映画振興に関する懇談会(第10回)議事要旨

1. 日時 平成15年3月5日(水)10:30〜13:00

2. 場所 東海大学校友会館 「阿蘇の間」(霞が関ビル33階)

3. 出席者
(協力者) 横川座長代理,岡田,児玉,阪本,新藤,鈴木,砂川,関口,髙村,司,中谷(代理:田井),奈良,長谷川,北條各委員
 
(文化庁) 河合文化庁長官,銭谷文化庁次長,寺脇文化部長,河村芸術文化課長,坪田芸術文化課課長補佐,富岡美術学芸課美術館歴史博物館室長,大場東京国立近代美術館フィルムセンター主幹,佐伯同センター主任研究官 外
 
(関係省) 境経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課課長補佐
井上国土交通省総合政策局観光部観光地域振興課専門官


4.概要
(1) 配布資料の確認があり,前回の議事要旨について意見がある場合は,明日中に事務局に連絡することとした。
(2) 横川座長代理より,東京大学大学院助教授の浜野保樹氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
[以下,◎:説明者,○:委員,△:事務局]
デジタルシネマは映像の製作・配給・興行をデジタル技術でまとめるということである。現在はまだフィルムの作品が多く,余分な費用がかかっているが,将来的に全ての工程をデジタル化できれば,費用の25%は削減できると言われている。これには俳優の出演料も含まれているので,製作費は3分の1になるだろう。
このデジタル分野では日本が中心であり,製作ではソニーのカメラがデファクトスタンダードになりつつある。配給に関しても日本は衛星技術を利用して映画の配信を行いたいという意欲も強く,光ファイバー網も多く持っている。デジタルシネマについて多くの試みが行われ,ネットワーク配信に取り組んでいるのは日本だけである。興行に関しても,1999年に「スターウォーズ・エピソード1」がアメリカの4つのスクリーンで実験的に上映されたが,デジタル上映機を購入して上映しているのは日本だけである。
日本ではデジタルシネマというとデジタル上映のプロジェクターばかりが議論されるが,現在最も利用されているテキサスインスツルメンツ社のDLP(Digital Light Processing)は,基本的に民生用の技術であり,映画用に関してはDLPシネマという技術であり,テキサスインスツルメンツ社が3社に限定して公開している。この技術を使用しているのは日本企業のみである。
デジタルシネマに関しては日本企業にアドバンテージがある。
これに対して,アメリカでは対策を講じているところであり,ハイビジョンと同様の動きを見せており,ハイビジョンがデファクトスタンダードにならなかった説明が必要である。ハイビジョンはNHKが開発し,各省庁のバックアップによって世界のデファクトスタンダードにしようとしたが,アメリカが移動体通信の電波が不足するため,移動体通信側がテレビで使っているUHF電波を移動体通信に移管させようという圧力をかけた。テレビ局は電波を使う技術を探し,移動体通信系の排除を行い,欠点を探してハイビジョンを排除した。
これと同様にデジタルシネマでも行うため現在アメリカで敷居を高くするなど参入規制を設けた。
ハリウッドでは製作費が下がることは俳優やスタッフの給与の減少につながり,大手製作会社にとっては都合が悪いためである。
日本ではデジタルシネマによって,自宅で映画を撮り,少ない投資で利益をあげる作品が製作可能になった。ヨーロッパでもヨーロピアン・デジタルシネマフォーラムというコンソーシアムを作り,年に3回,アメリカの技術を用いない経済,技術,コンテンツに関する会合を開いている。ヨーロッパでもデジタルシネマには注目しており,日本との協調を希望する声があった。
デジタルシネマは,日本のアニメーションと連動し重要であるが,デジタルシネマ分野の研究は日本ではほとんどされていない。
アメリカもデジタルシネマに関して前向きな姿勢ではないが,研究は行われている。南カリフォルニア大学の映画テレビ学部でもデジタルシネマに特化した学科がある。また,今後デジタル製作の普及を念頭に置き,ロバート・ゼメキス,ジョージ・ルーカス,スティーブン・スピルバーグらは学生のためにデジタルシネマスタジオを作った。
新しいデジタル技術を開発することで,多額の資金を一つの大学に投資している。
デジタル技術の研究施設とスタジオ,大学を中心に集めたLetterman Digital Arts Centerを建築中であり,サンフランシスコに一大デジタルシネマ研究機関が設置される。
デジタルシネマに熱心なのは,ジョージ・ルーカスやディズニーだが,ディズニーではご存じのようにDisney Imagineeringという研究機能を持っており,ジョージ・ルーカスも同様の研究機能を持っている。なおかつジョージ・ルーカスは,流通機能を有していないため,デジタル技術を利用して,配給会社を必要としない配給網を考えている。
これまでの技術継承も重要だが,デジタルシネマに関して民間の努力は大変だ。岩井俊二氏,中江裕司監督など若手の監督のデジタル技術を用いて映画製作を世界最も行っている国であり,アメリカが戦略を持って取り組んでいるように日本でも進めていくべきである。
フランス,韓国では,国家が文化を管理するため,国の予算をあてにして映画製作を行っているが,支援する評価者に従えば,いくらでも映画製作が可能となるためフランス国内でも反論がある。韓国でも作品数は増えたが,同様の懸念が韓国内にある。
アメリカでベトナム戦争によりアメリカ映画が行き詰まりを見せた際,公的機関であるAFI(アメリカ映画協会)により,国が行えることだけを行うために3つの目標を立てた。それが「人材養成」,「フィルム保存」であり,このフィルム保存の方法は日本の国宝制度を参考にしたものである。そして3番目の目標が「映画の社会的認知」であった。
特に進めていただきたいのは,社会的認知である。
かつて任天堂の宮本茂氏が個人で一本のゲームソフトを1億本,約1兆円売り上げ,世界で5兆円から10兆円を,周辺ビジネスを含めて売り上げたにも関わらす,日本では国民栄誉賞が授与されず,アメリカではゲーム団体が作るゲームの殿堂の第1号になった。このように今まで社会的認知を国が与えてこなかったことがどれだけの損失であったかを考える必要がある。
日本の国立大学には,映画・アニメ・ゲームの学部等は一つもない。ここ1〜2年でやっと私立大学に設置された程度である。
ビートルズのポールマッカートニーが来日した際,日本で宮本茂氏のサインが欲しいと言ったほど,宮本氏は世界で認知されていた。そのビートルズに対してイギリスでは,エリザベス女王からの勲章という形で社会的認知が与えられた。日本ではこのような社会的認知が行われておらず,今後は社会的認知を与えて欲しい。
デジタルシネマに関しては,大変重要であり相当期間ディスカッションが必要である。今デジタルシネマ・コンポジションで規格をどうするかという議論をしており,アメリカでは今年度中にも規格を決定しようという状況である。映像を製作する側にとっては規格の問題というより,長年のフィルムの表現とデジタルの表現をどのように連動させ,フィルムで培ってきた技術を全く損なわずデジタルで継承していくかが大きな課題である。これに関して多くの民間団体と話し合っているが,公的な支援機関がなく,社会的認知等も弱い。専門的にこれらの研究を扱う機関を確立して欲しい。この懇談会でもこれを取り上げて支援の検討を行って欲しい。
「政府」が行動する場合,いくつかの省庁をまたいでいる場合が多く,どの省庁が中心であるか分かりにくい。日本において行政機関がどのように連携するのか。「政府」と言った場合,どこを指しているのかを教えて欲しい。
海外でも各省庁が映画を担当している部署を持っているが,窓口として映画協会が必ずある。先進諸国で窓口がないのは日本だけである。日本における映画に関する窓口がないということは,海外からも日本の映画界を見えにくいものにしていると考える。
社会的認知という点において,三船敏郎氏が亡くなった際,国民栄誉賞を与えるという話があったが,国民栄誉賞の決定権は総理大臣にあり,個人の主観で決定されてしまう。文化芸術分野は総理個人で決めるのではなく,文化庁等で話し合って決めて欲しい。
デジタルにおいては製作・配給・興行で日本が中心になっていると言う話があったが,興行ではデジタルシステム1台が約2500万円するため,大手の製作会社でないと購入できないのが現状である。アメリカの興行組合と話し合ったが,製作においては監督がフィルムにこだわるという話であった。興行では,観客にとって特にメリットがないため,自費でデジタルを使わないということだった。日本の興行者も規格の問題もあり,まだ様子を見ている段階である。
デジタル化はコスト面の問題があり,一つのデジタルシステムは2500万円,3000万円という意見もあり。一方,実験的に行った際には,プロジェクター1台が150万円で調達できたようにコストについては意見が分かれると思うが,例えば現状のデジタル化コスト低減について示していただきたい。
デジタル化というのは,観客にとってはメリットがない。製作と配給にメリットがある。アメリカではアナログ機材で約7,000ドルなのが,デジタル機材で20,000ドルとだいたい3倍程かかりコストは高い。世界のスクリーン数は14万から15万といわれているスクリーン数にも限度があり,フィルムを大量生産によりコストを削減することにも限度がある。
ジョージ・ルーカスは「スターウォーズ」のフィルムを傷むことを理由に2週間で廃棄処分していたが,デジタルフィルムならば傷が付くことがなく,長期ロングランの映画であれば割安になる。しかしそれは短期上映では難しい。そのため,今後コストダウンを進めていくことが求められるが,それは日本の企業にしかできない。
規格が決まっていないとのことであるが,プロジェクターの規格が決まらないのは何が問題なのか。
アメリカは規格制度局で規格を決めていた。そのため,世界を席巻できたが,ヨーロッパでは意図的にアメリカとは異なる技術を導入したため,データ変換の際,資金が発生した。ヨーロッパではこれと同じようなことをデジタルにおいても行おうとしている。
(3) 横川座長代理より,日本動画協会常勤理事の山口康男氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
日本動画協会は昨年5月に中間法人として設立され,正会員24社,準会員4社から成る。アニメプロダクションは350社ほどあるが,そのうち40社がテレビの下請け,50社が映画作品も製作できるプロダクションであり,残りはアニメーション製作の各パートを担当している。
アニメーションは労働集約型であり,工程ごとにプロダクションが存在する。重要な工程は原画作りであり,現在それ以後の工程は,中国・韓国・台湾・東南アジア等へ依頼し,その後は国内で編集を行うことが殆どである。
原画・動画のアニメーターという重要な職種には約3800人が従事しており,助手も入れると,その約3倍の1万人が従事していることになる。
アニメーションの興行には,映画マーケットとブロードバンドを含むテレビマーケット,DVD中心のパッケージ販売の3つがあり,主要なものがテレビマーケットになる。
製作は基本的に赤字である。アニメーションは作品による制作費の違いはあまりなく,約1300万円である。テレビ放映ではこの製作費のうち回収率が良い場合約80%が回収でき,残りをマーチャンダイジング(アニメーションのキャラクターの使用料)の利益等で賄っているが,この利益はアニメーション自身がヒットしない限り収入を見込むことはできない。もう一つの方法が海外展開である。一般的には映画のアニメーションよりテレビ放映されたアニメーションの方がよく売れる。しかしながら,日本で売れないものは海外でも売れず,基本的に日本で1年間放送されたものでないと海外に販売できない。市場としては東南アジア,ラテンアメリカ等が主な市場である。旧東欧諸国にも需要はあるが,経済的な問題もあり,あまり販売されていない。
アニメーションは,少子化の影響を直接受けるメディアであり,その結果,ゴールデンタイムでの放送が減少している。それに伴い制作費の回収が低い深夜・早朝枠に番組が移行している。
現在,不足制作費はビデオや音楽出版社と独占契約し,1,200 〜 1,300万円程度を基金という形で受け取っている。しかしこの場合,この出資者にも著作権が生じてしまい,制作者側が単なる下請け会社になってしまうのではないかという懸念がある。
デジタル技術が進むにつれて,労働集約型のビジネスモデルから抜け出しつつあるが,制作工程を減らすまでには至らず,更なるソフト開発が必要である。
2,3年前海外へは国際便で原画等を輸送していたが,近年は専用線によりオンラインでやり取りをしている。
人材養成は特に原画・動画に関しては,各プロダクションでは余力がなく,大学院等で総合的に行って欲しい。プロデューサーも海外との交渉などを考えると国際的に活躍できるプロデューサーが必要だが,これも業界内では難しい。この2つの職種に関して国としての養成を考えて欲しい。
データベースについては,現在は各製作会社が放映の終わった膨大な数のフィルムを管理しており,今後も増加し続けるだろう。フィルムセンターにおいてデジタル化し,保存していく必要がある。
劇場の興行システムに関しては,興行は市場原理と切り離せないだろうが,市町村レベルの公共施設では市場原理には反するが優れた作品を見ることができるようなシステムがあると良い。
アニメ番組は,視聴者が若年齢層に偏っており,提供スポンサーが限られるため,テレビ番組として売りにくいメディアではある。深夜・早朝枠に特化するとさらにスポンサーも特化する。アニメを全世代にいかに広めていくかをこの懇談会で考えていくべきである。
(4) 横川座長代理より,財団法人日本視聴覚教育協会評議員松田實氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
視聴覚ライブラリーは,視聴覚教材の貸出,制作,講習等を主な事業としており,公立の視聴覚ライブラリーは842施設,任意の視聴覚ライブラリーが102施設ある。
現在の映画作品の保有数は35万本あり,また16ミリ映画は上映のための技術が必要なため,上映の講習も行っている。
映画の貸出については,平成3年はフィルムの貸出数がビデオ等の貸出を上回ったが,平成13年にこの数値が逆転している。
社会教育施設での映画事業も減少している。数は減っているが,機会は減っていない。鑑賞者が減っているのである。学校教育,社会教育でも映画作品が教材としての利用でのみ考えられていることが問題である。教材映画というものは,授業の効率を上げるために使用するものであるため,使いたいものを抵抗無く使用するが,映像の良さを伝えるために使うということは減っている。教育において,心の豊かさが求められているにも関わらず,何故映像がその手段として扱われないのか。学校では映画を観る機会が全くない。これを助ける手段として映像教育はかかせない。社会教育施設の中で映画の学習が行われてもいいのではないか。教師からは生徒に見せたい作品が少ないと聞くが,優れた映画に関する情報を教師が持っていないことが多い。映画を個人で観る手段が発達してきたことも,学校で集団で映画を観なくなった一因だろう。
このような現状から,視聴覚ライブラリーは衰退の危機に瀕している。昨年も所有する映画作品の追加ができなかった。視聴覚ライブラリーが社会教育施設等において利用者の希望する作品を鑑賞できるように,体制強化を図っていくことが必要である。
また,視聴覚ライブラリーが設置されてから約40年経つが,その間に各地域で作られた作品を蓄積して貸出す以外に,実際に視聴覚ライブラリーが地域の作品を製作してきた。しかし今それらの作品は劣化しており,それらがなくなっていくことは,地域において文化が消えていくことに等しい。地域における蓄積を更に進めていきたい。
また,オンデマンドで作品を上映するなど,供給システムの改善も進めている。
そして意識の改革も図っていかなければならず,現行の古い映画館から新しい映画館に変わる必要がある。映画というものが今どのように使われるのか,使われ,ニーズも含め考えていかなければならない。
また,各地域に優れた文化映画が埋もれている。各地域で乏しい予算を活用して保存しようとしているが,支援が必要である。映画というものは新しいメディアであるということを認識しなければならない。
また,学校で教師が生徒に見せたい映画,生徒が見たい映画に出会えることが必要である。学校教育,社会教育も含めて,(土)等を利用して映画で学ぶという土壌を作っていくことが必要である。
視聴覚ライブラリーが非常に厳しい状況にあるということがわかったが,現在,視聴覚ライブラリーに保存されている作品は素人が上映をしていることが多いため傷んでいることが多い。実際に上映できるものは何本あるのか。
映画は製作者にとって非常に厳しいものになっているが,映画を新しいメディアと考えていくいことは重要である。
16ミリの上映方法については指導をしているということだが,様々なフィルムを見てもらい,フィルムそのものに対する教育も必要ではないか。
現在,著作権法の改正で視聴覚ライブラリーについては,上映の際に保証金を払い,上映を行うという形をとっていたが,今後は許諾を得ることが必要になる。純粋に教育目的のために使用する場合は許諾の必要ない。
子どもの頃,学校が劇場に映画を見に連れて行かれ,映画を見るたびに影響を受けた。それほど映画とは子どもに影響を与えるものである。
監督やスタッフの映画修行の場が教育映画であった。今,都道府県の視聴覚ライブラリーにはこのような映画がないのではないか。視聴覚ライブラリーが果たしている役割と懇談会で議論している内容はリンクしないのではないか。普及はデジタルの役割になる。
子どもの頃に映画を観ることを目的とした体験をし,それが結果的に情操教育になった。そして製作者は新たな映画人が育つことを祈っていた。今,昔のような体験をすることが減っているため,映画を観る機会を増やしたい。ただ教材として映画を観るようでは,明日の映画を考える機会にはならない。視聴覚ライブラリーがこのような上映にまで踏み込めるのか。
視聴覚ライブラリーは教材映画ばかりではない。教材映画は全体の3分の2であり,残りは児童映画,アニメーション等である。減っているのは映画の本数ではなく,学校で教材映画の上映に偏りすぎた結果,心を豊かにする映画鑑賞の機会だ。社会教育施設等では,このような映画を見せるようになっているが,学校では不十分である。
何年も継続して使用すると,フィルムが傷つき,見ることができなくなる。それを回避するためのメンテナンスは行っているのか。
傷のついているものは10%ほどある。それ以外にも古くて上映できないものもいくつかある。
以上
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