議事録

文化審議会著作権分科会国際小委員会(第1回)

日時:
平成21年4月20日(月)
10:01~11:42
場所:
文部科学省東館3階2特別会議室
  1. 開会
  2. 委員及び出席者紹介
  3. 議事
    1. (1)主査の選任等について
    2. (2)今期の国際小委員会の進め方について
    3. (3)著作権保護に向けた国際的な対応の在り方について
    4. (4)その他
  4. 閉会

配布資料

議事内容

【道垣内主査】  よろしゅうございますでしょうか。
  では,国際小委員会の第1回の議事を進めたいと思います。3の(2)からでございますが,その前に,関審議官より御挨拶いただければと思います。

【関審議官】  第9期の文化審議会著作権分科会国際小委員会の開催に当たりまして,一言ご挨拶(あいさつ)をさせていただきます。
  まず,皆様方におかれましては,御多用の中をこの小委員会の委員をお引き受けいただきまして,誠にありがとうございます。厚く御礼申し上げます。
  さて,近年の著作権をめぐる国際状況をかんがみますと,世界的な経済危機に見舞われる中で,今まで以上に不透明感が増している状態にあるのではないかと存じます。特にWIPOにおける国際ルールの形成が極めて困難な状況になっているということがあるわけでございます。
  こういった中で,前期のこの小委員会におかれましては,こういった状況を踏まえつつ,今後の国際対応の在り方を検討するに当たって,取り上げるべき優先課題について整理をいただいたところでございます。私どもと致しましては,今期におきましてはこれを踏まえ,これらの課題について御審議を更に進めていただければとい考えておるところでございます。
  委員の皆様方にはお忙しい中,大変恐縮ではございますけれども,引き続き一層の御協力をお願い申し上げまして,私の御挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。引き続きまして,事務局より本小委員会の設置の趣旨及び所掌事項等につきまして御説明いただけますでしょうか。

【高柳専門官】  それでは,資料の2を御覧いただければと存じます。
  本委員会は,本年3月25日の著作権分科会の決定に基づき設置されたものでございます。審議事項につきましては,2の(3)にありますとおり,「国際的ルール作りへの参画の在り方に関すること」となっております。また,本委員会での審議結果につきましては分科会を経て公表することとなっております。
  以上でございます。

【道垣内主査】  資料3については,これは議事の中で御説明いただくということでよろしゅうございますか。

【高柳専門官】  はい。

【道垣内主査】  そのような趣旨で,3月25日の著作権分科会での決定でこの小委員会が設置されたわけでございまして,それを受けまして本小委員会としてどのような検討を進めていくかというのが本日の大きな議題でございます。では,議事の(2)に入りたいと思います。
  資料の3をお使いいただいて事務局から御説明いただけますでしょうか。

【高柳専門官】  それでは,資料3につきまして説明させていただきます。
  今期の国際小委員会の進め方について(案)ということでございます。
  まず,「1.現状整理」のところでございますが,今期の本委員会の進め方につきましては,前期の国際小委員会での御審議を踏まえまして整理させていただいているところでございます。前期国際小委員会におきましては,今後日本がとるべき国際対応の在り方につきまして御検討いただいたところでございますが,その上で今後検討すべき課題として大きく4点を抽出していただいたところでございます。
  具体的には,(1)著作権保護に向けた国際的な対応,(2)国境を越えたエンフォースメントの実効性確保に向けた対応で,この中ではとりわけ国際裁判管轄及び準拠法の問題,そしてインターネット上での国境を越えた侵害行為の問題というのがございました。そして,(3)開発と知財問題への対応,(4)その他の検討課題という整理でございます。
  また,これらの課題のうち,とりわけ何を優先するべきであるかにつきましても御審議をいただいたところでございます。具体的には,2ページの方にまいりまして(2)の国境を越えたエンフォースメントの実効性確保に向けた対応を優先的に検討すべきという御意見が多数あったところでございます。この点につきましては,海外での侵害行為への権利執行につきましては,手続の不透明性ですとか煩雑性等から実効性が十分に確保できていないといった指摘がございました。また,国際裁判管轄及び準拠法の在り方につきましては,米国及び欧州での検討に遅れることなく,日本としても国益の観点からいかなる形が望ましいのか検討を進めるべきであるといった御意見がございました。
  また,(1)の著作権保護に向けた国際的な対応につきましては,国際的な著作権ルールのハーモナイゼーションに向けた意欲というものが後退することのないように,重要な課題として位置づけ,引き続きその対応の在り方について検討をするべきであるというような御指摘がございました。
  以上の審議経過につきましては,本年1月26日に開催されました著作権分科会におきまして,国際小委員会として報告がなされたところでございます。
  続きまして,「2.今後の検討課題(案)」のところでございますが,以上の経緯を踏まえまして,今期の小委員会におきましては,以降の課題につきまして御検討いただければというふうに考えております。
  まず初めに,(1)の国際裁判管轄及び準拠法に関する国際ルール形成の在り方でございます。本件につきましては,欧米等では国境を越えた著作権ビジネスに対するリスク低減等の観点から,自国又は地域の商慣行や事情に応じたルールの在り方の検討が進められているというようなことでございまして,今後の国際的な場での検討の可能性を見据えつつ,国益の観点から日本としてもどういうふうに対応していくべきなのか御検討をいただければと考えております。
  具体的な内容の例ということではございますが,例えば欧米における判例やルール形成に関する動向の収集・分析等を踏まえまして,我が国のスタンスの明確化という観点から専属管轄の問題ですとか,あるいは外国判決の承認・執行の問題,そして職務著作など最初の著作権者に関する準拠法,さらには,よく議論になりますが,公衆送信の準拠法等につきまして御検討いただくということを考えております。
  続きまして,次のページにまいりまして,(2)のインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方ということでございます。
  これまで海賊版対策につきましては,知財制度が未整備で保護意識が低い地域に対して重点的に行ってきたという経緯がございますが,最近ではインターネットの普及に伴いまして侵害の容易化,スピード化,さらには世界的規模での拡大という問題が起きております。とりわけ,侵害者がネット上でコミュニティを形成して,国境を越えて侵害対策の緩いサイトを渡り歩くというような現象が発生しているとにお伺いしておりまして,極めて実効性の確保が困難になっているというふうな状況かと思います。このような特性を踏まえまして,今後いかなる対策を講じていくべきか御検討いただければと考えております。
  また,検討内容の例でございますが,例えば海外でのネット上の侵害行為に対する権利行使の上での手続面での課題というものはどういうものか,どういうものがあるのかというものを整理していただくというのがあろうかと思います。またその上で,効率的なエンフォースメントをするという観点から,例えば国際間での情報共有,あるいは国際間での何らかの協調等の在り方というものについても御議論いただければと考えております。また,ネット上における海賊版対策のみならず,それとあわせて正規版の流通推進等をどう進めていけばよいのかというような論点もあろうかと考えております。
  続きまして,(3)の著作権保護に向けた国際的な対応の在り方でございます。本件につきましては,今までインターネット上における視聴覚実演や放送機関の保護に向けた条約交渉がWIPOの場で進められてきているわけでございますが,依然として合意形成が非常に難しい状況になっているという状況でございます。他方,欧米におきましては各々の関心に基づきまして,地域レベルでこのような交渉を補完するような検討を進める動きも近年見られるという状況でございます。このような状況を踏まえまして,マルチの場での議論の進捗状況を踏まえながら,我が国の今後の対応について御検討いただければというふうに考えております。
  そして最後に,(4)の知財と開発問題,フォークロア問題への対応の在り方でございますが,これらにつきましては,先進国・途上国間で意見に隔たりが見られるという状況の中で,相互に合意可能な方策又は相互理解を深めるという方策につきまして,国際交渉の場での議論の進捗状況を踏まえまして御検討いただければと考えております。
  最後に,「3.今期の進め方(案)」でございますが,(1)の国際裁判管轄及び準拠法の在り方につきましては,知的財産制度のみならず,国際私法の側面から議論される面も多数あろうかと存じますので,また非常に専門的かつ詳細な検討が必要ということかと存じますので,ワーキンググループを設置し,その場で検討を行っていただきまして,経過報告を本小委員会が受けるという形はいかがでしょうかというものでございます。
  それ以外の課題につきましては,国際的な議論の動向も踏まえつつ,本小委員会にて御審議を行っていただくということで,とりわけ(2)につきましては別途,調査等を事務局でもいたしまして,御報告できたら良いのではないかと考えているところでございます。
  本小委員会及びワーキングチームの検討状況を踏まえ,必要に応じてこの国際小委員会におきまして,報告書又は審議経過報告として最終的にお取りまとめいただければと考えております。
  以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  資料の3の1,「現状整理」は,前期の小委員会で問題点をアイデンティファイし,それを上の文化審議会の著作権分科会に報告して,それを受けてこの小委員会が設置されたという経緯の説明ですので,(案)がついておりません。それに対して,2の「今後の検討課題」は,そういう経緯を受けて今期の小委員会でこういう議題を取り上げてはどうかというものですので,(案)がついておりまして,また具体的な進め方のところにも(案)がついております。これをまずは御審議いただきたいと思います。
  「検討課題」につきましては,前期の検討課題のうちの,特に(2)が重要ということを御審議いただき,そのことを分科会に報告させていただいたことから,その中で国際裁判管轄及び準拠法に関する国際ルールの形成の在り方とテーマが取り上げられているわけでございます。(2)は従来からあったかもしれませんが,更に新たな動きがあるということで,これを取り上げ,(3)と(4)はどちらかというと従来からずっと継続して行ってきたマルチの場での議論とそれへの対応ということになろうかと思います。いずれも重要な課題だと思いますが,これらが課題だということにすることについて,何かもう少しほかの論点もあるのではないか,あるいはこれらについてももう少し違う切り口があるのではないか等の御意見ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
  では,この4つの課題を今期の小委員会での検討課題とするということにさせていただきたいと思います。次に3の具体的な審議の進め方でございますが,原案によれば,(1)についてはワーキンググループを設置してはどうか,(2),(3),(4)については情報収集をしつつ国際的な議論への対応をしていくということでどうかということでございますが,この点いかがでございましょうか。
  どうぞ,山本委員。

【山本委員】  質問になってしまいますが,検討課題の(2)のインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方の点について,いかなる対策を講じていくべきか検討を進めるという検討課題になっています。これについてはどういうふうに検討を進めるお考えなのでしょうか。今期の進め方に取り上げて具体的に検討していくのか,あるいは来期以降に検討するという形にするのか,要は(2)について検討課題と挙げられているのはどういうふうに検討を進める考えなのか,その辺のところをちょっとお聞きしたいと思います。

【道垣内主査】  来期以降ということではなくて今期の課題です。事務局から(2)についてもう少し御説明いただけますか。

【高柳専門官】  (2)のインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方の今期の検討の進め方でございますが,基本的には,まず初めに,昨年の前期の国際小委員会でも御指摘ございましたように,海外で例えば削除要求等をする際に,非常に手続が不透明であったり煩雑であったりということで,いろいろ問題があるのではないかという御指摘をいただいたところでございます。その中には,例えば権利帰属証明の方法は手間がかかるですとか,削除要求の手続の詳細に関する情報が不十分であるとか,そのようないろいろな問題があると考えているところでございまして,そういう意味では,まず初めにどのような論点があるのか,どのような問題があるのかというものをまず調査して整理する必要があろうかと考えております。
  そういった意味で,今,事務局で考えておりますのは,まずは事務局で何らかの形でそのような課題というのを調査いたしまして,それを整理をして,この国際小委員会の場で御議論をいただければと考えております。
  また,具体的な侵害行為に対する対策ということで,具体的にどのような取組があるのか,いろいろな御意見もあるのではないかと思いますので,この場でそのような関係のプレゼンテーションなどをしていただければ良いのではないか考えております。
  そういったものを踏まえまして,その上で,具体的に効率的なエンフォースメントを実現していくためにどのような方策があるのか,とりわけここの場は国際小委員会ということでございますので,具体的に政府として行える取組というものはどのようなものがあるかというところをこの場におきまして御議論いただければと考えております。
  その意味で,先ほどの3ページの検討内容の例の2つ目でございますが,国際間での情報共有,あるいは国際間での協調等の在り方がもし必要ということであればどのようなものがあるのか等につきまして,この場で御議論いただければと考えております。
  以上でございます。

【道垣内主査】  よろしゅうございますでしょうか。
  これについてワーキンググループをつくるという原案にはなっておりませんので,小委員会自体で審議をしたいと思っております。ただ何も共通の基盤がないまま,問題の所在あるいは現状把握が人によってばらばらなまま議論しても余り実りがありませんので,まずは事務局に勉強していただいて,資料を出していただいた上で審議をするという手順を考えております。更に必要であれば,おっしゃったようにヒアリングをする等のこともあり得ると思います。よろしゅうございますでしょうか。

【山本委員】  分かりました。

【道垣内主査】  何か現在お考えのこと,あるいはこれがすごく問題だとか,そういうことがもしあれば,おっしゃっていただければと存じます。調べるならこういう点を調べてほしいとか,そのようなことでも結構です。

【山本委員】  具体的な問題意識を持っているわけじゃないんですけれども,ここで問題提起されていますように,侵害対策の緩いサイトを渡り歩く現象が発生しているという問題認識だとすると,そのサイトがある国がどこなのかによって取り得る手段とか対策が全く違ってくると思いますので,どこが問題なのか,どこの国でどんな問題が発生しているのか調査するのが一番最初だなと,そういう認識で御質問させていただきました。

【道垣内主査】  そのような御指摘も踏まえてよろしくお願いします。
  (1)についてはワーキングチームをつくり,(2),(3),(4)についてはこの本小委員会で最初から議論するということでよろしゅうございますでしょうか。それでは,そういう方向で今期は進めたいと思います。
  そのワーキンググループの設置につきましてでございますが,どのように設置をし,どのようにこの小委員会との関係をつけていくのかという問題がございます。一般的にはワーキンググループをつくるということは御承認いただいたわけでございますけれども,その詳細についての原案について御説明いただけますでしょうか。

【高柳専門官】  それでは,資料4につきまして説明をさせていただきたいと思います。 「ワーキングチームの設置について(案)」でございますが,まずワーキングチームの構成につきましては,先ほどの資料3の今期の国際小委員会進め方を踏まえ,以下のとおり,国際小委員会のもとに国際裁判管轄・準拠法ワーキングチームを設置できればと存じます。
  ワーキングチームの構成につきましては,チームに座長を置きまして,また座長につきましては国際小委員会の委員の中から主査に御指名をいただければと存じます。また,指名された座長におかれましては,チーム員として必要な若干名を御指名いただければと考えております。
  なお,検討方法につきましては,会議を中心にメール等も活用しながら機動的に御検討いただければと考えておりまして,会議につきましては原則として非公開となりますが,議事要旨を作成して公開するというようなことができればと考えております。
  以上でございます。

【道垣内主査】  資料の4の(案)というの字を取るに際してこのような内容でよいかどうかということで,この内容でもしよろしければこのとおり設置するわけですが,特に問題になり得るのは,検討課題の書きぶりはこれでよいのかという点と,小委員会との関係についてもう少し書き込む必要はないかという点ではないかと思います。いかがでしょうか。
  いきなり魚雷が終わりの頃浮上するというのではなくて,できる限り,節目,節目ではワーキングチームからこの小委員会に御報告いただき,ときどき顔を見せるということにしていただければと思いますけれども,そういうことでよろしゅうございますでしょうか。
  それでは,この資料4のとおりに,小委員会として,ワーキンググループを設置するという決定をしたということにさせていただきたいと思います。
  2のところにどのようにメンバーを決めていくかという規定がございますが,まずは(1)で座長を小委員会の主査が指名するということになっております。これにつきまして,具体的には山本委員にお願いしたいと思っています。山本委員は,実務の観点から長い間この国際裁判管轄及び準拠法の問題について御経験,御知見があって,私もよく授業等で引用する裁判例は山本先生が代理人をされたケースでございまして,よい判決に至るように法廷活動をしていただきましたので,非常に助かっております。そういうこともあって,山本先生にお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。これは私の権限になっておりますが,もし何かあれば。
  よろしゅうございますか。それでは,山本座長にワーキングチームのメンバーを固めていただいて,その進め方等もお任せするということにしたいと思います。では,よろしくお願いいたします。
  以上で,今期の小委員会の進め方につきましては議事を終了いたします。
  引き続きまして,(3)の著作権保護に向けた国際的な対応の在り方に移ります。これは先ほどの今期の議題の(3)に当たるわけですが,きょうせっかくお集まりいただいておりますので,これについてどのような状況になっているかということを事務局から御説明いただいた上で,少し議論をしたいと思います。では,よろしくお願いいたします。

【高柳専門官】  それでは,資料5の著作権保護に向けた国際的な対応の在り方につきまして説明させていただきたいと思います。
  「1.検討課題」というところでございますが,先ほどの資料3の,今期の検討課題の(3)の部分に相当するものでございますが,インターネット上における著作権保護のための国際ルール形成につきましては,1996年のWCT,WPPTの成立以降,視聴覚実演の保護,放送機関の保護につきまして,引き続きマルチの場で議論が重ねられてきたわけでございますが,合意形成のめどが立っていないというような状況でございます。他方で,欧米におきましては地域レベル,EUではEU域内,米国ではアジア地域等を対象に,それぞれの関心に基づきましてマルチの議論を補完するような取組を行っている動きも見られつつあるということでございます。
  具体的には,下の「2.近年の経緯と今後の予定」というところでございまして,まずマルチの場,いわゆるWIPOの場の議論でございますが,昨年10月に一般総会が開催され,そこで視聴覚実演の保護及び放送機関の保護につきまして,今後のSCCR(著作権等常設委員会)の議題とすることが採択されております。そして同じく昨年11月,第17回SCCRにおきましては,視聴覚実演の保護について地域セミナーの成果報告等が実施されまして,次回のSCCRの議題とすることが採択されています。また地域セミナーの継続も支持されたという経緯がございます。一方,放送機関の保護につきましては,議論が硬直化している中で,議長の方から今後の検討のオプションということで,A案として従来どおり排他的許諾権を付与する方式,B案としてレコード保護条約をモデルとした保護の方法は問わないような形での条約の方式を示すペーパーが提示されたところでございますが,結論は得られず,継続議論となったところでございます。
  そのような状況におきまして,次回のSCCRにおきまして理解増進のための情報交換会合の開催が決定されたところでございます。
  今後の予定と致しましては,第18回SCCRが5月25日から29日に開催予定でございまして,その場におきまして放送機関の保護,教育の権利制限に関する情報交換会合が行われますと同時に,議題として権利の制限と例外,放送機関の保護,視聴覚実演の保護が取り上げられる予定でございます。
  その次の2ページにまいりまして,以降が地域レベルでの動きということでございます。
  まずAPEC(アジア太平洋経済協力会議)におきましては,米国が最近いろいろな提案を行っているというところでございまして,昨年8月にAPECの知的財産専門家会合があり,その場でアメリカがシグナル・パイラシー・イニシアティブというものを提案しております。これの具体的な中身と致しましては,アジア地域におけるPAY-TVの信号窃取を対象と致しまして,それがもたらす損害の影響分析,あるいはそれが損害である,非常に問題であるということのアジア地域での相互理解の増進,その上でそのような地域における法的課題と具体的な法制度面でのベストプラクティスの整理というものをした上で,法制面でのガイドライン作成・国内法制への普及というものをやっていったらどうかというような提案があったところでございます。
  それを踏まえまして,2009年,本年3月,第28回の知的財産専門家会合におきましては米国より,信号窃取対策に係るベストプラクティス実現のためのワークショップの開催を11月に行ってはどうかという提案がなされ,それが採択されたというところでございます。また,同じタイミングで,今度は盗撮防止対策に関する新規プロジェクトの提案がなされ,具体的には盗撮防止対策に関するアジア地域での影響の分析,それに対する対策と相互理解の増進,これも先ほどのシグナル・パイラシー・イニシアティブと同様に,法的課題とベストプラクティスの整理をした上で法制面でのガイドライン作成・国内法制への普及ということをやってはどうかというような提案があったところでございます。
  そして,今後の予定と致しましては,4月に第29回の知的財産専門家会合が開催される予定となっております。
  一方,今度はEU議会(The council of Europe)の動きでございますが,こちらはEUの関係でございまして,昨年2月にEU閣僚会議の方で法的拘束力のある放送機関の保護の可能性に関する検討に関し,2009年12月を期限とするマンデートを,その下のメディア・ニューコミュニケーション・サービス運営委員会に付与するということでございまして,こちらのCDMCというところでワーキンググループが設置されまして,放送機関の方の在り方につきまして英国,オーストリア,オランダ,ルーマニア,フィンランド,スイス及び関係放送機関で構成される枠組みのもとでワーキンググループが設置され,議論が開始されたというところでございます。そのワーキンググループにおきましては,報告書が11月に提示されたという経緯がございます。
  1ページに戻りまして,以上のような形でヨーロッパあるいは米国等におきましては,地域レベルでの動きもいろいろ活発化されているというような状況でございまして,このような状況を踏まえますと,まずは著作権保護のルールの形成に関するマルチの場での議論の閉塞状況というのを打開するためにどのような対応が考えられるかというものが1点目,そして2点目として,米国やEU等の地域レベルでの補完的な取組についてどう評価したらいいのかというあたりを本日御議論いただければと考えております。
  以上でございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
  今御説明いただいている間に前田委員がいらっしゃったので,御紹介いたします。

【前田委員】  前田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

【道垣内主査】  それでは,議事に戻りまして,今御説明いただきました最近の経緯はここに書いてあるとおりなんですが,これは長い長い歴史があって,ここだけ見ても状況が閉塞状態だということは必ずしも分かりません。バックグラウンド,つまり,どういう問題があって今このようにWIPOがうまく動いているとは必ずしも言えない状況になっていることにつきまして,御経験が長い上原委員の方からちょっと御説明いただけますでしょうか。

【上原委員】  それでは,補足資料ということで簡単な資料を用意いたしましたので,それをベースに,非常に簡単なもので申し訳ないのですが,説明させていただきたいと思います。長い長いという経緯がありまして,それを言い出すと非常に長くなりますので,とりあえず簡単にまとめたもので若干お話ができればと思います。
  今,高柳さんの方からお話がございましたように閉塞状況ということで,それの御説明ということで,春から初夏に向けての時期に暗い話でございますが,若干ベーシックなところを御理解いただくというつもりで,私が理解している限りのものを御報告させていただきたいと思っております。
  補足資料ということで一番最後についている私の簡単なメモでございますが,一応これからということを見据えて,今どうなっているんだということなんだと思いますので,今度開かれようとしているSCCR18の前提状況といいますか,今どんなふうな雰囲気になっているのかというところを私なりに御説明させていただこうというふうに思っております。
  先ほど既に御説明がありましたSCCR18の議題でございますが,これにつきましてはもう既にWIPOのホームページなどにも載っておりますが,権利の例外と制限,視聴覚実演の保護,放送機関の保護,それのほかにフューチャーワークということになっております。このほかに,正式な議題というのは,実は議題の採択から始まって,前回の議事録の採択というようなものも入っておりますが,今回のサブスタンシャルな議題ということになりますと,この4つが挙げられているところでございます。
  今回,5月25日から29日の1週間の予定でございますが,そのうちの初日,25日につきましては,放送機関の保護に関する情報会合が持たれるということになっておりまして,現在まだその情報会合の内容について正式な情報が入っておりませんが,一応朝から夕方17:00ぐらいまでを予定しているということでございます。ちなみにWIPOの会議は朝10:00から18:00が定時でございますので,その予定でいきますと17:00ぐらいまで,ほぼ1日使って情報会合を行った上で,議長選出というところまでいって,あと若干のところに入って翌日からの討議ということを予定しているのかというふうに思われるところでございます。
  実は放送機関の保護に関する情報会合については,放送事業者,あるいはそれにかかわる動きをしてきた団体等については,いろいろな情報交換をしたりWIPO事務局とのやりとりもしておりますが,現時点でだれがどのくらい何を話すのかというところまでのきちんとした情報が入っておりません。WIPOの方も大分,財政的に厳しい状況もあるようでして,後ほどまた申し上げますし,昨年度も御報告申し上げたところがございますが,途上国と先進国との間のかい離というようなことが報道機関の保護に関しては問題になっている部分がございますので,途上国の方からの報告を多く入れたいということが事務局あるいは放送機関の側にもございますが,そのためにはそれらの人々を呼ぶための経費がかかるということがございまして,その辺がかなり厳しいネックになっているというふうに現在聞いております。
  それでは,これらの議題の背景といいますか,閉塞状況の状態といいますか,そうしたものを順次御説明したいと思いますが,1のところにSCCR18の議題というふうに書いてありますが,実は正式議題の順番でございます。WIPOの議事におきましてはこの順番はかなり重要な意味を持っておりまして,順番をどこに置くかによって重点であるとか時間配分であるとかというものも変わってくるというところがありまして,権利の例外と制限が最初に入ってきているというところに,現在これが一番勢いを持った議題になってきているというところが示されているところでございます。
  ですが,それ以降の御設問につきましては,むしろ歴史的な流れを中心に御報告したいと思いますので,それでは視聴覚実演の保護ということについては現在どういう状況になっているかということでございます。
  視聴覚実演の保護につきましては,既に皆様御案内のように,1996年のWCP,WPPT,とりわけWPPTの成立に当たりまして,著作隣接権の中から放送機関の保護とともに実演家の保護がフルには入らないという状況になりました。それが視聴覚実演ということでございまして,音に固定された実演と生の実演の固定につきましてはWPPTで保護が実現しておりますが,視聴覚実演の保護につきましては,WPPT,インターネットトリーティーとしては成立していないところということで,これが1996年の外交会議におきまして1年以内にこの条約をつくるというレコメンデーションが出ていたところでございます。
  しかしながら,実際には,その後の作業に時間がかかりまして,2000年に外交会議が開かれました。2000年の12月でございます。このときに,実質的条項20条というもののうち,第12条が合意に達しなかったということでございます。この実質的条項20条といいますのは,まさに管理条項,総会をどうするかとか,何か国が入ったら報告するかという管理条項を除きました権利にかかわるもの,定義にかかわるものというようなところが実質的条項でございますが,基本的に実質的条項は20条でまとまるということになって,かなりまとまりのところまで行ったのですが,その中の12条が合意に達しないということでございました。この12条は何かというと,権利の移転でございます。すなわち実演家に対しては権利を与えるが,一定程度,移転に関するルールがないと,実演家の数が非常に多いところから,個別の実演家の許諾を得ていると大変ではないかということがありまして,権利の移転というものが提案され,これをどう扱うかということが極めて大きな問題になったわけです。
  これは,根本的には権利者である実演家としては余り移転しない方がいいでしょうし,利用者である映画制作者等については移転した方がいいということになりますが,そこにおける対立というよりは,むしろ最終的にはアメリカとECの対立ということで,最終日ぎりぎりまで厳しい対立になったところでございます。
  ここはまさに,今更2000年の外交会議の分析を新しいワーキングチームにしてくださいというわけではございませんが,最後のところはいわゆる国際的なハーモナイゼーションというものがとれないところから,既にベルヌ条約の中にも保護に関しては各国の保護を与える国の各法によるというようなことが入っておりますが,ここにおきましても,いわゆる国際私法的な手段で乗り切れないかということが,最後3日間ぐらいにわたりまして非常に激しく議論されたところでございますが,最終的にはならなかったということでございます。
  ここで,いろんな理屈がされましたので,この理屈につきましては当時クリックコピーライトに非常に細かく書かれておりますが,ざっくり申し上げますと,アメリカと致しましては契約優先,つまりアメリカのハリウッドで今行われている商慣習にのっとった通り,自分のところで契約して納得して全部売り払ってくれたのであれば,これはそっちが優先するべきであると。したがって,そこで権利が移転するといえば,契約優先で移転するなら移転するのでいいのではないかということでございますが,ヨーロッパの幾つかの国におきまして,実演家の権利の中の幾つかにつきまして譲渡できない,あるいは移転できないというようなことを既に定めている国があったところから,そうした強行規定を契約は乗り越えることができないという部分がございまして,国際私法的な部分を入れようと致しましても,準拠法を決める,あるいはポイントオブアタッチメントを決めていくと,どうしても場合によっては国内強行法規を契約が優先してしまう場合があるので,それは駄目だということになりますし,契約性をどうしても強く言えば当然,EC側の主張とぶつかるということになりまして,最終的にこれを確か,最後の場面で20弱,十幾つかの提案が出て,端から順に挙手をしてまいりまして,WIPOの場合は,後ほど申し上げますけれども,コンセンサス主義でございますので1か国でも反対を挙げればその瞬間にそのテーマは落とすということで,順に読み上げていって全部反対の国が1つはあったということで合意に至らずというところでございました。
  結果と致しまして,現状でございますが,アメリカとEC以外の多くの加盟国は条約の成立を望んでいるということがございます。その望み方が非常に強いか,あるいは弱いかということはございますが,望んでいるということは事実でございます。しかしながらWIPO全体といたしまして,アメリカとECの妥協がない限りは絶対にこの条約は成立しないということも大前提として全員が承知するところとなっております。そして,その中でアメリカとECはどうしているかというと,妥協点が見えないこの論議に入ることを嫌がって,この点についての直接の論議を両者でしていないという状況がございます。従いまして,閉塞状況ということから言うと,まさに全体にこの問題については閉塞感が漂うといいますか,両者が動かなければ進まない,みんなも何となくやりたいんだけど進めようがないという状況にあるということでございます。
  ただ,昨年度以降,放送条約の外交会議が流れるというか,うまく成立しなかった以降につきましては,改めて声としてAV条約,この視聴覚実演の条約を早くやろうという声が出てきていることは事実でございますが,具体論が出ないでかけ声だけのために閉塞感が漂うということがある程度あろうかと思います。
  ただ,私が得ております情報によりますと,水面下でNGO等が動きをしてアメリカとECとの間を何らかの形でつなぐことができないかということは,ここ1年半ぐらい動きつつあるようですが,それがまだ表面に浮かび上がってきて新しい動きになるというところまでは行っていないために,全体としては閉塞感があらざるを得ないという状況になっているところでございます。
  ただ,外交会議の可能性があった段階では,放送条約の保護を先行してやって,残ったインターネットトリーティーズのAV条約に戻ってそれをやればという期待があったために,余りそれに言及しなかったんですが,現在では放送条約の可能性が非常に遠くなってきておるために,AV条約ができないかというかけ声は出ているという状況でございます。
  次へまいりまして,放送条約の保護というところでございますが,こちらにつきましては,ウェブキャスティングの問題というものが非常に大きな問題になったということでございます。当初,放送条約の方につきましては,速いペースで進めるべく,最初から各国提案を募ってどんどんとサブスタンシャルな議論を進めるというスタンスで進めたわけでありますが,アメリカが2002年のSCCR8で初めてアメリカの具体的な提案,トリーティーランゲージのプロポーザルを出したときにウェブキャスティングの方の要求というものを出しました。これが極めて大きな問題になったということでございます。
  それまで基本的には伝統的な放送ということで来たものが大きく転回せざるを得なくなったということと,その後に,非常に大きな問題と致しましては,2003年のSCCR9で,それまでの提案の中では伝統的な放送に限ると読めるような提案をしておりましたECが,放送の定義の中にサイマルキャスティングを入れる。つまり放送局自身が放送と同時に行っているウェブキャスティングにつきましてはこれを放送と同じものとして保護するという提案を入れたために,この問題が更に複雑になったということでございます。
  これに関しましては,ウェブキャスティングあるいはサイマルキャスティングが余り進んでいない途上国を中心に非常に強い抵抗がございまして,2006年5月のSCCR14でかなり強引な形でウェブキャスティング,サイマルキャスティングを切り離して,伝統的な放送と有線放送につきまして先行しようということで議論を進めたわけでございます。
  しかしながらその後,隣接権保護のないアメリカでの理解不足による放送条約反対の動き等と書いてございますが,前後するわけでございますが,2007年のうちに外交会議を決定すべく議論が進んだわけですが,そこまでいった段階では,隣接権保護のない国であるアメリカや,あるいは後に申し上げます途上国からの反対の動きが強く出てきたと。例えばここにスポーツリーグと書いてございますが,アメリカの場合にはスポーツリーグは通常,スポーツの中継点を放送局に許諾する場合に,中継してでき上がった結果の映像についての著作権をリーグに属するものとするということが契約慣行として成り立っております。そういう契約慣行がある中で放送局が独自の隣接権を持つと,自分のところは契約で持っている権利が脅かされるのではないかということで,それが脅かされないということを条約の中に一筆入れろというような話がございまして,これはどう考えてもいわゆる放送行為の保護とコンテンツの保護の違いがございますのですれ違いの論議にしかならないわけですが,そうした動きが非常に強まっていったということがございます。
  また一方で,その下でございますが,ブラジル,インド等の抵抗ということでございますが,2003年からブラジル等がコンテンツの保護ではないということを非常に強く主張してまいるようになりました。これにつきましても,実際にそれまでの放送法の保護,放送機関の保護の論議がコンテンツの保護の話をしていたのかというとそういうことではございませんが,やはり隣接権自体の広がりが少ないというところから,隣接権の主張に対する理解が十分でないところもあり,コンテンツの保護と分けるべきだという強い主張がございました。
  その主張の典型的なものとして出てきたのがパブリックドメイン問題でございまして,パブリックドメイン,つまり既に公有に帰した映画を放送でした場合,その映画を後々録画して使うことができないじゃないか,これは要するに「知」に対するアクセスの制限である,これを邪魔するものであるというような論議でございます。ここにつきまして,パブリックドメインであるもともとの映画そのものをパブリックドメインとして著作権フリーで使うことができるということ自体には影響しないわけでありまして,放送からコピーしたものについて,それを使うと放送の隣接権にかかわるというだけのことなのでございますが,その辺についても非常に強い抵抗がありました。
  そうしたところから問題がだんだんと広がりまして,情報アクセスに係る公益問題であるとか,それが更に広がって文化多様性,特にユネスコの文化多様性条約とくっついて,文化多様性を守るためにいろいろなアクセスをさせるべきであるというようなところまで議論が広がって,混乱していくという状況になったわけでございます。
  ひっくり返していただきますと,2007年に外交会議が不成立ということになりました。内容といたしましては,伝統的な放送と有線放送に限って進めるという本線でまとめるべく論議を進めていったわけでございますが,インド,ブラジル等と書いてございますが,この辺が非常に否定的な動きをしております。どちらかというとストップをするということをかなり表に出して2007年の動きになったと。特にブラジル等のいわゆる南米グループにつきましては,公益問題等を前に強く掲げて,そちらが解決するまでは前へ進まないという形でございまして,インドにおきましてはインターネット上の送信にかかわる話を条約上触れることは許さないと。それにかかわる以上は駄目だというようなことでございまして,もともとこの条約が,放送がインターネットで窃取されるのを止めるというところに一番大きな目的があったところから,デッドロックという問題が出てまいりました。
  一方でアメリカは,現在放送の方,隣接権自体ございませんで,放送の保護というものについて特段の権利がありませんので,ウェブキャスティングが保護されないのであれば,つくっても余り意味がないということで,反対はしませんが極めて消極的。ウェブキャスティングと取引がうまくできなければ余り進める意味がないということがございまして,最終的には目的客体保護の範囲で合意に達しないということになりました。
  また,ここで注目すべきはブラジル等からありました技術的手段の保護の削除要求ということでございまして,WCT,WPPTで生まれました技術的手段の保護というものに関しまして,これが公益に反する,つまり広く国民が情報にアクセスすることを邪魔するものであるから,こうした条項は削除すべきであるという要求が強く出てきたところでございます。現在のところ,その動きが既存の条約を改正してまでそれを削れというところまでは当然行っておりませんが,新規の条約につきましては,そうした動きが,別に放送機関に限らず,出てくるところが予想されるところでございます。
  そうした流れの中で,ブラジル等ラ米を中心といたしまして「制限と例外」,これ言葉が「例外と制限」から始まったのがいつの間にか「制限と例外」に変わってきておりますが,「制限と例外」のルールメイキングの要求ということに移ってまいりました。現実には,当初は放送機関の保護に係る例外と制限,制限と例外の話をしておったんですが,それを広く横断的に制限と例外のルールメイキングをするという要求に移ってきて,それが今やSCCRのメーンテーマになってきているという状況でございます。
  一方で,アメリカのウェブキャスティングの方に対する要求につきましても,アメリカ国内のロギングは相変わらず続いておりますので,アメリカとしては何か事があるとこのカードを持って,こちらの可能性もありますよということを訴えております。ここでまたウェブキャスティングが入りますとますます事態は混乱することになりますので,それを入れて進むことができないというところで,これも閉塞的状況がこのようにあらわれてくるということになります。
  また,もともと放送機関の方,あるいは最終的にはAV条約についても,どちらかというと積極的であったECがここのところ積極姿勢をとり切れない状況というものがあらわれております。その1つが,ヨーロッパのサイマルキャスティングがどんどん先に進んでおりまして,国内法が次々とできております。例えばイギリスやフランスの国内法におきましては,サイマルキャスティングは放送と定義されておるところでございまして,そうした状況の流れから言って,アメリカがウェブキャスティングのカードをちらちらさせている中で,ECが伝統的放送と有線放送だけで条約を進めるということに強く前向きに出られるかというと,なかなかEC全体をまとめるのが難しいというところから積極姿勢をとり切れないという状況,この辺で放送条約については閉塞的な状況ということになっているわけでございます。
  アスタリスクで書いてございますが,先ほど高柳さんの方からもお話がありましたように,APECにおけるアメリカの動きというものがございますが,APECにおけるアメリカの動きといいますのは,補完的な動きとして確かにPAY-TV信号窃取に対する問題とかがございますが,もとは要するにアメリカのMPA,映画会社がアメリカの映画が不当に窃取されることを止めるというところから来ておりまして,その目的が明確である以上,APEC各国におきましても確立されたハリウッドの映画の窃取というものを公然と認めるわけにもいきませんので,それに対しては今までの流れの中で対応していくという状況でありまして,これ自体が新たな放送の条約との対応関係にあるものにはなっていないということでございます。
  また,The council of  Europeにおける動きにつきましても,先ほど御説明がございましたが,積極姿勢をとり切れない状況というところから,話は進めるが積極的に前向きにいかないという状況でございます。そして最終的に制限と例外の動きということで,WIPOでのラ米を中心とした動きが出ておりまして,これが広くつながっているところでございます。
  ここでもう一つ書いてございます非常に大きな問題は,それでも放送条約成立支持の国は多数派であるというところで,逆に言うと,多数派であっても前へ進めないというところが閉塞感を強くしている部分も一方であるということでございます。
  なお,ここで一番大きな問題になりますのが,WIPOにおける,議事規則としては多数決で決まっておりますが,実際の運用としてはコンセンサス主義ということで行われております。そうすると,コンセンサス主義で行く限り前へ進める可能性が非常に少ないということで,コンセンサス主義の限界というものに対する思いが強く出てきていると思います。
  ところが一方で,コンセンサス主義を捨てることはできない。これはコンセンサス主義を捨てますと,直ちに,途上国側の数の方が圧倒的に多いわけですので,多数決でいくと先進国の提案はほとんど通らないという可能性が出てまいります。そうしたところから,コンセンサス主義を捨てるという考え方は今のところ出てきておりません。ユネスコが多数決をとり入れたのとは対照的に,WIPOはいまだにコンセンサス主義をとり続けようということは会議の中で絶えず言い続けられていることでございます。
  最後に,新しく出てきた制限と例外でございますが,ここで書いてございました放送条約論議の中で,ここに挙げておりますように,2005年,2006年にかけまして,チリ,ブラジル,ペルーというようなところが次々と例外や制限の分析と列挙をしております。これらは放送条約の中に入れるものであるということで出てきているわけですが,実際にはほとんど現行各国で実現している範囲のもので新たなものがあるわけではないというところですが,これらを列挙的に認めるべきであると。つまり,先進国がスリーステップテストでくくろうとしているものについて明示的に認めようというところが非常に強く出ていました。また,気をつけるべきは2006年のSCCR14の6のペルー提案の制限と例外の列挙等の中で,原則論を述べた中ではスリーステップテストに当たる文言がある中で,スリーステップテストの第一段階でありますcertain special casesという,つまりある特別なケースという,スリーステップテストにとって一番重要な条件を欠いたままで一般情報を入れるという話が出ております。これは広く公益的なアクセスを認めるという観点からあえて外したものと思われますが,そういう形になりますとスリーステップテストの意義が非常に違ったものになってくるということになりますので,スリーステップテストとはもう言えない,ツーステップになってしまうんですが,非常に大きな注目すべきポイントであろうかと思います。
  そして,2008年以降につきましては,横断的な制限と例外のルールメイキングの要求がありまして,2008年SCCR16の2でブラジル,チリ,ニカラグア,ウルグアイの例外と制限の共同提案というものが出まして,それをもとにいろいろなことをこれからやっていこうということで,昨年のSCCR17では,WBUと書いてあるのはワールド・ブラインド・ユニオンでございます。視覚障害者の方々の連合体でございまして,視聴覚障害者等のアクセス改善条約案のためのルームドキュメントというものが配布されておりまして,視聴覚障害者等といいますのは,盲目の方あるいはその他視聴覚障害の方だけではなくて,広く物を読むことに困難があるということで,それへの対応を出しておりますが,それ自体一つの条約案ということはなかなか難しいわけですが,正式提案ではなくて具体的に紙で書いたものが広く議場で支持されるという状況がございまして,このようなものを今後,制限と例外の中である程度考えていこうという方向にはなっているところでございます。
  最終的にそうした状況にあるということでございますが,昨年のこの国際小委員会あるいは昨年のワーキングチーム等で二国間や数国間の問題を取り上げて,どのように考えていくべきかということの問題を投げさせていただいたわけでございますが,1つには,先ほど申し上げましたように,APECにおけるアメリカの動きというのは極めて限られた部分,新しい動きではないところにのみ前へ進んでいるところがあるということで,ACTA等につきましては,既に一部途上国からは,ばらばらではありますけれども,強い反発を示されている部分もあるというところがございまして,複数国間での条約あるいは協定等が,広くいろいろなもの,新しいものをつくっていくベースになり得るかどうかというのはなかなか厳しい問題があろうかというふうに考えられるところでございます。
  一方で,二国間につきましては,二国間で決めたものがTRIPSの協定を通じて各国に均てんされるというような問題がございますので,このような二国間の動きが全体的な論議を経ないままにスタンダードになる可能性があるという点につきましては今後とも十分な注意が必要であると同時に,我が国として今後様々な二国間の交渉を進めていく上で,著作権分野では最低こうしたことを必ず主張していこうというようなことを検討していくことは,この小委員会として意味があるのではないかというふうに思われるところでございます。
  長くなりまして,失礼いたしました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
  問題点がよく分かるように,相当な情報量を提供していただきました。
  2点ほど少し気になったことですが,昨年のワーキングチームでは問題点の抽出ということでしたので,こういう問題も含めて上原委員にとりまとめをお願いしましたけれども,今期のワーキングチームは管轄と準拠法について特化して審議していただきますので,この議論はこの小委員会で直接最初から御議論いただきたいと思っております。
  それから,資料5の中の裏側のThe Council of EuropeをEU議会と訳していらっしゃるようですが,European Parliamentは別に存在しますので,ヨーロッパ評議会とか理事会とか訳すのが一般的ではないかと思います。私もEUの中の仕組みよく分かりませんけれども,私の理解では,The council of EuropeはEUの外にあるのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。
  今の資料に基づきまして,日本としてどうなのかという点について御議論いただけますでしょうか。こういう閉塞状態の中で日本国としてどのような態度をとり,もし可能であればどういう働きかけがあり得るのかと,そのあたりを御議論いただければと思います。いかがでございましょうか。

【上原委員】  すみません,閉塞感の話ばかりしておりまして日本のことを御報告申し上げるのを一つ忘れておりましたが,WIPOの席におきましては,少なくとも放送条約におきまして我が国は非常に積極的な姿勢をとってきて,それはぶれていないというところで,放送条約をつくりたいという国にとっては一番頼みとされている立場でございます。ただ,なかなか,積極的な立場というのを崩さずに前向きな発言をしていても,現在いろいろなところでぶつかっている問題点の氷解を実際に招くというところには至っていないという状況でございますので,すみません,そこだけ追加させてください。

【道垣内主査】  では,私から御質問ですが,ウェブキャスティングを除いて早く条約として仕上げましょうという立場なんでしょうか。分かりました。
  そのほか,いかがでございましょうか。どうぞ,池田委員。

【池田委員】  すみません,資料5についてちょっと質問させていただきたいんですが,裏面のAPECの2008年8月の第27回会合の中で,米国がシグナル・パイラシー・イニシアティブを提案とありまして,PAY-TVの信号窃取を対象というふうに書いてございますが,このPAY-TVの信号窃取というのは,具体的には例えばスクランブルのかかっているテレビ放送をスクランブルを勝手に解除して視聴してしまうというところに問題があるというふうなことでございますけれども,信号そのものを何か別な目的で利用するというようなことでしょうか。

【高柳専門官】  そこら辺の部分につきましては,まだ具体的に提案が上がったというところでございまして,詳細な議論まで至っておりませんが,恐らく両方視野に入れて検討しているのではないかなというふうに思われます。

【道垣内主査】  よろしいですか。もちろん御質問でも結構ですし,御意見でも結構なんですが,いかがでしょうか。
  どうぞ,石井委員。

【石井委員】  資料5についてですけれど,国際的な対応の在り方ということで,ここでは条約の検討と,それから二国間,あるいは地域での協議という2つのテーマが挙げられているわけです。国際的な条約の協議,これはこれで大変大事なことでありますし,日本も積極的にかかわってきたことでありますけれども,これは私の最近の感想でありますけれども,それ以上にと言っていいぐらい,やっぱり二国間あるいは地域での協議というものが大事になってきているのではないかなと思います。
  今のAPECの話もそうですし,それからヨーロッパもそうなんですけれども,やはりもう1996年当時と大きく違ってきているのは,今はインターネットを使ったビジネスというのが具体的にかなり大きくなってきている,放送事業者もそれに乗り出さざるを得ないというか,乗り出しているところもありまして,私どもも昨年12月にNHKオンデマンドを始めて,今年の2月には,一部ではありますけれども国際放送番組の海外向けのネット配信というものを始めております。
  このためには,例えばヨーロッパですとかアメリカの状況を調べて,じゃ,ここでどういう権利処理が要るのかということをできる範囲で見てみたんですけれど,やっぱり各国ばらばらでありまして,なかなか統一的な部分がない。やはりアメリカはアメリカのルールというものがあるし,ヨーロッパはヨーロッパのルールというものをつくろうとしているし,アジアはアジアで,これは例えばアメリカの映画産業界なんかの影響も受けて,1つのルール,コンテンツ保護のルールをつくったらどうかというような,そういう動きも出ているわけでございます。
  その中で,日本がどのようにこの二国間協議,あるいは地域間の協議でイニシアティブをとっていくのか,どのようなスタンスでとっていくのかというのは,これは恐らく日本のこれからのコンテンツ産業といいますか,そういうところにとって大事になっていくのではないかなというふうに思います。
  これはもうひょっとしたらレコード産業ですとか音楽産業,映画産業というのは既に行ってこられたことかもしれません。放送事業者が初めてこういうところへ乗り出しているのかもしれませんけれども,やはり私としては,これからは二国間,あるいは地域間というものがますます重要になっていくのではないかということを,今この段階での感想として述べさせていただきます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
  石井委員,ついでにですが,二か国間とおっしゃる場合に,相手国はどこを想定されているんでしょうか。

【石井委員】  二か国間というのは象徴的に申し上げましたけれど,とりあえず日本としては中国,韓国,それから東南アジア諸国という,アジアというところにしっかりと位置づいていったらいいなというふうに考えております。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
  政府レベルでは別にそのような動きは,いまだないということでしょうか。バイで処理しましょうという動きはないのでしょうか。

【高柳専門官】  いわゆる二国間の協議の場で,とりわけこの放送を特化して取り上げたという内容は今のところございません。また,いわゆる連携協定,FTA,EPA等につきましては,残念ながらアジア,とりわけASEAN等につきましては既に交渉が終わっているというふうな状況でありますので,どちらかといいますとEPA,FTAになりますと,今後はオーストラリアですとか先進国が中心,あるいはさらにはLLDCと言われる国々,より途上国よりも後発発展途上国が相手になってくるのかなということでございまして,なかなかアジアというふうな観点でいきますと若干難しいところがあるのかなというふうな状況でございます。

【道垣内主査】  しかし,経済連携協定等も改定ということもあり得ますので,その際には可能性があり得るのではないでしょうか。
  そのほかいかがでしょうか。閉塞状態を打破するすばらしいアイデアみたいなのはなかなかないのかもしれませんけれども,しかし,このような中でビジネスはやっていらっしゃるわけですよね。契約で相当程度処理できているんでしょうか。海賊行為者と契約を結ぶわけにいかないですけども,Business to Businessであればかなりのところは契約でうまく処理できているのかどうか,私その実態を知らないものですから,教えていただければと思いますが。

【上原委員】  どういうふうにお答えしていいのか非常に難しいところでございますが,放送につきましては,現在,放送条約の対象になっているのは,先ほど石井さんの方からお話がありましたが,放送局が行うインターネット事業ではございませんで,放送本体そのものが今話題になっておりますので,そちらの方のいわゆる伝統的な放送あるいは有線放送の方ということからいくと,それをとられてインターネット上に乗せられる,一番よく言われておりますのは,You Tubeなどたくさん出ているよという話でございます。
  これにつきましては,いろいろな対応が各国のそれぞれの放送事業者によって行われておりますが,なかなか十分な効果を上げ切れていないというのが実態だと思います。既に訴訟に持ち込んでいる国もあれば,日本のように,訴訟には持ち込まないけれども抗議をしてそこを少し変えようというような動きをしているようなところもあるということで,ばらばらな状態がございます。
  一方で,ビジネスといたしましては,アメリカの大手の映画配給会社等からの聞き取り調査によりますと,やはり現在はP2Pによる被害が激しいと。これはもう放送以前に,劇場公開するとどこかからマスターをコピーしたものがP2Pで流れ出て,物によってはヨーロッパ全体で1週間で70万本のコピーがされたものがあるという話でございまして,それを更に放送に上げれば,放送に上げた段階で,そこからコピーされ,あるいはネットに上げられる,不法使用されるということはもう避けられない状況になっているので,そこを読み込みながらどういう商売をするのかというふうに現在は考えるしかないが,一方で,可能な範囲での法的手続をとるということを行っているので,無論何らかの形で国際ハーモナイゼーションができることが望ましいんだがという状況に今とどまっているというような,各国いろいろな事情はあると思うんですが,非常に大ざっぱにくくるとそういう状況ではないかと思います。

【道垣内主査】  ほかの方から何か。
  どうぞ,池田委員。

【池田委員】  アニメーション番組は世界的な人気がございますので,日本で放送いたしましたものをすぐに,これはファンサブというんですが,ファンがそれぞれの国の字幕をつけまして,いろんな動画投稿サイトにアップするということがまん延しております。これによって世界中のアニメーションの需要がだんだん低くなっております。つまり,正規需要が下がってきているということがございます。
  民放連,テレビ東京では,このファンサブに対抗するために,アメリカで字幕を既に用意しておきまして,日本での放送が終わるとすぐにアメリカで配信をするという有料ビジネスを始めております。このビジネスを行うためにはやはり違法なアップロードがすべて正されていなければ,だれもが正しいものを見るということはなくて,無料で違法なものを見るというふうに流れてしまうわけでございます。
  ですから,今回のテレビ東京の試みというのは時間との争いで,違法なものをファンが勝手に字幕をつくる前に,有料だけれども,いち早く見られるという環境を提供したということがございますが,この一方では違法なものをどんどんつぶしていかねばならないと言いながら,この違法なものというのは上げる人も,上がるサイトも,それをまた見る人も世界中に広がっておりますので,これは1権利者,1放送局ではなかなかもう手が及ばない現状になっております。
  そういった中で,やはり国際的なハーモナイゼーションがかなり必要になってくると。それから二国間協議等も更に進めていただきたいと思っております。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
  今のお話は,資料3の今期の課題で言うと(2)の話になるんでしょうか。それが,条約ができればうまくいくというのは,世界中入ればうまくいくんでしょうけども,なかなかそのようにはならないですよね。ですけれども,徐々にでもよいから条約をつくれば,すごく改善が見込まれるんでしょうか。

【池田委員】  少なくとも放送条約だけでということではございませんで,やはり具体的にどのようにエンフォースメントをかけていくかという,そこの部分がかなり重要になってくると。
  今回の(2)の事務局が行う調査につきましても,海外でどのような侵害が起こっているとか,それから実際にエンフォースメントをかける際にどのような問題点があるのか,先ほどもありました煩雑さであるとか,手続が分からないとか,透明性がないとか,そういったこともございます。それから,各権利者がどのような対応をしているとか,裁判とかがあるのであれば,そういう実例を是非調べていただきたいと。これは条約だけの問題ではなくて,実際に権利を保護するためにはどうすればよいかという具体的な動きについてお教えいただければと思います。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
  前田委員,お願いします。

【前田委員】  そもそも私,放送条約に関する知識がなくて,よく分からないので教えていただきたいと思うのですが,海外での海賊版対策については著作権に基づいても行うことが考えられるわけですけれども,放送新条約をつくることによって,日本が目指すところというのは,著作権に基づいて対策をとることもさりながら,放送事業者の隣接権ないしは隣接権類似の権利に基づいて対策を講じた方がよりスピーディーな対応が可能であると,そういう対応ができるようにすることが日本として望ましいと,そういうことなんでしょうか。

【道垣内主査】  上原委員,お願いします。

【上原委員】  もともと1996年からだんだんとあれして,1997年に新しい論議を始めてということですので,世界状況が変わってきているところはありますが,当然WCPはできておりますので映画の著作物として対応できる部分はございますが,放送の信号を窃取して上へ上げたということだけで対応することができるということになりますと,放送局が直ちに権利主体として取下げ等の対応をすることができるように,各国が入って,各国がそれを実際に各国内の方でエンフォースできるようにしてくれれば対応できるようになるということで,個別の,例えば放送に限って言いますと,放送の中で流れている個別のコンテンツの著作権であるとなると,もうそれぞれの権利主体が当然のことながら侵害に配慮しなければならないということになりますが,放送の信号の窃取ということでやることになりますと,放送局が一括して対応することができるということも含めて,インターネット時代に極めて迅速な対応ができるであろうというところでスタートしたものであります。
  必ずしも,P2Pができてしまったりしていますので,どこまで迅速に対応できるかは非常に難しいところではありますが,やはり基本のところにおきまして,信号窃取そのものをアウトとすることによってエンフォースメントを高めるという意味ではまだ効果があるというふうに考えておりますし,途上国におきましても,先ほどAPECの話がありましたが,途上国などではスクランブルをかけたPAY-TVの窃取に対する被害の問題というのが出ておりますので,そういうものも含めて出ているという,国際的にも出ているし,我が国としてはやはりそのエンフォースメントの意味はあるということで当初主張してきたところというふうに考えております。

【道垣内主査】  上野委員,お願いします。

【上野委員】  放送条約に関しましては,私も,1996年の残された課題であり,また放送番組がYou Tube等で多数無断配信されている現在においても重要な問題であるというのは承知しておりますけれど,今,前田委員からも御指摘がありましたように,たとえ著作隣接権はなくても,放送事業者が著作権によって対応する可能性というのもあるのではないかと思います。これに対しまして,上原委員の方からは,やはり放送事業者が固有の権利を有する効果というのも必要じゃないかというお話があったと思います。
  ただ,隣接権制度を有しない国であって,放送事業者に何の権利も与えていないような国がどれほどあるのか,おうかがいできればと思います。といいますのは,You Tube等に放送番組が無断でアップロードされてしまった場合,たしかに自動公衆送信や送信可能化権といった権利がより直接的にそうした行為を差し止めるのもといえますけれども,もし放送事業者がその放送について複製権を持っておりましたら,それだけで差止めはできる場合が多いわけですから,既にある程度の対応はできているはずではないかという気もするわけであります。
  そのように考えますと,今この条約を議論するときに,実際に権利を定めるかということがどのように必要だと考えられているのか,それともそうした権利を設けるということ自体ではなく,エンフォースメントを実現するということがこの条約で目指されているということでしょうか。このように,条約の必要性という点についてお伺いできれば幸いでございます。

【道垣内主査】  上原委員,できればお願いします。

【上原委員】  すみません,条約の必要性の論議というのはいろんなことがありますので,一言では申し上げられる話ではございませんが,今,上野委員からお話があったところに若干かかわることで申し上げますと,例えばアメリカにおきましては放送の保護というのは隣接権では行われていないんですが,アメリカでは生放送はすべて同時録音していれば著作物と認めると,固定の用件を認めて著作物と認めるという法律がございますので,これによってアメリカの放送局はすべて登録をし,映画の著作物として保護できるようにしておりますので,実際にはアメリカ政府の考え方としては余り不自由はないんだということを言ってはおります。
  でもそれは,逆に言うと,我が国の著作権法等の考え方でいきますと,生放送については通常は余り著作物性が認められないという状況がございまして,ここはローマ条約上も十分にカバーされていないところでございます。
  そうした部分につきまして,やはりWIPOの議論の中でありましたのは,保護の主体並びに客体の部分のところで放送信号というものをカバーすることによって,情報の担い手であり,なおかつ新しい創造に寄与するところの放送の役割というものを保護することが必要であろうと。つまり,コンテンツではなくてシグナルであるという議論が,途上国からのコンテンツをやめてねということだけではなくて,WIPOの理論的な議論としては,シグナルを推していくことによって,例えば生放送等について現在その権利が及んでいない国が多いわけですが,そうしたものの窃取を止める,あるいはそうしたもののインターネットによる窃取の被害が非常に大きくなるところが考えられるところから,そうしたものへの対応としても非常に重要なところであるということで,インターネットトリーティーズということで当初から我が国の中で議論されている部分ですので,インターネット対応を考えたときにはそこの穴を埋めるという意味で,保護の客体主体論というものの中で話がされているところは大いにあります。

【道垣内主査】  ありがとうございました。よろしゅうございますでしょうか。
  ほかの件でも結構なんですが,特にそれ以上ございませんでしたら,本日の小委員会での議論はその程度にさせていただきます。

【久保田委員】  すみません,全体のことでもいいですか。

【道垣内主査】  どうぞ,どの点でも結構です。お願いします。

【久保田委員】  国際裁判管轄のところのルールの形成の在り方の中で,検討内容例として欧米における国際裁判管轄とかルールの形成に関する検討動向が入っているんですけれども,またそれ以外に,今後予想される国際的議論に向けた我が国のスタンスの明確化として,その並びに外国判決の承認・執行というところで,今,米グーグルの書籍検索サービスに関する米国内での判決が日本の権利者にも及ぶという,こういう喫緊の話題もあるんですけれども,こういった具体的な検討というんですか,具体的に起こっている事実をもとにこの小委員会でも検討がされるんでしょうか。それとも抽象的な制度論ということなんでしょうか。

【道垣内主査】  どのような議論をしてもらうかはこちらで決めればよいことです。先ほどの一枚紙のようなマンデートでお願いするということに一応なったわけですが,今の御指摘はもう少し具体的な問題点を抽出して検討をした方がよい,そのような御指摘でしょうか。

【久保田委員】  具体的にそういった,今の情報が的確にとらえられていない部分があって,新聞報道等だけなので,政府の方でそういった情報がとれるのであれば,具体的な検討を通じた方が抽象的な議論よりも面白い判断が出てくるのではないかなというふうに思います。

【道垣内主査】  分かりました。この資料は一応御決定いただいたので,今の御指摘については山本座長に引き取っていただくということでよろしいでしょうか。では,そのようにお願いします。
  今の点はほかの全部にかかわる話ですが,その他,まだほかにもございましたら,もう少し時間がありますからお聞きすることは可能です。よろしいでしょうか。よろしければ事務局から御連絡するべき事項があるようでございますので,お願いします。

【高柳専門官】  本日はどうもありがとうございました。先ほど主査の方からお話がございましたとおり,ワーキングチームのメンバー,進め方につきましては,事務局より後日改めてメール等により御連絡をさせていただきたいと考えております。
  また,次回の日程につきましては,追って日程調整をした上で御連絡させていただきたいと思います。

【道垣内主査】  では,第1回の会合をこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。

―― 了 ――

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