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デジタルシネマは映像の製作・配給・興行をデジタル技術でまとめるということである。現在はまだフィルムの作品が多く,余分な費用がかかっているが,将来的に全ての工程をデジタル化できれば,費用の25%は削減できると言われている。これには俳優の出演料も含まれているので,製作費は3分の1になるだろう。
このデジタル分野では日本が中心であり,製作ではソニーのカメラがデファクトスタンダードになりつつある。配給に関しても日本は衛星技術を利用して映画の配信を行いたいという意欲も強く,光ファイバー網も多く持っている。デジタルシネマについて多くの試みが行われ,ネットワーク配信に取り組んでいるのは日本だけである。興行に関しても,1999年に「スターウォーズ・エピソード1」がアメリカの4つのスクリーンで実験的に上映されたが,デジタル上映機を購入して上映しているのは日本だけである。
日本ではデジタルシネマというとデジタル上映のプロジェクターばかりが議論されるが,現在最も利用されているテキサスインスツルメンツ社のDLP(Digital Light Processing)は,基本的に民生用の技術であり,映画用に関してはDLPシネマという技術であり,テキサスインスツルメンツ社が3社に限定して公開している。この技術を使用しているのは日本企業のみである。
デジタルシネマに関しては日本企業にアドバンテージがある。
これに対して,アメリカでは対策を講じているところであり,ハイビジョンと同様の動きを見せており,ハイビジョンがデファクトスタンダードにならなかった説明が必要である。ハイビジョンはNHKが開発し,各省庁のバックアップによって世界のデファクトスタンダードにしようとしたが,アメリカが移動体通信の電波が不足するため,移動体通信側がテレビで使っているUHF電波を移動体通信に移管させようという圧力をかけた。テレビ局は電波を使う技術を探し,移動体通信系の排除を行い,欠点を探してハイビジョンを排除した。
これと同様にデジタルシネマでも行うため現在アメリカで敷居を高くするなど参入規制を設けた。
ハリウッドでは製作費が下がることは俳優やスタッフの給与の減少につながり,大手製作会社にとっては都合が悪いためである。
日本ではデジタルシネマによって,自宅で映画を撮り,少ない投資で利益をあげる作品が製作可能になった。ヨーロッパでもヨーロピアン・デジタルシネマフォーラムというコンソーシアムを作り,年に3回,アメリカの技術を用いない経済,技術,コンテンツに関する会合を開いている。ヨーロッパでもデジタルシネマには注目しており,日本との協調を希望する声があった。
デジタルシネマは,日本のアニメーションと連動し重要であるが,デジタルシネマ分野の研究は日本ではほとんどされていない。
アメリカもデジタルシネマに関して前向きな姿勢ではないが,研究は行われている。南カリフォルニア大学の映画テレビ学部でもデジタルシネマに特化した学科がある。また,今後デジタル製作の普及を念頭に置き,ロバート・ゼメキス,ジョージ・ルーカス,スティーブン・スピルバーグらは学生のためにデジタルシネマスタジオを作った。
新しいデジタル技術を開発することで,多額の資金を一つの大学に投資している。
デジタル技術の研究施設とスタジオ,大学を中心に集めたLetterman Digital Arts Centerを建築中であり,サンフランシスコに一大デジタルシネマ研究機関が設置される。
デジタルシネマに熱心なのは,ジョージ・ルーカスやディズニーだが,ディズニーではご存じのようにDisney Imagineeringという研究機能を持っており,ジョージ・ルーカスも同様の研究機能を持っている。なおかつジョージ・ルーカスは,流通機能を有していないため,デジタル技術を利用して,配給会社を必要としない配給網を考えている。
これまでの技術継承も重要だが,デジタルシネマに関して民間の努力は大変だ。岩井俊二氏,中江裕司監督など若手の監督のデジタル技術を用いて映画製作を世界最も行っている国であり,アメリカが戦略を持って取り組んでいるように日本でも進めていくべきである。
フランス,韓国では,国家が文化を管理するため,国の予算をあてにして映画製作を行っているが,支援する評価者に従えば,いくらでも映画製作が可能となるためフランス国内でも反論がある。韓国でも作品数は増えたが,同様の懸念が韓国内にある。
アメリカでベトナム戦争によりアメリカ映画が行き詰まりを見せた際,公的機関であるAFI(アメリカ映画協会)により,国が行えることだけを行うために3つの目標を立てた。それが「人材養成」,「フィルム保存」であり,このフィルム保存の方法は日本の国宝制度を参考にしたものである。そして3番目の目標が「映画の社会的認知」であった。
特に進めていただきたいのは,社会的認知である。
かつて任天堂の宮本茂氏が個人で一本のゲームソフトを1億本,約1兆円売り上げ,世界で5兆円から10兆円を,周辺ビジネスを含めて売り上げたにも関わらす,日本では国民栄誉賞が授与されず,アメリカではゲーム団体が作るゲームの殿堂の第1号になった。このように今まで社会的認知を国が与えてこなかったことがどれだけの損失であったかを考える必要がある。
日本の国立大学には,映画・アニメ・ゲームの学部等は一つもない。ここ1〜2年でやっと私立大学に設置された程度である。
ビートルズのポールマッカートニーが来日した際,日本で宮本茂氏のサインが欲しいと言ったほど,宮本氏は世界で認知されていた。そのビートルズに対してイギリスでは,エリザベス女王からの勲章という形で社会的認知が与えられた。日本ではこのような社会的認知が行われておらず,今後は社会的認知を与えて欲しい。 |
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デジタルシネマに関しては,大変重要であり相当期間ディスカッションが必要である。今デジタルシネマ・コンポジションで規格をどうするかという議論をしており,アメリカでは今年度中にも規格を決定しようという状況である。映像を製作する側にとっては規格の問題というより,長年のフィルムの表現とデジタルの表現をどのように連動させ,フィルムで培ってきた技術を全く損なわずデジタルで継承していくかが大きな課題である。これに関して多くの民間団体と話し合っているが,公的な支援機関がなく,社会的認知等も弱い。専門的にこれらの研究を扱う機関を確立して欲しい。この懇談会でもこれを取り上げて支援の検討を行って欲しい。 |
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「政府」が行動する場合,いくつかの省庁をまたいでいる場合が多く,どの省庁が中心であるか分かりにくい。日本において行政機関がどのように連携するのか。「政府」と言った場合,どこを指しているのかを教えて欲しい。 |
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海外でも各省庁が映画を担当している部署を持っているが,窓口として映画協会が必ずある。先進諸国で窓口がないのは日本だけである。日本における映画に関する窓口がないということは,海外からも日本の映画界を見えにくいものにしていると考える。 |
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社会的認知という点において,三船敏郎氏が亡くなった際,国民栄誉賞を与えるという話があったが,国民栄誉賞の決定権は総理大臣にあり,個人の主観で決定されてしまう。文化芸術分野は総理個人で決めるのではなく,文化庁等で話し合って決めて欲しい。 |
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デジタルにおいては製作・配給・興行で日本が中心になっていると言う話があったが,興行ではデジタルシステム1台が約2500万円するため,大手の製作会社でないと購入できないのが現状である。アメリカの興行組合と話し合ったが,製作においては監督がフィルムにこだわるという話であった。興行では,観客にとって特にメリットがないため,自費でデジタルを使わないということだった。日本の興行者も規格の問題もあり,まだ様子を見ている段階である。 |
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デジタル化はコスト面の問題があり,一つのデジタルシステムは2500万円,3000万円という意見もあり。一方,実験的に行った際には,プロジェクター1台が150万円で調達できたようにコストについては意見が分かれると思うが,例えば現状のデジタル化コスト低減について示していただきたい。 |
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デジタル化というのは,観客にとってはメリットがない。製作と配給にメリットがある。アメリカではアナログ機材で約7,000ドルなのが,デジタル機材で20,000ドルとだいたい3倍程かかりコストは高い。世界のスクリーン数は14万から15万といわれているスクリーン数にも限度があり,フィルムを大量生産によりコストを削減することにも限度がある。
ジョージ・ルーカスは「スターウォーズ」のフィルムを傷むことを理由に2週間で廃棄処分していたが,デジタルフィルムならば傷が付くことがなく,長期ロングランの映画であれば割安になる。しかしそれは短期上映では難しい。そのため,今後コストダウンを進めていくことが求められるが,それは日本の企業にしかできない。 |
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規格が決まっていないとのことであるが,プロジェクターの規格が決まらないのは何が問題なのか。 |
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アメリカは規格制度局で規格を決めていた。そのため,世界を席巻できたが,ヨーロッパでは意図的にアメリカとは異なる技術を導入したため,データ変換の際,資金が発生した。ヨーロッパではこれと同じようなことをデジタルにおいても行おうとしている。 |