議事録

文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第4回)

日時:
平成25年6月24日(月)
17:00~19:00
場所:
一橋講堂2階 中3中4会議場
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)海賊版の被害実態について
    2. (2)「電子書籍に対応した出版権の整備」について
    3. (3)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

【土肥主査】 それでは,ただいまから,文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第4回)を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に本日の会議の公開につきまして,予定されておる議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばない,このように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴を頂くことといたします。
 それでは,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 それでは,配付資料の確認をさせていただきます。議事次第の下半分をごらんいただければと思います。まず資料1といたしまして,海賊版の被害実態について,日本書籍出版協会様より御提出いただきました資料をお配りしております。また,資料2といたしまして,前回の小委員会における主な議論の概要についての資料を,資料3といたしまして「電子書籍に対応した出版権」(仮称)に係る諸論点についての資料をお配りしております。このほか参考資料といたしまして,前回もお配りをいたしました「電子書籍に対応した出版権」(仮称)の主体及び客体についての資料をお配りしております。
 配付資料は以上でございます。落丁等ございます場合にはお近くの事務局員までお声掛けいただければと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)海賊版の被害実態について。(2)「電子書籍に対応した出版権の整備」について。(3)その他の3点となります。
 (1)については,今回,一般社団法人日本書籍出版協会より,海賊版の被害実態について,資料を作成いただいておりますので,一般社団法人日本書籍出版協会より御説明を頂きたいと存じます。(2)につきましては,電子書籍に対応した出版権の整備について,前回に引き続き法的論点の議論を行いたいと思っております。
 それでは,早速でございますけれども,海賊版の被害実態についての説明をお伺いいたしたいと存じます。一般社団法人日本書籍出版協会,堀内委員,恩穂井様,よろしくお願いいたします。

【恩穂井様】 本日はお時間を頂きありがとうございます。「出版物の海賊版の被害実態について」,御報告します。
 まずお手元にあります資料1は,(1)刑事事件,(2)アプリによる著作権侵害,(3)早売りという観点でまとめております。更に,刑事事件については,〔1〕「ファイル共有ソフト」,〔2〕「その他」と分けて記述しております。
 時間も限られておりますので,できるだけ要点だけを御説明します。
 まず刑事事件の留意点について。
 ⅰ)告訴人は全(すべ)て著作権者。ⅱ)案件ごとに法定代理人(弁護士費用)が必要。1件につき,その他雑費等もありますので,大体7万から20万円程度が掛かるのではないかと思います。ⅲ)罰金は国庫へ。告訴人には一切支払われません。侵害による損害賠償を希望するなら,民事訴訟を起こすしかないわけですけれども,ほとんどが支払い能力のない個人が相手ですので,訴訟費用倒れということになってしまいます。ⅳ)委任状には著作権者の本名を明記する必要がある。法廷でこれは開示されます。このことは,公判では,被告人はもちろん,メディアや傍聴人にも開示されるため,本名を明かしたくない著作権者の場合,告訴を断念することも,実は少なくありません。
 また,総じて刑事事件は,主に警察の任意の捜査に依存しております。1件について捜査が3か月から5か月程度掛かりますので,ここで事件化されたものについては,著作権侵害の氷山の一角とお考えいただいて結構です。
 ファイル共有ソフトは,いっときより利用者が減ったとはいえ,いまだに刑事事件の大半を占めております。具体的な案件については,その他の刑事事件も含めて,資料をごらんいただければと思いますが,例えばファイル共有ソフトでいうと,2012年の6月1日,『ONE PIECE』第471話から480話の事件がございます。これはコミックスの49巻の発売を控えて,その前に雑誌のスキャン画像を集めてコミックス相当のファイルにまとめたもので,後ほど御説明します「早売り」のコミックス版といった事件です。
 また,「その他の刑事事件」の最後にあります「珍しいMEGAUPLOADでの逮捕例」とありますけれども,実はこれは容疑者が,これも後ほど説明しますリーチサイトの管理者でした。リーチサイトの管理者が自ら違法データをアップロードしているその事実を確認できたことが極めて珍しい案件です。リーチサイト管理者が違法データをアップロードしていることは決して珍しいわけではなく,最近はリーチサイト管理者イコール違法データのアップローダーであると我々は確信しておりますけれども,これも後述いたします。
 次に,(2)アプリによる著作権侵害についてです。いわゆる違法アプリと呼ばれるものです。そもそも違法アプリというのは,2010年後半にAppleがAppStoreというサービスを始めたことにより出現したものです。実例にあります村上春樹さんの『1Q84』,東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』の違法アプリが新聞等で報道されて注目を集めましたが,その後はほとんど報道がなされていないので,収束したと思ってらっしゃる方も多いのではないかと思います。その後,今はGoogle Play Storeと言いますけれども,Googleが同様のサービスを開始したこともありまして,実例でも分かるとおり,違法アプリの数はむしろ増加しております。ここでは飽くまで弊社の削除要請メールの数しか表記しておりませんが,そのメール一つ一つに複数の違法アプリについての削除要請が入っております。
 違法アプリのタイプは,資料にありますとおり主に4つです。電子書籍タイプ,ビューワタイプ,壁紙,ゲームとなります。この違法アプリの一番の問題は,Appleに代表されるアメリカ式のインターネットルールではないかと思います。不正であろうと,なかろうと,まずはアプリを販売させる。その責任をサービス提供者は負わないというものです。しかし,Apple,Googleともにアプリの売上げの3割を場代として徴収しております。ただ,最近は,相変わらず時間は掛かっておりますが,Appleは最終的には削除に応じるようになってきました。資料には「コンプライアンス意識の高まり」と一応書いておりますけれども,これは余りに批判が高まったために,やむを得ず対応するようになったというところが正直なところではないかと思います。
 当然削除に時間が掛かれば,その間アプリは売られ続けておりますので,この販売された売上げ,あるいはその3割のApple,Googleに入る場代といいますか,手数料は一切権利者側には返還されませんし,いわゆる「デベロッパーの売り逃げ」という状態になっております。
 Googleは後発ですけれども,比較的削除には柔軟に応じておりますが,その分アプリのアップが非常に簡単なので,例えばAppStoreの実例の2013年1月7日,削除要請した漫画侵害のビューワアプリ,「カンカンドウマン」と読むんでしょうか,これが2013年6月,つい今月ですけれども,Google Play Storeで発見されるというようなことがしばしば起こっております。
 「早売り」についてです。「早売り」というのは,資料にありますとおり,漫画雑誌を配本の早い小売店から入手し,公式発売日より前にアップロードする行為です。2008年後半から急激に増加し,漫画にとっては,現在最も深刻な侵害のタイプではないかと思います。これについては,技術的な進歩あるいは安価なスキャナーの販売等,あと,インフラの高速化等により,急激に増えてきたものと思われます。
 「ネタバレ」,「絵バレ」という用語も説明しておりますけども,この中で、明確な著作権侵害はいわゆる「絵バレ」と言われるもので,画像のスキャンです。
 この「早売り」にも「オンライン・リーディング」と「リーチサイト」という2つのタイプがあります。言葉ではなかなか分かりにくいと思いますので,PC画面を張り付けておりますが,オンライン・リーディングというのは文字どおりサイトにアクセスすれば画面上で漫画が閲覧できるというものです。それに対してリーチサイトというのは,サイト上には作品タイトルしか表示しません。ファイルは外部のサイバーロッカーなどと呼ばれているデータ・ストレージサービスに蔵置し,作品のタイトルとリンクしております。ユーザー,つまり,漫画を読みたい人間は,リンクをたどってサイバーロッカーからファイルをダウンロードするという仕組みです。
 資料にある日本の悪質なリーチサイトの事例ですが,縮小して見えづらくて申し訳ないですけども,『はるか夢の址』のトップページには,最新アップロードとして『週刊少年マガジン』の誌名が確認できます。また,無料漫画ダウンロードの方では,連載作品のスキャンなんですけども,それぞれのデータを示すのにその作品が掲載されている雑誌の表紙をサムネイルとして利用しております。
 スキャンレーションというのは,この漫画のスキャン自体が違法なわけですけども,更にそれを無許諾で翻訳して,あたかも翻訳版漫画のように加工して流すものです。これについても,画像編集ソフトが非常に高度化しておりますので,まるで正規品のような画面が実現されております。
 これらのオンライン・リーディングとリーチサイトのマネタイズ,収入について御説明します。オンライン・リーディングは主に広告収入です。広告収入といっても,2年ほど前,米国最大のオンライン・リーディングサイトと言われておりましたManga Streamでは,未確認情報ながら,月に2億円の広告収入があったと言われております。一方,リーチサイトは,広告収入もさることながら,サイバーロッカーからのダウンロード報奨金がかなりの部分を占めていると推測されております。そもそもサイバーロッカーというのは,ダウンロードされた数に応じて,そのファイルをアップロードした者に分配金を支払うシステムをとるところが多く,また,リーチサイトは例外なく,この報奨金システムのあるサイバーロッカーを利用しております。
このマネタイズの点からも,また,早売りデータのアップロードのスピード,削除されたデータの再アップロードのスピードからも,リーチサイトの管理者・運営者は,単にネット上にあるデータを探してリンクしているのではなく,自ら違法データをアップロードしていると推測できます。尤も,明白な著作権侵害であるアップロード行為を認める運営者は今のところいません。
 ちなみに,資料には入れておりませんが,昨年,書協と電通総研によって実施された国内における書籍の海賊版不正流通に関する試算によれば,書籍の不正流通による国内の被害額は270億円。うちコミックスが224億円となっております。これは飽くまで書籍に関する被害額ですので,雑誌の被害は含めておりません。雑誌の被害はまだ調査がなされておりませんが,少なく見積もっても書籍と同等か,現場の感覚で言わせていただきますと,数倍の被害額ではないかと思われます。
 安価で高性能なデジタル機器やソフト,次々と提供される新手のインターネット・サービスは,それ自体は快適なインターネット環境のためには歓迎すべきことかもしれません。しかし,それらを組み合わせて「違法ではない脱法行為」の仕組みを次々と編み出してきたのが海賊版の歴史であり,今後も新たな手口が現れてくることが予想されます。
 また,インターネットにおける侵害は,裁判管轄という問題が常に付きまとっております。しかし,日本国内はもちろん世界じゅうの海賊版の元データはほとんど,雑誌においては100%,日本国内でスキャンされたものです。大元の複製を止められれば最も効果的であることは明らかです。日本国内で行われる不正な目的の複製行為を監視・摘発することは,単に法改正で解決する問題ではありませんが,執筆に忙しい著作権者自身が,しかも,これまで御説明したとおり,多額のコストを掛けて対策を講じ続けることが不可能であることは,これもまた明白であると思います。
 日本国内での不正な複製行為を防ぐための法制度の整備を強く望む所以であります。
 最後に,海賊版のデータとお金の流れを簡略化した図を付けております。ほとんどの元データが日本国内からスタートし,しかも,不当に収入を得ている者がいるということが御理解いただけると思います。
 このように,出版物の海賊版被害の実態においては,雑誌のデッドコピーを利用したものがかなりの比重を占めており,雑誌の海賊版対策は,出版界の喫緊の問題であると言えます。出版関連小委員会という,またとない貴重な機会を設けていただいたのであれば,侵害実態と出版実務を踏まえて,海賊版対策にとってより効果的な制度設計を皆さんに御検討いただきたいと考える次第です。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ただいまの御説明につきまして質疑応答を行いたいと存じます。御質問などございましたらお願いいたします。いかがですか。金子委員,どうぞ。

【金子委員】 我々の提言とは無関係に,一委員として質問させていただきますが,この「告訴人は全(すべ)て著作権者」という点についてですが,平成7年の最高裁判決におきまして,親告罪の告訴権者については,独占的利用権者であっても告訴権者となり得るという判断がたしか出ていたと思われます。そのため独占的な利用権者,独占的なライセンシーであれば,もしかしたら告訴権者となり得るかもしれません。そのような意味で,独占的な利用権者として告訴された事例があるのかどうかをお答えいただければと思います。

【恩穂井様】 少なくとも私の経験上はございません。これについては,まず告訴の意思を著作権者に確認するという段階で,ほとんどの警察あるいは検察の方から御本名の開示を強くお願いされておりまして,それが調わない場合は告訴を見合わせるというケースがほとんどだと思います。

【金子委員】 恐らく独占的ライセンシーによる告訴が認められるとしても,そもそもその内容が独占的ライセンスの対象となっているかどうかについては,特に既存の出版契約の内容ですとかネットの配信等もありますので,もしかしたら警察側はそのことを考えて慎重な対応をされているのかもしれません。

【土肥主査】 よろしいですか。ほかにございますか。よろしゅうございますか。
 1点お尋ねしたい点は,8ページで,あるいは最後に恩穂井様がおっしゃったと思いますけれども,その「大元の複製を止められれば,最も効果的であることは明らかである」という,ここにかなり重心といいますか,比重を置いてお話になったかなというふうに伺いましたけれども,これは例えばここでおっしゃっておられる意味は,今回その出版権制度の見直しを今やっておるわけですけれども,その見直しのいかんによって,この大元の複製を止める,つまり,効果的な問題の解決ということにつながるというふうに御認識なさっておられますか。

【恩穂井様】 少なくともその可能性をかなり感じております。ここでは詳しくはご説明できませんけれども,関係団体と連携して調査を進めている幾つかの案件がございまして,それについても,我々が主体的にケアができれば,国内についての監視あるいは最終的には告訴等の手続がとり得るのではないかというふうに考えております。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございませんか。はい,どうぞ。福王寺委員。

【福王寺委員】 この9ページにある図の中で,無許諾スキャンについて,「早売り店から雑誌を入手」ということが書いてありますが,早売り店というものがどういうところなのかわかりません。実際にそういうところがあった場合に,出版社と取次の方はどんなことを要請するというか,ここが問題になっているような感じが,図だけを拝見しますと,いたします。その早売り店に対してどんな態度をとっていらっしゃるかということをお聞きしたいと思います。

【堀内委員】 日本雑誌協会で発売日を守る励行委員会とか,業界でそういう委員会がございまして,早売り店が見つかったり,そういう事例が報告されると,そこに発売日を守るようにというような活動を業界の中でしております。それと,ここでは一応「早売り店から雑誌を入手」とありますけれども,正確に言うと,現時点ではどこから入手したのかは特定できないということがあります。発売日前の雑誌が,違法にスキャンする人にどこで渡ったのかということを,いろんな形で調査をしておりますけれども,はっきりとは分からない。我々が雑誌の印刷をお願いしている会社と連携をして,調査をしておりますけれども,印刷段階ではないだろうと。製本段階でもないと。その先の流通のどこかということで,「早売り店から」と書いてありますけど,正確に言えば,現段階ではまだ特定できないところです。

【福王寺委員】 この図の中から拝見しますと,この「早売り店」ということが書いてあるということと,それについて何らかの対処を,よく調査して,いらっしゃるということですが実際,版が製版されて,印刷所へ回って,それが印刷されて,製本されて,取次から書店ということになろうかと思いますが,そういう中でこれをきちっと出版社さんの方で,あるいはそれぞれの印刷会社の方で,取次さんの方でも,しっかりと,ひとつひとつ対応すれば,これはなくなるということになりますよね。

【堀内委員】 それは100万単位で,しかも,1週間掛けて印刷されて,配本,流通しているので,物理的にはちょっと無理ですね。ただ,業界団体としてそういう努力はずっとやっているんですけれども,止めるということはなかなか物理的には難しいことだと思います。その努力は業界を挙げてずっとこの数十年続けております。

【福王寺委員】 分かりました。ありがとうございます。

【土肥主査】 ほかによろしゅうございますか。はい,渋谷委員,お願いします。

【渋谷委員】 御報告のあった8ページの最後のところに,日本国内での不正な複製行為を防ぐための法制度の整備を強く望むとおっしゃっているわけですけれども,法律屋の立場から少しへ理屈のように聞こえてお聞き苦しいかとは思うんですけれども,複製行為というのは一回的な行為ですから,複製を一回やってしまうと,もうそれは差止めをすることはできないと。後の祭りということになってしまうと思います。差止めの利益がないという判断になってしまうわけです。ですので,ここの最後の1行ですね。むしろ不正に複製された情報がネット上を勝手に流れる。その自動公衆送信を防ぐための法制度の整備をしなければいけないところではないかと思うんですね。
 ですから,おっしゃっている意味はよく分かるんですけれども,具体的な法律の条文,直したりすることになったら,やはりこのネット上を流れる行為をどうやって効果的に止めることができるかと。そこに関心を向けるべきではないかと。そういうふうに感じました。

【土肥主査】 特によろしいですか。

【恩穂井様】 はい。

【土肥主査】 ほかによろしゅうございますか。御質問はありませんね。よろしいですね。
 堀内委員,恩穂井様,どうもありがとうございました。
 それでは,「電子書籍に対応した出版権」(仮称)の整備に係る法的論点の議論に入りたいと思います。前回の本小委員会においては,「電子書籍に対応した出版権」の整備に係る法的論点の中で,権利の主体及び客体に係る議論を行いました。権利の主体及び客体については,まだ議論し尽くしていないところもあるため,引き続き議論を深めていく必要がありますけれども,前回,委員から御指摘ございましたように,これらの論点については,義務の内容等の諸論点と密接に関連するものでございます。そのため本日は,まずは権利の内容,サブライセンス,出版の義務及び消滅請求に係る論点についての議論を行いたいと思います。その上で,残る時間で改めて権利の主体及び客体について,議論の続きを行いたいと,このように思います。
 それでは,事務局より前回の本小委員会における主な議論の概要と,「電子書籍に対応した出版権に係る諸論点についての説明をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 それでは,資料2に基づきまして,前回の本小委員会における議論,具体的には,先ほど御紹介ありましたように,「電子書籍に対応した出版権」の主体及び客体に関する議論について,それから,資料3に基づきまして,「電子書籍に対応した出版権」(仮称)に係る諸論点について,御説明させていただければと思います。
 まずは資料2をごらんいただければと思います。
 まず権利の主体についての御意見でございますが,(1)「電子書籍に対応した出版権」の主体となり得る者についてでございますが,電子書籍の流通を増やす努力をする者や,海賊版対策を行う者,それから,著作者の意向を形にして流通させる者が権利を持つべきという意見がございました。
 一方,現行法上の出版権を有している出版者のみを主体とすべきという御意見もございました。
 しかしながら,これに対しましては,出版社も既にボーンデジタルでの出版事業を行っており,現行の出版権を持っている者にのみ権利が与えられるということでは困るという意見がございました。
 このほか著作権法上,同じ行為に対しては同じような権利が生じるようにすべきであり,客体や主体を限定すべきではないといった御意見や,電子書籍を行うのは既存の出版者に限られないというような御意見,それから,権利の主体としては,著作者が望む相手方に権利を設定できるよう,法律で限定する必要は特にないのではないかといったような御意見がございました。
 そして,(2)その他といたしましては,権利の主体としては,義務の内容や出版権の対象となる行為の内容と併せて議論すべきといった御意見がございまして,このような御意見を踏まえまして,この後で説明させていただきます資料3を作成させていただいております。
 2ページ目をお開きください。権利の客体につきましては,様々な御意見が示されたところでございます。まず先ほどにも御紹介しましたけれども,同じ行為に対しては同じような権利が生じるようにすべきであり,客体を限定すべきではないというような御意見がございました。
 また,「電子書籍」という用語の範囲に関しまして,出版社としては,CD-ROMなどのパッケージ型とネット型の両方とも電子書籍であると考えているといった御意見があり,これに関連するもののCD-ROMなどについては別な扱いとしている意見としては,その下ですが,CD-ROM等の記録媒体の複製及び頒布は,現行の「出版」に当たるのではないかといったような御意見がございました。
 このほかにもボーンデジタル型のコンテンツ,ここでボーンデジタルとは,前回説明がありましたように,最初からデジタルデータとして作成されたコンテンツのこととお聞きいただければと思いますけれども,このようなボーンデジタル型のコンテンツを公衆送信する者に現行の出版権類似の権利を与えることとした場合,書籍とはみなせないようなデジタル情報を配信する業者にも同様に権利を与えなければならず,際限がなくなってしまうのではないかといったような御意見がございました。
 次の御意見ですが,客体について何らかの判断基準を設けることについて,著作物であるかどうかや,コンテンツが有料か無料かということも判断基準になるのではないかといった御意見がございました。
 次に,リッチコンテンツ,これについても前回御説明ありましたけれども,単に文章や画像のデジタル情報だけではなく,音楽や映像も含むようなコンテンツ,これをリッチコンテンツと呼ばせていただいておりますが,このようなリッチコンテンツやマルチメディアコンテンツに広げていくと議論の収拾がつかなくなるので,これまでの出版物の定義を逸脱しない範囲とすべきではないかといった御意見がございました。
 そして,最後でございますけれども,1つの考え方として,ISBNコードを付与して流通させるものに客体を限定するのがよいといった御意見もございました。
 前回の意見の概要は以上でございます。
 続きまして,資料3に基づきまして,「電子書籍に対応した出版権」(仮称)に係る諸論点,特に今回は権利の内容,サブライセンス,出版の義務,消滅請求について整理をさせていただきました。事務局といたしましても,先ほど主査よりお話がございましたが,権利の主体及び客体については更に議論を深めていただきたいと考えておりますが,先ほど資料2で御紹介しましたように,前回の小委員会において委員から権利の主体及び客体を議論するに当たっては,それに関連する義務の内容などの諸論点と併せて議論すべきといった御意見もございました。このような御意見を踏まえまして,この資料3では,権利の主体及び客体に関連すると考えられる諸論点について,現行法における扱いや検討事項について整理をさせていただいております。
 このようなことから,前回の小委員会でお配りをいたしました論点の一覧の中で,権利の内容という論点の中では,「対象を特定の版面に限定した権利の付与の是非」ということを書かせていただいておりましたが,この点については今回の資料では取り上げておりませんので,御承知おきいただければと思います。
 それでは,資料の中身に入りたいと思いますが,まず1ポツの権利の内容についてでございますが,現行法では第80条1項に規定されておりまして,「頒布の目的をもって,その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利」とされております。
 (2)の検討事項といたしましては,「電子書籍に対応した出版権」の権利の内容等といたしまして,まず「電子書籍に対応した出版権」として専有させるべき支分権の範囲は何か。これは複製権や自動公衆送信権といったところが考えられるところでございますけれども,どのような権利が必要かということについて御議論いただければと思います。
 また,2つ目でございますが,現行の出版権については,(1)で御説明いたしましたように,一定の態様の複製が出版権の内容とされておりますけれども,電子書籍に対応した出版権として専有させるべき権利は,電子書籍等を制作・配信するにあたり必要な範囲に限定することでよいか。こちらについても御議論いただければと思います。
 次に,2ポツのサブライセンスについてでございますが,現行法では第80条第3項において,「出版権者は,他人に対し,その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない」と規定されております。この規定の趣旨につきましては,点線の枠の中に,著作権法逐条講義の内容を書かせていただきましたけれども,「出版権が出版を自ら行うことを前提としてこれを引き受けた者に対して設定されたものだからであり,第三者への複製許諾をもその内容とするものであれば,複製権の期限付き譲渡と選ぶところがなくなり,出版者による独占出版を保障するための制度の存在理由を失うことになる」というふうにされてございます。
 このサブライセンスにつきましては,(2)検討事項といたしまして,紙の出版物の出版・電子書籍等の配信に係るサブライセンスの取扱いといたしまして,「電子書籍に対応した出版権」の設定を受けた者が,サブライセンスを行うことを認める必要があるかどうか。また,紙の出版物について,サブライセンスすることが可能であることを明確にするため,先ほど説明しました現行法を改める必要があるかといったようなことが御議論になろうかと思います。また,サブライセンスを認めた場合における著作権者の関与の在り方はどうあるべきかということも検討事項として掲げさせていただいております。
 2ページ目をお開きください。3ポツの出版の義務についてでございますが,現行法では,第81条において規定されておりまして,まず1つ目のポツでございますが,複製権者から原稿などの引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務がございます。また,2つ目のポツでございますが,「当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務」というものがございます。これを継続出版義務と言わせていただきますけども,この継続出版義務について,「慣行に従い」や「継続して出版する」といったことがどのようなことを意味するのかをこの点線の枠の中で書かせていただいております。
 簡単に御紹介いたしますが,【a】でございますが,「慣行に従い」とございます趣旨は,「出版慣行として合理的な期間内における品切れ状態を継続出版義務違反とはみない」ということでございまして,【b】の「継続して出版する」とございますのは,「著作物の複製物が常に市場流通過程にあるように,少なくとも品切れの状態に至らないよう在庫部数を勘案して出版行為を繰り返すことである」とされております。この出版の義務についての検討事項でございますが,「電子書籍に対応した出版権」の設定を受けた者は,現行の義務に相当します義務を負うべきと考えてよいかどうか。また,ほかに負うべき義務はあるかということを書かせていただいております。また,義務を負う場合,その義務の内容をどのようにするのかということについても御議論いただければと思います。
 最後に,4ポツの消滅請求についてでございます。現行法では,第84条の各項におきまして,一定の場合に,「複製権者は,出版権者に通知して出版権を消滅させることができる」というふうにされておりまして,1つ目のポツでは,先ほど御説明しました出版義務に違反した場合に消滅請求ができるということとされております。2つ目のポツにつきましては,継続出版義務に違反した場合で,複製権者が三月以上の期間を定めてその履行を催告したにもかかわらず,その期間内にその履行がなされない場合,この場合に消滅請求ができるということになってございます。
 そして,3つ目のポツは,「複製権者である著作者」,ここでは著作者であることが求められておりますけれども,「複製権者である著作者が,その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなった場合で,その著作物の出版を廃絶するために消滅請求をする場合について,規定されてございます。この場合には,出版権者に対してあらかじめ通常生ずべき損害の賠償が必要となっております。
 この消滅請求の規定を設けた趣旨につきましては,点線の枠内に記載しておりますが,詳細な説明は省略させていただきます。
 そして,最後の検討事項でございますが,消滅請求の在り方につきましては,3ポツの出版の義務とも密接に関連するものと思いますけれども,現行法と同様に,義務違反の場合と自己の確信に適合しなくなった場合に消滅請求を認めることでよいかということについても御議論いただければと思います。
 また,「紙の出版物に係る出版権の消滅請求と『電子書籍に対応した出版権』の消滅請求の関係」でございますが,同一の著作物について,紙の出版物についての出版権と「電子書籍に対応した出版権」の設定を受けた場合で,いずれか一方の義務違反の場合,これは例えば紙の出版物としては出版をしたけれども,電子書籍としてはまだ配信していない,全く配信をしないというような場合についてでございますが,消滅請求の範囲はどこまで及ぶのかということについて御議論いただければと思っております。
 事務局からは以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,意見交換に移りたいと思いますけれども,本日は事務局から説明いただいた資料3に記載されている論点ですね。この論点ごとに議論を進めたいと思っております。
 まず1の権利の内容についての議論を行います。先ほど事務局から説明ありましたように,「対象を特定の版面に限定した権利の付与の是非」については,次回以降とさせていただきたいと思っております。ですので,本日は,資料3の検討事項として記載されている点について,これについての議論ということでございます。
 それでは,最初の権利の内容について,主として,この検討事項とありますこの部分について御意見をお願いいたします。「電子書籍に対応した出版権」として専有させるべき支分権の範囲,これは恐らく一番重要な話かと思いますので,是非御意見をいただければと思います。
 渋谷委員,お願いいたします。

【渋谷委員】 先ほど事務局の御説明で,例えば複製権,自動公衆送信権などということでございましたけれども,重要なのは,自動公衆送信権を含めることではないかと考えます。それは先ほど発言させていただいたときにも申しましたけれども,複製というのは1回やってしまうとそれでおしまいなんですね。ですから,行使しようというときに行使できない。損害賠償請求をするなら別ですけれども,行使できないというようなことが起こりかねない。この電子書籍というのは継続的にネットに流れるというところに問題がある情報でありますから,その流れている状態を止められるのでないとどうにもならないというところがあるように思います。ですから,複製権と自動公衆送信権,両方与えてもいいんですけれども,より重要なのは自動公衆送信権。これは支分権の範囲を含めるべきということになるのではないかと思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ほかにいかがでございましょうか。吉村委員。

【吉村委員】 経団連の提言も,同じような認識です。我々としては,複製権と,それから,自動公衆送信する権利を提案させていただいております。提言の内容を考える際,当初は公衆送信権と記そうと思いました。ただ、ここにいらっしゃる方はよくご存じのとおり,公衆送信権の方が自動公衆送信権より範囲が広いわけですが,放送や有線放送といったところにどのように影響するのか,我々のなかで十分に議論を詰め切ることができませんでした。よく分からないところがあるままに公衆送信と主張するのも無責任であろうということで,自動公衆送信権を提案をさせていただいたところでございます。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。前田委員。

【前田(哲)委員】 まず自動公衆送信に限るのか,つまり,「自動」を付けるのかどうかということなんですが,自動公衆送信にしてしまうと,手動でメールで送信する,あるいは,メール添付で一斉送信するようなケースが含まれなくなってしまうので,それはちょっと狭過ぎないかなという気がいたします。
 それから,複製権についてなんですが,現行の出版権の方を見ますと,これは複製権だけであって,譲渡権を含んでいない書き方になっているんですね。それとパラレルに考えると,公衆送信のための複製というふうになるんでしょうけれども,これはやっぱり渋谷先生からも御指摘がありましたように,複製プラス公衆送信にすべきだろうなと思います。また,「複製」を外していいかというと,そういうわけにはいかなくて,やっぱり公衆送信のための前提となる複製については,権利の対象に含める必要があるのではないかと思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ほかにございますか。里中委員,お願いします。

【里中委員】 すみません。混乱を招いてしまうかもしれないので申し訳ないんですけれども,現実を考えますと,先ほどこの2ページの紙の出版物に係る出版権の消滅請求と電子書籍に対応した出版権の消滅請求の関係で書いてありますね。同一の著作物について,紙の出版物に係る出版権と電子書籍に対応した出版権の設定を受けた場合で,いずれか一方が義務違反だと両方掛かるというのが,申し訳ございません。私,ちょっと理解不足でよく分からないんですけれども,同一の著作物であっても,発表媒体が違う場合にどうしてその出口が2つあるものの一方の出口で義務違反があったら,もう一方の出口までふさぐのかということが連動されているかちょっと分からないんですね。
 ということは,こう書かれてあるということは,ここで検討されることは,ある著作物が紙の出版物として世に出て,そして,その後,自動的に電子書籍として紙の出版物に関(かか)わったところが関(かか)わるというのがもう前提になってしまっているように見えるんですが,いかがなものでしょうか。すみません。理解を助けていただける方がいたらお願いしたいんですが。

【土肥主査】 今お尋ねになった点については,ここではまだいずれについても決めて,議論しておりません。もちろん現在の出版制度を横に置くのか,広げるのか,そういうことは今後議論になってくると思います。思いますけれども,今日のところは事務局の,先ほどありましたように,この1,2,3,4の4つの論点というふうにさせていただいて,今現在は3,4はもうちょっと先にさせていただいて,1のその支分権の範囲をどうすべきかというところに絞って議論させていただければなと,このように思っておりますが,よろしくお願いします。
 ほかにございますか。はい,河村委員,お願いします。

【河村委員】 ちょっと教えていただきたいんですが,今,資料3の1の権利の内容ということで御意見がいろいろ出ているんだと思うんですが,以前,委員会で電子書籍の出版の活性化という面と……。

【土肥主査】 海賊版。

【河村委員】 海賊版への対策は分けるべきだとかそうじゃないとか,いろんな意見がございましたけれども,今日の議論の中には,その海賊版対策のようなものは,今,資料3で提起されているものの中には含まれているんですか。

【土肥主査】 はい。おっしゃるように,どのように利活用を増大していくかという観点から,どういう支分権が必要か。それから,海賊版対策として有効な手だてになるためにはどういう権利が必要か。そういうことを踏まえて御意見を頂戴(ちょうだい)できればというふうに思います。

【河村委員】 更にもう一点教えていただきたいんですが,先ほど特定の版面については次回以降というふうに御説明がありましたが,よく分からないのは,先ほどの前半部分での意見発表の中で,私も主査が御質問なさったところがとても気になって,大元の複製を止められればということは,具体的にはどういうことができるようになればいいと思っておられるのかがよく分からなかったので御質問しようかと思ったんですが,申し訳ないんですが,お答えの方もあまり具体的じゃなくて、私にはよく分からなかったんですね。私の質問は,先ほどの前半の発表でおっしゃった,何かできるようになると思うとおっしゃった部分は,特定の版面については次回以降という,次回に係る問題なのかどうか教えていただけますか。ちょっとその辺が見えてこないと,私言うべきことがあるのに,言いそびれてしまうんじゃないかと思うんです。何か曖昧な感じなので,海賊版対策の内容について,先ほどおっしゃった大元の複製を止められれば云々(しかじか)のところは,次回以降に係る論点なのかどうかだけ教えてください。

【土肥主査】 それはいろいろな観点ありましょうから,次回以降も出るのかもしれませんけれども,基本的には本日はどういう支分権を与えることによって,利活用と海賊版対策が有効にできるのかどうか。私ちょっと質問をいたしましたけれども,その後すぐ渋谷委員が複製という,そこに限ったところで十分な対応ができないので,送信可能か,アップのところから送られるところまできちんと対応するような,そういう支分権というものが重要なのではないかという質問に重ねてお答えいただいたように思いますけれども,そういう意見では十分ではないでしょうか。

【河村委員】 すみません。では、きわめて素人なので,恥を忍んで質問いたしますけれども,差止め請求権について,複製は1回限りだからあんまり意味がないということなんですが,やってしまった行為しか止められないものなんですか。消費者問題の世界で、差止め請求というのはよくあるんですけれども,スキャンをして大量に大元の複製をして,海賊版の元になるものをスキャンしている行為について,差止めというのは,今までやったものにしか効かないものなんですか。

【土肥主査】 やった組成物を廃棄するという,そういうことになりますよね。つまり,そういう複製をしておって,その違法に複製された物を廃棄したり,それに必要に行われた,そういうスキャナーとかそういったような行為,機器等があると思いますけれども,そういった機器についての廃棄というようなことが問題になるんだろうと,差止めでは問題になるんだろうと思いますが。だから,その複製を,今現在やります,それをやった,その行為をなしにするということは,それはできないので,したがって,そういう行為をやめさせるのに必要な,現在違法に複製されているものを廃棄したり,あるいはそういう行為に必要な機器等を処分させたり,そういうことが差止めの内容としては問題になるということじゃないでしょうか。
 どうぞ。

【潮見委員】 民法の普通の考えかどうかは定かではありませんけれども,今,委員がおっしゃった問題というのは,いわゆる予防的な不作為,将来の行為に対する差止めというようなことに関(かか)わってくるわけで,これについては,いろいろな考え方があろうと思います。将来起こるようなことについても,予防的に止めるということは民法の理屈ではあり得るし,もちろんそれを差止めという言葉を中に入れるかどうかは別の問題ですけれども,今回の個々の議論を考える上では,将来どういう措置を講じればいいのか,予防のために何をすべきなのかというところを議論するという意味で,今のやりとりをこの先も生かしていけばいいのではないかと思います。その上で,それを差止めと呼ぶかどうかはまた後で考えればよいのではないでしょうか。

【土肥主査】 ありがとうございました。河村委員,よろしゅうございますか。はい。松田委員,お願いします。

【松田委員】 複製がここで問題になるのは,電子書籍に対応した出版権に関する支分権を考えるわけですから,サーバーに蓄積されることを複製と捉(とら)えて,これを一回性のものかどうかという判断をすればいいんだろうと思います。サーバーに蓄積して,そして,もう同じものを2回サーバーに蓄積する必要がなくて,あとは自動公衆送信をするという状況になったときには,自動公衆送信の差止めをして, 112条の2項で,そのサーバーの中のデータの廃棄を求めるということがひとつ考えられます。ところが,サーバーにおける蓄積というのは,自動公衆送信の送信可能化の状態を考えましても,必ずしも一回性のものとは限らないものもあります。それから,複製をしないで自動公衆送信をするものもあります。その場合には,反復継続するような場合については,複製権で差止めはできると私は考えます。もちろんのこと,複製をしないで自動公衆送信がいきなりできるという場合には,これは自動公衆送信だけでやればいいんだろうと私は考えています。
 それから,裁判実務上なんですけど,書籍については,一度出版をして販売をしているものでも,複製権に基づいて差止めをするということはあります。損害賠償だけじゃなくて,現にあります。それは何かというと,紙ベースの場合は,たとえ在庫が出来上がっていましても,またやるかもしれないという可能性があるわけです。売れちゃったらまたやるかもしれないわけです。ですから,出版も差止めのときに複製が完成しても,複製権に基づく妨害排除請求権としての差止め請求権を行使するということになります。それは112条の将来における侵害の恐れのある場合に,その侵害の予防を請求できるという予防請求権でやっているのではないかなというふうに考えています。裁判所はあんまりそこのところを吟味もせずに,少なくとも出版の場合には,出版が完結しちゃっていても出版の差止めを認めています。

【土肥主査】 ありがとうございました。河村委員,よろしゅうございますか。

【河村委員】 よろしくはないんですけど。

【土肥主査】 マイクを瀬尾委員のところにお願いします。

【瀬尾委員】 ちょっとよろしいですか。大分いろいろ,ちょっと交錯している雰囲気がして発言させていただきますけど,今,河村委員のおっしゃったこととか,全(すべ)て,今日最初にヒアリングがありました。海賊版に対しての被害と,それと実態ということで。それと,実はその後のこのペーパー3に対する議論というのは一回切り離した方がいいと思うんですね。これは一つの論拠ではあるんですけれども,たくさんの論拠を出されていた中で,この前,河村さんのおっしゃった流通促進と違法対策,2つもあったり,いろいろな理由があって,今回の検討に至っているんですけど,何かあのヒアリングをして,そのヒアリングの上に立って議論するとなると混乱するんじゃないかというふうに思います。
 だから,一回そのヒアリングはヒアリングで,また今回,貴重な情報頂いたから,これはこれでオーケーと。ただ,ほかの論拠も含めて,主体と客体,それから,範囲について検討していくようにすれば,ある程度整理ができると思うんですね。それは違法対策のために有効な範囲とか,主体,客体みたいな形で考えていくと,ちょっと狭いような気もするし,先ほどの海賊版対策というものについて質問が余り出なかったというのは,それは一つの結果であって,そういうお考えと趣旨でありますけれども,本当にそれで海賊版対策になるのかとか,その部分どうであるのかということを話をしていたら,それはきりがない話になって,それは一つの御意見としてきちんとこういうことで海賊版対策が必要なんだという御意見として拝聴した上で,3番は別に切り離して考えた方がいいように思います。その上で,範囲としてどの範囲であるのか。今言った複製権と公衆送信権の話とを順番に追っていったらよろしいんじゃないでしょうか。あんまり混ぜると混乱するような気が私はするんですけど,いかがなものでしょうか。

【土肥主査】 ありがとうございました。はい。

【森田主査代理】 混ぜるかどうかは別にして,出版権の権利内容をどのようなものとするかを議論するときに,何のために権利を付与するかということが定まりませんと,その目的を達するために付与した権利の内容で十分かという点について答えは出せないように思います。そのような権利付与の目的として,いわゆる海賊版対策というのを考慮に入れるかどうかという点が先ほどから問題となっていると思いますが,出版権の内容のコアの部分としましては,もともと出版権というのは,著作権者と出版契約を結んだけれども,他の出版社と二重に出版契約を締結してそこからも出版されては困るので,出版権という用益物権的な権利を与えて,それを止めるというために認められたものですから,出版権として専有させるべき支分権としては,著作物の独占的な出版を行うために必要な範囲の権利が,そのコアの部分として必要不可欠であると思います。ただ,それにプラスアルファで海賊版を止めるというようなことも可能になるような権利をその内容に含めるかということは,ここでも議論となり得るかと思います。
 今日は議論の対象となっていない,対象を特定の版面に限定した権利の付与という,そちらの方で対応するかどうかというのもオプションの1つでありますので,最終的には全体を含めて検討する必要があるかと思いますが,先ほどの議論を伺っていて,ここで申し上げておきたいといいますか,これも検討の必要があるのではないかと思います点を指摘しておきたいと思います。それは,ある特定の出版社が紙媒体の出版権と,電子書籍の出版に対応した出版権とをフルセットで全部持つという場合があり得るわけですが,中山提案にもありますように,紙媒体の書籍の出版権と電子書籍の出版権とを,それぞれ別の主体が分けて持つという場合もありえますし,あるいは著作権者にはそもそも電子書籍としては出版するという意向がないので,紙媒体の書籍の出版権しか与えないという場合もありうるところですので,複数の主体に様々な形で出版権の割り付けることを想定して検討する必要があります。そうしますと,例えば,紙媒体の書籍についてスキャナーがなされ,サイトにアップされた場合に,紙媒体の書籍の出版権と電子書籍の出版権の双方を有する出版社は,公衆送信権に基づいてその差止めを請求することが可能でありますが,紙媒体の書籍の出版権のみの付与を受けた出版者については,紙媒体の書籍の出版に必要な範囲での支分権として,その頒布目的の複製権しかないということになりますと,公衆送信権はありませんので,それに基づいて海賊版を差し止めるということはできないことになります。そのような場合には,対象を特定の版面に限定した権利の付与の方で対応すればよいという考え方もありえますが,そのような考え方には問題があるということになった場合には,紙媒体の書籍の出版しか行わない者についても,海賊版を差し止めるために公衆送信権も併せてフルセットでの出版権を付与するということは,少なくとも論理的な組合せとしてはあり得ると思います。ただ,その場合には,別に電子書籍の出版権を付与された者がある場合には、その者が有している公衆送信権と,紙媒体の書籍の出版権者の有する公衆送信権との関係をどのように調整するのかという次の問題を生むことになります。いずれにしましても,ここで出版権の権利の内容を検討するときに,単一の主体がフルセットですべての出版権を持つという場合のみを想定して議論するだけでは十分ではなく,その一部だけしか付与されない場合,あるいは複数の主体にそれぞれ出版権の権利内容を割り付けて付与する場合も想定しつつ,それが先ほど述べたここで達成しようとする目的との関係で有効なのかどうかという観点から議論することが、ここでも必要になるのではないかというふうに思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 今御意見頂戴(ちょうだい)しましたけれども,そもそも出版権制度に影響も当然あるわけですよね。つまり,流通,つまり,その送信の部分について今度,電子出版制度の中に入れた場合に,従前の紙の方についての流通の方はそのまま置いておくのかどうかというようなこともあろうかと思いますし,今,森田委員がおっしゃいましたように,両方原則として持てる制度にするのか,それとも,紙は紙だけ,それから,電子書籍については電子書籍についてはそれだけにするのか,あるいは両方にするのか。いろいろ可能性はあると思うんですが,このあたりはむしろ実際に書籍協会なり,あるいは出版社なり,そういったお立場にある委員の方はどのようにお考えになっておられるのかどうかをお聞かせいただければと思いますけれども,いかがでしょうか。

【金原委員】 今のお話ですが,仮に紙媒体で出版した場合であっても,同一著作物が電子媒体で発行されるとすると,やはり紙媒体の出版物は大なり小なり影響を受けるというのが現実だと思います。したがって,我々出版の実務から言いますと,この出版権については,紙も電子も一体で出版権の設定というものができるような形にすべきではないかというふうに考えます。しかし,これは出版社と著作者の間の出版契約をするときにいろんな話合いがありますので,今の話がありましたように,紙だけ,あるいは電子だけという契約も実態としてはやむを得ないかなというふうに思いますので,そうすると,別々に設定をするということもその範囲の中には含めておかないと,実務が回らなくなるであろうと。ただ,ちょっと繰り返しますけれども,紙だけで設定した場合で,紙だけ出版するということであっても,それが同じものが電子で流通してしまうとやはり大きな影響を受けます。逆も真だと思いますので,それが影響受けないような形でこの出版権というものを我々は考えていきたいというふうに思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 前田委員,先ほどに関連してですか。それとも野間委員のお話も続けて伺えればいいかなと思うんですが,その後でお願いします。

【野間委員】 今のお話に補足するような形なんですけれども,実際に今既に紙の契約と電子の契約が両方とも,例えばひとつの著作物から両方とも契約を結んでいるというケースは非常に多いのですが,その一方で,電子の権利は別のところが持つということもあります。そのときに,では,我々としては,紙の方の権利においてで公衆送信権を頂くということが可能なのかどうか分からないところであります。そのようななかにおいて,先ほどからずっと言っている侵害対策という点においては,紙のものを違法に複製されてということが起きているので,それにも対応できるような形というのはどういったものがあるのかということを是非考えていただければと思っております。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 じゃ,前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】 先ほどの金原委員のお話は,何の権利を専有するのかという,専有権の範囲の問題,中身の問題と,ある人が持っている権利の経済的価値に対してどういう影響が生じているかという問題とが混在しているかのように,私には思えるんです。紙の出版権を持っている方は,専有しているのは紙の出版権だけであって,それが電子の流通によって経済的な影響を受けるということは分かるんですが,だからといって,紙の出版権を持っている方が電子について専有権を持つということはあり得ないと思うんですね。ですから,専有権の中身を考えるときは,電子の権利と紙の出版権とを分けて考えなきゃいけない。
 ただ,もし紙の出版権を持っている人に対して,電子で無許諾流通することによって非常に経済的な悪影響が生じるという現象があって,それに対して何らかの対応が必要だとすれば,紙の出版権者が専有している権利じゃないんだけれども,専有している行為以外の行為によって経済的な悪影響が生じるのだったら,それはみなし侵害で対応することがあり得るのかどうかということを検討しなければいけないということだろうと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 じゃ,金原委員,お願いします。

【金原委員】 おっしゃるとおり,仮に紙だけの専有権を持った出版社があったとした場合に,その出版社は当然電子の専有権を持たないわけですから,そこで発行もしないのに電子の専有権を欲しいというようなことを言っているわけではありません。それはそういう著者との契約になれば,それは仕方がないことだろうと思います。しかし,先ほどの話のように,紙でも電子でもどちらか一方やっていても,ほかのものが出れば影響受けますから,我々としてはやはり一体で考えたいということです。我々も紙でも電子でも両方出す,発行するという努力をすべきであろうと思います。つまり,同一出版社の中でその一つの著作物を紙でも電子でも両方とも発行するということです。先ほどの野間委員の話がありましたけれども,そういう形で我々は発行を目指しているということであります。

【土肥主査】 はい,松田委員。

【松田委員】 この検討事項に帰らせていただきまして,前田委員が先ほど言われたように,支分権の範囲はどこまでにするかというのは,複製権と公衆送信であるということについては,私も賛成いたします。ただ,公衆伝達権も含んでいるというふうに考えた方がいいのではないかと思います。受信をして,大きなディスプレイに映してみんなで見るということが,受信後の伝達ですけども,これを排除する理由はないように思います。23条の第2項,これも含んで公衆送信権等ということをこの権利の範囲内にすべきではないかと考えております。

【土肥主査】 河村委員,どうぞ。

【河村委員】 もう少し教えていただきたいんですけれども,今おっしゃっているような複製権,公衆送信権を与えるべきだというふうにおっしゃっているのは,先ほど来の紙だけの契約であれ,電子だけの契約であれということなんですか。それとも電子の場合はということですか。

【松田委員】 私はこの1枚目のペーパーの権利の内容の検討事項の考え方支分権の範囲は何かということですから,電子書籍に関する出版権の内容を言っているのです。その電子書籍の部分については,電子のメディアで複製して販売する,頒布するのは出版に入るだろう。ということは,前回私の意見で出しました。
ここでは,送信をする形の電子出版は,どこまで権利の範囲として認めようかということを考えているわけです。その設定されるべき支分権の範囲は複製権と公衆送信権。そして,公衆伝達権つきというのが相当ではないかというのが私の意見です。電子出版のことです。

【河村委員】 1つだけよろしいでしょうか。

【土肥主査】 はい,どうぞ。

【河村委員】 松田委員のおっしゃったのが電子出版のことだというのは分かったんですけど,先ほど来何人かの方から,紙だけの契約であってもそういうものが必要なのではないかという意見が出ていたように思います。一体として考えるとか,いやそもそも別々なんだとか,いろいろな意見が出ているんですが,私はこの間から別々である方が良いのではないか,つまり,両方契約することもできるわけで,一体じゃなければいけないとは思えません。だとすると,先ほど来の紙であってもというところは紙の方の出版権の内容も改正するのかよく分からないんですが,私が混乱しておりますのは,もともと公衆送信権とかそういう権利というのは何かこう,皆さんに発表するためにある権利だと思うんですが,恐らく使いたいのは海賊版対策のために使いたいということしか見えてこないんですね。特に紙の方が持つという話に入ってきたときには,そのことしか意図していないというふうにしか私には見えないんですが,そもそも紙だけの契約にそれが入ってきて,その人たちが公衆送信ができてよろしいのかどうかが,私分からないんですが,教えていただけますでしょうか。

【土肥主査】 どなたがお答えになるのかですけれども,今日の堀内委員,恩穂井様の説明にいろいろございましたけれども,紙をスキャンしてアップロードをされるわけですよね。そういう場合に現在のところは複製権というところ,つまり,その頒布の目的を持って著作物を原作のまま文書又は図画として複製する権利を専有している。その複製する権利を専有しているだけにすぎない出版権社が,その送信可能化の状態になっているものをどうして止めようかという,その侵害対策の問題であるわけです。海賊版対策の問題ということになるわけです。そういうことが可能であれば,今は止められませんけれども,止められるという問題が出てくるということですけど。

【河村委員】 私が伺いたいのはその点ではないんです。

【土肥主査】 金子さんがちょっと。

【金子委員】 でも,よろしければ潮見委員に。

【土肥主査】 そうですか。じゃ,潮見委員,お願いします。

【潮見委員】 ここで議論しているのは,電子書籍に対応した出版権のあるべき権利内容をどうするかということであって,紙に対応した出版権というものが現在こうあるけれども,それをどういうふうにするのか,その中に自動公衆送信権というものを含めるかどうかというのは,今回のここでの議論の対象では,この部分に関してはないというように,私は理解しています。
 ただ,そのときに,これはいつ,どういう形で議論するのかは分かりませんけれども,電子書籍に対応した出版権のあるべき権利内容というものを考えていったときに,それが現在の紙の出版権に対してどのような影響を与えるのかというのは,サブライセンスだとか,あるいは出版の義務とか消滅請求とか,このあたりの議論も含めながら更に検討を深めるべきだと思います。とはいえ,電子の出版権と紙の出版権と,そこは少し分けて議論した方がいいのではないかと思いました。

【土肥主査】 金子委員,どうぞ。

【金子委員】 今の点について,我々の提言との関係で今の議論がどういうふうに整理されるのかということを少し申し上げたいと思います。我々の提言では紙と電子は一体に扱うべきだということを〔1〕について申し上げております。その趣旨は,デフォルトルールとしてそのように定めるべきだと。現状の出版権と電子出版権を別に作るのではなくて,出版権を電子出版も含めたものとしてデフォルトルールとして書いた上で,あとは著作者がそのうちの一部,紙だけ,電子だけということを設定行為で定めることができるべきだというのが我々の提言の内容です。
 その上で本日の議論についてですが,我々の提言の中では,その紙の出版とされている行為について,我々の提言の〔3〕の問題は別として,紙の出版に関して,従来の出版権と利用行為の対象を大きく変えようということは,特に意図はしておりません。その意味では,むしろ電子出版についてどのような利用行為がその典型的な従来の出版と呼ばれるような行為に対応する,どのようなものがその〔1〕の新たな電子出版に対応した出版契約のものとして念頭に置かれるかということが重要な内容となります。
 そういった意味では,経団連から提案されている電子出版権の創設というときの電子出版に含まれる利用行為がどのような内容なのかということと,我々の提言における電子まで含めたときにどのような行為が含まれるかということは,基本的には同じ内容となるんだろうと思われます。
 その上で,ある意味,フルセットで設定した場合にどういったところまで権利が及ぶのかということが本日,特にここで議論すべきもので,もし経団連案のように紙と電子それぞれ別人に設定した場合に,紙だけの人については更に侵害対策というところで別のみなし侵害等の規定が必要なのかどうか。あるいは我々の提言のときに紙だけについて出版権の設定を受けた人に,更に特にネットでの配信等に対して何らかの救済を設けるべきかということはまた後で議論すべきことだろうと思われます。
 ここで議論すべきは,特に電子出版に対応した形で契約を置いたときに,どのような行為が電子出版と呼ばれる行為として認識されるのかということを議論すべきではないかと思われます。そういった意味では,基本的には複製と公衆送信,この公衆送信のための複製ということがその権利内容となるんだろうと思われます。ただ,問題は,頒布のための複製というのは,複製のための縛りとしては十分なんですが,公衆送信については全(すべ)てを含めてしまってよいのかどうか。あるいは逆に自動公衆送信だけで足りるのかどうかというあたりが少し難しいところがあると思われます。

【松田委員】 伝達権はどうですか。

【金子委員】 公衆伝達権については,私自身の理解ではむしろいわゆる出版と呼べる行為とは少し,最終的に見せる,公衆に直接提示することに該当するように思われますので,むしろ公衆送信までの方が電子出版と呼べる行為として該当するのではないかと思います。ただ,ちょっとこのあたりはどのような行為を電子出版の契約として念頭に置いたときにデフォルトルールとして設定することが妥当なのかということで,まだ私自身も整理がついていないところです。

【土肥主査】 吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】 我々は,紙からの海賊版被害はどうでもいいとか,紙の出版社は死んでしまってよいなどとは全く考えていません。ただ単純に,新しい電子書籍ビジネスに対応した権利が要るのではないかという考え方で,電子出版の世界だけを視野に入れた提案をさせていただきました。
 この提言については,お陰様でいろいろなところで取り上げていただきました。こうした場で議論をしていただくに当たっての,一石を投じたものになったと受け止めております。他方,紙からの被害への対応について何も触れていなかったことから,経団連提言では議論が不足しているのではないかといったようなご批判も受けているわけです。この点については,我々が,紙からの海賊版被害への対策について絶対に議論してはいけないという立場にあるわけではないということは,はっきりさせていただきたいと思います。
 但し、その手法については,先ほど前田先生からみなし侵害規定といったお話もございましたとおり,いろいろな方法があるのだろうと思っています。今日議論を始めてみて分かりましたが,やはり紙と電子の話を一緒に議論するというのは,今後、相当議論が混乱することが予想されるということだと思います。我々は電子のことだけを提案した立場ですので,若干,我田引水的になるかもしれませんが,紙と電子を一緒に議論することによって,どこを議論しているのかがわかりにくくなりますので,場合分けや順列組合せをしながら議論しなければならないということになるのだと思います。そういう議論をしてはいけないと言うつもりはなく,相当複雑で緻密(ちみつ)な議論をする覚悟をもった上で議論したらよいのだと思いますが,我々の立場としては,そうした議論を行うよりも,新しい電子書籍のビジネスの発展のために取り得るべき対策は何かという議論を先に行い,その後で,紙について,確かに深刻な問題がありますから,問題を整理した上でどうしたらよいかという議論をした方が,議論がしやすいのではないかと思っていることは,お伝えしておきたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。おっしゃるとおりだと思います。ここにもございますように,電子書籍に対応した出版権として専有させるべき支分権の範囲をどう考えるかという,そこだけのお話として議論させていただいた上で,将来的にはまた河村委員が疑問としている,お話になっているようなところも,この先場面が来ますと意見交換させていただければと思います。
 現在のところ,複製権,自動公衆送信権,その松田委員の御意見もありますけれども,この2つの権利が基本になっておるわけですが,電子書籍等,制作・配信するにあたり必要な範囲に限定した方がいいのかどうか。この点はいかがですか。必要な範囲に限定をする。前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】 実はこの点は御趣旨がよく分からなかったんですが,私は当然そうだと思っていた,つまり,電子に関する出版権に相当する権利を作るという場合には,そこで専有させるべき権利は電子書籍等を制作・配信するにあたり必要な範囲の権利であるというのは当然だと思っていたのですが,逆に,そうでないとする考え方というのはどういう考え方なのかがちょっと理解できなかったんですが。

【土肥主査】 むしろ,恐らくこのペーパーはそのことを確認したいということだと思います。ですから,確認していただければそれで十分なんですけれども。はい,どうぞ。

【森田主査代理】 この限定があるのとないのとで,どこが違ってくるのかというのが私にはよく分からないところがあります。ここに書かれていることそれ自体は合理的だと思いますが,「電子書籍等を制作・配信するにあたり必要な範囲」という限定があることによって,そのような限定がない場合とどこがどう違ってくるという御理解なのかを教えていただきたいところです。つまり,必要な範囲に限定するということは,限定された範囲外の公衆送信権というのは著作権者が行使しうるということなのか。ただ,電子書籍が出版されている場合に著作権者が公衆送信することができる場合がありうるのでしょうか。かりにそれはできないとすると、このように範囲に限定しても、その範囲外の部分は残らないような気がするのですが。

【土肥主査】 ちば委員,今のところ何か。要するに,お困りになるのではないかという,そういう,つまり,限定がないとですね。限定がないと。

【ちば委員】 私ずっと聞いているんですけど,年とったせいか,いろいろ議論が広くなってしまっている感じがするので,私は2つだけ今思っていることをまとめて言いたいなと思います。今までの流れとちょっと違うかもしれませんけど,サブライセンスについてですけれども,中山研究会にありますマル2ですね。現行出版権の再許諾不可を改め,特約なき限り再許諾可とするという部分についてですけれども,出版社がサブライセンスをすることについては,著作者たちの間ではやっぱり非常に不安に思われているポイントです。我々も一緒に,出版社と一緒に漫画の文化を育ててきた。そういう意味でも,まあ,恩を受けているということもあって,信頼の置ける出版社に煩わしい手続などを一切任せて,自分は創作に専念したいという著作者もいると思いますし,逆に絶対反対する人も多い。だから,権利を預けるかどうかは,基本的に著作者が決めるという点は絶対に動かさないでほしいと私は思います。
 あと,もう一点,つながっている話ですけども,塩漬け問題ですね。権利を拡大したい,あるいは拡張したいと。出版社にはその権利はもうあって当然という声も時々耳にしますけども,既にこれまで出版社はその権利を十分に持っているんじゃないかというイメージはあります。まあ,このところ出版社から,あるいは若い作家たちから見せてもらう出版契約書には,実行する予定のない条件までを思いつくままにというか,書けるだけ盛り込んだものがたくさん多く見受けられます。こういう状態のまま出版社の権利だけが拡張されるとしたら,いわゆる「塩漬け問題」,これはもう間違いなく増えると思われます。出版社はそれをどう予防し,どう対策をとるつもりなのか。まあ,どこの社会の契約もそうだと思いますけども,権利を持つということは,イコール義務が生じるということですから,その辺の出版社の義務に対する心構えをしっかりと,はっきりと伺っておきたいなと私は思っています。

【土肥主査】 ちば委員に,論点を早く詰めろというふうにおっしゃったと思うんですけど,そのサブライセンスの話のところで強くちば委員に御意見を頂戴(ちょうだい)したところでございます。余り1の権利の内容についてこれ以上無駄な時間を使うなという御指摘も裏にあるんだろうと思います。サブライセンスについて御意見を伺いたいと思うんですけれども,これについていかがでございましょうか。サブライセンス。松田委員。

【松田委員】 80条3項のこのサブライセンス権の禁止のように読める条文なんですが,独占出版を保障するための制度の存在理由を失うことになってしまうから,こういう規定があるんだと書いてありますから,これはこのまま読めば,強行法規だって読めるように思うんですが,私はこれは強行法規に読む必要は全くないと思っています。著作者が特定の出版社を選んで,その先のサブライセンスもそれでいいよと言っているのであれば,契約として全部有効にしてあげればいいと思っています。それも含めて著作権者が決めればいいわけで,嫌ならばサブライセンス権は付与しちゃ駄目だよと言えばいい。ただ,デフォルトをどうするかという問題はあると思います。私は,これは任意規定として読んで,デフォルトにすればいいと思っています。

【土肥主査】 そのデフォルトはどちらをお考えだったんでしょうか。

【松田委員】 基本的にはサブライセンス権の禁止です。特にサブライセンスをプラスすることが契約書にあれば,それでいいと思っています。

【土肥主査】 ほかにございますか。この点は金子委員は多分あるんじゃないかと思うんですが,どうぞ。

【金子委員】 ちば委員から御指摘いただいたとおり我々の提言の〔2〕,特に経団連案の場合には電子の出版だけですが,我々の提言の場合には紙についても再許諾可という点を含む点で,従来の著作者と出版社との関係を変更するものではないかという御懸念があることは当然のことだろうと思います。ただ,我々の提言も基本的には飽くまで著作者の意思に基づいて,そのような権利が設定されるということでありますので,決して著作者の意に反して,再許諾可となるということではないというわけであります。ただ,問題は特段の合意がない限り,再許諾可となってしまうという点がその点ちゃんと確認をしない,説明がされずにそういう設定がされるのではないかという危惧(きぐ)が更にあるというところも御指摘のとおりかと思います。その上で我々としては,この点については,どちらかといえば利用の促進という点を重視して,再許諾可をデフォルトとする提言をしたわけです。
 しかし,当事者の力関係などによって歪(ゆが)められる,あるいは意に反して権利が設定されかねないとの危惧がどうしても残るということであれば,その場合にも現行著作権法の規定をそのまま維持するのではなく,例えば専有実施権のように,著作権者の承諾を得た上で出版権者が他人に利用の許諾をすることができるとの規定を設けるべきと思われます。もし出版権設定契約に包括的に再許諾してもいいということの特約がついていれば,出版権者が単独で許諾ができることとなり,また,そのような特約がない場合にも,著作者が飽くまで個別に同意をすれば許諾をすることができる,そのような規定を設けてはどうかと思われます。また,そのような特約があるということは,登録によって公示されなければ第三者に対抗することができないとすれば,著作者の利益も害されるということはないのではないかと思われます。
 ただ,我々の提言としては,デフォルトでは再許諾可が望ましいとは考えています。しかし,それが著作者にとって大きな不利益となるようであれば,専用実施権のような形で規定をするということもあるだろうと思われます。

【土肥主査】 永江委員,どうぞ。

【永江委員】 デフォルトをどっちにするかというのは書き手として非常に重要です。出版社の編集者と書き手は二人三脚でやっているというのは実情ではあるんですけれども,それと同時に,とりわけデビューしたばかりの新人作家のことなどを考えますと,契約書がデフォルトでどうなっているかは大きな問題です。デフォルトに反して自分の意思を担当編集者あるいはその上司が出てきて,契約を迫ったときに,新人作家にとってこれは心理的にかなりきついですよね。日本の場合,ほとんどの書き手はエージェントを持っていないわけです。言ってみれば,素っ裸で大出版社の担当者と1対1でやり合わなければいけないわけですよね。その場面で,自分の権利をどこまで主張して,自分の権利をどこまで守れるかというと非常に難しいところがあると思います。もちろん文藝家協会では,文藝家協会が出版エージェントとなって,個々の作家が素っ裸で権利を主張しなくても済むような状況に早くなればいいというふうには思っていますし,そういう準備もしているわけですけれども,今日,ただいまの現状としては全く何もすがるもののない作家が契約書を渡されて,それにサインをしなければいけないという状況がありますので,だから,デフォルトでサブライセンスがどっちになっているかというのは,単純に契約書の法律議論では収まらない,非常にウェットな人間対人間の交渉の場面がありますので,その辺の配慮をしていただかないと,とりわけ若い作家についてはちょっとかわいそうかなというふうに思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ほかにございますか。河村委員。サブライセンスでお願いします。

【河村委員】 サブライセンスで。今,サブライセンスを認めるかどうかとか,デフォルトか,デフォルトじゃないかということですが,デフォルトである――どっちのことをデフォルトと言うのかで全然変わってしまうので言い換えますと,デフォルトの状態では再許諾不可になっていた方がいいという御意見に賛成ですが,それだけでは私,不十分なのではないかと思うんですね。出版契約を著作者の方が結ぶときというのは,この出版社で出してほしいと思って契約なさっているんでしょうから,デフォルトじゃなかったとしても,今おっしゃったような若い著作者さんなどの,弱い立場の方というのは,たとえデフォルトでは駄目になってても,そこをこういうふうにしてほしいと言われたら,なかなか反対できないということもあります。
 もしもそれが入ってしまったときに,サブライセンスを認めてしまった場合に,そのサブライセンスを誰(だれ)に対してするかを権利を持っている出版社の方の一存でできるというふうになってしまったら,1回契約してしまったら,著作者の方は一体自分の作品がこの先どこで出ていくのかをコントロールできないということになりますから,この2つ目に書いてあるように,たとえサブライセンスを認めた場合であっても,その都度,そのサブライセンスするときにきちんと著作者の了解とか,著作者に意見を言う機会があるということが大切なのではないかと思っています。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】 今の話と近いのですが,デフォルトをどちらにするかという話は別として,やはり著作権者の関与の在り方というのがひとつ大事な点だと思っています。サブライセンスというのは,別に著作権法だけに出てくる考え方ではありませんので,特許法なども横並びで見た方がいいと思います。そのような考えのもと,サブライセンスを受けた人が著作権法で言うところの著作権者の意向と関係なくサブライセンスできるという世界になり得るものなのかどうなのかということを,ご議論いただけたらと思っています。
 なお,サブライセンスが電子書籍ビジネスを行うに当たって必要だということは,経団連でも申し上げております。「サブライセンスは要る」という立場であることは,あらためて強調させていただきます。
 それから,一つご質問です。我々は電子書籍の世界だけを念頭に置いた提言をしておりますので,この検討事項の最初の方にある紙の方の話について教えていただきたいところがございます。紙の世界においては,紙から電子化されるものが多いという話があるからサブライセンスが必要ではないかという議論が出てきているのか,あるいは現状の紙の世界だけのビジネスにおいても,実はサブライセンスがあった方がいいという状況なのか,今のビジネスの状況について教えていただければと思います。

【土肥主査】 金原委員,お願いします。

【金原委員】 今のサブライセンスの話について,皆様の,各委員のお話を伺っていて,ちょっと残念だなというふうに思います。我々出版社と著作者の方は一心同体であるべきであって,電子出版にはサブライセンスはやはりやむを得ない,つきものだと思います。実際の流通が様々な形態で行われる以上,出版社だけの配信システムでは対応し切れない、というか,サブライセンスをすることによって,更に幅広い流通が確保される。これはまさに電子出版物,電子書籍の流通の促進に資するものであるというふうに我々は考えます。
 そこに懸念があってはいけないわけで,著作者の方々がサブライセンスに非常に疑問があるとするならば,それは出版社の説明不足であって,大変我々としては申し訳ないというか,残念な気持ちです。そのサブライセンスをすることによって,幅広い流通を確保するということは,もちろん出版社にとっても非常に重要なこと,かつ,流通を確保できるということではありますけれども,それは必ず著作者の方々の利益につながることであって,その意味では我々が考えていることも,著作者の方が考えることも同じであるべきであります。それが今同じでないとするならば,我々の説明不足です。もうちょっと著作者の方々とお話をして,説明をした上で,そのサブライセンスしても問題はないということを御理解いただくということが必要なのではないかというふうに思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。その場合に特許の専用実施権のように,譲渡とか質権の設定及びそのサブライセンスについても,許諾を取るという,そのケースのサブライセンスの必要になったときに許諾を取るような形というのは,そういうことは考えられないんでしょうか。

【金原委員】 それぞれ出版契約で著作者の方がどうしてもサブライセンスは駄目、電子の出版権の設定をしたら全部自らやれという御意向であれば,これはやむを得ないと思います。ただ,それだと流通が制限されるというか,出版社自らサブライセンスしないでできることというのはおのずから限界がありますので,そうなりますと,ある部分についての流通が確保されないということの説明を我々はした上で,それでもよろしければ結構ですということのお話をすることになるのではないかというふうに思います。

【土肥主査】 私が伺ったのは,必要なときに一言,その著作者の方に,あるいはここで言うと,複製権とか公衆送信権ということになってくるんだろうと思うんですけれども,その許諾を取るというステップがあってはまずいんですかね。

【金原委員】 その都度ということですか。

【土肥主査】 その都度,必要なときに。

【金原委員】 その都度でも可能だと思いますけれども,やはり最初に出版契約を結ぶわけですから,そのときにサブライセンスをどうするかということをそれぞれ取り決めればよろしいのではないかなと思います。その上で,仮にサブライセンスはノーで,駄目だということになった場合でも,必要に応じて著作者の方の了解を取って,サブライセンスをすることによって流通を確保するということはあり得るだろうと思います。

【土肥主査】 野間委員,どうぞ。

【野間委員】 現段階で電子の契約においては,サブライセンスを認めてもらうような条項を多分入れております。そうしないと,各電子書籍でそれぞれ違った形のデータ,フォーマットに対応できないという理由もあって,流通促進の意味でそれを入れていただかないと難しいということから,そういう形になっています。これは実際にあったかどうか分からない事柄ですが,著者の方が,でも,あそこの電子書店は嫌いだからやめてくれと言われたら,それは我々の側としては配信の委託を止めるという格好になると思います。
 あと,吉村委員がおっしゃっていた紙の方で申し上げると,現実には慣行として,サブライセンスという形ではないんですけれども,じゃ,文庫を違う会社から出すといったときに,もちろん著者の方の了解を取った上で,他社から文庫が出る。その場合に,文庫を出す会社が数%のフィーを,前回の話にもありましたけれども,お支払をする,そういうような形はございます。そのような形を現行でやっている限りにおいては,もちろん著者の方々の,勝手に知らないところで出されちゃ困る,勝手に許諾されちゃ困る,そういうサブライセンスを紙で与えられたら困るというのはもちろん分かりますので,そのときには現行のやり方で,それほど,特に一般書の場合は問題はないのではないかというふうに思っております。

【土肥主査】 前田委員。

【前田(哲)委員】 サブライセンスに関してどっちをデフォルトにすべきかという問題に関しては,特許の専用実施権の規定とか,あるいは更に言えば,民法の賃貸借の規定とのバランスを考えると,やっぱり著作権者の承諾の下にサブライセンスができるとすることがバランスがいいんじゃないかなと思います。
 ただ,その承諾は包括的承諾でも当然いいはずであって,ここで言っている電子出版権の設定時に著作権者が包括的な承諾をするということは当然あり得ることであって,それは契約自由の範囲内であって,その包括的承諾を強行法規により無効にするという理由はないと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 小林委員。

【小林委員】 電子書籍の流通をやっていますが,私の会社の先に,今ですと30社ぐらいの書店があります。著者の方が著作物を作って,やはりみんなに読んでもらいたいというのが多分一義だと思うんですね。もちろん変なところでは見せませんけれども,ということで私自身もちゃんとした書店と契約をしながらいろんなところで著者の方の作品が出るようにしています。ですから,僕がお願いしたかったのは,さっき話に出ましたけれども,著者の方がそういう目的でお書きになっているとすれば,やっぱり編集の方とベクトルを合わせておいていただきたいなと思っていまして,できるだけ多くのところに見せられる方法があるんだったら著者の方とよく話していただきたいですし,その後に続いている我々の会社もそれを目的としていますから,デフォルトの部分で,禁止でもいいんですけれども,その段階で,契約をなさる段階でこの編集者と一緒にいれば,自分の作品がいろんなところで露出をされて,別の言葉で言いますと,たくさん売れるという状態になるのであれば,その時点で共通の認識をしておいていただければ,その後の段取りといいますか,たくさん見せる段取りは我々も含めてそこでやりますので,そういう中でのサブライセンスのやりとりをしていただきたいなというふうに思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 渋谷委員,お願いします。

【渋谷委員】 そのサブライセンスという言葉の使い方なんですが,これはあれですかね。業務の委託というのとは違う意味で使われているのかどうかということです。出版社が電子書籍に対応した出版権を取得したと。それで,自動公衆送信しようというときに,自分のところの設備だけではうまくいかないから,十分でないから,誰(だれ)か別の業者に頼んで,自分の代わりにやってもらうと。これは業務の委託でして,委託される方の業者というのはいわば下請になるわけだろうと私は思います。この下請をするのに一々電子書籍に対応した出版権者からサブライセンスを受けなくちゃいけないのかというと,そんなことはないんじゃないかと思うんですね。特許の世界の話をしますと,通常実施権者とか専用実施権者という人たちがいますけれども,その人たちが実施権を取得すると,自分だけでは製品の全(すべ)ての,例えば部品を製造することができないというときは,一部の部品は下請に回して作ってもらうと。これは別にサブライセンスとか何とかという問題じゃないので,下請に出すというだけの話です。
 ですから,その電子書籍の場合にサブライセンス権が必要だというんですが,そのサブライセンスというのはどういう形態を我々はイメージしたらよろしいのか。法律的な意味で,正確な意味で,本当のサブライセンス。サブライセンスということになりますと,サブライセンシーは自分の計算で,損益の計算で業務をやるということになるので,単なる下請ではなくなります。だけれども,単なる業務の委託だったらそういうことはないと。サブライセンスという言葉の意味を私は確認したくて質問させていただきました。

【土肥主査】 恐らく皆さん業務委託とか下請は,ここで言うサブライセンスには入っていないというふうに認識しております。したがって,他人の名において,他人の計算で,例えば文庫本というか,今よく言われるサブライセンスの必要性がここでテーマになっているんだろうと思っているんですけれども。
 潮見委員,どうぞ。

【潮見委員】 私自身もサブライセンスという言葉の使い方自体が,渋谷委員とはちょっと別の意味で気になりました。今の渋谷委員がおっしゃった点については,サブライセンスをもらった人に対して,出版権者としての地位というもの,あるいはそれに相当するような地位を与えるのがふさわしいかどうかというところから考えていったら,整理ができるのではないかと思うのですが,1点,別のことでちょっとだけ気になりますのは,これはむしろ文化庁の著作権課の皆さんにお尋ねしたいのですが,この報告書資料のところに,「紙の出版物の出版・電子書籍等の配信に係るサブライセンス」と書いておられるのですが,この中に紙の出版権を持っている出版権者がいて,その内容として,この人は電子出版をすることができるということは権利として持っていない。そういう紙の出版権の設定を受けた人が電子出版に関して,サブライセンスをするというのは一体どういうふうに法律的に説明するのか。要するに,紙の出版権の内容,つまり,本来のライセンスの方ですけれども,その部分については電子出版の内容は入っていないのですよね。その部分についての権限は,紙の出版権者に割り当てられていないわけです。にもかかわらず,それの再許諾だというのは,枠組みとして説明がつくのか。それをサブライセンスと言ってよいのかといったあたりが少し気になります。法制局的に考えるところかもしれませんけれども,しっかりとそのあたりは考えておいていただかないと,サブライセンスという意味自体が妙な意味でとられるのではないかと思いました。
 それから,もう1点ですが,この部分に関しては,今,法制審議会民法(債権関係)部会で中間試案の中でも少し議論をしているところです。その部分との整合性を是非とっていただきたい。こちらでいろいろ議論したとしても,大元の民法のところで個々の者とは違う基本方針,あるいは正当化原理の下でこの問題を考えるということになった場合には,そうしたら一体どうしてこの部分についてだけ別の枠組みが成り立つのかという点の正当性が問われるのは必常だと思います。この部分も含めて,法律構成あるいは考え方については慎重にやっていただきたいと思います。渋谷委員がおっしゃった意味も含めて慎重にやっていただきたいと思います。
 以上です。

【森田主査代理】 私の質問は,先ほどのサブライセンスの概念について,今まで出た意見とは逆の観点から,その内容を確認することになるかもしれませんが,出版権の場合には権利設定とともに義務を伴う,出版権者には出版義務および継続出版義務が発生するというわけです。そうしますと,ここで言うサブライセンスというのは,そのサブライセンスを受けた相手方は出版義務を負わないということが想定されているのでしょうか。つまり,先ほど転貸借の比喩が出されましたけれども,出版権設定契約という同じ契約の上に同じ契約が乗るということではなくて,あくまでこの80条3項で言うところの専有する権利の基となった支分権の範囲で出版権者が許諾を与えることができるというだけであって,二重に出版権設定契約がなされるわけでない。したがって,サブライセンスの相手方は出版義務を負っているわけでなくて,あくまでも,サブライセンスを行っても元の出版権者が出版義務を負っていて,その者との関係で,出版権消滅請求が認められる。そういうものとしてサブライセンスを考えているという理解でよいのでしょうか。中山提案でいうサブライセンスの内容についても,そういうふうに理解してよいのかという点を確認させていただきたいと思います。そうしますと,このサブライセンスという言葉自体がやや多義的なので,もう少し厳密な定義をした上で先に進んでいくということがある段階では必要になるのではないかということを併せて申し上げたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。先に……。

【松田委員】 いや,私が先の方がいいです。

【土肥主査】 ああ,そうですか。じゃ,松田委員,お願いします。

【松田委員】 といいますのは,事務局がどうしてこのサブライセンスという言葉を使ったかというのは,今のところ,ここのところを絞り込んで,絞り込んで,ここで議論するよりは,いささか外縁を緩やかにしておいて議論をしようという意図が私はあるんだと思います。ですから,いわゆる許諾契約もサブライセンスだろうし,出版権者が更に出版権を設定するという,「転出版権」というのも議論の中に入っているのではないかというふうな緩やかなものとして考えて,そして,だんだん絞り込んでいこうという考え方があるんじゃないかと思います。私は,ここで言うサブライセンスは,債権的な許諾契約も,それから,出版権の物権的設定をする出版権設定契約の更に転出版権設定契約というものも含んだ概念としてサブライセンスを考えた方がいいのではないかと考えています。

【土肥主査】 サブライセンスというのはどちらかというと,この表現は,経団連案とか中山提案の中で使われていた言葉がかなりその後独り歩きしているのではないかなと思うんですけれども。
 じゃ,菊地さん,お願いします。

【菊地著作権課課長補佐】 すみません。私どもの資料の作り方で大変な混乱を招いているとすれば申し訳ございません。このサブライセンスの言葉の定義,範囲につきましては,特段,文化庁としてこういうものだということは特に限定して考えているわけではございませんが,先ほどまず渋谷委員からございましたような委託の場合にはサブライセンスとして考えなくてもいいのではないかということでございますけれども,恐らく実態として,電子書籍を配信するという場合には,委託だけではなくて,実際に,再許諾をするような場合もあるのではないかということでここで挙げさせていただいています。
 加えて,先ほど潮見委員からありましたようなことについては,これは私の説明不足だと思っておりますので,改めて申し上げますと,ここの検討事項として書かせていただいているものの内容については,上の段では,電子書籍の配信を行う権利を専有した者が,別な者にその電子書籍の配信をさせることができるかどうかということを書かせていただいております,下の段では,その紙の出版物に係る出版権者がサブライセンスすることが可能であることとありますが,このサブライセンスについては,先ほど,お話にも出ましたけども,例えばハードカバーで出したものを,別の出版社が文庫本で出すというような紙と紙との関係を念頭に置いて書かせていただいておるものでございます。紙の出版権者が電子的な電子書籍等の配信について,ライセンスできるかどうかということについては,これまで私どもが聞いているところ,そのようなことを法制上可能としてほしいというような要望を聞いているわけではないと理解をしておりますが,もしそのような要望があればそれは検討事項として考える必要が出てくるのかなというふうには思います。現時点では紙のものを別な出版社が紙で出す,電子書籍を別の配信事業者が配信するということを念頭にここは書かせていただいておるところでございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 じゃ,金子委員,どうぞ。

【金子委員】 森田委員から御指摘のあった点ですが,我々の提言は基本的にはおっしゃる点のうち,飽くまで,出版権者が出版権を再設定可能にするということではなく,出版権者が利用許諾をすることができるようにするということであります。
 なお,サブライセンスという言葉は実態としてそのような言い方をしているわけでありまして,法律用語としてもし正確に言うとすれば,専用実施権者が特許権者の承諾を得て通常実施権を設定することと同様に,当該利用行為について権利を専有しているのは出版権者ということになるので,出版権者が利用の許諾をすることに著作権者の承諾が必要か,という法律構成になるだろうと思います。
 ただ,このあたりは結構細かい条文の書き方の問題であり,実態としてはむしろサブライセンスという言い方の方がより実態を踏まえられると思いまして,サブライセンスという言い方をしていたと,再許諾という言い方をしていたということであります。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。よろしいですか。
 当初のお約束では19:00までというふうに御案内があったと思いますけれども,まだ終わっておりませんので,すみません。もう少し延ばさせていただいてよろしゅうございますか。3ポツ,4ポツの出版の義務と消滅請求,この関係です。この関係をどのように考えたらいいのか,電子出版についてもどのように考えたらいいのかと,この点について御意見を頂きたいと思います。
 冒頭,里中委員がおっしゃっておられたことは,この3と4に関(かか)わる話かなと思ったんですが,特に4の下のところの同一の著作物について,紙の出版物に係る出版権と電子書籍に対応した出版権の設定を受けた場合,いずれか一方の義務違反の場合,消滅請求はどこまで及ぶのかという,そこのところの御質問があったと思いますが,もしもう一回よろしければお願いできますか。

【里中委員】 はい。すみません。私はここが非常に気になりましたのは,同一の著作物について,紙の出版物で出した場合も中身の情報がAだとすると,電子書籍で出した場合もそこで得られる情報はAであると。だから,同じものですよね。ところが,これを紙の出版物と電子書籍を連動させて,いずれか一方の義務違反なんていう例が出ていたものですから,私は本日のこのお話合いの全体の設定といいますか,紙の出版物と電子書籍は切っても切れない一体となっているものという考え方が前提になっているのかというのは,とても何か不安だったわけです。
 ですから,別々であれば,その方が安心できます。ただ,別々であるなら,いずれか一方に関して,つまり,Aという出版社がハードカバー出しました。Bという出版社が文庫本出しました。中身は同一ですよね。ところが,Aという出版社が義務違反を起こした場合に,なぜBという出版社までがこの作品どうするのだということに関(かか)わらなきゃいけないのかと。そういう変な例のように見えてしまったんですね。だから,この前提がよく分からなかったので,すみません。先ほどは質問いたしました。

【土肥主査】 はい。分かりました。これはお2人の,この部分は金子委員の御報告に対する前田委員の御質問だったのではないかなと。その部分ですよね。ですから,じゃ,金子委員,お願いできますか。そこの部分の説明を。

【金子委員】 今の里中委員の御質問については多分,まずこの消滅請求の前提問題として,紙だけの原稿の出版権とは別に電子出版権という制度を創設するのか,その著作者は紙だけ出版権,あるいは電子出版権というのをそれぞれ設定するという形にするのか,それとも我々の提言のように,飽くまで出版権というものは紙も電子も含めたものを一つの権利として最初は設定,法律には書いた上で,ただ,当事者の特約によって,紙だけという限定,電子だけという限定が可能な形にするかどうかということが恐らく前提問題であろうかと思います。
 恐らく電子と紙は別だという経団連案のような構成であれば,これはそもそも,恐らく電子についての義務の不履行が紙についての出版権を消滅させるということはあり得ないということになります。
 また,我々の提言についてもし紙と電子を別々の人に設定した場合に,電子についての義務違反があったからといって,Aさんに紙,Bさんに電子と設定した場合に,Bさんによる電子についての義務違反があったからといって,Aさんについての紙についての出版権が消滅するということは,これはあり得ません。これは飽くまで義務違反をした人の権利だけが問題になろうかと思います。
 その上で,恐らく問題になるのは,我々のように紙と出版をセットでデフォルトとして考えるという場合に,それをフルセットで設定を,ある同じ人に設定をしたと。特に特約を付けずに,紙も電子も含めて出版権を設定したという場合に,その電子についての義務違反だけがあったという場合について,紙も含めて消滅させることができるかどうかという問題であろうかと思います。まずそういった場合にのみ,恐らくは問題になることだろうと思われます。
 その上で,それをどのように制度設計するかは様々な考え方があろうかと思いますが,基本的にこれはもし両方消滅できるようにするということが著作者には一番有利であります。著作者にとっては電子についての義務違反があった場合にもそのような出版社はもう信用ができないということで,紙についても消滅させたいと思う場合には,紙についても消滅させることができると。他方で,著作者は電子だけ消滅させればいいと思えば,電子だけ消滅させることができるというふうに制度設計するというのが恐らく著作者にとっては最も有利な制度設計になろうかと思います。
 他方で,利用の促進という点からすると,そのような形ではむしろマイナスがあって,電子についての義務違反があった場合には,むしろ電子のところだけが消滅をして,紙だけが残るという制度設計もあろうかと思います。ただ,これはこれでまた契約の内容を組み替えたり何なりということを含むこととなり得る部分もあって,若干複雑な処理となるかもしれません。ただ,そのような問題であろうかと認識しております。

【里中委員】 今の話で分かったんですけど,ここに書かれている同一の著作物というのは,同一の社が出版した紙媒体と電子書籍ということが前提なんですね。

【金子委員】 我々の提言では必ずしも誰(だれ)が出版したかということは重要ではないんですが,同一の人がこの出版権の主体となっているということが前提なのであろうと思われます。

【里中委員】 すみません。著作物となりますと,法律的に私が間違っているのかもしれませんけれども,出版物と著作物は違うと思うんですね。著作物となりますと,著作権者が持っているその中身だと思っていたものですから混乱してしまいました。その辺法的に何が正しいんでしょうか。

【金子委員】 その点はおっしゃるとおりでありまして,中身は同じ著作物であります。ここで問題となっているのは,中身の著作物としては同じものでありますが,その利用形態について分けた権利設定ができるのか,また,その利用形態について特定の義務違反がほかの利用形態についての権利も影響を及ぼすのかどうかということであろうと思います。むしろ我々の提言は,一つの著作物に一つの出版権という発想にむしろ親和的なものであります。特段特約で分けられるというものではありますけれども,他方で電子と紙とは利用行為として別々の権利として制度設計すべきだという提案も別になされているということであります。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】 金子委員に丁寧なご説明を頂いて理解が進んだところですが,要するに,出版権の拡張と言っても,電子の権利と紙の権利を別々に設定している分には,既存の出版権と別に電子出版権を創設するという経団連案と実態はあまり変わらないということだと理解してよろしいのですよね。

【土肥主査】 そのように承りましたけれども。

【吉村委員】 電子も紙も同じ出版社に包括的にお願いしたときにどうなるかということについては,どちらかが義務違反になったら全部の権利を消滅させるという選択肢は,あるにはあるとはいえ,流通促進という視点で考えると,なかなか選択しえないという話だと理解させていただきました。そうなりますと,結局のところ,出版権の拡大という案が,電子と紙と同じ出版社に権利を設定してどちらかに義務違反があったときに両方の権利を消滅させるという案でないとすれば,その限りにおいては,電子出版権を別途新設するという経団連の案と同じなのではないかという気がするのですが,いかがでしょうか。

【土肥主査】 金子委員,どうぞ。

【金子委員】 消滅請求権の点で処理が同じになるからといって,同じということにはならないと思います。むしろ原則をどのような形として法律の上に規定するかと。紙と電子というものが一体のものと考えた上で,様々な出版義務,継続義務の内容とかを考えていくのかということとか,様々な点で差異は出てくるであろうと思われます。飽くまで我々の提言としては,一体のものとして制度を念頭に議論をするべきだということ。ただ,当事者が選択によって分けることも可能とすべきであるというものであります。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 松田委員,先ほど挙手をなさっておられましたけど,お願いします。

【松田委員】 制度設計の問題になりますけれども,紙と電子出版と2つの内容を含むものが,片方だけきちんと履行していたら,片方が不履行でも全部駄目になるというような制度はとらない方がいいなというふうに私は思っています。現行の6か月以内の出版義務というのは,これは紙ベースを前提に,紙ベースの話ですから,原稿をもらってから版面を作るまでに相当の時間が掛かるから,それをおおよそ6か月と考えて,これはだらだらやるなよという規定なんですよ。ところが,電子出版になりますと,ほとんどのビジネスはもう版面ができちゃっていまして,それをサーバーに入れて流通させるかどうかですから,この6か月ということは,そういうことでいいかどうかはきちんと考えるべきだろうと私は思っています。

【土肥主査】 ありがとうございました。そういうことであれば紙とは違う出版の義務,あるいはそれに伴う消滅請求というのがあるということですね。
 ほかにございますか。はい,小林委員,どうぞ。

【小林委員】 ボーンデジタルとか,先にデジタルの本を出したとして,やっぱり原稿から起こしますから,もしかすると6か月掛かるかもしれないです。ただ,やっぱり紙のものとデジタルのものというのは全然特性が違っていまして,この紙のものの出版義務というのがありますが,6か月以内にという部分は,電子の場合もさぼらずにやれば6か月以内に出ると思います。ただ,もう一つの方ですね。慣行に従い,継続して出版する義務というのは,デジタルは1回ファイルを作れば,間違いなく継続できちゃうんですね。ですから,その後,消滅請求というのがありますけれども,2番目の慣行に従い,継続して出版する義務というのは,悪意といいますか,意識的にサーバーから落とさない限り,永遠に売ることが可能ですから,基本的にはこれに違反するようなこと,下にありますけれども,まずないと思います。さっき言った6か月以内に出すという部分は,電子であっても,さぼっている人がいれば,それはあり得ると思います。
 それともう一つ私が気になるのは,消滅請求の一番下の部分ですね。著作者の方がその著作物の内容について,自己の確信に適合しなくなった場合に著作物の出版を廃絶する場合というのがあるんですけれども,今結構これは違うところで議論になっていまして,1回読者が買ったものを著作者の方の都合で読めなくするのはどんなものかという議論が実はあるんですね。その辺にも係ってくるので,やはり電子のものと紙のものというのは別に考えた方がいいのではないかというふうに思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 松田委員,どうぞ。

【松田委員】 紙の場合と違う例として,とにかくサーバーに載せておけば,誰(だれ)かが見てくれる可能性があるから,出版義務は果たしているんだということになりますと,こういうことが起こると思います。紙ベースでたくさん本を売りたい出版社は,電子出版義務があるにもかかわらず,売れないサーバーに,プロバイダにそれを提供して,そして,紙のベースの本だけを一生懸命売るということは起こります。こういうのはやっぱり電子出版義務違反ですよ。これはもう立法で細かく規定することはできないけど,あとは司法裁判所に任せればいいですよ。と私は考えています。

【土肥主査】 ほかにいかがでしょうか。
 何分,紙とデジタルの違いというのが,例えば紙の場合,6か月,ボーンデジタルの場合にはもっと長いというふうにおっしゃる。

【松田委員】 何とも言えないです。

【土肥主査】 何とも言えないですか。

【松田委員】 内容によります。

【土肥主査】 内容によるわけですね。
 はい,野間委員,どうぞ。

【野間委員】 松田委員おっしゃるとおり,さぼろうと思えば幾らでもさぼれるので,そういうケースも考えられるんですけども,6か月という期間について言いますと、どの期間が適当なのか、非常に難しくて,マーケティング戦略的に,例えば漫画本だったら何巻かたまってからまとめて電子版を出した方がいいだろうとか,そういうことというのは起こり得ると思うので,もちろんそのあたりは著者の方々と話しながらどういうふうに売っていくかということは考えていきますけれども,一概に6か月というのがいいのかどうかというのはちょっと疑問が残るところではあります。

【土肥主査】 河村委員,どうぞ。

【河村委員】 すみません。手短に2点だけ。
 1点は,ちょっと今の論点じゃなくて,3のところの出版義務のところです。1,2,3はいろいろ複雑に関(かか)わることなのに,一個一個切られちゃうと何かその話がスーッと通り過ぎてしまうん気がします。先ほど2の論点のときに,森田委員がおっしゃっていた出版の義務はサブライセンスをしても,もともと契約した出版社に継続出版する義務があるとおっしゃった,私はそれに賛成なんですが,何かさっきスーッと通り過ぎてしまったような気がするんです。その意味とは,自分自身が継続出版するという義務ですか。それともサブライセンス先で継続出版されるということなんですか。

【金子委員】 それでは,私が。

【土肥主査】 お願いします。金子委員,どうぞ。

【金子委員】 私自身の認識としましては,飽くまで出版権者がかのような拡大されたものでしょうけど,出版継続義務を負うということになるだろうと思います。ただし,電子出版に関しては,その出版を継続しているということの扱い方というのは,必ずしも出版権者自らがユーザーに対して直接配信をしているということまでは要求されず,その電子書店等を通じて配信するということでも,その義務は尽くされるのではないかと思います。従来の出版権の場合には自ら出版をするということが要求されていたわけですが,他方で,従来の出版権についても,出版をした後,書店での流通とかも含めてそれを継続出版義務と捉えていたかと思いますので,それを電子書籍に対応する形にすれば,そのライセンス先での配信をきちんと行わせるということの義務を出版権者が負うということになるのではないかと思われます。

【土肥主査】 河村委員,よろしいですか。

【河村委員】 御説明はよく分かりました。それがいいかどうかはちょっと。そもそも,だったら何のために出版権を取るのかがよく分からないような気がします。
 それからもう1点は意見なんですけど,3とか4とかという限定のところではないんですが,先ほど一体論,金子委員説と経団連説というのがあって,まだそれは論点になっていないのかもしれませんが,お話を聞いていると,私は別々にした方がよろしいのではないかと,消費者、ユーザーとしては。ただ,今,時間がないので長く述べませんけれども,意見として述べておきます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 今日たくさん御意見を頂戴(ちょうだい)いたしました。時間も余り残っていないんですが,先ほどサブライセンスのところで,ちば委員から塩漬け対策という,塩漬けの問題は困るということが出たわけですけれども,この電子出版の場合ということで限定していただいていいんですけれども,そういう塩漬けの懸念についてはどのようにお考えでしょうか。野間委員,何かありましたら。

【野間委員】 出版社の立場から塩漬けの話をするのは難しいんですけれども,基本的に我々は契約を結ばせていただくのであれば,塩漬けにするつもりは全くないんですけれども。塩漬けの懸念がある契約を結ばないでください,お願いしますとしか言いようがないのかなと。

【土肥主査】 いやいや,そういうことでも結構で。はい。永江委員,どうぞ。

【永江委員】 日本には4,600ぐらい出版社があるんですけれども,野間委員,堀内委員のような巨大出版社というのは本当にごくごくその中のわずかで,圧倒的多数は零細規模の出版社です。いわゆる1人出版社、社長兼営業兼編集者兼ぐらいの規模のところも1,000単位であるんじゃないかというふうに言われています。我々著作者としても,そういう出版社と仕事するときに,確かに契約書の中には電子書籍のこともいろいろ盛ってあるけれども,この会社の能力では無理だろうなと思いながら契約することだってあるわけですよね。でも,これはまた電子書籍をどこかで出してくれるというところがあったら,また出版社と交渉して,これだけ分けてもらえばいいやとか,そういうふうに考えたりするわけですので,現実問題としては。塩漬けがあり得るというのは,我々著作者の方もある程度思っています。それと,まあ,これは半分,悪意のある冗談だとは思いますけれども,電子書籍を出す気がないのに,あえて塩漬けにするために契約する出版社の経営者もいなくはないといううわさも聞こえてきたりはします。だから,可能性としてはあると思います。
 野間委員がおっしゃるように,そういうところとは契約するなと言っても,書き手は非常に立場が弱いものですから,そこしか出してくれないことだってあるわけです。私だって講談社,集英社で本をどんどん出せれば,それはいいけれどもというのが本音のところですけど,現実にはなかなかそう簡単にはいかないというのがあるんです。

【野間委員】 ここにある,さっき6か月がいいのかと言いましたけれども,これはもちろん、こういう義務を設定するというようなことは十分あり得ることだと思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 堀内委員,どうぞ。

【堀内委員】 確かに出版業界が著作隣接権を主張していたときに,コンテンツの塩漬けという御懸念が著者の方々にあったと。それは著作権者がいて,著者隣接権者という,そういう複数の権利者がいることで,そういう御懸念が出ていたと思うんですけれども,今回の電子書籍に対応した出版権という議論になったときに,その御懸念はまず大分薄らぐんじゃないかなということで,我々もこちらの中山案に賛成したという経緯があります。そこから先の話は,さっき野間委員が言ったように,飽くまでも契約ベースの話なので,もちろん出版社側もきちっと説明しなきゃいけないし,著者の方もそういうきちっとしたところと契約すると。そういうことで,御懸念はかなりの部分超えられるんじゃないかなというふうに思っております。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ちば委員,よろしゅうございますか。

【ちば委員】 はい。

【土肥主査】 福王寺委員,どうぞ。

【福王寺委員】 先日の委員会でもお話ししましたが海外の主立った国で,フランス,ドイツ,イギリス,アメリカといったところでこの権利の内容,サブライセンス,出版の義務,消滅請求についてどんなふうになっているかということを,どういうふうな具体例があるかということを著作権課の方もお忙しいと思いますけども,調査した上出していただいた方がいいと思います。日本だけの問題ではありませんので,海外で国際標準になっているものがもしあるとすれば,そういうものも含めて検討していただかないと,日本国内だけの事情で,そういう特殊事情がもしかしたらあるのかもしれませんが,海外の状況をを報告していただければ有り難いと思いました。

【土肥主査】 一応委員会の中では楽譜の団体の方の出されたパンフレットがありましたよね。あそこの中に外国の事情について紹介したところがあったように私は記憶しておるんですけれども。いやいや,今の福王寺委員の御意見は独自に事務局において調査できないかと,こういう御要望なんですけれども,可能ですか。前回たしか前向きな御回答があったように記憶をしていますけど。

【菊地著作権課課長補佐】 どこまで詳しく調べられるかということを我々の中で考えてみたのですけが,時間の関係でも少し難しいところがあるかなと思っています。それで,机上に配付させていただいておりますが,この小委員会の第1回で御議論させていただいたときの参考資料4といたしまして,諸外国における出版者の権利等についてということで,例えばアメリカの法制度でありますとか,イギリス,ドイツ,さらにはフランス,オーストラリア,これらの国についての法律の制度は私ども整理をさせていただきました。そこから先,例えば各国の国内における契約の実態ということになりますと,今,机上に置かせていただいておりますこの調査研究の資料以上には,なかなかすぐには,作るのは難しいのかなと思っております。もし可能であれば,例えばこういう部分についてもっと具体的にしてほしいとか,こういう部分を確認してほしいということであれば,また別途事務局に御連絡をいただければ有り難いなと思うのですけれども,まずはこの調査研究の資料を御参照いただいて,その範囲で議論を進められないかなというのが私の考えているところでございます。

【土肥主査】 福王寺委員,よろしゅうございますか。

【福王寺委員】 じゃ,もう一言,すみません。確かにそういった資料は頂いたこともよく存じ上げておりますし,その中でもう少し詳しく,内容に沿って,今申し上げましたけれども,権利の内容,サブライセンス,出版の義務,消滅請求について,実際各国がどういうふうな対処をしているか,制度になっているかということを,やっぱりこれは確かめる必要があると思うんですね。その点について,繰り返しになりましたけれども,申し上げたわけです。
 以上です。

【里中委員】 すみません。1個だけよろしいですか。

【土肥主査】 はい,どうぞ。

【里中委員】 すみません。最後に。このサブライセンスなんですけれども,いつも思うんですが,こういう著作権にまつわることで,なまじな,みんなが和製語っぽく使っているような言葉というのは避けた方がいいんじゃないかと思うんですよ。著作権,今後,コンテンツのことでも,海外との契約というのもあって,著作権者がうっかり間違えて,日本で使われているのと同じような言葉として,自分の方からこれを申し出る場合に,英語圏において私はニュアンスが違ったりするケースがあると思いますので,なるべく日本語で表現できるようにして,それを日本語で契約書をやりとりして,英語だったら全編英語でやるとか,そうした方がいいと思います。
 ですから,分かったような気でいて,もしかしたらちょっと思い違いとか,解釈の違いが出るかもしれないという,日常的に使っているような外来語についてはより慎重に表現した方がいいかなと思いました。私だけの感想かもしれませんけれども,私自身は勘違いしそうなので,怖いなと思いました。

【土肥主査】 委員の御指摘,そのとおりだろうと思いますので,今後の資料の作成については十分配慮しながら作成するように,事務局とも相談させていただいて,進めていきたいと思います。
 すみません。今日はあらゆることについておしかりを頂戴(ちょうだい)するんだろうと思います。時間が30分も過ぎてしまいました。それで,本日はもうこのくらいにしたいというふうに思っております。事務局から連絡事項がありましたらお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 本日は長時間にわたり御議論いただきまして,ありがとうございました。また,本日頂きました資料の作り方やその中身が分かりづらいという点につきましては,次回以降,できる限りよい資料を作らせていただきたいと思います。
 そして,次回の出版関連小委員会についてでございますが,7月5日(金)10:00から東海大学校友会館の阿蘇の間にて開催をする予定でございます。
 本日はどうもありがとうございます。

【土肥主査】 それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の第4回を終了させていただきます。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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