日時:平成27年10月28日(水)
11:30~13:00
場所:文部科学省東館 3F2特別会議室
議事次第
- 1 開会
- 2 議事
- (1)新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方について(ニーズ提出者からヒアリング)
- (2)その他
- 3 閉会
配布資料一覧
- 資料1
- ヤフー株式会社提出資料(266KB)
- 資料2
- 富士通株式会社提出資料(1MB)
- 参考資料1
- ヒアリング出席者一覧(20.1KB)
- 参考資料2
- 新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームにおける
検討の進め方(103KB) - 参考資料3
- ニーズ募集に提出された課題(詳細版)関連部分抜粋(101KB)
- 参考資料4
- 第1回ワーキングチームにおける意見(関連部分抜粋)(90.6KB)
- 参考資料5
- ヒアリングにおいて説明を求める事項(74.6KB)
- 参考資料6
- 新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム名簿(54.1KB)
- 参考資料7
- 環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要
(平成27年10月5日内閣官房TPP対策本部)関係部分抜粋(112KB) - 参考資料8
- TPP協定に定められている著作権法整備に関わる事項の概要について(119KB)
- 机上配布資料
- 著作物等の利用円滑化のためのニーズ ニーズ個票(9.8MB)
- 出席者名簿 (40.4KB)
議事内容
【土肥座長】それでは,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」,第2回を開催いたします。本日は,お忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましてですけれども,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥座長】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
本日は,ニーズ提出者として二つの法人の方に御発表をお願いしております。お越しいただいた方を御紹介させていただきます。まず,ヤフー株式会社から,コーポレート政策企画本部知的財産マネジャー,今子さゆり様でございます。
【ヤフー(今子)】今子です。よろしくお願いいたします。
【土肥座長】よろしくお願いいたします。
まだお見えになっておりませんけれども,富士通株式会社から,法務・コンプライアンス・知的財産本部副本部長の亀井正博様が後ほどいらっしゃいます。
いつもよりも若干きょうは長めでございますけれども,よろしくお願いいたします。
議事に入ります前に,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】それでは,お手元の議事次第の真ん中から下半分ぐらいをごらんください。資料としましては,ヒアリングをお願いしているヤフー株式会社様と富士通株式会社様からの御提出資料をそれぞれ御用意してございます。また,参考資料の1から6としまして,このワーキングチームに関わる資料,それぞれ議事次第記載のとおりのものを御用意しております。あとは,参考資料7,8としまして,TPP関連の資料をそれぞれ御用意してございます。不足等ございましたら,お近くの事務局員まで御連絡ください。
【土肥座長】ありがとうございました。
それでは,議事に入りますけれども,初めに,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は(1)新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制の在り方について,ニーズ提出者からのヒアリングを頂きます。(2)その他,この二つとなっております。
早速ですけれども,(1)の議題に入りたいと存じます。前回のワーキングチームにおいては,優先的な検討を要すると考えられる課題や,検討の要否や優先度を判断するためにヒアリングを行い,詳細を把握することが適当と考えられる課題について御意見を頂戴したところでございます。本日は検討を行うに当たって詳細な説明を伺いたいという御意見が多かったニーズについて,2団体をお呼びしております。ヒアリングに入ります前に,前回の議論や,ヒアリングで伺いたい内容について,まず事務局から説明をお願いしたいと存じます。
【秋山著作権課長補佐】それでは,御説明申し上げます。資料としましては参考資料の2から5に基づきまして御説明申し上げます。
本日のヒアリングの位置付けということでございますけれども,確認のための説明ということでございます。まず,前回のワーキングチームにおきまして,参考資料2に掲載させていただきました,ワーキングチームにおける検討の進め方につきまして案を提示させていただきまして御了承いただいたところでございます。詳細は割愛いたしますけれども,もろもろの手順を経まして,2ページ目にある手順4というところで,権利制限の見直しの検討が求められているものについて,まず優先的にこちらの議論を始めようということになったわけでございまして,この手順4のような整理を経まして,手順5でそれぞれの審議のプロセスがスタートするということでございます。こうした整理に基づきまして,今後,また,全体のニーズにつきましては整理をいたしまして,それについてはまた御審議いただくことになるわけでありますが,今回はその中でも特に優先的に議論すべきという御意見が多かったものにつきまして取り出して御検討いただくということであろうかと思います。手順5に当たるヒアリングを先取りしてやるということかと存じます。
その際に,権利制限の見直しが求められたものに関しての整理の方針としまして,2ページの手順4にありますように,例えばニーズの明確性というところでしたら,個別具体的なニーズのみならず,抽象的なニーズについてはどのような類型のニーズであるのか,外延が明確にされることが期待されるといったことですとか,それから,この観点丸2のところでは,権利制限の正当化根拠ということに関しては抽象的なニーズについては,そうしたニーズの全体について妥当するどのような正当化根拠があるのかについて御説明いただくことが期待されるというふうに整理いただいたわけでございます。
こうした位置付けのヒアリングということになるわけでございますが,参考資料3は,前回御提示させていただきましたニーズの中から,本日ヒアリングをさせていただく事業者から御提出いただいたものを抜粋したものでございまして,こちらは別途御参考いただければと存じます。
参考資料4でございますけれども,前回どのような御意見があったのかということの概略をお示ししております。ポイントのみ御紹介いたしますと,まず,全体についてというところでございまして,この一つ目の丸の二つ目のパラグラフですけれども,昨今,テーマであるビッグデータやIoTなどに係るニーズも挙がっているということで,抽象的なニーズの外延を捉えて具体化するということを視野に入れて,そのニーズを伺おうと。そして,その外延のエンドをつかんでいくということでございます。
三つ目の丸では,諸外国の関連ビジネスなどの例も併せて報告をお願いしてはどうかというような御意見もあったところでございます。
個別具体的なニーズの内容に関しましては,四つ目の丸で,所在検索サービスやバックエンドでの複製といった御指摘があったところでございますし,1ページおめくりいただきまして真ん中の辺りですけれども,富士通さん提出ニーズにおけるCPSについても特出しして御指摘があったところでございます。
また,一番下の丸の最後の段落,このCPSというものは今後どのようなものになっていくのか,ある程度の確度を持って,どういう技術の進み方があるか,ビジネスの進み方があるかということを伺いたいということを伺いたいということでありました。
こういうことを踏まえまして,本日,ヒアリングをお願いしたわけでございます。そして,これまでの検討の進め方ですとか,このワーキングでの御意見を踏まえまして,参考資料5としまして,各事業者様にどういう観点でヒアリングをお願いしたいのかということをあらかじめ主査とも御相談の上,事業者の皆様に御提示させていただいたところでございます。大きく分けて三つございます。まず第1に,提出されたニーズを包含する技術・サービスの概略についてでございます。それから,提出されたニーズの内容ということでありまして,そこでは抽象的なニーズにおける類型,外延と著作権との関係ということも含まれているわけでございます。
また,(3)としまして,権利制限規定の対象とすることの正当化根拠としまして,上に示されたサービス類型に照らしまして,権利者の利益を不当に害さないという場合として,どのような正当化根拠が妥当するのかということについても併せて御発表いただきたいということでお願いしておるところでございます。
説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
【土肥座長】ありがとうございました。
それでは,早速ヒアリングに移りたいと思いますけれども,その前に1点,申し上げたいと存じます。ヒアリングを行う趣旨は御提出いただいたニーズの類型について,権利制限の対象とする必要性や正当性の議論をするものでございまして,事業者が行っている,あるいはまた,これから行うことを予定しているサービスの当否を個別に判断するものではございません。その点,ひとつ御了承いただければと存じます。
まず,ヤフー株式会社から御提出いただいておりますニーズ,77番でございますけれども,これについて御説明いただければと思います。ヤフー株式会社の今子さゆり様,よろしくお願いいたします。
【ヤフー(今子)】ありがとうございます。ヤフーの今子と申します。よろしくお願いいたします。本日はこのような機会を与えていただきまして,どうもありがとうございます。12時半頃に所用で中座をさせていただきますが,御容赦いただければと思います。
本日,ニーズの内容についてこのペーパーに沿ってお話をさせていただきまして,その後,簡単に技術の方向性につきましてお話をさせていただきたいと思います。
まず,弊社から提出をさせていただきましたニーズは,情報活用関連として三つございまして,所在検索サービスと,それから分析サービス,そしてバックエンドでの複製があります。分析サービスにつきましては,いろいろその後,検討を行って,所在検索サービスと共通するところが多く,検索サービスに含めてお話をさせていただければと思います。
まず,所在検索サービスですけれども,検索サービスについては2009年度に法改正がありました。最後の参考資料1という9ページ目をごらんいただけますでしょうか。簡単に復習というか,検索エンジンとはどのようなサービスなのか,どういう仕様になっているのか,御説明申し上げます。まず,一番左側から,クローラーというソフトウエアで情報を収集いたします。これが現行の47条の6では,送信可能化されている情報をクロールして,バックエンドでサーバーにその情報を複製し,そして蓄積して,検索結果表示用データを作成し,そしてユーザーから検索の求めがあったら検索結果を表示するという3段階になっております。1番,2番,3番,簡単に言うと,収集と処理と出力という3段階に分かれておりまして,ここの大まかな仕様は,この当時と今,あるいはこれからしばらくも変わらないのではないかと思っております。
ただ,1点,課題として挙げたいのは,1番のところで,ここ,図の中でもHTMLとかRSSとか書いてありますけれども,送信可能化された情報だけ収集することが47条の6で認められているということでありまして,送信可能化されていない情報は認められていません。しかし,情報化社会においては,あらゆる情報にアクセスできるようにするべきであるため,送信可能化されていない情報についても検索可能とするように手当が必要なのではないかと考えております。
1ページ目に戻りまして,広く公衆がアクセス可能な情報(送信可能化されていない情報を含む)の所在を検索することができるサービス,すなわち「所在検索サービス」を適法とすべきであると考えます。広く公衆がアクセス可能な情報とはどういったものがあるかというと,例えば,書籍だったり,それからテレビ番組だったり,街中のカメラなどを活用した街中の風景だったり,こういった情報をバックエンドに蓄積して検索対象としていくということが必要となってくるかと思います。
2ページ目の2ポツ目の著作物の利用態様のところなのですけれども,送信可能化されていない情報も含め,バックエンドでの情報の収集,蓄積,それから,1で収集,蓄積された情報を用いた検索結果の提供をするための自動公衆送信を行うということになります。
3番に行きまして,現行法下での解釈による対応の可能性です。検索サービスに関しては,現行法では47条の6がありますけれども,既に申し上げましたとおり,送信可能化された著作物のみを対象としており,広く公衆がアクセス可能な送信可能化されていない情報は対象になっておりません。
次に,47条の7,こちらは解析に関わる規定なのですけれども,「統計的な解析」を権利制限の対象としているのみで,所在検索サービスのバックエンドにおける情報の収集や蓄積が該当するかは分かりませんし,著作物を検索結果として出力して表示することまでは認められておりません。
次に,47条の9なのですけれども,こちらは情報提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な場合の記録又は翻案が含まれるにすぎないので,このようなサービスは含まれるかどうか不明というか,含まれないというふうに考えております。
次に,3ページ目に行きまして,32条(引用)による対応の可能性。こちらは,2009年の改正当時の報告書で,32条では対応することが困難だと報告がされておりまして,送信可能化されていない情報にまで検索サービスの対象を拡大したときも同じ問題が生じると思っております。
5番目に,黙示の許諾論,それから権利濫用の法理による対応の可能性。立法しなくても権利濫用の法理などで対応できるのではないかということを時々言われることもあるのですけれども,そうではないと思っております。黙示の許諾につきましては,情報を全て網羅的に蓄積するときに,違法な情報が含まれる可能性がありまして,それが後で分かったときに対応をするということはあるにしても,複製の段階で確認ができないということがございますので,黙示の許諾論では対応できません。権利濫用につきましては,後ほど御説明をさせていただければと思うのですけれども,権利濫用だから立法の必要性はないと考えることはできないと思っております。
次に,正当化根拠ですけれども,まず,先ほど申し上げましたとおり,検索サービスは,情報化社会においてあらゆる情報へのアクセスを提供する,情報の探索手段を提供するという重要な役割を担っているのではないかと考えております。
次に,ライセンスでは対応できないということですが,あらゆる情報へのアクセスを提供するという以上,一部の情報だけを提供しても仕方がないわけであります。データベースには,大量かつ網羅的に情報を蓄積して,検索の対象としなければならない。ですので,ライセンスが得られないものは検索できませんということでは,検索サービスは提供することはできないということになります。
それから,(2)の1で,軽微であること。情報の収集や蓄積はバックエンドで行われるにすぎないため,著作物の表現を知覚的に享受されるということはありません。また,結果の提供は,サムネイルやスニペットなど,必要な範囲でのみ行われるにすぎず,例えば,書籍の全文が表示されるということはありません。
次のページに行きまして,「権利者のコンテンツが知られる機会を提供」とありますけれども,サムネイルやスニペットなどを表示するときに,その著作物の所在を検索結果として表示します。例えば,書籍のタイトルなどを表示することで権利者のコンテンツが知られる機会を提供します。現行法47条の6では,「送信可能化された情報に係る送信元識別符号の提供と併せて」とあり,ウエブページのURLを一緒に表示しなければならないとしておりまして,サムネイルと,そのサムネイルの元となる画像がどのページにあるのかということを併せて表示するということで,必ず元のページに飛んでいくことができるようにしています。
次に,必要な立法措置の内容です。これは,所在検索サービス提供のためのバックエンドでの複製と,それから検索結果の表示のための自動公衆送信を可能とすべきではないかと考えております。拡大と柔軟化と書きましたが,送信可能化されていない情報にまで対象を拡大するとともに,47条の6はかなりいろいろな制限が付されていて,限定的に規定されておりまして,ちょっと外れたら違法になってしまうという,かなり硬直的な条文になっているというところが問題かと思っておりますので,併せて柔軟化が必要ではないかと思っております。
そして,このような行為を可能とするとともに,違法著作物への対応というのも必要だというふうに思っております。47条の6のただし書では,送信可能化された情報が著作権を侵害するものであると知ったときは,その後の自動公衆送信を行ってはならないというふうに規定しており,この所在検索サービスについても同様の手当が必要ではないかと考えます。
続きまして,バックエンドでの複製を許容すべき社会的ニーズにつきまして御説明をさせていただきます。ビッグデータ時代と言われるように,膨大で多種多様な情報が爆発的に生じているという中で,システムの運用上,いろいろな情報がバックエンドで蓄積されます。情報の中に著作物が含まれている場合が当然ありまして,そういったものが仮に蓄積をされたとしても,著作物の表現が知覚されない限りにおいては,権利者の利益を不当に害するということにはならないと思います。
しかし,30条の4や47条の9等,現行法における権利制限規定では対応できないような利用態様が将来出現するかもしれないし,そういった場合には著作権の侵害に該当することになって不都合が生じる恐れがあると考えます。したがって,著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受する利用とは評価されないシステムのバックエンドでの情報の蓄積が可能となるような立法措置が必要であると考えます。
利用行為の例なのですけれども,先ほど申し上げたとおり,大量な様々な情報を蓄積するようなもの,例えば,音楽の曲名を調べることができるサービスが挙げられます。システムのバックエンドでCDから音楽データを複製して,音楽を聴くという著作物の表現を知覚する目的ではなく,ハッシュを抽出してフィンガープリントを作成して,これをデータベースに格納します。実際のサービスを利用者の方に使っていただくときには,流れた音楽をスマホを経由して受信し,データベースでマッチングをして楽曲の照合を行い,この楽曲は何とかですというふうに,曲名をお知らせするというようなサービスが例として挙げられます。著作物の利用態様としては,バックエンドでの収集,蓄積にとどまり,著作物の表現が知覚されることはありません。
3番で,現行法下での解釈による対応の可能性,幾つか条文があるのですけれども,それぞれ目的等につき限定がありますので,いずれにも当てはまらない利用態様がありえると考えられますので,包括的に適法化してもよいのではないかと思います。
正当化根拠です。ビッグデータ時代と言われるように爆発的に生じている情報が,システム運用上蓄積されますが,表現が知覚されない利用であれば権利者の利益を不当に害することにはならないと考えられます。それから,検索の場合も同じですけれども,大量かつ多種多様な情報が含まれますので,ライセンスによっては対応ができないということになります。
必要な立法措置の内容といたしましては,「著作物の表現を知覚することを通じて,これを享受するための利用とは評価されない利用について権利制限規定を新設する」ということになります。こちらは,脚注にもございますとおり,平成23年度の文化審議会の報告書にも書かれているものであります。
続きまして7ページ目ですね。今後の更なる変化に対応するためのニーズにつきまして御説明させていただきます。検索サービスの歴史を見ていると,やはり技術環境の変化により法改正の具体的ニーズが生じてから事後的に個別規定により立法的な手当を行うという方法は,もちろんその後の適法性が明確になるので,私どもも大手を振ってサービスを提供できるということで,非常に有益なのですが,立法前の行為が違法になるという問題があります。検索サービスの場合も,法改正前は,著作権侵害に該当していたということになってしまいます。実際,機能拡張として,画像検索サービスを始めようとか,動画検索サービスを始めようとかという企画がでると,そのたびに著作権法上どうなのかと慎重に検討しましたが,当時の法律では救うことができないのではという懸念が生じました。その際に,やめるという判断もあったかもしれないのですけれども,アメリカでフェアユースとされた裁判例,例えばケリーVSアリバなど,画像検索サービスについてフェアユースであるというような裁判例がございましたので,こういうものを参考にしながら,権利者から権利行使を受ける可能性もないことはないけれども,リスクを取り,サービスを提供しました。
それから,別の例ですけれども,これは47条の2というオークションにおける画像の掲載の規定に関する事例なのですけれども,47条の2の施行後であれば画像の掲載が適法になったはずでしたが,施行前だったので,該当する権利制限規定がないということを理由に複製権及び公衆送信権侵害であるとされた裁判例を脚注に書かせていただきました。二つの裁判例のいずれにおいても権利濫用が認められなかったということでして,やはり,立法的な手当が必要なのではないかというふうに思われます。
では,どのような措置が必要なのかということなのですけれども,変化に対応していくためには,もちろん個別規定の改正は必要ではありますが,それだけでは後追いになってしまうので,何らかの受皿的な規定が必要なのではないかと思います。ただ,権利の保護と利用のバランスが保たれるのかという御懸念が非常にあるかと思いまして,その点は条文上,どのように規定するかというところで工夫が必要なのではないかと思います。例えば,「やむを得ないと認められる場合」とか,「著作権者の利益を不当に害することになる場合はこの限りではない」など,何らかの工夫をすることで保護と利用のバランスが適切に保つようにする必要があるかと思います。
続きまして,技術の方向性についてごく簡単にお話をさせていただきます。申し訳ございませんが,資料の準備をしておりませんので,口頭でお話をさせていただきます。
技術の方向性としては,私は二つの方向性があると思っております。一つ目は,あらゆるデータをシステムで取り扱っていくという方向性。IoTとかビッグデータとかCPSとかと言われております。二つ目はAI,すなわち人工知能です。
まず一つ目のIoTとかビッグデータとかCPSなのですけれども,10年以上前からデジタル化社会と言われていましたが,それが更に大規模化し,かつアナログでしか存在していないようなものまでデジタル化されて,大量の情報がシステムで活用されるようになってきました。これによって,デジタルデータの収集,処理,出力の規模が非常に拡大していくということになります。こちらについては,後ほど富士通の亀井様から詳しいお話が頂けると思いますので,聞いていただければと思います。
二つ目はAI技術の革新です。AI技術をどういうものに適用していくかということはいろいろ検討されていますけれども,弊社に関わるところとしてはやはり検索サービスへの適用があります。技術としては,皆さんも御存じかとは思いますけれども,ディープラーニングなど,機械学習技術の発展というのが挙げられます。近年優れたディープラーニング技術が出現しているということで,エンジニアではないので余り詳しくないのですけれども,DeepNNとかRNN+LSTMとか,いろいろな方法が出現してきて,これに大量のデータを適用するということで,今までにないような,例えば人間の脳で考えたような結果がでたりする。そのような革新的な変化が進んでいると言われています。
検索サービスにディープラーニング技術を適用したらどうなるのかということは,各社で検討中ではあると思うのですけれども,一つの方向性は,検索の回答の精度というのが今までは考えられないぐらいに上がってくるというようなことがあります。例えば,その人が置かれている状況,コンテキストというのですけれども,そのコンテキストを判断して回答を出していくとか,その上で対話型になったりとかはその一例です。
媒体の発展も目覚ましいものがあります。ウオッチだったり眼鏡だったりがありますし,コンタクトレンズ的なウエアラブルな媒体も試作中と言われていまして,こうしたものと検索サービスが合体すると,いろいろな可能性を秘めているというふうに思います。
先ほど申し上げたコンテキストに対応した検索,コンテキストサーチと言われるものなのですけれども,実際に皆様御存じのところでは,アップルのSiriだったり,マイクロソフトのCortanaとか,ヤフーのUSではYahoo!Aviateとかというようなサービスがアメリカで出てきておりまして,更なる発展が期待されるのではないかと考えております。
このAI技術の発展と著作権の関係についても御説明をしたかったわけなのですけれども,今日は,収集,処理,出力の規模が拡大していくとか,精度が上がっていくという点以外に,御説明はできませんでした。しかし,今はまだ私たちに見えない変化がどんどん大きなものになって,近年のうちにすごいサービスが出てくる可能性もないとは言えないと思っております。
IT業界におりますと,変化のスピードが非常に速いと日々実感されますので,そういうことからも本日,ニーズとして御説明した3点目の受皿規定が変化に対応するために必要なのではないかと,改めて思うところであります。
以上でございます。ありがとうございました。
【土肥座長】ありがとうございました。
それでは,ただいまの御説明につきまして,御不明な点,あるいはより詳細に伺いたい点がございましたら,その点を中心に質疑応答を行えればと考えております。どうぞ,御質問等ございましたらお願いをいたします。池村委員。
【池村委員】5ページのところの,バックエンドでの複製を許容する社会的ニーズについてもう少しお伺いしたいのですけれども,結局,バックエンドでの複製というのは何なのかということと,バックエンドでの複製等全般を権利制限にしてよいのかという点の御認識についてお伺いしたいと思っています。
具体的には,真ん中の利用行為の例のところで,音楽の曲名を調べることのできるサービスというのが唯一の例として出されていると思うのですが,これは所在検索サービスとかぶるというか,一緒じゃないかなと思ったので,この例以外のバックエンドの例というかニーズというかがあれば教えていただけますでしょうか。
【ヤフー(今子)】ありがとうございます。
こちらのバックエンドでの複製のニーズについては,どちらかというと将来生じ得る技術やサービスのために,今の段階で手当をしておいた方がいいのではないかということでして,現在あるいは近い将来で見えているサービスということでは,このサービスがあるということになります。
【土肥座長】御質問としては,更に所在検索サービスなんかとかぶるところもあるのではないかという話もございましたけれども,その点はよろしいんですか。
【ヤフー(今子)】今,具体的に見えているのは,この5ページ目の真ん中の利用行為になります。一方,今は具体的には見えていないのだけれども,いずれの権利制限規定でも対応できない利用態様が将来出現する可能性があると思います。漠然としていますけれども,そのように考えています。
【土肥座長】じゃあ,大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】断片的には出ていますが,もう時間も限られていますので細かい話は後回しにして,まとめてストレートにお聞きしたいかと思います。先ほどの所在サービスのような,非常に具体的であり,かつ,いわゆる「道しるべ」的なものであることが明らかなものから,今のバックエンドのような抽象的なものまでいろいろあるわけですが,一言でいうと,はたで聞いていますと,これは前から出ていますC類型,要するに,表現を享受するためでない利用というところに当てはまるのか当てはまらないのかという点が決め手のように思われます。そこに入るか入らないかで,我々としても受け取り方が非常に違ってくると思います。そこで,入るとしたら,その中で,今まで出たものとどの程度距離感があるのかという辺りも含めて,お聞きしたいと思います。まず,このC類型の中か外かということであります。一部外で,一部中なのかもしれませんが,そこをお聞きすると非常に議論がクリアになると思いますので,まずその点をお聞きできればと思います。
【ヤフー(今子)】いずれについても,バックエンドの複製はC類型の中に入るというふうに思っております。ただ,所在検索サービスであったり,分析結果を提供するようなサービスですと,軽微ではあるけれども,一部の情報が出力されるので,そこはC類型ではカバーできないというふうに思っております。
【大渕委員】分かりました。要するに,もう1回確認しますと,バックエンドは全部バックエンドなのでC類型の中に入って,前の方の所在と分析の方は,最後の出力の部分だけが表示になってくるので,そこは漏れるが,その根本の部分はC類型で,表示の部分は軽微だからいいという,また少し別のロジックが入ってくるという,そのような整理でしょうか。
【ヤフー(今子)】そのような整理の仕方もあるかもしれないとは思います。
【土肥座長】ほかに。
【末吉座長代理】どうもありがとうございました。私,1点目の検索のところで,公衆送信化されていないものを含む検索について2点伺いたいのですけれども,まず,資料1の1ページ目で,まずサービスの内容を2の1のところで御説明いただきました。私の理解は,送信化されていない情報についての検索なのかなというふうに,初めはちょっと思っていたのですけれども,ここでは「送信可能化されていない情報を含む」という括弧書きを付けておられるのですけれども,この「含む」ということは,送信化されている情報でも,ここで言われている検索サービスの類型に入るのかどうかというのが質問の1点目です。
質問の2点目は,47条の6の今の規定からパラレルに考えていくようなイメージを私は持っていたのですが,そのときに,例えば著作権法の施行令の第5章で,提供の基準というのが設けられていたり,あるいは施行規則の第7章で,禁止の措置の方法などというのを細かく今は規定しているのですけれども,ちょっと細かい話で恐縮なのでもし分かったら教えていただきたいのですけれども,こういう点についてもパラレルに考えていけば,47条の6に準じた権利制限規定の体系といいますか,施行令・規則を含めたものができるというか,法令化できるという理解に今子さんがおられるかどうか,その点,ちょっと2点教えてください。
【ヤフー(今子)】ありがとうございます。まず1点目なのですけれども,検索サービスにおいて送信可能化されている情報の検索とされていない検索というのを分けて提供するというのは,考えていません。条文としても47条の6に手を入れることで両方を含むような規定ができるのではないかというふうに考えております。ですので,47条の6をそのまま置いておいて,もう一つ条文をパラレルに作るというふうには考えていないのですけれども,それは御議論があるのかもしれません。仮にパラレルに作った場合に,施行令とか施行規則とかあるんだけれどもというお話がありましたが,それは4ページ目に書きましたように,やはり柔軟化が必要でして,今,相当限定的過ぎると。施行令,施行規則まで見て初めてサービスできるかどうか分かるようになっており,ほかの条文と照らしてもかなり複雑になっています。複雑で読みにくいということだけではなくて,やはり何か少し仕様を変えると違法になる恐れがあるというような硬直的な規定では将来の発展によい影響がないというふうに考えていますし,そこが問題かと思っております。
【土肥座長】じゃあ,前田委員から。その次,奥邨委員と行きましょうか。
【前田委員】私から2点ほど質問させていただきたいと思います。一つ目は,包括的規定を設けるべきだということが最後のページにありましたが,それにどういうイメージを持っていらっしゃるのかということです。先ほど,ビッグデータの解析とか,情報検索とかの結果を表示するという部分は軽微だけど利用が伴うのでC類型では対応できないという話があったかと思います。それと別に,7ページの3段落目のところに,47条の2の話があったと思います。これは,現状,美術と写真に適用があるわけですけれども,何か製品を販売するときに一定の程度,軽微な著作物の利用が必要だという規定だと思います。包括的受皿規定で実際に適法としようと考えているものというのは,こういったものをイメージされているということなんでしょうかというのが1点目です。
それから,2点目は,47条の6関連に関してですが,現行の規定では硬直的で対応がしにくいというお話があったと思います。現状の47条の6には,主体の限定とか,あるいは検索対象の限定,それからできる行為が記録や翻案,あるいは一定の場合の公衆送信などに限られるという限定があるのですが,これらの全てについて硬直的で使いにくい場合があるという御認識でよろしいのでしょうかということをお伺いしたいと思います。
【ヤフー(今子)】ありがとうございます。1点目の包括的な受皿規定のイメージということなのですけれども,特に明確なイメージが固まっているわけではありません。そのような規定がないことの問題点,懸念点というのを挙げさせていただきましたので,御検討をお願いできればと思っております。
47条の2については,こういうものをイメージして包括的な受皿規定を作ってほしいという意味ではなくて,個別規定だけで手当をすることの問題点,すなわち,その個別規定が導入されて以降は適法になるのだけれども,その前は違法だとされる,そのような裁判例があるという説明をしました。個別規定が整備されていない中でサービスを始めようと思った人が,個別規定もないし,当然,一般規定もないのだから,このサービスは違法だ,だからやめようというふうに思ってしまって,技術やサービスの芽を摘んでしまう恐れがあるんじゃないかということを説明したかったということになります。
それから,47条の6が硬直的であるという点ですけれども,具体的にここが硬直的であるということは今挙げられませんが,日々業務で,こういうことをやってもいいですかとか,これはいいですかとか,いろいろ質問を受ける中で,やはり硬直的だなと感じているということです。
以上です。
【土肥座長】じゃあ,奥邨委員,お願いします。
【奥邨委員】確認ですけれども,先ほどのC類型との関係のところで,C類型で収まらない部分をカットするという背景として,軽微性というお話もあったと思うのですけれども,それ自体は一つの要素としてあると思いますけれども,ただ,利用方法によっては,バックエンドだけで適法化されても,より根源的にバックエンドだけ適用化されても,最終的な出力を認めないと社会的な意味がないとか,公益性が下がるとか,そもそも論としてというような次元の方が,もともとの発表の御趣旨としては強かったのではなかったのかなと。もちろん,軽微かどうかというのは後でのセーフガードとして考えるところだと思うのですけれども,その辺はどうなんでしょうか。
【ヤフー(今子)】そうですね,検索サービスに公益的な目的があるからこそ出力が認められると考えておりますので,今おっしゃったとおりです。
【土肥座長】それでは,大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】同じようにこの包括的な受皿規定ということで,先ほどからしきりに硬直的,柔軟性がないということを言われているのですが,このような柔軟性実現の方法としては,既存の条文の文言をもう少し柔軟にしていくなり,もう少し既存のリストを増やしていって柔軟性を図るという方法と,このように受皿規定で一気に柔軟性を図る――米国のフェアユース法理に係る米国著作権法107条がその典型例ですが――という方法の,二つ方法論があるのですが,どちらもあり得るのに何ゆえに後者の方なのかなという点であります。まあ,両方とも取れれば一番柔軟でよいという御趣旨なのかもしれないのですが,柔軟性を確保する方法というのは後者だけではないように思われます。この点に関して,率直なお考えをお聞きできれば我々は理解しやすいかと思います。
【ヤフー(今子)】包括的な受皿規定を設けたら様々なサービスが広く適法になるとか,そういうふうには考えておりません。基本的には個別規定での手当をきっちりやっていく必要があると思います。もちろん,その個別規定も余りに硬直的過ぎると,それはそれで使いづらいのでという問題は別途あるのですけれども。ただ,御説明させていただいたとおり,例えば検索サービスは当初違法だったかもしれないのですが,その後の法改正により適法化されたので,たまたまそのまま継続してサービスをやっていてよかったなということになります。しかし,そこでサービスをやめてしまうことだってあったかもしれない。検索サービスのようにごく限られた例しかないかもしれませんが,今後,そういう新しい,今まで本当に誰も予測をしていなかった新しい技術とか,新しいサービスが出てきたときに,ひょっとしたら,この規定で適法になるかもしれないというような,本当に小さくてもいいんですけど,そういう余地があると有り難いと思っております。この受皿規定でいろいろなサービスを適法にしたいという考えは持っておりません。
【大渕委員】最後に1点だけ。今の点について,もう一つ特徴点として,小さなものでいいから一般規定ということを言われたのですけれども,普通は,入れてしまったら小さくするのは恐らく難しくて,一般的に包括的になってしまうかと思うのですが,小さく一般規定を入れるというのは,それであれば個別規定の横に付いているようなイメージに近くなってくるかと思われます。その辺りのイメージがとにかく湧きにくいものですから,もう少し具体的に御説明いただければと思います。
【ヤフー(今子)】それは書かせていただいているとおりなのですけれども,8ページ目にございますとおり,個別規定の最後に受皿として機能する包括的規定を設けるというところです。例えば検索サービスとかオークションサービスにおける複製等のように,立法が必要であると考えられるような,正当化できる利用行為のみに適用があるというイメージです。何でもかんでもこれで救いましょうという発想ではなくて,後で個別規定が結局作られるということになるかもしれないのですけれども,過渡的に適法にするという意義があり,そういう規定はあってもいいんじゃないかというふうに思っています。
【土肥座長】ほかにございますか。
【龍村委員】三つのステップがあって,収集,処理,出力という分類をされているわけですけれども,収集の局面,情報の収集のところで送信可能化されていない情報を収集するということは,検索サービスに関連した部分において,送信可能化権に何らかの制約を課すというような観点までも含むという御趣旨なのでしょうか。
【ヤフー(今子)】送信可能化されている情報について,検索サービス提供の場合に限ってそれをバックエンドで複製し,検索結果として公衆送信してもいいと現行法で規定されています。これを公衆が広くアクセス可能な情報,例えば出版されている書籍の情報や,既に放送されている情報など,そういうものまで広げてはどうかという内容の説明でして,送信可能化を見直すということではありません。
【龍村委員】まずは送信可能化を処理しないと収集できませんよね。そういうステップを踏まざるを得ないということではないのですか。
【ヤフー(今子)】送信可能化を……すみません,もう一度教えていただいてもいいですか。
【土肥座長】じゃあ,上野委員,どうぞ。
【上野委員】本日の御提案は,送信可能化されている著作物のみならず,それ以外の著作物も47条の6の対象にするということですが,まずはいったん送信可能化しなければ情報を収集できないというわけではありませんので,そのための権利処理も必要ありませんし,その点について送信可能化権を制限する規定を作るという御趣旨ではないと思いますが。
【龍村委員】送信可能化されていないものも全部対象にしたいわけですよね。
【上野委員】そうですね。
【奥邨委員】龍村委員がおっしゃっているのは,全部をインターネット上で今,送信可能化されていない本を,一旦インターネットにのせて,それを収集するというお話をされているんだと思うんですけれども,多分そうではなくて,グーグルブックスのように自分でスキャンするということも入れてだと思うので,必ずしも送信可能化を伴わない場合もあるんじゃないかと思うんですが,いかがでしょうか。そうでいいんですか。
【土肥座長】バックエンドにこだわるようなんですけれども,そこで複製するということだけをお考えなのか,翻案まで含めて考えておられるのか,その辺はいかがですか。
【ヤフー(今子)】47条の6は翻案についても権利制限の対象とされてはいるのですけれども,例えば大きなサイズの画像をサムネイル用に小さいサイズにするというような機械的な処理は,恐らく,翻案には当たらないので複製でよいのではないかと思っております。御確認をいただければと思います。
【土肥座長】複製でいいということですね。
【ヤフー(今子)】はい。
【土肥座長】ほかにいかがでしょうか。この後,富士通様からのニーズも伺うことになっておりますけれども,いかがでしょうか。よろしいですか。
それでは,今子様,どうもありがとうございました。
【ヤフー(今子)】ありがとうございました。
【土肥座長】続きまして,富士通株式会社から御提出いただいたニーズ,65番でございますが,これについて御説明いただければと存じます。先ほど後紹介したときはまだ御到着ではなかったのですけれども,既に御着席でございます。富士通株式会社の亀井様でございます。よろしくお願いいたします。
【富士通(亀井)】御紹介いただきました富士通の亀井でございます。きょうはこのような機会を頂戴してありがとうございます。
座って失礼をいたします。お手元にはこちらの画面のパワーポイントの紙焼きを御用意いただいておりますが,本日の私の一つの役割は,意見で提出させていただいたCPS,サイバーフィジカルシステムというものが世の中でどう使われていくのかということ,それから,著作権との関係をどう考えるかという辺りの御説明をさせていただき,一般的に余り世の中でほとんど論じられているところがございませんので,是非ワーキングチームの中で御検討を賜りたいと考えております。
まず,それでは,CPSとはということで,私が定義してもこれは信憑性に欠けるところがございますので,ちょっと別の省でございますが,産構審の報告というものを引用させていただいております。2ページから4ページ目までに長らくですが引用させていただいております。若干,2ページのところでアンダーラインを引いております。技術発展がやっぱり急速で,様々なデータがデジタイズされてネットワークに取り込まれる,これは先生方も日常のこととして御認識のことだろうと思います。これで何が起こるかというところがポイントでございます。現在言われておりますのは,あらゆるものがネットワークに直接つながると。これは一番言われておりますのがセンサーでございますけれども,センサーというのは非常に幅広く,例えば映像を撮るようなカメラでもそうですし,音声をとるようなマイクでもそうですし,そういうものが直接インターネットにつながるという世界。そうすると,これまで以上に膨大なデータがそのネットワークの中に,いわゆるサイバー空間に取り込まれるということになるということでございます。
そうしますと,下に書いてございますように,これまで実現できなかった収集,蓄積,解析,それから更にポイントは,解析した結果なり収集されたものが実世界にフィードバックされることで,世の中全体がそれによってまたイノベーティブになっていくという辺りがCPSという概念で語られているところでございます。途中でIoTというところを小さく赤字にしておりますが,ほとんど今は同義で用いられているかと思います。
次のページでございますけれども,実世界のあらゆるものがデジタイズされて,それがインターネットを介して流通される状況が実現されて,その処理,解析によって付加価値が生み出されると。当該価値が実世界に変化を与え,当該変化が更に情報として収集されるという好循環を起こす。これが概念として語られているところでございます。これは下に,じゃあ具体的にどんなところという例もございましたので引いてきておりますが,語尾に着目をしていただきたいのですが,「予見される」あるいは「可能性がある」という語尾になってございます。これはどういうことかといいますと,ちょうど次のページでございますけれども,この社会のICTによる発展の段階が整理されておりまして,今ちょうど第Ⅳレベルの段階だというのがこの産構審報告の趣旨でございます。実世界をデジタルにデータ変換し,そのデータを処理した上で現実にフィードバックするというループの発生という言い方をしています。このループによって何が起きるかはまさにこれから。ここから言われておりますAIがいろいろやり始めるんじゃないかというのがレベルⅤということで次の段階の世界というふうに語られているというものでございます。
次の絵は,これは私なりにこのCPSあるいはIoTの世界をぐっと簡略化するとこういうことだろうということでございます。まず,フィジカル空間にある既存の知識・情報,これがサイバー空間に取り込まれる。既にサイバー空間,インターネット上には本当に多くのデータが上げられている,デジタル化されてネットワークで配信されているのですが,そういうものを含めて,ますますリアルワールドからいろいろなことが入っていくと。この既存の知識・情報の中には,私は当然,著作物というものもあろうかと。知識の塊だと思いますので,そういうものが取り込まれるということもあり得ると思っています。サイバー空間の中で蓄積されたものが解析,変形,あるいは組み合わせられるということで新たな価値を生むというふうに考えております。実世界にフィードバックされて,更に新しい価値へつながってくる。実世界にフィードバックされると,そこで既存の知識・情報となりますので,それをまたサイバー空間に取り込むという,こういう循環になっていくのだろうと思います。ここまでのことは,これは将来に向けて,社会インフラとしての,インターネットを含めたネットワーク空間がこうなっていくということでございまして,今後,このワーキングチームで権利制限の在り方を検討される上で,一つの前提として御理解いただきたいということでまず御説明をさせていただいたということでございます。
これを私なりに著作権の世界に組み込んだらどうなるという絵を作ってみました。これは想定されるサービスがどう起こるかということを,一般論としてそれを述べてみたということでございます。これは画面に着目いただきたいのですが,御説明するところを少しずつ変えてまいります。先ほど申しましたのは,このようにフィジカル空間からサイバー空間に著作物が流入してくると。インターネットの中で,ここで何らかの処理が行われた結果,アウトプットされるということ。これがCPSの多分メインの機能だろうというふうに思います。そして,ここでこれから申し上げるのは,あくまでも真ん中に立つ事業者の行為,ここで起こる利用行為についてどう考えるかということでございまして,こちらの最終的にアウトプットをするフィジカル空間で行われる行為のことはひとまずおいてお話を申し上げるつもりでございます。
まず,見にくかったかもしれませんが,aというパターン,これは現在の検索エンジンのシステムでございます。フィジカル空間から,誰か複製物として取り込むと。そういうものを事業者たるサービスプロバイダーが検索のシステムを提供する。中で行われる行為は,検索の準備行為で,出来上がるものは複製物。私は翻案物とも書きましたが,これはその個々の評価を個別に見るのが普通だろうと思いますので,あえて並べて書いてございますけれども。検索のリクエストをフィジカル空間から出すと,インターネットの中を探して,準備行為の終わったものからサムネイル等で出力するという構造になっているかと思います。私の理解では,これはCPSの典型的な一つの例だと思っております。
それから,次に,bというタイプ。これは,例えば後に説明します機械翻訳なんかもこの類型ではないかというふうに思いますけれども,後ほど言いますように,少し足りないところがあるというふうに考えておりますが,リアル空間にあるもの,あるいは複製物としてインターネット上に既に存在するものを,情報解析の目的で取り込んでいくと。ここの利用行為は,ここにちょっと書きましたが,47条の7で認められている。ただ,この47条の7の前提は,恐らくその解析の結果得られるものは,出力については何の規定もありませんので,恐らく期待されているのは著作物ではないものを抽出する。統計データとして,例えば出現頻度,新聞の中に特定の単語がどれぐらい出現するかというようなことを見た結果の数字を得るというための解析行為を念頭に置いたものだろうと思います。これもサイバー空間に著作物を取り込むという意味では,サイバーフィジカルシステムの一つを構成する要素だろうと思います。
そして,今,お話しするサイバーフィジカルシステムというのは,この赤でくくった部分。ぱっとごらんいただきますと,検索エンジンと解析行為のための利用行為と合わせたような構造になっているかと思います。それで,端的に最も違うところというのは,右側に出力というものを想定されるという点だろうと思います。どのようなサービスがこの上で提供されるかというのは,これは全く予想ができません。私が本日,後ほど挙げる例も想像の世界というものが相当入っていると。多分,このサービス全体を見て,社会的な意義があるというふうに皆が考えられるものと,いや,必ずしもそうじゃないだろうというものがないまぜに出てくる可能性というものを含んでおります。それは時代によっても変わる可能性があるのではないかというのが私の理解です。左下に書きましたけれども,フィジカル空間からサイバー空間に著作物を持ち込む際には,これはライセンスが機能する場合というのも当然にこれはあるだろうと思っております。それによって右側の出力がどうなるかということも変わる可能性があると。非常に一般論としてサイバーフィジカルシステムのところを申し上げると,そういうことになるということでございます。
先ほど,C類型という御質問がございましたけれども,非享受か享受かという定義もなかなか難しいところがございますけれども,非享受型,つまり,利用行為者自体が著作物の表現を認識しないという意味では,恐らく,今子さんがおっしゃっていたバックエンドというものに共通するかと思いますけれども,そこは非享受型の利用なのだろうという理解をいたしました。それから,出力をする部分,ここについては,そのサービスの利益を享受する人といいましょうか,サービスを使う人が著作物としての表現を聞くとか見るとかいう場合も,これはあり得るだろうということで,享受型利用になるのだろうと思います。ただし,これは可能性といたしましたけれども,これは個々のサービスの態様であるとか,あるいは出力されるものが何であるかということによって該当性が異なってくるだろうと。今,アプリオリにどちらかと言えないし,軽微なものに限るとも言えませんし,何とも言えない状況ではないかと思います。非著作物の出力のところは,これは享受には当たらないと思いますけれども,出力するという意味で,図の説明上,一緒に書かせていただいています。
これを著作権法に当てはめてみて,私なりの理解でございますが,現状ではこういうスタイルのものについては47条の5,6,7,9等に該当するという整理はちょっと課題があるのではないかという理解をされます。先生方を前に,非常にこれは口幅ったいところでございますが,想定されるサービスというのはどんなものか分からない中で,このCPSという形のサービスを考えると,恐らく帯に短しというようなところではないのかというのが私の理解でございます。
ごく一般論ばかりを申し上げていても余りイメージを持っていただけないと思いましたので,現時点で私なりにCPSの一つの例だろうと思うところがございますので,機械翻訳の例というのを挙げさせていただいております。この機械翻訳というのは,まさに日本語の特殊性というのを我々は抱えておりますので,なるべく精度の高いものというのが作り上げていかれると,これは国民にとって非常に便利なのではないか。それから,外国から来られる方にとっても,街中を眺めてもほとんど日本語のものしかございませんので,そういう場合にこれが非常に機能するのではないかという気もいたします。これについて実際にシステムの内容というもの,これは非常に私の理解ですので雑駁な技術的な説明になりますけれども,機械翻訳には,今,タイプが二つあるようでございます。一つは,用例ベースの翻訳と言われるもの。もう一つは,モデルを作った,どっちかというと論理的に文章を組み立てるパターン。それが多分,ハイブリッドになって使われていくということだと思います。上の用例ベースというのは,これは京大の長尾先生が御提唱になったということで,日本ならではということだと聞いておりますけれども,例えば,ここに実際の対訳例というものがあると。非常にシンプルな文章ですけれども,これは人間が訳して,外にある現実の著作物であると。それを用例ベースにぱくっとそのまま複製として取り込むと。これを用例ベースの中で,翻訳システムの中でうまく使うと。例えば,右側にあるリクエストで翻訳要求原文というのがありますが,これはごらんいただくように,もともとの「農業は」というところがたまたま「人類は」に変わっただけの翻訳要求原文ですが,これを誰かシステムの利用者が入れますと,humanという単語に入れ替わって出てくるというような,端的に言うとそんなようなシステムでございます。
もう一つの対訳データの方は何をやるかというと,実際の対訳を,まずはコピーしますけれども,これをばらして,論理的にそれがどういう構造になっているのかと。あるいは,翻訳のモデルを作るために使うと。それとともに,対訳で出る辞書の中に一部組み込むということもあるのだそうです。実際の要求原文が来たときにこれを参照しながら,辞書にある著作物の一部,これは「?」と書いてありますが,そのまま入っている場合,結構長いセンテンスで入るというものもあると聞いておりますけれども,それがどう評価されるか分からないということでございますけれども,それが出力されると。これで書きましたように,これが場合によっては,ライセンスが機能すると。せっせと翻訳の用例になるようにということでライセンスを開発するということも行われていると聞いておりますし,一方で,私どもの研究者にヒアリングしてみますと,研究者にとって,最後に複製というように評価されてしまうようなものが出力されてしまうこと自体を忌避して,既存の著作物,他人様のものについてはインプットしないように極力するというようなことを言っている者もおります。非常に窮屈になっているということだろうと思われます。
恐らく対訳データの下のパターンは,これは47条の7,これは複製物が出てしまうと多分,違うという評価かもしれませんが,非著作物,統計的な処理をするということだけであれば既存のものが対応するのかもしれないと。一方で,上のようなパターンですと,これは該当するものではないということだろうと思います。それから,出力についても,これはどの段階で送信可能化になるかというのがあると思いますけれども,これもやはり該当できない場合があるんじゃないかというふうに思うわけでございます。
結局のところ,侵害行為だという評価を受ける可能性を否定しきれないというところで,これは実は今回私も改めて研究者にヒアリングしましたが,かなり足かせになっている感がございます。
続いて,ここから二つの例は,これは私の個人の思いがかなりありまして,あったらいいなというもので並べております。CPSを使った一つの例ということでございまして,ここに書きましたように,まずこれは教育機関で使っていただけるようなサービスを提供できないかということでございます。教育現場に対して情報をうまく使っていただくようなシステムサービスを提供するというのは,これは社会的な意義がやっぱりあるのではないかということで,これは意識して,社会的意義のありそうなものをピックアップしてきておりますので,私の価値判断ではそうだということにすぎないわけですけれども,ここに挙げた例は,現実世界に存在するもの,これは先生方には恐らく真ん中の雲のところを全く捨象してごらんいただくと,多分,35条で言われている教育機関で授業を指導される方,あるいは生徒が,ダイレクトにインターネットにアクセスをして情報を引っ張ってきて教材を作るというのは,現状で多分,認められている世界。それから,リアルのものが欲しければ,そこに行って写真を撮ってくる。それによって活用すれば,これは今でも35条で認められている世界だろうというふうに私は理解しますけれども,ただ,真ん中に入っているのは,何かやっぱり教育機関で非常に困られたり,あるいは遠隔地にあるような,例えば東京の学校の先生が九州の史跡の説明をしたいとしたときに,自分で九州へ行ってその史跡の説明文などの写真を撮ってくるということももちろんあろうかと思いますけれども,例えばそういうサービスを提供できたらどうか。例えば,真ん中のDBに入っている,教材に使用可能なデジタル素材,例えばそれを特定の教科,教程のこの部分ではこういう素材が使えるんじゃないでしょうかというサービスを仮に提供するようなものがあれば,これは先生方は非常に喜んでいただけるんじゃないかという想像でございます。これは実際にいろいろな注記で書いてございますけれども,具体的にものをサイバー空間に取り込むとき,ライセンスというものが非常に機能する可能性もあります。仮にライセンスを受けたものが真ん中のデータベースに混在したとしても,これは出力の仕方で,例えばこの素材を使うなら有償ですよとか,あるいはこれは我々がとってきたから無償ですよというようなこと,あるいはインターネット上にあるので,それは場合によっては言われるだけですよと。本来的には現物を与えたり見せたいわけですけれども,そういうような分類というものを,これはサービス側である程度のことができるのではないかという,例えばそういうものを想定いたしました。
これは,著作権に当てはめますと,やっぱり,できること,できないことというのがあって,例えばURLを知らせるだけなら,これは検索サービスの一環だろうと思いますし,現物でも46条ということで,見えるように置かれている彫刻であるとか建物であるとか,利用行為可能というものもありますので,それが機能する場合。それ以外のものというのは,残念ながら機能しないということだろうと思います。出力しようと思えばやはり問題はあるということです。書きましたけれども,これはお手元をごらんいただければそのままでございますが,なかなか実現するにはいろいろハードルがありそうだということです。
それから,次は,やっぱり社会的な要請という意味でかなり強いのが,これは障害者をどう支援するかということだと思っております。現状では37条,37条の2で,障害者御本人,あるいはそれを支援する方が限定的に著作物の利用行為ができるとなっておりますけれども,そういう意味では支援するサービスというものは,それらにいう支援者に該当する場合というのもあるのかなとは思いつつ,これは一応そこはちょっと切り離して,37条の規定されている範囲外のサービスというものがシステムでサポートできないだろうかということでございます。実際に障害者の支援というのは,これは我々会社の企業活動の上でも日常的にあるわけでございまして,パソコンで音を文字にする,あるいは文字を音にするということも機器としてはできるわけですけれども,サービスとして,例えばWi-Fiで,どこにいてもそれが降ってくるというようなことを考えますと,こういうサービスプロバイダーがいてもいいんじゃないかという思いで書いてございます。
実際に,下に書きましたように,音訳出版のビジネスというものも一部ありますし,研究という意味では,これはNHKさんの記事を私,拝見しましたけれども,手話コーパス,これは手話を映像としてばらばらに多分されるのだと思います。特定の音声が入ってきたときに映像に変換して手話で出すということだと理解をしましたけれども,そういうものが研究されていたり,あるいは,このほかと書きましたけれども,自閉症のお子さんたちには,写真等でコミュニケーションするというようなことがいいんだという御意見もあるようでございます。そういうものがサービスとして提供できるようになれば,もう少しアクセシビリティーが向上するのではないかと。出力の限定の仕方なんかも工夫ができるのではないかというふうに思う次第です。
これはやはり当てはめますと,現状では47条系の権利制限では帯に短いというところがあろうかという,全くこれは同じではないかというふうに思っております。やっぱりこれは何とか実現するといいのではないかというところでございます。
次の2ページは,これは私の勝手な理解で申し上げております。CPSというものに著作物が取り込まれる,複製,翻案され,それからいずれ送信可能化されるということでありますけれども,そういう段階では,それ自体によって,例えば取り込まれる著作物のマーケット,正当なビジネスを侵すということは余りないケースが多いのではないかと,いわゆる非享受型にとどまるのではないかと。ライセンスになじみにくいものも結構ありそうだということでございます。
プロット2ですけれども,CPSだと著作物の出力はある程度する方が社会的意義があるという場合があろうかというふうに思うのですけれども,そうすると出力段階では,これはやはり享受という問題が出てきますので,これは場合によって正規ビジネスとの衝突を起こすのではないかと。一方で,非常に軽微な場合というのもあるのではないかということで,特に出力の程度だとか,出力される部分の著作物性の問題である,あるいはサービスの内容においても,同じサービスにおいても個々の出力内容でどこまでが著作物かみたいなことになろうかと思いますので,それが個々において比較衡量できるようなことがあると,権利制限でもいいんじゃないかと。
それから,障害の皆さんのことを挙げましたけれども,公益的な観点。翻訳をどう考えるかというのはあろうかと思いますが,社会的要請が高いサービスというのも世の中にあるのではないかと。出力として認めた方がいい場合というのがあるのではないかということがあります。
こういう前提で,権利制限のイメージ,これも勝手なことを申し上げます。今後どのようなものがサービスとして提供されるのかというのは,現段階では具体的に特定することははっきり申し上げまして困難だと思います。各社いろいろ,ここぞとばかり考えている。特に,2020年のオリンピックに向けて外国の方がたくさん来日をしていくという中で,どうそういう人たちにおもてなしをするかみたいな観点でも,いろいろなサービスが今,喧々囂々,各社内で検討されているようです。そういう中で,著作物の取り込みとか蓄積,これは複製権の問題だと思うのですが,あるいは出力,あるいは真ん中で翻案行為をするということも含めて,一律に是非が今,判断できないのではないかと。そうすると,個別の事例について,柔軟に目的だとか態様に照らして判断していただける可能性を持つ権利制限ということが要るのではないかというのが私の意見でございます。
それから,今,CPSについて御紹介しましたけれども,これが例えば5年前,10年前にこういったことが語られていたかというと,残念ながら語られていなかった。そうすると,5年後,10年後にどういうふうに社会インフラが変わっていくのかということについては予測できないということになりますので,極力余り特定の技術的な観点から制限をする,限定的な対応で何かで置くということではなくて,将来を見据えて何か機能するようなものをお考えいただくのが非常に有り難いことであるということでございます。
最後に書きましたけれども,やはり個別に社会的意義,目的だとか態様に照らして,一方でそれが著作権者に及ぼす影響を考慮して柔軟に解釈ということになりますと,著作権法の機能が非常に満足されるのではないかというような意見でございます。
以上,雑駁でございますが,説明いたしました。
【土肥座長】亀井様,どうもありがとうございました。CPSという,私たちにとって非常に難しい話を分かりやすくしていただいて厚く御礼を申し上げます。
それでは,質問等ございましたらお願いいたします。大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】いつも同じようなことで恐縮です。ただ,クルーシャルな点だと思いますので,御容赦いただければと存じます。本日いろいろ出していただいたのが,重点のものであるとすれば,条文として,現行法のどの条文の近くに位置付けられるのかということが分かると,イメージが湧きやすいと思います。まず一つありそうなのは,前の方は,いわゆる出力は少し別にしますけれども,出力する直前までの内部的な処理の部分は,例えばC類型で表現を享受しないという話なのかどうかという点であります。また,後ろの方はそのような話よりは,教育なり障害者という,また別の切り口として,従前より広げてほしいということなので,かなり異質なものが混じっているかと思います。このようにいろいろ出していただいたのを,大きなくくりでいうとどういうような位置付けになるのかという辺りから御説明いただくと非常に議論がしやすいかと思いますので,お願いいたします。
【富士通(亀井)】私の理解としては,先ほど今子さんもおっしゃっていましたけれども,バックエンドのネットワークの世界でため込んで,何かそこで処理をするという限りにおいては,恐らくC類型の定義もちょっと微妙なところは私はあると思うのですけれども,非享受型なのだろうというのが私の理解です。
それから,先生の御指摘のように,出力するところは,必ずとは言いませんけれども,享受が起こる,あるいは享受してこそのサイバーフィジカルシステムの効用だということですから,これはそういうものが出てくるだろうと。それはかなり個別に,このサービスのこれは何だっていうふうに見ていただく必要があるんじゃないのかと私は思っています。つまり,おっしゃるように2段階。
【土肥座長】ほかに。前田委員,どうぞ。
【前田委員】ありがとうございました。伺わせていただきたいのは三つほどあって,一つ目が,まず,今,バックエンドでの非享受型利用という話がありましたけれども,この利用というのは,著作物の利用行為としては,複製若しくは翻案ということなのでしょうか,あるいは,公衆送信とか様々な態様も含めるということなのでしょうかという点です。
それから,このCPSによって実現されるサービスの類型ですが,例えば,47条の6だと検索のためとか,47条の7だと情報解析のためとか,そういう目的が付いているわけですけれども,どういう目的に分類されるのかというのも将来的にはなかなか予想し難いという話なのかということが二つ目です。
最後ですが,スライドの最後の真ん中のところに,特定の技術的な観点からの限定的な態様での権利制限規定ではないことが望ましいというお話があったと思います。これは例えばそういった形で権利制限規定があると,技術者の観点からすれば実質的にはそんなに変わらないのに,著作権法の規定に合わせるために特定の技術の方向への開発を強いられるとか,そういう問題があるという御認識なのでしょうかということです。
以上です。
【富士通(亀井)】では,順番に御説明しますが,ここで行為Xと書いてございます。行為FXと書いてございますけれども,これは何をするか実は特定今はできないと。恐らくは出てくるものとしては,明らかに多分,複製物か,明らかに翻案物のいずれかだろうということで,行為として例えばサイバー空間の中であちこち送られる場合もあるかもしれません。それは公衆送信に当たるかとか,そういう議論かもしれませんし,そこはちょっと利用行為としてまだアンノウンとしか言えない。多分,機械翻訳なんかですと,先ほどのようにばらすとか,あるいは一部用例として取り込んだ辞書にするとか,多分,複製行為だと思いますけれども,特定できないというところです。
それから,2番目,47条の6の目的……すみません,2番目の御質問を。
【前田委員】このサービスで実現しようとしているサービスの目的というのが,既存の権利制限規定の目的のところにどれぐらいうまくはまるものなのかということです。
【富士通(亀井)】この図の前のところで御説明をしましたが,多分,いわゆる所在検索というサービスなら情報検索という目的という点ではあてはまると思います。上位概念だと私は理解していますけれども,サービス全体をみると,47条の6ですと,はまらないことになります。それから,先ほどのように,分析だけでとどまるものについては同じように出力しない47条の7が機能する。出力する場合は機能しません。それから,利用行為が,先ほどのようにアンノウンですので,複製,翻案と書いてあると機能しない場合があると。これは場合があるというだけで,機能するかもしれませんししないかもしれない,何ともそれはサービスによってということだと思います。
それから3番目に,技術的対応が限定的になっていると技術者にとって困るのではないかというのは先生御指摘のとおりだろうと思います。少しずつ技術は変わっていくと。特に,このインターネットの世界というのは,登場して20年ぐらいですけれども,その使い方というのは非常に大きく変わってきている。ビジネスのモデル,どこで儲けるかということもどんどんいろいろな新しいアイデアが出て,儲け方が変わるみたいなところがあると思います。それに対して,技術がそれを裏打ちして,どういう技術を活用してどこで儲けるかというモデルを作るわけですけれども,技術的にちょっとだけ違っているみたいなものは,技術が非常にエボリューショナルに進行しますので,そのエボリューションというのは本当に微妙な差分だったりいたします。そういうものに対して,余りに技術オリエンテッドに規定が置かれていると,技術者が困るという問題が起きるというふうに理解しております。
【土肥座長】ほかに。奥邨委員,どうぞ。
【奥邨委員】CPSについては非常に分かりやすく,ありがとうございました。そこで,更にCPSの先もお話がありましたので,そこの将来技術動向も含めての御質問ですけれども,サイバー空間での様々な処理,現在は人間がプログラムして行われる比重が高いと思いますけれども,先ほどのお話であれば,それが将来,どんどんと人工知能が主になっていくと。というと,個々のサービスの中身というよりも,そもそも人工知能を高度化させるためにディープラーニングという言葉がありましたけれども,人工知能に著作物を含む様々な現実世界の情報をインプットしていくことが重要になってくると。だから,そのための著作権で言えば,複製,翻案が必要になってくる。現実世界をサイバー世界に取り込む,デジタル化されていないものをデジタル化するというところの権利制限も更にCPSの先を見込んでいくと,より重要になっていくというようなお話だったのかなというふうに理解したのですけれども,それでよろしいか,若しくは何か御意見があればと。それはさっきの龍村委員と今子さんとのやりとりにも関係するのですけれども,ちょっと伺えればなというふうに思いました。
【富士通(亀井)】最初の御質問,私も同じように,先生の御意見に近しいところでございます。AIというものがどれぐらい発達するのか,それからAIが仮に,創作と呼んでいいかどうか分かりませんが,何か情報を出力したときに,それが一見著作物だったらどうするかみたいな議論はまた先の議論だと思いますし,その以前の前提の問題として,サイバー空間にいろいろなものが取り込まれていくと,人間が持ち得るべき価値というものがいろいろ出てくるのではないかということが期待されるところだと思います。
それから,2番目の,先ほど龍村先生と今子さんの御説明というと,まずは,先ほどの図の取り込むところと何かして送り出すところって,あえてディスクの絵を分けて書いたのですけれども,少なくとも取り込まれるところは送信可能化というよりは複製という評価をすればいいのではないかというのが私の意見でございます。
お答えになったでしょうか。
【土肥座長】よろしいですか。
ほかにございますか。よろしいですか。
それでは,予定されている時間を若干超えているのですけれども,亀井様,どうもありがとうございました。
【富士通(亀井)】どうもありがとうございました。
【土肥座長】それでは,もう1点,若干,重要というんでしょうか,議題がございまして,その他で,本日事務局よりTPP協定で定められております著作権法整備に関わる事項について説明を頂きたいと存じます。それでは,事務局からお願いいたします。
【秋山著作権課長補佐】時間を過ぎておりますので,端的に御紹介いたします。参考資料7と参考資料8にTPP関係の資料を御用意しました。TPPに関しては,10月の上旬に大筋合意に達しまして,政府全体としては適宜情報の公開をしてきたところです。協定の条文そのものについてはまだ確定しておりませんで,公開できる状況ではないという前提で,内容のポイントを現時点でのものとしてここでお示ししているものであります。参考資料7はTPP協定の中の知的財産関係のもの全体についてでございます。細部は御紹介いたしませんけれども,例えば2ページの方では一般規定ということで一番上の方で,協定の内容に関しては国内の法制度の範囲内で適当に方法を決定することができるということですとか,あるいは三つ目の丸,内国民待遇に関する一般原則などが定められてございます。
また,(2)の著作権及び関連する権利としまして,権利の保護に関するものがございましたり,また,二つ目,保護機関に関すること,そして三つ目として権利の制限,例外に関すること,そして四つ目で技術的保護手段,五つ目,権利管理情報といったことが書かれてございます。
また,4ページの方ですけれども,民事及び刑事に関する手続に関しても規定がございます。この権利行使の民事関連というところには,法定の損害賠償又は追加的損害賠償といったこともございまして,この次の資料で若干言及をいたします。また,刑事に関しては非親告罪に関しても規定がございます。
その他,国境措置関連のこと,衛星・ケーブル放送信号に関すること,それから5ページ,インターネット・サービス・プロバイダに関することなどが定められておるところでございます。
続きまして参考資料8ですけれども,こちらはTPP協定において定められている著作権の関係事項を見たときに,我が国において協定締結のために著作権法の改正の必要があるかどうかを検討するべきではないかと思う事項が以下5点であるというふうに現時点では整理しております。こちらについても今後,政府において一層の精査が必要というものでございます。
事柄としまして簡単に御紹介いたします。1番,保護期間の延長に関して,今,50年とされているものを70年とするというもの。それから,著作権侵害罪の一部非親告罪化がございます。こちらは,商業的規模で行われるものであるとか,あるいはただし書に書いてあるような,一定の範囲に限定した著作権侵害罪について非親告罪とするとなってございます。
それから,2ページをお願いいたします。3としまして,効果的な技術的手段に関する制度整備ということで,これまで技術的手段に加えてアクセスコントロールと,いわゆるそういうふうに言われるようなものについても新たに対象としまして,その回避行為ですとか,回避装置等の流通に関する制度の整備が要請されております。また,それに対応する例外規定の整備も可能ということでございます。
それから,4番は,こちらはちょっと省略させていただきまして5番に入りたいと思います。5番では,法定の損害賠償又は追加的な損害賠償に係る制度整備が求められてございます。その内容に関してはここに記載のとおりでございまして,どういうものを法定の損害賠償とするのか,追加的な損害賠償とするのかというのはこういう協定の記載も参考にしながら,国内法体系において検討していくということになろうかと思います。
説明は以上でございます。
【土肥座長】ありがとうございました。
ただいま事務局より説明がございましたTPP関連の問題については非常に大きな問題でございまして,これにつきましては,今後,著作権分科会の法制基本問題小委員会において検討を行うということになろうかと存じます。
本日の議事は以上でございます。最後に事務局から連絡事項がございましたらお願いをいたします。
【秋山著作権課長補佐】次回のワーキングチームに関しましては,日程調整の上,追って御連絡したいと思います。ありがとうございました。
【土肥座長】それでは,これで,新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの第2回を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
―― 了 ――

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