電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(第3回)議事録

日時
平成22年12月17日(金)  13:00〜15:00
場所
文部科学省旧庁舎6階講堂

議事次第

1.開会
 
2.議事
  1. (1)デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方について
    (出版関係者からのヒアリング)
    1. [1]電子書籍流通の妨げとなる諸問題
      (株式会社講談社ライツ事業局局長 吉羽 治氏)
    2. [2]デジタル・ネットワーク社会における出版物の在り方と出版社の役割
      (株式会社筑摩書房編集局編集情報室部長 平井 彰司氏)
  2. (2)その他
3.閉会
 

配付資料一覧

4.出席者(敬称略)
片寄聰,金原優,里中満智子,渋谷達紀,杉本重雄,瀬尾太一,田中久徳,中村伊知哉,別所直哉,前田哲男,牧野二郎,三田誠広

15:02分 開会

【渋谷座長】
定刻を少し過ぎております。申し訳ないことと思います。年末のお忙しいところお集まりいただきまして,大変ありがとうございます。
ただ今から「電子書籍の利用と流通の円滑化に関する検討会議」第3回を開催いたします。
議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございます。公開とすることに御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
ありがとうございます。
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方はそのまま傍聴していただくということにいたします。
それでは,まず事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,配付資料の確認をさせていただきます。
議事次第の下半分に書いてありますけれども,まずは資料1−1といたしまして,「違法コミック配信サイトに関するこれまでの取り組み」と題した資料。資料1−2が,12月14日付の「アップルジャパン株式会社御中」と頭に書かれております資料,1枚物です。そして資料1−3が,12月14日付で「報道機関各位」と頭に書いてあります資料,2枚物でございます。そして資料1−4が「デジタル雑誌配信権利処理ガイドライン」と書かれたもの,1枚物です。そして資料1−5「デジタル雑誌配信の権利処理ガイドラインの趣旨について」と書かれております資料,1枚物でございます。そして資料2が「デジタル・ネットワーク社会における出版物の在り方と出版社の役割」と書かれております資料が1部。そして参考資料としまして,本検討会議の構成員名簿となっております。
配付資料は以上でございます。過不足等ございましたら事務局にお申し付けいただければと思います。
以上でございます。
【渋谷座長】
ありがとうございました。
それでは,これから議事に入りますけれども,本日は,議事次第にもありますように,「出版関係者からのヒアリング」を行うこととしております。ヒアリングの進め方ですけれども,事務局から御説明願います。
【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,議事次第を御覧いただければと思います。
本日は「出版関係者からのヒアリング」といたしまして,[1]として「電子書籍流通の妨げとなる諸問題」と題しまして,株式会社講談社ライツ事業局局長吉羽様,そして「デジタル・ネットワーク社会における出版物の在り方と出版社の役割」に関しまして,株式会社筑摩書房編集局編集情報室部長平井様の両氏に来ていただいております。
ヒアリングにつきましては,それぞれ20分程度を目安としまして,資料に基づいて説明をしていただきまして,それぞれの方の説明が終わった後,御質問などにつきまして15分程度で行っていただければと思います。そして,お二方の説明と御質問等が済んだ後,全体を通しての意見交換を最後に行えればというふうに思っております。
また,資料では[1],[2]という形で書いておりますが,進行の関係で,まずは筑摩書房の平井様の方から先に御説明をただければというふうに思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今ありましたように,議事次第の番号の順序ではございませんけれども,まず平井様より「デジタル・ネットワーク社会における出版物の在り方と出版社の役割」について御説明を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
平井でございます。本日は貴重な機会を賜り,どうもありがとうございます。
ちょっと慣れないものですからいろいろ無様な点をお見せすると思いますが,御容赦いただきます。
ここで事務局から配布されました資料に沿ってお話を差し上げたいと思っております。資料の1ページ目から早速入りたいと思います。
今年は電子書籍元年というふうに言われますが,ここに御同席いただいている皆様も,今年の初めから何度も何度も様々な会議で顔を合わせていただいた方がたくさんいらっしゃいます。それから,何と申しますか,あっという間の1年でしたというふうな感じで皆さん捉(とら)えていられるのじゃないかと思います。
その電子書籍元年というので大きくニュース報道されましたものをとりあえずこの1ページ目にいろいろ書いてみました。報道される部分はどうしても,どことどこが協力関係になっただとか,あるいはどこのメーカーがどういうふうな機械を出しただとか,そういったことが専らでした。
一方,電子書籍の内実がどういうふうになっているかというのは,なかなか報道では細かい部分は出てなかったように思います。まずその辺から押さえていきたいと思っております。
1枚めくっていただきまして,もう今年も終わりになってしまったのですが,電子書籍のとりあえず最新の情報については2009年のまとまったものが出ております。これによると,日本のいわゆる電子書籍,日本の市場は574億円,対前年比124%と,依然として伸びている状況です。これは同じ2009年の米国と比べて2倍に近い市場規模となっておりまして,少なくとも今のところではまだ日本が世界一の電子書籍のマーケットを形成しているということが言えると思います。しかし,その内訳としては,デバイスとしては携帯がほとんど,ジャンルで見るとコミックがほとんどというふうな状況になっております。これらの中では,ジャンルの推定タイトル数15万タイトルほど,マーケットとしてはコミックが圧倒的なんですが,タイトル数でいくと恐らく文芸作品が5万タイトルぐらい,それからコミックが10万タイトルぐらい,タイトル数はそれほど大きな開きはありません。市場規模ほど大きな開きはありません。メインのデバイスたる携帯の3キャリアの公式サイト数が1,100ぐらいです。3か月ぐらい前は1,000ぐらいかな,今は1,100ぐらいということです。
それぞれの利用者の構成比をデバイス別で見ると,PCが30代中心,携帯が20代中心,これはほかのジャンルでも同等だと思います。男女比で見ると,PCが男性7割,女性3割,携帯の文芸,つまり文字本に関して見ると,男性3割,女性7割,コミックは男性4割,女性6割,この辺も何となく,他ジャンルその他の発表を見ると類推できるところかなというふうに考えております。
このように毎年どんどん広がっている電子書籍の市場でありますが,一方で出版産業全体から見るとどのようになっているかというふうなこともちょっと押さえておきたいと思います。
まず,これも2009年の出版産業の指標を幾つか出してみました。出版社数で約4,000社,推定売上金額は1兆9,356億円,ずっと2兆円をキープしておりましたが,それもとうとう割り込んでしまったというのが我々出版産業の実績でありました。
推定販売部数が約34億冊,うち書籍が7億冊,雑誌が17億冊,コミックが10億冊というふうな内訳になっております。雑誌というのも年何回も出るものもですし,コミックというのも週刊誌連載のものでしたら,1タイトルにつき年間4冊ぐらい単行本化されたりもするので,単純に比較はできませんが,とりあえずこれだけのものが読者の手に渡ったということになります。
下に参考データをつけておきました。一番上はある中古書店の年間販売部数です。相当なものがあります。1チェーンでこれだけのものを売っているということです。次に公共図書館の個人向け貸出冊数,偶然なのか何なのか,書籍の販売部数と公共図書館の貸出冊数というのがかなり近い数字になっているということです。次に大学図書館の貸出部数,それから最後に出版物貸与権管理センターが取り扱っている有償での許諾部数,これが650万冊です。まだまだ立ち上がって4年目の出版物貸与権管理センターですが,650万冊を有償で貸与許諾をしているというふうな実態がございます。
この出版産業がこれまでどのように推移してきたのかというのが,1枚めくっていただきまして,次ですが,取次ルートと言って,これはレガシー・マーケットにおける推移になります。左側に書籍,右側に雑誌の販売部数を書いておきました。これを見ていただくと,96年をピークに下がり続けているということです。これは両方とも足すとよく分かるのですが,96年をピークに右肩下がり,下がりっぱなしです。ほかの日本の多くの産業が90年のバブル崩壊をピークに,それから上がったり下がったりというのを繰り返しているのに対して,96年,日本のインターネット元年は95年と言われていますが,そこからずっと下がりっぱなしで,とうとう2兆円を割ったということです。
一方,これだけマーケットが収縮しているのに対して,新刊点数,それから雑誌の銘柄数というのは決して落ち込んでいるわけではありません。こうした中でも出版物の多様性を守るということで,新刊点数は減らさない努力,増やす努力をしてきたというふうなことを自負しております。雑誌も,雑誌の落ち込みは部数以上に金額的には厳しいのですが,様々な意見を発表する場でありますから,雑誌も何とかキープをしているというふうな状況であります。
こうした出版活動は,出版社はどのように支えられているのかというのが次になりますが,出版社が1997年4,612社あったものが現在3,902社,1年前の状況ですからもうちょっと減っていると思います。これらが,これはちょっと面白い統計なんですが,左側に年間の新刊点数の円グラフ,右側に従業員の規模を示しております。日本の出版社は非常に小さな企業組織,企業体が集まって,今説明しました多様な出版物の発行を支えているというふうな状況を見て取れると思います。
実は欧米は,出版社の寡占化がどんどん進んでおりまして,出版物の多様性という点ではちょっとどうなのかなというふうな状況があるのですが,日本はまだまだその辺に関しては,我々は踏み止まっているというふうに自負をしております。
要するに,年間3点以下の新刊点数の出版社が半分を超えているということと,従業員10名以下の出版社がちょうどそのぐらいの比率,半分を超えているというふうなところにあるということです。
筑摩書房は実は非常に小さな会社でありまして,100人を超える,超えないというぐらいのところでありますが,100人というと,通常の産業だと完璧(かんぺき)な中小零細ということになってしまうのですが,出版社の中ではそこそこの規模というふうに捉(とら)えられている。ほかの産業の友人に説明してもなかなか理解していただきにくいような状況がございます。
こうした出版社が様々なジャンルの本を出しているわけですが,商業出版を簡単に分類してみました。これは私がこんなものかなというところで簡単に分類してみたものです。一言で出版といっても非常に多様です。世の中のありとあらゆることを出版は対象にします。極端に言うと極右から極左まで出版物が出るわけです。それから,とりあえずあらゆる学問ジャンル,あらゆる産業ジャンル,あらゆる趣味に関して出版物が発行される。まさに森羅万象を対象にする事業であるというふうに思っております。これらの出版社が,マーケットに様々デジタル対応しているというふうな状況です。
1枚めくっていただきまして,例えばここに書いているもの,冒頭で申しました電子書籍元年という意味での電子書籍というのは,出版物の中でも非常に限られたものを指しておりまして,実は多様な出版物全体から見ると,もっともっといろんな電子化がされているということをここで御説明したいと思います。
まず,前のページの下のところをちょっと比べて見ていただければ分かりやすいのですが,雑誌,一般誌と専門誌の一部ではウェブ・マガジンというのを今実証実験をいろいろ始めております。マネタイズするというモデルがなかなか難しいところではありますが,様々な実証実験,後から吉羽さんにも説明していただけると思いますが,様々な試みをやっております。
それから,雑誌の学術ジャーナルの方は,もう電子ジャーナルとして世界中が既にデジタル化されたものを配信の契約がされております。エルゼビアですとかシュプリンガーのような世界的大企業によって行われている。ただ,それはあくまでも英語ベースのものですので,今それを日本語市場ではどのようなことが可能化というふうなことを,ちょうど取り組み始めているところです。特にメディカルあるいは法律のジャンルでこれから様々な取組が発表されるというふうなところであると聞いております。
それから,教育関係はeラーニングということで,これもかなりもうデジタル化されております。デジタル教材などもありますし,あとネット学習です。かつて教育関係の出版社は毎月問題集を送ってきて,それを送り返すと添削してまた戻すというような,そういったことを教育関係出版社はやってきたわけですが,これはもうかなりの部分ネット学習といったものに移行しております。また生涯学習においても,外国語会話の学習ソフトですとか,これもゲーム機で使えるようなものまで出版社は手掛けております。
それから,非常に大きなものとして電子辞書,これは日本初のビジネスです。電子辞書が413億円の市場になっております。これはもともと辞書の市場が350億円だったのです。それが413億円ですから,まるまるそれを超えてしまったというふうなことがあります。もっとも出版社に入ってくるフィーというのはこの中の10%に満たないわけですけれども,それでもやはりデジタル化による大きな市場と,それから読者というのか,利用者を獲得したというふうな事実はあると思います。
あとはデータベース・サービス,法令や判例なんかはもうデータベースで完全に検索できる。有償のものを含めるとかなりの判例研究まで引き出せることになります。あと楽曲・楽譜データベースです。著作権が切れているものも,有償ではありますが,かなり取り出せるというふうになっております。その他,レファレンス類はほとんど,かつて紙で出していたレファレンス類はほとんどデータベース化されております。百科事典もそうですし,いろんなものがございます。
あとは,出版オリエンテッドというのは皆さんなかなか分かりにくいと思いますが,カーナビですとかGPS携帯,オンライン・マップというもの,これはもともとは地図出版社が地図としてつくるためにつくったデータを,それをそのまま流用している。いまだに地図出版社が毎年毎年いろんなことを調べて,その地図をつくって,それが配信されているというふうなことでありまして,これも出版のデジタル化の大きな部分だろうと思います。
その他ウェブ・サービス,書き切れないのでレシピ集だけ挙げましたが,20年前までは確実に紙でしか手に入らなかったものが,どんどん出版社の手によってデジタル化され,配信されているというふうな実情であります。
こういった背景の中で,今年,電子書籍元年というふうに,今までなかなか電子化されているのが目に見えなかった部分が陽(ひ)が当たってきたわけです。それの前史をちょっと簡単に触れてみたいと思います。
日本国内で最初に電子書籍といった形で読者に提供を始めたのは,出版社が主導のものでは「光文社電子書店」が最初だったと思います。これは当時ニフティサーブで,テキストをそのまま画面表示したログを落とすというふうな形で始まったものです。その翌年にボイジャーが「T−Time」を発表します。現在でも文芸系の比較的組版面の構成が難しいもののトップシエアを持っているボイジャーの「T−Time」が発表されます。と同時に,この年に「電子書籍コンソーシアム」が発足します。これは2000年に一定の実証実験をして終結するわけですが,ここで初めて出版社が集まって,何かデジタルの取組ができないかというふうな討議が行われました。それを受けて,2000年には「イーブック・イニシアティブ・ジャパン」という会社が設立されて,「10 Days Books」というモデルの電子書籍を始めます。この時代はまだブロードバンド環境でありませんでしたので,ナローバンドの中でやっていたということがあって,その普及にはなかなかいきませんでした。と同時に「電子文庫パブリ」これは出版社8社で最初始めました。最初8社で始めた出版社の直営サイトです。もちろん当時ナローバンドですので,「T−Time」ですとか「テキストファイル」ですとか,そういったものをフォーマットによって配信されておりました。
それで,2002年にはシャープが「XMDF」というフォーマットを発表します。これはシャープさんが「ZAURUS」向けに開発したものなんですけれども,これが当時のNTTドコモのPHSのチームがやっていた「M-Stage Book」というふうなところで,PDA向けの配信というので,この当時も電子書籍元年と実は呼ばれたものです。
それから,2003年には携帯向けの配信がスタートします。ここでau by KDDIということで,結構1メガバイトの配信が可能になってきたということです。ここから携帯コミックの普及が始まっていきます。一方,松下が「シグマブック」を発売し,翌年にソニーが「リブリエ」を発売して,日本では今から5年以上前に電子書籍端末,eペーパーを使った電子書籍端末というものの試みが行われてきたわけです。残念ながら,この二つはどちらも終息してしまいますが,そもそもこの「リブリエ」がなければアマゾンもKindleなんかもなかったろう。実際にKindle1号機と「リブリエ」はそっくりでした。
それから,2006年には携帯コミックが100億円を突破し,その市場を運営するために電子書籍の取次店が2社事業を開始いたします。それから2009年にはとうとう500億を突破,たった3年で500億突破です。と同時に「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」が実証実験を開始するというふうな状況で今年に至るというふうなことです。
それで,ちょっと話の向きを変えます。書籍の電子化というのは一体どういった作業なのかというふうなことをちょっと簡単に説明します。
紙の本の場合は,紙という不変の形に固定,定着するわけですけれども,電子書籍というのはなかなか固定というか不変というか,そういうふうなところではなくて,ユーザーさんの環境に合わせてコンテンツを配信するというふうなことでございますので,この辺のところが従来の紙の本とは異なった作業が発生してきます。
まずここに代表的なものを書かせていただきました。字形です。日本の文字というのはこれはまた非常にややこしいものがございまして,基本的にはデジタルの世界ではシフトJIS第1水準,第2水準,あるいはユニコードという体系で動いておりますが,残念ながらそんなものではとても表現できるものではない。例えば大修館の大漢和辞典,これが5万7,000文字ぐらいあるのかな。来歴がはっきりしている文字でもそのぐらいはあるということです。それらが正字,俗字,略字,古字,異体字と,様々な形を持っております。一説によるとワタナベさんのナベという字,これは27種類あると言われています。少なくともモリサワというフォントメーカーは27種類の字形をきちんと登録していらっしゃるようです。
あと,それから書体,いろいろあります。明朝でも細いの,中くらいの,太いの,それからゴジの丸いのだとか教科書体ですとか,様々な書体があって,その辺のコントロールも必要です。
あとは日本語に特有な表現,欧米にはない特異な表現として,ルビ,圏点,角書き,返り点,その他もろもろございまして,実際にこの辺のことができないと作品の表現ができない。字の組み方一つでミステリーのトリックになっていたりすることもあります。ですからこの辺のことをクリアできないうちには大規模なデジタル化というのはなかなか難しいということがございます。
もちろん,こういったことをするには,その素データをつくらなければいけないわけですが,印刷の工程がデジタル化されてきたのが80年代に入ってからです。80年代後半からCPSというコンピュータ組版が普及しまして,それ以降は初期データ,デジタルで保存されている場合が増えています。90年代後半になるとほとんどすべてシフトJISの体系で保存されています。それ以前のものになると,必ずしもシフトJISのものではなくて,専用ソフトだったりするのでなかなか難しいということです。80年代の前半以前になりますとそもそもデジタルデータが存在しないということで,最初に文字の入力から始めなければいけません。
前回,OCRの識字率というふうな話がありましたが,文字をOCRをかけて解析ソフトにかけるということで,80年代前半のものをかけると,恐らく80%程度の識字率,80年代前半はオフセット印刷でその程度です。活版印刷ですと恐らく60%を下回ると思います。
一般に,最新のOCRソフトの読取率が98%という話ですが,これはコンピュータフォントによって印刷されたものの横書きのものを基準にしている数字です。それでも98%,98%というと50文字に1文字間違いがあるということです。一般に,四六の文芸書ですと,1行が40文字弱,38文字ぐらいが多いですか。50文字に1文字間違っているということは,これはもう1行に1文字間違っているに近いというぐらいのものですから,とてもOCRで電子書籍を作るというわけにはいかないということです。
次に,機能確認について書かしていただきました。電子書籍には,文字の拡大/縮小ですとかウインドウ・サイズや形状が変更されます。そうすると1行の文字数が変わってくるわけです。そうすると電子書籍のビューワ―は自動的にそれを送っていくということで,組み方が変わるわけです。電子書籍を作成するプロセスで,いろいろ文字を拡大してみたり,ウインドウ・サイズを変更してみたり,いろんなチェックが必要です。もちろん,デジタルならではの機能として,リンク,カラー化,サウンド,様々なことをやればやるほど,デジタルっぽくすればするほど,やはり労力が増えるということです。
それ以外に,デバイスごとに文字セットも違いますし,それからディスプレーサイズが違いますから画像サイズも変えなければいけない。あとは,通信のバックボーンを決めますファイルサイズも,ストレスがないように,それぞれデバイスごとに定義していく。デバイスごとに全部チューニングしていくということです。
また,ビューワ―もそれぞれ異なるわけです。「XMDF」と「T−Time」というのは別のフォーマットですから,両方に対応するためにはフォーマット変換が必要になります。フォーマットごとに表現力や機能が異なりますので,その辺もきちんと手当をしながらやっていくということです。
更に,デバイスにしてもビューワ―にしてもバージョンアップが行われますから,バージョンアップがされるたびにそれに対応していくというふうなことをやらなければいけない。結構これは手間がかかる作業なんです。お金がかかるというのじゃなくて,本当に手間がかかる作業です。
特に文字の問題なんかはある程度専門知識がないとできませんので,アルバイトを投入してどーんというわけにいかないのです。それなりに出版社ごとのルールがございますので,そのルールに精通した人材が行う必要があるというふうな実態がございます。
こうした感じで電子化されていくのですが,日本の電子書籍を取り巻く状況をちょっと箇条書してみました。
まず,日本の出版市場の特徴として,出版物が非常に安価に提供されているということが言えます。欧米で本を買われた経験がある方はよくお分かりと思いますが,高いのですね。アメリカで専門書を買ったら70ドルぐらいは平気でします。それから,いわゆる普通の,日本で言うと文芸書に当たりますか,ノンフィクションですとか,そういったものでも20ドル以上は平気でします。それからペーパーバック,確かに10ドル以下で売られていますが,一度読んだらぼろぼろになる,その程度の製本技術で,紙もほとんどわら半紙に近いような,ああいうもので10ドルぐらいというのに対して,日本は文庫,新書も初めきちんとカバーがかかって,毎年1回通して読んでも10年間ぐらいびくともしないというふうな堅牢(けんろう)な商品を供給しております。
その供給も,書店,コンビニエンスストア,キヨスクなどと,どこでも簡単に手に入るというふうな実態がございます。これは,アメリカのような国土が広いところですとか,あるいはヨーロッパのようにブックストアとマガジンスタンドというのが完璧(かんぺき)に分離しているところでは,なかなかここまでのアクセスポイントはないかなというふうな印象は持っております。
日本の電子書籍の特徴を書かしていただきました。日本では既に出版社を主体とする電子書籍の取組が10年以上にわたって継続しております。その結果として水平分業型のビジネスモデルが既に成立しているということです。出版社があり,それから電子書籍の制作会社があり,電子書籍の取次会社があり,更におびただしい数の小売サイトがある。ここまで電子書籍の制作・流通がシステム化した国はまだほかにないです。
もちろん,その内実は携帯コミックに主導され,携帯コミックに支えられております。このことは,逆に携帯コミック以外はなかなかまだ収益を上げるに至ってないということも同時に意味しています。
ただ,その中でも,我々出版社は現在様々な実証実験や新規ビジネスモデルを試行中です。総務省さんから委託を受けて,新たに交換フォーマットの対応もしておりますし,それからマイクロコンテンツIDに関する検討もしております。様々やって,まあ何とか次につなげたいというふうに考えております。
その他,技術的,制度的な取組,これも後ほど吉羽さんから御説明あると思いますが,様々なガイドラインをつくったりですとかして,様々な手間やコストを省き,不公平感がないような形でのやり方を試しているところです。ここへ来て読書端末その他いろんなものが出てきておりますので,我々も非常に期待をしているところです。
そうした中で,出版社はこれまで以上に積極的な先行投資を試みている。各社新しい部署をつくって人材も登用して,様々な試みをやっているところです。
一方で,電子書籍が抱える課題というのをちょっと次に書かしていただきました。まず,書籍,出版物というのはもともとロングテール商品なんです。年間出版点数が現在7万点,年間に稼働点数がその10倍あると言われております。ジュンク堂の池袋店で80万冊ぐらい在庫があると言っていますけれども,大体そのぐらいだろうと思います。電子書籍になるとそれが更にロングテールになる。つまり品切れ概念がなくなりますから,在庫がなくて品切れなんだけれども,更にロングテールになるということはどういうことかというと,マイクロ・ペイメントが前提で,スモールビジネスの積み重ねになるということです。長いことかけて売っていけるのだけれども,長いことかけないとその投資の回収ができないというふうなビジネスです。これはやはり出版社としては長期的な観点に立って,配信ルートだとか,それぞれに応じたプライシングだとかをその都度やっていくというふうなことができないと,長期的な取組にはなかなかできないというふうなことが言えます。
その長期的な,つまり半永久的な流通が可能になるということは,一方で様々な管理コストというか,管理しなければいけないところがあるわけです。ここに「出版物毎(ごと)にすべての素材,関係者の明示的な補足が必要」というふうに書かしていただきましたが,例えばゴーストライターということは皆さん御存じだと思いますが,出版物1冊できるのに,必ずしも出版物自体,クレジットされた人だけが関(かか)わっているというわけではありません。あるいは1冊の本の中には,写真もあればイラストもあり,カットもある,こういった方々全(すべ)て仕事をお願いしてやっていただいている,あるいは作品を作らしていただいている。メインの著者以外にもたくさんの人々が関(かか)わっています。今まで紙の本の場合は,品切れになるまでの間だけ補足しておけばよかったのですが,デジタルになるとこれをずっと明示的に持っていなければいけない。特に編集協力というふうなことで動いていただいた方は,表に名前がなかなか出なかったのですが,これからはこういったことを明示的にきちんと管理する必要がある,これを還元する必要があるということです。
次,「最新エディションの保証と必ずしもオープンにできない事情の存在」,今日はふだんなかなか申し上げられないことを言っておりますが,紙の本の場合,例えば増刷ですとか改版ですとかいうたびに,著者の先生方が訂正を入れられることがよくあります。様々な理由による訂正を入れるのです。単純な事実誤認の場合もあるし,あるいは作品の表現をよりよくしていきたいだとか,そういったことで入れられます。どの版が著者にとって最終的なエディション,著者の最終的な回答なのかということは,これをきちんと把握しておかないと,中途半端なものを半永久的に流通させてもしょうがないわけです。最終的なものをきちんと半永久的に印刷していかなければいけない。この辺の管理,これは出版社1社ではできないことです。複数の出版社でどの版が最終でしょうというふうなことを合意の上で決めていかなければいけないということと,オープンにできない事情,例えば人権差別問題ですとかプライバシー問題ですとか,表には出ないところでいろいろ修正が入っていたりします。この辺は,オープンにできないが故に実は記録にもなかなか残りにくいということがございまして,これはかなりシビアな問題です。この辺もきちんとやらなければいけない,残しておかなければいけない。そしてこれが著作権存続期間中,ずっとその権利者をトレースすることが不可欠である。これができない限りは許諾も取れないし,あるいは還元もできないということになります。
次に,「海賊版問題の深刻化」というふうに書かしていただきました。今年の,特にここ数か月,海賊版の問題というのが新聞を賑(にぎ)わしております。海賊版に限らず,模倣品対策というのは先進各国の共通の課題であります。特に海外での模倣品というのはどの産業であっても一企業が何とかできる問題ではなくて,やはりこれは国際的な国家レベルのタスクフォースというところに頼らざるを得ないということがございます。仮に国内の問題であっても,出版社が動こうにも職権がないという問題が常について回りまして,何をやるにしても大変なわけです。そういうところから,権利者の皆さんからの同意を得て,それから一緒に動くみたいなことをやっていては,どうしても時間がかかってしまって,侵害行為の初期にはなかなか対応しにくいということで,結果として侵害者のやり得が横行してしまうという実態がございます。
それで,最後に結論的なことを書かしていただきました。まず電子書籍に止まらず,電子出版全体の持続的な発展の条件というふうなことです。単に新しいデバイスが出ただとか,どこかの会社がこういうふうなビジネスを始めただとか,そういうことではなくて,我々は歴史的なメディア革命,知の変動期にあるというふうな認識と態度の下にこれを考えていかなければいけないというふうに感じるわけです。
やはり10年以上この取組をやってきておりまして,その都度,その都度,これが新しい技術だ,これが新しい技術だ,これからは全部これになるよというふうな言い方がされてきましたが,実際はそうはならなかった。恐らく今回も,今までよりは大きな動きであるかと思いますが,またその次に新しい形でのデジタルの動きというのが出てくると思います。今この瞬間をモデルにして,それを全(すべ)て広げるというふうな形ではなくて,長い目で見て出版産業全体としてどうなのかというふうなことを考える必要があると思います。
次,「日本の言論・出版産業の中で捉(とら)える視点が不可欠」ということで,我々自分の口から言うのもなんですが,やはり出版というのはそれなりに日本の知を支える大きな核の一つであったというふうに自覚してきておりますし,今もそう考えていろいろ仕事をしてきています。その中で,デジタルの普及によって出版全体が縮小してしまうということになると,今まで我々が営々と築き上げた出版の多様性,そういったものが失われる結果になってしまうと,これは元も子もないだろうというふうな気がします。
知る権利というのは,図書館で誰(だれ)でも借りられるということも重要ですけれども,自由な出版が行われるということこそが知る権利の基礎になるだろうと思います。様々な自由を制限されている国を指して出版の自由がないからというふうなのが大きな指標になると思います。この出版の自由というのは,ただ単に出版していいということではなくて,その出版活動が持続し,それを国の大方のところに届けられる,誰(だれ)でもそれにアクセスできるというふうなことがやはり出版の自由であり,そのためには,出版社がハイリスク・ハイリターンのものではなくて,それなりにきちんと続けられるというふうな前提がなければなかなかこれを維持することは難しいだろうと考えております。
出版というのは,そういう意味では時に政権とも対立しますし,霞が関の役人の皆様に批判的なこともたくさん申し上げております。それだけに公的セクターによる無償提供ですとか,あるいは我々もとりあえず補助金もらってみたいなことは,これは慎重であるべきだというふうに考えております。
それから「流通の円滑化促進」,これは電子出版に関してなんですが,流通の円滑化の促進は何のためにやるかというと,これは別段通信事業者のためにやるわけではございません。あくまでも必要な読者に作品を届けることが目的です。そのためには,先ほど申しましたように出版物というのは様々な権利の束です。同時にそれぞれが多く特有の事情を抱えております。こういったことを一から十まで把握しているのは実は出版社だけです。著者の先生方にも,この写真はどこから借りましただとか,そういうことはなかなか御説明しないで本はできているわけです。この写真はいつ借りて,どういう条件で幾らだった,こういうのを把握しているのは出版社だけですから,これは出版社がメインとならざるを得ない。やはり円滑化のためには集中管理が必要だと思いますけれども,これは出版社が主体になる以外ではもう作りようがないというわけです。この方向に向かって我々出版社も新しい一歩を踏み出したいと今考えているところでございます。
それから,「市場秩序の構築」,まだまだ電子書籍ビジネス,電子出版ビジネスというのは緒についたばかりです。これからどういう方向になっていくかわかりません。今までつらつら申し上げてきましたが,やはり言論・出版の持続的発展のためには,将来にわたって多様な出版物の発行を可能にするような,そういった環境の維持が前提になると思います。これが前提でない電子出版議論というのは単なる破壊的なアナーキズムです。そうではなくて,やはり出版社がメインプレーヤーとなってビジネスに関(かか)わっていくことが基本になるというふうに考えております。そのためには,是非とも出版物を発行する出版社に固有の権利が必要ではないかというふうに考える次第でございます。
以上,ちょっと長くなりました。どうもありがとうございます。
【渋谷座長】
平井様,どうもありがとうございました。大変重要な問題について明快な,そして興味深いお話を伺えたと思います。
それでは,先ほどのヒアリングの進め方についての鈴木補佐からの説明によりますと,ここで15分程度質問の時間をとるということでございましたけれども,引き続いて吉羽様からの御報告を頂きたいと思いますけれども,お願いできますでしょうか。
それでは,吉羽様より「電子書籍流通の妨げとなる諸問題」についての御説明を頂きたいと思います。その御説明が終わりましてから,今の平井様の説明も含めて自由に御討議願いたいと思います。
それではよろしくお願いします。
【吉羽講談社ライツ事業局局長】
講談社ライツ事業局の吉羽と申します。本日は皆様お忙しいところ,また年末の御多忙のところ,恐縮でございます。
今,平井さんの方からかなり包括的な御説明がありましたので,私はポイントをかなり絞った形で,今電子配信に関(かか)わる部分で抱えている問題というところをお話させていただければというふうに思っております。
私,今現在はライツ事業局というところで何をやっているのかといいますと,例えば文芸作品やコミックの映像化,実写映画やアニメーション,又は商品化,こういった部分,それからデジタル出版の部分にも関(かか)わっておりまして,そういった業態ですので,当然ながら電子書籍を推進するという立場の上に立っている者でございます。
同時に,資料の中にも出てまいりますけれども,デジタルコミック協議会という出版社39社で作っています任意団体ですけれども,先ほど来お話のあった携帯コミックの進捗(しんちょく)に伴いまして,出版社が積極的に取組を行うために組織を作っておりますが,そちらの幹事長をやらせていただいておりまして,もう一つ雑誌協会の方でも,実証実験というお話がございましたが,デジタルコンテンツ推進委員会というところでお仕事を手伝わせていただいております。
本日は出版社の権利処理という部分で,大きくトピックとして二つ。一つは海賊版のお話と,もう一つは雑誌における権利処理というものについて,資料を交えながらお話をさせていただきたいというふうに思っております。
皆様に釈迦(しゃか)に説法で恐縮なんですけれども,本日は当然ながら著作権のお話ではなくて,出版物ないしは電子出版物という,そういったものについてのお話ということで御理解を頂きたいと思いますけれども,現在,弊社では,電子書籍の様々なプラットホームが来年に向けて大きく広がろうとする中で,約2万点の電子書籍化ということで契約書の整備を行っています。これがかなり膨大な事務量となっている上に,物によっては複雑な権利処理というのを抱えているものですから,例えば写真1点,1点が使えないために,結局著者が電子化をペンディングにしたいというような申し入れがあったりとかいうこともありまして,なかなか1個,1個の処理が進まないというような実態は抱えております。
それに加えて,こういった様々な権利者の皆様に連絡をとるための事務量というのもコストとなってまいりますので,田中さんいらっしゃいますけれども,国会図書館さんの方でも電子化を進めるという上でかなりの費用をこういった権利処理の中で使われているというお話を先般お聞きしましたが,この辺の苦労というのは非常に私どもも理解できる部分でございます。
まず一つ,海賊版のお話なんですけれども,資料1−1を御覧ください。これはデジタルコミック協議会の法務委員会というところが,月日が書いてありますので,これまでに侵害サイトを発見し,実際にはここに様々なアクションを起こしているのですけれども,余り書き過ぎると海賊版事業者に何をやっているかを伝えてしまうことになるので,その部分,一部割愛はさせていただいているのですけれども,コミックをめぐる違法配信の実態の資料になっております。
1ページ目の冒頭のところにいろいろなタイプの海賊版のサイトがあるということは御説明をさせていただいておりますけれども,例えば動画投稿サイトのようなところにも漫画の海賊版が挙がっていたりします。それから個人のものだったり,組織的にやっていて,広告を集めてビジネスとして成り立たせているようなもの,こういったものもありますし,極端を申し上げますと,日本で雑誌が発売されるよりも早い時期に海外で海賊版が挙がっているというようなことが起きたりしております。
その四角囲みの中に弊社の刊行の「少年漫画作品A」と書いてありますけれども,タイトルを伏せさせていただいておりますが,御覧の期間1か月ぐらいの間で調査したものです。これは対象になっているのはYou Tubeですので,アニメーションを軸にして配信をしているものですけれども,1)のところで「アニメーション第2話」ということで,たった1話なんですけれども,345の海賊版が挙がっていて,累計の視聴回数が453万余りの回数が全世界で見られている。全世界の中でも米国と中国が非常に多いのですけれども,こういった数字になります。
また同じYou Tubeの中にコミックの第1巻第1話のスライドショーという形で挙がっているものが,これは55件あって,視聴回数だけで14万回ほどということで,これは先ほど申し上げたように動画のサイトですので,漫画自体はそれほど多いものではございませんが,それでもこれだけの数の侵害行為が行われているというのが実態でございます。
以下にいろいろなサイトのことが個別に書かれておりますけれども割愛をさせていただいて,2ページ目中段辺りに「2010年2月」というところ,あるサイトに警告文をデジタルコミック協議会として送っております。これはユーザーが投稿するというタイプのサイトなんですけれども,サイトの運営をしている人間は,自分自身ではアップロードしていないということで,抗議をしても,私たちがやっていることではないので要請は簡単に応じることができないということと,それからDMCAという,下に説明が書いてありますけれども,著作権者から法的な侵害行為に対する削除要請というものがあれば対応するけれども,そうでないのであれば対応しない。[3]のところに,要は海賊版のサイトは一つの著作物ではなくて大量な著作物を取り扱っているわけですけれども,どの著作物が侵害行為なのかを特定していないので対応しないという,木で鼻をくくったような,こういった対応が返ってくる,返事が返ってくるわけです。これは海賊版サイドの典型的な対応例というふうに思います。
次に,また細かいサイトの羅列がございますので次のページに行っていただきますと,「2010年5月」というところで,これはポツが三つございますけれども,簡単に申し上げますと,アメリカのFBIがアメリカにおけるアメリカンコミックスの海賊版についての摘発を行っている。それに併せて日系のコミックを出している出版社も一緒にやっていきたいので,デジタルコミック協議会並びにその傘下にある出版社に協力をしてもらえないかというような要請がございました。
日本でも最近少しずつ警察による摘発というのが行われるようになってまいりましたけれども,日本の中での侵害行為というのは実はそれほど大きくはなく,大きなものというのはやはり海外にあって,若しくは海外へのサーバーを使っていてというようなことで,日本の警察力を及ぼすにはなかなか限界のある部分もあり,海外との協力という意味では,こういった海外の出版社,海外の私たちが海外版をお願いをしている会社とアメリカのFBIとの共同というのがどうしても必要になってくるといった国際的な枠組みが必要になります。
それから,最後のページ,4ページ目の一番下のところに,これはつい最近までアップルのアップストアに挙がっていた「看漫画」という日本漫画の海賊版を読むためのソフトウエアを供給していた会社の話なんですけれども,こちらも,下から4行目ぐらいのところで,Apple Japan経由でクレームをつけたものの,当該ベンダーからは,要するにコミックの中身の提供を受けているだけで,アプリ自体,要するに読書用のアプリ自体は著作権侵害はしていないということで,これも居直りをされているわけです。こういったようなことが起きていて,版元側で対応していってもなかなか話が進んでいってないというのが実態としてございます。
続いて,資料1−2と資料1−3,こちらは既に新聞でも報道されましたので詳細には立ち入りませんけれども,先ほどのような漫画の違法アプリをアップルが配信をしていたり,それから,先般「1Q84」ですとか東野圭吾先生の作品が問題になりましたが,海賊版サイトを見るためのアプリが有料で販売されていて,その収益をアップルが得ているというような事態に対して,今,書協を中心に出版のデジタルに関(かか)わる団体が幾つか集まって対応を求めている状況でございます。
それで,御覧になったようにこういったコミック,それからコミックをベースにしたアニメですとか,文芸をベースにした映画なんかもそうなんですけれども,世界的にひどい状況で,国によっては海外出版又はパッケージソフトの販売というのが成立しないような状況にまで至っているところがございます。こういったことというのは著作権者の方にとっても非常に不幸な事態なんですけれども,アニメーションというのは映画の著作物ですので,例えばその制作委員会の中に制作者として出版社が入っていれば対抗手段が持てるわけなんですけれども,現在コミックの海賊版が,以前は紙の海賊版がありましたけれども,こちらはそれなりの正常化が進んできているのですが,多く今はネット配信になっているというところです。
それで,携帯コミックを初めとした正規版のコミックのネット配信というのが,国内ではようやっと落ち着いてき始めているところですけれども,海外配信というのが,また著者の皆様に御説明をして進めていくというのには,なかなか時間のかかる状況にあるのかなというふうにまだ感じております。
ですが,隣接権を持っておりません出版社は,法的な根拠の余りはっきりしないまま,著者からはやはり海賊版に対抗することはかなりきつく求められる部分がございまして,対応するのですけれども,御覧いただいたように,海賊版事業者が日本の出版社の限界というのを熟知しておるので,出版社からの抗議はああいうあしらい方をどうもされてしまうという部分があります。
ただ,各々の著者の方がこれだけある海賊版のサイトに対抗できるのかというと,なかなか難しい問題もあるのではないかというふうに思いますので,やはり多くの作品を束ねて一気に対応できるというのは出版社の方が有利なのではないかというふうに思っております。
政府の調査では,無放任海賊版の世界経済における取引額というのが2007年21兆円という報告が出ておりますけれども,この中に当然ながら著者の皆さん,著作権者の皆さんが得るべき収入が含まれているわけで,国際的な枠組みも含めた対応を,私たちも一緒にできることが著者の利益を守るという意味で重要ですし,かつ海外における,先ほどパッケージ販売がなかなか成り立ちにくい国も出ているというようなことを申し上げましたけれども,配信も含めたビジネスの円滑化につながるのではないかというふうに考えております。
今までのが海賊版のお話なんですけれども,もう一つ権利処理というところで,雑誌の抱える権利処理のお話について,雑誌協会が今進めている部分を触れながらお話をしたいと思います。
雑誌協会では,昨年と今年と,今年はまだちょっと確定はしておらないのですけれども,総務省さんのサイバー特区の枠組みの中で,電子雑誌の配信実験というのをやっております。これは,雑誌を電子化をして配信をして,モニターの方々から様々な意見を吸い上げながら,実際のビジネスに結び付けていこうということで準備をしております。
本年のテーマとしては大きく三つございまして,ライツ処理・管理に関するルールの整備と,それから制作ワークフロー,雑誌用フォーマット等のルールの整備,それから実証事業として,雑誌が発売されるのと同時にネット配信をするという取組を行っております。
この権利処理と同時配信というのが非常に大きな課題になっておりまして,実際に権利の塊である雑誌に関(かか)わる著作権者というのは100を下らないわけなんですけれども,とりわけ,グラビア系の雑誌であるとか,そういったことになってくると非常に複雑多岐なものなんですけれども,こちらの権利処理を個々ばらばらになっているものを,出版社としては権利の処理をしていかなければいけないということで,権利者の皆様と話合いを始めました。それが資料の1−4,1−5に出てまいります「デジタル雑誌配信権利処理ガイドライン」と,その「趣旨について」という2枚組みのものでございます。
こちらについて簡単に説明いたしますと,雑誌に掲載されているものを,雑誌のブランドの名前で配信するものを対象としますということが1点,大きなポイントです。もう1点は,5番のところにあります1か月から3か月の期間に関して言うと,著作権者の皆様から一定期間の権利譲渡をしていただくということで配信の円滑化をしたい。その中には複製権,譲渡権,翻案権,公衆送信権,送信可能化権という,電子雑誌を出す上で必須(ひっす)の権利の譲渡を期間を限定していただくということが骨子になっております。
こちらにつきましては,日本文芸協会さんと日本写真著作権協会さんと提案をして,両協会の賛同を得ている状況なんでございますけれども,ここの両者さんとの合意ということで済んでしまうわけではありません。今後様々な肖像権をお持ちの方,またこういった団体に加盟されてない方,それから里中先生もいらっしゃいますけれども,漫画家の皆様もイラストレーターの皆様も,それぞれ様々な方とこういった形の合意を進めていかなければいけないのですけれども,やはり出版物の中で,とりわけ雑誌に編集著作権というのが認められているわけなんですが,これは決して隣接権的な権利ではないという部分がありまして,私たちが配信をする上ではかなり多くの事務的な手数をとる必要が出てまいります。かつ,これは短期間とはいえ権利譲渡という形をとっていて,かなりそういう意味では著作権者の方には無理をしていただいているのではないかなというふうに感じておりますし,これから様々な権利団体の皆様とお話をしていくわけなんですけれども,拘束力自体はないのでなかなか浸透しにくい。それから,これは同時配信の実験に向かって締結をしているガイドラインで,実際のビジネスの中でも適用させていただければというふうに思っておりますけれども,やはり雑誌の配信は同時だけではなくて,例えばバックナンバーを配信したりということが生じてきた場合,やはりまた別の権利処理が必要になってくる。こういったようなことで,なかなか万能にはならないということがございまして,やはり流通のスピード感であるとか,海賊版もイタチごっこというお話がございましたけれども,スピードを上げつつ,こういった侵害対策をする上でも,まだまだこのままの状況では促進という観点からも難しい部分を持っているのではないかなというふうに思っております。
これまで,出版物というもので流通してまいりましたので,余り出版社にとってはこういった権利問題というのが大きくクローズアップされることはなかったところかと思います。以前複写機の問題のときに1回問題になっておりますけれども,今度電子出版のものというのは,無形のものであるということがありますので,先ほども平井さんの最後のところでございましたけれども,何らかの形で権利者として振る舞えるような形をとれる方が私たちはスムーズにビジネスが進展していくのではないかというふうに考えているところでございます。
もちろん,あくまで一つの版を作るというのが私たちの仕事ですので,著作権そのものをどうにか私たちのものにということを言っているのではないということについては誤解を頂かないようにしていただければというふうに思っております。長くなりましたが以上でございます。ありがとうございました。
【渋谷座長】
大変ありがとうございました。二つの論点,海賊版と雑誌の権利処理の問題についてお話を伺ったわけであります。
それでは,本日のお二方のヒアリングの内容を踏まえまして,御意見等ありましたら御自由にこれから御発言いただきたいと思います。吉羽様,平井様への御質問なども結構でございますので,どうぞよろしくお願いします。どなたからでもどうぞ。
【瀬尾構成員】
いろいろ詳細な御説明を頂きまして,お二方ありがとうございました。
最初に平井さんにお伺いしたいのですけれども,大きく分けて2点あります。
一つは電子書籍の将来に関する展望なんですけれども,今まで日本が取り組んできた書籍の現状と電子書籍の現状があった。それから類推すると,電子書籍と言われている市場というのはいまだに書籍全体の2〜3%ですか,それを考えると,なかなか急激には浸透しないのではないかという趣旨というふうに汲(く)み取れたのですけれども,平井さんのお考えとしてはそういう趣旨でしょうか。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
ちょっと舌足らずのところがあったと思います。電子出版全体で行くと,例えば地図ですとか教育ですとか,かなりの部分がもうデジタル化されて,広い意味での電子出版がされているというふうな実態があるということをまず押さえていただきたいということです。
これは多岐にわたりますので,実はマーケット規模としてどのぐらいかというのはなかなかはかりにくいのですが,それぞれがそれなりに大きな産業となっている。例えばカーナビなんというのはものすごく大きな産業です。そう考えると,これは出版物は必要に応じてデジタル化にはかなり対応しているというふうな前提があり,それ以外の文芸書ですとかコミックですとか,そういった鑑賞系のもの,作品自体を楽しむものというのは,10年かけて500億まで来た。これは2〜3%ではあるのですが,書籍マーケットは1兆円切っていますので,そう考えると,ちょっとコミックのカウントは難しいのですが,5%ぐらいにはなっているのではないか。何といってもそれは世界最大の市場です。比率から行くと,人口が倍で,そもそも売行きの規模が大きなアメリカで行くと,更にパーセンテージから行くと大きいわけです。そういう意味では,決してなかなか進まないというのじゃなくて,確実に進んでいるということです。
ちょっと触れませんでしたが,実は専門書のジャンルでも,具体的に言うと紀伊国屋さんだとか丸善さんだとかが書籍分野の専門書をデジタル化して大学図書館なんかにサービスしようというのも今年の初めぐらいから積極的に行っていらっしゃいますので,今まで一般書に偏っていたデジタル化に加えて,また新しい市場が出てくるのかなという気がします。
【瀬尾構成員】
ちょっと続けてで申し訳ありません。
結局,写真なんかで,写真のフィルムからデジタル化をしたり,CDがレコードに変わったりするというのは,先ほどからのお話の中で,どうしても紙とデジタルを対比して,そのまま移行していくような感じを受けたのですけれども,比較的並列する,それぞれの特徴を生かしたメディアというか出版物,著作物が並列をしていて,どこかでいきなりがくんと,技術の進歩に伴って変わるというのが,音楽,CDにしても写真にしてもあって,意外とそのターニングポイントは早い期間だったと。例えば出版物に関しても,今並列している時代であって,実際に出版をやっていらっしゃる現場の声として,そういうがたんと変わるようなポイントに来ているのではないかという気がするのですけれども,そういうふうなポイントはまだ先だと思われますか。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
まだ先でしょうね。やはり読書行動はここにいらっしゃる皆さん,ほとんどの方は電子書籍を読んだ経験がないと思います。5年たって,じゃ自分は電子書籍でほとんど読むよというふうなイメージも多分湧(わ)かないと思います。これはやはり,がたんと変わるには一つの世代交代が必要なのかなというふうな気がします。
【瀬尾構成員】
ありがとうございました。
【渋谷座長】
ほかにどなたか。
【里中構成員】
私も一つだけ質問させていただきたいのですけれども,平井さんがお出しになった資料の13ページで,「電子書籍が抱える課題」,その下に「電子書籍普及に向けて」とありますが,この中からちょっとお伺いしたいこと,ほかのところとも関(かか)わってくるのですけれども,ちょっと確かめたいと思いました。
「電子書籍が抱える課題」の上から2段目,「半永久的な流通が可能」となっておりますが,理屈で言えば,紙の出版物も半永久的な流通が可能だったわけです。現実にはそのようなものはほとんど存在しなかったわけなんですけれども。ここで半永久的な流通が可能だからこそ,その下の小さいポツですけれども,「出版物毎(ごと)にすべての素材,関係者の明示的な補足が必要」とありますが,というからには,紙の本ではこれをやっていなかったと捉(とら)えられるおそれがあるのじゃないかと,ちょっと危惧(きぐ)しております。紙の本でもやはり全(すべ)ての素材については出所を明らかにするというのは,これはやはり大事なことですし,極力そうしてきたと思うのです。ですから電子書籍だからこれをちゃんとしなきゃいけないというと,紙の本の時代はどうでしたのと言われそうです。
その下にある「最新エディションの保証と必ずしもオープンにできない事情の存在」,これも紙の本のときも同じでして,最新版はどれかというのがありますね。それは主にほとんどの場合は直感で,発行年月日で最新版はどれかというのを見るわけですけれども,そういう日付を明示することによって,これは電子書籍であろうと紙の本であろうと変わりないのではないか。また,「必ずしもオープンにできない事情」,確かにおっしゃるように人権問題とかいろいろありますね。でもそれも,紙の本のときも同じ事情で,やはりこれはオープンにして謝罪とかお断りとかしなければいけないということがあったわけですね。ですから,これは電子書籍だけが抱える課題ではないのじゃないかという質問です。
あと,この下の「電子書籍普及に向けて」というところもそうなんですけれども,この「電子書籍普及に向けて」の上から2段目,「流通の円滑化促進」「出版物に係る権利の集中管理を出版社が主体とならざるを得ない」となっておりますが,このページの最初の方で,出版社の数がいかに多いかということと,どんどん消えていく,1名しかいない出版社がいっぱいあるということを前提として考えますと,集中管理を出版社,大きいところはできると思うのですけれども,またここは「主体」と書いてありますので,大きい出版社が幾つか集まって何らかの組織を作って,そこが集中管理という意味かも分かりませんが,やはりどうしても著作者側としては,出版社に集中管理を任せた場合,これまでも様々な例がありまして,弱小の怪しい出版社は,持ち逃げしたり踏み倒したり,行方不明になったり,勝手に原稿をよそに売ったり,勝手に海外,主に中国でネット上に売ったり,様々なことを仕出かしてきました。ですから,本日おいでになっているような大きい出版社さんは別ですが,常に悪い例で構えてしまうものですから,こういうふうに書かれますと,そこはちょっと心配になる。似たようなことがほかにも幾つか心配事があるのですが,すみません長くなりまして,まず「電子書籍が抱える課題」についての紙の出版物とどう違うのかという,大きな違いをもう一度明確にしていただければと思います。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
紙の本は,先生おっしゃるとおり,紙の本でも理論的には半永久的に頒布が可能なわけですが,やはり残念ながら在庫の問題ですとか,製造ロットの問題などございまして,それが理想どおりにはいかないというのがありますが,電子書籍に関しては在庫コストですとか,そういったものがかからないわけです。したがってそれが容易になる。事実電子書籍は年に1冊しか売れない,ダウンロードされないなんというのも普通にあるわけです。それを我々はずっとカタログに載せて,いつでもダウンロードできる状態にはできるのですが,紙の本で年に1冊しか売れないというのは,これは事実上不可能なことになりますので,理論的な問題ではなく,現実問題として,やはりそこで大きな壁があるだろうなというふうな気がしております。
そこで,紙の本ですと,品切れになって何年もたつと,そこから著者の先生方と縁が切れてしまったりですとかいうことがございまして,転居先も分からなくなってしまったりですとかいうことがあって,もう二度と本を書くことがないだろうという方に関しては,それ以上追いかけるということはなかなかいたしません。しかしながら,電子書籍の場合,年に1冊でも10年後,20年後でも売れるということになると,永遠に連絡先あるいは支払先を我々はきちんと把握していなければいけないというのは,これは売り続ける以上どうしてもそれは関(かか)わってくると思います。
特に全(すべ)ての素材,小さなカットですとかを依頼して書いていただいたりする場合でも,今のところ,新しいデバイスが出たりですとか,新しいダウンロード向きデジタルモードが出たりするたびに,今度こういった形で電子書籍を展開しますということでお断りを差し上げているわけです。
ですから,今の紙の世界であれば,紙の方が品切れになっちゃったらまあしょうがないねということだったのですが,デジタルの場合はそれはずっとやっていかなきゃいけないということと,作品ジャンルによってはやはりなかなか明示的にできないところもございます。ゴーストライターが関(かか)わっていたり,先ほど申しましたけれども,あるいは大学の偉い先生の下訳をされて,名前が出ないでそういう仕事をされたりだとか,ただ一方でそういう方にもお金だけお支払いしているですとか,そういったようなことがよくあるのです。
ですから,クレジットされてない方々でもそういったお支払を続けなければいけないということで,紙の本の場合は作るたびにそれをお支払いすればよかったので,作らなくなってしまえばその情報はもう要らなくなってしまうわけですが,デジタルに関しては,一度アップロードしたら,そのアップロードを下げてしまうまではずっとそれを持っていなければいけないということで,紙の本よりもその辺は,これも半永久的に持たなければいけないという意味で申し上げました。
次の,「最新エディションの保証と必ずしもオープンにできない事情の存在」,最終エディションの保証は,出版社がやる場合にはもちろんやれます。ところが出版社じゃないところが,例えば国会図書館がデジタル化して配信する,最終エディションか何かは関係ないです。こういったことがあるので,出版社がやる分にはそれはやりますが,出版社以外のところがやるということになると,そういったことは,余り念頭にない方々がやる場合にはちょっと危惧(きぐ)されところがあるというふうな意味でございます。
特に,本当にオープンにできない事情はあるのです。係争になれば謝罪をしてどうのというのはありますが,例えば,係争にならない場合,細かい事実の誤認ですとか,あるいは書き手が知り合いともめるということもあるのです。そういったとき,係争にならないで内々で処理というふうなことで,重版から書き直して終わりというようなことがございますので,そういったこともなかなか表に出ない,出版社の中だけで存在している事実ですので,これも出版社以外のところが電子化をするということになるとなかなかそこまで及ばないので,危惧(きぐ)をしているところであります。
それからもう一つ,悪質な出版社の話をしていただきました。本来だったら我々がすべきことであったと思います。確かに,著者の先生から伺うお話なんですが,すごい出版社があるようです。実際にどういう契約書を交わしたのですか,差し支えなければ見せてくださいというと,こんな契約書にどうして判こを押されたのですかというような例も実際あります。それが故に,出版社が集まって集中管理の団体を作れば,ほかのそういった悪質な出版社を排除できる。より常識的な,良識的なルールを作って,そのルールにみんなが乗るというふうな形にできるのではないか。そのことによって悪質な行いというのはむしろ根絶に近い形に持っていけるのではないかというふうなことも考えられると思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【杉本構成員】
平井さんの御発表に質問なんですけれども,多様性ということが基本にあるかなというふうにしてお話を伺いました。技術ワークのときからそういう話はお伺いしていたわけですけれども,例えば学術出版の方で行くと,特に電子ジャーナルが出てきたときに,要はある種,囲い込みが起きたわけです。例えば小さな出版社が多いですよという話をなさったときに,要は本の出版に関するクラウド化が進んでいったとしても,そのクラウドの陰で何らかの囲い込みが起きる可能性があるわけです。逆にそうしていかないと小さな出版社が自分で電子的な出版の環境を持つことというのはきっとできないでしょうし,そういうことに関してどういうふうにお考えなのかなというのをお伺いしたいのが1点です。
例えば学術出版の場合に,日本の学術の出版は,電子ジャーナルというか,学会が小さいので弱いですので,国立情報学研究所ですとか,あるいはJSTさんがそこをサポートするプロジェクト,要は公的なお金を使ってされていて,それは今でも生きていると思います。例えばそういうふうな,要は公的なサポートがあったとしても,うまくお金が回っていくようなところがあると小さなところには助かることであるかもしれないわけです。それが図書館でなければならないとか,そういう話ではないのですけれども,全く純粋に民間になった場合に,囲い込みという問題というのが起きてくる可能性がある。それが一つの懸念であり,一つのポイントです。
それともう一つなんですけれども,また多様性ということに関してなんですが,ここでお話しいただいたことは非常に包括的で,本当にいろんな要素を挙げていただいたと思うのです。逆に,多様であるが故に,例えば雑誌に関してはこの点が問題だけれども,それが普通の書籍になったときにはそれは全然問題じゃないよと。例えば書籍においても,文芸書では問題だけれども,実用書では問題ではないよと。例えば10年後に売れるというのはある程度賞味期限の長いものです。でも例えば実用書は,物によると3年もたったら全く古くなって使えない,そういうふうなものというのはいっぱいあると思うのです。
そういう意味では,多分仕事の中で,いろんなケースを見ていられると思いますので,その領域,領域,あるいはその物,物ですか,そういうのに応じたビジネスモデルなり,例えばそういうのを,もし御存じでしたら御紹介願えないかなと思ったのです。これが2点目です。
以上です。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
まず囲い込みの問題です。これも実はジャンルにおいて全然その前提,話が違ってくると思うのです。ジャーナル・クライシスというのがあったのは承知しております。ただこれは文芸書の世界では恐らく発生しないことだと思うのです。要するにそういうふうなものは高ければ買わないのだから。文芸なんというのはなければなくてもいいものです。むしろ価格競争をして提供をしているという実態があります。ですからこれは,ジャーナル・クライシスはある時代の技術的状況と,それからメディア変化の状況でたまたま起きたことであって,これ以降ジャーナル・クライシスが起きることは恐らくないだろうと。つまり,マーケットも賢くなっています。機関購読者,それから電子ジャーナル発行者もそれなりにもう知恵を獲得していますから,これから囲い込みが起きるのはちょっと考えにくいというふうな気がします。
それから,公的資金の話がございました。学術ジャンルにおいてはもちろんこれは必要なものです。学振による出版補助ですとか,いろいろございますが,もともと国立大学という考え方自体が,やはり国がお金を使ってでも,国全体の知的レベルを上げるという下に構想されたもの,もちろん教育を受ける機会ですとか,そういったものもあるでしょうけれども,それと同様に,学術ジャンルにおいては従来どおり,あるいは今まで以上に様々な形で様々な補助が行われた方が,これは望ましいと考えています。
これが囲い込みの話で,多様性に関してなんですが,最初にも申しましたが,出版は本当に森羅万象,極右から極左まで,何もかんでも扱っているが故に,ジャンルがもう様々です。私と吉羽さんも,エンターテインメント系の作品の配信なんかでは一緒にお話ができますが,筑摩書房はコミックの話になるとお手上げです。それから雑誌の話になるとお手上げです。出版の中の様々なプレーヤーがいろんなところで情報交換をしながら,事故が起きないようにいろいろ進めているというのが現状です。
先ほど申しましたが,私どもも100人に満たない小さな会社で,あれもこれもいろんな実験というわけにはいきませんので,同じような方向性を持つ出版社と共同していろんな実験をやっているというところでございます。雑誌に関してはガイドラインを作る,それから文芸書の電子化に関してはちょっと三田先生なんかとも御相談申し上げて,勉強会をやろうというふうなお話も頂いておりますし,今ちょうど各ジャンルが出そろってきたビジネスモデルに対して発信を始めたというふうな状況と御理解ください。早いものはもう既に雑協ベースにやって発表されておりますものもありますし,あと3か月から半年ぐらいで様々な成果を皆さんに御覧に入れることができると思います。
以上です。
【渋谷座長】
吉羽さん。
【吉羽講談社ライツ事業局局長】
一つ補足させていただきますと,囲い込みのお話でいうと,そもそも三省懇がスタートするところで,欧米の配信プラットホームによる囲い込みというところを,日本の文化産業を守るために何とかしなきゃいけないというところがベースだったというふうに理解しておりますので,そういう意味では著作権者の皆様と出版社が手に手を取り合ってというところで防いでいくべき課題なのかなというふうには感じております。
【杉本構成員】
特に小規模な出版社さんが多いといったときに,やはり情報化というのですか,これから電子出版,今まで持っているものを電子化するという話じゃなくて,新たに電子出版のところに,電子書籍化に入っていこうとしたときに,自分たちだけでは入っていけないというところが多いと思うのです。ですからそこに対して,要はどういう環境を持つことが望ましいとお考えかというのがある意味で聞きたかったところではあります。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
専門書分野では丸善さん,紀伊国屋さんなんかがいろいろプラットホームも提供しているのは確かです。要するに供給する側と需要の側があって,ある程度需要の側がはっきり見えてくれば供給側も作品の電子化をやっていくというところで,今供給側がようやくその体制ができて,多分需要側の成熟を待っているところじゃないですか。
作品1点,1点を電子化するというのはそれほど大きなコストがかかるものじゃないのです。紙の本を1冊出す方がよほどコストがかかります。ですからきちんと紙の本を作っていれば,デジタル化コストは紙1冊作る分の何分の1かでできるというところで,マーケットがある程度保証されれば,小さな出版社ほど我先にというふうな電子化をするような流れにはなると思います。
【渋谷座長】
牧野さん。
【牧野構成員】
私,平井さんに二つ質問さしていただきたいのです。
一つは,マーケットの動きについて大変詳細な御説明を頂いたのですけれども,まず6ページ目ですか,出版社が4,600から3,900,あるいは更に減っているのかなというようなお話があったかと思いますけれども,単純に言うと何でこんなに減っちゃったのという問題と,実際には先ほどアクセスというような言葉が出たように思うのですが,例えばコンビニエンスストアとかキヨスクだとか,意外と私たちはオンラインでの紙の出版物の購入のツールとか,ある意味では接触する範囲というのはものすごくふえているのじゃないかと。その意味では,例えば書店面積が減ったというのはあるけれども,それに代わるツールというのは実は山ほど増えているのじゃないか。だからその意味では,決して購買のチャンネルが減ったわけじゃないのじゃないかなという気がするのです。むしろこの全体的なマーケットの縮小に見える4ページ辺りの販売実績の低下というのは一体どこら辺にその原因があるのだろうか。この減った分だけ電子書籍が伸びているというわけじゃ全然ないですね。そうすると,どうして減っているかというのをまず一つ明らかにした方がいいだろうという問題があります。
それとの関係でいうと,その裏返しで8ページのところで,電子出版の関係の新しいマーケットの方がどんどん生まれています。この部分はリアルよりもむしろ,例えば先ほどお話の電子辞書にしてもデータベース産業にしても,新たな分野を開設しているものすごく意欲的な部分で,これは評価できると思うのです。そうすると,アナログからデジタルへ大きくマーケットが広がっているというふうに理解していいのか。そうすると先ほどのアナログの書籍マーケットのある意味での縮小というのはさしたる問題ではないというふうに理解していいのかどうか,これが一つ目の質問というか,御意見を頂きたいところです。
もう1点は,法律的なといいますか,議論なんですが,13ページの「市場秩序の構築」として,「将来にわたって多様な出版物の発行を可能とする環境の維持が前提」,これは確かにそのとおりだろうというふうに思うし,先ほどお話があった出版の自由というのは,出版できる体制,出版が保障されるということは必要なんだという御指摘,そのとおりだと思いますけれども,その環境の維持が前提ということの中身が具体的にちょっと見えてこないのです。
この「メインプレーヤーとしてビジネスに関(かか)わることが基本」だとおっしゃるのは,出版社として出版権のようなものを法律上明らかにしろというようなニュアンスなのか,あるいはアナログ出版もきちっと保護しろというような趣旨なのか,多様性を確保するとか,様々な出版が確保されるべきだというのは僕も実は大賛成なんですけれども,具体的にどうしたらいいのだろうか。あるいは書籍出版の皆さんの考え方として,どういう環境整備がどうしても必要だというふうにお考えになっているのか,その辺りの,出版社としてどういう環境があったらどういう出版が多様に確保されていくのか,今お話の紙から電子に変わって構わないということであれば,電子に変わったときどういう要件が必要になってくるのかという辺りをもう少し具体的に御説明いただけないかなというのが二つ目の御質問でございます。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
二つとも大変難しい問題で,どうお答えしていいことやらと思いますが,96年をピークにずっと出版のマーケットが減っているという,これはもう歴然とした事実でございまして,コメントの打ちようがないわけですが,これがなぜ減っているのかということが分かれば苦労しないわけでして,本当になぜこんなに減ってしまったのか。2兆6,000億円が2兆円を切るということですので,その間デジタルの取組をやってきたわけですが,この8ページに書かしていただいたように,様々なデジタル化がございます。ただこの中で,電子辞書やデータベース・サービス,アプリケーション・サービスなどは,その占める市場において出版社ないし著者が受け取る金額というのは微々たるものなんです。したがって,出版物のマーケット縮小を補うにはとても至っておりません。
やはりこれだけマーケットが縮小しちゃえば廃業する会社も出てきます。あるいは完璧(かんぺき)にデジタルに移行してしまったが故に,紙の出版物が成立しなくなったというものも中にはあるでしょう。例えばエンターテインメント情報誌がチケット販売サイトとしてかなり大きく事業を転換したというふうな例もあって,結局そこはエンターテインメント情報誌というのはかなり縮小した,紙の本は縮小したというのがデジタルに移行したというふうな業態の変化,あるいは本当にもう紙の本自体をやめてしまったというふうなこともあります。あと,小さな会社が多いですから,小さな会社の後を継いでくれる人がいないと,その会社自体を別の会社に譲渡してしまったりするとかいうふうな例も幾つかあります。ただちょっとこの減り方はそれだけでは説明できません。
出版社というのはそれほど寿命が長いものではないというか,案外戦後できた出版社が多いのです。確かに100年以上続く出版社もあれば,江戸時代から続く出版社もありますけれども,一時日本の出版界を背負っていた改造社,今はもうありません。そういうふうなもので,やはり賞味期限がある産業であるのも確かだと思います。
それから,もう一つの方は,まず,我々出版社は著者の先生方にいろんな形でお願いをして作品を仕上げてもらう,そのお手伝いをする。そしてそれを読者の皆さんに届けるということです。それは今まで,日本近代出版120年,130年の間紙で行われてきたこと,これがデジタルに移行するかもしれない。それは我々出版社にとって,読者が望む形であればどちらでも構わないと思っています。ただし,デジタルになることによって紙で可能だったことが不可能になったりですとか,紙では簡単にできたことがデジタルでは大変困難になるとか,そういうことがあってはならないとは思いますが,それがどういった形で提供されるのか,それは読者が最終的には決めることなんだろうというふうに思います。
ただ,こういった時代の中で,なかなかどの方向が正しいとは言えないものですから,それの中でいろんなやり方,いろんな実験に取り組んでみて,出版社が結局疲弊するだけだったらこれは誰(だれ)も得しないのだろうなと。これは著者の先生方も読者の皆さんも結局得はしないのだろうなというふうなところがあります。
したがって,出版社はどこかの配信事業者がやるから任しておきなさい,はい,どうぞ,電子化してくださいというのじゃなくて,出版社がその都度,その都度,これは紙の本であるいはデジタルで,それをミックスして,どの順番で,どういった価格帯,どういったウインドウ・セレクトというふうに言うのですけれども,どういった形で提供するかというのは,これはやはり企画の段階から,作品のセールスの段階から出版社が考えてやるべきだなと。これは当事者である出版社,これがメインプレーヤーであるべきだというふうに考えるのですが,残念ながら,単純に電子書籍,今年電子書籍ではまだ今のところ出版社がメインプレーヤーになると思いますが,これがもうちょっと広がると,出版社にはそもそも何の権利もないじゃないか,著者の了解を取ればいいのでしょうというふうな話に,これがメインプレーヤーを実際認めてもらえないというふうな実態になるわけです。
ですから,ここでまた出版社の権利の話になるのですけれども,ここは作品をトータルにコーディネートして,プロデュースする,そのことによってその作品をより多くの読者に届ける,様々な形で届けるということを出版社が企画の段階からきちんと行えるように,誰(だれ)から見ても出版社にそれなりの資格があると。客観的にその資格を法的に有しているというぐらいの構えがないとなかなかやりにくいということで,やはり出版社に何らかの固有の権利,もちろん著作権何というものを欲しいとは全く申しません。そんなことは出版社は恐れ多くて申しませんけれども,何らかの出版社に固有の権利があると有り難いなということでございます。
【吉羽講談社ライツ事業局局長】
2点ともちょっと補足をさせていただきますと,まず市場の縮小に関して言うと,実はコミックの単行本というのは減ってないのです。それに対して,コミックでも雑誌が減っているという状況なんです。それから市場の中で大きなシエアを占めている雑誌の縮小というのがかなり大きくて,1つはやはり先ほど話にあった情報誌,それからジャーナル系のもの,こういったところがインターネットとの関連で影響を受けている部分がやはり大きいのかなというふうに思います。
それで,雑誌の電子化というのを当然ながら片一方で進めたいのですけれども,紙の広告とネットでの広告での広告収入の違いであるとか,採算の面もありますし,もう一つは権利処理の難しさみたいな部分もあって,なかなか進まないというところが,かなり雑誌のビジネスというのをインターネットが直撃している部分だろうというふうに思います。ですので,多分これはマーケット全体で見てしまうとなかなか分かりにくくて,個別に中を見ていくと決して減っていないもの,むしろコミックは年によって伸びていたりしますので,それと減っているものというのが電子化の流れの中で順次起きているのではないかというふうに思います。
それからもう1点の環境の維持のお話なんですけれども,実は携帯コミックというのはキャリアさんが配信をほぼ握っているわけです。携帯の3キャリアなんですけれども,当然ながらかなり厳しい配信基準がございまして,性的なものというのは安心・安全の観点から理解はできるのですけれども,かなり厳しいレベルになっていたりとか,それから宗教関連のことが配信できないというようなことも規制としてあったりします。
それからアップルが決めている配信基準というのは,アメリカの中での基準なので,日本のものに相当合致しないものがあったりして,一方的に下げられたりとかということが起きてくるわけです。それに対して出版社は当然ながらクレームも言え,できるだけのものを配信できるようには努めるのですけれども,配信事業者さんは配信事業者さんで監督省庁の意向もございますし,お互いの立場でなかなか難しいものが,調整し切れない部分はあるのかなというふうに思います。
キャリアさんがそういった形で配信基準を厳しくすればするほど,今度はアンダーグラウンドの方に行ってしまって,それはそれでまた非常につかみにくいところに行ってしまうというリスクもあるので,やはり配信環境という意味では表現の自由という部分をかなりのところで確保していかないといけないのではないかというふうに思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにどなたか。
【三田構成員】
今年の前半,3省デジ懇というものがありまして,私はその三つの会議に出ずっぱりで出ていたのですけれども,私が強く申し上げたものの一つに,縦書きの基本フォーマットを作ってくださいということを申し上げてまいりました。これについては総務省さんの御理解が得られまして,補助金を出してもらって今メーカーさんが検討をしていると思います。
同じように声を大きくして言ったことに異体字の問題があります。異体字というのは,同じ漢字でもちょっとずつ字体が違っているというものでありまして,これが表示できないと著者の意向がパーフェクトには実現できないということであります。以前はこれは文字番号もついておりませんので,デジタルでは表示できないというふうに言われていたのですけれども,現在ではIBSというシステムができておりまして,ユニコードに枝番号をつけるというものができておりまして,Windors7以降のものにはこのシステムが採用されております。ただし,このシステムのいいところというのは,ユーザーの方がフォントを持っていない場合に,文字化けしてしまうのではなくて,枝番号を無視するということになっておりますので,元のユニコードの文字は必ずユーザーは持っているわけです。ですから,せっかくそのシステムができていても結局はユニコード止まりの表示しかできないというのが現状であります。これを打破するためには,このIBSに対応した文字フォントをみんなが持っているという状況を作るしかないなというふうに思っております。
なぜこれが大事かというと,例えば私はもう25年ぐらい専用ワープロやパソコンを使っております。現在の環境ですとユニコードまでは普通に使えるわけでありますので,自分で文章を書いておりまして全く何の不都合もないのですけれども,私がワープロで作った原稿を出版社に渡しまして,最初に校正刷りが出てきますと,かなりの字が赤字になっております。これは私が間違えたのではなくて,正字と言われるもの,これは異体字なんです。パソコンで表示できる字とは違う文字が,編集者や校正者の間では正しい文字だというふうに認識されておりまして,これを全部正しい文字に直すということをやっております。
これで印刷をしまして,その後で印刷所が持っております文字データを使って電子書籍を作ろうとすると,この正字に変換したところは全部出版社ごとの外字で登録をされておりますので全部文字化けしてしまう。これをまた一々校正してやり変える必要があるのですけれども,その場合も,元の正字は現在のパソコンでは出ないのです。iPad等で普通のユーザーが正字を出せる環境にはないということであります。
それで,平井さんにお聞きしたいのは,この状態を出版社は解決するつもりがあるのかどうか。それからもう一つは,印刷所が持っております文字データというのはただでもらえるのか,お金を払っているのかということです。
それからもう一つ,この正字というのは本当に必要なものなのか。それから今,紙の本と電子出版と同時で出すことがあると思います。その場合,紙の本だけ正字を使って,デジタルなものはユニコードの文字にしているということであれば,紙とデジタルとで内容が違うものができているわけです。その辺りの現状をちょっと教えていただきたいと思います。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
三田先生どうもありがとうございます。
その文字の問題,今日は余り触れませんでしたが,実は電子書籍を作る上で一番のネックなんです。これを解決したいと思っているのは出版社です。これはジャンルにもよりますが,この辺が解決されれば,あるジャンルの電子化コストは4分の1,5分の1になる,そのぐらいのものだと思います。
今のところ,我々は電子書籍を作る際に,紙の本を再現するということをまず目標にしています。また,現在の段階でデジタルなんかこの程度でいいやみたいな気持ちで取り組むというふうなことであってはいけないと思います。まだまだデジタルの可能性を我々は追求すべき段階にあると思うのです。したがって,いろんなことをやってみて,その中でその都度,その都度,何がベストかというふうなところをはかっているわけです。一時,初期の電子書籍はむしろPCが主体でしたから,文字の問題は比較的編集者,校正者の頭に入っていたところがあるのですが,それが携帯主体になってくると,携帯がメーカーさんによってフォントがばらばらなんです。携帯メーカーさんもフォントファイルに慣れてきまして,こちらも携帯メーカーさんのフォントファイルに慣れてきましたから,大分手間がかからなくなったのだけれども,最初は大変でした。全(すべ)ての文字を一々チェックするような状況でした。
現在はどのようにやっているかというと,基本的にはシフトJISの第1水準,第2水準の標準セット以外のものは全部外字を埋め込んでいます。画像で作字して埋め込んでいます。作品によっては俗字でもいいなというのは当然ございますので,ライトノベルですとか,そういった最初からワープロで書いて,この文字内で表現していいよというものであればやっているのですが,これが例えば歴史小説,エンターテインメントでも歴史小説,三国志,三国志でも少年少女向けの三国志だってあるわけです。これは全部作字しています。それから中国物,時事・教養物にしても,?小平の?というのはそもそも日本の文字セットに入っていませんから,これは全部作字しています。
特に,子ども用教育系になればなるほどむしろ正しい文字というのが必要になって,ある意味その辺の判断ができる大人が読む軽い読み物であれば,それほどこだわらなくていいかなというふうな割り切り方がようやくできてきたところかなというふうに考えています。
先生,その辺でよろしいですか。
【三田構成員】
互換性は全くないわけですね。
【平井筑摩書房編集局編集情報室部長】
そうですね。まずファイルフォーマット,それからデバイスごとに互換性がないということになりますので,できるだけ外字を画像で埋め込んで対応することによってかえって互換性を高めているというふうな状況です。ヤバそうなものは全部画像の文字を埋め込むというふうな形です。
【三田構成員】
分かりました。
【瀬尾構成員】
今日は大変たくさんのテーマがあっていろいろお伺いしたいことがたくさんあるのですが,非常に重要な問題でちょっと吉羽さんにお伺いしたいのです。
海賊版についてなんですが,今後電子書籍が一般化すれば当然レプリケートが簡単にできるので,海賊版の問題が大きくなってくると思います。対策に関しては,いろんなところがいろんな対策をされて苦労されていることも伺っています。ただ,基本的に出てきたものに対して対応するというような形の対応が多くて,今回一つお伺いしたいのは,なぜ海賊版をアップロードするのか,その向こう側の動機,それはお金なのか信条なのか,そういうふうなことをきちんと理解した上で,そこに対しての対応策をしないといけないと思っているのです。そこら辺の向こう側の理屈というのはどういうふうなことと考えられるでしょう。
【吉羽講談社ライツ事業局局長】
最近はかなり金銭目的に変わってきているのかなという印象を受けます。やはりコミックの話がかなり大きいものですからコミックの話を中心にさせていただきますと,当然ながらここ10年ぐらいそういったものというのは存在はしていたのですけれども,ある種,同人誌活動の延長のようなところで,コミックのマーケット自体も海外ではそれほど,アジアは別として,そういった海賊版,いわゆるスキャンレーションという,スキャンをしてトランスレーションをするという,スキャンレーションのサイトというのは,アジア圏では目立つものではなくて,欧米だったのです。特にアメリカが多かった。
彼らは,紙の出版物として日本の漫画が数多く手に入るという環境がまだなかった時期ですので,何とか自分たちで翻訳をしてでもみんなで読めるようにしたい,それで作品のよさを知ってもらいたいという動機がかなり強かった。
私たちも,全部が全部紙の出版物として出すというのはなかなか難しかったし,とりわけ現地の出版社にライセンスをするという形をとっていますから,あちら側のリスクで出せるもの,出せないものというのがどうしても生じてしまうという中で,なかなか作品数を増やすことができなかったのは事実です。
そういった中で,割と同人誌的に活動していて,日本の漫画を愛してくれている人たちがやっている時代というのがかなり牧歌的に長かったのですけれども,やはりここ数年の電子書籍がビジネスになるというところでフェーズが相当変わってしまったのかなというふうに思います。
という意味では,モグラたたきの技術というのもそれなりに発展はしてきているのですけれども,やはり正規版をきちんとやっていくということがない限り海賊版の問題というのは解決しないだろうというふうに思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,そろそろ17:00近くなってまいりまして,予定の時刻が近づいているわけです。ほかに何か特段話をしたいということが……。それではお願いします。
【金原構成員】
私も出版の一員ですので,今日二人に話をしてもらったことを若干補足をしたいと思います。
その前に,先ほど杉本先生が御質問された囲い込みの件なんですが,これは日本でこういうことが起きるかどうかというのは全く分かりませんが,専門雑誌の電子化が進んでくると,これは書籍の場合は電子化されても比較的単体で動いていくので問題はないし,それは専門領域の単行本でも同じだろうと思うのですが,ただ専門領域の雑誌に関しては,1冊だけ配信しても余り意味がありませんので,2次文献がどうなのか,それからリファレンスの中に入っている文献を見てみたい,その場合リンクを張ってどこかに飛ぶとか,そういう機能が必要ですので,御存じのとおりエルゼビアは創刊号から全部電子化をしたわけです。ですから,10年前,20年前のものに飛ぶということ,他社の雑誌に飛ぶ,あるいは他領域の雑誌に飛ぶということも必要ですから,そうなると日本でもそれと似たようなことが起きるかもしれない。
ただ,日本には4,000社の出版社があるということは,みんなそれぞれ零細企業で,みんなオーナーが社長をやっているような会社ばかりなんです。ですからいろんな出版物が出るのだろうと思うのです。そういう状況において日本でも,じゃ囲い込みが起きるかというと,オランダのエルゼビア,それからウォルタースクルーワーが全部専門雑誌を席巻してしまったのだけれども,そういうようなことが日本で起きるかというのはちょっと疑問です。どちらかというと起きないと私は見ていますけれども,またそういうことに対して日本の社会は対応しないだろうというふうに思います。そういう意味では出版社は減らないかもしれません。ただ,専門書の出版社ってせいぜい数十社ですから,そこが減っても4,000の中では余りインパクトはないのかなというふうに思います。
それから,全体の問題ですけれども,今日二人が話をしたとおり,出版社も今一生懸命動いているわけです。これをやるために,出版社の権利問題も出ましたけれども,それも必要ですが,今一生懸命我々出版界も頑張って電子化をするということで時間を費やして活動しておりますので,是非御理解を頂きたいということ。
それから,それに伴って,出版社がこういう形で電子配信,これは著者の先生方と取決めをするということはもちろん重要なことでありまして,その上での話ですけれども,前回図書館の話もありましたけれども,出版社が今これだけ頑張って動いておりますので,しばらく出版社の力を見ていただきたい。
それから,先ほどどなたか質問されましたけれども,紙媒体のものがなくなってしまうかどうか,全部電子化されるのかどうかということですが,やはりこれは読者の選択肢があるのだろうと思うのです。自分は電子,要するに画面で見たいという人と,それから紙媒体で書き込みをしたいという人,いろいろな方がいるのだろうと思いますから,我々の役割としてはできるだけ両方で提供していくということが必要なのではないか。どちらを選択するかは読者の自由である。
ということから考えて,たくさんの出版物を日本の出版界は出していくことによって,文化と知識を伝達するという,そういう役割を担っておりますので,紙媒体のものが発行される以上,やはり現在の流通というものは我々としては,つまり紙媒体の流通というものを我々は尊重して,できるだけその流通も確保していく。いろんなことを考えながら出版界は検討を進めていかなければいけないというふうに思っております。
以上です。
【片寄構成員】
私も出版の一員として一言述べさしていただきますけれども,講談社の野間副社長が,デジタル化ネットワーク社会というのはある意味,黒船来襲ではなくて,鉄砲伝来だと。この新しい武器を持って出版も頑張っていかなきゃいけないという発言がありましたけれども,私もこのデジタルというものを積極的に捉(とら)えて,多くの人たちに出版物を読んでもらうという形を今進めていくべきだ。そのように出版界全体がなっているというふうに思っております。
数年後には全売上げの20から25%くらいまでデジタル収入だというふうな予想もありますし,これは別に出版社が利益を得るためにそういうことに動くのじゃなくて,読者が,あらゆるメディアで,あらゆる機会で読みたいという要望だというふうに思っていますので,これは実現していかなきゃならないというふうに思っています。
私が経験したことをちょっとお話さしていただきたいのですが,実は,少し前ですが,ある業者さんが作家さんと直接交渉して,電子配信の許諾を得まして,それが漫画配信になりました。それは先生方の権利ですので,我々権利を持ってない出版社がとやかく言う問題ではないのですが,その業者さんは出版界で一度も仕事をしたことがない。汗を流したこともなければ骨を折ったこともない。そういう人が,ただ儲(もう)かるだろうということだけでその先生方にアプローチをしました。最初のうちはいい顔をしていたのですが,意外と金がかかる,意外と儲(もう)からないというふうになって,さっさと撤退をしていったのです。
このことは私はものすごく危機感を覚えています。出版文化に何の関(かか)わりを持たずに,ただビジネスになるからと参入する業者さんや会社がどんどん増えるということは,日本の知の拡大再生産にとっては大きなマイナスになるというふうに思っております。せっかく先生方,著者さんとともにその知の拡大再生産の循環システムを構築する一翼を担ってきた出版界が壊れていくというような危惧(きぐ)を覚えておりますので,何とかここは,他者参入を排除するという論理ではなくて,出版というものを愛して命をかけている人たちに任せてもらいたい。今までそうなってきましたけれども,これからも出版社の役割の責任を重く思ってやっていきたいと思います。
ただ,残念ながら,先ほども言っていますように,出版社に大きな権利というか,そういうものはありません。本当にないのです。この部分についても皆さんとよく考えていきたいなというふうに思っていますということです。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。電子出版の怖い実際の一端を御紹介いただいたわけであります。
それでは,時刻が参りましたので本日はこのくらいにいたしたいと思います。前回と今回の検討会議におきまして,図書館関係者と出版関係者の方からお話を伺いました。年明け以降の検討会議においては,ヒアリングの内容や各構成員の御意見等を整理した上で,デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項について具体的な御議論に移ってまいりたいと思います。
それでは,事務局から何か連絡事項がございましたらお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
皆さんお疲れ様でございました。
次回の日程,年明け1月ごろを予定しておりますが,現在日程調整中でございます。また日程確定次第,連絡させていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
【渋谷座長】
それでは,これで第3回の会議を終わらせていただきます。
本日はありがとうございました。そして皆様方,どうぞよいお年をお迎えください。

17:05 閉会

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