文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第4回)

日時:令和5年11月20日(月)

13:00~15:00

場所:文部科学省東館3F1特別会議室

(オンライン併用)

議事

1開会

2議事

  • (1)AIと著作権について
  • (2)その他

3閉会

配布資料

資料1-1
AIと著作権に関する考え方について(骨子案)(282KB)
資料1-2
法30条の4と法47条の5の適用例について(412KB)
参考資料1
第23期文化審議会著作権分科会法制度小委員会委員名簿(117KB)
参考資料2
生成AIに関するクリエイターや著作権者等の主な御意見(202KB)
参考資料3
生成AIに関する各国の対応について(第3回法制度小委員会配付資料)(336KB)
参考資料4
本検討会において検討すべき課題について(追補)(第3回AI時代の知的財産権検討会配付資料)(5.2MB)
参考資料5
広島AIプロセス等における著作権関係の記載について(511KB)
参考資料6-1
広島AIプロセスに関するG7首脳声明(264KB)
参考資料6-2
高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針(仮訳・原文)(994KB)
参考資料6-3
高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範(仮訳・原文)(728KB)
参考資料7
令和5年度補正予算関係資料(クリエイター等の活動基盤強化(相談窓口対応等による支援))(272KB)
参考資料8
文化審議会著作権分科会法制度小委員会 今後の進め方(予定)(119KB)

議事内容

【茶園主査】それでは、時間になりましたので、ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第4回)を開催いたします。

本日は御多忙の中、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。

本日は、委員の皆様には会議室とオンラインにてそれぞれ御出席いただいております。

オンラインにて御参加いただいている皆様におかれましては、ビデオをオンにしていただき、御発言されるとき以外はミュートに設定をお願いいたします。

議事に入る前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばないと思われますので、既に傍聴者の方にはインターネットを通じた生配信によって傍聴していただいているところですけれども、この点、特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。

それでは、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

それでは、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。配付資料につきましては、議事次第にあるとおりでございます。よろしくお願いいたします。

【茶園主査】ありがとうございました。

報道関係の方には御退出いただきますようにお願いいたします。

(報道関係者退室)

【茶園主査】それでは、議事に入ります。本日の議事は、議事次第のとおりとなります。

早速、1つ目の議事であります「AIと著作権について」に入りたいと思います。この議事におきましては、資料1-1、資料1-2に基づきまして、AIと著作権に関する考え方について御議論をお願いしたいと考えておりますけれども、内容が多岐にわたりますため、進行に当たっては、前・後半に分けて進めさせていただきたいと思います。

前半では、AIと著作権の関係について議論をする上で前提となる事項と様々な関係者からいただきました懸念の声につきまして事務局にて整理していただいておりますので、これらを御確認いただき、追加する内容がないかといった観点から御議論いただきたいと思います。

後半では、AIと著作権に関する懸念に対する具体的な論点を事務局にて整理・分類いただいておりますので、各分類の論点ごとに時間を区切って御議論いただきたいと考えております。

また、本議事につきましては、関係者が大変関心を寄せているものでございまして、ある程度、議論の目標や進め方を示した上で御議論いただくことが重要と考えております。そのため、私と事務局で調整いたしました今後の議論の進め方の予定につきましても、前半部分で併せて御説明いただこうと考えております。

それでは、まず前半部分として、資料1-1の4ポツまで及び資料1-2、参考資料8に基づきまして事務局から説明をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。参考資料8を映していただけますでしょうか。まず資料1-1の説明の前に今後のスケジュールについて説明いたします。本日の次の会議は12月20日に行う予定です。本日の御議論をまとめたものをその会議ではお示ししたいと考えております。その後、年度内はさらに2回ほど御議論いただきまして、一定のまとめを得た上で、著作権分科会において報告をできればと考えております。

この間、次回の会議後からその次の会議までの間などに事務局にて著作権関係団体等の関係者ともコミュニケーションをとる予定でございます。その内容については、適宜、必要なものをこちらの会議の場で報告させていただきたいと考えております。

また、年明けになりますが、本件は世間の関心も非常に高いものでございまして、年明けの会議の合間などにまとめの案についてパブリックコメントの実施も予定しております。

先生方の御議論により進め方は変わるものと考えておりますが、以上のように進めていくことを予定しております。こちらはこの会議の議論の進め方の予定となります。

では、次に、資料1-1のほうの説明に移らせていただければと思います。資料1-1、「AIと著作権に関する考え方について」の骨子案について説明いたします。前半部分は御議論いただいたものを何かまとめるといった箇所ではございませんので、記載の要点だけ説明することとしたいと思います。

1ポツ、「はじめに」ですが、本文書の位置づけとして、目的や本小委員会としての一定の考え方を示すといった取扱いなどを記すこととしております。

次に、2ポツ、「検討の前提として」ですが、AIと著作権の問題を考えるに当たっては、既存の著作権法の考え方との整合性、特に人がAIを使わずに行う創作活動についての考え方と矛盾しないようにする必要があるのではないかと考えられますことから、著作権法について、法で保護される著作物の範囲や、保護される利益、法に規定されている権利制限規定が置かれていることに関する考え方を確認してはどうか、また、加えて、特に議論で取り上げられることの多い30条の4を中心に、制定に至る背景や経緯、対象となる利用行為、規定に出てくる非享受目的とは何か、権利制限規定は技術的な対応による学習回避を否定するものではないことなど、既に整理されている点を確認してはどうかということで記載しております。

また、この点について事務局で関連規定を整理しましたので、資料1-1の説明の途中ではございますが、資料1-2に基づいて御説明させていただければと思います。

【三輪著作権課調査官】それでは資料1-2を御覧ください。こちらは生成AIの開発・学習段階及び生成・利用段階において適用が考えられる著作権法の権利制限規定として、これまで主に取り上げてまいりました法第30条の4のほか、前回までの本小委員会における、法第47条の5が適用される場合も考えられるとの御意見も踏まえまして、これまでに既にこれらの規定の適用が考えられる例としてお示ししているものと、生成AIに関する適用例として考えられるものとを事務局においてまとめたものでございます。

まず、1ページ目では、令和元年に文化庁からお示しした「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」、こちらに既に記載しております適用例をまとめております。

第30条の4につきましては、AI開発のための学習用データとしての複製、この例を挙げております。

また、47条の5につきましては、同条2項の例としまして、検索エンジンの場合の検索用データベース作成のための複製を、また同条1項1号の例として、検索エンジンによるURL等の表示に付随してウェブページの内容の一部を表示するスニペットや画像のサムネイル表示を行うといった例をお示ししております。

続く2ページ目が、生成AIについて適用が考えられる例をまとめたものでございます。まず、生成AIの場合も、AI開発のための学習用データとしての複製であって、享受目的が併存していないもの、こちらについては30条の4の適用が考えられます。

これに対して、生成AI開発のための学習用データとしての複製であっても、享受目的が併存したものについては、法47条の5第2項に規定する、準備行為についての権利制限の適用が考えられるものとして整理をしております。

この場合、開発された生成AIにより既存の著作物の一部を含んだコンテンツを生成すること、こちらは、生成AIによる情報解析及びその結果の提供に付随したものと言える場合、同条1項2号に規定する電子計算機による情報解析及びその結果の提供に伴う利用として、権利制限の対象となり得るものとして整理をしております。

ただし、こうした生成に伴う既存著作物の利用は同項に定める軽微利用の範囲内である必要がありまして、軽微利用の範囲を超える場合は著作権侵害となる。そのために許諾が必要となるというものでございます。

また、昨今行われている生成AIの活用の形態としまして、生成AIを用いて既存のデータを検索し、検索されたデータを要約するなどして回答を生成する、いわゆる検索拡張生成、RAGと言われるもの、この仕組みがございますが、こうしたRAGにおいては、検索対象としたいデータをあらかじめベクトル化し、生成AIによる検索を可能としたデータベースを作成することとなります。こうしたデータベースの構築のための複製についても、法47条の5第2項に規定する、準備行為についての権利制限の適用が考えられるものとして整理をしております。

また、RAGにより既存の著作物の一部を含んだ回答を生成することは、生成AIを用いた情報の所在検索及びその結果の提供に付随したものと言える場合、同条1項1号に規定する電子計算機を用いた情報の所在検索及び結果提供に伴う利用として権利制限の対象となり得るものとして整理をしております。

なお、この場合も、こうした回答の生成に伴う既存の著作物の利用は軽微利用の範囲内である必要があり、軽微利用の範囲を超える場合は著作権侵害となる。そのため、許諾が必要というものでございます。

事務局からの資料1-2の説明としては以上でございます。

【持永著作権課長補佐】では、資料1-1の説明のほうに戻らせていただければと思います。

今の説明も踏まえまして、こういった整理を2ポツで記載してはどうかと考えております。

次に、3ポツに移らせていただきます。「生成AIの技術的な背景について」というパートですが、こちらは、生成AIとはどういったものなのか、基本的なことを踏まえた上で考える必要があると考えておりますことから、生成AIの技術的な概略について紹介することをこちらのパートでは考えております。

特に記したい点としまして、1つ目の白丸の米印になりますが、AI生成物がつくられるまでの仕組みは、通常、学習元データの切り貼りではないということを確認として触れたいと考えております。

また、ほかに、先ほど資料1-2でも簡単に紹介しましたが、生成AIに関する新たな技術についての概略やAI開発・AIサービス提供事業者が既に行っている技術的な侵害防止手段もこちらで紹介できればと考えております。

次に、4ポツ、「関係者からの様々な懸念の声について」ですが、関係者の懸念の声とそれぞれに関する論点を整理するパートとしております。こちらではまず、昨今生成AIについて懸念の声が上がっている背景を確認し、関係者からの様々な懸念の声について、関係者を、クリエイターや実演家等の権利者、AI開発者やAIサービス提供者等の事業者、AI利用者というグループに分け、そのグループごとに紹介することとしたいと考えております。

それぞれの懸念については、著作権法に限ったものに限らず、考え得る論点も併せて示すこととしております。

なお、おのおのの論点について、各項目の末尾にこの後後半で御議論いただく具体的な論点の項目を記載しておりまして、5ポツの記載との対応関係が分かるようにしております。

それでは、それぞれの懸念の声と論点について説明させていただきます。

まず、クリエイターや実演家等の権利者の懸念として、1つ目ですが、著作物等がAI開発・学習に無断で利用されているというものがあり、それについての論点としては、黒ポツの1つ目になりますが、法30条の4の適用可否をどのように判断されるのか。

次のポツですが、AI開発・学習のための複製等を防止する技術的措置は法的にどのように位置づけられるのか。

次のポツですが、法30条の4以外に、AI開発・学習のための複製等に適用され得る権利制限規定はあるか、ということが考えられるのではないか。

また、2つ目の懸念としましては、自らが創作した著作物等が、生成AIにより学習され、侵害物が大量に生成され得ることというものがあり、それについての論点としては、1つ目の黒ポツですが、どのような場合に生成物の生成・利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性をどのように考えるのか。

次のポツですが、生成AIにより侵害物がどの程度、またどのような場合に生成されるのかという点は、法的な議論にどのように影響するのか。

次のポツですが、生成AIが学習した著作物に類似・依拠した生成物が生成される場合、法30条の4の適用可否にはどのように影響するのか、ということが考えられるのではないか。

3つ目、4つ目の懸念については、こちらは重複する論点になると考えますので、まとめて記載しておりますが、生成AIにより既存のクリエイター等の作風や声といった著作権法上の権利の対象とならない部分が類似している生成物が大量に生み出され、クリエイター等の仕事が生成AIに奪われること、また、AI生成物が著作物として扱われ、大量に出回ることで、新規の創作の幅が狭くなり、創作活動の萎縮につながることというものがあり、これらについての論点としては、1つ目の黒ポツですが、作風等が類似している生成物の生成・利用に既存の著作物の著作権が働くのか。

次に、侵害物ではないAI生成物が市場に出回ることによるクリエイター等の創作活動への経済的不利益はどのようなものが想定されるのか。このような不利益が生じている場合、著作権法で保護する利益を不当に害していると言えるのか、ということが考えられるのではないか。

5つ目の懸念としましては、海賊版等、違法にアップロードされているものも学習されてしまうことというものがあり、それについての論点としては、1つ目の黒ポツですが、海賊版サイト上の違法にアップロードされている著作物を学習することは、当該著作物に係る著作権侵害を助長する状況を生じさせるものと言えるのか。

次に、違法にアップロードされている著作物の学習を回避することは技術的に可能なのか、また、これを踏まえて、海賊版など違法にアップロードされている著作物を学習することは著作権者の利益を不当に害すると言えるのか、ということが考えられるのではないかとして記載しております。

次に、AI開発者・AIサービス提供者等の事業者の懸念を紹介させていただきます。

1つ目は、AI開発や生成AIを活用したサービス提供において、事業者・利用者ともに意図しないまま著作権侵害を生じさせ、事業者が著作権侵害の責任を負ってしまうのではないかというものがあり、それについての論点としては、1つ目、こちらは再掲ですが、どのような場合に生成物の生成・利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性をどのように考えるのか。

次のポツですが、依拠性の判断に当たり、当該著作物の学習の有無は影響するのか。

次は、利用者によるAI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合、AI事業者にも責任が生じる場合があるのか、あるとすればどのような場合か。

次に、AI事業者が著作権侵害の責任を負わないためには、どのような対策が考えられるのか。

次が、AI事業者が著作権侵害の責任を負うことになった場合、受け得る措置はどのようなものなのか。生成AIの利用の差止めや侵害の防止に向けた措置などを求められる可能性はあるのか、ということが考えられるのではないか。

2つ目の懸念としましては、利用者が悪意を持って生成AIを利用した場合に、AI開発者やサービス提供者として著作権侵害の責任を負うことになるのではないかというものがあり、それについての論点としましては、1つ目のポツですが、こちらも再掲ですが、どのような場合に生成物の生成・利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性をどのように考えるのか。

次に、こちらも再掲ですが、AI事業者が著作権侵害の責任を負わないためには、どのような対策が考えられるのか、ということが考えられるのではないかとして、AI開発者・AIサービス提供者の事業者の懸念として記載しております。

次に、AI利用者の懸念としましては、1つ目は、AI生成物の生成・利用により意図せず著作権を侵害してしまうのではないかというものがあり、それについての論点としては、こちらも再掲ですが、どのような場合に生成物の生成・利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性をどのように考えるのか、ということが考えられるのではないか。

2つ目の懸念は、生成AIを利用していることにより、法的に著作権侵害とならない場合についてまで著作権侵害であるとの非難を受けてしまう炎上リスクというものがあり、それについての論点としましては、こちらも再掲ですが、どのような場合に生成物の生成・利用が著作権侵害となるのか、類似性、依拠性をどのように考えるのか、ということが考えられるのではないか。

3つ目、4つ目の懸念については、こちら、重複する論点になると考えますので、まとめて記載しておりますが、努力せずに作品をつくって世に出しているのではないかという同業からの冷評、また、AI生成物が著作物とはならず、法的な保護の対象とならないのではないかといった懸念というものがあり、それについての論点としましては、1つ目、AI生成物が著作物となる要件、例えば創作意図・創作的寄与をどのように考えるのか。

次に、AI生成物について、著作権法以外による法的な保護は考えられるのか、ということがここで考えられるのではないかということで記載しております。

大きくはこういった懸念に集約され、また、それに対して考えられる論点はこういったものであるのではないかということでまとめさせていただいております。

こちらが資料の前半部分の説明となります。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ただいまの説明を踏まえまして、前半部分について御意見等がございましたらお願いいたします。なお、各論点の整理につきましては、後半部分で御議論いただければと考えております。

何か御意見等ございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】御説明ありがとうございました。質問なんですけれども、資料1-2の2ページ目のところの※書きにある検索拡張生成に関して、先ほどの御説明の中で既存の著作物の一部が出るという想定でお話をされていたようにも聞こえましたが、検索拡張生成という技術自体は必ずしも著作物の一部をそのままアウトプットするものには限られてないと理解しています。いかがでしょうか。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。今、澤田委員御指摘のとおりでございまして、今御紹介いたしましたのは、検索拡張生成等で著作物を利用する場合にはこのような権利制限規定の適用が考えられる、というものでございまして、必ずしも出力の段階でRAGであれば全て著作物を使うということを前提としたものではございません。

【澤田委員】ありがとうございました。御趣旨、よく分かりました。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

では、どうもありがとうございました。

では、続きまして、後半として、資料1-1の各論点の整理につきましての議論に移りたいと思います。各論点は非常に多岐にわたりますので、特に御議論いただきたい点を枠囲みにしております。資料は事前にお送りしておりますので、この枠囲みの部分についてのみ、まずは事務局より説明をしていただきたいと思います。その上で、論点の区分ごとに御議論いただこうと思っておりますけれども、複数の論点にまたがるような御意見につきましては、適時、関連する箇所で御発言いただいて結構ですので、よろしくお願いいたします。

それでは、まず事務局から説明をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。資料1-1の5ポツですが、御議論いただきたい論点を特に示させていただいております。お時間の関係もございますことから、今、主査から御紹介がございましたように、このうち特に御議論いただきたい論点として枠で囲っている部分のみを御説明させていただければと思います。

(1)「学習・開発段階」ですが、まず非享受目的に該当する場合についての論点として、イ、AI学習のためのものを含め、情報解析の用に供する場合は非享受目的であると考えてよいのではないか。また、ある利用行為に非享受目的と併存して享受目的があると言えるのはどのような場合か。例えば以下のような場合についてはどのように考えるのか。

①ファインチューニングのうち、意図的に学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため著作物の複製などを行う場合。

②学習データをそのまま出力させる意図までを有してはいないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合。

③学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやウェブ上に掲載されたデータの全部または一部を生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成するなどの著作物の複製などを行う場合というものが考えられます。

次に、ウですが、検索拡張生成等の、生成AIによって検索結果の要約等を行い回答を生成するものについては、法30条の4の適用の余地はあるか。あるいは、同条以外の法47条の5などの規定が適用され得ると考えるべきかというものがあるかと考えております。

次に、著作権者の利益を不当に害することとなる場合についての論点としましては、エ、法30条の4ただし書「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についてどのような場合が該当すると考えられるのか。以下の点についてはどのように考えられるのかということで、丸数字で示しておりますが、①本ただし書は、非享受目的に該当することを前提として、その適用可否が検討されるものであることを踏まえますと、既に示しております情報解析用のデータベースの著作物の例以外にただし書に該当するものとして現状考えられるものはあるか。また、例えば、必ずしも侵害物に当たらないものが大量に出回ることで、自らの著作物の市場が圧迫されることによる著作権者への不利益が生じることは著作権者の利益を不当に害する場合に該当し得るのか。

②本ただし書に該当する例としては、情報解析用のデータベースの著作物が販売されている場合に、これを情報解析用途で複製などする場合を示しているが、これについて、より具体的にはどのようなものをどのような態様で利用する場合が該当するか。例えば、オンラインで提供されているデータなどについてはどのような場合が該当をし得るか。

③学習のための複製を防止する技術的な措置が講じられているにもかかわらず、これを回避して著作物をAI学習のために複製することは本ただし書に該当するのか。

④海賊版のような侵害物をAI学習のために複製することは本ただし書に該当するのか、というものがあるかと考えております。

次に、侵害に対する措置についての論点としては、オ、享受目的が併存する、またはただし書に該当する等の理由で法30条の4が適用されず、ほかの権利制限規定も適用されないことにより、AI学習のための複製が著作権侵害となった場合、AI学習のための複製を行った事業者が受け得る措置はどのようなものが考えられるのか。故意または過失の有無によって受け得る措置はどのように異なるのか。

カ、学習のための複製が著作権侵害となる場合、権利者による差止請求はどの範囲で認められるのか。以下の点についてはどのように考えるのか。

①将来のAI学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去の請求は、法112条第2項に基づき認められ得ると考えてよいのか。

②作成された学習済みモデルは、通常、学習に用いられた著作物の複製物に当たらず、または必要性が認められず、廃棄請求は原則として認められないと考えてよいか。他方で、当該学習済みモデルの性質によっては、侵害の行為によって作成されたものなどに該当し、例外的に学習済みモデルの廃棄請求が認められる場合もあり得るかというものを挙げさせていただいております。

次に、(2)の「生成・利用段階」における特に御議論いただきたい論点ですが、枠囲みの中ですが、依拠性の考え方についての論点としましては、ア、AI生成物が既存の著作物に類似していたときに、生成AIの利用の態様によって依拠性はどのように判断されるのか。例えば、以下のような場合はどのように考えられるのか。

①ですが、例えば、Image to Imageで既存の著作物と創作的表現が共通したものを生成させる場合などのように、利用者が既存の著作物を認識しており、生成AIを利用して、これと創作的表現が共通したものを生成させた場合。

②生成AIが既存の著作物に類似したものを生成したが、AI利用者が既存の著作物を知らなかった場合、また、その上で当該AIが当該既存の著作物を学習に用いていたか否かはどのように影響するのか。当該AIが既存の著作物をそのまま生成するような状態になっていたか否かはどのように影響するのかといった場合は、どのように考えるのか。

イ、依拠性の有無は従来の裁判例上、どのような事実に基づき、どのような過程で判断されているか、権利者はどの程度の立証負担を負っているのかというものがあります。

次に、侵害に対する措置についての論点としてまとめているものとしては、まず、ウ、AI利用者が既存の著作物を知らなかったが、著作権侵害が認められたという場合、侵害に関する故意または過失の有無はどのように判断されるのか。また、故意または過失の有無によって受け得る措置はどのように異なるのか。

エ、生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、権利者による差止請求等はどの範囲で認められ得るか。生成・利用行為に対する直接の差止請求のほか、例えば、AIサービス提供事業者に対する侵害物の新たな生成を防止する措置の請求は認められ得るかというものがあります

次に、侵害行為の責任主体についての論点としましては、オ、事業者はどのような場合に侵害の主体となり得るか。生成AIによる生成・利用段階において、以下のような要素は著作権侵害の責任主体の考え方に影響するのか。

①侵害物がどの程度の確率頻度で生成され得るか。

②プロンプトで既存の著作物や特定の固有名詞を入力する場合など、どのような場合に侵害物が生成されるのか。

③事業者が侵害物の生成を抑止するための技術的な手段を施しているか。特に侵害物が生成される可能性を事業者が認識している場合においてはどう考えるのかというものを挙げさせていただいております。

次に、(3)の「生成物の著作物性について」、特に御議論いただきたい論点ですが、ア、AI生成物の著作物性について整理することの意義・実益はどのようなものがあるか。AI生成物を利用する際、著作物性の有無はどの程度問題となるのか。

イ、生成の際、生成AIに対してどの程度具体的な指示を与えれば生成物に著作物性が認められるのか。以下のような要素は著作物性の有無に関して生成物のどの範囲にどの程度影響するのか。ほかに影響が考えられる要素はあるのかということで4つ挙げさせていただいておりますが、①指示・入力の分量・内容、②生成の試行回数、③複製の生成物からの選択、④生成後の加筆・修正というものを挙げさせていただいております。

「その他の論点について」は資料に記載のとおりでございまして、ここは枠囲みございませんので、説明は省かせていただきます。

また、資料の最後にですが、「最後に」ということでこういうことを記載してはどうかということで2つ記載させていただいておりますが、今後も引き続き、侵害事例の把握・収集に努めること、また、海外の状況を注視しつつ、引き続き、必要に応じて検討を進めることということを挙げさせていただいております。

以上で資料の説明となります。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは、議論に移りたいと思います。先ほど申しましたように、各論点は多岐にわたっておりますので、論点の区分ごとに、すなわち、(1)、(2)、(3)、(4)に分けて議論をお願いしたいと思います。

では、まずは(1)学習・開発段階について、この点について御意見等がございましたらお願いいたします。

(1)につきまして、何か御意見、あるいは御質問でも結構ですけれども、何かございますでしょうか。

【今村主査代理】今村ですけれども、よろしいでしょうか。

【茶園主査】今村委員、お願いいたします。

【今村主査代理】まず、(1)のイのところの基本的な問題について、論点の位置づけについて確認したいんですけれども、情報解析の用に供する場合は非享受目的であると考えてよいのではないかと、それはそのとおりだと思うんですけれども、これは非享受目的のみであるということでは必ずしもないから、論点としては、情報解析の場合でも、非享受目的と併存して享受目的はあり得るんだという、そういう前提で①から③までのケースが挙がっているという理解でよろしいでしょうか。

【三輪著作権課調査官】よろしいでしょうか。事務局でございます。今の点につきましては、今村委員御指摘のとおりでございまして、情報解析の用に供する場合というのは、法30条の4第2号に挙げられておりますように、それ自体は非享受目的と考えられますが、その上で享受目的が併存している場合は、法30条の4の適用がないという考え方から、今、①から③のような例を挙げさせていただいているというものでございます。

以上でございます。

【今村主査代理】分かりました。ありがとうございます。解釈論によっては、情報解析については享受目的の併存はないんだというふうに解釈をしてしまう見方もあるとは思うんですけども、そこは併存もあり得るんだという、あるかもしれないということで論点が出ているということで理解いたしました。

【三輪著作権課調査官】ありがとうございます。1点補足させていただきますと、事務局の側でも、情報解析自体については非享受というふうには考えておりまして、その上で権利制限規定の対象となる利用行為、例えば複製等につきまして、それ以外の目的が併存していれば30条の4の適用がないと、そういったような考え方に立った記載としておるものでございます。

以上でございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

島並委員、お願いいたします。

【島並委員】島並です。御説明ありがとうございました。御説明をいただいた四角囲みからは外れるのですけれども、5ページの(1)のアの部分が私は大変重要な事項であると考えております。すなわち、平成30年改正の趣旨をどう捉えるかという点でありまして、一方では、イノベーション創出等の促進に資するという必要性があり、他方で著作物の市場に大きな影響を与えないという許容性がある、この2点から30条の4が立法されたという理解は、現在においても維持すべきものと考えるべきだと私は考えております。

そして、この後の個々の論点いずれにつきましても、このような立法趣旨に照らして考える必要があると思います。ですので、今日の議論の対象として特に指定を頂いている範囲からは外れておりますけれども、この立法趣旨2点が大変大事だと考えているということをまずは述べさせていただきます。

その上で、例えばですけれども、イの①「ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合」とありますが、例えばこうした意図的な行為が果たしてイノベーション創出の促進に資する場合というのはあるのか。著作物の市場にまさに影響を与えるのではないかと感じざるを得ないところであります。私は技術について必ずしも明るくありませんので、もし①の例にあるような著作物の使われ方について、いやいや、こういう形でイノベーションの促進に資するんだとか、あるいは市場には影響がないんだということがあれば、むしろ教えていただきたいと考えております。

差し当たり私からは以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。事務局から何かございますでしょうか。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。今、島並委員から御指摘のありましたようなイノベーションの創出に資する例というものについては、①に関しては特段事務局のほうでも見当たっているものではございませんが、もし今後見当たるようでしたら御紹介させていただければと思っております。

以上でございます。

【茶園主査】私も全然よく技術のことは分からないですけど、①のほかにも、②とか③に関しても、これらは何のために行われ、そして、今島並委員がおっしゃったように、何らかのイノベーションの創出とか、何か社会的に有益なものというのがあるのかどうかについても、もしお分かりになったら教えていただきたいと思います。

【三輪著作権課調査官】ありがとうございます。事務局でございます。まず③につきましては、先ほど少し触れさせていただきましたが、検索拡張生成、いわゆるRAGと呼ばれるようなもので、従来の検索エンジンの機能を拡張する、あるいは企業等が持っている既存の社内データ等の検索を容易にするというような形で取組が行われているものがあるのではないかと承知をしております。

②につきましては、現状、少数のデータを用いた追加学習のような形で、学習元に強く影響を受けたものを生成させるということが技術上可能となっていると理解をしておりまして、使い方によっては、学習元の著作物あるいはデータの影響を受けた、一定の方向性を持った形で生成物を出力させることができるというものが存在すると承知をしております。

以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございます。では、羽賀委員、お願いいたします。

【羽賀委員】恐れ入ります。羽賀でございます。御説明、誠にありがとうございます。私、著作権ではなく国際私法の人間ですので、そちらの観点から伺わせていただければと思います。常に日本法が適用されるのか、それともそうではない場合があり得るのか、というのが私たちの分野では考えなければならないことなのですけれども、今回の資料の場合、日本はどのように関わるのでしょうか。例えば、元のデータの作成が日本で行われたとして、そのデータをウェブに掲載され、どこで学習され、どこで出力がされたと考えておられているのか、どのような想定がされているのかという点を伺わせていただきたいと思います。

と申しますのは、基本的に著作権に関しては、場合によっては他の国の法の適用もあり得るというのが一般的なところかと思います。これを決めるためにどこにどう行為を結びつけるのか、ということになりますが、この点がはっきりとは分かりませんでしたので、どのような想定をしておられた上での今の御説明だったのか、という点を確認させていただければと思います。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。どこでということを具体的に想定しているわけではないのですが、日本の著作権法が及ぶ範囲の中においてということで考えていただければと考えております。

【羽賀委員】重ねて申し訳ございません。日本の著作権法が及ぶ場合というのは一体どのような場合と考えておられるのかという点を、もう少し御説明いただけますでしょうか。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。委員御指摘の日本法が及ぶ場合というところですけれども、教科書的な説明といたしましては、日本の法域内において利用行為が行われた場合ということになるかと考えておりまして、例えば日本国内のコンピューター、サーバー上で複製が行われた場合、あるいは日本向けに公衆送信等が行われている場合等が該当するかとは考えております。

【羽賀委員】いったんはこれで、ありがとうございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】上野でございます。本日は、まとめ文書を御説明いただきありがとうございました。いろな関係者の方の御懸念を丁寧に拾われて作成されたものだと思いますし、また後半部分につきましても、非常に難しい理論的な課題について正確におまとめになっているものと理解したしました。

その上で、ここまで議論があったことについていくつかコメントいたします。まず前提のアというところにつきましては、これは島並先生が御指摘になりましたことと関係しますけれども、ここでいう趣旨というのは30条の4の趣旨というよりは平成30年改正の全体の趣旨と読むべきなのかなと思います。30条の4の趣旨というのはもう少し踏み込んでいまして、つまり、「通常著作権者の利益を害しない」というものでありますので、私の考えでは、同条が対象とする非享受利用というのは、イノベーションを創出するか否かにかかわらず、そもそも「通常著作権者の利益を害しない」ものなのであるから、著作権の対象になるべき著作物の本来的利用ではないと、そういうふうな理解でいるところであります。

ただ、もちろん島並委員が御指摘になったように、この問題を考える上では、あらためて規定の趣旨に立ち返って同条の要件論を議論することが重要でありまして、その点については大いに賛同するところであります。

続きまして、イのところにつきましては、30条の4における情報解析ないし非享受利用と47条の5との関係というのは非常に難しい問題であります。つまり、平成30年改正前にあった47条の7というものが、平成30年改正によって言わば2つの規定に分割されたようにも思われる中で、「情報解析」というものであれば常に非享受利用に当たることになるのか、そして、非享受目的とともに享受目的もあったという場合は、たとえ「情報解析」に当たるような行為であっても30条の4は適用されないのかといった点をめぐりましてはいろいろと議論があるところであります。

私自身は、例示されている1、2、3に直接関係するわけではないかもしれませんけれども、AI学習において、出力の段階で既存の著作物の創作的表現が出力されることを明確に意図していた場合は、その学習は非享受のみを目的としていたとは言えないために、入力の段階における学習行為についても30条の4の適用を受けないと解すことになるのかなと考えている次第でございます。

あと、もう次の項目に行ってしまいそうな感じでしたので、この際ほかの論点についてもコメントさせていただいてよろしいでしょうか。

【茶園主査】はい。

【上野委員】30条の4ただし書も非常に難しくて、どういう場合にただし書に当たると解すべきかというのが、むしろ最大の課題かもしれないと思っております。もちろん文化庁さんもお書きになっていらっしゃるように、改正前の47条の7ただし書に定められていた情報解析用データベースというのは、現行法においても30条の4ただし書に当たる典型的な例であると私も理解しております。

ただ、なかなか難しいのは、情報解析用データベースを情報解析のために利用するというのは著作物の本来的利用と言えますので、そもそもこれは非享受利用ではなくて、情報解析用データベースの享受利用のようにも思われるところでありまして、そのような観点からすると、情報解析用データベースについては、30条の4ただし書の適用以前に同条柱書きの非享受利用に当たらないのではないかという見方もあるかと思います。

いずれにしましても、30条の4による権利制限の適用を受けない例として、情報解析用データベース以外に何があるのかというのは問題になるところであります。この点、私自身は、平成30年改正前47条の7によって適法であった行為は改正後も適法だと解すべきだと思っております。といいますのも、平成30年改正は、情報解析の規定について、それまでより権利制限を拡大するという趣旨は明確にありましたけれども、国会の附帯決議にもありますように、権利制限を縮小するという意図はなかったように思われるからであります。もちろん附帯決議に法的拘束力はないというのはその通りでありますけれども、当時の立法趣旨はそのようなものであったと思っております。もちろん時代の変化ですとか、技術の変化ですとか、改正後の事情を考慮する必要は一般論としてあるかと思いますけれども、現行法においても情報解析に関しては30条の4ただし書の適用範囲というのはかなり狭いものではないかと私自身は思っております。

ただ、先ほども申しましたように、情報解析用データベースについては、現行法30条の4ただし書に当たると考えられますところ、6ページ目の②に「オンラインで提供されているデータ等」はどうかという記述につきましては、たしかにコンテンツをオンラインで提供するというのはデータベースではあるかもしれないですけれども、それは改正前47条の7ただし書きにいう「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」ではない場合が多いように思いますので、そうだとすると、それは直ちに現行法30条の4ただし書に当たるものではないように思います。

また、改正前47条の7ただし書は、あくまで「データベースの著作物」の部分のみを権利制限規定の例外としていたのでありまして、データベースに収録されている個々の著作物についてまでを権利制限規定の例外とするものではなかったということについても留意する必要があるかなと思っております。

あと、ほかにもいろいろありそうなのですけど、さしあたりこれぐらいにさせていただきます。ありがとうございます。

【茶園主査】どうもありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、早稲田委員、お願いいたします。

【早稲田委員】ありがとうございます。この枠囲いのところから行かせていただきます。まずイですけれども、これにつきましては、今議論がありましたように、①、②、③と、あと、ウの場合は、非享受目的とはちょっと言えないのかなと思いますので、30条の4の書きぶりからいいますとちょっと該当しないんじゃないかなと私は思っております。

それから、エ以下の著作権者の利益を不当に害することになる場合、これは先ほど上野委員もおっしゃったように非常に難しいところではあるとは思いますけれども、やはり適用はかなり限定されるのかなと思っておりまして、例えば、エの①、必ずしも侵害物に当たらないものが大量に出回ることで自らの著作物の市場が圧迫されることによる著作権者の不利益をどう考えるかという点でございますが、これは確かにクリエイターの方等の懸念事項のかなりの部分を占めているとは思いますけれども、これにつきましては、やはり著作権侵害、著作権を侵害するようなものがたくさん出るというのであれば、それは該当するんだと思いますが、似たような作風のものがたくさん出る、それからAIで大量に発生するというか、生み出すことができると、今までとは全然違う量で生み出すことができるというのは、そのとおりだとは思いますけども、これはこのただし書には該当しないのではないかと考えております。

それから、エの③のところですけれども、これも非常に難しいところではありますけれども、権利制限規定を技術的な措置で適用がないようにするという、それ自体は権利制限規定が強行法規、強行規定でなくて任意規定というように、解釈されるのだと思いますので、それはいいと思うんですけども、さらにそれを回避して複製した場合はどうなのかというのは、これはなかなか難しい問題ではあるとは思いますが、例えば47条の5のインターネット検索のURLを提示するようなところでは、それなりにそういう技術については、それを回避してはいけないような規定になっておりますので、そういう規定がない限りはちょっとこれもただし書には該当しないんじゃないかなと個人的には考えております。

そうしますと④の海賊版のような権利侵害複製物について、これも著作権者の非常に御懸念があるということは重々承知ではございますけれども、単に情報解析をするということであれば、海賊版であっても情報解析をするという目的には非享受目的であれば該当するのではないかなと思っておりますので、これもただし書には該当しないのではないかなと個人的には思っております。

以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございます。では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】非享受目的に該当する場合のイとウに関係するところですけれども、私も基本的に上野委員がおっしゃったのと同じ考え方でして、学習データに含まれる既存の著作物の表現上の本質的特徴が感得できるようなものをアウトプットする目的で学習するというような場合には、享受目的が併存していると判断される可能性が高いと考えております。

その観点で言いますと、イの①と③というのは既存の著作物をそのまま出すと記載されていますので、これらは享受目的が併存するケースであろうと考えております。

他方で、イの②については、「強く影響を受ける」という部分に恐らく様々なものが入っていると思いまして、例えば、特定の思想を強く学習させてその思想に基づいた意見を言わせるAIというのもあり得るところで、そういったAIについては、学習データの影響を強く受けているけども、別に既存の著作物の表現上の本質的な特徴を感得させるようなものを出すわけではないと考えます。そのため、イの②のケースは一概に享受目的が併存するとは言えないのではないかとは考えております。

また、ウについても、「要約」と一口に言っても様々なパターンが存在していて、既存の著作物の中からキーセンテンスを抜き出してちょっといじるぐらいの要約をするAIであれば、それは既存の著作物の表現上の本質的特徴を感得できるようなものが出ると思います。他方で、既存の著作物のアイデアとか事実に関する部分を既存の著作物とは全く異なる表現でアウトプットするような要約をするAIであれば、享受目的が併存するとはいえないと思っております。

このように私としては、②とウについては、必ずしもこの文章だけでは判断できないかなと個人的には思っております。

次に、ただし書の著作権者の利益を不当に害することとなる場合について、情報解析用のデータベースの著作物の例以外にただし書に該当するものとしてどのようなものが考えられるかという点についてです。これは先ほど上野委員が指摘された附帯決議等との整合性はあるとは思うんですけれども、私個人としては、情報解析用に作られた著作物について、情報解析目的で複製を行う場合には、データベースの著作物に限らずただし書に該当する可能性があるのではないかとは考えております。なぜなら、その場合には、情報解析目的で作られた著作物の本来的な市場と衝突する情報解析目的での複製を行うということになり、それをタダでやられたらその著作物売れなくなるよねということで、典型的に他のただし書が想定しているような例かなとは思っております。

もっとも、これについては、平成21年改正時に生まれた47条の7のただし書に情報解析用のデータベースの著作物以外入ってないじゃないかという御指摘があるのは重々承知しております。それは私の理解では、その当時想定されていた著作権者の利益を不当に害する場合というのは情報解析用のデータベースの著作物の場合ぐらいしかなかっただけであると思っているんですけれども、もちろんそこは異なるお考えもあろうかなとは思っております。

次に、必ずしも侵害物に当たらないものが大量に出回ることで自らの著作物の市場が圧迫されることにより著作権者に不利益が生じることがこのただし書に該当するかという御質問についてですけれども、そもそもただし書については、考慮要素として当該著作物の種類、用途並びに当該利用の態様に照らしと書かれておりまして、およそあらゆる事情が考慮されるものではないと考えております。また、著作権者の利益を不当に害するかどうかというのは、その利用そのものについて判断されるべきものでありまして、その先の事情で、この利用によって様々な著作物が増えて、自らの市場を圧迫するかもしれないという、そういう抽象的なおそれもってこのただし書に該当するとは考えるべきではないのではないかと私としては思っております。

③、④に関しまして、先ほど早稲田委員からも少し御指摘がありましたけれども、③の技術的な措置の回避については、これまでの著作権法の中でも例えば30条の私的複製の例外や47条の5のrobot.txtの例で、回避をしたら権利制限の対象外という規定がわざわざ設けられています。④の海賊版に関しても、30条や47条の5の1項のただし書で違法なものを用いるケースは権利制限の対象外ということは明記されているところです。

そのため、法体系全体の整合性からすると、特にそういった明記のない30条の4については、③、④の事情があるという一事をもってただし書に当たらないということにはならないのではないかと考えております。

ひとまず以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。では、中川委員、お願いします。

【中川委員】ありがとうございます。論点が多岐にわたりますので、絞ってお話をさせていただければと思いますが、30条の4のただし書についてのコメントでございます。

まず、6ページの①のところです。これまでも御指摘が出ておりますように、いわゆる作風とか、そういったものが著作権法の保護の対象ではないということを踏まえますと、特定のクリエイターの作風と類似するものが市場にたくさん出ていくことによる不利益をどう考えるかということについて、著作権者の利益を不当に害すると言うのは難しいのではないかという議論があることは、私もなるほどなと思うところではございます。

ただ他方で、30条の4は隣接権にも準用されている条文でございますが、例えば特定の歌手とか、あるいは声優とか、そういった方々の声と非常に類似するものを生成するということが考えられるのだろうと思いますけれども、そういった特定の方の声と類似するものを殊さら生み出すような場合に、たしかに作風は万人が共有できるということで私も納得をするんだけれども、特定の方の声というのは作風と同じレベルで考えて良いのだろうかというと、ちょっと違うのではないかという気もいたしまして、30条の4のただし書については隣接権も含めた議論が必要なのではないかと感じております。ひとまず私からは以上でございます。

【茶園主査】ありがとうございます。では、𠮷田委員、お願いいたします。

【𠮷田委員】𠮷田でございます。学習・開発段階で、先ほど技術的な背景からということでお話をお伺いしましたが、イの1、2、3に関しては、どれもある程度、分けて考えることによって、非享受目的、享受目的がはっきりしてくるのではないかと思いました。前提をまず確認しておきたいのですが、例えばデータを収集する、それからデータをセットする、この辺りは恐らく非享受目的というところで、そこから学習データセットを作成するところと、それからデータを加工しなければならないところで情報解析を行なった場合には、複製に該当するということで合っていますでしょうか。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。その点に関しては𠮷田委員御指摘のとおりの考え方になるかと考えております。

【𠮷田委員】ありがとうございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、今村委員、お願いいたします。

【今村主査代理】どうもありがとうございます。私のほうは2点ほどあるんですけれども、まず5ページのウの検索拡張生成の話なんですが、30条の4と47条の5がそれぞれ適用の余地があるか、あるいは適用され得ると考えるべきかということのほかに、実際こういった何かAIが文書を生成して要約したものを何らかの出典つきで引用し始めるというケースでは、32条の引用の規定の適否も問題になるかなと思うんですね。

ただ、引用においては、引用する作品のほうが著作物である必要があるかどうかについて議論があると思います。AIが生成したものが著作物ではないんだとしたら引用は成立し得ないということになりそうですし、AIが生成したものでも、要するに、著作物ではなくても引用が成り立ち得るんだとすれば、引用も、場合によっては、示し方によってはあり得るかなというふうには思うので、その点、どちらが正しいのか、ちょっとすぐに結論は出ないんですけれども、これまでの学説とか裁判例に沿ってAI生成物による引用の適用の可能性で適法性が担保できるか、できないかということも論点になるんじゃないかなと思います。

あと、エのほうなんですけども、やっぱり大事なのは②のほうで、私はどちらかというと先ほどの澤田委員の見解に非常に近いんですが、やはり30条の4の趣旨は、最初に島並委員から指摘があった前提の確認というところで、大量の情報を収集し利用することが可能となる中で、イノベーションの促進に資するものということ、あるいは、権利者の利益を通常害しないということもあるとは思います。けれども、実際、機械学習で学習の素材としているものはフリーでアクセスできるインターネット上の情報が多くて、画像とかテキストですね、中にはネット上のごみみたいな情報もぱくぱく食べて開発をしているという状況だと思うんです。ですが、本当にイノベーションの創出・促進、優れたAI開発をするのだとすれば、コンテンツホルダーが持っている品質の高い情報、データをAI開発業者が学習していくという流れがあったほうがいいわけですし、そちらを促進するような方向でただし書を解釈していくということもあるのではないかなと思うんですね。

ただし書に該当すると言われる、情報解析用のデータベースの著作物が販売されている場合について、例えばウェブ上で新聞社がデータベースを公開しているけど、必ずしも情報解析用のデータベースそのものではないが情報解析用のデータベースとしての機能も有するというような場合に、それを無断で情報解析用に使ってしまうということであれば、それも場合によってはただし書に該当するとしたほうが、より優れたイノベーションを促進するようなAI開発につながるとも言えるのではないかと思います。知的財産権の基本的な発想を振り返って考えてみますと、むしろ権利で保護してあげることのほうが情報の利用とか活用というものを促進するという側面があるわけですから、いたずらにただし書の適用範囲を狭く解していくということにはせずに、むしろ情報解析用のデータベースというような形で、世の中に埋もれている、企業さんが保有しているような著作物データみたいなものがより利活用されるような形でのただし書の理解というものをしていったほうがよいのではないかとも思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかにございますでしょうか。

では、まず上野委員からお願いします。

【上野委員】ありがとうございます。せっかく事務局におまとめいただいた論点のうち触れられてないものもありますので、2点申し上げたいと思います。ただ、その前にただし書について少しだけコメントいたしますと、早稲田委員の御意見に大変私も賛同するところであります。たしかに、特定のクリエイターの作品だけを学んで、その作風を利用して同じような作品のみを出力させるような特化型と呼ばれるAIを開発するということについてただし書の適用があるかどうかというのは若干の議論があるポイントではありまして、結果として当該クリエイターに不利益を与える場合は30条の4ただし書きに当たるという見解もあるところですけれども、作風がまねられることによって受ける不利益というのは著作権が保護している利益が害されているわけではないように思いますので、ただし書きにいう「著作権者の利益」を不当に害するものとは言えないと解釈すべきだと思っております。

ただ、先ほど中川委員が御指摘になったように、著作隣接権にも30条の4が準用されている状況において、声については少し異なるのではないのかという点は私も直感的に納得できるところがありました。そもそも30条の4は「著作物に表現された思想又は感情」の享受・非享受を問題にしているのですが、これを著作隣接権に準用いたしますと、ここにいう「著作物に表現された思想又は感情」というのが実演やレコードにおいては何に当たることになるのだろうというのがよく分からないところであります。そうすると、実演やレコードについては、何を享受・非享受と論じればいいのかさえ分からないところではあるんですけれども、ただ、他方、ある特定の著名な芸能人の声が全くそのまままねられたものが出力されたというのであれば、著作隣接権の侵害にはならなくても、声に関する人格権としての侵害になる、あるいは、少なくともパブリシティ権の対象である「氏名、肖像等」の「等」の中に声が入るというのは広く認められているかと思いますので、パブリシティ権の侵害になるかと思います。そうした著作権法以外の保護が期待できるとすれば、何も保護が得られないわけではないですので、あえて著作隣接権について著作権法30条の4ただし書きで救うように読まなくてもいいのかなとは感じた次第であります。

なお、澤田委員が御指摘になった解析用の画像は30条の4ただし書きの例になり得るのではないかというのは、非常に面白いお話と思いました。ただ、これもまた解析の用に供する目的で作成された画像というものを解析のために利用するというのは、非享受利用ではなくやっぱり享受利用というべきなのかもしれないなとは思いました。いずれにいたしましても、ただし書に当たる例というのはなかなか難しいものだと改めて感じた次第でございます。

その上で、1点目に、ウの生成AIによって検索結果の要約等を行い、回答を生成するものについて30条の4や47条の5の適用があるかという点でございまして、これまでも議論がありましたように、30条の4というのは基本的には非享受のみを目的とした利用に適用が限られるとは思いますけれども、ただ、それでも47条の5の適用の余地はあると思います。今日事務局のほうで、47条の5について、1項1号のみならず2号のほうもおまとめいただいたことは非常に有意義なことと思います。令和元年10月の文化庁の資料「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」の中でも、患者の病状を踏まえて最適な治療方法を分析し、その結果を提供するサービスが例に挙がっていまして、これも治療方法を提供するだけであればただの情報解析ですけれども、結果の提供に伴って、最適な治療方法と判断した根拠となる文献を提供するというのは、47条の5第1項2号にいう結果の提供に付随する軽微利用とされておりまして、これも大変よい興味深い例だと思います。もちろん、今行われているような検索型AIというのが47条の5に当たるかどうかというのは私もちょっとまだはっきりした考えがないのですけれども、しかし、今後の多様なAI開発にとって47条の5というのも活用できる可能性が十分あるのではないかと思っております。

2点目に、今日のオとカのところで、侵害があった場合にどういう措置が考えられるかということでありまして、オはかなり一般論的なところかと思うのですけど、カについては、AI学習に用いられたデータセットから自分の著作物を除去してくれという請求が112条2項によってできるかというお話かと思います。この112条2項というのは、前提として1項において侵害または侵害のおそれがあり侵害の停止または予防を請求できるときにそれに加えて「必要な請求」をできるという規定になります。したがって、もし将来において著作物が学習のために複製されそうだという蓋然性が高いのであれば、予防のために必要な措置として削除を求めるということは可能かと思います。

そして、②では、最後に「学習済みモデルの廃棄請求が認められる場合もあり得るか」という問題提起があり、これも非常に面白い問題提起だと思いますけれども、もしそのAIから出力されるものが既存の著作物と創作的表現において共通する侵害物だというのであれば、これは侵害を生み出す機械みたいなものだということになるかと思いますので、条文上の「侵害の行為に供された機械」に当たる可能性があるように思います。もちろん、学習済みモデルというものがここにいう「機械」に当たるのかという点は問題になるかもしれませんけれども、しかし、一定の場合には、こうした学習済みモデルに対する破棄請求が可能な場合は否定できないのではないかと感じた次第でございます。

以上です。

【茶園主査】では、中川委員、お願いいたします。

【中川委員】私からも、先ほど御指摘がありましたカについてコメントさせていただきます。特に②でございまして、これは技術が関わる問題なので、なかなか一般化して申し上げることは難しいのだろうと思いますが、例えば画像を生成するAIを利用していると、著名なキャラクターの名称を入れると、それと類似するものがたくさん生成されるというような事例も散見されるところかと思います。そういうケースで考えますと、確かに学習済みのデータの中にはパラメータとしてしか存在していないかもしれないけれども、ただ、パラメータであるから直ちに複製物ではないと言えるかというと、そうとは言えないのではないか。むしろ元の学習用の著作物そのものではないけれども、学習用の著作物の表現上の本質的特徴を感得できるものが部分的ではあっても残存しているからこそ類似するものが生成されるということであれば、それは学習済みモデルであっても、一応文言上は著作物の複製物に該当する可能性はあるのではないかと考えます。

したがいまして、複製について、30条の4等の権利制限規定が適用されない場合には、先ほど上野委員の別のアイデア、侵害の行為に供された機械・器具というアイデアをおっしゃりましたけれども、それとは別に、まさに侵害の行為によって作成された物という評価をすることが可能な場合もあり得るのではないかと考えます。

ただ、その上で、その廃棄等の請求が技術的にどれほどの困難を伴うものなのかとか、過剰な請求なのかとか、権利濫用なのかとか、そういった別の問題は当然生じ得るのだろうと思いますけれども、理論上はそういった請求の対象には十分なり得るのではないかと考えます。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございます。先生方に活発に御議論いただいて大変ありがたいのですけども、ほかにもいろいろ先生方に御意見を伺いたい論点がございますので、まず(1)については一旦ここで中止ということにさせていただいて、続きまして、(2)生成・利用段階に移らせていただきます。これについて御意見等がございましたらお願いしたいと思います。

これについては、AIを利用して生み出されたAI生成物が侵害になるかどうか、とりわけ依拠性が認められるかどうかというところが大きな論点になると思います。さらに、責任主体、つまり、誰が侵害責任を負うのかという点も困難な問題であると思います。これらの点につきまして何か御意見等ございますでしょうか。

それでは、今回は中川委員からお願いいたします。

【中川委員】8ページのウとかエの侵害に対する措置について、特にエについてのコメントでございます。私としては、先ほど少し申し上げたように、例えば著名なコンテンツの名称をプロンプトで入力したときに類似する画像がたくさん出てくるというときには、それはAIサービスの提供事業者に対して、そういった生成、送信をしてはならないという差止めが本来は認められるべきだと考えております。ただ、その上で、実務家として悩ましいなと思うのは、差止めを求めるときの主文の問題がありまして、単純に当該著作物と類似するものを生成してはならないという主文は多分認めてくれないので、じゃあ、どういったものを生成してはならないのかということを予め具体的に特定しなさいと言われると、それは技術的におそらく不可能なのではないかと思います。理論上は差止めが認められるはずなんだけれども、じゃあ、差止めを請求してくださいと私が弁護士として仮に依頼されるととても悩むのではないかと思いまして、その辺りは実務的にはそういった問題が生じるのではないかと思いますけれども、理論上は差止めが認められるはずだと考えております。

一旦は以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】2点ありまして、まず今、中川委員が御指摘になった点はそのとおりと思っております。たしかに侵害のおそれ、ないし蓋然性があるというのであれば、現行法上、侵害の予防を請求できるわけですけれども、抽象的に侵害が発生しそうだというだけでは、侵害のおそれ、ないし蓋然性が高いとは言い難いことになろうかと思います。そしてこれは抽象的差止めという実務上も非常に難しい問題であると認識しております。

一方、技術的に見ますと、昔のDALL·E 2とかは、「ハローキティ描いて」とか、「ドラえもん描いて」とかいうと、普通にハローキティやドラえもんのイラストを出力していたのですけど、今DALL·E 3は「ハローキティ描いて」とか、「のび太とドラえもん描いて」とか言っても、全然違うものが出てきて、何でちゃんと出さないんですか、と尋ねると、「著作権の問題があるので…」とか答えが返ってきますので、そういうプロンプトコントロールみたいなことは大分できるようなってきたかもしれないですよね。そうなってくると、侵害物の新たな生成を防止する措置の請求という意味では、出力において既存の著作物と類似するものを出さないように何らかの措置を請求するというのは難しいかもしれないのですけれども、例えば、ある程度特定のプロントが入力された場合は一定の対応をするように求めるといったような可能性がないどうかは考える余地があるかもしれないなと思いました。それが1点です。

もう一つが、前半の依拠性です。これは非常に難しい問題でありまして、特にイは、依拠性の有無はどのように判断されているか、権利者はどの程度の立証負担を負っているかというまるで学会みたいな問題提起で、従来の裁判例については、私も昔依拠性の要件事実論に関する論文を書いたことあるのですけど、原告はどこまで立証すべきか、被告はどこまで反証すべきか、そして立証においてどのようなものが間接証拠になるかといった点など本当に難しい問題であります。けれども、これは別にAIだから起きる問題ではないというふうには基本的には思っております。

その上でAIが学習した大量の著作物全てに依拠性が認められるかというアの点については、2016年から2017年にかけて行われた知財本部の新たな情報財検討委員会でも議論された点で、いまだに賛否両論あるところですけれども、私自身は、過去にAIが学習した著作物についてはすべてと考えております。これは、学習済みモデルの中に学習元の著作物がどのような形で残っていようと、つまり、著作物といえるような形で残っていなくても、とにかくその著作物を過去にAIが学習したということのみをもって依拠性ありと認めてしまってよいのではないかと思っております。もちろん、このように出力する人が既存の著作物をまったく知らないという場合も考えられ、既存の著作物を知らないで出力したのに著作権侵害の責任を負うのかという指摘もありうるところですが、私は、著作権侵害の責任を負って然るべきではないかなと考えております。そういう意味では、生成AIを利用するというのは非常に大きなリスクがあるということは、我々、認識しなければならないのではないかと思います。

ただ、そのように他人の著作物だと知らずにAIが出力したものを利用していたユーザーは、著作権侵害の責任は負う一方で、差止請求を受けて利用を停止しなければならないけれども、しかし、過失はないと判断されて損害賠償請求は受けないというようなことになるのではないのかなと私自身は思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いします。

【澤田委員】依拠性のアについて、私自身は依拠性というのは既存の著作物をもとにして利用行為が行われたかどうかということで判断されるものだと考えておりまして、①に関しては依拠性が認められるのではないかと思っております。

②に関しては、利用者も知らないでAIも学習していない場合は、依拠性は認められないだろうと思っております。ここは少し上野委員とは違うかもしれないんですけども、既存の著作物を学習に用いていたら必ず依拠性が認められるのかというと、あくまで既存の著作物をもとにされているかどうかで判断されるべきだと思っておりますので、学習に用いていたら即依拠性ありとは考えておりません。じゃあ、どうやって立証するんだという議論はもちろんあって、学習していれば実際のところ依拠性は基本的に認められてしまうだろうとは思っておりますけれども、理論的には反証の余地ありとは考えております。

最後の当該AIが既存の著作物をそのまま生成するような状態になっていたか否かはどのように影響するかということですけれども、これは著作物をもとにしてつくるというような状況があるということですので、これは依拠性ありということになろうかと思います。

依拠性の有無の裁判例上の取扱いというところについては、なかなか難しいところではありますが、一般的には被疑侵害者側のアクセス可能性を権利者側として立証すれば、権利者としてはやるべきことはやったと判断されているのではないかと考えております。依拠性の有無に関しては、本人の主観に関する供述だけで決まるものでなく、でき上がったものの類似性の程度などそういった事情を主として判断されているのかなと理解しております。

私からは以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、早稲田委員、お願いいたします。

【早稲田委員】今の依拠性の部分ですけども、本当に難しい問題だとは思いますけれども、私もずっと考えていたんですけど、よく分からないところはあるんですが、最終的には、先ほど上野委員がおっしゃったように、学習をしていたら依拠が認められるということになるんじゃないかなあと思っております。

生成AIではない場合ですと、先ほど上野委員、澤田委員等がおっしゃったように、既存の著作物にアクセスをするというところで、既存の著作物にアクセスをして、かつそれを利用した人が一緒なので、従前の裁判の場合はそこで問題がないんですけれども、今回、生成AIの場合は、学習用データをつくる方と利用者が違うというところで、それがどういうふうな仕分けになるのかという問題だと思いますが、やはり権利者側のほうから見て、生成AIであれば学習したにもかかわらず依拠性が認められなくて、通常の場合であればアクセスすれば依拠性が認められるということになりますと、一般的な著作権の解釈から見ると、そこで分かれるのは、権利者側から見ればやはり違和感があるのではないかなと思っております。それで、利用者につきましては、先ほど上野委員がおっしゃったように、過失の有無と、こういうところになるのかなと思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかに(2)のところで御意見等ございますでしょうか。

では、島並委員、お願いいたします。

【島並委員】ありがとうございます。依拠性につきましては、これまで各委員の先生方おっしゃっていたことと全く同じ意見でございます。

AI以前の状況におきましても、客観的にアクセスがあれば、認識や意図がどうであれ、依拠性は肯定されるというのが一般的な考え方だろうと思います。すなわち、本をコピー機で複写する場合に、その本の中にどういう文字列が書かれているかを認識していなくても、つまり、まだ読んだことのない本であっても、手を動かしてコピー機にかけていれば依拠はあるというのが一般的な考え方だろうと思いますので、AI学習においても、コンテンツの表現を認識していなくても依拠性は肯定されるという結論にならざるを得ないと思います。

その上で、先ほど来出ております過失の有無の問題に加えて、私的な領域において個人がChatGPTを使うというようなところにとどまるのであれば、生成そのものは30条の権利制限で侵害とならない。そして、生成したものをさらにネットに上げたりするという利用の段階になって初めて、侵害責任を問われるということがあり得るのかなと考えております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

では、今村委員、お願いいたします。

【今村主査代理】すいません。依拠性の問題に関してなんですけれども、先ほど学習段階で素材として学習させていれば依拠があるんだという、そういうことで、私もそのとおりだとは思うんですけども、依拠があるかどうかということを認定する段階というのは1か所だけではないと思うんですよね。学習段階で取り込んでいるということで依拠性が判断できる、するということに加えて、アウトプットがされて、それを利用するという、そういう段階においても、利用者にとって依拠というもの、それを問題とする余地があるような気がするので、依拠性の認定には、幾つかの段階であるのではないかなと考えております。

取りあえず以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】8ページのオの侵害行為の責任主体についての③のところでございまして、事業者が侵害物の生成を抑止するための技術的な手段を施しているかということが考慮に影響するかということですけれども、これは1つ前の論点でございました30条の4で非享受目的か否かの認定をするときにも事業者が生成を抑止する手段を施しているかどうかが影響してくるのではないか、実際はむしろそちらのほうにより大きく影響するファクターではないかと感じるところでございます。

その上で、生成段階においてもこの点が考慮ファクターになるということはもちろん私も否定するわけではありませんけど、同時に30条の4の非享受目的の認定のときに重要なファクターになるのではないかと思っております。

以上でございます。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

一応よろしいでしょうか。

では、もし何かありましたらまた後ほどお願いするといたしまして、続きまして(3)生成物の著作物性、この点につきまして御意見等がございましたらお願いいたします。

これはAIに関する問題として最初に出てきた、人間が全然関与しないで生成されたものが著作物となり、著作権の保護の対象にしてよいのかどうかというものです。特許法における発明についても、AIがつくったものが特許法の保護対象になるのかという同じような論点が議論されております。著作物性につきまして、御意見等ございますでしょうか。

では、中川委員、お願いいたします。

【中川委員】アとイのうちまずアについてコメントさせていただきますと、意義や実益としてどのようなものがあるかということに関しては、例えばとしてですけれども、AIを積極的に活用してたくさんコンテンツをつくるというビジネスを考えている事業者がいたときに、それで生成されたものが著作権法によって保護されるのかどうかという点はビジネスモデルを検討していく上で一つポイントになるのかなと思います。あるいは逆の立場、利用者の立場からすると、何らかの事情でAIによって生成されたものだということが分かっているものについて、それが自由に利用できるかどうかということが判断できるというのは意義としてあるのかなと思います。意義や実益はどのようなものがあるかということに関しては私のコメントは以上でございます。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】ありがとうございます。アの意義・実益に関しては中川委員のおっしゃったことに付け加えることは特にございません。

イの生成AIに対してどの程度具体的な指示を与えれば生成物の著作物性が認められるのかというところについて、私自身は、ある特定の表現の生成にどの程度影響を与えたかが問題で、これはそれなりに強い影響を与えなければならないだろうと思っております。

この問題を考えるに当たっては、人と人が著作物を一緒に作る共同著作物で要件とされている創作的関与の議論とある程度パラレルに考えたほうがいいのかなと思っております。創作的関与については事実行為として創作というのをきちんと行ってないと共同著作者とは認めてもらえないというのが一般的な考え方で、単なるアイデア出しや企画といったレベルでは共同著作者とは認めてもらえないだろうと思います。これを前提に、イの中の①〜④の要素を見ていきますと、①の指示・入力の分量・内容というのは、かなり長大なもので、ほぼ表現とイコールになるようなレベルでかなり詳細な指示が与えられていれば、創作行為への関与というのは認めてよいとは思いますけれども、●●風の××をつくってくださいとか、そのレベルの抽象的な指示であれば、その指示をもって創作的寄与があるとは認められないと考えます。②、③に関しても、外注先に何回もイラストを出し直しさせたら創作的寄与があるのかというと疑問でありますし、100パターン出してくださいと言ってその中から1つ選んだら、それで創作的関与があるかというと、そうは考えられていないのではないかと思います。そことパラレルに考えますと、②、③というものが創作的寄与として認められる可能性というのはかなり低いのではないかと個人的には思っております。

④の生成後の加筆・修正というのは、①〜③とは別の問題ではありまして、これは生成されたものに人が手を加えたという話ではありますので、人が手を加えた部分に個性が表現されていればその部分に限っては著作物性があるという判断になると考えます。もちろんここでは人が手を加えた部分だけ著作物性があるという話ですので、AIから生成されて人が手を加えてない部分に著作物性があるという話にはならなくて、作品の中の例えば一部分だけが著作物性があるという状態になるのではないかと思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】イに関しては、澤田委員御指摘のとおりでありまして、従来の解釈における著作者の認定と全く同じ判断を行うことになるのだろうと思いますけれども、特に③の「複数の生成物からの選択」というものをどう評価するかというのは議論があるところかと思います。私自身、必ずしも明確な考えがあるわけではないのですけれども、問題提起みたいな形で申し上げますと、例えばAIに1万枚画像をつくらせて、どれがいいかなと考えて、これだ、と特定の画像を選ぶ行為をしたからといって、それで著作者と認定されるかということが問題になります。一方では、そういう選択ができるという目利きみたいなものが重要であるのだから、そこで選ぶこと自体が創作行為なのだという考えがあります。たしかに、選ぶということ自体がクリエーティブな行為と言える場合もあるかもしれませんし、実際のところ、写真なんかでもデジカメで大量に連写して、その中から選んでいるということもよく言われたりするわけです。しかし他方で、1万人の人に曲つくらせて、その中からこれだと選ぶ行為は、いくら目利きが重要だとか言っても、選んだ人が著作者になると言う人はいないと思うのですよね。

ここでは、何かの作成を機械に頼むのと、人に頼むのとで評価が異なるのかが問題となります。両者を同じように捉えなければならないという考えがある一方、両者は異なってよいという考えもあります。つまり、人に頼むときは、相手が人なので、その相手が著作者になるのに対して、機械に頼むときは、機械は道具なので、人間が著作者になるのだいう考えもあるわけですが、これがなかなか難しい問題なのであります。私自身は、相手が機械だろうが、人だろうが、できあがった作品を単に選ぶだけだというのであれば、それを著作者として認定するということはできないのではないか、AIについてもあるべきではないというふうに思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】私もこれまでイに関して出ているところで特に異なる意見を持っているわけではないのですが、あえて違う視点を申し上げますと、例えば創作性の程度としてどの程度のものが求められるのかといったときに、特に写真については必ずしも高度なものが求められていなくて、実質的には表現に値するかなりの部分をカメラが行っているのだけれども、被写体の選択なり、最低限の構図なり、そういったものによって、最低限デッドコピーに対する保護が及ぶ程度の著作権は認められるというように写真については認められることも多いと理解しております。このあたりも最近の裁判例ではちょっと揺らいでいる部分もあるのかなとは感じておりますけれども、一般的には写真に関してそれほど高度なものが求められているわけではないという状況もあるのだろうと思います。

そうした状況を踏まえますと、画像を生成するに際し、ユーザーの側である程度完成イメージを持ちつつ、どういったものを、どういう配置にして、どの色にしようとか、出てきたものについてもうちょっと色を変えてみようとか、そういった試行錯誤を経た上ででき上がったものがあったときに、それは先ほど申し上げた写真と比較して創作性の程度が低いかというと、むしろ写真よりも高い場合も十分認められるような気はいたしまして、あくまで事例ごとの判断ではありますけれども、そういったケースにおいて著作物性が認められるということは私としてはあり得るのではないかと考えております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、今村委員、お願いいたします。

【今村主査代理】生成物の著作物性のイの④の生成後の加筆・修正という部分に関しましては、基本的にはそれは1から3の関与とは違って、加筆・修正しているわけですから、著作物性を持ち得るということなんだと思います。もちろんこれはどの程度加筆したのか、修正したのかにもよるということだと思うわけですね。何か創作的な表現を付け加えたとか、そういう作業が必要であると思います。その上で、AIが生成したものも含めた全体、つまり自分が加筆・修正していない部分も含めて著作権を持つというのも何か違和感を覚えるので、あくまで加筆・修正した部分が創作的な表現であって、そこの部分についてだけ、その範囲において権利を有し得るんだというふうなことは確認しておいたほうがいいのかなと思いました。

あとは、①から③の労力というのも、ある種のAI作品というべきものをつくっていく上での工夫ではあると思うんですが、必ずしも自らの表現上の個性を表すための工夫とまでは言いにくく、①から③までの要素を用いたことが、その結果として出力された生成物の著作物性に対して影響を与えるということは基本的にないのではないかと考えております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

では、𠮷田委員、お願いいたします。

【𠮷田委員】𠮷田です。冒頭のところで、生成物の著作物性については、発明者の問題にも似たようなことが挙がっているのではないかとありましたが、その問題には、関与する人の存在があるのではないかなと、1人の場合、複数の場合があるかもしれませんが、「選ぶ」ということの議論も先ほどありましたが、生成AIを用いていい著作物として仕上げるには、いいデータをクレンジングするといいますか、適切な情報というものを提供しなければならない。著作物モデルを作るような人がいた場合に、その役割をどう考えるのかということがあるのかもしれない。発明のところでも人の関与と発明者性の話が出ていた気がしますので、著作物として皆が望んでいるようなものを、いい情報を集めた上で生成AIを用いてつくる、そういった生成モデル作成のプロみたいな人がいるかもしれない。どういう人がどのように関与しているのかという実態がちょっと見えないなというところもあるので、もう少し実態が見えてくると判断をしやすくなるのかなと思った次第です。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、島並委員、お願いいたします。

【島並委員】私はイの③の「選択」については、これまで出てきた皆様の御意見とはちょっと違う考えを持っております。と申しますのは、あらゆる表現活動は、究極的には選択行為であるとも考えられるところでありまして、AIを道具として使った選択だけが別異に扱われる理由は特段ないのではないかと思っております。最もプリミティブな例を挙げますと、俳句を詠む行為は、50音の17乗の可能性の中から、これはという文字列を選択しているということでございまして、AIを使って詠まれた多数の作品から、このCMに使うのに最適なものを選ぶ行為は立派な創作行為たり得ると考えております。

翻って考えると、そもそも著作権法がなぜ著作権を付与しているかというと、表現活動を促進し、多様な著作物がこの世にたくさん現れるように、インセンティブとして付与されるのだということだとしますと、そうしたAIを使った生成活動、そして最終的には選択活動が、社会的に有益な活動であるということであれば、インセンティブが与えられてしかるべきだし、もし仮に誰がやっても同じような選択だということであれば、創作性要件を欠くので不都合はありません。その人らしいすばらしい選択がなされたということであれば、AIが介在しても従来の創作活動と量的な程度差しかないのであって、いずれも選択行為である以上は質的な違いはないものと個人的には考えております。

ちょっと変わった意見で申し訳ありませんが、私からは以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、麻生委員、お願いします。

【麻生委員】私の立場としましては、イのところに関しまして、①から③については著作物性を認めるための要素としてそれなりに強弱はあろうかと思うのですが、やはり人の創作意図と創作的寄与を認めるためのAIを道具として支配しているという評価は、①、②、③というのが積み重なっていけば積み重なっていくほど、人がAIを道具として利用したと評価できる場合が多くなっていくのではないかと考えています。

④の場合は、他の委員の方々がおっしゃるようにAI生成物が出力された後の場面ですので少し場面が違うと思いますし、人によって加筆された部分については間違いなく人間の創作意図も創作的寄与もあると思いますので、そこの部分が著作物たり得るというところは争いがないのではないかと思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

では、どうもありがとうございました。

では、最後になりますけれども、(4)その他の論点について御意見等がございましたらお願いいたします。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】イのところについてコメントさせていただきます。30条の4の趣旨を踏まえて補償金制度を創設することについてどう考えるべきかという点についてなのですけれども、冒頭にも申し上げましたように、30条の4の趣旨というのは、今日ご出席の委員の先生方の中にもお詳しい方がいらっしゃいますけれども、非享受利用というのは「通常権利者の利益を害しない」利用だからだという点にありまして、情報解析というのは著作物の本来的な利用ではないのであるから、「通常権利者の利益を害しない行為」であると考えて、したがって、情報解析のための利用には著作権が及ばなくていいのだという考え方に基づいていたと認識しております。

そのように考えますと、ここに書かれておりますように、情報解析のための利用行為について補償金制度を導入することは、「理論的な説明が困難」だというのは、たしかにそういう側面もあろうかと思います。

ただ、他方、特にドイツみたいに、著作権を制限する規定を設ける際には原則として補償金請求権を付与すべきだという考えもあるところです。そのような観点からすれば、特に営利目的で行われるような情報解析については、排他権としての著作権を制限するとしても、収益の適正な分配という観点から、報酬請求権を付与するという考えもあり得るようには思います。むしろ、スリーステップテストの観点からすればそのような報酬請求権を設けることが求められるという考えもあり得るかと思います。

そういう観点からするならば、例えば営利目的の情報解析については補償金請求権の対象とするという立法上の選択肢は理論的にもあり得ないものではないように私自身は思っております。ただ、補償金請求権を定めている他の権利制限規定と比較すると、つまり、例えば教育期間における利用であるとか、図書館における利用であるとか、あるいは、営利目的の試験問題作成であるとか、そういうものと比べますと、情報解析というのは、不特定かつ大量の著作物を包括的に利用するという性質のものですので、そうした行為については、仮に補償金請求権を付与したところで、徴収した補償金は非常に集合性が高いものですから、これを正確に分配するということはもともと不可能な性格の制度になるかと思います。私自身は、それはそれで社会的な意義があると思っているところもあるのですけれども、こと情報解析について補償金制度を導入するというのは、あまりよいアイデアではなく、結果としてクリエイターさん等の望む制度になるような気もしないように思っているところでございます。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】(4)のうちのAでございますが、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為についてどのように考えるかと。流通させるということが、仮に対価を請求するということであれば、これは著作権法の問題ではないかもしれませんが場合によっては詐欺に該当する可能性がある行為なのだろうと思います。例えば100%AIのみによって生成されているにもかかわらず、これは自分が手作業でつくったものだと称して著作権料の請求をしたりすると、これは詐欺に当たる可能性があるのだろうと思います。だから著作権的な手当てが要らないかというと、それはまた別の議論になると思いますけれども、そういった悪質な行為については詐欺の対象にもなり得るものだと思いました。

以上です。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、早稲田委員、お願いいたします。

【早稲田委員】ありがとうございます。今御指摘のあったイとエでございますが、イについては、上野委員がおっしゃったように、情報解析というのは、非常に多種多様になるので、これを補償金制度を導入するというのはかなり困難ではないかと、実現的にはちょっと難しいのではないかなと思っております。もちろん理論的な説明もそうなのですが、現実的にもかなり難しいのではないかと思います。

それから、エについては、中川委員おっしゃったように、不法行為に該当するとは思うんですが、ただ、これからものすごいAI生成物が大量に発生し流通するということであれば、今後、何らかの著作権法的な措置を、現行法では無理だと思っておりますけれども、改正して、そういう僭称に当たるようなものについては著作権違反になるというようなものをつくってもいいんじゃないかなと個人的には思っております。

以上です。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】その他の論点について、イのところについて、これまでもありましたとおり、従来の補償金制度は、権利制限の対象利用行為によって権利者の利益が一定程度害されるということに対する補償として与えられているものだと思います。30条の4の立法趣旨が非享受目的利用が権利者の利益を通常害しないものであるという点にあることからしますと、補償金制度の対象にするということの理論的な説明が難しいのではないか、これまでの補償金制度との整合性がとれないのではないかというのは、そのとおりかなと思っております。また、そもそも利用行為の捕捉というのが恐らく極めて困難ではありますので、誰が幾ら補償金を払うのかとか、現実にワークする制度設計をつくるということにもかなり困難は伴うのではないかなと考えております。

エの著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させる行為についてについては、知ってか知らずか現状でも多種多様なものについて恐らく行われていることではあるのかなと思っておりまして、AIが出てきたことによってどのように変わったからこれに対する規制をかけなければならないということを説明するのはなかなか説明が難しいのかなと思っております。委員間で多少の濃淡はあったかとは思うんですけれども、人間がAIを利用して生成したものについてはそれなりに著作物性が認められるというお立場の委員も多かったとは思っておりまして、そうすると、現実に規制をかけたときに対象になるような行為がどの程度あるのかというところもあります。また、AI生成物の著作物性については実際の創作過程を検証しないと分からない話だとは思いますので、エンフォースメントの観点からも、あまりワークしないのではないかと懸念しており、現実のエンフォースメントが期待できない刑事罰というのは非常に評判が悪いため、そういった観点からも、規制をかけるのは難しいのではないかと考えております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。

【籾井著作権課長】主査、すいません、事務局から1点よろしいでしょうか。

【茶園主査】それでは、お願いいたします。

【籾井著作権課長】この後、資料1全体の御意見を伺う場にもなるんだと思うんですけれども、1点、海賊版の件につきまして、先ほどただし書には当たらないという御意見はいただいたと認識をしておるんですけれども、海賊版が学習されてしまうということに対しては、冒頭の権利者、クリエイターの皆様からの懸念の中でも御紹介をさせていただきましたが、非常に懸念の声が強いところでございまして、本日、先生方から、30条の4のただし書でないにしても、著作権法体系の中で、こういう考え方で救済の余地がある、あるいはないのか、その辺りの御意見を少しお伺いできればと思っております。よろしくお願いいたします。

【茶園主査】これは今画面にあらわれている④のところですね。AIの学習において、学習対象が海賊版であったというものですね。

【籾井著作権課長】はい。

【茶園主査】この点について御意見等ございますでしょうか。

上野委員、お願いいたします。

【上野委員】今課長が御指摘になられましたように、一般論として、違法なソースを用いて権利制限規定の適用を受けるような行為をするということについて、それを適法と認めてよいかというのは問題になるところであります。この点、特にヨーロッパでは議論がありまして、権利制限規定に当たる行為をするためには適法なソースを用いなければならないという考えも見られるところです。例えば、私的複製であったり、図書館利用であったり、教育利用であったり、そういった場合であっても、違法に作成された海賊版を用いてよいかどうかが問題になります。もし海賊版のCDとか海賊版のDVDを用いて私的複製するということになりますと、これは確かに私的使用目的の複製ではありますが、違法な存在である海賊版から無許諾の複製物が増えてしまうという見方もあります。そこで、条約上のスリーステップテストの観点からも、権利制限規定の適用を受けるためには基本的にソースが適法であることが必要になるという解釈がヨーロッパなどでは広く見られるものと承知しております。ドイツなどのように、その点を権利制限規定において明文化している国も少なくないように思います。

これに対して、日本では、情報解析に限らず、権利制限規定一般について、適法なソースであることが求められてはこなかったように思います。そのこと自体もちろん課題になり得るものだとは思いますけれども、もし今この問題を取り上げようとしますと、事は情報解析に限らない問題になってきまして、例えば、教育機関における授業のために利用するという場合も適法なソースの著作物しか使えないのかという議論になるように思います。また、ただし書きのないものではありますが、私的複製の権利制限規定についても同じように適法なソースを用いることが要件となるのかということが問題になりますが、この問題は一応違法ダウンロードに関する令和2年改正のときにも議論されたところであります。もちろん、そうした違法ソースを用いた行為を正面切って容認するというのもいかがなものかという気持ちも分かるのですけれども、権利制限規定一般について、適法なソースを用いることが要件とされているわけではない以上、情報解析のこの規定につきましても、現行法の解釈としては、ソースが違法複製物だからといって、直ちに権利制限規定の適用が否定されるわけではないと言わざるを得ないのかなと思っております。その上で、何かこの問題に対処する手だてがほかにないかという御指摘かとは思いますので、またいろいろ知恵を絞っていければと思っております。

以上でございます。

【茶園主査】ほかに御意見等ございますでしょうか。

では、今村委員、お願いします。

【今村主査代理】すいません、今の点なんですけれども、確かに、違法なソースから利用したという場合に、例えば35条にしても、ただし書に該当するかしないかみたいな議論があって、それはなかなか難しい議論なので、結論はなかなか出にくい部分がありますし、ほかにも同様のことば問題となる規定がいろいろあると思うんです。けれども、とりわけ機械学習という場面で海賊版サイトのような権利侵害サイトから利用するという場合に、AI開発業者と海賊版サイトの運営者が互いに全然関係ないというケースも多いとは思われますが、両者が結託しているとか、経済的なつながりがあるとか、そういったケースもあり得るとは思うんですね。そういった場合について、ひょっとするとただし書で対応できる場合はあるのかもしれない。ただし書自体は、様々な事例をケース・バイ・ケースで考えていくということになると思いますので、一律に海賊版サイトからの学習はこの範疇外だとするのではなくて、学習されている著作物が実際にどういうふうに利用されているかという利用の態様とか、そういうことも踏まえて、ただし書の中で判断できる余地もあるのではないかなと思います。

以上です。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

恐らく、海賊版であれば権利制限に当たらないということになると、利用しようとする人は一々チェックしなければならないという大変な負担を負うことになり、権利制限の趣旨に反することになるように思います。そのため、海賊版の場合を例外的に取り扱うとすれば、故意であった場合に限られることになると思うのですが、故意である、つまり、海賊版と知っていて学習に利用する場合に権利制限にならないとすることはどうでしょうか。

上野委員、お願いします。

【上野委員】確かにドイツ法などでは、明らかに違法だというソースを用いる場合は私的複製の権利制限規定は適用されないというような条文がありますので、日本でも同じように解釈できる余地はあるのかもしれないのですけれども、既に私的複製のダウンロード違法化に関しましては、先生もよく御存じのように、現行法でも、たとえ侵害サイトだと知りながら私的使用目的のダウンロードをする場合でも、すべて違法になるわけではありませんで、一定の複雑な条件を満たすときにしか違法にならないことになっていますので、このことからしますと、ほかの権利制限規定についても基本的に同じように解釈することにならざるを得ないのではないかなとは思いますけども、いかがなものでしょうか。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかに何かございますでしょうか。

私が急に口挟んで申し訳ありませんでした。

よろしいでしょうか。

島並委員、お願いいたします。

【島並委員】ありがとうございます。私も上野委員と基本的に同じ考えであります。とりわけ30条1項3号等の先行事例との整合性や波及効果を考えますと、ただし書で故意を特別扱いするのは難しくて、仮に実質的にそういった特別扱いをするのであれば、条文上にその旨を明記する立法的な対応が必要であろうと考えます。

【茶園主査】ありがとうございます。

ほかに御意見等ございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

では、どうもありがとうございました。

最後に、資料1全体を通しまして御意見等がございましたらお願いいたします。

よろしいでしょうか。

それでは、議事(1)はこれで終了とさせていただきます。

では、続きまして、参考資料7につきまして事務局より報告があるということですので、お願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。ちょっと時間が限られておりますので、駆け足で御説明させていただきます。

令和5年度補正予算案のうち、AI関係の施策について御紹介いたします。参考資料7を御覧ください。

文化庁では、今年度から文化芸術活動に関する法律相談窓口を設けまして、文化芸術活動に関係して生じる様々な問題やトラブルなどに対して、専門的な知識・経験を有する弁護士がクリエイター等の相談に対応することとしております。

令和5年度に入りまして、インボイス制度の開始、フリーランス法の施行など、事業環境が大きく変わるタイミングにございますので、また、AIリスクに関する懸念の声も高まる一方で、AIを活用した創作活動が増えておりますので、クリエイター自身もAIリスクに十分留意することが必要な状況となっております。

このような状況を踏まえまして、令和5年度補正予算において、クリエイター等の活動基盤強化として相談窓口の体制強化を図ることとしました。

今後、補正予算案が成立した暁には、法律相談窓口においてAIリスクに関する相談にも対応しつつ、ポータルサイトの機能充実と情報発信の強化を図りたいと考えております。

資料の説明は以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ただいまの説明を踏まえまして、本件に関する御意見、御質問等がございましたらお願いいたします。

よろしいでしょうか。

その他、全体を通しまして何かございませんでしょうか。何かございましたらお願いいたします。

では、どうもありがとうございました。本日の議事はこれまでとさせていただきます。

本日、お時間の都合で御発言いただけなかった御意見等もあろうかと思います。そのような御意見につきましては、この後も、事務局までお寄せいただけましたら、議事録に御意見として残そうかと思っておりますので、よろしくお願いいたします。詳細につきましては事務局から御連絡させていただければと思っております。

では、その他、事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】本日はありがとうございました。次回の法制度小委員会は、先ほど資料としてお示ししたとおり、12月20日を予定しております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは、以上をもちまして、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第4回)を終了とさせていただきます。

本日は、活発な御議論、どうもありがとうございました。

―会議後追加でいただいたご意見―

【麻生委員】

1)学習・開発段階 イ について

情報解析の用に供する場合に享受目的が併存すると言えるのは、学習データ(学習させた他人の著作物)との関係では、専ら学習データの表現上の本質的な特徴を直接感得できる生成物を出力することを目的とする、というような場合に限るべきなのではないかと思います。 

というのも、学習データと類似する生成物が偶然出力される場合や、学習させた他人の著作物の表現をそのまま出力しないようにするためにあえて学習データがそのまま出力されるような状況を作り出し、そこから出力された生成物が複製等にあたらないように学習データを追加・削除等して出力を調整するということもあるかもしれません。こうした場合にまで享受目的が併存すると考えるのは躊躇を覚えますので、学習データとの関係で情報解析の用に供する場合に享受目的が併存すると言えるのは、専ら学習データの表現上の本質的な特徴を直接感得できる生成物を出力することを目的とする、というような場合に限るべきなのではないかと思います。

このように考えますと、学習・開発段階イ①は享受目的が併存していると言えるように思いますが、②は(ファインチューニングが専ら学習データの表現上の本質的な特徴を直接感得できる生成物を出力する目的ではないということであれば)享受目的が併存しているとは言えないのではないかと思います。

【中川委員】

1)学習・開発段階 キ について

基本的にはそのとおりと考える。そのうえで、AI が学習した著作物に類似・依拠した生成物が生成された場合は、生成行為が支分権対象行為(複製、公衆送信等)にあたるかが問われるほか、目的外使用として著作権法49条1項2号のみなし複製の対象ともなり得るものと考える。

2)生成・利用段階 ウ について

故意・過失の有無は事案ごとに適切に認定されることが望ましいと考える。なお、受けうる措置には損害賠償請求に加えて不当利得返還請求も考えられるところ、不当利得返還請求の場合は故意・過失の有無を問わず認められる可能性がある点には留意すべきと考える。

3)生成・利用段階 キ について

権利制限規定の適用の有無は、それらの行為の行為主体を誰ととらえるか(AI利用者か、AIサービス提供事業者か)とセットで検討する必要があると考える。すなわち、検討の順序としては、まず当該利用行為の主体が誰であるかを確定し、そのうえで権利制限規定の適用の可否を検討する必要があるのではないかと考える。

【羽賀委員】

1)全体を通して

どのような場合に、ここで議論される日本法による保護を受けられるのか、ということは、インターネットというボーダレスな環境で外国企業の展開するサービスも多い中、クリエイターやAI事業者及び利用者の方々の関心事かと思いますし、議論の前提としても必要だと考えます。日本法が適用されるのは、国内にサーバーがある場合や公衆送信が日本向けの場合、というのが基本的なご理解とのことでしたが、生成AIの学習・開発や生成・利用というそれぞれの段階においての、(生成AIのサーバーや利用者の所在、送信の態様等につき)想定あるいは現実の状況を整理する必要があると考えます。状況によっては、外国法の適用となる場合もあり得ますし、とりわけ差止と損害賠償とで請求を分けて準拠法を決定する現在の判例の立場では、より複雑な状況も想定されるためです。立法趣旨を意識しつつ規定を整備しても、日本法が適用されない状況となってしまいその理念を貫徹できなければいかにも残念ですので、この点の整理は重要ではないでしょうか。

【福井委員】

1)検討の前提について

従来の著作権法の基本的な考え方との整合性をはかることは当然ですが、例えば、そもそも何をもって表現の類似と考え何をもってアイデアの類似に過ぎないと考えるかは、現在の裁判例においても審級で判断が割れることからもわかるように、かなり時代性・文化性をもった価値判断を伴います。重要なのは、現在の技術やビジネスの進展の中で、一次創作の保護と新たな創造・利用の促進がバランスを保ち、豊かな文化が発展することであり、むしろその社会と共に変わる柔軟性こそが、著作権の守るべき基本的な考え方であるように思います。以下、その前提で意見を述べます。

2)学習・開発段階 イ について

学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うための著作物の複製等は、享受目的と見られる、ないし非享受目的であっても、権利者の利益を不当に害すると判断される可能性が高まるように思えます。

3)学習・開発段階 ウ について

RAGで検索結果の要約をおこなうことは享受目的と思え、後は47条の5の軽微性の要件を満たすかの判断が妥当するように思えます。

4)学習・開発段階 エ について

①は前述です。④は、海賊版などの権利侵害複製物を複製することは、ただし書への該当性を一般に高めると考えます。

5)学習・開発段階 ケ について

そうした意思表示が、特に機械可読な方法でされている場合に、その後でなお学習をおこなえば、ただし書への該当性は高まると考えます。特に営利目的での学習においてはその度合いは一層高まる、と考えます。

6)生成・利用段階 ア について

②の場合は、既存の著作物を学習に用いており、結果としてそれと類似した著作物を生成した以上、生成は偶然であるとは言い難く、依拠性は認められるように思えます。

7)生成・利用段階 カについて

生成指示のために著作物を入力する場合、法30条の4でいう情報解析など非享受目的とは考えにくいように思います。

8)生成・利用段階 ク について

著作権制度が一次創作の保護と新たな創造・利用の促進のバランスを保ち、豊かな文化が発展するためのものであるならば、利用者の行為が現実の一次創作者の市場や収益にどのような影響を与えるかが、侵害性・違法性の検討に影響を与えるのは当然であろうと思います。そのため、AI生成物があまりに大規模・高速に一次創作者に市場で大きなダメージを与えるような代替物を量産する場合、それが許されるべき類似性の議論に影響を与えることは当然想定されるべきと考えます。

9)生成・利用段階 コ について

前述です。

10)その他の論点について ウ について

対価還元には全く賛成ですが、それは何らかの制度で実現するのが唯一の道とは限らないと考えます。各種の技術や30条の4や侵害基準の解釈整理などを通じて、過度な一次創作者へのフリーライドを防止しつつ、市場において許諾に基づく学習と還元のビジネスモデルが成長するように誘導する選択肢も、あるように思います。

―― 了 ――

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