電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(第11回)議事録

1.日時
平成23年8月26日(金)  10:00〜12:00
2.場所
東海大学校友会館 望星の間
3.議事
  1. (1)「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」について
  2. (2)「出版者への権利付与に関する事項」について
    1. [1]出版者からのヒアリング
    2. [2]意見交換
  3. (3)その他
4.出席者(敬称略)
糸賀雅児,大渕哲也,片寄聰,金原優,渋谷達紀,杉本重雄,瀬尾太一,田中久徳,常世田良,中村伊知哉,別所直哉,前田哲男,三田誠広

平成23年8月26日

【渋谷座長】
おはようございます。それでは,ただいまから電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議第11回を開催いたします。
本日は,ご多忙の中,ご出席いただきまして,まことにありがとうございます。
議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところです。特にご異議はございませんでしょうか。よろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
なお,カメラ撮りにつきましては,会議の冒頭までとさせていただきますので,配布資料の確認までということでご了承願います。
それでは,まず,事務局から配布資料の確認をお願いします。
【鈴木著作物流通推進室室長補佐】
それでは,配布資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第の下半分に配布資料一覧が書かれておりますけれども,それに沿って説明させていただきます。
まず,資料1といたしまして,「「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」に係るまとめ(案)」です。そして,資料2が「検討事項3「出版者への権利付与に関する事項」について」,資料3といたしまして,「出版物の複製に関する実態調査 概要」,そして資料4「出版契約に関する実態調査 概要」,資料5が1枚ものですが,「出版者への権利付与に関して」,そして参考資料として,本検討会議の構成員名簿を配布させていただいておるところです。また,メーンテーブルの委員の方々には机上配布といたしまして3点の資料をあわせて配布させていただいておるところです。
もし不足等がございましたら,事務局にお申しつけいただければと思います。
以上です。
【渋谷座長】
ありがとうございました。
それでは,これから議事に入りますが,本日の検討会議におきましては,まず,「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」につきましてお諮りしたいと考えております。
この事項につきましては,4月に行われました第7回の本検討会議におきまして,議論の整理をご確認いただいたところであります。当該整理につきましては,その際いただきましたご意見等を踏まえまして,ほかの検討事項とあわせて報告書としてまとめるということになっていたところです。この点につきましては,今般の電子書籍に係る状況の急速な進展の中,議論の整理においてお認めいただいた一定の方向性に基づいた国会図書館によるサービスの早期実現が期待されているところであると考えられます。
つきましては,本日の検討会議におきまして,当該事項,この事項につきましてご議論いただいた上で,取りまとめをさせていただきたいと考えております。このように運びたいと思っておりますが,よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
ありがとうございます。それでは,今申したように進めさせていただきます。
まずは,構成員の皆様方には既にお目通しをいただいているところかと存じますが,事務局からこのまとめ案につきまして,改めてご説明をお願いいたします。
【鈴木著作物流通推進室室長補佐】
それでは,資料1の概略につきまして説明させていただきたいと思います。
4月の検討会議で提出させていただきました内容と基本的に同様の形のものですけれども,それを報告書の体裁で整理し直させていただいておるところでございます。分量的に多いものですので,ポイントとなるところを説明させていただきたいと思っております。
まずは2ページ目をごらんいただければと思います。国会図書館におけますデジタル化資料の利活用に当たりまして,送信サービスを実施するということについてご検討いただいておるところでございます。まず,国会図書館から送信先を限定しない送信サービスの実施につきまして,送信先を限定しないということですので,各家庭までの送信を行うということを想定し,ご検討いただいたところでございます。
その各家庭までの送信を行うに当たっての課題ということで,2ページ目の一番下にございますけれども,国会図書館から各家庭までの送信を行うことについては,権利者の許諾が必要となり,このため関係者間の協議による許諾に係る条件などを取り決めた上で,最終的に個々の著作者,出版者との契約を結び,各家庭の端末に対して送信を行うこととなるということですが,3ページ目以降にもございますけれども,その実施に当たって具体的な条件など,諸課題を解決する必要があり,その実施に当たっては相当の期間を要するということが想定されるということが各家庭までの送信の整理ということになるわけです。
そして,3ページ目の中ごろですけれども,送信先を限定した上での送信サービスの実施についてということです。一方,送信先,利用方法,対象出版物を限定した上で送信サービスを実施することについては,早期に権利者,出版者の合意を得ることが可能であると考えられる,そして,国会図書館から地域の公立図書館,大学図書館等までの送信を行うということについてご議論をいただいたところです。
まず,国会図書館からの送信先の限定につきましては,地域の公立図書館につきましては,社会教育上の重要な機能を有する施設であり,情報管理に係る一定の体制が整備されていることなどから,アクセスポイントとして設定することは有益であると考えられるということです。
また,大学図書館のような教育・研究機関の図書館についても,送信サービスの受け手として考えられるべきである,また,そのほかにも学校図書館についても対象とすべきではないかというご意見がございました。また,そのほか国会図書館法第2条に定められている私立図書館なども存在し,公立図書館や大学図書館等も含めた各図書館においては,設立趣旨や目的など,相違点も存在するため,すべての図書館を一律同等にみなすことは適当ではないと思われるということがご議論としてございました。したがって具体的に送信先を定める際には,4ページ目に移りますが,著作権法第31条の適用がある図書館の定義を参照した上で整理することが必要であると考えられる。
そして,2番目としまして,送信サービスの利用方法の制限についてです。
まず,送信されたデータの利用方法については,送信サービスの実施が電子書籍市場の形成,発展の阻害や著作者,出版者の利益を不当に害さないよう留意するという前提を踏まえた上で,送信先におけるプリントアウトを認めないとすることでおおむね意見の一致が見られたところでございます。一方,この点については送信サービスの利便性の向上の観点から,プリントアウトは認めてもよいのではないかとのご意見もございました。
また,出版物の所蔵冊数を超える同時閲覧を制限することについても,おおむね意見の一致が見られたところでございます。しかしながら,同時閲覧に係る制限については,デジタル化の利点を生かし切れていないとの観点や,送信先,対象出版物を制限した上での送信サービスを実施されるのであれば,著作者,出版者の利益を不当に害するおそれは低いとの観点から,制限は必要ではないとの意見もございました。
送信データの利用方法の制限につきましては,プリントアウトは送信先において無制限に複製物が作成される事態につながる可能性もあり,当面の間は認めないものとして整理すべきであると考えられる。一方,同時閲覧に係る制限については,上記にありますように,送信先,対象出版物が限定されることなどを踏まえると,特段の制限をしないことが適当であると考えられる。
そして,送信サービスに係る対象出版物の限定について,こちらにつきましても,著作者,出版者の利益を不当に害することのないよう留意することが前提であり,基本的には相当期間重版していないものであるとともに,電子書籍として配信されていないなど,「市場における入手が困難な出版物」とすることが適当であると考えられます。
具体的には,その範囲を定めるに当たっては著作権法第31条第1項第3号に規定されている「入手することが困難な図書館資料」に係る考え方を参照した上で整理することが必要であると考えられる。
そして,次のページをごらんいただければと思います。このような送信先を限定した上での送信サービスの実施に係る著作権法上の対応としましては,今お話ししたとおり一定の制限が課されているなど,電子書籍市場の形成,発展や著作者,出版者の利益に十分配慮しているものであるということから,早期のサービスの実現が期待されるものである。
そして,この送信サービスが公共的なインフラをもって行われること,利用者から対価を徴収しないこと,送信先,出版物等について制限されたものであり,著作者などの利益を不当に害するものではないということを踏まえれば,著作権者へ対価を支払うことの必要性は高くないと考えられる。
そして,上記1から3において示された各限定の方法ですけれども,その条件が法令などにより適切に担保されるのであれば,このサービスの実施に当たり,権利制限規定の創設により対応することが適当であると考えられる。
さらに,権利制限がなされた場合でも,著作権者などの求めがあった場合には,送信サービスの対象から除外する方式を導入することも考えられ,その場合の要件,定義などについては整理が必要である。
なお,制限規定の具体的な規定ぶりについては,条約との関係にも留意した上で別途検討されることが必要であるとともに,実際上の運用に当たっての利用方法や対象出版物に係る基準の整備などにつきましては,関係者間による協議が行われることが必要であると考えられる。
以上がこれまでの検討会議で議論された内容を踏まえた整理という形でまとめさせていただいておるところです。
そして5ページ目,まとめといたしまして,各家庭まで送信することについては一定の仕組みを整備することが必要であり,その実現には相当な期間を要するというところがあり,早期の実施を目指し,その第一段階として公立図書館までの送信を行うと,そして,中長期的な課題として,さらなる利便性の向上を見据えた検討を実施し,実現を目指すことが適当である。
また,権利制限規定の創設により,送信サービスを実現しましても,国民の出版物へのアクセスに係る環境整備が進むこととなるとともに,出版物に係る新たな需要が喚起され,電子書籍市場の活性化にもつながることが期待されるものであることから,関係者の早期の合意が望まれる。
こちらが送信サービスにおける内容の整理という形でまとめさせていただいております。
6ページをごらんいただければと思います。国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスについてです。
検索サービスの在り方についてでございますけれども,テキスト化の方法について。2つ目の丸のところで記載されておりますが,現在の画像ファイル形式のデジタル化資料をOCRなどによる処理によりテキスト化する方法,テキスト化されたデータを検索するために利用する行為などについて,著作権法において許諾が必要となる行為か否かについては十分な整理が必要ではあるところですが,検索を実施するために書籍等の本文を利用するためだけのテキスト化であれば,著作者,出版者の利益を不当に害することにはならないと考えられる。
そして,検索結果の表示につきましては,書誌事項や検索された言葉の出現頻度などにとどまれば,著作権法上の問題は生じないと考えられます。一方,検索された言葉を含む数行程度の表示を実施する場合については,利便性は高いものの,その表示は著作物の利用となる可能性があり,著作権法上の取り扱いについては検討する必要がある。
また,1行程度のスニペットであっても,例えば辞書,辞典,または俳句などの短文を含めた出版物についてはその利用目的を達してしまうことが想定されるところから,対象となる出版物の選定においても注意を要することが考えられる。
7ページ目のところに入っておりますが,検索結果の表示につきましては,書誌事項や検索された用語の出現頻度にとどめるか,スニペット表示を行うかについては,表示の在り方以外のこの検索サービスの具体的な在り方も含め,関係者による合意形成を図ることが重要であると考えられます。また,この点に関する制度改正の必要性については,関係者間の協議結果を踏まえた上で別途検討されることが必要である,このように整理させていただいております。
デジタル化資料の民間事業等への提供についてです。こちらにつきましては,まずは国会図書館におけるデジタル化資料の民間事業者への提供についても,適切な仕組みを定めた上で実施されるべきであると考えられます。
提供のための環境整備につきましては,デジタル化資料の提供に係る関係者における協議の場を設置することや,事業化に意欲のある関係者による有償配信サービスの限定的,実験的な事業の実施なども検討することが必要であると考えられる,このように整理させていただいております。
8ページ目をごらんいただきたいと思います。公立図書館等の役割についてでございます。公立図書館等が担うべき役割につきましては,国会図書館が実施する事業や民間における電子書籍関連サービスとの調和が保たれるよう留意して進めることが重要であるとの認識のもと,検討が行われたところでございます。
そして,その内容といたしましても,所蔵資料のデジタル・アーカイブ化やデジタル・ネットワーク化を活用したサービスの提供を促進していくことは意義があると思われます。
また,民間事業者との契約に基づいた上で当該事業者が提供する電子書籍サービスを図書館において利用されることなどにつきまして,公立図書館等が果たす役割等を踏まえた上で,各館の判断,運用にゆだねられるべきであると考えられます。
またさらに,出版物の中には純文学や学術関係の出版物のように公立図書館等が実際に購入することで買い支えられている出版物も存在しているなどという観点を踏まえますと,各館の特色を踏まえつつ,引き続き多様で豊かな蔵書の収集に努めていくことが重要である。
そして,公立図書館においての電子書籍の利活用の促進は,電子書籍市場と相互補完的に機能するべきものである,そして,両者が競合することなく発展していくため,関係者間の協議促進のための場を設置することや,必要に応じ,関係者におけるモデル事業の実施なども検討することが必要であると考えられる,このように整理させていただいております。
最後,9ページ目をごらんいただきたいと思います。本検討事項のまとめといたしまして,特に所蔵資料のデジタル化を積極的に進めている国会図書館の果たす役割は重要である。
その点について,国会図書館のデジタル化資料を活用したサービスのさらなる実施が求められておるところであり,本検討会議におきましては「送信サービス」や「本文検索サービス」の実施について意見の一致が見られたところであります。特に「送信サービス」の実施に当たっては,国民の「知のアクセス」の向上にとって意義深いものであり,制度面の整備も含めた早期の実現が期待されるものであります。
さらに,こうした取り組みの着実な実施のためには,関係省庁や電子書籍に係る事業者等の関係者の積極的な関与が重要であり,効果的に連携をとった上でさまざまな取り組みを実施していくことが重要である。
以上が,これまで検討いただいた結果を踏まえ,整理させていただきました内容でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ただいまの説明へのご質問を含めまして,特にご意見等がございましたらお願いしたいと思います。どなたからでもどうぞ。
【金原構成員】
4ページにあります対象出版物の限定のところですが,最初の丸のところで,最後の行に「市場における入手が困難な出版物」とありますが,出版物の中には1つの著作物が複数の出版物において流通している場合もありますので,ここは出版物単位ではなくて,ぜひ著作物単位でお考えいただきたいと思います。1つの出版物が入手困難であっても,同一の著作物が他の出版物によって流通しているというケースも多々ありますので,そのようなご配慮をお願いしたいと思います。
以上です。
【渋谷座長】
はい。
【糸賀構成員】
この事務局で整理していただいたものでおおむねよろしいかと思うんですが,気になる点を1点と,それから,改めて私からの要望を1点,申し上げたいと思います。
1つは,4ページの2,国会図書館からの送信データの利用方法の制限というところで,このまとめでは,再三プリントアウトを認めないということをうたっているんですが,この書き方だと,じゃあ,送信されたデータについてダウンロードをしてもいいようにも読めてしまう気がするんです。つまり,ダウンロードのことが一切書かれていなくて,いいんだろうかという疑問,つまり,プリントアウトを含めた複製はだめなんだというふうにこれを読み取ればいいんですけれども,うっかりすると,プリントアウトを認めないということを繰り返し言っているので,だったら,プリントアウトはしないでダウンロードするのはいいのかというようにも読めてしまうので,どこかにダウンロードやプリントアウト等の複製については認めないというような趣旨にしたほうがよろしいのではないかというのが意見です。
それから,もう1点は8ページです。8ページの3,公立図書館等の役割についてというところです。公立図書館や大学図書館に国会図書館のデータを送信することができるようになれば,確かに広く国民がさまざまな出版物,ここで言う「知のアクセス」が可能になるとは思います。この会議の場でも私は繰り返し申し上げたつもりですが,一方で,この日本にはまだ公立図書館が整備されていない地域があるんです。いわゆる町村と呼ばれる自治体では,半数近くの自治体にまだ図書館が設置されておりません。そういう意味で,この8ページのまとめの丸が4つ並んでおりますけれども,私としては3番目あたりのところに,ここでわざわざアンダーラインを引いて,「各館の特色を踏まえつつ,引き続き多様で豊かな蔵書の収集に努めていく」という,多様で豊かな蔵書の収集を図ると同時に,引き続き公立図書館の整備を進めるという,図書館そのものの設置がない自治体への配慮というものを私はするべきだろうと思います。
ついでに申し上げますが,ちょっとこれは専門的な話なんですが,「蔵書の収集」という言葉は,私も事前にこれを見たときに見落としてしまったんですが,資料の収集によって蔵書が形成されたり構築されるんです。したがって,「蔵書の収集」というところは「蔵書の構築」というふうに改めていただいたほうがいいと思いますし,公立図書館の整備を一方で進めるということもこの箇所でうたっていただいたほうがよろしいかと思います。これは私の意見というか,要望になります。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。ほかにどなたか。
【中村構成員】
ここで方向性がまとまった後のアクションが気になっているんですけれども,基本的なことがわかっていないものですから事務局に2点お伺いしたいんですが,1つは,この送信サービス,ここで書かれていることを実現するためには,国会図書館法の改正などが必要になってくるのでしょうか。法的に必要になる事項についてお教えいただければということが1つ,それからもう1つは,この国会図書館の立法府の機関の業務を決定する権限がどこにあるのか,つまり,ここで話し合われたことが政府から立法府などへどういう意思決定のプロセスをたどるのかということについても教えていただければと思います。
【鈴木著作物流通推進室室長補佐】
では,お答えさせていただきたいと思います。この送信サービスに当たりまして,国会図書館法にどのような影響があるかというところはちょっと私どもではお答えできないところでありますが,現在想定しておりますのは,著作権法におきまして権利制限規定を設け,国会図書館から公立図書館などへの自動公衆送信が行える措置を図るというのが1つ想定される立法的な対応になるかと思います。
また,もう1点,報告書の中にも書き込んでおりますが,その権利制限規定を整備するのとあわせまして,その運用上のガイドラインなどにつきましては関係者間で協議をし,整備していただくという形になるかと思います。
そして,今後の動きといたしましては,この検討会議として,今,提出いたしました資料1の内容が整理されておりますので,これを受け,著作権法の整備という観点からでありますので,文化審議会の著作権分科会,さらにはそこに設置されております法制問題小委員会などにおきまして,まず著作権法の改正の観点についての議論をしていただくということが1つの流れになってくるかと考えております。
【中村構成員】
特にそこに意見があるわけじゃないんですけれども,その事実だけ確認をしたくて,つまり,国立国会図書館は現時点で現行法上,こういった業務ができるけれども,著作権法上の規定の整備が必要だから,その整備をしようという話なのか,そこを何か創設的に業務として考えなければできないということなのか,それはどちらなんでしょうか。
【渋谷座長】
これは田中構成員にお答え願います。お願いします。
【田中構成員】
先生のご質問のところでございますけれども,国立国会図書館法では一般国民の方に資料を提供する手段としては来館して利用していただくか,全国の図書館等への貸し出しを通じてご利用いただくということが法律で規定されております。送信によって全国の図書館で利用していただくというのは,国会図書館のサービスの範囲の中には当然入っているとは考えられますけれども,実際には,権利許諾がないものについてはそのまま実施することはできないという整理になるかと思います。
【渋谷座長】
よろしいですか。中村先生。
【中村構成員】
結局,現行法上はできないんですか。
【田中構成員】
はい。現行法上は,国会図書館法で自動的にその著作権の権利制限ということではないので,送信利用に関しては,法律上,許諾がなければできないという形になります。
【中村構成員】
国会図書館法上の国会図書館では,その業務を提供する権限は現行法上あるんですか。つまり,国会図書館法というものを直さなくてもできるのかどうかということだけ聞きたいんです。
【田中構成員】
国会図書館の役割の中には,一般国民への資料提供を行うということが任務として規定されておりますので,その範囲の中には当然,こういった利用の形態も,業務としてそれを行うことは含まれると考えられます。
【中村構成員】
そうすると,図書館法上,例えば許諾をとったらいろいろなサービスができるのだけれども,ここに書かれてあるような制約を設けましょうというようなことがこの場から出てくるとすると,それは国会図書館として,ここで議論されたことをのむかどうかというのは別の判断になってくるということですか。
【田中構成員】
制約をかけるのではなくて,現行の法律では一般国民の方への提供手段として図書館への送信を通じた提供というのは,送信についての権利制限の権限がないので,それはできないということになりますので,逆に貸し出しという物理的な物の移動ということによって今,実現しているものを,送信という形で図書館を通じて全国で利用していただくような提供の方法が新たにこれによって実現可能になるという理解の仕方でおります。
【糸賀構成員】
よろしいですか。
【渋谷座長】
はい。
【糸賀構成員】
今の中村構成員のご指摘は,業務として,これは制度としてというか,法の整備としてはこういうことができるようになっても,それが直ちに国会図書館の業務として実現できるかどうかが法律上,規定されているかどうかということだと思うんです。それは実際には,私は国会図書館法をきちんと見た上で,解釈上そういうことができると読めるかどうかという問題だと思うんです。つまり,今までのところは現物の貸与を国内の図書館にやっていたわけです。その延長線にこれを位置づけられるかどうかという問題だろうと思います。改めて国会図書館法上にこういったデジタルデータの送信ということを書き込まないと従来の法律の文章で読み込めない場合には,私はその整備が必要になってくるんだろうと思います。
しかしながら,今回のこの電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議では,そこまでは議論していないわけなので,あくまで国会図書館のデジタルデータが権利制限によって国内の図書館にできるようにしたほうがいいですよという趣旨のまとめだろうと思います。そこから先に,国会図書館法の条文をきちんと解釈した上で,それを新たに国会図書館法の改正が必要になる場面も私はあるのではないかと思います。現時点でここに国会図書館法の条文を私も持ち合わせていないので,はっきりしたことは申し上げられません。繰り返し言いますけれども,今までの現物貸借の延長線でこれが読み込めるのかどうかというところだろうと思います。場合によっては読み込めないという判断もあり得る。
それから,さらに申し上げると,じゃあ,そうなったからといって,国会図書館が直ちにそれをサービス,あるいは業務としてやらなければいけないかどうかということは別の判断だろうと思います。現に,各図書館では著作権法31条でコピーサービスが著作権者の許諾なくできることになっていますが,だからといってコピーサービスをやらなければいけないというわけではありません。同じようなことで,国会図書館もこれができるようになったからといって,それを実際の業務としてやるかどうかは,今度は国立国会図書館の意思決定ということになるんだろうと思います。もちろん,こういう環境が整いましたので,国民の「知のアクセス」を考えればぜひやっていただきたいところですが,その判断にまでここで踏み込むものではないので,そこまでは言及していないということだろうと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。はい,お願いします。
【常世田構成員】
私が発言するべきかどうかちょっとわからないので,田中構成員に補足を必要があればしていただきたいんですけれども,現行は,糸賀構成員がおっしゃったように,紙ベースの本を日本の地域の公立図書館を通じて国民に提供を国会図書館はしているわけですけれども,今回の制限の中に,市場で入手可能なものについては対象から外すということになっているわけですが,紙ベースの現行で行われている業務の場合にはそういう制限はしていませんので,その部分については今までよりは後退という表現を使っていいかどうかわかりませんけれども,制限が厳しくなるということは実際に起こると思います。
【渋谷座長】
ありがとうございます。はい。
【田中構成員】
そのとおりだと思うんですが,1つは,国立国会図書館法上のサービスの解釈については改めて私どもで検討して,今後の対応を決めさせていただきたいと思います。
それから,現在,法律に規定されているのが全国の公共図書館等を通じて提供するということなんですが,このような入手できるかどうかという判断要件はそれで縛られてはいない部分もあるんですけれども,逆に物理的に破損してしまって貸し出しができないものが,こういった送信によって可能になる部分もありますので,そこは全体として判断できるところでもあるのかなと考えます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
いろいろご意見,ご質問が出たところですけれども,あまりこの議題に長時間を費やすことはできません。いただいたご意見の中には,プリントアウトやダウンロードを認めないというようなこともありましたけれども,これはあくまでもプリントアウトを認めないということで書かれておりますが,ダウンロードはオーケーなんですか。どうなんですか。
【糸賀構成員】
いや……。
【渋谷座長】
やっぱりいけませんか。ダウンロードもいけないという了解でよろしゅうございますか。
【糸賀構成員】
以前の会議では当然,それはもちろんできないと。ところが,私が言っているのは,それはどちらも著作権上,複製なんです。だから,プリントアウトを書けば,すべての複製が禁止されているというふうに読んでくれればいいですが,それは無理なので,やはりここはダウンロードもできないということを明記したほうがよろしい,プリントアウトだけ書くと,ダウンロードはできるように読めてしまうので,それを危惧したまでです。たしかあのときの会議は,当然,プリントアウトもダウンロードもできないという方向の話だったと思います。
【渋谷座長】
そのときの議事録を確かめて,そこのところをはっきりさせていただけますか。お願いします。
それから,入手困難な図書館資料,著作物としたほうがよいのではないかというご提案がありましたし,公立図書館の整備に努めるというような文言が入ったほうがよいのではないかというようなご意見もありましたが,そのあたりも考慮していただければと思いますけれども。三田構成員。
【三田構成員】
プリントアウトできないというのは,もちろん複製してはいけないということであります。書きぶりとしてもうちょっと「プリントアウト等」とかとやっていただければと思います。私が一番便利だなというか,利用者の側から便利だなと思うのは,パソコンの画面をデジカメで写真を撮る,これはすぐ複製ができて,しかも自分のパソコンの中に入れて読めるということで一番便利なんです。でも,それをやられてしまうといけないので,そういういかなる複製もだめなんですよということは強調しておきたいと思います。
ただ,利用者からすると,それではほとんど役に立たないというご意見が出てくると思うんですけれども,それについては,なるべく早く関係者間が協議をして,補償金制度とか,有償でやるとか,普通のまちのプリンターでそれをプリントできるような,有償でプリントできるようなシステムとか,利用者の皆さんに不便をかけないようなことを早急に考えていく必要があるだろうなと思いますが,決して我々は利用者の方に意地悪をしようと思ってこういうことをやっているわけではなくて,できるだけ早急に図書館で,とりあえず画像で見られるという利便性を実現するために,今,こういう報告をつくっているんだろうとご理解いただきたいと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ただいまいただきましたいろいろなご意見に係る本まとめ案の修正につきましては,事務局と私が相談させていただいて行っていきたいと思いますけれども,その点はいかがでしょうか。そういうふうに運ばせていただきますと,スケジュール的には大変楽になるのですが,よろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
ありがとうございます。それでは,そのように取り扱わせていただければと思います。
そして,今後につきましては,取りまとめの内容を受けまして,関係者間等における精力的な検討が進められていくことになると思いますので,ご関係の方,よろしくお願いいたします。
本まとめにつきましては,ほかの検討事項とあわせまして,本検討会議の報告書として最終的にまとめさせていただきたいと思っております。その点もご了承願いたいと思います。よろしゅうございましょうか。
それではご了承いただいたものとしまして,続きまして,次の議題に進めさせていただきたいと思います。次の議題は,ご案内にありますとおり,出版者への権利付与に関する事項というものでございます。
まず事務局より,この事項に係る本日の検討の進め方等につきまして説明をいただきたいと思います。
【鈴木著作物流通推進室室長補佐】
はい,わかりました。
では,まず資料2をごらんいただければと思います。検討事項3「出版者への権利付与に関する事項」としまして,事務局で検討すべき論点などを整理させていただいております。
資料2のまず2ページ目をごらんいただきたいと思います。前回の検討会議におきまして,昨年度行いました調査,さらには書籍協会の方などからご報告いただいた内容につきまして,諸外国における状況や国内における出版の状況などとして整理をさせていただきました。
そして,2ページ目の(3)にございますように,デジタル・ネットワーク社会における出版に係る喫緊の課題についてというところで1つ整理できるポイントがあったかと思っております。権利侵害行為への対応を図るために有効な何らかの対応が求められておるというところが前回の整理の中で出てきているポイントであるかと考えております。
そして,3ページ目をごらんいただきたいと思います。出版物に係る権利侵害への対抗措置の在り方についてです。まずは,前回までの検討会議においてご指摘などもありました出版物に係る権利侵害への対抗措置の在り方について検討するべきではないかと,そして,その検討に当たりましては,国内における権利侵害への対応のみではなく,海外における権利侵害についても対応することが可能なものであるべきものと考えられると。
そして,検討していただきますポイントとしまして,契約における対応と新たな権利を出版者に付与する対応,大きくこの2点に整理できると思っております。これも前回の会議の中で出されました意見を整理しますと,このような意見になってくるかと思います。
そして,契約における対応につきましては3点,出版者に対する著作権の譲渡における対応,そして4ページ目にございますけれども,独占的利用許諾契約による債権者代位の行使というポイント,そして,6ページ目にございます3としまして,「出版権」の規定の改正による対応,出版権の内容を電子書籍化やその利用に対応するべきことという形で整理できるかと思います。
それぞれにつきまして,前回に発言がございましたポイント,さらにはそれに基づきまして検討いただく論点につきまして事務局で整理させていただいておるものでございます。これらにつきまして本日ご検討いただければと思いますが,また,資料3から資料5として配布させていただいておりますけれども,前回の会議におきまして書籍協会の方からご説明がございましたが,そこに加えまして,改めて,実態調査なども行われておるというところですので,その概要もご説明いただいた上で,その状況も踏まえながらご議論いただければと考えております。
事務局からの説明は以上でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは早速,村瀬様から出版物の複製に関する実態調査につきましてご説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
資料3,これは書協においてこの検討会議と並行して行った実態調査の概要をまとめたものです。いささか大部ではありますが,要点のみをご説明し,複製行為,特に違法な複製行為に関する問題については前回もかなりこちらからもご報告させていただいたので,それの補充的な意味合いであるというところでご理解いただければと思います。
それでは資料3をごらんいただきたいんですが,これは今年4月段階で行った調査です。大きく分けるとコピー機・複合機によるコピー,これは紙の複製物の話です。その後,3ページ目以降,スキャナーでのスキャンの状況についての調査が書いています。それから,あと5ページ目のところで電子書籍がダウンロード利用されている実態についてもあわせて調査をしたと同時に,6ページ目以降が,これはアンケート調査ではなくてウエブサイトの目視等の調査による問題ですが,無許諾配信の実態に関して,あるイメージを持つための調査を行いました。
また資料3の冒頭に戻っていただきたいんですが,まず2ページ目のところですけれども,我々として注目しているポイントのところをご説明いたしますが,2ページ目の4,利用者のコピー目的,こういう質問をしたんですが,ここでオフィシャルな目的,60.5%,これは多分,間違いなく著作権法上の30条の制限を超えたコピーであろうと思いますけれども,現実にそのような形での出版物の複製行為ということがかなり行われている状況がある。
それから,5のコピーする場所ですが,これも自宅のコピー機,最近は複合機の普及によってかなり自宅でコピーできる状況が増えてきていますので,これが非常に多くなっている。それと同時に,有料のコンビニ等のコピー機でのシェアというのもかなり大きい。
それから,6番目のコピーした出版物の入手先ですが,自分で購入した書籍・雑誌が多い,これはトップなんですけれども,図書館から借りた書籍・雑誌というのがやはり45%ぐらいを占めているといったところはポイントとして理解しておくべきだろうと考えています。
それから3ページ目,8ですが,事前の相談・許諾というところに関していうと,実際にこの2段落目,権利処理に関して著作者や管理団体等の許諾をとったことがあるという経験者は5.7%,極めて低い状況,先ほど,本来許諾をとってしかるべき使用料をいただくべき利用というのが60%近く推定されるところに比べると,現実にその処理ができているのはその1割にとどまるというようなことがこのアンケート調査の結果から推測されることと考えています。
さらにスキャナーでのスキャン,つまりスキャンした,コピーをしたものがデジタルデータとして保存されるケース,これについても同様な質問をしたんですが,これも3ページの4のオフィシャル目的というところが67%を占めているというところ,それから,4ページ目の6,図書館等で借りた書籍・雑誌が36%,勤務先の経費で購入したものが46.9%というように,かなり本来では適切な権利処理が別途行われるべきルートで行われたものが非常に多いというところが読み取れるかと思います。ここではスキャンの利用と,普通のコピー機での利用といったところにかなり質的な違いがあるかないかというところに着目しているんですが,現状ではその延長線上にあるのではないかというような判断です。
8の公開・アップロードに関しては,公開・アップロードした経験があるという経験者は一応,6.2%にとどまっていますが,これは同時に,サンプル数が少ないので参考値でありますけれども,高校生以下が15.3%になっています。ですので,このあたりはどう読むかの問題ではあるんですが,このまま手をこまねいて何もしないでいると,この値というのは基本的に上がる方向にあるのではないかということが推測できるところです。
そこはやはり9番目のアップロードの目的というところも質問で入れているんですけれども,ほかの人にも読んでもらいたいからとか,流行のものをほかにも知ってもらいたいとか,好きな作家の出版物を他の人にも読んでもらいたいからというような,ある種の善意の目的というものが多く挙げられて,これはアンケート調査という性質上,どうしてもこういったものが多くなるだろうという気はしますけれども,それでも違法であるとの認識のもとに,あえて侵害行為として行っているというよりは,善意の行為というところの流れなので,これは単純な違法に対する侵害という側面よりは,むしろ積極的に,どこまでがよくて,どこから先はきちんとやらなきゃいけませんよということのアピールであるとか,そういったアピールをしたと同時に,適切な権利処理を簡易に行えるような仕組みの構築というものが業界を挙げてやらなければいけない喫緊の課題になっているということであろうとこちらとしては読んでおります。
5ページ目ですが,電子書籍のダウンロードに関しては,これは現状では,この調査時点ではほとんどが電子書籍の流通は携帯電話を通しての流通というのが多い状況ですので,4の1のところです。コミック・マンガ系というのがトップになっていますけれども,今後は多分,ジャンルに関してかなりバラエティーが広がっていくのではないかと考えられています。
それから6ページ目,あわせて著作権に対する意識を自由記入的なところで入れていただいたんですが,これに関していうと,思ったよりも著作権というものに関しての意識というのはある。逆に言うと,ただ,著作権が問題になるという意識はあっても,具体的に何が問題なのかよくわからない,どう処理すればいいかわからないというような状況だろうと思いますので,先ほど申し上げたようなより一層のアピール,それからわかりやすい制度の構築・提示というものが必要だというところに行き着くのではないかと考えております。
それから,6ページ目以降は,これはネット上における書籍データの無許諾配信実態調査というものを行いました。これも多少細かいところまで踏み込んでおり,また,前回,コミックに関しての違法配信実態に関して別の報告をさしあげたので詳しくは述べませんが,1点だけご指摘させていただくとすれば,少し飛んで10ページ目のところですけれども,これは違法配信の中の1つ,これはP2Pのネットワーク調査という形で行ったんですが,P2Pのネットワーク上でどのぐらい違法コンテンツが現実に存在しているかといったところを定点観測,定時観測をしたデータですけれども,ここで見ると,10ページ目から11ページ目の数字をどう読むかなんですが,10%強が小説・コミック系のコンテンツ,これは逆に言うと,音楽であるとか,映像であるとか,そういったものもすべてここの全体の100の中に入りますので,やはり現実に違法に流通しているものというのが全コンテンツの1割以上がいわゆる出版物であると。これは同時に調査をした中では,映像とか音楽が2割前後ぐらいといったことを考えると,決して低くはない数字であって,これもまた出版物の侵害行為であることは明らかなので,これに関しては業界全体で対応するということが,これも繰り返しになりますけれども,非常に急を要する状況であるとともに,これは音楽でも映像でも同じようなことが言われていますが,こういった違法流通に対する1つの対抗策というのは正規流通の拡大であり,また一方で,こういった違法な問題に対して啓蒙活動を行うということであって,これも両方とも,すべて業界を通して対応していかなければいけない問題であり,より一層,出版者,出版業界として主体的な対応をもうやらないと,自分たちの利益も守れないし,お預かりしている著作者の利益も守れない,そのような状況に陥っているのではないかといったところがある程度裏づけられた調査ではないかと考えております。
以上で私からの報告は終わります。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして,樋口様より出版契約に関する実態調査につきましてご説明をお願いしたいと思います。
【社団法人日本書籍出版協会樋口事務局長】
前回の会合で,海外の出版契約の実態につきましてご報告させていただきましたが,それに比較いたしまして,国内の出版契約の実態がどうなっているかということを本日は補充的にご説明させていただきます。実態調査の概要のすべてについて今日は言及はいたしませんので,ポイントのみ,海外との比較ということを中心にお話をさせていただきたいと思います。
この実態調査は,日本書籍出版協会の会員社を対象にいたしまして,本年4月から5月に実施しております。回答者数が23%ということで,この数字だけ見るとあまり高くないように見えますが,その下の出版点数というところをごらんいただきますと,1万7,000点ぐらいの回答があるということになっておりまして,現在,日本国内で年間7万5,000点ぐらいの新刊書があるということになっておりますが,そのうちの相当数が自費出版関係のものも含まれております。そういったことを考えますと,この23%よりは,より多くのカバレッジがあると考えております。
最初の1番のところにございますが,書面による出版契約書の締結状況でございますが,この同様の調査を過去にも何度か継続的にやっておりますが,それをごらんになりますように,契約書の締結割合というのは年を追うごとに上がってきているという実態がございます。出版者としても,契約書を用いた契約ということに努力をしている成果が上がってきているのではないかということでございます。
ただし,ここには書いてございませんけれども,出版分野別に見ると,分野ごとの特徴というのはかなりございます。文芸書等は一貫して30%台というようなところで推移しているという現状はございます。
それから,その次のところで,お手元の資料の後ろのほうにひな形の実際のものもついておりますけれども,書籍協会で作成しておりますひな形を使用している割合ということはかなり高いという結果が出ております。書協ひな形をそのまま,あるいは一部修正して使っているというものが書面による出版契約全体の8割以上ということでございます。この意味は,この書協のひな形というのが,おかげさまで著作者あるいは出版者にとりましては一定の安心ができる契約書ということで,契約慣行というのが現状では確立しているのではないかと考えております。一方,換言いたしますと,契約締結に係るコストということをあまりかけずに契約が結ばれているということが言えるのではないかと考えております。
それから,次のページでございますが,出版契約の期間について調査いたしました。ここにございますとおり,契約期間が3年間以下だというのが53%ということで半数を超えております。さらに,5年間以下ということですと8割弱ということになります。自動更新では一番多いのが1年間ごとに自動更新をするということでございまして,当初の契約期間が3年,それから自動更新1年というのが最も一般的なパターンではないかと思います。
このような形で,この3年というのは出版権設定契約で期間の定めのないものについては3年とみなすという著作権法上の規定がございます。これが影響しているのではないかと思いますけれども,あと,その後,1年ごとの自動更新ということになりますと,著作者あるいは出版者両方にとりまして,契約を終了したい場合に,そのチャンスが1年ごとにあるということでございまして,決してその出版物,著作物の塩漬けがなされているというような一部のご批判がございますけれども,決してそういうことではないということのあらわれではないかと考えております。
それ以降の出版物の電子書籍化についての設問等もございますけれども,こちらにつきましては後ほどごらんいただければと思います。
簡単ですが,出版契約に関する実態調査の報告でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして,平井様より,出版者への権利付与につきましてご説明をお願いしたいと思います。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会平井副委員長】
こちらの資料は前回の検討会で配布させていただいたものでございます。直接的な説明をさせていただいておりませんでしたので,本日この機会,この短いものですが,説明させていただきます。
まず,1,現在の状況,出版者は出版物の制作・流通を行うことによって,従来から著作物等の伝達者としての役割を担ってきた。これは皆様ご了解のとおりだと思います。学術,教養はもちろん,娯楽,教育といったものまで,それらを提供するという意味合いも,報道ですとか,記録ですとか,さまざまな目的がございます。出版というのは,およそ考えられるあらゆる分野を対象とした活動であるとご理解ください。出版物をつくるに当たって,用字・用語の統一はもちろんのこと,著者の先生の調査や資料の収集に協力させていただいたりですとか,記述内容の事実関係の確認,あるいは著作権に限らず,肖像権その他もろもろの権利処理を出版者が行っております。そのような形で発行された出版物が他者の権利と衝突した場合は,これは出版者は当然のこととして係争の当事者となるという実態がございます。単純な民法上の衝突だけではなくて,時には巨大資本であるとか,国家権力とも対峙するというふうなことが実際にいろいろなシーンで起きているということでございます。つまり,著作物というのは著作者の先生方の努力と才能の結実でございます。ただし,それが一たび出版物として発行されますれば,出版物は著作者と同様の責任を負うという実態がございます。多くの裁判例でも著作者の先生方と同様に出版者にもさまざまな賠償義務だとかということが課されております。このことは出版者の役割に対する社会的評価のあらわれであると我々はポジティブに考えております。
次,だれもが容易に情報発信できるようになったデジタル・ネットワーク社会においても,依然,出版者が発行した出版物が重要な位置を占めているということでございます。上の項で説明させていただいたことは,デジタル・ネットワーク社会におきましてもいささかの変化もございません。さらに,デジタル・コンテンツを発行するに当たりましては,デジタルならではの新たな視点に立ったクオリティーコントロールなど,今までにはなかったさまざまな作業を我々は行っております。
日本の出版界というのは,去年あたりから米国などでデジタル出版が大ブレークしているという実態はございますが,我々は10年以上にわたって電子書籍に取り組んでまいりました。その間,さまざまな試行錯誤を繰り返して,投資と努力を行ってきたわけです。その結果,現在のところ,世界に冠たる電子書籍大国として日本は巨大なマーケットを構築するに至っております。ただし,これは電子書籍に限った事情でございまして,学術ジャーナル誌などに関してはさすがに英語圏の足元にも及ばないということは申し述べさせていただきますが,それでも今のところ世界最大の電子書籍大国ということは間違いない,我々はそのための努力を10年以上にわたって繰り返してきたということを確認させていただきたいと思います。
次は2番として,出版者に権利がないための問題点,デジタル・ネットワーク社会の負の側面として,出版物の違法な複製・配信の横行がある。違法複製は紙媒体の出版物でもあることだが,デジタルでは瞬時に大量複製・配信が可能であり,問題がさらに深刻になっている。これにより著作者の権利が守られなくなっているとともに,出版者のビジネスに悪影響を及ぼしている。侵害に関しては前回に詳しく説明させていただきましたので今回は触れませんが,デジタル・ネットワーク社会の負の側面の中に含まれるのか,やはりフリーライドが非常に多くなっていると思います。出版というのはさまざまな可能性を試すということがあって,その結果として出版者の収益モデルというのは全出版物の中のほんの1割で利益を上げている,その利益を上げた1割の中でさまざまな可能性を繰り返してきたということがございますが,どうもその1割の非常に有力なものだけをコンテンツの生成・創造に何ら関与しないところが利用して,そこだけもうけている,実際に多くのコンテンツの可能性を試みるということには全く対処がされず,それは,いわばそういった形でのフリーライドが増大しているということは言えると思います。
次は,出版物の利用促進のためには,個々の出版物の成り立ちを把握している出版者の関与が欠かせない。しかしながら,当該出版物にさえ法的な権利の裏づけがないため,十分な利用促進が達成できる環境にない。このことは特に出版物のデジタル配信において顕著である。出版物を作成し,市場に流通させるまでの間には,さまざまな種類の執筆協力者の方々であるとか,編集協力者が関与する場合がございます。あるいは資料提供,取材協力などでもいろいろな方々の協力を仰ぐことがございます。また,実際の執筆のシーンに当たっても,翻訳であれば下訳,試し訳をお願いしたりですとか,一部の出版物,ごく一部ではありますが,極端な場合はゴーストライターというふうな職業もございますので,そういった方々の協力も得ることがございます。またその出版物を頒布するための宣伝・販売のシーンでもさまざまな第三者の協力ということがあります。あるいは刊行後に外部からの指摘によって,当初は予期しなかったことを第三者の方々から協力していただくということがございます。
そうした出版物を2次利用する場合は,こういう,いわば出版物ごとの事情に応じたそれぞれの関係者に対して必要な許諾をとるということは,当然,不可欠になっていることはございますが,このような,多かれ少なかれ出版物ごとに存在するさまざまな事情,権利とは申しません。さまざまな事情の全容を把握しているのは,実は当該出版物を発行した出版者のみと,これは動かしようのない事実だと思います。
とはいえ,現状では,出版者はたとえ自分自身で発行した出版物でございましても,みずからの権利のもとでの2次利用に関与ということはできない状態です。他者の権利をばらばらに,一時的に間借りしながらの状態,つまり,一時的な間借りというのがそれぞれ範囲も期限もばらばらに定められた契約ですね,こんな状態なわけです。これでは長期的な観点に立ったさまざまなプランの構築ですとか,投資スキームの策定などは困難です。今までもさまざま電子書籍のマーケットを広げるために努力してまいりましたが,ちょっとこれ以上というのはなかなか難しい。その中で,デジタル配信事業に各社がこれ以上のリソースを振り向けるというのは,いわば丸腰でマーケットに飛び込めと言っているのに等しくて,これは極めてリスキーです。このリスクというのは出版者だけのリスクではなくて,著作者のリスクであるということでございます。
また,次に行かせていただきますが,3,権利付与の必要性について,出版者への権利付与によって,著作物の集合体である出版物の権利処理においては,著作者の意向を正確に反映した出版者に主体的な権利処理を行うインセンティブが与えられ,出版物のより円滑な流通が可能になり,著作者の利益につながるということでございます。ちょっとわかりにくい文章で申しわけございませんが,例えば1つの出版物を例にとってみましても,その中には図版という形で絵画や写真のような著作物を利用したりですとか,あるいは歌の歌詞,そういったものを利用したり,それから,よくあるんですけれども,別の作品の一部分,ほんとうに一部分を転載している,さまざまな著作物が関係してくるとか,こういう出版物は珍しくないわけです。こうした著作権のほかに肖像権,それから所有権のようなもの,こういったさまざまな権利によって実は1冊の出版物というのは成り立っております。
出版物の刊行に必要なこのような権利のそれぞれについて,そのそれぞれの許諾条件,許諾の範囲や許諾期間,それから利用の対価などの細目についてトータルに管理できているのもやはり出版者でございます。トータルに管理はしているのでございますけれども,現在の状況,みずからの裁量で出版物の多面的な利活用を図ることが不可能な現状ですと,コスト等の兼ね合いから,当該出版物の刊行に必要な範囲内での管理にとどまっているというのが現状でございます。
これが仮に出版者がみずから発行した出版物に関して固有の権利を持っているという状況になれば,今まで原則として紙の本の頒布という直接的な目的に限られていたさまざまな情報の管理を,自社資産として有効に活用するという方向が開けてくるわけでございますので,それぞれの出版物にまつわる事情,権利情報,その他の管理や処理に関して積極的に行える,これは出版者以外が持ち得ない,したがって大きなアドバンテージになることですから,積極的な投資を行うことが可能になります。このようにすれば,出版物の2次利用に関して,今まで利用者が個々にさまざまな権利者と行わなければならなかった権利処理を,出版者をハブとして,事実上のワンストップサービスという形で許諾が一遍にもらえるというふうなことが可能になります。もちろんその際には我々出版者も業界を挙げて強固で確実な集中処理システムを構築するということを約束させていただきます。その結果,多くの利用者は現状のような煩雑な権利処理から解放されて,結果として社会的コストも軽減される,さらには出版物のより多面的な利用を促進するための前提が整備される,その基盤がつくり出されるということになると考えております。
個々の著作者が対応せざるを得なかった権利侵害についても,出版者がみずから迅速かつ実効性のある実質的な対応ができるようになり,結果として著作者の権利保護に寄与するということでございます。現在もできる限りのことをやっておりますが,我々に権利が付与されましたら,より万全な体制で臨みたいと思います。このことだけで違法な利用が撲滅できると思いませんが,ただ,少なくともそのための第一歩にはなると思います。その第一歩になったところで,我々も権利者の1人として,例えば関係省庁の皆さんにもさまざまなお願いをして,今まで以上にご協力いただきたいと考えております。
出版者の投資回収の保護を図ることで,より積極的な投資を誘導し,電子書籍販売の伸張など,出版コンテンツの豊富な流通が実現できる。その結果,著作者の創作基盤が安定し,知の拡大再生産が実現していくと。何度も申し上げますが,出版者がみずから発行した出版物に関して法的な裏づけのある固有の権利を持つこと,これがあって初めて,今,なかなか暗やみの中でやっているような感じなんですが,出版者が初めて疑心暗鬼に陥らずに名実ともに出版物の利活用を行えるプレーヤーとしてさまざまなステークホルダーから認められるということで,プレーヤーとして活躍できる基盤が保障されるということを考えております。その結果,出版者はさまざまなマーケットに対して主体的かつ積極的に関与しつつ,みずからリスクを負って新規ジャンルに参入していく,それを可能にする環境が整うということでございます。その結果としての収益源の多元化というのは,現在の国内の単一市場に過剰依存していると言ってもいい我が国の出版産業,こうしたリスクを分散させる結果にもなりますし,著作者並びに関連産業の皆さんに対して長期間にわたる安定的な環境を提供するということを保障する結果になるということも言えます。さらには,こうした出版物に関して,今までにはない企画段階から多彩なチャンネルをターゲットとし,マルチウインドウを前提としたプランニングというものが行われるようになります。このことは,またさらに著作者の創作機会の拡大,あるいは,まず作品の多様性の確保で,そうしたことの結果として質的向上を伴う持続可能性の実現,そうしたことにつながるだろうと考えております。
契約やビジネス慣習が近代化し,著作者,出版者間の相互理解・協力関係が一層強化され,国際競争力の強化にもつながる。デジタル・ネットワーク社会での出版文化の維持発展のために,出版者の権利は必要不可欠なものであると。これまで出版者が担い,培ってきた役割にかんがみてだと思いますが,多くのステークホルダーの皆さん,著作者,著作権者の方々,あるいは図書館ですとか,こういう言い方はどうか,プロの読者というような方々,並びに,いわゆる出版界と言われる印刷会社,取次店,書店の皆さん,これはそれぞれの出版者が発行した出版物に対しては,これまでも何となく,何らかの権利めいたものがあるというふうな前提で,一応,出版者を見ていただいているんだと思います。実際にこうした出版者に何らかの権利めいたものがあるというふうな環境の中で今までの出版システムが回ってきた,出版システムが維持されてきたという側面,これは間違いなくあると思うんです。しかしながら,これは百人百様のあいまいな了解でしかございませんので,この了解自体が一種のトラブルの温床になったりですとか,それから当事者間の思い込みがずれていることによって係争の原因になる,つまり,言った,言わない,そんなの思っていなかったみたいな,この前提だという,これ自体否定されるということもございました。並びに,この了解というのは,あくまでも身内の中での了解なんです。異業種であるとか,そういったところにはこの了解は全然通じませんので,出版者に対する権利というのはそもそもないということでございます。
何度も申し上げてございます出版者の権利,こちらが法律できちんと明文化されれば,今,百人百様の慣習や経験則による先入観ですとか,さまざまな誤解などは払拭されることになると思います。だれが見ても客観的な出版者の権利というものが明快になるわけでございますから,関係者はその条文の規定の範囲内でジャンルやターゲットごとに必要なガイドラインを作成するということもきちんと行われるようになるでしょうし,例えば常設の関係者協議会などを設立して,紛争解決のための仕組みもつくり出すことになると思います。その結果,法律に定められた権利を越えるものに関してきちんとはっきりするわけですから,それぞれの利用に関しての約束,そういったいわば契約で取り決めなければいけないものの範囲というのもきちんと明確になり,権利と義務の関係というのも,そのボーダーもきちんと引かれやすくなると考えております。
このことは,著作者と伝達者の間での不毛な争い,ほとんどないんですけれども,時にして不幸にして起こる不毛な争いはなくなるでしょうし,一部著作者の方々がお持ちであると伺うこともあります出版者に対する不信感,こういったものを払拭することができるのではないかと思います。そうすることによって,多様なすぐれた作品がより出てきやすくなる,これは間違いないことだと思います。
ともすれば,現在のコンテンツ産業というのは海外の巨大プラットホームですとか,日本の環境とは違って複合IT企業のルールに支配されがちというか,事実上,支配されそうな状況でございます。そういう状況になって,出版者に権利を付与していただくことによって,日本が生み出した出版コンテンツ,世界に誇る良質な価値を持ったコンテンツだと思っておりますが,これらを例えば米国のネット系コングロマリットによる収奪から守るための方策の1つ,そういうことも言えると思います。著作者と出版者が見事なまでに融和的な関係を保っているわけであります。諸外国に比べてきちんと信頼関係の中で動いているこの日本の出版も,かつ,世界でもまれに見る多様性,これだけの言語人口でありながら,毎年7万点なんていう数の出版物をきちんと出版している日本の出版,日本語の出版物を次世代につなげていくためにも,出版者への権利付与は不可欠であると考えております。
次,4,付与されるべき権利の内容,こちら,我々がざっと考えているところですが,まず,保護の対象は発行された出版物です。その発行された出版物とその出版物を作成するために,著作物じゃないですよ。出版物を作成するために生成されたデータ,それと,その発行された出版物から派生したデータ,例えばスキャンデータのようなもの,こういったものが保護の対象になるだろうということです。
保護の享受者は,上記の出版物を発意と責任を持って発行した者,出版者がというのではなくて,出版物を発行した者です。
保護の開始は当該出版物が発行されたとき,著作物の成立とか,そういうのではなくて,出版物が発行された時点です。
権利の範囲は,レコード製作者の皆さんとほぼパラレルですけれども,複製権,譲渡権,貸与権,公衆送信権を考えております。
ちょっと雑多になってしまいましたが,まとめさせていただきます。この出版物,出版者への権利付与というのは,出版者対著作者というふうな構図ではなくて,出版者と著作者の皆さんが協力して世界に伍していくための方策の1つというふうな前提でご議論いただきたいと思います。現実に我々は日々,デジタルの事業を行うに当たって,いわば日本語でさえ非関税障壁の1つのように考えているような相手と対峙しているわけです。こういう時代,ほかのヨーロッパの諸外国なんかは,むしろ精神的風土まで含めた自国文化,こういったことを守る取り組みがなされております。自国文化,特にその中心である自国言語の保護というのは各国とも最重要課題ととらえておりまして,自国言語を実際に支えている出版産業の維持発展は国家の責務の1つというぐらいに位置づけられている,これが実態でございます。出版産業,出版文化というのは,それぞれの国の過去の蓄積の継承及び新たな可能性の育成という点で,これは単なる経済原理を超えたものととらえられています。残念ながら,我が国の出版産業は長期間にわたる縮小再生産のスパイラルの渦中にあります。この中にあっても,日本の出版界というのは日本人自身の手で守るしかないわけです。外国企業は日本の出版なんか守ってくれません。ただ単に収奪して利用するだけです。
こういう状況ですから,最後になりますが,もう一度繰り返させていただきます。これまで出版者が果たしてきた仕事,現在出版者が担っている役割にかんがみ,ぜひとも出版者に固有の権利を付与していただいて,そのことは我が国の知的再生産の拡大には不可欠なことであり,今,待ったなしの状況にあると確認させていただいて,私の説明を終わらせていただきます。すいません,ちょっと長くなりました。どうもご清聴ありがとうございました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ただいまの出版に関係する方々のご説明をいわば素材として,これから30分ほどしか時間が残っておりませんけれども,ご自由に皆さん方のご意見を交換していただければと思います。ただいまのご説明に対するご質問も含めまして,ご意見等のある方は自由にご発言していただきたいと思います。
【別所構成員】
出版者への権利付与のところで,出版物の違法な複製とか配信のところに対する対応のためというご説明があったんですけれども,特にインターネット上での違法物の対応現状について若干私からお話しさせていただいて,法律の制定を待つまでもなくご対応いただきたいなと思っています。
法律でいうと,略称プロバイダ責任制限法というものがあって,それでインターネット上で著作権法に違反したようなものがあると,ISPとか,サービスプロバイダに削除の要請をすることができます。その削除の要請をスムーズにするためにガイドラインがつくってあって,プロバイダ責任制限法に基づく信頼性確認団体というものが設置されています。現在,その信頼性確認団体は,JASRACさんをはじめ,映像の方々とか,シナリオ協会の方々ですとか,レコード協会の方々が入っています。ぜひ出版関係の方に,信頼性確認団体ができるはずなので,入っていただいて,速やかに削除要請とかをしていただくのが現実的な路線ですし,そういうところでどこまでできるのかと,現行の制度下での対応の促進をぜひご検討いただきたいなと思います。その上に何ができるのかというところで,権利を持つことによってさらに対応ができるのかということも測れるのではないかと思います。
ちなみに,プロバイダ責任制限法の信頼性確認団体を通じた削除要請の件数を公表していますけれども,たくさんの団体が登録されていますけれども,実際の通知をいただいているのはほとんどが,もうほとんど,99%がJASRACさんのみです。これは権利を持って信頼性確認団体として登録されていただいて,侵害物がたくさん多いとおっしゃっているんですけれども,そういう形での権利行使をされている方々の実態がそれだけ乖離があるということなので,権利を付与されているからといって,必ずしもその権利が行使されるわけではないという例でもあると思いますので,実際には,信頼性確認団体にぜひなっていただいて,権利侵害品について情報をお寄せいただくのがありがたいなと思っていますけれども,その実態も権利付与の検討のとき考慮していただければと思います。
もう1つ,権利侵害対策でやっています,これは私ども個社としてやっている部分になりますけれども,このアンケート調査をしたACCSさん,コンピューターソフトウェア著作権協会さんと一緒にCIPPという団体をつくって,権利者の方々と情報交換をしながら,権利者の方々の通知だけではなく,自主的な見回りでオークションを中心として違法物の対策をしています。これはかなりの成果を上げていて,内閣府の知財本部に毎年毎年成果について報告をさせていただいています。
こういうような取り組みというのはさまざまできるわけで,必ずしも権利を直接持っている方々でなくても,その権利侵害物の横行をインターネットでサービスしている普通の会社は喜ばしいとは思っていないので,いろいろな対策ができるわけですから,権利の創設がないとそこができないというのではなくて,そういうことを待たずに積極的に今の枠組みとか,そういうことのご提案とかというのをやっていただければと思っていますし,そのほうが実務的には進むと思っています。レコード協会さんなんかも個別に通信会社の各社さんと協議をしていて,いかに違法流通物を発見して防げるかというような工夫に取り組まれていますし,著作者の方々の窓口として出版者の方々,あるいは出版者の方々の団体がそういうふうに動いていただくのが,権利侵害に対する現実的な,特に国内の実務対応については最も有益かつ即効性のある方法だと思っていますので,そちらの検討をお願いしたいなということを,すいません,この場でいいのかどうかわからないですけれども,申し添えさせていただきます。
もう1つは,今お話しいただいた中のビジネスの関係のところなんですけれども,権利を創設していくことに関して,私どもは基本的には否定するわけではないんですけれども,ただ,今のお話を伺っている限り,ほんとうにご説明いただいたようになるのかどうかは全くわからないと思っていまして,そういうようなものの裏打ちをもう少しきちんと,ちゃんと経済学的にも,あるいは社会学的にも説明する資料をつけた上で議論をしていただくことが必要なのかなと思っています。
それともう1つ大切なことは,利用者といいますか,読者の方々の視点,読者の方々がどういうふうに出版物を利用していくのかというようなところとか,どういうふうな出版物の在り方であってほしいと思っているのかというところがこれから先にかかわってくると思いますので,そういうところのご説明があまりなかったので,ぜひそこのところもあわせてお考えいただければなと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。今のご意見,出版協会の方,どなたか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会平井副委員長】
では,前半のほうの質問にお答えさせていただきます。今日ちょっとここに並んでおりませんが,私どもヤフーさんとは雑誌協会とある協定を結ばせていただきまして,雑誌協会さんが窓口で違法侵害物は既にすぐ削除していただくという体制をとらせていただいております。先月でしたか,ちょうど私は筑摩書房に属しておりますが,私どもの出版物が違法にアップされておりましたので,雑誌協会さんを通じてヤフーさんにお願いしたところ,すぐ削除していただきました。どうもありがとうございました。
もちろんそうした方策を今後すぐにやっていきたいと思いますが,残念ながらプロバイダさん,多くのプロバイダさんは皆さん善意の方々ばかりでいらっしゃいますが,それ以外のところ,確信犯的に侵害行為をやっているところに関しては,協定なんか結びようもないわけですので,そういうところ,やはり皆様,協力していただけるところとはさまざまなタスクフォースを結べると考えておりますが,それ以外のところにはやはり一定の権利的裏づけがないと,我々の申し出が一顧だにされないというふうな現状があることもご理解ください。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会酒井副委員長】
有斐閣の酒井です。
先回,かなり説明させていただきましたが,実態ということで説明させていただきましたので,今,ヤフー様のご質問で,出版者の権利について必ずしも否定的ではないということで,オール・ジャパンでいろいろな問題を考えていけるのかなと非常にうれしく思います。
それから,利用者の観点ということでおっしゃいましたので,その点だけ感想を述べさせていただきますと,利用ということだけ考えますと,読者の利用,出版者の利用,あるいはその利用をサービスとして事業化しようとする企業とか,いろいろ考えられると思うんです。そういう利用者の方々がまずクリアしなければいけないのは何かということになりますけれども,やはりここでは一番問題になってくるのは権利処理だろうということは,周知のことだろうと思うんです。
その際に,何度も説明されたことだと思うのですが,単純な一著作者の一出版物であれば,そう難しくはないのかもしれません。ただ,その場合でも本文に含まれないカバーデザインであるとか,あるいは挿入された写真であるとか,イラストであるとか,やはり権利複合体になっている場合があると思うんです。特に著作権者が複数いる場合の出版物の場合の権利処理は,それぞれの著作権者が同様な立場(同様な契約条件)で存在するわけではありませんので,とても厄介です。そういったことをどう処理するかということが一番最初にクリアしなければいけない問題になってくるだろうと思います。
この際に,まず出版物を利用しようとする人はどんな行動をとるだろうかということになるわけですけれども,多分,10人いたら,9人ないし10人がまず出版者に問い合わせてみようと思うのではないでしょうか。直接著名な作家,あるいは著名な著作者の場合には,その方のところに行くことも十分考えられますが,まず出版者に問い合わせてみようと思うのではなかろうかと思います。出版者は書誌情報としていろいろな情報を多様に持っています。それから,全体とは申しませんけれども,著作権に関する権利情報,権利の消失情報,権利が現にあるか,あるいは切れているか,あるいは,それから権利の承継人の情報,著作者が亡くなった場合の相続人はだれであろうかというような情報を全体としてある程度持っております。これを出版者がしっかり管理をしていろいろな利用者の方に利用しやすい基盤をつくっていく,これが一番重要なことではないかと思います。その基盤の上に立って,いろいろな利用形態が展開されることになると思います。その基盤がまさに現在の著作権法制のなかに,出版者の固有の権利を骨格とした制度設計を位置づけることだろうと思います。こうした安定的な基盤のうえに,様々なビジネスの展開を模索する契約が展開され,利活用のモチベーションが一段とたかまるのではないかと思います。こういったことで是非とも,著作権者,出版者,利活用者等オール・ジャパンで新しい基盤づくりに向け,対処していくことが喫緊の課題だと考えております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは,三田構成員。
【三田構成員】
これは出版者さんがこういう権利を欲しいというご要望であります。出版者に権利が与えられると,著作者の権利が減るのではないかという危惧を当初は私は持っておりました。しかし,今回のこのご報告にあるような4番の付与されるべき権利の内容についてじっくり見ておりますと,ここに書かれてあるようなことは,公衆送信権というのは最近になってできたものでありますけれども,我々はちょっと前までは本を出すときに契約書を結ばなかったんです。それでずっと日本の作家はやってまいりました。なぜそのようなことが可能であったかというと,日本人独特の業界の人々がお互いを信用する,不文律と慣例によって処理をしている,みんなと同じことをやっているならばそれでいいですよというようなことで,個別の契約書を結ばなくとも,すべてのことがスムーズに動いていったということが実情であります。
しかし,こういう日本独特の慣習のようなものは諸外国の方にはご理解していただけないということがあるだろうと思います。ですから,インターネットの時代になりまして,ヤフーとか,グーグルとか,アップルとかとおつき合いをするというときに,日本独特の慣習が非常に理解されがたいもので,ほんとうに出版者に権利があるのかということが外国に対して申し立てがしにくいということで,こういう要望が出てきたものだろうと思います。
こういう権利を法律で定めるということは,諸外国にあまり例のあることではないかとも思うのでありますけれども,では,諸外国はどうなっているのかというと,例えばアメリカなどでは,本を出すときに著作者の著作権を出版者がとってしまうんです。で,出版者が著作権を持っておりますので,個々に出版者の責任をもってすべてのことに対処していただけるんですが,結果としては著作権を著作者は失ってしまうということにもなります。
それから,音楽の領域では,日本でも作詞家,作曲家の権利は音楽出版社というものが著作権を持っているんです。つまり,著作権を持っている業界団体が対処しているのでスムーズにいっていると。ところが文芸出版に関しては,著作権は著作者が持っているので,諸外国の方から見ると,出版者に権利がないように見えてしまうということであります。
ですから,今まで不文律や道徳や慣習で対処してきたことを改めて法律に明文化するということでありますから,著作者の権利が何か奪われるということでは決してありません。ですから,私はこの出版者の要望は当然のことであろうと考えておりますし,むしろアメリカのように契約によって著作権を出版者にとられてしまうというような状況と比べたら,こちらのほうが著作者にとっては随分有利な安心できる状況であると,日本にはこれまでの日本の独特の文化と慣習があったわけですから,日本独特の制度があってもいいのではないかなと私は考えます。
ただし,出版社というのも大小いっぱいありまして,著作者の権利を守ってくれているところもあれば,インターネットというものに無関心な小さな出版社も多数あることは事実であります。音楽業界がうまくいっているのも,個々の音楽出版社が権利を持っているのですけれども,JASRACというものをつくって一括で処理をしているのですべてがうまくいっているということがありますので,文芸版のJASRACのようなものを早急につくっていただいて,貸与権センターとか複写権センターのようなものを統合して,権利処理を一括してやれるようなものをつくりましたら,業界の皆さんも安心してそこと交渉できるということになるだろうと思います。その前提として出版者にある程度の権利を与えるということは必要なことでありますので,私はこの提案について賛成をしたいと思っております。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは大渕構成員,お願いします。
【大渕構成員】
先ほどはご説明をありがとうございました。
少し2点だけお伺いできればと思っております。まず1点目が,資料4の出版契約に関する実態調査概要のところであります。ここでひな形も示していただいて,大変イメージがわかりやすくなっているかと思います。これはひな形がどう使われているのかとか,実際,どの程度契約されているのかというあたりともかかわってくるかと思うのですが,ひな形として上がっているのが,最初にあるのが2.(2)a.というものと,それから2.(2)b.というものがあって,これはそのまま使わずに修正して実際の契約は使っておられるかもしれないのですが,やや意外だったのは,出版等契約書というほうには出版権の設定という,かなり,著作権法上の出版権と近いような物権的な形で書かれている,そういうひな形が2.(2)a.のほうだし,2.(2)b.のほうはもっと普通にというか,契約的に利用許諾というひな形と2種類ひな形が示されております。そして,1ページ目の下のところを見ると,2010年版が今のaとbかと思うのですが,物権型というか,出版権型のひな形を使っているほうが21%で,独占許諾契約書という形のひな形を使っておられるのが8.2%ということで,前者のほうが多い形になっています。この辺について何かいろいろ関連してお伺いできればということが1点目であります。
2点目は,次に資料5でご説明いただきました出版者への権利付与に関してというところの4.付与されるべき権利の内容というところの保護の対象という部分であります。これはどういうものを出版者への権利として考えるのかという重要なポイントの1つかと思いますが,版面と申しますか,印刷のレイアウト的なものについての権利なのか,それともテキストというか,字で書かれた中身かと考えると,これは,おそらくこの書き方からすると,版面というものではなくて,テキストというか,字で書かれた中身それ自体について権利の付与をご希望されているという趣旨のようにも思われるのですが,その点の確認をお願いできればと思います。以上の2点であります。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
では,お答えいたします。
出版等契約書,2.(2)b.,まず,なぜこういうような2本立てになっているかというのは,それ以前の2005年版の段階で,出版権設定契約書と著作物利用許諾契約書の2バージョンあって,それはともに電子出版物に関してはファーストオプション,最優先の協議事項とするというところにとどめて,それに電子出版物を直接のそれぞれの対象にしていなかった契約書というのが2005年版以前のバージョンだったわけです。その2005年版のバージョンがかなり広く使われていましたので,そのときの出版権設定契約と著作物利用許諾契約の使い分け,これは,なぜそれが使い分けられなきゃいけないのかというと,そもそも著作権法上の出版権設定契約とするのか否か,そういう形を著作者との間で合意できたのかどうかといったところとかかわってくるわけですが,そこのあたりの過去の流れを尊重した形で,電子書籍版の契約を同時に行うという2010年版の契約書のひな形をつくるときに,その区分けはそのまま踏襲したというのがこのように2種類存在している実態です。
私は作成の取りまとめを行ったわけですが,やはり出版権の部分に関しては,現状の著作権法の規定上,紙の出版物を対象としていますから,どうしてもそのあたりで単純に出版権を許諾するというだけでは済まない部分というのが電子出版の契約をする場合には当然あるので,2のaのほうはある種のハイブリッド的な形になっており,2のbのほうは,むしろ出版権の規定というものに縛られないというか,単純に著作物のライセンス契約として,出版物も電子出版物も一括して含めた場合,こういう形になるだろうと。ただ,実際的には,この内容としてはおおむね大きな違いはないというぐらいの設計にはなっているかと考えています。
それから,保護の対象でどのようなものを想定されているのか,これは先ほどこちらの平井からご説明しましたが,ちょっと私のほうで先行してイメージについて説明をいたしますと,この出版等契約書のどちらのほうでもいいんですが,第5条を見ていただきますと,ここに出版データの権利の帰属という条項をこのひな形で入れさせていただいております。これは今回,我々のほうでお願いしたいと考えている案の保護の対象とおおむねかぶる部分であって,それを具体的に著者との間で契約の条項として落とし込もうとしたらこういう形ではなかろうかというところで我々が考えている保護の対象を少し具体化したのがこの第5条でございます。ですので,大渕構成員のご質問どおり,当然のことながら,いわゆる版面のみには限定されないといったところ,これは既に平成以降の出版物というのはほとんど制作工程はフルデジタル化されております。ですので従来のように活字を組んで,それの紙型をとって,そこから版をつくるというようなプロセスをとってるわけではありませんので,いわばデジタル校正がそのまま移行して電子出版物のほうにも行くということを想定した場合には,その版面の背後にあるデータをも保護対象にしないと,結局は保護が貫徹されることにはならない,そういう発想のもとでの条項です。そのようにご理解いただければと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会平井副委員長】
若干補足させていただきます。まず,私の出版者としての実態から申しますと,2のaは出版権設定,これはあらゆる態様の出版物全体に対しての独占契約,独占権ということになります。ただ,必ずしもこういうことが可能な出版物ばかりではないわけです。その場合,2のbを若干修正して使うということになります。例えば,よくあるんですが,単行本がA社から出される,ただ,そのA社は文庫というシリーズを持っていなかったりすることも多いので,実際に文庫本を定期的に,毎月2冊以上出版,発行している出版社なんていうのはせいぜい20社から30社ぐらいしかございませんので,そういうところが,その単行本を何年かたって文庫にするということだと,それ後にまた今度,Cという出版社が,比較的編さん物が得意なところがその著者の著作集を出す,その著作集にその作品が含まれるということになると,出版権では対応できないんです。それぞれの出版パッケージ,出版態様ごとの独占的利用ということにならざるを得ないので,こういった契約を使わざるを得ない。だから,出版のケースによってこれを使い分けているということだと,筑摩書房の場合,そのようにやらせていただいています。
それから,後段の質問ですが,これはちょっと誤解を得やすいところですので丁寧に説明させていただきますが,まずは,第一義は発行された出版物です。この出版物は発行要件を入れなければいけないと思います。つくればいいという話ではなくて,公衆が求めるのを満たす数をきちんと頒布するということまで含めて,発行された出版物です。
そのデータというのは,これは抽象的なデータ,著作物そのものになるようなデータを意味するのではなくて,出版物をつくるため,印刷するためのデータ,昔は活字でしたから,活字というのは有体物をきちんと組んだものであって物的なものなんですが,今は印刷データからそのまま印刷機に印刷してしまうということで,その印刷データというのもこの対象に入れたいと。出版物自体,出版物は版面だけでなく造本まで含まれる,物としての出版物なんですが,もちろん版面も含まれますが,物としての出版物と,それをつくるためのデータ,このデータ自体が保護の対象となっていなければ,それを第三者が自由に使えるということになって,何のための権利だということになってしまいますので,これは対象としていただきたいということ。それから,出版物から生成されたデータというのは,出版物をスキャンしたもの,例えば去年ぐらいまで大騒ぎしたグーグル問題にしても,あれは出版物をスキャンしたものなんです。生の著作物そのものではなくて,出版物があって初めてそれをスキャンしたという,こういったものに関してもやはり保護の対象に入れていきたいということです。
【渋谷座長】
平井様,大渕構成員はまた質問されてこのやりとり,こういきますので,時間も迫っていますので,できるだけ簡潔に。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会平井副委員長】
ええ,質問をどしどしいただきたいと思いますが。
【渋谷座長】
そうですか。それでは大渕構成員。
【大渕構成員】
ちょっと今の点を含めて確認だけなのですが,2点目のほうから行きますと,要するに,版面という昔流のものだけではなくて,版をつくるためのデータとか,話が非常にややこしいのですが,版自体そのものというよりは,版をつくるためのデータも入るということのようですが,他方で,それだけじゃなくて,字で書かれた中身についても権利が欲しいということなのでしょうかということで,第2の質問につき,確認をお願いします。もうあまり時間もないようなので,イエスかノーかでお答えいただいたほうが早いかと思いますので。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
字の中身の権利という言い方は非常に誤解を招きかねない言い方で,それは著作物そのものというか,著作権そのものが字の中身だと思いますので,そこをこちらはお願いしているわけでは全くありません。
【大渕構成員】
そこは違うということですか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
はい。我々は著作者から著作物をお預かりして,それを出版物の形に生成する際にいろいろな加工を行います。加工を行うことによって,その加工されたデータというのが当然そこからできてきます。そこ以降の話をお願いしているというようにご理解ください。
【渋谷座長】
ありがとうございます。
それでは,杉本構成員。
【杉本構成員】
今のことに関連してなんですけれども,いわゆる保護される対象というのが,いわばこういった全部ものですね。データも含めてものですけれども,それの作成主体というのが出版社であるものというふうに限定的に考えてよろしいですか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
そのように考えております。
【杉本構成員】
今申したことの背後は,これからどんどん技術が進んでいくと,例えば出版社の道具を使って著作者自身がいろいろなものをつくったり,あるいはそこで協調的につくったりすることがあるかと思いますので,そうした場合の境目というのはどんどん難しくなる可能性がありますので,今,ここからスタートかと思いますけれども,クリアにされていくほうがよいかと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
それでは,瀬尾構成員,できるだけ短くお願いいたします。
【瀬尾構成員】
はい。幾つか質問をさせてください。今日,いろいろご趣旨はよくわかりました。その中で,実は私は,ここは電子書籍の会議ですけれども,電子書籍化するというのは社会的な流れであるし,私はそう進むべきであろうと思っています。
ただ,出版というふうなメディアと,例えば私は写真,例えば文芸もそうですけれども,そういった創作者というのは常にほぼ同一に歩いてきました。両方どちらが欠けても成り立たないような協調をもってやってきたし,日本というのはそういう独自の文化があって今があると思っています。
ただ,今回の権利付与に関してお伺いしたいのは,今日のご趣旨の中で電子化とか,そういうふうなことに対して,権利付与があったほうが電子化を促進することになるというふうなことというご説明をいただきましたし,私は実は権利付与に関していうと,例えばマイナスもあるだろうと,権利処理が複雑になる,いろいろなことがある,そのときにこれが電子化とか社会的な大きな流れを減速させてしまうとか,旧来の方式を固守するための手法になってしまうということを非常に恐れていました。
ただ,今日,平井さんのいろいろご説明の中で,これがあることによって電子化が進むというお話をいただいたし,現在,電子化は進んでいない,林立している,その原因の中に出版者側の中の問題として,こういうふうな権利がないために進まないというふうな論があるのかどうか,そこら辺についてもう少し実は詳しくいろいろお伺いしたいところもありますけれども,今日お伺いしたいのは,1つはこれは権利付与が電子化にとってプラスになる,権利と同時に当然,義務を負いますから,権利と義務として,これまで以上に文化に対してきちんと守っていくという姿勢を出版さんはお持ちなのかどうか,これが1つ。2つ目は非常にテクニカルな問題です。出版するためのデータということがありました。つまり,印刷所でつくられるデジタルデータですよね。つまり,それを欲しいということは,それが今,素直に手に入らない状況にあるのかどうか,これも簡単なご説明で結構なんですけれども,だとすると,意外とそこら辺が電子化へのネックになっているのかなという気もいたしましたので,テクニカルな話ですけれども,2つ目の質問をさせていただきます。
以上2点の質問です。
【渋谷座長】
それではお願いします。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
1点目に関しては,少なくとも書協等の話し合いの場,それから各種いろいろ社内の枠を超えてこの問題を議論している中では,おっしゃったとおり,権利付与とともにそれに伴う義務が課せられ,なおかつ,それに関して,今ここでそういう体制のもとで打って出るべきだし,そういう形で拡大していくべきだというところがおおむね基調になっていると考えていいかと思います。
それから,この権利の問題に関してですが,1つは出版者の権利が規定されないとデータに関してのコントロール権がどうかというところですが,これは微妙なところです。現状はかなり裸の力関係によって動いている部分というのがあるように考えています。実際にはすべてのコストを製作コストに関して出版者が負担しているにもかかわらず,そのような状況というのが起きている。それはなるべく契約関係で処理できる部分は処理していきたいと考えてはいるところですが,その意味でも,ある種の明確な指針というものが法によって制定されるということは,大きく問題を進展させる要因になることは間違いないと考えています。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
じゃあ,ごく短くお願いします。皆さん方,午後のお仕事をお持ちだと思いますので。
【糸賀構成員】
そう言われると,なかなか発言しにくい。私はちょっと単純な質問で,この議論の出発点は,とにかく違法な複製なり,違法な配信が多いということでしたよね。それに対して出版者への権利付与でそれが多少なりとも減らせるんじゃないか。それで村瀬さんにお尋ねするんですが,先ほど資料3でご説明いただいて,これはもともとは別に配られたこちらの無許諾配信実態調査からの抜粋なんだろうと思います。私も本体を見てもよくわからないので1点だけ質問です。資料3の7ページ,ここで,要するにコミックについての無許諾配信がどれぐらいあるのかを調べたんだという調査ですよね。この調査方法の1番のところ,作品カバレッジ調査の一番最後のところに,全作品のうちどの程度の割合で無許諾配信されているかを確認するために調査をやられているわけですよね。その結果,どの程度無許諾配信なのかは,ここのどこに出てくるんでしょうか。7ページの下の4の調査結果以降を見ても,この表はよくわからないです。どの程度無許諾配信なのかというのはどこに示されるんでしょうか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
どの程度が,これは作品カバレッジ調査と称して,要は主要な作品を選定した上で,その作品が現実に無許諾配信サイトの中に存在していたかどうかということを調査しています。
【糸賀構成員】
それはわかるんです。この資料のどこにそれが示されているか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
7ページ目の(1)のところの検索サイトごとに多少の差はありますが,無許諾配信サイトが存在した比率としてはこの93%だとか90%とか,そこの数字に出ていると。
【糸賀構成員】
この場合の分母は100は何ですか。
それから,その場合の無許諾の流通量が問題だと思うんです。サイトの中に1つでも違法な流通があった場合には,この場合には無許諾配信サイトというふうにカウントされるんでしょうか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
ここではカウントをしています。
【糸賀構成員】
すると,それは,だからたった1つあってもそうですよね。
それから,ここでヤフーというのは別に,これは検索エンジンですから,配信サイトには当たらないと思うんです。配信サイトの総数が幾つあって,そのうち無許諾の配信が幾つあるのかが示されないと,当初の目的は達成されないんじゃないかという疑問です。
それから,続けて言いますが,8ページに,これはコミック作品について流通量が示されていますよね。ページ数とファイル数,それからこれはそれぞれのサイトが10個挙げられているわけですよね。ここからどの程度,無許諾の配信があるかというのはどう読み取るんでしょうか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
ここからって,じゃあ,それが実際にどのぐらいのアクセス数があるかというのは,こちらでは計測不能です。
【糸賀構成員】
アクセス数ではなくて,配信量なり,流通している量で結構です。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
だから,流通している量というのは,ここでいうとページ数であったりとかが流通量の目安としてなるのではないかということで掲げさせていただいております。
【糸賀構成員】
そうしますと,それぞれのサイトで流通している総ページ数なり,総ファイル数がわからないと,これがどの程度のものなのかはわからないんじゃないでしょうか。全体のページ数や全体のファイル数がわからないと,そのうちどの程度が無許諾であるのかが確認できないのでは。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
ここに関していうと,すべて無許諾です。
【糸賀構成員】
そうしますと,全体として合法的に流通しているものは一切なくて。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
ないです。ここのサイトにあるもの,ここで挙げた8ページに挙がっているサイトは,これはすべて無許諾です。合法的流通は当然ありますが,ここでは合法的流通については特に触れてはおりません。
【糸賀構成員】
それぞれのサイトは,すると,もともと存在すること自体が違法なんですか。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
そのとおりです。
【渋谷座長】
それでは大渕構成員,お願いします。
【大渕構成員】
先ほどの1点目のご質問について,あまりこちらのお伺いした点についてのご回答があまりクリアにないものですから,確認的にお伺いしたいと思います。先ほどの出版等契約書というものと,それから著作物利用許諾契約書の違いは,aのほうのものは出版権の設定という表現であり,これは素朴に読むと,登録はないにせよ,著作権法上の出版権の設定のように見えて,許諾契約書のほうはそういうものでない純粋に債権的なものというふうに読めます。そして,出していただいた資料によると,意外と,この前者のほうの出版権の設定となっているひな形のほうが20.1%というように単なる債権的なものの8%より多いので,これであれば,その気になれば,訴権というか,物権的請求権としての差止請求権というのは行使できそうなようにも見えるので,このあたりは実際のプラクティスとしてもこういう出版権設定という形でやっておられるほうが,この比率のように高いということで理解してよろしいのでしょうかということですが。
【社団法人日本書籍出版協会知的財産権委員会村瀬幹事】
必ずしもそうではないと思います。あくまでも実際の出版契約の実態調査,これはある意味でのきちんと契約書の締結実務というものをある程度回せる範囲の主要な出版社が多いため,結果としてはこういった物権設定的な契約が若干多いようには思われますが,すべてにおいて,先ほど別の者から説明があったように,そういう状況が可能であるとは考えておりません。
それから,あと先生からのご質問は,今回のまとめに関して,まとめの4ページ以降,4ページから5ページにかけて,債権者代位権の行使についての論点が触れられておりますが,そこのところで独占的使用権に基づくものであれば,こう認める余地がないとは言えないであるとか,侵害排除義務があったとしたらどうこうとかという学説が列挙されておりますが,それに関して問題提起だというふうに理解されますけれども,現状,2010年版の書協のひな形においては,第6条のところ,これは両方どちらも同じですが,第6条のところで,特にデジタル利用に関しては必ずしも出版者が独占的に行わないケースがあるのではないか,むしろ著者みずからがいろいろ展開する場合もあるのではないかということを想定して,若干出版者の独占的なものといったところを緩めるような表現,ないしはここのところは積極的に事情に応じて書きかえていただいて結構というような形での運用を書協としてはご説明しています。
それから,さらに侵害排除義務に関しては,これでいうと25条ですね。2のaで言えば25条のところで,いわゆる協力して対処するというような形で侵害排除義務がどちらにあるのかということを基本的には明示しない形で,協議事項という形でとどめています。ですので,現状の書協版のひな形,ようやっとここまでたどり着いたというのがこちら側としての認識ではあるんですけれども,それだと多分,学説上の要件は満たせないのではないかと考えております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
さて,ご議論が尽きないのでありますけれども,定刻が参りましたので,このあたりで残念ながら切り上げさせていただきたいと思います。いろいろご不満はあるかと思いますが,どうかお許し願いたいと思います。
それでは,事務局から連絡事項がございましたらお願いします。
【鈴木著作物流通推進室室長補佐】
長時間にわたりまして,ご検討をありがとうございました。
次回の本検討会議におきましては,9月30日15:00から文部科学省の6階第2講堂において開催する予定といたしております。その際には,本日のご意見なども整理した上での資料を提出させていただければと考えております。
事務局からは以上でございます。
【渋谷座長】
それでは,これをもちまして本日の検討会議を終わらせていただきます。本日はありがとうございました。

── 了 ──

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