映画振興に関する懇談会(第9回)議事要旨

1. 日時 平成15年2月26日(水)15:00〜17:00

2. 場所 東海大学校友会館 「阿蘇の間」(霞が関ビル33階)

3. 出席者
(協力者) 高野座長,横川座長代理,大林,岡田,小田島,阪本(代理:成田),迫本,新藤,鈴木,砂川,関口,髙村,司,中谷(代理:田井),奈良,長谷川,福田,北條各委員
 
(文化庁) 河合文化庁長官,銭谷文化庁次長,寺脇文化部長,河村芸術文化課長,坪田芸術文化課課長補佐,富岡美術学芸課美術館歴史博物館室長,大場東京国立近代美術館フィルムセンター主幹,佐伯同センター主任研究官,生島同センター主幹補佐 外
 
(関係省) 境経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課課長補佐,井上国土交通省総合政策局観光部観光地域振興課専門官
 
4.概要
(1) 配布資料の確認があり,前回の議事要旨について意見がある場合は,明日中に事務局に連絡することとした。
(2) 高野座長より,日本映画・テレビ美術監督協会理事の横尾嘉良氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
[以下,◎:説明者,○:委員,△:事務局]
中間まとめを読み,日本の映画を振興させるための課題・問題の多さに愕然としている。現在,大手の映画製作会社は映画製作に消極的であり,映画スタッフとしてはつらい状況にある。来年度の文化庁の映画に関する予算は17億円ほどであると聞いたが,文化庁からの援助はどこまで受けられるのかが気になる。
「夜をかけて」という単館上映の映画があったが,この作品は美術の面からも優れた作品であり,日本映画テレビ芸術協会美術賞にもノミネートされた。しかし,審査用フィルムのプリントがないため辞退するということがあった。こういう出来事が私の周りで起こっていることを考えると,中間まとめの12の構想にある「1 すべての日本映画フィルムの保存・継承を行う制度の創設」という提案には賛成だが,フィルムのプリント代は納入者側の負担になるのかなど,コスト面における具体的な案の提示をしていただきたい。フィルムセンターにフィルムを保存して財産を守るということは分かるが,このコストの面を考えないと実効性の無い施策になる。
映画製作における美術は,スタッフの中でも「金食い虫」と言われる。そして予算がなくなると,最初に美術経費が削られ,スケールの小さな作品になってしまう。映画というものは,様々な意味で贅沢なものであり,贅沢さが求められるものである。余裕を持って作らないと,贅沢な作品はできてこない。
現在の日本映画には余裕がない。製作本数が減っており,映画製作者が優れた作品製作に携わる機会が減っていることが一つの理由として考えられる。昭和30年には年間10本もの映画製作の仕事があり,この経験が現在の私の基礎となっている。現在の若い人にはこういう経験の場というものが全くないことが,余裕の無さにつながっている。学生の作品などを見ると,もう少し資金や時間があれば優れた作品になると感じる。
「眠る男」という作品を担当したときに,若手を中心にスタッフを組み,スタジオの設計から編集まで全てを行うという,昔の映画の撮り方で作品を作った。若い人もこの方法で映画を撮り終わると,達成感,充実感を感じることができ,映画として非常に贅沢な作品に仕上がった。
鑑賞に耐えうる作品を作ることが重要であるという提言が中間まとめにあるが,そのためにはどのような作品作りをするべきかを考えると,この「眠る男」のような作品作りをすべきである。
以前,フィルムセンターで昔作成された「私を捨てた女」という作品を見たが,贅沢さのあるすばらしい作品であった。
イラン等の物質的に貧しい国でも内容的に贅沢な映画が生まれてくるのは,スタッフが充実しているからである。
映画はIT時代の知的財産として重要だという記述があるが,IT技術の進展は,鑑賞者のみならず製作者にとっても大変重要である。映画をデジタル化する場合,製作者はスクリーン上映を想定して製作しなくてはならず,それだけIT技術に通じている必要がある。
「5 プロデューサー等養成のための大学院の創設」,「6 人材養成機関の連合体の形成」については,今まで現場で培ってきた技術をいかに継承していくかが問題である。
1949年東京芸術大学が設置された際,「近く芸術の総合大学になるだろう」と当時の学長が言っていた。それにはもちろん映画・映像・舞踊も含まれるということだった。しかし現在,東京芸術大学には美術・音楽学部しかない。現在は先端芸術科というものができ,映像学部を5年後に設置するために映画関連の講座を開いているが,本当に映像学部が設置されるか疑わしい。
これを考えると,「5 プロデューサー等養成のための大学院の創設」,「6 人材養成機関の連合体の形成」の実現には何年かかり,どれほどの実効性があるか疑わしい。
中間まとめの提案はどれも重要な事柄だが,10年前と現在の文化庁が行おうとしている事になんら変わりがない事を考えると,現場の期待は薄い。映画業界は10年前と比べて何一つ改善されず,逆に悪化している。
この中間まとめの提案を一つも空論で終わらせないよう,一日も早く具体化する方法を考える必要がある。
懇談会で海外の撮影現場の調査に行ったそうだが,国内でどのような環境で映画が製作されているのか,現場の状況を調査してほしい。
フィルム保護のための納入にかかるコストは,納入者負担ではなく,国が補償する制度をとるべきという提言が分科会ではあったが,中間まとめでは分量の関係もあり,割愛している。
「私を捨てた女」と「眠る男」の製作費全体に対する美術経費の割合と,美術経費の割合の平均値との割合はどれぐらいなのか。それと,製作現場において資金以外のことで,どのような問題点があるか。
美術監督は予算の掌握がされていなかった。「私を捨てた女」「眠る男」共に全体の15〜20%である。一般に20%あればいいほうである。平均値もその程度である。美術経費が全体の30%に上るというのは,美術がその映画の売りでもない限り無理である。
資金不足の問題は避けられず,製作が長期に及ぶ場合,初めにロケをセットしてしまうと,美術監督を拘束する資金が不足するという事態になってしまう。
(3) 高野座長より,財団法人デジタルコンテンツ協会エグゼクティブプロデューサーの村上 慧氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
財団法人デジタルコンテンツ協会ではコンテンツ産業の支援として,企画調査事業,人材養成,国際交流等の事業,コンテンツ事業の事業化の推進を行っている。
12の構想の「9 非映画館を活用した上映支援」というのがあるが,財団法人デジタルコンテンツ協会では平成13年から「デジタルコンテンツ地域上映事業実証試験」を実施している。これはコンテンツによる地域上映を推進していくプロジェクトであり,地域住民に会員になってもらい,プロジェクターを貸し出し,上映を行っている。
現在,この施策は地域の活性化に結びつく上映や学校教育の一環として非常に期待されており,中間まとめの「9 非映画館を活用した上映支援」の一環として組み入れることができる。
フィルムの保存に関しては,現在NHKアーカイブスでおよそ8万本の番組をデジタル化しようとしているが,テレビ草創期の番組は残っておらず,NHKでは悔いを感じている。フィルムを保存する際には,このようなことがないようにしっかりと積極的に取り組んでいただきたい。
テレビ番組製作者は,大きくても30〜40インチサイズの番組しか作ることができず,大きなスクリーンで上映することができる映画に対して大きな関心を持っており,テレビのスタッフ等も映画のスタッフと一緒に扱ってもらいたい。
映像のデジタル化技術に関しては,テレビ製作スタッフの方が精通しており,協力することで,映画の振興にもつながる。「映画の広場」に関してもテレビスタッフも一緒に取り込んで欲しい。
野外撮影に関しては,撮影する前に自己規制をしている場合が多々あり,規制緩和をしてもらいたい。
(4) 高野座長より,日本映画・テレビ録音協会理事の橋本文雄氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
12の構想の「1 すべての日本映画フィルムの保存・継承を行う制度の創設」,「7 出会い・交流・顕彰の場としての『映画の広場』(仮称)の創設」,「12 フィルムセンターの独立」は関連している。製作した作品のポジフィルムを残す際に,デュープネガを残すことが最も望まれる。デュープネガを保存すれば,保存後の作品の活用の幅が広がる。
映画の広場については,フィルムセンターを拡充し,その中に取り込み,フィルムセンターは映画の殿堂のようなものになるべきである。
デジタルについては,仕上げのスタジオを新たに作るより,デジタル設備のあるスタジオに国が援助して,それを若い人たちが利用しやすいようにしてほしい。
12の構想の「9 非映画館を活用した上映支援」,「10 子どもの映画鑑賞普及の推進」は同じようなことだと考える。かつて地方の公立文化会館等で上映する際,全国興行生活衛生同業組合連合会(以下「全興連」という。)や日本映画製作者連盟から苦情があり,普及のための上映活動が行いにくかった。最近は状況も変わっていると思うが,子どもたちが小さい頃から映画をスクリーンで観ることが映画普及のためには重要である。
現在は映画というと,ビデオやDVDだと勘違いしている若者が大勢いる。映画は映画館のスクリーンで観るものであり,映画を作る側もスクリーンで上映することを想定して映画を作っている。
地方の公立文化会館等に国が補助をし,プロジェクターを利用してスクリーンで映画を観られるようにして,映画になじむ土壌を作る必要がある。また,これに関しては文化庁だけでなく他省庁も連携して取り組んで欲しい。
デジタル映写機は高く,地方にはまだあまり普及してない。将来的には東京からコンテンツを発信し,DLP(Digital Light Processing)で観ることができるだろうが,当分はフィルムによる上映が主体になる。
人材養成については,専門学校で各種の養成を行っており,プロデューサー等の養成はそれでもいいが,監督や美術の技術者等は一人前になるのに現場で10年ほど経験を積む必要がある。人材養成については,養成学校を出た人を見習という形で現場のスタッフにつけるようにしてほしい。現場で1,2作品の製作に携われば,現場の技術も継承できるし,予算に応じた作品の作り方等を身に付けることができる。そのための経費を文化庁から支援していただきたい。
また,新しい技術から身に付けるのではなく,昔の編集技術を身に付けることから始めるべきである。
全興連としては,子ども向けの上映を断ったことはない。主流は子ども向け映画である。昔,学校で行われていた映画鑑賞は,学校側の都合により減ってきているのである。
現場からは,大スクリーンで優位なものを作りたいという意見が多かった。スクリーンとテレビでは何が違うのかと考えた時に,フレームの端まで撮っているかということであると思う。これらは養成所で教えてもむだではないか。現場に見習をつけてくれという話があるが,やはり現場では面倒である。製作側も新しい人材発掘のためにも見習を採ることを考えているが,実際には予算の関係で動けない。もう少し違ったところから始めるべきである。現場レベルでみると,テレビと映画は大きく違う。製作現場を知らない人はこのことが理解できない。
今日のヒアリングで,中間まとめに足りないものが多くあるということに気づいた。
映画とテレビは単にスクリーンとブラウン管という違いだけではない。映画はスクリーンでの印象を考えて,枠やつなぎを決めている。製作側はスクリーンとブラウン管で撮り方を変えている。ハイビジョンも同じである。似て非なるものである。
テレビと映画の違いはその通りだと感じる。
現場でOJT(On the Job Training)を行っていくことは人材養成の観点から非常に重要であると感じた。また,公立文化会館での上映は普及という観点から考えられていたが,映画製作本数を増やすということから,人材養成にもつながる。これも重要である。
人材養成の問題にはお金で解決できる問題とできない問題がある。できない問題として,人材を養成した時に,受け入れ先の現場はどうなっているかという労働条件の問題がある。この点は非常に重要である。
見習が現場で製作に携われば,現場には様々な問題があることを感じ,それらを克服する学生が見習として育てば現場の全てを把握することができるようになる
デジタル化に関して,映像においては色々な方式があり,統一されていない。音響に関しては映像よりデジタル化が早かった。今後,さらに早いスピードでデジタル化が進むだろうが,現場ではあるところで見切りをつけないといけない。現場ではどう考えているのか。
今ハイビジョンで映画を撮ってもプラスになることはあまりない。音響についてはさらにデジタル化が進んでいくだろうが,映像については,当分はフィルムのままだと考える。
日本映画監督協会としては,フィルムセンターの独立とアーカイブ化,映画製作への助成を具体的に示していただきたい。
人材養成については,一長一短で必ずしもお金で解決できるだけの話でもないし,より具体性のある案にまとめてもらいたい。
映画とテレビは連携できるところを連携していくべきである。放送について,フィルムコミッションに関しては,テレビ番組撮影のためのロケーションということも含めて拡充を考えて欲しい。保存については,NHKが民放の番組も含め,保存しようとしているが,資金繰りに苦労している。是非,事務局には現場に足を運んで,問題点を見てもらいたい。
非上映館でも子ども向けの作品を上映してもいいということで合意されていると考えて良いか。
現に東京でも公立文化会館等で興行をしているし,それに対して反対をしたことはない。
過去には確かに問題はあった。
フィルムセンターならともかく,地方の非映画館では,映画の高いクオリティを保ちながら上映できない。そうなると大きな場所で映画を見ることに意味があるのか疑問に感じる。また,デジタル音響になると,フィルムを持ち込むだけでもスピーカーの調整等が必要であり,非映画館で本来の映画のクオリティを保つのは不可能になる。
アメリカでも現在の技術が何年もつか保証がなく,フィルムでしっかりと保存している。デジタル保存はまだ不明であるので,フィルムセンターではポジフィルムとデュープネガで保存をしたほうがいい。また,地方の劇場でデジタルの設備がないといっても,アナログでも上映することは可能である。公立文化会館で上映するにはそれで十分である。
以上
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