議事概要

第1回 上野「文化の杜」新構想推進会議概要

●日 時
平成25年12月24日(火)10:00〜11:35
●場 所
文化庁庁舎(旧文部省庁舎)6階 第2講堂
●出席者
【構成機関・団体側】
宮田東京藝術げいじゅつ大学長(発起人代表),銭谷東京国立博物館長,林・国立科学博物館長,馬渕・国立西洋美術館長,坂田国際子ども図書館長,石?東京文化財研究所副所長(所長の代理出席),杉村日本学士院長,三浦日本芸術院長,真室東京都美術館長,土居上野動物園長,日枝東京文化館長,水野上野の森美術館長,石橋上野学園理事長,御手洗国土交通省都市局計画室長(局長の代理出席),久保観光庁長官,小林東京都生活文化局長,横溝東京都建設局長,吉住台東区長,柳千代田区区民生活部図書・文化資源課長(区長の代理出席),小野澤文京区アカデミー推進部長(区長の代理出席),二木上野観光連盟会長,有山JR東日本執行役員事業創造本部部長(常務取締役の代理出席),山村東京地下鉄株式会社取締役(欠席:寛永寺・浦井長臈ちょうろう,京成電鉄・三枝社長)
【文部科学省・文化庁側】
下村文部科学大臣,上野大臣政務官,青柳文化庁長官(発起人代表),山中文部科学事務次官ほか文部科学省及び文化庁の関係職員
●概要
※出席者には,今後も自由闊達に御議論いただくため,下村文部科学大臣及び発起人代表である青柳文化庁長官,宮田東京藝術大学長の氏名のみ記載しました。
【下村文部科学大臣】
東京藝術大学の宮田学長から以前,「上野の杜を「文化芸術の杜」にしたい」と御提案を頂いた。その際に,上野には年間約1100万人の来訪者があると伺ったが,上野地区の各文化施設や交通機関が連携することにより,3000万人の来訪者が訪れる地区にしたい。
現在,私の下で,2020年までに日本各地の文化力の基盤を計画的に強化することを示した「文化芸術立国中期プラン」について検討している。東京オリンピック・パラリンピックは,夏に東京で行うスポーツ大会にとどまらず,文化芸術を目的として1年かけて,日本全国を訪れていただく受皿になるのではないかと思う。
本日は,各界の様々な立場の方にお越しいただいた。この会議では,(1)まずは皆様に枠に捕らわれない意見を自由に頂く,(2)その上で,既存の枠組みでできることとできないことを分析する,(3)どのように上野地区を活性化していったらいいかを,様々な制度を踏まえて考える,といったイメージをしている。
この会議では,スピード感を持って皆さんに議論していただきたい。議論の内容にもよるが,例えば,半年くらいで中間報告をまとめるイメージで考えている。
【青柳長官(発起人代表)】
2代将軍秀忠の時代は,北東が鬼門ということで寛永寺が上野にできた。そして寛永寺を起点として,人が集う施設が徐々に作られていった。西洋美術館の館長として常々思っていたが,例えば,JR上野駅公園口にある道路を地下化することにより,上野の杜方面へのアクセスを良くしたい。
現在大臣の下で検討中である「文化芸術立国中期プラン」の策定後は,その内容を,閣議決定である,次期,第4次の「文化芸術の振興に関する基本的な方針」に反映させるべく,約1年かけて,文化審議会で御審議いただく予定である。
上野「文化の杜」新構想推進会議は,当面は,約半年かけて御議論いただけないかと思っている。議論の中で,今後の文化政策を考えるに当たり,非常に有益な御意見もあろうかと思うので,そうした意見も,適宜,第4次基本方針の検討の際の参考にさせていただきたい。
去る12月7日に「国家戦略特区法」(国家戦略特別区域法)が成立した。この法律は, (1)構造改革,(2)産業の国際競争力の強化,(3)国際的な経済拠点の形成,という観点で国が「国家戦略特別区域」を定め,規制改革等を集中的に推進するものである。資料3の2ページ以降に,「規制改革の多彩なメニュー」が示されている。現在,12ページ以降にあるような提案がなされており,内閣府でヒアリングも済ませ,年明けには対象となる特区が決定される予定である。次回以降の募集時期は,現在未定だが,この会議で良いアイディアがまとまれば,この特区の枠組みに,上野文化の杜構想を,乗せていくことも考えられる。
大胆な規制改革等を進めることにより,文化施設,行政,民間が一体となり,2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて,上野「文化の杜」を国際的なシンボルとして構築していくことが,今,求められている。
本日,私案として,資料をお配りしている。2008年9月に私が私案としてまとめたものであり,「「文化の森」の創造とJR上野公園口周辺整備」というタイトルとなっている。道路の地下化を行い,歩行者の新たな広場を生み出すようなコンセプトとなっている。新たな導線も期待できる。御参考いただきたい。
【宮田東京藝術大学学長(発起人代表)】
「上野の杜」には25〜26もの施設が存在している。これらの施設の垣根を取り除き,上野全体と「国際遊学都市」にしたい。例えば,電車・芸術施設・体育施設などで活用できる「共通パス」を発行し,交通機関と各施設をスマートに行き来する仕組みを作りたい。
また,上野にコンシェルジュのような機能を設置することで,文化芸術をはじめとした総合的な拠点としたい。さらには,芸術文化の活性化のため,上野地区全体を,世界最高のアートクラスター・グローバルアートプラットフォームとしたい。
東京藝大としては,国際芸術図書館(IRCA)計画を練っている。
まずは,京成電鉄やJR等とより密接な関係を築き上野全体を活性化させ,ゆくゆくは,秋葉原や東大,神保町など,文化の薫る周辺地域を巻き込んで,文化芸術の力で活性化させたい。
「あとの祭り」という名が表すように,日本人は,大きなイベントが終わると急速に熱が冷めてしまう。2020年が終わっても魅力的な文化を触れることのできる拠点であり続けられるように,今は,(ホップステップジャンプのうち)大事なホップの時期である。
全てのアジア・芸術・アーカイブ活動を支援していただけるのであれば,是非色んな要素を盛り込みたい。

◆東大は明治10年に開設されたが,当初は「上野の山」も,キャンパスの有力候補だった。上野全体の敷地面積は53万平方メートルで,現在の東大とほぼ同じである。ただ,上野は吉原に近く,学生の勉強に支障を来す恐れがあったため,現在の本郷にキャンパスを構えることになったそうだ。そういった歴史背景を捉えると,昔から上野地区は文化の素養が根付きやすい地域だったのかもしれない。

◆資料1のワーキンググループ(以下WG)のメンバー案について。現状の案は,文化施設関係の方ばかりになってしまっており,例えば,上野の杜に多く存在するオープンスペースの有効活用を図る場合などに,建設的な議論ができない。行政にも関与してもらう意味で,例えば,東京都建設局の方などに入ってもらえると良いのではないか。

【青柳文化庁長官(発起人代表)】
御意見は承った。ワーキンググループの人選は,私に一任させてもらいたい。

◆上野は1873年にできた日本初の公園であり,また東北との玄関口である。東日本大震災の後には,上野地区の役割がますます増大した。上野地区は,過去何度も再開発の計画が浮上しているものの,なかなか実現できていない。結局新宿や渋谷の開発がどんどん進み,街として発展している。上野地区の来訪者3000万人を目標とすることは,大変素晴らしい。現状では1100万人とのことだが,どのようにカウントして1100万人となっているのか。

◆上野地域の主な施設に有料で入場した者の数である。台東区がまとめられた資料に,年間で1359万人が上野の施設に入場したと記載があるので,あながち間違っていない数字だと思う。私の予想では,仮に青柳長官の私案が現実となった場合,2000万人レベルまでは来訪者が増える。ただ,日常的に3000万人まで増える段階となると,更なる交通網との連携強化等,導線を考えることが不可欠である。地下鉄・バス・タクシーの専門家など,導線を考えられる人の知見を賜ることも大切である。ルーブル美術館があるフランスのパリ,スミソニアン博物館があるアメリカのワシントンなども含め,文化施設と交通網に関する導線が一番うまくいっているのは日本の上野である。3000万人の来訪者は夢ではないのではないか。

【青柳文化庁長官】
冬はぼたん,春はつばき・さくら,夏は単月(お月様)など,本来日本には,季節をでるイベントがたくさんあった。現在は,桜の時期のお花見に人が集中し,ぼたんやつばきに親しむために皆が集まることは少なくなった。この上野地区も,桜の名所として,花見の時期には大勢の人が来ているが,自然との関係性も考慮に入れつつ,人を呼び込む方策を考えると,私としても3000万人というのは,達成しうる数字ではないかと考えている。

◆上野の文化施設は,ほぼ全てが(月)に閉まっている。全ての施設を開園するようにとは言わないが,どれか1〜2つが開園しているだけで,随分,上野の杜の印象は変わるのではないか。
また,おみこしを担いで練り歩くことも,外国人からすればとても新鮮だ。例えば,藝大のメンバーが街に出て,お祭りなど,上野の杜ではなかなか体験できない,日本の伝統が織りなす活気を,取り込むような工夫があれば良い。今すぐに具体的に取り入れられるものと,中長期的に行う必要があるものに分けて考えることが大切。

◆アメ横は,年末の5日間で200万,1年で1000万人の来訪者があり,時期により大きな差があるもの,大きな集客効果が期待できる場所である。これらの人々を,上野の施設に取り込めば,3000万人という目標も,十分に達成されるのではないか。
常磐線が,「上野東京ライン」という名称で,東京駅まで延伸するという。交通の便が良くなるのは好ましいことだが,上野が素通りされることへの懸念もある。
パラリンピックに出場し,オリンピック招致のプレゼンターでもあった佐藤真海さんから,障害者がスポーツやトレーニングを行う施設が少なく日々苦慮していると伺った。広大な上野の杜に,障害者もスポーツができる施設を作ると,スポーツ振興の意味では良いのではないか。

◆台東区の来訪者数を,2年に一度調査している。昨年(2012年)調査した際は,来訪者の総数が約4400万人で,そのうち外国人来訪者は約425万人だった。また,上野地区の来訪者は約2000万人である。訪日外国人の約半数が,台東区に足を運んでいる。
上野の杜は,3期に分けて大工事を行っている。
上野地区の北西にある東照宮は全館を修復している。ほかにも,いわゆる眠っている施設の修復や改築を進めるなど,今以上に多くの方々にお越しいただく環境を整備したい。
これら様々な取組を実施することができれば,3000万人の来訪者を実現することは,無理ではないと思う。

◆先日12月20日に,目標である訪日外国人来訪者数1000万人に到達した。近いうちに2000万人の来訪を目指したいと考えているが,その中で,空の玄関口である成田空港とのアクセスがよい上野が果たす役割は,非常に大きい。
交通弱者に対するバリアフリー化が大切である。障害者はもちろん,日本語が不得手で異なる文化で育ってきた外国人も一種の交通弱者である。外国人にもわかる標識を設置したり,安全対策を推進したりすることなどが,来訪者数の増加につながる。
観光庁では,「東京プラスワンツー」という呼び名で,東京に来られた観光客に,その他の地域にも行っていただく取組を推進している。上野地域の皆様には,上野だけではなく,日本各地の文化芸術施設への共通パスを作ることへの積極的に関与していただくなど,各地域との連携も念頭に置いてもらえると有り難い。
上野を開発するとして,その内容や開発後の魅力は,何か一つの大きな事業が完了してから初めて発表するのではなく,その途中過程においても,随時発信した方が良い。例えば,上野の文化施設でコンベンションやミーティングを開き,国内外の方に活用してもらうことも一案である。

◆昔は遊びの空間,ほっとする空間が,今以上に上野公園に存在していたように思う。街のけん騒から逃れて公園に憩いを求めて訪れる人々のことも考える必要がある。現在は,公園も整備され,小奇麗なカッフェテリアもできて,休みする空間もあるが,全体的にみると,もっと人々が散策し,憩えるような自然があってもいい。
「上野の杜」の「杜」というのは,憩いや木漏れ日といった状況を内包しているが,「森」は木がうっそうと生い茂った感じはある。しかし,より自然を感じさせ,人々を癒やす効果もあろう。
つまり,歴史と伝統のある上野の山だけに,多くの人を呼ぶに越したことはないが,公園としての本来の役割を踏まえつつ,公園自体及び各文化施設はそれぞれの活動を,調和をもって進めていく必要がある。

◆私が日本学士院に入った頃は,学士院の前にある寛永寺の門に銃弾の痕跡があった。また今でも五重塔が見えるなど,地域全体が様々な歴史の舞台であったことを物語っていた。現代の文化芸術施設だけではなく,歴史も踏まえた環境全般を鑑みて上野の発展を考えていく必要がある。自然環境に関する具体例を申し上げれば,上野公園にフィットした植物(樹木や花)を考慮するのも良いのではないか。

◆日本芸術院には,明治時代以降の著名人の美術作品がたくさん残されている。これらを活用して,上野を盛り上げるお手伝いができればと思っている。

◆例えば,江戸の文化に触れるとして,日本橋や魚河岸(築地?)などは思いつくが,第一に上野を挙げる人は少ないように思う。多くの方が上野に足を運ぶための動機付けを見つける必要がある。知名度は高くないが,東京文化会館は,オペラをする場としては,サントリーホールと双璧を成すほどに最高の場所であり,海外のトップクラスの交響楽団が来日したときに選ばれることも多い。上野に音楽のイメージを持つ方は多くないと思うが,上野の杜全体の中で奏でる雰囲気作りの一要素として,音楽という分野は魅力的である。
国/都/区/各施設/民間企業等それぞれの立場はあると思うが,上野全体を一層活性化させるために,小異を捨て大同につくのが大切ではないか。

◆国立西洋美術館は,世界遺産登録の候補となっている。フランスが,世界各国にあるル・コルビジェの建築物の世界遺産登録の申請を2015年に行う予定とのことだが,もしこれが登録された場合,国立西洋美術館の建物は,上野の杜の顔になると思う。

◆国際子ども図書館は,前身が帝国図書館であり,建物の歴史もある。現在,世界130か国の児童書をそろえており,児童書専門の図書館としては,ミュンヘン国際児童図書館に匹敵する世界最大の規模である。多くの観光客の受皿になると思う。私自身は,一昨年(2011年)に,職場が永田町から上野に移ったが,日々上野の魅力を発見している。アメ横や上野広小路も含めると,上野の街全体がテーマパークのように感じており,それを生かす方策が必要である。多くの観光客が上野に来てくださることは有り難いが,現状では宿泊施設が足りないのではないかと懸念している。ワーキンググループでは,宿泊や交通面の対応について,民間の皆様の御意見を伺ってほしい。

◆私立の文化施設は,今回の参集している各施設の中で,唯一上野の森美術館だけであり,(月)に開館している施設でもある。イベントは,館長からのトップダウン方式だけではなく,学芸員のアイディアを積極的に活用して,1年を通して魅力的なイベントを行えるように工夫している。このように小さな工夫一つ一つをきっかけに,集客を増やし,結果的に上野全体の活性化につながればいいと思う。

◆上野学園は,明治37年に曾祖父そうそふが創立し,音楽を中心とした学園である。幼少の頃から上野動物園に連れていってもらうなど,上野の杜には昔から縁があるが,以前は,もっと子供の声が聞こえる場だったような気がする。このプロジェクトを基に,子供たちや家族連れがもっと気軽に訪れることができるような上野地区になってほしいと願っている。

◆上野地区全体を活性化させようという会議であるからには,大きな目標を持った方が良いのではないか。例えば,「上野の山全体を世界遺産にしよう」といった壮大な目標でも良いと思う。上野には美術品の集積もあり歴史もある。国内外においてそのような地域は,ありそうでなかなかない。今後具体的な議論を進めることになるワーキンググループでは,是非次の3点を話し合いたい。まずは,導線・交通アクセスについて,東博と上野駅を地下で結ぶ,京成電鉄博物館駅の復活,東博と藝大の間の道路の撤去,などにより人の往来を活発にさせる方策を議論すべきである。次に,施設建ぺい率についてであるが,現在は様々な規制があるが,もっと柔軟・臨機応変に建築できるようにする方策について議論すべきである。最後に,上野のみならず浅草地域も含めた振興策について,今回は欠席されているが寛永寺の浦井長臈の御知見も賜りつつ,議論を進めるべきである。

◆1980年代以降,都内の様々な地区で民間が中心になって再開発が進められ新しい文化施設が誕生したが,上野は,いわゆる「官」の世界で生きてきた。様々な可能性が残されている上野を,文化芸術の力で発展させていくことは,東京を今後どのような街にしていきたいかについて対外的に示すことにもつながると思う。実現できるものを一つ一つ示していくことが大切である。本日の意見では,ソフトに関する内容とハードに関する内容が混在していたように思われるが,目に見える形で発信していくためには,ワーキンググループで少し整理をして,例えば共通パスなどソフトを先行させると,一層実効性が高くなる。

◆上野は,国際的にも魅力的な地区である。国交省においても支援できるメニューは様々あるので,可能な範囲で積極的に支援したい。本日は,所要のため局長が欠席したが,皆様の議論の内容をしっかり伝えたい。

◆上野の杜の活性化方策についての私案を,有識者の方に個々に伺うと,皆さん賛同してくださり有り難い。ただ,会議のような場で集まったり,具体の話になったりするにつれ,後ろ向きになってしまう。やはり交通関係に知見のある皆様との一層の連携が大切かと思う。

◆本日は上野の杜の更なる発展について,様々なお話を伺うことができ,有意義だった。古き良きものを残す地域であること,遊びの場でもあること,障害者にとっても居心地の良いこと,世界一の文化芸術拠点であること,子供にとってのテーマパークでもあることなど,お話を伺う中で,上野にはあらゆる可能性があると感じた。上野の神秘的/未知な部分を残しつつも,これからも発展のために議論を重ねていただきたい。

【青柳文化庁長官】
本日は,お忙しい中御参集いただき,お礼申し上げる。本日は時間の関係もありこれで終了とさせていただくが,ワーキンググループでも実りのある議論をしていきたい。
ページの先頭に移動