議事録

文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第6回)

日時:
平成25年7月29日(月)
17:00~19:00
場所:
東海大学校友会館 阿蘇の間
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)海賊版対策のための「電子書籍に対応した出版権」の在り方について
    2. (2)「電子書籍に対応した出版権」の整備に係る諸論点について
    3. (3)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

【土肥主査】 それでは,定刻でございますから,ただいまから文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第6回)を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席を頂きまして,まことにありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 それでは,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 それでは,配付資料の確認をいたします。議事次第の下半分をごらんください。
 まず,資料1といたしまして前回の本小委員会における主な意見概要,資料2といたしまして前回の本小委員会の議論を踏まえた「電子書籍に対応した出版権」の在り方という資料をお配りしてございます。また,資料3として,日本書籍出版協会より御提出いただきました資料をお配りしております。資料4としては,第1回から第4回までの出版関連小委員会における議論の整理と検討事項についての資料をお配りしております。参考資料といたしましては,現行法の出版権に係る登録制度について,制度の内容や申請に必要な書類等の概要をお配りさせていただいておりますので,適宜御参照いただければと思います。
 配付資料については以上でございます。落丁等がございます場合には,お近くの事務局員までお声がけいただければと思います。

【土肥主査】 それでは,初めに,議事の進め方について確認をしておきたいと存じます。
 本日の議事は,(1)海賊版対策のための「電子書籍に対応した出版権」の在り方について,(2)「電子書籍に対応した出版権」の整備に係る諸論点について,(3)その他,以上の3点となります。
 (1)といたしまして,海賊版対策のための「電子書籍に対応した出版権」の在り方について議論を行いたいと思います。具体的には,まず事務局より,前回の本小委員会における主な意見概要と,前回の議論を踏まえた電子書籍に対応した出版権の在り方について説明を頂きたいと思います。次に,一般社団法人日本書籍出版協会より,特定の版面に対象を限定した権利について意見発表の御希望がございましたので,御説明を頂きたいと思います。その後まとめて意見の交換を行いたいと思います。
 また,(2)については,事務局よりこれまでの本小委員会における議論の整理及び検討事項について説明を頂いた上で,電子書籍に対応した出版権の整備に係る諸論点について更に議論を行いたいと思います。
 それぞれの時間の配分でございますけれども,あくまでもこれは目安でございますけれども,議題1については18:10くらいまでと考えておりまして,残る時間で議題2の議論を行うことを予定しているところでございます。
 それでは,海賊版対策のための「電子書籍に対応した出版権」の在り方についての議論に入りたいと思います。
 まず,事務局から,前回の小委員会における主な意見概要と,電子書籍に対応した出版権としてとり得る方策等についての説明をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 まず,資料1に基づきまして,第5回の本小委員会で議論された「特定の版面」に対象を限定した権利に関する主な意見の概要を簡単に御紹介させていただきます。
 資料1をごらんください。まず,1ポツでございます。当初,金子委員より御説明いただきました「特定の版面」についての権利の趣旨といたしましては,企業内複製やイントラネットでの利用許諾などに対応するためと説明をされておりました。この提言趣旨に対しましては,日本複製権センターより,権利の分散化を招き運営業務に支障を来すとの懸念や,複製管理の主体が散在して実質的な集中管理が機能しなくなり,集中管理等の流通促進策を阻害する方策には反対であるとの意見などがございました。
 次に2ポツでございますが,日本書籍出版協会として「特定の版面」に対象を限定した権利の法制化を求める理由についてでございます。本日,日本書籍出版協会より意見書が出されておりますが,私からの説明は前回の小委員会の概要としてお聞きいただければと思います。
 まず,雑誌の版面をデッドコピーし,それをアップロードするという侵害が多く存在することから,こうした侵害に有益な制度設計を強く望んでいるということが説明されました。そして,現行の出版権制度は,最初に発行される形態だけでなく,将来発行されるあらゆる形態の出版についてもその出版権限を包括的に出版者に付与するものであるが,これは雑誌出版時における著作権者と出版者との間で通常合意される範囲を逸脱するものであるといった説明がございました。
 そして,3つ目の丸でございますが,「特定の版面」に対象を限定した権利が出版とは言えない利用にその範囲を拡大することについて,出版界としては企業内複製を含む出版物の複製利用について,現在のシステムに影響を及ぼす制度設計は望まないとの説明がございました。
 次に3ポツでございますが,企業内複製等を趣旨から除外することを許容する意見でございます。丸の中ほどからになりますが,書協の意見として,企業内複製に係る現行システムに対する影響を及ぼす大きな制度設計は望まないということであれば,出版とは言えない利用に拡張するという点についての提言は,今回の審議会の議論においては,選択肢から外すという選択もあるのではないかとの意見がございました。
 2ページ目をお開きください。これに加えまして,企業内複製等にこの出版権を及ぼすということは,少なくとも現時点では適切ではないとの御意見もございました。
 そして,4ポツでございますが,先ほど紹介しましたように,書協からは「特定の版面」についての権利の法制化を求める理由として,海賊版対策ということが出されていたところでございますが,4ポツは,特定の版面についての権利の法制化についての意見でございます。
 まず,海賊版対策に賛同するが,法制化に反対する意見といたしまして,日本漫画家協会より,海賊版について対策の必要性を感じていることは出版者と共通であるとしつつも,漫画家が制作する「原稿」と「特定の版面」は区別することが非常に困難であることから同意できないといった御意見があり,また日本美術著作権連合からも同様な意見に加えまして,著作者自身の版面の利活用の面において,著作者の権利が現状より狭められることが特定の版面に対象を限定した権利の問題である旨の御意見がございました。
 また,日本印刷産業連合会では,海賊版対策の趣旨には賛同するとしつつも,海賊版対策は特定の版面に対象を限定した権利ではなく,出版権そのものの中で海賊版に対応できるように議論していけばよいとの御意見がございました。
 次に,特定の版面に対象を限定する権利の法制化の問題点を指摘する意見でございますが,電子書籍においてはリフロー型の電子書籍等が存在し,版面を特定することは困難であるといった御意見や,少しでもレイアウトが違うものが別の版面となり,似て非なる版面の権利者が多数生じるため問題だとする意見,更に,出版権者による再許諾を受けてビジネスする者としては,電子出版権を保有する出版者に対して,当然第三者対抗要件を具備してもらうよう要求することになるだろうが,現行出版実務の中に無理なく組み込めるのか極めて疑問である旨の御意見がございました。
 ここで最後の意見に関連いたしまして,簡単に対抗要件について,念のため補足をさせていただければと思っております。
 対抗要件についてどういうものかと申しますと,電子書籍に対応した出版権と「特定の版面」についての権利について,それらの権利を別々の者が設定し,権利がバッティングするような場合には,この最後の意見にございますように,対抗要件としての登録制度によって優劣を決めるということが,これまでの議論の中で出されておりました。ただ,1点御注意いただきたいのは,現行の登録制度も同じでございますが,対抗要件というのは権利の取得や変更などを第三者に対して主張するために必要な要件でございまして,登録をしなければ効力が発生しないというものではございません。言いかえますと,対抗要件としての登録であれば,登録をしなければ電子出版や海賊版対策ができないというものではございません。
 最後のこの御意見につきましては,電子書籍に対応した出版権を持った者が登録をしなければ,再許諾を受けて配信ビジネスを行う者が,そもそも配信できないことを心配しているということではございませんけれども,既に電子書籍に対応した出版権を持つ者から再許諾を受けて配信ビジネスをしていたとしても,配信する電子書籍と同じ版面について別の者が権利を設定し,かつ先に登録をした場合,版面についての権利者から配信をやめるように言われるおそれがあり,その場合には対抗できなくなってしまい,配信をやめなければならなくなる。そういったことから,そうならないように出版者に対して対抗要件を具備してもらうよう要求することになると主張されているものと理解してございます。
 対抗要件ということとあわせて,少し内容が分かりにくいところもあると思いましたので,念のため御紹介をさせていただきました。
 それでは,3ページ目をお開きください。最後に,「特定の版面」についての権利以外の方策を検討すべきとする意見として,出版権設定契約において,当事者が例えば雑誌に掲載する出版権等のように,対象を限定した出版権の設定を可能にすることで足りるのではないかといった御意見がございました。
 資料1の説明につきましては以上でございます。
 続きまして,資料2の説明に移りたいと思いますので,お手元に資料2をお持ちいただければと思います。
 資料2は,前回の小委員会の議論を踏まえた「電子書籍に対応した出版権」の在り方について,検討事項などを整理させていただいたものでございます。
 まず,1ポツの前回の議論を踏まえた前提といたしましては,「特定の版面」に対象を限定した権利の法制化の目的は企業内複製等ではなく,海賊版対策にあるということだったかと思います。そして,そのことを踏まえまして,2ポツでございますが,論点といたしましては,出版物,特に雑誌が念頭に置かれておりますが,これをデッドコピーしたネット上の海賊版への対応としていかなる方策が適当かということだろうかと思います。
 そして,3ポツの検討事項でございますが,(1)ではこれまでの本小委員会の議論において挙げられた3つの方策を整理させていただきました。方策の[1]といたしましては「特定の版面」に対象を限定した権利による対応,方策の[2]としては「電子書籍に対応した出版権」による対応でございます。
 確認でございますけれども,この「電子書籍に対応した出版権」といいますのは,これまでの現行の紙の出版を前提とする出版権ではなく,今回の本小委員会での議論により新たに法的に整備することを考えております電子書籍の配信等を前提としました「電子書籍に対応した出版権」というものでございます。括弧で方策[1]を除くと書いておりますが,特定の版面についての権利とは別物だということを念のため記載させていただいております。
 そして,方策[3]といたしましては,ネット上の違法配信を紙の出版物に係る出版権の侵害とみなす規定を創設することによる対応でございます。
 これらの3つの方策を整理させていただきましたが,(2)では望ましい方策を検討するに当たって,それぞれについて考えられる主な論点を記載させていただいております。これらの論点については,現行法でも議論になることを記載しておりますが,この審議会の場では立法論としても御議論いただければと思っております。
 まず,方策[1]につきましては,「特定の版面」に対象を限定することの可否,それから「特定の版面」についての権利と出版権制度との整合性としておりますが,出版権制度が出版行為を前提とする権利であることや,出版権制度には権利と裏腹に原稿の引渡しを受けてから一定期間内に出版する義務といった出版の義務が設定されていることなどから,「特定の版面」についての権利が出版権制度と整合するかということを書かせていただいております。
 次に方策の[2]につきましては,継続出版義務などがあることとの関係から,そもそも雑誌というものに「電子書籍に対応した出版権」を設定することができるかどうかということ,それから当事者の合意により「電子書籍に対応した出版権」に係る出版の義務を雑誌に限定することの可否を記載させていただいております。
 最後に方策の[3]についてでございますが,これについても出版権を前提といたしますので,雑誌についての紙の出版物に係る出版権を設定することができるかどうか,それから当事者の合意により出版権に係る出版の義務を雑誌に限定できるかということを記載させていただいております。
 それらに加えまして,最後でございますが,ネット上の違法配信はそもそも著作権侵害であるにもかかわらず,これを紙の出版物に係る出版権侵害とみなすことができるのかどうかということも記載をさせていただいております。
 資料2の説明については以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 次に,意見発表の御希望がございました一般社団法人日本書籍出版協会より,御意見の説明をお願いいたします。それでは,金原委員,お願いいたします。

【金原委員】 それでは,資料3に基づきまして若干意見を補足させていただきます。資料3はごらんのとおり,ただいま文化庁事務サイドから御説明がありました資料1並びに資料2に既にまとめられた項目も幾つか入っておりますので,その点についてはこれまでも既に説明済みということで,簡単に説明だけさせていただきます。
 まず,第1のところは,これは資料1にも含まれております,いわゆる中山提言の1についての考え方でありまして,これも既に説明が済んでおります。第1の下半分のところにありますが,出版界が抱える海賊版問題についても先ほどの資料1にもありましたとおり,紙の出版物のデッドコピーによる海賊版が横行していることにおいて,この部分を何とかしたいというのは資料1にもありますし,またこれまで意見としてこの場で申し上げていることであります。
 しからばどうするかということですが,第2のところは現行の出版権に限界がある。これはどういうことかというと,これも今説明がありましたけれども,多くの雑誌に掲載されている著作物がその雑誌に掲載される限りの許諾である。つまり専有ではない,独占ではないという,同じ著作物がそれ以外の出版物にも掲載されるケースが多いということで,したがって出版権の設定になじまない。
 ここに雑誌と書いてありますが,必ずしもこれは雑誌だけではなくて,書籍,単行本にも同じようなケースはあると思います。仮に出版権が設定できれば,後の議論になるかもしれませんが,しかも電子媒体と印刷媒体を分けないで一体のものとして考えられるということがあるならば,デッドコピーした海賊版についてはこの出版権だけで対応ができるということで,[3]の特定の版面に対する権利というものは要らないのではないかと私どもも思っております。しかし,現状としては,出版権を設定できるという独占契約ではないということについてどのように対応するかという問題点を指摘しております。
 しからばどうするかということが[3]の特定の版面に対象を限定した権利ということで,これは独占的出版ではない場合においても特定の版面,つまり出版者が作り上げた版面をデッドコピーしたことについて権利が及ぶことにすれば対応できるのではないかということが,この[3]の意味であろうと思います。したがって,これをやることによって多くの問題が解決するということであります。
 第4,1ページ目の下から次のページにありますが,そのような特定の版面に限定した権利については,前回,前々回で多くの著作者の方々から懸念が示されております。我々としては,仮に原稿と出版者が発行する版面が同じもの,あるいは非常に近いものであったとしても,それは分けて考えればよろしいのであって,我々は著作者の作成された原稿に権利を主張しようという気は全くないわけでありまして,出版された版面だけを対象として特定の版面を主張したいということであります。もちろんここにアンダーラインが引いてありますが,そもそもの原稿についての権利は著作者に留保されておりますし,原稿について我々の権利が拡張されるということでもないし,共有する財産ということでもないということでありますので,その辺については問題はないのではないかと思います。仮に特定の版面を著作者の方が利用されたいということがあったとしても,この下3行ぐらいのところに書いてありますが,出版契約の中でそのような取決めを行えば十分に対応は可能であるということになるのではないかと思っております。
 最後に,出版物の複製利用などに拡張することの問題点ですが,これも先ほどの資料の中にありますとおり,我々は現在の許諾のスキームに影響を与えるようなことは考えておりませんので,企業内複製が特定の版面の利用だということであるならば,必ずしも我々はそこにはこだわらない。実際問題としてなかなか切り分けが難しいということであるならば,これにあえてこだわるものではないということで意見を申し上げたいと思っております。ほとんどの問題が再確認でありますが,我々としては著作者の御懸念も分からないではないわけですが,それは切り分けて考えれば十分対応可能ではないかということを申し上げたいということであります。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,意見交換に移りたいと思います。意見交換に当たりましては,先ほどの資料2の3.検討事項(2)「電子書籍に対応した出版権」として望ましい方策の検討とあります。そこに方策1,方策2,方策3とあるわけでございますけれども,これら各方策についての論点も踏まえ,雑誌等の出版物をデッドコピーしたネット上での海賊版への対策としてどういった方策が最も望ましいのか御議論いただければと思っております。
 それから,先ほどちょっとお願いいたしましたけれども,議論の時間としては飽くまで目安ですけれども,18:10ぐらいまでを予定しております。時間も限られておりますことから,本小委としてのまとめに向けて,できるだけ効率的な議論を集中してできればと思っておりますので,どうぞよろしく御協力をお願いいたします。
 それでは,どうぞ。金子委員。

【金子委員】 現在の議論の状況を踏まえて,私なりに提言の[3]に関する分,特定の版面に限定した権利について少し申し上げたいと思います。
 これがなぜ海賊版対策に有効かという形で書籍出版協会さんから挙げられているのは,そのような限定的な形で権利の設定を受ける方が,著作者が限定的な権利を設定しやすい場合があるだろうと。包括的な権利を受けるのではなく,限定的な方が設定しやすい場合があるだろうと。海賊版対策のためだけに広い権利が与えられるというよりは,特定の版面だけに限定をした権利が与えられた方がより設定が受けやすく,また当事者のニーズにも合致する。その結果として,海賊版対策というのも促進されるという御意見ではないかと思われます。
 我々の提言のうち,もはや企業内複製については,今回の議論の対象とはしないということになりましたので,そうしますとこの特定の版面に対象を限定した権利という特別の権利のような言い方はもはや不適当であります。現行法に照らしていえば,出版権を設定する際の設定行為の中身として,その出版権の効力を特定の版面に限らない一般的なものというのが原則となりますが,それを特定の版面,あるいは場合によっては媒体などに限定することも可能にすると。設定行為によってそのような限定をすることも可能にするというものが,今議論している問題であろうと思います。なので,これは別の権利ではなくて,出版権について,そういった限定を設定行為において加えることが可能かということであります。
 そして,この問題は現行法においても生じ得ることであります。この点について,私自身は現行法で可能だと考えております。そして,このことについて限定することを可能とすることによって,恐らく不利益を被る方はいないだろうと思います。それは著作権者に対してより豊富なオプションを用意するものであって,そのことによって不利益を被る人はいないだろうと思います。
 なので,これは現行法ですることができる。若しくは仮にできないとすれば,何らかの対応が必要ですが,そのようなことができるということが望ましいということを前提に,現行法でそもそもできないのか。もしできるのであれば,あとは登録制度の運用等で十分対応可能なので,それについては著作権法改正の必要があるかないかという細かい点について,著作権課の内部で検討していただくことが望ましいのではないかと思います。ですから,この場においては,オプションとしてそのような限定もできる。そのことによって不利益を被る方はいらっしゃらないと思いますので,できるという形が望ましいのではないかと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに御意見ございますか。前田委員,どうぞ。

【前田(陽)委員】 資料2の方策[1],[2],[3]についての質問ですが,これらの個別の検討に入る前に,方策[1],[2],[3]の相互の関係についてちょっと確認をしておきたいのです。
 方策[1],[2]については,[2]は方策[1]を除くと書いてあるので,これは排他的な関係にあるかと思います。これに対し,方策[3]と,[2]あるいは[1]との関係ですが,例えば,方策[1]であれ,[2]であれ,電子出版権のようなものが設定されていない場合を補完するものとして方策[3]を認めるという形で,一方で電子出版権が設定されている場合は,電子出版の促進を図りつつ海賊版対策もする。しかし,設定されてない場合については,[3]の方策で専ら海賊版対策をする。そういう2つの方策が制度として両立する形での関係にあるのかどうかという点についての質問です。

【土肥主査】 これは事務局からお願いします。

【菊地著作権課課長補佐】 この方策[1]から[3]につきましては,今,前田先生がおっしゃったとおり,特に論理的には競合するものではないと思いますが,仮に[2]と[3]を両方とった場合には,恐らく権利関係が非常に複雑になり,どのような場合にみなし侵害の対象になって,どのような場合にはならないのかということが複雑になってくるということは考えられるかと思います。ただし,それぞれについては必ずしも競合するものではないと思いますので,この審議会の中で御議論いただければ大変有り難いと思っております。

【前田(陽)委員】 [2]について電子出版権が設定されていない場合に[3]を認めるという方策のほかに,設定されている場合についても[3]を認めて相互の関係を調整するという方策も多分ありえて,その場合は調整が大変難しい面があると思うのですが,[2]について電子出版権が設定されてない場合について[3]を認める場合も調整が難しいという問題点が残りますか。

【菊地著作権課課長補佐】 まさにこの審議会の中で御議論いただければと思いますけれども,電子書籍に対応した出版権自体は設定されていないとしても,単なる適法なライセンスを与えているだけの場合について,みなし侵害とする必要はなかろうと思いますので,いろいろとその調整は必要になろうかと思っております。

【土肥主査】 ほかにございますか。どうぞ瀬尾委員,お願いします。

【瀬尾委員】 前回の議論を踏まえて,大分いろいろ議論が進んできているかと思うんですけれども,今,書籍出版協会さん,金原委員からのお話と金子委員からのお話を伺って,また前回きちんと議論をした結果を考えると,いかにして海賊版に対応するような仕組みをつくるかということに議論が絞られてきている。それについて今まで[1]とか,[2]とか,[3]と区分けして考えられていましたけれども,そういう区分けではなくて考えましょうという提案というふうに私は受け取りました。ただ,我々として反対してきたのは,出版とは言えないものにまで出版権を拡大して,複製に関して影響を及ぼすような条項については影響が大きいために反対であるということで申し上げている。
 これについて考えますと,結局1番の出版権を電子に拡大するということについては,私は異論がないのではないかと考えています。つまり電子出版権を創設することについて,これまで反対だという意見を私は聞いたことがないように思います。とすれば1番の電子出版権というものに絞って,いかにその運用で海賊版対策が可能であるのか,若しくは電子出版権そのものが,要(よう),不要もあるかと思いますけれども,もともとの経団連さん提案で言う電子出版権の創設,中山提言で言う[1]の運用と内容によって,対応できるかに議論を絞っていくことがよろしいのではないかと考えます。
 我々も前回,議論をして,ある一定の方向性が出たと考えているものについてまた繰り返しになってしまうと,議論自体が停滞するでしょうし,前向きな議論にはならないのではないかということで,今日の金原委員のお話もございましたけれども,必ずしもこだわるものではないということをはっきりおっしゃっているので,思いきって前に進んだ議論をしていったらいかがかと考えます。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 未だに議論は,いろいろな論点が相互に関連して,難しいかと思いますが,一個一個議論していくしかないと思います。まず版面のところが非常に大きな論点としてあると思います。
 先程ご説明があったとおり,別な権利ではないというのはおそらく最初からそれを前提にしていて,問題は,仮に何らかの設定行為に当たって何らかの限定をするに当たっても,その限定の単位を版面というものを単位として考えるかという点に大きく関(かか)わってくるようであります。前回,たしか議論が出たかと思いますけれども,媒体など,ほかの言葉の方が実体に合うのではないかということでした。
 媒体のようなものに限定しての出版権の設定が可能かというのは,それ自体として,物権的権利として分割できるかという議論もありますが,出版権設定という物権的なものとしては大きく,媒体を限定せずに設定するにしても,その中で媒体を単位として限定する旨の債権的合意が可能かという論点に密接に絡んでいます。何らかの広い形で物権的なものが設定されても,その具体的範囲について債権的契約で限定するという話であれば,おそらく契約自由の原則の一端であって,効力が債権的なものにとどまるという点での限界はありますけれども,さほど異論はないと思われます。
 そもそも,今まで版面なるもの自体が,レイアウト的なものかの点さえも含めて全く定義すらできていないようなものであります。契約に入れるのであれば当事者が何らかの形で,媒体というかは別として,雑誌という大きな明確な単位であれば,債権的合意で,その単位に限ってのものに限定する,ないしそれ以外は外すというのは可能であるのでしょうけれども,版面という未だ定義さえも全くできていないようなものを限定の単位として認めるのが債権的合意でさえも,適当かという深刻な問題があります。先程ありましたように,設定行為についての限定という点では共通していますけれども,限定のための単位として版面なるもので良いのかという問題であります。そもそも,もともと出版権も含めて全部著作物単位でできている著作権について,版面という新たな概念を持ち出すこと自体が著作権法の法体系全体に及ぶ極めて大きな影響がありますので,債権的合意だからいいではないかといった次元の話ではなくて,きちんと全体を見据えてよく考えていく必要があります。
 もう一つ言いますと,これは大前提としては,現行の出版権は紙媒体についての複製権の体系であるが,電子出版の方は電子についての公衆送信権-これは公衆送信か自動公衆送信か等というのはあとで議論されますが-の体系であるというように,大きく異なっておりますので,この点についてきちんと整理する必要があるということであります。
 それから,みなし侵害だけ先に少し付け加えておきますと,みなし侵害という方策3というのがあったかと思うのですけれども,現行法上みなし侵害というのが113条にありますが,これから大きく外れることは困難と思います。みなし侵害というものは,まさしく,侵害でないものを侵害であると法的にみなすものであります。 しかし,ここで問題となっているものの実体は,出版権という用益物権的なものの対象として,複製権的なものだけなのか,送信権的なものも入るかというように,次元が非常に異なっています。みなし侵害というのはみなしてしまえばいいではないかということから,先程のような感じになったのかもしれません。
 しかし,大元が複製権であれば,海賊版対策に限定しての送信権的なものについても用益物権的なものを設定するかという,出版権設定行為の対象の意思解釈という話に関(かか)わってくるところであります。現行法で認められているみなし侵害というのは,侵害でないものを侵害とみなすというレベルのものでありますが,みなし侵害という方策3は,これとは大きく異なるようであって,法制的にはハードルが高いと思われます。みなし侵害概念自体を大きく変えてしまう話になってきますので。また,やるとすれば設定の範囲をどうするのかということに関(かか)わってきます。そして,また,どなたか言われたとおり,ここで紙の出版の方に海賊版対策として送信を入れた瞬間に電子出版の送信との間のバッティングはどうなるのかという難しい問題に不可避的に入ってきます。その点は,紙出版・電子出版の体系を崩さないように,十分に注意が必要と思われます。また,設定契約上,紙全体と電子の一部について設定を受けるというのは設定契約の細かな話になってくるかと思いますが,大きな枠組のところを崩してしまうと,現行法の延長線上のものにも乗ってこないことになるのではないかと思います。まずその点だけはよく注意した上できちんと整理して議論していく必要があると思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。

【渋谷委員】 特定の版面に対象を限定した権利というふうに方策1のところにありますけれども,短く言えば版面権だろうと思うんですけれども,それは複製物の無断複製を禁止できる権利なんだろうと思います。これに対して,方策2のところにある出版権というのは,現行法の出版権もそうですし,著作物の無断複製を禁止できる権利であると。一方は複製物の無断複製を禁止できる権利だし,他方は著作物の無断複製を禁止できる権利というので,ですから出版権の方が広いことは当然なわけです。
 そういうふうに考えますと,先ほど来,設定行為によって版面権といいますか,複製物の複製を禁止できる権利だけを出版社のために設定することもできるという議論がありますけれども,出版者は一体そういう設定行為をしたいと思いますかね。黙っていれば,著作物の無断複製を禁止できる出版権の設定を受けることができるのに,わざわざ自分の身を縮めて,複製物の無断複製しか禁止できない権利を取得したいと出版者が考えるかどうかということです。
 ですから,現行法のままでも,出版者の意向に任せておけば,どうしても狭い範囲の権利しか欲しくないという出版者は版面に限定した権利でいいと言うでしょうけれども,放っておけばいいんじゃないかと私には思えます。
 それからもう一つ,もし仮にこの版面権に限定した権利による対応,方策1というのが現行法の出版権という権利の中身を変更して,複製物の複製しか禁止できない。ある出版者が出版をしたと。その版面を禁止することしかできないような出版権に中身を改めろという提案であるならば,それはとんでもない間違いで,現行法のままでいいんだろうと思います。
 ということで,この資料2は事務局がせっかくまとめてくださったものですが,私にはこのまとめ方はちょっと腑(ふ)に落ちない。私の言ったようなことを基本に,あるいは念頭に置いてまとめた方がすっきりとまとまるんじゃないか。それから,書籍出版協会の意見も先ほど述べていただいたわけですけれども,そういうことを認識しながら意見を述べられたら,もう少しここにいる我々全員に通ずるような提案となるのではないかなと。ちょっと辛口を申しましたけれども,私が持っている著作権法のセンスというものに照らすと,何だかゴタゴタしているなという印象を今のところは受けております。
 どうも失礼なことを申し上げましたけれども,お許しください。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 では,吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】 私は,特定の版面という議論は前回で終わったと実は思っておりましたので,まだそうではなかったのですねというのが率直な印象でございます。
 瀬尾委員もおっしゃっておられましたが,そこから一歩進んだ先の論点に議論を集中していくべき時期に来ているのではないかと強く思っております。理由はいろいろございますけれども,本質的には先ほど大渕先生がおっしゃったとおりであり,定義もきちんとできないようなものについて,これから議論を続けても実りがないのではないかと思います。
 もう一つ。事務局さんでまとめていただいていた資料1の2ページ目の「特定の版面」に対象を限定する権利の法制化に関する問題点を指摘する意見というところに,私が以前申し上げた意見を書いていただいております。特に3つ目の○の意見は,前回,最後の方で一気に申し上げたので,必ずしも正確に御理解いただけていないのではないかと思っていたところを,的確に書いていただいたと思っております。やはり,実際のビジネスモデルを考えていったときにうまく回らないのではないかと思います。第三者対抗要件を具備しないとサブライセンスの話などがうまくいかないだろうと思われる中,現在あまり利用してない1件3万円という登録制度を活用してまで出版社が本当にこのビジネスモデルで事業を行いたいのかというところが,そもそもよく分かりません。もしこの後,特定の版面について議論されたい方がいらっしゃるとすれば,第三者対抗要件を具備してまで事業を行うおつもりがあるのか,行うべきとお考えなのか,その辺りまで含めて是非教えていただきたいと思う次第でございます。
 以上です。

【土肥主査】 じゃ,出版社の金原委員,お願いします。

【金原委員】 先ほど渋谷先生からも,また今,吉村委員からも御指摘のとおり,特定の版面に限定すると,そういう狭い世界の話になってしまうではないかということについては,我々もよく理解しております。先ほども書籍協会の意見としてこの資料3を説明したときに申し上げましたけれども,出版権を電子に広げて,そこで出版というものを一体としてくくる出版物というものを,電子であれ,印刷媒体であれ,一つの権利として出版権というものをくくるということができて,更にその出版権を出版者に設定するということが可能であれば,特定の版面に限定する必要は全くないと思います。その上で海賊版が出れば,その海賊版が紙をデッドコピーして作ったものであれ,電子の出版物を電子的に複製して海賊版を作ったものであれ,全(すべ)ての権利侵害に対して出版者が出版権を持って対抗できるということですから,ほとんどの問題は解決するであろうと思います。
 したがって,そういう制度設計になるということであるならば,あえて特定の版面,[3]にこだわるということではなくて,新たな出版権の設定によって様々な権利侵害に対抗する体制を作りたいと思っております。
 その上で,著作物は様々な利用形態がありますから,また同一の著作物が様々な媒体で発行されるケースも,この出版界に出回っております様々な出版物を見ると,いろいろあるだろうと思います。それは著作者の方々と出版契約によって利用の限定であるとか,設定の限定であるとか,特定の利用についてこの出版権の中でどう考えるかというのは,個別に契約を結んで幅広い利用を図ればいいのであって,やっぱり基本は一つの著作物について一つの出版権として,一体のものとして考えて,権利侵害に対抗するという制度を我々も作りたいと思っております。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 堀内委員あるいは野間委員は,何かこの際,御発言ございますか。よろしいですか。

【野間委員】 今,金原委員がおっしゃったとおりでございまして,あとは現行の出版権の設定登録,登録料が3万円とか,そういう運用・制度上で雑誌に適用するのは全く不可能であるといった問題がございますので,使いやすい,使われる,使いたくなる制度設計というものを望みたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 堀内委員,よろしいですか。

【森田主査代理】 前回の議論,そしてただいまの議論で示されたように,この「特定の版面」に対象を限定した権利というのは,そのような提案が目的とするものを取り上げて,むしろそれを正面から議論することによって,そちらに発展的に解消すべきではないかという点については,私もそのように考えるわけですけれども,そこには異なった2つの問題が含まれているように思います。
 1つは,先ほどから議論に出ている雑誌に限定した出版権の設定というのはそもそも可能であるのかという点です。先ほど金子委員は,現行法の解釈としてもできるとい御意見でしたけれども,前回の議論の中ではそれは現行法の解釈としてはできないという意見もあったわけでありますので,その点をどうするか。何らかの立法的な対応として,雑誌に限定した出版権を設定することができるということを確認するような規定を置くのか,あるいは,この小委員会の報告書でそういうことが現行法上も可能であるということについてある程度意見の一致を見たということを書けば,立法的な対応をしなくてもそれは可能であるという前提で考えればよいのか,そのあたりを詰めておく必要があると思います。
 それから,出版権を設定する対象を雑誌に限定するというほかに,従前の議論の中では,紙媒体の書籍だけに限定するとか,電子書籍だけに限定するというように,全ての媒体について包括的に出版権を設定するというタイプだけではなくて,必要に応じて媒体を限定するということについては,ほかにもいくつかのパターンがここでの議論では出されておりますが,これらの場合には,出版権の対象を設定行為によって限定した場合にそれをどういう形で登録するかという問題が出てきますので,それとの絡みで全体的な整理をする必要があるのではないかと思います。
 もう1つは,資料2のネット上の海賊版対策の方策[1]として示されているように,従来の出版権の内容ではネット上の海賊版対策として十分ではない場合に,それを拡張する方策として,「特定の版面」に限定した権利を設定することによって出版権の内容を拡張する必要があるのではないかという点があったように思います。
 その一つの典型が,例えば,紙媒体の書籍についての出版権を設定する場合において,紙媒体の書籍がスキャンされてそれがネット上にアップされたときに,そのような海賊版対策として出版権に基づいて差止めすることができるかといいますと,紙媒体の書籍の出版権だけを有している出版者は公衆送信権を有しないため差止請求はできないということになると,出版権の設定を受けたことの実効性が損なわれますので,それに対応するために,出版権に加えて「特定の版面」に対象を限定した権利を設定することで,海賊版対策に必要な限度で差止請求を可能とするような一定の権利を出版者に認めることができないかという点がもう一つの論点としてあったかと思います。
 そういう形で対応するのか,それとも方策[3]のように,みなし侵害規定を創設することにより対応するのか。みなし侵害規定というのも,要するに出版権の内容をみなし侵害という形で拡張するものでありますので,いずれも出版権の内容を拡張するという点では共通するものであり,その場合には,どのような範囲で出版権の内容を拡張するのかという点についての詰めは必要になりますが,方策[2]のように「電子書籍に対応した出版権」の設定が認められれば,それで海賊版対策として十分であるのかといいますと,それでは足りない部分が残る。そこにどう対応するかというのが,今日の資料2で扱われている問題ではないかと思います。
 紙媒体の書籍と電子書籍の両方を出版する場合は,出版者はフルセットで権利を持っておりますので,海賊版対策はその出版権だけで対応できるかと思いますけれども,電子出版権というのは電子書籍の出版を行う場合に設定するものでありまして,紙媒体の書籍の出版のみを目的として出版権の設定を受ける場合には,出版権の内容だけでは海賊版対策として差止請求を行う十分な権利を有しないことになります。著作者の意向としても紙媒体だけで出版したいという場合がありうるわけですが,電子出版権を併せて設定しないとネット上の海賊版対策はできませんという制度設計が果たしてよいのか。電子出版権を設定するということは,それに対応して電子出版の継続出版義務が発生するわけであって,出版者は権利だけを取得するわけにはいかないという面もありますので,そのあたりの切り分けの問題があります。そのため,出版権の内容として専有する権利は紙媒体の書籍の出版に必要な範囲に限定されるという前提に立ちつつ,海賊版の差止請求を可能とする範囲でその権利を拡張することを認めるべきではないか。方策[3]はみなし侵害という形で法律上当然に出版権の内容を拡張するものであるのに対し,方策[1]はそれを合意で「特定の版面」について権利を付与することにより出版権の内容を拡張することを認めるべきではないかという議論として捉えることができます。それが「特定の版面」に対象を限定するという形でないとしても,海賊版対策の目的で出版権の内容を当事者の合意で上乗せすることはできないか。そういう問題があったのではないかと思います。
 なお付言しますと,今の点に関係しますけれども,海賊版対策との関係で,出版権の登録の意義について,今日の冒頭の事務局の説明でその点を明確にしていただいたことをいま一度確認しておく必要があるかと思います。それは,海賊版対策をするためには出版権の登録は必要ないということです。登録は飽くまでも第三者対抗要件であって,二重に出版権の設定を受けた者とか,あるいは適法に債権的な利用許諾を得た者との関係では,登録をしないと出版権を対抗することはできないけれども,民法の世界でいけば不法占拠者に当たるような,単にその権利を侵害する者に対しては対抗要件がなくても,出版権という物権的な権利,あるいはそれを拡張する権利が設定されていれば差止請求をすることは可能でありますので,費用面などの理由で出版権の登録がネックとなるから海賊版対策はできないとか,海賊版対策を行うためには出版権の登録ができるようにしなくてはいけないというような関係にはないということは,ここでの議論の前提として確認しておく必要があろうかと思います。
 少し長くなりましたが,以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 吉村委員,ありますか。

【吉村委員】 私も登録しないとできないということを申し上げたわけではないということは,確認をさせていただきたいと思います。
 ただ,ビジネスモデルを考えると,電子出版に関(かか)わる権利を持っている人と特定の版面に関する権利を持っている人は,多分2種類か,それぞれに複数出ているか。特に特定の版面に関しては似て非なる版面を持っている人がたくさん出てくるような気がしていて,そうするとどっちが権利を行使できるのかということについては,当然争いがあるだろうというふうになってくるかと思います。
 特に電子出版権につきましては,そのあとサブライセンスしていくという話を想定しているとすれば,サブライセンスを受けてビジネスをする人たちにとってみれば,電子出版権を持っている人に対して当然第三者対抗要件を具備していなければ,恐ろしくてビジネスなんかできないという話になるんじゃないかと思うので,そういう意味でどうしても第三者対抗要件を具備する必要性に迫られる可能性が高いのではないかと思っているので,そういう意味でちょっと申し上げたということでございます。

【土肥主査】 もちろんそのことは承知しているんですけれども。

【吉村委員】 先生と論争する気はないので。

【森田主査代理】 私も論争する気はなくて,ただ先ほど申し上げた雑誌にどう対応するかという点については,雑誌に限定した出版権設定を認めて,かつその登録をしなくても海賊版対策はできるということであれば十分ではないか。雑誌の場合には今言われたようなサブライセンスをしてとかいう話にはならなくて,当該雑誌限りでの出版権の設定でありますから,それ以外の利用をする場合には,雑誌に限定しない形での出版権を設定してそれをどう利用するかというまた別の話になってきますので,雑誌の海賊版対策に限定して考えると,登録がなくても機能するということが一応考えられるのではないかと思います。どのような出版権を設定するのか,その局面に応じて,登録をしなくても海賊版対策だけできればよいのか,いろいろなビジネス展開を行うために登録までしておくことが必要なのか,そのタイプに応じて登録の必要性を考えていくべきであり,その前提として,海賊版対策のためだけであれば出版権の登録は要らないという関係にあることを確認しておく必要があるのではないかということを申し上げたつもりです。

【土肥主査】 ありがとうございました。その点は,森田委員も民法の一般原則でという登記・登録の欠缺(けんけつ)を主張することができる正当な第三者ということからすると,侵害者との関係では,それは登録なしに主張ができるという点について争いはないんだろうと思うんです。
 大渕委員,何かありますか。

【大渕委員】 おそらく吉村委員も,今言われたこと自体は全く否定されないご趣旨であって,この点自体は,最初から全く確認する必要すらないくらいであって,対抗要件だから誰も不法行為者,侵害者に対して必要だなどとは言っていない。ただ,安心してビジネス展開することを妨げるという点では,二重譲渡に対応するような出版権の二重設定がされて,先に対抗要件具備をされると,自分の大元のところがなぎ倒されてしまい,自分ができなくなるという意味では,極めて深刻な問題となり得ると思います。そして,一般論としてあえて言えば,例えば,紙と電子の両者を含むものというような,大きな単位にすればするほど,提言[1]にも関わってきますけれども,二重設定が問題になることになりますし,他方で,紙と電子を別の単位として切ってしまえば,そもそも二重設定にもならず,紙と電子でばらばらになっていますから,先ほどのような難しい問題は生じにくいのですけれども,大きく単位を紙と電子の両方とすれば,紙で受けた者,電子で受けた者で対抗要件を先に具備しなければいけないということとなってきます。もともと対抗要件の部分は実際上なかなか使われていないというように現行の出版権の中でも弱点に当たる部分なのですが,このような弱点の影響をわざわざ拡大するような結果となる方向がいいのかという問題でもあります。他方で,小さい単位にすれば先ほどの弱点の問題はあまり起きないのです。このような点も含めて総合的に考える必要があると思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに何かございますでしょうか。

【渋谷委員】 先ほど来,雑誌の問題が出ておりますけれども,雑誌というのは編集著作物ですよね。そして,雑誌には個々の著作物がたくさん掲載されている。こういうふうに二重構造というか,2つの性格を持った著作物ですけれども,雑誌の無断複製を許さないと言っているのはどっちを言っているんですか。編集著作物としての雑誌の無断複製は許さないということなんですかね。中身の個々の著作物の複製についてはどう考えるかという問題とは別なんでしょうね。
 そういうふうに考えてくると,出版社は雑誌について出版権ないし版面権を取得したいというときは,両方の著作物について権利を取得しておかないといけないということになります。雑誌そのものを丸ごとそっくりコピーするという悪質な例に対しては,編集著作物の著作権の侵害があるわけだから,その編集著作物について設定した出版権の侵害を主張するということになります。それから,出版社がもし仮に雑誌に載っている個々の著作物についても出版権を設定しているならば,そっちの出版権も主張することができる。
 ただ,権利の幅が違うと思うんです。編集著作物の出版権といいますか,実質は版面権と同じだろうと思うんですけれども,それの侵害というのは掲載されている著作物の選択と配列,両方ともぴったり一致してないと編集著作物に係る著作権の侵害にはならない,個々の著作物について出版権を得ておけば,これは著作物の複製ですね。ですから,体裁が少し変わろうが何だろうが,そんなことは関(かか)わりなく権利の幅が及んで,出版権の範囲が広くなる。こういう違いがあるんですけれども,そういったことを踏まえて,雑誌についても出版権の設定を認めてほしいという議論が行われているのかどうか,そこを伺えるものなら伺いたいと私は思っております。

【土肥主査】 じゃ,金原委員,お願いします。

【金原委員】 編集著作物という議論も確かにあると思いますが,雑誌が全(すべ)て編集著作物として成り立つかどうかというのは若干疑問があると思います。現在,問題となっている海賊版は,多くの場合,コミックあるいは文芸作品のようなものが多いと思いますが,果たしてそれが掲載されている雑誌が編集著作物であるかどうかというのは,慎重に判断する必要があるだろうと思います。
 その上で出版権を設定すれば海賊版には対抗できるということでありますけれども,先ほど申し上げたように,海賊版の対象となっている多くの出版物が出版権の設定ができない。つまり独占出版権を有しない,その場限りでの掲載であるケースが多いわけで,場合によると雑誌に限定したとしても,2つ以上の雑誌に同一著作物が掲載されるということもないではない,また雑誌から書籍に掲載されるものもないではない。その問題についてどのように考えていただけるかというのが,この特定の版面を考えない場合には重要になってくるであろうと思います。
 以上です。

【土肥主査】 潮見委員,お願いします。

【潮見委員】 金原委員に,1点だけ確認のために質問させていただきたいんですけれども,先ほどの御発言の中で方策[1],[2]のうちの[2]でも構わないということをおっしゃいましたが,仮に[2],つまり電子書籍に対応した出版権による対応という考え方をとった場合には,今,直前におっしゃった問題というものは払拭されるのでしょうか,それとも電子書籍に対応した出版権を定めただけではまだ足りないということなのでしょうか,そこをちょっと確認させていただきたいのです。
 あわせて,一言だけ発言させてください。前回お休みさせていただいたので重なるところがあるかもしれませんけれども,先ほど吉村委員がおっしゃったように,もうまとめる時期に来ているのではないかという感じがいたします。定義もできないようなものについて規定を設けるのはどうかと思いますし,先ほど今日の資料のところにもありましたが,漫画協会や美術著作権連合からも出ていますように,版面という言葉を定義した場合に,そこから思わぬ拡張解釈がされるおそれも出てくるかもしれません。
 そういうことであれば,方策[2]をとるのも一つの方法かなと思います。金子委員がおっしゃったところも,方策1にこだわるということではなくて,方策2も含めた形でこの問題をうまくとらえることができるということを御勘案の上での発言ではなかったかと思います。そうであれば,方策2をとった場合に,今,金原委員がおっしゃられたことが果たして明瞭に解決できるのかが重要になると思います。

【金原委員】 御質問の趣旨はもっともでありまして,私も[2],ここで言うところの2番の対応策では,独占的出版でない場合については現状の出版権の枠組みの中ではできませんので,[2]の考え方では対応できないと思います。しかし,今後,この中で議論していく中で,出版権の設定というものを独占的出版契約でない場合においても可能かどうか,あるいは独占的出版契約でなくても特定の出版者に出版権を設定した上で,その著作物の利用を例外的に著作者との特約によって外していく。要するに出版を可能にしていくという方策がとれるかどうか,そこにかかっているのであろうと思います。

【土肥主査】 よろしゅうございますか。
 あんびる委員,どうぞ。

【あんびる委員】 ありがとうございます。いろいろ専門的な用語をお聞きしていて,なかなか理解できない部分もあるのですが,文化庁の方で御用意いただいた方策1,2,3について検討をということは,私にとっては結構分かりやすいかなと感じていまして,方策1の特定の版面につきましては,前回,十分に議論できたかなと私は思っているんですが,2と3について,どっちの方が望ましいのかというについて私なりに考えてみたんですけれども,2の場合なんですが,これは紙,電子同時の契約をした場合であれば,紙の出版物に対してもデッドコピーのネット上での海賊版侵害に対しての対策はできると思うんですけれども,紙と電子を別個に契約していた場合,紙の出版物に対してのネット上での侵害への取り締まりがこれだけでできるのかというのが少し疑問だなと感じます。
 その場合,方策3の部分も必要になってくるのではないのかと感じました。ですので,これは出版権をどういうふうにしていくのか。紙,電子同時というふうにしていくのか,別々に考えていくのかということによって3が必要になるのかどうかというのも,そのときに考えることなのではないかというような気がするんですが,いかがなのでしょうか。

【土肥主査】 それは御質問になるわけですかね。御意見ということでよろしいんですか。

【あんびる委員】 はい。

【土肥主査】 ほかにございますか。じゃ,どうぞ。

【渋谷委員】 今の御発言に少し引っ掛かりがあると思うので,前に申したことの繰り返しになってしまって申し訳ないんですけれども,ボーンデジタルの配信業者に利用権を与えたときに,その利用権を現行法の出版権と同じように第三者に対して差止め請求できるような排他効を持った利用権として構成できるかどうか,あるいはすべきかどうかという問題なんですけれども,この会議の第1回のときにも申し上げのですが,私はどうもそれには消極的なんです。
 と申しますのは,ボーンデジタルというと,紙の出版物が複製しているような著作物,言語の著作物でありますけれども,そういうものをイメージしているだろうと思うんですが,ネットの世界では言語の著作物であろうと,映像の著作物であろうと,音の著作物であろうと,みんなデジタル情報として平等なんです。ですから,電子書籍の出版ということをやっても,競争相手は紙の本ではなくて,音楽の著作物であったり,映像の著作物であったりするかもしれないわけです。そちらの方で競争が始まるんじゃないか。
 その意味で紙の出版物と電子書籍は全く違うもので,そういうふうに考えるものですから,電子書籍を自動公衆送信をすることについての利用権に排他効を与えるかどうかという問題は,音楽の著作物について配信権を持っている者に排他効のある利用権を認めてやるかどうかという問題と一くくりにして考えなくてはいけないんだろうと思うんです。
 そういう問題を考えるには,この小委員会のメンバーとは数が足りていませんで,もし私のように考えていくとなると,それは音楽の著作物の配信業者とか,動画の配信業者とか,そういう人たちも含めた場において議論すべきなのではないか。 ということもありますし,それからまた出版者が紙で出版した言語の著作物配信だけをする電子書店の格好のターゲットになり得るんです。固有名詞を出していいのかどうか分かりませんが,グーグルとか,アマゾンとかやろうと思えば,日本のボーンデジタルの言語の著作物は非常に潤沢な資源になり得るはずです。まだその商機が来てないと思うから,手を出さないだけかもしれないのでありまして,これはグーグルマップをああいうふうに精力的に作り上げてしまったように,やろうと思えばできることだと思います。ああいう配信業者はほかで利益を上げて,その利益を一点集中で特定の分野に投ずることができるものですから,日本でこれまでやってきているように,個々の出版社が電子書籍を出版してみるかという規模の問題ではないわけであります。だから,ある時期が来れば,がさっと全部持っていかれるかもしれない。
 もっともこれまで出版社が出版してきた紙の本のほとんどは,いわゆる塩漬けになっているわけで,なぜ塩漬けにしているかというと,それは売れないからであると。こういう御説明があるわけです。売れるものはまた紙の本に復刻して,幾らでも出版しているということなんですけれども,電子書籍の配信というのはコストは紙の本の場合よりもよほどかからないわけで,もちろん配信して売れれば,そのことを著作権者に報告しなければいけないという細々したコストはかかりますけれども,紙の本を在庫を倉庫にしまっておかなくちゃいけないというコストに比べたら,よほど低いんだろうと思うんです。
 ですから,グーグルなどの配信業者たちが,売れないかもしれないけれども,とにかく何百万冊も電子書籍の書棚に並べておかなくちゃ商売にならないと。量で勝負しているわけですから,そういう気持ちを持ったときに,何でそういう配信だけする業者に排他効を有する利用権まで与えなくちゃいけないのか。こういう問題もあるように私には思えます。
 そういうふうに考えると,来月には報告書をまとめられると思うんですけれども,少なくとも選択肢があったというか,両論があったくらいのことは書いておかないと,いざ年が明けて具体的な立法作業を始めたときに,動きがとれなくなってしまうんじゃないかということを少し心配しております。いかがでしょうか。

【土肥主査】 ありがとうございました。本小委におきましては立法論をやっているわけでございますので,現在,紙の出版権の制度はあるけれども,電子はないという状況にございます。それで,紙をコピーして,スキャンして上に上げられる。そのことについて対応ができない。今後,そういう対応ができたあと,紙と電磁的な記録,両方選択的,あるいは統合的な制度ができたとしても,一方だけ選択をしてしまった場合というのは,つまり紙を選んでしまった場合というのは,電磁的記録について対応ができるにもかかわらず紙だけというのであれば,それは電子には対応できないんだろうと思うんです。もし可能性があるとすれば,それは過去の,つまりこれまで出ている紙のものについて,今後,新しい制度に移行したあと,経過的にどうするかというところは考え方としてはあるんじゃないかと思いますけれども,制度が新しくなった場合については紙のみならずネットの方を求めたいということであれば,是非ネット上も,つまり電子出版として,電磁的記録についても対応した出版契約を結んでもらうということであろうと存じます。
 それから,金子委員,金原委員が冒頭おっしゃっておられたようなことについては,私も金子委員と同様に,設定契約の範囲というものをどう見るのかいうことはあるわけですけれども,資料として配られた参考資料などを見てみますと,どういうふうな著作権登録の実務,出版権登録の実務が行われているのか承知しておりませんけれども,そういう媒体を限定したような登録というものが可能であれば,それは金原委員がおっしゃっていただいたように,そういうことによって対応できる。それから,金子委員のおっしゃっておられたところにも一致するし,ほかの委員の方々の御意見にも一致するのではないかと思います。
 そういうことからいたしますと,本日の小委員会において,方策1,2,3とあったわけですけれども,基本的には方策2という方向性で収れんしつつあるのかなという認識でございます。
 時間の問題がありますので,後半の議論に入らせていただきたいと思うわけでございます。後半の議論なんですが,電子書籍に対応した出版権の整備に係る諸論点の議論でございますので,まず事務局から本小委員会における議論の整理及び検討事項についての説明を頂きたいと存じます。

【菊地著作権課課長補佐】 それでは,資料4に基づきまして,第1回から第4回の本小委員会における「電子書籍に対応した出版権」に係る各論点についての議論の整理,検討事項について説明をさせていただければと思います。
 まず,1ポツの権利の主体でございますが,主体となり得る者につきまして,電子書籍の流通を増やす努力をする者や海賊版対策を行う者が権利を持つべきという意見などがございました。また,出版者が既にボーンデジタルでの出版事業を行っていることなどにより,現行の出版権を有している出版社に主体を限るべきではないとの御意見がございました。
 次の権利の客体についてでございますが,著作物であるかどうかを判断基準としてはどうかといった意見が示された一方で,リッチコンテンツなどに客体を広げていくと議論の収拾がつかなくなるので,これまでの出版物の定義を逸脱しない範囲で議論すべきとの意見がございました。また,CD-ROM等のパッケージ型についても,「電子書籍」であると出版社としては考えている旨の意見がございました。
 ここで客体について,リッチコンテンツの扱いをどうするのかについてはまだ十分御意見が出されていないと思っておりまして,検討事項の[1]として記載させていただいております。
 次に,2ページ目をごらんください。3.権利の内容でございますが,「電子書籍に対応した出版権」の権利の内容といたしまして,出版者に帰属させるべき支分権の範囲に関して,(1)から(3)まで,それぞれ複製権に加えまして,(1)では自動公衆送信権を専有させるべきとする意見,(2)は公衆送信権を専有させるべきとする意見,(3)は公衆送信権に加え公衆伝達権を専有させるべきと,この3つの意見がございました。
 これらの意見に対しましては,(1)では公衆送信権では放送・有線放送が含まれてしまうので,自動公衆送信権でよいとする意見,(2)では自動公衆送信権にするとメールで一斉送信するようなケースが含まれなくなってしまうという意見,(3)では公衆伝達権はいわゆる出版と呼ばれる行為とは異なるのではないかという意見が出されていたところです。
 これらについて,検討事項といたしましては,専有させるべき支分権の範囲はどのようなものが適当かということを記載させていただいております。
 次に,4ポツの著作権者による再許諾ですけれども,以前に議論した際にはサブライセンスという言い方をしていた問題についてでございます。この点,電子書籍の流通には出版者の配信システムだけでは対応し切れないため,配信に係る再許諾は必要であるとの意見が示された一方で,著作権者としては出版者の判断のみで再許諾されることに不安があるため,著作権者の承諾がある場合に限り,再許諾可とするのがよいという御意見がございました。また,紙の出版物の場合についても原則再許諾は不可とし,著作権者の承諾がある場合には再許諾可とするのがよいとの意見がございました。
 3ページ目をごらんください。5ポツでございます。出版の義務・消滅請求について,まず,出版の義務については,現行の出版義務・継続出版義務に相当する義務を負うべきと考えてよいかについて,配信できる状態にしておけば出版の義務を果たしたことになるとすれば,配信数の少ないサイトであっても,サーバーにアップロードしさえすれば出版の義務を果たしたことになってしまうが,このような場合には義務違反となると考えるべきとの意見が示されております。
 また,配信までの期間について,現行の出版権のような「六月以内」という期間が適当かは検討を要するとの意見や,再許諾先の配信等を適正に行わせる義務を負わせるべきといった意見もございました。
 これらの意見が出されておりますが,「電子書籍に対応した出版権」の設定を受けた者が負うべき義務について,更に御検討いただければと思っております。
 次に消滅請求についてでございますが,紙,電子両方の権利を同一の者に設定した場合で,いずれか一方に義務違反が生じた際の消滅請求の範囲は,流通促進の観点からは義務違反に係る権利のみを消滅請求できると考えればよいといった意見や,そのように考えるのであれば,結論として権利を別立てに構成する場合と変わらないのではないか。そういった意見が示されております。
 最後に6ポツでございますが,その他として3つ検討事項を書かせていただいております。[4]では,権利関係の明確性の確保の観点から,「電子書籍に対応した出版権」の整備に伴い,登録制度をどのように整備すべきかということを書かせていただいております。そして,[5]では,存続期間は現行出版権と同様でよいかということを書かせていただいております。
 この点,少し補足をさせていただきます。現行の紙の出版物についての出版権制度では著作権法83条1項に規定がございまして,出版権の存続期間については設定行為で定めるところによるとされております。すなわち,権利の存続期間は,当事者間の契約で決めるということが原則とされております。ただし,83条2項では,当事者間で存続期間が決まっていない場合について規定しておりまして,当事者間でその期間を決めていない場合には,設定後,最初の出版があった日から3年を経過した日に出版権は消滅することとされてございます。
 最後に[6]でございますけれども,著作権法の権利制限規定の在り方についてでございます。これは大きな方向性といたしまして,電子書籍に対応した出版権の権利の内容に合わせて整備をすることでよいかということを検討事項に書かせていただいております。
 資料4についての説明は以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,ただいまの事務局からの説明を踏まえまして,資料4の各検討事項についての議論を行っていきたいと思っております。
 まず,検討事項の1は,リッチコンテンツの取扱いをどうするかという検討を求められておりますので,この点についての御意見をいただければと思います。瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 この前にも発言させていただいたんですけれども,リッチコンテンツを含めて,例えば出版ということとこれからのソフトウエアということを含めたときに,その範囲に非常に曖昧(あいまい)な部分があると思います。それを全(すべ)て含めて出版物であると定義づけるためには,もっと別の議論が必要なんだろうと考えています。今回は喫緊な話としてずうっと出ておりますとおり,今出ている出版物,雑誌の海賊版対策について議論をしているという観点からすると,これまでの出版物と同様の定義に限定することが最も迅速で,最も効果的に立法につながるのではないかと思います。ここで対象を,そもそもリッチコンテンツとは何ぞやみたいなところからやっていたら,また半年かかってしまうと私は思いますので,趣旨と御要望に基づいて客体は限定していくべきで,それは現状の定義である出版物に限定していくべきではないかと考えます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに何か御意見ございますか。萩原委員,どうぞ。

【萩原委員】 凸版の萩原でございますが,今,瀬尾委員から,リッチコンテンツの定義をどうするかということになると大変な議論になるとおっしゃったのはそのとおりだと思うのですけれども,通常のリッチコンテンツと言われる出版物の場合は,恐らく通常の出版物の上に,例えば音楽や映画の著作物のようなものがアドオンされている。そういうものをイメージしてよいのではないかと思います。
 そうしたときに通常の出版物と違うところは,そのようなアドオンされたものがあるかどうかという問題だけでありますので,そういうものはそれぞれ音楽の著作権,あるいは映画の著作権で処理すればいいので,そうだとするとそういうものを取り除いたところのそもそもの出版物,それをどういうふうに定義するのかというのはまた別の問題かもしれませんけれども,そのように考えていけばいいんじゃないかと思っています。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。じゃ,金子委員からどうぞ。

【金子委員】 私もリッチコンテンツについて特に含めるべきとは思っておりませんし,定義が難しいだろうと思います。ただ,逆に難しいのは,リッチコンテンツだけ除外するということになると,そのことについての定義等を置かなければいけない場合も生じるかもしれませんので,そうだとすればそれでかえって難しい問題が生じるのであれば,リッチコンテンツについては特に法律上は扱わない,もしそれについて設定された場合にも一応当事者が納得して設定しているのであれば,物権的効力を認めるべきかどうかは裁判所で争うことにして,積極的に含めるわけでもなく,また定義が難しければ除外する必要もないという扱いが妥当ではないかと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。小林委員が先に手を挙げられておられたので。

【小林委員】 今回の議論が海賊版を駆逐するためにという目的がある場合に,今,海賊版で流れているもので,コピーされているものが本であれば,紙から出ているものですね。紙をスキャンすればできてしまいますから。それから,映像でもテレビで流れているような,つまりDRMのかかってないものがネット上にいっぱいありますというところで,最初からネット上で商品化するもの,今,話に出ている電子書籍というものはDRMがかかっています。DRMを破る人が世の中に一応いるんですけれども,基本的にはDRMがかかっているものをコピーするということは,99%ぐらいないと思ってもらっていいと思います。
 ですから,今,リッチコンテンツの話が出ましたけれども,今やらなきゃいけないことは,紙の本が片一方で出ていて電子になっているものがやたらとコピーされていますから,これを何とかしなきゃいけないでしょうというふうに思うので,今回は皆さんと御意見は同じなんですけれども,いわゆる紙で出ているような出版物に限定した中で話を進めればいいかと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 前にも申し上げましたけれども,排他的な債権的ライセンス一般について差止めは可能かという別の論点には,今回の議論は,極力入らずに,あくまで,債権的ではない物権的権利としての出版権として議論が進んでいますので,リッチコンテンツが入る,入らないかがはっきりしないという曖昧(あいまい)な形で残しておくのではなくて,あくまでこれは電子出版ですので,出版の延長線上にあるものだけで,考えていくべきと思います。先程どなたか言われたように,リッチコンテンツは電子出版の上にアドオン的にのっている別なものだから,電子出版権の対象はアドオンでない本体の電子出版部分だけというように割り切って考えるしかないように思います。入ったり入らなかったりするというのでは,今までのここでの議論に反してきますので,電子出版権の対象は本体だけであって,アドオン部分は別途何らかの処理をしてもらうという形しかないと思われます。アドオン部分というか,リッチコンテンツ特有の電子出版本体でない部分というのは,そうしない限り議論も進まないし,入れると時間だけの問題ではなくて,今まで出版ないしその延長線上にあるものとして絞って議論してきた議論の大前提全体が崩れてくるおそれがあると思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。この問題は将来的には大変重要な問題になってくるんだろうと思いますけれども,現時点においては,今,各委員の御意見で方向性が示されるのではないかと承知しております。
 それでは,次に資料4の2ページ目に記載されております検討事項の2でございます。この点について何か御意見がございましたらお願いをいたします。重要なことだろうと思いますので,是非御意見を。前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】 今,3つの案に整理していただいているんですが,もう一つ考えられる案があるのかなと思うんですが,それは公衆送信権(放送及び有線放送を除く)について専有させるという選択肢もあるのかなと思います。

【土肥主査】 ほかに何かございますか。金子委員,どうぞ。

【金子委員】 議論の進め方についての確認なんですが,ここでは電子出版権だけを創設するのか,それとも総合出版権のような単一の権利にするのかということはここで議論することでしょうか,それともまたあとで議論することでしょうか。その点を確認させていただければと思います。

【土肥主査】 いえいえ,総合的に。電子出版権を新たに創設するという考え方です。建て増しをするのか,隣にもう1棟つくるのかという,そういう話ですか。

【金子委員】 デフォルトルートは1つにするのか,それとも既存の出版権とは別に電子出版についての規定を置くのかということは,今ここで議論することでしょうか。

【土肥主査】 その御意見を出していただいてもいいんですけれども,いずれにしても大きく言うと,その2つしかないわけですので,そういうものを前提にどこか一つ絞っていくべきなのか,まとめの中でA案,B案みたいなものがあるという形で出すのか,それは両方あろうと思いますけれども。

【金子委員】 今,その点について申し上げてもよろしいでしょうか。

【土肥主査】 はい,どうぞ。

【金子委員】 先ほどのあんびる委員からの指摘の点も含めて申し上げます。以前の出版義務に関する私の回答と少し違うところがありますが,少し述べさせていただきます。
 私は電子出版権を創設するのではなく,出版権の内容を電子も含むものに拡大すべきだと思います。また,その際には,現状の紙の出版権については複製権のみを対象としていますが,譲渡権についても含めるべきだろうと思います。出版の頒布に必要な限りでは譲渡権も含めて,また電子については公衆送信。放送,有線放送等を除くかはここで議論されている点なので,これについてはお任せしますが,出版権が対象とする,それと重なる支分権については,全(すべ)て対象を含むものにこの機会に再構成するべきだろうと思います。
 その上でなぜ電子出版ではなくて,総合出版権の方が望ましいかという点についてですが,先ほどの海賊版対策,紙の書籍について現在生じている海賊版対策の側面からしますと,現行,まずは紙でしか出版されていないものについても総合出版権が設定されることによって,電子で公衆送信されているものについてもそれを総合出版権の侵害としてとめることができるというふうにするべきだろうと思います。
 その上で出版義務についての考え方でありますが,その出版義務については総合出版権が対象とする全(すべ)ての出版行為を対象とするものではなくて,何らかの一つの形で出版されていれば,極端なことを言えば,紙だけで出版されていても出版義務はひとまずは尽くされていると解すべきではないかと思います。それをデフォルトルールとした上で,更に設定行為,出版権の設定契約において更に追加的な義務とか,電子でも出さなければいけないとか,そのような義務が課されている場合には,その義務の違反が継続出版義務の違反として捉(とら)えられるといったことが特に規定されていない場合には,紙だけで出している場合にも出版義務は尽くされていると解してよいのではないかと思います。
 そのようにすることによって,当面,紙と電子をあえて別々に設定しようと思っていない著作者については,そのような出版権設定契約を結ぶことで,海賊版対策も出版経営者としても機動的に行うことができる。その上で将来の利用について詳細な定めがあれば,そのような義務違反が継続義務等の違反として出版権の消滅の対象となる。そのような制度設計が望ましいのではないかと考えております。
 あとの論点も含めているんですが,以上のように考えます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】 想像していたより早くこの話が出てしまったのですけれども,権利を別に作るという考え方を提案した者として多少お話をさせていただきたいと思います。
 電子出版権を既存の出版権と別のかたちで新設すべきと提案した理由にはいろいろございますが,大きいところで申し上げますと,電子については今後,紙媒体ではできない技術を取り入れるなど,紙の媒体としての制約を超えた進化をする可能性があるのではないでしょうか。リッチコンテンツなどはその一例だと思います。また,現状で実際,電子出版を行っておられている既存の出版社は―既存のという言い方が適切かわかりませんけれども―どれぐらいあるのか私はよく分かりませんが,大手の一部にとどまるのではないでしょうか。そういう意味で,今の出版社さんが電子出版を行うことを前提として現行の出版権を拡張するというふうに考える必要は必ずしもないのではないでしょうか。
 電子出版は新しいビジネスですから,その発展のためには,これに本気で取り組む意欲のある方が,義務と権利をしっかりと持って,ビジネスしていくことが必要だと思っております。電子出版の権利は欲しいけれども電子出版を行う気がないといった人にまで権利が発生するような仕組みにするべきではないと思います。
 違う観点から申し上げると,たしかこれは河村委員もおっしゃっていたと思いますが,最終的には著作者の意向が大事であるということであり,著作者が選べることに主眼を置いた方がいいと思っています。既存の出版社さんは,いろいろ力が強いところもありますから,そういったところが電子出版をしてくれるのか分からないまま権利だけを取るようなことが起こりうる制度は,必ずしもメインにならない方がいいのではないかと思っています。

【土肥主査】 右と左で同時に挙げられたんですけれども,レディーファーストで河村委員,どうぞ。

【河村委員】 本日の法律的に細かい議論に必ずしもついていっているかどうか分かりませんが,この場の議論がだんだん当初考えられていたのと違う方向に舵(かじ)が切られているように感じられて気になります。もともと電子出版が豊かに行われて,利用者,消費者の選択肢が広がって,ビジネスにも競争が入ってきてということが目的で始まったのかと思っていたのですが,いつの間にかデッドコピーの海賊版対策をどうしたらうまくできるかという方策を考えるのがメインで,そのためには電子出版権みたいなものを作らないと紙の出版をしている者には権利がいかないから,うまいことやるにはどうしたらいいかということに終始しているように見えます。
 ちょっと辛口で申し訳ございませんが,グーグルやアマゾンという言葉も出ましたけれども,よその人が網羅的にやってすごくもうけるのは面白くないと。でも一方,自分たちはこれはあまりもうからないから,やりたくないみたいなこともおっしゃっているように私には聞こえます。自分たちで大規模にきちんとビジネスを作っていくということをしなければ,早晩だれかが持っていってしまう。心配して扉を閉じていても,どんどん負けていくだけだと思うんです。
 ですから,紙も電子も一体を原則にして,義務は紙だけやっていればいいとなりますと,私が最初の回で申し上げたように,ともすれば既存のビジネスモデルを守るためだけに使われていくルールになってしまうきらいがある。何のために海賊版対策をするのか,電子出版を豊かにやっていくためというところからずれないようにしないといけないのではないかと思いました。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それじゃ,松田委員,お願いします。

【松田委員】 金子委員にお聞きしたいんだけれども,先ほど一体型のことを提言なさっていましたけれども,そういう考え方に立ったとしても,あえて紙の出版と電子出版を分けて契約することは可能なんでしょうね。それでいいですよね。ただ,出版契約をしましょうと言うと,電子出版も一応ついてくるという条文を想定なさっているんですか。そうすると,実を言うと大差はないんです。既存の出版社が,紙ベースの出版のほかに,電子出版も黙っていればついてくるという契約書を作るか,あえて別の契約書を立てて電子出版という契約をしないと電子がついてこないという,この違いだけのように思いますが,いかがでしょうか。

【金子委員】 与えられる権利の点は,特約でデフォルトをどちらにするかだけの問題だろうと思います。違いが出てくるのは,出版義務の範囲をどう捉(とら)えるかというところだろうと思います。もちろん出版義務を全部についてやっていれば,全部に及ぶと考えれば同じことになるんですが,ただ,現行法の出版権においても,出版継続義務というのは出版権で設定された権利内容全部について尽くしているわけではないわけであります。特定の利用行為や特定での流通形態に限定してしか出版をしていないわけであります。それでも義務違反はないと一般的には考えられているわけであります。それとの整合性からいえば,電子と紙と総合的に設定したとした場合の義務についても同様に解してよいのではないかと思っております。
 先ほどの河村委員の指摘ですが,今,私が言っているのは我々のもともとの一体といったものの趣旨とは少し違う趣旨で申し上げていまして,現在の審議会の議論においては海賊版対策に重点が置かれておりますので,それとの関係で申し上げれば,このような形にすべきではないかということを申し上げている次第であります。

【土肥主査】 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 非常にお聞きしたいのですけれども,もともと出版というのは紙と電子は一体たるべしという流通促進という話だったのが,本日はどちらかというと,海賊版対策のためにはこちらにした方がいいというようにかなりシフトしているようです。私が当初思っていたのは,社会的実態として紙と電子というのは大きく異なるものであるし,どなたか言われたとおり,デフォルトということは,深く考えずに設定契約すると,出版権が紙と電子の両方ともについてとられてしまうということなので,それはやめてほしいというのは著者からも強く言われたかと思うのですけれども,そのような観点からすると,何でまとめるのかなと思いつつ,もしかすると急速に変わられたのは,先程ありましたように紙出版の場合にアップロードがとめられないから,それについても電子出版を設定してもらわなければいけないというのも大変だから,それだったら最初から何も言わなければ紙と電子と両方が来れば,紙出版社もスキャンされたもののアップロード行為等がとめられるという,要するにそういう海賊版対策にシフトすると,本日のような説明になってくるということなのでしょうか。
 先程,松田委員が余り変わらないと言われたのですけれども,デフォルトルールというのは実際上はかなりの違いを生じてくると思います。放っておけばどっちになるのかというのは,似たような話ですと,裁判でも証明責任を負った方が負けるというぐらい大きな違いが出てきますので,契約マインドが非常にある当事者間であったら余り変わらないかもしれませんけれども,そうでない限りは,デフォルトルールというのがかなり効いてくると思います。そこで鍵になってくる,忖度ということになるのかもしれませんが,多くの場合に,――あえて逆の結論を導くためにデフォルトルールに強い効果を導く人もいますけれども,そのようなものではなく――我々法律家の一般的な感覚からすると,どちらの方が通常の意思,特に著作者の意思に合致しているのかという観点からいうと,今までお聞きしていますと,著者の方は紙だけの意思のときに電子まで両方という方は,通常の意思に合致していないのではないかと思われます。それにもかかわらず先程のように持ってくるというのは,海賊版対策のためには先程のような問題があるから送信を止められるようにした方がいいというところが強く出ているということなのでしょうかという点をお聞きしたいと思います。

【松田委員】 デフォルトルールで実務が大分違うんじゃないかという御意見は,そのとおりだろうと思います。
 ただ,ここで議論している海賊版対策のために既存の出版社に紙ベース,プラス電子出版をくっつけた方が対策になるというのは,本末転倒だと私は思います。余り小さいことを考え過ぎてはいませんでしょうか。電子出版というものをどういうみんなの利益のために作るかということを考えなきゃいけないんじゃないでしょうか。言ってみれば,それは産業としてだれが入ってくるかということも含めて考えなきゃいけないんじゃないでしょうか。そのことによって既存の出版社がつぶれちゃうなら,本当にいけないのかどうかということを考えなきゃいけないんじゃないでしょうか。言ってみれば,一言で言うと,海賊版対策のために既存の出版社に紙プラス電子の一体化をデフォルトで決めるということは本末転倒だと思っております。

【瀬尾委員】 著作者ということが出ていて,実は最初の出版権というもの自体に電子,紙,両方含めるという話と,もともと別立てにするというお話がありましたけれども,これは写真としての分野としてじゃなく,著作者としての意見を集約したところでいろいろ私の聞いている範囲では,思っている以上に紙と電子を一体化してやることについては抵抗が強いです。
 つまり紙だけで出したいという人はいます。電子だけというのはまだ聞いたことないですけれども,紙だけというのにこだわっている著作者というのは,実はビジュアル系はかなり多い現状があります。その中で特約により外すのではなくて,もし結果として両方を契約しなくちゃいけないとすれば,効果は両方別でもいいと思います。ただ,それを明らかにデフォルトで入れてしまうというのは,著作者がそれを理解して外さなければいけないということになって,契約ですから,それが外せない著作者が悪いといえばそれまでなんですけれども,また先ほど吉村委員のおっしゃった今後の電子への対応もあると思います。
 私が違うところてやっているコンテンツを扱ったり発信したりするところでも,日々形を変えていろいろなものが出てきている中で,電子出版と言われているものも本当に今の範囲のままなのかどうかといったときに,出版と全部混ぜて今立ててしまうことよりは,あらかじめ全部2つに分けて可能性を立てた方が私はいいように思います。著作者の立場と流通の立場から考えると,一つに含めるよりも別々の方がいいと私は考えます。

【土肥主査】 野間委員,どうぞ。

【野間委員】 以前この会議でも申し上げましたけれども,実態として,弊社では電子書籍として,新刊の9割が刊行されているという意味では,紙と電子を一体で契約を結んでしまってもかまわないのではないかとも思っております。もちろん電子化されていない1割に関していうと,電子の契約を結ばれない方もいらっしゃる。基本的に契約だと思いますので,著者の方々とどういう契約を結ぶか,それもまた一括で結ぶこともあるでしょうし,同時に電子をやる場合でも別々に結ぶこともあるでしょうし,私も松田委員の意見と結果的に余り変わりはないのではないかと思います。

【土肥主査】 ちば委員,どうぞ。

【ちば委員】 いろいろな委員会の流れをずうっと聞いていたんですけれども,非常に複雑にどんどんなっていくので,私,またすぐかき回してしまうのかもしれないんですけれども,これからはいろいろなことは契約だと思うんです。契約はすごく大事。契約というのは世界中各国とやることにしても何にしてもすごく大事なので,契約ということをできるだけシンプルにやりたいことだけ,例えば本を出版するんだったら出版する,単行本を出すんだったら単行本,文庫本を出すんだったら文庫本を出すという契約をそのたびに交わすということで,できるだけ契約を簡単にする方向でこの委員会が進んでいってくれたら,そういう方向の法制を作ってくれたら有り難いと思います。ちょっと簡単ですけど。

【土肥主査】 どうぞ,里中委員。

【里中委員】 専門用語が多くて,私はなかなかついていけないんですけれども,ここで話されていることの前提というのは,出版社はみんなお行儀がよくて真面目(まじめ)なところだというのが前提になっているような気がします。山ほどいろいろな出版社があって,その多くはちょっと口にできないようなことでひどいことをしている。口にしちゃってもいいんですけれども,ただいま現在でも電子出版を目指して勝手に契約書を作ってきて,それが何と著作権保護期間中生きるという契約書を平気で作ってくるところもあります。それにサインしないと本を出してもらえないと言って,若手とか,力がないと自分で思っていらっしゃる方はただ泣いているだけですね。
 昔からこういう図式はありました。現在は電子書籍と紙の本が一体化した契約書というのが一般的に出回っております。その中ではロイヤリティー,それまで書き込まれてしまっております。これはいかがなものかと。このロイヤリティーの根拠を示してくれと聞きましたところ,本当,簡単な言い方で申し訳ないんですけれども,小うるさいという扱いをされるわけです。本の出版物の場合は,発行部数掛ける売値掛けるパーセンテージでこれまで算出されてきました。
 でも,電子書籍は今,ほとんどの契約書が純益の何%。そのパーセンテージもすごく低いです。著者の立場に立ってみましたら,外資系でも何でもいいから,もっと潤沢なロイヤリティーをくれるところと契約したいと思う人がいてもおかしくないと思います。読者のもとに届くのであれば,書店さんはどこでもいいと思う人も多いです。
 だけど,私たちは日本人ですし,これまでつき合ってきた日本の出版社,ましてお行儀よく紳士的であった出版社が,何とかこのままずっと頑張ってくれるようにと随分応援してきたつもりでいますけれども,そういうのを崩していくようなとんでもない契約書が出回ってしまうと,どうしてもお行儀の悪い出版社の方に対抗するためには,電子書籍は電子書籍で別の契約をしないと危なっかしくてしようがないという気持ちにもなります。今ここでこんな,どちらかといいますと感情で判断するようなことを申し上げるのは適切でないということは重々承知しておりますけれども,だいたい著作者というのは感性で勝負するものですから,理屈よりもどうしても気持ちよく仕事をして,より多くの読者に届いて,できる限りお互いに幸せになれるような版元とクリエイターとの関係を築いていきたいと願うものです。
 法整備というのは,結果として求めるのは,広く一般社会の利便性と幸福感だと思うんです。ある一方の利便性だけを目指してやっていると,細かい法解釈で事がこうやって進まなくなってしまう。出版社が海賊版対策をしたいというのであれば,それに対して有効な方法は何かというのをみんなで考える。それが幸せな社会を築くものだと思います。現行の法の中でそれができないのか。
 思い起こしてみますと,今,海賊版というと電子媒体ですけれども,以前は紙媒体でした。日本で紙で出された本がいろいろなところで違法コピーされて,立派な単行本のようになって店頭に並んでおりました。紙対紙ですから,何とかできたと思うんです。国内での違法コピーもありました。紙対紙なのでできたはずなのになぜできなかったのか,なぜできないのかということをいろいろ聞きましたし,努力なさっていることも聞きましたし,費用対効果が出ないということも聞きました。そういう過去の経験を考えますと,電子出版に対して幾ら法整備をして,これなら大丈夫といっても本当に効果があるのか。その不安も一つあります。
 ですから,今申し上げたいことは2点です。今考えていることで本当に効果があるのかということが1点。もう一つは,紳士的な出版社の論理だけで事を進めて大丈夫かどうか。著作者はそこを大変気にしております。ですから,なるべく個別対応の方を望みたいというのが正直な気持ちです。
 失礼します。

【土肥主査】 ありがとうございました。幾つか御意見をちょうだいいたしまして,海賊版対策という観点からだけではなくて,こういう電子書籍という形での利用,あるいは流通をどういうふうに制度設計すれば最大化できるかという観点から,この検討事項の[2]については考えていただきたいという意見のまとめ方にしておきたいと思います。
 それから,時間の関係もありますので,3ページ[3]の「電子書籍に対応した出版権」の設定を受けた者が負うべき義務,これは先ほど来から出ておりましたけれども,[3],それからその他の[4],[5],[6],これ4つまとめていろいろ御意見をいただければと思います。

【森田主査代理】 先ほどから出ている問題で,電子出版権というのは電子出版の権利を取得するだけで,特約で電子出版の義務はないという形をとることができるかどうかというのは,資料4の5の「出版の義務・消滅請求」の論点にも関わってくると思いますが,電子出版は行わずにもっぱら海賊版対策のために既存の紙媒体の出版権に電子出版権をプラスすることを認めるのは本末転倒である,という先ほどの御意見に私も賛成であります。電子出版について出版者に権利を付与する場合には,それに対応した義務も負うとすべきであって,紙媒体の書籍の出版のみを目的として出版権を設定した場合に,それでは海賊版対策がうまくいかないのであれば,先ほどの方策[3]を組み合わせるなどの方法によって対応を考えるべきであると思います。要するに,電子出版権というのは自ら出版権の内容に対応する利用行為をするために必要な範囲での権利を専有するものであって,さらに利用行為について再許諾できる場合にはその許諾権を持つことになるわけですが,それ以外の,自らは出版行為を行わないが第三者の侵害行為を差し止めることができるという禁止権の部分については,別に特定の者が専有する必要はなく,電子出版権の設定を受けていない出版者にも禁止権を付与することは理論的にも十分に考えられることですので,方策[3]と組み合わせることが可能であれば,そちらの方策を探っていくべきではないかと思います。
 そのような議論の前提として,先ほどから議論になっている,紙媒体の出版権と電子出版権とは別個の権利なのか,それとも両者が一体のものとして出版権を考えるべきかどうかということに関して,フランス法の例をここでの議論のご参考までに少しお話ししたいと思います。
 フランス法においても我が国と同じように電子出版にどのように対応するかという課題が数年前から検討されてきましたが,フランスの文化省は著作者の団体および出版社の団体の双方の意見調整を図るために,パリ第1大学のシリネリ教授に委託して両者の話し合いを進めてきましたが,その基本合意が本年3月に成立したところです。
 そこでは,出版権というのは紙媒体と電子媒体とで一体のものとして捉えられておりますが,ただ,出版契約するときには,契約の独立の部分で電子出版についての合意をしなくてはいけないものとされております。したがって,出版権の概念それ自体は一体のものですが,その中身は可分であって,電子出版を行う場合には明示的にそのことについて合意しなさいということで,その合意の明確さを要求しているというのが第1点です。
 それから,この資料4の5に対応する出版義務の違反を理由に出版権が消滅する場合についても,紙媒体で出版しているけれども,電子出版はしていない場合には,電子出版の義務違反による権利の消滅は電子出版の部分にだけ及ぶものとされております。つまり,一部の義務違反があったら出版権が全部消滅するのではなくて,義務違反の部分に対応した権利のみが消滅するとされており,契約の成立の局面のみならず,消滅の局面でも可分という形になっているわけです。
 こうしてみますと,紙媒体の出版権と電子出版権を別個の権利なのか,それとも一体とものとして出版権を考えるかどうかという問題は実は本質的ではなくて,かりに一体のものと捉えるとしても,その中身がどういう形で区切られていて,合意するときにはどのレベルで明確な合意をしなくてはいけないか,あるいは義務違反があった場合に――そもそも義務があるかどうかという問題がありますけれども,出版の権利と義務はセットで考えるとした上で――,その消滅の効果が可分であると考えるかということが問題となると思います。
 ちなみに,今日の議論の対象ではありませんけれども,先ほどロイヤリティーなどの契約条件についてのご意見がありましたので付言しますと,先ほどのフランスの基本合意では,電子書籍については経済的な状況の変化に応じて契約内容の見直しを行うという条項も入れなくてはいけないということになっております。これは出版契約が長年に及ぶ場合は経済状況も変化しますから,そういう対応も含めて,要するに著作者と出版者の適切な権利義務の配分ができるような形で全体として出版契約を合理化することが電子書籍の発展のために必要であるという考え方を採っておりまして,このような基本的な考え方については日本でも十分に参照しなければいけないのではないかと私は思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。ほかに3から6までの義務等々について,瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 時間もなくなってきて,まとめてということなので。実は先ほど河村委員もおっしゃったように,電子書籍の流通とか,それの利便性向上とか,こういうことは非常に重要な議論としてあったかと思います。
 実際には,ただ,海賊版対策をいかにするかという非常に重い,重要なテーマについて話すことになってしまったんですが,実は中山提言の[4]について,登録制に基づいた流通促進策ということについて,直接的な今回のテーマと触れない部分かもしれませんけれども,非常に重要なところだと思っています。それがその他の[4]のところにあった登録制度ということになってくるんじゃないかというふうにも考えております。ですので,今回,いろいろな議論がなされて,これからまとめに入るかと思いますけれども,是非前向きな部分として直接的な立法措置をするわけではないにしても,中山提言の[4]の意図をくんだ部分は残しておいていただきたい,記載していただきたいというふうに要望します。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに御意見ございますか。

【渋谷委員】 検討事項として掲げられていることとは少し外れるかもしれないんですけれども,義務に関連する条文,現行法を見ていきますと,例えば82条に著作物の修正増減をしなくちゃいけないという規定があるんですが,これは出版権者が改めて複製する場合には著作者は修正増減を加えることができる。電子書籍の場合だと改めて複製するということはないわけですから,こういうところは考えなくてはいけないですよね。ずうっとアップロードされているんだけれども,ある日著作者が手直しをしたいというときに,それに業者は対応しなくちゃいけないのかどうかといった問題がありますね。それから,83条に存続期間。これは検討事項の中にもありますけれども,3年を原則とするというんですけれども,3年を過ぎてもずうっとアップロードされ続けているわけですので,これは3年過ぎたあとは,出版権者(配信業者)と複製権者のどちらからでもいいんですけれども,解約権を持つ。だから,3年経過した後は期間の制限のない契約に変ずるような扱いをする必要があるのではないか。そういうことを考えます。
 義務規定というのは,これは手直しするのはそんなに難しいことではないと思いますから,細かく遺漏のないようにやっていただきたい。それからまた,出版権ですから,制限をしなくちゃいけないわけで,86条に細かい規定が上がっていますけれども,これも電子出版について遺漏のないように規定していただきたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに3と6に関して何かございますか。金原委員,お願いします。

【金原委員】 私は出版の実務家として,3から6にかけての電子出版に係る内容をどうしたらいいかということについては,特別に考える必要はないのではないかと思います。これまでの印刷媒体,紙媒体の出版物と同じように考えればいいのであって,とはいうものの,電子と紙ですと流通の形態も違いますし,場合によると目的も違ってくるので,それは個々の出版物の内容によって,著作者と出版社の間の契約によって変化を持たせばいいのではないかと思います。したがって,ここの3から6については,電子だからといって特別に考える必要はなくて,これまでの紙媒体と同じように考えればよろしいのではないかと思います。
 更に言うと,現在の80条に印刷その他の方法と書いてありますが,それも印刷というのは,その当時は印刷しかなかったから印刷と書いてあるだけで,現在,印刷という方法もあれば,電子という方法もある中で,それを削除すれば全(すべ)ての出版形態に対応できることになるのではないかと思います。ただし,先ほども言いましたように,様々な利用形態,様々な出版物がその目的に応じて適切に流通するためには,ここで一つの方法だけに限定することは無理であって,そこは先ほどちば先生もおっしゃいましたけれども,個々の契約で,出版者と著作者の間の契約の中でバラエティーを持たせて物事を決めていく。
 そういう意味では,これから本当に契約というのが重要なると思います。今までは電子媒体の出版物の設定というものがありませんでしたから,そこの契約が進んでないのは事実でありますけれども,今後,仮に出版権が電子まで広がるということになると,著者と出版者の間の契約というのが重要になるので,ここは双方ともに契約の在り方について検討,勉強する必要があるだろうと思います。そうしないと,いろいろな不幸なことが起きる可能性もありますので,これは両者が一体となってやるというのは難しいことでしょうけれども,双方ともに契約の在り方,契約の仕方を勉強する必要があるのかなと。それによって適切な流通が図られていくんだろうと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。どうぞ,潮見委員です。

【潮見委員】 事務局に確認ですが,先ほど森田委員からも発言がありましたが,[3]から[6]について電子出版に特化したようなルールを,諸外国で作っているとかいう実態はあるのでしょうか。もし情報等がありましたらお教えいただきたいと思います。もしそのような特化したルールを設けていないということであれば,なぜ我が国はここだけ特別にということもあろうかと思いましたので,確認の質問をさせていただきました。
 それからもう1点,先ほど瀬尾委員がおっしゃったことについて1点だけ気になることがございます。流通促進策のことです。これが重要なテーマであるということについては私も異論はございません。むしろこれから議論していかなければいけないし,出版の問題以外のことも含めて考えていかなきければいけないことではなかろうかと思います。ただ,今回のこの委員会で,この部分については今回議論の対象から外したというか,主たる対象としては議論しておりません。そういうものについて事細かく報告という形で書くことについては,私は同意できません。むしろ報告書の記載としては「重要なテーマである」というぐらいのところにとどめておいていただければ有り難いと思うところです。

【瀬尾委員】 ちょっとその件について。

【土肥主査】 じゃ,瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 今,潮見委員のおっしゃったことで,私もそんな細かくどうこういうシステムだということではなくて,そういう方向性を示すというレベル以上のことは,議論しているわけではないので,当然書けないと思っています。ただ,余りにそのことが全く何も触れられないで,なかったかのようにということではなくという意味でございましたので,そういうことでございます。

【潮見委員】 先ほどのご発言で「中山提言の」という言葉がございましたものですから,少し気になったものです。済みません。

【瀬尾委員】 それにこだわるものではありません。

【土肥主査】 金子委員,どうぞ。

【金子委員】 企業内複製などの問題については,今回の権利の対象とはしないということになりましたが,他方で対抗要件としての登録を使いやすい形で整備するということ自体については,これは吉村委員からも御発言のあるところであると思います。そういった意味で法改正が必要な事項かどうかということは別としまして,出版権の登録申請についてもっと簡便なものとすることは必要であり,例えば電子申請を可能とするとか,あるいは現状著作物の明細書に記載された内容によって設定対象となる著作物を特定しているんですが,これは本来はアーカイブ化されている書籍についてその書誌情報によって特定した方が適切であり,これは現行法の下でもすぐできることでもあります。加えて権利情報をアーカイブ化されたデータと結びつけていくことが重要であろうと思います。この限りについては,少なくとも今回の報告書においてももし異論がなければ触れていただきたいですし,できれば,将来的には登録免許税の減免などといった措置も行われていくべきだろうと思います。

【土肥主査】 吉村委員,どうぞ。

【吉村委員】 金子委員と意見が合うところがあって,よかったなと思います。
 方向性はそのとおりだと思っています。問題が1個だけあるとすれば,今日参考資料として配っていただいた資料の最後の7ページ目なのですが,結局,登録制度は登録免許税法で定められているため,文化庁が登録を促進するために,一気に,例えば3万円を300円とか30円にしようと思ったらできるという話ではないということです。私自身,下げた方がいいと書くのは書いた方がいいと思いますけれども,それをもって実効性があるのかという問題は残ると思います。反対しているわけではないのですが,そのような問題はあるかと思います。
 それから,時間の関係もあるので,あまり言いたくはないのですけれども,資料4の権利の内容の話について全然議論が出てないところですので,一応申し上げたいと思います。

【土肥主査】 その点を是非お願いします。

【吉村委員】 資料4の2ページ目の3.権利内容の1については,我々が以前申し上げたところであり,公衆送信権では放送・有線放送権が含まれてしまうので,自動公衆送信権がよいのではないかとしたところでございます。放送・有線放送のところは,やや議論が足りないというか,このメンバーでもそんなに議論できてないところかと思っておりますが,ここは議論して決めなくてはならないと思います。そういう意味で,前田先生がおっしゃったような,2で放送・有線放送権を除く案というのは十分あり得るケースだと思っております。自分たちが提言で書いたからといって,何が何でも提言通りの表現にして欲しいというつもりはありませんので,いろいろ議論したらよいのではないかと思っています。
 ただ,他方で,メールで一斉送信するようなケースが組めなくなってしまうということが懸念として書いてあって,ここが具体的にどういうことであるのかがよく分かりません。今日でなくても結構ですが,もしこの場で簡単に教えていただけるようであれば教えていただけますでしょうか。ここがクルーシャルな問題であるのかどうかについて,理解がないものですから。
 以上です。

【土肥主査】 2のメールで一斉送信するようなケースというのは,どういう経緯で入っているんでしたっけ。事務局でお願いします。

【菊地著作権課課長補佐】 メールで一斉送信の話については,前田哲男委員から御発言があった際に,公衆送信権の方がいいのではないかというふうにおっしゃっていたように記憶してございます。

【土肥主査】 事務局から,前田委員からどうしてもお求めになるということがあれば。じゃ,前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】 メールで一斉送信するのは自動公衆送信ではないという理解です。

【土肥主査】 ビジネスモデルとしてということだと思うんですけれども。

【前田(哲)委員】 海賊版をばらまく人がメール添付で大勢の人に一斉に送信するという行為に対して,電子的な出版権を設けても,それで対応できなくなってしまうということを懸念した次第であります。

【渋谷委員】 前田委員の御提案のように,公衆送信権(放送・有線放送権を除く)としておけば,自然にメールの一斉送信というのは入ってきてしまうんです。著作権法の条文を見ていくと,そうやっているところがたくさんあるんですけれども,それでよろしいんじゃないかと私も思いますけれども。

【土肥主査】 ほかにこの点,何かございますか。要するに4ということになるわけですけれども,大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 最後に,これは前に出かかった論点で,今回も時間があれば,明確化しておいた方がいいかと思います。紙出版か電子出版かの仕分けのところで,DVDやCD-ROMのようなパッケージ型はどうかということですが,電子という点では,電子出版に入るようにも見えてしまう面もありますけれども,おそらくほぼ共通の認識としては電子出版というのは配信的なものであって,パッケージ型などは紙出版の方に入れるということであると思います。中身の議論については,今回は最後でしょうから,共通の認識としては,おそらく,電子的なものではあるけれども,ここでいっている電子出版ではなくて,紙出版の方の1形態であるということは最後に少しだけでも整理しておいた方が,よいと思います。紙出版・電子出版の二分法を考える際には必ず問題になってくると思いますので。

【土肥主査】 ほかにこの点,何かございますか。じゃ,前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】 今の大渕先生の御意見について私も賛成で,DVD等で配ることについては,公衆送信あるいは自動公衆送信ではなくて頒布に当たるわけですので,それは紙の出版権の方に含めるという整理の方が整合的だと思います。

【土肥主査】 そっちを広げるということですね。
 ほかにございますか。
 電子書籍に対応した出版権としてはどういう支分権の範囲がいいのかということに関して,今,幾つか出ているわけですけれども,こういう制度を作る際に,他(ほか)の制度に関して認められている支分権の範囲の例がいくつかあるんだろうと思うんです。そういうものとバランスのようなものも,実際には考えられていくんじゃないかなと思います。確かにいろいろな稀(まれ)なケースがあって,そういうことに事前に対応しておくということは十分あるとは思うんですけれども,とにかくまとめていただくときには,そういういろいろな意見があるということももちろん書いていただく必要がありますけれども,こういう行為に関しては支分権として必要な行為,必要な支分権としてどういうものがあって,それによってこの小委が目的にしているような海賊版対策,更にその利活用が一層最大化するような観点から絞り込んでいただくということじゃないかと思います。その上でそうしたことをおまとめいただいたあとで,またこの小委が開かれるわけでしょうから,そこでまた議論を出していただくということにさせていただければと思います。
 あと,先ほど3から6までのところがあったわけですけれども,基本的には紙というか,現行の制度に準じていくことになるだろうと思うんですが,電子出版特有のことも当然あるわけでありますので,渋谷委員が申されましたけれども,改めて複製するような場合といったことを考えると,紙の場合,我々著者として修正増減の機会は重要でありますので,電子出版の場合,1回出してしまって,それでおしまいということになりますと,それも私は問題があると思いますので,電子出版に関して特有な調整ということは是非お願いをしたいと思っております。
 本日,いろいろ御議論いただきましたけれども,前半で議論させていただいたことで申しますと,先ほど私は出しゃばって申し上げさせていただきましたけれども,電子書籍に対応した出版権による対応という2つ目の方策2,そういう方向性において大体前向きな議論を皆さんにしていただいたのではないかと思いますので,そうした方向性を踏まえた上でおまとめいただくようになろうかと思います。
 それから,方策3については,森田委員もおっしゃっておられたわけでありますけれども,そういう場面も必要な状況があろうかと思いますが,この辺はまだ本委員会全体の意見としては,広く御意見をちょうだいしているということではないように思いますので,委員会のまとめとして恐縮ですけれども,今後検討していただくという形でおまとめいただければと思います。
 それから,最後の後段の方で議論いただいた1から6までの検討事項に関しては,十分議論したかどうかということはあるんですけれども,おおよそ小委員会の議論としてはなされたと思いますので,このあたりで一度我々の議論を事務局においてまとめていただいて,それを本小委員会においてまた議論させていただければと考えております。その点是非事務局におかれましてはお願いをしておきたいと思います。
 あとは連絡事項がありましたらお願いをいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 本日はありがとうございました。先ほど議論の中で申し上げられなかったんですけれども,潮見委員から諸外国の状況についてのお尋ねがございました。森田先生が先ほどおっしゃっていただいたフランスの例を除きまして,電子書籍に特化した義務であるとか,存続期間というものを定めているようなものは把握できておりません。改めて何か分かるようなものがあれば,次回お示しさせていただきたいと思います。
 次回の出版関連小委員会の日程についてでございますが,次回の日程につきましてはおって各委員に御連絡をさせていただければと思っております。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の第6回を終了させていただきます。時間を延長させていただきましたけれども,まことに申し訳ございません。ありがとうございました。

―― 了 ――

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