文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)

日時:令和5年12月20日(水)

10:00~12:00

場所:文部科学省東館3F1特別会議室

(オンライン併用)

議事

1開会

2議事

  • (1)AIと著作権について
  • (2)その他

3閉会

配布資料

資料
AIと著作権に関する考え方について(素案)(365KB)
参考資料1
第23期文化審議会著作権分科会法制度小委員会委員名簿(115KB)
参考資料2
生成AIに関するクリエイターや著作権者等の主な御意見(199KB)
参考資料3
法30条の4と法47条の5の適用例について(第4回法制度小委員会配布資料)(412KB)
参考資料4
論点整理―これまでの議論の振り返り―(案)(第4回AI時代の知的財産検討会配付資料)(7.7MB)
参考資料5
広島AIプロセス等における著作権関係の記載について(579KB)
参考資料6
文化審議会著作権分科会法制度小委員会 開催実績及び今後の進め方(予定)(123KB)

議事内容

【茶園主査】それでは、定刻になりましたので、ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)を開催いたします。

本日は御多忙の中、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。

本日は、委員の皆様には会議室とオンラインにてそれぞれ御出席いただいております。

オンラインにて御参加いただいている皆様におかれましては、ビデオをオンにしていただき、御発言されるとき以外はミュートに設定をお願いいたします。

議事に入る前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばないと思われますので、既に傍聴者の方にはインターネットを通じた生配信によって傍聴していただいているところですけれども、この点、特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。

では、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

それでは、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。配付資料は、議事次第のとおりでございます。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

これより、報道関係の関係者の方には、すみませんけれども、御退出いただきますようにお願いいたします。

(報道関係者退室)

【茶園主査】それでは、議事に入ります。

本日の議事は、議事次第のとおりとなります。早速、議事(1)「AIと著作権について」に入りたいと思います。前回の会議におきまして、AIと著作権に関する考え方(骨子案)に基づきまして御議論いただきましたけれども、そこでの議論の内容を踏まえまして、事務局にて各論点の考え方の素案をまとめていただきました。そこで、本日はその考え方の素案について御議論をお願いしたいと考えております。

この議事の進行に当たりましては、まず事務局から資料全体について説明をしていただき、その後に、(1)開発・学習段階について、及び(2)生成・利用段階について、それぞれ御議論いただきまして、最後に(3)生成物の著作物性と(4)その他の論点について、御議論いただきたいと考えております。なお、複数の段階や論点にまたがるような御意見は、適時、関連する箇所で御発言いただいてもちろん結構です。

それでは、まず事務局より説明をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。資料に基づき、説明させていただきます。前回のスケジュールの中で資料の名称に「(案)」とさせていただいておりましたが、こちら、この資料のステータスを踏まえまして、「(素案)」というふうに変更させていただいております。

では、内容の説明に移らせていただきます。前回御議論を踏まえまして、特段追記すべき意見がなかったところについては「(略)」として今回の説明では省かせていただきます。

1ポツは略として、2ポツ、「検討の前提として」というところですが、前回の御議論を踏まえまして、1個目の白丸の④ですが、日本の著作権法が適用される範囲についてもここで改めて確認することとしたいと考えております。

次の、3ポツ、「生成AIの技術的な背景について」、4ポツ、「関係者からの様々な懸念の声について」は、略とさせていただいて、5ポツの「各論点について」、詳細な説明に移らせていただければと思います。

(1)「学習・開発段階」ですが、まずア「検討の前提」の、(ア)「平成30年改正の趣旨」は、平成30年改正の趣旨としましては、イノベーション創出等の促進に資するものとして、著作物の市場に大きな影響を与えないものについて個々の許諾を不要にするといったことがあったことから、著作権者の利益を通常害しないと言える場合を対象として法30条の4というのが規定されました。

こういった趣旨を踏まえまして、法30条の4は解釈する必要があるとしております。

次、(イ)「議論の背景」については、法30条の4は、生成AIのみならず、新たな利用形態に柔軟に対応できる権利制限規定として設けられたものであり、生成AI以外のAIを開発する学習のための著作物の利用などの行為も権利制限の対象とするものである。

また、次のページに移りまして、こういったことを踏まえて再整理を行うに当たっては、著作物の新たな利用態様が不測の悪影響を受けないように留意し議論することが必要であるとしております。

次、イですが、イの(ア)については、説明を省略させていただきまして、(イ)「非享受目的と享受目的が併存する場合について」については、1個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法30条の4の規定を踏まえると、複数の目的のうちにひとつでも享受の目的が含まれていれば同条の要件を欠くこととなる。

そのため、ある利用行為が情報解析の用に供する場合などの非享受目的で行われる場合であっても、非享受目的と併存して享受目的があると評価される場合は、法30条の4は適用されない。

また、享受目的が併存すると評価される場合については具体的には以下のような場合が想定されるということで、1つ目が、意図的に、学習データをそのまま出力させるようなことを目的としたものを行うため、著作物の複製などを行う場合。

2つ目が、次のページに移りまして、AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースなどのデータの全部または一部を出力させることを目的として著作物の複製などを行う場合としております。

これに対しまして、学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行う場合などに関しては、具体的事案に応じて学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。

また近時は、特定のクリエイターの著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、いわゆる作風を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されており、こういった当該クリエイターのいわゆる作風を共通して有しているにとどまらず、表現のレベルにおいても共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

なお、生成・利用段階において類似した生成物が生成される事例があったとしても、法30条の4の適用は、これをもって直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上で一要素となり得ると考えられるとしております。

次のウ、「検索拡張生成等について」については、生成AIによって著作物を含む対象データの要約などを行って回答を生成するものについては、開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とは言えず、法30条の4は適用されないと考えられるとしております。

一方、RAG等に既存の著作物を利用することについては、法47条の5の適用があることが考えられるが、法47条の5に基づく利用は軽微利用に限って認められることに留意する必要がある。

この軽微利用の程度を超えて利用する場合は、法47条の5は適用されずに、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられるとしております。

次に、エの「著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について」の、(ア)、法30条の4のただし書の解釈に関する考え方ですが、ただし書に該当する場合は、同条が適用されないこととされている。

こちらの該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討することが必要と考えられるとしております。

次の(イ)は、「アイデア等が類似するものにとどまるものが大量に生成されることについて」は、ただし書において、「当該著作物の」と規定されているように、該当するか否かは利用される当該著作物について判断されるものと考えられる。

アイデアなどが類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とならない。また、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ちに市場において競合する関係とはならないと考えられる。

そのため、著作権法が保護する利益でないアイデアなどが類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。

この点に関しては、先ほどイ(イ)で述べたとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきであるとしております。

次の(ウ)、「情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について」は、ただし書に該当すると考えられる例としては、過去お示ししている「基本的な考え方」において、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」が既に示されている。

情報解析に活用できるデータベースの著作物としては、DVD等の記録媒体に記録して提供されるもののみならず、インターネット上でファイルのダウンロードや、データの取得を可能とするAPIなどにより、オンラインでデータが提供されているものも含まれ得ると考えられる。

データベースの著作権は、データベースの全体ではなく、その一部分のみが利用される場合であっても、当該一部分でも著作物としての価値が認められる部分が利用されれば、その部分についても及ぶとされている。

次のページに移りまして、これを踏まえますと、例えばインターネット上で、データベースの著作物から情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されている場合において、当該APIを有償で利用することなく、当該データベースに含まれる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、法30条の4ただし書に該当し、同条の対象とはならないと考えられるとしております。

次の(エ)「学習のための複製等を防止する技術的措置を回避した複製について」は、AI学習のための著作物の複製などを防止する技術的な措置、例えばウェブサイト内のファイルrobots.txtの記述によってアクセスを制限する措置などこうした措置を取ることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。

このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある。

そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製などは、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられるとしております。

次のページに移りまして、次の(オ)「海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のために複製することについて」は、インターネット上のデータが海賊版などの権利侵害複製物であるか否かは、著作権者でなければ判断は難しく、学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画などを多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、個人のユーザーが投稿する際に、引用などの権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。

このため、AI学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版などの複製物が含まれている場合もあり得る。

他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備など、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。

AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。

また、後で述べる(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、事業者も侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る。海賊版などの権利侵害複製物であるということを知りながら学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられるとしております。

次の論点の、オ「AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について」は、次のページに移りますが、法30条の4が適用されず、ほかの権利制限規定も適用されない場合、権利者からの許諾を得られない限り、AI学習のための複製は著作権侵害となる。

この場合、受け得る措置としては、損害賠償請求、侵害行為の差止請求、将来の侵害行為の予防措置の請求、刑事罰などが著作権法で規定されている。

次の論点のカ「AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について」の、(ア)「将来のAI学習に用いられる学習データセットからの除去の請求について」は、著作権侵害が生じた際は、複製を行った者に対し、侵害行為の差止請求及び将来の侵害行為の予防措置の請求が考えられる。

著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来においてAI学習に用いられることに伴って、複製などの侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いと言える場合は、当該AI学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去が、将来の侵害行為の予防措置の請求として認められ得ると考えられるとしております。

次の(イ)「学習済みモデルの廃棄請求について」は、著作権法第112条第2項で廃棄請求が規定されている。ただ、学習済みモデルは、学習に用いられた著作物の複製物とは言えず、また、著作物と類似しないものを生成することが考えられることから、廃棄請求は、通常、認められないものと考えられる。

他方で、次のページに移りまして、法的には当該学習済モデルが学習データである著作物の複製物であると評価される場合も考えられ、このような場合は、学習済モデルの廃棄請求が認められる場合もあり得るとしております。

次の論点は、その他の論点になりまして、キ「AI学習における、法30条の4に規定する「必要と認められる限度」について」は、法30条の4では、「必要と認められる限度において」といえることが要件とされている。この点に関してAI学習のために複製などを行う著作物の量が大量であることをもって「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられるとしております。

次の論点のク「AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について」は、著作権法上の権利制限規定は、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。このような立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。

また、AI学習のための学習データの収集は機械的に行われることが多いことから、機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、意思表示があることのみをもって、ただし書に該当するとは考えられないとしております。

他方で、AI学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。また、先ほど述べた、上記エ(エ)のとおり、技術的な措置を回避して行うAI学習のための複製等は、法30条の4ただし書に該当する場合もあると考えられるとしております。

次の論点、ケですが、「法30条の4以外の権利制限規定の適用について」は、こちらは幾つかの権利制限の適用が考えられるということで、例えばということで、具体的には、私的使用目的の複製、学校その他の教育機関による複製などが考えられる。

私的使用の目的の複製については、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する目的で行う場合、適法に行うことができると考えられる。

一方で、それぞれの権利制限規定において、権利者の許諾を得ることなく可能とされている行為が異なることには留意する必要であるしております。

開発・学習段階については以上となりまして、次に、生成・利用段階における考え方の素案を述べさせていただきます。

まずア「検討の前提」は、2つ目の丸からになりますが、従前の裁判例では、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に著作権侵害となるとされている。現在、生成AIを利用した創作活動においては、AI利用者が知り得なかった著作物を含む大量のデータを用いている生成AIを利用する場合もあり、AI利用者が認識し得ない著作物に基づいたものを生成する可能性もある。

このように、人間がAIを使わずに行う創作活動と異なる点も踏まえ、著作権侵害について、考え方などについて整理する必要があるとしております。

次の論点イ「著作権侵害の有無の考え方について」は、類似性と依拠性の両者が認められる際に著作権侵害になるとされており、これらが認められる場合については、以下のように考えられる。としており、(ア)「類似性の考え方について」は、AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられるとしております。

次、(イ)「依拠性の考え方について」は、依拠性の判断については、従来の裁判例では、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどにより、その有無が判断されてきた。また、既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

生成AIの場合、著作物を生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定される、従来の依拠性の判断に影響し得ると考えられるとしております。

また依拠性が認められるのはどのような場合か整理すると、①「AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合」は、AIを利用した場合であっても、利用者が既存の著作物を認識しているのであれば、依拠性が認められると考えられる。

この点に関し、従来の裁判例においては、既存著作物へのアクセス可能性、すなわち接する機会があったことや、類似性の程度の高さなどの間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。

このような裁判例を踏まえると、生成AIが利用された場合であっても、権利者としては、アクセス可能性や、高度な類似性があることなどを立証すれば、依拠性があると推認されることとなるとしております。

次の②「AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合」は、AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、著作物をAIの開発の際に学習に用いていなかった場合は、著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致にすぎないものとして著作権侵害は成立しないと考えられまる。一方、次のページに移りますが、生成AIの開発・学習段階で著作物を学習していた場合には、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、依拠性があったと認められ、類似した生成物が生成された場合は、著作権侵害になると考えられる。

ただし、学習に用いられた著作物が、生成されないような技術的な措置が講じられているといえることなど、そのまま生成する状態になっていないといえる場合には、AI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。

なお、事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要であるとしております。

次の論点ウ「依拠性に関するAI利用者の反証と学習データについて」は、生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成AIの開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えられることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、既存著作物が学習データに含まれていないことを反証する必要があるとしております。

次の論点、エ「侵害に対する措置について」は、著作権侵害が認められた場合には、差止請求、損害賠償請求、刑事罰が考えられる。また、それは、故意及び過失の有無によって変わり得る。

そのうえで、侵害に対する措置として、考えられるものとしては、AI利用者が侵害の行為に係る著作物を認識していなかった場合は、著作権侵害についての故意または過失が認められず、侵害が認められたとしても、受け得る措置は、差止請求にとどまると考えられる。

もっとも、AI利用者が侵害の行為に係る著作物などを認識していなかった場合でも、不当利得返還請求として、不当利得の返還が認められることがあり得ると考えられるとしております。

オ「利用行為が行われた場面ごとの判断について」は、生成と利用の場面それぞれで故意または過失の有無について判断は異なりうると考えられる。また、生成の段階で権利制限規定の範囲内で行われた行為であっても、利用時には、その範囲を超え、侵害となる場合があるために留意が必要であるとしております。

次の論点カ「差止請求として取り得る措置について」は、著作権侵害があった場合、権利者は、著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び既に生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられ、生成物の廃棄の請求も可能と考えられる。

また、事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、生成AIの開発に用いられたデータセットがその後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、データセットから当該侵害の行為に係る著作物の廃棄を請求することは可能と考えられるとしております。

ちょっと飛ばさせていただきまして、次の論点ですが、キ「侵害行為の責任主体について」は、従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある。

そこで、AI生成物が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においても、次のページですが、物理的な行為主体であるAI利用者のみならず、開発や、サービス提供事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。

具体的には、①侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。また、②類似物が生成される可能性を認識しているにもかかわらず、類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

一方で、③そういった技術的な手段を施している場合、侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられるとしております。

ちょっと④は飛ばさせていただきまして、次の論点ですか、ク「生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」は、著作物の入力に伴う著作物の複製については、法30条の4の適用が考えられるが、入力に用いた著作物と類似する生成物を生成させる目的で入力する行為は、法30条の4は適用されないと考えられるとしております。

次のケ「権利制限規定の適用について」は、生成・利用段階において既存の著作物を利用することがあり得、権利制限規定が適用され、権利者の許諾なく行うことができる場合があると考えられる。その場合、生成段階と利用段階の利用行為それぞれについて、権利制限規定の適用を検討する必要があり、一方で、権利制限規定が適用される場合でも、他方では適用の範囲外となる場合も想定される。そのため、それぞれの利用行為について、権利制限規定の適用の有無を検討することが必要であるとしております。

次の論点コ「学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」は、侵害の有無の判断に当たって必要な要件である依拠性の有無については、先ほど述べたように、著作物を学習していた場合には依拠性が認められると考えるこのような立証のため、事業者に対し、著作権法や民訴法上の規定等に基づいて、開発・学習段階で用いたデータの開示を求めることができる場合もあるが、これも先ほど述べましたが、依拠性の立証においては、データの開示を求めるまでもなく、高度の類似性があることなどで認められ得るとしております。

次に(3)「生成物の著作物について」ですが、最初の論点、ア「整理することの意義・実益について」は、生成AIを活用したビジネスモデルの検討に影響を与え得ることから、その意義や実益はあると考える。

生成AIを利用し作成されたものであることを示すウォーターマークが付されていることや、作品の一部について著作物性が否定される要素があったとしても、作品全体の著作物性の有無についての考え方に影響するわけではないことに留意が必要であるとしております。

次の論点イ「生成AIに対する指示の具体性と生成物の著作物性との関係について」は、次のページに移りまして、従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、生成物に著作物性は認められないと考えられる。

また、著作物性は、創作的寄与があると言えるものがどの程度積み重なっているかなどを総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例えとして、1から4に示すような要素があると考えられるとしております。

次の論点ウ「著作物性がないものに対する保護」は、判例上、その複製や利用が民法上の不法行為が認められ得ると考えられるとしております。

次の(4)「その他の論点について」は、1つ目は学習に用いられたデータの除去については、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要があるとしております。

次ですが、著作権者等の対価還元という観点からは、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられるとしております。

他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられるとしております。

最後の論点については、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為は、詐欺行為として民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられるとしております。

ちょっと長くなりましたが、資料の説明は以上となります。

【茶園主査】どうもありがとうございました。それでは、ただいまの説明を踏まえまして、議論の時間に入りたいと思います。まず、(1)開発・学習段階について御意見等がございましたらお願いいたします。

では、上野委員。

【上野委員】ありがとうございます。2ページ以下の中身に入る前に発言させていただければと思います。まずは事務局の御苦労に感謝申し上げたいと思います。限られた時間で大変に難しいかじ取りをなさっていると承知しております。

ただ、この素案は、前回の骨子案と比較しますと、当然ではありますけれども、非常に大部のものとなっております。また、事務局の御提案なのだろうと思いますけれども、内容的にかなり踏み込んだ部分が散見されるところであります。しかし、議論の時間というのは今日を含めて二、三回ということになっておりますので、これだけの内容をその限られた時間で議論することは容易ではないようにと思います。

もちろん時間の制約のために会合の中で十分に発言できなかった委員からは、会合とは別の場で個別に事務局が意見を聴取して文書に盛り込むということを既に行っていただいておりますし、その手間を考えますと、これも大変御苦労なことだと思うんですけれども、その場合ちょっと気がかりなのは、公開の場で行われたものではなく言わば水面下でなされたインプットであるために、どの委員がどのような御意見を表明されたのか、そもそもある意見が委員から出されたものかどうか、我々委員の中でも必ずしも共有されず、まして国民の目から見ますと議論の様子が十分見えないということになるのではないかと思います。

本日の文書でも本文で示されている見解とは別に脚注で「……という意見もあった」という記述がありますけれども、今後こういう文書をまとめるに際しましては、どの意見が優勢で、どの意見が少数であったのかということについて、我々が判断する材料が必要であるかと思います。

つきましては、もしこれからも時間の関係で会合外での意見聴取が行われるようでしたら、そのような会合外での各委員の個別の意見につきましても、会合中の発言と同様に、その概要を透明化して、少なくとも委員間では共有できるように工夫できないか、御検討いただくことをお願いしたいと思います。

実際のところ、こうした審議会のような場では、発言者名を付した意見の概要文書が作成され、それを少なくとも委員の間では共有するということはよくあるように思います。もちろん事務局には大変な御負担かと思いますけれども、今後この「考え方」という文書がこの小委員会全体の意見として公開されるのであれば、それがあくまで委員の意見を反映したものになるように引き続き丁寧な御対応をお願いしたいと存じます。

このことは審議会というものの在り方に関する重要な問題であると私は思いますので、大変僣越ではございますが冒頭に指摘させていただきました。

もう一つ、1ページ目の下から3行目に「前提として確認する」ものとして「権利制限規定は技術的対応による学習回避を否定するものではないこと」という1文があるわけですけれども、この「否定する」の意味がいささか多義的でありますために、その趣旨が必ずしも明らかでないように思います。このままの記述ですと、技術的対応による学習回避をすれば権利制限規定は適用されないという趣旨にも聞こえかねないわけですけれども、もしそうであるとすると、これは大いに議論があるところです。

そうではなくて、この箇所は、7ページ目のところにある次のような記述、つまり、「AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置……をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である」というだけにすぎないのであれば、わざわざそのことを書く必要があるのかどうか分かりませんけれども、現状のような多義的な表現ではなく、例えば「AI学習のための著作物利用を防止する技術的措置をとることは自由」だとでも書くほうが誤解を招かないのではないかと思います。

このことは、この素案において「検討の前提」として「確認することとする」べきとされている箇所でありますので、指摘させていただいた次第でございます。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。何か事務局からございますか。

【籾井著作権課長】事務局より失礼いたします。まず、上野先生から御指摘いただいた前段の部分でございますけれども、前回の会議終了後に十分に御意見、この会議の場で御発言いただけなかった委員の皆様からは御意見を集めさせていただいておりまして、その御意見につきましては、ホームページで掲載をしている議事録のほうにもお名前入りで載せさせていただいております。

そういった形で、我々といたしましても、透明性というのは一定程度確保しているつもりではございますけれども、ちょっとその辺りの情報提供が不十分であったとすれば、その点についてはおわびをいたします。

そして、この素案はいろんな御意見を頂戴しながら事務局のほうで作成をしたものでございますので、決して今日お示ししたものが最終結論ということでお示ししたわけではございませんので、当然この場で御議論いただいたものがまた反映をされていくという趣旨のものと御理解をいただければと思っております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

【茶園主査】2つ目の御意見については、否定するというのが少々きつ過ぎるといいますか、場合によってはミスリーディングということでしたので、ちょっと御検討いただければと思います。

他にございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】上野委員もおっしゃられたとおりで、短時間でこれだけ詳細なものをおまとめいただき、本当にありがとうございます。

この問題、社会の関心も非常に高いところではありますので、こういった詳細なまとめが社会に示されること自体はすごく良いことですので、先ほどの上野委員の御指摘も踏まえて適切な形で今後まとめに進められれば良いかと思います。

それとは別に、なかなかこの長い文章を社会の方々に読んでいただくというのは難しいとも思いますので、まとめができた後に何か分かりやすい形で社会に周知していくということも別途検討が必要だろうなと思っております。

中身に関して、3ページ目以降で情報解析の用に供する場合と享受目的が併存する場合の取扱いについて記載されており、これは前回の意見をまとめていただいたもので、私としては特に内容に異存ありません。学習段階についてはどのような場合でも適法という誤解が生じているようにも思いますが、学習したものの創作的表現をそのまま出力させることを目的としたAI学習については、学習段階から著作権侵害になり得ることがここで示されており、開発者側がそのような学習はしてはならないという社会に対するメッセージにもつながるということで非常に重要だと思っております。

続いて、5ページ目の検索拡張生成に関連して、47条の5に言及されている箇所についてです。享受目的で学習した場合も47条の5の適用はあるんじゃないかという議論があるわけですが、47条の5第1項の要件のうち、軽微性についてのみ言及いただいています。もっとも、47条の5第1項には、軽微性のほかに重要な要件として、各号の行為に付随してという付随性の要件もあります。立法趣旨としましては、付随性の要件も存在することで、コンテンツ提供サービスになるような利用はできないことになっています。ここは諸説あるかもしれませんが、例えば画像を生成するAIで学習データに入っていた画像が軽微な形であっても生成された画像に含まれるようなケースについては、処理結果として生まれる画像の中に既存の著作物が含まれているということで、私としてはこういったものは付随性を満たさないと考えております。そういったところで付随性の要件も非常に重要だと思いますので、47条の5第1項について言及される際に、付随性の要件もあることやそもそも47条の5第1項の趣旨としてはコンテンツ提供サービスを許すものではないということも併せて言及いただけると誤解を招かないのかなと思っております。

ひとまず以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかにございますでしょうか。

福井委員、お願いいたします。

【福井委員】福井でございます。本日はちょっと遠隔から参加しておりまして、声聞こえますでしょうか。

【茶園主査】大丈夫です。

【福井委員】では、私からも、まずは事務局のこの間のおまとめの御努力、大変御苦労さまでしたと申し上げたいと思います。その上で、上野委員のおっしゃったことに賛成します。今後も、これは非常に重要な問題ですので、我々はファクトに基づいて十分な議論を続けていくべきですし、その過程においては、議論の透明性、どういう意見が多数であったか、こういうことも分かりやすく示していくことは大事だろうと思います。

同時に、取りまとめというものは、社会をいつまでもお待たせするものではないので、早期に出すべきですが、それはまた永遠のベータ版であり、不断の見直しを続けるということが重要であろうと思います。

また、澤田委員の、これはやっぱりかなり大部ですから、分かりやすいまとめを出していこうという御意見にも賛成です。

個別の問題ですけれども、まず5ページ、検索拡張生成、RAGですね、その他生成によって著作物を検索して、そして、その結果の要約を行って回答を生成するAIの開発のために行う著作物の複製と。これはそういうAIの開発のための複製自体が非享受目的の利用行為とは言えない。よって、言ってみれば違法であるというまとめがされておりまして、ここが少し引っかかりました。これが本当にそういう目的に特化したAIの開発であれば、そうしたお考えもあると思います。

他方で、これ、AI自体は言ってみてみれば文章の要約を行っているわけですよね。AI部分に関していえば。検索されたいろんな情報をAI部分が単に要約している。とすると、そういう目的にも利用できる要約能力を備えたAIの開発が広く違法となるようでは、これは大変な負の影響を社会に及ぼしかねないので、そのような解釈がされないような留意が必要かなと考えました。

それから、その次の47条の5に関わるところ、澤田委員からも言及がありまして、私もこの指摘を行った1人であろうと思うんですけれども、実は私自身は47条の5で検索拡張生成について言及したときには、むしろ所在検索サービスの一環として要約結果が表示されているととらえまして、そこにおける軽微性とか、あるいは要約自体可能なのかなという論点で提示したつもりでおりました。今、解析という観点から47条の5を考えるのかという視点を頂き、多分両方あると思うんですけれども、そのことをもうちょっと議論として深めてもいいのかなと感じたものですから、私自身、もうちょっと考えてみますということも含めて申し上げます。

そのほか、学習に関する現在のおまとめは、おおむね賛同できる点が多々ありますが、1点、最後に、8ページの海賊版などからの学習について、これは要するに30条の4の権利者の利益を不当に害する場合には当たらない。でも、そういうことは厳に慎むべきですねという記載だと理解したのですね。厳に慎むべきで止まるでしょうか。私はこれでは海賊版からの学習は全く止められないのではないかと思います。海賊版であるかどうかの判断が一般に難しいというのであるなら、海賊版であることを知りながらあえて学習を行う場合、これに対象を絞るのでもいいと思うんですね。その場合は、海賊版サイトの経済効用をAI学習を通じて高めてしまっており、しかも、他の箇所で重視されているrobots.txtを記載する機会すら権利者側は奪われているわけですよね。やはり知りながら、海賊版であることを知りながら行うAI学習のための複製は権利者の利益を不当に害するのではないかなと私自身は感じたところでした。

長くなりました。以上です。

【茶園主査】では、事務局からお願いします。

【籾井著作権課長】中身の話ではないのですけれども、冒頭もう少ししっかり御説明しておくべきだったと思うところがございます。今回素案ということでお示しをさせていただいておりますが、これはなぜ素案というふうにしたかと申しますと、国際的ないろんな議論もまだまだ動いておりますし、それから技術の部分でもまだまだ日々いろんなことが変わっている状況の中で、あくまでも現時点での考え方を整理するということでございまして、先ほど福井委員からも御指摘ございましたように、今後また周囲のいろんな状況が変わっていけば、当然引き続き検討していくという前提で素案とさせていただいております。今議論をしていただいておりますものが未来永劫これで固まっていくという趣旨ではございませんので、その前提で本日も御議論いただけたらと思います。

以上となります。

【茶園主査】どうもありがとうございました。今、福井委員からは検索拡張生成なり、海賊版のことについて御意見いただきましたけども、この点についてでも結構ですし、ほかの点についても、御意見等ございますでしょうか。

では、中川委員、お願いいたします。

【中川委員】ありがとうございます。私も、このテーマは非常に社会の関心を集めていますので、報告書ではできるだけ明確で、疑義の残らない表現にすることも重要と考えております。その観点からのコメントでございます。

注目を集めている論点の1つに、いわゆる作風やアイデアが共通する場合に30条の4のただし書の対象になるのかという論点があるかと思います。

今回いただいた素案で言いますと、5ページの下から2行目から始まる項目だと思います。そこに関して、今回まとめていただいたものを拝見いたしますと、6ページの白丸の2つ目、「そのため」で始まる項目になりますが、そこを読み上げさせていただきますと、「そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しないと考えられる」と。こういった表現を御提案いただいております。

この論点に関しては、幾つか考え方があると思っております。1つの考え方としては、作風や画風というものはそもそも著作権の保護対象ではない以上、それと類似するものが大量に生成された結果、市場で競合して、現実に市場が圧迫されたとしても、不当に害することにはならないという考え方があり得るところかと思います。しかし、今回の案はそういう考え方ではなく、そういう懸念が抽象的なものにとどまる限りは不当に害する場合には当たらないとおっしゃっているという理解になるのでしょうか。その点について、ここではあえて余白を残す形で表現されているのか、それともそうではないのか、そこが読んでいて気になったところです。おそらくAIの開発者にとっても、今後事業を行うときに、具体的なおそれを生じないようにしなければいけないのか、そこに対する配慮が必要なのかという点で、おそらくこのフレーズは関心を集める可能性があるのではないかと思いましたので、コメントさせていただきました。

ひとまずは以上でございます。

【茶園主査】よろしいですか。

では、事務局からお願いします。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。今、中川委員から御指摘いただきました点、6ページ目の2つ目の白丸の記載でございますけれども、こちら、記載しております趣旨といたしましては、まずアイデア等につきましては、基本的に著作権法の保護対象ではないというところが主眼でございまして、そういったところについて何らか利益を害されるということがあっても、これは著作権法上では、直ちに著作権者の利益を不当に害することとなるものではない、というような趣旨で記載しておりまして、抽象的なおそれという記載は、副次的といいますか、主題ではないというところでございます。

以上でございます。

【茶園主査】よろしいでしょうか。

【中川委員】ありがとうございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、早稲田委員、お願いします。

【早稲田委員】ありがとうございます。まず本当にこれをまとめていただいた事務局の御苦労について、本当に感謝申し上げます。

1ページに書いてありますように、今回のAIと著作権の問題については、やはり既存の著作権法の考え方と著しく反するというのは、なかなか立法論ではなくて解釈論の現段階では難しいと思っております。そうしますと、30条の4にしろ、先ほどの47条の5にしろ、既存の著作権法の考え方とどういうふうに一致させていくか、ないしは30条の4、47条の5をつくったときはどういうふうな考え方であって、現在の技術はどうかというようなことを考えるべきだと思いますし、最終的には裁判所が、それぞれのものに侵害に当たるか、適用されるかということを判断されるんだということになると思います。

そういう意味では、先ほどたまたま中川委員が作風のところを御指摘いただきましたけれども、これについては私は、事務局の御回答のとおり、確かに生成AIが物すごい勢いで物すごい作品数を輩出すると、これはもう間違いないんですけれども、それだけで著作権法によってそれを規制するというのはなかなか難しいんじゃないかと思っておりますので、事務局のお考えでここは正しいんじゃないかなと思っております。

それ以外のところの点でちょっと申し上げますと、著作権者の今後解釈として問題になっていくのが、30条の4のただし書というところだと思います。これは非常にバスケット条項みたいなところで、どういう行為が著作権者の利益を不当に害することになるかというのは全く書いてない条文でございますので、これをどういうふうに解釈していくかということで今いろんな議論をしているところであると思っております。

それで、7ページの技術的な措置を介した複製について、これがまた、非常に難しいところであるかなと思っておりまして、単純に技術的な措置が講じられたからといって30条の4に適用しないと言えるかどうかという問題はあると思っておりまして、ここについては、技術的な措置でrobots.txtのようにAI学習を排斥するような措置があっただけではなかなか不当に害するというのは言えないのかなと思っておりますので、7ページの下から2つ目のポツに書いてあるように、当該データベース、この技術的措置をした方がデータベースをつくろうとしていて、ないしはデータをライセンスをしようとしていて、それがどういう形で不当に害するかどうかというところは具体的なケースで考えていくのかなと思っております。

以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】ありがとうございます。今まで御議論がありました点につきまして、私からも3点コメントさせていただきます。

まずは非享受目的とか併存という3ページから5ページ目の辺りにつきましては、確かにある生成AIによる学習が、学習元著作物の創作的表現を出力することを明確に意図していたという場合、これは非享受のみを目的としたとは言えませんので、30条の4の適用を受けないという解釈については大きな異論がないかと思われますので、そのようにまとめること自体には私も異存ございません。

ただ、そこではあくまで「創作的表現」を出力する意図かどうかというのが決め手になるわけなんですけれども、現在の文書では、例えば3ページ目には、「学習データをそのまま出力されることを目的とした」とか、あるいは4ページ目にも、「データの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として」とか、「著作物の一部を出力させることを目的とした」といったように、「創作的表現」という言葉が必ずしも使われていない箇所が幾つかあります。使われているところもあるんですけど、抜けている箇所が見られるように思います。

そのように「創作的表現」ということを明示せず、「データの一部」という表現にしてしまいますと、事実やアイデアといった著作物性を有しない部分、すなわち「創作的表現」でない部分も、ここにいう「データの一部」に含まれると誤解され、その結果、そうした学習元著作物の「創作的表現」ではない部分を出力させることを目的としたAI学習も享受目的併存型に当たるという解釈の余地を残すものになりかねないように思います。

そこで、これらの表現は、例えば、「学習データの創作的表現をそのまま出力させることを目的とした」といったように、「創作的表現」という文言をその都度入れることを提案いたします。

同じことはRAGのところにも当てはまりまして、「生成に際して既存の著作物の一部を出力するものである」という記述が5ページにありますけれども、これも「創作的表現」という文言を入れることが必要だと思います。また、RAGというのは常に著作物の創作的表現を出力するかというと、そうではなく、単に既存の著作物の事実だけを出力するに過ぎない場合もあるかと思いますので、ここは例えば、「生成に際して既存の著作物の創作的表現を一部出力することがある」というくらいの記述にするほうがいいのかなと思いました。

2点目は、ただし書と解析用のデータベースに関してでございます。確かに令和元年の文化庁の「基本的な考え方」におきましても、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合」というのが、30条の4柱書ただし書に当たる例として掲げられておりまして、これは平成30年改正前の47条の7ただし書にいう「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」に相当するものと考えられます。

また、前回の会合でも、オンラインで提供されているデータベースが直ちに現行法30条4柱書ただし書に当たるものではないと私も発言いたしましたけれども、大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で「整理」したデータベースや、改正前の情報解析を行う用に供するために「作成」されたデータベースの著作物に当たるためには、当該データベースの著作物それ自体が、効率的な情報解析のために整理ないし作成されたものに当たる必要がありますので、例えば、通常の読者向けに提供されている論文データベースとか記事データベースは、そのままではこれに当たらないと思います。

そうである以上、これに加えて、情報解析を行う者向けのライセンスを提供しているといたしましても、そのデータベース著作物それ自体が情報解析を行う者の用に供するために作成されたり整理されたりしたものではない以上、30条の4柱書ただし書に当たるものではないと解されます。

同様にAPIを提供するというのも、それが単に記事や論文のデータベースにアクセスできるAPIと特段変わらないものであれば、「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」に相当するものとは言えず、たとえ、これに加えて情報解析を行う者にライセンスを提供しているといたしましても、それだけで30条の4柱書ただし書に当たるわけではないと考えます。

このように記事や論文のデータベースの提供あるいはAPIの提供があって、かつ、情報解析を行う人向けのライセンス提供があるといたしましても、それが「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」であるとか、あるいは「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」に相当するものとして30条の4柱書ただし書に当たるかどうかは、多分にケース・バイ・ケースと言うべきであります。

しかし、この文書では、脚注3において、「学術論文の出版社が論文データについてテキスト・データマイニング用ライセンス及びAPIを提供している事例や、新聞社が記事データについて同様のライセンス及びAPIを提供している事例等」というものが挙がっておりまして、その脚注3が、本文の「法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる」という箇所に付けられているために、脚注3に挙がっている記事や論文のデータベースAPIという具体的な事例が、既に現行法30条の4柱書ただし書に該当する具体例として、いわば認定されたかのような記述になっているように思います。

ただ、先ほど述べましたように、「テキスト・データマイニング用ライセンス及びAPIを提供している」としても、そのAPIが30条の4柱書ただし書きに当たるかどうかというのは当該APIの具体的内容に依存すると考えられます。そもそもこうした文章においては、現実に存在する具体的なビジネス事例について、その結論について断言するかのような表現をするのはふさわしくないのではないかと思います。

実際のところ、権利制限規定におけるただし書というのは、先ほど早稲田委員からも御指摘がありましたように、権利制限の要件を満たす場合において、例外的に諸事情の考慮によってこれを覆す一般条項でありまして、実際のところ、過去の裁判例において恐らく一度も適用された例がありません。この文書に反映されているか分かりませんけれども、前回の会合でも、30条の4柱書ただし書に当たる例はむしろ非常に限られるという発言が多かったように思います。

したがいまして、こうした文章では、現実に存在する具体的事例については、その存在を紹介するにいたしましても、ここで法解釈の判断を示すことはできるだけ避け、一般論に示すにとどめるのが望ましいのではないかと思います。同じようなことは、書きぶりは若干異なるのですけど、脚注4についても言えるかと思います。

最後に、robots.txtについて議論がありましたので、これについても発言したいと思います。robots.txtによる措置は、ウェブサイトに掲載する著作物を他人に学習されたくないから実施しているというものでありまして、集合体としての「解析用データベース」といったものとは関係なく、著作物を個別に情報解析することについて「ライセンス」するために行っている例も考えられるように思います。だといたしますと、そのような措置が、ここで書かれているように、「あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場と競合を生じさせないために講じられている」と言える場合が現実にどれほどあるのか、という点について私は疑問が残るところであります。

確かに脚注7にある例というのは、権利者がrobots.txtによるアクセス拒否措置をしていて、「テキスト・データマイニング用ライセンス及びAPI」の提供をともに行っている例であるとは言えるのかもしれないのですけれども、別に、権利者がrobots.txtによるアクセス拒否措置を施していなくても、利用者としては、やはり過去のバックナンバーを含めて大量の著作物を収集して情報解析するということを容易にできるわけではありません。したがって、たとえ権利者がrobots.txtによるアクセス拒否措置を施しておらず、サイト上の著作物を妨げなく情報解析できるといたしましても、もし権利者が「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」を提供しているというのであれば、契約を締結してそれを利用するメリットは十分にあるように思います。

そうである以上、脚注7で紹介されている実例を含めまして、現実に行われているrobots.txtによるアクセス拒否措置というものが、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」の「販売市場との競合を生じさせないために講じられているもの」と評価できる場合が実際どれほどあるのかというのは、事実認識として私には確信が持てないところであります。

もちろんそのような「例がある」と言われれば、それは確かにあるのかもしれませんけれども、そのような「例がある」ことが、次の段落の理由ないし根拠になっているように読めるだけに、ここは慎重な検討を要するのではないかと考える次第でございます。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では、島並委員、お願いいたします。

【島並委員】ありがとうございます。まず、冒頭、様々な委員から意見が出ているこの文書の性質に係る問題ですけれども、最終的に通例見られるような報告書にとどまるのか、あるいは、さらに一歩踏み込んでガイドラインのような形を示すことを意図されているのかによって、この文書の書かれ方は大分変わってくるものと思います。いずれにしても、丁寧な意見聴取をいただいて、誰の意見であるのか少なくとも議事録等で分かるような形での公表が望ましいと私自身も考えております。

それから、内容についてですけれども、これも先ほど来上野先生ほかから出ている御意見の延長になるんですが、7ページに書かれております技術的な措置の問題、それから10ページに出ております意思表示の問題、これら2つは少し離れたところに記載されておりますけれども、大きな意味では権利制限規定に対する意思や技術に基づくオーバーライドの問題という、難しい論点のそれぞれあらわれであろうと認識しております。

そして、その意思と技術の両者は、はっきりと2つが両端で分かれるのではなくて、技術的な措置を施して著作物の利用を阻むのは著作物の利用を許さないという意思の非常に強いあらわれでもあるということですから、それらは連続したグラデーションの問題だろうと思うのです。

したがって、10ページのところで、意思を表示しただけでは駄目、つまり著作物の利用は自由だが、他方で7ページのところで、技術的な措置を施しておければ、通常はただし書に該当する、つまり著作権侵害が成立しうるという書かれ方がされているのですけれども、それはそのような形で意思と技術がきれいに分かれるものではなくて、その他の諸事情とも総合的に考慮した上で、判断されるべきだと思います。

もちろんこの素案、丁寧に読むと、非常に事務方の皆様の御苦労がにじみ出るところがございまして、例えば7ページですと、「こういう場合は」とか、あるいは「推認される」といった言葉が使われておりますし、「限定」、あるいは「通常」という言葉もそうですけど、常にこうなるんだということを示されているわけではなくて、一定の条件の下ではそういうことが多いだろうという書きっぷりになっているので、正確に読めば理解はできるところですけれども、常にこうなるわけではないということは、特に一般社会に向けては丁寧なメッセージが必要かなという気がいたします。

それから、続いて第2の点ですけれども、福井委員から御指摘のあった海賊版の問題です。私も心情としては、海賊版に対する規制が、その被害の大きさを考えると今後も政策としては必要であるということはよく分かるんですが、海賊版であることの認識を持っていることをもって、それだけでただし書の文言に当てはまるというのは、現行法の規定からして素直に読み取れるのかなという懸念があります。

と申しますのは、ただし書には、御案内のとおり、著作物の種類、用途、それから当該利用の態様に照らしてという、いわば判断要素に関する限定文言がございまして、この中に利用者の意図を読み込めるのかについては、さらに検討すべきかと思います。

それからもう一つは、30条の4のただし書以外にも同様のただし書の規定が昨今増えておりまして、そちらへのハレーション、波及効果も気になるところですので、同条だけについて、海賊版だということを知って利用したら、即、これらのただし書に該当すると解釈するのは、実は難しいのではないかと思われます。もしそのような結論を望むのであれば、一歩踏み込んで、図利加害目的での利用は駄目ですよという明確な法改正を経る必要が出てくるのかなと考えております。

私としては以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】先ほど上野委員から御発言があったただし書の部分については、そもそもどういうものがただし書に該当するのかという議論なのだと理解しております。私としては、前回会議でも申し上げたとおり、旧47条の7ただし書に挙げられていた情報解析目的で作成されたデータベースの場合のみがこのただし書に該当するとは考えておりません。現在の案でも記載されているとおり、ただし書に該当するかは、あくまで著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討するものと理解しておりまして、情報解析用データベースの例というのは、まさにその典型例として今いろいろなところで示されているのだと理解をしております。

先ほど上野委員がおっしゃっていた脚注3の事例に挙げられているようなもともと人が読むためにつくっている論文データベースは、情報解析目的でつくられたデータベースではないというのは、上野委員のおっしゃるとおりかと思います。もっとも、私としては、情報解析目的でのライセンス提供がされていて市場が形成されているような場合で、その市場と衝突するような利用なのであれば、ただし書に該当すると判断される余地があるのではないかと思っております。

もちろん法外な金額のライセンス料を設定して全然使えないみたいなものなどその市場がちゃんと形成されているのかは個別具体の事案に応じてしっかり見ていくべきものだとは思っていますが、一般論として、ライセンス提供の場合にただし書の適用がないとは考えておりません。

これに関連して、先ほど早稲田委員の御発言にもありましたけれども、技術的措置が講じられていてそれを回避したという事情が存在する場合に、その事情のみをもってただし書に該当するというのは、ただし書の市場との衝突という考え方からしてもマッチしないのかなと思ってはおります。

ただ、ちょっとこの文章の趣旨が理解できているかはわからないのですが、現在の案で示されているのは、そういう市場を将来形成するために権利者として技術的な措置を講じているということであれば、将来の市場を害するという部分に関する一事情として技術的措置が講じられていることが考慮されるべき場合というのはあるのではないかとは思っております。もちろんそれのみで決まるものではなく、ケース・バイ・ケースだと思うんですけれども。

ひとまず以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

では、福井委員からお願いいたします。

【福井委員】ありがとうございました。私も7ページについてまず意見を申し上げると、技術的な措置が講じられ、そうしたこともあって将来の市場形成が推認される場合というふうに併せ読むのであれば、この記載は納得のいくものではないかなと感じています。これが島並委員の御指摘と整合するのか、少し違う角度なのかは自信がないのですけれども、そんなふうに思います。ただ、その部分が分かりやすく伝わるということが重要ではないかなと考えました。

一方で、8ページ、島並委員から先ほど海賊版であるという認識があることのみをもって不当に害するということは言えないんじゃないかという御指摘がありました。のみをもってということをどう考えるかは分かりませんが、これは例えばある開発事業者が海賊版サイトから学習を行っているときに、権利者は対処したければ何をするかというと、通知を行うんですね。海賊版の利用あるいはそれに対して助力をしている事業者に対して、権利者が通知を行って、これは海賊版サイトなので、これ以上の大量学習はおやめいただけませんかと仮に通知をしたとしても、それを無視して学習を続けていいということを意味してしまうように思うんです。

私はそれでは海賊版サイトへの対策、今現在でも大変苦労が続いている海賊版サイトへの対策はますます難しくなるんじゃないかなということを危惧します。やはり通知などを受けて知った後、なお海賊版サイトからの学習を続けるということが正当化されるようには私にはただし書は読めませんので、この点はある程度の姿勢を打ち出すべきではないか。上野委員からかつて御紹介いただいた例としては、EUなど諸外国でもそうした海賊版などからの学習については必ずしも容認しないという立法例もあるようであり、私は法改正を経ずとも現在のただし書の解釈としてそのようなことは可能ではないかなと考えるところでした。

以上が私の考えです。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

では、中川委員からお願いいたします。

【中川委員】ありがとうございます。私もデータベースについて30条の4のただし書に該当するかどうかという点についてのコメントです。具体的には7ページの冒頭で、例えばとして、「インターネット上で、データベースの著作物から情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されている場合において、当該APIを有償で利用することなく、当該データベースに含まれる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為」がただし書に該当すると記載いただいております。

これは、続く(エ)とも連続した議論なのかもしれませんけれども、今、私が読み上げたところは、結局そういったAPIが有償で提供されている場合には、例えばrobots.txtへの記述とか、あるいはID・パスワードのような制限がない場合であっても、常に30条の4のただし書に該当するという趣旨で良いのかが気になりました。

また、例えば、従来の改正前の47条の7の頃から、情報解析用に新聞記事のデータベースが提供されているとしても、それとは別に紙の新聞の縮刷版をOCRにかけて解析するようなことはなお可能だというような見解も紹介されていたと思います。そういった見解が今後も維持されるのかどうかということ自体も議論の対象なのかもしれませんけれども、データベースに含まれるデータが共通することによって、APIが有償で提供されてさえいれば、常に30条の4のただし書に該当するということに直ちにつながってしまうのかとなると、これは議論があるのかなと思います。特に7ページの冒頭の先ほど読み上げた箇所と、次の(エ)のrobots.txtの記述があるときにそれを回避するのは駄目だよという箇所とは、大きな落差というか、実務的には違いがあるように思いますので、そこは違う話と連続した話の両方があると思いますけど、その辺りについてはどのような解釈になるのかという点は整理が必要かなと思いました。

ちなみに(エ)のところでいいますと、ここで記載していただいているのは、下から2つ目のポチのところで、あくまでrobots.txt等の措置を回避して行う学習のための複製がただし書に該当するということなので、回避せずに例えば新聞の縮刷版等をOCRにかけるような行為については、この記載の対象外のように読めると思います。ただ、7ページの冒頭のところも含めて読むと、やっぱりそういった行為も駄目になるのかもしれず、その辺りが結局どちらという整理になるのかという点が気になりましたので、その辺りも明確になるほうがいいのかなと感じた次第でございます。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】今、中川委員が御指摘になった点は、私の理解によりますと、この文書では、「当該APIを有償で利用することなく、当該データベースに含まれる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為」というのがただし書に当たると述べているだけで、当該APIを用いずにネット上の著作物を収集する行為は、データベース著作物の創作的表現を利用するものではない以上、ただし書に当たる行為ではない、という趣旨のものと理解しております。このあたりはもう少しはっきりさせたほうがいいのかもしれません。

次に、澤田委員も御指摘になったライセンス市場が形成されている場合というものなんですけども、これは以前から、一般に、権利制限規定のただし書との関係でしばしば議論になるところです。

ただ、本来「ライセンス」というのは、著作権のような排他権に基づく「許諾」を意味すると考えられるわけなんですけれども、そもそも著作権の制限規定を受ける行為は自由ですので、そうした自由に行うことができる行為についてライセンスできるかというと、それはあくまで括弧つきの「ライセンス」であって、それを「許諾」ということはできないと思います。

そして、平成30年改正を経た日本の著作権法においては、著作物の非享受利用というのは「本来的利用」ではないので、そもそも著作権が及ぶべき行為ではないという考え方があるんだと思います。そのように非享受利用というものがそもそも著作権が及ぶべき行為ではないとしますと、たとえ権利者がこれに関して、括弧つきですが「ライセンス」というビジネスを展開して何らかの利益を得ている実態があるといたしましても、それは本来著作権の及ばない行為について「ライセンス」をしているにすぎないため、そのような「ライセンス」によって得ている利益というのは「著作権者の利益」とは言えないということになるのではないかと思います。

あと、技術との関係については島並先生からも御指摘がございましたけれども、多分この素案に従いますと、先ほどのrobots.txtによるアクセス拒否措置が、解析用データベース著作物の販売市場との競合を生じさせないために講じられているものと評価できる場合があるという前提で、そのような場合には、権利者がrobots.txtによるアクセス拒否措置をしていれば、これを回避して情報解析を行うことは30条4柱書ただし書に当たり、権利制限の対象外になると解することになるかと思うんですけれども、もしそう解するといたしますと、その限りで、機械可読な形で情報解析を拒否する旨を表明すれば権利制限規定を免れるという意味で、いわゆるオプトアウトを認めたのと同じことになるようにも思われるところであります。

ただ、権利者による権利制限のオプトアウトを認めている欧州指令4条3項も、研究機関等による学術研究目的の情報解析はオプトアウト・メカニズムの対象外ですので、そうした学術研究目的の情報解析については、いくら権利者が「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」を提供していても、他者による情報解析を拒否することはできないと考えられます。イギリス法も同じであります。

これと比較いたしますと、日本法の解釈論として、一定の場合に機械可読な形で情報解析を拒否する旨を表明すれば権利制限規定を免れると解するのであるとするならば、たとえ研究機関等による学術研究目的の情報解析であっても、それがrobots.txtによるアクセス拒否措置を回避して行うものである以上、30条の4柱書ただし書に当たり、権利制限の対象外になってしまうのではないかと思います。

だとすると、それは欧州指令とかイギリスにおけるTDM規定以上に厳格な要件を、何らの法改正を経ることなく導き出すものでありまして、法解釈として可能なのかどうか疑問が残ります。そればかりか、robots.txtによるアクセス拒否措置というのは、誰でも簡単に行うことができるものでありますので、これによって、たとえ非営利の学術研究目的であっても、容易に情報解析を事実上拒否して、権利侵害に問うことができるという解釈だとするならば、比較法的に見ても妥当な解釈と言えるのか疑問が残るところであります。

したがいまして、この点に関しましては、さらに検討が必要なのではないかと感じております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

よろしいですか。

では、中原審議官、お願いいたします。

【中原内閣審議官】いろいろと貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。上野委員のご指摘について一言申し上げさせて頂ければと存じます。30条の4ただし書につきまして、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」とされておりますところ、この規定の解釈につきましては、先生のご指摘のとおり、最終的には司法判断によることにはなるものとは思います。もっとも、いわゆる法解釈というものはほとんど全てそういう形になるものではないかと存じます。この規定につきましても、文化審議会における沢山のご議論を頂戴した上で立法されたものであり、技術の進展等を背景に様々な状況変化が生じ得ることを踏まえ柔軟に対応する必要性も含めて、この規定が設けられたものと理解しております。そうだといたしますと、当審議会で多くの御議論をいただいた上で、パブリックコメントなどを通じて寄せられる各界各層の御意見も含めながら、この規範に対してどういう社会認識があるのかということを固めていくというのは、ルールの形成としても意義のあることではないかなと考えているところでございます。

次に、非享受利用というのは著作権が及ぶべき本来的利用ではなく、そうした行為に対するライセンスというのは著作権者の利益として観念できないのではないかというご趣旨の御指摘を頂いたものと理解させて頂きました。しかしながら、この規定は、本来的に著作権者の有している権利に対して一定の考え方から権利制限を掛けているものであると存じます。そして、著作権者の著作物の利用市場と衝突するとか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するとかいった場合には、著作権者の利益を害するので権利制限は掛からないとされております。つまり、規定の建付けからして全く保護法益のないところにライセンスをするというふうに構成しなければならないということでは必ずしもないのではないかと存じます。

【茶園主査】ありがとうございました。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】 ありがとうございます。30条の4の立法趣旨に関連して、上野委員から先ほど非享受目的利用というのは本来的な利用ではないのであるからというお話がありました。それに関していうと、私も、通常の多くの著作物については、非享受目的利用というのは本来的な利用ではないと思っています。もっとも、そうではない場面、要するに、非享受目的利用が本来的利用である著作物の取扱いについてどう考えるのかについては、いろいろな考え方があるのだと思います。なぜ情報解析用データベースの著作物を情報解析目的で複製する行為がただし書に当たるのかというと、私の理解としては、情報解析用のデータベースの著作物については、非享受目的利用である情報解析用の利用が本来的利用であるから、その市場は保護してあげましょうということでただし書に該当するのだと理解しています。それと同様に、私としては、情報解析目的の利用が本来的利用である著作物については、ただし書の適用というのはある程度認められてよいのではないかなと思っております。ライセンスのケースについても、情報解析目的の利用が本来的利用といえる程度に市場が形成された場合について、ただし書の適用を認めても差し支えがないのではないかと思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

時間の関係もございまして、とりわけ、いろいろな先生方から様々な意見をいただきました7ページのところについて特に御意見がございましたら、ほかのところでも勿論結構ですけども、お願いいたします。

では、上野委員、お願いします。

【上野委員】ありがとうございます。先ほどは中原審議官からも大変貴重なコメントいただきまして、ありがとうございました。

お考えは恐らく、著作権がまずは支分権として定められていることからすると、先ほど「本来的権利がある」とおっしゃいましたように、その支分権の範囲には本来的に著作者の「保護法益」が認められるのであり、権利制限というのは、本来は著作者の保護法益が認められる本来的権利を制限しているものだ、というご理解があるのかなと思います。

確かに、伝統的通説は権利制限規定をあくまで例外だと位置づけていましたが、最近は学術的にも、支分権が原則で権利制限規定は例外という考えではなく、支分権の規定と権利制限規定の両方によって形作られる最終的な権利の範囲が著作者の保護法益が認められる著作権の範囲なのであり、これによると、支分権の内容に含まれる行為かどうかというのは単なる技術的な違いにすぎないと理解するのが一般的かなとは思います。

実際そのように解しないと、他の権利制限規定にも影響があります。例えば35条は教育機関における授業目的の複製を許容していますので、支分権である複製権を制限しているというのは確かですが、もし、そのような授業目的の複製は、複製権という支分権の対象なのだから、本来であれば著作者の保護法益があるという理解をしてしまうと、そのような授業目的の複製について権利者によるライセンス市場が形成された場合は、そちらのほうが優先するという解釈につながりかねません。確かに、イギリスには「ライセンス優先型権利制限規定」というのがあるのですけども、それと同じような帰結を日本で法改正なく解釈によって導くことになってしまうのではないかという気がいたします。

したがって、権利制限の対象になっている行為が支分権の対象に含まれるものであるからといって、そのような行為について「ライセンス」を提供しているというライセンスプラクティスがあるということを理由に、直ちに、あるいは安易に、権利制限規定のただし書に当たると解釈するのは問題があるように思います。このことは、権利制限規定の一般論として、あるいは少なくともただし書を持った権利制限規定の関係で、他への波及効果が非常に大きいものと思っております。以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】これまでかなり議論が出ているところで、重複もあるかもしれませんが、私もデータベースについてのコメントでございます。従前、情報解析用のデータベースが30条の4のただし書の対象だと理解されていたのは、そういった情報解析目的のためのデータベースを開発することへのインセンティブを付与するという観点があったのかなと思います。

つまり、そういった情報解析用のデータベースを開発することへのインセンティブにつながるのであれば、それについては別途ライセンス市場の成立を認めて、30条の4のただし書の対象にして、無断の学習はできないようにするということは意味のあることなのだろうと思います。

言い換えますと、全てのコンテンツについて、当然に機械学習を拒否できる権限があるとか、あるいは上野委員がおっしゃっているオプトアウトができるような権限があるというわけではなくて、あくまで一定の場合に限って30条の4のただし書になり得るという理解だったのだろうと思います。

そうしますと、機械学習はしてほしくないという基本的な考えの下で、本来は禁止したいのだけれども、ライセンスを受けた方に対しては特別に機械学習への利用を認めますというような、そういった形のライセンスビジネスがあったときに、そうしたもの全てが一律に30条の4のただし書で従来想定されていたような機械学習用のデータベースと同様の理解に当たるのかとなると、たしかに難しい問題だなとは思いますが、私としては、robots.txtへの記述とか、あるいはID・パスワードで制限されているということによって、機械学習が制限される対象が過度に広がってしまうような解釈は妥当でないように思います。そうした観点からコメントさせていただきました。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】AIはそれだけ重要な問題ですから、こうしたある意味激論になるのは非常に健全なことであるなあと思いながら伺っております。

次回以降に向けての議論に関わるのかもしれませんが、ただし書について感じたことを備忘的に申し上げておきます。本日の議論の中でも「それのみをもって」という言葉が結構何度も聞かれたような気がするのですね。ある要素のみをもってただし書該当、あるいはただし書不該当ということに対する違和感という御意見も少なからずあったように思うんです。本来こうした不当に害するか否かは、総合考慮であろうと思うんですよ。諸般の事情を総合考慮するべきものであるので、1つの考え方として、こういう要素のみをもって結論を出すのではないが、こういう要素が認められるときには不当に害する可能性を高める要素だね、こういう要素は不当に害する可能性をむしろ希釈する要素だねと整理するような考え方も、今後の検討の中であってもいいかなということを感じたものですから、備忘的に申し上げました。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

では、今村委員、お願いします。

【今村委員】時間があまりない中、すいません。ただし書の位置づけというか、捉え方について、先生方の間で激論とも言える意見があることは非常によく分かったんですけれども、まず、ただし書自体について、ほかの著作権法の権利制限規定のただし書もそうだと思うんですが、裁判例というものは確かにあまりないとは思います。もっとも、例えば35条のただし書でいえば、割と利用者による行き過ぎた利用をとどめる歯止めになっている部分もありますし、そういった中で、ただし書の解釈をめぐってソフトローも非常に発展してきている分野でもあります。また、先ほど御意見がありましたように、そもそも権利があってそれを制限し、それをまたひっくり返すのがただし書ということなので、もともとは権利があるんだということを前提であるというわけですから、ただし書だからという理由だけで、あくまで例外だから限定的に解釈しなくちゃいけないわけでもないような気がするんです。だから、様々な形でただし書の適用範囲を柔軟に検討するということも認められると思うんですね。その辺も踏まえていかなければいけないと思います。

また、先ほど上野委員からありましたように、これは非享受利用のただし書だからということを突き詰めますと、ただし書が著作権者と書いてあるために、ほとんどただし書の適用範囲がなくなってしまうのではないような気もいたします。ですけれども、あえて非享受利用についてもただし書を設けているということは、非享受利用であることを前提にただし書を柔軟に解していいような気もしますので、様々な考え方があっていいと思います。

私としては、先ほど澤田委員が強調されたように、ただし書の例として挙げられている、大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物がなぜただし書に該当するのかというようなことの議論の趣旨というか背景に振り返って、ただし書が適用される範囲を柔軟に解釈していって差し支えない場合も多いのではないかなと思います。

あと、ほかにもあるんですけども、ちょっと時間もありますので、この程度にしておきたいと思います。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

よろしいでしょうか。

では、水津委員、お願いいたします。

【水津委員】法30条の4の規定の趣旨や具体例について、お伺いいたします。2ページや5ページ辺りのことです。同条本文の規定による権利制限については、同規定が適用される非享受目的利用は、通常、著作権者の利益を害しない点に着目したものであるとされています。もっとも、そのような利用であっても、著作権者の利益を害することがあります。そこで、同条ただし書は、非享受目的利用が「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、この限りでないと規定しています。

しかし、同条ただし書の規定が適用されるのは、非享受目的利用が「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」の全てではなく、著作権法の他の規定にもあるように、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし」そのように判断されるときであるとされています。法30条の4ただし書の規定についてここで扱っている問題の文脈において、このような限定をすることにより、具体的にどのようなケースをその適用範囲から除外しようとしているのかが気になりました。

同条ただし書が規定する考慮要素以外の事情に照らし非享受目的利用が「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、著作権者の利益を不当に害するにもかかわらず、同条本文の規定により権利制限がされることとなりますから、この場合における権利制限を正当化するためには、イノベーションの創出等の促進に資すること等を挙げなければならないようにも思いました。

これに対し、同条ただし書の文言にかかわらず、同条ただし書が規定する考慮要素以外の事情に照らし非享受目的利用が「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についても、同条ただし書の規定が適用されるというのであれば、先に述べたことは、前提を欠くこととなります。よく分かりませんでしたので、お伺いする次第です。

【茶園主査】何かございますか。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。今、水津委員から御指摘のありましたところ、著作権者の利益を不当に害する場合というところの考慮要素として3要件、30条の4のただし書では設けられているというところで、それらに該当しない場合に、ただし書についての該当性というのをどう考えるのかといった御趣旨かと理解をいたしました。

この点については、この文言に基づいてどのように解釈していくか、あるいはその趣旨に遡ってどのように解釈していくかというところで、今、まさに御議論いただいているというところかなと思っておりまして、事務局のほうで何かお答えを持ち合わせているというものではございませんが、引き続きこちらについてこの場で御議論いただくということなのかなと理解をしております。

以上でございます。

【茶園主査】それではよろしいでしょうか。

では、上野委員、最後にお願いします。

【上野委員】すみません、恐らく(1)学習・開発段階のところはこれで終わってしまうかと思いますので、先ほどの海賊版等の関係について私からも一言だけ申し上げます。

8ページ目のところでは、「海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のために複製すること」について、1文目で「生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者も、当該侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る」とした上で、「ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであ」ると書かれています。先ほど福井先生からも御発言がございましたけれども、「厳にこれを慎むべきもの」という表現からしますと、法的責任を負うわけではない、つまり、侵害複製物と知りながら情報解析に利用することが直ちに著作権侵害に当たるわけではないという解釈を前提にしているように解されますので、私自身はそのような解釈に異論ありません。

ただ、その後のところで、学習元が侵害複製物であることを認識していると規範的行為主体が肯定されやすくなるというふうな書き方になっているかと思います。確かに、一般論として、規範的行為主体の認定においては「関与」というものが問題とされるのは確かなのですが、ここにいう侵害複製物であることの「認識」というものが「関与」につながるというのは自明ではないように思いますので、なぜそのように言えるのかということについては検討を要するものと考える次第でございます。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

まだ御意見があろうかと思いますけれども、時間の関係で、次に移らせていただきたいと思います。

では、(2)生成・利用段階についての議論に移りたいと思います。生成・利用段階について御意見等がございましたらお願いいたします。

では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】こちらも非常に忠実なおまとめをありがとうございました。12ページの類似性から参りたいと思います。類似性の判断は、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられるとの記載があります。この点、表現とアイデアの区別論、これは著作権の考え方の根幹ですね。ここで出ているほかの多くの各論点の現実の当てはめにも大いに影響を与えるところです。

我々は、表現とアイデアというものが常に明瞭に区別されるものであるかのように議論をしがちなんですけれども、実際にはその区別は大変に微妙であり、また判断する人によって随分と異なるものであります。最近でいえば、金魚電話ボックス裁判のように、1審と2審で、どこがアイデアで、どこが表現であるかの判断が大分食い違ったななどというケースもあるわけです。

殊に、社会自体が様々に変化していくときに、その社会の変化に合わせて類似性の判断が影響を受けるのは、これはよしあし以前に社会実態だろうと思うんですね。それはつまり、何をもって表現と呼び、何をもってアイデアと呼ぶかについての意識や判断が社会の変化に合わせて影響を受けるということでもあろうかと思います。

AIにおいては、似た作風の作品が極めて大量・高速に生成される蓋然性が現に示されています。そういうときに、ここであえて類似性の基準は人間がつくったときと変わりませんよと明言する必要があるのかなということ、この点に疑問を感じました。これは裁判所の判断を事前に抑止するような記載とも受け取れるわけであり、時代に合わせた柔軟な著作権の運用を阻害する可能性があるんじゃないか。というわけで、私はそう受け取れるおそれのある記載をすることには賛成できないなと感じました。記載ぶりにもう一段の工夫が要るんじゃないかと感じたもので、申し上げます。

依拠性についての記載にはおおむね賛成いたします。

私からは以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかにございますでしょうか。

今村委員、お願いいたします。

【今村委員】今、福井委員から御指摘のあった類似性の部分に関連するんですけども、私も類似性の考え方については、AIによる、あるいはAIを用いた創作が容易になった時代に様々な動きが出てくると思うんですね。特に、AIによって創作が容易になるということは、人間が創作した場合でもAIで簡単につくれるものは、ありふれた表現として著作物性をその部分については取得しないとか、全体として著作物性を取得しないということになる場合があると思うんです。つまり、AIにとっては、ありふれたもの、あるいはAIを道具として使った場合でもありふれたものになりやすいと、そういった傾向も生じる可能性も今後出てくると思われます。要するに人間にとってありふれたものとAIにとってありふれたものに微妙な違いが挙げてくるということなどもあると思われます。なので、原則としてと書いていますから、この記載自体が別にそんなに違和感があるわけでもないんですけれども、AIによるいろいろな創作が出てきて、今までの表現の多くが、ありふれた表現ということになる可能性が生じることなどを含めて、表現の捉え方に時代とともに変化が生じてくる可能性もあるのかなと思います。

あと、この素案全体にも関連するかもしれませんが、これはあくまで著作権との関係で議論をしてきた部分でありますので、そこについて詳しく触れる必要はないとは思いますけれども、著作物の利用という段階では、当然、著作者人格権の問題として、例えば同一性保持権であるとか、氏名表示権であるとか、通常著作権侵害の訴訟ではセットとして問題となるような権利も当然議論になってくるわけです。ですので、その辺は別の問題として生じるというようなことをどこかに、最後のほうにでも触れてもよいのかなと思います。また、先ほど上野委員からRAGについて、著作物を利用する場合では必ずしもない、そういう場合多くないというような御指摘がありましたが、確かに私も特に情報解析の場合は、単にアイデアとか事実だけ使っているというケースが多いと思います。他方で、著作物が出力された場合には、従来、福井委員から御案内あったように、47条の5というのは所在検索サービスでイメージを抱いていたところ、所在検索の場合には氏名表示とかあまり問題にならないわけです。まさに所在を示しているわけですから。ただ、情報解析の結果で著作物が出力されたときには、当然氏名表示とか、場合によっては著作物の種類によっては公表権の問題とかも出てくると思います。そうしたことはこの素案で全体的に分析して触れるところではないと思うんですけれども、そういった問題も残っていて、開発者とか利用者が注意しなくちゃいけないというような、そういった言及もどこかであっていいのかなとは思います。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかにございますか。

では、中川委員、お願いいたします。

【中川委員】ありがとうございます。私も先ほど福井委員が御指摘になった点に大変共感いたします。その上で、現在の素案の表現を変えるかというところとは若干違った観点になるかもしれませんけれども、まず教科書的というか、一般的な説明としては、表現とアイデアは区別されるのであるということは言われてきたと思いますし、今後も同様なのだろうと思います。

また、人間の場合とAIの場合を区別することにするのかと正面から問われたときに、区別しますと言うのは難しいのだろうと考えております。そこはちょっと私の中でも若干迷いはあるのですが、そう考えております。

ただ、従来の裁判例においても、結局は事案ごとに適切な線引きがされてきたと理解しています。すなわち、究極的には保護と利用のバランスを失しないところでどこかで線引きをするということで、これは表現だよね、これはアイデアだよね、という認定がなされてきたと思います。そして、今後生成AIを利用したコンテンツについて類似性の判断が求められるときには、当然生成AIを利用したものであるということも踏まえた上で、保護と利用のバランスを図る観点から適切な線引きがされるべきであるというように考えますし、そういう判断は今後裁判所においてもされるべきだろうと思います。

その上で、なかなか一般化はしづらいのだろうと思いますけれども、世の中、特にネット上でこれは作風の模倣にすぎないと称して公開されているものについて、本当に作風の模倣にすぎないのか、実際は表現の類似まで含んでいるのではないかという点については、従来の判断基準に照らしても既に疑問があるようなものもあるように思いますし、また、今後、生成AIによって、作風の模倣にすぎないと主張するものが多数生成されることによって、自然人である創作者の不利益が従来のバランスを失するような形で大きくなってきたときに、そうした事情も踏まえた上で、改めて裁判所が保護と利用のバランスを考慮した上で、これは表現だ、これは作風だというような認定をするということは、私としては十分あり得るのではないかと感じております。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

では、早稲田委員、お願いいたします。

【早稲田委員】今の中川委員がおっしゃったことに賛成でして、12ページの類似性のところですが、書きぶりとして、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられると書くのか、従前の解釈の表現に本質的な特徴をというように書くのかというのは、それは若干変えたほうがいいのかなあとは思っております。

AIの場合に、物すごい数の同じ、同じではないですね、似たような作風が生成される、生産される、これも間違いがないので、そうしますと、従前の類似性の判断と、規範としては本質的な特徴が感得できるかどうかというところにはなるんですけれども、その判断の範囲というか、ちょっと表現はしにくいんですが、どういうものが本質的な特徴が感得できるかというところが、AIになると若干裁判所の判断が変わってくる可能性はあるかなと思っております。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかに御意見等ございませんか。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】「激論」は前半の「学習・開発段階」についてはあるかと思うのですけれども、実際には、後半の「生成・利用段階」において侵害物が出力されてしまうということこそが一番重要で大きな問題だと思っています。ですので、今回こういう文書を作成するのであれば、むしろ生成・利用段階についてこそ、どういう場合に侵害になるのか、侵害になったときにどういう救済が得られるのかということを明示することのほうが重要だと私は思います。つまり、学習するということ自体を問題にするよりも、生成・利用段階を問題にするほうがずっと重要ではないかということです。

その上で難しいのは、類似性よりも依拠性であります。そのような中、この文書は、依拠性についてかなり踏み込んだことが記載されていまして、今後の議論を惹起するという意味では有益なものと思います。

ただ、ちょっと議論があるかなと思われますのは、14ページ目の「ただし」で始まるところで、「生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合」であっても、「当該生成AIについて、開発・学習段階においてAI学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられて言えること等、当該生成AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合にはAI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる」と書かれているんですけども、ここは多分議論があるかと思います。

私自身は、いくら技術的な措置が講じられていましても、過去にAIが学習した以上、依拠性は否定されないと考えています。ただ、そのような技術的な措置を講じていたというのであれば、AI利用者は過失が否定されるというにとどまると考えるべきじゃないかと思います。つきましては、可能であればそういう意見もあったというふうに記述していただければと思います。

以上です。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】15ページの下のほうの「侵害行為の責任主体について」のコメントでございます。実際は16ページに関わるところかもしれません。まず、ほかの箇所も含めて、生成段階と利用段階はそれぞれ分けて検討すべきであるということが現在の素案でも随所に記載されていると思います。

まず、生成はよいのですが、利用というのが、例えば生成AIサービスを利用しているときにブラウザに表示されるところまでを利用と言っているのか、その後、そのコンテンツを利用して、例えば生成AIを用いたコンテンツを含む映画を制作して、それを上映しましたとか、テレビで放送しましたとか、あるいは楽曲を作成してCDをつくりましたとか、いろんな利用、その後の利用というのは考えられると思いますけれども、どこまでの利用ないし侵害についての主体の議論をしているのかというところがもう少し明確になったほうが分かりやすいのかなという気がいたしました。

次に、これも事案ごとの判断になると思いますけれども、まず、生成と、それからブラウザ上に表示されるような段階においては、現在の案の16ページの1行目だと、物理的な行為主体がAIの利用者であることが半ば前提になっているかのようにも思えますが、物理的な行為主体はむしろAIサービス事業者ではないかというふうにも思いますので、物理的な行為主体がどちらかということ自体、事案ないし場面によって異なるのではないかと思っております。

その上で、先ほど申し上げた、その先に映画になりました、音楽になりましたというところの利用について、そういったところまでAIサービスを提供する事業者が行為主体だと言えるかという問題と、損害賠償責任がどこまで及ぶかという、相当因果関係の議論も含むかもしれませんけれども、損害賠償責任も含めてAIサービス事業者がどこまで責任を負うかという問題は別の議論だと思いますので、その辺りも区別した検討が必要になるのかなと思いました。

その上で、ちょっと細かな話になるかもしれませんけども、16ページの上から数行目の②と③のところで、生成AIが既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにもかかわらず、生成を抑止する技術的な手段を施していない場合が②、施している場合が③として分けていただいていると思いますけれども、先ほど申し上げたように物理的な行為自体がAIサービス事業者の側だとすると、技術的な手段を施しているかどうかにかかわらず、サービス事業者が主体になる場合というのは考えられ得ると思いましたので、もちろん生成を抑止する技術的な手段が講じられているかどうかというのは考慮要素の1つではあると思いますけれども、そこで何かがらっと大きく変わるのかというと、そこはもちろん事案次第ではありますけれども、なかなかそれだけで結論ががらっと変わるということでもないのかもしれないなと感じました。

以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】現在の案では、おそらく侵害行為の責任主体になる場合についてしか言及がないように思いますが、責任主体ではないとしても、幇助者として責任を負う場合というのは理論上はあり得ると理解しています。どういう場合に責任主体になる場合と幇助者になる場合が分かれるのかというのは非常に難しい問題ではありますが、責任主体にならないとしても、幇助者として民法上、不法行為責任を負うという可能性があるということについては言及していただいても良いのではないかと思いました。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

今、終了が予定されている時間が来たのですけど、すみませんが、このまま会議を続けさせていただきます。

ほかに生成・利用段階のところについて御意見等ございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

では、今村委員、お願いいたします。

【今村委員】すいません、14ページのウのところで、下から2行目のところから、「当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある」とさらりと書いてあるんですけれども、そういう書き方で全然構わないと思うんですが、具体的にどうやったら反証できるのかというイメージがこれを読んだ利用者の方にあったほうが、実際に反証する上では望ましいことだと思います。なので、どういう形で含まれてないということなどが反証できるのかというのが示せたらいいのかなと思いました。ですが、示すのが難しい感じであればこのままでも差し支えないとは思います。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

では、最後ですけれども、(3)生成物の著作物性、及び(4)その他の論点について、これらの点について御意見等がございましたら、お願いいたします。

では、澤田委員、お願いいたします。

【澤田委員】18ページ目の「生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について」の箇所で、①〜④という要素を挙げていただいているんですけれども、前回も申し上げたとおり、④というのはかなり別の要素かなと思っております。④はAIによって生成された物に対して人が手を加えるという話であって、①〜③はAIが生成する過程での関与の話だと思いますので、これらが並列に並んでいるというのはやや違和感を感じるところであります。そのため、可能であれば分けていただいたほうが理解がしやすくなるのではないかと思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

では、最後に、この資料全体を通して御意見等がございましたらお願いいたします。

よろしいでしょうか。

ありがとうございました。

それでは、議事(1)はこれで終了とさせていただきますけども、それ以外に何かございますでしょうか。

何かございますでしょうか、事務局。

【籾井著作権課長】本日は活発な御議論ありがとうございました。非常に多くの御意見をいただきまして、次に向けたプロセスということでございますけれども、一旦こちらのほうで本日の議論を整理させていただきまして、次の会議、前回お示ししたスケジュールによると、次の会議である程度まとめてパブコメに出すということでございましたので、皆様の任期も年度末ということで、年度末に取りまとめないといけないというスケジュールを見据えると、一旦こちらで整理したものをまたメールで意見照会をさせていただきまして、次の会議にお示しするまでの間に少しやり取りをさせていただくということになろうかと思っております。その際、冒頭、上野先生からも御議論いただきましたように、いただいた意見につきましては、きちんと議事録のような形で公表する前提で進めさせていただきたいと思いますし、場合によってはメーリングリストのような形で、お互いの委員の皆様がそれぞれの御意見を見ていただけるような形での運用というのもちょっと考えたいと思いますので、また改めて御連絡をさせていただきますけれども、今後の進め方として御承知おきをいただければと思っております。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では、本日の議事はこれまでとさせていただきます。

ほかに何か連絡事項がございますでしょうか、事務局。

【持永著作権課長補佐】本日はありがとうございました。次回の法制度小委員会はスケジュールでは1月中旬と記載させていただいておりますが、1月15日を予定させていただいております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【茶園主査】時間を少々延長いたしまして申し訳ございませんでした。

では、以上をもちまして、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)を終了させていただきます。本日は活発な御議論どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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