映画振興に関する懇談会(第11回)議事要旨

1. 日時 平成15年3月12日(水)13:00〜15:00

2. 場所 虎ノ門パストラル 「しらかば」(本館8階)

3. 出席者
(協力者) 高野座長,横川座長代理,大林,岡田,阪本,迫本,新藤,鈴木,関口,髙村,中谷,奈良,長谷川,福田,北條各委員
 
(文化庁) 銭谷文化庁次長,寺脇文化部長,河村芸術文化課長,坪田芸術文化課課長補佐,山田主任芸術文化調査官,大場東京国立近代美術館フィルムセンター主幹,佐伯同センター主任研究官 外
 
(関係省) 境経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課課長補佐
井上国土交通省総合政策局観光部観光地域振興課専門官


4.概要
(1) 配布資料の確認があり,前回の議事要旨について意見がある場合は,明日中に事務局に連絡することとした。
(2) 高野座長より,日本俳優連合会顧問高城淳一氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
[以下,◎:説明者,○:委員,△:事務局]
俳優にとっては演劇も映画も同様であり,映画の振興ということは演劇の振興でもあると考える。
映画振興のために最も重要なことは多くの人に映画を観てもらうことであり,そのためには人材養成の問題と俳優などの実演家が人材養成にどう関わるべきかという問題を考える必要がある。
観客をいかに増やすかについて,中間まとめの12の構想の中に「子どもの映画鑑賞普及の推進」というものがあるが,日本では近代化以降学校において音楽教育は行われてきたが,演劇教育は,学芸会としてしか行われていない。
また,教師は演劇等には素養を持たないことが多く,どのような教育を行えば良いか困惑するため,学校での演劇教育には本物の実演家が参加するべきであり,我々も参加したい。
学校で演劇教育の土壌が育っていけば,子ども達が集まって,講堂で映画を観ることが抵抗なく行われるようになり,映画振興に必ずつながる。また,このような教育を義務教育の中で行うことによって,大人になっても映画を観るという習慣が身につき,映画の鑑賞人口が増えていく。「子どもへの映画鑑賞普及の推進」について,実演家も積極的に参加したい。
また,観客を増やす方法として,地域で映画・演劇活動を行いたいと考えるが,地方でこのような活動を推進していく人材が欠けている。地域に密着し,地域の人と交流する人材が必要である。そのためにプロの演劇人がその地域に住み,人々の幸せが文化を通じていかに実現されるかを話し合う必要がある。そのような環境で育った人が,公立施設で映画を上映し,それを多くの人々と一緒に映画を観ることで,文化が自分にとっていかに重要かに気づき,観客の増大につながる。
人材養成については,映画・演劇を教える国立の大学を作って欲しい。そこで,古典芸能や外国語などの知識,音楽等を勉強することによって,多くの優秀な人材が育成され,そのうちの何人かは地方へ行き,そのまま地方に定着したり,子どもへの普及活動を行う仕事に就くこともある。彼らにとっても,そこで経験を積むことによって,俳優になることもできる。
また現在活躍する中堅の俳優を育てるための養成所のような,リフレッシュできる施設が必要である。養成所において多くのことを勉強すれば,さらに優秀な俳優が育ち,それが映画振興につながる。アメリカのアクターズスタジオはこのようなことを目的とした施設であり,多くの俳優がここを利用し,活躍してきた。私が愛・怒り・喜びなどの情緒・情念を持ったのは映画がきっかけであったし,音楽に触れたのも映画であった。映画はそのような様々な要素をもった,大変すばらしいものである。
俳優の活動の場としては,映画,テレビ,舞台等があるが,映画においての収入は生活を支える上でどの程度のものなのか。
俳優によって違いはある。しかし,映画に出演するということは俳優としての自分を確認できることであり,俳優にとって重要である。そして,出演した映画が売れたら収入を増やしてもらえればさらに良い。また,最近では俳優や声優の養成所での講師に加え,地方における実演家の養成の指導者も増えており,収入は少ないがこのような仕事が生活を成り立たせている。映画が産業として国内外でより大きくなれば,仕事は増え,他の業界の人も映画を作るようになる。そのようなサイクルを作り出すことができればすばらしいことであり,是非この懇談会にはがんばってほしい。
(3) 高野座長より,特定非営利活動法人(以下NPO)日本映画映像文化振興センター理事の佐藤彰氏の経歴・現職の紹介があり,その後,同氏より以下のような説明が行われた。
フィルムの保存について,映画の新作を観たいという人もいるが,子どもの時期に観た映画を大人になって再度観たいという願望は大きい。しかし過去の映画を観る機会は少ない状況にある。
保存についてはフィルムの権利問題を考えなければならず,これを上手くコントロールできる中央的な組織があるべきであり,できればフィルムセンターにこの役割を担って欲しい。
国が映画に対して支援をすることによって映画の内容が変わることがあるのであれば,どこまで国が映画を支援するべきかという問題もあるが,現在の日本映画の状況を考えると,ある程度の支援は行われるべきである。
フィルムセンターがフィルムを管理するとなると,貸出はどのようにするのか等の運営面で問題が起きるだろうが,民間の映画館の意見を取り入れるなど,上手く対処して欲しい。
個人的な意見としてはフィルムセンターの行う事業を明確にするべきであるし,国の機関に戻した方が良いと考える。書籍は国会図書館において,全ての出版された書籍が収集されているが,映画は全てを収集する制度がなく,バラバラに保存されている。このような管理の方法についても懇談会で検討して欲しい。
映画を観ることに関しては子どもの育成が重要であり,映像がデジタル化されて流されることなどによって,普及は進むだろうが,何らかの規制がかかることも考えられる。しかし基本的に規制はないほうがいい。
国がフィルムの保存を行う際に,何を基準として映画と定めるのかということも難しい。小さい劇場で上映されていても良い映画は多くある。それらも保存の対象として考慮して欲しい。
NPO日本映画映像文化振興センターの活動内容と「10万人で映画を作る会」の内容を教えていただきたい。
NPO日本映画映像文化振興センターでは映画監督や製作者等の実演者を呼び,話を伺うということを年に4回行っている。今はフィルムセンターの施設を借りて上映活動も行っている。
「10万人で映画を作る会」については資金が集まらず,頓挫しているところであるが,なんとか個人で映画を作り,映画作りの技術を残していきたいと考えている。
NPO日本映画映像文化振興センターは鑑賞者が自ら活動をする団体である。民間人がこういった活動を行うのは困難があり,NPOとなった。
フィルムセンターが大きくなり,国の映画機関としての役割を担って欲しい。その理由の一つが権利の問題である。海外の方が日本映画の上映を希望した際,その映画の権利が誰に,またはどこにあるのかが分からずに上映をあきらめることが多い。将来的にはフィルムセンターがこのような権利を一括して管理し,上映者と権利者との仲介を行う機関になってもらいたい。
フィルムセンターにフィルムを納入する際には,全ての作品を保管してもらいたい。これは民間では到底できるものではない。また,何らかの規則を作り,良い上映会には積極的にフィルムを貸出すようにしてもらいたい。
「映画の広場」の構想については,フィルムセンターを利用するのもいいが,東京一極集中になってしまうので,映画祭を行っている夕張や湯布院を拠点とするのもいいのではないか。フランスのヌーベルベルグやゴダールもこのようなフランスの施設で映画を観ながら育ったと言われている。映画を観ることは製作者にとっても有益である。
(4) 関口委員より,キネマ旬報社に寄せられた意見について,「46通の意見が寄せられた。入場料金の問題,どうすれば自分が映画を観るようになるかという意見が多かった。普及においては,『海外や地方では東京と同じように映画を観られない。』『フィルムセンターの持っているフィルムの上映活動を広範囲で行って欲しい。』等。上映では『上映する人の養成が必要。』『シネマリテラシー教育を行うべき。』等。保存においては『ポスターやスチールも保存すべき。』等。製作においては『大人の楽しめる作品がない。』『若手だけでなく,中間層の製作者への助成も必要。』等の意見があった。」旨の説明が行われた。その後,一般鑑賞者代表の間瀬知洋氏,古山喜章氏,大前毅氏の紹介があり,同氏らによって以下のような説明が行われた。
映画一本を観るのにかかるトータルなコストというと,入場料だけではない。例えば映画を観る時間をコストと考え,仮に1時間2,000円とすると,上映時間2時間で4,000円。映画館まで行くのに1時間かかるとし,合計6,000円,これに映画の料金を加えて合計コストが7,800円になる。それに加えて,映画はあらかじめ得られる効用を測ることができない。食事などであれば,ある程度の効用は期待できる。こういうものに7,800円ものコストをかけることはリスクがある。そうであればあらかじめ効用が期待できる焼鳥屋に1時間居たほうがいい。このような理由により,なかなか映画を観ようという気にはなれないのである。
また,私たちの世代は日本映画の全盛期を知っている世代であり,この世代を動かさないと日本映画の振興にはつながらない。
現在の日本映画はアニメの収益を除くと散々たる結果である。アニメを除いた本当の日本映画の数字を算出して,対応策を考えていかないと現在の状況は変えられない。どうすれば観客が映画館に向かうようになるかという調査を行って欲しい。現在は試写会の応募にしても,抽選に外れた人に200円の割引券を送付してくるだけである。プレイガイドに行けば500円引きのチケットが手に入るのに,試写会に応募するほど映画を観ることに対してモティベーションの高い人たちにこれは失礼である。
最近,深作監督が亡くなられたが,どこの映画館でも「仁義亡き戦い」を上映していない。せめて500円ワンコインで鑑賞できるようにするべきである。
業界の努力次第でこういう問題は解決できるはずである。経験的に値段を安くすれば客が入るということは分かっているはずだし,映画一つ一つが異なる値段であってもいいはずである。観客の立場に立った調査をし,観客が動けるようにしてもらいたい。
中間まとめを読み,12の施策を推進する組織が必要であると感じた。これを行政が担うことは無理である。民間企業の中でも,人材養成はどうするかという問題になったときに,人材養成をすることを目的とした組織がその役割を担う。これと同様に,映画振興を目的とした組織が必要なのである。それを担う機関としてNPOがある。NPOならば民間で行えないような事業を行えるし,12の構想を全て行うことは無理だが,いくつかは行うことができる。文化芸術振興基本法の下でNPOが保護されることも重要である。運営する費用は個人や団体の会費で賄うべきである。特に人材養成については映画関係の勉強をしたいという人と映画の労働者が欲しいというお互いのニーズをつなぐことが必要であり,NPOが担うべきである。
学校教育の中での映画学習においては,現場が何をするべきかを悩んでいることが多い。教えるということは学ぶことにもつながるため,NPOが学校に教育できる人材を送り込む役割も果たすべきである。そうすることによって,鑑賞者,製作者の人材養成につながる。また,こういうことに協力した団体を社会的に評価していくことも重要である。
NPOは地域ごとに持つべき。そしてそれぞれの地域のNPOが横のつながりをもつべきである。
兵庫県に環境省のモデル事業で,子どもに企業が行っている環境教育を教える活動をしているNPOがあるが,これは子どもと企業の双方にメリットになる。このようなNPOの活動を支援する体制作りをもっと進めていって欲しい。
日本映画は,グローバルアメリカゼーション,日本映画の成長危惧,映画製作において長年培われてきた技術が失われる可能性があるという3つの危機を持っている。観客という映画を経済的に支えるという立場から,3つの意見がある。1つ目は「映画の広場」の創設について,イギリスには映像博物館があり,黒澤明監督の「用心棒」のポスター等の海外の作品もあり,観光名所となっていた。日本においても「映画の広場」を作る際には,イギリスの映像博物館のように日本人と海外からの観光客が交流を図れるような場所にして欲しい。しかし決して建造物を作るという意味でなく,そういう哲学,理念が必要であるということである。2つ目は「子どもの映画鑑賞普及の推進」についてである。映画は多くの人が集まって同じ場所で観るという共有体験をすることが原点であり,そのための場を幼年期に提供する必要がある。日本の古典映画がどういうものであるかということを義務教育で体験できるようにして欲しい。また,現在,学校において映画学科がないということも問題である。せめて副読本を使用する,高校で総合芸術である映画の製作の実習を取り入れるなどの取り組みを行って欲しい。人材養成が大事だということは分かるが,製作者,プロデューサー,出演者の人々が経済的に豊かになることを考えるべき。これが3つ目の意見である。教育というのは長い投資によりできるものであり,教育された才能を継続的に創造できることが重要である。自分自身も実際に録音技師を一度経験したが,とても生活していけるとは思えず,CMを作る広告代理店に就職した。友人も同様に,現在は他の職についている。このように才能が他に流れていくことは大きな損失である。有名な人でないと映画を作ることができないような国にはしたくない。アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)には世界中の映画関係の書籍が大学内で買うことができる。子ども達が映画監督を目指した場合,世界を相手にすることになるのだから,このような環境が必要である。  また,創造性溢れる人間が映画に携われる業界構造を作っていく必要がある。映画製作はある意味でベンチャーであり,リスクが高いのであるから,ハイリターンが必要であり,全てのリターンが製作会社に流れるのではなく,現場の製作者にも流れるようにしてもらいたい。
入場料金については,観客の満足度の問題である。映画を作る上で重要なことはいいものを作って,どれだけ観客に喜んでもらうかである。
興行成績において,確かにアニメが上位を占めているが,そういうデータを示すことよりも,いかに改善していくかが重要である。改善策については前向きに検討しているところであり,問題を放置しているわけではない。その点を考慮してもらいたい。
満足度は必要だが,問題はそれが見る前にわかるかどうかということである。映画の評判は口コミで広がる。だから試写会が重要なわけだが,これらは95%以上が6:30からであり,中高年は観られない時間帯となっている。これらを9:00から始めるなどの工夫を考えてもらいたい。
鑑賞者と製作者の間に確かに多少のずれがある。鑑賞者が映画を支えているのだから,市場調査を行うことは必要である。以前,経済産業省の研究会でPOSシステムを導入して詳細なデータを把握できるようにするという提案をしたことがあるが,前に進んではいない。
映画を作る側が経済的に豊かであるべきというのは同意見である。そうでないと映画業界に入ろうというインセンティブや働くインセンティブがない。インセンティブを高める構造を考えていかないといけない。
映画の選定という話があったが,成功した映画,失敗した映画は製作者側でも判断しにくいことがある。映画の値段について,何を基準にして決定するべきなのか教えてもらいたい。
一度映画の世界に入ると,習慣的に映画を観に行くようになる。そうなると,そのタイミングで話題性のある映画が上映されているかが重要になる。その時点で何らかのコメントが出ていないと,判断はしにくい。
映画評論自体の地位が低いのではないかと思う。評論の信頼度がどれほどのものであるかは疑問である。
映画を観る習慣のある人は観に行く循環ができているが,自分の生活の中に映画を観に行くことが組み込まれていない人達が多い。その人たちを映画を観に行く循環に組み込んでいくための一つの手段として,価格を下げるという手段がある。映画を一つの商品として価格設定を行っていないことが問題である。
映画の値段は産業的にも製作者としても難しいものである。値段は自由に価格を設定して1,800円になっている。映画を製作して小規模なプロダクションを経営しているところにしてみれば,映画の捉え方が再生産であり,一つの作品の回収で,次の作品の製作に取り組む。配給・興行・製作者が一致しないと,価格は決まらない。製作者にとっては,次の作品が製作できるかという問題であり,この作品は500円,1,800円というように設定することはできないのではないか。提供側も価格を設定する自信がないため,価格が1,800円に設定されているのではないか。また,鑑賞者に対する製作者側の説明不足ということもある。
以上
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