文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第2回)

日時:平成30年8月29日(水)

17:00~19:00

場所:文部科学省3階3F1特別会議室

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の在り方について
    2. (2)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入に関する論点整理―検討事項2関係―(292.1KB)
資料2
著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入に関する論点整理―検討事項3関係―(340.3KB)
参考資料1
著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入に関する問題の所在と検討事項(137.2KB)
机上配布資料1
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究報告書(平成30年3月)
机上配布資料2
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究資料編(平成30年3月)

議事内容

【龍村座長】それでは,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第2回)を開催いたします。本日は,御多忙の中,御出席賜りまして,誠にありがとうございます。

議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事の内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴の方には御入場いただいているところでございますが,特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【龍村座長】では,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくということにいたしたいと思います。

まず前回御欠席でしたが,今回,水津チーム員に御出席いただいておりますので,御紹介させていただきます。水津太郎チーム員です。

【水津委員】よろしくお願いいたします。

【龍村座長】また,事務局の人事異動があったようですので,御報告をお願いいたします。

【澤田著作権調査官】事務局の人事異動を御報告申し上げます。8月17日付けで文化庁長官官房著作権課専門官として大野雅史が着任しております。

【大野専門官】大野です。よろしくお願いいたします。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より配付資料の確認をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【澤田著作権調査官】お手元の議事次第を御覧ください。配付資料一覧にございますとおり,資料1として,著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入に関する論点整理―検討事項2関係,資料2として,検討事項3関係,参考資料1として,著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入に関する問題の所在と検討事項をお配りしております。また,机上配付資料としまして,調査研究の報告書とその資料編を置かせていただいております。不備等ございましたら,お近くの事務局まで御連絡頂ければと思います。

以上です。

【龍村座長】それでは初めに,議事の進め方について確認しておきたいと思います。

本日の議事は,お手元の議事次第のとおりですが,(1)著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の在り方について,(2)その他,の2点となります。よろしいでしょうか。

では早速ですけれども,議事に入りたいと思います。著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の在り方について,前回のワーキングチームでは,対抗制度導入の許容性及び対抗力付与の在り方に関する検討事項1の検討を行った結果,当然対抗制度の導入を念頭に置いて今後の検討を進めることが妥当であるということが確認されるに至っております。

これを踏まえまして,本日は,契約承継の在り方に関する検討事項2,著作権分野における他の制度との関係性に関する検討事項3,これらについてそれぞれ検討を行いたいと思います。

ではまず,検討事項2に関しまして,具体的な論点の検討に向けて事務局において資料を御用意いただいておりますので,これに基づいて議論を行いたいと思います。論点がたくさんありますので,今回も少し区切って進めていきたいと思います。まずは1ページ目から7ページ目の「1.利用許諾に係る権利の対抗に伴う契約の承継について」に関して,事務局より御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】ありがとうございます。それでは,資料1を御覧いただけますでしょうか。

1ポツ,利用許諾に係る権利の対抗に伴う契約の承継について,(1)冒頭では,「利用許諾に係る権利の対抗を認めた場合には,利用者(ライセンシー)は,利用許諾に係る利用方法及び利用条件に従って著作物を利用することができる,という地位を第三者に対して主張することができることとなる。そのため,利用者は譲受人との関係でも著作物の利用を継続することができる,すなわち,差止請求等を受けることがないこととなる」ということを確認させていただいております。

ここで脚注1におきまして,対抗制度を認める趣旨としては,ライセンシーの利用許諾に基づく利用の安定性を確保するという点にありますので,例えばライセンス契約に基づいて無償で利用を行っていた利用者が著作権の譲渡がなされた場合にも引き続き利用を継続することはできるが,譲受人から利用者に対する通常の使用料相当額の請求が認められる制度とするのは利用の安定性確保という観点からは妥当ではないことから,対抗制度の導入によって,利用者は利用許諾契約で定められた対価に基づいて利用を継続することが確保されるものと考えるべきであると書かせていただいております。

本文に戻りまして,「この場合に,利用許諾に係る権利の対抗に伴って,利用許諾に係る契約上の地域を著作権者(ライセンサー)から譲受人に移転されるものとすべきか否かといった,契約承継の在り方に関する検討が求められる」としております。なお,本資料の6ページにおいて,契約が承継される場合とされない場合の法律関係について調査研究においてまとめた結果を記載しておりますので,適宜御参照いただければと思います。

1ページ目の3パラグラフ目におきまして,冒頭,座長からございましたとおり,当然対抗制度の導入を念頭に置いて検討を進めるということが前回の会議で確認されましたので,以下は当然対抗制度を念頭に検討を行うこととしております。「なお」の箇所では,当然対抗制度の導入というのは,利用許諾に係る権利が非独占的であって,譲受人に与える不利益が小さいことを前提として正当化されるという考え方が示されており,それを踏まえますと,当然対抗に伴って,契約条項の中で独占条項が承継されることはないものと考えられますので,独占条項については契約承継の在り方に関する検討対象からは除外するということを記載しております。

2ページ目の上で書いておりますとおり,独占性の保護につきましては,後ほど御審議いただきますとおり,独占ライセンスの対抗の問題として別途検討を行うこととしたいと考えております。

続きまして,(2)契約承継の在り方についてでございます。ア.法的分析にありますとおり,民法の原則論としては,契約承継(契約上の地位の移転)には,まず契約者当事者の一方と第三者との間で,契約上の地位を譲渡する旨の合意がなされることに加えて,契約の相手方の承諾を必要とするということになります。

もっとも,不動産賃貸借に関しては,確立された判例を踏まえて,改正後の民法では,賃借人が対抗要件を備えている場合において目的物たる不動産が譲渡されたときには,その不動産の賃貸人の地位は譲受人に移転するという当然承継ルールが採用されております。

このルールにつきまして,調査研究における分析では,改正民法605条の2第1項において譲渡当事者間の合意が不要とされるのは,目的物の所有者と賃貸人が分離することによって法律関係が複雑化することを避けるためであるとされております。また,改正民法605条の2第1項などにおいて賃借人の承諾が不要されるのは,賃貸人の債務(使用収益させる債務)は誰でも履行することのできるものであることから,賃借人にとって賃貸人の交代が不利益を生じさせないためであると分析されております。

このような考え方を踏まえますと,著作権の分野におきましても,著作権者とライセンサーの地位が分離することによる法律関係の複雑さを回避する要請が存在し,ライセンサーの交代が利用者に不利益を生じさせない場合には,利用許諾に係る権利の対抗に伴う契約の承継を認めることも選択肢としてはあり得るものと考えております。

続きまして,イ.関係者の意見でございます。アンケートにおいて,全ての権利義務を承継させるべきというような回答をした者に関しては,契約条件が変更されるものは困るものといったものとか,同条件で継続して使用できることが保証された上で必要に応じて再度契約条件を交渉すればいいのではないかといった点を理由として挙げております。また,義務の内容によって承継させるべきか否かが異なるというふうに回答した者は,現実的に義務の中には,譲受人が対応できないものがあるだろうという意見を,全て承継させるべきでないと回答した者につきましては,利用条件はライセンシーと譲受人との間で交渉すべき事項であるということを理由として挙げております。

ヒアリング調査におきましては,当初の契約内容を維持するために契約は基本的に承継されるべきであるという意見が相当程度見受けられました。もっとも,その承継すべき範囲につきましては,誰でも履行することができるわけではないような義務は除き,誰でも履行することができる契約内容のみ承継すべきという意見が多く見られたところです。

また,ヒアリングの中では,ライセンス契約は一律に没個性的なものとは言えないのではないかといった指摘もなされております。利用許諾契約において定められることのある誰でも履行することができるわけではない性質の義務と致しましては,著者が負う校正義務やソフトウェア等の保守・修理・サポート・カスタマイズの義務などが挙げられております。

続きまして,4ページ目,ウ.契約承継についての考え方でございます。今見てきましたとおり,ライセンス契約の中では,誰でも履行することができるわけではない性質の義務も定められる例があることが確認されております。また,著作者人格権の不行使特約のように,著作者がその義務を負わなければ意味がない性質の義務が定められる例も存在しております。そこからしますと,利用許諾契約全体を一律に承継させることとすると,ライセンサーの交代が利用者に不利益を与える場面も想定されるため,利用許諾契約全体を一律に承継させる制度を採用するのは妥当ではないと考えられます。

この点に関して,例えば利用者に不利益を生じさせない範囲,例えば著作権者の負う義務のうち誰でも履行することのできる義務のみ承継させるというような制度が考えられないかということについても検討しております。これについては,そのような義務の性質を適切に区分けして,法令上の規定を置くということは立法技術上困難ではないかといった点とか,また,契約は様々な条項がパッケージとなって作られておりますので,使用料の支払い額は様々な契約条項と連動してその内容が決まっているという場合もありますので,契約内容のうちの一部,例えば誰でも履行することのできる義務のみが承継されることとなると,旧著作権者と譲受人との間で使用料を案分しなければならないのではないかといった複雑な法律関係をかえって生じさせる可能性があるといった点が問題になるとしております。

また,契約の一部分を承継させることを認めることにつきましては,著作権は支分権ごとに譲渡が可能でありますので,利用許諾契約の対象となっている支分権のうち一部の権利だけが譲渡された場合に,どのような対価を支払えばいいのかといった問題が生じる場面があり得るとしております。以上を踏まえますと,誰でも履行することのできる義務に限って承継を認めるという制度については慎重な検討が必要となるのではないかとしております。

他の知的財産法を見ますと,特許法では,通常実施権の当然対抗に伴う契約の承継に関して,ライセンス契約においては,様々な債権債務に関する合意がなされることや,包括ライセンス契約,クロス・ライセンス契約など,多種多様な契約形態が見られるといったことを踏まえ,契約が承継されるか否かについては,個々の事案に応じて判断されることが望ましいと整理されて,現行法と同様に,特許法では,契約の承継について特段の規定を設けないといった結論が出されております。

以上を踏まえますと,利用許諾に係る権利の対抗に伴う契約の承継に関しては,一定の基準を法定して契約が承継されるか否かが決定される制度を設けることは妥当ではないものと考えられ,契約が承継されるか否かについては個々の事案に応じた解釈に委ねることとするのが望ましいと考えられるとしております。

御審議いただきたい点1としましては,以上の分析について,そうした個々の事案に応じた解釈に委ねることとするのが妥当かといった点について御議論いただきたいと考えております。

続きまして,6ページ目にお進みいただければと思います。ちょっと先走るようではありますけれども,そうした形で個々の事案に即した解釈に委ねるというふうにした場合に,解釈上当然に契約が承継されるべき場面が生じ得ることになります。そのような場面においても,譲渡当事者である著作権者と譲受人との間での合意によって契約を承継しないこととすることができるかといった問題について記載をしております。

不動産の譲渡に伴う賃貸人の地位の移転に関しましては,資産の流動化等を目的として賃貸不動産の譲渡が行われる場合に,譲受人と多数の賃借人との間で賃貸借関係が生ずることを避けるため,賃貸人の地位を留保させるという扱いが実務的に行われているところ,改正民法におきましては,不動産の譲渡人及び譲受人が賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときには,賃貸人たる地位は譲受人に移転しないといったルールが定められております。

これを踏まえると,ライセンス契約に関しても,例えば解釈上契約が当然承継される場面であったとしても,当事者間の合意により契約の承継を否定することは,可能ではないかということを書かせていただいております。そうした場面としましては,この後御審議いただく予定なのですが,資料2の3ページにあります信託譲渡型の管理事業者という者が,信託譲渡を受ける前に著作権者が締結していたライセンス契約を承継しないことを望むような場合といった場面にこうした留保の合意は使われる可能性があり得るものと考えております。

これを踏まえまして,御審議いただきたい点2としましては,どのような合意をすれば契約が承継されないこととなるのかといった点,特に不動産の賃貸借の例のように譲渡人と譲受人との間でライセンサーたる地位を譲渡人に留保する旨の合意に加えて何らかの合意が必要となるのかという点について御審議いただければと思います。

以上,御審議のほどよろしくお願いいたします。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より御説明頂きました内容に関しまして,御審議いただきたい点1及び2を中心に,御意見,御質問等がございましたらお願いしたいと思います。いかがでございましょうか。

前田委員,お願いいたします。

【前田委員】個々の事案に応じた解釈ということの意味について御質問させていただきたいのですけれども,個々の事案に応じた解釈というのは,個々の事案に応じた法解釈ということなのか,個々の事案に応じた当事者,当事者というのはこの場合,譲渡人と譲受人とライセンシーの3者になると思いますが,3者の合理的な意思の解釈ということなのかということをお伺いしたいと思います。

もし前者,法解釈だとすると,それは当事者の合理的意思,当事者の実際の意思がどうであれ,個々の場合によってこうなるというような法律が潜在的にはあって,その解釈によることになり,それは,当事者の合理的意思解釈によると考えることと微妙に違うことだと思うのですが,この資料で想定されている「解釈に委ねる」というのは,どういう意味なのでしょう。

【龍村座長】これは事務局に対する御質問でよろしゅうございますか。

【前田委員】はい。

【澤田著作権調査官】想定しておりましたのは,法解釈として,ということです。

【前田委員】分かりました。

【龍村座長】ただ,その辺りは,それ自体もいろいろ御意見,御議論があってもよろしい点でもあるわけですよね。

【澤田著作権調査官】はい。

【龍村座長】そういうことかとむしろ思います。

【前田委員】分かりました。ありがとうございます。

【龍村座長】そのほかいかがでございますか。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今の点に若干関連しますが,特段の規定を置かないということであれば,まさしく特許法平成23年改正のときに特段の規定は特許法では置かずに,99条の規定だけで当然対抗にしましたが,それと同様であれば私は全く異論ありません。特許法のときにできなかったことを突然著作権法でできるとも思えないので。

要するに,特許法の新99条では,通常実施権は登録対抗制から当然対抗制に移行するということで,ここは重要な点かと思うのですが,民法だとやはり賃貸借の対抗という契約的な話になっていますけれども,特許法では34年法以来そうはなっていなくて,通常実施権という契約から少し離れた,権利で対抗できるということで処理するということです。

何が言いたいかというと,権利と別途契約があるわけですが,別に契約で処理するわけではなくて,権利で処理することを法律で,これは34年法のときからそう明示されていて,契約上の地位の方は法律では直接触っていないので,それは先ほどのように法解釈か合理的意思と言われると難しいかもしれませんが,特段,法律では定めずに,合理的意思なのか法解釈なのかは別として,それは契約上の地位の問題として別途,一般法理ないし一般解釈に委ねるということであれば,私はそれ以外に解はないのではないかと思っております。

なお,先ほどの点についてあえて言えば,私はどちらかというと法解釈というよりは,合理的意思の問題かと思います。以下は全く個人的見解なのですが,特許でもライセンスの契約上の地位の譲渡というのは大論点で,当然承継説と非承継説が激しく対立しております。私は,移転するもしないも,契約としては3者契約ということになり,いかようにでも決められるものですが,いかように決められるといっても,やはり一定の基準がないと考えにくいので,その辺りは合理的な意思を示すような基準というのはあり得ると思います。しかし,それは飽くまで当事者の意思で決まるというものだろうと思っております。それを解釈と思うか,私のように意思と思うかは別として,そのようなものについては,特許法と同様に,著作権法の改正としては,特段,立法措置は取らない方がよいと思っております。

【龍村座長】ありがとうございました。対抗の問題は確かに法定の制度という色彩が非常に強いかと思いますけれども,契約承継という局面になりますと,法定なのか,あるいは意思解釈の問題なのか,両用の見方があり得る。その辺が漠然とした状態になる面もあるのかとも思いますが。大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】どちらでするにせよ,法解釈が一般理論に委ねられるのか,合理的意思なのかは別として,特段立法では定めない方がよいという点はそのとおりだと考えております。

【龍村座長】ほかにいかがでございましょうか。

水津委員,お願いします。

【水津委員】御審議いただきたい点1について,意見を申し上げます。独占条項を伴うライセンス契約について,独占性を除いた部分の当然対抗が認められたときに,その契約が,独占条項以外はそのまま承継されるとすることは,困難である気がします。なぜなら,対価の定めは,著作物を独占的に利用することができるものとして定められている以上,独占性を対抗することができず,独占条項も承継されないとすると,当然対抗の効果として,対価の定めを承継させることは難しいからです。

これに対し,不動産賃貸借では,このような問題は生じません。有体物を目的とする不動産賃借権は,その性質上,独占的な権利として構成されています。したがって,不動産賃借権を対抗することができるということのなかには,独占性を対抗することができることまで含まれます。したがって,対抗要件を備えた不動産賃借権については,契約がそのまま承継されるとしても,先に見たような問題は生じません。この意味において,不動産賃借権と独占条項を伴うライセンス契約とを,同列にならべて議論することは,できないように思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

では,森田委員,お願いいたします。

【森田委員】先ほどの前田委員の御質問にありました,解釈というのが,個々の事案に応じた法解釈なのか,意思解釈なのかという問題は,もう少し分析的に分けて考えていかないと答えることができない問題ではないかと思いますので,その点について一言補足的に述べさせていただきたいと思います。

契約承継というのは,契約上の地位の移転という問題でありまして,契約上の地位の移転の一般原則というのは,民法で定めているわけでありますが,譲渡当事者間で譲渡がなされたとしても,相手方が承諾をしなければ,契約上の地位は移転しないというのが民法の一般原則であります。したがって,この一般原則を適用すると,ライセンシーの承諾が必要だというのがその論理的な帰結ということになります。

ただ,民法では,判例法,そして平成29年改正でそれを明文化する規定が民法に定められましたが,不動産の賃貸人の地位の移転の場合については賃借人の承諾が不要であるという例外が認められています。これは,契約上の地位を譲渡する者が相手方に対して負っている債務がいわゆる人的な性格がない,つまり何人が履行しても変わらないというようなタイプの場合には,相手方の承諾を要求することはあまり意味がない,合理性がないので相手方の承諾が不要であると解されるので,それに基づいて,不動産の賃貸人の譲渡の移転については,一定の場合を除いて賃借人の承諾なくして移転をするというルールが定められているわけです。

したがって,そのような理論をここでも適用しますと,ライセンサーたる地位の移転については,ライセンシーの承諾が原則は必要であるけれども,ライセンシーの承諾が不要である場合があるかというのは,これはライセンサーの義務の性質がどういうものであるかということによりますので,義務の内容を解釈して,それが誰でも履行できるような人的な性格がないものであれば,ライセンシーの承諾が要らないという結論が導かれるということであります。

他方で,契約上の地位の移転が生ずる場合における当事者間の法律関係についてみますと,契約上の地位が移転するということの法的原因は,理論的に見れば2つがありまして,当事者間の合意によって契約上の地位を移転するという場合と,当事者間の合意なくして契約上の地位が移転するという場合の2つがあります。このうち前者の場合については,契約上の権利を譲受人に対抗できるとする制度があろうがなかろうが,当事者間の合意によって契約上の地位を移転するということは自由にできるものですから,ここで検討しているライセンス契約に係る権利の対抗制度とは無関係のものであります。

ここで問題となっているのは後者の場合であって,著作権の譲渡がなされた場合において,ライセンサーたる地位を譲渡する合意が当事者間でなされていなくても,ライセンス契約に係る権利を譲受人に対抗できる場合には,その対抗できるという法律の規定の解釈によって,契約上の地位の移転という効果が当然に生ずるのかという問題であります。この場合には,ライセンサーたる地位の移転の法的原因というのは,当事者間の合意ではなくてライセンス契約に係る権利に対抗力を付与した法律の規定ということになります。したがって,当事者間でライセンサーたる地位を移転する合意がなくても当然移転の効果が生ずるかどうかという部分については,ライセンス契約に対抗力を付与する法律の規定の解釈の問題になってくるわけでありますが,その解釈をするときに,著作権を譲渡する当事者間ではライセンサーたる地位の移転については合意もしていないのにその地位が移転することを認めるのが果たして合理的かどうか,という譲渡当事者の仮定的な意思解釈がされるという構造になっていると思います。

このように問題を整理しますと,前回の議論でもありましたように,対抗と契約承継の関係というのは,対抗できないものは契約承継の対象とはならないというのが大原則であります。つまり,対抗力を付与した法律の規定の解釈によって,契約上の地位が法律上当然に移転の効果が生ずるということでありますから,対抗できる対象に入っていないものは,合意なくして移転の対象になるということは理論的にあり得ないことになります。要するに,ライセンス契約に係る権利について当然対抗の規定が置かれたときには,その規定の解釈によって,仮に先ほど述べた観点からは,ライセンシーの承諾が不要であると解されるとしても,著作権を譲渡した当事者間において,ライセンサーたる地位が著作権の譲受人に移転するのか,それとも譲渡人にとどまるのか,いずれが合理的かという点について譲渡当事者の合理的な意思解釈をして決めることになります。

したがって,ここではライセンス契約に係る権利に対抗力を付与した法律の規定の解釈と,当事者間の合理的な意思解釈とがそれぞれ問題になっているわけです。そして,合理的な意思解釈という場合も,ライセンサーが負っている債務がライセンサーの承諾が不要であるといえるような性質のものであるか否かという点についてのライセンス契約の当事者の合理的な意思解釈と,著作権を譲渡する当事者間においてライセンサーたる地位を移転する合意がなくても当然移転の効果を認めることが合理的かという点についての譲渡当事者間の意思解釈という,それぞれの合理的な意思解釈を通じて,著作権の譲渡に伴ってライセンサーたる地位の当然承継が生ずるという結論が導かれるということになるかと思います。

要するに,解釈の対象というのは,法律の規定と当事者の合理的な意思解釈の双方があり,さらに意思解釈にも,ライセンス契約の当事者の意思解釈と著作権の譲渡当事者の意思解釈の両方があって,それぞれがどの局面で効いてくるのかというのを分析的に順番に見ていくということが必要になろうかと思います。そして,そのような考慮要素を全て法律で規定するのは非常に難しいわけでありますので,結論的には,解釈に委ねることとするのが適当であるということではないかと思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

そのほかいかがでございましょうか。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】結論としては,法律で書くのは無理だと思います。先ほど申し上げた点で,解釈というのを私なりに考えると,平成23年改正の特許法は当然対抗,通常実施権の当然対抗制を定めた規定でありますが,先ほど申し上げたとおり,通常実施権は当然対抗できているけれども,それと契約上の地位というのは別問題だということです。別問題だから,別問題として法律では触らずに解釈等に委ねたのであり,通常実施権が対抗できるためには別に移らなければいけないということは全くないのであって,契約が移ろうが移るまいが,法律上の効果として,もとの通常実施権は特許権者に対して対抗できるということが確保できればいいのであって,契約自体はまたそれとは別のものだと理解しております。

そのような意味での法解釈,移るかどうかも法解釈かもしれませんので,特許法で想定しているのは,新99条の関係で通常実施権が対抗できるからといって法律上当然に契約が要るということはなかろうということで,そうは言いつつ,当然移るという人と移らないという人が対立しておりますので,そのような意味では,そこ自体が法解釈の論点ではないかと言われれば,当然移転説の人からいえば行くわけですから,私は個人的には,特許法として当然承継説も当然非承継説も根拠は必ずしもなくて,やはり契約で決めるしかないので,何らの契約をしなければ,移転はしないということが言えるのかなと。

そのような意味では,私自身が思っている説は,基本的に非承継説になるかと思います。

今申し上げたような意味での非承継説で,今のでも,法律問題の部分もあるし,意思の解釈の問題もあるのですが,いずれにしても立法ではそのようなところに手を出さずに,法解釈の一般理論なのか,意思解釈の一般理論かは別として,そちらに委ねた方がよかろうと思っております。

【龍村座長】ありがとうございました。

奥邨委員,お願いいたします。

【奥邨委員】簡単に。5ページのところに産構審の資料が引用されておりまして,特許の方で一律に法定することが難しい理由として,技術情報とかノウハウの提供,それから,包括ライセンス,クロス・ライセンス,ほかにもよく言われるのは,特許の場合は,部品の提供があるとかいうようなことがライセンス契約の中に入っているからということが言われるわけです。

著作権に関していえば,コンピュータープログラムに関しては,場合によっては技術情報の提供はあるかもしれませんけれども,それ以外の著作物について考えると,余りこれらのものは当てはまらない可能性が高いということ,さらに,クロスするというような形は余り考えられないというようなことなので,こういう点では特許とは少し状況が違うということは言えそうかと思います。

一方で,上のところにも既に下線引かれた中にあるように,著作権の場合,支分権ごとの譲渡が可能であるというような問題,さらには,大体においては,著作者イコール原始的著作権者ということを前提にした契約が多くて,その中には,著作者人格権とか著作者であることを前提としたいろいろなスキームが組み込まれているというようなことも多いわけです。そうなりますと,ケースによっては,特許とはまた違う難しさがあるということにならざるを得ないだろうということですので,特許とは考慮要素は違いますけれども,一律には決められないということで,解釈というか,後の裁判等の判断に委ねなければいけないという結論については,私は賛成ということになります。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。そのほかいかがでございましょうか。

上野委員,お願いいたします。

【上野委員】先ほどの森田先生のお考えについて一点お伺いしたいのですけれども,次の6ページ目のところで,「契約を承継しない旨の合意について」という記述があります。

契約内容に関する移転というのが,契約によって生じる場合と法律によって生じる場合があるとしますと,後者の場合において,「契約を承継しない旨の合意」というのは,当事者の合意によって移転を否定するということができると理解してよろしいのでしょうか。契約は合意によって承継されるのだということであれば,確かに当事者が合意すれば承継しないことにできることになりますけれども,合意ではなく法律上承継されるのだというのであれば,当事者が承継しない旨の合意をするということの意味をどのように理解することになるのでしょうか。一旦承継されたものをもとに戻すということになるのでしょうか。

その辺りについて,もしお考えがありましたら,お聞かせいただければと存じます。

【龍村座長】森田委員に御質問でございますので,よろしくお願いいたします。

【森田委員】御質問ですので,お答えさせていただきたいと思います。確かに6ページの「御審議いただきたい点2」というところをみますと,「解釈上利用許諾に係る権利の対抗に伴う契約の当然承継が生じる」という結論がまずあって,この段階ですでに当事者の意思解釈がなされ,さらにそれにプラスして,「合意をすれば契約が承継されないこととなる」とあり,この段階でも合意が出てきます。そうすると,当事者の意思が2段階で分断されて考慮されるような書きぶりになっておりますので,両者の関係が問題になるような文章だと思いますが,これは実際の判断としては一体的になされるのだと思います。

譲渡当事者間で契約をすれば,その合意によって,かりにライセンシーの承諾が不要であると解されるような場合であれば,別にライセンス契約に対抗力があろうとなかろうと,契約承継は生ずるというのが一般原則ですが,ここでは,当事者間にはライセンサーたる地位を移転するという合意はない場合に契約承継が生ずるか否かが問題となっているわけです。この場合に,例えば,譲受人がライセンス契約を対抗される結果,ライセンシーによる著作物の利用をそのまま受忍しなければいけないことになりますが,そうであればその利用の対価を取りたいと考えるときには,ライセンサーたる地位は譲渡人にとどめて,譲渡人がライセンシーから受け取った使用料を不当利得返還請求等の形で譲渡人から支払を受けるよりは,直接ライセンサーたる契約を移転してもらって,ライセンシーに対して使用料を請求したいというふうに考えるのが,通常の合理的意思であると考えますと,当然承継ということになります。

譲渡当事者の合理的意思は,通常はそのように解される場合であっても,当該事案の具体的な譲渡当事者間では契約承継を望んでおらず,そのことが「ライセンサーたる地位を譲渡人に留保する旨の合意」によって示されている場合には,契約承継は生じないことになると思います。そして,譲渡当事者間でそのような合意をする場合というのは,単に合意だけをするということは考えにくいので,何でそのような合意をしたのかという,その背景事情があってそのような合意をするのだと思います。

先ほど例として挙げられました,例えば,著作権の譲受人が,既になされた管理委託については今後も譲渡人を通じて行いたいという場合には,他の点からみれば当然承継が認められるような条件が定まっていたとしても,当該事情から見て契約関係は移転させないということを当事者が望み,それを「譲渡人に留保する旨の合意」という形で明示している場合には,それによって契約が承継されないこととなる,という整理になるのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

上野委員,よろしいでしょうか。追加でコメントを,では,お願いいたします。

【上野委員】承継されないということになるのでしょうかね,最初から。

【森田委員】そうです。

【上野委員】分かりました。

【森田委員】従来は,民法では,賃借権を譲受人に対抗できる場合には,法律上当然に賃借人たる地位も移転するというのが判例法理であるというふうに一般的に考えられてきたわけですが,改正民法では,賃貸不動産の譲渡当事者間で,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意をして,それにプラスして一定の内容の合意をした場合には,当然承継の例外として賃貸人の地位が譲渡人にとどまるというように場合を分けているわけであります。改正民法ではそういうふうに,賃借権が対抗力を有する場合には,賃貸人たる地位が移転するというのが原則であるが,一定のタイプの合意をしたときには移転しないという例外を認めるということにしているわけですが,それに相当することを著作権のライセンス契約の対抗の場合についても構成するとすれば,どのようなルールになるのかという点がここでの問題だろうと思います。

【龍村座長】前田委員,お願いいたします。

【前田委員】冒頭で御質問させていただいたときの私の考えとしては,契約が承継されるかどうかについて法改正に当たり敢えて定めないという選択をするのであれば,契約上の地位が当然移るという法は基本的にはないことになり,あとは,当事者の合理的意思解釈をすれば,移ったと解するものが合理的だという場合があり得て,その場合は,当事者の合理的意思解釈によって移るということが起こるだけではないかと。

もしそう考えると,御審議いただきたい点2というのは,これはもう当たり前のことであって,当事者が明示的に移りませんと言ったら当然そうなるだけのことであるというふうに整理ができるのではないかと思った次第です。

【龍村座長】ありがとうございます。ただ,森田委員の意見とは食い違いがあるようです。つまり,対抗できてしまうところについては,法定で契約承継があってもいいという次元がまず観念できると。それとは別に当事者意思による規律の議論もある,という御理解のよう。

【森田委員】一言だけ。私の意見というよりは,民法改正の前の判例法は,借家権が建物の譲受人に対抗できる場合には,借家権に対抗力を付与する法律の規定によって借家人の地位も建物の所有権の移転に伴って譲受人に当然移転をするということを認めています。したがって,建物の譲渡当事者間に契約上の地位を移転するという合意がなくても,対抗力を付与する法律の規定によって契約上の地位が当然移転をするということがあり得るということは,これは最高裁が認めていることですので,私の意見というよりは,その最高裁の立場に立てば,前田委員のような考え方にはならなくて,ライセンス契約についてもそれに対抗力を付与する法律の規定の解釈によってライセンサーたる地位も当然移転するという場合が理論上あり得ることは否定できないのではないかと思います。

ただ,それがライセンサーたる地位が当然に移転することがどういう場合にあるのかということについて,著作権の譲渡の場合はライセンサーたる地位は譲渡人に残るのが原則であって,当然承継がされるとすれば,それは例外的な場合ではないかという解釈態度についてはあり得ると思いますが,およそ理論的にそのような例外があり得ないということは,それは最高裁の解釈が間違っているという主張になりますので,そこまでは言えないのではないかと思います。

【龍村座長】賃借権のような典型契約の場合には,権利の内容が決まっている,法律で大体概要が見えているので,対抗ということでほぼ言い尽くされそのまま契約の承継につなげやすいところがあるのに対し,ライセンスの場合は,何が対抗されるかがライセンスの内容で決まるとすると,そのライセンスの内容に何が盛り込まれているかということが見えにくいとすると,そこに差が出てくるようにも見えるのですが,その辺りはいかがでしょうか。

森田委員,お願いします。

【森田委員】定型性というのは,ライセンサーが負っている債務の内容が誰でも履行できるようなタイプの没個性的なものかどうかということですが,これはライセンサーたる地位の移転についてライセンシーの承諾が不要とされる場合かどうかという点に関わることであって,対抗力を付与する規定の解釈によってライセンサーたる地位を移転する合意がなくてもそれが当然に移転するかどうかとはまた違うレベルの問題であります。契約上の地位の移転に関する一般原則というのは,相手方の承諾が必要であることが民法で定められておりますが,その例外として相手方の承諾がどのような場合に不要となるのかという点は,対抗力が付与する規定によって契約上の地位が移転する場合と,当事者の合意によって契約上の地位が移転する場合とに共通に生ずる問題であり,ライセンサーの義務の内容からみて相手方の承諾が必要である場合には,譲渡当事者間で契約上の地位の移転について合意をしても,それだけでは移転しないことになりますので,この点は対抗力の問題とは切り離された,より上のレベルに位置づけられる問題であろうと思います。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】私も先ほど前田委員が言われたのに近い発想で,恐らく著作権の関係ではそのような人が多いと思います。私は前から言っているのですが,有体物についてかどうかだけでもないかと思うのですが,やはり民法の議論と特許法・著作権法の議論は非常に違っていて,その違いは意外と条文によく表れています。民法では賃借権の対抗という形としては賃借権,やはり契約の対抗という形なのですが,それとは明確に異なり,特許の場合にはライセンス契約の対抗というようにはなってなくて,通常実施権という権利になっているというのは,最終的には,その内容に入るとまたややこしい話になるのですけれども,要するに,権利が対抗できればいいのであって契約の点は別なのであります。

ただ,民法の場合には,私が理解しているのは,もともと状態債務等で,権利というよりは契約上の地位ということが前面に出ているのですが,民法の方のそのような議論と特許は明らかに通常実施権以外に契約の問題は全く別に考えているから,条文で権利の点だけ手当てをして,契約の方はもうお任せするということになっているので,そこは民法の場合には,賃借権と賃貸借契約を截然に分けるという発想が余りないのではないかと思います。有体物はそちらの方が望ましいし,無体物は契約から切り離した通常実施権等という形で処理する方が望ましい。

恐らく著作権でやる場合にも,名前はまだ付いていませんが,利用許諾権に係る権利というのは,特許と同じように設定契約から外れた,権利でやるという形になっています。また言うと,民法では契約中心に持ってきているので,このような留保の合意という話が必要になるのですが,特許ないし著作権の場合に,もともと当然移転ということが,前田委員も言われたように,余り想定できなくて,権利の方の処理さえできればよいわけです。

契約の方は当然移転するわけでもないので,当然移転するから,しないように留保の合意が必要になってくるのですけれども,そこは民法だからそのような議論になるのであって,むしろ当然移転というのは,あるとすれば,明示的に決めれば契約だからそのように決まりますが,明示的に決めていない場合でも,合理的な意思を推認して黙示の契約とかそういう話にはなっても,当然移転ということは余り考えにくいのかなと思います。だから,余り民法の議論に引きずられないようにと言うと言い過ぎですが,やはり無体物には無体物に適したような形で,民法とは,有体物の方とは違う形で明確に分けて議論した方が,議論が混乱しないのではないかという気がいたします。

【龍村座長】ありがとうございました。御審議頂きたい点2については,そのほか追加の御意見はございますか。

水津委員,お願いいたします。

【水津委員】当事者の合理的意思解釈と対抗にともなう契約上の地位の移転との関係について,補足させていただきます。民法では,不動産賃借権が対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,譲受人に移転するとされています。このルールを当事者の合理的意思から説明すると,譲渡人と譲受人との間で,賃貸人たる地位を譲受人に移転しない旨が明示的に合意されれば,賃貸人たる地位は,それだけで譲渡人に留保されることとなるはずです。しかし,改正民法では,不動産賃借権が対抗要件を備えた場合には,譲渡人と譲受人との間で,賃貸人たる地位を譲受人に移転しない旨が明示的に合意されたとしても,賃貸人たる地位は,それだけでは譲渡人に留保されず,原則どおり,譲受人に移転するとされています。この意味において,不動産賃借権が対抗要件を備えた場合には,賃貸人たる地位を移転するかどうかについて,当事者である譲渡人と譲受人が私的自治によって決定することができる範囲は,制限されているとみることができます。

【龍村座長】ありがとうございました。

よろしいでしょうか。では,時間の関係もございますので,次に進みたいと思います。

続きまして,8ページ目から9ページ目の「独占的ライセンスの保護について」に関して,事務局より御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】8ページ目を御覧ください。独占的ライセンスの保護についてとしております。アンケート・ヒアリング調査の結果を踏まえますと,実務上,独占的ライセンスというのは相当程度用いられているといったことや,独占的ライセンスは,その性質上,他者を排除して利用できる法的な地位が守られなければ,その契約の目的が完全には実現できないといった点とか,独占的な利用ができる地位を得るために,非独占的ライセンスよりも高いライセンス料の支払いを伴って契約を締結する場合が多いことなどの理由から,独占性を第三者に対して主張できる制度に関するニーズが多く存在することが確認されました。

そこからしますと,この独占性に対する期待を保護する制度に関しては一定のニーズが存在するといえ,当該制度の導入について検討を行うべきであろうと考えられるとしております。そうした制度を導入するということがそもそも理論的に可能なのかといった点に関しまして,不動産賃借権に係る対抗制度では,有体物である不動産を目的物としているというその性質から,対抗要件を備えた場合には,自らの利用を妨げられないという点だけでなく,自分以外の者に利用を行わせないということまでも対抗することが可能となるという形になっております。

そこからしますと,著作物等の利用許諾に係る権利につきましても,自らの利用を妨げられないといいう点について対抗を可能とする制度,これに加えまして,自分以外の者には利用を行わせないという点(独占性)について対抗を可能とする制度を設けたとしても民法の一般法に反するものではないと考えられるのではないかとしております。

もっとも,独占性の対抗を可能とする制度につきましては,前回見てきましたような,自らの利用を妨げられないという対抗制度とは譲受人に与える不利益の程度が異なりますので,その不利益の程度に応じた適切な対抗力の付与の在り方について検討を行う必要があるとさせていただいております。

この独占性について対抗を可能とする制度につきましては,本ワーキングチームのもう一つの大きな検討課題であります独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の在り方を考える上で密接に関わる論点となり得ることから,そちらと併せて検討を行うことが適当ではないかとさせていただいております。

独占性を対抗するためにどのような要件が必要かという部分については先生方いろいろ御意見あろうかとは思いますけれども,御審議いただきたい点としては,そうした点ではなく,今の段階では,独占性について対抗を可能とする制度については,独占的ライセンシーの差止請求権の付与の在り方という,そちらの論点と併せて検討を行うという進め方でよいかといった点につきまして御審議いただければと考えております。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局よりただいま御説明を頂きました内容について,御審議いただきたい点3,こちらを中心に御意見,御質問等がございましたらお願いしたいと思います。いかがでございましょうか。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】非独占的なライセンシーの地位が当然対抗を取得するとして,更に独占性についてそれを主張・対抗できるということの著作権法上のバランスを考えますと,考察すべき1つの例としては出版権の設定契約があります。出版権は,対抗するには登録をしなければなりません。当然対抗要件を備えているわけではありません。備えれば,独占性も取得するし,対抗関係を争う利益を有する者に対する差止請求権も取得する形になっています。したがいまして,当然対抗要件を前提として,独占性についてもそれと同じように考えるということは当然にあり得ないことです。そうなりますと,ライセンシーの独占性に対抗要件を付与するということになりますと,もう一つステップの高い対抗要件を備えなければならない。バランス上から考えると,やはり登録が必要なのではないかと考えております。

【龍村座長】ありがとうございました。

そのほかございますか。独占性の対抗と差止請求権の付与の問題とは,一応別問題ではありますが,ほぼ重なる問題なのでまとめて議論した方がよいということかと思います。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】そこは非常に微妙な点かと思いますが,ここではそのような中身の話をするというのではなくて,差止請求権と連動しているから,ここでは今の議論をせずにあとでまとめてやるということなので,ここでやり出したら,せっかくの事務局の意図がぶち壊しになってしまいます。むしろそういうことはやめましょうということが趣旨だと思います。

それから,先ほどの御審議いただきたい2というのは何か結論がよく分からなかったのですが。

【龍村座長】戻っていただいて結構です。

【大渕座長代理】すみません,1の方は分かったのですが,2の方は,私は,契約の当然承継が生ずる場合があるのか自体が余りよく分かりません。ただ,趣旨としては,そのような場合が仮にあったとしても,私はそのように展開すれば,これは事務局の方に賛成できるのかなという気がいたします。

私は何か契約の当然生ずる場合があるのかどうか余りピンとこないのですが,御趣旨としては,仮に何らかの説であって,当然承継が生ずる場合であっても嫌だと言えないというのもおかしいかと思います。民法は先ほどの当然承継なのでしょうが,留保の合意プラス何らかの要件を満たせば留保は満たすということなので,当然承継を認めている民法ですら留保を認めているのに,当然承継かどうか怪しげな著作権法の方で留保はだめだと言う理由もないので,結果的には,私はそのような意味では,留保する旨の合意だけでよいと考えます。

民法の場合にはプラスして,新所有者から旧所有者が賃借権の設定を受けなければいけないとあるのですが,私が理解しているところでは,民法の場合には,賃借人保護というのがあって,そこのところが結び付いていないと,賃借人の保護が図られないという社会立法的なところもあるので,民法では追加要件が必要なのですが,そこの部分は著作権には関係ないというか,特許法と同じであれば,特許法新99条と同じような通常実施権に対応する,許諾に係る権利の対抗が認められますから,そのような契約をつなぐという必要もないので,留保すればよいだけではないかと思っております。

【龍村座長】ありがとうございます。御審議いただきたい点2は,仮に対抗とともに契約が当然承継されるとした場合,民法のような留保合意があった場合,それで足りるのか,例えば,ライセンスとかも必要なのか,ということですか。

【澤田著作権調査官】合意があった場合といいますか,解釈上一定の場面で契約の承継が認められるというような理論が存在した場合には,それでもなお合意によって契約を承継しないということが可能かという問題設定をさせていただいております。

【大渕座長代理】移転する合意があれば,留保する合意があるのもおかしいので,むしろ言われたように,合意があれば移転するのでしょうが,合意がなくても,私は賛成しないのですが,何らかの理由で当然承継するという説に立っても,留保したいという合意があれば,それはそうだという,非常に曲がりくねった議論なのではないかと思います。ただ,念のためにそのようなときに備えて,もう絶対に留保したいという合意があるのなら,それが無視されるというのはおかしいので,そのような意味では,念のためにということで規定するということならばあり得ると思っています。

【龍村座長】御審議いただきたい点2については,一応,御意見を頂いたということで,3の方に進ませていただいてよろしいですか。

【澤田著作権調査官】そうですね,留保の合意に加えて,もしも何らかの合意が必要であるというふうにお考えの先生がいらっしゃいましたら,是非とも御意見は頂きたいとは思います。

【龍村座長】では,御審議頂きたい点2につきましては,この辺といたしまして,また,御審議頂きたい点3につきましては,大渕委員言われたとおりかと思いますので,そのようにさせていただきたいと思います。

【水津委員】よろしいですか。

【龍村座長】水津委員,お願いいたします。

【水津委員】問題は,不動産賃借権が対抗要件を備えている場合において,賃貸人たる地位が譲受人に移転しないとするための要件として,譲渡人と譲受人との間で,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意がされることにくわえて,譲受人が譲渡人に不動産を賃貸する旨の合意がされることまで求められているのはなぜか,という点なのだと思います。このルールは,不動産賃借人に対し,不動産賃借権の対抗力につきない保護を与えるものです。不動産賃貸借では,権限を有しない譲渡人からではなく,権限を有する譲渡人から賃借を続けることができるようにすることには,意味があると考えられます。賃貸人は,賃借人が不動産を使用収益するのに適した状態に置く義務を負います。しかし,たとえば,修繕義務は,権限を有しない譲渡人では,円滑にこれを履行することができません。

著作物の利用許諾においても,利用者に対し,利用許諾に係る権利の当然対抗につきない保護を与える必要があるかどうかを検討すべきだと思われます。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】私もこれを最近見て,何でこれが必要なのかよく分からなくて,漠然と考えたのは,民法の話ではなくて,有体・無体だけではなくて,やはり先ほど修繕義務の話をされましたが,賃貸人というのは別にきちんと住めるように物を提供するというかなりの作為的なものが必要なのですが,特許,著作権は全くそうではありません。俗に「打たれない」代と言われている,特許や著作権で差止損害賠償請求権をしないというものはありますが,そのようなことは民法ではほとんどありません。貸主は,借主がいても所有権に基づいて妨害排除しないというのも全体の中のごくごく一部ではあるのでしょうが,そのようなものは特に重視されてなくて,きちんと家が貸せるような状態にしているということなのであります。しかし,ライセンスはピュアな形では,要するに,打たないだけなのであります。

そうなると,今の悩まれているようなことが恐らく全く出てこずに,要するに,そこにつながるかどうかという部分は,別に契約がつながろうが,つながるまいが,特許法99条のように法律で当然に対抗できるという形に,今,これは抗弁と言われていますけれども,差止損害賠償請求をされても,きちんと通常実施権があれば,それは新特許権者に対しても立派に抗弁としていえるという,そこで終わります。要するに,打たれない,難しいことを考えなくても,それが言えて抗弁になれば差止損害賠償請求を受けないという,そこに尽きているので,御懸念されるようなことは生じません。民法ではこれが何のために必要か興味はありますが,その難しい論点には入らなくても,特許法なり著作権法なりの話としてそこのところはクリアできるのではないかと思っています。

【龍村座長】よろしいでしょうか。

御審議いただきたい点2の趣旨としては,要は,ライセンス合意的なものが必要かということを気にされていらっしゃるわけですね。

【澤田著作権調査官】民法の不動産賃貸借において,譲受人から譲渡人に対して賃貸する合意が求められている理由がどういったもので,その理由付けが著作権にどこまで妥当するのかという点について御意見を頂きたいと考えております。その結論としてサブライセンス合意のようなものが必要ということになる可能性もあるかもしれません。

【龍村座長】前田委員,お願いいたします。

【前田委員】今の点ですが,譲渡人と譲受人との間で留保するという合意をすることが大前提ですよね。その留保をするという合意をしているということは,譲渡人が引き続き契約の当事者になるということについて譲受人も承知しているわけです。ということは,譲渡人が引き続きライセンス契約の当事者になることについての何らかの権限の付与的なものは当然あるはずであって,それがサブライセンスの合意なのかどうかをあえて問うまでもなく,何らかの権限の付与は当然にある,留保するという合意の中に当然その権限の付与が含まれていると解釈すれば,それで十分ではないかなと私は思います。

【龍村座長】水津委員,お願いいたします。

【水津委員】その何らかの権限というものを,法において明確に定めたものが,譲受人が譲渡人に不動産を賃貸する旨の合意である,という考え方もございます。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】これは契約上の地位は全く必要なくて,要するに,対抗できるということなのですが,それで何か留保するぐらいであれば,最初から合意がなくて行ってないのではないかと思います。民法のように,これは今だと法律になっているから,要件を満たせば,要するに,不動産を譲渡したら不動産賃貸借契約も移るというのがあって,ただ,例外として留保した人は云々かんぬんという話なのですが,著作権の場合には,先程から何度も言っているように,当然行くというのではなく,特殊な説を取らない限り行かないので,留保するぐらいだったら最初から譲渡しないので,先ほど言われたように,合意ではないのに行ってしまうというのが著作権の場合に考えにくいのに,念のために無理やり考えているから,議論が分からなくなっているのではないかと思います。

合意なくしては譲渡されないという,ごく単純な話なのであります。わざわざ留保と言わなくても,留保するぐらいだったら,最初から譲渡してないから行ってないというシンプルな話が,民法としてはこういう難しい議論になることは分かるのですが,それを必要ないのに著作権に持ってきているから議論が混乱しているだけではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

では,時間の関係がございますので,よろしいですか。今の点よろしゅうございましょうか。

そうしますと,御審議いただきたい点3については,後に独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の在り方と併せて議論させていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【龍村座長】御異議ないものと思います。ありがとうございました。それでは,今後そのように進めさせていただきたいと思います。

続きまして,検討事項3に関しまして,資料2に基づいて議論を行いたいと思います。資料2の1ページ目から7ページの「1.著作権等管理事業への影響について」に関しまして,事務局より御説明をお願いいたします。

【澤田著作権調査官】資料2を御覧いただけますでしょうか。1ポツ,著作権等管理事業への影響についてということでございます。著作権等管理事業者は,著作権者等から著作権等の管理委託を受けて,著作権等の管理を行い,利用者に対して許諾を行い,利用者からの使用料の徴収及び著作権者等への使用料の分配を行っております。

著作権等管理事業法上,管理委託契約は大きく分けて3つの類型がございます。1つ目が信託譲渡型の管理委託契約,図1で描かせていただいているようなイメージでございます。2つ目が,委任型管理委託契約の中の代理で行う場合,次のページの図2に描かせていただいているものです。また,図3のように,委任型管理委託契約の中に取次の場合というようなものも存在している。かなり込み入った話になるのですけれども,これらの類型に関して,この対抗制度が入った場合にどのような影響があるのか,対抗制度が導入されたことによって何か著作権等管理事業に大きな支障を与えることがないかといった点について記載させていただいております。

続きまして,(2)の信託譲渡型管理委託契約に基づく管理事業への影響という点でございますけれども,2つの事例に即して検討をしております。2ページ目のア,信託譲渡型管理委託契約の締結前に利用許諾契約が締結されている場合ということで,3ページ目の図4を御覧いただければと思います。著作権者は,著作権等管理事業者に信託譲渡型の管理委託をする前の段階で利用許諾契約を締結しているという場合に,信託譲渡によって著作権が著作権者から著作権等管理事業者に移転します。対抗制度が導入された場合には,利用者は,利用許諾に基づく地位を著作権等管理事業者に対抗できることになるわけですけれども,この場合に著作権等管理事業者はどのようにその契約に関与していくのかといったところを問題として掲げております。

調査研究においては,日本音楽著作権協会にヒアリングを行いまして,そこでは,上記のような事例が起こった場合には,委託者に利用許諾契約締結の事実の有無を確認し,その事実が確認できたときには,著作権者の意思を尊重し,管理事業者からの使用料の徴収は基本的に控えるようにしているということで,その取り扱いというのは,対抗制度が入ったとしても引き続き変わらないだろうといった意見が出ております。

以下,利用許諾に係る権利の対抗に伴って契約が承継されるか否かについて,解釈に委ねるということにしておりますので,契約が承継される場合とされない場合に分けて検討しております。

まず1としまして,契約が承継されない場合です。その場合には,著作権者と利用者との間で利用許諾契約が継続することとなりますので,管理事業者というのは,この利用許諾契約に基づく使用料の徴収・分配には関与しないとしております。

また,契約が承継される場合でありますけれども,その場合には,管理事業者は,著作権者が締結した利用許諾契約を承継することとなります。この契約の内容は,使用料規程に基づくものではないところ,著作権等管理事業者法上,著作権等管理事業者は,使用料規程に定められた額を超える使用料を請求できないというふうにされておりまして,この利用許諾契約に基づいて,例えば使用料規程に定めのない要項についての使用料とか使用料規程を超える金額を請求することについては,この管理事業法上の問題が生じる可能性があるのではないかと。そうしますと,こういった場合に,著作権等管理事業者が利用許諾契約を承継しない旨の合意をするなどの対応を取ることで,こうした問題を回避するということが考えられるのではないかとしております。

続きまして,4ページ目のイ.でございますけれども,図5を御覧いただければと思います。信託譲渡型管理委託契約に基づいて利用許諾契約が締結された後に,その期間中にその管理委託契約が解約された場合といった事例であります。この場合にも利用者は利用許諾に係る権利を対抗することができるようになるわけですけれども,日本音楽著作権協会からは,調査研究のヒアリングにおいては,利用者の利用が安定的に行われるという点では望ましいと思われる一方,解約した著作権者の意向に反する可能性があるので,どちらが優先されるべきとは決めがたいといったような意見がございました。この点につきましては,対抗制度が導入された場合には利用者の利用は継続されることになりますが,これは著作権者自らが信託した管理事業者が許諾した利用が継続されることについては当然受け入れるべき立場にあるだろうと書かせていただいております。

この事例におきましても契約が承継されない場合にどうなるかといった点ですが,契約が承継されない場合には,管理事業者と利用者との間で利用許諾契約が継続することとなります。この場合には,管理事業者は,従前と同様に利用者から使用料を徴収し,その使用料を著作権者に対して分配することとなると書かせていただいております。「なお」というところでございますけれども,使用料から管理手数料を得ることについては,著作権者との関係では,事務管理に基づく費用償還請求の問題となるものと考えられるとしております。

2つ目でございます。契約が承継される場合につきましては,著作権者は著作権等管理事業者が締結した利用許諾契約を承継することとなります。そのため,著作権等管理事業者は,この利用許諾契約に基づく使用料の徴収・分配には関与しないということかと思います。これを踏まえますと,信託譲渡型の管理委託契約に基づく著作権等管理業務に支障が生ずるような影響はないものと考えられるとしております。

続きまして,委任型の管理委託契約に基づく管理事業への影響について,でございます。

状況としましては,委任型の管理委託契約に基づく利用許諾契約の締結後に著作権等が譲渡された事例というのが,代理の場合も取次の場合も問題になるであろうと考えております。6ページ目に書かせていただいているところでは,調査研究のヒアリングでは,利用者が譲渡後も利用を継続することができるという点にメリットがあり,管理事業にもプラスの影響があるのではないかといった意見とか,契約の承継に関しましては,管理委託契約が承継されるということを前提として使用料の分配先が明らかに望ましいといった意見や,管理手数料を得ることに問題がないのかといった意見が示されました。

7ページ目から,まず代理の場合と取次の場合に大きく分けておりますけれども,承継される場合と承継されない場合に分けて検討しております。

まずa,代理による場合であります。承継されない場合には,旧著作権者と利用者との間の利用許諾契約は継続することとなります。また,旧著作権者と管理事業者との間の管理委託契約も継続することとなります。そのため,著作権等管理事業者は従前と同様に利用者から徴収した使用料を旧著作権者に対して分配することとなります。分配された使用料については,旧著作権者と新著作権者との間での合意や不当利得返還請求等により精算が行われることとなります。このように,契約が承継されていない場合に,著作権等管理事業者は既に著作権者ではなくなっている譲渡人に対して使用料を分配することとなりますが,そのことが管理事業法に違反することとはならないものと考えられるとしております。

2つ目ですけれども,利用許諾契約が承継される場合につきましては,利用許諾契約上の地位は,旧著作権者(譲渡人)から新著作権者(譲受人)に承継されることとなります。

もっとも,この場合においても,旧著作権者と著作権等管理事業者との間の管理委託契約は利用許諾契約とは別個の契約でありますので,管理委託契約が対抗に伴って当然に承継されることとはならず,旧著作権者と管理事業者との間で継続することとなるものと考えられるとしております。

この場合において,引き続き管理事業者がライセンス契約に基づく徴収を行うこととなると,管理事業者は管理委託契約に基づいて旧著作権者に対して使用料を分配することとなりますので,新著作権は旧著作権者に対して不当利得返還請求をしなければならないという複雑な法律関係が生ずることとなると考えられますが,法律関係の複雑化の回避の観点から契約承継が認められているとしますと,このような複雑な法律関係が生じることはその前提に矛盾することとなるものと考えられるとしております。そのため,著作権等管理事業者は,この利用許諾契約に基づく使用料の徴収・分配には関与しないものと考えられるとしております。

b,取次型でございます。利用許諾契約が承継されない場合については,今説明した代理の場合と同様の関係となるものと考えられるとしております。利用許諾契約が承継されるという場合につきましては,取次の場合は,著作権等管理事業者が利用許諾契約の当事者でありまして,著作権者が当事者にはなっておりませんが,著作権者の計算において利用許諾契約が締結されているという状況になります。著作権の譲渡が行われ,対抗に伴って契約が承継されるべき場合には,法律関係の複雑化の回避という観点からしますと,契約上の地位は管理事業者から譲受人に承継されることとなるものと考えられるとしております。したがって,この場合も,上記代理の場合(aの2)と同様の関係になると考えられるとしております。

以上を踏まえますと,対抗制度の導入によって委任型管理委託契約に基づく著作権等管理事業に支障が生ずるような影響はないものと考えられるとしております。

御審議いただきたい点4と致しましては,今申し上げてきたような整理に関する御意見とか,利用許諾に係る権利の対抗制度の導入に伴って,ほかに留意すべき点があるかといった点を挙げさせていただいております。

複雑で恐縮ですが,御審議のほどよろしくお願いいたします。

【龍村座長】ありがとうございました。確かに複雑で,のみ込むのも大変なところがございますが,それでは,事務局よりただいま御説明いただきました内容につきまして,御審議いただきたい点4を中心に御意見,御質問等ございましたら,お願いしたいと思います。いかがでしょうか。

この各事例については,JASRACさんから御意見をいろいろ徴求されたわけでしょうか。

あるいは,それ以外の団体等は何か?

【澤田著作権調査官】調査研究におきまして,この事例については,信託譲渡型の管理委託契約についてはJASRACさんからお話を伺い,その他につきましては,ヒアリングの概要に出ております日本複製権センター,美術家連盟,日本レコード協会,貸与権管理センターなどからもお話を伺っているという状況です。

【松田委員】よろしいですか。

【龍村座長】松田委員,お願いいたします。

【松田委員】5ページの図6なのですけれども,管理事業者,これ,信託型の管理事業の図はこれでいいのですか。

【龍村座長】委任型ですよね。

【松田委員】そうすると,図5になるのですかね。はい,そうですね。分かりました。

ちょっと勘違いしました。撤回します。後で整理して話します。

【龍村座長】はい。そのほか,いかがでございましょうか。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】非常に複雑なので確認させていただきたいのですが,今まで信託譲渡型と委任型と取次型とがあって,当然対抗制を導入することで,何か深刻な問題が起きるのでしょうか。たくさん書いてあるが,どの程度深刻な問題が起きるのかというボリューム感が余り分からないものですから,一言で言うとどの程度でしょうか?ぱっと見た感じでは,さほど大きくなさそうな気もするのですが。

【澤田著作権調査官】深刻な支障が生じるようなものはないのではないかという整理をさせていただいておりますが,その整理が正しいのかどうかという点も含めて御議論いただければと思います。

【龍村座長】上野委員,お願いいたします。

【上野委員】一番問題が起きそうなケースがあるとすれば,3ページ目の信託譲渡型の管理で,例えばJASRACの会員でなかった作曲家の方が,会員になる前にライセンスをしていた利用者がいたとして,その後,JASRACなどの信託型の管理事業者の会員となったという場合に,既存の利用許諾契約は承継されるとしますと,従来,非常に高い額でライセンスをしていたような場合,そのライセンスの金銭債権がJASRACの方に承継されるということになるわけですよね。

しかしながら,管理事業者としては,使用料規程に基づいた額の請求しかできないように思いますから,そのような金銭債権を承継したとしても,行使できるか問題になるように思います。また,そもそも使用料規程のメニューにないような利用許諾契約が過去になされていたとして,それも管理事業者が承継してしまったという場合にも,これまた債権はあるけど行使できないという事態になりはしないかというのが問題になります。

もちろん,そのような場合には,管理事業者が当該利用許諾契約は承継しないというふうに合意すればいいではないかとも考えられますけれども,もしそのような合意をしなかった場合は,やはりこれは問題として残ってしまうように思います。ただ,現実に存在する信託譲渡型の管理事業者であれば,そのような合意をしてくれることが期待できるから,実際の問題は生じないだろうと,こういうふうな理解でよろしいでしょうか。

【龍村座長】いかがでしょう。事務局よりお願いいたします。

【澤田著作権調査官】そのような対応をすることが考えられるということを踏まえれば,大きな問題はないという整理ができないかということでございます。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】先ほどの議論にも少し関係してくるのですが,3ページのところで承継されない場合と承継される場合に分けておられて,それはそれで分かるのですが,どのような場合に承継されるか,されないかというのは,先ほどのでいくと,合意したら承継されるというのであれば,嫌ならば合意しなければよいということで問題はなくなりそうなのですが,承継される・されないというのは,一般的な話なのですか。それとも,合意でもって承継すればするし,対抗の方は別途になるのでしょうか。契約上の地位の方は,先ほどのように,明示・黙示の合意をすれば譲渡するというのであれば,何か問題点があれば承継しなければよいだけとも思われます。

最後の,留意すべき点というのは,当然対抗制度の問題というよりは,それに伴う,先ほどの契約上の地位の譲渡と両方の点での何らかの問題ということなのでしょうか。

【澤田著作権調査官】利用許諾に係る権利の対抗制度を導入した場合の契約の承継については解釈に委ねるという形を取ることになっておりますので,合意がある場合に限って契約が承継するという解釈もあり得ますし,類型的に一定の場合には,契約が承継されるというような解釈論になる可能性もあるかと考えております。そういった意味で,空中戦で大変恐縮なのですけれども,一定の場合に契約が承継される場合というルールが仮にあったとしても,何らかの問題が生じないかという点について確認をさせていただきたいと考えております。

【龍村座長】奥邨委員,お願いいたします。

【奥邨委員】先ほど上野先生からお話があったことを伺いながらふと思ったのですけれども,もし管理事業者さんが管理しているメニューに載っている著作物の使用料よりも高額の使用料を譲渡人であるオリジナルの権利者がライセンスをしていたと。その金額がそのまま承継されてしまったという状況を考えるということですよね。

その場合に,基本的には請求しないという扱いになっているから問題がなかろうということなのですが,本来請求してはいけないわけです。考えてみれば,管理事業法というのは一種の業法ですので,業法違反になった場合どうなるかということを考えると,今のお話を聞きながら見ていると,罰則規定の31条の2項に該当しないのかなというのがちょっと心配です。違反してやってしまった場合ということではですね。

というのが,13条4項の規定に違反して請求した使用料を収受した者ということなので,リストに載っている,規程に載っているものよりも高いものを請求してもらってしまうと,罰金20万ですか,30万ですかが場合によってはありうるかと。ただ,収受までしなければ,途中でやめればいいのかもしれませんけれども,少しそこは,先ほどのように抽象論だとよく分からなかったのですが,上野先生のお話を聞きながら考えました。もしかしたらそういうようなことは,ほかにもあるのかも分かりませんけれども,事情としてはあり得るのかなというのは思いました。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

森田委員,お願いいたします。

【森田委員】今の点は,そうしますと,資料2の3頁ではiとiiに分けて書かれていますが,対抗力とは関係なく,当事者の合意によって利用許諾契約を承継させようとしても,それは業法に違反することになるので,そのような合意が認められないというのであれば,ライセンサーたる地位を譲渡人に留保する旨の合意があろうがなかろうが,常に承継しないという解釈になるのではないかと思います。

それから,今の場合についてはそれでよいのですが,同じような問題は,次の4頁から5頁にかけて,著作権者が信託譲渡型の管理委託契約を解約した場合にどうなるかということが検討されており,利用許諾契約が承継されない場合と承継される場合というのがあるとされています。しかし,管理委託契約を解約しても利用許諾契約は著作権者に承継されず,管理事業者が従前と同様に使用料を徴収し分配をするという関係がずっと続くというのは,解約をした著作権者の意思からするとむしろイレギュラーではないかと思いますので,これは解約すれば,利用許諾契約は著作権者に当然承継されるという方が合理的ではないかと思います。ここも2つの場合が分けて書かれていますが,その基準がはっきりしていないという問題があって,こちらはむしろ当然承継で処理した方がいいのではないかと思います。iの場合には,事務管理に基づく費用償還請求の問題になると書かれていますが,事務管理というのは本人の意思に反してはできないことなので,本人である著作権者の意思に反するということが,つまり,著作権者が管理委託契約を解約するということは自分で管理したいということだとすると,それにもかかわらず管理事業者が事務管理として使用料を徴収し続けるというのは事務管理の要件も満たしていないのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。

そのほかいかがでしょうか。

前田委員,お願いいたします。

【前田委員】今の森田先生の御指摘の場合なのですけれども,著作権者と管理事業者との間の合理的意思というのは,解約の場合はやはり著作権者に戻す方が合理的意思かなという気がするのですが,利用者の方がそれは嫌だと,引き続き管理事業者の方から許諾を得ていたいと思うことがあるかもしれなくて,その場合がちょっとどうなるのかな,という問題があるように思います。その場合も当然に,利用者の意思にかかわらず,解約によって契約が著作権者の方に行くということだったらすっきりするのですけれども,それでよいかという問題があるのかなと思います。

【森田委員】それを理論的に説明しようとするときには,利用許諾契約の承継についてなぜ利用者の承諾が必要であるかを説明しなければなりません。この場合の使用料の徴収というのは,管理事業者ではなくてはできないというような人的な性格が強いもので,その承継には利用者の承諾が必要であるという説明が果たして成り立つか否かが問題になります。単に使用料を徴収するだけであれば,これは誰であってもできることなので,利用者が管理事業者の方に支払いたいという要望があったとしても,それは相手方の承諾の要否として法的に考慮されるべきことであると言うことはなかなか難しいのではないでしょうか。

先ほど述べたように,その者しかできないような人的な性格の義務を負っている場合には,相手方の意思に反してその契約の相手方が変わることは許されないわけですが,これに対し,金銭の支払を求めるということについては,債権譲渡の場合には支払う相手方が変わることについて債務者の承諾も何も要らないわけですから,それと全く変わらない法律関係ではないかとすると,そのような議論は法的には正当化ができないのではないかと思います。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今のをお聞きすると,私は,契約は基本的には,民法の場合どうされているかよく分かりませんが,著作権だと,普通は3者契約でやると思います。ライセンシーもいますから,常にできるかどうかは別として,典型的には3者を交えてやるから,合意解約だから当然承継というのはやや無理があって,前田委員も言われたように,多くの場合はそうだということは言えても,ライセンシーとの関係ではまた別途のことがあり得ます。やはり原則は,当然承継というよりは,3者で決めるということで個別に処理することにならざるを得ないのであり,そうしないからいろいろなところで無理が起きてきているのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。若干机上の議論といいますか,そういう部分もあるかと思いますので,現実にはそのようなプロセスを経て収まるところに収まる余地があるのではないかという御趣旨かと思います。

何か致命的に問題があることはございましょうか。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】管理事業者と利用者が利用許諾契約を取得したときに,これが当然対抗要件を利用者は取得する,こういう前提で先ほどの議論からつながると考えています。そうすると,利用者,著作権者,譲受人の関係で当然対抗要件を取得する利用許諾契約の利用者の地位を考えればいいのだということになります。

私が先ほど質問に掛かろうとしたところは,果たして管理事業者の固有の対抗要件は問題にならないのだろうかということです。著作権者が第三者に著作権を譲渡してしまっていて,著作権者が管理事業者に信託的譲渡をして管理してもらうとした場合,利用者はライセンスを受けていますから,これが当然対抗要件を取得する利用者だということになりましても,著作権を譲り受けた第三者と信託事業者の信託との関係においても対抗要件の関係があるのではないでしょうか。

そうすると,第三者と管理事業者の関係で対抗要件の問題が生じますと,これは著作権対著作権の対抗要件の問題になるはずです。第三者が対抗要件を取得してしまえば,実務上管理事業者は対抗要件を取得しませんから,第三者が対抗要件を取得してしまうと当然対抗要件の利用者はどうなるのかという疑問であります。

著作権の譲受人と著作権の信託譲渡を譲り受けた管理事業者との間では,対抗要件関係が生じるかです。

【澤田著作権調査官】生じると思います。

【松田委員】生じますよね。管理事業者が対抗要件で負けるにもかかわらず,管理事業者から利用者がライセンスを受けているライセンシーの地位は,当然対抗要件が前提となると。譲り受けた第三者で,なおかつ対抗要件を取得している者に対しても,当然対抗要件が取得できるのは,おかしくないかなと思っているのです。

【大渕座長代理】ただ,これはそのような難しいのではないと思います。かなり難しい図にされているから分からなくなっている。

【龍村座長】今,図5をおっしゃっていますか。

【松田委員】図5と図6の,図6の方が近いのですけどね。これは委託型ですから,これを信託型に置き直して考えてみてください。著作権者は譲受人に著作権を譲渡する,著作権者は管理事業者に信託譲渡するというふうに見てください。そこに対抗関係が生じ,管理事業者に対抗力がない場合に,ライセンスだけを取得した利用者が当然対抗要件を取得するという形になるかという質問です。意見としては,なったら具合悪いのではないかと思います。

【龍村座長】大渕委員,お願いします。

【大渕座長代理】すみません。特許のときに考えていたのはそういうもので,最終的には誰か勝つ人がいれば,その人に対して主張できるという話で,要するに,最終的に言える人から打たれなければいいので,さほど問題ではない。何らかの形で決まれば。ライセンス対抗しても全然権利がない人から打たれないのは当然ですから,権利がある人から保護されればいいので,そこのところは余り問題ないわけです。要するに,使わせてもらうのではなくて,誰か権限がある人から打たれない状態が保たれればよいので,ここはさほど最終的には問題にならないのかなと思います。

【龍村座長】では,前田委員,お願いします。

【前田委員】大渕委員とほぼ同旨だと思うのですが,松田先生が挙げたケースにおいては,管理事業者が許諾を出したときには,まだ第2の著作権譲渡は行われていないという前提だと思うのですけれども……。

【松田委員】そうです。

【前田委員】その時点において,著作権等管理事業者が利用者に許諾をしたのだったら,その許諾というのは,著作権者自身が許諾したのとほぼパラレルに考えることができると思います。著作権者が許諾してその後譲渡が行われたときに利用者が対抗できるということは,間に著作権等管理事業者がワンクッション入って,著作権等管理事業者が許諾した後に第2譲渡が行われた場合,やはり同じように利用者が保護されるべきだということになるのではないかなと私は思います。

【龍村座長】松田委員,どうぞ。

【松田委員】そうではないかなと思うので,やはり疑問があります。それは何かというと,管理事業者は,特定の1人にずっとライセンスするのではなくて,誰にでもどの時点でもライセンスできるのです。そうすると,譲受人の後の対抗要件を取得した,第三者が取得した譲受人が出てきた後に,管理事業者がその後に利用者にライセンスを出すということもあり得るわけです。前田先生の立場では,これはどうなりますか。だから,順番が逆になった。順番が逆というよりは,利用許諾契約だけが後になった。それは対抗できないということでいいですか。

【龍村座長】前田委員,お願いいたします。

【前田委員】今の松田先生の前提で,第2という言葉を使っていいのか分かりませんが,第2譲受人が対抗要件の具備をする前に,管理事業者が許諾を出しているという前提でよろしいでしょうか。

【松田委員】それが最初にお答えになった……。

【前田委員】した後に,ですね。

【松田委員】した後はどうなりますか。

【前田委員】対抗要件を具備した後に管理事業者が利用者に許諾した場合,利用者を保護するのは無理だと思います。

【松田委員】それはどうしてですか。

【前田委員】管理事業者はもう無権限者だから。

【龍村座長】それだけの単純な話だと思います。対抗できなくなる。

【大渕座長代理】特許でやっていたのも,適法なライセンスが出されたら,特許権者に対しても言えるというだけで,そのときがゼロだったらあり得ない話なので,それは非常にシンプルな話だと思います。先ほどのような話であれば,二重譲渡の結果で,先に対抗要件を具備されていると,ゼロの人からライセンス受けても対抗できるはずはないですから,シンプルなことを複雑に言われているように思うのですが。

【龍村座長】松田委員,お願いします。

【松田委員】恐らく前田委員が最初にお答えになったのと,それから,2番目にお答えになったのと,それは私も大体そうだろうなというふうに想定していました。

次に問題になるのは,利用者が継続していた場合どうしましょうか。先に利用許諾契約が結ばれていて,その後譲受人が第三者対抗要件を取得して,もちろん管理事業者は対抗要件を取得していない状態で,利用者がずっと同じ継続でライセンスを受けている。利用している。この場合はどうなのでしょうか。

【龍村座長】では,前田委員,お願いいたします。

【前田委員】それはまさに我々が今議論しているように,当然対抗ができるとする以上は,利用者は継続して利用することができるという結論になると思います。

【松田委員】1回適法にライセンスをしてしまえばということになりますね。

【前田委員】はい,管理事業者経由ではありますけれども,管理事業者経由で適法に許諾を得て利用を開始し,利用が継続している間に第2譲渡が行われて対抗要件も具備しましたというケースだと思うのですが,ライセンスの当然対抗を認めるということは,その利用継続も認められるということになると思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

【松田委員】そこまで考えますと,著作権の対抗要件それ自体の問題は余り重要ではないようになってしまうのです。こういうの,問題起こりませんか。著作権者が第三者に譲渡した後,後にライセンスするのはどうですか。当然対抗要件というのは前後で決まるわけでしょう。それで譲受人が対抗要件を取得しない間に権利者が利用者にライセンスをすれば,当然のことながら,当然対抗要件ですから,先順位になりますよね。それは前田委員の意見だと,先ほどの結論として,利用者が対抗要件を取得することになりませんか。

【前田委員】なると思います。

【松田委員】そうですね。

【前田委員】管理事業者が絡む場合とは違って,まず著作権譲渡がありました,だけど,対抗要件を具備していません,その間に譲渡人がライセンスを出しましたという場合に,そのライセンシーは譲受人が対抗要件を具備した後も利用継続ができるという結論になるのではないかと思います。

【龍村座長】森田委員,お願いします。

【森田委員】今の御質問では,著作権譲渡がなされたけれども対抗要件を具備していないというのは,誰に対する対抗要件のことを言われているのでしょうか。つまり,譲渡当事者間であれば,対抗要件がなくても権利は完全に移転しているわけですよね。

【前田委員】はい。

【森田委員】そうしますと,譲渡当事者間では無権利者が出した許諾ということになりませんか。したがって,ここで対抗要件が問題となるとすれば,利用者に対する対抗要件ではないでしょうか。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】先ほど言われたのだと,別に第三者に譲渡しようが,ライセンスを出したときには権限があったので,私はその問題ではないかと思っているので,ライセンスを出したときには,全くその人は権限があって,後から売ろうが関係ないし,むしろそれが今,普通に典型的に問題になっています。特許などでも,旧特許権者がライセンス出して,それから新所有権者に売った後というのは,旧特許権者は権限を失っていますけれども,それだからライセンスがないとかいう話はありません。そうではなくて,最初のライセンス出した人が,例えば,AがBとCに二重譲渡して,Bが誰かにライセンシーを出した場合に,BとCが対抗関係に立つのですが,先にCが著作権の登録を得たら,Cが確定的に権利者となり,反射的にBが無権利となり,空になるので,空から受けた人はゼロだという,対抗関係というよりは,空かどうかという問題です。対抗要件の抗弁というよりは,所有権喪失の抗弁と言われているものの著作権版の話ではないかと思います。所有権に対応する著作権がなくなって,権利がない人からライセンスを受けても,それは当然対抗もありようがない。だから,その話と先程の話が混ざっているのかなという感じがいたします。

【龍村座長】上野委員,お願いいたします。

【上野委員】問題を整理いたしますと,1番目に,特許権は,譲渡すること自体,登録が効力発生要件ですよね。他方,著作権の場合は登録しなくても譲渡できてしまうので,対抗要件を備えていない,すなわち未登録の譲渡がなされた後に,元著作権者が行ったライセンスも当然対抗されることになるのかと――もちろんこれを対抗と呼ぶのかは問題になりますが――これが1つありますね。これについては,私も正直よく分かりません。

2番目に,期間の問題です。他人にライセンスする場合,永遠に使っていいですという許諾をしていたとき,そのような期間の点も含めて対抗されるのか――これを対抗というかどうかという問題ももちろんありますけれども――そういう問題です。管理団体との関係でいえば,基本的には1年とか,期間が限られたライセンスがなされているものと思いますので,余り大きな問題にはならないのかもしれませんが,恐らくその期間内は,その期間の長短にかかわらず対抗できるというふうに解釈されるのではないかと思います。

3番目に,信託した後に著作権を譲渡したという場合の対抗関係です。後に行われた譲渡が対抗要件を具備して,譲受人が確定的に著作権を取得し,その代わりに,当初の信託されていた管理事業者が著作権を失ったというような場合に,当該管理事業者が過去に行ったライセンスは対抗されるのかという問題がありますが,これは対抗されることになるのだろうと思います。というのも,当然対抗というのは,著作権に基づいてなされたライセンスによって発生した利用権――ちなみに「利用権」という言葉は今の著作権法でも使われていますが――,その利用権が対抗力を持つということですので,著作権の二重譲渡等様々な事情によって,最終的に全然関係のない人が著作権を取得しても,当初付与された利用権が対抗力を持つということになるのではないかと私は思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。根本から帰属関係の優劣を決する二重譲渡の対抗要件の対抗と,本件でいう当然対抗の対抗とでは,ややニュアンスが違う部分があるようにも思われますが。

奥邨委員,お願いいたします。

【奥邨委員】今の中身にどうこうということではないのですけれども,基本的に今の議論が管理事業者の関連の話の中で出てきたのですけれども,これ,管理事業者の話ではなくて,一般的な二重譲渡の問題,そして,著作権の場合,さっき言ったように,対抗要件を基本的には備えていない可能性が高いという中でどういう処理になるのかというのは,総論の部分で出てくる問題として処理しておかないと,管理事業者の問題だとすると,ちょっとかえって複雑になるのかなという気がいたしました。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。御審議いただきたい点4について,そのほかございますか。

【大渕座長代理】よろしいでしょうか。

【龍村座長】大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】すみません,今言われたように,管理事業法は複雑なので,二重譲渡のところは定義しておいた方がよいかと思います。特許は効力要件なので役に立たないので,著作権だと二重譲渡の場合なら,所有権喪失の抗弁の著作権版という話になるので,遡及的に,所有権の二重譲渡の場合でも,後から譲り受けた人でも先に登記すれば,そちらが確定的に所有権を取得して,反射的に他方の者は所有権がなくなるという理屈からすれば,ゼロから付与されるというのは仕方がないというところは否定しがたいのかなという感じがするのですが,そこの辺りを整理しておく必要があると思います。

当然対抗も,有効なライセンスが来ているから対抗なので,大もとがゼロだと苦しいというのは,先ほどの二重譲渡の考え方からするとなかなか否定するのは難しいと理解しております。

【龍村座長】ありがとうございました。その辺り,整理が必要になりますね。

【澤田著作権調査官】今御議論ありました点は,おそらく一般的な対抗問題に関わる部分かと思いますので,この場でどこまで整理するのがよいのかということもありますが,頂いた御意見を踏まえまして,どういう事例でどうなるのかというところについて何らかお示しできるように次回までに整理したいと考えておりますので,本日は次にお進みいただければと思います。

【龍村座長】事務局の方でその辺りよろしくお願いいたします。

時間の関係がかなり押してしまいまして,続きまして,8ページ目の「2.出版権制度との関係について」に関して,事務局より御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】9ページ目を御覧ください。出版権制度との関係について,でございます。出版権に関しましては,著作権者の出版権設定行為に基づいて発生する用益物権類似の権利であるとされております。そして,出版権の設定された範囲については,出版権者は排他的な著作物の利用権限を有することとなります。出版権は設定行為に基づいて発生するものでありますが,その設定については,登録をしなければ第三者に対抗することができないということになっております。

これに対して,利用許諾に係る権利について当然対抗制度が導入された場合につきましては,著作権者から差し止め等を受けることのない地位については,対抗要件を備えることなく第三者に対抗することができることとなります。この関係で,例えば未登録出版権のうち著作権者から差し止め等を受けることのないという地位については,登録なくして対抗できることとなるかという点が問題となり得ると考えられます。具体的な場面としては,出版権が設定されたが,出版権の設定について登録がなされていない段階で,著作権者が第三者に対して著作権を譲渡したという場面が考えられるかと思います。

この点につきまして,利用許諾に係る権利と出版権につきましては,別個の権利として規定されておりますので,利用許諾に係る権利の当然対抗制度は出版権には当然には適用されないものと考えられます。また,出版権が排他的な権利であることを前提として,出版の義務とか出版権の消滅請求に関する規定があるなど,著作権者と出版権者との間には特別な法律関係が排他的な権利であることを前提に形成されていると考えられることから,出版権のうちの一部の地位についてのみ当然に第三者に対抗することができるとすることは妥当ではないと考えられるとしております。

以上を踏まえますと,利用許諾に係る権利の当然対抗制度の導入によって,未登録出版権のうち差し止め等を受けることのないという地位について,登録なくして対抗できることとはならないものと考えるとしております。

御審議いただきたい点5としましては,このような整理に問題がないのかという点について御審議いただければと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より御説明頂きました内容に関しまして,御審議いただきたい点5を中心に御意見,御質問よろしくお願いいたします。いかがでございましょうか。

前田委員,お願いいたします。

【前田委員】出版権の登録をしようと思えばできる制度があるのにしないのが悪いというふうに割り切ればこの結論でいいと思うのですけれども,実情を考えると,出版権の設定登録というのはほとんどなされていない現状かと思います。そうすると,通常の利用許諾であれば当然対抗になるのに,未登録出版権の場合は全く対抗ができなくなるというのは,ちょっとバランスが悪いのではないかなと思います。

出版権の設定と利用許諾とは,かなりオーバーラップするものがあって,当事者の合理的意思としては,出版権で対抗できないなら,出版権の中に事実上包含されている利用許諾の部分だけは対抗を認めてほしいという希望が出てくるのではないかと思います。もちろん出版権は独占権であって,利用許諾はここでは非独占の権利ですけれども,非独占の範囲では利用継続できるという結論の方が,バランスがいいのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】私も結論としては,今前田委員が言われたのと似ていまして,今度,ライセンスというか,債権的なものの,当然対抗を考えていますから,出版権としては難しいと思います。それは仕方がないのですが,あとは,出版権設定契約というのが,事実上,出版許諾契約という債権的なものも先程の合理的な意思の中に含まれていると言えるか言えないかというところに係ると思います。実際上含まれているのであれば,出版権の方としてはだめだけれども,出版権の裏になっているから出版許諾契約があると言えるのであれば,それは対象外にするというのは難しい。だから,これを見ると,その辺りは合理的な意思として,今後は余り出版権を使う人が出てこなくなるのではないかという感じがいたします。

特許では,専用実施権の設定登録をしていないと専用実施権としては効力がないのですが,一般的にこれは完全独占的通常実施権の趣旨だとして差止め等の議論になっていますから,それと少し似ているような,似てないようなところがあります。出版権設定契約というのは,実際上は最低限,出版許諾は含まれているというような合理的な意思解釈ができるのであれば,あり得る話だろうと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

そのほか御意見ございましたら,お願いします。

では,森田委員,お願いいたします。

【森田委員】問題を整理する必要があって,出版権設定契約とライセンス契約を2本別個にそれぞれ結んでいれば,何の問題もなく,出版権設定契約の方は著作権の譲受人に対抗できないけれども,もう一つあるライセンス契約の方は当然対抗の対象となるということは問題ないので,問題となるのは,ライセンス契約は締結していなくても,出版権設定契約に当然に含まれるその一部としてライセンス契約の合意があったものと擬制してそれを対抗することができるのかということではないかと思います。そこを黙示の合意とか合理的な意思と言ってライセンス契約も同時に締結しているといえれば,何となく説明できそうですが,やはり要件としては,出版権設定契約の主張・立証をすれば,それだけでライセンス契約が当然対抗の対象となるということですので,そこはかなり無理があるのではないかと思います。そこまでして救済する必要があるのかということです。

ライセンス契約についてもちゃんと締結しておけばよいだけのことで,ライセンスの当然対抗制度といっても,ライセンス契約を結んでいることが前提となるものであって,ライセンス契約を締結していないのにそれに類似する利益状況があれば,ライセンス契約があったものと合意を擬制してこれを対抗できるようにしようというところまで当然対抗制度の趣旨には入ってこないのではないかと思います。バランスというのはそのような議論なのでしょうが,しかし,最低限,書面までは要求しないとしても,諾成の契約ぐらいはあるということの主張・立証は必要になるはずであって,その場合には,別に出版権設定契約について無効行為の転換的な読み替えを行って,別途,ライセンス契約の合意もあったという必要はなく,それは明示又は黙示にライセンス契約が締結されていたことの主張・立証に成功するかどうかということに尽きるのではないかと思います。そうしますと,別に特別な問題はないということになるかと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。報告書の立場が今のお考えかと思います。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】私は報告書の立場ではなくて,どちらかというと,大渕委員の,裏側に何らかの使用ライセンス契約があるのではないかといって,その部分が残るという考え方の方が近いと思っています。そうでないと,出版権設定契約をする人はいなくなってしまいますよね。それが1つです。

しかし,裏側に何かあるだろうということで,このまま放置するわけにいかないのではないでしょうか。出版権設定契約についても,その部分は何らかの対処をしなければならないのではないかなと思っています。

【龍村座長】ありがとうございました。今の出版権設定契約は,往々にして,業界のスタンダード契約,標準書式のようなものが使い回しされているということが背景にあるようですが,その辺り,業界としても,当然対抗が入った時点で契約形態をまた検討するということもあるかもしれません。

大渕委員,よろしくお願いします。

【大渕座長代理】私もそう思います。今後はこの問題が分かったら,ほとんど標準ひな形は2本立てになっていて,出版権設定契約プラス出版許諾契約という形にほぼなるから,余り問題ではなくなると思います。

私は当事者の合理的意思からすると,出版権設定だけで契約なしというのは,余り実体に合わないのかなと思います。出版権はもともとこれで差止めが認められない特殊な権利としてあったのですが,今後は余り使われなくなってきて,やはり基本は契約の方というのが実体に近い。それだから実体として余り出版権が使われていなかったこともあるかと思うので,大げさなことを言わなくても,やはり当事者の合理的意思からいうと,出版契約が裏にあることが大半ではないかとは思います。

【龍村座長】ありがとうございました。上野委員,お願いいたします。

【上野委員】この論点整理のとおりにしますと,ライセンスをしたという場合であれば,ライセンシーは保護されるけれども,出版権の設定を受けたという者は,もとの著作権が他人に譲渡されてしまうと,もう出版も何もできなくなってしまうということになってしまいますので,それでいいのかということが問題になると思います。ですので,今後は,出版権設定をする人に対しては,文化庁への登録を行うように促すべきだと言いたいところではありますけれども,現実的に登録がなかなか難しいとするならば,この論点整理のような解釈で本当にいいのかということがやはり問題になると思います。

そもそもこの当然対抗制度は,1.ライセンスを受けた人の安定性の確保と,2.譲受人の不利益が大きくないことが考慮されているわけですから,そのような趣旨からいたしますと,一点目につきましては,ライセンスを受けた者だけではなく,出版権の設定を受けた者についても,その安定性の確保というのが同様に求められると考えられますし,二点目につきましても,譲受人が著作権を買ったのに,独占的な出版権が残っているようなことになってはいけないとしても,非排他的な利用権の部分だけは対抗できるという制度にすることはあり得ないではないのかもしれないように思われます。私ももう少し考えてみたいと思っております。

【龍村座長】大渕委員,お願いします。短くお願いいたします。

【大渕座長代理】出版権についても必要な書類を取ってあって,登録しようと思えばできるのに余りやっていないという話も聞くので,さほどかわいそうな状態でもないのかなと思われます。また,出版権は出版義務があるというように,単に物権か債権かの違いだけではなくて,特殊なものなので,そのようなものが当然対抗というのも妙な話ではあります。やはり,出版権まで当然対抗にするというのはやや無理があって,先ほどのような限度で十分ではないかと思っております。

【龍村座長】ありがとうございました。

水津委員,お願いいたします。

【水津委員】出版権は,物権契約である出版権設定契約に基づいて設定されると考えるとしても,いきなり出版権設定契約がされるのではなく,その背後に,債権債務関係を発生させる債権契約がされているとみることができます。このことは,地上権の設定等についても,同様です。

そして,上記の債権契約において,出版権の設定を第三者に対抗することができないときは,利用許諾に係る権利を第三者に対抗することができるように,その限りで利用許諾もされているとみることが,当事者の合理的意思にかなうこともありそうです。

この場合には,物権契約である出版権設定契約の原因行為としての債権契約,つまり出版権の設定を義務づける契約と,利用許諾契約との2つがされているととらえることになるような気がします。

【龍村座長】ありがとうございました。なお,出版権設定契約は物権契約だとすると,設定してしまうと権限を失ってしまうといいましょうか,無権限になってしまうという,そういった背理もあるような気も致しますが,その辺りはいかがでしょうか。

大渕委員,お願いします。

【大渕座長代理】その議論はあるかと思うのですが,先ほどの「裏」というのが重要なのであります。恐らく先ほど水津委員が言われたのは似たような話だと思います。合理的意思としては,紙には物権しか書いてないかもしれないけれども,先にやってしまえば,言われるとおりだと思うのですけれども,同時にやっていれば,その問題は回避できると思います。

【龍村座長】解釈の問題になるのかもしれません。

ありがとうございました。では,時間の都合で,次に進みたいと思います。かなり時間が押しております。

続きまして,9ページ目から10ページ目のサブライセンスの関係に入りたいと思います。

事務局より御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】10ページ目の3ポツ,サブライセンスの関係について御覧いただければと思います。実務的には,ライセンシーが第三者に対して著作物のライセンスを与えるというようなことが行われておりまして,そういったものについて一般にサブライセンスと呼ばれているところであります。サブライセンスによってサブライセンシーは,著作権者から利用を妨げられることのない地位を取得するものと考えられております。

特許法におきましては,四角囲みで書かせていただいたとおり,通常実施権者は独占排他的な権利を有するものではないことから,通常実施権者が実施を許諾する権利を独自に有するものとは解されないとの理解を前提に,通常実施権者は,特許権者等の授権を得た場合に限り,特許権者等に対する不作為請求権を特許権者等に代わって許諾できるものと考える。そうした許諾を受けたサブライセンシーというのは,特許法上の通常実施権者として,特許権者等に対する不作為請求権を中核とする実施権を取得するという整理がなされております。

この整理を著作権法に当てはめますと,許諾を受けたサブライセンシーは,著作権者に対する不作為請求権である利用許諾に係る権利を取得するということになろうかと思います。他方で,調査研究におきまして,実務上は著作権者-ライセンシー-サブライセンシーの関係は,転貸借のような関係にあるのではないかというような指摘もあったところであります。

11ページ目にお進みいただきまして,特許法における整理と同様に考えますと,サブライセンスと称されてはおりますが,その実質はライセンシーの権利と変わらない,同じものであるということになりますので,利用許諾に係る権利の対抗制度が導入された場合には,その適用を受けることとなると言えるかと思います。

仮に著作権者からサブライセンシーに対して許諾を与えているわけではないと考えた場合につきましては,サブライセンシーというのは,著作権者から適法にサブライセンスを行う権限を与えられたライセンシーからサブライセンスを受けることによって,著作権者からは利用を妨げられることのない地位を取得していることになることから,利用許諾に係る権利の対抗制度が導入された場合には,ライセンシーと同様にその保護を受けるべきものと考えられるとしております。

そうしますと,いずれにしてもサブライセンスによってサブライセンシーが得る権利については,対抗制度の適用を受けるものと考えられるといった整理をさせていただいております。

御審議いただきたい点6と致しましては,このような整理について問題がないかというところについて御審議いただければと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

では,今御説明ありました御審議いただきたい点6につきまして,御意見,御質問ございましたら,お願いいたします。

前田委員,お願いいたします。

【前田委員】サブライセンスをこの転貸借類似と考えるのか,権限の付与と考えるのかというのは1つの議論の対象になり得るかと思いますけれども,それはさておいて,結論として,サブライセンシーが得る権利について対抗制度の適用を受けるということは,これは当然のことなのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

ほかにございますでしょうか。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】格別の意見があるわけではなくて,ここの点はこのままでいいのではないかという意見です。

【龍村座長】ありがとうございました。理論構成について2通りの発想があるということですが,結論についてはほぼ争いのないところかというように整理させていただきたいと思います。ありがとうございました。

それでは,本日のところで,最後に,全体を通しまして御意見,御質問がございましたら,お願いしたいと思います。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】再三で申し訳ありませんが,物権的な利用権と当然対抗要件との関係では,物権的な契約を結ぶと当然対抗要件を取得できないということになること自体はどうもいささかバランスを欠くのではないかと,この印象が残っております。

【龍村座長】ありがとうございました。

そのほかいかがでしょうか。かなりいろいろな論点が入っておりまして,特に集中管理団体との関係性とかそこら辺は,もう少し細かく見ないと論点自体が浮かび上がってこないところもありますので,もう少し事務局等でお詰めいただければありがたいと思っております。

では,よろしゅうございましょうか。ありがとうございました。

そうしますと,今申し上げた点についてもそうなのですけれども,皆さん意見が割れているところもございますし,次回も引き続きその辺りを含めて議論を続けるということにいたしたいと思います。事務局におかれましては,次回の議論に向けて本日の議論の整理をお願いしたいと思います。

その他の点につきましては,方向性が見えてきたところかと思いますので,事務局におかれまして,本日頂いた意見を踏まえまして,その他の点に関する取りまとめに向け整理をお願いしたいと思います。

その他御質問,特段ございませんでしょうか。

【松田委員】残った問題は独占的なライセンスの対抗要件と差し止めのことになりますか。

【龍村座長】それはまた別になります。本日のところで,本日の論点の中でまだ詰まらなかった点を次回もカバーしていきたいと思います。

事務局,そういう理解でよろしいでしょうか。

【澤田著作権調査官】はい。次回議論が必要であるという点について整理させていただいた上で,また御審議いただきたいと考えております。

【龍村座長】では,本日はこのぐらいで終了したいと思いますが,最後に事務局から御連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【澤田著作権調査官】本日はありがとうございました。次回のワーキングチームにつきましては,改めて日程の調整をさせていただき,確定したら,また御連絡いたします。

事務局からは以上です。

【龍村座長】それでは,本日これで第2回ワーキングチームを終了させていただきます。本日はありがとうございました。

――了――

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