(平成23年第6回)議事録

1.日時

平成24年1月12日(木) 15:00 ~ 17:00

2.場所

ホテルフロラシオン青山 2階 芙蓉の間

3 出席者

(委員) 上野,大須賀,大渕,小泉,末吉,多賀谷,土肥,中山,前田,松田,村上,山本(たかし)の各委員
(文化庁) 河村文化庁次長,芝田文化庁長官官房審議官,永山著作権課長,佐藤国際課長ほか関係者
(説明者) 苗村氏(情報セキュリティ大学院大学客員教授

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)国立国会図書館からの送信サービスに係る権利制限規定について
    2. (2)契約・利用ワーキングチームからの報告について
    3. (3)司法救済ワーキングチームからの報告について
    4. (4)「クラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究」について(報告)
    5. (5)平成23年度法制問題小委員会の審議の経過等について
    6. (6)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1-1 国立国会図書館からの送信サービスに関する権利制限規定に係るまとめ(案) (320KB)
資料1-2 電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議報告概要 (288KB)
資料1-3 電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議報告 (864KB)
資料2 契約・利用ワーキングチーム報告書 (628KB)
資料3 「間接侵害」等に関する考え方の整理 (348KB)
資料4 クラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究報告書 (664KB)
資料5 平成23年度法制問題小委員会の審議の経過等について(案) (604KB)

6 議事内容

【土肥主査】  それでは,定刻でございます。ただいまから,文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第6回を開催いたします。
本日はお忙しい中ご出席をいただきまして,まことにありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段,非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 議事に入ります前に,事務局に人事異動があったようでございますので,報告をお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  それでは,事務局の人事異動をご報告申し上げます。1月6日付で文化庁次長に就任しております,河村潤子でございます。

【河村文化庁次長】  河村と申します。前職は,文部科学省の大臣官房文教施設企画部長という職でございました。1月6日にこちらに就任させていただきましたので,どうぞよろしくご指導のほどお願い申し上げます。

【土肥主査】  それでは,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  それでは,配付資料の確認をいたします。議事次第の下半分をごらんください。
 資料1-1では,国立国会図書館からの送信サービスに関する権利制限規定に係るまとめ(案)を,それから,資料1-2と1-3では,電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議の報告の本体とその概要をそれぞれお配りしております。また,資料2では,契約・利用ワーキングチーム報告書を,また,資料3では,「間接侵害」等に関する考え方の整理をお配りしております。それから,資料4でクラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究報告書を,それから,資料5では今期の法制小委の審議の経過等について(案)をお配りしております。
 配付資料は以上でございます。落丁等ございます場合には,お近くの事務局員までお声がけください。

【土肥主査】  ありがとうございました。  それでは,議事に入りますけれども,初めに,議事の段取りについて確認しておきたいと存じます。本日の議事は,1,国立国会図書館からの送信サービスに係る権利制限規定について,2,契約・利用ワーキングチームからの報告について,3,司法救済ワーキングチームからの報告について,4,クラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究について,5,平成23年度法制問題小委員会の審議の経過等(案)について,6,その他,6点となっております。
 1につきましてですけれども,事務局においてまとめ(案)を作成していただいておりますので,本日はその内容につきましてご議論いただき,お取りまとめいただければと思っております。
 2と3でございますけれども,これはそれぞれ契約・利用ワーキングチーム,司法救済ワーキングチームにおいて検討が進められておりましたので,本日はその検討結果の報告を受けて議論を行いたいと思います。
 4については,文化庁の委託研究である「クラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究」がこのほどお取りまとめいただいたということですので,これについてご報告いただければと思っております。
 5は,資料5に基づいて事務局より簡単に説明をいただいた後,本小委員会として了解をいただければと思っております。
 それでは,早速ですけれども,1の議題に入りたいと存じます。まずは,「国立国会図書館からの送信サービスに関する権利制限規定に係るまとめ(案)」について,事務局から説明をお願いしたいと思います。

【鈴木著作物流通推進室室長補佐】   それでは,説明をさせていただきたいと思います。
 まず,資料1-1,このまとめ(案)の説明を行います前に,資料1-3といたしまして,電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議におきまして,12月21日にその検討結果の報告がまとめられたところでございます。その概要につきまして,資料1-2におきまして提示させていただきますので,まずその概要について先にご報告をさせていただければと思っています。  電子書籍の流津と利用の円滑化に関する検討会議におきましては,平成22年11月に設置いたしまして,それ以降14回にわたる検討を実施し,今般,報告を取りまとめたところでございます。検討会議におきましては,デジタルネットワーク社会における図書館の公共サービスのあり方に関する事項,そして,出版物の権利処理の円滑化に関する事項,出版社への権利付与に関する事項の3点につきまして検討を行い,その内容をまとめたところでございます。
 資料1-2の2枚目をごらんいただきたいと思います。検討事項1といたしまして,デジタルネットワーク社会における図書館と公共サービスのあり方に関する事項でございます。
 まず,国会図書館からの送信サービスの実施につきましては,国民の利便性の向上を図るため,各家庭までの送信を目標としつつ,第1段階として,国会図書館のデジタル化資料を一定の範囲,条件のもとに公立図書館等で利用可能となるよう,著作権法の改正を行うことが適当である。そして,送信対象となる出版物の範囲におきましては,市場における入手が困難な出版物等とすると。そして,利用方法におきましては,公立図書館等における閲覧とともに,一定の条件下における複製を認めるという形で整理されております。
 そして,国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスの実施につきましては,検索結果の表示方法等について,今後,関係者間の協議を進めていくことが必要であると整理されております。
 デジタル化資料の民間事業者等への提供につきましては,新たなモデル事業の開発が必要であるというところから,関係者間における協議の場の設置とか,有償配信サービスの限定的,実験的な事業の実施なども検討することが必要であるという形で整理されたところでございます。
 次のページをごらんいただきたいと思います。出版物の権利処理の円滑化に関する事項といたしまして,出版物の権利処理の円滑化を図る方策の必要性といたしましては,中小出版社や配信事業者など多様な主体によるビジネス展開の実現や,孤児作品等の権利処理の円滑化を目的とした権利処理を円滑に行うための仕組みの整理が必要であるということが示されているところでございます。
 そして,具体的な方策のあり方といたしましては,出版物に係る情報を集中的に管理する取り組み,権利処理の窓口的な点を果たす取り組み,権利処理に係る紛争の処理に関する取り組みについてそれぞれ必要性が示されておるところでございまして,その実現に向けて,権利者,出版社などの関係者間の具体的な協議を行うとともに,文部科学省などの関係府省が積極的な関与,支援を行うことが重要と取りまとめられておるところです。
 そして,最後,検討事項の3番といたしまして,出版社への権利付与に関する事項でございます。出版社への権利付与の意義,必要性につきましては,電子書籍の流通と利用の促進,そして,出版物に係る侵害行為への対応の2つの観点から,その必要性等が出版社側から求められているところでございまして,それぞれについて議論がなされたところです。
 流通と利用の促進の観点におきましては,権利処理の進展等につながるといったところで積極的な意見が示されておる一方で,さらなる検討を要するとして,新たな権利者が増えることにより新規参入を阻む可能性が存在するのではないか,そして,電子書籍市場に与える影響について経済的・社会的検証を行うことが必要であるといった意見が示されたところでございます。
 出版物に係る権利侵害への対応の観点からですと,出版社が主体的に対応措置を図ることの必要性についてはおおむね意見が一致しておるところでございます。そして,その具体的な対応方策として,出版社への独自の権利を付与することして,現行制度における対応,現行法の例えば出版権の規定に関する改正,そういった対応が考えられるところでございますけれども,それらにつきましてはメリット,デメリットを含めてさらなる検討が必要であるということが意見として整理されておるところです。
 そして,出版社への権利付与等につきましては,出版社等が中心となり,電子書籍市場に与える全般的な影響について検証が必要であるということ,そして,法制面における課題の整理等につきましては文化庁において検討を実施すること,そして,その上で,電子書籍市場の動向を注視しつつ,国民各層にわたる幅広い立場からの意見を踏まえ,制度対応を含めての早急な検討を行うことが適当であるという形で,この電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議の報告がまとめられておるところでございます。
 資料1-1をごらんいただきたいと思います。ここに示されております,「はじめに」のところで触れておりますけれども,電子書籍における検討会議の検討事項にあります内容といたしまして,特に国立国会図書館からのデジタル化された所蔵資料の送信サービスにおきまして,権利制限規定のあり方,方向性が示されているところでございますので,それを前回第4回,第5回において,本法制問題小委員会でご検討いただいたところでございます。その検討結果を以下のとおり整理させていただいております。
 検討の背景といたしまして,まず国会図書館における図書館資料のデジタル化の状況について,ここで1つ整理させていただいております。平成21年の著作権法の一部改正によりまして,国立国会図書館におきましては,納本後直ちに当該図書館資料に係る著作物をデジタル化することが可能となったところでございます。それによりまして,平成23年11月現在,約210万冊がデジタル化されているところでございます。
 国立国会図書館におきますデジタル化につきましては,媒体変換基本計画に基づきまして,昭和前期刊行図書や雑誌等を中心にデジタル化が進められておりまして,出版物以外のレコード,映像フィルム等のデジタル化については,今後,関係者間との協議によることとされておるところでございます。
 そして,まとめ(案)としましては,検討会議における検討の概要を1ページ後半から2ページ目にかけて整理させていただいておりますが,これは先ほどご説明させていただいたとおりのところでございます。
 3ページ目以降をごらんいただきたいと思います。本法制問題小委員会で前回,前々回と検討していただきました結果を整理させていただいております。送信サービスの実施に係る基本的な考え方といたしましては,国立国会図書館のデジタル化資料の活用方策として,段階的,選択的にその活用を図ることとした検討会議の検討結果は,具体的な活用策のさらなる実施につながるものであり,適当であると評価できる。そのため,電子書籍市場の形成,発展が阻害されないよう十分配慮した上で,著作権者の許諾を得ることなく,国会図書館のデジタル化資料を公立図書館等へ送信し,一定の範囲内において利用することができるよう所要の権利制限規制を設けることが適当である。
 次に,送信サービスに必要とされる限定といたしましては,検討会議の報告におきましては,国会図書館からの送信先,送信対象となる出版物の範囲,そして,送信先におけるデジタル化資料の利用方法について一定の限定を設けるという形で整理をされておるところでございますので,この3点についてそれぞれ検討結果を整理させていただいております。
 まず,1といたしまして,「国会図書館からの送信先について」です。検討会議におきましては,公立図書館等に限られるのではなく,大学図書館などを含め,幅広く送信先として認められることが適当であること。そして,この資料におきましては3でも示されておりますように,送信先におきまして,デジタル化資料に係る複製物の提供があわせて行われることを考慮いたしますと,その適切な管理が行われない場合には著作者等の利益を不当に害することにつながることから,著作権法第31条の適用がある図書館等の範囲を参照した上で整理することが必要という考え方が示されており,本小委員会においても,そのような送信先の限定に係る考え方は適当であると考える。
 2番目といたしまして,送信サービスの対象となる出版物の範囲でございます。これにつきましても,検討会議におきましては,電子書籍市場の形成や発展を阻害することのないよう,原則といたしまして,市場において入手することが困難な出版物を送信サービスの対象とすることが適当であり,著作権法31条1項3号にあります,絶版その他これに準ずる理由により入手することが困難な絶版資料に係る考え方を参照した上で出版物の範囲を策定するべきである旨が示されているところでございまして,この点につきまして,本小委員会においても適当であると考える。
 また,デジタル化資料につきましては200万冊を超えるということになりますので,個々に入手可能であるかを判別することは困難であることから,それ以外の手法や技術を定めることが必要であり,その具体的なあり方については,関係者間における協議において定められることが適当であると整理させていただいております。
 また,検討会議におきましては,送信サービスの対象となる,市場における入手困難出版物のうち,著作者等からの求めに応じてその対象から除外するための仕組みを導入することも必要である旨示されており,本小委員会におきましても,入手困難な出版物が再度流通することが想定される場合,新たに出版物の出版計画が存在したといった場合に対応するため,そのような除外のための仕組みを導入することが適当であると考える。
 さらに,過去に執筆した出版物のうち,その内容に照らして広く国民の目に触れることを希望しないという出版物であったとしても,送信サービスの対象から除外すべきではないとの意見が示されたところであり,何らかの理由により意図的に絶版とされた出版物の取り扱いについて検討されることが必要である。
 3番目といたしまして,送信先におけるデジタル化資料の利用方法でございます。デジタル化資料の同時閲覧につきましては,検討会議におきましては,所蔵冊数を超える同時閲覧を認めることについて考慮されるべきであると示されておるところであり,本小委員会におきましては,デジタルネットワーク化の進展に伴うアクセスのさらなる向上が喫緊の課題であることを踏まえ,所蔵冊数を超える同時閲覧について認めることが適当であると考える。
 「送信先におけるプリントアウト等の複製について」でございます。検討会議において示されておりますように,送信サービスの対象となる出版物が絶版状態にある入手困難なものに限られておるというところから,著作権法31条1項1号により認められる複製の範囲であれば,出版社や著作者の利益を不当に害することとは基本的にはならないものと考えられており,送信先である公立図書館におけるプリントアウト等を認めることは適当である。
 なお,送信先におけるデジタル化資料の複製物の提供が法令により適切に行われることを担保するとともに,著作者等の利益を不当に害さないよう,複製物の提供を電子媒体の複製物において行うことについては慎重になる必要があることから,その提供に係る具体的なあり方を含めた基準が関係者間において策定されることが必要である。以上のように検討結果を整理させていただいております。
 「おわりに」といたしましては,今般,検討結果におきまして示されました国会図書館から送信サービスは,いわば第1段階に当たるものであり,各家庭に送信するなど,利便性を十分高めた送信サービスの実施については重要な意義を持つことであることから,今後も必要に応じた検討が進められていくことが重要であると考える。
 そして,このような検討を進めていくに当たっては,国会図書館からの送信サービスの有償化の是非とか,有償化の場合の対価の徴収方法など,具体的な仕組み等の検討すべき課題が残されているところであり,それらの課題等につきましても積極的な検討が行われることが重要である。
 以上のように整理をさせていただいたところでございます。どうぞご議論いただければと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは早速,意見交換に移りたいと存じます。ただいまの事務局のご説明への質問も含めまして,ご意見等がございましたらお願いいたします。

【中山委員】  1つよろしいでしょうか。

【土肥主査】  はい。

【中山委員】  4ページの3のちょっと上のところで,「何らかの理由により意図的に絶版とされた出版物等の取扱いは検討されることが必要である」と書いてありますけれども,これは,別に国立国会図書館の今度の問題だけとは限らないと思います。図書館で閲覧させてもいいけれども,今度は送信だけはだめかとか,そういう話はおかしい。おそらくこれは著作権侵害の出版物とか,あるいはわいせつ物の出版物というたぐいのものだろうと思いますので,そもそもこういうものは,今回の話と関係なく,図書館で閲覧もしては困るというものだろうと思いますし,国会図書館も,そういうものは檻の中に入れて鍵をかけてありまして,一般に閲覧できないという状況になっているわけです。したがって,ここだけでこれを取り出すと,おかしなことになるのではないかなという気がします。

【土肥主査】  ありがとうございました。  ほかにご意見,ご質問ございましたら,お願いいたします。  ほかにございませんか。  そのような内容につきましては,本法制小委の中での議論をきちんと盛り込んでいただいておると私は承知しておりますけれども,よろしゅうございますか。  中山委員のご指摘の部分ですが,この部分について,これは特に何か事務局ございますか。

【鈴木著作物流通推進室室長補佐】  中山委員からご指摘のあった「何らかの理由により意図的に絶版と」というところでございますけれども,ここは,前段にありますように,著作者が目に触れることを希望しないということで重版,再版を断っているというようなケースもあるかもしれないと,そういう趣旨での絶版等の扱いという意味合いで整理されているところでございます。現状,国会図書館でそもそも閲覧の対象から外す管理をしているようなものの扱いをどうしようかというつもりでここは書いているものではないというところでご理解いただければと思います。

【中山委員】  そうであるならば,なおさら問題で,前回もこれは議論があったと思いますけれども,著作者が主観的にもう見てほしくないというものは果たしてここから除くべきか。ここから除くとしても,それでは閲覧はどうなのか,その他の図書館でどうなのか,いろいろな問題が出てくるわけですね。
 私は,先ほど言ったわいせつ物なんかはもちろん論外なのですが,主観的な理由でこれはもう重版してほしくないという書物につき,閲覧とか,あるいは送信とか,そういうものを禁止する,制限するということは逆に問題が大きいだろうと思います。

【土肥主査】  どうぞ。

【永山著作権課長】  すみません,補足をいたしますと,この原案の趣旨は,先ほど中山先生がおっしゃったようなことを想定して案としてまとめさせていただいています。当然これまでの小委員会のご議論の中でも,今,中山先生がおっしゃったようなものについては非常に消極的に解する,要するに,対象にすべきである,除外することについては消極的であるというご意見が非常に強かったと私どもも承知しております。
 そういう意見を当然十分踏まえまして,今後,先ほどご指摘になったわいせつ物とか,権利侵害物とか,肖像権等いろいろな権利を侵害しているものの取り扱いとかはどういうものがあるのか,ほかにもいろいろあるかもしれないので,そこら辺をきちんと整理した上で対応していきたいということでございますので,そういう趣旨にご理解いただければと思います。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。検討するということでございますので,中山委員がご懸念のような,閲覧できるけれども,コピーができないとか,公衆送信できないとか,そういう問題ではないということでございます。
 ほかにございますか。よろしゅうございますか。
 それでは,このまとめ(案)につきましては,このような形で決定とさせていただきたいと存じます。本まとめ(案)につきましては,再来週ですか,26日に開催されます著作権分科会において私のほうから報告をさせていただきたいと思っております。そして,今般お取りまとめいただいたまとめ(案)につきましては,そこで「案」がとれるということでございましょうから,とった上で,事務局から各委員に改めてお送りしたいと思っております。それでは,本議題につきましては以上にいたしたいと存じます。
 次に,議題2に移ります。契約・利用ワーキングチームの検討結果について,末吉座長よりご報告をお願いいたします。

【末吉委員】  末吉でございます。まず,私からご説明申し上げます。
 お手元の資料5でございます。「平成23年度法制問題小委員会の審議の経過等について(案)」,この3ページの(3),インターネット上の複数者による創作に係る課題,この部分をごらんいただきたいと思います。
 契約・利用ワーキングチームは第9期,平成21年度より,インターネット上の複数者による創作に係る課題につきまして検討を行うことを目的として設置をされまして,平成21年8月以降,3年にわたって計9回のワーキングチームを開催いたしました。
 この課題はもともと知的財産戦略本部により指摘されたものでありまして,具体的な課題の内容としては,各種動画投稿サイトのように,多数のユーザーがインターネットを通じて他者の著作物を相互に利用して新たな著作物を創作するといった形態で作成されたコンテンツの中には,多くのユーザーの支持を集め,結果,商業的利用の需要を生み出すものも少なくないわけでありますが,権利関係が不明確であるなどの要因により,円滑な各種利用が困難であるというものであります。
 ワーキングチームでは,課題の検討を行うに当たって,まずインターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等につきまして,現行法上の整理あるいはその特性に関する検討を行いました。その上で,主に権利処理ルールの明確化という観点から,立法措置による対応の可能性及び契約等による対応の可能性の双方につきまして,実際にサービスが提供されている国内外の事例の分析あるいは国外におけるこの課題の検討状況の把握,さらには関係者からのヒアリング等を通じまして検討を行いました。
 検討の詳細につきましては,後ほど,資料2「契約・利用ワーキングチーム報告書」に基づきまして事務局から説明してもらいますが,ワーキングチームにおける検討結果としては,(1)立法措置による対応については,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物の利用の円滑化という目的を達成するために特別な立法措置を講ずることは,比較法的な観点あるいは条約上の観点等から困難であるということ。
(2)契約等による対応については,利用規約やクリエイティブ・コモンズのような,いわゆる著作権ライセンスの活用といった取り組みが実際に広く行われておりまして,こういった取り組みには一定の効果が認められるとともに,今後も急速な進化が予想されるインターネットサービスにおいて,その状況の変化に対応しながら権利者とユーザーの双方が合意できる新たなルールを迅速に構築するためには,立法的な措置による対応を図るよりも,契約等による柔軟な対応にゆだねることが合理的であると考えられること。この2点などについて報告書にまとめております。
 私,座長といたしましては,報告書の34ページに列記されておられますが,各チーム員がその能力を最大限活用していただきまして,全力を挙げて検討を進めていただき,検討結果を取りまとめることができたと考えております。チーム員の並々ならぬご努力,ご尽力に改めて感謝申し上げまして,私からの説明とさせていただきます。以上でございます。

【池村著作権調査官】  それでは,資料2,報告書本体をごらんください。こちらに基づきまして,事務局より詳細につき説明をさせていただきます。
 ページを1枚おめくりいただき,1ページ,「はじめに」をごらんください。ここでは,問題意識や背景につき簡単にまとめております。先ほど末吉座長からご説明ございましたとおり,近時,各種動画投稿サイトのように,多数のユーザーがインターネットを通じて他者の著作物を相互に利用して新たな著作物を創作するといった,新たな著作物の創作,利用形態,いわゆるマッシュアップなどと呼ばれておりますけれども,こういったものが普及しており,そのようにして創作等されたコンテンツの中には商業用価値を持つものも少ないようであります。
 しかしながら,権利関係が不明確である等の理由により円滑な各種利用が困難であるとの指摘がかねてよりなされており,具体的には知財本部において検討が行われ,脚注1,こちらに記載した提言がなされているところです。当時は,2ちゃんねる発のコンテンツである「電車男」などを念頭に置いていたようであります。
 またこのほか,音楽などの既存の商用コンテンツをユーザーが翻案等したり,実演したりすることにより創作される,いわゆる二次創作作品と呼ばれるコンテンツにつきましても,円滑な創作や利用を望む声が多く,こちらも知財本部において,脚注2のとおり検討がされております。
 契約・利用ワーキングチームでは,こうした問題意識を受けまして,こうしたコンテンツの創作・利用の円滑化という観点から課題を整理し,立法的措置による対応の可能性,契約等による対応の可能性の双方より検討を実施いたしました。
 3ページの第1章をごらんください。この章では,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等,こちらが現行著作権法ではどのように位置づけられるのかを整理した上で,その特徴と,円滑な利用を妨げている課題はどこにあるのかといったことにつき検討を行っております。
 まず第1章の第1節,ここでは,複数者が創作に関与して作成された著作物を現行法上どのように整理されるのかにつきまとめております。概略を申しますと,法律上の概念として,共同著作物,二次的著作物,編集著作物,データベースの著作物,その他講学上の概念として結合著作物,集合著作物に分類でき,これら複数の類型に該当する著作物も観念し得るといったこと,そして,それぞれにつき,利用する場合に許諾を得るべき者はだれなのかといったことにつきまとめております。
 続きまして,5ページ以降におきまして,インターネットを通じて複数者が創作に関与した著作物につきましても,理論上はこういった分類が一応可能であると考えられるものの,現実的にどの類型に該当するのか,そして,だれが権利者なのかといった点につき正確に判断することは極めて困難であり,事実上そういった判断が不可能な場合も多く,実演やレコードといった著作隣接権が関係する場合はより一層複雑な様相を呈すると,このようにまとめられております。
 続きまして,6ページの第2節,こちらでは,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等には,1つ目として,従来型の創作形態に比べて,創作等の関与者が極めて多数であり,不特定または匿名であるという特徴。2つ目として,創作等の関与の程度等がさまざまであるために,各関与者の創作等に対する寄与度の把握,こちらが極めて困難であるという特徴。3つ目として,創作等の関与形態,関与時期などがさまざまであるために,実際の権利関係の把握が極めて困難であると特徴があると考えられる。こうした特徴により権利関係が複雑となり,その利用に困難を伴うものと考えられると,このようにまとめられております。
 続きまして,少し飛びまして,10ページの第2章をごらんください。現行法のもとでこうした著作物等の利用を円滑に進めるための方策といたしましては,関係する当事者間で一定のルールを利用規約などといった形で定めておいて,それに同意した者のみが創作等に関与するという方法が考えられ,実際こうした取り組みが多く行われておりますことから,この第2章ではこうした取り組みの実態につきまとめております。
 まず第1節では,利用規約における取り扱いをまとめております。10ページ,11ページに列挙いたしました各インターネット・サービスの利用規約を検討いたしまして,[1]投稿コンテンツの著作権等をサービス運営者に譲渡する旨を定めているもの,[2]投稿コンテンツについて,サービス運営者による利用を許諾する旨を定めているもの,[3]投稿コンテンツについて,運営者だけでなく,サービスを利用する他のユーザーの利用を許諾することとするものといった分類をした上で,12ページ以降,こちらにおきまして,こうした利用規約による対応には,インターネットを通じて複数者が創作に関与した著作物などの利用の円滑化に資すると評価できると,このようにしております。
 また,ワーキングチームで出された意見といたしまして,契約当事者外の第三者との関係,他のサービスの利用規約と互換性のない結果,ユーザーが最初に投稿したサービス以外での困難であるといった課題などもあるといったことについてまとめております。
 続きまして,14ページをごらんください。第2節では,投稿コンテンツに対して,一定程度汎用性を有する標準的な利用条件,いわゆる著作権ライセンスを付すことにより,特定のサービスという枠を超えた利用の円滑化を目指す取り組み,代表的なものとして,クリエイティブ・コモンズの取り組みがございますが,そうした取り組みにつき検討をしております。
 こうした取り組みは,投稿コンテンツにつき特定のサービスの枠を超えた利用にも対応でき,投稿コンテンツに付された著作権ライセンスがその後の利用においても引き継がれ,その著作権ライセンスに従った各種利用が可能となるため,先ほどご説明した利用規約における課題,限界を一定程度克服し,利用の円滑化に資するという効果があるものと考えられます。
 一方で,ワーキングチームにおきましては,こうした取り組みにも一定の限界があるとの意見。具体的には,権利者が著作権ライセンスを変更した場合の安定性の確保といった課題,2つ目として,許諾条件の互換性の確保といった課題,3つ目として,権利者に無断でライセンスが付された場合の問題,こういった意見が出されましたので,これらについてもまとめてございます。
 続きまして,17ページの第3節,こちらは参考という位置づけでありますけれども,これまでご説明してきたような,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等ではなく,冒頭,「はじめに」でも言及いたしました,いわゆる二次創作作品と呼ばれる,既存の商業用コンテンツを1人のユーザーが翻案としたり,実演したりすることにより創作等されるコンテンツについても,円滑な創作や利用を望む声が多いことを受けまして,昨年の知財計画2011におきまして,脚注26として記載しましたとおり,インターネット上で個人が既存のコンテンツの一部を紹介することや,二次創作を円滑化し,デジタルコンテンツの活用を促進するため,包括計画のベストプラクティスを紹介するという内容が盛り込まれておりますことから,本報告におきまして,民間のこうした取り組み,ベストプラクティスにつき紹介をしております。
 具体的には,動画等投稿サービスの運営者と権利者との間で,サービス内の著作物等のユーザーによる著作物やレコード,実演の利用につき許諾契約を締結するといった取り組み,あるいは,権利者みずからが利用を認めた上で素材を提供して,創作などの場を提供するといった取り組みなどについて紹介をし,その意義を高く評価しております。
 なお,18ページの下から2行目,「著作者人格権」となっておりますが,「著作者」の誤記でありますので,訂正をさせていただきます。
 続きまして,21ページから27ページにかけての第3章,こちらでは,諸外国地域における現状について簡単にまとめております。米国,欧州,韓国等の動向につきリサーチをいたしましたが,結論的には,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等につきまして,これに特化した議論とか,これに特化した立法的対応,そういったものは特段行われていないようであります。米国においてはクリエイティブ・コモンズライセンスの活用が目立つということの報告がございました。
 続きまして,28ページからの第4章をごらんください。この章では,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等の利用における課題,すなわち,権利関係が複雑で円滑な利用が困難であるとの課題の解決の方向性につきまして,立法的な措置による対応の可能性,契約等による対応の可能性に大きく分けて検討し,その結果をまとめてございます。
 まず第1節,立法的措置による対応の可能性と問題点であります。ワーキングチームでは,著作物等の概念上の文面にかかわらず,一定の共通ルールを適用するという方向性,特定の者に権利を集約するという方向性という,大きく2つの方向性につき検討いたしました。
 前者につきましては,具体的には現行法上,共同著作物に関する特則として定められております64条や65条,こちらを二次的著作物等についても適用するといった立法措置,あるいは,64条や65条につきましても,多数決による決定とか,米国法のように,非独占的な許諾については,他の共有者に許諾料を分配することを条件に単独で行うこともできるといった要件の緩和を行い,さらに二次的著作物等についてもこれを適用するといった立法措置につきましてその是非を検討しております。
 しかしながら,結論といたしましては,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等,こちらを法律で定義することは極めて困難であること,あるいは,仮にこのような立法措置を講じても,関与者の創作に対する寄与度の把握が極めて困難であるという課題を解決することはできず,その意味で根本的な解決にはならないこと,関与者の従来型の創作形態と比して極めて多数に上る場合は,現行法64条などのルールやこれを多数決等に要件を緩和したとしても,その実効性には疑義があり,やはり根本的な解決にはならないといったこのような理由から,こうした立法措置をとることは困難であるという結論になっております。
 なお,29ページの脚注70,こちらをごらんいただきたいのですが,ワーキングチームでは,より一般的な視点から,共同著作物に係る64条等は,実務上使い勝手が悪く見直すべきであるといった意見も出されております。しかしながら,64条,65条,一般の問題となりますと,このワーキングチームに与えられました検討の範囲を超えてしまいますことから,このワーキングチームでは,あくまでインターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等の利用の円滑化という点にフォーカスを当てた議論を行い,先ほど申し上げたような結論になっております。
 次に,特定の者に権利を集約するという方向性についてであります。インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等が抱える各課題は相互に密接に関連しており,1つの課題だけを解決しても利用の円滑化を図るという目的は達成されないことから,すべての課題を一挙に解決する方策がないかという観点から,映画の著作物に関する現行法29条に類似するイメージで,一定条件を満たす場合,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等の権利を特定の者に集約するという方策につき検討を行いました。
 しかしながら,この方策につきましても,そもそも特定の者に権利を集約することの正当化根拠をどのように考えるのか,あるいは国際条約との整合性をどのように考えるのか,権利を集約する対象であるインターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等を法律上どのように定義するのか,あるいはだれに権利を集約するのか,集約する権利の範囲はどのように考えるのかと,いずれもこのような困難な問題があることから,やはりこうした立法的措置により課題を解決することは困難であるとの結論に至っております。
 なお,先ほど述べましたとおり,現状,諸外国においても,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等の利用の円滑化を図るための特別な立法的措置を講じている例は,ワーキングチームが調査した範囲ではございませんでした。
 30ページをごらんください。次の第2節では,契約等による対応の可能性についてまとめております。この点につきましては,既に第2章のところでご説明いたしましたとおり,利用規約の活用,クリエイティブ・コモンズをはじめとした著作権ライセンスの活用といった形で,契約等の手法を用いて円滑な利用を実現する取り組みが広く実践されているところであります。
 こうした契約等の手法を用いて,あらかじめ利用に関する一定のルールを設定する方法による対応には一定の課題も存在するものの,立法による解決において生じる課題は少なくとも生じない。あるいは関係者の意思に沿った柔軟な対応が可能であるというメリットが認められ,さらにはさまざまな工夫により課題を克服することも可能である。このように考えられることから,ワーキングチームとしては,立法的な措置ではなく,契約等により課題を解決する方向性をもって妥当であるとする結論に至りました。
 もっとも,ワーキングチームでは,この点に関連いたしまして,契約等による対応が十分に機能するためには,契約に関する一般的な規定を著作権法に設けることをあわせて検討すべきであるといった意見も出されております。この点につきましては,脚注72に書きましたとおり,昨年1月の分科会報告書の基本問題小委員会のパートにおきまして,いわゆる著作権契約法の策定に関する記述があるところでもあります。この点は,先ほどの64条,65条,一般の問題と同様に,本ワーキングチームでの検討範囲を超えますことから,報告書では,このような意見があったという形での記述にとどまっております。
 以上のとおり,ワーキングチームにおける検討の結果は,先ほど末吉座長からも報告がございましたとおり,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等に係る利用の円滑化のために,特別な,すなわち,インターネットを通じて複数者が創作等に関与した著作物等に特化した立法措置を講ずるのは困難であり,契約等により妥当な解決を図ることが合理的であるとの結論に至っておりまして,32ページの「おわりに」においてもその点が記載されております。
 最後に34ページには,ワーキングチームのメンバー名簿が,35ページには審議経過がそれぞれ記載されておりますので,あわせてご参照いただければと思います。事務局からの説明は以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,ただいまの説明につきまして,何かご意見,ご質問がございましたらお出しください。
 はい,大須賀委員,どうぞ。

【大須賀委員】  東京地裁の大須賀でございます。どうもワーキングチームの皆様方,ご苦労さまでございました。
 私も今お聞きしていて,立法的解決というのは,非常に動きがまだ激しいような現段階では,難しいだろうというのはそのとおりだと思います。そうであれば,契約による解決といいますか,そういう方向に向かうというのは,それはそれで理解はできるのですが,契約による解決について,それを援助するような方策,例えばモデル案の作成とか,あるいはそういう契約についての紛争解決機関の設定とか,そういうあたりについて何かご議論がございましたら,それを聞かせていただければと思います。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】  ただいまのは質問でもあろうかと思いますので事務局からお願いします……。

【池村著作権調査官】  はい。ご議論ございました。30ページのところに若干議論の跡が残っております。30ページの第2節の2つ目の段落の下から5行目あたりからでございます。契約による対応をより円滑に行うための援助をすべきだというような議論がございました。
 また,32ページの「おわりに」のところにも書かせていただいております。「おわりに」の「以上のとおり」から始まる最終段落でございますけれども,「かかる対応が適切に行われるためには,インターネット・サービスの進展や著作権等に係るルール形成の動向につき引き続き注視するとともに,適宜適切に必要な検討を加えることが重要であると考える」という部分は,ただいま大須賀委員からご指摘があったような議論も踏まえた記載と考えております。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。
 ほかにございますか。はい,松田委員,どうぞ。

【松田委員】  インターネットを通じて契約関係で利用を促進していくということは具体的にどんなところで起こるかというと,インターネット上でデジタルコンテンツを利用する特性から生じるところでございます。これは大量処理的にデータを収集し,それを,利用形態はいろいろあるわけですけれども,対応したサービスとして提供していくという,こういうことが可能になったわけでありますから,これを事業者としてやっていく,ないしは,権利者側としても,これに参画してその利用の対価を取得するというチャンスをきちんと確保してあげるということが社会状況として求められる。すなわち,大量処理的にどうしても処理をせざるを得ないと。
 そのときに,個々の権利者の権利処理,ライセンスを締結していくことの困難性,それから,コストが非常にかかるということから,この社会状況をうまく使えないということが起こってきている。これは具体的な契約関係でいうならば,シュリンクラップアグリーメントとか,ないしはオプトインとかオプトアウトとかという,利用に関する契約関係の形成をしていくことが可能なのだろうかという問題提起がされるわけであります。
 これをある程度議論して,どの範囲内でこういうことが許されるのか,ないしは,これまでの民商法のルールではいささか無理である場合においても,デジタルコンテンツ流通の特性から,一定の法律的要件を緩和する,契約成立要件などを緩和するということができるのかということを真正面切って議論するということがもう既に私は要求されていると思っているわけです。
 時々,同じ意見も言っておりますけれども,やっぱりこのワーキンググループでは同じような議論が出てきていますから,文化庁の施策としても,ないしは文化審議会としても,この点の視点で何か事を進めてみてはどうかと私は思っています。また意見を出させていただきました。どうぞよろしくお願いします。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 今のことで,事務局になにか,ありますか。よろしいですか。
 ほかにご意見ございますか。特にございませんか。
 末吉座長には,短い期間でこういうきちんとしたものをおまとめいただきまして,ありがとうございました。関係の委員の方々に対してもお礼を申し上げたいと存じます。
 それでは,議題3「司法救済ワーキングチームからの報告について」に移ります。この検討結果について,大渕座長よりご報告をお願いいたします。

【大渕主査代理】  それでは,お手元の資料3に基づきまして,司法救済ワーキングチームにおける検討結果についてご報告いたします。
 1ページ以下にございます,「Ⅰ間接侵害」と,それから,最後に5ページ「Ⅱその他(リーチサイト)」との2つから成っておりますが,まずⅠの間接侵害でございます。
 最初に,「1.問題の所在及び検討経緯」でありますが,皆様ご案内のとおり,ここにございます間接侵害に係る課題とは,著作物等をみずから直接に利用する者,いわゆる「直接行為者」,以外の関与者,すなわち,いわゆる「間接行為者」に対して差止請求を行うことができるかどうかという非常に大きな問題に関しまして,現行法上明確ではないことから,今申し上げましたような間接行為者がどのような場合に,差止請求の対象になるのか,ないし,その範囲をどのように,捉えるべきかという点について,立法的措置の必要性等も含めて検討が求められているものであります。
 そして,1ページにございますとおり,間接侵害をめぐる状況につきましては,近年の情報通信技術の発展等を背景にいたしまして,近時は,裁判例におきましても,インターネットなどを活用して提供されるサービスをめぐって,その提供者に対する差止請求が認められるケースも増加しております。また,複数の裁判例が採用したとされております,いわゆる「カラオケ法理」の是非等をめぐっては,ご案内のとおり,さまざまな議論が展開されており,現行法上,差止請求の対象が不明確であるといった指摘も多くなされているところでございます。
 このような状況を受けまして,差止請求が可能な範囲を法律上明確化すべしという従来からの権利者側の要請に加えまして,利用者側の立場からも,差止請求を受けない範囲を明確化すべきという要請が強くなされるに至っておりまして,近年の知的財産推進計画においても検討が求められております。
 それを踏まえまして,次に「(2)検討経緯」でございます。ここは,詳細は省略いたしますが,前期に引き続きまして,今期も本ワーキングチームにおいては,望ましい立法措置のあり方について検討を継続し,今般ようやく本ワーキングチームとしての考え方を整理するに至りましたので,これよりそれにつきましてご報告いたします。
 検討経緯については,6ページ目に開催状況として,平成17年から始まって,自分で数えたわけではないのですが,全部で――50回文化庁史上始まって以来,最高回数だそうです――を重ねてようやく検討に至りました。長くかかっておりますので,皆様も,よほど長大な報告がなされるのではないかとご心配されていたところではないかとは思いますが,鋭意,ワーキングチームで検討いたしました結果,以下ご紹介いたしますとおり,意外とすっきりとした形で,クリアな形で検討結果を整理することができました。それにつきまして,ポイントを絞ってご説明をいたしたいと思います。
 中身につきましては,2ページの真中あたりの「2.考え方」とある中に,3ページの(3)まで,(1)(2)(3),これが3つのポイントでありますので,これにつきまして順次ご説明いたします。
 まず,最初に(1)の「差止請求の対象について」でございます。これにつきましては,差止請求の対象は,直接行為者に限定されずに,一定範囲の間接行為者も差止請求の対象とすべきかという非常に大きな論点につきまして,これは結論がクリアに出ております。本ワーキングチームとしましては,理由としては,間接行為者が何ゆえ差止請求の対象になるかというところを突き詰めてまいりますと,間接行為者が直接行為者に対する間接的寄与を通じて権利侵害という結果の発生を招来し,これが権利侵害という結果の発生に対する因果的寄与の強度等という点において,直接行為者と価値的に同様なものと評価されるのであれば,差止請求に服すべきと解されますことから,差止請求の対象というのは直接行為者に限定されるものではなく,一定範囲の間接行為者も差止請求の対象とすべきとの考え方,すなわち,直接侵害者非限定説という考え方で一致いたしました。これが第1のポイントでございます。
 次に,(2)でございます。今のように一定範囲の間接行為者も差止請求の対象とすべきと考える場合,間接侵害の成立の前提として直接侵害の成立が要求されるのかという,これまた非常に大きな論点でございます。これも先ほどと同じように,先ほどのような実質的根拠からいたしますと,もしも直接侵害が成立しないのであれば,そのような適法行為をいかに助長等する行為を行ったといたしましても,そのような行為を違法な侵害行為とすることは適当でないということから,基本的に直接侵害の成立を前提とする考え方,すなわち,従属説でこれも一致しております。
 以上の考え方を前提としまして,次に,3ページの(3)の「差止請求の対象と位置付けるべき間接行為者の範囲に関する試案」という部分でございます。先ほどの2点を踏まえた上で,本ワーキングチームでは,差止請求の対象と位置付けるべき間接行為者の範囲をどのように整理するかという点につきまして検討を重ねた結果,これも非常にクリアな形で,3ページの真中にボックスと申しますか,四角の枠囲いに入った(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)――以下,これは類型1,類型2,類型3と呼んだりもいたしますが――この3つの類型について差止請求の対象となることが明確となるよう立法的措置を講ずべきであるという考え方でおおむね一致しております。
 なお,これはボックスの真上に書いてあることでありますが,この3つの類型に共通して,いずれの類型につきましても,一定の「物品」・「場」を提供する行為を差止請求の対象としておりますが,ここでは「物品」といたしましては各種装置や機器,プログラム等が,それから「場」といたしましてはウェブサイト等が念頭に置かれております。
 ここに挙げております3つの類型で,最後は「提供する者」となっておりますが,もともと差止請求というのは侵害するおそれのあるものも含まれております。ここで書いてあるのは提供する者だけしか書いてありませんが,「おそれがあるもの」ものも排除する趣旨ではなくて,それも含まれる広い意味で書かれております。
 それで,順次ご説明いたしますと,まず(ⅰ)の類型というのは,専ら著作権等の侵害の用に供される物品・場の提供を行う者を差止請求の対象とするものでありまして,これは「ないし」でつながれた部分でございますが,侵害以外の用途がある場合であっても,著作権等の侵害のために特に設計され,または適用された物品を提供する者も対象と位置付けるものでございます。
 次に,第2類型,(ⅱ)でありますが,今申し上げました(ⅰ)の類型に該当しない場合であっても,著作権等の侵害が発生する実質的危険性が認められるような,そのような物品・場を,侵害発生防止のための合理的措置を採ることなく,当該侵害のために提供する者を差止請求の対象と位置づけるものでございます。
 なお,この中身といたしましては,枠の中とその後についております説明書きと合わせてご理解いただければと思っております。(ⅱ)につきましては,3ページの一番下にあるように,重要なポイントといたしまして,一番下の行にありますが,パソコンのような汎用品というのは,ここで言います著作権等の侵害が発生する実質的な危険性があるとは認められないため,第2の類型の対象にはならないと考えております。
 この点につきましては,この第2類型に関しまして,本ワーキングチームでは,これはいずれの類型についても共通する点ではございますが,差止請求の対象が必要以上に広がることがないように配慮すべきであるという点では一致しております。そのために,ここで言う,実質的危険性が認められないと解される一定の汎用品等については第2類型の対象とならないことを明確にすべきとの見解では基本的には一致しております。
 そして,「なお」で書いてあるところでございますが,このことをあらわすために,先ほどの枠内の表現であります「(実質的危険性を)有する物品・場」というところに,修飾詞として,「(実質的危険性を)相当程度有する」あるいは「(実質的危険性を)類型的に有する」などということで表記すべきであるというような意見も出されました。
 なお,ここで申します「実質的危険性」につきましては,先ほど申しましたとおり,パソコンなどは入らないというように,対抗利益も十分に考慮した上で実質的に絞り込まれたものであります。先ほどのご意見というのは,この点をより明確化するために修飾詞として「相当程度」とか,あるいは「類型的に」というものを付して一層明示すべきだというものでございますが,このような限定詞がなくても,もともと,先ほど申し上げたように,この「実質的危険性」というのは,実質的に絞り込まれたというものであるという点はご注意いただければと思っております。
 また,次に(ⅲ)の類型では,物品・場の提供全般を差止請求の対象とするのではなく,あくまで特定の侵害に係る物品・場の提供を対象としているということが,4ページの「また」で始まるパラグラフから説明されております。
 それから,その次にもう1つ重要な点でございますが,第2類型におきましては,「侵害発生防止のための合理的措置」というのが重要なポイントとなってまいります。その内容につきましては,一義的に定まるものではなく,個別の事例における間接行為者や直接行為者の行為の性質や対象などに照らして,個別具体的に定まるものと考えております。
 最後になりましたが,第3類型につきましては,物品・場を,侵害発生を積極的に誘引する態様で提供する者を差止請求の対象と位置付けるものでありまして,第1類型や第2類型では対象とならない汎用的な物品や場の提供でありましても対象となり得るものでございます。この例といたしましては,例えばウェブサイトを開設して,当該ウェブサイトに無許諾の音楽ファイルを投稿することを積極的に呼びかける者などがこの類型に該当するものと考えられます。
 次に,「3.まとめ」に入り,以上申し上げた各類型に該当する間接行為者が差止請求の対象となることを明確にする方向での立法的措置が必要であると考えるものであります。今後,この考え方の整理をたたき台として,本小委員会においてさらなる検討が行われることを期待しております。
 それでは次に一番,最後に残った部分でございますが,5ページ,「Ⅱその他(リーチサイトについて)」という部分をごらんいただければと思います。本ワーキングチームでは,知的財産戦略本部における検討を踏まえまして,ここにある,いわゆるリーチサイトについて検討いたしました。
 なお,リーチサイトというのはいろいろな定義の仕方があるようでございますが,ここでは,「リーチサイト」と書いてある直後に括弧書きで,「別のサイトにアップロードされた違法コンテンツへのリンクを集めたサイト」と定義されておりますが,このように定義した上で,以下検討を加えております。
 それにつきましての検討結果が「2.検討結果」のところでございます。リーチサイトの問題につきましては,本ワーキングチームでは,さまざまな意見が出されました。先ほどの点にも関連いたしますが,著作権等の対象となるのは,あくまで個々の著作物等である以上,リーチサイト全体ではなく,それに含まれる個々のリンク一つ一つについて個別の事案ごとに差止請求の可否等を検討・判断せざるを得ないではないかという意見が多く出された次第であります。
 また,今申し上げたのとは別の次元でございますが,仮に個々のリンクではなく,リーチサイト全体について差止対象と位置付ける必要性が認められるのであれば,これに特化したみなし侵害規定を創設することが適当でないかとの意見もありましたが,他方では,リーチサイトの態様も多様であって,リーチサイトに特化した規定を創設することは現実的ではないという意見も出されております。
 それでは最後に,先ほども少し言及いたしましたが,開催状況やチーム員につきましては6ページ以下にあるとおりでございます。回数が多いだけでなくて,今回,年末年始を含めて直前まで,メールのやりとりも含めまして非常に集中的な議論を重ねた結果,ようやく先ほどのような一定の結論を整理するに至ったものであり,私はただ司会進行役を務めただけでございますが,チーム員の皆様方には並々ならぬご努力,ご尽力をいただきまして,ようやくこの報告に至っておりますので,この場を借りて感謝を申し上げたいと思っております。私からの説明は以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,ただいまの説明につきまして,何かご意見,ご質問ございましたらお願いいたします。
 はい,小泉委員,どうぞ。

【小泉委員】  長期間にわたるご検討,大変お疲れさまでございました。
 現行法の解釈については,特定の見解を前提にしたものではないという注記がございますものの,問題の所在のところでは,やはり現行の扱いでは不当に拡張されたり,範囲が不明確だというご認識がこのプロジェクトの前提になっていると思うんですね。
 それを前提に,今日この場でパッと拝見しただけで,今後いろいろ議論がされていくんだと思いますけれども,パッと見の感想を申し上げますと,この括弧の中に入ったものというのは,「専ら」とか「実質的危険性」とか「積極的に誘引」とか,これ,なかなかに難物ぞろいというか,相当にこれは規範的な認定というものが不可避な,あるいは新しい概念じゃないかと思うんですね。
 ですから,私はこの括弧の中に入っている行為を差しとめてはいけないと言っているわけでは決してありません。それから,差しとめの条文をつくることについてももちろん積極的に議論すべきだと思うんですけれども,果たして現行の扱いが不明確だということを立法でただすことになるかどうかということを今後念頭に置きながら,議論にいろいろな形で参加していきたいと思っております。以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに。
 はい,中山委員,どうぞ。

【中山委員】  私もカラオケ法理を広げて差止請求を認めていくというのは問題があると思うので,このようなまとめをするということは非常に結構なことだと思います。
 現段階でこんな細かいことをお伺いしていいのかどうかわかりませんけれども,例えば,今般,最高裁で無罪になった,いわゆる互換ソフト(ウィニー),ああいったようなものはこのどこかに入るのか入らないのか,あるいは,3ページの下から2段落目に参考として,最高裁の「ときめきメモリアル事件」が書いてありますけれども,この参考の意味がよくわかりませんけれども,このようなものは果たしてこれは入るようなものなのかどうかという点についてはいかがでしょうか。

【土肥主査】  はい,お願いします。

【大渕主査代理】  もともと知的財産法というのは非常に実務性が高いので,個別のケースについてのご関心が高いことはわかりますが,私の理解では,この間接侵害というのは枠組的論点であって,非常に重要な関連論点であります直接行為者の認定の点,あるいは支分権や権利制限の規定の解釈問題,特に複数者が絡んでいるケースについての応用問題的な論点というのが不可避的に関連しておりますので,ここでの枠組がクリアになったからすぐ答えが出てくるようなものではないと考えています。ただ,やはり正しく,的確な枠組みの中でやっていくことこそが,結論が即変わるかどうかは別として,議論の可視性が高まり,あるいは結果の予測可能性が高まることではないかと思っております。
 そういう観点から作業したということをつけ加えた上で,先ほどご質問がありましたときめきメモリアルに関しては,参考として挙げられていますが,これは,あくまで最高裁の判示を前提とすれば,第1類型に該当し得るというだけあって,ここでは,この最高裁判決の判示自体に賛成であるかどうか自体を議論しているわけではありません。これについては,当該事案について,著作者人格権でとらえるのが適切か,あるいは,私的領域での改変について同一性保持権侵害を肯定するのが適当かといった批判もあろうかと思いますが,ここでは,そういったこと自体を議論しているわけではありません。
 仮に侵害行為があって,損害賠償がとれるという場合であっても,従前は直接侵害者限定説ということであれば,間接侵害者については,損害賠償はとれても差止めはできないということだったのですが,それがいいのかという点については,おそらく現行法の解釈論の中でも,やはり差止めが一律にできないというのはいかがなものかなということがあります。
 それを考えておりますのが,今回の(1)に出ております直接侵害者非限定説でありまして,直接侵害者に当たらなくても,一定の範囲の間接侵害者は禁止請求の相手方となるべしという方向は出した上で,さらに,その場合には,大元のところが非侵害の場合にはそれに間接的に関与したとしても,違法として問議されるべきではないという従属説の立場を明確に打ち出した上で,間接侵害者の対象範囲について,できる限り明確化を図っていくというのが,ボックスの中に入っております1,2,3ということであります。
 このような枠組の整理がなされるだけですべてが解決するというものではなくて,先ほど挙がっていた多くの例は,おそらく私が理解するに,同様の質問は後からも出てくることが予想されますけれども,実例としてある場合には,この間接侵害の論点に入る前には非常に大きな論点として,直接行為者の認定という点で,ユーザーと業者のいずれが直接行為者となるかで出発点が大きく変わってまいります。
 そういう意味では,個別の事案というのは,このような間接侵害の枠組だけではなくて,そういうものを一般とあわせて考えないといけないのですが,ただ,もともとが立法論としてやっておりますので,直接行為者の認定というのは,基本的には認定問題であって,立法論でどうこうするという問題ではないとは考えております。それはそれとしてあるのですけれども,立法でやるものとしては,一般性のあるルール自体ということで,枠組について,こういう形で提示しているということでございます。

【中山委員】  よくわからないのですが,ある種の間接侵害者は差しとめなければいかんという点ではおそらくあまり異論はないだろうと思います。それを従来のようなカラオケ法理で攻めていくのがいいのか,あるいはこのような枠組みを決めてやったほうがいいのかという,そういう話だと思います。少なくともこういう枠組みを決めようとする場合は,従来非常に問題になったようなケースについては,一体どういうことになるのですか,ということについての議論はなくて,今の大枠の議論だけで済ませたのでしょうか。

【大渕主査代理】  もちろん個別の議論は多数やっております。いろいろな次案についてシミュレートした上で我々が考えているのは,こういう枠組ができたら,従来は必ずしもこういう枠組みがない形で事実認定等がされているので,今後このような枠組でもって直接行為者を認定していくと,おそらく直接侵害者限定説とされてきたときであれば,拾うためにある程度広げて認定せざるを得ないという状況があり得たかもしれないけれども,直接行為者の認定等もこの枠組に沿って負荷のない形で,今後行っていくべしということです。個別の事案については,やり出すといろいろと認定について場合分け等が必要となってきますが,いろいろと検討はしております。

【村上委員】  よろしいですか。

【土肥主査】  はい,村上委員,どうぞ。

【村上委員】  まず今,112条の差止請求権の文言のですけれども,ご承知のとおり,著作権だけでなくて,ほかの知的財産権全体がこの1項と2項というこの文言で書いてあります。それから,この第1項の「その侵害の停止または予防を請求することができる」というのは,これは知的財産権だけはなく,独占禁止法をはじめ,ほかの差止請求権も全部この文言を使って法文を規定しているということになっています。
 それで,それを前提として1点だけ質問させていただきます。今の段階で検討するための方向性として,こういう文言まである程度変更するというか,改正しようというのか,それでなくて,むしろ解釈規定みたいなものを置くという趣旨なのか,その辺の方向性,今の段階でもしある程度こういうことをにらんでというのがわかるならば,教えていただきたい。

【大渕主査代理】  今までも,むしろ,基本的な方針を審議会で決めたら,あとは立法の文言づくりというのは,それを受けての立法化作業の段階にゆだねられるのであって,文言自体をどうこうするという形で議論していないことは先ほどの報告からもおわかりのとおりであります。
 特に,この停止・予防とかいうあたりを,むしろ村上委員のご質問にお答えするためには,何を主に念頭に置いて今の質問をされているかをお聞きしたほうがわかりやすいのかもしれないのですが,その点をお聞きすると,ご負担になるかもしれないので,お答えすると,停止・予防という点に特に焦点を当てた形ではなくて,先ほどご紹介したような,直接侵害者限定かどうか,あるいは従属説か,あるいは間接侵害の範囲の一定の明確化を図るかどうかという,その3点からアプローチしております。
 お答えとしては,結果的にさきほど申し上げた各点をいろいろ組んでいったら,条文化する際にどう変わるかというのは,進めていけばあり得る点かもしれませんけれども,特に,停止・予防という点に主眼を置いて検討したということはございません。

【村上委員】  立法措置をやって条文を改正していく話にまでなると,日本の全体の法体系の整合性で大丈夫かという議論は出てきかねない話かなと単純に思いまして。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに。
 はい,大須賀委員,どうぞ。

【大須賀委員】  従属説の関係でご質問したいのですけれども,特許法でも間接侵害という共通する問題があって,そこでは完全な従属説をとる見解はあまりなくて,例えば試験のための生産のような場合は,従属するでしょう,要するに,侵害にならないでしょうとしながら,個人が業としてじゃなくて実施するような場合,こういう場合には侵害になるでしょうという見解がむしろ有力じゃないかと思うのですね。そのような考え方については,特許法の目的ということも踏まえて考えるということでかなり議論がされていると思います。
 そういう視点から考えた場合に,先ほどのご説明では明確性ということはすごく強調されていると思うのですけれども,著作権者の権利の保護と著作物の利用の調整という観点,まあ,著作権法の目的ですよね,そういうものに照らして従属説を完全に徹底したほうがいいという何か実質的な根拠があるのかどうか,その辺のところを教えていただきたいと思います。

【大渕主査代理】  今,ここで詳細について申し上げるのは時間の問題もあって難しいので,『法学教室』で,ドイツ特許法の10条・11条なども引いて書いてありますので,それをごらんいただければと思います。ドイツ特許法の議論でいうと,現行法の間接侵害規定というのは,明文の規定でもって,従属説に係る事項と,独立説に係る事項が書き分けられているという,ドイツらしい,非常にクリアな規定ぶりとなっています。物の本によると,大原則は従属説なのですが,特許法においては,特別の立法で一部の事項について独立説化を図っているという,特別立法による特則を設けているということであります。
 しかしながら,ドイツの場合も著作権法では,特許法の場合のような特別立法による一部独立説化という形にはなっていなくて,一般則たる従属説のままであります。
 特許法の場合には,特許法上の必要性から,ドイツの場合には特別の立法で一部の事項については,非従属説化ないし,独立説化がされています。また,日本の場合には,現行法たる昭和34年法でさほどクリアな議論があったわけはないのですが,通説としては,結果的には折衷説ということになっています。これは,ドイツ法に沿って分析してみると,一部事項については従属説のままであり,一部事項については独立説化されているということが,特別立法たる特許法101条についての解釈論として導かれていると把握することができると思います。
 ドイツの場合には,現に特許では一部独立説化をしているが,著作権法はそのようなことはなされておりません。この点も踏まえた上で,我々としては一般則としては従属説で,特に立法上の必要性があれば,特許法については,特別の立法的必要性から,一部事項について独立説化している例もあるのですが,著作権法については,今まで見た範囲では特にここで問題になる特別立法による独立説化の特則を置くべきような性質のものではないという理解で,一般則たる従属説のままとするということでこのような形になっています。
 特別に独立説化しなければいけないというのがあれば,それはここで行っているような一般則的な明確化という次元のものではなく,特別の立法による特則化という,別途の立法的考慮になってくる話ということであります。この点,特許法と著作権法では利益状況が本質的に大きく異なるものと理解されます。

【土肥主査】  ありがとうございます。この問題は過去7年50回にわたって議論いただいて,本日に至っておるわけでございまして,おそらくさらにご意見も多々あったり,質問もあったりすると思うのですが,本小委員会としては,本日の大渕座長から頂いたタイトルで申しますと「考え方の整理」をちょうだいしておりますので,今後,次期において,間接侵害の問題を法制小委の中で検討していきたいと思っております。
 その中で,本日は何枚かの紙ですけれども,例えば今,大渕座長がおっしゃったようなドイツ法における議論なども相当おやりになったと思いますし,さまざまな比較法的な考慮もされたと思うのですが,そういったような資料もその場では出てくるということですね。

【大渕主査代理】  1点だけ,今の点についてです。ワーキングチームの報告書としては,たしか2006年ぐらいに,今回のものとまた別の意味で異例な,比較法等についての何百ページもあるような詳細なもの出しております。このような比較的調査の結果等については,重複となるので,今回特に付けてはおりませんが,当然,そのようなものを踏まえた上での議論ということです。

【土肥主査】  わかりました。また次の期においてこの問題については検討を進めていきたいと思っておりますので,本日はご報告を法制小委としてちょうだいしたということでまとめさせていただければと思っております。ありがとうございました。
 それでは,議題4に入りたいと思います。文化庁の委託研究である「クラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究」について,ご報告をお願いしたいと思っております。クラウドコンピューティングと著作権との関係については,平成23年1月の著作権分科会報告書や知的財産推進計画2011においても検討が求められていた課題でございます。
 本日は,この調査研究委員会で座長をお務めいただいた苗村憲司先生にお越しいただいております。最初に事務局からこれまでの経緯等について簡単にご説明いただいた上で,その後,苗村教授に全般にわたってご報告を願えればと思っております。よろしくお願いいたします。

【池村著作権調査官】  それでは,資料4をごらんください。目次に続きます1ページ目に,この調査研究の背景と目的について記載がございますので,こちらをごらんいただければと思います。
 近時,クラウドコンピューティングと呼ばれる技術を活用したサービス,いわゆるクラウドサービスが注目を集めております。このクラウドサービスはさまざまな分野で提供が行われておりますが,既にご案内のとおり,映像や音楽といったコンテンツの分野でも注目を集めており,例えばインターネットを経由してユーザーが保有するスマートフォン等の端末で自由に音楽等を視聴するといったことを可能とするようなサービスが展開されております。
 こうしたコンテンツ分野のクラウドサービスにつきましては,特に米国において先進的な動きがある一方で,なかなか我が国で同様なサービスが展開されるに至っていないと一般的に認識されており,その背景,原因の1つとして著作権法上の課題があるのではないかと,こういった指摘がたびたびなされているところであります。
 この点につきましては,本小委員会においても同趣旨のご指摘がありまして,これを受けて,昨年1月の著作権分科会報告書のまとめの部分におきまして,「例えばクラウドコンピューティングの進展等,情報通信技術の発展等に伴う著作物の創作や利用を取り巻く環境の変化については今後もその動向に留意することが求められる」とされ,その上で,「クラウドコンピューティングの進展等に伴う問題については,関係者の要望も強いことから,早期に検討する必要があると考えられる」と,このように記載されてございます。
 また,昨年6月に出されました知的財産推進計画2011,こちらでも「クラウド型サービスの環境整備」が施策例として挙げられ,「我が国におけるコンテンツ型クラウドサービスの環境整備を図るため,法的リスクの解消も含め,著作権制度上の課題について整理し,必要な措置を講ずる」とされております。
 以上が本調査研究の背景になります。
 次に,検討事項につきましては,当然,著作権法とクラウドサービスあるいはクラウドコンピューティングとの関係ということになるわけでありますが,クラウドという言葉は特段の定義なく,多義的に用いられている可能性があることから,著作権法との関係を建設的に検討するに際しては,何をもってクラウドコンピューティングあるいはクラウドサービスととらえるのか,すなわち,クラウドコンピューティングの概念をしっかり把握する必要がある,こういった問題意識のもと,まずこの点について検討を行い,その上で関係裁判例の整理や分析あるいは関係者ヒアリング等を通じて,クラウドサービスと著作権法との関係について検討を行っております。
 次のページをごらんいただきまして,本調査研究は,調査委託という形態で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に調査を委託し,同社により委員会を組成して実施しております。こちらに記載の5名の方々に委員としてご検討いただきまして,座長は,本日お越しいただいている苗村先生にお務めいただいております。
 次のページでは研究会の開催概要が,その次のページは,関係者ヒアリングの調査対象や調査実施時期等につきまとめてございます。
 事務局からは以上でございます。それでは,苗村先生,どうぞよろしくお願いいたします。

【苗村氏】  ただいまご紹介いただきました,情報セキュリティ大学院大学の苗村でございます。今,経緯についてご説明がありましたように,昨年7月からクラウドコンピューティングと著作権に関する調査研究委員会を実施しまして,まずクラウドコンピューティングの概念を整理した上で,クラウドサービスに関連する著作権法上の課題について検討を行った結果が,今お手元の報告書でございます。その概略について簡単にご説明します。
 まず,5ページをごらんいただきますと,クラウドコンピューティングの概念についての整理をしております。クラウドコンピューティングという言葉は今,非常に幅広く使われておりますが,どうも関係者の間でも意味にとらえ方が違うということがいろいろな形でわかってまいりました。
 書いてあることの説明に入る前に少し背景を確認しますと,クラウドといったものを使うものがどういうものであるかということを非常に簡単に分けていいますと,政府,地方自治体などの公的機関の場合,それから,民間企業等の場合,それから,個人などの場合があります。当然,それによって大幅に使うサービスの種類も違いますし,著作権法とのかかわり合いも違ってくるわけです。
 クラウドコンピューティングとは何かということを定義した最も権威のあるものは,アメリカの国立標準技術研究所というところ,NISTと通常呼んでおりますが,ここが公表したものです。これは本来,アメリカの連邦政府機関が調達するコンピュータなど情報システムの主にセキュリティに注目した条件を作成する,明確化するということが法的に定められた任務の1つになっております。そういう意味で,このNISTがここにありますような定義をしております。
 「クラウドコンピューティングは,構成可能なコンピュータ資源の共有プールへのユビキタスで高い利便性を有するオンデマンドのネットワークアクセスを可能とするモデル」云々と書いてあります。幾つかキーワードはありますが,詳細は省きます。現在,この定義が一般的によく使われておりまして,日本でも,総務省,経産省の研究会でも,例えば地方自治体あるいは民間企業等がクラウドコンピューティングを導入する場合にどういう問題があるか,課題があるか等を検討することを行っているときも,これを一応もとにしてそれぞれ類似の定義のしているわけであります。
 一方,一般個人ユーザーがクラウドを使うということはまだ日本ではあまりされておりませんが,どうもそのあたりでいろいろな問題が出始めているというのが背景にありまして,そういったことも含めて検討しております。
 ただ,NISTの定義でも,またその他いろいろ言われているものでも,クラウドコンピューティングのサービスの内容は3つに分かれるということが言われております。通称,SaaS,PaaS,IaaSと呼んでいますが,7ページにその3種類の代表が挙げてあります。
 さて,関係者ヒアリングをしたわけですが,先ほど申し上げたような趣旨で,クラウドにかかわるようなサービスを提供する可能性のある事業者,それから,著作権者,著作権の権利者団体,そして,主にユーザー側の団体などについていろいろお聞きしましたところ,どうもクラウドコンピューティングとかクラウドサービスに関して,明確な定義とか具体的なイメージを持っているわけではなくて,どちらかというと,従来型のインターネット・サービスとかウエブサービス,特にデータセンターサービスと同じようなものとしてとらえている者が多いということがわかりました。そういったことから,クラウドという言葉を明確に定義して,それで新たな著作権上の課題が何かということを明確化するということが大変難しいことがわかったわけであります。
 そこで,8ページですが,この調査研究委員会では,クラウドコンピューティングの概念を画一的に定義することよりも,むしろ従来型のさまざまなサービスをある意味で発展させた形でクラウドサービスと呼んでいるということが多いと。しかしながら,それだけでは,この問題点の,特に著作権との関係の問題点を明確にすることはできないので,現実にクラウドサービスと呼ばれているものがどういうものなのかということを類型としてモデル化したものが,次の9ページ,10ページでございます。
 この類型はやはりヒアリングの中で出されたものをもとにしておりますが,3つに大別しております。Aがコンテンツ・ロッカー型サービス。先ほどの事務局からのご説明にもありましたように,例えば映像とか音楽などの主に一般個人ユーザー向けのコンテンツをインターネット上のどこかのサーバーに置いておいて,ユーザーがそれをダウンロードあるいはストリーミングという形で楽しむというたぐいのものであります。これはまた細かくA1,A2,A3に分かれまして,著作権との関係ではこの3つに非常に差がありますし,また現実にアメリカ等で提供されているサービスもこの3種類あるということから,やや細かく分けております。
 Bは汎用・ロッカー型サービスです。例えば企業が持っているいろいろなデータを自分の企業の事業所内に置かずに,遠隔のサーバー等に預けておく。そうしますと,例えば地震とか水害があっても被害を受けることが少ないといったようなことです。クラウドサービスの提供者側に預けるというものですので,事業者側はその内容が何であるかということを認識しない。したがって,著作権との関係も比較的わかりやすい,単純な形になるというものであります。
 Cはアプリケーション提供型と書いてありますが,今度はコンテンツを預けるというよりも,むしろサーバー上にいろいろなプログラムが載っていて,それをユーザーが利用できるというものであります。
 以上,このA1,A2,A3,B,Cという類型をベースとして,どんな問題があるかを検討した結果が,13ページ以降に書いてあります。ちょっと説明を飛ばさせていただいて,15ページから参ります。
 まず大きな課題として,クラウドサービスと著作物の利用行為主体との関係という問題があります。この場合,主に利用行為というのは主に複製と送信です。その主体がユーザーなのか,あるいはクラウド事業者なのかという問題であります。ご案内のとおり,先ほどもお話にあった間接侵害の問題としても関連しますし,いわゆるカラオケ法理をめぐってさまざまな議論が行われているところであります。
 この問題については,関係者ヒアリングでは,「まねきTV事件」「ロクラク2事件」の最高裁判決,またインターネットを用いたサービスに関しては,サービスの提供事業者を利用主体であるという判断をしたことから非常に関心が高いということで,クラウドサービスへの影響を指摘する声もありました。一方,地裁レベルの判決でも,「MYUTA事件」の判決は,コンテンツ・ロッカー型サービスに類似するサービスで,業者を事業行為主体であると判断しておりますので,やはりヒアリングの中でも非常に関心が高く,調査研究委員会としては,この3つの事件を取り上げて検討しました。
 18ページに行っていただきます。まず,まねきTV事件とロクラク2事件の最高裁判決については,その後多くの評釈などが発表されておりますが,これらの判決の射程を限定的に解する見解が多く見られるということを確認いたしました。また,MYUTA事件に関しても,同様に射程を限定的にとらえる見解が示されております。調査研究委員会でも,その射程が比較的限定されているという意見が多く,その方向でこの報告書はつくられております。
 こういった判決によっても,クラウドサービスにおける著作物の利用行為主体が直ちにサービス提供者であるととらえられるわけではないだろうと考えられます。この利用行為主体の問題というのは,間接侵害の問題ともあわせて議論されることが多くて,この小委員会でも当然先ほどご報告があったとおりで,今後検討が発展していくということが期待されると考えております。
 次に,20ページに行っていただきたいと思います。特に複製の場合ですが,クラウドサービスと私的使用との関係がもう1つのポイントになります。コンテンツを複製する行為の主体がユーザーと評価される場合に限ってでありますが,その複製が30条1項に規定する私的使用のための複製であると評価されて,権利制限の対象になるかどうかという問題です。
 当然,ユーザーが企業である場合には,一般にはこの30条には該当しないと考えられますが,ユーザーが一般個人,消費者等である場合には,クラウドのサーバー上に複製されたコンテンツをユーザー自身のみが利用するのか,それ以外の者も利用するかによって,当然判断が異なると考えられます。
 また,仮にクラウド上のサーバーが30条1項1号のいわゆる公衆用設置自動複製機器に該当する場合には権利制限の対象とはならないということから,その公衆用設置自動複製機器への該当性が問題となります。これについても,調査研究委員会において意見が分かれたところであります。こういった問題を含む30条に関する論点については,この小委員会で既に検討を進めておられますので,今後,クラウドサービスの普及に伴って,より一層重要な課題になると考えられます。
 次の論点であります,公衆概念との関係です。21ページから書いてあります。これは送信の場合,あるいは言いかえますと,ユーザーから見るとダウンロードあるいはストリーミングでそのコンテンツを受ける場合などであります。クラウドサービスのサーバーからユーザーに向けて送信する主体がクラウド事業者であるのか,ユーザーであるのかという問題ですが,クラウド事業者であるというふうに評価された場合に,そのあて先が1人の個人であったとしても,公衆に対するもの,すなわち自動公衆送信に該当するかどうかという問題です。
 これにつきましては,関係者ヒアリングで,特にMYUTA事件判決,それから,まねきTV事件の最高裁判決に対する懸念が複数の対象者から示されました。いわゆるロッカー型のサービスで,クラウド上のサーバーのユーザー用の領域は,ユーザー端末と1対1に技術的には対応する場合であっても,公衆送信であるというふうに評価されてしまうということが懸念の根拠であります。こういった1対1の関係が技術的に強固に築かれる場合に公衆性は否定されるべきであるという問題認識をヒアリングでは示された方がいました。
 クラウドサービスと公衆概念との関係については,今後,ロッカー型サービスにおいて,クラウド上のサーバーの各ユーザー用の記録領域と各ユーザーの端末が技術的に1対1の関係であるという前提である場合にも公衆性を満たすのか,すなわち,自動公衆送信になるのか,これは継続して論点として検討する必要があると考えられます。
 次の論点ですが,22ページに参ります。今度は,ユーザーに直接は関係しませんが,ネットワーク内でといいますか,クラウドサービスを提供する側が保有するデータセンター等で多くの複製が行われるという問題です。最近,特に昨年の春以来クラウドサービスの重要性が認識された理由の1つが,地震その他で特定のデータセンターが機能しなかったときに,別の場所にそのコピーが置かれていたことによってサービスが継続して提供できたというような場合などであります。そういった意味で,リスク分散の目的で行われる複製の問題をどうするかであります。これについて著作権侵害にならないかという問題です。
 この点については,権利者による明示または黙示の許諾が認められない場合にどうするかということで,47条の5が,本来,送信の障害の防止等のための作成というのを定めておりますが,これがクラウドサービスにおけるバックエンドの複製にも適用されるのではないかというポイントです。これについて調査研究委員会でいろいろ議論しまして,この47条の5が適用されないような複製態様もあり得るのではないかという意見がありました。仮にこのような複製の態様があるとすると,権利制限が必要であるかもしれないということが1つのポイントで,こういった点について検討が求められると考えられます。
 そのほかの課題ですが,あとは,24ページ以上で,例えば47条の3,これはプログラムの複製物の所有者による複製の問題です。これは権利制限になっているわけですが,クラウドサービスにおいてこれが適用できるのかという意見も出ましたが,内容は省略いたします。  そのほか,26ページ以降では,クラウドサービスに関連する課題として,著作権法そのものの課題以外にもいろいろな問題が関連するということで記載しております。特にプロバイダ責任制限法の課題は,この中でも比較的丁寧に書いております。あとは,国際裁判管轄権・準拠法など一般的な課題も書いております。
 関係者ヒアリングの中では,クラウドサービスが我が国で進展しない要因として,著作権法以外の課題も種々指摘されておりますので,こういったことについても概要をまとめたものであります。
 その他,30ページですが,クラウドサービスに関連して著作権法の改正が必要か否か,関係者ヒアリングで出された意見をまとめております。不要であるという意見,必要であるという意見,両方出されましたが,これは必ずしも権利者とユーザーの間で意見が明確に分かれるという種類のものではありませんでした。
 最後に,まとめを31ページに書いております。以上のとおり,この調査研究委員会においては,クラウドコンピューティングの概念について検討を行った上で,それによって提供されるクラウドサービスと著作権法との関係について検討を行ったところであります。その結果,クラウドコンピューティングの概念というのが,客観的,包括的,一律に位置づけることは困難でありますが,そのあいまいな概念を前提に観念的に著作権法との関係をとらえるべきではないと考えます。
 具体的なサービスの例などをもとにした類型をもとにいろいろ検討した結果,利用行為主体の問題,それから,私的使用目的の複製の問題,公衆概念の問題といったような課題については,いずれも従来から指摘されて検討が行われている課題であって,クラウドサービスによってこうした課題がより顕在化するという側面があるにしても,クラウドサービス固有の課題ではないだろうということで,クラウドサービスの進展を理由として,直ちにクラウドサービス固有の問題として著作権法の改正が必要であるとは認められないものと考えられます。
 もっとも,従来から指摘された問題であって,クラウドサービスの進展に伴ってその影響や規模が拡大することも考えられますので,引き続きこうした課題について検討を続けることが必要であると考えられます。
 以上,簡単ですが,報告を終わります。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,ただいまのご説明につきまして,何かご質問,ご意見ございましたらお願いします。
 よろしいですか。
 はい,大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】  もう時間の関係もありますので,1点だけお聞きできればと思います。いろいろ詳細にご説明いただいたのですが,一番のポイントは,一番,最後に言われたように,クラウドコンピューティング一般に固有の問題というよりは,それぞれの類型ごとに考えていかなければいけないという,ことになるのでしょうか。
 また,そもそもクラウド自体が,どういうものがクラウドなのかというのが,いろいろな研究会などで聞いてもあまりよくわからないところがあるのですが,今回もそれは同様の状況だったのかという点も含めて,クラウドと言われていますが,具体的にどういうものがクラウドか,ないしはクラウドの特質は何かという点については,あまりそうクリアなものは出てこないということになってくるのでしょうか。

【苗村氏】  まず,クラウドサービスというものが,従来のインターネット上のウエブサービスあるいはデータセンターのサービスなどと比べて根本的に異なるということではない,延長にあるということは確実です。例えば30条の問題で議論されていることがクラウドにも当然重要な課題としてかかわってくるので,これは既にこの小委員会でも検討されているわけですから,その結果をクラウドの場合にも適用するというのは当然必要なわけですけれども,クラウドに固有の新たな問題が出たということがないというのが第1のポイントです。
 ただ,今後,クラウドというのもまだまだ発展,展開する可能性がありますので,継続する必要があるのと,先ほどもちょっと申しましたが,細かいところでは,データセンターがたくさんあって,リスク分散のためにあちらこちらにコピーを置いておくというようなことが現在の条文の解釈でうまく適用できるのかどうか,そういった点が二,三あります。中でも今後も継続して検討する必要があると書きましたが,緊急にそれが重要であるとか,それが改正されないと日本でクラウドサービスができないという問題ではないだろうというのが大まかな考え方です。

【多賀谷委員】  よろしいでしょうか。

【土肥主査】  はい,多賀谷委員,どうぞ。

【多賀谷委員】  私もクラウドという概念自体よくわかっていないところがありまして,今日,新しい形で類型化されたと,大変な努力だと敬意を表したいんですけれども,一,二,ちょっと印象だけ申し上げさせていただきますと,これ,コンテンツ・ロッカー型サービスという形でクラウドをAとBで定義され,それから,アプリケーション提供型サービスという形で定義されています。
 アプリケーション提供型サービスはいわゆるSaaSに相当するわけですけれども,地方コンテンツ・ロッカー型サービスというのは,どちらかというとIaaSに近いような感じがします。そうすると,PaaS的なサービスをどう考えるか。PaaSというのは基本的にプラットフォームであって,そのプラットフォームを使って,ユーザーがただ単に市販のソフトを置くだけじゃなくて,そこでプラットフォームのサーバーの容量等を使って,自主的にソフトを一部書きかえるとか,そこで独自なアプリケーションをつくるというような作業をやると思うのですけれども,その場合にそれが著作権法上どうなるかということがこの区分けで十分できるのか。私もクラウドサービスの概念がよくわかっていないですし,セールスフォース・ドットコムや何かありますが,多分,日本ではあまり活発になっていないということもあるのだと思うんのですが,今後やはりそういうことについてもう少し検討したほうがいいじゃないかという印象を持ちました。以上です。

【苗村氏】  今のご質問の点は実はこの調査研究委員会であまり議論をしなかったところですので,申しわけありませんが,私の個人的な感触のお答えになってしまいます。クラウドコンピューティングの技術を利用する仕方にはいろいろありますが,ここで主に議論したのは,一般の個人ユーザー,消費者等を対象としたサービスですので,PaaSの形態というのはあまりないのだと思います。
 ところが,企業等で通常プライベートクラウドと呼ばれるような形で,その上のアプリケーションプログラムはみずから作成をしたり,あるいは別の事業者に発注してつくるというような場合は当然,PaaSが多いわけです。この場合には特に著作権法上の課題があるというよりは,むしろ契約で対処できるものだと思いますので,ここでは特に深く議論していないというのが私の個人的な感触です。実は期間が短かったこともあって,そういう網羅的な形で問題整理をしておりませんで,一番問題のありそうなところを主に議論したとご理解いただきたいと思います。

【多賀谷委員】  わかりました。

【土肥主査】  ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
 はい。

【松田委員】  ありがとうございました。法制で私が従前意見を述べましたところは,クラウドのサービスとして認識できるサービスとして提供されるものは,ほとんどがストレージサービスにおける問題を提起されております。それはこの報告書からいいますと,おそらくコンテンツ・ロッカー型サービスについての問題を提起されていまして,それが著作権法上の問題が起こる,すなわち,ロッカーとして預かった側が主体であるかのように受け取られてしまって,そして,30条の問題ではなくて,企業がやっているから違法性が生じてしまう。こういうことになると,ストレージサービス的なクラウドサービスはビジネスとして発展しないではないかというご指摘を受けていたわけであります。
 しかしながら,分析されていますとおり,過去の判例で最高裁判例を見てみますと,個人が情報にアクセスして,それを複製するなり送信するなりという場合と,それから,そのサービスを提供する者が情報にアクセスしてそれを取り組んでくる場合と,これは明確に裁判所は分けているように私は思うわけであります。
 後者の例としては,先ほどのまねきTVとかロクラク2事件として整理されています。この2つの判例は,企業取り組み型,サービス主体が取り組み型なのにもかかわらず,個人がアップロードするのと同じようなところで問題が起こるのではないかという混同が起こって,議論がいささか複雑になってしまったと私は思うわけであります。
 しかしながら,その点は,整理をしてみれば,結構明確になり,著作権それ自体が障害になってクラウドがとりあえず発展しないという状況はないのではないか,少なくとも,今言いましたストレージサービスの範囲内においてはまずないのではないかという整理ができているのではないかと思います。
 次は,そのストレージサービスを超えたクラウドサービスになったときにどのような問題が起こるかということをさらに検討していかなければならないのでありますが,しかしながら,それはなかなか事案として出てこないのです。それで,今,ほかの汎用・ロッカー型とアプリケーション型をサービスとして分類されておりますけれども,これ自体も,今のストレージサービスと大体パラレルに考えることによって,適法と違法とを分けることはおそらく可能なのだろうと思っています。
 そうなったときに果たしてクラウドサービスが,著作権法が障害になって発展しないということの問題提起,それ自体は,我々が認識すること自体がなかなか難しいように思うわけです。もしそういう問題が具体的にあって産業の支障になると言うのであれば,まずそういう類型をもう少し整理してもらうというところから始めなければならないのではないかと思います。
 逆に言いますと,クラウドでのサービスが産業的に発展させなければいけないということのために,著作権法上が後退しなければならないという理由は現段階ではないと認識すべきだろうと私は考えております。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 ほかによろしいですか。
 それでは,苗村先生,今回の報告書をおまとめいただきまして,ありがとうございました。関係の委員の先生あるいは事務局においてご苦労があったかと思いますけれども,法制小委としてお礼を申し上げたいと思います。
 それで,議題5ですけれども,「平成23年度法制問題小委員会の審議の経過等について」に入りたいと思っております。今期の本小委員会におきましては,「国立国会図書館からの送信サービスに関する権利制限規定に係る課題」,これは先ほどご了解いただいた,ご承認いただいたところでございますけれども,これと「ネット上の複数者による創作に係る課題」,この2つ以外のその他の課題については,本小委員会としての結論の取りまとめに至った事項はございませんでしたので,再来週26日(木)の文化審議会著作権分科会では,私から,その他の課題に係る本小委員会の審議の経過等について報告をさせていただきたいと思っております。
 そのような取り扱いでよろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】  それでは,資料5にあります審議の経過等の報告案について,事務局から説明をお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  それでは,資料5に基づきまして,簡単にご説明申し上げたいと思います。まず1ページ目の「1.はじめに」にもございますように,本小委員会では,これまで著作権法制に関するさまざまな課題についてご検討いただいてきているところでございまして,とりわけ権利制限の一般規定や技術的保護手段の見直し等の論点につきましては,現在,著作権法の一部改正に向けた作業が進められているところでございます。
 また,今期におきましては,著作権法第30条に規定する私的使用のための複製に係る権利制限規定について,関係者からのヒアリング等を通じ論点の整理を行うとともに,国立国会図書館からの送信サービスに係る権利制限規定についてご検討,ご議論が行われました。さらにこれらに加えまして,本日ご報告いただきましたように,司法救済ワーキングチーム,それから,契約・利用ワーキングチームにおきまして,それぞれ一定の取りまとめをいただいたところでございます。
 1枚おめくりいただきまして,「2.課題ごとの状況」移行のところでございますけれども,この2ポツにおきましては,これらの今期の検討課題について,課題ごとに簡単に概要をまとめてございます。
 (1)の著作権法30条につきましては,先ほど申し上げましたとおり,ヒアリング等を通じ論点の整理を示したこと,また,今後は政府の知的財産戦略本部からの提言や関係者の意見等を踏まえ,必要に応じて課題を抽出し適宜検討することについて記述されてございます。  それから,(2)から(4)について でございますが,こちらにつきましては先ほど既にご説明いただいておりますので,内容については割愛させていただきたいと思います。
 一気に飛びまして4ページ目でございますけれども,(5)において,ここでは私的使用のための複製やいわゆる間接侵害等に係る課題のほかにも,今後,状況の進展等に応じまして,必要に応じ検討するといったことが記述されてございます。
 最後に,「3.おわりに」でございますが,ここでは,今期の法制小委でお取りまとめいただきました,国会図書館の送信サービスに関する権利制限規定に係る課題,それから,ネット上の複数者による創作に係る課題,これらの課題以外の課題については今後引き続き検討することとしていること,また本報告は,期末の最終的な報告とはせず,審議経過報告として審議の進捗状況や残された課題等について整理したものであること,また,これら検討課題については来期の小委員会においても可能な限り速やかに結論が得られるよう引き続き検討を行い,結論が得られたものから適宜報告をまとめることといったことについて記述をしてございます。
 なお,4ポツ,5ポツにつきましては,参考情報といたしまして,これまでの開催状況や委員の皆様方の名簿を掲載しているところでございます。
 以上,簡単ではございますが,資料5に基づきまして説明させていただきました。事務局からは以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 ただいまご報告がありましたように,今期の法制小委の審議の経過等については,このような形でまとめております。この点について,このようなまとめ方でよろしいのかどうかご意見がございましたら,お出しください。
 よろしゅうございますか。
 ありがとうございました。それでは,この審議経過報告で著作権分科会では報告をしたいと思っております。
 その他でございますけれども,特にご質問等特段ございませんでしょうか。
 なければ,時間も来ておりますので,本日はこのくらいにしたいと思っております。
 今期最後の法制問題小委員会ということでございますので,冒頭ごあいさついただきました河村文化庁次長から一言,もう一度ごあいさついただければと思っております。

【河村文化庁次長】  どうもありがとうございました。今期の著作権分科会法制問題小委員会の最終回でございますので,一言御礼申し上げます。
 今期の法制問題小委員会におきましては,先ほど来ご議論いただきましたように,国立国会図書館からの送信サービスに関する権利制限規定に係る課題,ネット上の複数者による創作に係る課題,いわゆる間接侵害に係る課題といった,我が国の著作権制度のあり方にかかわる大変大きな問題についてご審議をいただき,今後の施策の方向性について重要なご示唆をちょうだいいたしました。
 また,デジタル化,ネットワーク化の進展に伴いそのあり方が問われております,私的使用目的に複製に係る権利制限規定についてもご議論いただき,一定の論点整理を行っていただきました。
 なお,課題の一部については来期も引き続いて検討をお願いすることになりますけれども,ぜひ今後ともまた従前どおりの精力的なご検討をよろしくお願い申し上げる次第でございます。
 私,職についてまだ数日でございますけれども,知人や友人などから,文化庁ということで,これからの社会の中での著作権等のあり方についてコメントや質問を既にいろいろともらっておりまして,この問題に関する世の中の関心の高さに改めて思いをいたした次第でございます。前次長の思いも引き継ぎまして,オール文化庁としてこれまで以上に力を注いで著作権の課題に当たってまいりたいと存じますので,どうぞ引き続きご指導よろしくお願い申し上げます。
 終わりに当たりまして,各委員の皆様方におかれましては,大変お忙しい中にもかかわらず,ほんとうに並々ならぬご努力,ご尽力をちょうだいいたしましたことについて,改めて感謝を申し上げます。どうもありがとうございました。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 事務局から連絡事項はありますか。

【壹貫田著作権課課長補佐】  はい。本日は皆様どうもありがとうございました。先ほども先生のほうからもご指摘いただきました次回の著作権分科会でございますけれども,1月26日(木)の10:00から12:00の日程で,霞山会館霞山の間において開催することを予定しておりますので,申し添えております。どうもありがとうございました。

【土肥主査】  それでは,これで今期の法制問題小委員会を終わらせていただきます。本日を含めて大変ありがとうございました。これで終わります。

── 了 ──

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動