映画振興に関する懇談会(第7回)議事要旨

1. 日時 平成15年2月5日(水)13:30〜16:00

2. 場所 東海大学校友会館 「阿蘇の間」(霞が関ビル33階)

3. 出席者
(協力者) 高野座長,横川座長代理,飯田,大林,岡田,児玉,阪本,迫本,新藤,鈴木(代理 原田),砂川,関口,髙村,中谷,奈良,長谷川,福田,北條各委員
 
(文化庁) 河合文化庁長官,銭谷文化庁次長,寺脇文化部長,河村芸術文化課長,坪田芸術文化課課長補佐,延原美術学芸課美術館歴史博物館室室長補佐,大場東京国立近代美術館フィルムセンター主幹,佐伯同センター主任研究官,生島同センター主幹補佐 外
 
(関係省) 境経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課課長補佐 外


4.概要
(1) 配布資料の確認があり,前回の議事要旨について意見がある場合は,明日中に事務局に連絡することとした。
(2) 「映画振興に関する懇談会 中間まとめ」の公表について,資料3「映画振興に関する懇談会 中間まとめ」を基に説明が行われた。
(3) 高野座長より,岡田茂株式会社東映相談役の経歴・現職の紹介があり,その後,岡田茂株式会社東映相談役より以下のような説明をいただいた。
[以下,◎:説明者,○:委員,△:事務局]
(保存について)
特に望まれる12の構想とあるが,色々と問題はある。ライブラリーを作って,全ての作品を保存するというのは,難しいことである。映画製作者連盟傘下のメジャー各社なら,金銭的に問題はなく,話し合いはつくと思うが,インディペンデントの製作会社もあり,問題は多い。保存するとなると何本,誰が誰の資金で保存するのかという問題,誰にどのように保存している作品を見せるかという問題がある。
特に後者は,商売的なものが絡むため,非常に問題になる。
また,何を基準として保存をするのかという問題もある。従来のような審査委員による選考になると,審査委員というものは大概選ばれる人が決まっており,商業的な映画は選ばないなどの傾向があるため,問題である。しっかりとバランスを持って選考できる委員を選ばなければならない。国際映画祭になると,必ず審査委員でもめる。公平な委員長を置かなければならない。ライブラリー一つにしても,しっかりとこのような問題点を考える必要がある。
(製作支援について)
  製作支援形態の導入とあるが,1本当たりいくらか補助をするということは文化庁でも現在行われている。しかし,この作品の選び方にも審査委員の問題がある。選ばれた作品がなぜ映画館等で上映されないかと言われるが,興行が悪いのではなく,興行が満足するような優れた作品を選んでいないのである。一方的に興行形態が悪いと言うべきでない。しかしプロが売れると思った映画も売れないのがこの世界である。
(上映について)
  映画流通市場に関して,戦後にも色々な例があった。フィルムを持ち歩いて上映されるよう,小さな劇場や公共施設等関係各所をまわるなどしている団体もあった。今,公共の施設などは地方にこそ大きくていいものがあり,これらの連携なども考えるべき。だが徐々に廃れ始めている。お客が入らないということで住民から苦情が出たりしており,今はお客が入る,入らないまでを考える必要がある。
(デジタル映像編集スタジオについて)
  デジタル映像の編集スタジオについては莫大な資金が必要である。アメリカにできて日本にできないCG等は,設備によるところが大きいこともある。しかし,1社で設備を整えることは,大手の映画製作会社でも難しい。設備は高いし,新製品のサイクルが早い。そこで,一つのスタジオを各社で使えるものを作るという案もあるが,問題はその利用である。
(人材養成について)
  プロデューサー養成のための専門職大学院を作るという案は,非常によい。昔,このようなものを作るという動きがあったが,問題はいかに指導者を集めるかということであった。かなりの実力者でないと養成所は成り立たない。養成所を実際に立ち上げるのなら,まず誰を指導者とするかを考えなければならない。また,学校側が生徒の卒業後の進路をおろそかにする傾向があるが,それでは養成所の意味がない。
今村学校(日本映画学校)はその点,よく映画界に貢献した。卒業生がインディペンデントの製作会社等で活躍している。今村学校の成功の秘訣は,学校内に多くの映画のプロがいたということであり,彼らが人材養成に本気で取り組んでいたことである。実際にプロデューサー養成のための専門職大学院を作るなら,それに本気で取り組む映画のプロが必要になる。また,プロデューサー養成は監督やシナリオライター養成よりもはるかに難しい。
(ロケーション撮影について)
  ロケーションの誘致については,東京都がロケーション撮影をできるようにしたが,これは大きな一歩である。
(非映画館を活用した上映について)
  非映画館を活用した上映支援だが,非映画館で活用できる施設があればいいが,いつまでも従来型の映画館でしかできない。今後は,デジタルに対応できるような施設でないといけない。しかし一方で,永久にアナログは変わらないと考えている人もいる。難しい問題である。
(フィルムの保存について)
  映画フィルムの保存については,商業用には使わない,保存先で活用するのみであるという前提にしなければならない。また,全ての製作会社が適応できるような仕組みを考えなければならない。
海外見本市へのブースの出展は昔,日本貿易振興会(JETRO)が支援してくれたが,最近はなくなってきている。
何ができるかということに注意して考えると,全部できないというものではない。これはできるというものをまとめて,それを最低限行うべきである。
また,文化庁の支援があればできるというものについても,積極的に行っていくべきである。
中間まとめの提言以外にも,吹き替えの人材の養成,著作権等の問題がある。
今の映画の人材の危機感について聞きたい。養成所で育った人はどうも頭でっかちな人が多く,撮影現場での辛さや,製作予算を守らなければいけないという現場の状況を理解しながら若手は育てられるべきだと考える。
昔は学校をでていようといまいと,徒弟制度というものがあって,カメラマンは名カメラマンの下について,怒られながら育った。照明もシナリオライターも同様であり,徒弟制度の下で多くの映画人が育った。倉本聡も現場で助監督をしながら,シナリオの勉強をした。シナリオライターでも,現場を知らないといいシナリオは書けない。そうやって現場を勉強し,倉本映画が生まれた。どんな映画人でも初期はこのような徒弟制度の中で育ってきた。シナリオライターは作家希望で,大学出が多く,シナリオを書かせるとそれなりのものは書く。しかし実際に現場を知らないと,使えるシナリオは作れない。
実際には,色々と現場でもまれて,育ってきた現場主義のプロデューサーが少ない。現場で助手の経験もなく,頭で考えるだけのプロデューサーが多く,くだらないことで意見がぶつかる。今後のプロデューサー養成に当たっては,大学院を卒業した人を現場でどうやって採用させるかを考えないと,大学院で学んで映画界に入れない人もでてくるのではないか。
監督希望で入ってきても,管理職に向いている人もいる。シナリオライターも同様であり,夢が必要である。人材養成は難しい問題である。
中間まとめの中でできそうにないものは外して,できるものから行っていくべきという話だったが,賛同できる。
今回の話を聞いて,プロデューサーは育てるための一つのカリキュラムを作って,大学院の中で養成できるようなものなのかという疑問がわいた。映画の仕事を通して能力や感性のある者が自然にプロデューサーになる,映画の外の世界で才能を持っている人が映画に興味をもち,その能力を生かしてプロデューサーになるというものではないか。はじめから社長を育てるコースなどはなく,専門知識を学ぶ過程でプロデューサーになるのではないか。
その通りである。プロデューサーは育てるものではなく,生まれながらにしてプロデューサーとしての才能があり,それを自覚してはじめて育つものである。また,勘の世界でもある。才能がない人間にはできないし,あえて言えば勘だけでもできる。
成功したプロデューサーの中には色々な人がいるが,スタッフにすごいと思わせるような人でないとプロデューサーは務まらない。
(4) 休憩をはさんだ後,高野座長より中村雅哉株式会社日活代表取締役社長の経歴・現職の紹介があり,その後,中村雅哉株式会社日活代表取締役社長より以下のような説明をいただいた。
今回の中間まとめは現場からの生の声も踏まえており,すばらしい提案である。2年前に,映画は文化財であるのだから国が保存するべきであるという話を文化庁に持っていった時は,文化財は100年経たないと認められないので,難しいということだったが,2年間でここまでスタンスが変わった。早い措置を取っていただき,感謝している。
私は会社経営において人間は遊ぶものとの人間観,21世紀は精神のものとの未来感という考えの下に取り組んでいる。
また,産業はよく第1次産業,第2次産業,第3次産業と分けられるが第3次産業の中でも知恵を使うものを第4次産業,情報産業を第5次産業,そして意志の産業を第6次産業であると考えている。これらは上に行くほど高付加価値を生み出す。
映画は各国の文化を表す。これを振興していくことは国として重要である。映画業界として,負けないような仕組みを作っていくことが重要である。
本懇談会の中間まとめをまとめると,新映像都市的なものを作ることだと感じる。現在,横浜が新映像都市構想を進めており,国立撮影所を中核とする文化発信拠点を作ることを理想と考えている。しかし,国立撮影所でなくても各社が共同で使えるような撮影所を中心としたものでもよい。
中間まとめの中の?デジタル映像編集スタジオの整備,?プロデューサー等養成のための大学院の創設,?人材養成機関の連合体の形成,?出会い・交流・顕彰の場としての「映画の広場」(仮称)の創設,?地域におけるロケーション誘致の支援,?子どもの映画鑑賞普及の推進,?海外展開への支援,?フィルムセンターの独立,はそれぞれ効果が期待できる。?については,海外での人材養成機関の状況把握として調査チームを派遣している。?デジタル映像編集スタジオの整備については,デジタルアーカイブの普及も含まれると思う。国内で慶應義塾がイギリスのケンブリッジ大学と協力してデジタルアーカイブ化を進めている。デジタルアーカイブ化は多くの研究者に情報を流すのに,大変有用である。今後,文化庁において協力を望む。
新映像都市について,撮影施設を持っていればいいということだったが,お台場に映画製作を総合的に支援し,人材育成も行う施設を作る話を聞いた。この設立に2000億円かかるそうだが,今でも撮影所経営は大変であり,同じようなものが2つできると,効率的でないと考えるが,新映像都市とお台場の施設を共同で作ることはできるのか。
共同で行うことはやぶさかではない。ただし,お台場の施設の構想が共同で行うべきものかどうかについては疑問を持っている。
国としてこういった撮影所の動きについては,民間と協力していくのか。
新映像都市の動きなどについて詳細は把握していないが,映画製作に当たって支障となっていることを解消していくために,官民がどういった役割分担をしていくべきかを整理させていただきたい。
国としてはこのような民間の動きも配慮していくのか。
当然配慮していく。基本的に民間が主導で,国は民間では足りないところを補っていくということでないといけない。優れた映画がどうすれば多くできるのかということが目的であり,そのための手段を色々と組合せ,手段が目的になってしまわないよう,この提言の実現に取り組んでいきたい。
それでは国の積極性というものはどこにあるのか。
何も国が消極的にあるべきということではない。ただ,積極的に国が行うからといって,国が行う方向に進んでしまわないようにしなければならないということである。
撮影所を新たに作ったほうがいいという話はこの懇談会でもあったが,新たに撮影所を作るのなら,これから日本映画がどういったシステムの中で作られていくかを視野に入れないといけない。
また,デジタルにおいては機器が非常にめまぐるしく変わるため,新たな撮影所に設けるとしても,若干の支援が国から必要ではないかと考える。
国立撮影所については,中間まとめに組み込むか組み込まないのかの話があった。現に国立の撮影所を作ることは悪いことではないが,優先度の問題がある。今重要なのは足元を見て,何を改善していくか,現状をどうするかということである。
新映像都市建設を自分としての最後の仕事と考えている。資金についても目途はついている。また,ゲームも映像であり,ゲームでの映像のノウハウの蓄積もあるので,必ず新映像都市を成功させたい。
撮影所の問題を中核的なものとしてみなさんが捉えているようだが,外国における撮影所の現況調査の他に,我が国の撮影所における現況調査資料も含めて勉強を進めていくことが必要と考える。
中間まとめにこの撮影所の問題が抜けていることは,今現在の映画界の問題を鳥瞰すると,やや不足している感じを受ける。撮影所が国立であるかどうかは別として,この懇談会として新映像都市のような民間の動きを支援していくといった書きぶりがあってもいいのではないか。
一度話を伺ったのみで出資者の構成も知らないが,先ほどのお台場の施設は「スタジオシティ・東京」という名称で,野村総合研究所などで企画をしていると聞いており,そのような話があることは事実である。
人材養成所について,エリートのみを育てていくのではなく,底辺を広げていくことが必要と考える。
また,現場と離れた組織を作っても仕方がなく,経験に裏打ちされたものを作っていかないといけない。
今朝の東京新聞に日本の国内総生産を上げるためには,オペラハウスに通うような国民性を育てないといけない,という記事があったが,今の中村氏の話と合致する。
新たに撮影所が作られていくことはいいが,今までの撮影所で培われた技術等が伝承されていかないと,ただの箱になってしまう。このようなものをどう伝承させていくつもりなのか。
撮影所で培われてきた技術は大変重要であるが,年月が経つにつれて徐々に減ってきている。しかし,そうのような技術が失われないように,ナムコでは他の施設等で技術を活用したりして,技術の保存を心がけている。
また,映画を1本作るのは,採算が合わないことが多く,映画の二次利用,三次利用までも考えていく必要がある。
次回は,映画監督の新藤兼人氏と映画関係者・映画関係団体からのヒアリングを予定している。
(以上)
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