日時:平成25年12月16日(月)
17:00~19:00
場所:文部科学省東館 3F1特別会議室
議事次第
- 1 開会
- 2 議事
- (1)クラウドサービス等と著作権について
- (2)関係団体からの意見発表
- (3)その他
- 3 閉会
配布資料一覧
- 資料1
- ワーキングチームの設置について(平成25年11月1日文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会決定) (80KB)
- 資料2
- 著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム名簿 (84KB)
- 資料3
- クラウドサービス等と著作権に関する議論の現状 (312KB)
- 資料4
- 榊原チーム員提出資料 (8MB)
- 資料5
- 浅石チーム員提出資料 (1MB)
- 資料6
- 奥邨チーム員提出資料 (3MB)
- 資料7
- 議論すべき事項(案) (48KB)
- 資料8
- Culture First推進団体提出資料 (1MB)
- 参考資料1
- 小委員会の設置について(平成25年5月8日文化審議会著作権分科会決定) (84KB)
- 参考資料2
- 文化審議会関係法令等 (180KB)
- 参考資料3
- 法制・基本問題小委員会におけるクラウドサービス等と著作権についての議論(概要) (236KB)
- 参考資料4
- クラウドサービス等と著作権に係る検討事項例 (128KB)
- 出席者名簿 (84KB)
【菊地著作権課課長補佐】
それでは,時間になりましたので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会,著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチームの第1回を開催いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして,まことにありがとうございます。
本日は,第1回のワーキングチームですので,しばらくの間,事務局で進行させていただきたいと思っております。最初に,ワーキングチームの設置について御説明をさせていただき,その後,チーム員の御紹介をさせていただければと思います。
まず,お手元の資料のうち,資料1をごらんください。本ワーキングチームは,資料1にございますように11月1日の法制・基本問題小委員会において設置をお認めいただいております。
本ワーキングチームの座長につきましては,資料1の2(1)にございますように,法制・基本問題小委員会の委員のうちから法制・基本問題小委員会の主査が指名することとされてございます。これを受けまして,本ワーキングチームの座長には土肥チーム員に御就任をいただいております。
また,議事の公開につきましては,資料1の3にございますように,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」に準じて行うものとされております。
参考資料2の9ページをごらんください。本ワーキングチームの議事の公開につきましては,この文化審議会著作権分科会の議事の公開についての1ポツにございますように,原則公開とされております。しかし,(3)のように,公開することにより公平かつ中立な審議に著しい支障を及ぼすおそれがあると認める案件などでは,非公開とされる場合がございますので,御承知置きいただければと思います。
続きまして,チーム員の御紹介をさせていただきます。資料2のワーキングチーム名簿に沿って,本日御出席のチーム員を50音順に紹介させていただきます。
まず,浅石道夫委員でございます。
次に,今子さゆり様でございます。
大渕哲也様でございます。
【大渕チーム員】
よろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
奥邨弘司様でございます。【奥邨チーム員】
よろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
河村真紀子様でございます。【河村チーム員】
よろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
岸博幸様でございます。榊原美紀様でございます。
笹尾光様でございます。
【笹尾チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
椎名和夫様でございます。【椎名チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
末吉亙様でございます。【末吉チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
杉本誠司様でございます。【杉本チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
津田大介様でございます。【津田チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
それから,座長をお願いしております,土肥一史座長でございます。【土肥座長】
よろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
畑陽一郎様でございます。【畑チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
松田政行様でございます。松本悟様でございます。
【松本チーム員】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
丸橋透様でございます。【丸橋チーム員】
お願いします。【菊地著作権課課長補佐】
なお,本日は御欠席でございますが,華頂尚隆様,それから龍村全様の2名にも,本ワーキングチームのチーム員に御就任いただいております。また,後ほど予定されております,日本音楽著作権協会からの御発表に関連いたしまして,同協会より小島芳夫様にお越しいただいております。
【小島氏】
よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
続きまして,文化庁関係者を紹介させていただきます。文化庁長官官房審議官の作花でございます。
【作花文化庁長官官房審議官】
作花でございます。どうぞよろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
著作権課長の森でございます。【森著作権課長】
森でございます。どうぞよろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
著作権課著作物流通推進室長の山中でございます。【山中著作物流通推進室長】
山中です。よろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
著作権課課長補佐の所でございます。【所著作権課課長補佐】
所です。よろしくお願いします。【菊地著作権課課長補佐】
著作権課著作権調査官の小坂でございます。【小坂著作権調査官】
小坂でございます。よろしくお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
そして私,著作権課課長補佐の菊地でございます。どうぞよろしくお願いいたします。それでは,ここからの議事進行につきましては,土肥座長にお願いをしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【土肥座長】
土肥でございます。改めまして,どうぞよろしくお願い申し上げます。このワーキングチームは,クラウド問題の検討ということで立ち上がっているというふうに承知をしております。何分,クラウドという問題が非常に広範にまたがりますけれども,このワーキングチームというのは著作権分科会の法制・基本問題小委員会の中に置かれておるわけでございますから,これからの議論というもの,検討というものは,著作権法との関係点,あるいは関係面,こういったものを十分意識しながら進めていければと思っております。で,正式な名称は「著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム」と,こういうことでございます。この検討で著作物等の適切な保護を通じて得られる利益,それから,公正な利用・流通を通じて得られる利益,こうしたことから実現されるであろう文化,あるいはその背後の文化産業,こういったものから得られる一般ユーザーの利益,便益,こういう三者の利益というものをできるだけ可及的に最大化するような,そういう検討が進められれば私としては非常にうれしいところでございます。幸い,こういうところで皆さんのお顔を拝見しますと,それぞれの分野において非常にお詳しい方ばかりお集まりいただいておりますので,是非とも皆様のお知恵と審議への御協力を通じてですね,すぐというわけにはいかないかもしれませんけれども,然るべき検討が終わった後には立派な成果が上げられるように,是非よろしくお願い申し上げます。
座らせていただいて,進めさせていただきたいと思いますけれども,まず座長代理を指名させていただければと思っております。既に隣に座っていただいておりますけれども,私といたしましては,末吉チーム員に座長代理として就任いただきたいと,このように思っております。末吉チーム員,よろしくお願いいたします。
【末吉座長代理】
よろしくお願いします。【土肥座長】
本日は,1回目の検討ということでございますので,作花文化庁長官官房審議官から一言御挨拶を頂戴できればと,このように思います。よろしくお願いいたします。【作花文化庁長官官房審議官】
失礼いたします。文化庁長官官房審議官の作花でございます。この著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチームの開催に当たりまして,文化庁を代表しまして一言御挨拶を申し上げます。委員の皆様方には,このワーキングチームの発足に当たり,委員への就任を御快諾いただき,また本日,御多用の中御出席を賜りまして,まことにありがとうございます。クラウド等の新しい技術の時代における著作権制度の在り方,あるいは権利者への適切な対価の還元の在り方ということにつきましては,この親元となります法制・基本問題小委員会でこれまで何度か議論を重ねてきたところでございますが,やはりこの問題につきましては専門的,集中的に関係当事者及び有識者の方々にお集まりいただきまして,議論することが適切であるということで,本日,このワーキングチームが活動を始めたという経緯でございます。これらの課題というのは,申し上げるまでもなく関係当事者の利害というものが密接に,かつ複雑に関わる問題でございます。したがいまして,一直線に一つの成果が得られるという問題ではないと思っておりますけれども,しかしながら,著作物の利用に関わる技術の進展に対応しながら文化創造活動を振興し,かつ新しい産業の創出を促進していくと,こういった大きな政策課題というものを我々は解決していかなければならないと思っています。そういうところで,それぞれの御立場で,それぞれの見解があることは承知しておりますけれども,是非とも建設的で実り多き成果が得られますよう御協力かたお願い申し上げまして,文化庁としての御挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
【土肥座長】
ありがとうございました。それでは,議事に入ります前に,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
はい。それでは配付資料の確認をさせていただきます。議事次第の下半分をごらんいただければと思います。まず,資料1といたしまして,先ほど御紹介をいたしましたワーキングチームの設置についての資料,資料2としては,本ワーキングチームの名簿をお配りしてございます。
資料3としては,クラウドサービス等と著作権に関する議論の状況についての資料,資料4から資料6までにつきましては,それぞれ議事次第に記載のチーム員より御発表いただきます資料をお配りさせていただいております。
資料7といたしましては,チーム員からの御発表を踏まえて議論すべき事項の案を事務局で準備させていただいております。
資料8につきましては,Culture First推進団体提出の資料をお配りしております。
このほか,参考資料といたしましては,参考資料1から4までとして,議事次第に記載の資料をお配りさせていただいておりますので,適宜御参照いただければと思います。
配付資料につきましては,以上でございます。落丁等ございます場合には,お近くの事務局員までお声掛けいただければと思います。
以上でございます。
【土肥座長】
ありがとうございました。それでは,議事に入りますが,初めに議事の段取りについて確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)クラウドサービス等と著作権について。(2)関係団体からの意見発表。(3)その他。以上の3点となります。まず(1)につきましては,法制・基本問題小委員会において検討が進められてきたところでございますけれども,この点,事務局より議論の現状について説明をいただければと考えております。また,クラウドサービスの詳細な実態や,著作権法との関係等について,関係団体から御発表をいただき,その後,質疑応答と討議を行いたいと思います。
次に(2)については,本ワーキングチームの検討課題の一つであるクリエーターへの適切な対価還元につきまして,これも関係団体から意見発表の御希望がございましたので,御発表いただきたいと思っております。
早速でございますけれども,1つ目の議事であります,クラウドサービス等と著作権についてに入りたいと思います。まず事務局から,クラウドサービス等と著作権に関する議論の現状について説明をお願いいたします。
【菊地著作権課課長補佐】
はい。それでは資料3に基づきまして,クラウドサービス等と著作権に関する議論の現状について,簡単に御説明をさせていただきます。資料3をごらんください。まず,1ページ目では,政府の知的財産戦略本部において本年決定されました知的財産政策ビジョンや,知的財産推進計画2013の抜粋を掲げさせていただいております。上段の知的財産政策ビジョンをごらんいただきたいのですけれども,課題として「新しい産業の創出・拡大に資するクラウドサービスやメディア変換などの促進に向け,私的複製に事業者が関与する場合などの権利制限規定の見直しや,事業の実施に向けた円滑なライセンシング体制の構築など,必要な制度の在り方について検討が必要」とされてございまして,これを受けました取り組むべき施策として,クラウドサービス等につきまして,「著作権の権利制限規定の見直しや,円滑なライセンシング体制の構築などの制度の在り方について検討を行い,必要な措置を講ずる」ということが求められております。
2ページ目をお開きください。次に,法制・基本問題小委員会における検討状況について御説明させていただきます。先ほど御紹介をいたしました知的財産政策ビジョン等を踏まえまして,小委員会において検討をしましたところ,複数の委員より,クラウドサービス等と著作権及びクリエーターへの適切な対価の還元は重要な課題であり,優先的に扱うことが適当であるとの意見が示されていたところでございます。
そして,8月に開催をされました法制・基本問題小委員会では,クラウドサービス等と著作権に係る課題について,関係者からヒアリングを実施し,その後,議論の対象となるサービス,それから,これらのサービスに係る法的論点等について議論を行ったところでございます。
参考資料4が,その関係者ヒアリングを踏まえた議論の対象となるサービスや法的論点等について整理したものでございます。参考資料4を横に置いてごらんいただきながら,お聞きいただければと思います。法制・基本問題小委員会の議論では,まず議論の対象となるサービスにつきましては,複数の委員から,法人向けのサービスではなく私的使用目的の複製が関係するクラウドサービス,これは参考資料4では1ポツの(1)に該当いたしますが,この私的使用目的の複製が関係するクラウドサービスを中心に議論することが適切ではないかという御意見や,クラウドサービスの利用を必ずしも構成要素とはしない,私的使用目的の複製が関係するサービス。この「私的使用目的の複製が関係するサービス」は,参考資料4では(2)になりますけれども,この中でもクラウドサービスを利用するものがあるのであれば,検討の対象に含めるべきであるという御意見が示されております。また,検討すべき著作権法に係る法的論点としては,参考資料4では2ポツになりますけれども,利用行為主体の問題や,公衆用設置自動複製機器の問題,権利者への適切な対価の還元の問題などが示されております。このような検討の中で,これらの課題の解決には,専門的かつ集中的な検討が求められること等を踏まえまして,本ワーキングチームが設置されることとなったということでございます。
資料3の3ページ目をお開きください。3ページ目,4ページ目では,本ワーキングチームにおいて議論の対象となるサービスの例を事務局で整理させていただきました。先ほど御紹介いたしましたように,法制・基本問題小委員会において,私的使用目的の複製が関係するサービスをまず検討してはどうかという意見がございましたことから,この3ポツの(1)では,私的使用目的の複製が関係するクラウドサービスについて,少し詳細に3つの例に分けて整理を試みてございます。まず1つ目でございますが,1つ目は汎用ロッカー型サービスでございます。簡単な図を右側に書かせていただきましたので,それをごらんいただきながらお聞きいただければと思います。汎用ロッカー型サービスにつきましては,利用者が自らのパソコン等に保存している各種ファイルをクラウド上のサーバーにアップロードし,これが丸1に対応いたします。アップロードしたファイルをスマートフォンやタブレットなどの専用端末で利用できるようにする,これが丸2に対応いたします。このようなサービスでございます。アップロードできるファイルの種類や内容等を問わないため,汎用ということで呼んでおりますけれども,利用するために権利者への利用許諾が必要となる音楽や映画等についてもこの対象となってございます。また,クラウド事業者はコンテンツの種類や内容には原則として関与しないという点にも特徴があるということを書かせていただいております。
次に,2つ目のコンテンツロッカー型サービスでございます。これは,汎用ロッカー型サービスとは特定の種類のコンテンツに特化しているという点で違いがございます。コンテンツロッカー型サービスは,事業者の関与の方法に応じまして,タイプ1からタイプ3までの3つに分類してございます。まず,タイプ1でございますが,利用者が自らのパソコン等に保存しているコンテンツのファイルをアップロードし,アップロードしたファイルを様々な携帯端末で利用するというものでございます。
4ページ目をお開きください。次にタイプ2でございますけれども,コンテンツをクラウド事業者が入手して,これが丸1に対応いたします。コンテンツをクラウド事業者が入手して,クラウド上のサーバーに蔵置し,そのコンテンツを利用者がライセンスを受けて様々な携帯端末等で利用できるようにするというものでございます。利用者がアップロードするのではなく,事業者がコンテンツを入手するというところに違いがございます。
それから,タイプ3でございますけれども,クラウド事業者がコンテンツを入手し,クラウドサーバー上に蔵置するという点ではタイプ2と同じでございますけれども,そのクラウドサーバー上に蔵置されたファイルと,利用者が自らのパソコン等に保存しているコンテンツ,これを照合いたしまして,両者が同一のものであるとされた場合には,クラウド事業者の保有するそのコンテンツをユーザーのパソコンだけではなく,様々な携帯端末等でも利用できるようにするというようなサービスでございます。
次に3つ目の類型といたしまして,事例3,共有サービスでございます。先ほどの汎用ロッカー型サービスやコンテンツロッカー型サービスのオプションというふうに申しましょうか,これらのサービスに付加されるようなものでございます。その内容といたしましては,クラウド上のサーバーに蔵置されているコンテンツを,利用者だけではなく第三者にも共有できるようにするというサービスでございます。共有の形態には,特定の第三者のみに共有される場合もあれば,不特定多数の第三者に公開され,共有される場合など様々な場合があろうかと思っております。
5ページ目をお開きください。5ページ目では,丸1,丸2,丸3といたしまして,私的使用目的の複製が関係するクラウドサービス,先ほど御紹介しました私的使用目的の複製が関係するクラウドサービス以外のサービスについて列記させていただいておりますが,こちらにつきましてはその詳細の説明は省略をさせていただきたいと思います。
最後に6ページ目をお開きください。6ページ目では,クラウドサービスと著作権に関する法的論点の例について整理をさせていただいております。まず,(1)に入ります前に,前提といたしまして,既に皆様御案内のことと思いますが,著作権法では著作権のある著作物を利用したいと思う場合には,著作権者の許諾を得て利用するということが原則となっておりますけれども,一定の場合には例外的に著作権者の許諾を得ることなく著作物を自由に利用することができるというふうにされてございます。このような例外的な規定を権利制限規定と呼んでおりますが,このことを説明の前に念のため申し上げておきます。その上で(1)に入りたいと思いますが,まず(1)利用行為主体につきましては,先ほど御説明したようなクラウドサービス,様々ございましたけれども,そのクラウドサービスにおける著作物の複製等の主体が利用者なのか,それとも事業者なのか,どちらなのかという問題でございます。それから,(2),(3)でございますけれども,仮に利用行為主体が私的使用を目的とする利用者だった場合,著作権法では私的使用を目的とする場合には,一定の場合を除いて著作権者の許諾なく著作物を複製することができるということとしてございますので,この著作権法第30条の私的使用目的の複製という権利制限規定に該当するのかどうかというのが(2)と(3)の問題でございます。(2)では,クラウドサービスに関連して,利用者が行う複製が第30条第1項の要件である,「個人的に,又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」に該当するのかどうかということが問題となります。
それから,(3)でございますが,著作権法第30条の私的使用目的の複製につきましては,公衆用に設置された自動複製機器を用いて複製する場合には,権利制限規定の適用はないというふうにされてございます。すなわち,公衆用設置自動複製機器を用いて著作物を複製する場合には,私的使用目的であったとしても著作権者に許諾を得る必要が生じるわけでございますが,クラウド上のサーバーがこの公衆用設置自動複製機器に該当するのかどうかという問題がございます。
それから,各クラウドサーバーにおいて行われる著作物の送信行為につきまして,公衆該当性をどのように評価するのかという問題が(4)でございます。
そして,(5)では,クラウドサービス等の技術の発展に対応した適切な権利者への対価還元の在り方についてどのように考えるのかということを論点として掲げさせていただいております。
最後に,参考といたしまして,これまでの著作権法改正のうちクラウドサービスにも関係の深いものについて簡単に紹介をさせていただいておりますので,適宜ごらんいただければと思います。少し長くなりましたけれども,資料3についての説明は以上でございます。
【土肥座長】
ありがとうございました。それでは次に,クラウドサービスの詳細な実態や著作権法との関係につきまして,電子情報技術産業協会,日本音楽著作権協会及び奥邨チーム員よりそれぞれ御発表をいただきたいと思います。最初に電子情報技術産業協会より榊原チーム員,お願いいたします。
【榊原チーム員】
一般社団法人電子情報技術産業協会の榊原でございます。資料4に基づきまして,御説明させていただきます。よろしいでしょうか。まず,スライド番号が各スライドの右下にございますので,これに基づいて御説明いたします。スライドナンバーの2,アジェンダのところで,本日御説明させていただきますのは,左中央の私的複製の支援サービスとして,1番から5番まで挙げたところでございます。めくっていただきまして,スライド3番。最初に意見を申し上げます。3点ございます。まず1つ目,全てのビジネスモデルの検討をという点でございますが,今年の8月7日に開催をされました法制・基本問題小委員会のヒアリングにおいて,当協会が発表いたしましたビジネスモデルのうち,本日は私的複製に関連の深いビジネスモデルについてのみ説明を求められているというところなんですけれども,残りのクラウド上の情報活用サービスについても早期に検討をお願いしたいという点でございます。
それから,2番目。これが一番重要な意見でございますが,合理的な判断基準をお願いしたいという点でございます。審議におきましては,ユーザーの利便性の向上に資するかと,それから,新産業の創出や産業の成長性,技術進歩に貢献するかといった観点から,社会的に有用であることは認められるサービスにつきましては,それらが適法に行われるような法整備をお願いしたいということでございます。その際には,著作権者の反対を重視して,適法化を否定したりとか,金銭の支払いを条件としたりすることがないようにしていただきたいと思います。著作権者が損害を被るなど,具体的に困ることが実証データ等によって示されない場合は,著作権者の正当な利益を不当に害するとはいえないと考えられますので,これらのサービスは適法とされるべきと考えております。したがいまして,合理的な判断基準に沿った審議をお願いしたいと思います。
最後,3番目ですけれども,2つの審議テーマは分けて,クラウドやメディア変換サービスについては優先検討をお願いしたいという点でございます。本ワーキングチームは2つの,クラウドと適切な対価還元というテーマを検討するということですけれども,クラウドサービスにつきましては,政府内において産業競争力会議の2つの分科会から法令上の措置が求められ,さらには規制改革会議の創業・IT等ワーキンググループからも,おおむね平成25年内に検討結果をまとめることを予定している項目として早期解決が求められているということでございます。
先週の(金)に,規制改革会議では文化庁から,この課題は平成26年の早いうちに解決されるということをおっしゃっていただいたと承知をしておりますけれども,是非お願いしたいということでございます。さらに,クラウドの問題と対価還元の検討については,切り離して遅滞なく優先的にクラウドの課題を検討いただきたいと思います。
なお,最後に,対価還元の問題につきましては,コンテンツ流通の上流から下流まであらゆる局面を包含するものだと理解しておりますが,他方,クラウドについては限定的な一局面にのみ係る課題でありますので,両者をセットで議論すると短期のテーマと長期のテーマで論点が錯綜し,早期の解決が急務であるクラウドの審議が後れることを懸念しております。
ここから,スライド4以降は,実例について御説明をいたします。スライド5,5の文字が少し消えかかってございますが,濃いブルーの部分について,順に御説明をいたします。
まず,1番,クラウドサービスでございます。これは先ほど事務局の方から御説明いただいた点と重なりますけれども,左下のユーザーが適法に入手,アクセスできるコンテンツについてクラウド上に保存することによっていつでもどこでも,どんな端末からでも利用ができるようにしていただきたいということで,めくっていただきましてスライド7以降は実例でございます。全てではございませんが,分かりやすい絵をはりつけてございます。スライド7は日本の汎用ロッカーサービスの例です。これは共有サービス,共有機能もついておりまして,最大99人まで共有ができるというものでございますし,スライド8,米国Amazon Cloud Drive,これも同じく汎用ロッカーサービスですけれども,サービス提供国が非常に広いというものでございます。
次のスライド9,これも同じく米国のAmazon Cloud Playerですけれども,音楽専用ロッカーサービスで,サービス提供国が若干少なめでございます。
スライド10,英国の7digital,音楽専用のロッカーサービスですけれども,これもユーザーが7digital以外のコンテンツについてもアップロードするということが利用規約上記載をされています。
それから,めくっていただきまして,スライド11。これもアメリカの音楽専用ロッカーサービスでございますが,4の利用規約のところに,サービス対象国としましては,アメリカから輸出禁止をしている国以外の国は全てサービス対象国ということで,非常に広いサービス対象国になっております。
それから,スライド12がルーマニアでございます。このルーマニアの例は特徴的な部分が,一番下の「Music Files」と書かれた赤字のところでございますが,異なるユーザーが同一のファイルを保存した場合には,2つ目以降については関連付けのみで,重複保存をしないということがはっきりと書かれておりまして,これによってサーバーの資源の有効活用がなされているということで,後で奥邨委員から御説明があるMP3tunesケースと類似しているのではないかといえます。次のスライド13が韓国の動画の汎用ロッカーサービスで,スライド14は,その他たくさんございますということで,全て挙げてございませんけれども,世界中でこういったサービスがたくさん行われているということでございます。
次,2番目のアクセシビリティーでございます。これは情報へのアクセスを簡単にするためのサービスということで,例えば高齢者の方が細かい字が読めないということで音声化をするであるとか,お子さんが漢字が読めないということで,一人で自習ができるように振り仮名自動付与とか,あとは外国語を翻訳するといった,いろいろなサービスが考えられます。
ここから実例ですけれども,スライド16としては,例えば日本の,ふぁいあーしゃべれっと。これはウェブページ上の文字をクラウド上で音声化をするというサービスでございます。
スライド17,これも同じく日本で,今いくオーディオブック作成。これも,紙の本を電子化し,さらにはその電子化された文字をオーディオブック,音声化をするというサービスですけれども,残念ながら自炊代行訴訟のためと推測されますけれども,受付停止中ということになっております。
スライド16が,ここからが海外ですけれども,米国のIVONA Speech Cloud。これもテキスト文字をクラウド上で音声化するというサービスで,ポーランドで創業されたIT企業ですけれども,現在はAmazonの傘下になってございます。
めくっていただきまして,19ページのベルギーのAcapela Groupの例。これは右上のブルーのSELECT A VOICEのところで25か国語の言語,それから91パターンというのは,例えば,性別のみならず,開けていただくとバッドガイズとか,いろんなタイプの声を選ぶことによって,ボイスメッセージを作ることができるという音声化のサービスでございます。
それから,20ページ目が,これも音声化ですけれども,香港の例になります。
スライド21ページ目が米国のGoogle翻訳で,これは,利用されたことがない方は少ないのではないかと思いますけれども,翻訳サービスは非常にたくさんございますが,このGoogle翻訳を選んでいる理由は,71言語に対応をしているということ,それから,クラウド側でこういった機能を動かしているという点で挙げております。
それから,スライド22がイギリスのListening Books。これはサービス対象者が視覚障害者に限定されていないという点や,オプトアウト方式をとっているという点が特徴でございます。その他,スライド23で各国でたくさんのサービスが行われているということでございます。
スライド24を御覧ください。まず,1番目,ブルーのクラウドサービスと,2番目,アクセシビリティーの実例について簡単に御紹介をさせていただきましたが,この2つのいずれのサービスも,左側のユーザーの手元,右側の事業者側,クラウドサーバー側で,いろいろな圧縮,蓄積,フォーマット変換,レイアウト変更とか,設計,音声化,テキスト化,振り仮名付与といろいろな機能を行うわけですけれども,高機能な機種の場合にはユーザーの手元で行われるということもございますし,ユーザーの機器が低機能な場合,ないしはビジネスモデルとして事業者側がクラウド側で行う仕様となっているような場合には,右側で行っているということもございますけれども,ユーザーが手元でやっているつもりだったけれども,実際はネットの向こう側で行われているということもございますので,これが合法か違法かということがそれで変わるというのは,ちょっとナンセンスではないかということで御説明をさせていただきます。
めくっていただきまして,3番目のメディア変換でございます。これはVHSのテレビ番組を録り貯めたものとか,自分の古いレコードなどを別の媒体にメディア変換をしていくというものでございます。高齢者の方なんかが自分でできないという方もいらっしゃいますし,自分でできても多忙なので事業者にやってほしいというようなニーズがたくさんございます。
26ページは,これはフジカラーの,全国4,000店舗ぐらいあるダビングサービスですけれども,他人の著作物の入ったテープ等は受け付けていないと書いてございますけれども,実際には受付のときに紛れ込む可能性もあるのであろうと思います。
めくっていただきまして,別の日本のビデオワークスの事例がスライド27でございます。こちらは思い出の映像とうたってございますが,著作権に関する記載は見当たりません。
それから,日本なんでもダビング蔵人。こちらについては,クラウド上に事業者側でアップロードをして視聴できるようにするサービスでございます。
29が米国の例,30ページも米国ですけれども,ドバイの会社で,多数の国でサービスの拠点がある事例。それから,めくっていただきまして31ページは南アフリカということで挙げてございます。32,33はロシアとブラジルの例につきましては,レコードのデジタル化を受け付けているというものが特徴であろうと思います。
その他,34ページに世界各国でこういうサービスがございますということです。
35ページにめくっていただきまして,4番目の個人向け録画視聴サービスでございます。これはクラウド上にテレビ放送等のコンテンツを保存しておいて,自宅や自宅のみならず外出先からアクセスをして視聴するというもので,スライド36,37が日本の実例ですけれども,逮捕者なども出ていることもありますので,固有名詞のところは網掛けをしてございます。
それから,38ページ。これはケーブルビジョンで,アメリカで許諾なしタイプでコンテンツを居宅内のハードディスクではなくてクラウド上に保存するということで,最高裁でも適法であるということで判断が出ているサービスでございます。
同じくシンガポール,次のページも裁判になってございますが,サービス事業者が勝訴ということで,許諾なしで行っているサービスでございます。
スライド40は,たくさんのそれ以外の国の例でございますけれども,赤字の部分については私が承知している限り裁判になったというものでございます。例えば,イギリスのTV Catchup,これは公共放送について,放送区域内に住む居住者については認めるということでサービスは継続をしております。公共放送等以外の駄目なものについては,元のページにリンクを張っていくというようなことで対処をしていると理解しております。
それから,ドイツのSave.TVとShiftTVにつきましても争われておりますけれども,強制許諾というような仕組みでサービス自体は継続ができているというサービスでございます。
それ以外に,今御紹介をいたしましたのはサービス提供者のサービスですけれども,ソリューション提供者という形でこういったサービスに関与をしている人たちもおりますので,サービス提供を認めない場合にはソリューション提供,システムなんかを提供するということも認められないということで,多くの事業の芽を摘むことになりかねないという点を御配慮いただければと思います。
それから最後,5番目のプリントサービスでございます。これはユーザーが自分で選んだ写真等を持ち込んでいただく,ないしはクラウド上にアップロードしていただくことでマグカップとかTシャツを作っていただくというようなもので,例えば,スライド42ではマグカップやTシャツだけではなくて,デジカメやパソコン,iPhoneなんかもオンリーワンのカスタムデザインを実現するサービスがございます。
めくっていただきまして,43ページもたくさん実例がございますということで,44はマグカップに飲み物を入れると温度に応じて色が変わるということで,持ち込まれたものそのままではなく,プラスアルファのサービスもあるということでございます。あと,イタリアの例とか,ブラジルの例とかインドの例,トルコの例です。49ページまで進みますけれども,チュニジアとか,ペルーとか,ロシアとか,いろいろな国でサービスが行われております。
最後になりますけれども,スライド50ページ目でございます。日本の実例に関してのみですけれども,今御紹介をしたものは一部でございまして,集めたサンプル数全体からどういうことがいえるかということで,まず,アクセシビリティーについてはサンプル数は約80件ございまして,そのうち半数が許諾や権利制限に基づいてサービスを行っています。残りの半数については,記載がないものとかが混ざっているということでございます。
それから,メディア変換についても,サンプル数は40なんですけれども,大体半々ずつに,他人の著作物を取り扱わないということをはっきり言っているものと,取り扱う,ないしは記載がないというものが残り半分ございます。
それから,個人向け録画視聴サービスについては,無料放送とか使用許諾契約があるものに限定をしているというものは4件のみで,その残りの50数件についてはそういった記載がないとか,何でも請け負っているという状況でございます。
プリントサービスについては,サンプル数95件のうち,3分の1については他人の著作物は取り扱わないということで,残りの3分の2については,取り扱う,ないしは不明であるという状況でございます。
以上が本日の内容でございます。残りのページは8月7日の発表内容をそのまま御参考までにつけてございます。
以上です。
【土肥座長】
ありがとうございました。それでは,次に日本音楽著作権協会より浅石チーム員,そして小島様,よろしくお願いいたします。
【浅石チーム員】
冒頭,実務者でございます私どもの副本部長の小島から,資料に基づいて説明させていただきまして,その後,若干私の方から補足の説明をさせていただきます。それでは,お願いします。
【小島氏】
はい。御紹介いただきましたJASRACの小島でございます。まず,JASRACにこのような意見を申し述べる場,機会を御提供いただきまして,ありがとうございます。御礼(おんれい)申し上げます。私,業務部門,許諾の現場におります者でございます。本日はその観点から皆様にクラウドサービスの利用許諾の状況について,御報告,それから,意見を申し述べさせていただきたいと存じます。
本日の資料でございますけれども,資料5になります。私から,今意見を申し述べさせていただく骨子でございますけれども,これがスライドの下の方に書いてございます。クラウドサービスの本質と,クラウドサービス事業者の懸念。それから,権利者がどのように見ているか。それから,音楽と動画のクラウドサービスの利用許諾状況,これを簡単に御報告したいと存じます。
それから,各国のクラウドサービス関連の司法判断がどうなっているか,これはJASRACが収集した限りのものを今回御報告したいと思います。特にクラウドDVR,それについて御報告するのと同時に,クラウドDVR:見逃しサービス,これについて各国でどのような利用許諾が行われているか,その事例を簡単に御報告したいと思います。
最後に,このワーキングチームにおける議論,この論点はどこにあるのかという,そういった意見を申し述べさせていただきたいと思っております。
めくっていただきまして,1,クラウドサービスの本質と事業者の懸念。スライドの番号でいいますと3ページになります。これは皆さんも御承知のとおり,平成21年,総務省の中でクラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会という検討会が行われております。私が知る限り,クラウドサービスの著作権問題がクローズアップされた最初の検討会であったと記憶しております。
ここに,クラウドコンピューティングがどういった利用形態なのか,役務の提供形態なのか,その当時,検討会でまとめられたものがございます。本日は詳細には言及いたしませんけれども,これを基に私ども権利者も,クラウドコンピューティングというのはどういう役務形態なのか,それを分析する上で使っているような資料でございます。このまとめについては,いろいろなところで引用されていると思いますので,詳細は避けたいと思います。
引き続きまして,スライド番号4の図ですけれども,ここで著作権法の存在,クラウドサービスにおける問題,課題,これがクローズアップされております。この中で議論されましたのは,特に音楽の携帯電話向けストレージサービス,MYUTAでございます。このサービスにおいて,ストレージサーバーに個人領域を使って登録ユーザーが自分の携帯に,ファイルを変換した上で利用するという形態につきまして,債務不存在の確認訴訟を起こされた結果,JASRACが勝訴したという事例でございます。
ここで裁判所が判断した内容といたしましては,ここに記載のとおりですけれども,音楽ファイルの複製の指示自体は確かにユーザーが行っているけれども,サーバーの関与,運用,それからソフトウエア,アプリケーション,こういったサービス提供をプロバイダーが行っていると。なおかつ,そのファイルを作ることによって,経済的利益をプロバイダーが受けている。なおかつ音楽専用サービスであるということで,利用主体はプロバイダーであるという判断が下されております。これが2007年,平成19年でございましたけれども,当時,この判決によって非常に事業がやりにくいという御指摘がございました。しかしながら,2009年当時はデータセンターを構築する上でもっとコストのかかる大きな問題が左の2つ,特にコストの問題がございましたので,著作権法の存在ということにつきましては引き続き検討していこうという幕引きであったと記憶しております。それが今年,引き続きまして議論されていると。私どもの認識はそういうことでございます。なおかつ,事業者の皆様の懸念というのはそういったところに端を発しているのだろうと。
引き続きまして,スライド5番でございます。5ページでございます。それでは,権利者の観点としてクラウドサービスをどう考えているのかということでございますけれども,ユーザーの利便性の追求と,これについては基本的には権利者は歓迎でございます。ウェルカムでございます。PCだけではなくて,スマートフォン,タブレット,どこでも音楽や動画を楽しみたいと,そのほかのニーズもあると思いますけれども,基本的には歓迎でございます。一般ユーザーさんの利便性の追求,これはもう時代の流れでございますので避けられないと,この認識は権利者も持っております。さらに,こういった新しいサービスが起きることによりまして,新たな需要を生むんではないかと,そういった観点もございます。基本的には権利者はウェルカムであるということを御理解いただきたいと存じます。
ただし,現状のクラウドサービスにつきまして,利用許諾の実態,これもきちんと御認識いただく必要があるのではないかということで,特に今回とりまとめた資料でございます。音楽や動画,そういったコンテンツを基本的に取り扱うクラウドサービスについては,海外からスキャン&マッチのようなサービスも含めまして,基本的に許諾を求めてきております。JASRACはビジネスはビジネス上の問題として解決できると考えております。許諾,ライセンスの問題として解決できるであろうと,これがJASRACの考え方でございます。それに伴いまして,議論の中でいろんな一方的な司法判断の批判ですとか,それから,一方的な法改正の要求ですとか,そういったものに対してはJASRACは懸念を抱いております。権利者の観点としてJASRACが今考えているところは,以上でございます。
続きまして,スライド番号6でございます。音楽のクラウドサービスの利用許諾状況ということで,よく使われますクラウドサービスの階層図,これをあててみました。これによりまして,利用許諾がどの範囲で行われているか,これが御理解いただけるかと存じます。サービスの事例として,代表的なもの,それからよく知られているものを挙げてみましたけれども,この赤字の部分については,これは訴訟になった案件でございます。
音楽のクラウドサービスの利用許諾状況といたしましては,基本的には音楽配信型のコンテンツを事業者が用意するものについては,すべてライセンスで動いておりますけれども,一部,スキャン&マッチのようなサービスについては,許諾の申入れはございますけれども,議論の最中という状況もございます。ここにはあえて掲げておりませんけれども,全体の利用許諾の内容,それから詳細は御説明いたしませんけれども,一見してこの辺で線引きがされているのだなという感覚的な理解をいただきたいと思います。
続きまして,7ページでございます。スライド番号7。動画のクラウドサービスの利用許諾状況。先ほど,クラウドサービスの階層図をあててみたと申し上げましたけれども,ここでは特にSaaSの部分についてさらにコンテンツを分解してみますと,このような図になっております。UGC,UGM,それから第三者によるクラウド配信。それから,自社のコンテンツ配信。この部分については基本的には利用許諾で動いているという認識でございます。ですから,この2ページをごらんいただければ,JASRACとしては,議論の対象としては,今後,汎用のストレージ,それからプライベート型のロッカー,こういったものが議論の対象になっていくのではないかと考えております。
スライド番号8,各国のクラウドサービス関連の司法判断の概要でございます。クラウドDVRと書いておりますけれども,国によっていろいろなサービス名がございますので,ここではDigital Video Recorderということで略語を遣わせていただきました。いわゆる見逃しサービスでございます。事例は多くの場所で出ておりますので,あえて詳細は御説明いたしませんけれども,時間的な流れといたしまして,アメリカにおきましてケーブルビジョンの司法判断が出た後にシンガポールでも同様の侵害に当たらないという判断が出ております。しかしながら,2011年以降,日本でロクラク,まねきの司法判断があった以降,2011年,フランスではwizzgoというサービス,2012年にはオーストラリアでTVnowというサービス。2012年ドイツではsave.TV。これは,ドイツのものは継続中ですけれども,全て侵害の判断が出ております。特にフランスの事例におきましては,裁判所において幾つかの判断上の条件が提示されておりまして,このwizzgoという見逃しサービスのクラウドDVRについては私的複製の範囲外であると。放送番組をコピーするということは,経済的価値を有するんだと。それで,第三者の補助を受ける私的複製は違法であると,このような判断が明確に示されているという事例でございます。これはフランスの文化審議会等でもよく引用される事例でございます。ごらんいただければ分かりますけれども,対立の図式はみな同じでございます。クラウドの事業者と,メディア産業,コンテンツ産業,これが対立しているという状況でございます。
それでは,対立だけかといいますと,そうではないという事例が9ページでございます。クラウドDVR:見逃しサービスをどうやって許諾しているかという状況でございます。各国とも,放送局による自社コンテンツの見逃しサービス,これはほとんど権利者と許諾をとった上で事業を行っております。それから,特筆すべき2つのモデルを御紹介したいと思います。まず,デンマークにおけるモデルでございます。音楽著作権管理団体KODAというところが,全ての関係権利者を取りまとめまして,ワンストップで第三者が行うクラウドDVR:見逃しサービスを許諾していると。それで各権利者への取り分を設定するという許諾モデルでございます。
それから,MAGINEというスウェーデンのサービスでございます。これは,やはり第三者によるクラウドDVR:見逃しサービスでございます。メインは地域コンテンツなんですけれども,自社配信できないローカル放送ですとか,そういったところをメインに,文化の多様性も確保するという名目で行っている事業でございます。関係権利者と協調した上で事業を行っていくというモデルでございます。
いずれにしましても,たくさんの違法サービスがございますけれども,これを許諾する,ライセンスすると。ライセンスを受ければ適法になるという考え方で,このデンマークとMAGINEのモデルというものは成り立っております。
スライド番号10,本ワーキングチームにおける論点ということでございますけれども,今,私が簡単に御説明いたしました各国の司法判断,それから許諾の事例,それをごらんいただきまして,JASRACといたしましては,現状では利用許諾で大半が解決できると。それで,今御説明した利用許諾の事例の範囲の外,プライベートなロッカーサービスですとかそういったものになるかと思いますけれども,そこでもコンテンツの複製が行われるのであれば,利用許諾が原則であるというふうに考えております。しかしながら,今申しましたように,プライベートな汎用のロッカーサービス等については許諾の実効性が伴うのかという課題が想定されますので,そういったものについてはそういった一部のモデルに限って取扱いを議論すべきではないのかと考えております。
最後に強調させていただきたいのは,対立構図ではないWin-Winの関係構築がクラウドの事業の市場拡大につながるのではないかということでございます。先ほどのデンマーク,それからスウェーデンの事例を申し上げましたけれども,事業者と権利者で新たな許諾モデルを作るという必要性がこういった場所でも必要ではないのかなというのが,JASRACの今の考え方でございます。
最後に,参考資料といたしまして,DMCAとプロ責法の免責の条項を図式化したものがございます。簡略に作っておりますので,表現等についてははしょっている部分もございますので御注意いただきたいんですけれども,これをあえて載せさせていただいたのは,一部の論調にNotice&Takedownの手続があれば全て免責だというようなお話がございますので,DMCAでもそういうことは言ってない,そういったところをきちんと理解していただくためには,こういったものも出しておく必要があるのかなという観点だけでございます。
私からの御報告と意見表明は,以上でございます。ありがとうございます。
【浅石チーム員】
若干,補足をさせていただきます。音楽の取扱いにつきましては小島が説明したとおりでございまして,私どもとしまして検討が必要だと考えておりますクラウドサービスは,資料で縦の線を引きました左側の,いわゆるパーソナルロッカーサービスであろうと考えておりますが,一言,この場をおかりして発言をさせていただきます。クラウドサービスにつきましては,資料記載のとおり,外国の事業者の方々は自国でも日本でも事業を行っております。日本の事業者の方々も日本で事業展開をしております。にもかかわらず,一部の方々からは,一部のビジネス上の問題でサービスができない状況があるからでしょうか,日本では,著作権の問題が萎縮(いしゅく)効果となり,事業を行えないという御意見を頂きます。しかし,今申し上げたとおり,外国の事業者は自国でも日本でも事業を行っておりますし,我が国の事業者の方々は日本で事業を行っているという現実を見ますと,そこに内在しているのは著作権の問題ではない,何か別の問題があるのではないかと思われます。また,利用者等の利便と産業の発展のためには,著作権者は少し黙っていろなどという20世紀初頭の産業教育論のような時代遅れの主張をデジタル時代の新しい著作権の考え方であるというような声も耳にします。しかし,成功しているサービスの実態というものを私どもが実務として感じておりますのは,事業者と権利者がWin-Winの関係を構築して,利用者によりよいサービスをいかに提供できているかだと思っております。
もう一度申し上げます。事業者と権利者がWin-Winの関係でいかにより良いサービスを利用者の方々に提供するか,これが鍵でございます。このワーキングチームが利用者,事業者,権利者とのWin-Winの関係の構築の場となりますことを祈念いたしまして,JASRACからの説明とさせていただきます。
御清聴ありがとうございます。
【土肥座長】
大変ありがとうございました。それでは,最後に奥邨チーム員,お願いいたします。
【奥邨チーム員】
本日は,報告の機会を頂戴しましてありがとうございます。事務局より,米国の関連事例を紹介するようにというお話がございまして,急きょ用意いたしましたために,これまで論文などで発表してまいりました内容が中心となっております。必ずしも網羅的なものではないことはお許しいただきたいと思います。資料6でございます。資料6,1枚目は表紙と目次ということで,時間もないので次にめくっていただければと思います。
今回は,上下で資料ワンセットとなっておりまして,下は私の手元の読み上げ原稿をそのままお見せいたしておりますので,若干はしょりましても,それを追い掛けていただければと思います。
本日の報告におきまして,クラウドサービスとはクラウドコンピューティングを利用したサービスのことを指すものとします。クラウドコンピューティングについては種々の定義があることは御案内のとおりでありますが,時間も限られますので,ポイントを絞るために,最も単純化いたしますと,その本質は仮想化技術などを用いつつ,インターネット経由でコンピューター資源を利用させることにある,ということになろうかと思います。
クラウドサービスのうち,我々に身近なのはスマートフォンの音声認識検索などではないかと思います。音声認識や検索という核となる部分,そして重い処理の部分はインターネット経由で接続されたコンピューターが全て処理いたしまして,スマートフォンは入力された音声を圧縮してサーバーに送信し,検索結果を表示するということを担うという役割分担になっているわけでございます。
情報の流れを整理いたしますと,ユーザー端末とサーバーの間で情報がやりとりされ,サーバーでは保存・処理,音声認識の場合であれば認識と検索が行われるというようなことになるのではないかと理解しております。
では,次に参ります。ここで,模式図の中のサーバーの処理を最も単純化いたしますと,単に保存するだけということになろうかと思いますので,いわゆるロッカーサービスに等しくなるのではないかと思います。つまり,そういう意味においては,ロッカーサービスというのはクラウドサービスの最も単純な形態と言うことも可能ではないかと思いまして,本日の1つ目のポイントとしてロッカーサービスについての裁判例を御紹介いたします。
また,サーバーと端末の間で著作物がやりとりされ,そして保存される等々を考えますと,関係する支分権は複製権と公衆送信権になってこようかと思います。複製権の問題については,これはロッカーサービスに関する検討で十分と思われますので,ポイントの2つ目として公衆送信に関する問題について検討いたしたいと思います。
クラウドサービスに関する著作権法上の問題としては,クラウドサービスを動かす著作物,すなわちコンピュータープログラムに関する問題というのも考えられるわけですが,本日の報告では取り上げてございません。
それでは,次に参りたいと思います。ロッカーサービスと一口に言われますが,種々のものが混在しているかのように思いますので,分類をしておきたいと思います。私なりの分類でございますが,分類の軸といたしましては,まずロッカーにアクセスできるのはただ1人か,それとも多数かという区別があろうかと思います。アクセスできるのがただ1人の場合をプライベート型,多数の場合を共有型と呼ぶことにいたしたいと思います。
次に,ロッカーに保存されるコンテンツを誰が提供するか。ロッカーサービスの提供者が用意するか,それともユーザーが用意するかで分類することも可能ではないかと思います。ここでは前者,業者が用意する場合を配信型,ユーザーが用意する場合を自炊型と仮に呼ぶことにしたいと思います。以上を踏まえますと,タイプ1からタイプ4のような形で4つに大きく分類することができるのではないかと理解をしております。
次に参りたいと思います。それぞれについて,簡単に私なりの理解で整理いたしますと,タイプ1はプライベート・配信型のものであって,音楽であればAmazon.co.jpのAmazon Cloud Playerなどが典型例ではないかと思いますし,また,電子書籍のサービスでありましても,クラウドに書棚を確保できるタイプのものがございましたら,これはタイプ1ではないかと理解をいたします。
また,タイプ2は,これはプライベート・自炊型のものであり,狭義のロッカーサービスと言って良いかと思います。オンラインストレージサービスというのは,基本的にはタイプ2でございますし,裁判にもなったMYUTAのサービスもこれに当たろうかと思います。また,本日御紹介いたしますMP3tunesのサービスも,基本的な部分はこれになろうかという理解をしております。
タイプ3は,共有・配信型のものなのですが,これは分類の加減上存在しますが,実際には余り意味のない類型であります。なぜかというと,単なる配信サービスと位置付けられるからです。
タイプ4につきましては,これは共有・自炊型のサービスでありまして,有名なところではアメリカでFBIによってサイトが閉鎖されたMegaUploadなどがこれに当たろうかと思います。また,P2Pを利用したシステムで,ユーザーがアップした音楽をほかのユーザーがストリーミングで聞くことができるGrooveSharkと呼ばれるようなサービスもこれに関係してくるのかなと思います。
では,次に参ります。それぞれのサービスにつきまして,アメリカの著作権法上どのような課題があるかというのを簡単に検討しておきますと,まずタイプ1とタイプ3ですが,これは結局は配信サービスでございますから,権利者の許諾なく行うと,ロッカーへの保存の部分は複製権侵害,ユーザーへの配信の部分は頒布権,又は公の実演権,若しくは展示権侵害となるということになろうかと思います。しかも,サービス提供業者による直接侵害と評価される可能性が高いのではないかと思います。もっとも,通常はこういうサービスはライセンスを得て提供しているのが一般的だろうと理解いたしております。
タイプ2については,これは詳しく後で見てまいりますが,ロッカーへの保存やロッカーとの送受信をユーザーが行っているんだと考えますと,ロッカーへの保存についてはフェアユースの問題が出てまいりますし,ロッカーとの送受信の問題については,これはそもそも公衆への送信ではないということで,権利の対象外ではないかという議論になってこようかと思います。
また,仮に業者が責任を問われるといたしました場合には,これは二次的侵害責任を負うか否かということになってまいります。この場合,業者の側(がわ)からは,DMCAのセーフハーバーによって我々は保護されるんだと主張する余地があろうかと思います。
あと,タイプ4でございますが,これは一見真っ黒なサービスに見えるのですが,法的には電子掲示板や動画投稿共有サービスと等価なところもございまして,DMCAのセーフハーバーの適用があるかないかで業者の責任は変わってくると思います。ただ,ファイルをアップロードするユーザーに関しましては,これは基本的には著作権侵害となるのではないかという理解をしております。
それでは,続きましてタイプ2のロッカーサービスに関する裁判例ということで注目されましたMP3tunes事件について御紹介することとしたいと思います。原告は,レコード会社と音楽出版社でございます。被告は,サービスを提供しているMP3tunes社と,その創業者でありCEOです。
このMP3tunesのサービスの概要というのは,次のスライドのようになります。これは飽くまで判決で書いてあるところを私なりにイメージ化したものですから,100%正確かどうかは分かりませんけれども,一応御理解のためにということで載せてあります。
若干説明いたしますと,MP3tunes社のサービスは,MP3tunes.comとSideload.comの2つから成り立っております。まず,左側のMP3tunes.comの方は典型的なタイプ2ロッカーサービスでありまして,ユーザーは自分の手持ちの音楽をクラウド上の自分専用のロッカーに保存し取り出すことができると。
一方,右側のSideload.comの方は,端的に申し上げますと,インターネット上で無料で公開されている音楽,もちろん適法に公開されているものもありますし,違法なものもございますが,それを検索できる検索エンジンのようなものであります。しかも,MP3tunes.comのユーザーがSideload.comを利用いたしますと,表示された検索結果の音楽をサイドロードすることができます。このサイドロードというのは,インターネット上のサーバーから一旦自分の手元にダウンロードし,そして,自分の手元のパソコンから自分のロッカーへアップロードするというような手間をかけずに,インターネット上のサーバーから自分のロッカーへ直接音楽を保管してくれる機能であると言われております。
なお,このSideload.comのシステムは,各ユーザーがどのサイトから各自のロッカーにサイドロードしたかの記録を残しております。
レコード会社は,2種類の通知を送りました。まず[1]として,無断で公開されている自社の楽曲名と,それを公開しているサイトのURLをMP3tunes社に通知いたしました。また,[2]として,所属アーティストの一覧も通知いたしました。そして,[1]と[2]の通知にかかる楽曲とURLを削除するようにと求めました。
MP3tunes社は,[1]で通知されたURLはSideload.comから消しましたが,[2]に応じて楽曲ファイルをユーザーのロッカーから削除することはしませんでした。そして,所属アーティスト一覧だけでは対応できないので,具体的な楽曲名とURLを特定した通知を送ってくれと返信をしました。そういうやりとりが何回があった後,レコード会社側がMP3tunes社を訴えたということになります。
次のスライドに行ってください。ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の判決について御説明いたします前に,簡単にDMCAのセーフハーバーについて紹介しておきたいと思います。なぜなら,この判決では,このセーフハーバーの適用が最大の争点となったからであります。
DMCAのセーフハーバーとは,米国著作権法512条に定められたセーフハーバーのことでありまして,そこに定められた要件と手続を満足する限り,オンラインサービスプロバイダーは著作権侵害に関して損害賠償責任を免れ,また裁判所は,プロバイダーに過大な負担とならない限定的な差止命令しか出せなくなります。セーフハーバーは大きく4つございますが,この事件では,ロッカーサービスの部分については,512条(c)のセーフハーバーの適用,そしてSideload.comについては512条(d)のセーフハーバーの適用が検討されました。
次に行ってください。DMCAのセーフハーバーが適用されるための条件のうち,この判決で問題となったものに関してまとめたのが上記スライドでございます。
スライド中の丸やN/A等々は,判決での判断結果を簡単に示したものでありますが,丸は要件を満たすという趣旨であり,N/Aは言及がないか,若しくはほとんど議論されていない等々でございます。
基本的には,1点,三角に関する部分を除けば,動画投稿共有サービスに関する従来の裁判例の傾向,プロバイダーを厚く保護する傾向があるのですが,それとも整合する判決でございました。時間の関係で,これを細かく御説明することはできませんので,ポイントだけを取り出した次のスライドをごらんください。判決の構造と結論というスライドでございます。
裁判所は,ほとんどの要件は満足されるという判断をしましたものの,レコード会社などが行った通知をもって,MP3tunes社はDMCAに準拠する通知を受領(じゅりょう)していると判断して,通知で特定された楽曲やURLを迅速に削除したのか否かを問題とします。
裁判所は,Sideload.comからURLを削除した点はオーケーであると言ったのですが,そういうサイトからサイドロードされた楽曲をユーザーのロッカーから削除しなかった部分については,セーフハーバーの要件を満たさないとして,それらの楽曲についてはセーフハーバーの適用を否定しました。そして,セーフハーバーの適用がない部分につきまして,MP3tunes社に寄与侵害の成立を認めたということになります。
付言いたしますと,ロッカーからの削除については,本件で問題のシステムが,各ユーザーがどのサイトからどの楽曲をサイドロードしたのかを記録する機能を有するシステムだったという事情に基づく部分がございます。したがって,そのような機能がない一般的なタイプ2ロッカーの場合に,この説示がどの程度の影響をするかというのは不明なところがございます。
次に行ってください。Reconsiderationと書いていますが,ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は,Viacom事件第2巡回区控訴裁判所判決に基づくReconsiderationを求める原告の申立てを認めまして,当初の判決から1年半を経ましてReconsideration,見直しを行ったということになります。
元の判決では,通知に記載されていない楽曲について,MP3tunes社は現実の認識も危険信号の認識もないのでということを法律問題として判断していたのですが,見直し決定は[1]現実の認識については故意の無知,willful blindnessによって認められる余地があるので,故意の無知か否かというのは正式事実審理省略判決,summary judgmentではなくて,トライアルに行って判断されるべきだと言いました。
さらに,[2]危険信号の認識についても,より詳しい証拠の評価が必要であるということで,summary judgmentは不適当であるといたしました。
ただ,見直し決定は,自分の上級裁判所である第2巡回区控訴裁の判決があるのでそれに従って判断をするけれども,控訴裁の判決の論理に従うと積極的監視義務を付さないとしたDMCAの原則と矛盾しないんだろうかという疑問のようなものを呈しておりまして,非常に複雑な判決になっております。ただ,一応,見直しということになっております。
以上がMP3tunes事件の現状でございます。
続きまして,テレビ番組録画支援サービスの問題です。これは公衆送信に関する問題でございますが,まず,米国著作権法には公衆送信権と名付けられた権利はございません。しかしながら,では,公衆への送信は著作権が及ばないのかといえば,そうではなくて,一般にですが,著作物を電子的に頒布する場合,すなわち受信者の手元に複製物が作成されるダウンロード型送信の場合は,頒布権の対象と解されております。また,音楽著作物や視聴覚著作物の場合,その実演を――実演,これは実演を再生する場合も含まれますけれども,それを送信する場合,ストリーミング型送信の場合は,公の実演権の対象と解されておりまして,十全ではありませんが実質的には公衆送信権相当の権利があるという理解になります。
MP3tunes事件では,複製権侵害のほかに,公の実演権の侵害も問題となりました。詳細は,時間の関係がありますので飛ばしますが,結論だけ申し上げますと,侵害は否定されております。なお,MP3tunes事件判決の公の実演権侵害に関する説示は,ケーブルビジョン事件判決に大いに依拠しておりますので,そちらを見て参りたいと思います。
ケーブルビジョン事件は,控訴裁判決を前提にいえばThe Cartoon Network事件と呼ぶべきなのですが,もともとがケーブルビジョン事件と呼ばれたこともあって,今日はそれで通します。極論すればケーブル放送会社がタイムシフト録画の可能なまねきTVサービスを提供したようなものと御理解ください。原告はテレビ番組の著作権者であり,被告はケーブルビジョン社とその親会社ということになります。
問題となったのは,Remote Storage Digital Video Recorderということになります。仕組みはおおむね次のスライドのようになります。
ケーブルビジョン社はRS-DVRというシステムをユーザーに使用させております。これはユーザーが自分の家の録画機でテレビ番組を録画する代わりに,ケーブルビジョン社の運営するサーバー上の自分専用の記録領域に録画し,録画したものを後ほど自分の家宛てにストリーミング送信して視聴することを可能とするものでございます。サーバーと各家庭は物理的に離れていますので,録画指示と実際の録画との間に,タイムラグが生じます。そのタイムラグを防ぐために,番組は常に自動的に短時間バッファリングをされております。
また,同じ番組を複数のユーザーが録画指示したとしても,録画ファイルは共有されることはございません。さらに,ユーザーが録画できるのは自分がケーブル視聴の契約を結んでいるチャンネルだけとなります。次に行ってください。
判決の概要ですが,その前に1つポイントがございます。というのは,この事件では,原告と被告の間で二次的侵害は争わない。また,フェアユースの抗弁も持ち出さないという取決めがなされました。そのため,争点はケーブルビジョン社による複製権の直接侵害と公の実演権の直接侵害が成立するか否かでありました。複製権侵害につきましては,バッファは,瞬間的なので複製に当たらないと判断しました。ユーザーの指示によってハードディスクへ記録する部分については,この場合,複製の主体といえるためには「意図ある行為」Volitional Conductが必要であって,本件では録画を指示したユーザーの行為がそれに該当する。したがって,ユーザーが複製をしているのであって,装置を使用させているだけのケーブルビジョン社は複製行為者ではないので直接侵害は概念できない。よって,この会社に責任を問うのであれば二次的侵害責任であるべきだ。もっとも,既に申しましたように,これは争点ではございませんので,複製権侵害は成立しないという結論になったわけです。
ポイントは,次の,公の実演権侵害の部分でございます。アメリカ著作権法101条には,公の実演についての定義がございまして,その中でも上のスライドで下線部を引いているところが特に問題となりました。
地裁は,送信を行っている主体をケーブルビジョン社だとした上で,本件では同一の著作物,番組を公衆に対して送信しているんだから,公の実演に当たる,という番組起点の考え方を示しました。
しかし,第2巡回区控訴裁判所は,仮にケーブルビジョン社が送信しているんだとしても,公の実演にはならないんだと判断しました。なぜなら,文言上,送信の対象は著作物ではなくて実演である。実演の送信自体,実演と考えるべきであるから,公の実演に当たるか否かというのは,個々の送信の受け手が公衆かどうかで判断すべきである。しかも,その個々の送信というのは各ユーザーが作成したユーザー専用の複製物から作成されるものなので,個々の送信の受け手はユーザーその人だけになるから,公衆向けの送信とはいえないと結論しました。複製物を起点とする考え方を採ったわけでございます。
ケーブルビジョン事件は,原告が最高裁に裁量上訴の申立てをしましたが,最高裁はそれを受け付けず,判決が確定しております。
ケーブルビジョン事件の特に公の実演に関する考え方は賛否両論ございます。ただ,実質的にはリーディングケース的に扱われていた部分がありまして,それが次のAereoサービスを生み出しました。
Aereo事件で問題となったサービスは,ケーブルビジョン事件控訴裁判決を大いに意識した内容になっております。原告はテレビ局,被告はベンチャー企業でございます。原告は,被告がニューヨーク市で提供しているサービスが著作権侵害などになるとして訴えたわけでありますが,その中で公の実演権侵害を理由とする,暫定的差止請求に関する裁判所の判断について簡単に御紹介いたします。
システムの概要でございますが,システムには視聴モードと録画モードの2つがございまして,ユーザーが視聴を指示しますと,アプリケーションサーバーがアンテナサーバーに指示を出して,アンテナサーバーは親指大のマイクロアンテナ1つとトランスコーダ1つを1人のユーザーに割り当てます。また,ストリーミングサーバーに対してハードディスク上にユーザー専用の記録エリアとRAMバッファの割当てを指示いたします。
各マイクロアンテナの出力は,対応するトランスコーダでデータ化されて,各ユーザー専用のハードディスクのエリアに記録されます。記録されたデータは,読み出されてRAMバッファに蓄積され,インターネット経由でユーザーに送信されます。ハードディスク上の記録は番組終了まで維持されるので,ユーザーはこれによって生番組をトリックプレーできるということになります。ただ,これは単に見るための記録ですので,番組が終わったら消されます。一方,録画を指示すると,その記録はそのまま残って通常のDVRのように使えるということになります。
同じニューヨーク南部地区連邦地裁は,このAereoのシステムに関して,ケーブルビジョン事件のRS-DVRと実質的に同一と評価いたしました。そして,自身の属する第2巡回区の先例,すなわちケーブルビジョン事件控訴審判決に自分は拘束されるからということで,同様の論理で,Aereoからユーザーへの送信は公の実演にならないとして暫定的差止請求を退けました。
事件は控訴されましたが,第2巡回区のパネルは,我々はパネルであって,オンバンクではないので控訴裁の先例に拘束されるとして,地裁の判断を支持しました。
ただ,類似のサービス,Aereo Killerと名付けられたサービスがあるのですが,そのサービスに対するカリフォルニア中部地区連邦地裁の判決及び,同じく類似のFilm On X事件に関するDC地区,District of Columbiaの連邦地裁の判決は,いずれもケーブルビジョン事件控訴裁判決はおかしいと指摘して公の実演権侵害になるんだと言っています。
一方,Aereoの方はサービスをボストンにも広げました。ボストンでもAereoは訴えられました。ボストンはマサチューセッツ連邦地裁の管轄であり,第1巡回区に属するのですが,このマサチューセッツ地裁は,ケーブルビジョン事件控訴裁判決の考え方が正しいといって,Aereoを勝たせたということになります。
現状は,第2巡回区を除けば地裁レベルの判決なのですが,実は巡回区間の相違というのがかなり見えております。その結果,差止命令の範囲というのが非常におかしなというか,変わったことになっておりまして,例えばカリフォルニアの裁判所などは,アメリカ国内,ただし第2巡回区を除く,ではサービスを提供してはいけないという差止命令を発しています。これは早晩,最高裁の判断が示される可能性が高いのではないかと思っております。
最後,まとめでございます。まず,ロッカーサービスに関しまして,タイプ2ロッカーサービスについては,MP3tunes事件判決後はDMCAのセーフハーバーで保護されるのではないかとかなり強く受け止められたのですが,Reconsiderationで状況は変化しつつあるかと思います。セーフハーバーが全く適用されなくなったということではないのですが,トライアルに進まなければいけないということになりますと,これはサービス業者にはかなりの負担増ということになってくるかと思います。
また,テレビ番組録画支援・転送支援サービスと公衆送信の関係ですけれども,先ほども申し上げましたように,ケーブルビジョン事件控訴裁判決の考え方は,批判もありましたがリーディングケース的に捉える向きもありました。そして,それがAereoのサービスになったわけですが,ただ類似サービスの裁判例を見ると,巡回区ごとに判断の齟齬(そご)が生じておりますので,最高裁の判断が待たれるところだと思います。
当然,これらの状況は,クラウドサービスにも影響を与えるだろうと思います。米国の状況につきましては,このように変化の途上でありまして,いずれに落ち着くかというのは,現時点では分かりかねる。今後,注視せざるを得ないということではないかととりあえず理解をしております。
以上でございます。ありがとうございました。
【土肥座長】
ありがとうございました。それでは,質疑応答と意見交換に移りたいと思いますが,その前に,今回の各チーム員の御発表内容を踏まえ,本日の意見交換で検討すべき事項の案を事務局においておまとめいただいたと,このようなことでございますので,簡単に御説明を頂ければ幸いでございます。よろしくお願いいたします。
【菊地著作権課課長補佐】
それでは,資料7に基づきまして,本日,各委員からの御発表を踏まえまして,本日御議論いただきたいと思う事項を御紹介させていただきたいと思います。まず1つ目でございます。本日,先ほど各委員より様々なサービスや利用許諾状況について御発表いただいたところでございますが,私から先ほど御紹介させていただきましたように,これまでの検討状況につきまして,法制・基本問題小委員会では私的使用目的の複製が関係するクラウドサービスを中心に議論することが適切ではないかというような意見も示されていたところでございます。
今後,議論を進めていく上で,本ワーキングチームで当面議論の対象とすべきサービスについて共通の理解を得ておくということが大変重要だと思っておりまして,まず,本ワーキングチームの議論の対象とすべきサービスについてどのように考えるのかということを1つ目に書かせていただいております。
また,2つ目のバーのところですけれども,本日の御発表では海外の事例も多く御発表いただいておるところでございますけれども,海外において適法であることが明らかであるが,日本ではそうなっていないサービスとはどのようなものがあるのかということ。それから,そのようなサービスを本ワーキングチームの議論の対象とするべきかどうかということについても書かせていただいております。
次に,2つ目の丸でございます。ライセンス契約による処理についてでございますが,本ワーキングチームにおいて検討すべきサービスについて,ライセンス契約による処理が適切なものについては当事者間の契約に委ね,そのライセンス体制を構築することが望ましいのではないかというふうにも考えられますが,ライセンス契約になじむもの,それから,なじまないもの,それぞれどのようなものか御議論いただければと思っております。
また,その際,どのようなものであればライセンス契約になじんで,どのようなものであればなじまないのかといったような,ライセンス契約になじむ,なじまないということを切り分ける基準のようなものはどういうものなのか,そういったものをある程度抽出することも今後議論を進めに当たっては重要ことだと思っておりまして,どのような視点で分類,分析することが適切かということを書かせていただいております。
資料7についての説明は以上でございます。どうぞ御議論よろしくお願いいたします。
【土肥座長】
ありがとうございました。それでは早速,質疑応答と意見交換に移りたいと思います。御意見,御質問等ございましたら,お願いをいたします。【末吉座長代理】
はい。【土肥座長】
末吉チーム員,どうぞ。【末吉座長代理】
先ほど御説明を頂いたとおり,小委員会の方で,私的使用目的の複製や,関係するクラウドサービスに限定して議論を進めたらどうかという御意見があったかと思います。きょう,非常に丁寧にまたいろいろ御発表を頂きまして,理解が進んだと思うんですが,議論できるところと,なかなか議論がまとまらないところと,やっぱりあるのではないかと思います。これは,やっぱり30条周りを中心に議論を先に進めることと,あと,契約によっていろいろできるのではないかというJASRACさんの御意見も頂きましたので,契約でできるところの範囲を明確にして,それは契約で進めていただくという両面から議論を進めるというか,30条を中心に議論をして,両面から事態を分析するというのが一番分かりやすいのではないかなと思いました。以上です。
【土肥座長】
ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。椎名チーム員,どうぞ。
【椎名チーム員】
榊原さん,JEITAさんの資料を拝見して,3ページにいろいろ前提条件としてお考えが書かれているんですが,そもそも,このワーキングチームが設置された経緯を考えてみますと,クラウドということがまずプライオリティー1番目の検討項目に挙がっていて,その次に,私的複製の利便性と対価の還元の問題,これらが関係付けられるのではないかということが前提として,このワーキングチームが設置されたと承知をしております。そのあたり,この2を拝見すると,著作権者の反対を重視して適法化を否定したり,金銭の支払いを条件としたりするようなことがないようにしてほしい,著作権者の意見は聞かないでほしい,お金は払わないようにしてほしい,と書いてあります。そういうことが前提だとすると,これはバイアスとしてすごく強いものがあるのかなと理解せざるを得ないと思います。JASRACさんもおっしゃいましたけど,利便性の向上に異議を唱える者は,権利者としてもいない。それを前提とした上で,いかに対価を還元していくか。その対価の還元が必要だということは,法制・基本問題小委員会の共通認識ですよね,というところで,このワーキングチームが出来上がっていると思うので,それを誰がどのように負担するかということは別にして,金銭の支払いを条件とするようなことはやめていただきたいということだと,議論のとば口にも入ることができないのではないのかなと思いました。それと,私的複製とクラウドの関係で議論していくということなんですが,当然ながら,対価の還元はどうするのだというところに議論が行くに決まっているわけですよね。当初,クラウド事業者の方々が様々に展開を予定されているサービス等について,これは私的複製の範囲に属するものであると考えるというプレゼンテーションをさんざん聞いたわけです。それならば,そういった私的複製の対価の還元はどうするのかという問題が,この議論の中で切っても切れない話だと思います。一方でこの資料の中では,クラウドの検討を対価の還元の検討とは切り離して,遅滞なく優先的に検討しろというふうになっているんですが,そうはいかない問題ではないかと思います。
そこでこれは質問なんですが,文化庁さんの整理の中にでもありましたけれども,様々なビジネスモデルの例示として挙げられている海外でのいろいろなサービスというのは,その国の法律では適法であって,そういう制度的なサポートや手当があるから実現できている,日本はそういうことがないから実現できていないという趣旨での御説明だったのかどうか,その点をお聞きしたいと思うんです。
【土肥座長】
それでは少なくとも質問がございましたので,これは榊原チーム員ということでしょうか。本日御発表を頂いたサービスの様々なタイプがございましたけれども,それについて,外国では適法である,あるいは外国では許諾が要る,あるいは日本では著作権保護によって自由に行われないとか,そういうそれぞれのサービスについてどういうふうに考えたらいいのかということについて質問でございましたが。【榊原チーム員】
各サービス,御紹介したサービスについては,先ほどの発表の際に,裁判で問題になったということで申し上げたものについては適法であるということが確定をしていると思いますけれども,裁判になっていないものにつきましては,適法なのかどうかというのはなかなか分からないというのが現状だろうと思います。発表させていただいた趣旨としては,適法であるかどうかが分からないにしても,これだけ当協会が求めているビジネスモデルについて,世界中で行われているということから何が分かるかと言えば,ユーザーの利便性等で,ユーザーからニーズがあると,それを受けて,新しい産業の方も応えようとしている現実があるということでございます。ですから,ここで御説明をしたそれぞれのサービスについて,いや,こういうものは認めるべきではないということであれば,やはりそれがなぜなのかということが示されなければならないではないかという意図もございます。以上です。
【土肥座長】
質問としては,実現したいサービスとして5ページ目のところにあって,本日のところは私的複製の支援サービスのみ御報告があったと思うんですけれども,この中にある,例えば(1)から(5)まで,クラウドサービスに始まって,(5)がプリントサービスというところで終わっているわけですけれども,これらは30条の下で全て適法にといいますか,許諾等,あるいは対価,そういったものなしに自由に行えるものとして外国でも行われているのか,そのことなんですけれども,その点いかがですか。【榊原チーム員】
サービスによっては有料の部分も含まれると思いますけれども,有料の部分を含むものであっても,現実にサービス自体は可能になっているものばかりですので,全てが無償で行われているという趣旨ではございません。【土肥座長】
椎名チーム員,いかがですか。【椎名チーム員】
有償か,無償かという話は別な話だと思うんですね。要するに,繰り返しになりますけれども,日本では法的な整備は進んでいないから,このようなサービスが行われていない現状があるということで例示をたくさんしていただいたということなのか,外国も同じ状況を抱えていて,グレーなままやっている外国の方が勇気がありますねという話なのか,そのどっちなのかということなんですが。【土肥座長】
そこは裁判で争われているもの……。【椎名チーム員】
それはもちろん。【土肥座長】
そういう御説明があったかと思っておりますけれども,特に,特定のサービスについて何か。【椎名チーム員】
いや,というわけではないんですが,今のお答えですと,適法かどうかということは確認していないということですので,日本においても,こういうサービスが行われている海外においても,そういうバックボーンとしては同じだという理解でいいわけですよね。特定の裁判の判決について言及されているもの以外については,そういう理解でよろしいということですよね。いかがですか。【榊原チーム員】
畏縮が日本であるかということについては,畏縮はあると考えております。【土肥座長】
ありがとうございました。では,大渕チーム員,いかがですか。
【大渕チーム員】
2つの問題がやや混在しているように感じます。私的複製の支援サービスということで切り出して,できるだけスコープを絞った方がいいであろうということで,(1)となって最初に出てきたと思います。ただ,これは,同じことを何回も言っているわけで,同じ根本的な話が間接侵害にも出て,ここにも出るわけですけれども,主体が業者とユーザーのどちらになるかで,30条の適用になるかどうかというところで全く違うということであります。厳密な法的意味ではなく,いわば社会的事象として私的複製を支援しているとしても,これがロクラク最判等と同様の話になってくるかと思うのですけれども,複製主体が業者であったら,法的には30条1項は全く関係ない話になります。したがって,私的複製というのが厳密な法的な意味で私人が主体になって複製しているという意味か否かというところはきちんと分けて議論しないと,議論が混乱したままで,前進しないのではないかと思います。いわば社会的事象としての私的複製支援サービスという趣旨でいっておられるかと思うのですけれども,法的にいうと私人が主体のものもあれば,業者が主体のものも混じっているように思われます。まねき・ロクラクの事案は,従前は一般的には私的複製の支援と思われていたけれども,最高裁の判示や調査官の解説からすると,業者が主体という事例と思われます。私の視点から説明すると,さんざん間接侵害の箇所で説明したジュークボックス法理,ないしはそれに近いような論法ということになってくるかと思います。業者とユーザーのどちらが主体となるかという点をきちんと考えない限りは議論は前進しないと思っています。もともと30条というのは非常に主体を基準として重視した規定であります。要するに,利用者本人が主体として複製するのであれば,1号,2号,3号の例外を除いては,手段,方法等は制限しないで権利制限を肯定するという,非常に主体で割り切った立法になっておりますので,そのような法制のもとでは,主体が誰かという点がぐらぐらしたままでは30条の議論は成り立たないということであります。これがまず1点目です。それから,海外の場合も,いわば社会的事象としてこういうものが認められているのだから,日本でも認めてほしいという話と,それぞれの国のそれぞれの著作権法の解釈論としてどうかという話は別次元と思われます。日本の場合では30条という形で扱っていますけれども,アメリカだったらフェアユースかどうかという別の権利制限,あそこは規定ではなくて判例法ですけれども,それ自体が全く違っていますので,そこを無視してただ並べても,意味がないのではないかと思います。そのような観点からは榊原委員と奥邨委員が御説明になったので言えば,いろいろサービスがあるのですけれども,まずは,主体がどちらかという点の議論が必要であると思います。
それから,奥邨委員に御説明いただいたケースについても,主体は誰で,その結果,フェアユースが成立するかどうかという点を明確化して議論しない限りは,我々がここでやっている,主体を確定した上で30条1項の成否を検討するという議論と,議論のインターフェースが合わずに,議論が混乱するだけだと思います。いわば社会的事象として参考になるという話と,法的な議論というのは別次元だと思いますので,そこはきちんと整理した方がいいと思います。
【土肥座長】
ありがとうございます。津田チーム員,どうぞ。
【津田チーム員】
意見と質問がありまして,1つ意見の方でいうと,非常にJEITAさんと奥邨さんの,いろんな海外の事例のまとめは非常に参考になりました。それによって分かったことというのが,クラウドですとか,デジタルコンテンツ配信の先進国と言われているアメリカであっても,こういったクラウドの著作権をめぐる状況が非常に過渡期であって,どちらにも転び得るということなんだと思います。だからこそ,こういった場が設けられて,ステークホルダーがどこまで,お互いにここまでだったら歩み寄れるのかということを探り合うということは重要だと思いますが,やはり大渕委員からも話があったように,ある程度,やっぱり僕も議論の選択と集中をしていかないと発散して終わるだけかなと思っています。この場で一体何を話すのかというと,気になったのは類型です。事務局の側(がわ)のクラウドサービスの,この4つに分けていただいたということと,あと,もう1つ,JASRACさんからも,この利用許諾状況によって分けられた利用許諾状況の類型もあった。個人的に僕が一番分かりやすかったのは,やはり奥邨委員のまとめで,このプライベート型なのか,共有型なのか,それとも配信型なのか,自炊型なのかというところだったと思うんですね。その上で,多分このワーキングチームで話題にすべきものは,奥邨委員の4分類の類型でいくと,多分タイプ2の扱いだと思うんです。タイプ1とタイプ3に関しては,基本的には問題はほとんど生じていない,日本でも,もうサービス展開もしていて,法的な問題も生じていない。また,逆にいうと,このワーキングチームに出てきているところで,タイプ4型の,共有型のサービスで,誰もが要するにYouTube型です。何でも著作物を勝手に上げて,それが多数で見られるようなサービスを全てクラウドということで合法にしろなんて言っている業者は,少なくともこの委員には参加していないわけですから,多分,そうなったときに,タイプ2のプライベートな目的で,ユーザーが電子書籍にしても音楽にしても動画にしてもアップロードしている。それを個人の目的,個人でメディア変換して楽しむための目的ということをどうするのかに,ある程度絞った方が有意義な議論ができるんじゃないのかなというのが1個あるということです。
もう1つ,その上で質問があるのが,JASRACさんの資料の中の,音楽クラウドサービスの利用許諾状況のところで,いわゆるSaaS型以上は利用許諾,若しくは対価の支払いを含めるべきじゃないかというところになったときに,YouTubeですとか,ニコ動とか,あれは包括契約しているという意味では分かるんですが,いわゆるMYUTAについて,これが利用許諾,対価の支払いに含めるのは,これも1つ,議論の論点としてなるのかなとは思いました。個人的にはやはり,自分で今,利用しているサービスでいうと,自分で音楽CDをリッピングして,それをクラウドではないですけれども,自分のパソコンにサーバーソフトとして動かして,それを外で,スマートフォンで聞くというサービスを利用していて,そういうもので,そういったサービスというので,クラウドに一時的に置いといて,外から自分のリッピングしたものを利用できるというサービスなんかは,実際アメリカなんかで提供されていて,それで一々利用許諾,若しくは対価を支払えと言われると,ユーザーの視点からすると,それはなかなか飲みづらいであろうなということもあるので,奥邨委員のこの類型のタイプ2において,これに関しての利用許諾の範囲,若しくは対価の支払いというところについてどうなのかということ。
あと,もう1つ,奥邨委員に,タイプ2に関しては利用許諾の範囲とかについては必要なのかどうかというところの御意見をちょっと伺いたいなとは思っているんですが。
【土肥座長】
今の段階で,奥邨委員,質問が出たんですけれども。【奥邨チーム員】
それはまだ,私もこれから勉強させていただきたいところ,その前に答えを出せというようなものですので,ちょっとお許しいただきたいなと思います。1点だけ,先ほどの大渕委員の御質問に対して簡単にお答えいたしますと,MP3tunes事件について,主体はユーザーです。複製,送信の主体はユーザーであって,MP3tunes社は寄与侵害,2次的侵害の責任を問われております。ケーブルビジョンの事件に関しましては,これは特別な取決めをしたので,主体が業者かどうかが争われて,業者ではないという判断が出ているということになります。
以上であります。
【津田チーム員】
すいません。すごく長くなっちゃったので,またまとめますと,このワーキングチームって時間も限られているので,タイプ2について利用許諾や対価は必要なのか,若しくはこういったものが私的複製の延長として新しいビジネスの可能性,それはビジネスが盛り上がることで,業界全体,文化,流通に対して発展があるんじゃないかというので認めていくのか,そういう論点に絞った方がいいんじゃないかという意見です。以上です。
【土肥座長】
ありがとうございました。はい,どうぞ。
【大渕チーム員】
今のに関連して,直近のものですが,今のがまさしく,先ほど,1つに絞れと言われれば,これをお訊(き)きしたかったという重要な点です。MP3tunesの今のお話だと,アメリカの裁判所でユーザーが主体だと。それは,そこから先はフェアユースになるのですかというのは,フェアユースを否定したということになるわけですか。【奥邨チーム員】
MP3tunesの場合,ユーザーが手持ちの音楽をロッカーにアップロードしたものについて問題にしたのではなくて,インターネットからダウンロードして直接ロッカーに保存,つまりサイドロードしたものが問題となりました。これについて裁判所は,違法な音楽ファイルをサイドロードした場合,ユーザーは直接侵害であると言っております。したがって,フェアユースの議論はされていません。ありにしたとしても,私の感覚としては非常に難しいと思います。そもそもフェアではないですから。【大渕チーム員】
追加してお訊(き)きしますけれども,今のは重要な点があるかと思うのですが,MYUTAの場合には,コンテンツ源自体はユーザーが自分で適法に入手したCDからとっているから,今の違法なコンテンツという問題はないということであります。ただ,東京地裁は「技術的に相当困難」という点を重視して業者を主体と認定したということであります。先ほど事案が似ていると言われたけれども,コンテンツ源提供が違うわけですね。MYUTAの場合には特に適法コンテンツという前提ですが,業者が主体になっているから,業者が主体になれば30条1項関係ありませんから,それは侵害になる。まさしくそこが主体認定のところなので,今の米国の事案はユーザー主体だけど,大元が違法であれば,フェアユースにも恐らくなりにくいのではないかと思いますけれども,そこのところは議論のインターフェースをきちんとそろえておいた方がよいと思われます。【奥邨チーム員】
1点だけ補足しますと,もしサイドロードの機能がなくて,ユーザーがどこか,インターネットからダウンロードしてきて,それを自分でアップロードしていたんだとすると,区別はつきません。その場合は……。【大渕チーム員】
MYUTAと一緒ですか?【奥邨チーム員】
MYUTAと一緒だと思います。もちろんディスカバリー等かければ別ですが,そうでなければ分かりません。今回はサイドロード,すなわちネットから直接ロッカーに保存した部分だけが問題になっております。【津田チーム員】
例えば,サイドロードがあったがゆえに,本来だったら個人の目的として利用していたMP3tunesのクラウドに入っている音楽が,外からも,複数のユーザーで共有できるようになってしまったがゆえに,ああいうことが起きたという理解でよろしいんでしょうか。【奥邨チーム員】
そこはらそうではなくて,ユーザーがダウンロードしたものはユーザー以外は使えません。複数のユーザーが共有するというのはないということになります。それよりも,入手先がアウトなものについて,業者が削除をしなかったところが問題であるという意見になっております。【土肥座長】
今のところ,末吉座長代理もおっしゃったわけですけれども,ある程度,今後の議論をどういう方向で進めていくかというところが非常に大事なわけであります。30条,あるいはタイプ2とおっしゃいましたね,そういう類型についての議論というのは共通性があるわけであります。大渕チーム員がおっしゃったところの利用主体論,これも実は30条の使用する者がというところでつながっていく問題ではあろうかと思っております。そういう意味からいたしますと,特に皆様の方向性についての強い御要望がなければ,当面は30条問題から議論していくのがいいのではないかなと,こう思いますけれども,いかがでございましょうか。よろしゅうございますか。(「異議なし」の声あり)
【土肥座長】
時間が,私がやるとどうしても長くなってしまって本当に申し訳ないんですけれども,まだまだこれからが本番でございますので,初めからあんまり細かいところに突っ込んでいくと大変なことになりましょう。そこで,時間の関係もございますから,本日のところは初回ということでもあり,今後検討していくべき,そういう方向性については,当面は私的使用目的の複製が関係する,そういうクラウドサービスについて検討するのが適当ではないか,このように思っております。したがいまして,そういう問題について,次回以降はライセンス契約による処理の可能性とか,著作権法30条との関係,そういったことについて議論を進めていきたいと,このように思っております。
続きまして,本日の2つ目の議題がございますので,これに入らせていただきます。これは関係団体からの意見発表でございまして,Culture First推進団体より,椎名チーム員から御発表がございます。よろしくお願いいたします。
【椎名チーム員】
時間がないので早口で,できるだけ努力しますので,お手元の資料8でございます。対価の還元と私的複製の問題が関連付けられて議論されるということで,かつて対価の還元を実現しておりました私的録音録画補償金制度,これとの関連について意見を申し上げたいと思います。「はじめに」ということで,私的録音録画補償金制度の見直しについては,2003年4月に行われた「文化庁:私的録音補償金制度見直しの検討」を皮切りに,2004年から2005年にかけては「法制問題小委員会」,2006年から2008年までは「私的録音録画小委員会」の場において議論が行われたんですが,その後,東芝裁判等がありまして,検討の場が失われて,どんどんどんどん制度と実態の乖離(かいり)が広がり続けるまま今日に至っているということでございます。
さらに,昨年11月の最高裁決定によりまして,現行の私的録音録画補償金制度は,事実上その機能を停止してしまっております。
このような状況を打開するために,再三話が出ておりますが,ユーザーの利便性向上に配慮しつつ,クリエーターへの適切な対価の還元を実現するための新たな制度に関する考え方について申し上げたいと思います。
めくっていただきまして,スライドの3番ですが,「補償金制度」導入前はどうだったのかということを若干リマインドさせていただきますと,1899年に施行された旧著作権法では,発行済みの著作物の私的複製は著作権侵害とみなさないことになっていましたが,器械的化学的方法によらないことが要件としてあったということで,手写でコピーをするというようなことに限定されていた。その後1970年に著作権法が全面改正された当時,複写・録音機器等は発達・普及の途上にあったこと,国民の私的領域における教養・娯楽などの文化的諸活動を円滑に行わせる必要があったこと,私的複製に係る複製権を制限しても権利者への不利益は零細であったことなどに鑑みて,現行著作権法では従来どおり私的複製は権利者の許諾を得ることなく自由かつ無償で行うことができるとするとともに,複製手段を手写等に限定する要件は廃止された。しかしながら,この法改正と合わせて,今後複製手段の発達・普及のいかんによっては,著作権者の利益を著しく害するに至ることも考えられることから,この点について検討が必要であるということが指摘された。
その背景には,デジタル録音・録画の普及ということがありまして,私的複製が広範かつ大量に行われ,さらにデジタル方式の録音・録画機器や記録媒体の高性能化と低価格化が進み,市販のCD等と同質の複製物が簡単に作成されることになりました。その結果,権利者の経済的利益が著しく損なわれ,ベルヌ条約9条2項や著作権法30条における複製権の制限の許容範囲を超えるような状況に至ったということで,議論が始まった。
次のスライドですが,1970年代から90年代にかけて,私的複製と権利者の経済的利益の調整を図るための制度の検討ということが官民双方の場で行われた。1992年の著作権法改正によって,従来どおり私的複製は権利者の許諾を得ることなく自由に行えるとする一方で,権利者の経済的利益を保護するために,私的録音録画補償金制度を導入して一定の補償措置が講じられることになった。
ところが,その制度の導入後に生じたパソコンやその周辺機器等の爆発的な普及によって,音楽や映像の複製は,補償金制度が対象とする専用機器・媒体から,パソコンなどの汎用機器・媒体へとシフトしていった。それに伴って補償金制度は,実質的な機能を次第に失っていきますが,ついに2012年にアナログチューナー非搭載DVDレコーダーに係る録画補償金の支払いを拒否した東芝と私的録画補償金管理協会との訴訟において,最高裁が現行法律を読む限りにおいて,「録画補償金制度はアナログ放送を録画源とするものであるから,デジタル放送のみ録画する当該レコーダーは特定機器等に該当せず補償金の対象とはならない」と判断した知財高裁の判決を支持したということで,事実上,録画補償金制度は死んでしまったということでございます。この最高裁決定によって,政令の定め方に不備があること,これは後で説明しますが,現行制度では制度の対象になるものを政令で定めるというたてつけになっていますが,そこに不備があること,アナログ放送が停波した2011年7月24日以降,現行制度の下では事実上,録画に関する制度の対象になる特定機器が存在しなくなることによって,録画補償金制度が崩壊することが明らかになった。なおかつ制度が対象とする機器・媒体と,実際の複製に使われている機器・媒体に大きな乖離(かいり)が生じた結果,事実上の機能が失われつつありますということで,じゃ,私的録音録画補償金制度って,一体どのようなボリュームを持った制度だったかということをまとめたのが,次の5ページでございます。
1996年から始まって,今年が2013年ですから,この間に私的録音補償金,私的録画補償金がこれだけ徴収されたということになります。ピークはおよそ,録音ですと2001年,録画ですと2010年。結局,この判決の影響で,私的録音補償金は,一部音楽用CD-Rなどの需要が下支えして,ゼロ円にはならないまでも,ピーク時の4%~5%に激減している。私的録画補償金については,もうこれは制度の対象機器がありませんので,事実上ゼロ円になったということでございます。
そうした現行制度,機能しなくなっているわけですから問題があるわけですけれど,じゃあ,中身はどうなっているか。我が国の著作権法では,政令で指定された録音,録画機器と,録音,録画用記録媒体,以下特定機器と言いますけれども,を用いて私的複製を行う者が,補償金の支払い義務者であることを原則としつつ,製造業者又は輸入業者が協力義務者として,特定機器等の販売価格に補償金を上乗せし,購入者から受領(じゅりょう)した販売代金の中から,補償金相当分を,指定管理団体に支払うことを特則と定めている。その特則に基づいて,この制度が運用されてきたということがあります。
問題点としては,政令で定められた機器を対象として,それで複製を行う者がお金を払いなさいということなんですが,これを技術の進歩に応じて,新たな機器等を政令で指定するに当たっては,関係省庁である文科省と経産省の間に合意が前提となります。機器がたとえ大量に流通していても,関係省庁間の合意がなければ,当該機器等は補償金の対象にならない。現実に,高性能なデジタルオーディオプレーヤーや外付けハードディスク等が次々と製造販売されていますけれども,これらは依然として対象になっていない。第2に,特定機器等の製造業者等は,補償金の支払い義務者でなく,補償金の請求,受領(じゅりょう)に関する協力義務者にすぎない。先ほど来,申し上げている訴訟の一審判決は,製造業者等の協力義務は法的強制力を持つものではないと判示しましたけれども,こういった考え方によると,製造業者等が協力義務を遂行しなくても何も責任は取らなくていいということになります。
そういったことから,本日,新たな補償制度を創設するための提案をいたしたいと思いますが,私的複製に対する補償がなぜ必要なのかということをまとめたのが,7ページでございます。デジタル複製技術が高度に発達した現代社会では,芸術や文化の享受は私的複製を抜きにして考えることはできません。その際,私的複製に関係するユーザー,それから複製手段を提供する者,それから権利者,この三者の利益のバランスを考えることが必要だと思います。ユーザーは自由かつ無許諾で著作物の私的複製を行うことを通じて教養や娯楽などの文化的諸活動を簡便に行うことができます。複製手段を提供する者は,利用者が著作物の私的複製を行うことを前提として,複製機能を有する大量の機材を製造販売したり,あるいはきょうお話にいろいろ出ておりますサービスを提供したりすることによって,大きな利益を得ているということになります。
これに対して権利者は創作活動によって著作物を社会に提供していますけれども,複製権の制限を受け,日々行われる大量の私的複製から正当な対価の還元を受けることができないという状況にございます。現行の補償金複製から,正当な対価の還元を受けることができないという状況にございます。現行の補償金制度が事実上機能しない現状において,この三者の関係は余りにもアンバランスと言わざるを得ない。このようなアンバランスな状態を正常な状態に修正するためには,上記の三者による利益の帰属の実態に着目し,経済合理性を備えた補償制度を新たに創設することが必要だと考えています。
どのようなアンバランスがあるかということで,次のスライドでございますが,これはあくまでも一部をキャプチャリングしたものでございますので,様々な御意見はあると思いますが,やはり1997年,8年,9年あたりをピークに,音楽使用料,著作物としての音楽使用料が激減していっております。パッケージから配信にシフトしたんだからいいじゃないかみたいな議論がございますが,実は,このブルーで表示しているところが,配信に掛かる音楽の使用料です。配信というものがパッケージを補っていない状況が分かると思います。
さらに付言すると,この赤いところが補償金です。この補償金がいかに微々たるものであるかということが分かると思いますが,それに対して折れ線グラフで表示しております携帯電話,パソコン,デジタルオーディオプレーヤー,これらの普及,拡大と反比例する形でクリエーターにお金が戻らなくなっているという図式が,ある一面で理解ができると思います。大量にネット上流通している違法複製物でありますとか,そういったものの影響も,必ずあるとは思いますが,やはりユーザーが利便性をある程度確保するために,制度として,あるいは社会のインフラとして,こういった利便性を裏付けるための補償制度をきちっとしておくことは,非常に重要なことではないかと考えております。
最後のページでございますが,新たな補償制度の創設に係る提言ということで,本日は2項目,御提案をしたいと思います。先ほど来の御説明でありましたとおり,従来の制度では,対象となる特定機器や媒体を政令で定めるという形をとっており,それらが,定められなければ補償金制度が機能しないという,今の状況にあるわけですが,補償の対象をそういった物理な特定機器,媒体ということではなく,私的複製に供される複製機能に対して補償していきましょうという考え方です。
機器,媒体,サービスの別を問わず,私的複製に供される複製機能を補償の対象とし,そのことを法文に明記をするということを提案したいと思います。当然ながら,機能に課金するってどういうことということになろうかと思うんですが,そこで新たな補償の支払い義務者は複製機能を提供する事業者とする,私的複製に供される複製機能を構成する機器,媒体,サービス等の手段を利用者に提供する事業者を支払い義務者とする。この2項目について,本日は御提案したいと思っております。先ほど来出ておりますとおり,もともとこの議論が始まるときに,何でもかんでも無許諾で行える私的複製だよね,というような話で始まったと思うんですが,JASRACさんもおっしゃっていたとおり,許諾の世界でクリアできるものは許諾を受ければいいわけですから,それで,包括できないところにまで私的複製の領域が広がっているという意味で,クラウドも関係してくるんではないかと。先ほど来出ております汎用のロッカーサービスみたいなものは補償の対象として考えていく余地があるのではないかと思っています。
以上でございます。
【土肥座長】
ありがとうございました。ただいまの御発表について,御意見,御質問等ございましたらお願いをいたします。【松田チーム員】
今の御意見で,最後のところの複製機能を提供するということに着目したということになれば,最高裁判例との関係で,最高裁は音源を,アナログの点で,それからデジタル化するという点のところの要件を見てとって,そして指定されて,そういう指定されていないものについては,これは除かれちゃうことになるんだけれども,この最高裁判例との関係で言うと,新しい提言は,最高裁判例で示されたところも,全部,あれですね,複製機能というところで包括されるということになりますね。【椎名チーム員】
最高裁判例というのは出ていないと承知をしているんですが。【松田チーム員】
ああ,決定,ごめんなさい。【椎名チーム員】
最高裁は上告を受理しなかっただけで,先生がおっしゃっているのは,高裁の判断ということでしょうか。【松田チーム員】
そういっても,高裁判決を別にひっくり返したり,自判したりするわけじゃないけれども,それを承認していることは間違いないでしょう,最高裁で。【椎名チーム員】
法的な解釈は僕は分かりませんが,司法が判断したことは,第一審と第二審の判断が真反対になっていることが証明しているとおり,やはり現行制度,現行の法律がかなり苦しい制度だったということ,その法文に書かれていることが,具体的には政令で指定されたもので私的複製を行うものが義務者であるというたてつけから生じて,いわゆるデジタルアナログ変換の場所等の細かいことが,その関連として議論がされているわけですけれども,その法律自体に問題があるのではないかと申し上げているわけです。高裁が判断した判例が直接この提案とバッティングするものだというふうには,ちょっと理解できていないんですけれども。【土肥座長】
よろしゅうございますか。【松田チーム員】
まあ,いいでしょう。【土肥座長】
ほかにございますか。大渕チーム員,どうぞ。【大渕チーム員】
少し,今,気になったのは,ここは立法論をやっている場だと思うので,現行法での解釈論自体とは違うように思われます。この紙自体に11月の最高裁決定となっているのは,これが最高裁の不受理決定だったということで,判例としては,高裁の方の話だと思うのですけれども,それは現行法の解釈を示したのであって,ここでやっているのは,立法論だから,そこが余りに現行法から乖離(かいり)しすぎないという点は別として,ここは現行法の解釈論をもう一回確認しているわけではないので,やや今のは質問がずれているのかなという感じがするのですが。【土肥座長】
松田チーム員もそのことは重々御承知の上でお尋ねになったと思うんですけれども,確かにここは立法論をやっておりますので,そういう政令で,今,やっておるようなものは,今後の見直しの対象になるということは当然あり得ると思っております。ほかに。津田チーム員,どうぞ。
【津田チーム員】
1個確認なんですけれども,このまま新たな補償金制度というのを,これは多分それを専門的に話すワーキングチームではないと思うんですが,ただ,いわゆるさっき言った奥邨委員ので出てきたタイプ2,いわゆる個人が買ってきたCDや動画をクラウドに置いて個人で楽しむようなサービスについても補償金というものを要求していくという,これはそういう理解でよろしいですか。【椎名チーム員】
いいですか。【土肥座長】
どうぞ。【椎名チーム員】
ここで話すことではないとは思っていないです。法制・基本問題小委員会では,1番目にクラウドについて挙げ,2番目に対価の還元について挙げていますので,そのことを集中的に関係当事者が集まって議論しましょうということでできたワーキングチームなので,許諾の世界で処理できるもの,それから,許諾の世界に収まらないものという意味で,補償金,新たな補償制度の範囲の中にそういうものが入ってくるのであれば,またそれでいこうという話になるのであれば,それを含めていくという可能性はあると思いますけれども,そういったことを一から議論しましょうという場ではないかと思います。【津田チーム員】
何か,私的録音録画小委員会のデジャヴだなと僕がちょっと思っているのが,一応,今回は僕,立場が変わって,一応,インターネットユーザー協会の代表として言うと,ユーザーの立場としたら,前回の繰り返しになりますけど,デジタルでコピーを自由にできるのであれば,利便性というのがきちんと認められている環境であれば補償金を払うのはやぶさかではないというユーザーは多いと思います。ただ,コピーがデジタルによってDRMによって厳しく制限されているのであれば,違法コピーというのも抑えているわけですから,補償金を払う必要がないでしょうというのが,多分これはユーザーとしては当然の感覚だと思うので,ここのあたり,ダビング10にしても今,導入されていますし,権利者さんたちが望んでいて,音楽や映像の違法ダウンロードの刑罰化も決まっているわけですから,ユーザー,メーカー,そして権利者のバランスというものの,少なくとも秩序というのは,ここ数年で変わったわけですよね。というので,さらにまた権利者有利になるのかというところの根本的疑問があるんですが,いかがですか。【椎名チーム員】
それは,僕に質問ですか。【津田チーム員】
意見ですね。【椎名チーム員】
意見だと思います,それは。【津田チーム員】
ユーザーとしては,多分,理解できないと思います。【椎名チーム員】
津田さんの御意見は,もう重々かねてから承知をしております。【土肥座長】
いずれにしても,録音,録画の繰り返しということは,もちろん避けたいとは思っております。ほかに。河村チーム員,どうぞ。
【河村チーム員】
なるべくデジャヴにならないようにということで,ただ,やはり津田さんの御発言に関連して,消費者団体としても触れておきたいと思います。これまで消費者として,補償金は1円も払いたくないと言ったことは,少なくともないわけでして,権利者の方がバランスとおっしゃるからには,自由さとか,使いやすさとか,そういうことが消費者に十分に担保されたといいますか,そういう条件があれば,どのような補償金制度がいいかはともかくとしても,私も,津田さん同様,それはあり得ることだとこれまでも発言してきました。津田さんの発言の繰り返しのようになりますが,録画補償金については,当時DRMのかかっていないアナログ放送だったものを家庭でデジタル録画することが可能になり,それで幾らでも無制限にできてしまうということが,すごく問題だったわけですよね。デジタル録画機の普及はデジタル放送の開始より前だったわけですから。でも,その後,デジタル放送が始まって,放送番組の録画を技術的に制限することができるようになった。そのためのコストまで消費者が負担しているということを考えれば,今,ゼロ円になったじゃないかと権利者さんは言われますけれども,消費者としては,補償金を掛けるのであれば,デジタル放送になることで奪われた自由といいますか,縛られているものをほどいて,いろいろな使いやすさを実現した上で,そのお話合いができるのかなと,両方を並行していかなければ,お話合いには乗れないなと思っております。【土肥座長】
ありがとうございます。【椎名チーム員】
いいですか。【土肥座長】
いやいや,大体,御意見だと思いますので,そういうユーザーの方の御意見も踏まえて進めていきたいと思っております。【椎名チーム員】
長引きませんので。【土肥座長】
そうですか。【椎名チーム員】
津田さんのおっしゃることも,河村さんのおっしゃることも理解はしております。そういう議論を,まさにここでするための場だと思いますので,そういったことも含めて,また実態がどうなっているかということについては,どうも,今,実態調査ということも行われているそうでございますので,そういったデータなんかも見ながら,いろいろ議論をしていければいいなと,それの端緒として,この提案をさせていただいたということでございます。【土肥座長】
どうもありがとうございました。【松本チーム員】
よろしいですか。済みません。【土肥座長】
松本チーム員,どうぞ。【松本チーム員】
私どもコンテンツを作っている業界の団体ですので,コンテンツ,例えばアニメであれば30分のテレビ番組を作るだけでも2,000万ぐらいは掛かるわけです。それだけのコストと時間,汗をかいて作ったものが,ユーザーにとってはできるだけ安く,利便性も含めて提供されればいいということで考えがちですけれども,ここにいらっしゃる方,ほとんどハードあるいはネット系の方が多いので,きょうは。そういう意味で言うと,コンテンツを利用する,あるいはそれをビジネスとして運用するときの著作権の考え方が,できるだけ安く払う,できるだけ払いたくないみたいな位置付けから話が,さっきの電子情報技術の方の説明もそうですけれども,払わないというところから始まったりとか,この6ページ目にも,違法に入手したものにもコンテンツとしてアクセスできると,こういうことを書かれること自体が,我々コンテンツ制作者側からするととんでもない話で,そういう意味では,ユーザーに対する利便性と我々コンテンツを作る,汗をかいた側(がわ)とのバランスがどうとれるかだと思うんですよね。補償金うんぬんというのももちろんそうですけれども,我々の,いわゆる制作者側に対する還元という考え方が,いろいろな業界をまたいで,あるいは文化庁とか,経産省とか,国のいろいろな機関も含めて,またいだところで議論できるようなことにしておかないと,何かデジタルとアナログの穴をぬって補償金は払わないとか,ユーザーも,例えばDVD-Rを買ったんだけど,これは私的録画に使っていないと,だから,その分のお金を返せとか,要するに穴を狙ったような話が結構現場では多いんですよね。それの不備をできるだけなくすような形で,横に横断するような議論ができれば非常に有り難いなという気がします。
【土肥座長】
ありがとうございました。まだまだ御意見等があろうと思いますけれども,何分時間がああいう時間になっておりますので,お許しをいただければ,このぐらいにさせていただければと思っておりますが,よろしゅうございますか。事務局から連絡事項をお尋ねしようかと思っているわけですけれども,河村次長,何か一言ございますか。よろしいですか。
【河村文化庁次長】
いろいろ案件で遅参いたしまして失礼をいたしました。この場で,様々な御立場の方がお集まりいただいておりますので,どうぞそれぞれの利害を超えて,全体としては豊かな文化のために議論をしていただければ有り難いと存じます。【土肥座長】
ありがとうございました。それでは,事務局から連絡事項をお願いいたします。【菊地著作権課課長補佐】
本日はどうもありがとうございました。次回のワーキングチームにつきましては,改めて日程を調整させていただきまして,確定次第御連絡をさせていただければと思います。以上でございます。【土肥座長】
それでは,本日はこれで第1回のワーキングチームを終わらせていただきます。本日は長い時間,審議に御協力をいただきまして,まことにありがとうございました。―― 了 ――

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