議事要旨

国立文化施設等に関する検討会(第3回) 議事要旨

1.出席者

(委員)

福原座長,竹内座長代理,上原委員,織田委員,林委員,町田委員,宮島委員,山下委員,吉本委員

(独立行政法人)

加茂川国立美術館東京国立近代美術館館長,遠藤国立文化財機構理事,崎谷日本芸術文化振興会理事,折原国立科学博物館理事

(事務局)

吉田文化庁次長,田中政策評価審議官,小松文化部長,関文化財部長,松村文化財鑑査官,伊藤大臣官房審議官,大木文化庁政策課長,塩見社会教育課長,滝波文化庁政策課企画調整官,高比良文化庁政策課独立行政法人支援室長,岩佐社会教育課企画官

2.議事内容

(1)開会等

 開会後,福原座長より,本日は,前回に引き続き,本検討会における当面の主な論点の後半部分について,上原委員,宮島委員,竹内座長代理から寄せられた意見に沿って検討を進める旨説明があった。
 続いて,事務局より本日の検討会の進め方及び配付資料について事務局より説明があった。
 続いて,崎谷日本芸術文化振興会理事より参考資料について説明があった。

(2)意見発表及び意見交換

 引き続き,以下のとおり意見発表及び意見交換が行われた。

【上原委員】

 実演者及び地方の劇場から見ると,新国立劇場が国民全体のものになっているとはなかなか感じられない。新国立劇場で行ったのと同じレベルの公演を同じ価格で地方でも鑑賞できることが大切だが,実現には,地方の劇場が多くの金額を負担しなければならない。地方の劇場の力が落ちている現在,それができる劇場の数が非常に少ない。国民全体のものにするには別枠予算でないと無理だが,なかなか難しいのが現状。地方の劇場の疲弊をよく理解してほしい。

【町田委員】

 我々の財団で,子どもオペラ,子どもバレエをご一緒させて頂いている。子どもたちにも大変喜ばれているので地方で行おうとしたが,交通費もかかり,なかなか子どもたちに低料金で見て頂くことが成り立たない。財団がフォローした後,企業からも支援していただき,良いものをそのままパッケージで地方に持っていけるように,東京でやるときから地方に巡回しやすいように最初から織り込んで作ることで,少しずつ乗越えられるようになってきた。新国立劇場もそういうことを考えながらやることで,手間は増えるが,予算に寄与するだけでなく,内容的に素晴しいものを地方にもっていける可能性が増えると思う。

【崎谷日本芸術文化振興会理事】

 財政状況等が大変厳しい中で,新国立劇場は財界等から特別な寄附金を賛助金等として頂いて何とか賄っている。自ら制作し公演しているが,これから進める上で地方もとなれば,全く同じでなくても最初から計画に組入れながら,できるだけ前広に相談,連携しながら行っていくのは一つの考え方。そのことも含め,私どもとしてはできるだけ地方,海外へもっと発信できるようにしたい。その際,財政的な支援の確保も必要になってくる。
 新国立劇場の地方公演,海外公演は,中期目標,中期計画に位置付けはされており,必ずしも数的なものではなく,それを前向きに進める趣旨が書いてある。毎年評価では,地方公演や海外公演等の発信についてかなり厳しい目で見られていて,我々としては努力すべき事項。

【吉本委員】

 新国立劇場の国内公演は,毎年2ステージほどで,地方公演で見ていらっしゃる方が数千人と余りにも少な過ぎるのではないか。中期目標に掲げられているのであれば,逆にしっかりと財源を手当てしないといけない。曖昧に書かれているから,できる範囲で何とかやっているように感じた。

【上原委員】

 独法化のメリットについて。一般の人から見て経営の視点が明確になり,収支がはっきり国民の目に分かるようになり,今まで予算の中で措置されたものが独立行政法人という単体法人の経営という形で分かるようになった。国立の施設はお金がないことが分かるようになった。新国立劇場について,施設を利用する人,チケットを買って見に来る人,専門的な人など様々なステークホルダーの視点をより強く意識せざるを得なくなったことがメリット。
 コレクションの充実を図る仕組みについて。国立文化施設の役割,ミッションは過去の貴重な文化的資産を蓄積し,国民共有の資産として提供し,現在の社会が生み出している様々な価値を記録,蓄積を続けること。日本社会の存続のためには,過去・現在・未来という視点が欠かせず,きちんとコレクションを続けていかなければ蓄積できない。常にコレクションや制作・創造活動に力を入れていかなければいけない。コレクションのための基金があって,いつでも機動的にそれが使えるのが有難い。地方で美術館を運営していたとき,基金がある間は急に作品が出たときに買いに走れるが,それがないと機動的に買えないので,目の前でその作品がほかに流れ去ってしまうのを悲しい目で見ていた。基金は必要である。 
 自己収入の増加に向けた取組,インセンティブ設計について。元々少ない予算でスタートしており,自己収入の増加に向けてスタートする地点が違うことを押さえた上で,非常に使いにくい目的積立金制度の改善が必要。
 課題と改善方策について。まず人材育成以前の課題として人件費の一律削減をやめることが必要。人件費が削減される以前から,国立文化施設の職員数は海外に比べて桁外れに少ない。ポンピドゥー・センター1カ所の職員数より,日本の全国の国立の美術館と博物館の職員全部足しても少なくてびっくりした。人材を育成しようと思っても育成すべき職員がいないのにどうやって育成するのか。育成以前の問題として人材確保とそのための人件費の確保を。思い切って増やしていかないと人材育成にはつながらない。短期雇用でつなぐのは,全く人材育成には ならない。
 文化政策・独法制度の在り方について。国全体を覆う文化芸術を軽んじる風潮をひしひしと感じる。現代社会の様々な課題を解決するために文化芸術が重要になってきている。いち早くそれに気がついた地方,地域,国あるいは外国の都市は,それを使いながら創造都市が元気になってきて,日本でも幾つかの事例が見られるようになっている。芸術の振興の効果は,芸術分野だけでなく幅広い分野に及ぶことを強調しながら,文化政策の必要性について理解を求める必要がある。国立文化施設は国の文化政策の中核を占めるシンボリックな存在である。個別に必要な措置をとるべきで,全て一緒に独立行政法人という取扱いである現状を改めるべき。国立文化施設に対する国の積極的な姿勢を示すことで,文化芸術を軽視する風潮に歯止めをかけることになる。公立文化施設の疲弊は,目に余るものがある。自治体の財政難,指定管理者制度導入だけでなく,市町村合併など国の制度設計によって,劇場ばかりでなく図書館,博物館,美術館が困難な状況に置かれている。指定管理者制度が導入され,直営か指定管理者制度かを選ぶ制度になっているが,これは地方の自治に任せているとは言い難い。個別法のある図書館や博物館,美術館でさえ指定管理者制度の中に組入れられ,まして法律のない劇場は悪い状況に置かれている。指定管理者制度は文化施設になじまないことを強調してほしい。
 なお,文化施設は地方独立行政法人化することは認められていない。大阪市が7館の博物館を1つの独立行政法人でまとめようと特区申請したが2度却下され,指定管理者制度を導入すると聞いた。国が独立行政法人制度を文化施設に導入しているのにどうしてか。地方自治法も地方独立行政法人法も国の制度だが,地方の自治に任せて頂きたい。こういう地方の抱える問題を解決するには,国の法律や制度設計にかかわることが多い。国全体として文化芸術に対するポリシーが必要。
 指定管理者制度の一番の問題は有期限であること。さらに公募が原則と法定されているわけではないのに公募してはいけないところまで公募になった。5~8年という有期限で文化が紡げるとは思えない。民間のNPOで熱心なところが指定管理者になって小さな劇場の運営を任されて活性化した例はあるかもしれないが。

【吉本委員】

 従来の財団委託では,運営事業が停滞し,行政以上に硬直化していたところがあり,そこに指定管理者制度によって競争原理を持込まれたことにより自覚が促され,経営改善が行われた例はある。
 5年という期間があれば,その間,債務負担行為で予算が約束され,計画が立てられる。単年度ではないというメリットもあるが,債務負担行為がちゃんと設定されている施設は少ない。

【山下委員】

 指定管理者制度を使って博物館を立て直した例はある。野田市の郷土博物館は,地元のNPOの人たちが指定管理者になって,郷土博物館の考え方や目的,活動の内容,他の施設との連携を見直し,市長も合意して,修理等の予算をつけて,市民が立寄れる場所,活用できる場所に改善した。
 兵庫県にある小さな昆虫館は県から町へ引受けの打診があったが,それもできないので,地域や周辺の博物館関係者,研究者や住民等が集まってNPOを作って指定管理者となり,年間200万円の指定管理者料に見合う運営をしているが,これは制度をうまく利用した例。

【吉本委員】

 独立行政法人と指定管理者制度に共通する弊害として,評価に労力,コストがかかり,そのことに疲れてしまっていることがある。劇場やホールの指定管理者も担当部局も,議会質問に対する資料作成や指定管理の評価資料の作成にエース級の人を充てないと,説得できる資料を作れない。資料作成に仕事が割かれて本来の仕事ができず,人材の無駄が生じている。独立行政法人でも同じことが言える。

【宮島委員】

 独立行政法人制度が創設されるまで,収蔵品に対して国家賠償制度が適用されていた。私は収蔵品を守るための保険が必要と思うが,国立文化施設が負担するには高額な保険料になるのでなかなか難しい。各施設は収蔵品の保護について万全を期されていると思うが,国民の財産である収蔵品をどのように保護すれば良いか,予算が収縮している中で収蔵品収集を円滑にする方策を検討していきたい。
 現在の国立文化施設等は独立採算制度になじまない。国立文化施設等の役割は非常に広い領域にわたるが,これ以上の利用者の著しい増加は望めない。仮に独立採算制度になると,「入館料×利用者数」で考えた場合,利用者数が増えない以上,高額な入館料を設定しなければならないが,それは文化施設の使命や趣旨に反する。
 国立文化施設等の目的,役割は,これ以上人件費等を削減していくと達成に支障を来すおそれ。特に業務の効率化となると人員の削減に直結するが,地方や海外との交流等は人との関係から進むものであり,一律削減が国立文化施設等になじむか,よく検討する必要。
 公共的な性格から収支を度外視する事業を行っているので,独立採算制度による収支の均衡は困難。自己収入のみによる事業の継続が不可能で,どのように財源を確保するか。ただ,国等から財源確保には,その成果,財源と成果の関係について説明責任を果たす必要がある。
 1番目は,インセンティブが働かないと目的積立金制度があってもなくても同じ。認定基準を見直し,積極的な活用を促進するため,翌事業年度以降への繰越しや使用を認めること。
 2番目は基金の設定。ただし,現在の金利水準を考えると取崩す形になるので,基金を設定しても運用収入があまりなければ,取崩して元の木阿弥になるおそれ。
 3番目は,寄附を集める体制の強化。税制上の優遇措置やその他の措置を含めて,寄附を集める体制の強化を考える必要。
 4番目は組織形態。法人カンパニーのようなものを作り,各施設の自主性を確保して,下にぶら下げていく。相当数,専門的人員を配置したり,組織形態や本部機能を見直して管理部門以外の組織を強化するにも人が必要。広告収入を稼ぐなどやり方はあるのではないか。
 一律人員削減により必要な人員が不足している。高度な専門性を要する職員や研究員が必要となると,長期的な計画に基づいた人員の育成が必要。人員削減,経費削減は色々なリスクをもたらし,必要な人員がいなくなったり若い人や慣れていない人ばかりになると,事故等が発生することもある。計画に基づいて必要な人員を確保していく必要がある。
 国民への成果のアピールについては,文化施設等の方々は研究等を行い,それを見に来てもらうのは重要だが,それ以外のこともアピールしたい。ホームページ等に出ても一般の方は見ていないだろう。
 一般競争入札は良いものを安くという意味で推進されるべきだが,本来業務への導入は難しい。平成21年3月に劇場等の管理運営業務に民間競争入札を実施することは適切でないとの結論が出たのは尤もだ。

【町田委員】

 学芸員が異動した瞬間,誰もその分野をカバーする人がいなくなる例もあるなど,人員削減の影響が大きい。国立施設は国内外の主導的,牽引的な役割を果たすことを考えると,それはあってはならない。専門性を持つ人を中長期的に育て確保することは,根幹に関わる問題として打出すべき。一方でネットワーク化が進んでいる中,館の独自性とは別に横のつながりを強化し,専門性をカバーする仕組みを作っていくことは大事で,海外との学術交流等も強化すべき。
 コレクションに関して,スペースの問題,人的問題,事故発生時の問題がある。受け入れ側がそれなりの陣容でないと,せっかく素晴しいコレクションを寄贈しようとしてもためらわれる。そこをクリアできれば,コレクションの購入以外にも,相当コレクションの充実が図られるので考えていくべき。大英博物館は今でも欧州だけでなく米国でもコレクションの寄贈を働き掛けていると聞いている。胸を張って受け入れる仕組みを作っていかないと,ますます海外に流出する危惧が大きくなる。日本の強みを発揮するためのコレクション充実に向けて,複数年度での予算などを考えていった方が良い。

【織田委員】

 展示施設と劇場とは性格が大きく異なるので,一つの組織のなかで管理運営されることには違和感がある。
 劇場等の管理運営業務には,国立劇場でも危険が伴い,一般競争入札にはなじまない。
 国立劇場も新国立劇場も国立劇場おきなわも後継者養成を行っているが,日本芸術文化振興会にとって芸能を継承していく後継者を育てることが,専門家を育てる上で大きな仕事。この部分は一律に管理運営費や人件費がカットされても途中で変えられない。募集すると2~3年,責任を持ってこの人たちを研修して舞台に出さなければならず,途中でカリキュラムを縮小したり講師の首を切ったりできない。伝統芸能や現代舞台芸術の担い手を育成するという,他の組織とは違った考え方に基づく専門家の養成は,国立施設の仕事である。

【福原座長】

 学芸員等の専門知識のある人たちの交流は必要。東京都写真美術館では,写真担当の学芸員は,国立近代,渋谷区立松涛,横浜市立の横浜美術館と色々な館にいる。国立博物館OBが,そういう人たちの交流によるレベルアップやマンネリの払拭を狙って人事交流を働き掛けたら,学芸員の大反対や国立,都立・県立,市立,私立のステータスの違いから断念した。
 東京都の歴史文化財団が公益財団法人になり,税制上の優遇ができるから,もっと集められると期待した。しかし,個人は,年末に証明書をもらい,税務署に出すのは厄介だから結構だと言う。企業は,昨今の状況だと先行きの景気が分からない。自社の商品が突然売れなくなる,突然円高になって輸出できない等があるので,余裕があれば今期は出すからそれを経費で落としたいと言う。したがって税制上の優遇が要るという方が少ない。
 一方,新しい公共というテーマで鳩山前総理が主宰し,そこでも税制上の優遇は大きなテーマ。独立行政法人大学評価・学位授与機構の田中弥生准教授は,NPO等で寄附が必要と言うのは良いが,寄附を集めることがミッションになって本来のことをしなくなるので,それよりは良い仕事をしていると近隣の人たちが支援してくれる方が正しいとおっしゃったので,私は税制優遇を強く言わないようになった。
 ただし,諸外国に比べると我が国は文化芸術に対する税制上の優遇がほとんどなかった。昨今多少改善されたが,もっと良くすればたくさん集まるかは疑問。

【上原委員】

 諸外国で税制上の優遇措置が日本に比べて厚いのは,税額控除と所得控除の差があるのか。

【大木政策課長】

 税額控除と所得控除の差は大きい。現政権で,新しい公共等に絡めて,上限付きながら所得控除から税額控除に変えていく方向性は出ている。米国は基本的に税額控除。GDP比で見ても寄附額は米国が突出しており,欧州では仏国が国主導で直接予算措置している。

【林委員】

 ハーバード大学は2兆円の財産を持っていて,寄附の収集・運用のための50人ぐらいの集団がいる。それぐらい本格的なやり方をしないと,疲弊するか意味のない寄附をするだけで,日本も税制と同時に計画的に寄附を集める仕組みを考える必要。
 自然史の収蔵品管理について,我が国の国立施設はアジアの自然史に関する拠点になり,アジアに対する責任があることを考えた方が良い。国内の民が保有する危機的状況にある標本を,民も保管できる緩やかな保管スペースを作り,管理の専門家も集中させて,しっかり管理できれば,高い品質で維持できる。10年,20年,50年,100年先には,国の財産として残っていく仕組みを考え,国立の博物館の標本だけでなくて,将来的に国の標本になっていく。国内だけでなくて世界,特にアジアのものについて,そういう仕組みを考えられたら良い。

【町田委員】

 先ほどの写真美術館への寄附の話は,かなり写真を応援したい方々だからこそ,税制優遇にとらわれないのだと思う。寄附文化が米国に比べて日本は薄く,これが広がっていくことは大事。これを広めつつ税制優遇を打出すことで,少額からでも底辺を広げて集めることが容易になる。きちんとした使用目的も含めて,自分たちの寄附がどこへ行くか分かる形でやっていけば,支える仕組みになる。同時にそういうことを通じて各館に愛着を持ってもらう。「自分たちの館」として応援していくことができる仕組みは重要。
 コレクションや自然史資料の充実は日本の強みになりうる。海外で大きな展覧会があるときに,日本人が大挙して行くことがあるように,今後大型の展覧会等を,日本をアジアの文化拠点として位置付けてアピールし,アジアから観光客を誘引することは,日本にとってもプラスになる。文化に予算を使う必要性はもちろん,伝統の継承というもう一つの大切なことも打出した方が日本の活性化につながる。

【山下委員】

 国立博物館に対して公立博物館や国民がどう見ているか。国立博物館は登録博物館になっていないので,自分のことしか考えていないという図式になる。仕組み的にも事業でも,日本博物館協会の会長も美術館会議の会長もICOMの委員会の会長も,みな国立館の館長がなっており,そういう部分で尊敬される存在だと思うが,実質的に他の博物館まで面倒を見る仕組みになっていない。国立博物館の役割を明確に位置付けることが必要。
 兵庫県立人と自然の博物館は,県内の色々な博物館と連携している。展示はもちろん他の地域にキャラバンで出かけて展示し,地域で活動している人を仲間にして研究を促進させる。他の小さな博物館を助けることも活動の一つ。小さな館が大変なときに協定を結んで研究員を派遣できる仕組みもある。そういうこともやれると,国民にとって展覧会を見に行くだけの博物館ではなく,そういうことも応援してくれる素晴しい国立博物館になる。
 気持ちよく寄附していく仕組みが望ましく,身近な部分での集め方も良いと思う。例えば図録の10%とか5%なり1%なりは,買った方の寄附分が館の活動に反映されるとか,ミュージアムショップのグッズもそういう作り方ができると思うので,国民一人一人が寄附しやすい仕組みを設けていくことも大切。

【吉本委員】

 コレクションとの関係では遺贈があり,相続税との関係もある。12年前に登録美術品も物納の対象になったが,順位が低いため活用されてコレクションになった例が非常に少ないと伺った。制度を変えられる可能性があれば,コレクションの充実と税制との関連性を検討する余地があるのではないか。ただ,その場合も受入れ側がイニシアチブを持って価値を評価し,良いものを受入れる体制も作らなくてはいけない。

【竹内座長代理】

 国立文化施設は国民から信頼されているという関係をまず作って,そのために国は予算を確保して,運営等は,国民も任せるし国も任せると,そのかわり施設側,法人側はミッションを明確にし,具体的なことは法人側の自由裁量でいくという関係が望ましい。
 活性化させるためには美術館・博物館に来ない人を対象に世論調査を行うべき。例えば,去年,阿修羅展が71万人入って,7,600人,約1%がアンケートに答えた。去年全体で16の大きな特別展のアンケートがあるが,平均するとやはり1%ぐらいで,私はこの1%で良いと思う。
 コレクションの形成について。短期的には,事業仕分第2弾の結論で,事業規模は拡充し,同時に適切な制度の在り方を検討しながら,国の負担を増やさない形で拡充を図るとされたことを最大限利用して,インセンティブを旗印にやって良い時期に来ている。博物館・美術館に現金又はコレクション自身を寄附することについて,国民の資産を充実する視点で,改めてそれに特化して税制を検討すべき。国の施設が購入する場合は所得税が免除になる制度があるほか,海外に美術品が流出するのを防いだり,国が指定品を買う優先権があるなど,総合的に考えられているが,ナショナル・コレクションの拡充,国民の資産の拡充については特別扱いされても良いのではないか。
 人材育成について。特に研究者以外のスタッフが必要だが,その長期育成のプランがないので,今の状況が続くと,これから博物館・美術館が運営できなくなるのは必至と感じている。
 文化政策や独法制度について。外国人を案内するとき,浅草に行くよりは,国民が誇りを持って博物館に行くようにしたい。例えば,国宝展示室などができて,展示の技術が世界水準になったので,誇りを持って強調していきたい。日本は世界に例がない工芸大国。工芸が世界にない形で美術品として残っており,ハイテクとも結びつく。金物は工芸の歴史があったからできた職人の技であり,それを見据えながら,博物館が受皿として思いを伝えられると良い。スミソニアンをはじめ米国の歴史博物館でも,250年の歴史で米国は一生懸命頑張ってきたことを見せており,日本もそういう視点があって良い。
 国立博物館は古美術が中心の美術館で,世界的な概念としての博物館は残念ながら少ない。科博とか歴博,民博,東大博物館があるが,自然史標本や近代産業をフォローする上で制度上の欠陥がある。この偏りを是正しない限り,これからの発展はない。
 国際博物館会議(ICOM)について。ICOMは,自然史系の博物館の力が大きく,30近い専門分野があるが,成果を日本の博物館が取入れられない。国の施設が地盤沈下すれば,研究面,人事,コレクションで日本の博物館全体が地盤沈下するので,国の施設はそういうところを見ていくべき。国立美術館の評価委員会の結論に,ICOMへの積極的な参画について書いてある。ICOMは博物館協会を中心にやっているが,日本の博物館全体をICOMの一つとして我が国の博物館の先頭を切ると,国民も納得し,自由に予算を使っても良い博物館になるのではないか。

【林委員】

 20数年以上前に上野動物園を対象に来園者が増えない原因を明らかにするため調査した。その結果,競争相手は近くにあるデパートであることが分かった。あの頃はデパートの屋上の子どもを呼び寄せる施設がアトラクティブな時代だった。動物園側に,親と子どもの両方に対するアピールの仕方が弱いとか,見せる工夫,アトラクティブな工夫が足りないという反省があった。他の美術館・博物館がどうか,調査が必要。
 博物館・美術館の専門家が高いレベルで高い意識を持続けることが,博物館・美術館の質を決定するように思う。専門家は孤立しているので交流できる仕組みが必要。色々な人と交流していく中でアウフヘーベンしていく。早大では科博,歴博,民博,東大博物館から毎年10名ぐらいずつ1週間ぐらい招いて,一緒に作品を作ったり講義を聞いたりしている。専門家を揃えるためにそういう交流の場が,国とか県を取り払ってコーディネートする側も複数あると良いと思う。
 標本はきちんと管理すべきだが,東大博物館では,わずかなスペースで展示するだけでなく,移動博物館のように民間企業の役員室に一定のお金をもらって標本を送り出している。標本の由来に関する話題をきっかけに商売がうまくいくかもしれない。特定の標本集団を国の施設全体で共有しながら,あるところからは(貸付料を)頂く仕組みも考えられるのではないか。

【遠藤国立文化財機構理事】

 組織の大きさと寄附の話があったが,国立文化財機構の名前で寄附はとれない。東京国立博物館の館長,奈良国立博物館の館長,東京文化財研究所の所長等としては寄附を取れるが,機構として名前を売らない判断はしている。

【福原座長】

 非来館者の調査に関連し,日本にオペラ劇場は要らないと言う人もいるが,来てもらわなくてもそういう人が日本のオペラ劇場はよくやっていると承認してくれれば良い,という考え方もある。

【遠藤国立文化財機構理事】

 東博で昨年度コンサルタントを使って非来館者の調査を行った。東博に来たことのない人をピックアップし,アクショングループで議論して頂く形で調査したが,自分の行くところではないとか,何をやっているか分からないという方が来館していない。

【織田委員】

 国立劇場の公演を観にきた人たちへのアンケートでは,人数は少ないが7割ぐらいの回収率でアンケートは返っている。劇場外では,有楽町の駅頭や大阪難波等で文楽や伝統芸能のアンケートをやっている例はある。

【町田委員】

 子どもの頃から芸術・文化に触れることが一番大事。子どもオペラや子どもバレエなどが全国に回ることで初めて触れ,自分でまた行ってみようという動機付けになる。南極40周年展のとき,科博が標本や一級のものが入っているミニパッケージを作り,全国を巡回した。そういうことを通じて,広い層の子どもたちに本物の美術品や科学的なものに触れさせていかないと,美術館や博物館に行こう,研究者として自分も携わってみようとはならないので,発信力を強めていくことが大事。

【林委員】

 アジアに我々が貢献できることとして,例えば車を開くとそれが展示場になって,各村々を回って歩くというのをアジアの子どもたちにやったらどうか。日本でも必要ではないか。そういうアイデアを国がやっても良いのではないか。

【上原委員】

 国が見本を示すことによって,公立の美術館や博物館,劇場などが同じようなことをやる。物を作っていくのが東京だけでは余りにも痩せた文化しかできないので,各地の工夫の中で生まれてくることが望ましい。
 新国立劇場の子どもたちのためのオペラとかバレエができたら良いと思うが,びわ湖ホールでもそれなりのことはやっている。そういう力を公立文化施設が発揮できるようになることが望ましい。

【林委員】

 劇団四季は,年間通じて200万人以上の集客,800人以上の劇団員を持つスケールで全国展開する。コストの高い演目と演出を買ってきて,営業の努力は凄まじい能力を持っており,我々も学ぶべき。
 国立劇場の今年6~7月の歌舞伎鑑賞教室が500万人を超える。今横浜や甲府等で行っているが,地方に持っていくので,なるべく一杯の道具にする,短い花道で済む演出を考える,座組みを小さくするということを,本公演を東京で組むときから考えている。昭和45年からやっており,40年の経験である。今,地域創造の公演も国立劇場の公演をタイアップして行っているが,地方へ本物を持っていく仕事は大事。

【吉本委員】

 日生劇場も毎年15万人の子どもたちを劇団四季のミュージカルに無料招待しており,東京はもちろん地方でも数万人の子どもたちが無料で鑑賞している。子どもの頃に見た後,大人になって観客になる人もいるだろうが,ミュージカルの観客育成には30~40年かかっている。しかし,国立劇場が地方の劇場と共同で子どもたちに素晴しいプロダクションを提供するということは,手間もお金も成果が現れるまでの時間もかかるが,国がやるべき仕事ではないか。

【織田委員】

 集客が大事で,良質なものは必要ないという議論は乱暴。来て頂いた人にリピートしてもらうには,良質のものを安価に提供することが国の務め。

【崎谷日本芸術文化振興会理事】

 国立劇場は,歌舞伎も文楽も鑑賞教室等をやっていて,特に歌舞伎は地方公演をしている。能楽堂でも研修生や研修修了生が学校などに行く体験教室を行っているが,安い費用でできる工夫をしている。新国立劇場も今年度は「蝶々夫人」を尼崎で行うとか,子どものためのバレエ劇場「白雪姫」を新潟県や兵庫県で行うなど,少しずつ動かしている。

【折原国立科学博物館理事】

 雨が降ると,上野動物園に行く予定の幼稚園児が,高校生以下無料もあって,科博にたくさん来る。上野の博物館というと,あの鯨やD51があるところねと科博になるが,こうした施設については,また来たいという子どものときに行った経験が大事。地方の博物館支援については,苦しいながらもナショナルセンターとしての役割認識があり,展示用の資料貸出しを行っている。年間10カ所ぐらい,地域の科学系博物館に,当館の大きな恐竜の化石などを,協賛のお金を使って行き,連携した展示や講演会などを実施している。

(3)今後の日程程

 事務局より今後の日程等について以下のとおり説明があった。

  • ・ 次回は,11月18日(木)17:00~19:00,文部科学省東館16特別会議室にて開催予定。
  • ・ 次回は,これまでに出された主な意見について,福原座長等と相談しつつ事務局で整理した資料を提示し,意見交換を行う。
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