議事録

劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会(第2回)

1 日時

平成23年1月19日(水) 14:00~17:00

2 場所

文部科学省旧文部省庁舎5階 文化庁特別会議室

3 議題

  1. (1)関係団体等からのヒアリング
  2. (2)その他

4 出席者

(委員)太下委員,片山委員,田村委員,根木委員,三好委員

(事務局)近藤文化庁長官,吉田文化庁次長,小松文化部長,関文化財部長,山崎芸術文化課長,門岡芸術文化課文化活動振興室長,鈴木芸術文化課課長補佐ほか

(参与)福原文部科学省参与

(配付資料)

  1. 1.関係団体等ヒアリング進行案
  2. 2.関係団体等からの御意見
  3. 3.劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会 当面の開催予定

【参考資料】

  1. 1.劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会 委員名簿
  2. 2.劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会における論点(案)
    (平成22年12月24日 第1回劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会配付資料)

【机上配付資料】

  1. 1.平成23年度文化庁予算(案)の概要
  2. 2.劇場・音楽堂等に関する基礎データ

○鈴木芸術文化課長補佐

 それでは,開会に先立ちまして配付資料の確認をさせていただきたいと思います。

<配付資料の確認>

○田村座長

 ありがとうございました。
 本日は御多忙のところ御出席いただきまして,どうもありがとうございます。
 本日は,第2回目の劇場・音楽堂の制度的な在り方に関する検討会として,有識者・関係団体からのヒアリングを行いたいと思います。有識者・関係団体の皆様におかれましては,御多忙のところを御協力いただきまして,本当にありがとうございます。
 それでは,まず事務局よりヒアリングの進め方について説明をお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

<資料1について説明>

○田村座長

 ありがとうございます。
 それでは,進行予定表に従いまして順次ヒアリングを行っていきたいと思います。
 まず最初に,社団法人日本舞踊協会事務局長,馬場順様より,資料に基づいて15分程度で意見発表を頂いた後,質疑・意見交換をお願いしたいと思います。
 馬場様,よろしくお願いいたします。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 日本舞踊協会の事務局長,馬場と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は,伝統芸能の世界に携わっておりますが,こういうことは初めてでございまして,段取りもよくわきまえてはおりません。しかし,長年,頭の中で思っていることは多々ありますので,その辺を中心にお話をさせていただきたいと思っております。
 バブルのころ,全国各地に,こつ然と市民会館あるいは市民ホール等ができました。しかし,その市民会館や市民ホールや町村会館が本当に地域住民のために機能しているのかというと,ある程度憶測ではありますけれども,不十分であると思います。例えば,田んぼの中にこつ然とできた市民会館が年間どれだけ稼働しているかというと,憶測ではありますが,数日ではないか。なぜそうなったかというと,お金がないということも原因だと思いますが,ハード面をお金のある時期に作ったけれども,ソフトの開発までは至らなかったことが原因だろうと考えております。
 これは絶対に放置していいものではない。せっかく作ったものだから活用しなければいけないというのではなくて,本当は必要だから作ったのでなければいけないと思います。国あるいは地方自治体,それから我々実演家の個人・団体含めて,3者力を合わせてそういうことを考えていかなければいけないのではないかということをまず申し上げておきたいと思います。
 それから,東京の場合はどうだろうかと思いますと,これは完ぺきに箱が足りているという状況ではないと思うんです。私どもの団体には全国に6,000人近くおりますけれども,意見を聞くとどうもそうではないらしい。
 東京の場合は,例えば隼町の国立劇場は,大劇場あるいは小劇場はかなり多目的に使える劇場でありますが,演芸場は演芸専門ということになっており,非常に専門的な1つのジャンルのためのホールが多い。あるいは紀尾井ホール,東京芸術劇場などのいろいろなホールがあります。多目的と言いながらも多目的ではないのが地方の実態ですけれども,東京の場合はかなり専門劇場,専門ホールが多くなっていると思うんです。ですから,実演家の側(がわ)から見ればなかなか使いにくいことがあると思っております。何といっても要するに使用料が高い。国立と銘打っても,とてもとてもそんじょそこらのお金では借りられないということがあると思っております。
 それから,資料2の設問の1,2,3,4を全部一緒にしてお話をいたしますけれども,ソフトの面をどうやって開発していくのかということを次に申し上げたいと思います。
 1つは,劇場・ホールのスタッフについてでありますが,これは国立劇場とか大阪の国立文楽劇場,あるいは博多にある博多座,名古屋にある御園座,それから京都の南座あるいは歌舞練場,そういうところではかなり伝統芸能に精通したスタッフがいるんですけれども,地方公共団体が運営する会館,ホールというふうなところでは,伝統芸能に関する限りは専門スタッフというのはほとんどいないというふうに極言を,これは本当に極言ですが,そういうふうに言いたいぐらいのことだと思うんです。
 スタッフ,例えば舞台監督あるいは照明家,それから音響があります。そういうものをひっくるめて,何とか市の会館,市民ホール,そういうところに伝統芸能に精通したスタッフを全部置けといっても,それは土台無理な話だということは重々わかっておりますが,これは実は何とかしてもらいたい。これは日本舞踊に限ったことではないと思うんです。
 例えば,歌舞伎(かぶき)で狂言方が拍子木で緞帳(どんちょう)を揚げたり,幕を閉じたり,そういうことをやるわけですが,「柝を打てますか」とあるところで聞くと「柝って何ですか」,「拍子木です」,「拍子木は今は余り聞いたこともない」,「私が言っている柝というのは歌舞伎(かぶき)のチョンチョンという音です」,「ああ,あれは私は知りません」ということでした。全員が柝を打てなければいけないなどと申し上げるつもりはないんですけれども,そのような状況です。
 それから照明も,例えばオーケストラの演奏会のときの明かりの当て方,それから踊りのときの明かりの当て方,現代劇,新劇,そういうものをやるときの明かりの当て方,全部違うんですね。その全部ができるスタッフが実は欲しい。欲しいんですけれども,これもまた金がかかる。
 私がここで1つ提言をしたいと思いますのは,例えば1つの県なら県の県庁所在地,今はどこの県でもほとんど県民会館,県民ホールというものがありますので,そこに常駐の専門スタッフを置いて,同じ県の中のどこかの市で,うちで今度こういう催物があるので頼むぜと言ったら,ほいよと言って手助けできるような体制ができないかということを実は考えています。
 各県に1人ずつそういう専門家を置くと全部で47人必要なわけですけれども,要らないところもあるでしょう。多分,東京都,大阪府は要らないでしょう。ある県の中心的な,県庁の中に置くことは無理かもしれませんけれども,県の県民会館,そういうところに常駐スタッフがいて,それで柝の打てる人が欲しいんです。東京から連れてくると30万円ぐらいかかってしまうので,同じ県から出かけて手助けをする人材を配置するということができないか。また,照明についても同様のことが考えられないか。
 なかなか難しい問題だろうと思いますけれども,せっかくある劇場・ホールですので,何とか地域住民のために活用する手だてを考えていかなければならないのではないかと思います。
 市町村によっては,ホールがないところもたくさんあると思いますけれども,別に学校の体育館だって実演を行うことはできるんですね。体育館に必ず小さいけれども舞台がついております。そういう舞台を活用して伝統芸能実演を公開する場を作っていきたいと考えております。
 時々,体育館では足が痛くて踊りなんか踊れないよとか,膝(ひざ)を悪くしたらどうしてくれるという生意気な実演家がおりますが,そんなのは大した実演家ではないので,そういう人には頼まない。
 昔の話ですが,野村万蔵さんに話を聞いた時に「私ら風呂敷(ふろしき)包み一つ持って,学校の教室だろうがどこだろうが,どんなところでもできるよ」とおっしゃっていたのをふと思い出しますけれども,ぜいたくを言わなければそれでもいいんです。しかし,もし仮に,ほんの少しぜいたくを言わせていただけるとすれば,所作台があるといいですね。これは総檜(ひのき)づくりですから,最初に作る時にはすごいお金がかかるでしょう。ですから,所作台もどこの市民会館でも備えてくれというのは無理な話ですけれども,先ほど申し上げたように,どこかの県民会館に,所作台を備えておいて,中学校の体育館で日本舞踊の公演をやる,あるいは農協で公演をやるというときに,トラックで所作台を持っていって,敷き並べて使用するということぐらいならできるのではないか。
 もちろん,これもお金のかかる話でありますけれども,そういう一つの組織や体制を何とかして国として整備していただくわけにはいかないのかということ,これは長年,私が考えてきたことであります。県あるいは県民会館,それから各市町村の会館・ホール,それから体育館も含めたところにスタッフ,それからハード面の所作板みたいなものを貸し出すというシステムができると,これはとても素晴らしいことでありまして,日本の伝統芸能の発展のために非常に大きな力になるのではないかと考えております。
 一つの芸能の実演を大人,子供含めた観客に見せるということは,なかなか金のかかることでありまして,なかなか難しいということは十分承知しているんですが,実はこれは是非やっていかなければならない。国の責務というよりは,本当は国民一人一人の責務であるはずであります。伝統芸能が時代の趨勢(すうせい)によってなくなっていいのかということは考えられませんし,絶対あってはならない。これは国の宝でありますので,伝統芸能というものは,一人でも多くの国民に見てもらうということが必要だろうと思います。
 いずれにしてもお金がかかる。多分,今の経済状況から考えると,国でもなかなか難しいかもしれませんけれども,地方公共団体ではとても難しくて実現不可能ではないか。東京都,大阪府ぐらいはできるかもしれませんけれども,各府県ではとても無理な話なので,何とか国が助成して,そういうシステムを作っていただきたいと思っております。
 実演家はたくさんいるんです。さっきちょっと申しました,例えば社団法人日本舞踊協会の会員6,000人全員のうち1,000人は人様の前でお見せできるような芸を持っている。ついこの間,今月の正月明け,5,6,7,8の4日間,国立劇場小劇場で新春舞踊大会という,私どもの団体の主催の公演があり,これはみんな若手の人たちが演ずるわけですが,それぞれみんなしっかりした技能を持っていることがよくわかります。東京に限らず全国にそういう人がわんさといます。
 落語,それから歌舞伎(かぶき)はとても地方にはない。しょせん地芝居といいますか,そういうものしかないわけです。邦楽の演奏家にしても全国津々浦々のほとんどの府県にいるわけで,「来てよ」と言ったら「ほいよ」と,すぐ出かけられる態勢にはなっているんですね。ただ,出かけるためには金がかかる,こういうことでありまして,幾らどこかの市からお呼びがあっても,やっぱり赤字覚悟で出かけていく実演家というのはほとんどおりません。
 これは非常に国民のためになる,伝統芸能のためになる,あるいは日本舞踊のためになるということで,身銭を切って赤字覚悟でやることもあるんです。そういうことも日本舞踊協会としてはしております。例えば北海道支部というのもありますけれども,これも全部,本当に身銭を切って無料で公開して,あの広い北海道を駆け回っているという実情もあるわけです。やってきた人に聞きますと,「せめて所作台があればいいのにね」ということも聞いたりもいたしております。
 最後になりますが,今の日本では,大学において伝統芸能の専門家を育てるような学科は,東京芸術大学ですらもないわけですが,今,国立劇場でやっている歌舞伎(かぶき),能楽,文楽などの養成養成システムを見習って,各県に置く専門家の養成を国立劇場でやってもいいと思うんです。そういうスタッフを養成する国立劇場の研修というのを始められないか。40の県から一緒にどっと来られても困るでしょうけれども,例えば10人ぐらいずつ定期的に研修を続けるというふうなことができないか。
 それで,さっき具体例として申し上げました拍子木をチョンと打つことができるようになるんです。専門の方には失礼なんですが,チョンという音を出すのがなかなか難しい。あのタイミング等はとても難しいので,そういうことを国立劇場の養成機関として実現するわけにはいかないのかと,これもやはり国のお金がなければできないことだろうと思っております。

○田村座長

 ありがとうございました。最後にスタッフの養成をというお話がございましたけれども,馬場さんに御質問なり御意見なりございましたら,委員の皆様方,どうぞお願いいたします。

○片山委員

 静岡文化芸術大学の片山と申します。
 今,座長からも御指摘がありましたとおり,スタッフの養成が非常に重要な課題だというお話だったのですけれども,もう少し具体的にお伺いしたいところがございます。国が養成したらいいということでお話しになったんですけれども,養成の対象になる方というのは,どういう方を想定されていらっしゃるのか。新卒の人を研修すればいいのか,それともある程度ホールなどでの勤務経験のある人に,キャリアの研修としてやればいいのか,それとあと研修の期間といいますか,研修のボリュームですね。1週間程度のものなのか,半年とかが必要なのか,その辺を少し教えていただければということ。
 あともう一つは,お書きになった資料の中に,県の経費で各都道府県に配置して常駐させて,その人を市町村に派遣するような形がいいということをお書きになっているんですが,今の伝統芸能の公演の感じからいって,都道府県レベルで1人配置すれば大体賄えるぐらいの規模という御認識なのでしょうか。その辺を教えていただけますか。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 今の二つ目の御質問について申しますと,そんなに公演数は多くないんですね。常駐と申し上げましたけれども,そんな数多い公演数ではありませんので,それは市町村間で調整をしてもらって,中心的な県なり県立の会館にいる常駐の人にアレンジをしていただくということでよろしいのではないかと思います。
 伝統芸能の公演というのは,1つの市で年間に10回も15回もあるものではないだろうと思いますので,そういう無駄を省くためにも,県の中央にいて市町村に派遣するというふうなことでいいのではないかと思っております。
 それからもう一つ,養成ですが,これは歌舞伎(かぶき)研修生ですと中学校卒業以上というふうに今なっているわけですけれども,私が今申し上げているのは,今現在,市町村あるいは県の文化ホール,文化会館で,例えば照明や舞台監督をやっている人を1年に10人ぐらい東京の国立劇場に呼んで,1年間縛りつけて養成するということです。これは,県にスタッフがいなくなってしまうということになりますから,1週間あるいは10日ぐらいの研修を1年間に5回ぐらい定期的にやって,そこで育てていくということを考えておりました。

○田村座長

 ありがとうございます。根木先生,どうぞ。

○根木委員

 今お話のありました舞台スタッフですが,一部の大学では,アートマネジメントの担当者と並んで舞台スタッフの養成コースも持つようになっております。ただ,その成果が出るのはかなり後になろうかと思います。また,今のところ,せっかく養成しても,ポストや働き場所が少ないというのが実情で,そういった状況を改善していく必要性があると感じております。
 それから,現在のホール側の伝統芸能等についての企画制作は,舞踊協会さん側が企画制作することが多いのか,ホール側の企画制作が多いのか,どちらが比率としては多いのでしょうか。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 これは私どもが主催して公演を行う方が比率としては多いと思います。

○根木委員

 その場合に,協会さん側とホール側との相互連携の話なり,雰囲気というのはあるのでしょうか。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 それはないですね。ですから,何でもかんでもとにかく地方で実演をやるとすると,照明プランナーから舞台監督まで一式全部そろえて持っていかないと,実際に舞台公演は成り立たないということが実情であります。踊りに明かりを当てるのは初めてだというスタッフがいるのが現実だと思います。

○田村座長

 他(ほか)に質問などありましたらどうぞ,三好先生。

○三好委員

 冒頭に,もともと必要があって作った施設なんだから,特に国と地方自治体と関係団体・個人が一緒に力を合わせてというお話があったんですけれども,今のスタッフとかという話の場合に,舞踊協会さんももちろん会員とか支部とかおありだと思いますが,後からお話をお聞きできる照明家協会とか,劇団協とか,能楽協会とか,いろいろな団体同士でお互いに協力し合って,今のようなスタッフを共同で抱えておくというのは可能なんでしょうか。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 芸団協に加入している団体でも,舞台監督協会,照明家協会など,いろいろありますけれども,そういう連係プレーは今のところは,私の記憶ではございませんですね。

○三好委員

 みんなが力を合わせてというときに,今のようなスタッフの面と,それから所作舞台の話がありましたけれども,物は自治体である程度負担してくださいとお願いして,人は我々関係者が協力して連携して何とかやるという話合いの余地があるのかないのかということをお伺いしたんですけれどもいかがでしょうか。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 今のおっしゃっていることは,実は私,ドキリとしましたけれども,そういう連係プレーができるようなシステムができると,それはとてもいいことだと思います。ただ,今は,例えば芸団協の会議でもそういうことが話題として出たことはございません。私も全部が全部出ているわけではありませんけれども,多分ないと思います。

○太下委員

 プレゼンテーションをありがとうございました。実演家のお立場からの現状の課題認識をよく理解することができました。
 お話の中で,国の宝としての文化というものを一人でも多くの国民に見てもらう必要があるという御意見がありまして,これは本当に同感するところなんですけれども,一方で,外部の立場から言いまして,舞踊の世界や伝統芸能の世界は,次世代の観客の育成や開拓のような新しい関係づくりがこれからの課題なのではないかというふうに考えています。そういった課題に対して,例えば既存のホールと提携して,又は自治体との提携等で,何か取り組まれていることがあれば御紹介いただきたいと思いますし,また,取り組まれていないにしても,提言などお持ちでしたら是非お聞かせいただきたいと思います。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 地方公共団体との公演を実施するという意味での連携というのは,具体的に取決めとしてあるわけではございません。ただ,日本舞踊協会には全国で24支部あるんですが,どこの支部でも支部公演という,支部にしては年間で最も大きい事業になるわけですが,それをやる場合は,ほとんど県あるいは市の助成,あるいは協力,後援という形で事業を行っているようです。
 ただ,どこの支部でも毎年そういうことがやっていられるかといったら,これもまた金がかかることですから,2年に1度という支部もありますし,残念ながら3年に1度しかできませんと言ってくる支部もありますけれども,支部自体は必ず支部公演というものを回数はともかく実施している。その実施するについては,相当部分,自治体の協力を仰いでいるということが実情としてあるようです。

○田村座長

 ありがとうございました。実は馬場さんが歌舞伎(かぶき)保存会にいらしたときに,吉右衛門さんの学校公演というのを実現なさって,それは今でも文化庁が引き継いでバックアップしていらっしゃいますけれども,舞踊の関係ではまだそこまでいかないということもございますね。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 私は,今,田村さんがおっしゃったように,伝統歌舞伎(かぶき)保存会というところの事務局長をやっておりましたけれども,伝統芸能に限らず,洋楽だろうがオペラだろうが全部同じだと思うんですが,芸術を興していく,発展させていくために何が必要か。やはり一番大事なのは観客を養成することだと思うんです。
 ですから,私が今の団体において,とにかく観客を養成することだとしょっちゅう口を酸っぱくして言っております。それにはどうするかといったら,まず小学生,中学生に見せなければ駄目です。その人たちが20年たち,あるいは30年たったときに,自分の子供を連れてくる人が1人でも2人でも出たらそれでいい。全員がそういうわけにはいかないんだと言っております。国立劇場で毎年6月,7月,歌舞伎(かぶき)鑑賞教室でやっていますが,始まってから500万人ぐらいの高校生が歌舞伎(かぶき)を見たわけです。500万人の高校生観客の中から,1人でも2人でも,歌舞伎(かぶき)役者になってみよう,あるいは歌舞伎(かぶき)音楽をやってみようという人間が出てきたら,それで十分成功なんだというふうに私は常々言っているんです。先ほどおっしゃっていたように,なかなか人材が育っていくわけではないでしょうけれども,まずそこから手をつけていかなければいけないんじゃないかと思うんです。
 渋谷区立代々木中学校の体育館で歌舞伎(かぶき)のワークショップをやって,子供たちに見せたんです。あの手この手を使って子供を喜ばせようとやりました。長唄(ながうた)もわずか三挺三枚ぐらいでやりました。私は音楽を聴かせに行ったのではなくて,歌舞伎(かぶき)に親しんでもらおうと思っていったんですけれども,子供たちの感想を聞くと,馬が出てくるのが面白かった,歌舞伎(かぶき)役者の踊りがすばらしかった等の感想がありましたが,音楽の迫力に驚いたというのが一番多かったんです。頭の柔らかいうちに1度でも2度でもそういう伝統芸能に触れる機会を与えるのが,大人の責任ではないかというふうに考えております。

○田村座長

 どうもありがとうございました。
 それでは時間になりましたので,大変申し訳ございませんが,ありがとうございました。

○馬場日本舞踊協会事務局長

 大変恐縮ですが,私,どうしてもやむを得ない所用がありますので,これで途中退席させていただきますが,よろしくお願いいたします。

○田村座長 

 どうもありがとうございました。
 それでは,次に富山大学教授の伊藤裕夫様にお願いいたします。15分程度で意見の発表をお願いして,その後,意見交換をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○伊藤富山大学教授

 富山大学の伊藤でございます。
 今回のヒアリングの中で,私だけが実際の劇場・音楽堂等の利用者等ではなくて研究者という立場でございますので,若干皆様方とは違ったタイプの意見になるかもしれませんが,大きく4点ばかり述べさせていただきたいと思っております。
 まず最初の第1点ですが,「劇場・音楽堂等の制度的な在り方」という言葉に私は引っかかってしまいました。ここには2つの問題が混在しているという感じがしております。1つは,既に多くの方々が指摘されている話ですが,現在,各地にある劇場・ホール型の文化施設が活用されていない,あるいは様々な問題点があるということは,この20年来ずっと指摘されていたことであり,これを何とかしなきゃいけないということについては,大きな問題として認識しております。
 もう一つ,劇場・音楽堂という言葉を使いますと,私は,地域にある文化施設を思い出すのではなくて,基本的には歴史の中で演劇,音楽といった活動に伴って生まれてきた社会的な仕組みだと考えております。
 イギリスの哲学者だったデビット・ヒュームという人がコンベンションという言葉を使っています。これは社会的な慣習の中でつくられてきたものであって,日本においても,例えば江戸時代に歌舞伎(かぶき)興行というものは,江戸三座,上方三座等の様々な形でつくられ,幕府の統制の中で生き延びていく形の工夫をしてつくってきました。
 音楽については,ヨーロッパにおいて,18世紀あたりから市民たちが新しい音楽を聴く場としてコンサートを持った。そういった定期コンサートというものがベースになってつくられてきている。言ってみれば箱物というようなものとは全く違った一つの文化史的存在だというふうに考えた方がいいと思っています。
 この検討会では多分,前者の方だということを前提にしつつ,後者についても自分の意見も触れて,あと3点ぐらい触れていきたいと思っています。
 まず,前者の地域のホール型の施設は,定まった名前がなくて公共ホールと言ったり文化ホールと言ったり,いろいろしていますが,私はこの辺については,せっかくだったら文化会館という言葉を,文部科学省の社会教育課も使っておりますので,統一化していくことがまず必要ではないかと思っております。こういった文化会館について最低のガイドラインをつくっていくということについては,非常に重要なことだと思っております。ただ,この進め方については幾つかの問題点がありますので,その辺については最後に触れたいと思っております。
 ヒアリングということで,私自身,富山というところに5年間おります。その中で,地域の文化施設が今どういう現状にあるかということをまず報告した上で,1つ考えていくためのヒントを探ってみたいと思っております。今,各大学でアートマネジメントといった形で授業が始まっており,私も十数年,そういった授業にかかわってきております。
 その中で,卒業生たちが今どのような形で生きているのかということが大きな問題になってきているわけです。先ほどの馬場さんのお話の中にもスタッフという問題が随分出てきたわけですけれども,人材育成の問題を考えたときに,私の教え子で,文化施設に入った人間たちが多くはやめていきます。それはなぜかというと,やっぱり活躍できないからです。つまり基本的には何かというと,一番大きな問題としては学んだことをきちんと生かしていくような環境がないわけです。
 その環境がないというのは2つあります。1つの大きな要素は,文化施設等々が自主事業が少ないということですが,もう一つ重要なのは雇用の問題です。実際に指定管理者制度が導入されてからますますひどくなってきておりますけれども,プロパー職員が激減してきています。そして1年契約の嘱託が増えてきている。したがって,どちらかというと嘱託で採用された人間が文化事業にかかわり,プロパーで入った人間というのは,総務とか経理的な管理部門の仕事をするという傾向も見られたりします。こういったこともあって,例えばプロパーで入った職員は,文化施設に入って文化事業の仕事ができないというので不満を持ったりしますし,嘱託で入った人間は,毎年毎年それが継続するかどうか心配であったり,あるいは年をとってきますと給料が上がりませんので,非正規労働者ですから将来に対する不安定もあって,もっと違った仕事に就いたり親の生業を継ぐといった形でやめていくというのが多く見られる傾向です。
 私は,アートマネジメントの人材育成というのは,大学等々でのアートマネジメント教育というものも重要ですが,オンザジョブ,すなわち仕事を通じて知識を身につけ,経験を積んでいく,これが非常に重要ではないかと思っているわけですが,このオンザジョブで能力を高めていくということができないわけです。
 先ほどの馬場さんのお話を聞いていますと,様々な各分野があります。舞台芸術分野に関してはいろいろな分野がありますから,例えばクラシック音楽の専門的な知識から日本舞踊の知識まで,全然違う分野の人をいっぱい抱えておくことは不可能ですから,そういう専門を持った人たちと連携していくスタッフが必要になってくるわけです。しかしその連携をしていくためにも,ある程度経験を積み,様々な事業をとり行っていくことによって,一緒にパートナーになっていける人たちが育っていくんじゃないかと思っておりますが,それができていないという問題があります。ここを何とかしなきゃいけないというのが,地域の文化施設を見たときのまず一つの報告すべきポイントかと思っております。
 そのことと関連する形で,法制化という問題を考えていきたいと思っているわけですが,今現在,昨年来様々な劇場法(仮称)といった形での提案が出てきております。そういったものを読んで感じる中で,私自身は,劇場法という名前ではなくて,できれば文化会館法のようにもうちょっと汎用(はんよう)性のある名前にした方がいいんじゃないかという立場をとっております。というのは,先ほど申しましたように,劇場とか音楽堂というのは歴史的な産物であり,文化的な所産ですので,法制度にはなじまない。また,民間の中で様々な努力がなされてきていますが,現在の法案の骨子等々からは,そういったものが抜け落ちてしまうという問題を感じております。
 したがって,今検討しなくてはいけないのは,地域における数ある文化施設が,文化拠点として幾つかの役割を果たしていけるような仕組みを作るようにしていくことです。細かいことは内容が幅広いですから書く必要はないと思っておりまして,やらなきゃいけないのは文化施設であるということを明記することです。正直言って,今現在は地方自治法の公の施設という形で,集会施設の域を超えていません。したがって,文化施設であることをまず明記すること。それから2番目に,責任を持って事業を遂行していく責任者も重要ですが,スタッフをきちんと持つということ,この辺が大きなポイントになってくるのではないかと思っています。その上で,創造とか鑑賞とか普及,幾つかの幅広い事業というものを想定していく必要があるのではないかと思っています。
 法律においては,文化施設の類型を書いたりすると混乱すると思います。法律に基づいて,公文協だとか幾つかの団体が提案をして,むしろ政策面で反映して使っていけばいいのであって,法律にそういう類型を書き込む必要はないのではないかと思っております。
 資料2の意見欄には本当に簡単にしか書きませんでしたけれども,文化というものが時代によって非常に変化していくものですから,余り固定化させないということ。しかし,絶対に必要なものとして人材ということについてのかなり明確な規定というものが必要になってくるのではないか。この辺が法制化に対する考え方のポイントとして提案したいことです。
 最後に劇場・音楽堂に話を戻しますと,劇場・音楽堂に関しましては,一種のコンベンションという形であるものだと思っております。日本で劇場・音楽堂を考えていくときに,どうしたらいいだろうかということを考えていきますと,1つは,資料2に,昨年夏やったシンポジウムでの基調報告をつけておきました。その中には,フォード財団がアメリカで行った事例を紹介しておりますが,基本的な視点として,既に地域において何らかの活動をしている団体,できれば創造活動している団体に関する事例が一番参考になると思います。劇団だとかオーケストラだとか,そういった団体を公共化していくといいますか,私的な活動をもう少し支援することによって社会化していく。そういった仕組みが欧米でもとられてきたやり方であり,日本においても参考にすべきではないかと思っています。
 ただ,日本の場合には創造団体だけを見ていると厳しいところがあります。私自身,幾つか参考になるものを今調べている最中で,確固とした見解はまだ固まっていませんが,日本においても明治から大正にかけて全国数千のまちに芝居小屋ができています。その芝居小屋は株式会社とか有限会社で作られたんですが,地元の様々な舞台芸術が好きな人たちがお金を出し合って作り,そしてまた有志が経営に当たったりしている。そして,自分たち自身で見たいものを呼んできたり,興行を持ったりしているという歴史がありました。そういった芝居小屋は,その後,映画館に取って代わられて消えてしまったわけですが,こういった芝居小屋はまだまだ,100年前までは日本の国内にいっぱいあったわけです。
 それから,戦後を見ていきますと,いわゆる労演とか労音と言われた活動があります。今日風に言ってみれば,市民のアート鑑賞NPOと言っていいと思います。こういった団体自体が,自分たちで創造活動を行うということはしませんけれども,東京,大阪から劇団を呼んだりオーケストラを呼んだり,あるいは地域の自立劇団等々を支援したりといった形で,様々な活動をしておりました。こういったベースというものをきちんと踏まえた形での劇場・音楽堂といったものを考えていくということが,日本にとっては必要ではないかと思っております。
 ただ,今回のテーマは,多分,こちらよりは前者の地域の文化施設に関することではないかと思いますので,最後の意見については,一応タイトルがそうなっているので触れさせていただいたものであります。
 言い足りない点は,資料2の中に書いてありますので,これで私の意見とさせていただきたいと思います。

○田村座長

 ありがとうございました。
 伊藤先生のお話でお聞きになりたいこと,御意見などありましたら,どうぞ。

○太下委員

 どうもありがとうございました。
 2点確認させていただきたいと思います。1点目として,伊藤先生のお話のポイントは劇場法ではなくて,広く文化会館法というような形の方がいいという中で,一つはそこが文化施設であるということを明記すること。また,もう一つは,責任を持って事業を遂行するスタッフがちゃんと位置づけられているということだというふうに理解したのですが,配付されている伊藤先生のペーパーの最初のところに,「劇場・音楽堂という概念の不在(ハードとソフトの分裂)」というのが書かれておりますが,お聞きした中では,明示的にはそのお話はされなかったような気がしました。指定管理者制度という制度のもとでは,実は施設としての劇場と,スタッフが所属するであろう文化団体等が完全に分離されている状況です。そういう意味では,仮に劇場法的な法律がつくられて,ハードとしての施設を何らかの形で指定したとしても,それだけでは機能しないという状況になるのではないかと思います。したがって1点目の質問は,ハードとソフトの分裂の状況の中で,法律的なものといいますか,劇場・音楽堂の振興を今後どう考えたらいいのかという点について,より踏み込んだ御意見をお聞かせいただきたいということが1点目です。
 2点目は,スタッフのことですけれども,これは法律で位置づけるという形になりますと,どのレベルのことをイメージされているのかという点です。例えば博物館における学芸員のような制度をイメージしておっしゃっているのか,又は違うイメージでおっしゃっているのか,そこも追加の御説明をいただければと思います。この2点が質問です。

○伊藤富山大学教授

 まず第1点の方ですが,ハードとソフトの分裂というのは,僕は,指定管理者制度に始まったものではなくて,地方自治法の公の施設が適用されている限りは,ずっとあったものではないかと思っております。しかし,公の施設の中には学校も病院も含まれ,公立のものはすべて公の施設であるわけです。それらには別の法律があって,ハード・ソフトというものが一体化する形で機能するようにつくられているわけです。そういう意味では,同じ文化施設でありましても,博物館,美術館というのは学芸員制度等々を含め,また博物館法の中に役割が明確に書かれていることによって,ハードとソフトの分裂を避けているわけです。劇場法に当たるような法律,私の言葉で言うと文化会館法ですが,そういったものがあることによって,ハードとソフトの分裂というものは避けられるのではないかと考えています。
 それから,2番目の問題に関してですが,スタッフに関しては確かに難しい問題がありまして,御指摘のとおり,どのレベルで考えていくかというのはかなり検討を要するのではないかと思っています。
 先ほど言い忘れたんですが,法律という言葉を使っているんですが,私自身は,つい2年ほど前までは,国で法律を作ることは反対という気持ちをずっと持っていました。むしろ地方自治法244条の2第2項で,設置した地方自治体が条例によってその運営を決めていくという形のものが書かれているわけです。したがって,本来ならば条例等々で定めていくということがふさわしいのではないかと思いますし,現に静岡のSPAC等々はそれに近い形で運営されてきたという要素もあります。
 ただ,指定管理者制度の動きや市町村合併の動きを見てまいりますと,今の地方自治体の財政能力等々ではなかなか難しいなということ等がありまして,余りしばらない範囲で国法レベルにしていくような形を考えています。
 そのために,スタッフに関して言うと,学芸員的な名前をつけるかどうかはわかりませんが,複数の事業に関して責任を持つスタッフを置き,その人がその館のミッションを遂行する仕事に当たるという,そういった触れ方になるのかなという気がしております。

○田村座長

 ありがとうございました。根木先生,どうぞ。

○根木委員

 前回の検討会で,私も,劇場・ホールあるいは文化施設というものは,かつての営造物という概念をもう一回思い起こす必要があるのではないかということを申し上げたのですが,人材を配置すべきということを盛り込むべきとの伊藤さんの御意見は,まさにそのとおりだろうと思います。ただ,文化会館には機能的に幾つかの類型があり,それによって人材としての果たすべき役割や内容が異なってくるだろうと思われます。したがって,漫然と文化会館に人材をと言っても,結局のところ,管理運営のためのスタッフ程度でおさまってしまい,本来の目的遂行に十分なだけの人の配置がおろそかになるのではなかろうか。
 そういった意味で,幾つかの類型に分類した上で優先順位をつけるなどして,それぞれの類型に則した人材の必要性についての議論をした方が現実的ではなかろうかという感じがしていますが,この点はいかがでしょうか。

○伊藤富山大学教授

 そこは私もまだ迷うところが正直言ってあります。事実,根木先生とも御一緒した公文協における研究においては,類型分けのモデルを提案したりしております。
 ただ,法律ということを考えてまいりますと,これから先,文化施設の在り方というものがどんどん変わっていくのではないかと思っています。社会のニーズはもっと多様化しておりますし,特に欧米の動きを見てまいりますと,コミュニティ・アートセンターだとか,ドイツの社会文化センターなどのように,従来の文化施設とはかなり違ったものも生まれてきているわけです。そういう意味で,今の観念で固定化した分類を法律に書くのは,やっぱり気になっているというのが現状です。
 ただ,法律の中で,各館が目指すべきものを,法律にはない形の,施行令でもないと思いますけれども,ちょっと違った形のもので,5年,10年の短期的,文化芸術振興基本法で言うならば基本方針的な,5年,10年ぐらいをめどとするような在り方に関するものをどこかにつけるようなことを可能にして,そういったものを参考に幾つかの目指すべき方向を目指す。あるいは,むしろ法律は一切関係なしに,公文協等々が音頭をとってそういった提言をしていく等々,違った形の在り方でそれは考えていった方がいいのではないか。
 確かに根木先生がおっしゃるように,スタッフの問題といっても本当に範囲が広いですので,どのレベルにするかというのはすごく難しい問題ではないかと思っていますが,今のところはそのような考え方になっております。

○田村座長

 片山先生,どうぞ。

○片山委員

 この検討会の趣旨は,劇場・音楽堂等が優れた舞台芸術の創造・発信等に係る機能を十分に発揮できるようにするための課題を考えて,制度を考えるということになっているのですが,今お話しいただいた中では,文化会館一般を規定するような法整備の方が望ましいとでした。優れた創造活動に関しての法整備という点ではどのようにお考えになりますか。

○伊藤富山大学教授

 そこも私は違和感を持っているところで,もちろん,優れた芸術文化を創(つく)るということは私自身大賛成であり,私自身の持っている劇場イメージはいっぱいありますが,優れたというのは 少し主観的な言葉であって,法制度にはなじまない言葉だと思っているんです。だから,むしろ毎年一般予算で行う施策の中でそういったものを出していくべきであって,優れた芸術文化を発信するというような施設を法制度の中に盛り込むことを考えるということ自体,ちょっとおかしいのではないかと思っています。

○田村座長

 他(ほか)に御意見は。

○根木委員

 もう一つよろしいですか。先ほど団体の公共化といったようなことをおっしゃいました。しかも地元にたくさんある芸術文化団体,そういった存在を踏まえて考える必要があるということをおっしゃいましたが,それが文化会館法全般に関(かか)わるという意味でしょうか。

○伊藤富山大学教授

 いや,それは文化会館法とは全く別個な話なんです。劇場・音楽堂という社会的なコンベンションをつくるためにはそういった考え方が必要だと思いますけれども,それは法の実施によってできるものではないと思っていますので。

○根木委員

 具体的にはどういうことでしょうか。

○伊藤富山大学教授

 具体的には,今の指定管理者制度を利用するならば,指定管理者にそういった団体が指定されて,その館の運営に対して様々な試みができるようにしていくというようなことがイメージされます。実際,今,韓国でそれに近いことが行われているようで,幾つかの地域の劇場が地元の劇団等々に5年,10年という単位で運営を預け,そして活動していっているようです。ただし,税金等々が投入されていますから,活動に対しては一定のチェックは行われていくというやり方がとられているようですが,そういうイメージです。

○根木委員

 それは管理運営全般を当該団体に丸投げをするということで,相互連携ということとはまた別の話ということですか。

○伊藤富山大学教授

 それはあくまで,今日の本題の課題ではないと思っているので,私の単なる個人的意見にすぎません。

○三好委員

 多分,伊藤先生は,地方自治体の現状というところからかなり問題意識を持っておられると思うんですが,今のお話によると,例えば法律を作るとすれば文化会館法という,かなり幅の広い,ただ少なくともそこは文化拠点であるということだけは明確にする法律にして,予算的な措置で,ある程度創造的活動を支援していくと。となると,もともとの問題意識のある地方自治体として,文化活動,芸術文化についてどうしていくのかということについては,それはそれぞれの自治体に任せるしかないというお考えなんでしょうか。そこをもう一つお聞かせいただければと思います。

○伊藤富山大学教授

 ここも非常にジレンマを感じるところで,意見としては,地方分権,地方主権の時代ですので,地方自治体に任せるのは当然であって,国がそれについてとやかく言うものではないと思っています。ただ,現状を見ていますと地方自治体の動きが悪いので,一定の期間,インセンティブを与えるような政策というものをとるということは十分考えられると思っています。それもあくまで毎年毎年の施策であって,法律等で定めるものではないと思っております。

○片山委員

 創造活動のところは法制化になじまないというお話だったのですが,例えば,自治体系財団も含めて民間の団体が行う優れた創造活動に対して,むしろ公立文化施設の公の施設としての在り方に対して規制緩和を求めるといいますか,例外的な利用を求めるようなことを規定するような法律,つまり民間で創造活動する団体が,ある公立文化施設を占有でき,優先的に利用できるとか,そういう例外規定を定めるような法律みたいなものについては,どのようにお考えですか。

○伊藤富山大学教授

 それは十分あり得ると思いますし,今現在,公の施設に関する,例えばかつての事務次官通達等々でもそれに近いことが書かれたりしております。そういう意味では,今回,文化会館法をもし定めるとするならば,文化の振興という目的を実現するために,スタッフの他(ほか)に,例えば使用条件について,今のように,平等というような考え方ではなくて,文化の振興に役立つ団体との提携みたいなものをうたっていくことは構わないのではないかと思っています。

○根木委員

 先ほど伊藤さんが,創造活動をやるかどうかということは,少なくとも自治体がつくった会館ないしホールだから,自治体側に委(ゆだ)ねるべきだとおっしゃいました。私も基本的にはそうだろうと思うのですが,一方,我が国の芸術文化のトップをいかにすべきか,頂点をどうするか,その伸張をどう図るかということは国の役割でもあると思います。したがって,ホールを通じてという場合も,やはり国としてある程度かかかわるということがあってもいいのではないかと思うのですが,その点はいかがでしょうか。

○伊藤富山大学教授

 その点に関しては,今現在行われている文化芸術創造プランの施策の中でもかなり行われているのではないかと思います。特に改めてそのための法律をつくる必要はないのではないかという気はしております。
 それからもう一つは,もしつけ加えるならば,国立劇場法はつくってほしいという気持ちはあるんです。つまり,国立劇場自体の運営が非常にあいまいだという問題の方がずっと大きな問題であって,国の責任を云々するならば,そこをまず考えるべきではないかと思っています。

○田村座長

 ありがとうございました。国立文化施設等に関する検討会も別個に行われておりますけれども,本検討会に劇場・音楽堂等のという名前がなぜついているのかというのは,最初から申し上げているところでございますけれども,先生のおっしゃったところで皆様も御理解いただけたのではないかと思います。
 伊藤先生,どうもありがとうございました。
 それでは,続いて,いずみホール,森岡めぐみ様より15分程度,発表していただいて,その後,質疑応答に入りたいと思います。よろしくお願いいたします。

○いずみホール 森岡課長

 よろしくお願いいたします。いずみホールの森岡めぐみです。
 いずみホールは,大阪市内にあります民間のクラシック音楽専用ホールです。住友生命が設置いたしまして,住友生命社会福祉事業団が運営しております。当ホールは去年で20周年だったんですが,私はその最初から働いておりまして,いわゆる生え抜きスタッフでございます。
 まず,劇場・音楽堂の定義ということを定めなければいけないということを今回初めて知りまして,何だろうと考えたんですが,私のように民間のホールで働いている者は,設置者と運営者がほぼ一体ですので,芸団協様の提言の,実演芸術の創造,公演,普及,教育などの具体的な目的事業を行う組織と施設であるという定義にのっとってお話しさせていただこうと思います。
 まず,劇場・音楽堂の現状と課題についてどのように認識していますかということについてですが,音楽堂の現状は決して順風満帆だとは考えておりません。特にクラシック音楽演奏会におきましては客層が非常に高齢化しております。私どもも観客の方々にアンケートをとって,年齢層をいつも見ているんですが,これまで40代以上という形だったのが,ここのところ50代以上という形で,年齢層が上がってきている様子を感じております。
 といいますのは,どうも若年層の方々の実演鑑賞から遠ざかるような動きがあるのではないか。もしかしたらクラシック音楽だけでなく,演劇その他のものにも同様の動きがあるのかもしれません。それから,社会全体に対する文化の必要性とか効用について認識も薄くなってきていないかなというような危惧(きぐ)も現場で持っております。
 しかしその一方,劇場・音楽堂,特にクラシック音楽専用ホールの動きから見ますと,1990年代以降,官民問わず施設面でも運営面でもとてもすぐれたホールができています。その前にも,大阪のザ・シンフォニーホールという1,704席の日本初のクラシック音楽専用ホールができまして,これが1982年。サントリーホールが1986年,カザルスホールという日本初の室内楽専用ホールが1987年,いずみホールが1990年と,本当にすばらしいホールがたくさんできております。音楽教育も充実しておりますし,若い国際的な演奏家を日本から輩出しております。これを考えますと,世界的に見ても,音楽鑑賞環境はハードとしてはとても整っているのではないでしょうか。
 しかし,ここに問題点がございまして,これからこの実演芸術から遠ざかっていく若年層の動きなどを考えますと,これらのハードを使っていかに実演芸術のすばらしさ,それが社会にどれだけ活力を与えていくかということを考えていかなきゃいけない,行動していかなきゃいけないというのが喫緊の課題だと考えております。これを実行していくには,経済状況にかかわらず,それぞれの施設が安定して運営できる土壌がなくてはできないと考えておりますので,そこに課題を見ております。
 制度的な在り方につきましては,次に書かせていただきました。いろいろな音楽ホールがたくさんできまして,都市部中心かもしれませんが,各都道府県にも大きなホールがございまして,すごく個性的な戦略的な活動をしております。しかし近年,設置主の経済状況のために閉鎖されたり,主催企画を縮小させたりするホールも見られます。これらのホールが公立,私立問わず,地域の,ひいては我が国の文化振興に果たしてきた役割を勘案し,充実・整備・支援のための施策を講じていく,そのような制度を設立すべきだと感じております。大阪市内ですと近鉄劇場や,扇町ミュージアムスクエアが2000年代に閉鎖されております。
 それから,特に都市部と地方,東京圏とそれ以外の地域の情報格差は大きく,それが文化の格差ともなっているのが現実です。今後,劇場・音楽堂の在り方を考えていくときに,地域の実情に応じた整備・支援の形に対応する在り方であってほしいと私は思っております。
 例として私どもについて申し上げますと,いずみホールのある大阪市内には,フェスティバルホール,ザ・シンフォニーホール,いずみホール,ザ・フェニックスホールがありますが,これらのクラシック音楽ホールはすべて民間のホールでございます。東京都でしたら東京都芸術劇場とか,滋賀県にはびわこホールなどがございますが,それに比類するようなホールは大阪府立若しくは大阪市立でもございません。
 歴史的に民間の力が強い大阪とはいえ,現在,これらのホールの運営,整備や主催公演事業に対する公的支援は少なく,いずみホールはまだ比較的公的助成を頂いている方です。その内容は,文化庁の事業である,芸術拠点形成事業と優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業の2つでございまして,大阪府と市からは一銭も頂いておりません。これら民間ホールは,企業や財団の経済状況に依存しているのが実情です。
 このような場合は,経済的に苦しくなると,芸術性は高いが収益が苦しいものを削減しようとか,社会貢献だが費用がかかるようなところを削減しようといったことになるかもしれません。また,地方によっては情報発信が難しいという地域もあるかもしれない,そういうところは情報発信のための環境整備が必要かもしれません。国全体で国民一人一人が平等に文化享受できるためには,地域の実情を勘案した格差のない劇場・音楽堂の在り方を念頭に置いていただければと思っております。
 今回,平成22年3月に大阪府から出されています「大阪府文化振興新戦略」という戦略があるんですが,その中に4つの理念,今後4つのキーワードでやっていくとされています。その1つに「都市全体に開かれた文化」というのが制定されておりまして,従来のイメージは箱の中の文化であったが,これからは都市全体に開かれた文化であると,そういうふうにうたってあります。「劇場や美術館の中だけが文化活動の場ではありません。大阪が目指すのは人々が街角を舞台にそれぞれの思いを表現している,そんな自由で開かれた都市です。御堂筋や水の回廊等,大阪の都市(まち)全体で活動・発表ができるよう「場」の提供を進めます。」と。劇場については,むしろ構想から外していく方向性なのかしらとショックを感じました。
 また,この「新戦略」の方向性というところでは,劇場に関係したことで,「世界中のアーティストのサクセスストーリーの頂点として,芸術文化にあこがれる子供たちが夢見る先として,大阪に大規模ホールが必要,との認識のもと,官民の役割分担を明確にし,民間の力を引き出すなど,適切な立地誘導に努めます。」と述べられています。つまり,立地誘導はしても残りは民間が(引き続き)やってくれと。なるほどと,いろいろな思いを持ってこれを読みました。
 大阪で劇場文化はこのような状況です。先ほどから各県には県民ホールが当然あるものだという前提でお話をされていたような気もしますが,大阪府の場合ですとこういう状況になっておりますので,前提条件をよくお考えいただいて,地域事情を考えた上での劇場・音楽堂の在り方を考えていただければと思います。
 次に,制度的な在り方について検討するに当たって留意すべき点ですが,劇場・音楽堂への整備・支援などの施策を考えるときに,施設が行っている事業をどう評価すべきかが問題になってくると思います。公平公正な視点を持って評価できる機関,検討されていると言われている日本版アーツカウンシルの設立は必要であると考えます。どういうメンバーで構成するかとか,どういうところに評価の点を置くかということは,いろいろ議論があると思います。大規模なものばかりが評価されるのではないかとか,そういう不安はすごく感じております。
 そのような機関が設置されることを前提にすれば,例えば評価の高いホールへの支援は,事業ごとにではなく,ホールの存立基盤をなすところに一定の額を決めて行うことが可能ではないでしょうか。これも公立,民間の区別なく適用していただければと考えますが,民間もいろいろあるという御意見がございましたら,例えば,民間については劇場の理念や目的,事業内容が公益に沿っているかを規定して対象とすればよいのではないでしょうか。ホール側といたしましては,ホールへの支援という形にしていただければ,安心して長期的視野に立つ企画,芸術性の高い企画,社会貢献事業に取り組むことができます。
 現在,私どもも文化庁の施策で助成を頂いており,赤字を補てんする仕組みになっておりますが,それだと常に大きな赤字が発生しますので,こちらの負担感は大変大きいものです。これにつきましては,先日,新聞等で,芸術団体への支援制度において赤字補填(ほてん)制度からの変更があると読みましたので,劇場・音楽堂についても同様の制度の実現を願っています。
 最後に,いずみホールは非常に珍しい立場にあると思うので,公的ホールでない民間ホールがどのように活動してきたかを少し説明させていただきます。
 住友生命保険相互会社が設置しているいずみホールは,平成22年に開館20周年を迎えました。開館以来,音楽ディレクター,礒山雅のもと,長期的視野に立つ主催公演を毎年30公演以上開催し,地元の演奏家を集めて国際レベルの現代音楽を演奏するいずみシンフォニエッタ大阪というレジデントオーケストラ,ホールのプロデュース・オペラである演出家・岩田達宗さんのオペラシリーズ,毎年テーマを定めた年間企画。それから,ウィーン楽友協会と直接連携関係を持っておりますので,その企画協力で3年に1回開催している音楽祭。ドイツのバッハ・アルヒーフの企画協力を頂いているバッハオルガン作品連続演奏会。このような芸術性の高い企画をしながら,同時に,平成17年度より子供たちのワークショップ,それから平成22年度より大阪市音楽団と共催で,大阪市の教育委員会の御協力を頂いて,市内の公立小・中学校を学校単位で招きまして,今年度の終わりまで約5,800名の小・中学生にホールで演奏会を聞いていただくという企画をホールが積極的に主導して行っております。これはもちろん無償提供です。
 平成15年より年に1回,障害者とサポーターのための無料演奏会も行っています。また,小学生から20歳の方を無料招待するユースシート制度を平成22年度に行い,ザ・フェニックスホールさんの試みなどとあわせて先週,読売新聞の大阪版が取り上げてくれました。このような社会貢献事業や文化普及事業をやっているということをお伝えしたいと思います。
 なぜ民間ホールがこのように積極的に文化普及事業をやっているのかといいますと,芸術的に高度なものをやっていこうと思ったら,文化普及事業が絶対に必要になってくると,20年間の私たちの活動から学んだからです。つまり片側だけでは成立しないんですね。お客様にわかっていただくためには,まず幅広く音楽を好きになっていただく,実演芸術に触れていただく機会を自ら提供していかないといけない。そうでないと私どもの首も絞まります。
 逆に考えますと,幅広いお客様を集めることをやっていると,その次に聞きたいもの,その次に聞きたいものをつくっていく,芸術性の高い企画が必要になってきます。ですので,この2つは車の両輪であり,不可欠であるというのが私たちの実感です。
 芸団協様が劇場法の提言をおつくりになっていて,読んでいて思ったのは,つくる劇場と見る劇場と分けるのは,カテゴリー上仕方がないかなと思うんですが,基本的には,見せていきながらつくっていく,両方普及させながら創造していくことが必要であると思います。地域のプロデューサーとしていろいろな方々がつくっていくのを応援したり,若しくは自分たち自らつくったりと,そういう形をとると劇場が一番活性化されるのではないかと考えております。
 以上です。ありがとうございました。

○田村座長 

 ありがとうございました。
 資料には書いていらっしゃらないですけれども,お昼にやる演奏会というのも,いずみホールさんが一番最初にやっていらっしゃいますね。

○いずみホール 森岡課長

 はい。ランチタイムコンサートというのを,今回,3月で75回になるんですけれども,1992年からずっと継続して行っております。

○田村座長

 初めから底辺拡大と言いますが,お客様を増やす努力をしていらしたと思います。それも実施する曜日を学校の授業の時間もきちんと見定めて設定したから,コンサートをすれば次の回のチケットは完売するぐらいだというふうにおっしゃっていたような気がいたします。

○いずみホール 森岡課長

 はい。11:30開演という,日本でも当時多分画期的な開演時間を採用しました。実施前は私たちは観客が入らないのではと思ったんですが,1回目から満席になりました。つまり,11:30に開演して13:00に終演して,主婦の方などは一緒に来たお友達とランチを食べて帰ると,ちょうど小学生の子供が家に帰ってくる時間で非常にいい時間です。これは日下部吉彦さんの発案なんですが,日下部先生がカルチャースクールで教えていらして,その時間帯が非常に人気であるというところに目をつけられました。

○田村座長 

 ありがとうございました。どうぞ。

○太下委員

 どうもありがとうございました。本日予定されているプレゼンの中では唯一,民間ホールの立場ということで,よく課題を認識できたんですけれども,一方で,欧米などで言われているパブリック・プライベート・パートナーシップ,PPPの考え方に立つと,公的なサービスを実施するのであれば,その担い手が狭い意味での公的団体であろうとも民間団体であろうとも,助成は同等の条件でなされるべきだという,イコールフィッティングの考え方があります。そういう観点からすると,資料2でお書きいただいている何らかの助成施策は,公的なホールであろうとも民間ホールであろうともイコールであるべきだというのはそのとおりだと思いますし,更に,資料2にはお書きになっていないようですけれども,私は個人的な意見としては,民間ホールの場合,例えば固定資産税の負担とか,そういった部分でも,公的なホールと一定の条件のもとでイコールフィッティングは機能すべきではないかというふうに考えていまして,例えば公益認定を受けた団体が所有,経営するようなホールについては同等の措置を行うとか,そういうことが必要ではないかと考えているんですが,その点についてはいかがでしょうか。

○いずみホール 森岡課長

 是非そうしていただきたいと思います。というのは,公立のホール様は固定資産税等を払っていらっしゃらないんですよね。

○太下委員

 ええ。

○いずみホール 森岡課長

 それと,一般のお客様はこのホールが公立であるか民間であるかということは,そんなに意識しておられないと思います。例えばチケット価格の問題をとっても,同地域で公立ホールと民間ホールがある場合,固定資産税を払いながら助成を頂いていない側(がわ)は,不利な立場でのチケットの値段設定になってしまいます。公立ホールに負けてしまう,民業圧迫になってしまうという可能性も考えられますので,是非そうしていただければと思います。

○田村座長

 他(ほか)に御質問はございますでしょうか。根木先生,どうぞ。

○根木委員

 いずみホールさんは,斬新(ざんしん)なマネジメントやマーケティングもやっておられ,敬服しているところですが,スタッフは何人ぐらい配置していらっしゃるのでしょうか。現在の事業状況から見てそれが少ないのか多いのかをお聞きしたいと思います。

○いずみホール 森岡課長

 スタッフは24名です。それ以外に,私どもはチケットを販売しておりますので,5名のパートの方を雇っています。それ以外には,他ホール様では,サントリーパブリシティサービス様とか,いろいろな人材派遣の方をお願いされているホールのチケットテープとかクロークの係がありますが,これにはいずみホール特有のレセプショニスト制度という制度がありまして,全部アルバイトとして直接採用しております。これが42名おります。
 最初の24名なんですが,企画スタッフが4名,それに営業というのをつくっております。この営業というのはチケットの販売営業です。営業スタッフをつくっているところは音楽ホールでは余り見かけないなと思うんですが,営業スタッフが2名,このうちの1名の営業課長は企業協賛も担当しておりますので企業協賛を探して回る,お願いして回るという,そういう仕事もしております。それから貸しホール担当が2名おります。それ以外は経理とか人事とか,それから先ほど申し上げたレセプショニストとして42名雇っておりますので,その者たちを指揮するレセプションマネジャーというスタッフが3名おります。
 技術の方に関しましては,NHKメディアテクノロジーさんという企業にオープンのときからずっと委託しておりまして,常に同じスタッフが3名,常駐ではないんですが,公演のあるときに来られるという形になっております。たくさん企画をつくっておりますので,そのチケットを売っていくということを考えますと,みんなで手いっぱい動いているかなという感じです。

○根木委員

 そうすると,設置者の住友生命さんからの支援以外に,ファンドレイジングをやっていらっしゃるということですか。

○いずみホール 森岡課長

 そうですね。事業費の約45%を住友生命から頂いていて,45%がチケットの収入,それから貸し館収入,残る10%で企業協賛とか文化庁様からの助成,そういう形で運営しております。

○片山委員

 ありがとうございました。全国にたくさんある公立のホールも,実際に運営しているのは財団法人です。実は組織としては,いずみホールさんと同じなのですけれども,全国にある自治体が設置した財団の運営と住友生命の財団さんを比べて,一番違うのはどのようなところでしょうか。

○いずみホール 森岡課長

 公的財団に入ったことがないのでわからないんですが,民間は雇用が長いうこともあります。仕事のスパンも例えば年度ごとの予算とかで動くということではなくて,もっと長い間隔で動くことができると思います。ですから,民間であるということで長期計画も立てやすい。
 それから,例えば海外の団体,うちの場合はウィーン楽友協会,それからドイツのライプツィヒのバッハ・アルヒーフと組んでやっておりますが,こういうところと組もうというときも意思決定がとても早いです。公的なところですと,決裁に時間がかかるとか,公共団体様の御意見を待つとか,そういうのがあるかもしれませんが,私どもはやろうと思ったらすぐできます。ユースシート制度についても,二,三回社内で議論したらすぐ決定しました。やはり民間のよさは機動力のよさ,それから長期計画が立てられる,それからノウハウというのもそういう意味ではたまってくるし,いろいろな経験もできる。公的ホールさんもいろいろ活動されていると思うんですけれども,そう思います。

○田村座長

 どうぞ,三好委員。

○三好委員

 今,民間だからこそという,非常にうまく活動されているというお話で,そもそもその前段で設置と運営が一体という,そこもおっしゃっていたと思いますが,例えば公立の文化施設などの場合ですと,だれが運営しようが設置者としての立場から言うと,そこにどれだけのものをつぎ込むかというときに,公立の施設ですとほとんど議会の関与あるいは監査とか,予算的な制約とか,そういった幾つかのものがあって,そこで,ふるいにかけられ,結果的にわずかしか残らないというケースが往々にしてあるんですけれども,いずみホールさんのように設置と運営が一体というところは,ある意味では非常にメリットがあると思うんですが,逆に言うと,例えば設置者側から事業についての評価や指摘や,事業内容に関しての関与はおありになるんでしょうか。

○いずみホール 森岡課長

 私どもの場合は,設置者の住友生命保険から理事長,支配人,業務部長がおります。ですので,私どもの団体の長(おさ)がもともと住友生命の意思を汲んでおりますので,社内の中の議論で,住友生命の意向とプロパー職員たちの意向が,すり合わせをされております。ここでの意思決定は速やかに住友生命出向者から設置者に行きます。もちろんその間で設置者の中でも議論があると思うんですが,コミュニケーションがうまくできていますので,私どもの場合はスムーズにいっております。
 いろいろな民間ホールさん同士のつき合いもありますのでお聞きすると,プロデューサー,プロパー,親会社の間で制約があるところもあり,それはいろいろな事情があると思います。住友生命につきましては割とおおらかなところがありまして,今までやってきている方向性について,常に報告をしているということもあるんですけれども,大きく支持していただいております。

○三好委員

 今の支配人の方と音楽ディレクターの方とはどういう関係になるわけですか。

○いずみホール 森岡課長

 音楽ディレクターは国立音楽大学教授の礒山先生ですが,音楽ディレクターが基本的に最終責任を持って企画を決めます。音楽ディレクターのもとで,収益面からも吟味して企画を立て,それから普及企画をどうするかというところは,ホールのスタッフと支配人である住友生命出向者との間で合意を形成するところまで話し合っています。
 ですので,芸術面については礒山先生が責任を負われていますけれども,普及企画,収益については,話合いをして,先生の了解をとってから皆で決めるというように,すり合わせをしております。

○三好委員

 もう1点,長期的視野,長期企画ができるということが民間でやっておられるいずみホールさんの特徴だとおっしゃっていましたけれども,例えば3年先とか5年先を見込んだ長期企画を立てられる場合に,そこまで見込むことの財政的な担保というのは,ちゃんととっているわけですか。

○いずみホール 森岡課長

 そうですね。財団ですので費用もとっておりますし,それから住友生命とも話し合って,これぐらいを3年計画でやるのでよろしくというような形での了解を得ております。もちろん住友生命から頂く分は45%ですから,それ以外の部分を自分たちで稼ぎ出さなきゃいけませんので,営業部をつくっているように,お金を集めてくるということについては,私たちはものすごく綿密にやっております。

○田村座長

 お時間になりましたので,どうもありがとうございました。

○いずみホール 森岡課長

 どうもありがとうございました。

○田村座長

 文化庁の方にも御意見を伺いたいのでございますが,ちょうど時間になりましたので,ここで休憩をさせていただきます。50分まで休憩にさせていただいて,50分から吉井先生のお話を伺いたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
 休憩にさせていただきます。

<休憩>

<再開>

○田村座長

 それでは,時間になりましたので,引き続きヒアリングを行っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 公益社団法人日本照明家協会名誉会長,吉井澄雄様より15分程度意見を発表していただいて,その後でお話合いをさせていただきたいと思います。吉井先生,よろしくお願いいたします。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 照明家の問題だけではないですが,劇場・音楽堂というのは本来創造団体と施設が一体でなければいけない。ところが現状では,施設,いわゆる箱と創造団体というのはほとんど無縁な公共文化施設が非常に多い。これを活性化しなきゃいけない。なぜ活性化しなきゃいけないかというと,まず東京とそれ以外の都市で,舞台芸術を享受するその在り方,その格差が余りにもひど過ぎる。例えば東京を100とした場合に,大阪ですら50もいかないんじゃないか。ましてや他(ほか)の都市に至っては本当にひどい格差がある。舞台芸術の場合,本来,憲法に保障されている平等さと全く無縁な状態になっているわけです。
 それでは文化施設を活性化するにはどうしたらいいか。もちろん,政府にお金があれば,各地の公共文化施設へお金をつぎ込んで創造団体を立ち上げて,舞台芸術の上演を行えばいいんでしょうけれども,実際問題としてそれはあり得ない。
 それで,まず劇場・音楽堂という定義の問題が1つあるんですけれども,これは頂いた資料などを見ておりますと,ほとんど公共文化施設に焦点が合っているような印象があります。ただ,劇場・音楽堂の在り方を見ますと,博物館や図書館と違って非常に多様なわけです。施設の規模も多様でありますし,上演の形態も多様である。したがって,この劇場・音楽堂で上演すべき舞台芸術,演奏芸術の想定を非常に幅広く考えるべきであろうと。つまり,能楽堂や歌舞伎(かぶき)劇場,あるいは商業劇場や大衆演劇,寄席,そういったものも含めて舞台芸術,演奏芸術の振興というものを考えなきゃいけない。
 そのためには,もし劇場法というものをつくろうとするならば,まず劇場の固定資産税と,興行資本や上演団体の事業税の減免ということを,基本に据えなければいけない。そうすると,東京以外の都市であっても,経済的に現状よりも非常に有利な機会が起こり,それが上演芸術の活発化,振興ということに一つの大きな後押しになるのではなかろうかと考えます。
 それからもう1点,これは我々劇場技術者としての立場からの意見ですけれども,現在の劇場というのは法的にはほとんど無法状態なんですね。というのは,例えば大きな劇場へ行きますと,舞台にせりや大きな穴がある。これは法的にどういう存在かというと,表現は悪いんですけれども,工事現場の穴でしかないんです。建築基準法上も何も規定がないわけです。
 かつて劇場が非常に単純であったころ,例えば舞台装置が,歌舞伎(かぶき)というのは高さが15尺,大道具の幅が12尺とか15尺が基本だった。つまり人間一人で持てるような舞台装置のパーツだったわけですけれども,今の,例えばオペラの舞台装置というのは,高さが30メートルぐらいあるわけです。これは到底一人では持てない。つまり,何らかの機械的な装置を使って組み立てなければならない。そういう状態であるにもかかわらず何の法的な担保もない。したがって,かなり前にある方がせりに転落して大きなけがを負ったときなどは大騒ぎしたわけですけれども,結局その後,何の担保もなされていない。だから,劇場の技術的な整備というのは極めて重要であろうと思います。
 また劇場の規模によるところがあると思うんですけれども,例えば100人とか200人の小劇場で技術の責任者の必要性は,必ずしもないかもしれません。しかし,一定の客席数,500席とか700席とか,それ以上の客席数の劇場にあっては,その規模に見合う技術的な危険というのは必ず出てくるわけです。ですから,そういった劇場に対する技術的な責任者の設置ということを考えなきゃいけない。
 これはドイツの州法で規定されているわけですけれども,客席数700以上の劇場については,照明マイスターか劇場マイスター,テアターマイスター,どちらかの資格を持っている技術部長を置かない限り舞台稽古(げいこ)ができないという規定があるんです。これは,舞台稽古(げいこ)を本番と同じように上演をやると,いろいろな危険が出演者などに当然かかってくるためです。ですから,技術的な責任者の設置を念頭に置いた方がいいのではないか。
 ですから,技術的な責任者の設置が技術的な危険に対する担保です。もちろん,劇場というのは技術だけではなく芸術的なパワーが一番大事なわけで,図書館の司書とか博物館の学芸員に相当する劇場学芸員というような資格設置を考えるべきだろうと思います。
 私どもの協会では,国に顧みられないものですから,自分たちで照明家協会の認定試験というのをやっております。これは1級と2級がありまして,1級の場合は,2級の資格を取得後3年ぐらいの実地経験を得た者ということで,照明の技術的な面と,さらには劇場全般にわたる知識や技術を講座で教えまして,認定試験を年に1度やっております。
 私どもの協会は現状,会員が3,000名を超えたところでありますけれども,日本全体で劇場にかかわる照明の仕事をしている人間というのは7,000人を超えるんじゃないかと思うんです。これを組織できない大きな理由は,資格を取っても何の役にも立たないじゃないかと,資格なんかなくたって仕事はできるということです。
 アメリカのユニオンの制度が1つありますが,我が国の中ではユニオン制というのは余り適当ではないだろうと思います。技術力あるいは芸術に対する知識を担保して,それで資格を構築した方がいいのではないか。そういった資格が劇場全体にあるべきであろうというふうに考えます。
 ただ問題は,私どものところへ来る前の学校教育の面で,劇場に関しては,昨今,アートマネジメントという学科が誕生しておりますけれども,美術と違って,パフォーミング・アーツに関してはまだ整備されていないという印象がございます。これは,例えば舞台美術に関しても,あるいは照明に関しても,こういった資格につながる教育というものを考慮しなければならない,構築しなければならないと考えております。
 以上です。

○田村座長

 ありがとうございました。
 吉井先生に何か御意見とか御質問ございましたらどうぞ。根木先生,どうぞ。

○根木委員

 吉井先生は,劇場と創造団体が一体化しているヨーロッパ型の劇場が理想というふうにお考えでしょうか。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 ヨーロッパの場合でも,都市によってはもちろん創造団体がいない,日本と同じような多目的の貸しホールというのはあります。例えば人口2万5,000人以下の都市に行ったらそういう劇場はかなりあるわけです。だけど,そういう貸し劇場ではあっても,その都市,その都市なりに,団体を呼んできたり,あるいは市民活動で上演をしたりと,そういうことは非常に活発にやっています。

○根木委員

 要するに企画制作の機能が必要だということになりますか。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 企画制作の機能と,もう一つは上演団体でしょうね。例えば劇団がある,オペラをやるグループがあるということではないでしょうか。

○根木委員

 ただ,カンパニーと小屋は,日本では伝統的に分離していますね。アメリカも大体そうだろうと思います。ですから,カンパニーを劇場が丸抱えするというのは日本の伝統にそぐわないとも言えるのでは……。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 いやいや,それは丸抱えということにはならないと思いますが,アメリカやヨーロッパの場合でも,商業演劇の場合は概して劇場と上演団体が完全に分離しているわけです。だけど,例えばオペラの場合は,ニューヨークのメトロポリタンならメトロポリタンという劇場と,それからメトロポリタンというオペラカンパニーと一緒になっているわけです。つまり一概に言えないと思うんです。それが上演芸術の難しさだと思うんです。

○根木委員

 おっしゃるとおりと思います。したがって,主体は違うけれども相互連携はあるべきということでしょうか。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 相互連携というか,劇場は,演劇を上演し,オペラを上演し,あるいはオーケストラの演奏をしない限りは意味がないと思います。

○根木委員

 もう一つ,資格制度については,舞台技術の方でも必要でしょうし,マネジメントの方でも必要性があると思うのですが,具体的には何かお考えがありますでしょうか。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 具体的には僕は,これでもって全部をカバーするという具合になかなかいかないのが劇場の難しさだと思うんです。例えば客席数100とか200の小劇場と,客席数2,000に及ぶオペラ劇場と,同じ考え方ではいかないという点の難しさが1つと,それから,日本の劇場は伝統的に,技術監督や芸術監督などのトップから下へ一発で指揮が通っていくというシステムになっていないわけです。歌舞伎(かぶき)の場合も,歌舞伎(かぶき)の興行元と作者部屋と,それから役者があって,大道具というのは大体劇場の外にいたわけです。これは現在の歌舞伎(かぶき)でも同様ですけれども,舞台監督がいないわけです。狂言方はいるけれども,あれはただ単に合図をしているだけであって,上演の指揮をしているわけではないんです。だから,そういう形態の中で技術監督とか芸術監督という形態を持ちこむというわけにもいかない。
 だから,それは実質的には別の形態を考えなければいけないと思うんですが,1つのタイプとしては,上演について責任を持ち企画し,制作の責任を持つ芸術監督と,技術的なことの一切の責任を負う技術監督という2つは,何らかの形で考慮すべきであろうと思います。是非お考えください。

○太下委員

 どうもありがとうございました。お伺いしたいことが2点あるのですけれども,1点目は,照明の技術者の方は,立場としてはどういうパターンが多いのかというのをお伺いしたいのです。例えば指定管理者制度の下で,運営団体の正職員の方が多いのか,又は委託された事業者として所属されている技術者の方が多いのか,又は個別に,フリーランスのように契約されている方が多いのか,その事実の部分をお伺いしたいと思います。また,技術者の育成や,技術を次世代につなげていくために,どういう形で技術者がかかわっていくのが今後はより望ましいとお考えなのかということも,あわせてお聞かせいただければと思います。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 現状の照明の技術者がどういう立場かというのは,量的に一番多いのは舞台照明の会社,つまりテレビや舞台の照明を引き受けている会社に所属している従業員がまず一番多いと思います。
 その次は劇団ないしは劇場に所属している照明家。その次が,それより前にフリーランスでやっている人間と同じぐらいの量かもしれません。私も正確には把握していないんですけれども,その中で,照明のデザインだけで生計を立てている人間は,恐らく日本全国で50人いないんじゃないかと思います。30人ぐらいじゃないかと思います。つまり,他(ほか)の仕事をしないと恐らく生計は立てられないという感じですね。
 それで,私どもで認定試験をやって,それなりの技術レベルというのを確保はしているんですけれども,一番の問題は,年月がたってくると,得た知識というのはだんだん陳腐化してくるわけです。だから,教員の場合が問題になっておりますけれども,私どもの場合も,今の認定試験による資格のリニューアルやブラッシュアップを今後どうするかというのが問題なんです。ただ,これは私どもの協会でやれば一番いいんでしょうけれども,経済的な問題でそこまでやれるだろうかと思います。

○田村座長

 ありがとうございました。三好先生,どうぞ。

○三好委員

 吉井さんは,技術責任者と芸術監督のどちらか,あるいは両方が必要だとお考えだと理解したんですが,公立文化施設において技術責任者や芸術監督の設置を法律等で義務づけたときに2つ問題があると思います。1つは,劇場としての縛りが強くなればなるほど,公立の施設側が,あえて劇場ではなく公民館のままにしておこうかとか,結果として期待していない方向に行ってしまうのではないかという問題が考えられます。
 もう一つは,劇場にかかわる照明技術者が全国で7,000人おられるということですが,資格制度を導入したときに,2,000程の全国の公立の文化施設にきちっと均等に配分されるのか,あるいは大都市だけに集中してしまって,地方の劇場では必要であるにもかかわらず技術者がいないという事態が起こらないのかという問題です。
 以上の,技術責任者や芸術監督の設置が施設側にとって制約になるのではないかということと,技術者の方が全国の文化施設にきちっと入っていただけるのかどうか,その2つの問題についてお話を伺いたいと思います。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 2つ目の問題からお話しいたします。資格制度の問題については,私は,指定管理者制度が施行されてから非常に大きな危機感を持っているんです。なぜかといいますと,指定管理者制度に応札する資格というのは別に何もないわけです。そうすると,警備会社とか清掃会社が指定管理者制度に手を挙げる例というのが出てきているわけです。そうすると,一定の技術を持った技術者を雇用するとは限らないわけです。ですから,なるべくある一定の技術的な水準を持った人間を指定管理者制度のもとでも雇用してもらえる,又は雇用しなければならないように資格制度を運用していくべきであろうと思います。それでないと現状よりもかえって具合が悪くなる。
 それからもう一つ,大都会へ技術者が偏ってしまうという問題ですが,それは現在でも,演劇やオペラを立ち上げるところというのは東京以外にほとんどないんです。名古屋や大阪やそれからオペラの場合は多少地方で,1年に1回程度立ち上げるケースがありますけれども,1年に1回では仕事としてのおつき合いは余りできないのです。ですから,プロダクションがある程度あって,それに仕事で参加するという形をとらなきゃならない。そうすると,ほとんど仕事は東京で行うことになります。
 例えば国内研修制度という制度が以前文化庁でありまして,文化庁の援助を頂いて地方の技術者に国内で研修させるということをやったんですが,研修をうけた技術者が東京へ出てきてそれっきり地方へ戻らないというケースがかなり出てきてしまったんです。それは無理もないんです。例えば,オペラを好きだから一生懸命やろうと思っても,東京以外ではその可能性というのはほとんどないに等しいんです。これは基本的に良くないだろうと思います。どんな形であれ,オペラも演劇も,地方でプロダクションを立ち上げるということをまずやるべきであろうと思います。
 それから,一つ目の問題ですが,縛りがきつくなると公民館のままでいいというふうにお考えになる自治体はそもそもかなり脈がないと思いますね。

○田村座長

 片山先生。

○片山委員

 劇場や劇団などに直接雇用されていると,その職場で一人しか技術者がいないといった状況になりますが,技術会社にいれば,社内での研修や,配属先の転勤をすることでキャリアアップができるので会社にいる方がいいんだということを,技術会社の方からはよく聞きます。照明業界全体を見渡したときに,会社に所属するかフリーランスか,あるいは劇場に直接雇用されるか,今後の技術者の方向性としてどうある方がいいとお考えでしょうか。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 これは非常に難しい問題ですけれども,現状,照明会社等に所属している人間が一番多いんですけれども,技術的なレベルの相違というのは,国際的な交流,国際的なプロダクションの仕事をしているかしていないかで生じるんです。かつては我が国では,新劇が技術的な意味でも一番トップを行っていました。終戦直後は,オペラを上演する場合でも新劇の力を借りないと上演できない現状でした。しかし今は,新劇は正直な話,国際的な交流が一番薄いので,はっきり言って,新劇をやっている照明技術者というのは,ポップスとかミュージカルとかオペラとかをやっている技術者と比べて,技術的なレベルは非常に低いんです。ですから,照明会社なり劇団なりの中でだけ仕事をやって,勉強会等をやっていくのではちょっと技術的なリニューアルは難しいのではないか。もうちょっといろいろなレベルを考えてやらないと,技術が均質にならないのではないかと思っています。だから,現状では国際的なレベルに近いというか,一番知識,技術を持っているのは,ポップスとミュージカルをやっている連中でしょうね。

○田村座長

 まだお伺いしたいことが山ほどございますが,お時間になってしまいましたので,ありがとうございました。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 どうもありがとうございました。失礼しました。
○田村座長 それでは,続いて,社団法人日本劇団協議会専務理事,福島明夫様から15分ぐらいお話を伺って,御意見などを伺わせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○福島日本劇団協議会専務理事

 劇団協議会の福島と申します。
 若干資料の内容にプラスアルファがありますので,それも含めて御報告したいと思います。
 ホールが全国につくられてどう活用されているかということですけれども,こと演劇ジャンルについて言えば,民間の劇団ですとか,様々な地域の人たちの力によって,そのホールがかなり活用されてきているということはあると思うんです。
 戦後の最初のころは劇場も小屋もなくて,新聞社のホールで芝居をするとか,8階まで荷積みするとか,道具も持っていくことができないので,切り刻んでチッキで運ぶとかというところからスタートしました。そして,ある舞台空間の中で芝居ができるという環境ができたときに,ホールが非常に重要な役割を果たしてきたという認識を私たちは持っています。これは公立文化施設についての話です。
 ただ,それがここ数年,特に十数年の話だと思うんですが,今の地域の地域間格差であるとか人口の問題によってかなり格差が拡大していることは事実です。
 一番大きな格差というのは何かというと,やっぱり発信だと思うんです。例えば戦後の歴史をずっとたどってみたときに,昔ですと,大阪圏,関西圏にはかなりの劇団の数があって,関西圏独特の上方の演劇も含めた文化圏がつくられていたし,九州や北海道にもそれぞれに劇団や,芸術創造団体やNHKの附属劇団なども含めて活動されていました。
 ですから,私たちが今,劇団協議会をつくっていますが,実はそれぞれの地域にプロの劇団が存在したのですが,それが大阪圏,関西圏では,特に民間の劇場がことごくと撤退して,なくなっていってしまい,関西の劇場不足は非常に話題になっています。特に小劇場系の劇団にとっては,代表的な劇場がなくなり公演をする会場がなくなってきて,おのずとキャパシティが50だとか100名の自分たちの拠点でやる規模の公演が増えてきた。それで飽き足らない人たちはみんな東京に出てきて,それで東京一極集中が更に激しくなっているということがあるかと思います。
 そういうことから考えると,これは経済の論理がもたらしてきているものですから,逆に言えば,地域の文化鑑賞や文化発信をどうやって満たすかということを考えていくに,ある政治的な配慮が必要なのではなかろうかと思います。ですから,国立劇場は東京や沖縄にあって,文楽劇場がありますけれども,ある程度地方に分散化した形にすることを,政治主導でやっていく必要があるのではなかろうかということを私たちは考えています。
 各地方に建てられたホールについての問題についてですが,その中で法的根拠がなくても,そこの職員の方々だとか地域の方々がいろいろな形で活用してきたのだけれども,現実に公立文化施設はどういう施設であるかという認定をしてこなかった歴史があるものですから,逆に言えば,それが建ってから30年たった今日,老朽化してきたりしたときに,改修の費用がないので閉館にするとか,あるいは平成の大合併があって町が1つになったので,その町には1つの館で十分ではないかという議論が起きてきて,実際にはその地域で活用されてきた館が廃止されるということも起きています。
 公立文化施設ということでもうちょっと広げて言えば,これは第三セクターの厚生年金会館などの小屋も次々に廃館になってきているものですから,発表の機会が非常に減ってきているということを深く認識する必要があるのかなというふうに思っているということです。
 次に,制度的な在り方という問題では,これは非常に難しい問題があると思います。一律に何か決められる話ではない。先ほどもお話が出ていたように,僕たちとしては,劇場というのは創造団体と一体のものであるべきだし,創造団体が劇場機構を駆使して,文化芸術を創造できるというものなので,そういう意味では,劇場がある程度発信機能を持つことが必要だということは思っていますけれども,今は,地方自治体の中での位置づけの多くが体育・スポーツ施設と同じような貸し館というか,箱物としてしか使われていなくて,文化機関になっていない。つまり,文化施設を発信基地にして地域の芸術鑑賞や創造のことを見渡して情報が集約され,文化施設に行けば地域の文化状況が把握できるというような機関として制度的に位置づけられるべきではなかろうかと思っているところです。
 留意点のところで申し上げたかったのは,芸術創造という観点から言えば,必ずしも劇場主体でもないのではないかということです。特に日本の場合,劇場と創造団体が一体となっていくということが必要だとは思いますけれども,逆に,劇場を保有しない芸術団体というものの存在も認められるべきではなかろうかと思います。
 特に演劇のジャンルで言えば,実態として劇場を劇団が全部保有するということは,管理運営能力も含めてかなり厳しいものがありますし,すべての館が劇団を持つことも難しい。とすれば,民間芸術団体がやっている今の活動に対しての支援と劇場に対する支援と両方がないと,きちんとしたものになっていかないと思います。
 それから,もう一つの問題は民間劇場の問題です。先ほど大阪の例を申し上げましたけれども,今,東京でも,生命保険会社等が持っていた代表的な劇場が幾つか閉鎖し,民間の劇場が減ってきています。そのため,民間の劇団が上演し,つくり出す場所が減ってきているということです。発信場所が少なくなってきている。ですから,会場を確保することが非常に難しくなってきていて,具体的に東京で言うと,紀伊国屋書店さんと本多劇場グループがなくなったらどういうことになるのかということを考えるだに恐ろしいことでして,そこがなくなったら,多分,日本の代表的な民間の劇団の公演創造というのはなくなってしまうのではなかろうかというぐらいの状況にある。それに公立文化施設が代われるかというと,東京の場合は代われないと思います。ですから民間劇場をどうやって劇場の制度設計に入れるかということも,大きな課題になるのではないかと思います。照明家協会さんが固定資産税の問題ですとかそういうことを書かれていますけれども,民間劇場に対する独自の目配りを持つことが必要ではなかろうかと思っています。
 民間の芸術団体が持っている蓄積されてきているノウハウをどう評価するかということについて意見を述べます。公立文化施設が,民間の劇団が持っているような,例えば旅公演,巡回公演に対するノウハウや,青少年に向けた作品づくりなどの蓄積されたものが持つのは簡単ではない。これらは1人や2人の才能でつくられているものではなくて,集団として形成してきた歴史があるので,この集団が壊されることがないようにすることも一つ重要な視点ではないかと考えています。
 私どもは劇団協議会というところで,確かに劇団の集合体ということはございますが,今現実に劇団協議会の資料,毎年つくっている公演記録という「join」別冊というもので見ても,80の劇団があって年間で7,600回の公演をやっており,この他(ほか)に学校公演というものを,子供のための芝居を全国でやっていますので,1万回に近い公演回数を全国でやっている。実態としては,この公演が,公共劇場がやられている公演が演劇賞であるとかというところで評価されているということがよく言われるようになりましたけれども,この公演活動が演劇の普及というところでは非常に大きな役割を果たしてきているということもあるので,その活動を評価して,交流しながら,地方の公共劇場の機能に生かしていけるような仕組みづくりというのが求められるのではないかと考えているということです。
 とりあえず以上のところで失礼させていただきます。

○田村座長

 ありがとうございました。
 福島さんにお伺いすることがございましたら,御意見などございましたら。どうぞ。

○片山委員

 ありがとうございました。民間の劇団が公立の文化施設にフランチャイズのような形で入るということが始まったり議論されてきていますけれども,そのことについてはどのような御意見をお持ちでしょうか。

○福島日本劇団協議会専務理事

 それについては,文化庁の施策である優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業等の事業の中で,各劇団がそれぞれの市町村の会館に働きかけた形での提携はかなり進んできていると思いますし,これは振興していくのではなかろうかと思います。
 ただ,1つの劇団があるまちに全部丸ごと移転するという方向には,なかなかいきにくい。地方の公共劇場ができて,そこで劇団がつくられたとしても,そこで何年か経験を積んだ人たちがその後東京に出ていくというケースは非常に多いので,現状の文化状況では劇団づくりというのは発信の作業が相当進められないと,難しいのではないかと思います。

○田村座長

 根木先生,どうぞ。

○根木委員

 福島さんの御見解を伺いたいのですが,資料2の3番目の意見記載欄のところで,法的整備が規制法というものであってはならず,支援法という性格が求められると書いておられます。人材配置を義務づけることは規制法になるのでしょうか。それともそうではないというふうに考えられますか。

○福島日本劇団協議会専務理事

そうではないと考えたいと思っています。私個人としては,どういう人材が,国から派遣されるのか,地域の中でそれが選ばれるのかという違いによって変わってくるのではなかろうかと思っています。
 ただ,特に芸術監督というのは非常に難しい職能で,新国立劇場の芸術監督がそうであるように,日本の中でもきちっと確立していないと思うんです。位置づけも決められていないので,むしろ先ほどの技術関係のことや,地域の中でのアートマネジメントや,地域の文化活動を集約するようなノウハウを持った人の配置というのは,決定的に重要なのではなかろうかと思っています。  

○根木委員

 人材配置を義務づけた方がベターだという程度にすべきなのか。その辺は,どういうお考えでしょうか。

○福島日本劇団協議会専務理事

 実際に自治体がそういう人材を積極的に配置するという状況にないので,ある程度義務づけていかなければならないかなという認識を私は持っています。

○田村座長

 どうぞ,太下委員。

○太下委員

 資料2の御意見のうち,自治体財政の困難から,施設の休止,取壊しなどの事態が生まれていることは,確かに今後考えていくべき課題だというのは改めて認識しました。
 今後の日本の財政状況を考えると,新たに施設がどんどんできていくという状況は余り考えられませんので,今ある資産をいかにしてハード・ソフト両面で劇場なり音楽堂として機能させていくのかを考えなければいけないと思いますが,その際に,改築とか補修に関する問題は今後より大きくなっていくような気がいたしました。
 一方で,実際の劇場なり音楽堂の運営を考えると,もともとは自治体の直営から,自治体設立財団に委託するようになり,今は指定管理者制度が導入され,文化行政を担う自治体側と現場との溝が広がっている気がいたします。例えば現場や利用者である劇団が,担当する自治体に補修が必要だと言ったところで,指定管理者制度という枠内では,一方は金をくれと言って,一方は金を出したくないという構造が出てきてしまいますので,一時的には利益相反になります。そういう中で,文化拠点としての劇場なり音楽堂の補修とか維持とかを考えていかなければいけないという,非常に重大な御指摘を頂いたように思うのですけれども,この点について,何かご示唆がありましたら是非追加でお伺いしたいんですけれどもいかがでしょう。

○福島日本劇団協議会専務理事

 今起きている問題で申し上げると,県や市が見積りをとって,補修には何億円必要なので廃止しますという結論を出されて,私たちが施設に行ったときに,ある程度補修すれば別の活用ができるという提言をすることがあります。つまり,管理運営の補修をする課と部局と,創造なり実際に運用するサイドが切り離されているという問題があると考えていて,もう少し専門的知識を持った人たちの意見を反映し,施設をどう活用するかという視点で考える場が必要だということが一つ。
 それからもう一つは,施設の老朽化が早過ぎると思います。すぐ建て直しという話になるんですけれども,実は管理運営の部署に愛情を持った人を配置していないということがこの事態を生んではいないかという僕なりの見解に到達しています。各劇団が持っているスタジオや稽古(けいこ)場というのは,御存じのように非常に老朽化しているし,ひどいところが多い。でもかなり長い年月使えています。これは民間の劇場も同様です。それはスタッフが非常に愛情を持って,清掃も含めて管理についてもきちっと手入れをしているからです。そういうことから考えても,館の管理運営体制,運用についての考え方というのは,明確にしておかないといけないのではないかと思っております。
 これは建築関係の方に聞かないといけないかなと思いますが,ヨーロッパの劇場のような何百年続いている劇場との対比で,劇場が30年ぐらいでそう簡単に老朽化するものなのかと思っています。

○三好委員

 大都市と地方,大都市の中でも特に東京とそれ以外の地方の格差が非常に大きいというお話がありましたが,特に地方の劇場あるいは文化施設というところから見たときに,例えば劇場を創造活動の場と仮に定義をした場合に,本当に地方で創造活動をやっているところはもちろんあるんですが,数は極めて限られていると思います。地方の劇場を創造活動の場として活性化させると考えたときにどうすればいいのでしょうか。先ほどのようにフランチャイズという方法もありますが,お話によると,これもそう長い間に渡ってうまくいくかどうかというところもあります。
 これは厳密な意味での創造よりも,むしろ鑑賞の場かもしれませんが,一つの方法として,文化庁さんがやっておられる歌舞伎(かぶき)の巡回公演において,単に演劇をやる人だけではなく技術者も含めた劇団ユニットが全国の地方の劇場を巡回公演していくということに対して国や自治体が支援していくという支援の形はあり得ると考えられますか。どうでしょうか。

○福島日本劇団協議会専務理事

 現実そういった取組はやっているというふうに理解します。

○三好委員

 それをもっとたくさんやっていくことは考えられますでしょうか。

○福島日本劇団協議会専務理事

 それはもっと活性化していくべきだと思います。演劇の場合は,劇団のユニットというのは基本的に照明も音響も道具も,全部スタッフを抱えて移動公演をやっていくので,そのたびに文化施設の職員との交流もそこで生まれたりするんです。ただ問題は,今は文化会館自身が機能を持っていないということです。文化会館が機能を持っていてその地域での公演を1週間とかそういう形で行うことができれば,もう少し形が変わってくるかなとは思います。
 巡回公演は,今では1日ある地域に行ってそれで終わりという形なので,それが,四,五日,地域の学校や,学校に限らず一般の人も含めた公演をそこで設定することができれば,ワークショップを入れたり,地元の劇団との交流を入れたりできるということがあるので,巡回公演のプログラムについての支援のありようというのは,もう少し考えられてもいいかなとは思います。
 残念なことに,舞台芸術の魅力発見事業がすぐになくなってしまったので,あのプログラムを劇団が活用することができなかったんですね。事業が始まって2年目ぐらいから,活用の仕方を考え始めて,3年目に会館に提案しようといったときに,事業がなくなってしまいましたが,そういうことは結構起きます。あの事業がもう少し進んでいれば,違った形での活用ができたのではなかろうかと思います。
 今の優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業というのは費用の2分の1を助成する事業ですが,費用の2分の1にあたる資金をつくらなければならないという前提の厳しさからいうと,舞台芸術の魅力発見事業が,本当に予算のない小規模な公共館を活性化するプログラムになったし,劇団との協力なりフランチャイズ,セミフランチャイズみたいなことも,より試行できたのではなかろうかと思います。

○三好委員

 そういう状況で地方の側(がわ)において新しい認識があって,もっと積極的に劇場の活性化をやろうという動きは具体的にありますか。

○福島日本劇団協議会専務理事

 公演をやるだけではなくて,演劇教育的な仕事が非常に増えてきておりまして,そこで地元の劇団なりと交流をして,市民演劇だとかいろいろなものを立ち上げて一緒につくっていくことが増えてきています。まだ部分的な動きだと思うんですが,そのことが地元の文化活動に対する刺激にはなっていくだろうし,将来的に創造集団をつくっていく方向に生きてこないかなと思います。演劇を職業にするというのは非常に大変なことですし,東京でなく地方で職業にするということは非常に難しいことだとは思うんです。その中間地帯,グレーゾーンをどのようにしてどれだけつくっていくかということも,非常に大切なことではないかと思っています。

○田村座長

 ありがとうございました。他(ほか)にございますか。福原参与,いかがでございましょうか。

○福原文部科学省参与

 世界が違うとこれだけ状況が違うのかなと思って,非常に参考になりました。

○田村座長

 文化庁から何か意見等がございましたらどうぞ。

○吉田次長

今日は,5つの団体あるいは伊藤先生,どうもありがとうございました。私どもの方で制度的な在り方を考える際に非常に参考になる御意見を頂いたと思っております。
 仮に法律を作るということになりますと,何を法律事項として定めていくかという話になります。今日のお話の中でも,文化施設として明確化するという案ですとか,スタッフの問題ですとか,聞いていて,公の施設として使用条件について,ある意味では平等にという部分について一種特例を設けるという御提案もありました。それから,民間の施設の場合には,今度は税制,固定資産税の問題もありますし,私どもにとって,法律の仕組みを考える際に大変参考になりました。
 また,スタッフの配置の義務づけに関しては,創造団体側にとっては,あった方がいいという話がありますけれども,設置者側にとっては,義務づけは一種の規制ということになりますので,意見が分かれる可能性もあるというお話もあって,規制法とすべきか支援法とすべきかというお話もございました。そのあたりも今後の議論の大きなテーマになるのかなと思いました。
 いずれにしても,今日の意見開陳,どうもありがとうございました。

○田村座長

 文化部長小松さん。

○小松文化部長

 もし時間があれば,発表していただいた方には,多少御意見の違いもあったと思いますし,言い足りなかったことがおありでしたら,発言いただいてはいかがかと思います。

○田村座長

 吉井先生,何か御意見ありますでしょうか。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 私が一番申し上げたいのは,演劇とか音楽を行っている人も,役所やメーカー等の仕事と労働面では変わらないので,雇用促進ということを考えるときに,舞台技術,上演技術全体で考えていただきたいということです。
 ですから,地方公共団体のホールの活性化よりもっと大事なのは,そういうところで雇用が生まれるということだと思うんです。食えないで小説を書くのと,食えないで演劇をやるというのとはちょっと事情が違うと思います。小説は一人でやるんですが,演劇とかオペラとかは大人数でやるので,雇用の促進についても,社会全体の他(ほか)の職業と同じベースで考えていただきたいというのが1点です。
 それからもう一つ,税制の問題なんですけれども,今,我が国の隼町の国立劇場は歌舞伎(かぶき)をやっていますけれども,この歌舞伎(かぶき)の俳優たちというのは松竹が抱えているわけです。抱えているというか食わせているわけです。一方,隼町に国立の養成所があります。この養成所は現在の歌舞伎(かぶき)には非常に貢献していて,この養成所がなかったら恐らく現在の歌舞伎(かぶき)は成り立たないんじゃないかと思います。その養成所出身者がかなり多くを占めています。
 だけど,歌舞伎(かぶき)の最大のバックアップというのは,例えば歌舞伎(かぶき)座なり演舞場なりの歌舞伎(かぶき)をやる劇場の固定資産税の免除だと思います。今のまま歌舞伎(かぶき)を放置しておいては,現在のように歌舞伎(かぶき)に人気がなくなってきたときに,本当に危機に陥ると思うんです。
 ですから,松竹が元気で俳優をいつまでも抱えていてくれるか,あるいは国立劇場が清水の舞台から飛び降りるつもりで俳優を抱えるか,そのどちらかを考えざるを得ないときに来てしまうのではないかと思います。その前に民間劇場に対する税制上のバックアップというのは絶対考えてほしいのです。そうすれば,上演団体にとっても,小さな劇団が持っている劇場の固定資産税あるいは公演の事業税がなくなるというだけでも,これは本当に大きいと思います。ですから,それについて是非文化庁は考えていただきたいと思います。

○田村座長

 ありがとうございました。他(ほか)にこれだけは言っておきたいということがおありでしたら是非。

○伊藤富山大学教授

 私も特にスタッフの雇用の問題について考えていきたいと思っていますが,基本的に今の学芸員にしても,動物園,植物園と美術館では全く違うことをしているわけです。しかし,そういった専門的な仕事につく人間を置くことが定められていることによって,ベースになっていることがあります。細かい規定は要らないと思っておりますが,技術関係のスタッフに関しては,安全性の問題も含めて明記した方がいい。しかし,事業関係に関しては,非常に範囲が広がっていくこともあって,少しあいまいな表記の方がいいのかなという気がします。
 もう1点,民間劇場の問題に関して,法律によって民間劇場を発展させていくのがいいのか,あるいは法律とは違う方法がいいのではないかという問題があります。特に,劇場法等々を考えていくときに,本当に法律が必要かどうかという問題を踏まえて,その前に舞台芸術の発展のための条件を整備していく中で,法律で可能な部分と,そうではないものを区分けしておかないと,すぐに法律に過大な期待を寄せて,あれもこれも盛り込もうとなっていくのが現状ではないかと思っています。この検討会ではなくて文化審議会において議論すべき問題になるのかもしれませんが,法律の中にすべて盛り込むという姿勢では,多分,限界がきてしまうのではないかという気がします。

○吉井日本照明家協会名誉会長

 それは私も賛成です。つまり,劇場をすべて劇場法の対象として定めてしまうのはやはり問題があると思います。劇場だけではなくて,上演芸術そのものが非常に多様性を持っているわけです。その一つ一つについて,それを全部規制法の対象としてしまうというのは問題がある。
 それから,民間劇場は,行政の援助がなくても実際やっているわけですから,むしろ税制上の支援がなじむのではないか。ただし技術面についてはある種の規制法が要るのではないかと思います。

○田村座長

 ありがとうございました。
 やはり劇場・音楽堂等の制度的なとなっているのが,規制法か振興法かという考えが人によって違って混乱を来す原因かなと個人的に思います。また私は公共文化施設に携わっておりますので,劇場側に見識ある者がいない限り,高額なお金を払って見たくないものも見せられてしまうという現実があります。芸術を見極める見識あるスタッフが公共の文化施設には絶対必要ではないか。また舞台芸術には危険が伴うため,舞台技術に関してはどこかに委託していることが多いと思いますが,劇場側,スタッフ側に技術者がいないと指摘できないことがあります。なかなか難しい法整備かと思いますが,伊藤先生がおっしゃったガイドラインというのは,やはり必要ではないかと私は思っております。
 今日は皆様の御意見をたくさん頂戴(ちょうだい)してありがとうございました。本日のヒアリングは以上となります。御発表いただいた有識者・関係団体の皆様には重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。
 それでは,事務局より次回の日程を説明していただきたいと思います。よろしくお願いします。

○鈴木芸術文化課長補佐

<資料3について説明>

○田村座長

 それでは,本日はこれで閉会とさせていただきます。長時間ありがとうございました。

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