第1章 特に望まれる12の構想 |
懇談会では,映画の製作,配給・興行,保存・普及と人材養成という四つの分野で議論を行ったが,それらを通じて特に望まれる方策として出された12の構想は,以下のとおりである。これらの構想については,今後更に十分な検討を加えていくことが必要と考えられる。
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1 すべての日本映画フィルムの保存・継承を行う制度の創設 |
国内で製作され公開されたすべての映画のポジ・フィルム(映写用の陽画フィルム)1本について,東京国立近代美術館フィルムセンター(以下,「フィルムセンター」という。)への納入を義務付けるため,必要な法規の改正等を行う。
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2 新たな製作支援形態の導入 |
国は,映画製作に対する支援形態として,人材養成の視点も含め,従来からの助成の充実を図りつつも,中長期的には,市場性のある劇場用長編映画に対しては,公的融資を導入し,民間からの投資を促進する。
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3 新映画流通市場の創設 |
国は,中小の映画製作会社や若手製作者,映画製作を学ぶ者の映画作品が低廉な費用で効率的に流通していくことを促進する新映画流通市場の創設を,インターネットの活用等により促進する。
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4 デジタル映像編集スタジオの整備 |
国は,中小の映画製作会社や若手製作者,映画製作を学ぶ者が低廉な費用で利用できる最新のデジタル編集機器等を備えたポスト・プロダクション(撮影後の加工・編集・調整などの仕上げ段階)のスタジオ整備について支援する。
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5 プロデューサー等養成のための大学院の創設 |
映画の企画から脚本の作成,組織作りから撮影,編集,完成,配給までを統括し,同時に製作に必要な資金調達から,作品の内外への売り込みまでこなせる,財務会計,契約実務等にもたけたプロデューサー等養成のための専門職大学院の創設に向けて,文化庁は協力を行う。
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6 人材養成機関の連合体の形成 |
映画人材の養成を行っている大学,専門学校などの機関が相互に連携し合い,施設・設備の共同利用や授業・講座の共同実施,大学間の単位互換等を進めることにより,我が国全体の人材養成機能を高めるため,人材養成機関によるコンソーシアム(連合体)の形成を図ることとし,文化庁は,このような動きを促進するため,拠点校に支援をする。
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7 出会い・交流・顕彰の場としての「映画の広場」(仮称)の創設 |
国等は,映画に携わる者,映画界を目指す者,映画鑑賞者などの相互の出会いの場を提供し,交流による啓発,知識伝承などの人材養成機能の形成を図るため,交流空間,展示空間,試写室,貸出機材,撮影環境と映画人材に関する情報等を備えた「映画の広場」(仮称)を創設する。
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8 地域におけるロケーション誘致の支援 |
国は,フィルムコミッション(自治体等を中心に設立されたロケーション(野外撮影)を誘致する非営利組織。略称:FC)の行う我が国各地でのロケーション誘致への取組に関し,規制緩和,歴史的建造物等の管理者に対する協力促進の働き掛け,許諾の指針作りや,FCの全国統一組織への支援,建造物等のデータベースの開設・運用などを行うことにより,支援する。
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9 非映画館を活用した上映支援 |
国は,映画上映に係る地理的偏在の是正,上映作品の多様性の確保,鑑賞者の便宜などを図るため,映画祭や上映会などにおける公立文化施設,公民館等の非映画館の積極的な活用を図るための上映支援を行う。
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10 子どもの映画鑑賞普及の推進 |
映画に親しみ鑑賞する素地を培い,同時に生涯にわたって主体的に鑑賞しようとする態度を育てるため,教育委員会や学校は,学校教育・社会教育を通じて,子どもに映画鑑賞の機会を提供することが望まれる。具体的には,学校の教育活動における教材として映画の活用を促進するとともに,上映事業の誘致や実施により,子どもたちが映画を鑑賞する機会を容易に得られるよう配意する。
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11 海外展開への支援 |
日本文化についての国際的な理解を増進すると同時に,映画製作費用回収を容易にすることを目指して,日本映画の海外展開を支援するため,海外映画祭の出品に係る字幕作成やプリント複製への助成,我が国における国際映画祭への支援の在り方の検討を行う。
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12 フィルムセンターの独立 |
フィルムセンターが我が国唯一の国立の映画に関する専門機関として,真にその役割を果たすため,今後,映画にかかわる内外の窓口という本来的な機能を高めることはもちろん,上記の方策等の展開に即して,(1)保存機能,(2)普及・上映機能の抜本的拡充とともに,(3)人材養成機能,(4)製作支援機能を新たに担うことが必要である。
フィルムセンターは,現在は,独立行政法人国立美術館に属する四つの美術館の一つである東京国立近代美術館の附置施設である。しかし,これらの機能を果たすには,その組織を改組,拡充することが必要であり,東京国立近代美術館から独立させることも視野に入れるべきである(独立の形態は,種々の形態が考えられる。)。
その際,映画を含み広く「メディア芸術」として,漫画,CGアート(コンピュータその他の電子機器等を利用した芸術),ゲームなども保存や普及・上映の対象として取り扱うべきか,これまで通り「映画」(アニメーション映画を含む。)に特化すべきかについては,テレビ映像等への波及も念頭に置きながら今後の課題として検討する必要がある。
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以上のような構想を推進することの背景は,以下のとおりである。
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第2章 検討の背景と基本的方向 |
第1節 背景-映画の今日的意味- |
(総合芸術としての映画) |
1 |
映画は,それまでの芸術とは異なり,文学や演劇,音楽,美術,建築等の諸芸術を包含する総合芸術である。また言うまでもなく,映画は,メディア芸術の原点であり,百年を超える蓄積を有する映像表現の中心である。 複製し大量に頒布することが可能な映画は,それまでの芸術では想定できないほど広範な層の人々の視聴を可能とした。このことから,多くの劇場と映画会社が作られ,そこで多くの作品と人気俳優が生まれ,映画は大衆から熱い支持を受けてきた。こうして映画は,娯楽的な商品であると同時に,時代の折々の感情や思想を含み込んだ文化的な所産であるという,二面性を獲得している。 映画は,ある時代の国や地域の文化的状況の表現であるとともに,その文化の特性を示すものである。
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(国民生活における映画) |
2 |
近年の経済の停滞により,国民生活においても,予期し得ない困難や苦境を強いられる局面が少なからず出現している。そのような状況の中にあって,暮らしの中での喜びや励ましを求める場合,幅広い世代に対して,映画は極めて有効なメディアであるということができる。映画は比較的身近な場で鑑賞が可能であり,優れた作品が与える感動は,心の糧となり明日への活力となるからである。一方,急速に高齢社会を迎えた我が国では,中高年のレクリエーションや生涯学習,またそれらを実現する場・機会なども重視されるようになってきている。 そのような場・機会として,映画鑑賞は有益な体験を与えてくれるものである。映画は,鑑賞者に対して様々な感動や安らぎ,楽しさを与えるとともに,見知らぬ世界を疑似体験させることにより,様々な興味と関心を喚起してくれるものだからである。中高年においては,青春時を過ごした時代の映画を改めて鑑賞することで,自らの人生を振り返り,心のいやしを得ることもできる。
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(IT時代の有力映像作品としての映画) |
3 |
IT(情報通信技術)の進展に伴い,取り扱われる映像作品の中心は,次第に双方向型のものへ移行していくこととなるが,現在の映画等の映像産業は,未来の最重要コンテンツを生み出す母体であると同時に,それ自体,将来にわたって根強く作品価値を維持していくものと考えられる。 映画,すなわち,大スクリーンで他の鑑賞者と体験を共有しながら鑑賞する定時間単方向映像コンテンツは,現代の多様な映像作品の中で最も基礎的なものであると同時に,最も応用性の高いものである。我が国のコンテンツ生産力を考える時,優れた映画を生み出す力が持つ意味は今も,そして将来にわたっても大きい。 そのような意味で,現在製作されている映画・映像作品はもちろん,過去に作られた膨大な量の映画・映像作品も新たな価値を帯びて見直されてくることとなる。フィルムに刻み込まれた映像を広く収集し,後世のために保存していくことが,より重要度を増していく。そこに集められているのは,我が国の様々な芸術を総合し,映像として表現した固有の文化であるからである。 加えて,それらの映画・映像作品は著作権によって保護される知的財産であり,その製作を積極的に支援することにより,知的財産価値を創出し,それを世界に向けて発信することが,知的財産戦略の一翼を担うこととなる。
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(海外への日本文化の発信手段としての映画) |
4 |
東西の冷戦構造が終焉したことによって,民族や文化,宗教の違いに根ざす様々な問題が顕在化し,今日世界の各地で対立や紛争が頻発する事態となっている。その問題がいかに根深いものであるかをあかす例には事欠かない現状であるが,そうであればあるほど,相互の文化を理解し尊重することが求められていると言える。また,米国映画を世界に発信することで,米国文化がどれだけ世界に浸透し,米国発の商品流通にどれだけ効果的であったかを考えれば,海外発信手段としての映画の能力の大きさを理解するのは容易である。その意味で,映画は我が国の伝統と今を世界に発信し,国際間の相互理解を促進するための,言わば「顔の見える日本」を築くための極めて有効な媒体である。
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(国の映画振興策) |
5 |
今日,映画は上に述べたような多様かつ大きな意味を,国民全体に対して持っている。そこで,国は,映画の振興のために,映画フィルムの保存,製作支援,国内外での上映支援,中心的拠点の整備などについて,迅速かつ積極的な措置を講じる必要があると考える。
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第2節 今後の映画振興の基本的方向 |
(自律的な創造サイクルの確立) |
1 |
日本映画の振興のためには,日本映画の創造活動を活性化させ,多様で優れた日本映画作品の生産を継続し得る製作と上映の創造サイクルの確立を目指すことが基本である。 このため,国は,映画製作者の自助努力を阻害しないよう配慮しつつ,映画の産業的側面も考慮した製作支援策,上映支援策等を講じるべきであるが,一方,興行収入から製作者に対して適切な収益配分があることが,映画の拡大再生産の推進,そして自律的な製作と上映の創造サイクルの確立のためには必要不可欠であることも指摘されている。 また,海外は,上映のための映画配給のみならず,ビデオ等の販売等による二次利用についても巨大市場であることから,日本映画の海外展開を国が支援することは,日本映画の継続的な製作を可能にし,我が国映画産業を発展させるために必要なものである。
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(人材養成の重要性) |
2 |
日本映画をより優れたものとし,世界市場での競争力を高めていくためには,(ア)日本映画のかじ取りができるようなプロデューサー,(イ)若手監督,シナリオ作家,製作従事者,実演家等,(ウ)デジタルによるポスト・プロダクションを担う人材,の優れた個性や才能を早期に見いだし,国際舞台で活躍できるようなプロに育てるとともに,(エ)海外に日本映画を展 開する人材,(オ)普及上映活動を担う人材などの養成が求められている。
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(映画フィルムの保存・継承) |
3 |
フィルムセンターは,我が国唯一の国立の映画に関する専門機関であり,かねてより映画文化振興の中枢となる総合的な映画保存所を目指しているものの,劇場公開された日本映画のフィルムの半分も収集・保存できていない状況にある。 近年公開された日本映画のフィルムは,ほとんどが製作会社において保存されているが,保存のための負担は一企業としては重く,このままでは修復不能に陥るフィルムも発生し得るため,我が国の文化遺産保護の観点から問題である。このため,国は,国内で製作され公開された映画作品すべてを文化遺産として位置付け,責任をもって保存・継承を行う必要がある。
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国は,以上のような映画振興の基本的方向と映画産業の営みの実態を踏まえつつ,製作,配給・興行から,保存・普及,人材養成までの全体の課題を視野に入れた総合的な振興方策を,関係各方面と連携して講じるべきであり,同時にそれを推進する機関を整備すべきである。
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第3節 検討の経緯 |
(経緯) |
1 |
映画に関しては,文化庁に置かれた懇談会において,これまでにも「映画芸術の振興について」(昭和63年),「映画芸術振興方策の充実について」(平成6年)と2度にわたり報告が出され,その中の施策は適宜事業化され,一定の成果を上げてきている。 その後文化行政に関する状況の変化として,平成13年1月には,行政改革の一環として中央省庁の再編が行われ,同年12月には文化芸術振興基本法が制定された。同法においては,「国は,映画,漫画,アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術(以下「メディア芸術」という。)の振興を図るため,メディア芸術の製作,上映等への支援その他の必要な施策を講じる」と規定されている。 これらの動向を受け,本懇談会は14年5月に文化庁長官の裁定により開催されることとなったが,実施に当たっては,文化庁のみならず,総務省,文部科学省,経済産業省,国土交通省等関係省からの参加も得て,省庁別の行政分野に拘泥することなく,国として取り組むべき施策の検討を行った。すなわち,映画の製作,上映等が文化活動であるとともに産業活動であることを正面からとらえ,映画界の構造や枠組みも見据えて,横断的な視点から議論を進めてきた。また,映画振興の原点は,映画界としての自主努力であることを再三確認しつつ,その自立・発展を下支えするために国がなすべきことは何かという観点を明確にして検討を行った。 本懇談会は,第1回から第4回までの会合において,主に諸外国の映画の現状及び振興施策について有識者からヒアリングを行い,それに関する討議を行い,その後9月から2か月間は,本懇談会の下に,「人材養成」,「製作」,「配給・興行」,「保存・普及」をテーマとする四つの分科会を設置し,それぞれ3回ずつ計12回の集中討議を行った。そして,各主査において各分科会報告が取りまとめられ,同年12月12日に行われた第5回会合でそれらの報告が行われた。 この中間まとめは,それら分科会報告を基に現時点で整理した振興構想案に,映画を,取り分け国が支援する考え方を加え,今後映画関係者等の意見を聴くため,取りまとめたものである。
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2 |
映画の振興方策の実現のためには,文化庁・文部科学省,総務省,経済産業省,国土交通省など関係府省,映画・映像の関係機関・関係者の努力はもとより,ジャーナリズム,さらには国民各層の幅広い理解と支援が不可欠であり,広く関係者において,映画振興への取組が一層積極的かつ具体的に展開されることを強く期待したい。特に,フィルムセンターには,我が国で唯一の映画専門機関として,大きな期待が寄せられていることから,その期待にこたえられるよう文化庁をはじめとする関係者の着実かつ強力な支援を願うものである。
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