(平成24年第5回)議事次第

日時:平成24年11月16日(金)
    10:00~12:00
場所:東海大学校友会館 朝日東海の間

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)「間接侵害」について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料 間接侵害等に係る関係団体ヒアリング意見概要 (248KB)
参考資料 「間接侵害」等に関する考え方の整理 (204KB)
  出席者名簿 (68KB)

【土肥主査】  定刻でございますので,ただいまから,文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第5回を開催いたします。本日は,お忙しい中ご出席をいただきまして,まことにありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいているところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 それでは,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  それでは,配付資料の確認をいたします。本日の資料は1つでございまして,前々回,それから前回と2回にわたって行われました,関係団体ヒアリングの意見概要をお配りをしております。なお,参考資料といたしまして,司法救済ワーキングチームの本年1月12日の考え方の整理もあわせてお配りをしてございます。配付資料は以上でございますので,落丁等ございます場合には,お近くの事務局にお声がけください。以上でございます。

【土肥主査】  それでは,議事に入りますけれども,初めに議事の段取りについて確認しておきたいと存じます。本日の議事は,間接侵害について,その他となっております。間接侵害につきましては,前回,前々回の本小委員会において,関係団体より間接侵害等に係る考え方の整理についてヒアリングを行いました。事務局で,ヒアリングの結果を整理しております。このヒアリングの結果を踏まえ,意見交換を行いたいと思います。議事に入りますけれども,まず,関係団体のヒアリングの概要について,事務局から説明をお願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  それでは,関係団体ヒアリングの意見概要をまとめました資料につきまして,簡単に説明申し上げたいと思います。本小委員会におきましては,本年の8月29日,それから9月4日の2回にわたりまして,合わせて11団体からヒアリングを実施いたしました。その際に示されましたご意見につきまして,資料では,総論,各論,リーチサイト等というように3つに分けて整理をさせていただいております。なお,各団体につきましては,資料の最後に正式な名称とあわせまして掲げさせていただいておりますのでご参考ください。
 それでは,中身に入っていきたいと思いますけれども,まず,総論のうちの1.間接侵害に係る立法措置の必要性についてでございますが,この点に関しましては,製品・サービスを提供する事業者の予見可能性を高めるという観点から,間接侵害に関する規定を設けるべきだというご意見をいただいてございます。主に,知財協さん,それからJEITAさんからいただいてございます。一方で,いわば条件つきの賛成意見といたしまして,概略申し上げますと,幇助行為が差止請求の対象となることを認め,かつ,直接侵害の領域をあまり狭めない理論的担保がなされれば賛成であるとのご意見。書協さん,雑協さんでございますけれども。それから,直接侵害の範囲の縮小,整理に30条の範囲を拡大する方向での見直し。間接侵害規定の要件の明確化。この3つを満たせば賛成であるというMiAUさんのご意見がございました。また,このような賛成あるいは,条件つき賛成の意見に対しまして,間接行為者に対する差止請求につきまして,112条第1項の解釈論によって対処することも可能であり,立法措置が必要不可欠とまでは言えないというご意見,JASRACさんJVAさんから出されました。さらに,最高裁において,直接行為主体を弾力的に認定するという立場が示されていることなどから,立法措置については,慎重であるべきという意見がACCSさん,それからNHK・民放連さんから出されてございます。2ページ目に移ってございますけれども,そのほかにも,間接侵害につきまして,112条1項の対象となり得るということを文化審議会の報告書等で公表し,具体的な判断は司法に委ねるのが妥当ではないかというご意見も合わせてJVAさん,あるいはACCSさんからいただいております。
 続きまして,2.の従前の判例との関係についてでございますが,まず,隅括弧でございます,これまでの判例を積極的に評価する意見といたしましては,直接侵害として解決すべき領域の広さについては,最近の裁判例の蓄積により,十分に予測可能な状態であることや,これまで裁判所が採用してきた判断枠組みは,法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈の一つであって,普遍性の高いものであるといったご意見が,JASRACさんや,NHK・民放連さんから示されてございます。それから,こうした判例の判断枠組みを維持しないままに間接行為者の類型だけを規定すると,これまで,直接行為者の領域で解決されていた事案の処理に混乱や影響が生じてしまうといったご意見もJASRACさんをはじめ,レコ協さん等々からいただいてございます。
 それから,次の隅括弧,一方で立法によるルールづくりをするべきとする意見といたしましては,直接侵害の主体の認定が広く解され過ぎている点を意識して議論をお願いしたいというご意見。知財協さんのご意見。それから,次のページに移りますけれども,立法化により差止請求の対象となる,間接行為者の外延の明確化を通じて,擬制的ではない正しい直接行為主体の認定が行われることを期待するとのご意見,JEITAさんがございました。
 それから,次の2,各論でございますが,ここでは,1月にお取りまとめをいただいた,司法救済ワーキングの考え方の整理につきましての具体的なご意見でございます。まず,1.のいわゆる従属説についてに関しましては,これに賛成する意見といたしまして,適法行為を助長ないし容易化等する行為を違法な侵害行為とすることは適当ではないことから,従属説の考え方に賛成であるといったご意見,知財協さん,JEITAさんがあった一方で,従属説に慎重なご意見といたしましては,従属説を採用したとしても,直接侵害を広く認めるならば,独立説との差異はなくなり,従属説か独立説かどちらか一方によることを決めて立法化する必要はないといったご意見,JVAさんでございますけれども,示されてございます。
 次に,2.いわゆる3類型についてでございますけれども,この3類型全般に対するご意見といたしましては,総じて,これは,各関係団体全てにわたってと言いますか,3類型の文言の不明確さゆえに,要件該当性の判断が困難であるといった懸念が示されてございます。具体的には,何を持って専ら侵害の用に供されるのか,これは1類型の文言でございますとか,あるいは,侵害発生を積極的に誘引する態様というものが,どういうふうに判断されるのかといったことが不明であるということのご意見をいただいてございます。それから,3類型自体,裁判例の積み重ねによらなければ,内容が明確にならないのではないかというご意見もあわせていただいてございます。
 それから,次のページに移りますけれども,続きまして,試案になります実質的危険性,あるいは合理的措置,積極的に誘引態様といった等の解釈が一様ではないため,侵害の有無についても,予測可能性を高めるという効果は期待できないのではないかというご意見がNHKさん,民放連さんからございました。
 さらに,差止請求の対象となる行為が詳細に規定されてしまうと,結果として,差止請求の対象となる行為を狭めてしまうのではないかという懸念があることがACCSさんのご意見として示されてございます。それから,とりわけ,第2類型,次の隅括弧でございますが,類型2につきましては,主にMiAUさんを中心としてご意見いただいてますけれども,要件の不明確性についてのご指摘がございました。例えば,知るべきでありながらという要件が事業者に対して監視義務等課すことを想定しているとすると,過度な義務や負担が増えるのではないかと,望ましくないのではないかというご意見,これは知財協さんがあったほか,侵害発生の実質的危険性について,どのような態様であれば,危険性を有すると判断されるのか,あるいは,侵害発生防止のための合理的措置について,どのようなものが合理的措置とされるのかということが不明であるというご意見が示されてございます。
 次に,3.その他でございますが,ここでは30条に関連するご意見をその他として掲げさせていただいております。まず,従属説を採用する場合,30条について検討する必要性があるということは認められるけれども,まずは,間接侵害の結論を得た上で,30条についての議論をすべきというご意見がJEITAさんからございました。それから,次のページでございますけれども,仮に,間接侵害について立法化するのであれば,30条1項柱書について,いわゆる使用者の手足となる者も含むように範囲を拡張したり,あるいは同じ第1項1号については,削除すべきであるといったご意見がMiAUさんから示されてございます。そのほか,書協・雑協さんからは,同一店内に複製機器と裁断済みの本が置かれ,利用者が書籍を選んでみずからスキャンしたデータを持ち帰ると,このような状態が適法とならないよう,必要な見直しを行うべきというご意見や,JEITAさんからは,クラウドサービスやメディア変換サービスのうち,社会的ニーズ高く,権利者の利益を損なう可能性の低いものといったものについて,権利侵害とならないように,間接侵害の立法化の中で整理するか,あるいは,権利制限規定を創設することによって対処するべきであるというご意見をいただいてございます。
 最後に,ローマ数字3のリーチサイト等についてでございますが,まず,隅括弧にございます,リーチサイト等を差止請求の対象とすることについて積極的な意見ということといたしましては,リーチサイトに対して,差止請求規定を設けるか,間接侵害に関する規定を対象とする,そういうことをしていただきたいというご意見をいただいているほか,総じて,リーチサイトによる被害が深刻化している中,何らかの実効的な司法救済を図るべきであるというご意見をJASRACさん,レコ協さん,ACCSさん,書協・雑協さんといった団体からいただいてございます。
 最後の,6ページ目でございます。一方で,リーチサイト等,差止対象とすることに慎重な見解といたしましては,たまたまリンク先に違法サイトがあった場合もだめだということになってしまうと萎縮が大きくなりますので,仮に規定をつくるのであれば,そういった面に配慮が必要であるという知財協さんからのご意見や,そもそもリーチサイトへの規制は,ユーザーの通常のインターネット利用に重大な影響を及ぼすということになりかねないため,全面的に反対であるというご意見,MiAUさんからいただいてございます。このほか,JASRACさんの方からは,リーチサイトと一般個人のブログのリンク先が違法である場合。つまり,リーチサイトと一般個人のブログの先が違法であるというこの2つの場合との間には,いろいろな段階が考えられるため,線引きが難しいのではないかというご意見をいただいてございます。以上,大変駆け足でまた,簡単ではございますけれども,ヒアリングにおいて示されたご意見の概要について説明をさせていただきました。なお,最後のリーチサイトにつきましては,種々,実態があるかと思っており,現在事務局におきまして,その実態等につきまして,整理をさせていただいております。本日は,まだちょっと,お示しできてないんですけれども,この本小委員会においてご議論の一助となればと思い,何らかの資料を作成し,次回の本委員会でお示しをできればと思っておりますので,よろしくお願いいたします。私の方からは以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。それでは,意見交換に移りたいと存じます。先ほど,事務局より説明をいただいた資料1では,総論,各論,リーチサイト等の3つに分かれておりますけれども,本日は総論と各論を中心にご議論いただければと思います。最後のリーチサイトにつきましては,たった今事務局から説明がございましたように,次回の本小委員会において,資料を別途ご用意いただけると,このようなことでございましたので,次回扱うことにいたしまして,事務局におかれてはよろしくお願い申し上げます。
 それでは,まず資料1の総論の部分について,検討したいと思います。すなわち,前半ではまず総論を検討させていただきまして,あるいは,ご意見を頂戴いたしまして,後半において各論のご意見を頂戴したいと思っております。特に,2回にわたってヒアリングを行いまして,関係団体からは,各種のご意見を頂戴しておるところでございます。立法措置の必要性について,必要であるというご意見のほか,消極的なご意見もあったわけでございます。さらに,我々が前提としなければならないものとしては,いわゆるまねきTVとかロクラク2事件の最高裁判決もあるわけでございます。こうした状況でございますけれども,関係団体のヒアリングを前提にして,かつ最高裁,あるいは各種の裁判例を踏まえて間接侵害における,導入の是非と申しますか,そこのところについて,広く,皆様のご意見を,できれば全員のご意見を頂戴したいというふうに思っております。どうぞ。

【村上委員】  よろしいですか。

【土肥主査】  村上委員,どうぞ。

【村上委員】  私は,ちょっと海外に出かけてたもので2回ばかり欠席させてもらって申しわけございませんでした。それで,むしろ帰国後なんで,議事録を丁寧に読ませていただきました。それで,感想は立法の必要性については,乏しいという意見がかなり多いんではないかと,それで,実際にも立法して直すことまでは,求められていないのではないかというのが議事録全体を読んだときの印象でありました。また,それから,仮に立法するとしても,規定の内容は皆さんが納得いって明快な内容にするというのは,法技術的というか,規定の内容の定め方自体もそう簡単なものではないなというのが,議事録を読んだときの印象でありました。ただ,あとは,立法の形につながるかどうかというのとは,ちょっと別の話ですが,どの学問分野でも意外と難しい問題について,意見の統一を図るとか,理論的整理を行うという,そういう機会というのは意外とないものです。それで,もし著作権の法の世界で,これ間接侵害という問題について,ある程度理論的整合を図るとか,もしくは,それについて,学者の間で合意を形成するとか,そういうことをやるということならば,更にそこは詰めて議論してもらえれば,大変有意義なことになるかと思います。ただ。それでも,本当に立法までつながるかというと,なかなか難しいのではないかというのが,議事録を読んだときの率直な感想であります。以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに,ご意見をいただけますか。松田委員。

【松田委員】  今の村上委員と結論的にはほぼ同じ方向になる意見になります。総論的に考えますと,著作権法上の権利に関する侵害についてある範疇のものについて,差止請求権の範囲を確定しようという立法方法は,これは著作権法上の範囲内でできることなんだろうと私思います。それはそうだろうと思います。といいますのは,その範囲であれば,直接侵害とは何かという,正犯とは何かということを突き詰めなくとも,その範疇の立法化できるものが,範疇が明確化されれば,多分刑事犯には及ばないで済むからではないかなというふうに思います。しかしながら,著作権法上の差止請求権の範疇を確定するということは,果たして,著作権法だけの審議でいいのだろうかという疑問がないわけではありません。というのは,結局この問題が起こるのは何かというと,まさにデジタルネットワーク環境において,権利侵害が起こるというのは,著作権上法の権利侵害だけではないわけです。違法行為に広げるならば,もっとたくさんあるわけです。例えば,児童ポルノだって,それから,薬物の販売等だって,この環境下において,かなりの問題が起こってることはそのとおりです。事司法上の権利に関して考えましても,著作権法だけではないように思います。パブリシティーの権利や,肖像についても同じ環境下で被害が起こることは,具体的に裁判はこういう環境化の問題としては起こっておりませんけれども,あり得るかもしれません。名誉毀損もそうかもしれません。ということになりますと,著作権法上の差止請求権の範囲を著作権法上の中だけで考えて,一範疇をつくり上げるということが,これだけの議論でいいのかなというのが,総論的な私の疑問でありまして,要するに,権利の侵害は何か,違法とは何かということは,ある程度,司法判断に委ねておいて,その状況下において判断をする,最終的には,最高裁判所に判断をしてもらうほかないことになりますけれども,そういう範疇のものもあっても,やむを得ないのではないかなというふうに思っているところが,総論的な私のある意味では疑問ということになるわけであります。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにお願いいたします。ご意見をお願いいたします。山本委員どうぞ。

【山本(た)委員】  立法化に対して,消極的な意見が続きましたので,積極的な意見を言わせていただきたいと思うんですが,例えば,今出されてます3類型ですけれども,おそらく3類型に対して,著作権侵害の,間接侵害として損害賠償を認めることはおそらく問題ないんだろうと,そういう類型だろうと思われるんですが,現状において,じゃあ,その差止が認められているか,この3類型に対して差止が認められるかというと,認められていないというのが,裁判例の実際だと思います。じゃあ,今度は,差止を認めなくていいのかどうかという問題で,もし認める必要があるっていうんであれば,今の著作権法の112条1項の解釈論で済むという話ではないはずです。私は,実務家として裁判やってる上で,この侵害に対する救済として,損害賠償が実際に実行性があるのかという観点から言いますと,著作権の事件なんか特にそうなんですけれども,相手方が零細で,後で損害賠償とるって言ったって,相手方どこに財産があるのかさえわかりませんし,あったとしたって微々たるもので,そういう実際の損害賠償,判決とったって回収はほとんど不可能です。というのが実態です。そうすると,著作権の実効性を持たせるのは一体何かというと,私は,差止請求権が一番重要だと思います。その点から言うと,違法性を認めて,損害賠償を認めながら,差止を認めないというのは,それは,やはり権利の救済として不十分だ,それは,立法によってでも,現在の法解釈がそれを認めてないんであれば,認めるための立法措置は必要だと,諸外国を見たって,それに対して差止を認めるということについては,全然ちゅうちょはしていないということから言いますと,やはりここは立法措置が必要だという状況だと私は認識しております。

【土肥主査】  ありがとうございました。大渕委員。

【大渕主査代理】  それでは,先ほど,冒頭に村上先生から学者に投げかけられたようなご質問がありましたので,各論に入る前にそこにお答えしておいたほうがよろしいかと思います。
 少し,できるだけ著作権法外の方にもご理解しやすいようにご説明させていただきます。今までやや省略してきたところでありますが。2006年に当ワーキングチームで非常に詳細な比較法の結果をお示ししましたが,それ以降はあまりに膨大なので,今回のワーキングチームの報告書の後ろにも別添したりはしてないのですけれども,それを見ていただくと解はほぼ自動的に出てくるかと思います。その際には,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス等の主要な国は全て調べたかと思うのですが,そこに,今回の3本柱は全て出ております。要するに,その意味では,日本国の今までの認識は,先ほど村上委員が言われたとおりかと思うのですけれども,それは,国際的法標準からは著しく乖離しているという,その一言でございます。我が国では,直接侵害者限定のドグマと呼ばれているものが強いのですが,これは牧野利秋先生のご論文でもご指摘されているとおり,根拠は判然としないのであります。ドグマというのはそういうのが多いのでしょうが,根拠も不明なままに,直接侵害者しか差止めの対象にならない,間接侵害者は差止めの対象にならないと漠然と考えられてきております。そのようなドグマの下では,間接侵害者に対する差止めをしようとすれば,擬制侵害化が必要となります。すなわち,例としては,特許法101条がそうでありますけれども,法律の規定で,特別に一定の間接侵害的な行為を直接侵害と擬制する,法的擬制の規定を置いたら,それは,法的効果としては,直接侵害と同様となりますから,そういう範囲では,差止めの対象になるけれども,このような擬制侵害以外では,差止めは否定されるというのがドグマのようです。ただ単に間接侵害とだけいうと,擬制侵害化された間接侵害と混同されやすいので,最近では両者を区別するために,特許権のような,擬制侵害化された間接侵害については,特別間接侵害といい,著作権のような,擬制侵害化されてない間接侵害については,通常間接侵害といって,なるべく,議論が混乱しないようにしております。このように両者を区別すれば,ここで議論しているのは,通常間接侵害であります。そして,この通常間接侵害については,直接侵害者非限定説であり,間接侵害者に対しても差止めはできます。そして,その際には,どなたか先ほど言われましたが,これは当然かと思うのですが,大元が非侵害の適法行為をいかに幇助したところで,それが違法行為に転ずるはずはないという一般論は,否定できないと思います。そして,諸外国でも従属説であります。そしてそうなると,従属説を前提とした間接侵害の範囲の明確化を図っていくこととなるのですが,これは,ドイツが一番はっきりしているかと思いますが,調査義務違反とか,期待可能性とかそういうものでの絞り込みも図っておりますけれども,我々になじみの深い,相当因果関係をもって直接侵害に間接的に関与している者に対しては差止めができるとされています。このワーキングチームの3本の柱の内容は,我々がクリエイトしたというよりは,諸外国の法標準を消化した上で,我が国になじみやすい形に書き下したというものでございます。それが1点。
 従前のドグマを前提とすると,やれる方法はおそらく実務的には1つだけで,間接侵害に対して差止めができないのであれば,直接侵害を拡張的に認定するということになろうかと思います。実務的にはドグマがあって難しいときに,事実認定を擬制的に操作的にやるというのが明確性の観点等から好ましいかと言われると,好ましくないと思われます。松田先生にもご心配いただかないようにということでありますが,理論的に明確化を図るのが主眼であって,結論自体があまり変わるというわけではありません。ワーキングチーム内でも全ての主要案件について,今までの裁判例と結論が変わるかどうかというのは,チェックしております。なお,先ほど,まねき,ロクラクと言われましたが,私も,それから多くの人も,まねき,ロクラクは,間接侵害の事案ではなくて,ジュークボックス法理と呼ぶかどうかは別として,直接侵害の事案であると考えておりまして,その意味ではここでやっております間接侵害の論点のお隣の論点の問題ではあるけれども,間接侵害の問題ではないということであります。間接侵害の実体について,拡張的な直接侵害認定で拾うという実務的理由付けで対処しているのを,間接侵害自体としての対処という理論の明確化を図りますが,このような理由付けの変更の点を除けば,私が知る限りにおいては,別に結論が変わるわけでもないので,ご心配なくということであります。
 もう1点,刑法との関係を心配されまして,これはおそらく一言で言いますと,著作権法の112条と119条の関係ということになるかと思います。我が国の立法では両方とも同じ「侵害」という言葉を使ってあるので,ご懸念というのは,112条のほうの「侵害」に間接侵害が入ると,119条においても,本来間接侵害的なものが,正犯になってしまって困るというご趣旨ではないかと思うのですけれども,もともと刑法の各則-含む特別法犯-というのは,単独正犯を規定するものであって,それを,刑法総則の共犯規定や共同正犯規定でもって修正された構成要件としての共犯や共同正犯をつくっていくという,いわば共犯,共同正犯規定を外出しにした,刑法型の規定方式が前提になっておりますので,読めば読むほど,この119条というのは,文言は112条と同じ「侵害」なのですけれども,刑法の各則,-特別法犯を含む広い意味ですが-は,単独正犯以外の意味のありようがないということだと思います。それに対して,112条のほうは,排他権の本質からして,むしろ当然に直接侵害のみならず間接侵害も含むべきものであることを前提とした上で,さきほどのような刑法型の規定方式でなくて,共犯,共同正犯的なものが外出しになっておらずに,単独正犯と併せて規定されているという非外出し型の規定になっておりまして,その関係では,侵害というのは,私は現行法でもこれは十分間接侵害も含み得ると解釈できると考えております。ドイツでも規定としては,違法な侵害云々というだけであります。違法なというのは付いていますけれども,日本でも当然,侵害というのは,違法なものしか想定してませんから,条文は同じですけれども,ドイツでは,その侵害というのは当然,間接侵害も含まれるというふうに解されています。なお,立法に当たっては,112条と119条の関係での「侵害」という語についての疑義を払拭すべく,文言上の工夫をすれば足りるだけの問題であります。
 最後に,では,現行法の解釈論で,間接侵害も差止めの対象とできるなら,立法は要らないではないかと言われるかもしれませんが,ドイツのように今まで侵害と規定して,この侵害につき,当然,直接侵害プラス間接侵害と読まれてきた国であれば,侵害に間接侵害が入ることの明確化の立法は特に必要ないのでしょうが,我が国のように,直接侵害者限定ドグマという,それと全く逆の方向でのドグマが漠然と信じられてきたというところでは,立法で明確化する必要性は高いということでございます。長くなりましたが,以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。本日,もちろん意見の交換をしたいとは思いますけれども,メーンは,広く皆様からご意見を頂戴したいと思っております。もちろん大渕委員も委員としてご発言いただいて,一向に構わないんですけれども。

【村上委員】  今の点だけ,ごめんなさい。

【土肥主査】  じゃあ,どうぞ。

【村上委員】  あまり学者の議論的で抽象的になり過ぎて恐縮なんですが,私,確かに,国際的なハーモナイゼーションとか国際的な調和の議論というのは,今の時代では非常に大事なポイントになるわけです。変な話,私の専門の競争法なんかというのは,むしろ国際的な事業活動ルールとして機能させることに大きな意味があるので,したがって,先進国なんかの場合は,当然各国を見て,国際標準な体系なり,ルールをつくっていかないと,これは大変な世界になる,いわゆる多国籍企業が,そのルールのもとで全世界を股にかけて事業活動を行っているというそれに適応していく法律という形になるわけです。そこで,問題は,今言われたほど,国際的に間接侵害について,整合的な全ての国共通なそもそも概念みたいなのがうまく成立化していくかなというのが,まず,これは今答えてもらう必要はない,論点の1つはそうなりますが,第1点と。
 それと,第2点は,例えば,競争法なんかと比べて,私は,著作権法というのは,いまだに各国ごとの差が大きいし,いわゆる各国で結構違いがあることが容認されている法体系という形で理解してますので,そこのところが,著作権法というので,どこまで国際的なハーモナイゼーションを徹底して考えるべきか,その辺が,今の国際比較の問題で議論になるかと思います。以上です。

【土肥主査】  松田委員,先ほどちょっと手を挙げられたと思いますけれども,よろしいですか。

【松田委員】  この議論で類型化されることになりますと,典型的な直接侵害,それから,差止にはならないけれども,幇助としての,類型としての,損害賠償が認められる従来からの幇助類型があって,その真ん中あたりに,この類型があると,これを著作権法上の規定で設けるということになって,著作権法上にだけ適応になるというわけです。そういう法律体系を著作権法上とれば,おそらく違法ということはないのでありましょうけれども,その他の権利については,そういう中間的範疇を議論しないでいいのかという意見を言ったわけです。それで,今の大渕先生のお話でもお答えいただいておりますけれども,各国もこの範疇については,差止を認めているんだっていう,比較法的研究が済んでいるんだと,こういうふうなご意見です。果たして,著作権法上の切り出しの中でそういう議論はできたかもしれませんけれども,各国の法制は他の私的な権利や,他の違法行為についても同じように,この中間的領域というものがあるのだろうか,私はそれについては,疑問を持っております。いかがでしょうか。

【土肥主査】  大渕委員にお尋ね……。

【大渕主査代理】 ここだけご説明したいと思います。実は,2006年の,もう大分過ぎてお忘れかと思いますけれども,あそこの中でも触れておりますけれども,基本的には,一番おわかりになりやすい例がドイツの民法だと思いますけれども,ドイツ民法は妨害としか書いてないのですけれども,そこでは,ごく普通の教科書,コンメンタール等でも,直接妨害者と間接妨害者と両方入るというのは,異論はないと思います。また,ドイツ特許法についても,実は,日本の特許権間接侵害に対応する規定もあるのですけれども,それ以外に,日本特許法100条のような普通の効力での特許権に対しても,教唆・幇助については,差止めが,肯定されております。先ほどまさしく山本委員が言われたところで,どこの国でも,損害賠償の対象にはなるのに,差止めの対象には全くならないという議論はあまり見た記憶がないので,そういう意味では,一般的な話であります。少なくともドイツでは民法,特許法,著作権法はそうなのであります。そういうものを見据えた上で,これをやっております。我々がここで特許法の議論を本格的にする必要があるかどうかは別として,そこは,2006年のワーキングチームのときから見据えた上の議論でございます。

【土肥主査】  ありがとうございます。ほかに,もちろん広くご意見を伺いたいと思いますけれども,最初に多賀谷委員お願いできますか。

【多賀谷委員】  私,今日途中で退席することもあって,あまり議論が専門的な話になる前に,ほかの分野から一,二コメントをさせていただきたいのです。私は,どちらかというと,こういう立法も仕方がないなと思いますけれども,立法するということは,我々の分野では,こういうグレーな問題については,法律によって要件を定める前に,ガイドラインで実験的に指針をつくって持っていくという,そういう仕組みが一般的で,法律で全て決めるのは困難ではないかなという気がいたします。それから,公法の分野でもこのような侵害の存否についての議論はしますけれども,その場合には,侵害がないとは見えない場合という方向から詰めていく場合と,侵害があるとは見えない場合という方から詰めていくと両方があって,今回の場合,侵害がないとは見えない場合というものについて,最低限必要な形で定めているというのが,今回の案だと思うんですけれども,ヒアリングで聞いてると,侵害がないとは見えないという,おそれの概念を拡大するという議論が,それをどう歯どめをするかということです。個人情報保護法だと,やはり両方から,一方において,侵害がないと見えない場合についても書き,また,侵害あるとは見えない場合についても書いて,それでグレーのところはできるだけ狭くして交通整理をしているという,そういう方向もあるということを一応参考に申し上げておきます。以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。ヒアリングを承っておった中では,予見可能性ですね。この事業者の予見可能性を高めるのではないかというご意見も,一方にあったわけですけれども,逆に,予見可能性を損なうのではないかというご意見もあったわけですね。こういう,そもそも,間接侵害を入れるかどうかということに関して,基本的な関係団体の認識の差異というものについてでも結構なんですけれども,ご意見をいただけないでしょうか。中山委員,お願いします。

【中山委員】  私は,結論的には,間接侵害の規定はあってもよいと思っております。現在は,ご存じのとおり,カラオケ法理というのがあります。この事件は著作権法の附則に関する特別な事例の判決だったわけですけれども,いつの間にか,この法理が広がってきたという状況にあるかと思います。まねきTV,ロクラク2をどう評価するかは別といたしましても,この事例においては侵害であるということは,判例上は明らかになったわけですけれども,これから外れる事例については,侵害になるか,ならないか,まだはっきりしていない状態だろうと思います。
 つまり,カラオケ法理というのは,外延がどこまで伸びるのか,難しい法理だと思います。それは,この最高裁判決のもともとの出自からして,そういう宿命を負っているのではないか。そうなってくると,やはり間接規定の規定が必要になってくるのではないかと思います。
 ただ,それでは,間接規定の規定はこの3類型でいいかという問題でございますけれども,こういう規定は,ある程度は一般的な規定にならざるを得ないので,基本的にはこの案でよいとは思うのですけれども,デジタル時代,特にクラウド時代には,本当にこれで充分に適応できるのかという問題もありますし,いろいろな意見の中には,まだまだ,これでは十分ではないという意見もありますので,私は,この問題は,あまり急ぐ必要はないのではないと思います。したがって,ここですぐ結論を出すよりは,あと1年,2年,もんでもよろしいのではないかと思っております。
 実は,これよりも先に,出版社の隣接権の問題を議論すべてではないかと思います。この出版社の隣接権というのは,理論上,全然急ぐ必要はないと思うのですけれども,政治的な諸般の事情から,急いでやったほうがよろいのではないかという気がいたしております。
 それから,もう一つ,今度のフェアユースの立法の関係で身にしみたのですけれども,おそらくこの隣接権は刑罰期待が設けられると思いますけれども,罪刑法定主義という問題を,法制局からギリギリ言われているのではないかと推測しております。刑法は,全て刑罰規定ですから,罪刑法定主義を貫いてもよいのですけれども,著作権法は,元来,民事的な規定で,その上に刑罰をくっつけているという構造になっております。そのたために著作権法の全て規定を罪刑法定主義で貫くと民事的な規定の意味が没却されてしまいます。それは少しおかしいのではないかと思います。
 もし罪刑法定主義を貫ぬかねばならないならば,そもそもの侵害の対象である著作物,これは2条1項で規定してありますけれども,この概念も極めて曖昧で何だかよくわかりません。そこで10条でも例示してあるわけですけれども,おおむね,次のようなものであるというような規定になっています。罪刑法定主義から考えますと,考えれない酷い条文になっているわけですね。もし罪刑法定主義を貫くならば,おそらく,ほかの経済法だって,怪しげなものがたくさんあるわけで,それらも全て変えなければならなくなります。最近,特に法制局が罪刑法定主義を,きつく言うのはけしからんことであり,これだと経済法全部を否定するような考え方ではないかと思います。
 そもそも,刑法の中だって,例えばわいせつの概念ように,わけがわからない概念を刑罰の対象にしているわけで,私は,経済法においては,あまり罪刑法定主義を厳しく考える必要はないと思うんですけれども,現在の法制局の実態を考えますと,やはり,ある程度,考えざるを得ないと思います。そのような観点からは,今回の3類型で十分勝とうことも考える必要があり,やはりもう少し時間を置いて,丁寧に議論したらよろしいと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 ほかにご意見ございますか。まだご発言になっていない方。末吉委員。

【末吉委員】  今回のヒアリングの概要を拝見していてびっくりしたことは,非常に消極的なご意見が多かったということであります。ちょっと私の予想を超えていた。ただ,その論法も,平たく言うと,予見可能性が高まるとは言えないのではないかという感覚からのご意見が非常に強かったようにお見受けします。
 片や,積極説をとられる団体も,よく見てみると,予見可能性が高まると言いつつも,あわせて,最高裁判例を中心とする直接侵害の主体についてのルールの議論が整理されるのではないかという期待感とともに述べておられるというのが,これまた印象的でございました。
 大渕先生,ご指摘されるとおり,ここでは,直接侵害の問題については,いわば脇の問題であって,間接侵害の問題としてとらえられて,非常に精緻な議論を重ねられたわけですけれども,どうも,関係者間の理解においては,間接侵害の議論の整理という点は,あまり頭の中にないように思われるので,私は,今,中山先生が言われたとおり,少し慎重に,議論というよりは,もう少し,動向であるとか,世の中の理解みたいなものが高まって,立法事実というものがもう少し強くならないと,立法化というのはなかなか難しいのではないかと考えます。以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。森田委員,お願いします。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。森田委員,お願いします。

【森田委員】  今までの議論も踏まえまして,それから,ヒアリング意見の概要も拝読しまして,若干のことを述べさせていただきたいと思います。
 立法措置の必要性という場合に,いかなる理由で必要と考えるかについて,必要とする意見の中にも,異なった前提から必要であるという意見があって,それぞれの必要説の間には,実は緊張関係があるのではないかというふうに議論状況を観察できるのではないかと思います。
 先ほど大渕委員が言われたような直接侵害者限定のドグマというのがあって,それを否定するというのが立法の主眼である。つまり,現行の112条には,そんなことは書かれていないのだけれども,研究者および実務家は,従来は,これは直接侵害に限るというふうに,そういうドグマを念頭に解釈をしてきたというわけです。ドグマであれば,別に条文にはそう書いてないわけですから,このような立場によれば,思い込みを改めれば,解釈によっていくらでも変えることができるはずですが,そのような考え方がなお根強く残っているので,立法でこれを変えるというのが,ドグマを改める一つの手段であるという考え方であろうと思います。
 私自身も,この112条を直接侵害者に限定する必要はないのではないかと考えておりまして,その意味では,直接侵害者限定のドグマに対する批判については,共感を覚えるところがあるわけであります。しかし他方で,このドグマと呼ばれる考え方は,実は,もう一つの要請である明確化という観点から見ると,明確化ということを重視する考え方としてはあり得るものだろうと思います。つまり,さしあたりは,差止請求の対象を直接行為者に限定して考えて,その上で,そこから外れるものについては,差止請求の対象となりうるものを個別かつ限定的に認めていくことによって,何が侵害に当たるかということを明確にするということを意図しているとみることもできます。そうしますと,こういう考え方は,直接行為者に限定するというのは,それ自体が目的なのではなくて,全体を明確にするというために,直接侵害と間接侵害とに仕分けして議論をしていくということであって,こういう考え方は,今後も有用だという考え方は,なおあり得るように思います。そのあたりが,直接侵害者限定のドグマを否定することについてコンセンサスがとれているのかどうかという点が,一つ気になるところであります。
 実は,ヒアリング意見の概要の資料において,積極的な意見と分類されているものの中にも,明確化を重視するという考え方に立つものがあり,これは積極的な意見となっていますけれども,実は,先ほど末吉委員が指摘されましたときに,総論賛成,各論反対となっております。つまり,間接侵害についての立法の必要性について,総論は賛成だけれども,ただ,この程度の明確化では明確になっていないということで各論では反対というわけであります。これに対し,消極的な意見というのは,どちらかというと,直接侵害者限定のドグマを外してくれて,差止請求の対象が広がるということだけで他に影響がないのであれば賛成であるとみることができます。このようにみますと,賛成・反対が実はそこで入れかわるという,非常にねじれた構造になっているというところが議論を複雑にしているところでありまして,間接侵害の立法に賛成するといっても,それぞれ立場が違うわけです。この立場が違うのを,いずれかの方向で統一するということが可能であれば,コンセンサスを得ることができると思いますが,この点の意見の対立はなお根強いといいますか,緊張関係が強く残っているのではないかと思われます。
 この明確化という観点でいきますと,間接侵害の3類型というのは例示ではなくて,これに限定するという方向になると思います。さらに,明確化を図るためには,ここで示された要件を絞っていく必要があるということですが,そうなりますと,先ほどのワーキングチームの基本的な方針とは相入れないということになってきますので,この積極的な意見で,要件をさらに明確化していってということになりますと,これはワーキングチームの考え方からは外れてくることになる。そういう非常に複雑な議論状況にあるのではないかという気がいたします。
 それから,先ほどから出ている点で,間接侵害の3本柱については,諸外国でもそうなっているということですが,これは法律の規定を置いてそういうことを実現しているのか,それとも解釈で侵害の中に含めて認めているかということでありまして,おそらく後者ではないかと思われます。規定を置かずに,個別具体的な事案に即して解釈で認めるということであればよいのですが,個別の規定を置いて認めるということになりますと,それが特別な意味を持つ可能性があります。そのような例は,比較法的に見て,多いわけではないとしますと,我が国においてだけ,それを解釈ではなくて,特別な規定を置く形で対応するということが,果たして適切かどうかという問題があるように思います。そうしますと,3類型に当たるものは諸外国でも認められているといっても,ただ,それがある種のリステートメントということであればよいのですが,そのまま法律の規定になる場合には,それについて比較法的な支持が得られるかという点については,さらに検討が必要ではないかと思います。
 それから,先ほど刑事罰についても議論がありましたが,この観点からも検討すべき問題があるように思います。この点は,これまでも私自身若干疑問に思っていたところですが,混乱させるといけないと思い,言及しなかったところです。先ほどの大渕委員のご説明は,それはそれで理解できたのですが,要するに,112条で言う「侵害」は,直接であると,間接であるとを問わずこれに含まれる。これに対し,119条のほうの「侵害」は直接行為者による侵害に限定して解釈する。ただ,文言上は同一である,ということですね。そうなりますと,119条の解釈をするときには,112条の侵害の中で,直接行為者による侵害だけを対象とするという読み込みをして解釈しなくてはいけないということになるわけですが,何が直接で間接かということは,条文上は何も示されない。112条に間接侵害が含まれるかという点は,民事だけであれば,それは解釈に委ねるということでもよさそうですが,刑事罰まで含めて考えたときには,そういう立法技術でよいのかという問題は,やはりあるのではないかと思います。
 この点で,先ほどのご説明では,民法でも同じではないかと言われましたけれども,民法において,709条の問題なのか,719条の共同不法行為の問題なのかというのは,それほど明確なわけではなくて,ご存じのように,例えば,判例は,線路の上の置き石の事件では,線路の上に置き石をするということについての謀議には参加したけれども,途中で離脱した者,つまり,置き石の実行行為はしていない者について不法行為を認めているわけですが,これは719条ではなくて,709条の不法行為として認めているわけです。民事の不法行為の場合には,その区別は,どちらでも,結果が同じであればよいという形であまり厳密に区別してはいないわけですけれども,刑事罰の問題になりますと,解釈論上,直接行為者とは何かという問題が出てきて,これを法律上,何も定義を置かずに解釈に委ねるということが,果たして適切なのかという点は,立法するというときには,やはり問題として検討する必要があるのではないかと思います。
 少し長くなりましたが,幾つかの点について,意見を申し述べさせていただきました。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 森田委員のお話の中にも出てまいりましたけれども,ワーキングチームでの議論,そういったこと,特にねじれという表現でおっしゃった部分なんかがあるんですけれども,ワーキングチームに加わっておいでになったお一人である上野委員,いかがですか。

【上野委員】  私も,2回ほど欠席しておりましたが,議事録は拝見させていただきましたので,先生方のご議論は承知しているつもりでございます。
 ただ,これまでの議論をうかがっておりますと,今回のような規定を設けること自体について賛否両論あるという状況のようであります。
 もちろんそこでは,この問題を立法論で解決すべきなのか,それとも,裁判所で判例によって解決していくべきなのかということが問題になっているのではないかと思うわけですけれども,率直に申し上げて,この7年近くワーキングチームで検討している間に,状況の変化のようなものがあったのではないかと思います。まねきTVやロクラクⅡといった最高裁判決も出ましたので,差止を求める権利者にとっても,解釈論によってかなりの範囲が可能だというふうに考えられるようになったのではないかと思われます。
 ただ,さまざまな裁判例が出ましたけれども,その結論をめぐっても賛否両論あるところでありまして,判決の結論についても評価が分かれていることも,その背景にあるのではないかと思います。もちろん,いま検討しているのは立法論ですから,裁判所が述べた結論を追認するような立法をする必要はないのでありまして,たとえ最高裁判決があるとしましても,結論としてどうあるべきかということを,この場で議論すればいいのだろうと思いますけれども,現在は,そうした状況の変化によって,なかなか意見が一致しにくいところがあるのかも知れないと思っております。
 ただ他方で,私もメンバーだったワーキングチームでは,少なくとも,このまとめの文書に書かれていることに関しましては,見解が一致していたわけであります。
 ですので,細部においてはもちろん考え方の違いがいろいろあるわけですけれども,出発点に立ち返るならば,ある程度のコンセンサスは得られるのではないかということで,少しだけコメントを申し上げたいと思います。
 第一に,ただ今もご議論がありましたけれども,侵害の主体だというふうに認定されない者,これを間接侵害主体であるとか,非侵害主体とか言っておりますけれども,その者に対して差止請求できるかといいますと,現状でははっきりしないと言われているわけです。
 具体例を申しますと,例えば「ときめきメモリアル事件」というのがありましたけれども,あのメモリーカードを販売する行為に対して差止請求できるかと。最高裁では,不法行為に基づく損害賠償請求が認められましたけれども,これを前提にしても,メモリーカードの販売行為に対して差止請求できるかと申しますと,これは明確ではありません。従来の議論に見られるいわゆるカラオケ法理に基づいたとしても,そこでは支配・管理という要素が必要と考えられることから,メモリーカードのような場合,ユーザーが行う改変行為について販売主体が管理しているとは言いがたいですので,メモリーカードを販売する行為に対して差止請求するということは,カラオケ法理に基づいても難しいのではないかと考えられるわけであります。
 もちろん,直接的な侵害主体とは言えない,いわば間接的な侵害主体に対しても,112条の適用や類推適用によって,現状の解釈論でも,差止請求が可能だという見解もあるところかと思いますけれども,少なくとも明確ではありません。もちろんこの点は,いろいろな見解がありまして,著作権法の規定を整合的に読もうとすると,先ほども言及のあった119条との関係もありますので,侵害幇助的な主体に対して112条の適用という形で差止請求を認めるのはなかなか難しいのではないかと個人的には思っております。また,知財高裁も,一昨年の判決におきまして,間接侵害主体に対する112条に基づく差止請求はできないという判断をしております。もちろん,ここは見解が分かれるところでありまして,それはドグマだというご意見もあろうかと思いますけれども,さしあたり著作権法は,そうした幇助的な行為を予定していなかったと考えるのが穏当ではないかと思われます。
 しかしながら,この点についてどのような立場をとろうとも,結論としては,侵害幇助行為に対して差止請求が認められていいだろうということについては,おそらく一致していると思いますので,まず,そうした差止請求が可能であることを明確化する規定を設けるべきだという点ではコンセンサスが得られるのではないかと思います。それが,みなし規定なのか,確認規定なのか,そういう点は考えが異なるかも知れないのですけれども,たとえ確認規定だと解するとしても,明文の規定があるということは現状よりプラスになるでしょうから,そうした規定を設けようというのが第一の点です。
 それから第二に,従来の議論におきましても,カラオケ法理と言われているものを含む直接侵害主体の認定によって差止請求をすることは可能だろうと思いますけれども,しかし,これをめぐってもいろいろ議論があったことは確かであります。例えば,MYUTA事件のようなストレージサービスについても判決では差止請求可能だとされているわけですが,もちろん判決通りでよいという見解もあり得ようかとは思いますけれども,あれはさすがに問題ではないかという見解が多いように思います。ただ,いわゆるカラオケ法理にしたがうならば,もちろんカラオケ法理も考慮要素が増えて総合衡量的になってきているのかもしれませんけれども,シンプルに利益性プラス支配管理性で主体性を認定するということになりますと,確かに,MYUTAは利益性も支配管理性もあるということで,アウトかもしれないということになります。また,YouTubeのような動画投稿サイトも,利益性もありますし,サーバーを管理している以上,支配管理性もあるということになろうかと思います。このように,多くのものが直接侵害主体と認定される可能性があるということになると,そのサービスを提供すること自体に萎縮効果があるのではないかと,そういうことが懸念されてきたわけであります。
 もちろん,MYUTA事件の判決は特定の事案に関する一つの判決に過ぎないのですけれども,地裁判決だといっても,わが国では裁判例の影響というのは非常に大きいようでありますから,ああいう判決があることで,クラウド時代においてそういった新しいサービスを展開することに萎縮効果が働いているのではないかと言われているわけです。
 そこで,そこまでは差止請求が及ばないということを明らかにするために,何らかの規定があったほうがいいのではないかというわけでして,実際のところ,そうしたサービスが今回のまとめ文書における間接侵害類型に当たるということになれば,そこでは従属説ということになりますので,結論として責任を問われずにすむことになるのではないかと考えられます。もちろん,それでも侵害発生を積極的に誘引していれば,これはⅲ類型ということで差止請求の対象になることになりますが,通常のサービスはそうでないということになりましょう。また,動画投稿サイトにつきましても,あるいは,カラオケリースにおける機器の提供につきましても,それがⅱ類型に当たるとしても,侵害発生防止のための合理的措置をとっていれば差止請求を受けないことになりますのでサービス可能になると,そういうふうに考えられたわけであります。
 もちろん,合理的措置というのは何だとか,それは不明確ではないかというご批判はあるかと思います。ただ,例えばリーチサイトについての個別規定を設けましょうという話であれば,その基準は明確でなければならないのは確かだと思うのですけれども,この3類型というのはいわば一般条項を設けようというわけですので,それなりに不明確にならざるを得ないところがあるかと思うのですね。もちろん,あらゆるサービスについて一律に明確な義務を課すことができるのであれば,確かに明確ではありすけれども,それは難しいですし,他方で,個別具体的なサービスごとにそれぞれ義務を課すということも,また難しいでしょうから,こういう一般条項を設ける以上は,その基準がある程度不明確になるのは仕方がないと思いますし,それは,どのような侵害幇助行為に差止請求が認められるのか不明確な現状よりはいいのではないかという考えが,このまとめ文書の背景にあるのではないかと思います。
 このⅰからⅲの3類型というのは,もともとは大渕先生のご見解をベースにしたものではありますけれども,少なくとも,このまとめ文章に書かれている限りでは,ワーキングチーム内で意見が一致しているものでありますので,これはそれなりにコンセンサスを得られる可能性があるものではないかと思います。もちろん,これは理論的な観点からそう言えるというだけであって,当事者の方に本当に受け入れられるかどうかわかりませんし,急ぐ必要はないというのは私もそう思いますけれども,何らかの形で間接侵害に関する立法を行うことについては,なお検討を続ける意義があるのではないかと私は考えております。以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 同じように,ワーキングチームにお入りになっていた奥邨委員にもお尋ねしたいんですけれども,先ほど末吉委員のご意見の中であった,条件つき賛成,条件つき反対ですね。つまり,特に直接侵害の領域との関係が残るのか,引っ込むのか,そういうことについては,おそらく大渕委員に聞いた方がいいんだろうと思うんですが,奥邨委員のお考えも,その点,含めて,この間接侵害規定について法制化を図るべきかどうか,そういう総論的なご意見を賜れればと思います。

【奥邨委員】  ありがとうございます。
 まず,私はワーキングチームに参加しておりましたので,基本的には,この間接侵害者に対する差止めを認める規定を立法化すべきという立場でございます。
 今,上野先生からもありましたように,検討中の間に,いろいろ状況も変わって,まねき,ロクラク等々の判決も出て,今,目に見えているサービスについては,ある程度,予見可能性が高まったのではないか,よって解釈なり,裁判例で対応できるのではというご意見があることについては,理解をするところであります。ですけれども,一方で,次々と,新しいサービスであるとか新しい物であるとが,どんどん出てくる中で,今回,出た判決なり,今までの積み上げなりだけで対応できるのかというと,そこはやはり疑問が出てくるわけです。そして,また同じように,5年,6年といって,全ての新しいサービスや物について,裁判を繰り返していきながら,明らかにしていくという方法がいいのかというと,今の時代の流れの中では,どうかな,と思うわけです。ワーキングチームが出した3類型について,文言が不明確ではないかとか,いろいろなご議論がありますので,もちろん,これが出たら,すぐ,これは違法でこれは大丈夫という線引きができるわけではないのかもしれませんけれども,ただ,事案の積み重ねの中で,自然とルールを抽出していくというよりは,やはり法的に,これが基本ルールであるというふうに,みんなで議論して,明確にしたものを前提に,当てはめていくのとでは,時間的にも違いましょうし,進め方も違ってこようかと思います。ワーキングチームに参加しておりましたので,文言が不明確だというご意見については,率直に,勉強していかなきゃいけないなと思いましたけれども,その点は,横に置きまして,立法の必要性ということについては,新しいサービスや物について,裁判を繰り返して明らかにしていくということよりは,よほどよろしいのではないかと思っております。
 直接と間接の問題について,難しいご質問があったわけですけれども,ワーキングチームでは,先ほど大渕先生からお話があったところとも関係しまして,直接の話ではなく,あくまでも間接の話しについて整理をするとういう理解をしておりました。ただ,ヒアリングでは,皆様が,そういう形の間接を気にしない,むしろ直接がすごく気になるんだということでした。皆様がそこが問題だとおっしゃるのであれば,間接を整理していく中で,直接についても,何らかの検討は,結果的にはせざるを得ないのかもしれません。
 ただ,そうなりますと,少なくとも,ワーキングチームのペーパーには,正面からこう整理しましょうと,そういう形では書いておりませんので,そこについては,これから,いろいろなご議論をいただくことになるのかなと,ワーキングに参加した立場としてはそう申し上げることになるかと思っております。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 同じくワーキングに参加しておいでになったと思いますけれども,茶園委員,どうですか。

【茶園委員】  どうもありがとうございます。
 私も,ワーキングに参加していましたし,基本的には,立法措置の必要性があるのではないかと考えております。
 先ほど,末吉委員がおっしゃいましたけれども,ヒアリングを聞いていて,積極的な意見があまりないということに少々驚いたのですけれども,例えば,大変不明確な状況がある場合には,立法措置の必要性は肯定されやすいのでしょうし,とりわけ,その状況に対して,明確な規定が設けられることが想定できる場合には,より立法措置の必要性は肯定されることになるのではないかと思います。しかしながら,この間接侵害に関する状況が大変不明確なものかどうかについて,いろいろと考え方の違いがあるようです。それ以上に,間接侵害に関して,立法措置の必要性についてなかなかコンセンサスが得られないのは,明確な規定が設けられる見込みが大きくなさそうなことにあるように思います。私自身,極めて明確な規定を設けることは難しいように思っております。
 それは,著作物の利用,とりわけインターネット環境においての利用には,さまざまな態様のものがありますから,そういうものを対象にする間接侵害に関する規定を設けようとすると,ある程度,一般的な規定とならざるを得ないからです。ですから,現在の状況と比較して,規定を設けることによって明確性が格段に高まるということは,あまり期待できないでしょう。
 このように明確性の点だけを考えると,立法措置の必要性は,なかなか肯定されにくいとは思うのですけれども,私が立法措置の必要性があるのではないか,立法措置をとったほうがよいのではないかと考えますのは,特にJEITAさんが述べられていることと似ているのですけれども,現在,裁判所においていろいろな事柄が考慮されて,差し止め対象が決められているわけですけれども,特に権利制限との関係が,いろいろな事柄の考慮の中に,ある意味,埋没してしまっていると思われる点があります。著作権法は,著作権の内容をきちんと定めて,しかも,それに対する権利制限もきちんと定めていて,どういう行為をすれば侵害になるか,反対に,どういう行為であれば侵害にならないかを明らかにしようとしています。にもかかわらず,どういう行為が侵害として差し止め対象になるかが,権利制限との関係があいまいな状態のままに決定されるというのは,著作権法の趣旨に適合するものではありません。
 権利制限との関係について,間接侵害に関する規定を置いても,直ちに全てのことがクリアに,明確化するということにはならないかもしれませんが,そのような規定を置くことによって,少なくとも権利制限との関係を的確に検討する,また,先ほど,直接行為者に関する議論もありましたけれども,間接侵害に関する規定を定めることによって,直接行為者についても的確に検討するようになるのではないかと思います。予測可能性それ自体を高めることはなかなか難しいようには思うのですけれども,どういう行為を差し止め対象にするかということの議論を整理し,明確化する,そういう方向に持っていくという点で,立法措置をとることは望ましいのではないかと考えております。以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。広くご意見をちょうだいしておりますので,前田委員,お願いできますか。

【前田委員】  ここ数年間,民法の観点からワーキングチームに参加させていただきました。きょうの議論でも直接侵害者限定のドグマというものがあるというお話がありまして,実際,著名な裁判官の方々にもそういった説をとっている方がいらっしゃると。この数年,いろいろ検討してきましたが,そのように物理的な直接侵害者に限定する立場の前提として,次のような民法理解があるのではないかと考えるに至りました。
 すなわち,損害賠償については,民法719条2項の規定の存在によって,みずから直接権利侵害行為をしていない教唆・幇助者にも責任が特別に拡大されているので,これらの者を相手方にすることができると。これに対し妨害排除については,みずから直接権利侵害行為をしていない教唆・幇助者を相手方とすることはできないと,そういう民法理解が前提にあるようなのです。
 しかし,先ほど森田委員が指摘されたように,線路の置き石に関する最高裁判例においても,民法709条の権利侵害の解釈についてですけれども,みずから直接権利侵害行為をしていなくても権利侵害の結果と相当因果関係があれば損害賠償の責任主体になり得るという,そういう点で,先ほど述べました,719条2項の規定の存在によって,みずから直接権利侵害行為をしていない人にも特別に責任が拡大されているという,そういった民法理解は正当ではないのではないかと。
 また,物権的妨害排除請求の相手方についても,民法の観点からは直接・間接を区別せずに,侵害の客観的な違法状態が帰責できるかどうか。その帰責については,相当因果関係とか,危殆化責任とか,そういった形で論じられており,その点でも先ほど述べた直接侵害者限定ドグマの前提にみられる民法理解は正当ではないのではないか。
 ですので,民法理論との関係を考える限りでは,著作権の侵害の差止めについて直接侵害者に限定する必要がないということが言えるかと思いますが,先ほど述べましたように,なお直接侵害者限定ドグマが裁判官の方も含めて強いということであれば,少なくとも,間接的な侵害についても差止めの対象になり得ると。その範囲をどうするかについては,なかなか議論が分かれているようですけれども,間接侵害者も対象になり得るという点は,少なくとも議論の出発点として,立法で明確化していただいたほうがいいのではないかと。著作権については素人ですが,民法学者として参加してきた立場としては,そのように思っております。
 妨害排除請求の相手方についての帰責の基準について,先ほど,相当因果関係とか,危険責任,危殆化責任ということを申し上げましたが,なかなか民法学のレベルでその点についての議論があまり深まっておりませんで,その点で,この3類型をつくるに当たって,必ずしも民法的な議論のバックアップが十分できなかったと。それで,どちらかというと比較法的な分析を中心に3類型がつくられたという側面もありまして,なかなか,具体的にどういう要件に詰めていくのかという点についてはいろいろ批判がございますように,難しい点があるかとは思いますが,少なくとも間接侵害者も差止めの対象になり得るんだという点については,どういう規定ぶりになるのかという,またいろいろ問題もあるかもしれませんが,その点は少なくとも立法化したほうがよろしいのではないかと考えております。
 以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 ほかに,最後に――まだ最後ではないんですけれども,ご発言をいただいていない小泉委員,いかがですか。

【小泉委員】  特にないんですけど……。

【土肥主査】  特にないですか。

【小泉委員】  では一言だけ。ご指名でございますので。

【土肥主査】  よろしくお願いします。

【小泉委員】  既に二度ほど長々と発言しておって,きょうは遠慮しようと思っておったんですが,ご指名でございますので。
 当初,この考え方の整理を一読したときの印象はかつて申し上げて,その後,ヒアリングを詳細に伺わせていただいて,改めて,この考え方の整理を見ると,明確化ということが大きくうたわれておりますが,今日の議論でも,それはなかなか難しそうです。ドイツと同じにしたいということで,ほんとうに大丈夫なのかなという気がしております。今後この場で議論を重ねていって,合理的措置とか危険という言葉が,仮に明確になったとしてコンセンサスを得たとして,それを報告書の形で出して,裁判所にこういうふうに解釈してくださいと言うというところまで我々がしなきゃいけないのかなというか,すべきなのかなというあたりが相当あって,やはり司法判断というか,個別の事例に応じて決まってくるものなのではないかと。
 もちろん予測可能性ということからするとあらかじめガイドラインがあったほうがいいというのはよくわかるんですけれども,そうであるならば,先ほど,詳細な外国法のご研究があったということなので,ぜひそれは何らかの形でさらに出していただくとかいうことで,どうなのかなと。要するに,今までと意見は変わっていませんということでございます。

【土肥主査】  ありがとうございます。おそらく,ご発言,ご希望だと思うんですけど。

【大渕主査代理】  多数の方からご質問いただきましたので,大きいところからいきますと,先ほど茶園委員が言われたところにエッセンスの部分が出ているかと思うのですけれども,擬制侵害をつくるのであれば,おそらく普通の,今ある113条と同じように非常に細々と,それこそ,権利制限と支分権とあわせて総合したようなもので決め打ちで,ここが即侵害であるというものを創設するという趣旨で作業していないことは,先ほどご説明したとおりであり,これは要するに明確化の作業です。
 明確化というのは,茶園先生の先ほどのにもよりますけれど,まずは,現在は結論は実務的には,裁判官がいろいろドグマのもとでもご努力されて,いろいろな擬制的認定等の手法を使って,私が見ても結論自体としては,反対しないような結論になっていますけど,少なくとも法制度としては論理過程が見えるような形にしなければならないというところは非常に大きいところであります。上野委員も先ほど強調されたかと思います。そういうものを,私が見る限り,各国とも色々と悩んでいるところを見ると,最大公約数として,従属説で絞った上で相当因果関係に範囲を絞るという前提で,間接侵害者も差止めの対象となるという大きな枠組みは,国際標準としてあるといえると思います。
 今回の最大のポイントはドクマを否定することでありますが,ドグマを抜いた上で論理過程を組んでいくというだけで,議論の可視性とか予測可能性というのは非常に高まってくると思います。また,そうしない限りは,最後は匙加減等という話で終わってしまいます。法というのは裁判官の個人的力量に頼るのではなく,客観的にルールができるだけ明確になって,それを淡々と当てはめると,一定の結論が客観的に導かれるというべきものでありますが,やはり擬制的に認定するという形では,そういうことは図りがたいので,結果として今まで個人的力量でやってきたが,それをそのままにするのがいいのかという点が1点あるかと思います。
 それから,直接侵害と間接侵害の関係につきましては,ここでやっておりますのは間接侵害なのですが,今申し上げたところからおわかりのとおり,今まで本来間接侵害とすべきものを擬制的・拡張的な直接侵害認定としてきたので,立法等でドグマを否定されるようになったら,そういうことをせずに済むようになり,自然とそのようなことはしないようになると思います。
 もう1つ重要なのは,ここでの主体というのが,誰に責任を帰属するかという帰責主体だけの意味ではなくて,基準主体の意味も有するということであります。著作権法は,先ほど茶園委員が言われたとおり,直接行為者を基準主体として,支分権と権利制限という形で明確に権利範囲を設定しています。このような基準主体となるべき直接行為主体を,間接侵害事案についてさきほどのドグマゆえに差止めの対象になり得ないからといって,拡張的に認定して差止めを肯定しようとすると,基準主体としても拡張されてしまい,侵害の成否自体も左右してしまって,本来,法が予定するものと違った方向に行ってしまうということとなってきます。この点からも,間接侵害についてできるだけ明確化を図るべしということであります。
 それから3番目は,相当因果関係というのは,ドイツらしい,非常に哲学的なきれいな議論ですけれども,それだけだと抽象的でわかりにくいから,できるだけ具体化してほしいということがあったので,いろいろ,アメリカ法の寄与侵害や積極的誘引,あるいは専用品については,特許法も含めてあまり異論がないところかと思いますので,そういうものを参考にしてできるだけ内容を具体化したということであります。
 明確化というのは,113条的な100%の明確化というのも変ですけど,それとは異なり,これはもともと枠組規定でありますので,あくまで枠組規定としての明確化を図るものであります。各国でも,先ほど言いましたように,相当因果関係で済まされているぐらいなので,明確化といっても限界があります。他方で,間接侵害事案対処のための直接行為主体の拡張的認定の手法に関しては,カラオケスナックでお客さんがカラオケの歌を歌っているときには,現実に口を開けて歌っているお客さん以外の者を歌唱者だというのは,無理があると思います。ネット上の複製等であれば,直接行為主体の認定というのは微妙なところがあって,物理的にボタンを押している者か,それをセットして,自動化された,オンデマンド的なサービスを提供している者かというあたり微妙ですけど,歌唱に関しては,擬制的認定をしない限り,歌唱者は当該歌唱客としか言いようがないと思います。そして,前にもお話ししたとおり,この歌唱者が誰かの点は,歌唱による権利侵害について問題になるだけではなく,逆に,歌唱に係る著作隣接権や実演家人格権の取得主体としても,当然,問題になってきます。店が主体ということになると,高名な歌手がカラオケに来てお忍びで歌った歌については,カラオケ法理の要件とされる管理支配性と利益性を店は満たすでしょうから,カラオケ店主が,歌唱の主体ということになり,カラオケ店主が,著作隣接権と実演家人格権を取得するということになってしまいますが,おそらくほとんどの人が,それは荒唐無稽な結果と考えると思います。
 それは当時のドグマから言えばやむを得なかったかとは思うのですけれども,そういう形で無理な認定をしてしまったら色々なところに波及効果が及んでくるので,注意を要します。
 それと,もう1つ大きいのは,先ほどどなたか言われたとおり,これは不幸な生い立ちとも言われているようですけれども,当時は,どなたかご指摘になったとおり,附則14条と施行令附則3条という大問題があって,そのために,侵害肯定するためには,おそらく,当時の感覚からすると,やむを得ないという認識だったようです。ただこれは,その後でのカラオケボックスについての東京地裁・東京高裁の判決と大阪地裁の決定では,施行令附則3条の解釈においてで,カラオケについても音楽鑑賞目的というのは十分肯定できるから,当時の法制のもとでも,楽曲の再生のほうでも,平成11年改正前の旧法の下でも侵害肯定できたという判決もあるし,その後のカラオケリースの最高裁判決の調査官解説でもこの裁判例の立場に賛成されています。おそらく,このような認識が,キャッツアイ最判の当時にあったら,あのような無理な認定をする必要もなかったように思われます。当時の一般的認識からすれば,そのような無理な認定をせざるを得なかったという実務の感覚は理解するのですけど,法制度全体として見れば,今後は,そういうことはできるだけせずに,結論が実体的に妥当であるべきことは当然ですが,それに至る論理過程も合理的に理解可能なものであることが,著作権法に対する信頼を高める所以ですので,そういう意味では,結論が変わるかどうかももちろん重要なのですけど,やはり,結論に至る論理過程が合理的に理解できるかどうかということは非常に重要な点であると思っております。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 一通り,総論的な部分について各委員のご意見を伺ったところでございます。最も消極的なといいますか,積極的でないご意見の方の場合であっても,こういう間接行為者の規定を設けることについて反対であるということはなかったわけですね。入れるべきだと積極的におっしゃる方も当然おいでになったわけですし,慎重にやってほしいというご意見ももちろんあったわけです。そのタイミングはどうかという,どの時期でやるかというのは,確かにもう少し時間をかけていいのではないかというご意見も,少なからずございました。しかし,必要性があるということは,我々は共有したいと思います。
 そもそも,当初の議論の中でどの範囲の間接行為について規定を設けるかということに関しては,例えば30条に触れるような,そういうところはもっと考えるべきではないか,つまり,もっと謙抑的な形でというご意見もあったわけでございます。残す時間の中で,各論の点について――総論ですね。森田委員,お願いします。

【森田委員】  すみません。いま間接侵害の規定を設ける必要性があるということについては共有したいというまとめをされましたが,先ほど私が申し上げたのは,そこで言う立法の必要性についての考え方には異なるものがあり,それぞれが緊張関係に立っているのではないかということでして,その点は人それぞれであるけれども,立法が必要であることについては共通しているということでまとめられても,その先の議論は進まないのでないかと思います。
 先ほどから,大渕委員,それからワーキングチームの方のご意見をお伺いしていても,直接侵害者限定のドグマというのを否定するということがまず主眼であって,間接侵害が認められる範囲については,明確性というのはある程度は図るけれども,しかし,完全に明確にということには限界があってやむをえないということであったと思います。ただ,そういう形で,間接侵害について,直接侵害者限定のドグマを否定し,今までは差止請求が認められてこなかったことを規定上もできるようにするという点にニーズがあるかというと,ヒアリングの意見では,そこは間接侵害を広げなくても,直接侵害の規範的な解釈によって十分に対応が可能であって今のところ足りていますよということで,サポートがない状況にあるのではないかと思います。
 それから,侵害について直接侵害者限定のドグマを否定するのが正しい解釈であるという見地から,結論は変わらないけれども,これまで直接侵害として認められていたものを正面から間接侵害として認めることが可能になり,今までの解釈を改めて正しい解釈に導くことができるということになるというのが立法の必要性ということになると,これはより学理的な問題になってくるわけですから,そういう観点から立法をするということについて納得が得られるかというと必ずしもそうではないところがあるように思います。
 こうした理由よりも,むしろ立法のニーズとしてあるのは,間接侵害として差止請求の対象となることを認めてほしいというよりは,差止請求ができないところを明確にしてほしいということではないかと思います。間接侵害を規定することを通じて,直接侵害に当たるかどうかをまず問題にして,それが直接侵害ではなく間接侵害として差止請求の対象となるのであれば,こういう場合には差止請求の対象とならないということを立法で明確にしてほしいというわけです。
 ただ,このような観点からみると,この提案では,そもそも,何が直接か間接かから含めて,こういう形で差止請求の対象について議論をしていく中で,事実上,それぞれの範囲がより明確になってくることを期待するというのにとどまっていて,その点は,法律に直接侵害と間接侵害の区別について明文の規定が置かれるような形で明確化が図られるわけではないということになっています。そうなってきますと,このような観点からの立法が必要かということについても,今の点について,もう少し具体的なところまで立ち入って意見を共有する必要があって,非常に抽象的なレベルで立法が必要である,しかも,直ちには立法する必要ないという意見を含めて,立法の必要性があるというとりまとめにはあまり意味がないように思います。そういうことでいけば,全ての人が何らかの必要はあるかもしれないということにはなると思いますが,先ほどから議論しているのはそういう抽象的な立法の必要性ではなくて,もし立法の必要性があるとすれば具体的にどのような方向を目指すのかであって,その点で,ワーキングチームが主眼としている直接侵害者限定のドグマを否定するということを主眼とした立法というのが,果たしていま必要と考えられているか,この点が中心的な問題であるとみるのは果たしてどうなのかなという点について,私はやや疑問に思っているということであります。

【土肥主査】  ありがとうございます。できないことを明確にするのか,できることを明確にするのかというところだと思うんです。その話というのは,各論の話との関係がございますので,この残す時間,まだ30分ほどございますので,各論について,要件論も含めて,あるいは今森田委員がおっしゃったようなことも含めて,ご意見を広くいただければと思いますが,いかがでしょうか。

【山本(た)委員】  ワーキングチームの中で出しました3類型の話なんですけれども,このワーキングチームでの議論が,最終回は昨年の12月なんですが,その後にWinny事件の最高裁の判決が出まして,それを見ますと,実は私,反省しておりまして,この第2類型として挙げているものをWinnyの最高裁判決はきれいに整理してくれていると。第2類型と想定していたものと同じものが,より明確な形で書かれているように思います。
 かいつまんで言いますと,1つの類型としては,具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合。2つ目の類型としては,例外的と言えない範囲のものが著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら,その公開,提供を行うという2つの類型,挙げております。今までも3類型について,皆さんのご意見で不明確だとかいうのはあったと思うんですが,このWinnyの最高裁判決を見ると,こちらの方がはるかに明確で,いいんじゃないかと思ったりしますので,中山委員の方からもご指摘あったように,もう少し,この3類型についても時間をかけて議論する必要性はあるのかなというところ,実は感じております。ですから,まずこの各論についての反省点です。
 3類型,再検討してやるのかという方向もあるんですが,もう1つは,私,1回目のときに申し上げたんですが,これは差止めの相手方というのは,直接侵害者に限るというドグマを否定するという観点から言いますと,例えば立法論としては112条の3項に,本条の適用は直接侵害に限られないというような規定を入れることによって,裁判所に差止請求を認める相手方の解釈を委ねると。それによって不明確だということは,別にないと思うんです。
 といいますのは,現在だって損害賠償を負う者の範囲,間接侵害者について実際に裁判所で運用されているんですが,それが不明確だといって批判されることはないわけですから,今申し上げたような,裁判所に委ねるということで,別に範囲が不明確だと批判されることもないと思います。ですから,こういう方向も含めまして,この3類型について,もう少しもむ必要があるんじゃないかというふうに私は思っております。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにいかがでございしょうか。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】  今,山本先生のほうから112条改正というご意見がありました。どの条文を改正するのかというこの問題については,その背景に,実は,解釈論として直接侵害限定説をとるのか,非限定説をとるのかという問題,つまり,現状において112条の差止請求がすでに間接侵害主体にも及んでいると解釈するのかどうかという点について,どのように考えるかという問題と関係しているように思います。
 どういうことかと申しますと,先ほどドグマというお話がありましたけれども,解釈論として直接侵害限定説をとるといたしますと,今回のような改正を行うことは創設規定的だということになりますので,113条の改正によって間接侵害行為を侵害とみなすという規定を設けるのが,さしあたりは自然だということになろうかと思われます。他方,間接侵害に対する差止請求は現状の112条によってすでに認められているという非限定説をとるといたしますと,今回の改正は確認的なものだということになりますので,山本先生がおっしゃったように112条3項の改正といったことでもよいのだろうと思います。
 これはどちらも成り立ちうる考えかと思いますが,後者の考えをとりますと,確認的な改正ということになりますので,ここに挙がっている3類型以外の行為であっても,解釈論として差止請求が認められる場合があり得るということになるのではないかと思います。その意味では,差止請求が及ばない範囲を明らかにすることを重視するという観点からすれば,こちらはやや劣るかも知れないという気がいたします。
 他方,113条の改正によって侵害とみなすということで創設規定的に改正を行いますと,そのように定められた3類型というもの以外は,たとえ侵害幇助的な行為であっても差止請求が認められないということに,さしあたりは解釈されると考えられます。したがいまして,差止請求が及ばない範囲を明らかにするという観点からするならば,そちらのほうが適当ではないかというふうに,個人的には考えております。ただ,この点については,ワーキングチーム内でも見解は一致しておりませんでしたので,このまとめ文章はどちらの立場にも読めるように,その表現ぶりを非常に苦労して書いた記憶があります。
 ただ,113条改正ということですと,刑事罰を定めた119条との関係でも整合的になるかと思いますし,また,特許法でも,間接侵害はみなし侵害として規定されているという点でも,112条改正より,現実的に受け入れられやすいのではないか,というふうな感想を個人的には持っておりますが,もしこの点で折り合いがつかないのであれば,折衷説として112条の2を創設するというのもよいかと思います。こういうことはずっと先の問題かもしれませんけれども,一応指摘させていただきます。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにご意見,ございますか。

【大渕主査代理】先ほどあった112条3項をつくって,直接侵害者非限定だけ規定すればいいではないかというのは,実は私個人も,2007年のころ,まずは直接侵害者非限定だけでも一歩前進させたいので,ワーキングチーム内でもそう申し上げたかと思うのですけど,反対は強くて,直接侵害者非限定だけでは不十分で,絞りをかけて欲しいという意見が強いと思います。そのような絞りとして,まず第1の絞りが従属説であり,第2の絞りが,B1,B2,B3という明確化の絞りとなっています。
 先ほどあった,できるほうを明確化するのと,できないほうを明確化するという観点からすれば,両方をにらんでおりまして,できるほうも明確化するし,できないほうも明確化するということであります。そのうちの,できないほうの明確化の点からすると,従属説だから,直接侵害が成立しない場合には間接侵害は一律否定であるという点が明確化されています。
 結果的に差止めの範囲がB1,B2,B3に限られるという点は,6月末のレジュメがややミスリーディングな面があったかもしれませんけど,これは理論として法113条的に最初から3つに決め打ち,創設的に立法政策でここに絞ったからこうなるという意味ではなくて,もともとあるべきものを,それこそドイツ法で言えば相当因果関係でありますが,それを具体化してアメリカ法のものも参考に入れて,明確化を図った結果,この3つに限定されるのであって,これ以外は考えられないということであります。そういう意味では,ロジックの点は別とすれば,この3つに結果的に絞られるという意味では結論は変わりありません。
 それからもう1つ,特許法擬制侵害は,刑法的に言うと,ここで検討しているような教唆・幇助ではなく,一定の行為を新たなる独立の正犯とするということで,一定の場合には独立説になっているのでありますが,著作権法は,これとは全く異なり,従属説であります。このように,まず,従属説でありますので,直接侵害が不成立の場合には,間接侵害も不成立です。次に,B1,B2,B3の解釈の余地はあるけれど,それ以外は入らないという点でも絞り込まれています。また,B2で言えば,ほかの要件を満たしても最終的に合理的措置がとってあれば差止めは肯定されないという形で,できる限りの明確化が図られています。このように,この範囲ではできるという方と,この範囲でできないという方の両面で,合理的な範囲での明確化を図っているということでございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。森田委員,どうぞ。

【森田委員】  よくわからなくなってきたのですけれども,先ほどの上野委員のお話では,112条なのか,113条なのかという点については,113条にみなし侵害の規定を置くのが適当であるということですが,112条はそのままだとすると,113条はみなし侵害であって,あくまでも112条の侵害には当たらないものをみなし侵害という形で差止請求の対象を拡張したというふうに条文として読むことになります。そうすると,112条については,直接侵害者限定のドグマをむしろ明文によって明らかにするということになるわけですが,それもワーキングチームの見解としては許容されるものということなのでしょうか。
 大渕委員の以前のご説明では,間接侵害の3類型というのはこれに限定する趣旨ではなくて,いわば,詰めていくとこういうのが主要なものであるというのを,ある種の例示といいますか,ただ,多くの場合はそれらのいずれかに含まれることになるという3つの類型を明示しただけで,これ以外は間接侵害には当たらないということは含意していないということであったと思いますが,上野委員のご意見は,これ以外は間接侵害には当たらないということですので,そうすると,直接侵害者限定のドグマと言わなくてもよいのではないかと思います。間接侵害はみなし侵害として位置づけることにして,これだけは直接侵害者限定の例外に当たるという説明でもよさそうに思いますが,そうなると,何か先ほどの総論での議論といまの点がやはりずれてくるような気がします。3類型というのは,多くの場合がいずれかに含まれるけれども,これらに限定するものではないという理解なのか,3類型に限られるというのか,どちらなのでしょうか。

【大渕主査代理】何度も繰り返しておりますとおり,理念としてはこれを創設的に決め打ちしたわけではなくて,あるべきものを書き下したところ,ここに限定されるという意味では,これ以外を考えられないだろうという,そういう趣旨です。立法政策的に,この3つを追加したから,この3つに限定されるというのなら当然限定されるのですけど,あるべきものを確認的に見ていったらこの3つに限定されると考えております。結論として,この3つに限定されるという点では同じです。何ゆえそうなるかという論理の部分が違うだけです。
 ワーキングチームでは,論理の部分は両方あったかと思うのですけど,結論としてこの3つという点では,コンセンサスがあるので,こういうコンセンサスがある形で出ているということです。その論理づけは二様あるが,結論はコンセンサスがあるということです。

【土肥主査】  よろしいですか。もし何か補足がございましたら。ございませんか。
 ほかに,例えば各論としては従属説か独立説かというようなこともありますし,要件論もありますし。上野委員,どうぞ。

【上野委員】  今の従属説か独立説かということについて,ちょっとお聞きしたいのですけれども,直感的に考えますと,適法な行為を助長するというようなことをやったとしても,それは適法とされるべきではないかということで,従属説が妥当ではないか,そういうふうにこのワーキングチームで一致したということですよね。ただ,きょうは大須賀委員いらっしゃっていませんが,特許法の解釈におきましては,もちろん従属説を徹底すべきであって,クレームの書き方の問題に過ぎないという見解もありますけれども,一般には,家庭内実施につきましては独立説的に考えるべきだといういわば折衷説が多数ではないかと思うわけであります。今回のまとめ文書が従属説を採用していることについて疑問をお持ちの方は,その点を問題にされているのではないかと思います。
 そうしますと,著作権法は特許法とは異なるのだとか,あるいは特許法における折衷説が問題なのだとか,説明の仕方はいろいろあり得ると思うのですけれども,このように違いがある以上,これについて特許法との関係でどう説明するかが問題となるのではないかと思います。この点について大渕先生にご説明いただければ,よりご理解いただけるのではないかと思うのですが。

【大渕主査代理】これ,実は何度もご説明しているのですが,おそらくご欠席になっていらしたのではないかと思います。ドイツはたしか10条だったと思いますが,日本で言っている特許権間接侵害,私流に言えば特別間接侵害というのは,改正前の従前の旧法では,直接侵害がなければ間接侵害なしということで,従属説であって,物足りない部分があったので,一定の場合,例えば日本でいう非業実施の部分は明文の特別規定をもって独立説化しているのであって,それがポイントでありますが,特別間接侵害というのは,一部の事項は通常間接侵害だけだと好ましくないので,特別に立法政策的に,著作権法で言えば113条に当たるようなみなし侵害に対応するような規定を設けております。更なる効力と書いてあって,我々も最初,何で更なる効力と書いてあるのかと思ったのですが,実は非常に実体に合致していて,9条の本来的な効力以外に,外側に更なる効力として10条を設けておりますが,条文で一定の事項については,特則的な例外として,従属説をやめて,独立説としております。ドイツでは従属説のことを二段階説と呼んで,独立説のことを一段階説と呼んでおりますが,一般則では,直接侵害の成立を前提とした上で,間接侵害を考えるという二段階説的に考えていますが,特許法10条による特則として,間接行為自体を独立のものとして,一段階的に捉えるという特則を設けております。ドイツでは従属説と非従属説の対象事項を,条文上きれいに切り分けておりますが,日本法はこの切り分けを条文上明記せずに解釈に委ねているということになろうかと思います。このようなドイツ法についての認識がやや乏しかったようですが,特許法は,擬制侵害に係る特別間接侵害についての特則を置いているので,それについては,非従属説たる折衷説の可能性がありますが,そのような特別間接侵害の特別立法のない著作権法では,このような可能性もないのであって,一般則どおりに従属説であります。

【土肥主査】  ありがとうございます。少しアカデミック過ぎて難しかったんですけど,中山先生,今の点について何かご意見ございませんか。

【中山委員】  特許法では,独立説,従属説という区分ははやらないので,おそらく特許法の趣旨から考えると中間説が主流だろうと思いますけども,著作権法につきましては,私ははっきり言ってわかりません。議論の問題というよりは,これからどんなものが出てくるのかよくわからないためです。したがって,従属説とか,あるいは独立説と決め打ちすると,何かとんでもないことが起きる危険性もあるのではないかという感じがいたします。デジタル時代においては何が出てくるか全くわからないということを前提として議論しなければいけないのではないかなという感じがしております。

【土肥主査】  ありがとうございました。森田委員も挙手されたと思いますが。

【森田委員】  すみません。ヒアリングで示された意見の中には,従属説・独立説といっても,結局,直接侵害を広く認めるのであれば,あまり違わないのではないかという意見があったと思いますが,その文脈で私もまだよく理解できていない点がありますので,ご質問させていただきます。それは,先ほどから,カラオケ法理の場合には口を開けて歌っている人が直接行為者であるのに対し,ジュークボックスになると機械を操作している人は直接行為者でないとされるわけですが,この区別が明らかであるかというと,この違いを一般の人にどうやって説明することができるのだろうかという疑問が生じます。ジュークボックス法理というのは異論がないとおっしゃるわけですけれども,そこはどうやって区別するかということは,やはりよくわからないところではないかと思います。
 そうだとすると,大渕先生ご自身も,この直接行為者が行っているとされる操作というのは,一定の規範的な評価を入れて認定されるものであること自体は否定されていなくて,ただ,そのような規範的評価の中で正しいものとそうでない擬制的なものがあるという,以前そういう言葉を使われましたけれども,そういうことではないかと思います。そうなると,結局,従属説の例外はそういう形で,ご自身も認容されているように思われます。それは違うというのならば,果たして違うということが理論的に明確に説明されているかというと,少なくとも今まではされていないのではないかと思いますが,その点はもう少し明確な説明をすることが可能なのでしょうか。

【大渕主査代理】この点も,前の回で,ご説明済みです。ご欠席されていたかもしれませんけど。お店に置いてある普通のジュークボックスについては機器操作者は個人だが,店が再生演奏権の行為主体だという結論自体はあまり異論がなかろうと思われます。そして,その理論構成としては,次のような説明になろうかと思います。リクエスター法理の一場合といえますが,客の求めに応じて店のほうでジュークボックスのボタン押しを,それこそリクエストがあればこれに応じて店従業員がジュークボックスのボタンを押すということをやれば,リクエスト者は客だけれども,実際に再生を行っている行為者は店であるという点もあまり異論はないと思います。しかるに,それを省力化するために,客がリクエストして,これに応じて業者がボタン押しをする代わりに,店の方で,このプロセスを自動化する機器を提供して,リクエストを出す代わりに客が自分でボタンを押しているだけという意味で,実体は変わらないからという理解であります。少なくとも,カラオケの歌を歌っているというのは,機械が実行するわけではありませんので,さきほどのような議論は関係ありませんから,歌唱の主体が店となるという可能性はないと思いますが,ジュークボックスの場合には,業者の従業員が手作業でボタン押し等をやれば,これはリクエスター法理と呼んでいるものの一場合でありますけれども,客の言われるままに押しても,おそらく再生演奏の主体は店ということで異論はなくて,これにつき機械化を図っただけだから実体は変わらないということであります。そして,このように,擬制的でない,本来的な直接行為主体ということになったら,もともと,従属説か独立説かというのは,間接的な関与であるから問題になってくるところなので,さきほどのように,自動化型のオンデマンド的なコンテンツ提供の形で,擬制的でない本来的な直接行為者になるために,従属説,独立説というのは無縁の話だということであります。

【土肥主査】  ありがとうございます。ほかに。小泉委員,どうぞ。

【小泉委員】  かなり前に申し上げたことではあるんですが,きょうは改めてこういう機会をいただいていますので,従属説については,先ほど中山先生がおっしゃったのは全くそのとおりで,たしか2回目に発言した記憶があるんですけれども,立法で決めるのはやめておいた方がいいんじゃないかなという意見を持っております。
 それから3類型については,不明確さの程度というのはいろいろ違うんですけれども,専らの第1類型については特許法にもあったりいたしますし,我々,法律の専門家にとってもなれ親しんでいる言葉であります。それに比べて,2番目と3番目はかなり不明確であって,ちょっと大丈夫かなという気がしております。ですから,不明確さの程度が違うということを一言述べさせていただきます。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにございますか。中山先生,どうぞ。

【中山委員】  言葉の問題なのでどうでもよいことですが,ジュークボックスという言葉は,私の年代の人はよくわかるんですけれども,おそらく若い人は何のことだかわからないと思いますので,もう少し全国民的にわかるような用語法のほうがよろしいのではないかと思います。

【土肥主査】  どうぞ。

【大渕主査代理】  いや,それに対してではないのですけど,先ほどのご質問に対して。

【土肥主査】  誰?

【大渕主査代理】  いや,どうぞ。小泉さん。今のに対してご意見。

【小泉委員】  いいえ。

【大渕主査代理】  では,従属説に関して1点だけ。

【土肥主査】  どうぞ。

【大渕主査代理】従属説についてですが,先ほど申し上げたのは,間接侵害として肯定する限りは従属説は必然だということであります。その際には,議論を混乱させずに区別することが重要であります。著作権間接侵害について,従属説が仮に好ましくないとすれば,ドイツの特許法がやったように,そこの部分は,独立の新たな正犯的なものとして切り出して擬制侵害として考えるべしということであります。ここでの,通常間接侵害の話としては,直接侵害に間接的に関与するということからして,法律論としては,適法行為をいくら助長しても違法に転ずる理由はないという一般論自体は否定できないと思います。間接侵害としてある限りは従属説が必然的と思われます。他方で,先ほど言われたようなニーズがあれば,それはまた特別の立法で別途考えるべき問題であります。ドイツの著作権法では,特許法と異なり,特別間接侵害化はやっておりませんし,著作権にそこまでニーズがあるのかあるいはそれが妥当かどうかは別として,あくまで擬制侵害に係る特別間接侵害として考えるべき問題であって,ここでの通常間接侵害の問題とは別次元の問題だと考えております。

【土肥主査】  ありがとうございました。本日,総論,各論にわたって貴重なご意見をちょうだいしております。
 小泉さん。

【小泉委員】  もう終わりですよね。

【土肥主査】  いや,そろそろと思ったんですが,最後にどうぞ。

【小泉委員】  一言だけ。今の大渕先生のお話なんですけども,そうしますと,考え方の整理の3ページの(2)では「基本的」に従属説とされておりますが,基本的という言葉に力点があって,立法政策によって,例えば大須賀委員がご懸念されているような私的複製を,独立説的に別途手当するというのも排除されていないということでよろしいんでしょうか。大渕先生の今の話。立法政策として別途やるのがあり得るというふうに読むわけですね。

【大渕主査代理】  従属説が基本というつもりで書いたということです。

【小泉委員】  わかりました。

【大渕主査代理】  ですから,それは全く別の話で,ここでやるべき話ではなくて,やるとしても,将来必要があれば,特別立法による擬制侵害化として,次の段階において考えるべき,ということです。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 本日,貴重なご意見をちょうだいしたこと,ほんとうに厚くお礼申し上げたいと存じます。いずれにしても,こういう重要な話でございますから,やはり天のときといいますか,人の理,地の理,人の和,人の意見,合意というか,あらゆる条件が整ってこういう話が進んでいくんだろうというふうに思います。しかし,重要性であるということと,それからこういう規定の必要性というのは積極的には否定されていないというふうに,私は皆さんのご意見を伺っておりながらそう思いました。
 ですから,とりあえず次回,リーチサイトについて検討をやりまして,その後,その時点において最も重要性があるテーマというのがこれであれば,これをやらせていただきますし,また別の,例えば先ほど冒頭に出ましたけれども,難しいと思いますが,電子書籍の隣接権とか,ああいうような出版の問題とか,そういう問題を見ながら議論をさせていただいて,この間接侵害についても,どの段階かでそれはやるというふうに,私としては事務局の方にもお願いをしたいというふうに思っております。
 時間が参りましたので,本日の委員会の議論というのは以上としたいと思います。事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【壹貫田著作権課課長補佐】  本日は大変活発なご議論をいただきましてありがとうございました。いわゆる各論の方は,そんなに時間が多くなかったこともございますので,次回も引き続き,リーチサイトについても,次回,我々の方で資料を用意したいと思っておりますし,あわせて,リーチサイト以外のことについてもご議論を賜っても,全然問題ないと思っておりますので,引き続き,また活発なご意見を賜れればと思ってございます。
 なお,次回の法制問題小委員会の日程等については,現在まだ決まっておりませんので,決まり次第,またご連絡を差し上げたいと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございます。それではこれで,本日の第5回法制問題小委員会は終わらせていただきます。まことにありがとうございました。

―― 了 ――

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