文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会
平成28年度「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」(第4回)

日時:平成28年12月20日(火)
16:00~18:30

場所:文部科学省東館3階第1講堂

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方について
      1. (i)所在検索サービス・情報分析サービスについて
      2. (ii)翻訳サービスについて
      3. (iii)システムのバックエンドでの複製について
    2. (2)著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等について(作業部会検討経過報告)
    3. (3)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
所在検索サービス・情報分析サービス等に関する論点及び第3回ワーキングチームにおける議論の概要(246KB)
資料2
翻訳サービスに関する論点及び第3回ワーキングチームにおける議論の概要(155KB)
資料3
システムのバックエンドでの複製に関する論点(案)(85.5KB)
資料4
著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等について(作業部会検討経過報告)(301KB)
資料4別添
著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する調査研究 中間報告(1.7MB)

議事内容

【土肥座長】定刻でございますので,ただいまから,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」の第4回を開催いたします。

本日はお忙しい中,御出席をいただきまして,まことにありがとうございます。

議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥座長】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

初めに,人事異動があったようですので,御報告をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御報告申し上げます。11月7日付けで文化庁長官官房付としまして水田功が着任しております。

【水田長官官房付】水田でございます。よろしくお願いします。

【秋山著作権課長補佐】それから,11月1日付けで著作権調査官としまして澤田将史が着任しております。

【澤田著作権調査官】澤田でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第の下のところを御覧ください。配付資料1としまして,所在検索サービス・情報分析サービス等に関する論点に関する資料。資料2としまして,翻訳サービス。資料3としまして,システムのバックエンドでの複製に関する論点を御用意しております。それから,資料4としまして作業部会での検討経過報告,そして,その別添としまして関連する調査研究の報告書を御用意しております。不備等ございましたら,お近くの事務局員までお伝えください。

【土肥座長】ありがとうございました。

初めに,本日の議題の確認をいたしますと,本日は,(1)新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方について,この中が1から3までございますけれども,それから,2番目として著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等について,そして(3)のその他,この3点となります。

早速,1の議題に入りたいと思います。前回のワーキングチームにおいては,本ワーキングチームとして優先的に検討することといたしましたニーズの中で,所在検索サービス・情報分析サービスについては,米国のフェアユース法理に関する判例の御紹介も交えつつ御検討をいただき,翻訳サービスについても,政府計画等を踏まえて検討をいただいたところでございます。

これらのサービスについて,前回の議論を踏まえ,さらに議論が必要と考えられる論点を中心に検討を深めたいと思っております。また,本日は,システムのバックエンドでの複製についても議論をいただきたいと存じます。

では,まず最初に所在検索サービス・情報分析サービスについて,論点及び前回の議論の概要を事務局においてまとめていただいておりますので,これについて御説明をお願いできればと存じます。

【秋山著作権課長補佐】お手元の資料の1を御用意ください。こちらの資料は,前回のワーキングチームにおいてお示しさせていただきました論点に関する資料に,前回のワーキングチームにおける議論の概要を付け加えたものでございます。順次,御説明申し上げます。

前回の資料におきましても,1のデータベースへの著作物の収集行為等については,これはいわゆる非享受型の利用であるということで,議論はおおむね収れんされたというふうに理解しております。

また,2番,所在検索又は情報分析の結果提供の際に行われる著作物の表示につきましては,論点の1としまして,権利制限の正当化根拠について御議論いただきました。こちらは,これらの議論を踏まえまして,正当化根拠に関する整理案のたたき台を議論の素材としてお示しした上で御意見を頂戴しました。

2ページでございますけれども,第3回,前回のワーキングチームにおきましては,個別に御意見の紹介はいたしませんが,大きなところとしましては,たたき台としてお示しした正当化根拠の整理案の考え方に賛同する趣旨の御意見が複数あったものと理解しております。こちら,詳細は割愛いたします。

4ページをお願いいたします。次に,論点2としまして権利者に及び得る不利益への配慮,これは,仮に権利制限規定による対応の正当化根拠が認められるとした場合に,さらにどのような配慮が必要かという論点でございます。

論点2-1としましては,サービスの提供態様に応じた権利者の本来的市場への影響について,どのように考えるかという論点をお示しいたしました。

少し飛びまして,第3回ワーキングチームにおける議論の概要のところでございますけれども,ここにありますように主従関係や検索方法などの固定的な基準によるのではなく,新たな知見を社会にもたらす付加価値を創出するサービスの目的上,正当な範囲であるかと。言い換えますと,コンテンツの提供そのものを目的とするサービスと評価できるものではないのか。そういう基準を持ちまして,サービスの提供態様や利用者の著作物の利用態様を見て,総合的に判断するべきという趣旨の御意見が複数出されたというふうに理解しております。

少し飛ばしまして,6ページをお願いいたします。論点2-2としまして,表示される著作物の質的・量的な程度との関係で,権利者に及び得る不利益をどう考えるかという論点をお示しいたしました。

前回の議論を総合しますと,1つ目の御意見としては,軽微であることを一律に求めるべきではないという御意見。それに対して,質的・量的な程度を1つの要件と考える必要があるのではないかという御意見。3つ目としまして,予測可能性と使い勝手のバランスに配慮すべきという御意見に大きく分けられるというふうに整理をいたしました。

少し御紹介いたします。マル1,軽微であることを一律に求めるべきではないという御意見の中では,正当な目的のために非本来的で付随的に使われれば多くは軽微になるということですが,必ずしも絶対的にそうあるべきかというと,それは他の要素とのバランスの中で判断すればよいのではないかという御意見でございました。

一方で,ほかの意見としましては,現行の47条の6に着目をされまして,現行法でも「必要と認められる限度」と書かれておりまして,これで対応がなされていることを前提としまして,さらなる具体的な基準などを設けることには消極的な御意見であったというふうに承知しております。

これに対しまして,マル2,軽微でないものを除外することに肯定的な意見でございます。1つ目,軽微でない利用は,権利者に対する不利益が大きく認めるべきではないという理解が権利制限の前提になっているということでありまして,そうしますと,軽微性は要件として残しておく必要があるのではないかという御趣旨の意見でございます。

それから,次の矢印,論点2-1の趣旨を踏まえた上でも,さらに2-2としまして,質的・量的な部分は無視できないという趣旨とも考えられるということで,こうした質的・量的な程度の要素を要件として何らか残すということはあり得るのではないかという御意見がございました。

マル3は,その両者の間でバランスに配慮すべきという御趣旨だと存じます。詳細は割愛いたします。

それから,次のページでございますけれども,これ,ちょっと種類の違う御意見で,軽微性ということを判断するに当たっての考え方に関する御意見でございます。1つ目の矢印,軽微性の判断といいますのは,著作物の種類ごとの特性や個別事情を踏まえた総合考量によるものではないか。それから,2つ目も同様でございまして,軽微性というのは,価値的・相対的概念ではないかという御意見を頂戴しました。

この論点につきましては,以上,御説明申し上げたように,若干御意見の相違といいますか,複数の御意見がございますので,さらに御議論をいただきたい事項として点線囲みの内容を御提案申し上げます。

論点1における整理では,権利制限の正当化根拠を構成する要素の一つとして,サービスに付随して提供される著作物の範囲が軽微なものにとどまるのであれば,基本的には権利者に与える不利益の度合いは小さなものにとどまるということが挙げられております。

このような考え方を前提とし,かつ軽微性を価値的概念と捉えた場合において,軽微な範囲を超える利用を権利制限の対象とすべき場面として,そういうものがあるのかどうかということと,あるとしますと,どのようなものが考えられるのかという論点を御提示したいと思います。

続きまして,8ページをお願いいたします。論点2-3としまして,著作物の種類ごとの特性や個別事情等に応じた不利益というものが考えられるのかという論点でございました。

この点につきましては,前回の議論におきまして,核心部分の表示等が場合によっては権利者の利益を不当に害することとなる場合もあるということを前提としつつも,一律の具体的な基準を設けるのではなく,事案に応じて権利者の本来的市場への不利益の度合いを勘案して対応がなされるべきといった御意見が複数示されたというふうに理解しております。

この論点は以上でございます。

続きまして,10ページ,論点2-4でございます。権利者による利用廃絶の意思が明らかにされている場合についての議論でございます。こちら,前回の議論におきましては,権利者の意思を考慮要素として重要だとしつつも,その具体化に当たりましては工夫が必要だという御意見。それから,一律にオプトアウトを認めるということについては消極的な御意見がございました。

この論点につきましても,さらに御議論いただきたい事項として点線囲みのとおり,利用廃絶の意思を尊重すべき場合の有無,それから,尊重すべき場合があるとした場合の方法などを御議論いただきたいと存じます。

最後のページ,11ページ,市場が形成されている場合についての論点でございます。

こちら,前回の議論では,独占的にサービスを提供していた事業者の市場独占の利益ということについて,不利益として考慮すべきではないという御意見がございましたし,また,権利制限により利用できる範囲を超えた著作物の利用を許諾することで,そうした権利者はライセンスビジネスを継続することも可能だということで,その点にも注意が必要だという御意見がございました。

この論点に関しまして,さらに御議論いただきたい事項として点線囲みでございます。具体的には,論点1の整理案におきましては,権利制限の正当化根拠を構成する要素の一つとして,契約による対応困難性が挙げられております。仮にサービスの実施に必要な著作物の相当部分についてライセンス環境が整っているという場合においても,権利制限によりサービスを実現することは正当化されると考えるべきか,それとも,ライセンスを受けるべきと考えるべきかという論点を加えさせていただきました。

御説明は以上でございます。御審議のほどよろしくお願いいたします。

【土肥座長】ありがとうございました。

それでは,順に議論に入りたいと思います。ただいま事務局に整理いただいたとおり,所在検索サービス・情報分析サービスについては,論点の2-2,2-4,そして,2-5,この3つについてさらに議論を必要とする,このようなことでございます。

そこで,最初に,まず論点の2-2について意見がございましたらお願いをいたします。論点2-2でございます。ここのところについては軽微ということで考えておるところでございますけれども,軽微である以上は,原則として権利者の利益というものは基本的に害さないという考え方になっておりますけれども,さらに,この軽微というものを価値的・相対的に捉える場合であっても,権利者の利益というものを考慮しなければならない場面というのはどういう状況があるのか。こういったことについて意見を頂ければと思いますけれども,上野委員,お願いします。

【上野委員】この情報分析サービスや所在検索サービスについて権利制限する正当化根拠の一つが権利者の不利益が「軽微」であるということであるならば,少なくとも出力の部分につきまして,それが「軽微」であることが担保されなければ,権利制限規定を設けることができないということになるのだろうと思います。

ただ,現状の47条の6は,すでに一定の範囲で出力を認めているわけですけれども,文言上は,「軽微」という言葉がありません。ですけれども,インターネットの情報に限った検索サービスであるということや,あるいは,その目的上「必要と認められる限度」であるということが要件となっていることから,結果として,その出力が実質的には軽微な範囲にとどまっていると理解できるのかなと思っております。

そうであれば,今回,情報分析や所在検索等のさまざまなサービスについて権利制限を設けることになるとしても,結果として,実質的な軽微性が確保され,権利者の利益を不当に害しいということが担保されるのであれば,文言的には,一律に「軽微」という言葉を用いる必要はないように思います。

少なくとも,現状の47条の6に新たに「軽微」という文言を入れることは望ましくないのではないかと考えておりますが,例えば,それ以外の情報分析サービスについてだけ「軽微」の文言を入れるといったようなやり方はあり得るのではないかと思います。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかに。大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】これは,実際に文言を組んでいく際には,先ほど座長が説明されたところに非常に表れているかと思いますけど,ここの全体の思想というのは,先ほど軽微という言葉で実質的に権利者を害していないというところのクリアな線は出さないと,前回も何か総合考慮に入れてしまえばいいんじゃないかという話もあったんですが,そうすると,何ゆえこれが正当化されるのかとか,どの範囲まで,これ,やはり柔軟性を持たせるんだけれども,やはり一定のコンセプトがあって線がクリアに理解できる,そこを担保するためには,最終的に法律にするときにどういう文言になるかは別として,やはり先ほどのような意味での,また繰り返しになっちゃうかもしれませんけれども,これが恐らく24年のときに非類型でみんなが納得した範囲でもあるんで,非享受型のものは,基本的には軽微で権利者に害する度合いも低かろうということが全て前提になって,おおむねコンセンサスがあったところでありますので,そこの基本線は出した方が。

柔軟性は保ちつつも,基本線はきちっと出した方がいいんではないかというのが1点と,それから47条の6のところは,「必要と認められる」という文言になっていても,全員の理解の中では,この必要と認められるものというのは,道しるべと呼ぶかどうかは別として,権利者の利益になっているからという点も含めて,権利者に対するダメージというのは特にないという意味で,軽微だという前提で選ばれた必要という言葉で,別にこれは必要というのが軽微を超えて,大幅なものとか,そういうことでもないんで,この必要という言葉の中にも,審議会でみんな納得した際にも,サーチエンジンで普通にスニペットで出ている程度のものは,先ほどのような利益を害さないという意味での軽微性は満たしているという理解ですので,別に文言が必要となっているか,軽微かは別として,基本概念は先ほどのような意味での軽微だと思いますので,そこのところはきちんと残しておくことが,柔軟性を保ちつつも,きちんとどこまで線が引かれるかというところがクリアに理解できる,この最低限のところがクリアに示すことになるんではないかと思っています。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかにございますか。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】今のところに関連してなんですけれども,もともとここで出てきている所在検索サービス・情報分析サービスに関しては,カテゴリカルに著作物の使い方として権利者に対しての影響も少ない。何をもって軽微というかというなところもあって,そういう意味においては47条の6と余り変わらないような類型。

ただ,技術が進んでいき,私たちのネット上のコンテンツの使い方が出てきたので,47条の6の考えているようなインデックスを調べるだけでは足りないから,新しいいろんな利用を入れるということであるとすると,47条の6,これ,条文の作り方にもよりますけれども,47条の6が必要ということで済んでいるのであれば,ここにあえて軽微という言葉を使うと,こちらはまたちょっと違う概念なのかなということになって,そのことの差がかえって使いにくくなるということはよくないだろと。

今まで御議論が出ているように,カテゴリカルにこれが正当化根拠を前提にすれば,軽微でなければいけないということは前提だと思うんですけれども,やはり規定ぶりとしては,余り強く軽微ということを前面に出し過ぎると,特に技術の進歩等々が予想される分野ですので,実際の使い方のところで過度にブレーキがかかってしまう。その点は,現在47条の6が解決しているようなことで解決できるんであれば,それでもいいのかなというようなことを思っております。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございます。ほかにございますか。

何分,送信可能化された情報というものから,広くこの情報検索サービス等の対象が広がるわけでございまして,今,奥邨委員のおっしゃったような少し萎縮的な,そういう効果があるのか,大渕委員がおっしゃるように軽微というふうな概念であっても,必要と認められる範囲であっても,いずれにしても,価値的な相対的な概念であれば,余り実際には影響を与えないのかな。その辺が非常に難しいんだろうと思いますけれども,いかがでしょうか。ほかに,もう一方ぐらいいかがでしょうか。

せっかくこういうものを入れるわけですので,そういうサービスの提供者の手足を余り縛っても意味がないことになりますので,今出てきております軽微なり,必要と認められる範囲というような,そういう考え方は,どちらにしても必要なんだろうなというふうに思うところでございますが,いかがでしょうか。この1点目についてはよろしゅうございますか。よろしいですか。はい。

では,次の2-4ですね。2-4のところは,利用廃絶の意思,オプトアウトが明らかにされている場合の話でございます。これも非常に微妙な難しい問題があろうかと思いますが,送信可能化された情報であれば,割合,オプトアウトについては対応がしやすいんだろうと思いますけれども,あらゆる対象に広がっていきます場合に,このオプトアウトをどうするのかというのは結構難しいんではないかと思いますけれども,この点について御意見いただけませんか。いかがでございましょうか。はい,ありがとうございます。

【大渕座長代理】これは,オプトアウトと今言われたのが実際上難しいかどうかは別として,これを入れると,前もどなたか御指摘になりましたけれども,正当化根拠が一気に強まるというか,恐らくサーチエンジンもそうだったかもしれませんけれども,権利制限がなくても黙示の許諾ということで説明できる範囲もあるかと思うんで,それはもう先ほどのように本人にとっても利益になるし,これはもう黙示的に認めているということで,特に改正がなくても問題なかったぐらいの話なので,そういう意味では,黙示の許諾という意味でのオプトアウトというのは,それだけでも独立の,権利制限と並ぶような,正当化根拠となるぐらいの大きいものなんですが,それはそれとして,この中に組み入れることによって,嫌であれば出られるのに出ていないということは,さっきのように社会的な必要性があるのに加えて,そういう黙示の許諾的なものも取り込めば,さらに正当化根拠が強まりますし,他方で明確に出てしまえばいいということで,オプトアウトを入れていないのに比べると,また別の意味でのクリアな線が引けるかと思います。

そういうところをうまく使っていければ,利用者のためにも,権利者のためにも,要するに意思の契機というのは非常に重要なところがありますので,出られるか出られないかというところをうまく組み入れるような工夫ができれば正当化根拠も強まるし,それぞれの事情に応じた,意思に応じた使い分けというのが可能になりますので,ここのところはうまく入れていく工夫ができればいいんではないかと思っています。

【土肥座長】ありがとうございました。おっしゃるように制度化根拠,ここは十分重要なところでありまして,新たな知の創造とか,情報アクセスへの改善,こういう目的を持って,このことをやっていくわけでございますから,その趣旨を実現できないようなことであってはよくないわけでありますし,何よりも軽微なり,必要と認められる範囲というのがあるわけでございますので,例えば資料なんかにございましたね,転載禁止とか,そういうような表示がある場合についてどうなるのか。無断複製禁止とか,こういうようなところもあるわけでございます。こういうようなものをどう見ていくのかということなんですけれども,前田委員,どうぞ。

【前田委員】今もお話がありましたけれども,こういった権利制限規定を認めることの根拠というのは,権利者の意思の推認だけではなくて公益的な観点からも,所在検索サービスとか情報分析サービスとかそういったものを認めていく必要があるというところに求められると思うんです。そういう意味では,オプトアウトを常に認めるという方向にすることには,そういう公益的という観点からは問題があるかもしれないという指摘はできると思います。

一方で,所在検索サービスや情報分析サービスとして,具体的には様々なサービスが考え得ると思うんです。そのサービスの種類によっては,それに参加したくないというふうに考える権利者の利益というものにも,正当化できるものがある場合というのもあるとは思うんです。具体的にどういうものが挙げられるのかと言われると,すぐには正直思い付きませんけれども,そういう場合に備えて個別的にオプトアウトの道を用意しておくという可能性は排除する必要はないのかなとは思います。

ただ,一般的にオプトアウトを認める規定を作った方がいいかと言われると,それはまたちょっと違う話なのかなというふうに私は思っております。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかに。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】今の前田委員の御発言にプラスしてですけれども,基本的には私も,正当化根拠を高めるということも全くそのとおりでありますし,一方で,すべからくとすると,先ほどから同じことを申し上げる形で,技術の進歩であるとか,サービスのいろんな態様があるので,pros cons,両方あるんだろうと思います。

さらに,オプトアウトを認める場合,47条の6の場合はrobots.txtという形で,特定のやり方が業界標準になっていたという非常に恵まれた状況があって,それでも条文の中には書き込めず,結果的には政令なり省令で指定するという形で,一段階落とした形ということになっています。それは,将来的にはrobots.txtでない形になるかもしれないからということであります。

そういう意味において,今,前田委員からも道を残しておくという御指摘もありましたが,一方で道を残しておきつつ,さらに技術的なフィージビリティーであるとか,現実性であるとかいうことも,やはり考慮要素の中には入れておかないといけないのかなというふうな気がいたします。

特にネット上のものについては,いろいろな対応ができると思うんですが,もう既に世の中に出てしまっている有体物媒体のものについてオプトアウトとなりますと,なかなか難しいところもありますし,それを機械でやれるのか,人間がやれるのか等々,いろいろ考えていきますと,なかなか難しいところもあり,また,この規定自体の必要性のところとも関わるところもあると思うので,技術的,経済的,いろんな状況を踏まえたフィージビリティーが,ある範囲でというふうな限定をある程度入れるとしても必要なのかなと。その辺は,プロバイダ責任制限法の技術的措置手段とか,そういうのもある程度考慮されると言われるのと同じような形で,何らかの歯止めがあった方いいのかなと。その辺で両方を立てるというようなことができないかなと。こういうふうに勝手に言うと,また条文を作る方は大変だと思うんですけれども,そのようなことを思う次第であります。

【土肥座長】ありがとうございました。では,上野委員,どうぞ。

【上野委員】この論点に関しましては,まず「廃絶」という言葉は,日本の著作権法では,著作者の確信不適合に基づく出版行為の廃絶という特殊な場合に使われているものですので(84条3項),この報告資料が,47条の6の収集禁止に関連して「廃絶」という言葉を用いていることには,ちょっと違和感があります。

もちろんこれは言葉の問題に過ぎないのですけれども,内容については,現状の47条の6もいわば一定のオプトアウトを認めていると言えるわけですので,同条を「送信可能化された情報」以外の情報に拡大し,また,さらに情報分析サービスにも拡大するということになると,これと同等の手続が確保されてしかるべきだという考えは妥当なものだろうと思います。

ただ,今,奥邨先生も御指摘になられましたように,インターネット上の情報以外の情報が対象になる以上,どのように意思表示すればオプトアウトとして認められるかは難しい問題だろうと思います。例えば,「禁止」と書籍の奥付に書けば,それでオプトアウトしたことになるのであれば,書籍内情報検索サービスを行う場合は,そのような表示があるかどうかを全部見なければならないことになり,現実的な運用はなかなか困難ではないかと思います。

そこで,この点に関して何か名案があるならば,このようなオプトアウトを認めるのがよいと思います。ただ,その場合でも,オプトアウトの対象をどうするかが問題になるように思います。現状の47条の6では「収集を禁止する措置」(著作権法施行令7条の5第2号)ということになっておりますが,今回新たに作る規定に関しては,「収集」をも禁止できるようにするのか,それとも「出力」のみを禁止できるようにするのかということは,どちらもあり得るように思います。つまり,オプトアウトされても,収集だけは常にできるが,出力はできないという方法もあります。たとえ収集しか許容されなくても,例えば,書籍内検索の結果として書誌情報の提供だけ行うといったサービスは可能になると考えられますから,それでも一定の意義があるように思います。

この点,収集と出力の両方をオプトアウトできるようにすべきだという考えもあろうかと思いますが,この規定についてそのようにしても,収集はバックエンドで行われるものと言えそうですので,それは後ほど問題になる「システムのバックエンドでの複製」に当たり適法になる可能性もあるように思います。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございました。この点,ほかにございますか。龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】オプトアウトの対象,あるいはオプトアウトのレベルには様々なものがあるような感じも受け,経済的な意味で普通のライセンスになじむレベルの収集というものと,みずからの所在を検索されたくないという次元の利益,いわば人格権的レベルといいましょうか,何かそういうものもあるのではないか。例えば忘れられる権利という議論が最近ありますが,所在があることをも知られたくないというレベルの情報,犯罪前科情報であるとか,そういった人格レベルに達するものがないか。著作権でも,著作人格権には公表するか否かを判断できるという内容があるわけです。

それから,今,上野先生も御指摘になられたように,情報の収集はなされてもやむを得ないが,それに対して,削除要求など積極的に情報の所有者側にアクションを求める制度設計もあると思います。

【土肥座長】ありがとうございました。大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】私,最初に一般的にオプトアウトと申し上げましたけれども,今までも出ていたとおり,47の6のときには割と比較的にすっとできたんですけれども,今度はそれ以上のものを考え出すと,先ほどのフィージビリティーの話もあれば,それこそ忘れられる権利から,人格のコアのところまで踏み込んでくるというところもあったりもするので,そのあたりはオプトアウトをどう組むのか。もう表示はされたくないけれども検索ぐらいはいいとか,いろいろあるんで,ただ,もともとオプトアウトというのが黙示の許諾的な面があるんで,その辺は,本来は細かく組まざるを得ないところがあるんですが,それが法制上どうなるのかというところが,完全に黙示の許諾であれば,その辺は全部,契約法理でできるんでしょうけれども,これを法律の中に入れ込むと,いろいろ難しい点が出てくるとは思うんですけれども,やはり最後は拡大すればするほど,一般化すればするほど,そういうところは入ってこざるを得ないのかな。

だから,そこの配慮を忘れないように。オプトアウトと一言で言ってしまうのは簡単なんですけれども,そこはフィージビリティーがあるのかとか,どのレベルかというところは,実際,こういうふうに一般化すればするほど,こういう問題というのは非常に大きくなってくるんで,ここのところはきちんと早いうちから,オプトアウトといっても,いろいろな範囲というかレベルというか,いろんなことを考えなきゃいけないという。

ただ,それを組むと,やはり正当化根拠が上がってくるのは間違いないけれども,そこは大変だけど,ちょっと配慮しつつ進んでいくということが必要だと思う。

【土肥座長】ありがとうございます。確かにいろいろ難しいところはあるわけでございますけれども,著作権法がどこまで,今,ここでおっしゃっておられるような利益を実現できるのかというところはあろうかと思います。正当化根拠というものを踏まえた上で,そしてフィージビリティーというのが出てまいりましたけれども,そういうフィージビリティーを確保しつつ,著作権者ですけれども,その利益というものを守っていくという,非常に狭いところを探していくことになろうかと思いますが,それを是非実現していきたいというふうに思いますので,よろしくお願いしたいと思います。

では,次の2-5ですね。これは,市場が形成されている場合の話でございます。情報検索サービス等において,この市場の形成についてどの程度配慮していくべきなのか。ここについて御意見を頂きたいと存じます。いかがでしょうか。

【大渕座長代理】これ,前,教育のところでもライセンス市場との関係等あって,それとの関係が今までちゃんと整理されていなかったので,ちょっとここの点も考えましょうという口火を切る意味で挙げたんですけれども,あのとき私も折に触れて強制ライセンスと言ったりしていた。あれは教育だから何でも使っていいというよりは,本来は契約で処理するのが好ましいけど,実際は契約ができていないんだから,ここのところはという意味では,排他的なものは一定の範囲では制限されるけれども,強制ライセンス的なものは,全部ではないかもしれませんけれども,補償金で賄いましょうというふうに,どうしても,そういうような。本来,契約でやるべきものを契約での可能性が高くないので,強制ライセンス的にやるとなると,どうしても補償金というのがひっかかってくる。

こちらの方は,もともとがそういう発想できていなくて,道しるべ的なものだから,もっと公益的なもので,それこそ権利者の利益にもなるでしょう,先ほどのようなところまで一般的にはなるということなんで,教育でやっているような意味でのライセンス市場への配慮というのは必要ないんではないかなというふうには思っている。

ただ,心配なのは,この道しるべのところにきちんと限定されていれば,その範囲ではいいんですけど,実際は,これはどっちにとるかは別として,普通は,道しるべよりは多少,対象範囲なのか,いろんな意味で利便性を高めて契約をしているという,そういうところは潰さないようにしなければいけないんで,道しるべをきちんと絞るということが一番重要ですけど,必要以上に拡大してしまうとビジネスが全部潰れてしまって,付加価値があるようなものの進展が今後潰されていくということになりますので,そこは道しるべの範囲に限定してしまえば,それはもっと公益的な範囲だから,強制ライセンスというよりは,本来的な意味での補償金を,ここでは別に補償金を伴わない,本来的意味でのというのも言葉はよくないかもしれませんが,そういう権利制限として考えていますので,そういう権利制限であれば,もっと公益的なものだから,余りライセンスというような,教育で配慮したようなものとは次元が違うんではないかと思っております。

【土肥座長】ありがとうございます。まさに教育で使う場合は,コンテンツの一つの実質的な単位そのものを使っていくわけですけれども,ここでは,おっしゃる道しるべというんでしょうか,軽微な,あるいは正当な範囲で使っていくわけでございますので,市場の形成というのは,教育の場面とはやっぱり違うんじゃないかなと思うんですけれども,何かこの点について,さらに御意見ございますか。池村委員,どうぞ。

【池村委員】基本的には同じことだと思うんですけれども,契約による対応困難性というのは,正当化根拠の要素の一つではあるかもしれませんけれども,それがメーンではありませんので,あえて,こういったことを条文化のときに明文化する必要はないと思いますし,仮にそういうことを考慮するとしても,それは,例えばただし書きで権利者の利益を不当に害しないとか,そっちの方で読むことができるんじゃないかなというふうに思います。

【土肥座長】ありがとうございます。この点,前田委員。

【前田委員】既に出ているところと同じかもしれませんが,ごく一般的に言えば,ライセンス市場が形成されているんであれば,それに対して配慮する必要があるというのはあると思います。けれども,分析サービスなどの結果を提供する場面というのは,ちょっと違う事情があると思います。

つまり,そもそも情報分析サービスなどの結果表示のために著作物を使っている場合というのは,本来的な意味での著作物の需要に対して応えるというよりは,結果を表示する過程の中で,そういう需要に対して影響を与えてしまうこともあり得るから配慮する必要があるということになっているだけで,著作権者に与える不利益というのは軽微というか,そんなに大きなものではないという理解が,この権利制限規定の前提にあると思うんですね。

そういうことからすると,結果表示のためのマーケットが仮に形成されていたとしても,それに対して配慮しなければならない度合いというのは,まさにコンテンツの享受というのを目的とした市場の形成がある場合とは違うということになるだろうというふうに私は思います。

【土肥座長】ありがとうございました。この点,ほかにはよろしいですか。よろしいですか。

それでは,次の翻訳サービスについての議論に移りたいと思います。時間的にもちょうどいいかなと思いますので。

それでは,翻訳サービスについての議論,これにつきましても論点及び前回の議論の概要を事務局でまとめていただいておりますので,説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】資料2をお願いいたします。こちらも前回の資料に,さらに前回の御議論の内容を加えたという構成の資料でございます。

論点1につきましては,権利制限の正当化根拠についてでございます。前回のワーキングチームにおきまして,我が国の産業競争力の強化という文脈で観光立国ですとか,高度外国人材の受け入れなどといった要請ですとか,それから,地方活性化,外国人の人権保障等々の観点から,言語的なサポートの必要性が述べられているということを御紹介した上で,一定の権利制限の必要性ということについて御議論いただいたところでございます。

前回のワーキングチームでの議論につきましては,正当化根拠については,おおむね御賛同いただけたというふうに理解しております。

その上で,対象著作物の在り方について,論点としてお示しをしたのが論点2でございます。前回は,看板などにつきましては,少なくとも誰もが違和感がないというふうに,これまでも捉えられてきていたわけでございますが,それ以外にも,無償で提供されているようなもののうち,権利者の利益を不当に害さない範囲はないかという論点を提示させていただきました。

前回の議論の概要でございますけれども,まず第1の御意見としまして,1ページの一番下にございますように,今回の正当化根拠を考えますと,言語としては,日本語から外国への翻訳というところが権利制限の対象の中心になるのではないかという御意見でございました。

それから,その他の御意見としまして,次の2ページでございます。看板などを対象とするということに異論はないという前提で,広告付の著作物,インターネットのウェブサイト,ラジオ・テレビといった放送,こういったものも対象にしてしまっていいのかについては問題になるという御指摘でございました。

それから,利用の態様との関係も含めた御意見としまして,次の丸,例えばスマートフォンのカメラをかざすと,そこに映し出された言語の翻訳文が画面上に表示されるというような方式であれば,著作権者への影響も少ないということで,対象を広げても構わないのではないかという御意見がございました。

本日,このあたりを含めた議論をさらに深めていただきたいと思っておりまして,ちょっと取り留めもなく複数,論点を提示させていただいております。

第1に,先ほどの御意見でありましたように,広告付で無償で提示されているものについてどう考えるかという視点でございます。

次に,仮に無償の著作物のうち一定の範囲は,無断の翻訳を認めるべきでないというふうに考える場合に,どのような基準での線引きが適当かという点でございます。例えば著作物の種類又は用途といったことよって,そういった線引きがあり得るのかどうか。ここに放送番組や寺社仏閣のパンフレットといったものは違いが認められるかというような点をお示ししております。

それから,3つ目の丸でございますけれども,権利者がみずから外国人が理解可能な言語に翻訳して提供している場合には,それを使っていただくということで権利制限の対象外にするということも考えられるのではないかという点をお示ししております。

それから,4つ目の丸でございますけれども,対象著作物の範囲以外に考えるべき観点としてどのようなものがあるのかということについても御議論いただきたいと存じます。

以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥座長】ありがとうございました。

それでは,この論点の2ですね。翻訳サービスに関する対象著作物に関して,さらに議論いただきたい点として,有償著作物は論外なんですけれども,無償著作物であっても広告付で提供されている無償の著作物,こういったようなものについてどう考えるのか,このあたりから御意見を頂戴できればと思いますが,いかがでしょうか。

翻訳サービスの場合でありますので,全部若しくは実質的な,全体的なそういうものが対象になってくる可能性がございますので,最初聞いておりました正当化根拠がどんどん広がっているようなところも印象としてはありそうなので,その辺,慎重に考えておかないといけないのかなとも思うんですが,上野委員,どうぞ。

【上野委員】この点に関しましては私も何度か発言させていただきましたけれども,かなり思い切った内容の改正のように思います。諸外国にもなかなか見られないようなものかと思います。

その意味で,資料2の「ご議論いただきたい事項」に挙げられている1点目と2点目は,そのような権利制限規定の範囲を限定しようというご趣旨かと思います。ただ,1点目で,無償だが広告が付いている著作物をどうするかと書かれていますが,これを権利制限の対象から除外してしまいますと,特にインターネットには,広告が付いているだけのものがかなり多いですので,そのような限定をするのはなかなか難しいのかなと思います。また,2点目として,「無償の著作物のうち一定の範囲」については除外すべきかということが書かれていますが,これはその線引きが難しいように思います。

このようにあまりうまく限定ができないとすると,権利制限の対象が広くなり過ぎてしまって,結果として,条約上のスリーステップテストの関係が問題になりはしないだろうかとさえ思うところがあります。

そこで,この権利制限の範囲を限定する方法として,3点目に挙げられているように,権利者がみずからサービスを提供している場合には,権利制限の対象外とするというやり方が十分検討に値するように思います。今回検討中の規定が,視聴覚障害者等のための権利制限規定である37条に近いものと位置付けられているということも示唆的であろうと思います。つまり,既に37条3項ただし書きや37条の2の柱書ただし書きにおきましては,――これは「正規サービスの抗弁」と呼ばれることがありますけれども――,権利者等がサービスを提供している場合には権利制限の対象外となるという規定があります。

もしこのような規定を設けると,市場において同じサービスが競合するということはなくなります。例えば,外国のサッカーチームがウェブサイトを開いていて,日本語版がないときには日本で誰でも日本語版サイトを開くことができることになりますが,他方,当該サッカーチームが公式の日本語版サイトも開いている場合は,権利者に無断で日本語版サイトを作ることはできない,こういうことになるわけであります。そして,このような規定の在り方は,権利者と利用者の一定のバランスを図るとともに,結果として,権利者が正規の翻訳サービスを提供するインセンティブになるということも期待できるのではないかと考えております。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございます。それでは,大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】ちょっと申し上げようと思ったのは,ここも恐らく決めの問題で,最小限だけやればいいと思うから,やはり,せっかくやるんだから多少のものはと。

私がちょっと思いましたのは,今の3つ目の,ここでも本人が嫌だというオプトアウトをうまく入れることはできないかなと。例えば一番上の広告付でも,本人がいいというんだったら,いいと思うかどうかというあたりで,広告付のところはかなり大きいんで,どっちに転がすかで,最低限だからやめましょうとやるのかどうかで,ちょっとかわいそうに思うのは,広告付でも,道しるべじゃないですけど,観光案内とか,最低限の安全とかに関わるレベルというのはなるべく広くしないと,経済的利益だけでなくて,安全とか,そういうところに関わってくるんで,ちょっとそのあたりは漠然と翻訳ってやってしまっていますけど,かなりコアなもの。本当は,すぐにでもやんなきゃいけないようなものからやった方がいいというものまであるんで,ちょっとその辺はいろいろ考えつつ,結局,最後は組み合わせの問題になってくるかと思うんですけど,もしか本人が選べるというのが3つ目のところにあるとすれば,意思の契機というのを入れるとバランスがとれるかもしれないかなと。

これは,今,思い付きで言っているだけで,うまく入るかどうか分かりませんけど,ちょっとそのあたり,前広にいろんな,具体的に落としてみないと分かんないところあるんで,一個一個見ていくと,今までは何となくイメージが湧かなかったんですけど,そういうあたりは,いろいろな点を前広に考えていいのかなと思っています。

【土肥座長】ありがとうございました。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】すいません,余り法理論的な話ができるレベルに私,まだ整理できていないですが,私自身のイメージは,もともと,これ許されるかなというふうに思ったのは,例えば外国人の方が来たときに,個人的に通訳というか,ガイドさんを雇って,そのガイドさんがずっと付いてくれて,看板を見ては訳してくれるとか,パンフレットを見ては訳してくれるとか。それから,神社仏閣に行って流れている放送,若しくはお寺の住職さんの話を耳元で翻訳してくれるというようなのは,本当は全員にできれば,日本としてはそれでいいんでしょうけども,ボランティアの人も含めて,そんなことは全部できないということになったときに,デジタル技術,インターネット技術を使って,パーソナルコミュニケーションアシスタントというような形で実現するということであれば,ボランティアの人が,若しくは業者雇ってでもやっていることの代替だと。

今,それをやっていることについて問題も出ていないし,権利者の方も目くじらを立てて言うような次元でもないというようなものを,インターネットなり機械に置き換えようとすると,その中で一旦,データを全て複製してサーバーに取り込んで,サーバーで処理しなきゃいけない。著作権法的には,いろんな複製が起こる,変形が起こるというようなことになって,そこが足かせになるということであれば,そこのところはクリアしてあげましょうというふうな形で整理できるんであれば,余りみんな困らないし,今までの大きな変更もないのかなと思っていたんですが,ちょっと詰めていくと,いろんなものが入ってくるということになると,まだちょっと整理できていないので,感覚的にはかなり広くて,私自身,当初思っていたものよりは,かなり広いんだけど,皆さんに御理解いただけるのかなという心配をちょっと持っているというようなところでございます。

【土肥座長】ありがとうございました。最初に,こっちを見たもんですから,前田委員,次に池村委員とお願いします。では,前田委員。

【前田委員】すいません。イメージとしては奥邨委員が,今,御指摘されたようなものが対象になるのかなというふうに私も思っております。具体的にどこで線を引くかというと,非常に難しいところがあるなと思っています。

ここで指摘されている,例えば線引きとして広告の有無であるとか,みずから翻訳物を提供しているかどうかというようなところが挙げられていますが,これも,いい線引きになるとは必ずしも思えないところがあるんですね。

例えば広告付で観光案内冊子のようなものに広告が入っているというようなときに,これは別に翻訳してもいいというようなケースもあるように思います。また,権利者が翻訳物を提供しているということに関しても,例えば寺社仏閣のパンフレットで英語版がたまたま切れているときに,日本語版を英語に翻訳したらいけないのかと言われると,それは別にいいような気もするわけですね。なので,なかなかクリアカットな線引きをするのは難しいんだろうというのは思います。

一方で,こういう権利制限規定がなぜ許容されるのかということを考えてみると,それは,著作権者にとって一定程度,そういった翻訳が行われるということをあらかじめ甘受すべき事情があるということがあるのかなと思うんですね。必要性というのはいろいろあると思うんですが,許容性ということでいえば,著作権者が,そういった翻訳物の利用に対して別途対価を得るということをおよそ期待していないような類型というのがあると思って,許容される根拠というのは,そういったところに求められるんじゃないかというふうに思うんですね。別の言い方をすれば,そういう翻訳物の利用があるということについて,あらかじめ一種の同意があるというふうにみなせるような状況というのはあると思います。

でも,一方で,理論的にそういうことを言ってみたとしても,では,具体的にどういう場合がそうなんだというのを挙げていくのは非常に難しいのかなと思います。個別具体的な例をたくさん挙げることはできると思うんですけども,それと同等な場合をうまく包含するような文言が立てられるのかと言われると,それはそれで非常に難しいんだろうなというふうに思っております。

あと,先ほど大渕委員からも指摘がありましたように,そういうふうに根拠が著作権者の意思みたいなものに求められるんだとすると,こういう権利制限規定の対象になる,あるいはならないということに関して,権利者が一定程度意思表示をしているのかどうかというところを,権利制限規定適用の条件として活用していくということは,それは選択肢としてあり得るんだろうなというふうに思っております。

以上です。

【土肥座長】それでは,池村委員,お願いします。

【池村委員】皆様が御発言しているところとかなりとかぶるんですけど,やっぱり対象著作物ですぱっと切るというのは,かなり無理があるんじゃないかなというふうに思います。例えば放送,テレビ番組だったら絶対だめとかということは,なかなか言いづらいと思いますし,具体的には例えば災害の情報ですとか,そういったニュースとか,そういったものはリアルタイムに外国人の方に伝えなければいけないこともあると思いますし,そういうことを考えると,対象著作物で何らかの限定をかけるというのは,実際上は相当困難だと思います。

そうなると,何で限定をかけるかということなんですけれども,今,ほかの方が言ったような観点もあると思いますけれども,なぜかここで欠けているなというふうに思うのが,正当化根拠のところで,外国人の人権保障の観点とか,地域活性化とか,観光立国とか,そういったことを書いてありますので,こういったことを条文上,こういった目的のために翻訳していいという形で,目的でかなり限定するという方法が一つ考えられるんじゃないかなというふうに思います。

【土肥座長】ありがとうございました。翻訳という利用行為と,それを提示するという,その双方の場面について,ここは問題になるところであるわけでありますけれども,対象著作物の面,それから,正当化根拠との関係での目的からの絞り,こういうエレメントによって謙抑的な形で最初は考えていただいて,それじゃちょっと狭いというようなことが仮に将来起こってきたときにということが考えられるんじゃないかなと思いますけれども,ひとつそのあたり,事務局においてさらに勉強していただければと思います。大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】先ほど言った災害とかになれば,本当は翻訳だけでなくて,また別途も必要かもしれないんですけど,そういうところに手を出し出すと大変なんで,いろいろあるけど,やはり最低限必要なのは,本人や周りの人にとっても災害情報とか,そういう国家安全保障というほどでもないのかもしれませんけど,安全とか,そういうのに関わるものとか,最低限必要なものはまず押さえて,そこはある程度広めにしてというあたりから,私は前にも申し上げた観光立国も重要だと思うんですけど,まずは,そこが本当の出発点として,最低限のものとしてあって,あとはプラスアルファというふうにしていかないと,細々したところはもう言い出したら切りがないので,やはり,さっき申し上げたような意思の契機を重視するとか,3つ目にあったパンフレットが切れているときというのは,現にないんだから,一般的には翻訳しているけども,切れている状態が続いていれば,それは提供していないのと一緒ですから,そのあたりは普通に処理していけばいい話かなというふうに思っています。

だから,いろいろある中にもすごくコアで分かる部分と,今の3つ目のような部分と,それから微妙な線とあるんで,分かるところだけはきちっとやりつつ,余り最初から盛りだくさんにすると動かなくなってしまいますので,最小限,限られた時間でできるところをまずコアとして固めて,あとはだんだんと拡大していけばいいんじゃないかと思っています。

【土肥座長】ありがとうございました。

それでは,この点についての意見,大体頂戴しましたので,次のバックエンドですね。バックエンドでの複製についての議論に移りたいと思います。この問題についても論点を簡単に事務局においてまとめていただいておりますので,事務局から説明をお願いします。

【秋山著作権課長補佐】資料3の方を御用意ください。こちら,問題の所在というところから,一応,先生方,御承知の経緯も含めまして,改めて整理をさせていただきました。

システム内部における,バックエンドにおける著作物の利用といいますものは,通常,その表現の知覚を通じて,これを享受することの用に供するための利用とは認められないということで,原則として権利者の利益を害することとはならないと考えられるところでございまして,このような考え方の妥当性は,平成23年の報告書においても確認いただいたものと考えております。

こういう趣旨が妥当する規定としましては,これまでも,特に平成21年及び24年の改正を中心にるる整備がされてきておるところでございまして,電子計算機や情報通信設備の利用における情報処理の過程で行われる利用行為の相当範囲は,既に権利制限の対象とされているというふうに承知をしております。

これらの規定は,相当程度,柔軟性が確保されているものもあれば,一定の限定があり,個別的だという評価も可能なものもあるというふうに理解しておりまして,少なくとも観念的には,平成23年で御提言いただいたような非享受型利用をそのまま体現した規定とはなっていないということだと思います。

このためニーズ募集におきましても,バックエンドにおける複製というものがニーズとして出されてきたところでございます。この点,ニーズ提出者の方からは,具体的に,この立法事実があるというような提示の仕方ではなかったわけでございますが,さらなる制度の整備の必要性やその在り方について御検討いただきたいということでございます。

論点として2点,御用意いたしました。まず,23年報告書におきまして,非享受型利用を権利制限の対象とすべきという旨を御提言いただきましたが,仮に現行規定が,この趣旨を十分に反映できていない部分があるとしますれば,その内容を精査した上で必要な措置を講じるべきということが当然考えられるわけでございます。

具体的には,現行規定ではカバーできていないケースの有無を確認した上で,それにとどまらず,将来のニーズにも柔軟に対応できるような規定の見直しを検討することが適当ではないかとしております。その中で,現行規定でカバーできないケースとして,もし何か念頭に置かれるものがございましたら,御議論いただきたいと思います。

2点目,少し各論に入りますけれども,(1)に関連しまして,AIの開発の過程で行われる著作物の利用行為につきまして,とりわけ47条の7との関係において,1つ目として,統計的ではない方法による解析をする場合にどうなるのかという問題。それから,データの作成主体と解析主体が異なる場合の取り扱いについて,これは,知財本部の理論でも一部指摘がなされているというふうに承知しております。これらの点につきましても,併せて御議論を頂戴できればと存じます。よろしくお願いいたします。

【土肥座長】ありがとうございました。

ただいま事務局において御紹介いただきましたバックエンドでの複製に関する論点,2つございます。どちらでも結構でございますし,どうぞ御意見を頂ければと存じます。中村委員,どうぞ。

【中村委員】この資料3の一番下に書いてあります新たな情報財検討委員会という知財本部の会議について,参考までに御報告を申し上げます。

私,これに関与しているんですけれども,昨日も上野委員,奥邨委員も御同席の中で,この会議開かれまして,AIの開発と活用に関する議論が行われております。そこでは,著作権だけではなくて,特許ですとか契約などの関わりについても議論しているんですけれども,何分,AIの分野の進化と環境の変化が激し過ぎるために課題も変化しがちでございまして,非常に悩ましい思いをしています。

そこで,拙速な制度的な手当ては避けるべきだという意見がある一方で,中でコンセンサスが得られるものは速やかに手を打っていきましょうという方向で議論が今進みつつありますので,このワーキングの方で,方向性について先取りをしていただけると非常にありがたいと考えております。

【土肥座長】どうもありがとうございました。大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】またC類型を持ち出して恐縮なんですけど,24年改正,23年に報告している。あのときには,恐らくこういうものを想定した上で,要するにバックエンドのボックスの中でやっているような非享受的な複製等は,実質的な不利益がないということを中心として,そういうものは形式的には複製等に当たっているけど,形式的に当たっているだけで,実質的な不利益もないし,形式的侵害性はあったら実質的侵害性はないという頭で考えた思想の中に,これ,ちょっとぱっと見ただけで全体像がよく分からないところがありますけど,それがC類型で拾える範囲内に入っているんであれば,むしろ,本当は24年改正のときに,私の理解では,基本思想はあれで出ていて,具体化したのが3つか4つしかなかったんで条文になっていないだけで,あの時点でも,これが具体化されていれば条文になっていたかもしれないかなというふうには,さっき言った基本的なところから思いますので,これ,拝見いたしますと,統計的でない方法というのがよく分からなくて,何が統計的で,何が統計的ではないか分からないんですけど,あのときには,さほど,ここにアクセントがあったとも思えないので,要するにバックエンドで統計的……統計の定義によって,評判サービスとかも統計なのかもしれなくてよく分かりませんけれども,そういうものも含めて,統計かどうかというところにさほどアクセントがあったんじゃなくて,要するに非享受というか,軽微というか,そういうことだったかと思うんで。

それと,私は,協業の方は,何となく刑法の共犯じゃないですけど,共同行為で,その内部でやっているようなものを特段取り出して,これを,ここで言うようなものとするようには,みんな思っていなかったんじゃないかと思うんで,広く言えば,さっきで言えば,ボックスの内部はA社とB社にまたがっていても,1つのボックスの中でぐるぐる回っているようなものなんで,形式的に取り出すと,確かに,こういうところになってくるけど,当時思ったのは,こういうものを含めてボックスの内部でやっているようなものは,非享受だから対象にしないということも含めて,そういう具体的な話は余り出ていなかったので,結論的にはC類型で拾える範囲がほかにもあるのかもしれませんけど,そうであれば,少なくとも24年改正のときにはコンセンサスがあったような話なんで,そういうのはできるだけスピード感を持って,一個一個チェックしていって,みんなが納得できるような内容であればスピード感を持って対処していく。

ただ,今言ったような理解でいいのかどうかも含めて,もうちょっと具体化していただければと思います。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかに。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】基本的には,今,大渕先生からお話があったところと共通するんですけれども,C類型という形で投網をかけるような形でばっさりという形はできなかったものの,幾つかブロックを積み上げる中で,それぞれのブロックが思ったよりもバッファーがあるというか,のり代があるものであろうということで,それらを積み重ねていくと,ボトムアップからいっても,ある程度はカバーできると。

ただ,やっぱり惜しむらくは,どうしても今の統計のこともそうなんですけれども,技術ニュートラルでないというか,ある時点の技術について,かなり依拠的な形での規定になっているところが多くて,例えば47条の6が今,議論になっているのも,当時のインターネットの検索技術とか,情報道しるべのやり方というのがそうであって,それを念頭に決めたんですけれども,昔のように放送といったら放送が何十年も続くとか,有線放送といえば有線放送が何十年も続くという時代ではなく,今やっていることが,もう二,三年もたつと,それって何だったけというような状態になる中で,技術にかなり特化したような修飾語が,いろいろと限定語が付いてしまっているがゆえに,それぞれが狭いというところもあろうかと思うので,もちろん,どっさりと投網をかけられることができれば,それで一番いいですし,それだけではなかなかうまくいかない場合は,逆に言えば,いろいろとかかっている限定語,修飾語をどんどん外していく,もっとニュートラルにする。将来の技術の展望に対して対応可能なものにするということで,似たような感じの領域を権利制限の対象にするということも可能なのかなというのが,この論点1についての思うところでございます。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございます。この点はほかにございますか。末吉委員,どうぞ。

【末吉委員】ちょっと見方が違うかもしれないんですが,1つには,これら挙げられている規定を改正してからほどなくして,例えばAIの論点の(2)の問題が出てきていること自体がC類型の正当性を根拠付けているのではないかと私は思います。

加えて,いろいろな審議の場で,権利者団体の方々も,基本的にはC類型であれば異論はないのではないかというふうに私は理解しております。そうだとすると,このバックエンドでの問題というのは,あるいはAIの問題というのは,この段階,もう一回C類型を,そのとおりかどうかは別として,C類型に類するものの立法が必要なんだということが,我々の前に課題として提起されているのではないかというふうに私は考えるところであり,そういう意味で,もっと広がりのあるというか,C類型的なものをバックエンドでの複製の論点では,我々はもっと詰めて考えた方がいいんじゃないかというふうに思います。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかに。上野委員,どうぞ。

【上野委員】3点,コメントいたします。

まず,システムのバックエンドの複製に関しましては,かつて「C類型」と言われていたものよりは狭いのかもしれませんけども,このような形で既存の条文をまとめたり,あるいは既存の複数の規定の受け皿規定となるような一定の柔軟な規定を設けるというのは,大変結構なことだと私は考えております。

2点目に,47条の7に関しては,「統計的」という言葉には大きな意味がないとも考えられますので,この言葉があったとしても一定の解釈論は可能だろうと思いますけれども,先ほど奥邨先生も御指摘になられましたように,この言葉が不測の限定を生じさせることがないように削除してよいのではないかと思います。

なお,47条の7は,機械学習にとって大変有用な規定であるとして,最近,世界からも注目されているように私は思います。イギリス法の規定は非営利のみが対象となっていますし,最近ヨーロッパで検討している欧州指令案の規定も研究機関が行う場合など一定の限定がかかっているのに対して,日本法47条の7の規定は,誰でも,営利目的でも適用される点で,機械学習の発展にとって非常に有用な規定と言えるからであります。

3点目は,データセットの作成を行う者と解析ないし学習を行う者が異なる場合についてです。これもまた解釈論で対応できるのかもしれませんし,また,実際に条文化するのはなかなか難しいのかもしれないのですけれども,実態として,機会学習を行う解析者に提供する目的でデータセットを作成するということが増えているようでもありますので,もし可能であれば,こういった問題についても一定の立法的対応がとられることが望ましいと思います。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかにございますか。これは,大体よろしいですか。バックエンドの複製の問題でございますけれども,よろしいですか。47条の7の統計的というのは,確かに,あのときは言葉の,例えばシェークスピアの文献を統計的に処理して,誰がとかいうような,そういうような例が出たりしたようにも思いますので,確かに規定の文言につながっていたんだろうなと思いますが,我々,それは統計的な手法に限定してというふうには全然思っておりませんので,そのあたりは,是非いい機会でありますので,検討いただければと思います。

それでは,大体,課題として事務局より宿題を頂いた点については,このぐらいにしたいと思いますけれども,よろしゅうございますか。

それでは,次になりますが,2つ目の議事の著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する作業部会からの検討経過報告に入りたいと思います。

この作業部会は,本ワーキングチームにおける制度整備の検討に資するために,本年6月にワーキングチームにおいて設置することとしたものでございまして,私が作業部会長を務めさせていただいております。

この作業部会においては,この夏以来,文化庁の委託事業である著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する調査研究と連携しつつ,このたび調査研究において,その中核的な部分についての見通しを得るに至りましたので,その概要と,その成果を踏まえた作業部会としての検討経過を報告させていただきたいと存じます。

本日は,調査研究を実施していただいております青山社中株式会社の遠藤様にお越しいただいておりますので,まず,調査研究の中間報告につき概要の御紹介をお願いしたいと存じます。

では,遠藤様,よろしくお願いいたします。

【青山社中株式会社(遠藤)】御紹介いただきました青山社中株式会社の遠藤と申します。私どもが今回の調査研究を受託いたしまして,その中間報告ということで,資料4別添というものが机上にあると思います。こちらが報告書になります。こちらに基づきまして概要について簡単に御説明をいたします。

調査研究の概要ですが,表紙に目次がありますのと,1ページ目,2ページ目,3ページ目が調査の概要になっております。

1ページ目の調査の目的というところですが,この調査は,柔軟な権利制限規定を設けた場合の効果と影響について調査研究をするものです。

本調査でいいます柔軟性の高い権利制限規定といいますのは,この調査の目的の段落の2つ目ですが,具体的な法規範の内容を立法段階では確定せず,事後的な司法判断や政省令ガイドライン等に委ねる規定のことを言います。

権利制限規定の柔軟性には,柔軟性の程度が非常に低いものから高いものまで,様々な段階が考えられるところであります。本調査研究においては,この新たな権利制限規定を設ける場合に,柔軟性の程度が高い場合,低い場合でそれぞれどんな効果と影響があるのかということを分析することを目的としております。

調査の構成ですが,調査の1から7までに分かれております。調査の1から3が現状分析,4と5が,それを踏まえた理論的な考察,6と7は他の法体系や国際条約との整合性に関する調査になっています。

調査の1,2,3それぞれのタイトルが表紙に書いてあるので,そちらも御参照しながらと思いますけれども,調査の1は著作物の利用・権利行使の現状と著作権意識に関する調査です。内容としましては,権利者と利用者に対するアンケート調査,ヒアリング調査を実施しました。

アンケート調査は,企業は日本の全上場企業3,600社余り,また,個人はインターネット調査会社のモニター19万4,000人余り,権利者は権利者団体29団体に実施をしております。

また,ヒアリング調査は,権利者・利用者,各10団体弱からヒアリングを実施しました。

調査の2では,こちら文献調査ですが,柔軟性の高い権利制限を設けた場合の司法の役割が非常に増すわけですが,司法を取り巻く我が国の環境や国民の意識ということに対する調査を行いました。また,比較対象としまして,調査3ではアメリカの状況についても調査を行いました。

1から3の大まかな結果としましては,企業,個人ともに適法性,合法か違法かが不明な理由に関しては非常に慎重な態度であるということ。また,司法,訴訟による問題解決を避けるという意識が非常に強いというふうに言えるかと思います。したがって,柔軟性が高い権利制限の規定ができた場合にも,司法を積極的に活用して訴訟が激増する,そういうような状況にはならないのではないかというふうに思っております。

また,調査4と5に関しましては,4は,柔軟性の高い権利制限規定を創設した場合に,法内容の確定の時期が事前から事後に変化する。したがいまして,予測可能性が低くなる。また,調査5において,法内容の確定の主体が立法から司法,あるいは行政やソフトローに変化するということで,立法と司法,行政などの役割分担にも関係してくるということで,この調査4と5は文献調査をメーンにやらせていただきましたが,アンケート調査,ヒアリング調査の結果も加味して考察をしております。

大まかな結論としましては,権利制限規定の基本的な要素は立法で,また,個別事案への当てはめは司法でというのが基本的な役割分担である。この原則の中で,柔軟性の程度を調節していくということが基本なんではないか。

また,柔軟性が高過ぎる場合には,利用が促進されるという効果もありますが,先ほど申し上げましたように,司法による問題解決というものに消極的な態度もありますので,利用がかえって進まない,あるいは権利侵害が増える,こういった可能性も否定できないのではないかというふうに思っております。

また,司法のみならず,行政やソフトローによる予測可能性の確保という点も活用していくことも考えられると考えております。

調査6,7に関しましては,他の法体系,特に憲法の明確性の原則との関係。こちらに関しては,明確性の原則に違反するので違憲という結論になる場合は非常に限られているという点と,また,スリーステップテストに関しては,法令の規定ぶりというよりは,実際の適用の範囲ですとか実質の方が問題であると,こういう調査結果になっております。こうした結果を踏まえまして,作業部会の方で検討経過報告を御作成いただきました。

研究の実施体制ですが,こちら2ページに挙げております協力研究者の先生方に分担・執筆,また,助言を頂きました。

そして,具体的な分担は,2ページ目の下から3ページ目の上にかけまして,調査1,2,3,4,5,6,7と掲げております。また,要所要所におきまして,作業部会の先生方にも御意見を頂き,それを反映させながら調査報告書を作成したところであります。

概要がまとまりましたので,このたび中間報告として提出させていただきます。

簡単ですが,以上です。

【土肥座長】ありがとうございました。

それでは,続きまして本作業部会の検討経過報告について,事務局から説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】資料4を御準備ください。こちらの資料は,先ほどの青山社中様から御説明のありました調査研究を踏まえて,この審議会のワーキングチームの下に設置いただきました作業部会としての検討経過の報告がまとめられたものでございます。

1ページ目の経緯の部分は,皆様,もう御承知のことでございますので,省略させていただこうと思います。

2ページ目をお願いいたします。この検討に当たりまして,ワーキングチームの方から様々な多面的な検討ということと,スピード感,迅速性ということが求められました。このことを受けまして,作業部会としましては,構成員としまして知的財産法,それから憲法,民法,刑法,法社会学,法と経済学,文化経済学といった様々な研究領域の先生方の参画をお願いいたしました。

また,検討の基礎となる社会調査や文献調査等につきましては,先ほど御紹介にありました調査研究にお願いし,これと密接に連携をして,効率的に実施をしたということでございます。

委員名簿につきましては,11ページに掲載しておりますので,後ほど御参照いただければと存じます。

この検討経過は,部会長からも御説明がありましたように,調査研究の方で中核的な部分の見通しを得るに至ったということを踏まえましての検討経過報告でございます。

中身の御説明に移ります。2ポツ,調査研究報告を踏まえた権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する考察でございます。ここは,調査研究のエッセンスなども,ここにまとめておりますので,やや詳細になりますが,丁寧に御説明申し上げたいと思います。御了承ください。

本作業部会としましては,調査研究の中間報告は,権利制限の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する考察を行う上での基礎となるものとして,基本的には適切な調査分析がなされているという評価がなされております。その上での作業部会としての考察がまとめられたものでございます。

第1に,具体的な法規範定立時期が相対的に事前から事後へ移行することに伴う効果及び影響に関する考察でございます。こちら,先ほども遠藤様から御説明がありましたように,柔軟性の高い規定の採用ということが,事前から事後への移行ということを生じまして,著作物の利用行為を行う時点では当該行為の適法性の有無が必ずしも明らかではなくなるということを意味するとしております。

これも踏まえまして,2つの軸で検討をいたしました。1つ目は,権利制限規定の柔軟性を高めることにより「公正な利用」が促進されるかどうかでございます。「公正な利用」というのは,便宜上,ここでは権利制限によって実現することが正当化されるべき利用というふうに表現しております。

アンケート調査やヒアリング調査の結果からは,多くの企業は高い法令遵守意識があるということ。それから,訴訟を提起されることに対する抵抗感があるということが明らかになりました。

この調査結果につきましては,3ページの1行目にもありますように,括弧書きで中間報告何ページというふうに記しておりますので,また後ほど御参照いただければと思います。

これらの質問事項のほかにも,どういう権利制限規定の仕方であれば事業展開がしやすくなるかということを御質問していただいて,その結果を整理しているわけですけれども,マル1からマル4のそれぞれの規定ぶりについて,まず,マル1,サービスの類型や条件を具体的に示すとともに,これと同等のものも適法とするという規定では,7割弱の企業が事業を展開しやすいという回答がございました。

また,サービスの類型や条件を具体的に示した規定のみというものは6割強。適法となるサービスの類型や条件を一定程度抽象的に示したものでは3割強。考慮要素を示して公正な利用を適法と認めるということを定めた抽象的な規定では2割弱という結果でございました。

一方,規定に柔軟性を持たせることの効果についても併せて質問したところ,5割弱の企業が適法性の判断が難しくなり,利用が萎縮する。それから,訴訟が増え負担になるという消極的な面を挙げているわけでありますが,同時に6割強の企業が時代の変化に対応させやすくなるとして,積極的な面も評価をしているということが明らかになっております。

これらの事実関係を踏まえますと,企業においては,権利制限規定に一定の柔軟性が確保されることについて,利用促進効果を認めているものの,法令遵守意識や訴訟を回避するという姿勢から,柔軟性の度合いが非常に高いものに対しては,それほど大きな効果を認めていないものと評価ができるとしております。

また,「公正な利用」の促進効果があるか否かということを考える上で,過去に柔軟性がある権利制限規定がなかったために利用が阻害された事実があるか否かといったことを分析することも有益なわけであります。

典型的な事例としては,インターネット検索エンジンサービスの例がよく指摘がなされております。この点につきましても,様々な事実関係などを調査研究の方でお調べいただきました。

その結果としまして,前提として,この問題の指摘が,国産検索エンジンが育たなかった理由として,逐一,著作権者の事前の許諾によって,いわゆるオプトインによって日本のサービスは利用せざるを得なかったということが指摘されていたわけでありますが,こういった前提となる事実認識には誤認があると。つまり,ロボット型の検索エンジンもオプトインではない形で実施されていたというようなことも報告されておりまして,こういったことから,米国産の検索エンジンが我が国において大きなシェアを占めたという要因につきましては,権利制限規定の未整備に帰するという合理性を見出すことはできなかったとされてございます。

次のページ,お願いいたします。それから,もう一つ考慮すべき事項としまして,柔軟な規定の導入によりまして「公正な利用」がどの程度促進されるかということを考える上では,現行規定の整備状況も考慮する必要があるわけでございまして,この点は,調査研究の55ページの方で,主な米国のフェアユース関係判例との比較において,それなりに相当部分がカバーされているといった御報告もございました。

以上をまとめますと,柔軟性のある権利制限規定につきましては,現実に公正な利用を促進するという効果を生じさせるためには,適切な柔軟性の程度となるように留意する必要があり,柔軟性が高過ぎると,それほど利用促進効果は期待できなくなるという整理がされてございます。

次に,マル2,権利制限規定の柔軟性を高めることによりまして「不公正な利用」が助長されるかどうかという視点でございます。こちらにつきましては,一般論としましては,権利制限規定の柔軟性が高まれば,著作権法に対する理解が十分でないものの層については,適法性の判断がより難しくなるというケースが増えるわけでありますので,意図せぬ権利侵害が行われる可能性が高まることとなるわけでございます。

また,適法性が不明な利用に対しても積極的に行うというような層に関しては,当然,適法性が不明な範囲が拡大する等,そのような利用は増加するわけでありまして,その結果として権利侵害の可能性が高まるということが一般的には言えるわけでございます。

実際のアンケート調査などの結果を見てみますと,企業の約3割,経営者団体の7割,個人の4割が故意・過失による権利侵害の増加を懸念しているということも報告されております。

また,著作権法に対する理解がどの程度あるかということに関わる指標としまして,著作権法になじみがないと回答した企業は約4割でございました。また,個人利用者としては,なじみがあるという回答が約1割しか得られなかったということでございます。

さらに具体的な質問内容としまして,著作権法で用意されている救済措置の内容につきましては,3割の企業が刑事罰を認知していない。また,個人では刑事罰があるということを認知していない者が7割強,損害賠償請求をされるということを認知していない者が3割でございました。

あと,個別事例で,こういう利用は権利者の利益を不当に害するかどうかということを問うた質問への回答としまして,イラストを無断で転載するという行為については,企業,個人ともに権利者の利益を害しないと考える者は1割に満たなかったわけでありますが,学校向けに写真や文献等を無断で収集して提供するサービスを行うということに関しては,企業では5割,個人では3割程度であったということでございました。

それから,適法性が不明な利用に対する積極性について問うた質問では,企業は1%に満たない,ごく少ない割合でしたが,個人は1割程度がこのグループに属するということが明らかになっております。

さらに,こういった不公正利用が助長させるかどうかということを理解する上で,具体的な事例の収集も行われました。権利者団体に対するヒアリングにおきましては,そういった不公正な侵害の事案としまして紹介がありましたのが,例えば公衆送信と演奏を混同しまして,非営利,無料であれば自動公衆送信をやってもいいという主張がなされた例。それから,楽曲プロモーションの目的であれば自由利用が認められる,教育目的であれば自由利用が認められる。結婚式やパーティーでも30条の適用があるなどの誤解があるという報告もございました。

それから,書籍の3分の2をそのまま複製して公衆送信している事案で,32条の適法が主張された事案や,米国の動画投稿サイトでは,デッドコピーに近い利用についてフェアユースが主張される事案なども存在するという報告がございました。後二者につきましては,規定が柔軟であることを理由に適法性が主張されている例であると言えると存じます。

次のページお願いいたします。それから,文化庁の行いましたニーズ募集におきましても,権利制限による対応が求められたニーズが複数ございました。このうちワーキングの整理は,A-3に位置付けられたニーズの中には権利制限の正当化根拠の説明が困難と思われる事例も含まれていたわけでございまして,例えば非営利目的であれば利用できるとか,教育目的ですとか,あるいは営利目的で著作物を何か商品にプリントして提供するといったものなど,いろいろと挙げられていたということでございます。

以上,これらの事実からは,柔軟性のある権利制限規定を整備することによりまして,少なくとも著作権法に対する理解が十分でない者や,適法性が不明な利用に対し積極的な者における過失等による権利侵害を助長する可能性が相当程度あるものと考えられるとしております。

それから,アンケート調査では,権利者に対しまして侵害対策にかかる費用を問うたところ,ほとんど費用はかけていないという回答が多く,ヒアリング調査からは,コスト倒れになるということで,なかなか費用をかけられないという報告もあったというふうに把握がされております。そういったことから,こういった侵害が増加することが社会的費用の増加につながるのではないかというふうに整理をいたしております。

また,なお書きのところでございますけれども,過失等による侵害の助長可能性といいますものは,これは柔軟性の程度によるということでありまして,あらゆる状況に適用される一般的な規定の場合は,当然その可能性が高くなる。一方で,柔軟性が低いものは逆に可能性が低くなるということでございます。

次に,2つ目の検討の切り口でありますところの具体的な法規範定立において果たす役割の比重が柔軟な規定の導入によりまして相対的に立法から司法へ移行するということの効果,影響に関する考察の結果が以下にございます。

このポイントとしましては,柔軟性が高い規定を採用するということが,低い規定を採用する場合に比べて法規範定立において果たす役割が立法から司法に移行するということが言えるわけでありまして,それは憲法の趣旨ですとか,立法府,司法府それぞれの特質を踏まえまして,どういう役割分担が望ましいかということを検討する必要があるという問題設定をいたしました。この点に関しまして,調査研究の結果も踏まえて以下のとおり考察が整理されております。

一番下の下から2行目のところですけれども,立法府については,民主的正統性があるという点,それから,産業政策上の事項,次のページですけれども,多数当事者の利害調整に必要な情報を集めるのに適しており,この点においては司法に対する相対的な優位性があるというふうに整理がされております。

こうしたことから多数の者の利益,いわゆる公益に関する政策決定や政治的な対立のある分野における決断は,基本的には立法府において行われることが望ましいとされております。

他方,立法府においても,必ずしも全ての関係者の利益を集約できるわけではない。いわゆる調査研究では,集約された少数者の利益が政策決定に反映されやすい,すなわち少数者バイアスといったことも指摘がされておりまして,こうしたことですとか,それから基本的人権の制約に関わる分野ですとか,それから事実関係が流動的又は過渡的であるために事案に応じた判断が必要な分野といったことについては,立法府で事前に具体的な規範を定めることにも限界があるといった指摘ができるとしております。

それから,立法,司法以外の法規範の定立主体として行政が行う場合につきましては,専門性ですとか,利益衡量や複雑な情報・知識の集約といったことについての優位性が指摘されております。

これらのほかにも,事実上の行動規範としてのソフトローも法解釈の不確実性の低減に役立つという指摘がありまして,具体例としましては,一昨年だったと思いますが,文化審議会の方で31条の「保存のため必要がある場合」ということの解釈について整理をしたところ,図書館の関係者としては,図書館における利用が非常に円滑に進むようになったといった御指摘もありますし,また,民間団体間でのガイドラインにも,そういった効果が認められるというような指摘がございました。ソフトローにつきましては,作成や改変の容易さなどの利点が指摘されております。

以上のことをまとめますと,公益に関わる事項や政治的対立のある事項につきまして,基本的な政策決定は民主的正統性を有する立法において行われることが適当である。他方,幅広い関係者の利益を集約することが困難な事項,基本的人権の制約に関わる事項や,事実関係が流動的又は過渡的である事項につきましては立法府における事前の多数決原理による法規範定立がなじみにくい場合もあるとしております。行政府における委任命令やソフトローについても,適宜活用することが望ましいといたしました。

以上の議論を権利制限規定に当てはめた場合ということで,こちらも調査研究での整理も踏まえまして,3つの類型をここに示しておりますが,まずマル1としまして,著作物の享受を目的としない利用。マル2,著作物の本来的な利用には当たらず,著作権者に与える不利益が軽微な行為類型。それからマル3としまして,著作権者に保護される利益とそれに対抗する公益等が認められる行為類型。こうした類型それぞれについて立法に期待される役割は異なっており,権利制限規定の柔軟性の在り方も異なり得るということを導くことができるというふうに整理がされております。

それから,3つ目の検討の軸としまして,権利制限規定の柔軟性と刑法体系及び著作権関係条約との関係についてでございます。こちら詳細は割愛いたしますが,刑法体系との関係につきましては,最高裁判決における明確性の理論に関する考え方の整理ですとか,その他の検討がなされております。また,国際条約,スリーステップテストの関係におきましても,過去の国際裁判所で示された事例に関する分析などとともに考察が行われております。

これらの考察を受けまして,3ポツでございます。柔軟性のある権利制限規定の整備の方向性ということで,本作業部会としましては,明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組み合わせによる多層的な対応を提言するということとしております。

主に2ポツ(1),2ポツ(2)で述べたような効果,影響の分析を踏まえまして,総合すれば以下のようなことが言えるとしております。すなわち,利用の状況・場面を特定しない一般的・包括的な規定を設けることは,基本的には多くの利用者について,それほど「公正な利用」の促進効果は期待できない一方,法の理解が十分でないものによる誤解に基づく侵害など,法が想定しない「不公正な利用」を助長する可能性が高まるという負の影響が生じ,社会的費用が増加することが予測されるところでございます。

また,立法府と司法府の役割分担の在り方との関係におきましても,公益に関する政策決定や政治的対立のある事項も含め,多くを司法府の判断に委ねることとなり,民主的正統性の観点からも望ましくはないとされております。

他方で,権利制限規定が一定の明確性とともに,時代の変化に対応可能な柔軟性を持つことは,関係するステークホルダーにおいても期待されているところでございまして,明確性と柔軟性のバランスを備えた制度設計を行うことにより,「不公正な利用」の助長を抑制しつつ,「公正な利用」を促進することが可能となるものと考えるとしております。

次のページをお願いいたします。その際,立法府と司法府の役割分担等を踏まえまして,特定の利用場面や態様に応じて適切な柔軟性の度合いを選択することにより,我が国の統治機構の観点からも望ましい権利制限システムの構築が可能となるものと考えるとしております。

以上を踏まえまして,我が国において最も望ましい柔軟性のある権利制限規定の整備の方向性としましては,一定の利用場面や権利者に与える不利益の度合い等の態様に応じ,明確性と柔軟性の適切なバランスを確保した規定を組み合わせることにより,全体として多層的に権利制限規定のシステムを構築していくことが適当としております。

その具体的な整備の在り方につきましては,今後,本ワーキングチームにおいて検討が深められることとなるものでございますが,本作業部会としましては,以下のような層に分けて制度の整備を検討することが有意義としております。

まず第1層としましては,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型であります。著作物の表現の享受を目的としない,先ほど議論もありましたようなバックエンドでの利用が,これに該当するとしております。

本類型は,対象となる行為の範囲が明確であり,かつ類型的に権利者の利益を通常害しないものと評価でき,公益に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものでもない。このため,行為類型を適切な範囲で抽象的に類型化を行い,柔軟性の高い規定を整備することが望ましいとされております。

第2層,著作物の本来的利用には該当せず,権利者に与える不利益が軽微な行為類型でございます。こちらは,インターネット検索サービスなどの提供に伴い,必要な限度で著作物の一部分を表示する場合など,著作物の本来的利用には該当せず,権利者に与える不利益が軽微なものがこれに該当するとしております。

この類型は,当該サービスの社会的意義と権利者に及び得る不利益の度合いに関し,一定の比較衡量を行う必要はあるものの,公益的必要性や権利者の利益との調整に関する大きな政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではないということから,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ,著作物の利用の目的等によって,ある程度大くくりに範囲を画定した上で,相当程度柔軟性のある規定を整備することになじむものと考えるとされております。

さらに,第3層としまして,公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型でございます。著作物の本来的利用を伴う場合も含むものの,文化の発展等の公益的政策の実現のため,権利者の利益との調整が求められる行為類型でございます。現行規定では,引用,教育,障害者関係,報道など,様々な場面の権利制限規定がこれに該当するわけでございます。

この類型は,基本的には公益的必要性や権利者の利益との調整に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものであり,一義的には立法府において権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ,その範囲を画定した上で,適切な明確性と柔軟性の度合いを検討することが望ましいとされております。

こうした権利制限の制度設計の考え方に加えまして,さらに行政府による委任命令や民間等で行われるソフトローの活用ということについても,適切に組み合わせていくということが提言されております。

最後に,「以上のとおり」以下の部分につきましては,今後の制度整備に当たっての留意事項としての作業部会としてのメッセージであります。すなわち,立法府の判断に委ねるべきとした領域が幾つかあるわけでございますが,立法府や行政府の特質ということも踏まえまして,幅広い関係者の利益が適切に集約されるよう配慮するべきだということが述べられております。

とりわけ行政,政府におきましては,審議会制度等の意見集約の枠組みなどを通じて,必ずしも集約されにくい集団の利益も含め,可能な限り幅広い関係者の利益を把握した上で,バランスのとれた政策決定を行うことが期待される。また,かねてより柔軟性のある規定を求める声が利用者の方々から寄せられているということの背景には,法令改正による対応が時代の変化に応じ迅速に行われるということに対する課題意識も存在するのではないかとされております。

こうしたことを踏まえまして,政府においては適時に社会のニーズを把握し,適切な政策形成につなげていくことが期待されるということで締めくくりがされております。

長くなりましたが,御説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥座長】ありがとうございました。

ただいまの説明にございましたように,この調査研究及び作業部会,この検討につきましては,さらに細部については引き続き精査をいたしまして,追って本ワーキングチームにおいて報告をしたいと存じますけれども,その中核的な部分は,お聞きのように基本的には検討が熟したと,そういう時期にあると考えておりますので,本日は,本報告に基づき柔軟性のある権利制限規定の整備の在り方につき議論をいただきたいと思っております。ただいまの検討経過報告についての御意見,御質問等ございましたら,どうぞお出しください。中村委員,どうぞ。

【中村委員】簡単に3点,コメントします。

まず調査ですけれども,著作権の制度で定量的なデータに基づく議論が進められるというのは非常に麗しいことだと思います。このユーザーの調査自体に大きな意味があるとともに,制度論議に有益な根拠を与えてくれるものと考えます。

それから,2点目です。資料4の議論の方向性に同意いたします。現状において抽象的過ぎる規定を置くというのはバランスを失すると考えますし,3層の類型も的確だと考えます。そして,立法,行政,司法の役割についても妥当な記述だと考えます。

3点目ですが,その上で,知財計画2016でイノベーション促進に向けた権利制限規定等の検討として,予見可能性の向上の観点から,対象とする行為等に関するガイドラインの策定というものを求めています。これ制度改変成立後のことかもしれませんけれども,このガイドラインの策定に私は期待をしておりまして,それをここに集まる関係者の方々や立法,行政,司法の関係者を含む,手で作るという努力をすればよいのではないかと考えます。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございます。よろしくお願いいたします。ほかにいかがでございましょうか。

【大渕座長代理】これ,非常に大変な作業を皆さんに協力していただいて,積極的に全体的に評価したいんですけど,もうちょっと分かりやすくしてくださいというところが中心になりますが,まず,先ほどの方も言われたとおりで,この中では一番前提として,この資料4で言いますと,3ページのあたりに書いてあるところで,一番最後のところですけれども,「このようなことを踏まえて冷静な分析を行うことが適当である」ということで,今までこの論点は特にムードに流れるようなことが多くて,ムードだけでやってきているようなところがあるのに,きちんと先ほども御評価いただいたような。

私が理解しますのは,やはり日本人は真面目だなと。ルールはきちんと守りたいということで,居直り侵害の人ももちろんいるんでしょうけれども,やはり国民の大多数はそういう人ではなくて,きちんとルールは守りたいという人たち。

ただ,よく分からない等の点で問題が起きているということで,その評価の上で,最後の一番のポイントは,私は最初から柔軟な規定といっても定義が必要ですと言ったのに尽きるんですけど,柔軟性の度合いで全然話が違ってきて,一言で言うと丸投げのような柔軟性が高過ぎるものはマイナスであるけれども,適切な範囲の柔軟性というのは必要だ,そのバランスが重要で組み合わせましょうという,極めて常識的な話かと思いますけれども,きょうのサマリーのペーパーでは以上の点が非常にクリアに出ているんですけど,この報告書を前から見ていくと,恐らく国民の一般の方が御覧になったときに,柔軟な規定というイメージが丸投げみたいなものなのか,まさしく本会議の前半でやったような一個一個積み上げていくけど,柔軟性を確保しましょうという,あるべき柔軟性みたいなものと。

最後まで読むと,抽象はだめだけど個別の柔軟はいいよというのは分かるんですけど,それをもうちょっと。答えを言う必要はないんですけど,柔軟性といってもいろいろ度合いが違うというようなあたりを最初に出していただくと,最初に見たときにはどっちをイメージして読むのかが人によって違って,全部読めばもちろん分かりますけれども,我々は分かりますけど,そこのあたりはもうちょっと。

最後,答えは,要するに柔軟性の度合いによって全く答えが違うよと。そこが決め手になってきますので,そこをもうちょっと分かりやすく,かつ早いうちに出していただければ,普通の方もこれを読んでいただければというふうに思いますので,そういうあたりはもうちょっと御工夫をいただければいいなと。

内容は非常にいいんですけど,ややその観点からは,読んでいると,結局は柔軟性の度合いによるんでしょうけど,もうちょっとこれ。結局,答えは度合いによるんだよというところをもうちょっとクリアに出していただいた方が,読んでいる人は分かりやすいのかなというのが最初から気になったところであります。

それから1点。ソフトローというのが分かりにくかったんですけれども,ようやく例が出てきて,注11番の「保存のため必要がある場合」というのは,これは審議会でも私は大賛成して申し上げたところなので,私は余りソフトローとしてこういうものを認識していなかったものですから,ソフトローといえば,広くとればそうなんでしょうけど,公権解釈の変更なのか,明確化なのか,そういう話なので,ちょっとソフトローは内容が分かりにくいのと,私が最初に気になったのは,ソフトローでなければ明確性が図れないということになると,逆のメッセージになる可能性がありますので,それは恐らくそういう趣旨ではないので,ちょっとそのあたりは。

ソフトローの使い方は難しいんですが,前から申し上げていますとおり,行政立法であれば法規違反がある範囲で,法律か行政立法かという話になって,ソフトローというのは法規違反がないような話なので,それを持ち出さないと正当化できないということになると大変なことになるので,そのあたりは,もうちょっとうまく入れていただいて,この11番の例だったら恐らくポジティブに使える話だし,くしくも,このポジティブな例は,どちらかというと柔軟性が高くないと言われていた昔の規定の話なので,その関係では,ちょっとこれはうまくメッセージとして出す必要があるんですけど,よく話題に出ているのが32条と35条ですけど,どれも古くからある規定ですけど,どちらもかなり柔軟性は高い規定なので,昔の規定は柔軟性が高くないわけではなくて,むしろ昔の規定は,31条も含めてかなり柔軟性が高いのが多くて,最近作り出したものが必ずしもそうでなくて,また元に戻っているということがあるので,ちょっとそのあたり,イメージとして分かりにくいところがありますので,もうちょっと全体としては。

さっき気になったのは,32条とかというのはどっちに入っているのか分かりませんけど,これは立法府がやった規定が結果的には,今まである,最近の話ではなくて,昔からあるものはむしろ柔軟性が高かったのかなということがあるので,そういう意味では,個別規定というのは別に硬直的なものでもなくて,柔軟な個別規定というのは,我々が今作っているようなものではなくても,昔からあったというあたりはちょっとうまく,もうちょっと出していただければと思います。

【土肥座長】ありがとうございました。資料の別紙はついているんですか,皆さんに。ここにはあるんですけれども,フロアの方も。

【秋山著作権課長補佐】はい。

【土肥座長】分かりました。分かりやすく別紙も付いておりますので,是非御参照いただければ,多層的というところが非常に分かりやすく出ておるかと思っておりますので,大渕委員の要望も相当程度お聞きしておると思います。

ほかに。長谷川委員,どうぞ。

【長谷川委員】司法の関係も含めて非常に詳細にまとめていただいてありがとうございました。裁判所の現状等については,いろいろ指摘されていますけれど,その点については,この場でコメントするのはあえてする必要もないかなと思いますので,若干感想めいたことだけを申し上げたいと思います。

1つには,今,大渕委員からもソフトローについての御指摘がありましたが,行政による公権的解釈も含めて,最終的に裁判になった場合にどうなるかということになってくると,もちろんソフトロー,その他,公正な慣行なり,商慣習なり,社会通念なりということで尊重するというのは当然だとは思いますけれども,最終的に裁判というのは,結局のところ具体的な事実関係に基づいて,法律に基づいて判断するということになりますので,そこら辺の位置付けのところは多少留保した方がいいのかなというのが1つ目です。

それから,もう1つは,裁判所の役割についていろいろ書かれているんですけれども,もう一つ気付いた点としては,判例による法創造といいますか,法形成というような役割もある。例えば,知財の中でも特許権の分野で言うと,いわゆる権利制限になるということになると思うんですが,1つには権利無効の抗弁とか,あるいは消尽論というのは判例によって法が形成されて,無効については後から法律ができるということもありましたし,あるいは逆に均等の話というのは,権利を拡大する方向での判例による法創造ということもありましたので,だからといって,それがそのまま著作権に持ってこられるかということは分かりませんけれども,そういう見方もあるのかなというところは指摘させていただけたらと思います。

以上です。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】極めて適切,詳細なまとめ,ありがとうございました。感想めいたことですけれども,確かに著作権法は,そのまま民事規定が刑事法における構成要件となるという関係に立つというところがあるかと思いますが,ここで言う明確性の問題というのは,刑法理論との関係で検討されているわけですが,本来,民事法規と刑罰法規は,何も同じ構成要件でなくてもよいという面もあろうかと思います。刑事罰の範囲と民事規定の範囲と必ずしも同一であると所与に前提に置く必要もないという観点も,立法論として視野に入れてもいいのではないかという点が感想です。

【土肥座長】ありがとうございました。ほかにございますか。いかがでしょうか。

今回,調査研究については,短い期間に,本日こういう形で紹介ができるところまで進めていただいたことに厚く感謝を申し上げたいと思いますし,作業部会のメンバーも忙しい中,非常に協力的に議論に参加していただきましたし,中でも前田委員は両方に頑張っておられて非常に御苦労も多かったかなと思うんですけれども,感謝を申し上げたいと思います。

本日,この報告に基づいて皆様の御感想といいますか,御意見を頂戴しておりますと,大体基本的には,御紹介のあったような方向性を了解していただいているのかなというふうに思っております。したがいまして,これまでワーキングチームにおいて議論をしてきた優先的に検討すべきニーズに係る対応について,ある程度議論を成熟させることができたというふうに思っております。

また,権利制限規定の柔軟性の及ぼす効果と影響等を踏まえ,我が国における望ましい柔軟性のある権利制限規定の整備の方向性について,本日,相当程度見通しを持つことができたように思っております。

つきましては,次回以降に,本日扱わなかったニーズを含め,より具体的な制度設計に係る議論もさらに進めていきたいと思っておりますので,皆様方には,よろしく御協力をお願いしたいと思っております。

本日用意した議題といたしましては,その他がございますけれども,その他踏まえて全体的に何か御発言,御意見等ございましたら,この機会にお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしゅうございましょうか。

お忙しい皆様にお集まりいただきまして,委員の方々も少なくなってきましたので,若干予定されている時間には余裕がありますけれども,本日は,このくらいにしたいと思います。

事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】次回ワーキングチームにつきましては,改めて日程の調整の上,御連絡したいと思います。本日はありがとうございました。

【土肥座長】それでは,本日は,これで第4回のワーキングチームを終わらせていただきます。まことにありがとうございました。

―― 了 ――

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