議事概要

美術品等の貸借に係る諸課題に関する調査研究協力者会議 概要

1. 日時

平成21年3月26日(木)15:30~17:30

2. 場所

中央合同庁舎第4号館1階共用108会議室

3. 出席者

出席委員

青柳委員,川﨑委員,佐藤(禎)委員,佐藤(正)委員,箱守委員,町田委員,垣内委員,村上委員

出席者

青木文化庁長官,高塩文化庁次長,関文化庁審議官,清木文化部長,高杉文化財部長,小松政策課長

4.概要

【開会・挨拶】

○ 青木長官の挨拶
○ 青柳座長の挨拶

【議事】

○ 国家補償制度の検討が始まったのは大変喜ばしい。国として,補償制度を持っているということ自体が重要である。また,寄託品についても引き続き検討していただきたい。
○ 保険会社社長,経団連の社会貢献推進委員会の委員長及び私立美術館の設置者,この3つの立場から発言していく。保険会社の立場から現状についてコメントすると,日本は地震のリスクが高く,保険料が高騰する面がある一方,犯罪や盗難は少なく,この面では保険料は低く抑えられている。
○ 鑑賞者の立場から言うと,美術館等の施設など鑑賞環境のレベルを上げることが望まれる。
○ アメリカでは,国民の鑑賞機会が容易に得られるようにすることを目的に,国家補償制度が設けられている。アメリカのように,美術館がそれを自分たちの制度と捉えて,事故の起こらない実績を積み重ね,制度を持続させ育てていくことが重要。国家補償制度の設計にあたっては,小規模に始め,中長期的に徐々に拡充していくのでもよいと思う。
○ 新聞社で五社会というものを組織しており,五社会でも10年以上前から国家補償制度を創設するよう要望してきた。今まで新聞社やテレビ局などがリスクを背負って展覧会をやってきたが,保険料の高騰もあり無理が生じている。開催が危ぶまれ,主要な作品を一部削って開催することもある。
○ 美術館側は,評価額については聞いていても,保険料までは知らないので,共催者である新聞社等からご教示いただくことになる。質の高い展覧会が開催されるよう,文化のインフラ整備を行うのは国の責務であるという考えの下,先進国では国家補償制度が既に導入されている。質の高い展覧会というものの開催自体が国民にとって価値のあるものである。主体がどこであれ,優れた展覧会ができるだけ多く開催されるように,その障害となるものを取り払っていくことが大切である。
○ 日本の大規模展では美術館,新聞社,保険会社が関係してくるが,全ての立場から国家補償制度の創設が期待されている。
○ 国立の美術館のみ対象とする国家補償制度では汎用性に乏しい。日本では巡回展が多いので,一定の要件を満たせば国立以外の美術館も対象となるようにすべきである。
○ 国家補償制度の導入にあたっては,公共性,公平性,透明性の確保が重要であるが,一方で審査に膨大なコストはかけられないため,現実的な基準づくりが重要である。この基準を示すことによって,美術館の質を向上させるインセンティブが働くようになることが望ましい。
○ 国家補償制度の導入により,展覧会の入場料を抑えられたり,海外から作品を借りてくる展覧会の数が増えたりすれば,一般の鑑賞者にも分かりやすくてよい。鑑賞者に具体的な還元があることが必要。大都市圏だけでなく,地方都市での巡回展を増やす等,考慮して頂きたい。
○ 官民による相互補完が重要である。官民による相互補完を考える場合,保険会社としても知恵が出せるのではないか。国家補償制度の導入に併せ,たとえば耐震性のある美術館を認定する仕組みを作ることにより,諸外国から日本に作品を貸し出そうとするインセンティブにつながると思う。
○ 昨春,東京に大規模展覧会が集中した折,保険会社もリスクを背負いきれなくなってきていると聞いた。こうしたことを見ても,国家補償と組み合わせて行うことにより,展覧会の開催を可能とする道が開けると思う。
○ 国家補償制度で国がリスクを負ったとしても補償の限度の問題は変わらない。よって,アメリカの制度では,一定期間,一展覧会の両面において補償額に上限を設けている。
○ 過去の事故を検証すると,事故を防止するヒントがある。阪神大震災を受けて,現場での管理方法について全国美術館会議でレポートをまとめた。それぞれの美術館において,国内で貸し借りをするときに,いわば健康診断書みたいなものをやり取りしたり,作品についてのコンディションレポートを作成し,状況の把握,事故の拡大を防止することが重要であると思う。また,日本の美術館には,修復専門家が少ないということも課題。
○ 全国美術館会議の保存研究部会で日本版ファシリティ・レポートを作成した。欧米のように保存・修復スタッフが万全ではないが,日本でも阪神大震災をきっかけに意識が高まった。特に,現代美術は壊れやすく,極端に言えば移動するだけで壊れてしまう場合がある。大体が数万円~数十万円程度の損害額であるが,このような小さな事故まで国が補償していたら制度が続かない。一定規模未満は民間で賄うべき。
○ 国家補償制度の立ち上げには政治的な環境醸成も重要だと考える。アメリカの場合,デタント当時(冷戦下の緊張緩和時),米ソ間で黄金の文物の展覧会を開催しようとした際に,あまりに保険料が高すぎて,ナショナルギャラリーの館長が連邦議会に制度創設のための陳情に日参したと聞いている。また,評価額の適正さの担保には業界の知見が必要だ。
○ 海外の主要美術館などが,市場価格をそのまま評価額として要求するようになったり,これまであまり展覧会を開催していなかった国々が展覧会を企画し始めて美術品の奪い合いになったりして,評価額が高騰している。国家補償制度を導入し,保険料と入場料との関係を国民に説明できるか。
○ 日本では明治以来,国の文化予算が少ないこともあり,長い間新聞社やデパートなどが文化事業を支えてきた歴史がある。入場者数の予測がつかず,今までは共催者のマスコミが不足分をカバーしてきた。展覧会に占める保険額の割合も千差万別であり,国家補償制度の導入を入場料引き下げに直結させるのは難しいと思う。(評価額が非常に高く,本来ならあきらめざるを得ない)著名な作品の展示や鑑賞機会に恵まれない人々のための内覧会などの工夫が必要。
○ 国家補償制度を導入するなら,鑑賞者側に具体的メリットが見えないといけない。
○ 展覧会開催の全体経費が高くなっており,保険料はおそらく展覧会経費の1,2割ではないかと思う。今は,確実に多くの入場者が見込める展覧会でないと開催しにくくなっている。保険料負担が少なくなることにより,今までできなかった文化的・学術的に価値がある展覧会も開催できるようになる。
○ 国家補償による経費削減分をリスクマネジメントにまわし,好循環になるとよい。
○ マスコミも体力が減少しており,このままだと多様な展覧会ができなくなり,文化の幅を狭めてしまう。国家補償制度をぜひ実現したい。
○ 個々のマネジメントのミスまで国家補償の対象とするのはいかがか。納税者が納得できるような合理的な制度を仕組むべきである。例えば,地震などの不可抗力,または一定の要件を満たす場合のみ対象とすべきである。
○ 保険料だけがコストではない。ギャランティーや輸送に係る問題もある。美術館の質の向上につながる制度設計が必要だ。
○ 国家補償制度は経費的な補填以外の価値もあり,制度があること自体がシンボリックな意味合いとして存在する。制度を守るため,リスクマネジメントに係るモラルが向上することにより,きちんと管理が行われ事故の減少にもつながる。
○ モラルという意味では,ドイツとイギリス間で展覧会を開催した際に,作品の紛失という事故が発生したが,安易に国家補償制度を適用せず,後年,その後の美術館の努力により,作品が見つかったという例がある。
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