議事録

劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会(第5回)

1 日時

平成23年3月8日(火) 14:00~15:58

2 場所

文部科学省旧文部省庁舎2階 文化庁第2会議室

3 議題

  1. (1)これまでの議論を踏まえた論点の整理について
  2. (2)その他

○鈴木芸術文化課長補佐 失礼いたします。開会に先立ちまして配付資料の確認をまずさせていただきたいと思います。

<配付資料の確認>

 

○田村座長 ありがとうございました。
 それでは,ただいまより,劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会の第5回を開催したいと思います。
 委員の皆様におかれましては,御多忙のところ御出席いただきまして,ありがとうございます。
 まず初めに,本検討会では,これまで関係団体や有識者の方々から貴重な御意見を頂きました。また,これまでの検討会において委員の皆様からも様々な御意見を頂きましたので,これらについて,今後論点の整理を行いたいと思っております。本日の進め方でございますが,議事次第にあります通り,大きく2つに分けて進めたいと思っております。1つ目はこれまでの経緯及び現状と課題,2つ目は論点の整理についてでございます。
 それでは,まず資料2の前半部分について,事務局より説明をお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

 

<資料2の1.2.3.について説明>

 以上がこれまでの経緯,現状と課題についての御説明でございます。ありがとうございます。

○田村座長 ありがとうございました。  それでは,ただいま御説明いただきました資料2の1.はじめに,それから2.これまでの経緯,3.劇場・音楽堂等の現状と課題について,意見交換を行っていきたいと思います。どなたからでも結構でございますが,おまとめいただいたものについて,御意見がございましたら,よろしくお願いいたします。片山先生,どうぞ。

○片山委員 片山です。非常にコンパクトにまとめていただけたのかなと拝聴しました。前回の検討会でも少し最後に私は申し上げましたが,公立の施設が地方自治体の財政などが苦しい中で現在非常に大変な状況になっているという現状ではありますが,単にお金さえあれば問題は解決するということではないと思うのです。地方自治体における政策形成能力といいますか,文化施設,劇場・音楽堂等を地域の文化振興の中の拠点としてどう位置づけるかという地域レベルの政策を立案するというところが欠落しているという問題があります。したがって,課題のところには,地域レベルの文化振興政策の立案と,そこにおける劇場・音楽堂等の位置づけの明確化が足りないといった言葉を入れておいた方が良いのではないかというのが,一つ意見です。

○田村座長 三好先生。

○三好委員 三好です。今おまとめいただいたものを,改めて読み返してみると,ちょっと気になるところがあったので,質問がございます。もしかすると余り意識して使われていないのかもしれないんですが,初期のころの検討会の資料においては,例えば1ページの一番下から3行目などに,「劇場・音楽堂等の活動の円滑化,活発化」という言い方が幾つか見られるんですか,ごく直近になってくると,「創造・発信に係る機能を十分に発揮できるように」という言い方がみられます。これらが同じことを意図しているのか,あるいはその辺にある程度変化があるのかどうか。これは文化審議会の中でのいろいろな御議論もあるかと思いますので,もし,何か意識してそのように書き分けられておられるのかどうかというあたりをちょっと教えていただければと思いますけれども。

○鈴木芸術文化課長補佐 すみません,「劇場・音楽堂等の活動の円滑化,活発化」という記載は何ページでしょうか。

○三好委員 それは,例えば資料2の1ページの2つ目の○です。1ページの下から3行目に,「劇場・音楽堂等の活動の円滑化,活発化」という記載があります。要するに,「活動の円滑化」という言い方と,後の2ページの方に出てくる「創造・発信等に係る機能を十分に発揮できるように」という言葉は,同じようなことを意図しているのか,あるいは劇場・音楽堂に求める機能というものが少し変化してきているのか,その辺の現状の問題意識があれば,ちょっと教えていただきたいなと思ったんです。

○吉田次長 先般策定されました第3次基本方針では,「法的基盤のない劇場,音楽堂等が…機能を十分に発揮できるように」と記載して,第2次基本方針よりは明確な表現になっているということです。第2次基本方針においては,御覧いただいてもおわかりのとおり,「法的基盤の整備や税制上の措置などの方策により」という記載になっています。つまり,幾つかのツールがあって,それから円滑化ということになっていますので,この時点においては,法的基盤の整備というのは,選択肢の一つではあるのかもしれないんですけれども,明確に法的基盤の整備を志向するというところまではまだ明確でなかったという感じはいたします。第3次基本方針については,文化政策部会のワーキング・グループの議論などでも,その法的基盤の必要性につきまして活発な御議論がございましたので,それを反映して,劇場の目指すべき機能として,このような書き方になっていると御理解いただければと思います。

○三好委員 そうしますと,まさにこの検討会として何を検討すべきかという当初からの議論については,今の次長のお話からすれば,そういう比較的直近の文化政策審議会あるいは今回の第3次基本方針に基づいてこの制度的な検討を行うという理解でよろしいでしょうか。つまり,具体的には,まさにここに言われている創造・発信の機能を果たせるようなことは少なくとも盛り込んだ事項として検討を行うという理解でよろしいでしょうか。

○田村座長 資料2の2ページの,第3次基本方針に関する記載の上に,「審議経過報告」に関する記載がありますが,「地域の核となる文化芸術拠点への支援」と記載されております。そことちょっとニュアンスは違うということでしょうか。

○鈴木芸術文化課長補佐 第3次基本方針の答申の冊子の5ページの下の方でございますが,「審議経過報告」のときは,「地域の核となる文化芸術拠点への支援」と,「また,その法的基盤の整備について検討を行う」という記載が一つの文章だったわけですけれども,答申に至る過程での文化政策部会において,この地域の文化芸術拠点というのが,劇場・音楽堂だけではなくて,博物館や美術館あるいは図書館もそういうものとして考えられるのではないかという御議論を受けて,「拠点」という言いぶりと「劇場,音楽堂等」という表現を分けて,明確化し,支援の話とこの法的基盤整備の話を少し分けた記載にして,答申のまとめに至ったと理解しております。

○田村座長 ただ,図書館法もありますし,博物館法もあるわけでございますよね。この文化芸術拠点というのは,図書館,博物館でないものという意味でございますね。

○吉田次長 「地域の核となる文化芸術拠点への支援」というのは,法的基盤の整備以外の手段による支援も含んでいるわけでございます。博物館については博物館法がありますけれども,法的基盤の整備以外に,予算面での支援策があったりいたしますので,そういった予算面での支援策まで含めて記載したのが「地域の核となる文化芸術拠点への支援」でございます。「法的基盤の整備」というところだけを切り離しまして一つの独立項目として立てて再整理したというのが,第3次基本方針段階での整理でございます。

○山﨑芸術文化課長 第2次基本方針の23ページから24ページにも,「劇場,音楽堂等が,優れた文化芸術の創造,交流,発信の拠点や,地域住民の身近な文化芸術活動の場として積極的に活用され,その機能・役割が十分に発揮できるよう,次の施策を講ずる」として,更に「法的基盤の整備や税制上の措置などの方策により」云々(うんぬん)という記載がございます。あと,他(ほか)の部分でも文化芸術の創造・発信といった文言が使われているので,多分この時点では,最近劇場・音楽堂についての類型化の議論の中で言われているトップレベルの芸術の創造・発信を行う文化施設とか,あるいは鑑賞型の文化施設という意味合いで創造・発信という言葉を使っているのではないのではないかと思うのです。一般論としての文化芸術の創造・発信という意味であり,特段そこにはこれから劇場,音楽堂等の類型化につながるような意味合いはないと我々は理解しているつもりでございます。

○田村座長 ただ,「劇場,音楽堂等」と言ってしまうと,相当それに引きずられるというのは事実だと思え,皆様もそのように解釈していらっしゃると思うんでございますけれども,現状の全国の公共文化施設にとってどうあるのがいいかということが本来の考えるべきことではないかともちょっと思いますが,いかがでいらっしゃいましょうか。根木先生。

○根木委員 基本法25条は,「国は,劇場,音楽堂等の充実を図るため,これらの施設に関し,自らの設置等に係る施設の整備,公演等への支援,芸術家等の配置等への支援,情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする」となっています。文化審議会の考え方,特に第3次答申は,この25条に,法律を制定することによって具体的な措置を講ずべきことを含むと解釈して提案したと考えてよろしいのでしょうか。文言だけ見ますと,「自らの設置等に係る施設の整備」は国立の劇場と思いますし,「公演等への支援」以下は,公私立も全部含まれるものと考えられますが,あくまで「支援」となっており,法的整備ということは一言も出てきておりません。法的整備ということが審議会で言われるようになったということは,審議会として,それが必要だと考えて提案したと認識してよろしいのでしょうね。

○小松文化部長 文化芸術振興法の25条に「劇場,音楽堂等」とあり,26条に「美術館,博物館,図書館等の充実」とあります。また第3次基本方針の冊子の34ページには,ほぼ同じような「支援」中心の「その他必要な施策を講ずる」と書いてあります。それで,美術館・博物館・図書館には博物館法・図書館法という理念や在り方が示された法律があるけれども,劇場・音楽堂等にはないということが,この法律を作った当初から言われており,それを第1次基本方針からずっと書いているものでございます。その辺を御理解いただければと思います。

○田村座長 たしか第1次基本方針というのは,文化審議会の総会で検討されたものでございますね。

○小松文化部長 はい,文化審議会の総会です。

○田村座長 はい。どうぞ,太下先生。

○太下委員 この課題については,次の「在り方」の中で出てくるわけですけれども,劇場・音楽堂が,単なるパフォーミングアーツの発表の場又は鑑賞の場というだけではなくて,多面的な社会的機能を持っているべきであるということが出てまいりますし,私もそのように思います。そして,そうした社会的な機能に関しての検証をきちんとやっていく必要があると思いますが,現状,まだ余りできていないのではないのかなと思います。これは,個々の施設なり運営機関でやることも大事なのですけれども,方法論的にはかなり難しいものがありますので,できればピアモニタリングというか,複数でやっていく中でその方法論も模索していくような取組が必要と思っています。検証もきちんとやっていき,それを社会に対してきちんとオープンにしていく。そして,そのことによって更に劇場・音楽堂等,公立文化施設に対する幅広い理解と支援を広げていくということが,今後の課題ではないかと思います。

○田村座長 全国の公立文化施設や芸術団体などでも,この件についてどうあるべきかということは相当差し迫った問題としてとらえて考えられてきているという事実はございますけれども,もしかしたら,先ほど先生がおっしゃったように,少し自治体側の問題意識が薄いのかなという気はいたします。ただ,根拠法がないということで,文化施設がどういうものかという認識が,自治体側にも一般の住民の方にもとらえられていないということもあるのではないかという気はしております。

 現状と課題というところまでで,何か御意見など,ほかにございますか。どうぞ。

○近藤長官 私は文化審議会には途中から参加いたしましたので,過去の経緯や議論の中身も詳しく知りませんけれども,先ほどの点に関して言えば,基本法にある25条,26条,それから第1次基本方針では,割と全体をカバーした形で「円滑化,活発化」といった言葉を使っていましたけれども,より明確な法律,いわゆる劇場法といったものに検討がなかなか進まない。したがって,いろいろやってきたけれども,この際そこに思い切ってポイントを絞ってフォーカスして,いわゆる劇場法についてじっくり検討しようということかと思います。ほかの論点を排除するものではないんですけれども,そういうことでどういう形の法的基盤があり得るのか。その是非を少し集中して議論しないとなかなか前に進まないといった御意見がいろいろ出てきた。他方でいろいろな団体がいろいろな提言もされているということなので,矛盾しているというよりはむしろ少しピンポイントに具体的な検討をしたらどうかということで,この検討会ができたのかなと私は理解していました。
 前回の第3次基本方針の場合は私もよく覚えておりますけれども,劇場・音楽堂については法的基盤がないという点で他(ほか)と違うから,そこを明確に書こうということで,第3次基本方針この5ページの4つ目について書き加えたということは,鮮明に覚えております。

○田村座長 ただ,私がこの立場ではとても申し上げにくいんですけれども,危惧(きぐ)したことが出てきているような気がちょっとしております。例えば,静岡は先進的な文化政策をとって,劇団を持った施設を一方に持っております。ただ,もう10年以上たっておりますけれども,静岡が,文化的に多彩な芸術に触れられる場所かというと,残念ながらそうなっていないということが現実でございます。簡単に短い期間ではできないということも一方にございますけれども,住民の方に何を提供すべきかというのは本当に自治体が文化政策としてきちんととらえていないと,あれだけ先進的な政策をとっていてもこれが現状でございますので,地域の核となる芸術拠点についての法整備という考え方は,必要なのではないかと思っておりました。これはいろいろな御意見がおありになるところだと思います。なかなか,卵が先か,鶏が先かという問題ではあるんですけれども,たった東京から1時間の静岡でも,多彩で上質なものに触れられる機会というのはとても少ないのが事実です。それは,よほど地域の文化施設が頑張って見識を持って運営していかない限りは,地方なりの公演が提供され,全国の地域が豊かになるというわけにはなかなかいかない。今日可児市の方が傍聴していらっしゃいますけれども,可児市のようなわけにはなかなかいかないというのがある。私も可児市を拝見させていただいて思いましたのは,館長であり劇場監督でいらっしゃる衛さんの実際の見識ある運営手腕というのはとても大きいですけれども,自治体の方に,地域をどうやっていこうという意識がきちんとおありになるというのも大きいかなとは感じております。そういう意味でこの施設をどう位置づけていくかということは,実際の自治体の方が意識をもたざるを得ないようにするという方法も一つあるかなと感じております。

○近藤長官 そういった議論は完全に排除はされていないのではないでしょうか。どうなんでしょうか。その辺も含めて議論するのではないでしょうか。

○田村座長 そうでございますね。三好先生,いかがでしょうか,地方自治の観点から御意見はございますか。

○三好委員 さっきあえて御質問したのは,公立の文化施設というものが既にあるものとして,それをもっと住民に使ってほしいという立場の意見があると思うのです。もう一方では,別にそういうことではなくて,むしろ,田村先生がおっしゃるように,文化政策としてこういうことをやりたいんだ,たまたまそこにそういう劇場があるからそれを使うんだ,もし劇場がなければ,別になくたってやり方は幾らでもあるではないかというアプローチがあると思うのです。ですから,実際に,多くの公立の文化施設がどういう経緯で作られてきたかといえば,多分施設を作れば何とかなるだろうという観点で設置されたものが比較的多いのではないかと思います。そうすると,その施設をどう使うかという問題と,ではその地域として文化政策はこうあるべきです,だからそのためにはこの館の運営をこうしましょうということをあえてそこにかぶせていくという形をとらざるを得ないのではないか。ですから,それを法律という形でやるのか,あるいは,ここでは,例えば資料2の4ページのところにはガイドラインという言葉が出てきますけれども,ガイドラインというものに国及び地方の文化政策に対するはっきりとした意識的な見方というのを打ち出さないと,それは出てこないんだろうなということは思います。ですから,先ほどの御指摘のように,自治体の側(がわ)にももちろんそれに対して十分やり得るだけの力があるかどうかということがあると思いますので,これは国と自治体と相互に力を合わせてやっていくべき分野だろうと思います。ですから,その法的整備というのがそのときに本当に必要かどうかというのは,これは次の論点になると思いますけれども,少なくとも現状の認識としては,公立の文化施設を創造発展の場として使おうという明確な意識を持っているところは,かなり少ないか,ほとんどないのが実情だろうというのが現状分析の中から見えてくることかと思います。やや抽象的な言い方になりますけれども,少なくともそこを意識的に,まさにこの文化審議会で指摘されているようなことが現実にはほとんどまだ起きていないということで,そこを何とかしたいという御指摘だろうと私は理解しました。

○田村座長 どこかに,50ぐらいしか積極的にところがない云々(うんぬん)という意見があったように記憶しています。ただ,(財)地域創造で,地域創造大賞という,文化施設を顕彰する賞が平成16年からございますけれども,現在の段階でもう60ぐらいが受賞しています。そういう意味では,私は,最初に始まったときに,こんなに毎年8施設か9施設などを顕彰していたら,すぐ対象の施設がなくなるので,来年はないのではないかと思ったのですけれども,毎年毎年8施設か9施設,顕彰するようなところが出てきているということも事実だと思います。それは,この資料にいろいろ書いていらっしゃる芸団協であったり,公文協であったりがいろいろな取組,それと文化庁がいろいろな取組をしてきてくださっている芸術拠点形成事業というのがございましたけれども,ああいうことの結果かなとはちょっと思っております。
 はい,どうぞ。

○根木委員 先ほど三好委員がおっしゃったように,設置者である自治体の側(がわ)が明確な目的意識を持ってつくったかどうかについては疑問なしとしないのですが,公立の文化会館というものは,機能・役割として見た場合にどういうものかということになるのではなかろうかと思います。あえて言いますと,公立の文化会館は,地方公共団体が地域における舞台芸術創造の拠点として設置したものではないか。このことは,そのような目的ないし意識があったかどうかは別として,そのようなものとして存在しているのではなかろうか。つまり,多目的であれ,専用のホールであれ,一定の舞台機構を備え,かつ地域住民に対して舞台芸術の鑑賞の機会と創造の場を提供するという施設と考えていいと思います。そこには,優れた舞台芸術の提供と,住民による創造・公演の場とするという両面が入っていると思います。そのようなものとして公立文化会館を認識する場合に,現在それが機能を十分に果たしていないので,国としてどういう手を打つべきか,そのための立法措置が必要なのか,必要でないのかということではなかろうかと思います。

○田村座長 二千幾つあると言われておりますので,それが全部というのはなかなか難しいし,地方ではなかなか上質で多彩なものに触れられる機会というのは少ないのが現状でございますので,それの受皿になればいいというのは事実でございます。
 それでは,次のことに踏み込んだ方がよろしいかと思いますので,続きまして資料2の後半部分,4の劇場・音楽堂等に関する制度的な在り方に関する論点の整理について,説明をお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

 

<資料2の4について説明>

 資料2の説明は以上でございます。ありがとうございます。

○田村座長 ありがとうございました。
 それでは,ただいま説明のありました資料2の4.劇場・音楽堂等に関する制度的な在り方に関する論点の整理について,意見交換を行っていきたいと思います。どなたからでも結構でございますので。三好先生。

○三好委員 資料2の7ページのところに役割や機能ということで改めて論点を整理していただきましたので,それに関連して,さっきちょっと自治体で文化施設をつくるときに余り意識がないということを言ったのですが,ちょっと補足をして意見を言いたいと思います。
 意識は確かに余り高くはないんですが,少なくとも自治体がそういう文化施設を設置しようとするときには目的はあるんです。その目的は,これは私なりに整理すると3つあると思いまして,1つは人づくりです。要するに,文化芸術というのが人間の人格形成あるいは日常的ないろいろな人間形成の場として非常に重要であるという,だからこそ行政として積極的にやりますという目的というのはあると思います。それで,いろいろ資料を頂いている中で,ちょっとこれは設置者が都道府県とか市町村になっているので,これだけではわからないんですが,もともと文化施設の多くのものは教育委員会が所管しているケースが従来多いと思います。国の場合は文部科学省とその外局としての文化庁という形ですが,地方自治体の場合には教育委員会という形で,いわゆる学校教育と社会教育と文化事業というのがいわば同じ教育委員会の中で一つになっているわけです。ですから,そういう意味でいうと,国よりも更にそういう教育的な,あるいは人格形成という意味での位置づけというのがより強いだろうと思います。最近は,少し教育委員会から離れて,人づくりというのをもう少し広く見ようということで,知事部局なり市長部局が所管している例も増えてきていますけれども,少なくともそういう人づくりという観点がまず1つあるということ。
 それから2つ目には,いわゆる地域づくり,あるいは地域振興,あるいはコミュニティーづくりとか,いわゆる人と人との関係をつくっていこう,そのためにそういう文化施設が必要であるという目的意識。これは多くの場合持っていると思います。
 3つ目には,そういうことを自治体としてやっていこうとする場合に,もちろん既存の施設があれば,それを使ってできないことはないんですが,多くの地方の場合には,そもそもそういう施設がないから,自らつくる。それから,あるいはそういう施設がたとえあるところであっても,その自治体の目的をより明確に出すためには,自らそういう施設を設置していきたいということで,多くの自治体はそういう施設を自らお金を出してつくっていくという必要性に駆られているというか,必要性があってそのようにしているということで,文化施設というものが,自治体の文化政策,文化行政の目的を果たすために設けられているということがあると思います。
 先ほど申し上げたのは,そういう目的はあるとしても,ではそこをどう使えばいいのか,どう使えばその目的にかなうのか。ですから,大きな目的はあるのだけれども,具体的な目標がないんです。そこをどう使えば果たして設置した目的を達し得るのかという具体的な目標が設定できていないというのが現状ではなかろうかと思います。
 したがって,その目標を設定するときに,よりその役割とか機能を明確にしていかないと,その目標というのが立てていけない。だから,目標というのは,何人来ましたという目標ではなくて,本来の目的に対してどれだけ達成できるのかという目標を立てていかなければいけない。そのための方策というものがまだ不十分なんだろうと思います。ですから,それを立てるのがまさにここで言えばガイドラインであったり,あるいはそのためのより具体的な文化政策というものをそこに重ねていかなければいけない。その作業が多分今はまだできていないんだろうと思います。
 それは自治体だけでできるのかというと,先ほど申し上げたように,現実には自治体だけではなかなか難しいでしょうから,国と一緒になってそこをつくっていくという作業が必要なのではないかというのが,現在の施設の置かれている状況と自治体の文化行政の状況からすると,そこに国が踏み出すべき役割があるのだろうと考えられるのではないかと思っています。

○田村座長 ありがとうございました。ほかの先生方はいかがですか。太下先生。

○太下委員 劇場・音楽堂の役割・機能論については,ヒアリングの中でもいろいろな御意見がありましたし,この検討会に先行する形でいろいろな団体が提言をされているわけですけれども,あくまでも機能の話であり,分類そのものではないのではないのかと思います。要するに何が言いたいかというと,機能なのですからそれらは重複することも当然あるでしょうということです。例えば,いわゆる創造・発信型の拠点的な劇場というものがあったとしても,それがコミュニティーベースのプログラムをやってもいいというか,そういうこともやるべきです。また,例えば地域におけるコミュニティに密接した小さなホールがあったとして,現状では余り期待されていないかもしれないですけれども,そこが海外発信をやってもいいと思います。つまり,こういった劇場・音楽堂の持つ役割とか機能というものは,Aグループ,Bグループ,Cグループというようにカテゴライズされるものではなく,あくまでも機能ということで,重複もありだと思います。
 このように考えますと,そういう劇場・音楽堂が担うべき,果たすべき役割・機能を政策課題として切り出した支援プログラムというものがあってもいいのかなと思います。今は包括的にやっていらっしゃるのかもしれませんけれども,それをより明確に切り分けた形で支援プログラムがあってもいいのかなとも思います。ですから,繰り返しになりますけれども,例えば創造的な拠点劇場的なものがあったとして,そこが本当に高いレベルのパフォーミングアーツを創造して海外に発信する事業と同時に,コミュニティーベースの事業もやるということもあってもいいのではないかなと思います。

○田村座長 はい,片山先生。

○片山委員 先ほど課題のところで,自治体が劇場・音楽堂を設置するときにおける政策立案の能力が十分でなかったという課題を指摘しました。そして,それをどう解決していくかというときに,自治体がきちんとしたプランニングができて,それに基づいて文化施設を位置づけて政策目的を達成していくというのも,一つの方向として良いと思いますが,必ずしもそういう方向だけを唯一の解決策とする必要はないと考えております。この委員会でも何回か「新しい公共」という話が出てきましたが,地域の民間団体や財団などが,芸術のいろいろな機能を生かしてどういう地域づくりをしていきたいのかということを民間ベースで立案し,そのための手段として,自治体が設置した施設を使わせてもらうという状況が実現するのであれば,自治体は単なる箱だけ,つまり,ハードしか提供しないということであっても,それはそれで一つの在り方だろうと思うのです。今の公益法人改革の中でも,公益財団法人などになったそういう民間主体が,税制の話はこれからにはなっていきますけれども,自治体の税収や財政支出を経由せずに直接市民からお金を集めるということができれば,そういう形で自治体がつくった箱を占有して使わせてもらって地域振興を行うということにもなってくるかと思いますので,今後の方向を考えるときには,自治体が設置者だからあくまでも自治体が運営面でもきちんとしなければいけないというだけではなく,極論になってしまいますが,そもそももう自治体には期待しないという考え方もありなのではないか。実際,アメリカなどの状況を見ると,施設は確かに自治体の持ち物であったりはしますけれども,実際にはそこを民間の劇団や楽団などが占有利用して地域の活動をやっているというケースはたくさんあるわけですので,今後の議論の方向としては,この辺も含めて考えていければと思います。

○田村座長 はい,根木先生。

○根木委員 地域文化の振興についての国の役割ということについて,私の勝手な解釈かもわかりませんが,一言述べさせていただきます。国の文化政策の機能ないし作用(働き)は,文化の頂点の伸長とすそ野の拡大という両面があります。そして,すそ野の拡大という面が,更にまた2つに分かれます。一つは,文化格差の是正,つまりナショナルミニマムの達成です。これは非常に重要な国の役割と考えられます。もう一つは,それぞれの地域の文化的主体性なり自律性の確立を助長することにあると思います。大都市などの場合は,国がおせっかいをする必要はないといえるでしょうが,全国的には必ずしもそういう実態にはなっていない。となると,そこに国としてある程度手を差し伸べる必要性があろうかと思います。地域の側(がわ)では,地域文化政策の理念,目的が一応あるにしても,目標レベルであいまいなのではなかろうか。したがって,目標レベルで国としてかかわっていくことも――三好委員と同じような意見になりますが――必要なのではなかろうか。
 理念,目的は政策レベル,目標は施策レベル,これを具体化するものは事務事業レベルの事柄というように,一応仕分ができるのではなかろうか。そうしますと,理念,目的という地域の文化政策の根幹については,地方自治体がそれぞれ考えるべきでしょうが,目標レベル以下で余りぱっとした動きがないということに関しては,国として地域文化の主体性・自律性を確立するという観点から側面的に支援することも役割の一つと認識していいのではないかと思われます。それはまた,格差の是正,ナショナルミニマムの達成ということにもつながるものと考えます。

○田村座長 先ほど片山先生から民間レベルでというお話がございましたけれども,私はそれに反対するものでは全くないんでございますけれども,やはり自治体は責任逃れはしてほしくないという気もいたします。ややもすると,今「新しい公共」ということを言われることが多いんでございますけれども,そういうことのもとに本来果たすべき役割を投げてしまうというか,国や自治体が本来地域住民のために何をすべきかということはきちんと考えていった方がいいことではないかなとはちょっと思ったり,ややもすると,アートNPOであったり,そういう本当によくやっていらっしゃる方がいらっしゃることはもちろん確かですし,それが何ら悪いことでも何でもないんでございますけれども,自治体はやはり責任尊重というか,責任逃れはしてほしくないなと思います。指定管理者制度になりますと,一歩置くという感覚がどうしても,もうちょっと積極的にわかってかかわってほしいと思っても,指定管理者だからということがあるような気がいたします。
 先日,指定管理者のうち,これはいいなと思いましたのは,火葬場,葬儀屋さんが指定管理をとっていた事例です。これはびっくりで,あれは余りいいので,葬儀屋さんに電話したときに「あそこの火葬場はすごくいい」と申し上げたら,「実はうちがとっています」ということでした。だから,ノウハウがある,死者に対してどういうことをするかということをきちんとわかっていらっしゃるところが指定管理でとれば,はるかに普通よりよくなるということは実感いたしましたけれども,残念ながら文化施設についてはなかなか難しいのかなという気がいたします。
 ただ,思いますのは,図書館はどんな規模のものであっても,図書館法があることによって,ベストの機能を果たしているとは言い難いですけれども,本来ならば地域のシンクタンクであってもいいと私は思うのですが,それを果たしているところもございますよね。でも,本当に小さい図書館であっても,あれは図書館ではないと地域住民は思わないと思います。そういう意味で,公共の文化施設については,地域住民の考え方として,非常にいろいろなとらえ方をなさるので,生涯学習センターのように思う方とか,いいものに触れられる,でも税金で建てたのだから,ただで見せてもらうのが当たり前と思われる場合もあると思います。私は,よくうちで貸し館もしておりますので,東京文化会館というところは,ほとんど貸し館でございます。でも,日本の文化をけん引してきている。それは,やはり東京という恵まれた環境と,きちんとした施設,そして人材を持っていらっしゃったということだと思うのですが,昔は東京文化会館がきちんと舞台技術を抱えていらっしゃいました。途中から委託しているようでございますけれども,貸し館が地域の文化振興を担わないということは全然ないと思いますし,むしろすばらしいものが上演されれば,その方がいいかもしれません。

○片山委員 先ほど劇場・音楽堂の機能という議論のところで,三好委員が,自治体が施設をつくる目的を幾つかに整理してくださったのですけれども,これまでの自治体が劇場・音楽堂をつくるときの目的として視野になかったものとして,産業振興を挙げることできます。ここでの産業とは,観光産業などの関連産業のことではなく,非営利の芸術文化産業を育成するという観点が日本の場合には特に欠落していたのではないかと思うのです。アメリカなどの国では,Non-profit Arts and Culture Industryというのが一つの産業のカテゴリーとして位置づけられていて,ちゃんと雇用と所得をもたらしている。もちろん非営利ですから,事業収入だけですべての費用が賄えるわけではなくて,ファンドレイジングを並行してやりながら持続的な活動を続けていくということですけれども,それでもきちんとした産業セクターとして認識されているという面があるのです。でも,日本の場合は,かなり自治体のコミットが大きいということなどもあって,文化については,ただで提供するのが当たり前みたいな感じでとらえられている面があったと思うのです。東京の場合には演劇でも音楽でも舞踊でも民間団体がかなり成立しているわけですけれども,地方に行くとそういう団体がないというのが,大きな違いだと思います。劇場・音楽堂の機能として,地域の非営利の芸術団体を文化産業として振興していく,生産関連インフラとしての役割も重要です。今まで文化施設は,生活関連インフラとしてだけとらえられる面が多かったと思うのですけれども,文化産業を育てるための生産関連インフラ,工業用水や港湾施設などと同じように,産業を育てるためのインフラとして劇場・音楽堂を位置づけるというのも,特に都市部などでは,あり得るのではないかと思うところです。つまり,地域の文化産業を振興していくための拠点という位置づけも重要なのではないかと思います。

○田村座長 はい,どうぞ。

○根木委員 今の片山委員のお話に反対するわけではなく,また確かにそういう視点は重要と言えば重要なのですが,アメリカなどと日本の場合は事情が大分違います。そういう土壌がもともとない上に,東京と地方とでは条件がかなり異なります。したがって,地方にそういうものをボンと持ってきて,「はい,そうですか」ということになるとは到底思えません。東京や,地方でも大阪などの大都市ではある程度妥当することもあるでしょうが,大半の市町村の場合,そういうことを言って果たして意味があるかというと消極的に考えざるを得ないという感じがします。

○片山委員 確かに3年,5年ぐらいのスパンではなかなか難しいかと思います。でも,10年とか15年,20年というスパンで考えれば,不可能な話ではないと思います。今でも自治体がつくった財団法人が,それなりの雇用を抱えて,それなりのサービスを提供しているわけですから,これらが,もう少し自立性のある,自治体に依存しない形の公益財団法人になり,それらに対する地方税の税額控除とか,支援の仕組みが確立していくようになっていけば,非営利産業として地域で自立していく可能性もなくはないと思うのです。自治体はそれなりの地方税を集めているわけですから,自治体が地方税を取るかわりに,地域の民間の公益団体にその分お金が入っていくということになれば,そこにきちんとした雇用と所得が生まれるようになります。3年,5年では無理でも,10年,20年というスパンで見通していけば,あり得るのではないかなと思います。

○田村座長 はい,どうぞ。

○三好委員 さっき貸し館の話が出たので,ちょっとそれに関連して申し上げるのですが,現状と課題について記載してあるこの資料2の中でも,自主公演事業を10件以上やっているのは50施設にすぎないと出ていますけれども,現実に,特に地方の公立施設を考えた場合に,すべてを自主事業で賄うということは現実には不可能ですし,非常に非効率,結果的に要するに使われないところが増えてしまうということになってしまうので,むしろ貸し館は貸し館として,それは大いにやっていった方がいいのではないかと思います。
 ただ,問題はその貸し館とするときの使い方ですね。さっき座長から文化会館のお話がありましたけれども,東京文化会館も確かに貸し館ではあるんですけれども,あそこはちゃんと,どういう団体に貸すかということについてかなり厳しい審査を実はしているんです。ですから,例えばそういうことをやっていくとか,あるいは指定管理者であれば,その指定管理者としてどういう人を選ぶのか,あるいはその選んだ人は果たして本当にそれでよかったのかということをきちんと評価していく。そういう仕組みを入れながら貸し館なり,指定管理者による事業運営というものをやっていく必要があるのではないか。そのためには,設置者側において,設置団体の方でそういうことがきちんと見られる体制あるいはシステムというのはちゃんと持っていないといけないので,設置者側において,例えばそういう文化に関する専門家を集めてきて,その人たちがちゃんと館の状況をチェックするということも,もしかすると必要ではないかと思います。ですから,そこは,単に館の側(がわ)だけの問題ではなくて,設置者と館と両方でシステムをつくっていかなければいけないのではないかと思います。
 まさに設置者側としては,そういうことをきちんとやりたいという意志を持って館を運営してもらっているはずですから,もしそういうことをしたくないとおっしゃるのであれば,それはそれまでの話なんですが,さっき申し上げたように,ある目的を持ってやろうというのであれば,そこはちゃんと設置者の側(がわ)において,それができ得るシステムなり,でき得る人なりをちゃんと配置するということも考えておかなければいけない。逆に,そういう意識のある設置者がどの程度いるかというのが,多分この議論がうまく進むかどうかということにも関(かか)わってくるのではないか。もしそういう設置者がほとんどいないのであれば,そもそも言ってみても現実にはなかなか難しいのかなと思います。もしそういうことをやりますよという設置者が相当数出てくるのであれば,まさに国と地方自治体が一緒になって,もっと目標を作ってやりましょうというところに行き着くのではないかと考えます。ですから,そういう意味では,設置者側への働きかけというのももうちょっと必要かなという感じはしています。

○太下委員 資料2の一番最後のところで,「方向性が共有されることが必要であり,引き続き検討を行っていくこととしたい」ということになっていますけれども,これは現在進行形の表現としてはこのとおりかなと思うのですが,一方で,この表現とは別に,せっかくこれだけの検討会を重ねていく中で,パフォーミングアーツの振興に具体的な成果としてつながるような政策提言も何か欲しいなという気もしております。個人的には,それはやはり国による助成の在り方にかかわってくるのかなと思っています。せっかく文化に御理解のある長官や参与がいらっしゃるという,いい環境も整っていますので,この機会に是非,劇場・音楽堂に対するより一層の振興と言うテーマに踏み込んで拡充していただきたいと思います。そう思う中で,先ほど田村座長がおっしゃったように,一方で設置者に逃げてほしくないというか,ちゃんと責任を果たしてほしいというお話と,先ほど三好先生がおっしゃったように,設置者の意識というのはちゃんとしていかないといけないんだという御意見もあったわけで,逆に言うと,そのような環境を引き出すような大型の助成事業があってもいいのかなと思います。
 例えばですけれども,8年とか10年とか,かなりの長期での成果達成というものを前提とした大型の事業を考えてみます。ただ,それに応募するためには,設置者である自治体と運営団体側がパートナーシップを組んで提案しなければいけない。こういう前提にした時点で,多分指定管理者制度の課題というのはかなりクリアできる可能性が高くなってきます。その上で,設置者側である自治体は,例えば複数年にわたる財政支出を保障する。これは原理的に言えば,議会における債務負担行為をすれば可能なはずです。ちょっと書生論的な青臭いことを言えば,そういうことを通じて,文化政策というものがより広範な議論の中にさらされることにもなるだろうと思います。更に10年近い期間を設定することによって,当然その中でハードの改修もタイミング的に入ってくるわけです。この改修という課題にも,設置者がきちんとコミットメントをしていただきたいわけです。
 更に,当たり前ですけれども,10年という期間の中でどういう成果を出していくのか,ということが課題となります。例えば,高い創造的な舞台の制作であるとか,その発信であるとか,普及であるとか,先ほど申し上げたいろいろな政策課題に応じてきちんと目標を設定されればいいと思うのですけれども,そしてその評価を公開していくことが必要です。このようなトータルにパッケージしたような要件の大型の助成制度をもし仮に国が用意できれば,そのことが設置者である自治体の自覚を促して,インセンティブになり,そして長期にわたるコミットメントというものも引き出すことになるかもしれないということです。
 今の提案は一つのアイデアですけれども,何がしかそういうことにつながるような議論を最終的にはこの検討の場でできればなと思っています。

○片山委員 今の太下委員の提案にも関連してくるのですが,自治体が長期にわたったきちんとした政策を打っていくためには,それを担う人材の問題が一番大きいと思うのです。たまたま今の文化政策課長の方が非常に熱心で優秀でしっかりやってくれても,その方が異動になるとすぐに変わってしまうというのが,これまでの自治体の在り方です。これからは,文化政策をきちんと担える人材を,単独の自治体で育てるというよりも,日本全体で育てて,これらの人々が流動しながら一定期間それを担うといった必要があるのではないかと思います。アートマネジメント人材については,どうしても事業や公演を担当する人というイメージがあるのですけれども,初回の委員会のときに,それよりも館全体の運営をする人が大事だという話をしましたが,更にそれを超えて,地域の文化政策のプランニングができる人材をきちんと育てていくことが大切です。そして,その人がきちんと自治体の中のしかるべき立場,あるいは文化施設をマネジメントする立場につけるような,そういうサポートを国がしていくということが,今,太下委員がお話になったようなプログラムを有効に機能させる上では,かなり重要なポイントになってくるのではないかなと思います。

○根木委員 片山委員の御発言についてですが,今一番重要なのは,企画制作能力をちゃんと備えた人ですが,そのような人材がほとんどいない。館長クラスの人は,言ってみれば大所高所の観点から物事を判断できればいいわけで,それは確かに一般大学で養成されてよいと思います。しかし,企画制作能力やスキルをある程度身につけさせるとなると,音楽なら音楽,演劇なら演劇,それぞれの分野で大分違ってくると思います。そういった人材の養成は,芸術系の大学のアートマネジメントコースがその枠割りを担い,実際に相当程度やってはいます。ただ,残念ながらそのポストがないというのが今一番のネックになっています。
 それから,三好委員がおっしゃった,貸し館について一概に悪く言う必要はないのではないかということについては,まさにそのとおりだと思います。座長が言われた東京文化会館などは,どちらかというと貸し館主体です。とはいえ,トップレベルの公演の提供をするという,この間申し上げた第2類型の鑑賞型の典型ではなかろうかと思います。そういった館に関しても,当然ながら創造型と同じように,芸術監督も,アートマネジメントの担当者も,技術関係者も必要だと言えます。三好委員がおっしゃったのは,恐らく第3類型あたりを念頭に置いておられると思いますが,地域住民の参加型の文化活動は,ある面では貸し館的であるにしても,別の面では館の側(がわ)が手助けしながら市民文化活動を支援するという面があろうかと思われます。いずれにしても,第3類型あたりまでは,少なくともそれなりの人材が必要なのではなかろうか。したがって,そこに人の確保ということを考える必要があると思います。

○田村座長 本当に地域の文化活動を支援するというのは,よく言われることでございます。ただ,私は実際に携わってみますと,文化活動に場を提供するだけでは駄目だと思っておりまして,どうやって文化施設がその質を向上させていくか,文化施設側に見識があるかどうかということが問われるような気がいたします。そういう意味で,文化施設に見識ある専門家がいるといった状態になるのが望ましいかなと思っていまして,アートNPOに対するものであっても,ただ場を提供するのがいいということであったならば,地域文化云々(うんぬん)というときに,日本には各地に地域文化がたくさんあるわけでございますから,よくなっているはずでございます。でも,それをよくしなくてはいけないということは,どこかできちんと振興していく必要がある。例えば,国立劇場がきちんと人材を養成していることによって伝統文化というものが保たれているということがございます。それを国立劇場側がしていなかったら,多分,現在の歌舞伎(かぶき)というのは,わき役もいないし,鳴り物の方もいらっしゃらないという状態になっていると思うので,そういう意味で,きちんとした見識のある人の役割というのは必要ではないか,そういう仕組みをつくることはやはり必要ではないかなと思います。アートNPOが十分果たすといっても,それは簡単にはいかない。十分機能していらっしゃるアートNPOが存在するのも確かでございますけれども,切磋琢磨(せっさたくま)するという場を必ず創出していかないと,質が向上しない。最終的に日本の芸術文化が世界に発信できるようなものは創りにくいのではないかと思ったりいたします。

○平田参与 資料2の4.の(4)の「劇場・音楽堂等への国の関(かか)わり方について」というところをぎゅっと詰めていただければ,方向性は出るのではないかと,今日お話を伺いながら思いました。ただ,根本的に,今のままの公共文化施設の在り方そのままでいいと思っている人はいないと思うのです。あるいは,今のままの在り方で予算だけ増やしてくれればいいと思っている人もいないと思うのです。一番大事なことは,専門家をきちんとつけるということだと思うのです。先ほども名前が出ました可児市のことですが,私は,先々週ですか,参議院の調査会に参考人で招かれて,そのときにたまたま岐阜県選出の先生から御質問を受けたので,可児市はすばらしい活動をしていると可児市の名前を出させていただきました。しかし,可児で創られたものが可児市と東京でしか上演されない。本来だったら,可児市で創られたすばらしい作品が,例えば岐阜市とか大垣市とかでもやられれば,それは効率がいいわけですけれども,なぜそれができないかというと,ほかの会館にはそれを選ぶ目を持った専門家がいない。だから,カタログで選んで東京からの芝居をずっと買い続けるという状況が今も続いている。ここの仕組みをブレイクスルーすることが大事なのだと思うのです。
 実際に,可児市にしろ,例えば私もかかわってきました埼玉県の富士見市にしろ,たかだか人口10万人の非常に小さな市です。しかし,館長なり芸術監督なり芸術総監督なりに専門家を置けば,それだけの活動ができる。そして,きちんと文化庁からも資金を得て,それなりの成果を挙げている。そういう方向はもう出てきていると思うのです。それに法的根拠をつけることは,方向性として,それほど難しいことではないのではないかと僕は思うのです。この大筋のところを押さえて,是非改革の一歩を踏み出さないと,何も話は進まないと思うのです。太下さんからも御指摘があったように,別に私は何の役にも立たないんですけれども,今がチャンスであることは間違いない。ですから,ここのところで一歩踏み出す。そういういろいろな,例えばそれだけの支える人材がいるのかどうか。でも,これは本当に鶏が先か,卵が先かで,根木先生がおっしゃったように,ポストをつくらなければ人材は育たないので,是非そこを強く進めていただければと思います。

○田村座長 ありがとうございました。はい,どうぞ。

○三好委員 資料2の8ページのところに必要な人材という記載がありますが,これに関連して,少しアイデア的な話で恐縮ですけれども,例えば,必要な人材ということで,経営責任者,芸術責任者,技術責任者等々言われていますけれども,経営責任者とか技術責任者は,これは当然管理,その館の責任者ということでしょうけれども,例えば芸術責任者,いわゆる芸術監督というのは,必ずしもその館に所属しなくてもいいのではないかと思います。例えば,その自治体の芸術監督,その自治体の芸術責任者がその館のことを見る。なぜかというと,さっき申し上げたように,もともと自治体がそういう施設をつくる目的は,人づくりであり,地域づくりですから,人づくり,地域づくりのために施設を作り,その施設を使ってそういうことをやろうとしているわけで,その施設自体が目的ではないんです。ということから言えば,その自治体のいろいろな芸術活動全般についてちゃんと目配りのできる人というのを,例えば芸術責任者として自治体が雇って,館の運営も当然その人がちゃんと指導する。ですから,場合によっては指定管理者と芸術監督というのは別の人,別の組織になってしまうので,そこの間のあつれきなど別の問題は起こるかもしれませんけれども,そうすれば,先ほどのようにどこかの団体に任せきりということにはならないのではないかと思います。これは一つのアイデアですけれども,例えばそういうことも考えておいた方がいいのではないかと思います。

○田村座長 たしか高円寺は,芸術監督は区が任命していらっしゃいますね。それで指定管理者制度を導入していたと思います。あと,上岡さんという指揮者は,ブッパータール市の音楽監督です。

○三好委員 まだ日本ではそういう例は,少ないというか,ほとんどないかもしれませんけれども,これをまさに何のためにやっているのかと。それは単に館のためにやっているのではなくて,それがひいてはその自治体にとってどういう意味があるのかということにもなっていくと思うのです。

○田村座長 何か御意見ありますでしょうか。はい,どうぞ。

○根木委員 今,三好委員がおっしゃったことは,確かにそのとおりであろうと思います。ただ,これは館の規模によって随分違うのではなかろうかという感じもします。小さい館が幾つかある場合や市町村レベルでは,文化行政について一家言ある人が,それぞれ館の芸術監督的な立場を兼ねることもあり得る。つまり,政策レベルについても物が言え,それぞれの館の目標の遂行あるいは事務事業の実施に当たって発言ができる。そういう人もある意味では必要であると思います。ただ,大規模な館になると,果たしてそこまでカバーできるのかどうか。政策レベルのことまで考える余地は恐らくなかろうと思います。したがって,これはケース・バイ・ケースではないかという感じもします。

○田村座長 どうもありがとうございました。
 それでは,時間となりましたので,本日の討議はこれにて終了したいと思います。
 今後の日程について,事務局よりお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐 

<資料の3について説明>

○田村座長 どうもありがとうございました。
 本日はこれにて閉会にさせていただきます。

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