文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)

日時:
平成30年2月22日(木)
15:00~17:00
場所:
中央合同庁舎4号館
1208特別会議室

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)WIPO(世界知的所有権機関)における最近の動向について
    2. (2)海賊版対策の取組状況等について
    3. (3)平成29年度国際小委員会の審議状況について
    4. (4)その他
  3. 閉会

配布資料一覧

資料1-1
WIPO(世界知的所有権機関)における最近の動向について(109.2KB)
資料1-2
放送機関の保護に関する条約案の概念図(170KB)
資料1-3
SCCRにおける放送機関の保護に関する主な論点(34.4KB)
資料1-4
放送機関の保護に関する条約 最新統合テキスト案(172.1KB)
資料1-5
第35回著作権等常設委員会(SCCR)議長サマリー(149.5KB)
資料1-6
NHKにおけるインターネットサービスについて(日本放送協会御発表資料)(826KB)
資料1-7
民放のネット配信に関するサービス事例について(日本民間放送連盟御発表資料)(649.9KB)
資料2
文化庁における著作権侵害への取組状況について(712KB)
※資料1-6,資料1-7,資料2については,一部音声読み上げソフト非対応のデータです。
※資料2については,会場で配布したものから委員の御指摘等を踏まえ,一部修正をしております。
資料3
平成29年度 国際小委員会における審議状況について(案)(209.7KB)
参考資料1
第17期文化審議会著作権分科会国際小委員会委員名簿(66.5KB)
参考資料2
小委員会の設置について(平成29年4月12日文化審議会著作権分科会決定)(58.9KB)
参考資料3
諸外国における放送機関によるネット配信サービスについて(48.7KB)
参考資料4
諸外国著作権法での放送の保護におけるインターネット送信の扱いについて(90.7KB)

第17期文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)

平成30年2月22日

【道垣内主査】ちょうど3時になり,委員の方もほぼ御出席のようですので,ただいまから文化審議会著作権分科会国際小委員会の第2回を開催いたします。

本日は御多忙の中,また寒い中,御出席いただきましてありがとうございます。

本日の会議の公開につきましては,予定されている議事の内容を参照しますと,特段非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴の方々には御入場いただいているところでございます。この点,御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】ありがとうございます。

では,本日は議事を公開ということで,傍聴の方々にはそのまま御在席いただきたいと思います。

では,議事に入りたいと思います。本日の議事は四つございまして,議事次第を御覧いただきたいと思いますが,WIPOにおける最近の動向について,それから,2番目が海賊版対策の取組状況等について,3番目が平成29年度国際小委員会の審議状況について,そして,4にその他がございます。

では,事務局より配付資料の確認等をお願いいたします。

【早川国際著作権専門官】それでは,配付資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第の配付資料一覧を御覧ください。

議事次第(1)に関連する資料といたしまして,1-1から1-7までございます。資料1-1といたしまして,WIPOにおける最近の動向について,資料1-2といたしまして,条約案の概念図,資料1-3といたしまして,SCCRにおける主な論点,資料1-4と1-5がWIPOの作業文章となっております。また,資料1-6,1-7につきましては,それぞれ,NHK様及び民放連様からの御発表の資料となっております。また,議事の(2)に関連する資料といたしまして,資料2の文化庁における著作権侵害への取組状況についてという資料がございます。また,(3)に関連する資料といたしまして,資料3,平成29年度国際小委員会における審議状況について(案)となっております。また,参考資料いたしまして,参考資料1から4がございます。

不足等あれば事務局までお知らせください。

【道垣内主査】ありがとうございます。

議事の1番に入りたいと思います。WIPOにおける最近の動向について,まずは事務局より御説明を頂きたいと存じます。今回は特にSCCRでの放送条約におけるインターネット送信について,後ほど意見を頂きたいと考えております。

では,まず事務局より御説明をお願いします。

【早川国際著作権専門官】まず,お手元の資料1-1に基づいて,WIPOにおける最近の動向について御報告させていただきます。

こちらは,平成29年11月中旬に行われました,第35回SCCRについての結果概要となっております。まず,概要としましては,これまでと同様に,放送条約,権利の制限と例外,その他の議題についての議論が行われております。

各論について御説明させていただきます。放送条約についてですが,経緯等については前回と同様ですので省略させていただきます。イの議論の概要ですが,今回は条約のテキスト案につきまして,逐条での詳細な議論はインフォーマル形式で議論が行われました。議論の結果を踏まえた統合テキスト案が議長によって取りまとめられております。それにつきましては資料の1-4になっております。

テキスト案について議論された主な議論内容は以下のとおりとなっております。

まず,放送の定義についてですが,放送の定義の中に有線放送を含めるか否かに関して議論がなされました。一部の国から,国内法制との整合性の観点から有線放送を含める案に対して懸念が表明されましたが,本条約の定義につきまして,国内の規制の枠組みに影響しないという条文を加える提案がなされ,懸念を表明した国の一部からは受入れ可能と表明がなされております。したがいまして,有線放送を含める点につきまして,若干の進展が見られたという状況でございます。

2ページ目に行きまして,次の主な論点といたしまして,インターネット上の送信の保護についてというのがございます。これにつきましては後ほど詳しく説明させていただきたいと思います。

簡単に議論の状況を説明しますと,異時送信の保護について,各地域の放送連盟から現在行われているサービスについての紹介がございました。異時送信については,保護の対象とする必要があると主張する国と,保護対象とすべきではないという国の意見の対立があったという状況でございます。本会議後のテキスト案では,サイマルキャスティングについては義務的保護の対象となっており,放送番組の異時送信については義務的保護とする案,任意的保護とする案,また,保護対象から除外する案とが併記されておりまして,異時送信につきましては引き続き議論が継続されることとなっております。

続きまして,放送前信号の保護についても議論が行われております。これにつきましては,放送事業者に関して禁止権を与える案と,国ごとに柔軟性を持った,適当かつ効果的な保護にするという案が二つ併記されておりまして,引き続き議論が継続されることとなっております。

続きまして,権利の制限と例外につきまして御説明させていただきます。経緯等につきましては,同様に省略させていただきます。

イの議論の概要ですが,今回のSCCRにおきましては,権利の制限と例外についての研究報告が主に行われました。また,事務局から今後,権利の制限と例外の議題に関してどういうふうに進めるかというアクションプランが提案されたものの,このアクションプランが会合直前に提示されたこともありまして,一部の加盟国からは内容について更に検討する必要があるとして,これも次回において議論されることとなっております。

続きまして,(3)その他の議題についてとなります。

アといたしまして,デジタル環境に関連する著作権の分析という議題がありました。本議題に関しては,スコーピングスタディが報告されておりますが,本議題につきまして,依然として検討する対象が極めて広範であるということで,課題を絞るべきであるという意見が出されております。

続きまして追及権ですが,本議題につきましては,イギリスにおいて追及権を導入した時に経済的な影響があるかどうかという分析の研究報告がなされております。結論として,イギリスにおいて追及権導入前後に経済的な影響はなかったという研究報告がなされております。

ウの舞台演出家の保護についてですが,これはロシアから今回提案された新しい提案となります。ロシアからは演出家が実演家と比べて適切な保護が与えられていないとして,国際的な権利の在り方について議論したいという意見が述べられております。

続きまして,エとしまして,その他の議題の三つ議題の進め方について話し合われました。追及権に関して,EUやアフリカから常設議案にすべきであるという意見が出されましたが,これに対して我が方からは,長年議論している放送条約を優先して検討すべきであって,その他の議題が常設議題化されることによって,放送条約を議論する時間が減るということについて懸念を表明しました。アメリカからも同様の発言がありまして,ロシアからも放送条約が優先されるべきであるという意見が出されております。また,追及権提案国であるセネガルについても,追及権はその他の議題の中で引き続き議論を続けていくことも許容されるという発言をしております。

これらの議論の結果,その他の議題にあった三つの課題につきましては,引き続きその他の議題において議論が継続されていきまして,次回のSCCRについて,これらの議題の今後の進め方について議長から提案がされることになっております。

次回のSCCRは,今年の5月から6月に開催される予定です。

引き続きまして,資料1-2に基づいて,放送条約について御説明させていただきます。

今回の国際小委員会では委員の皆様に,特にインターネット送信,中でも異時の送信についての日本の対応について御意見を頂きたいと考えているところでございますが,まず初めに,現在の放送条約案の概要について説明させていただきます。

お手元の資料1-2でございますが,これが放送機関の保護に関する条約案の概念図となっております。条約案の中で重要な部分であります,受益者と保護の対象と与えられる権利をポンチ絵にしたものでございます。

まず受益者でございますが,いわゆる伝統的な放送機関が受益者となっております。これは2006年,2007年のマンデートで決定した事項でございます。

2ポツの保護対象ですが,これが,伝統的放送機関が行う何に対して保護が与えられるかという点でございます。まず,(1)としまして,地上波やBS放送のようないわゆる放送について保護の対象とするという規定でございます。また,(2)といたしまして,これが今SCCRで議論中ですけれども,伝統的な放送機関が行うインターネット上の送信について保護の対象とするか否か,義務的又は任意的保護にするかといった点で議論が進められております。インターネット上の送信ですけれども,いろいろ種類がございまして,ここでは[1]から[4]のように分けております。[1]につきましては,サイマルキャスティングと呼ばれる方式で,これは放送と同時に同じ内容がインターネットで配信されるというサービスでございます。[2]が,サイマルは同時ですけれども,若干時間をずらして送信されるという形式でございます。[3]がオンデマンド送信と呼ばれる,これは,いわゆる見逃し配信といったサービスのことを意味しております。また,[4]といたしまして,これは放送と関係ないインターネットオリジナル番組をインターネットで送信するということになります。これらに関して,保護対象とすべきか否かということが話し合われているところでございます。

それから,3の与えられる権利といたしましては,今のところ,同時,異時,オンデマンドでの形式での再送信権が議論されているところでございます。

続きまして資料1-3をごらんください。先ほどの資料1-2の図の真ん中,保護の対象について,今,議論が行われているところですが,その議論を簡単にまとめた表となっております。まず一番左の上,いわゆる放送に関しては義務的な保護とするところで特段異論はないという状況でございます。

次にインターネット送信ですけれども,サイマルキャスティングにつきましては,これまで任意的保護とするか義務的保護とするかという論点があったわけでございますが,現時点におきまして,義務的な保護とすることで,SCCR内でほぼコンセンサスが得られている状況で,前回のSCCRにおきましても,特段このサイマルキャスティングについての議論は行われていない状況でございます。

次に異時のウェブキャスティングとオンデマンド送信,これがいわゆる異時送信と呼ばれていますが,これにつきまして前回のSCCRで議論がされたところでございます。論点といたしましては,そもそも保護対象とするかという点と,保護対象とした場合に,任意的保護とするか義務的保護とするかという点がございます。EUやヨーロッパ諸国からは義務的な保護を求める一方で,一部の国からは,そもそも著作権で既に保護されている保護の対象とすべきでないという反対意見がございました。

また,インターネットオリジナル番組の送信についてですが,これは,そもそも保護対象とすべきかどうかという点ですけれども,基本的に放送と関係ない送信になりますので,保護対象に加えることには異論が多いということで,この点につきましては,今のところSCCRで議論されてはおりません。

一番右の欄には日本の著作権法において隣接権がどのように付与されているかを参考情報として載せております。基本的には放送事業者に関して,放送については隣接権を有していますが,放送事業者が行うインターネットの送信の部分につきましては,隣接権がない状況であります。

続きまして,参考資料3,4を御覧ください。これが諸外国における状況を簡単にまとめた図と文章になっておりますので,こちらもごく簡単に説明させていただきます。

先ほど申し上げたインターネット上の送信,放送機関が行うインターネット上の配信というのが諸外国において,どのようになされているかというのをまとめたものが参考資料3になります。アメリカ,イギリス,ドイツ,韓国において放送機関による同時配信サービス,サイマルキャスティングや番組の見逃し視聴のサービスが提供されているという状況でございます。

続きまして,参考資料4ですけれども,これが,諸外国の著作権法で放送の保護においてインターネットの送信がどう扱われているかという参考資料になります。アメリカにつきましては著作隣接権がない状況ですので,インターネット送信についても,隣接権についての保護はないと考えられます。また,イギリスにつきましては,放送は著作物として保護されており,放送については,例えばサイマルキャスティングとか異時のウェブキャスティングは放送に含まれるような定義となっていますので,それらについては保護が及ぶ規定になっております。また,ドイツ,韓国につきまして,放送機関は放送について隣接権を有しておりますが,保護対象としての放送について,インターネットをどこまで含めるかについては決まった見解がないという状況でございます。したがいまして,諸外国において,インターネット送信については,統一された取扱いというのはないという状況でございます。

説明は以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございます。

議論に入る前に,引き続き日本国内の伝統的な放送機関によるインターネット送信サービスの現状,あるいは問題点について,NHKの梶原委員,それから,民放連の斎藤委員から,それぞれ御説明を頂きたいと思います。

まずは梶原委員,よろしくお願いいたします。

【梶原委員】では,NHKの梶原ですけれども,NHKのインターネットサービスについて御説明をしたいと思います。

2ページ目ですけれども,NHKのインターネット活用業務についてということで,NHKの業務というのは放送法で決められています。インターネットの活用についても同様で,放送法及び自ら定める実施基準に基づき,主要業務である放送を補完し,放送番組等を広く国民に還元することなどを目的に,インターネットを活用したサービスを行っています。

まず,大きく分けて,受信料を財源とする業務と有料で行う業務に別れています。受信料を財源とする業務は放送番組の提供,そして,理解増進情報の提供ということで,放送番組の周知・広報だとか,放送番組を再編集したもの等を提供しています。有料で行う業務については,NHKオンデマンドと他の事業者への提供ということになっています。

放送条約では今御説明があったように,サイマルキャスティング,放送の同時提供,オンデマンド配信,オリジナルコンテンツの配信について,保護の対象とするかどうかということが議論されていますので,それに沿って,どのようなサービスをNHKで行っているのか,次のページから御紹介したいと思います。

まず,サイマルキャスティング,放送の同時提供ということでございますけれども,テレビの緊急ニュースということで,国民生活や社会全体に大きな影響を与える情報で,特に迅速に提供すべきニュースについて,放送と同時に提供をしています。また,国際放送についてはテレビとラジオ,また,国内のラジオ第1・第2・FM放送については,放送と同時に提供を行っているところです。右上の方に試験的提供ということを書いてありますが,テレビ放送の同時配信について,視聴ニーズの把握だとか,技術的課題だとか,あるいは権利処理の課題等も含めて,今検証実験を行っているところです。一番上に,2019年度に常時同時配信の開始を目指すということを書いてありますけれども,テレビの常時同時配信,つまり,放送している番組を全てインターネットで流すということについて,現在,放送法ではNHKの業務として認められていません。ただ,2020年オリンピック・パラリンピックが開催されることを踏まえ,最終的に放送法の改正が必要となってきますが,2019年度には常時同時配信を実施したいと考えて,こういった検証実験を行っているところです。

次にオンデマンドの提供ということになります。4ページ目です。有料のサービスとして,NHKオンデマンドという事業を行っています。ニュースや毎日20本前後の番組を放送後に,1週間から3週間程度提供しています。また,見逃しの期間を過ぎた過去の番組を提供する過去番組サービスというものも行っています。この過去番組サービスにおいて,現在5,000本ぐらいの過去番組を配信しているところです。そのほか,国際放送のテレビ,ラジオ,あるいは国内のラジオ放送についても,全ての番組ではありませんけれども,オンデマンドでの配信を行っていますし,学校放送番組などもオンデマンドの配信を行っているところでございます。

ページをめくっていただいて,最後にインターネット向けのコンテンツということです。NHKの場合はオリジナルのコンテンツ,全く独自のコンテンツをインターネットで配信することはできません。理解増進情報の提供ということで,最初に説明しましたように,番組の周知だとか広報,あるいは再編集したもの,あるいは番組内容を解説するものなどを提供しております。何らか放送に関連するコンテンツに限られます。

ニュースのライブストリーミングですけれども,国民の関心の高い事件,事故等の映像やロボットカメラの映像などをライブストリーミングで提供することがございます。また,スポーツも,リアルタイムで放送できない競技,試合の映像を提供しています。今,平昌オリンピックが開催されていますが,放送時間は限られているということもあって,放送については関心の高い試合,競技が中心になってきます。放送で紹介できないようなマイナーな競技についてはインターネットで配信を行っているところです。そのほか,番組関連のサイトなどで,これはオンデマンドが中心ですけれども,これまで放送した番組をテーマごとに切り取ったり,再編集したりして,オンデマンドで提供しています。

以上,簡単ですけれども,NHKのインターネットサービスの概要でした。

【道垣内主査】どうもありがとうございます。

では,引き続きまして,民放連,斎藤委員からお願いいたします。代理の方で結構です。

【日本民間放送連盟(松尾様)】民放連の松尾と申します。斎藤に代わりまして,資料1-7,民放のネット配信に関するサービス事例につきまして説明をさせていただきます。

まず,全体状況でございます。民放連加盟社は200以上ございまして,なかなか個々のサービスまで御紹介し切れないので,今回はあくまでも事例の一端ということで御紹介をさせていただきます。

まず,3ページ目に参考ということで,地上民放テレビ事業者における番組配信の実施状況,これは昨年5月に調べた時点のものでございます。一覧表にまとめております。これは地上民放テレビの配信の概況でございまして,有料VOD,無料VOD,それぞれ自社プラットフォームで行ったり,他社のプラットフォームで配信したりということを,それぞれかなりの数の社が行っております。在京キー局だけではなくて,ローカル社も含めて行っておるところでございます。それから,後ほど詳しく述べますが,地上テレビ放送の同時配信サービスを定常的に行っていらっしゃるのは2社ということでございます。[4]で,番組編成型ストリーミングサービスというネーミングで書いておりますのが,この時点で5社。番組編成型というのは,テレビ放送のように番組を編成して,ストリーミング配信しているサービスという意味で書いております。全体状況としては,テレビ社はこういう形でございます。

それから,ラジオ事業者につきましては,本日の資料には含まれておりませんが,皆様御承知かと思いますけれども,ラジオ放送の同時配信,radikoのサービスなど,様々なネット配信をラジオ社も行っているところでございます。

1ページ目に戻ります。1ページの方から,個別のサービスにつきまして御紹介をさせていただきます。時間の関係もございまして,当連盟の放送条約に関する検討をしている放送条約ワーキンググループ委員の社の事例を御紹介させていただきます。併せて放送事業者自身が行っているサービスを中心に御紹介いたします。

1ページ目の1番が同時配信の事例です。民放事業者で定常的な同時配信,常時同時配信も含めまして,これに取り組んでいる事例はほとんどないという状況でございます。ただ,一部実験とか,一部の番組だけ行っている事例が出てきております。ニュースやスポーツなどの一部の番組や実証実験などを限定的に行っているケースがございます。それを5個ほど挙げております。定常的に行っているのは,テレビ東京の「テレビ東京ビジネスオンデマンド」のうち「Newsモーニングサテライト」という番組。それから,朝日放送の「バーチャル高校野球」,これも10年以上配信していると思います。また放送の映像そのままではありませんですが,かなり放送に近いものを行っているというものがございます。下の右側の,TBSテレビの「ニューイヤー駅伝」,日本テレビの「箱根駅伝」につきましては,最近実験として行ったものでして,それぞれ同時配信で,CMを差し替えたらどうなるかとか,そういう実験をしているところでございます。フジテレビさんの,2K4Kハイブリッドキャスト実証実験というのは,ハイブリッドキャスト対応のテレビ受信機というのがございますので,そちらに向けた配信という形で行った実験でございます。

2ページ目に参ります。2ページ目はいわゆる異時配信ということで,同時でないものをまとめております。民放事業者による異時配信は,サービスの形態や有料・無料の別など,様々な取組を行っているということで,一部だけ載せております。有料VOD,無料VOD,在京キー局はそれぞれ行っておりまして,プラットフォームのGYAO!とかで行っているものもございます。それから,在京キー局を中心に作られたTVerという無料広告付きの見逃し配信というサービスも,それぞれが参加して行っているということもございます。

以上,民放事業者のネット配信のサービス事例の概況でございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。

では,先ほどの資料の1-1に戻りまして,この議論をするわけですが,その中に,権利の制限と例外,その他もございますが,まずは放送条約に関しまして,委員の皆様の御意見を伺いたいと思います。

インターネット送信について条約対象とするか否かをめぐって議論があるようでございますけど,この利害得失と言いますか,対象をどうするかによって何が違ってくるのか,そのあたりをどなたか御説明いただけますでしょうか。この条約は,議論が始まってもう20年が経過しており,どんどん技術が変わっています。にもかかわらず入り口のところでずっと条約対象の議論をしているわけですね。そのあたりのことについて,どなたか,こういう構図ですという見取図をお示しいただければ有り難いのですが,いかがでしょうか。今,伝統的放送機関のお話があったので,そうでないビジネス,ウェブビジネスをやっていらっしゃるところの関係の方,野口委員はいかがですか。

【野口委員】私ですか。

【道垣内主査】どういうふうに問題を捉えていらっしゃるのか。

【野口委員】私には余りにも力が及ばないかと思われます。

【道垣内主査】そうですか。分かりました。事務局でもいいですが,対立の根はどこにあるのかという構図を教えていただけませんでしょうか。

【早川国際著作権専門官】事務局より御説明させていただきます。

放送条約は,いろいろ行ったり戻ったりして議論されているところでありますけれども,問題点といたしましては,受益者の伝統的放送機関が行う,今のところ放送については当然,放送条約などで保護されるという状況ですけれども,インターネット上の送信をどこまで含めるかというのが問題点となっております。

前年度の2回目に,サイマルキャスティングでいろいろ御議論いただいたところかと思いますけれども,いわゆる伝統的な放送機関が行うサイマルキャスティングについて,義務的保護とするか任意的保護とするかということで,各国,意見の対立がそれまであったわけですけれども,今のところ義務的保護で落ちついているところでございます。サイマルが終わったので,次は異時ということで,いわゆる見逃し配信をどうするかというものが次の議題として上がってきて,今議論されているところでございます。

これに関しまして,基本的にサイマルキャスティングにつきましては,放送と同時に同時の内容がインターネットで送信されるということなので,放送と極めて関連性の高いものですので,これに関しては義務的保護とするというのは,意見の一致が見られたところでございますけれども,続いて異時について,いわゆる見逃し配信と呼ばれるオンデマンドサービスにつきまして,これを義務的保護あるいは保護対象とするかということについては,そもそも放送との関連性が低くなるということと,伝統的放送機関が行う見逃し配信,いわゆるオンデマンドの配信だけなぜ保護されるのかといった意見もございますので,そういったところで,本当にこれを対象としていいかどうかというところが議論されているところでございます。

【道垣内主査】この条文案が資料1-4にあります。その中の3条が,与えられる権利についての定めのようです。結局,再放送,再送信について禁止する権利があるということですね。条約対象になる行為をしている放送機関にはそのような隣接権が認められるということですね。

【早川国際著作権専門官】今の議論といたしましては,2のOBJECT OF PROTECTIONのところです。

【道垣内主査】もちろんそうなのですが,それによって効果が違ってくるのは,再送信をコントロールできるかどうかということでしょうか。

【早川国際著作権専門官】おっしゃるとおりです。

【道垣内主査】そうすると,今のまま,例えばサイマルキャスティングまででいいということにして条約を作ってしまうと,異時のウェブキャスティングで流された情報を受け取った人が再送信してしまった場合に,放送機関が止めることはできないということでしょうか。著作権者が何か言うことはできるわけですが。

【早川国際著作権専門官】おっしゃるとおりです。隣接権の有無になりますので,おっしゃったとおり,ネットの配信部分について,もし保護されないというのであれば,放送機関が止められないということになります。

【道垣内主査】分かりました。そのあたりのことについて,伝統的放送機関の方の御意見を伺いたいと存じます。NHK,あるいは民放連として,できるだけ条約対象を広くしたいという思いとともに,早く条約を作って,国際的な保護を獲得したいという思いがあるのだろうと思いますが,これは異時ウェブキャスティングまでのところは当然入れるべきだということでしょうか。

【梶原委員】サイマルキャスティングについては,義務的保護ということを強くこれまでも主張してまいりましたが,異時のウェブキャスティングについても保護の対象になれば,それはそれで歓迎ですけれども,ただ,今,主査の方からおっしゃったように,放送条約の早期成立のために,必ずしも義務的保護でなくても,NHKとしてはいいかなと思っています。今はどちらかとオンデマンドの方ですよね。オンデマンドについては,必ずしも義務的保護でなくてもいい。

【道垣内主査】そうですか。

【梶原委員】この異時のウェブキャスティングというのは,日本ではほとんど時差的な放送が行われていないので,余りぴんとこないというか,特段,意見を持ち合わせていない部分ではあります。

【道垣内主査】分かりました。民放連はいかがでしょうか。

【斎藤委員】基本的にはおっしゃるとおりで,放送条約の早期成立というのを我々としても第一に考えていることはずっと申し上げているとおりでございます。一つの前提といたしましては,いわゆる異時送信に関する定義自体が,WIPOの場でも混乱が見られる,ちょっと収拾されていないところがあるのではないかと認識をされている部分もございます。

こうしたWIPOの審議状況を考慮いたしますと,異時送信の保護に関する議論がコンセンサスを得られるためには,結構時間が掛かってしまうのではないかというふうにも考えているところでございます。なので,我々,先ほど申し上げましたとおり,とにかく放送条約の早期成立を目指す立場といたしましては,こうした異時送信の保護を条約上の義務とするか否かというのは,現段階で判断する状況にはないのではないかと考えております。

【日本民間放送連盟(松尾)】背景的な説明になりますが,ただいまの斎藤の発言につきまして,少し補足説明をさせていただきます。

先ほど,資料で御説明いたしましたとおり,様々ネット配信,見逃し配信などを実施しておりますので,これが適切に保護されるというのはNHKさんと一緒で,大変有り難いことですけれども,私どももNHKさんと一緒で,放送条約の早期成立を最優先に考えておりますので,異時送信を,とりわけ義務的保護にすることについては,必ずしも早期成立に資するとは思えない状況であると考えております。

斎藤が申し上げたとおり,そもそも異時送信の定義自体にコンセンサスがない,ちょっと混乱している状況であると聞いております。従来からのシグナルベースで保護をしていくという考え方については一定のコンセンサスがありますが,現在の議長テキストなどを見ますと,異時送信の定義について,これをシグナルベースと言えるかどうかとか,これまでのローマ条約と整合するのかという点についても疑問の点がまだございます。

先ほど,文化庁の早川専門官から資料1-3で,EUは異時送信の義務的保護を主張しているという御説明がございましたけれども,EUに属している放送事業者の連合でございますEBUが,キャッチアップTVについて義務的保護を求めているけれども,キャッチアップTVの定義は何かとWIPOの場で聞いても,EBUから明確な回答がない状況でございます。こうした背景もございますので,民放連としては,異時送信の保護については,なかなか現段階で判断しにくい状況であると考えております。

補足説明は以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございます。

伝統的な放送機関でない方の御意見が特になければ,学術的な,あるいは著作権の専門家としての御意見を伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。どうぞ。

【奥邨委員】 確認ですが,放送局の方がおっしゃった異時というのは,資料1-4の3ページの定義でいうと,(g)を指しておられるのでしょうか。先ほどのNHKの方からのお話でいえば,(f)については日本ではほとんどやっていないので,意見がないというか,特に立場がないという御紹介だったと思いますけれども,この(f)も(g)も含めて異時とおっしゃっておられるのか,お話の内容からすると微妙に差があるのかなと思いました。

あと,過去の経緯もあると思いますが,条文をよく見ても,このnear simultaneous transmissionを異時のウェブキャスティングと訳すのが本当に正しいのかというと,どう考えても時差を付けて送ると書いてあるわけですから,準ウェブキャスティングとか,準サイマルキャストとか言わないと,異時という言葉が,特に(f)については,この中の議論でも混乱するのではないかなという危惧を持っております。まず放送局の方がおっしゃっておられるのは(f)も(g)もということなのか,どちらかといえば,(f)は余り考えてなくて,(g)を中心におっしゃっておられるのかというのを教えていただければと思いました。

以上です。

【道垣内主査】梶原委員,先ほどちょっと触れられたところですけれども。

【梶原委員】そうですね。ニアサイマルはアメリカとかで,時差がある国がこういったものを要求しているということで,それはそれなりに理由がありますが,オンデマンドとニアサイマルは同じカテゴリーじゃないのかなと思ったりします。NHKとしても,日本において,余りニアサイマルは想定されないので,そういった意味からも,任意的保護でもいいのかなと思っています。

ただ,おっしゃるように,ニアサイマルと,またオンデマンドというのは違うのかなという感じはしています。

【道垣内主査】民放連,特に何か御意見あれば。

【日本民間放送連盟(松尾)】 民放連でございます。NHKさんのおっしゃるとおりでございまして,主に我々は(g)を想定して異時送信と言っております。ただ,(g)の解釈につきましても,先ほど申し上げたとおり各国,それから,各放送連合の認識にも齟齬があると思います。

以上でございます。

【道垣内主査】どうぞ,野口委員。

【野口委員】私,この(g)はオンデマンドのことかと思って読んでいましたので,そこは事務局に確認をしていただければと思いますが,この「made in such a way that members of the public may access them from a place and a time individually chosen by them」のthemが誰なのかちょっと分からないのですが,私の理解では,members of the public,つまりユーザーが自分で選んだ場所と時間でアクセスするものを(g)と言っているのかなという理解だったので,これはオンデマンドの方と理解していたのですけれども。

【道垣内主査】どうぞ,お願いします。

【早川国際著作権専門官】事務局からです。(g)の解釈,読み方につきましては,おっしゃるように,including以下のものにつきましては,いわゆるオンデマンドの送信を指すのではないかと認識しております。

また,includingですので,異時でオンデマンドではない,いわゆるリニアの配信も含まれるのではないかと思っております。

先ほどNHK様及び民放連様からおっしゃっていただいたように,異時のウェブキャスティングというのは日本では想定しづらいところではございますので,ここの場では主に,オンデマンドの送信についての議論をしていただければと考えております。

以上です。

【道垣内主査】先ほど民放連の方から,EUがやっているサービスがこの(g)に当たるのかどうかよく分からないとおっしゃいましたけれども,条約が成立すれば当てはめの問題になるわけです。条約が定めるいずれのカテゴリーからも外れるものがあるということですか。実際やっているサービスの中で,この規定振りでは漏れてしまうものがあるとすれば,それは条約の適用対象にならないわけです。それはワーディングが悪いのか,技術がどんどん変わっているからなのか,その辺御説明いただけませんでしょうか。

具体的にEUのものがどうなるかよく分からないというのは確かにそうなのですが,しかし,条約の議論としては,そもそもこの定義でいいのかとかいう話なんじゃないかと思うのですけども。

もっとも,適用対象にしなくてよいというお立場からすれば,この点には余り熱心にはならないですね。何か事務局から御意見ありますか。説明いただけますか。

【早川国際著作権専門官】事務局でございます。EU,ヨーロッパ諸国が想定している,いわゆる見逃し配信,キャッチアップTVにつきましては,形式といたしましては,ユーザーがそれぞれ選択して,その時間においてその場所で見られるということでございますので,(g)のdeferred transmissionのincludingの後に含まれるのではないかというのが事務局の意見でございます。

【道垣内主査】上野委員。

【上野委員】 この放送条約は非常に長い間議論しているわけですけれども,私の印象では,かなりコンセンサスが高まってきたのではないかと思っています。

もっとも,先ほども御議論がありましたように,伝統的な放送事業者以外のウェブキャストは放送条約の保護対象に入らないということで異論がないわけですけど,これはやっぱり,この議論に参加してきたプレーヤーとか,もともとが「放送条約」だということからしましても,仕方ないのかなとは思っております。

その上で,現在議論が残っているのが異時の送信というところになるわけです。この点,普通に考えれば,放送事業者の権利の客体が拡大する方が放送事業者にとって望ましいということになるはずですし,実際のところ,日本の放送事業者も伝統的放送をそのままサイマルキャスティングするだけではなくて,見逃し配信なども行っているわけですから,そうであれば,そうした異時の送信が,国際的に保護されるのは望ましいということになるはずなのです。ただ,放送条約は成立まで時間が掛かり過ぎていますので,早期妥結を目指すという以上,この点を条約上の義務的保護とすることによって国際的なコンセンサスがまた難しくなるというのであれば,我が国としても,義務的保護にこだわる必要はないのではないかと思います。

また,国際小委の議論というのは,国内法をどうするかという議論ではなくて,国際条約としてどうあるべきかという議論をしているところでありますので,異時送信について,国際条約においてたとえ義務的保護にならなくても,日本法で権利を付与するということは別に妨げられないわけです。したがって,我が国の立法に自由度を持たせるためには,その方が都合がよいと言えるかもしれないと,そのように考えております。以上です。

【道垣内主査】どうぞ,鈴木委員。

【鈴木主査代理】よろしいですか。中身の議論というよりも,交渉の仕方についての確認といいますか,意見ですが,なかなか放送条約の交渉が終わらない理由の一つに,ほかの交渉事項,特に権利の制限,例外の交渉とリンクされて,ちょっと言葉は悪いですけど,人質的な扱いにされているようにも以前伺ったように思います。そういうことがもし事実としてあれば,交渉についている国全てが合意できなくても,合意できる国だけでとりあえず条約を作るということもあり得るのではないかと思いますが,その辺の交渉の方法論については,どう考えたらよろしいでしょうか。

【道垣内主査】何かお答えがあれば。

【早川国際著作権専門官】放送条約につきまして,過去,制限と例外とリンクして議論されていたかというところは存じ上げていませんが,現時点につきましては,特段,制限と例外とリンクして議論され,それが人質に取られている状況ではないという認識でございます。

【道垣内主査】山本委員。同じ論点ですか。

【山本委員】 今の放送条約の件ですが,よろしいですか。

意見を申し上げたいのですが,異時送信,あるいはオンデマンド送信に対して,この放送条約の対象にした場合に何が違ってくるかと具体的に考えますと,インターネットでオンデマンド配信されるコンテンツがあったときに,それが,放送機関が放送したコンテンツでなければ著作権者しか権利行使できないのに対して,たまたま同じように,ネット上でオンデマンドで配信されていながら,もともと放送機関が放送したコンテンツであれば,伝統的な放送機関が著作権を持っていなくても隣接権を行使できるという形になり,えらくバランスが悪いように思います。

もちろん,コンテンツの著作権の水準を余り厳しく言わず,著作権者の権利範囲を広げるべきではあります。ですが,その問題とは別に,放送局オリジンのコンテンツであれば放送局が異時送信に対して余計に権利を持つというのはバランスが悪いように思います。もしやるのであれば,本来的にはネットで配信する全ての送信者に対して,同じように隣接権を与えるという解決であればまだ分かりますが,これをわざわざ,保護対象が放送機関だけに限ったものとしてやるのは不公平であって,適当ではないと思います。

それに対して,放送と同時送信の場合には,送信形態から見て,通常の放送の延長だというところから,それをこの放送条約の保護の対象に入れるということの正当性はあると思いますが,異時送信については,私はないように思います。ですから,あくまでも,異時送信に関しては放送条約の範囲から外して議論するのが適当だと思います。

【道垣内主査】山本委員に御質問したいのですが,ユーザー側がネット上で入手した情報といいますか,そういう映像とか音とかを,放送局が放送したものでなければ,適法に再送信できるのであれば,一方は適法なのに,放送したものであれば不適法になるので,困りますね。でも,いずれにしても不適法なんじゃないですか。適法に再送信することもあるのですか。

【山本委員】今のこの放送条約で異時送信も放送条約に入れた場合には,配信されたコンテンツによって誰の権利許諾を受ける必要があるのかというところが違ってきますよね。

【道垣内主査】許諾を得ても放送局がだめと言うかもしれないということでしょうか。

【山本委員】コンテンツの著作権者から許諾を得ても,放送局から隣接権の許諾がないとだめだということになります。

【道垣内主査】分かりました。

そのほかいかがでしょうか。野口委員,どうそ。

【野口委員】ちょっと違う観点から事務局にお尋ねですが,逆にこの異時のウェブキャスティングを範囲に入れるべきだと,そもそも対象が,定義をこのマッピングでいうと,異時のウェブキャスティングと言っているのは,この英文でいいますと(f)のnear simultaneous transmissionを指しているという整理でよろしいでしょうか。

例えば,米国ではニューヨークとサンフランシスコの間にかなり時差があるので,ニューヨークで夕方9時のテレビが,同じ時間で同時にすると,サンフランシスコではすごく早くなってしまうので,ニューヨークタイムとサンフランシスコタイムで同じテレビ番組を同じ国の中で2回流しているということをやっていたりするので,それがもとでこういう話になっているのか,ただ,テレビでも同時に流して,ネットでも同時に流すのだとすると,それは1番で全部カバーできるのか,誰が保護について,どういうニーズで議論を持ってきているのかというのが見えにくいので,もし何か情報があれば教えていただければと思ったのですけれども。

【早川国際著作権専門官】事務局です。おっしゃったとおり,ニアサイマルにつきまして,時差とかでずらして放送するということにつきましても,ニアサイマルに含めるという条文になっていまして,おっしゃったとおり,アメリカ等で時差がある国につきましては,それをニアサイマルとして含めたいということになっています。

したがいまして,異時送信の異時のウェブキャスティングにつきましては,条約上も定義につきまして,いろんな,ニアサイマルとか,deferred transmissionとか,そこら辺につきましては,定義上どこに分けるかという混乱は見られるところですけれども,今回御説明した異時のウェブキャスティングにつきましては,ニアサイマル,いわゆる時差を伴ったウェブキャスティングとそれ以外で異時送信,異なった時間にウェブキャスティングするという両方が含まれていると思います。

以上です。

【道垣内主査】どうぞ。

【今村委員】今の異時の点に関係すると思いますが,異時というのはどのぐらいかというのも一つの問題だと思います。そこはどういうことで議論されているのかというのが1点目の御質問です。また,先ほど,主査の道垣内先生の方から,与えられる権利について余り変わりがない部分があると話があったのですけれども,保護期間というのがあると思います。同時送信の場合には保護期間は余り変わらないと思うのでいいと思いますが,異時とかオンデマンドということになってくると,例えば30年前に放送したものをオンデマンド送信するとかいうことになって,そのときの保護期間の起算が,オンデマンド送信してから20年みたいな話になると随分違いそうです。保護期間の起算がどの時点を基準に議論されているのかということを,2点目として確認させていただきたいと思います。

【道垣内主査】お願いします。

【早川国際著作権専門官】事務局です。異時がどれくらいかというのはおっしゃるとおりで,時間はどれぐらいかという議論を発言されていた国はあると記憶しております。したがって,ニアサイマルとdeferredがどれぐらいの時間の差があるかということに関して,事務局あるいは放送条約の議論内で,これだという回答がないのが現状ですので,これから議論で詰めていくところかとは思います。

2番目の保護期間につきましては,放送されてから何年かということになるのかなと思います。したがって,例えばコンテンツが20年前であっても,放送されてから,そこから隣接権の権利がスタートするのかなという認識です。

以上です。

【道垣内主査】後者の点は7ページのTerm of Protectionのところで,「the programme-carrying signal was transmitted」なので,このtheということなので,入手したそれというのではなく,最初の放送なのではないでしょうか。

【今村委員】ありがとうございました。

【道垣内主査】よろしいですか。

どれくらいの差があるのかというのは,(f)の定義を見ると,時差と,それから,テクニカルな問題をファシリテートするためですから,どんなに長くても24時間ですね。他方,deferredの方は何日でも何年でもあり得るので,相当違うことはあり得るということでしょうか。

それから,条約を小さめで早く作れば,みんなが入ってくれるという見通しはあるのでしょうか。この条約を何のために作ろうとしているかですが,しっかりしている国との間では余り心配していないのだと思うので,むしろ,ちゃんと保護してくれない国に保護させようというか,放送事業者の権利を認めさせようというのが目的だとすると,ちゃんとまだやっていない国をターゲットにして,その国がどういう場合なら入るのかということがポイントになるのではないかと思います。その辺の分析は,どうなのでしょうか。20年も掛かっているのがそもそも保護を受ける放送機関としておかしいのではないでしょうか。ビジネスとしてあり得ないと思いますけど,どうですか。WIPOで合理的な期間内にWIPOでは条約が作成できないのだったら,さっき鈴木委員がおっしゃったこととはちょっと違うかもしれませんが,もうWIPO外してみんなで別に条約作成をするという方針もあり得るはずではないでしょうか。

【早川国際著作権専門官】そうですね。その点に関して現状の認識といたしましては,ヨーロッパ諸国が強い義務を求めているということと,それに反対する国があるということで,今のところ議論が分かれているところですが,全加盟国で条約自体に反対する国は基本的にないという状況なので,ここの議論がかみ合っていけばある程度進むのではないかなというのが私の見立てです。

あと,もう一点,実は更に進んでいくと,保護の権利の対象につきましては,更に対立するところではあると思います。特にアメリカは,隣接権がない国ですので,対立する可能性は秘めていますが,アメリカとEUとが折り合っていけば,早期に策定する可能性はあるかなという認識でございます。

【道垣内主査】野口委員,どうぞ。

【野口委員】先ほどの今村委員の御指摘に戻ってしまいますけれども,このTerm of Protectionのところをよく読みますと,50年ですよというのが書いてあって,「of the year in which the programme-carrying signal was transmitted」と書いてあって,別にfirst transmittedとか書いていないですし,この2ページのDEFINITONSのprogramme-carrying signalのところを見ると,「as originally transmitted」だけではなくて,「and in any subsequent technical format」と書いてあるので,もしかすると,隣接権が切れないように,50年に1回ずつ放送し続ければ延々伸びていくというふうに読めなくもない文言なので,それは不適切ではないかと思いますので,そのあたりは,最初に放送されてからとかいうところが明確になるように,文言の提案も含めて御検討いただければと思います。

【道垣内主査】解釈はちょっと分からないですね。さらっと書いているだけですから。伝統的放送事業者の権利を強めることについて,嫌だというところもあるのではないかという気もしますが,WIPOではそういう業界はあまり参画していないのでしょうか。

私にはちょっと状況が分からないものですから,いろいろ伺いましたけれども,大分分かったような分からないようなことになってしまいました。

では,それ以外の追及権及びその他の権利,新しく持ち出されたものとかもございますが,それらについてどなたか何か御意見等ございますか。日本としてどう対処すればいいのか,国際的にはどうなのかという観点から御意見を伺えればと思います。

どうぞ。

【堀江委員】追及権のところで先ほどイギリスの方の報告がなされて,結論としては影響なしだという御報告がありましたが,もう少し具体的にどういうふうに影響がないのか,何がどう影響がないのかちょっと分からなかったものですから,そこを説明していただけるといいのですけれども。

【早川国際著作権専門官】説明を省略してしまい申し訳ありません。イギリスが追及権を導入する前と後で,絵画の取引市場においてその市場が縮小したかどうかということに関して調べられた研究でして,基本的に追及権があったかなかったかによって,絵画の取引市場において影響がなかったという結論が報告されたということです。

【道垣内主査】その調査主体は国ですか。それとも,そういう業界でしょうか?

【早川国際著作権専門官】調査はWIPOが研究者に依頼して,調査したということです。調査結果につきましては,WIPOのホームページに載っておりますので,御案内させていただきたいと思います。

【道垣内主査】日本としても積極的に対応すべきだというのが堀江委員のお考えでしょうか。

【堀江委員】いや,積極的にということではありませんが,実際にどういうことがあるかというのが分かると,もしかしたら日本での議論というのが変わってくるかと思いましたので。

【道垣内主査】著作権法の学界の状況はよく分かりませんが,賛否はあるのでしょうか。小島委員,きれいに説明していただければ有り難いです。

【小島委員】すいません,急に振られたので,私が勉強して知る限りでは,追及権があることによって,いわゆるオークションなどのフォーラムをどこにするかということに影響があるのではないかということが言われていることは存じています。要するに追及権があるということによって,ある種追加的なコストが発生するとかいうことがフォーラムの選択に,場合によってはネガティブな影響を与えるのではないかと,私としてはそういうふうに理解していますが。

【道垣内主査】フォーラムというのは,絵画の取引市場ということでしょうか。それはしかし,追求権について各国がばらばらな状態の場合ですよね。条約で統一してしまえば保護の状態は各国同じになるわけね。そういう場合でも,そこまでの著作者の権利は必要ないという論拠と,いや,必要だという論拠は,絵画の取引市場が逃げるといった議論とはちょっと違うような気がします。文化の創造のために,若いときに安く売ってしまった絵が,高くなっているときに少しは著作権者に分配してはどうかという正面からの議論とそれに対する反論について明確にすべきなのではないでしょうか。

山本先生,どうぞ。

【山本委員】 今の御質問の論拠のところですが,私の理解では,著作者を人格権的に保護するのだという発想から,自分が作ったものが高値で取引されていると,それに対して分配を受ける権利があるべきだ,あるいは財産権といいますか,自分が作ったものの価値が上がっているのだから,それの分配は受けるべきだという発想だと思います,賛成は。

私などは反対で,なぜかというと,著作権というのは,知的創作物を促進するための手段としての独占権の付与だと考えます。そうだとすると,追及権というのを与えて,それでもって著作物の創作が促進されるインセンティブが何かあるのかというと,まずそれはないだろうと思います。

【道垣内主査】その根拠について御説明いただけますでしょうか。

【山本委員】 二つありまして,一つは,追及権で利益の分配を受けるというのは,よほど値段が上がったような絵画などのものですが,それは言い過ぎかも分かりませんが,作った人が亡くなってからその作家に対する評価が定まって,その後値段が上がるという事象が多いと思います。つまり,それに対する分配を期待して著作者が著作物を作るかというと,そうではなく,作るときのインセンティブには働かないと思われます。それが一つ。

もう一つは,著作物がオークションに懸けられて,値段が上がるのはなぜかというと,もちろん著作物の価値はあるのですが,著作物の価値が上がったということよりも,投機の対象として取引されるがゆえに,お金を運用する手段として,絵画などのものに対してお金が流れていく,それの結果であります。創作行為,ないしは著作物の鑑賞価値とは全然関係のないところで値段が決まっているというものについて,著作者の権利として分配請求権のようなものを与えるというのは適当ではないというのが,私の論拠です。

【道垣内主査】なるほど。上野委員,どうぞ。

【上野委員】追及権についてこんなに盛り上がるとは思わなかったのですけれども,余り時間もないかもしれませんが,一言コメントさせていただきます。

美術の作家というのは,音楽の作曲家ですとか,文芸の小説家などとは,収益構造において違うところがあります。音楽であれば,作品が演奏されればされるほど作曲家に著作権料が入ってきます。著作権が存続している限りずっと,です。また,文芸であれば,本が売れれば売れるほど小説家などに著作権料が入ってくることになります。これに対して,絵画や彫刻のような古典的な美術の場合,それが画集として販売されるというのは非常にまれですし,配信ビジネスのようなものも通常ありませんので,基本的には,原作品を売るというところで対価を得るしかないわけです。原作品の販売後,その経済的価値が認められて,値段が上がっても,日本法の場合,譲渡権は消尽しているということで,自由に転売できてしまうということになり,作家には何ら利益分配がなされません。著作権がまだ存続しているにもかかわらず,です。

著作権制度というのは,著作物の利用から生ずる利益をクリエイタに適正に分配する役割を担っているわけですが,そうした美術作品については,クリエイタに適正な利益分配を実現するための必要な仕組みとして,追及権制度というものが設けられているわけでありまして,実際にも,世界80か国を超える国が追及権制度を有していると言われていますし,また,ヨーロッパには2001年の追及権指令がありまして,ヨーロッパ諸国では加盟国の義務として追及権制度が広く導入されているわけです。

ですので,私自身はこの追及権については,日本でももっと積極的に検討すべきだと思っていますし,WIPOの常設議題にすることについても,放送条約がまとまるまでは待つべきだというのであれば,そうなのかもしれませんけれども,いずれは国際的な議論ももっと進められるべきだと考えております。

以上です。

【道垣内主査】さきほどの小島委員のお話からすると,日本が絵画の取引市場になってもおかしくない状況にありますよね,そうすると。日本で売買すればもとの絵描きさんに支払わなくていいの対して,ヨーロッパで売買すれば,一定額はもとの絵描きさんにお金を渡す必要があるということですから。しかし,実際そんな動きになっているとは聞いたことがないので,市場を左右する影響ほどではないようですね。支払額について,パーセンテージとか法定されているのですか。上野先生に伺いたいのですが。

【上野委員】譲渡価額に応じて,一定の額以下の場合は報酬ゼロだとか,一定の額以上を超えたら報酬の上限がいくらとか。

【道垣内主査】パーセンテージじゃなくて,金額ですか。

【上野委員】譲渡価額がいくらからいくらまでの間は3%とか,パーセンテージと額の組合せで定められるのが一般的だと思うのですけど,国によって様々なものがあるかと思われます。

【道垣内主査】分かりました。少し時間があったので伺いましたけど,将来WIPOでこの議題を取り上げるときにも,また日本の法政策をどうするのかということをはっきり見極めないと,なかなか対応をとりにくいのではないかと思われます。

どうぞ,小島委員。

【小島委員】先ほど山本先生がおっしゃったところで,性質決定というか,追及権の法的な性格とは何なのかというのを私,実はよく分かっていないところがありまして,人格権なのかというところが,ずっと自分の中では疑問はありますが,ただ,ある種譲り渡せない権利を著作者に留保させる,あるいは再交渉的なものを留保させるということでいくと,やはり人格権的な説明をしないと譲渡できない権利だと構成しないといけないはずですので,このあたりについて,国内でもし対応するとなったときには,もう少し議論が必要なのかなとかねがね思っておりました。

【道垣内主査】よろしゅうございますか。

では,引き続きまして,議題の2番,海賊版対策の取組状況等について,に移りたいと思います。また,事務局よりまずは御説明いただきまして,その後,委員の皆様の御意見を伺いたいと思います。

では,事務局からよろしくお願いします。

【野田海賊版対策専門官】 事務局から御報告させていただきます。資料2になります。文化庁における著作権侵害への取組状況でございます。

こちらにつきましては,まずは2ページ目,下の方を御覧になっていただければと思いますが,いずれも即効性のある取組とは必ずしも言えませんが,制度整備,権利執行,普及啓発,この3本を柱として,平成29年度におきましても取り組ませていただきました。

1枚めくっていただければと思います。先ほど申し上げたとおり,これまで継続している取組もございますので,今年度行いました特徴的なもの,トピック的なものに絞って御説明申し上げます。

都合3ページになりますけれども,平成29年度の主な取組状況,制度整備でございますが,こちらはWIPOと連携した事業でございます。二つ目の丸でございますけれども,著作権・著作隣接権に係るアジア・太平洋地域会合,こちらは3年前に開催させていただいておりますけれども,今年度,3年ぶりに東京で開催いたしました。アジア・太平洋地域の27か国から著作権担当の局長様等を招聘しまして,WIPOからはシルヴィ・フォルバン事務局次長に来ていただき,開催しました。この中におきまして,WIPOにおける国際条約の加盟促進であるとか,あるいはWIPOのアジア・太平洋地域の今後の事業展開を検討するといったことが話し合われまして,それにホスト国として協力した次第でございます。

そのほかですけれども,少し飛んでいただきまして5ページ目,普及啓発を御覧いただければと思います。こちらはこれまで侵害発生国,明示的にはASEANの主要国と普及啓発を行うためのネットワークを形成する事業として行ってまいりまして,その一環として普及啓発事業,イベントを行ったものでございます。過去この場でも何回か報告させていただいておりますけれども,ASEANにおける著作物の侵害実態調査等々におきまして,例えば我が国のコンテンツを無許可でUGCサイト,いわゆる視聴者投稿サイト等に上げてしまう方々の実態について調査したところ,その中で多くの方々が知人,友人と共有したいだとか,あるいはクリエイターを応援したいといった好意的な意図をもって,許可を得ずにUGCサイト等にコンテンツを上げているといったケースが間々ありました。それらを基にしまして,イベントの中において,クイズ形式でその行為の問題点や,クリエイターや権利者への被害もたらすこと等説明した後の結果でございます。その際に得られた参加者の声を簡単に紹介させていただきますと,オリジナルのコンテンツを購入する大切さを理解したとか,あるいは自分がやっている行為が,実は応援しているつもりが応援していなかったといったことが分かったといった御意見等々を頂いており,改めて正しい著作権理解の促進が重要であるということを感じた次第でございます。

それを踏まえまして次の,その下でございますけれども,平成30年度以降の取組につきまして,簡単に御紹介させていただきたいと思います。これらの正しい知識の普及啓発をしたいということもあり,まずは侵害発生国と連携して,著作権を普及するマテリアルを作成して,それを基にしたワークショップ,及び著作権啓発セミナーというものをやっていきたいと考えております。現在,平成30年度予算につきましては,国会において審議中でございまして,それがお認めいただいた場合には,平成30年度以降取組たいと考えている次第でございます。こちらの新しい事業につきましては,委員の先生方からこういう点を強調した方がいいのではないかですとか,あるいは30年度以降,平成31年度を見据えた新たな事業展開も見据えて,御議論を賜りたいと考えている次第でございます。

1枚めくっていただきまして,二つ目のポツ,インターネット上の著作権侵害対策に関する諸外国調査について,簡単に御紹介したいと思います。こちらは,実は昨年の10月19日に調査実施機関である三菱総研から,この報告については共有させていただいたものでございますけれども,今後の海賊版対策について委員の先生方から御議論を賜りたいと考えておりますので,改めてポイントをまとめまして,紹介させていただきます。

なお,前提としまして,この調査でございますけれども,調査した先,ヒアリングした外国機関ですとか,いわゆる調査した先の認識を基にした報告のため,内容によって,あるいは立場によっては異なる意見,評価があるということも併せて御承知おきいただければと考えております。

まず7ページ目ですけれども,本調査の趣旨でございますが,我が国の今後の著作権侵害対策に係る検討に資するために,諸外国における侵害対策について調査したものでございます。対象国は御覧のとおり,7か国を調査いたしました。

次のページ,8ページ目ですけれども,調査しました主な対策でございます。まず[1]としまして,海賊版コンテンツの削除でございます。これは権利者の削除要請に基づきまして,通信事業者,インターネットサービスプロバイダーが侵害コンテンツを削除するといった方法でございまして,notice and take-downとしてよく知られた取組でございます。

二つ目でございますけれども,検索結果からの削除でございます。同様に権利者からの要請に基づきまして,検索エンジン事業者が検索結果から削除,あるいは順位が上位に上がってこないように策を講じまして,ユーザーが侵害サイトにたどり着きづらくするといった取組でございます。

[3]でございますけれども,これはISPが侵害している個人のネット接続を遮断するという取組でございます。事例としては余り多くないと調査の報告が上がってきております。

[4]でございますけれども,ISPが海賊版コンテンツを掲載するウェブサイトへのアクセスを制限するものでございまして,いわゆるサイトブロッキングというものはこちらに含まれます。

[5]でございますけれども,簡易な警告システムでございまして,ISPが権利者などと協力しまして,侵害している者に警告を送付するというものでございます。これによりまして,侵害をしている行為者は,自分が侵害行為をしていることを知る状態に置くことになります。

[6]でございますが,資金源対策と書かせていただいておりますけれども,インターネット上の海賊行為が拡大した理由の一つが,いわゆるマネタイズ,この行為がお金になるということが結びついたことが挙げられるかと思います。この収入源を断つという目的で行われているのがこちらでございます。代表的なものとしまして,インターネット広告からの収益,海賊版サイトをユーザーが訪問すると,それに応じて広告費がサイト運営者に支払われるというモデルでございますけれども,そのような海賊サイトに対して広告も出さないようにする取組,広告出稿抑制がこれに当たります。

次のページでございますけれども,これは各国の侵害対策の比較表でございます。これは今まで申し上げた六つの取組のうち,どの国で取り入れられているかを一覧にしたものでございます。表の見方としまして,二重丸は制度上の根拠があるものを表しております。国によっては明示的に法的な根拠が書かれているもの,あるいは解釈上成り立つものが,こちらの二重丸として書かせていただいております。また,二重丸の中に括弧でもって「実績なし」と書かせていただいているものにつきましては,制度上の根拠は確認できるものの実例がまだないといったことで書かせていただいております。また,一重丸で付されているものでございますけれども,制度上の根拠自体はないものの,事業者間の取決め,実質的な取組として運用されている取組でございます。

続きまして,スライドのページ10,下の方でございますけれども,各手法について,本調査から上がってきた主な取組例,運用例を参考に記載させていただきました。この後の議論に参考になりそうなものをかいつまんで御紹介したいと思います。

11ページを御覧になっていただけますでしょうか。[4],ウェブサイトへのアクセス制限でございますけれども,こちらはイギリスとオーストラリアの例を書かせていただいております。いずれも裁判所命令を得た上で,権利者がISPに国外に蔵置されているウェブサイトへのアクセスの停止を求めるというものでございます。この背景としましては,現在,海賊版サイトのほとんどは,自国内のサーバーにコンテンツ蔵置をしない,削除要請ですとか,情報開示請求に応じない国のサーバーを使用して,コンテンツをそこに置いているといったことが言われておりますけれども,そのため,権利者による通知の効果ですとか,あるいは我が国の場合であれば,警察権が及ばないといった等々の問題が背景にあり,本取組はこのような侵害に対抗する手段として用いられていると報告されております。

有効性を評価する声がある一方で,例えば通信の秘密ですとか,表現の自由,そのほか権利との関係性での危惧ですとか,あるいは裁判所命令を得ることに対する費用と時間が掛かるといった声も上がってきております。また,こちらにつきましては,技術的な回避が可能であるといったことから,効果が限定的なのではないかといった見方も報告されているものでございます。

続きまして下の方,12ページになりますけれども,簡易な警告システムを紹介させていただきます。こちらにつきましては,権利者からの要請に基づいてISPから侵害を行っている者に侵害行為を警告するシステムでございます。これはほかの取組,あるいは裁判を起こす際に,侵害者が侵害行為を行っていることを知っている立場に置けるということで,必要になってくるかと思います。これらの仕組みでは,本来であれば,権利者が時間と労力を掛けて侵害者を特定して,それを通知するといったことが必要になりますけれども,この取組では誰が侵害しているのか,侵害者を特定することなくISPを通じて警告を行うことができるという点で,権利者,ISP双方から一定の評価が得られていると,この報告書からは報告を頂いております。

最後でございますが,[6],資金源対策としてイギリスの例を書かせていただきました。こちらはイギリスにおけます自主的な取組として,一部の方は既に御存じかと思いますけれども,資金源対策,Follow the moneyといわれる取組を行っているものでございます。ロンドン市警の知的財産犯罪ユニット,通称PIPCUと呼ばれていますけれども,権利者団体,広告事業者団体が連携して行っているものでございまして,権利者団体が著作権侵害を行っているサイトを特定してリスト化,証拠とともにPIPCUに提供いたします。PIPCUはそれを受け取って,侵害の有無を確認した後,侵害サイトリスト,Infringing Website List,(IWL)を作成して,広告事業者に共有,広告事業者はIWLの掲載サイトの広告出稿を抑制するという仕組みになってございまして,この取組が始まって以降,2013年から2015年までの間に,登録サイトの広告が73%減少したと報告されているものもございます。その一方で,減少したものが再度増えているのかどうか等々につきましては,さらなる検証が必要かと考えておりますけれども,非常に効果を上げている取組として報告されております。

最後,13ページでございますけれども,この報告書上の評価を簡単にまとめさせていただきました。1番のコンテンツの削除におきましては,各国において最も基本的に取り組まれているものでございまして,我が国でもこちらは取り組まれております。さらには,事例は少ないけれども,実際に評価が上がっているもの,あるいはサイトブロッキング等々につきまして,まとめさせていただいた内容でございます。

簡単ですが報告としては,以上でございます。御報告した事業の取組,調査内容に限らず,私どもが継続的に取り組んでいる事業を含めて,委員の先生方による御議論を賜りたいと考えております。

説明は以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。今の後半の部分が海賊版対策に大きく関係し,前半部分は土壌を整えるような,途上国支援のようなものかと思います。ただ,後半のところも比較法的な部分が相当あって,の議題3の,資料3のところにも挙がっていますが,資料3の1の(2)にありますように,国債小委としてはインターネットによる国境を越えた海賊行為への対応に関心があります。全てがそれに関係するわけではないと思いますけれども,おっしゃった中では,11ページのウェブサイトへのアクセス制限で,オーストラリアのところで,国外のサーバーを特に対象にしたとのことですが,これは新たな法制度ができたということですか。これ以外に何か,これに加えてほかにも国際的な海賊行為対策に関係するような法制度というのはあるのでしょうか。

【野田海賊版対策専門官】本報告書は,今後私どもが海賊版対策として有効な施策を取りたいと考えており,やはりインターネットを介しまして,国境を越えて行われている侵害行為に対して,明示的に何が有効で何が有効ではないのかといったことを模索している段階でございまして,それを踏まえて各国で取られている有効な情報はないかということで,調査をかけさせていただいたのが,こちらの調査でございます。

主査のおっしゃった取組でございますけれども,こちらは本調査におきましても,イギリス及びオーストラリアの例を書かせていただいておりますけれども,それ以外の国でも行われている国がございます。あるいは我が国におきましても,一部児童ポルノにつきましては,同様の対策がとられていると承知しておりますけれども,そういった個別の対策に限らず,私どもがこれまで続けてきた各国への制度整備支援であるとか,各国の税関職員,警察に対する真贋判定セミナーですとか,各国の一般の方々に対する普及啓発事業といったこと,これまでの取組も含めて,来年度以降,私どもが取り組むのに際して,海賊版対策として有効ではないかと思われることについて,御議論をいただきたいという趣旨でございます。

【道垣内主査】分かりました。もちろん前半のWIPOを通じて,あるいは通じないでしている支援活動は意味があるわけですが,国境を越えた海賊行為対策としては,外国のサーバーにアクセスできないようにするということではないのでしょうか。例えばnotice and take-downといったって,国内の事業者に対してでなければできないでしょう。外国の事業者にnoticeを出しても,take-downしてくれるかどうかは当該国の法律次第ですから。

【野田海賊版対策専門官】そうですね。ただ,日本の事業者が,日本の権利者が外国のコンテンツを提供している事業者に対してnoticeを行ってtake-downされる例はございます。

【道垣内主査】ですよね。それは外国法に従って行っているのですね。

【野田海賊版対策専門官】そうです。

【道垣内主査】オーストラリア,イギリスのウェブサイトへのアクセス制限は,ユーザーのアクセスをコントロールしようということですよね。

【野田海賊版対策専門官】そうです。ユーザーへのアクセス。

【道垣内主査】後で報告書をまとめなければならないので,両方あって良いのですが,国境を越えた海賊行為にどう対応していくかということについて特に留意して御議論いただければと思います。

何か御意見はございますか。どうぞ。

【奥邨委員】 資料の12ページの内容確認という形で,ちょっと知っておいた方がいいかなと思うので。ここまで詳しく資料を出すのであればということですが,これは野口委員もおられますので,あとで野口委員から更に言っていただいた方がいいかと思いますが,警告システム,アメリカでCASがありますと書いてありますが,私の理解では,多分,2017年の3月で終わりましたということではなかったかなという理解です。これは調査自体がその前に行われていますので,変更があるとは思いますが,時間の経過との関係,2年たってしまっているということもありますが,そこのところが一つあるのかなということです。

ですから,そういう意味では,この警告システムは,フランスなどのスリーストライクと似たような話になっているわけで,なかなか難しいということになっているので,合理的と評価されているということで本当にいいのかどうかというのも含めてちょっとあると思います。

それから,これもオリジナルの調査は違うかもしれませんが,ここにまとめられた際に10ページのところで,アメリカで著作権法に基づいて通信業者に対してアカウントの停止を求めることができるというのが,裁判をやって差止めをするという話をされているのか,何か特別な権利があったかなというふうに,知らないうちに著作権法に条文ができたのかどうかも含めてですけれども,ちょっとまとめ方が粗っぽいのではないかなという気がいたします。

DMCAで,プロバイダーとしてリピートインフリンジャーに対する対策をしないと免責を受けられないということで普通は対応するのですが,何か権利があってというふうにとれるのはちょっとまとめ方として粗っぽいかもしれません。後ろの方でアメリカについては問題視されていないとか,まとめがいろいろありますので,少し整理をされた方がいいのかなという気がいたしました。2点,補足ということでございます。以上です。

【道垣内主査】そこはまた調査をしていただきたいと存じます。

【野田海賊版対策専門官】奥邨委員がおっしゃったように,過去の調査でございますので,御指摘の点につきましては,今後このような形で発表させていただく場合には,表現方法を注意したいと考えております。

【道垣内主査】そのほか,いかがですか。どうぞ。

【今村委員】資料で言うと11ページ目,ウェブサイトへのアクセス制限で,イギリスとオーストラリアについてはありますが,通信事業者から様々な問題点が指摘されているとか,海賊版対策として,ウェブサイトのアドレスを変えたりされるために効果は限定的だということでしたが,この調べた外国機関の立場を反映した意見になっている部分もあるという話でした。他方で,例えばアメリカのカーネギーメロン大学の研究者などが調べたイギリスのサイトブロッキングの法制の効果などを調べた研究成果だと,ブロックされた外国版サイトへのアクセス率が90%減少するとか,ブロックされていない海賊版サイトへのアクセス率についても,逆に増えているとか,そういうことがないであるとか,その他の点でもいろいろな効果が上がったとする研究機関などの調査もありまして,コピライト誌に掲載されている論文には,実効性があるのだというようなことが整理された文献が紹介されていました。先ほど最初にお断りされたように,調査対象となった機関の意見を反映されているということで,後の資料の審議状況について(案)というところにあるように,効果は限定的だといった意見が紹介されていますが,それは100%撲滅しようと思って90%しか減らなかったとしても,効果は限定的であるわけです。これをすれば全部が対処できるという手段は多分ないはずですから,この調べた対象機関が効果は限定的だとか,そういう評価をするのはいいと思いますが,様々な手法を合わせながら海賊版対策に臨むときに,サイトブロッキングというものが一定の効果を持つという研究機関の調査研究などもあるのだということは,ちょっと御指摘しておきたいと思います。

【道垣内主査】どうぞ。

【小島委員】すみません。今のところから少し前に戻ります。最初の普及啓発に関わるところで,30年度以降,著作権の普及啓発事業を侵害発生国でされていくということで,そのこと自体は私は大変結構なことではないかと思います。ただ,私が著作権教育について論文を書く際に調べたところからの感想ということになってしまいますが,日本側,そして相手国側でどういうアクターがこの取組に関与しているのかということが,まず少し個人的には知りたいなというところがありました。これまでの日本の著作権教育では,主に権利者団体が中心になって著作権教育をしてくるということが多かったように思いまして,文化庁さんも,もちろんされてはいますが,教材とかを出しておられますが,そういう性格を反映していることもあるかと思いますけれども,やはりトーンがどうしても禁止教育,あれをやっちゃいけない,これをやっちゃいけないという禁止教育のような形になっているのではないか。そういう印象を私は持っておりますし,また,説明するときにモラルとか倫理を過度に強調し過ぎているところがあるのではないかとか,そういうところも気になるところがあったりしました。

また,どうしても権利者団体さん中心でやられてきたという経緯もあるかと思いますが,やはり権利制限について余り初めから教えたくないというところも,どうもあるように感じています。ただ,小中等教育というのは,私は本来,まねをしながら学んでいく段階ではないかと思っていまして,やはり禁止教育というところとうまく折り合いをつけて説明をしていかないとまずいところがあるのではないかなと感じていまして,このあたり,進めていかれる際には是非御留意いただきながらやっていただけるとよろしいのではないかなと思います。

また,もう一つは,実は教員との信頼関係というのが,日本でもそうですが,権利者団体さんにインタビューしますと,先生方との信頼関係がどうもうまく築けていないような感じがしますので,この教員ワークショップというのは2年目に予定されているということでありますけれども,先生方に対する普及啓発,そして,そことの信頼関係というものが非常に大事だということも,併せて指摘させていただければと思います。

以上でございます。

【道垣内主査】どうもありがとうございます。どうぞ。

【墳﨑委員】 まず,インターネット上の著作権侵害対策についてですけれども,CODAでは,インターネットの著作権侵害対策というのを日々行っていますが,道垣内先生のおっしゃるとおり,もうnotice and take-downでできるサイトというのは限られています。まさにちゃんとしたサイトは,当然言うことを聞いてくれてやってくれますし,所在のはっきりしているサイトであれば,各国の政府機関等の協力により改善するケースもあります。しかし,最近ではやはりインターネットの匿名性というところが一つネックになって,どこの誰がやっているか分からないというケースが非常に多いです。

そういうことからすると,そういった状況下でも対応ができる方法というのをやっぱり考えていかなければいけないと思っております。その一つが,サイトブロッキングや資金源対策や,グーグルさんとかに御協力いただいている検索結果からの削除などなのかなというふうに考えていて,これらの方法を各国との比較法の部分もあるとは思っていますが,より進めていく必要があるのではないかと考えております。

なお,サイトブロッキングの効果については,先ほどちょっとお話がありましたが,いろいろと議論があるところだとは思います。ただ,1点注意しなければいけないのは,サイトブロッキングといっても様々です。例えばイギリスにおいては非常に効果があるのは,多分そのとおりだと思いますが,要は同じサイトでドメインとかが変わったときに,すぐにそれを追いかけられるような制度があるんですね。それとは違って,ドメインが変わるたびに裁判をやって,長々と裁判をやらなきゃいけないとなると,それは当然回避しやすいという話で,全然,制度が各国によって違ってくるわけです。イタリアなどは裁判をやらなければいけないのですが,2回目の場合にはファストトラックみたいな制度があって,すごく短い期間でできるとか,そういった制度,各国の制度はこういう制度であって,だから効果があるとか,そこまで踏み込まないと,多分,正当な評価はできないのではないかと思うので,そのあたりは注意して論じなければならないのかと思っております。

あと,普及啓発というのは,砂漠に水をまくような行為と言われるときもありますけれども,私自身は非常に有効な制度だと思っております。具体例を言うと,今C0DAでは,キャラクターグッズの侵害品,模倣品に関して,著作権に基づく侵害対策というのを進めております。私が経済産業省の模倣品対策室というところにいた2009年ぐらいの頃に似たようなことをやっていましたが,その頃は中国政府機関の方というのは,著作権侵害品というのは,いわゆるDVDとかCDとかが典型的なものであって,いわゆるキャラクターグッズみたいなものが著作権侵害品なのかというところに疑問を持っており,そこから議論する必要があったのです。

当然,その中においても,文化庁さんの方でトレセミとかをやっていただいていて,著作権に関する理解を深めていただいて,最近では,それは当然,著作権侵害,日本のコンテンツを勝手に利用したキャラクターグッズは著作権侵害品ですよねというところの意識は共有できていて,非常に対策がとりやすい状況が生まれております。それまでに何年かかっているというのはありますが,やはりそういったことをやっていかないと,物事は改善していかないのかなと思っています。

また,今後,来年度もそういったトレセミや普及啓発活動をやっていただけるということで,1点お願いというか,なかなか難しい部分もあるとは思うのですけれども,一般消費者向けや小中学生とかへの啓発をやるときに,やっぱり禁止なんだとか,そういうことを言わなきゃいけない部分もあるのだとは思いますが,大事なのは海賊版を見ないで,じゃあ,正規でどこで見るのかというところがはっきりしないと,多分,結局見ちゃうのではないかなという気がします。要は,見たい人たちは見る手段がなければ見るので,だから,そういったところをしっかり伝えていく必要もあるし,見ることができる環境を整えていくというのが大事なのかなと思っております。

ちょっと長々話しましたが,以上です。

【道垣内主査】ありがとうございました。どうぞ。

【松武委員】私も実演家の一人なので,ずっとこのことについては興味というか,御意見を申し上げたいのですが,この侵害対策,僕の個人的な意見ではありますが,六つあるうちの五つまでは無効だと思います。幾らやっても何も減らないし,だめだと思うのです。6番目に関しては,これはまったく,関係ない人が入ってきて,そこでお金儲けをしようとするものであり,リーチサイトなるものが乱立するわけです。今,教育のことをお話しされていましたけれども,僕はやはり,禁止は禁止ってきちんと言わなきゃいけないと思います。「君たち,まだそんなことやっているのかよ,格好悪いじゃないか」というような教育を是非やっていただければなと思います。

芸団協CPRAで禁止のサイトを作って,自警団みたいなことを行ったのですが,「音楽はタダではない。」と訴えると,「何だ,また金か」というニュアンスの言葉が一人歩きしネット上のツイッターなどSNSで一気に面白おかしく拡散するわけです。

ですから,やはり僕は「格好悪い」という標語として学校内の生徒たちが言うような教育を持っていければ,少しずつ解決していくのかなというふうには思っています。是非お願いしたいと思っております。

【道垣内主査】どうぞ。

【久保田委員】 小島先生が言われることはよく分かりますが,著作物ごとに違うのです。著作権法と「まねぶ」「まなぶ」という話も,それこそ文藝家協会さんが扱っているところでは,非常に教育的に難しい問題があったりしますが,まず,音楽とか映像の話とか,コンピューターのソフトというのは,デッドコピーはだめなのです。そこはもう絶対に許諾を得て使ってくれという大原則の話と,著作物性(アイデアと表現)という視点,二次的著作物を作っていくという著作権法の非常に深いところとの話というのがどうもうまくない。私も大学で授業を行っていて思うのは,まず著作権法の話をすると,学生は頭の中に映像と音楽ぐらいしか浮かばないのです。最近は振り付けとかというのが大分分かるようになってきて,そういう意味では,著作物ごとの本当に正しい著作権法の理解が大切なのです。多分,(著作物といった情報に価値や対価を払うことが)今,格好いいということについても,相当な理解がされてきているのではないか。

きのう,たまたま私も弘前大学で,教育学部の先生たちに講義をしてきました。音楽とか美術をやっている先生たち自身が,さっき言いましたように,(情報として価値のある著作物に対価を払わないのは)貧乏臭いと。今のJASRAC問題なんかで,やはりお金を払いたくないという意思表示をするのは格好悪いという意識になっている。

そういう問題と,国語教育における「翻案」「翻訳」だとか,そういう話の微妙な,まさに「まねぶ」とか「学ぶ」とか,巨人の肩に乗っかって文化や芸術が進んでいくという話が,ようやく学校にいる先生たちの理解が,著作権法の1条の目的が文化にあるのだというところにきた。私は,教育基本法の1条と2条を使って,著作権法の条文とこんなに重なるでしょうという話を,まず教育者になる学生や先生たちにお話をしています。このあたりの著作権法の立て付けが見えてくると,今言ったような文化の問題と,それから産業財産権の話もこっち側にあるわけですが,法益が全然違うので,多分アプローチも,コンピュータープログラムみたいに非常に産業財産的な著作物もありますけれども,そこはやっぱりきちんと著作物ごとに,まさにNHKさんや新聞が作る民主主義を担保するような情報としての著作物の話と,それから国語教育の中で,豊かな表現力を培っていくという話も,教育現場の人たちともっと,我々は,著作権法を教えるんじゃなくて,著作権とは何かという議論をする中で寄り添っていくことが肝要だ。コンピュータソフトウェア著作権協会は設立以来30年近く教育現場で実践してきましたが,ある意味,相当いい線まで来ていると。

一方,墳﨑さんおっしゃったように,デッドコピーは,ACCSは絶対そこは許さないと。特にゲームソフトやエンタメコンテンツなど,家庭でしか使われないゲームソフトなどを,家庭でコピーされちゃったらアウトです。それは音楽もそれに近いところにあるし,映画や映像系の実演家の人たちも似たようなところにある。そういう意味では何でもただで利用したいというのは,やっぱり格好悪いという理解も進んできている。その辺はもう少し,我々自身も,著作権法の議論をするときに,著作物ごとの性質とか特性とかというところを考えて,教育現場に伝えていく必要があり,そのあたりは是非細かいアプローチを我々がしていかなければならない。

【小島委員】ちょっとだけ短く。すみません,どうしても舌足らずなところがあったかと思いますが。先ほどの御指摘で音楽ということでいくと,レコード協会さんなどはハッピーミュージックサイクルということを示されていることは,私は大変よいことで,いろいろなアクターが関わって,そこで経済が回っているということをちゃんと示すということは大事なことだろう思っています。

また,さらに,これは多分,著作権というのは,本来,文化政策の一つですので,なおかつ,文化というところ自体に,実は私は広い意味でパトロネージというか,生み出す人を支えるメカニズム,そこにはお金の問題とかファイナンスの問題というのは,当然入っていると私は思っていますので,本来,著作権の説明をしていくときにも,そういった観点をきちんと入れると。そして,著作物の多様性という,今,久保田委員がおっしゃったようなことについても目配りをする。そういう中での,ただ,一方では,小中等教育の価値みたいなこともきちんと入れていく。

ですから,非常に複眼的なアプローチというものが著作権教育には求められる。ですから,実は著作権教育というのは大変難しいということでして,日本国内の著作権教育もさることながら,途上国でなさる際には,是非そういってことにも目配りしていただけると有り難いなというふうに感じております。

【道垣内主査】ありがとうございます。時間の関係で,まだ御意見おありの方がいらっしゃるかもしれませんけれども,このくらいにさせていただきたいと思います。

事務局におかれましては,ただいま頂いた様々な御意見を踏まえて,引き続き,海賊版対策の取組に邁進していただければと思います。

では,議事の3番目に入りたいと思います。3月5日に著作権の分科会がございまして,そこで私の方から今期の国際小委員会の審議状況について報告をすることになっております。資料の3が事務局に御準備いただいた案でございます。これについて,まず御説明いただいて,その上で御審議いただけますでしょうか。よろしくお願いします。

【早川国際著作権専門官】事務局から御説明させていただきます。資料3につきましては,今年度の国際小委員会の審議状況のまとめの資料となっております。

基本的に,第1回,第2回でこちらから御報告させていただいた内容が現在のところ記載されております。審議の状況といたしまして,2ポツの(1)「著作権保護に向けた国際的な対応の在り方」につきましては,WIPO,特にSCCRでの現在の議論の状況を記載させていただいており,5ページ目,(2)の「インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方」につきましては,調査報告や今年度の取組についての報告内容が記載されております。

報告内容につきましては,第1回,第2回で既に報告させていただいておりますので,内容についての具体的な説明は省略させていただいておりますが,今回,第1回,第2回で委員の皆様から頂いた意見を,例えば3ページの上の方,「国際小委員会における委員からの意見概要」ということで,事務局の方で取りまとめて,追記させていただきたいと思います。追記させていただいた内容につきましては,委員の皆様に一度メールで御確認いただければと考えております。

資料の説明は以上です。

【道垣内主査】今御説明がありましたように,この資料3に今日までの議論を踏まえた修正を加えて追記をして,それを皆さん方にメールで送らせていただくことにさせていただきます。どの点でも結構ですので,御意見を頂きたいと思います。もう一回,この小委員会を開くというわけにはいかないものですから,最終的な取りまとめは主査に御一任いただけますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】どうもありがとうございます。それでは,そのような形で取りまとめて,審議経過報告として著作権分科会に報告させていただきたいと思います。

引き続き,議題の4番,「その他」でございますが,委員の方,あるいは事務局から何かこの際ということがございますか。

どうぞ。

【奈良国際課長】すいません,事務局から1点,御報告をさせていただきたいと思います。

資料がなくて大変恐縮でございますけれども,国際小委でございますので,TPPと日EU・FTAの現在の進捗状況,その中での著作権の扱いにつきまして,御報告をさせていただければと存じます。

TPPの12というアメリカも入った形で交渉しておったものは,我が国においても国会承認をされて,著作権を含む関連法案が成立したわけでございますけれども,TPP12の方が,アメリカが離脱して発効してございませんので,改正法案につきましては,まだ施行していないという状況でございます。

アメリカが離脱をした後,11か国でTPP11という形で交渉をしておったところでございますけれども,ほぼ合意に至っておりまして,来月に署名式を行う方向で調整をしているところでございます。

TPP11の協定の中におきましては,当初のTPP12のうち,知財関係を中心に幾つかの項目が凍結事項,いわゆる協定上の義務ではなくなった事項がございまして,その中には著作物の保護期間の延長,それから技術的保護手段なども含まれているところでございます。TPP11の協定につきましては,TPP12とは異なる新たな協定になりますので,我が国におきまして,また再度国会での承認ということと,それから関連法改正の手続が必要になるわけでございますけれども,その取扱いについては,今現在,政府全体で検討中というところでございます。

一方,日EU・EPAにつきましても進行中でございまして,これにつきましては,昨年12月に最終妥結をいたしまして,現在,条文の作業などを行っているところでございます。この中では,著作物の保護期間につきましては,70年とするということについて合意をしているところでございます。したがいまして,今後,日EU・EPAを締結するまでには著作権法を改正するということが必要になっているところでございます。こちらにつきましても,締結に向けた検討を現在進めているところでございます。

このような状況でございますので,今,政府全体として関連法案の改正も含めまして,検討しているところでございます。現在申し上げられるところはここまでで,大変申し訳ございませんけれども,また進捗がありましたら,随時御報告をさせていただければと思っております。

以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。

今のは御報告でございますので,御意見をもし伺えば,様々にあろうかと思いますけれども,時間の関係もございますので,省略させていただきます。

以上で,特にほかになければ本日の国際小委員会は終了とさせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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