電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(第13回)議事録

1.日時
平成23年11月16日(水)  15:00〜17:00
2.場所
文部科学省東館3階1特別会議室
3.議事
  1. (1)「出版者への権利付与に関する事項」について
  2. (2)その他
4.出席者(敬称略)
大渕哲也,片寄聰,金原優,里中満智子,渋谷達紀,瀬尾太一,田中久徳,常世田良,中村伊知哉,別所直哉,前田哲男,三田誠広
【渋谷座長】
定刻がまいりましたので,ただいまから電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議第13回を開催いたします。
本日はご多忙の中,ご出席いただきましてまことにありがとうございます。
議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方々には入場していただいているところでございます。この点特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
ありがとうございます。
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方々にはそのまま傍聴していただくということにいたします。なお,カメラ撮りにつきましては,会議の冒頭までとさせていただきますので,配付資料の確認まででご了承願います。
それから,本日は開会後に森副大臣がご到着される予定でございます。到着されましたら,一言ごあいさつをいただくということにいたしたいと思いますので,あらかじめおふくみ置き願います。
それでは,まず,事務局から配付資料の確認及び参考資料1について説明をお願いいたします。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
それでは,配付資料の確認をさせていただきます。本日配付しております資料といたしましては,電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議「出版社への権利付与に関する事項」に関する議論の整理(案)を資料として提出させていただいております。
そして,参考資料1といたしまして,「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」に関するまとめに対します意見募集の結果概要。そして,参考資料2といたしまして,本検討会議の構成員の名簿を配付させていただいております。
参考資料1につきましてですけれども,前回の会議でもご紹介させていただきましたが,9月下旬から意見募集をかけておりました「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」のまとめにつきまして,制度改正の面も言及されておるところがありますので,意見募集をかけたところ,資料にございますように,141通のご意見をいただいているところでございます。概要としてまとめておりますが,12ページにもわたっておりますので,全般についてご紹介するのは,時間の都合上もございますので,特に本検討会議におきまして制度改正につきまして方向性がまとめられました国会図書館からの送信サービスについての寄せられました意見について少しお時間をいただいて紹介させていただければと思います。
2ページの中ごろ以降が該当の箇所になるかと思います。送信サービスの実施に関する意見といたしまして,早期実施のための制度整備が必要ですとか,関係者間による協議の結果をもって実施すべきであるといった形で,賛成の意見,さらには慎重な意見,それぞれが両論として提出されておるところかと思っております。
そして,3ページ目以降のところでございますけれども,国会図書館からの送信先に関する意見といたしまして,各家庭までの送信につきましては,まずは慎重に検討すべきであるといったご意見があったところですけれども,図書館等への送信についての考え方につきましては適切であるといったご意見。さらに,4ページ目以降ですけれども,送信先に関しましても大学図書館への送信,さらには私立の図書館,学校図書館についても送信の対象とすべきといったご意見があった一方で,一般社団法人,一般財団法人の図書館の扱いについては慎重にといったご意見もあったところでございます。
【渋谷座長】
森副大臣がご到着であります。
それでは,一言ごあいさつ願います。
【森副大臣】
どうも皆様,こんにちは。遅参いたしまして,失礼いたしました。文部科学副大臣の森ゆうこでございます。
構成員の皆様方におかれましては,ご多用の中,本検討会へのご参加を賜りましてまことにありがとうございます。心から厚く御礼申し上げます。
本日で13回目の開催ということでございますが,これまでに国立国会図書館におけるデジタルアーカイブの活用方策に係る基本的な方向性をおまとめになるなど,大変自由闊達で前向きなご議論をいただきましたことにつきまして,改めて心から感謝を申し上げたいと思います。ほんとうにありがとうございます。
ご案内のとおり,今今後の電子書籍市場の発展に対して国民の皆様から大変強い期待が寄せられているところでございますので,今後のあるべき姿につきまして皆様にご議論いただきたいということで設けた会議でございます。本日ご議論いただくこととなっております「出版者への権利付与に関する事項」につきましては,我が国の出版文化の維持,発展に重要な役割を担っている出版者の活動の促進と,喫緊の課題である違法流通対策を含む今後の電子書籍の流通と利用の一層の円滑化に必要となる方策等につきまして,基本的な考え方を整理いただきますとともに,今後の検討事項全体の取りまとめに向け,構成員の皆様方におかれましては,より一層精力的なご議論をお願い申し上げたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,先を続けたいと思います。資料の説明を続けてください。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
それでは,続きまして,参考資料1の概略の紹介を続けさせていただきたいと思います。
4ページ目の下以降のところには,送信データの利用方法の制限についてです。同時閲覧につきましては,同時閲覧の制限を設けないことは適切であるといったご意見をいただいておるところです。
5ページ目以降ですが,プリントアウト等の複製についてでございます。こちらにつきましては,プリントアウトを認めるべきといったご意見。意見としましては,同様の意見がございましたら集約するということになりますので,ここに記載しております数が正確な数ということではございませんけれども,ここの部分におきましては,プリントアウトは認めるべきであるといったご意見が多数であったというふうになっております。対象出版物の限定に関する意見といたしましては,その対象出版物の範囲につきましては明確に定義すべきであるといったご意見など,あとは幅広く対象とすべきだといったご意見,両面があったところでございます。
そして,6ページ目の部分でございますけれども,対象出版物の除外につきまして,申し出があった場合に除外するといった記述があったところでございますけれども,それにつきましては,恣意的にサービスの対象から除外することを避けるためなど,一定の基準を設けるべきであるといったご意見。いわば慎重に基準を設けるべきではないかといったご意見があったところでございます。対価の支払い等につきましては,その必要は認められないのではないか,何らかの報酬が必要ではないかの両面からのご意見があったといったところでございます。
簡単ではございますが,参考資料,意見募集の概要のご紹介は以上でございます。
【渋谷座長】
多数の意見が寄せられておりますので,これをまとめるのは大変ご苦労があったことと思います。ありがとうございました。
それでは,早速ですが,議事に入りたいと思います。本日は,これまで行ってまいりました検討事項3,つまり,「出版者への権利付与に関する事項」に係るご議論を整理した資料を用意しております。本日はこの資料の内容につきましてご議論いただきまして,検討事項3につきまして,基本的な考え方をご確認いただきたいと考えております。
まず,事務局から資料の説明をお願いいたします。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
それでは,資料をごらんいただきたいと思います。
前回までの本検討会議に出されましたご意見をもとに議論の整理(案)を作成させていただきました。その内容をご紹介させていただきます。
まず,基本的な考え方といたしましては,電子書籍化を含む出版物の多様な利用が想定される中,その円滑な利用と流通の促進が図られることが重要であるとしたところで,出版者への権利付与の検討に当たりましては,当該権利付与が出版契約や電子書籍を含む流通過程における影響,各国の動向について調査,分析を実施することが重要である。その点を踏まえまして,諸外国の法制度に係る調査や出版者に対するヒアリングを行った上で検討を行ってまいりました。
そして,2番としまして,その調査結果やヒアリング結果を出版者への権利付与をめぐる現状等についてといった形で整理いたしております。資料といたしましては,行いました調査結果の報告や出版者の方たちからのご説明をコンパクトにまとめておるところでございますが,諸外国の出版に係る状況についてといたしましては,法制度に係る状況,そして契約の実務に係る状況について説明いただいたところです。国内の出版に係る状況につきましても同様に紙媒体の出版に係る契約の状況について,そして,次ページにありますとおり,電子書籍に係る契約の状況について。そして,さらには,出版物に係る権利侵害行為に関する状況についてをご報告いただきました。そして,さらに,出版者から示された権利付与に係る要望としまして,ここは本検討会議で提出いただきました資料の抜粋といたしまして,権利付与の必要性,そして,付与される権利の内容についてを資料として掲載しておるところでございます。
次のページをごらんいただきたいと思います。そして,そのようなヒアリングや調査結果の報告を踏まえ,出版者への権利付与の意義,必要性についてでございますけれども,これにつきましては,電子書籍の流通と利用の促進,そして,出版物に係る権利侵害への対抗の2つの観点からどのように評価されるかをポイントといたしまして,本検討会議では検討が行われておりました。その結果を以下に整理させていただいております。電子書籍の流通と利用の促進の観点につきまして,権利付与の必要性に係るご意見といたしまして,出版者に対して出版物に係る権利情報の管理を含め,主体的に権利処理を進めるためのインセンティブが与えられ,出版者が主体となって権利処理が進むことにより,我が国の出版物の円滑な利用が促進されるといった観点。そして,出版者の資産として出版物を活用することや,電子書籍ビジネスに係る長期的なプランの策定,投資スキームの構築などを含め,電子書籍ビジネスのさらなる進出が促進されるなどといったご意見があったところでございます。
このようなご意見に対する指摘といたしまして,出版者が権利を持つことは新たな権利者が増えることであり,円滑な権利処理に関する懸念を生じさせるものであるといった観点ですとか,中小事業者などの新しいプレーヤーの電子書籍市場への進出を阻む可能性も含んでおり,既存の出版物に係る流通体制の保護にもつながりかねないものであると考えられる。また,権利付与による電子書籍全般に係る経済的,社会的な影響に関する検証が必要である。電子書籍の製作や流通に係る中小企業や配信事業者,一般利用者の意見を踏まえた上で検討を行うことが必要である。さらに,現時点では,権利付与の必要性が明らかでなく,現行制度内での対応を図った上で必要に応じ,別途対応策を検討することも重要ではないかといったご意見があったところでございます。
そして,次のページでございますけれども,権利侵害への対抗の観点についてでございます。権利付与の必要性に係る意見といたしましては,権利侵害の状況は深刻であり,一刻も早い対応が必要である。個々の著作者が主体的に違法出版物への対応を図ることは困難であり,この点からも出版者が独自に対抗措置を実施できるようになることは重要であるといったご意見があったところでございます。
そして,具体的な権利侵害への対抗措置といたしましてですけれども,この検討会議におきましては,出版者に対する隣接権などの新たな制度におきます権利付与とともに,それ以外の現行制度上におきます対抗策として5つの点が示されておったところでございます。出版者に対する隣接権の付与に対する対抗ですけれども,この権利付与により,権利侵害への確実な対応が図られるという点があるとともに,権利付与に当たりましては,保護される対象や認められるべき権利につきまして検討が必要になってくること。さらに,海外における権利侵害への対抗は困難であるといったご意見もあったところです。
現行制度における対応といたしましては,債権者代位権行使による対応,さらには著作権の譲渡による対応,多の制度に基づく対応につきまして,それぞれメリット,デメリットといった点,例えば,債権者代位の行使におきましては,裁判実績の観点から実効性については懸念があるといった点が示されたとともに,他方,学説上が行使が可能であるといったことが優勢であるというご意見があったところでございます。著作権の譲渡等による対応でございますけれども,著作権を全部譲渡することにつきましては,著作者として消極的な側面もあり,出版業界における慣行とは一致しないといったご意見があるとともに,一部譲渡や共有をすることによって権利行使は可能であり,また,期限等の条件つき譲渡などの可能性も含め,調整を行うことは可能ではないかといったご意見。また,他の制度における対抗策といたしましては,プロバイダ責任制限法に基づく信頼性確認団体となり,著作権者と協力して削除要請を行うといったことが考えられるというご意見があったところです。次のページの一番上のところですが,しかしながらとしまして,信頼性確認団体による取り組みの結果につきましては,各プロバイダの対応のあり方に左右されてしまい,確実性に欠けるといった面もあるといったご意見があったところです。
現行の制度改正を伴うもの,隣接権の付与以外のものといたしましては,出版権の規定の改正による対応も挙げられておったところでございます。出版権の規定の改正に当たりましては,電子書籍の定義などについて整理する必要があり,制度設計のための丁寧な検討が必要であるといったご意見があったところでございます。また,出版物に係る権利保全のための規定を創設するということで対応は可能であるのではないかといったご意見も出されたところでございます。
このような大きな2つの観点の検討結果をもとに,4としてまとめをさせていただいております。本検討会議では,出版社への権利付与の意義はその必要性について主に電子書籍の流通と利用の促進の観点,出版物に係る権利侵害への対抗の観点から検討を行ってまいりました。本検討事項につきましては,前述のとおり,権利付与を積極的に肯定する意見とともに,一定の検証や代がえ措置の可能性などについて十分に検討を行うべきであるといった趣旨の意見が示されており,当該権利付与をめぐる状況の整理においては一定程度の進捗が見られたものの,権利付与の可否について一定の方向性が明確に示されるまでには至っていないものと考えられる。したがって,出版者への権利付与については,当該権利付与が電子書籍の製作,流通及び利用の実態に与える影響を含めた電子書籍市場全般に与える影響について多角的な検証を関係者間において行った上で,電子書籍市場の今後の展開を一定程度見据えるとともに,国民各層にわたる幅広い立場からの意見を踏まえた検討を行うことが適当である。なお,出版物に係る権利侵害への対抗につきましては,喫緊の課題であることから,現行制度において実施可能な方策について関係者間で協議を行うことが必要である。
以上のように整理させていただきました。資料の説明は以上でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ただいまの説明に対するご説明も含めまして,ご意見等もございましたらお願いいたします。どなたからでも結構ですので,よろしく。
【金原構成員】
過去の数回の検討会議における構成員の意見をもとにまとめをしていただいたことには感謝申し上げます。
今,説明を受けまして,1ページ目から最後のページまでずっと文字を追って読んでおりましたけれども,この中の幾つかの項目について,果たしてこれまでの数回の検討会議の意見を反映しているとは必ずしも限らないのではないかというところがありますので,それについて意見を申し上げたいと思います。
まず,3ページの下のところですが,権利付与の必要性に係る意見の次のところ,権利付与に対する指摘。つまり,権利付与に対してこういう懸念があるのではないかというご意見であるわけですが,ここに丸が4つありますが,こういう問題についてのご指摘は幾つかの項目についてはあったと思います。しかし,こういう問題について,日本書籍出版協会を中心として,出版側の権利サイドからこれらの項目についてはそれぞれ説明を加えた上でこのような懸念はないのではないかということについて十分説明をさせていただいたというふうに私どもは記憶をしておりまして,記録もそのようになっていると思います。
したがいまして,こういう指摘はあったかもしれませんが,既に問題としてはほぼ解決しているのではないか。また,その説明したことについて,特にこの構成員の方からそれに対する反論はなかったというふうに私どもは記憶しております。これは経緯ですから,そういうことで説明を加えたということ,それによって,懸念が,全部ではないかもしれませんけれども,おおむね解消しているというのが事実経過ではないかというふうに考えております。例えば,中小事業者等の新しいプレーヤーの進出であるとか,あるいは権利者が増える問題とか,そういうようなことについてはそれぞれ説明をしております。
それから,2つ目の問題。その次のページ,4ページの真ん中から下のところですが,現行制度における対応として,債権者代位権あるいは著作権の一部譲渡という問題が記載されております。この債権者代位権のところに,最初の黒ポツのところで,出版者主導で訴訟を提起することが可能であるとの意見が学説上は優勢であるというまとめがありますが,果たしてそういうことであっただろうかということについては若干疑問を持っております。むしろこれを否定する構成員からのご意見はあったというふうに記憶しておりますが,優勢であるということでこの検討会議のまとめとしてここに記載することが果たして適当であろうかということについては,やや疑問を持っております。私ども出版界としても,出版については私どもは専門でありますが,法律上の対応についてもそれなりの対応をこれまでに図ってきておりますし,もしこういうことができるのであれば,我々はかなり昔から権利侵害についてこのような対応をとってきているはずであります。
それから,その次の著作権の一部譲渡についても同様でありまして,既にこのような対応は一部の出版物においてはとっております。著作権譲渡をした上で権利侵害に対応するということも可能でありますが,実際問題としてはそのようなことが困難である。これはここの構成員でありますほかの著作者の権利者からもかなり否定的な意見が出ております。したがいまして,こういうことの対応では不十分である。既に我々はやってきているけれども,それでは不十分であるから出版者の権利問題ということについて取り組んでいただきたいということを提案したわけでありまして,これで問題が解決するということには必ずしもならないというふうに考えております。
それから,最後のまとめのところですが,2つ目の白丸の最後のところに,権利付与の可否について一定の方向性が明確に示されるまでには至っていないものと考えられるというまとめですが,過去数回の出版者の権利問題について議論したまとめとしては,私どもは出版者の権利の付与について要請している立場ですから,もちろん肯定的な立場でありますが,そのほかの構成員の権利者の方々からも一定の方向性ということであれば,出版者の権利の付与についておおむねその方向性はよろしいのではないかという意見であったというふうに我々は判断しておりますし,記録としても多分そのように記載されているのではないかと思います。
したがいまして,特にこのアンダーラインの引いてあるところですが,これは出版者の権利付与について,それを肯定するという一定の方向性が出たというふうにまとめるべきではないかというふうに考えております。もしそうでないということであるならば,さらに構成員のほかの権利者の方々からのご意見を伺いたいというふうに考えます。
それから,もう1点ですが,4ページの真ん中のちょっと上のところですが,権利侵害への対抗措置のところ,1のところの最後の黒ポツのところです。出版者への権利付与が実現したとしても,現状においては海外における権利侵害への対応は困難であると考えられるというところですが,私どもが調査した範囲において,国際私法の学界においては公衆送信について,その侵害が一体どこで起きたかということをベースに考えるということでありまして,海外においても日本の法律に基づいて権利侵害に対抗できるという考え方も存在しているというふうに理解しております。したがいまして,海外における権利侵害に対して現状では困難であるということは必ずしも言えないのではないかというふうに考えております。
以上,ご配慮いただきたいというふうに思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。4点にわたってご意見を賜ったわけです。
ほかにどなたかご意見ございますでしょうか。三田構成員。
【三田構成員】
このまとめを拝読しまして,私は大変がっかりいたしました。といいますのは,この会議というのはそもそも昨年の,いわゆる三省デジコンというものの会議の成果を受けて,電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討。円滑化ということは,私は促進するということだというふうに理解しております。
昨年の三省デジコンで私は電子書籍の普及,発展のためのネックになっている事柄について幾つかの指摘をさせていただきました。例えば,表示端末についてです。日本のメーカーがつくっている表示端末に,携帯電話まで含めて統一された表示システムが確立されていないということを指摘いたしましたらば,総務省が補助金を出していただいて,シャープさんと,それからボイジャーさんの表示システムの互換性を実証実験するということを現在やっておりまして,急速度に進歩しているというふうに伺っております。それから,世界標準のEPUBの縦書き版をつくるということについても総務省さんの補助金が出まして,チャイニーズタイペイと共同で縦書きできるようにということを実験しているというふうに伺っております。それからもう1つ私が指摘したものとして,外字,異体字というものが現在では正しく表示できないので,印刷所にある既存の紙の出版物のための文字データが電子書籍で活用できないということを指摘させていただきました。この点については,早急な解決は難しいのではないかと言う人がたくさんいたんですけれども,経済産業省さんから補助金が出まして,凸版印刷が請け負って,大日本印刷さんや,それから多くの出版者さん,さまざまな関係者と共同で新しいシステムの構築ということを検討し,現在実証実験の段階に入っております。今までの文字データの文字コードの番号が使い物にならないということで,もう一遍最初から文字に番号をつけ直すということを既にやりまして,その新しい文字コードを使ったエディターもつくって,今実証実験をやっているという段階になっております。
縦書きで漢字でルビをつけるという日本の書籍を電子化するというのは大変困難が伴うことでありますけれども,しかし,総務省さんや経済産業省さんはとにかく促進しなければならないという強い意志のものに方向性を持って対応していただいているというふうに私は感じております。
その三省デジコンでもう1つ問題になったのが著作権の処理の問題であります。その問題を解決するためにこの会議が開かれているのだろうと私は理解しておりました。その中で,出版者さんから権利付与という提案があったわけでありますけれども,私の見るところ,この提案というのは,著作者というのは出版者に権利が渡りますと,ある程度権利をとられる側なんですけれども,しかし,例えばアメリカのキンドルの普及についてアマゾンが今日本の各出版者に要求しております出版者が著作権を持つようにというような指示と比べれば,非常にささやかな権利の要求であります。これは日本の長く続いた慣習にも合致しているものでありますし,出版者と著作者が手を取り合って電子出版物の普及に取り組めるような,非常に配慮の行き届いた提案であるというふうに私は理解しております。
もしも文化庁さんが三省デジコンの結果を受けて,電子書籍の普及ということを真剣に考えておられるならば,ここに示されたような両論併記というような形のものよりも,もっと踏み込んだ報告書ができるのではないか。この両論併記のままでは電子書籍の普及というのは一歩も進まないというふうに私は考えておりますし,だれが見てもそうであろうというふうに思います。
ただ,この会議の中でも,例えば利用者のご意見が聞こえてこないというような提案がありました。これは大切なことであります。しかし,利用者の声を聞くということをやりますと,また1年,2年解決がおくれることになりますが,その間電子書籍のコンテンツが全く普及しないということになってしまいます。これはユーザーの皆様にとっては一番困った事態ではないかというふうに思います。
このような両論併記ということで,何年もかけて議論していこうというような姿勢では,三省デジコンの結果を踏まえた電子書籍の普及を図るという三省の要請に文化庁さんが全くこたえる気持ちがないのではないかというふうに思われる内容になっております。
ぜひとも日本の電子書籍の普及という観点から,もう少し踏み込んだ報告書をつくり直していただきたいというふうに要望いたします。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにどなたかご意見ございませんでしょうか。
【田中構成員】
国会図書館からということになると,この出版者への権利付与の問題というのは,基本的には出版事業者と権利者の皆様の問題なので,もちろん国会図書館としてこういうデリケートな問題に基本的には口を挟むべきではないと考えておりましたので,このシリーズのところでは積極的に意見を申し上げるということは控えてきたんですけれども,これまでのこの何回かの議論の中というところでもちろんいろいろな議論があったんですが,決して出版者の権利付与というところに対してやはり大きくは否定的ではなかったんだという認識を持っています。
私たち,国立国会図書館としてと述べてまた怒られてしまうんですが,折に触れ,長尾館長は電子書籍の普及というのがやはり今国家的に重要な時期であって,そのために出版者の権利付与というものは重要であるということをあちこちで主張している。それは国立国会図書館包括館長として申し上げているのではないんですけれども,有識者としてですが,やはり今電子書籍に普及の重要な段階にあって,その重要な部分が権利情報の集約と集中管理にある。その権利の集中管理の仕組みをつくる上で,やはり今何がネックになっているかというところで,権利者のかわりに出版者がその権利を集約するということが機能的に果たしていないというところがやはり重要な部分としてあるということは常に申し上げております。
済みません,また立場を使い分けるのかと怒られるんですけれども,私たちも電子書籍の普及というのは非常に重要な問題であると思いますし,やはりその部分の政策的な流れの上でこの会議体での検討が進んできて,私どもの国会図書館のアーカイブの利活用も国民への書籍の普及,電子的な利用の観点で重要な合意をいただいたというふうに考えています。
もう1つ大きなテーマ,三省懇談会以来の流れの中で,やはり電子書籍の普及のための課題を解決するというところでこの権利付与の問題というのが出てきているというふうに認識していますので,ちょっと部外者かもしれませんけれども,そういう観点からは,やはり今回の結論というのが,ただ両論併記ということではなくて,いま一歩,権利の集中管理に向けた方策の一環としてどのような権利付与のあり方がいいのかというようなことも政策的な観点であるのかというふうに考えるところです。
ちょっと出過ぎた意見かもしれませんけれども,少し今回のまとめはそれでいいのかというふうな感じを持っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにどなたかご意見。はい,片寄構成員。
【片寄構成員】
私は権利付与をお願いしている立場の人間ではありますが,その立場の分を割り引いても,今回のこのまとめ案に関しては大変不満足であると申し述べたいと思います。これまで行われてきた議論を忠実に踏まえたまとめ案にはなっているとはとても思えません。
日ごろから事務局は中立的な立場でいつもいる。両論併記をきちんとして,どちらにも偏らないようにするんだと述べておられますが,今回のまとめ案に関しては先に結論ありきといったことを疑いたくなるような形でまとめられている気がします。皆さんが一生懸命議論されたものを忠実に反映したまとめ案にすべきではないかと思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかの構成員の方,いかがですか。
【瀬尾構成員】
今回のまとめを今拝見しましたし,またこれまでの議論というのを私も出させていただいていろいろ聞いております。今回のこの検討会での検討というのは,やはりプレーヤーとしては非常に偏っているということは私はあると思います。実際そのこともきちんと指摘されている。私も実際にこの権利付与という解決方法に関しては書籍さんがきちんとこれに対して要望しているということで真剣に議論すべきということでしてきました。
1つ言えるのは,今例えばTPPが話題になっていたりして,来年知財環境の変化があるかわかりませんけれども,少なくとも日本の文化政策の基盤としてこのことは検討すべきだろうというふうに考えます。そのときに,細かなことはあります。例えば権利者としてというと非常に偏るかもしれませんけれども,例えば譲渡が前提となるような商習慣を今日本に根づかせるもしくはそれを前提とした取引になることは,私は厳に慎むべきだろうと思っています。あまりに力押しになってしまう。つまり,今の日本的なきちんとしたサイクルを壊さずに新たな枠組みをつくらなければいけない時期に来ているのではないかという観点で今回いろいろなことを検討させていただきました。
今回,これは電子書籍の促進の観点から考えたときに,今の譲渡を避けかつ政策的にやるためにはこの隣接権,権利付与というふうにおっしゃっていますけれども,これについてきちんと検討すべきということはたくさんの意見として肯定されたと思っています。ただ,幾つかのご指摘もあったように,ここのプレーヤーだけでそれをほんとうに右左にでいいのかという議論もよくわかります。ただ,少なくともこの議論については,創作の一番上流というか,一番源にいる創作者,著作者とそれから出版者,その人たちはこの中で反対の意見が少なかったというよりも,肯定意見が多かったというのは事実だとすれば,それはきちんと書いていただかないと困るのではないかというふうに思います。
ただし,これについて,ここのところの議論だけでこの内容がどうであるかこうであるかという細かな議論もできませんでしたし,そういうふうなことが適当な場所ではないとも思いますので,きちんとこれをどうするのか,政策的に考えていくのかについては,また文化庁さんなり,三省懇なり,そちらのほうでご検討いただきたいとは思いますが,やはりこの場の結論というのに関しては公平な面で,そして文化政策の面できちんと落とし込んでいただくというふうなことが必要なのではないかというふうに思います。
単純にみんなで,権利者と出版者が声をそろえて,自分たちのエゴで既得権益を守るために権利ちょうだい,ちょうだいと言っているんだ。そういうことではないということをきちんと書くべきでしょう。これはやはりもっと大きな観点で書かれているということなので,そういったプラスとマイナスを書き分けた上で,やはりこの論調はきちんと押さえるところは押さえていただきたいというふうには思います。
これはとかく丁寧にやらないと,電子書籍が来て,既得権益を守るために旧来の権利者たちが一丸となってわがまま言っているんだ,権利くれ,権利くれと言っているんだと思われるかもしれないけれども,決してそういうふうな観点で言っているのではない,私は書籍さんの立場をいろいろ伺った上でそう思いますし,我々権利者にしてもそういうことではないという立場でお話しさせていただいているので,その辺の,何というか,簡単過ぎる。少なくとも経緯とか話題の内容のそういう部分についての書き込みはした上で,よりこれが後で生きるような形のまとめにしていただけたらというふうには思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。別所構成員。
【別所構成員】
まとめのほうを読ませていただいて,箇条書きみたいになっているので,多分今までの議論で両方言われたことをそのまま整理するとこういう形に,多分このステージではならざるを得ないのかなと思います。まだこれが最終報告の文章ではないので,ニュアンスのところは多分最終報告の中にもう少し盛り込まれるんだろうというふうには認識しています。
残念だったんですけれども,私はこの出版者への権利付与に関する事項に関する討議のときには結構欠席させていただいて,議事録ベースでしか拝見させていただいてはいない回もあるんですけれども,議事録ベースで拝見させていただいている限り,この箇条書きのまとめというのは決して議論からはそれていないかというふうには思います。ただ,書きぶりがやはり不満だというご意見は何となくわかるところもあって,ただ,権利付与の可否について一定の方向性が明確に示されるまでには至っていないということをどこまで読むかということなんですけれども,かといって議論を続けるというふうにちゃんとその次には書いてあって,具体的に付与すべき権利内容のところまで踏み込んで議論ができているかというと,実はそこまでは至っていないんだという認識でいます。ご提案はありましたけれども,それが権利の外郭としてきちんと議論の前提になるような法律的な整備がされてここには上がってきていないので,何らかの形で権利を付与する方向で検討すべきだというところに関しては皆さん異論はなかったと思うんですけれども,ここに上がってきたものをそのまま認める,付与するという前提での議論が行われたかというと,そうではなかったのではないかというふうに思っています。そこの整理の書きぶりが,2番目の丸で否定的に読めてしまうので,かなりご不満だったのかというふうに思っているんですけれども,基本的にはそういう意識で私の参加した回もそうでしたし,議事録を拝見していてもそういう整理がされたというふうに思っておりますので,そこを少しくみ取っていただいておまとめいただければ,もう少し皆さんのご理解もいただけるのではないかというふうに思った次第です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかに。はい,里中構成員。
【里中構成員】
この問題に関しましては,やはりみんなそれぞれの自分の置かれた立場とか経験とか感想とかいろいろあると思うんです。ただ,まとめといいましても一応この会議全体の流れで,今ここまでは共通認識ですよというところで書かれているんだと思いますけれども,ここの委員会の議題そのものが電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議であるならば,今世の中で電子書籍と言われているもの,何が電子書籍なのかということすら,実はまだはっきりと示されていない。ボーンデジタルと紙媒体のデジタル化とをどう分けるのかということもきちんととらえて,決めるなら,やはりそこはスタートといいますか,電子書籍とは何ぞやというところをきちんと決めないと拙速になるのではないかと思います。
やはりみんな当事者ですから,一生懸命考えて,時間をかけてやってきたことではありますけれども,一度決めてしまうと後戻りできないという法改正の可能性も伴っておりますので,やはり慎重にやったほうがいいという感想は持ちます。ただ,流通と利用の円滑化ということでしたら,三田構成員のおっしゃった字体の問題とか,縦書きの問題とかはやはり今後の文化のあり方に関する問題ですので,そういうことが実行されつつある,実験されつつあるということは,そういうことも考えてここで話されてということはどこかにあってもいいかとは思いました。
今現在置かれている現状,確かに違法コピーについては非常に重大な問題を含んでおりますので,それに対する対抗措置としてこうするのだということがいろいろ書かれておりますけれども,ちょっと取り越し苦労かもしれませんけれども,書いてしまうことの恐ろしさについても私は気にしております。こう書いてあったのに,ああ言っていたのに,結構実効性がないじゃないかと後から言われると大変だという心配もしております。恐れるあまり内向きになるというのはちょっとよくないことなんですけれども,やはりほんとうに権利を持っている者が提訴すれば可能なのかということは実は私たち著作者の中で海外で裁判に訴えた者もいますけれども,結局何も得られないんです。向こうの国内法で処理されてしまうわけです。しかもわかっていてやっている相手にはこれは全く通じない。裁判の費用と手間と労力と,あげくの果てにプライドすら守られずに疲れ果ててしまうということが現状でした。
ですから,これがほんとうに権利者であれば,違法コピー撲滅が可能であるということを強調し過ぎることはどうか。ほんとうにつまらない心配かもしれません。非常に前向き云々と関係ないかもしれませんが,その辺がちょっと心配ということがあります。
あと,この電子書籍市場と一口に言われておりますけれども,これまでデジタル,ネットワーク,古くはマルチメディアと言われた時代から電子媒体で見られる書籍というのはどんどん出てきたわけです。かなりの部分と申し上げてもいいかもしれません,初期のころは出版者とかかわりのない業者が立ち上げておりました。今紙の出版者も一生懸命やってくださっております。ただ,ここに至るまでに,中小含めさまざまな電子書籍と思われるもので成り立っている会社がたくさんあるわけです。
ここの場に,この委員会の場にそういう方たちがほとんど出てきていらっしゃらないということで,下手をしますと,力のある者が集まって都合よく決めたと言われかねないという危惧もございます。だから,今回のこのことで心配している人たち,心配している業者というのはたくさんいるわけですけれども,その辺も考えてまとめというのは,下手をするとといいますか,皆さんご不満なように,私も私なりに不満があるんですけれども,どうしてもはっきりと言い切れないものについては少しあいまいな言い方,あるいは先を見た言い方になってしまうのは致し方ないと思います。
ただし,今の出版界の現状がいいとは思っておりませんので,現在の出版者,出版関係者が正当な利益を正当な道筋で得られる,これが全うな社会だと思いますので,今それがゆがめられている現状もございますので,特に海外の違法コピーに関しましては,国として腰を上げて何らかの後押しをしていただくことこの場をかりてお願いしたいと思います。各省庁,いろいろばらばらにやっている部分もあります。国としてはいろいろな国々,近隣諸国に対しましてもいろいろとおっしゃってくださっているようではありますが,実効力から言いますと,やはり向こう側の国内事情に押し切られてどうもまとまらないというか,実効力がないわけです。
これまで日本の出版者は文化を守るために頑張ってきました。今著作隣接権を行使することができれば,もっといろいろなことができるのではないかとほんとうに一生懸命に考えていらっしゃると思います。でも,事はそれだけで済む問題ではない。正当な出版物が不当に犯される状態が長年にわたって繰り広げられてきたというこの世界の著作権ビジネスのあり方が問題なんです。
外務省主導でいろいろな国々と知的財産権の保護ということで,デジタル書籍も含めましてそのデータについての違法コピー,違法流通,違法発信についてはお互いに監視し合うということがこの9月に締結されましたが,国名をここで挙げるのは失礼かもしれませんが,中国とインドはそれに入っておりません。ただしアメリカは入っていますので,アメリカにおける日本の作品の違法コピーというのはそれで大分解決できるのではないかと少し期待しておりますけれども,やはりせっかく電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議という,この利用の円滑化ということを考えて,やはりグローバルな視点からもう少し,こうできればいいなということは望みを込めてきっぱりと書いてもいいかという感想を持ちました。
済みません,論点がごちゃごちゃになりましたけれども,感想含め申し上げました。
【渋谷座長】 
どうもありがとうございました。

( 副大臣 退室 )

【渋谷座長】
ほかにどなたかご意見ございますか。中村先生,お願いします。
【中村構成員】
制度を改正して出版者,それから著作者,利用者のバランスを変えようということであれば,我々にも説明責任が発生してきます。そのためもありまして,この資料で言いますと,3ページの下のほうにもありますように,経済的,社会的な影響の検証が必要ではないかということを私は繰り返して申し上げてきました。例えばですが,経済面で言えば,では,制度を改正することによって,電子書籍の市場はどれぐらい拡大しそうなのか,あるいはそれによって参入の見込みはどれぐらい増えそうなのか。社会面で言えば,書籍の量は増えそうなのか,あるいは作家のボリュームがこれからも増えそうなのか,あるいは利用者にとってどのような利点が見込まれるのか,そして社会的なコストはあるのかないのかといったことを,この資料を拝見する限りでは納得が得られるデータは得られていませんので,私は中立の立場なんですが,だから制度改正へ移行しましょうというのにイエスとはこれだと言えないだろうと思っております。
端的に言うと,この資料の中にはそうした数字は1つありませんので,何らかそういったものが,つまり,前向きに書こうとするのであれば,そういう記述も必要になってくるのではないかと私は考えております。
一方で,違法コピー対策などについては,先ほど来も意見がありましたように,出版あるいは著作者が手を合わせて取り組むことができるとか,それから,踏み込んだ表現がもっとできるのではないかというような指摘を受けて考えますと,制度改正に限らずとも今できる行政がなすべきことを踏み込んで記述するというのもやっていただきたいと思うことであります。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにご意見ございませんか。大渕構成員,お願いします。
【大渕構成員】
以下申し上げる点は先ほども何人かの方がおっしゃいましたし,私もこの検討会議で以前に申し上げたところではありますけれども,これはどなたかがご指摘になっていたとおり,電子書籍の定義というか,どこの範囲までここで電子書籍としてとらえようとしているのか,ボーンデジタルに限るのか云々という点,あるいは権利といってもどういう権利が問題になるかで,随分いろいろ法的にも経済的にもインパクトが違ってきますので,そのあたりがやや総論というか,抽象論的な感じで,権利付与という話にはなっていても,具体的にこういうような対象についてこういう権利を考えるという具体論というか各論みたいなところについての,各論レベルでの議論というのは時間的な制約等もあって必ずしもなされていないし,その前提で,前も申し上げたとおり,そういう各論的な形で法的にこれを入れるとどういうインパクトがあるのか,あるいは経済,社会的にどういうインパクトがあるのかということで,前者の点はいろいろ法理論的な話になりますし,後者のほうは,先ほどどなたかがおっしゃっていたように,データ的なそういう統計的な話というのは必然的になってくるかと思うんですが,そういうものも,この紙にもないですけれども,今まで出てきていないというあたりではいまだ議論としても,もっと各論というか,データのレベルに踏み込んだような形で,こういうデータがあるけれども,これには賛成,反対とか,そういう点も含めた経済的,社会的なインパクトも踏まえた上で判断ということになろうかと思いますので,そういう意味も踏まえると,そういう形でまで議論をやった上で一定の方向性が出ていますかというと,そもそもそこのレベルでの議論というのがあまりそこまで至っていませんので,そういう意味では,このまとめというのはやや抽象的な形になっているのもやむを得ないのか。
そういう意味で,対象等もほんとうに具体的に特定した上での議論という形で,そこまで行きましたかというと,そこまでは,行っていればこのペーパーにもデータが入っていたり,そういう形になっているかと思われるんですが,そうなっていないということにうかがわれるとおり,ここではそこまでの議論はしていないというところは踏まえざるを得ないのかというふうに思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
常世田構成員,いかがでしょうか。
【常世田構成員】
特に。
【渋谷座長】
そうですか。はい,お願いします。
【三田構成員】
こういうふうに法律を改正したらどうなるかというのをじっくり調査するということはこれまでやられてきたやり方であります。ところが,インターネットの世界というのは,来年どうなるかというのはだれにも予測できない,そういう局面を常に歩まざるを得ないんです。例えばユーチューブみたいなものができるというと,最初にコンピューターを発明した人は全く予測だにしなかったことだろうと思います。ブログとか,さまざまな新しい使い方というものは,来年どんな新しい使い方が出てくるかということがわからないということがポイントであります。ですから,じっくり予測して,判断していたのでは間に合わないという局面が出ております。
現に電子書籍をこれから出そうというときに,従来の著作権の概念では対応できない問題が生じております。著作権イコールコピーライト,複製権でありますけれども,紙の本ですと,初版1万部刷りますということですと,特に契約書を交わさなくても初版1万部,1,000円の本で1冊100円ですということならば,1万部ならば1万掛けたお金をその場でもらえて本が出るということで対応できるわけであります。ところが,電子書籍というものになりますと,電子書籍をユーザーが買うというのは一種のアクセス権を買うということであります。
例えばキンドルで本を10冊買いますと,それは何が起こるかというと,クラウド上に買ったユーザーの本棚ができて,そこに10冊本が入っているということであります。自宅でキンドルで読んで,途中まで読んでしおりを挟んで,するとそのしおりがどこに挟まれているかという情報がクラウド上の本棚に入るわけです。電車に乗ってアイパッドで読み出したら,また途中から読める。会社に行って会社のパソコンで読もうと思ったら,またそこでも読めるわけです。その端末が壊れたということになりましたならば,新しい端末を買って,去年読んだ本をもう1回読んでみようと思っても,自分の本棚にはその本のアクセス権が残っているわけですから,またダウンロードして読むことができるわけです。これは10年たっても,10年前に買った本は,紙の本だったら,持っていれば読み返すことができます。電子書籍でも同じように,10年後もその仮想上の,クラウド上の自分の本棚から本をダウンロードして読むことができるわけであります。つまり,何とでも複製が可能であるということであります。これは従来の複製権の概念を超えているわけです。
それから,本を1冊ずつ売るというようなやり方でなくて,例えば岩波文庫全部,幾らかお金を出したら全部読めるようにしようとか,そんなことだって可能であります。現在も歴史書に関してはそういうことをやっているサイトがあります。年間の会費を払ったら,そこにある本を全部読めるということになります。1冊ずつの著作権という概念はもう壊れてしまっているんです。
そういうことに対応するために,従来のように著作者が著作権を持っているということでは対応できない。その都度新しいシステムが始まるたびに著作者をつかまえて許諾を求めるということは不可能なので,今キンドルは出版者が著作権を持つようにという要望を出しているわけであります。
しかし,日本の著作者は従来から著作権を自分で持つということをやってきましたので,これにはこたえることができない。そうすると,今のままでは電子書籍が全く出せないとう状況になっております。それに対してどう対応できるのかということで,苦肉の策かもしれませんけれども,出版者側が一生懸命考えた結果が今回の要望であるというふうに私は理解しております。この要望に沿って,出版者にわずかな権利を与えるだけで電子書籍は出せるようになるというふうに私は考えております。ほかの方はご意見はどうか聞いてみたいと思いますけれども,何らかの権利を出版者に与えない限り,電子書籍の普及促進はできないというふうに考えておりますので,2年も3年もかけて議論するということは,電子書籍の普及というものを大幅におくらせてしまって,日本だけが世界の流れから取り残されてしまうということになると思います。そうならないように,著作者が著作権を出せばいいではないかと言われても,それにおこたえするのは難しいというのが現状であります。
それで,何か出版者にすごい権利を与えてしまったら,いろいろ弊害が出るのではないかというおそれを抱いている方も多いようにお見受けするのでありますが,出版者にどんな権利でも与えることによって一番困るというのは著作者なんです。ところが,この著作者がこれならいいと言っているわけであります。ほかにどんな問題が生じるんだろうかというわけのわからない不安に駆られて,決定をおくらせるということは電子書籍の普及という観点からすれば,もう少し大胆に踏み込んで考えていっていただきたいというふうに私は考えます。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
はい,里中構成員,お願いします。
【里中構成員】
大胆に考えたいんですけれども,今の三田構成員のおっしゃるような理屈だったらものすごくすっきりするんです。つまり,出版者が著作隣接権を持たない限り,世界の中で日本の電子化された出版物は流通しないんだ。そこまで言い切っていいのかどうかわかりませんけれども,そういうことが理由だから,これからはグローバル,世界の基準に合わせてといいますか,アメリカの基準に合わせて,出版者がせめて著作隣接権を持つことが電子書籍の流通に必要であるということが大上段に振りかざされていれば,これは不安よりも先に,もっとおくれてはいけないという気持ちが先立つんだと思うんです。
ところが,出版者側から出される要望がどうもすべて違法コピーを撲滅するためとか,そういうことばかりになっていますので,どうしてもそれに対するほんとうかなというところをはっきりさせないと,一般読者に対して言い切るだけの自信が持てないということがございます。
ですから,では,今の三田構成員のおっしゃっているような非常にすっきりした形での出版者が著作権の一部でも持つという,それに対して,済みません,今日この場で聞いても仕方がないのかもしれませんが,出版者の方にちょっとお尋ねしたいんですけれども,どうしてそれを前面に押し出されなかったのでしょうか。
【渋谷座長】
金原構成員,お願いします。
【金原構成員】
著者の方がお持ちになっている著作権を出版者がどうしてそれを欲しいということを言わなかったのかというご質問ですか。
【里中構成員】
いえ,欲しい理由が違法コピーとか,あとわりとあいまいな形での集中権利処理をしたほうが普及が促進されるとか。でも,これは果たしてそうなのかどうなのかということはちょっと定かではありませんよね。
【金原構成員】
出版とすると,著作者の方がお持ちになっている著作権の譲渡を受けて,さまざまな形での出版,つまり著作物の伝播というものに携わる形をつくることが一番望ましいのは当然のことです。その中にはもちろん電子出版もありますし,電子書籍,あるいは電子配信によって読者の方に届けるということも,その著作権の譲渡によって可能になりますし,さらに言えば権利侵害にも対応できる。権利者として対応できるということは当然のことでありますが,先ほど三田先生もおっしゃったように,どういう理由があって,出版者がどのようにお願いしても,もちろんそれに同意されない著作者の方はたくさんいらっしゃるわけです。そういう状況において,我々出版とすれば,無理やり著作者の方から著作権を持ってくることは当然できませんから,できる範囲でやるということしかないわけです。
それで,なぜ著作権があったほうがいいのかという理由については,さまざまな形での出版に対応できて,著作物をいろいろな形でできるだけ多くの読者の方に届けることができる体制がつくれるからほかならないと思います。もう1つは,先ほど申しましたように,権利侵害に対して権利者として対応できる。これはもちろん出版者みずから著作権の譲渡を受けていれば権利者でもありますが,譲渡された著作者の方の利益も守るということには必ずつながるわけで,それが理想ではありますし,また,我々も一部そのようなことを実行しているところもありますけれども,やはり著作者の方がそれに同意されない以上,現実にはそれは不可能であって,したがって,もし著作権がなければ,やはり権利侵害には対応できないし,さまざまな形で著作者の利益を代表できるような電子書籍,電子配信にも対応できないということにもなるわけです。
【里中構成員】
ちょっとお伺いしたかったことと違うような気がするんですけれども,ちょっと誤解があるといけませんので,著作者もみんな自分の作品がどんどん電子配信されて市場に出るということはみんな望んでいると思うんです。ですから,出版者がそうおっしゃるならどんどんやっていただきたいんですけれども,現実にはこれまでごく一部の作品しかやってこられなかったわけです。しかも,電子配信をほかの業者と組んでやりたいと思っても,結構みんな出版者に気を使ってやってこられなかったということで,非常に原始的な問題で塩漬けということがたくさんありますので,出版者が権利を持ったら余計にそれが進んでしまうのではないか。
つまり,出版物がより流通して,かつ著作者にも見返りがあると言われますけれども,それはちょっと期待できないんです。なぜなら,出版者も商業行為でやっているわけですから,電子化して流通させるというのはそれなりにコストもかかりますので,売れそうもない本はどうしても出してくれとは言えません。
これまで塩漬けと言っていましたのは,つまり本来権利がないんだから,開放してくれ,気持ちよく開放してくれということを言っているというか,特に出版者にとって今どうしても欲しい作品でないんだったら,個々の著作者が中小の電子配信業者と組んで電子配信して,そこで生活の糧を得てもいいじゃないですかということだったんです。
ですから,出版者がこの権利を持ちますと,ほかの中小の企業を組むことすらやはりちょっと垣根が高くなってしまって,これまで以上に独自に生活の糧を得られる道が少なくなるという危惧があって塩漬けの心配というのは申しておりました。ですから,ここに書かれているように,出版者が集中管理すると,もっと電子配信が増えて,結局は著者にとってもいいことだと言い切ることはいかがなものかといまだに思っております。
今,お聞きしたかったのは,グローバル化時代,またTPPがどうなるかちょっとわからないんですけれども,キンドルならキンドルが,出版者が著作権を持っていないとだめだとアメリカ的商業の慣習からしますと,今後グローバル化が進みますと,特にアメリカ市場が,著作者と契約も結ぶのではなくて,当該出版者との契約を望んでいて,そうでないと,今後のこの世界でやっていけないというような意味で著作権の一部でも出版者が持っていなければ世界の中で孤児になってしまうというような感じで三田構成員の説明を受けとめたんですが,そうだとすれば,それはかなり有効な著者への説得手段になると思うんですけれども,どうしてそこを前面に押し出していろいろおっしゃってこられなかったのかということをお聞きしたかったんです。
【渋谷座長】
はい。それでは,片寄さん。
【片寄構成員】
我々はこれまで,権利侵害対策の観点だけでなく,電子書籍の流通と利用の促進という観点からも,権利付与の必要性を訴えてきたつもりです。また十分に議論もされてきたと思っておりました。しかし,出版者が集中管理すると電子配信が増えて著者にとってもいい,といいきるのはいかがなものか,とのご意見を伺うと,我々の説明が不十分だったのかもしれないと思っております。ですが,著作者との協力のもと,権利の集中処理システムが適正に管理運営されていけば,電子書籍の流通と利用の促進が必ずはかれると考えておりますし,積極的に推進してきたいという強い意志を多くの出版社が持っております。
【里中構成員】
違います。
【片寄構成員】
それからもう1つ,先生がおっしゃっている,著作権を譲渡するという考え方・方法論を,なぜ出版者側から提案してこなかったのか,ということですが,これは前から申し上げておりますように,貸与権センターを立ち上げる際,先生方に著作権譲渡という提案を申しあげたときに,先生方の拒否反応がいかに強かったかということを,我々は十分経験しております。仮にそういった提案をしたとしても,ほとんどの先生方は躊躇されるだろうと思います。里中先生のような方ばかりですと,我々も悩むことはないのですが,ほとんどの先生は,三田先生をはじめ,瀬尾さんもそうだと思いますが,やはり自らの著作権を一部とはいえ譲渡することにはとても抵抗感があります。こういう現実を知っておりますので,はなからそういう提案は無理だということで提案してまいりませんでした。長い出版経験の中で得た判断です。
ですから,ここに対抗措置として出てきておりますが,やはり非現実的な方法論ですし,非常に難しいだろうと感じております。
【里中構成員】
済みません。ここでいろいろやっていてもあれなんですけれども。
【渋谷座長】
いえ,どうぞ,おっしゃってください。
【里中構成員】
済みません。権利処理の集中機構というのはできたほうがいいと前から思っております。ただ,そこでそこがどうして権利付与と結びつくのかというのがちょっとよくわからない面がありまして,この権利付与の問題,話題が出る前から,やはりポータルサイトの必要というのはずっと長年にわたっていろいろ言われてきておりましたので,貸与権管理センターができたことでもありますし,その有効活用という意味でそこを使えばいいのではないかというようなことは申し上げた記憶があります。
片寄構成員が長い間の出版人としての経験からいかに著者がうんと言ってくれないかという,それに基づいて最初からあきらめたとおっしゃっていますが,こちらも著作者として,仲間を代表して長い経験から塩漬け問題というのは40年間の涙涙の歴史なんです。ですから,もうこれ以上不安な同業者を増やしたくないという思いもありまして,権利というのはやはり最終的に全部自分で持っていないと不安な面があるというのは,こういう気分もわかっていただきたいというのがあって,いろいろ申し上げてきて。だから,気持ちよく一緒に手を組んでやっていくためには塩漬け問題の解消について積極的に考えていただければ幸せだということでいろいろ申し上げてきたつもりです。
集中処理するところができたほうが絶対便利ですし,これは流通の促進につながると思います。ちょっといろいろなことが一緒くたになってきて,出版者側としましては,権利付与がないと何もできないと思っていらっしゃるのではないかと誤解するんですが,そんなことはないと思うんです。ただ,ここでこれまで十分話されたんだから,もうここまで話して権利付与は与えられて当たり前だと言い切られるにはちょっと早いかという面を最初に申し上げたんです。
済みません,繰り返しになりまして。電子書籍とは何を指すかというこの大前提がクリアになっていないということで,やはり言い切るときというのは責任も生じますので,そこで取り越し苦労をいろいろしているわけです。
三田構成員に言われると何でもうんと言いそうな説得力があるんですけれども,だから,出版者がある種今日の権利を持つべきだと三田構成員に言われると,大抵の方は納得すると思うんですが,どうしてニュアンスが違うのかというのが何かわからないんです。済みません。
【片寄構成員】
すみません,塩漬け問題に関して一言だけ。里中先生がずっと塩漬け問題で懸念を持たれているということは存じ上げております。今度,仮に出版社側に著作隣接権という権利が与えられた場合,当然我々サイドには義務と責任が生じるわけで,先生方の懸念や不満の解消に最大限務めなければならない,という認識を持っております。
実は塩漬け問題は,著作隣接権と直接リンクする問題ではなく,著作権の範疇だと思っております。ただやはり,そういう懸念を持っている先生方がいらっしゃるということであれば,出版界としてもクレームや不満,懸念等をぶつけられる窓口や受け皿をつくろうというような考え方で,今取り組みはじめています。この件に関しては,権利を与えられようが,与えられまいが,そういった新しい枠組みを用意して,先生方の権利を守っていこうというふうに考えております。
ですので,里中先生ご懸念の塩漬け問題も,やがて解消に向かうのではないかと思っております。著作者・先生方にとっての受け皿だけではなく,中小の出版社にとっても,相談ができる,駆け込み寺的な組織をイメージしておりますが,一応動き始めておりますのでご報告いたします。既に里中先生とは,ご相談をしながらやっておりますが…。
以上でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
はい,それでは,金原構成員。
【金原構成員】
この検討会議の冒頭からこの報告書の,特にこのまとめのところがこれまでの経緯と少し違うのではないかということを申し上げたんですが,だからといって,権利の付与を認めて,それをすぐに実現していこうということが決まったということでは決してないわけで,全体の流れとして権利の創設,権利の付与というものを肯定的に考えていこうというところまでであるということは我々も理解しております。
その中で,先ほどから何人かの方がおっしゃっていますが,やはり具体的にその権利の中身は何なのだろうかとかということとか,それから,それが権利者あるいは利用者の方にどういうインパクトを与えるのか,あるいは,これは経済的な数値を出すというのはすごく難しいと思いますが,どのような形がどういうような影響があるだろうかという,そういった権利の創設を前提とした検証というのは必要であろうというふうに思っています。その中で,今里中先生がおっしゃったような,著者と出版者の関係についても整理する必要があるということについては我々もそのとおりであるというふうに思っています。ただ,流れとしては,この検討会議の中で権利の創設をした上で,電子書籍の流通を促進する,先ほども森副大臣がおっしゃったように,電子書籍の発行と流通を促進させる必要があるわけで,それは緊急の課題であろうと思います。それを実現するためには,全体の方向性として出版者の権利というものを創設した上で,それのインパクトを探りながら,できるだけ早く実現に向けて動いていくということについての方向性は私は出ているだろうというふうに思います。
ただ,この検討会議としては,最後の結論まで,権利の中身,内容であるとかをすべて検証した上で結論を出すということは,私は時間的な問題もあるので,必ずしもそうではないであろうと思っておりますので,この方向性が出た上で,法制問題小委員会なり,あるいは別の機関でできるだけ早くこの問題について検討を加えていただきたい。しかし,繰り返しますけれども,この検討会議としては,やはり創設するということの全体の方向性というものはかなり認められたということが現実の経緯ではないかというふうに思っております。
以上です。
【渋谷座長】
ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。この報告書のまとめ方というようなところにも言及していただきたいのですが。これまでご発言のなかった前田構成員,もしよろしかったらご意見ちょうだいしたいと思いますが。
【前田構成員】
私の個人的な意見としては,このペーパーで言うと,5ページの上のほうの3のエの出版権の規定の改正による対応というのが必要なのではないかと思っておりました。と申しますのは,今後,紙の媒体の書籍と電子書籍というのは出版の二本柱になっていくだろうと思うんです。紙媒体の書籍に関しては従前から出版権の規定がある。それに対応する規定が電子出版に関してはないわけですので,この電子出版に対応する電子出版権の制度をつくるべきではないか。
それによって出版者が主導的に権利侵害に対策を講ずるということもできるようになるし,また,先ほど里中構成員からご指摘がありました塩漬け問題についても,もともと出版権については継続出版義務というものがあるわけですので,電子出版権なるものをつくった場合には継続して電子出版する義務というものが当然についてくるだろうというふうに思われますので,非常にいい制度ではないかと思います。
ただ,問題点もございまして,現在の出版権というのは出版権の設定を受けた出版権者みずからが出版することが大前提になっておりまして,他者にサブライセンスするということができないという制度になっておりますが,電子出版権の場合は多分そういうわけには行かないんだろう。サブライセンスができるような権利の構成にしないとワークしないというような問題点があると思います。また,先ほどから何度か指摘されております,電子出版というのは何なのかということを明確に定義しなければいけないとか,そういった越えなければいけない問題点が出てくるんだろうと思いますが,大勢としてはそれがいい方向ではないかと個人的には思うんですけれども,もともと出版業界からそちらのほうのご要望はなくて,著作隣接権の付与ということのご要望があって,それが今回の検討課題ということになっているかと思いますので,あくまで出版権の規定の改正,すなわち電子出版権をつくるというのは,私はそれはいいかと思うんですが,この検討会議の議題としては大きな問題としては取り上げられないということは当然のことかと思いますので,このまとめにおいてさほど大きく取り上げられていないことについても,当然のことかと思います。
あまり意見になっておりませんが,以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
出版権の設定以外にも方法があるだろうということを前田構成員は論じられておられたわけですね。ですから,出版権の創設というような方法以外に。
【瀬尾構成員】
隣接権。
【渋谷座長】
ごめんなさい。隣接権の設定というようなこと以外に,出版権の範囲の拡充というような方法もあるだろうということを述べられた。
こういう議論になるのは,我が国の著作権法といいますか,知的財産法全般のガラパゴス島的なところに由来するように思うのです。私は著作権のほうはまだよく調べていないのですけれども,特許法でいきますと,特許権者から何らかの独占的な内容の実施権を与えられた者は,ほかの国ですと,皆独占的な実施権者であるということだけで訴訟を起こせることになっています。英,米,独,仏,全部そうなんです。
ところが,我が国の場合は専用実施権といって,ほかにはだれにも実施させないというような非常にかたい,強い権利を設定するときには登録して,専用実施権として認める。そうしたら初めて専用実施権者が訴訟を起こせる。こういうふうにしていまして。ですから,専用実施権制度というのはガラパゴス島のトカゲみたいなものなのです。
著作権法の分野も似ているんじゃないでしょうか。出版権の設定といいますと,その出版権というのはだれにも複製させないという非常に強い権利で,それは登録しないと対抗要件が生じない。そうすると,ほかのそういう出版権を設定していない出版者はどうなるかというと,みずからの名においては訴訟を起こせないという,これが日本の著作権法の現状ではないかと思うのです。そこが私はおかしいように思うのです。ほかの国のように,独占的な色彩を帯びた利用権を持っている出版者であれば,だれでも訴訟を起こせる,差しとめ請求もできるというふうにしておけば,これまでずっと行ってきたような議論にはならないはずなんです。隣接権がなくたって,出版者はみずからの利益を守ることができる。出版権の設定なんてもちろん必要ないというようなことになるわけです。
ですから,我が国の著作権法の特殊事情という枠の中で我々は議論しなくてはいけないという窮屈さがあるのだろうと思うんです。私はかねてそういう窮屈さを感じ続けてきたのですけれども,ご参考までに情報提供ということで申し上げました。はい。
【大渕構成員】
ちょっと今情報提供があったので,ちょっと追加的情報提供ということになろうかと思いますが,その関係で先ほどいろいろ出ていた法的問題が強過ぎた何だというところにあまり今まで踏み込んでいなかったのは以下に述べるようなまた別の面があって,まさしく今年は平成23年なんですが,これは著作権の世界は今こういうふうに大きな動きがありますけれども,特許法の世界では50年に一度と言われている,いみじくも3月11日のあの地震の日の午前中に閣議決定された23年特許法大改正というのがあって,もう国会で成立しておりますが,そこの中では,50年に一度ぐらいの大きな変化があって,1つこれに近いものとしては,今までは通常実施権というのは普通に言えばこれは被排他的ライセンスでありますが,これは登録対抗制度で民法と同じような形で,登録しない限りは対抗できませんという制度だったのが,今年から大改正になって,当然対抗制度になってというのは,今議論しているところに一番近いところで,これなども教科書はすべて書きかえなければいけないほどの大きな,50年に一度から100年に一度ぐらいの大改正で,それで23年改正で改正し切れていない点が幾つかあって,あまり改正項目が多くて,若干先延ばしになっているものとして排他的ライセンス,先ほど座長が言及された専用実施権問題にも関係してきますが,それだけでもないんですが,そういうことで昭和34年法である特許法と昭和45年でしたかである著作権法でおよそ10年ぐらい立法としても差があるわけですけれども,議論としてはわりと学説でも特許のほうがライセンス関係でも先行しているところが大きいんですが,その特許のほうでは,もともと議論としては2年ぐらい前にやりました特許制度研究会というので昭和34年法をすべて見直しましょうということで,改正項目全部検討いたしまして,その中に入っていたのがこの排他的ライセンスについての差しとめ問題で,それは前向きの方向で今後検討していくということになっておりますので,今までだったら,債権者代位とかそちらのほうに持っていかないとできなかったことが今後は排他的ライセンスということであれば原則的に差しとめができるというふうな議論にもなっておりますので,そういうことも含めてこれはあまりここの辺で,今までの議論のところで細かいことでこれが有力だ,有力じゃないかとかという,改正できてしまったら,旧法事案になってしまうものですから,そこにあまり踏み込んでもしょうがないかと思って,私は法律家なものですから,そういうのを見るとすぐにコメントしたくなるんですけれども,それを抑えてきたのは,若干やってもしょうがないかと。
そういうこともあったりして,特許のほうでそういうことになれば,おそらく確実に著作権のほうにも一定のインパクトは。それこそ債権者代位とか言わなくても,排他的ライセンスだったら差しとめができるということになる可能性もかなりあるという状態にあるものですから,そのあたりも含めて今後いろいろ,その結果これにどう影響を与えるのかというのはまた別に,先ほど申し上げたような。ここでの権利がどういうものがというところが具体的に明らかにならない限りはなかなかうまく各論的な議論はできないかと思いますが,そういういろいろな動き。
私は知的財産法として先行しておりますので,特許と著作権というのは必ず一緒にやるものだと思っていると,世の中では,アメリカでは特許と著作権というのはプロフェッサーが必ず別れているらしくて,かなり切れていて,特許のほうの情報というのは必ずしも著作権のほうに来ていないのではないかと思いますので,そういう動きも。だからどうこうということではありませんけれども,そういう点も含めて今後いろいろ検討していく必要があるのではないかと思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにご意見いかがでしょうか。はい。
【金原構成員】
全く違う見地からの話なのですが,大昔から日本においては,やはり著者の先生方と我々出版者というのは切っても切り離せない関係で,結構仲よくやってきたというふうに少なくとも私は思っています。著作者の先生方とすれば,やはり出版者に期待して,そこの編集者と仲よくなった上で,いろいろな企画の話をして原稿をつくり上げていく。出版者も著者の人たちを信頼して,出版者の人間も企画づくりに関与することはたくさんありますけれども,基本的には著者の先生方にお任せして原稿をつくっていただく,書いていただく。その中で,もちろんこれは当事者同士が,権利とお金の絡む問題ですから,出版契約書のようなものをつくって,しっかり細かいところまで本来は取り決めて原稿をいただいて発行するという作業をすべきなんだろうと思うんですが,そういう不可分の関係であったことによって,出版権の設定,あるいは基本的な取り決めはするとしても,権利侵害が起きたらどうするんだとか,あまり細かいところまで取り決めないで,お互い信頼関係で結構出版事業というのは営んできたわけです。
これまでは紙だけでしたから,コピー問題も起きましたけれども,現在でも起きていますが,あまり大きな問題はなかったんですが,これがインターネットを経由してさまざまな形で流通するという状態になると,権利侵害も含めてさまざまな利用が考えられるわけで,しかし,では,この時点でここまで何十年も,あるいは何百年もやってきた著者と出版者の関係を原点に戻ってしっかり契約するという状況に既にないのが日本の現状だろうと思います。
でも,その日本の現状で,やはりいい企画が,いい出版物がたくさん発行されてきた。これは著者と出版者の連係プレーによって,日本は出版物も現在毎年7万点ぐらい,それ以上出ていますし,それによって多くの出版物が日本国民によって読まれ,それは少なからず100%識字率を達成したということに貢献しているだろうと思います。
それ以上に,やはり日本の活字文化というものがこういった出版者と著者の関係においてでき上がってきたわけで,それをこれからも維持していかなければいけないというふうに我々は考えています。
その中で,では,著作権の譲渡がどうのこうのということを今さら著者と話をするような環境ではないだろう。もちろんそういうことができるところはそれによってしかるべき印税の支払いなり,あるいは権利の保護というものをやるべきでしょうけれども,それよりはいい企画をつくって,いい出版物を発行するというのが我々,著者,出版者の役割だろうというふうに思っております。
ちょっと話が先ほどのところのところに戻りますけれども,やはりそういったことによって,発行されたものがだれかにスキャンされて,デジタル化されて,違法に利用されるということについては,やはり何らかの対応をとらなければいけないわけで,それは著者と出版者と守る上で非常に重要なことであるわけです。
そこで,我々が考えたことが出版者の権利の創設ということであって,これによって両方を守る。これは違法侵害している人には非常に不都合なことかもしれませんが,そういう人たちを守るべくもないわけで,やはり読者と著者と出版者を守る上で,この日本の長年の環境と慣行の中ででき上がったものをできるだけ壊さないで,著者との関係をいい状態に維持しながらいい出版物を発行し,電子書籍として流通させ,起こり得る権利侵害に対応するということについてのベストな方法が出版者の権利創設によって,著者の先生方がお持ちになっている権利を侵害しない範囲で電子書籍の発行を円滑化しようということに結びつけようというのが我々の考え方であるわけで,これはおそらく著者の先生方も否定されないのではないかと我々は考えております。
したがいまして,今後電子書籍というものを浸透させて促進するためには,やはりこの方法が一番弊害が少なくて,権利を守る方法として一番よろしいのではないかというふうに考えております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
権利侵害が起こったときに,期間を限定して,著者から著作権を譲り受けるというようなことはお考えにならないんですか。
【金原構成員】
そのときに著作者の方が同意され,かつその権利侵害問題が解決する期間に限定ということで,著作権の譲渡を受けることができるということであれば,その問題に限っては対応できるかもしれません。しかし,権利侵害というのはいつ何時どこの世界で起きるかわからないという問題がありますから,そうすると,やはりそれに迅速に対応するためには,出版者が権利を持った上で対応する体制にしておかなければならないのではないかと思いますが,多分それには著作者の方は賛成されないのではないかというふうに思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。はい,瀬尾構成員。
【瀬尾構成員】
今の金原さんのお話もあるんですけれども,雑誌協会と結んだ中では一定期間の著作権譲渡と結構踏み込んだことも実はしてきた経緯もあります。今侵害の面とかいろいろされていますが,実は私は権利侵害に対しての対抗措置としてこの問題を考えたことはあまりなく,それではなく,もっと前向きに電子書籍の促進という観点で考えていたというところがあります。というのは,実際国内の侵害に対しての対応というのは,実は今でもある程度の対抗措置はできているということもあるかもしれませんが,実際海外への対抗措置ということになると,また違ったお話になるのであろう。
ただ,私はやはり電子書籍の促進という意味で,今あまり促進されていない,去年あれだけ盛り上がっていたのが,実際に全然出ていないし,ばらばらだし,これは困ったことだと思っているんです。こういう要因の中でやはり出版者のインセンティブとか,それは非常に重要だろうと思っています。著作者は結構やる気満々な人がたくさんいますけれども,やはり先ほどから申し上げているとおり,出版者さんと著作者というのは比較的創作の川上にいて,そして一心同体に不可分の状態でやってきたのは事実です。ですから,そのために何かして,例えば促進策になればというふうなことが非常に重要であろうと思ってこれに関しては肯定的であるというふうにお話ししているところでもあります。
ただ,先ほどからたくさんの,例えば経済的検証とか,いろいろな検証が必要であるというように,これに関しては全社会的な中でこれを肯定するかどうかというのはまだこの場では,とても3回,4回でできることだとは思っていません。そこに関しても,それはやはりもっと広い範囲と次のステップが必要でしょう。それは金原構成員のおっしゃっているとおりだと思います。
ただ,ここである現実で,例えば里中構成員のおっしゃったような不安感も実際あるし,いろいろなことがあると思うんです。ただ,私は今回のこのまとめに関して,ここまでやってきたまとめですから,議論を今ここでもう1回始めるのではなくて,これまでの経緯をある程度きちんと反映した形にするとすると,やはり肯定の意味合いというのはもっと強くあったのではないかというふうな落としどころを考えていただきたいというのが具体的な話です。今ここでもう1回,今日もう1回話し合って,もう1回どちらかにしましょうとかって,それはまとめですから,この中に今まであったことをカラーリングとか書きぶりについて,やはりもう一度お考えいただくというふうなレベルで考えるべきであろうというふうには思っています。
今までの中で完全に全員が結論づけたとしても,先ほどご意見のあったとおり,正直これは完全説明責任を果たせるほどの議論を行っているわけではないです。データも出ていないし。それはこれからというお話であったのでと思うんです。だから,ここでは情勢的,態勢的な判断の中でそういう話をさせていただいているので,そういう結論,これまで話してきた内容は反映していただきたい。
ただ,ここでもっと踏み込んで,例えばどこまで書くかということになったときには,それはまたここでもう1回議論しなければならないし,今日1回では無理でしょう。だから,これまでの議論をある程度もう少し。ちょっと味気なさ過ぎる。すごくまじめに事務局の方が一生懸命書いていただいたのはわかるんですけれども,何か味気なさ過ぎるという気が私は率直な感じでしました。
ですので,ニュアンスを含めてもう少し書いて,いいという話も出たわけだから,そういうふうなことをきちんと書き足していただいたりしながら,報告書の中でもう少し読める部分を書いていただきたいかというふうには思います。このまとめの段階でもう1回初めから議論をし直すというのはちょっとナンセンスですし,限定ということについては,皆さんもきちんとわかっていることですから,このまとめに関して何らかの,もう少しこれまでの内容を反映させていただけるような。反映していないとは言いませんけれども,でも,やはりちょっと違うという感じがありますので,その辺をお願いしたところでまとめという形に持っていっていただければというふうに思いました。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは,片寄構成員。
【片寄構成員】
私も瀬尾構成員と同じ考えです。これまでの検討会議の内容がきちんと反映されたものにしていただきたいと思います。それに法律に詳しい構成員の方が,専門的なご意見をいろいろおっしゃりたい気持ちも分かりますが,突っ込んでいけば突っ込んでいくほど私などはその議論についていけてません。この検討会議でまとめるのは大きな流れ,方向性であって,法律の解釈や適正については,別な会議,ステップアップした会議の場で議論を深めていただくというのがいいのではないか。検討会議で細かな法律論を戦わせても,結局なじまないまとめ案になるような気がします。深い議論は次の段階でお願いできればと思っております。
【三田構成員】
1つだけ皆さんにご理解いただきたいことがあるんですけれども,日本の出版文化,文芸文化,漫画も含めて,これは世界的に非常にレベルの高いものであります。なぜそれが実現してきたのかというと,もちろん著作者は頑張って書いた,出版者は頑張って出版したということもありますけれども,制度としても出版者と著作者が信頼関係を築いてやってきたということがあるだろうと思います。例えば,本屋さんの委託販売制度みたいなものも貢献しているだろうというふうに考えております。
私が最初に今回の報告書を見て,えっと思ったのは,諸外国ではこうなっているというような書きぶりで,外国では著作権を出版者が持っていますというようなことが書かれているからであります。電子出版をこれから早急に実現するためには,何らかの権利を出版者が持っていないと,臨機応変に対応することができないということはもう動かしようのない事実だろうと思います。
今回の出版者の提案というのは,これまでの状況を踏まえた上での現実的な,非常に配慮の行き届いた,つまり著作者の権利をなるべく侵害しないように,なおかつ電子書籍のさまざまな問題を解決できるようにというぎりぎりの状況の中から生まれた非常によいアイデアだろうというふうに私は理解しております。でも,この非常によいアイデアに対抗する両論併記のようなところに外国では著作権を出版者が持っていますというようなことが書かれ,現にアマゾンが日本の多くの出版者に著作権を持ちなさいということを通達している現状を考えると,日本という国は非常に主体性のない国でありますから,外国に合わせようみたいなことをお役所の方が考え,弁護士の方も考えてしまうのではないかという危惧を持っております。
しかし,私は日本のやり方がこれまでの文芸文化,日本の出版文化を支えてきたんだ。黒船が来襲したからといって,簡単に外国のシステムに合わせる必要はないんだ。そんなことをしたら,肝心の文芸文化をこれまで育ててきたクリエイティブな要素がそこで根絶やしにされてしまうおそれがあるということで,この出版者のアイデアというものを評価したいというふうに考えております。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
今日のご議論,これまでの数回の検討の縮図のような印象を持ちました。このようなご意見がこれまで数回の検討会で出されてきたように私には思えます。
今日も含めましてそのような検討会全体の議論のまとめとしてどうするかというのが本日の議題になっておりますけれども,そうしますと,この報告書の原案に言葉遣いで多少角の立つところがあるというようなことは言えるかもしれませんけれども,大体の方向としては,骨組みとしては,権利付与について積極論もあれば,時期尚早論もあった。したがって,権利付与の問題については今後も検討を続けていく必要がある状況であるというようなこと,これが骨組みになるのではないか。細部についてはいろいろ工夫が要ると思いますけれども,骨組みとしてはそうではないかというようなことを考えておりましたが,それではやはりご異論ありますか。
【三田構成員】
今議長が言われたのは,私はそうではないというふうに思っております。例えば,5ページのまとめのところの2のところの下に線が引いてある「権利付与の可否について一定方向が明確に示されるまでには至っていない」というふうに断定的に書かれているわけでありますけれども,私はこの会議では何らかの形で一定の方向性を示さないと,会議のやった意味がないというふうに考えておりますし,この出版者からの提案に対して,では,この提案にかわるすごくいいアイデアがあるのかということを考えたときに,ただ何だかなと言っているだけで代案が全く出されていないわけです。代案のかわりに外国ではこうなっているという事例が書かれているだけで,そのことをもってして,「まだ明確な方向性が示されていない」という書きぶりに対しては,会議の推移を見守ったこれまでの私の感覚からしても正しくない。かなり強い方向性が既に示されているのではないか。そう思わない人がいるのであれば,全く反対意見を明確に述べて,代案を示していただきたい。代案が出ないのであれば,その方向性が示されていると考えてよいのではないかというふうに私は考えるんですけれども,議長はいかがでしょうか。
【渋谷座長】
私も先ほどの発言の中で表現において角の立つ部分もあるかもしれませんがと申したのは,まさにここのところでした。「一定の方向性が明確に示されるまでには至っていない」と言い切るのは少し言い過ぎであったか。これは金原構成員が最初に指摘された第3点でもあったわけです。確かにそのような印象を持たれる表現になっていますから,ここはもう少しこの数回の検討会の議論の縮図をそのままにあらわすような適切な表現にする必要はあるのではないかというようなことは感じておりました。
ですから,私は三田構成員のご意見と別に異なってはいないと思います。気持ちの上では同じだと思いますが。そういう感じ方の上に立って,この報告書のまとめ方としては,先ほど申し上げたようなことで,数回の検討会の討論の縮図を表現の上で正確にあわらした上で,そして,もう少し検討する時間が必要なのではないか。そんなことを言っているうちに電子書籍のほうはどんどん進んでしまって手おくれになるかもしれませんが,だけれども,実務界ではやはり合理性を求めていろいろ工夫をしていくわけですから,文化庁で法律的な措置を講じなかったからといって,実務のほうが変な方向に進んでいくという心配はおそらくないと思いますので,手おくれになったら手おくれになったで,役所の対応が少しおくれたということでしかないのではないかと思います。
ということで,今しばらく検討の必要があるのではないかというようなまとめ方ではいかがでしょうか。今日のご議論を伺っていると,それしかないような。はい,お願いします。
【金原構成員】
検討を継続することは私も必要だろうと思っています。権利の中身であるとか,著作者との関係,その他いろいろあると思うんですが,それは検討をさらにいろいろ継続していくことは必要だろうと思いますが,問題はこの検討会議の,多分これは次回ぐらいで終わりになるのではないかと私は思っていますが,そこへのまとめとしては,現に今日の構成員の方々の意見も,権利付与について肯定的な意見の方がほとんどであろうと私は理解しております。それは先ほど三田構成員もおっしゃったとおりだと思いますので,権利付与の方向性について一定の肯定的な見解であったということで,さらにその具体的な内容について検証することは必要だ。そういうまとめになるべきではないかと私は思います。
【渋谷座長】
ありがとうございました。しかし,権利付与の議論ばかりではなくて,やはり出版業界の自助努力に期待するというような意見もあったように思うんです。権利の一部譲渡のようなものです。ですから,権利付与について方向性が見えたというところまではなかなか言いにくくて,やはりそうではない,自助努力に期待するというような考え方もあったわけですから,そのニュアンスをどうあらわすかではないかと思うんですけれども。
【金原構成員】
自助努力というか,権利付与と並行して,さまざまな問題について対応するために著作者の方々と権利の譲渡も含めて話し合いをしていくということは必要だろうというふうに思います。しかし,それですべての問題が解決する,それというのは,つまり,著作権の譲渡ですべての問題が解決するということにはならない。つまり,著作権の譲渡についてかなり否定的なご意見をお持ちの著作者の方が多い現実を踏まえると,それでは問題が解決しないので,やはり権利創設というものが必要であろうというふうに思いますが,いかがでしょうか。
【渋谷座長】
わかりました。
【大渕構成員】
何かだんだんと終盤になった感じですけれども,ちょっと気になりましたのは,権利付与というのが何かもよくわからないんですが,これがおそらく隣接権的な権利の付与ということであれば,少なくとも先ほど前田構成員がおっしゃったように,出版権のほうの拡充という方法もあるんじゃないかというご意見があることも間違いないので,そういう意味では隣接権だけに集約しているかと言われると,自助努力とかいう話は別途ありますけれども,方法としては別のご意見が,今日出ているから今まで出ていないじゃないかという話は別にすれば,そういう点も含めて一本に集約し切れているというよりはまだ幾つかのものが並んでいるというような状態とは言えるのではないかと思いますが。
【渋谷座長】
ありがとうございます。はい,三田構成員。
【三田構成員】
確かにいろいろな方法がじっくり検討すればあるだろうと思います。ただ,この会議自体が,昨年の三省デジコンの要請に対応して流通促進をいかに実現するかということで話し合っているわけであります。これに対して著作権を出版者に与えるというようなアメリカ方式では困るということを私は最初から申し上げて,何とかそれにかわる新しいアイデアはないかというふうに申し上げてきました。
これに対して出版者さんのほうから,今ここに議題になっている提案が出されたわけであります。これ以外に出版権の問題というのは今日初めて聞いたわけで,適当な,こうやったら現実,例えば非常に短期間に問題が解決するというような提案が全くなかったということも事実でありますので,私の感覚からすれば,一定の方向性は見えてきたけれども,まだ細部については議論の余地があるというぐらいのニュアンスではないかというふうに思います。
そうでないというご意見の方がいらっしゃったら,では,どこがいけないんだ,どこに大きな問題があるんだということをご指摘いただきたいと思います。
【渋谷座長】
ありがとうございます。
【前田構成員】
今の三田構成員のご発言に関してなんですが,私自身としては,出版権の拡充という方法があるのではないかということは今日初めて申し上げたつもりではなくて,従前の議事録の中に,どこまで明確にあらわれているかどうかはちょっと定かではないんですけれども,今日初めて申し上げたという認識ではないです。もともと当初から出版権の規定の拡充ということはペーパーにも挙がっていたのではないかと思います。
それから,権利付与という言葉について,私自身の考えとしては,権利付与というものをもう少し広くとらえて,何らかの方策により出版者の立場なり権利なりの強化を図ることが必要ではないかということには,私は賛成です。ただ,それが,ちょっと先ほどの議論にもありましたように,隣接権の付与ということ一本にするかどうかというのは議論が必要かもしれませんが,大きな流れとして出版者が動きやすくするといいますか,出版者が迅速に侵害対策等をとれるようにする何らかの――何らかのと言うと,具体性を欠くというご指摘をいただくのかもしれませんが,何らかの方策を早急に講じることが必要であるということについては私も賛成でございます。
【渋谷座長】
まとめについてもいろいろご意見いただいているわけですけれども。では,瀬尾構成員。
【瀬尾構成員】
今前田構成員のおっしゃった,今非常にオール・オア・ナッシングで,ここへ来て,もう10分前でまたこの議論をもう1回始めるのはというのは大変なものがあるんですけれども,ただ,皆さんの中で出版者さんと著作者が一緒になってきた日本の出版文化に対して,これが不可分であって日本にとって大事である。これはもちろん皆さんも承知されている。そして,現状にかんがみて,出版者さんに対して何らかの措置が必要であるということに関しては皆さんも合意しているわけじゃないですか。少なくともそこまでは。これは異論が全くないところですよね。出版者さんはほっておいてもいいとか,出版者さんはあまり措置をするべきではないとかという話は私が出ている中で一度も聞いたことがない。
ということは,このまとめに関して,出版者さんに対して何らかのそういう措置が必要であるところまでは確実に書き込めますよね。ただ,その中で,例えば何らかの法的な措置を講じる,ここまで行けるかどうかということと,さらにその法的な中身がどうかというふうに徐々に詰めていってまとめにしないと,オール・オア・ナッシングで書こうとすると,ちょっと今の話で行くと,座長がすごく大変な感じになってしまうし,やはりまとまらない可能性が出てくるので,ここでちょっとどこまでどうしていくかについてはある程度話をして,ちゃんと書けるように少し最後のところでしませんか。そういうふうにコンセンサスがどこまでとれているかを追っていかないと,ちょっと私は今の議論だと多分あと2回ぐらいやらないときついような印象を受けたんですけれども,そういう方法というのはいかがなものでしょうか。
【渋谷座長】
権利付与の可否と言うから角が立つように思いまして,出版業界が置かれている現状について,各構成員とも同情を覚えたといいますか,その状況を深く認識したという,この点については明確になったように私は思うのです。ですから,権利付与の可否というところを少し変更するとか,そういうような工夫ではいかがなんでしょうか。
【片寄構成員】
今回の議論というのは,出版者への権利付与に関する事項というふうになって議論が交わされてきたので,出版者の置かれている状況ということで結論づけるのは違うかというふうに思います。
【渋谷座長】
状況のことだけ言いましたから,多分言葉が足りなかったので,その状況を深く認識し,出版業界の利益をどのように保障するか皆で議論して,そのことについて積極的な方向をとるということでは共通認識を得たというようなことなんですけれども。単に状況を認識しただけではなくて,これは大変だろうと皆が思って,何らかの工夫が今後必要になっていくだろう,その中には出版権の設定とかいろいろほかにもあり得ると思うんですが。それでは。
【別所構成員】
このまとめは4つ丸があって,2番目の丸だけでお話しされていますけれども,2番目と3番目がちゃんと組み合わせられていて,3番目のところにちゃんとした検討を行うことが適当というふうになっていますので,だから,みんなでそういう意見を集約しましたということだけではなくて,引き続きの検討がちゃんと必要ですというところまで書かれていますので,今座長がおっしゃっていただいた言葉とその3番目を組み合わせれば皆さんが考えていることと同じ結果になるのではないかというふうに考えるんですけれども。
2番目だけを読んでいると誤解されますけれども,3番目の丸もありますので,引き続きそこを一連として読んでいただくのがいいのではないかと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
【瀬尾構成員】
片寄構成員のおっしゃる権利付与の可否という部分はもちろんあると思うんですけれども,何らかの法的な措置が必要であるというような書きぶりまで踏み込めるかどうか。例えば先ほどの出版権の拡充と同じでいろいろなものを含むんだけれども,単純にぎりぎりまで攻めるとすると,現状のこういう状況をかんがみて何らかの出版者に対しての法的な裏づけが必要であるためにそれを検討するというような部分というのはだめなんですか。
【渋谷座長】
いろいろ工夫が必要だと思います。
【瀬尾構成員】
でもその文言に対して非常に皆さんこだわりがあるようですね。でも,どこかに落とさなければいけないとすると,今後またそれをネゴシエーションでやっていくというのではなくて,この場所でやはりある程度どこまで行けるのかというところで,例えば権利付与が必要であるというのは言えないけれども,いろいろな考え方があるとしたら,法的な何らかの措置が必要であるというところでするのか,それを検討するとするまでにするのか,その辺皆さんのご意見を募って何らかの落としどころにしないと厳しいんじゃないですか。
【渋谷座長】
法的措置云々のところまで踏み込むと,おっしゃったようにまたしばらく議論を続けなくてはいけなくなりますので,そこまでは言えないのではないか。もう時刻が過ぎておるのですけれども。
【瀬尾構成員】
私自身は皆さんのご意見をいただきたいところだと思います。
【渋谷座長】
はい。
【三田構成員】
出版社に権利を与えたらだめだというご意見は聞いたことはないんですが。なぜだめなんでしょうか。
【渋谷座長】
そうですね。だめだというよりは,ほかに選択肢があるのではないか。
【三田構成員】
だから,権利付与も含めて何らかの対応を検討しなければならないというところでは一致しているのではないかというふうに私は思いますので,この権利付与の可否についての前の,「一定程度の進捗が見られたものの」というと,進捗は見られたけれども,結局は進捗していないというようなニュアンスになってしまうところが問題だろうと思います。一定の進捗が見られ,権利付与の可能性も含めて一定の方向性が見えているというのが実際ではないかというふうに私は考えるんですが,見えていない,とにかく権利を出版者に与えてはいけないんだというような強い反対意見は一度も出なかったのではないかというふうに思いますが,いかがでしょうか。
【渋谷座長】
それはありません。
【三田構成員】
だからそのことをちゃんと書いてほしいと思います。
【渋谷座長】
そういう権利付与の要望が出ていたことは事実ですから,別に否定したわけではありません。
【大渕構成員】
時間も過ぎていますし,多分,これやり出すとまた第2ラウンドみたいになってしまうので,今出たところを踏まえた上で,座長になろうかと思いますが,ちょっと何か案のようなものを出していただいて,次回に議論するとかにしないと,このままエンドレスに続くとまた。大体の骨子,皆さんがおっしゃりたいところは大体今までのところで出たのではないかと思いますので,あとは角が立たない言葉というのか,結局はそこのところにかかってくるので,それを次回ですかに開かせていただいて,その上でやらないと,これ以上続けても深まっていくばかりのような感じがいたしますが。
【渋谷座長】
わかりました。それぞれの団体を代表して出席されている方ばかりですので,ご自分だけのご意見というわけにはいかないわけで,各団体に持ち帰ったときに,その構成員の皆さん方に納得できるような文章になっていないといけないだろうと思うんです。そういう文章をどのようにつくるかということですが,今日はもう時刻もまいったわけですし,今後事務局と私,あまり力にはならないんですが,一応形式的には私との間で文案を練って,次回の検討会,12月の検討会に提出させていただきたいと思いますが。今日のところはそのようなことでお許し願えますでしょうか。よろしゅうございますか。ご不満あるかもしれませんが,どうかそのように図らせていただきたいと思います。
それでは,そのようなことになりました。次回,まとめをさせていただきたいと思います。そして,次回の検討会には,これまでの検討事項1と2がありますね。それもあわせまして取りまとめの案をお示しした上でご議論いただきたいと思っております。
ほかに特段ございませんようでしたら,本日はこのあたりでお開きとしたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。かなり強引な運びをしてしまいまして,申しわけなく思っていますが,そのようにさせていただきたいと思います。
それでは,事務局から連絡事項がございましたらお願いします。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
長時間にわたりますご議論ありがとうございました。次回の検討会議におきましては,先ほど座長のほうからもご発言ございましたが,本検討課題の3つの各項目につきまして,検討結果を取りまとめました報告書案となる資料をお示しさせていただいた上でご議論いただければと思っております。
次回は12月21日と予定させていただいております。また詳細なことは決定しましたら連絡させていただきたいと思っております。事務局からは以上でございます。
【渋谷座長】
それでは,これで第13回の会議を終わらせていただきます。本日は大変ありがとうございました。

── 了 ──

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