文化審議会著作権分科会国際小委員会(第3回)議事録

日時:
平成28年2月12日(金)
13:00~15:00
場所:
中央合同庁舎第4号館
1208特別会議室

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)世界知的所有権機関における最近の動向について
    2. (2)海賊版対策の取組状況等について
    3. (3)著作権の消尽に関する海外での注目すべき裁判例について
    4. (4)平成27年度国際小委員会の審議状況について
    5. (5)その他
  3. 閉会

配布資料

第15期文化審議会著作権分科会国際小委員会(第3回)

平成28年2月12日

【道垣内主査】ただいまから文化審議会著作権分科会国際小委員会の第3回の会合を開催します。御多忙の中,御出席いただきありがとうございます。
 本日の会議の公開については,予定されている議事内容を参照しますと,特段,非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴者の方々には入場していただいています。特にこの点,御異議ありませんか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】それでは,本日の議事は公開とし,傍聴の方には,そのまま傍聴していただきます。
 まず,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【小林国際著作権専門官】配付資料の確認いたします。議事次第を御確認ください。まず議題の1に関連し資料が2つあります。資料1-1が,WIPOにおける最近の動向という資料で,1-2が,放送条約に関する議長のテキスト案です。次に議題の2に関連して2つ資料があり,資料の2-1が日韓著作権協議・著作権フォーラムについてという資料です。2-2については,海賊版対策の取組状況についてという資料です。次に議題3に関連して,奥邨委員の御発表予定の資料として,著作権の消尽に関する海外での注目すべき裁判例という資料を付けています。最後に資料の4ですが,今年度の国際小委員会における審議状況についてという資料です。また,参考資料として2つ資料を用意しています。もし不足等ありましたら,事務局までお申し付けください。

【道垣内主査】ありがとうございます。
 今も御紹介ありましたが,本日の議事は,「世界知的所有権機関における最近の動向について」,「海賊版対策の取組状況について」,「著作権の消尽に関する海外での注目すべき裁判例について」,そして「平成27年度国際小委員会の審議状況について」の4つと「その他」です。第4の議題にあるように,本日は今期最後の小委員会の予定ですので,その取りまとめについて御審議いただきたいと存じます。
 では,議事の1番です。WIPOにおける最近の動向について,事務局よりまず御説明をいただき,その後,委員の方々の御意見をいただきたいと存じます。では,よろしくお願いします。

【小林国際著作権専門官】では,資料の1-1を御覧ください。昨年の12月に開催されましたWIPOのSCCR第31回会合の概要について御報告いたします。
 まず今回の会合ですが,これまでと同様に,放送条約に関する議論,そして権利の制限と例外に関する議論に同等の時間が配分されています。また,その他の議題として,追及権に関すること及びデジタル環境における著作権制度の在り方等についても議論が行われていますので,それぞれ御報告します。
 2ポツの各論について,まず放送条約については1998年から議論がされていまして,今回,この会合に際しまして議長から主要な条文に関する統合テキスト案が提示されています。こちらは資料の1-2として添付しております。定義,保護の対象,与えられる権利と,この3つの項目について,これまでの議論がまとめられています。これに基づいて,今回の第31回の会合では,この3つの項目について重点的に議論が行われています。
 3つの項目について,どのような議論がなされたかということですが,(a)の定義に関することですが,信号,放送,放送機関,再送信及び放送前信号の5つに係る定義について議論が行われています。特に放送の定義については,これまでどおり,日本から伝統的な放送とインターネットの送信とは区別して定義すべきであり,そのために,具体的には既存の条約に基づいてインターネット上の送信を含まない定義とすべきという指摘を行い,EU,アメリカ,ブラジル等の多くの国から支持が表明されています。一方で,アフリカ諸国については,デジタル技術の急速な発展を考慮すれば,過去の条約の定義にはとらわれる必要はないのではないかという主張をしており,テクノロジーニュートラルと呼ばれる,利用する技術に依存しない幅広い定義にすべきと主張しており,この2つの案で意見が対立している状況です。
 次に,「(b)保護の対象」,どのような送信媒体を保護するかという議論については,インターネット上の送信の取扱いが従来から議論になっており,今回のSCCRでは,放送と同時・ほぼ同時のウェブキャスティングを義務的保護とするという議長提案,オンデマンド送信についても義務的保護対象とすべきというEU提案,さらにはインターネット上の送信に関してはいずれも任意的保護とすべきという日本提案,こちらの3つの提案が考えられることが確認されています。また,アメリカからは,伝統的な放送については義務的保護とすること,及びインターネットオリジナルの番組の送信については保護対象外にするということはWIPOの加盟国の間でほぼコンセンサスが得られているので,インターネット上の送信については,各国が柔軟に対応できるように任意的な保護のオプションを設けることが望ましいのではないかという発言がありました。これを踏まえ,次回会合までに,日米欧のこれらの主張を考慮した統合テキスト案を議長が検討することになっております。
 また,有線放送の扱いについても議論になっており,ブラジルから義務的保護とすることに懸念が表明されています。これに対して,アメリカから有線放送を任意的保護としてもよいのではないかという発言がありました。
 以上が保護の対象に関する議論です。
 最後に,「(c)与えられる権利」,どのような範囲の権利を与えるかという議論でございますが,日本から,再送信に関する権利だけではなく,固定に関する権利,又は固定後の権利,利用可能化権等も含めて全て必要という主張を行い,EUからは,固定後の再送信権や利用可能化権については支持できるという発言がありました。一方で,インドについては,従来通り,固定後の権利については,時差の調整のような限定的な場合にのみ認められるべきであり,固定後の権利を幅広く認めることには懸念が表明されています。
 以上が放送条約に関する議論です。
 次に,権利の制限と例外の議論ですが,こちらは2005年から議題化されており,先進国と途上国で対立構造が続いている状態です。先進国については,新たな法的枠組みは不要,一方で途上国については新しい国際的な法的枠組みを構築すべきということで対立が続いていますが,今回,実質的な議論が若干行われておりますので,その概要について御説明させていただきます。
 (イ)の議論の概要ですけれども,まず冒頭に,博物館のための権利と制限の例外についてプレゼンテーションと質疑応答が行われています。その後,図書館とアーカイブのための制限例外について議論が行われています。こちらは作業文書の脚注の2にあるように,11のトピックが挙げられていますが,こちらのうちの一部,2番目の複製権と保全のためのコピー,3番目の法定納本,4番目の図書館貸出しという,これらの3つのトピックについて各国制度に関する情報の共有と議論が行われています。
 議論の内容ですが,保全のためのコピーに関しては,アメリカから,デジタル複製には簡単に再複製,流通がなされる性質があることから,もし図書館で保全のためのデジタル複製を認めた場合には,その目的を超えた流通を防ぐメカニズムをどのように作るべきかという点に関心があり,この点に関して,他の国の情報共有を希望するとの発言がありました。また,図書館の貸出しについては,ブラジルより,電子書籍について海外への貸出しを可能とすべきという主張,意見があり,そのためにはライセンス契約や消尽の問題を解決するためのデジタル時代に対応した新しい国際的な枠組みが必要であるという指摘がありました。
 制限と例外については,次回会合にて引き続き,並行輸入の問題,国境を越えた使用等のトピックについて議論が継続される予定となっております。
 最後に,その他でございますが,まずセネガル及びコンゴから追及権をSCCRの新たな議題としたいという提案があり,議論が行われました。これに関しましては,ルーマニア,EU,ブラジル等が支持を表明しましたが,日本,アメリカ,カナダは,ベルヌ条約では追及権は任意規定となっており,国ごとの保護のレベルが異なるということで,まずはWIPOの事務局において各国の法制度についての調査を行うべきであって,新たな議題とするのは時期尚早であるという懸念を表明しております。これについては,次回以降,引き続き議題とするか否か検討されることになっています。
 次に,(イ)のデジタル環境に関連する著作権制度についてですが,こちらはブラジルから新たな議題提案として出されています。具体的には,音楽配信に関する問題点を指摘しており,パッケージ販売からストリーミング配信に時代が変わってきている中で,新しいデジタル環境に対応して著作権制度の在り方も考えるべきではないかという議題提案が出されています。こちらに対しては,インドやシンガポールが支持を表明しています。一方で,アメリカやEU等から,提案が多岐にわたっているということで,もう少し焦点を絞る必要があるといった意見が出され,コンセンサスが得られませんでしたので,このブラジルからの議題提案については引き続き議論されることになっています。
 最後に,「(ウ)放送条約と権利の制限,例外に関して今後の議論の進め方について」ですが,議長から,放送条約に特化した追加会合の開催と制限・例外に関する地域ワークショップの開催提案がありました。これについては,アフリカグループ,アジア太平洋グループ,ラテンアメリカ・カリブ諸国グループは支持を表明しましたが,先進国グループが態度を留保したため,コンセンサスが得られず,これらの追加会合の開催は決定されませんでした。この点についても,次回の会合で改めて審議される予定です。
 最後に,今後の予定ですが,本年度は5月と11月に2回SCCRが開催される予定です。
 以上です。

【道垣内主査】ありがとうございました。放送条約はもう98年から議論していますから,うかうかすると20年越しになってしまいそうですが,今の御説明を踏まえて,各問題について何か御意見,御質問等ございますか。

【梶原委員】すみません。放送条約の保護の対象に関する意見ですが,放送コンテンツというのは,今はもう放送だけではなく,放送と通信の融合の中で,インターネットで諸外国においても提供されているという実態を考えれば,最低でも,議長提案にあるように,同時,サイマルについては義務的保護の対象とすべきかなと思います。日本政府においては任意的保護ということですが,日本においても,NHKが昨年の秋ですけども,実験で同時配信していますので,そういった点や諸外国の動向を踏まえれば,任意的保護というよりは,少なくとも義務的保護の対象にすべきだと考えます。
 また,1つ質問ですが,日本政府としては,オンデマンド送信についても任意的保護という理解でよろしかったでしょうか。

【小林国際著作権専門官】基本的にはそのとおりです。

【道垣内主査】義務的保護とすべきものもあるのではないかという御指摘でございますが,これは全てを任意的保護というか,保護を義務化しないということですよね。

【小林国際著作権専門官】そうです。

【道垣内主査】そうすると,何を決めるということになるんでしょうか。枠組み作りを先行しましょうという御議論ですか。

【小林国際著作権専門官】はい。

【道垣内主査】分かりました。そのほか,いかがでしょうか。
 それでは,今の御議論を踏まえて今後また御検討いただきたいということで,今のことを今年度の取りまとめに書き込むことにさせていただきたいと存じます。
 では,2番目の議題は,海賊版対策の取組状況についてです。これも事務局からの御説明について委員の方々の御意見,御質問を承りたいと存じます。では,よろしくお願いします。

【堀尾海賊版対策専門官】それでは,資料2-1及び2-2に基づいて,日韓著作権フォーラム及び著作権協議と,今年度,文化庁で実施しました海賊版対策事業について御報告いたします。
 まず,日韓著作権フォーラムと日韓著作権協議について,資料2-1を御覧ください。韓国の文化体育観光部と文化庁では,平成23年に著作権及び著作隣接権分野における連携強化に関する覚書を締結しまして,毎年,日本と韓国,交互で日韓著作権協議及び日韓著作権フォーラムを開催しています。今年度は日本において開催することになっており,昨年12月14日に日韓著作権フォーラム,翌12月15日に日韓著作権協議を開催したところです。
 フォーラムについては,国内著作権関係団体及び関係者約150名の参加を得て,デジタルネットワーク社会における著作物の保護と利用・流通をテーマに,セッション1では「韓国の著作権制度における最近の動向」として,Kim Jang-Ho韓国著作権委員会政策調査室長から,韓国の国際条約協定締結状況や著作権法の改正状況等について御講演いただきました。発表資料については,別添の2に添付していますので,御参照ください。
 また,セッション2では,Kim Hyun-Chol韓国著作権委員会流通振興チーム長から,韓国の「デジタル著作権取引所の取組」について御講演いただきました。資料については,先方からフォーラム時のみの配付に限定して欲しいということでしたので,今回添付はしておりませんが,著作権取引所についての体系的な著作権情報の収集や提供,著作権取引の活性化,法定許諾サービスの活性化を目的にこの取引所が構築されていること,また,同取引所が提供しております著作権情報の収集情報サービスやオンライン利用許諾契約サービス,著作権調査サービス,音楽ログ情報の収集サービスについて説明いただきました。
 セッション3では「インターネット上の著作権侵害対策について」,Kim Young-Youn韓国文化体育観光部著作権官著作権保護課課長補佐より御講演いただきました。こちらの資料は別添3に添付していますが,デジタル時代における著作権侵害の状況や韓国における取締りの流れ及び事例について御説明いただいたところです。
 この3つの講演の後にパネルディスカッションの時間を設け,張獨協大学准教授をファシリテーターとして,会場から寄せられた多数の質問をもとに,各講演者の方々との質疑応答がなされ,講演内容についての理解を深めることができたのではないかと思います。
 会議後のアンケートにおいても,韓国での取組状況について情報を得るよい機会となったというコメントが多く寄せられましたので,今後もこういった取組を引き続き継続していきたいと思っております。なお,来年度は韓国において開催予定となっていますので,日本の取組についての情報共有,理解促進を図っていきたいと思っております。
 翌日の日韓著作権協議は文化庁で開催いたしました。協議への出席者については,資料2-1の裏面につけておりますので御参照ください。こちらでは,TPP協定の大筋合意を受けた日本国内の法改正の動向や海外における著作権保護,侵害対策等について意見交換を行いました。ネット上の侵害については,韓国においても,韓国国内外において対策及び各国との連携を模索しているとのことですので,引き続き情報共有,意見交換等を行っていきたいと思っています。
 続きまして,文化庁における今年度の海賊版対策の取組状況について報告させていただきます。資料2-2でございます。
 今年度の知財計画2015においては,第1部の重点3本柱において,正規版コンテンツの海外展開に係る模倣品・海賊版対策,第2部の重点8施策において,インターネットを通じた知財侵害への対応,相手国政府・執行機関への働き掛けと日本企業等への支援等が記載されております。これらに基づいた文化庁の取組は,次の3ページ,4ページ,5ページに記載していますが,3ページでは,全体図として記載しています。文化庁の取組として,二国間協議,グローバルな著作権侵害への対応,トレーニングセミナー,権利行使の支援等,官民一体となった普及啓発活動,官民協力体制の構築,またWIPOと協力した途上国対象協力事業がございます。二国間協議から官民協力体制の構築までは文化庁の方での直接執行で実施していますが,WIPOと協力した途上国対象協力事業については,WIPOへの信託基金の拠出という形で事業を実施しています。
 27年度の具体的な実施事業を4ページ,5ページに記載していますが,二国間協議については,先ほど報告しました韓国,又は今年度の第1回目の国際小委員会で報告させていただきました中国,そのほか,ベトナム,インドネシア,マレーシアと協議を行っております。
 また,グローバルな著作権侵害への対応については,ベトナム,インドネシア,マレーシアにおいては,集中管理制度の整備・強化及び人材育成が喫緊の課題ということで,政府職員等による訪日研修,本年1月には,ベトナムにおいて集中管理に関するセミナーを実施しました。毎年行っている著作権侵害実態調査については,本年度はベトナムを対象に実施をしました。
 次に,トレーニングセミナーについては,コンテンツ海外流通促進機構(CODA)様に事業委託をし,中国,香港,マカオ,台湾,マレーシア,インドネシアの7都市で現地の税関,警察,裁判所等,取締機関職員等を対象にした人材育成及び関係構築を目的にトレーニングセミナーを実施しています。
 権利行使の支援については,インターネット上の著作権侵害の状況や対処方法・事例等を調査し,国内権利者が海外における海賊版への対策について資するようなハンドブックを現在作成しています。法制度については,アメリカ,韓国,インドネシアを対象にした法執行の仕方について作成を予定しています。
 普及啓発事業においては,こちらもCODA様に事業委託をして,タイ及びインドネシアにおける普及啓発セミナーの実施,ベトナムに対する普及啓発資料の翻訳提供を予定しております。
 次に,WIPOを通じた協力事業としては,5ページ目になりますが,権利行使の強化を図るための東京特別研修をインドネシア,フィリピン,マレーシア,タイ,ベトナムの5か国,10名を対象に実施しました。
 そのほか,集中管理制度の整備・強化を図る集中管理制度に関する研修をバングラデシュ,モンゴル,スリランカの3か国,6名を対象に実施しました。
 そのほかのアジア・太平洋地域における普及・充実としてナショナルセミナーを実施し,こちらの方はWIPOに対して支援要請のある国の中から当該国の政府関係者や著作権関係団体に対する著作権制度の普及啓発,意見交換を目的として実施しております。今年度は,ミャンマー,ベトナム,スリランカに対して実施をしたところです。
 地域会合においては,今年度は太平洋諸国を対象としたサブリージョナル会合を2月末にシドニーで行う予定になっています。
 来年度の事業については,国内関係者,先方政府,WIPO事務局等と現在調整しているところですが,今後の海賊版対策事業及びWIPOを通じたベース事業の実施については,TPP協定の発効に伴い関係国への日本コンテンツの輸出の増加が期待され,また,関係国における侵害対策の強化が見込まれることを踏まえ,国境を越えた海賊版行為に対応していく必要があります。具体的には,今後も引き続き二国間協議を含めた二国間での協力事業として,日本コンテンツが侵害されている事例が多いと思われる中国,韓国,東南アジア諸国,また特にTPPの交渉参加国等を中心として海賊版の取締り,権利行使の支援,著作権集中管理の強化,普及啓発等に対して継続的な支援を行い,侵害行為に対する適切な対応ができる環境整備を進めていく必要があると考えています。その際に,対象国は現地のニーズや期待される効果等を考慮して検討していきたいと考えています。
 また,インターネットという国境をまたぐ侵害行為については,多国間での取組,議論が必要であるため,特に日本と関係の深いアジア・太平洋諸国について,地域全体の著作権制度の底上げ及び保護の枠組み強化を図る観点から,WIPOとの連携により国際条約加盟推進を図るとともに,二国間協議事業とうまく組み合わせて各国地域の話題に効果的に対応していきたいと考えております。
 そのほか,国内関係省庁及び国内の権利者団体とのさらなる連携を推進していきたいと考えているところです。
 以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。
 今の点につきまして御質問,御意見等ございますでしょうか。
 私から1点伺いたいのですが,予算を見ますと,昨年度に比べて今年度は1億4,300万円,2,300万円くらい予算を増やしてもらって事業実施していますが,それだけの手応え・効果はあったのかということと,もしあったとすれば,いろいろなメニューがありますけども,どのメニューがいい感じなのでしょうか。それが分からないと,いつも同じことを繰り返している感じになってしまうので,もし何かあれば御説明いただきたいと思います。

【堀尾海賊版対策専門官】今年度予算については,権利行使の支援等におけるハンドブックの作成分が純粋な増額となっております。これは,いろいろな方のお話を伺っているときに,どこに申し入れたらいいのか等,各国の法制度や侵害に対する,手続がよく分からないというお話もありましたので,そういったハンドブックの作成というのが国内の権利者への支援に効果的ではないかということで,一昨年度新規要求をして増額になっている部分です。
 そのほかの事業の効果としては,トレーニングセミナーは継続事業ですが,実際に現地に行って税関や警察の方々に対する日本コンテンツについてどういった侵害が起こっているか,どういった見分け方があるかというセミナーを行うことによって,向こうの取締機関の人に対する意識を高めてもらうということと,そこで向こうの担当者とじかに話をすることで,実際に取締り,申立てを行うときに言いやすくなるということがあります。実際には,CODAさんが中国や台湾,香港において取締り,申立てをずっと続けている中で台湾か香港で実際にセミナーを行った翌日に実店舗への取締りが行われたこともあり,先方に対しても日本のコンテンツをきちんと取り締まらないといけないという意識を向上させていくことができているのではないかと感じています。
 そのほか,グローバルな著作権侵害への対応については,各国政府と課題について意見交換をしていますが,現地の著作権当局もかなり意識は高まってきているけれども,集中管理の制度がまだしっかりしていない,また,団体の方の育成がしっかりしていないというような要請がきておりますので,国内のJASRAC,レコード協会,芸団協の御協力を得ながら,日本の経験を共有しながら現地での制度強化に努めています。

【道垣内主査】ありがとうございました。
 その他,いかがですか。権利者側の団体の方,例えば久保田委員,何か要望やお感じになっているところとかあればお願いします。

【久保田委員】いいえ,もうCODAを通してやっているので特にありません。

【道垣内主査】分かりました。
 それでは,特にその他なければ,今日の重要な御報告が次の議題にありますので,そちらに時間を使っていただきたいと存じます。
 3番目は,著作権の消尽に関する海外での注目すべき裁判例について,奥邨委員から御発表いただきます。約25分を予定していますが,適宜お願いいたします。

【奥邨委員】それでは,著作権の消尽に関する海外での注目すべき裁判例について御報告します。
 お手元の資料,スライド投映と変わらない内容になります。なお海外と申しましても,米国と欧州司法裁だけとなります点,御容赦ください。
 まず,スライドの2枚目ですが,これは日本における譲渡権の消尽について,あくまで参考としてまとめたものですので割愛します。
 スライドの3には,関連する米国著作権法の規定を載せております。訳は山本委員の訳をCRICのホームページから引用させていただきました。106条(3)号,頒布権でありますが,これは著作権のある著作物のコピー又はレコードを販売その他の所有権の移転又は貸与によって公衆に頒布する権利です。
 次に,109条(a)項でありますが,これは俗にファースト・セール・ドクトリンと呼ばれる米国著作権法の消尽原則について明文で規定しているものです。細かいところは次のスライドの4枚目に,その要件を箇条書きでまとめてございます。
 まず(1)消尽が問題となる複製物は適法に作成されたものであること,(2)その複製物を譲渡する者が当該複製物の適法な所有者であること,の2つが法定の要件です。一般にファースト・セール・ドクトリンと呼ばれる訳ですが,法律上は,3つ目の(3)適法な第一譲渡の存在というものが明文では求められていません。ただ,(2)の求める複製物の適法な所有者となるためには,典型的には,適法な第一譲渡があって譲り受けた者ということが前提になってこようかと思います。もっとも,例外的な場合もあります。
 ここまでは米国内での譲渡に関する規定を取り上げましたが,スライドの5枚目に載せてあります602条(a)項は輸入について規定しています。(1)号,(2)号両方挙げてありますが,(1)号に御注目いただきますと,(1)号は,著作権者の権原に基づくことなく米国外で取得された複製物などを米国に輸入することは頒布権の侵害になる旨を定めております。この規定ぶりだけを見ると,日本と違い,米国では著作物の複製物の並行輸入は禁止されるように読めますが,果たしてそうなのかどうかが争われたのがKirtsaeng事件かということになります。
 スライドの6枚目に,Kirtsaeng事件の事実関係を極めて簡単にまとめています。この事件では,教科書の複製物が問題となりました。教科書の著作権を有するアメリカの出版社は,米国内では自ら教科書を印刷,販売していましたが,海外での複製販売に関しては,海外の子会社に任せており,海外に関する著作権は子会社に譲渡して,子会社が海外での印刷,販売を行っていたことになります。海外版の教科書には,米国外での販売用の商品であることや,無許諾でのアメリカへの持込みは禁止する旨の記述がありました。なお,米国版と海外版の教科書には内容に違いはありません。大きな違いは,両者の値段でして,海外版の方が安い価格に設定されていました。この事件被告であるKirtsaeng氏はタイからの留学生で,彼は教科書の内外価格差に目をつけて,タイにいる親戚,友人に海外版の教科書を購入してアメリカに送ってもらい,それをネットオークションで販売し,その差額で利益を得ていました。この輸入行為及びアメリカ国内での販売行為について,米国出版社が著作権侵害を主張し訴訟になったわけです。
 スライドの7枚目を御覧ください。さきに見たように,602条(a)項(1)号の文言上は外国で適法に出版された書籍でも,輸入禁止の対象となるように読めるわけであります。ただ,問題は,アメリカ国内で適法に作成された後,米国外に輸出された複製物が米国へ再び還流輸入されたQuality King事件において,最高裁は,602条(a)項(1)号について,これは輸入禁止権を定めた規定というよりも無許諾輸入を頒布権侵害と位置づける規定と判断したことにあります。先ほども見ましたように,頒布権にはファースト・セール・ドクトリンの適用があるので,海外で適法に作成された書籍についても,ファースト・セール・ドクトリンが適用され,その結果,602条(a)項(1)号によって,そのような書籍の無許諾輸入を止められないことになるのではないかという議論になってくるわけです。
 ここで,ファースト・セール・ドクトリンが適用されるのは米国内で適法に作成された複製物に限るという地理的解釈とでも呼びます立場と,そのような限定はないのだという非地理的解釈が対立するわけです。
 スライドの8枚目にお進みください。この問題に対して最高裁は,商品の自由流通を重視して,非地理的解釈によるべきとの結論を示しました。109条(a)項の「この法律の下に適法に作成された……複製物」という文言について,これは外国での行為に米国法が適用されるとするならば適法に作成されたと評価できるかという,一種の仮定法的な考え方で判断するという趣旨だとしたわけです。
 ただ,最高裁のKirtsaeng事件の結論というのは,これまでの通商交渉において米国政府が主張していた,いわば並行輸入を認めないという考え方とは相違するわけであり,反対意見を執筆いたしましたギンズバーグ裁判官は,この判決は米国がこれまで築き上げてきた信頼性を損なうものだと強く批判をしています。
 この点,同意意見はQuality King事件において最高裁自身が602条(a)項(1)号を独立の輸入禁止権に関する規定であると解釈せずに頒布権に関する規定であると解釈してしまっている以上,判例間の整合性をとるためには,今回のような議論はやむを得ないと述べています。
 また実質的に見ましても,ファースト・セール・ドクトリンについて,仮に地理的解釈を採用してしまうと,例えばこの事件の場合,輸入したのはKirtsaeng氏でしたが,仮にそうではなくて海外版の教科書をアメリカの出版社自身が輸入した場合であっても,輸入自体は問題なくなりますが,その輸入した教科書が米国内で販売され,それを購入した人が再販売をする場合を考えると,実は109条(a)項の「適法に作成された」というのを,国内に限ると,もう永遠に109条(a)が適用される余地がないという解釈になりかねず,川下に対する弊害が余りに大きいということも重視されたのではないかと思います。以上が,並行輸入に関するアメリカの最高裁判決の御紹介です。
 次のスライドの9枚目からは,デジタル時代の消尽の在り方についてでして,今後いろいろと議論になろうかと思われます。関係する米欧の裁判例を御紹介します。時間の関係上,かなり大雑把な御説明となりますが,お許しいただければと思います。
 まず,Vernor事件についてです。この事件の事実関係自体は,デジタル消尽とは直接の関係はないのですが,販売かライセンスかという,重要な論点について判断した裁判例の一つとしてよく取り上げられていますので,御紹介します。Vernor氏は,CD-ROMに入ったAutodesk社のCADソフトの中古品をガレージセールで購入し,それをネットオークションで販売していました。そうすると,Autodesk社から,それは同社が有する頒布権の侵害だとクレームがついたわけです。これに対してVernor氏は,Autodesk社がソフトを記録したCD-ROMを最初にユーザーに販売したことによって,当該CD-ROMに関する頒布権は既に消尽しており,それ以降の中古販売は自由である旨,主張しました。一方,Autodesk社は,最初に同社がユーザーにCD-ROMを提供した行為は販売ではなく,あくまでもライセンスであり,ユーザーはCD-ROMの所有者ではないので頒布権は消尽しないと主張しました。
 これに対し,第9巡回区控訴裁判所は,(1)権利者がユーザーに対してライセンスである旨を明示し,(2)かつユーザーによる譲渡をはっきりと制限し,(3)さらにその他,顕著に利用制限を課している,という3つの条件がそろっている場合,ユーザーは所有者ではなくてライセンシーであるとの判断基準を示しました。そして,Autodesk社が行っていたライセンスの内容やその運用は,今申し上げたこの3つの条件を満たしているとして,Autodesk社から最初に購入したユーザーはライセンシーに過ぎず,ゆえに以降も頒布権の消尽は問題とならないとしたわけです。
 この第9巡回区控訴裁の判決は,販売かライセンスかを区別する上でのリーディングケースの一つとも言われますが,一方でこの基準に関しましては,例えばシュリンクラップライセンスを使ってしまえば,ファースト・セール・ドクトリンを骨抜きにできてしまうではないかなどと強く批判されているところもあります。また,後で見ます欧州のusedSoft事件の判決と比べても,権利者には有利な基準かと思われます。
 スライドの10枚目はReDigi事件という,まさにデジタル消尽の定型例に関する事件です。これまで消尽というのは,有体物の譲渡を前提として議論されてきましたが,ここで問題となったのは,電子ファイルの無体的な譲渡であり,有体物的な譲渡ではありません。果たして無体的な譲渡にも消尽は認められるのか,すなわちデジタル消尽の問題が正面から問題になったわけです。
 ReDigi社は音楽ファイルの中古販売を可能とするシステムを構築し,ビジネスを始めました。図のとおり,ユーザーAがReDigi社のシステムで音楽ファイルを中古販売するとします。その場合,ReDigi社によると,販売できるのはApple社のiTunesサービスを通じてダウンロード購入したものが限られます。ユーザーAが,自分の持っている音楽ファイルを中古販売する場合,ReDigi社の提供する専用ソフトウェアを用いてファイルを一旦ReDigi社のサーバに転送しなければなりません。転送すると,その専用ソフトの機能により,ユーザーAのパソコンにある元のファイルは,ユーザーAへのパソコンからは削除されてしまい,ReDigi社のサーバ上のファイル1個だけが残るわけです。そのファイルをユーザーBが購入すると,そのファイルへのアクセス権がAからBに移り,ユーザーAはもはやそのファイルにアクセスできなくなる。それに対してファイルの購入以降,ユーザーBはそのファイルをサーバ上で再生したり手元のパソコンにダウンロードしたりすることができるようになるわけです。このサービスは,ReDigi社のサーバを介していますが,トータルで考えますと,AからBへのファイルを送信しているだけという評価もできるわけです。よって,日本ならば公衆送信権の侵害が問題になりそうなものですが,スライド11枚目にもあるように,米国著作権法には公衆送信権と名づけられた権利はなく,ダウンロード型の送信については頒布権で規律されるという解釈ですので,著作権者は,このシステムについて頒布権侵害になると主張したわけです。一方,ReDigi社は,これは現実世界での複製物の売買をコンピュータシステムを使ってバーチャルに実現しているにすぎないので,ファースト・セール・ドクトリンが適用されて頒布権は消尽し,このシステムを利用した中古販売は適法であると主張しました。
 ニューヨーク南部地区連邦裁判所は,ユーザーがサーバ上に作成する複製物はそもそも違法な複製物だとして,その時点でファースト・セール・ドクトリンの要件を満たさないと判断しました。また,本来,消尽が問題となるべきは権利者が譲渡した複製物ですので,最初に譲渡された複製物は,iTunesからダウンロードしてユーザーの手元に作成された複製物のことであると考えるならば,サーバ上の複製物は,権利者が作った複製物とは別物ですので,そもそも消尽云々は問題にならないことも指摘しています。
 このReDigi社の事件の場合は,サーバへの転送を介したコンテンツの中古販売でしたが,ユーザー間で直接ファイルを送る場合でも,譲受け者の手元の複製物は新たに作成されたものですので,その点が消尽を否定する方向に働くのではないかという指摘もされています。
 スライドの12枚目以降では,欧州の状況を簡単に御紹介します。まず,usedSoft事件です。事実関係複雑なので詳細は省きますが,オラクル社の顧客は同社のサイトからダウンロードしたプログラムをサーバにインストールして使用します。ただ,クライアントの端末からプログラムを使おうとした場合は,プログラムの一部が端末のメモリに複製されます。サイトからのダウンロードは無償ですが,その使用に当たって顧客はオラクル社と有償のライセンス契約を締結しなければなりません。ライセンス契約を締結いたしますと,1ライセンス当たり25ユーザーまでサーバ上のプログラムを使用できます。ただ,25ユーザー分買っても実際には20ユーザーや10ユーザーしか使わない人たちがいますので,usedSoft社が,その余った分をユーザーAから買い受け,ユーザーBに販売するという形でソフトの中古販売をしていました。
 スライドの13枚目ですが,欧州司法裁判所は,プログラムを無償ダウンロードでユーザーに提供する一方で,ユーザーは使用に当たって有償ライセンスが必要になる,という手法を採用したとしても,権利者が複製物の経済的な価値に見合う対価を受け取る代わりに複製物を無期限に利用できる権原をユーザーに与えているならば,コンピュータプログラムの複製物に関する頒布権,「コンピュータ・プログラムの法的保護に関する指令(ソフトウェア指令)」上の権利ですね,この頒布権は消尽するとの判断を示しました。この考え方は,先ほどのVernor事件のアメリカの裁判所の判決の基準よりは,かなり実質的なところに踏み込んで判断していると言えるかと思います。
 さらに,欧州司法裁は,ライセンスの中古販売をする際に,権利者のサイトからダウンロードしたコンピュータプログラムの複製物の再販売を必要する場合に,権利者が最初の購入者に対して,先ほどのように,複製物の経済的な価値に見合う対価を受け取る代わりに無期限に利用できる権限を与えるようなライセンスを付与するのであれば,それ以降のライセンスの購入者はソフトウェア指令上の消尽の効果を享受できる,ゆえに複製物の適法な所有者となるので,ソフトウェア指令に基づいて,そのコンピュータプログラムを使うために必要な複製をすることができるという判断を示しています。
 このusedSoft事件が出た際は,システムがかなり複雑ですので,デジタル消尽が問題になる通常の事例とは少し違いますが,有体物の売買を介さない形の無体的な一種の譲渡に関しても消尽を認めた,すなわちデジタル消尽を認めた判決と理解する向きもありました。さらに,米国では,もしこの判決の射程がソフトウェアにとどまらずデジタルコンテンツ全般に及ぶとすると,先ほど申し上げたように,米国ではReDigi判決が一種のリーディングケース化しつつありましたので,デジタル消尽に関してアメリカは出遅れるのではないかという懸念が一部あって,欧州の動向というのは非常に注目されていました。
 ただ,スライドの14枚目にございますAllposters事件判決を見る限り,usedSoft事件判決の射程というのはそれほど広くないのではないと思われます。事案を簡単に御紹介しますと,Allposters社は,ポスターの絵をキャンバスにそっくり「移し」取る技術というのを開発しました。油絵の名画等が印刷されたポスターを買ってきて,このAllposters社の技術を利用して,インクを浮かしとってしまって,それをそっくりキャンバスの上に全部「移し」取ることができるわけです。そうすると,ポスターは全くの白い紙になってしまいます。Allposters社が,そうして「移し」取ったキャンバスを販売していたところ,ポスターに印刷された絵の著作権を管理する団体から著作権侵害だというクレームがあったわけです。Allposters社は,自身の行為は頒布権侵害に当たらないんだという一種の確認訴訟を提起しました。その主張のポイントは,ポスターは既に市場で販売されたものであり既に第一譲渡済みなので,ポスターを再販売することは譲渡権の消尽によって侵害に当たらないというものです。さらに,その前提として,ポスターからキャンバスへの絵の「移し」取りは,複製ではなく転写なので,そのまま消尽の適用が受けられると主張しました。
 スライドの15枚目ですが,これに対してECJは,情報社会指令第4条は,著作者に,彼・彼女らの知的所有権を化体した個々の有体物について,EU域内で最初に上市することをコントロールする権限を与えるものであり,ゆえに,頒布権の消尽は,著作物又はその複製物が化体した有体物に適用されると解すべきとしました。ここで本筋からはずれるのですが,日本法では,複製物というのは有形的に再製された状態をいうので有体物になっているんですけど,文字面を読む限りは,この判決でいう複製物は,「複製物が化体した有体物」と言っていますので有体物ではないように読めます。話を戻しまして,いずれにしても,頒布権の消尽というのは,あくまで有体物の状態だけだといっています。その上で,原告の技術はメディアチェンジであって,著作物のイメージを化体する新しい物品の作成に該当するので,著作権法上は複製に過ぎないとも言っています。そして,著作者が著作物を化体した物品の頒布に同意したとしても,当該物品の上市後,著作物の新しい複製に該当するような形で物品が変更された場合,最初の頒布に関する同意は,そのような物品の頒布までは及んでいないという判断を示したわけであります。この判決の結果,ソフトウェア以外のコンテンツの場合,消尽が問題となるのは,有体物の場合だけということが明らかになったと思われます。また,メディアチェンジが行われた場合,消尽は適用されないということも述べられています。この点が,デジタルでファイルを相手に届ける場合は,メディアチェンジが前提ですので,デジタル消尽というのは原則厳しいということになるのではないかと思われます。
 以上が今日の御報告となるわけですが,スライドの16枚目では,いわゆるデジタル消尽が問題となりそうな局面を図示しております。今日は,ここで細かいことは申し上げることはしませんが,ただ,これまで消尽というのは,有体物たる複製物の譲渡に伴って議論されてきており,ネットワークで送信する場合,それは消尽の枠外のことであると通常理解されてきたわけです。しかし,ネットワーク経由のコンテンツの流通が,有体物を介したコンテンツの流通をどんどん置き換えていくということが,私たちの目の前で日々起こっているわけです。この点,ユーザー目線で考えると,「有体物経由であろうがネット配信であろうが,自分がコンテンツを購入したのは同じなのに,自分が買ったものを中古販売できないというのはどういう理屈なんだ,そういう道理はないんじゃないか」と思われる部分もあるのではないかと思われます。
 これについては,いやいや,著作権の世界では有体物の譲渡と消尽は違う,という説明になるわけですが,これからのデジタルネットワーク社会でそういうネットワーク系の配信による「譲渡」が増えていくと,果たしてそういう理屈がどこまで世間一般の御理解を得られるかというのは気になる部分もあります。
 今日は米国と欧州の関連する事例を御報告しましたが,今後,日本でもこの問題について本格的な検討が求められるかもしれないと思っておりますし,また,国際的なコンセンサスが求められる状況がくるのかもしれないと思う次第です。
 以上で御報告を終わります。ありがとうございました。

【道垣内主査】ありがとうございました。
 日本の法制をどうするかについては別に設置されている法制基本問題小委員会で議論すべきことですが,外国の事例を見るときには,日本の現行著作権法でどういう問題が起きているのか分からないと議論がしにくいので,スライド16枚目のケース(1)から④のそれぞれについて,日本の今の規定のもとで結論は同じなのか,違うのか。いずれの場合にも,それでよいのか,まずいのか,奥邨先生のお考えを簡単に御説明いただけますか。

【奥邨委員】あくまで私見ですが,デジタルコンテンツと言っても(1)の電子メディアの転売のように,CD-ROMで売っているようなケースでは,通常の書籍などと同じように譲渡権の消尽ということで中古販売可能かと思います。
 問題は,(2)の例えば音楽を端末にダウンロードした場合に,ダウンロードした端末ごと誰かに中古販売できるのかという点です。この点,現行の日本法では,そもそも最初に,適法な譲渡権の行使,すなわち有体物の譲渡なりがなく,送信で提供されていますので,法定の要件上は難しいということになりそうに思います。ただ,これぐらいは,なんとか解釈で可能にできないかなと個人的には思っております。
 (3)は,ネットで受け取った音楽ファイル等のデジタルコンテンツをネットで他人に送るという状況です。これは日本法でいえば,公衆送信権が適用されるか否かという問題になってしまいますので,特に中古販売先が公衆である限りにおいては,公衆送信権侵害になってしまうと思います。
 最後,(4)ストリーミング型の場合の閲覧権の販売,具体的には鍵やパスワード等の販売ですけども,これは著作権法の世界というよりは契約の問題であるとか,また,その他,不正競争防止法,それから不正アクセス禁止法等々と整合するかどうかで判断していくのかなと思っております。
 私自身は,(2)は何とか現行法の解釈でならないかなと思っていますし,(3)についても,先ほどもありましたように,今後益々デジタルコンテンツがネットワークを経由して流通するようになってきた場合,ユーザーが,入手経路にかかわらず,自分はコンテンツを「所有」していると理解しているときに,紙・CD-ROM・ネットという入手経路の違いによって,その先の処分の自由度が異なるということを本当に納得いただけるのかというと,非常に心もとない気がしておりまして,何らかのルール変更が必要ではないかと思っています。ただ,それに対して権利者側が困るということであれば,DRM等々をかけることで対応していく等のバランスを考える段階にこれから向かうのかなと思っている次第です。以上です。

【道垣内主査】ありがとうございました。上野委員,どうぞ。

【上野委員】本日の奥邨先生の御報告,大変分かりやすく,とても勉強になりました。
 最近一月に米国商務省が公表したホワイトペーパー(White Paper on Remixes, First Sale, and Sanctutor)では,現時点でファースト・セール・ドクトリンの適用を著作物のデジタル送信に拡大することについて消極的な立場が示されているようですが,デジタルコンテンツの転売というものは,奥邨先生の報告スライド16枚目でも御整理いただきましたように,幾つかのパターンがあり,「業者」からユーザーへの提供が有体物の譲渡なのか,それともオンラインでの提供なのかという点で区別されるとともに,ユーザーからの「転売」が有体物の譲渡なのか,それともオンラインでの提供なのかという点で区別され,そのそれぞれについて個別的な検討が必要のように思います。
 例えば,(3)のように,ユーザーがダウンロード購入したコンテンツのファイルを他人に中古ファイルだといって送信して転売するという行為は,たとえ,転売の際に自分のパソコンからファイルを消去するのだといいましても,このような「転売」が常に適法だというのはなかなか厳しいのではないかと思うわけです。
 ただ,他方で,(2)のように,ユーザーがタブレット端末にダウンロード購入したコンテンツを保存したまま当該タブレット端末自体を転売するということも許されないということになりますと,たとえタブレット端末を購入したユーザーが当該コンテンツを視聴できないような仕組みになっている場合でありましても,転売行為自体が著作権侵害に当たることになりかねず,結果として,iPadとかKindleといったタブレット端末は,ダウンロード購入したコンテンツを全て消去しない限り,中古販売できないということになりかねないように思います。もちろん違法ダウンロードしたファイルがタブレット端末に保存されている場合ですとか,私的使用目的でダウンロードしたファイルがタブレット端末を公衆譲渡する場合も目的外使用ということになりますので,そうした場合に当該タブレット端末を転売できないというのは仕方ないかもしれませんが,あくまでダウンロード購入したコンテンツであるにも関わらず,そのファイルが保存されているタブレット端末を転売すること自体が著作権侵害に当たってしまってよいのかというのが問題になるところであり,奥邨先生もそうしたお考えに基づいていろいろな可能性を検討なさっているのではないかと思っています。
 ただ,アメリカ法におきましても,(2)のパターンは通説によると,消尽原則が適用されず,頒布権侵害に当たるというお話でした。しかしながら先ほど御紹介があったReDigi事件の判決が「権利者が販売したファイルそのものの譲渡」と言えるかどうかを問題にしているとすると,ReDigi社のサービスのように,ユーザーが購入したファイルをいったんサーバにアップするという場合であれば,そのようにアップされたファイルは,もはや最初のユーザーに販売された「ファイルそのもの」ではないということになろうかとも思われます。他方で,(2)のようにタブレット端末にダウンロード購入したファイルを保存したまま当該タブレット端末を転売する場合であれば,最初にタブレット端末に作られるファイルは,当該タブレット端末の転売に際して譲渡されるファイルそのものと言えるような気がいたしますし,その際に何らかのメディアチェンジが行われるわけでもありません。
 このように考えますと,アメリカの通説が,(2)のケースまでも頒布権侵害に当たると考えていることの背景には,どのような理由があるのでしょうか。このことはアメリカ法の議論にとどまらず,今後,日本法の在り方を考える上で参考になるように思いますので,御質問させていただく次第であります。以上です。

【奥邨委員】この問題をいろいろ調べたところ,こういう4つのケースに分けて,きれいに議論をしているところがないので必ずしも明確ではありませんが,例えば,Patry on CopyrightのPatry先生なんかは,消尽するのではないかという示唆をされています。ただ,それは,そもそもアメリカは送信権の代わりに頒布権で考えるところ,送信してその先に複製物ができ上がることをトータルで見て頒布と理解しているのだから,それを第一譲渡と捉えてよいのではないかという議論だと思います。ただ,ここで問題となるのが,さっき御紹介したVernor事件でして,大抵デジタル配信の場合は,ユーザーとの間でライセンス契約締結しているわけです。結果,ユーザーは所有者ではない,という風に捉えるとファースト・セール・ドクトリンは適用されないわけでして,そういう意見も多いです。この点,必ずしも同じ次元で議論をしているというわけではなくて,あまりきれいには整理をされていないようですが,実質難しいのが現状なのかと理解をしています。

【上野委員】ありがとうございました。

【道垣内主査】鈴木委員,どうぞ。

【鈴木主査代理】デジタルではなく,むしろ古典的な一種の並行輸入に関し,最初の方に出てきた教科書の並行輸入の問題について,この最高裁判決が出て出版社はどうしているかということについて,分かる範囲で教えていただければと思います。教科書の並行輸入については,今日の議題(1)の御報告でも言及があったWIPOにおける権利制限の議論で,教育研究機関のための制限例外という中に,多分こういう途上国における教育関係の図書等へのアクセスを容易化する措置というのが議論の俎上に上がっていると思うので,そういう問題とも関連してくるのではないかと思って質問する次第です。

【奥邨委員】申し訳ないですが,今の先生の御指摘の部分について,出版業者がどういう対応をしているかという実務的なことは,不勉強になっております。
 この事件が出た後で幾つか言われていたのは,まず,商標による輸入阻止が試みられるのではないかということです。商標の場合,若干内容を変えてしまい,それが重要な相違に当たるならば,並行輸入を止められるのでそれを利用してくるのではないか,といわれておりました。もっともまた,書籍のタイトルをそもそも商標として登録できるのかという論点もあるので,なかなか難しいのではないかという議論もありました。それから,電子書籍にしてしまえばクラウドでの管理等ができるので,そういう風に対応すべきではないかというような議論が,この判決が出た直後みられました。いずれも,クライアントに対してこういうことを考えたらどうかという弁護士事務所からの示唆です。そこぐらいまでしか,把握できておりません。以上です。

【道垣内主査】よろしいでしょうか。そのほか,いかがでしょうか。どうぞ。

【前田委員】私から質問させていただきたいのですが,スライドの16枚目で,先ほど来出ているように,4つの類型というのを御整理してくださったと思います。ここで示された4つの類型というのは,奥邨委員の御趣旨としては,例えばこの4つの類型というのは実質的に同じような行為であるというふうに評価できるけれども,現行法を前提にして,どういった支分権がここで問題になるのかという観点から見ると違ってくるという御趣旨なのか,あるいは取引の実情等の実質的な観点から見て違う意義を持っているという整理なのかが興味があります。例えば,著作権法が技術的に中立であるべきだという発想に立てば,支分権ではなく,実質的な面から結論が決まらなければならないという考え方はあると思うんですね。
 一方で,もしこれが形式的な面だけではなくて権利者や利用者の観点から見て,どうしても実質的に違うということであれば,その面からも別の取り扱いというのができると思います。
 それに関連してですが,例えば欧州のusedSoftの事件とAllpostersの事件というのがあって,それは結論に違う部分があったわけですよね。この両者の結論の違いというのが,欧州の法体系を前提にした上で,法体系の中で整合的に解釈しなければならないということがこの結論の決め手になっているのか,あるいは実質的な部分を見て,これは権利者に権利行使をさせるべきだというような考慮が勝っているような部分があるのかと主にどういった観点から,この二つの判例の結論の違いを説明すればいいのかなと。形式的に見ると,もしかしたら矛盾しているような部分もあるのかもしれないという気もしたので,そのあたりについて教えていただけますとありがたく思います。

【奥邨委員】欧州の著作権制度に必ずしも詳しいわけではないので,あくまで自分が今理解している範囲で申し上げますと,特にusedSoft事件については,いわゆるソフトウェア指令にネットワークでの送信も消尽の対象になると読める規定があるということを一つの根拠にしています。それに対し,ソフトフェア以外の著作物については,情報社会指令の方になりますが,こちらにはそういう規定がないので,結論に差があるというのが,両判決を整合的に解釈するための説明とされています。ただ,その場合,ソフトウェア指令そのものがWIPO条約等の国際的な取り決めと整合しているのかという議論になってきますが,とりあえず,そこまでの問題に踏み込まないのであれば,二つの判決については,そういう整理が可能と理解しております。
 それから,私がどういう視点でスライド16枚目をまとめているかという点について,最後に幾つか挙げている論文の中で書かせていただいていますが,私自身はコンテンツオーナーシップというものを前提として考えたとき,ユーザー側から見て,果たして今までの著作権法の整理で納得してもらえるのかという観点から整理をしております。コンテンツオーナーシップという言葉は,私の作った言葉ではなく,ITジャーナリストの本田さんという方が使われた言葉で,コピライトオーナーシップとは違います。コンテンツがおユーザーの手元にあり,使っているという事実状態を言います。著作物というのは,媒体とは関係なく無体の存在であるので,本来は有体物と関係なく無体で流通すべきものですが,従来は技術的な制約から有体物に引っつけないと流通できなかったわけで,今の著作権法の体系は,そのことを前提に作られているわけです。しかし,今後著作物が無体の状態でどんどん自由に流通するようになってくると,著作物の可搬性の問題,さらに,コンテンツのオーナーシップの問題を考えていかなければいけない。少なくとも利用者側から見る限りにおいては,この4つの形態にはそれほど変わりはない。
 一方で,ただこれをそっくりそのまま全部同じですよとすることは権利者側にとっては大きな影響があるもしれませんので,そこはさっき申し上げたように,バランスとしてどこがいいのかというのは新しい組み込み方があるのかなということで整理をしたということです。以上です。

【道垣内主査】そのほか,いかがでしょうか。どうぞ。

【井奈波委員】今の欧州のusedSoft事件について,このオラクル社としては,契約でソフトの転売を禁止していなかったのかということをお伺いします。転売を契約で禁止していたのに消尽を認めたのか,転売を契約で定めていないで認めたのかということなんですが,もし契約の範囲を超えたことをやっているとすると,この契約を超えた譲渡について,消尽が働かない余地もあるのではないかと思ったのですが,その点はいかがでしょうか。

【奥邨委員】最初の地裁判決等にさかのぼると,私が読めないドイツ語の原稿になってしまうので,私が把握できる事実関係は欧州司法裁判所(ECJ)に上がってくる部分だけですが,そこの中では,禁止していたかどうかまでは出てなかったと思います。ただ,判決の言いぶりだけから想像すると,基本的にライセンスという形態をとることによって消尽を迂回するということは許さないというニュアンスです。したがって,仮にそういうことを書いていたとしても,そのことは意味を持たない可能性が高いのではないかと思います。ここは推測になってしまいますが…。この事件,アメリカのVernor事件とよく比較されており,Vernor事件は一方的に制限かけておけば,それで消尽の効果を無効にできるということですが,それとは逆方向だという形でアメリカでも評価をされています。そのため今の先生の御指摘で言えば,契約によってひっくり返ることはないんではないかなと私個人としては捉えています。

【道垣内主査】今の点と関連して,コンテンツオーナーシップという考え方の場合に,本当に所有者なのか,ただ借りているだけなのかは,普通に考えれば随分違う立場ではないかと思いました。ライセンスしかもらっていないのであれば,それは自分のものじゃないと思うべきなのではないかと思うので,そこをオーバーライドされてしまうと,法体系全体に大きな影響があるような気がします。

【奥邨委員】usedSoft事件の場合は無期限の利用で,かつふさわしい対価をもらっているということで,実態としては販売と同じ状況があるのではないかということで,内容に踏み込んで譲渡と同視していると考えられます。Vernor事件の場合は,対価やライセンス期限は別にして,いろいろな利用制限をつけ,ライセンスと明示していたので,譲渡ではなくてライセンスだというように,形式的な判断になった。同じことで,さっき申し上げたコンテンツオーナーシップにしてもあくまでユーザーの視点からの問題提起でして,まさに主査御指摘のとおり,法的に見てオーナーと言えるかどうかについては,今後,より踏み込んで議論をしていくべきだろうと思っています。ただ,うまく説明をしていかないと,世の中は変わっていくのに,法律やビジネスの仕組みが非常に不合理であると一般の方に思われては,著作権に関する規範意識も下がってしまいますので,不幸かなと思っている次第です。

【道垣内主査】野口委員,どうぞ。

【野口委員】今の論点に関連して,政策的な考慮としてどこにウエートを置くのかによって結論が変わってくるような気もしておりますので,もし御存じであればより一歩踏み込んで教えていただきたい点がございます。先ほど来,有体物と無体物において取り扱いが違うことの是非が論点になっていると思いますが,うろ覚えなのですが,有体物の世界で消尽を認めることの背景として,紙やCD等の媒体の所有物と,その上に乗っている情報の処理が分離することの不都合性というようなものがあると記憶しております。お金を払って紙なりCD-ROMなりの媒体を買い,その媒体を自分は自由に処分できるのに,その上に乗っている情報が処分できないということであると,有体物の所有権に対する事実上の侵害的な側面があるので,そこを整合させるために消尽が必要なんだというような説明の仕方が1つあります。そうしますと,無体物にはそのような配慮が必要ないというような結論に逆になっていくような気もします。他方で,消尽を認めることの根拠が例えば競争法的なものであったり,先ほど来出ている消費者保護的なものであったりする場合は,無体物であっても配慮すべきであるという結論になるような気もします。したがって,消尽が認められることの政策的要請というか,根拠がそもそもどのあたりにあったのかということについて,もし御存じであれば教えていただければと思いました。

【奥邨委員】すみません,一般論として申し上げるほどは理解できていないのですが,少なくともKirtsaeng事件で,米国最高裁は,17世紀の英国の裁判官が言った動産譲渡に関するコモン・ロー上の考え方を引用し,コモン・ロー以来,連綿と続く考え方であるということを言っています。結局,他人に物を売ったら,売ってしまった以上,そこから先のことはコントロールできないと言っているわけでございます。消尽についてはいろんな根拠が挙げられますが,私としては,このKirtsaeng事件最高裁判決,消尽の根拠として,商品の自由流通にかなり重きを置いていると思います。Bobbs-Merrill事件という,ファースト・セール・ドクトリンについての古い最高裁の判決があるのですが,Kirtsaeng事件最高判決は,それよりもさらに古い根拠を持ち出して,正当化していますので,今後,私はこの商品の自由流通に重きを置く考え方がアメリカでは中心的になってくるのかなと思います。ただ,それはあくまで紙の書籍に関する判決なので,デジタルコンテンツはどうなんだと言われるとよく分かりませんが,デジタルコンテンツを商品として捉えるのかどうかで変わってくるという解釈の問題であり,今後の議論すべき点ではないかと思っています。

【野口委員】ありがとうございます。

【道垣内主査】いかがでしょうか。今日はもう一つ最後の議題がございますので,このあたりにしておきたいと思います。この国際小委員会においては,外国法制において注目すべきものはちゃんと調査をしておくというのも課題の一つですので,今後,日本で審議するときは違う小委員会になるかもしれませんが,その時の素材にさせていただくということにさせていただければと存じます。ありがとうございました。
 4番目の議題,平成27年度国際小委員会の審議状況のとりまとめについてです。次回の著作権分科会が2月29日に開かれますけれども,その場で私から報告させていただくものの原案です。この報告書の案は,まだ未定稿です。私は事前に拝見をして,少し意見を申し上げたところでございます。まずは,この内容について事務局から御説明いただけますでしょうか。

【小林国際著作権専門官】では,資料4について御説明をさせていただきます。
 先ほど道垣内先生からもありましたように,こちらは今日の議論を踏まえて今後修正をいたしますので,その部分につきましては,括弧書きで検討中と記載させていただいております。
 まず,1ページ目から御説明いたします。今期の国際小委員会でございますが,こちらの1ポツに書かれているような3つについて検討を行っています。それぞれの審議の状況について,2ポツ以降で御説明いたします。
 まず,1番目です。インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方でございますが,インドネシアの侵害実態調査の結果や海賊行為への政府の取組について御報告し,それに基づいて議論が行われております。
 まず(1)ですが,日本コンテンツの侵害発生国における侵害実態調査ですが,これまでも中国,タイで実態調査を行っておりますが,今年度はインドネシアの侵害実態調査を行いましたので,その結果が第1回の国際小委員会で報告されております。
 内容ですが,まず,1ページ目の一番下になりますが,インドネシアについては,中国等の侵害実態調査の結果と比較しますと,インドネシアは法令遵守の意識が相対的に高いという報告がなされ,一方,著作権に関する理解度が低いという状況があると報告されております。本小委員会におきましては,今後,インドネシアに対する海賊版対策としては著作権の教育啓発活動を実施していくことが効果的であるとされております。
 2ページ目に移り,政府の取組ですが,こちらは本日,堀尾からも説明させていただいたとおりですので,省略いたします。
 2ページ目の(3)の関係業界における取組についてですが,こちらはコンピュータソフトウェア著作権協会及び株式会社集英社から著作権侵害の現状及び侵害対策について報告がされております。
 まずACCSからは,久保田専務理事から,マジコンに関する現状について説明をいただき,技術的手段回避ツールについては,日本国内の実店舗での販売はほぼ消滅したものの,依然としてインターネットでの販売が継続されているという現状を報告していただきました。また,販売継続サイトについては,海外にサーバを置いた日本市場向けの日本語サイトであり,その技術的手段回避ツールについては,中国や香港から発送されてくるという御報告がありました。
 3ページ目に移り,株式会社集英社からは,マンガ海賊版による侵害状況とその対策について御説明をいただきました。その中で,雑誌の販売日より前に翻訳されて海賊版がアップロードされるという問題や,ウェブサイトやサーバに対する削除要請をしても応じないケースが多く,仮に応じたとしても,サーバを別の国に移して営業を再開するケースがあるという問題が報告されています。その問題点を解決するためには,各国間での協力が不可欠であり,また,海賊版対策と同時に正規版の流通促進も必要であるということが報告されております。
 これを踏まえて,4番目の今後の取組ですが,こちらも先ほど堀尾から説明させていただいたことと一部重複しますが,TPP協定の発効に伴い,各国の日本コンテンツの輸出増が期待されますので,関係国における侵害対策の強化が見込まれることを踏まえ,国境を越えた海賊行為に対応していく必要があるとしています。具体的には,二国間協議や,その他,海賊版の取締りや権利執行の支援,集中管理の強化等を行っていくということを記載しています。その際には,対象国については現地のニーズや期待される効果等を考慮しつつ検討する必要があるとしています。
 また,二国間だけではなくて多国間に関することですが,こちらについては,4ページ目の通り,WIPOとの連携を通じて二国間事業と組み合わせて各国・地域の課題に効果的に対応していくことが必要しています。また,最後に,国内関係省庁や権利者団体等のさらなる連携も必要とさせていただいております。
 以上が(1)の課題に対する今後の取組でございます。
 次に,(2)の著作権保護に向けた国際的な対応の在り方ですが,こちらは先ほど説明させていただいたとおり,放送条約と権利の制限,例外についての議論の内容をまとめておりますので,説明は省略しまして,6ページ目を御覧いただければと思います。
 6ページ目の4段落目ですが,こちらは放送条約に関する日本としての今後の対応を記載しています。こちらについては,放送条約の議題については,引き続き活発な議論が行われることが期待されますので,日本としては,放送機関のための適切な国際的保護の枠組みをできるだけ早期に構築することが必要であり,各国における議論の動向やSCCRにおける他の議論との関係性を踏まえながら積極的に対応していくべきとさせていただいております。
 次に,(2)の権利の制限と例外の議論ですが,こちらは7ページのところに日本として今後の対応を記載しています。今後の対応としては,引き続き既存の条約に規定されたスリーステップテストの考え方を踏まえて適切な議論を行うことが必要との方針の下,何らかの国際文書を作成する場合には,各国の国内事情を踏まえて,柔軟な対応が可能となるように対処すべきとしています。
 最後に,(3)の著作権分野における国際的な課題や論点の整理ですが,本年度は,小島委員,前田委員,そして本日,奥邨委員から御発表をいただき,その内容を記載しています。
 まず(1)の「伝統的知識等の保護に対して知的財産法が果たすべき役割について」は,小島委員から御報告いただいた内容です。8ページ目を御覧いただければと思いますが,伝統的知識に法的保護を与えるかどうかという点については,伝統的知識に関係するコミュニティの慣習や規範を尊重するとともに,その法的保護が当該コミュニティの自助や持続可能性に役立つのかどうかという点が考慮されなければならないという報告がありました。
 次に,(2)「米国における価格差別論について」は,前田委員から第2回に御発表いただいたものです。三段落目のとおり,WIPO等でも権利の制限・例外規定について議論されていますので,この価格差別という考え方は,将来的に権利制限規定を設計していくに当たって,権利者と利用者との調和を図る上で必要な視点の1つであるという報告をいただいております。
 さらに(3)でございますが,こちらは本日の奥邨委員の御発表内容を踏まえて追加させていただく予定となっております。
 最後に,これらの今後の取組ですが,今期御発表いただいた内容につきましては,WIPOの遺伝資源等政府間委員会(IGC)ですとかSCCRの議論とも関連するものでございますし,また,将来的に国際的な知財保護の在り方等の議論にも影響する可能性がありますので,これらの国際的な課題については引き続き注視していく必要があるとさせていただいております。以上です。

【道垣内主査】ありがとうございました。
 今,重点的に御説明いただきましたように,この小委員会の審議状況の部分は,3ページの今後の取組についてというところ,それから6ページ,7ページ,8ページにある日本として今後の対応というところが主なところで,あとは事実の記載が中心です。それが不正確であればもちろん問題ですけれども,小委員会としての方向性を示した部分について特に御審議いただければと思います。いかがでしょうか。
 本日の議題(1)で梶原委員から頂いた御指摘は6ページに関係しますが,「<日本として今後の対応>」においては,できるだけ早くというところが強調されていて,内容的に高度なものにするかどうかというのは特に書かれておらず,優先順位は高くないように読めます。梶原委員の指摘としては,伝統的放送を義務的保護の対象とすることを是非獲得せよとおっしゃるわけではないですか。

【梶原委員】早期に実現というのは大事なことだと思いますが,早期に実現してもほぼ無線だけしか保護しないという国が多数になれば,あまり意味がないのかなと思います。世の中を見れば,もうインターネットでコンテンツを提供する時代ですから,そういった実質的な部分も大事であり,必ずしも早期だけではないのかなと思っています。

【道垣内主査】事務局に伺いますが,これまでのWIPOの歴史から見て,プログラム規定といいますか,締約国に任せるということを定めた枠組みを作り,だんだんと加盟国の保護のレベルが上がっていったという事例はあるのですか。あるいは,一旦低いレベルの保護で合意すると,各国の水準はそれ以上動かないのでしょうか。

【小林国際著作権専門官】例えばWPPTの15条のような報酬請求権のところについては,各国で留保が認められていますが,それを今後,各国で留保宣言を修正するという形でレベルが上がっていくということはあるかと思います。

【道垣内主査】この条約の対象事項についての枠組みを先に作って,だんだんと上げていくというお考えですか。

【小林国際著作権専門官】実際にそこまでまだ具体的な条文案まで議論が深まっていない段階ですが,そのような形も1つ案としてはあり得るかなと思います。

【道垣内主査】今の放送条約に関する御意見でもよろしいですし,ほかの点もいかがでしょうか。
 どうぞ,上野委員。

【上野委員】今の点に関しましては,任意的保護にすべきと主張している国と,義務的保護にすべきと主張している国がある時に,任意的保護を定めるだけの条約であれば早くコンセンサスが得られるというのであれば,日本も,早期の条約締結を目指す観点から,任意的保護にすべきという立場をとる理由があるのかもしれません。しかし義務的保護にすべきと主張している国が,任意的保護を定めるだけの条約では賛成できないという立場なのであれば,任意的保護を定めるだけの条約であれば早くコンセンサスが得られる状況ではないということになり,むしろ義務的保護にすべきという立場を日本もとった方が早期のコンセンサスが得られるという可能性も否定できないように思います。もしそうであれば,日本も任意的保護にこだわらない方が早期のコンセンサスが得られるのではないかと思いますのでその点は検討が必要に思います。以上です。

【道垣内主査】それは理屈上,おっしゃるとおりですね。
 そのほか,ございますか。よろしければ,ただいまの御意見を踏まえまして,今期の国際小委員会の審議結果として取りまとめ,次回の著作権分科会において報告をさせていただきます。なお,まだ検討中という部分が幾つかございますので,その検討結果を踏まえた最終的な文案の作成については主査に御一任いただきたいのですが,よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】どうもありがとうございます。それでは,第5番目の議題,その他の事項ですが,もしこの際,何かございましたら御発言をお願いいたします。よろしいでしょうか。
 では,本日の会議はここまでにしたいと思います。最初申しましたように,本日は今期最後の小委員会ですので,事務局から御挨拶があるとのことですので,よろしくお願いします。

【磯谷審議官】審議官の磯谷でございます。今期最後の会議ということなので,今,道垣内主査からお言葉ありましたように,この会議を終わるに当たりまして一言御挨拶申し上げたいと思います。
 今期の国際小委員会におきましては,著作権分野における国際的な課題や論点の整理,国境を越えた海賊行為に関する対応の在り方,そして今も少し議論がありましたが,WIPO等における最近の動向の報告等の観点について委員の皆様方に御議論をいただいたところであります。
 まず国際的な課題に関しましては,前回,フォークロア等の知的成果物に対して知財法が果たす役割につきまして小島委員に,アメリカにおける価格差別論の議論について前田委員にそれぞれ御紹介をいただきました。また,本日は著作権の消尽に関する諸外国の状況,判例などについて奥邨委員に御発表いただき,その後の議論において貴重な御意見をいただきました。
 海賊版対策の関係では,家庭用ゲームソフトの技術的手段回避による著作権侵害の現状やマンガ分野における侵害対策の現状についての御報告を久保田委員,株式会社集英社の伊東様からいただき,海賊版対策の取組の将来を考える上での大きな示唆を与えてくれたものと存じます。
 先日,署名式が行われましたTPP協定が今後発効されますと,関係国における著作物の保護がより適切に行われて,権利侵害に対して適切な権利行使が実行される環境が整備されることとなります。文化庁としても,本小委員会でいただいた御意見を踏まえ,国内外の関係機関と連携して,より効果的な海賊版対策事業を推進してまいりたいと思っております。
 また,本日も御議論いただきましたが,WIPOにおける議論については深化しつつある放送条約の議論について,日本政府として積極的な対応を続けて,できるだけ早期の条約の実現を目指していきたいと思っております。
 それから,今日,道垣内主査からも,漫然と毎年同じような施策を続けるのではなくて,予算事業についてはきちっと点検もして今後に繋げるようにという御指摘がありました。私も,例えば予算事業の5年後の目標ですとか,そういったものをちゃんと立てて,それに対する評価や点検をするなど,もう少し工夫をして,よりよい事業展開をしていきたいと思っております。
 それから,主査をはじめとして各委員の皆様におかれては,大変お忙しい中,本委員会に御出席いただき,委員会の進行に当たって並々ならぬ御協力,御尽力をいただきましたことを改めて心より感謝申し上げます。グローバル化の中で時代に即した著作権制度を構築,運営していくためには国際的な議論の参画,あるいは諸外国との連携が不可欠であります。文化庁としても,国際的な課題の解決に向けて引き続き力を注いでまいりたいと思っておりますので,今後とも是非御指導方,よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

【道垣内主査】どうもありがとうございました。
 これで第3回国際小委員会を終わります。ありがとうございました。

―― 了 ――

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