議事要旨

新国立劇場及び国立劇場おきなわの運営の在り方に関する検討会
(第1回)議事要旨

1.日時

平成23年4月19日(火)13:30~15:40

2.場所

文部科学省 旧庁舎 第2会議室

3.出席者

(委員等)

渡邉座長,田村座長代理,伊藤委員,大城委員,樫谷委員,中山委員,西川委員,牧委員,吉本委員,平田内閣官房参与

(文化庁)

近藤文化庁長官,吉田文化庁次長,小松文化部長,関文化財部長,大木文化庁政策課長,山﨑芸術文化課長,高比良文化庁政策課独立行政法人支援室長,滝波文化庁政策課企画調整官,牛尾大臣官房総務課行政改革推進室長

(オブザーバー)

白石内閣官房行政改革推進室内閣参事官,崎谷日本芸術文化振興会理事,韮澤新国立劇場運営財団常務理事,宜保国立劇場おきなわ運営財団常務理事

4.議事内容

(1)座長等の選任及び会議の公開

委員紹介の後,座長・座長代理の選任について諮ったところ,渡邉委員が座長に推薦され,そのように決定した。渡邉座長より田村委員が座長代理に指名された。
 渡邉座長から挨拶があり,続いて事務局より会議の公開について資料2に基づき説明を行い,案のとおり了承された。
 続いて事務局より本検討会の開催趣旨,本検討会の主な論点,関係法人の概要等について,資料3,4,7に基づき説明があった。

(2)論点1,2,4に関する意見交換

渡邉座長より,本日は資料4の主な論点1~4の各項目に沿って主に資料5及び6に基づき検討すること,はじめに運営形態に関する検討の前提となる論点1,2,4について検討することについて説明があった。

 続いて事務局より資料6前半部分について説明があった後,以下の意見交換が行われた。

【伊藤委員】

 新国立劇場開場時から,国が新国立劇場を作る意味がどこにあるのか疑問を持っている。特に東京には民間も含め様々な劇場があり,同じような活動をする劇場が増えたところで,インパクトもなければ意義も果たせないのではないかと思っていた。
 一方で,日本の舞台芸術環境に様々な問題があり,人材育成,きちんとした日本のレパートリーの確立等の問題は,民間劇場,公立劇場等では困難と思っている。新国立劇場に一番期待したのは,きちんとしたレパートリーを確立できる体制を作ること。そのために内部が良いか外部との提携が良いか分からないが,人材養成機能をきちんと持つこと。日本の舞台芸術全体に対するきちんとした情報センター機能を果たしていく。この3つが重要なポイントと常々考えていた。
 今回,実現するための方法が議論の中心で,この3つの機能を果たすための役割が財団等の規定上,曖昧であり,明確にする必要。

【大城委員】

 劇場勤務経験があるが,国立劇場おきなわの一番の課題は沖縄県から派遣される職員が主であること。舞台技術については日本芸術文化振興会から派遣されているが,沖縄県から派遣される職員が3年以内で異動するため,その職員の部署は3年以内でゼロからのスタートとなり,劇場業務が職員に徹底しない。
 現在の組織の在り方,職員の対応の在り方は大幅に改善しなければいけない。財団方式でなければ,沖縄で採用された職員が人事交流により国立劇場本館で研修しそこでノウハウを身に付けたり,文楽劇場でそのノウハウを獲得したりできるのではないか。それによって国立劇場おきなわの事業も充実する。1年で異動してしまう職員もおり,いつになったら状況が改善されるのかと中にいたときにも感じていた。
 沖縄県及び地元企業からの財政的な支援,賛助金は,私からすれば期待しているほど頂いていない。企業回りをしても沖縄の企業は零細企業で,そこから財政的な支援を頂くのは相当厳しい。

【樫谷委員】

 新国立劇場ができた経緯はよく理解できるが,一番驚いたのは寄附金が沢山あること。様々な独立行政法人に関与しているが,これだけ多額の寄附金を得ていることは,高い評価をして良い。
 ただ運営面については,日本芸術文化振興会平成21事業年度評価報告書に,新国立劇場に関して根本的な再検討を望む等の課題が出ている。財団運営であるためにこういう問題が出るのか,そうでなくむしろマネジメントの問題なのか,もし統合したらどういうメリット・デメリットがあるのか冷静に議論する必要。
 国立劇場おきなわは,入場者数が年間1万人強から1万六,七千人と少しずつ増えていることは評価できるが,どの程度の入場者数を期待していたのか。もっと入場者が来ることを期待していたのではないか。それが達成できていないとしたら何が問題なのか。規模が小さいので限界があって,営業など入場者数を獲得するための活動が必要だが,それはどうしているのか。ある程度規模がないとできない。したがって,例えば新国立劇場運営財団と統合したら良いのか,本体(日本芸術文化振興会)と統合したら良いのか分からないが,もう少し大きな規模で,日本全国という観点から見た方が入場者は集めやすいと思う。
 沖縄では寄附が集まりにくいので,理事や非常勤理事等を充実することによって寄附が集まるのであれば,国立劇場おきなわについてもそのような体制を作るのが良い。寄附金の集め方を考えると,沖縄の小さな団体でやりくりするのは限界。

【中山委員】

 新国立劇場で行われているオペラを,新国立劇場が始まるずっと前から自主的に民間団体でやってきた二期会に属している。私がこの運営に参加した日が偶然新国立劇場の開場日であったが,当時日本はオペラの専用劇場がなく,民間が営々とオペラを育ててきた。やっと国立の劇場ができたのでこれからはそこでできる,二期会の使命は終わった,などと言われた。
 ところが蓋を開けると,全く夢物語に過ぎなかった。一番伸びる時期に主役をやれない劇場で優れたオペラ歌手は育たない。我々は民間の限られた資金でやらざるを得ないという状況が現在まで続いている。
 新国立劇場がやって来たことを間違っているとは言いたくないが,そのようなニーズやお客様があり,成績も良いが,縮小均衡になっているのではないか。他の国立の劇場は,大劇場のオペラ・バレエだけでも上演回数が200回以下のところは殆どない。ウィーンの国立歌劇場やミュンヘンは300回上演しているが,舞台が多面舞台になっていて,稽古の舞台装置,次の日の舞台装置,当日の舞台装置を移動して変えられるからできる。しかし変えるためのマンパワーが必要。諸外国の劇場比較のとおり,新国立劇場は非常に少人数であるため多くの公演ができない。オペラ・バレエをやるために必要な現場のテクニシャンが圧倒的に不足し予算がないからできない。あれだけの素晴しい劇場でホールの良さは比較にならないが,やり方次第で300回上演できるファシリティーを持ちながら,それをやらないのは税金の無駄遣いではないか。工夫して公演回数を増やせればお客がくるかは,運営当事者は恐怖だと思う。
 例えば民間の劇団や遊園地が観光ルートに入っていて,海外からの観光客が毎日そこに来る。毎日そこで催しをやっているから計画が組める。それをヒントにすれば東京にいるオペラの好きな客だけを集めるのではない方法があるのではないか。
 新国立劇場は我々にとって本当に大切な劇場でありハードとして素晴しい。しかしその使い方に疑問があり,衆知を集めればやる方法があるのではないか。

【西川委員】

 私は,新国立劇場については,人材育成,研修について立上げから関わり,今も演劇研修所の副所長をしている。
 論点1の役割は,各委員の意見は大体同じで,問題があるとすれば,トップレベルの作品が発信できているか,発信できない理由は内容面か芸術面か,できないとすれば経済面か運営面か,が論点3に来る。トップレベルの作品,非常に質の高いものを作るとき,経済面が大事だが,経済的なものに振り回されている印象があり,商業演劇とどこが違うのか。運営面,経済面,財政面から考えると,質が高いからお金は考えなくて良いという訳ではない。それらをどう運営面と合わせながら考えるか。
 これまで各部署の必要人員を推測でやってきたが,人員が適正かどうか,開場から13年を経て洗い直す必要。
 海外の劇場は,公演のないときも人がいつも溢れている状況が多いが,新国立劇場は公演のないときは人がいない。国の劇場に人が溢れている環境を作ることも創客につながり,必要ではないか。そのことが置き去りの印象があり,最終的には創客,運営,財政面にも関わってくる。

【牧委員】

 新国立劇場は4ジャンルが一緒のため運営が難しい。4ジャンルを運営するには人材が少ない。
 運営費も毎年減って開場時の半分近くになり,大変になっている。企業からの援助はずっと続けて頂いているので,何とか予算の中で極力良いものを上演している。4ジャンルがしっかりしていくためには,もう少し経済的なものが必要。13年前にスタッフも各民間のプロが集まってきている。13年間で,年間277回という公演をしながら成長し,国にとって大きな財産となっている。もう少し人材が増えても良い。
 それには予算が必要であり,4ジャンルやっている劇場は他になく,新国立劇場は大きな規模でやらなければいけないこともよく考えて欲しい。
私は今の財団による運営形態で良いと思う。約20年前にこの議論が起き,会議を7年間やってこの形にした。劇場とは歴史が長く,他の劇場は200年,150年,50年。13年で見直すのは違う。全く今地に足がついた所で,これから世界にもっと発信していく時期であり,それを応援し日本を代表する劇場にして欲しい。

【吉本委員】

 新国立劇場は,初台の劇場の中における事業だけでなく,国全体の現代舞台芸術の振興を図るという観点から,もっと各地域との連携強化などに取り組んではどうか。
 国立劇場おきなわは,「組踊」等の地域に根差した伝統的なものの振興を図りつつ,アジア地域との国際交流をより積極的に広げて,沖縄の伝統芸能,地域に密着した固有の芸術の素晴しさをアピールし,そこから新しいものを生み出していく活動にも,もっとチャレンジしても良いのではないか。
 ただ,やった方が良いと言うのは簡単だが,独立行政法人という枠の中で,運営費交付金や人員が削減されている中で,さらに拡充するのは非常に厳しい状況に置かれていることも理解しなければいけない。

【田村座長代理】

 新国立劇場で4ジャンルをきちんと見渡せるインテンダント,芸術総監督は誰が担っているのかが一番問題。芸術監督が各ジャンルにいるが,その実権はどの程度あるのか。新国立劇場の本来の目的を達成するために,誰が全部カバーして考えているのかが問われる。
 創客については,地方公演が少ないが次第に増えてきた。地方ではできない子供のための作品をどれだけ作ってきたか。オペラはノボラドスキーが芸術監督になって2作品,今年3つ目を作る。バレエは一昨年,牧先生が作ったが,演劇はまだ1つもない。お金をかけてきちんとした作品ができるのがナショナルセンターの役割を果たす新国立劇場だと思うが,その役割を果たしているか。創客の努力をどれほどしてきたか。鑑賞教室を買うかと言われたら一公立文化施設の館長としては疑問に思う。
 昨年から国立劇場の歌舞伎鑑賞教室をグランシップで実施している。震災後に民間の巡回公演が止ったため,今年,静岡では国立劇場の歌舞伎鑑賞教室が1回あるのみ。ただ殆どの地方はできていない。オペラもバレエも演劇も地方では見られないので,新国立劇場がそれを提供する役割を担うべき。
 国立劇場おきなわも伝統芸能について一層役割が担えるようになれば良い。技術陣のマンパワーの少なさが一番問題。

【渡邉座長】

 各委員から劇場の運営の問題の改善点が出された。誰が責任を持ってガバナンスするかというガバナンスの問題になる。財団なのか上位の問題なのか。直営でも合体でも良いが,ガバナンスはどちらがより劇場の発展に寄与するかが大きな問題。
 2つ目は財政の問題で,財政ゆえに仕分けの問題も起きた。今度の震災で,文化の重要性は知りつつも財政的には苦しくなる。独立行政法人などの財政的自立の道を探らなければいけない。どちらが財政的自立をしやすいのかという問題。
 我々民間企業の受取り方は,国立劇場と言えば国がお金を出しているから,寄附は民間のオペラなどお金がないところへ出すようになる。国立施設は国が全部お金を出してサポートするのが当たり前というのが常識になっていて,博物館にしても劇場にしても上手に説明しないとできない。
 運営者側も誇りが高くて寄附をもらいに行きづらい。運営の自立は財政の自立がなければ担保されない。それを獲得するにはどうしたら良いか,新国立劇場もそういう面は改善の余地がある。
 それから,土地とか庶民の支持を受けなければいけない。国立劇場おきなわについては,沖縄の人は国がお金を全部出してやってくれると思っている。国立大学には県も市も一銭もお金を出さず,全部国が運営交付金を出すが,これではまずいのではないか。沖縄伝統芸能の主体は沖縄にならなければいけない。地元沖縄県が観光を含めてもっと文化活動を中核に据えるなど主体になって,それを国がサポートする価値観に変えないと,縮小均衡で尻つぼみになっていく。
 国が直接やるのが良いのか独立行政法人がやるのが良いのか。国立劇場は独立行政法人が直接運営している。民間活用のためには今の運営形態の方がやりやすいのか。課題を改善するためにはどういう経営形態が良いかにつながっていく。

【平田参与】

 問題点は2つあり,1つは,国民の税金を使って作品を作っていながら,それを享受できるのが首都圏に限られること。もう1点は,国民の税金を使って作品を作っていながら,それを国内外に回して資金を回収するスキームになっていないこと。これができる体制をどうするか。今のままで良いならば税金を直接拠出しないで,新しく出来る優れた劇場・音楽堂支援のスキームの中で,他の公共ホールと競う枠組に徹底すべきで,どちらかを選択する時に来ているのではないか。
 広い議論をすれば,現代演劇,ダンス,バレエ等に関する国立劇場が1つしかないのは不健全ではないか。できることならば札幌,九州,復興のシンボルとして仙台に置くことなども将来的には考えていくべきではないか。1つだから役割を全部担わなければならず不健全な状態。
 新国立劇場は4ジャンルが同居し効率が悪い。例えば大劇場と中・小を分けるのか,ジャンル別に分けるのか,大胆な方向性が打ち出されても良い。

(3)論点3に関する意見交換

 続いて,事務局より資料6の後半部分について説明があった後,以下の意見交換が行われた。

【渡邉座長】

 最終的テーマは運営形態をどうするかの意見集約になる。ご意見を頂きたい。
 日本芸術文化振興会に運営費交付金を配分しているが,法人自身が予算案を作って配分するのか。

【高比良文化庁独立行政法人支援室長】

 新国関係とおきなわ関係に予算がいくらと決められる。最終的に振興会が幾ら委託するかを決める。

【吉本委員】

 運営形態を決めるのは,目標が変数のまま手段を決めるようで難しい。例えば9頁のA3の資料の5つの区分で「経済界・地元の支援・協力」を大前提とすると【A】しかない。国立劇場なら国がちゃんとやるべきという考え方を前提とすると【A】以外の方法でも良いかも知れない。本検討会として前提をどうするか決めないと議論が収束しない。
 ただ,2つの国立劇場がどうあるべきかは厳密には本検討会に要請されておらず,運営形態の検討が要請されている。1つの手がかりとして「国立文化施設等に関する検討会」が昨年12月にまとめた「論点整理」がある。国立劇場は「国の顔」であり,ナショナルセンターとして,幅広い事業,質の高い事業,国全体の舞台芸術の振興を視野に入れた事業を積極的に行うべき等の目標は共有しておかないと議論できない。選択肢には出ていないし,そういうことはあり得ないと思うが,例えば新国立劇場は100%貸館で良いではないかとなった途端に,この議論は瓦解してしまう。そうしたことを議論する前の共通理解として,委員として共有しておきたい。

【滝波文化庁企画調整官】

 本検討会の趣旨は運営形態について検討することであり,国立施設をなくしてしまうことはもとより考えていない。劇場界がより発展していくために,国立としてどうすべきか,何ができるかが議論の前提であり,各委員で共通認識として欲しいと考えている。

【大木文化庁政策課長】

 質の高い創作活動を日本の国立劇場が4分野を手がけながらやっていく視点や,地方向け,子供向けなどの普及活動など,幾つかヒントがあった。一方で,資源の投入量が無定量ではなく,合理的な運営を確保していくためにどうしたら良いかもご検討頂きたい。目標を設定し,その達成のためにこういう運営形態があるべしという議論は当然。

【渡邉座長】

 国立の劇場を国民の税金を使って運営するためのベストな運営形態にある程度議論を絞って,どういう組織形態が良いか,メリット/デメリットの表も踏まえてご議論頂きたい。

【牧委員】

 私は,13年間の中で直すことはあるかも知れないが【A】案が良い。国が質の高い公演のために全額保証する訳ではなく企業からの支援が非常に大事である点,アーチストにもスタッフにも動きやすい劇場が良い点から,【A】案が良いと思う。

【西川委員】

 官から民への大きな流れや国の財政が大変厳しいことを前提に考えると【A】しかない。ただ【D】案とか【E】案では民活をできないものになっているのかどうか。今の形態のどこかに税金の無駄遣いがあって,運営委託する際にスタッフや組織が介在すると無駄があるのか。無駄があるために両劇場に財政的ロスがあるならば,変えなければいけない。その検討がはっきり見えないし分からない。
 新国立劇場は,オペラ,舞踊,演劇と3つあって芸術監督がいるが,海外の例では,経済面の責任を持つライセンサーと芸術監督が一緒に二人三脚で運営し,責任の所在が明確。新国立劇場の芸術監督は,芸術面は考えるがお金のことは理事会か何かに丸投げしている感じで,二人三脚で責任を取る体制が不明確な印象。
 運営形態について議論する以前に,海外公演で稼いでくるスキームができないのかどうか。できないなら変えるべき。
 新国立劇場のオペラ,舞踊,演劇は全く違うが,例えば研修ではオペラも舞踊も演劇も予算や研修手法が同じ形で要請される。新国立劇場としてまとめて同じ評価がされるのは問題。現行形態のまま理事長が最終的に責任を持つのであれば,経済的,運営的な問題についてはライセンサーと芸術監督が二人三脚になって対処できるよう,そこは変えなければいけない。
 現行で対応できないなら,民活でできるような運営形態になると思う。

【渡邉座長】

 利益が出るとか独立で採算がとんとんであれば議論の必要はない。国の運営費交付金なしにはバレエもオペラも演劇もやっていけない。本検討会の議論は,税金を使う前提でどういう使い方が国民に対する説明責任を果たせるか,説明責任を果たしながら良いものを提供できるかである。新国立劇場から演劇を外すとかオペラだけにするといった議論もむしろ良い。それも含め柔軟に考えて構わないのではないか。
 しかし,集客努力を個々ばらばらにやっては効率が悪い等の観点から独立行政法人の合併が行われ,国立美術館や国立博物館(国立文化財機構)はそれぞれ1つの法人になった。独立行政法人にするのも良いが独立行政法人はなるべく増やさないという政府の方針もあり,これを独立行政法人にすることができるのかどうか。これも踏まえ議論せざるを得ない。

【中山委員】

 今の形態はむしろ合理的だと考えている。合理的ならそれをとことん生かす施策がセットになって運営すれば十分に良いものが生まれると割り切っている。
 連合艦隊の例を挙げたが,役割分担,指揮命令系統,作戦目的を明確にし,その中でそれぞれのゲートキーパーは駆逐艦であり航空母艦であり作戦に従事して全体として成果を上げる。全体の成果が文化・芸術であれば,その中の役割分担をどうするか。やはり振興会があり,そこが大きな流れを前提に役割分担し,それぞれの財団が劇場運営することで全然問題ない。

【樫谷委員】

 比較検討表の●(デメリット)で,マネジメントのやり方によって変えられるものがかなりあるので,必ずしも●と考えなくて良いものもある。
 「諸外国の劇場の概要」の表の「収入内訳比率」を見ると,新国立劇場は受託収入62.3%,自己収入37.7%。ミラノ・スカラ座は補助金38.3%,自己収入61.7%。パリ・オペラ座は補助金59.5%,自己収入40.5%。ウィーン国立歌劇場は補助金55.0%,自己収入45.0%。バイエルン州立劇場は補助金65.5%,自己収入34.5%。ロイヤルオペラハウスは補助金28.3%,自己収入71.7%。メトロポリタンオペラは補助金1.2%,自己収入98.8%となっている。
 表の上の「運営主体」を見ると,ミラノ・スカラ座は私設財団法人。ロイヤルオペラハウスは非営利法人。メトロポリタンオペラは非営利法人だが補助金の比率が少ない。自己収入の方が大きい所は全て非営利で,国でやっている所は自己収入が30~40%,残りが補助金になっている。これは1つのヒントになると思う。
 新国立劇場は受託収入62.3%,自己収入37.7%だが,非営利の論理でやれば自己収入をもっと増やすことができる。同じ割合としたら24億円ぐらい自己収入が増える。受託収入つまり補助金が同じ金額でも自己収入が増え,予算が100億円ぐらいになる。
 国の補助なしにできないことは承知しているが,自己収入はどうすればもっと増えるかという観点から考えれば,私は独立行政法人に吸収する考え方はあり得ないと思う。ただ,その事情についてできれば調べて欲しい。

【渡邉座長】

 目的を遂行するために少しでもこの比率を改善し,自立の姿に持っていけるよう中期目標で立てているが,収入面で思うように行ってない。

【樫谷委員】

 パリ・オペラ座,ウィーン国立歌劇場,バイエルン州立劇場も補助金比率が高いが,伝統的劇場だから国際的に集められるというだけではない。メトロポリタンは寄附が大変多い。同じ土俵では勝負できないが,工夫すれば新国立劇場でも5~10億円の財源は出てくるのではないか。そのためにはどの形態が一番良いかという議論をした方が良い。

【渡邉座長】

 国立看板や直営でやった方が集まるのかどうか…。今の形態の方が寄附金が集まりやすいのかという議論で結論は決まってくる。メトロポリタンでも圧倒的に寄附が多いが,これは元々民間の劇場であるから。そういう生い立ちも含め,日本特有の新国立劇場を育てるのにはどういう組織形態が良いか。

【大城委員】

 国立劇場おきなわは,数字,人口,中小企業が多いこと,得られる支援金など,数字のパイが他とは違う。国立劇場おきなわと新国立劇場の運営形態の在り方を論ずるとき,いつもそこを踏まえなければいけない。
 劇場設立時,沖縄経済圏によって運営が支援されるべきとの考え方があったが,現状がどうか分析しないと理念だけで終わってしまう。職員が企業回りをして支援を得ても最大800万円しか確保できない状況をどう理解し,今後どうしようとしているのか問われる。
 沖縄の人たちが沖縄の芸能についてよく知っているかというと現実はそうでもない。国立劇場おきなわに来て初めて組踊を見る人も多く,必ずしも本土から来る人が沖縄芸能に不案内とは言えない。沖縄出身の学生より本土から来る学生の方が沖縄の情報をよく持っている。職員や人事の在り方が最も気になる。

【伊藤委員】

 現状をきちんと分析した上でないと運営形態について結論を出せないが,私の結論は【C】か【D】で【A】はあり得ない。国立劇場の意義は,1つはレパートリーをきちんと持っていることで,海外にも通用するものになってくる。文化は再現されて初めて多くの人たちが享受して文化になってくるものであり,民間の劇場ができない点で新国立劇場が果たすべき役割だと思う。
 人材育成は,当初は俳優座養成所等も調べ現代演劇の要素も含め,きちんと両方分かる人間を育てていくつもりだった。国立劇場で養成された人たちが現代劇に入っても良い。日本は縦割りだが,それらを総合化していくことが必要になってくる。
 【C】,【D】にも問題が多くあるが,なるべく一本化することによって互いに協力し合いレパートリーを作り上げたり,日本の舞台芸術文化を作り上げていく考え方を整理すべき。その意味で【C】,【D】しかない。

【田村座長代理】

 本来ならば【C】か【D】だと思うが,色々な経緯があって【A】になっていると思う。最終的には国の文化政策,文化という公共サービスをどう提供するかという国の考え方があり,それが反映される形態であるべき。
 震災で沢山集まっているが,残念ながら寄附文化が醸成されておらず,文化に対する日本人の寄附は厳しい。新国立劇場の5~7億円の寄附は,NHKがやったイタリア・オペラのファンで,その企業や個人が寄附を出している。良いものをどういう形で国が振興していくかが大切。

【渡邉座長】

 次回までに4つぐらい考えて頂きたい。[1]どういう形態が自由度と責任を得られるか。その裏付けとして財源はどちらが集めやすいか。運営ガバナンスの確認で,どういうガバナンスとした方が良いか。[2]新国立劇場は4ジャンルの問題が絡み合っているが,その整理が必要。[3]新国立劇場としてやらなければいけない事業とやる事業とが混在し,民間競争にもなっている。民間競争でお客を獲得しなければ運営が成り立たないが,この矛盾をどう考えるか。[4]新国立劇場はキャパシティーが大きく,それを埋めるために無理もしなければいけない。キャパシティーの大きさと国民ニーズとのミスマッチをどう考えるか。次回この議論を発展させたい。

【吉本委員】

 資料の9頁の【A】の上から3つ目の●「対外的に振興会と財団との二重構造になっているように見え」とあるが,本当に二重構造になっているのか,そう見えるだけで実際は二重構造ではないのかどうか。統合したら何が解消されるのかなど技術的なことを検討し,資料として出して欲しい。

【崎谷理事】

 振興会から財団に運営委託しているが,二重構造ではなく,合理的に権限配分され,必要なところは相互に調整しながら運営している。二重構造だと言っている人がいると我々は感じている,という趣旨。

【渡邉座長】

 「業務委託」という言葉は,本当は上部がやるのを下部組織に委託しているということ。だから「業務委託」という言葉をやめなければいけない。
 それを二重構造とは言わない。会社で言えば,ホールディングスと実際運営する会社があるのを二重構造とは言わない。2つの機能は明確に分かれていなければならず,下がやるのと上がやるのは機能が違う。実際の業務を任されて運営しつつ,ガバナンスに関しては上の組織が関与し,全体のアカウンタビリティーが成り立つ。仕分けの会議で業務委託と言えば丸投げしているとなるが,産業界ではそう考えるのが常識。

(4)今後の日程

 事務局より,今後の日程等について以下のとおり説明があった。

  • ・座長とも相談しつつ,当面6月ごろの意見集約を目指す。
  • ・次回は5月12日(木)14:00~16:00に文部科学省内にて開催予定。
  • ・次回までにメールによる意見交換等を積極的に行っていくこととし,事務局から連絡予定。

 最後に近藤文化庁長官が閉会挨拶を行い,閉会した。

(了)

ページの先頭に移動