議事次第

文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第3回)議事次第

日時:
平成22年1月18日(月)
14:00~15:55
場所:
文部科学省東館16階特別会議室
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)国際裁判管轄・準拠法ワーキングチーム報告について
    2. (2)WIPOにおける最近の動向について
    3. (3)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

【道垣内主査】 時間でございますので,ただいまから第3回国際小委員会を開催いたします。
 本日は御多忙中御出席いただきまして,まことにありがとうございます。
 本日の会議の公開についてでございますけれども,予定されている議事内容を参照しますと特段非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴を御希望の方には入場いただいているところでございます。
 この点,特に御意見ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】 御異議ないということで,そのまま会議は続けさせていただきますので,傍聴の方はそのまま傍聴していただいて結構でございます。
 まず,本日の配付資料を,事務局から御説明いただけますでしょうか。

【吉田専門官】 配付資料としましては,1枚目に議事次第がございまして,そちらに配付資料一覧とありますように,資料1から5まで,参考資料が1から5までとなっておりまして,資料の1-1と1-2がクリップどめで一緒に束ねられております。そのほか,資料2から5,それから参考資料1から5まであることを御確認いただいて,もし足りない資料がございましたら事務局の方にお知らせ願います。

【道垣内主査】 よろしゅうございますでしょうか。一番大きい資料が資料の1-1と1-2でございます。
 では,議事の第1番,国際裁判管轄及び準拠法ワーキングチームの報告についてでございます。このワーキングチームにつきましては,本年4月の第1回のこの国際小委員会において,参考資料2のように設置が決められ,また中間段階でこの小委員会に御報告いただいたところでございます。そして,その後更にワーキングチームでは会合を重ね検討をしていただいたところでございます。
 そのワーキングチームの審議結果につきまして,同チームの座長であります山本先生より,約20分程度で御説明いただいた上,委員の方々から御意見を頂きたいと思います。
 では山本委員,よろしくお願いいたします。

【山本委員】 それでは,資料1-1の報告書の概要に従って御報告させていただきたいと思います。
 このワーキングチームは,経済のグローバル化,インターネットの普及によって,著作権の利用,侵害が国境を越えて発生するという事例がふえたということと,これに関する国際裁判管轄・準拠法について,各国間での対応を調整する必要が出てきているということが背景にございます。これに対応するために,アメリカにおいてはアメリカ法曹協会,あるいはヨーロッパではマックス・プランク研究所などが考え方を提案しているという状況であります。また日本においても,日本国法の透明化グループであるとか,早稲田の木棚先生を中心としたグループが提案をしているという状況であります。こういう状況を受けて,今後,この問題が国際的な議論になるということを踏まえて,我が国のスタンスを明確化するというのを目的にしまして,ワーキングチームが設置されました。
 昨年4月から昨年12月までの間に,この資料1-1で見ていただきますと,12ページ目ですが,計11回審議いたしました。このほかに予備会を開いておりますので,全部で12回開催して検討してまいりました。メンバーは,11ページを見ていただきたいと思います。研究者と実務家から構成するという考え方で,研究者としては名古屋大学の横溝教授,九州大学の小島准教授,上智(ち)大学の駒田准教授に御参加いただきました。また実務家としては,弁護士の大野弁護士,宮下弁護士,それに私が参加いたしました。またオブザーバーとして,本小委員会の主査であります道垣内先生に御参加いただきまして,またフランス法に詳しい井奈波弁護士に参加していただくという形で進めました。
 ということで,このワーキングチームの目的は,この資料の2ページ目を見ていただきたいのですが,まず第1に,今後予想される国際交渉に向けた我が国のスタンスの明確化。これがどこまで成功しているかは別ですが,問題点はクリアにできたんじゃないかと思っております。
 第2は,法律家と実務家との間での情報共有化による問題意識の醸成。これに役立ちますように,今回の報告書はかなり分量的に多くなりましたが,基本的な問題点からかなり詳しく説明をやっております。この問題というのは,国際私法と知的財産権の両方にまたがりますので,国際私法の専門家ではなくても,知的財産権のかかわっている方が読んで理解していただけるように,あるいはその逆の場合にも御理解していただけるようにというようなことで,内容的には基礎的な情報をできるだけふやすようにしております。また,事例と図を使って読みやすくさせていただいております。そのかわり,かなり分量が多くなって,御説明今できませんので,こういう報告書の概要というものを使って御説明させていただいております。
 このワーキングチームの第3番の目的としまして,欧米における国際裁判管轄・準拠法に係る判例と,国内外におけるルール策定提案の収集・整理というのがございます。専らイギリス,アメリカ,ドイツ,フランスの法例と判例を調査しております。これは,各委員の方に御報告いただきまして,この報告書の参考資料1という形でまとめてあります。
 内外におけるルールの策定に関しましては,先ほど申し上げましたアメリカ法曹協会,これALIと言いますが,それの出しております提案,ALI原則と言われております。それとマックス・プランク研究所が出しました提案,これはCLIP原則と言われております。更に先ほど申し上げました,日本法の透明化グループの提案,それから早稲田の木棚先生を中心としたグループによる提案,こういうものも検討いたしまして,この報告書の参考資料2という形で添付しております。
 次に,国際裁判管轄についての議論の中身について御説明させていただきたいと思いますが,まず国際裁判管轄の一般的ルールは,我が国においては判例で決まっております。法律は現在のところありません。基本的には,民事訴訟法のルールに従って,国際裁判管轄の有無を決定すると。ただし,そのルールの適用の結果,裁判の適正,公平,迅速などの訴訟法の基本理念に反するような特段の事情のある場合には,民訴法に基づく国際裁判管轄は否定するというアプローチをとっております。
 そこで,著作権の文脈で考えた場合に問題になりますのは,特に固有の問題として問題になり得ますのは,インターネットを利用した著作権の侵害事例において,不法行為地管轄をどういうふうに考えるのか,不法行為地がどこかということによって考え方が変わってきますので,これについて議論いたしました。また,著作権に関する訴えを専属管轄にすべきかどうかという点についても議論いたしました。
 まず,インターネット上の著作権侵害に関する訴えについて,管轄原因となる不法行為地をどのように考えるべきかというのについては,この概要の3ページをごらんください。問題になりますのは,単純な事例でまずは御説明したいのですが,A国にいる人がB国にいる人に向かってピストルを発射したと。B国にいる人がけがをして,C国の病院に運ばれて治療を受けたという場合に,ここでは3つの場所が問題になります。A国,つまりピストルを発射した場所,加害行為地です。それからけがをしたという結果発生地,B国です。それから治療費という損害が発生したというC国であります。ここで,この民訴法の5条9号では,不法行為地に裁判管轄を法定しているのですが,ここで言う不法行為地は,今の概念で言いますと加害行為地と結果発生地であって,狭い意味での損害発生地ではないというふうに考えられております。
 そうしますと,結果発生地というのは,インターネットによる侵害の文脈において,どこになるのかというのが問題になるのですが,ここで,この3ページの図で見ていただきますと,まずアップロードの行為がありまして,その侵害者の住所地若しくは事業所所在地というものもございます。発信するためのサーバーの所在地というのもあります。そこから受信される地があります。ここでの議論は,加害行為地としては,このアップロード行為地なのか,侵害行為者の住所地若しくは事業所所在地であるのか,サーバーの所在地であるのか,これについてはいろいろ議論がある。詳しくは報告書に書いておりますが,そこが問題になるということです。
 次に受信地なのですが,これを結果発生地と見るかどうかというのが,次に問題になります。ワーキングチームでの議論では,受信地を結果発生地と見る意見と,いや,それは公衆送信権の権利構成によるのだという意見に分かれました。といいますのは,我が国のような公衆送信権の概念においては,公衆に向かって送信する行為を権利にしておりますので,公衆送信権の要件充足事実が発生するのは,サーバー所在地であって受信地ではないと。したがって,少なくとも日本法においては,受信地を狭い意味での損害発生地と見ることはできても,結果発生地とは見られないんじゃないかというふうに考えるのですが,実質的な側面から見ますと,市場的な損害が発生するのは受信地であるので,受信地を結果発生地だと見るべきだという意見とに,ワーキングチームでは意見が分かれました。
 ここでのもう一つの問題は,今申し上げましたような不法行為の文脈で考えますと,結果の発生ごとに事件というのは別です。請求原因も別です。したがいまして,結果発生地の裁判所は,管轄権を持つのはその結果があった結果発生地の損害しか管轄を持たないんじゃないか。つまり,加害行為によって幾つもの受信行為があっても,問題にされた結果発生地の結果だけが損害賠償の対象になるのであって,他の損害については対象にならないんじゃないかという問題点があります。
 これについては,ユビキタス侵害として例外を認めるべきかどうかという議論になっております。これについては考え方がいろいろあります。
 次に,4ページ目を見てください。著作権に関する訴えを専属管轄とすべきかどうかという点について,ワーキングチームで議論いたしました。これは,背景としては,特許権等の国家機関による登録を要する知的財産権の場合には,その成立や有効・無効の判断は当該登録国の専属管轄だという考え方があります。ただし,その侵害については私人間の紛争であるので,専属管轄とはしないという考え方が一般的であります。
 これに対して,著作権の文脈においては,著作権の侵害に関する訴えだけではなしに,著作権の成否・効力に関しての訴えも専属管轄を認めるべきでないという考え方が一般的であります。
 ここで問題を2つに分けて議論いたしました。著作権の侵害に関する訴えを,若しくはその著作権の成立効力に関する訴えを専属管轄にすべきかという問題と,登録に関する訴えを専属管轄にすべきかという2つの問題です。
 まずは著作権侵害等,著作権の成立効力に関する訴えを専属管轄にすべきかという点ですが,まず押さえておかないといけないのは,日本の裁判例では,先ほど申し上げましたような判例理論による一般的な国際裁判管轄のルールに従っていきますと,専属管轄にはならない。また,この著作権侵害等については,専属管轄にしないというのが国際的にも一般的な今の動きであります。これに対しては,著作権法というのは,国家の文化・産業政策に密着する問題であるので,外国の裁判所にそれの判断をさせるのは適当ではないという観点から,専属管轄が主張されます。
 ワーキングチームでも,この2つの議論に分かれておりましたが,メンバーの中で,結果的には専属管轄を主張していたのは私だけで,その根拠と論点を申し上げますと,著作権制度を設計する段階では文化・産業政策の配慮が必要ですが,そのいったんでき上がった法律に基づいて生じた個々の著作権について,文化・産業政策の判断が入ってくるというのは,余りそれほど重要じゃないだろうというふうに私も思います。しかし,実際の文脈で考えますと,我が国の国益に,非専属管轄とした場合には不利になる状況があるんじゃないか。その点について検討した上で,専属管轄が適当なのかどうか判断する必要があるんじゃないかという問題意識で,ここでは問題を提起いたしました。
 事例として挙げましたのは,この4ページのところをちょっと見ていただきますと,アメリカの映画会社Aが日本人Bに,そのでき上がった著作権はAに帰属するという旨の特約をつけてアニメの制作を委託し,Aがこれを編集して音声をつけるなどして映画として完成させた上で各国に頒布した。ところが,日本企業Cが,日本で当該アニメをパロディ漫画に改変して頒布したため,映画会社AがCを米国の裁判所に著作権侵害で訴えたと。Cはアメリカに支社を持っているので,アメリカに一般的な裁判管轄があるというような事例を考えたとき,AはCをアメリカの裁判所で訴えた場合,アメリカの裁判所は日本の著作権法を適用して侵害の有無を判断します。そのときに考えられるのは,アメリカの裁判所は,アメリカのフェアユースを適用するわけにはいかないのですが,日本法の引用の規定,あれの類推解釈として,パロディについては権利制限が及ぶんだというような解釈も,アメリカの裁判所だと大胆にやることは考えられるわけです。
 そのような解釈がなされたときに,日本の権利者はそれでよしとするのかどうか。アメリカでの裁判の結果というのは,国際的なデファクトスタンダードになり得る危険があります。しかも,例えば日本でアニメ映画をつくった場合に,国際的に配給するという場合には,アメリカの配給会社を通じて頒布するということに通常なると思います。そのときに,その契約関係の中にすべて裁判管轄条項を入れられて,その場合には大体アメリカの裁判所が合意管轄地として入ります。そういう状況になったとき,日本の著作権侵害の問題であっても,アメリカの裁判所に集中するという事態が考えられるわけです。そうしますと,司法の空洞化も起こりますし,そういう状況の中で日本の権利者としていいのでしょうか。それを回避する方法としては,著作権侵害訴訟を専属管轄にするというアイデアがありますねというような問題提起です。これは,今申し上げましたように,圧倒的に非専属管轄の考え方が有力です。
 次に,5ページ目を見ていただきまして,著作権の登録に関する訴えを専属管轄にすべきかという点については,これは結論的には,国家機関による登録・登記に関する訴えはその登記・登録を行う国の専属管轄であるというふうに一般的に考えられているのですが,ワーキングチームでの議論の中では,まず,この例えば登記請求権についての登記を命ずるような判決が出た場合も,当事者間,私人を相手にするのであって,国家機関に対して命令する内容にはならないので,この国家機関に対する命令は避けなければならないというような,専属管轄の根拠はここには当てはまらないだろうというところから,ワーキングチームでの議論としては,この登記・登録の訴えであるからということで,専属管轄を認めるべきかどうかというのに対しては否定的でした。それぞれの権利の実質性から判断しないといけないんじゃないかと。
 ただ,その観点が,意見が分かれてはおりますが,ほぼ一致いたしましたのは,これは専属管轄には基本的にはする必要性はないだろうと。ただし,専属管轄にしなくても,余り実益はないんじゃないかと。多数の国の著作権を譲渡したときに,その紛争が起こったときに,多数の国の著作権譲渡登録を一括してどこかの国でできることが取引の便利だという問題から,この非専属化が主張されているのですが,例えば日本の場合ですと,そういうことが可能であっても,結局日本の文化庁に持っていくためには,その前に日本の裁判所で執行判決をとらないといけない。そうすると,結局,日本の裁判所をいったん通らないといけないので,非専属管轄というようなことをやっても余り意味ないんじゃないかという議論が出ておりました。
 次に,準拠法の議論に入らせていただきたいと思います。ベルヌ条約の5条2項第3文の中では,「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため,著作者に保障される救済の方法は,この条約の規定によるほか,専ら保護が要求される同盟国の法例の定めるところによる」という規定がございます。これは準拠法の規定かどうかというのは議論があるところなのですが,この内容的なところ,これは保護国法というふうに一般的に言われておりますが,著作権の準拠法については,基本的には属地主義の論理的帰結である保護国法であるというふうに一般的に考えられております。
 しかし,個々の問題については議論がありまして,このワーキングチームでは3つの点について議論いたしました。著作権の原始的帰属に関しての準拠法,それから著作権譲渡契約などに関する準拠法,それから著作権侵害に関する準拠法,特にユビキタス侵害の場合です。
 6ページを見ていただきまして,ここで,最初の論点であります,著作権の原始的帰属に関する準拠法の点をまとめております。
 一般的には,この保護国法を準拠法とするという考え方なのですが,ここが論点になりますのは,ALI原則であるとか木棚グループの提案では,著作物の本国法であるとか著作者の住所地法で統一しようという提案がなされております。それは,著作者が著作物をつくって,それを国際的に頒布するときに,自国の法で統一して処理できる,国際取引を処理できるという簡便さのためです。ところが,これをやりますと,今度は利用国の側においては,自分たちが利用する著作物についてちゃんと権利処理をするためには,自国の法に従って処理するんじゃなしに,これはどこの著作物なのか,本国法はどこなのか,あるいはその著作者の住居地法は何であってどういう内容なのか,個々の利用者が外国法を調査してそれを当てはめないといけないということになってしまうわけです。
 ですから,これは結果的には,アメリカのようにハリウッドが世界に頒布しようというハリウッドの役には立っても,それを利用する個々の国内の事業者のためにはかえって不利になる帰結になるというのが,我々の方の検討結果で,これについてワーキングチームの意見としては,原則どおり保護国法を準拠法にするというのが妥当だろうという意見でほぼまとまっております。
 次は,著作権の譲渡契約などに関する準拠法ですが,7ページです。著作権の譲渡契約を考えますと,問題は,著作権の移転可能性の問題と対抗要件というような問題があります。例えばドイツであれば,著作権の譲渡は禁止されております。こういう譲渡される権利自体の性質に関するところは,これは保護国法を準拠法として,それを譲渡する契約の債権的な側面については,その当事者が合意したところあるいは最密接関連地法でいくというのが一般的な考え方で,ここワーキングチームでの議論も,物件的な側面,今の譲渡可能性であるとか対抗要件の問題については保護国法によると。で,債権的側面に関しては,もう一般の契約の準拠法と著作権契約とを特に分けて議論する必要はないだろうというのが,ワーキングチームでの結論です。
 次に,著作権侵害に関する準拠法に入ります。8ページ目です。ここでは,検討すべき問題3つございます。第1に,著作権侵害に対する差しとめと,著作権侵害に基づく損害賠償請求権,それぞれの準拠法をどういうふうに考えるのかという点。それから,公衆送信権の侵害の場合の準拠法はどういうふうに考えるべきなのか。それから,インターネットでの配信の場合のように,1か国じゃなしに多数の国に配信されるような場合に,それの場合に準拠法に特別ルールを考えるべきかどうかという,この3点です。
 第1点については,最高裁の特許の事案なのですが,カードリーダー事件で,特許権の侵害に基づく差止請求権については,その特許権の準拠法,登録国法が準拠法であって,損害賠償請求権については不法行為法だというような性質決定をしております。同じように,著作権の文脈においては,下級審の判決しかありませんが,差止請求権については準拠法は保護国法であって,損害賠償請求権は不法行為法だという考え方が裁判例であります。
 ワーキングチームでは3つに意見が分かれまして,今の判例のような考え方と,差止請求権も損害賠償請求権もいずれも保護国法によるという第2の考え方,それから,差止請求権も損害賠償請求権も不法行為法を準拠法とするという考え方,3つに分かれました。
 2番目の公衆送信権の侵害の準拠法の考え方ですが,これについてもワーキングチームで意見が分かれまして,先ほど簡単に申し上げました,公衆送信権の性質をどういうふうに考えるのか。日本法的な見方で言いますと,送信する行為というのは権利構成なのですが,ドイツ,フランス,イギリスなどは公衆伝達権の構成をとっておりまして,伝達される公衆を中心にした権利構成になっております。したがって,受信したところに権利侵害があって損害もあるというような権利構成なのですが,我が国のような場合は送信する行為ということですので,受信したところに結果が発生するというふうには見られない。
 そこの違いがあるのですが,1つの意見は,公衆送信権の侵害という問題があれば,受信地に結果発生があるんだと見て,準拠法を決定するんだという考え方と,今申し上げましたように公衆送信権で各国ごとに権利構成が違うので,それに従って結果発生地というのは変わってくると,準拠法はそういうことで複雑になっているという意見に分かれました。
 第3番目の論点でありますユビキタス侵害についてですが,これはユビキタス侵害の場合に,結果発生地が受信国であるとしますと,受信国が多数にわたる。そうしますと,個々の結果発生に対して適用される法律が多数発生しますので,裁判をやる上で不便だと。これはどこか1か所の法律だけを適用して処理するという,特別ルールを設けるか設けないかという議論であります。これについてはALI原則であるとかCLIP原則等で,一定の範囲内でそういうのを認めるという提案がなされております。
 以上が準拠法についての議論でして,あと報告書の中では,既に前回の第2回の国際小委員会で御説明しました,アメリカのグーグルブック検索訴訟の問題であるとか対抗立法についても記載しておりますが,ここでは割愛させていただきます。
 ちょっと時間が超過しまして,失礼しました。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 盛りだくさんの検討課題でございますけれども,大きく分ければ管轄の話と準拠の話があって,それぞれに複数の論点が含まれるということでございます。このワーキングチームは,先ほどの3つの目的を持ってスタートしたわけですが日本として,国際的な場で提案をしていくとすればどんな内容になり得るのかということが大きな目標ではなかったかと思います。しかし,必ずしも意見は一致はしておらず,これでいきましょうということにはなっていません。とはいえ,意見の分かれ方についての御説明もなされておりますので,今後の議論の資料にはなるのではないかと思います。
 本日は,小委員会として,小委員会の報告書としてではなく,ワーキングチームの報告書としてそのまま分科会に提出するというのが原案でありますので,そのような見地から今の御説明をお聴きになって,あるいは文章を読まれて,わからない点,あるいはもう少し議論すべきであるという点がありましたらそれを御指摘いただいて,最終的には山本座長に内容の確定を一任するということになるのなのかなと思います。
 いかがでございましょうか。どの点からでも結構ですが。
 上原委員,どうぞ。

【上原委員】 確認ですが,結局大変な作業をしていただいて,分厚いものをおつくりいただいて,今の御説明も伺いましたし,資料も事前に頂いたもので読ませていただきまして,大変参考になる議論をしていただいておりますが,結論としては,一応ワーキングチームの報告書ということでお出しになるということですね。そうであれば,幾つかの点につきましては,例えば国際的なハーモナイゼーションということを考えたときには,もうちょっといろいろな考え方があるのかなというところはございますけれども,それは本国際小委としてもし出すのであれば,議論しなければいけないかもしれませんが,時間がないところでございますので,ワーキングチームの座長なりということでおまとめいただくのであれば,それはそれで1つの報告になるのではないかというふうに思いますので,大変御苦労さまでしたと,非常に参考になるものをつくっていただいてありがとうございましたということでございます。
 ただ,1か所だけ,非常に細かいところで恐縮でございますが,報告書案の2ページのところでございますけれども,2ページの最初の段落の終わるところに,「(ただし,この際には途上国の反対で見合わせることとされた)」というふうに,第16回のSCCRのときにEUからの提案が出たことをお書きいただいているのでございますけれども,これは私,そのときに出たほかの方にもちょっと確認してお互いの記録を照らし合わせたのですが,ニュアンスの問題なんですけれども,要するにほとんどの国が,現在出ている議論を進めましょうという意見でした。1つは放送条約であり,1つは視聴覚実演であり,もう1つが当時出始めた制限と例外の論議をすると。それをしようということであって,これをやるのに反対だというふうに言ったところは特になかったというふうに記憶しております。「反対で見合わせる」と言うと,何か途上国が扱うのを反対したというふうに読めてしまうものですから,むしろ各国の積極的な賛成が得られず見送られたぐらいの方が妥当かなと思っておりまして,そこはニュアンスの問題でございますけれども,一応公式に広く日本国内に出るものでございますので,ちょっと御確認いただいて御検討いただければと思います。細かいことですが。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 よろしいですか。
 それでは,前田委員,どうぞ。

【前田委員】 ありがとうございました。
 4ページの挙げていただいている事例のことなのですけれども,先ほど,会社Cによる侵害行為は日本国内で行われたということが前提となっているけれども,たまたまCが米国に支社を有していたために,米国で裁判管轄が発生し,専属管轄にしない場合はですね,その判決が日本で執行されることになると不都合ではないかというお話を頂いたのですが,別にこれは著作権侵害に限らず,日本国内で行われた不法行為について,たまたま被告とされた会社がアメリカに支社を持っていれば常に起こり得る現象であって,この著作権侵害の場合だけこの専属管轄化をすべきだという理由がちょっとよくわからなかったので,教えていただければというふうに思います。
 それから,もう1点よろしいでしょうか。9ページのところでございますけれども,この公衆送信行為による侵害における準拠法について,侵害発生地の所在をどこで見るかというところで,第1の意見と第2の意見があるという御紹介をいただきました。この第2の意見についてちょっと詳しく教えていただければと思ったのですが。
 と申しますのは,もともとWIPO著作権条約等を作成するときに,公衆送信権・送信可能化権のような権利をどういう形で規定するか,つまりそれを,先生が御紹介いただいた送信行為構成にするのか,伝達権構成にするのか,それは各国の自由であるというふうになったかと思うんです。そうすると,送信行為構成をとるか,伝達権構成をとるかというのは,本質的な相違なのだろうかと。ただその書き方の違いによって,侵害発生地の所在が変わってくるということについて,ちょっと私としてはぴんと来ない部分がありましたので,その点について教えていただければと思います。

【道垣内主査】 それでは,山本委員,お願いします。

【山本委員】 まず最初の問題点,4ページに関する部分ですね。先生が御指摘のとおり,単純な不法行為であろうと著作権の問題であろうと同じだという点はあるのですが,違うと思いますのは,著作権の場合には,著作権法の,権利者はだれかというのは別にしまして,その権利の中身をどういうふうに解釈するのかということは,日本の著作権法の効力をどういうふうに考えるのかということを,外国の裁判所がやるということになります。もちろんそれをよしとするというのはあるのですが,それが行き過ぎるような場合に,我が国の著作権法の趣旨・内容がゆがめられるということが発生する。そのこと,著作権法の場合はその国の文化・産業政策にかかわる問題ですから,それがゆがめられるということは,我が国の文化・産業政策がゆがめられるということになります。それがいいのかどうかという問題になると思います。
 他方,先ほど先生が御指摘のような不法行為のような場合,例で言いますと,日本人が交通事故に遭って被害を受けたという場合には,人命の問題で重要ではあるのですけれども,国家の文化・産業政策をゆがめるとかというような問題にはならない。そこが違うんじゃないのかなと。その点を重視するかどうかというのは人によって価値判断が大分違うところじゃないかというふうに思います。
 第2の御質問の点ですが,9ページのところですね。ここで問題にしておりますのは,不法行為法を適用するということを前提にしたような場合に,結果発生地がどこなのかというのが,送信行為構成と受信行為構成で違うでしょうという,そういう議論をさせていただいております。
 第1の意見は,その権利構成にかかわりなしに,受信地が結果発生地だと言っているんですが,しかし,送信行為構成の場合には,構成要件該当行為は,送信行為があった場所にあるわけですから,結果発生地として見ないといけないのは送信行為地であって,受信行為地じゃないんじゃないかと,そういう概念の違いを議論しております。
 御指摘のとおり,WIPO著作権条約のときに,各国がどちらの構成をとるのか自由でしょうけれども,それによって結果の発生も,準拠法の適用において結果の発生地の理解も違ってきて当然だと思うのですが,そうじゃないという意見と,それは違うでしょうという意見があるという問題です,ここで指摘しておりますのは。

【道垣内主査】 よろしいでしょうか。  この点,ワーキングチーム内でも,著作権の専門家と国際私法の専門家は大分意見が違っていたようでございます。
 そのほか,いかがでしょう。
 では,鈴木委員。

【鈴木委員】 鈴木でございます。
 今回の報告,ざっと拝見しまして,詳細で精緻な検討をしていただいて大変意義深いものだと思います。報告書本体の方の「はじめに」にちょっと言及があるのですけれども,国際裁判管轄については,2010年通常国会への法案提出を目指して法務省の方で検討が進められているということが書かれておりますけれど,このこととの関係で,今回の作業というのはどういうふうに生かされるのかという点について,確認的なのですけれども,文化庁にお伺いした方がよろしいかと思うのですけれども,いかがでしょう。

【道垣内主査】 お願いします。

【吉田専門官】 法制審の方の検討の関係について御説明申し上げます。法制審の検討は今どういう状況かと申し上げますと,先週の(金)に,法制部会の最終会合が持たれまして,今後の最終案が出されて決定されたと伺っています。その後,更に上の審議会が2月の初めに持たれて,その後,民事訴訟法と民事保全法の改正ということにプロセスとしては進んでいくということです。
 このワーキングチームで検討していた経緯は,これまでも法務省の方にもお伝えしておりまして,第2回の国際小委員会で参考資料としておつけしておりましたが,そのとき,パブリックコメントに法制審の部会がかけているという状況でしたので,ワーキングチームの検討の内容を踏まえた意見として,著作権についても慎重な検討をお願いしたいということを法務省の方にお伝えしておりまして,そのお伝えした内容は,法制審の法制部会の審議会の場でも御紹介をいただき,そしてその著作権についての意見も踏まえて慎重な検討をしていただいたというふうに伺っています。それを踏まえて部会が行われ,そして今後,法律改正ということになるということになっております。

【道垣内主査】 私もたまたま向こうの委員でもありますけれども,著作権全体を専属管轄にするという案ではなくて,登記・登録に係る訴訟については専属管轄にするということになっています。
 ほかに,いかがでしょうか。
 どうぞ,中村委員。

【中村委員】 このようなアプローチ,非常に現実的で効果的だと思いますので,重要な取組だと存じます。非常に活発な御審議をいただいて,有意義な報告であると思っています。
 ざっくりとした展望をお聞かせいただきたくて,どなたに伺えばよろしいかよくわからないのですが,2問ありまして,1つは,今後こうした問題は,国際的にはどういう場でマルチな理解なり議論されていくということが想定されていて,どのような方向性の議論になりそうかということが1つ。
 もう1つは,手順なんですけれども,先ほど,日本でも幾つか提案が見られるという御報告ありましたが,国内では,この場で統一的な見解をつくってから国際論議へというふうに進めていくのか,あるいは今から問題提起などをしていくというそういう考え方なのか,そのあたりをお聞かせいただきたいと思います。

【道垣内主査】 これも吉田専門官の方からよろしゅうございますか。

【吉田専門官】 大変難しい御質問なのですが,まず検討のやり方として,まず国内での検討と国際的な検討と両方あると思うのですが,国際的な検討ということで申し上げますと,今,例えばすぐ次回SCCRでこの議題を話そうとかいうような状況にはないというのが現実ですけれども,今回ワーキングチームで議論いただいたように,いろいろな国境をまたがる事例が発生している中で,何らかの国際的なコンセンサスなりが必要なのではないかということは,各国も認識していると思いますし,だから各国でも実務家の中でいろいろな検討もされていると思うので,それは将来的にそういう検討がまたなされるということは十分あり得るので,それもあって今回いろいろな整理をしていただいたということです。
 したがって,明確な回答にはなっていないですけれども,今すぐにはそういう具体的な提案をしようという状況にはないんですけれども,いずれそういう状況が来るということは十分あり得ますし,そこに至る前の過程として,今,著作権に関しては外部での会合であるとか,それから条約というような固いものではなくて,APECのような緩やかな話合いをするような場もありますので,むしろどういうところで何を進めていくかというのは,文化庁の方でもほかの省庁さんとも議論しながら進めていきたいと思っております。それが国際的な話です。
 それから,国内での検討についてですけれども,今回はいろいろな国内での提案がされている中で,木棚先生のところにもお話を伺いに行って,それで今,こういう検討を文化庁でやっていますということも申し上げたんですけれども,先生も,とても難しい問題なので,すぐに国際的なルールがぼんとできるようなことではないと思っているけれども,木棚先生の方は,まずアジアでいろいろな議論を進めていこうとお考えのようで,今,日本と韓国それから中国というようなあたりの方々との提案を考えていらっしゃるというようなことでありました。
 したがって,別に日本が固まらないと全く国際的な議論もできないということもないですし,かといって国際的なものはすごく議論が進んでいるというわけでもないので,すべて少しずつ状況を見ながら並行して進めていくということではないかと思っております。

【道垣内主査】 私からつけ加えるようなことではございませんけれども,本来,著作権法はルールの統一を世界的に行ってきていまして,それをどんどん進めているわけですけれども,しかし,なかなか新しい条約にすべての国が入ってくれるわけではなくて,ばらばらになっています。そこで,今までどおりではなく,準拠法を決めるとか裁判管轄を決めるという方法によって,各国のルールが統一されていない中で秩序ある権利関係の構築・維持や紛争解決を実現しましょうという動きは割と最近になって熱心に議論されるようになっておりまして,この報告書の2ページに出ている,アメリカ法律協会とかマックス・プランクとかというところが積極的に作業を始めたのはほんのここ何年かのことです。世の中の動きとして,もしかすると国際私法的な処理を考えましょうという人がふえてきているのかもしれません。もちろん,いずれそれは下火になることもあり得るし,突然出てくることもあるので,その準備はしておきましょうということは大切なことだと思います。更に,もしかすると,日本が積極的にイニシアチブをとれるなら,それもあり得るんじゃないかということで,ワーキングチームに御検討いただいた次第であります。
 そのほか,よろしゅうございますでしょうか。
 時間の関係もございますので,このワーキングチームの報告書は,このままワーキングチームの報告書として分科会に提出をさせていただくこととし,今の最後の御質問は非常に重要な点でございまして,いずれこれを土台に次のステップに進むことがあるかもしれないということであります。恐らく,次期の国際小委員会でこれを直ちに取り上げてもう一回議論するということには恐らくならないだろうと思いますが,意味ある作業であったと思っております。
 それでは,もし細かい修正等ありましたら,山本座長に御一任したいと思いますので,よろしくお願いいたします。
 それでは,議題の2番目,WIPOにおける最近の動向についてでございます。これについて,事務局から御説明をいただきます。またその後,この点につきましても,上原委員御知見をお持ちでございますので,続けて補足説明をしていただきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします。

【吉田専門官】 それでは資料2をごらんいただけますでしょうか。WIPOにおける最近の動向についてということで,事務局より説明いたします。
 WIPOの中では,様々な委員会がありまして,今回取り上げておりますのは,飽くまで著作権に関する委員会でして,3つ,「著作権等常設委員会」,それから「開発と知的財産に関する委員会」,それからフォークロアが含まれております,「遺伝資源,伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会」,この3つの委員会に関する動き及びそれを扱っている総会についての御報告となります。
 それでは資料2の1ページ目を見ていただきまして,まず加盟国総会ですけれども,昨年9月に行われました。主にその関係する3つの委員会の状況の報告を書いたのですが,SCCRとCDIPはその後にも御説明をいたしますので,IGCのところだけを見ていただければと思いますが,加盟国総会でIGC,フォークロアに関する政府間委員会は,もともとのIGCで検討するという時期が2009年の終わりで終了することになっていまして,そもそもそれを継続するのかということ,それからその方針をどういう内容にするのかというところが議論になっておりまして,本来,IGCの昨年7月に開催されたところでそれが決められていて,総会に報告ということがきれいな姿だったわけですが,IGC自身では合意がなされなかったために,その議論が総会で行われるということになりまして,総会でこの点,相当議論が紛糾したという中で,最終的にはマンデートが更新されるということになりました。
 1ページ目の下の方にあります,「最終的に」と始まるところを見ていただければと思うのですが,マンデートが2009年末で終わることになっていたので,その後の更新がなされまして,次期マンデートは以下のとおりと書いてありますように[1],[2]というところなのですが,[1]として,国際的な法的な文書,これ英語的にはInternational legal instrumentの合意に達することを目的とした交渉を行うということが,次期マンデートとして決定されました。そして,時期としては2010年から2011年の2年間ということで,その間に4回の委員会と3回の会期間作業部会(IWG)を開催するということ等が決まりまして,したがって,ごらんいただけるように相当頻繁に会合を開催して,積極的に議論をするということになったということでございます。これは総会の,特にIGCの部分です。
 それから,[2]の方にいっていただいて,著作権等常設委員会,これは常設ですので,特にIGCのようなそもそもの話にはならないわけですが,一番直近の会合が昨年12月に開催されました。SCCRでは,前回のSCCRと同じように,3つの主な議題がございまして,権利の制限と例外,視聴覚実演の保護,放送機関の保護,この3つが主要課題として行われまして,3つあるんですけれども,実際は権利の制限と例外の部分が大半の時間を使われているという状況でございました。
 今回,権利制限と例外のところについては,アメリカが相当前向きな姿勢を示したこともありまして,かなり議論が進んだというところが大きな特徴でございます。視覚障害者向けの条約案というのが,南米カリブ諸国グループから出されておりまして,その条約についても,やや少し触れるような質疑応答も行われました。アメリカが条約案の検討も否定しませんでしたし,それから,これまで視覚障害者という言葉を使っていたのを,Persons with print disabilitiesという,活字障害者という言葉を使おうということで,これが今後,視覚障害者にかわって,このSCCRの場では使われる単語として定着したような形でして,必ずしも実際に見えなくても読めない方ということも含めての議論をするということになりまして,今後,次回のSCCRの会合の前に,オープンエンドでこの活字障害者のための権利制限に関する集中協議を開始するということが決まりました。
 一方で,アフリカグループは,視覚障害者若しくは活字障害者に関する議論だけが先行して,ほかの障害者の議論が進まなくなることを大変嫌がりまして,それだけが進まないようにという意味で,逆に活字障害者の議論についての結論の言葉が少し穏やかに修正されたというようなことがありましたけれども,いずれにしても,包括的にこの権利制限と例外についての議論が相当前向きに進むということが決まりました。
 それから,この関係では,今,権利制限に関する質問表を各国に投げかけられることになっていまして,各国がその状況を返答するということも決まりましたし,これまでもやっていたのですが,今後もプラットフォーム会合ということで,関係者によるこの権利制限に関する会合をどんどん開催して,その結果はまた次回報告するようにということになりました。これがまず議案の1つです。
 それから,視聴覚実演の保護と放送機関の保護についての議論ですけれども,視聴覚実演の保護につきましては,もともと2000年の外交会議で19条の部分については暫定合意がなされていて,1条だけが合意できなかったという状況があるのですけれども,したがって19条の暫定合意の部分は基本としようという点では一致しているんですけれども,何せもう10年たっているということもありまして,その後の変化を盛り込むべきだという意見もありまして,その盛り込み方によっては,せっかく暫定合意したものをリオープンするというような危険もあるものですから,そこは相当予断を許さない感じではあります。
 ただ,その19条の暫定合意は基本としながら,今後この議論を進めるために,やはり権利制限の例外と同じように,次回のSCCR会合よりも前に,この議題に関してのオープンエンド協議を開催するということが要請されましたので,この権利制限の例外及び視聴覚実演については,もう一度非公式の会合が,次回SCCRよりも前に開催される見込みです。
 それから一方で,放送条約については,引き続きこれは議題に残していこうということが同意されまして,途上国も相当前向きに進めたいという意向があるんですけれども,アメリカが放送条約のスコープとしてウェブ放送を入れるべきだというような発言をしたために,そういうこともあってなかなか中身の議論に入れずに,引き続き議題に残していこうということだけが確認されたということで終了しております。次回の会合は6月に開催予定でございます。
 SCCRの結論につきましては,この資料の一番最後のページに,結論のポイントが日本語で書かれております。それから,本日の配付資料の参考資料4に,英語の原文の全体がお配りしてありますので,後ほど御参考にごらんいただければと思います。
 それでは,次のページに行っていただいて,これはSCCRで取り上げられている幾つかの案件のうちの,視聴覚実演については非公式協議が昨年9月に行われたというところの御紹介です。このときには,一般的に前向きに進めていこうということぐらいしかなかったものですから,具体的な議論はなされなかったんですけれども,非公式協議が開催されたということ自身が,本件について前向きに進めていくということのあらわれでありまして,この9月の非公式協議の後,先ほど御紹介したSCCRもありましたので,視聴覚実演についてはまたこの春に恐らく再び公式会議が行われる予定です。
 それから,[4]といたしまして,ローマ条約締結国会合が開催されまして,これは大変形式的な会合のような形になっておりまして,したがって,次回会合については何らかの新しい重要な動きがあった後に開くということになったという会合でございました。
 それから,今後は[5]でCDIP,それから[6]でIGCの,それぞれ著作権だけではないんですけれども,著作権も関係する委員会についての御報告をいたします。CDIPは昨年11月に開催されまして,大きく2つ議論としてあるのですが,具体的なテーマ別プロジェクトに関するサブスタンスの議論という話と,CDIPはそもそもどういう役割をほかの委員会との関係で持つかという,調整メカニズムに関する議論のその2つがございます。
 途上国は,調整メカニズムの議論を相当先にしたがっていまして,それはCDIPをほかの委員会に上乗せするというか,ほかの委員会よりも上に位置づけるような委員会にしたいという思惑があって,調整メカニズムについての議論を積極的にしたいというふうに考えていたということがありまして,その進め方自身がまずもめた内容になっているのですけれども,結局議長からは,議題順を変更することなくパラレルに議論をしていこうということで議論がなされました。
 具体的なプログラムについては,読んでいただくとおりなのですけれども,一部話題になっていたのは,知的財産とパブリックドメインというようなプロジェクトについて,いろいろ各国から,そもそもそこに何を入れるかといった話で議論がありまして,引き続き,一部承認されつつ,残りは,次回会合でも話そうということになったりしております。
 それから,調整メカニズムについても,先進国グループとそれからほかの途上国のグループから,それぞれの扱いの仕方について議論がありまして,これも一部引き続き議論する部分と,ある程度合意された部分等ということで,引き続き検討が必要な状況になっております。
 それから最後に,[6]でIGCということで,遺伝資源,伝統的知識,フォークロアに関する政府間委員会ということで,こちら,先ほど総会でまずはマンデートが更新されて,引き続き議論するということになったんですけれども,まだ昨年の12月の段階では前のマンデートの範囲の中での議論ですけれども,昨年12月に開催がなされまして,特にフォークロア,伝統的文化表現のところについては,実体的な条項についての議論がなされたということでして,先進国はずっと伝統的文化表現という定義自身があいまいなので,具体的な更にそれに踏み込んだ議論をするべきではないということをずっと前から主張していたんですけれども,今回議長がメキシコの方になって,割と議長がリーダーシップをとって,先進国の意見もある程度聞きながらもある程度配慮するというような立場をとられたものですから,サブスタンスについてのテキストの議論もやっていくべきだということで,フォークロアについては,大分前に実体条項案は出ていたわけですけれども,今回初めて条項ごとの議論が行われたというところで,これも長年少しずつ進んでいた中,大きく進んだと言えると思われるんですけれども,そういった動きがありました。
 したがって,これもマンデートが更新されて,今後,頻繁に会合が開催されるということになっておりますので,相当議論が前に進むという可能性が高いという状況になっております。
 それは,次回の会合は2010年5月に,まずは次回IGC会合が開催される予定となっております。また,今年,第2回の国際小委員会からの変更として,その後開催されたWIPOの動きを御紹介しているんですけれども,権利制限と例外,それからIGCの部分で相当進展があったというところが今回の御報告の根底でございます。
 それから,これがWIPOの全体的なこの半年の主な動向なのですけれども,もう一つ,今回御報告いたしたいのは,参考資料の3をちょっと見ていただければと思うのですが,国際小委員会の第1回で,模倣品・海賊版拡散防止条約,通称ACTAと呼ばれております会合について御報告申し上げたかと思うのですが,その後何回か会合を重ねておりまして,昨年の11月にこの主要項目の概要というものを公表しております。各国のACTAの状況がどうなっているかということを,いろいろな関係者から透明性を高めるように求められておりまして,この透明性の主要項目の概要ということ自身も,ACTAの会合で話し合った上で報告が公表しているというものです。
 大半は,以前公表したものと余り変わっていないのですけれども,具体的に新たに追加された項目といたしましては,4ページを見ていただいて,この第四節というところに,デジタル環境における知的財産権の執行というところがございます。もともと,この節が何らかあるということはわかっていたんですけれども,昨年11月に韓国でまたACTAの会合がありまして,そこで初めてこの第四節について議論したというような状況です。ACTAにつきましては,今年の1月に次の会合がメキシコで開催予定となっておりまして,各国,2010年の妥結を目指して今議論をインテンシブにやっているという状況です。
 第四節に書いてありますが,そのデジタル環境節に入っております内容としては,例えばオンライン・サービス・プロバイダの法的責任の制限に関する話でありますとか,技術的保護手段の回避ということで,アクセスコントロール,コピーコントロールに関して今議論をしているというような状況になっております。こういったことが,このごろのマルチの会合での動きとしてございます。
 引き続きまして,課長に補足の説明をお願いしたいと思います。

【大路国際課長】 すみません,国際課長の大路でございます。
 御説明させていただいたとおりでございますけれど,WIPOの議論というのは非常に新しくいろいろなことが進みつつあるという中で,少しでも私の方から緊迫感が伝わるような感じの御説明ができればというふうに思っているんですけれども,3点ございます。
 切迫感がある順番に挙げさせていただきたいと思いますけれども,第1点が視聴覚実演の条約でございます。これにつきましては,我が国としても積極的に推進をしてきたという立場のものでございます。今後,早ければ本年の冬にも外交会議が開催されるというふうな可能性も強いものと思っています。
 その際,かぎになるのは,20条のうちの1条を除く19条についての議論,これ10年前に外交会議のときに合意がなされたわけでございますけれども,その合意をそのままの形で維持するのかどうなのかというところが大きなポイントだというふうに思っておりまして,我が国としましては,19条は維持すべきというスタンスで10年間ずっと臨んできておりましたし,それから12月の会合でも,私の方からそういう方針を申し上げたものでございます。
 ただ,実際この議論が前に進展するという段階で,本当にそれでいいのかどうなのかという確認は,やはりとっておく必要があるものというふうに思っているということ。いずれにしても,この19条の議論をリオープンして,また一から始めるというふうになりますと,another 10 yearsと言っておりましたけれども,更に10年間かかる可能性もある問題だということで,いずれにしても関係の団体とも協議しながら,この問題を進めていく必要があるかなと思います。
 2点目の問題は,フォークロアに関する問題なんですけれども,IGCで議論が進められております。中身はこれからでございますので,どの程度,今の著作権の制度に影響を及ぼしてくる仕組みになるのかどうなのかと,まだわからない状況でございます。ただ,途上国が主張しているのは,恐らくフォークロアと言われるものを,知的財産を保護する仕組みと同じような仕組みで保護してくれということかと思います。それはどういうことかと言うと,勝手に使うなということ。それから,使うときはお金を払えというようなことを主張してくるということだろうと思っています。
 このことを仮に今の著作権法の中に入れ込むとすると,そもそも著作権法の保護期間の考え方と相入れないというか,整合するのかどうかという問題があったりとか,そもそも著作者がいないものを守るというのは,著作権という仕組みと合うのかなというものが出てきますので,したがって,必然的に著作権とは別の体系の法律をつくるという形でしか,多分解決策は出てこないだろうというふうに思っています。そういう仕組みをとったときに,今の著作権にどういう影響を与えるのかというあたりの分析は,やはりしておく必要があるのかなと。いずれにしても,出てくる提案を十分に見極めながら検討していく必要があるかなと思っています。
 3点目の権利制限と例外の関係ですけれども,これは一番厄介な問題でございまして,我が国を始め先進国は一貫して,今のグリーン条約にときに,スリーステップテストのもとで十分対応可能な話だということで主張をしてまいりましたし,今後もそういうスタンスには変わりがないと思っております。ただ一方,途上国が何を言っているかというと,著作権制度と権利,著作者を保護する著作権制度と並立する形で,利用者の権利について定める条約が必要なんじゃないかというような言い方をしておりまして,極端な言い方でございますけれども,著作者という一部の者の権利を保護する条約があるんですけれども,利用者というもの,ジェネラルパブリックの権利を守る条約がないという,ちょっと非常に極端な言い方をしていて,正当性を主張しているというふうなことでございます。
 何らかの進展が出る,これが条約になるのかあるいは勧告みたいのにとどまるのかというようなことはあるんですけれども,何らかの進展があるということは不可避の状況になっているということです。
 これも,中身まだわからない状況の中で,どういった点が問題になってくるのかというのは,今後いろいろ見極める必要があると思っていますけれども,少なくとも私が見るところ,3つ大きな問題があると,論点があるかなというふうに思っておりまして,1つは輸出入の規定,それが必要なんじゃないかという主張でございます。
 情報アクセスを阻害しないためには,各国ごとに輸出入の規定が異なっているのではどこかで何か行き詰まってしまうので,それはやっぱり国際ルールとして統一的なルールを設ける必要があるのではないかというような主張でございます。これは著作権制度だけの問題にとどまるのかどうなのか,関税だとか外為だとか,ああいったような世界の法律まで影響するような話なのかどうなのかと,今のところ何とも言い難いところがあるのですけれども,そういう問題意識でいるというようなこと。そういったことも含めて考えていくと,結構大きな問題かもしれないなと思います。
 2点目は,技術的保護手段の問題でございまして,何を言っているかというと,視覚障害者が情報アクセスのために,例えば図書館の情報とか,技術的な保護手段がかけられている情報にアクセスするときに,彼らあるいは彼女らが,技術的な保護手段を回避するということを正当化しようということであります。これは契約でオーバーライドできない強行規定としてそういうのを設けるべきだというような言い方をしておりまして,これは視覚障害者というのが対象になる,限定するということであれば,あるいはもしかしたら成り立ち得る仕組みなのかもしれない。そこは私も自信がありませんけれども,仮にこれが視覚障害者の問題にとどまらずに,実は途上国は,視覚障害者の問題を突破口に,社会的経済的な弱者に対する情報アクセスの改善といったこともどんどん視野に入っていると。アフリカなんかの提案は,むしろそういった部分が見られると。
 そうしたものに,経済的弱者に対する情報アクセスの改善のために,技術的な保護手段を破るということを正当化するというような仕組みが仮に導入されるとなると,結構大きな問題。技術的な保護手段という仕組み自体が成り立たなくなってしまうぐらいの大きな問題じゃないかなと思われます。
 3つ目は,スリーステップテストとの関連での問題でございますけれども,これも今後どんな制度が出てくるかということになるのですけれども,通常の利用を妨げる,その可能性があるものをやっても,もしかしたら目的の正当性が優先されるというようなことも出てくるのではなかろうかというふうな,これもまだおそれの程度でございますけれども。これも視覚障害者の問題にとどまる限りにおいては,制度としてもしかしたら成り立つのかもしれない,よくわかりません。ところが,社会的経済的格差というようなところで,そうした利用が正当化されるというふうな形になると,結構,今の著作権制度の仕組みの根幹の部分にもかかわるような大きな問題かなと思っています。
 論点最後に,別個の条約をつくってやっていきましょうというのは,恐らく途上国の意図としては,今のスリーステップテストの範囲の中では対処できないような問題があるんじゃないかというふうに考えているというふうにも見ることができるわけなんです。結構これはいろいろ,いずれにしても大きな問題を幾つもはらんでいる問題だなというふうに思っています。
 ちょっと概略,まだ十分わからない状況で危機感だけあおってもしようがないんですけど,いずれにしましても我が国としては,著作権制度の趣旨だとか,これまで果たしてきた歴史的な意義,これを強調しながら,先進国と歩調を合わせてきちんと対応していく必要があるのかなということで考えているところでございます。

【上原委員】 今,吉田専門官と大路課長の方から詳しく御説明いただいたのですが,一応,政府関係と別のサイドから得た情報というようなことを含めまして,簡単に私の方の報告をさせていただきます。
 今回のSCCR19につきましては,2つの大きなポイントがあったと思います。1つは,アメリカが制限と例外のところで立場を変えたといいますか,立ち位置を変えたということだと思います。これにつきましては,先ほど吉田専門官からお話ございましたが,今まではアメリカ,あるいはその他の先進国も同様の立場でありましたが,自分たちにとって比較的好ましくないような条約の制定というようなものにつきましては,実態的審議に入らずに,その前のところで張り合うという戦法をとっていたわけですが,アメリカが,今回少なくとも障害者に関する権利の制限と例外につきましては,それを受け入れるかどうかは別にして,具体的審議に入るということを明確にスピーチで話をいたしました。
 これは,アメリカ自身の今までのスタンスの変更ということでございまして,それをアメリカ自身が裏書するかのように,そのアメリカのスピーチを終了後,議場に配るということをしております。つまり,アメリカ自身はそこで大きく立場変更を示したということでございまして,結果といたしまして,障害者の制限と例外に関する論議が,今後具体的に相当に進むであろうという,今課長からお話があったことが予想される状況になっているということであります。
 一方で,そのようなことが非常に進んできたために,ラテンアメリカグループは,障害者の制限と例外を先行したい。それに対して,障害者の問題だけではなくて,全体として,先ほどお話ありましたように,制限と例外,社会的弱者を含めた問題として進めたいアフリカグループとの衝突が,コンクリュージョンのところで生じたという状態だったと思います。
 それともう一つ大きなことは,視聴覚実演の外交会議をしようということでございまして,この話題になりましたところ,ほとんどすべての国が,リコンビーニング・オブ・ディプロマティック・コンファレンスということを言いまして,議長が個別に話をしてもらっているのだが,ほとんどコンセンサスが得られているような議論になっていますねというぐらいの状況でありました。
 これにつきましては,数年前からアメリカ及びヨーロッパにおいて,NGOを中心として,権利の移転の12条の問題に余りかかわらずに,まとまった部分だけでさらりと条約をまとめてしまいましょうというネゴシエーションが行われてきたところでありまして,それがアメリカサイドあるいはEUサイドでまとまったところから,急きょ,早く進めようという動きになったというふうに聞いております。
 アメリカにおきましては,重要なものを決めます場合には,関係ロビー団体を政府が集めましてラウンドテーブル会合を行いますが,今回のSCCR19前のラウンドテーブル会合におきましては,すべてのロビー団体がそのようなやり方に対して反対をしなかったということで,アメリカ内がまとまっているということは間違いないという旨,そのラウンドテーブルに出席しておりましたNGOの人から確認しております。
 ただ,アメリカ政府といたしましては,オバマ政権に交代した後に,政府の知財担当者のかなりが入れかわっておりますので,その中から,権利の移転の12条について可能な提案を考えてみたいというふうに思っていらっしゃる方がいるそうで,その分,そうした提案を若干考えてから作業をしようかという動きもあるそうでございますので,先ほどありました,19か条をリオープンするかどうかということと別に,アメリカの中でどういう動きが出るかということによって,この視聴覚実演の外交会議がいつごろ開かれるかということが変わりそうな部分があるということです。これもラウンドテーブルに出ていたNGOから聞いてきた話でございます。
 最後に,全体を通じまして私が感じましたのは,結局条約に対するモメンタムが非常に盛り上がったということが言えると思います。そのために,先ほど大路課長からお話がありましたように,様々な条約について具体的な論議が一気に走り始めるという状況になっているのではないかというふうに思っております。
 最後に,放送条約でございますが,これも政府からの発言は少なかったのですが,実はそういうモメンタムの高まりを受けまして,NGOの発言では,ほとんどの権利団体が,視聴覚実演とともに放送条約も進めるべきという意見を述べておりまして,そうしたモメンタムも進んでおります。
 なお,アメリカがウェブキャスティングも含めて討議すべきと強く主張しましたが,EUは,逆に放送条約を進めるために,2007年の総会のマンデートは厳し過ぎるのでこれを外すべきというふうに主張いたしました。結局この結論といたしましては,参考資料の3ページ目のところに出ておりますが,according to the mandate of the 2007 General Assemblyということで,2007年の総会のマンデートに従ってというのがついております。この4ページ目のところに,そのマンデートが書いてありますが,このマンデートを見ますと,これは飽くまで放送と有線放送に限られたマンデートになっておりますので,一応EUあるいはアメリカの言ったものは,結論としては今回外されて,2007年のマンデートの範囲の中でとりあえず議論を進めるということになっているということでございます。
 すみません,以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 時間の関係もございますが,今御説明いただいた最近の動向につきまして,何か御議論,御質問等ございますでしょうか。
 よろしゅうございますでしょうか。
 はい,どうぞ。

【石井委員】 質問でございますけれども,WIPOにおける議論とACTAの議論というのは何か関係しているんでしょうか,それとも,それぞれ独立のものとしてとらえられているのでしょうか。

【吉田専門官】 それぞれ独立のものとしてお考えいただければと思います。ACTAは,あくまでも参加国11か国案について議論しているものなので,別のものでございます。

【大路国際課長】 ちょっと補足しますと,私の理解では,WIPOはいわゆる全会一致でないと結論が出せないというところで,それで先ほど来出されているように,途上国のスタンスの違いが明らかになっていて,なかなか,特にインターネット上の侵害対策なんかに関して,方向が違ったりするようなところがありましたものですから,ACTAというのは,WIPOの逆に余り議論を待っていてなかなからちが明かないよというふうなところから始まったのだというふうに理解されまして,ほとんど我が国が提唱してアメリカと我が国が中心になって進めているものでございますけれども,我が国と同じような形での問題意識を持っている意識の高い国が集まって,その国の中で合意できる中身をまずつくって,それを世界については広げていこうというふうな形で始まっているものでございまして,必ずしも連動しているということはないと。

【道垣内主査】 よろしゅうございますでしょうか。
 はい,どうぞ。

【小原委員】 この1ページ目のレポートの3段落目の一番下に,参加国は2010年中の交渉妥結を目指しています,というふうに記述されておりいますが,これは交渉妥結して即約化という形で理解をしてよろしいのでしょうか。それとも条約化は,まだまだ先で,この妥結あと途上国を含め議論不参加国に対する取組を行いながら条約化が検討される,という理解でよろしいのでしょうか。

【吉田専門官】 2010年中に目指しているものというのは,条約案の形で交渉している形ですので,交渉妥結というときには,条約案がほとんど合意されているというものを目指しています。実際に国内で条約,批准であるとか国会手続であるとかということはもちろんもっと先になりますので,まず国際交渉を2010年中に終わらせて,条約の案文をほぼセットするということが目指している内容でございます。

【道垣内主査】 よろしゅうございますでしょうか。
 それでは,議題の(3)のその他のところでございますが,事務局より,2国間協議,アジア著作権会議,それからもう一つ資料のこれが重要な点ですが,著作権分科会への報告資料について,御説明いただけますでしょうか。

【井村専門官】 それでは報告いたします。資料3をごらんください。
 文化庁では毎年,海外における海賊版対策の一環としまして,日本コンテンツの海賊版被害が多い国・地域,いわゆる中国,韓国,台湾との協議を実施しております。
 まず中国についてですけれども,昨年10月26日に北京におきまして,中国の国家版権局との第5回目の日中著作権協議を実施しました。ちょうど,昨年の10月というのは中国の建国60周年の時期だったんですけれども,いろいろなイベントとあわせて著作権関係についてのイベントが実施されておりました。
 前回,協議第4回は平成18年,2006年の8月に東京で開催されましたけれども,その後,米国による中国のWTO提訴に我が国が第三国参加しましたことから,中断されておりましたが,約3年ぶりに再開いたしました。
 内容といたしましては,今回の協議再開に当たりまして,日中間の協力体制の強化を図るということで,文化庁と国家版権局との間で覚書を締結するという方向で合意いたしました。また,懸案でありました適法録音物,放送での使用に関する使用料規定が制定されたということなど,中国における著作権保護の進展状況について確認いたしました。
 次に,韓国についてですけれども,こちらは昨年11月10日に文化庁で,韓国文化体育観光部と,第4回になりますが日韓著作権協議を実施しました。これまでの3回はすべてソウルで実施していましたので,今回は東京ということでした。文化体育観光部は,著作権関係を著作権政策課と著作権産業課と著作権保護課という3つの課で所管しておりますけれども,この協議には著作権政策課長ほか,今回は司法警察権を持つ著作権保護課からも参加がありました。この著作権保護課の方につきましては,この協議の翌日に,コンテンツ海外流通促進機構の法制度委員会がありまして,そちらの方でも韓国の海賊版対策の施策について講演及び意見交換が行われております。
 この協議の概要としましては,昨年の7月23日に発効いたしました改正著作権法,これで著作物を繰り返し違法にアップロードする者に対して,韓国の文化体育観光部の長官がアカウント停止命令等を発する制度ですね,いわゆるスリーストライク制度が導入されたということで,この制度について説明をしていただきました。
 また,韓国の著作権団体連盟が設置しております著作権保護センターで,韓国のコンテンツのインターネット上での違法利用の監視とか取締り活動が実施されているんですけれども,こちらに日本コンテンツにつきましても同様に対処してほしいというふうに求めましたところ,関係者間で覚書等を結ぶなどして前向きに民間同士で取り組んでいただいて,あと韓国政府としてもこれに積極的に支援するというような旨の発言がありました。
 1枚めくっていただいたところで,今度は台湾です。昨年の11月26日に,こちら東京で,台湾の経済部知財局との間で実施しております。台湾とは,国交がありませんので,日本の財団法人交流協会と台湾の亜東関係協会が,今回で第34回になりますけれども年1回開催しております貿易経済会議に,両政府からオブザーバーとして参加して,知財分科会という場で実際の協議を行いました。
 概要につきましては,こちらも,昨年5月13日に台湾の立法院で可決しましたISPに関する著作権侵害情報の削除要請手続とか,いわゆるスリーストライク制度というかそういうものを盛り込んだこの著作権法改正が行われましたので,こちらについて情報を収集しました。また,日本製の映像コンテンツを台湾へ輸出する際に,原産地証明というものが必要となっておりまして,これの廃止を要請いたしましたけれども,台湾側からは結論としては現行維持ということのことがありました。
 次に,資料4ですが,アジア著作権会議の開催についてです。この会議の趣旨としましては,こちらに書いてありますとおり,インターネット上の著作権侵害に効果的な対策をするためには,国際的な協力枠組みの構築が必要ということで,政府機関・民間間で協力の枠組み等について協議をしようということで,文化庁と著作権情報センターが主催して,2月24日から26日まで,新宿にあります京王プラザホテルで開催いたします。
 参加予定者としましては,アジア著作権会議と言っておりますので,アジアとして我が国とあと中国,韓国,それとオーストラリアから参加者を含んでおりまして,あと,招へいゲストスピーカーとしてフランスの文化コミュニケーション省の方も呼んでおります。あと,権利者団体等につきましても,我が国はCODA等と,あとオーストラリアはレコード協会とか,中国音像著作権集体管理協会,韓国の先ほどありましたけれども著作権保護センター,あとMPA等が参加いたします。
 期待される効果としましては,今回この会議を通じて,国境を越えて取り組む体制を構築したいという,そういう方向に向けての契機としたいということです。
 以上です。

【道垣内主査】 それでは資料5に入る前に,資料3と4につきまして,御質問等ございましたらお伺いをしたいと思いますけど,いかがでしょうか。
 よろしゅうございますか。
  それでは,その他の中の資料5についての議題でございます。事務局から御説明いただきたいと思います。この国際小委員会は今回が最終回で,1月27日に開催が予定されております分科会におきまして,国際小委員会としましてはこの案をもとにした報告をするというのが原案でございます。資料の御説明をお願いいたします。

【吉田専門官】 資料5を御覧いただきたいと思うのですが,これまでの2回の国際小委員会と,それから本日事前に予定されていてわかっている内容については織り込んでいるというもので,来週の著作権分科会への報告の際の案として作成いたしました。
 簡単に御説明いたしますが,まず「はじめに」のところで,今回国際小委員会においては,第1回で以下の4つの課題について検討するということになりまして,1番目の国際裁判管轄・準拠法についてはワーキングチームにおいて検討いただき,(2)から(4)のこの3点については,適宜国際的な動向であるとか,文化庁で行っている調査の概要といったことを御報告しながら御審議いただいたということになっております。
 2番の審議の状況というところで,この4つのそれぞれについての状況も少し詳しく書いてありますが,(1)のところで,ワーキングチームを設置して,ワーキングチームとしての報告書を取りまとめたということで,報告書の主な内容を,少し文字を小さくしてあるのですが,抜粋して書いてございます。それが(1)の国際裁判管轄・準拠法の部分です。
 (2)のインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応ということにつきましては,第2回国際小委員会において事務局から,文化庁が行っている調査の状況につき御報告いたしまして,また,先ほど事務局より二国間協議の御報告などをさせていただきましたが,そういったところでも,インターネット上の対策について話し合われたということを紹介いたしました。という点を書いてあります。
 それから,国際的な対応の在り方,(3)と(4)の議題につきましては,適宜WIPOで進められております議論等を御紹介いたしまして,それに基づき御意見を頂いたということを記述してございます。
 最後に,「おわりに」のところで,(1)の裁判管轄・準拠法についてはワーキングチームで御検討いただいて,報告書として取りまとめることになりましたということが書いてございまして,その他の議題については引き続き検討をしていくことが必要であるという記述になっております。
 4番で開催状況ということで,これまでの開催の経緯を書いてございます。
 以上の内容になっております。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  それでは,この資料5の紙につきまして,このような報告といいますか審議経過の報告をするわけでございますが,それでよろしいかどうか,御議論いただきたいと思います。どなたか,いかがでしょうか。
 よろしゅうございますか。
 それでは,この紙につきまして,必要な修正が一部出てくると思います。1ページの下の小さい字の少し上のところ,httpの後が書いていいものも幾つかございますので,そのような修正は主査に御一任いただきまして,完成したものを1月27日の分科会において,資料とともに報告させていただきたいと思います。
 以上で,一応,今期の小委員会としてすべきことは終わったわけでございます。来年度以降どのようになるかということは,分科会において,そもそも国際小委員会なるものが必要とお考えになるかどうかにもよるわけでございますけれども,この審議経過というところにも書いておりますように,WIPOにおける議論は進展する可能性がございますし,あるいは新たな議題,対応すべき点も出てくるかもしれませんので,国際的なことは今後も必要なのだろう,それに対応する御意見を伺う場は必要なのだろうと,私としては思います。
 ここにいらっしゃる方々は,それぞれの御専門のお立場から,この国際小委員会の議題についてそれぞれの関係をお持ちの方々でございますので,本来は小委員会の議題ではなくて分科会の権限ではありますけれども,今後の国際的な課題としてこういう問題を取り上げてはどうかとか,これは業界としては問題だとか,あるいはもっと広く日本国として取り組むべきではないかとか,その他の観点からの問題意識も含め,何か御意見がおありであれば,残った時間伺いたいと思うのですが,いかがでしょうか。
 はい,どうぞ。

【上原委員】 先ほど大路課長からお話がありましたように,WIPOの中では本当に条約に向けてのモメンタムがふつふつとたぎるようになるかもしれない状況でございますので,国際小委員会,是非続けていただきたいというのがまず第一にございますが,その中でも当然,視聴覚実演などは,もう数年来ずっと国際小委員会でも,あるいは知財推進計画でも早く実現すべしということで進んできたものでございますので,これはそれを見守っていくということが一番大きなことになろうかと思いますが,先ほど大路課長からもございましたけれども,気になるのはフォークロアの問題でございます。
 これは,この国際小委員会でも数年前に論議をいたしまして,これは著作権の問題ではないと,対応するとしたらスイジェネリスであろうという話は,この国際小委員会でいったん話がまとまっていたと思いますが,今回,12月のIGCの会議におきまして,具体的な条約の案文についての議論が始まったという状況がございますので,これは当然,我が国としてはスイジェネリスしてしか扱えないと思いますが,いかなる影響があるのか,あるいはどのような内容のものが進むのかという具体のところについては,来年度はその辺を気をつけてウォッチするといいますか,あるいは必要に応じて研究するといいますか,そうした部分をちょっと気をつけて対応することができればいいのではないか,あるいは気をつけて対応する必要があるのではないかというふうに思っておりますので,その旨御検討いただければと思います。

【道垣内主査】 そのほか,いかがでしょうか。
 小委員会でこれまで取り上げられてきた議題でも,特にこれは重要だという,今のような御指摘でも結構でがございます。どうでしょうか。
 先ほど,視聴覚実演の条約について,まとまっている19か条だけの条約を仕上げてはどうかという意見や動きもあるということですが,この点,日本としてもそういうことでよろしいのでしょうか。私は権利移転の規定がない条約が採択されることが,我が国に与えるプラスマイナスといいますか,1ちょっとその辺よくわからないのですけど,いかがでしょうか。

【上原委員】 それは2000年の外交会議のときに,私も対処方針を決めるときに関係団体の一員として関係しておりましたので,12条の権利の移転という項目があるという前提で,一応19か条をつくっていって,対処方針をつくったというところがございますので,極端なことを言いますと,今ある19か条とあと管理情報だけでいいかというと,それはちょっと極端であろうというふうに,当時の対処方針に照らした部分では考えられます。
 つまり,我が国の議論自体が12条において,権利の移転を定めるということを前提に他の19か条を決めておりますので,そこのところで考えますと,別に権利の移転という,非常にトラブルを生むような条項を今回設けるということを日本として主張すべきだとは,それをすると日本がストップさせることになってしまいますので,私は個人的には思っておりませんが,例えばそれぞれの権利の執行については,各国国内法の定めるところによるとか,というような項目が1つ入りませんと,条約の縛りが強くなり過ぎてしまう部分がありますので,そこの部分は当然ちょっと考えていく必要があろうかと思います。それを権利の移転という形で面と向かってやり出すと,当然もめごとになるので,対応し切れないのではないかというふうに思うところでございます。

【道垣内主査】 ハーモナイゼーションしませんと,山本先生のワーキングチームのテーマのひとつである準拠法決定ルールとして,権利移転について準拠法を決めるということになって,物権的問題と債権的問題とを区別してうんぬんということになります。かつてこの条約の審議においては国際私法の規定を入れようとして失敗したんですよね。その結果,現在,各国それぞれ勝手に準拠法を決めるという異なっています。それが,例えば日本の俳優の人たちの権利を守ることになるのか,そういったことが問題なのでしょうか。
 はい,どうぞ,前田委員。

【前田委員】 今もお話がありましたけれども,日本政府の対処方針としては,当然現在の日本の著作権法を改正する必要がないような,日本の著作権法を前提とした条約案,つまり,日本の現在の著作権法と整合する条約案を提案し推進していくと,こういう理解でよろしいでしょうか。

【吉田専門官】 視聴覚実演についてでよろしかったでしょうか。

【前田委員】 そうです。

【吉田専門官】 はい,そうです。

【道垣内主査】 まだ10分ぐらい時間がありますが,特に御質問等,ございますか。
 どうぞ,増山委員。

【増山委員】 2000年の外交会議のときに,視聴覚実演に関して,人格権を始め,実演家に様々な経済的な権利を付与すること並びにその理由付けにつきましては,ほぼすべての国から反対する意見はなかった。むしろ実演家に,こういった経済的な権利,特に排他的権利が与えられた場合に,視聴覚実演の固定物の利用をめぐって大きな議論となった。つまり,映画というものは世界各地で利用されるので,実演家の権利の帰属についてあらかじめ取り決めておかなくていいのか,それとも製作者に移転すべきものか,議論の対象となったのである。また,先ほど国際私法の話,即ち,本委員会のワーキングチームの検討結果に出てきた話とも関連するが,仮に権利移転となった場合には,どこの国の法律を準拠法とするのかといった問題に関しても,大いに議論があった。権利付与に関しては,既にある種の国際的潮流となっているけれども,権利を与えられた結果,現場での利用において問題は生じないのかに関して,意見が分かれたのである。映画製作者側は,やはり契約に基づき権利を製作者に移転すべきだと主張し,一方,実演家側は,権利の移転に関してはそれぞれの国の事情があるので,各国の国内法の定めによるべきではないかとの意見を表明した。
 条約の策定を目指す当時は,この移転の条文を前提としていたわけではない。むしろ,この移転の規定を設けるか否かについて加盟国の間で合意形成ができなかったので,他のアプローチ,即ち先ほど申し上げた準拠法のアプローチによる解決を模索していたのである。いろいろ検討した結果,EU及びアメリカの双方にとって譲れなかった部分があって,結局2000年のときはデッドロックとなって,外交会議は失敗で終わった。したがって,今回の協議再開について,なぜ19の条文の議論を再開しないでほしいというのか,理由はそこにある。
 暫定合意が得られた19の条文内容を見ると,実演家にはいろいろな権利を与えられているけれども,権利の構成は実に様々である。例えば,放送権に関しては,まさに1品メニューのようなものである。当時「アラカルト方式」と言われている部分なんですけれども,つまり,実演家に固定された映像実演に関して排他的権利を与えてもいいし,あるいは報酬請求権のみを与えていい。あるいは,報酬請求権を与えても,その範囲をそれぞれの国が留保して制限をすることができるとされている。また,何の権利を与えなくていいということも可能である。要は国によっては何でもできるような仕組みとなっているのである。一方,人格権に関してはほぼWPPTと同じような内容となっている。そういう意味では,実演家への権利付与に関しては反対はないが,権利を与えられたときに利用の現場でどういう問題が生じるのか,その辺のところでの賛成,反対があったというふうに理解しております。
 以上です。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 それでは,きょうの会議はこの程度にしたいと思います。本日は最後の小委員会でございますので,文化庁次長もいらっしゃっていただいておりまして,最後に文化庁からお言葉を頂きたいと思います。

【合田次長】 文化庁次長の合田でございます。
 本日は,今期の著作権分科会国際小委員会の最後の会合だということでございますので,一言,御礼を兼ねましてごあいさつをさせていただきたいと思います。
 今期の国際小委員会におきましては,ただいま,本日も御報告もございました,著作権にかかる国際裁判管轄・準拠法の在り方を含めまして,大変精力的に御審議をいただきました。特にこのワーキングチームの報告書,大変詳細な調査また分析をいただきました。心から厚く御礼を申し上げたいというふうに思います。
 この問題を含めまして,本日もいろいろ御報告ございましたけれども,世界的な規模でいろいろな動きが,非常に大きな動きが出てくるということも考えられるという状況になってございまして,私どもといたしましても,十分すべての状況をウォッチをしながら必要な対応をとっていきたいというふうに思っておりますけれども,本小委員会におかれましても,引き続き来期もこういった諸問題につきまして御審議をいただき,またいろいろな御示唆,御指導をいただきたいというふうに考えております。引き続きよろしくお願い申し上げます。
 簡単でございますが,御礼のごあいさつにさせていただきます。またよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。

【道垣内主査】 どうも,ありがとうございました。
 それでは,本日の国際小委員会はこれで終了いたします。ありがとうございました。

―― 了 ――

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