文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回)

日時:令和6年1月15日(月)

10:00~12:00

場所:文部科学省東館3F2特別会議室

(オンライン併用)

議事

1開会

2議事

  • (1)AIと著作権について
  • (2)その他

3閉会

配布資料

資料1-1
AIと著作権に関する考え方について(素案)令和6年1月15日時点版(溶け込み)(473KB)
資料1-2
AIと著作権に関する考え方について(素案)令和6年1月15日時点版(見え消し)(616KB)
参考資料1
第23期文化審議会著作権分科会法制度小委員会委員名簿(117KB)
参考資料2
生成AIに関するクリエイターや著作権者等の主な御意見(201KB)
参考資料3
法30条の4と法47条の5の適用例について(第4回法制度小委員会配布資料)(414KB)
参考資料4
広島AIプロセス等における著作権関係の記載について(581KB)
参考資料5
文化審議会著作権分科会法制度小委員会 開催実績及び今後の進め方(予定)(126KB)

議事内容

【茶園主査】では、ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回)を開催いたします。

本日は御多忙の中、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。

本日は、委員の皆様には会議室とオンラインにてそれぞれ御出席いただいております。

オンラインにて御参加いただいている皆様におかれましては、ビデオをオンにしていただき、御発言されるとき以外はミュートに設定をお願いいたします。

議事に入る前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばないと思われますので、既に傍聴者の方にはインターネットを通じた生配信によって傍聴していただいているところですけれども、この点、特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。

では、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

それでは、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。配付資料は、議事次第のとおりでございますが、本日資料1-1と1-2として、溶け込みと見え消しのものを用意しておりますので、取り違えなきよう御注意いただければと思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

では、報道関係の方々には、すみませんけれども、御退室いただきますようにお願いいたします。

(報道関係者退室)

【茶園主査】それでは、議事に入ります。

本日の議事は、議事次第のとおりとなります。早速、議事(1)「AIと著作権について」に入りたいと思います。前回の会議におきまして、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に基づいて御議論いただきましたけれども、そこでの議論の内容や会議後に委員の皆様からいただきました意見を踏まえて、事務局にて素案に追記・修正いただきました。そこで、本日はその考え方の素案について御議論をお願いしたいと考えております。

また、本議事の進行に当たりましては、まず事務局から資料の「1.はじめに」から「4.関係者からの様々な懸念の声について」、説明していただきました後に御議論いただきたいと思います。その後、事務局から資料「5.各論点について」及び「6.最後に」について説明いただいた後に、5.の(1)「開発・学習段階」について及び(2)「生成・利用段階」について、それぞれ御議論いただきまして、最後に(3)「生成物の著作物性」と(4)「その他の論点」、それから、6.について御議論いただきたいと考えております。このような順序で御議論いただきたいと考えております。

なお、複数の段階や論点にまたがるような御意見は、適宜、関連する箇所で御発言いただきましてもちろん構いません。

それでは、事務局より説明をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。資料について説明いたします。

資料1-1が、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の御議論いただいた内容を踏まえ修正したものを溶け込ませたものとなります。資料1-2が、その修正したものを前回会議資料からの見え消しで示したものとなります。5ポツの「各論点について」以外は今までは記載する内容を事項のみで示しておりましたが、それを事務局にて文書化させていただきました。

量が大部にわたりますため、今回、主査と御相談の上、分けて御議論いただくことにいたしました。そのため、まずは「1.はじめに」から「4.関係者からの様々な懸念の声について」、説明いたします。

なお、1.から4.につきましては、資料1-1と資料1-2で同じ内容ですが、後のことを考えまして資料1-2のほうで説明させていただければと思います。

説明に当たりましては、委員の皆様の間で共通で御認識いただいているであろう箇所などは適宜省略させていただきながら概略を説明させていただければと思います。

それでは、まず、「1.はじめに」から説明します。この項目では、AIと主に知的財産関係に関することを含めた国内外の議論の状況に触れつつこのような文書を出すことになった経緯を確認し、この文書の位置づけを明記することとしました。

特に強調したいところとしましては、P2の下から2つ目の段落になりますが、著作権法の解釈は、本来、個別具体的な事案に応じた司法判断によるべきものとなりますが、生成AIと著作権の関係に関する懸念を解消するためには、判例及び裁判例の蓄積を待つのみではなく、解釈に当たっての一定の考え方を示すことも有益であるとして今回の御議論に至った背景を確認することとしております。

その上で、次のページ、P3になりますが、本報告は、このような本小委員会における議論を踏まえて、AIと著作権に関する考え方を整理し、周知すべく、解釈に当たっての一定の考え方を示すものであると文書の位置づけを確認することとしております。

また、本報告において示す各論点の考え方は、本報告の時点における本小委員会としての考え方を示すものであることに留意といった点も文書の位置づけとして必要と考えておりまして、確認的に記載しております。ここまでが「はじめに」の内容になります。

次に、P4の「2.検討の前提として」ですが、まず「(1)従来の著作権法の考え方との整合性について」では、2段落目になりますが、AIと著作権の問題を考えるに当たっては、既存の著作権法及びその解釈に関する従来の考え方との整合性を考慮した上で検討することが必要であり、特にAIについての議論が、人がAIを使わずに行う創作活動についての考え方と矛盾しないように留意する必要があるとしております。その上で、既存の著作権法の制度内容及びその解釈に関する従来の考え方について、特に著作権法で保護される著作物の範囲、著作権法で保護される利益、権利制限規定の考え方、我が国の著作権法が適用される範囲について確認する必要があるということで記載しております。

こちらの内容につきましては、説明は省略させていただきますが、④についてだけ少し触れさせていただきます。P6になりますが、AIの開発・学習やそのサービス提供が複数国間で行われることがあると思いますので、④(ウ)では、それらについて、我が国の著作権法が適用される可能性を高める一要素になるのではないかというものを幾つか例を示しております。

次、P7に移りまして、「(2)AIと著作権の関係に関する従来の整理」では、記載の①から③になりますが、柔軟な権利制限規定の制定に至る背景と経緯、法第30条の4の対象となる利用行為、「享受」の意義及び享受目的の併存について記載しております。

なお当初④として権利制限規定は技術的対応による学習回避を否定するものではないことという項目がありましたが、前回会議での御指摘なども踏まえて、あえて記載する内容ではないと考え、削除しております。

また、それぞれの項目の内容ですが、平成30年改正時の著作権分科会報告書や柔軟な権利制限規定に関する考え方を示したデジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方を基に記載しておりまして、内容としては既に御案内のことだと考えておりますので、詳細は省略させていただきます。

以上が2ポツの「検討の前提として」になります。

次が、P10の「3.生成AIの技術的な背景について」ですが、骨子案の際に記載しておりました生成AIの概要、その開発の概略、生成物を生成する機序の概略、新たな技術、事業者による著作権侵害を防止・抑制するための技術的な措置をこちらでは紹介しております。

こちらにつきましては、冒頭の4段落目にありますとおり、AIに関する技術は日進月歩ですので、詳細に解説するのではなく、著作権法における考え方の整理等の関係で、必要と思われる現時点における技術的な側面を、ヒアリングをさせていただきましたNICTさんの発表などを基にしまして、専門的な用語に可能な限り頼らず、伝わりやすい表現で記載することとしました。こちらについても個別の説明は省略させていただきます。

それでは、次に、「4.関係者からの様々な懸念の声について」ということで、P12に移ります。こちらですが、冒頭の書き出しの部分は、骨子案の際にお示しした項目に基づき、文章化しました。

また、懸念事項と論点の対応の箇所については、5ポツ、各論点の項目のずれに応じた項目の番号の修正のみを行っておりまして、内容の修正はございません。

こちらにつきましては以上となります。

ここまでが1.から4.までの説明となります。以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では、ただいまの説明を踏まえまして、資料の1.から4.につきまして、御意見等がございましたら、お願いいたします。

羽賀委員、お願いいたします。

【羽賀委員】御説明どうもありがとうございます。今回、前提の部分において準拠法について言及いただきまして誠にありがとうございます。この部分、学界でも大変議論が分かれておりまして、おまとめいただくのに事務局には大変な御苦心をいただいたことと拝察します。

この点につきまして私も事前に幾つか考えを述べさせていただきましたけれども、その際に申し上げることを失念した点がございますので、付け加えさせていただければと思います。

まず、6ページ目のイの部分、あるいはその前段階の話になるかもしれませんけども、あくまでこの考え方は日本の国際私法が適用されたときであるという点を、もし可能でしたら一言入れていただけるとよいかと思っております。

と申しますのは、どうしても分野の名称の関係で、世界共通のものだという誤解を招くことがままございます。大学の授業でも、同じ事案でも他の国で問題になった場合には同じ結論にはならないこともある、ということを分かってもらえないことがございますので、この点、もし可能でしたら加筆していただければと思います。本来は、日本に管轄があるかどうかといった前提の問題の検討が必要になるところではございますけれども、そこまで書く必要はないとは考えておりますので、先程申し上げた点を一言留保として入れていただけるとよろしいかと思います。

もう一点はウの部分でございますけれども、具体的な利用行為に関して、基本的にはAIの開発者や利用者とその他の著作権者という前提で書かれているかと思いますけれども、AIの提供者とそのAIのユーザーとの間には、例えば利用規約、Terms of Useのような形で準拠法条項があることが多いかと思います。これらはあくまで当事者間でしか適用されないということを、可能であれば書き足していただいたほうがよいと考えております。

と申しますのは、この点につきまして、AIの利用規約等に準拠法条項が入っているのでこのAIを使うことで生じた問題は全てどこかの州法が適用されるのだ、といったような誤解が散見されるところでございます。そこで、それは違うという説明があるといいと考えているところです。

以上でございます。ありがとうございます。

【茶園主査】ありがとうございます。よろしいですか。

【持永著作権課長補佐】今の意見を踏まえまして、記載を検討させていただきます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

島並委員、お願いいたします。

【島並委員】ありがとうございます。先ほど事務局からも御説明いただきましたとおり、素案4ページでは、(1)「従来の著作権法の考え方との整合性について」といたしまして、AIと著作権の問題を考えるに当たっては、既存の著作権法及びその解釈に関する従来の考え方との整合性を考慮した上で検討することが必要であり、また、特にAIについての議論が、人がAIを使わずに行う創作活動についての考え方と矛盾しないように留意する必要があるとされております。

確かにこの委員会では半年間あまりという時間的な制約の中で、喫緊の課題であるAIと著作権の課題について1つの方向性を速やかに示すというミッションを与えられていましたので、まずはこうした従来の著作権及びその解釈の延長線の限りで議論することは必要でもあったし、致し方ないものと私も考えます。

もっとも従来の著作権法は、AIを必ずしも十分に念頭に置いて設計されたものではありませんし、事務局からの御説明にもあったとおり、AI技術は日進月歩ですので、本来であれば、既存の著作権法という古い革袋をAI技術という新しい酒を盛るのにそもそも適合的なものなのか自体を検討し、もし適合しない要素があるなら、従来にない解釈論を、そしてまた一歩を進めて、立法論にまで立ち入るべきであると考えます。

その意味で、従来の考え方との整合性を考慮し、それと矛盾しないように考えるということは、素案4ページに書かれているような必須の前提では決してなくて、あくまでもその範囲で検討せよとの制約条件下で検討を加えた結果にすぎないということを念のため述べさせていただきたいと存じます。

私からは差し当たり以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。島並委員の御意見は、今の段階ではこの表現自体で特に問題ないということでしょうか。

【島並委員】個人的には4ページの「必要である」というのはちょっと踏み込み過ぎで、「まずはそういう検討してみた」という表現で十分かなと思いますが、この報告書の性質にもよりますので、そこは座長及び事務局の御判断に最終的にはお委ねしたいと存じます。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

では、事務局、お願いいたします。

【籾井著作権課長】すいません、事務局より今の島並委員の御指摘に関して、これは従前も御指摘をいただいたところかと思っておりまして、今回お示ししている素案においては、既存の枠組みの中で検討すると。一方で、より大きな話につきましては、ちょっとこの後の御説明の箇所になりますけれども、一番最後の「最後に」の6ポツのところに記載をしてございますけれども、3つ目の白丸になります。AIをはじめとする新たな技術への対応については、著作権の法のより大きな話ですとか、あるいは、AIに限らず、様々な技術の動向、そして諸外国や、それからほかの知財の法制の議論の動向も見据えながら議論を継続していくことが必要ということでございまして、今回の素案における議論の前提としては、先ほどの「はじめに」の部分の記載のとおりでございますけれども、より大きな議論については継続的に行っていくということを終わりにの部分で付しておりますので、著作権分科会におきましても今後も継続的に議論をしていく前提ということでございます。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

では、続きまして、資料の5.から6.につきまして、まず事務局から説明をお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】事務局でございます。「5.各論点について」、説明させていただければと思います。15ページを御覧いただければと思います。前回以降修正があった箇所について紹介させていただくことにしますが、先ほど3ポツで説明したように、技術に関する表現については伝わりやすい表現を意識した修正を施しておりますので、そういった修正については個別の説明は省かせていただきます。

では、まず「(1)学習・開発段階」について説明いたします。ページめくりまして、P16、イの(イ)、2つ目の丸の脚注13ですが、記載の趣旨について誤解が生じないようにすべきという意見がございましたので、修正させていただいております。

次の丸の矢の部分ですが、こちらも趣旨を明確化したほうがよいという御意見がございましたので、学習データの後に文言を追加しております。

なお、この修正につきましては、次の矢も含め、この文書全体について意味が同じ箇所については同様の修正を行っております。

次のページの矢の部分の例示ですが、一部に限ったものに限定するものではないため、こちらも記載のとおり修正しております。

このページの1つ目の丸につきまして、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習させることについて、それ自体が侵害につながり得るような誤解が生じるといった意見がございましたので、「他方で」以下を追記させていただいております。

また、このページの2つ目の丸ですが、どの段階のことか分かるように明記しまして、この丸の記載の趣旨が不明瞭でしたので、こちらも追記しております。

また、それにあわせまして、生成・利用段階における侵害に当たり得ると考えられる場合についても追記しております。

次のページのP18の1つ目の丸ですが、単に創作的表現が共通した生成物が多数出るだけで享受目的があると評価されるように読めるのではないかといった意見を踏まえまして、記載の趣旨の明確化と脚注の追記をしております。

次、ウですが、RAGについて誤解を招く記載という意見を受けて、修正しております。RAGについては、どこで利用行為が行われるのかということについて明確化するとともに、RAGによる利用行為は全て享受目的とされてしまうという誤解が生じ得る記載でしたので、具体的に享受目的とされ得る場合を記載しまして、著作物を含まないものであれば、著作権法上の問題を生じないといった追記のほか、脚注16も追加しております。

次のページに移りまして、1つ目の丸ですが、47条の5の規定の趣旨の明確化をしたほうがよいという意見を受けまして、同条では、付随した利用であることが要件であることなどを追記し、脚注も追加しております。

次のページに移りまして、エの(ア)のただし書の該当性について、すいません、ページまたいでおりますけれど、P19からP20にわたる場所になりますが、ただし書の該当性について、特定の要素のみを判断すべきものではないといった意見を受けまして、本文を修正しております。

また、こちら、脚注17を追加し、改正時の附帯決議も鑑みて限定的に解すべきという意見もございましたので、脚注18でその旨記載しております。

次に、(イ)ですが、著作権法の保護の対象が広がっているかのような誤解を生じるといった意見がございましたので、修正しております。

また、著作権法の保護の対象の創作的表現は、具体的事案に応じて判断するという点を記載したほうがよいという意見がございましたので、その点も修正しております。

また、次のページに移りますが、冒頭の脚注19ですが、アイデア等が類似した場合でも問題になり得る場合があることについて明確化したほうがよいという御意見がございましたので、追加しております。

次に、(ウ)ですが、(ウ)の4つ目の丸の記載の趣旨を明確化したほうがよいという意見がありましたので、こちらも修正しております。

また、この点、APIが常に大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物に当たるとは限らないという意見もございましたので、脚注20に記載しております。

次、P22に移りまして、(エ)ですが、この項目は先ほどの(ウ)の一例であることのように読めずに誤解を生じる可能性があるという御意見がございましたため、表題を修正しております。

30条の4のただし書の具体例を考えるに当たりましては、誤解を避けるため、規定の趣旨から説明したほうがよいのではないかといった意見を受けまして、こちら、本文のところですが、追記・修正しております。

また、後でも触れますが、意思表示と技術については別個の論点ではないので、分けて記載すると誤解を生じるといった御意見もございましたので、学習・開発段階のクの部分の記載内容について、こちらに統合するような形で修正を行っております。

また、こちらの3つ目の丸ですが、記載の内容の明確化のための修正を行っております。

また、4つ目の丸につきましても、誤解が生じ得るといった御意見がございましたので、こちら修正しております。

次のページに移りまして、1つ目の丸ですが、こちらの記載についても、趣旨を明確化したほうがよいという御意見がございましたので、本文を修正しまして、記載の内容について補足するものを脚注22として追記しております。

また、この記載について意見がございましたので、脚注23として追記しております。

次が、海賊版の箇所になりますが、こちら、表題の通し番号がオからエと修正されておりますが、順番として正しくはオのままになりますので、訂正申し上げます。

また、こちらの項目についてですが、次のページに移りまして、24ページ目の2つ目と3つ目の丸ですが、規範的な行為主体として侵害の責任が問われる可能性があるのは、生成・利用段階の話になりますが、その点、誤解が生じかねないということで修正しております。

また、この点について、AI学習のための複製物が権利侵害複製物である認識に立った場合に、当該複製物の創作的表現が出力されることを防止する技術的な措置をとらない場合は、規範的な行為主体の認定に当たり、侵害の責任を問われる可能性が高まるといった御意見もございましたので、こちら追記しまして、また、30条の4のただし書の該当可能性を高める要素となるといった御意見もございましたので、脚注に追記しております。

次、P24の下の丸とP25の1つ目の丸ですが、こちら、海賊版の学習については、様々な権利侵害の可能性、リスクも高めるということで、また規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性も高まるということで、追記しております。

次が、P26に移りまして、アの(イ)の記載ですが、2つ目の丸で、通常学習に用いられた著作物の複製物とは言えずという記載ですと、誤解が生じ得るという意見がございましたので、修正しております。

また、3つ目の丸ですが、本文では学習済みモデルの廃棄請求が認められる場合もあり得るとしておりますが、廃棄請求が認められない場合についての御意見もございましたので、脚注27に追記しております。

また、脚注28ですが、現時点の技術水準という前提があるという趣旨を明確化したほうがよいという意見がございましたので、修正しております。

次のページに移りまして、修正前の「ク AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について」ですが、先ほど申し上げましたとおり、こちらの学習・開発段階のエ(エ)に内容を統合しておりますので、ここでは記載を削除しております。

「(1)学習・開発段階」の修正は以上となります。

次に、P28の「(2)生成・利用段階」の説明に入らせていただきます。この部分では、幾つか出てきておりますが、裁判例と判例について、用語の統一が図られておりませんでしたので、最高裁の判例を引いている場合は判例とさせていただいて、ほかは裁判例として記載しております。

また、それぞれの具体的な判例・裁判例を脚注のほうで示しております。

では、修正があった箇所の説明に入ります。P29に移りまして、イの(ア)ですが、類似性の判断は、原則人間と同様としておりましたが、線引きは事案ごとに今までも判断されてきたという趣旨を明確にすべきという意見がございましたので、記載について修正するとともに、類似性について誤解を生じさせないよう、既存の判例の考え方を追記しております。

次に、「イ 依拠性の考え方について」ですが、次のページに移りまして、2つ目の丸の①ですが、記載内容の趣旨を明確にしたほうがよいという意見がございましたので、こちらも修正しております。

また、こちらの①の中の3つ目のチェックですが、必ず記載のような判断となるというふうに誤解されてしまうという意見がございましたので、記載ぶりを修正しております。

次に②ですが、AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合について説明するために、AI学習データに当該著作物が含まれない場合の考えをまず述べておりましたが、その記載順ですと誤解を招くという意見がございましたので、もともと1つ目のチェックに記載していた内容を、次のページですが、③として別の項目として記載しております。ですので、②のチェック、1つ目のチェックは見え消しになっておりますが、文章をそのまま持ってきております。

次のページに移りまして、②の2つ目のチェック、P31の1つ目のチェックに当たりますが、記載の趣旨を明確化したほうがよいという意見がございましたので、こちらも修正しております。

なお、この点については、意見もございましたので、脚注34で意見を紹介しております。

次のページに移りまして、ウですが、記載について具体的な内容が不明瞭で、趣旨を明確化したほうがよいという意見がございましたので、こちらも修正しております。

次のエの4つ目の丸ですが、受け得る措置について、誤解が生じかねないため、明確化したほうが良いという意見がございましたので修正をしております。

次は、P33に移りまして、キの2つ目の丸ですが、事業者が物理的な行為主体になり得る場合があるという点を明確化したほうがよいという意見がございましたので、脚注37に記載しております。

また、ページをまたぎまして、この点について行為主体でない場合も、幇助者として不法行為責任を負う場合が考えられるという意見がございましたので、脚注に記載、本件に関して参考となる判例を記載しております。

「生成・利用段階」についての修正は以上となります。

次に、P35からの「(3)生成物の著作物性について」ですが、次のページに移りまして、イを御覧いただければと思いますが、2つ目の丸の①については記載内容を明確化したほうがよいという意見がございましたので、修正しております。

また、④については別要素という御意見がございましたので、④ではなくて一つの丸として分けて記載しております。

「(3)生成物の著作物性について」の修正箇所は以上となります。

「その他の論点について」は修正がございませんでしたので、飛ばさせていただきます。

そして、P38に移りまして、「6.最後に」ですが、骨子案の際に記載をすることとしていた点を踏まえて文章を記載しております。

1つ目の丸では、今後、著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積、技術の発展、諸外国における検討状況などを踏まえて引き続き検討を行っていく必要があること。

2つ目の丸では、本考え方は、繰り返しになりますが、公表の時点におけるAIと著作権に関する本小委員会としての考え方を示すものであること。また、今後も、下に記載しております、①AIの開発や利用によって生じた著作権侵害の事例・被疑事例、②AI及び関連技術の発展状況、③諸外国におけるAIと著作権に関する検討状況といった点も含めまして、引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて本考え方の見直しを行っていくこととすること。

3つ目の丸で、AIをはじめとする新たな技術への対応については、著作権法の基本原理や法第30条の4をはじめとする各規定の立法趣旨といった観点からの総論的な課題を含め、中長期的に議論を行っていくことが必要と考えられること。

また、今後、AIに限らず、様々な技術の動向や諸外国の著作権制度との調和、ほかの知的財産法制における議論の動向なども見据えつつ、議論を継続していくことが必要であること。

4つ目の丸で、このような継続的な検討と並行して、本考え方に示されたAIと著作権に関する考え方については、著作権制度に関する基本的な考え方とともに、広く国民に対して周知し、啓発を図ることが必要であり、文化庁においては、これらの内容について一般社会に分かりやすい形での周知啓発に向けて積極的に取り組むことが期待されることを記載しております。

資料の説明は以上となります。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ただいまの説明を踏まえまして、まず(1)開発・学習段階について、この箇所について御意見等がございましたらお願いいたします。

では、上野委員、お願いします。

【上野委員】どうもありがとうございます。まずは今回、事務局の皆様には大変な御尽力をいただきまして感謝申し上げます。年末年始、非常に限られた時間の中で、我々もかなり大変だったと思いますけれども、事務局の方も大変御苦労されたことと思います。

特に、他の委員の会合外での御意見を委員間で共有できる仕組みをつくっていただきまして、ありがとうございました。私も非常に勉強になりました。

今回の改訂版は、私の意見も多く反映してくださいましたけれども、他方で、当初からずっと引っかかっていた点がありまして、それがなぜなのか分からなかったのですが、他の先生方の御意見を拝見して、その理由が少し理解できたような気がしますので、ここで一つ事務局のほうに確認までに質問した上で、場合によっては提案をしたいと思います。

というのは、見え消し版でいいますと23ページ目の一番上の段落、「そのため」で始まる段落、ここは恐らくこの文書で最もcontroversialな箇所だと思いますが、ここでは、「AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、かつ、このような措置が講じられていること等の事実から、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合には、この措置を回避して当該ウェブサイトからAI学習のための複製等をする行為は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、本ただし書に該当し、法第30条の4による権利制限の対象とはならないことが考えられる」としています。

もっとも、ここで「この措置を回避して当該ウェブサイトからAI学習のための複製等をする行為」という箇所に、「何々を」という目的語が存在しないように思います。ただ、前後の趣旨からいたしますと、例えば新聞記事でいえば、恐らく個々の記事サイトに掲載されている個々の新聞記事の著作物を複製等することのように理解されるのですけれども、そのように考えてよろしいでしょうか。つまり、解析用の新聞記事データベースの著作物を複製するということだけが「当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」というわけではなく、個々の記事サイトから、robots.txtを回避して、個々の新聞記事の著作物をAI学習のために複製等するということが「当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」として、30条の4柱書きただし書に該当する可能性があるという話をここではしている、という理解で間違いございませんでしょうか。この点まず確認させていただきます。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。上野委員から御指摘いただきましたところにつきましては、この点、情報解析用のデータベースの著作物の例の一環としてお示しをしているところでございまして、情報解析用のデータベースの著作物が複製の対象であろうと考えているところでございます。

その上で、ウェブサイト等からクローリング等の手法によって、個別の記事データ等含めて複製してくる行為については、それらの行為によって、データベースの著作物の創作的表現というだけのまとまりのものを複製してきた場合には、データベースの著作物の複製ということに当たってくるということで記載をしているところでございます。

【上野委員】個々の記事著作物をクローリングして、データベース著作物と言えるほどのまとまりを集めてきたときだけが対象だということになるのでしょうか。データベースの著作物性ある創作的表現が共通するほどに個別の記事データを集めてくるというのは、相当な量を集めなければならないような気もするのですけれども。それはともかく、そうすると、個々の新聞記事をrobots.txtを回避して収集するということ自体がただし書に当たるものではない、そういう理解でよろしいでしょうか。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。御指摘の点については、現在行われているようなクローラ等による収集ですと、基本的には個別の記事を指定して収集してくるというよりはウェブサイト内に掲載しております大量の情報を収集してくるという形が多いかなと思っておりまして、その点で一定のまとまりの形で複製してくるということになると、データベースの著作物の複製ということになってくる場合もあると考えているところでございます。

【上野委員】もしそうであれば、現状の書きぶりでは目的語が欠けているために誤解を招きかねないので、「当該ウェブサイトからAI学習のための複製等をする行為は」の後に、「それが当該データベースの著作物の創作的表現が共通するまとまりに至る場合には」といったことを書くべきではないかと思います。

この部分はかなり大きなポイントだと思っておりまして、データベース著作物それ自体をかなりの量にわたって複製するというのであれば、それは非常にまれではないかと思いますが、「当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」に当たるというのも分からない話ではないですが、そうではなく、単に個々の記事サイトからrobots.txtを回避して、個々の記事著作物をAI学習のために複製等すること自体がただし書に該当するということになりますと、これは非常に大きな問題ではないかと思います。

というのも、この文書は、先ほどの目的語がないままですと、情報解析用データベース著作物を丸々複製するという行為ならず、そこに登載される可能性がある個々の記事が掲載されたにすぎないウェブサイトから、当該個々の記事をrobots.txtを回避してAI学習のために複製等するということにつきましても、それは「当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」であるとして、「法第30条の4による権利制限の対象とはならないことが考えられる」と述べているかのように読めるからです。

私自身がずっと引っかかっていたのはこの点でありして、実際のところ、素案が公表された後、委員会の外でもいろな議論がありまして、このくだりに関する違和感が多いようであります。

今回、中川委員のご意見の中でも、データベース著作物と個々の記事著作物の区別に関する御指摘をしておられまして、それで私も自分の違和感の理由がやっと理解できたような気がするところであります。確かに、情報解析用データベース著作物というのは、ただし書で考慮要素とされる「著作物の種類並びに用途」という観点からしても、それ自体が情報解析用という「用途」を持った著作物でありますし、また、「当該利用の態様」という観点からしましても、情報解析用データベースをAI学習に用いるという行為は、まさに「当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」に当たり得るという形で理解できるように考えられます。

これに対して、解析用データベース著作物を複製するというのではなくて、そこに登載されている、あるいは登載される可能性のある個々の記事著作物を通常の記事サイトから複製するということについては、2つのことが問題になります。

1つ目は、個々の記事を通常の記事サイトから複製等するというのは、それがたとえrobots.txtを回避して行うものだといたしましても、それが「当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」に当たり得る場合があるのだろうかという問題であります。この点は私も依然として疑問があるのですけれども、これについては、既に脚注23にそういう「意見もあった」と記載していただいております。

しかし、2番目により重要なのは、仮に解析用「データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害」したといたしましても、当該データベース著作物に係る著作権ではなく、当該データベース著作物に登載されている、あるいは登載される可能性のある個々の記事著作物に係る著作権について、30条の4柱書きただし書に当たるというのはおかしいのではないかという問題であります。

というのも、データベース著作物とこれに登載される著作物とが別であるというのは当然のことですけれども、その上で、今の書きぶりからすれば、ただし書の適否が問題になっているのは、データベースの著作物に係る著作権ではなく、あたかも個々の記事著作物に係る著作権のように読めるからであります。

つまり、個々の記事著作物を記事サイトからAI学習のために複製する行為が30条の4柱書きただし書に当たるかどうかという問題は、当該記事著作物に係る著作権の侵害に当たるかどうかという問題で、そのようにデータベース著作物ではなく、あくまで記事著作物が問題になる以上、ただし書の適用を考える上でも、そこで考慮要素とされている「当該著作物の種類及び用途」という点はもちろん、「潜在的販路」というものも、ここではデータベース著作物ではなく、個々の記事著作物について検討しなければならないのではないかと思います。

にもかかわらず、本文書は、今の書きぶりからすれば、あたかも個々の記事著作物をAI解析のために複製等をするということが、当該記事著作物の潜在的販路ではなく、「データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する」ということを理由に、当該記事著作物に係るについて、30条の4柱書きただし書に該当するとしているように読めます。

これが、本文書が事実上いささかトリッキーになってしまっているところであり、私自身、今まではっきり理解できなかったのですけれども、もしそういう趣旨であるとすれば、これは根本的な問題があるのではないかと思います。

特に本文書が、「データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」という表現を用いているために、これは中川委員の御指摘にもあったかと思いますけれども、現時点ではまだ解析用データベースが提供されていない段階で、あるいはもしかすると、まだデータベース著作物が存在せず、その著作権も存在していない段階で、個々の記事をrobots.txtを回避してAI学習のための複製等を行うことが、あたかも「データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」として30条の4柱書きただし書に当たり、個々の記事の著作物に係る著作権侵害に当たる「ことがある」と述べているように読めるところでありまして、もしそうだとすると、これはさらに大きな問題があると言えます。

私自身は、個々の記事サイトからrobots.txtを回避して個々の記事著作物をAI学習のために複製等をするという行為が、解析用「データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為」に当たる場合があるかというと、これは基本的にないと思いますけれども、仮にあったとしても、それは、個々の記事著作物の潜在的販路を阻害するわけではないわけですので、そのことは、当該個々の記事著作物に係る著作権について、30条の4柱書きただし書の該当性には結びつかないと考えます。

そこで具体的な提案といたしましては、脚注23の末尾に追加して、「また、たとえ当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為に当たるとしても、当該データベースに登載される可能性のある個々の記事等の著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為とは言えないため、本ただし書に当たらない、という意見もあった」という記載をしていただくことを最低限お願いしたいと思います。

ただ、現状の書きぶりですと、この部分は、データベース著作物と個々の記事著作物を混同するかのように読めるもので、ロジックとしておかしいと私は思いますので、この際、「そのため」で始まる段落を削除するということを提案いたします。あるいは、もし他に御賛同の意見があるのであれば、むしろ私が今申し上げた趣旨、つまり、仮にデータベース著作物の潜在的販路を阻害する行為に当たるとしても、個々の記事等の著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為とは言えないため、当該個々の記事著作物に係る著作権については、ただし書に当たらないと考えられる、という旨を本文に記載していただくことを提案したいと思います。

さらに、もし現状の本文に書かれているような意見がこの委員の中にないのであればそれを記載する必要はないと思いますし、もしそれが少数なのであれば、そちらのほうを脚注に掲載するのが妥当ではないかと思います。

以上でございます。

【茶園主査】事務局、何かございますでしょうか。

今の上野委員の御意見につきまして、何か御意見等ございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いします。

【澤田委員】ありがとうございます。23ページ目の今の記述に関連してですけれども、今、上野委員がおっしゃったとおり、複製の対象の著作物と市場が阻害されるかどうかを判断する著作物は一致していなければいけないと私も思っております。そのため、個々の著作物の複製によって、データベースの著作物の潜在的販路が阻害されるから、個々の著作物の複製がただし書に該当するという判断となるのはおかしいだろうと私も思っております。それもあって、私は、23ページの記述自体は、データベースの著作物を複製する場合を想定した記述だと思っておりまして、そこまでの違和感を持っていなかったというところでした。

今の上野委員の御指摘を踏まえると、ここの記述については、データベースの著作物を複製する場合という記述にするというのが一番良いのかなと思っております。といいますのは、私自身は、先日来申し上げているとおり、特に情報解析用のデータベースの著作物に限らず、ただし書が適用される場面というのはあるとは思っていまして、個々の著作物が情報解析用のデータベースに入っているのであれば、それは情報解析用に個々の著作物がライセンス提供されていると見る余地もあるのかなと思っておりまして、個々の著作物を取ってきて個々の著作物の市場を害するというケースというのもあってしかるべきかなと思っております。もっとも、おそらく今の審議会の中で異論があまりないところは、情報解析用のデータベースの著作物を複製して、データベースの著作物の市場を害する場合にはただし書に当たるという部分なのかなと思っておりまして、23ページの1つ目の丸については、データベースの著作物を複製する場合と記載していただくのが一番よろしいのかとは思いました。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】中川でございます。私も今、澤田委員から御指摘いただいたところとかなり近い意見を持っております。先ほど上野委員からも御紹介いただきましたように、私も、期日間といいますか、意見調整の際にコメントさせていただきました。コメントの趣旨としては、まさに今、上野委員がおっしゃったように、この箇所がデータベースの著作物を想定してのことなのか、それともデータベースを構成する個々の著作物を想定してのことなのかというのが、純粋に私自身としてどちらの趣旨なのか理解できなかったので、そこは明確にしたほうがよいのではないかということも含めてコメントさせていただきました。

先ほど澤田委員から御指摘がありましたように、30条の4ただし書に該当する場合として、現在でいうと脚注の18にも記載いただいているように、「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」の場合に限定するのかどうかということが、そもそも論点としてあるのだろうと思っております。限定されるといった意見があったと脚注には書いていただいておりますが、現在のこの素案自体は、そういったものに限定するという前提は必ずしもとっていないと私は理解しております。

ただ、その上で、この素案の構成は、あくまで従来理解されていたデータベースの議論の延長線上でロジックが構成されていると理解しましたので、そのロジックの中で理解しようとすれば、それはデータベースの著作物が被侵害著作物であって、それが侵害される場合を想定していると理解するのが自然なのだろうと思います。

ただ、その上で、先ほど澤田委員がおっしゃったように、仮にデータベースの著作物以外も場合によっては30条の4ただし書の対象になり得るのだという解釈がとられた場合には、個々の著作物を被侵害著作物とする場合があっても別に論理矛盾ということにはならないのだろうと思いますけれども、そこに関しては現在の素案は触れていないという理解になるのかなと私は理解をいたしました。

ということで、私として何か、私の意見はこうだというより、今、素案をこういうふうに理解しているということが私の今のコメントの趣旨でございますけれども、一旦以上でございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

私も、(エ)に書いてあることは、(ウ)から続いているものとして、データベースの著作物のみを対象にしていると思っておりました。まず、実際に解析目的という、明確にそういう目的で販売されているものがただし書に当たるであろうという前提があって、そこまでに至らなくても、将来そのようなデータベースになるであろうというようなものも含めようとすることが、(エ)に書いてあると理解したのですけども、上野委員の御意見だと、そうではない読み方もできる、不明確であるという御指摘ですね。

【上野委員】御意見ありがとうございました。データベースの著作物のみを対象にしているということであれば確かに話は違うかと思うのですけれども、現状では、わざわざrobots.txtのような技術的「措置を回避して…複製等をする行為は」と書いているところもありますので、一般の受け止められ方としては、個々の記事著作物の複製等それ自体のことを指していると誤解している向きが少なくないように思います。というのも、個々の記事著作物の収集がデータベース著作物の創作的表現の複製と言えるほどに至るから当該データベース著作物に係る著作権侵害に当たるというのであれば、別にrobots.txtを回避しなくたって、それはデータベース著作物に係る著作権の侵害になり得るということになるのではないでしょうかね。

robots.txtのような技術的な「措置を回避して」行うことが要件になっているということは、個々の記事を収集するということだけでもrobots.txtを回避して行う以上ただし書きに当たり得る、つまり、そのような個々の記事が集積して、解析用データベースの著作物の創作的表現が共通するぐらいの分量を複製すればただし書きに当たり得る、という趣旨ではなくて、一般の受け止められ方としては、robots.txtを回避して単体の記事を収集するということ自体がただし書に当たり得る、という趣旨をこの文書は明らかにしたと誤解されているのではないかと思いますし、今の書きぶりでは、そのように受け止められかねないような文章であるように思います。

そうすると、もしこの文章を修文するとすれば、先ほど澤田委員や中川委員が御指摘になったように、「それがデータベースの著作物の創作的表現を複製等するものと評価できる場合には」というように、その趣旨が明確になるように書くべきだと思います。そうでないと、あたかもrobots.txtを回避して個々の記事を単体で収集するだけでただし書に当たる可能性があると誤解されてしまう可能性が高いように思います。

この問題は比較法的にも重要で、例えばヨーロッパの欧州指令でも、一定の場合には機械可読な形で権利者がオプトアウトできるのですけれども、欧州指令でも、学術研究目的で行われる情報解析についてはオプトアウトが認められていないですよね。それどころか、情報解析を禁じるような契約をしても無効だと書かれているほどです。

したがって、欧州指令によると、robots.txtを回避してデータベース著作物に登載されている著作物全体を収集する行為であっても、それが学術研究目的である限り適法のはずです。日本法においても、学術研究目的の情報解析の制約になってしまうような解釈はすべきではないと私は思います。ですので、もしここの記述の趣旨が、繰り返しになりますけれども、個々の記事をrobots.txtを回避して大量に収集することが解析用データベース著作物の複製等に至るような場合を念頭に置いたものだというのであれば、もちろん、データベース著作物全体における創作的表現が共通するほどに個々の記事を収集するというのは、「情報の選択又は体系的な構成」のうち「選択」における創作性が共通する必要があり、そのためには相当の量が必要ではないかと思いますので、そのような場合が本当にあるのかなと私は疑問に思いますけれども、もしそのような場合があったとしたら、データベースの著作物に係る著作権の侵害になる、あくまで、個々の記事の著作物に係る著作権の侵害ではなくて、データベース著作物に係る著作権の侵害になる、ということでしょうかね。

そして、そもそも著作権侵害になるためには著作権の存在が必要ですので、データベースの著作物に係る著作権の侵害に当たるというためには、既にデータベース著作物が存在することはもちろん必要なのでしょうけれども、「将来の潜在的販路」といっている以上、それは解析用データベースという形では現在は提供されていないかもしれないけれども、既に存在するデータベース著作物が将来、情報解析用に提供される可能性がある場合は、「データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する」おそれがあるのだという、そういう理解になるのでしょうかね。

複雑な話ですから、もう少し事前にお話ししておけばよかったのですが。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。ただいま委員の先生方からいただきました意見を踏まえまして少し補足させていただきますと、今おっしゃっていただきましたように、この点、記載の趣旨としては、先ほど事務局から御説明申し上げたとおり、対象の著作物として考えておりますのは、情報解析用のデータベースの著作物であり、問題にする行為としても、情報解析用のデータベースの著作物の複製と言えるような行為については、30条の4ただし書に該当し、権利制限の対象とはならない場合があると、そういう趣旨の記載をしているというところでございます。

この点につきましては、あくまで情報解析用のデータベースとして将来販売されるということが推認される場合は、というところで、必ず推認されるといった趣旨の記載ではないという点が1点。

もう一つは、データベースの著作物の複製という行為が対象ではあるんですけれども、その上で、データベースの著作物の複製の差止請求等をかけていく上では、差止請求、あるいは112条2項でいうところの侵害の予防措置の請求というところで、どの程度の行為まで差止めが認められるかというところも問題となってくるかなと考えておりますので、そういったデータベースの著作物の複製の差止請求あるいはそれに伴う予防措置の請求というところを広く記載するという趣旨で記載をしておったところでございます。

記載の趣旨としては以上でございます。

【上野委員】そうしますと結局、ただし書に当たる場合の効果というのは、データベースの著作物に係る著作権の侵害になるということであって、個々の記事著作物に係る著作権の侵害なるわけではないということですね。これは中川委員の意見書でも、この点を明確にすべきではないかと書かれていたことと関係するかと思います。今の書きぶりは、この点が必ずしも明確になってないかと思いますし、一般にも誤解されているかと思いますので、あくまでデータベースの著作物に係る著作権についてただし書の適用が考えられる、ということを明示すべきだと思います。

以上です。

【茶園主査】では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】私は、robots.txt等の記載、これがあることなども一つの事情として、将来販売される予定があることが推認される場合にはと記載されたことに一つ事務局の御工夫があるのかと思って拝読をしておりました。同時に上野委員の御懸念も重々理解した上で、ただ、こんなことがちょっと心配になりました。

つまり、私は法制度の理解というのは、それ単独でのみ存在するものではなくて、あくまでも現実の世界、現実の情報の流通との関連で、解釈は行われるべきものだと思うんですけれども、現状においてrobots.txtは、言わば真っ当なクローラからは尊重されているという現実があると理解しています。それはデータベースの著作物であろうが、その域に達しないデータの学習であろうが、尊重されているというのが私の理解です。

そうなったときに、今議論された方向での明確化があまり進んでしまうと、要するにrobots.txtを無視して学習していいんだよというメッセージをこの審議会が発することにならないのか。robots.txtを尊重しているのは恐らく、一般に真面目なクローラ。審議会がそれを無視していいよというメッセージを発したときに、正直者がばかを見る結果にはならないんだろうか。今、データガバナンスということが注目されていて、法制度だけではない、様々な工夫によってグッドプラクティスに導いていくということが重視されているときに、そういうメッセージを発することになってしまわないかと感じました。以下はどちらかというと御質問でありまして、この点は落としどころとしてどういう辺りを考えていらっしゃるのか、もし委員の皆さんお考えがあれば、私にはちょっといい考えがないものですから、お伺いできればと思った次第です。

なお、私も、このただし書は、データベースの著作物だけを対象にするものではないという澤田委員や中川委員の意見にその点では同感です。

【茶園主査】今の問題につきまして、御意見等ございますでしょうか。

では、上野委員。

【上野委員】福井委員がおっしゃるとおり、robots.txtのような技術的措置を回避してはいけないということが実務上尊重される場合は少なくないのだろうと思います。そして、私もそれは慣行としてそのようにすべきなのだろうと思います。ですから、例えばソフトローでそういうことは控えましょうと定めることが考えられ、実際のところ、ディープラーニング協会のガイドラインなど、民間のガイドラインも含めて様々なものがあり、それをグッドプラクティスとしてやることは望ましいと思いますけれども、著作権法の解釈論として、robots.txtのような技術的措置を回避して行う一定の行為が30条の4柱書ただし書に当たるというと、それは著作権侵害に基づく法的責任を負うことを意味しますので、そのような可能性をあえてこのような文書で示すというのは萎縮を招きますので、それは避けたほうがいいのではないかと私は思います。もちろん、この文書がrobots.txtのような技術的措置の回避をことさら推奨するかのようなメッセージにならないように留意しなければならないというのは、福井委員が御指摘の通りかと思います。

もう1点だけ、解析用データベース著作物だけがただし書の対象ではないという御意見については、確かに現行法の文言だけを見ればそのように見えるかも知れないのですけれども、そのような見解をとる場合、平成30年改正前もそうだったのでしょうかという点が問われざるを得ないかと思います。もちろん、ある行為が改正前には存在しなかった、あるいは想定されていなかったというのであればともかくとしても、robots.txtだって、情報解析用のライセンス提供だって、改正前からあったわけですから、じゃあrobots.txtを回避して情報解析を行うことや情報解析用ライセンスが提供されている状況で情報解析を行うことは改正前も違法だったのか、というと、改正前のただし書は解析用データベース著作物のみに限定されていましたので、改正によって権利制限が縮小したと考えない限り、やはりそういう解釈はできないのではないかと私は思います。ただ、現実には見解が分かれているところかと思っております。

以上です。

【茶園主査】では、事務局からお願いいたします。

【中原内閣審議官】貴重な御指摘をいろいろありがとうございます。福井先生から御指摘のとおり、実際に一般的な事業者の中でrobots.txtのようなものを回避するような実務がそんなに存在するのか、したがって、こういう議論をすることにどれだけ実益があるのかという御指摘を頂いたこともあったものと存じます。

その一方で、これに関連して法制度に関する解釈論を展開していくというのもこの小委員会に課せられた1つの役割なのではないかと存じます。

そうした中、30条の4のただし書について、解析用のデータベースのケースだけに限定されるのか、されないのかという点については、両論ありましたが、この報告書においては、30条の4ができた際の前提、すなわち技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮するべきこととされた事情を踏まえ、限定されるという立場は必ずしも取っていないものと思います。それでは、具体的にただし書に該当するものとしてどういうものがあるのかといった点については、AI解析用のデータベースでライセンス市場をオンライン上でつくっていくといった現在の実務における取組、しかもそうしたことを行う際には合理的な措置として機械判読可能な技術的措置を講じているということが通常だろうという点を捉えて、今回の素案に提示されているような記載になっているものと存じます。

先ほどのところは、データベースを基調としつつ、情報解析に活用できる形で整理されたデータベースの著作物が将来販売される予定があることが明らかだよねというようなことが推認されるような場合には、権利制限がかからないとする案であると存じます。

上野委員ご指摘のように、機械判読可能な形で意思表示をすればすべて全部ただし書というふうにしてしまうとすると、欧州では確かに非営利機関に対してはオプトアウトが効かないことになっておりますから欧州より限定的になるということになりますが、この素案では、著作権者が反対の意思表示をしていることそれ自体で権利制限の対象から除外するという立場が取られている訳ではないものと存じます。また、欧州の制度では、非営利機関がオプトアウトをオーバーライドして学習した結果が、場合によってはそれが営利機関の活動にも利用されてしまっていることなどが指摘されています。こうした点を踏まえれば、我が国の著作権法30条の4ただし書における、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかといった観点から検討するという立場、ライセンスマーケットに関する状況などを踏まえながら解釈論を展開していくという立場は、権利と新しい技術進歩のバランスを非常に絶妙な形でとるようなものとしてお作りいただいていると理解していまして、その上でどのように解釈論を展開していくのかという、そんな議論ではないかと考えております。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いします。

【中川委員】ありがとうございます。先ほど福井委員から御指摘ありましたように、私もrobots.txtについて尊重すべきという慣行が定着していくことが大いに望ましい、そこに関して全く異論がないというところでございます。

もう一つ、私と上野委員で、もしかして若干認識が違うのかなと感じたところは、私としては、少なくとも現状クローラで行われているような行為については、大量にウェブサイト上の情報を収集してきているので、データベースを被侵害著作物とした場合でも、権利侵害に当たる場合というのは十分想定できると思っております。上野委員の御指摘からは非常に例外的なようなニュアンスを私は感じたんですけれども、現状クローラで行われているような行為を前提にする限り、データベースを被侵害著作物としても、かなりのケースにおいて、侵害という、今回のロジックで侵害とか30条の4ただし書に該当するという結論が出てくる可能性はあるのではないかと思っております。

逆に、個々の記事だけに特に着目して解析用に手作業で取り込むみたいなことを想定すると、それは場面によって変わってくるのかもしれません。ただ、データベースの著作物性を感得することが可能な程度のまとまりというのはそう巨大なものでもないと私は理解しますので、そういう意味では、ロジックというよりはニュアンスですかね、ニュアンスのところで若干私としては違いを感じたところでございます。

以上です。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

この点は、そもそもrobots.txtを回避するという行為をどう評価するか、それが30条の4ただし書とどのように関係するかとか、30条4のただし書の適用範囲は何かとかの、様々な論点が係わると思いますけれども、事務局の考え方では、先ほど説明していただきましたように、23ページに書かれているのは基本的にデータベースの著作物を対象にしたものであるということです。それでは、記事の著作物についてはどうなるかという点は、この点には様々な御意見があるかもしれませんが、ここでは触れていないということであると思います。データベースの著作物に関しては、皆さんに御賛同いただけるのであれば、ここはデータベースの著作物についての記載であることを明確にすることでどうでしょうか。

ただ、データベースのことを例に挙げると、記事について何らかの意味があるように感じられる可能性もありますけれども、そういうことを全て気にすると何も書けないということもあります。ここではデータベースの著作物についてのことであることを明確にして、上野委員や他の委員の先生方に言っていただいたような修正等を検討するということでよろしいでしょうか。

【籾井著作権課長】ありがとうございます。恐らくデータベースの著作物というところはある程度合意ができているけれども、どこまでをデータベースの著作物の範囲に含めるかというところで少し御議論があったのかなと認識をしております。いずれにしましても、上野先生から脚注の部分も含めていろいろ御提案をいただきましたので、一旦議論を整理して、この点については修文を再度皆様にお送りさせていただきたいと思います。

【茶園主査】では、よろしいでしょうか。

では、その他の点につきましても何か御意見等がございましたらお願いいたします。

では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】ありがとうございます。私からも、意見も随分多く反映をいただきまして、また、この間、非常に御工夫のある修正をいただいた事務局に感謝いたしたいと思います。

その上で2点、質問とそれからコメント、各1点申し上げたいと思います。最初は、見え消し版の17ページの矢羽根辺りから始まりますが、RAGに関連しての記載です。ここでは学習データの出力は意図しないけれども、RAGなどの、著作物の創作的表現の出力を意図して、著作物をベクトル変換したデータベースを生成などするための複製は享受目的であると。

一読すると、多分皆さん苦労するだろうなという記載がありまして、ここは正確を期してお伺いいたしますが、これは要約能力を一般的に備えたAIの開発自体を抑制するものではなくて、RAGにおける個別のクエリに応じたデータベースの生成などが問題になっているという趣旨で考えてよいでしょうか。まずこれは質問です。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。今福井委員から御指摘いただきました点は御理解のとおりかと思っておりまして、その旨を18ページのほうでもRAGの記載をしておりまして、その箇所で、生成AI自体の開発ではなく、RAGを実装する際に必要となるデータベースの作成等、ここにかかる著作物の複製等について、一部享受目的ありという評価があり得るという趣旨で記載をしているところでございます。

【福井委員】分かりました。そうであれば私から異論はありません。

次いで、見え消し版の20ページのイの3丸ですかね。アイデアが類似する作品が大量に生成されることでクリエーターの市場圧迫が考えられるが、それは権利者の利益を不当には害しないと読める箇所についてです。これについても、もともとの表現からすると、その前の段落の後段を削除いただいていたり、また逆に次の段落には加筆をいただいていたり、脚注の19も加えていただいたりということで、随分とバランスをとろうとされた跡を私は感じます。それはすなわち、アイデアのみの類似であるのか、表現も類似しているのかを柔軟に見るということでのバランスなどを含んでいるのかなと、理解しました。

そこは重々評価した上で、なお私は、経済的にオリジナルクリエーターが圧迫され得るのに、それは利益を不当には害しないんだと断言する現在の記載には、やや違和感を感ずるのですね。この点、そもそも論になるんですが、アイデアの無断借用が被借用者に時に経済的な打撃を大いに与えるということは、これは歴史的に見て当然の理であろうと思うんです。

ただ、それでも著作権制度が、アイデアは自由利用だとしているのは、つまり、そのような先行発案者への打撃が仮にあったとしても、我々の文明においてアイデアの自由利用はまさに根幹である。よって、借用による新たな創造のメリットが上回っているという、その1点でこれを正当化することを我々の社会が選び取っているということじゃないかなと思うんですね。

そこまで考えますと、類似アイデアの作品が大量また高速にされて、その結果、オリジナルクリエーターに生ずる経済圧迫がある時に、不当にその利益を害するかという判断から完全に除かれてしまう書きぶりにはやはり違和感を感じました。それは不当に害するか否かの実質的な総合考慮の中で、一要素にはやっぱりなるべきじゃないかなあと、こんなふうに感じるんですね。私はそういう意見を持っています。

とはいえ、この段階ですので、もし委員の皆さんが、現状案を支持する御意見であるならば、ここはそういう意見が優勢であったと書いてはいただけないか。ちょっと私、自分の名前の下に一律に不当に害さないと申し上げるのは現在躊躇を感ずるところです。

以上です。

【茶園主査】今の福井委員の御意見につきまして、ほかの先生方、御意見等ございますでしょうか。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】福井先生のおっしゃることは非常によく分かるところでありまして、生成AIによるアイデアの大量利用がクリエーターに経済的不利益を与える事態については検討課題になるところであります。実際のところ、例えば、ディープラーニング協会の「生成AIの利用ガイドライン」などでも、「特定の作者や作家の作品のみを学習させた特化型AIは利用しないでください」とか「プロンプトに既存著作物、作家名、作品の名称を入力しないようにしてください」などと定める例がありますけれども、これは民間のガイドラインやソフトローにおいて、法解釈とは別に「保守的に考えて」定められたものであります。

他方、著作権法の解釈として、生成AIによるアイデアの大量利用がただし書に当たる余地があると考えるかというと、もしただし書きに当たると、単にモラルや慣行の問題ではなく、著作権侵害ということになります。もちろん、ただし書きの文言は「著作権者の利益を不当に害する」かどうかというものですので、これをナイーブに読みますと、生成AIによるアイデアの大量利用という行為も確かに「著作権者の利益を害する」と言えるかのように見えるかもしれないのですけれども、これまでの委員会の議論でもありましたように、従来の議論では、生成AIによるアイデアの大量利用がもたらす不利益というのは著作権が保護する利益に対する不利益ではなく、著作権が保護していない利益に対する不利益にすぎないと考えられるところであります。

確かに、ただし書の文言は、一見すると非常に一般的な読み方ができるようにも見えるのですけれども、「著作権者の利益」が不当に害されたかどうかが問題とされている以上、あくまで著作権によって保護される利益を問題にすべきでありますし、また、「当該著作物」「当該利用」などと考慮要素が掲げられていることからすると、生成AIによるアイデアの大量利用は「著作物の利用」ではありませんので、そのことをただし書きにおいて考慮するというのは文言に合致しないように思います。いくらただし書きが諸事情を考慮する規定だといっても、いかなる事情でも考慮できるというわけではありませんので、それを何となく、と言ったら失礼なのですけど、生成AIによるアイデアの大量利用が不利益をもたらす以上、ただし書きに当たる可能性が否定できない、というのは、些か素朴にすぎる解釈ではないかなと私は思うところであります。

また、そのようにただし書を解釈するとしますと、ことは30条の4第2号だけではなく、同じただし書きの対象となるものとして、1号の技術開発等の試験の用に供する場合もありますし、3号の人の知覚による認識を伴わない利用もありますし、そのほか柱書本文に該当する非享受利用一般に関しても同じ問題にならざるを得ません。さらに、同様のただし書は、他の権利制限規定、例えば35条などにもありますので、ただし書きを緩やかに解釈すると、ほかにも大きな影響を与えかねないように思うところでございます。

ただ、福井委員ご提案のように「優勢であった」という記述にすること自体については、特に異論ございません。

以上です。

【茶園主査】では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】上野委員とこういう議論ができること自体が非常にぜいたくな話だなあと思うわけですけれども、まさにおっしゃった、著作権制度が守ろうとする利益は一体何なのかということは、別に神によって啓示された所与の前提ではなくて、我々自身の社会が選び取るものだと私は思うのですね。そう考えたときに、他の条文解釈との整合性、ごときというふうにあえて言わせていただきますけど、そのぐらいのことで、この大量・高速に生まれる作品による市場圧迫という、私にはある種の蓋然性とも思える事態について、全くそれを考慮しないという判断をここでしてしまっていいんだろうか。私はやっぱりそこは引っかかるんですね。他の条文の似たような表現とは、それは状況が違うんだから違う解釈ですよということをできるのが、法解釈というものだろうと思います。

以上です。

【茶園主査】では、中川委員、お願いいたします。

【中川委員】ありがとうございます。私も30条の4ただし書に関連して、作風が類似するものが大量に生成される場合をどう理解すべきかということをずっと考えてまいりました。正直に申し上げれば、現状でも確信を持った見解に至っていないというのが個人的な現状でございます。確かにロジックとしては、著作権法が保護するものは何なのかということで、上野委員御指摘のように理解することが、非常にクリアカットでロジカルだなと私も感じるところがございます。

しかし、他方で、私、今回の素案でいいますと脚注の19に反映していただいたのだと思いますが、こういう場合であっても、場合によっては不法行為が成立する可能性があるのではないかということを明示したほうがよいのではないかという御提案をさせていただいて、実際に反映いただいたと理解しております。

当然こういう議論のときには、御高承のとおり、いわゆる北朝鮮事件最高裁判決との整合性というものが意識されるのだろうと理解しておりますけれども、ちょっとここに至ってはといいますか、AIが出てきてこういう状況になった以上は、こういう状況も踏まえてもう1回北朝鮮事件最高裁判決の射程を考える必要も出てきているのかなということを感じております。

また、本委員会の別の会で、実演家の声と非常に類似するものを生成する場合についても私から言及させていただいたことがありましたが、そういう場合も含めて、仮に不法行為が成立するほどの悪質性が認められるような場合であっても、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないというのは、確かに著作権者の利益ではないのだと言えばロジカルかもしれないけれども、文言上は非常に落ち着きの悪いようなものを感じるところもありまして、つらつら考えているけれども、私としてまだ個人的に明確な結論に至っていないというのが正直なところでございます。

そうしたことも考えますと、せっかく条文がオープンな書きぶりにしてくれているということもありますので、このように「該当しない」と断定して、以上おしまいにしてしまうのがいいのかというと、ちょっと躊躇を感じるところもありまして、福井委員の御指摘のように、何らかの空白を残すといいますか、幅を残す解決というのが今回あってもいいのではないかと私も感じました。

以上でございます。

【茶園主査】では、早稲田委員、お願いいたします。

【早稲田委員】ありがとうございます。この点、ちょっと私のほうでも意見を出させていただきましたけど、私はこの書きぶりでいいんじゃないかなと思っている者でございます。確かに福井委員、中川委員おっしゃったように、クリエーターの経済的利益については、やはり侵害になるのではないかと。これだけAIでたくさん一瞬にしていろんなコンテンツができるという意味では経済的利益としては侵害になるのではないかとは思うんですけれども、やはり従来の著作権法の解釈からいうと、アイデアにとどまるものについては著作権法では保護しないと、こういうところでございますので、少なくとも本報告書の時点ではこういう書きぶりしかないのかなと思っております。

ただ福井委員のほうでおっしゃったように、ほかの意見があったとか、これがこちらのほうが優勢であったとかというような書きぶりについては、それ自体はよろしいんじゃないかと思います。福井委員がおっしゃっておりましたし、以前上野委員のほうでも御紹介いただいたように違う解釈論というのもあることは私も承知しておりますので、そういう書き方でもよろしいかと思いました。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、澤田委員、お願いします。

【澤田委員】ありがとうございます。今福井委員から御指摘のあった点というのは非常に難しい点だとは思っているんですけれども、私としては、現行法の解釈としては、福井委員がおっしゃった現行法が選び取ったものとしては、やはりそういったアイデアは保護しないということを決定しているのではないかと思っておりまして、私もこの素案の記述には特段違和感はなかったところであります。

そういった特定のクリエーターのアイデアを模倣するような行為を許していいのかというところについては、立法論なり、先ほど中川委員から御指摘のあった不法行為の解釈というところでカバーすべき話なのかなとは思ったところであります。

あと、優勢であったという記述をするかどうかについては、全ての委員の意見が一致している部分というのがどこまであるのかというところはありまして、色々な箇所が「優先であった」ということになるようには思います。そのため、その辺りの平仄を取っていただいて、脚注でこういう意見があったと御紹介いただくのか、優勢であったと書いていただくのかというところは全体に関わる部分でもあるので、そこは事務局で御検討いただければと思っております。

以上です。

【茶園主査】では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】優勢であったという記述にまで反対意見が出たと思いましたので、これは一言申し上げさせていただきます。我々は今歴史の前に立っているわけです。歴史的な議論をしております。その中で、委員として、この部分にだけは、私は、この断定調には同意できないと申し上げているんですから、優勢であった等はぜひお認めいただきたいと思っております。

【茶園主査】では、島並委員、お願いいたします。

【島並委員】ありがとうございます。少し福井委員を擁護する立場からコメントさせていただきます。今議論されているのはただし書ですので、著作権者の利益を害することは再抗弁です。つまり、表現の利用があることがまず請求原因で、30条の4の本文が定める非享受利用の要件を満たした場合はそれが抗弁になり、さらにただし書は再抗弁になるわけですよね。つまり、前提として、表現の利用は請求原因で充たされなくてはないわけですから、福井先生のお考えを入れたとしてもアイデアの保護に直接つながるわけではないわけです。あくまでも表現が利用されていることを前提に、その例外の例外としていただし書の適用を認めるに当たっての考慮事情として著作権者の利益をどう考えるかということがあくまで問題点にすぎないんだと思います。

それともう1点なんですが、この著作権者の利益というのは、侵害が成立した場合の損害賠償の対象となる損害とは別の概念であり得ると私自身は考えます。つまり、金銭化された幾らの賠償をするというときには、あくまでも表現が利用された上での損害概念が出てくると思うのですが、それとは別の被侵害利益についてどのような要素を考えるのかというときには、まずは開かれたものとしてアイデアも考慮する余地はあるのではないかと私自身は考えます。

私からは以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。この点、ほかの先生方、御意見等ございますでしょうか。

では、事務局、お願いいたします。

【籾井著作権課長】事務局より失礼いたします。御意見頂戴しまして、ありがとうございます。福井委員の御懸念のような点は、実は一番下の白丸の部分である程度拾ってはいるつもりではあったんですけれども、表現のレベルに至るものもあるんじゃないかというところで拾っているつもりではあったんですけれども、これがひとつちょっと、なお書きになってしまっているところで、そこのニュアンスが弱まっているのかなという気もしております。

いずれにしましても、こちらもどのように修正するかということも検討いたしまして、議論をいただいた御意見を踏まえて少し修文を御提示させていただければと考えております。

【茶園主査】よろしいでしょうか。

では、上野委員、お願いします。

【上野委員】私も今の点につきましては、福井委員の御意見が適切に反映されるように書きぶりを工夫していただければと思いますが、ほかの書きぶりと平仄をとる観点からは、ここだけ「優勢であった」という表現を用いるよりは、脚注で、「考慮要素になり得るという意見もあった」と書く方が自然かなと思います。

ところで、今、その次のところに関する御説明もありましたので、20ページ目の一番下の段落ですけれども、この部分について、質問というか、意見を述べさせていただきます。今回の改訂版では、これまでの「ファインチューニング」とされてた表現が「追加的な学習」という表現に変えられましたが、それでも、「当該作品群には、これに共通する表現上の創作的表現があると評価できる場合もある」という文章については、これが私にはその意味や想定している場面がどうしてもよく分からないと思いましたので、年始に提出した私の意見書でも、これを大幅に書き換えることを提案したのですけれども、現状では特に反映されず、もとの文章がそのまま残っているように思います。

ただ、本日の会合で新たに公表されました「3.生成AIの技術的な背景について」という部分で、技術的な背景に関連して、「生成AIに対する追加的な学習のうち、学習済みの生成AIに小規模なデータセットを用いて追加的な学習を行い、当該データセットに強い影響を受けた生成物の生成を可能とする技術」という記述がありまして、これは先ほどの箇所と表現ぶりがよく似ていますので、先ほどの箇所ではこのような技術が想定されているのかなと理解いたしました。

ただ、そうだとしても気になるのは、他の箇所で「追加的な学習」という同様の場面が想定されている記述が幾つかありますが、そこでは「小規模なデータセットを用いて」という表現や「少量の学習データを用いて」という表現がある部分もあれば、それがない部分もあるように思います。もしここで想定されている「追加的な学習」というものが、少量の学習データのみを用いるものを想定しているというのであれば、そもそも著作権法上の「情報解析」とは「大量の情報から……解析を行うこと」と定義されており、少なくとも30条の4第2号が適用される余地はないと考えられますので、「少量」かどうかというのは非常に重要なものかと思います。

そこで、同様の記述がある部分、例えば見え消し版17ページ下から2段目の「近時は」で始まる記述ですとか、25ページ目2段落目の「そのため」で始まる記述については、その趣旨に応じて、「少量の学習データを用いて」ということを明示することをご検討してもよいのではないかと思います。

もっとも、そうするといたしましても、先ほどの20ページの下から1段落目の「なお」で始まる箇所は、今回、福井委員の御意見も盛り込まれたところかと思いますけれども、やはり「当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである」という記述になっております。この点は、その前の17ページのところで同様の記述の書きぶりが変更されたように思いますので、20ページでもこれに対応した変更があってもよいようにも思います。ただ、依然として、この箇所は、AIと著作権という問題に長く取り組んでいる私にも、どういう場面が想定されているのか正直よく分かりません。そうであると、この文書が「配意すべきである」といっても、読み手には何をどう配意すればいいのか分からないことになりかねないように思います。

もし、ここでは結局のところ、創作的表現が共通する著作物だけを集めてきて追加学習を行うということを想定しているというのであれば、そのことをストレートに表現した書きぶりに工夫することが考えられるのではないかと思います。なお、この委員会の外でのいろいろな議論を聞いておりましても、この箇所が不可解だという声が少なくないようですので、改めて御検討いただければと存じます。

以上でございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、福井委員、お願いします。

【福井委員】今の点と、それからもう一つ。私が先ほどせめて優勢であったにしてくれと申し上げたのは、澤田委員の御意見を伺って、優勢という書き方にすらならず断定になるのかなと思ったので、もし仮に不当に害しないという意見が委員会で優勢であったとしても、優勢であるという書き方をしてくださいということを申し上げたんですね。しかし、今出た各委員の意見を伺っていると、むしろ一方が大勢というより、賛否がありました。賛否双方があったのであれば、賛否あったと書くのが本来であろうと思います。これを申し上げておきたいと思います。

その上で、P24の2丸のところ、海賊版からの学習について、学習の箇所での最後のコメントとして申し上げさせていただきたいと思います。ここも実に様々加筆いただきまして、この点は非常に評価するわけです。しかし、やはり気になるわけです。要するに、生成段階において表現の類似物が出ない限りは海賊版サイトから学習しても適法ですよというメッセージにこれはなってしまっていないかということです。既に申し上げたとおり、海賊版サイトにおいてもしrobots.txtがないんだとすれば、それは権利者の意思を全く反映していないわけです。権利者は、robots.txtを記載する、その機会すら奪われているわけです。

思い起こせば2018年、漫画村という問題が発生した後のこの5年間、現行法の下でできる海賊版対策の努力を出版社や協力弁護士たちは日夜続けてきました。そして最悪期、月間4億アクセスであった海賊版サイトへのアクセスは、ようやく月間1億前半台のアクセスに抑え込めるようになっています。

加えて言うと、EU指令でも現に海賊版などからの学習は部分違法化されていると理解しています。

それについて、不当に害する要因である可能性としても提示しないとすれば、私にはとても残念なことに思えます。特に海賊版サイトから収集される学習用データですよということを信頼できる通知などによって知って、そういう立場にありながらなお学習を行う、そのための複製は、少なくともこのただし書への該当可能性を高める要素であると考えることはできないかと、こう思うわけです。

私からは以上です。

【茶園主査】では、上野委員、お願いします。

【上野委員】こんなふうに先生と議論させていただけるというのは大変貴重な機会ですので、あまり時間もないのですけれども、もう少し議論を深めさせていただければと思います。福井委員は年始の御意見でも、また今もおっしゃられましたように、海賊版サイトからの収集行為というのは本ただし書への該当可能性を高める要素であると明記することを御提案されていると承知しております。

その根拠として、海賊版サイトから情報解析のために著作物を収集する行為は、当該海賊版サイトからの自動公衆送信を引き起こすことになるのであり、その自動公衆送信行為というのは、まさに海賊版サイトによる侵害行為ですから、いくら情報解析のためだといっても、海賊版サイトから著作物を収集すれば収集するほど、侵害行為が多数行われることにつながるということをご指摘されておられまして、そのこと自体は確かにその通りだと思います。

ただ、このただし書で問題になっているのは、「著作権者の利益を不当に害する」かどうかということです。確かに、海賊版サイトに対するアクセスが増えれば海賊版サイト運営者にとって広告料等収入が増えると考えられますから、そういう意味では、海賊版サイトへのアクセスが増えれば、その運営者は不当な利益を上げるということになると思います。

しかし、それによって権利者が不利益を被るとまで言えるかが問題になります。確かに、先生がおっしゃったように、無料の海賊版サイトに一般の人が漫画や動画を見にアクセスすると、ただで閲覧できてしまうだけに、権利者による正規版サイトあるいは正規版コンテンツの需要が減ってしまい、その結果、権利者が得られるべき利益が害されることになりますので、これをもって「著作権者の利益が不当に害する」と言える余地はあるかと思いますけれども、情報解析目的の利用というのは、あくまで非享受利用なのですから、いくら海賊版サイトからの収集が行われたとしても、正規品の需要が低下するということはないと考えられますので、著作権者の利益が害されることはない、まして「不当に」害されることはないというべきであると私は思います。

ただ、これはあくまで著作権法の解釈論の話でありまして、福井委員ご指摘のように、侵害サイトから著作物を収集すること自体は、これを控えるべきかどうか検討課題になり得るものと思います。しかし、このことをただし書の問題だとしてしまうと、同様のただし書きを有する他の権利制限規定に関しても、もちろんほかの規定は別の考えをすればよいというお考えもあるかもしれませんけども、文言が同じである以上、同じような解釈することになるはずです。例えば35条の対象となる教育機関における授業目的利用に関しても、侵害サイトだと認識しながら授業目的で利用するという場合が考えられます。もちろん、そのような行為はいわばモラルとしては控えたほうがいいのかもしれません。したがって、一般論としては、民間のガイドラインなどでも一定の行為を控えるべきだと定めたりすることが考えられるところです。このように、著作権法の解釈論はともかくとして、慣行やモラルとして、こういう行為はやめましょうということを協議して定めることは実際あるわけですし、そのような取り組みは非常に有用なことと思います。したがって、情報解析につきましても、著作権侵害に当たることが明らかな海賊版サイトから収集することは控えましょうといったようなことを、何らかのソフトローとしてステイクホルダーが取り決めるということは私もあり得る選択肢だと思っていますので、目指す方向性としては近いものがあるのではないかと思います。しかし、今この文書では、そうしたものを、著作権侵害という法的責任に直結する著作権法の解釈論でやろうとしているから難しい議論になってしまっているのだろうと思っています。

私自身はモラルや慣行の問題と著作権法の解釈論は区別すべきであると思います。福井委員がモラルについて非常に深い御知見をお持ちであることは私も承知しておりますし、その重要性については私も本当に共感するところですけども、非常に影響力のあるこの文書に書くのであれば、さしあたり解釈論として言えることにとどめるべきであり、もしそれ以上に踏み込んだ記述をするのであれば、法解釈とは別に、モラルや慣行として民間の対話を奨励することが望ましい、というようなことを脚注にでも書くことが考えられるのではないかと思う次第であります。

以上です。

【茶園主査】では、福井委員、お願いいたします。

【福井委員】ありがとうございます。言っていただいたことは、非常にグッドポイントでありまして、ここで一つ、直接的に違法な公衆送信が増えてしまうような影響として重要なのが、プロミネンスが上がってしまうことなんですね。つまり、アクセスが増えると、その海賊版サイトが検索結果の上位に上がりやすいのです。検索の上位に上がっているものには人々は誘引されるので、よりアクセスが増えちゃって、権利者の利益、ストレートに害されやすいのです。

ですから、海賊版サイトからの学習のためのアクセス増えてしまいますと、その結果、人々がより海賊版サイトに誘引されてしまうという、こういう影響があり、これはやっぱり利益を不当に害していると思えるんですが、これはいかがですか。だんだんシンポジウムみたいなってきましたけど。

【上野委員】先生がおっしゃったのは、情報解析による海賊版サイトへのクロールが増えると、それだけアクセス数が増えるので検索結果の上位に上がって、一般の人が海賊版サイトを享受目的で閲覧しに行くのが増えるというお話で、言わば間接的に権利者の利益を害するということかもしれませんね。しかし、仮に情報解析目的のクロールがあったことによってそれほどまでアクセス数が増えることがあったとしても、海賊版サイトが検索結果の上位に上がってくること自体が問題なのではないかと思いますし、仮に権利者の利益に影響があるとしても少し間接的にすぎるので、不当に害するとまで言えるのだろうかと私は思いますけれども、お答えいただきありがとうございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、中川委員、お願いいたします。

【中川委員】ありがとうございます。私の素案の理解について、先ほどと同じようなコメントになってしまうかもしれませんが、先ほど申し上げたとおり、この素案では30条の4ただし書について、データベース以外のものが存在するかどうかについては明言していないという、そういう構成をとっていると理解しています。だから、存在するともしないとも、存在しないとは言ってないんだけれども、明確にこういう場合がありますということも言っていないのだろうと思います。

そういう状況がある中で、ただし書への該当可能性を高める要素になるかどうかを本文で言及するのは、ハードルが若干高いのかもしれませんけれども、仮にデータベースに限らないと、ほかにもいろいろあるのだということになれば、その場合は諸事情が総合考慮されるわけですから、こういうことが考慮要素の1つになるというのは非常に自然な解釈ではないかと私も感じました。

ですので、脚注になっているからここが否定されたと捉えるのは必ずしも適切ではなくて、そもそも30条の4ただし書についてどういったものが対象になるかということについて素案ではあまり踏み込んだ言及まではされていないので、現状脚注になっているということにすぎないと理解しています。先ほどからの議論を見ると、脚注にあるのは反対・少数意見というようなニュアンスがなくはないですが、脚注24になっているからただし書への該当可能性が本文では否定されているのだと解釈するのかというと、私はそうではないと理解しておりますので、そこだけコメントでございました。

以上です。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

では、次に進めさせていただきます。続きまして、(2)生成・利用段階、この箇所につきまして御意見等ございましたらお願いいたします。

今村委員、お願いいたします。

【今村主査代理】30ページ以下の①から②、③の部分につきまして、AI学習用データに当該著作物が含まれている場合と含まれていない場合とに分けて分析されているわけなんですけども、当該著作物と書かれているので、当該著作物の類似物というか、表現上の本質的な特徴を直接感得できるような部分だけれども、当該著作物そのものではないものも大量学習している可能性もあると思うんですね。そうしたら、当然例えば③のようなケースでも、AI学習用データに当該著作物が含まれてないけど、類似したようなものをたくさん学習しているのであれば、類似したようなものが出てくる可能性も当然高まってくると思います。なので、恐らく当該著作物というのは、②と③に共通したことだと思うんですけれども、似たような著作物というか、当該著作物そのものじゃないけど、似たようなものも含めて学習したということも含まれているんだとは思うんですね。その理解でよろしければそれで構わないし、そういうふうに読むのが自然なのであれば、このままの記述でも構わないと思うんですけども、その点、念のため、事務局の御認識をお伺いできればと思います。

【三輪著作権課調査官】事務局でございます。今村委員から御指摘いただきましたところは、必ずしもある一個の既存の著作物、それそのものを学習していた場合に限るというということではなく、当該既存の著作物と表現上の本質的特徴が共通したものも通常の著作権法の考え方どおり含むものでございます。

もっとも、全く当該既存の著作物と独立に創作されたけれども、類似している。要するに依拠性が認められず、独立創作であるといったような場合についてはまた別論というところもあるかと思いますが、通常どおり、当該既存の著作物と類似・依拠したものというものであれば、そこまでも含むということになるかと思っております。

以上でございます。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

では、何かありましたらまた後ほどお願いするといたしまして、先に進めさせていただきます。

続きまして、(3)生成物の著作物性及び(4)その他の論点、それから、6.、これらについて御意見等がございましたらお願いいたします。

では、今村委員、お願いいたします。

【今村主査代理】この委員会において、さまざまな論点を検討する上での当然の前提となっていることに関連するのですが、「最後に」というところで必要十分なことは書かれているとは思うんですが、恐らくパブリックコメント等を求めたときに、著作者人格権のことであるとか、著作隣接権のことであるとか、そういった著作権法に規定されている著作権以外の、著作財産権以外の権利との関係について指摘されるコメントも出てくると思うんです。それはそれで有益なコメントとして受け取ればよろしいかと思うんですが、少なくとも今回の検討の中では、そこの部分についてはあまり、あまりというか、焦点を当てて議論はしていないので、最後にというところに触れるか、最初のほうに触れるかは分からないんですけれども、もし必要があれば、今回の議論が、あくまで著作財産権の部分であったということか分かるようにして、その他の問題は、また今後必要に応じて検討するとか、そういったことに入れるというような記述を入れてもよいかなとは思います。その辺は事務局の御判断にお委ねしますけれども、恐らくパブコメでは出てくるかなと思った次第です。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

では、最後に資料全体を通じて御意見等がございましたらお願いいたします。

では、上野委員、お願いいたします。

【上野委員】まさか時間が余るとは思っていなかったものですから、もしお許しいただけるようであれば、先ほど中原審議官からお話がございました欧州との関係について、1点御質問させていただければと思います。

本日の議論を踏まえますと、今回の文書は、解析用データベース著作物に登載される可能性のある個々の記事を、robots.txtを回避して、個々の記事サイトから、当該データベース著作物の複製と言えるほどに収集する行為、これがデータベース著作物の複製に当たると言えるためには、個々の記事サイトには「体系的な構成」というのはないと考えられるだけに、情報の「選択」における創作性が共通する程に大量ないし網羅的に収集してくる必要があるように思いますので、それが実際にどれほどあり得る話なのかということについては疑問が残りますが、もしそれがあるとすれば、そういう行為は解析用データベース著作物の将来の潜在的販路を阻害する行為に当たることを理由に30条の4柱書ただし書に当たり得る、という立場をとっていると考えられますが、そのようにいうとすると、企業が記事サイト上の記事データを大量に集めてくるというケースだけではなく、例えば大学のような研究機関が学術研究目的で記事データを大量に情報解析するという場合も、それがrobots.txtを回避して行うという以上は、権利者による解析用データベース著作物の潜在的販路を阻害するおそれがあるという事情は同じかと思いますので、その場合もただし書きに当たるとして著作権侵害に当たる可能性があるということになるのでしょうか。

もちろん、権利者が解析用データベース著作物を営利企業にしか提供していないというのであればともかく、この委員会における新聞協会さんのヒアリングでもお話がありましたように、新聞記事データベースを情報解析目的で研究機関向けに提供しているという例があり、既に「市場があります」というお話しもございました。

これに対して、先ほども御紹介がありましたけれども、欧州指令やイギリスでは学術研究目的の情報解析についてはその自由がほぼ無条件に確保されていまして、権利者が機械可読な形であってもオプトアウトすることはできませんし、たとえこれを禁じる契約を締結したとしても無効だということにもなっています。むしろ欧州指令は、そのように権利者が情報解析をブロックする事態を問題視して学術研究目的の情報解析の自由を確保するための規定を設けたという背景が、その前文にも書かれているところです。

そうすると、もし日本で記事をrobots.txtを回避して収集することが解析用データベース著作物の潜在的販路を阻害する行為に当たることを理由に著作権侵害に当たり得るという解釈をとることになりますと、結果として、大学等の研究機関による学術研究目的の情報解析も著作権侵害に当たり得ることになりますので、日本において、欧州指令やイギリスよりも厳格な条件を、明文の規定なく解釈論で導くということになるかと思います。

私自身は、そのような解釈はいかがなものかなと思っております。少なくとも研究機関が学術研究目的で行う解析については、欧州などと同様に、たとえそれがrobots.txtのような技術的措置を回避して行うものであったとしても著作権侵害にならないと解すべきではないかと思っておりますけど、もし現段階で何かおっしゃれることがありましたら、御回答をいただければと思います。お願いいたします。

【中原内閣審議官】御指摘ありがとうございます。私が先ほど申し上げましたのは、欧州と日本と比べたときに、どちらがいわゆる機械学習の便宜の観点からやりやすい、やりにくいというような評価は一義的にできるものではなくて、それぞれの国の状況に応じた制度設計がされているとこと、我が国においては、本文における非享受利用とただし書ということで整理がされており、それは当審議会で御議論をされた上で得られた1つの英知ではないかということを申し上げた次第でございます。

したがって、我が国においては、非営利の研究機関であったとしても、ただし書の適用は必ずしも排除はされないとは理解をさせていただいている次第でございまして、当審議会においては、そうした取扱いが妥当であるとの前提で今日に至っているものと理解させて頂いております。

【茶園主査】ほかにございますでしょうか。

では、𠮷田委員、お願いします。

【𠮷田委員】𠮷田でございます。本日は、私にとっては勉強になることが多い議論だったのですが、冒頭に技術的な背景をお示しいただいたと思いますが、やはり技術的な背景というところを議論するときには、どこまでの範囲を想定しているか、技術的な背景はこれからもどんどん進んでいくかと思われますので、今回の学習段階、生成段階を通して、例えば、素案の前提となっているのは(1)とありますが、(2)についてもRAGやファインチューニングは素案に想定されているように思います。現段階の素案で想定されているAI技術と著作権法の位置付けは、もう少し明確な説明があるほうが、読み手にわかりやすいように思いました。また、機械学習は大量的に行われることが多いので、個別的な問題に対処するのは難しい。その点も議論を難しくしているのかもしれません。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

これは単に私の印象といいますか、しかも内容ではなくて表現に関することなのですが、このペーパーでは著作物の創作的表現という言葉が大変多く用いられています。このような言葉を、私自身も使ったことがあると思いますが、大変多くの箇所で著作物の創作的表現、さらには著作物の創作的表現に括弧して表現上の本質的特徴という言葉が用いられていて、少々違和感があります。先生方は特に違和感がないでしょうか。

【上野委員】ご指摘の点は私の指摘に基づいて補充していただいたので、事務局の問題ではないのですけれども、確かに、著作権法の条文上は「著作物」=「創作的表現」なのだろうと思いますので、「著作物の利用」と言えば「創作的表現の利用」を意味することになるのかもしれませんけれども、ただ、著作権法的にも「著作物」が作品全体といった意味で用いられることもありますし、この文書でも、「全部又は一部」ですとか、あるいは「一定の情報のまとまり」といった表現があり、当初の素案は、この点で誤解を招きかねないものであったように思います。実際のところ、一般における素案の受け止めにおいては今でも、アイデアとか事実の利用にすぎない行為であっても「著作物の一部」の利用に当たるとするかのような理解が見受けられるように思います。ですので、著作権が及ぶのはあくまで著作物の創作的表現が利用されたときだけであるということを明示することによって、そのような誤解を少しでも軽減できるのかなと考えまして、少し回りくどいかもしれませんけど、そのように提案させていただいた次第であります。

【茶園主査】では、よろしいですか、今の点は。

では、ほかにございますでしょうか。

どうもありがとうございました。

それでは、議事(1)はこれで終了とさせていただきますけども、ほかに何かございますでしょうか。

では、本日いただきました御意見を踏まえまして、本考え方の素案につきましては、修正を行った上で、事務局においてパブリックコメントを行っていただく予定でございます。

修正につきましては、事務局からお願いいたします。

【籾井著作権課長】本日の御議論を踏まえまして、修正、何か所か御意見いただいたところがございましたので、その点については修正案をお送りさせていただきます。

パブリックコメントに十分な期間を確保するために、皆さん大変御多忙だとは思うんですけれども、短期間での御意見頂戴することになるかと思いますけれども、御協力のほどよろしくお願いいたします。

以上となります。

【茶園主査】では、どうぞよろしくお願いいたします。

その他、全体を通じまして何かございますでしょうか。

では、ほかに特段ございませんようでしたら、本日の議事はこれまでとさせていただきます。

事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【持永著作権課長補佐】本日はありがとうございました。

次回の法制度小委員会、資料上、2月下旬とさせていただいておりましたが、2月29日を予定しておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【茶園主査】それでは、以上をもちまして、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回)を終了とさせていただきます。

本日は活発な御議論、どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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