じるときに,またそこにいくのかというのを私はできれば避けてもらいたいと思います。30条固有の問題をここで議論すべきではないかなと思っています。それが1つです。
 それから,30条の第3号ですけど,これは2009年改正なんです。2009年改正のものをまた,確かに30条問題ではありますけれども,新たな事象,例えば立法事実等が生じていれば別ですけど,それがないような場合には,とりあえずその議論をしないでいいという前提で,できるだけ30条本文の問題として考えるべきではないか,議論すべきではないかなと思います。繰り返し繰り返しは審議経済に大変マイナスだろうと思います。できれば,そういう整理をしていただきたいと思います。
 そうなりますと,実は先ほど一番先に質問いたしました問題なんですけども,別に個人の写した映像等でなくて,プロがつくった音楽,映像,そういうものを個人が自分のためにメディアをかえてやるのではなくて,それを代替の業者がやるような場合において果たしてどうなのかというのは1つの問題提起だろうと私は思っております。
 ここ10年間,訴訟を見ても,実は30条を介して新しいビジネスモデルとして,そういうことが許されるのではないかといって提起された事案というのは幾つもあります。そして,それについて大体の方向は判例で出ていると思います。それをさらに覆えすために著作権法のパラダイムを転換すべきだというのでしょうか。実はこの点に30条問題があるのではないかなと思っています。30条の議論,できればそういうところに集約していって,ほんとうに新しい産業を興すための30条でどういう問題が起こるのかということを議論すべきではないかなと考えています。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに,ご意見も含めてございませんか。
 本日のヒアリングにおいては,お忙しい中お出でいただいたわけでございますけれども,ご発言をされなかった団体,一緒に共同でご発言いただいたのかもしれませんが,あるいは1つの団体の中でもご発言をいただかなかった出席者の方で何か言い足りなかった部分,言っておきたい部分ありましたら,おっしゃっていただければと思いますけれども,よろしいですか。特にございませんか。
 特にないというのでありましたら,若干時間は残っておりますけれども,本日はこのくらいにしたいと考えております。よろしゅうございますか。どうぞ。

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動