議事次第

文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第2回)議事次第

日時:
平成21年8月12日(水)
13:00~15:00
場所:
文部科学省東館3階2特別会議室
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)国際裁判管轄・準拠法ワーキングチームにおける審議経過
    2. (2)インターネット上の著作権侵害対策に関する調査業務の実施について
    3. (3)WIPO等における最近の動向について
    4. (4)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

【道垣内主査】  きょうは暑い中,また多くの方はお休みをとっていらっしゃるかもしれない中,お集まりいただきましてありがとうございました。
 ただいまから第2回の国際小委員会を開催したいと思います。本日の議題を見ますと,特に公開することについて問題があるという内容はなさそうでございますので,既に傍聴者の方々にも入場していただいているところでございます。
 この点,特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】  それでは,本日の議題は公開ということにしたいと思います。傍聴の方々にはそのまま傍聴いただければと思います。まず,事務局から本日の配付資料の確認と,また人事異動があったとのことでございますので,その紹介をお願いいたします。

【大路国際課長】 それでは,失礼いたします。
 先に人事異動の方の御紹介をさせていただきたいと思います。
 まず,戸渡速志文化庁長官官房審議官でございます。7月14日付で就任をしております。

【戸渡審議官】 戸渡でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【大路国際課長】 続きまして,永山裕二文化庁長官官房著作権課長でございます。7月14日付で就任しております。

【永山著作権課長】 永山でございます。どうぞよろしくお願いします。

【大路国際課長】 続きまして,吉田敦(あつ)子長官官房国際課の国際著作権専門官でございます。7月1日付で就任をしております。

【吉田専門官】 吉田でございます。よろしくお願いいたします。

【大路国際課長】 続きまして,壹貫田剛史著作権課課長補佐でございます。7月21日付で就任しております。

【壹貫田補佐】 壹貫田でございます。よろしくお願いします。

【大路国際課長】 人事異動につきましては以上でございます。

【吉田専門官】 それでは,続きまして配付資料の確認をさせていただきます。
 まず,議事次第が1枚目にございまして,下にありますように,資料1で国際裁判管轄・準拠法ワーキングチーム中間報告,資料2-1といたしまして,インターネット・パイラシーへの対応,それから,資料2-2というところで「インターネット上の著作権侵害対策に関する調査業務」について,資料3としまして,世界知的所有機関等における最近の動向についてという資料が配付されております。また,参考資料といたしまして,参考資料1に本委員会の名簿,それから,参考資料2にワーキングチームの設置について,それから,これは机上配付ですけれども,参考資料3といたしまして前回の議事録,それから,その更に後ろに参考資料といたしまして,事務連絡という資料の以上が配付されていると思いますので,もし不足している資料がございましたら事務局まで御連絡いただければと思います。よろしいでしょうか。
 それでは,先生,お願いします。

【道垣内主査】  では,本日の議題に移りたいと思います。
 まずは,議事の1番の国際裁判管轄・準拠法ワーキングチームにおける審議経過についてでございます。
 このワーキングチームにつきましては,本年4月に開催しました第1回の国際小委員会におきまして,参考資料2のとおり設置が決定され,その後メンバーも確定し,会合を重ねて議論を行ってきております。
 議事経過につきまして,本日ワーキングチームの山本座長よりその経過説明をしていただきます。その上で,皆様から御意見を頂き,また今後のことにつきましても,本年度後半も同じくワーキングチームに検討を続けていただきますので,その方向について御意見があれば伺いたいと思います。
 では,山本委員,よろしくお願いいたします。

【山本委員】 それでは,私の方から中間報告について御説明させていただきます。
 まず,このワーキングチームでは,著作権訴訟に関する国際裁判管轄と準拠法を検討のテーマにしております。その背景としましては,近年国際化が進み,またインターネットの発達によって,インターネットを介した国際的な同時侵害が発生する,いわゆるユビキタス侵害が発生するというようなことで,もう目の前に迫った問題としてこのテーマが浮上しているということがあります。
 また,国際的な議論の場から見ますと,資料1をごらんいただきますと2ページ目ですが,こちらの方に書いてありますように,最近アメリカ法律協会の方が知的財産権に関する国際裁判管轄と準拠法について考え方を出しておりまして,国際的に提案しているということを行っております。また,ドイツのマックス・プランク研究所を中心とするグループが,同じように知的財産権に関する国際裁判管轄と準拠法について考え方を提案しております。
 こういうことを受けて,国際的に外交交渉の場などでこの問題が取り上げられるのも時間の問題だと思われます。例えば,昨年EUからWIPOのSCCRの場で,この問題を課題の一つとして取り上げることが提案されたりしております。
 こういう状況を踏まえまして,あらかじめ我が国として,著作権訴訟の国際裁判管轄と準拠法について考え方を明確にしておくことが必要だという認識に立っております。
 また,場合によっては,各国の議論に日本がついていくだけではなしに,積極的にイニシアチブをとって,国益上の観点から議論を積極的に引っ張っていくというようなことも念頭に置いております。
 そういう問題意識に立ちまして検討を始めましたが,まず準拠法の問題よりは国際裁判管轄の方を議論することにいたしました。その背景としましては,法制審議会で現在国際裁判管轄の法制について検討され,中間試案がこの夏にでも出るという情報がありまして,現在もう実際に出されておりますが,そこでの考え方が,我々がこのワーキングチームで検討した結果と相矛盾するような内容になった場合には,国内立法の立場と外交交渉の場で日本が主張する立場が矛盾するというようなことはできなくなってしまいますので,あらかじめ調整するチャンスも必要だろうということで,ワーキングチームでは国際裁判管轄の議論を先行させることにしました。
 今年の4月から8月の初めまでの間に6回会合を持ちまして,日本における国際裁判管轄についての考え方,条約における考え方,アメリカにおける考え方,イギリスにおける考え方,ドイツにおける考え方,フランスにおける考え方をそれぞれ各委員に分担していただきまして報告していただきました。
 更に,この問題についての各委員の個人的な見解を伺いまして,過去6回検討いたしました。その成果をまとめたものがこの中間報告という形になっております。
 国際裁判管轄の問題としては,以下の4点を検討課題といたしました。
 資料1の3ページ目ですが,専属管轄,外国判決の承認・執行,国際訴訟競合,対抗立法,こういう問題について,国益上の観点からどういうふうに考えることができるのかという検討をいたしました。
 ただ,結論としまして,専ら専属管轄の有無について議論が集中いたしました。専属管轄の問題については論点が3つあります。
 1つは,著作権の登録に関する訴えを専属管轄にすべきかどうかという問題です。法務省の法制審議会での中間試案では,著作権の登録に関する訴えを専属管轄にするという立場がとられておりますが,我々ワーキングチームで検討した結果,著作権の登録に関する訴えを専属管轄にするという必要性はないんじゃないかと,その根拠はないんじゃないかというのが一応の結論になっております。
 次に,著作権の成立,効力に関する訴えを,これを専属管轄にすべきかどうかという議論において,登録によって発生する権利,典型的には特許ですが,特許権などと区別して登録によって発生する権利と登録によって発生しない著作権と,これを区別して登録によって発生する権利についての成立及び効力に関する訴えは専属管轄にすべきだとか,その区別をする必要性があるのかどうかについて議論いたしました。
 結論的にはワーキングチームとしては,成立した権利の性質の問題でもって専属管轄にすべきかどうかを議論すべきであって,登録によって成立するかどうかというのは重要な要素ではないと。したがって,登録によって成立する権利の成立及び効力に関する訴えは専属管轄であって,そうではない知的財産権,つまり著作権に関する訴えは非専属管轄というような区別した考え方はとるべきではないというのが結論です。
 ここまではワーキングチームの意見は一致したんですが,次に典型的には著作権侵害訴訟ですが,これに関して専属管轄にすべきかどうかという点に関しては意見が分かれました。
 先ほど申し上げましたアメリカ法曹協会の提案しております原則であるとか,マックス・プランク研究所の提案しております原則であるとかは非専属管轄の考え方をとっております。また法務省法制審議会の中間試案でも専属管轄の考え方はとっておりません。どちらかといいますと,ワーキングチームでの議論は専属管轄にすべきではないというのが多数で,専属管轄にすべきだというのは少数ですが,意見は真っ二つに分かれました。そのポイントといいますのは国益の観点からなんですが,この著作権の性質をどう見るかというところによります。専属管轄にすべきだという議論は,著作権というのは文化・産業政策の効力であって,その法制以前に保護されるべき利益として,著作権というようなものが存在しないという立場をとっております。したがって,著作権に関する著作権の成立であるとか効力の問題に対して外国の裁判所が判断するということは一国の文化・産業政策に対する介入であると,極めて公序性が大きいという認識に立ちまして,それに対しての外国の裁判所の判断は排除すべきだという考え方をとっております。特に,アメリカ法律協会の考え方は非専属管轄にしておりますが,その考え方というのはかなりアメリカの国益を反映したもので,そのような考え方に乗った場合には,我が国の司法の空洞化というような結果を生ずるんではないかという国益的な懸念が大きくあります。
 これに対して,非専属管轄にすべきだというような主張は,基本的に著作権制度における文化・産業政策の公益性というのはそれほど重要視しない立場に立っておりまして,それよりも著作権侵害訴訟をいろんな国でできる方が,国際化された取引状況の中では権利者にとって便宜だろうというような考え方に立っております。
 以上が専属管轄について議論されたところで,細かな議論はいろいろありますが,報告書の中に細かく挙げておりますので,必要がありましたらごらんください。
 次に,外国判決の承認・執行についてですが,報告書の7ページです。
 この著作権侵害訴訟等を非専属管轄にした場合に,外国の裁判所が我が国の著作権法の解釈を大きく誤った判断をする可能性があると。そういう弊害をどのように排除するのかという問題が発生します。現在の考え方では,外国判決と承認・執行においては,その判断内容には立ち入らない,形式的審査だけで承認する,執行判決を与えるという形になっておりますが,今のような問題を考えた場合には,必要に応じてその原則を緩和して,判決内容を再審査できるというようなアプローチも必要じゃないかというような議論が出されましたが,これについては,それは難しいんじゃないかという議論も出まして,一定の結論は出ておりません。
 次に,対抗立法についても検討いたしました。
 対抗立法というのは,余り聞きなれない制度なんですけれども,外国法の広範な国際的適用の影響を減殺することを目的として制定される法と言われております。具体的に日本で行ったことがあります。アメリカが1916年アンチ・ダンピング法を制定しておりますが,これがWTO協定に違反するというWTOパネルの裁定があったにもかかわらず,アメリカがこれを廃止せずに,その法律に基づいて日本の企業に対して損害賠償を命ずるというような事態が生じました。このときに,日本政府もそういう1916年アメリカのアンチ・ダンピング法で被害を受けた日本企業に対して救済を与えると,損害賠償請求権を与えるというような立法,また管轄権を特別に設定して救済を与えるというような対抗立法をとったことがあります。こういうものの適用可能性について検討いたしましたが,今申し上げたような事例の場合にも,日本だけではなしに,ヨーロッパも対抗立法をとりまして,しかもWTOというような国際機関での判断があったというような背景になっております。
 また,そういう意味で対抗立法を日本がとり得る場合というのはかなり限られているだろうと。更に,効果に関しましても,対抗立法に対する対抗立法というのは相手方がまたやる可能性がありますので,その場合には効果というのは余り期待できない,紛争が紛争を呼ぶという可能性もありますので,その適用できる範囲はかなり限られたものであろうというような議論がなされました。
 以上のような議論がなされまして,次に法務省法制審議会での中間試案に対してどのように対応するのかということを検討いたしました。我々が議論したような意見というのが必ずしも中間試案の中で十分には論点として取り上げられていないんじゃないか,したがって更に法制審議会の方で議論していただく必要があるんじゃないかという結論になりまして,ワーキングチームとして,こういう我々の検討した論点も入れて検討してくださいという意見をまとめました。
 この意見書については,事務局であります文化庁から事務連絡として法務省の方に伝えていただくという形をとりました。
 なお,この中間試案については,現在パブリックコメントの対象にされておりますので,個人のレベルでも当然意見を申し上げることはできるんですが,ワーキングチームとしてはそういう形で対応いたしました。
 次に,資料1の8ページ目をごらんいただきたいんですが,前回,久保田委員の方から御指摘のありましたアメリカのグーグルブックサーチの訴訟についての和解,それについての問題点なり,日本政府が何らかの対応をとり得るのかについて検討いたしました。この訴訟の問題点はたくさんあります。申し訳ありませんが,1回しか議論できておりませんで,私がこれについて報告して委員の方に討議いただいたという形で,各委員が原文に当たって検討したというわけではありません。したがいまして,問題点の指摘等は私の報告に基づくところですので,それは御容赦いただきたいと思います。
 問題点は,一言で言いますと,オファン・ワークス,すなわち権利者が特定できない著作物の権利者であるとか,外国人著作権者であるとか,絶版図書の著作権者であるとかの犠牲において,市販図書の著作権者とグーグルが一方的に利益を得る,そういう和解の内容になっていると思われます。
 それの原因はいろいろありますが,この訴訟はclass action,集団訴訟なんですが,この定義されました一定のclassに属する人は,自分の意思によらずにこの訴訟の当事者になってしまいます。
 このclassの定義が極めて広くて,事件性のない,つまり具体的な事件になる可能性,理論的な可能性はあっても具体的な蓋然性が全くない人たちも,みんなこのclassの中に入れられてしまって対象が広くなっている。そのために,訴訟としての要件も成り立っておりません。代表者としてなっている人たちというのも,そういうオファン・ワークスの権利者たちと違う利害関係がありまして,全体を代表するのには適当じゃないだろうというような関係があります。
 そのほか,いろいろ問題点はあるんですが,日本人の著作権者もこれの対象に自動的になってしまいます。なってしまいますと,アメリカで現在市販されている著書でなければ,自動的にグーグルに対して権利の許諾を与えたことになりますので,嫌だったら通知をしないといけない。通知をしない限りは,グーグルに許諾を与えたことになってしまうという関係が発生しております。これに対する対抗策として,個人のレベルではいろいろありますが,これは省かせていただきます。日本として何かできるのかというと,裁判所に対してAmicus Curiaeというようなもの,意見書ですが,これを裁判所に日本政府の立場として提出すると,これはひどいというような,そういう意見書を出すことが一つは考えられます。
 それから,紛争の当事者でない人たちまで権利許諾を与えたことが擬制されてしまいますので,権利制限や強制許諾を制限しているベルヌ条約に違反していると思います。ということは,TRIPS協定の違反になりますので,WTOに提訴するということが可能になります。こういうことも考えられます。
 それから,抽象的ですが,対抗立法は何らかとれないか,それから日本の公取に独禁法違反で排除してもらうというような,そういう手段もとり得るんじゃないかというようなことが議論されました。
 いずれもいろいろ問題点がありますし,それから対応し得る時間も限られておりますので,十分な検討はできておりませんが,こういういろいろやり得ることがある,検討する課題があるという結論は一応出ております。
 次に,今後の予定ですが,国際裁判管轄についての議論はとりあえず一旦中断しまして,準拠法の問題について後半議論することにしております。といいますのは,来年のWTO,SCCRに我が国として提案していくこと,専門家委員会の提案をしていくというようなことも視野に入れまして,とりあえず準拠法についての考え方もまとめたいと思いまして,今年の後半に集中的に準拠法についても検討したいと思っております。
 それで,12月に2回ほど準拠法と裁判管轄についてまとめた議論を行いまして,1月に報告書をこの国際小委員会に上げたい,そういうふうに考えております。
 以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 先ほど,参考資料2に基づいて設置をされたわけですが,その際に決めましたのはワーキングチームの座長に山本先生をお願いするということでした。その後,参考資料2にもありますように,山本座長の人選によって資料1の9ページの方々にワーキングチームのメンバーをお願いをしたという次第です。私もオブザーバーで出席させていただいております。この資料のその後のところに会合の日程の記載があります。各会におけるメンバーの発表原稿といいますか,レジュメがつづられており,それをまとめたものが,8ページまでのところの取りまとめということでございます。
 きょうこの小委員会を開いていただいた大きな趣旨は,突然1月頃に,できましたという報告をするのではなく,中間段階でちゃんと小委員会の御意見を伺って,軌道修正その他,小委員会の御示唆を頂きながらワーキングチームの検討を進めていった方がいいだろうということであります。メンバーのレジュメの部分は相当な量になっていますから,その細かな点にまでこの小委員会で立ち入ることはできないかも知れませんが,その前の取りまとめの部分は,恐らく最終的なワーキングチームの報告書でもベースになる部分だと思いますので,この場で御議論いただければ幸いです。いかがでしょうか。
 はい,どうぞ,上原委員。

【上原委員】 すみません,国際裁判管轄の具体的な議論に入る前のことになると思うんですが,頂きましたレポートを見させていただきますと,2ページのところのⅡ。目的の2段落上のところに,先ほど山本座長の方からもお話がありましたが,第16回のWIPOのSCCRで,EUから議題として提案されていると記述されています。ただしこの際には途上国の反対で見合わせることとされたということになっておりますが,これはSCCR16に出ておりました私としましてはとらえ方が少し違っておりまして,確かにアフリカグループはアフリカグループとしてプリマチュアというふうに明確に表現をしております。ただ,基本的にはこの議題が嫌だということではなくて,むしろ途上国が中心になって主張しているLimitations andExceptionsの議論,それから既にスタートしていて,けりのついていない2つの議論,つまり視聴覚実演の条約と放送機関の条約,これにプライオリティーを与えるべきで,ほかの議題に入るのはプリマチュアであるという言い方をしているので,特段にこの議題を意図して反対したのではないというふうに認識しております。
 その他の途上国のグループも皆,今の3つの議題を先に進めるべきだという主張をしました。我が国もこの3つの議題,既にテーブルにのっている議題が先に行われるべきであって,ECがフューチャーワークスとして提案した国際私法を含む4つの問題について,面白い話だとは思うけれども,ともかく優先はやはり現在あるテーマであるということを非常に強く言って,アメリカも同様の主張をしていたというところがたしかあったと記憶しております。
 そういう事情がございますので,このテーマに対して特段に強い反対があったということではなくて,今手いっぱいなのでそんなところまでなかなかいかんぞというニュアンスの方が強かったというふうに理解しておりますので,私の受け取り方としてはそうであったということをお伝えしておきたいと思います。
 ちなみに,ECは,情報の交換とそれから各国がそれぞれチョイスオブローを行った場合に違った結論が出てくることによって起こる困難について意見を交換し合うということを提案しておりまして,EC自体はルールメーキングの討論自体をSCCRで述べたわけではないというところがございますので,一応そこのところだけ事実関係として私の認識を申し上げさせていただきたいと思います。
 ちなみに,WIPOの文書で言いますと,SCCR/17/4で,ECの要望が書いた紙で出ておりまして,その中に今のようなことが書かれております。
 それから,2つ目でございますが,今の中間報告の8ページの今後の予定のところでございます。WIPOの議事進行の仕方といたしまして,専門家会合,エキスパートコミッティーというふうに呼ばれるものがかつてございました。1998年の半ばぐらいまではエキスパートコミッティーと呼ばれているものがありましたが,現在エキスパートコミッティーと呼ばれているものは,私の知る限りでは活動していないと思います。
 これは,事務局長がボクシュさんからイドリスさんにかわったときにやり方を変えまして,それまでは各テーマごとにエキスパートコミッティーをつくる,エキスパートコミッティーをつくることにつきましては,総会あるいはProgram and Budgetの委員会で決めるというやり方をとっておりました。
 しかしながら,イドリスさんにかわった以降は,スタンディングコミッティー即ち常設委員会というものをつくりまして,それぞれの分野の常設委員会でそれに関係した問題を扱うという形になっております。
 したがいまして,SCCRはスタンディングコミッティーのCopyright and Related Rightsでございますので,CopyrightとRelated Rightsに関係することはここでいろいろとテーマを上げてもらって扱っていくということになっており,そのテーマにするかしないかということについてSCCRはマンデートを持っておりますが,専門家会合を開くというマンデートは持っておりませんので,今後WIPOの議論にするということをお考えであるならば,どういうところで扱わせるのか,つまりスタンディングコミッティーのテーマにするのか,あるいはスタンディングコミッティーのテーマにならない場合には,後ほど御報告があるかと思いますが,ディベロップメントアジェンダーであるとか,フォークロアの保護であるとかというようなものは,CDIPやIGCのような特別の会合を別途総会のマンデートでつくって行われておりますので,どちらでやるのかということをちょっとお考えになって進めていただいた方がいいだろうと思います。
 それと,もう一つ全然別件でございますが,3つ目にグーグルのブック検索の問題でございますけれども,これは国際私法の問題というよりは,むしろ公法の問題なのだと思いますが,議論されたということで,ここのところはどう議論されたのかというのがもしあれば教えていただきたいと思います。アメリカの裁判所の見解ではclass actionであって,そのclassactionがベルヌ条約をクッションにして全世界の著作者にかかわるというのがアメリカの見解である,あるいはアメリカの裁判所の判断であるということは事実関係として理解いたしますが,果たしてその解釈が正しいのか疑問があると思います。つまりベルヌ条約第5条における保護の原則は内国民待遇でありまして,その著作物の本国以外の同盟国において,その国の法令が自国民に現在与えており,又は将来与えることがある権利及びこの条約が特に与える権利を享有するという規定ですが,ここで言うベルヌ条約5条の内国民待遇の中にある権利というものに,このclass actionの中で定められる和解の決定が含まれるのか含まれないのか,あるいはclass actionのclassに含まれるということが内国民待遇の権利として与えられなければならないことなのかということについては,ややベルヌ条約の解釈そのもののところで異論がある,あるいはいろいろな解釈があり得るのではないかと思います。ですから,我が国としてこれを考えるときには,まず第1にclass actionによって本当にベルヌ条約をてことして日本国の著作物がこれに縛られるというふうに解釈され得るのかどうかということが1点目にあるのではないかと。
 それから,オーファンワークスの問題の前に第5条の読み方という問題が非常に大きな問題としてあるのではないかというふうに考えております。それで,その後で先ほど山本座長がおっしゃいましたように,当然にして私もTRIPSの問題が出ると思いまして,そういうことを前から私も個別には言っているところでありますが,もしベルヌ条約の第5条にひっかかってくるとすれば,当然ベルヌ条約第9条の複製権のスリーステップテストにもかかわってまいりますし,そのスリーステップテストは当然にしてTRIPSにかかわってまいりますので,TRIPS違反というふうになると思うんですが,にわかにTRIPS違反にいく前に,本当に第5条のところで権利というところで読み込むのかどうかという問題を検討する必要があるのではないかと思ったんですが,その辺は何か出ましたでしょうか。もしわかれば教えていただければと思うんですが。
 以上,3点でございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 3つの点を御指摘いただきました。第1の点は,事実関係のことですので,最終報告までには議事録等があると思いますから,それに基づいて,もしかすると,「また」以下は段落を変えてもう少し丁寧に経緯を書いていただいた方がいいかもしれません。その前の2つは私的な機関の動きですが,最後は公的なことですので,もう少し丁寧に書いた方がいいかもしれません。
 それから,第2番目の点は,これは現在はないということでしょうし,「等」となっているので,WIPOで議論するとすればしかるべき場でしかるべく提案をすると,そういう御趣旨だと思います。
 最後の点についてお答えいただけますでしょうか。

【山本委員】 最後の点についてですが,これはちょっと先ほど御説明のときにも申し上げましたように,十分な議論はされておりません。問題点は,この訴訟の和解について検討したときに,こういう問題点があり。こういう検討をしないといけない点がありますということと,それからそれに対してどういう対応が考えられますかという大きな枠組みを議論したにとどまっております。じゃ問題点についての結論はどうかとか,それからとり得る対応策について結論はどうかというところまでは議論はしておりません。
 今後,それをやるかどうかということも今後の検討課題になっております。

【道垣内主査】  内容につきまして,上原委員の御指摘の通り,5条だけの問題なのでしょうか。スリーステップテストのこともお話になりましたけれども,複製権侵害ではないかという点をオプトアウト方式のクラスアクションにおいて和解ですべて処理できるのかということが問題となるように思われます。そのように理解していいのか,それとも5条の問題なのか,その辺,ちょっと私わからないんですけど。

【山本委員】 今の条文の適用の関係,そこのところまでは我々の方では議論はしておりません。それ以前の段階で終わっております。少なくともベルヌ条約で定められている,あるいはTRIPS協定で定められている権利制限なり強制許諾の範囲は超える,その問題がありますねという議論まででとどまっておりまして,具体的な条文の当てはめ等の検討までは至っておりません。申し訳ありません。

【道垣内主査】  この点は,前回,第1回目の国際小委員会での御発言に基づいて検討対象に加えられたものでございますが,前回御指摘されたのは久保田委員だったでしょうか。

【久保田委員】 はい,そうです。

【道垣内主査】  もし可能であれば,問題意識をもう少しお話しいただければと思いますけども。

【久保田委員】 私の方は,国際小委員会という委員会が検討はやっぱり何らかの形でするべきではないかと,当時はまだ訳文も出回っていなかったし,一般論としての議論しかなかったものですから,私の方は山本先生が分析していただいたレベルから,また更に今後ある情報をつけ合わせて検討していければと思っていましたので,今の御発表の範囲で私は十分です。
 ただ,上原先生の方からまた御指摘があったことにつきましては,更に情報収集して判断をしていく必要があろうかとは思います。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 準拠法と国際裁判管轄を検討するワーキングチームとしては,何条違反になる可能性があるのかといった中身の話について,例えば,グーグル・アメリカを日本で訴えることができるのかとか,そのときにどこの国の法律を適用することになりそうかといった検討をしていただくことはあり得るかと思います。しかし,それを超える話は国際小委員会では御議論をしていただく必要があればしていただければと思います。

【山本委員】 我々の方で,最後の段階で若干時間をとってこれについて検討させていただきました,久保田委員の方から御指摘がありましたので。そもそも準拠法であるとか裁判管轄の問題を我々テーマにしておりますので,その議論にのるかのらないかという点について検討した,それにとどまっているというふうにまずは御理解いただきたいと思います。
 そこで議論された結論から言いますと,のる可能性がある,対応策としてとり得る可能性があるというところまで出ておりますので,じゃ今後それを詰めていくのか,どんな形で対応策を検討していくのかというのは今後の課題だという認識をしております。

【道垣内主査】  どうぞ。

【上原委員】 ありがとうございます。
 今,道垣内主査の方でおまとめいただきましたように,あるいは山本座長の方からも今お話しいただきましたように,ベルヌ条約の何条の適用があるかどうかというのは,ワーキングチームの問題としてやっていただく部分,国際私法の問題とはちょっと違ってくるかと思いますので,ここでやる話であろうかと思います。問題としては割と影響の大きな,実際には最終的には個別の権利者のところへいくと影響はそんなになくなってしまうのかもしれませんが,枠組みとしては影響の大きなこととして言われていることなので,国際小委員会として取り上げてみるとしたら,やはりベルヌ条約との絡みをアメリカの判決の中で言っている以上,我々としてはやっぱりそれをどう読み込むのかというのがワーキングチームの問題とは別に,きちんと検討する必要があるのではないかというふうに思いますので,国際小委員会としてもうちょっと検討ができればいかがかというふうに思いまして,ちょっとそれも今後御検討いただけたらと思います。

【道垣内主査】  この小委員会の今年度のテーマは,第1回目のときにお決めいただいた幾つかの事項に久保田委員から御指摘で追加したわけですけれども,もしこのグーグルの問題を小委員会で取り上げるとなると,個別の紛争案件の色彩があるものですので,余りつっこんだ議論をすることは,性質上,文化庁の委員会で取り上げることが適切かどうか問題であろうと思います。もっとも,日本国民の財産の問題という抽象化したレベルの話であれば,議論は可能かもしれませんので,ちょっと事務局とも相談させていただいて,次回の1月の会合でその結果をお諮りするということでいかがでしょうか。

【上原委員】 すみません,いわゆるどっちかに荷担して,例えばアメリカに抗議しろとかそういう趣旨で申し上げたんではなくて,やはりベルヌ条約の解釈問題としてどうなのかということについて,一定の結論を得ないまでも分析なり勉強なりができたらということでございますので,そういうふうな形でお考えいただければ有り難いなと思いますが。

【道垣内主査】  もし可能であれば,きょうの議題の「その他」の項目のところで,ほかの方にも御意見を伺ってからどうするかを考えた方がいいかもしれませんので,とりあえず今はワーキングチームの中間報告について御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
 前田委員,どうぞ。

【前田委員】 2点質問をさせていただきたいと思います。
 1点目は,3ページ目で専属管轄が問題となるケースとして,著作権侵害のほか,著作権の有効無効の訴えという記載がされておりますが,著作権は大体無方式主義がとられている関係で,著作権の有効無効が争いになるという訴訟類型はちょっと耳なれない気がするのですが,ここの著作権の有効無効の訴えというのはどういうものを想定しておられるのかということが1点目です。
 2点目は,専属管轄の議論があるということですが,専属管轄の議論というのは,日本を本国としない著作物についても,登録や侵害等については日本の専属管轄を認めるべきだという意見があると,こういう理解でよろしいのでしょうか。

【山本委員】 まず,第1点についてですが,これはこういう書きぶりになりましたのは,ここは先ほど申し上げましたように登録によって発生する権利と登録によって発生しない権利,つまり特許権と著作権等の区別の議論を想定しておりまして,この報告書の中では広く知的財産権の問題を扱うわけではありませんので,あえてこれを著作権というふうに書いております。
 ただ,念頭に置いておりますのは,特許権における有効無効,成立とその効力に関する訴えを専属管轄にすべきかどうかを著作権とのパラレルで考えるという問題の設定です。そういう意味で,先生が御指摘のとおり,これだけ見てぴんとこないというのは御指摘のとおりだと思います。
 第2点目の専属管轄は,本国といいますか,権利付与国の裁判所でのみその侵害事件を扱うのか扱わないのかということで,アメリカで侵害事実が起こったその事件について,日本の裁判所が扱わないというのは専属管轄で,逆に日本の著作権侵害が日本で起こったときに,アメリカの裁判所ではそれは扱わないというのを専属管轄という認識で議論しております。

【道垣内主査】  鈴木委員。

【鈴木委員】 非常に細かい点で恐縮ですけれども,7ページの下から4行目の記述ですが,「前者については,こうした外国判決は」とある,この外国判決とはどのようなものか,上を読んでも理解できなかったので,ちょっと教えていただけますでしょうか。

【山本委員】 何かコメントありますか。

【鈴木委員】 後で御検討いただいて,将来的に最終報告書をつくられる段階で直していただくということでも結構なんですけれども,内容的に言うと,具体的に想定される例として,例えばアメリカの著作権法でTRIPS違反とされた規定は権利制限規定ですから,承認・執行というよりも,むしろ仮に日本人とか日本の法人がアメリカにおいて著作権侵害と訴えようとしても当該TRIPS違反の権利制限規定によって侵害が否定されるということが具体的には想定されまして,仮にその事例を想定するとここの記述と何かぴったりこないなという気がしました。いずれにしろ,後で検討いただけたらと思います。

【山本委員】 今ここでお答えできなくて大変申し訳ありません。これは各委員の御発言部分をまとめたもので,必ずしも私の方で全部の趣旨を理解しているわけではありませんので,今お話を伺ったところで,ちょっと検討させていただきたいと思います。

【吉田専門官】 書きぶりをもう少し工夫したいと思うんですけれども,意図としては,外国判決が明らかにWTOのTRIPS協定違反であるとか,何らか当然公序違反と言えるような外国判決が出たのであれば,それは当然日本で承認・執行されるようなことはないだろうということでの議論を反映したというつもりで書いていたんですけれども,ちょっとわかりにくいと思いますので工夫をしたいと思います。ありがとうございます。

【道垣内主査】  そのほか,いかがでしょうか。
 はい,どうぞ。

【上野委員】 大変充実した報告書で参考になりました。その上で,私からは2点質問をさせていただきたいと思います。
 1点目は,この報告書が目指している望ましいルールというものの性格であります。これは確認的な質問になるのかも知れませんけれども,この報告書は,我が国における国内法としての裁判管轄に関する望ましい立法を検討しようとするものではなく,飽くまで国際ルールの提言をしようとするものだと理解してよろしいかということであります。後者だとしますと,国内の立法論というよりも,何か条約をつくるなどして国際ルールを設けることを提言していくということになろうかと思います。
 先ほどの御説明の中で,専属管轄化に関しまして,国益としての我が国司法の空洞化ということをおっしゃっておられましたので,そうするとこれは国際ルールを目指しているものだというように感じられたのですが,そのように理解していいかどうかということです。
 このことは非常に単純なことに聞こえるかもしれませんけれども,今後,国益の内容ですとかルールの在り方が問題になりますときに,国内法の立法論を検討しているのか,それとも国際ルールを検討しているのかによって,その議論はかなり大きく変わってくるのではないかと思われますのでお伺いする次第であります。これが1点目です。
 それから2点目に,先ほどの御説明では,侵害訴訟などについても専属管轄化すべきだという意見があったというお話でしたけれども,その根拠といたしまして,著作権の性質というものが挙げられるという御説明でありました。その中では,著作権というのはいわば自然権的なものではなくて産業政策的にいわば人工的に設けられたものであるというのが理由とされていたかと思われます。この点が確かに大きな問題になってくるというのは御指摘の通りだと思いますし,学界におきましても近時の議論では,いわゆるインセンティブ論のように,こうした考え方が有力になっているということは私自身も承知している次第であります。
 ただ,著作権法に規定された著作権と著作者人格権のうち,著作権のみならず,著作者人格権についてもそういったインセンティブ論的な説明をするという見解は,最近の議論におきましても余り一般的には見られないように思われるところであります。
 そのような観点からいたしますと,――これは本報告書の今後の方向性ということになるのかもしれませんけれども,――著作権の侵害のみならず,著作者人格権の侵害についてもこのような方向性を考えていらっしゃるのかどうか,この点をお伺いできればというふうに存じます。

【山本委員】 1点目ですが,御指摘のとおり,国際的な枠組みの事柄をここでは議論しております。あくまでも国内立法をどうするのかというのは,まさに法制審議会の方で御議論いただく問題で,我々が検討する意図は全くございません。あくまでも条約の中で,我が国もこうするけれども,相手方もこうしてくれという,そういう枠組みを検討するというのを念頭に置いております。
 第2点目に関しては,御指摘のとおり,著作権と著作者人格権は異なります。ただ,著作者人格権の理解の仕方というのも,著作権法固有の問題という理解もあれば,一般的な人格権の一種だという考え方もありますので,ここで専ら議論しておりますのは人格権のことではなしに,経済的な権利のみを念頭に置いて議論しております。その後に,本来的であれば,じゃ応用問題として著作者人格権についてはどういうふうに考えて,どういう結論になるのかというのがあるはずなんですけれども,それ以前の段階で議論がかなり分かれておりますので,そこまでは至っておりません。

【道垣内主査】  よろしゅうございますか。そのほか,いかがでしょうか。
 最初申しましたように,国際裁判管轄に続いて準拠法についてもワーキングチームの方々にこのような案をつくっていただいて,この小委員会に出してもらうということを考えているわけですが,恐らくは比較法というか各国の姿勢はどうなっているのか,あるいは条約の規定はどうなのかということに基づいて日本としてどうするのか,あるいはあるべき条約としてはどうあるべきなのかという議論をするということでよろしゅうございますでしょうか。小委員会としてどこまで踏み込むかということについては,皆さん方の御意見に従うわけですが,要するに,日本国として是非WIPOで提案すべきだということになるのか,あるいはそういう問題があることを認識して引き続き議論しましょうみたいなことになるのか,そこは今の段階ではわかりません。もし何かその点について最後の取りまとめのイメージをお持ちになって,どの程度にするのか,何か御意見あれば頂ければと思います。それによってワーキングチームでの検討の仕方も違ってくる思うものですから。
 はい,上原委員。

【上原委員】 特段こうしたらいいんじゃないかというイメージを持っているということではありませんが,WIPOへの提案も視野に入れてということがありましたので,そういう意味で言いますと,一つのテーマとして取り上げさせるということはなかなか大変なことでございますので,もしもそれを視野に入れるとするならば,ワーキングチームがいつまで続き得るのかという点も含めて御検討いただき,また小委員会の方にそれを提示いただかないと,現実にはまとまったものを出して,じゃこれでいくんだといっても,恐らく正式な話題として話になるのは2年ごとのProgram and Budgetがベースになりますので,今は08年09年期のはずですから,その後になってくると思いますので,どうしても時間がかかります。いざ本格論議が始まったときにこちら側にもとの案をおつくりになった専門家の方がいないということになりますと,なかなか議論の対応ができなくなるところがございます。その辺の仕組みも含めて細かいところまで戦略を立てるというのはそれはまた別の話で国際小委員会でやっていったらいいと思うんですが,若干時間のかかる作業になるということについて,どのようにフォローしていくのかということも含めて御提示いただいた方が,もし積極的な問題として打ち出していくということであるならば実効的であろうというふうに思います。
 また,WIPOの場がいいのか,またハーグの場にもう一度持っていくのがいいのか,その他の国際機関が良いのかと言うこともあると思います。WIPOの中の論議でも,ここでやるのもいいけれども,やっぱりハーグかなという話も出たり,これはWIPOの中の話と言う意見が出たりしておりますので,その辺も含めて御検討いただいたらいかがかと思います。

【道垣内主査】  国際小委員会自体が年度ごとに設置されるものですので,次年度,この小委員会が設置されるかどうかは委員会の決定事項となります。したがって,すべては3月までで終わるという前提で本年度の報告書をどうするかを御議論いただくことになろうかと思います。

【上原委員】 すみません,今年の報告書の中に,次年度以降こういう活動を続けるためにこういう組織をつくるべきだ,あるいはこういうものを継続しておくべきだという御提案を一緒に入れていただいた方がいいでしょうと言う意味です。逆にそれがないと,あと動けなくなるんじゃないでしょうかという御提案です。

【道垣内主査】  わかりました。その他,いかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。それでは,この後も山本座長,大変かと思いますけれども,よろしく検討を続けてください。
 続きまして,次の議題でございます。インターネット上の著作権侵害対策に関する調査業務の実施について,これにつきまして昨年度の国際小委員会において海外における実態の情報収集及び分析を行うべきであるとされたところでございまして,それに対応する形で,今年調査を行おうとしているわけであります。
 事務局より,資料2-1に沿って本件の全体についてまず御説明いただきまして,具体的な調査内容につきましては資料2-2にありますので,調査業務を行う予定の文化科学研究所の方から御説明いただくということにしたいと思います。
 その後,本調査研究委託業務内に設けられております検討委員会の主査の前田委員からも補足の説明をいただくということをお願いしたいと思います。すべてをお話しいただいた後で全体の議論という段取りでございます。
 まずは,井村専門官から御説明いただけますでしょうか。

【井村専門官】 それでは,資料2-1をごらんいただきたいと思います。
 インターネット・パイラシーへの対応につきましては,ここに掲げております特徴から,費用対効果が不透明であるとか,実効性確保が困難であるということから,権利者によるエンフォースメントが非常に困難な状況であるという議論があったと思います。
 1枚めくっていただきまして,2ページ目ですが,そのことから先ほど主査からお話がありましたとおり,昨年度の国際小委員会において,国境を越えたエンフォースメントの実効性確保に向けた対応を優先的に検討すべきとされまして,前回の国際小委員会におきましてインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方について検討を行うこととされました。
 海外での侵害行為のエンフォースメントにつきましては,手続の不透明さ,また煩雑性ということから実効性が確保できていないということで,まず海外における実態の情報収集及び分析を行うべきであるということとされたところであります。
 これを受けまして,海外でのエンフォースメントの実効性確保に向けて権利者の方々の積極的なエンフォースメントというのが前提になりますけれども,そのための環境整備が必要であろうということから,コンテンツ企業と権利者の方々が必要とされる海外サイトに削除要請等を行う際に必要な具体的な手続に関する情報や,特に法制面だけでなく実務に役立つ情報について調査をすることとしました。3ページをごらんください。インターネット上の著作権侵害対策に関する調査業務を発注いたしまして,その調査の結果を次回の国際小委員会にまた御報告し検討していただくことになると思いますけれども,これらの情報をまとめまして,ハンドブックという形で,特に冊子ということではありませんけれども,これらをまとめて権利者の方々に,必要とされる方々に情報提供し,権利者の方々の権利執行を支援していきたいというふうに考えております。
 発注に当たりまして,調査内容なんですけれども,日本のコンテンツが多数違法にアップロードされている欧米諸国のサイトに対して権利執行する上で必要な最新情報といたしました。具体的な調査対象国は,欧米諸国のうち1番目が著作権保護意識が高くてインターネット上の著作権侵害対策を積極的に講じていることから,法制度とISPによる実務とのかい離が少ないと思われる国,かつ日本コンテンツが多く侵害されていると思われる国を複数選定することといたしております。
 調査の概要といたしましては以上です。

【道垣内主査】  それでは,引き続きまして文化科学研究所から御説明いただけますでしょうか。

【文化科学研究所(於(お)保氏)】 文化科学研究所の於(お)保でございます。
 それでは,ただ今御説明がありました海外におけるインターネット上の著作権侵害対策に関する調査計画を中心にお話しさせていただきます。
 皆様御承知のとおり,インターネット上の侵害対策となりますと,侵害の及ぶ範囲というのがインターナショナルに国境を越えて広がっていくというところがあります。
 また,侵害のボリューム等につきましては,どちらかといいますと,東アジア諸国においてたくさんの侵害が行われているというような事実もございます。今回,先ほどの井村さんからの御説明がありましたとおり,その中でも欧米,特にヨーロッパにおける侵害の実情を日本のコンテンツで侵害が比較的多いと思われるところ,さらには法的な制度及びそれに対する取締り対策が比較的リンクをとって進めておられるところ,そういう観点から対象国の選定をいたしております。
 調査の目的としましては,大きくは先ほどのお話にありましたインターネット上の侵害対策においてハンドブックをつくっていこうではないかということが一つございますのと,それから,この調査結果に基づいて諸外国への働きかけを法制度の整備でありますとか,あるいは取締りに関する協力でありますとかいった諸外国への働きかけに資する情報提供をしていくという大きな2つの目的を持っております。
 それでは具体的にどんな内容をとらえていくのかといった点につきましては,大きく2つの領域に絞っております。
 まず,コンテンツのジャンルにつきましては,日本のコンテンツで海外でたくさん流通していてなおかつ被害も大きいと思われるゲームとアニメを今回対象として選んできております。その他,音楽でありますとか,あるいはテレビ番組とか実写映画とかいったのがございますが,これらについては比較的被害の度合いは少ないのではないかといったようなこと,あるいは被害に関する情報がゲーム,アニメと比べると比較的情報が多く捉えられているといったようなこと,あるいは海外の同じような業界団体との情報交換というのも積極的に行われておるといったようなことから,比較的そういうことが行われていないゲーム,アニメの分野に特化して調べようということにいたしました。
 それから,調査対象国でありますけれども,当初の全体枠としては欧米ということで設定をされていたわけですが,アメリカにつきましては比較的取締りに関する情報あるいは法整備に関する情報等が既に日本でもたくさん得られているといったようなことがあり,情報の少ないヨーロッパに焦点を合わせていくこととしました。私どもはヨーロッパの中でフランス,スペイン,イギリスの3か国を選んでまいりました。この理由といたしましては,日本コンテンツの侵害被害が大きいという点が1つと,法制度と取り締まり実務とのかい離が比較的少なく,日本にとってみて参考になるであろうと思われる国を選定させていただいたということでございます。
 また,地政学的な見地での選び方というのもあるとは思いましたが,言語にかかわる侵害の広がりといったようなものは無視できないこともあって,英語圏,フランス語圏,それからスペイン語圏という視点からフランス,スペイン,イギリス,この3か国を調査対象として選ばせていただいております。
 次に,2ページにまいりまして調査の具体的な内容を調査方法と調査項目について御説明します。
 調査方法につきましては,基本的には文献調査とヒアリング,この両方の調査方法を中心に情報収集いたします。更にこの調査に関する計画内容の組立てから調査結果の分析にかかわる検討委員会を設けておりまして,その検討委員会において調査結果を吟味し,最終レポートの方向性を出すという形で進めてまいりたいと思っております。
 次に,調査項目になりますけれども,ここでは,3ページのところに書き出しました大きく5つの角度から調査項目を設定しようと思っております。
 1番目には,根拠法令あるいは制度に関する概要を押さえておきたい。2番目には,権利行使のための手続はどのようにとられているのか。3番目に,インターネット上の侵害対策に積極的な権利者団体の実態がどうなのか。それから,その活動の実態はどうなっているのかを4番目に押さえます。最後に,4ページのところにあります日本コンテンツの類型的な著作権侵害の事例調査と分析を行う目的に応じた調査項目の設定をいたしております。
 最初の根拠法令,制度につきましては,これは調査対象国における著作権法の基本体系を概観した上で,特にインターネット上の著作権に関する法制度や体系,それから国際的な取組の現状等を概要として捉えておきたいと思っております。
 次に権利行使のための手続としましては,インターネット上に違法アップロードされたコンテンツに対する権利行使を発見から削除要請,それから削除の実行という流れになります。この手続にかかわる現在の実態をとらえておきたい,同時に課題もここでは押さえておきたいと思っております。
 3番目にはインターネット上の侵害対策に積極的な権利者団体,日本ではCODAさんとACCSさんとに代表されますが,このような著作権侵害対策に直接対応されておる団体の存在があるのかないのか,それらはどのような活動をされて,どのような成果を上げておられるのかといったようなことを明らかにしていきたいと思っております。
 4番目のところは,この活動の実態を評価するとともに,課題,問題点といったものを整理しておきたいと思っております。
 最後の日本コンテンツの類型的な著作権侵害の事例分析は,今回インターネット上の場としましては,動画投稿サイト,それからP2Pのソフト,それからホームページ上の3つの場を設定しまして,これらに対して各事例調査,侵害成果の類型化,それからサイト処理別の分析,関係者の種類から見た分析,権利行使者の立場から見た分析等を日本コンテンツに一応絞り込んで評価していきたいと思っております。
 以上が今回私どもが現在計画しております調査の概要でございます。

【道垣内主査】  引き続き検討委員会の主査の前田委員,お願いいたします。

【前田委員】 それでは,私の方から2点補足をさせていただきたいと思います。
 まず,今回の調査では対象コンテンツのジャンルをゲームとアニメにするということについてですけれども,インターネット上の権利侵害対策という点では,ジャンルを問わず共通の部分が多いと思います。したがって,今回ゲーム及びアニメを念頭に置いて調査していただいたとしても,その成果は他のジャンルにおける侵害対策にも御活用いただけるものになるのではないかというふうに考えております。
 それから,2点目ですけれども,調査対象国をフランス,スペイン,イギリスの3か国とするという点についてですけれども,インターネット上の権利侵害にはもちろん国境がございませんので,そのことを念頭に置いて調査していただく必要が当然あるのではないかと思います。
 ただ,漫然と世界じゅうのことを調べるというのではちょっとまとまりがつきませんし,恐らく人的,物的な資源による制約もあろうと思いますので,3か国に限定することになるのかと思いますが,しかしこの3か国を対象とはするけれども,必要に応じ,かつ可能な範囲で,アメリカあるいはEUのそのほかの国,場合によってはその他の地域との対比等も含めて検討調査を進めるのがよいと考えております。
 私からは以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 このテーマは今年度の国際小委員会の検討課題の一つでありますインターネット上の著作権侵害に対する侵害対策という問題につきまして,外部の団体に調査委託をするということで,私の理解している限りでは,入札の手続を経て選考されて,このような計画で行うという予定であるということであります。
 これにつきまして,小委員会としてそういうことでよいというお墨つきを頂きたいというのがこの議題の趣旨でございます。もし何かこの点もう少しこういう角度からも検討してほしいとか,そのような御指摘がございましたらできる限りでお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。
 はい,池田委員,どうぞ。

【池田委員】 今回の調査では,欧米を中心ということと,それからアニメとゲームということですけれども,放送事業者の立場から申しますと,もちろんアニメーションが世界じゅうで違法にアップロードされてダウンロードされているという実情がございますが,最近では特にアジアでテレビドラマがアップロードされダウンロードされているという実情がございまして,これに非常に頭を悩ましております。もしできましたら,特に中国と,それからテレビドラマについての調査というものも御検討いただけないでしょうか。

【道垣内主査】  入札の条件とかいろいろあったんだと思いますので,予算がたくさんかかりそうな話は急にはできないと思いますが,そのような御希望があって,次年度以降もし継続するとすれば,対象国を広げ,あるいはその分野を広げていくと,そういう御意見として伺っていくということでよろしいですか。御指摘いただきながらそのようなまとめでよろしいでしょうか,池田委員,どうぞ。

【池田委員】 今回の調査の過程で,そのような情報がもし得られるようなことがあれば,その範囲内でもちろん構いませんのでフィードバックをいただければというお願いです。

【道垣内主査】  わかりました。ありがとうございました。

【文化科学研究所(於(お)保氏)】 基本的には今の枠の中で進めていきますけれども,御指摘のとおり,調査する過程で,日本のコンテンツ事業者にかかわるヒアリングを実行してまいりますので,我々としましては,日本国内から見た被害の実情といった点は,国にとどまらず,あるいはジャンルにとどまらないで明らかにしていくことをしていきたいというふうにフォローしたいと思っております。

【道垣内主査】  そのほか。山本委員,どうぞ。

【山本委員】 1点お聞きしたいんですが。この調査業務のところはよくわかったんですが,資料2-1の最後のところで,かぎ括弧で書かれていますインターネット上の著作権侵害対策ハンドブック,これの作成との関係はどういうことになるのかということをお聞きしたいと思います。といいますのは,ハンドブックの対象としては,調査の対象はわかったんですが,例えばアメリカやイタリアについては情報がよく集まっているから調査の対象にしていないというようなことなんですが,ハンドブックをつくる上では当然アメリカやイタリアも入れていただきたいと思いますし,それから将来の調査の対象になるであろう中国であるとか韓国なんかについても入れていただきたいと思うんですが,今回の調査とそういうハンドブックの作成との関係,その点どういうふうにお考えなのか教えてください。

【井村専門官】 お答えします。
 昨年度末,又は今年度当初に小委員会でインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方について検討を行うという方針が示されて,海外における実態の情報収集及び分析を直ちに実施すべしというところで,従来からの著作権侵害対策ハンドブックという国別で毎年調査してきた事業を使って今回の調査を実施するということであります。
 従来からハンドブックをつくる過程で当然そういった情報収集なり調査を行っておりましたし,今回も最終的にはその成果を権利執行の際に必要な情報を提供するという形にもしていきたいと思っています。

【道垣内主査】  ちょっと私もわからないのですが,ハンドブックというのは電子的にも存在するんですか。どこかにアクセスすればいろんな情報が得られるように,それを拡充していく過程の一つだと,そういうことでしょうか。

【大路国際課長】 ちょっとかいつまんで申し上げるとすれば,この調査というのが単独の事業としてあるということではなくて,インターネット上の著作権侵害に対して何をやるかという大きな絵の中でこの調査があって,ハンドブックがあってということで御理解いただければありがたいのですけれども,もともと先ほど話がありましたように国別ハンドブックをつくってまいっておったわけでございまして,それに基づいていわゆる権利執行セミナーというふうな形で,権利者の方々等を対象にしてそれぞれの国でどういうふうにやっていけばいいのか,どういう機関に働きかけていったらいいのかというのをセミナーに使っていたというところがあるわけでございますけれども,これが,本年度からはインターネット上の課題というものに特化した調査を始めるという形になったわけでございまして,この調査でもって,したがってどういった機関があって,どういう侵害実態があってとかという実情を調査した上で,それをハンドブックというような形で取りまとめて,それをセミナーに活用したり,あるいは右側の方になりますけれども,海外への働きかけということでアジア著作権会議みたいな会議を予定しておりますし,それからマルチ・バイの場で各国政府に働きかけていくといったようなところでこの調査結果を活用していくという,そのようなイメージでインターネット上の著作権対策の問題に対応していきたいということで,その中のごくごく一部であります調査に関することについて御説明をさせていただいているというふうに御理解いただければと思います。

【道垣内主査】  山本委員,よろしゅうございますか。
 そうすると,このパワーポイントの3ページ目のところのハンドブック検討委員会というのは別のところに存在をして,それは違うところにぶら下がっているということですか。

【井村専門官】 この業務を受注しました文化科学研究所がこの事業を進めていく上で,その中に検討委員会というのを設けておりまして,その座長を前田先生にお願いしているところです。

【道垣内主査】  そうですか,わかりました。
 そのほか,いかがでしょうか。はい,どうぞ,高杉委員。

【高杉委員】 調査を行うことについては,非常に意義のあることですので,是非やっていただきたいと思っております。問題は,現状の把握がまず第1ではございますけれども,結局日本の権利者にとっては,必ずしも相手国の制度等が十分でないという実態が出てくると思っておりまして,その問題点を十分抽出して対応策につきましてはこの小委員会で検討する時間をいただければというふうに思っております。
 以上です。

【道垣内主査】  そのほか,よろしゅうございますでしょうか。
 それでは,第3の議題のWIPO等における最近の動向についてでございます。これにつきまして,事務局より御説明いただけますでしょうか。
 また,御説明の後,上原委員が御出席であったということですので,補足いただけることがあれば御説明いただき,その後御議論いただければと思います。
 まずは,吉田専門官,よろしくお願いします。

【吉田専門官】 それでは,資料3に基づきまして,WIPO等における最近の動向についてということで御報告いたします。
 資料3にありますように,まずWIPO関係で3つ会合がございましたので,それの御報告をしまして,それからもう一つAPECの動きについて御報告します。
 WIPOにつきましては,著作権の常設委員会ということで,SCCRが設けられております。それが[1]です。
 それから,[2]と[3]につきましては,必ずしも著作権だけではなくて,知財にかかわる会合なんですけれども,昨今著作権にかかわる議論であるとかSCCRにも関連するような議論が行われておりまして,一緒に御報告をいたします。
 まず,[1]のSCCR,著作権等常設委員会の御報告ですが,これは今年5月にジュネーブで開催されまして,3つ主要な議題がありました。1つが権利の制限と例外,2つ目が視聴覚実演の保護,3番目として放送機関の保護ということです。まずは,1番目の権利の制限と例外というところにつきましては,中南米グループ,アフリカグループそれぞれの思いで相当加速化させたいという一方で,先進国グループはそれはまだ時期尚早であるというような議論を繰り広げているというところです。
 それから,視聴覚実演の部分につきましては,割と途上国からも条約制定の要望が強くなってきているというような状況で,視聴覚実演の保護,放送機関の保護については引き続き議論を推し進めていくべきだというところは合意されているというような状況です。
 2段落目にいっていただいて,全般的な雰囲気ということで御説明申し上げますと,パブリックドメインというのが,知財保護の例外というような時期はもう過ぎてしまって,知財保護とパブリックドメインは並立するというような新たな知財の世界の動きがもう出てきているということです。
 それで,途上国対先進国という簡単な二極構造ではなくて,途上国の中でも中南米は視覚障害者の権利制限条約の制定ということで知財の中の大きな風穴をあけようとしている,一方でアフリカは権利制限というときに,図書館及び教育の権利制限ということを一緒に議論したいということで,必ずしも途上国が1つになっているとも言えないというような状況にございます。
 それで,SCCRのコンクルージョンとしまして,権利の制限と例外という部分につきましては,今後引き続き条約ということも含めての分析を行っていくということが合意されたということと,それから権利制限に関する質問表というのをつくって,各国にその状況を投げかけるというようなことを進めていくということにもなりまして,今質問表を各国でコメントを出したりしているというような状況でございます。
 この権利の制限と例外については,次回会合のアジェンダとして維持されるということになっております。
 それから,視聴覚実演の保護という方につきましては,引き続きアジェンダとして維持するということとともに,事務局はその事態打開のための非公式公開のコンサルテーションを開催するということが盛り込まれました。
 それから,放送機関の保護ということについても,引き続きその検討を進めるということを確認するということになっております。
 それで,視聴覚実演の保護につきましては,実際9月8日に非公式の会合が開催されるということが今各国に通知されておりまして,まだ詳細は明らかではないんですけれども,SCCRの結果を受けてそういった議論が進むということになりました。
 次回,SCCRの日程というのはまだ明らかになっておりませんで,また引き続き今後権利の制限と例外,視聴覚実演の保護,放送機関の保護といったことが議論される予定です。
 それで,次のCDIPの方の御報告ですけれども,CDIPは開発と知財に関する委員会というものの略でCDIPがございまして,これは今年の4月27日から5月1日に開催されております。
 もともと一昨年のWIPOの一般総会で合意されていた45項目の勧告の実施のための評価のガイドラインとして,まずは関係する勧告の検討,それから似たような勧告を1つに統合して処理するというようなこと,それから実施の形態はプロジェクトその他の形式をとるというような提案がありまして,テーマ別に何らかプロジェクトをしていくということについては,大筋の合意がなされたというところでございます。
 それで,次回は,テーマ別プロジェクトといったことと,それから今回いろんな提案がなされたほかの提案も一緒に検討されることとなったということで,いま一つ具体的にどういうことになるのかというのはまだ正直見えないというような感じでして,45項の項目があるうちの幾つかが統合されていくらしいということが分かったというところにとどまっているというのが状況でございます。
 それから,次のIGC,遺伝資源,伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会ですけれども,このIGCは,SCCRであれば常設で必ず存在する委員会ですが,これはテンポラリーにまずは2年間ということで開催されることが決まっていますので,ちょうどその更新をしないと終わってしまうという会合であったものですから,これを引き続きそもそも開催するのかと,開催するのであればどういう内容ということで開催するのかということが議論の中心でありまして,結論といたしましては,引き続き何らかこの場を持ち続けていくべきであるということ自身はどの国からも賛同を得ているわけですけれども,具体的にその時期,マンデートとして何を盛り込むかというところにつきましては,3段落目のあたりを読んでいただけると有り難いんですが,アフリカグループを初めとする途上国はテキスト形式に基づく審議とか法的拘束力を持つ文書の採択といった大変強固なものを求めるようなマンデートを要望していたわけですけれども,それ以外の先進国も初めそこまでのそもそもフォークロアの定義などないというような段階であって,そういうことは受け入れられないといったような議論がなされまして,実は意見が収束せずに終わっております。
 これは,今後9月下旬にWIPO一般総会が行われますので,そこの一般総会においてIGCの報告がなされますので,その際にマンデートの延長についても議論が行われるという見込みになっております。
 以上がWIPO関連会合です。
 それから,次はAPEC関連会合なんですが,WIPOの会合は今申し上げたとおり相当途上国と先進国のかなり厳しいやりとりがなされているのですが,APECは特に条約を決めるというような会合ではありませんので,もう少し緩やかな雰囲気で議論はしておりましたが,そうはいってもいろんな立場で意見がなかなかまとまらないということは起こっておりました。
 幾つかこちらもAPECの関係は著作権に限定しておりませんで,知財財産の専門家会合ということで,特許であるとか商標であるとか,ほかの知財に関する議論もたくさんなされておるのですけれども,ここでは特に著作権に何らか関係する提案についての御報告を申し上げます。
 (1)にいっていただいて,まず映画の盗撮に関する取組を進めるためのイニシアチブ提案ということで,これはアメリカがもともとリーダーシップをとって提案されていて,カナダ,香港,フィリピン,日本が共同提案国となっておりまして,アメリカからは,盗撮によって映画産業が相当な影響を受けているので,各国がそれの問題についての普及・啓発をし,法的措置なんかもできればとってほしいということでイニシアチブを提案しておりまして,香港,それから日本からも,実際に自分たちのところには映画を盗撮することを防止する法的枠組みは実際にありますし,それが効果を上げていると思うというようなことを紹介し,アメリカ提案を支持いたしました。
 ほかのオーストラリア,カナダ,フィリピン,台湾からも同様に支持が表明されたのですけれども,一方でほかの中国を初めとする国々からは,その重要性の正当性はまだ十分に議論されていないというような指摘もありまして,各エコノミーの経済的な状況も違うのであるから,必ずしもアメリカの例がベストだとは言えないというような指摘がありまして,結論としてはイニシアチブの採択には至らずに引き続き議論をしていこうということになりました。
 (2)として,チリからの著作権の制限及び例外についての報告書ということで,これはチリが大分前から各国に状況を伺う質問を投げかけて,各国の著作権の制限と例外に関する調査を取りまとめたものでございます。今,最終確認というかマイナーな修正なんかを各国が最後することになっておりまして,それができれば報告書自身は公表されることになります。
 それから,3番目はケーブル及び衛星電波窃取及び執行に関するベストプラクティスの実施に関するAPECワークショップということで,アメリカからシグナル・パイラシーに関するワークショップを開催すること自身は提案されて了承されたんですけれども,それ以外についてはまだこの問題に対する重要性なんかもAPECメンバーの中では必ずしも共有されていないのではないかというような議論がありまして,これも引き続き議論ということになっております。
 それから,4番目としまして,APECで様々な会合がある中で,一つ政府の会合ではなくて,産業界の方が,日本では経団連が中心でやられていると思いますが,APECビジネス諮問委員会ということで,ABACの方でもいろんな検討がなされているんですが,その産業界との意見交換をしてほしい,知財専門家と産業界との意見交換をしてほしいということはABAC側から提案がありまして,それは今回のAPEC会合でのIPEG関係者の間でももちろん歓迎されまして,具体的にどういうテーマに沿って意見交換をするのかというようなあたりは,今後ABAC側からなされる予定になっております。
 それで,これがAPEC2009で,今年はシンガポールで開催されたわけですけれども,来年はAPEC2010年,日本で全体会合,すべて開催されますので,知財専門家会合も日本で開催されることになっておりまして,具体的には3月5日,6日に広島で開催を予定しておりますということになっております。
 以上です。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 国際的なフォーラムで議論されていることにつきまして御説明いただきました。
 何かこの点につきまして更に御質問,御意見等ございますか。はい,久保田委員。

【久保田委員】 APEC関係のところで,盗撮防止法に関する質問なんですけれども,この盗撮防止法をつくられている国でエンフォースメントがあったとか,そういう情報はありませんか。あれば教えていただきたいんですけども。

【吉田専門官】 すみません,その前に上原先生からの補足,その後その点をお答えします。

【道垣内主査】 それでは,まとめて伺いたいので,上原委員お願いします。

【上原委員】 すみません,私はAPECの方はよく知らないんですが,SCCRの方に出ておりましたので,今御説明いただいた吉田専門官,今回のSCCRは出ていらっしゃらなかったので,ちょっとその辺を補足させていただきます。
 一番大きな問題は,先ほど吉田専門官からもお話がありましたが,SCCRの後段の方で「全般的な雰囲気としては,知財保護の例外としてパブリックドメインが存在するという発想から,知財保護とパブリックドメインは並列するという新たな知財のレジームが確立していく流れが」というふうに書かれているところだと思います。これは恐らく大変皆様わかりにくいところではないかと思います。
 私も今回SCCRに出席するとともに,WIPOを中心とした各種委員会でどのような話が進められているのかということを知るために,ガリ事務局長を初めといたしまして,何人かの現地の職員,専門家からお話を聞いてまいりました。
 その中で,ガリ氏が特に放送条約をどう進めるかという話合いをしたのですが,強く言っておりましたのは,パブリックドメイン問題が最も難しい問題であるということでした。パブリックドメイン問題というふうに私どもは言いますと,通常,著作権があり,著作権による保護があって,保護期間が切れてパブリックドメインになる。あるいは,保護期間内であっても,亡くなった後に継承者等がいなくて,パブリックドメインになるということで,保護があり,その期間がなくなったり,あるいは継承者が亡くなったりしてパブリックドメインになって保護が外れるというふうに考えておるわけですが,ここでブラジルを中心として言っておりますパブリックドメイン問題というのは,そういうものに限らず,先ほどの一番最初の国際私法のワーキングチームの御説明の中に,著作権法というのは人工的で文化社会政策的なものであるというお話がありましたが,基本的に文化を守るというか,文化制度であるところの著作権にかかわるものについて,文化はもともとが共有のものであるという哲学,それが前面に出てきているということでございます。例えば言語はそれ自体が共有のものであって,だれかがそれを自分のものとして専有するものではないということで,したがいましてこの問題は知財全体の問題として出てきて,著作権の分野に波及してきたのはむしろ一番最後でした。わかりやすい例といたしましては,アマゾンの奥地の1,000人ぐらいの少部族の人たちが使っている言葉で面白い花の名前などを商標として登録するというようなことでありますとか,あるいはヨガでありますと,アメリカでヨガマットなどというものがございますが,これはヨガのポーズをそのマットの上に書いてある手と足を置く位置に正確に置くと,ヨガの何とかのポーズになるというようなマットなんですが,そういうものが商標として登録されるというようなことに対して,もともと国なり地域なり民族として共有している文化を知財財産の制度によってどこかが専有してしまうということ自体に対する途上国からの異議申立てという形のものが,トータルに本来パブリックドメインを大事にすべきであるという主張にまとまってきつつあるという状況でございます。
 したがいまして,現在WIPOの中でパブリックドメイン問題といったときには,保護があってその期間が外れたものということではなくて,本来,文化というものは共有のものではないかという投げかけがありまして,それを制限と例外をルール化することによって,できるだけ共有のものを守るという考え方が著作権の保護に関して出てきたわけですが,それが放送条約の個別の論議を超えて制限と例外のルールメーキングという話になってきたときに,非常に広い観点といたしまして文化というのはもともと共有が前提であるということが強調されているわけです。したがって,技術的保護手段の保護というようなことは認められないと。技術的保護手段の保護を認めてしまうと,法的な保護を超えて先進国の権利者の恣意によって文化へのアクセスが制限されてしまうという強い主張が出ております。筆頭がブラジルでございますが,そういう流れが出てきて,これはSCCR,コピーライトの分野に出てきたのは一番最後でして,パテントなり,あるいはトレードマークなりという世界においてはより早い段階から出てきており,それが現在大きな流れとなって出てきております。
 したがいまして,こうした部分の声というものがCDIPであるとか,あるいはIGCの中にも流れとしては横断的に出ておりまして,それが非常に大きな問題となっているというところでございますので,今後WIPOの中でのルールメーキングをしていく場合に,この主張に対してどのような対応をしていくのかということが確立されないと,なかなか新たなルールメーキングというものが難しいのではないかという状況が出ているということが,実際にガリ事務局長等からの話,これは個別の話でございますが,の中でも出ていたところでございますし,議場でも出ておりますし,SPC,直前に開かれたパテントの方の会議でも同様の流れがあったというふうに聞いております。ここのところが,新たな状況で,ちょっとわかりにくいかと思いまして補足させていただきました。
 あと,制限と例外についての質問表でございますが,細かいことでございますけれども,一応17回のときからその話が出ておりまして,18回,前回のときに原案が出たんですが,そこでいろいろな意見が出ましたので,次,19回の1か月前までに質問表の原案を事務局がつくりまして,19回のSCCRで質問表を確定させて質問の実行に移りたいということになっております。
 ただ,この質問表につきましても,当初はいわゆるベルヌ条約と通常私どもがイメージする条約の例外と制限の項目を念頭に置いたものでありましたが,18回の会合では非常に質問表の内容が広がりまして,現在申し上げましたようなパブリックドメインの考え方に基づきまして広がりまして,関係するsocial,cultural and religious Limitations and Exceptionsということで,宗教的なものまでも含んだ制限と例外というもののルールメーキングについての質問表をつくるということになっております。その点で,今までとは非常に違った流れの議論の方向性というものが出てきているというところが大きいところかと思います。
 なお,つけ足しで申し上げますと,放送事業者,放送機関の保護につきましては,当初の結論の案では,実はガリ事務局長との放送事業者等の話合いで,できるだけリージョナル・コンサルテーションを進めていこうと,それを積み重ねることによって前進させようという話をしておりました。
 実は,ここでWIPOの会合で非常に難しいのは,セミナーとかミーティングという会合とコンサルテーションという会合とでは一応レベルが違っておりまして,リージョナル・コンサルテーションですと,もしそこで大体意見が一致すると,総会に対してレコメンデーション,意見具申をして,それをもって前に進めるということがあります。当初のドラフトではその会議につきましては,リージョナル・コンサルテーションをするように要請があったというような書き方がしてあったんですが,最終的にラ米等の反対に遭いまして,リージョナル・コンサルテーションをやったらどうかという提案があったという書き方で終わったというところがございます。ということで,非常に大きな流れが変わりつつある状況だということを御報告申し上げます。

【道垣内主査】 どうも先ほどはすみませんでした。
 それでは,先ほどの久保田委員からの御質問について。

【吉田専門官】 映画の盗撮防止法がある国がどのぐらいの効果があるかというようなこと……

【久保田委員】 エンフォースメントが実際に行われているのか,要するに立法事実に対してちゃんとそういうことが行われていて,こういう効果があったというようなことになっているのかというところが確認したいんです。

【吉田専門官】 結論といたしましては,そこまでの議論はなされておりませんで,香港からは実際にどういう普及・啓もうをやっているかという御紹介があって,それはまさに日本と同じように,日本で映画館に行ったら必ず映像が流れますが,それと全く同じような香港版を彼らは実際に会議場で紹介して映像を見せていましたし,それからパンフレットを用意して,またポスターも用意してそういうのをやっているという,香港からだけ唯一紹介があったんですけれども,そのほかの国からは特にありませんで,日本からは実際に何かデータとしてこれだけ損害が減りましたみたいなことを言えればよかったんですけれども,それはアメリカから言ってくれないかとも言われたんですが,彼らも実際にそのデータはなくて,残念ながら日本もそういうデータはないんですけれども,日本で御紹介できたのは,2008年で明らかに事前に映画の盗撮を防止できた事例としては,少なくとも10本の映画について例えば映画館の方であるとか,地元の警察であるとかという方々が,この法律があったおかげで警告をしてやめてくださいと言うことによって,作品を実際に盗撮しそうだった人を防止することができたという事例があります。

【久保田委員】 司法手続になっていないということですか。

【吉田専門官】 この法律があるので,もう映画館の方が実際にすぐ動いて法律で違反ですよというふうに話しかけることができると。その法律がないと,なかなか個人使用ですと言い切られてしまったら映画館の方も動けないんですけれども,法律があるからこれは法律違反の行為ですよというふうに言うことによって,それを止めることができたということをその映画の業界の方から伺っていたので,それを日本からは御紹介して,それからその規模としてはこれも政府の数字ではないんですけれども,映画盗撮の防止法ができる前の2005年の段階では162ミリオンドルということなので,200億円相当ですかね,そのぐらいの盗撮による被害があったのではないかと推察されるという数字も日本からは御紹介しました。
 ほかの国で法律を持っているところは,オーストラリア,アメリカあたり,それから香港であるんですけれども,香港以外からは特に実態としての御報告はありませんで,それからあとはマレーシアとフィリピンも今法律を検討中というような紹介もされましたということでした。
 以上です。

【久保田委員】 わかりました。

【道垣内主査】 その他いかがでしょうか。時間の関係もございますのでよろしゅうございますでしょうか。
 最後の4,「その他」でございますが,先ほど少しグーグル訴訟について何か,せっかく御専門の委員の方々がいらっしゃるので御意見あればと申し上げましたけれども,これはグーグル訴訟と言わない方がよいかもしれません。オプトアウト方式のクラスアクションにおいて裁判所が関与した和解があり,原告としてオプトアウトしなかった著作者の権利の処理されてしなったという場合,ベルヌ条約上あるいはTRIPs協定上問題があると言えるのか言えないのか,あるとすればどこが問題なのかという形に抽象化して伺いますが,何か御意見ございますでしょうか。
 そのような手続による処理は,自国民についてもそのように扱うのだから,条約上は問題ないのではないかということなのか,そうではなく,そのような扱いは,ベルヌ条約等は著作者に最低限,条約に定める内容の著作権を与えることを約束しているのに,そのような形で奪ってしまうのは条約違反ではないかという点です。

【上原委員】 今,主査がまとめてくださったとおりでありまして,基本的に内国民待遇は飽くまで内国民に与えている権利を他の締約国の国民に保障するということでございますので,class actionという特別な裁判制度によって定められた和解の効果を内国民・外国民無差別に及ぼすということがベルヌ条約上の内国民待遇に果たして合致するのかということに関しては,私はちょっと疑問があるのではないかというふうに思っておりますので,国際小委員会の皆様の御意見が伺えればということでございます。

【道垣内主査】 山本委員,どうぞ。

【山本委員】 今の内国民待遇のことなんですけれども,問題は,ベルヌ条約では内国民待遇だけを各国に義務づけているわけではなしに,権利制限の幅あるいは強制許諾の幅についても枠をはめておりますので,国内の人間と同じ扱いだから何でもいいというわけじゃなしに,与えられた権利制限なり強制許諾の枠を超えていれば,たとえ内国民待遇であってもベルヌ条約違反の問題は発生すると,そこに今回の訴訟の和解の問題点があるというのが我々のワーキングチームでの認識です。

【上原委員】 そうすると,質問ですが,先ほど一番最初のときに私もちょっと申し上げましたが,結果としてベルヌ条約をかまして考えるとすると,第9条の複製権の例外についてはスリーステップテストが明確に書き込まれているところで,そのスリーステップテストを含めて読むと問題があるというふうに分析されたんでしょうか。

【道垣内主査】 山本委員,どうですか。

【山本委員】 具体的な第何条のという議論はやっておりません。先ほど申し上げましたように,ベルヌ条約で認められております権利制限というのは,別にスリーステップテストだけではありませんし,強制許諾についての限定もほかのところにもありますので,それをトータルとして見たときに許される範囲を超えているかどうかというのは問題になるので,5条だけの問題じゃないように思います。

【道垣内主査】 ほかの方からもし御意見あれば。前田委員。

【前田委員】 この問題を私はよく考えたことがないので,全く思いつきの発言でしかないのですけれども,先ほど山本先生から御紹介がありましたように,ベルヌ条約は最低限の保証プラス内国民待遇であって,同盟国は最低限の保護は与えなければいけないという構造になっているかと思います。ですから,もし今回のグーグル訴訟の和解により複製権を保護していないに等しいというような状態になった場合には,条約上の問題が出てくるけれども,そうではなければベルヌ条約上の問題ではなく,司法手続上の問題ではないかなという気もいたしました。

【道垣内主査】 山本委員,どうぞ。

【山本委員】 司法手続上の問題という御指摘はよくわかります。我々の検討したところでは,それだけの問題じゃないでしょうというのが問題意識です。つまり,和解の拘束を受ける当事者は,訴訟に関与している人たち,自分の意思で当事者になるなり被告になるような場合だけではありません。本来的にclass actionが予定しているような紛争の当事者になるような人たちだけではありません。実はグーグル訴訟の当初のclass actionのclassの定義は,ミシガン大学図書館の蔵書に対しての著作権者だったんです。なぜかというと,ミシガン大学図書館とグーグルとは契約をして,そこの蔵書をすべてデジタルスキャンする権利が与えられているわけです。そういう契約があるので,その権利者というのは具体的な侵害の危険性が発生している,つまり事件性はその著作権者であれば発生しているわけです。ところが,この和解の段階になってそのclassの定義が全く変えられまして,おおよそ基準時である2009年1月5日の時点で出版された図書の著作権者でアメリカに著作権を持っているすべての人という定義にされているわけです。その人たちは別に現にグーグルからスキャンされるおそれがあるわけでも全くない人たちも入っているわけです。その人たちまでこのclassに入っているということは,司法手続の大前提であります事件性の要件が欠けている人たちまで取り込まれているわけです。これは司法手続の範囲を超えていると言わざるを得ないというのが我々の方のワーキングチームでの認識です。

【道垣内主査】 恐らく簡単には結論は出ないと思いますけれども,もしどなたか御意見があれば伺って終わりにしたいと思います。よろしゅうございますでしょうか,この段階では。
 それでは,本日の会議はここまでにいたしまして,事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【吉田専門官】 本日はありがとうございました。
 次回の日程につきましては,また追って皆様に御連絡をいたして日程調整いたしたいと思います。よろしくお願いいたします。以上です。

【道垣内主査】 きょうは5分過ぎてしまいました。申し訳ございませんでした。これで小委員会を終了いたします。

―― 了 ――

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動