文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第1回)議事録

日時:
平成26年9月10日(水)
10:00~12:00
場所:
東海大学校友会館
三保の間
  1. 開会
  2. 委員及び出席者紹介
  3. 議事
    1. (1)主査の選任等について
    2. (2)国際小委員会審議予定について
    3. (3)WIPO等における最近の動向について
    4. (4)海外における著作権侵害等に関する実態調査報告書(タイ)の報告
    5. (5)「教育機関における著作物の自由利用とライセンス・スキームとの制度的調整について-イギリスを例として-」
    6. (6)その他
  4. 閉会

配布資料

○今期の文化審議会著作権分科会国際小委員会委員を事務局より紹介した。
○本小委員会の主査の選任が行われ,道垣内委員が主査に決定した。
○主査代理について,道垣内主査より鈴木委員を主査代理に指名された。
○会議の公開について運営規則等の確認が行われた。

以上については「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(平成二十二年二月十五日文化審議会著作権分科会決定)における1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。

【道垣内主査】  傍聴の方におかれましては、御足労いただきまして申し訳ございませんでした。主査に選任されました道垣内でございます。よろしくお願いいたします。
 では、本日は今期最初の国際小委員会となりますので、有松文化庁次長より御挨拶をいただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

【有松文化庁次長】  それでは、第14期の文化審議会著作権分科会国際小委員会の開催に当たりまして、一言御挨拶を申し上げます。
 まず皆様方におかれましては、御多用の中本委員会の委員をお引き受けいただきまして、誠にありがとうございます。改めて申し上げるまでもございませんが、著作権を巡る国際情勢は近年大きな動きを続けております。WIPOでは一昨年の視聴覚的実演に関する北京条約に続きまして、昨年の6月に視覚障害者等のための権利制限と例外に関するマラケシュ条約が採択されたことを本委員会において御報告を申し上げました。このうち北京条約につきましては、今年の6月に加入の手続を完了いたしまして、我が国は4番目の条約締結国となっております。これらに続きます条約化の候補でございます放送条約につきましては、早期の採択を目指して議論が活発に行われているところでございまして、我が国としても積極的に対応していきたいというふうに考えております。
 また、海賊版対策に目を向けますと、今年の7月に決定されました知的財産推進計画2014などにおきまして、模倣品や海賊版対策の推進がうたわれておりますけれども、より効果的なエンフォースメントが実施されますように、引き続き侵害の発生国における普及啓発活動の支援ですとか、取締機関の職員を対象としたセミナーなどを継続することとしております。その一方で、海外における我が国のコンテンツ保護の実効性を高めるための鍵となります現地の集中管理団体や、政府当局の能力の育成支援なども大変重要なことであると認識をしております。こうした状況を踏まえながら、著作権保護に向けた国際的な対応の在り方を検討していくことは、我が国の著作権法制度や我が国のコンテンツの海外展開の戦略の将来を考えていく上で大変有用なことであると考えております。
 前回の本小委員会におきましては、著作権保護に向けました国際的な対応の在り方、インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応などを取り上げまして、委員の皆様方から御意見を賜りましたが、本年度も引き続きこれらの議題について御審議をいただきたいと考えております。皆様方にはお忙しい中大変恐縮ではございますが、一層の御協力をお願いいたしまして、簡単ですが挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【道垣内主査】  どうもありがとうございました。
 では、議題の(2)番に入らせていただきたいと思います。今期の国際小委員会の審議予定についてでございます。事務局から御説明いただけますでしょうか。

【中島国際著作権専門官】  はい。それでは本小委員会の審議予定について御説明申し上げます。資料の2を御覧ください。
 こちらの資料ですけれども、小委員会の設置についてということで、今年の7月18日に開催されました文化審議会著作権分科会におきまして決定された事項となっております。1の設置の趣旨でございますけれども、文化審議会著作権分科会運用規則第3条第1項に基づきまして、著作権分科会の下に3つの小委員会が設けられることとなっています。その1つといたしまして国際小委員会が設置されております。こちらの小委員会の審議事項でございますけれども、2の(3)ということで、国際的ルールづくり及び国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関することについて審議することとされております。具体的には、例えば著作権の保護に向けた国際的対応の在り方、インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方、フォークロア問題などを扱うこととなっております。こちらについては参考資料、必要に応じて参考資料3及び4を御覧いただければと思います。
 以上です。

【道垣内主査】  はい。ありがとうございます。今御説明いただきました議事内容につきまして、何か御意見はございますでしょうか。国際的なルールづくりの中には、各国の法制の中で日本に参考になりそうな外国法についても審議対象とし、国際的な場で議論すべきものを見出すということも含まれていると理解しております。本日予定されておりますイギリスの例もそういった位置付けで、この小委員会で取り上げることにしておりますので、御了解いただければと思います。
 よろしゅうございますでしょうか。では、先ほど事務局から説明のありましたマンデートを今期の国際小委員会で行っていくということにしたいと思います。まずは議事の(3)番目、WIPO等における最近の動向について、これも事務局から御説明を頂き、その上で委員の皆様の御意見を頂きたいと存じます。
 それではよろしくお願いいたします。

【中島国際著作権専門官】  はい。それではWIPO等における最近の動向について御説明申し上げます。資料の3-1を御覧ください。
 昨年度最後の国際小委員会は2014年の1月に開催されましたけれども、それ以降著作権及びその関連分野におけるWIPOの議論として、SCCR及びIGCがそれぞれ2回ずつ開催されました。SCCRにおいては放送機関の保護と権利の制限と例外についての議論が、IGCにおいては伝統的知識、伝統的文化表現の保護の在り方について議論がなされております。こちらを順に御説明申し上げます。
 まずSCCRについてでございます。こちらは第27回会合が今年の4月、第28回会合が今年の6月に開催されております。議題が大きく分けて2つありますけれども、1つが放送機関の保護、もう一つが権利制限と例外ということで、まず放送機関の保護についてですが、簡単にこれまでの経緯を御説明申し上げます。
 1998年11月以降、デジタルネットワーク化に対応した放送機関の保護に関する新たなルール、いわゆる放送条約ですけれども、この策定の検討がなされています。しかしながら長い間の議論にもかかわらず、各国の法制の違いなどに起因して、現在のところ合意に至っておりません。今、2007年のWIPOの一般総会で決定されたマンデートに基づきまして議論を継続しておるところで、SCCRの第24回会合で作成されましたシングルテキスト化された作業文書に基づいて議論がなされております。こちらの最新版のテキストについては3-2ということで資料をつけさせていただいておりますので、必要に応じて御参照いただければと思います。
 こちらの議論につきましては、我が国はこれまで積極的に条約形式の提案をするなどして対応してきているところでございますけれども、昨年度の国際小委員会でも報告させていただいたとおり、昨年の12月に各国の意見の懸隔点の1つであったインターネット上の送信行為をどうするかという点について妥協点を見出すために、そのインターネット上の送信行為を条約上の任意の適用対象とする提案を出しております。こちらの議題については、先進国はもちろんのこと、アフリカ諸国の一部やメキシコなど途上国も前向きな姿勢を見せておりますので、できるだけ早期の条約採択を目指していきたいと考えております。
 現在の論点としましては、そこに書いておりますようにインターネット上の送信の保護の在り方、固定後の権利の扱い、放送前信号の保護の在り方、暗号解除などが挙げられています。第27回、第28回の会合では適用の範囲、こちらは条約のテキスト上では第6条ですけれども、放送機関が行っているどのような送信を保護するかということ、保護の範囲、第9条ですが、第三者によるどのような行為に対して放送機関に保護を与えるかということについて、概念的な議論が行われております。
 まず適用の範囲、第6条についてですけれども、これまでの長い議論の結果、伝統的放送、有線放送の保護についてはこれを条約の保護対象とすることはほぼ合意されております。今、議論の焦点は、各種のインターネット上の送信の扱いに当てられております。議論になっているインターネット上の送信については次のページの四角の中に記載させていただいております。4種類挙げられておりまして、放送番組の同時ウェブキャスティング、異時ウェブキャスティング、オンデマンド送信、インターネットオリジナル番組の送信と、この4種類が議論をされたわけですけれども、このうち(4)番目のインターネットオリジナル番組の送信については条約の対象から除くということで、ほぼ合意に至っております。しかしながら、残りの部分については引き続き議論するということになっております。こちらについては主要国のスタンスを別紙の1にまとめておりますので、7ページ目を御覧いただきたいと思います。
 こちらが各種の送信の種類と主要国のスタンスをまとめた表となっております。一番左のカラムが国、あるいは地域グループの名前、2番目のカラムから右は各送信ごとの各国のスタンスという形となっております。まず送信について順に説明させていただきますが、伝統的放送・伝統的有線放送、こちらについては一部ブラジルがまだ態度を明確にしていない部分はありますが、これを条約上の義務的保護とすることに反対している国は今のところございません。それから伝統的放送機関によるインターネット上の送信ですが、こちら4つありまして、まずこれは放送番組に関係するものとインターネットオリジナルの番組に関係するものという観点から、一番左から3つについては放送番組に関するもの、一番右はインターネットオリジナル番組に関するものという分け方ができます。それから、その左の3つのインターネット上の送信のうち、左の2つはウェブキャスティングということで、こちらについてはアスタリスクの1で御説明させていただいておりますけれども、いわゆる送信機関自身が指定したスケジュールで行われるインターネット上の送信ということで、視聴者が番組の視聴のタイミングを選ぶことができないという類いの送信でございまして、これは放送に類似したものというふうに考えられると思います。その一方でオンデマンド送信につきましては視聴者の要求に応じて行われるということで、視聴者側が見るタイミングを選ぶことができるということで、ウェブキャスティングとはまた別のインターネット上の送信という扱いがなされております。
 それぞれの送信に対するスタンスですけれども、日本は昨年12月に出している提案に基づいて、インターネットオリジナルの番組については要らないという一方で、ウェブキャスティングについては任意でオンデマンド送信は要検討としています。アメリカについては、ウェブキャスティングのうちサイマルキャスティングは少なくとも欲しいけれども、ほかの異時ウェブキャスティング、オンデマンド送信については要検討、EUは全て欲しいといったような形で、各国のスタンスが表明されております。インドにつきましては以前から御報告申し上げておりますとおり、全て保護対象とするべきではないという主張を続けておりまして、ここをいかに説得するかというのがこの条約上の1つのポイントとなるかと思います。それからブラジルについても、まだスタンスを明確にしていない状況がずっと続いておりまして、こちらについても情報を収集しつつ説得するという作業が必要になるかと思っております。
 以上が送信に関するもので、戻っていただきたいと思います。
 2ページ目の2行目ですけれども、ここまでがインターネット上の送信についての話ですが、そのほか放送前信号の扱いについても議論されましたけれども、こちらについてはアメリカが通常の放送と同様に排他的権利を与えるべきと主張しております。その一方でEU、カナダなどは、例えば放送機関が権利を持っていない場合があるとか、イベント主催者が複数の放送機関にライセンスを与えることがあるとか、そういう理由によって普通の放送と放送前信号とを同じように扱うのは好ましくないのではないかというような発言をしております。
 以上が適用の範囲についてのお話です。
 それから(ウ)の保護の範囲につきましては、議論の対象になった行為、こちらがアスタリスクの2ということで四角に囲っておりますけれども、ここに記載されている行為のうち、1番目と2番目、同時再送信、ほぼ同時の再送信、この2種類の行為については伝統的放送機関に権利を与えることについて、ほぼ合意に至っております。ただこれは、テキストでどういう書き方をするかという、細かいところまでは議論されておりませんで、概念として条約に入れるのはオーケーだろうという議論となっているところです。そこは揉めていませんが、1つの論点となっているのは固定物を用いた再送信です。3番目の送信ですけれども、こちらについてはアメリカが、固定物に関する権利を放送機関に与えることはコンテンツの保護と重複、いわゆる著作権の保護と重なってしまうということで好ましくないと主張している一方で、EUはあらゆるタイプの再送信を保護の対象とすることが重要だということを言っています。特に再送信に関する権利はローマ条約で既に規定されている固定権、複製権に比べて、条約に規定する優先順位が高いというふうな発言をしております。我が国としては利用可能化権がインターネットの時代において非常に重要であるということを主張しているところでございます。
 以上が放送機関の保護に関する話です。
 続いて、(3)の権利の制限と例外について、まずこれまでの経緯ですけれども、主に途上国側からの主張ですが、インターネットの普及により、知識に容易にアクセスできるようになったにもかかわらず、著作権保護システムが邪魔になっているということで、パブリックドメインの確保等を実現するための権利の制限と例外の措置を設定すべきという話が出ております。この主張が2004年のSCCRにおいて議題化され、そこから中南米による権利制限と例外に関する提案がなされて以降、実質的な議論が開始されております。従来から御説明させていだだいておりますが、途上国は法的拘束力のある国際規範をつくるべきだと言っている一方、先進国はスリーステップテストがあるからいいじゃないかということで、各国、比較的自由度の高い制度設計を可能にするような枠組みとしておくことが重要であるという主張をしております。
 権利制限と例外につきましてはこれまで3つの観点で議論がなされておりまして、1つ目は視覚障害者のため、2つ目は図書館とアーカイブのため、3つ目は教育機関、研究機関のための権利の制定と例外ということになっておりまして、このうち1つ目の視覚障害者のための権利制限と例外については、マラケシュ条約の採択に至っておりますが、ほかの論点については先進国と途上国の対立構造が継続している形となっています。
 SCCR第27回、第28回の概要ですけれども、実質的な議論がなされたのは図書館とアーカイブのための権利の制限と例外のみでございます。四角の中に記載させていただいております11のトピックは途上国から出されているわけですけれども、第27回会合ではこれらについて各国の取組が紹介されております。これに引き続きまして、第28回会合ではアメリカがこの提案とは別の、目的と原理に関する提案を提出し、これを議論すべきと主張したところ、先進国側も支持したのに対して、ブラジルなどは既存の文書に基づく議論を前に進めるべきだと主張して、かなり揉めましたが、議長から総論、米の提案に基づく総論を議論した後、特定のトピックに関する議論を行うというやり方で話を進めようということになっております。この中でブラジルなど途上国は、特にデジタルの時代に対応した図書館とアーカイブのための権利制限と例外について、新たな国際的枠組みの必要性を主張する一方で、アメリカ、EUは既存の国際的義務が十分機能しているということでプラクティスや法制度の紹介を続けるべきであるとしております。作業文書中に幾つかのテキスト提案がなされていますが、途上国はさらにこれを統合しようという提案をSCCRの中でしているものの、これに対してテキストの統合自体も議論の前進につながるということで、アメリカ、EUが反対しているという形になっています。
 それからその他ということで、委員会の結論ですが、毎回会合の最後に今回どういう議論をしましたという形で結論をまとめる必要があるのですが、そちらについて途上国、先進国の間で議論がまとまらず、第27回会合、第28回会合とも議長がまとめた結論が作成される形になっています。第27回会合については、図書館とアーカイブに関する議論がテキストに基づくものであったと明記したいラテンアメリカ諸国・アフリカ諸国と、これを結論に記載すること自体が議論の進展を意味するとして反対する先進国との間の懸隔が埋まらずに終わっております。第28回会合についても同じような状況でして、放送条約の議論を優先的に進めたい先進国、特にEU諸国はかなり積極的ですが、そういう国々と、放送の議論を進めるのであれば権利の制限と例外についても進めろと、パッケージとして扱え、という途上国の思惑が相違することに起因して、これまたまとまらずに終わるという形になっております。
 今後の予定ですけれども、次回会合は12月に予定されておりますが、議題の時間配分などに関する結論が得られなかったということで、何も決まっていない状況です。具体的なやり方については今月末に行われる一般総会で決定されると思われます。
 以上がSCCRです。
 引き続きまして、IGCについて御説明いたします。こちらについても委員会が開催されております。
 まず経緯ですけれども、WIPOのIGCという会議では、遺伝資源、伝統的知識、伝統的文化表現の保護の在り方を知的財産の観点から、専門的かつ包括的に議論することを目的に、2000年以来、2年ごとにマンデートを更新しながら議論を継続しています。今は遺伝的資源、伝統的知識、伝統的文化表現の効果的な保護を確保するための国際的な法的文書について合意することを目的に、テキストベースの交渉を行うというマンデートに基づいて、分野ごとに議論が行われています。こちらについても権利の制限と例外と同様に、新たな保護の枠組みを求める途上国と、それに慎重な先進国の意見の懸隔が大きいところです。議論の中では、途上国側はできるだけ広く権利をとりたいということで、伝統的知識途上国は、伝統的知識、伝統的文化表現のそれ自体や受益者の範囲をできるだけ広くしたいということ、あるいは受益者に経済的権利を含む強い権利が与えられるように、ということを主張する一方で、先進国はできるだけこの範囲を狭くしたいということで、例えば保護対象がパブリックドメインに及ばないこと、受益者はあくまで地域社会等に限定されるべきであることなどの主張をして、対立しております。
 2回の議論の概要ですけれども、まず第27回の概要ですが、伝統的知識伝統的知識、伝統的文化表現をテーマに分野横断的な議論がなされております。資料の(ア)(イ)(ウ)と3つの観点で主に議論がなされております。まずそれぞれの定義ですけれども、これまでなかなか意見がまとまらなかった理由の1つとして、「伝統的」という言葉の定義が困難であるという認識がございまして、これを何とかしようということで、定義自体は包括的なものとする傍らで、受益者との結びつきを何とか規定することができないかと、こちらを模索する方向で議論を進めようとしております。伝統的知識と伝統的文化表現の相違点については、伝統的文化表現はエクスプレッションであるということに留意して議論をしていくべきだということとされています。
 それから受益者の範囲については国の扱いが非常に大きな問題点となっておりまして、インドネシアやアフリカ諸国は島嶼国で構成されていたり、地域社会の存在に関係なく国境線が策定されたというような歴史を持っているということで、地域社会がどこにあるのかというのを特定するのが難しいため、国を受益者とするべきだと主張しているわけですけれども、先進国はそれは好ましくないということで、意見の懸隔は解消されていません。
 それから保護の範囲については、秘匿性のレベルに応じて段階的に保護内容を変える階層的アプローチということで、こちら別紙2の最後のページに記載されておりますけれども、この図、ピラミッドの形になっていますが、高さがその保護の程度の強さをあらわしていて、横が公衆への広まりの程度を記載しております。広まりが広いほど保護の措置を弱くして、広がりが狭いほど保護の措置を強くするというようなアプローチができないかということで、今3つの段階に分けて議論できないかということとされています。
 戻っていただきまして、こういうアプローチが提示されてはいるものの、用語の定義とか、具体的にどういう保護を与えるかということについて、各国の間にまだまだ意見の懸隔があるということで、なかなかまとまらないという状況になっています。それが第27回の話ですが、第28回についても、今度は遺伝的資源も含めて分野横断的な議論がなされておりますけれども、実際は先ほど申し上げた段階的、階層的アプローチの議論に多くの時間が割かれております。ただし、第27回と同じように、それぞれの段階をどのように区別するか、どのようなものが含まれるかといったことをはじめとして、数々の問題点が指摘されており、学術的な議論とか、抽象的な議論が繰り返されるにとどまっておりまして、具体的な進展は得られていないというのが現状であります。
 こういうサブスタンス的な話に並行して、来年度どうするかという作業計画についても非公式協議が行われましたが、その会合の日数とか、ハイレベルの会合を実施するか否かということについて意見の対立がなかなか解消しないという状況に加えまして、アフリカグループが2015年中の外交会議の開催を強く主張しているものの、先進国は強硬に反対しておりまして、これに合意が得られないという形に今のところなっております。
 今後の予定としましては、次回会合の日程等、今のところ不明でございまして、これもSCCRと同様に、今月末のWIPO一般総会でテキストの現状評価等を含めて検討が行われる予定となっております。  以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。この小委員会はこの分野についての御専門の方々、あるいは関係の方々にお集まりいただいておりますので、今の御説明をただ聞くというだけではなくて、日本国としてどうしていくべきかという観点から御議論いただきたいと思います。まずは今の御説明について何か質問、御質問等ございますでしょうか。どうぞ。梶原委員。

【梶原委員】  放送機関の保護については少しずつ議論が進んでいるような印象を受けております。また今後とも積極的な対応をお願いしたいと思います。1つ質問ですけれども、別紙1の送信の種類と主要国のスタンスで、インドが反対しているということで、1つの鍵だというお話ありましたけれども、その日本提案については任意ということですから、その国において保護してもしなくてもいいですよということだと思うんですが、そのインドについてはこの日本提案についても反対ということなんでしょうか。

【中島国際著作権専門官】  はい。インドのスタンスについてですけれども、インドは従来から2007年の一般総会のマンデートによる、シグナルベースアプローチに基づく伝統的な意味での放送機関の保護に基づいて議論をしたいとずっと主張を続けております。例えばサイマルキャスティングと異時ウェブキャスティングというのは、インドの解釈では、そのシグナルベースアプローチに当たっていないというか、伝統的な放送ではないという主張をずっと繰り返しております。そこのところを、先進国をはじめとして、技術の発展に伴って伝統的放送だけの保護では十分じゃないんじゃないかと言って説得しようとしているのですけれども、インドの国の中での問題がどうもまだ整理し切れていないようで、今のところ説得し切れていないという状況であります。

【道垣内主査】  よろしゅうございますか。
 今の点に関連して、私からよろしいでしょうか。任意にした場合には、その国が守らないと言えば守らなくていいわけですが、そうすると何か不利益があるのかという質問です。例えば番組を輸出するときにそういう国にはなかなか売れないとか、そういったことが起こることが予想されますが、それ以上に何か不利益はあるのでしょうか。そうでなければ多国間の条約にそういう任意の規定を入れることに余り意味がないように思うのですけれども。

【作花長官官房審議官】  私の方からお答えします。条約上、シャル(shall)とメイ(may)という2つの類型でよく議論されるのですが、日本はメイ規定、要するにできるという形で入れたいと。おっしゃるとおり、メイ規定の場合、仮に条約に加盟したとしても法的拘束力はないわけですから、自国も当然義務を負わないし、他方他国において、多分相互主義でこちらの方の、いわゆる著作隣接権の保護対象物が保護されない。ただ、それでは現状と何も変わらないという考え方もあるでしょうが、日本国がメイでも提案している趣旨は、やはりこの条約を促進しなければいけないということと、それから例えばベルヌ条約の追及権も任意でありますけれども、条約上任意であっても規定されるということは世界においてその枠組みを促進するという強い意志が表明されているということでございますから、そういう意味では実態的な意義は大きいと考えています。
 私どもとしては、通常条約でメイといえば大体まとまるのが相場感なんですが、ただインドがなおかつ強硬に反対される折、実のところ論理的にはその理由が我々もなかなか理解できていないところです。これは日本だけではなくて、他の先進国も同様に、なかなかその構造的な問題については理解できておりません。問題さえ理解できればインドの御懸念を解消する条約上の措置というものも可能なのですけれども、当該問題がまず理解できない、把握できないというところで、この会議をやっても、議論はされるけれども前進しないという状況にあります。

【道垣内主査】  わかりました。ありがとうございます。山本委員、どうぞ。

【山本委員】  ちょっと初歩的な質問をさせていただきたい。このウェブキャスティングに同時と異時という区別があります。他方でオンデマンド送信というのが別にあります。ウェブキャスティングの定義からいうと、視聴者がタイミングを選ぶことができないということですから、異時ウェブキャスティングというのはどういうものなのかイメージがわきませんので、ちょっと申し訳ないのですが御説明いただけますか。

【中島国際著作権専門官】  はい。御質問ありがとうございます。放送番組の異時ウェブキャスティングというのは、これはある意味放送の世界で独特な表現のようでして、技術的に必要なタイミングのずれがあるということで、例えば放送事業者が最初に通常の放送を流した後に、技術的にインターネット上に流すために変換する作業が必要であるとか、時差があるからその時差を考えてちょっと発信するタイミングを遅らせるとか、そういう放送事業者が事業を行う上で必要な最低限の時間的な遅れがある場合のウェブキャスティングを指しております。その一方で同時ウェブキャシティングというのは完全に同じタイミングで放送とインターネット送信が同時に行われるというものを意図しているということです。オンデマンド送信については、逆に放送事業者の立場ではなくて、視聴者側の選択によってという形です。

【道垣内主査】  よろしゅうございますか。どうぞ、笹尾委員。

【笹尾委員】  感想めいたことになってしまうんですが、この放送条約に関しましては本当に時を要する、10年でも20年にならないといいなという感じなんでございますけれども、日本民間放送連盟はメンバーを派遣しまして、この議論に関してもモニターをしておりますが、実際には聞くところによりますと、この先進国グループの中では中心的な役割を果たしているアメリカ、それからEUにおいて、条項において大きな歩み寄りもあり、これはいけるのではないかというものが会場にも流れたということがあったようでございます。ただ、先ほど来御説明のあったような段取りの問題といいますか、国際会議ならではの構造的な問題というんでしょうか、その辺で、言ってみれば次のスケジュールさえ決め切れなかったというのは非常に残念ではあります。ただ、いわゆるこの条約の中身になってくるであろうものに関しましては、それこそ日本のいろいろな提案も含めて、日本が向かっている方向にかなり前進はしているという良い面も見られたという報告も受けております。いずれにせよ、早期の条約実現に向けて、さらなる御指導をお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【道垣内主査】  ありがとうございました。そのほか、よろしゅうございますでしょうか。ほかのテーマもございますが、よろしいでしょうか。
 では引き続き御検討いただき、また政府の方でも御対応いただくということにし、次の議題の(4)番目、海外における著作権侵害等に関する実態調査報告でございます。タイについて、席上袋の中に入っている報告書が用意されておりますので、この点につきまして事務局から簡単な御説明の上、新日本有限責任監査法人の福井健太郎様から御説明いただき、その後、委員の皆様の御意見を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

【堀尾海賊版対策専門官】  それでは、資料につきましては配付資料の4になります。また、委員の皆様には机上で配付しておりますこちらの緑の報告書が詳細な調査結果となっております。
 まず事務局の方から今回の調査の趣旨等を簡単に説明させていただき、その後今回の調査委託先である新日本有限責任監査法人の方からデータ等に基づく報告をしていただきます。
 文化庁では、各種海賊版対策としていろいろな事業を行っておりますが、その侵害国における実態調査を行い、効果的な海外における海賊版対策を企画立案する上での基礎資料とするため、今回平成25年度の事業としてタイにおける日本のパッケージ、及びノンパッケージ型のコンテンツに係る著作権侵害の実態を調査分析するとともに、コンテンツの種類別の流通利用形態、侵害規模を推計するための調査を実施いたしました。
 この報告書につきましては本年6月に文化庁のホームページにて公表し、本日配付しておりますこちらの概要及びパワーポイント資料、また報告書全体につきましても、文化庁のホームページにて公開させていただいております。
 資料4の1ページ目におきまして、大体の概要をまとめさせていただいておりますが、調査結果のポイントや具体的なデータにつきまして、2ページ目以降の新日本有限責任監査法人の方から報告をしていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【福井氏(新日本有限責任監査法人)】  御紹介にあずかりました新日本有限責任監査法人の福井と申します。本日発表を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、このパワーポイントの資料で説明させていただきます。今回タイにおける著作権侵害等に関する実態調査ということで、まず1ページめくっていただきまして、2ページ目がこの資料の目次でございます。3ページ目に調査の目的と方法について記しておりますので、そちらをまず説明させていただきます。
 調査の目的は海外における効果的な海賊版対策の企画・立案のためということで、調査対象国、地域ということでは、タイ全土を対象としております。調査対象コンテンツ類型につきましては、映像としてアニメ、映画、テレビ放送番組、あと音楽、ゲームソフト、出版物についてはコミック、雑誌、書籍を対象としております。
 調査対象コンテンツの流通経路として大きくオンライン流通とパッケージ流通、そしてテレビ放送・映画館等ということと、タイにおいては地上波テレビやケーブルテレビ等で日本のコンテンツが毎週流れておりますので、こちらも今回対象にさせていただきました。オンライン流通につきましては、特定事業者・運営者によってコンテンツ配信するもの、動画投稿サイトやリンクサイト、リーチサイト、P2Pサイト、P2Pソフトによる流通、ストレージサービス、インターネットを介した知人間の流通であったり、電子メールやメッセンジャー等による知人間の流通というものを対象にしました。パッケージ流通につきましては、実店舗によるパッケージ販売や通信販売、そして中ほどに書いてございますけれども、ハードディスクドライブやUSBメモリー等へのコンテンツのコピーサービスを対象とし、コンテンツ入りの外付けハードディスクドライブを販売するというものも対象にしております。テレビ放送、映画館につきましては、地上波テレビ、衛星テレビ、ケーブルテレビ、あと映画館での上映やライブコンサートの公演というものも対象にしております。
 具体的な調査方法につきましては、この真ん中にございますけれども、まず文献資料の調査をしました。次にタイに正規展開している日本の権利者の皆様にヒアリング調査をして、タイにおける正規展開の状況でありますとか、不正の流通の状況につきましてお話をお伺いしました。その上でグループインタビュー調査ということで、これは日本国内とタイと両方でしておりまして、国内ではタイから日本に来ている学生や働いている方を対象に、タイにおける日本コンテンツの入手状況とか利用の形態等について話を聞いております。また、タイ現地においても、日本コンテンツの人気であるとか、どんなコンテンツを利用しているのかとか、どんな利用形態であるのかという同じようなグループインタビューをしております。そのほかに現地店舗調査ということで、主にパッケージを対象に現地の店舗で、どのような店舗でどんな価格でパッケージが売られているのかというようなところを調査しております。その上のコンテンツ流通サイト調査につきましては、アンケートで回答率が高かったサイト、27のサイトを対象に、具体的にサイト調査をしております。また、これらの調査を踏まえ、今回の調査のメインであるウェブアンケート調査をしているということでございます。
 その左のオレンジ色の箱のところにウェブアンケート調査の方法について書いておりますけれども、こちらは2段階調査をしております。a)と書いておりますものが日本コンテンツの入手経験率の調査ということで、タイの一般のユーザーでインターネットを利用しているモニターの方を1,000件抽出して、日本コンテンツの入手経験率というものを調査しています。このサンプリングに際しては、タイにおける実際の性別、年齢層別の人口構成に合わせてサンプリングをしております。Aの調査で、日本コンテンツのいずれかのコンテンツ類型で入手経験有りと回答していただいた方にBの実際の日本コンテンツの入手の実態調査をしておりまして、こちらも同じように1,000件対象としているということでございます。
 次のページに進ませていただきます。こちらは日本コンテンツの入手経験率、第1段階目の調査で各国・地域間の比較をしたものでございます。いずれのコンテンツ類型におきましても、タイのコンテンツが一番人気いうことでございますが、地元のタイを除くと日本の入手経験率が高いものとして、例えば7番のオンラインゲーム、9番のゲーム専用機用ゲーム、こちらは2割弱です。11番のコミックにつきましては3割弱ということで、タイに次いで一番人気が高いということでございます。そのほかに1番のアニメや8番のスマホゲームのアプリにつきましては2割を超えて、米国に次いで人気が高いということでございます。全般的に見ますと、タイに次いで米国のコンテンツの人気が高いという傾向もありまして、2番の映画では45.5%であり、5番のテレビ番組、ドキュメンタリーなどについては34.4%であるという傾向が見られるということでございます。
 ページをめくりまして、3番の全体・コンテンツ類型ごとの傾向・特徴ということで、こちらは第2段階目の日本のコンテンツ入手経験有りと答えた方を対象に、どんな入手・視聴の傾向があるのかということを調査したものですが、先に全体像を確認するために11ページに飛んでいただきまして、11ページの6ポツ、コンテンツ類型別経路別の入手・視聴件数ということで、全体の傾向を御説明させていただきます。
 これは一般市民1人当たりの1年間の入手・視聴件数というものをコンテンツ類型別にコンテンツ流通経路別の平均入手・視聴件数を出しておりまして、縦の列にコンテンツ類型で、横の行にコンテンツの流通経路別の平均入手・視聴件数というのを出しております。これを見ると、コンテンツ類型別にはアニメやゲーム、コミックの平均入手・視聴件数が多く、アニメにつきましては一番下の総合計を見ていただきますと64.9件、ゲームの場合には57.6件、コミックの場合には51.4件ということで、これらが突出して多いという結果でございます。逆にオンラインゲームや雑誌についてはかなり少ないということがわかります。
 あとコンテンツ流通経路別につきましては、オンライン流通というのがやはり主流でございまして、この黄色に塗った部分でございますけれども、特に動画投稿サイトやリンクサイト、リーチサイトというところの入手・視聴件数が多いということがわかるかと思います。ただ、パッケージについても、依然として入手されているということも、このアンケートではわかるところでございます。
 それでは6ページに戻っていただきまして、頭の部分で日本コンテンツの全コンテンツ類型合計の一般市民1人あたりの年間平均入手・視聴件数ということでオンライン、単純平均でオンラインが160件、パッケージが71件、テレビ放送等が44件で、全体に占めるオンラインの割合が6割弱ということで一番大きいことがわかります。また、個別の質問の中で、まず入手・視聴頻度が最も高い手段と、それを利用する理由というものを聞いております。アニメ、映画、テレビ番組、音楽、コミックにおいては動画投稿サイトによる流通というものが最も高く、ゲームについてはリンクサイトやリーチサイトによる流通が高いということ、あと書籍については特定事業者・運営者によるコンテンツ配信の入手・視聴頻度が最も高いという結果が出ております。そして総じてコンテンツの特性に合った利用形態が主流であるということがわかるかと思います。
 次に、入手・視聴頻度が最も高い手段を利用する理由としましては、当然ながら無償だからという回答が一番多かったのですが、書籍についてはバンコクでは品質が高いからという理由が多くなっております。ここで少し説明させていただきますが、今回タイ全土を対象としてアンケートをしましたが、一応地域区分でもデータはとっております。バンコクとその他の4地域で、全部で5地域に分けてとっていますが、その他の地域は一つ一つの地域のサンプル数が少ないために、バンコクとその他地域ということでまとめて分析をしております。結果的にはオンラインにつきましては、バンコクとその他地域についてはそれほど差はないということなので、余り言及はしませんけれども、ここでは書籍についてはバンコクでは品質が高いからということが理由として挙げられております。アニメとか映画、テレビ番組、音楽、ゲームについては、容易に入手できるという理由についても多かったということでございます。
 次に、7ページ下に参りまして、正規版の認識有無とその認識が入手・視聴に与える影響度というものをオンラインについて聞いてみました。いずれのコンテンツ類型でも、意識するかしないかということであれば、「多少意識する」という割合が5割から6割強ということで、最も高いということがわかりました。意識する人を対象に入手・視聴に与える影響度を聞いてみたところ、いずれのコンテンツ類型においても「正規版があれば正規版を入手するようにするが、海賊版しかない場合には海賊版を入手・視聴する」という割合が最も高く、これは地域差はなく、バンコクでもその他地域でも同様であり、4割から6割ということでございます。
 次に1ページめくりまして、8ページ目に地域間比較による傾向・特徴ということで、バンコクとその他地域について、特徴的なところをピックアップしております。バンコクについては、1か月にコンテンツに消費するお金というものがその他地域と比較すると高い水準にあるということ、またそのインターネットから入手・視聴する場合、正規版の認識有無については、その他地域と比較して「意識する」という割合が高いというような傾向がありました。あと日本のコンテンツのアップロード・公開の頻度というものも、その他地域と比較して高い水準にあるということでございます。
 その他地域について、例えば日本のテレビ番組の人気が、バンコクと比較するとやや高いとか、今回のインターネット調査の中では、バンコクと比較して携帯電話の利用度が高く、コンテンツの入手・視聴によく利用されているというような傾向が出ています。
 9ページに参りまして、オンラインで正規流通をした場合に、ユーザーとしての配信条件としてどういうことを要望するかということについて聞きました。これはコンテンツごとに差が出ており、当然アニメ、映画、テレビ番組についてはタイ語字幕付きであることであるとか、音声がタイ語に吹き替えされていることというのが高くなっております。あといずれのコンテンツでも、高い品質を求めるという傾向が見られました。音楽、コミック、雑誌、書籍では、ダウンロードできることということと、あと音楽については音声がオリジナルの日本語のままであることも要望として高いという傾向が出ております。
 次に10ページに参ります。実際にその配信条件として、価格としてはどういう価格であれば入手したいかという問いにつきましては、当然ですけれども、無償の割合が最も高い傾向でありました。ここに載せているグラフは日本のアニメを正規にインターネット上で入手・閲覧できるようにした場合のコンテンツ1件当たりの価格ということでございますけれども、無償が一番高いのですが、そのほか幾らか、1バーツ3円と換算しますと、例えば100バーツであれば300円ぐらいなんですけれども、一定の価格を払ってもいいという回答者が存在しているということがわかります。ここでは載せておりませんけれども、コンテンツ類型ごとに見ると、映画とかゲームについては、例えば50バーツ、150円以上払ってもいいという方がバンコクでは6割以上という結果が出ております。
 11ページは先ほど説明させていただきましたので、12ページに進みまして、コンテンツ類型別入手・視聴の侵害規模ということで、主にオンライン上の侵害ということで、今回アンケートで回答していただいた平均コンテンツ類型別入手経路別の平均入手・視聴件数をベースに推計をしたという結果をここで載せております。全国と全国ネットユーザーということで分けておりまして、全国というのは人口規模に勘案して推計した結果で、全国ネットユーザーというのはインターネットユーザーをベースに推計したものでございます。
 右側に、これはあくまでも参考ですけれども、金額ベースということで、有料ダウンロードに換算すると幾らかということであるとか、広告費に換算すると幾らであるかということを仮に出しております。有料ダウンロード換算というのは、タイにおけるコンテンツ類型別の正規版パッケージ料金単価の事例を件数に乗じて推計しておりまして、広告費換算についても、ある特定のサイトのページ当たりの、1ページビュー当たりの広告費単価というものを仮に掛けております。これは参考程度にしていただきたいと思います。
 件数ベースで見ますと、やはりアニメ、ゲーム、コミックのところの侵害規模が大きいことがわかります。金額については参考ですけれども、比較的侵害規模が大きいということが今回わかったということかと思います。
 推計方法につきましては13ページに書いておりまして、ここでは説明は割愛させていただきます。
 14ページにアップロード、コンテンツ類型別のアップロードの件数を載せています。一般市民1人当たり1年間ということで載せておりまして、経験有るか無いかということであれば、経験有りという割合が4割程度で、類型別にはアニメ、映画、テレビ番組、音楽が多いという結果が出ております。  最後にまとめとして、15ページに今後の日本コンテンツの不正流通対策の在り方ということで、今回の調査をベースにわかったことをまとめております。まず、タイのユーザーは日本の正規コンテンツに対して一定の対価を払ってもよいと考えている方が一定数いるということ、ユーザーの多くが著作権に対する認識はあるということですけれども、実際に著作権保護の行動につながっていないということがわかったということでございます。
 日本の権利者の対応として考えられる方策としては、インターネット上で正規にコンテンツをなかなか入手・視聴できない中で、海賊版が容易に利用できる環境にあるということが大きな要因でありで、不正流通対策と正規版展開を車輪の両輪として実施していくことが重要であろうということです。実際、今回ヒアリングで日本の権利者のタイにおける不正流通対策についてお伺いしましたけれども、まだ十分とは言えないということで、今後タイの政府当局や現地の代理店等と協力して、不正流通対策を充実強化していくことが必要であろうということです。実際今回店舗調査でも見ましたが、市場では結構な量の海賊版が流通しているということがありましたので、取り締まりを実施して不正流通を減らさないと、正規版の流通を増加しても効果が失われてしまうということかと思います。あとタイの場合には言語の問題とか、維持管理の問題というものがあるので、実際に独自に正規流通展開をするという方法もありますけれども、地元のポータルサイトとか動画投稿サイト、通販サイトと連携して供給・販売するという方法が有効ではないかというふうに考えております。
 コンテンツ類型ごとの不正流通対策の方向性につきましては、映像、音楽につきましては流通しているコンテンツの多くが海賊版ということもあって、ユーザーが利用するサイトというのが今回アンケートではある程度特定化されたということですので、正規展開と併せて集中的に削除要請を図るという方法が考えられます。ゲームについては利用されるサイトが多数あって、リンクサイトやリーチサイトを利用されることも多いため、削除要請をしてもイタチごっこになるため、正規展開を進めていく上ではこのリーチサイト、リンクサイトの対策を考えていく必要があるということです。雑誌、コミックにつきましては、動画投稿サイトを通じてスキャンデータ等を入手・視聴しているということがございますので、これらのサイトを対象にスキャンデータによる不正流通対策を講じるということと、特にコミックについては現地でもかなり人気がありますが、日本の出版時期と早くても1年ぐらいのずれ、遅いと3~4年のずれがあるので、そこのタイムラグをなくして現地で正規版を出版していくことが必要であろうと思います。
 ちょっと長くなりましたけれども、以上でございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。実はもう一つ今日は今村委員に御報告をお願いしておりますので、余り時間はございませんが、今のタイの現状と、それから対策の在り方についての御報告につきまして、御意見、御質問等ございますでしょうか。笹尾委員、お願いします。

【笹尾委員】  どうも御報告ありがとうございました。民放の立場なんですけれども、タイの年齢構成別にまず調査をなさったということで、1点目としてはタイの年齢構成というのはどの辺が一番ボリュームゾーンなのかということと、2点目としては、アニメを除くテレビ番組で、どういったものが人気が高いのかというのを参考までに教えていただけましたらと思います。

【福井氏(新日本有限責任監査法人)】  まずどの層が日本のコンテンツを入手しているのかということにつきましては、やはり若い層ですね。20代、30代というところがやっぱり中心になっておりますが、ただ今回インターネットユーザーを対象にしていますので、その辺の傾向が特徴的に出ているという部分はあるかと思います。
 あと、すみません。もう1件は。

【道垣内主査】  タイでの人気の番組は何でしょうか。

【福井氏(新日本有限責任監査法人)】  人気番組につきましては、中国とか、ほかの国でも同様ですけれども、『ナルト』とか『ワンピース』とか、アニメを中心に非常に人気があるということと、あとドラマについては、『おしん』などの結構日本の昔のドラマは認知されております。やっぱり90年代に日本の文化というのがタイに入り込んでいる。ドラマもそうですけれども、『ドラえもん』とか、そういうところで結構日本の文化に対する許容度は高いし、ポテンシャルはあるということでしょうか。そういう意味では、40代ぐらいまでは日本に対する理解というのは結構あって、コンテンツについてもよく知っています。当然子育て世代ですので、子供の観る番組等を通じて、親も知っているということかと思います。

【笹尾委員】  差し支えなければ、ドラマについては、それこそ大河ドラマ的なものが人気なのか、それとも割と最新のものが人気なのか。

【福井氏(新日本有限責任監査法人)】  大河ドラマにつきましては、特定の番組についてはよく存じ上げてないんですけれども、日本の放送事業者さんが結構出しているのですね。大河ドラマというと特定の放送局を想定してしまいますけれども、日本の最新のドラマも現地で出しているので、医療物であるとか、恋愛物とか、そういったものは最新のものは結構出ていて、人気もそこそこあるという認識でございます。

【笹尾委員】  ありがとうございました。

【道垣内主査】  そのほかいかがでしょうか。これは正規品をちゃんと流通させるのが重要だということですが、市場としてはもう十分大きいのでしょうか。業界の方でないとそのあたりのことはわからないと思うのですが、いかがでしょうか。

【福井氏(新日本有限責任監査法人)】  実際に市場として大きいかどうかということですと、まだまだ顕在化している市場が小さいのだと思います。かなり海賊版があふれている状態で、パッケージについてはもちろん正規版もありますけれども、オンラインでは動画を中心にかなり流通しているので、市場としては、ポテンシャルはあるけれどもまだ顕在化できていないと。顕在化するためにはそれからの海賊版対策を本格的にしていかないと、なかなか難しいのではないのかなという感じでございます。

【道垣内主査】  わかりました。よろしゅうございますでしょうか。それでは、どうもありがとうございました。
 引き続きまして議題の(5)番目、「教育機関における著作物の自由利用とライセンス・スキームとの制度的調整について」について、イギリスを例に今村委員にお話しいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【今村委員】  明治大学の今村でございます。本日は報告の機会を頂きましてどうもありがとうございます。失礼いたしまして、着座したまま続けさせていただきます。
 今回の報告ですけれども、例年の国際小委員会において諸外国で最近取り入れられた法制度や取組、あるいは我が国にはない制度で我が国にとって有用になる可能性のある制度、取組の中から注目すべきものをピックアップして、報告した後に委員の皆様から意見を頂くことによって我が国の制度の在り方を検討する基礎材料とするということをお伺いいたしまして、今年度もこれも継続するという予定とのことでした。今回は文化庁の方ともいろいろ相談しまして、イギリスについて私がいろいろ調べていることの中から、同国における学校その他の教育機関における著作物の利用に関する法制度について、我が国にはない制度面での特徴があるために、我が国にとって有用となる可能性もあると思われましたので、このテーマについて報告をするということになりました。あとは先ほどお伺いしたWIPOのSCCRの今後の検討の際にも何か示唆になる部分があるのかもしれません。
時間といたしましては、質疑応答を除いて20~30分ということでございましたので、少し長くなりますけれども、30分以内には収めたいと思います。資料5の内容に従って説明をしてまいりたいと思います。
 イギリスの法制度の内容を説明する前提といたしまして、日本との比較ということも重要になってまいりますので、孔子に論語ということになる部分もあるかとは思いますけれども、その点については御了承いただいた上で、少しお話しさせていただければと思います。
 まずこの問題を調べた私なりの動機ですけれども、著作権法第35条など、教育機関において私たち教育に携わる者が使える著作権の制限規定というものがあるわけですが、実質的に見て、これらの制限規定というものが真に教育の場面における著作物の利用を促進しているのかどうか、少し疑問に思う部分がいろいろあり、それをきっかけに調べてまいりました。権利制限のある場面では、ライセンスは基本的に不要ということになるわけですから、ライセンスの仕組みに発展しにくいということになります。契約によるオーバーライドが可能であるというふうにいったとしても、それは実際のところ、本来無償で利用できる部分について相当な付加価値をつけないと、オーバーライドして制限規定のある部分を上塗りするということも難しいでしょうし、教育機関にとっては制限規定があればその範囲内で無償で利用しようとする傾向が発生するということになるかと思います。
 集中管理団体と教育機関との間のブランケットライセンスの促進が期待されるところではありますが、第35条を代表として、ほかにも第30条とか第31条、いろいろな制限規定があるわけですけれども、各種の制限規定が適用される部分とそうでない部分との区別が困難で、複写権については特に、我が国では教育機関との関係では集中管理が必ずしもうまく進んでいないように見えます。結果として、技術の発展にもかかわらず、集中管理やライセンスの円滑な仕組みに発展せず、様々な不都合が教育の場面で生じているのではないかと。例えば第35条の適用範囲を超える多人数の授業で複製物を配付したいという需要とか、学内のLANに授業資料をどんどんアップして学生にどんどん見せたいということに対する対応が、必ずしも契約ベースではうまくいっていないと思われるわけです。
 教育の場面において多様な著作物の円滑な利用がなされない結果、長期的に見て、イギリスなどのようにライセンス・スキームの利用可能な国と比較して、我が国の教育水準、とりわけ高等教育の教育水準のレベルが相対的に低下するということが懸念されるということで、本報告では、我が国の法第35条の概要と我が国の文献複写に関する状況を踏まえつつ、比較法的な分析として授業の過程における著作物の利用に関して、我が国と類似する規定を有しているイギリスの例を取り上げて、教育上の複製に関するライセンスの運用状況も含めて、検討の素材としたいと思います。同国を取り上げるのはこの分野に関して、イギリスの法第36条が、ライセンスの制約を受ける例外規定というユニークな制度調整の仕組みとなっているため、この国を取り上げました。
 まず我が国の著作権法第35条ですけれども、これは旧法下では教育上の理由に関する特別の著作権の制限規定というものはなく、いろいろな形で利用されていることについては、教育機関で利用されていることに関しては黙認の状態であったというふうに言われております。現行法の制定に際しても、最初から最後に至るまで第35条のような教育上の理由に関する特別な制限規定を入れるということで一貫して検討が進められてきたわけでもないようでございます。
 昭和41年4月20日の著作権制度審議会答申の説明書では、教育の過程における使用は教育目的の観点から、特段の措置はとる必要はなく、一般的な制限規定の適用、非営利演奏の規定とか、有形複製に関しては私的目的の複製の規定により制限されるという整理がなされ、最初の文化局試案の段階では、この答申の内容が反映されていました。しかし、第35条に関しては最終的に文化局試案の段階での議論で、教室内の使用まで第30条、すなわち私的目的の規定に取り込むという場合には私的使用の目的の複製の適用がそこまで広がることになるが、内閣法制局参事官の菊井氏からそれは良くないという指摘があったことから、法第35条を別途設けたとされ、結果としての第30条の適用範囲はその部分だけ除かれて狭まることになったわけでございます。
 ここでちょっと強調しておきたいことは、立法の沿革を見る限り、第35条というこの枠組みの中で教育の価値というものを著作権に優先する公益として積極的に見出したり、第35条の中で私見と公益を調整するというような仕組みが立法の沿革の中からは余り見られないというところでございます。
 その第35条などを念頭に置いて実際に教育現場などで活動していく過程で、やっぱり問題になるのは複製の部数がどこまでできるのかということでございます。初等・中等教育機関ですと、クラスの人数というある程度経験的なものがあるかと思いますし、また検定教科書というものもありますから、問題が生じない部分もあると思いますけれども、高等教育機関ということになりますと、年によって学生の受講数も変わるわけです。10名程度だったものがいきなり300名程度になったり、いろいろそういうこともあるわけで、なかなか判断が難しい。著作権法第35条ガイドライン協議会というものがございますけれども、その協議会のガイドラインに従うと、原則として部数は通常の1クラスの人数と担任する者の和を限度とするといって、小中高校及びこれに準ずる学校教育機関以外の場合には、1クラスの人数はおおむね50名程度を目安とするというような、具体的な数字を挙げた基準を示しているわけでございます。また、加戸先生の『著作権法逐条講義』では、全校生徒に配るための部数になると問題がありますし、大学教授の講義が受講生300名いるから、学生にそれだけの部数を印刷するということは認められないとあります。ただ、総合的な基準というべきものも示されていまして、結局帰するところは著作権者の著作物利用市場と衝突するかどうかであり、学校等の教育機関で複製行為が行われることによって、現実に市販物の売れ行きが低下するかどうか、将来における著作物の潜在的販路を阻害するかどうかで判断するというようなことが述べられているわけです。
 私の見解としましては、教職員の著作権法に対する理解の程度は、我々法律にある程度親しい者と、そうではない人たちまで様々ですから、なかなかこういう総合的な判断基準だと難しい。また、授業というのも毎年行われる業務という側面もありますから、ある程度明確なルールというものを提示してあげる必要がある、その意味で上記のガイドラインはとてもいいと思うんですけれども、しかしながら現行法の解釈として、複製の部数に関して具体的な数字をルールとして導き出すことはすごく難しい。総合的な基準しか示せないことも法律上はやむを得ないんじゃないか、ということで、理想としては制限規定をオーバーライドするということになったとしても、ライセンスにより契約としてルールを明示しておくということが著作物の円滑な利用にとって有効なのではないかと、少し考えている次第です。
 日本における文献複写に関する集中管理の状況でございますが、文献複写に関する主な著作権管理事業者というものがあるわけでございます。公益社団法人日本複製権センター(JRRC)使用料収入額を大まかに見ておきますと、2012年度の使用料収入額は1億9,700万円程度であり、そのうち1億3,800万円程度が分配されたということです。それぞれの著作者団体連合にこれこれ、JACにこれこれという形で分配がなされております。2013年度は使用料収入額がぐっと上がっておりまして、2億7,300万円程度ということになっております。この分配額はまだ公表されていなかったので、ここには述べておりません。その他の著作権管理事業者としては、今出てきました著作者団体連合や一般社団法人学術著作権協会(JAC)、一般社団法人出版社著作権管理機構(JCOPY)、そして新聞著作権協会があります。これらの4団体はJRRCの構成団体でもありますから、JRRCはこれらの管理団体の管理著作物の利用についても再委託を受けている場合もあります。しかし、JRRCによる利用許諾の範囲がいろいろ限定されている部分もあることも含めまして、JRRCはこれらの4団体から全ての管理著作物のあらゆる利用について再委託を受けているわけではありませんし、その手続が完全に一元化されているというわけでもないわけでございます。
 文献複写の場面におきましても、いわゆる一任型と非一任型というものの区別もございまして、また個別許諾形式と包括許諾形式というような形でさまざまな権利処理がなされるわけでございます。包括許諾契約においても簡易方式と実額方式との区別もあるわけです。簡易方式は、従業員数等に基づいて掛け算して計算し、実額方式は全記録をとって使用料を払うという方式です。文献複写の領域における管理の形態の実態でございますが、JRRCでは合計9万点程度の管理委託著作物について、一任型の管理形態を採用している。使用料は、譲渡を目的としない複写の場合、簡易方式れば、60円掛ける全従業員数という全従業員数に基づく計算方式、または7,500円掛ける全コピー機台数という全コピー機台数に基づく計算方式とがあるわけです。数字をわざわざ挙げたのは、イギリスなどに比べると非常に少ないということを示すためです。実額方式でございますと、3円に複写量を乗じたものとなります。資料中、括弧内に掲げた数字は2015年4月1日以降の金額で、金額が上昇傾向にあるということでございます。
 JCOPYですと、JRRCに再委託する約8万点が一任型、独自管理分の約9万点が非一任型でございまして、JRRCへの再委託については上記のとおり計算されるわけですが、JCOPYが管理するものについては、基本的に委託出版社側の指値で計算されるということになります。このようにJRRCとJCOPYでいろいろ一任型と非一任型を区別している背景としては、文献複写の集中管理のライセンス・スキームを提供することの権利者の利益の影響が出版物の種類によっていろいろ違うことや、医学書の類いと小説の類いでは、その1ページ、1ページのコピーの持つ意味合いが随分違うため、権利者がいろいろと利益の影響について違う意識を持っているということがございます。
 ここまでは日本の状況でございますけれども、この日本の状況の評価については、他国の文献複写の集中管理の状況や規定を見ると、より明確に分かることになると思いますので、次にイギリスの状況について見ていきたいと思います。
 イギリスにおける教育機関による複写による著作物の利用に関して、イギリスで1988年に成立した法律であるCDPA、の第32条以下に規定がございます。複製に関する主な制限規定は36条ということになるのですが、CDPA第32条は授業の説明を目的としたフェア・ディーリングの規定で、教室内で板書をするような規定に対し、あるいは試験問題を作成するというようなケースに適用される規定、第34条は教育機関の活動の過程における著作物の実演等で、音楽の授業で曲を演奏すること等に関する規定で、我が国では非営利演奏等の規定で対応しているものかと思います。CDPA第35条に関しては、教育機関における放送の録音と録画に関する規定です。これらのうち我が国の第35条に相当するのは第36条でございまして、ここは教育機関における発行された著作物の複製、授業で使用するために書籍の一部を複写することがこの規定によって可能になるわけです。
 第35条と第36条に関しては、実は面白い仕組みがありまして、複製される著作物が教育上の利用を許諾する集中ライセンス・スキームに登録されていない場合にのみ適用される規定となります。実際のところは、集中管理団体が教育上の利用を許諾する集中ライセンス・スキームを提供していますので、第35条、第36条というものはオーバーライドされて、そちらのライセンス・スキームの方が優先するということになってございます。第32条と第34条は集中ライセンスが利用できるかどうかにかかわらず適用される規定です。また、これらの規定は十分な出所表示を伴うことを基本的に要件としております。
 2014年に規則によって法改正がなされ、このCDPAの第32条と第35条と第36条の条文の文言が多少修正されるに至っております。以下では我が国の法第35条に相当するCDPA第36条について、今年の6月1日に規則により改正がなされた内容に従って、説明を進めてまいりたいと思います。
 このCDPA第36条の主な内容としては、教育機関はまた教育機関のために一定の条件の下関連する著作物の一部を複製することができるという規定になります。主な条件が幾つかございまして、まず、対象となる著作物について、2014年改正前の法律では発行された文芸、演劇、または音楽の著作物の中からの章句の複写による複製物の作成に限定されていたんですけれども、対象となる著作物が拡大され、他の著作物に組み入れられている美術の著作物及び映画とレコードも、この複製できる対象に含まれることになりました。放送に関しては第35条で対応しているために、第36条の対象からは除外されております。または仮想学習環境(VLE)での学習に対応するための送信を伴う場合にも対応することになりまして、従来の規定の中で「複写複製」とされていた部分が単に「複製」という文言に修正されるに至っております。また、次の条件として、非商業的な目的のための教育指導を目的として複製物を作成する場合であること、3つ目の条件としては、十分な出所表示を伴うということが原則となっております。次の条件は複製が許される分量です。分量について意外と具体的に明記されておりまして、任意の12か月の間に著作物の5%を超えない範囲、例えば300ページの本でしたら1年間に15ページまでということになります。CLAの運用していたライセンスに準拠したんだと思いますが、2014年の法改正前はもう少し細かく区切って規定していたんですけれども、5%を超えない範囲という形に修正をしたようでございます。
 また、この第36条に関して、ライセンスの制約を受ける例外規定、an exception subject to licenceが非常に特徴的であるということから、かいつまんで説明をしてまいりたいと思います。第36条の規定、つまり任意の1年間の間に5%までの複製が可能であるという規定は、ライセンスが利用可能な場合で、複製を行う者がその事実を認識していたか、認識するべきだった場合には、その範囲においては適用されないという例外規定となっております。すなわち、ライセンスが提示されている場合、例外規定はライセンスに代替されるということで、例外規定がライセンス・スキームにオーバーライドされない限りにおいて有効な例外規定ということになります。このような規定は、限定的ではございますけれども、このイギリスのCDPAの他の規定にもいくつか見られるところです。利用可能なライセンスの条件が第36条の定める条件、すなわち年5%よりも厳格となってしまうということも考えられるのですが、法律はその場合には係るライセンス条件は効力を有しないと。例えば1年間で複製量を3%に制限するというようなライセンスについては、その限りでは有効ではないということになります。ただし、ライセンス・スキーム自体は5%までの部分についても有償無償を問わないということになりますので、認められているライセンス・スキームさえあれば、有償で対価が取れるということになるということになります。
 同規定は利用緩和ライセンス・スキームを確保するよう促すためのインセンティブを著作権者に対して与えており、その点に重要性があると評価されておりまして、実際、利用可能なライセンス・スキームというものは、CLAという集中管理団体によってブランケットライセンスとして適用されているという状況にあります。
 イギリスにおける、この複写複製等に関する例外規定の沿革と集中管理の発展の状況等について、少し確認したいんですけれども、例外規定の導入する沿革としては、やはり70年代に入り、教育機関における写真コピーの利用が拡大してきたことにより、関係当事者は集中管理によるライセンスが最善の解決策であると考えた。そしてブランケットライセンスのスキームを提案し出し、実務においてこのライセンスのスキームが実施されるようになった。82年に至り、書籍や雑誌、定期刊行物の複写権を管理する団体としてCLAが創設されるに至りました。大学や学校の代表組織とブランケットライセンスの交渉が開始しまして、その後、法廷闘争などもありまして、CLAの一部のメンバーは大学等を相手に訴訟まで起こして、この交渉をバックアップしたということです。その後、CLAとそのライセンスの仕組みは全ての教育セクターに拡大した。どのくらいの教育機関がCLAとライセンスを締結しているのかは後で数字で確認いたします。1988年に成立した現行法は、こうした集中管理団体におけるブランケットライセンスを円滑に進めるために、前述したライセンスの制約を受ける例外規定として、教育機関の著作物に関する例外規定の導入に至りました。
 CLAの発展状況に関して、CLAの実態を若干見ておきますが、CLAは著作者と出版社の団体から非独占的権利としての著作権管理の権限を授かっております。著作権の管理に関しては、著作者の団体であるALCSや出版社の団体であるPLSとともに機能するのですが、ALCSやPLSは複製に関するサブライセンスをCLAに与えております。CLAはALCSとPLSに手数料を除いたライセンス料の収入を支払う。CLAの収入でございますが、これは2013年度3月末が期末の会計年度において、CLAが徴収したライセンス収入の総額は約7,337万ポンド、これを1ポンド170円で換算しますと約126億円ということになります。国内収入は5,810万ポンド、国外収入が1,530万ポンドで、ここから管理手数料11%程度を控除しまして、また繰越金などを調整した上で分配されたライセンス料は6,684万ポンド、約115億円程度になります。そのうちそれぞれの団体にいろいろ分配がなされて、その状況についてはここに記しましたとおりでございます。新聞に関しましては、新聞社が出版社として有する権利に関して、あるいは著作物としての権利に関して、CLAではなくNLAという団体に譲渡して、そちらで管理しているということになります。
 CLAの、日本のJRRCなどとの大きな違いは、大々的に大学等の教育機関とライセンスを展開しているということでございます。大学との間でCLAは、英国の全ての大学のコンソーシアムであるUUK、英国大学協会との間で合意している高等教育機関向けのライセンスが適用されるということになります。現在の2013年の8月1日から有効なライセンスには、複写による複製のみならず、スキャニングやデジタル複製、プリントアウト、ディスプレイ、インターネットのストレージ、VLEによる利用形態も一定の条件の下、幅広く含まれております。ライセンス料に関しましては、基本的に正規課程に在籍している学生(FTE)1名ごとに年間7.04ポンドとして計算されます。これは当然アカデミックディスカウントの金額になっております。現行ライセンスは3年間有効とされますけれども、細かなことですが、小売物価指数などの変動も考慮されていきます。
 教育機関からの徴収料というものを見ますと、初等・中等学校などから1,380万ポンド、継続教育機関から690万ポンド、日本は検定教科書の制度がございますから、イギリスとはこの初等・中等部分の扱いは異なり、ここから徴収料を取るわけにはいかないので、補償金制度などは別にしてなかなか難しいかと思います。それはさておき、高等教育機関は1,340万ポンド払っております。合計すると3,410万ポンド、約58億円ということになります。したがいまして、教育機関だけで全体の徴収額の半分程度を占めているということであります。また、ライセンスを受けている主体の数を見ましても、企業が5,963件、公的セクターが494件であるのに対して、教育機関は全体で3万2,715件で、学校が3万1,600件、継続教育機関が729件、高等教育機関が386件と、圧倒的に教育関係の契約主体が多い。公立学校の100%、私立学校の87%、カレッジの91%、大学の96%がCLAとライセンスを締結しているということになります。
 英国における以上のような状況で、少し分析をしてみたいと思うんですけれども、イギリスにおける文献複写の集中管理の状況と比較すると、特に教育機関の著作物利用に関するライセンスについて、我が国は少し遅れをとっているのではないかと思われます。徴収した使用料金額を単純に比較しても、2013年度、英国のCLAが日本円にして約126億円であるのに対して、JRRCはその50分の1程度の2.7億円に過ぎないわけです。しかも、CLAは教育機関から約58億円を徴収していると。それでは我が国でもJRRCが教育機関と契約していけば良いということになるのですが、契約自体は実際にあるのですが、法制度の相違もあるため、なかなかうまく進まないという部分もございます。すなわち、著作権の制限規定に該当する場合、文献複写のための許諾は不要となります。また我が国の著作権法第30条以下に、著作権の制限規定をいろいろと置いておりまして、厳格な限定列挙なのか、緩やかな限定列挙なのか、いろいろ解釈があるでしょうけれども、これに該当しなければ著作権侵害になります。でも逆に言うと、形式的に制限規定に該当する限り、一定の補償金を支払わなければいけないとされている場合はあるにしても、基本的には対価は不要で著作権侵害にもならないのですから、その範囲ではライセンスがなかなか進みにくいということになるかと思います。
 イギリス以外の諸外国の主要な複写権管理機構の概要を見ましても、注に書かれた文献など、2008年の文献でございますが、研究・教育機関が主な契約者(被許諾者)であるということがわかります。これに対して我が国の場合には、教育・研究機関における学生や研究者の複写行為は、一般的に第35条のみならず、いろいろな文脈で私的使用の目的の複製がなされたり、あるいは大学であれば大学図書館等における複製等によって、許諾を受けなくても利用できる場合が多い。JRRCはほとんどの国立大学と契約しているということなんですけれども、事務職員だけで計算してきたというふうなことだそうです。ただし、2013年度に国立大学等に対して、職員数だけではなく教員数も従業員に含める旨の通知を行ったということだそうです。ただこれは、恐らく、教授会等の授業の過程以外での教員による著作物の利用を念頭に置いたものであり、現行の権利責任規定をオーバーライドして使用料を徴収するという趣旨の通知ではないのではないかと思われるのですけれども、その点はまだ確認していないので、関係者の方に会ったらちょっと確認をしたいと思います。
 このように見てまいりますと、著作権の制限規定により許される複写行為が集中管理を大きく発展させていく上での足かせになっているという側面も否定できないのではないかと。技術の発展によって時代遅れとなった広範過ぎる著作権制限規定が集中管理等によるライセンス制度の発展を妨げていて、それによって情報財の過少利用が生じているという見方も、一つの考え方として可能かもしれません。大学人としては何か自分の首を絞めるようなことを言っているのかもしれませんけれども、豊富な著作物が利用できるということが教育者としては理想なので、それを妨げている事情があれば何とかしたいということでございます。
 権利の制限ないし例外とライセンスの区別を硬直的に捉えるのではなくて、英国におけるライセンスの制約を受ける例外規定のように、許諾権を正面から認めながら、ライセンス・スキームが実現されるまでの間、言い換えれば市場の失敗が補正されるまでの過渡的な制度調整という意味における柔軟な制限規定という方策も今後検討に値するのではないかということでございます。
 以上が私の報告でございます。どうもありがとうございました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。簡潔に、かつわかりやすくお話しいただきまして、よくわかりました。それでは時間がそれほどあるわけではございませんが、今の御説明、御報告につきまして、御意見等ございましたらよろしくお願いいたします。どうぞ。

【奥邨委員】  すみません。ありがとうございました。少し教えていただきたいのですが、先生のレジュメの5ページの3のところで、CLAと大学等の教育機関とのライセンスということで、単なる複写複製だけではなくて、スキャニングであるとか、それからVLEまで含んでいるというふうに書いておられるかと思います。私イギリスの著作権はよくわかっていないので、その辺もお教えいただければと思うんですが、日本風に言うと、ネット上でVLEで使うということは公衆送信、送信の問題が関わってくるかと思うんですが、その部分もブランケットの中に入っているということなのか、それについてはまた別の何らかの形で処理される、もしくは権利制限規定等々で処理されているということでいいのか、その7ポンドの中身が複製だけのブランケットなのか、それともそういう送信部分も入っているのかということを少し教えていただきたいと思ってお伺いいたしました。

【道垣内主査】  お願いいたします。

【今村委員】  VLEということでありますから、一応セキュリティーで保護されている範囲で、当該受講生と教員のみがアクセスできるという範囲内での利用ということに限られているのではないかと思います。実際にライセンスの条項等を見るとすぐ分かるのですが、今手元にないので何とも言えないんですが、いわゆる一般公衆向けに送信するというようなことは当然含んでいないライセンス内容であるということになるかと思います。

【道垣内主査】  そのほかいかがでしょうか。どうぞ。

【井奈波委員】  権利制限規定である以上、使用できる側が安心して使用できるという法的安定の視点というのも必要になるかと思います。御発表によると、イギリスの場合、ライセンスが受けられるものについてはライセンスを受け、それ以外は例外規定の適用を受けるという感じになると思うんですけれども、どのようにライセンスが受けられるものとそうでないものを切り分けるのでしょうか。CLA加入、集中管理の対象になるものだけなのか、それ以外のものも含むのか、また、それ以外のものも含むとすると、その辺の切り分けはどうなるかを教えていただきたいです。

【今村委員】  集中管理を行うものとしてライセンス・スキームが提供されていれば、そのライセンス・スキームに従って、それがなければ例外規定に従うという切り分けになっています。個別の著作物に関してCLA以外のライセンス・スキームが提供されている場合もあり得るかもしれませんけれども、イギリスの場合にはCLAという団体に非常に権利が集中してございますので、個別の著作物を利用する際、CLAが著作権を管理していないという状況を想定しなくてもよいという状況が確保されている。この点は日本と違うということかと思います。また、個別の団体が、非常に不合理なライセンス・スキームを提供して、不当に高い文献複写料を取る等の問題はあるのかもしれませんし、合理的な対価というものになるように法制度を設計しようという議論はあるようですけれども、CLA以外のライセンスにおいて重大な問題が生じているという状況はないようです。例外規定の適用を受ける際に、利用者の側が戸惑うというような事態があるということは伺っていないので、実際に集中管理がCLAによってうまくなされている以上、その切り分けは余り問題になっていないということのようでございます。要するに、権利が非常に集中している状況にあるということで、特に問題になりにくいということのようです。

【道垣内主査】  よろしゅうございますか。どうぞ。

【鈴木主査代理】  どうも御報告ありがとうございました。多分日本法の第35条についての議論はここの本題ではないと思いますので、それには触れません。権利制限規定とライセンスの関係というのは面白い問題だと思って、非常に興味深く伺いました。EU全域の中で、この英国の制度というのはどういう評価をされているのか、もし何か参考情報あれば教えていただきたいと思います。というのは、欧州委員会はここ数年、著作権に関して法制度の見直しと同時に、ライセンス・フォー・ヨーロッパという、ステークホルダー間のライセンスを通じていろいろな課題を解決していこうというアプローチによる取組を進めてきていると聞いているので、権利制限とライセンスの関係については欧州内でいろいろな議論があると思うんですけれども、そういう中でのこの英国の制度の評価について、お伺いしたいと思います。

【今村委員】  EUのイギリスの制度に対する評価というものは、まだちょっと勉強不足なので余り存じていないんですけれども、この制限規定自体は情報社会指令等の範囲内で例外を規定しているので、その文脈では全く問題がないものとして評価されているわけでございます。また、法制度の見直し、ライセンス・フォー・ヨーロッパなどの流れを見ますと、どちらかといえばこのような方向が支持されるようにも思いますが、そこのところはちょっと不明です。教育機関の利用というものの公益性というものに対する評価は、国によって随分違うと思います。イギリスは、たまたまライセンスという観念を非常に重視する国でありますので、このような仕組みをとるわけですけれども、ほかの国が教育の価値というものをこのライセンスという仕組みにより実現していくというスタンスを取っているのかどうかは、ちょっとわからないところなので、さらに調査が必要なところでございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。時間的にはそろそろでございますので、もし今村委員におかれまして追加の情報提供をいただけることがございましたら、またよろしくお願いいたします。

【今村委員】  わかりました。

【道垣内主査】  それでは、本日の会議はここまでにいたしたいと思います。事務局から連絡事項がございましたらよろしくお願いします。

【中島国際著作権専門官】  本日はどうもありがとうございました。次回の委員会の日程につきましては、追って日程調整をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【道垣内主査】  今日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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