文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第3回)議事録

日時:
平成27年2月19日(木)
17:00~19:00
場所:
文部科学省旧庁舎6階第2講堂
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)海賊版対策の取組状況等について
    2. (2)WIPO等における最近の動向について
    3. (3)ドイツ法における財産権保障と著作権制度について
    4. (4)フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論について
    5. (5)平成26年度国際小委員会の審議状況について
    6. (6)その他
  3. 閉会

配布資料

【道垣内主査】  定刻になりましたので,ただいまから文化審議会著作権分科会国際小委員会の第3回会合を開催させていただきます。本日は御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。
 本日の会議の公開につきましては,予定されております議事内容を参照しますと,特段,非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴の方々には御入場いただいているところでございます。この点,特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】  ありがとうございます。
 それでは,本日の議事は公開ということにさせていただきます。傍聴の方にはそのまま傍聴していただきたいと思います。
 まず,事務局から人事異動につきまして御報告をお願いできますでしょうか。

【中島国際著作権専門官】  1月21日付けで,文化庁長官官房著作権課著作権調査官に着任しております小林佐和でございます。

【小林著作権調査官】  著作権調査官の小林と申します。よろしくお願いいたします。

【道垣内主査】  よろしくお願いいたします。
 では,引き続きまして,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【中島国際著作権専門官】  それでは,配付資料について確認させていただきます。
 まず,資料1-1といたしまして,「海賊版対策の取組状況等について」,こちらは事務局側からの説明資料です。それから資料1-2といたしまして,「侵害対策の現状とその課題」,こちらはCODAからの御発表資料となっております。それから続きまして資料2,「世界知的所有権機関等における最近の動向について」がございます。それから資料3-1,「ドイツ法における財産権保障と著作権制度」,こちらは本日いらしていただいております栗田先生からの御発表資料となっております。3-2につきましては,その参考資料ということで,関連条文の資料となっております。続きまして資料4ですけれども,「フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論」,こちらについても本日お越しいただいております村井先生の御発表資料となっております。それから資料5,「平成26年度国際小委員会における審議状況について(案)」です。それから参考資料といたしまして,「第14期文化審議会著作権分科会国際小委員名簿」,「小委員会の設置について」,それから机上配付として第2回の議事録を配付させていただいております。もし不足等あれば事務局にお申し付けください。

【道垣内主査】  では,議事に入りたいと存じます。
 初めに,議事次第にありますように,今日はその他を含めますと六つの議事があります。海賊版対策の取組状況等について,WIPO等における最近の動向について,それから3番目はゲストのスピーカーにお願いしておりますが,ドイツ法における財産権保障と著作権制度について,それからもう一つ,これも先ほど御紹介いただきました先生に御説明いただきます,フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論についてです。主な議題の最後ですが,今年度,平成26年度の国際小委員会の審議状況についての取りまとめです。今回がこの小委員会の今年度最後の会合ですので,その状況をまとめるというものです。それからその他がもしあれば御議論いただきたいと思います。
 議題は以上でして,この順番に審議を進めてまいりたいと思います。
 まずは議事の1番,海賊版対策の取組状況等についてです。この議題につきましては,まず,文化庁における取組について事務局より御説明いただき,引き続き,現場で海賊版対策を進めていらっしゃる一般財団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)様から,侵害対策の現状と課題について御報告を頂きたいと思います。委員の皆様には,その二つの御説明,御報告を頂いた後,御意見を頂きたいと思います。
 ではまず,事務局からよろしくお願いいたします。

【堀尾海賊版対策専門官】  それでは,文化庁から説明させていただきます。資料は資料1-1になります。
 まず1枚めくっていただきまして2ページ目では,文化庁における海賊版対策の取組状況について,知的財産推進計画2014における記述を御参考までに載せております。この推進計画に基づきまして,3ページ目からの平成26年度に文化庁が取り組んでまいりました関連施策,事業について御説明させていただきます。
 まず3ページ目は,文化庁で行っている全体的な取組として,二国間協議,グローバルな著作権侵害への対応,トレーニングセミナー,官民一体となった普及啓発活動,また,官民協力体制の構築の取組を行っております。二国間での対応としては,主に中国,韓国,また平成24年度よりASEAN諸国に拡大して,インドネシア,マレーシア,タイ,ベトナムに対して行っております。また,WIPOを通じた協力として,WIPOに対して文化庁から出しております拠出金により各種事業を行っております。
 ページをめくっていただきまして4ページ目,5ページ目に具体的な事業を載せております。まず,政府間協議ですが,韓国と覚書を結んでおりまして,毎年日韓著作権協議及び日韓著作権フォーラムを日本と韓国で交互に実施するということになっております。本年度は平成26年12月2日に日韓著作権フォーラム,また3日に日韓著作権協議をソウルにて行いました。そのほか,ベトナムとは,先方からの要請に基づきまして,現在,著作権侵害対策の強化に向けた協力のための覚書を締結するために日程を調整しているところです。そのほか,タイとインドネシア,またマレーシアと随時協議を行っております。
 次に,グローバルな著作権侵害への対応としましては,インドネシア,マレーシア,タイの集中管理団体の職員を対象にした人材育成ということで,平成26年9月8日から11日に東京に招聘して研修を行いました。また,今年度はインドネシアを対象とした侵害実態調査を実施しております。
 そのほか,トレーニングセミナーにつきましては,中国,香港,インドネシア等の8都市でセミナーを開催し,これについては,この後報告を頂きますCODAへの委託事業として実施しております。
 次に,官民一体となった著作権普及啓発活動ですが,こちらもCODAへの委託事業として実施しており,タイに対しては,タイが,ASEANの知財行動計画に基づく著作権普及啓発のためのASEANアニメコンテストをASEANの取りまとめ国として実施をするということで,それに対する支援要請がありましたので,そちらのワークショップへの審査員の派遣や,2位入賞者への副賞としての日本での研修招聘を行いました。また,タイでは普及啓発が今後重要だということで,まず,タイの関係団体と日本の関係団体との意見交換を実施し,相互にお互いの実施している事業についての意見交換と,今後どのような事業を行っていけるかというところの意見交換を平成26年1月12日に行いました。次に,インドネシアに対しては,2月21日にバンドン・パジャジャラン大学において大学生を対象とした普及啓発のイベントを実施予定になっております。そのほか,インドネシアの国会議員やマレーシアの知財公社の理事会メンバーより,我が国の著作権の集中管理制度について学びたいという視察訪問受け入れ依頼がありまして,その支援等を行いました。
 次に5ページ目に参りまして,WIPOを通じた協力といたしまして,本年の2月2日から13日に,著作権保護及び執行の強化を図るために,中国,インド,マレーシア,フィリピン,スリランカ,タイの著作権当局職員と税関職員を対象とした著作権・著作隣接権のエンフォースメントに関する特別研修を実施いたしました。また,2月9日から13日には集中管理制度の整備・強化を図るために,これから集中管理の制度を整備していく予定のブータン,カンボジア,ラオス,ミャンマーの4か国の著作権当局職員を対象として集中管理団体に関する研修を東京で実施いたしました。そのほかナショナルセミナーやWIPO本部へのスタディビジットを予定しております。
 ここまでが本年度実施した事業です。最後に6ページ目になりますが,今後の予定といたしまして,引き続き中国,韓国,インドネシア,マレーシア,タイ,ベトナムなどASEAN諸国で特に日本との交流の深い地域や国々に対して,二国間協議やグローバルな著作権侵害への対応,トレーニングセミナー,官民一体となった普及啓発活動などを実施していくとともに,新たな施策として,権利者の方々に実際に海外におけるインターネット上の侵害に対して有効に活用いただけるような著作権者向けのハンドブックの作成と,侵害実態の調査を実施するべく予算を新規に要求しております。そのほか,WIPOを通じた協力事業を引き続き実施予定にしております。
 以上でます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。では引き続きまして,CODA専務理事の後藤委員と,それから今日特に来ていただいております事務局次長の墳﨑様のお二人から御報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【後藤委員】  後藤でございます。本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。それでは,私と墳﨑から現状とその課題についてお話をさせていただきます。
 まず概要ですけれども,CODAは2002年8月に我が国の知財立国宣言を背景に,経済産業省と文化庁の支援をもって設立されました。現在は総務省の事業も受託しており,一昨年の12月には警察庁の団体である不正商品対策協議会と事務局を統合しております。
 これまでの成果といたしまして,まずはフィジカルパイレーツ対策といったところで,2005年からちょうど10年たちますが,MPA(Motion Picture Association)と共同で資料にあるような地区を対象に,エンフォースメントを実施してまいりました。
 次に,オンライン侵害ですが,UGCを対象に2011年から資料3ページ目にある自動コンテンツ監視・削除センターを運用しまして,UGCサイトへの削除要請を実施しております。おかげさまで,資料のとおりの高い削除率を誇っているというところです。
 日本コンテンツに特化した成果といたしましては,香港,台湾等でこのフィジカルパイレーツについては一掃することができたということです。
 そして2005年よりトレーニングセミナーを実施しておりますが,文化庁からは2007年より受託いたしまして,各地域のエンフォースメントの担当者に対し,海賊版の見分け方や我が国の方針等々について説明させていただいています。
 これからがちょっと悩ましい課題でして,リアル店舗,eコマース,オンラインの三つがあります。国境を越えて様々な問題がありますが,まず一つ目のリアル店舗対しては,中国では行政処罰の申立てを行っています。中国には行政処罰があり,一定の閾値を超えますと刑事手続に移送されます。上海市においては,長寧区という日本人街があり,そこに海賊版販売店舗が数多くあります。その中で,目抜き通りにある大きな8店舗を中心に行政処罰の申立てをしまして,2011年から2014年11月の間に17回の行政処罰が行われております。しかし,5店舗が閉店されましたけれども,近時,またさらに3店舗が増えて現況6店舗というところでます。この原因ですが,2カ月に1回行政手続をやっていただいておりますけれども,資料6ページ目にありますように,1回当たりの罰金が平均6万円,没収枚数が360枚ということであります。中国在住の日本人と日本人観光客を相手にしていますから,海賊版の販売額は1,800円ということで,非常にもうかります。彼らからすれば,本当にこんな罰金はどうってことないということで続けているということであります。執法総隊におきましては,これを刑事手続に移送するという話は出ておりません。といって私どもも,ここで諦めてはどうしようもありませんので,常にプレッシャーを掛けて摘発を行ってもらっているというところです。
 次がeコマースの関係ですが,中国におきましては国を挙げて知財4部門が共同して剣網行動という,いわゆるインターネット上の侵害の取締りというキャンペーンを行っています。これまで10回,段階を分けて活動しまして,資料8ページ目のような成果を上げております。
 それに対しCODAとしましては,2012年第8回の剣網行動において,日本コンテンツを日本人消費者向けに販売している海賊版サイトの情報提供をしました。そして2013年6月には行政手続の申立てということで,権利者4社より行政処罰の申立てを正式にしました。その後,2013年11月,2014年3月,2014年6月に国家版権局に話をしました。その都度,「CODAのこの件は重要案件であるから誠意対応しています。」という御回答でありましたが,2014年11月24日,投訴された4サイトについては,調査した結果,管轄権がない,捜査権がないということで,2013年6月にした申立ての結果をこの2014年11月に言い渡されました。これを受け,現況,関係部門と再度内容を詰めているというところです。これらはどういうサイトかといいますと,日本のあらゆるドラマ,アニメ,映画,洋画,それから音楽番組等が非常に安価で売られています。また,洋画も販売されています。今,円安ですから480円ぐらいです。非常に安いので,かなりの日本人がお買いになっているという感を持っています。
 最後に,オンラインの侵害ですけれども,オンラインは,今皆さん御承知のように国境がありません。あるサイトを例示でお話しさせていただきますと,サイトの運営者はブラジル,サーバーはアメリカにあり,ドメインはスウェーデンで取得しています。さらに厄介なのが,日本人でも簡単にこのサイトインデックスが見られる便利なアプリが出ているというところであります。非常に悩ましい問題です。
 ということで,これに対して私どもでどうするかということで,今,周辺対策といったものに取り組んでおるところです。では,これにつきましては墳﨑から御案内させていただきます。

【墳﨑事務局次長】  CODA事務局次長の墳﨑です。私の方から報告させていただきます。
 今,後藤から報告させていただきましたとおり,オンラインについては非常に複雑な状況にあるとともに,そもそも運営者が見つからないとか,国によってはエンフォースメントがうまくいかないということで,直接的な対策がとりにくいということがよくあります。このため,今,CODAでは別の間接的な対応を進めております。ただ,あくまでも間接的な対応ですので,一つ一つで決定的な効果が出るというわけではなく,いろいろなことをして一般のユーザーがそういったサイトにたどり着かないようにするとか,違法侵害サイトの運営者に運営しにくくさせるというようなことをやっております。
 具体的に何をやっているかというと,まず,システムセキュリティソフト会社と協力して,一般のユーザーが違法侵害サイトに行こうとすると,ウイルスのあるサイト等に行こうとする際出てくる警告表示のような表示が海賊版サイトについても出るようにするための取組をやっております。
 次に,皆さん最初からそういうサイトを知っているわけではなく,検索によってこういったサイトを見付けますので,検索結果にそういったサイトを表示させないという取組をしております。これについては,GoogleやYahoo!にも御協力賜って実施しており,先ほど後藤から紹介がありました中国の海賊版販売サイトに対して既に実施しております。これを実施しますと,検索結果表示に各サイトの個別作品についての検索結果が表示されなくなります。また,この検索結果表示抑止を継続することによって,サイト全体のトップページの検索結果表示上のランキングも下がっていくということで,一般ユーザーがそういったところにたどり着かないようにするという取組を現在行っております。
 さらに,Googleにおいては,こういった検索結果表示抑止を迅速かつ簡便にできるというシステムを用意していただいており,CODAもこのシステムの利用について御承認をいただき,既にこの簡易迅速なプログラムを使って今後,検索結果表示抑止を実施していくという取組を行っております。
 また,こういった違法サイトは無料のものが多く,広告収入が違法侵害サイトの多くのインセンティブになっているというのが現状です。このため,今CODAでは,違法侵害サイトに対する広告出稿抑止というようなことにも取り組み始めております。これについても,Googleや日本インターネット広告推進協議会や日本アフィリエイト協議会と協力し,そういった侵害サイトをCODAにて発見した場合には,情報提供させていただいて,対応をお願いしております。実際に,先ほど後藤から紹介させていただいたオンラインサイトについても広告出稿抑止を行っております。
 このほかにも,今後CODAで実施を考えておりますのが,先ほど紹介のありましたアプリの問題です。アプリ自身は非常にいいもので便利ですけれども,アプリを使われて侵害サイトに行かれると,他の取組の効力がなくなってしまったりするためです。また,銀行口座の凍結等についても,関係機関と協力した上で今後進めていきたいと考えております。

【後藤委員】  それでは,最後にまとめですが,国境を越えた侵害に対しては,各国間の連携強化が必要です。先ほど文化庁事務局からもお話を頂戴したように非常に悩ましい問題ですので,連携を強化するしかないだろうと思われます。CODAでは,まずハリウッドの6大メディアで組織されているMPA(Motion Picture Association of America)とオンライン侵害対策に関する覚書を2013年に締結いたしました。彼らのマーケットは大体4対6で米国が4,海外が6ですから,世界に網を張っており,経験や知見がありますので,今後連携を強化していこうとしています。そして文化庁事務局からありましたように,著作権啓発のためのネットワークプラットフォーム形成支援事業の推進というものにも力を入れてまいりたいと思います。また,経済産業省でも,アジアコンテンツビジネスサミットというASEANプラス日中韓という枠組みがありますので,その中でも海賊版対策の連携として,海賊版ホットラインの構築というものを提言させていただいております。
 そして,今,墳﨑からもありましたけれども,現況は周辺対策と直接対策をうまくかみ合わせて総合的な対策を講じていくしかないのだろうと思っております。その具体的な対処,検討を行うための総合対策センターという仮称の専門機関を是非とも来年度構築したいと思っています。一つにはCODAの監視・削除センター機能と,先般この場でもプレゼンさせていただきましたManga-Anime Guardians Projectの事業と連結をさせ,いわゆるブラックリスト,本当に悪いサイトは何なのかというのを作りたい。そして米国やEUでは日本コンテンツの侵害を非常に堂々とやっている方がいるものですから,MPAの経験,実績に基づく力を借りながら,エンフォースメントを具体的に検討していきたい。それと,技術的なプロテクションの検証ということで,これもCODAの監視・削除センター等々を活用して,今後深掘りの検討をしてまいりたいということで,総合的な対策を今後詰めていきたいと思っているところです。
 以上でございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。では,ただいまの政府の取組,それから民間の取組につきまして,御意見,御質問等ありましたらお願いいたします。
 では私から一つCODAの取組について伺います。資料10ページ目にあるお金を止めるというのは非常に効果的だと思いますが,カード会社や広告会社の反応といいますか,何がどうなれば対応できるけれども何かが引っ掛かってできない,そういう問題があるのでしょうか。

【墳﨑事務局次長】  御質問ありがとうございます。今の点ですけれども,正にそれは会社によるという感じです。今日も来ていらっしゃいますけれども,Googleのようにしっかり考えており,侵害であると言うともう即座に対応される会社もあれば,単にそれだけでは足りないと言われるところもあります。基本的には,その侵害サイトに広告が載っているということは,広告主様のレピュテーションを下げる話なので,その広告配信業者にとっても良いことではないと考えている会社は多く,情報提供については大変ありがたい,是非してくださいという会社の方が多いです。ただ,実際対応できるかどうかというと,契約上の問題があったりシステム上の問題があったりするので,正に会社次第です。

【道垣内主査】  最後の点ですが,契約があるとすれば,その契約の中にこういう違法行為をすれば直ちに止めますというのを入れておけばよく,また,入れるのが当然のような気がしますけれども,必ずしもそうなっていないということですか。

【墳﨑事務局次長】  そうですね,まだそこまで著作権の侵害サイトへの広告というのがそれほど世間をにぎわせているわけではないので,やはり公序良俗に反するサイトに載せた場合に対応するという規定が契約にあるケースが多いです。我々はそれに該当すると考えて対応をお願いしますけれども,それはやはり契約当事者の解釈の話になってくるのかなと考えております。また,広告配信業者も,別に侵害サイトへの広告を載せたいと思っているわけではなく,審査はしっかりやられている会社の方が多いというイメージです。ただ,審査の段階では,そのサイト自体は合法的に作っていても,審査を越えた後でサイトを違法サイトに切り替えるということも多いようで,広告配信業者も情報提供はしてほしいというスタンスですので,結構積極的に話は聞いていただけております。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 どなたか御質問等ありませんでしょうか。よろしいでしょうか。ほぼ予定の時間は消化しておりますので,では引き続きまして議事の2番目,WIPO等における最近の動向につきまして,事務局から御説明を頂き,その後,委員の皆様の御意見を伺いたいと思います。では,よろしくお願いいたします。

【中島国際著作権専門官】  それでは資料2に基づきまして御報告させていただきます。世界知的所有権機関等における最近の動向についてということで,第29回著作権等常設委員会の結果概要を報告させていただきます。
 まず概要ですけれども,昨年の12月8日から1週間,WIPOにおいてSCCRの第29回会合が開催されております。今次の会合におきましては,前回に引き続きまして放送条約の話と,権利制限と例外について,半分ずつ時間を割いて議論がなされております。今回の会合では,前回,前々回と2回の会合におきまして,最後の結論を作成する作業に大変時間が掛かってしまって,結局まとまらなかったということを教訓としまして,今回は議長が最後の総括をまとめて出すということで,詳しい議論はしないという形で対応がなされております。
 では,引き続き各論に移らせていただきます。
 まず,放送条約ですけれども,経緯については御承知のとおりと思いますが,1998年より議論がなされておりまして,現在,2007年の一般総会のマンデートに基づいて議論を継続しておりまして,2012年7月に単一の作業文書が作成されるに至っておりまして,これに基づいて議論がなされています。
 29回の概要ですけれども,これまで扱ってきました適用の範囲,6条と,保護の範囲,9条に加えまして,用語の定義について,主に非公式専門家会合ベースで議論が行われております。
 各論点の議論内容ですが,まず一つ目の定義の議論につきましては,放送機関,放送及び信号の定義について議論を行いました。主な論点としましては,伝統的放送機関をどのように定義するのか,すなわち,いかにウエブキャスターを定義上除くのかといった点,それから放送の定義にインターネット上の送信を含めるか否かといった点が論点となっております。この中で我が国は,まず伝統的な放送を定義した上で,それを行っている機関を伝統的放送機関と定義し,その後,インターネット上の送信の扱いというのは別途議論しましょうというアプローチを主張しております。また,伝統的放送の定義については,既存の条約,WPPTなどに放送の定義がありますので,それを踏まえて議論をすべきであるということを発言しまして,一部の国から支持を得ております。
 それから次に,適用の範囲の議論ですけれども,これは以前から御報告させていただいておりますが,伝統的放送・有線放送に加えまして,放送前信号を条約上の義務的保護の適用対象とすることでほぼ合意が得られております。ただし,その具体的な保護の内容については意見が分かれており,日本としましては,排他的許諾権を与えることには慎重であるという発言をしております。
 続いて2ページ目に移っていただいて,インターネット上の送信の扱いにつきましては,これまで態度が不明であった一部の国がサイマルキャスティング(同時送信)を義務的保護とすべきと発言しております。こちらは非公式ベースですので国の名前は控えさせていただいております。それから,アメリカについては引き続き態度を保留したほか,インドもこれまでの態度を変えていないという状況になっています。
 それから,保護の範囲の議論についてです。今,焦点が当てられている固定物を用いた再送信については,条約の規定上明確にその「固定物から(from a fixation)」という言葉を明示的に書くことは,コンテンツの保護と重複する懸念があり好ましくないとする国々と,固定物からのものを含めたあらゆるタイプの送信を保護すべきであるという国々との間で,今のところ明確な妥協点は見出されておりません。コンテンツの保護と重複する懸念があるという国々ですけれども,こちらについては,なぜそれが問題なのかということについて具体的な説明がないという状況であります。
 以上が放送条約の議論です。
 続きまして,権利の制限と例外についてです。経緯としましては,デジタル技術の深化がもたらした知識に容易にアクセスできる環境が著作権システムによって邪魔されているということから,もっと利用を重視したものに転換すべきなのではないかということが途上国から指摘され,2005年以降,議題化されております。御承知のとおり,一昨年,視覚障害者向けの権利制限と例外についてはマラケシュ条約の採択に至っておりますけれども,それが終わった後という形で,今,図書館とアーカイブのためのものと,教育,研究機関のためのものの2種類の制限,例外について議論がされております。両議題とも,条約を作りたくないと言っている先進国と,これを作りたいと言っている途上国との間で対立構造が続いているという状況です。それを反映しまして,7行目半ば以降に記載がありますが,要するに,どの作業文書に基づいて議論するかといったところから先進国と途上国が対立しているという状況にありまして,デッドロック状態にあるというところです。
 今回の第29回SCCRの議論の中身ですけれども,こちらについては図書館とアーカイブのみの議論がなされております。WIPOが各国の図書館,アーカイブ向けの権利制限・例外に関する調査研究を行っておりまして,これに基づいてプレゼンテーションが行われ,質疑応答がなされております。この中で指摘されておりますこととしましては,図書館・アーカイブ等の概念や制限例外が適用される著作物の範囲,その条件,デジタル著作物も対象とするか否かなどにおいて各国の制度に大きな差異があるということが紹介されております。また,それに加えまして・孤児著作物やマスデジタイゼーション,国際消尽の問題など,まだまだ検討するべき課題が多いという指摘もなされております。最後に,それまでの議論をまとめた議長ノンペーパーが作成されていますけれども,今後どのように議論を進めていくか,まだ途上国と先進国の間で意見が収束していないというところです。
 以上が第29回SCCRの状況ですけれども,今後の予定としましては,今年中に2回開催されること自体は決まっておりますが,まだ具体的な日程は決まっておりません。
 以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。ただいまのWIPOの動向につきまして,御意見,御質問等ありますでしょうか。
 野口委員,どうぞ。

【野口委員】  最後に御紹介のあったWIPOが実施した調査研究ですが,御案内のとおり,現在日本でも知的財産戦略本部が中心になってアーカイブ周りの体制について議論をしているので,そこの議論にWIPOの調査研究の資料が参考になれば,国全体で統一のとれたというか,資料に基づいた議論ができるのではないかと思うのですが,この調査研究はもう既に公表されているものでしょうか。

【中島国際著作権専門官】  御質問ありがとうございます。調査研究の資料は,WIPOのウエブサイトに公表されています。アーカイブをどうしていくかという政策的な方向性とかいうところまではまだ踏み込んだものとはなっておらず,各国の状況を客観的に述べている資料ですが,公開はされておりますので御参照いただければと思います。

【野口委員】  ありがとうございます。

【道垣内主査】  そのほか。どうぞ。

【梶原委員】  放送条約の適用の範囲の議論の中のインターネット上の送信の扱いについてですけれども,NHKでもこの4月からラジオの同時配信を始めますし,テレビについても今年中に実験をするというような動きがあります。また海外を見ても,ヨーロッパ,アメリカ,韓国等においては放送局がサイマルキャスティングをほぼやっているような状況の中で,放送事業者が行うサイマルキャスティングについても保護の対象とする方向で,是非とも日本政府におかれましても努力していただければと思っております。

【道垣内主査】  御要望ということで。
 そのほかいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは,3番目の議題に移らせていただきます。これまで本小委員会では,諸外国の動向について有識者の皆様に御報告を頂いてきておりますが,本日は,ドイツとアメリカの状況について御研究をされているお二人の有識者の方にお越しいただき御報告を頂くことになります。
 最初に,ドイツ法における財産権保障と著作権制度について,龍谷大学の栗田昌裕先生から御報告を頂き,その後,御質問,御議論等を頂きたいと思います。では,よろしくお願いいたします。

【栗田准教授】  御紹介いただきありがとうございます。龍谷大学法学部の栗田と申します。このたびは報告の機会を与えていただきましてありがとうございます。なお,お手元の資料には細かい補足も書かせていただいておりますが,口頭の報告におきましては,白い四角がついている大きめの文字の部分を拾いながら,それも適宜飛ばしながら報告をさせていただくということにしたいと思います。それでは,早速報告を始めさせていただきます。
 既に指摘されておりますように,我が国の私的録音録画補償金制度――以下,補償金制度というふうに呼びますが――この制度は転換期を迎えていると言われております。一方では,補償金の徴収額が激減し,対象機器や記録媒体の拡張や政令指定制度の撤廃などが主張されております。また他方では,DRM技術の発展によって個々の複製行為を把握できるようになったから補償金制度そのものが不要とも主張されております。こうした問題を考えるためには,補償金制度がどのように基礎付けられるのかを確認しておく必要があります。しかし,こうした理論面での研究にはまだ不十分なところがあるように思います。
 現行法では,補償金請求権は,著作権法17条にいう「著作者の権利」には含まれません。教科書等を見ますと,著作権の制限に対する代償ですとか,金銭で合理的な解決を図ろうとする制度というように説明されております。しかし,著作権法によって初めて著作権が創設されるのだという前提をとりますと,最初から権利が設定されていない,著作権の制限という形式で除外されている領域について代償を与える必要はそもそもないはずです。そうしますと,この発想は,著作権法が制定される前にあるべき著作権の形が定まっているという,伝統的な分類でいう「自然権論」に属する考え方を前提としているのではないかと思われます。
 これに対して,いわゆる「インセンティブ論」と言われる考え方では,著作物の創作にインセンティブを付与するための手段として,いわゆる禁止権としての著作権のほかに補償金請求権などの諸制度があるのだと位置付けられることになろうかと思います。
 一応はこのように整理できるのですが,自然権論とインセンティブ論のどちらをとるかという問題の枠組みは余り建設的ではありません。といいますのも,この両者は重視する価値が異なっており,これらを比較する共通な尺度が欠けているからです。インセンティブ論は,著作権法を文化の発展という政策目標を達成するための手段と位置付けますが,自然権論は,これに尽きない著作者の権利の保護も目的の一つだと考えます。確かに,自然権論には透明性が欠けております。「これは著作者の権利だから認められて当然だ」という論法には,反論のしようがありません。しかし,インセンティブ論が主張するように,「インセンティブの付与の必要がなければ著作者に何の権利も認めなくてよい」とまで言えるかも問題です。このように,自然権論とインセンティブ論の対立は,自然権を認めるか,著作権は政策目標を達成するための手段に過ぎないと認めるかという論争に行き着いてしまい,そこから後は平行線をたどることになってしまいます。
 ところが,補償金制度の母国であるドイツ法を参照しますと,ドイツ法では,自然権論とインセンティブ論の対立という図式は一般的ではありません。むしろ,「憲法上の権利論」とも言うべき立場が一般化しております。そして,そこでは,補償請求権と呼ばれる制度が重要な地位を占めております。1965年に制定された現在のドイツ著作権法は,世界に先駆けて補償請求権制度を導入したことで知られております。しかし,その制定のわずか6年後に著作権の制限規定について違憲判決が出されていることは,あまり紹介がないようです。
 ドイツ連邦憲法裁判所の1971年7月7日判決――以下では「教科書判決」と呼びますが――この判決は,著作権の制限規定を,補償請求権の定めを欠く限りにおいて,憲法上の財産権保障に反し,違憲無効だと判断しております。なお,今,補償請求権と訳しておりますが,原語のドイツ語のVergutungという単語には,報酬を支払う,労に報いるといった意味があります。著作物の創作という労に報いるように求める権利が著作権の核心だと憲法裁判所は言っており,補償請求権制度はこれをカバーするものだと位置付けられております。
 この判決が一つの契機となって,ドイツ法では,先ほど申し上げた「憲法上の権利論」とでも言うべき見解が一般化しました。あくまでも実定憲法の規定が根拠ですから,自然権論のように著作者の権利だけが偏重されるわけではなく,我が国でいうところの「精神的所有権論」や「著作権の制限規定の厳格解釈」のような,著作者の側にのみ有利な主張は影を潜めるようになっております。そこで,以下では憲法裁判所の判例を中心として,ドイツ法における憲法と著作権法との関係を概観していきたいと思います。レジュメの3ページ,旧法下の議論というところを御覧ください。
 まず,議論の前提,前史としまして,ドイツ法における自然権思想を簡単に確認しておきたいと思います。2点だけに絞らせていただきます。一つは,ドイツでは自然権思想の中核に,人は財産として自然,天然のものの加工や改変のために費やしたみずからの労働の成果を要求できるという思想,報酬保護の思想が置かれていたことです。これはロックの労働所有論を変形したものですが,憲法上の財産権保障にも同じ考え方が取り込まれています。現在の著作権法の立法資料や判例などを見ましても,この思想は度々援用されております。もう一つは,著作権の社会的拘束の理論です。これは,著作物の社会性を理由として,その制限を正当化しようとする理論でありまして,非常に古く,民法学における所有権の社会的拘束の理論のコロラリーとして19世紀末に提唱され,1920年代末,ラジオとテレビが一般化した頃ですが,この頃には盛んに議論されるようになりました。これも財産権の社会的拘束という一般的な形で憲法に取り込まれております。
 それにもかかわらず,「ドイツといえば自然権思想である」という印象が強いのは,1955年の磁気テープ事件判決の印象が強いのではないかと思われます。レジュメに幾つか引用を載せておきましたが,この判決は,日本で言われる「自然権論」に非常に近い立場をとっております。もっとも,補償請求権制度の創設を示唆したと言われる1964年の私的録音事件判決,レジュメをめくっていただいて4ページの上の方に載せておりますが,この判決では,既に住居の不可侵,日本風に言えばプライバシーの権利による著作権の制限を認めておりますし,そもそもの自然権論にしても,支配権よりも公正な報酬の割り当てが重視されていたというところは指摘しておく価値があろうかと思います。
 それでは引き続きまして,憲法裁判所の判例を見ていきたいと思います。憲法裁判所は,1971年の時点で既に著作権法の違憲審査基準を確立しております。これが,先ほど述べた教科書事件判決であり,最も重要な判例として現在も引用されておりますので,その内容だけは少し立ち入って見ていきたいと思います。この判決は,著作権法46条に対する憲法訴願の事案です。憲法訴願といいますのは,基本権を侵害されたと主張して,私人が憲法裁判所に直接訴えを提起する手続です。当時の著作権法46条は,教会,学校,授業のための作品集に収録する場合には,一定の条件の下に著作物の複製頒布が許されると規定しておりました。著作者側がこの規定によって職業の自由,財産権保障,芸術の自由などの憲法上の基本権が侵害されていると主張して,憲法訴願を提起したわけです。
 結論として,憲法裁判所は,この著作権の制限は,補償請求権の規定を欠いている限りにおいて財産権保障に反し,著作者の基本権を侵害していると判示しました。その判決理由において,憲法裁判所は,財産権保障によっても著作物の考え得る限りのあらゆる使用可能性が保障されているわけではないことを指摘しております。そうではなく,基本権によって保護されている著作権の核心は,創作的給付から生じる財産的価値ある成果を著作者に割り当てることだというのです。このような「成果の割当て」は,包括的な著作権の規定によっても実現されますが,補償請求権によっても最低限は確保されます。これに対して,憲法は,立法者に対して,公共の利益のために財産権に制限を設けることも要請しております。そのため,著作権の制限規定の合憲性は,それが公共の利益によって正当化されるかどうかによって判断されることになります。
 その上で,憲法裁判所は,著作権制限規定の違憲審査に当たって,いわば2段階の審査を採用しました。著作権の制限規定を,補償請求権の定めがあるものとないものに二分したわけです。
 レジュメの5ページを御覧ください。少し不正確な例えになりますが,著作権の核心,果物でいいますと種の部分に補償請求権があると想像していただけると,少し分かりやすくなるのではないかと思います。この著作権の核心,補償請求権の部分だけで,とりあえず財産権保障の最低限の内容はクリアできます。この核心部分を覆っている,果物でいうと果肉の部分に当たるのが著作物の利用を差し止める権利,排他権です。排他権は,報酬を交渉によって個別に取り決めるための手段であり,補償請求権プラスアルファの権利と位置付けられています。
 このように考えますと,著作権の制限は,外側の排他権のみを取り去るものと,核心部分の補償請求権まで取り去るものの2段階に分かれることになります。ドイツ語の直訳で少し分かりにくいのですが,補償請求権を残しているものを「排他権の排除」,補償請求権も含めて全ての権利を否定するものを「補償請求権の排除」と申しております。憲法裁判所によれば,排他権のみの制限は,比較的緩やかに認められます。「著作物に妨げられることなくアクセスできるという公共の利益」があれば十分です。この事件でも排他権の制限は合憲と判断されております。
 これに対して,排他権と補償請求権の両方を制限することは,「著作物に妨げなくアクセスできるという公共の利益」では正当化できません。それでは,著作者に対する成果の割当てすら確保できなくなるからです。憲法裁判所は,このようなハードな著作権の制限を正当化するためには,「高められた公共の利益」が必要だとしました。本件ではこれが認められないので,著作権法第46条は,補償請求権を規定していないという部分についてのみ違憲無効だというわけです。もっとも,教科書事件では,「高められた利益」が何なのかは具体的には示されませんでした。これを正面から認めましたのが,1988年の刑務所事件決定です。刑務所の娯楽室にはテレビやラジオが置いてあり,音楽を聞いたりできたそうですが,これについて補償金が支払われないのはおかしいといって,ドイツ音楽著作権協会(GEMA)が刑務所を運営するラントを訴えたという事案です。ドイツの著作権法では,こうした著作物の再生についても著作権が制限されていました。補償請求権の定めもありません。そこで違憲審査になったわけですが,憲法裁判所は,一転して「高められた公共の利益」を認め,補償請求権の定めがないことも含めて全部丸ごと合憲という判断を下しました。ただ,この理由付けが非常に錯綜しておりまして,「連帯犠牲」(Solidaropfer)という聞き慣れない用語が突然使われたりするなど,学説から非常に激しい批判を浴びております。理由はともかく,裁判所は刑務所を運営するラントや連邦の財政に配慮しただけではないのかというわけです。
 こうした批判のせいか,憲法裁判所は,この後,正面から「高められた公共の利益」によって著作権の制限を認めるという判断を余りしなくなっていきます。そうではなく,利用者の表現の自由などの対立する憲法上の権利が,著作権の制限を正当化するために援用されるようになります。例えば,2000年のゲルマーニア3事件部会決定では,劇作家の表現の自由を根拠として,引用権(適法引用)の範囲を厳格に解釈した連邦通常裁判所の判例が違憲だと判断されております。
 レジュメの6ページをご覧ください。ここからは,個々の事件には立ち入らず,飛ばし飛ばしで行きますけれども,このほか,公共の利益による正当化を待たずして合憲だと判断された事案群があります。なぜかと申しますと,そもそも著作権の限界を越えているので,著作権の制限として公共の利益による正当化をする必要がないというわけです。このような判例は大きく二つのグループに分かれます。一つは,消尽の原則を前提としたもので,もう一つは著作物の追加的使用がないとしたものです。
 消尽の原則については,最初の譲渡時に報酬が支払われれば十分なので,頒布権の消尽後にさらに補償請求権を認めるかどうかは完全に立法裁量だと言われております。
 追加的使用がないというのは,いわゆるタイムシフティングの事例であり,例えば,学校で,授業時間に合わせて再生するために,別の時間に放送されている教育放送を一時的に録画する,こうした利用については,著作物の追加的使用がないため,補償請求権を認める必要がないとされています。
 時間の関係もありますので,レジュメの「小括」は割愛させていただき,レジュメの7ページ,連邦通常裁判所の判例というところを御覧ください。ドイツでは,日本と違って憲法裁判所が独立して存在し,通常の審級システムからは外れております。日本の最高裁判所に当たるものが,ドイツ連邦通常裁判所(BGH)と言われるものです。憲法裁判所とBGHの判例は対立することもあるのですが,この領域では,はBGHの方が憲法裁判所の判例理論に沿う形で判例を発展させております。幾つか区分しておりますので,各時期について,かいつまんで御説明申し上げようと思います。
 最初の一群の判例ですが,BGHの初期の判例は,先ほど御紹介申し上げました磁気テープ事件のように,かなり強烈な自然権思想に立っておりました。そこでは「著作権の制限規定は法律の基本思想の純然たる例外であり,本来の趣旨と目的を越えて及んではならない」という「著作権の制限規定の厳格解釈原則」が採用されておりました。これは著作者の利益を偏重する自然権思想の悪いところだといってよく引用されるものです。これ自体は,「例外規定は類推によって拡張してはならない」という一般ルールを著作権法に当てはめたものに過ぎないのですが,それでもやはり著作者の側に有利に過ぎますので,初期の判例は,これを一応は維持しつつ,立法者意思や規定の趣旨を手掛かりとして――つまり,規定の「本来の趣旨や目的」がここまでは及んでいるのだというロジックを使うことによって――,実質的には厳格解釈を回避する判断を行っていました。
 そうした判例にはっきりとした変化が現れるのは1999年のコピー送付サービス事件です。この判決は,解釈によって法定補償請求権を創設したということで著名でありまして,我が国にも多く紹介があるところであります。この報告との関係では,この判例が厳格解釈原則を「著作者はその著作物の経済的利用について可能な限り適正な配分を取得できてしかるべきであるという原則」(配分原則)へと言い換え,換骨奪胎したことが重要であります。これは磁気テープ事件の示した自然権論の主張よりも,むしろ憲法裁判所の示した憲法上の要請としての著作者への成果の割り当てに近い考え方です。実際,この判決に至るまで,連邦通常裁判所(BGH)は,長く憲法裁判所の判例理論を引用し続けてまいりました。
 続く2000年の香水瓶事件では,はっきりと,当裁判所は「例外規定は一般に厳格に解釈されねばならない」という原則を採らないと明言されております。ここにおいて,磁気テープ事件の示したような,「自然権論」は,実質的に放棄されたと見てよいと思われます。
 レジュメをめくっていただいて,最後,第三期の裁判例であります。その2年後,2002年の覆い隠された帝国国会議事堂事件,これは事件名が面白いのですが,国会議事堂を巨大な布で覆い隠すというパフォーマンスを芸術家がやったところ,絵はがきを勝手に作って売り出した人がいて,訴えられたという事案です。この事案についてですが,BGHは,「著作権の制限規定は著作権と同じくらい特別な憲法上保護されるべき地位を考慮したものである,これは立法者による終局的な法益衡量の結果である」と判示しました。この判示はその後の判例でもたびたび引用されていますが,著作権の制限規定によって初めて保護される利益があり,それは著作者の権利と同等に重要な憲法上の権利を背景としているのだ,ということを明言したものです。こうした考え方をとりますと,著作権法の立法や解釈においても,著作者の利益だけを特別視する理由はなくなってしまいます。むしろ,憲法上,著作権の制限規定の拡張解釈が要請されることさえあり得ることになります。現に,ギース・アドラー事件では,報道の自由を根拠として,著作権の制限規定――24条の自由利用の規定ですが――,これを広く解釈し,著作権侵害を否定しております。
 以上のように,大雑把にまとめますと,ドイツ法には一貫して二つの特徴が見られたということができようかと思います。一つは,財産権保障として,著作者への公正な報酬や成果の割り当てをできる限り維持しようとしていたという点です。排他権は,あくまでも公正な報酬や成果を割り当てるための手段の一つであり,それ自体が自己目的になるようなものではありません。もう一つは,著作権の制限規定によって保護される利益,例えば利用者の表現の自由にも,重要な価値が認められていたことです。このような対立する二つの利益を適切に調整するためには,著作物を自由に利用してよいけれども,対価は支払わなければならないという,完全な著作権と完全な自由との間に中間的な処理が必要とされます。ドイツ法においては,それが補償請求権制度であり,著作権の核心をカバーする最低限の権利だと位置付けられていたということになります。
 最後に,日本法への示唆を簡単に述べておきたいと思います。一言で申し上げますと,オール・オア・ナッシングではなく,補償金制度をはじめとする中間的な解決をもっと活用しようということになろうかと思います。
 まず,冒頭で申し上げた私的録音録画補償金制度については,少なくとも現時点では制度を維持した上で,必要であれば拡充するという方向性が示唆されるのではないかと思います。完全な廃止は,ドイツ法の視点から見ますと,二重の意味で憲法上の要請に反するおそれがあります。まず,著作権の制限そのものを廃止し,著作者の権利(排他権)を復活させれば,これは利用者の表現の自由を害するおそれがあります。確かに,ほとんどの場合には,DRM技術やライセンス契約でうまく処理できるかもしれません。しかし,ハードケースでは,立法者による利益衡量が参照されるべきです。ライセンスがなければ利用が常に違法になるというのでは,情報の自由には資するとはいえず,場合によってはこれを害する可能性もあるのではないでしょうか。
 逆に,これを完全に自由化し,著作権の制限規定から補償金規定のみを削除し,無償で利用ができるというようにしますと,今度は著作者への対価の割当てそのものが崩れてしまい,著作者の財産権が侵害されるおそれがあります。
 そこで補償金制度が解決策として考えられるわけですが,補償金制度を維持するのであれば,反面として著作物の自由な利用が保障されなければなりません。補償金を徴収しながら技術的保護手段でコピーをできなくすることは二重取りのおそれがありますので,問題があります。そのため,法的評価としては,著作権の制限と補償金制度を当面は維持しつつ,ライセンス契約とDRM技術の健全な発展に期待することになろうかと思います。
 最後にもう1点だけ,ドイツ法の視点は,著作権の侵害が常に差止請求権や刑罰の可能性と結びついている現状についても考え直すきっかけを与えているのではないかと思います。表現行為の差止めや刑罰は,表現の自由を侵害するおそれが非常に高いものです。憲法上の権利の調整という視点から見ますと,著作物の二次的な利用について全て差止めや刑罰が問題になる,そのおそれがあるというのは,本当に適切かどうか再考の余地があるように思われます。不法行為法の領域では,差止請求権は認めないけれども損害賠償を認めるというような処理が行われることがあります。著作権の制限規定としても,例えば,差止請求権だけを排除する,あるいは刑罰には付加的な要件を課すというような法政策も考えられるのではないかと思われます。
 以上,非常に駆け足でしたが,以上で私からの報告を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。それでは,ただいま御報告いただきました内容につきまして,委員の方々から御質問,御意見等ありましたら,どうぞお願いいたします。
 どうぞ,辻田委員。

【辻田委員】  限られた時間で詳細かつ丁寧な御報告をありがとうございました。補償金制度の補償という言葉には,法律によってあらかじめ割り当てられた利益が害された場合にその埋め合わせをするという意味が当然にあると思いますけれども,これまでに正面から憲法上の財産権保障という点から論じられることは,少なくとも我が国では余りなかったように思いますので,大変有意義な御報告であったと思います。
 さて,私からは2点お伺いしたいのですが,まず,我が国の私的録音録画補償金制度は,先生御指摘のとおり危機的な状況にあるようです。今となっては,この制度の理念とか本質とかをいま一度検討する必要があるのではないかと思います。先生の御報告の最後で,日本法への示唆が述べられていたと思います。我が国の補償金制度の拡充をすべきだというふうな御主張でしたけれども,こういう破綻に瀕している状況で,拡充するには具体的にどういう視点が必要なのか,もしそういう視点がおありでしたらお聞かせ願いたいと思います。
 もう一つは,1点目とも関わるかもしれませんが,冒頭に御説明ありましたけれども,Vergutungsanspruchは,CRIC(公益社団法人著作権情報センター)の訳では,報酬請求権と訳されてきて,ずっと報酬請求権という言い方が一般的だと思って私も使っておりましたけれども,ここで先生はあえて補償請求権という言葉を使っていらっしゃいます。あえて補償請求権という言葉を使われる特別な意味があれば,ちょっとお伺いしたいと思いました。

【栗田准教授】  御質問ありがとうございます。まず,私的録音録画補償金制度の拡充の方向性という御質問についてですが,我が国の補償金制度は,デジタル方式の録音録画に限定されているという点で比較法上特徴があると従前から指摘されております。しかし,補償金請求権というものが著作権の核心部分であると考えますと,その範囲は,あるべき著作権の範囲と一致すべきであり,少なくとも理論的には,デジタル方式に限定するとか,録音録画に限定するという必要性はないということになろうかと思います。むしろ,なぜ補償金を支払わなければならないのかというと,著作物の何回も繰り返し利用できるようなコピーを作り出したのだから,そこに付着している価値は本来著作者に帰属すべきもので,その分け前,配分を与えなければならないというところに行き着くのではないかと思います。そうしますと,現在も議論されておりますように,補償金制度の対象となる指定の機器や録音録画媒体をあるいは拡充したり,あるいは政令指定方式を撤廃して,ドイツのように一定の要件を満たした機器,媒体等については補償金を課すことができるようにするという方向性が一応考えられるのではないかと思います。
 続きまして,第2点に御質問いただきました補償という訳についてですが,これは,以下のように考えて訳したものです。まず1点には,「賠償」ではないというところです。補償請求権の対象となっている著作物の利用行為は違法ではないのですから,違法な侵害に対して使われる「賠償」という言葉は適切ではありません。そしてもう一つは,「報酬」と言ったときには,権利者と利用者が契約等によって交渉してその対価等を取り決めたという印象があるかと思います。しかし,ドイツ法の議論では,一般に,補償請求権は,著作権から交渉によって対価をみずから取り決める権利を剥奪したものだと考えられております。そうすると,「交渉して取り決める」という含意を持つ「報酬」という単語もまた不適切ではないかというふうに考え,適法な著作物の利用について法が定めた一定の金額――現在では法が必ずしも額までは定めておりませんけれども――一定のお金を支払う制度であるという趣旨で補償請求権という訳を当てております。なお,同じVergutungsanspruchという語でも,このような含意のない,例えば現行ドイツ著作権法の立法時の議論などでは「報酬請求権」としております。
 以上でよろしいでしょうか。

【道垣内主査】  そのほかいかがでしょうか。どうぞ。

【上野委員】  栗田先生,御報告ありがとうございました。御報告の中でも御紹介がありましたように,ドイツ法においては,やはり報酬保護の思想が基本にあって,著作者は著作物の利用から公正な報酬を受ける権利があり,それは憲法上の権利だと考えられているのだと思います。そのため,権利制限規定を設ける場合でも,排他権としての著作権を奪うというのであれば一定の公共の利益があれば正当化されるのに対して,報酬請求権まで奪うためには,栗田先生のお言葉を借りますと,「高められた公共の利益」が必要となるということで,いわば特別に高い公共の利益が認められない限り,排他権を制限することは許されても,報酬請求権さえも付与しない立法は許されない,たとえそのような立法をしても憲法違反になる,実際ドイツではそういう判決がある,ということかと思います。実際のところ,私の知る限り,ドイツ著作権法におきましては,今日のお話は私的複製が中心だったかもしれませんが,例えば,教育機関における利用ですだとか,障害者のための複製ですか,非営利かつ無料の演奏ですとか,権利制限に伴って報酬請求権を付与している規定はかなり多くあるわけであります。
 さて,その上で日本法への示唆に関して2点お伺いしたいと思います。1点目は,日本法上の権利制限規定についてです。今日も御紹介ありましたように,日本法にも権利制限した上で補償金請求権を付与している規定は,確かに若干ありますけれども,非常に少ないわけです。私的複製に関しては権利制限した上で補償金請求権を付与していますが,その対象は一定のデジタル録音録画に限られるなどごく限定的なものです。また,教育機関における複製であるとか,非営利かつ無料の演奏・上演・上映であるとか,図書館における複製というのも,権利制限しているだけで補償金請求権を付与していませんので,全部自由かつ無償ということになっております。先ほど御紹介いただいたように,私は,日本の著作権法には諸外国に比べてオール・オア・ナッシングの規定が多いのではないかというのことを,数年前から日本法の特殊性として指摘しているところです。もちろん,そもそもドイツ法のような存り方の是非については議論があるところかと思いますし,ここで仮定の話をお聞きするのは恐縮ですが,日本法において広く権利制限しながらも補償金請求権を極めて限定的にしか付与していない規定は,もしドイツだったら違憲になる可能性があるように思いますが,この点どのようにお考えでしょうか。ちなみに,日本法は職務著作制度も定めていますが,この規定もドイツだったら違憲になる可能性が高いのではないかとも思いますが,この点を含めてもしお考えがあればお聞かせください。
 2点目は,このこととも関係しますが,日本とドイツにおける憲法の位置づけについてです。先ほどのような話をすると,憲法が司法関係に大きな役割を果たしているのはドイツの特有の話であって,日本はドイツと違うという声もあるように思うからです。
 実際のところ,日本では,知財に限らず,民事訴訟において憲法が参照されること自体が非常にまれのように思いまして,原告となった権利者が自分の権利を憲法上の基本権によって基礎付けるとか,被告となった利用者が抗弁として憲法上の基本権を持ち出すとか,そういった主張をしても裁判所ではほとんど考慮されないようですので,実務では,もはや民事訴訟において憲法を持ち出すこと自体,自分が負け筋であることを認めるようなものと受け止められる向きもあるようです。
 他方,ドイツには,憲法裁判所があり,たとえBGHが下した判決であっても,連邦憲法裁判所は憲法違反を理由にこれを破棄できるということで,日本とドイツはそもそもシステムが違うのだから,ドイツ法がいくら憲法を根拠にして報酬請求権等の著作者の権利を認めているとしても,そのような考えは日本にとって参考にならないという声があるかもしれないと思うのです。
 しかし,形式的に見ると,もちろん日本に憲法裁判所はないのですけれども,最高裁判所が法令の違憲審査を行うということは憲法上も予定されているわけですから,実質的に見れば,日本では,最高裁判所がドイツにおける憲法裁判所と同様の役割を果たしていると考えるべきではないでしょうか。そうすると,日本における憲法裁判所の不存在等という形式的な相違点は,意味のある違いにはならないのではないかと思うわけですけれども,この点に関してお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。
 

【栗田准教授】  御質問ありがとうございます。
 まず1点目の日本法の規定がドイツなら違憲になるのかという点ですけれども,これは「規定による」ということにならざるを得ないかもしれません。ただ,1点,補足して申し上げておきたいのは,ドイツでは,通常の裁判所の方の系統である連邦通常裁判所(BGH)で裁判になったときに,BGHがいわば先回りして,こうこうこういう連邦憲法裁判所の判例理論を適用すると,この規定は合憲なんだ,だからこの規定を解釈して適用するんだというようなことを先に言ってしまうパターンがかなりあります。そういうふうに,いわば合憲解釈を行うことによって規定自体の法令違憲を避けることができる場合はかなりあるのではないかという気がいたします。
 一例としましては,御報告でも御紹介申し上げましたコピー送付事件判決というのがありまして,これは図書館が利用者の求めに応じて文献のコピーを送付することについて著作権の制限規定が設けられていたところ,著作者団体が差止めや損害賠償請求権の確認等を求めて訴えた事案です。この事件では,裁判所が憲法,条約,著作権法の基本思想とかなりのいろいろなものを参照しまして,それらを手掛かりに,ごく一般的な補償金請求権と管理団体義務の規定を類推適用する形によって,解釈によって法定補償金請求権を作り出すというかなり踏み込んだ判断を行っております。こうした判断まで法の解釈として可能であるというふうに考えますと,規定にもよりますけれども,日本法のような著作権法の規定が,直ちに条文そのものとして違憲になるのではなく,例えば,解釈上,補償請求権を類推適用によって認めるとか,あるいは合憲になるような限定あるいは拡張解釈をするというような操作によって,規定自体は合憲性を保つことがあり得るのではないかと思います。
 それから2点目の御質問についてですが,憲法については,日本法とドイツ法はかなり考え方が違うというのは御指摘のとおりかと思いますし,確かに,ドイツでは憲法が先にあって,憲法上の権利を実現するための法律として著作権法をはじめとする単純法律があるのだという理解が一般的ではないかと思われます。しかし,御質問中でも御指摘いただきましたとおり,日本法におきましても最高裁判所は違憲審査の権限を持っておりますし,そもそも,立法の局面において,憲法上の価値や権利を参照するということは考えられるわけですから,日本法において憲法上の権利や価値等を参照することが全く無意味である,構造上違うので参照する余地がないかというと,そうではないのではないかと思っております。
 現在でも,著作権法の改正等の議論におきましては,自然権に依拠するような議論,はっきりと自然権とは言わなくても,これは著作者の権利なのだから保護すべきであるといった形の議論がまま見られることがあります。しかし,あるかどうかも分からず,どういったものがそうなのかも分からない「自然権」というかなり曖昧な概念に飛躍するよりも,実定憲法という規定を手掛かりにしてお互いの利益を整理した方が,より透明性の高い議論につながるのではないかと思われます。このように,憲法上の議論を参照することは,法解釈だけではなく立法等についても十分有益な示唆を与えると考えておりますので,日本法とドイツ法の構造の違いというものを乗り越えて,なお一定の示唆があるのではないかと思います。
 また,最後に付言しておきますと,日本法でも日本国憲法29条の財産権保障には,著作権をはじめとする知的財産が含まれると多くの憲法の教科書では書かれております。ただ,問題となっているのは,財産権保障に著作権が含まれるからどうなのかという点については余り議論が進んでいないことであり,この点については今後研究を進めていきたいと考えております。ありがとうございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 すみません,ちょっと時間の関係で,もし必要ならば,最後に時間が余ったらまたお願いするということにしまして,議題の4番目の米国のフェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用につきまして,筑波大学の村井麻衣子先生から御報告いただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

【村井准教授】  ただいま御紹介にあずかりました村井と申します。本日は,フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論ということで報告させていただきます。よろしくお願いいたします。
 本報告では,初めに,米国の著作権法のフェア・ユースに関する二つの理論を紹介させていただきます。フェア・ユースにつきましては,平成24年の著作権法の改正の際に既に多くの議論がなされておりますので,本日報告させていただくのは恐縮ですけれども,ただ,フェア・ユースに関する議論は著作権制限の一般規定の導入の是非という問題に関わるだけではなく,権利と利用のバランスに関わる議論として著作権法の在り方全体への示唆も提供し得るものかと思われます。そして,今日の報告の最後には,日本著作権法への示唆として,少し具体的に引用や私的複製等についても触れさせていただきたいと思います。
 それではまず,フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論を紹介させていただきます。フェア・ユースは,米国の著作権法107条に定められている著作権を制限する一般条項です。4つの考慮要素が挙げられていて,フェア・ユースと判断されれば著作権侵害が否定されることになります。
 このフェア・ユースは,ケース・バイ・ケースで判断が行われることから,その不明確性や曖昧さ,予測可能性の低さが批判されてきました。著作権法全体において最も困難なものである,あるいは捉えどころのない理論であるとも言われてきました。
 そのような中で,米国でフェア・ユースの統一的な基準を提示するという試みもなされてきました。その主なものが今日紹介いたしますGordonによる市場の失敗理論とLeval判事による変容的利用の理論の二つになります。この二つの理論は,フェア・ユースの判例法に大きな影響を与えてきたとされています。以下,各理論と,関連する裁判例や議論を簡単にですが御紹介していきたいと思います。
 まず,市場の失敗理論についてです。これはGordonにより提唱された理論で,Gordonは経済的な分析により,フェア・ユースを市場としては達成されないが社会的には望ましい取引を許容するための理論,すなわち市場の失敗を治癒するための理論と捉えました。そしてフェア・ユースを適用するための三段階テストとして,①市場の失敗が存在すること,②被告への利用の移転,すなわち利用を許すことが社会的に望ましいこと,そして③フェア・ユースを認めることで著作権者のインセンティブが実質的に害されないという三つのテストをクリアした場合に,フェア・ユースを認めることを提案しました。
 この市場の失敗理論は,裁判例にも影響を与えたとされています。まず,Williams & Wilkins判決では,医療系の図書館での複製が問題になりましたが,この事件では複製がフェア・ユースに当たるという判断がなされていました。しかし,その後,CCC(Copyright Clearance Center)という文献複写に関する集中許諾システムが設立された後に争われたTexaco判決では,企業の研究者による図書館資料の複製についてフェア・ユースが否定されました。
 このTexaco判決は,ライセンスの購入を可能とするシステムが用意されているということを理由として,フェア・ユースを否定したことから,市場の成立によってフェア・ユースを否定するという形で市場の失敗理論を採用した判決と捉えられました。
 次に,変容的利用の理論について御紹介したいと思います。この理論を提唱したLeval判事は,著作権法がインセンティブを与えるべき創作的な活動として変容的な利用(transformative use)というものを重視しました。フェア・ユースの判断とは,行われた利用が変容的かどうか,そして変容の程度がどのくらいかという問題に帰着すると論じています。
 この変容的利用の理論は,パロディがフェア・ユースに該当するということを示唆したCampbell事件の最高裁判決によって採用されたと言われています。
 また,近年ではフェア・ユースの裁判例を統計的に分析した実証研究なども行われるようになっておりまして,その中で,変容的利用に関する先ほどのCampbell事件最高裁判決がフェア・ユースに関する裁判例へ与えた影響というものが分析されています。例えば1978年から2005年までの判決を分析したBeebeの実証的研究では,変容的利用に関するCampbell最高裁判決の影響は限定的であるという結論が示されていました。
 しかし,その後,1995年から2010年までの裁判例を分析したNetanelの研究では,フェア・ユース法理が歴史的に変遷しているとした上で,Beebeの研究期間後の2005年以降,変容的利用のパラダイムが結実したという分析を示しています。
 Netanelは,Gordonの市場の失敗理論を起源とする市場中心パラダイムが1985年以降,約20年にわたり支配的な地位を占めてきたとした上で,しかし,2005年以降は1994年のCampbell判決で採用された変容的利用パラダイムがフェア・ユース法理を圧倒的に支配したとして,これを変容的利用パラダイムの勝利と呼んでいます。
 そして変容的利用の意味については,表現内容自体を変化させるものと,必ずしも表現内容の変更は伴わない意味やメッセージの変容があるとして,裁判所の判断においては,必ずしも新しい表現上の寄与を必要とする利用ではなく,新しい別の目的のための利用を変容的利用として位置づけているとして,後者の場合にも変容的利用に含まれるとしています。
 また,変容的利用のパラダイムが台頭した背景としては,著作権保護期間の延長法の合憲性を肯定したEldred事件の最高裁判決によって生じた,著作権者の権利に対する懐疑論があるのではないかと論じています。
 次に,市場の失敗理論をめぐるその後の動向を少し見ていきたいと思います。Texaco判決に対して,Lorenは批判を行っています。Texaco判決は,高い取引費用による市場の失敗のみに注目しましたが,しかし,利用の外部性による市場の失敗は許諾システムによって治癒されないとして,Lorenは,研究や教育など外部利益による市場の失敗においてフェア・ユースを認める必要性を強調しています。
 また,市場の失敗理論を提唱したGordon自身も,後に市場の失敗理論について再論し,理論の修正を試みています。まずGordonは,市場の失敗理論が市場の成立を理由としてフェア・ユースを否定することを意図したものではなかったというふうに述べています。
 そして,市場の失敗を分類することで理論が洗練されるとして,市場の機能不全の場合と本来的な市場の制限という分類を提唱しています。市場の機能不全の場合というのは,フェア・ユースを認めることが「免責」であって,この市場の失敗のケースとしては,権利者や利用者間の取引コストにより生じるものが典型例であるとしています。他方で,本来的な市場の制限の場合は,フェア・ユースを認めることが「正当化」に当たるとして,例えば言論の自由の問題が関わる場合など,そもそも市場の基準が妥当しないケースが該当するとしています。そして後者の「正当化」のケースでは,取引費用が減少したとしてもフェア・ユースが排除されない,すなわち環境の変化によってフェア・ユースの可能性が変化しないと論じています。
 以上に見てきました市場の失敗理論と変容的利用の理論の関係を少し考えてみたいと思います。Netanelは,変容的利用のパラダイムの勝利としつつも,変容的利用のみでフェア・ユースとされるべき利用を全てカバーすることはできないことを認めています。例えば,Netanelが未解決の問題としている教室利用のための複製や家庭内録画といった問題は,市場の失敗理論やその後の関連する議論においてフェア・ユース該当性が議論されてきたカテゴリーであると言えると思います。このことから,両理論はどちらかのみが採用されるべきものではなく,著作物利用の自由領域の基準を提示するパラダイムとして両立するように思われます。
 変容的利用の理論によっては代替できない市場の失敗理論の意義としては,必ずしも変容的ではない利用を許容するところにあると思います。これに関しては,Lorenが教育・研究目的等,外部利益の高い利用について言及しておりますし,Gordonは非金銭的な価値が関わる利用の重要性を指摘しています。さらに,非金銭的価値が関わる利用の重要性に関しては,表現の自由や民主主義,人間の行動の自由の確保をめぐる議論などが参考になると思われます。
 最後に,事前にお配りしたレジュメの方には記載がなく恐縮ですが,日本著作権法への示唆として,私的複製と引用を少しだけ取り上げさせていただきたいと思います。
 私的複製は,私的領域での複写・録音・録画等,消費的・非変容的な著作物の利用が念頭に置かれることが多く,市場の失敗理論に深く関係すると思われます。引用は従来,既存の著作物を基にして新たな創作行為を行うための利用として理解されてきたため,変容的利用の理論と関係すると思われます。
 まず引用についてですが,日本の著作権法32条は,引用が著作権侵害にならない旨を定めています。引用の要件論につきましては,パロディ事件の最高裁判決によって明瞭区別性,主従関係の2要件が示され,裁判例でも踏襲されてきましたが,最近では2要件を用いず,条文に沿った判断基準を用いる裁判例も登場してきています。
 その中でも近年注目された裁判例の一つとして,美術鑑定書事件の知財高裁判決を挙げることができるかと思われます。この判決は,絵画の鑑定書に鑑定対象の絵画のカラーコピーを添付する行為について,引用の該当性を肯定しました。引用の要件としては,2要件ではなく,32条の文言に基づく引用の基準を示しています。また,引用の判断において利用の目的,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,著作物の著作権者に及ぼす影響の有無,程度などを挙げており,米国著作権法におけるフェア・ユースの4要素と類似した考慮要素を提示したことが注目されました。この判決に対しては批判もありますが,引用規定による柔軟な侵害判断の可能性が示されたことは,米国において変容的利用の理論が台頭していることを想起させるところもあり,著作権者に及ぼす影響に配慮しつつ,目的に必要な範囲での利用を許容する方法として期待することができるように思われます。
 最後に,私的複製に関して少しだけ触れさせていただきます。
 私的複製は,30条に規定されていますが,権利者への影響が少なく,また権利行使の実効性を確保することが難しいことから,許容されると考えられてきました。近年,複製技術の発展や普及により,その妥当性が問われるようになってきています。
 しかし,市場の失敗理論をめぐる議論においては,ライセンスが可能になったからといってフェア・ユースを否定することに対しては批判があることから,重要な価値が関わる私的・零細的領域における著作物利用については,自由が確保されるべきことが示唆されるように思われます。一方で,権利者への影響が大きくなっていることから,権利者への対価還流をどのように行うかということが課題になるかと思われます。
 フェア・ユースは,差し止めを認めるか利用を認めるかというオール・オア・ナッシングの解決ですが,Gordonは,差止めを認めず,損害賠償や利益の償還,合理的なロイヤリティに限定されるエンフォースメントによって,市場の失敗を治癒するとともに,権利者へ利益を移転するメカニズムを提供し得るということを指摘しています。
 そこで,立法論としては,利用を許容しつつ,機器・媒体への課金やあるいは著作物を利用するシステムを提供する者に対する課金など,間接的な対価の還流を行っていく方向性が考えられるかと思われます。その意味では,私的録音録画補償金制度の活用の可能性や,間接侵害として論じられているような著作物を利用するシステムの提供者に対して差し止めは認めないにしても,何らかの利益配分を求めるという可能性も考えられるように思われます。
 私からの報告は以上になります。ありがとうございました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。それでは,同じく御質問,御意見等をいただければと思います。
 野口委員,どうぞ。

【野口委員】  ありがとうございます。もしかしたら栗田先生と村井先生の両方に重複する御質問かもしれませんけれども,私的利用をある程度確保するために,かつ権利者への対価の還元として補償金が一つの解になるというのはお二人に共通した見解だったと思うのですけれども,栗田先生の資料9ページ目の4番のところにもありますように,一方でDRMやクリック契約などにおいて技術的若しくは契約によるそういうような例外規定への制約ということも可能になっていて,しかもDRMの回避については違法であるというところがありますので,それと,そういう補償金とのバランスをどのようにとるのかという非常に難しい問題がまた一方で台頭してきていると思うので,それについてのお二人の先生方の御見解をお伺いできればと思います。
 あともう一つ,補償金について非常に難しいと言われている議論の一つに,私のように,例えばスマートフォンは持っていても音楽をそこにコピーして聞くということは余りせず,例えば伝統的にCDが好きだというような人もいれば,たくさんダウンロードするという人もいて,そういう人たちに例えば同じ金額を課すということがどうなのだとか,いろいろ難しい問題があると思うのですけれども,この2点目よりは1点目の方がより興味のあるところなので,時間がもしないようでしたら,1点目だけで結構です。

【村井准教授】  御質問ありがとうございます。御指摘のとおり,最近の方向性の一つとしては,技術的な管理あるいは集中許諾システムの活用によって,個別の利用段階に直接に課金したりコントロールしたりすることで権利者に対価を環流させるという方法があるかと思われます。ただ,その場合,問題点もあると考えています。例えば外部性によって過小にしか利用されない可能性や,経済的な弱者にとっての抑止効果が大きいという問題や,技術や契約によって著作権法の制限規定などがオーバーライドされるといった問題があると思います。そうすると結局,利用の抑止や制限につながってしまい,私的なあるいは零細的な著作物利用の意義というのが減殺されるおそれが高いように思われます。ですので,そのような技術や契約でコントロールしていくという方向よりは,個人的には,最後に提案させていただいたような,間接的なところで対価を取る方法の方が,利用への抑止効果が低く望ましいのではないかと考えています。ユーザーの志向としても,アンケート調査などを見ますと,DRMなどで利用が制限されるよりも,私的録音録画補償金としてお金を少し払っても自由に使いたいという志向があるように思っておりましたので,最後のようなお話をさせていただきました。余り十分なお答えではないかもしれませんが,よろしいでしょうか。

【栗田准教授】  すみません,もう私の番ではないのですが,よろしいでしょうか。
 1点目に御質問いただいたクリック契約とかシュリンクラップ契約との関係ですが,先ほど村井先生も御指摘になった技術や契約による著作権の制限規定のオーバーライドと言われている問題ではないかと思います。この点についてはドイツでもかなり早い段階から議論がありまして,全く逆向きの二つの方向性が提案されております。一つは,クリック契約やシュリンクラップ契約によって著作物の利用と対価の環流が両立できるのだから,それは全て無制約の排他権に回帰してしまえばよいのだという方向性です。無制約の排他権を認めて,あとはそうしたクリック契約,シュリンクラップ契約,技術的保護手段などの市場による自制的な秩序の形成に期待すればよいのだというわけです。このような発想は,かなり早い段階から見られます。しかし,これに反対する立場の方が,現在では有力になっているのではないかと思われます。それはなぜかと申しますと,技術や契約による著作権の制限規定のオーバーライドを認めてしまうと,権利者側が任意に利用者にとって不利な条件を押し付けてくる可能性が理論的には残ってしまうわけです。既に申し上げましたように,ドイツ法では,著作権の制限規定は単にある権利を制限するだけのものではなく,反対側にある権利,利用者の権利を保護するためにあると現在では捉えられております。そうすると,技術や契約による著作権の制限規定のオーバーライドを認めると,著作権の制限規定によって保護されている利益――著作者とは反対側にある権利――これを侵害するおそれがあるということになります。ですから,やはり形としては著作権の制限規定を残しておこう,その上で対価の環流は必要であれば補償金制度を設けることによって対処しようという考え方が主張されております。
 それから,2点目の音楽の複製以外にも機器を利用する場合についてどうするのかというのは非常に難しい問題で,返金制度が余りうまく機能しないというのは,どの国でも共通理解になっているのではないかと思います。ただ,例えばドイツの議論ですと,技術的保護手段がすごくうまく機能している場合には,補償金の対象から外せばいいのではないかとか,あるいは一般的に,例えば家庭用のビデオカメラのように著作物を利用しない形で利用されることが一定割合認められるような場合には,金額ですとかあるいは補償金の徴収の対象となる機器や媒体等を限定するとか,そういった形でいわば何とか調整しようと考えられております。
 こういったところでよろしかったでしょうか。ありがとうございます。

【道垣内主査】  すみません,時間が余りないのですが,よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。お二人から御報告いただきました。
 それでは,5番目の議題は,今年度の国際小委員会における審議状況の取りまとめです。今年度には特定の問題について決まったことというのは特にありませんので,審議の状況をまとめて,それを著作権分科会において報告するということになります。まずは資料5の原案につきまして事務局から御説明いただけますでしょうか。

【中島国際著作権専門官】  それでは,資料5に基づきまして御報告させていただきます。平成26年度国際小委員会における審議状況について(案)ということで,こちらについてはグレーで示されている部分については,未定稿というか,今回の第3回で取り上げられている内容という形で記載しておりますことを最初に申し上げておきます。
 まず初めに,今回,今年度の第1回の国際小委員会におきまして,国際小委員会においては以下の四つの議題について検討を行うこととされております。以下,順を追って審議の状況について御説明させていただきます。
 まず一つ目は,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方ということで,この3回の国際小委員会の中でタイにおける侵害実態調査の結果,侵害発生国・地域における海賊行為への政府の対応,また,権利者団体,特に隣接権関係の取組を把握するために,関係者からの報告に基づいて議論が行われております。
 ①としまして,侵害実態調査の結果についてということで,平成23年1月の分科会報告書で,侵害の実態を把握するのは個別の権利者では難しいということで,これを踏まえて本小委員会では,昨年度中国での実態について報告させていただいたところですけれども,今年度はタイについて結果を報告させていただいております。
 次のページに移っていただきまして,この報告の中では,二つ目のパラグラフですけれども,日本の正規のコンテンツに対して一定の対価を払ってもよいと考えているユーザーが少なくないこと,ユーザーの多くが著作権に対する認識はあるものの,それが著作権保護の行動につながっていないことなどが指摘され,今後の海賊版対策としては正規版の流通も両輪として考えていくことが重要であるというふうに指摘されております。
 このような実態調査の内容も踏まえて,以下は具体的取組になりますけれども,最初に政府レベルの取組ですが,こちらについても平成23年1月の分科会報告書で,政府間協議の対象を東南アジアに拡大すべきということが指摘されておりまして,それに基づいて政府間協議を対象拡大していっているところであります。今年度の小委員会につきましては,検討中として網掛けしているところですけれども,文化庁が実施しております日韓著作権協議及びフォーラム,中国,インドネシア等の侵害発生国におけるトレーニングセミナー,インドネシア,マレーシア,タイにおける集中管理団体育成のための支援事業の実施などについて報告されております。
 また,文化庁より,インドネシア及びマレーシアから集中管理制度に係る研修視察があるなど,東南アジア諸国における集中管理団体の育成強化に対する関心が高まりつつあるということに加えてASEAN知財計画において普及啓発事業が盛り込まれるなどしておりますので,普及啓発の重要性が高まっているという認識が報告されております。
 続きまして3ページ目ですが,各国における適切な法制度整備及び執行が必要であるということを踏まえまして,文化庁は,昨年10月にWIPOとの共催で著作権・著作隣接権に係るアジア太平洋地域ハイレベル会合を開催しております。この中で,2つ目のパラグラフの真ん中あたりですけれども,参加者の間には,各国の取組状況についての情報共有の重要性や国際条約加盟の必要性について共通理解があるということが指摘される一方で,各国における法整備及び強化,侵害執行体制の強化,集中管理団体の育成モニタリング,人材育成の必要性,国民の著作権保護の意識の低さなどが課題として挙げられたということが報告されております。
 その関連で,国際条約につきましては,WIPO加盟やベルヌ条約締結については一定の進展が見られる一方で,カンボジアなどをはじめとしてベルヌ条約に加盟していない国や,WCT,WPPTに加盟していない国がまだまだあるということで,これらについてはWIPOを通じた協力をさらに進めていく必要があるということが指摘されております。
 そのほか,第2回の国際小委員会ですけれども,Manga-Anime Guardians Projectということで,経産省及びCODAから当該プロジェクトについて御説明があり,大規模削除や正規版サイトへの誘導,広報・普及啓発という三つの柱を基にして実施されているそのプロジェクトについて,進捗状況の報告がありました。
 次に,権利者団体等での取組についてですけれども,次のページに移っていただきまして,芸団協様及びレコード協会及びCODAから各団体の取組について報告がなされております。まず芸団協からは,実演家の管理に関して,アジアにおいては,国際条約の水準から見てその権利に係る法制度の整備が遅れている国が多いということや,権利団体の設立や運営についても遅れている国が多いことから,相手国機関との相互協定が難しく,海外における日本のコンテンツ利用における実演家の利益部分の徴収が難しい状況にあるということなどが報告されております。また,レコード協会からは,音楽市場の推移や現状などを踏まえた集中管理の在り方について説明がありまして,それに加えて,違法音楽配信の実態や,その対策として著作権保護推進センターの取組について御報告がありました。その中で,音楽配信については有害アプリケーションの問題が非常に大きく,対策が必要であることや,その対策の一つとして普及啓発が重要であるということが指摘されております。CODAからの発表については,追記させていただくことにいたします。
 今後の取組につきましては,先ほど堀尾から申し上げましたけれども,今後も引き続き二国間協議を含めた二国間での協力事業として,日本のコンテンツが侵害されている事例が多いと思われる中国,韓国,東南アジア諸国を中心として,海賊版の取り締まり,執行の支援,集中管理の強化,普及啓発に対して継続的な支援を行い,侵害行為に対する適切な対応ができる環境整備を進めていく必要があるとされております。
 それから特に集中管理団体や政府当局の著作権制度に係る能力の育成及び著作権の普及啓発活動の支援については,東南アジア諸国自身も課題として認識しているということも踏まえて,重点的に取り組んでいくべき分野であろうと認識しております。
 また,地域全体の底上げという意味では,WIPOとの連携を二国間協力事業とうまく組み合わせて各国・地域の課題に効果的に対処していくことが必要であろうと記載させていただいております。それからさらに,関係省庁,権利団体等の連携を深めていくことが望まれるというふうに締めくくらせていただいております。
 次に,著作権保護に向けた国際的な対応についてですが,こちらはWIPOの議論で,先ほど御報告させていただいたところの内容と重複しておりますので,7ページに移っていただきたいと思いますけれども,まず放送の話につきましては,日本として今後の対応として,これまで活発に議論が行われているところ,それが引き続き続くであろうという状況ですので,日本としては,放送機関のための適切な国際的保護の枠組みをできるだけ早く構築するために積極的に対応していくべきであろうという形で締めくくらせていただいております。
 それから権利の制限と例外につきましては,次の8ページに行っていただきまして,日本としての今後の対応というところで,日本としては引き続き既存の条約に規定されたスリーステップテストの考え方を踏まえて適切な議論を行うことが必要であろうという方針の下に,何らかの国際文書を作成する場合には,各国がそれぞれの国内事情を踏まえて柔軟な対応ができるようにすべきとの方針を維持すべきであろうという形で記載させていただいております。
 次に,フォークロアの問題についてですが,こちらについては,第2回の国際小委員会で報告させていただきましたけれども,まだ依然として先進国と途上国の間の意見の溝が大きいということで,次の9ページに行っていただきますと,2行目で,文化的表現の秘匿性のレベルに応じて保護内容を段階的に変える階層的アプローチが提案されてはいるものの,その詳細についてはまだまだ議論が必要であり,成果物が得られる状況とは言えないというところになっております。そのような状況で,真ん中に日本としての今後の対応を記載させていただいておりますけれども,フォークロアに対しては,各国が地域の特性や文化的背景を勘案しつつ,文化財保護の取組などを通して進めていくことが一番適切であろうという方針を引き続き踏まえて,IGCをはじめとした国際的な議論の動向に留意して参画していくことが必要と記載させていただいております。
 最後,四つ目ですけれども,こちらに諸外国の著作権法及び制度に関する課題や論点の整理ということで,委員の今村先生及び本日御発表いただきました栗田先生及び村井先生の発表の内容を記載させていただいています。まず,今村先生の御発表につきましては,イギリスにおける教育機関における著作物の利用について,32条,34条から36条に制限例外規定があると。このうちの35条,36条については,録音録画あるいは複製される著作物が教育上の利用を許諾する集中ライセンス・スキームに登録されていない場合にのみに適用があるという点で日本とは異なるという発表がなされております。36条におきましては幾つかの条件が定められているわけですけれども,そのうちライセンスによる制約については,ライセンスが利用可能な場合で,複製を行う者がその事実を認識していた,あるいは認識すべきであった場合には適用されていないことを定めている一方で,同条が定める条件よりも厳格な条件によるライセンスの場合には,そのような条件は無効になるというような規定がなされており,そのような規定は,利用可能なライセンス・スキームを確保するよう促すインセンティブを与えている点に意義があるのではないかというふうな評価がされているといったことが御報告されております。
 以上です。

【道垣内主査】  時間がなくなってきておりますけれども,この場で頂く御意見は特にございますか。明日のお昼ぐらいまでは待てると思いますので,文書で御指摘いただければ,取り入れるかどうかも含めて検討させていただきたいと存じますが,その点も含め,全体として,主査に内容の確定と分科会への報告を御一任いただけますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】  よろしいでしょうか。どうもありがとうございます。
 それでは,これで5番目の議題まで終わりで,6番目の議題については,何かこの場で特にございますか。よろしいでしょうか。
 それでは,これで予定しました議事は終わりでございます。本日は今期最後の小委員会でございまして,有松文化庁次長にいらしていただいておりますので,一言御挨拶を頂ければと思います。よろしくお願いします。

【有松文化庁次長】  今期の著作権分科会国際小委員会を終えるに当たりまして,一言御礼を申し上げたいと思います。
 ただいま審議状況について御説明を申し上げましたとおりでございますので,重ねて申し上げませんけれども,今期の国際小委員会におきましては,昨期に引き続きまして主要諸外国の著作権法制度に対する課題や論点,あるいは国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方,そしてWIPO等における最近の動向,こうした観点について御審議をいただいたところでございます。また,本日もドイツあるいは米国の状況について御報告を頂き,貴重な御意見を頂いたものと思っております。また,先ほどの報告の中にもございましたけれども,WIPOにおける議論等も御報告をし,御意見を頂いております。WIPOにつきましては,放送条約の議論について深化しつつあるというふうに思っておりますので,日本政府としても,先ほどもございましたが,積極的な対応をしていきたいと思っております。現代の社会状況に見合った適切な著作権の制度を作り上げて,そして運営していくというためには,こうした国際的な議論への参画ですとか,諸外国との協力というのが欠かせないと思っておりますので,継続的な活動が必要だというふうに思っております。引き続きまして先生方の御指導を頂きながら,力を尽くしてまいりたいというふうに思っております。
 重ねてになりますけれども,委員の皆様方におかれましては,この委員会の進行に当たりまして,大変お忙しい中,大変な御協力,御尽力を頂きましたことに感謝を申し上げまして,誠に簡単でございますけれども,御挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 それでは,第3回国際小委員会をこれで終了させていただきたいと思います。ありがとうございました。

―― 了 ――

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